ミカサ「銀河鉄道の夜」(115)

「銀河ステーション、銀河ステーション」



エレン「ミカサ、出発するみたいだぞ。起きろ」ユサユサ

ミカサ「・・・ん・・・」パチ

ガタンゴトン、ガタンゴトン

ミカサ「・・・ここはどこ?」ポカン

エレン「なに寝ぼけんだよ、汽車の中に決まってんだろ」

ミカサ「(皮張りの椅子が並んだ四角い箱の中。いつの間にこんな所へ来ていたのだろう、覚えがない。
他にも人がいるけれど、知っているのはエレンとアルミンだけ。そういえば、三人が揃うのはいつぶりだろう)」

アルミン「はは、しょうがないよ。ここ最近働きづめだったからね。ミカサも疲れてるんだ、きっと」

エレン「おいおい、久し振りに休暇を取れたから皆で遠出しようって言い出したのはお前だろ。しっかりしろよ」

ミカサ「汽車?この、乗り物が?」

アルミン「見るのも乗るのも初めてだけど、僕もう大興奮だよ!
こんなに大きくて沢山の物と人を運べるのに、動力はお湯を沸かすエネルギーなんだ!すごいよねぇ」ワクワク

エレン「もうその説明は聞き飽きたよ。大きな竈に石炭をいっぱいくべて、蒸気の力で車輪を回すんだろ?」

アルミン「そうさ!原理は立体機動装置と似ているんだけど、規模がもの凄く大きいんだよ」

ミカサ「よく分からない」

アルミン「百聞は一見に如かずさ、窓の外を見てごらんよ」

ミカサ「・・・?」スッ

ガタンゴトン、ガタンゴトン

ミカサ「!」

ミカサ「・・・きれい・・・銀色のすすきがゆらゆらしていて、野原のあちこちで、色とりどりの三角標が輝いている」

エレン「他の奴らも随分走ったんだけど、結局遅れちまったんだ」

アルミン「ジャンも随分走ったんだけど追いつかなかったんだよね、ミカサにも見せたかったな、あの間抜け面」クス

ミカサ「(・・・そうだ、私達は仲間達を一緒に誘って出掛けたんだった)」

アルミン「もうじき白鳥の停車場だよ。ほらこの地図に載ってる」

ミカサ「すごい、こんな高価そうな地図どこで買ったの?黒曜石で出来ている」

エレン「銀河ステーションで配られてただろ」

ミカサ「銀河ステーション?私達がいる所って、ひょっとしてこの辺り?」

アルミン「そうだよ。それがどうかしたの?」

ミカサ「だってこれじゃ、壁外にいる事になってしまう。アルミンは騙されておかしな地図を渡されたんじゃ」

エレン「何言ってんだ。銀河鉄道なんだから、壁外にいて当然じゃねえか。何の為にこれに乗ってるんだよ」

アルミン「便利な世の中になったよね」

ミカサ「そういうものなの?」

エレン「そういうものだ」

ミカサ「そう・・・」

ガタンゴトン、ガタンゴトン

エレン「・・・母さんは、オレを許してくれるかな」

ミカサ「?」

エレン「母さんにとって一番幸せな事って、何だったんだろう」

アルミン「エレン。君はいつだって人類が幸せに暮らせる世界の為に戦ってきたじゃないか。だからきっと許してくれるさ」

ミカサ「エレン?どうして急にそんな事を言うの」

エレン「別に。何となく思っただけ」

ミカサ「今日のエレンは何か変。悪い物でも食べたの?」

エレン「食ってねえよ!額に手当てんのやめろって!」

アルミン「もう、相変わらずなんだから。それより外を見てよ!あんなに立派で美しい十字架、見た事も無いや。感動だなあ」

ミカサ「!本当だ、真っ白なのに金色に輝いている。誰が建てたんだろう」

エレン「すげえな!ハルレヤー、なんつってな!あ、白鳥が飛んでる」

アルミン「そういえばもうすぐ白鳥の停車場だね、きっと素敵な場所なんだろうなあ」キラキラ

ミカサ「なんだか私も楽しみになってきた」キラキラ

エレン「さっきまで寝ぼけてた奴が何言ってんだか」

ガタン、プシュー


『20分停車』


アルミン「少しの間、止まるみたいだ。乗客が降りていく」

エレン「オレ達も少し降りてみようぜ!」

ミカサ「そうしよう」

アルミン「さっき窓から見えた河原に行ってみようよ。水が澄んで綺麗だったし」

エレン「いいぜ、確かこの方向だったか」

ミカサ「違う、こっち。エレンは危なっかしいから、私が先導する」タタッ

エレン「あっ、おい待てよ!オレが先に行くんだよ!」

アルミン「あはは、競争だ競争だー!!・・・って待ってよ二人とも!早過ぎるってばー!」ゼエゼエ

ミカサ「あっという間に着いた」

アルミン「うわ・・・思っていた以上に神秘的」ボー

エレン「この河見てみろよ、水素よりも透き通ってる。泳いだら気持ちいいんだろうな」

アルミン「ええー、泳ぐのはもう勘弁してよ」ハハ

ミカサ「クルミが落ちている。大きさが普通の倍はあるし、少しも痛んでいない」

エレン「周りにクルミの木は生えてないし、どっかから流されてきたんだろうな」

アルミン「違うよ。岩の中に入ってるんだ。大昔に土に埋まって地層になったクルミが、水の流れに削られて再び姿を現したのさ」

エレン「えー、食ったら腹壊しそうだな、せいっ!」ポシャン

ミカサ「この砂、みんな水晶で出来ている」キシキシ

アルミン「本当だ、中で小さな火が燃えているね」

エレン「赤に青に緑にオレンジ・・・とんでもねえな。ただの石ころが宝石みたいにキラキラしてる。
もしここが壁内だったら、台座にはめて装飾品として売りさばけるぞ絶対」

ミカサ「持ち帰って部屋に飾りたい」

アルミン「へえ、さすが女の子は光りものに目が無いね。部屋に飾らないでアクセサリーにしたらいいのに」

ミカサ「このエメラルドはエレン石と名付けよう。そしてこのサファイアはアルミン石」

エレン「瞳の色か?じゃあこの黒い石がミカサだな」

アルミン「オニキスかな、絶望から身を守ってくれるパワーストーンらしいね」

ミカサ「エレンが選んでくれたなら、大切にしよう。二人にもこの石をあげる」

エレン「こんなもん拾わなくていいって。勝手にエメラルドとかオニキスって呼んでるだけの石ころだろ」

ミカサ「そんな・・・」ショボン

アルミン「まあまあ。どうせこれくらいの石だったら、この先いくらでも道端に落ちてる事だし」

ミカサ「そうなの?」

エレン「オレ達にとっちゃ目新しいけど、すぐに慣れっこになる」

ミカサ「・・・外の世界ってすごい」

アルミン「まったくだね」

ガタンゴトン、ガタンゴトン

エレン「楽しかったな」

ミカサ「プリオシン海岸もすごく良い場所だった」

アルミン「もう少し時間があれば、あの学者からもっと話を訊けたのに・・・」

エレン「それはまた次の機会でいいだろ。汽車に乗り遅れたら元も子もないっての」

ミカサ「そういえば、あそこで発掘作業をしていた4人組、どこかで会ったような気がする」

アルミン「・・・」

ミカサ「エレンは分からない?もう少しで思い出せそうな気がするのだけれど」

エレン「・・・さあな。他人の空似ってやつだろ、多分」

ミカサ「そう、なのかも知れない。だけど気になる」ウーン


「ここ、空いていますか?」


アルミン「ええ、大丈夫ですよ」

ミカサ「・・・!!?ッ」

「おや、どうしました。まるで幽霊でも見たような顔になっていますが」


ミカサ「いえ、何でもないです。私の知り合いに少しだけ顔が似ていたもので、つい」

エレン「お?言われてみれば確かに似ているな。あんたをもう少し若くして、顔面にソバカスを付けたらマルコに瓜二つだ」

マルコ「そんなにお知り合いと似ていますか。それなら僕の事もマルコと呼んで頂いて結構ですよ?ははは」

アルミン「べ、別に変な意味で言った訳じゃないんです!気を悪くしないで下さい」アセアセ

マルコ「いいんです。元々僕は人から、結構変わった渾名を付けられる機会が多いんですよ」

ミカサ「変わった渾名?」

マルコ「僕は鳥を捕まえる商売をしていましてね。もっぱら『鳥を捕る人』なんて呼ばれています」

エレン「・・・」

マルコ「だけどある時、長くて言いづらいってんで『チキン野郎』とか『トリトルト』なんて好き勝手な命名をする不届きな輩が現れましてね、
それを聞いた仲間内の連中が面白がって真似をするもんだから、もううんざりしていたんです」

ミカサ「・・・ぷっ」

マルコ「その点、マルコとは実に良い名前だ。何だかこう、懐かしい感じがするというか」

エレン「ふーん、気に入って貰えたんなら、遠慮なくマルコって呼ぶぜ」

マルコ「ええ、いいですとも。そうそう、折角仲良くなれたんだし、堅苦しい言葉遣いでなくとも結構」

ミカサ「了解した」

アルミン「鳥って、どんな種類のやつを捕まえているんですか・・・捕まえているの?」

マルコ「ここらを飛んでる鳥なら、何だって捕まえるよ。サギとか、雁とか」

ミカサ「捕るって、弓矢か鉄砲で?」

マルコ「まさか。川辺に降りてきた所を、足を押さえて袋に放り込むんだ。
そうするとサギは安心して死んじゃうから、後は押し葉にするだけ。簡単でしょ」

エレン「押し葉!?血やら臓物やらが飛び出してグロい事になりそうだな」オエ

アルミン「ちょっとエレン!」

マルコ「君、なかなか面白い冗談を言うね。天の川の砂から生まれたサギに、そんな物が詰まってる訳ないだろ」

エレン「砂!?鳥が!?」

マルコ「?うん。だから水銀を蒸発させてからじゃないと、おいしく頂けないんだよ」

ミカサ「(・・・アルミン)」ヒソ

アルミン「(なに?)」ヒソ

ミカサ「(真顔でああ言われると、どんな反応をすればいいのか困る)」ヒソ

アルミン「(いきなりタメ口で話し出すし、ちょっと変わった人なのかも。ここは空気を呼んで、話を合わせよっか)」ヒソ

マルコ「そうだ、お近づきのしるしに、さっき捕ってきた物を見せてあげるよ」ガサゴソ

エレン「ほー、マジでサギじゃん!目を瞑ってる」

アルミン「なんでぺらぺらになってて、微妙に発光してるのか非常に気になるんだけど、深く追求するのは止めるよ」

ミカサ「本当においしいの?」

マルコ「勿論!毎日注文があるよ、まあ雁の方が人気だけどね。良ければ少しどう?こっちはすぐ食べられるから」ポキ

ミカサ「足・・・まさか、これ生で食べるの」

マルコ「いいから齧ってみて、おいしいから。君達も良かったら一つ」

エレン「いいのか?商売の物をくれるなんて悪いな。・・・あ、うめえ」ポクポク

アルミン「羽の部分もふわふわでおいしい。こんなの初めて口にするよ」モグモグ

ミカサ「・・・」パク

ミカサ「(なんだ、やっぱりただのお菓子だ。鳥肉がこんなに甘くておいしい訳が無い)」

マルコ「一羽ぐらいどうってことないよ。今年の渡り鳥は数が多くて、とても景気がいいんだ」

エレン「は?こいつは鳥じゃねえよ。どう考えてもただの菓子だろ」ポクポク

アルミン「(さすがエレン。僕が思ってて敢えて言わなかった事を臆面もなく)」モグモグ

マルコ「ああーっと!あんな所に渡り鳥の群れがいるぞー!こうしちゃいられない、仕事仕事!!」

ガラッ

アルミン「ちょ、窓なんか開けてどうする気!?」

マルコ「平気平気、いつもやっている事だから」ズイ

エレン「危ないって!身を乗り出すな!!」

マルコ「悪いけど、服を掴まないでくれる?その方が却って危ないから」

ミカサ「はっ!まさか飛び降りる気?早まらないで!」

マルコ「まあ見てなよ。えい」バシュ

アルミン「マルコーッ!!!」

アルミン「・・・えっ?」

エレン「嘘だろ・・・マルコが飛んでる」

ミカサ「そうじゃない、良く見て。あれは立体機動装置」

エレン「信じらんねえ。あいつ服の下にそんなもん装備してやがったのかよ」

アルミン「まったく、びっくりさせないで欲しいな」

エレン「にしても、あの身のこなしは半端ねえな。空中でサギを捕らえてポンポン袋に放り込んでるぞ」

アルミン「彼、昔は軍の関係者だったんだろうね、それもとびきり優秀な。
そうでなきゃ、あんな上手に立体機動装置を扱える筈が無い」

ミカサ「でも、不用意に外に飛び出したりして、もし巨人に襲われたらどうするんだろう」

アルミン「僕達だって、さっき外に出て散歩したじゃない」

ミカサ「それもそうだけど」

エレン「ここは安全なんだよ、きっと巨人なんて出やしない」

ミカサ「・・・腑に落ちない点がもう一つある。こんな事を言っても笑われるかも知れないけど」

エレン「?」

ミカサ「あの人は、ひょっとしたら本物のマルコなんじゃないか。私にはそう思えてならない」

アルミン「・・・」

ミカサ「雰囲気、喋り方、立体機動の立ち回り。どれを取っても記憶の中のそれと相違ない。
もちろん、ありえない事くらい分かっている、だってマルコはとっくに死、」

エレン「ミカサ!」

ミカサ「・・・ごめんなさい。でも」

車掌「もし、そこのお三方」

アルミン「はい?」

車掌「切符を拝見いたします」

エレン「なんだ、そんな事か。はいよ」スッ

アルミン「お願いします」スッ

ミカサ「?えっ・・・」アタフタ

ミカサ「(迂闊。切符が必要だなんて知らなかった!どうしよう)」

エレン「どうしたミカサ?失くしちまったのか」

車掌「早く見せて頂けますか」

ミカサ「待って、その・・・」カサ

ミカサ「(何かが指に当たった。こうなれば、適当に渡して場を繋ごう)」スッ

車掌「・・・!」

ミカサ「(やっぱり駄目か。エレンかアルミンにお金を借りよう。持っていればの話だけれど)」

車掌「これは三次空間の方からお持ちになったのですか?」

ミカサ「何だか分かりません」

車掌「そうですか、ではよい旅を」スタスタ

ミカサ「よく分からないけれど、助かった」ホッ

エレン「何だよその紙!ちょっと見せてみろよ」

アルミン「唐草模様ってやつだ、それに言語の分からない文字が書いてある」

ミカサ「吸い込まれそうな不思議な柄・・・」ジー

マルコ「よっと。いやあ、捕れた捕れた。・・・ん?そんなに夢中になってどうしたの」スタッ

ミカサ「いつの間にか、この紙がポケットに入っていた」

マルコ「うわっ!すごいよこれ、この幻想第四次のどこまでも、銀河の果てにも天上にも行ける通行券じゃないか!」

ミカサ「そんなにすごい物を、私が?」

アルミン「へえ、天上って言えばこの地図にも載っていない、遠い遠い場所でしょ?ちなみに次は鷲の停車場だね」

マルコ「おっと、いつの間にそんな所まで来ていたのか。僕はここらで降りる支度をしなきゃ」

エレン「次で降りるのか」

マルコ「名残惜しいけど、そういう事になるね。君達に会えて、とても楽しかったよ」

ミカサ「もう行ってしまうの。訊きたい事があったのに、残念」

マルコ「僕もだよ。もっと話をしたかった。だけど、やらなきゃいけない事があるんだ」


マルコ「じゃあね。またいつか会おう・・・エレン、ミカサ、アルミン」

ミカサ「・・・!」

アルミン「消えちゃったよ」

エレン「慌ただしい奴だな。何の前触れもなく飛び出して、帰って来たと思ったらまた居なくなっちまった」

アルミン「彼にも事情があるんだよ。あれ、どうしたのミカサ」

ミカサ「・・・去る前に、私達の名前を呼んだ。ろくに自己紹介もしていないのに」

エレン「そんなの、オレ達と喋ってる内に知ったんだろ。一度くらいは互いの名前を出した筈だ」

ミカサ「本当にそうなの?やっぱりあれは本物のマルコだったのかも」

アルミン「ミカサ、さっきからおかしいよ。なんだか少し怖い」

ミカサ「いいえ。おかしいのはこの世界。どうして壁外にも関わらず巨人が一体も現れないの?
あのサギも、地に足が着いた途端、溶鉱炉の銅みたいに溶けて一体化してしまっていた。二人も見たでしょう」

アルミン「外の世界には、そういう不思議な事もあるんだよ」

ミカサ「そんないい加減な解釈で納得するの?いつものアルミンらしくない」

エレン「・・・」

エレン「・・・ミカサ、いい加減にしろよ」

ミカサ「エレン?」

エレン「細けえ事をチクチク突いて、おかしいだの非現実的だの、いちいちうるせえんだよ。
お前はもっともらしい理由がなけりゃ、目の前で起きた事を素直に受け入れられないのか?」

ミカサ「受け入れるとか、そういう問題じゃ」

エレン「オレ達がここで見て聞いて体験した物は、紛れもない事実だ。もっと気楽に構えろよ。
どうしても納得出来ないなら、ここは夢か何かの世界だと思えばいい。それで充分だろ?」

アルミン「まあまあ、喧嘩腰にならないで落ち着いて。ミカサも深く考え過ぎ。
三人で旅を満喫する機会なんてそうそう無いんだし、肩の力を抜いて楽しまないと損するよ」

ミカサ「!・・・ごめんなさい。確かに、それもそう」

エレン「悪かったな、ミカサ、アルミン。険悪な空気は無しにしようぜ」

アルミン「よし、仲直りだ!そっくりさんも、奇妙な現象も、ちょっとした喧嘩になった事も、良いお土産話にしちゃえばいいさ」ニコ

ガタンゴトン、ガタンゴトン

ミカサ「(エレンがいて、アルミンがいて、外の世界は素晴らしさに満ちている。
それなのに私は下らない事にこだわって、折角の思い出を台無しにする事だった)」

アルミン「出来る事なら、このままずっと旅を続けて、不思議な物をもっと発見したいな」

エレン「うまい物もたくさん食いたいよな、あの菓子みたいなさ」

ミカサ「私は二人が一緒に居てくれるなら、何をしても楽しいと思う」

エレン「なんだよそれ、つまんねえ答えだな」

アルミン「素直じゃないんだから、嬉しいくせに」

ミカサ「アルミンだって嬉しそうな顔をしている。それは私と同じ考えだから」

ガラッ


「・・・あーっ!エレンにミカサ、アルミンじゃないか!奇遇だねえ!」

ミカサ「・・・あ」

アルミン「ハンジさん!?来ていたんですか?」

ハンジ「やあ」

エレン「団長と兵長も一緒じゃないですか!どうしたんですか、揃いも揃って」

エルヴィン「そうか・・・君達もこの汽車に乗っていたのか・・・」

リヴァイ「こんな所でも三人一緒とは、見上げた友情だな。結構なこった」チッ

ミカサ「・・・」ムスッ

ミカサ「(はぁ、ようやく子供みたいに純粋な気持ちで旅を満喫出来ると思ったのに。
彼らは尊敬すべき上官だけれど、なんだか水を差されたような気分だ)」

エルヴィン「少し前までは、もっと大人数でワイワイやっていたんだが、一人、また一人と目的地に着いてしまってね。
気付けば私達だけになってしまったから、隣の車両も覗いてみようという話になったのさ」

アルミン「仲が良いんですね、仕事以外の時でもそうやって集まるんですか」

リヴァイ「馬鹿言え、こいつらとは単なる腐れ縁だ。不本意だが、成り行きで一緒に行動する羽目になった」

ハンジ「失礼しちゃうな。私から言わせて貰えば、何が悲しくてこんなむさ苦しいオッサン二人と星空を眺めなきゃなんないんだよ!」

エルヴィン「やめろハンジ、リヴァイ。そりゃあお前達にも、共に過ごしたいと思い浮かべる友人くらい居るだろうよ。
だが、なんだかんだで一番付き合いの古い人間と言ったら、私達を置いて他には居ないだろう」

リヴァイ「・・・それを言ってはお終いだな。何でこうなっちまったんだか」

エレン「羨ましいと思いますよ、気の置けない関係って言うか。とりあえず、今は景色を楽しみましょうよ」

ハンジ「アルビレオの観測所は見た?あれは感動ものだったよね、色とりどりの宝石がぶわぁーって!」

ミカサ「皆さん、これから何かの式典にでも参加するんですか?」

リヴァイ「何故そう思う」

ミカサ「何故って・・・かっちりとした黒ずくめの服装をしているので」

ハンジ「ミカサこそ、とても似合ってるよ、その黒のワンピース。真珠の髪飾りも黒髪に良く映えている」

ミカサ「・・・!?」サッ

アルミン「やだなぁミカサ、今更身だしなみのチェックかい?心配しなくてもどこも変じゃないよ」

ミカサ「(今まで気にも留めていなかった。エレンもアルミンも、礼服とはいかないまでも、ダークカラーの服を着ている。
折角の旅行だし、思い切って服を新調したのだろうか、暗い色は二人の好みじゃない筈なのに)」

エルヴィン「新たな門出を祝いに行くという意味では、当たらずとも遠からずといった所だな。
それよりどうだろう、さっき乗客から果物を分けて貰ったんだが、林檎は嫌いかな?」

エレン「うわあ、立派な林檎ですね。わざわざ団長から頂けるなんて、恐縮です!」

ミカサ「・・・どうも」

リヴァイ「・・・」ムキムキ

ハンジ「ほんと几帳面だね。皮ごとそのまま食べた方が楽でおいしいのに」シャク

リヴァイ「ゴミが残らないってのは便利でいいな。剥いたそばから蒸発しやがる」シュー

アルミン「ミカサ、食べないの?」

ミカサ「赤と金色がとても綺麗で、つるつるしてて、食べるのが勿体ない気がする」

アルミン「そうだね、じゃあ僕も後の楽しみに取っておこうっと」

エレン「そういうのは早く言えって。オレだけ先に食っちまったじゃん」ショリショリ

エルヴィン「ははは、ならエレンには私のをやるから、遠慮せずに食べるといい」

ミカサ「安心して、もし足りなければ私の林檎も分けてあげるから」

エレン「いやいや、いくらオレでもそんなに食えねえよ・・・」

ガタンゴトン、ガタンゴトン

「あれはカラスじゃない、カササギだ・・・」

「あはは、それは傑作だ・・・」

「この旋律、どこかで聞いた事が・・・」

「・・・へえ、さすが物知り・・・」

「双子の水晶宮?その話は確か・・・」


ミカサ「・・・」

ミカサ「(有意義な時間。話がよく弾む。とても楽しい・・・
それなのに、どうしてこんなにも胸が苦しいのだろう)」

ミカサ「(エレンもアルミンもひどい。団長達とばかり話をして、私には相槌を打つか笑いかけるだけ)」

ミカサ「(寂しい・・・。けれど『エレン、アルミン!少し外を散策しよう』と言ったところで場が白けるだけだ。どうしたものか)」

エレン「ミカサ!おい、ミカサ!」

ミカサ「はっ」

エレン「あそこ見てみろよ。すげえ大規模な山火事になってるぞ」

ミカサ「不思議。何を燃やしたらあんな風に真紅の炎になるのだろう」

アルミン「地図には『蠍の火』と書いてあるよ」

リヴァイ「サソリ・・・。あの気色悪い毒虫か」

ミカサ「尾の針に刺されると死ぬって教官が言っていた」

ハンジ「とんでもない!サソリはいい虫なんだよ。こんな話を知っているかい?」

――――

昔々ある所に、一匹のサソリが住んでいました。

バルドラ区に配属された彼は、小さな2メートル級や奇行種なんかを倒しながら生きていました。

ところがある日、狡猾な知性巨人に襲われ、絶体絶命のピンチを迎えてしまいました。

彼は懸命に逃げ延びようとしたけれど、次第に追い詰められ、パクリと捕食されるのはもはや時間の問題です。

すると突然、目の前に井戸が現れ、彼は勢い余ってその中に落ちてしまいました。

巨人はそれを見て、諦めて去って行きましたが、彼は怪我をしていたのでそのまま溺れてしまいました。

彼は思いました。「情けない。今まで散々巨人を屠っておきながら、いざ自分の番が来たらこの有り様だ。

ああ、何故わたしはこの身を巨人に与え、腹の中で大暴れしてやらなかったのだろう。

神よ。見ていらっしゃるのでしたら、せめてこの虚しい命を人類の役にお立て下さい」

こうして彼は、自分の体を夜の闇を照らす美しい炎に昇華させ、夜空に飛んで行きました。

その炎は今でも空の上で赤々と燃え、私達を見守っているのです・・・。


――――

ハンジ「なんと感動的な話だろう。私もかくありたい」ジーン

リヴァイ「明らかに今思い付いたようなストーリーじゃねえか」

アルミン「サソリが出てきたのは最初だけで、残りは全く別な話にすり替わっていましたよね」

エルヴィン「その話、私は嫌いじゃないぞ?」

エレン「えっ」

エルヴィン「壁の中の人類にとっての幸いになるならば、私はこの身を百回焼かれても構わない。
巨人の腹の中で名もなき肉片になろうとも、世紀の大罪人として無残に処刑されたとしても、後悔は無い。
人類が真の自由を手に入れる為の犠牲として、喜んで無様な姿を晒してやろうじゃないか」

アルミン「・・・」

エルヴィン「さて、楽しいお話の時間はここいらでお開きとするか。
もうじきサウザンクロスに到着する頃だ。二人とも、支度をしろ」

リヴァイ「・・・ここに来たらもう後戻りは出来ねえって訳か。あっけねえもんだな」

ハンジ「んー?リヴァイ、顔色が優れないようだけど、腹の調子でも悪いの?」カタッ

エレン「ハンジさん、手が」

ハンジ「お、おかしいな?頑張って抑えてたのに。酒の禁断症状かな、あはは」カタカタ

エルヴィン「・・・人類最強の兵長殿も、巨人をも恐れぬ分隊長も、所詮は人の子という訳か」

リヴァイ「うるせえ。お前こそ、随分な肝っ玉の持ち主だな。それとも、現実逃避が得意なだけか?」

エルヴィン「生憎、私はとうに心臓を人類に捧げてしまってね。喜怒哀楽も恐怖心も、全て壁の中に置いて来た。お前達は違うのか?」

ミカサ「私達と一緒に行きましょう。どこへでも自由に行ける切符を持っているんです」

エルヴィン「それは君が持っていなさい。私達に配られた切符は、それぞれ意味があって行き先が決められている。
いくら好きな場所に行ける切符といえども、選び取れる目的地は一つだけだ。良い旅になる事を祈っているよ」

リヴァイ「・・・着いたな、行くか」

ハンジ「皆、さようなら」

エレン「団長、兵長、分隊長」

エルヴィン「?」

エレン「」バッ

アルミン「」バッ

ミカサ「」バッ

エルヴィン「・・・」


バババッ!


ガラッ、バタン

ガタンゴトン、ガタンゴトン

ミカサ「私達だけになってしまった」

エレン「そうだな」

ミカサ「どこまでも三人で一緒に行こう」

アルミン「幼なじみだもんね」

ミカサ「本当の事を言うと、さっきまで私は、あの三人を邪魔だと思っていた」

エレン「・・・」

ミカサ「だけど、今は心の中がとても辛い。もっと会話を楽しめば良かった。次に会えるのはいつだろう」

アルミン「誰にだってそういう感情はあるさ。負い目に感じる事は無いよ」

エレン「過ぎた事をとやかく言っても仕方ねえよ、ただ次からはうまくやれよ」

ミカサ「(それから、三人でたくさんお喋りをした。子供の頃、訓練兵時代、調査兵団に入った後の話。
変てこな格好をした原住民や、渡り鳥用の信号、ケンタウル村のお祭り。様々な物を目にした)」

ミカサ「ねえエレン、アルミン。次はどこに着くんだろう。空が少しずつ白んできた」

エレン「次か?・・・あーあ。ついに来たか。ミカサ、悪いがオレ達はここで降りる」

ミカサ「次で降りるの?知らない地名だけど、二人がいれば何も心配はない」

アルミン「駄目だよミカサ、君は一緒に来れない。ここでお別れだ」

ミカサ「・・・どうしてそんな事を言うの?」

エレン「お前だって、本当は気付いているんだろ」


エレン「銀河鉄道は、魂をここじゃない別の世界へと送り出す箱舟。
この汽車に乗っている奴はな、みんな死人か、ただの幻影に過ぎないんだよ」

ミカサ「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

アルミン「けれど、ミカサは違うよね。君にはまだ先の人生が残されている」

ミカサ「嫌・・・・違う・・・・・」

エレン「生者のお前がどうしてこの汽車に乗っているのか、不思議でならなかった」

アルミン「多分、僕達のあまりにも強い思念が、ミカサの魂を無理矢理こちら側へ引き寄せてしまったんだと思う。
実際、君だってかなり際どい状態だったし。なんか僕達、まるで怨霊みたいだな、本当にごめん」

ミカサ「やめて・・・これ以上聞きたくない。ちっとも笑えない冗談」

エレン「その切符を見て、ようやく理解した。この世に神様ってやつが存在するとしたら、
そいつがせめて最後だけは、願いを叶えてくれる気になったんだろうってな」

アルミン「三人で外の知らない世界を探検できて、とても楽しかった。もう思い残す事は、何も無い」

ミカサ「やめてって言ってるでしょ!!」バンッ

エレン「・・・」

ミカサ「そんな神様、うその神様だ・・・!だってこんなの、あまりにも残酷過ぎる!!」

ミカサ「・・・ねえ、頼むから嘘だと言って」ジワ

アルミン「・・・」

ミカサ「私をひとりぼっちにしないで。お願い、お願い・・・」ポロポロ

アルミン「そんな顔しないで。これじゃ、折角命を張って助けた甲斐がないだろ?」

ミカサ「そんな事、一度も頼んだ覚えはない!どうして余計な真似を!?」

エレン「お前だって立場が逆なら、オレ達を救う為にそうしただろ?」

ミカサ「・・・っ!」

エレン「大丈夫、ミカサならやっていけるって。なんたって100人の兵士と同等の強さだからな!」

ミカサ「ねえ、元の世界へ帰ろう?皆心配している」

エレン「それは出来ない」

ミカサ「なら、私も一緒に行く。エレンもアルミンも居ない世界なんか、寒くて、暗くて虚しいだけ」

アルミン「最初は、そうも考えた。一緒に連れて行けばいいじゃないか、ミカサだって拒みはしないだろう」

ミカサ「だったら・・・!」

アルミン「でも、やっぱり僕には無理だった。だって」

アルミン「・・・好きだよ、ミカサ。初めて会った時から、君の事を想っていた。
だからこそ、ミカサにはこれからも、僕達が全てを捧げた世界を生きて欲しいんだ」

エレン「オレもだ、ミカサ。ずっと家族じゃなく、一人の男として見て貰いたかった。
いつも守られてばかりだったけど、最後の最後はお前を守って死ねた、それだけがオレの誇りだ」

ミカサ「・・・うっ・・・えぐっ・・・・」

エレン「何も言わずに消えちまった方が、ずっと楽だった。お前もそこまで傷付かずに済んだよな?
けど、そしたらお前は帰って来る筈もないオレとアルミンを待ち続けて、いつまでも前に進めなくなる」

ミカサ「ぐすっ、いやだ・・・おいていかないでぇ・・・・」フルフル

アルミン「離れ離れになっても、僕達はいつまでも一緒さ。ミカサの事を、星空から見守っているよ・・・なんてね。うわ恥ずかしい!」

エレン「切符、絶対に手放すんじゃねえぞ。元の世界に戻る方法は、きっとこいつが教えてくれる」


ガタン、ガタン・・・ピタッ


アルミン「・・・ああ、時間かな」

エレン「元気でな、ミカサ」



ミカサ「・・・駄目っ!待って!!」

1.エレンの腕を掴む

2.アルミンの腕を掴む


>>75

両方!両方!!

ガシッ

ミカサ「・・・エレン」グスッ

エレン「・・・あーもう!チクショウ!」ダキッ

ミカサ「!?」

アルミン「・・・」コクッ

エレン「約束だ。お前がいつか本当に汽車に乗る時が来たら、必ず迎えに行く。
ただし、何十年も先の話だぞ。良い相手を見つけて、沢山の子供と孫に看取られながら。それが条件だ」

アルミン「伴侶選びは妥協しちゃ駄目だよ。特にエレンよりも弱っちい男なんて、絶対に認めないからね」

エレン「ハハッ、それならアルミンより馬鹿な奴も却下だな」

ミカサ「そんな無理難題な要求、呑める訳が無い」

アルミン「何でもいいから、とにかく笑って生きて。君に暗い表情なんて勿体ないよ。僕との約束ね!」


エレン「ミカサ」


エレン「幸せになれよ」ニッ




ガタンゴトン、ガタンゴトン


ミカサ「・・・」

ミカサ「エレン?」


ガタンゴトン、ガタンゴトン


ミカサ「アルミン・・・」

ミカサ「うっ・・・うっ・・・」


ガタンゴトン、ガタンゴトン


ミカサ「うわあああああああああああああああああああああん・・・・」

――――――

――――

――。


ミカサ「・・・」パチ

ジャン「ミカサ!?」バッ

クリスタ「意識が戻ったのね!?」バッ

ミカサ「ジャン、クリスタ・・・」

クリスタ「どこか痺れるとか、気持ち悪くはない?軍医を呼んで来ようか?」

ジャン「本当に良かった。お前までいなくなっちまったら、オレ・・・」

クリスタ「もう、男の子なんだから泣かないでよ」グスッ

ミカサ「・・・ジャン」

ジャン「なんだよ」グスッ

ミカサ「・・・エレンと、アルミンは?」

ジャン「・・・あいつらか?そういや何処行っちまったんだろうな。ちょっと探しに行って来る」

ミカサ「ジャン」

ジャン「は?」ピタッ

ミカサ「私は、大丈夫。だから教えて」

ジャン「・・・」

ミカサ「頭がうまく働いていないせいか、壁外調査に行った直後の事までしか覚えていない。
しばらく時間を置けば、記憶は元に戻るだろう。けど、今二人の口から直接聞きたい」

クリスタ「・・・うん、分かった。ミカサ、どうか落ち着いて聞いて」

ジャン「・・・まんまとしてられたんだ。今期の新兵に、巨人に変身する裏切り野郎が混ざっていやがった」

クリスタ「調査兵団を一掃する気だったのかな。束の間の休憩で油断していた隙に、巨人の大群が一気に襲いかかって来た」

ジャン「エレンや幹部クラスを含む精鋭隊が、命と引き換えに奴らを足止めしたおかげで、兵の大半は無事に逃げ延びた。だが」

ミカサ「・・・!」

クリスタ「私達も必死に戦ったけれど、前後を巨人に包囲され、橋の真ん中に立ち往生してしまった。
そしてついに橋が重みに耐え切れなくなり、昨夜の大雨で氾濫した川に巨人もろとも投げ出されてしまった」

ミカサ「・・・運良く流されずに済んだのは、クリスタとジャンだけだった」

ジャン「アルミンはな、オレがいる岸の方にお前の体を押しやって、自分は手を離しやがったんだ。
・・・濁流に飲み込まれて姿が見えなくなる一瞬、あいつは確かに笑っていたよ」

ミカサ「・・・そう・・・」

ジャン「意外だな、もっと取り乱すと思っていたんだが。『そんなの信じない』だなんて叫びながら、さ」

ミカサ「そういう馬鹿げた事はしない、二人と約束したから。笑って幸せに生きるって。大丈夫、私は大丈夫・・・」ブツブツ

クリスタ「ミカサ!」ヒシッ

ミカサ「・・・クリスタ?」ポカン

クリスタ「ごめんね・・・。二人を助けられなくて。私が生き残って、本当にごめん。
私を憎んでくれても構わない。だから、辛いのを我慢しないで。見てられないよ、そんなミカサ」ポロポロ

ミカサ「・・・」

ジャン「そうだ。オレ、お前が目覚めたって報告しに行かねえと。ついでに食いもんも必要だな」スッ

ミカサ「・・・っ、・・・うっ・・・うぐっ」ギュッ

クリスタ「うう・・・うぇぇええええん・・・」ギュッ

―――――


ミカサ「・・・」スタスタ

サシャ「・・・」スタスタ、ジー

ミカサ「・・・」ピタッ

サシャ「!」ピタッ、ジー

ミカサ「サシャ、別について来なくてもいい」

サシャ「そういう訳にはいきません!目を離した隙に、後追い自殺でもされたら困りますから」

ミカサ「私を何だと思っているの・・・」

サシャ「ジャンが心配してましたよ?あんな事があったのに妙に冷静だし、何か変な覚悟を決めてるんじゃないかと」

ミカサ「エレンとアルミンに怒られるから、そんな事はしない。サシャこそ、足の怪我は大丈夫?とても心配」

サシャ「全然平気ですよ!お肉と牛のお乳をたくさん食べているので、もうほとんど治っています」

ミカサ「そう。じゃあリハビリがてら私と一緒に散歩しよう」

サシャ「ええ。ついでに、おいしい物でも食べましょうね」ニコ

ミカサ「・・・」ガサガサ、ピラッ

サシャ「ん?何ですか、その変な模様の紙」

ミカサ「(別れ際、エレンが私のポケットに切符をねじ込んだ。こっそり捨てようとした事、ばれていたみたい)」

ミカサ「・・・なんでもない」ゴソ

サシャ「?」

ミカサ「(畳んだ紙の中に挟まれていたのは、二つの自由の翼。
ほのかに土で汚れて、端が綻びているのはエレン、手入れのし過ぎで少し色が薄い方はアルミン。一目で分かった)」

サシャ「あ、コニー!どうしたんですか、そんなに急いで」

ミカサ「(エレン、アルミン。世界は残酷だけれど、私は何とかやって行く。
巨人と戦い続けながら、おばあちゃんになるまでしぶとく生き延びる)」

コニー「聞いたか?~~長が、目を覚ましたんだってよ!」

サシャ「ええっ!?あの人、ずっと昏睡状態で二度と起きないかもって」

ミカサ「(そしたら、会いに来てくれるんでしょ。この切符を使って、三人でまた旅に出よう)」

サシャ「こうしちゃいられない!行きましょう、ミカサ!」

ミカサ「・・・うん、行く」

ミカサ「(今度は、銀河の果てまで。どこまでも、どこまでも・・・)」


(完)

以上です。
ここまで読んでくれてありがとう。

ガシッ

アルミン「えっ、ちょ、ミカサっ!?」

ミカサ「・・・」グスッ

アルミン「・・・やめてよね」

エレン「・・・」

アルミン「恰好悪いじゃないか。やっとの、思いで、決心したのに。せめて別れる時は、男らしくっ、て」ポロ

ミカサ「行かないで・・・うっ、うっ」ダキッ

アルミン「っ・・・君を、一人残すなんて、僕だって、いやだよ」ポロポロ

エレン「おいおい、二人とも離れろって」

ミカサ「わああああああああん・・・」

アルミン「ミカサぁ・・・僕・・・うわああああああん」



エレン「・・・はぁ」

エレン「お前ら、いつまで泣いてんだよ」

ミカサ「だって・・・っ、手を離したら、降りちゃうんでしょ。いなく、なっちゃうんでしょ」グスグス

エレン「いや、とっくに降りてるから・・・顔上げてみろ」

ミカサ「・・・えっ?」

エレン「お前らがくっついてピーピー泣いている内に、汽車が出ちまったんだ。見ろ、でかい車体がもう豆粒みたいだ」

アルミン「あ」ガバッ




・・・ガタン・・・ゴトン・・・

・・・タン・・・・ットン・・・

・・・・・。


――――


「ミカサッ!?急に顔色が・・・蒼白に?」

「呼吸もおかしいぞ・・・オイ、はやく軍医を連れてこい!」

「ミカサ!だめっ!しっかりして」

「おいミカサ!目を開けろって!ミカサ、ミカサ!!」


――――

エレン「・・・本当に、これで良かったのか?」

アルミン「今だったら、まだ間に合うかも知れない」

ミカサ「いい。彼らなら、きっと調査兵団を立派に建て直してくれるだろう」

エレン「そうか・・・」

ミカサ「悲しい顔をしないで。これは、私が選んだ道。後悔なんて、欠片ほどもない」

アルミン「・・・」

ミカサ「これからどうしようか」

エレン「さあな。銀河って、壁の中なんか比較にならない程広いんだろ?隅から隅まで歩いて回るのも悪くねえ」

アルミン「壁の面積を何万、何億と掛け算しても足りないくらいだよ。子供の頃、そんな本を読んだ」

ミカサ「すごい。地図に全部載りきらないのも納得がいく」

アルミン「農業をして暮らすのも楽しいんじゃないかな。ここら辺じゃ、畑に好きな種を蒔けば何でも勝手に育つんだ。
麦だって、パシフィック辺のように10倍も大きくて、殻もないし匂いもいい」

エレン「オレ達も立体機動は得意だしな。狩猟だけでも充分食っていけそうな気がする」

ミカサ「任せて。私は農業も、狩りだって得意。沢山お弁当を作って、隅々まで探検しに行こう」

アルミン「虹の足元には、ルビーの絵の具皿が埋まっているらしいよ。野原には、トパーズや金剛石の草花が咲いているとか」

エレン「母さんも、この世界のどこかで幸せに暮らしているのかな」

アルミン「勿論だってば。ミカサや僕の両親だって仲良くやっている筈さ。会いに行こうよ、銀河中を探し回ってでも」

ミカサ「ああ、やりたい事があり過ぎて、何から手を付ければいいのか分からない」

エレン「時間はたっぷりあるんだ。じっくり一つ一つ取りかかればいいだろ」

ミカサ「ええ。そうやって、いつまでも好きな事をして暮らそう」

アルミン「そしていつかこの生活に飽きたら・・・三人一緒に生まれ変わろうよ」

エレン「それ良いな!また幼なじみか?それとも、三人兄妹とか」

ミカサ「エレンは私と結婚して、アルミンはその子供。もしくはその逆でも可。
いや、二人に悪い虫が付くといけない。私が母親で、二人が息子になるのが理想」

アルミン「ちょっと、なんだよそれ。じゃあ僕は父親で、ミカサが僕の娘。エレンはそうだな、ペットの犬ね」

エレン「アルミン、ふざけんなよ!」


アハハハハ・・・



ミカサ「・・・」

ミカサ「(ここに、私達を邪魔する者はいない。ずっとずっと、三人一緒に楽しく生きて行ける。そうに違いない)」


ミカサ「・・・エレン、アルミン。私は今、とても幸せだ」




(終)

おまけのアルミン編はここまで
風のミカ三郎と注文の多い調査兵団で迷ったけど、銀河鉄道は書いてて楽しかった
宮沢賢治作品を未読の方はぜひ青空文庫を!良ければますむらひろしの猫版も手に取って頂きたい

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