姉「彼女欲しい?」(552)
姉の言う言葉に俺は、最初理解ができなかった。
姉「欲しいよねぇ。うん、欲しがってる」
男「勝手に決めるなよ」
姉「勝手に決めてないよ」
俺は欲しいなんて言ってないんだが。
姉「私の独断です」
勝手に決めてるじゃねえか。
姉「お姉ちゃん今彼氏いないんだぁ」
『今』じゃなくて『ずっと』だろう。
姉「そしてあんたも彼女がいないってことね」
悲しいが『ずっと』、だ。
姉「だから、良いこと思いついちゃったわけ」
男「断る」
嫌な予感しかしない。
姉「どうして言ってないのに拒否するの?」
男「それは俺に利益が被るとは思えないからだ」
姉「私まだ何も言ってないよ?」
この状況で、一つしかないだろう。
男「……じゃあ、聞いてやろう」
姉「私と付き合って」
ほらほら、やっぱり。
意味のわからないこと言ってる。
男「状況をまず考えろ、あんたは姉、俺は弟だ」
姉「姉弟であり、男女です」
いや、確かに。
変なことは言ってない。
男「それはそうだけども」
姉「私、そんじょそこらの女には負けない自信があるよ?」
わかってるさ。
あんたが相当モテてることくらい。
姉「そんな私と付き合わず、誰と付き合うの?」
ズイズイと近づいてくる。
男「女ならいくらでもいるだろう」
姉「ほほう、言うね。付き合ったことないくせに」
あんたが言えることじゃない。
男「逆にあんたもそうだろう」
男なんて、掃いて捨てるほどいるだろうに。
姉「」
驚いた顔をしている。
姉「……嘘……!?」
まさか、自分がモテてることを知らないのか?
俺のクラスの連中ですら狙ってると言うのに。
姉「あんた『も』……!?」
男「俺は違う」
言ってて悲しくなる。
姉「ビックリした……弟がそんなにモテてるのかと思った」
男「あーうるさいうるさい」
姉「ふむ……まあ、でも」
そうかもしれない、と。
姉は頷いた。
姉「でもさぁ、私はあんたがいいわけで」
どういうわけだ。
男「気持ち悪いな」
姉「そうかな?」
だって、そうだろう。
俺は弟であって。
恋愛対象ではない。
姉「私のおっぱいでは、性欲は満たされないの?」
いかがわしいことをしてるような言い方はやめろ。
姉「ふむ……まさかのイン……」
男「立つよ、立ちます」
不全とかじゃない。
姉「そうなんだ。立つんだ――」
不気味な笑顔。
姉「――私のおっぱいで」
そっちで捉えたのか。
姉「大きいからね、それに形も良い」
自分で言うとはこれいかに。
姉「それに柔らかいし」
俺の目の前で自分の胸を揉み始める姉。
……嫌だ。
姉「触ってみる?」
いきなりこちらに胸を突きだしてくる。
男「遠慮しとくよ」
姉「いいじゃん、減るもんじゃないんだし」
それはどちらかというと俺が言うんじゃないだろうか。
姉「ほらほら」
男「やめろって」
姉「このまま押し倒せばいいのかね?」
男「いや、あんた……」
すでにこの状態、結構まずいぞ。
ソファに既に、押し倒されてる気がするぞ。
姉「うん? そっかな?」
顔を近づけるな。
男「!」
顔を近づけると。
胸が当たる。
男「は、離れろ!」
姉「あっ」
体を離そうとして。
胸を触っちまった。
姉「だいたーん」
胸を隠す素振り。
腹立つ。
男「事故だ!」
姉「故意?」
なんで言葉が変わってるんだよ。
男「故意でするかよ」
嫌がってるのに。
姉「恋でもするの?」
同音異義だ。
姉「弟は女の子に興味が無いんですかぁ?」
男「あるけどあんたにはない」
姉「酷い!」
笑いながら言うセリフではないだろう。
男「いいから離れてくれよ!」
姉「離れたくないって言ったら?」
小学生か。
男「力づくで離す!」
姉「あっ」
変な声出すんじゃねえよ。
姉「乙女に力強く触らないでよ~」
ずるい。
男「じゃあどうすればいいんだよ?」
姉「私のされるがままでいいんじゃないかな?」
男「調子に乗るな」
姉「あう……実の姉に酷いのね」
男「実の弟になにしてんだよ」
姉「女をわからせようとしただけだよ」
いや。
それは姉であるあんたがすることじゃないと思う。
男「母さん帰ってきたらどうするんだよ」
姉「両親が帰ってくることなんて皆無じゃん。共働きなんだし」
姉はニヤリとして。
姉「お母さんのおっぱいでも吸いたくなったの?」
そろそろ本気でキレていいのか。
姉「ふふ、怒ってる怒ってる~」
男「……」
この人の笑顔は。
腹立つんだけど。
なんか、ホッとするな。
姉「あのさ、弟くん」
男「なんだよ」
ちょっと呆れ気味な俺に、姉は。
ゆっくりと押し倒したような状態から。
普通の座る姿勢に戻る。
姉「明後日って、何の日か知ってる?」
男「明後日?」
姉「そうそう、明後日!」
明後日は。
男「……知らない」
姉「ヒント、危険日じゃないよ」
さらに知らない。というか、知りたくない。
男「俺の解答で出ると思うか? そこ答え」
姉「だってぇ……弟もやっぱり性事情は知りたいでしょ?」
あんたのは全然興味ない。
男「明後日……って、なにかあったか?」
姉「休日だね」
男「なら休日なんだろ。別にこれと言って特別なことは……」
少し停止。
姉「……ふーん、そっか」
姉は寂しそうに笑った。
――ように見えた。
いつもの笑顔じゃないこと。
男「えっと……」
姉「暇?」
男「え?」
姉はすでにいつもの笑顔で。
姉「その日、暇?」
俺に話しかけていた。
男「今のところ、予定はないけど」
姉「今のところって、埋まることなんてあるの?」
男「あんたはそんなに俺が嫌いか」
姉「逆逆、大好き。ほら、良く言うでしょ? 好きな人をついついからかっちゃうって」
楽しんでるようにしか見えないんだが。
男「……で、なんだよ」
姉「私とでかけない?」
デートです! と。
大声で宣言してきた。
席外します。 掃除しながらやってたから投下遅くてすんません
男「デートと言わなければ行ったのに」
姉「ええ! じゃあ今の嘘! 私は何も言ってませーん!!」
テンションの高い姉だ。
姉「ねえねえ、私何も言ってないでしょ!?」
男「言ったよ、少なくとも俺は聞いた」
姉「うー……」
姉はソファでガックリとうなだれた。
姉「私が好きな女の子だったら喜ぶくせに」
当たり前のことを言っている。
男「そりゃそうだ」
姉「私は好きじゃないの?」
男「好きじゃない」
姉「家族としても!?」
男「それは好き」
姉「へへへ~」
喜ばれると恥ずかしいな、おい。
男「どこ行くか決めてるのか?」
姉「うん! 遊園地!」
男「いや、そりゃあんた……」
姉「ぶーぶー! じゃあ映画館!」
映画館、か。
それならいいかもしれないな。
男「何見に行くか決めてる?」
姉「うーん、弟に任せようかなぁ?」
男「俺も今は見たいものないけど」
姉「そうなんだ。一緒だね~」
いや、そんなとこ一緒でもダメだろうに。
そんなに喜ばしいことではないだろう。
計画が破綻してるじゃないか。
男「行ってから決める?」
姉「それはダメ! 計画通りに進めたい!」
男「なぜに」
姉「だって……始まるまでの間、一緒にいたいじゃん?」
どういう意味かさっぱりだ。
姉「だから、ちゃんと始まる時間とか知っときたい」
男「じゃあインターネット使うか」
手っ取り早いし。
カチカチとマウスをいじくる。
男「えーっと色々あるぜ」
姉「どれどれ?」
画面を見ようとして。
胸が顔面に当たる。
姉「わわっ、ごめんごめん」
ぺろりと舌を出して謝る。
全然悪気はないみたいだ。
……っと思ったらいきなりズイズイ当ててきやがった。
男「おい、いくらなんでも」
姉「これとかいいかもね」
無視かよ。
男「ん? それって……」
姉「話題騒然の恋愛映画!」
男「俺はこっちがいい」
姉「えー3D?」
飛び出すんだぞ、凄いんだぞ。
姉「飛び出すおっぱーい」
男「ぐわっ」
いきなり胸が顔にぶち当たる。
嬉しいイベントなのだが。
姉の胸じゃどうも……なあ。
男「つまらんことをするな」
姉「ええ、つまんなかった?」
というか、まったく理解しがたい行動だった。
姉「つまんでいいよ?」
男「つま違いだ!」
姉「妻……?」
男「あからさまに間違えるなっ」
姉「うう、弟なんか口調怖い」
ウルウルするなよ……。
深夜になるかもしれません。
男「そういうことはしないの」
姉「はーい」
表情がコロコロ変わる人だ。
男「あんたが観たいって言うのはこの映画?」
姉「うん、えっと……あのさ、弟」
男「ん?」
まだなにかあるのだろうか?
男「なに?」
姉「その……えっとね」
男「はっきり言いなさい」
姉「あう……やっぱりいいや」
気になるじゃねえか。
男「どうした?」
姉らしくない。
姉「全然っ。なんでもないよーん」
テンションは相変わらずだったので安心した。
男「それじゃあ、予約しとくか」
姉「弟はなんでそんなに優しいのに女の子の一人や二人落ちないの?」
男「知らん」
こっちが聞きたい。
姉「優しいことには自分も同意なんだ」
男「うるさい」
感情的になりすぎだ。落ち着け自分。
姉「それじゃあ」
姉は軽く伸びをして、あくびを一つ。
姉「明後日のために寝ようかなぁ」
何時間寝るつもりだ。
姉「ふふっ、お風呂入るけどさ」
男「?」
姉「覗かないでね?」
誰が覗くか。
姉「弟くんは野獣だからね~そんなガツガツしてると女にモテないぞ?」
男「どこからその発想になった」
姉「そのズンズン突いてくるとこだよ。なんか質問が怖いもん」
怖い。
畏怖。
姉「もっと口調を柔らかくして欲しいなー、なんて」
無理だな。
男「あんた相手にはできそうもない」
姉「……」
男「……?」
姉「そっかー、そうですかー。……お風呂いってきまーす」
どこにでも行け。
男「ったく」
インターネットを閉じる。
俺もあの人もあまり使わないから、大分久しぶりに開いたな。
そんなことを考えていると、携帯が鳴る。
男「なんだ?」
姉からである。
男「……わざわざこんなこと送らなくてもいいのに」
姉『明後日の映画、楽しみにしてます♪』
そんなこんなで次の日。
男「おはよう」
姉「おはよー。待ってたよー」
男「……あの、飯くらい自分で作れよ」
姉「えー、弟のご飯が食べたいと思っちゃダメなのかな?」
ダメではないけども。
男「早く起きたんなら起こしてくれよ」
姉「弟の寝顔見たら襲っちゃうかもしれないでしょ?」
どっちが野獣だよ。
男「まあ、とりあえず作るから学校の準備はしとけ」
姉「はいはーい」
いつも悪いねーと、軽い感じで俺に感謝を述べた。
まあ、あの人が作った料理はヤバいからな。
仕方ない気もする。
姉「ねえねえ、弟くん」
くん付いたりつかなかったり、めちゃくちゃだなぁ。
男「なんだ……っておい」
なんでブラ姿なんだよ。
姉「このブラと今つけてるブラ、どっちが好み?」
男「別に、どっちでもいいと思うけど」
姉「弟の好きな方にするの」
男「……いや、どっちでもいいじゃないの」
姉「つまり、どっちも好み?」
言ってない。
男「じゃあ今つけてるやつ」
姉「ほほう……なるほどねぇ」
なんだよ、それ。
姉「アイ愛してるよ弟」
アイアイサーだろ。
男「……ほら、できたよ」
姉「わーい、いったっだきまーす」
男「抱きつくな!」
姉「あれ? OKの合図じゃないの?」
朝から全開だな、あんた。
姉「もー紛らわしいっ」
男「テンション高いね、朝から」
姉「え、こういうの嫌い?」
どちらかというと、嫌だね。
俺が頷くと、姉はくるりと背を向けて、何かを取り出した。
なるほど、なるほど。という声が聞こえ、こちらを振り向いた。
そこには、メガネをかけた姉がいた。
姉「さあ、弟くん。ご飯はどこかしら?」
いきなり委員長っぽい喋り方をしはじめた。
伊達メガネなんてどこで買って来たんだよ。
男「メガネ似合ってるね」
姉「えへへ、そうかな」
照れるとすぐにハッとして、姉は一つ咳払いをする。
姉「ありがとう、とっても嬉しいわ」
上品に繕っているが、なんというボロの出やすさだろう。
男「今日はあんたのために頑張って作ったんだよ」
姉「そ、そうなの!? ……あら、そうなの」
ダメだ、面白い。
男「今日はあんたと一緒に学校行ってもいい?」
いつもは絶対に姉とはずらして登校している。
理由はないけど。
姉「ま、ま、マジで!?」
興奮して、鼻息が荒い。
男「う、うん」
姉「メガネなんてかけてる場合じゃねええええ!」
ありゃ、戻っちった。
男「ほら、早く食べな」
姉「うん!」
やれやれ。
仕方ない、一緒に行くか。
初めてかもしれない。
小学校、中学校のころは、姉は私立に行っていたから。
登校の時間が違った。
ならなぜ俺は、同じ高校を選んだのだろう。
……さあな。
わからん。
男「ごちそうさま」
姉「あれ? 残しちゃうの?」
男「準備できてないからね」
姉「じゃあ食べていい?」
太るぞ。
でも、この人スタイル良いんだよな。
男「どうぞ」
姉「間接キスいただきます!」
ああ、なんでそういうことを平気で言うんだ。
とりあえず俺は自分のすることをしよう。
二階の自分の部屋で、自分のすることを考えてみる。
制服に着替えて、洗濯物を干す。弁当はとりあえず姉の分だけ作って。
自分は学食で。
あとは、ないか。
……すこしはあの人も手伝って欲しい。
姉「ねーねー、弟ー」
下から声が聞こえる。
男「なにー?」
姉「なんか手伝うこと、あるかなー?」
……。
どういう風の吹き回しだろう。
正直嬉しいという気持ちより、戸惑いが大きい。
男「……別に、なにもないよ」
姉「そっかー。じゃあ、待ってるね」
さて、気を取り直して。
俺は洗濯物を干して。
そして、弁当を作った。
男「ほい、弁当」
姉「手際が良いね。……むむむ?」
男「ん?」
姉「一つだけ?」
どれだけ食べるんだ。
男「一つで充分だろ」
姉「ち、違うよぉ。弟の分は?」
あ、そっちか。
男「時間ないから、いい」
もとからその気だったし。
姉「ダメダメ、成長期なんだから」
男「あんたもだろうが」
姉「私はもう色々成長してるからいいの~」
胸を張ると、わかりやすいな。
姉「だから、ね?」
お願いだからそのポーズをさっさとやめていただきたい。
男「俺があんたのために作ったこの気持ちを踏みにじるつもりか」
姉「え……」
姉の顔が喜びに変わる。
姉「弟が……私のために!?」
跳んで喜ぶ。パンツ見えてますよ、ちょっと。
男「はぁ……ほら、はしたないからやめい」
姉「ういっす! うっしっし!」
変なキャラになっちゃったよ。
男「とりあえず、そろそろ行くよ。弁当入れて」
姉「はーい」
男「いってきまーす」
姉「いってらっしゃいまーす」
混ざってる混ざってる。
パソコンが熱くなってなんか書きづらいっす。
またくるっす
姉「弟くん弟くん」
男「ん?」
姉「このパンストどうでしょうか?」
男「なにが?」
問題の意図がわからない。
姉「だから、似合う?」
うむ。
綺麗な脚してやがる。
姉「あー、いやらしい目~」
男「あんたが似合うか聞いたんだろうが」
それはいくらなんでも酷い。
姉「でも、そんな目で見られたら恥ずかしいもん」
男「……」
そうかい。
男「まあ、似合ってるんじゃないの?」
姉「なげやりー」
どうしろと言うのか。
姉「弟でも、この太ももは良いでしょう?」
良いでしょうって。
まあ。
どちらかというと、良い。
姉「あ、またやらしい」
男「お黙り」
なにをしてもツッコまれる感じ。
姉「おだまりだって! いきなり声優の名前言われてもなぁ」
違うよ。
なんであんたがアダルトゲーメインの声優知ってるんだよ。
姉「うふふ、そんなのやらなくても、私がいるよ?」
やったことねぇよ。
男「変な勘違いはそこまでだ」
姉「てへり☆」
にくたらしい。
よく周りを見てみると、なんだか騒がしい。
一体何があるのだろうか。
当たり前だ。
理由は簡単、俺の隣にいる姉である。
学校のアイドル的人気を誇る彼女が、オトコと歩いている。
いつもは一人か、友達(同性)と登校している姉が、今日は異性であるところの俺と登校していたからだ。
優越感に浸るつもりはさらさらないが、少なからずは気分が良い。
姉「どしたの?」
本人は気づいていないみたいだが。
姉「なになに? どしたのー?」
近づくなって。
……すげえ殺気がする。
男「なんでもないよ」
姉「嘘っ。隠してるでしょ」
腕を抱くな。
殺される。
男「やめろって」
姉「照れてる照れてる?」
男「うっさい」
姉「ぶー、ひどい」
なんて子どもな姉だろうか。
姉「今日は一緒に行くのに、なんか冷たいし……」
顔をツンとさせて、姉はブツブツとなにか言っている。
男「じゃあ離れる? 俺は一向に構わないけど」
姉「嘘ですごめんなさい。許して下さい」
目がうるんでる。
男「冗談だから、真に受けないで」
姉「もう、やめてよねー」
すこしこぼれた涙を拭い、笑顔を見せた。
やはり、この笑顔には落ち着かされる。
そして、学校に到着。
男子生徒達の憎悪やら嫉妬やらが混ざり合った視線が痛い。
姉「ふふ、今日は朝からいいことばっかり!」
男「俺は朝から大変だよ……」
姉「弟にも女の子の日があるの?」
ねぇよ。
男「一体あんたは俺をなんだと思ってるんだよ」
姉「可愛い弟であり、かっこいい弟」
照れる。
姉「顔赤いぞー?」
男「うっせ」
姉「あはは、それじゃあ今日は一緒に帰ろうよ」
男「え?」
姉「週に一回、一緒に登下校デー!」
別にいいけど。
……これから毎週、この殺気を浴びないといけないのか。
男「まあ、いいけど」
姉「んじゃあ決まりだね! それじゃあ放課後ねー」
手を振りながら、姉は自分の下駄箱の方へ走っていった。
これが彼女だったらどれほど良いことか。
しかし、現実は姉であり、家族である。
……周りの男子諸君、そんなうらやましそうに見るんじゃない。
すいません、落ちます。
明日には終わりますので、よろしくおねがいします……
俺は弟なんだから。
男「やれやれ」
ため息をつく。
これでやっと姉から解放されたわけで。
いや、別にいやってわけじゃないんだけど。
ちょっと、疲れた。
教室は落ち着ける場所だ。
この少しの喧騒が心地よい。
そしてこの喧騒に包まれながら机に突っ伏すのが好きだ。
寝ることというのは本当に素晴らしい。
一生寝ていたいと思うことはないけど、長い間寝ていたい。
でも、無情のチャイムの響きあり。
授業がはじまるのである。
男「はぁ……」
めんどくさい。
授業中ってのは、どんな時よりも睡魔があらわれやすい。
男「くそ……」
本当にやばいぜ。
ただいま、4時間目。
睡魔と空腹が同時にやってくるこの時間は地獄だ。
男「3、2、1……」
チャイムが鳴る。
勝った。俺は勝ったんだ。
早速俺は弁当を取り出そうとする。
空振る。
……そうだった。
今日は自分の分が無いので学食だった。
男「……買いに行くか」
席を立って、廊下を出ようとしたら。
ドアの窓に、見慣れた顔ぶれ。
……姉だ。
ニコニコして、こちらに手を振っている。
クラスメイトの男子達がメロメロになっている。
何しに来たんだ?
一人の女子を呼んで、なにか話をしている。
その女子が俺のところにやってきて、
『姉が呼んでいる』
と、言った。
姉「やっほ」
男「何しに来たの?」
姉「酷いなぁ。せっかく教室まで来たのに」
来いなんて言ってない。
姉「ほら、じゃーん」
男「それは……伝説のマンゴーパン!」
一度も実物を拝んだことのないパンを、姉が持っていた。
姉「なんかもらっちゃったから、愛しい弟にあげるー」
男「ありがとう」
姉「パンツもあげるー」
なにをあげようとしてるんだ。
男「いらん」
姉「欲しいくせに~」
男「俺より欲しいと思ってるやつはこの学校にたくさんいると思うぞ」
おかず的にもな。
姉「へえー面白い冗談が言えるようになったんだね」
撫でるな。
姉「さて、それじゃあ。いこっか」
男「どこに?」
姉「屋上」
対決でもするのだろうか。
男「なんかあるの?」
姉「あるよ~素晴らしいイベントが!」
そうなんだ。
よく、漫画とかで、屋上で飯を食ったりするけど。
……あれ。
まさか、な。
姉「一緒にご飯食べよう?」
男「ラブコメは違うやつとやってくれ」
姉「えー! なんでなんで?」
男「俺は弟だ」
姉「私は姉だよ」
知ってるよ。
男「なんで俺と食いたいんだよ」
姉「弟が好きだから」
素直な姉である。
男「でもさ、わざわざ学校まで一緒じゃなくてもいいだろう?」
姉「どうして?」
男「いや、自分のクラスっていうものがあるし」
姉「私は弟と食べたいのです」
なんか喋り方が面白くなってる。
男「……わかったよ、とりあえず行こう」
姉「やった」
そして、俺に手招きしながら移動を開始した。
姉「到着~」
屋上は誰もいなかった。
とても良い天気だし、これは飯が美味しくなりそうだ。
姉「ここ、ここ座って」
男「ん」
姉「そんでそんで……よいしょ」
男「……なんで俺の上に乗るの?」
姉「なにか言った?」
男「言った」
姉「えへへ、なにかな?」
男「なんで俺の上に乗ってんの?」
姉「暖かいから」
それだけの理由でか。
_, ,_
( ・∀・)シュッ
( ∪ と 彡 ──────=====三三④
姉「うそうそ~乗りたかったの」
男「なんで?」
姉「彼氏のお膝に♪」
妄想と現実の区別が……。
姉「ちょっと! 押さないでー!」
男「ええい、どけ!」
姉「マンゴーパンあげたのに酷い!」
俺の動きがピタリと止まる。
そうだった。
姉「ふぅ……」
男「いただきます」
姉「どうぞどうぞー」
危うく恩を仇で返すところだった。
姉「美味しい?」
なんだこの味は……これが限定5品の実力……!
男「美味い!」
姉「喜んでくれて良かった良かった」
姉はニッシッシと、笑った。
気さくな笑い方だ。
姉「弟のお弁当も美味しいよ」
男「いつもと同じでごめん」
姉「そんなこと、思ったことないよ。美味しいもん」
照れる。というか、素直に嬉しい。
姉「食べる?」
男「いいよ」
姉「遠慮しない。あーん」
男「……」
パクリ、と俺は食べた。
美味い。
確かに美味い。
でも……。
姉「またまた間接キス!」
これさえなければなぁ。
姉「今度私が作ってしんぜよう!」
男「全力で遠慮しよう」
姉「驚くなよー」
スルーした。
姉の爆発物を食べるやつなんていない。
男「あんたに包丁は持たせられんな」
姉「う゛……」
姉は、包丁にちょっとした痛い思い出があるので、こんなリアクションを取る。
姉「あの時はちょっと油断してただけだから!」
男「はいはい」
あんな血の量で良く死ななかったと思う。
姉「うー……」
あの姉を抑え込んでいる。
気持ちが良い。
放課後になって、一緒に帰っていても姉は料理のことばかり言っていた。
男「すまん、先に帰ってくれないか?」
姉「え? エロ本買いに行くの?」
鋭い。
……ってんなわけあるかっ!
男「違う違う、ちょっとね」
姉「? ほいほい、わかったよー」
聞き分けが良い。
姉「それじゃあ、お家で待ってるねー」
手を振り振りして、帰って行った。
そして悟った。
今日中に終わらない、と。
すいません、寝ます。
今日は夕方には来れると思います。
_, ,_ ドゾー
r( ・∀・)
+ ヽ つ旦~~
(⌒_ノ
し'ゝ
_, ,_ 今日は~俺が姉の味方~
( ・∀・) 広い~世界ただ二人~になろう~が~
( ∪ ∪
と__)__)旦~~
_, ,_ 逢いたいと思うその時には~
( ・∀・) 姉がいな~い~
( ∪ ∪ 今すぐ逢いには行けない~から~
と__)__)旦~~ 姉がくれば~いいのに~
_, ,_ イムガイム・トルハンがイケメンすぎてワロタ
( ・∀・)
( ∪ ∪
と__)__)旦~~
ヾヽ
γ_ ・l>
ミ(ノノハヾ)
ヘレ∩゚ヮ゚∩ヽ
〈 .l l>炎ソ 〉
VWWく/__lへV
∪
_, ,_ これで姉からの呼び出し三回目
( ・∀・) 俺をへこます気ならば足んないぜ
( ∪ ∪
と__)__)旦~~
_, ,_ 危険だ!その錆び付いたシーソー
( ・∀・) 右も左も危なっかしいぞ!
( ∪ ∪ なら数段上のグレード
と__)__)旦~~ Welcome to the 姉ちゃん
_, ,_ One for the 姉,Two for the show
( ・∀・) Three for the people 皆調子どう?
( ∪ ∪
と__)__)旦~~
(丑)_, ,_
( ・∀・)
( つ @ ⑪≡≡≡
そのあと俺がなにをしたのか。
それはまあ。
あとのお楽しみだ。
俺はその用事を早急にすまして、家に戻った。
そして、ドアの前で一つ祈る。
男「どうか、料理を作ってませんように」
なんだか可哀そうな祈りだった。
ドアを開けると。
姉「おかえりなさい」
男「……風邪ひくぞ」
裸エプロンという非常識な服装をしている姉がいた。
姉「男のAKOGARE☆なんでしょ?」
どこで仕入れてきたネタだ。
姉「どう、どうなの?」
際どい。
そして、危ない服装だ。
男「いつから、その服装なの?」
姉「帰ってからすぐにこれです!」
一時間近いじゃないか。
男「わかったから、早く着替えなさい」
姉「感想言わないとやだー」
本当に風邪ひくぞ。
男「似合う似合う」
姉「似合うんだったら着とくー」
男「よく見たら全然良くなかった」
姉の目に涙がたまっている。
男「いや、いつものあんたの方が良いってこと」
姉「ほんと? ……着替えてくるね」
喜んで走って行った。
尻が丸見えだったが、何も言うまい。
どうやら服装だけで、料理はしていないようだ。
男「じゃあさっさと料理にうつるか」
姉にも悪いしな。
あまり夜遅くに食べると健康にも悪い。
……いや、別に姉を心配してるとかじゃなく。
消化に悪いから、な。
姉「おお、早速ご飯作ってくれてるんだ」
男「うん」
姉「気がきく弟を持つと嬉しいねぇ~」
はぁ。
この雰囲気でいてくれれば。
もっと好感が持てるのに。
姉「明日楽しみだなぁ~……弟くんとデート♪」
もうツッコむ気はない。
姉「弟ぉ…怖いよぉ助けて…」ブルブル
弟「姉ちゃん…なにもお化け屋敷でそんなに怖がらなくても…」
姉「怖いものは怖いのぉ…お姉ちゃん泣いちゃうよ?」ギュッ
弟(姉ちゃんの胸柔らかい…)「そんなにくっつくなよ、恥ずかしいだろ」
姉「いいじゃん♪私と弟の仲なんだし」
弟「ったく…しょうがないなぁ」
暇つぶしに書いてみた
男「そろそろできるから、座って待っとけ」
姉「はいはーい」
上機嫌だな。
姉「うふふ、今日も美味しい晩御飯で私を太らせるつもりだね~」
うるさい、胸を張るな。
姉「これ以上は困るんだけどなぁ~?」
だから、胸を強調するな。
男「ほい」
姉「ありがとっ。いただきまーす」
元気に手を合わせて、ご飯を食べる。
姉「うぅぅん……本当に美味しい!!」
目がキラキラと光っている。
姉「弟の料理には魔法がかかってるね!」
いくらなんでも言い過ぎだと思うけどね。
男「ありがと」
姉「こっちこそ、こんな美味しいご飯を毎日ありがとう!」
頭を撫でられる。
こうやって撫でられると。
昔を思い出す。
姉「……ちょっと前は私より小さかったのにね」
ちょっと前っていつだよ。
姉「私もまだまだお姉さん! って感じだったのになぁ」
男「昔からそんな感じではなかったと思う」
姉「なにをー! 熱を出した時に学校休んで看病したのは誰だったっけ」
男「ふん」
姉「あー! 無視するなぁ~」
覚えてるさ。
姉「でもね、嬉しいんだよ」
いきなり抱きつくなよ。
姉「こんなに大きくなって、カッコ良くなってさ」
姉は俺の体に顔を埋める。
姉「私が好きになっちゃうくらいに、ね」
姉はさらに強く顔を埋めた。
顔は埋まって見えないけど。
耳が真っ赤である。
男「熱でも出た?」
姉「あ、あはは、そうかも」
男「じゃあ明日は……」
姉「う、うそうそ!」
元気です、と。
強くアピール。
男「本当かよ」
姉「むむ、弟のくせに生意気!」
いつもこんな感じだけどな。
姉「ああ、ご飯早く食べなきゃ!」
男「なんで?」
姉「だって、せっかくの弟のご飯が冷めちゃうもん」
そうだな。冷めると美味しくないから。
男「さて、風呂入るから、食器は片付けといて」
姉「え、じゃあ一緒に入ろうよー」
男「断る」
姉「ぶーぶー」
普通だろう。
姉「でも、今日は早いね」
男「なにが?」
姉「お風呂に入るの。なんで?」
男「さあね」
そういう気分なんだ。
姉「……あ!」
な、なんだ。
姉「なるほどね~……えへへ」
なにがおかしい。
ニヤニヤして、こっちを見て。
男「な、なんだよ」
姉「んーん、なんでもないよ~」
なんでもないわけがない。
姉「えへへ、嬉しいなぁ~」
上目遣いで俺を見ている。
男「……まあ、入ってくる」
姉「はーい♪」
やれやれ、なんだってんだ。
男「ふぅ」
チャプンと、水音。
明日は、姉と出かけるのか。
俺ももうすこし女と縁があればなぁ。
男「姉弟でどこか行くなんてこと、ないのに」
一人でポツンと呟く。
思いのほか、響いた。
姉「弟~」
男「なに?」
姉「洗濯物、取りえたよ~」
あ、忘れてた。
男「ごめん、ありがとう」
姉「気にしないで! あとで頼みごと聞いてくれたら全然許しちゃうから」
頼みごとってなんだ。
怖いけど、まあいい。
そこそこ風呂に入って、シャワーを浴びて。
男「よし、出よう」
さっさと出て、明日に備えよう。
ガラリと、風呂の戸をあける。
姉「あ」
なんでいるんだ。
姉「あ、あう……え、えっと……」
下をガン見しながら、姉は赤面する。
姉「ご、ごめんなさいっ」
素早く出て行った。
なんでいたのか大体想像できる。
多分、着替えやらなにやら。
それしか考えづらい。
いくらなんでも風呂を覗きにくるようなことはしないだろうし、な。
男「ほい、次入っていいよ」
姉「はえっ!? あ、うん」
なんだよ、変な声出して。
姉「……」
また、耳まで真っ赤だ。
男「どうした?」
姉「な、なんでもないよっ!? 全然……」
完全に動揺してる。
男「まあ、それならいんだけど」
姉「う、うん」
動揺は全く隠しきれてないけど。
俺は気にしないことにした。
いちいち絡んでも、多分答えは変わらないだろうし。
洗濯物を片づけて、さっさと寝よう。
男「……うし、これでよし」
片づけ終了。最近は手際が良くて、すぐに終わる。
男「歯磨いて、寝よう」
とりあえず、洗面所に向かう。
男「……まだ入ってるか」
安堵した。急いで歯を磨こう。
姉「弟?」
男「!」
風呂の中から声が聞こえる。
姉「歯磨き中?」
男「ん、ん」
まさにそうだから、声が出せない。
姉「そっか。じゃあもう寝ちゃうのかな?」
男「ん」
返事ができない。
姉「明日、楽しみにしてるね」
男「ん」
姉「むむ、冷たい反応だぞ」
男「ぺっ……ああ、うん。それじゃあおやすみ」
姉「おやすみなさい」
そうして、俺は眠りについた。
明日は、姉と一緒に映画だ。
朝には結構強い方である。
あまりだるいと思ったこともあまりない。
男「ふわぁ……」
欠伸は出るけど、眠くはない。
俺は今、朝食を作っている。
姉の分と、自分の分。
夜に必ず終わらせます。
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