ネウロ「『アイドル殺人事件、三角関係の縺れか』、
『自称、萩原雪歩の恋人に独占インタビュー』、
『穴に埋めたい過去の大失敗』、
『竜宮小町の影、765プロの金の動き』、
『妬み渦巻くアイドル事務所の人間関係』……」
弥子「……どうしたの? 週刊誌なんか広げちゃって」
ネウロ「うむ、先日起こった殺人事件に謎の気配を感じてな」
弥子「ひょっとして、アイドルの萩原雪歩が殺された事件?」
萩原雪歩――765プロに所属するアイドル。
ここ最近、人気が高まりつつあったが、1ヵ月ほど前から恋人の存在が噂されるようになる。
ゴシップ誌にもその噂は書き立てられ、悪い意味でも注目されていたアイドルだった。
そして、つい先日、萩原雪歩が首を絞められ殺害されているのが発見された。
見つかったのは彼女の実家の近所で、雪歩さんの帰宅ルートだったらしい。
ネウロ「その事件だ。普通の新聞よりこっちのほうが大きく取り扱っていたのだが……」
弥子「週刊誌にまともな情報なんて載ってるわけないじゃん」
ネウロ「そのようだな……しかたない、直接出向くとするか」
弥子「事務所に押しかける気? 入れてもらえないでしょ」
ネウロ「何のために貴様の知名度を上げてきたと思っているのだ」
弥子「いやいや、有名人なら有名人に会えるってワケじゃないし」
ネウロ「……なら、まずはこの芸能事務所の人間と知り合いになれ」
弥子「え?」
ネウロ「さりげなく近づき、それとなく事件の情報を聞き出して来い」
弥子「そっちのほうが難しいような気がするんですけど?!」
ネウロ「ヤコよ、明日は駅前のスーパーがもやしの特売日らしいぞ」
弥子「……今の話と、もやしの特売にどんな関係があるのよ」
ネウロ「週刊誌の情報が正しければ、明日現れるはずだ」
ネウロ「高槻やよい。とりあえず、こいつが接触しやすいだろう」
次の日、駅前のスーパー
弥子(貧乏アイドル、高槻やよい――)
弥子(ツインテール、トレーナー、カエルのポシェットが特徴ね)
弥子(もやしの特売はタイムセールだし、来る時間が分かってるなら遭遇できるかな)
弥子(でもこのスーパーを利用してるっていうのは週刊誌の情報だしなぁ)
吾代「ん? おい、探偵じゃねぇか。何してんだ」
弥子「あれ、吾代さん! 吾代さんこそ何してるの?」
吾代「張り込みだよ。あるアイドルがよくこのスーパーに来るって聞いてな」
弥子「それって、高槻やよいさんのこと?」
吾代「何だ、お前もあいつ目当てか」
吾代「……ひょっとしてあれか? 萩原雪歩の事件を調べてんのか?」
弥子「うん。ネウロがさ、まず事務所の人間に近づけってさ」
吾代「はーん、あの化物がこんな事件に興味を持つなんてなぁ」
弥子「それを言うなら、吾代さんだって副社長なのになんでパパラッチなんてしてるの?」
吾代「……会社の事情だよ。あとパパラッチって言うな」
弥子「ふーん……?」
アナウンス『今から野菜売り場にて、タイムセール始めます!』
『もやし一袋10円、一袋10円で販売します!』
『なくなり次第終了となります、お急ぎください!』
吾代「お、始まったか……ところで、何でお前は買い物カゴ持ってんだ?」
弥子「張り込みついでに、もやし買おうと思って」
吾代「ずいぶん余裕だなテメェ」
野菜売り場
弥子「現れなかったね、高槻やよい」
吾代「お前はもやし確保に夢中で、探してすらなかったじゃねェか」
弥子「めんぼくない……」
やよい「あー、タイムセール終わっちゃってるー」
やよい「これじゃあ、今週はもやし祭り出来ないです……」
弥子&吾代「「……あ」」
やよい「……え?」
スーパーの出入り口前
やよい「ホントにこのもやしもらっていいんですかぁ?」
弥子「ええ、どうぞどうぞ」
やよい「うっうー!ありがとうございますー!」
弥子「それでですね、あのー、その」
吾代「高槻やよいだな?」
やよい「? はい、そうですけど?」
吾代「萩原雪歩について、いくつか聞きたいことがある」
やよい「雪歩さんのこと……ですか」
弥子(う、露骨に警戒されてる)
吾代「ああ、週刊誌に載ってる噂の類、あれは……」
その時、シャッター音が数回鳴った。いつの間にかカメラを構えた男がそこにいた。
悪徳記者「高槻やよいとヤクザのツーショットとは、色々想像させてくれる組み合わせだねぇ」
弥子(うわ、絵に描いたようなパパラッチだ)
やよい「ちょっと、困ります! この人たちにも迷惑ですし……」
悪徳記者「まぁまぁ、有名税だと思ってさ。せっかくだからもう一枚……」
吾代がその男のカメラを取り上げた。
吾代「撮ってすぐ逃げないとは、テメェもずいぶん余裕だなァ? それともただのマヌケか?」
吾代「もっとも、撮り逃げなんてさせてやる気はねェがな」
悪徳記者「な、なんだ君は! 取材の邪ヴぁい!」
男の言葉は吾代の拳によって遮られた。
吾代「なァ、『森』と『海』、どっちが好きだ?」
悪徳記者「えっと、それはどういう……」
吾代「……『樹海』と『東京湾』って言えば分かるか?」
悪徳記者「す、すいませんでしたァ!」
弥子「……吾代さん、慣れてるね」
吾代「あの手合いの対処に慣れたのはお前らのせいだろうが」
やよい「あの、追っ払ってもらって助かりましたー」
やよい「良かったら名前教えてもらえますか?」
吾代「……吾代だ」
弥子「桂木弥子って言います。探偵やってます」
やよい「吾代さんと桂木さんですね! よかったらウチに来ませんか?」
弥子「いいんですか?」
やよい「はい! もやしのお礼もしたいですし、ぜひ!」
その頃
ネウロは萩原雪歩の遺体発見現場にいた。
路肩の幅5mほどの一画が花束で埋め尽くされていた。
ネウロ(さすがアイドルといったところだな……死んでなお、ここまで人を引きつけるとは)
石垣「あれ、お前は確か、探偵の助手!」
ネウロ「こんにちは、刑事さん」(笹塚の部下の……まぁいいか)
石垣「え、何? お前も雪歩のファンだったのか?」
ネウロ「いえ、先生がこの事件を調べておりまして。現場を見てくるよう言われたんです」
石垣「なんだ、また首突っ込む気かよ」
ネウロ「この事件、警察はどう考えているのですか?」
・ ・
石垣「……一般人に教えてやる義理はないなー」ニヤニヤ
ネウロ「そうですか……。そういえば萩原さんには彼氏がいるとかいう噂が――」
石垣「ハァアア?! おま、あんなのゴシップ誌のデタラメに決まってんだろ!」
ネウロ「そうでしょうか? 案外この事件も男絡みだったり――」
石垣「いやいやいや、あり得ないね。確かにみんなそう言うけど、ゆきぴょんに限ってそれはない!」
ネウロ(『みんなそう言う』か……)「では、刑事さんはどう考えているんですか?」
石垣「そういう噂を真に受けたアイドルオタクの仕業だと思うね、俺は!」
石垣「『ファンに対する裏切りだー』とか言って、ゆきぴょんを恨むなんて逆恨みをいいとこだっての!」
石垣「本物のファンならあんな噂、鼻で笑い飛ばして――」
笹塚「お前はこんなとこでサボって何してるんだ?」
石垣「せ、先輩?!」
ネウロ「こんにちは、笹塚刑事。この事件の担当ですか?」
笹塚「そうだけど……あんまり首突っ込むなよ」
ネウロ「分かってますよ。これからお仕事ですか?」
笹塚「そ、765プロの社員にまた確認しなきゃならないことがあってな」
笹塚「……言っとくけど、付いて来るなよ」
ネウロ「ははは、そのくらいは弁えてますよ」
笹塚「ならいいんだが……。石垣、行くぞ」
石垣「はい! ……ところで何で俺がここでサボってるって」
笹塚「等々力に聞いた」
ネウロ(……我輩は付いて行かんさ)
イビルフライデー
――魔界777ッ能力『魔界の凝視虫』――
ネウロ「さて、これで少しは情報が集まるかな」
弥子、吾代、やよいは高槻家に向かっていた。
この道中、吾代はすでに3人のパパラッチを撃退していた。
弥子「いつもああいうのに付けられるんですか?」
やよい「うー、前は少なかったんですけど、雪歩さんが殺されてからはほぼ毎日です……」
吾代「俺はSPじゃねェんだぞ……。おい、家に付いたら色々聞かせてもらうからな」
やよい「はい、私に答えられる範囲でよければ」
弥子「家事はいつもやよいさんがやってるんですか?」
やよい「お父さんもお母さんも遅くまで働いてるし、それに私お姉ちゃんですから」
弥子「あ、兄弟がいるんですか?」
やよい「はい! 妹が1人と、弟が4人います」
弥子(多ッ!)「それじゃあ、食費とか大変でしょうね」
吾代(お前が人ン家の食費を心配するのか……)
やよい「そうなんですぅ、たまに給食費もままならなくて」
やよい「それで、私もアイドルとして頑張れば、家計を助けられるかなって思ったんですけど……」
弥子「なかなか……売れませんか?」
やよい「はい~」
弥子「頑張ってくださいね。応援しますよ」
やよい「ホントですかぁ! うっうー! ありがとうございます!」
高槻家
やよい「みんなー、ただいまー……あれ? この靴……」
響「おかえり、やよいー。お邪魔してるぞ、ってお客さんか?」
やよい「うん、こちら桂木さんと――」
響「うわ、ヤクザだ。まさか借金取りか!」
吾代「ヤクザでも借金取りでもねェよ!」
やよい「うちは借金なんてしてないよー」
吾代「あんたは確か765プロの……わ、ワレナハ? 響とかいったな」
響「ガナハだよ、我那覇響」
弥子「吾代さん……」
吾代「うるせー!! 漢字なんか読めなくたって困らねェよ!」
居間
響「で、この人たちは誰?」
やよい「えっと、もやしをくれた桂木さんと、悪徳記者を追い払ってくれた吾代さんです」
弥子「桂木弥子です。探偵をしています」
響「ふーん、探偵ねぇ……桂木弥子? なーんか聞き覚えがあるぞ」
弥子「あはは、それはその、どうも」
響「それで、吾代さんだっけ? あんたヤクザじゃないなら何者?」
吾代「とある調査会社の副社長様だ」
響「どう見ても副社長ってガラじゃないぞ」
吾代「いちいちムカつく女だな……おい、やよいさんよォ」
やよい「は、はい!」
吾代「約束通り、色々聞かせてもらうぜ。まず萩原雪歩の男関係だが――」
響「雪歩に彼氏なんているわけないだろ!」
吾代「テメェには聞いてねェよ!」
響「なんだとー、自分の名前読めなかったくせに!」
吾代「はッ! そりゃテメェの知名度が低いからだよ!」
弥子「2人とも落ち着いて――」
吾代「探偵は黙ってろ!」
響 「探偵は黙ってて!」
弥子「す、すみません……」
やよい「あのー、私も雪歩さんに恋人がいたなんて、嘘だと思います」
吾代「なら、この週刊誌の写真、横にいる男についてどう説明する?」
やよい「うー、後ろ姿だからはっきり言えませんけど……多分、真さんだと思います」
響「どれどれ……これ、真だろ! あはは、『デート激写』だってさ! あはははッ!」
吾代(うるっせェなコイツ)「真ってのは、765プロの菊地真か」
やよい「はい、女の人のファンが多くて、たまに男の子に間違われるんです」
弥子「確かにこの写真じゃあ間違うのも無理ないかな」
吾代「まぁ、これ書いた記者はこいつが女だって知ってて書いたのかも知れねーけどな」
響「分かってたらこんな記事書かないだろー。ぷ、くく……」
吾代「バーカ、ゴシップ誌の記事なんて、本当である必要はねーんだよ」
やよい「? どういうことですか?」
吾代「お前ら、まだ特別タチの悪いヤツには遭遇したことないようだな」
弥子「……いるのよ。写真や映像を素材にして、真実を合成しちゃうやつが」
吾代「この記事なら、『デート激写』ってことにしといたほうが面白いって具合だな」
響「面白半分で捏造されちゃ、こっちはたまんないぞ」
吾代「半分じゃねェよ。連中の判断基準は面白いか、つまんねーか、それしかねェ」
響「なんだそれ! なんか腹立ってきたぞ!」
吾代「……ま、そういう連中には狙われないように気をつけるこったな」
吾代「次、765プロ内の人間関係について教えろ」
やよい「人間関係ですか?」
吾代「ああ、何かないか? 派閥があるだとか、誰と誰がライバル関係だったとか」
響「765プロにはそんなのないぞ。社長とプロデューサー、あとぴよ子を入れても16人しかいないんだからな」
吾代(1人減って15人だろうが……ていうかぴよ子って誰だ)
やよい「たまに伊織ちゃんと真さんが喧嘩したり、亜美と真美がふざけてて律子さんに怒られたり……」
吾代「いさかいがあってもその程度か……」
響「まだ聞きたいことあるかー?」
弥子「じゃあ、1ついいですか?」
響「ん、なになに?」
弥子「雪歩さんってどんな人でした?」
響「雪歩はなー、そうだなー、優しい子だったぞ」
響「あと穴を掘るのが好きだったな」
やよい「うー、時々勉強教えてもらったりしてました」
やよい「あと穴を掘るのが早かったです」
弥子(穴を掘る? 業界用語かな)「そうですか、ありがとうございました」
やよい「……あ、もうこんな時間ですね。そろそろご飯の用意しなきゃ」
響「おお、そうだ! やよいー、喜べ! 実は自分、肉買ってきたんだぞ!」
やよい&兄弟「「お肉!?」」
吾代「うぉ、いきなり湧いて出やがったな……」
弥子(……吾代さんが怖くて隠れてたんだと思うけど)
カーニバル
やよい「うっうー! 今日はもやし祭り改め、もやし謝肉祭です!」
やよい「桂木さんと吾代さんも食べていってください!」
吾代「いや、そこまで居座るつ」弥子「いいんですか?」
吾代(最後まで言わせろよ、この食欲魔人がァ!)
やよい「はい! みんなで食べたほうがおいしいですし!」
弥子「それじゃあ、料理手伝いますよ」
やよい「もやし洗うだけなんで、あ、じゃあ鉄板を用意しといてください」
弥子「りょーかーい」
数分後
カーニバル
謝肉祭の料理の半分は、探偵の腹に収められた。
夜、魔界探偵事務所
ネウロ「なるほど、ここまで帰ってくるのが遅かったのは、人の家でただ飯を食っていたから、というワケか」
弥子「いや、抑えようとは思ったんだよ? でもやよいちゃんの特性ソースが思いのほか美味しくてつい……」
ネウロ「そうかそうか、それは良かったな。 で? 事件の情報は?」
弥子「えー、萩原雪歩に交際相手はいると思えない、765プロ内の人間関係はおおむね良好……」
ネウロ「それは奴隷2号の成果だろう? もっとも成果と呼べるほどの情報でもないがな」
ネウロ「我輩は今、貴様の成果を聞いているのだ」
弥子「う……、あっ、雪歩さんはよく穴を掘ってたらしいよ」
ネウロ「……この状況でふざけられるとは思ってなかったぞ」
弥子「ホントだって! 響さんとやよいちゃんがそう言ってたの!」
ネウロ「それはどういう意味なのだ? 本当に地面に穴を掘るとでも言うのか? アイドルが?」
弥子「えっと、それは……多分、業界用語か何かかなーって……」
ネウロ「はぁ……我輩は魔力を消費してまで情報収集に勤しんでいたというのに、このもやしっ娘ときたら……」
弥子「も、もやしっ娘ってどういう意味よ!」
ネウロ「言わねば分からんか?」
弥子「くっ……言わなくていい」
弥子「……ところで、魔力を消費って何使ったの?」
イビルフライデー
ネウロ「魔界の凝視虫だ。笹塚とその部下を付けさせ、765プロでの会話を盗聴した」
弥子と吾代が高槻家でやよい、響から話を聞いていた頃。
765プロ事務所
律子「……お待ちしてましたよ、刑事さん」
笹塚「すみませんね、本当。何度も何度もお邪魔して」
律子「小鳥さん、応接室にお茶、お願いできますか?」
小鳥「はーい」
律子「美希! ソファ空けて、早く早く」
美希「むー、まだ眠いの……」
律子「刑事さんが来てんのよ。寝るならテレビの前のソファ使って」
笹塚「今、事務所にいるのは……」
律子「私と小鳥さん、美希、真美の4人だけです」
石垣「あの竜宮小町の皆さんは……?」
律子「あの3人なら今はレッスン場のほうに行ってます」
小鳥「お茶はいりましたよー」
笹塚「どーも」
律子「それで? 今日のどういったご用でしょうか?」
笹塚「今日は……現場周辺で目撃されてる不審者に似た男をこの事務所近辺でも見てないかと――」
笹塚「被害者の死亡推定時刻、午後7時前後のアリバイをもう一度聞かせてください」
律子「またアリバイですか……」イラ
笹塚「ええ、とりあえず今ここにいる4人全員からお話を伺いたいんで、まずあなたから」
律子「あの日の7時頃といえば、今度の竜宮小町のミニライブについて会場側と打ち合わせをしてました」
律子「あ……そういえば、その途中で事務所から電話がありましたね」
笹塚「電話の相手と内容は?」
律子「プロデューサーでしたよ。 内容は……機材を運びたいから社用社を使いますって連絡です」
石垣「あの、さっき言ってたライブってファーストシングル発売記念のミニライブですよね?! 僕もCD予やぐぇッ!」
笹塚「なんかすみません、コイツ連れて来るべきじゃなかったですね」
律子「いえいえ、ファンは大事にしないとなんでぇ」イライラ
小鳥「あのー、お茶のお代わりは?」
笹塚「いや、結構です。あの小鳥さん、でしたか?」
小鳥「はい?」
笹塚「あの日のアリバイをもう一度教えてもらえますか」
小鳥「えっと、あの日は、というか、いつもですけど残業してました」
小鳥「その途中に、これまたいつもの居酒……定食屋さんに食事に行きました」
小鳥「それから、事務所に戻ったらプロデューサーさんがいましたね。 彼はまたすぐに出掛けちゃいましたけど」
笹塚「どこへ行くとか聞きました?」
小鳥「ダンボール抱えて、機材をレッスン場に運ぶとか言ってましたね。あ、車まで運ぶの手伝いました」
笹塚(律子さんの話に出てきたやつか)
笹塚「ありがとうございました。美希さんか真美さんを呼んでもらえますか」
小鳥「はい、ちょっと待ってくださいね」
小鳥(笹塚刑事と石垣刑事……笹塚さんのほうが受けかな)
真美「……」
笹塚「えーっと……、あの日のアリバイを――」
真美「まだ捕まんないのー?」
律子「こら、真美!」
笹塚「……悪いね、人通りの少ない屋外だったから、目撃者も少なくて」
真美「言い訳はいーよー。いつになったら犯人捕まえられんのさー」
律子「あーもーこの子は……。早くアリバイ言いなさい」イライラ
真美「ぶぅー……7時頃は家で亜美とテレビ見てましたぁー」
笹塚「……分かった、ありがとう」
律子「はい、もうあっち行ってなさい」
真美「はーい……次はミキミキの番だよね?」
律子「そうだけど、美希起きてる?」
真美「真美が起こしてきてあげるー!」
美希「あふぅ……」
律子「美希、もうちょっとシャンとしなさい」
美希「そんなこといっても……あふぅ、ねむ……」
笹塚「あの日のアリバイを教え――」
美希「家で寝てたのー」
笹塚「……どうもありがとう」
笹塚「じゃあ、律子さん。不審者の人相書きは置いていきますから、見たって人がいたら連絡ください」
律子(あー、終わった終わった)「分かりました。それじゃあこれで――」
P「今戻りましたー」
千早「お疲れ様です」
笹塚「……あと2人、聞いてから戻ります」
律子「あ、はは……グッドタイミングですねー」イライライラ
P「あの日の7時頃のアリバイ、でしたよね」
千早「私はその時間にはマンションに戻ってました。1階の防犯カメラに写ってると思います」
P「俺はレッスン場で使う機材が手違いで事務所のほうに届けられてたみたいなんで、それを向こうに運んでました」
笹塚「……はい、ありがとうございました。それじゃあ今度こそ帰ります」
律子「はい、お気をつけてー」(やっと終わった……)
笹塚「おい、起きろ」
石垣「はッ! 俺は何を……」
笹塚「お前、戻ったら等々力と担当変われ」
石垣「そ、そんなッ! どうしてっすか先輩?!」
以上が魔界虫によってネウロに伝えられた内容である。
ネウロ「貴様の働き次第では、明日は暇をやろうと思っていたが仕方がない。明日も働いてもらうとしよう」
弥子(もともとそのつもりだったんじゃ……)
ネウロ「いいか? 明日の仕事は貴様の不徳によるものだ」
ネウロ「心優しぃ~我輩を責めるのは筋違いだからな?」
弥子(……こう言われてしまっては抗議もできない)
ネウロ「明日言ってもらう場所は、このラーメン屋だ」
弥子「ここ言ったことあるけど、アイドルのイメージからはかけ離れた場所だよ?」
ネウロ「四条貴音というやつがここの常連らしい。会って話を聞いて来い」
弥子「それも週刊誌の情報?」
ネウロ「そういうことだ。ああ、犯行日の午後7時のアリバイも確認してくるのだぞ」
ネウロ「今度ろくな情報を持ち帰らなければ、貴様がベッドの下で育てているもやしを日光に晒してやる」
弥子「……なんで知ってんのよ?!」
望月総合信用調査・社長室
吾代「あー、疲れた……わりにはほとんど収穫なかったな。クソッ!」
望月「ようやく戻ったか、吾代くん。 聞きたいことがあるんだが」
吾代「疲れてんだよ、くだらねーことなら明日に――」
望月「バリアの向こうにスイッチが見えてるんだけどね、これはどうやったら押せるんだい?」
吾代「そのバリアは小判の溜め打ちで貫通すんだよッ!!」
望月「ああ、やっと通れたよ。今日はずーっとここで止まっててね」
吾代「……ずっと? いつもは詰まったらすぐ電話してくるくせに、珍しいな」
望月「そりゃあ萩原さんが依頼人とあっちゃあね、それを最優先してもらわないと」
吾代「そういや、依頼人は殺された萩原雪歩の親父なんだったな。何モンなんだ?」
望月「色んな方面に顔が聞くし、私も何度かお世話になったが……よく知らない」
吾代「おいおい、おっさん調査会社の社長だろ? 知らないってどういう――」
望月「『知らない』よ」
吾代「……詮索しないほうがいいってことか?」
望月「依頼人のことは考えず、ただ依頼をこなしていたほうが身のためだよ、吾代くん」
吾代「チッ、めんどーな依頼だな……」
望月「先方は君のことも把握してるから、結果を出さないとどうなるか知らないよ」
吾代「……は? おいッ、おっさん!それどういう意味だコラ!」
望月「吾代くん、今度は届かないとこにスイッチがあるんだが」
吾代「手裏剣溜めて反射させんだよッ!! いや、そんなことよりさっきの――」
望月「うまく反射できない」
吾代「がァァッ!! いったんコントローラー置けやァッ!!」
次の日、昼食時
弥子(『銀色の王女』四条貴音……)
弥子(銀のウェービーロングヘアが特徴か……)
弥子(なんか……この人ホントにラーメンなんて食べるの?)
弥子(しかも常連って……さすがにデマなんじゃないかなぁ)
弥子「まあ、会えなくてもいっか。ここのラーメンおいしいし」
店主「へい、らっしゃい! 何にする?」
弥子「チャーシュー麺の大盛りを――」
貴音「……」ズルズル
弥子(ホントにいたー!)
店主「チャーシューの大盛りでいいの?」
弥子「あ、はい。お願いします」
貴音「……」ズルズル
弥子(まさに王女って感じだなぁ。ラーメンをすする姿にまで気品が溢れている)チラチラ
貴音「……」ズルズル
弥子(どうしよう、なんて話しかけたらいいのか分からない)チラチラ
貴音「……」ズルズル
弥子(……とりあえず高菜を食べよう)
貴音「おやめなさい」
弥子「……え? 私ですか?」
貴音「ここの高菜は特別辛いのです。一時的に舌の感覚を狂わせるほどに」
弥子「でも前来た時はそこまで辛くは――」
貴音「変わったのはつい先週のこと。知らぬのも無理はありません」
弥子(ホントに常連なんだ……)「この店にはよく来るんですか?」
貴音「ええ……ところで、私に何か用があるのではありませんか?」
弥子「!」
貴音「店に入ってきた時から、私のほうを見ておりましたね?」
弥子(気付かれてたんだ……)
貴音「そうですね……、萩原雪歩のことではありませんか?」
弥子「なっ! なんで分かったんですか?!」
貴音「実は昨日の夜、響から電話で聞きました。桂木弥子という探偵が、雪歩殿のことを調べていると」
弥子「そうだったんだ……」
貴音「……ご馳走様でした」
貴音「それでは、お話を伺いましょう。何が聞きたいのですか?」
弥子「えっと、じゃあまず――」
店主「はい、チャーシュー大盛りお待ちっ!」
貴音「……」
弥子「……あの」
貴音「先に召し上がってください。麺が伸びてしまいます」
弥子「すみません……いただきまーす」
1分後
弥子「ごちそうさま! すみません、貴音さんお待たせしちゃって」
貴音「いえ、全然、まったく」(この速さ、私と同等、いや、それ以上……)
弥子「あの、場所変えませんか?」
貴音「え? ああ、そうですね。らあめん屋に血生臭い犯罪の話題は似合いません」
弥子「じゃあ、向かいの喫茶店に移りましょう。あそこケーキが美味しいんです」
魔界探偵事務所
吾代『――ホントにンなことに意味あんのか?』
ネウロ「つべこべ言わずに捕まえて、明日事務所につれて来い」
吾代『……無駄骨だったら容赦しねェぞ』ブツッ
ネウロ「まったく口だけは大きい奴だ」
ネウロ(さて、夜はこの雑誌に載っている天海春香の利用する駅に張り込むとして――)
その時、階段を上がってくる音が聞こえた。
ネウロ(依頼人か……それにこいつらの纏う謎の気配、これは――)
伊織「名探偵、桂木弥子の探偵事務所はここかしら?」
あずさ「いいのかしら? 律子さんに相談もせず……」
亜美「あれあれ? 弥子さんって男だったっけ?」
ネウロ「いいえ、先生は紛れもなく女性です。僕は助手のネウロと申します」
ネウロ(ククク、関係者が向こうからやってきてくれるとはな)
伊織「その先生はどこよ? まさかいないの?」
ネウロ「先生はある事件の調査中です。ご依頼なら私がお伺いしますが?」
亜美「えー、いないのー? 名探偵を一目拝みたかったのに~」
ネウロ「申し訳ありません。先生はどんなショボい依頼でもこなしていかないと生活できないほど金に困ってまして」
伊織「なによそれ、ホントに名探偵なんでしょうね?」
ネウロ「その点はご心配なく! 先生に解決できない事件などありません」
あずさ「まぁ、頼もしいわぁ」
伊織「……なら、調べて欲しい事件があるんだけど」
伊織「765プロの萩原雪歩っていうアイドルが殺された事件、知ってるわよね?」
ネウロ「存じております。人気上昇中の清楚な感じのアイドルでしたね」
伊織「あの事件の犯人を捕まえて欲しいのよ」
ネウロ「ほうほう、しかしその事件なら警察も捜査しているのでは?」
亜美「ケーサツなんて当てになんないよー」
亜美「昨日だってぇ、また事務所に同じ質問しに来たんだって」
ネウロ「警察は慎重な組織ですからね、仕方のないことですよ」
伊織「それで依頼は受けてくれるの? くれないの?」
ネウロ「もちろんお受けいたします」
あずさ「えっと、それは助手が決めてもいいんですか?」
ネウロ「大丈夫です。先ほど申しましたように、先生は依頼に貪欲なので」
伊織「それじゃあ、頼んだわよ。依頼人は私の名前でお願い。私は――」
ネウロ「水瀬伊織さんですよね? それと、お2人は三浦あずささんと双海亜美さん」
ネウロ「3人とも765プロのアイドルであり、竜宮小町というユニットで活躍しておられる。そうですね?」
あずさ「あら、私たち自己紹介したでしょうか?」
伊織「にひひっ、竜宮小町の知名度もずいぶん上がってるみたいねー」
ネウロ「それではまず、雪歩さんと同プロダクションのあなた方のお話から伺いたいのですが」
伊織「……はい? どういうこと?」
ネウロ「事件の関係者は肉親でも警察でもペットでも死人でも疑えという、先生の方針です」
亜美「おー! さすが名探偵! 深イイお言葉ですなぁ」
あずさ「桂木さんってずいぶん疑り深い人なのねぇ」
伊織「ちょっと! 私は依頼者よ!? 犯人が探偵に依頼するわけないじゃない!」
ネウロ「アヤ・エイジアという前例がありますからね」
伊織「むぅ……」
ネウロ「ご理解頂けたなら、お話しいただけますか?」
ネウロ「とりあえず、殺された雪歩さんを恨んでいるような人間がいないかと――」
ネウロ「あと、あなたがたのアリバイ……おっと、被害者の死亡推定時刻が分かりませんね」
伊織「……午後7時。誤差は前後30分以内だって言ってたわ」
あずさ「いいの、伊織ちゃん? こんなこと誰かに話しても」
伊織「いいのよッ!」
亜美「じゃあ、亜美から話すー!」
亜美「ゆきぴょんを恨んでた人間だよね? えっとねぇ……いないんじゃないかな!」
亜美「それと、亜美はあの日の7時頃は家で真美とテレビ見てました!」
ネウロ(アリバイ無しと……)「あずささんは?」
あずさ「私も彼女を恨んでた人っていうのは、思い当たりませんねぇ」
あずさ「でも、アリバイのほうはありますよ。 警察のお世話になってました」
伊織「だから、その言い方やめなさいってば!『交番で道聞いてた』でしょ!」
ネウロ「では、最後に伊織さん」
伊織「事務所内に雪歩を恨んでた人間はいないと断言してもいいわ」
ネウロ「事務所外ではどうですか?」
伊織「週刊誌を鵜呑みにした馬鹿なファンが、逆恨みぐらいはしてるかもしれないわね」
ネウロ「では、あなたのアリバイについて教えてください」
伊織「うちのホームパーティに参加……させられてたわ。他の参加者に確認してもらえば分かるはずよ」
ネウロ「分かりました。それでは依頼の件と、あなた方のアリバイは僕から先生に伝えておきます」
伊織「よろしくね。あ、そうだ。警察の持ってる情報も必要よね?」
ネウロ「それはそうですが――」
伊織「今晩あたり、警察を寄越させるわ。なんなりと聞き出しちゃって」
ネウロ「それは助かります! 事件解決も早まるでしょう」
亜美「いおりん、すごーい! シビれる! あこがれるゥ!」
伊織「すごいのは私じゃなくて水瀬グループよ……いや、私の可愛さはすごいけどね?」
あずさ「伊織ちゃん、そろそろ戻らないと……」
伊織「そうね、また律子に怒られちゃうわ。それじゃ助手さん、これで失礼するわ」
ネウロ「ええ、気をつけてお帰りください」
ネウロ(水瀬グループか……、使えそうな組織ではないか)
喫茶店
弥子「まず、事務所での雪歩さんについて教えてくれますか?」
貴音「雪歩殿は……いつもオドオドしていた印象があります」
貴音「あと穴を掘るのが得意でした」
弥子(穴を掘る……どういう意味だろ?)「何か、悩みがあったとかいうことは?」
貴音「ふむ……殺された日の前日まで、1ヶ月ほど前の失敗を忘れられなかったようですね」
弥子「その失敗っていうのは?」
貴音「ライブ中に曲の歌詞が出てこなかったのです。ド忘れというやつですよ」
弥子「それじゃあ、雪歩さんが殺された日の午後7時頃、貴音さんは何してましたか?」
貴音「なんと、犯行時刻まで知っているとは……、さすが名探偵といったところでしょうか」
弥子「あはは、ええ、そんなところです」(魔人は何でもありだからねー)
貴音「そうですね……ここから駅のほうへ10分ほど歩くと、高架線路がありますね」
弥子「え、えーっと……ああ、ありますあります」
貴音「私はあの日の7時頃、そこの高架下の屋台でらあめんを食べていました」
弥子(またラーメン!?)「店主は貴音さんのことは覚えてるでしょうけど、日付と時間まで覚えてますかね?」
貴音「……あの時、丁度最後だということで、チャーシューを1枚オマケしていただきました」
貴音「つまり、その次の日にはチャーシューを調達したはず」
貴音「チャーシュー調達の前日だと言えば、私のことも思い出していただけるでしょう」
弥子(……この人、探偵?)
貴音「質問はこれくらいでしょうか?」
弥子「えーっとあとは……あっ、現場の近くで不審者が目撃されてるそうですけど――」
貴音「昨日事務所に来た官憲も、その不審者の人相書きを持ってきたそうですね」
弥子「そうそう、確か特徴は――」
貴音「中肉中背、もしくは痩せ気味、または太り気味」
貴音「年齢は10代後半から20代、あるいは30代から40代」
貴音「あたりをキョロキョロ見渡しながら徘徊しているかと思えば、電柱の影にずっと蹲っていたという」
弥子「……」
貴音「これでは何のことやら、皆目、検討も付きません」
弥子「ですよねー……」
会話が途切れた時、丁度弥子の携帯が鳴った。
弥子「ちょっとすみません……あれ、響さんからだ」
響『弥子? 今時間取れる?』
弥子「どうしました?」
響『いやなー、今、事務所に真がいるんだけど、事件について名探偵の話を聞きたいんだってさ』
弥子「ホントですか! こっちも助かります。私今、貴音さんと喫茶店にいるんですよ」
響『貴音と喫茶店? あ、ラーメン屋の向かいだな?』
弥子「そうそう、分かりますか?」
響『じゃあ、そこで待っててくれるか? 今真がそっち向かったから』
弥子「はい、分かりました」
響『あ、貴音に代わってもらえる?』
弥子「分かりました……貴音さん、響さんです」
貴音「もしもし?」
響『貴音ー、さっき律子が「貴音はまだ帰ってこないのかー」って怒ってたぞー』
貴音「そうですか、ではそろそろ戻らねばなりませんね」
響『そーしろよ。用はそれだけだから、弥子によろしくー』
貴音「……それでは桂木殿、私は事務所に戻ります」
弥子「今日はありがとうございました」
貴音「こちらこそ、探偵と話せることなど滅多にあることではありませんもの」
弥子「そう言ってもらえると、気が楽になります」
貴音「ふふふ、それでは、ごきげんよう」
弥子「……ふぅ、ああいうのを王女の風格っていうんだろうな」
弥子「気後れしちゃってたかなぁ……」
数分後
真「すみません、あなたが名探偵の桂木弥子さんですか?」
弥子「あ、えっと真さん?」
真「はい! 765プロの菊地真です。よろしくお願いします!」
弥子「こ、こちらこそよろしく」(貴音さんとは違う意味で気後れしそう……)
真「雪歩の事件を調べてるんですよね? どうですか? 犯人分かりそうですか?」
弥子「いや、あの、その……ぼちぼちです」
真「そう、ですか……」
弥子「……あのー、質問してもいいですか?」
真「ああ、そうだ、そのために来たんだった、はい、何でも聞いてください!」
弥子「貴音さんにも同じ質問をしたんですけど、雪歩さんのことと、真さんのアリバイを教えてください」
真「本人のことですか……。すごい引っ込み思案でしたね。それを変えたくてアイドルになったとも言ってました」
真「あとは……知ってるかもしれませんけど、雪歩はひどい男性恐怖症でした」
真「2人で買い物に行った時とか、男の人の側を通る度にボクの後ろに隠れようとするんですよ」
弥子「へぇー、人前に出る仕事なのに、意外ですね」
真「雪歩はやる時はやる子ですよ! 最近はプロデューサーのおかげもあって、少しは男の人に耐性が……」
弥子「……? 真さん?」
真「最、近は……、耐性が付いてきてたんですよ……」
弥子(ヤバイ、涙目になってる!)
弥子「ほ、他には?! 他に趣味とか、特技とか!」
真「……趣味は、詩を書くことと、日本茶でしたね。雪歩の入れるお茶、おいしかったなぁ……」
真「あと穴を掘るのも趣味だったのかな?」
弥子(……もうスルーしとこう)
弥子「じゃあ、真さんのあの日の午後7時頃の行動を教えてください。」
真「アリバイですか? あの日はレッスンが終わってすぐ家に帰ったんで、7時頃には家にいたと思います」
弥子「そうですか。あと目撃されてる不審者については……」
真「さっぱり分かりません」
弥子「ですよね」
弥子「参考になりました。どうもありがとうございます」
真「お役に立てたなら良かったです。あ、ボクもう戻りますね」
弥子「ひょっとして、忙しかったんですか?」
真「実はちょっとだけ……。でもどうして、話がしたかったんです」
真「犯人、絶対見つけてくださいね!」
弥子「……はい、任せてください」
弥子(期待されてるなぁ……事件を解決するのはネウロなんだけど)
再び弥子の携帯が鳴った。今度はメールの着信だった。
弥子(ネウロからだ、何だろ)
メール『夜まで事務所に待機していろ』
『出歩けば貴様の頭にカイワレを植え付ける』
弥子(……『了解、貴音さんと真さんから話を聞けたよ』っと、送信)
弥子(事務所で待機って、ネウロはどこ行くんだろ……)
夜、神奈川の某駅
ネウロ(ほう、菊地真とも接触できたか。なら後は――)
その時、ホームに電車が入ってきた。その電車から天海春香が降りてくる。
春香(そろそろテスト勉強始めないとなぁ……)
春香(もう、雪歩から勉強教えてもらえないし……あれ、誰かいる)
ホームに降りた春香と、ベンチに座るネウロの目があった。
春香(珍しいな、この時間帯に……あ、あんまりジロジロ見てたら失礼だよね)
視線を外し、春香は改札へ向かおうとした。その目の前にネウロが立っていた。
春香「うひゃあッ!」
ネウロ「驚かせてすみません。僕は脳噛ネウロというものです」
春香「ネ、ネウロさん? あの、なん、でしょうか?」
ネウロ「765プロの天海春香さんですよね? 少しお聞きしたいことがありまして」
春香(あ、なんだ。フリーライターの人、なのかな?)
春香(……って、私の使う駅までリークされてるのー?!)
ネウロ「萩原雪歩さんについてのことなのですが――」
春香(でも、カメラも無いし、メモ帳すら持ってない……)
春香(それに、さっきまでベンチにいたのに、いきなり目の前に現れて……)
ネウロ「春香さん? 聞こえてますか?」
春香(この人ひょっとして……見えてはいけないもの? お化け? 妖怪? 幽霊?)
春香「え、駅員さーん! 助け――」
ネウロ(……チッ、我輩を何だと思っているのだ)
イビルブラインド
――魔界777ッ能力『無気力な幻灯機』――
イビルブラインドがネウロと春香の存在の解像度を下げた。
春香「駅員さん! あそこの人見えますか?! 私にしか見えないってこと無いですよね?!」
春香「……駅員さん? え、あのー……何で無視するんですか?」
春香(……まさか……私も死んじゃってる系?)
ネウロ「天海春香さん」
春香「はいぃ!」
ネウロ「お話を聞かせてもらってもよろしいですか? 聞いたらすぐ帰りますから」
春香「は……はひ」
ネウロ「雪歩さんを恨んでいた人間についてと、あなたのアリバイだけお話くだされば結構です」
春香(刑事さんみたいなこと聞くなぁ)「雪歩を恨んでた人なんていません」
春香「それと、私はあの日の7時頃、今みたいにこの駅にいました」
ネウロ「助かりました。あなたで最後だったのですよ」
春香「最後? 最後ってどういう――」
その時、ホームに電車が入ってきた。
ほんの一瞬、春香がそちらに目を向けた隙にネウロは姿を消していた。
春香(やっぱり、幽霊だったんだ……)
駅員「……あの、どうかされましたか?」
春香「! 私が見えるんですか?!」
駅員「……はぁ?」
魔界探偵事務所
弥子(言われたとおり事務所で待機してるけど、いつまで待てばいいんだろ)
笹塚「弥子ちゃん、いる?」
弥子「笹塚さん! どうしたんですか、こんな時間に?」
笹塚「なんか、変なとこから圧力がかかってな。事件の情報を君に流せってさ」
弥子(圧力? ネウロが何かしたのかな)「へー、不思議ですねー」
笹塚「報道されてないことも含めて、簡単にまとめて話すからな」
笹塚「被害者、萩原雪歩、17歳。身長155cm、体重42kg」
「死因は首をロープで絞められての窒息死。外傷は後頭部に一箇所、倒れた時についたと思われる」
「死亡推定時刻は午後7時。誤差は前後30分以内」
「遺体発見現場は萩原邸から徒歩で10分ほどの、人通りの少ない路地」
「第一発見者は、萩原氏のお弟子さん。門限の9時を過ぎても帰ってこない娘を探すよう言われ、その際に発見」
「着衣の乱れもなく、財布も残されていたことから、初めから雪歩さんの殺害が目的だったと思われる」
「また、現場付近では午後6時頃から、不審者が何度か目撃されていた」
「……基本的なことはこんなモンだな」
笹塚「次、殺された日の雪歩さんの行動について」
「朝8時に出社。午前中はダンスと発声のトレーニング。昼から雑誌の写真撮影とインタビュー」
「それが4時過ぎまで続いて、6時ぐらいにはプロデューサーが彼女を駅まで送ったらしい」
「仕事中は常にプロデューサーが近くにいて、これと言っていつもと違うことはなかったそうだ」
弥子「ふむふむ……」
笹塚「……なぁ、メモとか取らなくていいの?」
弥子「はい、大丈夫です」
弥子(笹塚さんの後ろであかねちゃんが必死にメモしてくれてるし)
笹塚「あと、765プロの関係者のアリバイ。まとめたのがあるから、これ見といて」
天海春香………神奈川の某駅にいた。駅員の証言あり。
如月千早………自宅マンションにいたことを確認済み。
高槻やよい……実家で夕食の用意をしていた。△
秋月律子………ミニライブの打ち合わせ。
三浦あずさ……交番で道を尋ねていた。
水瀬伊織………ホームパーティーに出席。
菊地真…………実家にいたことを両親に確認。△
双海亜美………家でテレビを見ていた。△
双海真美………同上。△
星井美希………家で睡眠を取っていた。△
我那覇響………犬の散歩をしていた。近所の住人に確認済み。
四条貴音………高架下の屋台で食事をしていた。
音無小鳥………残業中、居酒屋で食事を取る。店に確認済み。
P………………事務所からレッスン場へ機材を運搬。小鳥さんに確認済み。
高木社長………善沢記者と居酒屋。
弥子「この△印はなんですか?」
笹塚「身内の証言でしかないから、参考程度にって意味」
笹塚「他に聞きたいことは?」
弥子「現場周辺で不審者が目撃されてるそうですけど、見つかりました?」
笹塚「いや、まだ。 聞き込みしたりしてるんだが、なかなか見つからない」
弥子「そうですか……」
笹塚「じゃあ、そろそろ戻るわ。また聞きたいことあったら連絡して」
弥子「はい、ありがとうございました!」
弥子「……あかねちゃん、ご苦労様。 ところで、ネウロどこ行ったか聞いてる?」
あかね『神奈川の駅』カキカキ
弥子「神奈川? 何しに行ったんだろ……」
ネウロ「もう戻っているぞ」
弥子「うわッ、いきなり出てこないでよ、もー……」
弥子「ねぇ、ネウロ。笹塚さんが来て事件のこと教えてくれたんだけど、あんた何かしたの?」
ネウロ「ほう、本当に来たのか。水瀬グループの権力は本物だな」
弥子「水瀬?」
ネウロ「今日の昼間、水瀬伊織が依頼に来た。その際、警官をこっちに寄越すと言っていたのだ」
弥子「へぇー、吾代さんの会社でもそんなことできないんじゃない?」
ネウロ「だろうな。連中に出来るのはせいぜい情報を掠め取るぐらいだ」
ネウロ「で、これが話をまとめたメモだな……ふむ」
ネウロ「……なるほど。ヤコよ、明日765プロの事務所へ行くぞ。吾代にも連絡しておけ」
弥子「もう分かったの?」
ネウロ「ああ、この謎はもう、我輩の舌の上だ」
次の日
765プロ事務所前
笹塚「おはよ……ここに呼んだって事は、犯人は765プロの関係者なのか?」
ネウロ「先生はそう考えておられます」
等々力(先輩、どうして警察が彼女たちに協力しなければ……)
笹塚(上の命令だよ。仕方ないさ)
等々力「……あの、桂木さん。現場付近では不審者が目撃されていますが、そいつが犯人なんですか?」
弥子「えっと、それは――」
ネウロ「それも含め、皆さんの前でお話しますよ」
美希「ちょっと遅れちゃったの……あれ、刑事さんと……誰? 765プロに用事?」
弥子「あ、私は桂木弥子です。はじめまして」
美希「はじめましてなの。そっちの人は?」
ネウロ「脳噛ネウロと申します。星井美希さんですね。ちょっとお尋ねしたいのですが」
弥子「?」
ネウロ「雪歩さんがどうやって殺されたか、ご存知ですよね?」
美希「どうって……こう、ギューって首を絞められてたんでしょ?」
美希は首に手を当てて答えた。
ネウロ「はい、ありがとうございました」
美希「? どういたしましてなの……?」
765プロ事務所
伊織「――というワケで、これから探偵が来ます」
律子「……伊織、そういうことはもっと前もって伝えてくれない?」
伊織「仕方ないじゃない。 『犯人が分かったので明日行きます』って昨日の夜連絡が来たんだもの」
P「この後、千早のボイスレッスンの予定だったんだが……」
千早「はぁ、仕方ないですね」
響「ふーん、依頼人は伊織だったのか。教えてくれたらよかったのに」
あずさ「私たち、昨日の昼間に依頼に行ったんで、お話しする機会がなかったんです」
やよい「昨日? 桂木さん、一昨日ウチに来ましたよ?」
貴音「昨日の昼間といえば、まさに私が桂木殿と邂逅していた頃ですね……」
亜美「分かった! 弥子さんってエスパーなんだ! その能力で依頼の前に事件を捜査していたんだよ!」
真美「な、なんだってー!」
真「そんなわけないって。でも不思議だな……伊織より前に同じ依頼をした人がいたんじゃない?」
春香「プロデューサーさん、幽霊ですよ、幽霊! 私、昨日駅でとんでもない心霊体験しちゃったんです!」
P「疲れてるんじゃないか? あんまり無理するなよ」
春香「幻覚じゃないですよ! 千早ちゃんは信じてくれるよね?」
千早「え、っと……どうかしら?」
春香「千早ちゃんまで~! 小鳥さんは?!」
小鳥「その幽霊、どんな外見だったの?」
春香「それがですね、足はあったんですけど、スーツ姿で――」
ネウロ「おはようございます、皆さん!」
春香「うわぁッ! 昨日の幽霊!」
P「……この人が幽霊?」
ネウロ「昨日は驚かせてしまったようで、申し訳ありません」
春香「え……みんな、この人見えるの?」
真「春香は何を言ってるの?」
伊織「見えてるに決まってるじゃない。私の依頼を受けたのはこの助手さんなんだから」
春香「え、ええー……」
真美「あなたが名探偵?」
弥子「はい、一応……」
亜美「なんかフツーだね」
真美「虫眼鏡とか持ってないの?」
弥子「そういうのはちょっと……」
亜美「パイプは?」
真美「ちょびヒゲは?」
亜美「蓬髪は?」
真美「星占いできる?」
弥子「全部ないです、すみません……」
美希「……真くん真くん、これなんで集まってるの?」
真「桂木さんが、雪歩を殺した犯人が分かったから、集まって欲しいって」
美希「桂木さんって誰なの?」
千早「アヤ・エイジアを捕まえた探偵よ」
美希「あや? ああ、千早さんがよく聴いてた人だね」
律子「えーっと、桂木さん? これって時間かかりますか?」
弥子「いや、それほど――」
ネウロ「お時間は取らせませんよ。では、先生。さっそくですが、始めましょうか」
ネウロの瞳が妖しく輝き、弥子の意思に関係なくその指が動きだす。
弥子「犯人は……お前だ!」
事務所にいた全員の視線が、その指先を追う。
その先にいたのは――
P「……俺、ですか?」
ネウロ「ええ、先生の推理では、まず間違いないかと」
千早「ちょっといいかしら? プロデューサーにはアリバイがあったと思うんだけど」
P「そう、俺は雪歩が殺された午後7時頃、この事務所にいたんだ」
P「このことは、律子と小鳥さんが証明してくれている」
弥子「それは……」
ネウロ「順を追って解説しますよ。あなたのやったことを全てね」
社長じゃないのか…
ネウロ「先生が最初に感じた違和感は、雪歩さんの殺され方です」
真「殺され方って……絞殺のこと?」
ネウロ「ええ、人を絞め殺そうとしたら――」
ネウロの手が、弥子の首にかかる。
弥子「? ぐぇッ!ちょ、苦し……」バタバタ
ネウロ「……このように、窒息死するまでには時間がかかり、抵抗もされます」
弥子「も、もう死、死に……コヒュー……コヒュー……」
響「なぁ、弥子が酸欠の金魚みたいになってるぞ」
ネウロ「現場は人通りが少ないとはいえ屋外です。いつ人に見つかるか分からない」
弥子「……ッゲホ、ごほごほ……」
ネウロ「そんな時間のかかる殺し方よりも、不意に刃物で急所を一突きにしたり――」
弥子「グフッ!」
ネウロ「鈍器で複数回、殴打するほうがよっぽど手早くすむことでしょう」
ネウロ「それなのに、なぜ犯人は絞殺と言う方法を選んだのか?」
美希「見つかるわけないって思ってたんじゃない?」
伊織「どんな自信家、いや、どんな馬鹿よそれ」
ネウロ「そうです。犯人は人に見つかる心配はしていなかった」
伊織「はぁ? 屋外で、どんな自身があればそんな……まさか」
ネウロ「屋外ではなかったのですよ。雪歩さんは別の場所で殺され、後からあの場に運ばれたのです」
ネウロ「路上で通り魔にでも襲われたかのように見せかけるために」
P「!」
ネウロ「この考えが浮かべば、あなたのアリバイが途端に匂ってきますねぇ?」
小鳥「それじゃあ、あの時事務所にプロデューサーがいたのは……運び出してたのは……」
ネウロ「そう、雪歩さんの殺害現場はこの事務所」
ネウロ「小鳥さんが会ったのは、雪歩さんを絞め殺した直後のプロデューサーです」
ネウロ「そして、『レッスン場で使う機材』と偽って運び出したものは、彼女の遺体だった、そうでしょう?」
ネウロ「あなたは午後7時前まで、雪歩さんと時間を潰し、いつものように小鳥さんが食事に出てきた時を見計らって事務所に入った」
「そこで雪歩さんを絞め殺し、その遺体をダンボールに仕舞う」
「その後、事務所の電話から律子さんに電話し、『自分は午後7時現在、事務所にいる』ということをアピールする」
「それから、小鳥さんが戻ってくるのを待ち、小鳥さんにも同じことをアピールした」
「あとは雪歩さんの遺体を発見現場に持っていくだけでいい」
「あなたが『通り魔の犯行』に見せかける上では、若干不自然な殺し方である絞殺を選んだ理由は1つ」
「それは真の犯行現場がこの事務所であり、事務所に血が残るような殺し方を選べなかったからです」
P「……なかなか筋が通っているじゃないか」
ネウロ「これは先生の導き出した『事実』ですからね。筋が通っているのは当たり前です」
P「けどそんな捻くれた推理、いや妄想をしなくても、もっと単純な構図が描けると思うぞ?」
笹塚「……目撃されている不審者が犯人である、という結論だな」
ネウロ「そうですね、事実、警察はその線で捜査していた」
P「分かってるなら、こんなところで油売ってないで、その不審者を――」
吾代「不審者ってのは、こいつらのことじゃねェか?」
3人の男を引きずり、吾代が現れた。
弥子「吾代さん?……ってその人!」
やよい「一昨日の悪徳記者さん??」
吾代「言われたとおり、捕まえてきてやったぜ。ウチに出入りしてる連中の中から、実際にあそこへ行ったって奴を3人ほどな」
笹塚「どういうことだ? この人らは何だ?」
ネウロ「フリーライター、ゴシップ記者、パパラッチ……そういう手合いの方々です」
ネウロ「犯人は雪歩さんの殺害を決行する前に、いくつかの噂を流しておいたのです」
春香「噂って……あの恋人疑惑の噂ですか?」
ネウロ「それもその1つです。この噂があったからこそ、警察は犯人像を存在しない雪歩さんの恋人、またはその関係者とした」
あずさ「でも、あの噂が広まったのは1ヵ月ぐらい前でしたよ?」
ネウロ「その頃から雪歩さんの殺害を考えていたということでしょう」
ネウロ「そして犯行の数日前からでしょうか? あなたはまた噂を広めた。正確な内容は分かりませんが――」
吾代「聞き出しといたぜ。『午後6時ぐらいに、萩原雪歩が彼氏と一緒にいる所を見た』ってタレこみだ」
吾代「その見た場所っていうのが、あの発見現場付近ってことになってたぜ」
ネウロ「なるほどなるほど。確かに物好きが食いつきそうな噂ですねぇ?」
ネウロ「プロデューサー、あなたはこの噂をエサに、ネタを求める記者をあの現場に集めた」
ネウロ「警察の抱く間違った犯人像に、不審者と言う実体を与えるために」
ネウロ「不審者の目撃情報があれだけ漠然としたものだったのは、複数の人間の特徴が混ざっていたからです」
小鳥「そんな噂流しても、それを信じて人が集まってくるかしら?」
ネウロ「もっともな疑問ですね。ですが、プロデューサーが彼ら記者から信用されていたとしたら?」
小鳥「そりゃあ、『この人の情報なら』ってことで信じてもらえるでしょうけど……」
律子「信用を得るには実績がないと、ねぇ?」
ネウロ「その実績が、プロデューサーにはあったのですよ」
律子「情報屋としての実績? そんなのどうやって?」
ネウロ「前もって、真実の情報を流してやればいいのです」
ネウロ「例えば、『やよいさんがよく利用するスーパー』
『貴音さんの行きつけのラーメン屋』
『春香さんが毎日利用する駅』 がそれに当たりますね」
やよい「え? ……ええっ!」
貴音「どこから流れたものかと、訝しんでおりましたが……」
春香「う、嘘ですよね?! プロデューサーさんが……そんな」
P「デマカセだ! そんな噂誰だって流せるだろ!」
ネウロ「……響さん、春香さんが利用している駅、ご存知ですか?」
響「え? いや、神奈川から来てるってことしか……あれ、埼玉だっけ?」
ネウロ「あずささん、貴音さんの行きつけのラーメン屋の名前と場所、分かりますか?」
あずさ「えっと、そういう店があるとは聞いてますけど、名前と場所となると……」
ネウロ「美希さん、やよいさんの利用するスーパーを知っていますか?」
美希「知らないのー」
ネウロ「そう、同じ事務所にいても、横の繋がりでは互いのことを全て把握することは難しい」
ネウロ「全てのアイドルの性格や習慣を把握している人間でなければ、これらの噂は流せない」
ネウロ「この事務所でそのような立場の人間と言えば――」
P「全部想像じゃないか! だいたい、何の証拠もない!」
ネウロ「……実は1つだけ、決定的な証拠が上がっているのですよ」
P「はッ! 俺は犯人じゃないんだ。証拠なんかあるはずがないだろ!」
ネウロ「雪歩さんの頚部からあなたの指紋が見つかっています」
笹塚「?」
P「何言ってんだあんたは!? ロープで絞め殺された雪歩の首に、指紋なんか残るワケが――」
千早「っプロデューサー!」
やよい「……真さん、雪歩さんってロープで絞められたんですか?」
真「いや、聞いたことないけど……」
美希「ミキはこう、両手でギューってされたんだと思っての」
亜美「亜美たちは仕事人みたいなワイヤーを想像してたよね?」真美「うんうん」
ネウロ「そうでしょうね。絞殺と一言でいっても、絞め方というものがある」
笹塚「……凶器がロープだったってことは報道されてない。あんた何で知ってた?」
P「……」
ネウロ「答えてください。なぜ『ロープで絞め殺された』と断言できたのですか?」
P「それ、は……」
ネウロ「……墓穴を掘りましたね」
その言葉に反応し、プロデューサーの体から悪意のエネルギーが溢れ出す。
ネウロ(――いただきます――)バクンッ
1ヶ月前
雪歩『……』
P『ド忘れなんて、誰にだってあるさ。あんまり気にするな』
雪歩『……私、もうダメです、ダメダメです』
P『次から気をつければいいんだよ』
雪歩『ド忘れなんてどうやって気をつければいいんですか!!』
P『ッそれは……』
雪歩『あ……すいませんっ、私がミスしたのに……穴掘って埋まってます……』
P(……そっか、コイツ向いてないな)
犯行日、事務所前に停車中の車内。
雪歩『あの、そろそろ駅に向かわないと……』
P『門限はまだ大丈夫だろ? なんだったら送っていってやるしさ』
雪歩『そうですけど……あの、何を待ってるんですか?』
P『ちょっとね……お、出てきたぞ』
雪歩『……小鳥さんを待ってたんですか?』
P『彼女が出て行くのをな』
雪歩『?』
P『じゃあ、事務所入ろうか』
事務所内
雪歩『小鳥さんもいない事務所って、何か新鮮です。あ、プロデューサー、お茶飲みま……ッ!』
P『……』
雪歩『プロデュ、サー……く、苦し、かはッ……』
P『……』
雪歩『……助け、て……誰か、ァ……まこと、ちゃ……』
P『穴掘って埋まるのが好きなんだろ……なら、地獄の底まで……!』
雪歩『……コヒュー……コヒュー……………………』
P「……ふ、はははッ! 『墓穴を掘る』か! こりゃあ雪歩の呪いだな! あはははッ!」
千早「そんな、本当に、プロデューサーが……?」
パンピー
P「まさか、噂を流したことまで見透かされてたなんてな……一般人だと思って舐めてたよ」
真「なんで、どうして雪歩を殺したの!? 雪歩はあなたを信じてたのに!」
P「どうして? 俺はプロデューサーだぞ?」
キカク
P「この事件もプロデュースの一環に決まってるじゃないか!」
春香「殺すことが……プロデュース?!」
律子「何考えてるんですか!?」
P「アイドルに必要なものは何か、分かるか?」
千早「……歌唱力でしょうか」
響「激しいダンスも踊れる体力だろ」
春香「えっと……やる気と根性?」
P「そんなものはどうでもいい! 注目だ! アイドルに必要なものは注目!」
P「ビジュアルが悪くてもいい。ボーカルが下手でもいい。ダンスがからっきしでもいい」
P「注目を集められるアイドルがいいアイドルだ!!」
P「そして誰よりも注目を集めたアイドルこそが、トップアイドルと呼ばれるんだ!!」
伊織「あんたが事件を起こしたのは、世間の注目を集めるためだっての?!」
P「その通り! 恋人疑惑を流したのだって、犯人をでっち上げるためだけじゃない!」
P「そっちのほうが世間の求めるセンセーショナルな展開だと思ったからさ!」
貴音「あの噂が、どれだけ雪歩殿の尊厳を傷つけたと思っているのですかッ!」
P「尊厳で注目が買えるなら安いもんさ」
貴音「本気で言っているのですか……なんと面妖な……」
P「……俺はあと1週間はこの事件の報道が続くと踏んでいる」
P「この1週間! 雪歩は現トップアイドルよりも注目されるんだ!」
P「ニュースも! ワイドショーも! 週刊誌も!! ぜぇんぶ雪歩の話題で持ちきりさ!」
真「……その1週間が過ぎたら?」
P「消えるだろうな。ニュースになるような事件は毎日起きてるんだから」
真「消えるって、そんな――」
P「アイドルなんて元々儚いもんだろ? トップになったって、1年かそこらで後からデビューしたヤツに抜かれていく」
P「5年前、10年前、20年前のトップアイドルを今でも追っかけてるやつがいるか?!」
P「『ワンダーモモ? 私の青春だったわ。でも今はジュピターが私の生きがいなの』。こんな連中ばっかりだ!」
P「だったら! 1年で消えるのも、1週間で消えるのも、大して変わんねぇよ!!」
P「そもそも、雪歩じゃトップアイドルなんて無理だったんだよ!」
P「あいつは誰もいない、誰も見てくれない、穴の底がお気に入りだったんだからなぁ!」
P「だが、俺はそんな雪歩にトップアイドル以上の注目を集めた!」
P「これが! 俺が雪歩にしてやれる最大のプロデュースだ!!」
弥子「……アイドルってそんな単純なものなんですか?」
P「……何?」
弥子「アイドルを目指す動機は、人によって違うんじゃないですか?」
弥子「雪歩さんは自分を変えたくてアイドルになったって、真さんから聞きました」
弥子「それなのに、あなたは注目注目って……自分がプロデュースするアイドルの目標を――」
パンピー
P「うるさい! 何も知らない一般人が、アイドルのあり方を語るな!」
ネウロ「まぁ、一般人と業界人では、アイドルに対する考え方が違うのも当然ですよね」
ネウロの手が、プロデューサーの頭に置かれた。その手から、魔力が注がれる。
P「? あんた何してんだ?」
ネウロ「いえ、別に……ところで、あなたの足元にいる方は誰ですか?」
P「足元?……ッうわァ!」
プロデューサーの目には、床に埋まりかけの雪歩の幻覚が見えていた。
雪歩『墓穴を掘るなんて……ふふ、プロデューサーも掘るのが好きだったんですね……』
P「ゆ、雪歩? なんで、お前は死んで……」
千早「? プロデューサー? どうしたんですか?!」
雪歩『私頑張ります……プロデューサーに言われたように、地獄まで続く穴を掘ります……」
雪歩『だから……そこに2人で埋まりましょう、プロデューサァァァ……』
P「は、離せ……いやだ、俺はこんな所で埋もれたくない……」
ネウロ「あなたは先ほど、雪歩さんではトップアイドルにはなれないとおっしゃいましたが――」
そこで声を下げ、プロデューサーにだけ聞こえるように言った。
ネウロ「それは貴様の能力不足だ」
ネウロ「我輩なら、小学生だろうと三毛猫だろうと冴えない女子高生だろうと、超一流(の探偵)にプロデュースできる」
P「埋もれたくない……離せェェ!」
亜美「逃げた!」
真美「捕まえて!」
笹塚、吾代、等々力が出入り口を固めた。
真「逃げられないぞ、この人殺し!」
P「クソォ……こい、千早!」
千早「プ、プロデューサー?!」
P「全員動くな! 動いたら千早もプロデュースするぞ!」
律子「……ウチのアイドルを離してくれませんか? 一般人さん」
>P「5年前、10年前、20年前のトップアイドルを今でも追っかけてるやつがいるか?!」
日高舞「10年ぐらいなら余裕よ」
P「まだだ、まだ俺のプロデュースは終わらない……俺はいつかトップアイドルを……」
千早「……残念です。プロデューサー」
P「あ?」
春香「千早ちゃん、お、おおお落ち着いて、その人を刺激しちゃ――」
千早は拘束されたまま、ほんの数節の歌を歌った。
その歌が耳に入った途端、プロデューサーは膝から崩れ落ち、倒れた。
ココロ
千早「プロデューサーの脳を揺らすために練習した歌を、こんな風に歌うことになるなんて……」
ネウロ「ほぉ……これは……」
弥子「今のって、アヤさんと同じ……?」
ネウロ「あの男だけが倒れたところを見ると、千早という女に揺らせるのはヤツの脳だけのようだがな」
ネウロ(しかし、あんなことをできる人間があの女以外にいるとは……)
笹塚「……等々力、犯人確保」
等々力「は、はい!」
あずさ「さようなら……思い出の日々……」
伊織「あずさ……それずっと言おうとしてたでしょ」
あずさ「うふふ♪」
数日後
魔界探偵事務所
ネウロ「『桂木弥子、アイドル殺人事件を解決』
『競争主義の産んだ狂気のプロデューサー』、
『萩原雪歩追悼イベント開催』、
『人手不足に喘ぐ765プロダクション』、
『レズ疑惑、仲の良過ぎるアイドル事務所』……」
ネウロ「うむ、情報源としては全く役にたたんが、読み物としては楽しめるからな」
弥子「楽しい? 週刊誌が?」
ネウロ「魔界の週刊誌に比べればとても面白い」
弥子「あるんだ、週刊誌……」
ネウロ「記事の内容は10割が創作だったがな」
弥子「それじゃ記者の妄想ノートだよ!」
ネウロ「中でもヒドいものは使っている文字まで記者の創作だからな。書いた本人以外誰も読めん」
弥子「誰に向かって発信してる雑誌よ!」
ネウロ「さぁな、まだ見ぬ同胞にでも発信していたのだろう……む、ヤコ、これを見ろ」
弥子「どれ?『元アイドルプロデューサー、山中で遺体となって発見』……って、何これ!」
ネウロ「遺体の特徴を読む限り、あの男で間違いないだろう」
弥子「なんで……? 警察に捕まってるんじゃ……」
ネウロ「今回の関係者に、警察をアゴで使える権力をもった奴がいたな」
ネウロ「そうそう、吾代の依頼者も相当の権力者らしいぞ」
弥子「……これをやったのが『萩原』か『水瀬』ってこと?」
ネウロ「あるいはその両方だ。さぁ、ヤコ、この事件を調べるぞ」
弥子「また謎?」
ネウロ「いや、権力で強引に覆い隠されているだけの事件だ。謎などカケラも感じない」
ネウロ「我輩の目的は、その萩原と水瀬の持つ権力だ。弱みを握り、全てを掌握してやる」
ネウロ「喜べヤコ、下僕が増えるぞ」
弥子(……伊織さん、ごめんなさい。私にこの魔人は止められません)
――完――
日付も変わったし、終わりたいけど
せっかく書いた短編あるから投下する
蛙【かえる】
テレビ『――ゲロゲロキッチン~、このあとすぐ!』
X「ねぇ、アイ。カエルって美味しいのかな」
アイ「……X、別にその番組はカエルをマスコットに起用しているだけで、カエルを料理する番組ではありませんよ」
X「なんだ、そうなのか……。アイはカエル食べたことある?」
アイ「中国で一度だけ。鶏と似たようなものです」
X「ふーん、俺は食べたことないなー。美味しいのかなー」
アイ(あなたと一緒に食べたのですが……覚えてないのでしょうね)
X「アイ、明日までに網用意しといて」
アイ「……カエル取りなら、近くの公園にある池がよろしいでしょう」
次の日
X「じゃあ、ちょっと出かけてくるね」
アイ「その顔で行かれるのですか?」
X「ダメかな?」
アイ「変装が得意の怪盗キャラが、素顔で出歩くというのはいかがなものかと」
X「別にこの顔も素顔ってワケじゃないんだけど……」グニャァ
X「じゃあ、昨日テレビに出てたこの人とかどう?」
アイ「X、口調、口調」
X「ゴホン……行って参りますわ、アイ」
銀のウェービーロングヘアを翻し、Xは出て行った。
公園
響「あはは、そりゃヒドいなー」
美希「でしょー、それでミキ的には……あれ?あそこにいるのって貴音?」
響「どこ?……ホントだ、網もって何してんだろ?」
美希「たーかーねー、何してるのー?」
X(……ポニーテールの子は、昨日この顔と一緒にテレビに出てた響って子だな)
X(もう1人は分かんないや)
X「カエルを探していたのです」
響「またカエル? 貴音、昨日もカエルの着ぐるみ欲しがってよな」
美希「うぇー、カエルなんて取ってどうするの?」
X「いえ、ちょっとした好奇心です」
美希「ふーん? ところでその服ダサすぎない? ミキ的にはあり得ないカンジなの」
X(この子はミキっていうのか……)
X「カエルを取るために選んだ服ゆえ、多少見栄えが悪いことは自覚しています」
響「自分も手伝うぞ!」
X「響が手伝ってくれるなら助かります」
美希「……ミキ、汚れたくないからここで見てるの」
10分後
響「取ったゲロ~。ほい、貴音」
美希「それ、夜になるとムォームォーいってるやつ?」
響「ウシガエルだな。大物さー」
X「助かりました。ありがとう、響」
響「気にすんなってー、自分と貴音の仲じゃ……ちょちょちょ、何しようとしてんの?!」
X「何、と言われても、このカエルを食そうとしたのですが」
響「アイドルがそんなの食べちゃダメさー!!」
X「しかし、中国では一般に食されていると……」
響「それは料理したやつをだろ?! 生で踊り食いなんてバラエティの罰ゲームじゃないか!」
美希「罰ゲームでもそこまでさせないの」
X(めんどくさいなぁ……)
X「……では、このカエルは持ち帰っていただくことにします」
響「ちょ、貴音待てって!」
美希「置いていかないでー」
響「貴音ぇ、やっぱやめとけ、な? 寄生虫とかもいるだろうし」
X(寄生虫ぐらい平気なんだけどな)
X「それも含めてカエルの味というものでしょう」
響「いや、病気になっちゃうぞ?! お腹の中でウジャウジャ増えてくんだぞ!」
美希「なんか気分悪くなってきたの……」
X「それがしかるべき代償ならば、私は耐えて見せましょう」
響(何でここまでカエルに拘るんだ……)
響「そうだ! ラーメン屋行こう! 今なら自分が奢ってやるぞ?」
X「今はラーメンよりカエルです」
美希「……貴音が、ラーメン屋を断ったの」
響「っていうか貴音、今『ラーメン』って……」
X(あれ、ひょっとして好物だった? あー、失敗したな)
響「貴音、いったいどうしたんさ?! 悪いものでも食べたのか?!」
美希「むしろ今から食べようとしてるの」
X(殺しちゃおうか……いや、今はこの子達の中身より、カエルの味のほうが気になるし……)
X(……逃げるか)
響「あっ、どこ行くさー!」
美希「追いかけるの!」
X(……美希って子はともかく、響って子、足速いなぁ)
響「貴音、待てー!」(なんで……どうして自分が貴音に追いつけないんだ?!)
美希「はぁ、はぁ、2人とも……足速すぎ……」
響「はぁ、はぁ……見失っちゃったぞ……」
美希「疲れたー、足痛いー」
貴音「響、美希。そんなに息を切らしてどうしたのですか?」
響「た、貴音?! どうしたもこうしたもないよ! カエルなんかやめて、ラーメン屋行こ! 奢るから!」
貴音「らあめん屋ですか? いいですね。どこにしましょう?」
響「……え?」
美希「カエルはもういいの?」
貴音「カエル? 一体何のことを言っているのですか?」
響「だってさっき……あれ、服が違う……網もない……」
貴音「とりあえず、いつもの店に参りましょう。響がご馳走してくれるのでしょう?」
響「……3杯までなら」
潜伏地
X「ただいまー。慣れない体で全力疾走して疲れたよ」
アイ「全力疾走? そんなに速いカエルがいましたか」
X「カエル追うのに全力出したんじゃないよ。この顔の知り合いに追いかけられて、逃げるのに全力だったの」
アイ「……X、追われたなら顔を変えれば良かったのでは?」
X「ああ、そうだ。うっかりしてたよ」グニャァ
アイ「今変えても仕方ありませんが」
X「ずいぶん鮮度が落ちちゃったけど、まあいいや。いただきまーす」プチ、グチュグチュ、ごくん
アイ「……お味はいかがですか?」
X「……美味しい」
アイ「そうですか、それは良かっ――」
ナカミ
X「わかったぞ、俺の正体の人間はカエルが大好物だったんだー!」
アイ「は?」
X「よし、そうと決まれば毎日カエル出してよ!」
アイ「……かしこまりました」
アイ(この好物はいつまで覚えてられるのでしょうか……)
蛙【かえる】 終わり
規制がうっとおしいけど、もう一つ短編投下する
竜【ドラゴン】
テレビ『知っらぬがー、仏、ほぉっとけな~い――♪』
DR「……葛西よ、なぜこのダニ共は名前に竜を冠しているのだ」
葛西「日本の昔話に『浦島太郎』っていうのがあるんだが――」
DR「『羨ましかろう』? なんだその自慢げなタイトルの昔話は」
葛西「う・ら・し・ま・た・ろ・う」
DR「で? その『恨めし太郎』がどうした?」
葛西(浦島だっつーの)「その昔話に竜宮城っていう、まぁなんだ、理想郷だな。そういう場所が出てくんだよ」
葛西「小町っつーのは美人って意味だから『理想郷のべっぴんさん』ってコンセプトのユニットなんだろ。多分」
DR「なるほど、竜に深い意味はないということか」
葛西「そういうこった」
DR「ちょっと溺死させてくる」
葛西「待て待て、なんでそうなる」
DR「由来がどうあれ、やはり竜を冠しているのが気に入らぬ」
葛西(コイツ燃やしてぇ)
葛西「まあ、落ち着けよ……溺死ってどう殺るつもりだ」
DR「近々、連中のミニライブがあるらしい。その会場全体を一つの密室にし、水で満たす」
葛西(これだよ……なんでコイツはこう、派手な殺り方しか思いつかねーんだ)
葛西「当面のシックスの目的は何だ? Xを捕獲することだろうが」
葛西「万が一、その会場にXがいたらどうするつもりだ?」(いたらショックだが)
DR「ふん、仮にもXは新たなる血族。溺れて死ぬこともあるまい」
葛西(ダメだ、コイツ何言っても聞かねぇわ)
DR「邪魔するなよ、葛西……といっても、お前では私は止められんだろうがな」
葛西「はいはい、分かった分かった」(ウザ……)
ライブ会場
DR「どっちも向いてもダニダニダニダニ……さながらダニの洪水だな、ふはは」
「なにあの黒人」ヒソヒソ」
「でもニダニダ言ってるぞ?」ヒソヒソ
「あのケース、トランペット?」ヒソヒソ
「ジャズとか好きそう」ヒソヒソ
DR「見かけで人を判断するなァッ!!」
いきなり絶叫した黒人に対し、周囲は距離をとるように数歩下がった。
DR(……ふふふ、やはり私は治水に長けた一族なのだ。ダニの洪水が一気に引いたぞ!)
会場内
DR(中はまた一段とダニが多いな)
DR(さて、まずは排水されそうな箇所を封じねば……)
アナウンス『――それでは、竜宮小町の登場です!!』
亜美「みんなぁ、今日は来てくれてありがとー!」ワァァァ!
あずさ「楽しんでいってくださいねー!ワァァァァ!」
伊織「それじゃさっそく行くわよー!SMOKY THRILL!!」ワァアアアア!!
『知っらぬがー、仏、ほぉっとけな~い♪』
『くーちびる、ポーカーフェーイス♪』
『Yo灯台 もと暗し Do you know♪』
『うーわさのファンキーガ――ル♪』
DR(……む、ダニどもの流れが変わった?)
DR(いや、気のせいではない。間違いなく奴らがこのダニの洪水を動かしている……)
『――女はー、天下のまわりもの、しーびれるくびれー♪』
『言っわぬがー、花となり散りる♪』
『秘ーめたる身体ー♪』
DR(歌えば歌うほどに勢いが増している……)
『――酒を甘くしないでほしい、と♪』
『半端ないろくでもないエゴイスト♪』
『射止めるなら アンティークに濡れぇー♪』
DR(それもただ勢いを増しているだけでなく、その流れも御しきったまま……)
DR「竜宮小町か……人の身で、なかなかやるではないか」
『――ギリギリで、おーあずけファンキーガ――ル♪』ワァアアアアアアアア!!
ライブ終了後、CD販売兼サイン会場
石垣「――応援してます! これからも頑張ってください!」
伊織「ありがとうございまぁす♪ じゃあ、次の方どうぞー……!」
DR「……」
伊織(わ、外国人……日本語分かるかな?)「あのー、サインしますか?」
DR「……お前たちの名は?」
伊織(知らないのにライブ来てたの?!)「み、水瀬伊織です……」
亜美「んでー、私が双海亜美!」
あずさ「三浦あずさですー。覚えて帰ってくださいね」
DR(水瀬、双海、三浦……全員、水に関わる名……)
DR「なるほど、それで竜か」
伊織「はい?」
チスイ
DR「見事な歌唱だった。この私が呑まれるほどにな」
伊織(治水? どゆこと?)「はぁ、ありがとうございます……」
あずさ「あのー、サインはどうしましょう?」
DR「ああ、頂こう。私の名前は――」
765プロ事務所
律子「今日はみんなお疲れ様! ああいうライブは初めてだけど、どうだった?」
亜美「チョー楽しかった! チョーだよチョー!」
伊織「ライブはいいけど、サインのほうが大変だったわ」
あずさ「またやりたいですねぇ」
亜美「そうそう、律っちゃん律っちゃん、サインの時ね、変な人がいたんだよー」
律子「ファンの人でしょ? 変とかそういう言い方したら――」
伊織「いやいや、ライブ来てるのに、私たちの名前知らなかったのよ? 変でしょ」
あずさ「きっと竜宮小町というユニット名のほうが先行してるんでしょう」
伊織「でも私たちたった3人よ? ファンならこの伊織ちゃんの名前ぐらい覚えてて欲しいもんだわ」
律子「ふーん、どんな人だったの?」
あずさ「えっと、トランペットのケースを持ってて――」
亜美「タキシード着てー、髪型がオールバックの――」
伊織「ジャズが好きそうな黒人だったわ」
新たなる血族、潜伏地
葛西「よぉ、帰ってきたか……って何だ、その袋?」
DR「竜宮小町のCD3枚だ」
葛西「どれどれ……全部同じCDじゃねぇか」
DR「まだこのシングルしか発売されていないのだから当然だろう」
葛西「あー、1人ずつ別のCDにサイン貰ってきたのか」
葛西「……ダニエル・ルソーさんへ、って何でお前は本名でサイン貰ってんの?」
DR「本名ではない。私が人間として生活していた頃の名前だ」
葛西(まぁ、こいつも人の子だし、こんなのにハマることもあるか)
DR「それにしても、J-POPもなかなか良いものだな。そうだ葛西、お前も聴いてみるといい」
葛西「遠慮しとくわ。おじさん、あーいうキャピキャピした若い女の子が歌ってる曲はちょっと――」
DR「歌手の見かけで音楽を判断するなァ――ッ!!」
葛西(やっぱコイツ燃やしてぇ)
葛西の願いは、この数ヶ月後に叶うことになる。
竜【ドラゴン】終わり
これでホントに終わり
以下はネウロスレ、アイマススレに使ってね
パッと舞って、ガッとやってチュッと吸って、ぬふぁ――ん
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