毎日が憂鬱だ。
何の目標もなく、ただゲームだけをして過ごす日々。
俺のダブルスクリーンの携帯ゲーム機には、俺が時間を持て余して育てた大量のポ〇モンが映っている。
ゲーム内のポ〇モンは、ほぼ全部育てたと言っても過言ではないが、ただ少しだけ例外がある。
その中のひとつが、ゴーストだ。
ゴーストには、なにやら進化後の姿があるようだが、友達というものがいないと新たに進化しないらしい。
ぼっち道八段の俺に、そんなものは存在するはずもなかった……。
しかし、俺にはこれが陰謀めいたものだという、根拠のない確信がある。
「そうだ、これは陰謀なんだ。通信ケーブルが意志を持ってどこかに逃げ出してしまったことが原因なんだ!」
と、ありもしない妄言を垂れ流しながら、俺は押入れに向かって大げさなポーズを決めた。
すると、押入れにある段ボールのふたが一人でに、ぱかり、と開いた。
「なぜ……わかったんですか?」
幼女だ。深刻な顔をした幼女だった。
俺の思考は唐突に渦を巻き錯乱する。
ロリコン、誘拐、犯罪者。
そんなマイナスイメージが高速で駆け抜ける。
「初めまして、私の名前はええっと……子です」
「え?」
俺の焦りを知ってか知らずか、幼女は自己紹介を始めたが、肝心な部分が聞き取れない。
俺は穏やかならざる心境ながらも咄嗟に聞き返してしまった。
「だから! ゲボ子です! ふぎゃっ!!」
幼女らしからぬ、というかひどい名前の幼女・ゲボ子は、いきなり立ち上がった反動で、押入れの仕切り板に頭をぶつけてしまった。
そして、その場で頭を抱えてうずくまったのだ……。
「お、おい、大丈夫か?」
さすがに、俺も心配になってきたが、ゲボは大丈夫、と言った風に片手を前に出し、ゆっくりと押入れが這い出てきた。
「私、結構丈夫にできてますから……」
「いや、初対面の挨拶してもらっておいてなんなんですが……俺の社会的立場が色々とヤバイと思って、その件につきましては……」
「……? 初対面じゃないんですけど……」
「へ……?」
混乱して文章になってないセリフを垂れ流す俺にゲボ子が投げかけた言葉は意外なものだった。
初対面じゃない?
そんな馬鹿な。俺は見たことないぞ、こんな幼女。
……あ、いや、待てよ?
あり得ないとは思うが……。
「いや、つーか初めまして、ってさっき言ってただろ」
「ああ、あれは言葉の綾です。この姿ではってことですよ」
まさか……、まさかこいつは……。
いや、考えてみれば確かにそうだ。
全体的にグレーなカラーリング。二つの赤丸の髪飾りと黒のばってん。
さきほどの頑丈にできているという言動。
「初代、ゲーム〇ーイ?」
「そうです♪」
確かに、あの段ボールには初代ゲームボーイがあった。
認めたくなくても認めざるを得ないだろう。
しかし、新たな疑問が残る。
それは……。
「通信ケーブルが逃げ出したってのは、どういうことだ?」
「言葉通りですよ。でも、それにも深い理由がありまして……」
「深い……理由……?」
なにか大事が起ころうとしているのではないか、と俺は息を飲んだ。
そしてゲボ子は、一度深呼吸してから、その理由を言ったのだ……。
「彼女たちが、使われなくなってすねちゃったんです……」
内心、俺は、反応に困ると思った。
大事ではないが、ギャグで片づけることもできない。
そんな微妙な問題だったからだ。
「お願いです! 私と一緒に、ケーブルちゃんたちを探してください!」
「し、しかしだなぁ……」
引きこもりで、しかも幼女を連れ出した俺を近所の人が見たらなんと言うか……。
そんなことを考えると、どうも気が乗らない。
ふと、ゲボ子の視線に気づく。
「通報しますよ?」
「手伝わせてくださいお願いします」
こうして俺は、幼女に土下座をする羽目になってしまったのだ……。
「まずあなたには、部屋を出る前にありったけのカセットを持って行ってもらいます」
「え? なんで?」
「なんでもいいですから!」
ゲボ子に狭まれ、俺は動きの邪魔にならない範囲で、できるだけ多くのカセットをポケットやらなんやらに詰め込んだ。
一体、これらが何の役に立つというのだろうか?
ともかく準備を終え、俺はゲボ子とともに玄関の扉を開けた。
扉の先では、まるで博士が声をかけてきそうなくさむらが広がっていた。
「あの~、これはいったい?」
「……なにかが起こっていますね。現象としては、ゲームの現実化です」
詳しくはゲボ子もつかめていないようだが、つまりはそういうことらしい。
冗談ではない。
ゲームは好きだが、ゲーム世界に吸い込まれるなど、望んでいない。
ええい!
もう、ケーブルちゃんとやらを見つけだして情報を得るしかない!
しかし、どうも様子がおかしい。
明らかに只者ではない、というか、どこぞのクリア後の洞窟に突っ立ってそうなモンスターが、はじめのくさむらに突っ立っている。
もし、あれがあいつなら、勝ち目はないぞ?
「ご安心を。なにも、正攻法で挑む必要なんてありません」
「なに?」
絶望的状況だというのに、ゲボ子は怯む様子がない。
なにか手があるということなのか。
「カセットを私の頭に差し込んでください!」
「はい?」
一瞬、何言ってんだこいつ、となったが、すぐに合点がいった。
ゲボ子の後頭部には、確かに穴が開いている。
おそらくは、カセットを差し込む、あの部分だろう。
そして、俺はもっていたカセットの中からランダムに選んだものを、勢いよくゲボ子の大事な穴に突き刺した。
まじで俺のゴースト進化しないんですけど、どうしたらいいんですか?(震え声)
「おお、これは! いい選択をしましたね!」
「あ、ああ……」
正直、カセットを見てないから、どんな選択なのかわからない。
だが、ゲボ子は、直後、勢いよくモンスターに向かって突っ走っていった!
死ぬ気か、お前!?
良い子のみんな! 絶対にゲームカセットを勢いよく突っ込んじゃダメだぞ!
昔のゲームデータは特にデリケートだからな!
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しかし、モンスターからかなり離れたところで、ゲボ子は物理法則を無視したかのようにジャンプ!
そしてその勢いのままモンスターを踏みつけ、ペコッ、という音とともに撃退!
もうおわかりだとは思うが、俺が差し込んだカセットは、あの有名な配工管のゲームだったようだ。
「ふぃ~、反則(バグ)には反則(別ゲー)で対抗するのが一番ですよ」
一仕事終えた安堵感からか、ゲボ子は汗を拭う動作をした。
もっとも、携帯ゲームであるゲボ子が汗をかくというのは、かなりの非常事態であるため、実際にかいているわけではないが。
というか今のは……。
「あ、そうそうこの姿の私、というか私たち携帯ゲーム機は、差し込んだカセットの内容を現実に反映できるようです」
「そうなのか……」
「とはいえ、この姿になったのはわりと最近ですけどね」
そう言って苦笑いして頬を人差し指で掻くゲボ子。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
ネットでもぼっちでも頑張ります。
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