サシャ「落ち着く味だといいですね」(126)


・サシャ「……知りたくない味でしたね」の続きです


―― 夕方 女子寮 ユミルたちの部屋

クリスタ「……」アミアミ

クリスタ「えーっと、はさみはさみ……」ウロウロ チョキンッ

クリスタ「……」アミアミ

クリスタ「よし、できたぁー!」ジャーン!!

クリスタ「へへへ……サシャのマフラー完成!」ビローン

クリスタ「どうだー!!」クルクル

クリスタ「あれっ?」ツルッ ビタンッ!!

クリスタ「……」ヒリヒリ

クリスタ「うーん……長すぎたかな」ビローン

クリスタ「……暇だし、ラッピングしようっと」

クリスタ「ふんふんふーん♪」ゴソゴソ


―― 同刻 女子寮廊下

サシャ「ごっはんーごっはんーゆーうごっはんー……んんっ?」ビクッ!!

ユミル「……」

サシャ「ユミル、なんで廊下の真ん中でぶっ倒れてるんです?」

ユミル「きゃわわ」ボソッ

サシャ「なんて言いました?」

ユミル「部屋の中に……天使がいた……」ウットリ

サシャ「天使? ……ああ、クリスタのことですか」

ユミル「しかも『一人でいると私テンション上がっちゃうの』補正でかわいさ倍増だ」

サシャ「そんな補正があるんですか」

ユミル「だってさ、こんなになっがぁーいマフラー持ってさぁ、クルクル回ってさぁっ、自分で端っこ踏んづけて転んでてさぁっ! なあ!! それを見た時の私の心境がわかるか!?」

サシャ「クリスタ、マフラーできたんですかー?」ガチャッ

ユミル「聞けよ人の話ぃっ!!」


クリスタ「うん! ――はいサシャ、プレゼントだよ!」スッ

サシャ「おおおおおおっ……! あ、開けてもいいですか? いいですか?」ソワソワ

クリスタ「もちろん! 長さも見たいから巻いてみてもらえると嬉しいな!」

サシャ「えへへ……じゃあ開けますねー……」ガサゴソ

サシャ「おおー……」ビローン

クリスタ「どう? 気に入った?」

サシャ「……一目惚れしちゃいました」

クリスタ「本当? よかったぁ、好みに合わなかったらどうしようかって思っちゃった」

サシャ「こんなに素敵なのに文句なんかあるわけないですよ! それに、黄色ってあまり身につけたことがない色なので新鮮ですし」

クリスタ「これね、実はちょっと狙って作ったんだ」

サシャ「狙って?」

クリスタ「ミカサと一緒に出かける時があればわかると思うよ。今度三人ででかけようね!」

ユミル「クリスタ私もー私も行くー」クイクイ

クリスタ「わかったわかった」


サシャ「でも、この長さならカップル巻きも余裕そうですね」

クリスタ「うん、大丈夫だと思うよ! ……なんなら、ちょっと二人でやってみる?」

ユミル「ならクリスタまずは私とやろう」キリッ

クリスタ「サシャの練習だからダメ。えっと、私が背伸びすればちょうどいいくらいの身長差になるよね? これくらいかな……」プルプルプルプル...

ユミル「あああああああああっ!! 天使の背伸びいいいいいいいいいいいいいっ!!」バンバンバンバンバンバンバンバン

サシャ「ユミル静かにしてくださいねー。――じゃあ、巻いてみますね」シュルッ

クリスタ「はーい、いいよー」プルプルプルプル...

サシャ「……」クルクルクルクル...

ユミル「クリスタ、踵に私の手を入れてもいいか? 踏んでくれるか?」

クリスタ「踏まないよ」


サシャ「――はい、巻き終わりましたよー。あと、私が少し屈みますからクリスタは背伸びやめても大丈夫ですよ」

クリスタ「じゃあそうしようかな……ユミル、手をどけて?」

ユミル「踏んでいいぞ。できれば抉りこむように踵を下ろしてほしい」

クリスタ「ユミル?」

ユミル「……ちぇっ。わかったよ」スッ

クリスタ「ありがとう。……それでどう? カップル巻きした感想は」

サシャ「首の片っぽがすーすーします」

クリスタ「だよね」

サシャ「……」

クリスタ「……」

サシャ「これ、どこがいいんですかね……?」

ユミル「ふっ……それがカップル巻きの真髄よ」キリッ


ユミル「首の片側が寒いから、お互い暖まろうとして身を寄せあうだろ? つまり、自然と密着度が高まるってことだ」

サシャ「おんぶして前後で巻いたほうが効率いいですよねー」ヨイショット

クリスタ「ねー」マキマキ

ユミル「だからぁっ!カップル巻きは実用性とかねえの!! いちゃつきたいだけのただの言い訳なの!! わかったら今すぐサシャから降りて私とカップル巻きをしようクリスタ」キリッ

クリスタ「後でね、ユミル。――サシャ、降りるよー」

サシャ「ユミルってクリスタのためならなんでもしそうな勢いですよね。――落ちないように気をつけてくださいね、クリスタ」

クリスタ「よいしょっと。――うーん、いくらユミルでもなんでもはしないんじゃないかなぁ……ねえサシャ、ご飯食べたらこのマフラー巻いてちょっと散歩してきたらどう? 他の服との兼ね合いもあるだろうし」

サシャ「そうですね、このマフラーだけでもかなりあったかいですもんね……じゃあ、ちょっとでかけてくることにします」

クリスタ「うん。あまり遅くならないようにね」

ユミル「なあクリスタ、サシャのマフラーが終わったから次は私の手袋だよな? な?」クイクイ

クリスタ「はいはい。もう編み始めてるから大丈夫だよ。お祭りの前には完成するからね」


―― 夜 営庭隅 とある林の中

アニ「――とまあ、私が掴んだのはこれくらい。もう少し探りを入れてみるつもりだけどね」

ライナー「ここに来て、動きが目立つようになってきたな……素性はまだ割れそうにないか?」

アニ「なかなか尻尾を出さないから、もう少し時間がかかりそうかな。赤の他人が尾けてるなんてあっちは思ってないだろうけど、それにしては慎重すぎる。もしかしたらかなり上の人間が差し向けてるのかもしれないね」

ライナー「上……内地の人間か。気をつけろよ?」

アニ「心配しなくても、そう簡単にヘマしないよ」

ライナー「すまんな、お前にばかり危険なことをさせて」

アニ「でかい図体の二人が歩き回るほうが目立つからね。下手に動いて捕まって、私のことまで口を割られたら困るし。だから、これでいいよ」

ライナー「……死んでも仲間を売るような真似はしない」

アニ「そりゃありがたいね。――ちょっと早いけど今日はこれくらいでいいかな。そっちは用事があるんでしょ?」

ライナー「ああ。この後会議があるんだ」


アニ「祭の警備の打ち合わせだよね。……訓練兵にやらせることなんて、たかが知れてるだろうけど」

ライナー「そうだろうが、手を抜くわけにはいかないだろ?」

アニ「……あんた、本当に真面目だね」

ライナー「そりゃ兵士としては、与えられた仕事は全うしないとな」

アニ「ふぅん。……兵士、ね」

ライナー「……あー、悪い。忘れてるわけじゃないんだ」

アニ「言い訳しなくてもわかってるよ。……あんた切り替え下手くそだし、責任感強いからね。とことんやらないと気が済まないんでしょ」

ライナー「……返す言葉がないな」

アニ「だから言い訳はいいってば。でも、決める時にはちゃんと決めてよね」

ライナー「わかってるさ」


アニ「じゃあ、また何かあったら教えるから」クルッ

ライナー「送っていくか?」

アニ「いらないよ。早く会議行きな」スタスタ...

ライナー「……いや待った、アニ。お前ベルトルトと喧嘩でもしたのか?」

アニ「……」ピタッ

ライナー「やっぱりか」

アニ「……あいつが悪い」ムスッ

ライナー「そうなんだろうけどな、ベルトルトも反省してたから、そろそろ許してやれ」

アニ「……知らない。じゃあね」スタスタ...

ライナー「おい! ――ったく、あいつらも困ったもんだ」ハァ

ライナー(……おっと、モタモタしてる暇ないな。次は会議だ)スタスタ...


―― 一時間後 兵舎廊下

ライナー「いやー……、モメたなー……」フラフラ...

マルコ「うん、モメたねー……」フラフラ...

ライナー「警備なんて、どこでも変わんねえだろ……」

マルコ「ほら、こだわりがあるんだよ……屋台に近いとか、トイレに近いとか、あと……なんか色々近いとか」

ライナー「近いのか……そうだな、確かに近さは重要だな……」

マルコ「この調子で、当日うまくいくのかな……誰かに代わってほしいくらいだよ」ハァ

ライナー「……マルコが愚痴を言うなんて珍しいな」

マルコ「まあ、あのモメ具合を見ればね……」

ライナー「確かにな。……だが、他に班長になれそうな奴は誰かいるか?」


マルコ「そうだなぁ……僕はジャンを推そうかな」

ライナー「ジャンか? あいつは自分のことしか考えてないように見えるが……」

マルコ「ジャンはあの物言いと振る舞いだから誤解されやすいけどね。本当に自分勝手な奴なら誰も寄ってこないさ」

ライナー「……それもそうだな。すまん、適当なことを言った」

マルコ「ううん、いいんだ。こればっかりは近くで見てないとわからないからね。……僕だって、最初はジャンのことを空気の読めない正直者だって思ってたし」

ライナー「マルコ、お前……結構辛辣なこと言うな」

マルコ「それ“だけ”の奴じゃないってことを知ってるからね。――ライナーは、ジャンが誰かに立体機動を教えてるのを見たことある?」

ライナー「ああ、何度もあるぞ。……そうか、確かにただ単に立体機動が上手い“だけ”の奴なら、誰も聞きには来ないよな」

マルコ「うん、そうなんだよ。――最初は悪態吐いてるけど、教えてるうちに親身になってくれるんだよね。装置の整備まで見てやってるのも何度かあったな。……まあ、調子に乗って言わなくていいことまで言っちゃったりするんだけど」

ライナー「そこを直せばなぁ」ウーン...

マルコ「僕もそう思うけど、天は二物を与えずって言うからね」ウーン...


マルコ「とにかく……そんな風に弱い人の立場になって考えられるのが、ジャンの強みだと僕は思うな。それでいて、周りが今どんな状況に置かれてるのかを把握する能力も高いからさ」

マルコ「そういう人が指揮役に回ったら――いったいどうなるんだろうね?」

ライナー「……高く買ってるんだな」

マルコ「まあね。そうでもないと一緒にいたりしないよ。周りからのやっかみも、見てて気持ちがいいくらいスッパリ切っちゃうし……僕にはないところをたくさん持ってるからね。一緒にいて楽しいよ」

マルコ「……なんだか、悩み相談が友人自慢になっちゃったね。長々とごめん」

ライナー「いや、なかなか聞かない話で新鮮だった」

マルコ「そう言ってもらえると嬉しいよ。――ライナーは何か悩み事はない? 同室の人には話しにくいこともあるだろうし、なんなら僕が話を聞くよ?」

ライナー「悩みか……特に今はないな。大丈夫だ」

マルコ「そうか、ならいいんだけど。――じゃあ、僕はこの辺で。まだ掃除当番残ってるから」

ライナー「これからか? 大変そうだな、手伝おうか?」

マルコ「いいよいいよ。みんなの兄貴に、これ以上負担をかけるわけにはいかないからね。今日は早く寝てくれ」


―― 営庭 兵舎から男子寮に移動中

ライナー(……マルコにはああ答えたが、問題は山積みだ)

ライナー(ベルトルトの奴、こじらすと長いからな。そのうち話しておかないとな……それにアニの報告も気になる。一旦情報を整理し直しておいたほうがいいな)

ライナー(会議はほとんど進まないで終わっちまったな……それよりも、訓練兵に任せる仕事なんてたかが知れてると思ってたんだが、結構やること多いぞ……?)

ライナー(あー、頭痛ぇ……こんがらがってきた……)ズキズキ

ライナー(……いかんいかん。俺が弱音吐いてどうする)

ライナー(戦士としての任務と、兵士としての仕事が混ざらないようにうまく切り替えていかないとな……他の奴らの前で口を滑らせたらおしまいだ)

ライナー(今日はゆっくり寝てられないな。帰ったら今までの情報を全部まとめ直して、次回の班会議までに資料を整理して、それから――)ブツブツ



サシャ「――あれっ? こんな遅くに何してるんです?」


ライナー「……」

サシャ「……」

ライナー「……」ブンブン

サシャ「……?」ブンブン

ライナー「そうか、ついに幻覚と幻聴まで現れたか……」フッ

サシャ「失礼ですね。ちゃんと本物ですよ」

ライナー「……」ムニュー

サシャ「いはいれふ、らいなー」

ライナー「夢じゃなかったのか……!?」

サシャ「ゆめやないれふよぅ、もうっ!」ペシッ


サシャ「出会い頭にいきなり人のほっぺたつまむなんて……幻覚と人の区別がつかないくらい疲れてるんですか? 今まで何してたんです?」ヒリヒリ

ライナー「会議に出てたんだよ。……逆に聞くが、疲れてるように見えるか? 自分じゃわからないんだが」

サシャ「えーっと、そうですね……眉間に皺が寄ってます」ジーッ...

ライナー「どの辺だ?」

サシャ「ちょっと失礼しますね。……この辺、ですかね」ムニムニ

ライナー「指で触られただけじゃわからないな。どんな顔かちょっとやって見せてくれ」

サシャ「え? まあ、いいですけど……こんな感じですかね」ムー...

ライナー「……変な顔だな」プッ

サシャ「!! ちょっと、私は笑いものにされるためにやってみせたわけじゃないですよ!」プンスカ


ライナー「悪い悪い。――それで、お前はこんなところで何やってんだ? 髪も解いてるってことは風呂も入ったんだろ?」

サシャ「お風呂はこれからです。今は夜のお散歩中ですよ。消灯時間までまだ時間もありますからね」モフモフ

ライナー「……それ、もしかしてクリスタが編んでたマフラーか? よくできてるな」

サシャ「はい、今日の夕方にもらいました! 器用ですよねぇ、私ならこんなに長く細かく編めません」

ライナー「色は……黄色か。迷子になった時に遠くから見つけやすくていいな」

サシャ「……そんな簡単には迷子になりませんよ」ムスッ

ライナー「ははは、悪い悪い」ワッシャワッシャ

サシャ「わぁっ! ……ちょっとライナー、最近私の頭ぐしゃぐしゃにするのにハマってません?」

ライナー「お前の髪、手触りがよくてなぁ」

サシャ「……とうっ!」セノビ

ライナー「おっと。俺のはそう簡単に触らせん」ペシッ

サシャ「今に見てるといいですよ。そのうち撫でくり回してあげますから……!」ゴゴゴゴ...

ライナー「はっはっは、やれるもんならやってみろ……!」ゴゴゴゴ...


サシャ「……」

ライナー「……」

サシャ「……何やってんでしょうね、私たち」

ライナー「そうだな。――さて、そろそろ戻るか。風呂に入りそびれちまう」

サシャ「ですね。……じゃあおやすみなさい、ライナー」

ライナー「ああ。おやすみサシャ。あったかくして寝ろよ?」

サシャ「そこまで子どもじゃないですよーだっ」タタタッ



ライナー「……」

ライナー(……なんかスッキリしたな)

ライナー(さてと、寮に帰ってもう少し頑張るか)


―― 女子寮 ユミルたちの部屋

サシャ「ただいま戻りました!」ガチャッ バタンッ

クリスタ「おかえり、どうだった?」

サシャ「ばっちりあったかいです! 早速明日巻いていこうと思います」

クリスタ「明日お出かけするの? だったら私も一緒に行きたいなぁ……ずうっと編み物してたから、一息入れたいんだよね」

サシャ「どうぞどうぞ、一緒に出かけましょう! ユミルはどうします――って何泣いてるんですか」

ユミル「私は明日教官の手伝いがあるんだよ……」シクシクシクシク

サシャ「……それはお気の毒に」

ユミル「ズラせ」

サシャ「無理です。私一人で出かけるんじゃないんですから、勝手に決められませんよ」

クリスタ「そうなの? もしかしてデートだった?」


サシャ「いえ、明日はコニーとエレンの三人……っと、クリスタもいるので四人ですね。その四人で、川釣りに行くんです」

クリスタ「……川釣り」キラキラキラキラ

サシャ「はい! 楽しくておいしいですよー! みんなでお魚食べちゃいましょう!」

クリスタ「魚かぁ……楽しみだねぇ……」ウットリ

ユミル「……なあ、それライナーは行かないのか?」

サシャ「本当は誘いたかったんですけど……何やら疲れてるように見えたので、声はかけてないです」

ユミル「……ふーん」

サシャ(本当は、もうこういう機会はあまりないでしょうから、一緒に行きたかったんですけど……仕方ないですよね。無理されて倒れちゃっても困りますし)


―― 男子寮 エレンたちの部屋

コニー「おーっす、邪魔するぜー」ガチャッ バタンッ

アルミン「コニー? 僕たちの部屋に来るなんて珍しいね。今日はどうしたの?」

エレン「俺の客だよ。これからちょっと打ち合わせするから、うるさくなるかもしんねえ」

アルミン「僕はいいけど……」チラッ

ライナー「俺は資料を読んでるだけだから別に構わん。だが大声は出すなよ? 他の部屋に迷惑がかかるからな」ペラッ

コニー「おう、気をつける! ……ありゃ? そういやベルトルトはどこ行ったんだ?」

エレン「あそこ」



ベルトルト「……」ドヨーン...



アルミン「ベルトルトはクルマットルト・オフトーンになってるから気にしなくていいよ」

コニー「なんだそのネーミング」


アルミン「ところで、二人で何の相談? どこかに遊びに行くの?」

エレン「ああ。明日の午後に釣りに行くんだよ。アルミンも暇なら行こうぜ?」

アルミン「僕も行っていいの? ならお邪魔しようかな」

コニー「よっしゃ、じゃあ決まりな! 糸もちゃんと準備してくからなー」

エレン「糸はいいけどよ、明日は頼むぞ? コニー。大物じゃなくていいから、せめて一匹は食いてえし」

コニー「任せとけって。サシャもいるし空振りにはなんねえよ」



ライナー「サシャがなんだって!?」ガバッ!!

コニー「うぉっ!? なんだよ奇行種みてぇな走り方するなよライナー!」ビクッ!!


ライナー「いいからその話詳しく聞かせろ……どこに行くって?」ゴゴゴゴ...

エレン「こ、この前みんなで芋食った野原だよ……あの奥に川があるって俺言ったよな? なあアルミンそうだよな俺と一緒に見たよな!?」

アルミン「僕に振るの!? ええっと、そうだよ川があったよ! 魚もちゃんと泳いでたけど、この前は時間がなくて釣りがちっともできなかったからこういうことになったんだよねコニー!?」

コニー「おぅっ!? お、おおそうだよ、俺は芋食った次の日の対人格闘の時間に誘われた……けど……」ビクビク

ライナー「……ほう、誘われたのか」

コニー「あー、いや、俺が誘ったんだったかなぁ……? なあアルミンどっちだったっけ?」

アルミン「僕が知るわけないだろ!! ――それよりエレンはどうだったのさ、いつサシャとそんな話したの!?」

エレン「つ、ついこの前の、山岳訓練の時、だよ……ほら、俺とサシャで火の番してたからさ、その時にたまたま……」ビクビク

ライナー「……へーえ」

エレン(えええええええなんでライナーの奴キレてんだよ意味わかんねえ!!)ビクビク

アルミン(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)カタカタカタカタ

コニー(んん……? 俺が誘ったんだっけ……? サシャに誘われたんだっけ……??)


ライナー(男二人……いや、アルミンも入ったから三人か)

ライナー(さっき会った時、俺にはそんな話一言もしなかったぞ……? 黙って出かけるつもりだったのか、サシャの奴……)イライラ

ライナー「……」スクッ スタスタ...

アルミン「え? ライナー? 何? どこ行くの?」

ライナー「走ってくる」

アルミン「今から!? だってさっき会議から帰ってきてお風呂入ってきたばかりだよ!?」

ライナー「日課を忘れてたんだ。時間帯なんて関係ない。やらないと気がすまん」

アルミン「だめだって! 風邪でもひいたらどうするんだよ!」ガシッ

ライナー「ええいしがみつくなアルミン! 行かせてくれ!」ジタバタジタバタ

アルミン「ダメだってば! ええっと、ベルトルトは――」



ベルトルト「……zzz」スヤスヤ



アルミン「ダメだもう布団から出て逆立ちになってる! ――エレン、コニー! 一緒にライナーを止めてぇーっ!」グイグイ


―― 深夜 男子寮 エレンたちの部屋

ライナー「……」

ライナー(寝られん……)ギンギンギンギン

ライナー(ベルトルトと話す予定が、すっかりタイミング見失ったな……あの騒ぎでも起きないなんてな)ゴロン

ライナー(明日でかけるのは、コニーとエレンとアルミン……まあ、色気も何もない奴らだし、気にしなくても……いや違うぞ。あの三人にサシャの面倒が見れるかどうかが心配なだけだ。変な意味はない)ゴロゴロ

ライナー(そうだ、誘われなかった俺には関係ない。んなことより、次の班会議までにいろいろまとめておかないと……)ゴロゴロゴロゴロゴロ

ライナー(……俺に黙って、他の男子と遊びに行く気だったんだよな。サシャの奴)

ライナー「……」

ライナー(ダメだ、考えがまとまらん……便所にでも行ってくるか)ムクリ スタスタ...

ライナー「……」ガチャッ



ミカサ「」ビクッ


ライナー「……」

ミカサ「……お、おはよう」ギクシャク

ライナー「今は夜だ」

ミカサ「……どうしてまだ起きているの?」

ライナー「寝られなくてな。お前は何の用だ?」

ミカサ「寝顔ウォッチング in 男子寮。なので、そこを通してほしい」ニンニン

ライナー「……五分だけな。後は知らん」

ミカサ「協力に深く感謝する」スタスタ...


ライナー「お前、毎回律儀に扉から入ってきてたのか」

ミカサ「人様のおうちを訪問する時は扉から入る。これは世界の常識」

ライナー「非常識な奴に言われても説得力ないな」

ミカサ「何かを変えることができるのは何かを捨てることができる者」キリッ

ライナー「……もういいからさっさと済ませろ」

ミカサ「わかった。それでは失礼する」ゴソゴソ

ライナー「……」

ミカサ「……」ゴソゴソ

ライナー(便所……に行く前に色々引っ込んじまったな。やっぱりベッドに戻るか)

ミカサ「ライナー」

ライナー「なんだ。何かおかしいところでもあったのか?」

ミカサ「あった。――いつもならば今日は『明日は休みだ! わーい』という寝顔であるべきなのに、今回は『明日はお出かけ! わーい』という表情をしている。これはどういうこと? エレンは誰かとでかけるの?」


ライナー「ああ、それか。明日……じゃなくて今日だな。釣りに行くって言ってたぞ。サシャとコニーとアルミンの四人で」

ミカサ「……私に黙って?」

ライナー「ああ。俺に黙ってな」

ミカサ「そう。そうなの…………なるほど………………へえ………………………………」

ライナー「……」

ミカサ「貴重な情報をありがとう、ライナー。ちなみに昨日のサシャのパンツの色は白と青のストライプ。参考にしておいて」

ライナー「何の参考にすりゃいいのかわからんが有益な情報ではあるな。ありがたくメモっておこう」カキカキ

ミカサ「ギブアンドテイクッ!」パンッ!!

ライナー「……夜更かしするなよ、ミカサ」

ミカサ「お互い様。それでは、私は明日に備えてもう帰る。あなたも早く寝たほうがいい」

ライナー「そうしたいのは山々だが、どうも寝られないんだよなぁ……」ウーン...

ミカサ「なるほど……では、筋トレでもするといい。私はエレンのことを考えながらしているといつの間にか寝ている。考え事するには筋トレは便利」

ライナー「……そうだな、やるか」


―― 翌日朝 食堂

ベルトルト「え……じゃあライナー、一晩中筋トレしてたの……?」

ライナー「気がついたら朝だったんだよ……体もだりぃし、何より眠い……」ウツラウツラ

ベルトルト「君と同じ筋肉族のミカサの意見なんか聞いたらそうなるでしょ。……あれ? ちょっと待って、昨日のいつミカサに会ったの?」

ライナー「……眠れなくて、夜中に外を散歩してた時だな。偶然会った」

ベルトルト「ふぅん……まあいいけど、今日は休みだし寮で寝てたら?」

ライナー「……けどなぁ」

ベルトルト「今度は何の心配事だよ」



クリスタ「おはよう、ベルトルト! ライナー!」

サシャ「ご一緒してもいいですか? 今日はユミルがいないので、二人だけだと寂しくて」



ベルトルト「……」チラッ

ライナー「……」ソワソワ

ベルトルト「いいよ。一緒に食べようか」


クリスタ「ありがとう、じゃあ座るね! ……あれ? ライナー、なんだか目が虚ろだね」

サシャ「言われてみればそうですね。寝不足なんですか?」

ベルトルト「昨日の晩に筋トレしすぎちゃったんだって。それでこの顔」

クリスタ「そうなんだ……体を鍛えるのもいいけど、休める時にちゃんと休まないとダメだよ? 体調管理も兵士の仕事のうちなんだからね?」

サシャ「クリスタの言う通りですよ。今日は一日寝てたらどうですか?」

ライナー「……今日、どこか行くんだろ」

サシャ「はい。コニーとエレンと、あとクリスタも一緒に。川釣りなんですけど――」

ライナー「俺も行く」


ベルトルト「……」

クリスタ「……」

ベルトルト(……なるほどね。サシャと他の男子が一緒に出かけるのが嫌だってわけか。こっちはアニと気まずいってのに、お気楽だなぁ……)

クリスタ(ええっと、これは流石に止めたほうがいいよね……? ライナー、明らかに体調悪そうだもん)

サシャ「……ライナーも魚食べたいんですか?」

ライナー「! ……ああそうだ。食いたくてたまらん」

サシャ「わかりました。じゃあ一緒に行きましょうか」

クリスタ「……サシャ、いいの?」

ベルトルト「そうだよ、僕はついていけないよ? みんな小さいのに大丈夫? ライナーが倒れたら誰が担ぐの?」

サシャ「もし倒れたら私とエレンで連れて帰りますから大丈夫ですよ。――でも、本当に具合が悪そうに見えたらすぐ帰らせますからね? いいですか?」

ライナー「ああ、それでいい」


ベルトルト「……僕、もう行くね。ライナーはもう少しゆっくりしてから来なよ」ガタッ

ライナー「そうか? じゃあまた後でな、ベルトルト」

サシャ「また夜に会いましょうねー、ベルトルト」フリフリ

クリスタ「……」

ベルトルト「うん、じゃあね」スタスタ...

サシャ「ベルトルトって食べるの早かったんですねー。喫茶店でご一緒した時はそんな感じしませんでしたけど」

ライナー「あの時は色々味わってたんだろ。ここのメシは味わうって言うより詰め込むってほうが正しいからな。自然と食うのも早くなる」

クリスタ「……ごめん、二人とも。ちょっと私、用事を思い出したから行ってくるね。ここで待っててくれる?」ガタッ

サシャ「いいですよー。クリスタのご飯は帰ってくるまで私が死守します!」グッ

ライナー「任せとけ。サシャが食わないように見張っておく」

サシャ「たっ、食べませんよ! ……食べませんよ」

ライナー「二回言うところが怪しいよな」ニヤニヤ

サシャ「ううっ……」

クリスタ「大丈夫だよ、サシャはそんなことしないって私は信用してるから! ――じゃあ行ってくるね!」テクテク...


ライナー「クリスタは……ベルトルトに用事か?」ヒソヒソ

サシャ「おおっ、よくわかりましたね。――ベルトルトの元気がないので、できたら相談に乗ってあげたいって言ってました」ヒソヒソ

ライナー「元気がない、か……そんなにわかりやすかったか? あいつ」

サシャ「理由までお見通し、というわけにはいきませんが……ベルトルトは大きいですからね。いつもはそんなに目立ってませんけど、ちょっと変化があればわかりますよ」

ライナー「そうか? 俺が言うのもあれだが、影薄いだろ? ベルトルトの奴」

サシャ「私も、話してみる前は正直そういう印象でしたけど……いざ意識してみると結構存在感ありますよ。身長もありますしね。むしろ今まで気にならなかったのが不思議なくらいです。なんででしょうね?」

ライナー(……それは、そもそも影が薄くなるようにベルトルトが振る舞ってたからだな)

ライナー「さあな。俺にもわからん」


サシャ「親友のライナーにもわからないなら、私がわかるわけないですね……あっ、でもさっき、ベルトルトが私たちのこと気にかけてくれましたよね?」

ライナー「ああ、誰が俺を担いでくるのかって話か」

サシャ「本当はライナーのことを心配して言ったんでしょうけどね。そういうちょっとした気遣いが嬉しいですよね」

ライナー「……」

サシャ「それに最近、訓練で一緒の班になると少し雑談したりもするんですよ。今までは最低限のやりとりしかしてこなかったんですけどね。ベルトルトとも少し仲良くなれて、嬉しいです」

ライナー「……仲良くなれてよかったな」ムスッ

サシャ「はい。――ライナーのおかげですよ」

ライナー「……冷めるぞ。スープ」

サシャ「もう冷めてますよ」


―― 同刻 兵舎廊下

クリスタ(ベルトルトは……あっ、いた)

クリスタ「ベルトルト! 待って!」タッタッタッ...

ベルトルト(あーあ、ライナーに昨日のこと聞き忘れちゃったな……まあ、あの場じゃ話せないか)スタスタ...

クリスタ「もうっ、ベルトルト! 待ってってば!」ピョンピョン

ベルトルト(任務のことは忘れてないみたいだからいいけど、この調子じゃまた体調崩すんじゃないかな。だいたい――)

クリスタ「ベールートール――とぅっ!」ドンッ

ベルトルト「いたっ! ……え? 何? 誰??」サスサス

クリスタ「……」ヒリヒリ

ベルトルト「……クリスタ? 大丈夫? なんでしゃがみ込んで頭押さえてるの? 今何をしたの?」オロオロ


クリスタ「ベルトルト、足速い!」プンスカ

ベルトルト「え? ご、ごめん……」

ベルトルト(背中に頭突きされたのになんで怒られてるんだろ、僕……)

ベルトルト「それで、僕に何の用? クリスタ」

クリスタ「……元気注入?」

ベルトルト「僕に聞かれてもわからないよ……。それに、元気を分けるなら相手を間違ってない?」

クリスタ「間違ってないよ! 今日二人と一緒に食べようって思ったのは、ライナーよりもベルトルトのほうが気になったからだよ?」

ベルトルト「……僕のこと?」

クリスタ「この前の山岳訓練からずっと元気ないから気になってたの。――あっ、お節介だったらごめんね?」


ベルトルト「……だから、元気注入?」

クリスタ「うん。元気注入! ――ほら、男の子とか『気合いだー!』って言いながら背中叩き合ったりするでしょ? あれと同じ!」エッヘン

ベルトルト「ええっと………………どうも、ありがとう。気にかけてくれて」

クリスタ「こちらこそ。さっきのは、私たちのことを心配してくれたんだよね?」

ベルトルト「さっきの……? ああいや、僕はライナーのことを心配して――」

クリスタ「ありがとうね、ベルトルト!」ニコッ

ベルトルト「……どういたしまして」



ベルトルト(……ユミルがもてはやす気持ちが、ちょっとわかったかも)


―― 食後 兵舎から男子寮に移動中

ライナー(さてと、午前中のうちに少しでもやることやっておくか……ん?)

ユミル「……」ブチブチッ

ライナー(ユミルの奴、なんで雑草むしってるんだ? ……関わらないようにしよう)スタスタ...

ユミル「ライナー」

ライナー「」ビクッ

ユミル「お前、私を無視したろ。今」

ライナー「お、おおユミル。いたのかー。気づかなかったなー」ハッハッハ

ユミル「嘘が下手くそだな」

ライナー「……」イラッ


ライナー「……で、何の用だ? 俺も暇じゃないんだ。手短に頼む」

ユミル「私も忙しいからな、すぐ終わる。――今日はクリスタのことよろしく頼むな。どうせお前も行くんだろ」ブチブチッ

ライナー「よろしく頼むって……お前も来ればいいだろ?」

ユミル「それができないからここでこうしてるんだろうが……ちくしょうめ……」ブチブチブチブチ

ライナー「お、おい、あまり草をむしるなよ。ちょっと落ち着け。な?」

ユミル「ライナー……本当に頼むぞ? ほんっっっっっっっとに頼むぞ!?」ブチブチブチブチィッ!!

ライナー「わかった、わかったから! 顔怖いぞお前!!」


ユミル「……そろそろ時間だ。私は教官のところに行かなくちゃならない」ピタッ

ライナー「は? その草むしりが用事じゃなかったのか? どうすんだその草の山」

ユミル「片付けておいてくれ。じゃあな」スタスタ...

ライナー「片付けておけって……おい、ユミル!」

ライナー「……行っちまった」

ライナー(今のはなんだったんだ……? いや、それより……)チラッ

ライナー(やることが増えたな……仕方がない。ほうきで適当に掃いておくか)

ライナー(クリスタが来るなら、てっきりユミルも来ると思ったんだがな……今回は参加しないのか)

ライナー(ということは、面子は俺とエレンとコニーとアルミン、それにクリスタとサシャか……)

ライナー「……」

ライナー(不安だ……大丈夫か? この六人で)ズーン...


ライナー(せめてもう一人、女子の側にしっかりした奴がいればいいんだが――)



ミカサ「……」ドヤァ

ライナー「……」



ミカサ「ねえライナー。私ならあなたの悩みを解決できる。……違わない?」

ライナー「……はいはい、お前も行きたいんだな」

ミカサ「行きたい、という解釈は間違っている。――イェーガーあるところにアッカーマンあり。これは世界の常識」キリッ

ライナー「まあ、お前が他の奴らのストッパー役になってくれるなら、こちらとしても助かるんだが」

ミカサ「任せておいて。私は有能。とても有能」キリッ

ライナー「有能なのは知ってるんだけどなー、何故か知らんが不安が増したなー」

だめだー眠いので寝ます
続きは明日の午前中に投下します ほんとすみません

再開


―― 数時間後 女子寮 廊下

クリスタ「ねえ二人とも、川沿いが寒いのはわかるけど……マフラーにカーディガンって暑いんじゃない?」

ミカサ「うん、間違えた」モコモコ

サシャ「ですね」モコモコ

ミカサ「……でもお揃い」

サシャ「そうです! お揃いなんですよお揃い! このカーディガン、この前二人で街に出かけた時に揃えたんです!」エッヘン

クリスタ「お揃い……」ジッ...

ミカサ「……」ドヤァ

サシャ「……」フーッ

クリスタ「……私も着替えてくる!」ダッ

サシャ「はーい、待ってますねー」フリフリ


サシャ「……あの、ミカサ。クリスタを待ってる間に相談があるんですが」

ミカサ「ライナーのパンツの色は流石に把握していない」

サシャ「ぱっ……!? ち、違いますよ、そういうことじゃありません!」ブンブン

ミカサ「そう? ……早とちりしてごめんなさい。それで、何の相談?」

サシャ「えっとですね、手鏡がほしいんですけど、今度一緒に街で探してくれませんか? 食べ物屋は色々知ってるんですけど、そっち方面は髪ゴム買う店しか知らなくて……」

ミカサ「なるほど……デートの誘いなら喜んで行こう」ホクホク

サシャ「ライナーにはないしょですからね? こっそり買って、こっそり使いたいので」

ミカサ「いえ、ここは存分に自慢するべき。そして反応を楽しむべき」ニヤニヤ

サシャ「ミカサ、悪い笑顔になってますよー……?」

クリスタ「おまたせー! それじゃあ行こうか!」


―― 道中

コニー「お前らやけに準備が遅いと思ったら……なんかモコモコしてんぞ?」

クリスタ「ふっふっふ……それだけじゃないんだよ? ちょっと見ててね? ――ミカサ!」

ミカサ「わかった。――あーかー」ユラユラ

クリスタ「しーろー」ユラユラ

サシャ「きーいーろー」ユラユラ

クリスタ「なーんちゃって」エヘヘ

エレン「……ああそっか、チューリップの歌だな?」

コニー「おおっ!? すげえや、これ計算してたのか!?」

クリスタ「まあねー♪」エッヘン

アルミン(かわいい……)キュンッ...

エレン「女子って誰かと何かを揃えるの好きだよなー」

コニー「そうだなー。言われて見りゃあ、サニー……妹もそうだった気がすんな」

サシャ「……」チラッ


ライナー(結婚しよ)ボーッ...

サシャ「ライナー? 大丈夫ですか? 目の焦点合ってませんけど」

ライナー「……なんでもない。そっちの荷物持つか?」

サシャ「これくらい平気ですよ。それよりも、体力は温存しておいてくださいね? 釣りって結構走り回りますから。そういえばライナーは釣りってやったことあります? エレンたちはあるみたいですけど」

ライナー「釣りはやったことないが、小さい頃に手掴みで捕まえたことなら何度かあるな。小魚だったが」

サシャ「あはは、そういうところは男の子ですね。私は逆に道具を使って捕まえたことしかないんですよね。……あっ、でもコニーなら両方やったことありそうですね」

ライナー「……」ピクッ

サシャ「今日は私とコニーでみんなが食べられる分は確保するつもりですけど、時間帯もあまりよくないですし、釣りって時の運も関係してきますからね。空振りにならなきゃいいんですが……」ブツブツ


ライナー「お前、コニーと仲いいよな」

サシャ「まあ、なんだかんだで話が合いますからね。一緒にいると楽しいですよ」

ライナー「……ほう」イラッ

サシャ(……コニーといるのは楽しいですけど、ライナーといる時は楽しいだけじゃなくて幸せなんですよ?)

サシャ(……なーんて、言えたら楽なんですけどね)チラッ

ライナー「……」ムスッ

サシャ(……あれっ?)

サシャ「ライナー、なんか怒ってません?」

ライナー「……別に」

サシャ「?」キョトン


―― 午後 川原

エレン「到着! ――どうだ、結構広いだろ?」

ライナー「おお……こんなところがあったんだな」

クリスタ「でも、葉っぱが大分散っちゃったからさみしいな。この前来た時は綺麗な色だったのに……」

アルミン「そっか、そろそろ冬だもんね」

ミカサ「……」チラッ



サシャ「コニー、糸は持ってきました?」テキパキ

コニー「あたぼうよ。ナイフもあるぞ」テキパキ

サシャ「罠も張っておきますか? 何もやらないよりマシですよね」

コニー「そうだな。時間帯が微妙だけど捨てバリ仕掛けとくか」

サシャ「あー、でも針ないですよね。枝を削って作りますか? なんなら探してきますけど」

コニー「そうだな、その辺はお前に任せるわ」

サシャ「じゃあ、私とミカサとエレンでちょうどいい枝を探してきますから。コニーは他のみんなと餌を探しておいてください」

コニー「おう、よろしく」


サシャ「さあ、エレンにミカサ! 枝を探しに行きましょう!」スタスタ...

エレン「へ? おっ、おう! ――駆逐してやる……! 一匹残らず!」ギリッ...

ミカサ「エレン、駆逐したら食べられない」スタスタ...



ライナー「……あっという間だったな」

クリスタ「そうだね。コニーもサシャも、二人とも手際がいいんだねぇ」

コニー「モタモタしてらんねえからな。――ほら、お前らもぼさっと突っ立ってないで手伝えよ」

アルミン「コニー、今の時期はパイクが釣れるって本当?」パラパラ

コニー「運さえよけりゃなんだって釣れるよ。今は荒食いの時期だからな」

ライナー「? アルミン、何を読んでるんだ?」

アルミン「『世界の魚~その系譜と歴史~』だよ」パラパラ...

ライナー「……どうしてそんないろんな意味で重苦しい本を持ってきたんだ」

アルミン「役に立つかなぁって思って」エヘヘ


クリスタ「ねえねえコニー、餌はどうするの? パンとかつけるの?」

コニー「んなわけねえだろ。魚に食わせるぐらいなら自分で食うって」

クリスタ「……? じゃあどうやって魚を釣るの?」

コニー「その辺の石の下にいる虫を使うんだよ。――よっと」ゴロン

クリスタ「」

コニー「うーん、あんまりいねえなぁ」ホジホジ

クリスタ「むっ……むっ、むむむ、虫っ……虫がいっぱい……びっしり……」ガタガタガタガタ

コニー「よっしゃクリスタ、その辺に落ちてる枯れ枝使って地面掘れ」ホジホジ

クリスタ「じ、地面? 地面を掘ってどうするの? 何をするの? 埋めるの?」オロオロ

コニー「ミミズをほじくり出す」ホジホジ

クリスタ「……みみず」

コニー「どうせなら鮭食いてえし太いほうがいいよなー。……? どうしたクリスタ。早く掘れって」ホジホジ

クリスタ「――あのね、生き物の命をみだりに奪っちゃいけないと思うの」キリッ

コニー「何しにきたんだお前」


―― 十分後

サシャ「ただいま帰りましたよー。そっちはどうです?」タタタッ...

コニー「あんまりいねえな、虫。今はミミズ探してるところ」ホジホジ

サシャ「そうですか、なら私も手伝います」ホジホジ

クリスタ「ね、ねえ……虫を使わないとダメ? その辺の木の実で代用できないかな……?」

サシャ「試したことはないのでわかりませんけど、たぶん食いつかないと思いますよー? ……あ、いた」ホジホジ

コニー「まあ、どうしても嫌だってんならススキで代用もできるぜ。食いついた後が大変だけど」ブチッ

アルミン「ススキを使うの? ――何それニンジャっぽい……///」ポッ

エレン「え? そこときめくところか?」

アルミン「ニンジャはね、必要に迫られればどんなものだって利用するんだ。とにかく身の回りにあるものを敵に投げつけたりね。これを乱定剣って言うんだけど――」ペラペラペラペラ

ミカサ「アルミン、アルミン。話はそこまでにしよう。日が暮れてしまう」

アルミン「――つまりなんでも身の回りにあるもので削ごうとするミカサは生粋のニンジャとも言えるのさ!」ドヤァ

ミカサ「……ほ、褒めてもだめ。話はそこまで」

サシャ(あ、満更でもなさそうな顔してますね)


コニー「――ほい、釣り竿できたから持ってっていいぞー。餌は自分で付けろよな」ポイッ

ライナー「おお、意外としっかりしてるんだな」ブンブン

サシャ「糸が頼りないのでせめて枝だけでもと思って、しっかりしたのを選んできましたからね! ――さあ、みんなでガンガン釣りましょう!」

エレン「よっしゃ、じゃあ誰が一番多く魚を釣れるか勝負するか?」シュッシュッ

ミカサ「私は身体を支配できる……ので、魚を釣ることなどたやすい」フフン

アルミン「僕も予習復習はばっちりだからね! そう簡単には負けないよ!」フフン

クリスタ「こ、コニー……私、やっぱりススキで釣るよ……」ガタガタガタガタ

コニー「大丈夫大丈夫。そのうち慣れるって」ニョロニョロ

クリスタ「ひぃっ!?」ビクッ!!

ライナー「おいおい、無理強いはするなよ?」

コニー「んなこと言ってたらいつまで経ってもできないだろー? ――よし決めた。俺がクリスタを“ミミズを見たら頬染める系女子”にしてやるよ」ニシシ

クリスタ「」


―― 三十分後

アルミン「……釣れないね」

ミカサ「……なぜ」

アルミン「僕たち、魚に嫌われちゃったのかな……」

ミカサ「あっちはあんなに大盛況なのに」チラッ



クリスタ「!? こっ、コニー! また来たあああああああっ!」プルプルプルプル

コニー「そろそろ慣れろよクリスタ。引け引け」

クリスタ「どっち!? どっちに!?」アタフタアタフタ

コニー「え? あー……手前? いや後ろか??」

クリスタ「どっちなの!?」


エレン「おっ……きたきた!」グイッ

サシャ「エレン、調子いいですねー。これで三匹目ですか?」

エレン「ああ! ……でもちっちゃいな。俺の」チマッ

サシャ「あーそれは川に返したほうがいいですね」

エレン「えー、またかよ……これで三連続だぞ?」

サシャ「運がいいのか悪いのかわかりませんねー。――よいしょっと」ヒョイッ

エレン「……でっけえな。サシャの」ジトッ...

サシャ「鮎としては小さいほうですよ、これでも」


ライナー(眠いな……)ウツラウツラ

サシャ「ライナー、どうです? 釣れました?」

ライナー「さっぱりだな。引く気配すらない」

サシャ「もしかしたら餌食べられちゃったのかもしれませんね。ちょっと持ち上げてみてくれます?」

ライナー「……」ヒョイ

サシャ「あらら……針ごと持ってかれちゃいましたね。新しいのつけましょっか」ゴソゴソ

ライナー「……」ウツラウツラ

サシャ「ライナー、顔色悪いですよ? 眠いなら先に帰ってます?」

ライナー「いや、平気だ」ブンブン

サシャ「……そうですか」

サシャ(うそつき……眠いの我慢して、無理しちゃってるのバレバレですよ)ムー...


―― 二時間後

エレン「結構釣れたなー。……と言ってもほとんどサシャとコニーが釣った魚だけど」

アルミン「僕たち全然だめだったのにね」

コニー「まあ、大きさはまちまちだけど一人一匹渡るから充分だろ」

アルミン「ということは七匹か……結局どっちが多く釣ったの?」

コニー「お互い三匹だよ。残り一匹はクリスタな」

アルミン「クリスタが?」

コニー「クリスタは今日かなりツイてたよなー。ビビって逃がしまくってたのがもったいなかったけど」

エレン「……俺だって小さいのは釣ったし。数だけだったら多かったし」イジイジ

アルミン「うんうん、エレンも頑張ってたねー」ナデナデ

クリスタ「ねえ……そのまま焼くの? そのお魚」

コニー「ん? そうだな、夏だったら雑草で包み焼きとか色々できるけどな。今は時間もねえし、枝に刺してがっつり焼くくらいしかできねえよ」

クリスタ「そうじゃなくて、その……」

アルミン「……? クリスタ、言いたいことがあるならちゃんと言ったほうがいいよ?」

コニー「そうだぞー、俺馬鹿なんだからちゃんと言わねえとわかんねえよ」


クリスタ「じゃあ言うけど――お腹の中に、その、さっき食べた餌が……入ってるんだよね?」モジモジ

アルミン「……あー、そっか、そうだね」

エレン「まあ……入ってるよな」

コニー「腹の中……? ああ、ハラワタのことか? 川魚はよくねえ虫が多いからな、ちゃんと取ってしっかり焼くぞ」

クリスタ「あっ、そうなの……? そっか、ちゃんと取るんだね、よかったぁ」ホッ

コニー「クリスタ、暇なら手伝えよ。ハラワタの取り方教えてやっからさ」

クリスタ「うん、手伝う手伝う。どうやってやるの?」

コニー「坪抜きって言うんだけどな。――まずはこう、口の中に棒を二本突っ込むだろ?」グサグサッ

クリスタ「」

コニー「そしてこの二本の棒をしっかりと掴んで回転させる」グッ

クリスタ「やめてやめてやめてやめてコニーのばかぁっ!! 変態!!」

コニー「はぁ!? 人が親切に教えてやってんのに変態はねえだろ変態は!」

アルミン「馬鹿はいいの?」


エレン「……で、そっちは何やってんだ?」ノゾキコミ

サシャ「パァン作りでーす」マゼマゼ

ミカサ「右に同じく」マゼマゼ

ライナー「こっちの瓶は何に使うんだ? 一緒に混ぜなくていいのか?」ヒョイ

サシャ「その瓶はできあがった後に使いますよ、お楽しみに。――ミカサ、それくらいでいいですよ。あとは適当に生地を分けちゃって、細長ーくして枝に巻き付けてください」

ミカサ「木の枝に直接?」

サシャ「泥がついてなければ大丈夫ですよ。一応表面はあぶっときますけど。そうそう、先っちょが燃えやすいのでしっかり巻きつけてくださいねー」マキマキ

ミカサ「合点承知の助」マキマキ

アルミン「自然のものを利用するって、なんかニンジャ食っぽいね……!」キラキラキラキラ

エレン「どんだけニンジャになりたいんだよ。アルミン」


ミカサ「サシャ、巻けた。これでいい?」

サシャ「はい、大丈夫ですよ。あとは火の上でクルクル回してあぶって完成です!」

ミカサ「……ふむ」クルクル

サシャ「……」クルクル

ミカサ「……」クルクル

エレン「なんか楽しそうだな。俺もやりたい」ウズウズ

アルミン「うん、僕もやってみたいな」

ライナー「俺もやるかな。まだ枝はあるんだろ?」

サシャ「一人一本で七人分ですからねー、まだありますよ。手伝ってもらえるなら助かります」

エレン「よーし、任せとけ!」


ミカサ「ところでなんで棒を回すの? この行為に意味はあるの?」クルクル

サシャ「ありますよー。そのままあぶってるだけだと焦げちゃいますし、万遍なく焼けませんからね。――エレン、火に近すぎです。もう少し離してください。ライナーは回す速度が速すぎですから少し緩めてください」クルクル

エレン「お、おう、火から離すんだな……?」クルクル

ライナー「ぎこちないぞ、エレン」クルクル

エレン「むしろなんでみんなそんなスムーズに回せるんだよ、結構難しいぞこれ」クルクル

アルミン(……ん? 何か忘れてる気がする……)クルクル

コニー「なんだよお前ら。楽しそうだな」ヒョコッ

サシャ「コニー、そっちはどうです? 終わりました?」

コニー「今クリスタがケタケタ笑いながら血まみれになってハラワタ取り除いてる」

アルミン「わーお」

ライナー「おい大丈夫なのかそれ」


サシャ「――はい、最初の一個目できました! 誰が最初に食べます?」

アルミン「そりゃあ……」チラッ

ミカサ「考えるまでもない」チラッ

ライナー「……俺は最後でいいぞ。先にお前らが食え」

コニー「なんだよ、誰も食わねえんなら俺がもらうぞ?」ヒョイ

サシャ「あっ、待ってくださいコニー、そのまま掴んだら――」



コニー「ぁあっちぃっ!?」アタフタアタフタ



サシャ「あーあ……だから言ったのに……」

アルミン「まあ、直火であぶってるわけだしそうなるよね」


クリスタ「コニー、ハラワタ抜き終わったよー。次は何するの?」テクテク...

コニー「……サシャ、お前は魚最後だからな。しかもちっさいの」

サシャ「ええっ!? 今のはコニーの自爆じゃないですか!!」

コニー「うるせえよ熱いなら最初に言えっての!! ――クリスタ、後は俺がやっとくから休憩していいぞ。あと顔についてる血は拭いとけ」スタスタ...

クリスタ「はーい。ところで、みんなで何作ってるの?」フキフキ

ミカサ「三時のおやつ。……はい、二つできたから片方はクリスタにあげよう。熱いので気をつけて」スッ

クリスタ「わあっ、ありがとうミカサ! じゃあいただきまーす!」

ミカサ「……うん。カリモフしている」モグモグ

クリスタ「焼きたてのパンなんて滅多に食べられないもんね。おいしい!」モグモグ



エレン「……なあ、俺の焦げて煙が出てきたんだけど」

ライナー「俺のは焼き色がつかないんだが」

サシャ「だから、エレンは火に近すぎるんですってば。ライナーは回すのまだ速いです」


アルミン「……焦げちゃった」ションボリ

サシャ「それくらいなら全然平気ですよ。むしろちょっと焦げたほうがいいんですよねー……むふふ」モグモグ

エレン「んー……正直に言えば、ちょっと味が物足りねえかなぁ、俺は」モグモグ

サシャ「普通のパンよりどうしても風味は劣りますからね。――というわけでそういう時はこれ! はちみつです!」パンパカパーン

ライナー「さっきの瓶か? 用意がいいんだな」

サシャ「こうなるのを見越してアニから分けてもらったんですよ! ……有料ですけど」

クリスタ「えっ? 有料って……もしかして、アニははちみつやさんだったの?」

エレン「なんだって……!? あいつ、クールな顔して部屋ではちみつ舐めてたのか……!!」

ミカサ「いえ、そんな光景は見たことがない。……もしかすると、ベッドの上で布団を被ってペロペロしていたのかもしれないけれど」

エレン「マジかよ……布団に零したら洗濯が大変じゃねえか!」

アルミン「いや、待ってくれ……部屋にアリが入り込むほうが大変だよ……!」

ライナー「お前ら思い込み激しいな」


コニー「おーい、魚焼けたぞー」ブンブン

エレン「おおっ! 待ってました!」

コニー「ほい、この中から好きなの選んでくれ。クリスタはこっちな」

クリスタ「え? 私、こんな大きいのじゃなくてもいいよ?」

コニー「いや、これはお前のだよ。自分で釣って自分でハラワタ抜いたんだからな。遠慮なく食え」

クリスタ「……うん、わかった」



サシャ「……」チマッ

ライナー「なあ、俺のと交換するか? サシャ」

サシャ「いいです、我慢します……ライナーが大きいの食べてください……」モソモソ

ライナー「……」

ライナー(どう見ても物足りなさそうだが、断られたら何もできないな……)ウーン...

サシャ「……コニーにはあとで復讐します」ボソッ

ライナー「!?」


エレン「……」ジーッ

ミカサ「エレン、どうしたの? 早く食べないと冷めてしまう。もったいない」

エレン「……なあ、魚にはちみつかけたらどうなると思う?」

アルミン「実に興味深い話だね。詳しく聞こうか」ズイッ

ミカサ「全くもう……エレンとアルミンは昔からそう。混ぜたら危険なものばかり混ぜたがる。どうしていつもそうなの?」

エレン「わかってねえな、ミカサ。……どうしてだって?」

アルミン「ああ、そんなの……決まってるだろ?」

エレン「俺が!! この世に生まれたからだ!!」

アルミン「そしてっ! 僕たちはみんな生まれた時から自由なんだ!!」

ミカサ「またそうやって誤魔化す……」ハァ

エレン「というわけでサシャ。よかったらはちみつ少し分けてくれ」

サシャ「分けてもいいですけど、本当にやるんですか? 味の保証はしませんからね? 自己責任ですよ?」

エレン「ああ、誓ってお前のせいにはしねえよ。……というわけでもらうぞ」


エレン「……よし、準備はできたぞ」ドロッ...

アルミン「こっちもだよ、エレン」ドロッ...

ライナー「お前らやめておくなら今のうちだぞ? 絶対まずいだろそれ」

エレン「おいおい、何言ってるんだよライナー……お前もこっち側の人間だろ?」

ライナー「……何?」ピクッ

エレン「いくら不利な状況でも逃げてはいけない時がある。――それを教えてくれたのはライナー、お前だろ……?」

アルミン「そうだよ。男には……引けない時がある! 今がそうだ!」

ライナー「!! ――そうか……そうだったな、俺がお前にそう言ったんだった……」

エレン「ライナー……やるんだな!? 今……! ここで!」

ライナー「ああ!! 勝負は今、ここで決める!!」

アルミン「はーいじゃあはちみつ入りまーす」ドロッ


サシャ「あーあ、ライナーにもなんか変なスイッチ入っちゃいましたねー」モグモグ

ミカサ「止めないの? サシャ」

サシャ「あの三人を止める術を私は持ってません」モグモグ

ミカサ「なるほど。……コニーは参加しないの?」

コニー「俺はおいしくいただきたいからやらねえ」モグモグ

クリスタ「ねえねえコニー、魚って骨も食べられる?」クイクイ

コニー「かじって無理そうならやめとけ」

クリスタ「わかったー」バリボリバリボリ

ミカサ「……コニー、クリスタに何を教え込んだの?」

コニー「んあ? 大したことはしてねえよ?」モグモグ

サシャ「……今のクリスタをユミルが知ったら怒り狂いそうですね」

ミカサ「いえ、逆に天使の開眼と言って喜ぶかもしれない」


ライナー「全員注目!!」バンッ!!

コニー「なんか始まったぞ」

アルミン「調査兵団とは……変革を求める人間の集団だ」

サシャ「やめときましょうよーまだ私たち訓練兵じゃないですかー」

エレン「俺は――いや、俺たちは偉大なる一歩を切り開く!」

ミカサ「あまり必要な一歩じゃないと思う」

クリスタ「そのまま食べたほうがおいしいのにねえ」バリボリバリボリ



エレン・アルミン・ライナー「それじゃあ――いただきます!!」



  ――   ガブッ!!


―― しばらく後 川原

ライナー「……」

サシャ「どうぞ、お水です」スッ

ライナー「……あの二人は?」

サシャ「エレンとアルミンはミカサたちが看てますよ。ライナーが一番重症でしたし、移動させられませんでしたから……あの二人は少し離れたところに移動してもらってます」

ライナー「……そうか」

サシャ「背中擦りましょうか?」

ライナー「少し休めば収まる。大丈夫だ」

サシャ「そうですか。……それにしても、ライナーもああいうことするんですね。驚きました」

ライナー「意外だったか?」


サシャ「はい。てっきり二人を止めるんだと思ってたんですけど、一緒になって騒いでるんですもん。なんだか新鮮でしたよ?」

ライナー「そう……だな。柄じゃないよな、こういうのは」

サシャ「止めなかった私も悪いですけど……でも、何故か止める気にならなかったんですよね。なんででしょうかね……?」ウーン...

ライナー「……なあサシャ。ちょっと一人にしてくれないか?」

サシャ「えっ? でも……」

ライナー「頼む」

サシャ「……わかりました。後でまた様子を見に来ますね?」

ライナー「ああ、後でな」


ライナー(今日は……何をしに来たんだろうな、俺は)

ライナー(やらなきゃいけないことがいくつもある、考えることも山積みだ)

ライナー(それなのに、私情でやるべきことを放り出して、あいつらと一緒になって騒いで……そもそも、ここに俺が混ざっていいわけないのにな)

ライナー(……このままじゃだめだ。やっぱり、今のうちにベルトルトが言うとおり、突き放しちまったほうがいい)

ライナー(「俺に構うな」って言えば、きっと少し悲しそうな顔して、それをこらえて……「わかりました」って言って従うだろうな)

ライナー(……ああ、もう簡単に想像できるくらいになっちまった)

ライナー(わかってるんだ。本気であいつの幸せを考えるなら、俺が身を引くべきだ。ここに……一緒に来るべきじゃなかった)

ライナー(あいつが幸せになれるなら、それでいいよな……)



ライナー(………………眠い……)


コニー「……」ジーッ...

サシャ「どうです?」

コニー「……寝てら」

サシャ「ですよね。やっぱり」

アルミン「このまま寝てると風邪引くよね。起こそうか?」

サシャ「あの……このままにしておくのはだめでしょうか。せっかく寝てるので起こしたくないんです」

ミカサ「でも、このままだと身体が冷えてしまう」

サシャ「私の上着をかけておきますから大丈夫ですよ。――ねえクリスタ。ライナーにマフラーを貸してあげてもいいですか?」

クリスタ「それは私がサシャにあげたものだよ。だから、サシャの好きに使って?」

サシャ「じゃあ、ありがたく使わせてもらいますね」マキマキ


コニー「ぷっ……さ、サシャ、お前もっと上手に巻けって……っくく、はははは」

エレン「おいこらコニー、わらっ、笑うなって……ははっ」

サシャ「えー……? ちゃんと巻いてるつもりなんですけど」

ミカサ「まるでマフラーに埋もれてるみたい」

クリスタ「そうだね。ちょっと変かも」クスクス

サシャ「うーん……どこがおかしいんでしょう……?」ムムム

エレン「さてと。……じゃあ、静かに片付けしようぜ。できるよな? みんな」

ミカサ「お安いご用」ニンニン

アルミン「お茶の子さいさい」ニンニン

クリスタ「合点承知!」

コニー「うーん…………焼き肉定食」キリッ

サシャ「コニー、四字熟語っぽいものを言えばいいわけじゃないと思いますよ」


―― 夕方 川原

コニー「よし、火の始末も完璧だな」

ミカサ「さすが天才」パチパチ

アルミン「コニーは頼りになるなぁ」パチパチ

コニー「まあな」キリッ

クリスタ「本当に先に帰ってていいの? サシャ」

サシャ「はい。間に合わなくなりそうだったらちゃんと起こしますから」

エレン「目が覚めそうになかったら頭叩くといいぞ。ライナーは大抵それで起きるからな」

サシャ「……それ、どんな人も起きると思うんですが」

クリスタ「じゃあサシャ、頑張ってねー」フリフリ

サシャ「はーい、みなさんもお気をつけて。コニー、森の外まで頼みましたよ?」

コニー「おうっ! 天才の俺に任せとけ!」

ミカサ「コニー、静かに」シーッ

コニー「……悪い」


サシャ「……」

サシャ(よし。みなさん行っちゃいましたね)

サシャ「……隣、失礼しますね」ポスッ

サシャ(よくもまあ、座ったまま眠れますね……それだけ疲れてたってことなんでしょうけど)

ライナー「……zzz」グラッ

サシャ「っ!?」ガシッ

サシャ(よ、寄りかかられると重いです……! くぅ……っ!)ギギギギギ

サシャ(よいしょっと……膝枕にしちゃいましたけど、よかったんですかね)

サシャ(……結構べたべた触ったのに、全然起きませんね。本当は起きてたり……は、なさそうですね)ノゾキコミ


サシャ(……ということは、今は何やってもバレませんよね)

サシャ(…………つまり、頭を触ってもわかりませんよね)

サシャ(『そう簡単には触らせない』……そう言ってましたが、私もまさかこんなに早くチャンスが巡ってくると思いませんでした)

サシャ(ふっふっふ……では、失礼します!)サワッ

サシャ(……おおー)サワサワ ナデナデ

サシャ(コニーの頭とも違いますし、何とも言えない感触ですね、これは……)サワサワ

サシャ「……」サワサワ

サシャ(止めどきが見つかりません……どうしましょう……)

サシャ(どうせだからやれること全部やっときましょうかね。こんな機会滅多にないですし)


サシャ(……寝顔、見ちゃいますかね)

サシャ(夏にお見舞いに行った時は時間もあまりありませんでしたし、この前の山岳訓練の時はエレンと話し込んじゃって無理でしたけど……誰もいないし、いいですよね?)

サシャ(よーし、しっかり焼き付けておきましょう……)ジーッ...

サシャ「……」

サシャ「……///」カァッ...

サシャ(ちっ……近い近い近い近い!! よく考えたらこれってほぼゼロ距離じゃないですか!!)

サシャ(や、やっぱり無理です、恥ずかしくてみてられません……無防備すぎますし……)

サシャ(……寝顔だけで満足できるなんて、私もユミルのこと笑ってられませんね)


サシャ(仕方がないですね……チラ見だけにしておきますか)チラッチラッ

サシャ(でも、なかなか貴重な光景ではありますよね……口が半開きのライナーなんて滅多に見られませんよ)ニヤニヤ

サシャ(まゆげ……も触ってみたいですけど、たぶん起きちゃいますよね、目に近いですし)

サシャ(……あ、涎垂れそう)

サシャ(えーっと、ハンカチハンカチ……)フキフキ

サシャ(……なるほど、こういう心境になるわけですか。いつまでも子ども扱いされるわけですね)

サシャ(でも、こうして世話焼くのって楽しいですね。いつもは私が焼かれてばっかりですし、たまにはいいですよね)ニヘラ

サシャ(そもそもライナーは私のこと子ども扱いしすぎなんですよ。年だって一つしか違わないのに大人ぶっちゃって、ずるいですよ)ムー...

サシャ(……そういえば、ライナーの誕生日っていつなんでしょう? 聞いたことないですけど、意外と近かったりして)

サシャ(一日でも私のほうが早かったら、同い年の期間が少しあるってことですよね)

サシャ(……同じ年)


サシャ「……」

サシャ(さっきエレンやアルミンとはしゃいでる時に、止める気にならなかったのは)

サシャ(……あれがライナーの素の表情なのかもしれないって、思ったからで)

サシャ(いつも一歩退いて、みんなのこと見てくれて……そのことを、今まで深く考えたりしませんでしたけど)

サシャ(本当は、さっきみたいに……もっと一緒に遊びたいんじゃないでしょうか)

サシャ(お父さんとかお兄ちゃんとか散々言ってきましたけど……こうして見ると、寝顔はちゃんと十七歳の男の子……ですもんね)





サシャ(一人の男の子で………………私の、好きな人)



   ―― ざーっ……


ライナー(雨、じゃないな……何の音だ……?)

ライナー(川…………釣り………………!?)

ライナー(――やべえ、寝ちまった!!)ガバッ!!


   ―― がつんっ!!


ライナー「ぐおっ!?」

サシャ「ふぐぁっ!?」

ライナー「いってえぇぇぇ……! サシャ、お前、頭固すぎるぞ……」ヒリヒリ

サシャ「そ、そんなわけないじゃないですか……教官はいつも脳なしって私のこと言いますもん……うぐぐぐぐ……」ヒリヒリ


ライナー「……すまん、大丈夫か? 思いっきり頭突きしちまったが」

サシャ「はい、平気です…………きっとバチがあたったんでしょう」ボソッ

ライナー「バチ? 何の話だ?」

サシャ「なんでもないですよ。……それより、よく眠れましたか?」

ライナー「どうも爆睡してたみたいだな。体中痛ぇ……」ギシギシ

サシャ「相当深く寝てたみたいですね。まあ、口から涎垂らしてるくらいでしたし」

ライナー「な……っ!? う、嘘だろ!?」フキフキゴシゴシ

サシャ「もう拭いちゃいました」

ライナー「……迷惑かけた」

サシャ「いえいえ。――いつもは私がかけてるので、これでおあいこですね」


ライナー「この上着とマフラーは……お前のだよな。寒かっただろ?」

サシャ「平気ですよ。こう見えて私、寒さには強いんですよ? 夏生まれなんですけどね」

ライナー「奇遇だな。俺も夏生まれだ」

サシャ「そうなんですか? 私は7月26日なんですけど、ライナーはいつですか?」

ライナー「8月1日だ。結構近いな」

サシャ「ということは、一つ違いですから……同い年の日が6日間はあるってことですよね?」

ライナー「そうだな。そういうことになる」

サシャ「同い年……」

ライナー「……? なんだその顔」

サシャ「いえ、なんでもないです。……今年はもう過ぎちゃったのが残念ですね。お祝いしたかったです」

ライナー(お祝いしたかったって顔には見えないんだが……まあいいか)


ライナー「そういえば、エレンたちはどうした? 姿が見えないが」キョロキョロ

サシャ「先に帰らせましたよ。ライナーがいつ起きるかわかりませんでしたからね」

ライナー「なら、俺たちも戻ろう。あいつらにも迷惑かけたし、謝らないとな」スクッ

サシャ「えっ……帰っちゃうんですか? もう?」

ライナー「なんだ? まだ何かやり残したことがあるのか?」

サシャ「あの、もうちょっとだけお話ししません? ……少しでいいんです」

ライナー「悪いがそんな暇はない。……わがまま言ってないで行くぞ。暗くなっちまう」スタスタ...

サシャ「――私と一緒にいるの、そんなに嫌ですか?」

ライナー「……」ピタッ

サシャ「すみません、いじわるな言い方しました」

ライナー「……あのなぁ、サシャ」

サシャ「本当に、ほんのちょっとでいいんです。嫌になったら途中で帰っていいですから、お願いします」

ライナー「……五分だけな」

サシャ「ありがとうございます。それでいいです」


サシャ「あの、単刀直入に聞きますけど……今、悩みごとありますよね。それも、一つじゃなくて何個か」

ライナー「……隠しても仕方ないな。あるぞ」

サシャ「昨日はそのせいで眠れなかった、って考えてもいいですか?」

ライナー「間違ってはないな」

サシャ「それは、私に言えないことなんですよね」

ライナー「そうだな。……言えないものもいくつかある」





サシャ「その悩みとは別に――私に隠してること、ありますよね。しかも、かなり深刻なことで」





ライナー「……ああ、ある」


サシャ「……やっぱり、そうだったんですね」

ライナー「……」

サシャ「あの、勘違いしないでくださいね。中身を無理に聞き出したいわけじゃないんです。前にも話したことありますけど、私だってライナーに言えないこといっぱいありますから」

サシャ「今は、そういう何かがあるってことをもう一回確認したかっただけです。……すみません、変なこと聞いて」

サシャ「本当は、そういうことには踏み込まないでおこうって思ってたんですけどね。でも、それがライナーの負担になってるっていうのならやっぱり無理です。黙って見てるのは性に合いません」

ライナー「……なら、お前はどうするつもりだ?」


サシャ「そうですね……じゃあ、もう少し休憩したら街に戻って、何かおいしいもの食べに行きましょっか。今ならお給金でちょこっと懐も潤ってますから、私が奢りますよ」

ライナー「おいしいものって……帰る頃には夕飯だぞ?」

サシャ「いいじゃないですか。どうせ訓練所の食事は量が少ないですし、あそこの食事は詰め込むだけだってライナーが言ったんですよ?」

ライナー「まあ……奢ってもらえるのは嬉しいけどな。そんな調子だからすぐ懐が寒くなるんだぞ? わかってるか?」

サシャ「私の懐で済む話なら安い物ですよ。痛くもかゆくもありません」

サシャ「本当は……もっと色々、何かしてあげたいんですけどね。ライナーがいつも頑張ってるの知ってますから」

サシャ「その悩みを解消してあげられたら一番いいんですけど、中身を知らないのでどうしようもありませんし……だから、おいしいもの食べて、少しだけ幸せな気分になってから帰りませんか? あれこれずーっと悩んでるより、そっちのほうがいいですよ」


ライナー「でもなぁ……逃げてるみたいじゃないか? その考え方」

サシャ「別に『考えるな』とか『逃げろ』とか、『忘れろ』なんて言ってるわけじゃないですよ。まずは目の前のことを大切にしましょう、ってことを私は言いたいんです」

サシャ「まあ……この考え方は私じゃなくて、ミカサに教えてもらったんですけどね」

ライナー「ミカサに?」

サシャ「はい。――私も、色々悩んでた時期があったんですよ。その時ミカサに話を聞いてもらったんです」

サシャ「全部投げ出して、やめちゃおうと思ったんですけど……やるべきことがわかってるなら、今を見なきゃダメだって。ミカサが私に教えてくれたんです」

サシャ「この先なんて、今の行動でいくらでも変わってくんですからね。先読みのしすぎなんて意味がないですよ」

サシャ「だから――食べられるかわからない明日のご馳走を想像するより、今目の前にあるパンを食べて幸せになりましょうって提案しているわけです。そのほうが絶対幸せですからね!」


サシャ「なんちゃって。……私も柄じゃないこと話しちゃいましたね。おあいこです」

ライナー「……」

サシャ「……えっと」

ライナー「……」

サシャ「……」

ライナー「……できれば串物が食いたいんだが、何かアテはあるのか?」

サシャ「おおっ、いいですね! 私、安くておいしい店知ってますよ! まだ開いてるでしょうから行きましょう!」


ライナー(この先じゃなくて、今のことをもっと見ろ、か)

ライナー(見透かしてんだか、適当に言ってるんだか……変な奴だ、本当に)

ライナー(でも……こいつが隣にいてくれて、よかったな)

ライナー(せめて、今だけでも……一緒にいるくらい、いいよな)





ライナー「ところで、お前は食いたいもんないのか?」

サシャ「はい、ありますよ。――ちょうど目の前に」

ライナー「……奢ってもらうんだから、俺がお預けするわけにはいかないな」


―― しばらく後 森の中



                              \ガサガサ.../



クリスタ「……みーちゃったーみーちゃったー」ガサガサ

コニー「いやー、たまげたなー」ガサガサ

アルミン「ミカサ、もうエレンの口から手を離していいよ」ガサガサ

ミカサ「うん。わかった」ガサガサ パッ

エレン「……」

ミカサ「エレン。もう喋ってもいい」


エレン「……」

ミカサ「……? エレン、どうしたの?」

エレン「……お前ら、見たか?」





エレン「ライナーと! サシャが! チューしてたぞチュー!!」





アルミン「してたねー」

ミカサ「してた」

コニー「してたな」

クリスタ「してたよねぇ」


エレン「しっ、しかも、あれ……普通の、き、キスじゃねえだろ……?///」カアアアアッ...

ミカサ「エレン、照れなくてもいい。あれは俗に言うべろちゅー」

アルミン「うんまあその通りなんだけど、ミカサはもう少し言葉の慎みを持とうか」

ミカサ「わかった。努力しよう」

アルミン「そもそももっとすごいこと前からしてるよ? あの二人」

エレン「はぁっ!? マジかよ……大人だなあいつら」

ミカサ「エレン。私があなたを大人にしてあげよう」

エレン「それは別にいらん」

ミカサ「……」シュン

アルミン「もっとミカサの話を真剣に聞いてあげようね、エレン。あまり軽くあしらってるといい加減ミカサがかわいそうだよ?」

エレン「だってよ、食堂で大きい声で話すからさ……俺はてっきりミカサの冗談だと思ってたのに……」ブツブツ


クリスタ「いいなぁ……サシャ幸せそうでいいなぁ……」ウットリ

コニー「そうかぁ? 俺は罪悪感半端ねえよ……明日からあの二人の前で普通でいられっかなー」

アルミン「だから先に帰っててもいいって言ったのに……コニーは律儀だなぁ」

コニー「おいおい、森に慣れてない奴らを置いて帰れるわけねえだろ? 今の時期暗くなるの早ぇんだぞ?」

クリスタ「やだ……コニーったら男前……///」ポッ

ミカサ「あと素早い……///」ポッ

アルミン「実は弟属性に見せかけたお兄ちゃん……///」ポッ

コニー「な、なんだよ褒めるなよ」テレテレ

エレン「坊主頭だけどなー」


ミカサ「しかし、もったいないことをした……せっかくライナーが寝てるんだから、サシャもいろいろすればよかったのに」

クリスタ「うん。ちょっとだけ眺めて、後はずっとぼーっとしてたよね」

コニー「せいぜい頭を撫でてたくらいだったよなー。落書きでもしてやりゃあよかったのに。……あ、でもペンも何もないか」

アルミン「その後の話の内容は全然聞こえなかったけど、何話してたんだろうね。エレンは聞こえた? ……エレン?」

エレン「お前ら、なんでそんな冷静に話しあってんだよ……あいつら付き合ってたんだぞ? 驚かないのか?」

アルミン「付き合ってないよ。あの二人」

エレン「……は?」

アルミン「だから、付き合ってないんだってば」

エレン「え……え? 付き合ってねえの? あれで? なんで??」

アルミン「だから面白いんじゃないか」アハハ

ミカサ「見ててとても楽しい」ウフフ


アルミン「さて、二人の姿も見えなくなったし……そろそろ帰ろうか」

コニー「そうだな。これ以上は灯りがないと無理だ。さっさと帰ろうぜ」

クリスタ「それに二人が戻ってきた時に私たちがいないんじゃ、余計な心配かけちゃうもんね」

エレン「マジかよ……ええ……? でもなぁ……」ブツブツ

コニー「おいエレン、帰るぞ。俺が前歩くからお前が一番後ろ歩けよ?

エレン「ええー……? あれで付き合ってないのかぁ……?」ブツブツ

ミカサ「そうだ、どうせなら人数が多いので狐走りをしよう」ニンニン

アルミン「ごめんねミカサ。今回はやってる暇ないよ」

ミカサ「……」シュン


―― 夜 女子寮 ユミルたちの部屋

ユミル「サシャ」

サシャ「はい」

ユミル「クリスタを先に風呂に行かせて、お前をここに残した理由は……説明しなくてもわかるよな?」

サシャ「……まあ、一応」

ユミル「あのな、クリスタはな、帰って来たら真っ先に風景の素晴らしさを語るような奴なんだよ。森の緑が美しかったとか、川のせせらぎが気持ちよかったとか……まあそんなことを嬉しそうに喋るわけだよ、私に」

サシャ「はい、そうですね。そういう人ですよね」

ユミル「そうなんだよ。開口一番に魚のハラワタをうまく抜けるようになったことを報告してくるような奴じゃないんだよ、クリスタは」

サシャ「堕天使ということで」

ユミル「サシャ?」

サシャ「はいすみませんごめんなさいもうしわけありません」ペコペコ

ユミル「お前がやったのか?」

サシャ「えっと……………………………………………………………………………………主にコニーのせいです」

ユミル「コニーイイイイイイ!!! お前の罪を数えろおおおおおっ!!」バンッ!!

サシャ「あわわわわ……行っちゃいました……」ガタガタガタガタ


ミカサ「……今のユミルは何事?」ヒョコッ

サシャ「あ、ミカサ……いらっしゃいませ。ユミルはちょっと暴走してるだけですから気にしなくていいですよ」

ミカサ「そう。ならば気にしない」

サシャ「そうだ、お風呂まだなら一緒に行きませんか? クリスタが行っちゃったから一人なんですよね」

ミカサ「デートのお誘いなら喜んで付き合おう。……その前に、これ」スッ

サシャ「……? 手鏡ですか? これ」

ミカサ「古いもので申し訳ないけど、貸してあげる」

サシャ「えっ、いいんですか?」

ミカサ「うん。実際に使ってみないと、どういうものがいいのかわからないと思う。持ち運びやすさとか鏡の大きさとか、こだわるポイントは人によって違う。ので、次に出かける時までに考えておいて」

サシャ「わかりました、じゃあ、ありがたく借りちゃいますね」


ミカサ「今日は楽しかった? サシャ」

サシャ「はい、とても。……ミカサのおかげで、言いたいことも伝えられましたし」

ミカサ「そうなの? ……なら、嬉しい」

サシャ「ミカサはどうでした? 今日出かけて」

ミカサ「……行ってよかった」

サシャ「ならよかったです。……そうだミカサ。今日は一緒に寝たいんですけどいいですか? 聞いてもらいたい話があるんです」

ミカサ「……なんと。この私がナンパされるとは思わなかった」

サシャ「やっぱりダメですかね?」

ミカサ「ううん、そんなことはない」



ミカサ「――あなたと一緒にいると、落ち着くから」



おわり

というわけで今回でシリーズ20作目になりました 長い!
1作目から付き合ってくださっている方もまとめサイト様からいらっしゃった方も、いつも読んでくださってありがとうございます
恐ろしいことにまだ冬編が残ってるんですがたぶん年内には終わるんじゃないかなー(適当)と思ってるのでもう少しお付き合いください


ちなみに釣りの知識は適当なので鵜呑みにしないでくださいね
途中で作ってたパンは「棒焼きパン」や「棒巻きパン」で検索してください

今回うっかり重くしすぎたので次回は頭が軽い感じになると思います
というわけで次は予告通りお祭りです 色々ネタぶち込みすぎてちゃんとまとまるか今から不安ですがなんとかします それでは!

もう20作目になるんだな、本当に>>1
冬編がくるのか…寒いと密着度が上がるよな(パンツ脱ご)

乙ありがとうございます、嬉しいです
ちなみに次回もキスします 今回より(たぶん)激しいです
というわけで >>106 さんのパンツは預かっておきますね

トリップついてませんでしたorz

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