何故か続いたシノハユSS
慕「おじさん、組体操できる?」
こーすけ「突然どうした? まあ、人並みにはな」
慕「今日の体育の時間にね、片方が空気椅子みたいになって、もう片方がその膝の上に立って、下の人が上の人の膝を持つやつ」
慕「あれが何だか楽しいなーって思ったの」
こーすけ「家でもやりたいと思ったのか」
慕「うん!」
こーすけ「ま、いいけどよ」
慕「ありがとう!」
こーすけ「楽しいか? これ」
慕「うん! いつもよりずっと高い視点で、まるで大人になったみたい!」
慕「おじさんはどう?」
こーすけ「お前の色気のないパンツが見える」
慕「乙女パンチ!」
こーすけ「ひでぶっ」
慕「今日はホットケーキを焼いてみました」
こーすけ「にんじんホットケーキか」
慕「チョコワもあるよー」
こーすけ「やっぱクリスピーやフロスティよりチョコワだよな」
こーすけ「しかしいつのまにかゾウが居なくなって猿がでしゃばってるんだが」
慕「パッケージ?」
こーすけ「そうだ、俺的にはチョコワとこの猿がセットなのはなんか違和感があって仕方ない」
慕「ふーん」
こーすけ「いただきます」
慕「いただきまーす」
慕「……あ、牛乳切れてたの忘れてた」
こーすけ「えっ」
慕「映画、映画♪」
こーすけ「(パシフィック・リム見てえなぁ)」
こーすけ「慕、お前どれが見たい?」
慕「え? えーっとね……あの犬さんと猫さんが可愛いの!」
こーすけ「アニメかー、んじゃそれにするか」
こーすけ「ポップコーンとかどうする?」
慕「おじさんと一緒のがいい」
こーすけ「じゃ、ポップコーンとコーラな」
こーすけ「すみませーん」
店員「はーい」
こーすけ「ポップコーンとコーラ二つづつ、それぞれLとSでお願いします」
店員「LセットとSセットですね。少々お待ちください」
慕「映画、面白かったね!」
こーすけ「意外に俺も楽しめちまったのが最大の誤算だわ」
慕「映画の後はゲームセンターだねっ」
こーすけ「なんで映画館には高確率でゲーセン備え付けてあるんだろうな」
こーすけ「少女はあっちのクレーンゲームでぬいぐるみを狙い、少年は100円で長く遊べる対戦ゲーの筐体に張り付く」
こーすけ「おっさんは100円をコインに変えてカジノ系に向かい、いけ好かない学生はプリクラに向かう」
こーすけ「そして何も知らないガキは1万使っても落とせるか分からないゲーム景品を狙い、諦め、ハイエナされる」
こーすけ「これがゲーセンって世界だ。分かるか、慕?」
慕「おじさんが昔ゲームセンターによく来てたって事は分かったよ」
こーすけ「とりあえず飴とかお菓子とかすくえるやつから遊んでくか」
慕「うんっ」
慕「おじさん、もうちょっと、もうちょっと!」
こーすけ「待て待てもう掴んでるんだからあとは落ちるだけ……よし、獲った!」
慕「やたっ!」
こーすけ「(……何やってんだ俺)」
こーすけ「(結局慕が欲しいって言った奴に1000円も使っちまった)」
こーすけ「(これ普通にお店で買った方が安くついたよな……)」
こーすけ「(これがクレーンゲームマジックというやつか)」
慕「ありがとう、おじさん! ずっと大事にするね!」
こーすけ「(……まあ、いっか)」
こーすけ「このぐらいならいつでも取ってやるよ、任せとけ」
こーすけ「(慕笑ってるし)」
こーすけ「女の子のランドセルは綺麗だな」
慕「そうかな?」
こーすけ「男は、こう……爪とかで傷つけて絵とか文字とか書いたりもするんだよ」
慕「へー」
こーすけ「リコーダーさして剣みたいに格好付けて抜いたりとかな」
慕「あ、それやってる子居た」
こーすけ「傘を逆手に持ってアバンストラッシュー、とかな」
慕「それは見たこと無いかな」
こーすけ「……これがジェネレーションギャップか」
こーすけ「慕は自分が教室に居ない時は自分の縦笛ちゃんと隠しておくんだぞ」
慕「なんで?」
こーすけ「何でもだ。特に放課後とかな」
慕「んー、分かった」
こーすけ「『つぶつぶドリアンジュース』とか、お前本当に何でこんなものが好きなんだ……?」
慕「えー、美味しいよ?」
こーすけ「いや、美味いとか甘いとか食感がいいとかそういうのとかよりもっと根本的に!」
こーすけ「これくせーんだよ! 美味い不味いが問題外になるくらい!」
こーすけ「ガキの頃嫌いだったくさやの臭いの記憶を上回ってんだよ!」
慕「美味しければいいんじゃないかな、においなんて」
慕「おじさん結構好き嫌い多いよねー、私より」
こーすけ「いや、それは否定しないけど」
こーすけ「頼むから、餃子食って何もせずに平気で人前に出る大人の女性にはならないでくれよ……?」
慕「?」
慕「おじさんって食べ物の好き嫌いがあるんだよね」
慕「なんだかうちのクラスの男の子みたい」
こーすけ「いいか、慕。俺の好き嫌いってのはそういうのとは違うんだよ」
慕「と言うと?」
こーすけ「俺は好きなもんはとことん好きだし、嫌いなもんはとことん嫌いだ」
こーすけ「食べ物の好き嫌いは人の好き嫌いってよく言うしな」
こーすけ「俺は好きな奴も嫌いな奴も居るし、お前の料理は好きだがトマトはゴキブリより嫌いだ」
こーすけ「俺はその好き嫌いを、誤魔化したりなんかしない……!」
慕「だ、ダメな大人の見本だ……」
慕「でも何だかカッコいい……!」
こーすけ「俺に惚れると火傷するぜ?」
慕「惚れないよ」
こーすけ「スマブラやるか?」
慕「うん」
こーすけ「お前、地味に強……!」
慕「あはは、おじさんが勝負事弱いだけじゃないかな」
慕「ただのゲームだったらおか……あ……」
慕「……」
こーすけ「(あ、やばい泣きそう)」
こーすけ「お、なんか俺有利で勝てそうだな」
こーすけ「こっから慕が勝てたらなんでも言うこと聞いてあげてもいいかもなー」
慕「……?」
こーすけ「ちょっとぐらいトマト食ってやってもいいかもなー」
慕「!」
こーすけ「でもこっから勝つならよっぽど頑張らないと無理だよなー」
慕「おじさん! 大人が前言撤回とかしないよねっ?」
こーすけ「(早まったかもしれん)」
こーすけ「負けた……」
慕「勝った! スライスしたものくらい、食べれるよね?」
こーすけ「あ、明日にしね?」
慕「だーめ。今日の晩ご飯に出すよ」
こーすけ「お前も昔は俺の嫌いなものを避けて出してくれるいい子だったのに……」
慕「ほら、たまに来る人には好きなもの美味しいもの食べて欲しいし」
慕「でも家族なら、栄養バランスとか好き嫌いとか気になるし……」
こーすけ「お前は俺のカーチャンか」
慕「ひにゃあああああああああ!?」
こーすけ「絹を裂くような慕の悲鳴」
こーすけ「間違いない、『奴』だ」
こーすけ「この家では久しぶりだな」
慕「お、おおおおおおおじさんんあわわわ」
こーすけ「どうどう、落ち着け」
こーすけ「部屋戻ってろ。俺がどうにかしとく」
慕「う、うん!」
こーすけ「おお、脱兎のごとく……なんか色々ウサギみたいなやつだな」
こーすけ「さて」
こーすけは「二年ぶりだな、ブラックサレナ(隠語)」
こーすけ「俺はお前がトマトと同じぐらい嫌いだ。潰しても嫌悪感が消えない辺り、そっくりだとすら思ってる」
こーすけ「俺の姪の精神の安定のため、死んでくれ」
こーすけ「(ブラックサレナ(隠語)は速さが武器だ)」
こーすけ「(加えてキッチンでの地獄待ち、風呂場に出現してのハイテイと神出鬼没)」
こーすけ「(慕はテンパッて対応するのは不可。奴がトぶ前にその命で我が家に出現した責任を払わせてやる)」
こーすけ「(この丸めた新聞紙のリー棒でこの畜生の命にリーチ(意味深)してやらぁ)」
こーすけ「(……しかし俺は何故申し訳程度の麻雀要素をねじ込むような思考をしているんだ?)」
こーすけ「うおッマジで飛んできやがったぞコイツ!?」
こーすけ「ツモォォォッ!!」
こーすけ「はぁっ……はぁっ……仕留めたが、まさか二匹同時に出てくるとは」
こーすけ「まさにダブルリーチ。互いが囮になっての絶対安全圏の確保……」
こーすけ「カン ベンして欲しいな、こういうのは。これでようやくうちにも平和が訪れたってわけだ」
こーすけ「……」
こーすけ「申し訳程度の麻雀要素を口に出さなくちゃいけない気がした」
こーすけ「好都合だから慕が部屋にこもってる内にこのトマトスライス冷蔵庫に隠しとこう。まさしく先送りだが」
こーすけ「……」
こーすけ「……天井から垂れる電灯の紐……」
こーすけ「(昔、こう、部屋で一人でボクシングっぽいっことやってたな……)」
こーすけ「(高校上がっていつからかやらなくなったけど、シュシュッとパンチ当てて)」
こーすけ「……」シュシュッ
こーすけ「……ふぅ。なんか地味に良い汗……ん?」
慕「……」
こーすけ「……いつから見てた?」
慕「『天井から垂れる電灯の紐』から……ぷぷっ」
こーすけ「最初からかよ!」
慕「おじさんって豚肉好きだよね」
こーすけ「まーな。鶏豚牛は本当に好みが分かれると思うが」
慕「ベーコンも、生姜焼きも、豚汁も好きだもんね」
こーすけ「お、もしやこの流れは今日の晩飯豚肉か?」
慕「と、見せかけて親子丼でしたー」
こーすけ「フェイントかよ!」
慕「えへへ」
こーすけ「今日からお前白築慕じゃなくてうそつき慕に改名しろ」
慕「ええっ!?」
こーすけ「(風呂入っかなー、慕まだ入る気配ないし)」
慕「あれ、おじさん居ない……またコンビニに行ったのかな」
慕「ま、いっか。先にお風呂入っちゃお」
こーすけ「いい湯だー……加齢と共に風呂のありがたみが増していく……ん?」
慕「おっふろー♪」ガララッ
「「あっ」」
こーすけ「……」
慕「……」
こーすけ「きゃーのびたさんのえっち」
慕「おじさんが言うの!?」
こーすけ「しずちゃんとしのちゃんって似てるよな」
慕「似てませんっ!」
こーすけ「そんな怒んなよー、一緒に入っちまえば良かったのに」
慕「乙女の裸は安くないんだよ、もう!」
こーすけ「まだ小5じゃん」
慕「もう小5なの!」
こーすけ「ああ、分かった分かった。俺が無神経だったよ、悪かった」
こーすけ「今度から気をつけるよ」
慕「分かってくれればいいけど」
こーすけ「が、俺は別にお前の山も谷もない裸を見てどうこう思わんし」
こーすけ「文字通り十年早いと思うぞ」
慕「もー!」
こーすけ「あ、やべっ」
こーすけ「ここの駄菓子屋まだ残ってたのか……」
慕「駄菓子屋?」
こーすけ「あー、最近の子供があんまり寄らない、昔ながらのお菓子売ってるとこだ」
こーすけ「お邪魔しまーす、と……あ、すみませんこれください」
婆さん「はいよ、33円ね」
こーすけ「あざーっす」
慕「何買ったの?」
こーすけ「この中には三つのガムが入っている。そしてその内一つがめっちゃすっぱい」
こーすけ「めちゃくちゃすっぱいんだ。そして見ただけじゃどれがそうなんかはさっぱり分からん」
こーすけ「……そう、食ってみなくちゃな」
慕「!」
こーすけ「一個づつとってせーので食べるぞ」
慕「う、うんっ!」
「「せーのっ!」」
パクッ
「「……」」
こーすけ「まさかどっちも当たらんとは……」
慕「予想外だったね。この一個どうしよっか?」
こーすけ「じゃんけんだな」
慕「そこは大人の甲斐性でおじさんが食べるべきじゃ……?」
こーすけ「じゃーんけーん」
慕「わわっ」
こーすけ「すっぺええええええええええええええええっ!!」
こーすけ「……あー、やべ、付き合いで飲まされすぎた」
こーすけ「遅くなるって慕には電話入れといたから、もう寝てるよな……?」
こーすけ「……」
こーすけ「一時間、一時間だけ……玄関で寝てこう……」
こーすけ「朝になるまでに布団に向かえば……問題……無……」
こーすけ「……zzz」
慕「んっ」ヒョコッ
慕「……おじさん? 起きてる?」ペシペシ
慕「寝ちゃってるのかな」
慕「んしょ、んしょ……お、大人の人は重いぃ……」
慕「は、はふぅ……寝かせて、お布団かけて、と」
慕「ふわぁ……私も眠くなってきちゃった……」
慕「おやすみなさーい……」
こーすけ「……ん」
こーすけ「もう朝か……ん?」
こーすけ「(昨日布団入ったっけ……イマイチ記憶がハッキリしねえな)」
こーすけ「(飲み過ぎこえー)」
こーすけ「おはよー、慕」
慕「おはよーおじさん……ふわぁ……」
こーすけ「なんだ、昨日夜更かしでもしてたのか? 子供は早く寝とけよ、背が伸びなくなるぞ」
慕「うん、気をつけるね」
こーすけ「今日の朝飯はベーコンエッグか、いただきます」
慕「いただきまーす」
こーすけ「あ、アンパンマンだ」
慕「チャンネル回してたらやってたの」
こーすけ「あのアンパンはいまだに自分の顔を他人に食わせてるのか……どれどれ」
『何のために生まれて 何をして生きるのか』
『答えられないなんて そんなのは嫌だ』
こーすけ「……」
慕「……」
「「( 相変わらず歌詞が重い…… )」」
慕「それじゃ、そろそろご飯の準備してくるね」
こーすけ「……何が君の幸せ、何をして喜ぶのか、か」
慕「? どうしたの」
こーすけ「なんでもない。晩飯はアンパン以外で頼む」
慕「頼まれても出せないよ、無いもん」
こーすけ「ようメガネ。質屋は儲かってるか?」
眼鏡「誰がメガネだ。名前で呼べ名前で」
こーすけ「会うたびリチャードソン呼びするテメエが言うか」
眼鏡「ところで最近ナナ先輩は――」
こーすけ「これ買い取ってくれ」
眼鏡「スルーすんな! ん? これ……」
眼鏡「お前が学生時代貯金はたいて買ったギターじゃないか。今はプレミアついてるやつだけど」
眼鏡「よく手入れされてるけど、結構使い込まれてるからなー」
眼鏡「ってかなんだ、生活苦なのか? これ思い出の品だろ?」
眼鏡「何年も前の物にしては保存状態もいいし、結構気遣って保存してたんじゃないのかこれ」
こーすけ「ん、まあな」
眼鏡「女に貢ぎすぎて金がなくなったとかか? まさかな、HAHAHA」
こーすけ「あながち間違ってないな」
眼鏡「なん……だと……?」
眼鏡「お前が女に貢ぐほど入れ込むとか……つか、お前が女捕まえてられるとかビックリだわ」
こーすけ「何? お前俺をホモだとでも思ってんの? 金に困ってるわけじゃねえよ」
こーすけ「まあ貢いでるって言うより、まだまだ先だが誕生日プレゼントとケーキの資金にな」
眼鏡「? 普通に貯金から出せばいいじゃん」
こーすけ「家計簿握られてるからいくら使ったとか分かっちまうんだよ」
こーすけ「来年以降ならマシになるかもしれんが、今は微妙に遠慮が残ってんのがな……」
眼鏡「なんだそりゃ、ガキか」
こーすけ「ガキだな。ま、『自分の誕生日にかかった金銭的負担がちらついて素直に楽しめない』なんて事にならないようにな」
こーすけ「そういう遠慮が残ってる内は本当の意味で家族にはなれないと思うんだが……ま、仕方ない」
眼鏡「家族も視野ですか、本気ですねリチャードソンさん」
こーすけ「優先順位でこのギターが下に来たってだけだ」
こーすけ「思い出の重さと笑顔の重さってのは比べんのが難しいよなぁ」
眼鏡「何当たり前の事言ってんだ? 第一それで思い出の方取ったら女は泣くぞ」
こーすけ「……かもな」
眼鏡「ほれ、金だ持ってけ」
こーすけ「おう……ん? 多くね?」
眼鏡「気のせいだろ。ま、時々は暇な時にでも遊びに来い」
眼鏡「俺が買い取ったギターを俺の友人が見たり触ったり弾いてた所で何も問題は無いし」
こーすけ「……サンキュー」
眼鏡「そんでもってナナ先輩も連れて来てくれ」
こーすけ「台無しだよコンチクショウ!」
こーすけ「(しかし、なんだ。思い出の品ってのは同じなのに)」
こーすけ「……こっちの方は迷いなく質に出せちまうのは、なんでなんだか」
眼鏡「ん?」
こーすけ「いや、何でもない」
先生「今日の家庭科の時間はクッキーを作ります。はい二人組作ってー」
「おいやめろ」
先生「……というのは冗談で、事前に決めていた班に分かれてクッキーを作ってくださいね」
先生「ちゃんと分担して、班員の失敗は全員でカバーして、助け合いの精神を忘れずに」
「「「 はーい 」」」
慕「……」シュババババッ
モブ男子A「ヒュー! 見ろよヤツの手慣れた手つきを! 手先が見えねえぜ!」
モブ男子B「ああ、こいつはやるかもしれねえ」
モブ男子C「まさかよ しかし家庭科の授業に速さは関係ねえぜ」
モブ女子A「ごもっとも」
モブ女子B「ねえ、白築さん」
慕「ん? なにかな?」ギュゥオゥウィィィィン
モブ女子B「このクッキー、食べないで持って帰って誰かにあげてもいいんだって」
慕「そうなの? そっかー……じゃ、持って帰ろっかな」
モブ女子B「誰かにあげるの?」
慕「えへへ、そうしよっかなって」
モブ女子B「(可愛い)」
モブ男子A「お、白築の一足先にできたのか」
モブ男子B「白築が見てない隙につまみ食いしちゃおーぜー」
モブ女子B「動くな。そのままそのレンジに近づかず自分の席にもどれ」
モブ男子C「(!? 一瞬で気配なく俺達の背後に――!?)」
モブ女子B「繰り返し言う、動くな。私はレズだ」
モブ女子B「それ、誰にあげるの?」
慕「大好きな人に感謝の気持を伝えるのにいいかなーって」
モブ女子B「いいね、素敵な理由だと思うよ」
慕「そっかなー?」
慕「今日はおじさんお休みだったし、早く帰って早く渡そ!」
慕「速く、速く……!」
ツルッ
慕「あっ……!?」
こーすけ「ぼちぼち慕帰って来る時間だし寄り道せず帰るかね」
こーすけ「慕が帰って来てたらTUTAYA行って……ん?」
こーすけ「……あそこで転んでるの、もしかして慕か?」
慕「うっ、えぐっ、えうっ……」
こーすけ「慕!」
慕「あ、おじさ……」
こーすけ「どうした? 転んで痛いのか? どっか怪我したのか?」
慕「ち、ちが……う、うえぇぇ、ヒック、違うの……」
慕「か、家庭科の時間でクッキー作って……ありがとうって言って、渡して、食べて欲しくて……」
慕「でも、私やっぱり抜けてて……手に持ったまま、走って、転んで……潰れちゃって……」
慕「痛くなかったけど、せっかく作ったクッキー、粉々になっちゃって……」
慕「きっと、私がこんなだから、おかーさんも私に呆れて、嫌いになって、置いてっちゃたんだって思って……!」
慕「う、えぅっ、うぇぇ……おかーさん……!」
こーすけ「なんだ、美味いなこのクッキー」
慕「……え」
慕「おじさん、そのクッキー、粉々だよ……?」
こーすけ「クッキーの味に文句言う奴は居ても、クッキーの形に文句言う奴なんて居ねえよ」
こーすけ「そしてこのクッキーは文句無しに美味い。作ってくれてありがとな、慕」
慕「……あ」
こーすけ「大丈夫だ。姉貴はお前に呆れたり嫌いになったりなんて事は絶対にない。断言する」
こーすけ「……こうやってお前を抱きしめたり、頭を撫でたりするのも、またいつか俺じゃなくて姉貴がちゃんとやるさ」
こーすけ「このクッキーも、今度はちゃんとした形のを姉貴に食わせてやれ」
こーすけ「だから、泣くな。笑っとけ」
こーすけ「お前は笑顔の方が素敵だから、再会した時には笑顔の方が姉貴は喜ぶと思う」
慕「……うん」
こーすけ「また転ぶとやべーから手繋いで帰るか」
慕「うん……ね、おじさん」
こーすけ「あん?」
慕「……ありがと。私、おじさんがけっこう大好きだよ」
こーすけ「……そうか。俺も、慕はけっこう好きだぞ」
慕「えへへっ」
こーすけ「待て待て引っ張んな俺が転ぶぅっ!?」
慕「明日、またクッキー作るね!」
こーすけ「そりゃ楽しみだ!」
つづく
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