結衣「男の子が生えた」京子「ラムレーズンうめ、……え?」(93)

 京子はスプーンを口にくわえたまま、小首をかしげた。
 その頭の上に、漫画のようにはてなマークがぴこんと浮かび上がったように見えた。

「……?」
「聞いてた?」
「え? あ? ごめんもう一度言って」
「なんか、男の子のあれが生えた」
「……」
「もう一度言う?」
「いやいい」

 京子が理解できない気持ち、よくわかるよ。
 私だって、わけわからなかったし。




                  ri|ソi       ̄ ̄/
                  乂リ         /
               _.......l__}_

            / ̄      `  、    / ̄ ̄/
      r7⌒ ,.  /  r‐ ,  r‐ 、    ヽ.  / ̄ ̄/
     //    i  l   l┃l  l┃}     ',     /
   [::://    j  l   `'' r‐, `'''゙      i    |
   i'/   r‐{   ',   (_........_,     /  ‐─┼‐
    l.l   /  }  ヽ   `'''''"     /     /
    l.l   /-ィ >、__ノ|` ──── ' |
.   ヾ__/  ヽノ /.ノ! [ ]    [ ] くヽl、    |  |
             ̄  !          メ/ヽ.      |
             >‐┬┬──┤ ヽ人    /
            /   /  !     }  {  }
            (___ノ  ヽ__...ノ   ̄

 原因は、間違いなく西垣先生が学校でくれたあのドリンクだ。
 間違って買ってしまったがあまり好きではないからお前にやるって言って、私にくれた、あのドリンク。
 茶色いビンに入っていた。
 ファイトイッパーツ! なんて文字が青いシールに書かれていた。

 まあ、苦手な人は苦手だよな、これ。
 私はあまり深くは考えず、それを受け取り、家に持ち帰った。

 京子はうちに泊まるらしく、当然のように家にあがりただいまーと言った。
 遠慮しろ、とも思わなくなった。
 私も京子と一緒にすごすのが当然のようになっていた。

 そこはどうでもいい。そう、重要なのは、そこじゃあない。
 私は西垣先生からもらったそのドリンクを、冷蔵庫に入れて冷やして、そしてなんの疑いもせずに、風呂上りに飲んでしまった。

 夜に飲むものじゃないとかそんな突っ込みはノンノンノートルダムだ。ブフゥ。
 栄養ドリンクを飲むと目が冴えるから、その、なんだ、あれですよ。
 夜の営みがはかどるかなって、思ったわけなんです。
 言わせるな恥ずかしい。

 今思えば、味がおかしかったように感じた。
 今思えば、蓋が簡単に開いたような気がした。
 うん。今思えば。

 私の股間から男の子が生えたのは、すぐだった。
 飲んですぐ、という意味で、すごい勢いでしゃきんと生えたという意味ではない。
 それはもう、たけのこのようににょきにょきと生えてきた。
 生えきるまでの間、むずむずしておかしくなりそうだった。

 生えきったときの感動といったらなかった。その後訪れた絶望感も。
 だって、男の子が生えたんだよ。私の股間に。
 夢かと思うじゃん。だから、感動したよ。うわお、おちんちんだ、って。
 そんなもの、見たことないし。存在するんだ、これ、って思った。
 この世界、男の人見かけないし。

 なんか、見ちゃいけないような気になって、すぐに下着におさめた。
 前を開けていたパンダの着ぐるみパジャマのボタンも全部しめた。
 ついでにフードもかぶって気持ちを落ち着けようとしたけど無理だった。

 女なのに、どうするの。
 ほんと、これどうするのさ。
 一気に絶望。

 夢かと思ったけど夢じゃなかった。
 お約束のようにほっぺたをつねったけど痛かった。
 私はベランダに出て、夜風に当たって一息ついた。

 そうして十分ほど経ち落ち着いた頃、私は西垣先生の携帯電話に電話をかけた。

 西垣先生曰く、「そうか生えたか」と。
 「実験は成功だな」と。
 「それはしっかりと機能する。排出器官としても、生殖器官としてもだ」と。
 「それの効果は予定では六時間ほど持続する。つまり、今それが生えたとすると、明日の朝にはもう元に戻っているだろう」と。
 「生殖器官として使用した場合、オーガズムに達したとき尿道口から体液が排出されるが、それは精液ではないからな」と。
 「だから妊娠はしない。安心してセックスしてくれ。心配はノンノンノートルダム」と。ブフゥ。

 そんなもの私でなく、自分たちで──会長と実験してくださいよ、と怒ると、
 「船見、それは犯罪だ」と。

 だからってなんで私が、と問うと、
 「船見がタチで、歳納はネコかなと思って」と。

 違う。そんなことを、属性がどうとかを聞いたんじゃない。
 なんで、他のもっとあけっぴろげにいちゃいちゃしている──そう、古谷さんや大室さんのペアじゃなく私が、という意味で、と聞きなおすと、「え? あいつらそんな関係なのか?」と。
 ……この爆発教師、鈍感を装って楽しんでいるに違いない。

 先生は「まあ数時間だからな、好きに楽しめ。あと結果は報告してくれ。よろしくたのむ」と言い、一方的に電話を切った。
 電話が切れたとほぼ同時に、二番風呂からあがった京子がラムレーズン片手にリビングに戻ってきた。




 そして、今、ラムレーズンを頬張った京子に私は自らの体に起こった自体を告白した。
 「男の子が生えました」と。

「西垣ちゃんなに作ってんだ……」
「さあ……」

 京子は顔をしかめて口にくわえたままだったスプーンを引き抜き、ラムレーズンをまた一口頬張った。

「しかしまあ、六時間くらいなんでしょ? 寝て起きりゃ元通りじゃん。だいじょぶじゃね?」

 京子は口をもぐもぐと動かしながら言う。

「まあそうか」

 小さく溜息を吐く。
 下げていた目線を上にあげると、京子はアイスを食べる手を止めて、一点をじっと見つめていた。
 少しうつむき気味のその顔。
 京子の視線の先をたどるとそこは私の下腹部で、京子の頬は、淡い朱色に染まっていた。
 え? なに、まさか興味あり?

「み、見る?」
「み、見ないよ!」
「あ、あー、だよな、だよなあ」

 ははは、と笑いあう。
 だよなあ、うん。だよな。

 私は京子の後ろの壁にかけられた時計を見る。
 アナログ時計の針のさす時刻は、夜の11時30分を少し過ぎていた。

 うーん、ちょっと早いけど、寝るかな。
 なんかもう、なにもする気になれないし。
 さっさと寝て、心体共にピュアな女の子としてすっきりした気分で朝を迎えたい。


「もう寝るか」と言うと、京子はぎょっとした顔をして私を見た。

「え!?」
「……変な意味じゃないぞ」
「あ、あー、だよね、だよねえ」

 ははは、と笑いあう。
 そうだ、変なことなんてしないんだ、今日は。
 こんなのが生える前はするつもりだったけど、こんなのが生えてしまったからには、するなんてとんでもない。

 京子の初めてを私が奪うなんて想像できない。
 じゃあ、知らない男が奪うのは想像できるのか、私。
 できるわけがない。受け入れることだってできそうにない。
 だいたい、この世界、男なんて滅多に見ないし。

 じゃあ、誰が京子の初めてを奪うんだ。

 ──私だろ。

 もう一人の私の声が聞こえた。
 私は首を横に振ってその声を跳ね返す。
 ありえない。ありえないよ。
 京子は私の幼馴染で親友で、恋人なんだ。
 京子は私の大切な人で、世界で一番の人で──、だから。


 京子の初めてを私が奪うなんて想像できない。
 嘘だ。
 ありえない?
 嘘だ。

 本当は。
 本当は私は京子の初めての人になりたい。

---------


「悪いけど布団、一組しかないから」
「知ってる」

 私の下半身がどうなっていようと、私は私なわけで、一緒の布団に寝るとなっても京子は特別なんの警戒もせず、それを受け入れた。

 電気を消し、私たちはもぞもぞと布団に潜り込む。
 天井を見上げて、「おやすみ」と言うと隣から「おやすみ」と言う声が返ってきた。

 最後に言葉を交わしてから十分ほどが過ぎた。
 私はなかなか寝付けずにいた。

 がさり。

 京子が寝返りをうったようで、掛けていた布団が軽く乱れた。
 ふわりとシャンプーのにおいが香る。
 いいにおい。
 私と同じシャンプーのにおい。だけど、紛れもない京子のにおい。

 どきん。

 ……あれ?

 どきんどきんどきん。
 やばい、息苦しい。
 なんだ、これ。

「……っ」


 京子、どうしよう。
 いけないことだってわかってる。
 けどどうしよう京子。
 私、今、すごく京子とエッチがしたい。
 京子をめちゃくちゃにしたい。

 おかしいな。
 私、心まで男の子になっちゃったんだろうか。
 ……眠ろう。
 眠ればなんとかなるはず。
 うん。

 布団に入ってどれくらい経ったんだろう。
 壁際に寝返りを打ち、目をきつく閉じてみても羊を数えてみても眠れそうにない。
 どきどき脈打つ心臓の音がかちかちと時計が秒針を刻む音や外から聞こえる虫の声が、妙に大きく聞こえた。

「……結衣?」

 不意に、京子が私を呼んだ。

「ん?」
「起きてたか」
「うん」」
「眠れないね」
「そうだな」

 京子も眠れないのか。
 珍しいな、いつも真っ先に寝ちゃうのに。

 私に変なもの生えちゃったから、多少は意識してるのかな。
 まあ、してないわけないよな。

 だからといって、それがエッチする理由にはなるはずもないし。
 でも、言うだけ言ってみてもいいだろうか。
 したい、って。
 だって別に、京子とそういう行為は何度もしたことあるし。

 私は京子へと向き直る。
 京子もこちらを向いていて、自然と目が合った。 
 沈黙。心臓の音。時計の音。虫の声。

「あの!」と、二人の声が重なった。

 そして再び沈黙。心臓の音。時計の音。虫の声。

「なに?」と先に問うたのは京子だった。

「……えっと」

 言葉が出なかった。
 京子を見つめていた目はゆっくりと伏せられる。
 言おうか言わまいか、少しの間逡巡する。


 言いたいことは、ひとつだけ。
 京子としたい、ってただそんな、欲望まみれの一言だけ。

 多分、京子は断らない。
 ああみえて京子は優しいから。
 でもこのまま進んでしまうと、ふたりの関係、みたいなものが少し変わっちゃうんじゃないかと少し、不安だった。
 だって、本当の意味で一線を越えてしまうから。
 京子の本当の意味の初めてを奪うことになるから。



「いいよ」


「え?」

 私よりも先に口を開いた京子に、私は思わず間の抜けた声で聞き返してしまった。
 顔を上げる。
 京子はいつもみたいなちょっと勝気な上がり気味の眉で、ほんのりと頬を染めて笑う。

「しようよ、結衣」
「え?」

 ちょっと、頭が回らない。
 なんていうか、不意打ちみたいなのにはめっぽう弱いから。私。
 えっと、なんて言った、京子は。
 たしか、いいよ、しようよ、結衣、って言った。

「え?」

 何度も聞きなおす私に京子は、

「え、えっちしようって言ってんの! 言わせんなバカ!」

 と、真っ赤な顔をして吐き捨てた。
 私の喉がごくりと鳴った。

 いいの? 京子。
 わかってるの? 京子。
 今の私は男の子なんだよ。
 京子の初めてを奪っちゃうことになるんだよ。

 京子は間髪入れず、

「結衣がいい」

 そう言った。

「結衣、好きだよ。結衣にならいいよ。わたしを結衣にあげたい。あげる」
「京子……」

 どきんどきんと鳴っていた心臓の音がばくんばくんに変わる。

 京子は私の幼馴染で親友で、恋人なんだ。
 京子は私の大切な人で、世界で一番の人で──、だから。


「京子、私に初めてをちょうだい」

 京子へゆっくりと手を伸ばす。
 指先が震えていた。

 京子の髪に指が触れる。
 やわっこい髪をほぐすように頭を撫でる。
 そのまま背中へ腕を回しぐっと抱き寄せると、京子は小さな声をあげた。
 京子の心臓もわたしと同じくらい大きな音で鳴っていた。

 そっと、唇を重ねあう。
 感触や温かさを確かめるように、押し当てて、ついばむ。
 次第にそれは、深い、大人のくちづけに変わり、は、は、と息が乱れていく。
 舌と舌を絡ませて、吸いあって、噛みあう。

 我慢できなくなり、私は京子の上に覆いかぶさった。
 京子は少し脅えた表情をしたけれど、すぐにいつものようににししと笑った。

「野獣みたいだな、結衣」
「うっさい」 

 京子の体を包んでいるトマトの着ぐるみパジャマのボタンを一番下まで外す。
 首元から、谷間、とは言いがたいふくらみとふくらみの間、みぞおち、へそ、と指先をすすすと滑らせる。

「京子の体、すべすべだよね」
「ん? そう?」
「うん、すごく気持ちよくて好きだ」
「ひひ」

 照れくさそうに、京子は笑った。
 私は再びキスをして、京子の体を一通り撫で回し、パジャマの上から手のひらを右のふくらみに添える。
 重ねあった唇から、「んん」と京子の小さな声が漏れ、私の上顎をくすぐる。

 パン生地をこねるように、京子のふくらみを揉みしだく。
 パジャマはしわを作り、指を動かせばやわらかなふくらみが形を変える。
 次第に先端は硬く主張し、手のひらにその感触が伝わってきた。
 人差し指の先でこりこりと弾くと京子は体をびくりと震わせた。

 私は京子の乱れたパジャマの襟元に手をかけ、前を開いたままでいたそれを上半身分脱がした。
 暗がりに白い肌がぼんやりと浮かび上がる。

 露になった、控えめなふくらみのなだらかな丘のふもとから、ソフトクリームを舐めるように、舌を這わせる。
 頂には触れないように。
 壊れ物を扱うように、慎重に優しく丁寧に。

 京子の右手が私の頭に触れ、愛撫にあわせて上下に動くその手が髪をかき乱した。
 焦らさないでと訴えるように。

「仕方ないなあ、京子は」 

 私はツンとかたくとがった先端を口に含んだ。
 ちろちろと舌の先で舐め、円を描くようになぞる。
 歯でかしかしと噛んでちゅっと吸い上げると、京子は顔をそらし目をぎゅっと閉じた。

「あぅ……、ん、んあ……」

 先端を愛撫したまま、私は開いたもう片方の手を京子の下半身へと伸ばす。
 下腹部に手を這わせ下着をずらした。
 薄い茂みをこえ、敏感な芽には触れないように、京子の女の子に触れる。

「っひぁ!」

 膝をびくりと震わせ、京子は体を硬直させる。
 何度もしている行為なのに未だに慣れないのか、ここに触れると京子はいつも眉をハの字にさせて私を見上げる。
 涙の浮かんだその目は、不安や焦燥や緊張に混ざって、淡い期待の色がにじんでいた。

 指を上下に動かすと、そこから小さな水音が漏れた。
 とろとろと蕩けるように熟れたそこは、ふにふにしていてとてもやわらかい。

「濡れてるね」

 そう言うと、京子は赤く染まった頬を更に赤くさせて恥らった。

「言うな」

 そんな顔も、かわいい。
 なんて口が裂けても言わない。
 というか、言えない。照れくさくて。今更。

「腰ちょっと浮かせて」
「ん」

 腰の辺りで丸まっていたパジャマを、ぐっと下へ引っ張り完全に脱がす。
 私は京子の足元へ移り、両膝を折りたたむように曲げさせ、体をその間へと潜り込ませる。
 いつもはエッチのメインだった中指を、そっと、京子の中へ埋めた。

「あっ? ゆ、ゆい?」

 京子は驚いたような声をあげて体を起こそうとしたけれど、私が入れた指を曲げて壁を引っかいてやると、力が抜けたようにぽすんと枕に頭を落とした。

 京子はわりと感じやすい、と思う。
 とかく中への刺激にはめっぽう弱い。
 どんなに京子が抗おうと、ちょっと中をくすぐるだけですぐにおとなしくなってしまうのだから。

「う……、なんか、入れんの早くない?」
「今日のメインはこれじゃないからな」
「ああ、そうだったっけ……」

 埋めた指を軽く動かす。
 指を伸ばしたまま三回、続いて第一関節を曲げて五回出し入れさせる。
 ぐりんと中の粘膜を剥ぎ取るように指を回すと、京子は口をぎゅっと結んで快感に耐えた。

 まあ、いい具合に濡れてるな。
 ある程度滑り具合を確認して、私は薬指も一緒にそこへ挿入した。

「っ……、性急だ、ね……」
「ちょっと、我慢できなくなりそうだから」

 実際、私の男の子はかなり反り上がっていて、お腹に当たるんじゃないかと思うほどだった。

 男の人は興奮するとこんなになるんだな、っていやに冷静に考えてしまった。
 隠し切れないじゃないか、こんなの。大変だな、って。
 そんなことを。こんな場面で。

 京子のそこへ入れた指を動かしたまま、親指をそっと、京子の敏感な芽に触れる。
 京子はびくんと腰を跳ね上げさせ、悲鳴のような声をあげた。

「っや! ちょ、だめ、そこっ!」

 京子、ここだめなんだよね。
 感じすぎて、おかしくなっちゃいそうで、だめなんだよね。
 知ってるよ。
 触られるより、舐められる方が京子がもっと乱れるってことも知ってる。

 あたしは体勢をずらして、そこを舐めあげた。
 真っ赤に膨れた芽を、舌でこねてつついて吸った。 

「う、あっ! あ……! ゆ、いぃ……」

 京子の中が締まる。
 いつもならこのままいかせてあげるんだけど、今日は違う。

 私は着ていたパンダの着ぐるみパジャマのボタンを外す。
 下着を少し下ろすといきり立った男の子が露出した。
 自分の体の一部になったそこをマジマジと見るのは実は初めてだった。
 さっきはなんだか恥ずかしくなってすぐしまっちゃったから。

 思ったよりもグロテスクなものではなかった。
 ただ、思ったよりもずっと太く感じた。
 反り方こそバナナに似ているけれど、太さはそれ以上あるんじゃないか。
 だいたい、この、先のでっぱりがやっかいそうだ。

 これ、本当に入るのか?
 京子の中に入れられるのか?
 入ったとしても、痛いだろうな。
 どうするんだ私。できるのか。

 目の前の、くたっと寝そべっている京子と、下半身の男の子へ視線を往復させる。
 大好きだから最後までしたい。
 大好きだから痛い思いをさせたくない。
 大好きだから本当にこれでいいのかと考える。

 色んな気持ちがごちゃまぜになって頭がぐわんぐわんした。
 ええい、考えるな。
 ええい、ままよ。
 私は京子の太ももをつかみ、濡れたそこへ、男の子の先端をあてがった。

ここまで百合なりよ

ここから濃厚なふたなりよ

「京子、入れるよ」
「えぁ? あ、うん……」

 腰に力を入れて、先を少し進ませると、京子が引きつった声をあげた。

「いっ……」
「あっ、ご、ごめん」

 咄嗟に腰を引く。
 無理か。やっぱ無理なのか。
 先っぽがほんの少し入っただけだったのに痛がったぞ。

「や、やめる?」
「……していい、って何度言わすのさ」
「痛くてもいいの?」
「……結衣にならいいよ、って何度言わすのさ」
「うん……」

 再び男の子をあてがう。
 少しこわばってる京子の体。
 力抜いて、と言ってもできないらしく、無理、と短く返された。

 静かに上下する京子の胸。
 私は京子と呼吸をあわせる。

 吸って、吐く。吸って、吐く。吸って──。
 息が吐かれた次の瞬間に、私は腰に体重をかけて、男の子を京子の中へ一気に挿入した。
 一番太い先端のでっぱった部分が、ぎちぎちに密着していた膣壁をさき、ぬるん、と埋まった。

「────っ!」

 京子は目を見開き、声なき悲鳴をあげた。
 抗うように、そこがぎゅううと私の男の子を押し出さんばかりに締まる。
 両手はシーツを握り締め、きつく噛み締められた歯の隙間から、ひっひっと荒げた息を吐いていた。

「うっ……く」
「ごめん、痛かったよね」
「……、ううん、平気。でもごめん、もう少し、動くの、待って」

 落ち着かせて、と京子は言った。
 私は、ゆっくり、刺激させないように体を京子へ倒し、京子の体を抱きしめた。

 触れるだけのキスを唇に落とし、首筋や鎖骨をついばんだ。
 京子が落ち着くまで、京子のそこが私に慣れるまで、ずっと。




 五分か、もしかしたらそれ以上。
 京子は閉じていた目を開けて「結衣」と私を呼んだ。

「ん?」
「血、出たかな」
「ん、わかんない、ちょっと、体起こすね」

 そっと体を起こし、繋がりあったそこを見る。
 暗がりだったけれど、血が漏れてシーツを汚しているのがわかった。

「ごめん、出てる、血」
「そっか」
「ごめん」
「なんで謝るのさ」
「……なんとなく」

 京子は「バカ」と呟いたあと、「愛してるぞ、バカやろう」といたずらっこのように笑い、言った。
 私は、「私もだ、バカ」と返した。

 私たちは深いキスを交わす。
 求めて、求められて、息つく間もないくらいに激しくて、甘いキスを交わした。
 唇も舌も唾液も吐息もぐちゃぐちゃに混ざり合って、わけがわからなくなるくらいに。

 むさぼるように唇を重ねているうちに、京子のそこが、ひくひくと私を誘っているように蠢いた。
 それが合図のように私は感じた。

 京子、動かすね。
 私は心の中でたずねる。
 直接確認はしなかった。
 私は腰をゆっくりと押し込み、引いた。

「ふ、あ……」

 控えめな京子の声。
 それは痛みから発せられるものじゃない、甘くてとろんとした、切ない声だった。

 私はひかえめに腰を前後させた。
 中を開拓するように突きほぐす。

 すごい……。
 京子の中は、温かくて、やわらかくて、きつくて、想像していたよりもずっと気持ちよかった。
 私は京子の腰の横に手を突いて体を支え、密着した肉を掻き分けるように、リズミカルに抽送した。

「ん、ん……、ん、ぅ……」

 夢中になって私は京子の体を求めた。
 とろとろの柔肉が私の男の子に絡みついてくる。
 京子は顔を横に背け、涙を流し、声が出てしまうのを耐えるように唇を噛み締めていた。

「京子、こっち向いて」
「ん、んぁ……、は、恥ずかしいよ」
「だいじょうぶ」

 京子を抱きしめるように体を密着させる。
 開いていた京子の脚が完全に持ち上がり、それに反応したのか、京子の中がきゅっと軽く締まったのがわかった。
 放り出されていた京子の手をとり、指を絡める。

 腰を小さく動かしたまま、露になった首筋に、唇をそっと落とした。
 耳たぶを唇ではさみ、涙の筋を舐め上げて、そのまま半開きの唇にキスをする。

 奥に引っ込んでいた舌を強引に絡めとり、吸い上げる。
 んーんーと苦しそうに京子は鳴く。

 それが、ちょっと、いや結構、ぐっときた。
 私ってサディストなんだろうかって思った。

「ぷは」

 唇を離し、京子を見下ろす。
 頬を紅潮させ、乱れた前髪が、汗がにじんだ額に張り付いている。
 開いた唇から赤い舌がちろちろと動いているのが見えた。
 京子は閉じていたまぶたを開ける。

 潤んだ瞳。
 澄んだ色をした碧眼が、いつにも増して綺麗で、そして美しかった。

 私は京子の脚を肩に抱え、体重をかけて腰を押し込んだ。
 ずぶずぶと私の男の子が、ついに根元まで京子の中に埋まる。

「うぁ……」

 京子は体をよじり、悶える。
 歯をくいしばり、ふるふると体を震わせる。

「声、もっと聞かせて」

 敏感な芽を、京子の中からあふれている体液を絡めて、指の腹でぐりぐりと押し付けて刺激させた。

「いっあ! そこやだって! ぅく……」

 私の体を押し返そうと抵抗しようとする京子の右の手をつかみ、シーツへ押し付ける。
 華奢な手。私よりもずっと細い手首。
 それでもまだ抗おうとしていたもう片方の手もつかみ、京子の頭の上でまとめて片手で押さえつけた。

 芽を刺激しながら、絶えず腰を打ちつける。
 両手を封じられた京子は、涙を流して私の責めを受け入れていた。
 薄く目を開け、半開きの口から涎を垂らし、弱々しく喘いでいた。

 もっと、もっと気持ちよくさせてあげたい。
 京子をめちゃくちゃにさせてみたい。

 満たせてあげたいと思う気持ちと支配欲とが混ざり合って、どうしていいのかわからなくなる。
 でもきっと、京子がめちゃくちゃになったとき、最高に気持ちよくなってんじゃないかな。
 なら京子のいいところを責めてあげれば、両方が満たされるんだ。

 私は、深く浅く、強く優しく、緩急をつけて、時には腰を回して、引っかく角度を変えて、京子の中をかき混ぜた。
 押し込むたびに、くちゅ、くちゅと粘着質な水音が結合部から漏れる。

「あっあっあ、……あ、ぁー……」

 中のざらざらした壁に、私の男の子の先端を押し付けるようにして突き上げると、京子はちょっと違う反応を見せた。
 腰がぴくんと動き、中がきゅっと締まる。
 あ。ここ、弱いよね、京子。

 私はそこばかりを何度も押し上げ、ときおり最奥を叩き込むように突き、京子を執拗に責めた。
 京子は切れ切れの声をあげて腰をくねらせる。

「あっあっ……、あ、は……!」
「京子、かわいい」

 体を起こし、手を京子の腰に添える。
 汗ばんだ細い腰を引き寄せ、京子を絶頂へいざなうように責め立てた。
 京子の喘ぎがどんどん激しくなり、キーが上がった。
 限界が近いのだろう。
 私も限界が近く、腰の動きが速まるのが抑えられなかった。

「あっ、う、く……、ゆ、ゆい、やばい……、あぁ……あっ」

 私は追い詰めるように、京子のいいところを撫でるように突き上げた。
 結合部がくちゃくちゃとよりいやらしく鳴る。

「あ……っ、や、ゆいぃ、もう、ああっ」
「ん、……私も、いきそう」
「う、あ……、あ、あ! あ……」
「いいよ、いっていいよ京子」
「っく、は……────っあ──」

 華奢な腰がびくんと跳ねた。
 腰を浮かせ、白い喉をあらわにして蚊の鳴く様なか細い声を喉から漏らし、体全体を痙攣させて、京子は果てた。
 中がきゅうううと強く締まる。

「く!」

 そのあまりの締め付けに、私も絶頂へ達した。

 頭の中がぱんとはじけて目の前が真っ白になる、という感覚は女として感じるそれと変わらなかった。
 苦しいくらい気持ちがよくて、私は京子の体にのしかかるように倒れかかった。

 私を深くまで飲み込んだままのそこはひくひくと収縮を繰り返していた。
 京子の中で、自分の男の子が脈打っているのがわかる。

 しまった、中で出してしまった。
 一瞬不安になる。
 なんだ、この男が抱くような感情は。
 でもまあ、だいじょうぶ、だろ。
 妊娠しないって言ってたし、西垣先生。
 信じてるぞ、信じてるからな。

 でも。
 まあ、もし妊娠したとしても。
 育ててけばいいじゃん。
 私と京子の子供だもん。
 きっと、すごくかわいい女の子だよ。
 うん。

 私は、男の子をゆっくりと引き抜く。
 開放された京子の中から、私の放出した快感の証がどろりとあふれ出た。
 息を整えながら、私はそれが流れていく様子をただ眺めた。
 京子の中に出した私の体液がシーツを汚しても、私はその扇情的な光景から目が離せなかった。

「けほっ……」

 京子の咳き込む声で私ははっとして我に返る。
 京子を見やると、口元に手の甲を当てて小さく咳をしている。

「京子? 大丈夫か」
「ん、ちょっと、喉渇いただけ」

 京子の声は少し、枯れていた。
 そういえば、最中、いつもよりも声出てたな。
 あんなに乱れる京子、もしかしたら初めてかもしれない。

「いっぱい鳴いてたもんね、今日」
「べ、別に、そんなことないし!」

 素っ裸でシーツに脱力したまま言われても説得力ないなあ。
 私はティッシュで、濡れている京子のそことシーツに落ちた体液を拭いた。
 自分の男の子も刺激させないように手早く拭き取り、下着におさめる。


「これでされるの、そんなに気持ちよかった?」

 と、聞くと京子は「これ?」と聞き返してきたが、私が指をさした自身の下腹部に視線を移して、はっとしたように肩を震わせた。

「ち、違うよ」
「気持ちよくなかったの?」
「いやその、そうじゃなくって」
「じゃあ気持ちよかったの?」
「う……、いや、その、き、気持ちよかったけど、そうじゃなくって!」

 京子は私を見つめていた目を、斜め左下へと移す。
 伏せられたくりくりとした瞳を縁取った睫毛が震えていた。
 睫毛長いな京子。
 ぼんやりとそんなことを思う。

 目を伏せていたら、ちょっとは色気みたいなものが垣間見えてもいいはずなのに、子供っぽく見えてしまうのは、眉を上げてしまっているからだろう。
 余裕がないときどこか勝気に眉を上げてしまうのは、京子の癖のひとつだ。

「今日の結衣、いつも以上に、その、めちゃくちゃ丁寧だったから」
「うん」
「なんか、わたしの、その、あの、す、好きなところいっぱい触ってくれたし」
「うん」
「だからちょっと、声、出ちゃったの! バカ!」

 京子は私の首元に手を伸ばし、ぐいと引き寄せた。
 私の顔が、京子の首筋に埋まる。
 シャンプーの甘いにおい、大好きな京子のにおいがする。
 ちょっと息苦しくて、顔を横に背けると、真っ赤に染まった京子の耳が見えた。

 下手な照れ隠し。
 すごく愛おしくて、胸がいっぱいで、ちょっとだけ、涙がこぼれた。

「京子、ありがとう、愛してる」
「……知ってる」
「そうか」

 慣れないことをして、緊張やらなんやらで心も体も疲れきった私たちは、抱きしめあったまま眠りについた。
 寝返りをうたなくても、目をきつく閉じなくても羊なんて数えなくても、眠ることができた。
 京子がずっと離さないでいてくれたから。

 朝、ちゅんちゅんと騒がしい鳥の鳴き声で目が覚めた。
 体を半分起こし、思い出したように下半身に触れると、昨夜までそこにあった男の子はなくなっていた。
 朝の日の光が差し込む部屋の中、見慣れた私の体がそこにはあった。


 ほんとに朝起きたらなくなってるのな……。
 ほっとする気持ちと、不思議な喪失感が交差した。
 もっと京子としとけばよかったとか、思っちゃったりした。

 いつからこんな変態になったんだ、私。
 クールなはずだったのに。おかしい。

 そもそも、あれは本当に現実の出来事だったのだろうか。
 夢だったのだろうかと思った。
 けれど、テーブルに置かれた茶色いビンや、私の隣で裸で眠る京子や、シーツに滲んでいた血のあとが、夢じゃないことを物語っていた。

 実際のところ私よりも疲れたのであろう京子は、昼過ぎまで眠りっぱなしだった。
 そんな京子の髪の毛を優しく撫でているだけで、なんか幸せだった。

 翌々日。
 放課後、京子と二人連れ添って茶道室へ行く途中、西垣先生に遭遇しどうだったかと問い詰められた。
 西垣先生はいつもと同じどこか冷めた目をして私の返答を待っていた。

「あのドリンク」一呼吸置いて私は言う。「味がいまいち」
「ふむ」
「それくらいです」
「ふむ。で、どうだった」
「はい?」
「あの晩はお楽しみだったんだろう?」
「!」

 な、なに言ってるんですか。
 言い返そうとしたら、西垣先生は京子に視線を移し、そして目を細めてにやりと笑った。

「ふむ」

「?」

 私もつられるように隣の京子に向き直る。

 京子は柄にもなく顔を真っ赤にさせて黙り込んでしまっていた。
 口を真一文字に結んで、顔どころか鎖骨あたりまで真っ赤だった。

 その様子を見て西垣先生は満足したらしく、「成功だ」と呟き去っていった。
 私たちは小さくなる後姿をぼんやりと眺めていた。

「……成功だって」と京子。
「性交なだけに?」と、私。

 「結衣のバカ!」と、京子に頭をぱこんと叩かれる。
 私、クールなはずだったのに。おかしい。

 京子はもう一度「結衣のバカ……」と呟いたあと、「愛してるぞ、バカやろう」といたずらっこのように笑い、言った。
 私は、「私もだ、バカ」と返した。




おわりなり

ごめんね結衣ちゃんに変なもの生やしてごめんね
許してヒヤシンス

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       `|:::::;::|       !;;oソノ ./\:::/リ
        |::::::;::|   !ー、_,'  `''" /:';:::::`!     非常に興味深いスレでした
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