芳佳「お母さん!」シャーリー「は?」 (84)

芳佳「あ……」

シャーリー「宮藤を産んだってことになると、あたしは1歳か2歳で出産したことになるなぁ」

芳佳「ごめんなさい!! 言い間違えました!!」

シャーリー「あははは。別にいいよ。宮藤だってこっちに来て間もないし、そろそろ故郷も恋しいだろう?」

芳佳「い、いえ、そんなことは」

シャーリー「寂しいならいつでも頼っていいからな?」

芳佳「だ、大丈夫ですよぉ」

シャーリー「そうか?」

芳佳「そ、それより、ミーナ中佐が呼んでます」

シャーリー「そっか。サンキュ。行ってくるよ」

芳佳(なんでシャーリーさんに向かってお母さんなんて言っちゃったんだろう……恥ずかしい……)

ミーナ「――今後の任務については以上よ。何か質問はあるかしら?」

シャーリー「……」

ミーナ「シャーリーさん?」

シャーリー「え? はい?」

ミーナ「私の話、ちゃんと聞いていたかしら?」

シャーリー「はい。なんとなくは」

ミーナ「なんとなくでは困るのだけど」

美緒「何かあったのか? 上の空のようだが」

シャーリー「あー。あたしって、子持ちに見えますか?」

ミーナ「え?」

美緒「質問の意図がわからんぞ」

シャーリー「いや。さっき、宮藤にお母さんって言われて、なんかこう、もやもやしてて。あたしって、そんな雰囲気あるのかなぁなんて」

美緒「どう思う?」

ミーナ「私に聞かれても……。シャーリーさんは年相応の容姿だと思うけれど」

流石BBAはいうことが違う

シャーリー「ですよね。よかったぁ」

美緒「シャーリーの年齢で母親か。無くはないが……」

シャーリー「やめてくださいよ。相手すらいないのに」

ミーナ「シャーリーさんなら引く手数多じゃないかしら?」

シャーリー「まだ、そういうことは考えられないですね」

美緒「母親というならミーナのほうが――」

ミーナ「どういう意味かしら、坂本少佐?」

美緒「いや、誤解するな。ミーナはとても母性的だという意味でだな」

ミーナ「そういう美緒もでしょ?」

美緒「私もか? そんなこと言われたこともないが」

シャーリー「少佐はどちらかというと、お父さんって感じですよね」

美緒「それは褒められているのか?」

シャーリー「はい。それはもう」

美緒「そうか。礼を言っておくか。はっはっはっはっは」

ミーナ「ともかく、シャーリーさんが気にすることはないと思うわ」

シャーリー「でも、宮藤も寂しいのかなって」

美緒「そうだな。宮藤も親の温もりを欲する時期か」

ミーナ「こちらに来ることになったのも、ほとんど急だったものね」

美緒「当然といえば当然かもしれんな」

シャーリー「それなら、まぁ、あたしが力になれるなら、なってあげてもいいかなとは考えてたんですけど」

美緒「宮藤の母親代わりになるのか?」

シャーリー「そこまでは言ってませんけど。あたしで少しでも気を紛らわせることができれば良いじゃないですか」

美緒「確かにな。そういうケアも必要だ」

シャーリー「といっても、どうしていいのかは分からないんですけど」

ミーナ「それを考えていたのね?」

シャーリー「すいません」

美緒「シャーリーさえよければ、宮藤のことは任せたいが……」

シャーリー「全然いいですよ。宮藤なら喜んで面倒見ます」

ミーナ「そう? なら、シャーリーさん。宮藤さんのこと、少し気にかけてあげてみて」

芳佳「お姉ちゃん!」

バルクホルン「……//////」

芳佳「はぁ……」

リーネ「芳佳ちゃん、どうしたの?」

ルッキーニ「さっきからため息ばっかだよ? お腹でも痛いの?」

芳佳「そうじゃないの。ちょっと……恥ずかしい間違いをしちゃって……」

リーネ「恥ずかしい間違い?」

ルッキーニ「誰かのズボンを間違えてはいちゃったとか?」

芳佳「そんなことじゃないんだけどぉ」

リーネ「聞かないほうが、いいよね?」

芳佳「あ、ありがとう。リーネちゃん」

ルッキーニ「えぇー? あたしはきになるぅー」

芳佳「ご、ごめんね。ちょっと言いにくくて……」

ルッキーニ「いってよぉ、よしかぁ」

芳佳「あははは」

ルッキーニ「芳佳のいじわるぅ!」

芳佳(隠し事してるみたいで、良い気分じゃないなぁ。でも、シャーリーさんをお母さんって呼んだなんて、言えるわけないし……)

芳佳(ごめんね、リーネちゃん。ルッキーニちゃん……)

芳佳「はぁ……」

シャーリー「おーい、宮藤」

芳佳「あ、シャーリーさん」

シャーリー「お母さんでもいいぞ?」

芳佳「や、やめてください!!」

シャーリー「あはは。冗談だって」

芳佳「もう……」

シャーリー「宮藤。今、時間あるか?」

芳佳「え? はい。大丈夫ですよ」

シャーリー「そうか。それじゃ、あたしに付き合ってくれるな?」

芳佳「構いませんけど、何をするんですか?」

シャーリー「話し相手だよ。とりあえず格納庫にいくぞ」

芳佳「ま、待ってくださいっ」

シャーリー「――で、このエンジンはな」

芳佳「あの」

シャーリー「どうした?」

芳佳「シャーリーさんがストライカーユニットの構造について説明してくれるのは嬉しいんですけど、正直なところ専門的な単語が多くて理解できないです」

シャーリー「あ、そうかそうか。宮藤はまだその辺の知識ないんだったな。悪い悪い」

芳佳「いえ。私の勉強不足なだけですから」

シャーリー「それじゃあ、何を話そうかな。うーん……。最近、困ったこととかあるか?」

芳佳「え? 困ったことですか? 訓練が大変なくらいですね」

シャーリー「それ以外にないのか?」

芳佳「ないですよ。シャーリーさんも含めて、みなさんがとても良くしてくれますし」

シャーリー「そうか? あたしは宮藤に対して何もしてやった覚えはないけど」

芳佳「そんなことないですよ」

シャーリー「たとえば何がある?」

芳佳「え……と……」

シャーリー「……」

芳佳「む……」

シャーリー「む?」

芳佳「えっと!! その!! とにかく、色々です!!」

シャーリー「自覚がないから、そう言われても困るんだよなぁ」

芳佳「ど、どうして急にそんなことを訊くんですか?」

シャーリー「え? あー、ほら。宮藤とゆっくり話したことがないなぁって思ってさ」

芳佳「……大丈夫ですよ、シャーリーさん」

シャーリー「え?」

芳佳「リーネちゃんやバルクホルンさん、シャーリーさん、他のみんなもいてくれるんです。全然、寂しくなんてないですから」

シャーリー「あ……いや……」

芳佳「すいません。そろそろ訓練がありますから、失礼します」

シャーリー「ああ。ありがとう、話し相手になってくれて」

芳佳「こちらこそ、ありがとうございました。それでは」

シャーリー「……」

シャーリー(やっちゃったな。宮藤に気を遣われたら、ダメじゃないか)

シャーリー「ふんふふーん……ふーん……ふふーん……」

バルクホルン「シャーリー。格納庫で寝そべるな」

シャーリー「ん?」

バルクホルン「仮にも大尉であるお前がそんなことでどうする? 下の者に示しがつかないだろう」

シャーリー「そうかぁ」

バルクホルン「とにかく立て!!」

シャーリー「なぁ。最近の宮藤ってバルクホルンから見ても元気がないように見えるか?」

バルクホルン「急になんだ?」

シャーリー「どうだ?」

バルクホルン「いや。特にそんな風には見えないが?」

シャーリー「そっかぁ。あたしの思い過ごしなのかなぁ。余計なお世話だったか」

バルクホルン「宮藤になにかあったのか?」

シャーリー「いや。別に」

バルクホルン「言え」

シャーリー「何もないって言ってるだろ?」

バルクホルン「何もないなら、何故そんな質問をする?」

シャーリー「いいだろう。個人的に気になっただけだ」

バルクホルン「おのれ、リベリアン!! 情報は共有しなければならない!! 常識だろう!? お前は組織の中にいるんだぞ!!!」

シャーリー「あー、はいはい」

バルクホルン「いいから吐け!! 宮藤に何があった!!!」

シャーリー「何もないって!!」

バルクホルン「何故、そのような嘘をつく!! 軍規違反だ!!!」

シャーリー「どんな軍規だよ!!」

エーリカ「なに騒いでるの、トゥルーデぇ?」

バルクホルン「ハルトマン!! 丁度いいところに!! 聞いてくれ、シャーリーが宮藤の情報をこちらに渡そうとしないんだ!!」

エーリカ「宮藤になにかあったの?」

シャーリー「何もない」

エーリカ「ないってさ」

バルクホルン「そんなわけがない!! いいか、ハルトマン!! 一から説明してやろう!! それでシャーリーが嘘をついていることが理解できるはずだ!!」

シャーリー(面倒なことになる前に退散するか……)

芳佳「はぁ……」

芳佳(シャーリーさんに余計な心配かけちゃった……。これからは気をつけないと)

芳佳「よしっ!! がんばろう!!」

美緒「なんだ、宮藤。ため息をついたり、気合をいれたり、忙しいな」

芳佳「坂本さん!! 訓練をはじめましょう!!」

美緒「うむ。よし!! では、まずはウォーミングアップからだ!! はしれぇ!!」

芳佳「はいっ!!」

リーネ「了解!!」

芳佳「リーネちゃん、いこっ!!」

リーネ「う、うん!」

美緒「ふむ……」

ペリーヌ「あの、坂本少佐?」

美緒「どうした?」

ペリーヌ「宮藤さんは随分と空元気を出しているようですが、何かあったのですか?」

美緒「ペリーヌにもそう見えるか。どうやら、私の目の錯覚ではないようだな」

ペリーヌ「精神的な悩みなら、早急に解決させたほうがいいと思いますわ。私たちの足を引っ張る結果になるかもしれませんし」

美緒「そうだとしても、原因が分からないのではな」

ペリーヌ「わたくしが直接、宮藤さんから訊いて来ましょうか?」

美緒「上手く聞きだせるのか?」

ペリーヌ「勿論ですわ。任せてください」

美緒「それなら……」

美緒(いや。シャーリーに一任しているから、必要はないか)

美緒「ペリーヌ、余計なことはしなくて――」

ペリーヌ「ちょっと、宮藤さん」

芳佳「あ、はい。なんですか?」

ペリーヌ「何か困りごとがあるのなら、今ここでお話してくれませんか?」

芳佳「え?」

ペリーヌ「わたくしでよければ、助言ぐらいはしてさしあげますわよ?」

芳佳「えっと……」

リーネ「ペリーヌさん、芳佳ちゃんは今、人に言えない悩みを抱えてるみたいなので……あまり詮索は……」

ペリーヌ「人に言えない悩み?」

芳佳「そ、そんなところですね」

ペリーヌ「あなた。私たちはチームであることをお忘れですか? あなたの悩みはチーム全体の悩みでも――」

美緒「ペリーヌ」

ペリーヌ「なんでしょうか、坂本少佐?」

美緒「こっちにこい」

ペリーヌ「はい!! 今行きます!!」テテテッ

芳佳「な、なんだったんだろう?」

リーネ「ペリーヌさん、芳佳ちゃんのことが心配なんだよ」

芳佳「私、そんなに悩んでるように見える!?」

リーネ「あ……うん……。いつもの芳佳ちゃんっぽくはないかな……」

芳佳「そ、そんなぁ。もしかして、私、みんなに心配かけて……」

リーネ「そんなことないよ!!」

芳佳(しっかりしなきゃ。私がみんなを困らせてどうするの!)

芳佳「実は…その…」

ペリーヌ「…はやくおっしゃい!」

芳佳「私!女の子が好きなんです!!!」

シャーリー「うーん。放っておいたほうがいいことも、あるよなぁ。でもなぁ」

ルッキーニ「シャーリー!!」

シャーリー「おー。ルッキーニ。どうした?」

ルッキーニ「見かけたから声をかけただけぇ」

シャーリー「なんだよ。この」ナデナデ

ルッキーニ「えへへ」

シャーリー「……なぁ、ルッキーニ?」

ルッキーニ「ぅにゃ?」

シャーリー「例えば、ルッキーニが落ち込んだとするだろ? そんなとき、ルッキーニならどうされたい?」

ルッキーニ「うーんとね、えーとね。一緒に遊んでほしー」

シャーリー「なるほどな。遊ぶのもありか」

ルッキーニ「あとはね、一緒に寝てほしい!」

シャーリー「ふんふん。それもありだな」

ルッキーニ「シャーリーがぁ、そうしてくれるだけで、あたしはしあわせだもん」

シャーリー「ありがと」

ルッキーニ「あ、そういえばね、芳佳がなんだか落ち込んでたんだぁ」

シャーリー「え?」

ルッキーニ「でも、どうして落ち込んでいるかまでは話してくれなかった。どう思う、シャーリー?」

シャーリー「どう思うって、何が?」

ルッキーニ「だって、だってぇ! 芳佳はあたしに相談してくれなかったんだよぉ!? ひどいじゃん!!」

シャーリー「なんだ、宮藤に頼られたかったのか?」

ルッキーニ「だって、仲間なのに」

シャーリー「……」

ルッキーニ「シャーリー?」

シャーリー「そうだよなぁ。仲間なんだよなぁ、あたしたちは」

ルッキーニ「そうだよ?」

シャーリー「てことは、やっぱり接し方がまずかったな……」

ルッキーニ「なんの話?」

シャーリー「こっちの話だ。それより、腹減らないか? ご飯にしよう」

ルッキーニ「うんっ!! ごっはん!! ごっはん!!」

芳佳「いただきます!!」

リーネ「いただきます」

芳佳「はむっ……はむっ……。おいしいね、リーネちゃんっ」

リーネ「うん」

芳佳「はむっ……」

バルクホルン「……」

芳佳「……」チラッ

バルクホルン「……」

エーリカ「うーん。宮藤に異常はないみたいだよ?」

バルクホルン「そんなことは分かっている」

芳佳(バルクホルンさんに見られてて、すごくたべにくい……)

ペリーヌ「宮藤さん? 食事が進んでいないようですわね。やはり、悩み事は早期解決が一番ですわ。さ、ここで話してごらんなさいな。楽になりますわよ」

芳佳「いえ……あの……」

エイラ「なんだ、宮藤。困ってることがあるのカ? タロットで占ってやってもいいゾ」

サーニャ「芳佳ちゃん、何かあったの?」

芳佳「だ、だいじょうぶ!! 私はほら、元気だから!!」

サーニャ「そう、なの?」

エイラ「えーと、宮藤の運勢は……タワーのカードだナ。あまり良くないナ」

バルクホルン「……」

エーリカ「元気だってさ。よかったね、トゥルーデ」

芳佳「本当になんでもないんです!! あはははは!!!」

ペリーヌ「宮藤さん。悩みというのは一人で抱え込んでも解決などしませんわよ」

芳佳「いえ、本当に……その……!!」

ルッキーニ「あー。みんないりゅー」

シャーリー「どうした。えらく盛り上がってるなぁ」

ペリーヌ「シャーリー大尉からも宮藤さんに言ってあげてください」

シャーリー「何を?」

ペリーヌ「悩みごとは話し合って――」

芳佳「ペリーヌさん!! 私は何も悩んでませんからぁ!!!」

ペリーヌ「あ、あら? そうでしたの? では、何故、いつもとは様子が違うのですか?」

芳佳「いつもと一緒ですよぉ」

ペリーヌ「そんなわけが……」

バルクホルン「宮藤」

芳佳「は、はい!!」

バルクホルン「話せないことは誰にだってあるだろう。だが、それが戦闘に影響してしまうようなら、私たちにも話すべきだ」

芳佳「……」

バルクホルン「気持ちを切り替えられるというなら、話す必要はない」

芳佳「それは……」

ルッキーニ「もう、よしかぁ!?」

芳佳「な、なに?」

ルッキーニ「あたしを頼ってもいいんだよぉ? ほらほらぁ」

芳佳「ほらって言われても……」

シャーリー「あー、宮藤が困ってるみたいだし、深く突っ込むのはやめてやれよ」

リーネ「そ、そうですよ。私からもお願いします。芳佳ちゃんならきっと話したくなったら話してくれると思いますから」

エーリカ「そうだなぁ。私たちが世話を焼いたところで、宮藤にとってはありがた迷惑だろうし」

芳佳「迷惑なんてことは……!!」

バルクホルン「……仕方ないか」

ペリーヌ「本当に大丈夫ですの? 万が一何かがあっても、言い訳にしないでくださいね」

芳佳「は、はい」

エイラ「今度はムーンのカードだナ」

サーニャ「エイラ。もういいから」

芳佳「……ごめんなさい。心配をかけて。でも、私は平気ですから」

リーネ「芳佳ちゃん……」

芳佳「リーネちゃんも私なんかを気にかけることないからっ」

リーネ「そんなことできるわけないよ」

芳佳「だけど、私もその申し訳ないっていうか」

リーネ「芳佳ちゃんが困ってるなら、一緒に困ってあげたいよ。でも、それは私の我侭だから……」

芳佳「リーネちゃん、ありがとう」

リーネ「ううん。気にしないで」

シャーリー「さー。メシにしよう、メシ。ルッキーニ、ほら。早く食べよう」

芳佳「――ご馳走様でした。リーネちゃん、一緒にお風呂いこうよ」

リーネ「うん。行く」

芳佳「それでは、お先に失礼します」

リーネ「失礼します」

エーリカ「おつかれー」

バルクホルン「宮藤……」

ルッキーニ「芳佳は薄情だよねぇー。何も教えてくれないんだもん」

ペリーヌ「全くですわ。折角、これだけ人生の先輩がそろっているというのに」

エーリカ「まあ、生きてきた時間は大差ないけどな」

ペリーヌ「人生経験の差ではわたくしたちの圧勝でしょう?」

エーリカ「そうかもしれないけどさぁ」

エイラ「宮藤になにかあったのカ?」

サーニャ「……少佐に怒られたとか?」

エイラ「サーニャ、それだっ」

バルクホルン「宮藤は殆ど毎日、少佐に叱責を受けている。今更、それで様子がおかしくなるとは考えにくいだろう。きっと、何か別の理由が……」

芳佳「はぁ……きもちいい……。やっぱり、こうしてお湯につかると、疲れがとれてくね」」

リーネ「うん。そうだね」

芳佳「……リーネちゃん。聞いてくれる?」

リーネ「いいの?」

芳佳「これ以上、黙っておくことのほうが辛いから」

リーネ「わかったよ。なら、きちんと聞くね」

芳佳「ありがとう。実はね、私、今朝シャーリーさんにお母さんっ言っちゃって……」

リーネ「え!?」

芳佳「言い間違えたんだけど、それってホームシックになっていることなのかなって、思って……。自分ではそんなことないんだけど」

リーネ「そうだったんだ。だから、ずっと何かを悩んでるような感じだったんだね」

芳佳「うん。でも、その所為でみんな私の事を心配してくれて……。しっかりしなきゃって思うほど、きっとどこかおかしく見えちゃったんだとおもう」

リーネ「そっか」

芳佳「ごめんね。折角聞いてもらったのに、つまらないことで悩んでて……えへへ……」

リーネ「芳佳ちゃんがシャーリーさんにお母さんって言ったとき、シャーリーさんは何か言ってたの?」

芳佳「寂しいならいつでも頼っていいって言われた。でも、そんな甘えるようなことできないし」

リーネ「うーん……。でも、もし芳佳ちゃんが自覚していないところで、ホームシックになっているなら、頼ってみてもいいとおもうな」

芳佳「そんなのシャーリーさんに迷惑だよぉ」

リーネ「シャーリーさんはそんなことを気にする人じゃないよ」

芳佳「でも……」

リーネ「シャーリーさんはどちらかというと姉って感じだけど、きっと芳佳ちゃんが悩んでいるなら力になってくれると思うし」

芳佳「いいのかなぁ」

リーネ「大丈夫だよ。シャーリーさん、優しいもん」

芳佳「それは分かってるけど、だからこそ、甘えるのは……」

リーネ「芳佳ちゃん。精神的なことは実戦で影響が出ちゃうよ。私がそうだったから、よくわかるの」

芳佳「リーネちゃん……」

リーネ「解決できる手立てがあるなら、そうしたほうがいいよ」

芳佳「……そうだね。これ以上、バルクホルンさんやシャーリーさんに迷惑はかけられない」

リーネ「迷惑なんてことは思ってないだろうけど、芳佳ちゃんのことは気にしてくれてるとおもうな」

芳佳「リーネちゃんに話して良かった。お風呂から上がったら、ちょっとシャーリーさんと話してみるね」

リーネ「うん」

シャーリー「ふわぁぁ……風呂はいってねるかぁー」

芳佳「シャーリーさーん!!」

シャーリー「宮藤?」

芳佳「あの、お話したいことだあるんですけど」

シャーリー「なんだ?」

芳佳「私、たぶん、ホームシックです」

シャーリー「あ、ああ」

芳佳「今、無自覚ですけどお母さんに会いたいって思っているんだと思います。だから、シャーリーさんのことをお母さんなんて言ってしまって」

シャーリー「あたしってそんなに宮藤の母親に似てるのか?」

芳佳「全然、似てません」

シャーリー「だろうな」

芳佳「でも、雰囲気がその近いというか」

シャーリー「あたし、そんなに老けてみえるのか……」

芳佳「じゃなくて……!! お母さんっぽいっていうか、お母さんみたいというか、もうお母さんなんです!!」

シャーリー(どうして宮藤にとってあたしは姉じゃないんだろうな……)

芳佳「あ……。すいません。私また……」

シャーリー「いや、宮藤が私をどんな風に見ても良いさ。気分が悪くなるようなことでもないし」

芳佳「シャーリーさん……」

シャーリー「それで、そんな宮藤にあたしは何をしてやれる?」

芳佳「……それは……かんがえてません……」

シャーリー「一緒に寝るか?」

芳佳「え!?」

シャーリー「そこまで子ども扱いするのは失礼か」

芳佳「いえ。シャーリーさんの迷惑でないなら……あの……」

シャーリー「お? そうか? よーし。それなら宮藤はあたしの部屋で待っていてくれ。あたしは風呂に行ってくるから」

芳佳「は、はい」

シャーリー「これ、鍵」

芳佳「シャーリーさん、本当に良いんですか?」

シャーリー「構わないよ。むしろ一緒に寝るだけで宮藤が復調するなら、何日でも寝てやるって」

芳佳「あ、ありがとうございます。それじゃあ、あの、シャーリーさんの部屋で待たせてもらいますね」

シャーリー「はぁー……。勢いでああ言ったけど、一緒に寝るだけでいいのかなぁ」

シャーリー(宮藤が母親を求めてるなら、どうにか応えてやりたいけど、どうしていいのかわかんねぇー)

美緒「シャーリー。ここにいたのか」

シャーリー「どうも、少佐。いい湯加減ですよ」

美緒「ここは常にこの温度に保たれているからな。ボイラー室に異常事態が発生しない限りは、湯加減は最高だ」

シャーリー「あはは。ですね」

美緒「それで、シャーリー。宮藤のことだが」

シャーリー「あぁ。なんとかなりそうです。宮藤と話もしましたし」

美緒「やはり、故郷である扶桑を想ってのことか」

シャーリー「本人は自覚がないって言いながらも、それしかないと」

美緒「すまんな、シャーリー。こんなことを押し付けてしまって」

シャーリー「いえ。こっちはこっちで楽しんでますから」

美緒「そう言ってくれると助かる。引き続き、宮藤のことを頼む」

シャーリー「了解っ」

シャーリー(ここまで言ったからには、失敗はできないな)

シャーリー(あたしは宮藤の母親……母親……。こう、優しく抱きしめるイメージで……。よし)

シャーリー「――ただいま」ガチャ

芳佳「あ、お、おかえりなさい」

シャーリー「待たせたか?」

芳佳「とんでもないです!! 待ってませんよぉ」

シャーリー「それじゃ、早速寝るか」

芳佳「は、はい!! よろしくお願いします!!」

シャーリー「何硬くなってるんだ? 今は親子だろ?」

芳佳「そんな!! シャーリーさんはその……お母さんみたいなお姉さんで……」

シャーリー「無理すんな」

芳佳「す、すいません」

シャーリー「ほら、おいで。一緒に寝よう」

芳佳「えと……」

シャーリー「はやくこいよ。冷えるだろ?」

芳佳「それじゃあ、おじゃまします……」

芳佳「シャーリーさん……いい匂い……」

シャーリー「こうするだけでいいのか?」

芳佳「十分ですよ。なんだか……本当にお母さんの傍にいるみたいです」

シャーリー「喜んでいいのか、複雑だな」

芳佳「あ、すいません!! そ、そうですよね!? シャーリーさんはまだ……」

シャーリー「いやいや、年齢のことじゃなくてさ。こうして隣で寝てるだけだろ? それでお母さんみたいです、なんて言われても宮藤が気を利かせているようにしか聞こえなくてさぁ」

芳佳「そんなことありませんよ。シャーリーさんは本当にお母さん的ですから」

シャーリー「どんなところが?」

芳佳「そうですね。近くにいてくれるととっても安心できるところとか」

シャーリー「ああ。それは素直に嬉しいな」

芳佳「他にはこうしているだけで、シャーリーさんの優しさが伝わってくる感じとか」

シャーリー「宮藤は母親と寝るときは、何かしてもらってたのか?」

芳佳「む……胸を……触らせてくれたり……」

シャーリー「胸?」

芳佳「私が寝付けないときは、よく胸を触らせくれていたんです。そうするとなぜかすぐに寝ることができて……。あ、でも、昔の話ですから!! もうそんなことしなくても寝れます!!」

シャーリー「ふぅーん。宮藤の恥ずかしい過去だな。ママの胸を触りながら寝ていたぁ」

芳佳「ぜ、絶対に言わないでくださいね!!」

シャーリー「言わないって。こう見えても口は固いから」

芳佳「お願いします……」

シャーリー「でも、宮藤みたいな子供はほしいかな」

芳佳「え……」

シャーリー「きっと毎日が面白そうだ」

芳佳「もー。どういう意味ですかぁ?」

シャーリー「そのままの意味だよ。家庭は明るいほうがいいだろ?」

芳佳「それはそうですけど」

シャーリー「宮藤は当然、あたしみたいな子を産んでくれるんだよな?」

芳佳「シャーリーさんみたいな子なんて、私からは産まれてこないですよぉ」

シャーリー「そんなのわかんないだろ? 宮藤ならどんな奴を産んでも不思議じゃないからな」

芳佳「変人みたいにいわないでくださいっ」

シャーリー「っと。こうして宮藤と朝まで話していてもいいけど、寝ないと明日が辛いな」

芳佳「はい。そうですね」

シャーリー「おやすみ、宮藤」

芳佳「おやすみなさい、シャーリーさん」

シャーリー「……」

芳佳「……」

シャーリー「――すかぁー……うぅん……」

芳佳「……シャーリーさん」

シャーリー「ぅん? どうしたぁ……?」

芳佳「眠れません」

シャーリー「はぁ? なんで?」

芳佳「わかりません……」

シャーリー「……胸でも触るか?」

芳佳「それだけはできません!! そこまでシャーリーさんに甘えるなんて、絶対にできませんから!!」

シャーリー「まぁ、好きにしたらいいさ。ふわぁぁ……」

芳佳「……」

シャーリー「すかぁー……」

芳佳「……」モミモミ

シャーリー「ん?」

芳佳「あ……すいません……どうしても寝付けなくて……」

シャーリー「いいよ。宮藤の寝やすいようにしたらさ」

芳佳「じゃ、じゃあ……じ、直に触っても、いいですか?」

シャーリー「いちいち訊かなくていいって。何のためにあたしがこうしてると思ってるんだ?」

芳佳「シャ、シャーリーさん……!!」

シャーリー「もっとひっつかないと、触りにくいだろ?」

芳佳「は、はい……!!」

シャーリー「あんまり強くするなよ?」

芳佳「だ、大丈夫です!」

シャーリー「それならいいんだ。それじゃ改めて、おやすみ……」

芳佳「えへへへ……」モミモミ

翌朝

シャーリー「ん……んー……もう朝かぁ……ふわぁ……」

芳佳「すぅ……すぅ……」モミモミ

シャーリー「おいおい。ずっと触ってたのか……」

芳佳「おかあ……さん……」

シャーリー「……」

芳佳「ふふ……」モミモミ

シャーリー(いい夢を見てそうだな)

シャーリー「でも、これ……」

芳佳「おかあさん……ただいまぁ……」モミモミ

シャーリー「起き上がれねぇー……」

芳佳「えへへへ……おかあさん……むね、おおきくなったのぉ……すごぉい……」

シャーリー(少しかわいそうだけど、起こすか)

シャーリー「宮藤、起きろ」ペシッ

芳佳「あ? は、はい! おはようございます!!」モミモミ

芳佳「シャーリーさん、本当にすいません!! 色々と我侭を言って!!」

シャーリー「あれぐらいなんてことないさ。ルッキーニにいつもされてることだしな」

芳佳「でも……」

シャーリー「それより、どうだ。ホームシック、治ったか?」

芳佳「はい。なんだが、心が軽くなった気がします」

シャーリー「へえ。効果はあったのか。それなら一緒に寝た甲斐もあるな」

芳佳「私、夢の中でお母さんと会えましたから」

シャーリー「よかったな、宮藤」

芳佳「シャーリーさんのおかげですよ」

シャーリー「一緒に寝ただけだろ? 大げさだよ」

芳佳「それがどれだけ嬉しかったか……。でも、少し名残惜しいというか……」

シャーリー「まだ寝たりないって?」

芳佳「……はい」

シャーリー「そうだな……毎晩は流石に困るけど、週に1回ぐらいなら全然構わないからさ。寂しくなったら、またあたしのベッドで寝ていいからな」ナデナデ

芳佳「シャーリーさん……あ、ありがとうございます……」モジモジ

芳佳「――おはようございます!!」

リーネ「芳佳ちゃん、おはよう!」

ルッキーニ「おっはよ。よしかぁ!」

バルクホルン「遅いぞ、宮藤。朝食の時間は守れ」

芳佳「す、すいません」

シャーリー「今日は大目に見てやってくれ、バルクホルン。宮藤の悩みの種がなくなったんだから」

バルクホルン「……どういうことだ?」

芳佳「シャーリーさん……!?」

シャーリー「全員に説明しておいたほうがいいだろ?」

芳佳「……」

ルッキーニ「シャーリー、芳佳がどうして落ち込んでたのか知ってるのぉ?」

シャーリー「まぁ、話は聞いたからな」

エイラ「一体、なんだったんだ?」

リーネ「芳佳ちゃん……」

芳佳「あの、実は――」

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