唯「同性愛者とかマジきめぇわ」(178)
梓「ゆーいせんぱい」
唯「ん? どしたのあずにゃん」
梓「あ、あの! 私唯先輩のことが好きです! 付き合ってください!」
唯「え……」
「あずにゃんって同性愛者だったの?」
梓「あ、あの……唯先輩」
唯「え、あ、ちょっと、その、ごめん」
「無理」
唯「マジで無理」
梓「え……」
唯「悪いんだけど、もう軽音部にもこないでくれるかな?」
唯「同性愛者とおんなじ部室になんかいたくないし」
唯「もしあれなら私がやめるからさ」
唯「できれば……梓ちゃんが死んでくれたら一番なんだけど」
お昼休み
唯「ってなわけで中野さんに告白されてさっ」ヒクッヒクッ
「あれ程身の危険を感じたことはなかったぞ」
律「よしよし、辛かったんだな」
澪「唯も唯だぞ。勘違いさせるようなことをするからこういうことになるんだ」
唯「でも、後輩は大事だし」
「それに、同性に恋心を抱く人間がそんなにぽんぽんいるとは思わなかったんだよ」
律「そうだよ。唯は悪くないさ!」
澪「……まぁそれはいいとして、どうするんだよ」
唯「私はもうあの人と一緒の部活にいるのは耐えられないよ。
中野さんがやめないなら……私がやめる」
律「待てよ唯、なんで同性愛者のせいでお前がやめなきゃいけないんだよ!」
紬「仕方ないわね。梓ちゃんにやめてもらいましょう。できるだけ穏便に」
澪「まぁ、しょうがないな」
放課後
梓「」トボトボ
梓「こんにちはー」ガチャ
四人「」シーン
梓「あれ、机が四つしか……あの」
律「あ? お前の席ねぇから」ギロッ
梓「あ……」
紬「さぁ、お茶にしましょ」
律「おームギ、ありがとう」
澪「ありがと、ムギ」
唯「ありがと~ムギちゃん」
梓「あ、あの、ムギ先輩は、私の……」
紬「ごめんなさい。軽音部以外の人の分はないの」
梓「あ……」ジワッ
さわちゃん「それで、昨日梓ちゃんが退部届け持ってきたんだけど」
澪「本当ですか!」
律「やったな! 唯!」
唯「うん。これで安心だよ」
「憂に話したら、憂ももう中野さんに近づかないって!」
紬「これで完全に縁が切れたわね!」
さわちゃん「ちょ、ちょっと待ちなさいよあんた達!」
「大切な後輩が辞めたっていうのに何なのその態度は」
律「あー、そっか、さわちゃんにはまだ話してなかったけ」
さわちゃん「?」
律「実はあいつ、同性愛者なんですよ」
さわちゃん「……あー。確かに、女子校だから少しはいるっていうけど……。
運が悪かったわねあなた達」
唯「私なんか告白されたんですよ! あー思い出すだけでも鳥肌が」
さわちゃん「まぁ、そういうことなら仕方ないわね。これは受理しておくわ」
梓(確かにいきなり告白したのは良くなかったけど)
梓(あんなのひどすぎるよ)
梓(きっと今頃先生が先輩達のこと叱ってくれてるはず)
梓「」ガラガラ
梓「あ、憂、おはよー」
憂「ひぃ!」
純「どうしたの憂?」
憂「ううん。今誰かの声が聞こえた気がして」
純「えー。誰もいないじゃん。疲れてるんじゃないの?」
梓「……へ?」
憂「そうかなぁ。昨日ちょっと遅くまで起きちゃってたから」
梓「憂、純?」
憂「ひぃ! また聞こえた」
純「今度は私も聞こえた! 怖いなー。この教室何かいるんじゃない?」
梓「・・・」
梓(そんな……憂達まで……)トボトボ
梓(どうして……同性を好きになるのって、そんなに悪いことなの?)
梓(だってここ女子校だよ……)
先生「はーいHRを始めます」ガラガラ
先生「では出欠を取りますー。安倍さん、伊藤さん――」
梓(部活はやめて、友達はいなくなって……)
梓(何で私がこんな目に……)
梓(ほんとに好きだったのに……。こんなのあんまりだよ)
先生「手島さん」
モブ「はーい」
先生「中村さん」
モブ「はーい」
梓「!?」
「あの! 先生、私は!?」ガタッ
教室「シーン」
先生「新田さん~、根本さん――」
先生「はーい、それじゃあHRを終わります」
先生「」ガラガラ
先生(ふぅ……。それにしても、家の生徒に同性愛者がいたなんて残念ね)
純「先生、梓の名前呼ばなかったね」ヒソヒソ
憂「うん。さっきメールがあったんだけど、お姉ちゃんがさわ子先生に梓ちゃんが同性愛者だって教えたみたい
だからそこから伝わったんじゃないかな」
純「クラスのみんなにも梓が来る前に教えといたしね」
憂「同じクラスに同性愛者がいるなんてちょっと怖いもんね」
純「できるだけ早く学校やめてくれればいいけどね」
憂「この分じゃきっとすぐだよ。ほら」
純「何あれ、机に突っ伏して、寝たふり?」プルプル
憂「ちょっと体震えてるし、泣いてるんじゃないの?」プルプル
梓(どうして……どうしてこんなことに……)
/ ̄ ̄\ うんたん♪
l(itノヽヽヽl
ノリ(l| ^ q^ ノi うんたん♪
⊂ ロマンス つ
( ♥ )
ブブブー (ヽ_゚゚ _ ノ
ξ ∪  ̄∪
/ ̄ ̄\
l(itノヽヽヽl
ノリ(l| ' q ' ノi ゆい、うんち
⊂ ロマンス つ
( ♥ )
ブブブー (ヽ_゚゚ _ ノ
ξ ∪  ̄∪
/ ̄ ̄\
l(itノヽヽヽl
ノリ(l| ^ q^ ノi
と 、, ヽ
( _)_)
し'し' ●
●●
いちげん
先生「はーいそれじゃあ三人組みを作ってストレッチしてください」
純「憂やろ!」
憂「うん。あと一人はどうしよっか」
梓「あ、憂……純」
憂「あ、中村ちゃん、一緒にやらない」
モブ「え? 私? いつもは中野さ――あ、ううん。いいよ、やろう!」
梓「……」
先生「はーい。作れてない生徒はいませんねー」
梓「あ、先生、あの」
先生「いないようですねー」
にげん
先生「えーとじゃあここの訳を……」
先生「今日は22日だから、22番の、えっと」
先生「!!」
先生「22番に一つ足して、23番の中村! ここを訳してみなさい」
モブ「えー、なんで一つ足すんですかー」
先生「いいから」
モブ「ちっ」ガンッ
梓「ヒッ」
クラス「ねぇ、今何か変な声しなかった?」
クラス「幻聴じゃないのー?」
先生「いいからほら、中村」
モブ「はーい。えっと、そんな風にして私と哲夫くんは――」
さんげん
先生「今日はこのように、日本国憲法は――」
先生「ちょっと授業内容とはそれるけど、憲法について重要な条文があるので見ておきましょうか」
先生「教科書の一番裏を開いて、じゃあ平沢さん。24条を読んで」
憂「はい。婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が~」
先生「あ、もう一回。両性、のところを強調して」
憂「はい。婚姻は、『両性』の合意のみに基づいて~」
梓「……」
先生「はい。いいです」
モブ「せんせー、両性ってのは、男と女のことですよね」
先生「そうですよ。日本では同性結婚は認められてませんからね」
モブ「じゃあ同性愛はー?」
クラス「えー、きもーい」
クラス「どっ」
先生「こらこら。まぁ同性愛に関しては個人の自由だけど、気持ちのいいものではないわね」
梓「……」
昼休み
梓(なんなのこれ……)
梓(なんでみんなで、こんな……)
梓(私が同性愛者だから?)
梓(何で誰かを好きになるだけでこんな目に遭わなきゃいけないの?)
梓「あ……お弁当が……」
弁当「ぐちゃあ」
梓「そういえばさっきトイレに行った時、憂達が私の机の周りに集まってたけど……」
梓「なんでここまで……」
純「見てよ。梓の奴相当こたえてるみたい。こりゃやめるのも時間の問題だね」
憂「純ちゃんも人が悪いねぇ」
純「憂程じゃないよ」
梓「……」
憂「あれ、なんかこっち向かってきてるよ」
純「えー、嘘でしょ」
梓「ねぇ、憂、純」
純「おホン、ういー、ちょっと数学で分からないとこがあるんだけど」
憂「うん。どこどこ」
梓「ねぇ、昔の権力者には同性愛者が多かったって聞いたことあるでしょ?」
梓「同性愛者が異常っていうのは、偉い人が政治的紛争に利用するために作った間違った価値観なんだよ」
梓「だってただ誰かを好きになるってだけで虐げられるなんておかしいでしょ。おかしいよ。おかしいんだよ」
梓「ねぇ、聞いてる? ねぇ、憂。純。私、憂にも純にも迷惑掛けないから……唯先輩のことも諦めるから。ねぇ」
純「ねぇ、これ大丈夫なの? 何かわけわからないこと言い出してるけど」ヒソヒソ
憂「ほっとくしかないよ。こうなったら折れるのも時間の問題でしょ」ヒソヒソ
梓「ねぇ憂ったらっ!」ガシッ
憂「きゃー!」
モブ「ちょっとあんた憂に何してんのよ!」ドカッ
梓「あ、痛いっ!」
クラス「ちょっとどうしたの?」
モブ「こいつがいきなり憂に掴みかかったのよ!」
クラス「えー、さいってー」
梓「何だ、見えてるんじゃん」
モブ「は? 何訳わかんないこと言ってんのよ」
梓「ねぇ、見えてるのになんで無視するの!? 私が何か悪いことした!?」ガシッ
モブ「きゃー! 助けてー!」
クラス「大丈夫中村!? ちょっと離れなさいよ!」ドカッ
梓「いたっ」
クラス「このっ、このっ、この汚物、同性愛者!!」ドカッドカッドカッ
梓「あ、いたっ、やめてっ、あっ」
先生「ちょっとあなた達何してるの!」ガラッ
モブ「あ、先生! こいつがいきなり憂と中村に掴みかかったんです!」
モブ「引き剥がそうとしたから抵抗したのでちょっと手荒なことを……」
先生「そう……二人とも大丈夫?」
憂「あ、はい、平気です」
モブ「ちょっとびっくりしましたけど」
先生「……中野さん、ちょっと職員室まで来なさい」
梓「あ……」
先生「後の子は遊んでていいわ」
モブ「おら、さっさと行けよ!」ガンッ
梓「いたっ」
先生「いいから早く来なさい」
しょくいんしつ
先生「それで、先に手を出したのはあなたなのね?」
梓「でも、憂達が先に私のことを無視して……」
先生「そういうことを聞いてるんじゃないの」
先生「先に手を出したのはあなたなのね?」
梓「何でですか! 先生も朝私のこと無視しましたよね! どうしてですか!
私が同性愛者だからですか?」
先生「困ったわねぇ……」
さわちゃん「ふー」ガラガラ
さわちゃん「あ……あず、中野さん。どうしたんですか、いったい」
先生「いえ、この子が他の生徒に暴力を働いたみたいなんですけど、言ってることが支離滅裂で」
梓「あ! さわ子先生!」ガシッ
さわ子「わ! ちょっとどうしたのよ!」
梓「先輩達は、先輩達はどうしましたか!? ちゃんと叱ってくれましたか?
ちゃんと理由をきかない限りは退部なんて認めないって昨日言ってくれましたよね!?」
さわ子「え……言ったけど、ちゃんとした理由があったみたいだから退部届けは正式に受理したわよ」
梓「え……」
きょうしつ
クラス「ねー、どっちかさ、ちょっと体に傷でも付けてみたら? そしたら中野、退学とかになるんじゃない?」
クラス「あ、それいいかもね。中村やってみたら?」
モブ「えー。そんなのやだよー」
クラス「大丈夫だよ。ほら、ここにコンパスあるからさ、これを手にちょっと刺してさ、目に向けられたけど手で防ぎましたとか言えば一発だよ」
モブ「えー、痛いのはちょっとなぁ」
クラス「何言ってるのよ。名誉の負傷じゃない」
モブ「えー、どうしよう。ねぇ、憂」
憂「えいっ」ドスッ
モブ「えっ!」
純「わっ!」
クラス「おおー! 流石憂!」
憂「これでお姉ちゃんが助かるなら……みんな口裏合わせてくれる?」ダラダラ
クラス「任せといてよ! 全力で追い出すわよあの同性愛者!」
憂「いたた……あ、でもお医者さんとかに調べられたら自分で刺したってバレちゃうかなぁ」
純「大丈夫じゃない? 保険の先生はこっち側だろうし、警察呼んで鑑定なんてことにはしないでしょ、多分」
モブ「すみませーん」ガラガラ
梓「あ……」
先生「あら、どうしたの?」
モブ「あ、平沢さんがさっき怪我したところが痛むっていうんで保健室にいったんですけど、保健室に誰もいなかったので……」
先生「そう。今保険の先生外出してるのよ。ちょっと見せてみて」
憂「あ、はい」
先生「どれどれ。え!? これを中野さんがやったの? コンパスよね、これ」
梓「!?」
憂「はい。取っ組み合いになった時。目に刺されそうになったんですけど、何とか手で」
先生「ほんとなの、あなた達」
モブ純「はい。凄い形相で、一瞬ほんとに目に刺したのかと思いました」
梓「え、ちょっと先生、私そんなことしてません!」
先生「何で早く言わないのよ。これはちょっと酷いわね……」
先生「中野さん、本当にやったの? これはちょっと注意だけじゃ済ませられないわよ」
梓「違います! 私こんなことしてません!」
先生「駄目ね。錯乱してるわ。平沢さんが嘘付くはずもないし……。手はまだ痛む?」
憂「あ、大分おさまっては来ました」
先生「ちょっと梓ちゃんの処分を考えないといけないから。一回教室に戻ってくれる? どうしても痛む時はまた職員室に来て。
保険の先生も1時には帰ってくるはずだから」
憂「はい」
先生「梓ちゃんはちょっとこっち来て」
梓「先生! 私本当にあんなことしてません! 信じてください! 先生!」
さわちゃん「……」
梓「さわ子先生! 助けて!」
さわちゃん「……憂ちゃん、待って」
憂「はい?」
さわちゃん「ほんとに、梓ちゃんが刺したの?」
憂「……はい」
梓「先生! 嘘です、信じないで下さい!」
純「がーいせんかー! がいせんかー!!!」ガラガラ
クラス「おおおー! どうだったどうだった!?」ガヤガヤ
純「バッチリ成功こうずけのすけよ! 何か処分を考えるとか言ってたし、退学になるかもよ」
クラス「おおおー! 凄いよ憂!」
憂「えへへ、ありがと」
憂(お姉ちゃんにメールしとこ)
唯「あ、憂からメールだ。あ、ちょっとみんな、中野さんが暴力事件起こしたみたいだよ!」
律「はぁ? 何考えてんだあの汚物。本当同性愛者は何考えてるかわかんねぇな」
澪「暴力事件って、何か処分とかされるのかな」
唯「んー詳しい内容は書いてないから分からないけど、もう大丈夫だよって書いてあるし、そうかもね」
紬「でも大丈夫かな梓ちゃん……。そんなことする子じゃなかったし、相当追い詰められたんじゃ」
律「どうでもいいだろ同性愛者のことなんか。部活もやめてくれたし他人だよ他人」
先生「中野さん。正直に言って」
梓「本当です! 信じてください! 私、刺したりなんか……」
先生「じゃあ平沢さんが嘘をついてるっていうの? 平沢さんはそんな子じゃないと思うけどけど」
梓「じゃあ私は嘘をつくような子だってことですか?」
先生「……言いにくいけど、平沢さんと中野さんのどちらかが嘘を付いているとするならば、ね」
梓「そんな……。私が同性愛者だからですか!?」
先生「どうしてすぐそういう話になるの」
梓「だってそうじゃないですか! 私が同性愛者だから今朝も無視したんでしょう!? なんでですか?」
先生「言ってる意味がわからないわ」
梓「どうして、どうして……同性愛者の何がいけないっていうんですか……」
梓母「先生!」
先生「あ、お母さん。今日はわざわざすみません」
梓母「いえ、でも、梓が暴力事件を起こしたなんて、どうして……」
先生「本人も相当錯乱してるみたいで、それとお母さん、お子さんのことなんですけど……」
梓母「はい?」
先生「言いにくいんですけど、梓ちゃん、同性愛者みたいなんですよ……」
梓母「……え?」
先生「ですから」
梓母「冗談ですよね先生! 家の子が同性愛者なんて!!」
先生「残念ですが……。何でも昨日、軽音部の先輩に告白して振られたみたいで、
今回の出来事も、それが絡んでるみたいです。刺されたのは、その先輩の妹で……」
梓母「もしかして、憂ちゃんですか?」
先生「あ、知ってるんですか?」
梓母「はい。よく家にも遊びに来てましたし……、憂ちゃんのお姉ちゃんを尊敬してるとも家で何度も言ってましたから。
まさか、恋心を抱いてるとは想いませんでしたけど……」
先生「辛い気持ちは分かりますけど、お母さんがしっかりと受け止めてあげないと」
梓母「憂ちゃんの方は大丈夫なんですか?」
先生「はい。かなり強く刺されていた様ですが、部位が部位なので大事には」
梓母「良かった。それにしても、あんなに仲良くしてたのに……」
先生「失恋のショックが大きかったのかもしれません」
梓母「家は共働きで、職業柄梓を一人にしてしまうことも多かったですけど、
それでも、欲しいものは買い与えていたし、家に居る時はできるだけ愛情を注ぐようにしてたのに…・・。
女子校に行くのも、最初は反対してましたけど、梓がどうしてもここじゃなければ駄目だと言うから……。
それが、どうして同性愛者になんて……。やっぱり、育て方を間違ったんでしょうか」
先生「そんなに落ち込まないで下さい。これからどうするかを考えましょう。
それで、梓ちゃんの処分なんですけど」
梓母「はい」
先生「学校側としては、自主退学という形で済ませたいですが」
梓母「梓は何て?」
先生「何分まだ錯乱してる状態で……」
梓母「そうですか」
先生「梓ちゃんのところへ行きましょうか」
梓「はい」
先生「梓ちゃんのお母さんを連れてきました」
校長「ああ、ご苦労さまです」
梓「あ、お母さん」ダッ
梓母「梓」
梓「お母さん、みんながね、私が同性愛者だからって苛めるんだよ。
先輩も憂もみんなもね。同性愛者とは付き合えないって、同性愛者だからお前が悪いんだって。
ねぇ、お母さんは私の味方だよね? お母さんは私の味方だよね?」
梓母「梓……」
校長「お気の毒に……処分の方は後日決定したいと思いますので、今日のところはお子さんを家で休ませて上げて下さい」
梓「お母さん。私は何も悪くないんだよ。処分なんていらないって教えてあげてよ」
梓母「平沢さんの家にお詫びに行きたいのですが……」
校長「平沢さんの家は今両親不在みたいですし、二人とも顔を合わせたくないと言ってるようですから」
梓母「そうですか……すみません」
梓「ねぇお母さん、お詫びなんて必要ないんだよ? どうして、お母さん?」
梓母「梓、ごめんね。お母さんの育て方が悪かったから……」ギュッ
梓「どうして泣いてるの、お母さん?」
唯「いやーそれにしてもさっきはびっくりしたよー。いきなり先生に呼び出されるんだもん」
澪「唯のことだから、また何かやらかしたのかと思ったよ」
唯「えー、酷いよ澪ちゃん」
律「まったくどこまでもはた迷惑な奴だよな。これだから同性愛者は」
唯「憂を刺したってのは絶対許せないよ」
律「憂ちゃんも刺し返してやればよかったのにな。正当防衛だし、同性愛者なんか何されても文句言えねぇだろ」
唯「憂はいい子だからね。でも私が刺し返したいくらい……あ」
澪「梓だ」
紬「横にいるのはお母さんかしら」
唯「……」
律「何かこっち見てるぞ」
梓「あ、唯先輩!!」
梓母「あ、平沢さんと、軽音部の皆さん。家の子が迷惑かけたみたいで」
唯「……いえ、いいですから。二度と私達に近付かない様に言っておいて下さい」
澪「おい唯!」
梓母「いいのよ……。ごめんなさいね」
梓「唯先輩! 私憂のこと刺してなんかいませんよ! 唯先輩の妹にそんなことするわけないじゃないですか!
唯先輩!」
唯「……」
梓「唯先輩……、もう告白なんてしませんから、傍にいるだけでいいですから、許してくださいよぅ」
律「何言ってんだこいつ」
梓母「梓!」
唯「……行こうみんな」
澪「ああ」
律「ちっ」
紬「……」
梓「唯先輩! 待ってくださいよ! 唯先輩ぃ……」
梓母「梓、今日はゆっくり休んで、これからの事考えましょうね」
梓「……」
梓父「梓は、大丈夫なのか」
梓母「ええ、とりあえずは落ち着いたみたい」
梓父「それにしても、よりによって家の子が同性愛者なんて……だから俺は女子校に行かせるのなんか反対したんだ!」
梓母「何よその言い方。最後にはあなたも賛成したじゃない!」
梓父「お前が梓の意見を尊重してあげようとしつこく言ったからだろ! それでこの結局このザマだ!
次は、梓の意見を尊重して、同性愛も尊重してあげようとでも言い出すのか? 良いお笑い草だな!」
梓母「何よ! 自分は梓のことなんか全然気にかけもしないで全部私に任せっきりだった癖に、こんな時だけ私のせい?」
梓父「しょうがないだろ。子育ては女の仕事だ」
梓母「随分古い考えね。あなたがそんなだから梓もああなったんじゃないの?」
梓父「同性愛尊重は新しい考えってか? はっ」
梓母「とにかく、私だけの責任じゃありませんからね」
梓父「俺はもう知らんぞあんな奴のこと。金は出すが面倒を見るつもりはない」
梓「……」
梓「どうしてこんなことになっちゃんだろ……」
梓「私が、同性愛者だからかなぁ」
梓「でも、初めて、初めて本気で人を好きになったのに。その相手が、たまたま女の子だったってだけなのに」
梓「それだけでどうして……」
――……唯先輩のことも諦めるから。ねぇ
梓「諦められるわけ、ないよ……」
梓「唯先輩ぃ」
梓母「梓、もう寝たの?」
ヒュゥゥゥゥゥ
梓母「窓が……」
梓母「梓……?」
唯「憂、手大丈夫?」
憂「うん、もう痛みはないよ」
唯「そっか。それにしても、憂にこんなことするなんて、絶対に許せないよ」
憂「……うん」
唯「今日は大変だったね。もう寝よっか」
憂「そうだね」
ガンッガンッガンッ
唯「!?」
憂「お客さん? 誰だろ、こんな夜中に?」
唯「学校から連絡が行って、お母さん達が帰ってきたのかも」
憂「それなら鍵使うはずだよ」
唯「でも、案外鍵なくしちゃったのかもしれないし」タタタタッ
憂「あ、お姉ちゃん!」
唯「はいはーい」ガチャ
唯「え……中野、さん」
梓「あ、唯先輩!」
唯「何しに来たの? それに……何でギターなんか持って」
梓「あ、これは、唯先輩にギターを教えて貰おうと思って」
唯「は……? ギターなら中野さんの方が上手じゃん。馬鹿にしてるの?」
梓「いえ、技術じゃないんですよ。私なんか唯先輩の足元にも及びません」
梓「さっきですね。唯先輩を好きになった時のことを考えていたんですよ」
梓「ほら、何気なく好きになってたような恋に置いても、恋に落ちる一点はあるものだって言うじゃないですか。それがいつだったのか考えてたんです」
梓「そしたらですね、ケーキに夢中になってる先輩、だらしなくパンダみたいに机の上に突っ伏してる先輩、すぐに抱きついて私を懐柔してしまう先輩、とにかく色んな先輩が浮かんで来たんですけど」
梓「どうしても私の脳裏に焼き付いて離れないのは、新歓ライブの時のとても伸びやかに、羽ばたくように演奏をしている先輩だったんです」
梓「一目惚れってことになるんですかね? 私は、唯先輩の最初の演奏を聞いたときにもう既に恋に落ちていたみたいなんです」
梓「だから、私があの演奏を身に付ければ、この心の痛みもおさまるかもしれないと、唯先輩を諦められるかもしれないと思って
それで、ギターを教えて貰おうと思って……だから唯先輩お願いしますよ。私が唯先輩の音を手に入れれば、私はもう唯先輩に縛られなくて済むんですから」
唯「……かげっ……して……」
梓「え?」
ドカッ
梓「あっ」ガンッ
唯「いい加減にしてよっ!」
唯「さんざん私達に迷惑かけといて! 憂のこと刺しといて!」
唯「謝りもしないで、ギターを教えてくれってどういうつもりなの!?」
唯「大体何? 黙って聞いてれば恋の瞬間だの恋に落ちただの好き勝手言って」
唯「私達女同士だよね? 気持ち悪いんだよっ!」
梓「だからそんなのは勝手な価値観じゃないですか。私は全然気持ち悪いと何か思ってません。
でも、どうやらそれじゃあ世間が認めてくれないみたいですから、唯先輩の音を手に入れようとしてるんですよ。
音楽に恋するのは、別に気持ち悪くありませんよね? 澪先輩もそんなこと言ってましたし」
唯「いい加減にしてよ! 何訳わかんないこと言ってんの? 音? 私の音? 意味わかんないよ! これ以上私達に迷惑かけないでよ!」ドカッ
梓「あっ」
グシャ
梓「あ……むったんが……。あ? まずは唯先輩と同じギターを用意しろってことですか?
そうですよね。やっぱり手に入れようとするのが抽象的なものでも、まずは形から入るのが礼儀ですよね。唯先輩と同じギターを引いてると思えばモチベーションもあがりますし」
唯「なんなの? 何さっきからわけわかんないことばっかり? もうやめてよ! 帰ってよ!」
憂「お姉ちゃん、夜中にそんな大声出さないで。しょうがないよ。梓ちゃん頭おかしくなっちゃったんだよもう相手にしないで鍵しめちゃおう。
どうしてもしつこい様だったら警察呼ぼう。ね?」
唯「なんで、なんでこんな奴に……」
憂「しょうがないよ、お姉ちゃん」ガチャ
梓「あ、唯先輩ぃ……」
梓「どうして……一生懸命考えたのに」
梓「何が間違ってたんだろ……」
梓「最初から間違ってたのかな……」
唯「おはよーみんな」
澪「あ、おはよう唯」
唯「昨日はびっくりしたよ、いきなり中野さんが家に来てね」
律「その中野さんだけどよ、大ニュースだぜ。昨日マンションから飛び降りたらしい」
唯「えっ嘘。じゃああの後……、それで、どうなったの」
律「なんか中途半端な階数から飛び降りたみたいで死にはしなかったみたいだけど、まだ意識が戻ってないとか」
唯「詳しいね」
律「まぁもう関係ないんだけど、一応軽音部の部長としてってことでさわちゃんが教えてくれたんだ。いろいろ大変だったみたいだぞ」
唯「ふーん。まぁ取りあえず安心したよ。意識不明ならもう家にもこれないだろうしね」
律「いっそ死んじゃえばよかったのにな。もう生きててもしょうがないだろ」
唯「そこまでは言わないけどさ」
梓母「梓……どうして飛び降りなんか……」
警察「目撃者の証言だと、マンションの3階から何かを覗き込むように身を乗り出して、そのまま転落した様です。
必ずしも自殺をしようとしていたとは断定できないかと。意識が戻らないことにはどうにも」
梓父「それにしても、どうしてこの子はこんなに幸せそうに眠ってるんだ」
梓「ふふ……綺麗ですよ、唯先輩」
おわり
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