※『魔法少女まどか☆マギカ』と『仮面ライダーアギト』のクロスSSスレです
※クロスオーバーに伴なう原作改変あり注意
※この作品のアギトは津上翔一でも芦河ショウイチでもありません
言ってしまえば、上記2人とはまた違う世界の仮面ライダーアギトです
翔一「転校してきた沢野翔一です! これからよろしくお願いします!」
マミ(突然の転校生か……。3年生時に転校だなんて、進路とかいろいろ大変でしょうね。まぁ、私にはあまり関係がないことかもしれないけど……)
先生「あ~……実はな、沢野。何せ本当に突然の転校だったものだから、まだお前の席の用意が出来ていないんだ……」
翔一「えっ!? そうなんですか?」
先生「あぁ。だから、しばらくの間は、あそこの席を使ってもらえるか?」
そう言いながらマミの隣の開いている机を指差す先生。
マミ(!?)
翔一「ハイ、わかりました!」
マミ「…………」
翔一「はじめまして。これからよろしくお願いします」
マミ「え、えぇ……。こちらこそ……」
マミ(……こういうこともあるわよね)
その日の夜…
マミ「さてと……」
キュゥべえ『やぁ、マミ』
マミ「あら、キュゥべえ。どうしたの、こんな時間に? ……何かあった?」
キュゥべえ『う~ん……別に大したことじゃないんだけどね。新しい魔法少女の候補者をこの街で見つけたんだ』
マミ「まぁ……」
キュゥべえ『近いうちにその子と接触してみようと思うんだけど、もし契約を交わすことができたら、マミにも紹介するよ』
マミ「で、今回はその事前報告ってワケ?」
キュゥべえ『そういう事になるね。じゃあ、僕は行かないと。マミはこれからいつもの魔女探しだろう? 気をつけてね』
マミ「えぇ、ありがとう」
マミ「よし、じゃあ私も……!? 早速ソウルジェムに反応!?」
その台詞とほぼ同時に展開される、視聴者には今やすっかりお馴染みのイヌカレー空間。
マミ「あれは……使い魔か。でも、放っておくわけにもいかないわね」
瞬時に魔法少女の姿に変身するマミ。
マミ「さぁ、行くわよ!」
マジカルマスケット銃を取り出し、戦闘態勢に入るマミ。
しかし……
???「はあああああっ!」
マミ「……へっ?」
突然、乱入してきた何者かがキック――それも飛び蹴り――で使い魔を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた使い魔は、地面に勢い良く落ちると同時に爆発を起こし、消滅する。
マミ「嘘……」
マミ「…………」
???「…………」
マミ(黄金の……怪人……?)
目の前にいる存在をマミは上手く表現することが出来ない。
なぜなら、それは明らかに人間でも魔法少女でも、ましては魔女や使い魔とも異なる外見をしているからだ。
二足で直立しているが、ヒトや哺乳類というよりは、虫かは虫類を思わせる姿。
身体の基本色は金色で、所々が黒く、人間よりも大きな瞳の色は赤い。
両肩の肩甲骨の辺りからはマントもしくはマフラーのような羽が出ており、さらに腕と足には爪のような器官が刃物のように突き出ていた。
そして、何よりもマミの目に止まったのが、額のあたりにある一見昆虫の触角のようにも思える一対のツノだった。
マミ「……あなた、何者?」
目の前にいる存在に人間の言葉がわかるのかは正直疑問なところだが、思わずそう呼びかける。
???「…………」
だが、謎の怪人は終始無言で、マミを黙って見つめているだけだった。
――が、しばらくすると、黙って後ろに振り返り、そのままその場を立ち去ろうと歩き出した。
マミ「あっ!? 待って! ……あら?」
追いかけようとするが、その時、足元に何かが落ちていることに気づく。
マミ「これって……うちの学校の生徒手帳? 何でこんな所に?」
拾って、落とし主の名前を確認してみる。
マミ「えっ、『沢野翔一』!? どうして、今日うちのクラスに転校してきた彼の生徒手帳が……!?」
OP
ttp://www.youtube.com/watch?v=yEXxEny2BvY
翌日
翔一「あっれ~? やっぱりないな~」
マミ「おはよう、沢野くん」
翔一「あっ、巴さん。おはようございます!」
マミ「何か探し物?」
翔一「え、えぇ、まぁ……」
マミ「はい、コレ。落とし物よ」
翔一「あぁっ!? 俺の生徒手帳! ありがとうございます! コレを探していたんですよ!」
マミ「これからは気をつけてね」
翔一「ハイ、気をつけます」
マミ(…………まさかね)
翔一「? どうしました?」
マミ「えっ? あ、いや、何も……」
翔一「あっ! もしかして、コレが気になっちゃいました?」
そう言って、足元に置かれていた風呂敷に包まれた何やら大きな箱のようなものを見せる翔一。
マミ「それは?」
翔一「今日のお昼のお弁当です!」
マミ「……まさか、それを全部一人で?」
翔一「いやいや。さすがに俺でもこれを全部お昼休みに食べきることはできませんよ」
マミ「じゃあ、どうして……」
翔一「恥ずかしながら、ちょっと張り切りすぎて作り過ぎちゃって……。せっかくだからクラスの皆にも食べてもらおうと思って……」
マミ「作った……自分で作ったの?」
翔一「はい! 俺こう見えて家事とか料理とか得意なんです! むしろ俺にとっては趣味みたいなものですかね?」
マミ「へぇ……。お昼休みになったら私も少しいただいてもいいかしら?」
翔一「はい! 喜んで!」
マミ(…………やっぱり、私の気のせいよね)
お昼休み
翔一「いや~。クラスの皆も喜んでくれているみたいで何よりです」
マミ「そうね。他のクラスの人たちも何人か来ていたし……」
翔一「そういえば、巴さんも太巻き食べてくれましたね。いかがでした?」
マミ「えぇ。自分でも分からないけど、何故か見た瞬間、無性にかぶり付いてやりたくなって……じゃなくて、とても美味しかったわ。ありがとう」
翔一「そう言ってもらえると嬉しいです! 料理を作る者としては、やっぱり自分で食べるよりも、誰かに食べてもらうほうが良いですから……」
マミ「……ねぇ、沢野くん」
翔一「はい? 何でしょう?」
マミ「いきなりこんなことを聞くのも変かもいれないけど、あなた……魔法とか超能力とか信じる?」
翔一「えっ?」
マミ「…………」
翔一「…………」
マミ(や、やだ……。私ったら、なんて質問をしているのかしら。絶対に変な子だと思われたかも……!)
翔一「信じないです」
マミ「えっ?」
翔一「魔法とか超能力とか、そんなものは信じません」
マミ「あ、あぁ……。そ、そうよね。さすがに信じな……」
翔一「あっ! やっぱり信じます!」
マミ「……は?」
翔一「やっぱり、魔法とか超能力とか、そういったもの信じます!」
マミ「ど、どうして?」
翔一「実際、俺が魔法や超能力っぽいことが出来るからです!」
マミ「!?」
翔一「だから……俺、魔法や超能力信じます!」
マミ(まさか、本当に……!?)
翔一「? 巴さん、どうしました?」
マミ「えっ? ……あ、あぁ、何でもないわ。何でも……」
翔一「……もしかして、巴さんってオカルト研究会とかそういったクラブの人ですか?」
マミ「え、ええ……。そう思ってくれて構わないわ」
マミ(……やっぱり、もう少しさぐりを入れてみようかしら?)
ヤバい。マジで眠い
ちょっと一旦寝ます。また少ししたら続き書いて投下する
ちなみに、主人公の名前やアギトの外見的特徴見てもらえれば、分かる人にはだいたい分かると思うけど、
この作品のアギトは津上アギトとアナザーアギト(木野アギト)の中間みたいな感じのアギトです
フォームチェンジはさせようか、今のところはまだ考え中
あと、アギト以外のライダーだと今のところギルスは出す予定
>>1
ストパンSS書いてないか?
いや、まさかな
スマン。遅くなった
これから書きあがり次第随時投下する
>>45
ストパンでSSスレ立てたことはないな
遥か昔。
宇宙にはただ混沌があり、テオスはその混沌より生まれ混沌を闇によって黒一色に染め秩序を作った。
そして、星々を闇に浮かばせ光を生んだ――
マミ(結局あの後は何も聞けず仕舞いだったわね……)
マミ「まぁ、明日になったらまた聞いてみればいいわね」
キュゥべえ『マミ、大変だ!』
マミ『!? キュゥべえ、どうしたの!?』
キュゥべえ『孵化しかかっているグリーフシードを見つけたんだ! 今君がいる場所からそう遠くない、すぐに来て!』
マミ『わかったわ! すぐに行くから、キュゥべえはそこで待ってて!』
翔一「さてと。夕飯のおかずの材料を買って帰らないと……アレ?」
マミ「――――!」
翔一(巴さん……? 何か妙に真剣そうな顔して走っていったけど、どうしたんだろう?)
―――キィン! キィィィン!
翔一「!?」
キィン! キィン! キィィィン!
翔一「…………」
キュゥべえ「マミ!」
マミ「キュゥべえ、グリーフシードの様子は!?」
キュゥべえ「まだ結界も出来ていないけど……出来上がるのも時間の問題だ」
マミ「それなら、結界が出来上がると同時に一気に突入して片を付けましょう」
キュゥべえ「いや、結界内で魔力を使ったらグリーフシードを刺激して孵化を早めてしまう危険性もある。ここは……!?」
マミ「? どうしたの?」
突然、何かに気づいたキュゥべえが後ろに振り返る。
それにつられてマミも視線を背後へと向けると――――
マミ「……なに、あれ?」
奇妙な光景だった。
まだ空も暗くなっておらず、日も沈みきっていないのに、周囲の光景が見えなくなるほどの目映ゆい光がそこには広がっていた。
いや、それどころか、その光は少しずつマミたちの方へと近づいてきていた。
マミ「光が……近づいて……」
キュゥべえ「あれは……まさか……!?」
???「…………」
マミ「あれは、昨日の……」
キュゥべえ「アギト!」
マミ「キュゥべえ、知っているの!? ……『アギト』? それがあの怪人の名前……なの?」
アギト「…………」
マミ「あ……。いつの間にか光が……」
キュゥべえ『マミ、あいつは危険だ! これ以上、あいつをグリーフシードに近づけちゃいけない!』
マミ『えっ? どういうこと?』
アギト「――――!」
キュゥべえ「マミ!」
マミ「あ……」
翔一「……ふぁ。……あれ? 俺いつの間に家に帰ってきてたんだ?」
翔一「…………」
翔一「……」
翔一「……ま、いいか。って、もうこんな時間!? 急いで夕飯の準備しないと……!」
翌日――
翔一「おはようございます!」
マミ「あ……。お、おはよう、沢野くん」
翔一「? どうしたんですか、巴さん? なんか昨日と比べて元気無さそうですよ?」
マミ「そ、そう?」
翔一「あ! さては、朝ご飯ちゃんと食べて学校に来ませんでしたね?」
マミ「えっ?」
翔一「駄目ですよ、ちゃんと朝食は取らないと。一日の元気は朝ご飯ですからね」
マミ(…………)
マミ「……ねぇ、沢野くん」
翔一「はい、何でしょう?」
マミ「昨日の話の続きなんだけど……」
翔一「昨日の話?」
マミ「ほら。あなたは魔法や超能力を信じるっていう……」
翔一「あぁ。あのことですか」
マミ「あなた……確か魔法や超能力みたいな力を持っているって言ってたわよね?」
翔一「はい!」
マミ「もしよかったら、教えてくれないかしら? 一体、あなたはどんな力を持っているの?」
翔一「ん~……。魔法とか超能力とは厳密に言うと違うような気がしますけど……」
マミ「……それって、今ここで見せてもらえる?」
翔一「あぁ、それは無理です」
マミ「何故?」
翔一「実は、俺自身もこの力についてはよくわかってないんですよ」
マミ「……はい?」
翔一「いや~、何といいますか……。力を制御仕切れていないって言うか……。あ、でも、『力がある』っていうことだけは確かです!」
マミ「…………」
翔一「それに、仮に力を制御できたとしても、さすがに今は見せられないでしょうね。きっと巴さんやクラスの皆も驚いちゃうでしょうし……」
マミ「……じゃ、じゃあ、具体的にはどんな力なのかくらいは教えて貰えないかしら?」
翔一「はい! 強くなります!」
マミ「……へ?」
翔一「だから、強くなるんですよ。そして、パンチやキックで相手と戦うんです!」
マミ「……もしかして私のことからかってる?」
翔一「からかってるだなんてとんでもない! 嘘偽りない本当のことです!」
昼休み
マミ「……はぁ」
キュゥべえ『何やら今日はお疲れみたいだね、マミ』
マミ『? キュゥべえ?』
キュゥべえ『ちょうど近くに来ていたから様子を見に来たんだけど……』
マミ『え、えぇ……。ちょっと精神的にね……』
キュゥべえ『大丈夫かい? まだ僕の方も先日言った魔法少女候補の子と接触できていないんだ。だから、この街はまだ君1人に守ってもらわないと……』
マミ『あぁ、それなら大丈夫。さすがに魔法少女としての活動に支障をきたす程の問題じゃないから……』
キュゥべえ『そうかい? それならいいけど……』
マミ『それに、キュゥべえ』
キュゥべえ『なに?』
マミ『あなた、自分がその魔法少女候補の子と接触できたら即契約に取り付けるかのような物言いだけど、そう簡単に物事というのは進まないものよ』
キュゥべえ『厳しいなぁマミは……。おっと、それじゃあ僕はこのあたりで失礼するよ』
マミ『えぇ。それじゃあ、またね』
翔一「只今戻りました~!」
マミ「あら、お帰りなさい。どこへ行っていたの?」
翔一「いや~、料理研究部の人たちに是非うちの部に来てくれないかってスカウトされちゃって……」
マミ「あら? 沢野くんにはぴっちゃりなんじゃない?」
翔一「そうなんですけど、断っちゃいました。もう3年生だし、今更部活に入部してもそう長くは在籍できませんから」
マミ「そう……」
翔一「それに、俺には他にやるべきことがありますから」
マミ「……やるべきこと?」
翔一「はい! ……あっ、そういえば、巴さん、実は今そこの廊下で俺おかしなものを見ましたよ」
マミ「おかしなもの?」
翔一「えぇ。なんか白くて尻尾が長い犬だか猫だかわからない変な生き物が、俺や他の生徒達の足元をぴゅ~っと走り去っていったんです」
マミ「!?」
翔一「なんか俺以外の人は全然驚いた様子じゃなかったけど……。本当にあれなんだったのかな~?」
マミ(キュゥべえが見えている……!? まさか……本当に何か特別な力を持っているの……!?)
放課後
マミは昨日、孵化しかけていたグリーフシードがあった場所に来ていた。
しかし、今現在そこにはもうグリーフシードはない。
マミ「やっぱり……。魔女やグリーフシードの反応はおろか、魔力の残塊すら残ってない……」
マミの手のひらに乗せられている彼女のソウルジェムは今現在何の反応も示していなかった。
マミ「……『アギト』」
マミ(昨日、あの時――――)
マミ「あ……」
アギト「――――!」
一瞬の出来事だった。
マミが気づいたころには、すでにキュゥべえから『アギト』と呼ばれていた黄金の怪人は、彼女の視界から姿を消していた。
キュゥべえ「マミ、後ろだ!」
マミ「!」
マミはしまった、と思い。振り返りながら咄嗟に守りの体制に入る。
だが、肝心の相手からの攻撃はなかった。
マミ「あれ?」
キュゥべえ「グリーフシードが!」
マミ「あっ!」
そう。アギトの狙いは最初からグリーフシードだったのである。
だが、そのグリーフシードは、アギトの接近を感知したのか、すぐさま周囲に結界を形成していく。
マミ「結界が!」
キュゥべえ「マズい! このままアギトが結界内に入ってしまったら、あいつの力に反応して確実に魔女が孵化してしまう!」
アギト「…………」
マミ「えっ?」
Believe Yourself
ttp://www.youtube.com/watch?v=ANEt7s6bu6Q&feature=related
突然、結界を前にアギトがその場で足を止めた。
そして、次の瞬間には、その場で静かに腰を落としていき、何やら空手の型のようにも見える構えをとる。
マミ「な、何を……」
キュゥべえ「まさか……」
アギト「――!」
マミ「!? ツノが!」
アギトは、一呼吸済ませたかのような動きを見せると、今度は自身の額部にある一対のツノ――クロスホーンが開く。
当初2本だったツノはこれで計6本となった。
マミ「…………」
ただ、ツノが展開しただけ――それなのに、マミには今目の前にいるアギトの動きひとつひとつがこれまで自身が戦ってきた魔女と同等かソレ以上の悍ましいモノに感じられた。
アギト「…………!!」
やがて、アギトの足元に光り輝く紋章のようなモノが徐々に浮かび上がる。
目の前では魔女の結界がみるみるうちに展開されているというのに、全く関係ないと言わんばかりにアギトの動きにブレ等は見られなかった。
――無の境地。
マミの脳裏にふとそのような言葉が浮かび上がった。
やがて、アギトの足元に浮かんでいた紋章は渦へと形を変え、アギトの右足へと収束していく。
同時に、アギトの両肩にあるマフラー状の羽が風も吹いていないのにふわりと浮かび、はためき始めた。
そして、すり足で右足を前、左足を後ろへと移動させ、落としていた腰をさらに深く落とす。
――ほんの一瞬ばかり、場がシンと静まり返る。
そして――
アギト「はああああああああああっ!!」
跳躍。
まるで己の黄金の肉体そのものを一本の矢の如く、右足を前へと伸ばしながら、アギトは結界へと飛び込んだ。
再び静まり返る場。
だが、数秒経過したところで、結界の内部から外にいるマミたちからも視覚出来るほどの光が溢れ出した。
――やがて、結界は陽炎のようにゆらゆらと揺れながら徐々に消え去っていった。
結界が消え去ると、そこには二つの足で立ち、右手を前に伸ばし、左手を腰のあたりに添えながら静止している黄金の怪人――アギトの姿があった。
アギト「…………」
結界が完全に消滅したのを確認すると、アギトは構えを解き、先日の時のようにその場を歩き去ろうとする。
キュゥべえ「待て、アギト!」
――だが、今回はそんなアギトの前にキュゥべえが立ちはだかり、強引に引き止めようとする。
アギト「…………」
しかし、アギトの方はそんなキュゥべえに一瞥することもなく、彼(?)の横を素通りして何処かへと歩き去っていった。
マミ「…………」
目の前の出来事に完全に呆けてしまっていたマミが正気を取り戻したのは、アギトが完全にその場を立ち去り、少しばかり時計の秒針が進んだ頃だった。
マミ「キュゥべえ……一体、何が起きたの? 結界は? 魔女は? グリーフシードは……?」
キュゥべえ「……マミ、今から僕の言う事をよく聞いて欲しい」
マミ「……何?」
キュゥべえ「グリーフシードはアギトがあの結界に飛び込んだ瞬間、間違いなく孵化したと思う。だけど……」
マミ「だけど……?」
キュゥべえ「アギトは……『結界ごと』その魔女を破壊したんだ。まだ作られて間もない、生まれたての魔女が作った結界だからこそできたことだろうけど……」
マミ「――――」
キュゥべえから語られたその言語をマミは最初理解することができなかった。
魔女は常に自身の巣である結界の奥に隠れ潜み、絶望という名の『呪い』を結界の外にいる人間たちに撒き散らす。
そのため、キュゥべえと契約した魔法少女たちは、魔女を討滅する場合はその結界の中に乗り込み、魔女のいる最深部へと向かう必要がある。
だが、最深部までには魔女を護る下僕たちや一種の迷宮である結界そのものが立ちふさがり、侵入者である魔法少女に襲い掛かるのだ。
魔法少女の中には、最深部に辿り着く前に結界内で力尽き、果てていった者も少なくない。
だが、先程のアギトが行ったのは、まるで魔法少女たちのそういった行為そのものを嘲笑うかのような、正直言って出鱈目な手法だった。
――『魔女を討つために、魔女が隠れ潜んでいる結界そのものを破壊する』。
例えるなら、それは一匹の女王蜂を討つために、殺虫剤で巣にいる蜂を一匹一匹殺していくのに対して、蜂の巣そのものにナパーム弾をぶち込んで巣ごと焼き殺すようなものである。
当然、例えの場合、魔法少女は当然前者だ。
いくらなんでも滅茶苦茶である。
マミ「……じゃあ、グリーフシードも……」
キュゥべえ「当然手に入るわけないよ。結界の内部にあったものは、みんな結界と一緒に消え去ってしまっただろうからね」
マミ「…………」
キュゥべえ「まぁ、僕らが結界の中に入る前にアギトが現れてくれたのが唯一の救いだね。正直、運が良かったとしか言い様がないよ」
マミ「……教えて……」
キュゥべえ「ん?」
マミ「教えて。あいつは何者なの? キュゥべえはあいつのことをどれくらい知っているの?」
キュゥべえ「……僕の口から説明できることも限られているよ?」
マミ「構わないわ」
キュゥべえ「――『アギト』は、この世界を生み出した神から強力な力を授けられた存在だ。その力は人間はおろか、神の眷属にも勝るとも言われている」
マミ「この世界を生み出した……神様……」
テオスは、生み出した幾多の光のうちのひとつに、自らを象って人間を作り、自らの分身であるマラークたちを象り獣を作った。
やがて、人間たちはマラークの子である獣たちを家畜とし、その肉を喰らうようになった。
マラークたちはこれを人間の驕り高ぶりとして怒り、テオスに血で汚れた人間たちの断罪を訴えるが、テオスはこれを取り合わなかった。
――テオスは分身である自分たちよりも、自らの姿に近い人の子を愛しているのか?
やがて、マラークは怒りと嫉妬心から、人間たちと争うようになった。
戦いはテオスの分身たるマラークの一方的な優勢であったことは言うまでもない――
これに同情した7人のマラーク・エルロードの1人、火のプロメスは、マラークたちを裏切り、人間の娘と交わった。
そして、人間の娘に孕ませた自身の子・ネフィリムを人間たちの力とした。
マミ「……『アギト』、あなたは私たちの味方なの? それとも……」
とりあえず、一旦ここで休憩します
ある程度書きためたらまた続き投下する
あと、保守や支援してくれている方々㌧クス
一応本作はまどっちの方の世界観がベースだからアギト色はやや薄めだけど、
アギトスキーの方もよかったら最後まで付き合ってくだされ
マミ「大丈夫!? しっかりして!」
???「あ……。うぁ……」
その日、キュゥべえと契約した魔法少女・巴マミは1人の少年を助けていた――
魔女の呪いによって引き起こされた交通事故。それに、目の前にいる少年は巻き込まれた。
――いや、正確に言うと巻き込まれたのは、彼とその家族だった。
マミが魔女の気配を察知し、現場へ駆けつけた頃にはすでに手遅れであった。
だから、マミは目の前にいる少年だけでも――助けられるものだけでも助けたかった。
すでに事故現場には多くの野次馬が集まってきていた。
そのため、さすがのマミでもこんな所で堂々と魔法を使うことはできない。
――周囲の人目を気にしながら、周りにいる者達から気付かれぬよう少年に――本当に微々たるものだが――治療魔法を施す。
すでに時が夜で辺りも暗かったため、マミの魔法少女としての姿及び彼女が少年に施している魔法に野次馬たちが誰1人気がつなかったことが幸いだった。
マミ「お願い……! 死なないで……!」
???「……と……とも、え……」
マミ「!?」
突然、目の前にいる少年の口から自身の名が出たため、思わず一瞬手を止めてしまうマミ。
そして、その瞬間になって、やっと彼女は今自身が助けようとしている少年の顔を確認することができた。
マミ「ま、まさか……」
???「お、俺……死に、たく……ない……!」
マミ「……葦川……くん……?」
マミ「…………」
マミ「……」
マミ「夢……?」
マミ「…………」
翔一「巴さん、おはようございます!」
マミ「…………」
翔一「……アレ? 巴さん?」
マミ「……あっ!? お、おはよう、沢野くん」
翔一「なんか今日も調子悪そうですね……。今日は一体どうしたんですか? 寝不足ですか?」
マミ「ううん。違うの……。今朝のことなんだけど、今から一月程前のことを夢に見てね……」
翔一「夢……ですか?」
マミ「えぇ……。今沢野くんが座っている席に本来座っていた子――葦川涼くんっていうんだけどね……」
翔一「葦川さん……ですか?」
マミ「彼、今から一月程前に、ご両親と信号待ちをしていたところで自動車同士の正面衝突事故に巻き込まれたの……」
翔一「…………」
マミ「私は事故が起きた後にそこに居合わせたんだけど……。私が来た時には、すでに彼のご両親は亡くなってたわ……」
翔一「…………」
マミ「葦川くんは何とか一命は取り留めたけど、水泳部の最後の夏の大会にも結局出場できなくなって……」
翔一「わかりました! それじゃあ、今日の放課後、俺と巴さんでその葦川さんのお見舞いにいきましょう!」
マミ「えっ?」
翔一「巴さんの話から察するに、葦川さんは今、病院に入院しているってことですよね?」
マミ「え、えぇ……」
翔一「それなら、なおさらお見舞いに行ってあげましょう! 葦川さん、きっとご両親が亡くなって毎日1人寂しい思いをしているに違いありません!」
マミ「あ……」
翔一「? どうしました?」
マミ「…………」
翔一「? 巴さん?」
マミ「……そ、そうね……。あまり大勢で行くと、かえって迷惑になっちゃうでしょうから、2人で行きましょうか」
翔一「はい!」
マミ「…………」
スイマセン。睡魔が襲ってきたので一度寝ます
朝起きたら続き投下しますので、よろしければそれまでの間保守お願いします
???「葦川先輩」
涼「ん? あぁ、上條か。お前もこれからリハビリか?」
上條「はい。先輩は今終わったところですか?」
涼「あぁ。……そういえば上條、今日もあの女の子は見舞いに来てくれたのか? あの幼なじみの……」
上條「さやかですか? いえ、残念ながら今日は……」
涼「そうか……」
上條「……先輩、近いうちに退院できるかもしれないって聞きましたけど、本当ですか?」
涼「あぁ。ただ、退院できたとしても、当分水泳をはじめとして運動はまだ出来ないだろうけどな」
上條「……正直、僕は先輩が羨ましいです」
涼「上條?」
上條「先輩は復帰すればまた水泳を続けられますけど、僕の左腕は……」
涼「…………」
上條「……あ。ごめんなさい。辛気臭いこと言ってしまって……」
涼「俺は……むしろ上條の方が羨ましいと思うよ……」
上條「えっ!?」
涼「上條にはまだ心配してくれる家族や、見舞いに来てくれる奴がいる。それに比べて俺には……」
上條「先輩……」
涼「……あ。スマン、俺の方こそ辛気臭いこと言っちまったな。忘れてくれ」
上條「い、いえ! 元はといえば、先にあんなこと言った僕が悪かったんです」
涼「じゃあ……おあいこってことで、いいか?」
上條「はい」
涼「……おっと、いつまでもこんな所で長話も何だな。それじゃあ上條、お前も頑張れよ」
上條「はい。先輩も」
涼「……ん?」
???「それじゃあ、沢野くん。花瓶にお水よろしくね」
???「ハイ! 任せてください!」
涼「……誰か来ているのか?」
(ガラッ……!)
翔一「あ……!」
涼「ん……?」
マミ「……葦川くん……!」
涼「!? 巴……」
涼「そうか、転校生か。俺が休んでいる間もクラスではいろいろとあったみたいだな」
マミ「えぇ。クラスの皆も、葦川くんがまた元気な姿を見せてくれる日を待っているわ」
涼「クラスの皆……か……」
マミ「葦川くん?」
涼「巴、これ覚えてるか?」
マミ「これって……葦川くんが入院した次の日にクラスの皆で書いた寄せ書き……」
涼「そこに書かれている内容に一度ひと通り目を通してもらえるか?」
マミ「…………これって」
涼「そう……。どいつもこいつも『早く良くなってください』とか『また一緒に勉強しましょう』とか綺麗事のように同じ内容の文章ばっか並べてる……」
マミ「葦川くん……」
涼「最初、先生が見舞いも兼ねてそれを持って来てくれた時は嬉しかったよ。だけど、日が経つにつれて逆に虚しく感じるようになった……」
マミ「…………」
涼「結局は俺の存在なんてそんなもんだったってことさ。現に今までクラスの奴は誰1人として見舞いになんて来てくれなかった……!」
マミ「……ごめんなさい」
涼「あ……。いや、別に攻めているわけじゃないんだ。誤解させてしまったみたいで、スマン」
マミ「いえ……」
涼「……むしろ巴には感謝しているくらいなんだ」
マミ「えっ?」
涼「俺の勘違いかもしれないけど……。あの時、巴が俺を助けてくれていなかったら、今頃俺は死んでいたかもしれないって思うんだ」
マミ「…………」
涼の言っていることもあながち間違いではなかった。
事故当時、彼の身体は本当に酷い有様であった。
大量に出血し、手や足は見るからにあらぬ方向へとひん曲がり、まさに「瀕死」「死に体」などという言葉どおりの状況だった。
マミですら最初は無意識下で「こんな状態でよく生きていられるものだ」とすら思ってしまったほどである。
微々たるものとはいえ、マミが治癒魔法を施していなければ、涼の言うとおり今頃は彼もすでにこの世に存在していなかったかもしれない。
マミ「……そんなことないわ。葦川くんが今こうして生きているのは、葦川くんの生きたいって思いが誰よりも強かったからよ」
涼「……そうかな?」
マミ「うん」
涼「……巴が言うならそうなのかもな……」
翔一「は~い! 花瓶にお水入れて来ました~!」
マミ「あっ。ご苦労様」
翔一「いや~、この病院、想像以上に中も広いんですね。迷いそうになっちゃいましたよ。花瓶は窓のあたりに置いておけばいいですかね?」
涼「あ、あぁ……」
翔一「わかりました! ……あ、そうだ。葦川さんってリンゴはお好きですか?」
涼「は? い、いや、別に嫌いじゃないが……」
翔一「そうですか! 実は来る途中に買ってきたんです! 今皮を剥いて食べやすいサイズに切りますから待っていてください!」
涼「……元気な奴だな」
マミ「え、えぇ。むしろ元気というより純粋って言ったほうがいいのかしら……?」
翔一「やっぱり、お見舞いでリンゴといえばウサギさんの形に切ったやつですよね~」
―――キィン! キィィィン!
翔一「!?」
キィン! キィン! キィィィン!
涼「!?」
マミ「? 沢野くん、どうし……」
涼「ぐ……がぁあああああ!!」
マミ「!? 葦川くん!?」
翔一「だ、大丈夫ですか?」
涼「う、ぐあああああ……!!」
突然、苦しみ始めベッドの上でのたうち回る涼。
その時、マミはふと自身の左手中指にはめられていた指輪――正確には指輪に形が変わっている彼女のソウルジェム――に目がいった。
マミ(強い魔力の反応!? まさか近くに魔女が……!?)
マミは再び涼の方へと眼を向ける。
見た限り、彼の身体には魔女の呪いを受けている証である『魔女の口づけ』と呼ばれるタトゥーのような紋章は見られない。
マミ(魔女の呪いによるものじゃない? どういうこと……? いや、今はそれよりも……)
翔一「巴さん、俺先生や看護師さん呼びますね!」
マミ「えぇ、お願い!」
そう言い残すと、マミは病室の外へ出る。
マミ「間違いない……。近くに魔女がいる……!」
指輪から本来の形へと姿を変えたソウルジェムを手にマミは病院の廊下を駆け出した。
マミ「……見つけた!」
マミが病院の外に出ると、人目の付きにくい物陰に空間の歪みのような現象が発生していた。
魔女の結界が侵食している証である。
マミ「――!」
周囲に人目がないことを確認すると、マミはソウルジェムをかざす。
そして、そこから発せられた黄色い光に包まれると、次の瞬間には彼女の服装は制服から魔法少女の装束へと変わる。
空間の歪みに若干のブレが生まれる。
おそらく、結界内の魔女がマミの魔力を感じ取ったのだろう。
大抵の魔女は、この後、結界ごとその場から逃走を図るが――
伊達「一億円稼ぐ」
鴻上社長「それが君の願い(欲望)だね?」
マミ「逃しはしないわ……!」
マミは早かった。
瞬時に歪みとの距離を詰めると、そこに向かって手を伸ばし、やがて触れる。
すると、マミのソウルジェムがほんの一瞬輝き、空間の歪みは大きな紋章のようなものに姿を変えた。
マミ「――!」
何も言わず、その紋章へと飛び込むマミ。
紋章の先に広がっていたのは、ファンシーともメルヘンとも神秘的とも感じられるが、どこか精神的に嫌悪感や不快感を催す世界だった。
これが魔女の結界である。
翔一「…………」
翔一は今、病院の廊下に1人立っていた。
あの後、病室へとやって来た医者や看護師たちの邪魔にならないようにと自ら病室を出たはいいが、自身のやるべきことがなくなってしまったからだ。
翔一「う~ん、どうしようかな……。巴さんも気がついたらどっか行っちゃってるし……」
???「……こんな所で、本当に何もしないでいていいの?」
翔一「えっ?」
不意に声をかけられる。
声のした方へ目を向けると、そこには翔一と同年代の女の子が1人立っていた。
その女の子を一言で言うならば『黒』――
腰のあたりまでまっすぐ伸ばされた髪の色も、瞳の色も、そして彼女から感じる雰囲気も、まさに黒一色だった。
翔一「君は……」
???「あなただって気づいているはず。あなたたちがさっき感じたものの原因が、人間にとって、私たちにとって、そしてあなたたちにとって脅威であるということに――」
翔一「――――」
???「すでに巴マミは、その駆除に向かったわ。あなたはどうするの? この世界のアギト」
翔一「!!」
???「あなたが本当に人間を救いたいと願っているのなら、その力を完全に制御できるはずよ」
翔一「…………!」
翔一は少女に何も言い返すことなく、その場から駆け出した。
そして、そこには少女だけが残る。
???「……本当にこれでよかったの、斗真?」
1人残された少女は、誰に語りかけるわけでもなく、そのような言葉を呟いた。
翔一「これか……?」
病院を出た翔一は、人目のつかない物陰にひっそりと浮かぶ巨大な紋章を見つけると、その前に立った。
翔一「すぅぅぅぅぅ……」
翔一「はぁぁぁぁぁ……」
一度大きく息を吸い、そして吐く。
自分でも珍しく緊張しているな、と翔一は思った。
翔一「…………」
チラリと自身の手や足に目を向けると、微かに震えていた。
すでに何度か経験していることだというのに、何故今回に限って――などとは思わなかった。
当然だ。
今まで『コレ』は無意識下でやっていたこと――自身にとっては眠っているときに見る夢のようなものだった。
だが、今回は違う。
初めて明確な自分の意志のもとで『コレ』を行うのだ。
誰のためでもなく、かといって自分のためでもない――
ただ、“自分はアギトだから”――
それだけのこと、ただそれだけのこと故に沢野翔一は――
翔一「――!」
――素早く動かされる翔一の腕が、文字どおり空を切る音が周囲に響き渡る。
まず最初に、左腕を若干引き、同時に右腕を左脇腹の腰のあたりへと伸ばす――
直後、今度は伸ばした右腕を曲げて、右手は親指と人差し指と中指のみ真っ直ぐ伸ばしている状態で顔の正面へ持って行き、左手を腰に軽く当てる。
そして、一呼吸置いて、その右手をややゆっくり前に出しながら右腕を伸ばしていく。
その動作は、どことなく人間が神に対して祈りを捧げているかのようにも見える。
ちなみに、ここまでの動作にかかった時間は5秒にも満たない。
やがて、右腕を伸ばしきったところで、翔一は両目をかっと見開く。
そして、高らかに、まるでその世界にいる自身を含む全ての存在に対して神に変わって代弁するかのごとく『ソレ』を宣言した――
翔一「変身!」
その言語と同時に、腰に添えられていた左手も真っ直ぐ前へと伸ばされる。
同時に、曲げていた右手の薬指と小指も真っ直ぐ伸ばされた。
やがて、伸ばされた両腕は、右上が上、左腕が下になる形で交差する。
そして、交差した両腕はそのままの状態で下ろされ、腰のあたりの高さに来たところで止まる。
すると、丁度両腕が交差している場所の近く――翔一のへそから上のあたりに、光が渦を巻いて溢れ出した。
光に包まれる翔一。
その光は、ほんの一瞬で消えてしまうが、光が消えたとき、そこには翔一の姿はなかった。
あるのは、禍々しい姿をしながらも、どこか神々しさも併せ持った姿の黄金の異形――『アギト』の姿だけだ。
――『変身』は完了した。
アギト「…………!」
自身の変身が無事に完了したことを感じ取ると、アギトは右腕を曲げて肘を前にかざし、左腕を腰の横に引きながら両膝を僅かに曲げて重心をやや下に落とす。
それは、自身の変身を周囲の存在に知らしめると同時に、自身が戦闘態勢に入ったことを宣言するかのようであった。
マミ「見つけた……」
その頃、魔女の結界内では、すでにマミが最深部へと到達していた。
彼女の目の前には、この結界の主である魔女がその姿を堂々と晒している。
その魔女の姿を言葉で説明するならば、『星』だった。
よく絵などで書かれる、俗にいう星型呼ばれる形をした巨大な存在が、現在マミの目の前にいる。
ただ、その色は、星のように神秘的で美しいものではなく、禍々しい色合いだが――
だが、マミたち魔法少女にとって、相手の姿など関係ない。
魔女である以上、倒すのみである。
マミ「…………」
スカートを若干たくし上げる。
すると、そこから数丁のマスケット銃が姿を現し、マミの足元周辺に突き刺さった。
突き刺さったマスケット銃のうちの1丁を手に取ると、すぐさまマミはその銃口を魔女へと向け、引き金を引いた。
瞬時に放たれたマミの魔力によって作られた銃弾は、魔女の身体のど真ん中を撃ち抜いた。
当然、マミはこの程度で魔女を仕留めたとは思っていない。
すぐに撃ち終わったマスケット銃を後方へ投げ捨てると、突き刺さっている別の1丁をその手に取る。
マミ(さて、向こうはどんなアクションを起こしてくるか……)
再び銃口を魔女に向けるマミ。
それに対して、魔女は予想外な行動で応戦してきた。
マミ「えっ!?」
――自らバラバラに砕けたのである。
正確に言うと、先ほどのマミによって開けられた風穴を中心に、魔女の身体全体にいきなり亀裂がはしり、次の瞬間にはそうなった。
一瞬、まさか本当に倒してしまったのか、とも思ってしまったマミだが、すぐにその考えは撤回する。
砕けた魔女の破片は、みるみるうちに形を変え、やがてひとつひとつが小型の星型魔女となった。
マミ「なるほど、星じゃなくてヒトデだったってワケね……」
表面上では余裕の笑みを浮かべてみるマミであったが、内心では面倒なことになったと愚痴を漏らす。
無数の星型魔女もといヒトデ魔女たちが一斉にマミに襲いかかる。
しかし、マミはそれに対して焦りを見せることなく、右手をばっと前に突き出した。
すると、彼女の周辺から黄色い糸のようなものが大量に伸び、すぐさまそのひとつひとつが絡み合い、いつしか一枚の大きな黄色い布地となる。
それは魔力による突発的な簡易防御壁であった。
無数のヒトデ魔女たちは、次々とその防御壁に引っかかり動きを止めていくが、さすがに正面に壁を作るだけでは全てのヒトデ魔女の動きを止めることは出来ない。
すぐさま数十体ほどのヒトデ魔女が防御壁を迂回する形でマミの目の前に姿を現した。
それに対してマミは、その内の1体に対してマスケット銃を撃ち、その1体を撃ちぬくと、残りのヒトデ魔女はその撃ち終わったマスケット銃の銃身で叩き落とす。
時には己の足による蹴りや踏みつけもお見舞いし、ヒトデ魔女たちを次々と倒していく。
――しかし、さすがのマミでも数の暴力の前では徐々に旗色が悪くなってくる。
マミ「いくら何でも数が多すぎるっ……!」
思わずそのような愚痴が口から漏れてしまう。
だが、もしこの場にマミ以外の魔法少女がいたとしても、誰もマミのその発言を否定しないだろう。
おそらく、誰もがそう思いたくなるであろうから――
マミ(せめて、こいつらの行動パターンさえわかれば何か糸口が掴めるかもしれないけど……)
彼女のその願いは、意外にもすぐに叶えられることになる。
ドオォォォォォン!
マミ「!?」
突如、マミたちのいた最深部のフロアに轟音と共に土煙が巻き起こった。
命がけの戦闘中でありながらも、マミの目は思わず轟音の発信源へと向いてしまう。
だが、不思議なことに、その時は魔女たちの動きもピタリと止まっていた。
やがて土煙が晴れていくと、そこには――光があった。
Believe Yourself
ttp://www.youtube.com/watch?v=ANEt7s6bu6Q&feature=related
アギト「…………」
マミ「『アギト』!?」
思わずその名を叫んでしまうマミ。
キュゥべえ曰く『この世界の創造神から力を授けられた存在』。人間を遥かに超越した力を持つ黄金の異形――
それが三度目自身の前に姿を現したのである。
アギト「…………」
マミ「!?」
その名を呼ばれたアギトとマミの視線が合う。
思わずビクリとしてしまうマミであったが、それに対してアギトは何の反応も示さず、ただマミの姿をじっと見つめていた。
しばらくお互いの視線を向け合っていた両者だったが、再びヒトデ魔女たちが一斉に活動を再開すると、マミとアギトもそれぞれヒトデ魔女へと視線を向ける。
マミ「言葉が通じるか分からないけど、一応尋ねるわ! あなたは一体何者なの!? 敵なの!? それとも味方なの!?」
アギト「…………」
自分たちに襲いかかるヒトデ魔女たちをあしらいながら、マミはアギトに向かって叫ぶ。
だが、対するアギトの方は一切の無反応だった。
まるで、言葉が通じないというよりは、目の前の戦いに集中し切っている、もしくはマミと話す舌は持たないと言わんばかりに――
マミ「…………!」
そんなアギトに対して一瞬苛立ちのような感情が芽生えるマミであったが、すぐさま彼女も目の前の敵に集中する。
マミは再びマスケット銃を構えると、群れの中の1体を撃とうとその銃口をヒトデ魔女たちに向ける。
だが、マミが引き金を引こうとするより前に、アギトが右手でマスケット銃の銃身をむんずと掴み無理やり銃を下ろさせてしまう。
マミ「!? な、何するの!?」
何故ここにきて邪魔をするのかと思いながら、アギトの方へ目を向けると、アギトは左手である一店を指さしていた。
マミ「えっ?」
アギトの指し示す方へと視線を向けていくと、そこには群れに紛れて1体だけ違う動きをしているヒトデ魔女の姿があった。
マミ「まさか……!」
瞬間、マミは悟った。
この魔女は、本体とそれを守護する無数の偽物たちで構成されている一種の群体なのだと。
無数の偽物に襲いかからせることによって相手の注意をそちらに向けさせ、本体の存在を隠していたのである。
そして、先程アギトが自身の呼びかけに何の反応も示していなかったのは、その本体を探すことに集中していたからだとも――
マミ「……なるほど、木を隠すなら森の中ということね!」
そう言いながら、マスケット銃を構え直すマミ。
手品のタネさえわかってしまえばこっちのものである。
対してヒトデ魔女――正確にはヒトデ魔女を護る偽物――たちは本体を護るために、一斉にマミに襲いかかろうとする。
だが、そんな魔女モドキたちの前にアギトが立ちはだかった。
マミがマスケット銃の引き金を引いた。
放たれた弾丸は真っ直ぐ本体であるヒトデ魔女へと飛んでいく。
だが、本体を守ろうと魔女モドキたちが、その軌道にわらわらと集まってくる。
――しかし、それがマミの狙いだった。
マミ「残念だったわね」
不敵な笑みを浮かべるマミ。
それと同時に、放たれた魔力の弾丸がポンと弾け、先ほどの防御壁を形成したものと同じ黄色い魔力の糸が周囲に飛び散った。
やがて、魔力の糸はそれぞれが絡みあうと、今度は黄色い巨大な網となり、ヒトデ魔女と魔女モドキたちをまとめて包み込んでしまった。
その光景は、さながら投網漁業のようであった。
敵の動きを完全に封じたことを確認すると、マミは自身の襟元に結ばれていたリボンを解いた。
そして、そのリボンに自身の魔力を流しこむ。
すると、リボンは一瞬にしてマミよりも一回りも二回りも大きい、巨大マスケット銃へと姿を変えた。
銃口をゆっくりと魔女たちの方に向け、しっかりと狙いを定めるマミ。
そして――
マミ「ティロ・フィナーレ!」
ティロ・フィナーレ――イタリア語で『最後の一撃』という意味の射撃、否砲撃が巨大マスケット銃から放たれる。
放たれた一撃はまるでビームのように黄色い直線を描きながら、標的である魔女へと伸びていく。
やがて、それは魔女たちに直撃すると爆発を起こし、網の中の魔女たちをまとめて木っ端微塵に吹き飛ばした。
巨大マスケット銃へと姿が変わっていたリボンが元の姿に戻るのを確認すると、マミはそれを手早く襟元に結び直す。
リボンを結び直すと、マミは魔法少女としての姿から普段の制服姿へと戻り、同時に結界も消滅した。
しえn
ポトリと、マミの近くに何かが落ちる音がした。
マミが目を向けると、そこには魔女の卵であるグリーフシードが転がっていた。
本来ならば危険な代物であるグリーフシードだが、魔法少女によって倒された魔女が落としたグリーフシードはまだ完全には熟していない。
そのため、その空いているスペースを利用して、魔法少女たちはソウルジェムに生ずる濁りをグリーフシードに移し変えて魔力を回復するのである。
早速自身のソウルジェムの濁りをグリーフシードに移し替えるマミ。
移し終えてグリーフシードの方を確認すると、グリーフシードの色は先程よりもドス黒く濁り切っていた。
マミ(さすがにこれ以上使うのは危険ね。今度キュゥべえに処分してもらいましょう……)
そう思いながらソウルジェムを指輪の形へと変化させ自身の指にはめると、マミはここにきて重大なことを思い出した。
マミ「……あっ! そうだわ、アギトは!?」
マミが振り返ると、すでに周囲にはアギトはおろか、誰の姿も見えなかった。
マミ「……はぁ。何やっているのかしら、私……」
翔一「あっ! 巴さん、こんな所にいたんですか!」
マミ「!? あ……さ、沢野くん……」
翔一「もう。何も言わずに、いきなりいなくなるなんて酷いじゃないですか。一体何処に行ってたんです?」
マミ「ご、ごめんなさい。……あの、葦川くんは?」
翔一「あぁ、葦川さんならもう大丈夫ですよ。あの後すぐに先生や看護師さんたちが来てくれましたから」
マミ「そう……」
翔一「ささ、こんな所にいつまでもいるのも何ですから、早く葦川さんの病室に戻りましょう」
マミ「……えぇ」
マミ(……アギト、本当に何者なのかしら……?)
???「…………」
病院の屋上。そこに、病院へと戻って行く翔一とマミの様子を見下ろす影があった。
それは、先ほど翔一に謎の言葉を投げかけ、かつ翔一がアギトであることを知っていたあの『黒い少女』であった。
???「『アギト』……」
少女はその名をポツリと口から漏らす。
???「アギト……斗真が言っていたとおり、本当に彼がこの世界の運命を変える存在だというのなら、私は――」
その言葉を言い終える前に、少女――暁美ほむらはその場所からフッと姿を消した。
マミ「……えっと……つまり、どういうこと?」
涼「先生が言うには、無理に身体を動かし過ぎたのが原因じゃないか、だそうだ。筋肉の発熱と痙攣が激しくなっているらしくて……」
翔一「それってただの筋肉痛とは違うんですか?」
涼「俺にも詳しくはわからない。ただ、俺の筋肉組織が今も膨張を続けていることだけは確からしい……」
マミ「…………」
涼「おかげで退院はもうしばらく先になりそうだが……。まぁ、過ぎてしまったことは仕方がないさ」
マミ「葦川くん……」
涼「そう心配そうな顔するなよ。別に命に関わる問題じゃないんだから。多分、俺の身体がもっと休みたがってるんだろうさ」
マミ「…………」
涼「巴、それと沢野、今日はありがとうな……。その、もしよかったら……すぐにとは言わないが、また見舞いに来てくれないか?」
翔一「はい! 俺なんかでよかったら!」
マミ「……えぇ」
翔一「それじゃあ、葦川さん、俺たち今日はこれで失礼します」
涼「あぁ」
涼「…………」
涼「……」
涼「……一体どうしちまったんだ、俺の身体は……?」
???「はっ……。はっ……」
白と黒という対なる色が延々と続く世界を、少女――鹿目まどかは駆けていた。
何故こんな所に彼女はいるのか。それは彼女自身もわからなかった。
ただ、「ここにいてはいけない気がする」という勘だけが今の彼女を突き動かしていた。
シンと静まり返ったこの世界において、響き渡る音は彼女の足音と呼吸だけだ。
――どれくらい走っただろうか。
走っても走っても、視界に映る色は白と黒。
本当にただそれだけで、不気味というよりは、どこか寂しい所だな、とまどかは思った。
まどか「あ……」
――気がついたら、目の前には扉があった。
扉の上には、まず知らない人はいないであろう『非常口』の標識。
まどか(ここから外に出なさいってこと……なのかな?)
そう思いながら、まどかは扉に向かって一歩一歩歩み寄っていく。
やがて、彼女の手が扉に触れる。
感触的に、扉は見かけ以上に重量がありそうだった。
まどか「――――」
ある程度の力を込めて扉を開く。
そして、その扉の先に広がっていた世界は――――
まどか「――えっ?」
OP
ttp://www.youtube.com/watch?v=yEXxEny2BvY
今日はお昼から仕事があるんで、申し訳ないですが投下はここまでに
あと、今日一日はSSの続き投下できないかもしれない
それでも保守してくれる人いたら、してくれると嬉しいです
ちなみに、このSSのアギトの変身ポーズは津上アギト、木野アギト、DCDアギトの変身ポーズを掛け合わせたような動作になってます
ただ、文章だけだと、どこがどのアギトの変身動作がわかる人いるかなぁ……w
翔一「う~ん……」
マミ「おはよう……あら? 沢野くん、どうしたの?」
翔一「あっ、巴さん、おはようございます。実は昨日のことなんですけどね……」
マミ「昨日のこと?」
翔一「はい。昨日、巴さんが突然病室からいなくなっちゃった後の事なんですけど……」
マミ「?」
翔一「俺、女の子に会ったんです。……いや、あれは声をかけられたと言ったほうが正しいのかな……?」
マミ「女の子?」
翔一「はい。何か巴さんのことを知っている様子でしたけど……巴さんの知り合いの子だったんですかね?」
マミ「……その子の特徴は?」
翔一「えぇと……。見た感じ、歳は俺達と同年代だと思います。髪は綺麗な黒で、それを腰まで伸ばしてましたね」
マミ「…………」
翔一「あと、雰囲気がなんというか……『普通の子とは何か違う』って感じがしました。俺のことも知っているみたいだったし……」
マミ「……まさか……」
翔一「? お知り合いですか?」
マミ「うぅん。知り合いってわけじゃないんだけど……」
マミ(まさか、キュゥべえが言っていた魔法少女候補の子? いや、そうだったらキュゥべえから接触したことと報告くらいはあるだろうし……)
翔一「でも、何であの子俺のことも知っていたんでしょう? 俺こっちに引っ越してきてまだ日も浅いですし、特に大したことはやった覚えはないんえすけどね……」
マミ「……そういえば沢野くん、あなた先日廊下で白い犬みたいな生き物を見たって言っていたわよね?」
翔一「はい。……えっと、でもそれが今回のことに何か関係があるんですか?」
マミ「…………」
翔一「と、巴さん?」
マミ「……あ。いや、何でもないわ。ごめんなさい……」
翔一「?」
マミ(黒い髪の女の子か……。私のことを知っているということは、魔法少女関係の子であることは間違いないでしょうね……)
チラリと翔一の方へと目を向けるマミ。
マミ(それにしても分からない。何で沢野くんはキュゥべえを視覚することができたのか……。おまけに、どうして沢野くんの前にその女の子が現れたのか……)
マミ(そして、『アギト』――――)
軽くため息をつく。
マミ(ここ数日で分からないことだらけだわ……)
昼休み――――
翔一「……そういえば、巴さんはもう聞きしました?」
マミ「? 何を?」
翔一「何でも、今日2年生にすんごい子が転校してきたそうです」
マミ「凄い?」
翔一「はい。俺が聞いた話だと、それが容姿端麗でスポーツ万能、おまけに滅茶苦茶頭も良い女の子だそうですよ」
マミ「ふぅん……」
翔一「あれ? 何かあまり興味なさそうですね?」
マミ「そりゃあ、転校生なら目の前に1人いるし、それに2年生の話だしね……」
翔一「そうですか? 俺は結構興味ありますけど?」
マミ「それはあなたが男の子だからでしょ?」
翔一「ん~……。そうなんですかね~?」
その時、妙に教室や廊下がざわめき始める。
翔一「あれ? 何か妙に賑やかになってきましたね?」
マミ「言われてみれば……あら?」
廊下の方へと2人が目を向けると、そこには1人の少女が翔一たちの教室へと入ってくるところであった。
マミ「3年生じゃないわね。下級生……」
翔一「あっ! 昨日の!」
マミ「えっ!?」
声と共に思わず立ち上がる翔一。
それに釣られるように、マミをはじめ、教室やその周囲にいた者の視線が一斉に翔一に向けられる。
当然、教室にやって来た下級生の少女、暁美ほむらの視線も――
ほむら「…………」
無言、かつ無表情で翔一の方へと歩み寄っていくほむら。
彼女の足が一歩一歩進むごとに、教室及び周囲のざわめきが大きくなっていく。
そして、ついにほむらが翔一の前に立ち、その足を止めた。
翔一「やぁ。いや~、驚いたな。君もここの生徒だったんだね」
ほむら「いえ、私は今日ここに転校してきたばかりですから」
周りから向けられる視線に気にすることなく会話を始める2人。
翔一「へぇ~……ん? もしかして、噂の凄い転校生って君のことだったの?」
ほむら「…………」
その質問に対して、ほむらは答えなかったが、翔一はそれを肯定と判断した。
翔一(結構謙虚なのかな?)
ほむら「……沢野翔一さん、あなたにお話ししておきたいことがあります」
翔一「? 俺に?」
思わず自分自身を指さす翔一。
ちなみに、周囲の者たちは今のほむらの発言から何故か「おぉ!」だの「な、なんだってー!」などと勝手に騒ぎ始めている。
ほむら「…………」
マミ「!?」
ほむらがほんの一瞬、チラリとマミの方へと視線を向ける。
マミも瞬時にそれに気づいたが、次の瞬間にはほむらは再び視線を翔一の方へ戻していた。
ほむら「……ここでは言えないことなので、場所を移させてもらってもいいでしょうか?」
翔一「あぁ、いいよ」
ほむら「じゃあ、付いてきてください……」
そう言って背を向けて歩き出すほむら。
それを見た翔一も、その後に続いて歩き出す。
2人が教室を後にすると、教室は先ほど以上に騒がしくなった。
――特に男子の方にやたら動揺していたり、狼狽えている様子の者が多い気がする。
マミ(彼女が沢木くんの言っていた子……。さっき私のことを一瞬とはいえ見ていたってことは、やっぱり彼女も魔法少女である可能性が高い……)
マミ(――でもわからないわね。だったら、何で声をかけたのが私じゃなくて沢木くんなのかしら?)
マミ(……ちょっと調べてみる必要がありそうね)
そう判断すると、マミは未だに騒ぎが収まらぬ教室からひっそりと外へ出た。
>>264
>マミ(――でもわからないわね。だったら、何で声をかけたのが私じゃなくて沢木くんなのかしら?)
「沢木」じゃなくて「沢野」じゃなかったか?
>>267
ゴメン、そこは素で間違ってたw
読むときは沢野で脳内変換しておいてくれw
屋上――――
ほむら「……ここなら特に人目もつかないわ」
自分たち以外の者が誰もいないことを確認すると、ほむらは先程とは口調を変えて翔一の方に振り返った。
翔一「……えぇと、話の前にひとついいかな?」
ほむら「何……?」
翔一「いや、君の名前をまだ聞いてなかったなと思って……。君は俺の名前知っているのに、なんか不公平だな~と……」
ほむら「……暁美ほむら」
翔一「暁美さんか……。なんか変わった名前だね」
ほむら「…………」
翔一「? どうかした?」
ほむら「別に……。同じことをクラスメイトの子にも言われたなと思っただけよ」
翔一「も、もしかして、気にさわった?」
ほむら「別に……」
翔一「……あ、そうだ! ところで、俺に話したいことって何?」
ほむら「単刀直入にいうわ、沢野翔一。私に協力して欲しい」
翔一「……協力?」
ほむら「えぇ。あなたが私の知る『アギト』と同等のものだと見込んだうえでお願いする」
翔一「えぇと……。具体的にはどんなことを?」
ほむら「私はある存在を倒すためにこの街へ来た。そのためには可能な限りの戦力が欲しい」
翔一「ある存在……? もしかして、俺や巴さんが倒してるあの怪物たちのこと?」
ほむら「……似たようなものね」
翔一「なぁんだ、それならお安いご用だよ。……あ。でも、俺自身まだこの力のこと完全に把握しているわけじゃないけど……それでもいいの?」
ほむら「構わない。あなたのその力は『進化する力』、いずれ来るべき時が来れば、自然と知ることが出来るはず」
翔一「ふぅん……。なんか、俺よりも暁美さんの方がこの力について詳しいんじゃない?」
ほむら「そうね……。現時点では確かにあなたよりは……」
翔一「う~ん……。なんかソレってズルいな~。俺は暁美さんのこと全然知らないのに、逆に暁美さんの方は俺のことほとんど知っているのって……」
ほむら「…………」
翔一「? 暁美さん?」
ほむら「……そんな所に隠れていないで、出てきたら? あなたになら聞かれても特に問題ないことだもの」
翔一「えっ? えっ?」
突然そのような言葉を口にするほむらに思わず戸惑う翔一。
すると、翔一の背後――屋上の出入口の影から1人の少女が姿を現した。
他でもなく、巴マミである。
翔一「と、巴さん……?」
マミ「…………」
翔一「えぇと……。巴さん、何時からそこに……?」
マミ「つい今しがた……。それよりも、あなた、やっぱり魔法少女なのね?」
ほむら「…………」
マミ「何が目的なの? 確かに沢野くんはキュゥべえを視覚できる。普通の子には無い特別な力があるかもしれない……」
ほむら「…………」
マミ「でもね。沢野くんは私たちとは違う。それ以外はれっきとしたただの人間なのよ」
ほむら「……そうね。確かに、力があることを除けば、沢野翔一はただの人間ということになるわね」
マミ「じゃあ、何故……!?」
ほむら「巴マミ、あなたは何もわかってはいない……」
そう言うと、ほむらは1人屋上から去ってしまう。
翔一「……え、えぇと……」
マミ「沢野くん」
翔一「は、はい?」
マミ「あまりこういうことは言いたくないけど、彼女にはこれ以上関わらないほうがいいわ」
翔一「えっ!? どういうことですか? 別に悪い子には見えませんでしたけど……?」
マミ「それは私もなんとなくわかっているつもりよ。……だけど、下手をすればあなたは命を落としかねない」
翔一「命を落とすって……。何言っているんですか、巴さん。今暁美さんと話していた時もそうでしたけど、何か言っていることが滅茶苦茶ですよ?」
マミ「……そうね。今更隠し通すのも無理でしょうし……沢野くんには私たちのことを少しだけ教えるわ」
翔一「はい?」
マミ「――この世界にはね、人間に不幸をもたらす『魔女』と呼ばれる存在がいるの」
翔一「ま、魔女……ですか?」
マミ「そう。魔女は本来人間の知らないところで呪いを撒き散らし、やがて表向きでは原因不明とされる事故や自殺を引き起こさせて人間を死に追いやる……」
翔一「……」
マミ「そうした魔女を狩るのが『魔法少女』。言ってしまえば、魔女を倒すために選ばれた女の子のことね」
翔一「『魔法少女』? もしかして――」
マミ「えぇ。さっき、あの子との会話を聞いていたならもう言う必要もないと思うけど、私がその『魔法少女』なの」
翔一「あぁ、そっか~……。だから昨日あそこで……」
マミ「?」
翔一「あ、いや……。つまり、暁美さんも巴さんと同じ『魔法少女』かもしれない……と巴さんは言いたいわけですね」
マミ「えぇ」
翔一「なるほど……。でも、待ってください。じゃあ、何で暁美さんは巴さんじゃなくて、俺を一番最初に呼び出したんでしょう? 暁美さんも本当に魔法少女なら、巴さんの方が話し易いはずですよね?」
マミ「それは……魔法少女にもいろいろと事情があるから……」
翔一「事情……ですか?」
マミ「えぇ。……あ、そろそろお昼休みが終わっちゃうわね。この話の続きはまた放課後にしましょう」
翔一「え? あ、ハイ……」
翔一「…………」
翔一(そうか~、昨日あのよくわからない空間で巴さんと戦ったのが『魔女』ってやつだったのか……)
――ちなみに、この後教室に戻った翔一はクラスの男子たちから質問攻めにあったことは言うまでもない。
翔一「……巴さん、もしかして俺、とんでもない誤解をされているんじゃ……」
マミ「さすがにそれは私に言われても……ね」
放課後――――
マミ「……さて、それじゃあ、お昼休みの話の続きといきましょうか」
翔一「あ。それなんですけど、巴さん」
マミ「?」
翔一「もしよかったら、一緒に帰りながら説明してくれませんか? 俺、家に帰りながら今晩のおかずの材料買って帰りたいんですよ」
マミ「…………」
翔一「――なるほど、それが魔法少女の証であるソウルジェムですか」
マミ「えぇ。普段は指輪として持ち運んでいるんだけど、魔女を探すときはこうして本来の形に戻しているの」
翔一「へぇ……。ん? 待ってください。『探す』ってことは、魔女って向こうからは人間の前に姿を現さないんですか?」
マミ「そう。魔女は結界っていう自身の巣に隠れ潜んでいるから、表向きには姿を見せないの。この世界の人間の殆どが魔女の存在を知らないのもそのため」
翔一「うわぁ……なんか汚いですね。自分だけ安全な場所にいながら、こっちのことはお構いなしで一方的に攻撃できるなんて」
マミ「そうね……。だからこうして魔女を探して見つけ次第狩っていかないと、どれだけの犠牲が出てしまうか……」
その時、マミのソウルジェムが微かに光り始める。
マミ「!? これは――」
翔一「? どうしました? も、もしかして……」
マミ「えぇ。微かだけど、魔力の反応をキャッチしたわ。おそらく、そう遠くないところに魔女がいる……!」
翔一「本当ですか!? じゃあ、俺も手伝い――」
マミ「ダメ!」
翔一「ええっ!? 何でですか!?」
マミ「さっきも言ったけど、沢木くんは魔法少女じゃないでしょ? ここから先は専門家である私に任せて……ね?」
翔一「で、でもやっぱり心配ですよ。それに、俺だって昨日――」
マミ「沢野くん、心配してくれているのは嬉しいけど、私はあまり無関係な人を巻き込みたくないの。それに……」
翔一「それに?」
マミ「女の子の言う事を素直に聞けない男子は嫌われるわよ?」
翔一「む……。巴さん、俺そういうのは何かズルいと思います……」
マミ「ごめんなさい。でも本当に大丈夫だから……。それじゃあ沢野くん、また明日ね」
翔一「…………」
翔一(……やっぱり心配だな)
翔一(――ん? でも変だな。今まで巴さんが言っていた魔女ってやつが現れた時は、確か俺も頭が突然キーンと……)
ほむら「沢野翔一」
翔一「うわっ!? あ、暁美さん……?」
ほむら「…………」
翔一「び、びっくりした~……。もう、いきなり背後から声をかけないでよ……。一体何の……」
ほむら「早速で悪いけど、あなたの力を貸してもらうわ」
翔一「俺の力を? ……あっ。そうか、魔女ってやつをやっつけるんだね? やっぱり巴さん1人じゃ心配……」
ほむら「いいえ。私たちの相手は魔女じゃないわ」
翔一「えっ? どういうこと?」
ほむら「今回の魔女は巴マミ1人に任せておいても特に問題はない。私たちは別の存在を討つ」
翔一「別の存在?」
ほむら「えぇ。人によっては、そいつは魔女以上に厄介な『敵』だから……」
ほむらに連れられて翔一がやって来たのは、ショッピングモールの地下だった。
翔一「『改装中につき立ち入り禁止』って看板があったけど……。本当に入って良かったの?」
ほむら「そんなこと気にしている余裕はない。今はこれから討つ『敵』のことだけに集中して」
翔一「あ、うん……。ところで、その魔女とは別の『敵』っていうのは本当にここに現れるの?」
ほむら「えぇ。そいつは今、ある女の子に接触しようとこの近くまで来ている。出来ることならその子に接触する前に仕留めたい」
翔一「どうやって?」
ほむら「私がそいつを上手く誘導する。あなたはここで待機していて、そいつが来たらすぐに『アギト』の力で止めを刺してほしい」
翔一「なるほど……。わかったよ」
ほむら「それじゃあ、私は行くわ。もうあまり時間もないし……。あとは任せるから……」
そう言い残すと、ほむらは地下の薄暗い闇の中へとその姿を消していった。
1人残された翔一は一度深呼吸すると、よしと覚悟を決め、昨日と同じ動作で早速アギトへと変身する。
翔一「変身!」
ほんの一瞬、ショッピングモールの地下が光りに包まれる。
そして、再び闇が地下を覆う頃には、そこには黄金の異形が敵を待ち受ける姿のみがあった。
一方その頃、ショッピングモールでは――――
マミ(……徐々に反応が大きくなってる)
マミ(間違いない。やっぱりこのショッピングモールのどこかに結界が……)
マミ「……あら?」
さやか「まどか、悪いけどこのままCDショップ付き合ってもらっていい~?」
まどか「いいよ。また上條くんの?」
さやか「へへ……まぁね~」
マミ(見滝原の制服……2年生かしら?)
マミ(…………)
マミ(私も魔法少女になっていなければ、ああいう普通の学生生活が送れたのかしら……?)
そう思った瞬間、はっと我に返る。
マミ(やだ……。今更何考えているのかしら、私……。『あの時』から、そんなもの当に諦めたはずなのに――)
その時、ふとマミの脳裏に先程の翔一との会話がフラッシュバックされた。
翔一『それなんですけど、巴さん。もしよかったら、一緒に帰りながら説明してくれませんか?』
マミ(――ッ!)
煩悩を振り払うかの如く、思いっきり顔を左右に振るマミ。
だが、それでも、先程の翔一の言葉と、その時の彼ののんびりとした笑顔が何度も脳裏に蘇ってくる。
もしかして――私が本当に望んでいた『願い』は――――
場所は変わってショッピングモール地下。
そこでは今、2つの影による壮絶な追走劇が繰り広げられていた。
影の正体のひとつは暁美ほむら。
そして、もうひとつは、ほむらよりも遥かに小さい犬のようにも、猫のようにも見える不思議な白い存在――キュゥべえであった。
追うものは前者、そして終われているのは後者である。
――そう。ほむらが翔一に言っていた『敵』とは、他でもなくこのキュゥべえであった。
キュゥべえ「!?」
キュゥべえの近くの床が突如として爆発を起こす。
それに吹き飛ばされ、キュゥべえの小さな身体は、まだ改装も終わり切っていないショッピングモールの地下フロアを軽く数十センチメートル程転がり回った。
ほむら「――もう逃がさない……!」
そう呟きながら、じりじりとキュゥべえとの距離を詰めていくほむら。
だが、生命としての本能か、すぐさまキュゥべえも起き上がると再び全速力で逃亡を開始する。
キュゥべえ『助けて――!』
まだ出会ったこともない1人の少女に、届くかどうかもわからぬ助けを求める心の声を上げながら――
アギト「…………」
薄暗い地下に1人佇むアギトは、場の空気が先程までとは変わったことをその身に感じていた。
ほむらが言っていた『敵』がすぐそこまで来ているのだろう。
ならば、こちらも万全の体制をもって、その『敵』に備えなければならない。
アギト「…………!」
昨日の変身の際も見せた、右腕を曲げて肘を前にかざし、左腕を腰の横に引きながら両膝を僅かに曲げて重心をやや下に落とす構え――
アギトの戦闘準備は完全に完了した。
後は、目の前に現れる『敵』に、自身の全身全霊の一撃を叩き込むのみ――――
ガシャアアアアアン!
アギトの視界に映る一角から土煙が上がる。
それと同時に、彼の目の前に小さな白い存在が姿を現した。
アギト「――!」
アギトはその存在を知っていた。
先日、学校で見かけた謎の生き物――
まさか、こんな愛くるしい存在が、ほむらの言っていた『敵』だというのか――?
無の境地に入っていたはずのアギトに、ほんの一瞬の迷いが生まれる。
だが、すぐさま見かけに惑わされてはならないと己に言い聞かせ、右腕を大きく振り上げ――
???「止めて!!」
――振り上げるも、下ろされることはなかった。
突然アギトの背後から響き渡る少女の声。
思わず、アギトも声のした方へと視線を向ける。
そこには、見滝原中学校の制服を見に纏ったツインテールの少女――鹿目まどかの姿があった。
――話を少し前に戻す。
鹿目まどかは、親友である美樹さやかと2人でショッピングモールにあるCDショップを訪れていた。
そこまでは特に何でもない、まどかたちにとってはよくある日常風景の一片に過ぎない。
だが、突然聞こえてきた声が、彼女たちのそんな日常に終止符を打つことになった。
――助けて!
まどか「えっ!?」
店内で新作CDを試聴していたまどかは、突然頭の中に直接響き渡ったその声に思わず目を見開いた。
最初は気のせいかと思い、再びCDの試聴を再開しようとしたまどかであったが、ここで再び声が響く。
――助けて、まどか……!
まどか「!?」
聞こえた。確かに。ハッキリと。
これは幻聴なんかではない。
誰かが助けを求めている――
一体誰が? 誰に?
いや、前者はともかく、後者についてはわかっているではないか。
誰かが、鹿目まどかに助けを求めている――!
この声が誰の声で、どこからどのように発せられているのかなど、今は関係ない。
――気がついたら、まどかの足は自然にCDショップの外へと歩き出していた。
さやか「――? まどか?」
そんなまどかの様子を、彼女の親友である美樹さやかは、しばらくの間、不思議そうに眺めていた。
だが、親友がCDショップを出て、フラフラと何処かへ向かっていく姿を見ているうちに、何か嫌な予感でもしたのか、彼女もその後を追い、CDショップを後にした。
――そして今に至る。
キュゥべえ「まどか……!」
キュゥべえはアギトの注意がまどかへ向いていることに気づくと、とっさにまどかの元へと駆け寄った。
すでにほむらから受けた攻撃によって、その身体はいたる所がボロボロになっていたが、まだ駆け出すほどの力があったのは、おそらく彼(?)の生存本能――火事場の馬鹿力というやつであろう。
まどか「……あ、あなたなの? 私を呼んだのは?」
ボロボロになったキュゥべえを抱き抱えながら、そう問いかけるまどかだが、答えは返ってこない。
どうやら返答をする程の気力も今のキュゥべえには残されてはいないようだった。
まどか「…………」
アギト「…………」
まどかとアギトの視線が重なる。
アギトのその現実的にはありえない――あくまでもまどかの知る現実のレベルでの話だが――その姿に、思わずまどかの足は後ずさる。
まどか「な、何……? 誰なの、あなた……? いや、それ以前に、人……なの……?」
思わずまどかの口からそのような言葉が漏れる。
だが、アギトは何も答えない。
アギト「…………」
まどか「あ、あなたがやったの……? 酷い……どうして、こんな……?」
アギト「…………」
まどか「こ、答えてよ……!」
ほむら「!? この状況は……一体どういうこと!?」
まどか「!? ほむら……ちゃん……!?」
ほむら「……鹿目まどか……!」
アギトの背後から、もう1人の影がその場に姿を現す。
それは魔法少女の装いを見に纏った暁美ほむら。
偶然にも、彼女はまどかのクラスメイトであった。
ほむら「まさか……仕留め損ねたというの? あなたともあろう者が……?」
アギト「…………」
ほむらは睨みつけるようにアギトの方を見やる。
だが、そんな彼女に対してもアギトは目を向けるだけで、何も答えようとしない。
ほむら「……まぁ、いいわ。鹿目まどか、今あなたが手にしているそいつをこっちに渡して。もしくは、そいつから今すぐに離れなさい」
まどか「な、何言ってるのほむらちゃん……!?」
まどかには現在の状況が上手く理解できなかった。
いや、誰もがこんな状況に陥ったら、まず状況を理解することなど不可能であろう。
不思議な声に導かれて、こんなまず誰も足を踏み入れようなどとは思わないであろう地下へと来てみたら、そこには見たこともない黄金の怪物がいた。
おまけに、その怪物は、これまた見たこともない白くて小さな生き物に今にも襲いかかろうとしている真っ最中。
挙げ句の果てには、今日自身のクラスに転校してきたクラスメイトが、コスプレ染みた格好で現れ、自身が現在抱き抱えている白い生き物を渡せと迫ってきた。
しかも、その様子からクラスメイトは怪物とお知り合い――
正直、訳がわからない。
これが夢ならば、さっさと覚めて欲しかった。
まどか「……で、でもこの子、怪我してるんだよ!?」
キュゥべえ「ま……まど、か……」
まどか(!? やっぱり、この子……!)
ほむら「……相変わらず汚い手を使うのね」
まどか「ほ、ほむらちゃん、酷いよ! どうしてこんなことするの!?」
ほむら「あなたには関係がないことよ……」
まどか「で、でも……この子、私のこと呼んでたんだよ!? 『助けて』って……!」
ほむら「……出来ることなら穏便に済ませたかったけれど、仕方がないわね……」
まどか「!?」
ほむらの足がまどかの方へと近づいていく――
ほむら「アギト、手を貸して」
アギト「…………」
ほむら「多少強引な手を使うことになるけど、これも彼女のため……」
さやか「まどか!」
ほむら「!?」
まどか「えっ!?」
突然、地下に美樹さやかの声が響き渡ったかと思うと、次の瞬間にはまどかとほむらたちの間に、大量の白い煙が巻き上がった。
まどかの後を追い、ここまでやって来たさやかが、今にも怪物(あとほむら)に襲われそうな親友のピンチを救うべく、近くにあった消化器の中身を一気にぶち撒けたためである。
アギト「――――」
だが、アギトはそんな状況でも冷静だった。
瞬時に煙の発生源がさやかの手にある消化器であると知ると、それを止めさせようと、さやかに向かい飛びかかった。
さやか「げっ!?」
突然、煙の中から自身の方へと飛び出してきた怪物。
それに対してさやかは――
さやか「うわあああああ!」
持っていた消化器を怪物に向かって思いっきり放り投げた。
アギト「――!」
もちろん、その程度の攻撃がアギトに通じるはずもなく、放り投げられた消化器はアギトが繰り出したパンチによってバラバラに粉砕された。
だが、まだ中身が残っていたのか、粉砕された消化器から再び消火剤による白い煙が巻き起こった。
さやか「ま、ま、まどか、こっち!!」
まどか「う、うん!」
消化器をあっさりと粉砕してしまう程のアギトのパワーを目の当たりにし、おそれをなしたさやかだったが、何とか声を上げ、親友と共にその場から逃げ出すことに成功した。
ほむら「……逃がさない!」
ほむらが左腕をブンと縦に振ると、周囲に充満していた煙は一瞬で吹き飛ばされ、やがて掻き消えた。
アギト「…………」
ほむら「……話は終わってから聞かせてもらうわ。今は鹿目まどかたちを……!?」
アギト「――!?」
ほむらがまどかたちを追いかけようとしたのと、ショッピングモールの地下フロアが異界へと姿を変え始めたのはほぼ同時であった。
瞬く間に、薄暗かった地下は、禍々しい極彩色が支配する未知の空間へと変化する。
空間が歪み、人間たちにおける『常識』などという概念が一切通じなくなる世界が形成されていく――
――魔女の結界だ。
ほむら「……こんな時に……!」
ほむらは一瞬だけ苦虫を噛み潰すような表情を浮かべると、すぐさま臨戦態勢に入る。
だが、そんなほむらの前にアギトがスッと一歩前に出ると、チラリと視線を向けた。
ほむら「アギト?」
アギト「…………」
ほむら「『ここは自分に任せて、私は2人を追え』――と言いたいわけ?」
アギト「…………」
ほむら「……わかったわ。その代わり、ここが片付いたらすぐにあなたも鹿目まどかたちを追いなさい。間違っても、この結界の元凶である魔女を倒そうなどとは思わないで」
そう言い残すと、ほむらはアギトの目の前から瞬時にその姿を消した。
おそらく、瞬間移動もしくはその類であろう。
Believe Yourself
ttp://www.youtube.com/watch?v=ANEt7s6bu6Q&feature=related
アギト「…………」
アギトは一度周囲を軽く見やる。
極彩色に彩られた空間の中、立派な口髭を生やした紳士のような――どことなく某ポテトチップスのパッケージのキャラクターを彷彿させる――使い魔たちが次々と姿を現していた。
使い魔たちの手と思える場所には、ハサミが握られていた。
チョキチョキと、ハサミ独特の金属音が周囲一帯に響き渡る。
おまけに、何か歌っているのか喋っているのか、声のようなものも聞こえてくる。
――が、そんなものアギトには関係がなかった。
アギト「…………」
クロスホーンと口元にあるクラッシャーが展開し、4本のツノと歯牙状の器官が露出する。
この時点で、勝敗はほぼ決したことは言うまでもなかった――
その頃、ほむらたちの元から何とか逃亡することに成功したまどかたちも、魔女の結界に迷い込んでいた。
――いや、この場合は巻き込まれていたと言ったほうが正しい表現であろうか。
さやか「冗談だよね……? あたし、悪い夢でも見てるんだよね……?」
先程の怪物に続いて、目の前に広がっているこの異様な光景に、さやかの思考はもうおもちゃで遊んでいる子供の部屋の如くグチャグチャだった。
それでも、何とか理性を保っていられたのは、ひとえに隣に親友であるまどかの姿があったからだろう。
まどか「…………」
逆に、まどかの方は――こちらもギリギリ理性を保っているとはいえ――すでに恐怖のあまり声も出なかった。
――どうすればいい?
まどかは僅かばかり残っていた理性で、その言葉を何度も頭の中で繰り返していた。
だが、その問いに対する答えは、今の彼女からは当然出ることはなかった。
気がつくと、2人の周囲には先ほどアギトの前に現れたものと同じ使い魔たちが次々とその姿を見せる。
当然、その手(と思える場所)にはハサミが握られている。
それを見たまどかたちは、残された理性も完全に恐怖に支配され、互いの身を寄せ合ってただ震えることしか出来なかった。
ほむら「――!」
まどか「えっ!?」
さやか「ウェ!?」
だが、突然2人の目の前で爆発が起き、周囲にいた使い魔のうち数匹が爆風に飲み込まれ霧散する。
それと同時に、2人の目の前に再び姿を現すほむら。
まどか「ほ、ほむらちゃん!?」
さやか「な……!? なんなのよ、アンタ!? コスプレでバケモノと通り魔やってるかと思ったら、今度はあたしたちを助けるって言うの!?」
ほむら「……そうよ。私の標的はあくまでも、ソイツだもの」
そう言いながら、未だにまどかが抱いているキュゥべえを睨みつけるように見やるほむら。
それに対して、キュゥべえは一瞬ビクリとその身体を震わせた。
さやか「そういえば……まどか、ソイツは一体何なの? 見た感じボロボロのぬいぐるみみたいだけど……」
まどか「え? あ……その……」
ほむら「説明は後。それよりも、あなたたち」
さやか「な、何よ?」
ほむら「こんな所で死にたくなかったら、ソイツから離れなさい」
さやか「はぁ!? アンタ、何言ってんのさ!?」
まどか「そ、そうだよ! 駄目だよ! さっきも言ったけど、この子私を呼んでたんだよ!?」
ほむら「……!」
もう埒があかないと判断したのか、ほむらの手がまどか――正確にはまどかに抱かれていたキュゥべえ――へと伸ばされる。
――が、ほむらの手がキュゥべえを引っ掴むよりも先に、3人(とキュゥべえ)の周囲に光が差し込んだ。
さやか「えっ!? 今度は何!?」
まどか「これって……」
マミ「危ないところだったわね」
さやか「!?」
まどか「!?」
ほむら「――巴マミ」
まどかってこんなウザキャラでしたっけ
まどかとさやかが声のした方へと振り返ると、そこには自身のソウルジェムを手にした巴マミの姿があった。
ほむら「…………」
マミに対して敵意にも似た視線を向けるほむら。
しかし、マミはそれをちらりと一瞥しただけで軽く流し、自身の視線をまどかとさやかの方へと向ける。
マミ「あなたたちも見滝原の生徒みたいね。……2年生?」
さやか「あ、あなたは……?」
マミ「そうそう、自己紹介しなくちゃね。……でも、その前に――」
そう言うと、自身のソウルジェムを一度頭上へ放り投げるマミ。
それと同時に、彼女は自分たちの周囲で未だにチョキチョキとハサミの音を響かせる使い魔たちの方へと向き直る。
マミ「ちょっと一仕事片付けちゃっていいかしら?」
その言葉と同時に、マミは落ちてきた自身のソウルジェムをキャッチし、それを前へとかざす。
すると、マミは黄色い光に包まれていき、やがてその姿は制服から魔法少女の装束へと変わった。
それまでのマミの動作は、まるでフィギュアスケートの演技のようにも、舞を舞っているかのようにも見えた。
マミ「はっ!」
魔法少女への変身が完了すると同時に、マミはその場から数メートル頭上へと跳躍する。
そして、右手を一度軽く横に振った。
すると、マミの周囲から大量のマスケット銃が姿を見せた――かと思うと、次の瞬間にはそれらが全て、周囲にいる使い魔たちに向けて一斉に火を吹いた。
単発であるマスケット銃も、大量にあればそれはマシンガンにも劣らぬ威力と連射となる。
それは――厳密に言うとちょっと違うが――戦国時代の長篠の合戦において、織田・徳川連合軍が武田軍の騎馬隊を破った際に用いたとされる鉄砲隊戦術を彷彿させる光景であった。
まどか「凄い……」
まさに、圧倒的――
マスケット銃から放たれた魔力の弾丸が着弾したことで発生した爆風が晴れた頃には、周囲に使い魔の姿は1体も残っていなかった。
それと同時に、世界が再び歪み始める。
――が、今度は徐々に現実味を帯びていき、やがて周囲に広がる光景は、ショッピングモール地下の薄暗いそれへと戻った。
さやか「戻った……の?」
まどか「そ、そうみたい……」
ほむら「…………」
マミ「ふぅ……。さてと……」
まどか「あ、ありがとうござ……」
自分たちの方へと振り返るマミに対してお礼を言おうとしたまどかとさやかであったが――
マミ「どうしてキュゥべえを狙ったのか、答えてもらおうかしら? 暁美ほむらさん?」
そのマミが、手にしていたマスケット銃の銃口をいきなりほむらへと向けたため、思わず固まってしまう。
まどか「え――」
さやか「ちょ、ちょ、ちょ――!? ちょっと、いきなり何やっているんですか!?」
マミ「あなたたちは悪いけど少し黙っていて。これは私と彼女の問題だから――」
まどか「あ、あぁ……」
目の前で突然始まった一触即発の光景に、まどかは腰を抜かし、その場に尻餅をついてしまう。
その目にはうっすらと涙が浮かび、手足をはじめ、身体のいたる所がガタガタと震えていた。
――怖い。
先ほどの光景もそうだったが、今は目の前にいる自身の命の恩人であるはずの人が――
――人間にとって本当に恐ろしいものとは、自分以外の人間なのかもしれない――
ほむら「……そいつの肩を持つつもり?」
マミ「キュゥべえは私の大切なお友達だもの」
ほむら「……無抵抗のままやられる気はないわ」
マミ「そう……!」
マミがマスケット銃の引き金を引こうとしたその瞬間――
???『人が人を殺してはならない――』
マミ「!?」
まどか「!?」
さやか「!?」
ほむら「!?」
突如、その場にいた4人全員の脳裏に、男の声が響き渡った。
さやか「な、何!? 今の!?」
マミ「男の人の声――」
まどか「で、でも一体……」
ほむら「…………」
コツン……
まどか「!?」
さやか「だ、誰か来る!?」
マミ「まさか、今の声の――」
今度は地下に何者かの足音が響いた。
それはどんどんリズムを早め、まどかたちの元へと近づいてくる。
ほむら「――! あなたは……!」
そして、4人の目の前に姿を現したのは――
翔一「あれ? 暁美さんに巴さん……それに知らない子たちまで……。何かあったんですか?」
――見滝原中学校の3年生、沢野翔一であった。
ED
ttp://www.youtube.com/watch?v=Qz0DxsPdmQE
ショッピングモールの地下。
薄暗い闇が支配するこのフロアに、今現在5人の人間と1匹の正体不明の生き物がいた。
まどか「わぁ……」
さやか「凄い……。みるみるうちに傷が塞がってる……」
鹿目まどかと美樹さやかは目の前で起きている現象に驚きの声を上げる。
今、2人の前では魔法少女・巴マミが治癒魔法でキュゥべえの回復を行っている真っ最中だ。
さやかの言葉どおり、治癒魔法を受けているキュゥべえの身体は徐々に傷が消えていき、キュゥべえ自身の血色も良くなってきているようだった。
――そんな光景を横目に、3人と1匹から少し離れた場所に立っているもう1人の魔法少女・暁美ほむらが口を開く。
ほむら「いずれ後悔するわよ、そいつを助けてしまったこと……」
マミ「…………」
さやか「転校生……!」
その言葉に対して、マミは無視を決め込み、さやかは敵意の籠った眼差しをほむらに向けた。
翔一「あ、暁美さん、止めましょうよ、自分から敵を作るようなこと言っちゃ……」
ほむら「事実を正直に言ったまでよ」
翔一「あ、暁美さ~ん……」
そして、5人の中で唯一の男子である沢野翔一がほむらを咎めようとするが、ほむらは全く聞き耳を持たなかった。
そんな会話が繰り広げられているうちに、キュゥべえは完全に回復したようだった。
キュゥべえ「ありがとうマミ、助かったよ!」
ぱっちりと目を見開き、起き上がったキュゥべえが開口一番――といっても、キュゥべえは会話の際も口を開かないため、この言葉は正しいのか微妙なところだが――マミへお礼を言う。
さやか「しゃ、喋ったあああああ!?」
まどか「さ、さやかちゃん、落ち着いて……」
そんなキュゥべえが、いきなり人間の言葉を発したので、何も知らなかったさやかは、驚きのあまり2、3歩ほど後ろへ後ずさってしまう。
対して、キュゥべえの助けを求める声を聞いてここまで来ていたまどかの方は、特に何の反応も示さなかった。
――そして、この男も内心驚いていた。
翔一(や、やっぱり喋れたんだ……)
マミ「お礼ならこの子たちに言って。私は魔女を追っていたところを偶然通りかかっただけだから」
マミにそう言われたキュゥべえは、すぐさままどかとさやかの2人の方を見やる。
キュゥべえ「言われてみれば、そうだね。ありがとう、鹿目まどか、あと美樹さやか」
まどか「やっぱり、あなたなのね。私を呼んだのは?」
さやか「ちょ、ちょっと待って……! まどか、あんたコイツと知り合いなの!?」
まどか「ううん。初対面だよ。ただ、さっきこの子の助けてって声が突然頭の中に聞こえてきて……」
キュゥべえ「そう。僕がまどかに助けを求めていたんだ。でも、まさか本当に来てくれるなんて……。やっぱり、まどかは僕の見込んだとおりだ!」
さやか「あ、あのさ……。勝手に話進めちゃってるところ悪いんだけど……アンタ、誰? 何で私たちの名前を知ってるの?」
キュゥべえ「おっと、失礼。僕の名前はキュゥべえ」
まどか「キュゥ……べえ?」
さやか「見かけによらず、何か冴えない名前ね……」
キュゥべえ「まぁ、名前のことは今は置いておいて……。今日は君たちにお願いがあって来たんだ」
さやか「へっ?」
まどか「お願い?」
ほむら「――!?」
翔一「? どうしました、暁美さん?」
キュゥべえ「僕と契約して、魔法少女になってほしいんだ!」
そう言いながら、キュゥべえはまどかたちに愛くるしい笑顔を浮かべた。
OP
ttp://www.youtube.com/watch?v=yEXxEny2BvY
ウヴァ「“あの少女を契約させたい”。その欲望、開放しろ」チャリーン
QB「!?」
ほむら「駄目……!」
翔一「あ、暁美さん!?」
突然、ほむらがまどかたちの方へと歩み寄ろうとする。
が、そんなほむらの行く手をマミが阻む。
ほむら「……どきなさい」
マミ「嫌よ」
ほむら「あなたは……!」
マミ「彼女たちはキュゥべえに選ばれたのよ? 魔法少女になるか、ならないかを決めるのは彼女たち自身。あなたや私じゃないわ」
ほむら「……!」
翔一「ま、まぁまぁ……。暁美さんも、巴さんも、押さえて押さえて……」
マミ「……ところで、沢野くん」
翔一「はい?」
マミ「よく考えたら、何故あなたがここにいるのかしら?」
翔一「え? あぁ、それは……」
まどか「あ、あの~……」
翔一「ん?」
マミ「あら?」
不意に、今しがたキュゥべえと話をしていたはずのまどかに声をかけられ、マミは振り返る。
マミが目を向けると、そこにはまどかだけでなく、さやかの姿もあった。
さやか「い、いや~、こんな時に言うのもタイミング悪いような気がするんですけどね……」
まどか「さ、さっきは助けてくれてありがとうございました!」
まどかは、お礼を言うと、さやかと2人でマミに対して頭を下げた。
マミ「あぁ、いいのよ、気にしないで。私は魔法少女として最低限の勤めを果たしただけだから……」
まどか「魔法……少女?」
マミ「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私は巴マミ。あなたたちと同じ見滝原中学校の3年生よ」
まどか「か、鹿目まどか、2年生です……!」
さやか「同じく、2年の美樹さやかでっす! まどかとは同じクラスで親友やってま~す!」
マミ「鹿目さんに美樹さんね。よろしく」
さやか「ハイ、よろしくお願いいたします!」
まどか「…………」
翔一「ん?」
まどか「あ、あの……あなたは?」
翔一「あ。俺は沢野翔一。巴さんのクラスメイトで、ここには……まぁ、いろいろあっているんだ。よろしく」
まどか「沢野……」
さやか「翔一……?」
マミ「あら?」
翔一「ど、どうしたの、2人とも? 俺の名前に何か問題でもあった?」
翔一の名を聞いた瞬間、突然黙りこむまどかとさやか。
しかし、次の瞬間――
さやか「あぁー! うちのクラスの転校生が、転校初日早々いきなり告った3年生の先輩ってあなたのことかー!」
翔一「……はい?」
マミ「あぁ……」
ほむら「――――」
ガンっ!
ほむら「…………」
突然のさやかの爆弾発言に、翔一は目を点にし、マミは「またか」というような顔をし、ほむらにいたっては――表面上では冷静を装っていたが、後頭部を寄りかかっていた壁に強打した。
翔一「あ~……。それ、完全に誤解だから」
昼休みの出来事を思い出した翔一は、さやかたちの誤解を解くために説明をはじめた。
翔一「確かに俺は暁美さんから直々に呼び出されたけど、美樹さんたちが想像しているようなことは断じてなかったから……」
さやか「えっ? そうなんですか?」
まどか「な、な~んだ、そうだったんだ~……」
ほむら「……鹿目まどか、今のその発言はどういうことかしら?」
まどか「ち、違うの! ほむらちゃんって見かけによらず惚れっぽい子だったんだな~とか勘違いしていただけで……!」
ほむら「…………」
キュゥべえ「……何か、さっきから僕の存在を忘れられているような気がするけど、ちょっといいかな?」
いつの間にかまどかの足元へとやって来ていたキュゥべえが、まどかたちを見上げながら、声をかける。
その声に、その場にいた全員の視線がキュゥべえに集中した。
キュゥべえ「まどか、その子にそんな無用心に近づいていていいのかい? 彼女は元々は僕を狙っていたとはいえ、君にも襲いかかろとしていたんだよ?」
まどか「あっ……」
さやか「そういえば……!」
キュゥべえの言葉に、先ほどの出来事を思い出したまどかは自然とほむらと距離を取り、そうしてできたまどかとほむらの間のスペースにさやかが割って入った。
ほむら「…………」
マミ「そういえば、聞いていなかったわね。何故あなたがキュゥべえを狙ったのか……!」
気がつけばマミの手には先ほど同様、マスケット銃が握られていた。
まどか「ひっ――!?」
先ほどの光景を思い出したのか、それを見たまどかはビクリと一瞬身体を震わせ、さやかの影に隠れてしまう。
ほむら「――鹿目まどかをソイツと契約させるわけにはいかない」
そう言いながら、キュゥべえに鋭い視線を向けるほむら。
ちなみに、まどかがさやかの影に隠れてしまったため、今現在キュゥべえはマミの足元に移動している。
マミ「だから鹿目さんと接触する前にキュゥべえを襲った……と?」
ほむら「それ以外に理由がある?」
マミ「…………」
再び一触即発の空気があたりに漂う。
しかし――
翔一「……あの~、いきなり横から割り込んですいませんけど、俺からひとつ質問していいですか?」
マミ「? 沢野くん?」
ほむら「沢野翔一――」
マミとほむらの間に、右手を上げながら翔一がひょっこりと割って入る。
マミ「沢野くん……あなた、状況というものを少し理解して……」
翔一「いや~、すいません巴さん。多分すぐに終わる質問なんで……」
そう言いながら、翔一はその場にしゃがみ込んで、マミの足元にいるキュゥべえに話しかけた。
翔一「えっと、君は……キュゥべえ……だっけ? さっきから君や暁美さんたちが口にしている『契約』って何だい?」
キュゥべえ「!? 君は……」
翔一「? どうしたの?」
キュゥべえ「君は……僕の姿と声がわかるのかい?」
翔一「あぁ、わかるよ。そういえば、君って先日もうちの学校に来てたよね? 廊下で走っているところ見かけたよ」
キュゥべえ「――――!?」
一見ほむら以上の無表情に見えるキュゥべえの顔に、一瞬だけ驚きのような表情が浮かんだ。
キュゥべえ(僕を視覚できて、声まで聞こえている――まさか……)
マミ「あぁ、キュゥべえ、驚かせちゃってごめんなさい。どうやら彼、一種の特異体質みたいでね……魔法少女やその候補者でもないのに、あなたの姿が見えていたのよ」
キュゥべえ「特異体質?」
マミ「えぇ。でも、まさか声まで聞こえるなんて私も思わなかったけど……」
キュゥべえ「…………」
キュゥべえ「……そうか、特異体質か。さすがにそれは僕も驚いたよ。僕の姿や声は、マミが言ったとおり本来は魔法少女とその候補者である女の子にしかわからないからね」
さやか「そ、そうなの?」
キュゥべえ「うん。だから僕は常日頃魔法少女の候補者を探しているんだ」
ほむら「……よく言うわ」
さやか「ねぇ、それで、その『契約』っていのは何なの? あと、魔法少女のこととかも詳しく教えてほしいんだけど……」
キュゥべえ「そうだね。君たちには知る権利がある。1から説明するよ」
翔一「あ。だったら、一度場所を変えません? ここって本来なら立ち入り禁止の場所なんで、いつまでもいるのはマズいような……」
マミ「そうね……。それなら、これから私の家に行きましょうか?」
まどか「ま、マミさんの家……ですか?」
マミ「えぇ。こう見えても私1人暮らしだから、他の人に話を聞かれることもないし……。いかがかしら?」
さやか「おぉ! 是非行かせていただきますとも! まどかももちろん行くよね!?」
まどか「え? ……う、うん。さやかちゃんが行くなら……」
さやか「よし、決まり!」
翔一「えっと……。巴さん、俺も行っても……?」
マミ「構わないわよ。今日説明しきれなかった魔法少女のこともついでに教えてあげる」
翔一「わかりました。それじゃあ、お邪魔させていただきます」
マミ「…………」
ほむら「…………」
マミ「……他の子たちはみんな来るそうだけど、あなたはどうする?」
ほむら「私が用があるのはあなたじゃない」
マミ「飲み込みが悪いのね。今回はお咎め無しにしてあげるって言ってるの」
ほむら「…………」
マミ「あなたがキュゥべえを狙ったのにも何か他に訳がありそうだし、同じ魔法少女なんだから、少しぐらいはお互いのことを知ってもいいんじゃないかしら?」
ほむら「私は他人と馴れ合うつもりはないわ」
そう言うと、ほむらはその場から立ち去ろうとする。
が、その前に翔一が割って入った。
翔一「まぁまぁ、暁美さん。いいじゃない、ちょっとばかり家にお邪魔するくらい……。巴さんだって今回のことは許してくれたんだから……」
ほむら「どきなさい、沢野翔一。さもなければ、力づくでも押し通るわよ?」
翔一「あ~……。でも、ほら、こうして5人いると何か部活動みたいじゃない? ここにいるのってみんなキュゥべえが見える人たちだから、さしずめ『キュゥべえ愛好会』みたいな……」
ほむら「…………」
翔一「あ! そうか、暁美さんはキュゥべえのこと嫌いなんだっけ!? ゴメンゴメン……。『魔法少女部』とかの方がよかった? あ……それだと俺が入れないか……」
ほむら「…………」
翔一「あ……あ~、じゃあこうしよう。暁美さんは鹿目さんに契約っていうのをしてほしくないんでしょ? それなら、鹿目さんがその契約をしないように見張っているという名目で一緒に行けば……」
まどか「ええっ!? な、何でそこで私の名前が出てくるんですか、沢野さん!?」
翔一「いや~、こうでも言わないと来てくれないかもしれないじゃない? 俺、出来ることならみんなに仲良くしてほしいし……」
ほむら「……わかったわ」
まどか「だからって、私を話の……って、え!?」
翔一「ほ、本当かい暁美さん!?」
ほむら「あくまでも鹿目まどかがアイツと契約することがないように監視することが目的よ。そこを勘違いしないでほしいわ」
さやか「……マミさん」
マミ「何、美樹さん?」
さやか「あの2人って、意外と仲良いんじゃないでしょうか?」
マミ「そ、そうかしら……?」
キュゥべえ「…………」
今回はここまでで
いつも保守や支援してくれる方々、ありがとうございます
また今日と明日も仕事なんで、この二日間は本編全然進められないかもしれないけど、
よろしければ保守お願いします
ちなみに本編はすでにストーリー終盤までのプロットは考えてます
ヘシン!!
ほむ沢さん「魔法少女としてQBと戦っても勝ち目はないわ……鹿目まどかとして戦いなさい!」
美樹さやか「痛くない、痛くない、痛くない」
劇場版アギトからの引用だけどこの台詞言ってた登場人物が「さやか」という謎のシンクロニシティ
さやか「イタクナイ、イタクナイ…」
杏子「もういいだろォ!」
>>1は来ないとは言ってないんじゃないの
>>451
美ず樹さん!魔法少女は呪われたシステムです!
アギトは設定が壮大すぎるせいで実際の物語がしょぼく見えてしまった
二次創作なら実写という障害がないから、相応にスケールを大きくできるはず
期待
>>470
>実写という障害
むしろ障害はスポンサーのバンダ……おや? こんな時間に誰か来たみたいだ
ほむら「……沢野翔一」
翔一「? 何だい、暁美さん?」
マミに連れられ、一同が彼女の家へと案内されている道中、ほむらが不意に翔一に声をかけた。
ほむら「本来なら最初に言うべきだと思っていたけれど……私以外の者には可能な限りあなたがアギトであることは隠しておきなさい」
翔一「え? まぁ、今までも暁美さん以外の人には黙ってたけど……。別に巴さんにはそろそろ明かしてもいいんじゃ……?」
ほむら「駄目」
翔一「えぇ~……」
ほむら「……この世界にとっても、私たちにとってもアギトは必要な力だから……」
翔一「? 今何か言った?」
ほむら「別に……」
とある町外れのマンションの一室、そこが巴マミの家だった。
マミ「ここよ。さっきも言ったけど、一人暮らしだから遠慮しないで」
翔一「お邪魔します」
ほむら「…………」
さやか「おぉ、これはこれは……」
まどか「素敵なお部屋……」
マミ「お客さんなんてまず来ないし、おまけに今回は急なことだからろくなお持て成しも出来ないけど……紅茶でいいかしら?」
まどか「あ、はい……」
ほむら「…………」
さやか「……アンタも、そんな所いつまでもつっ立ってないで、こっちに座ったら?」
ほむら「私がここにいるのは、あくまでも鹿目まどかの監視。あなたたちと馴れ合うためじゃない」
さやか「あ~そうですか~」
翔一「まぁまぁ、美樹さん。元はといえば、俺が無理やり連れてきたようなものだし……」
まどか「ほ、ほむらちゃん、こっちに来なよ? さすがに私もそんな所から見られてばかりいるっていうのも恥ずかしいし」
ほむら「……近くならいくらでも見ていいと?」
まどか「い、いや、そういうわけじゃなくてね……」
翔一「……今の暁美さんなりの冗談かな?」
さやか「いや、素で言った可能性もなくはないっすよ?」
その後、マミから出された紅茶とケーキ――一応、ほむらの分も用意されていたが、当然、彼女が手を付けるわけがなかった――を頂きながら、マミによる魔法少女という存在についての説明が始まった。
翔一もほんの数刻前に簡単な説明はされていたが、本格的な説明を聞くのは初めてなので、まどかたちと一緒にマミから語られるこの世界に隠されたもうひとつの素顔について耳を傾ける。
マミ「これがソウルジェム。キュゥべえに選ばれた女の子が、契約によって生み出す宝石よ。魔法少女の証であると同時に、魔法を使うために必要な魔力の源でもあるの」
さやか「うわぁ……。綺麗ですね~」
まどか「あ、あの……。今もまた出てきましたけど、その『契約』というのは……」
キュゥべえ「それは僕から説明するよ」
声のした方にまどかたちが目を向けると、いつの間にか床にいたはずのキュゥべえがテーブルの上に座っていた。
――ちなみにこの時、翔一がキュゥべえに対して「食事に使うテーブルに腰掛けるなんて行儀が悪い」と発言したが、スルーされた。
キュゥべえ「僕は君たちの願い事を何でもひとつ叶えてあげられるんだ」
まどか「願い事?」
キュゥべえ「うん。何だって構わない。どんな願いだって叶えてあげられるよ」
さやか「何でも!? 億万長者とか不老不死とか満漢全席とかでも!?」
キュゥべえ「もちろん」
翔一「へぇ~……。凄いんだね」
ほむら「…………」
キュゥべえ「その代わり、願いを叶えてあげる代償として出来上がるのがソウルジェムなんだ。ソウルジェムを持つ者は魔女と戦う使命を課される」
まどか「魔女?」
さやか「それって魔法少女とは違うの?」
キュゥべえ「似ているようで、全然違うよ。魔法少女は『願いから生まれるもの』だけど、魔女は『呪いから生まれた存在』だからね」
さやか「の、呪い……?」
翔一「――ん? ちょっと待って、それって具体的にはどう違うの?」
キュゥべえ「? どういう意味だい?」
翔一「いや……。あくまでこれは俺の個人的な考えの延長に過ぎないんだけど……。さっき君が言ったことが本当なら、魔法少女の契約で叶えられる願いっていうのは基本的に何でもありなんだよね?」
キュゥべえ「そうだよ。それがどうかしたのかい?」
翔一「それってつまり、契約する子が欲深い子――例えば、世界征服とかを本気で願っちゃうような子で、仮にその願いで契約して魔法少女になってしまったらどうなるんだい?」
まどか「!?」
さやか「!?」
マミ「!?」
ほむら「……!」
翔一「もし、それで本当にその願いが叶っちゃうなら、俺からしてみたら『願い』も『呪い』も対して変わらない気がするな。下手をすれば、女の子の願いっていう欲ひとつで関係ない人たちが迷惑被るハメになっちゃうんだからさ……」
今回はここまでです
さすがに一日進めないというのもアレだったので、ちょっとだけ本編進めました
しかし、書いた自分で言うのも何だけど、QBの契約って願いによってはどんな魔法や魔女よりもタチが悪い気がするよ……w
まぁ、そんな契約を吹っかけてくるQB自体が、俺たち人間から見たらさらにタチ悪いんですけどね……w
今ちょっと実況スレ覗いてきたけど、相変わらず人が凄いなw
8話視聴完了
まぁ、今回も驚きの連発だったけど、基本的にプロットからの大幅変更は必要無さそうで一安心w
てなわけで、これから続き書いていきます。ある程度書き次第随時投下していくんで
キュゥべえ「…………」
まどか「い、言われてみたら確かに……」
さやか「本当に何でもありなら、『嫌いな奴を殺してほしい』とか……そういう願い事もありってことなんだよね……?」
まどか「さ、さやかちゃん、何か私……今の沢木さんの発言で、急に怖くなってきちゃったよ……」
さやか「あ、あたしも……」
翔一「あ……ゴメン。別に2人を怖がらせようと思って言ったわけじゃなくて……」
キュゥべえ「……いや、可能か不可能かのどちらかで言うなら、そう言った願いも一応は可能だと思うよ」
翔一「えっ!?」
キュゥべえ「ただし、その場合は契約した瞬間願いが成就されることはないだろうね。もしくは、何らかの形で修正が加えられる可能性もある」
翔一「というと?」
キュゥべえ「実際のところ、僕もそこまでスケールの大きな願いは今まで叶えたことがないから正直わからないんだよ。僕にだって契約する相手を選ぶ権利はあるしね」
翔一「あ、あぁ~……。そ、そうだよね。そりゃあ君だって、無関係な人を巻き込みたくはないもんね」
キュゥべえ「そういうこと。第一、そんな誰から見ても邪な願いを持った子と契約するなんて、僕からも願い下げだよ」
ほむら「どうだか……」
そう呟くと、今までその場を全く動かなかったほむらがまどかたちの方へと歩み寄る。
まどか「ほ、ほむらちゃん?」
ほむら「今のコイツと沢野翔一のやりとりで大体わかったでしょ? コイツは、ほんの一時期のみの幸福と引き換えに、契約者の全てを奪い去る。言ってしまえばドラッグの密売人と何の変わりもない」
キュゥべえ「そういう言い方はないんじゃないかな、暁美ほむら? 君だって魔法少女である以上、魔女と戦う使命を負ってまで叶えたい願いがその時はあったんだろう?」
翔一「確かに、言われてみたら……。一体どんな願いを叶えて暁美さんは魔法少女になったんです?」
ほむら「…………」
翔一「……あれ?」
ほむらは何も答えず、ただその場で黙りこくってしまった。
キュゥべえ「……まぁ、いいや。マミ、悪いけどここから先は君から説明してあげてもらえるかい? 僕がこれ以上話すと説明もろくに出来そうにないしね」
マミ「えっ? ……あ。そ、そうね。じゃ、じゃあ、魔女について私が知っている限り説明するわね?」
さやか「は、はい。お願いします」
マミ「魔女というのは、簡潔に言ってしまえば魔法少女とは対局に位置する存在よ。魔法少女が希望を振りまく存在だとすれば、魔女は絶望を撒き散らす存在ってところね」
まどか「絶望を撒き散らす……?」
マミ「よく、ニュースとかで原因不明の事故や自殺が報道される時があるでしょ? ああいう類の事件の裏には、高い確率で魔女が関わっているの」
さやか「嘘っ!?」
マミ「信じられないでしょうけど、事実よ。さっき、キュゥべえは魔女は『呪いから生まれた存在』だって言っていたでしょ?」
まどか「はい」
マミ「その『呪い』というのは不安や猜疑心、過剰な怒りや憎しみといった負の感情のことなの。要は、魔女はそんな負の感情の塊で、そんな災いの種を世界にもたらしているってわけ」
まどか「私たちの知らないところで、そんなことが起きていたなんて……」
さやか「でも、そんなヤバい奴らがいるのに、なんで誰も気づかないんですか? 勘の良い人なら何かしら気づくんじゃ……?」
ほむら「無理よ」
さやか「えっ?」
さやかのその質問には、気づけば先ほどと同じ場所に戻っていたほむらが答えた。
ほむら「普段魔女は自身の巣である結界の最深部に隠れ潜んでいる。だから、いくら勘が良かろうと悪かろうと、人間がその姿を捉えることなんてまず不可能よ」
まどか「結界?」
さやか「……もしかして、ショッピングモールの地下であたしたちが迷い込んじゃった、あの気持ち悪い空間のこと?」
マミ「そう。結界の中は迷路みたいになっているし、あなたたちも見たと思うけど、魔女の手下である使い魔がうようよいる……。だから、あれに迷いこんでしまった人間は普通は生きて出ることは……」
まどか「じゃあ、私たちは運が良かったんですね……」
さやか「……なぁ、転校生」
ほむら「……何?」
さやか「そういえば、アンタにはまだお礼を言ってなかった……よね?」
まどか「!? そ、そうだった……!」
さやかの言葉にはっとしたまどかも、体ごとほむらの方へ視界を向ける。
さやか「最終的にあの使い魔とかいう化け物たちをやっつけてくれたのはマミさんだけど、思えば最初にあたしたちを助けてくれたのはアンタだった……。だから、その……ありがと……」
まどか「ありがとう、ほむらちゃん」
感謝の言葉と共にほむらに頭を下げるまどかとさやか。
それに対してほむらは――
ほむら「――別に、あなたたちが気にすることじゃないわ」
と、さらりとそう答えただけで、2人の方に一瞥すらしなかった。
まどか「……でも、考えてみたら、マミさんもほむらちゃんは今までそんな恐ろしいなものと誰も知らないところで戦っていたってことですよね?」
マミ「そうね、命がけよ。常に死と隣り合わせの世界だもの」
翔一「暁美さん」
ほむら「何?」
翔一「……暁美さんほどの子でも、やっぱり魔女と戦うことを今でも怖いと思う?」
ほむら「…………」
翔一「…………」
ほむら「……ない、と言い切ることは出来ない……」
まどか「ほむらちゃん……」
マミ「鹿目さん、美樹さん」
まどか「は、はい」
さやか「何でしょう?」
マミ「これだけは覚えておいて。キュゥべえと契約すれば、どのような願いでも叶えるチャンスがある。……だけど、それによって与えられる見返りは想像するよりも遥かに大きなものよ」
まどか「…………」
さやか「…………」
マミ「だから、もし契約するのなら、叶えたい願いが本当に見返りに足るものなのかじっくりと考えた方がいいわ」
私はそれを考える余裕もなかったから――と、呟くように最後に付け加えると、マミはソウルジェムを指輪の形に戻した。
ほむら「……代償を考えるなら、契約しない選択を選ぶ方が遥かに良いと私は言い切るけどね」
翔一「暁美さん……」
マミ「……さて、じゃあ今度は私たち魔法少女について説明しましょうか」
一度紅茶に口をつけた後、重くなってしまった場の空気を変えようと、マミが再び口を開いた。
マミ「さっきも言ったけど、魔法少女が魔法を使うために必要な魔力はソウルジェムを源としているわ。だけど、そのソウルジェムから生み出される魔力にも当然限りはある」
翔一「使い続けていれば、いずれ無くなってしまうってことですね?」
マミ「そうね。魔力が枯渇してくると、ソウルジェムにどんどん濁りが生ずるの」
まどか「濁り……ですか?」
マミ「えぇ。おまけに、この濁りを取り除く――つまりは魔力を回復させるのがまたちょっと厄介でね。あるものが必要になってくるの」
さやか「あるもの?」
マミ「それがコレ」
そう言いながら、マミはポケットから手のひらサイズの黒い『何か』を取り出した。
翔一(あれ? 確かあれって……)
さやか「何ですそれ? 見た感じ黒いソウルジェムにも見えますけど……」
マミ「確かに見た感じ似ているけど、実際は違うわ。これはグリーフシード。魔女の卵よ」
まどか「えっ!?」
さやか「ま、魔女の卵!?」
ほむら「…………」
そう。マミが取り出したのは、昨日病院の外で発生した魔女の結界でマミとアギトが協力して魔女を倒した際に、マミが手に入れたグリーフシードだった。
マミ「あぁ、大丈夫。今のところはまだ大丈夫よ」
翔一「今は大丈夫って……それって、やっぱりいずれは大変なことになるってことじゃ……」
キュゥべえ「だからこそ僕がいるのさ」
翔一「うわっ!? び、びっくりした~……。急に視界の中に飛び込んで来ないでよ」
キュゥべえ「ゴメンゴメン。でも、これはさすがに僕がやって説明しないといけないことだからね」
さやか「は? それってどういう……」
キュゥべえ「マミ」
マミ「えぇ、お願いね?」
そう言うと、マミは持っていたグリーフシードをキュゥべえの長い尻尾の先端部へとそっと置いた。
グリーフシードを受け取ったことを確認したキュゥべえは、今度はそれを自身の頭の上へと移動させ、2、3度転がしてバランスをとると、最後に背中の方へとポンとそれを放り――
――突然開いた背中の模様部分から、グリーフシードを体内へ飲み込んでしまった。
模様部が開いたのはほんの一瞬だったため、中がどのようになっていたかはその場にいた誰の目にもわからなかったが、飲み込むと同時に、キュゥべえの模様部分がカッと発光した。
キュゥべえ「きゅっぷぃ」
やがて、背中の発光が収まると、キュゥべえは軽くげっぷをした。
まどか「…………」
さやか「…………」
翔一「…………」
キュゥべえ「これでもう安全だよ。……? 君たち、どうかしたのかい?」
さやか「た、食べちゃったの……?」
キュゥべえ「これもまた僕の役目のひとつだからね」
まどか「そ、そんなもの食べちゃって、お腹とかは本当に大丈夫なの?」
キュゥべえ「うん。全然問題ないよ」
マミ「ま、まぁ、最初見た時は誰だって驚くでしょうね。私もそうだったもの……」
ほむら「…………」
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