上条「……」
一方通行「……」
浜面「……」
海原(エツァリ)「……」
麦野「……」
御坂妹「……」
佐天「……」
姫神「……」
男「え~皆さん、お忙しいところよく集まってくれました。それではこれより『第一回チキチキ! 学園都市フィーリングカップル大会!!』収録の説明を始めさせていただきます」
最後まで書き溜めずみ
投下間隔は3分前後
黙って消えたらおさるさんの証
んじゃ 始めます
一方通行「…俺ァ『グループ』の仕事だっつって呼ばれたはずなンだがな」
海原「自分を睨まれても困りますよ。自分だって状況はあなたと同じです」
上条「まず部屋で眠っていたはずの俺が何でこんな所にいるかの説明からしていただけませんか!?」
佐天(あ、あの人私とおんなじ境遇なんだ……うぅ、ホント何で私こんな所にいるんだろ)
麦野「ついでに、私がこんなクソゲロ野郎と同室しなきゃいけない理由もね」
浜面(ごぉおおおお!! 麦野めっちゃこっち睨んでる!! チクショウ!! こいつにだけは二度と会わないよう細心の注意を払って生きてきたのに!!)
姫神(状況がまるっきり飲み込めない。…彼が一緒にいることだけが救い)
御坂妹「ふむ。状況は不明なことばかりですが…これだけのメンツを召集できる存在といえば数は限られますね、とミサカは推測します」
皆がそれぞれの混乱に陥る中、御坂妹は黒メガネ黒スーツの男に視線を向ける。
男は鷹揚に頷いてから、部屋の中に備え付けられていたテレビを指差した。
テレビの電源がつく。画面の中で、一人の『人間』が逆さ向きに微笑んでいた。
アレイスター『知っている者もいるだろうが自己紹介させていただこう。この学園都市の統括理事長を務めているアレイスター・クロウリーだ』
上条「と、統括理事長!?」
御坂妹「まさか学園都市のトップが出てくるとは、とミサカは驚きを隠せません」
麦野「んで、統括理事長様が直々に何の用なわけ? なんか収録とかふざけたワードが飛び出してきてたけどさ」
アレイスター『難しく考える必要はない。そちらの男が言った通りだよ。これから君たちにはゲームに興じてもらう。そして我々はその姿を撮影させてもらう。それだけだ』
姫神「解せない。それで。あなた達に何のメリットが?」
アレイスター『何を言う。こんなに視聴率の取れそうなお題目はそうそうないよ。それより何より、私が楽しいじゃないか』
浜面「か、勝手なこと言ってんじゃねえよ!!」
アレイスター『あいにく私は“人間”なのだ。人間が勝手なことを言うのは世の常というものだよ』
混乱する皆をよそにアレイスターは飄々として笑う。
アレイスター『まあ要は暇なのだよ私は。いや、正確には暇になってしまった、か。暇になってしまった私には権力があった。そこで私は権力を最大限利用した壮大な暇つぶしを敢行しようと、そういう訳だ』
アレイスター『少なくとも、私が暇になる主な原因となった君たちには積極的に協力してもらいたいものなのだがね』
上条・一方通行・浜面「………」
一方通行「馬鹿が。それで俺がそンなモンに参加してきゃっきゃきゃっきゃはしゃぐと思ってンのか?」
アレイスター『もちろんタダとは言わない。撮影に協力してくれたあかつきには相応のギャランティーを支払おう』
海原「具体的には?」
アレイスター『君たちの望みを何でもひとつだけ叶えてあげようじゃないか』
麦野「ヒュゥ、太っ腹なことね」
上条「な、何でも!?」ゴクリ…
佐天「な、何でもかぁ…」ゴクリ…
アレイスター『それでも頷いてもらえないというなら仕方ない。私の持つ権力を少し嫌な方向で発揮させてもらう。もちろん本意ではないがね』
一方通行「……」
海原「……」
御坂妹「ゲームの内容の説明を求めます、とミサカは油断なく切り出します」
アレイスター『一度くらいはテレビで見たことがあるだろう? 男女が向かい合い、意中の相手をボタンで指定する。めでたく両思いになればカップル成立というアレだ』
浜面「はぁ!? なんだそりゃ!! そんなんするなら人選間違いすぎだろうよコレよぉ!!」
麦野「黙って聞いてりゃ不愉快なこと言ってくれるじゃんかげろしゃぶちゃんよぉ! てめえとカップルになる気なんざ死んでもねえが、何でてめえごときにNGされなきゃなんねえんだオイ!!」
浜面「ぎゃあ! ほら最初っからこんな敵対心むき出しだしぃ!!」
御坂妹「おや、これはもしかしてチャンスなのでは? とミサカはひとりごちます」
姫神(確かに。この私に。こんな役が回ってきたのは。前に出ろという。神様からのお告げなのかもしれない)
上条「何でも…何でもかぁ…どうしよう、新しい炊飯器欲しかったんだよなぁ…いや、インデックスは大型テレビ欲しがってたよなぁ…」
姫神「当の彼は。まったくカップルという単語には。反応してないけれど。マジどんだけ」
海原「ふむ、カップルですか…」
御坂妹「…あれ、なんかすっごい見られてね? とミサカは視線を感じつつ身震いします……ぶるる」
佐天「カップル…カップルかぁ…うわぁ~。どうしよ、だって私まだそんな…うわぁ~どうしよ初春ぅ~~」
一方通行「……」
アレイスター『不服そうだね一方通行』
一方通行「…一体何企ンでやがる」
アレイスター『さっき言った通りさ。さっきの言葉に偽りはない。私はね、気付いたんだ。ラブ&ピース。それが世界の真理だと』
一方通行「ケッ、どの口がほざきやがる」
アレイスター『気付かせてくれたのは君たちだよ』
一方通行「……」
アレイスター『君も楽しみたまえ一方通行。たまには普通の少年のように恋をしてみるのも一興かもしれないよ』
一方通行「…くっだらねェ」
アレイスター『それでは君たちに10分時間を与えよう。この収録に参加する意思がない者はその間に部屋を退出してくれ』
その言葉を最後にテレビの電源が落ちる。
そして10分の時が経ち、再びテレビにアレイスターの姿が映し出される。
部屋から出て行った者はいなかった。
逆さ向きに浮かんだまま、アレイスターはにっこりと笑う。
アレイスター『それでは、収録を開始しよう』
アレイスターによって集められた『ゲーム』の参加者8人。
その彼らが控えていた部屋、そしてこれから収録が行われる建物から直線距離でおおよそ20km離れた地点。
窓すら無い、ただの四角い箱のような建物。
そこで『彼女たち』は目を覚ました。
美琴「な、何よコレ!? 私部屋で寝てたのに!! 黒子!? いないの!?」
インデックス「むにゃ?」
打ち止め「あれー!? 寝てる間に見たことも無い場所に連れてこられてるー! ってミサカはミサカはキョロキョロしつつ叫んでみたりー! ここどこー!?」
滝壺「……昨日夜食の買出しに出かけてからの記憶が無い…ひょっとして拉致られた?」
ショチトル「病院で寝てたらベッドごと移動してました。って何コレ?」
混乱のまま思い思いに言葉を発する彼女たち。
言うまでも無いことかもしれないが説明しておこう。
彼女たちは、これからゲームを行う『彼ら』にとってとても縁が深い女の子達だ。
誰が、どういう思惑で彼女たちをここに集めたのかは、やはり言うまでも無かろう。
果たして彼女たちが集められた部屋には巨大なスクリーンが準備されており、誰も触れていないのにそこに映像が映し出された。
『さあ! ゲームを始めよう!! 学園都市が誇るヒーロー達、アイドル達が夢の競演だ!! これを見逃す手は無いぞ!!』
美琴「な、なんか始まった!?」
『それでは今宵の主役達を紹介しよう!!』
盛大なアナウンスと共にスモークが焚かれ、ステージに設けられた大きな扉が開く。
『エントリーナンバー1!! “世界大戦を終わらせた男”!! あらゆる絶望をぶち殺す“幻想殺し”!! 上条当麻!!!!』
上条『あ~、ど、どうもどうも~~』
美琴・インデックス「ぶっ!!」
『エントリーナンバー2!! “学園都市最強の能力者”!! 闇に君臨する“大悪党”!! アクセラレータ!!!!』
一方通行『……ケッ…』
打ち止め「はわわー!?」
『エントリーナンバー3!! “LEVEL5を倒した男”!! 無能の極みに至った“勇者”!! 浜面仕上!!!!』
浜面『オイ後半実は馬鹿にしてねえ!?』
滝壺「はまづら…?」
『エントリーナンバー4!! “原典を喰らいきった超越者”!! 優男に見えるその正体は闇を舞う“アステカの魔術師”!! 海原光貴!!!!』
海原『ちょ! なに正体ばらしてるんですか!!? テレビでしょコレ!?』
ショチトル「……何をしているのこの人は…」
『続いては女性陣の入場だ!!』
美琴「は、はあ!? 女性陣って、え、何よどういうことよ!!」
インデックス「ちょっと! 短髪前に出すぎ!! 画面が見えないんだよ!!」
『女性陣エントリーナンバー1!! “狙った獲物は逃がさぬ雌豹”!! 全てを見下す圧倒的“女帝”!! 麦野沈利!!!!』
麦野『ふん。しょっぱい演出ね』
美琴「あーー!! この女はーー!!!!」
インデックス「ちょ、短髪コラァ!!!!」グイ!グイ!
滝壺「何でむぎのがはまづらと一緒に…?」
『エントリーナンバー2!! “恋に恋するオンナノコ”!! 学園都市の“普通”代表!! 佐天涙子!!!!』
佐天『あはは~…ど、どうも~……』ペコペコ
美琴「さ、佐天さんまで!?」
インデックス「ふんぎ~~~!!!!」グイ!グイ!
『エントリーナンバー3!! “炊事、洗濯から戦争まで何でもござれ”!! そのくせ“お値段18万円”と大変お買い得となっております!! ミサカ10032号!!!!』
御坂妹『なんかその言い方だと誤解招くだろうがコラとミサカは静かに怒りを滲ませます。オイちょっとブイ止めろ』
打ち止め「おお、思わぬ人が出てきたよってミサカはミサカは目をぱちくりさせてみる」
美琴「ぎゃー意味わかんない!! 何してんのこの子!!!!」
インデックス「こんにゃろ!!」ガブッ!
美琴「いったあ!! ちょっと何すんのアンタぁ!!」
滝壺・ショチトル(うるさい…)
『エントリーナンバー4!! “伝説を証明する少女”!! 鬼すら魅了する“吸血殺し”!! 姫神秋沙!!!!』
姫神『ぴーす』
美琴「誰?」
打ち止め「だれ?」
滝壺「誰?」
ショチトル「誰?」
インデックス「なんか見たことはある」
『それでは皆様テーブルにお着きください』
美琴「ちょ、なに向かい合って座っちゃってんのよ。これじゃ、な、なんか、ご、合コンみたいじゃない」
打ち止め「ん~、というよりは…」
滝壺「うん。テーブルが大きなディスプレイになってるから、おそらくは…」
『ではこれより、“第一回チキチキ! 学園都市フィーリングカップル大会!!”を開催します!!』
美琴「はあぁ~!!!? フィ、フィーリングカップルぅ~~!!!?」
打ち止め「あ、やっぱりだ~ってミサカはミサカは予想が当たった自分にぱちぱち拍手を送ってみたり!」
インデックス「何それ?」
滝壺「男女でお互い気になってる人を指名して、両思いならカップル成立っていうゲーム」
ショチトル(……何それ…)
美琴「冗談じゃないわ!! 止めにいくわよ!!」
打ち止め「何で?」
美琴「何でって、そりゃ、アンタ」ゴニョゴニョ
打ち止め「あの中にカップルになって欲しくない人でもいるのかな~ってミサカはミサカはにやにやしながら聞いてみたり」ニヨニヨ
美琴「さ、佐天さんは私の親友なのよ! それがあんなろくでもない男たちの恋人にされそうになってるんだから、そりゃ助けないわけにはいかないじゃない!!」
美琴「ほ、他に理由なんてないわよ!? わ、私は女の友情に生きる女なんだから!! ちょ、何よ、コラ、打ち止め! にやにやすんのやめなさい!!」
滝壺「ツンデレールガン」
インデックス「テンパリ短髪」
美琴「う、うるさーーい!!!!」
ショチトル「でも、止めに行くって言っても、ドアは開かないわよ。さっきちょっと試してみたけど」
美琴「うそっ!? あ、ホントだ。こなくそおぉぉぉおお!!!!」ガチャガチャ!
打ち止め「電子ロックのはずなのに、ハッキングも通用しないんだよねってミサカはミサカは首をかしげてみる」
滝壺「閉じ込められた」
インデックス「でも、なんのために?」
ショチトル「この映像を見届けろってことなんでしょう」
美琴「だから! 何のために!?」
打ち止め「そ、そんな怒鳴られても~ってミサカはミサカはおどおどしながら後ずさりしてみたり」
女三人寄れば姦しい。五人も揃えば何とやら。
そんな彼女たちの様子を委細漏らさずモニターしながらゲームの主催者であり首謀者である男は笑う。
アレイスター「何のためと問われてもそれは」
学園都市統括理事長、『人間』、アレイスター・クロウリーは逆しまに浮かんだまま笑う。
アレイスター「楽しむためとしか答えようが無いのだがね」
部下A「嫌な性格してますねえ」
アレイスター「そうかい? 彼女たちの様子を見て、面白いと思わない人間は少ないと思うがね」
部下A「否定はしませんがね。彼女たちの様子も放送するのですか?」
アレイスター「当然だ。彼女たちの反応なくしてこの物語は成立しない」
部下A「了解しました、統括理事長」
アレイスター「ではゲームを進行しよう。司会役の彼に登場願おうじゃないか」
『それではここで、今後このゲームを仕切って進行していただく方をご紹介いたします』
『学園都市の最先端技術によって蘇った不死身の男! 個性派揃いのこの8人を仕切れる人間はこの男をおいて他になし!!』
『元学園都市暗部“猟犬部隊(ハウンドドッグ)”リーダー! 木原数多!! サイボーグになって復活だぁ!!!!』
メカ木原「いよぉガキ共!! ハッピーに生きてっかぁ!?」
一方通行「ぶーーーーー!!!!」
浜面「おわあ、汚ねえ!!!!」
一方通行「なァンで生きてンだテメエェェええええええ!!!!!」
メカ木原「さっき説明された通りだぜ一方通行! 元々俺ぁ死体だけ回収されて保管されてたらしいんだけどな! 今回このゲームの司会進行をするためにめでたく復活させられたってワケよ!!」
一方通行「自分で言ってて復活の理由のショボさに悲しくなンねェのか!?」
メカ木原「いいじゃねえか。統括理事長のラブ&ピースの理念にゃ俺も共感するところ数多だぜ。その理念の片棒担げるってんだ。こんな嬉しいことはねえよ」
一方通行「どォやら一番大事な脳みそはオシャカのまンまみてェだな!!」
上条「お、お知り合いでせうか?」
一方通行「うるせェ! 干渉してくンじゃねェよ三下がァ!!」
メカ木原「そんじゃあさくさく始めさせてもらおうか!」
メカ木原「最初の企画は1対1のお話タイムだ。ま、こりゃ定番だな。ただし尺の関係上お話タイムは一回だけだ。話し相手は抽選で決めさせてもらう。もちろん、抽選に不正はまったく無い。アーユーオーケイ?」
御坂妹「ひとつだけ質問が、とミサカは挙手します」
メカ木原「はい単価18万円さんどうぞ」
御坂妹「おいそれやめろ」
メカ木原「つってもミサカ10032号じゃいちいち呼びづれぇよ。御坂妹ってのも長ぇしよぉ」
御坂妹「…じゃあミサカだけでいきましょう、とミサカは提案します」
メカ木原「りょーかい。んで、どうしたミサカちゃん」
御坂妹「チャンスが一回だけというのは喋りたい相手と喋れない可能性があり、それではフィーリングカップルのゲーム性に著しく不公平が生じるのではないかとミサカは指摘します」
メカ木原「ほう、いいねえミサカちゃん。アグレッシブな質問だ。やる気まんまんじゃねえの。既に自分には喋りたい相手がいますって言ってるようなもんじゃねーか」
御坂妹(ナイスパス、とミサカは彼に思わせぶりな視線を送ります)チラリ
上条「抽選か~。俺抽選にはいい思い出ないんだけどな~」
御坂妹「見てねえし。まあわかってましたし。ミサカは全然くやしくなんかありませんし」
メカ木原「ま、ミサカちゃんの言うこともいちいちもっともだがその辺含めて相性、大げさに言えば運命って奴だと理解してくれや」
メカ木原「それじゃ、いよいよいくぜぇ~!! 抽選、スタートォ!!」
第一組:麦野沈利・上条当麻 ―――別室に移動。
上条「あ~…えっと、初めまして。俺、上条当麻っていいます」
麦野「……麦野沈利よ」
上条(…まいったな。何話せばいいか全然わかんねえよ。大体俺に1対1で女の子と楽しく喋れるスキルがあったら今頃こんな不幸な身の上じゃないっての!!)
麦野「あんた、大層な紹介のされ方だったわね。世界大戦を終わらせた男って何それ? 世界大戦ってのはこの間のロシアのやつのことよね?」
上条「ああ。いや、あれは大げさに紹介されただけだよ。……大げさすぎる。俺なんて、ただ右往左往してただけさ」
麦野(気に入らない顔をするわね。自分の無力さを恥じてて、それでも決して諦めてるわけじゃないっていう、『あの野郎によく似た顔』……)
上条「麦野さんは大丈夫だったのか?」
麦野「……何が?」
上条「戦争の時。ほら、けっこう学園都市でもゴチャゴチャしてたんだろ?」
麦野「さぁね。その時は私もロシアにいたし」
上条「え!? 何で!?」
麦野「あるクソ野郎をブチ殺してやるためよ」
上条「……what?」
麦野「あの時は逃がしたけど…まさかこんなチャンスが巡ってくるとは思ってもいなかったわ。ククク…今度は絶対に逃がさない」
上条(ぎゃ、ぎゃあ!! なんか地雷踏んだ!! ってか何この人超こええ!!)
上条(多分この人今日集まってる女の子の中で一番怖い! アンタッチャブル!! そういえば『女帝』なんて紹介されてたし!!)
上条(御坂妹、姫神、普通っぽい女の子、って揃ってる中で一番怖そうな人と1対1のおしゃべり引き当てるなんて!!)
上条(だから抽選なんて嫌だったんだ! 俺なんてはずれを引くに決まってるじゃないか!! ああ、もう! 不幸だぁぁあああああ!!!!」
麦野「……だ…」
上条「はい?」
麦野「誰がはずれだこのヤロオォォァァァアアア!!!!!!」
上条「ぎゃあ!! 声に出てたぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」
麦野「こ、殺してやるわ!!!!」
上条「ぎゃおうす!! 左手は義手だったんですね!? そんでそれを取り外した後は白い発光体がががが!!!!」
麦野「死ねぇ!!」ドヒュン!
上条「おわあ!!!!」シュパァン!
麦野「こぉんのぉおお~~~!!!!」ドヒュドヒュドヒュドヒュ!
上条「ぎゃわわわわわ!!!!」シュパパパパパパパン!
麦野「なんであたんないのよぉおお~~~!!!!」ドヒュン!
上条「すいません! 上条さん間違えました!! 麦野さんアタリっす!! 麦野さん超絶カッケーっす!!!!」シュパン!
麦野「こ、このボケぇえええ!!!!」
上条「ぎゃああああああああ!!!!」
部下A「……LEVEL5が全力で暴れてますけど大丈夫ですかね?」
アレイスター「…! …!! ……!!!」
部下A「いや、統括理事長。バカウケしてないで」
アレイスター「…ふぅ、大丈夫だよ。あの部屋はものすごく頑丈に出来ているからね」
部下A「そうですか」
アレイスター「しかし彼はさすがだね。一体どういう星の下に生まれればこんな面白い状況ばかりに巡りあうのだろうねえ」
部下A「まあ、今回の件は多分に彼の自業自得って気がしますが」
アレイスター「そろそろ時間ってことにして止めようか。死者が出たらカップルどころじゃなくなってしまうからね」
メカ木原「お、戻ってきたな」
上条「ぜはー…ぜはー…!」
麦野「ふぅ~…! ふぅ~…!!」
メカ木原「おいおいどんだけ激しいコミュニケーションとってきたんだよ!! 息も絶え絶えじゃねえか!! かぁ~! 最近のガキは手が早すぎておじさん戸惑っちゃうぜ!!」
麦野「うるせえ!! いいから先進めろぉ!!」
メカ木原「ん~? へえ…ほんとに色々あったみたいだな」
麦野「まじまじ見てんじゃねえよクソがあ!!」
メカ木原「はいはい。それじゃあ2組目、ブワァーっといってみようかぁ!!」
―――別室。ヒロイン達の待機部屋。
美琴「は、激しいコミュニケーションって何よ…! ま、まままま、まさかアイツ……!!」
滝壺「………」
滝壺(麦野…ひょっとしてちょっと泣いてる?)
麦野「……グスッ…」
麦野沈利。
実は他人の評価を結構気にする女。
第二組:一方通行・御坂妹 ―――別室に移動。
御坂妹「マジでありえねーですし。よりにもよってお前かよ、とミサカは嘆息せざるをえません」
一方通行「オッケイそのセリフそっくりそのままお返しすンぜ」
御坂妹「このトークタイムはおおよそ10分程度。600秒もこの狭い個室であなた二人きりだなんて、ミサカには拷問としか思えません」
一方通行「そォかよ。そりゃご愁傷さまでしたァ」
御坂妹「……」
一方通行「……」
御坂妹(何この沈黙……)
一方通行(なンだこの沈黙……)
御坂妹「…………」
一方通行「……何分経った?」
御坂妹「62秒が経過したところです、とミサカは報告します」
一方通行「……なげえ………10分なげえよ……」
御坂妹(あれ? こんなに困ってるコイツ見んの何気にレアじゃね? とミサカは気付きます)
一方通行「………」
御坂妹(あ、頭掻きはじめた。わかりやすいなコイツ、とミサカはちょっと面白くなってきました。しかしコイツは怒ってんのか困ってんのかわかりづれーな、とミサカは観察を続けます)
一方通行「……オイ、なンか喋れよ」
御坂妹「わーお、コイツ状況の打破を女の子に丸投げしやがった、とミサカは驚きと失望を隠せません」
御坂妹「最強のくせにwww第一位のくせにwwwwおい、得意のベクトル操作でこの空気のベクトル何とかしてくれよwwwwwwwとミサカは馬脚を現したあなたをプゲラします」
一方通行「マジでなンなのオマエ? さすがにちょっと頭くンですけど」
一方通行「………」
御坂妹(あ、なんかちょっとへこんでるくさい。さすがに言い過ぎましたか、とミサカは舌を出して反省します。ぺろり)
一方通行「……その舌ねじ切ンぞテメエ」
御坂妹「いやん。女の子の軽い茶目っ気も容認できないなんて心が狭いですね、とミサカはあなたを批判します。それじゃ上位個体の相手なんてとてもとても」
御坂妹「ふむ。共通の話題としては彼女のことがありましたね。というか、彼女のことしか無いというべきでしょうか」
一方通行「あァ、おいそのことなンだけどよ」
御坂妹「とりあえずあなたにはお礼を言っておきましょう、とミサカは小さく頭を下げます。ぺこり」
一方通行「軽く相槌打ったようにしか見えねェンだけど」
御坂妹「あなたに頭を下げるという屈辱に、ミサカがギリギリ耐えられるラインがこれでした」
一方通行「あっそォ。ってか、お礼ってなンのことだよ」
御坂妹「話の流れからしてあの子のことしかないでしょう、とミサカは呆れた眼差しを向けつつ答えます」
一方通行「それくらいわかるわボケ。礼なンて言われる筋合いがねえっつってンだよ」
御坂妹「この間の世界大戦の時にもあの子のために色々と骨を折ってくれたそうですし、まあそれ以外のことについても――」
御坂妹「あの子が笑って日々を生きていくことが出来ているのは、あなたのおかげである部分が少なくないようですので」
御坂妹「あの子の姉(身体的な意味で)としては、やはり一言お礼をいっておくべきなのでしょう、とミサカは判断しました。だから――」
御坂妹「ありがとう」
一方通行「………」
一方通行はしばらく言葉を発することが出来なかった。
ポカンと口を開いたまま、御坂妹を怪訝そうに見つめている。
御坂妹「ちょ、何マジマジと見てるんですか。やめてください訴えますよ、とミサカはあなたの粘つく視線から身をかばいます」
御坂妹のその一言で一方通行はようやく我を取り戻す。
それから、ぼりぼりと頭を掻きはじめた。
言葉を、探しているようだ。
一方通行「……ったく、相変わらずテメエらの考えてることはわっけわかンねェな」
笑っているような、困っているような顔で一方通行は口を開く。
一方通行「脳みそどう回転すりゃそンな言葉が出てくンだよ。俺がテメエらに何してきたか忘れたのか?」
御坂妹「もちろん忘れていませんよ。もしかすると恨んですらいるでしょう。ですがまあ、過去は過去、今は今、未来は未来ということで」
御坂妹「と、ミサカはいつまでも過去をグジグジ引っ張るあなたに胸を張ってみせます」
一方通行は、呆れているような、やっぱり笑っているような、そんな顔で御坂妹に目を向ける。
一方通行「……ハッ、馬鹿は楽でいいな」
御坂妹「馬鹿っていう方が馬鹿なんですよ、とミサカはちょっとカチンときて言い返します。バーカバーカ。もやしー」
一方通行「ガキかオマエは……あァ、実際ガキなンだったな」
御坂妹「が、ガキとはなんですか。言っておきますがミサカの肢体が未だ未成熟なのはお姉様の遺伝子によるものなので、ミサカに責はありません。もっとも、このままお子ちゃまボディに甘んじる気はさらさらありませんが、とミサカは宣言します」
体の(主に胸の)ボリュームアップのために行っている毎日の努力を語りだした御坂妹を適当にあしらいつつ、一方通行は嘆息する。
いつのまにか結構な時間が経過してしまった気がする。
時間はあとどれくらい残っているのだろうか。
アナウンス『時間です。二人ともスタジオにお戻りください』
狙い澄ましたかのように終了を告げる声が響いた。
一方通行は舌をうつ。
御坂妹のお礼とやらに遮られて、最も大事な用件をまだ話していない。
御坂妹「終了だそうです。思ったよりも早く時間が過ぎましたね。意外でした」
そんな一方通行の思惑などよそに、御坂妹はさっさと個室を出ようとする。
もう説明している時間は無い。
一方通行「チッ……オイ!」
御坂妹「なんでしょう? とミサカは振り向きます」
一方通行「お前、俺を選べよ」
御坂妹「……はい?」
一方通行「二度言わせンな。つべこべ言わずに俺のボタンを押せっつってンだよ」
御坂妹「へ? は?」
アナウンス『トークタイムは終了しています。早く戻ってください』
一方通行「わァってンよクソッタレ! チッ、オラ行くぞ」
御坂妹「…お、おぅ?」
御坂妹は混乱のまま、とりあえず一方通行の背中を追った。
メカ木原「オイオイ何いきなり延長希望してんだよ一方通行。お前実はすんげえやる気なんじゃねえの?」
一方通行「るっせェよ。サッサと次にいけ」
メカ木原「かっかっか。そうかそうか。フィーリングタイムが待ちきれねえか。お前がノリノリでおにいさんは嬉しいぜ一方通行」
メカ木原「そんじゃ、そんなアクセラちゃんのご希望通りさくさく進めちまおう。次のトークタイムは誰だぁ!?」
第三組:浜面仕上・佐天涙子 ―――別室に移動。
佐天「ど、どうも、初めまして。私、佐天涙子っていいます」
浜面「お、おう。俺は浜面仕上。よ、よろしく」
佐天(え、えーと、どうしよう。どんな話したらいいんだろ)
浜面(この子大人びてはいるけどどう見たって年下だよなあ。くそー、やっぱ俺が会話をリードしてやんなきゃなんないよな~)
浜面「え~と、佐天ちゃん? 涙子ちゃん? どっちで呼んだ方がいい?」
佐天「あ、ど、どっちでも大丈夫ですよ」
浜面「じゃあ涙子ちゃんで。俺のことは好きに呼んでくれていいよ」
佐天「じゃ、じゃあ浜面…さんって呼ばせてもらいます」
浜面(どうすっかな。まあ適当に世間話してれば10分なんてあっという間だろ)
佐天(うわ~、男の人に名前で呼ばれるとやっぱドキっとしちゃうな~)
浜面「でさあ、その時見に行った映画がまたつまんねーのなんのって」
佐天「あ、私も見たことありますよそれ。結構面白くなかったですか? なんかこう、スタッフの思惑とか想像しちゃったりして」
浜面「うわ。涙子ちゃん俺の知り合いの変人と似たようなこと言ってる」
佐天「変人なんてひどいこといいますね。その人どんな人なんですか?」
浜面「会話中に『超』って超はさむ」
佐天「あはは、そりゃ変人だ。浜面さんって休みの日とか何してるんですか?」
浜面「車いじったりしてるかな。免許持ってないんだけど」
佐天「ダメじゃないですかそれ」
浜面「はっ、交通法規なんてちんけなルールじゃ俺は縛れねえんだよ」
佐天「カッコいいこと言ってもダメですよ。法律はちゃんと守ってください」
浜面「真面目だな涙子ちゃん」
佐天「普通です」
佐天「浜面さんは学校どこに行ってるんですか?」
浜面「んにゃ、そんなもんとっくにやめたよ」
佐天「ほほう、浜面さんくらい凄い能力者になれば、もはや学校なんて行く意味はないと」
浜面「はあ? いやいや、俺無能力者(LEVEL0)だし」
佐天「えっ!? だ、だって紹介の時『LEVEL5を倒した男』って…!」
佐天涙子は驚愕する。
無能力者(LEVEL0)でありながら超能力者(LEVEL5)を倒す。
つまりそれは、自分があの常盤台の『超電子砲(レールガン)』御坂美琴を打倒するようなものではないか。
無理だ。無理すぎる。不可能指令ここに極まれりだ。
佐天「すごい…一体どうやって……」
浜面「いや~…まあ、その、色々と……」
浜面は口を濁す。
この話は女子中学生にするにはちょっと血生臭すぎる。
それに、そのLEVEL5は生きていて、しかもこのゲームに一緒に参加しちゃっているのだ。
言えるわけがない。
佐天「もしかして、浜面さんは……」
浜面「ん?」
佐天「『スキルアウト』…なんですか……?」
少し怯えたように尋ねてくる佐天。
さっきまでの楽しい世間話の空気はどこかにいってしまっていた。
浜面「……どうしてそう思う?」
佐天「学校に行ってないって言ってたし…LEVEL0なのに、LEVEL5と戦うようなことがあるってことは……そういう、ことなのかな、って……」
そもそも、LEVEL0として普通に落ちこぼれていれば、LEVEL5と敵対するなんて大それた事になるはずがない。
それこそ能力者に対抗するために組織された無能力者による武装集団――『スキルアウト』などに所属していなければ。
賢いな、と浜面は思った。
そして、浜面は隠さなかった。
浜面「ああ、その通りだよ。『元』だけどな。ほんの一時期だけど、俺はそこのリーダーをやってた」
佐天「…! そう…だったんですか……」
浜面仕上は元スキルアウトのリーダーだった。
そのことがわかってから佐天涙子は黙り込んでしまった。
浜面(ま、しゃーねえわな。普通の子にとっちゃ、スキルアウトなんて恐怖の対象でしかない)
浜面はそう推測したが、実際佐天が抱いている感情はもう少し複雑だった。
佐天には、スキルアウトを取り締まる側の組織に所属している友達がいる。
彼女たちが、日夜どれ程スキルアウトに手を焼かされているか佐天は知っている。
だから、佐天涙子がスキルアウトに抱いている感情は、決して恐怖だけとはいえない。
佐天「どうして…」
浜面「ん?」
佐天「どうしてスキルアウトの人たちはあんなひどい事が平気で出来るんですか? 私も、私だって無能力者ですけど、能力が無いから代わりに暴力で――なんて、そういう風には考えられません」
佐天「浜面さんだって、話してみたら凄くいい人なのに。どうして…」
浜面「ん~…」
佐天の言い分はよくわかる。
彼女の言葉はまさしく正論だ。
だけど、世の中は正論だけでは貫き通せないことがある。
特にここ、『学園都市』の中であれば、なおさら。
だから、所詮中学生の言うことだと、聞き流しておいてもよかったかもしれない。
けれど、スキルアウトは浜面の古巣で、今もかつての仲間達が大勢そこで踏ん張っている。
浜面「だけどよ、だからって何もしないのは悔しくねえ?」
だから浜面は少しだけ――ほんの少しだけ、反論しておくことにした。
浜面「能力の強弱が人間の優劣を決めるこの街じゃ、俺たち無能力者はずっと見下されて生きていかなきゃならない。見下しが過ぎて、迫害の対象にされることだってある」
浜面「だから俺たちは群れるんだ。群れて武器を取ってやつらに対抗する。別になんてことはない、動物の持つあたりまえの知恵ってやつだ」
浜面「能力者が百人力だってんなら百人で囲む。一騎当千だっていうんなら千人で囲んでやる。そうやってしか生きていけない奴らもいるんだ。涙子ちゃんにはわからない世界かもしれないけどな」
佐天「………」
佐天「……だけど」
押し黙っていた佐天がゆっくりと口を開く。
佐天「だけどそれは、能力者は全て敵だって言ってるみたいで……それは、すごく、悲しいことだと思う……」
浜面「……かもな」
浜面だってそんなことはわかっている。
能力者全てが敵だなんて、そんなことはない。
そもそも浜面が守ると誓った女の子だってLEVEL4の能力者だ。
それに。
それに。
反論はしてみたものの、実は浜面も今までのスキルアウトのやり方は間違っていたかもしれないと思っている。
身に染みてわかっている。
黒いツンツン頭の少年に、かつて痛いほど思い知らされたことだから。
アナウンス『時間です。スタジオに戻ってください』
浜面「だってよ。戻ろうぜ」
佐天「あ、はい」
なんだか微妙な雰囲気のまま、二人は部屋を後にする。
何か思うところがあったのだろう。佐天は浜面の背中にもう一度声をかけていた。
佐天「あの…」
浜面「ん?」
佐天「浜面さんも、千人で囲んだんですか?」
浜面「いや、俺は……一人でやったよ」
佐天「……そうですか」
浜面仕上の広い背中を見つめながら佐天涙子は歩く。
その眼差しに込められていたのは、嫌悪か、恐怖か、それとも―――
第四組:海原光貴(エツァリ)・姫神秋沙 ―――別室に移動。
海原「どうも。自分は海原光貴といいます。初めまして」
姫神「姫神秋沙です。初めまして」
海原「与えられた時間はおおよそ10分。さて、どんな話をして親交を深めましょうか」
姫神(屈託の無い笑顔。だけど。少し軽薄そうでもある。……ちょっと苦手なタイプかもしれない)
海原「なんてね」
姫神「え?」
海原「あなたと自分で1対1の会話などしてもあまり意味はありません。そうでしょう?」
姫神「それは。どういう意味?」
海原「あなたはけっこうこの企画に乗り気であるように見えました。最初からカップルになりたい人間がこちらにいたのだということは容易に想像がつきます」
海原「まあこちらのメンツから考えるに上条当麻あたりがあなたのお目当ての人物として妥当な所でしょうか」
姫神「そ。それは……」カァァ…!
海原「当たりですか。やれやれ、彼のもてっぷりには本当に頭を抱えますね。自分との約束をきちんと覚えていてくれていればよいのですけど」
姫神「あ、あなたも」
海原「はい?」
姫神「あなたも。ミサカと呼ばれたあの女の子をじっと見ているようだった。あの子が目当てなのではないの?」
海原「う~ん…どうでしょう。興味がない、といえばそれはもちろん嘘になりますが……」
海原「カップルになりたい、と思っているわけではありません。全く同一のダイヤモンドでも、放つ輝きはやっぱり別物なんですよ」
姫神「よくわからない」
海原「すいません。わかるように説明していないもので」
姫神「なるほど。そこはよくわかった」
海原「あはは」
海原「しかし正直に申し上げると、姫神さん、今自分はあなたに対して非常に複雑な感情を抱いているんですよ」
姫神「どういう意味? 今度はわかるように説明してほしい」
海原「ふふ、わかりました。実はね、言ってしまうと自分にも想い人がいるんですよ」
姫神「ほう。ほうほう」
海原「しかしね、自分はその想い人の幸せを他の男に託してしまったんです。要は諦めてしまったんですよ」
その男ってのは他でもない、上条当麻のことなんですけどね。とは言わない。
海原光貴は空気の読める男である。
海原「それが最善だったのだと今でも信じてはいますが、やはり気持ちのいいものではありません。ですから、あなたには是非想いを成就してもらいたいと、自分と同じ思いはして欲しくないと、自分はそう考えているんですよ」
姫神「ありがとう。でも。今の話を聞いたかぎりだと。そこまで複雑な話だとは感じられないけれど」
海原「複雑なんですよ、色々」
姫神の想いの成就は、同時に海原の想い人の失恋を意味している。
もちろん、海原はそこまでは説明しなかった。
姫神「やっぱりわかりづらいじゃない。嘘つき」
海原「すいません」
姫神「もしもあなたが私を応援してくれるというのなら」
海原「なんでしょう?」
姫神「私もあなたを応援する」
海原「これはこれは」
姫神「好きな人がいるのなら。自分の手で幸せにしてみせて」
海原「……!」
姫神「それが。男というものでしょう?」
海原「……!! そういう、もの…でしょうか……」
姫神「そういうもの。それがこの世界の不文律」
海原「……ありがとうございます姫神さん。目が覚めた思いです。やってやりますよ、自分は」
姫神「うん。お互いにがんばろう」
海原「グッドラック」
姫神「ごーあへっど」
こうして二人はがっちりと固い握手を交わしたのだった。
ちなみに姫神の「ごーあへっど」は英語の「Go ahead」。意味は「前進せよ」。
決して姫神の頭が突然ちゃらんぽらんになったわけではないので、誤解なきよう。
メカ木原「さあこれでファーストステージは終了だ! 待たせたなガキども!! んじゃあ早速一発目のフィーリングタイムに突入するぜ!!」
メカ木原「お前らの目の前に4つのボタンがあるのはわかってんな!? その中から気に入った相手に対応するボタンをポチっと押しちゃってくれや! 簡単だろ!?」
メカ木原「それじゃ、シンキングタイム! スタートぉ!!」
上条・一方通行・浜面・海原「…………」
麦野・佐天・御坂妹・姫神「…………」
―――別室。ヒロイン達の待機部屋。
美琴「ああああもう見てらんない! 止めに行くわよ私は!!」
ショチトル「だから開かないんだって……」
美琴「むっきーーーー!!!!」
打ち止め「あの人は一体誰を選ぶのかな、ってミサカはミサカはちょっぴりドキドキしてみたり」
滝壺「はまづら……信じてる」
インデックス「とうまのことも気になるけどお腹も減ったんだよ……」
メカ木原「さ、みんな押し終わったな」
メカ木原「へえ~、ほぉ~。なるほどこういう結果ね~」
一方通行「うざってェリアクションとってンじゃねェよ。さっさとしろボケ」
メカ木原「オッケェオッケェ。じゃあ、そんな気が逸ってしょうがないアクセラちゃんから発表行ってみようか」
メカ木原「一方通行が選んだのは……コイツだ!!」
テーン、テーン、テーン、テーンと、小気味良い音と共に矢印がテーブル上を伸びていく。
矢印の向かった先に座っていたのは―――
御坂妹「……!」
メカ木原「ファーストステージでトークした相手、ミサカちゃんだぁ!!」
一方通行の目的はただひとつ。このゲームを一刻も早く離脱することだ。
収録が始まる前、控え室でのアレイスターのあの口ぶり。
まず間違いなく打ち止めの身柄を確保されている。
そしてそのことは、ミサカネットワークで打ち止めと繋がっている御坂妹も当然理解しているはずの事柄だった。
だから、何も問題はない。
10分間のトークの時に説明できなかったのは痛かったが、それでも何も問題はないはずだと一方通行は信じている。
一方通行は自信満々に、心底くだらなそうに、早々に立ち去る準備すら進めている。
メカ木原「さあ! カップル成立なるか!!」
木原の言葉の後、しばらくの沈黙が訪れる。
同じ出演者達も、じっと一方通行と御坂妹を注視している。
その視線を心底うざったそうにしながら、一方通行が腰を浮かす。そして。
デュゴーーン!! と、何だか破滅的な音がして、テーブル上の矢印が消失した。
一方通行「…は?」
つまり。
一方通行「おい、ちょ」
メカ木原「ざぁんねぇぇええん!! カップル不成立!! アクセラちゃんの想いは一方通行でしたぁぁぁあああ!!!!」
一方通行「はああああああああああああ!? ちょ!! 待てテメエコラァァァああああ!!!!」
御坂妹「ふ……あの程度の口説き文句でミサカを落としたつもりになっていたとは片腹が痛いですね、とミサカはどや顔で判定を待っていたあなたを嘲笑します」
御坂妹「そりゃまあちょっとだけ、ほんのちょっとだけドキドキしたことは認めますが? ミサカはそんなに軽い女ではありませんし?」
一方通行「ちょっと待ってオマエ何言ってンの? 状況わかってンの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
御坂妹「こんな機会を待って、ひたすらに暖め続けていた言葉を、ミサカは今こそあなたにお届けします」
御坂妹「たとえあなたがどんなベクトルを操作しようと、心のベクトルまでは操らせません(キリッ」
一方通行「ちょっとホントに何言ってンのオマエェェェえええええええええええ!!!!!!」
一方通行「オマエちょっとこっち来い!! 一回脳みそ確認させろォ!!!!」
上条「ま、まあまあ。ドンマイ一方通行」
一方通行「同情してンじゃねェよ三下がァァァああああああああ!!!!!!」
もちろん。
御坂妹はきちんと打ち止めとネットワークを介して繋がっている。
繋がっているからこそ、打ち止めに関して御坂妹は危機を感じていないのだ。
焦りと怒りと羞恥で、一方通行はそこまで考えが及ばない。
メカ木原「さて、そんなミサカちゃんは誰を選んだのか。発表を続けようかぁ!!」
テーン、テーン、テーン、テーン、テーン!!
上条「お、俺!?」
―――別室。ヒロイン達の待機部屋。
美琴「やっぱりか!!」
打ち止め「ねえねえあの人は大丈夫? ってミサカはミサカは尋ねてみたり」
インデックス「死んだようにうなだれてるよ……」
美琴「最終回の矢吹丈みたいになってるわ……」
打ち止め「燃え尽きちゃったんだね……」
メカ木原「さあ、結果は!?」
デュゴーーン!!!!
メカ木原「残っ念!! 不成立ぅ!!」
上条「す、すまん御坂妹!!」
御坂妹「やめてください。謝られても惨めになるだけです、とミサカはさめざめと涙を流します」
メカ木原「さてさて、実は一組もカップルは成立してねえんで、尺の都合上これ以降の発表は残念ながら省略だ」
メカ木原「まったく、うまくいかねえもんだ。ま、だからこそこういうのは面白いってな」
―――別室。ヒロイン達の待機部屋。
美琴(アイツは誰を選んだんだろう…)
滝壺(はまづら……)
ショチトル(お兄ちゃん……)
インデックス(おにく……)
ちなみに、その他の結果は以下の通り。
上条当麻 → 佐天涙子 (癒されたかった)
佐天涙子 → 浜面仕上 (もう少し話したかった)
浜面仕上 → 姫神秋沙 (( ゚∀゚)o彡°おっぱい!おっぱい!)
姫神秋沙 → 上条当麻 (言わずもがな)
麦野沈利 → 海原光貴 (消去法)
海原光貴 → 御坂妹 (色々な思惑で)
もしかすると、その後の発表を省略したのは、番組側が色々な人物に配慮した結果なのかもしれない。
ともあれ。
カップルは一組も成立しないままファーストステージ終了。
番組はセカンドステージに突入する。
メカ木原「セカンドステェェェエエエジ!!!!」
上条・佐天「わ、わあ~」パチパチ…
御坂妹「ピューピュー」
一方通行「………」ムッス~
麦野「………」ムッス~
メカ木原「さあ、早速セカンドステージの企画発表といきたいところだがその前に! 番組側からの配慮としてドリンクをサービスするぜ!! 喋り倒して渇いた喉を潤おしてくんな!!」
上条「お、マジでありがたいな」
佐天「いただきまーす」
姫神「んぐ。んぐ」
御坂妹「まずーい、もう一杯。とミサカはおかわりを所望します」
海原「変わった味の飲み物ですね」
浜面「喉を潤おせりゃなんでもいいや」
上条・一方通行・浜面・海原「ぐーぐー……」
麦野・佐天・御坂妹・姫神「すやすや……」
メカ木原「はいオッケーじゃあ準備入ってくださーい」
スタッフ「ウィース」
上条「な、なんだ!? 何が起きた!?」
上条「あれ!? どこだここ!? スタジオじゃなくなってるし、しかもなんか俺一人しかいなくね!?」
メカ木原『それじゃあセカンドステージの企画を発表するぜ!!』
上条「おわ! なんだ!? どっから放送してんだ!?」
メカ木原『セカンドステージはずばり「迷宮大脱出」だ!!』
上条「は、はあ!? なんじゃそりゃ!?」
メカ木原『勘のいい奴はもう気付いてるだろうが、お前らがいるそこは現実の世界じゃねえ。学園都市の最先端技術によって創造された「仮想空間(バーチャルリアリティ)」だ』
一方通行「…チッ」
メカ木原『さっきお前たちが飲んだジュースの中には睡眠薬が混ざっててよ、お前らが眠りこけてる間に色々機械を脳みそに接続させてもらったわけなんだが』
海原「それはそれは。自分としたことが、なんとも迂闊でしたねえ」
メカ木原『お前たちにはその「仮想空間」の脱出を目指してもらう。至極簡単、至ってシンプルだろ?』
浜面「ふ~ん。しかし、フィーリングカップルっていうからには……」
メカ木原『もちろん今回も抽選でペアを決めさせてもらった。二人協力して愛の力で様々な困難を乗り越えてくれや』
佐天「あ~、やっぱりそういうことかぁ」
メカ木原『ただし、抽選といっても前回のペアと被らないように若干の調整はしてある。 そこは番組演出上仕方の無いことなんで勘弁してくれ』
御坂妹「よっしゃグッジョブです。これであの男とまた一緒になることは100%無いわけですね、とミサカは胸を撫で下ろします」
メカ木原『言うまでもねえが、そこはただの迷路じゃねえ。色々仕掛けがしてあるんで十分注意して進んでくれ』
麦野「ったく、メンドくせぇ……」
メカ木原『抽選で決まったペアには適当に進んでりゃすぐに会えるはずだ。んじゃ、幸運を祈ってるぜ!!』
姫神「始まった。とりあえず進んでみるしかない…か。……彼とペアだといいけれど」
上条「迷路か~。インデックスがいれば通ったルート全部覚えられて凄く助かるんだろうけど」
上条「なるべく頭の中でマッピングしながら進んでいくしかないかぁ~」
上条「いや、待てよ。確か迷路って必勝法があるって聞いたことあるな」
上条「こうやって、片手を壁に着けていけば必ずゴールに辿り着くとかなんとか」カチッ!
上条「……カチッ?」
パァン!!!!
上条「ぎゃあああああ危ねええええええええええ!!!!!!」
上条「銃口ッ!? 壁から銃口ッ!? 撃たれたッ!? 今俺撃たれたよっ!!?」
メカ木原『ちなみに仮想空間だから死んでも大丈夫だぜ~。文字通り死ぬほど苦しいけどな!! ぎゃっはっは!!』
上条「ば、馬鹿かああああああああ!!!!!!!!」
ガサッ!
上条「だ、誰だあああああああああああああ!!!!!!!!」
姫神「あ…」
上条「姫神!? そうか! 俺のペアはお前か!!」
姫神(よかった…彼と一緒になれた……)
ガシッ!
姫神「へ?」
上条「ここはマジで危険だ!! さっさと脱出するぞ!!!!」
姫神(て、手を…手を握られている…! これは。脈アリということ? そういうこと?)
上条「はーしれーーーー!!!!」
姫神「いたたたたちぎれるちぎれる」
浜面「………」
麦野「………」
浜面「ぎゃああああああハズレだああああああああ!!!!!!!!」
麦野「て、てめえらいい加減にしろぉ!!!! 人の顔見るなりハズレだハズレだ叫びやがってぇ!!!!!!」
麦野沈利。
女の子のプライドズタズタである。
麦野「止まれはまづらぁ!!!!!!」ドヒュン!
浜面「ぎゃあ! 通路狭くて『原子崩し(メルトダウナー)』避けづれえええええ!!!!」
ゴロゴロゴロゴロ!!
浜面「ん…? 何の音だ…? 前の方から聞こえてくるけど……」
ゴロンゴロンゴロンゴロン!!!!
浜面「おわああああ!!!! 鉄球転がってきたああああああ!!!!!!」
麦野「な、なんだあ!?」
浜面「つ、潰されるぅぅぅううう!!!!」
麦野「チッ! うざってえ!!」
麦野のかざした右手から『原子崩し(メルトダウナー)』による光線が発射される。
光線は連続して四発放たれ、質量の大半を削られた鉄球は歪に形を変えて停止した。
浜面「お、おお…さすが……」
麦野「オイ…」
浜面「はい!?」
麦野「まあ、アンタにとっちゃ確かにハズレだったのかもしんないけど、私にとっては当たりなのよね」
浜面「あっはっは~! やだな麦野さんそんな面と向かって言われると照れちゃうじゃないか!!」
麦野「こうやって、アンタをじっくり追い詰めながら殺れるからねぇ!!!!」
浜面「の、ノオオォォォォオオオ!!!!!!」カチッ!
浜面「……カチ?」
麦野「死ねコラァ!!!!」
浜面(…ッ!? 壁から銃口!? 麦野…気付いてねえ!!)
―――パァン
銃声が響いた。
壁から突如現れた銃口から硝煙が立ち昇る。
その銃口の狙いの先にいた麦野沈利は、今は浜面仕上に押し倒されていて。
麦野の目の前には、じわりと血が滲む浜面の肩がある。
浜面(いってぇええええ!!!! くそ! 何がバーチャルだよ!! ちゃんと痛えじゃねえかよ!!)
麦野「……どけ」
浜面「あん?」
麦野「いつまで跨ってんだよ! さっさとどけコラァ!!」
浜面「うぐっ!!」
麦野は自らに覆いかぶさっていた浜面の体を蹴り上げた。
よほどいい所に入ったのか、浜面はうずくまったまましばらく立ち上がれない。
浜面「て、てめえ…命の恩人に向かって……」
麦野「何のつもり?」
麦野の声は冷たかった。
麦野「そうやって恩を売って見逃してもらおうっての?」
浜面「そうだったら見逃してくれんのか?」
麦野「……ッ!!」
浜面「……体が勝手に動いたんだよ。我ながら馬鹿な真似したと思うぜ」
浜面は立ち上がり、麦野のそばを通り抜ける。
そのまま浜面はしばし呆然とする麦野を苛立たしげに振り返って、
浜面「こんな仮想空間で俺を殺したって意味ねえだろ。さっさとこんなとこ抜けようぜ」
それだけ言って、また歩き出した。
その背中に『原子崩し』は飛んでこない。
代わりに足音がひとつ、浜面の隣りに並ぶ。
麦野「今回のこの馬鹿げたゲームの報酬。私の願いが何なのか教えてあげようか?」
浜面「おお、教えろよ」
麦野「アンタの命よ、浜面」
浜面「そうかい。じゃあ俺の願いはお前の願いの取り消しだ、麦野」
海原「妹さんはゆっくりと自分の後を付いてきてください。罠は全て自分が一掃しますので」
御坂妹(くそう、あの人とペアになることは出来ませんでしたか。と、ミサカは内心の落胆を隠し切れません)
海原「~♪ ~♪」
御坂妹(何故かこの人はノリノリですし。まあ非常に楽が出来てよいのですが)
海原「ふむ、こんな全く空の見えない迷路でもトラウィスカルパンテクウトリの槍は効果を発揮しますか。さすが仮想空間。出鱈目ですねえ」
御坂妹「とらうぃすきゃ…! …噛みましたちっくしょう、とミサカは羞恥に身悶えます」
御坂妹「そのナントカの槍っていうのは何ですか? とミサカは取り繕うように質問を重ねます」
海原「う~ん、なんといいますか……対象としたものを一瞬で分解する、自分の必殺技のようなものだと思っていただければ」
御坂妹「なにそれこわい」
海原「はは、大丈夫。今はあなたを守る力ですよ」
御坂妹(この人はミサカを狙っているのでしょうか? とミサカはさわやかイケメンの行動を警戒します)
海原(これは幸先がいい)
海原(先程姫神さんと会話して、決意を固めた途端に、彼女とペアでこのようなシチュエーションを迎えることになるとは)
海原(願っても無い機会です。精一杯やらせてもらいましょう)
佐天涙子は困っていた。
原因は自分の目の前を、杖をつきながら黙々と歩くこの男だ。
一方通行「………」
佐天「………」
まず怖い。
そして会話が無い。
一方通行の方からは佐天に全く話しかけてこない。
佐天から話しかけても返ってくるのは生返事ばかり。
いや、返事があればいいほうだ。ほとんどは無視されている。
気まずい。
佐天(こ、この人はどんな人なんだろう……)
佐天は必死で思い出す。
乱暴な言葉遣いで、何だか自信満々で、でも御坂美琴そっくりの女の子に無様にもあっさり振られて真っ白に燃え尽きて―――
―――それでも、学園都市最強の能力者。らしい。
佐天(でも、そうは見えないんだよなあ)
杖をついて前を歩く一方通行を見つめながら佐天は思う。
佐天(どちらかといえば――)
そう、どちらかといえば。
佐天(守ってあげたい、というか―――)
そんな風に思ってしまう儚さ。
一方通行を見ていると、そういうものを感じてしまう。
佐天「あの、肩貸しましょうか?」
一方通行「あァ?」
今度は反応があった。
ちょっと嬉しくなった佐天は足を速めて一方通行の隣りに並ぼうとして。
一方通行「ざけンな。無能がでしゃばってンじゃねェよ。テメエは黙って俺の後ろを着いてきてろ」
その言葉に足が止まった。
佐天「あ…ご、ごめんなさい」
シュンとうな垂れて、とぼとぼとした足取りで佐天は歩く。
無能という言葉が彼女の胸に突き刺さる。
一方通行「ケッ」
そんな彼女の様子を敏感に感じ取りながらも、一方通行は何もフォローしなかった。
ひどい人だ。佐天はそう思った。
同じLEVEL5でも、御坂さんとは大違いだ。佐天はそう考えた。
佐天涙子は気付かない。
どうして彼が頑なに前を譲ろうとしないのか。
佐天涙子は気付かない。
彼女が何気なく進むこの通路に、どれだけの罠が張り巡らされているのか。
佐天涙子は傷つかない。
その罠が、ひとつも作動していないから。
そのことに彼女が気付くのは、もう少し時間が経ってからのことだった。
海原「…おや? 随分と広い空間に出てきましたね」
御坂妹「ゴール…のようには見えませんね、とミサカは辺りを見回しながら確認します」
海原「ですね。先に続く道もあるようですし…とするとまた罠ですかね……」
御坂妹「どうやらそのようです」
海原「……おやおや」
海原は御坂妹の指差す方を確認して苦笑する。
わらわら、わらわらと武装した集団が沸いて出てきていた。
敵集団「汚物は消毒だぁ~!!!!」
海原「いやぁ、この物量を相手するのはさすがに骨ですね。自分のトラウィスカルパンテクウトリの槍は同時に複数を対象にすることは出来ませんし」
さて、どうしましょうかと呟きながら、海原は御坂妹を庇うように一歩前に出る。
海原「まあ、槍以外にも手札はありますが…自分の身も痛いからあまり気は進まないんですよね」
100人はくだらないという武装集団を前にして、それでも海原は一歩も引かない。
自分の後ろには、御坂妹がいるのだから。
海原「なんて、そんなことは言ってられませんか!!」
そう言って、海原が駆け出したと同時。
銃声が、連発した。
敵の群れ「ぎゃあああああああああああ!!!!!!!」
海原「……え?」
ぽかんとして海原は後ろを振り返る。
両腕に携行型ガトリング・ガンを装着し、その弾丸を全身に括りつけた御坂妹の姿を視界に納める。
御坂妹「ふむ、さすがにゲームの脱出までは無理でも、こうやって武器を出現させるぐらいのハッキングなら可能でしたか。と、言いつつミサカは引き金を絞ります」
ダガララララララララララララララ!!!!!!
耳をつんざくような轟音が響き、敵集団が塵芥のように蹴散らされていく。
相手はデータの集合体でしかないとはいえ、全く容赦の無い攻撃だった。
御坂妹「全員を相手にする必要はありません。突破しますよ」
海原「はは…すごいな」
御坂妹「あなたが何を考えてミサカを庇うのかはわかりませんが、あいにくミサカはただ守られるだけの女の子じゃありませんので、とミサカは言っておきます」
海原「……了解。しっかり認識を改めますよ」
浜面「ああもう!! キリがねえな!!!!」
浜面は武装集団から奪った銃を乱射する。
麦野「ぅぅううざってぇぇぇえええええ!!!!!」
麦野は咆哮とともに『原子崩し』を発射。武装集団を焼き尽くす。
海原光貴・御坂妹組とほぼ同刻。
麦野と浜面の二人も迷路を抜け、第二ステージへと辿り着いていた。
麦野「…っはあ」
浜面「麦野!! しゃがめぇ!!!!」
能力の乱射で息を切らした麦野は浜面の言葉に反射的に身を屈める。
しゃがんだ麦野を飛び越えた浜面の蹴りが、背後から麦野を狙っていた男を吹き飛ばした。
浜面「おいおい迂闊じゃねえかLEVEL5!!」
麦野「余計な真似してんじゃないわよLEVEL0の雑魚の分際で!!」
浜面「はっ! その雑魚に何回も負けてんのはどこのどなたでしたっけ!?」
麦野「全部たまたまだろうが!! 調子に乗ってんじゃねえええええええええ!!!!!!」
麦野の左腕。もはや『原子崩し』による発光体と化したその左腕が膨れ上がる。
身長をはるかに超える高さまで膨張したそれを麦野は薙ぎ払う。
浜面「あっぶねえ!!!!」
地を這うようにして、浜面はぎりぎりその一撃から逃れた。
顔を上げる。さっきまで自分たちを取り囲んでいた集団が消失している。
浜面「すっげえ……!」
相変わらずのその威力に浜面は戦慄する。
こんなとんでもない能力の持ち主が自分の命を狙っているというのだからあらためてぞっとする話だ。
しかし。
麦野「次から次へと……!」
それでも武装集団は次から次へと湧いて出てくる。
ここは現実とは異なる仮想空間。もしかしたら奴等の数は無限なのかもしれない。
浜面「抜けるぞ麦野!!」
麦野「誰に命令してんのよはまづらぁ!!!!」
浜面「いいからあそこ見ろ!! ちょっと高台になってて、その先に道が続いてる!! あそこを目指すぞ!!」
麦野「ちゃんと目ぇ開けてんのかてめえ!! どう見たって届かねえだろが!!」
浜面「俺が台になる!! そうすりゃお前ならいけるだろ!! それから俺を引き上げてくれ!!」
麦野「あぁ!?」
浜面「他に手はねえだろ!! それともこんな雑魚の群れに取り殺されんのがお望みかよ!!」
麦野「チッ!」
麦野の『原子崩し』が道を作る。
肩を並べて二人は駆ける。
浜面「行け! 麦野!!」
浜面が先に岩肌に手をついて頭を下げる。
麦野は一足飛びで浜面の肩に乗り、さらにその肩を踏み台にジャンプして、高台の上まで一気に上りきった。
浜面「さっすが!」
肩の痛みに顔をしかめながら、浜面は顔を上げる。
ひょっこりと高台の上から麦野が顔を出した。
浜面「よっしゃ! 麦野!! 手を伸ばしといてくれ!!」
言われるがままに麦野は手を伸ばす。
発光体と化した左手を。
浜面「あ、あほかーー!! そんなん掴んだら俺の手が無くなってしまうわ!! ちょっと!? 麦野!? むぎのさーーん!?」
麦野は無表情でこちらを見下したまま手を伸ばそうとはしない。
蹴散らしたはずの武装集団がまた集まってきた。
浜面「わーーー!! むぎのさーーん!! むぎのさまーーーー!!!!」
もう猶予は無い。浜面の目には、集団の中でこちらにバッチリと照準をつける銃口が映っている。
浜面「麦野ッ!!!!」
浜面は岩壁を蹴って飛んだ。着弾した岩肌が弾ける。
届かない。このままでは。
浜面は思いっきり手を伸ばす。
その手を、麦野の柔らかい右手がしっかりと掴んでいた。
海原光貴・御坂妹組、浜面仕上・麦野沈利組。
その二組より大分遅れて彼らは第二ステージに到着した。
前二組の時と変わらず彼らの前に躍り出る武装集団。
圧倒的な暴力の塊。
それを見て、少年はけだるそうにため息をつき。
少女は初めて怯えた顔をみせた。
罠の洗礼を受けず、迷路をただの迷路として認識してきた少女。
今このとき、初めてこの仮想空間の本質を理解した少女。
それでも少女は、やっぱり恐怖を知ることはなかった。
知る暇もなかった。
恐怖はあっという間に『他の何か』で塗りつぶされた。
少年が、首に付いたチョーカーの電源を入れる。
たったそれだけ。
それだけで、全ては終わってしまっていた。
誰よりも遅く第二ステージに突入したこの二人は、しかし誰よりも早く第二ステージを突破した。
上条当麻と姫神秋沙は、実は他のどの組よりも先んじて迷路を突破していた。
上条「ぜは~…ぜは~…」
姫神「……大丈夫?」
上条「な…なんとか……」
初っ端から罠の手痛い洗礼を受けた上条は、半ば恐慌状態のまま駆け続け、途中でへばった姫神を背負い、結局そのまま迷路を駆け抜けきってしまっていた。
上条「な、なんか広いとこに出たな……」
姫神「うん……ゴールなのかな」
もちろん違う。しかしここは、実は第二ステージでもない。
上条「誰か……出てきたぞ」
出てきたのはたった一人の人間。いや、鬼――と言うべきか。
そいつは漆黒のマントを羽織っていた。
そいつは長い牙を持っていた。
そいつは伝説の存在であるはずだった。
姫神「……そん…な…」
現れたのはたった一人の吸血鬼。
ここは姫神秋沙だけのためのエクストラ・ステージ。
吸血鬼「ああ…芳しい香りだ。甘美な、抗いがたい誘惑……娘、そなたの血は極上なのだな」
姫神「あ…あ……」
上条「姫神ッ!!」
突如、吸血鬼の体が霧となって消えた。
同時、上条当麻が駆け出す。姫神の元へと。その拳を振り上げて。
そして、そのままその拳を姫神の真後ろへと叩きつけた。
吸血鬼「むぐ…!」
胸元を叩かれた吸血鬼はたたらを踏んで下がる。
上条は姫神を自分の後ろへと引き寄せた。
上条「吸血鬼…だと…?」
上条は吸血鬼を殴りつけた自分の右手に目を落とす。
あらゆる異能を打ち殺す『幻想殺し』。
吸血鬼といえば、いかにも幻想の生き物のように思えるが―――
吸血鬼「何の退魔霊装もなく私に触れてくるか。面白い」
吸血鬼はけろりとしているように見える。
幻想殺しが通じないのは生物として存在しているからか、或いは目の前の吸血鬼も所詮はデータの集合体に過ぎないからか。
上条にはわからなかった。
上条「姫神の血は吸わせねえ」
吸血鬼「多少特殊な能力を持っている程度でヴァンパイアたる私に挑むか。愚かだな」
上条「うるせえ。とにかく、姫神の血を吸うんなら俺を倒してからにするんだな」
吸血鬼「そういうセリフは三下が吐くものだぞ少年よ」
吸血鬼は薄く笑い、再びその体を霧と化す。
だが、上条に慌てた様子は無い。
上条はある種の確信を持って霧の中にその右腕を突っ込んだ。
瞬間、霧と化していた吸血鬼の体が元に戻る。
上条が拳を振りかぶる目の前で。
吸血鬼「な…!?」
上条「らぁッ!!」
今度は顔面に思いっきり叩き込んだ。
吸血鬼はたまらず上条から距離をとる。
吸血鬼「これは、どうだ!!」
吸血鬼の右腕が鋭い刃に変わる。
だが、それも。
上条の右手が刃に触れた途端、ただの右腕に戻された。
吸血鬼「馬鹿な…! なんだその右手は!!」
上条「しらねえよ!!」
上条の右手が吸血鬼の体を吹き飛ばす。
姫神「すごい…!」
姫神はただただその情景に圧倒されていた。
上条当麻は、こんなにも強かったのか。
いや、違う。
姫神は確信を持って断じる。
彼は、明らかに姫神が知る彼よりも数段強くなっている。
霧と化した吸血鬼に対してまったく動揺せず、剣と化した腕を掴むのにまったく躊躇しない。
上条「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
吸血鬼「ちいいいいいいいいいいい!!!!!!」
一体何が。彼をそこまで。
とくん、とくん、と姫神の胸が高鳴った。
姫神が我に返ったのは、上条が吸血鬼の放った魔術らしきものを右手でかき消した時だった。
上条「わかったろ。アンタの技は俺には通じねえ」
上条はここが勝機だと思ったのだろう。
普段の彼には似つかわしくない居丈高な態度で吸血鬼に宣言する。
これで吸血鬼が引いてくれれば――上条はそう考えたに違いない。
吸血鬼「なるほど……なるほどな……」
対して吸血鬼は、そんな風にぼそぼそと呟いていた。
吸血鬼「わかったよ。どうやら君には一切の小細工は通用しないらしい」
上条「だったら……」
吸血鬼「だから、もう小細工は無しだ」
言葉が終わると同時。
吸血鬼は上条の目の前に肉薄していた。
一瞬で。
霧にもならず、翼も使わず、ただその強力な脚力で。
上条「なっ…!」
お返しとばかりに、吸血鬼の右拳が上条の顔面に叩き込まれた。
上条「がふッ!!!!」
姫神「あっ…!!」
まるでバズーカで射出されたように吹き飛ばされた上条の体が岩壁に叩きつけられる。
岩壁で強烈にバウンドして、上条の体が地に落ちる前に、既に吸血鬼は追いついてきていた。
踏みつけられる。
ゴキゴキと嫌な音が鳴る。
一度ではすまない。二度、三度、四度、五度、六度、七度―――
何度も何度も何度も何度も踏みつけられ、蹴り上げられる。
上条「か…は……」
吸血鬼「興が乗って少し付き合ってあげたがね。正直、君が私に肉弾戦で挑んできた時は腹を抱えて笑い転げたかったよ」
ぐりぐりと、上条の体を踏みつけながら吸血鬼は笑う。
吸血鬼「人間(君たち)と吸血鬼(私)では、生物としてのスペックが違いすぎるのだ。じゃれついてくる子犬を殺さぬように遊ぶのは、中々骨が折れる作業だったよ」
吸血鬼「では……」
姫神「……ッ!!」
ぼろぼろになった上条の姿に言葉を失う姫神に、吸血鬼はゆっくりと歩み寄る。
ディナーにがっつくのは紳士のすることではないのだ。
食事。この吸血鬼にとってはただそれだけのこと。
上条「待て…」
吸血鬼は少し驚いた顔で振り返る。
上条はそんな吸血鬼ににやりと笑ってみせた。
血に濡れた、凄惨な笑みだった。
上条「俺の心臓はまだ動いてる…前菜も片付けずにメインディッシュに手をつけようなんて、はしたないぜ……」
吸血鬼「……いいでしょう。確かに食べ残しは私の流儀に反します」
吸血鬼は体を反転させて再び上条にむかって歩みだす。
姫神「待って!!」
姫神が、涙を流しながら声を張り上げた。
姫神「いいよ…! もういい…! 知ってるでしょう!? 私の能力は……!!」
そう、姫神秋沙は特殊な能力を持っている。
それが『吸血殺し(ディープブラッド)』。吸血鬼を殺す甘やかな毒。
『吸えば死ぬ』のだ。たとえどれほど強力な吸血鬼であろうと、姫神の血を吸えば必ず死ぬ。
つまり今彼女に迫っている吸血鬼も死ぬ。姫神に歯を突きたてた時点で死ぬ。
それでいいじゃないか。
危機は去って、それで立派なハッピーエンドだ。
上条「いいや、駄目だね」
姫神「どうして!?」
わからない。姫神にはわからない。
ぼろぼろの身で立ち上がって、どうしてわざわざ命を危険にさらすのか。
そんなもの。なんのために。
上条「俺は、お前に二度と『吸血殺し』は使わせない」
姫神「……ッ!!」
なんのため? 馬鹿げてる。
そんなもの、姫神秋沙のために決まってる。
上条「俺は知っちまったから。お前がその力のせいで、どれだけ悲しい思いをしてきたか知っちまったから。だから―――」
姫神「そんな…そんなことのために……?」
上条「そんなことって言うなよ。自分のことだろ?」
姫神の目から大粒の涙が溢れ出した。
想いが言葉にならない。伝えたいことはたくさんあるはずなのに。
だけど。これだけは。
この言葉だけは。今。
姫神「あり…がとう……」
上条「いいって」
ありがとう。
私はあなたの優しさに甘えます。
『吸血殺し(ディープブラッド)』はもう二度と使いません。
だけど。その優しさに甘えてるだけじゃ嫌だから。
姫神「うあああああああ!!!!」
吸血鬼「ヌッ!?」
上条「姫神ッ!?」
あなたの強さを、ほんの少しだけ私にください。
広い空間を抜けて、上条と姫神は肩を寄せ合って歩いていた。
いや、正確にはもはや一人ではろくに歩けもしない上条を姫神が支えているのだった。
上条「いや~、まさか姫神が一撃で吸血鬼を倒すとは思わなかったですよ。上条さんもびっくりです」
姫神「やっぱりこれは。魔法のステッキ」
そう言う姫神の手にはスティックタイプの電気スタンガンが握られている。
姫神は普段からコレを胸元に忍ばせていたのだ。
あの時、姫神はコレを使って吸血鬼を攻撃した。
伝説上の存在をどれだけ正確に模していても所詮はデータの集合体である。
スタンガンの電気によって吸血鬼というデータはバグを起こし、ただの蝙蝠となって飛び去っていってしまった。
上条「いや~しかし」
姫神「ん?」
上条「おんぶした時、あんまり柔らかくないな~って思ってたら、そんなの胸元に仕込んでたからだったんだな」
姫神「………」
ゴツン、と姫神のゲンコツが上条に飛んだ。
第二ステージを一番乗りで抜けた一方通行と佐天涙子は、再び狭い通路を歩いていた。
もちろん一方通行が前、佐天が後ろである。
既に能力使用モードは解除し、一方通行は杖をついていた。
佐天「あ、あの…」
一方通行「あン?」
佐天「さっきは何も出来なくて、ごめんなさい……迷路の時も、私、何もしてなくて……」
一方通行「あァ、気にすンな。最初っから何も期待してねェ」
佐天「うぐ……な、ならせめて何かお礼をさせてください!」
佐天はそう言って一方通行に食い下がる。
自分の無能が誰かの迷惑になっているというのは、佐天にとって我慢ならないことだった。
一方通行「いらねェ」
佐天「くぅぅ……!」
にべもない。しかし、仕方ない。
なにせ、一方通行は真実佐天涙子のことを迷惑だなんて感じていないのだから。
彼にとって、無能力者が一緒にいる程度のことなど、何のハンデにもなり得ない。
佐天「………」
目に見えて落ち込む佐天。トボトボという擬音が聞こえてきそうだった。
一方通行「……ったく、しゃァねェな」
佐天「え…?」
一方通行「なら、後でコーヒーでも奢れや。とびきりビターなブラックをな」
佐天「は、はい!」
一方通行(第一位様の賃料がブラックコーヒー一本ってか。ハッ、我ながら安すぎて笑えるぜ)
そうこうしているうちに先の方が明るくなってきた。
どうやら、また広い空間に出るらしい。
その空間に入った途端、今までとは様子が一変した。
広い洞窟のような風情だった第二ステージとは異なり、そこはしっかりと正方形に区切られた部屋になっていた。
広さはその気になれば野球が出来そうなほど広く、床は一辺1m程の正方形のタイルが白黒交互に敷き詰められている。
チェス盤みたいだな、と佐天は思った。
一方通行「ンで、ここでは何やらされンだよ」
心底面倒くさそうに、一方通行は部屋の奥を見遣る。
そこに誰かが立っていた。
自らのよく知るその『誰か』の姿に、一方通行は顔を歪めた。
メカ木原『よぅ! そろそろみんなラストステージに到着した頃なんで、ひとつ説明を入れとくぜ!』
メカ木原『最後の部屋にはペアのどちらかと、或いは両方と縁の深い特別ゲストが待機している!』
??「はぁ~い。麦野、浜面。久しぶり」
麦野「アンタ…!」
浜面「お前…!?」
メカフレンダ「結局、私の脚線美はこの通り健在ってわけよ」
??「依然、変わらぬようで何よりだ。久しぶりだな、二人とも」
上条「アウレオルス…!」
姫神「イザード…!?」
アウレオルス「無論、この身はその残骸に過ぎぬがね」
??「ぎゃっはっは!! オイオイ今回の実験は彼氏同伴かァ!? イインかよオイクッチャクチャにしちまうぞ!?」
御坂妹「そんな…」
海原「まさか…」
一方通行「さァ、愉快に痛快に10032回目のお祭りを始めようじゃねェか!!」
メカ木原『言うまでもねえが、目の前にいるソイツを倒せばゲームクリアってわけだ! それじゃ、健闘を祈るぜ!! ガキ共!!』
そう言って、木原数多は一方通行の目の前でマイクを下ろす。
一方通行「…オイ、こりゃァどォいうこった?」
メカ木原「おいおい、俺が復活した時点でこうなることぐらい悟れよ一方通行。つれねえなあ」
その体の大部分に鋼鉄を埋め込まれた木原数多は、それでも生前と変わらぬ歪んだ笑みを浮かべた。
メカ木原「プレイヤーがお前なら、ラスボスは俺しかいねえだろぉ!!!!」
一方通行「オーケィ木原くン」
こちらも凄惨な笑みを浮かべ、一方通行はチョーカーのスイッチを操作する。
一方通行「二度とふざけた復活が出来ねェよう、細胞ひとつ残さず消し去ってやンよ」
―――場面転換。収録スタジオ。
佐天「う…ん…」
一方通行「……あン?」
メカ木原「お、目ぇ覚ましたな。ゲームクリアおめでとう、二人とも」
佐天「あ、あれ? え?」
一方通行「テ、テメエ木原!! さっき消し飛ばしてやったばっかだろォが!!」
メカ木原「おいおい、そりゃあくまで仮想空間の俺だろ? 実在の人物とは一切関係ありませんってな」
一方通行「いけしゃあしゃあとこのヤロオ……!」
メカ木原「いや~でも、あの決め台詞はなかなかだったぞ一方通行。俺も思わず惚れちゃいそうだったぜ」
一方通行「テメ…!」
佐天「………」
歯を剥き出しにして木原を睨む一方通行。
そんな一方通行を見つめる佐天の顔はほんのり赤く染まっていた。
麦野「……う…」
浜面「くぁ…」
上条「むお?」
姫神「ふぁ?」
メカ木原「お、続々と戻ってきやがったな。あとは……」
海原「うおおおおおおおお!!!!!!」ガバァ!
御坂妹「んなああああああああああ!!!!!!」ガバァ!
メカ木原「よし、これで全員揃ったな」
メカ木原「え~、まずはみんなゲームクリアおめでとう。ま、一組はちょっとアレだったけどな」
海原「………」
御坂妹「………」
一方通行「……何睨ンでンだよ」
メカ木原「困難を乗り越えてさぞ絆も深まったことだと思う。そこで早速二度目のフィーリングタイムと行きたいところだがその前に!!」
メカ木原「女の子からのアッピールタァ~~イム!!」
メカ木原「ルールは簡単、女の子たちには今からコスプレをしてもらう」
麦野「は、はぁ!? なんで私等がそんなこと!!」
メカ木原「衣装はあらゆる種類の物を揃えてるんで、どんな要望にも応えられるぜ」
麦野「ねえよ! 要望なんて!!」
メカ木原「二つの企画を経て、色々気になる奴も出てきた頃だと思う。可愛く着飾ってそいつの目を釘付けにしちまいな!!」
御坂妹「………」
姫神「………」
佐天「………」
麦野「オイオイてめえらやる気満々かよ!! 馬鹿か!!!!」
メカ木原「じゃあ早速別室で着替えてきてちょうだい!!」
麦野「ふ、ふざけんなぁぁぁあああああ!!!!」
―――場面転換。ヒロイン達の待機部屋。
滝壺「むぎの……言うわりには素直に別室に移動していったような……?」
滝壺「………」
滝壺「何か…やな予感……」
実況『さあ、女の子の準備が整ったようであります』
解説『一体どんな艶やかな衣装に身を包んでいるのか。楽しみですね』
実況『ちなみに、今回の企画に限ってワタクシ、実況と』
解説『ワタクシ、解説が皆様のお供をいたします。どうぞよろしく』
実況『最初の登場は……なるほど、麦野沈利さんですね』
解説『あれだけコスプレを拒んでいた彼女が一体どんな衣装で現れるのか、これは見物ですよ』
メカ木原「じゃあいくぜ…野郎共、目ん玉ひん剥いて網膜に映像焼き付けな! カーテンオープン!!」
上条「おお!?」
浜面「こ、これは!?」
麦野「く……」
実況『ナース服! 麦野沈利、ピンクのナース服で身を包んでの登場です!!』
解説『いや、これは王道で攻めてきましたね。悪くないですよ』
麦野「じ…ジロジロ見てんじゃないわよ!!」
実況『あ~っと、麦野沈利、恥ずかしそうに身をよじっております。顔も真っ赤だ』
解説『これはポイント高いですよ~。気の強い女性が照れているのはそれだけで大きな萌えといえます』
実況『しかしまあ、彼女ナース服が似合いますねぇ~』
解説『そうですね、彼女の長い髪とナースキャップが非常に良くマッチングしています。これは素晴らしい選択だったのではないでしょうか』
実況『一部の男性陣も目が釘付けのようです』
―――別室。ヒロイン達の待機部屋。
インデックス「む~。とうま! デレデレしすぎなんだよ!!」
美琴「何よアイツ! シンプルにナース萌えってわけ!?」
滝壺(ナースのコスプレ……あたかも今までの暴力的なイメージを払拭するかのような……)
滝壺(暴力的じゃない自分をアピールしているかのような……)
滝壺(いったい誰に? むぎのの本性を知る人間はそう多くはない……)
メカ木原「はい、というわけで、麦野ちゃんによるナース服披露でした」
麦野「くっ…やっと終わった……」
メカ木原「あ、麦野ちゃんはしばらくそのままで待機しててね」
麦野「はぁっ!? マジかよ!?」
メカ木原「マジマジ。じゃあ次は……佐天ちゃんに登場してもらうぜ」
メカ木原「カーテンオープン!!」
佐天「え、えへへ……」
実況『おっとこれは…!?』
解説『体操服! なるほどそう来ましたか!!』
実況『しかもいまやこの学園都市ですら数えるほどしか採用されていない、ぶるまぁを着用しております』
佐天(は、恥ずかしい…!)モジモジ
実況『あーっと佐天涙子、しきりにはみパンを気にしている様子』
解説『これは一部の男性層にはドストライクですよ。しかし、この子は……』
佐天(う、うぅ~……みんなすっごい見てるよぅ……)モジモジ
解説『かなり発育がいいようですね。体操服の上からでも、いや、むしろ体操服だからこそそれがはっきりとわかります』
実況『最近の中学生は一体どうなっているのでしょうか』
解説『けしからんですな』
解説『しかしこれは実際どうなんでしょう』
実況『と、いいますと?』
解説『私たちは興奮して見てますけど、あの場にいる男性陣にとっては体操服がどれほど魅力的なのかはちょっと疑問ですね。何しろ皆現役の学生といえる年なんですし』
実況『なるほど。言われてみれば、中学生の体操服はどちらかといえば子供っぽさのアピールのように思えます』
実況『あっと、今資料が届きました』
解説『どうしたんですか?』
実況『なんとですね、先程の仮想空間の中で、木原さんが一方通行のことをロリコン野郎と罵倒していたらしいんです』
解説『おっと、事情が変わりましたよ? これはつまり、そういうことなんでしょうか』
実況『ちなみに私たちの会話はスタジオには届いておりません。このように、余計な情報を出演者に与えてしまう可能性もあるので』
メカ木原「というわけで、佐天ちゃんのブルマー披露でした。いいケツしてたぜ佐天ちゃん」
佐天「はひぃ~、やっと終わった……」
メカ木原「次は…姫神ちゃんね。おっけい。んじゃ、カーテンオープン!!」
姫神「………」
浜面「おおおおお!?」
実況『でたぁ~! バニースーツだぁぁああああ!!』
解説『これも王道のひとつですね』
姫神「もじもじ…」
実況『しかしこれは実際際どい衣装ですよ。革素材によってぎゅっと押し上げられた胸の谷間、限界まで晒されたふともも、そしてそれを彩る網タイツ……』
解説『正直、姫神さんを甘く見ていました。これはやばいですよ。これを見て劣情を催さない男は極少数ではないでしょうか』
実況『彼女、本気ですね……』
解説『実際、彼女はこうして見ると非常に美しいスタイルをしています。清純そうな長い黒髪が、また妙にバニースーツを引き立てますね』
実況『これはわからなくなってきました。最後の一人に興味が高まりますね』
メカ木原「はい姫神ちゃんお疲れ様。そんじゃいよいよ最後だな」
メカ木原「最後に残ったのは、ミサカちゃんだ! んじゃ、カーテンオープン!!」
御坂妹「……」
実況『あれ…常盤台の制服から変わっていません…よ……って!』
上条「ッ!!」ブシュッ!
浜面「ッ!!」ブシュッ!
一方通行「ぶーーーッ!!!!」
海原「…!!」ゴン!
実況『わあああああ!!!! こいつスカートはいてねえよ!!!!!!』
解説『パンツ丸出しじゃねえか!!!! 何してんだこいつ!!!!!!』
名門、常盤台中学の制服に身を包んだ御坂妹は、照れたようにしながらサマーセーターとシャツの裾を掴む。
そして、ゆっくりと『彼』に向かってたくしあげ、水色と白の縞パンが露わに―――
美琴「んぎゃあああああああ!!!!!! 私と同じ顔で何てことしでかしてんのあいつうううううう!!!!!!!」
インデックス「うわあ…短髪大胆……」
美琴「やめて!! 止めて!!! ええい何はにかんでんだこの馬鹿妹がああああああ!!!!!!」
部下A「これ放送事故じゃないですか? 中学生の生パンでちゃいましたよ」
アレイスター「大丈夫だ。彼女の下半身にこうやってモザイクをかければ」
部下A「さらに卑猥になりましたが」
アレイスター「…! …!! ……!!」
部下A「いやウケてないで」
メカ木原「本日二回目のフィーリングターーイム!!!!」
何事もなかったように番組は再開された。
女性陣はコスプレをやめて元の服に戻っている。
御坂妹もしれっとした顔で座っていた。
メカ木原「もう説明の必要はねえな!? んじゃ、シンキングタイムスタートぉ!!」
―――別室。ヒロイン達の待機部屋。
美琴「うう~…」イライラ
インデックス「とうまー……」
滝壺「はまづら……」
少女達はかじりつくようにスクリーンに顔を寄せる。
さっきまでは興味なさげにしていたショチトルも、やはりことここに至ればさすがに気になるのか、ベッドから体を起こしてスクリーンに目を向けている。
打ち止め「…あれ? って何だかミサカはミサカは……」
その中で、打ち止めはある違和感に戸惑っていた。
一方通行(クソが…誰を選ぶ…!?)
一方通行(あの馬鹿クローンはもォ当てになンねえ。となりゃ、あとの三人の誰かなンだが……)
あくまで一方通行の目的はゲームから一刻も早く正当に脱出することだ。
だから、一方通行はサッサとカップルを成立させようとしている。
そのためには、『自分を選ぶであろう女の子』を一方通行は指定しなければならない。
一方通行(でもよォ…それって……)
それって、オマエ俺のこと好きなンだろ? ――って言う様なモンじゃねェ?
一方通行(それで外したらカッコ悪すぎンぞ!?)
三つのボタンの間で一方通行の指が泳ぐ。
ゲームの趣旨を勝手に頭の中でベクトル変換した一方通行は、一人で勝手に思考の渦に深く沈みこんでいた。
メカ木原「さあ、そろそろ時間だぜ」
一方通行(……クソが!!)
煩悶した末に一方通行はやけくそ気味にボタンに指を伸ばす。
―――その瞬間。
一方通行「あふン」
ゴンッ! と一方通行は突然頭をテーブルに打ち付けた。
メカ木原「お? どうした一方通行」
一方通行「………」死ーん
メカ木原「あ! コイツ演算補助止められてやがる!!」
―――別室。ヒロイン達の待機部屋。
美琴「あら? なんかいきなり一人死んだわよ?」
インデックス「おなかすいたのかな? ……おなかすいたな」
打ち止め「……てへ、ってミサカはミサカはぺろりと舌を出してみたり」
打ち止めはほっぺをカリカリ掻いて、言葉の通り舌を出した。
打ち止め(おかしいな。真剣にボタンを押そうとしてるあの人を見てたら胸がもやもやしてきたよ、ってミサカはミサカは胸の辺りを抑えてみたり…)
アレイスター「ふむ、演算補助の主導権を打ち止めからこちらに移せるかね」
部下A「ええ、もちろん」
アレイスター「では一刻も早く演算補助を再開、以後主導権は……そうだな、司会進行の彼に持っていてもらおう」
部下A「了解しました」
寝てた すまん
再開します
メカ木原「さあ全員の回答が出揃ったぜ!! 早速発表といこうかぁ!!」
一方通行(自分がどれ押したかわかンねェ……)
メカ木原「そうだな、まずは…姫神ちゃんから発表だ!!」
姫神「…!!」ビクッ!
メカ木原「姫神ちゃんが選んだのは、コイツだ!!」
テーン、テーン、テーン、テーン、テーン!
上条「お、俺!?」
メカ木原「共に迷宮を脱出した相棒、上条当麻だぁ!!」
姫神(最初に発表された時点で望みは薄い。でも……)
姫神は思い出す。仮想空間でのひと時を。
あの時、彼とは間違いなく心を通い合わせることが出来ていたように思う。
姫神(お願い……)
メカ木原「さあ、結果は!?」
美琴「……」ゴクリ…
インデックス「……」ハラハラ…
デュゴーーン!!!!
メカ木原「残っ念!!!!」
姫神「ですよねー」
上条「ゴメン!! 姫神マジでごめん!!!!」
メカ木原「さあそんじゃ、その上条くんは誰を選んだのかな!?」
上条「え!? 俺のも発表すんの!?」
メカ木原「当然!! さあ、上条が選んだのは、コイツだあ!!!!」
テーン、テーン、テーン、テーン、テーン!
麦野「はあ? 私?」
上条「は、ははは……」
美琴「なぁんでよりにもよってその女よ!? ナースか!? 結局ナースかおんどりゃあ!!!!」
インデックス「とうまー…分かりやすすぎるんだよ……」
メカ木原「さあ結果は!?」
デュゴーーン!!!!
メカ木原「はい残念!!」
麦野「テメエ人のことハズレ呼ばわりしといて今更……」
上条「はい! わかってます!! 上条さんが馬鹿なんす!! だからそんな目で見ないで!!」
麦野(……ま、悪い気分じゃないけどね)
メカ木原「じゃあ、そんな麦野ちゃんは誰を選んだのか!!」
麦野「は!? ちょ、ちょっと待って! やめろぉ!!」
テーン、テーン、テーン、テーン、テーン!
浜面「は…? 俺…?」
メカ木原「セカンドステージで絆が芽生えたか!? 麦野ちゃんが選んだのは浜面仕上だ!!」
滝壺「……うそ…」
麦野「違う! か、かかか、勘違いすんじゃないわよ!! 私はもうこんなゲーム飽きたのよ!! だからボタンも適当に押したんだ!!!!」
メカ木原「おいおい、落ち着いて座ってなって麦野ちゃん。顔真っ赤にしてそんなん言っても可愛いだけだぜ?」
麦野「ちっげえよ!! 適当ふいてんじゃねえクソオヤジ!!」
浜面「麦野…お前……」
麦野「なんだてめえその目はぁ!! たまたまだって言ってんだろうが調子乗んなあああ!!!!」
メカ木原「落ち着け落ち着け。んじゃ、結果発表行くぜ?」
麦野「……ッ!!」
デュゴーーン!!!!
麦野「はぁぁぁああまづらぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!」
浜面「ぎゃああああああああ!!!!!!!」
滝壺「………」ホッ…
その他の結果まとめ。
一方通行 → 麦野沈利 (不可抗力)
浜面仕上 → 姫神秋沙 (( ゚∀゚)o彡°バニィ!バニィ!)
海原光貴 → 御坂妹 (ぶれない男)
佐天涙子 → 一方通行 (吊り橋効果?)
御坂妹 → 上条当麻 (ぶれない女)
カップル成立 ―――なし。
―――別室。ヒロイン達の待機部屋。
美琴「…もう我慢できないわ」
インデックス「私もおなかが空きすぎて限界なんだよ……」
美琴「ここを出るわよ!! そんで、こんな番組やめさせてやる!!」
ショチトル「…出るといっても、出られないのは何度も確認したでしょ」
美琴「それは私があなた達に気を使っていたからよ。悪いけど、本気を出させてもらうわ」
美琴「ねえ誰か、コイン持ってない? 私、寝てる所連れてこられたから財布持ってないのよ」
滝壺「あ、もしかしたら……あった。私は買出しに行く途中だったから、財布、ポケットに入ってた」
美琴「ありがと。みんな、私の後ろに行って。隅っこに固まって、耳塞いでてね」
御坂美琴はその右手に滝壺から借り受けたコインを乗せると、不敵に笑った。
美琴「『超電子砲(レールガン)』の大盤振る舞い! LEVEL5を、舐ァめるなぁぁぁあああああ!!!!!!」
壁に、巨大な穴が開いていた。
美琴「さて、問題はこの収録がどこで行われてるかだけど……」
美琴は映像が映るスクリーンに目を向ける。
番組は、今も木原という男がつつがなく進行させていた。
滝壺「大丈夫。私に任せて」
滝壺が美琴を先導するように前に出る。
滝壺「あそこにいる人間のAIM拡散力場は、よく知っているから」
メカ木原『サードステージに突入する前に! 次は男子からのアピールタイムといこうじゃねえか!!』
美琴「……これを見たら、すぐに行きましょ」
滝壺「うん……そうしよう」
またさるくらってた
ちょっと投下間隔伸ばすわ
メカ木原「男の価値は裸で決まる!! 男子のアピールタイムは女の子に上半身を披露してもらうぜ!!」
一方通行「あァァ!?」
上条「ま、マジかよ!?」
メカ木原「大マジよ!! てめえら女の子にばっかりあんなカッコさせて恥ずかしいと思わねえのか!?」
メカ木原「いいか!? お前たちには女の子のアピールを楽しんだ分だけ女の子を楽しませる義務があるんだぜ!?」
一方通行「俺ァ欠片も楽しンだ覚えはねェよ!!!!」
メカ木原「そんなこと言っちゃってこのむっつりくん!! さあさあさっさと準備に入ってくれや!!」
実況『どうも、皆さんまたお会いしましたね。実況です』
解説『解説です。どうもよろしくお願いします』
実況『お、どうやら早速始まりますね』
メカ木原「最初に披露してくれるのは海原光貴だ! カーテンオープン!!」
海原「……」
実況『あ~っと、これは……!!』
解説『中肉中背です。これは紛うことなき中肉中背ですねえ』
海原(この肉体は本物の海原光貴の肉体を模したものですからね…ま、仕方ありませんか)
実況『悪くはない…悪くはないんですが……』
解説『ちょっと見る分には面白くないかもしれません』
麦野「……」
御坂妹「……」
佐天「……」
姫神「……」
実況『あ、いや、見てる。けっこう見てますよコレ。ガン見です』
解説『さてはこいつらあんまり男の裸見慣れてねえな?』
メカ木原「海原光貴さんでした。それじゃあ次! 上条当麻の登場だ!!」
上条「は、恥ずいなコレ…」
実況『おおっと、さっきの海原さんと比べても、随分と引き締まった体をしているように見えます』
解説『特に鍛えているわけではないようですが、普段の生活で筋肉をよく使ってるんでしょうね。いいつき方をしていますよ』
実況『それよりも、大小様々な傷が目立ちますね』
解説『何も知らないものからすれば何とも感じませんが、「その傷の理由を知る者」からすれば、これはたまりませんよ~』
御坂妹「……」
姫神「……」
インデックス「……」
美琴「……」
実況『以上、上条当麻さんでした』
解説『次は浜面仕上さんですね』
メカ木原「カーテンオープン!!」
浜面「……」
御坂妹「おお…」
佐天「これは……」
麦野「……」
実況『女性陣から思わず感嘆の声が漏れています』
解説『いや、わかりますよ。これは見事な体だ』
実況『そうですね。きれいにカットが入った大胸筋と腹筋。これは非の打ち所がないでしょう』
解説『鍛えてますね。自然にはここまで見事な肉体にはなりませんよ』
浜面「……」ドヤッ!
実況『おおっと、浜面さん、どや顔でステージを降りますね』
解説『そりゃああれだけ鍛えてるんです。筋肉自慢もしたくなるでしょう』
実況『さて、いよいよ最後の一人になりましたが』
解説『ちょっとどうなるか想像もつきませんねぇ……』
メカ木原「え~、最後に一方通行なんですが。アイツ最後まで抵抗しまくったので演算補助切っちゃってます」
メカ木原「だもんで、生まれたての小鹿状態の一方通行をお楽しみください」
メカ木原「カーテンオープン!!」
その姿を見たとき、誰もが一様に息を呑んだ。
スタジオにいた者達も、画面越しに収録を見守る者達も、全て。男と女の区別なく。
太陽の毒を一切受けていない透き通った肌。
すらりと伸びた腕。妙に中性的で艶かしい鎖骨のライン。
その細い首にかかった首輪が、えもいわれぬ色気を醸し出している。
そして、滑らかな背中のラインから伸びた漆黒の翼。
……漆黒の翼?
一方通行「klrtcxせwmkypぅqqqq殺dknnssすllpp!!!!!!!」
メカ木原「ぎゃああああああ!!!! アイツ羽生やしてやがる!!!!!!」
メカ木原「演算補助復活させろ!! 急げ!!!!」
一方通行「あはぎゃはっ!! テメエら皆殺しだクソ共がァァァあああああ!!!!!!」
メカ木原「変わんねえし!! おいアイツ止めろ幻想殺し!!」
上条「何で俺が!!」
メカ木原「あんなんなったアイツ何とか出来んのお前しかいねーだろが!!!!」
上条「む、無茶ゆーな!! ってうわああああこっちきたあああああああ!!!!」
一方通行「んづゥゥゥゥうるァァァあああああああああ!!!!!!」
上条「そ、その幻想をぶっころ……そげぶ!!!!」
ピーーー。 ――――しばらくお待ちください。
メカ木原「え~、気を取り直してサードステージの説明だ」
メカ木原「お前ら8人にはもう一回仮想空間に入ってもらう」
メカ木原「心配すんな。次はそんな物騒な所じゃねえ。なごやか~な動物園だ」
メカ木原「今回はペアの指定もなし。時間まで好きな奴と話して、好きなことをしてくんな」
メカ木原「じゃ、サードステージ――スタートだ」
一方通行は、手近なベンチをさっさと見つけると、時間まで寝ることを決め込んだ。
一方通行「もォダメだ……これ以上こンなモンに付き合ってたら気ィ狂っちまう……」
ベンチの背もたれにだらーんと背を預け、天を仰ぐ。
真っ青な空が目に痛い。バーチャルなんだからもっと気を利かせと思う。
何てことを考えながらうつらうつらしていたら、急に首筋にヒヤリと冷たいものを感じた。
一方通行「うォッ!?」
佐天「こんにちは」
一方通行「何のつもりだテメエ!!」
佐天「学園都市第一位の能力者でも、『うおっ』とか言うんですね」
一方通行の反応がよほど嬉しかったのか、佐天はころころと笑う。
佐天は両手に缶ジュースを持っていた。
佐天「約束通りとびっきりビターなブラックコーヒーを買ってきました。それとも、あま~いカフェオレの方がいいですか?」
麦野沈利は手すりに身を預けて物思いにふけっていた。
眼下では愛くるしいペンギンたちがとてとてと水辺を歩いている。
こてん、と転んだ一匹の姿に、思わず麦野の顔が緩んだ。
足音が、麦野の背後で止まる。
浜面「よう」
麦野「……何よ。馴れ馴れしく近づいてきちゃって。さっきので私がアンタに気を許したと思った?」
浜面「いや…そういうわけじゃねえけど……そうだな、正直に言えば、少しお前と話したかった」
浜面は、麦野の隣で手すりに手をかける。
麦野は、その場を離れようとはしなかった。
いいぞ‼!もっとやれ!!
姫神は、辺りをキョロキョロしながら歩いていた。
目的はもちろん彼、上条当麻を見つけることである。
海原「やあ、姫神さん」
姫神「こんにちは」
だから彼、海原光貴に会ったのは、偶然のことだった。
御坂妹は動物園を駆け回っていた。
途中、ベンチで死んだようになっている一方通行を見かけたが、あっさりと彼女はそれを無視していた。
あくまで彼女の目的は上条当麻である。
御坂妹「にしても妙ですね…そろそろ敷地内を一周する頃合いなのですが」
御坂妹は一旦足を止める。
彼女の前には動物園の案内掲示板が立っている。
御坂妹「彼は一体どこにいるのでしょう? とミサカは首をかしげます」
自演
浜面「まさか、お前がフレンダに謝るとはな」
風が吹く。麦野の長い髪の毛が揺れる。
セカンドステージの最終戦、彼らの前に立ち塞がったかつての『アイテム』の仲間、フレンダ。
その彼女に、麦野が最初に発した言葉は。
―――あの時はごめんね。ちょっぴりやりすぎちゃったわ。
それは軽い調子で吐かれた言葉だったのだけど、浜面はその言葉に何か感じるところがあった。
今まで麦野と何度もぶつかってきて、そのたびにうすうす感じていたことだった。
浜面「やっぱりお前、『アイテム』のこと好きだったろ」
麦野はくすりと笑う。ペンギンは、転んでいない。
麦野「だったら、なに?」
麦野は浜面の方を見ないまま、口を開いた。
麦野「確かに私は『アイテム』としてあの子達と活動してきた時間は嫌いじゃなかったわよ。でも、それを認めても、失ったものは返ってこない」
いや、むしろそれを認めてしまったからこそ、と言うべきか。
麦野「さっきフレンダも言ってたでしょ? 『結局、覆水は盆に返らないわけよ』って。全く、その通りよね」
浜面「俺は、あんまりそうは思わないんだ」
麦野「あん?」
麦野はここにきて初めて浜面の顔を見る。
浜面は、へらへらと笑って、
浜面「なんせ、俺の人生は色んなもん零しっぱなしの人生だったからな。もし、それが本当に全部取り戻せないってんなら、今頃俺には何にもなくなってる。だから麦野――」
へらへらと笑ったと思ったら、急に真面目な顔になって。
浜面「そりゃ、完全に元通りにはならないだろうけど、お前が零したものを取り戻したいと思っているんなら……俺は協力するぜ」
そう言い切った。
しばらく、麦野はじっと黙っていた。
視線の先では、四匹のペンギンが岩の上で寄り添っている。
家族だろうか。いや、仲間――なのかもしれない。
浜面「正直に言うとよ」
麦野の視線を追って、ペンギンたちを見ながら浜面は口を開く。
浜面「『アイテム』で下働きしてたあの時間、俺は嫌いじゃなかったからよ」
麦野は微笑んだ。
麦野「あんなパシリの生活が楽しかったってわけ? ホント、アンタは根っからのパシリ気質なのね」
浜面「んな! そ、そういうわけじゃねえよ!」
麦野「なら、しょうがないからそんな浜面を喜ばせてあげるわ。浜面、ソフトクリームを買ってきてちょうだい」
浜面「自分で行け!」
麦野「いけ」
浜面「はい!!」
麦野「あれー? 私のソフトクリームよりアンタのソフトクリームの方が大きい気がする。あれー?」
浜面「変わんねえよ!!」
ごめん 実は仕事で出なきゃいけない
昼までには終わると思ったんだけどなー
面目ない
18:00には再開できると思う
すまん
すまんこ
ルパン「学www園ww都ww市」
~ルパンアジト~
ルパン「次元ちゃん、まずはこれを見てくれ」
次元「ん?なんだこれは?ただの女の子じゃないか?…まさか…お前、目覚めたのか!!」
ルパン「違うwww違うwww今回の目当てはこの女の子じゃ無くて、この女の子の能力だ」
次元「ルパン…お前、いい加減にしろよ!!日本語で言え!!」
ルパン「まぁ、そう怒んなよw次元~wじゃあ、口で言うより行った方が早いな。次元、ちょっと付き合え!」
次元「………………」
誰か暇だったら続けてくれ
次元「今回は俺パスするわ」
ルパン「ちょwwww次元ちゃんwwwこれ今回はこれ頼まれてんのよwww不二子ちゃんにさぁwwww頼むよ~w」
次元「あの女なら尚更だ!!ロクな目に合わん!!」
ルパン「今回、あいつの任された仕事って言うのがこの女の子を暗殺する任務らしいんだわ…で…ちょっと、調べて欲しいらしくてな…おかしいと思わないか…こんな可愛い子が危険人物なんて…」
次元「…で、何処からの命令なんだ?」
ルパン「…ロシアの国防長官上層部からだ」
次元「!!?」
次元「話が変わった、続けてくれ!!ルパン!!」
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