色々知識足りないのでご容赦を。みほまほ。百合。たぶん18禁
戦車は人の手によって動く機械だ。動かされるものだ。
重厚で高火力な装備をいくら兼ね備えた所で、そこに生命無き以上、轍一つ作れはしない。
戦車は、人間の魂を注いでやる必要がある。
同じように西住流には、西住まほを捧げる必要がある。
私の歩むすべての道が、西住流と言われ続ける。
過去延々と受け継がれてきたこの血によって。
真っ直ぐに、勝利のみを掴みとる。
人間の魂を削り取るように。
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灰色の雲から逃げるようにして、私は家路をたどっていた。
履帯と車輪の織りなす音も、湿気のせいかいつもより大人しい。
それでも、枝に止まる鳥達が我先に逃げていくには十分過ぎる。木々が一際大きく揺れた。
一雨来るのだろう。
癖で、ついきょろきょろと周りを見回してしまう。
練習試合後にキューポラからよく顔を出すようになったのはいつ頃からだっただろうか。
確か、みほと一騎打ちをした時だったか。
180度に満たない視界が憎らしい。360度全て把握できれば、こうも忙しなく首を動かすこともない。
そう言えば、昔みほが言っていたっけ。見えない所はみんながカバーしてくれるから、私はみんなが見えない所を頑張るって。
私は思わず口元が緩み、誰も見ていないのに慌てて手で隠した。
私にとって仲間とは、戦車に搭載されている履帯であり主砲でありエンジンであった。統率することで成り立つもの。
上手く付き合っていかなければ、一つの目的を成すことはできない。錆びたり壊れたりしても改修し、もう一度使えるようにする。
道具を慈しむように仲間を尊ぶ。
少しおかしいのかもしれない。
みほにとっての仲間は、彼女自身から感じられるようなもっと暖かい何か。
それが彼女の戦車道であるように。
彼女の理想の道。それに負けた時、姉として、西住流を受け継いだ者として悔しい気持ちがあった。
けれども、みほの道を真似することなどできない。その道の美しさと強さ、それを理解したからこそ、
西住流が最も離れた位置にあると実感できる。
でも、夢は見ない。私は、現実を見る。
時折、みほの話を学校でも耳にするようになった。
人の噂には興味などなかったが、それが妹ならば少しは真剣に耳を傾ける。
人生の中で、戦車以外に興味を持ったことなど片手で数えるほどしかない。
知識として吸収し、感情としては捨てていた。あの高校の誰々が、彼氏を作ったとか、誰々の両親が離婚したとか。
誰々が誰々を好きだとか。
みほが私を好きだとか。
ああ、頼むから間違いであって欲しい。
学校から帰ってきたみほに私はまずなんと声をかければよいのだろうか……。
「はあ……」
「まほさん?」
西住の門下生が下から心配そうに声をかけてくる。
「ああ、なんでもない」
冷静になろう。こういう時こそ、冷静に。
戦車から降りれば、嫌でも日常と感情と付き合っていかなければならない。
ならばせめて、ここにいる時くらい冷静であろう。
門下生を見送ってから、家の門をくぐる頃には7時を回っていた。
「お姉ちゃん」
壁際に寄り添うように立っていた影が揺り動く。
みほだった。
「みほ、久しぶり」
妹は走って来て、私の腰に手を回して抱きしめた。
嬉しそうにこちらを見上げる。
「お姉ちゃん痩せた?」
「少し。みほは少し髪伸びた?」
「うん、ちょっと伸ばしてるんだけど」
「そう……す」
好きな人でもできた、その言葉を危うく口にしてしまう所だった。
「お姉ちゃん?」
「なんでもないよ」
「お姉ちゃんってば帰って来て早々、すぐに練習に行っちゃったって聞いたから。後でたくさんお話できると思ったんだけど……」
「だけど?」
「夜はいつも、お母さんと試合の振り返りとかするかなって……思って」
みほは遠慮がちに言葉尻をすぼめていった。
「ん? みほ、知らなかったのか? 今日、明日は陸軍の士官学校の合宿に行くって話」
「え?」
「だから、今日は私とみほと、あと菊代さんだけ」
「そ、そうなんだ」
みほは軽く2度頷いた。その動揺を受け止めるように、私は少し笑った。
「だから、お互い今日はゆっくりしていこう」
「うん、そうだね」
生家に戻ってきて、改めてゆっくりするのもおかしな話かもしれない。
ただ、私達姉妹が、きちんと腰を落ち着けて話をする、それを母が嫌うため仕方ないのだ。
西住流に穢れをいれたくないのだと言うのだ。気持ちが分かる、そう言えてしまう私も同罪なのだろう。
母がいない今だからこそ、みほはここに戻ってこれた。それを、あえてみほに言う必要はなかった。
夕食の時は、学校で起きたたわいもない話で笑い合ったり、最近主流の戦車について語り合った。
菊代さんも、水差すと遠慮したのかすぐに引っ込んでしまった。懐かしさと安心感とに包まれてはいたが、内心はひやひやしていた。
「お姉ちゃん、大人っぽくなった。前からそうだったけど、前よりももっとかっこよくなったよね」
みほがことあるごとに、私のことを褒める。その度、軽く受け流すように意識せざる負えなかった。
喉まで出かかっている疑問に対して、一向に一歩を踏み出せないまま、時間だけは過ぎていった。
そして――、一日が終わろうとしていた。
「こんなにお姉ちゃんと喋ったのって初めてだね」
敷布団に丸まりながら、みほが顔だけを出して言った。
「そうだったか……そう言えば、喉が痛いな」
「喋りすぎて?」
「いや、みほに喋らされすぎて」
「えー、ひどいよもー」
みほは頬を少し膨らませた。
「ははッ、じゃあ電気消すぞ」
「う、うん」
カチ――暗闇の中、三つの音が私の耳を支配していた。一つは、みほがもぞもぞと身動きする音。
一つは、時計の長針が横に振れる音。そして、もう一つは私の心臓の音。
(何を、びびってるんだか……)
みほは結局何も言っては来なかった。期待、していたわけではない。
そうならないように疑問を何度も飲み込んだ。二人のために。
私は布団に入って目を閉じる。戦車に入って、まず5秒は目を閉じる。心を鎮める。
それと同じ。目の前にいるのは敵、ではない。妹だ。警戒を解く。そして寝よう。
おやすみ、と言いかけて、
「お姉ちゃん」
と遮られた。
とりあえずここまでです
「どうした? 眠れないのか?」
「うん……たくさんお話したせいかな。目が冴えちゃった」
まだ何か話したいのだろう。みほの口調からうかがえたが、私は早く寝るように促した。
「やっぱり、お姉ちゃん真面目だね」
「みほは、少しやんちゃになったな」
お互いに小さく笑い合う。
「……お姉ちゃん」
と、みほの声が少し低くなったのが分かった。
「ん?」
何事かと彼女の方を向く。背中を向けていた。
「今日は、ありがとう。この家に呼んでくれて」
ぽつりぽつり、とみほは言った。
「……なんのことだ」
「えへへ、やだな……お母さんいない日わざわざ調べてくれたんでしょ?」
「たまたま、菊代さんに聞いて、たまたま帰省しようと思っただけだ」
「……そのたまたまに私を加えてくれたのが凄く嬉しいよ」
「そうか……」
妹に母のことをどう思っているのか聞いたことはなかった。
聞いたところで、妹ははっきりと感情を出す子ではない。
何か思う所があったとしても、きっとその小さな胸に仕舞い込んでしまうのだろう。
妹と一戦を交える前まではそう思っていた。
今はどうだろう。
試合中のみほはとても凛々しく、みなを引っ張ると聞いている。
今のみほは母の事を納得しているのだろうか。
「私ね、やっぱり家が一番落ち着くんだ……」
「そう……一人暮らしは、大変だろう」
「うん、でも家を出たからこそ分かることあるんだね。離れても、離されてもここに戻ることができるって幸せだなあって思ったよ」
「私もこうやって、みほとまた話すことができるって思ったら離れていても寂しくはないな」
「お母さんもそう思ってくれてたら嬉しいな……」
私は胸が痛くなった。これが娘の母に対する言葉であっていいものだろうか。
この状態をつくりだしてしまっている私自身にも腹が立つ。
みほには自由を手に入れて欲しかった。
けれど、やはり母子という繋がりはいつまでも妹を西住に繋いでしまう。
「みほ……」
「お母さんのことね……やっぱり今でもよく分からないんだ……分かりたいのにね」
みほの声は震えている。
「血は繋がっているけれど、違う人間だから。考えが分からないのは、仕方がないんだろう……だから、言葉で伝える。あの人はそれができない。不器用なんだ……と思う」
「うん、そうなのかもね……」
「みほ、周りの事はもう気にするな。お前は、お前の道を行きなさい」
冷たい金属の中で、命令ばかり出していればいずれ私もああなるのだろう。
「ふふッ、前から思ってたけど、お姉ちゃんってお父さんみたい」
「……さあ、知らないな」
「お姉ちゃんがそうやって、いつも背中を押してくれるから、私、今こうやって笑って戦車道を続けていられるんだと思う」
「……違うよ。仲間がいたから、そうだろう?」
妹の自由の翼が私だったとしたら。そうだったなら、まだみほは地べたを鶏のように走り回っていたに違いない。
私は鎖にしかなれない。みほのやり方を肯定できないのだから。
「それも大事。でも、一番はお姉ちゃん。お姉ちゃんっていう西住流がやっぱり私の基本で、支えになってるの。今もこれからも、だって私、西住まほの妹だもん」
「なんだそれ……はは」
「えへへ」
「でも、いつまでも私にとらわれないで欲しい。みほはもう母に抑えつけられ、私の後ろを追いかけていた、小さな女の子じゃなくなったんだ」
「うん、そのつもりだよ」
みほの声は、先ほどとは打って変わってきっぱりとしたものだった。
「これからは、憧れのまほお姉ちゃんじゃなくて、強敵である西住まほ……だよね」
戦車乗りとして、悪くない答えだった。私自身も久しぶりに、胸が高鳴った。
「受けて立つ」
「次も負けないから」
「次か……残念だが次は勝たせてもらう。恨むなよ」
「恨んだりしないよ。自分の未熟さを恨むかもしれないけど、きっともっと頑張れる」
みほの言葉は私を熱くさせる。目頭に温かいものが込み上げてきた。涙だった。泣いたのは、いつぶりだろうか。悲しくて泣いた記憶は本当に小さな頃に数えるほど。
嬉しくて涙が出る、そんなこともあるようだ―――。
「ゥッ……ッ」
「え? お、お姉ちゃん? 泣いてるの? え、え?」
みほがむくりと起き上がった。さすが、耳がいい。
「あ、いや……こっちを向くな」
「わ……私もしかしてひどいことを? 傷つけ……?」
妹はかなり慌ててた様子で布団を剥いだ。
「何でもない、気にするな。おい、こっちに寄ってくるな」
四つん這いで心配そうな顔をして、みほが私のすぐそばまで来て、頭を垂れる。
「おお、お姉ちゃんを泣かせちゃうなんて……ど、どうしよう」
私の涙はというと、久しぶりに泣いたものだから止め方すらよく分からない。
とめどなく流れている。枯れるまでこのまま、流れるのかと思うと、少し怖い。
妹に泣いている所を見られるのはそれ以上に遺憾ともしがたい状況だが。
「ちょ、ちょっと夜風に当たってくる」
「お姉ちゃん、待って!」
私が立ち上がろうとした瞬間、みほが右腕を引っ張った。右斜め後ろに重心を傾けることになった私は、みほに覆いかぶさるように倒れこんだ。と、2秒ほどで自分の状況を悟り、目を瞑った。
ドサッ―――
「ッつ……すまない、みほ。怪我はない?」
みほの顔が正面にあった。どうやら完全にみほを下敷きにしてしまったらしい。
「下、お布団だし大丈夫だよ……」
「良かった……」
「それより、お、お姉ちゃん……手、手が」
「え? 手?」
右手は布団の上、左手は――みほの胸をわし掴んでいた。
「あ、ああすまない。すぐ退ける」
「待って!」
「は?」
みほは、また力任せに私の左手を引っ張った。
「うわッ?!」
「離れないで!」
「そんなこと言われても……重くないのか」
「重くないッ」
「……何を意地になって?」
「泣いてるお姉ちゃんをあやしてあげたいの……ッ」
そう言って、みほは私の背中をぽんぽんと軽く撫でていた。
「おい、赤ん坊じゃないんだ……」
「そうだね……もう、大人だよね……なら」
みほの顔が瞬間視界いっぱいに広がった。ぺろり、とそんな擬音が聞こえた。
「み、みほ今、舌で舐め……わッ」
続けて、頬に啄むように唇を寄せる。ぞくりとして、私は身体をのけ反らせた。
「逃げちゃ……ダメ」
「そ、んな……ッやめ」
仲間の話していた噂を今さらながらに思い出していた―――。
『公式試合で、お姉さんのことが好きだって公言したって』
あれを鵜呑みにはしていない。ただ、だんだんみほが私を見る目が変ってきたのは分かっていた。
戦車道とは別の件で。でも、それは、シスターコンプレックスいわゆるシスコンの類で、それ以上でも
以下でもないのだと勝手に、憶測を立てていた。
私の涙は、驚きとともに引っ込んでいた。みほはというと、だんだんと大胆な行動に移っていた。
「みほ……ッ、ダメだ……ッンㇺ?!」
「チュルッ……お姉ちゃん、おいしぃ……ッチュ」
呼吸ができなくて、何事かと思った。みほが私の唇を自身のそれで塞いできたのだ。
「ゃめッ……みほッ!? そこはッ?!」
顔を背けようとした瞬間、下で耳をなぞられ力が抜けてへなへなと崩れ落ちてしまった。すぐに、みほは次の行動に移っていた。私の上に覆いかぶさるように、自分の身体を反転させた。つまり、私は、みほの下敷きとなった。
じわっと背中に浮き出た汗がべたついた。お互いに呼吸が荒い。みほにいたっては鼻息も多少荒い。
そこはかとなく満足そうにしている。
「気は確かか……?」
「確かじゃないのかも……しれない」
「なら、気は済んだか」
「う、うん。お姉ちゃんが泣くから、つい慰めないとって思って……涙、止まったんだね……良かった」
「びっくりして止まったんだ……それに、あれは嬉しくて泣いてたんだぞ。みほが、頑張れるなんて言うから……」
「そ、そうだったんだ。早とちりしちゃった……えへへ」
「退いてもらえるかな」
案外、力が強い。妹のくせに。
「うん……」
返事をしつつも、動く気配はない。こちらを艶っぽく見下ろしている。気が付けば、今の取っ組み合いで
私の寝巻のボタンが外れて胸が半分露わになっていた。
「みほ……」
「……お姉ちゃんがすごくエッチな顔と格好して、私の下敷きになってる……」
「言葉にして説明しなくていいから……」
「だって、いつも凛として表情も崩さないし、全国の戦車道の頂点で……そんなお姉ちゃんが乱れてるんだよ?」
「紛らわしい言い方をするな……」
「顔こっち向けて?」
みほが駄々をこねるように、私の頬をなでる。びくりとして、私の背中にしびれが走る。
「ッ……」
「か……かわいいお姉ちゃん……」
もぞりと、下腹部に生暖かい感触。みほと指の腹だった。しっとりと吸い付くような感触で、上に上に移動してくる。
「……ッ何して……んァッ」
胸の突起の部分を急に抓られ、思わず悲鳴をあげる。
訂正 みほの指の腹
一瞬息が止まるような痛み、追いかけるように下腹部をしめつけるような快感が押し寄せる。
「お姉ちゃんの良いとこスイッチ一つ発見……えへへ」
「ッふ……ッみほ、これ以上は」
「これ以上は……しないよぉ……後はお姉ちゃんに任せる」
「なッ……」
「私がさっきやったことを、もう一度私にしてくれるなら、私は西住みほでいるよ」
「どういうことだ……」
「でも、してくれないなら、私はちゃんと覚悟を決めるよ。ここまでのことをしちゃったからにはね……」
「何を言っているんだ……?」
「私、西住とはきっぱりと縁を切るよ。……実はね、養子に来ないかって言われてるんだ」
そう言って、みほは少し目を細めて笑った。
「冗談じゃ……ないんだな」
みほがこんな大きな冗談を言えるわけがない。みほはいつだって本気だった。
それを私がしっかりと受け止めてあげたことはあっただろうか。
「うん」
「それを、私に決めさせるのか……」
「恨んでくれて構わないよ」
急に戦車に乗りたくなった。みほが何かあるたび、あの中にいる気持ちが今やっとわかった。
大きな選択に迫られた時、答えを出すのは自分だけだからだ。だから、みほは一人であそこで答えが生まれるのを待っていたのだ。あの冷たい金属が、まるで胎盤のような居心地だったのかもしれない。
母の愛を感じていたのかもしれない。
「仲間の人には伝えてあるのか」
「……うん、全部話してる」
みほは覚悟を決めていた。
「考える時間はくれないのか?」
「うん、ごめんね。お姉ちゃん……でも、きっとお姉ちゃんはすぐに答えてくれると思ったから」
みほがこうやって、まだ西住に未練を残してくれているのは、思い上がりかもしれないが私がいるからなのだろう。
最後の最後、かけに出た。自分が西住に必要なのかなのではなく、自分は西住を必要なのか。
「ああ、みほ……お前の本当に欲しい答えが分かった」
「そっか……嬉しいな」
「そうそう……公式試合で私が好きだって言ったらしいな」
「あ、うん……ごめんね。つい……」
「私もみほが大好きだよ……」
「うん……ありがとう」
「私が支えになっていたって言ってくれて嬉しかった」
「ううん……」
「泣かないで、みほ」
私は抱きしめることはしなかった。ただただ、流れ落ちるみほの涙を私の頬や鼻や唇で受け止めるだけだった。
―――その後、何ヵ月か経って、西住みほは、その性を改めた。
彼女は彼女自身にその身を捧げることを決意したのだ。
私は自分の半身を手放すことになった。
痛みと後悔が残った。
私は、夢を見なかった。ただ、現実を見ようとした。
みほの名をもう一度呼ぶ時。
その時、私は彼女に何を言えばいいだろうか。
あの日、泣きながら帰ったあの子に、もう一度かける言葉は―――。
終わり
こんな短いのに付き合って頂いて、ありがとうございます。
乙でした。
>>21
「性」ではなく、「姓」が正しいんじゃないか?
>>23
お、おお。サンクス
訂正 西住みほは、その姓を改めた。
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