苗木「ここに落とし穴があります」霧切「そうね」 (58)

苗木「そして、ここに霧切さんを落とします」

霧切「どうやって? 」

苗木「そりゃあ、立ち話でもなんでもして近くまでおびき寄せたら...」

霧切「ドーン、って突き落とすの? 」

苗木「うん。だから、何も聞かなかったことにしてもう一度来てくれないかな」

霧切「次は突き落とすつもりなのね、分かったわ」

霧切「...今度こそ、成功するといいわね」

苗木「......」

苗木「どうしてこうなった」

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遡ること1時間前

苗木「ふぅ...ようやく完成したぞ! 」

苗木「これに霧切さんを落としたら、一体どんな反応をするのかなぁ...」

霧切『キャッ 』

苗木「可愛らしい悲鳴をあげながらも」

霧切『......』

苗木「ジトッとした目で見つめて来てさ...」

霧切『苗木君の癖に生意気よ』

苗木「しまいにはお決まりの一言をキメるのかなぁ...うん、楽しみ楽しみ」

苗木「っと、ちょっと喉が渇いたな。まあ、これだけ頑張ったんだから当たり前か」

苗木「誰かが間違って引っかからないうちに買ってこよっと」

「あら、喉が渇いたの? それだったら、ここにいいものがあるわ」ピタッ

苗木「ひょっ、冷たっ」

霧切「はい、ポカリ缶。アクエリアスじゃないからって文句は言わないわよね」

霧切「そうでしょう? 穴掘りでお疲れの、な え ぎ く ん」

苗木「」

苗木「...ひどいなあ、見てたなら初めから言ってくれれば良かったのに」

霧切「最初からではないわ。終わりかけのほんの一部と、苗木君の妄想のところだけ」

苗木「えー...場所が分かってちゃどうしようもないじゃないか...」

霧切「それにしても、一体どうやって落とすつもりだったのかしら」

霧切「これでも超高校級の探偵として、状況把握能力は飛び抜けているつもりだし」

霧切「例え穴掘り苗木君を目撃しなかったとしても、引っかかったとは到底思えないのだけど」

苗木「うーん、呼び寄せたらあとは勝手に落ちてくれるかと思ったんだけど...さすがに甘かったかな」

苗木「よーし、それじゃあこうしてみよう! 霧切さん、しばらくこっちを見ないでね」

霧切「はぁ...分かったわ」





つバナナの皮


霧切「」





霧切「...えっ? 」

苗木「さあ、これなら超高校級の霧切さんといえども引っかかっちゃうかもよ」

霧切「...これ、何? 」

苗木「? なにって、バナナの皮だけど」

霧切「......」

苗木「あ、今僕のことを馬鹿にしたよね。ダメだよ、そんな態度じゃバナナの皮に足をすくわれるよ! 」

霧切「あなた...ギャグとして言ってるのなら、それ、相当寒いわよ? 」

苗木「いやぁ、僕わりとサッカーを見るのが好きなんだよね」

霧切「で、置いた意味は? 」

苗木「霧切さんの芸人魂に火をつけてあげようかと」

霧切「ないわ。やり直し」

苗木「ちぇっ」

苗木「じゃあ、お次は...あっと、後ろを向いててよね」

霧切「...これ、わざわざする必要があるのかしら」

苗木「雰囲気作りだからね、しょうがないね」




霧切「まだ? 」

苗木「まだ」

霧切「そう」




苗木「と、いうことで...こんな仕掛けはいかがかな? 」



つ"ここに落とし穴があります"

つ"ここに落とし穴があります"

つ"ここに落とし穴があります"

・・・・・
・・・


霧切「......」

霧切「やけに時間がかかると思ったら...」

霧切「これだけの数の看板、いつの間に用意してたのよ...」

苗木「まあ、気にしたら負けってことで。それよりも、このトラップの意味を知りたいと思わない? 」

霧切「いや、あまり」

苗木「そんなこと言っちゃって...本当は知りたいんだよね? ねえ、そうでしょ? ねえったらねえ! 」

霧切「苗木くん、うるさい。めっ」

苗木「はい。わふんっ」

霧切「...ゴホン、なんとなくやりたい事は分かるけど、一応説明をお願い」

苗木「えーっと、ほら、あれだよあれ」

苗木「もしこんなことが書いてある看板があったら、普通の人なら避けて通るところだけど」

苗木「警戒心の強い人なら、逆にそれが罠だと考えちゃってさ。立て札の近くを通れば安全だと思っちゃうんですよね、はい」

霧切「それで? 」

苗木「だから、文字通り落とし穴の側に立ててやろうかと思ったんだけど...それだけだと霧切さんにはかなわない」

苗木「ならいっそ立てまくっちゃえと...ね」

霧切「でも、それだと決め手に欠けるわ。穴は一つしかないのだし、視界全てに立て札があるのなら、それはもう何もしないのと同じでしょう? 」

苗木「じゃあ聞くけど...こうやって立て札の並んだ状態になったうえで、元々落とし穴のあった場所を思い出せるのかな? 」

霧切「! 」

苗木「ほらね。立て札が密集している所為で落とし穴の校舎や木との距離感も分かり辛くなってるし」

苗木「何より、地面が満遍なく荒らされている状態になったからね。これなら、さっきみたいにはいかないかもよ」

霧切「......」

霧切「いや、これくらいどうという事もないわ。私、超高校級の探偵だし」

苗木「あらまあ」

霧切「ということで、発想としては面白かったけどやり直し」

苗木「ええー...そんなこと言われても...もう落とし穴の位置なんて覚えてないし」

霧切「......」

霧切「はぁ...左から4番目のあそこよ。踏まないように片付けちゃいなさい」

苗木「うん」



苗木「左から4番目は危険、左から4番目は危険っと。後ろから周り込んで取らないと...」

霧切「あ、周り込んだら...」

ズボッ

苗木「あっ」




苗木「......」

霧切「......」

苗木「何これ。え? どゆこと? 」

霧切「落ちたのよ。その穴に」

霧切「しかも、自分で掘った筈のものにね」

霧切「私を落としたくてたまらなかったその穴も、思わぬ伏兵に驚いているんじゃないかしら」

苗木「......」

霧切「...? 」

苗木「...はぁ、僕ってここまで鈍臭いんだなぁ...」

苗木「鬱だ...死のう...」

霧切「......」

霧切「え、これって私が悪いの? おかしくない、ねえ」

苗木「とまあ、冗談は程々にしておいて...ねえ、裏切さん」

霧切「霧切さんよ」

苗木「霧切りさん、こんな結果に終わっちゃった事に少しでも罪悪感を感じているのならさ...」

霧切「何? 」

苗木「落とし穴を作り直すの、手伝ってくれないかな」

苗木「いや、むしろその拡張を手伝ってほしいんだ」

苗木「だってさ、考えてもみてよ。深さが30cmにも満たない落とし穴なんて味気ないにも程があるじゃないか」

霧切「確かに、浅いわね」

苗木「でしょ? だからこれ、もう一つのスコップ。はい、どうぞ」

霧切「苗木くん...一つ確認してもいいかしら? 」

苗木「スリーサイズ以外なら喜んで」

霧切「...この穴を大きくして、一体何をするつもりだったの? 」

霧切「思い出してみて」

苗木「なーんだ、そんなことか」

苗木「思い出すもなにも、決まってるでしょ」

苗木「霧切さんを落とす為だよ! 」

霧切「......」

苗木「......」

霧切「...手伝わなきゃダメ? 」

苗木「ダメ」

霧切「そう」





霧切「でも、しない」

苗木「だよね。じゃあ、そこで本でも読みながら待っててよ」

霧切「そうさせてもらうわ」


その30分後

苗木「ふぅ...こんなもんかな」

苗木「出来たよ霧切さん、深さ50cmの特大落とし穴だ」

霧切「そう、お疲れ様」

苗木「待たせて悪かったね。さあ、出番だよ」

霧切「そう、良かったわね」

苗木「......」

苗木「さっきチラッと霧切さんのパンツが見えたんだけど...」

霧切「そう、良かったわね」

苗木「......」

霧切「......」

苗木「...本でも読んでてって言ったけど」

苗木「完成したんだからさ、こっちを向いてよ...」

霧切「後少しだけ。もう少しで妻と娘がNTRれるから、そこまでは」

苗木「それ、読み終えるのと一緒だよね? 」

霧切「秘密」

苗木「...内容を憶えてるんなら、尚のことこっちを見てよ」

霧切「......」

苗木「く、くそう...あくまでも己のスタイルを貫き通すつもりなんだね」

苗木「分かったよ...だったらもう、こっちだって手段を選ばない! 」

霧切「えっ」

苗木「要は霧切さんの興味を本からこっちに移しつつ...」

苗木「超高校級の探偵スキルを使えないような状態にしちゃえばいいんだから...」

霧切「ちょ、ちょっと苗木くん。痛いのは御免よ」

苗木「痛いの? 別にそんなことしないってば」

苗木「ただ...少しばかり恥ずかしい思いはしてもらうかもね」

霧切「! 」

霧切「はい、本を読むのやーめた。こ、これでいいんでしょ? 」

苗木「それじゃあ足りないんだよなぁ...まだ状況把握能力が残ってるんだから、それをどうにかしないと...」

苗木「ねぇ...霧切さん」

霧切「な、何かしら」

苗木「それは...」

おやすみだべ

苗木「僕とっておきのピロートークSA! 」

苗木「これで霧切さんを恥ずかしい気持ちにして、正常な判断を出来なくさせてやるっ」

霧切「......」

霧切「あなた...その言葉の意味を知ったうえで言ってるの? 」

苗木「え、ピロートークのこと? うーん、舞園さんに教えてもらったんだけど...」

舞園『私相手にしてくれれば、その...頭の中が真っ白になって』

舞園『苗木君とイケナイこと...しちゃうかもしれませんね』

苗木「ってさ」

苗木「イケナイ事がなんなのかはこの際置いておくとして...」

苗木「とにかく、相手への好意をつらつらと述べていくこと...で合ってるよね」

霧切「......」

霧切「半分は正解だけど、私相手にするものじゃないわ。舞園さんにでもしてあげなさい」

苗木「......」

苗木「とか言っちゃって、本当は思考停止に陥るのが怖かったりして」

霧切「...へえ、私相手に煽り文句を謳うなんて、苗木君の癖に生意気ね」

霧切「いいわ、ご自慢のピロートークを聞かせて頂戴」

霧切「(ピロートークって、本当は行為を終えた後に男性がベッドの上で囁く愛の言葉のはずだけど...言わない方がいいわよね)」

霧切「(でも、彼がこんな言葉を知ってたなんて...少しだけ残念)」

霧切「(ただ...手段を選ばないと言った割にはこんなことしか言ってこなくて、これは...その...安心したわ)」

霧切「(やっぱり苗木君なんだなって)」

苗木「よーし、いくぞ」

霧切「ぼっちこいよ」

苗木「えーっと、霧切さんの髪ってツヤツヤしてて綺麗だね」

霧切「トリートメントには気を付けているの。当然だわ」

苗木「霧切さんいいにおい」

霧切「その言い方、何故か引っかかるからやめて」

苗木「あと、目がすーっとしてる。この目が霧切さんの才能を支えてるって考えたら、どれだけ見てても飽きないよ」

霧切「そ、そうかしら...なんだか急にそれっぽくなったわね」

苗木「あーっと、それじゃあ最後になっちゃったけど...」

苗木「あの...その...霧切さんってさ...」



苗木「クールでカッコイイ側面が前に出てきちゃうから、言いにくいんだけど...」

苗木「凄く...可愛い人だ...と僕は思ってます」

霧切「......」

苗木「......」

霧切「や、やめましょうか、こんなこと」

苗木「そ、そうだね。何がしたかったんだろうね僕は」

霧切「乗せられた私も悪かったわ。今のは無し、全部無しよ! 」

苗木「う...うん。こんなことしても無駄だったね! そうだね! 」

霧切「......」

霧切「...じゃあ、状況を整理しましょうか」

苗木「...うん。えっと...ここに落とし穴があります」

霧切「そうね」

※冒頭に戻る





おやすみだべ。

>>42訂正

霧切「(ピロートークって、本当は行為を終えた後に男性がベッドの上で囁く愛の言葉のはずだけど...言わない方がいいわよね)」

霧切「(でも、彼がこんな言葉を知ってたなんて...少しだけ残念)」

霧切「(ただ...手段を選ばないと言った割にはこんなことしか言ってこなくて、これは...その...安心したわ)」

霧切「(やっぱり苗木君なんだなって)」

苗木「よーし、いくぞ」

霧切「来なさい、受けて立つわ」

苗木「えーっと、霧切さんの髪ってツヤツヤしてて綺麗だね」

霧切「トリートメントには気を付けているの。当然よ」

苗木「霧切さんいいにおい」

霧切「その言い方、何故か引っかかるからやめて」

苗木「あと、目がすーっとしてる。この目が霧切さんの才能を支えてるって考えたら、どれだけ見てても飽きないよ」

霧切「そ、そうかしら...なんだか急にそれっぽくなったわね」

苗木「あーっと、それじゃあ最後になっちゃったけど...」

苗木「あの...その...霧切さんってさ...」

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