【とらドラ】 大河 「誰もが欲しがるそれは、優しくて、とても甘いだけじゃない」 (286)


立つかな

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1380139297


最後まで書き溜めていないので、ちびちびやっていけたらと思います。

読んで下さる方も、気長にお付き合いして頂ければ幸いです。

では、投下していきます。


昨日は高校の卒業パーティーだ2次会だと騒ぎに騒いだ。

大河は『転校してしまったから』と遠慮してしまったため、俺は大河を置いて3年のクラスでの打ち上げに参加した。

俺だって本当は嫌だったし、大河と一緒にいたかった。

けど、クラスも学校も違う大河を無理矢理連れて行っても、大河も、クラスの連中も気まずくなるからそこはぐっと我慢した。

そして1日明けて今日。待ちに待った大河との時間だ。


よくよく考えれば俺と大河は気持ちを通じ合わせてすぐに離れ離れになってしまった。

そりゃメールや電話で連絡は取り合っていたが、そこは遠距離。

どうしても埋められない溝がそこにはあった。


けど今はそうじゃない。


話しかければ肉声が帰って来、
向日葵のような大輪の笑顔を間近で見ることができ、
触れようと思えば触れられる距離にいる。


そう、俺達はまた傍にいることができるようになった。
しかもそれは『恋人同士』としてだ。

今までできなかったデートや甘々トーク、他にも「はいアーン」やハグやキス、その他諸々が目の前に…!!


「ねえ、それ取って」


しかし妄想はそこで強制終了。割って入ったのは大河のダルそうな声。
大河は今、高須家の居間で昼食中だ。


「は?それって何だよ」

「全く…1年経っても駄犬なままね。それ……醤油よ」


顎で指すな顎で。


「ほらよ」

「ん」





ええええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーー!!!!!????



何だこれは!!?

これじゃ、まるで倦怠期の夫婦みたいじゃねえか!!

甘々トークは?「はいアーン」は?

全部すっ飛ばして倦怠期かよ!!



「た、大河さーん。なにかご立腹ですか?」

「モグモグ……別に」


そう言って昼食に没頭する彼女……

あれ?俺達って付き合ってるよな?違ったっけ?

いやいや、大河が引っ越してからも連絡は密にとってたし……でもそれは友達同士でもするか。


いやいや、でもキ……キスだってしたし。好きだって言われたし、俺も言ったし……


間違いない。俺達は付き合ってるはずだ。




「な、なあ大河。俺達って付き合ってるよな」

「ぶはっ!!!!」

「きったねえ!!!!卵焼きの毒霧とか何の恨みがあんだよ!!」

「あ、あ、あああ、あんたがいきなりハレンチなこと言うからでしょ!」

「は?破廉恥?何がだよ」

「……つ、つつつ、付き合ってるって」


はあ?そんなことが破廉恥なのかよ。こいつの感性はよくわからんな。


「はいはい、それで俺達は恋人であってるよな」

「し、知らない!!」

「なんでだよ!!」




「そんなことより早く食べないと遅れちゃうでしょ!!」


「そんなこと!?そんなことってなんだよ!」


「もう知らない!!」



そう言って会話は終わったとばかりに食事に戻る大河。


皿の上にあったおかずが次々となくなってく。俺も早く食べないと白米だけになっちまうな。



はあ、俺の春はいつ来るんだろうか……




―――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――――――



「………………………………」

「………………………………」


く、空気が重い……


あの後も大河は口を利いてくれず、今も二人黙って待ち合わせ場所へと向かってる。

傍からみたら徒競走をしている二人にでも見える事だろう。


はあ……何が大河の逆鱗に触れたのやら。こいつは怒りっぽいから何が原因かなんか分かりそうもない。



「ぉーーーい!」

「お?この声……」


俺が言いたいことを言い終わる前に大河が駆け出した。

まったく、どんだけ好きなんだよ。妬けちまうな。




「おーーーい!! たーいがーーー!!」

「みんの………りーーーーん!!!」


大河が櫛枝に抱き付く。いや、あれはそんな生易しいものじゃないな。
アメフト部も真っ青な見事なタックルだ。


「よーしよしよし。今日も元気があってよろしい!」

「うん!みのりんも元気そうだね」


「あたぼうよ!元気だけが取り柄なみのりちゃんだぜ。しかも今日は大河と遊ぶんだからなおさら元気さ!」

「よかった、今日は一杯遊ぼうね!」

「おうよ!」


久しぶりの再会を喜ぶ二人。昨日はちょっと喋っただけで櫛枝もクラスの方に顔を出してたからな。



「よ」

大河に少し遅れて俺も櫛枝に挨拶をする。


「お、高須君もおはよ」

「おはよ、っつうか今は昼だけどな」

「ちっちっち~業界人は昼も夜も挨拶は『おはよう』なんだぜ~? 覚えときな」

「どこの業界だ」

「ふ、それは秘密だ」


相変わらず変で掴みどころがない奴だな。


「それより他の奴らはまだか?」

「私は1時にここ到着しました。そして高須君は私より5分遅れてやってきました。
 大河は高須君より1分早く来ました。

 さて!他の人はいつ来るでしょうか!!」


「知らねえよ。
 なんで算数の問題みたいなんだ。しかもあとの二人はそれだけじゃいつ来るか分かんねえよ」

「ふ、さすがだぜ高須君。正解は『後の二人はいつ来るかわかりません』だー!」

「そうか、じゃあちょっと待ってるか痛たたたた!!」


大河が俺の足先をヒールでぐりぐりと押しつぶす。




「痛い!痛いっつうの!!おい!なんだよ大河!」

「ふん!」


そっぽを向いて怒ってますのポーズ。なんなんだよ一体……


「あらら~~大河に怒られちゃったね。これはちょっと自重しないと」

「ちょ!みのりん!!!」

「自重?」


俺が首を傾げて櫛枝の言葉の意味を探る……


「おーーい!すまーん、遅れてしまったみたいだな」

前に待ち人来る、だな。



「逢坂、久しぶりだな」

「うん、北村君。けど挨拶は昨日もしたよ?」

「おっと、そうだったな」

「タイガー、あんたちょっと背伸びたんじゃない?」

「これっぽっちも伸びちゃいないわよバカチー」

「あー、じゃあ大きく見えたのは横幅が大きくなったせいかな~」

「ぐっ!!!!」


大河が胸に両手を重ねる。心当たりがあるのか。




「そういうバカチーだってちょっと太ってんじゃない!」

「太ってないわよ!これは胸が大きくなったの!!」


なに!!?っとと、そうじゃなくて…
こんな往来激しいところでそんなこと言うなよな。


「まあまあお二人さん。ともにダイエットを心掛ける者同士、仲良くやっていこうじゃあ~りませんか」


ここで櫛枝の謎の仲介が始まった。どうやら喧嘩にまではならなさそうだな。

と言うわけで余った者同士仲良くやるか。


「それより、お前が遅れるなんて珍しいな」

「すまんな、亜美の用意に手間取ってしまってな」

「あーあいつなら化粧だなんだで1時間くらいかかりそうだしな」

「そういうわけだ。立ち話もなんだしそろそろ行くか」

「おう。  おーーい、皆揃ったし移動するぞー」


姦しい奴らに移動することを伝え、ぞろぞろと目的地へ。



眠くなってきたし、キリもいいから今日はここまで。

またよろしくおねがいします。

では、



次回乞御期待


レスありがとうございます。

それでは、今日も中途半端な時間ですが時間が空いたので投下してみます。


やって来たのは


「うわーーー!ジョニーズ!!すっごい久しぶり!!」


そう言って大河が周りをキョロキョロと見回す。
大丈夫だよ、内装から設備まで何一つ変わってねえよ。


「いらっしゃいませ~5名様ですか?」

「はい」


北村が応える。


「ではこちらの席へどうぞ」

店員に案内され、ドリンクバイキングと昼メシ(北村と川嶋の分)やデザート(ダイエット戦士2人分)を頼んで、いざ待望の再開。


「それより大河、本当に久しぶりだね!」

「そうだねみのりん!!」


大河は2年の最後の冬に母親の下に行ってから俺達とは会っていなかった。だから1年ぶりの再会だ。
勿論、それぞれメールや電話はしてたんだろうけど。


「それより大河、こっちに急に帰ってきたからみのりんはびっくりしちゃったぜ!」

「本当?皆をビックリさせたかったから内緒にしてたんだ! 成功してよかった」


俺も帰って来るとは一言も聞いてなかった。だから当然、昨日はびっくりした。


「チビトラはいつまでこっちにいんの?」

「しばらくずっとよ」

「やったね!」「ふ~ん、そうなんだ」「ほう、そうなのか」「本当か!?大河!」

「竜児にも内緒だったけど、大学はこっちなの。だから親元を離れて4年間はこっちで一人暮らしなの」

「一人暮らしって……お前大丈夫なのか?」

「大丈夫よ」


やけに自信満々だな。この1年で母親に仕込まれたのか?



「竜児の家まで歩いて3分の距離だから」

「って俺頼みかよ!!って3分!?」

「そ、前のマンションはやっぱり住みたくないし、そうなったら空いてるマンションでいい感じなのがそこしかなかったのよ」

「そっか。んでお前はどこの大学に行くんだよ。俺にまで内緒にしやがって」

「××女子大。だって言ったら絶対下宿ってばれるじゃん」

「××女子大!?お前がか!?」

「何よ!駄犬のくせにご主人様に文句言うの!?」

「いや、文句はねえけどよ……」


××女子大って言ったらそれなりのお嬢様学校じゃねえか。

そういや、こいつって成績はそんなに悪くなかったんだったな。



「私よりも皆はどうすんの?みのりんは体育大だよね」

「おうともさ!推薦入試で夢の体育大ゲットだぜ!」

「そっか、よかったね。みのりん」

「うん!」


そう、櫛枝は体育大に行くことになった。これでソフトボール日本代表にも1歩近づいたってところか。


「バカチーは?」

「△△大学よ。この時代モデルだ女優だっつっても先立つものがなきゃね~」


あいかわらず堅実だな。


「バカチーはモデルは続けんの?」

「一応そのつもりよ」


「そっか、んで北村君はアメリカ留学だよね?」

「ああ、そうだぞ」

「そっか。頑張ってね」

「ああ、ありがとう逢坂」


「頑張ってね」か。多分、狩野先輩のことを言ってんだろうな。

好かれ、好いた者同士で恋愛の応援ってのも変な感じがするな。




「そんで、あんたはイッチョマエに国立よね?」

「一丁前とはなんだ」

「ま、おめでと。前にも言ったけど直接言うのは初めてだし」

「お、おう…」


やっぱり面と向かって言われるのは嬉しいもんだな。


「じゃあこれからもみのりんとバカチーには会えるんだ。北村君とは離れちゃうけど」

「ああ、だが長期休暇には日本に帰って来るぞ」

「そういうことだよ明智君」

「タイガーは私に会いたいの~?」

「一応ね、じゃないと川嶋さんが寂しがっちゃうし~?」

「誰が!!それはあんたの方じゃない!毎週毎週金曜日は夜中3時までメールして!」

「そ、そそそ…それはあんたが律儀に返信するからじゃない!!」

「あんたが電話は嫌って言ったからじゃん!」

「バカチーだって電話よりメールの方が話しやすいって言ってたでしょ!」

「はいはい、お前らが仲いいのはもう分かったから喧嘩はやめろよな」

「黙れ駄犬!!」「高須君は引っ込んでて!!」


「え~…………」


これはあんまりじゃね?




「けどそっか、皆それぞれ頑張ってるんだね」

大河の一言に皆が顔を見合わせる。

北村は狩野先輩のことと自分の将来を考えてアメリカ留学。

川嶋はモデル業を続けながら通える私立大学へ。

櫛枝は夢であるソフトボール日本代表のために体育大に。

そして俺は自分の可能性を広げるために国立へ。

確かに、それぞれが自分の将来を見据えて頑張っている。



けどな、大河。一番頑張ったのはお前だよ。

「それより逢坂、あっちでの生活はどうだったんだ?」

北村が大河に尋ねる。

「え?うーんとね……」



大河の話によると、母親の下に戻った大河は思うほど壁にはぶち当たらなかったそうだ。

母親の再婚相手は理解のある人で、元々大河がいることを想定して母親と交際していたから同棲も問題なかったらしい。
というか、母親も前々から大河を引き取るつもりだったらしい。


そりゃあんな親父には預けてらんねえよな。

と、いうわけで大河は予想していたよりもすんなりと新しい家族に馴染み、新しい生活をスタートさせたとのことだった。

新しい父親ともそれなりの距離感をもって関係を築けてるらしい。
それに、元々母親とは仲がよかったからな。
大河が母親の下に戻って来たから喧嘩する理由もなくなったらしい。

それに新しく生まれた赤ちゃんが家族に一体感を与えたんだそうだ。
やっぱり子はかすがいなんだな。

それで、なんとなくうまい感じにやってた大河だが、こっちの大学を受けることにした。

まあ、大河が住んでた場所には大学なんて国立くらいしかないからな。
それに、俺と一緒にいたいって理由もあったんじゃないか?大河はそう言わなかったけど……

それで、母親とはちょっと喧嘩になったけど、ちゃんと話合ったら了解を得られたとのことだった。

ま、何はともあれ大河も上手いことやっているみたいだ。




そんなこんなで皆の近況を報告し合っていると、いつの間にか日が傾いていた。

「おっと、そろそろ時間だな」

北村が腕時計を見ながらつぶやく。


「祐作、次はどこに行くの?」

「場所は春田がとるらしいんだが……お、メールが来てるな。…ふむ、駅前の自木屋らしいぞ」

「自木屋って、居酒屋じゃねえか」

「そうだな、まあ酒を飲まなければ問題ないだろう」


この後は2-Cの同窓会だ。昨日、いきなり大河が帰ってきたから急遽設定されたのだ。


「じゃあとりあえず行きましょうか」


川嶋の言葉に頷き皆が席を立つ。




5人固まってぞろぞろと駅前まで。するとテナントビルの前に春田と能登が立っていた。


「タイガー久しぶり!」

「タイガー久しぶり~。遅いよたかっちゃ~ん、寒くて俺死ぬかと思った~」

「え、あ……………誰だっけ」


大河が戸惑った顔を見せる。


「俺だよ!能登だよ!」

「ひどくな~い!?1年で忘れるとかどんだけ薄情なのさ~」

「ぷっ。嘘よ嘘、ちゃんと覚えてるわよ」


大河が一転、親しげな笑顔を見せる。


「よかった~俺のこと忘れたのかと思ったじゃ~ん」

「それより、もうほとんど集まってるからタイガー達も上がっててよ。
 俺と春田は他の奴らが迷わないようにここで待ってるからさ」


春田と能登の気遣いを受けていざ自木屋へ。




店内に入ると奥の貸切席は2-Cの面々が占領していた。
ってかクラスの奴ほとんど来てるんじゃねえのか?これ。

さっそく大河達女性陣は木原や香椎とおしゃべりに興じていた。

俺はその様子をボーと見ていた。

1年経っても仲良しなまんまだよな、あいつら。

それに引き替え、俺と大河は1年経っても変化なし。

というより友達に戻っちまったみたいでマイナスの方に変化してるよな。

はあ、メールや電話だと結構いい感じだったのに………

そんな他愛もないことを考えている間も次々と元クラスメートがやってきて、最後に能登と春田が戻って来た。

今日、用事があって来られないのが数人。それ以外は参加しているらしい。
大河は無茶苦茶やってたくせにみんなに愛されてたんだな。




「ちょっとやだ高須君、なに涙ぐんでんのよ」


知らぬ間に川嶋が俺の隣に座っていた。


「な、涙ぐんでなんてねえよ」

「どうせ『大河のためにこんなに集まってくれて嬉しい~』とか思ってたんでしょ」


ぐ、あいかわらず鋭い奴だ。


「んじゃ全員そろったことだし~北村大先生、乾杯の音頭をよろしく~」

「幹事はお前と能登だっただろ、俺じゃなくてお前らの方がいいんじゃないのか?」

「いいのいいの」

「そそ、俺達のイインチョは北村大先生なんだしさ~」

「そっか。ならすまんが俺がやらせてもらうな」


そういって北村が立ち上がる。




「え~皆さん。昨日卒業式で会ったばかりで変ですが、今日は早くも同窓会です。
 何と今日は皆さんもご存じの通り、手乗りタイガーこと逢坂が参加しています。
 逢坂は大学がこっちだと言うことで、また皆で集まれる機会があるかと思います」
 

そう言ってるお前がアメリカに行っちまうじゃねえか。


「それでは、高校3年間で一番楽しく、かつ濃かった2-Cの再会を喜ぶとともに、これからの皆の発展を祈って……かんぱーーーい!!!」



             「「「「「かんぱーーい!!」」」」」


あちらこちらでコップがぶつかる音が響く。

俺も席が近い奴らと乾杯をする。

気が付くと、右には川嶋、左には櫛枝が座っており、その更に左には大河がいる。

対面には右から春田、能登、木原、香椎。

そして上座に北村。

1つのテーブルをこの9人で占領していた。
これって修学旅行の時の班じゃねえか。

ま、この面子でつるんでるのが多かったしな。
当然と言えば当然か。




「たかっちゃん、いいな~亜美ちゃんのとなり~俺と変わってよ~」

「え?別にいいけどよ」

「え~?私せっかく高須君の隣に座ったのにどっか行っちゃうの~?」


く!この小悪魔め!そんな顔されたら俺が悪役みたいじゃねえか。


「……すまん春田」

「え~たかっちゃんずり~よ~」

「高須君は相変わらず優しいね~」


川嶋が俺の顔をツンツンする。


「おい、やめろよ」

ドン!!

音が鳴った方を見ると大河が箸で唐揚げを突き刺してた。


「おい大河、行儀が悪いぞ」

「うっさい駄犬!!!食事中に発情する奴に行儀のことなんて言われたくないわよ!」

「な!?そんなことしてねえだろ!」

「まあまあお二人さん。喧嘩はそこまでにしておきなはれ~」


俺と大河の間に挟まれてる櫛枝が窘める。



「そだ大河。席、代わってあげようか?」

「え?いいよみのりん。別にこの席で」

「そんなこと言わずにさ」

「発情犬の隣で食事とか絶対にイヤ。それより北村君と喋るからこの席でいい。
 ねえ北村君」

「お?なんだ逢坂」


大河はこちらに背を向けて北村と話し始めた。

ま、まあ北村ももうすぐしたら日本を発つからな。

しばらく会えなくなる前に話したいこともあるのだろう。

我慢だ我慢。



すると右腕をちょいちょいと川嶋が突く。


「ねえ高須君、それ取ってよ」

「お?どれだ?」

「その出汁巻たまご」

「おう、いいぞ……ほら」

「ありがと」


く!この笑顔に騙されてはいけないぞ高須竜二!


「それより高須君、タイガーとはどうなの?」

「どうなのって……」

「なんか、あんまりラブラブって感じでもないわよね」

「ゴホッ!ゴホゴホ!」

「ちょっと大丈夫?ほらお茶」

「ゴクゴクゴク…はあ、さんきゅー」

「実はタイガーと別れたとか?」


ドン!!!



中途半端だけど今日はここまでとします。

では


次回乞御期待



レスありがとうございます。

では今日も行ける所まで行ってみます。

よろしくお願いします



今度は大河が刺身を箸で突き刺していた。しかし大河は顔をこちらには向けずに北村おしゃべりしている。


「いや、別れてはいない、はずだ……」

「なにそれ?なんで自信なさげなの?」

「別れてない」

「そ。あ、このポテトサラダおいし~」


話がかみ合わん女だな。


「ね、高須君。タイガーと別れて私と付き合う?」

「は?」


何言ってんだこの女は。


「だって、私と高須君ってなんだかんだで相性いいじゃない?」

「は?おい、ちょっと待て…」

「私と付き合ったら退屈しないわよ?もちろん高須君には優しくするし」

「いや、そういうことじゃ」



ドン!!

音がした左を見ると大河が立ち上がっていた。机でも叩いたのか?


「ちょっとエロチワワ!!なに人の物にちょっかいかけてんのよ!!」

「え~?だって高須君は物じゃないじゃない? そ・れ・に、タイガーはなんだか高須君に飽きたみたいだし~?」


うっ!!

心臓が何かに貫かれた……


「あ、ああ飽きたとかなに勝手なこと言ってんのよ!」

「じゃあまだ飽きてないの?」

「そうよ!」

「そりゃそうよね~?だって『竜児は私のだ~!!』だもんね~?」

「ぐ!!いつまでも昔のことをぐちぐちと…!!」




「じゃあさ、離れないように見張ってなきゃだめだよ、大河。 高須君、誰かにとられちゃうよ」


川嶋の顔を見ると、いつものヘラヘラした笑顔の仮面をとって真剣な顔をしていた。


「……ふん、あんたに言われなくても飼い犬の面倒くらいしっかりみれるっつうの」

「ほらタイガー、こっちに来な。席代わってあげるからさ」

「……そんなに言うなら代わってあげるのもやぶさかじゃないわ」


そう言って川嶋がいた右隣に大河が座る。


「まったく、チビトラは素直じゃないんだから。 本当は『竜児~会いたかった~!』ブチューってしたいんじゃないの?」

「な!?この発情エロチワワ!そんなこと誰がするか!」

「はいはい、ちょっとは素直になりなさいよ」


そう言って川嶋は大河のいた櫛枝の左隣に座った。



「まったく、アーミンこそ素直じゃないですな~」

「な~に?実乃梨ちゃん」

「なんでもないですぜー」





「……………………………………」

「……………………………………」


気、気まずい……。
昼に家を出るときに喧嘩したから、二人っきりだと何となく話しかけづらい。


「た、大河。何かとってやろうか?」

「………焼き鳥」

「焼き鳥だな!ほれ」

「……ん」

「他にも何かいるか?」

「……いい」




何だよボソボソ喋って。

もしかして本当に俺に飽きたのか!?


「……ねえ」

「な、なんだ?」

「……あのね」


左手を膝の上でモジモジ、右手は焼き鳥の串をグルグル。

おいやめろ、タレが飛ぶ。


「昨日久しぶりに会ったから……なんていうか…慣れないって言うか」

「慣れない?」

「って言うか恥ずかしかったの!!!」

「うお!?でけえ声出すなよ」


って、え?恥ずかしかった?




「お前、恥ずかしがってたのか?」

「そうよ!悪い!?」

「いや、悪くはねえけどよ」

「だって恋人になって一緒にいる時間って短かったじゃない!
 だから、いざ戻ってきたらどんな顔してどんな会話したらいいのか分かんなくなっちゃって…」


あーそういうことか。

確かにな。
久しぶりに友達とかに会ったらなんつうか恥ずかしかったりぎこちなかったりするよな。

恋人でもそういうのはあるよな。
んで、不器用な大河はそこに躓いていた、というわけか。


「そういうことだったのかよ」

「……なんであんたは普通なのよ」

「は?普通じゃねえよ。俺だってドキドキバクバクしてるよ」





「………本当に?」

「ああ、お前と一緒にいられるんだ。舞い上がっちまってるよ」

「………そう」

「まあゆっくり慣れていけばいいだろ」

「うん」


気持ちは通じあってるんだ、焦ることはない。

何てったって俺達は遠距離を1年もやり過ごせたんだ。

ちょっとやそっとじゃ壊れない関係だ。

これからじっくりと、大河との関係を築いていけたらいい。


「これからもよろしくな、大河」

「……こっちこそ」



この後の同窓会は、俺達を温かく見守る視線に囲まれていたせいで居心地が悪かった。




―――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――――――


キリがいいので今日はここまでにします。

遅筆で本当に申し訳ありません。

では


次回乞御期待


>>ネタバレにはなりませんよ

この後は、ひたすら大河とペッドロペッドロいちゃつくだけです



「ちょっと竜児、ご飯まだなの?」

「ちょっと待て、今煮込んでる最中だから」

「もう待てない!」

「けど味がちゃんと入ってないぞ」

「いい!とりあえず今は味が入ってなくても胃袋に入れば」

「そうかよ」


同窓会から1週間。

俺達は1月近くある春休みを大学に夢を馳せながら、
はたまたやることが思いつかずに無為に過ごしていた。




その間に大河の新居を掃除したり、必要なものを買い足したり、段ボールに入った荷物を整理したりと…
あれ?大河の世話しかしてなくねえか?

まあ、そんなことをして過ごした。

「ねえ、この格好変じゃない?」

「ああ、いつも通り可愛いよ」

「か!かわ…!このエロ犬!!」

「なんで褒めただけでエロ扱いなんだよ」

「うるさい!
 てかこんだけ騒いでも寝不足のやっちゃんが怒って出てこないのってやっぱり違和感あるわね」

「俺はもう慣れたけどな」



泰子は今パートに出かけている。
俺が高3になってから「毘沙門天国」は辞めてしまった。
もう泰子も若くないし、そろそろ夜の仕事は体力的にもきついだろうし辞めさせた。

それができたのは祖父ちゃんのおかげだ。

あの人は何と今まで泰子と俺の生活費を貯めに貯めていたらしい。
泰子が所在不明で渡せなかったためそれが貯金されていた。

泰子は受け取るのを断ったが祖父ちゃんも頑として聞かなかった。
よって、泰子がパートで稼いでどうしても足が出る場合に頼ると言う形になった。

家族っていいもんだな。ずっと会わなかったのにこうやって思ってくれてて。

俺も早く泰子と祖父ちゃん祖母ちゃんに孝行しねえとな。

ま、そんなわけで金銭的な不安は少しは解消された。
そして、俺は国立だから学費免除を申請しようと考えている。
そのためにもとりあえずは学業に専念するのが第1の孝行だな。




「それで、今日はどこに行くの?」

おっと、話がそれてしまってたな。

そう、ここ1週間は大河の世話に終始していたが今日は違うぜ。

何と初デートだ。

「大河は行きてえ所とかねえのかよ」

「ん~急には思いつかない」

「急じゃねえだろ。前々から今日がデートだって言ってあっただろ」

「うるさいな。デートは男がエスコートするものよ」

「何を一丁前に、初めて付き合うくせに」

「うるさい!」




けどまあ、男なら惚れた女の一人や二人、エスコートできなきゃな。


「じゃあとりあえず今日は俺が決めたところでいいか?」

「わかったわよ、だから早くご飯をちょうだい。
 お腹が減って腹が立つわ」


「減ってんのか立ってんのかどっちだよ」



とりあえず、怒れるタイガーを鎮めるためにも食事にすっか。



―――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――――――



「それで、今どこに向かってんのよ」

「お?言っちゃってもいいのか?」

「何サプライズっぽくしてんのよ。
 あんたのことだからどうせ期待外れなんだし、先に言っといた方が傷は少ないわよ」


く、可愛くねえ!


「……そご○だよ」

「そ○う?大宮の?」

「そうだよ」

「そ○うで何買うのよ。あ、わかった。フライパンと鍋とか?あとは包丁とか…」

「なんで調理器具限定なんだよ」

「じゃあ北海道市とか」

「ちげえ、食べものから離れろ」




「あんたから料理とったら何が残るってのよ」



「……ペアリングだよ」

「ペアリング?ペア?」

「そうだよ!俺とお前のペアリングを買いに行くんだよ」

「………………………………」

「なんか言ってくれよ」

「知らない!!」

「なんだよそれ、ペアリングなんかいらなかったか?今まで離ればなれだったけど、これからまた一緒にやってくんだしさ。
 区切りとしてペアリングでも買おうかと思ったのに」


「いらないなんて言ってないでしょ!ほら、グズグズしてると日が暮れるわよ!」

「……まだ昼過ぎだけどな」



ずんずん歩いていく大河。


そういや俺達ってまだ手も繋いだことないんだよな。
キスはしたってのに…………

初デートだし、ここは一丁気合を入れて


「ちょっと竜児!置いていくわよ」

「お、おう」


大河の傍によって行き、その左手を……


「何ジロジロ見てんのよ」

「あ、いや……」




「なに?あんた手フェチだったの?変な趣味もってんのね」

「ちげえよ!」

「ま、趣味は人それぞれだしね。けど手をなめたりするのはいくら駄犬でも駄目だかんね」

「安心しろ、そんなことしねえよ」

「ほら、とっとと行くわよ」


俺を置いて進む大河。

あいつには手をつなぐと言う選択肢がないのか。




―――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――――――


とりあえずここまでにします


次回乞御期待


レスありがとうございます。

それでは、今日も眠くなるまでやってみたいと思います



「それで、そ○うに着いたけど、何階?あ、ティフ○ニーは2階だって」

「さらっとテ○ファニーをぶち込むな。俺の軍資金じゃ1個も買えねえよ」

「甲斐性ないわね」

「ほっとけ、お前ん家と違って金持ちじゃねえんだ。ちょぼちょぼやってたバイト如きじゃ手も足も出ねえよ」

「じゃあ何階に行くのよ」

「8階」


「8階……ってロ○トじゃない。なに?あんたパーティーグッズとかおもちゃの指輪を買うつもり?」

「ちげえよ、その中に The Ki○sってのが入ってんだけどよ。 それが値段も手頃で種類も豊富だから一旦そこを見ようと思ってよ」

「ふーん、よく知ってんのね。駄犬のくせに」

「犬じゃねえよ」




ふん、この会えない1年間に俺がどれだけお前とのデートをシュミレートしたと思ってんだ。

俺に死角はねえ。



大河と一緒にエレベーターで8階へ。


「えーと…………あった、竜児あっち」

「おう」


ちょこちょこと歩く大河の後ろをついていく。飼い犬根性が染みついてんのかね。



「いらっしゃいませ~」

華やかな店員さんが先制パンチ。

そういやこういう店に来るってことは俺と大河が恋人ってのが一目瞭然なわけで……

なんつうか恥ずかしいもんだな。

「本日は何をお探しでしょうか」

「………………………………」

大河はガン無視。いや、気持ちは分かるけどよ。あっちも人間なんだし気分悪くなんだろ。




「すいません、ちょっと色々見てるだけですのね」

「ひっ!!……そ、そうですか。でしたら何か御用が御座いましたらまたお声をかけて下さい」


早口で捲し立てて早々に離れていく店員さん。

ふ、こういう時にはこの面が便利だぜ……泣いてなんかないんだからな!?


「よくやった駄犬。よし、んじゃゆっくりと探しましょうか」


意図して追い払ったんじゃねえよ。


「ってかよ、俺ん中ではペアリングって勝手に思ってたけどよ。ペアの物って色々あんだな。大河はリングでよかったのか?」


「え?うん。とりあえずはそれでいいんじゃない?」

「そっか。んじゃまあペアリングってのは女が主役だからな。お前が気に入る物があるかとりあえず探すか」

「ん、わかった」




そう言ってショーウィンドウの中や棚に飾られたペアリングを眺めていく大河。

この中に大河が気に入るのがあればいいんだが……

大河がゆっくりと商品を眺めながら店内を一周。



「どうだ?大河、気に入った物はあったか?」

「ん………一応、一つだけ気になるのはあった」

「お?マジか。どれだ?」

「………これ」






大河が示したのは2つのリングが交差しているクロッシングスタイルの物だった。


女性のはピンクとシルバーのリングにジルコニアがあしらわれた物だ。
人形みたいに綺麗な大河にはぴったりだと思う。


んで、男物はブラックコーティングがされていて落ち着いた印象だ。

「お?いいんじゃないか?」

「……本当に?」

「ああ、これだったら付けたいって普通に思うよ」

「じゃあこれでいいの?」

「ああ、俺はこれでいいぞ」

「そっか、私もこれが欲しい」

素直な大河ってのも珍しいな。



「んじゃ店員さんに指のサイズ測ってもらうか……すいみせーん」

「っ!な、なんでございましょうか」

……ここまであからさまにビビられたら傷つく。

大河にそれとなく目線を送る。

「……はあ。あの、この指輪が欲しいんですけど、試着をしてみてもいいですか?」

「ええ、畏まりました。では、少し失礼して」

そういって店員さんは腰にぶら下げてた、銀のリングを束ねたチェーンを取り出した。
飾り気がないしサイズを測るためのものあろう。

大河のサイズを測り、俺のサイズも測ってもらう。

「彼女様のサイズは一番小さい5号になるかと思います。
これでも大きいのならサイズ直しが必要になりますが」

そう言って取り出された5号の指輪を大河がはめる。



「どうだ?」

「お?すっぽりはいっちゃった。なんか抜けちゃいそうで怖いんだけど」

「ちょっと失礼しますね」


そう言って店員さんが指輪と大河の手に触れて確認する。


「大丈夫ですよ。このくらいなら早々簡単には抜け落ちません。多分、慣れない違和感から抜けそうだと感じていらっしゃるんだと思います」


まあプロが言うんならそうなんだろ。


「私はこれでいい感じだけど、あんたは?」

「では彼氏様のはこちらになります」


俺に用意された指輪は大河のを見た後だとナットかと思うくらい無骨だった。

試に薬指に入れて見る……が、間接で止まってしまった。駄目だ、これ以上入んねえ。




「少し失礼しますね」


そう言って店員さんが指輪をクイクイと動かすと……見る見るうちに入ってしまった。


「男性の方は間接が一番太いですからね。こういう風にして頂ければ入りますので」


そうなのか、また知識が増えたな。


「それで、サイズの方はどうでしょうか。見た感じだと丁度だと思うのですが」


間接一番大きいせいか、どうしても少し余裕があってクルクル回ってしまう。けどこれ以上小さいと間接が入らんだろう。

一応試しにワンサイズ小さいのを試着したがやっぱり間接が無理だった。

ならこのサイズで問題ないだろう。間接で止まって落ちることもないし。



「俺もこのサイズで問題ありません」

「そうですか、ではこちらの指輪をお買い上げということでよろしかったでしょうか」

「はい、お願いします」

「では、お会計はあちらの方でいたします」


そう言って店員がレジの方へと歩いていく。




俺もそれに従って付いていこう……かと思ったら後ろから服をグイッと掴まれた。


「どうした大河。やっぱりあれじゃ嫌だったのか?」

「……そうじゃなくて」

「んじゃどうしたんだ?」

「その……あんたって甲斐性ないでしょ?」

いきなり失礼だな。


「まあテ○ファニー買ってやる甲斐性はねえけどよ」

「だ、だからね?あんたの分は私が買ってあげる」

「はあ?いいよ。これは俺からお前へのプレゼントなんだし」

「じゃああんたは自分の指輪を自分にプレゼントすんの?ゆりちゃんみたい」

「プレゼントってわけじゃねえけど……仕方ねえだろ、買わなきゃペアになんねえんだし」

「だから!あんたのは私が買ってあげる!もう決定だから!」

「あ、おい!」


言いたいことだけ言ってレジの方へと向かう大河。




「すいません、お会計を別々にしてください」

大河が店員に言う。

「畏まりました。では彼氏様の分と言うことでよろしかったでしょうか?」

「はい」

「では~円となります」

大河はクレジットカードで支払いを済ませた。
…俺がこの後に現金で支払うことを考えてくれよ。なんか大河の方が格好いいじゃん。

その後に俺も大河の分を支払い
ラッピングされた物を店員さんが女性用のを俺に、男性用のを大河に手渡してくれた。

「お買い上げ、ありがとうございましたー」

店員さんの挨拶を背にエレベーターの方に向かう。




「これどうする?今着けるか?」

「……うん」


顔を赤らめながら頷く大河。なんだ、可愛いじゃねえか。

けどドジっ子のこいつのことだ。
歩きながらやったらエレベーターの隙間にでも転がしかねん。

というわけで喫茶店で休憩をお茶を飲むために4階のティーサロンに。

俺はアップル、アプリコットなどのフルーツにバニラフレーバーを加えたイヴって言う紅茶と
モンブランを。

大河はストロベリーとバニラの香りがするテデアンジュって言う紅茶とタルトポワールを頼んだ。

そんで、紅茶とケーキが来るまでの間に大河の指輪を開けた。
それをそのまま渡そうかとすると


「指輪はめて」

と左手を突き出してきた。



なんか小っ恥ずかしいな。

大河の左手を取り指輪を……

あれ?大河の手に触れてんじゃん。

でも手をつないだわけじゃねえし、まだミッションは達成されてねえな。

俺がはめてやった指輪を眺めて、だらしなくニヤニヤする大河。


「……おっとっと。んじゃあんたにもはめてはげるわよ」


そういうので俺もお返しに左手を突き出した。

さっきの店員のやり方を覚えていたのか大河は指輪をクイックイッと動かして器用にはめた。



俺も自分の薬指に見入る。

別に自分の手が綺麗だとか、指輪が似合ってるとか思わねえけどよ…

なんていうか、いいな。

大河の手にもジルコニアがキラキラと光る指輪が輝いていた。


「指輪、似合ってるぞ」

「……あ、ありがとう」


多分、俺は今世界で一番幸せなんだろう。誰が何と言おうとも。

指輪なんてなくても生きていけるし、装備したからって守備力が上がる訳でもねえ。
永遠の愛が約束されるわけでもない。

けど、確かに俺と大河が特別だと思えた。

ま、こんなもんは自己満足だろうけどさ。
いいじゃねえか、自己満足。




しばらくすると店員がケーキと紅茶を運んできてくれた。

紅茶を一口飲んで


「んで、俺の当初の目的は達成されちまったけどよ、何かしたいことはあるか?」


大河に聞いてみた。


「私はもういいかな。それにもう夕方じゃない。もうやっちゃんも帰って来る頃じゃない?」


そうだけどよ。折角の初デートなのに母親の帰宅のために帰るとか俺はマザコンか。


「今日は早く帰って竜児ん家で一緒に晩御飯にしよう?」


ま、それもいいか。泰子曰く家は3人と1羽の家族なんだし。

ということで、ゆっくりと紅茶とケーキを楽しんだら今日はデートは終了。




そご○を出て大河に聞く。


「今日何食いたい?」

「そうね…………肉か肉ね。もしくはミート」

「肉は分かってるよ。どんな肉料理がいいんだって話だよ」

「ん~じゃあ豚肉の天ぷらと茄子のはさみ揚げとチキン南蛮」

「3つもかよ。まあ両方とも家に材料があるし今日は買い出しはいいか。じゃあこのまま帰るか」

「じゃあほら、早く帰るわよ」


ぐい!

大河が俺の右手を掴んで歩き出す。




「超お腹減ったから早く帰ってご飯にするわよ!」

「するわよって……作るのは俺だろ」

「だから早く帰るのよ!」


こっちを見ない大河。ずんずんと駅の方へと歩いてく。

けど大河が振り返らなくてよかった。



こんな真っ赤な顔を大河に見られなくて済んだから。

けど、大河が振り返ったらそれはそれでよかったのに。

あいつの真っ赤になった顔が実は大好きだから。


手を握ったのがあいつからってのが俺達らしいと言えばらしい。




けど男からとか、そんなのは別にどうだっていいよな。

俺と大河の関係は世界に一つだけなんだから。
誰かと比べたり一緒じゃなきゃいけないなんてことないんだ。


俺達は一緒にゆっくりとでも進んでいければいい。

今日はペアリングを買った。

手も初めてつないだ。

デートも初めてした。

初めて尽くしな1日だった。

明日は何があるんだろう。

そう思うだけで今からワクワクが止まらない。



―――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――――――




今日はここまでです。


次回乞御期待


アニメだと肉体的にも結ばれてるらしいお

>>86

そういやバレンタインの日に手つないでましたね…

ミスっちまったorz

肉体的ってそうじゃなくて……

ヤったんだよ!


>>90
アニメだとキスどまりでは?

よって大河は処女です!!


手をつないでいたことを忘れていたので

「大河が帰ってきてから、まだ手もにぎってない」

って体で上の話を修正して読んでください。


落ち込んでいても仕方ないので、今日も再開します。



初デートの後、俺と大河は今まで会えなかった分を取り戻すかのようにデートを重ねた。


水族館にも行ったし、アウトレットモールとかで買い物をしたりもした。
他にも食べ歩きツアーを計画して美味しい物めぐりをしたり、観光地を巡ったりもした。


だが時間というのは無情であって春休みもとうとう終わりを告げた。


先週には大河の入学式があって、その次の日から大河は学力検査だ健康診断だと学校に通い始めていた。
そして昨日からは本格的にも授業が始まったそうだ。


大河はしらばす(しーらばす?しのばす?)を見ながらあれやこれやと悩んでいた。

俺はまだ大学に行ってなかったから大河が言ってることはよく分かんなかった。




そんな俺も今日が入学式。

別に行かなくてもいいが、やっぱりこういう節目には式にでて気を引き締めなきゃな。

というか泰子がどうしても行きたいとか言うからそのお守りなのだが。

はあ………

こういう時に自分の顔が憎らしい。

どうして俺はこんな人を怯えさせることに特化した顔つきで生まれてしまったのか。

今更悩んだところで変わらんが、どうしてもそう思ってしまう。

けど弱音ばっかり吐いてられねえ。大河も慣れない場所で頑張ってんだから。

俺も大河に見られても情けなくない程度には頑張らなきゃな。



―――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――――――




「ねえ、来週どうすんの?」

夕食も終わり、食器を洗ってると大河が居間から声をかけてきた。

「来襲?なんのだよ」

「ゴールデンウィーク」

「おっと、そういやそうだったな……お前は実家に帰らなくていいのかよ」

「お母さんが
 『旦那と赤ちゃんがいて新婚ほやほやで若返った気分だしあんたは帰って来なくていいわよー』
 だってさ」


「お、おう……それは…」


なんて言うか突っ込みづらい話だな。


「ったくあんたは心配性ね。大丈夫、これはお母さんなりのジョークなんだから」

「ほ。そっか」


どんだけブラックジョークなんだよ。大河相手に帰って来なくていいとか。
またいじけちまったらどうすんだよ。




「そんで、お前は帰るのか?」

「ん~確かに妹には会いたいけど、今回はいいかな。折角の長期休暇に疲れんのなんて嫌だし」


意外や意外、大河は妹をかなり愛してるらしい。


『めちゃくちゃかわいいでしょ!!!』
とか言ってよく写メやムービーを見せられる。


まだ1歳にもなってないから最近やっとお座りができるようになってきたらしい。


「そっか、じゃあお前はこっちにいるんだな」


洗い物も終わり大河の対面に座って茶を淹れてやる。


「そういうことよ」

「じゃあさ、せっかくだしデートすっか」

「……鼻の穴ふくらんで何かいやらしいしイヤ」

「ぐっ!!」


咄嗟に右手で顔を隠す。




「けどよ、ここんとこ禄にデートもしてなかったじゃねえか」


俺と大河は朝、夜は結構一緒にいるが、大学が違うせいかどうしても合わなかった。
休日は休日で慣れない大学生活の疲れを癒すのに一杯一杯だった。


けど1カ月もしてくると色んなことが分かってくる。

授業に出なくても単位は取ろうと思えばとれる。
講義ノートという裏技もある。


ま、俺は勉強自体好きだし授業にはちゃんと出てるけどな。

それにサークルやバイトも始めたせいで中々大河との時間を持てなかったし。


「まあどうしてもというのならデートしてあげないこともないわよ」


イラ!!



っとはもう来ない。
これも大河のテレ隠しだともう知っているから。




「ああ、どうしてもデートしたいんだよ。お前と」

「そ、そうなの……」


こうやって直球を投げると恥ずかしがってモジモジするのがまた可愛いんだよな。


「じゃ、じゃあなにしよっか」

「大河はしたいこととかあるのか?」

「ん~せっかくの休みだし……旅行とか?」

「お?旅行か。それはいいな」

「あんた金あんの?」

「まあ旅行に行くくらいなら何とか」

「バイトは?」

「空けてあるよ。どうなるか分かんなかったし」

「そう、じゃあ旅行にしよっか」

「おう」




「けどどこに行こっか」


確かに。GWって今から宿とか取れんのか?
それに、夏だったら海。冬だったらウィンタースポーツがあるけど……

5月って何すりゃいいんだ?


「行先もそうだけどよ、宿泊の予約もできるか分かんねえぞ」

「確かに。もうあと1週間しかないんだし。けど行先決めないと宿とれるか分かんないじゃない」

「そうだな。大河は行きたいとことかやりたいことあんのか?」

「私?う~ん…………あんたはなんかないの?」

「俺か?うーん……パッと思いつくのなら北海道で海の幸。温泉。ディズニー○ンド。古都京都の観光…くらいかな」

「ディ○ニーは却下。泊まるのもったいないじゃない」


確かに。家から電車で行けるからな。
ってか最近、大河は『もったいない』を覚えた。いいことだ。




「温泉も……別にいいかな」

「まあ別々に入ってたらせっかくの旅行なのに離れてる時間が多くなっちまうからな」

「うん。だからまた今度、一緒に入れるよう…」

「ん?」

「なんでもない!!!!」

「うお!?夜なのに大声出すなよ」

「ふん!」

「それで、北海道か京都か?」

「ん~~北海道って冬がいいんじゃないの?」

「そりゃスキーとかするならな。けどこの時期だって毛ガニやウニ、蛸とか甘海老は旬だぞ」

「そっか。でも食べてばっかも無理だし。それにこのご時世、物も流通してるし通販でも買えるし」

「恐るべし現代っ子」

「何よ!あんたも同い年でしょ」




「そっか、じゃあ京都にすっか?」

「……うん、いいかも。私、京都とか行ったことないし」

「よっし!なら京都の宿を探すぜ」


ノーパソを持ってきて宿の予約状況を確認……すると見事に空室なし。

どこもかしこも予約で一杯だ。


「ちょっと、どうすんのよこれ!」


大河が脇から俺の顔面に人差し指を突き刺す。


「俺に言われてもよ」

「ったく、もっと早くに気が付けばよかったじゃない」

「確かにそうだけどよ。俺もお前も大学で一杯一杯だったじゃねえか」

「あーーー聞きたくない!」


現実逃避してどうすんだよ。




「あ」

「? どうしたんだ?」

「あんたはここでしばらくステイしてなさい」



そう言って大河が立ち上がって家を出て行った。


なんだ?とりあえず、待てって言うのなら帰って来るんだろ。

それまでの間、俺はネットで空いてる部屋がないか悪あがきをしていた。

何個か覗いてみると空いてるには空いてるんだが……

設備が微妙だったり、市内になかったり……

京都ってやっぱり市内にいた方がいいのか?それとも市外でも観光には支障がないのか?

よく分からんな。

とりあえず、大河が戻ってきたら最悪どれがいいか決めてもらうか。




そうこうしていると大河が外から戻って来た。


「どうした?何してたんだ?コンビニか?」

「宿とれた」

「はあ!?」

「えっとね、お父さんの知り合いに旅行代理店をやってる人がいてね。 お父さんからその人に連絡してもらったら、口を聞いてくれるって」

「は?んでどこの旅館なんだよ」


大河が教えてくれた旅館を調べる……と、そこには豪勢な旅館の外観がHPのトップに。

恐る恐る宿泊料金を見ると……約2万8000円。

二人で、じゃない。一人でだ。



「無理!むりむり!2泊したらそれだけで終わっちまうよ!土産も何も買えねえよ」

「大丈夫。値段についても口を聞いてくれるって」


は?そんなことできんの?




「お父さんがお願いしたら、なんか8000円でいいってさ」


マジで?なにそれ?世の中そんなに不公平でいいのか?


「んで、どうする?ここでよかった?」

「ああ…いや。そこでお願いします」


俺は深々と大河に土下座した。


「やだ、なに土下座なんかしちゃってんのよ。じゃあお父さんにお願いしておくね」


人は生まれたときに人生が決まっちまうのかもな。

まあだが縋れるなら藁だって大河の義父だってなんだっていい。

学生で貧乏なんだし少しくらい大人の好意に甘えよう。
ちゃんと大河のご両親には感謝の品を送らなきゃな。


その後、大河と二人でどこに行くか、何をしたいか、何泊するか…色々と話し合った。

俺と大河と初めての旅行だ。

今から行くのが楽しみだ。



―――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――――――




今日はここまでです。


次回乞御期待

これはSSなんだから設定がちょっと違っても気にしない
期待してるから>>1はがんばって!

>>115

ありがとうございます。

私の豆腐メンタルが持ち堪えられるほど励みになりました。

他におられるか不明ですが読んで下さっている方には本当に感謝です。

まだまだゴールも見えてない状態ですが、今日も再開してみます




「うわー大根みたいねー」

「お前……大根って」

大河が何を見て『大根』なんて言ったと思う?





京都タワーだ。

京都のシンボルタワーに向かって大根って……

いや、まあ……確かにそう見えなくはないが。

現在時刻は1時前。

東京から京都まで2時間半もかからなかった。

世の中すげえな。




「ほら大河、いつまで突っ立ってても仕方ねえだろ。荷物預けに行くぞ」

「あ、うん。ちょっと待ってよ」

大河の左手を掴む。


ふ、どうだ。
俺だって手をつなぐことくらい朝飯前になるくらいには成長してるんだぜ?



大河と一緒にロッカーを探して荷物を預ける。


「じゃあとりあえず昼飯にすっか」

「うん」

元々行こうと決めていたお店へ大河と二人で歩いていく。




京都と言えば何だ?

京料理や京懐石がまず思い浮かぶ。あとは豆腐や湯葉、漬物も有名だ。

他にも和菓子や抹茶とかもあるな。

それで、俺達がまず行った所は……



「らっしゃい、お二人さん?」

「はい」

「じゃあこっちの席に座ってー」

長い行列を待って店内に入ると、そこには職人特有の厳しそうな面をした男性が数人。


「で、注文は?」



「ラーメン2つで」

「へい、ラーメン2丁!」

「「「へ~い!!!」」」

そう、ラーメンだ。




おい、なんでラーメンなんだとかの突っ込みはナシだぞ。

京都は知る人ぞ知る、ラーメン激戦区がある。まあ、京都駅周辺じゃないが。

これから数時間潰して旅館に行かなきゃなんないから京都駅から離れることもできない。

それで、京都駅周辺を探したところ、この店が俺と大河は妙に気になった。

なんとラーメン屋が2軒隣り合って建ってるんだ。しかも昔かららしい。
よく喧嘩とかにならなかったな。

それで、昔から京都の人に愛されてる京都ラーメンを食べようということになった。



出てきたのはシンプルな物だった。

豚骨醤油で、具はチャーシューにもやしにネギ。
他にはなにもない。

まずスープを飲む。
うむ。背脂チャッチャ系ではないが豚骨の出汁がしっかり出ているし、それと調和した醤油の味。
豚骨の臭みもなく、その良さを消さないように配分された味付け。
いいな、これは。

続いて麺。こちらは細めだ。
一口頬張る。……うん、この味にしっかり合っている。

味付けもシンプルで、具も普通。
奇をてらった所は何一つない。

だからこそ、本当の実力が試される1品だ。

なんて色々言葉にしたがそんなもんじゃ伝わらんだろうな。
ま、簡単に言うと『うまい』の一言だ。




気が付くと俺も大河も完食していた。

このうまさとボリュームで650円。

いいなあ京都の人は……これをこの値段で食えるのか。

食べ終わった俺と大河は再び京都駅へ。

京都駅には伊勢丹もあるし、地下にもショッピングモールがある。

正直、ここを回るだけで何日も費やしてしまいそうだ。

で、狙い撃ちをしないととてもじゃ回れないから俺と大河はここで「都○里」に行くことに。

このお店はどうやら有名らしくて、抹茶が楽しめるらしい。

やっと京都らしくなってきたな。

さっき食べたラーメンはどこへやら。

大河と二人、伊勢丹の6階まで行って都○里へ。


読んでいるよ
懐かしいわ
どのキャラも大好きだった



せっかくだからと言うことで、和菓子と抹茶がセットになっているものを2つ頼んだ。


「ってかよく考えたら、俺今まで抹茶とか飲んだことねえや。大河は?」

「私も」


そっか、二人とも抹茶初心者か。

さてさて、どんなものなんだろうか。

出てきたのは団子と薄茶と濃茶(と店員が言っていた)。

とりあえず、小さいお椀に入っている色が濃い方を飲んでみる。

「……どう?」

「ゴク、ゴク…………おう、うまいぞ。お前も飲んでみろよ」

「そう、なら……ゴク…ゴク」





「!!? っぶは!!」

「あはははは!」

「ちょ、ちょっとあんた!こ、こここれ!」

「ああ」

「な、なんて物飲ませんのよ!!」


そう、俺達が飲んだ濃茶。



すっげえ苦かった。

なんだこれ?お茶か?

確かにこの苦味は甘い和菓子と合うが……

わざわざすっげえ苦い物と、すっげえ甘い物とで相殺しなくてもいいじゃねえか。




せっかく頼んだんだから俺は濃茶を飲みきったが、どうやら大河はお口に合わなかったらしい。

続いて薄茶。これは濃茶に比べたら大分苦味も抑えられている。

空気が入ってて甘味が引き立てられているのが分かる。


「大河、こっちの薄茶は大分飲みやすいぞ」

「え~?また嘘じゃないでしょうね」

「嘘じゃねえよ、とりあえずちょっと飲んでみろよ」

「………、ゴク」

「どうだ?」

「……相対的に飲みやすい。ただそれだけね」


大河はこっちも駄目だったか。




大河は一応京都に来た思い出がほしいのだろうか。
お子様でも飲めそうな抹茶ミルクを頼む。


「うん、これは美味しいわ」


満足げに頷く大河。

一口貰ったけど確かにこっちの方がうまかった。

まだまだガキな俺達には抹茶は早かったようだ。

大河が残した抹茶は頑張って俺が飲んだ。

苦くて胃がイガイガしそうだ。




抹茶と和菓子を楽しんだ(?)後は、チェックインまで京都駅周辺をウロウロ。

京都タワーにもとりあえず上ってみた。京都の街並みを一望できたが、印象に残ったのは案外山が近いってことだ。
まあ盆地だから当然か。


他にも地下の方へと足を延ばしてみた。

地下には土産屋とか普通の店が入っていて、正直ここで京都の土産はそろっちまうかもな。

けど初日に土産を買うと面倒なので、とりあえずどんなのが手に入るか確認するだけにとどめる。

あっちこっちをウロチョロしてたら時間が結構過ぎていた。

チェックインの時間が迫っていたから大河と一緒に荷物を取り出し旅館へ向かう。

京都駅の近くにある旅館へとキャリーバッグをひいて目指す。

歩くこと5分、そこにはHPで見た豪勢な門が見えてきた。




「こ、ここか?」


思わず怖気付いちまう。


「そうみたい、じゃあ行きましょうか」


大河はいつも通りの様子で門を開いて中庭を進んでいく。

すげえな、あいつは。


「ちょ、大河!待ってくれよ」


俺も慌てて大河の後を追う。

綺麗に設えられた日本庭園には色とりどりの花、綺麗な池で泳ぐ高そうな錦鯉が優雅に泳いでいた。

気疲れで眩暈がしそうなのを我慢して進むと、こりゃまた豪勢な本館が見えてきて、恐らく檜でつくられたであろう、古く、大きな扉があった。

大河が躊躇なくその門をガラガラと開く。

俺も遅れて玄関に入る。




「ようこそ、おこしやす」


出てきたのは女将だろうか。
着物を着た、妙齢の女性がぺこりとお辞儀を一つ。


しかしそこには何の卑屈さもなく、ただただ相手に対する敬意のみが伝わってきた。


「今日、予約をしていた逢坂です」

「これは逢坂様、遠い所からよくお越しになられました。ではさっそく宿泊のご手続をさせていただきます」


そう言って女将さんにフロントへと案内してもらい、大河の名義で記名した。


「それでは、本日お泊りして頂くお部屋へと案内させていただきます」


女将さんの後を追って長い廊下を歩いていく。


「逢坂様が本日お泊りになれるのはこちらのお部屋です」


そう言って女将さんが部屋の扉を開けてくれる。




大河が入っていったので、俺もビビりながらではあるが部屋へと入っていく。



「うお!?」

「ちょっと、犬が蹴られたときみたいな声出さないでよね」

「蹴るってお前……」

「そんなことしたりしないわよ。例えばの話よ、例えばの」


部屋は特別広いとかそういうわけじゃない。

旅館で泊まる部屋としては一般的だろう。


12条ほどの居間と、寝室の計二部屋。

京都駅近くだから景色がいいとかってのはないけど先程通って来た中庭のように手入れされた庭が外に見える。

また、内装も明らかに……簡単にいうと金がかかってそうだ。

こんな純和風の部屋に、壁掛けの液晶テレビがあるのは違和感があるな。




「夕食は7時を予定しておりますが、よろしかったでしょうか?」


大河を見ると、無言でうなずいた。


「はい、それでお願いします」

「畏まりました。それではごゆっくりと御寛ぎになさって下さい」


そういって女将は扉を閉めて出て行った。


「……なんていうか、すげえな」

「まあ一応、老舗らしいし」


そういうものの大河はビビる様子もなく、早くも和座椅子に座ってテレビを点けていた。


「ねえ竜児、ちょとお茶淹れてくんない?」

「お茶って……電気ポットから急須に入れるだけじゃねえか」

「お茶の粉末の量が分からないの」

「はいはい」

まあ大河が入れたらさっきの濃茶よりも渋いのが出来上がりそうだからな。




付属の茶匙を摺り切り1杯急須に入れてお湯を注ぐ。

慣れた作業をしていたら少し落ち着いてきた。

茶を湯呑にいれて大河に出す。


「それで、まだ5時だけど今からどっか行くか?」

「もう今日はいいんじゃない?2時間で行ける所なんて限られてるし、それなりに土産物屋とか見たし。
 それよりお風呂に浸かってゆっくりしたいわ」

「そっか、ならこの後は風呂に入って晩飯までゆっくりするか」


俺も大河の隣に座って、ぼ~~っとテレビを見る。

するとポケットに入れていた携帯が震える。

携帯を取り出して確認……メールか。




「あんた今日、携帯が良く鳴るわね。やっちゃん?」

「いや……」

携帯をポチポチ操作して返信完了。

「んじゃ誰よ」

「サークルの奴だよ」

「……………ふ~ん」

「お茶を飲み終わったんなら風呂行こうぜ」

「……わかった」


一緒に部屋を出て大浴場へと向かう。

一応出る時間を大河と決めて、それぞれの浴場に入る。



中途半端ですが今日はここまでにします。


>>124 レスありがとうございます

他にも、読んでくださっている方ありがとうございます

ではまた

次回乞御期待


タカバシおいしいですよ。一番か二番目に好きなラーメン屋ですから是非

では再開します



脱衣所で服を脱いで、中に入ると様々な浴槽があった。

とりあえず、シャワーを浴びて近場にあった御影石の風呂にはいる。

そういやここってサウナや露天風呂もあったっけ。

露天風呂を覗くと人がいたので、とりあえずサウナへ。

適度に汗を流して、露天風呂に行くと先客はおらず独り占めだった。

岩風呂でここにも庭が用意されており、灯篭で灯りが灯されていて、なんとも幻想的な雰囲気だった。

露天風呂や内湯の檜風呂を楽しんでたら時間が迫っていたため慌てて身体を洗って外に出る。

待ち合わせ場所にしたロビーに大河はまだいなかったが、しばらくすると浴衣を着た大河が出てきた。




「ねえ竜児、コーヒー牛乳は?」

「そこで売ってるが……メシ前にあんな甘い物飲んで大丈夫かよ」

「別腹だから大丈夫よ」


何か使い方がおかしい気もするが大河に何言っても聞かないだろう。

それに俺もちょうど飲みたかったところだ。

風呂上りにはコーヒー牛乳。このルールには誰も逆らえまい。

売店でコーヒー牛乳を買って大河と一緒に部屋に戻る。


「あれ?あんたの携帯、また光ってるわよ」

「お?本当だ」


部屋に置いて行ってた携帯が着信を知らせている。

開いて見てみるとまたメールがきていた。


「またサークルの?」

「ああ、そうみたいだ」


適当に返信をして携帯を脇に置いておく。




大河と一緒に窓辺で涼みながらコーヒー牛乳を飲み、やることもなくテレビを見ていたら扉をノックする音がした。


「はーい」


返事をすると扉が開き、仲居さんが両手に食膳を持っていた。


「お待たせいたしました。夕食を御持ち致しました」


そう言って仲居さんがテキパキとテーブルに並べていき、お櫃も脇に置いていく。


「お櫃はお代わりが必要な場合にはお申し付けください。あ、それと…」


なんだ?


「この一品は成田様からのご紹介ということでしたので、お客様のみのサービスとなっております」


成田ってのは、大河の義父の名字じゃないな。ってことは口を聞いてくれた代理店の人か。


「あ、そうですか。それはありがとうございます」

「それでは、失礼します」


仲居さんが部屋を出ていった。



テーブルの上には所狭しと京都らしいお漬物や天ぷら、他にも刺身一人コンロ用の上に鍋が置いてある。

「おいしそうだな」

「そうね、じゃあ食べよっか」

さっそく大河と席に着く。

鍋を開けると中にはすき焼きが入っていた。
京都ですき焼き?まあいいか。お隣には但馬牛の県もあることだし。

さっそくお漬物から頂く。
茄子に白菜、きゅうりにみょうが。もちろん、千枚漬けもある。

一口ずつ食べたけど、どれも美味いな。特に茄子が上手い。

「こうお漬物ばっかりだとお酒が欲しくなるわね」

ご飯をガツガツ食いながら大河が言う。




「酒って……俺達まだ未成年だろ」

「大学生になったら未成年だろうとお酒くらい付き合いで飲むでしょ」


意外だな。大河のことだからてっきり下戸だと思っていた。

実はこう見えて酒豪なのか?


「んで、お前は飲めんのかよ」

「ふん、飲めるわよ」

「何飲むんだよ」

「カルーアミルク」


えええ!?

漬物にカルーア!?

それは合わねえだろ。




「カクテルばっかか?」

「そうね、ビールは苦いしチューハイもすぐ酔っちゃうし」


なんだ、やっぱり酒弱いんだな。
俺はニヤニヤしながら大河に聞いた。


「そんで、なんか飲むのか?カルーアミルクとかカシスオレンジとか」

「ばかにしないでちょうだい。甘いお酒だけじゃなくてグラスホッパーとか大人なカクテルだって飲むんだから」


グラスホッパー?グラスホッパーってバッタのことだろ?なんだそりゃ。


「けどあんた、酒は飲まないんでしょ?」

「ああ。別に酒、好きじゃねえし」

「そ、じゃあ私もいいや」


そういって再び漬物とご飯を掻きこんでいく大河。

お前にはそっちの方が似合ってるよ。



テーブルの上にあった料理も食べ終わり、仲居さんが食膳を下げてくれた後……


「暇ね~」


まだ8時過ぎだからな。寝るにはちょっと早い。


「どうする?お酒が飲みたいなら居酒屋か、ここのバーにでも行くか?」


ここの旅館にはなんと日本酒バーがある。


「ん~お酒って気分でもないかな。明日しんどかったら嫌だし」

「じゃあもう寝るか?」

「それは嫌。せっかく来たんだからもっと楽しみたいの」


かと言ってどうしたらいいものか。

俺達には足がない。そりゃ交通機関を使えば済む話だが……

今の時間にやってるのって何だ?



普通の店なら閉まってるだろう、特に土産物屋とかは。

なら、やってるのって居酒屋とかの飲食店か、他はカラオケとかのアミューズメントくらいしか思いつかねえ。

「バカね」

大河がやれやれといった様子で首を振る。

「なんだよ、せっかく人が考えてやってんのに」

「バカね、大バカ。私はあんたと旅行に来てんのよ」

いや、知ってるよ。だから何なんだ。




「つまり、何をするかじゃなくて、あんたといるってのがもう旅行として意味があんのよ」


ああ、なるほど。
それもそうだな。


「よし、じゃあぶらっと夜の京都を散歩してみっか」


思い立って立ち上がりそのまま部屋を


「ちょい待ち!財布ぐらい持ってきなさいよね。京都限定のポテチとかジュースがあるかも」

「へいへい」


大河と二人、財布だけを持って夜の京都へ。



手をつないでブラブラしてるだけでも十分楽しかった。



―――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――――――


キリがいいので今日はここまでです。

ssって難しい……なんか全部、蛇足に感じてしまう


では

次回乞御期待



第一旭、通称たかばしですね。

新福菜館は昔に比べて急に色も味も醤油辛くなったので…


乙です


>>152
レスありがとうございます

では再開します



朝7時。

携帯のアラームが鳴ってる、大河のが。

けど肝心の大河は起きねえ。


俺は6時半に目が覚めた。
けど大河は気持ちよさそうに寝ていたから、起こすのも悪いと思ってそっとしておいたが……

目覚ましをかけてるってことは7時に起きる予定だったんだろう。

「おい、大河。起きろよ」

大河の肩をゆする。


「ん゛~~あと3杯」

「ベタすぎんだよ、ってか3杯もなに食ってんだよ。ほれ起きろ」


布団を引っぺがして今度は体全体をゆする。


「ん~~……あれ?」

「おう、おはよ」

「うん……あれ?ここどこ?」


大河は未だ夢うつつだ。




「京都」

「きょうと?……きょうと、キョウト…あ」

「おう、旅行中だ」

「そっか……旅行だった」


まだ頭がふらふら泳いでるけど意識はしっかりしてきたようだな。

大河の手をひいて洗面台で顔を洗わせて朝食を待つ。

しばらくすると仲居さんが食膳を運んできてくれた。

朝は和風に焼じゃけや明太子、温泉卵、それにお漬物や海苔、それに味噌汁とご飯。

さっき起きたとは思えない俊敏さで次々と大河が食事を胃袋に流し込む。

今日も元気そうだな。

よし!俺も朝食ばっちり食って、京都2日目を楽しむか!


―――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――――――



京都旅行2日目の予定は南エリア。

さっきまで俺達は伏見稲荷に行っていた。

舐めてた…!

写真とかで千本鳥居とか見てるし、観光名所だからそんなに歩かねえと思ったけど……



あれは神社なんかじゃねえ。山だ。

千本鳥居は参道から歩いてって本殿を過ぎたらすぐにあったし、おもかる石もやってみた(当然重かった)。

けど全部は歩けなかった。
なんせ山一個が敷地で全部の社を見ようと思えば多分3時間くらい歩かねえと無理じゃねえかな。

つうわけで、大河もハイキングはいい、ということで千本鳥居とかを楽しんだ後はスズメの丸焼きなんかには目もくれず、早々に伏見稲荷を後にした。




んで、今は清水寺に向かってる。

伏見稲荷駅からお京阪に乗って清水五条駅に。
そのまま五条を東に進む。京都ってマジで碁盤の目になってんだな。
これだったら観光客もマップ一つで目的地までいけんな。

東山五条を脇に入り五条坂を上っていく。
すると松原通にぶつかる、そこを右に…って。

何か急に観光地らしくなった。

道路の両面にはお店がならび、観光客が狭い道路にひしめき合っている。


お茶屋から漬物屋、おたべとか和菓子もたくさん売ってる。あとはクレープとか甘いのも。
土産屋に……一味?京都って一味が有名なのか?もう2店舗くらい見たぞ。

まあなんだかんだ色々売ってる感じだ。




「大河、なんか見たい物あるか?」


ここでも俺達は手をつないでる。へ!うらやましいだろ!


「ん~~この後まだ動くし、持って帰るお土産とかは見るだけでいいかな。 あとはおいしそうな物でもあればそれ食べる」


そういうわけで、あっちこっちの店を冷かしては次の店に行き、
たまに観光客用のボッタクリ抹茶アイス食べたり、阿闍梨餅を食べたり(これはうまかった)して目的の清水寺に到着。


ってかここもなだらかな坂道が続いてて結構疲れた。

京都旅行って体力いるな。

さっそく拝観料を払って中へと進んでいく。

朱色の門を抜けて三重塔を脇に見ながら進んでいくと本堂に着いた。
伏見稲荷みたいに山1周とかじゃなくてよかった。


春なら桜、秋なら紅葉が綺麗らしいが、残念ながら今は5月。

青々とした葉が見えるだけだった。

けど、ここがあの「清水の舞台から飛び降りる」とかってやつか。

下を見たらたしかにゾワッとするような寒気がした。




「なんだ、大したことないじゃん」


大河が手すり越しに下を見ながら言う。


「大したことって……お前、これ何メートルあると思ってんだよ」

「だって下アスファルトじゃないじゃん。それにちょうど傾斜になってるし。ごろごろごろ~って転がったら何とかなるわよ」



颯爽と舞台から飛び降り、ごろごろごろ~と転がる大河を想像する……

うん。出来そうだな、こいつなら。

けどそんなジャッキーもびっくりなスタントをされても困るので手をひいて次の場所に進む。

音羽の滝を見たらあとは坂を下って出口に出るだけ。
思ったよりもすぐに終わった。




ここからは2年坂を通って高台寺へ。

ここら辺の道は細くて石畳で京都らしさがすごく出てる。
なんつうか、いい感じだ。

高台寺は豊臣秀吉公の妻、ねねが建立したものらしい。

中に入っていくと、茶席として誂えられた小屋や庭、池などを散策することができた。

俺には茶道とか風流ってのはわからねえけど、とりあえず落ち着いた良い雰囲気だった。
なんつうか、静謐っつうか霊験あらたか……はちょっと違うか。

前庭では白砂が敷き詰められた庭があった。
今一つ、何を表現したものかは分からんかったがこれはこれで心洗われる風景だ。

さくっと高台寺も終わったところで次は……



また携帯か。

開いて確認すると


「またサークルの奴なの?」

「ああ、どうやらそうみてえだ」

「あんたにばっかメール送って来るとか、やだ!?もしかしてゲイ?」

「ゲイじゃねえよ!相手は女だ!」

「おんな?」

「そう、だから俺はゲイじゃねえよ」


どうやら今日は皆で旅行らしい。
俺はこっちを優先したから、他の奴らだけで行ってるらしい。

「土産は何がいいか」ってメールに対して「美味しそうなもの」と送る。
食べ物なら大河とも楽しめるしな。




返信して携帯を仕舞って大河を……あれ?あいつどこ行った?

迷子か?

キョロキョロと周りを見るが、それらしい姿は見当たらない。
あいつ、毛の色とか目立つくせに、身長が低いせいでどうも見つけられん。

携帯で電話するも応答なし。とりあえず電話しながら辺りを探してみる。

すると、さっき来た道を引き返す大河の頭が人ごみの中に見えた。

急いでそちらに向かう。


「おい大河。どこ行く……」


いつものように大河の手に触ろうとしたら


「触らないで!!」


力強く払いのけられた。




「おい、どうしたんだよ」

「…………」


大河は何も言わずそのままズンズンと進んでいく。


「おい大河、どこ行くんだよ。何があったってんだよ」


大河に話しかけるもチラリともこちらを見ない。

おい、このまま今日は丸山公園まで行くんじゃなかったのかよ。
祇園にも行きたいっつってただろ。

いいのかよ、抹茶パフェは。京スイーツは。

けど何言ったって今は無視されるんだろうな。




大河は何も言わず来た道を引き返し、とうとうさっき降りてきた清水五条駅に着いた。


「おい大河、京阪じゃ宿には帰れねえよ。市バスに乗らねえと」


そう言うと大河が適当に歩き始めたから、スマホでナビを開きながらバス停まで誘導してやる。


すると大河は黙ってついてきた。


「なあ大河」

「………………………」


まだだんまりかよ。

とりあえずバス停まで誘導して、一緒にバスに乗って旅館に戻って来た。

その間、大河と俺は一言も話さないどころか、顔も合わせなかった。




―――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――――――



書き溜めがなくなってしまった……

なので今日はここまでです。

では

次回乞御期待



待ってるぞ
生存報告だけでも欲しい


>>170

生存してますよ(笑)

待ってくださってる方、すいません。
最近時間がなくて一応書こうと思うことは考えてるんですが
中々書いてる時間がなくて

ssに関係のないことを書いていいものか分からなくて
何も書き込まなかったのですが

本当に色々とすいません


追いついた~ とらドラ懐かしくてなんか幸せな気分

続き楽しみにしてます

>>173

ありがとうございます

読んでくださっている方がいるとやる気がおきます。

今はちょっと時間がとれませんが、そろそろ書こうかと思いますので
気長に待っていただけると幸いです


ずっと更新できずに済みませんでした。

待ってくださってる方がいるのかは分かりませんが、一人でも見て頂けるなら幸いです。

書き溜めが最後まで行けたわけじゃないので終わりまで突っ走れませんが、ちょこっと再開してみます。



時刻は夕方4時。

まだまだ観光を楽しめる時間帯に俺は


「ふう~~生き返る~」


一人、風呂に入ってる。

だってしょうがねえだろ?


大河は寝室の襖を締め切って俺を入れてもくれない。
声をかけても返事しない。

こうなったらもうお手上げだ。
やることなく居間に居ても仕方ねえからとりあえず風呂に入ることにした。

その間に大河の機嫌が直ってくれてたらいいんだけどな。まあそんな甘いわけねえか。




けどあいつ、なんだってんだ。
いきなり無視とかし始めやがって。

あれは怒ってる……のか?

なんか違う気がする。

あいつが怒ってたらもっと手当り次第に暴れるような気がするんだよな。
ってなったら無視したりするのはあいつの怒り方じゃねえ。

じゃあなんだって聞かれると分かんねえんだけど……

とりあえず機嫌はよろしくないのだろう。

どうすりゃいいんだよ。せっかくの旅行だってのに……

旅行中に喧嘩するなんてのはよく聞く話だ。

それまでちょろっと会ってただけのカップルが1日中一緒にいたら、そりゃ見たこともない嫌な面見て喧嘩になったり、そうでなくても慣れない場所でのストレスからイライラして当たっちまったりするからな。



けど俺達は違う。

高2の時なんて、それこそ家族かってくらい一緒にいたんだ。
今更、性格や為人は互いによく知ってる。

だから俺達に限って旅行だからって喧嘩するなんて思ってもいなかった。



けど実際はどうだ。絶賛喧嘩中だ。

はあ………とりあえず物で釣ってみるか。

風呂から上がり、俺は売店で買ったコーヒー牛乳2本と八つ橋とか団子とか抹茶プリンをもって部屋に戻った。




「おーい、大河ー。コーヒー牛乳とか菓子買ってきたけど一緒にどうだ~?」


襖に向かって声をかける……駄目だ、返事がない。

襖をノックして声をかける。


「おい大河。もしかして寝ちまったのか?」


…………応答なし。


「開けてもいいか?」


…………これも応答なし。
沈黙は肯定と看做す。

気合を入れて襖に手を掛けてスライドさせると……




「おおぅ!?………大河?」


大河……なのか?

カマクラみたいに布団がこんもりしてる。

こっちからじゃ布団しか見えねえが……大河がどうやら頭から布団をかぶってるみたいだ。


「なー大河、抹茶プリンとか買ったから一緒にどうだ?」


大河の顔を覗こうと歩み寄ると……背中が向けられた。

俺が右に行くと大河は左にソッポ向き、左に行けば右にソッポ向く。

俺からは終始布団の柄しか見えねえ。


「おい大河。一体どうしたってんだよ?」


いかん、俺もイライラしてきた。




なんで京都まで来てこいつの機嫌とりをせねばならんのだ。

いつまでも布団から出てこない大河に業を煮やして布団を取り払った。


「なあ大河!……大河?」


大河の肩が震えてる。
さっきまでは聞こえなかった洟を啜る音が聞こえる。

泣いてる……のか?あの大河が?

やべ!ちょっと強く言いすぎたかも。


「す、すまん大河!俺もイライラして強く言いすぎちまった!本当にすまん!」


大河の顔を覗き込もうとするけどソッポ向かれて柔らかなウェーブした髪が見えるだけだった。


「大河、本当にすまねえ!俺にできる事だったらなんだってするからよ!」

「……も」


お!?反応あり!!



「ん?なんだ!?」

「……何でも?」

「へ?」

「何でも…ずず…ずるの?」

「ああ、ああ!お前の機嫌が直るなら出来ることはなんだってしてやるよ!」

「……じゃあとりあえず温かいお茶飲みたい」

「お茶だな!?」


俺は急いでお茶を淹れ、湯呑みを大河に渡す。


「ほれ大河!お茶だ!」

「……ん」


大河が受け取ってちびちびと口を付ける。




「他にはなんかしてほしいことねえか?」

「……お菓子食べる」

「お菓子だな!?」


さっき買ってきたお菓子を大河の前に広げる。


「ほら!何から食べる?」

「……八つ橋」


俺は八つ橋が入った箱の包装を親の仇のようにビリビリに破いて、1秒でも早くと急かされるように大河の前に差し出した。


「ほれ、八つ橋だぞ」

「……ん」


大河が一つ口に運ぶ。




「ど、どうだ?」

「……ニッキの匂いが邪魔」

「………………………」


邪魔って言われても。
とりあえず俺も一口。

うん、ニッキの香りと餡子の甘さが丁度いい、んだけど……大河が気にくわないなら仕方ない。


「な、なら他のにするか?」

「ん」


大河が無言で抹茶プリンを指さすから、蓋を開けてやりスプーンを差し出す。


「ほれ」

「………………………」


大河はそれを無視して口を開ける。


「くしゃみか?」

「……あーん」

「へ?」

「あーんして!」

「は、はい!」


スプーンでプリンを掬って大河の小さな口に放り込む。


「どうだ?これは変な味とかしねえだろ」

「……うん、抹茶の風味もするし、苦くもないし大丈夫」


ほ。大河が気に入ってよかったぜ。




その後も黙々と大河の口にプリンを流し込む作業に従事する。


「ほれ、これが最後の一口だぞ」

「…あーん」

「んで、他にはしてほしいことねえか?」


「…………………………………………ぎゅっとして」




びっくりした。

大河がこんなにストレートに言うことなんて今までなかった。


「ほれ」


両手を広げて大河を迎える。


「……ん」


俺の伸ばした足の上に大河が腰を下ろす。向きあって座る大河の小さな体をギュッと抱きしめる。




「ほれ、これでいいか?」

「……中々悪くないわね」


お?なんか調子が戻って来たぞ?


「そいで、他にはもうねえか?」

「……………………」


また無言。とりあえず今はしてほしいことがねえってことかな。

しばらく無言で大河を抱きしめる。


「ねえ」

「ん?」

「してほしいこと、まだあった」


身体が密着してるから、大河の声が体に響く。




「俺にできる事だったらしてやるよ」

「なら電話帳全部消して」

「はあ!?」


驚いて大河の顔を見……ようとしたけど無理だった。
大河は俺の首に腕を回して肩に顔を埋めているから無理矢理引きはがさないと大河の顔は見れなかった。


「電話帳消せって……なんでまたそんなことしねえとダメなんだよ」

「なんでもするって言ったじゃん!」


抱き締めてる大河が声を張り上げる。

爆弾でも抱えてる気分だ。




「そりゃ俺ができることはしてやるよ。けど意味もないことはしたくねえ。
 電話帳消してどうすんだよ。何か意味あんのか?」

「………………………………」


だんまり、か。

しゃあねえ。考えるか。

大河は電話帳を消せって言った。
これは大河にとってメリットのある行為らしい。

俺の電話帳が消えることで大河が得すること………

駄目だ。よく分かんねえ。

とりあえず、電話帳消えたら連絡がとれねえ。
そりゃ一々みんなのアドレスとか番号とか覚えてねえからな。

んで、連絡が取れなくなったら……




「大河」

「……………………」

「お前、ひょっとして嫉妬してんのか?」

「…………………」

「首がいてえよ。回した腕に力を入れるな」


けどどうやら正解らしかった。

嫉妬……ねえ。

メールしただけだろ?しかもサークル一緒の奴と。


「大河、メールしてた奴にはちゃんと彼氏がいるぞ?」

「そんなの関係ない!」


大河が頭を振ると、花のような髪の匂いが広がった。




「俺って信用ねえな」

「そういうことじゃないの!」

「ならなんだよ」

「知らない!何となく嫌なの!!」

「何となくって……じゃあ俺は電話帳消してお前と以外連絡とるなってか?
 そりゃ無理だろ」

「無理じゃない!私だって男の人のアドレスなんてないもん!」

「お前女子校じゃん。それに北村とか入ってるだろ」

「北村君はいいの!」


いいのかよ。まあ、あいつなら俺もいいけどよ。



すいませんorz

出かけるので今日はここまでになりました



よし、再開してみます



「じゃあ異性の奴の連絡先を消せってことか?無理だろ、学校行きゃあ女の知り合いだっているんだし」

「そうだけど…!」

「大河」

「なんだって言うこと聞くんでしょ!?なら消してよ!」

「大河!!」


大河の肩を押して大河の目を見やる。



見開かれた瞳。
やめろよ、そんな顔されたら俺が悪いみたいじゃねえか。



「大河、俺が好きなのはお前だけだ」




大河の右目から滴が一筋零れ落ちる。

泣かないでくれよ。泣かれちまったら何にも言えねえじゃねえか。


「俺はお前以外好きにはなんねえし、他の奴なんて見えねえよ」

「……みのりん好きだったくせに」


ぐっ!!!

それを言ったらお前だって北村のこと好きだったじゃねえか!

けどそれを言ったって始まらねえ。




「今はそうじゃない」

「今?」

「ああ、そりゃ将来のことまでは誓えねえよ。
 一生お前とは一緒にいたいけど人間何があって心変わりするかなんて分かんねえからな」

「……………………」


下を向く大河。すまんな、ヘタレで。

けど無責任に「一生好きだ」なんて言えねえよ。

それを言うのは結婚するときだ。


「けどよ、今はお前しかいねえ。浮気だってしねえし二股だってしねえ」




「……分かってる」


お?効果ありか?


「分かってる。
 あんたがどうしようもないくらい私のことが好きでベタ惚れでストーカーじみてて世話焼きで離れられないことくらい」


おいおい、自信満々じゃねえか。

…間違いだって言えねえところが痛いところだが。


「けど!けど…!
 それとこれとは別なの!そんなの関係なくあんたが誰かと一緒に居たり連絡したりするのが嫌なの!!」


はぁ………


俺はなんてダメなやつなんだろう。




大河はひょっとしたら、
大学に入った4月から一月以上ずっとモヤモヤしてたかも知れねえってことだろ?


それを見過ごすなんて……

何でも知ってるなんて間違いだ、烏滸がましい、傲慢だ。

大河のことをもっと考えてやるべきだった。


「ならさ、大河」

「………なによ」

「こうするってのはどうだ?」



―――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――――――




喧嘩をしたのが京都旅行の2日目。

一応の妥協案を出して大河と仲直りをした後、俺達は3日目にも京都旅行を楽しみ、4日目の夕方には家に帰ってきた。

その後も大河とは喧嘩もなくデートしたり一緒に飯食ったりだ、俺自身もバイトだサークルだと日常に戻っていった。

そして5月ももう終わりそうな今日。
俺は大河を連れてある場所に来ていた。


「ほれ、行くぞ大河」

「ちょ、ちょちょろ……ちょっと待ちなさいよ!」


そんなに動揺しなくてもいいのに。




「すう………はあ………。よし、いいわよ」


深呼吸して目の前の扉を睨む大河。

今から討ち入りでもすんのかね。


「じゃあ開けるからな」


大河が頷いたのを見て扉を開ける。


「すいません、遅れました~~」

「あ~高須君、遅いじゃないの。年下なんだから時間前に来てくれないと~」


部長が腕を組みながらわざと偉そうな態度で言う。


「部長、うちの緩々のサークルでそれは無理ですよ~」


先輩がケラケラしながら部長に突っ込みをいれる。




「すいません。あ、それで前に言ってた奴を連れてきたんですが…」

「お!?高須君の彼女!?」

「どこどこ!?」

「マジで!?」


いや、そんなに興味津々になられても……


「おーい、大河~入ってこいよ~」


扉の方に向かって声をかけると、大河がひょっこりと顔だけを覗かせる。

こいつは手乗りタイガーなんて言われてたけど、本質は小心物で臆病なんだよな。


「ほれ、入ってこいよ」


大河の手をひいて部屋に入れてやる。




「………………………」


大河は挨拶もせずに無言なまま。

仕方なく俺が代わりに紹介をする。


「あ~~…こいつは逢坂大河って言って俺のかの」


「きゃーかわいい❤」

「細ーい!!」

「お人形みたい!」

「きれ~~」


俺の言葉はかき消され、サークル仲間たちが大河の周りを取り囲んで喧々諤々。

その中から縋るような大河の目線とぶつかった。
大丈夫だよ、取って食われたりしねえから。

それにお前の方が確実に強いから。




もう分かってるとは思うが一応。

俺と大河は今、俺の所属してるサークルの部室にいる。


なんでかって言うと、京都旅行で出した妥協案が
『なら自分の目で見てみるか?』
だったからだ。


俺にだって大河以外の人間関係が必要だ。
大河が嫌だって言って全てを断ち切れるわけじゃない。

かと言って自分勝手にサークル活動を続けてれば大河が嫌な思いをする。

だからこその妥協案だ。

大河が直接見て

「こんなサークルだめ!」って言えばまた話し合いが必要だし、

「あいつは色目使ってる!」とか言うのなら誤解を解かなきゃならない。

とりあえず今日は、大河を安心させるためのサークル見学だ。




あ、因みに俺が所属しているサークルは料理サークルだ。

だから必然的に女性が多い。

これは大河にも言ってなかったから大河は男の友達とメールしてると思ってたんだが。
だから京都旅行の最中に料理サークルで女性が多いことを大河に言ってある。

当然、大河はいい顔しなかったが。

まあ、だからこその妥協案だし、それに俺が誰かに惚れられるわけねえんだから。

やましいことがないなら堂々としていればいいだけだ。




「これが高須君の彼女ねえ~」


部長が大河の前まで歩いて行き大河を見る。


「初めまして、逢坂さん。私はこの料理サークルで部長をやっている者です」

「は、初めまして………」


まるで可憐で深窓の令嬢のようだ、詐欺だ。


「逢坂さん、お料理とか興味ない?」


あれ?


「もし興味あるなら高須君と一緒にサークル活動しない?彼氏が一緒なら楽しいだろうし」

「ちょ、ちょっと部長!こいつはそう言う目的で見学に来たわけじゃ!」

「知ってるわよ、敵情視察でしょ?」


敵情………まあ大河からすればそうか。



「けど、逢坂さんもサークルに入れば心配はなくなるし、それにうちも人数増えるしで一石二鳥じゃない」


あ~……そう、なのか?


「でも部長、こいつに料理は無理です。ジャガイモの皮むきを頼むとチーズみたいな立方体が出来上がるんで」

「チーズ?なにそれ」


まああれは見てもらわなきゃ分からんだろうな。


「それに、別に料理ができなくてもいいじゃない。興味があれば十分よ。私だって始めから料理出来て入ったわけじゃないし」


料理に興味があれば、ね。


「大河、どうする?」


本人に聞いてみる。




「………………………」


大河は俯いて指をイジイジ。

まあ、料理なんて興味ないだろうし入らんだろう。


「きょ、今日やってみて、出来そうなら入ってもいいです」

「な!?別に無理しなくていいんだぞ!?」

「別に、無理とかしてないし」


大河が料理!?

どうしちまったんだよ。

あ、なるほど。料理サークルなら当然作った物を食べるわけで。

つまりは食べる専門か。




「ええ、それでいいわ。なら逢坂さん。とりあえずは今日1日、よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」


部長に言葉に大河がペコリ。


「なら今日は私が持ってきたレシピを皆でアレンジしてみましょ。あ、高須君は彼女と一緒にやってね」

「分かりました」


大河を引き連れて割り当てられてるキッチンの一画に。


「それにしてもどうして入るだなんて言ったんだ? もうちょっとゆっくり考えても良かったんだぞ?」

「うるさいわね、あんたは私のご主人様か」


御主人様、なれるならなりたいな。




大河がヴィクトリアンメイド服を着て

「御主人さま」

なんて言ってくれた日には


「何呆けてんのよ。とっとと作るわよ」


おっと、ちょっと旅に出かけてしまっていた。

まな板と包丁と、自分の手を洗ってると部長が食材を持ってきてくれた。


「はい、これが今日の分」

「はい、ありがとうございます」

「それにしても」


部長が大河の方を見る。




「良い彼女じゃない」

「はあ」


何を持って「良い彼女」なのか分からず、曖昧な返事をする。


「彼氏のために料理を覚えたいだなんて。よっぽど思われてるのね」

「へ?」


大河の方を見ると顔を真っ赤にしていた。


「ま、高須君と一緒にいたいってのもあるかもしれないけどね。それじゃ、今日も高須君に期待してるから」


俺の肩をポンと叩いて部長が次の人に食材を渡しに行く。




「お前、俺のために料理を?」


駄目だ。嬉しすぎて顔がにやけてしまう。


「ちょ、ちょちょちょ」


ちょうちょ?


「調子に乗らないでよね!べ、べべ別にあんたのためじゃないんだからね!」


ここにきてテンプレツンデレかよ。

まあ、いいさ。

本当に大河が入ってくれたらサークルでも一緒にいれるし、大河の心配もなくなるし。

それに、食べてみたいな。

大河の手料理。



―――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――――――



今日はここまでにします。

多分、後はちょろっとオチを書いて終わりになるかと思います。

ではでは

次回乞御期待

おつです

いいなぁこのとらドラの空気!

乙  意外と早く終わっちゃうのか  残念だな


>>221 >>222

レスありがとうございます。

スレタイからは分かりにくいかも知れませんが、大河と竜児の恋人としての成長を書きたかったのですが。

前やってたssでとらドラ書いてほしいって要望があって書き始めたのですが
ネタもなく始めてしまったので

続けてもいいんですけど冗長になってしまいそうで怖いんです

アニメも原作も全く見たことない俺でも面白いんだし、
冗長にはならんと思うが。まあ区切りも大事か

乙。
あーみんが何とかして流れを引き寄せようと四苦八苦するSSもいいが、
まさにこういうのを待ってた。大河がいじらしすぎてもうねwww


なんか眠くないので、眠くなるまでちょろっと書いて見ます



大河は結局、俺と一緒の料理サークルに入ることにした。

と言っても毎回参加するわけでもなく、行けるときには行くと言うスタンス。

まあ大学が違うし、部活じゃないんだしそんな緩い感じで続けていた。

てっきり料理に目覚めるのかと思ったらあいもかわらず高須家(+大河)の飯は俺が作っていた。

いや、いいんだけど。俺料理好きだし。

けどさ~やっぱり夢だよな、彼女の手料理ってのはさ。

そんなこんなで、サークル活動を一緒にしたり、デートしたり、
勿論授業にも出てなんだかんだとしていたら月日はあっという間に進んでいく。

年を取ると早く感じるって言うけどあれは本当だな。
この調子だと30歳になったら寝て起きたら1年が終わったと感じてしまいそうだ。




まあそれなりの大学生活を繰り返していたら気が付いたら7月になり、そろそろ定期試験だとなり、
初めての大学の試験をビクビクしながら受け、それなりの手応えを感じて気が付いたら夏休み。


夏休み、大学生のそれはすこぶる長い。何てったってほぼ2カ月もある。

この間に海外に行く奴もいればバイトに精を出したり資格試験を目指したり。

まあ2か月ってのはただ単に遊ぶためだけにあるわけじゃない。

大学ってのは学ぶ場所であって教えられる場所じゃない。
能動的に何かを習得する場所なのだ。

だからこの2カ月という呆けてしまいそうな時間にも意味はあるのであって



「ねえ、もうちょっと速度だせないの?」



「うるせえ、慣れねえんだから我慢しろ」

「なによ、私だったらドリフトでこんな峠駆け抜けられるわよ」

「お前免許もってねえだろ」

「なによ、そんな紙切れ1枚で偉そうに。要は乗れりゃあいいんでしょ、乗れりゃあ」

「いや、駄目だよ。免許ねえと」

「ふん!」


助手席に座っている大河が俺の反抗(?)にご立腹の様子。
眉間に皺を寄せたまま○ッキーをリスのようにカジカジ。

いいなあ。俺も呑気にポッ○ー齧りてえよ。



「お?高須君!うみ!うみだよ~~!!!」


大河の後ろ側にいる櫛枝が声を張り上げる。


「ああ、大丈夫。俺の席からもちゃんと見えてる。見えてるから少し落ち着け、な?」

「これが落ち着けるかっての!!もうこれはあれだね!そう!
 今すぐ水着に着替えなきゃならないね!!」


そう言うと本当に櫛枝は上に来ていたサマーカーデを脱ぎ始めた。


「ちょ!みの」


大河が注意しようとしたがその言葉は俺の華麗なハンドル捌きによって封じられた。


「ちょっと高須君。私の車なんだし保険は入ってるけど一応安全運転してよね」

「あ、ああ。すまねえ」

「……こらバカ犬。なに発情してトチ狂った運転してんのよ」


これは申し開きの余地もねえ。華麗でもなんでもなく櫛枝の行動にちょっとびっくりしちまった。




「……すいませんでした」

「……ふん!」


ありゃりゃ、嫉妬深い大河様は御怒りの様子だ。これは後でフォローせねば。


「おっと、ごめんよ高須君。ちょっとしたジョークだったつもりだったんだけど」


櫛枝が申し訳なさそうにごめんのポーズ。


「いや、大丈夫だ。けどそう言うジョークはTPOを弁えてしてくれ」

「あいあいさーー!!」


本当にわかってんのかね。




っとと、急に大河が話しかけてきたから話が途中だったな。


何だったっけ……そう、大学の夏休みは2か月もあって有意義に過ごすべきなんだ。

んで、大河と二人で何するかってなったときに、

「また皆で旅行がしたい」

ということになった。

そういや櫛枝と川嶋にもゆっくり会ってる時間はとれなかったしな。

んで、櫛枝と川嶋にも声をかけたところ、彼女らからも「楽しそう」との色よい返事をもらえたため早速行くこととした。

残念だが北村はアメリカに行ったっきりだ。あっちは9月が新学期だっけ?
だから8月に入った今じゃあいつは言語習得や大学入学の準備に大忙しらしい。

ま、狩野先輩の傍に居られるならそんなことは些細なことだろう。

んで、4人そろって俺達は久しぶりに川嶋ん家の別荘に行くこととした。




それで今は俺が車を運転して別荘へと向かってる。

この車は川嶋個人の物で、何でも免許を取ったから親が買ってくれたらしい。
金持ちってのはいいね。

だが肝心の川嶋はペーパーで高速どころか一般道も無理だと言いだした。

んで、櫛枝も大河も無免許。

となったら俺が運転するしかない。

皆で電車も考えたが、今は北村がいないしバイクがあっても乗れるやつがいねえ。
そうなったら買い物に行くだけでも一苦労だ。

と、いうわけでわざわざ車を乗って足かけ4時間、別荘を目指して運転中。

以上、説明終わり。


櫛枝も言った通り、今は海沿いの道を走ってる。

景色もいいし、高速と違って緊張もしないしいい感じだ。




全然関係ないけど、車運転するって変な感じがする。

車の運転=大人ってイメージだったけど
いざ自分が運転したら、自分が大人になったって実感はないんだよな。

俺はいつになったら大人になるんだろう。社会に出たときか?
家庭を持ったときか?子供ができたとき?

分かんねえ。こんな青二才じゃ想像さえ禄にできねえな。

まあそんな詮無いことを考えてたら後ろから声がかかる。


「あ、高須君。そろそろスーパーとかあるはずだし、ナビで検索してみて」

「お、おお」


車を路肩に止めて、川嶋からの指示に従いながらナビを操作する。

すると、とりあえずは今までの道なりで進めとの教示がなされる。
ナビってすげえな。これ一つありゃどこにでも行けるだろ。



眠くなってきたのでここまで。本当に全然進まなかったorz

あとちょっとで終わるとか思ってたけど全然終わりませんね。

>>224 >>225

レスありがとうございます。

原作も見たことないssを見たらどんな感じがするんでしょうか…
基本、私は知ってる作品しか見ないのでどう映るのか、興味半分怖さ半分。
本当に面白いと思っていただけているのならすごくうれしいです。

では


次回乞御期待


色々とレスありがとうございます。


やっと最後まで書ききったので投下していきます



と、言うわけでナビに従ってスーパーまで運転開始。

ものの5分程度で目的地についた。

バックでの駐車を1発で決め

「ふん、どうだ」

という顔で助手席を見たら大河はすでにドアを開けていて今は小さな背中が見えるばかり。

格好つけてても仕方ないので俺も降りて皆でスーパーでお買い物。


「高須君、今日は何をつくるの?」


川嶋が俺の左隣りから上目遣いに俺を見る。


「作るもんは特に決めてねえ。と言うか要望があったらそっちの方がありがたい」

「そっか~実乃梨ちゃんは何が食べたい?」

「むむ?竜児・高須シェフの料理?う~む……なら普段はあんまり食べない物がいいな。家庭料理も捨てがたいけど」




「普段食べない物、か。なんか抽象的すぎて分かんねえ」

「ん~全く食べない物じゃなくて、手間がかかりすぎるから自分じゃ作らないって言う感じの。
 例えばビシソワーズとか鶏肉の香草パン粉焼きとか。
 オシャレでひと手間かかってるってのがいいのさ」


なるほどな。なんとなくわかった。


「川嶋は?」

「私は何でもいいんだけど。あ、カロリーが高すぎるのはちょっとNG」


さすがモデルさん。

じゃあ一番の大飯喰らいにも意見を聞かねば。


「大河ー……あれ?」


あのちびっこ天使が見当たらねえ。

キョロキョロ辺りを見回すと、大河が陳列された商品を見て回っていた。

食材から食べたい物を考えているのかね。




「お~い、大河~。今日なにがいい?」


大河の方へカートを押しながら聞いてみる。


「え!?あ、ああ、そうね……今日はさっぱりしたのがいい。暑いし」


さっぱりしててひと手間かけたオシャレ料理でなおかつローカロリー。




なんだそれ?難しすぎんだろ。

まあ全部該当してなくてもいいか。何品か作ればいいし。

というわけで作ろうと思う料理名を言って、了解が出たら食材をカートに入れていく。
ついでに日持ちがして安い物は買いこんでいく。

川嶋の別荘の冷蔵庫は大きくて詰め込み甲斐があるぜ!

今日明日必要そうなものを買いこんだら結構な量になった。
まあ調味料も飲み物もあるし当然か。
他には日用品とかも。




買った商品を車の後部座席に詰めて再度川嶋の別荘にナビを設定して走ること10分。

2年前に見た懐かしい建物が見えてきた。

もうあれから2年か。早いな。

車をとりあえずは玄関近くにつけて、荷物を玄関に置いていく。

で、用がしばらくない車は車庫に入れておいた。

俺は買ってきた食材を冷蔵庫につめ、トイレットペーパーやシャンプーなどを補充して回った。

あれ?他の奴らは何してんだ?

掃除の手順を考えながら家のあちこちを探したがどこにも見当たらない。

と、言うことは。

海に続くデッキに出てみると、案の定そこからは海に足を浸して遊んでいる彼女らが見えた。




1人で掃除しててもどうしようもないのでとりあえず俺も砂浜に降りる。


「あ、高須君」


一番近くにいた川嶋がクルリとこちらを振り返る。

海を背景にサンダルを片手に持っているこいつは本当に絵になるな。

俺が撮ってもそれなりのグラビア写真になりそうだ。


「おい、掃除とかどうすんだよ」

「いきなり海に来て掃除とか。やだやだ夢のない人って」


やるべきこともやらずに遊ぶことは逃避であって夢じゃないだろ。


「それに、私はべつにやってもいいけどあの二人がね~」


川嶋が後ろの沖の方を見る。

脛くらいまで海に浸して遊んでいる大河と水着で泳ぎまくる櫛枝。

ってかいつ水着に着替えたんだよ。




「みのりーん。そんなに沖に行ったら危ないよーー」

「この位大丈夫だべさ!ってか大河も早く水着に着替えておいでよ」

「え……」

「だいじょーぶ!ちゃんと泳ぎの練習に付き合ってあげるからさ」

「……うん」


大河がクルリとこちらを向いて歩いてくる。


「なんだ?お前も水着に着替えて泳ぐのか?」

「うん、みのりんが泳ぎ方教えてくれるって」

「どうすんの?高須君」

「? なにが?」

「いや、掃除とかどうしようかって川嶋と話してたんだよ」

「それって今しなきゃならないことなの?」




「今じゃなくてもいいけどよ。
 散々遊んだ後に家に帰ったら埃だらけで掃除しなくちゃとか気が滅入るだろ。そんなんじゃ遊んでる最中も気になっちまう」

「それはそうね。じゃあちょっとみのりん呼んでくる」


そう言って再度大河が櫛枝の方に。

横を見ると驚いた様子の川嶋。


「どうした?」

「あ、いや。ちょっとびっくりしちゃって」

「びっくり?」

「だってあのチビトラが掃除するなんて。
 今までだったら高須君にやらせるだけだったか、文句をぶーぶー言いながらだったのに」


ああ、そういうことか。


「あいつも成長してるんだよ」

「成長、ねえ」




「最近は自分ん家のことは自分でやるようになったんだよ」

「なんでハイハイし始めた娘を自慢するような顔してんのよ。それ普通だから」


普通か?あの大河だぞ?手乗りタイガー様だぞ?

大河が櫛枝を連れて戻って来て、とりあえず掃除をしようと説得を試みる。


「あい分かった!ならばこの櫛枝の秘技をお見せしよう!」


よく分からんがとりあえずやる気はあるようだ。

ってことで分担しながら掃除を開始。

4人もいるから仕事がスムーズだ。

元々櫛枝は家事能力が高かったが、ここにきて大河も成長中。

ふ、我が布陣に死角はねえ!と言いたいところだが、川嶋の方は今一つ不明だな。

とりあえず大学近くで一人暮らしをしているらしいが、金に物言わせて家事なんてやってねえんじゃねえかな。

まあ言われた仕事ぐらいはちゃんとこなせるから問題はなし。




テキパキやっていくとものの1時間で終了。

後は必要が生じたら適宜やっていけばいいだろう。

昼飯はこっちに行きがけのサービスエリアで食べてきた。

高速のSAは名産品とか特産品とかがプッシュされていて面白いな。

ってわけで炊事も必要ないし、掃除も終わった。


「高須班長!!掃除も終わったので遊びに行ってきてもいいでしょうか!」


敬礼しながら櫛枝が俺に聞いてくる。


「ああ、もういいよ櫛枝隊員」

「あいあいさー!」


そういいながらデッキの方へと走っていく櫛枝。
ガキか、あいつは。




「あんたはどうすんの?」


大河が俺に聞いてくる。


「晩御飯の下準備を軽くしとこうかな。泳いだ後に用意すんのも億劫だし」

「そ、お手伝いは?」

「大丈夫だよ」

「ならみのりんと遊んでくるけど、あんたも早く来るのよ」


そう言って大河は一度自室へ。多分、水着に着替えるんだろう。


「なんかびっくりしっぱなしだわ」

「今度はなんだよ」

「タイガーがあんなに素直に『早く来て』なんて」

「いや、命令口調だったぞ」

「けど本当に命令してたわけじゃないでしょ」


まあそうだな。

どちらかと言うとお願いに近いニュアンスだった。




「タイガーとはうまくやってるみたいね」


川嶋がニヤニヤしながら言う。


「それなりに、な」


こういう話題は苦手だ。


「それより川嶋は泳ぎに行かねえのかよ」

「んー最近運動不足だったからちょっとは泳ぐけど。日焼けしたくないしそんなには。
 それより高須君にお願いがあるんだけど~」

「なんだよ」

「トロピカルジュース作って❤」

「はいはい」


どっちみち大河とかにも水分補給用のジュースを作ろうと思ってたし。

ミキサーを取り出して3人分をさくっと作る。

このミキサーいいなあ……今度のバイト代で買おうかな。




着替え終わって降りてきた大河にもジュースを持たせてやり、
手のかかる娘を3人送り出してしばしの休憩。

その後、時間がかかる晩御飯の下準備だけさっさと終わらせ、俺も水着に着替えて海へ。

川嶋はすでに休憩してて、もう泳がないのかチェアに腰掛けてリラックス。

大河は……櫛枝につきっきりで泳ぎの特訓中みたいだ。

俺もひと泳ぎしようとそちらの方へと向かう。

お?大河のなだらかな平原に慎ましげな小丘が2つ。
あれは俺が作った偽乳パッドだな。

本当に嫁入り道具になっちまいそうなくらい大切にしてるな。



「あ、竜児。遅いじゃない」

「これでも手早く済ませた方だっつうの」

「じゃあ高須君、先生役は交替だね!」

「え?いや、このまま櫛枝がやっててもいいんだぞ?」

「いやいや、大河は高須君の方がいいに決まってるよ。それに私も思いっきり一泳ぎして来たいしね!
 そういうわけで、あでゅ~」


そう言って櫛枝は沖に向かって飛沫をあげて行ってしまった。


「んで、お前は泳げるようになったのかよ」

「…………私が転校した高校、プールの授業なかったのよ」


なるほど、なら2年の時の実力そのままってわけか。


「櫛枝には何を教えて貰ってたんだ?」

「平泳ぎ。海に行っても疲れずに泳げるからって」


まあ海でバタフライしてる奴はあんまり見ないしな。




「それで、出来るようになったのか?」

「なんとなく、は」

「すげえじゃねえか。じゃあちょっとやって見せてくれよ」

「う、うん」


とりあえず、俺が数歩下がって大河との距離を空ける。

で、大河がこっちに向かって平泳ぎ開始。

スイーとスムーズにはいかないが、それでも顔が水面に沈んでしまわない程度には泳げていた。


「ぷは!ど、どうだった?」

「おう!ちゃんとできてるよ!すげえな」


大河の頭をなでなで。


「や、ちょっと、ぬれちゃうじゃない」


そう言うものの本気で嫌ではないらしい。

まあ大河の身体能力を考えたら泳げないことの方が驚きなんだよな。

やればできる子なんだよ。




と、言うわけで櫛枝の後を継いで俺が大河のコーチをする。
手の掻き方、足の蹴り方、タイミング、それらを大河に指摘していったらそれなりの形になってきた。


「どう?竜児」

「ああ、結構様になってきたな」


だがもう日が暮れてきた。

今日はまだ初日。明日も明後日も海で泳ごうと思えばできる。

今日はここまでの方がいいかもな。


「大河、今日はそろそろ終わりにしねえか?」

「そうね、お腹へっちゃったし」


というわけで一泳ぎを延々としていた櫛枝と昼寝をしていた川嶋を起こして別荘に帰宅。




女性陣は順番にシャワーを浴びている。

俺はその間に夕食の準備をせっせとこなす。

もうそろそろ準備も終わろうかというときに


「竜児~あんたもシャワー浴びてきたら?」


とバスタオルで髪を拭きながら大河が勧めてくれた。

確かに肌がぱりぱりしてシャワーを浴びたかったし丁度いいか。


「おう、じゃあこっちが一段落したらそうさせてもらうわ」

「わかった」


そう言って大河はキッチンからフェードアウト。

俺も盛り付け以外は終わらせて、シャワーを浴びることに。

海水につかったせいで髪の毛がギシギシだった。

念入りに洗ってトリートメントもしていると時間がかかってしまった。




急いで髪を乾かせてキッチンに戻ると大河がいた。


「おい大河。つまみ食いは駄目だぞ」

「っ!!そ、そんなことしてないわよ!」


どもってて嘘ってバレバレだぞ。


「はいはい。もう盛り付けて食べるからお前はイスにでも座って待ってろよ」

「いい、手伝う」

「そっか、じゃあとりあえず取り皿と箸とスプーンを持って行ってくれ」

「わかった」


大河が食器棚から色々と取り出してテーブルへと持っていく。

じゃあ俺もさっさと皿に盛って終わらせるか。

出来上がっていた料理を皿に移し替えてたら


「ねえ、これ持ってっていい?」


と大河が聞いてくるからお願いした。

今日の大河はお手伝いしてくれて大変助かる。



料理も運び終わって皆でテーブルに着いた。


「わーこんなにおかずがあるなんて!」

「さすが高須君だぜ!もうみのりんは食欲とよだれを止められないぜ!」


食欲はいいけどよだれは垂らすなよ。


今日作ったのは
カプレーゼ
生ハムとレタスのサラダ
サーモンのカルパッチョ
蛸の酢の物
ビシソワーズ
筑前煮
揚げ豆腐
鮎の塩焼き
あさりの酒蒸し
パエリア
鶏肉と梅肉・大葉のハサミ焼き
チキン南蛮
ヒラメのムニエル。



「じゃあ頂きまーす!」


櫛枝がさっそく食事を始める。

他の二人も頂きますをして食事を開始。


「ってかなんで筑前煮?」


川嶋が不思議そうに言う。


「お前がローカロリーの物がいいって言ったんだろ。こんにゃくとササミはダイエットの味方だろ」

「あ、そっか。ありがと、高須君」

「おう」

「っていうか完璧にお酒のおつまみよね。というわけでお酒お酒~」


川嶋が冷蔵庫から缶チューハイを取り出す。


「ほどほどにしておけよ」

「だいじょーぶ、私こう見えて強いから」


どう見えんだよ。




「それより高須君もつきあってよね」


そう言ってコトリと俺の前にビールが置かれる。

まあ、久しぶりに会ったし一杯くらいいいか。


「大河はいいのか?」

「私は…モグモグ…とりあえず食べる。その後に飲むわ、モグモグ」


喋るか食べるか一つにしなさい。


「櫛枝もいいか?」

「私もお酒は後だね!」


と言うわけでとりあえず川嶋と二人だけで乾杯。


「いや~高須君。あんたの料理、やっぱりうまいよ!特に蛸の酢の物!
 生姜がきいてて美味いねえ!!」

「そりゃよかったよ」


川嶋も櫛枝も俺の料理を美味しそうに食べてくれる。




これは料理を作った人だけの特権だな。

自分が作った料理を美味しそうに食べてくれるのはすごい嬉しい。


「あ、そうだ」


急に大河が立ち上がる。

ん?どうしたんだ?

大河がキッチンの方へ行き、また戻って来た。

手には一つ皿を持って。


「りゅ、りゅりゅ…竜児!!これ食べてみて!」


そう言って俺の目の前に一つの皿が置かれる。

皿の中には唐揚げが。




「お前、これ………」

「さ、さっき竜児がシャワーに浴びてる間に作ったの」


ああ、だからスーパーでふらふらしてたり、さっきキッチンにいたのか。


「食べていいか?」

「ど、どうぞ!!」


大河の初めての手料理。

一つ摘み、口の中に放り込む。


「……ど、どう?」

「……ああ、すげえ美味いよ」




これは別にお世辞で言ったわけじゃない。

ちゃんと下味もついてて、衣もサクサク。

火もちゃんと通ってて文句のつけどころがない。

まあ、彼女の手料理ってので下駄履いちゃってるけどそれを抜きにしても十分な出来だ。


「よかった~~」


大河は心底安心したようにため息を吐く。


「へ~~チビトラって料理もできるようになったんだ」

「ああ。こいつ、今俺と一緒の料理サークルに入っててさ」

「料理サークル~~?あの手乗りタイガーが~~?」


川嶋が大河の方をニヤニヤしながら見る。




「だ、だだ、だって仕方ないじゃない!こいつが浮気しないか監視しないとだし…」

「浮気?」


川嶋が半目でこちらを見る。

やめろ、浮気はしてねえから。

いらぬ疑いを持たれる前に川嶋に大河がサークルに入った経緯を説明する。


「は~~なるほどね~~。そりゃ共学だったら浮気の一つでも心配になっちゃうわよね~」

「は!バカチー。いいことを教えてあげるわ。私はもう大人の女性なの!」


大河が偉そうに腕を組みながら言う。


「だから何よ」

「バカチーは付き合ったことないから知らないだろうけど」

「な!?つ、付き合ったことくらいあるっつうの!」




「まあまあ。付き合ってたらね、大人同士だったら信頼し合うものなのよ。
 だから、私はもう嫉妬とかそういう低次元なことは心配してないのよ!」


今にも鼻が伸びそうなほど偉そうに宣う大河。

5月のお前に聞かせてやりてえよ。


「へ~大人な逢坂さんはもう嫉妬とかしないんだ~~」

「そうよバカチー。私はもうオ・ト・ナなの」

「じゃあ今日ちょっと高須君を借りるわね~」


は?


「やっぱこの年で独り身って寂しいのよね~
 だから今日は高須君に一晩中お酒の相手をしてもらおうかな~
 あ!そのまま一緒のベッドで寝ちゃったりして!」


川嶋が俺の肩をバシバシ叩く。やめろ、関西のおばちゃんか。




「大人な逢坂さんだったらこのくらい許してくれるわよね~」

「な、なななな」


あ、耳塞いでおこう。


「そんなこと許すわけないでしょ!!このバカチー!!」

「え~?もう嫉妬とか低次元なことはしないんじゃなかったの?」

「それは料理サークルについてよ!!他は駄目!!それにそれって浮気じゃない!!!」


ベッドで一緒に寝るだけで浮気なのか。まあそりゃ、いい気分はしないわな。
ってか料理サークル以外じゃ嫉妬しまくりってどうなんだよ。




「え~~逢坂さんってばこっども~」

「うるさいうるさいうるさ~い!!竜児は私のなのーー!!!」


まったく、高2の頃から全然変わってねえじゃねえか。

まあ俺達は付き合い始めて実質まだ半年くらいだしな。
これからも色んな事があるんだろうよ。




今みたいに大河が嫉妬したり

喧嘩したり

キスしたり

すれ違ったり

抱き締めあったり

泣いたり怒ったり

手をつないだり。




人が誰かと一緒にいるなんて簡単なことじゃない。

相手を思いやって我慢や気遣いが必要だし、自分勝手にはできない。

ただ大丈夫だ。



俺と大河は愛し合ってる。


それだけ解っていればもう十分だ。




色んなことを経験して、色んな事を学んでいく。

二人のベストを探して衝突して、調整して……

そういうのも恋愛の一つの楽しみだろ?



恋愛なんて楽しいばっかりじゃない。

些細なことで苛ついたり、泣きたくなったり、苦しくなったり、寂しくなったり。

けど、そんなことがあっても



その優しくて

とても甘い

そして時に苦い


誰もが欲しがるそれを見つけてしまったのなら



俺はもうそれを手放さない。もう手放せない。






「絶対にダメなんだから~~~~!!!!!」









乙です


>>273

ありがとうございます


読んで下さった方、レスを下さった方、本当にありがとうございました

もっと大河達の苦悩とか成長を描ければよかったんですけど力不足ですね

やっぱりネタもないのにssなんてするもんじゃないです。

乙ーまた書いて

>>279~282
レスありがとうございます。このssを書いてよかったと思えます

大河のssはしばらくネタが湧かなさそうですね、またふっと湧いたら書きたいと思います。

亜美のssは、付き合った状態じゃなくて大河とのシーソーゲームを書きたいなと思ってます。

けど今は俺ガイルが一番書きたいネタなんで、そっちか亜美か、はたまた俺妹か……

ネタが固まり次第、次のssを書いて見ようと思ってます

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom