刹那「IS?」(248)
たつかな
・劇場版のネタバレ注意
・ISが放送中なので途中まで
・具体的に言うとセシリア戦まで
・一夏はいないよ。なので箒も出てこないよ
黒い海。
空の上に広がる無限の大地――――宇宙空間に、その機体はあった。
機体。そう、機体である。
白と青のカラーリングが施されたそれは、ロボットと呼称するに相応しく、金属特有の重厚感・荘厳さを見せ付けている。
ヒトの形をしたそれは、人間と呼ぶにはあまりにも巨躯であったのだ。
≪刹那、いけるな?≫
「ああ、問題はない」
コクピット内に響く、幼さの垣間見える声に返答しながら、青年――――刹那・F・セイエイはコンソールに指を滑らせる。
的確に操作を続ける彼の指先は、本来の――人間の――それと違って、冷たく重い光沢を放っていた。
いや、指先だけではない。
グローブを外した手だけでなく、目も、鼻も、耳も、全ての部位が灰色がかっている。
この分ならば、パイロットスーツに覆われている箇所も同様だろう。
鉛のような質感を持つ彼の体は明らかに異常であるが、刹那も、同行者も、その異常に触れようとすらしない。
と言うより、異常だとすら感じていないのか。それがごく自然なことであるかのように、刹那はコントロールに集中している。
最後に一つボタンを押し込んで、刹那は指の動きを止めた。
それから、前面に展開しているモニターに目をやる。
端に表示された機体情報を視覚から、そして‘感覚'からも読み取り、刹那は視線を左方へ滑らせた。
刹那が目を向けているのは、モニターより手前側、僅かなスペースに設置された小さな機械だった。
周囲の計器類とはやや毛色の違うそのターミナルユニットは、素人目にも後付のものなのだろうことが見て取れる。
だが、何よりも注意を引くのは、その上に表示されている立体映像だろう。
成人男性の手のひらぐらいしか身長がない小さな少年が、その場に直立していた。
光で構成された彼の体躯は、色彩が薄く、微弱ながらに発光している。
「ティエリア、頼む」
刹那の合図を受けて、少年、ティエリア・アーデは眼鏡を正す。
人いたんだよかった
≪……行くぞ。
圧縮粒子、開放!≫
それと同時、刹那の搭乗する機体――――ダブルオークアンタが、淡い閃光をまとう。
緑の色に染まったクアンタは、準備運動とばかりに左右の腕を動かし。
瞬きする間に、消えた。
後に残されたのは、きらめく粒子だけ。
◆
「ティエリア、現在位置は?」
≪……地球だ。僕達の、故郷……≫
刹那らが試行したのは、量子化を用いての星間航行であった。
平均より濃度が高められたGN粒子を用い、彼らの母星である地球へ帰還しようとしていたのだ。
対話の末に分かり合えた、異邦人を連れて。
◆
人類の存亡をかけた対話から、早五十年もの月日が経とうとしていた。
突如地球圏に襲来した異星体、‘Extraterrestrial Livingmetal Shapeshifter(地球外変異性金属体)’、通称ELS(エルス)。
何の意思も見せず、脳量子波――イノベイターやイノベイド、超兵のみが発信することのできる、特殊な信号――を発信する人間を執拗に狙い、
自らの体を接触させ、同化することのみを目的とした、その地球外生命体。
それらの行動は、害意から来るものではなかった。
彼らが使用する意思疎通の手段は、他者との融合であったのだ。
故に、彼らは脳量子波を操る人間のみを目標とし、対話を図ろうとしていたのである。
だがしかし、その真実は、人間には知る由もないことであった。
ELSによって、人類は一時絶滅の危機にまで追い込まれたほどなのだから。
その状況を打破し、世界を救ったのが、刹那・F・セイエイ――――ひいては、彼とティエリア・アーデが所属する組織、ソレスタルビーイングだった。
かつて、紛争を根絶するために武力でもって戦場に介入していた彼らは、未来を勝ち取るために、人々が分かり合うために行動を開始。
争うためではなく、わかりあうために生み出されたMS、ダブルオークアンタに乗り込み、自身とELSを同化させることで対話を成し遂げ。
見事、ELSを、人類を破滅から救い出したのである。
そして、ELSは刹那やティエリアと同行していた。
人間であろうとも、機械であろうとも融合し、意思の共有を図れる彼らは、クアンタと混ざり合っている。
故に、多数でありながら一つの固体であるELSとして、彼らは地球へと帰ってきた。
平和を掴み取った、生き証人として。
だが。
「……ティエリア」
≪ああ、わかっている。
……ここは地球だ≫
困惑した様子の刹那に、ティエリアは言い淀みながらも答えた。
≪……文明レベルが300年以上遡っている地球、だが≫
◆
一体何が起きているのか、刹那にはさっぱりわからなかった。
確かに、彼らは量子ワープで地球に跳んだはずだ。
されど、ここは、刹那の知る地球ではない。
確かに、景色や外観、あるいは大気や気候などの環境という観点から見れば、ここは地球と言えるだろう。
だが。
彼らが慣れ親しんだ世界とは、全く様相を違えているのだ。
今調べて見たら同じ内容のクロスしてる人がいてうわぉ
第一に、軌道エレベーターがない点。
西暦2300年代の世界では、石油資源が底をつき、エネルギーの殆どを太陽光に依存しているのが現状である。
その事実を、たかが五十年の技術革新で覆すことが出来るとは、到底思えない。
加えて、軌道エレベーターは、宇宙に伸びる巨大な建造物だ。
クアンタの現在地は空中、日本上空。この場所からはたまたま見えない、ということはまずありえない。
第二に。
「目的地は、日本……だったな」
≪……座標設定はそうなっているが≫
ここが、あの経済特区なのだろうか。
日本は、先進国の中でも図抜けた経済力を持っていた。
首都である東京には、経済特区と称した大規模な都市が築かれていたほどである。
それにしては、この――刹那にとって――前時代的な建築物が軒を連ねる景観には、違和感を覚えずにいられない。
刹那たちが地球から離れていたのは、ほんの五十年程度である。
たかが五十年で、あれほど発達していた科学技術が衰退、あるいは刹那らが予想できぬほどに様変わりするなど、誰が予想できようか。
≪どうする、刹那≫
「……情報が少なすぎる。迂闊に動くのは危険だ」
≪同意見だ。
……僕はヴェーダにアクセスしてみる。そうすれば、何かしら手がかりが得られるだろう。
刹那、君はプトレマイオスへ通信を≫
「了解した」
ティエリアの指示を受け、刹那は通信回線の設定を始める。
ダブルオークアンタも、ソレスタルビーイングに所属する機体。
例えELSが入り込んでいようとも、ソレスタルビーイングの母艦であるプトレマイオスとの暗号通信は問題なく行えるはず、なのだが。
「……?」
――――繋がらない。
ノイズやGN粒子の影響が見られないことから、通信妨害ではない。
まさか、プトレマイオス側が通信機を取り替えたと言うこともないだろう。
随分な時間が経っているとは言え、刹那らが旅立ったのはソレスタルビーイングの全員が知り得ていることである。
クアンタにはオリジナルの太陽炉も搭載されているのだ、刹那のことを忘れたとは考えにくい。
計器類のトラブルならば、まずはティエリアに報告せねばならない――――
刹那がそう結論を出すと同時、
≪……何?≫
「ティエリア?」
≪……ヴェーダにアクセス出来ない≫
「こちらもだ。トレミーへの通信に失敗した」
≪……妙だな≫
ティエリアは顎に手を添え、考え込む仕草を見せる。
≪今クアンタの記録をチェックしたが、何者かに阻害されているわけではない。
僕の方も同様だ。外的要因が原因とは思えない結果が出ている≫
「故障や破損ではないと言うことか?」
≪そう考えるのが妥当だろう。
衝撃で壊れる通信機はともかく、僕は脳量子波でヴェーダとリンクしている。
リボンズ・アルマークやトリニティの時のように、強引に切断、あるいはデータが改ざんされた形跡もない。
……どうにも不自然だ≫
淡々と事実を告げるティエリアだが、その声色からは少しの動揺が感じられる。
ソレスタルビーイングに、より正確に言うのならばイオリア・シュヘンベルグに関する技術は、現在の技術水準を大きく上回っている。
特に、生体CPUとも言え、破損箇所の修復すら自動で行われるイノベイドが機能不全に陥るなど、なかなか考え難いことだ。
繋がらない通信、隔絶されたイノベイド、退化した科学文明。
これらの材料から、刹那は自身の置かれた状況を推察する。
仮説に過ぎないが、可能性は三つほどある。
一つ目は、この地球が西暦2364年現在の地球であると言う可能性。
二つ目は、この惑星が、刹那たちの知る地球と非常によく似た星である可能性。
三つ目は、刹那たちがタイムスリップしてしまった可能性。
正直に言ってどれも選びがたいが、現実逃避をしたところで何が解決するわけでもない。
「ひとまず、クアンタを着陸させる。外壁部迷彩皮膜で隠蔽するぞ」
空中に静止していては、人目につきすぎる。
いくらかイメージアップがなされたとは言え、ガンダムに対する市民の心情は未だ複雑なもの。
下手に見つかって騒がれるのはごめん被りたいところだ。
目に付いた雑木林へ、クアンタを降下させる。
刹那の記憶が確かならば、このあたりは東京でも郊外。
近くにあるのは空き家なので、人がいないだろうと踏んでの行動だったのだが、
「……え?」
「……」
≪……≫
いた。
短く髪を切りそろえた、眼鏡の女性。
女性らしい出るところが出て、しまるところはしまっているそのスタイルは、やや童顔気味な顔立ちとはミスマッチだ。
それは、目の前の女性が持ち合わせている魅力とも取れるだろう。
が、そんなことは意識の外に追いやられていた。
ソレスタルビーイングに関する事柄は、基本的に機密事項である。
世界にケンカを売るような連中なのだからそれも当たり前なのだが、
今晒されているのは、その中でもトップレベルで保持されるべき機密事項であるガンダムと、そのガンダムマイスター。
いかんせん、この状況はまずい。
そう判断した刹那の行動は、早かった。
顔が隠せるヘルメットを被り、拳銃を手にして、コンパネを操作。ハッチを開け、クアンタのコクピットから飛び出る。
高度は20m程度だが、イノベイターに覚醒し、なおかつELSの能力をも取り込んだ刹那からすれば、この程度はさしたる障害でもない。
綺麗に足から着地すると、地面を蹴り、女性の背に回る。
少年兵時代から養われた動きで女性の自由を奪うと、後頭部へ銃口を突きつけた。
「動くな」
低い声は、当然女性の耳にも届いているのだろう。
一般人とは思えない落ち着きぶり――とは言え、緊張の色が見え隠れしてはいたが――で、女性は抵抗の意思がないことを示した。
「危害を加えるつもりはない。質問に答えるだけでいい」
本来ならば、このような手荒な真似はしない。
そもそも、市民と接触しないように行動するのがガンダムマイスターなのだ。
このような事態に陥る時点で、任務は失敗したも同然である。
だがしかし、右も左もわからない現状に放り込まれた刹那からすれば、警戒を解くのは自殺行為である。
争いあうのではなく、対話によって平和を成すはずだったと言うのに。刹那は、自己嫌悪の念を抱かずにはいられなかった。
「ここはどこだ? 日本なのか?」
刹那の問いに、固唾を飲み込んでから、女性はゆっくりと頷いた。
やはり、座標設定に間違いはなかったようだ。
疑問を氷解させるべく、刹那は次の質問に移る。
「今は西暦何年だ?」
「えっ、と……」
どもりながらも、女性はまたゆっくりと答えた。
彼女の出した回答に、刹那は眉をひそめる。
この女性の言うことが本当ならば、文明の段階との辻褄は合う。
合うが、彼女が述べた数字は、刹那の常識から数世紀ほどズレていた。
「何故お前はこのような場所にいる?」
「わっ、私は、このIS学園の教師ですから」
「IS学園?」
刹那が言葉を反芻するのに遅れて、
「そこまでだ。
……新学期の始まりに、厄介なことをしてくれる」
刹那の後頭部にも、重たい金属が押し付けられた。
◆
刹那は、無抵抗の姿勢を保ちながら、二人に大人しく従っていた。
ELSの、あるいはクアンタの力をもってすれば、人間二人を殺して逃走することなど造作もないことではある。
そんな選択肢など、最初からなかったが。
それに加えて、情報を集める必要もあった。
奇妙なこの世界の現地人に接触でき、なおかつクアンタムバーストなしでも意思の疎通が行える以上、利用しない手はない。
背後から突きつけられた敵意の塊の感触に耐えながら、
刹那は学園の敷地内――と言っても、人目につかないルートを選んではいたが――を淡々と通過し、施設の地下へと歩を進めていた。
しからば、先ほどの雑木林も、話に聞くIS学園とやらの敷地だったのだろう。
にしては対応が遅かったが、ガンダムにはGN粒子でレーダーをかく乱する効果がある。
目視によって捉えるしかない上に、ある程度距離を保つと迷彩皮膜で視認が難しくなるのだ。
それのおかげで、どうやら武装された人間に囲まれるといったことにはならなかった。
脳量子波使えば後ろに近づいてくる事ぐらいわかるだろ
ところでISってなに?
>>31
脳量子波で捉えられるのってイノベイターとイノベイドと超兵だけじゃなかったっけ?
空間認識能力が上がるのは覚えてるけど
あとISはインフィニット・ストラトスの略
さて置き、刹那は自身の前を歩く女性に目をやる。
女性にしては長身で、着用しているスーツはやけに似合っていた。
ただ刹那を先導しているだけに見えるが、歩き方一つとっても隙がない。
例え今ここで刹那が暴れだしたとしても、彼女ならば三秒とかからず鎮圧できるだろう。
先の眼鏡の女性が後方を抑えているし、下手に抗ったところで徒労に終わる。
ひとまずは、されるがままでいるしかあるまい、と刹那は思考を打ち切った。
途端、頭に直接声が響く。
この感覚は、脳量子波による意思伝達か。
≪……刹那、聞こえるか≫
(ティエリアか。ダブルオークアンタは?)
≪GNシステムのリポーズ、外壁部迷彩皮膜の施行も完了している。
GN粒子の散布も終了した。しばらくしたら、海中へと隠しておく≫
(すまない、手間をかける)
≪気にするな。……そちらはどうだ≫
(今、現地の人間と思しき二人組に連行されている)
≪何だと!?≫
(心配はない。
今ここで事を荒立てるつもりはないようだ……もっとも、警戒はされているが)
≪当たり前だ!≫
(情報を収集するには最適の手段だ)
≪確かに、状況を把握する必要はある……だが、いくら何でも早急すぎだ!≫
(ガンダムを見られた以上、このまま逃げ去るのは得策ではない)
脳量子波による声なき会話を続けていると、刹那の前を行く女性が立ち止まる。
彼女の右手側にある扉の前まで歩けば、センサーに反応を感知したドアは自動でスライドした。
――――入れ。
アイコンタクトのみで刹那に告げると、スーツの女性は気兼ねする様子もなく部屋に足を踏み入れる。
刹那は両手を挙げたまま、彼女に続いた。
眼鏡の女性が一室に入ると、ドアは先と反対方向に滑る。
その気配を感じながら、刹那は部屋の内部をざっと一瞥した。
申し訳程度に備え付けられたパイプ椅子が二つと、角ばった安っぽいデスクが一つ。
地上の様子以上に古めかしいそれらは、まるで刑事ドラマか何かに出てきそうな代物だった。
スーツの女性は奥側の椅子を無造作に引き、腰掛ける。
――――座れ。
またも、視線のみで言いつけられる刹那。
反抗する理由もない、と、刹那は足で椅子を引き、無抵抗の姿勢を維持したまま着席した。
(ティエリア)
≪……わかっている。会話の記録はしておこう≫
未だ納得がいっていないのか、拗ねた調子で返答するティエリア。
「さて……まずは、そのヘルメットを取ってもらおうか」
ようやく口を開いたスーツの女性は、ぶっきらぼうな物言いで刹那に命令する。
逡巡する様子もなしに、刹那はヘルメットを外した。
出てきた顔の特徴は、浅黒い肌と、ダークブラウンの瞳。
外皮だけでも取り繕うよう、体内のELSに指示しておいたのが功を奏した。
晒した顔がもしフルメタルであったら、即座にミュータントと認定されていたところである。
「その肌……中東人か?」
「……ああ。クルジスの出身だ」
「クルジス?」
スーツの女性の表情が、歪む。
言葉の真意をはかりかねているようだ。
(……‘この地球’に、クルジスは存在しないのか)
中東地帯は、相次ぐテロと紛争によって、一時期ニュースでひっきりなしに名前を流されていた国だ。
目の前の女性の外見年齢からして、当時は体験していないにしろ、流石にその一切を知らないとは思えない。
ならば、この惑星に、クルジス共和国と言う国家自体が存在しないのだろう。
やや短絡的な考え方だが、それ以前に不明瞭の部分が多すぎる。
差異をはっきりさせておかなければ、行動の指針すら定められない。
「……質問を変えよう。
言っておくが、黙っていても得はしないぞ。
……名前は?」
「刹那・F・セイエイ」
「所属はどこだ」
「ソレスタルビーイング」
「ソレスタルビーイング?」
ちら、とスーツの女性の目が動く。
背後に控える眼鏡の女性に問うているらしい。
目では見えないが、眼鏡の女性は首を横に振ったようだ。
ふむ、と一つ鼻を鳴らして、スーツの女性は刹那に向き直った。
「何を目的としている? 何故ここへ来た」
こればかりは、刹那も考え込んだ。
真っ正直に‘地球へ帰りたい’と答えたところで、逆に反感と不信感を買うだけだろう。
急に返事をしなくなった刹那に対して何を思ったのか、刹那の後ろで押し黙っていた眼鏡の女性が口を開く。
「あの……さっきの大きなISは?」
「IS?」
クアンタのことだろうと大体目星をつけていた刹那が耳にしたのは、聞き慣れない単語だった。
IS。何らかの略称なのだろうか。脳内を検索してみるが、該当するものはない。
「インフィニット・ストラトスのことです。あの、貴方が乗っていた」
「インフィニット・ストラトス……」
≪……ストラトス≫
ストラトス。そのワードに、刹那とティエリアの心が微細に揺れた。
思い出される、戦友の顔。変革の意思を託して逝った、彼らの盟友、ニール・ディランディ――――ロックオン・ストラトス。
そう言えば、ニールの弟である彼は――――ライル・ディランディはどうしているだろうか。
五十年もの歳月が経過しているのだ、とっくに隠居しているだろうが。
刹那の回想を断ち切るように、スーツの女性は繰り返した。
「……やはり、IS関連か。
もう一度言う、黙っていても得はしないぞ」
「ISとは、何だ?」
「何?」
刹那が疑問をぶつけると、スーツの女性は面食らった様子を見せる。
どうやら、そのインフィニット・ストラトスとやらは、常識に近しいモノらしい。
「とぼけているのか?」
「……」
「……」
我慢比べのように、二人して口をつぐむ。
やがて根負けしたのか、スーツの女性は渋々と口を働かせた。
「……黙秘したところで、お前はここに館詰めだ。
防衛網を掻い潜って来た侵入者を、むざむざ放っておく道理はないからな」
「……」
さて、どうする。
ELSによって体を金属に変えた刹那は、基本的に不老であり、その上、モノを食べなくても死なない。
故に、どれだけ閉じ込められようが、どんな環境に放り出されようが、よほどの事がない限りは死なないのである。
この時点で、女性の脅しは半分ほど意味をなくしていた。
が、彼にはまだ果たすべき事があるのだ。
ここでずるずると過ごすことは、時間の浪費に他ならない。
そして、刹那は決断した。
「……わかった。話そう」
≪刹那!?≫
◆
刹那が話したのは、数世紀先で起きた(と思われる)出来事だった。
軌道エレベーターの建設、
それにより一部地域で頻発した紛争、テロ、
ソレスタルビーイングによる武力介入の開始、
独立治安維持部隊アロウズの結成、
イノベイドとの争い、
そして、変革する世界。
自身がガンダムマイスターであり、イノベイターであること、
ガンダムの力によって、自身がここへ跳躍してきたこと。
ただし、ELSに関しての情報は全く明かしていない。
あくまでクアンタの量子ワープのテストによって転がり込んできたことにしていた。
ここで外宇宙から訪れたエイリアンを話題に出そうものなら、解剖実験をされてもおかしくはないからだ。
「…………」
荒唐無稽とも言える話を聞き終えて、スーツの女性は複雑な表情を作る。
女性が腕を組んで思慮の海に沈んでいる間、刹那はティエリアとの会議を行っていた。
≪……刹那≫
(わかっている。これは危険な賭けだ)
≪ああ、いくらなんでも軽率すぎる。
これで、僕たちの存在が多くの人間に知れ渡れば……≫
「……本気で言っているのか?」
ティエリアとの言葉に被って、スーツの女性が問いを投げかける。
対する刹那は、首肯するだけだ。
訪れる沈黙。
数十秒にも数分にも感じられる重い時間が過ぎるが、
不意に、眼鏡の女性が退室していった。
今の刹那は招かれざる来訪者である。
振り返るわけにはいかなかった。
再び、沈黙。
だが、眼鏡の女性が戻ってきたことで、その空気は打ち破られた。
「あの、先生……」
先生。なるほど、学園と言うだけあり、スーツの女性は教職に就いているらしい。
刹那を尻目に、眼鏡の女性はスーツの女性にいくらか耳打ちする。
「……それは、確かか」
「ええ。今、直接指示が来ました」
「……そうか」
スーツの女性はもう一度複雑な表情を作って、刹那を見据えた。
「……付いて来い」
◆
案内された先は、格納庫のような場所だった。
灯りはぼけており、いまいち薄暗い。
壁にはいくつもの焦げや傷がそのままに放置されており、ここが長い間使われてきたのだろうことを直感させる。
外見は違えど、用途はプトレマイオスのドックと変わらない。
ならば、ここにはMSに相当する兵器の類が存在するはずだが、
「これだ」
手の甲でノックするように、スーツの女性は目的のモノを示した。
第一印象としては、強化装甲、だろうか。
ヒトガタのモノが装甲することを前提に設計されたのだろう、
腕部と脚部を保護するように備え付けられた鋼鉄と、既存のMSにおけるスラスター代わりの翼が備え付けられている。
MSと言うより、ガンダムのアタッチメントとしての色が強いGNアームズに近い。
これは何だ、と視線で問うと、本当に知らないのか、とどこか驚いたように、スーツの女性は言った。
「ISだ。試験で使用したもので、正式機ではないがな」
これが、何度か話に出ていたISと言うやつか。
刹那の記憶には、全く引っかかるところがなかったが。
「あの……本当に、ISのことをご存知ないんですか?」
眼鏡の女性が、横から刹那の顔を覗き込む。
ああ、と刹那が答えると、眼鏡の女性はスーツの女性を一瞥してから、説明を始めた。
◆
(ティエリア、記録には?)
≪いや……僕の記憶が確かなら、ヴェーダにも記述がない単語だ。
インフィニット・ストラトス……これほどのものが、ヴェーダの情報網から漏れていたとは思えないな≫
(ああ。何にしろ、時代に対して技術が進みすぎている。
単体で飛行し、なおかつ戦闘すら可能……
俺たちの世界なら、今頃、軍事運用されていてもおかしくはない)
眼鏡の女性から一通りの講釈を受け、刹那は改めて自身の置かれた状況と、それに付随する異常性を認識した。
インフィニット・ストラトス。宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツ。
サイズに比して、異常なまでに高い能力値を誇るその技術。
しかし、女性にしか動かせないと言う独自のルール。それによる、女尊男卑の風潮。
ましてや世界中に公開されているのだから、刹那らソレスタルビーイングが知り得ないはずがないのだ。
だが、目の前の女性二人は、知っていて当然であるとばかりに話を進めていた。
(……やはり)
≪ああ、刹那の予想通りかもしれない。
この星は、僕たちの知っている地球ではない。だが、ここは地球だ。
平行世界、と言う可能性もあるが……やはり、地球に酷似している星に流れ着いた、と見ていいだろう≫
話を切り上げた眼鏡の女性に、
ティエリアとの話を終わりにして、刹那は感謝の気持ちを伝える。
「すまない、助かった……、」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私は、山田 真耶です」
「……私は織斑 千冬だ」
二人の名前をようやく聞き出した刹那は、本題に話を戻すべくスーツの女性―――― 千冬を見やる。
とうにわかっていたのだろう、千冬は刹那に目を向けて、
「これに乗ってみろ」
女性にしか動かせないと聞いたが、と刹那は反論しかけて、自身がイノベイターであると告白した事実を思い出した。
おそらくは、先ほど千冬の尋問を監視していた何者かが、眼鏡の女性――――真耶に指示したのだろう。
ISを動かせるかどうか、試してみろ、と。
≪価値があるかもしれん故に生かされているようだな。
刹那、いざとなれば切り捨てられかねない。警戒は怠るな≫
(了解した)
相手は生身の侵入者、そんな相手を自由にさせる理由など、身内に取り込める可能性があるからに他ならない。
これでISを動かせれば、学園側としては世界初の男性IS操縦者を取り入れ、
駄目なようであれば侵入者として排除する。なるほど、ローリスクでハイリターンな賭けだ。
膝をついているISに歩み寄り、刹那は右手でその装甲に触れる。
もしISがイノベイター、もしくは脳量子波に反応するのであれば、何らかのリアクションがあるはずだ。
……が、
支援ありがとう でも投げっぱなしエンドなのであんまり期待しないでね
≪……やはり失敗か≫
(そのようだ……!?)
案に相違しなかった結果を受け入れ、刹那が右手を離そうとした瞬間。
接触したポイントを介し、ELSが行動を開始した。
同化・融合によるコミュニケーション。
対象が金属であれば、その融和性はより高くなる。
≪刹那!≫
止めろ! そうティエリアが口にする寸前。
それよりも早く、ELSは作業を終了させていた。
ISが、淡い緑色に輝き。
右腕には巨大な実体剣が、左腕には楕円形の盾が。
肩部装甲は上方へと跳ね、頭部にはV字型のアンテナが形作られる。
≪これは……≫
「エクシア……!?」
ELSが融合し、変化させた形状は、奇しくも、刹那の中でも強いイメージ――――ガンダムエクシアのものであった。
「……うわぁ~……」
「……驚いたな。まさか、適応を通り越して形態移行にまで持っていくとは……」
学園の教師二人は、鳩が豆鉄砲を食らったように呆気に取られている。
男性がISを作動させられるだけでも、既に常識外れのことなのだ。
それが、よもや触れるだけで自己進化にまで持ち込もうとは。
これも、ある種の変革なのだろうか。
◆
それから、刹那は千冬とも真耶とも違う職員に連れられ、とある一室に通された。
持ちかけられたのは、IS学園に入らないかと言う誘いである。
世界で唯一の男性操者を、みすみす手放したくはない、ということだろう。
≪どうするつもりだ、刹那≫
(……他に方法がない)
結局、刹那はその申し出に対しイエスと答える他なかった。
ノゥと答えれば、即座に不法侵入でブタ箱送りなのである。
クアンタに搭乗すれば簡単に脱出できるだろうが、死傷者が出てしまうことは確実だ。
イエスと答え、すぐに逃げ出す選択肢はないでもなかったが、
先ほどの部屋にもカメラがしかけられていたのだ、こっそり脱走しようとしたところで、見つかって強制送還されるのがオチだ。
それに、ここを飛び出したところで、行くアテなどなかった。
比較的科学技術の進んでいるこの施設ならば、星間航行や元の地球に帰る方法も見つかるかもしれないと言う利点もある。
ともあれ、宇宙空間をひたすら彷徨い続けるよりマシだろう。
ひとまずはここを拠点として、帰還の手段を探さなければならない。
≪……こうなった以上は仕方がないな。
ISも随分なオーバーテクノロジーだ、何か足がかりに出来るかもしれない≫
(すまない、ティエリア。また付き合わせることになる)
≪慣れたさ。それに、どのような任務もこなすのが、ガンダムマイスターだろう?≫
(……ああ、そうだな)
二人は、小さく笑った。
◆
刹那に与えられた私室は、なかなかに豪勢なものであった。
もともとは二人用の部屋だったのだろう、学生一人にくれてやるにしては広すぎる。
まあ、同室の人間がいては、監視にも不便だからだろう。
あの後、真耶から連絡があった。
何でも、明日から早速授業を受けることになるらしい。
外見年齢23歳、実年齢73歳の男に高校の授業を受けさせるのかと思わないでもなかったが、ISの操作に関して、刹那はズブの素人である。
部屋の壁にかけられた男性用の制服と、机の上に詰まれた分厚い参考書をちらと見て、仕方がないことだ、と刹那は割り切る他なかった。
◆
「今日はなんと、転校生を紹介します!」
教室に、真耶の元気な声音が響く。
そこかしこから上がる黄色い声は全て女性のもので、事実、この教室には女子生徒の姿しか見えなかった。
それもそのはず、ISとは女性にしか操作できないもの。IS専門の学校であるIS学園に男子生徒がいないのは、当然のことである。
が。
教室のドアがスライドし、来訪者を招きいれた。
途端、皆が黙る。虚を突かれた女子生徒全員、あっけらかんと固まっている。
教壇の隣に到達したその人物は、落ち着いた声色で名乗った。
「……刹那・F・セイエイだ」
◆
「よろしく頼む」
刹那が自己紹介を終えると同時、この時を待っていたかのように、再度黄色い歓声が教室中を包み込む。
鼓膜をブチ抜こうかと言う言葉の波を受けてなお、刹那は直立不動であった。
ELSである彼の体は、強靭なのである。
(……やはり、擬似人格タイプR35を使用した方が)
≪……悪いことは言わない。やめておいた方がいい≫
無難な選択が無難に成功したことに、ティエリアはほっと胸をなでおろした。
流石に、この精悍な顔つきをした男が開口一番
「ちょりぃっす~! 転校生の刹那でぇす、よろしちょりぃ~っす」などと言おうものなら、空気が凍てつきかねない。
しかし、随分な対応である。それほど、世界初の男性操縦者と言うネームバリューは大きいのだろう。
もっとも、刹那がISに適応していたわけではなく、ELSと同化させることで強引に操っているだけなのだが。
ひとまずは、この歓迎に対してどう応えたものかと、刹那は頭を悩ませた。
◆
授業そのものは、特殊なものではあれど、説明があり、サンプルがある以上、
イノベイターである刹那からすれば、不可能と言うほどではなかった。
そも、彼はELSと同化することによって、脳まで金属と化しているのである。
情報の記録・活用・処理においては、人間と比して比べ物にならないほど発達しているのだ。
さしたる障害もなく、刹那は授業を乗り越えた。
◆
「あの子よ、世界で唯一ISを使える男性って!」
「入試の時にISを動かしちゃったんだってね~!」
「世界的な大ニュースだったわよね!」
「やっぱり入ってきたんだ……!」
「ねえ、話しかけなさいよぅ」
「私、行っちゃおうかしら……」
「待ってよ、まさか抜け駆けする気じゃないでしょうね!」
きゃいきゃい姦しく騒ぐ女性陣の真っ只中に、刹那はいた。
やはり、入学式の次の日に来た転校生であり、世界で唯一の男性IS適合者ともなれば、その名前には相当の価値がある。
まあ、入試など受けていないから、それらは学園側が用意したデマゴギー、あるいはプロパガンダなのだろうが。
(争いがない……皆、自分が生きたいように生きている。
歪みが断たれた先には、このような世界が待っているのか)
だが、椅子に腰掛け、教室を観察している刹那の意思は、それとはズレたところにあった。
そもそも、刹那は幼いころには少年兵として、高校に通うべき時期には既にガンダムマイスターとして活動していたのだ。
彼にとって、学園と言う舞台は初めての経験なのである。
このような世界を、作っていければ。そう夢想の海へ沈もうとする刹那を、ふと声が呼び止めた。
「ちょっとよろしくて?」
振り向くと、そこには女生徒が一人。
腰まで伸びた長い金髪、サファイアのような深い青の瞳。
まるで人形のようなかわいらしさと、それに反して色気を感じさせる女性らしさが同居しており、文句なしで美人と言えるだろう。
刹那は少女の存在に気づくと、反射的に問い返す。
「俺に何か用か?」
「まあ! 何ですのそのお返事!
私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度と言うものがあるのではないかしら?」
「……すまない」
何やら尊大な物言いで言葉を並べ立てる少女に、刹那は思わず謝っていた。
これと言って罪悪感もないが、まあ遠まわしに謝れと言われているのだから、謝るほかないというものである。
「あら、一応の礼儀はわきまえておりますのね。
いいでしょう、このセシリア・オルコットは貴族なのですから、下々の者にも寛大であらねばなりませんもの」
――――セシリア・オルコット。
その名前には、刹那にも覚えがあった。
「セシリア・オルコット……イギリスの代表候補生か」
代表候補生。
国家を代表するIS操縦者の候補生として選出される、超エリートである。
読んで字の如く、‘代表’の‘候補生’なのだ。
専用機を所持しているとかで、一年生の中でも、かなりの有名人である。
周囲の生徒が噂しているのを、刹那も耳にしていた。
「ええ、ええ、いかにも!
代表候補生、即ちエリートなのですわ!
本来なら、私のような選ばれた人間とクラスを同じくするだけでも奇跡! 幸運なのよ!」
自分のペースでべらべら喋っている少女、セシリア。
「その現実を理解して頂こうかと思いまして」
要するに、よろしくと言うことか。
そう解釈した刹那は、セシリアに向け頷いた。
「了解した」
「……あれ、私もしかしてバカにされていますの?」
「いや、そのつもりはない」
「はあ……そうですか」
何やら空回っている事実に気づいたのか、ややクールダウンしたセシリアは、小さく咳払いをして続ける。
「ともかく、私は優秀ですから。優しくしてあげますわよ?
わからないことがあれば、まあ泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ?
何せ私、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
そう言われても、入試を受けていない刹那にはそれがどれほど難しいものなのかわからないが、
これだけ生徒が居て唯一なのだから、誇れるほどの腕前ではあるのだろう。
「そうか、これから頼む」
「ええ、もちろん! 私を頼ってくれていいんですのよ!」
何やらキラキラとまばゆいばかりのオーラを放っているので、
目の前の少女がそれでいいのならそれでいいか、と、そのうち刹那は考えるのをやめた。
◆
一日が終わり、部屋へ戻る。
一日中女子にざわざわ騒がれていたが、文字通り鉄の心臓を持っている刹那は特に気にすることもなく、普通に過ごしていた。
むしろ、刹那の一日はここから始まるといってもいい。
(ティエリア、ダブルオークアンタは?)
≪海に隠してある。隠蔽工作は完璧と言ってもいい。誰かに気づかれた様子もない≫
(現在地の割り出しは?)
≪……芳しくないな。方位磁石が狂っているような状態だ≫
(……どうやら、地球とこの星では地理からして違うようだな)
教室から借用した世界地図を、自室のカーペットの上に広げる。
ELSと同化したクアンタ=ターミナルユニットのティエリアと、刹那は別固体であり同一固体である。
視界の共有程度、難しいことではない。
(具体的な相違点として……まず、アザディスタンやクルジス、スイール等、中東諸国が存在しない)
それ以外の国名がそのままなのに対し、中東の国のみ、別の名前に置き換えられている。
アザディスタンにしろ、クルジスにしろ、ここ数百年で名称を変更したわけではないと言うのに。
(次に、連邦政府はおろか、ユニオンやAEU、人革連などの軍組織も構成されていないようだ)
代表候補生などのシステムなどから鑑みるに、それも当然だろうが。
≪僕たちの知る地球とは、随分と違っているな≫
何にせよ、現在位置すらままならない状態で量子ワープを使うのはリスキーすぎる。
微少であれど、太陽に突っ込んでしまう可能性すら存在しているのだ。下手には動けない。
とにかく、クアンタのシステムとこの地球とを上手くすり合わせ、もう一度量子ワープで移動するしかないのだ。
しばらくは、その調整にかかりきりにならねばならないだろう。
(先は長いが……必ず会いに行く)
だから、待っていてくれ。口に出さず、刹那は決意を深めた。
◆
翌日。
「これより、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める。
クラス代表者とは、対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会への出席など、まあクラス長と考えてもらっていい。
自薦・他薦は問わない。誰か居ないか?」
千冬の話を受けて、自然と静まり返る教室。
誰がどう出るか、皆が牽制し合う……なか、一人、手を挙げる女子が。
「はいっ、セイエイ君を推薦します!」
内心、刹那は表情を渋める。
ただでさえ目立っているのだ、下手に注目されてしまっては、帰還の手段を探る時間が少なくなってしまう。
のだが、そんな刹那の心情を知る者など、ティエリアとELS以外には居なかった。
「私もそれがいいと思います」
もう一人、賛同する女子生徒。
人の連帯感と言うやつは、こう言うときばかり強くなっていけない。
「他にはいないのか? いないなら無投票当選だぞ」
確認をとる千冬。
この流れはまずい、そう刹那は歯噛みするが、
「納得がいきませんわ!」
後方から、がたん、と、机を叩く音。
聞き覚えの有る声に、刹那が振り向く。
案の定、憤りを隠せない様子で震えているのは、セシリア・オルコットであった。
「そのような選出は認められません!
男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!
このセシリア・オルコットに、そのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
頭に血が上っているのか、セシリアは矢継ぎ早に叫ぶ。
「大っ体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、私にとっては耐え難い苦痛でぇっ……!」
「……セシリア・オルコット」
今まで黙していた刹那が、セシリアの言葉を区切って口を開き、立ち上がった。
その顔は一見冷静だが、その胸の奥では熱い怒りがくすぶっている。
「そう言って他人を見下してばかりいては、それが歪みになる。
その歪みが、やがて大きな争いを呼ぶことになってしまう。
……歪みは断ち切らなければならない。お前は、変われ」
「……私が歪んでいる? 貴方、私を侮辱しますの!?」
「そうだ。小さな歪みが、いずれ大きな災厄を招く。
お前は変わらなければいけない。
変わらなければ、未来とは向き合えない」
きっぱりと言い切った刹那とセシリアの間に、不穏な空気が流れ始めた。
今にも歯軋りを始めそうなセシリアと、表情を崩しもしない刹那。
にらみ合いが十数秒続き……動いたのは、セシリアだった。
「……決闘ですわ!」
びしぃっ、と効果音が聞こえそうなほどに、セシリアは右手の人差し指を刹那に向ける。
失礼極まりない行動に対し、刹那は目をそらすこともせず、毅然とした態度で返答した。
?「私は君との果し合いを所望する!」
何言ってんだコイツってなりそうな気はしましたが
本編でも抽象的な物言いばっかりだったりするので
まあ相良軍曹みたいなものだと思ってもらえれば幸いです
「それでは駄目だ。争いあうのではない。
俺たちは、対話によって紛争を根絶しなければならない」
「あら、逃げるのですか?
ここまで大口を叩いておいて逃げ出すとは、やはり男性は男性のようですわね」
「そうではない、だが……」
「い・い・か・ら! 何なら、ハンデでもつけて差し上げましょうか?」
≪……刹那≫
(ティエリア?)
≪ここは素直に乗った方がいいだろう。
学園にこちらの価値を示す好機だ。
……加えて、対話を望むなら、対等の立場に持ち込む必要がある。
相手に対話の意思がないのなら、まずはこちらの存在を認めさせなければならない。
戦いは、破壊することだけじゃない。創り出すことだって出来る……そう言ったのは君だ≫
(…………)
「……了解した。その勝負を受けよう」
「話はまとまったようだな?」
セシリアと刹那の言い合いに介入する千冬。
いやに楽しそうな顔をしているが、それに突っ込む人間は一人も居合わせていなかった。
「それでは、勝負は次の月曜、第三アリーナで行う。
セイエイとオルコットは、それぞれ準備をしておくように」
◆
月曜。
いよいよ訪れた、決戦の日である。
(ティエリア、いけるか?)
≪粒子同調、GNドライヴマッチングクリア。
……この分なら問題はない、いけるはずだ≫
ELSに取り込まれたIS、実質刹那の専用機であるISエクシア(仮称)。
格納庫にて最終調整を行っている二人の面持ちは、真剣そのものである。
何度かテストは行ったが、この状態では初陣だ。
出来る限り、不安要素は排除しておきたい。
「セイエイ、やれるな?」
カタパルト内に、千冬の声がエコーする。
頷きで返して、刹那は機体に乗り込む。
「背中を預けろ。そうだ、座る感じでいい」
指示を受けながら、刹那は準備を進めていく。
――――access
「後はシステムが最適化する」
――――setup start
人口音声と共に、セットアップがオートで進行。
前方のモニターに提示される情報に目を通し、刹那は、そこに慣れ親しんだ名前を見つけた。
――――ガンダム、エクシア。
(……エクシア)
何度も世話になった、刹那の愛機。
ソレスタルビーイングの、第三世代ガンダム。
(敵機は……)
画面左上に表示された、敵方の情報。
名称――――ブルー・ティアーズ。
「セシリアさんの機体は、ブルー・ティアーズ。
遠距離射撃型のISです」
――――遠距離特化型。
近距離での高速戦闘を得意とするエクシアで相手をするには、いかんせん相性の悪いタイプであ
る。
だが、相手も専用機、こちらも擬似的ではあるが専用機。
条件は同等、勝てるかどうかはパイロット次第だ。
俺がガンダムだ
だが……改行を間違えた俺は、ガンダムになれない……
刹那が思考すると同時、真耶がスピーカー越しに最終確認を取る。
「ISには、絶対防御と言う機能があって、
どんな攻撃を受けても、最低限、操縦者の命は守られるようになっています。
ただその場合、シールドエネルギーは極端に消耗します。わかってますよね?」
絶対防御。ISには、どれほど追い込まれても、パイロットの生命は維持できる装置がある。
これ以上、破壊するだけの戦いはしない。それを念頭に置いていた刹那からすれば、ありがたい
要素であった。
「セイエイ、気分は悪くないか?」
千冬の問いかけに、刹那は首肯した。
「……そうか」
期待しているぞ、とでも言いたげに、千冬が笑う。
それを確認してから、刹那は視線を正面に戻した。
いよいよ、実戦だ。
戦闘自体は嫌と言うほどこなしてきたが、IS同士の一騎打ちはこれが最初。
どう転ぶかは、歴戦の勇士である刹那にも予測できない。
「……GNドライヴ、リポーズ解除。
プライオリティを、ティエリア・アーデから刹那・F・セイエイへ」
シーケンスをこなし、
「エクシア……目標を、駆逐する!」
カタパルトが、大きく前方へ滑走。
その上に鎮座していたエクシアが、勢いよく空中へ投げ出される。
≪刹那。どうだ?≫
「MSとは形態が違う……だが、ELSからのサポートはある。このままミッションを遂行する」
≪必要最低限の処理以外は、僕が受け持とう≫
理詰めで操縦するMSと違い、ISはもっと直感的な操作を必要とする。
いくらテストしたとは言え戸惑いはないでもないが、ISと融合したELSが刹那を支援しているのだ。
不可能と言い切るほど、可能性がないわけではない。
背中に装備されたGNドライヴから粒子を撒き散らし、刹那は推力を獲得。
空中での姿勢制御をこなし、先に戦場で待っていた敵手――――セシリア・オルコットと向かい合う。
「最後のチャンスをあげますわ」
「チャンス?」
自身満々と言った風で言葉を紡ぐセシリア。
「私が一方的な勝利を得るのは自明の理。
今ここで謝ると言うのなら、許してあげないこともなくってよ?」
「俺が勝利する可能性は低いだろう……だが、始める前から諦めたくない」
反抗した刹那に、セシリアは余裕の風情を漂わせたまま、
「そう……残念ですわ。
それなら……」
右手に携えた、大型のライフルを構えた。
それに遅れて、エクシアのディスプレイに赤い枠の警告文が出現する。
(敵IS、射撃体勢に移行……来るか)
「お別れですわね!」
全体のサイズに比して、大きすぎる銃口を持ったその兵器から、青白い閃光が飛び出した。
射線上に刹那を置いたその敵意は、一直線にエクシアを射抜く道を辿る。
刹那が、それに反応できないわけはない。
戦闘機でロールをするように体をひねり、最低限の動きで射撃を回避。
目標を見失った敵意の権化は地面に着弾し、砂埃を上げる。
そんな情報を取り入れる暇もなく、刹那は加速。
エクシアの真価は、接近戦において発揮される。
遠方から来る敵弾を避け続けたところで、そこに一切のチャンスはなく、それは出来の悪い曲芸にすらなり得ない。
「遠距離射撃型の私に、近距離格闘型の装備で挑もうとは……笑止ですわっ!」
そんなことは、セシリア側も百も承知だ。
刹那の接近を拒むべく、異形のライフル――――スターライトmkⅢでもって弾幕を張る。
一射、二射、三射、四射……
あのような大口径かつ高火力を誇りながら、この連射力。
銃身が焼きつかないことから鑑みるに、やはりISのテクノロジーには底知れぬものがある。
銃口の向きから光弾のルートを見抜き、刹那は最短経路を突き抜ける。
銃弾の雨の中を、白と青の流星が駆け抜けた。
上下左右に機体を揺らしながら、刹那は疾走する。
確かに、セシリア・オルコットの狙いは正確だ。
刹那の進路を推測し、そこに置くように狙撃する予測力も、目を見張るものがある。
だが。所詮ライフルはライフル、直線しか描けないのだ。
過去に刹那が相対した連中、
ルイス・ハレヴィの駆るレグナントの偏向ビームや、
リボンズ・アルマークが搭乗したリボーンズガンダムのフィンファングなどに比べて、セシリアの攻撃は真っ直ぐすぎる。
加えて、刹那はピンポイントで対セシリアの練習を積んでいたと言えるのも大きい。
ガンダムエクシアの実体剣は、GNフィールドを貫通するために搭載されたものだ。
寝返りが起きた際、情報が漏洩するのを避けるために、対ガンダムタイプ性能の高い機体が必ず一機配備されるのである。
それが、刹那のガンダムエクシアであった。
故に、刹那は対ガンダムを想定した訓練をこなしてきたのである。
対キュリオス、対ヴァーチェ、対ナドレ……
ここで活きてくるのが、対デュナメス戦である。
デュナメスの主兵装は、GNスナイパーライフルだ。
高濃度のGN粒子を更に圧縮することで、弾速と威力を上昇させるギミックが使われている。
セシリアの専用機、ブルー・ティアーズは、このデュナメスと似通った性質を持っていた。
即ち、高速射撃の連射により、自身のアドバンテージを保った状態で戦えると言う点である。
対ナドレって勝ち目あんの?
>>150トライアルシステムはなしの方向で
これに対し、刹那のエクシアは純粋な格闘機。この時点で、デュナメスに有利がつく。
それをひっくり返すのが、パイロットの役目なのだ。
遠距離戦型MSに対し、刹那は接近することに重きを置いた研鑽を積んできた。
殴り合いをすれば、武器の取り回しと馬力で勝るエクシアに利があるためだ。
これにより、機体相性そのものは刹那の不利であれど、
刹那はセシリアに対しいくらか上手なのである。
ぐんぐんと距離を詰める刹那に対し、セシリアは口元を歪めたまま、ライフルを撃ち続ける。
「このブルー・ティアーズを前にして、初見でこうまで善戦するのは貴方が始めてですわね。
褒めて差し上げますわ」
刹那は返答することもなく、弾雨を掻い潜り、いよいよもってセシリアに肉薄。
右手のGNソードを展開、一閃で断ち切るべく振りかぶり、
ISエクシア…MS少女のようなデザインなのだろうか
>>153
中身はせっさん(メタル)です
「でも……そろそろフィナーレと参りましょう!」
背後から、ビームによる奇襲を受けた。
「ぐぅっ……!?」
苦悶の声を漏らしながら、刹那は後退。
自ら縮めたセシリアとの距離を離し、一度戦況を見極めようとする。
残りの耐久力を示す数値は、四割ほどの減少を見せていた。
「粒子残量が……!」
≪シールドエネルギーだ、刹那≫
ティエリアの冷静なツッコミを流しつつ、刹那はセシリアを睨みつける。
見れば、セシリアの周囲には、彼女の背後にマウントされていた装甲が浮遊し、付き従うように展開されていた。
「ファング……!? いや、ライフルビットか……!」
そう、ブルー・ティアーズはデュナメスではなく、ケルディムかサバーニャに近しい設計思想だったのだ。
見事に罠にかかった刹那は、自身の迂闊さを呪った。
「あら、耐えましたのね。中々頑丈なようで何よりですわ」
刹那の接近を見越していたのか、あるいは誘いだったのか。
ともあれ、今回は一人の将としても優秀であったセシリアに軍配が上がった。
だが、タネは割れた。奥の手を晒すことは、それ即ち丸裸で戦うことに等しい。
戦争は、情報戦だ。いかに相手の手の内を探るかに、全てがかかっていると言ってもいい。
故に、ここからは刹那の手番だ。
再び右腕のGNソードを持ち直し、刹那はセシリアへ向け突撃する。
「一つ覚えですわね!」
セシリアは嘲笑と共に、ライフルで迎撃。
更に、自らの名を冠するビット型の武装、ブルー・ティアーズをエクシアに接近させる。
四方八方からの接射に、刹那はなす術もなく散る。
はず、だった。
刹那「使える物は使う!」
ごめんねexvsでゼロにばっかり乗っててごめんねでも00も二番目に乗ってるよ
「俺に、触れるなっ!」
乾坤一擲、気合の咆哮と共に、刹那は右腕を振るう。
重く冷たい刃が空を切り裂き、接近したブルー・ティアーズの悉くが撃墜されていく。
予想だにしなかった事態に、セシリアは目を見開いた。
セシリアの誤解は、刹那がビットに対して不慣れであると踏んだこと。
一度の奇策が成功したからと、勝ちを焦りすぎたのだ。
刹那からすれば、ファングやビットは標準的な武器である。
自機であるダブルオークアンタのソードビットや、ケルディムのシールドビット、サバーニャのホルスタービットに、
ガンダムスローネツヴァイのGNファング、ガッデスのGNビームサーベルファング、リボーンズガンダムのフィンファング。
いくつもの種類の遠隔操作武器を経験し、それらをいなしてきた刹那にとっては、もはや脅威足りえないのである。
一瞬であれ硬直をさらしたセシリアを、刹那は見逃さない。
GNソードから、腰に装備されたGNダガーに持ち変え、二本同時に投擲。
心臓と脳髄を狙った二つの鋼が、セシリアに迫る。
はっと意識を取り戻したセシリアは、一時砲撃を中断。
高度を上げることで、GNダガーの回避に成功する。
だが、それは誤りであった。
多少の損害を覚悟してでも、刹那への攻撃を続けるべきだったのだ。
セシリアが腕を止めた今となっては、刹那は完全に自由。
GNドライヴの出力を全開、刹那は空中を飛翔し、再びセシリアに接近。
「ここは、俺の距離だっ!」
GNソードを装備し、セシリアの胴へ鋼刃を密着させる。
そのまま、セシリアの背後へ切り抜けた。
セシリアから上がる苦痛の声を手ごたえに、再び背中から刃を走らせる。
シールドとGNソードがぶつかり合う音を耳にしながら、刹那はこのまま押し切るべく、三撃目を加えようとして、
ビームサーベル投げてアンドレイの足止めもしてた
密着状態から、鳩尾を撃ち抜かれた。
衝撃に、中空へ投げ出される。
舌を噛んで意識を保ち、刹那は現状を探り始めた。
セシリアは、GNソードで斬られながらもブルー・ティアーズに指示を出していたのだ。
それも、先ほど奇襲をしかけた部位へ、寸分違わぬ狙いでもって。
何と言う精神力、何と言う状況判断力か。
刹那は、セシリア・オルコットという人間に対する評価を偏向せざるをえなかった。
「ブルー・ティアーズを、斬る、だなんて……無茶苦茶、します、わねっ……!」
それはお互い様だ。
刹那はそう口にしかけたが、やめた。
セシリアと同じく、こちらも息絶え絶えなのだ。
無策に消耗するわけにもいかない。
≪刹那、シールドゲージももうすぐ底をつく。
敵機も同様のようだ≫
ISに組み込んだターミナルユニット内のティエリアから、戦況の報告がなされる。
それに耳を傾けながら、刹那はセシリアの状態を観察していた。
敵機も自機も、随分と追い詰められている。
次の一発が、おそらくは最後の一撃。
≪刹那、トランザムは使うなよ。
GNドライヴはその段階まで達していない……空中分解することもあり得る≫
(……了解した)
刹那の奥の手は、今のところ使用不可。
現状を打破出来るかどうかは、自身の実力にかかっていた。
刹那が、GNソードの切っ先をセシリアに向ける。
セシリアが、スターライトmkⅢの銃口を刹那に向ける。
勝負は、ここからだ。
先に動いたのは、セシリア。
とった戦術は、遠距離戦からの弾幕展開。
ブルー・ティアーズを自身の周辺に停滞させ、援護を受けながら一心不乱に連射する。
エクシアは既に虫の息、かするだけでも被害は甚大。
丁寧に、かつ大胆にスラスターを吹かしながら、刹那は機会を伺う。
ここまで撃ち続けていれば、やがて疲弊する瞬間が訪れる。
狙うは、秒にも満たぬその好機。
そして。
ブルー・ティアーズの一機が、不意に射撃を止めた。
――――今だ!
刹那は再び、猛攻の中へ身を沈める。
道を塞ぐ光弾を避け、襲い来る弾丸にかすり、放たれたビームをシールドで防ぎ。
刹那はついに、セシリアの眼前へ躍り出た。
この距離ならば、GNソードの一薙ぎが届く。
逃してはならない、千載一遇の機会。
だが、
「かかりましたわね!」
腰部に装着された銃口が、刹那を捉えた。
最後まで温存していたセシリアの隠し弾――――二基のミサイル。
至近距離で、この二発の蛇をかわせるはずもなし。
セシリアは、勝利を確信した。
だが、その道理を、刹那はこじ開ける。
「そうだ……!」
刹那が取った行動は、上昇。
決着をつける機会を得てもなお、刹那が打ったのは逃げの一手。
まるで、こうなることを予想していたかのように。
ミサイルは刹那を追跡、上空へと舞い上がり、
「貴様の歪み……!」
刹那は突如進路変更、体にかかる慣性をものともせず即座に下降、GNソードを自らの頭上に大きく掲げ。
それを目にしたセシリアが、迎撃体勢に入る。しかし、もう遅い。刹那は必殺の体勢に入っていた。
「この俺が断ち切る!」
縦に、一閃。
激しい金属音と共に、GNソードは目標を駆逐した。
◆
間の抜けた音が、アリーナに響く。
続けて、アナウンスが流れ始めた。
「試合終了。
勝者……刹那・F・セイエイ!」
勝敗を分けた、最後の奇手。
ブルー・ティアーズにミサイルが隠されていることを、刹那は知らなかった。
しかし、予測することは出来たのである。
ロックオン・ストラトスの機体――――ガンダムデュナメス、そしてケルディムガンダムには
、GNミサイルが標準搭載されているのだ。
ブル・ティアーズのメイン武器であるスターライトmkⅢは、ビーム兵装である。
ビーム兵器は、その全てをエネルギーに頼る以上、連発しすぎるとどうしても撃てない時間が生まれてしまう。
その弱点を補うために実弾武器が積み込まれているだろうことは、想像の範疇であった。
これは、刹那が何十年もの間ガンダムマイスターを続け、
セシリアのこなした戦闘をゆうに凌駕する程戦場に赴いていたからこそわかることである。
勝因は、場数の差であった。
◆
勝った。
そのことに、刹那はこれと言った感慨は抱かなかったが、周囲はそうでもないらしい。
水を打ったように始まる、大歓声。
学校中を包もうかと言うその声音に対し、刹那は平然としていた。重ねて言うが、彼の体は頑丈である。
ふと、ゆっくりと地面へ落下していくセシリアを発見し、刹那は彼女の手を取る。
ISそのものはかなりの重量があるが、エクシアの膂力をもってすれば楽々だ。
一息に拾い上げ、背中と腰を支点に持ち替える。
大丈夫か、と声をかけようかとも思ったが、セシリアは気絶しているようだった。
無理もない、あれだけ激しい戦闘だったのだ。
刹那は周囲をざっと一瞥すると、待機していたらしい保険医に呼びかけ、セシリアを預けた。
しかしこの男、ついでにあの少女も、衆人環視の環境下でお姫様抱っこを慣行した(された)ことに、全く気づいていない。
◆
「おめでとうございます、セイエイ君!」
「よくやった、セイエイ。やるじゃないか」
カタパルトに帰還した刹那を待っていたのは、千冬と真耶だった。
二人とも、まさか刹那が勝利をもぎとってくるとは思いもしていなかったらしく、驚きと喜びが半々と言った調子だ。
小さく笑って、刹那はISを解除した。
刹那が地に足を着けると同時、ISが待機形態へと移行する。
掻き消えたように姿を見せなくなったISは、刹那の体内へと取り込まれていた。
ELSと同化しているのは、刹那もISも同様である。もはや、共通の一であった。質量保存の法則など考えてはいけない。
「ISは今待機状態になっていますけど、セイエイ君が呼び出せばすぐに展開できます。
規則があるので、ちゃんと読んでおいてくださいね」
真耶が手渡したこれまた分厚い教則本を手に取りながら、刹那は頷いた。
◆
自室にて、セシリアはシャワーを浴びていた。
均整が取れたプロポーションと、白く透き通るような肌を晒すその格好は、
目にすれば一種の背徳感すら覚えさせるだろう。
さて置き、ISを用いての戦闘は、中々に体力を使う。
女性であるセシリアからすれば、汗まみれのままで過ごすなど、想像すらしたくないのだ。
(…………何故、こんな気持ちになるのかしら)
セシリアの心中は、いくつもの感情がないまぜになり絡まりあった状態だった。
自分自身で気持ちの整理が付けられず、だからと言って、掃いて捨てていいほど、安っぽい思いではない。
(……私が、負けるだなんて)
――――勝ったのは、刹那・F・セイエイ。
半ば分かっていたとは言え、目が覚めた時に告げられたその事実は、今更変えようがない。
もしこれでセシリアが手加減でもしていれば、自分を慰めるぐらいは出来たかもしれない。
しかし、悔しくはあるが、完敗であった。
力の差を思い知らせてやる、とばかりに全力で挑み、策を弄し、駆け引きを行い、負けた。
『そう言って他人を見下してばかりいては、それが歪みになる。
その歪みが、やがて大きな争いを呼ぶことになってしまう。
……歪みは断ち切らなければならない。お前は、変われ』
刹那の言葉が、思い出される。
そうだ、刹那はセシリアに変われと命じた。
セシリアは敗者である。敗者は、勝者に従わねばならぬ。それが世の常である。
『そうだ、変わらなければいけない。
変わらなければ、未来とは向き合えない』
刹那は、恐れなかった。戦力の差を告げられてもなお、刹那は己の意思を通した。
相手が何者であろうと、自らを曲げない。しかし、手を取り合うことは出来る。それが、対話による紛争の根絶。
きっと、刹那はそれが出来るのだ。いくつもの試練を乗り越え、変革を成し遂げた彼は、きっと。
根拠はないが、セシリアはきっとそうなのだろうと思った。
刹那の瞳には、信念がある。過去から逃げるのではなく、受け入れ、そして変わっていったのだ。
その瞳は信用に値するかもしれない、とセシリアは直感した。
『貴様の歪み……この俺が断ち切る!』
歪み。セシリア・オルコットの中にある、歪み。
その答えは、既に出ている。
男性を蔑視する、あの物言いがいけないのだ。刹那は、もっと直接的にそれを非難していた。
分かり合うために。分かり合うために、この歪みを捨てなければならない。
しかし、この歪みこそ、セシリアの胸中で深く蠢く心の闇である。
自身の父を反面教師として育ち、性別だけで人を軽く見てきた、セシリアのツケを払うときが来たのだ。
(……刹那・F・セイエイは、違うのかもしれない)
己を曲げぬ刹那の中に、セシリアは、自身が求める何かを見つけたような気がした。
(……知らなければ)
もっと、彼のことを。
◆
ここまで
正直前振りが長すぎた
あとせっさんを強くしすぎた
一夏がいないせいで余計メアリくさくなっちゃった
ぶっちゃけ幼馴染設定がないせいで箒いないし鈴音がヒロイン入りしないし
このまま適当な理由付けしてセシリア→せっさんな感じになったらそれこそメアリだし
でも女の子にモテなかったらISじゃないし
かと言って一夏いると刹那の存在意義ゼロだし
いやあ、見切り発車は強敵でしたね
童貞っていうか最早仙人レベルで人生達観してる
乙。かなり楽しめました
00SSはあんま見ないからぜひ書き続けてくれると嬉しいです
ラウラは超兵+イノベイター+ゲルマン忍者+名前がクルーゼっぽい、と
「00と絡めてみろ」と言わんばかりの属性持ち
あとブシドーが魔法少女になるとか言うのも考えたけど陳腐かつメアリになりそうなのでやめた
新ジャンルフルメタル魔法武士
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