ほむら「2つの扉の内どちらか1つを選んでください?」(191)

目が覚めると私は、知らない部屋にいた

ほむら(どこなのここ……?)

ほむら(ベッドが1つと扉が2つある以外は、何もない)

ほむら(……)

ほむら(昨晩はきちんと自宅でお布団に入って眠った筈)

ほむら(寝ている間に何者かの手で移動させられた?)

ほむら(それとも、強力な魔女の結界の影響で部屋自体が変質している?)

「おはようございます、暁美ほむら様」

ほむら「!?」

ほむら「あなたはいったい何者なのかしら」

「その質問にお答えすることはできません」

ほむら「あらそう。不親切なのね」

ほむら(声は部屋の片隅に置かれたスピーカーから聞こえてきているよね)

ほむら(機械で変質させられたような声だから、声の主の年齢性別は不明)

ほむら(スピーカー?)

ほむら(……そんなもの、目を覚ました瞬間は設置されていなかった筈)

ほむら(やはりこれは魔女の仕業なのかしら)

ほむら(モノが何もない空間にスピーカーが前触れなく出現するなんて、普通じゃない)

ほむら(この部屋の異様な生活感の無さといい)

ほむら(やはり人間の仕業とは……)

ほむら(しかし、犯人が魔女だとしたら、こんな回りくどいことをする意味があるのかしら)

「何やらお考えのようですが、そろそろ本題に入らせていただきたいと思います」

ほむら「本題?」

「これから貴女には、2択の選択を繰り返していただきます」

ほむら「……」

「選択の末におとずれるであろう結末は様々。
  貴女はマルチエンディングのゲームブックを楽しむような気持ちでいてください」

ほむら「そんな話にのるのは嫌だと言ったら?」

「一生その部屋にこもっていただくことになります」

ほむら(何が狙いかは分からないけれど、馬鹿馬鹿しい)

ほむら(さっさと部屋の壁を破壊してこの部屋を脱出―――)

ほむら(えっ? 武器が全て消えている!?)

「不要な危険物はあらかじめ没収させていただきました」

ほむら「……で。私は何をすればいいのかしら?」

「この部屋にある2つの扉の内どちらか1つを選んでください」

ほむら「2つの扉の内どちらか1つを選んでください?」

「はい」

ほむら(2つの扉には、それぞれ1枚ずつ紙が貼られている)

ほむら(右の扉には、犬を印刷した紙)

ほむら(左の扉には、猫を印刷した紙)

「なお、制限時間は1時間となっております」

ほむら「そんな時間は必要ないわ」

「今はそうかもしれませんね」

ほむら(今“は”……? ひっかかる言い方をするわね)

ほむら(まあいいわ)

ほむら(猫は、最初の世界でまどかが魔法少女になってまで助けた動物)

ほむら(迷うまでもない)

ほむら「私は左の扉を選ぶわ」

「猫の扉ですか。分かりました」

――――

第2の部屋



ほむら(何この部屋)

ほむら(部屋中に何も映っていないモニターが設置されている)

「移動がお済みになったようですね」

ほむら「さっさとこのくだらないゲームを終わらせたいわ。早いところ次にいってちょうだい」

「そうお焦りにならないでください。次の選択に移る前に、ある映像を見てもらいます」

ほむら「……」

「それではよくご覧になってください」



ほむら(全てのモニターに一斉に映像が)

犬『わん! わんわん!』

ほむら(狭い部屋に犬が一匹いるだけの映像ね)

ほむら(いったいこんなものを見せて何がしたいのかしら)

犬『くぅーん……』

ほむら(……あら?)

ほむら(気のせいかしら、モニターの中に映しだされている部屋の天井の高さが、さっきより低く)

「よくご覧ください。これが選ばれなかった側の末路です」

ほむら「まさか……」

犬『きゃんきゃん! きゃんきゃんきゃん!』

ほむら(天井が……犬の頭のすぐ上にまで……)

ほむら「もう止めて! このままだと犬が―――」

「では、今からもう1つの部屋に変更しますか?」

「本来なら選び直しは許されないのですが、初回ということで特例を許しましょう」

ほむら「……私が部屋を選び直したら」

「……」

ほむら「そうしたら今度は猫ちゃんが?」

「ええ。代わりに潰されることになりますね」

ほむら「……」

結局私は、犬を見殺しにした

「さて。続いての選択肢に移りましょう」

声がそう言うと、さっきまで犬の処刑映像を映し出していたモニターがパッと消滅した
代わりに、2つの扉が現れる

「続いての選択肢はこちらになります」

ほむら(今度は猫と……、人間!?)

「ホストをやっている男です。源氏名はショウ」

ほむら「……」

「一方の猫はただの野良。貴女が可愛がっていた黒猫のエイミーとは別個体ですのでご安心を」

「私の主観的な意見を述べさせていただきますと、このショウという男は最低の人間です」

「何人もの女からお金を吸い上げ、用が済めばポイ捨て」

「そんなことをする一方で、自分はちゃっかりと貯金をし、
  ホストを続けられなくなった時の為の備えをする強かさもあります」

「ですが……、彼の存在が生きがいとなっている女がいることもまた事実」

「ちょうど貴女にとっての鹿目まどかのように」

ほむら「なっ!?」

ほむら(コイツ、どうして私がまどかの為に戦っているということを!?)

「そうそう。制限時間である24時間を超えても、なお選択が為されない場合。
  その時は、貴女はどちらも選ばなかったということになります」

ほむら「つまり両方が殺されると……?」

「理解が早くて助かります」

ほむら(どちらにしろ、片方は死なせなくてはならないのね……)

ほむら(野良の猫ちゃんとホスト)

ほむら(どちらが好きかといえば、猫ちゃんだけど)

――――彼の存在が生きがいとなっている女がいることもまた事実
      ちょうど貴女にとっての鹿目まどかのように

ほむら(くっ……)

ほむら(こんなこと言われたら、こんなこと言われたら……)

ほむら「私は……、右の扉を……、選ぶわ」

「ホストの扉ですか。分かりました」

ほむら(……ごめんね、猫ちゃん)

――――

第3の部屋


ほむら(……?)

ほむら「今度はモニターが無いのね」

「勘違いされているようですが、私の目的は、貴女を追い詰めることではありません。
  先程の映像は、この選択の意味を貴女に理解していただくために用意したに過ぎません」

ほむら「よく言うわよ」

「そう怖い顔をなさらずに。猫を殺す光景を見せつけないだけ親切ではないですか」

ほむら「こんな訳の分からない選択をさせている時点で親切も何もないじゃない!」

「……別に私はいいんですよ、貴女に猫の死ぬ瞬間を見せつけても」

ほむら「……」

「どうしますか?」

ほむら「私は……」

けっきょく私は、猫の死から目を反らした
この部屋では、処刑映像を映すモニターは現れなかった

「では3度目の選択に移りましょう。そろそろ慣れてきましたか?」

ほむら(慣れるわけないじゃない……)

「続いてはこちらの2択です!」

2つ目の部屋と同様、直前までただの壁だったはずの場所に、2つの扉が現れた

ほむら(今度の選択は……、志筑仁美!?)

「志筑仁美。貴女のクラスメイトですね」

ほむら「改めて言われないでも分かるわ」

「いつぞやの世界では、貴女の数学の遅れを克服する手伝いをした人物です」

ほむら(まどかのことばかりか、別時間軸のことまで!?)

ほむら(本当に何者なの……)

ほむら(ホストを慕っているという人には悪いけど)

ほむら(志筑仁美は、別世界で私を助けてくれた人物で……)

ほむら(そして何よりまどかの友達だ)

ほむら(迷うことはない)

ほむら「私は右の扉を選ぶわ」

「志筑仁美の扉ですね。分かりました」

ほむら(これでいいのよね、これで……)

――――

第4の部屋


その部屋は、今までの殺風景な部屋とは様子が異なっていた
壁から天井まで、場所の区別なくべたべたと写真が貼られているのだ

ほむら(赤ん坊の写真もあれば、子供の写真も、大人の写真も)

「全て貴女が見殺しにしたショウという男の写真です」

ほむら「なっ!?」

「彼の両親は、ショウのことを非常に大切にしていました」

「この大量の写真は、彼の両親が大切にアルバムの中に保存しておいたものです」

「そちらの写真は、彼が1歳の誕生日をむかえた際に撮られたものです」

ほむら「止めて」

「貴女の足元にある1枚は、幼稚園の徒競走で1位をとって喜んでいるところを収めています」

ほむら「止めてったら」

「あそこには小学校卒業記念の写真が」

ほむら「もう止めてと言っているでしょう!」

「何故ですか?」

ほむら「何故って、だって……」

「貴女と面識の無い人間にも、こういった歴史がある」

「私はただ、与えられた選択の重さを再認識して欲しかっただけです」

ほむら「そんなもの、嫌というぐらい分かっているわよ」

「本当ですか? だんだんこの異様な状況に慣れてきてはいませんか?」

ほむら「……」

「先の選択肢の際、貴女は、人間の命を捨てるにしてはあまりにあっさりと決断を下してしまった」

「ここいらで1つ意識を入れ直していただこうと考え、こうした次第です」

「では次の選択に移りましょう」

続いて現れた扉は、赤1色の扉と桃色の扉の2枚だった

「扉の色が何を指しているかは分かりますね」

ほむら「……」

頭の中では、色の意味するところを理解していた
それでも、それを認めてしまうことを、私の心が拒否していた

「赤い扉は佐倉杏子、桃色の扉は鹿目まどかを意味しております」

ほむら「杏子と、まどか……?」

「ええ。どちらも貴女のお知り合いです」

正直なところ、この2人を比較するならば、優先順位は明らかにまどかの方が上だ
だけど私には選べなかった
桃色の扉に手をかけようとするたび、杏子と過ごした時間のことが頭をよぎる

「くどいようですが、制限時間は24時間です」

ほむら「……」

「逆に言えば、貴女には24時間の猶予があります。思う存分考えてください」

――――

いつかのどこか


杏子「食うかい?」

ほむら「……いただくわ」

杏子「どうだ、美味いだろ!」

ほむら「悪くないわね」

杏子「なーんか煮え切らない答えだな」

ほむら「……」

杏子「なあ、ほむら」

ほむら「……?」

杏子「アンタ、何を背負ってるんだ?」

杏子「アンタと手ぇ組み始めてからは、まだ僅かな日付しか経ってないよ。
     でも、それでもさ……。なーんか分かるんだよな重い何かを背負ってそうなのが」

ほむら「貴女には関係のないことよ」

杏子「つまらない奴」

ほむら「ほうっておいてちょうだい。……でも、ありがとう」

杏子「へっ?」

ほむら「心配してくれたのよね?」

杏子「ばっ、違うっつーの!」

ほむら「あら、そうなの?」

杏子「あたしはただ、共同戦線を張る相方が愚図ってたら自分にまで迷惑が及ぶから、それで……」

ほむら「じゃ、そういうことにしておいてあげるわ」

杏子「おいテメェ! 何笑ってやがる! ぶっ殺すぞ!」

ほむら「ああ、怖い怖い」

杏子「違うからな! 本当に違うからな!」

――――

現在


ほむら「まどかが、最高の友達なら……」

ほむら「杏子。私にとって貴女は、最高の相方だったわ」

ほむら「心が折れそうな時、杏子の元気な姿に、私も勇気を貰った」

ほむら「貴女に会えて本当に良かったと思っている。だけど……」

ほむら「ごめんね、ごめんね杏子……」

ほむら「本当にごめんね……」

ほむら「杏子とはもっと違う出会い方をしたかった」

ほむら「魔法少女なんてものがない、そんな世界で」

ほむら「内気な私を杏子がからかって」

ほむら「それなのに、勉強のことになると、立場が逆転したりして」

ほむら「そんな風に、まどかとは違う形の友情が築けたら……良かったのにね……」

「ああ、この選択をされる前に1つ言っておきますが」

ほむら「……何よ」

「時間を戻そうとしても無駄ですよ。それはこの企画の主催者にとって
   非常に都合が悪いので、先手をうたせていただきました」

なんとなく予感はしていたことだった
というのも、時間を操る砂に、さっきからなんの力も感じられなくなっていたのだ

「ですから、後悔無きようにお願いします」

ほむら「ちなみに、残り時間は」

「あと19時間22分45秒です」

ほむら「そう」

19時間22分44秒後
私は、桃色の扉の取っ手に手をかけた

ほむら「さようなら杏子。……ありがとう、ごめんなさい」

続いて現れた扉は、桃色の扉と、上半分が青、下半分が黄色で塗られた扉の2枚だった

ほむら「もういい加減にしてよ……」

「……」

ほむら「私が何をしたというの……」

「全ては、事が済んだらお話します」

――――

いつかのどこか


マミ「今日はお手柄だったわね、暁美さん。魔女をやっつけてしまうなんて!」

ほむら「私なんて、巴さんと鹿目さんの助けが無いとなんにも……」

マミ「今はそうかもね。でも、明日にはどうなってるか分からないわよ?」

ほむら「……」

マミ「私、暁美さんは自分を小さく評価し過ぎだと思うな」

ほむら「そんなこと……」

マミ「あるわよ。それでもって、物事を後ろ向きに考えるところもある」

ほむら「……」

マミ「それだけに……、ふふっ、後輩としては可愛いんだけれどね」

ほむら「えっ……?」

マミ「あんまり思いつめないこと!」

ほむら「はい……」

マミ「とはいえいきなり考え方を変えるのは難しいから、思考がマイナス方向にしか
     向かなくなった時は……。そうね、その時は私の部屋に来なさい」

ほむら「巴さんの部屋に……?」

マミ「ええ。それで美味しいケーキと紅茶を食べて、のんびりお話しましょう。
    大丈夫。そうすればきっと、どんな悩みだって吹き飛んじゃうんだから」

ほむら「そう、ですかね……」

マミ「そんなものよ。それでもどうしても不安や悩みが拭いされない時は、ぎゅっと抱きしめてあげる」

ほむら「……どうしてそんなに親切にして下さるんですか?」

マミ「そんなの決ってるわ。貴女が私の大切な後輩だからよ、暁美さん」

――――

いつかのどこか


さやか「いやー、仁美の説明の分かりやすいこと分かりやすいこと。
      学校の先生より絶対教えるの上手いね、ありゃ! 勉強会様々!」

ほむら「そっ、そうかもしれませんね……」

さやか「あー……。やっぱあたしと話すのは緊張する?」

ほむら「あ、えっと……その……」

さやか「やっぱまどかみたいにはいかないか」

ほむら「いえ……、親切にして下さって、と、とっても……助かってます……」

さやか「へへっ、そうかな?」

さやか「いつか今よりも何でも話せるようになったらいいね」

ほむら「そう、ですね……」

さやか「アンタとは仲良くなれると思うんだ」

ほむら「え……?」

さやか「アンタ、まどかのこと好きでしょ」

ほむら「ええっ!? わ、私は……、その……」

さやか「あたしはまどかのこと大好きだよ。大切な親友」

ほむら(あ、ああ。そういう意味の……)

ほむら「私も……、鹿目さんのこと、好きです……」

さやか「やっぱそうだよね。それなら、同じ人間を好きになれるんなら、
       きっと仲良くなれるんじゃないかなって、そう感じてね」

ほむら「美樹さん……」

さやか「だからなんつーか……、これからもよろしく」

ほむら「はい!」

ほむら「巴さんも美樹さんも、初めの内は、大切な人たちだった」

ほむら「だけど私は……」

ほむら「彼女たちを大切な存在だと思い続けると、
      何度もその死を見せつけられるのがあまりに辛すぎるから……」

ほむら「次第に、彼女たちを心の中から追い出すようになっていた」

ほむら「まどかに比べれば取るに足らない存在だと」

ほむら「そう思い込むことで、2人の死によるショックを少しでも和らげようと……」

ほむら「巴さんの紅茶、大好きでした」

ほむら「美樹さんとも、もっともっと仲良くなれたらなって」

ほむら「でもごめんなさい」

ほむら「私にはまどかが1番大切なの」

ほむら「本当に……、ごめんなさい」

ほむら(皮肉なものよね)

ほむら(どちらか片方しか選べないとなった時に、やっとその大切さに気がつけるなんて)

ほむら「私は、桃色の扉を選ぶわ」

「そうお答えになると信じていました」

ほむら(信じて、いた……?)

ほむら(妙な口ぶりだけど……、まさかこの声の主は)

ほむら(……まさかね)

――――

最後の部屋?


黒と桃色
2つの扉の意味するところは、考えるまでもなかった

ほむら「……もしかしたら、今までで1番簡単な選択かもしれないわね」

「もう答えはお決まりですか?」

ほむら「ええ。私は桃色の扉を選ぶわ」

そう、簡単な選択のはずだった
この時はそう思っていた

ほむら「……」

桃色の扉のドアノブに手が、置けなかった

ほむら「まどか……」

1番大好きなあの子の姿を脳裏に描く
自分を犠牲にしてでも守りたい大切な子
彼女の為なら自分などどうなってもいいと思っている
だけど、やはり桃色の扉を開けることができなかった

ほむら(杏子、巴さん、美樹さん……)

ほむら(みんなみんな犠牲にしてきたのに、それなのに私は……)

ほむら(自分が確実に死ぬと分かっている選択肢を選ぶことが、怖い)

ほむら(怖い、怖いよまどか……)

身体が小刻みに震えだした

ほむら(まどか……、まどか……)

私は一瞬だけ黒い扉の方へ目をやった
あちらの扉を選べば、私だけは助かるが、代わりにまどかが―――

ほむら「う、くっ……」

自分の選択の結果まどかが死ぬ
そんな未来を想像し、吐き気が込み上げてきた

ほむら「はあっ、はあっ……はあ……」

どうやら私には、やはりまどかを見捨てることはできないらしい
まどかがプレスされるぐらいなら自分が死んだ方がいい
自分の中にこびり付いたその価値観を再認識する

「残り時間が10時間を切りました」

そういえばお腹空いたな
もう3日近く何も食べていない

「気持ちは決まったようですね」

私は、まるで自分の家の玄関を開けるような自然さで、扉を開けた

まどか「信じてたよほむらちゃん!」

桃色の扉の先には、まどかがいた

ほむら「まどか……、どうしてここに?」

まどか「どうしてだと思う?」

ほむら「それに、なんで……、なんで音響装置の前なんかに……」

まどか「ふふっ。声を変えてたから分からなかったかな?
       さっきまでのアナウンス、あれ全部私だったんだ!」

ほむら「なんで……?」

まどか「んー。漠然となんでって言われても、何から答えればいいのかなぁ。
      答えることがありすぎて困っちゃうよ」

確かに、私の方からも聞きたいことはいくつもあった

まどか「まず、私がどうしてこんな空間を準備できたか。
      察しはついていると思うけど、私、魔法少女になっちゃったんだ!」

ほむら「そ、そんな……」

まどか「あ、大丈夫大丈夫! 私は魔女にはならないよ。今の私、ちょっと無敵だから」

まどか「人間だった頃の私はね、ほむらちゃんを見る度に、
      頭の中に何か靄がかかるような感覚に襲われていたの」

ほむら「靄……?」

まどか「そう。そしてその靄の向こう側には、当時の私の知らない、今思えば他の時間軸のほむらちゃんがいて……。
       それ以外にも色々動機はあった。皆の為に何かしたいって、本気でそう思ってたし」

ほむら「それで、契約を……?」

まどか「うん。私QBにこうお願いしたんだ。ありとあらゆる知識を得たいって」

まどか「そしたら、バーっと色々な情報が入ってきて……」

まどか「私の心、壊れちゃった」

まどか「当たり前だよね。あらゆる知識なんて、そんなもの。
       1人の人間が受け止められる代物じゃないもん」

まどか「でもそのおかげで、インキュベーター達の根城をつきとめることができた。
      知ってる? 私の魔法の力はね、遠く離れた惑星だって破壊できる程なんだよ」

ほむら「まどか、貴女は……」

まどか「ほむらちゃんの想いの強さが、私をここまで強くしてくれたんだよ」

まどか「……とはいえ、何もすぐにあいつらの星を滅ぼすこともない。
      いつだって殺せるんなら、利用するだけ利用した方が得だよね?」

ほむら「まどか……、貴女はそんな考え方をするような子じゃ……」

まどか「だから言ったじゃん。心が壊れちゃったんだって。
      それにあいつら、ほむらちゃんの知っている以上のゲスなんだよ」

ほむら「えっ?」

まどか「だって感情が無いなんて大嘘なんだもん!」

まどか「確かにインキュベーター達は、私達ほどは感情は強くない。
      でもそれでも、感情が0というわけではない」

まどか「つまるところあいつらは、自分達が犠牲になりたくないからって、
      適当な方便で地球人を利用していたの」

まどか「頭に来たからインキュベーター達、全員魔女にしちゃった。
      これでもうグリーフシードに困ることはないよ」

まどか「これで色々な疑問が解決できたよね?」

ほむら「……まだ分からないことがあるわ」

まどか「そのことを説明するために、1つ嬉しいお知らせ。
      杏子ちゃんやマミさん、さやかちゃんは、なんと実はピンピンしています!」

ほむら「えっ……、あ、えっ……? 生きて……るの?」

まどか「本当に殺してもよかったんだけど、ほむらちゃんが悲しむだろうから止めておいた。
       適当に理由つけて途中から映像を映さなくなったのも、それが理由」

ほむら「うう、あああっ、うあぁぁ……」

まどか「あくまで私の目的は、ほむらちゃんに私を選んでもらうことだからね」

ほむら「よかった……、よかったよぉ……」

まどか「ふふっ、泣いてるほむらちゃんも可愛い。……嬉しいんだね?」

ほむら「うぅぅー……うぅ……」

まどか「よしよし。もう泣かないんでいいんだよ」

まどか「そのことを説明するために~」 ×

まどか「そのことを説明する前に~」 ○

まどか「心が壊れちゃった私にはね、ほむらちゃんが最後の道しるべなんだ」

ほむら「道……、しるべ……?」

まどか「そう、道しるべ。何を見ても、何を聞いても、何に触れても、何も感じない。
      そんな状態になっちゃった私だけど、ほむらちゃんだけは例外だった」

ほむら「どうして……」

まどか「ずーっと、ずーっと、ほむらちゃん何度も何度も世界をやり直して頑張ってくれたよね。
       年に換算すると、一体どれだけの期間戦い続けてくれたと思う?」

ほむら「……分からないわ。途中で数えることを止めてしまったから」

まどか「なんとびっくり192年!」

ほむら「そ、そんなに?」

まどか「数えるのを止めたのは正解だったね。まともに数えてたら、
      多分、途中で絶望してほむらちゃん諦めちゃってたよ」

まどか「それだけ頑張ってくれたからかな……。
      ほむらちゃんの今までの頑張りを眺めていると……」

まどか「胸がキュンキュン! って、締めつけられるようになって」

ほむら「……」

まどか「不思議だよね。宇宙の他の何を見ても感情に波1つ立たないのに、そこに貴女が絡むと……。
      今ではほむらちゃんだけが、私に残された最後の感情なんだよ」

ほむら「まどか……」

まどか「だからね、そんなほむらちゃんが私の為に悩んでくれてるのを見たら、
      もっとキュンキュンできるんじゃないかなー、なんて思って。それでこんなことしちゃいました」

まどか「大好きほむらちゃん。私はもうほむらちゃん無しでは生きていけない」

ほむら「変だよまどか。おかしいよ……」

まどか「知ってる。でも、そんな変な私にも、ほむらちゃんドキドキしちゃうんでしょ」

ほむら「……」

まどか「相思相愛ってやつだね!」

ほむら「……まどかはズルい」

まどか「ずるくてもいいよ。ほむらちゃんが私を好きでいてくれるんなら!」

――――


ああ、それにしても、こういう瞬間のほむらちゃんは何度見ても可愛いな……
倦怠期に陥ったら、ほむらちゃんの記憶を操作して1035回目もやってみようかな


今度は何と私を秤にかけよう
人類全てと私、とか?
ま、何をしてもほむらちゃんは私を選んでくれるんだけどね


だって私達、宇宙1の相思相愛だもん!







おわり

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