ほむら「水色の…杏子?」(22)
繰り返す、私は何度でも繰り返す
あなたの為なら、私は永遠の迷路に閉じ込められても構わない
重い瞼をこじ開け、体を起こす。
休んでいられる時間は一寸たりともない。髪をほどいてソウルジェムで視力を矯正、眼鏡をしまった。
ほむら(まどか…今度こそ必ず、あなたを救う)
ほむら(あなたの日常を守ってみせる)
ほむら(これまで通りならインキュベーターは明日の晩、まどかとの接触をはかるだろう)
ほむら(ひとまず今日のところはまどかを見張る必要はないわね)
ほむら(先を見据えてグリーフシードを集める…やっぱりこれが無難だわ)
見回りの看護師を寝たフリであしらい、遠ざかる背中を横目に変身、窓から病院を抜け出した。民家の屋根を伝いビルを駆け、闇夜に紛れる。
高層ビルから見下ろす見滝原の夜景と数時間前の惨劇、絶望的な嵐に壊滅した一つの街の風景を重ね、眉をしかめる。
いつだって同じ事の繰り返しの筈だった。しかし、その起伏の違和感は簡単には拭えない。
ほむら(感傷に浸ってる場合じゃない)
ほむら(私にはやらなければいけない事があるのよ…!)
とにかく、歓楽街に張られた結界へ行こう。
そう思っていた。
ほむら「…結界が、ない」
歓楽街の隅、薄暗い通路の壁を前に、ほむらはまた顔をしかめる事になる。
組んだ腕をほどき、指先で廃れた壁をなぞった。舞った埃がはほむらの頬をすり抜ける。
ほむら(…全ての時間軸で例に漏れず、同じ場所に魔女がいた訳ではないけれど)
ほむら(此処からは微かに、魔力を感じる)
ほむら「確かに居たんだわ。魔女は此処に、居た」
ほむら「移動した形跡もない。間違いない、魔法少女の仕業ね」
ーーーーーーーーー
看護師「おはよう、ほむらちゃん。気分はどう?」
ほむら「おはようございます。とてもいい気分ですよ、退院も近いですし」
昨夜は結局、他の魔女を当たった。そのデータ不足から苦戦を強いられる羽目となり、若干の疲れが残る。
ほむら(この街の魔法少女はただ1人。佐倉杏子がいち早く現れたとは考え難いし…やはり巴マミ、あの人の仕業かしら)
ほむら(となると彼女は今までの時間軸とは違うルートで見回りをしてる事になる…。下手に接触しないようにしなければ)
ほむら(今夜はインキュベーターがまどかに接近する日、気を引き締めましょう)
病室、アイドルが踊り歌うテレビ画面。愛でるでもなくほむらはひたすら待つった。そして、夜は訪れる。
ほむら(…どういう事なのよ!)
結局、キュウべぇは現れなかった。
まどかが机に向かい勉強しているところに奴が現れ、それを仕留めるのが常だった。しかし、寝る準備をし彼女ががベッドに潜り込んだ今でも音沙汰はない。次第に宵が回り、眠りについたであろうまどかの小さな寝返りを見届けほむらは銃を盾に収めた。
ほむら(インキュベーターは何をしているの?)
ほむら(まさか私に気付いて…いや、この状況で私に気付いたとして、逃げる理由にはならないだろう)
踵を返し、帰路を辿る。拍子抜けしてしまった今、魔女を狩る気力も削がれてしまった。
考えたい事も山程ある。ひとまず病院に戻り、何故アイツが現れなかったのか、これを踏まえて作戦を立て直さなくては。
何せこんな事は初めてなのだから。
顎に手を添え、街頭の少ない通りに差し掛かった時だった。
??「よっしゃー!勝ったぞ、魔女を倒すのなんて楽勝楽勝!」
ほむら「!」
??「やはり君は筋が良いね。お手柄だよ」
ほむら「!?」
ほむら(この声は…)
ほむら(インキュベーター!)
キュウべぇ「契約してからここ数日、君の成長には目まぐるしいものがある。正直驚いているよ、まさか君がこれ程までの素質を持っていたとはね」
??「むぅ、失礼な奴だな。何事も完璧にこなすーって伝えたはずだぞ?」
キュウべぇ「この国には『百聞は一見に如かず』という言葉があるんだろう?ぼくはその片鱗を味わったに過ぎない。君の言葉を疑ったわけじゃないよ」
??「いちいち面倒くさい言い方するよなお前…」
ほむら(キュウべぇが魔法少女と話している…?)
ほむら(巴マミではないようね。話の内容から察するに、多分駆け出しの魔法少女。彼女の戦闘を見守る必要があったからインキュベーターはまどかのところに来なかったのね)
キュウべぇ「そろそろ行こうか。明日も魔女退治はやるのかい?」
??「もちろん!…っあー、でも最近は忙しくなってきたしなぁ。でも手が空いたらやるさ、キュウべぇもちゃんと付き合ってよね!」
キュウべぇ「やれやれ、いつも君の傍にいられる訳じゃないんだけどな」
ほむら(声に聞き覚えがない…少なくとも美樹さやかではないわね。まどかと美樹さやかの他にもいたんだわ、見滝原で魔法少女の素質を持った子)
ほむら(…イレギュラーな、存在)
夜が纏う暗闇はほむらの視界に絡み付く。阻まれた先で彼女のシルエットを辛うじて捉え、しかし顔を見る事は叶わなかった。キュウべぇがいる以上気取られる事は必至、その場を後にする彼女を追いかけはしない。物陰からそっと見送るのみ。同じ街にいるならまたいずれ顔を合わせる事になるだろう。その時を待つ事にした。
見滝原には3人の魔法少女がいる。
巴マミ、暁美ほむら、そして謎の女の子。いずれ佐倉杏子も現れるだろう。そしていつか、美樹さやかも立ちはだかるかもしれない。それでも諦めない。まどかを、救う為に。
謎を孕んだ新しい魔法少女がもたらすもの。それは波乱か、それとも…
見滝原中学の時計台が見えてくる。
不安と希望を胸いっぱいに詰め込んだ転校初日はもう遠い昔の話。ほむらは一心に考えを巡らせていた。
ーーー今回は、友好的にまどかに近付こう
まどかとどう接するかという課題は一番の悩みどころで、ループの度に頭を抱えた。今までは弱々しかったり威圧的に振る舞う事が多かったが、どれも望ましい結果は得られなかった。
ほむら(変化を作って運命を変える)
ほむら(仲良くなりすぎても昔の二の舞になりかねない、当たり障りない関係を築くのよ)
見滝原中学正門前。
この後は職員室に向かい、担任の早乙女先生に挨拶を済ませる手筈となっている。
ほむら(約束の30分前…早く着きすぎてしまったわね)
ほむら(早かろうと別に私は問題はないけれど、早乙女先生が職員室にいらっしゃるかどうか)
ほむら(…まどかはもう、学校に来てるのかな)
ほむら(……少し教室を覗いてから職員室に向かってもバチは当たらないわよ、ね)
??「そこの黒髪の子。少し良い?」
ほむら「!」
振り返る。流れた空気にのって仄かな甘い香りがした。真っ先に視界を横切るのは黄色、滑らかな金髪。結われたそれは見事にカールし、目を引く彼女の外観を際立たせる。
ほむらはこの人物に見覚えがあった。
ほむら「巴マミ…」
??「少しお時間もらえるかしら?」
そう言う彼女の手の平にはソウルジェムが光り輝いていた。
↑訂正
ほむら「巴マミ…」
マミ「少しお時間もらえるかしら?」
マミ「急に呼び止めちゃってごめんなさいね」
ほむら「用件は何?」
マミ「これを見れば分かると思っていたけれど…」
マミはソウルジェムに視線を下ろし、改めてほむらに向き直る。
マミ「私の名前まで知っていたのね」
ほむら「…本題を始めて」
マミ「キュウべぇに聞いたわ。この街には今、私を含め3人の魔法少女がいるって。あなたがその1人なんでしょう?」
ほむら「ええ、その通りよ」
マミ「私は長らくこの街を1人で守り続けてきた」
マミ「今日はあなたの意思を聞きにきたの。私と仲良くするつもりなのか、それとも敵対するつもりなのか」
ほむら「……」
マミ「あなたがいつこの街に来ていつ魔法少女になったのか、分からないとキュウべぇは言っていたわ」
マミ「そもそもあなたの元の縄張りはどうしたの?捨てて、この街に来たの?」
ほむら「この街に来たのは数日前で、アイツが覚えてなかろうが私が契約した事は事実」
ほむら「前の縄張りの事は忘れてしまったわ。そしてあなたと敵対する気はない、以上よ」
マミ「本当に前の縄張りの事は忘れてしまったの?」
ほむら「…言えない事情があるの。そこは汲んでくれると思ったのだけれど」
マミ「そう、悪かったわね。でも人の縄張りに忍び込んでおいて挨拶もないのは少し、礼儀がなってないんじゃないかしら?」
ほむら「非礼は詫びるわ。あなたに危害を加えるつもりはないし、今回は見逃してもらえないかしら?」
マミ「この街を拠点とする事に変わりはないのね…」
マミ「分かっているの?同じ街に魔法少女が3人ともなると、後々苦しい状況を強いられる事になる」
ほむら(! そうだ、もしかして巴マミなら…)
ほむら「ねぇ、あなたは何か知っているの?もう一人の魔法少女の事」
マミ「え?いいえ、ただキュウべぇに話を聞いただけよ」
ほむら「そう…」
マミも新しい魔法少女の事は知らないらしい。ほむらは肩を落とした。
マミ「分かっているのはつい最近魔法少女になったばかりという事だけよ」
ほむら「分かったわ。情報提供ありがとう」
マミ「……」
マミ「あなた、名前は?」
ほむら「暁美ほむらよ」
マミ「暁美さん…私と、手を組む気はない?」
ほむら「!」
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