女「私、好きな人いるから」(567)

男「マジで!?」

女「マジです」

男「良かった。…それじゃ、子どもは何人にしようか?」

女「違うから。私の好きなのは、あんたじゃないから。あと話飛ばしすぎ」

男「え、マジで!?……ええと、交換日記から? 清く正しいお付き合い!?」

女「マジ。交換日記とかそういう話じゃなくて」

男「いや、でも一緒に帰ったりして友達にウワサされるの恥ずかしいし」

女「はぁっ……私の好きな人は他にいるから。あんたじゃないから。ついでに、一緒に帰ったりもしないから」

男「……まじ?」

女「まじ、って、さっきから言ってるし…」

女「あんたも懲りないね。何回目? 3回目?」

男「これで今年2回目! 通算5回目!!」

女「……いい加減にしたら?」

男「いやだって、おかしいだろ…昨日、サッカー部の田中と別れたはず」

女「なんで知ってる」

男「お前のことで知らないことなんて陰毛の……って、昨日別れたばっかなのに
 既に好きな人がいるとか、もしかしてサッカー部の田中と付き合ってた時から…二股!?」

女「…今、なんか不穏なこと言わなかった?」

男「ビッチ!! 二股とか淫乱!! 結婚して!!」

女「しないから。あとビッチとか淫乱でもないから」

男「愛してる!」

女「あぁ、そう」

男「冷たい! ソゥクール! でも、そんなところも大好きだ!」

女「………そ」

男「で、なんでサッカー部の田中と別れたの?」

女「…さて、問題です。この直線に垂直なベクトルNをベクトルAとBで表しなさい」

男「ごまかすし」

女「ごまかしてないし。次の中間、赤とってもいいの?」

男「それは困る。夏休み明けテストもそこそこマズかった」

女「…20点台を“そこそこ”って」

男「え、ええと、こっ…ここは三平方の定理を使って」

女「使わない。三平方の定理はここでは使わない…っていうか、中学じゃないんだから」

男「だ、だって、さんかっけーじゃん?」

女「さっき教えたでしょ。例題のとおりに、とりあえず解け」

男「ごめん。お前の顔に見とれてて聞いてなかった。だって、大好きな顔だから」

女「………人の話は聞け」

女「勝手に手は握ってくるし…あと……まぁ、まとめると付き合ってるのが嫌になったから別れた」

男「うん、まぁ、水族館からの帰り道に無理矢理キスを迫るのは良くなかったな。サッカー部の田中ドンマイ」

女「………なんで知ってる」

男「いや、でもさぁ…付き合って3か月もしたらキスくらいしたくなるよねぇ。男の子なんだしさぁ」

女「だから、なんでそこまで知って……やっぱ、男ってそういうもの?」

男「もちろん! 男子たるもの飢えた狼の如く女体を貪りたいと常日頃思ってるはず!」

女「…あんたも?」

男「もっちろん! ほぼ毎日のようにお前の……あーウソです。ウソ。ひかないで。冗談ですから
 あ、ええと、こっこのベクトルKが三平方の定理で求められるんだっけ?」

女「………だから、三平方の定理は使わないって言ってる」

男「…ということは、お前が好きなのは、やっぱり俺ということか!」

女「違う。まずはベクトルCを中心とする半径Rの円との接点を求める」

男「あ、そうなんだ………じゃなくて」

女「だから、違うから」

男「いや、だってほら、幼稚園のとき『けっこんしてくれるなら、なんでもする』って約束」

女「あんたが、ね」

男「なんでもするよ!」

女「とりあえず、この問題解いて。そしたら考える」

男「く、くそぅ…考えると言いつつ全く考える気ナッシング! でも、それでも…
 それでも、騙されてるってわかってても解いちゃうっ! くそぉ…これが惚れた弱みってやつかぁっ!」

女「うるさい。早く解け」

男「…ねぇ、これって三平方の」

女「使わない」

男「でさぁ、誰なの? その、俺のお前をたぶらかしてる男っていうのは。教えて」

女「あんたのじゃない。そして、あんたに教えるのは数Bだけ」

男「俺じゃないとすれば……え、数B以外にも、あの、物理も正直理解不能なんだけど」

女「なんで選択したの…だいたい数学と理科が苦手なくせになんで理系に」

男「そりゃ、お前が理系で物理選択するって言うから」

女「………ストーカー?」

男「はっはっはっは」

女「否定しないし…」

男「…まぁ、誰でもいいんだけどね」

女「………誰でもいいんだ」

男「まぁね。そいつと別れたら、次こそは俺の番でしょう」

女「…それで全部フラれてるわけだけど? 学習したら?」

男「してるしてる。ほら、もしも3カ月後や半年後にそいつと別れた時、
 俺がお前の好みにビタっとはまってたら、ゴールインだろ?」

女「……別れなかったら?」

男「そんときはそんときで、他の誰かとお前が幸せになってるなら…それもいいかなぁ、なんて」

女「………」

男「結婚を前提に毎日お前の味噌汁を作らせてくれ」

女「イヤです」

男「…え? この健気な男気に惚れない? 胸の奥がキュンってしなかった?」

女「全っ然」

男「マジかぁ…もうちょいだったんだけどなぁ、おしいところまでいったんだけどなぁ」

女「え? どこが?」

男「まさかの見込みゼロ!?」

女「だいたい、あんた料理とかできるの?」

男「できるとも! こう見えても英検3級持ってるし!」

女「………ああ、そう」

男「いや、そこは『英検が料理にどんな関係があんねん!』みたいな感じでツッコミを」

女「なんでやねん」

男「なんでだろう…」

女「………」

男「………」

男「覚えてろよ! お前が次のヤツと別れて、今度告白するときはマジいいオトコになってるからな!」

女「…それって手術代が結構かかるんじゃない?」

男「整形前提!?」

女「冗談。不細工ってほどでもないし。そのままでいいよ」

男「つまりは、今このままの俺が好きということか! この照れ屋さんめ! チューしてもいい?」

女「ダメ。ありえない」

男「マジかぁ…顔が問題じゃないとしたら………はっ! 金か! マネーか!?」

女「…は?」

男「まかせて! 結婚してお前がパチンコに行くようになったら、涙を飲みながらパートで稼いだ
 ナケナシの生活費をタンスから奪われるくらいの覚悟はできてる!」

女「いや、それって普通立場逆だし…そもそも未来暗すぎじゃ」

男「俺がお前にそんなひどいことができるわけないだろ」

女「私だってしないし」

男「安心した。これでなんの不安もなく結婚できるな」

女「しないから」

女「ひとが別れたら結婚だのなんだの…正直ウザい」

男「だって、付き合ってるやつがいるのに、そういうこと言っても迷惑だろ」

女「……現状もそこそこ迷惑」

男「でも、誰とも付き合ってないなら、俺にもチャンスがーとか」

女「ない。むしろ、あんたがウザいから、そこらの適当な誰かと付き合う」

男「ダメだろ…好きなやつ、いるんだったら。まず、そいつに告るなりして、フラれて俺の元に来るとかさぁ」

女「…都合よく考えすぎ」

男「なぁ…正直さ、俺、お前が本当に好きなやつと結ばれるのが一番いいって思ってる」

女「………」

男「だから、俺と付き合」

女「わないから」

女「あ…」

男「ん? こんな時間か…」

女「そろそろ帰らないと、おにっ…兄貴帰ってくるし」

男「義兄さん元気?」

女「…あんたと血縁関係はないはずだけど?」

男「うん、だから義兄さん」

女「…帰る」

男「あ、送って行くから、ちょい待って」

女「いい。そこだし。となりだし」

男「いやいや、ほら、男子が外に出ると八百万人くらい敵がいるらしいからね」

女「私、女子だから。その話だと、あんたがいた方が敵に囲まれる」

男「もう! 少しでも一緒にいたいという男心がわからないの!」

女「なんでオカマ口調…」

女「ほら、すぐ着いた」

男「知ってる? こういうのを味噌スープが冷めない距離って言うんだ」

女「味噌いらないし。上がってお茶でもとか言わないから」

男「うん。今日は助かった。ありがと」

女「え?」

男「や、だから、数B。なんとなくわかったような気がする」

女「…ああ、そっち」

男「……さすがにフラれてお礼は言わない」

女「だって、あんたMでしょ?」

男「そうそう、ムチで叩かれるたびに『ありがとうございましゅぅ!』…って言わないから!
 …って、なに言ってんの!? ご近所の人からウワサされちゃうでしょ!」

女「…ホント、うるさいヤツ」

男「今から飯作んの?」

女「まぁ、朝かるく用意してるから。あっためたりとか…そっちは?」

男「ん? こっちは、今日は母さん夜勤だから、とりあえずカップ麺にお湯を注ぐ感じかなぁ」

女「………それじゃ、さ」

男「いただきます!」

女「…まだ何も言ってない」

男「むしろ、俺はお前をいただきたい」

女「は? まぁ、いいけど。タッパーに詰めるから、ちょっと待ってて。あ、いいや。あとから持ってく」

男「毎朝、俺の味噌汁を作ってくれ!」

女「めんどい」

男「四文字以内!?」

男「じゃっじゃじゃじゃーん!」

女「…古典的」

男「さあ、昼休みだな! 昼ごはんだな! 場面が変わってるぞ!」

女「…説明的。意味わかんないし」

男「それで、昨日のお礼というか、まぁお礼なんだけど、お前に弁当を作ってきた」

女「自分の持ってきてるから、いらない」

男「そうか、喜んでくれて俺も嬉しい。まぁ、婚約か、まずは恋人から始めるかは食ってから決めてくれ」

女「食べないから」

男「…つまり、食べなくても答えは決まっている、と」

女「うん」

男「わかった。ええと、昆布とスルメとかつお節と…なんだっけ?」

女「いただきます」

男「……ちょ、待ちなよ! 待ちなって、お嬢さん! おいしいよ? こっちの水も甘いよ?」

女「…蛍じゃない」

男「さ、そんないつも食べてるような弁当はほっといて。今日、朝3時起きで作った
 俺の特製弁当をご賞味ください!!」

女「……ね、ねぇ、なんだか、中に…カタカタ言ってるんだけど?」

男「………そういうこともあるさ」

女「…ちなみに何作ったの?」

男「とりあえず卵焼きを作ろうとした、その健気な努力、そしてお前への愛だけは認めてほしい」

女「……ぴよぴよ言ってる」

男「………うん、まぁ、そういうことだ」

女「どういうこと…」

男「…そういうわけで、卵焼きから唐揚げにメニューチェンジしたんだけど…かわいそうで、できなかった」

女「それで?」

男「…大丈夫。もし、お前が踊り食いをするようなことがあっても、俺、お前のこと大好きだから」

女「食べないから。あと踊り食いするような女が好きとか若干ひく」

男「だよねぇ。帰りに飼育委員会に預けてくる」

女「……そんな委員会あったんだ」

女「…で、あんたの昼ご飯は?」

男「今日は朝から料理してたから昼飯代もらえなかった…」

女「……おばさんって、看護師なのに息子の食生活には適当」

男「今、看護婦って単語を聞いて思いついたんだけど」

女「看護師って言った」

男「看護婦さんの服…つまりナース服をお前が着てくれたら、俺は…っ」

女「着ないから」

男「えー」

女「しょうがないから、半分あげる」

男「おお! お弁当のフタに! ありがとう! ありがとう! お礼に俺をあげる!」

女「いらない」

男「ああっ! でも、こんなに仲睦まじくしていたら、クラスのみんなに付き合ってるんじゃないかと
ある意味誤解されてしまうんじゃ…もしかして、もう婚約とかしてる仲だということがバレてしまうのでは!?」

女「…まぁ、ある意味バレバレ。どこかの誰かがうるさいから、みんな正確に状況を把握してる」

男「マジか! ど、どうしよう? むしろここで既成事実的なものをでっち上げて」

女「ピーマン食べれる?」

男「え? う、うーん…お、お前の作ったピーマンなら」

女「そう、それじゃ」

男「ちょ、ちょっ、そんなに?」

女「…私の作ったもの、食べられないんだ?」

男「食べる! 食べます! 皿まで食べます!」

女「…ひとの料理を毒みたいに言うな。あとで、フタは洗って返せ」


男「そ、そうだ! お箸がワンセットしかないから、これは『はい、あ~ん』的なイベントが」

女「手で食べたら?」

男「インド式!?」

男「お待たせ」

女「…待ってない」

男「今来たところってやつかぁ…そんなことより、今日もかわいいな。愛してる」

女「帰り道に勝手に追い付いてきて待ち合わせみたいなこと言われてもウザい」

男「奇遇だな。俺もこっちの方向なんだよ」

女「…家がとなりなんだから、当たり前」

男「今日は物理を教えてほしい。そもそも斜方投射ってなんなの?
 いいじゃん、ボールがどこまで飛んで行こうとさ。風が吹いてたら、そりゃホームランだよ!」

女「…はぁっ……まぁ、いいけど」

男「今日も助かった。ありがとう! 課題プリントも終わったし、あとは寝るだけ!」

女「…明日、古典の小テストあるけど?」

男「あ……ま、まぁ、古典はなんとか、なる。うん。なんとかなるし」

女「……しょうがないなぁ。どうせ今日も夕ご飯ないんでしょ?」

男「ないよ! めっきりぜんっぜんナッシングモア!! ありがとう! さすが俺の女神は優しさがエーゲ海!!」

女「はいはい、わかったから……それじゃ、ちょっと上がって――」

兄「あれ? もしかして…あ、やっぱりそうだ。ひさしぶり、覚えてる?」

男「え?あ……お、お義兄さんっ!?」

兄「ホントに久しぶりだなぁ。隣に住んでるのに。ご無沙汰してます」

男「こ、こちらこそっ…その、ご無沙汰でございますっ」

兄「あははは、変わらないなぁ。あ…夕食まだだろ? ウチで食べてく? いいだろ?」

女「え?」

男「ん?」

兄「あ…あー……もしかして、お邪魔だったかな。悪いね、今日は早く切り上げて帰ってきちゃったから」

男「そんな邪魔だなんてぜんぜん」

女「そう、そんなことないから! ちょっと世間話してただけで、そんなんじゃないから! 今、帰るとこだったから!」

男「…え?」

兄「そ、そうなんだ? じゃあ、またね、近いうち」

男「あ、いや…あの」

女「………」

男「…それじゃ、また、今度…近いうちに」

兄「帰しちゃってよかったの?」

女「…なんで」

兄「いや、てっきり、今から二人で夕ご飯を食べながら勉強とか」

女「そんなわけない。あいつはただの隣人」

兄「そう。もしかしたら付き合ってるのかと思ってたけど。昔から仲良かったじゃない」

女「そ、そんなでもない…普通」

兄「そろそろ彼氏の一人でもできるかとも思ってたんだけど、ねー?」

女「そんなのは…心配されることじゃないし。……だいたい、私に彼氏とかできてもいいわけ?」

兄「そりゃ……いつかはできるもんだろ。なにせ自慢の妹だからね」

女「………」

兄「なに? お兄ちゃん変なこと言ったかな?」

女「…別に。知らない」

男「はい、どちらさまー…って」

女「はいこれ」

男「はぁ、どうも…って、なにこれ?」

女「…あまりモノだけど?」

男「魚一匹を丸々残すのって」

女「いいから! それ、残飯! 食べないんなら持って帰る!」

男「食べる! 食べます! カップラーメンだけでわびしい食卓だったんです! 感謝!!」

女「あ、あと、さっきのことだけど………ご、めん」

男「え…ああ、うん、こちらこそ。ごめんな」

女「……なんで、あんたが謝る」

男「だって、そりゃ……好きな人に誤解されるようなことされたくないだろ?」

女「………なんで知ってる」

男「知らなかったけど、さっき、なんとなく……今、おにいさんは?」

女「…お風呂」

男「そっかぁ…。ホントにいたんだ、好きな人」

女「だから、何度もそう言ってる」

男「だよなぁ…てっきり、今さら恥ずかしくって俺のことを好きだと言えなくて適当なことを言ってるものだとばかり」

女「…べつに、あんたのことも嫌いじゃないけど」

男「………」

女「…な、なに?」

男「なんでも。ほら、早く戻んないと、お風呂から上がっちゃうよ」

女「え? うん…あの、それじゃ」

男「ああ、また、明日な」

女「…また明日」

男「マジかぁ…」

男「マジだよなぁ…アレは」

男「どうしたもんかなぁ…」

女「あ…」

男「おっはよう! おはよう! 今日もいい天気! 曇天! 日差しがきつくなくて過ごしやすいいい天気だなぁ!」

女「……朝からうるさい。近所迷惑」

男「さあて、今日も元気に勉学とかに励むぞぉ!」

女「…あのさ」

男「そうそう、昨晩の件だけど」

女「え? う、うん」

男「気づいたんだが、お兄ちゃん好き好き大好きなお前もかなり萌える!」

女「はぁ?」

男「全面的に応援しよう。なんなら俺が校舎裏に呼び出してやってもいい」

女「え?ええと、わざわざ学校まで来られても?」

男「そういうことだから、俺のことは気にせずに幸せになって」

女「え?」

男「俺のことは…気にせずに…幸せになって…なって…なって…るーるーるー…るるるー」

女「……なんか台無しな感が」

男「くっくっくっく…それでは『第一回 おにいちゃんニャンニャン作戦会議』を始める」

女「なにその頭悪い名前。それに、なんで紙袋かぶってるの?」

男「うるさい。秘密の作戦会議と言えば理科準備室で覆面でおこなうものと決まってる!」

女「…そ、そう」

男「さ、その紙袋をとりあえず、かぶれ」

女「えー」

男「まぁ、いいや。では、第一回の開催にあたって、実行委員長から挨拶を」

女「え? 私? こ、こんにちは?」

男「こんにちは! 次、実行委員長のパンツの形状と色を」

女「言わないから」

男「やっぱ、ダメかぁ」

男「さて」

女「うん」

男「まぁ、こうしてそれっぽく会議を開いてみたところで」

女「うん」

男「なにかアイディアがひらめくわけじゃないんだよなぁ」

女「そ、ね」

男「やっぱりここは、実行委員長のパンツ談義をするしか」

女「しないから」

男「こんなときは…参考文献の出番!」

女「うわぁ…なにこれ」

男「うちのクラスの佐藤…じゃなかった、その筋のエキスパートに文献を貸し出してもらった」

女「佐藤くんって…」

男「これなんか結構それっぽいタイトル『妹と付き合う11の方法』」

女「マンガでしょ…しかも」

男「いやいや、マンガといえども11パターンもあるなら、どれか参考になりそうなものが」

女「…読むの? 私が?」

男「ああ、できれば音読が望ましい。わかった。しかたない、兄役は俺が読もう」

女「結構です」

女「………」

男「どうだった?」

女「………そ、その」

男「ちなみに俺は、お前の恥ずかしがりながらページを進める姿が見れて最高だった」

女「………」

男「さあ、次の本だ。こっちは小説だな『ウチの妹がここまでMなわけがない』」

女「………」

男「いや、さすがにコレは違うなぁ。Mじゃないし。どっちかといえばSだし。なぁ?」

女「…もう、いい」

男「というわけで、まぁ、特に何も決まらなかったわけだ」

女「…そりゃそうでしょ」

男「うん、第2回はもうちょっと準備を詰めてみよう。さすがに適当すぎたし」

女「…いらないから」

男「いやいや協力すると言ったからには最大限協力する男だよ、俺は」

女「必要ない」

男「ひどっ! 一生懸命やってるのに」

女「むしろ迷惑?」

男「うわぉっ!?」

女「だいたい何で……他の人のときはこういうことしなかったくせに」

男「そりゃ、他の人のときは俺の知らないうちに付き合ってたし…それに、今回はホントに好きなんでしょ?」

女「…うん」

男「だったら、俺は応援したい、協力したい。なぜなら、お前が幸せになってくれることが、
 俺の生きてる理由と言っても過言ではないからだ! そう、尽くして尽くして尽くして!
 そして最終的には捨てられてしまうのだとしても! 俺はお前の笑顔を……って聞いてる?」

女「あ、ごめん。天気予報見てた。何の話?」

男「マジか!? 今、俺、いいことっぽいこと言ったのに! 深イイ感じだったのに! もう一回言うから今度は聞いててね?」

女「やっぱり夕方から天気崩れるんだ…洗濯物出してなくてよかった」

男「ガン無視!?」

男「うわぁ…雨だ」

女「だから、朝の天気予報は見なさいって……しょうがない。ほら」

男「…え?」

女「どうせ一緒の方向なんだから。いいでしょ?」

男「いやっほぅ! 相合傘だー…って、あ…」

女「ん?」

男「…うん。いや、そういえば、俺、教室に置き傘あるから」

女「…そう?」

男「取ってくるから、先に帰っといて」

女「う、うん…」


女「……まぁ、すぐ追いついてくるか」

男「…雨が収まるまで待ってればいいかと思えば」

男「まさかの7時…」

男「ま、いっか…やることもないし…って、おい」

女「……遅い」

男「………なにしてる?」

女「こっちが聞きたい。いつもだったら勝手に追い付いてくるくせに!」

男「え? いや、それは…あの、置き傘勘違いしてて、雨止むまで待ってて」

女「ケータイあるんだから連絡くらいしたらいいでしょ!」

男「えぇ…それ言うならそっちだって、ケータイに連絡したら」

女「なんで私がそんなこと…それで電話してあんたが家にいたら、私だけめちゃめちゃ心配してるみたいじゃないっ!」

男「ご、ごめん?」

女「なんで疑問形!」

男「ご、ごめんなさい」

女「……よし! それだけ! もう帰る!」

男「え……いや、あの待っててくれたんじゃ」

女「なんで!」

男「………な、なんでだろ?」

女「そんなわけないでしょ!」

男「だよな、ははは」

女「………」

男「な、なにか?」

女「……かっ、帰るっ!」

男「おっと、お嬢さん夜道は危険だよ? ピカピカの鼻をしたシカみたいなのとかが闊歩してるからね!」

女「うるさい。ついてくるなストーカー。危険なのは、あんた!」

男「ちょ、ちょっ、この安全ピンにも負けない安全性が大好評の俺に危険って」

女「うわーちょーあんぜんーあんしんー」

男「そうだろうとも! そうそう、こんな話を知ってるか? 知っているのか、雷電!?」

女「らいでんって誰…」

兄「おかえり」

女「ただいまっ…ごめんすぐ夕ご飯準備するから」

兄「ふっふっふ」

女「どうしたの?」

兄「既に夕ご飯も風呂の用意もできてる! 参ったか!」

女「え? ウソ…台所、大丈夫? ぐちゃぐちゃになってない?」

兄「えー…なってないって。イマイチ信頼されてないなぁ」

女「ウソウソ冗談。ありがと」

兄「…今日は機嫌がいいね。なにかあった?」

女「……別に、普通だし」

兄「そう? それじゃ…今日は遅かったね。なにかあった?」

女「………学校でちょっと用事があって」

兄「ふぅん」

女「…なに?」

兄「いや、まぁ、平たく言えばお隣の子と仲良く帰ってるとこをさっきまで見てたんだよ」

女「………別に、仲良くない。普通」

兄「いやいや、あのね、ただ帰りが遅くて心配だったから外で待ってただけで、
 仲良くしていたのを咎めているわけじゃないんだ」

女「だから、そんなに仲良くしてない」

兄「えー…いや、あれはどう見ても……というかさぁ、年頃の女の子なんだし、
 そろそろ彼氏ができてもおかしくな」

女「いないから! そんなの……だって、だって…私の好きなのは……お兄ちゃんだから!」

兄「………」

女「……え、と…あのっ」

兄「すまない」

女「え」

兄「もう一度言ってくれないか」

女「へ?」

兄「『お兄ちゃん』と」

女「お、おにいちゃん?」

兄「…何年振りだろう、君からそう呼ばれるのは。小さいころは、よくそう呼んでくれてたよね」

女「あ…」

兄「あれからずっと、ようやく君を引き取ることができて、ここに帰ってきて…」

女「おにい、ちゃん」

兄「…もう一度、いいかな」

女「お兄ちゃん」

兄「もう一度」

女「お兄ちゃんっ」

兄「もう一回だけ」

女「お兄ちゃんっ!」

兄「ワンスモアっ!」

女「お兄ちゃんっ!!」

兄「もーいっかーい!」

女「……いい加減にしろ」

兄「と、まぁ、ふざけるのは、このへんにして」

女「ふざけるって」

兄「あ、久々に『お兄ちゃん』って呼んでもらえて嬉しかったのは本当。
 これからも呼んでくれるといいなぁ…なんて」

女「……う、うん」

兄「さて、妹に『好き好き大好き! 結婚して!』と言われて嬉しくないお兄ちゃんは
 この世にあんまりいないわけだが」

女「…言ってないし。そこまでは言ってないし」

兄「でも、まぁ、兄としては、妹の幸せを第一に考えたいといつも思ってるわけで」


女「どういうこと? 兄妹だと結婚できないとかそういうこと?」

兄「まぁ、制度上、慣習上の問題はもちろんあるよねぇ」

女「…私はそんなの気にしないし」

兄「逆に世の中には気にする人もいるわけだ」

女「それは…そうかも、だけど」

兄「というかね、そもそも、だけど…こんなオッサンが本当に好きなの?」

女「す、好き…好きだけど」

兄「ごめん…ちょっと声が小さかったから大きな声で『お兄ちゃん好き好き大好き』と言ってもらえないだろうか」

女「……なんかちょっと、自信がなくなってきた」

兄「常識的に考えてさ、こんなオッサンより同世代の若者の方がいいんじゃないかと思うわけさ」

女「そんなことない。今まで何人か別の人と付き合ってきたけど」

兄「え゛」

女「どの人とも手をつなぐのもイヤだったし…それ以上なんて無理だった」

兄「……お隣の彼とも?」

女「…だから、あいつとは付き合ってないし、付き合ったこともない」

兄「なんで? 実は彼って他に彼女がいるとか? 付き合ってとか結婚してとか彼から言われたことない?」

女「それは…けっこうよく言われるけど」

兄「そ、そんなに頻繁に言われるんだ…」

兄「そこまで…なら、なんで彼と付き合わないの?」

女「…そ、それは……なんでだろ? か、顔とか?」

兄「ぶほぉっ! ぷっくっく…そ、それじゃ、手をつないだり、キスしたりとできる?」

女「え? あいつと?」

兄「そう」

女「………そっ」

兄「ん?」

女「な…ちがっ……だって、そんなんじゃないんだからっ!!!」

兄「な、なにが?」

女「あ、あいつは…た、ただの、えと…なんだろ?」

兄「え? う、うーん…おとなりさん?」

女「そうそれっ! おとなりさんっ!! だから、ええと………あれ、なんだっけ?」

兄「……知らんがな」

男「おはよう! おっはよう!! 今日も良い天」

女「う゛ー」

男「きぇ!? な、なにをそんなに怒って…」

女「別に怒ってない」

男「そ、そう? きょ、今日も良い天気だなー。 雨には雨の風情があるよなー」

女「ああそう」

男「……え、ええと、雨の風情と言えば………あ、たとえばOLなんかのブラウスが
 雨に濡れて下着が透けて…これは違うな」

女「………」

男「あ…い、いや、ほら、雨と言えばさ、昔映画で雨の中で踊り狂う男の話が」

女「……こう?」

男「え?…って、バカ、なにやってる!?」

女「え? なにって…あ、あめのふぜー? 透けて…すけて………きゃっ」

男「ちょ、寝ぼけるにしても、風邪ひくって」

女「それ! カゼひいた! ガッコ休む! 復唱!」

男「か、風邪ひいた、学校休む」

女「じゃ、よろしく!」

男「え? う、うん…お大事に?」

女「…で、なんでついてくる? 担任に伝言頼んだんだけど」

男「それなら心配ない。今日は俺も風邪をひいて休むと、委員長の鈴木にメールしたから」

女「…なんで?」

男「お前が風邪をひいて寂しい思いをしながら寝込んでいるというのに、学校なんかに行けるわけないだろ」

女「………別にさみしくなんかない」

男「病人はみんなそう言うんだ…その胸の奥にひとりぼっちの子ウサギを抱えているのを隠しながら」

女「ウサギは1羽2羽って数えるって知ってる?」

男「し、知ってるし!」

男「よし、着替えたな。とりあえず熱測れ」

女「う、うん」

男「見た感じ高い熱はないようだけど、これから上がるかもだし、氷嚢…てか、ウチから熱さまシート持ってくるか」

女「…熱はないと思う」

男「体がだるかったり、頭痛とか関節痛とかキュンとくる胸の痛みとかないか?」

女「ない」

男「布団が薄いな…そこのタンス開けていい?」

女「…自分でやるから」

男「いや、いい。動くな。布団もウチから持って来よう。腹は減ってない?
 いや減ってなくても食べないとな。おかゆでいいか?」

女「…朝ご飯は食べたからまだいい。ホントにいいから学校行って」

男「何言ってるんだ。風邪はひき始めが肝心だからな。ちょっと、さみしいかもしれないけど
 待ってて。布団とか持ってくるから」

女「…だから、さみしくないって」

男「…36度ジャスト」

女「平熱。大丈夫。一晩寝たら治る」

男「……まぁ、でも風邪なんだから安静にしてないと」

女「安静にしてるから。気にせず帰れ。もしくは登校」

男「今登校したら、ズル休みしたことがバレちゃうだろ。それに昼飯の支度もあるのに
 安静にできるわけないし」

女「…布団重いんだけど。あとクーラー入れていいよ」

男「我慢しな。クーラーは風邪によくないし。汗かかないと治んないだろ」

女「いや、あんたが…暑くないの?」

男「暑いけどどうにもならない暑さじゃない」

女「…クーラー入れたらいいのに」

男「ダメ。病人はおとなしく寝てろ」

女「暑い。のどかわいた」

男「飲み物とってくる。冷蔵庫は開けていいか?」

女「ん……コーラ」

男「…あとからポカリも買ってこないとな」

男「ほれ、熱さまシートを貼ってやろう」

女「…ん、冷たくて気持ちいい」

男「そうだろうとも。頭痛とかはない?」

女「ない。我慢大会なみに暑いけど」

男「我慢しろ。1日で治れば明日学校に行けるようになる」

女「………ごめん。実は風邪ひいたってウソ」

男「はいはい。そんなこと言っても、もうこの時間から学校に行ったりできないから。
 教室が微妙な空気になるから」

女「いやだから、そうじゃなくて、ホントに」

男「だいたい、今朝は顔は赤いし、だるそうだし、見るからに熱っぽかったからな。
 俺だって看護師の息子だからな、風邪くらいすぐわかる」

女「……わかってないし」

男「なにかして欲しいことがあったら言えよ?」

女「帰れ」

男「なんでも聞いてやるぞ。病人はワガママを言うもんだからな」

女「…なんでもじゃないじゃん」

男「なんだ? バファリンか? 桃缶か?」

女「どっちもいらない。ちょっと、どいて」

男「いやいや、安静にしてろって」

女「いいから。どいて。邪魔」

男「どかぬ! 俺はここから一歩たりとも動かんぞぉっ!」

女「~~~っ!! トイレっ!! どけっ!!」

男「ぐはぁっ!!………いい“左”持ってんじゃんよ…病人とは思えないぜ」

男「…いい天気だな」

女「雨だけど」

男「……いや雨にも風情がさ、この雨の音の落ちる音がわびさび的ジャパニーズスピリッツを」

女「そいうの、わかんない」

男「………えーと、眠くなったら寝てもいいんだぞ? むしろ寝ろ?」

女「眠くない」

男「…あ、あー、そうだ。二人で意味ありげに風邪で休んじゃったりしたから、今頃教室は
 俺たちのウワサで持ちきりかもしれないなぁ」

女「ありえない」

男「いやほら、例えば『きっとあいつら二人でサボってラブラブボンバーなタイムを過ごしてるんだぜー』
 みたいな誤解されちゃってるかも?」

女「………」

男「…な、なんてなー」

女「それじゃ…そういうの、してみる?」

男「………」

女「………ぇと」

男「…体温計」

女「は?」

男「体温計はどこにやったっけ…あ、あったあった。ほら」

女「え、さっき測ったばっかり」

男「いや、熱が上がってるな。うん。やっぱ薬も飲んだほうがいいな。
 よし、ちょっとお湯冷ましてくるから。熱測っといて」

女「…いや、あの……な、なんで?」

男「知らないのか。薬はぬるま湯で飲んだ方が胃にやさしい」

女「そ、そっちじゃなくて」

男「いいから。熱測る。…思ったより重症かもしれないな。明日も休んだ方がいいかもな」

女「………なんで…」

男「36度2分か…やっぱりちょっと上がってるな」

女「…誤差。もしくは布団のせい」

男「大丈夫か? 吐き気とか頭痛とかない?」

女「ない…全然ない」

男「よし、初期段階で抑えられるよう体力を温存しないとな…ほら、薬飲め。
 アスピリンが入ってるからぐっすり眠れるぞ」

女「…眠ったあと、変なことしない?」

男「するかバカ。そんな仁の道に外れるような真似をしたらお天道様が地球温暖化を促進させるだろ」

女「………しないんだ」

男「しないから。ていうか、なんだその反応は変なことして欲しいのか?」

女「そんなわけあるか、ばか」

男「よし、それなら薬のでぐったり寝ろ」

女「…そんなの、あるわけないでしょ……ばか」

男「あーはいはい。わかったから寝ろ」

女「……なんでそんなに物分りがいい……ばか、ばーか」

男「…病人って理不尽だなぁ」

女「もう寝る! おやすみ!」

男「はいはい、おやすみ」

女「…ね」

男「なんだ? 眠れないのか? しかたない。ここは俺が子守歌を」

女「いらない」

男「マジか? ホントにいらない? あとから欲しいって言ってもあげないよ?」

女「…うるさい。いいから、ちょっと手貸して」

男「ん? もしかして、寝るまで手をつないでて欲しいとか? このさみしがり屋さんめ、
 仕方ない俺の手でよければ一本でも二本でも」

女「…そんなわけない。黙らないと三本要求するぞ」

男「…うぅ…すいません二本で勘弁してください…これ以上年貢をとられたら、夫と妻と息子4人が飢え死にしてしまいます」

女「一本でいい」

男「ありがとうごぜぇますだーお代官様ー」

女「眠れないからホントに静かにして」

男「…ごめんなさい」

女「手、つなぐの久しぶり…10年ぶりくらい?」

男「…そだな。最近は、お前がつないでくれなくなったからなぁ…昔は
 俺の手にまるでマンディブラリスフタマタクワガタのようにしがみついてたけど」

女「………」

男「……あ、あの」

女「やっぱり、あんたのだったら、イヤじゃない」

男「は? なんのこと?」

女「……もう寝るから話しかけるな」

男「え、話しかけてきたのお前じゃん…」

女「…うるさい」

男(…眠ってしまったわけだが…)

男(………手、とれないし…)

男(…トイレ行きたいなぁ…)

女「んぅ……む…」

男「おはよう」

女「………おふぁぉぅ………………ああ、風邪ひいたんだっけ」

男「そう。そして突然で悪いんだけど、手放してくれない?」

女「………ヤ」

男「かわいく言えば許されるわけじゃないぞ」

女「…ヤなものはヤ」

男「……ちょっと許してしまいそうになる自分がダメ人間だなぁ」

女「…いいじゃん、もうちょっとくらい」

男「もうちょっとが後2分以内だったら俺の膀胱もなんとか持つ。持たなかったときは…
 ちゃんと掃除するからお前も許してくれ」

女「………トイレ、出て左の突き当り」

男「さんきゅー!」

トイレ行きたい…おなかすいた…のどかわいた…

男「ただいまー」

女「…長いトイレ」

男「うん、ついでにおかゆを作ろうと思ってな。あ、もちろん、ちゃんと手は洗ってるぞ」

女「当たり前」

男「………おかゆを作ろうと思ったんだよ」

女「…すごい、ふっくらご飯が炊きあがってる」

男「おかしいよなぁ…水も火加減もばっちりだったのに」

女「別におかゆじゃなくても喉とおるからいい。………あとこれ」

男「お、えらい。ちゃんと言われなくても体温を測ってたか……って、37度? 上がってるじゃん」

女「う、うん……なんか上がっちゃって」

男「そうか? 今朝よりも顔色良くなってるのに…も一回測りなおしてみようか」

女「え? あ…うん、それよりもお腹すいたなぁ…って」

男「マジか! よし、それなら昼飯にしよう! 食欲があるときに食べるのが鉄則だからな
 とりあえず梅干しとかあったの持ってきたけど、せっかくだからなんかオカズも作ってくる」

女「い、いいっ! いらない! そこまで、お腹減ってない!」

男「何を言うこう見えても俺は、目玉焼きをスクランブルエッグにすることにかけては達人の領域だぞ」

女「…ホントにいらないから」

男「そうか? まぁ、食べたくなったら言ってくれ」

男「あの…おなかすいてるんじゃ」

女「…うん、ぼちぼち、かな」

男「いやだからさ、俺の手のひらを指圧で刺激してないで飯食え、冷めるだろ」

女「………」

男「いや、あのぐにぐにしても、おなかはふくらまないから」

女「…知ってる」

男「…しかたない。ここは俺が『はい、あーん』って言いながら食べさせるしかないな!」

女「じゃ、それで」

男「………マジで!?」

男「あ、あのさ、何気に恥ずかしいんですが」

女「…誰も見てないんだし、いいじゃん」

男「……いやいや、ここから、『はい、あーん』とかやるわけでしょ?」

女「おなかすいた。はやくして。あと熱いから冷まして。『ふーふー』ってして」

男「お前、もしかして風邪じゃなくて酸素欠乏症にかかって」

女「…酸素欠乏症って言ったら素直にやってくれるの?」

男「………ふーっ、ふーっ………は、はい、あーん」

女「ぁむ………………ん」

男「え? なにそれ? 次よこせ?」

女「……たくわんも」

男「…たくわんは冷まさなくてもいいよなぁ」

女「はやく、おなかすいてるんだけど」

男「わ、わかったって…はい、あーんって、そういえば俺も昼まだなんだけど」

女「……食べれば?」

男「いや、スプーンとか茶碗これしか持ってきてないし…でもまぁ、これ使えばいいか」

女「それ、私のなんだけど」

男「まさかのインド式!? いやほんとあのときは山田が割り箸くれたから良かったものの」

女「次まだ? おなかすいてるって言ってる」

男「なんてワガママな! でも、そんなところも…もっ萌え!」

女「そういうのいいから………あ………でも」

男「痛っ…や、あの指圧マッサージかもしれないけど強すぎ痛い」

女「………ごめっ……あ、あのさ、私が食べさせてあげよっか」

男「いやだから、スプーン一本しかないって」

女「だ、だから、その、く、口移しとか?」

男「ああ、なるほど! 一本しかスプーンがないから、まずお前の口に運んで
 そこから俺の口へと」

女「そ、そう、そんな感じ!」

男「……って、できるか!」

女「な、なんで! さっきなんでもするって言った!」

男「言ったけど、それは…って、ホントに大丈夫か? 大丈夫じゃないだろ?」

女「言ってることとやってることが違うとか男らしくない! 最低!」

男「いや、おかしいだろ。今日はなんだかおかしい…今年の風邪は性質悪すぎだろ」

女「私がキスさせてあげるって言ってるんだから、素直に喜べ!」

男「って、開き直った!? 欲求不満!? 熱暴走!?」

男「いや、なに? なんなの? じ、実は中身は宇宙人がキャトルミューティレーション?」

女「うるさい…黙って、ふいんきを作れ」

男「いやいや、これ、ふいんきって、あのこれ、強制わいせつの現行犯…」

女「なに!? 嬉しくないの!?」

男「う、嬉しいような? え、なんなの? お前、お兄ちゃん好きって」

女「好き! 好きだから! だから、あんたなんかとキスしたって…嫌なはずなんだから」

男「い、意味がわからない」

女「あんたなんか嫌い…じゃないけど、好きでもない」

男「いや、人を壁際まで追いつめて……え、俺、死ぬの?」

女「…ダメなら、殴るなりなんなりして」

男「いやいや、お前を殴れるかバカって、いや、あのマジか」

兄「ただいま!! 大丈夫? 風邪で欠席と聞いて兄早退!!
 お兄ちゃんが帰ってきたからにはもう寂しくないよ!!…って、あれ?」

女「え?」

男「あ…」

男「………」

女「………」

兄「………」

男「こ、こんにちは」

女「お、おかえり」

兄「ただいま、こんにちは」

男「………」

女「………」

兄「………」

男「…実は、俺学校をサボってこいつの看病してたんですけど」

兄「え? ああ、そうなんだ。ごめんね。でもサボりはよくないよ?」

女「えっとね、お兄ちゃん、これはその」

男「ふっと魔が差して、セクハラ行為をおこなってしまったため、こうしてパロ・スペシャルをかけられるところだったんです」

女「は?」

兄「それは…危ないところだったね」

男「おそらく数分後にはギブアップでざるをえなかったでしょう。突然の帰宅に感謝の言葉もありません」

女「・……いや、なにそれ」

兄「そうだったのか。ごめんね。てっきりウチの妹が君の唇を奪おうとしていたように見えたけど、パロ・スペシャルだったのかぁ」

男「そうです。では、看病の引き継ぎを、さっき測ったら熱は37度で食欲あり、頭痛等諸症状なしです。それではお邪魔しました」

女「え?」

兄「うん。今から学校行っても微妙な空気になっちゃうだろうし、放課後まで家でじっとしてるんだよ」

男「はい、それでは。それじゃ、ちゃんと安静にしてるんだぞ」

女「え?」


女「え?」

女「お兄ちゃん」

兄「なんだい?」

女「パロ・スペシャルって何?」

兄「ああ、女の子だし、知らないよね。関節技の一種で、図に描くとこんな感じ」

女「……両腕をこうやって」

兄「え? 痛っ…痛いっ! くっ…もがけばもがくほど技が極まっていく――!?」

女「コーホー」

兄「…って、ホントは知ってるんじゃ……って、痛い!いたいいたい! 外れる! はずれちゃうっ!」

兄「…朝、顔を見て逃げ出そうとしたら追いかけて来たので、
 その流れで自分が彼のことをどれくらい好きなのか試そうとしてみた、と」

女「……まぁ、そんなとこ」

兄「それで誘惑して、ひかれるんだから……普段どんな態度で接してるか見えてくるよねぇ」

女「…嫌われたかな」

兄「嫌われたくなかった?」

女「なっ…別にあいつに嫌われたって……嫌われたくない? そういうふうに見える?」

兄「…見えるも何も、今自分で言ってた『嫌われたかなぁ』って」

女「………もう、わけわかんない…あんなやつ、どうだっていいのに」

兄「ふぅ…まぁ、いいけど。お隣さんだからね。仲直りはちゃんとしとくんだよ」

女「…はぁい」

これかと思ったが違うのか
http://hamusoku.com/archives/09595.html

男「お、おはよう!」

女「…おはよ」

男「えーと、具合は大丈夫? 平気?」

女「うん。…昨日は看病、ありがと………そ、それでさ、昨日のことなんだけど」

男「いやぁ、昨日は大変だった。お前が熱に浮かされて妙なこと言い出したりするし」

女「は?」

男「覚えてる?」

女「………おぼえてない」

男「やっぱりなぁ。けっこう熱高かったから、そういうこともあるって。うん。
 たぶん、お前んちの体温計壊れてるから買いなおした方がいいかも」

女「え…う、うん、買う」

男「まぁ、ああいう寂しがり屋さんバージョンのお前も…かわいいと思うけど」

女「…ああ、そう。普段、かわいげがなくてごめんね」

男「そ、そんなことはないぞぅ! かわいげがないところが、かわいいというか…
 むしろ、普段のお前の方がす…素敵だと思うし」

女「今日は降水確率ゼロ%だって。『絶対降らない』って、気象庁のこの自信ってすごいよね」

男「まるで聞いてないし!?」

>>241
いいよな…幼馴染

もう、世の中のカッポ―はみんな爆発してしまえばいいのにと思う
いいなぁ幼馴染

>>241
いいラストだった。
安心して逝ける…

女「え? いないけど」

「えーウソだー。だって最近あのうるさいのが『結婚して』とか『付き合って』って言わないじゃん」

女「……ホント?」

「んでさ、『結婚~』とか言わないときって、あんたに彼氏がいるときだろ」

女「……そ、そうなの?」

「…ここまで相手にされてないとか、ちょっと不憫…まぁ、いいや、んでさー、ウチの後輩がさ
なんだか、あのうるさいのに惚れてるらしくてさ、ちょっと頼まれて欲しいんだよね」

女「…さっきから、あいつのこと“うるさいの”って、あんたさぁ………って、今なんて」

「んでんで、一回バッサリふっちゃって欲しいんだよね。どうせ、あんたも興味ないんしょ?」

女「え?」

「え、なに? 興味がないヤツもとりあえずキープしとく系なわけ?」

女「そ、そういうんじゃないけど」

「じゃ、頼むわ! 今度学食でなんか奢るし。バッサリあんたがフったとこで、ウチの後輩が
落としに行くからさ。さんきゅー」

女「や、だから………あのさ…」

女「ちょっと」

男「ん? なんだ英検3級の俺に何か用か?」

女「…いや、英検はどうでもいいんだけど」

男「ん…? なんか困ったことでもあった? どうした? 誰に何された?」

女「………別に困ってもないし…バッサリやってるのはいつものことだし」

男「ば、ばっさりって…割腹!?」

女「…あのさ、ちょっと質問なんだけどいい?」

男「で、できれば、痛くしないで……全身麻酔で」

女「全身麻酔かけたら意識なくなるから聞けないじゃない」

男「いやいや、でもね切腹だって江戸時代の人たちも痛いから扇使ってそれっぽいフリして
 斬首してたと英語のマイケル先生が」

女「…へぇ、そうなんだ。で、なんでいきなり切腹の話?」

男「なんで普段は聞き流すくせに、こういうどうでもいい話は食いつく…」

男「そりゃ断るよ」

女「…断るんだ」

男「……だって、俺が今一番好きなのは、その人じゃないから。それで付き合うとか
 相手の人に失礼だろ」

女「それでもいいって、言うかもよ?」

男「…そもそも、誰かが俺に告白してくるなどというありえない仮定を話し合うことに意味あるの?」

女「そんなこと、ないんじゃない」

男「あ、もしかして、お前が誰かに告白されたとか?」

女「え?」

男「まぁ、どうすんのかは、お前次第だけど…お兄ちゃんのことが一番好きなんだったら、どうでもいいやつの
 告白なんかバッサリ切り捨てちゃえばいいんじゃないの?……俺が言うのもなんだけど」

女「……そう。それじゃ、私と同じくらい好きな人から告白されたらどうする?」

男「そんなのいないし」

女「…でも、今はいなくても、これからはわかんないでしょ?」

男「えー…うーん、そうだなぁ……そんときにお前が誰かと一緒になってたら、諦めて告白受けるかもなぁ」

女「…受けるんだ」

男「ん? 受けないでいた方がいい? それなら」

女「受けた方がいいに決まってるでしょ…あんただって、幸せにならないと………だいたい、なんで私なんかにこだわる」

男「…なんでだろう………保育園の頃から好きだったけど…最近会うまでほとんど錆びついてたし…」

女「私以外にも、いるでしょ…あんたのこと好きになってくれる子も、あんたが好きになる子も」

男「……おっ…そうだな、一言でいうなら」

女「…い、言うなら?」

男「惰性だな」

女「……だ、だせい?」

男「確か、物理で習ったっけ? 坂を転がり始めたボールが止まらない感じの。一度、お前に転がり始めたら、
 どんどん落ちて行って、会うたびにお前に落ちていくような…そんな感じで、もはやお前じゃないとダメっていうか」

女「………惰性」

男「そう、惰性」

女「………いまいち」

男「なんでだ!?」

女「もう1個、質問…ていうか、相談、いい?」

男「どんとこい!」

女「私の友達の話なんだけど…」

男「あ、そういうのって、実は本人の相談事だったりするよな」

女「………」

男「え? なに?」

女「…私の  友  達  の話なんだけど!」

男「う、うん…それはわかったから」

女「マジメに聞いてよ?」

男「聞く聞く。可能な限りマジメに聞く」

男「なるほどなぁ…今までお兄さん的な存在が好きだったんだけど、ひょんなことから
 幼馴染的な存在も好きかもしれないと思いかけてる。でも今さら幼馴染的存在には好きだと言えない、と」

女「ま、まぁ、そんな感じ…実際は、お兄さんじゃなくて従兄だし、幼馴染じゃなくて隣町に住んでる人なんだけど」

男「簡単じゃん。そういうの全部ひっくるめて、正直に話せばいいんだって」

女「で、でも、そういうのめんどくさくない? 迷惑じゃない?」

男「いやだってさ、人の気持ちのやりとりって、直接、包み隠さず正直に、誠実にが王道だし」

女「そ、そうかもしれないけど」

男「なんだか似た境遇だし、俺、その隣町に住んでる人に共感するなぁ。
 俺だって、お前に2番目でも好きだとか言われただけで嬉しいし」

女「でも、そんなの、おかしいじゃない。今までその人のことがずっと好きだって言ってたくせに
 やっぱり、この人も好きとか」

男「いや、さっき自分で言ってただろ。『今はいなくてもこれから一番好きな人と同じくらい
 好きな人ができるかも』って。経験ないから俺には実感ないけど、そういうこともあるんじゃないのか」

女「で、でも、そういう女、好きでいられる? ふらふら好きになったりして…」

男「俺的には、最終的に自分のとこに来てくれれば、そのへんはどうでも。
 まぁ、考え方は人それぞれだし」

女「同じくらい好きな人が二人もって…二股みたいに思わない?…
 ……も、もし私がそんなこと言いだしても嫌いにならない?」

男「俺がお前を嫌いになるわけないだろ……ていうかさ」

女「じゃ、じゃあ…もし、私が、あんたのこと…その、好きかもって言ったら……うれしかったりする?」

男「…なぁ、これ、お前の  友  達  の話だったよなぁ」

ゴメス
また寝落ちてた
保守サンキュございます

女「………」

男「…もしかしなくても今の話って」

女「私の話ですが、なにか? なにか問題でも?」

男「え…逆ギレ?」

女「べ、別にキレてるわけじゃないっ!」

男「つ、つまり、友達のことと偽って……俺のことを世界で一番好きだと!?」

女「言ってない」

男「そうだな…良く考えてみれば、お前とそんな濃い話をする友人なんてモノがいたら
 俺が知らないはずないし」

女「そりゃ友達、少ないけど」

男「マジかー…世界で一番愛してる…なんていきなり言われると照れるなぁ」

女「…だから、世界で一番とか言ってない」

男「好きっていうのも言ってない?」

女「……い、言ってないこともない」

男「くぅっ! 苦節三十年想いに想い続けた想いがようやく報われたなぁ!」

女「…今何歳」

男「結婚式はウェディングドレスにする? それとも白無垢? 『あなた色に染めて』だなんて、
 俺はもうっ…どうしたらいいの? いっそのこと、お色直ししまくる感じで行く?」

女「……白無垢は別にいい。ドレス、1回くらい替えたい」

男「!?」

女「なに、その顔」

男「いや、そこは何言ってんの死ねばみたいなクールな顔で、何言ってんの死ね的なことを言うはず…」

女「…死ねとかあんたに言ったことないし。それに別にあんたと結婚するの前提じゃなくて、私のただの希望」

男「よし! 結婚式はウェディングドレス…っと。めもめも」

女「…なんで生徒手帳持ち歩いてんの…しかも何書いてんの」

女「さっきも言ったけど、好き“かも”ってだけで好きかどうかはわかんないんだから」

男「大丈夫、心配するな。すぐに俺のことが好きで好きでしかたなくなる」

女「…そんなことわからない」

男「惰性の法則ってやつだ。一度転がりだしたら、もう止まらないからな…くっくっく、俺のことを想って枕を液体で濡らすがいい!!」

女「……慣性の法則だから。それと別に転がりだしたわけじゃ」

男「好きだ。結婚しよう」

女「するかバカ。歳を考えろ」

男「高校出たら、一緒に住もう」

女「な……っ! 住まないからっ! って、なんで、迫って…近い近いっ!?」

男「愛してる。その気持ちが溢れ出す」

女「ちょ、何言ってんの!? だから、近いって!」

男「ハァハァハァ」

女「せ、せめて、その紙袋を取れぇっ!!」

男「……その右ストレートは鍛えれば世界を狙える。内側からえぐりこむように打たれた左ジャブ2回の
 あとの破壊力はおそらく普通のストラッシュの5倍以上」

女「…殴ったのは悪かった。でも、迫ってきたあんたも悪い」

男「ごめん。ちょっと興奮して。ドキドキが止まらなかった。今は反省している」

女「…ドキドキが止まらなかったら、ああいうことするわけ?」

男「するとも! しまくるとも! あ、でも勘違いしてほしくないんだけど、誰にでも発情するわけじゃなくて
 あくまでお前オンリーワンでナンバーワンのお前だけにしかここまでドキドキしないから!」

女「…それならいいけど」

男「いいのかよ!?…って、聞いてる!? 普段ならケータイの天気予報見てガン無視のくせに、
 今回に限ってまともに聞いてる!? 恥ずかしいっ! 忘れて! 俺、清純派で売ってるから
 女の子にドキドキしたりしないんだから!」

女「……もう一回叩けば直るかな」

男「すいません。自重します」

男「だって、俺だって男の子なんだもん…好きな人に好きって言われたら、唇とか貞操とかの
 一つや二つ奪いたくなるんだもん」

女「男の子とか言うな。あと口調きもい」

男「………」

女「な、なに?」

男「……あれ、俺、何気に好きって言われてなくね?」

女「…だから、なに?」

男「言って」

女「なんで?」

男「……お願い」

女「……イヤだ」

男「はっ! そうだ。俺が10回くらい好きって言ったら、一回くらいは返してくれるんじゃね? 好きだ! 大好き!」

女「…通算で何回言ってんの?」

男「好き好き好き好き好きっ好き! あ・い・して・る!」

女「言わないから」

俺これから頑張るわ

男「そうと決まれば、ご家族にあいさつに行かないと」

女「は? ご家族って…お兄ちゃん?」

男「そう。まぁ、ご両親への報告は今度の週末とかで」

女「え…まぁ、田舎だから放課後行ける距離でもないけど…て、何を報告しに」

男「もちろん、俺たちの未来を。具体的には式の日取りとか結納のこととか」

女「具体的過ぎ!?」

男「…まだ、俺、学生だし、何年かかるかわかんないけど、絶対幸せにするから」

女「いやいや、あの急ぎすぎっていうか…お兄ちゃんに何話す気?」

男「え? だから、お前のことは俺が幸せにするから。安心して妹さんを俺に下さい的な」

女「ええっと、あの、私、お兄ちゃんのこと好きなんだけど」


男「うん。まぁ、お兄ちゃんのことだけが好きって言うなら、あきらめるしかないよな。
 俺はいつだって、お前の幸せだけを願ってるんだから」

女「ああ、そう…いや、だったら、なんで」

男「だから、お前が俺のことを好きなら、俺が幸せにした方が俺も幸せになれるだろ。一石二鳥!
 そういうわけだから、お義兄さんには挨拶しておかないと。宣戦布告的な意味も込めて」

女「え? マジ? ホントに行くの?」

男「マジだとも! さあ、お前の幸せな未来はすぐそこに転がってるよー! いやっほぅ!」

女「って、待って! 紙袋! 紙袋外してから!」

兄「で、どうしたの。そんな改まって」

女「あの、別に」

男「お、お義兄さん!い、いも」

兄「呼び間違えは感心しないなぁ。僕は君の兄になった覚えはないけど」

男「え…ええと」

兄「あ、この前、君のお母さんが酔ってウチに泊まった件ならいいよ。お隣さんだし」

男「…なにやってんの、母さん……じゃなかった」

兄「そうだ、夕ご飯食べていく? 君とウチの妹はキョウダイみたいなものなんだし。妹の
 キョウダイといえば僕の弟のようなものだからね。遠慮は無用。お兄ちゃんって呼んでもいいよ」

男「…さっき、兄と呼ぶなって……」

兄「なんか言った?」

男「お義兄さん!」

兄「……微妙な発音が微妙だけど、なに?」

男「妹さんを俺に下さい!!」

兄「………」

女「あ、あのね、お兄ちゃん」

男「幸せにします! これでもかというくらい幸せにします! 俺が!」

兄「………ええと、資格は何かお持ちですか?」

女「って、面接か!?」

男「英検三級を少々」

兄「なるほど。死角はなし、無敵、と……とと、いけない。あまりのショックに一瞬持って行かれるとこだった」

男「趣味は、妹さんを幸せにすること。特技は、妹さんを幸せにすることです。学生時代に打ち込んだものは」

兄「ああ、うん…わかった。君の気持ちはわかったから」

男「ありがとうございます」

兄「…でもさ、君に妹を幸せにすることができるのかな?」

兄「幸せにするって、言ったよね? でも、どうやって? まだ高校生で
 しかも英検三級しか持ってないような子がどうやったら、ウチの妹を幸せにできるのかな?」

男「そ、それは…確かに今は、力もないし、何も持ってないけど」

兄「だいたい幸せにするなんて言ってさぁ、つい、こないだまでウチの妹のことなんか頭になかったえあけわけだろ?」

男「そんなことは…ちゃんと覚えてて」

兄「だったら、この10年、この子がいなくなってから、君はこの子のために何かしてくれたのかな?
 僕は、必死に卒業して、必死に就職して、必死にお金稼いで…ようやく、この子を引き取ったよ。
 君はそれに負けない何かをこの子にしてくれたんだろうか?」

男「………してないです」

兄「いじわるなこと言うようだけど、5年経ってから出直して」

女「そんなことない! お兄ちゃんは知らないだけ! こいつがどれだけ私に…!」

男「え?」


女「この家から出なくちゃいけなかったときだって!
 あのとき結婚してでもずっと一緒にいたいって言ってくれたのはこいつなんだから!
 あの頃も、今も、こいつだけは私のそばにずっといてくれて、私だけを見てくれたんだから!」

兄「ふぅん。でも、そんなのは小さいころの記憶が美化されてるだけでしょ」

女「そんなことない!…もし、そうだったとしても10年間、ずっとこの家に帰ってきたいって、
 いつか、絶対帰りたいって思ってたのは、お父さんたちとの思い出もあるけど、こいつが隣に住んでたから!
 いつか、また一緒にって、思ってたから過ごしてこれた!」

兄「…でも、こんなのと一緒になっても幸せになんかなれないって」

女「お兄ちゃんがそんなこと決めるな! お兄ちゃんに“こんなの”なんて言われたくない!
 たしかに、料理はできないし、英検三級しか持ってないし、理系科目全然ダメなやつだけど!
 大好きな人といられれば、私は幸せになれるの!」

兄「へぇ…じゃあ、その大好きな人って誰のこと?」

女「だからぁっ!………………って、だ、騙したなぁっ!!」

兄「さぁて、ここはお若い二人に任せて、年寄りは大魔王でも倒しに行くかなぁ」

よしお隣たずねてくる

男「…あ、あー」

女「っ! あんたが悪いんでしょ!!」

男「な、なにが…」

女「なんで言われっぱなしでいんの!」

男「えぇー…いやだって、ほらもっともなご意見だったし」

女「だからって、あのまま『5年後に出直してこい』って言われて5年待つわけ?」

男「…まぁ、どっちにしても5年くらいないと就職とかできないし」

女「……そういえば、それもそうね」

男「お兄さんの言ったことは常識的で、当たり前のことだったし…むしろ、お前の逆ギレがありえん」

女「なっ! かばってあげたのに、そういうこと言う!?」

男「嬉しかった。すごい、嬉しかった。もう、この場で俺の全部をお前に捧げてもいいくらい嬉しい」

女「ばっ…バカ! もう、こんな変態といられない! 私も出てく!!」

男「あ、俺も、排水溝の様子が気になるし、一緒に行く」

女「ついてくんな! ストーカー!」

男「お嬢さん夜道は危険が危ないですぞ」

女「…危ないのはあんた。ストーカー」

男「いや、こう見えても俺、安全靴並みの高い安全性を目指してる男だから」

女「ああ、そう」

男「………愛してる。婚約を前提に粘膜を接触させよう」

女「う、うるさい黙れ! 帰れ!」

男「…ていうか、どこ行く気? 暗くなってきてるし、さすがに一人にできないんだけど」

女「………ちょっと、そこまで」

男「そこまでって、どこ……まぁ、どこだろうと、ついてくだけだから、いいけど」

女「っ!!」

男「って、走り出さなくてもいいだろ!」

女「はぁっ…はぁっ……はぁっ…」

男「ぜぇっ…ぜぇっ…ぐへぇ…なにも町内一周しなくても…」

女「だ、って…はぁっ…あんたが、追いかけてくるから」

男「いや、だって、途中で体力の限界で走るのやめたら、お前立ち止まって待ってるし」

女「待ってない! 休憩してただけ!」

男「………まぁ、それでいいから、ちょっとそこのベンチで休んでいこうぜ」

女「のど乾いた。自販機、ファンタグレープ」

男「はいはい。ちょっと待ってろ」

女「…なんで、みかんジュース」

男「炭酸は体に悪い」

女「…のど乾いてるのに」

男「ビタミンCをとれ。健康にいい」

女「ああそう、100歳まで健康に気を使ってれば?」

男「もちろんだ。100歳になるまで、お前の健康状態に気を配り続けるぞ」

女「………な」

男「どうした? 惚れた?」

女「惚れるかバカ! 何言ってんのバカ! ついでにおまけにバカ!」

男「なるほど…すでに惚れているから、今さら惚れるわけがない、ということか!」

女「………」

男「え、マジか」

女「んなわけあるか! あきれて何も言えなかっただけ! 勘違いすんな!」

お隣、ハゲたおっさんやった(´・ω・`)

男「そんなに怒鳴ってちゃ疲れるだろ。ほら、みかんジュースを飲め」

女「…ん」

男「………」

女「なに? にやにやしてきもい」

男「…いやぁ、良い嫁さん貰ったなぁって」

女「まだ貰われてない! なにその妄想きもい!」

男「……あ、ああ、そうだ。覚えてるか? ここ、砂場とか懐かしいだろ?」

女「…他のはきれいになってるし」

男「俺たちが使ってた頃も古かったからなぁ、滑り台とか塗装ハゲて錆びて穴空いてたし」

女「よく遊んでた、ここで」

男「……よく砂場でお城つくっては、お前に壊されてたっけ。ひどいよなぁ」

女「…違う。あんたは私に壊されるために喜んで作ってた。むしろ壊さなかったら、怒ってた」

男「………その頃から、すでにMの血は目覚めてたんだなぁ」


男「あの頃も、今も昔も、何の取り柄もないし、ダメな俺だけどさ…気持ちだけは
 お前のこと好きだって気持ちだけは誰にも負けてないって自信持って言える」

女「……あー、はいはい、そーですか」

男「俺の持ってるもの、そんなにないけど。俺自身もおまけにつけて、全部お前にやるからさ、
 俺と付き合ってくれない?」

女「………今年2回目?」

男「うん。通算6回目。世界記録は101回だから、ここで断られても、あと95回はやるからな?」

女「…たしかその記録って、同じ人にプロポーズしてるの2回だけなんじゃ」

男「え? マジで? 俺が今の世界記録更新中ってこと!? いやっほぅ! これからも世界記録を引っ張っていくぞぅ!」

女「…残念だけど、それは諦めて」



男「な、なんだと!? おいおい、お前にフラれてる回数の世界ランキング15週連続1位という俺の誇るべき記録を諦めろだと?」

女「………バカ?」

男「なんという…いわれのない、言葉の暴力」

女「…何? フラれたいの?」

男「え? あ……ま、待って、それって」

女「何度も言わせるな…バカ」

男「そ、それじゃ…付き合って、くれるの?」

女「私、好きな人いるから」

男「な………そ、それはないだろぉ…」

女「バカ」

男「………ば、ばか」

女「…あんたのこと! それくらいわかれ! バカ!」

キタ━(°∀°)━!!!!

男「と、いうわけで、お付き合いさせていただくことになりました」

兄「どういうわけかはわからないけど、おめでとう。…あ、一発くらい殴った方がいい?」

女「…一発と言わずボコボコにして」

男「い、痛くしないでくださいね? お義兄さん」

兄「……なぁ、ちょっと『お兄ちゃん』って呼んでみてくれないか」

女「は?」

男「え? お、お兄ちゃん?」

兄「!?……こ、これは…この魂の深奥から溢れ出す気持ちは…まさか!?
 そういえば、昔から、弟、欲しかったんだよねぇ」

女「はぁっ?」

男「お、俺も実は、昔から兄貴って欲しかったんです…お兄ちゃん」

兄「ふふっ…兄弟の絆を深めるべく、今夜は僕の部屋に泊まるかい?」

女「なっ…なに言ってんの!」

男「お兄ちゃん、嬉しいです。優しくしてくださいね」

兄「…任せておきなさい。幸せな夢を見せてあげるよ」

女「って、なにひとの男に手を出そうとしてんの! こいつは私のっ!!………………って、また騙したなぁっ!」

男「………いや、ちょっとした軽いジョークだったんだけど」

兄「“私の”ときたかぁ…お兄ちゃん、ちょっと寂しくて涙がこぼれそう…まだ嫁にはやらんけど」

女「あ、あんたなんかぁ………バカぁっ!!」

おしまい

皆さま

こんばんは

長らくの保守と読んでくださって、ベリーありがとうございます。

いきあたりばったりで書いちゃいましたが
きっと誤字脱字とか時空のゆがみとかが文中に発生してても
皆さんは許してくれるって、信じてます。

ちょうねむい
おなかすいた

後輩とかどうなったんだろ…まぁ、いっか
行き当たりばったりでしたので、途中素敵なレスを見つけたら
採用して、そのまま書いています。彼がいつ紙袋を脱いだのか
または紙袋を脱いだのかどうかは永遠の謎ですね。

おかげさまで楽しく書けました。

では、みなさま
ごきげんよう! 来週もおもしろおかしく生きていきましょう!

俺好きな人の隣に引っ越すわ

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