朝倉「ただ月が綺麗だったから…」(768)

高校一年の夏

キョン「朝倉…俺と付き合ってくれないか」

朝倉「え…本気…なの?」

キョン「ああ、本気だ。朝倉の事が好きなんだ」


俺は朝倉に恋をした。理由なんて何もない

ただ少し趣味と考え方が合って、告白した

朝倉「…」

キョン「ダメか?」

朝倉「ダメ…じゃないわ。でも私、再来週には転校しちゃうのよ?」

キョン「ああ、知ってる」

朝倉「強制的に遠距離恋愛になっちゃうのよ?」

キョン「それでも俺は、朝倉が好きだ」

朝倉「…ねえ、私が引っ越す場所知ってる?」

キョン「ああ…確か、県を3つ移動したくらいの所だろ?」

朝倉「うん…付き合ったら、その距離をどうするつもり?」

キョン「…会いに行くさ。毎週は無理でも、絶対にさ」

朝倉「…信じていいの?」

キョン「ああ、信じてくれ。俺は朝倉が好きなんだ」

朝倉「うん…わかったわ。私あなたを信じます」

キョン「朝倉…!」

朝倉「私も好きよ…」

俺達は付き合う事になった

今週の日曜日には初デートをして…

来週にはもう離れる挨拶をしていた

朝倉「もうお別れね」

キョン「またすぐ会える。会いに行くさ」

朝倉「うん、ありがとうキョン…お金とか大変だから、無理はしないでね?」

キョン「好きな人のためなら、無茶もするさ」

朝倉「だ~めっ」ペシッ

そう言って彼女は俺の頭を優しく叩く

好きな人の前、自然と笑顔になりながら話してしまう

キョン「なんだよ、会いに行っても嬉しくないのか」


朝倉「嬉しいけど…でも無理はしないでね!」

キョン「ああ、じゃあ無理せず頑張るよ」

朝倉「うん。それじゃあ…私行くね。また連絡するから」

キョン「あ、朝倉…」

朝倉「涼子…」

キョン「え…」

言葉を遮るように、彼女は言う

朝倉「涼子って呼んで…好きな人には名前で呼んでほしいの…」

キョン「…涼子」

朝倉「うふふ…ありがとう。大好きよ…」

キョン「俺も…好きだ」

始めに言おうとしたことは、もう忘れてしまった

それでも、彼女が近くに、この街にいて…一緒に過ごせてる今はとても幸せだった

それからすぐに、彼女は遠くへ行ってしまった

彼女が引っ越したてから…すぐ夏休みに入ってた

しばらくは荷物などの整理があるらしく、あまり連絡も出来なかった

その間もSOS団の活動はあったが、やはり涼子がいないと元気が出ないわけで

…夏休みも終盤に差し掛かった時、彼女から連絡が来た

『会いたい』と

お互いがどちらかの地元に行くのは大変なので、ちょうど中間地点で会う事になった

そして日曜日…

俺は一人電車に乗って、涼子に会いに行った

地元を離れての遠出、見知らぬ駅、変わる風景…

乗り換えなども不安だったが、下調べもあって、乗ってしまえば何とかかなるもんだ

およそ約2時間半後、俺は朝倉が待つ駅に立っていた

朝倉「あ…」

キョン「よ、よう。久しぶりだな」

朝倉「うん…会いたかったよ…」

離れてから2ヶ月も経ってなかったが…久しぶりに会った気がした

彼女は少し目に涙を浮かべている

キョン「じゃあ…とりあえずどうするかな。当然この街の事なんてサッパリなんだが…」

朝倉「私もこの街は初めてだから…一緒に歩いて回りましょうか」

キョン「そうだな…色々探せばいいか」

そう言って俺は歩き出す、が彼女はその場から動かない

キョン「…どうした?」

朝倉「手繋いでくれなきゃ歩けない…」

キョン「わ、わかったから。その上目遣いは反則だ」

朝倉「えへへ…じゃあ今度から使っちゃお♪」

キョン「やれやれ…じゃあ、行くか。時間も勿体無いしな」

そう言って彼女の手を掴む

自分からつかんだくせに、心臓が高く鳴ったのを覚えている

彼女はとても笑顔だった

キョン「この辺りは結構都会なんだな」

駅を出て見渡すと、周りはコンクリートのビルばかり

しかし、少し目線を落とすとカラオケや繁華街など、遊べるような場所も目に入ってくる

朝倉「みたいね。ねえ、ちょっと歩いたらご飯にしない?」

キョン「確かに、もう12時過ぎだもんな…少し歩いたら何か食べるか」

そう言って俺達は歩き出す

手を繋ぎながら、内心ドキドキしながら…好きな人と過ごす休日、それだけでもう胸がいっぱいだ

見慣れない街も、楽しげに景色が広がっている

支援ありがとう

朝倉「あ…ここがいいな」

涼子が指差した先には、オムライス専門店があった

キョン「涼子がいいなら、ここに入るか」

朝倉「うん!」

そう言って2人、店に入る

席に案内されると、俺たちは早速メニューに目を通す

涼子は食い入るように、何度もページを見返している

朝倉「チーズオムライスかぁ…あ、ビーフシチューベースのやつもいいわね…んー…」

キョン「迷ってるのか?」

朝倉「うん…どっちも食べたいけど、2つなんて食べれないしぃ…」

キョン「俺が片方頼むよ。それで半分こすればいいんじゃないか?」

朝倉「え、いいの?」

キョン「ああ、涼子が食べたいの選べばいいさ」

朝倉「嬉しいなあ…本当キョンは優しいね…」


ピンポーン、と手元のスイッチでコールをする

すぐに店員がやって来る

朝倉「チーズオムライスとビーフシチューオムライスをお願いします」

店員「かしこまりました」

朝倉「えへへ…」

彼女の一挙一動が、たまらなく可愛い

朝倉「えへへ…やっと来たわね」

目の前の皿からは、ビーフシチューとチーズの香ばしい匂いがしている

キョン「…顔がニヤけてるぞ」

朝倉「えっ…そ、そんな事…」

キョン「オムライスで笑顔になるとか、子供みたいだな」

涼子「む~っ…」

頬をふくらませて、むくんでいる

キョン「ははっ、冗談だよ。さて、どっちを先に食うんだ?」

朝倉「…キョンにはあげないから」

キョン「な…」

朝倉「からかった罰よ!」

キョン「…わかった、悪かったよ、ごめんごめん」

朝倉「…」

キョン「ダメか?」

朝倉「…ちょっと冗談言っただけよ。冷めないうちに食べましょう」

キョン「ふぅ…ちょっとびっくりしたぞ」

朝倉「ふふっ…じゃあお詫びに…はい、あーん」

キョン「お…おい、ちょっとそれは…」

朝倉「何恥ずかしがってるのよ、はいあーんして?」

まるで子供に言い聞かせるように、彼女は優しく語りかけてくる

オムライスをのせたスプーンが、優しく俺の口の前に運ばれてくる

朝倉「ほら、はい…あーん」

それに負けて俺は…

キョン「あ、あーん…」

朝倉「ふふっ…」

彼女の笑顔に、また負ける

オムライスがこんなにうまく感じたのは、生まれて初めての事だった

キョン「うん、うまい…」ポンポン

朝倉「ん…ほっぺた叩いてどうしたの?」

キョン「ああ、癖みたいなもんだ。おいしい物食べると…ついな」

―カラン

扉を開け、俺たちはまた外を歩き始めた

朝倉「はあ…美味しかったね」

キョン「そうだな」

朝倉「好きな人とご飯食べてるんだから、当然かな?」

キョン「そ、そんな恥ずかしい事を堂々と言うなよ」

朝倉「だって本当なんだもん。またさっきのお店来たいね」

キョン「ああ…また今度来ような」

彼女の一言一言が、全部体に響いてくる

何を聞いても笑顔になってしまう

朝倉「じゃあ、これからどうしようか?」

彼女も笑顔で、俺に問いかけてくる

キョン「そうだな…またフラフラしながら、遊べる場所でも探すか」

朝倉「うん。でも、あまり駅から離れても…ね。それに…帰る時間、大丈夫?」

時計を見ると、4時近くだ

キョン「確かに…あまり遅くもなれないからな。朝倉も、時間大丈夫か?」

朝倉「私は…なるべくキョンと一緒にいたいから」

キョン「…俺も同じ気持ちだよ。じゃあ早いところ探しにいくか」

その後も2人で歩いたが、あまりいい遊び場所は見つけられなかった

歩き続けて…夕方、夜になった辺り、俺達は駅に戻っていた

俺の脳味噌の一番大事な部分は、決して駅に向かえと命令はしていない

それでも、俺たちは帰らなければならなかった

駅のホームで…電車を待つ

これくらいの時間は、社会人の帰宅の時間だ

そこそこ大きな街の駅なので、人も多い…その中に俺たちは2人だけで…ここにいる

朝倉「…」

キョン「…」

手を握りあっている…今この瞬間だけは、2人きりの時間だ

すぐに終わってしまうけれど…

朝倉「また離ればなれになるのね…」

キョン「もう少ししたら学校も始まるしな。しばらくは会えない…よな」

朝倉「…嫌」

彼女は小さく呟く

キョン「仕方ないだろう。俺たちはまだ学生で…」

朝倉「それでも嫌だよ…また遠くに行っちゃうなんてつらすぎるよ…」

彼女の目には、最初とは違う涙が浮かんでいる

キョン「また絶対会いにくるから…な。その日まで毎日、メールしてればすぐさ」

なだめるように…彼女の頭を撫でる

朝倉「……」

キョン「な…?」

朝倉「…うん、わかった我慢する」

それ以上彼女を見てると、俺も泣いてしまいそうだった

今の俺には、多少の強がりで彼女を慰めるしかできない…

『間もなく2番線に……』

…電車だ

お互いに反対方向なため、この電車に乗ったら俺たちはまた離ればなれだ

キョン「じゃあ、俺はこの電車だから…」

朝倉「うん…わかった…でもその前に…ちょっとだけ甘えさせて…」

涼子は人目も気にせず、俺に抱きついてきた

柔らかい彼女の髪から、優しい匂いがする…

でもその甘い香りに長く浸ってはいられなかった…

キョン「…涼子、電車が…」

朝倉「うん…」

涼子が俺の体から離れる

俺だって離したくはない

でももう電車が…出発する寸前だ

朝倉「またね…キョン…」

キョン「…」

電車が発進する

駅をどんどん離れて行ってしまう

朝倉「…なんで、乗らなかったのよ」

キョン「ん…次の電車でいいかな、ってな」

朝倉「次の電車30分後だよ…」
乗り換えが悪い駅では、よくある時間だ


キョン「涼子と一緒にいられるなら、少しくらい遅くなってもいいんだよ」

朝倉「キョン…」

その30分間、俺たちはずっとベンチで手を握りあっていた

夏の夜、少し大きな駅、隣には最愛の人…

キョン「もう、夏も終わりだな」

朝倉「ね…次はいつ会えるかな」

キョン「そうだな、学校が始まって…しばらくしたらかな」

朝倉「そうね…9月には一回は会いたいわよね」

次に会う話、俺たちはそんな話ばかりしている

他に何を話したのかは…あまり覚えていない

…すぐに次の30分後がやって来てしまう

朝倉「電車、来ちゃったわね」

キョン「今度は涼子の電車も一緒だしな」

2人は立ち上がり、それぞれのホームに向かっていく

俺たちは電車の中から小さく手を振っていた

ガラス窓の向こうには、彼女がいる

なんだかとても小さく見える

朝倉「……」

窓…涼子が何か唇を動かしているのが見える

キョン(ん…なんだ…)

朝倉(……き)

キョン(ん…)

朝倉(す…き…)

彼女の唇は確かにそう言っていた、俺にはわかる

キョン(おれも…す…き…だ)

涼子「……!」

言葉に気付いてくれたのか…彼女は泣きながら…笑顔を見せてくれた

―ガタン ガタン…

…電車は2人を引き裂くように、動き出す

窓の外は、もう真っ暗になっている

キョン「…ずいぶん遅くなっちまったな」

時計を見ると…8時近くを差していた


今からでは、帰るのは11時過ぎになるだろうか

だが、幸せを感じている今…帰る時間などあまり関係が無かった

…こうして、俺たちの遠距離恋愛は始まった

一年生9月

夏休みも終わり、また学校での毎日が始まった

涼子は新しい学校で頑張っている、とのことだ

ある日の電話で

キョン『学校はどうだ?慣れたか?』

朝倉『ええ。女子高だから、最初は不安だったけどね。うまくやってるわよ』

キョン『そいつはよかった』

朝倉『あ、そう言えばね…私と同じようにそっちから引っ越した人がいたのよ』

キョン『へえ…』

朝倉『佐々木さんっていうんだけどね、ちょっと変わってるけどいい人なんだよ』

キョン『佐々木…?』

その名前は、俺も…聞いたことのある名前だった

寝落ちしてました。支援感謝


その後の朝倉の話から、俺の記憶の中の人間と同一人物だということがわかった

キョン『…うん、俺の知っている佐々木みたいだな』

朝倉『キョンの知り合いだったんだ…ねえ、付き合ってる事佐々木さんに言っちゃだめ?』


キョン『別にダメな事はないよ、涼子の好きにすればいい。佐々木とそういう恋愛話をよくするのか?』

朝倉『よかった! 以前、 恋愛話をした時に、言うべきか迷ってさ…。あまり広まりすぎても、いい事ないしさ…』

キョン『なるほど。佐々木か…あいつも、恋愛なんてするのかな』

朝倉『…』

キョン『ん、朝倉?』

会話が帰って来ない…

朝倉『他の女の子の話しちゃだめ…やだ…』

キョン『…ああ、ごめんごめん。俺は涼子にしか興味ないからさ』

朝倉『本当…?』


朝倉『嬉しい♪その言葉が聞けてよかったわ…。』

キョン『…ご機嫌なおしてくれたか。よかった、でも本当に好きだからさ…』

朝倉『うん、ありがとう…。そろそろ、休みましょう? 親が最近うるさいのよね…嫌になるわ』

キョン『そう…か。じゃあ、おやすみ涼子…』

朝倉『おやすみなさい…好きだよ…』

キョン『ああ、俺も好きだ…おやすみ』

…電話を切ってから、1人布団の中で考え事をする

キョン「佐々木、か…あれからどうしてるんだろうな…」

その名前が、涼子の口から聞けるとは思っていなかった

そして今、自分の恋人と同じ女子高に通っている…らしいのだ

キョン「…まあ、あまり関係ないか。おやすみ、涼子……」

そんな事を呟きながら、俺は眠った…

次の日 朝倉

朝倉「うふふ…昨日はキョンと電話できたから嬉しいな」

軽い足取りで私は通学路を歩く

好きな彼からの電話、それだけで私を今日一日元気にしてくれる

朝倉「今度はいつ電話しよう…メールでもいいけど何か、ね…」

そんな独り言を呟きながら歩いてると、いきなり後ろから声をかけられた

佐々木「おはよう、朝倉さん」

朝倉「ひゃっ! ビックリした…佐々木だったのね」

佐々木「くつくつ。楽しそうに歩いている後ろ姿を見て、つい挨拶してしまったよ」

彼女の笑顔は、いつも愛くるしい…

女の私でも、そこに魅力を感じてしまう

朝倉「そ、そうかしら?」

佐々木「何かいい事でも?」

朝倉「えー…うん、実はね……」



佐々木「なるほど、彼氏とね。しかもあのキョンと付き合ってる、と…」

朝倉「彼から告白してくれて…遠距離でもいいから、って」

佐々木「遠く離れてても…ね。でも普段は浮気し放題じゃないのかい?」

朝倉「キョンはそんな事しないわよ。私だって他の人なんて興味ないし」

佐々木「くつくつ…まあ他人の事にあまり口出しはしないよ」

朝倉「…何かあったら、佐々木さんに相談しちゃうかも」

佐々木「友達の頼みなら、何でも来いだよ。あ…じゃあ私からも一つお願いしたいな」

朝倉「ありがとう。佐々木さんの頼みって…なに?」

佐々木「彼のアドレスだけ教えて欲しいのさ。少し昔話をしたくてね」

朝倉「…」

その一言だけで、私の頭に色んな感情が巻き起こる

朝倉(キョンのアドレス…? 知り合いとは言え、他の女性に教えて…いいのかしら?)

そんな気持ちを見抜かれたように…彼女は言葉を続ける

佐々木「…あ、他の女の子と話すのに抵抗があるなら、無理にとは言わないよ」

屈託の無い彼女の笑顔…本当に眩しい

その笑顔を信じて、私は……

朝倉「…ううん、佐々木さんなら大丈夫よ。じゃあ、これ…」
携帯電話…キョンのアドレス画面を見せる

彼女もポチポチと、電話を操作している

佐々木「…ん、ありがとう。大丈夫、話した事はちゃんと報告するからさ」

朝倉「もう、佐々木さんは信頼してるから平気よ。早く教室に行きましょう」


佐々木「そうだね…くつくつ…」

同日 キョン

昼休み…北高

キョン「さて…昼はどうするかな…」

谷口「ようキョン。学食行かねえか?」

キョン「…悪いな、金がないんで学食はパスだ」

谷口「なんだ、今日は弁当か?」

キョン「いや、弁当も無いんだ」

谷口「母親とケンカでもしたのかぁ?」

キョン「…そんなんじゃない。ただ節約してるだけだ」

谷口「節約?なんか買いたいもんでもあんのかよ?」

キョン「ああ…ちょっとな」

谷口「ハァ…仕方ねえ、今日はおごってやるよ」

キョン「い、いいのか?」

谷口「気まぐれってやつだ。国木田が席取ってくれてるから、早く行こうぜ」

キョン「すまん谷口…ありがとう」

―学食

友人からおごって貰ったカレーは、そりゃあ美味だった

食事も終わり一段落した頃…

谷口「で、お前何が欲しいんだよ?」

キョン「…まあ、ちょっとな」

国木田「なになに、なんの話?」

谷口「キョンが欲しい物あるから、昼食我慢してるんだと」

国木田「へえ…僕も興味あるな。キョンがそこまでして欲しい物って」


キョン「単純に、旅費だよ。朝倉に会いに行くためにな」

谷口「朝倉…ああ、そう言えば付き合ってたな」


国木田「恋愛もいいけどさ、お昼抜きはつらくない?お弁当作ってもらえば?」

キョン「昼食代という名目で金をもらってるからな…弁当だと金がもらえない」

谷口「それも資金にあててるのかよ!」

キョン「…小遣いだけじゃあちょっとな。バイトも考えたが…親に反対されたから、手段が無くてな」

谷口「はぁー…よくやるぜ全く。会いに行くって、朝倉のいる街まで?」

キョン「さすがにそこまでは行かないよ。お互いの中間地点の駅で待ち合わせして…遊んでるよ」


国木田「遠距離だと会うのも大変だもんね。移動費、どれくらいかかってるの?」

キョン「その駅までは、3000円程度だ…高校生にはキツい」


谷口「プラス、デート代だもんな。お前相当貢いでるな」

キョン「変な言い方するな。環境が離れてるんだから、仕方ないさ」

国木田「遠距離恋愛かぁ…ちょっと憧れちゃうな。大変そうだけど」

キョン(大変というか…普段はやっぱり寂しいんだよ、姿が見えない分さ)

谷口「でも、遠距離って浮気し放題だよなぁ」

谷口が意地悪そうに小さく笑う

キョン「…俺は朝倉以外興味ない。向こうも多分、そう思ってるはずだ」

国木田「キョンは一途だね」

谷口「まあ、友人として応援はしてるぜ。ノロケ話はいらないけどな!」


キョン「ああ、適当に見守っといてくれ。何かあったら……」

そこまで言って、俺は言葉を止めてしまった

キョン(何かあったら…相談にのってくれ? 話すのか、俺は友人に恋愛の事を…。多分、話さないな…)

谷口「ま、いくらでも骨は拾ってやるさ!」

国木田「ははっ、じゃあそろそろ戻ろうか。授業始まるよ」

そう言って俺たちは学食を出た

教室に戻る途中…俺は友人2人の背中を見ながら歩いていた

キョン(多分、踏み込んだ相談なんかは、しないんだろうな…友情とは、また別の問題のような気がするよ)

彼らはいい友人だ

でも、涼子の事は…俺が自分できっちり解決しないといけない
今の俺は、そんな風に考えているんだろう

キョン(自分でも気持ちがどう向かってるか…よくわからないが、な)


…そんな事を考えながら歩いていると、ポケットの中の携帯が小さく震えている


そう言えば涼子からのメールを返してなかった事に気付く

キョン(朝倉と…知らないアドレス?誰からだ?)

佐々木『朝倉さんからアドレス聞いたよ。僕を覚えてるかな? 佐々木だよ。また話せて嬉しいよ…』

キョン(…佐々木!)

佐々木『彼女は授業中、ずっと携帯を気にしてそわそわしているよ。その可愛らしい姿を君に見せられなくて残念だよ』

キョン(涼子…普段はそんな様子なのか…)

そんな事を考えながらも、返信をする

…挨拶と無難な言葉を切り詰めて、送信、と

キョンはSOS団に入ってるの?

キョン(…佐々木か。本当に久しぶりだな…彼女は彼女で、今どうしてるんだろうな)

頭に浮かんだ佐々木の姿は、昔の頃の姿で俺の脳裏に映し出される

佐々木…ほんの少しだけ、彼女の事を考えてしまった

キョン(…いや、今は必要以上に考える事もないか。どうせ彼女とは会わないんだ。今は…佐々木も遠くにいるんだから)

今の俺には、なんだかそれだけでも罪のような気がしてならなかった

それくらい、今は涼子の事が好きだった

国木田「…どうかした、キョン?」

キョン「いや、何でもないさ」

谷口「早く教室に戻ろうぜ」

友人達に促されながら…俺は教室に入る

座って落ち着いたら…今度は、涼子にメールを返していた

>>52
はい、普段通り活動してます
触りとなるイベント(部員の正体告白やら)も普通に起こっている前提です
あくまで、朝倉さんと付き合う描写を抜き出してるだけです



同時刻、佐々木

座りながら…窓の向こうを見ている

とてもきれいな風…花…空…

佐々木(いい天気だね…)

午後のひと時、のんびりとした時間を過ごすのが彼女は好きだった

いつものように、空を見つめていると…

佐々木「ん…」

いつの間にか、携帯に光が点滅している…電話に連絡が入った証拠だった

何となく、彼からの返事だというのがわかる

キョン『久しぶりだな、元気だったか?朝倉と同じ学校だったとは驚きだ。いつでもメールしてくれ。授業だから、またな』

佐々木(くつくつ…とても無難な、普通のメール)

今は…そのメールだけでよかった

静かに携帯を閉じる…彼から別れの挨拶を書かれてる様子だと、会話は弾みそうにないみたいだ

佐々木「ふう……」

携帯をしまった私は…今度は、空の雲ではなく、少し離れた席にいる朝倉涼子を観察する

先ほどメールに書いたように…携帯を気にしてそわそわしている

そこから2~3分もすると…一心に画面を見つめ出した

多分、彼からの返事が来たんだろう

佐々木(くつくつ…分かりやすすぎだよ。キョンからのメール…2人は本当に好きあってるんだね)

笑う、自分の中にある気持ち…

本当は…自分がメールをしたい感情…それを抑えながら、私はまた窓の外を見た

目の前には青空が広がっている

夏とは少し違う光の太陽…

そのまま授業の開始まで、ずっと外を見ていた

なんかこのSSどこかで読んだことあるような…
>>1前にも立てた?

>>58
国木田「お互いに嘘を言いあって付き合って、幸せなのかな…」
を、書かせていただきました



放課後

佐々木「朝倉さん、よかったら一緒に帰らない?」

1人の登下校は味気ない…だから彼女に声をかけてみる

朝倉「あ、ごめーん。私今日バイトなのよ」

佐々木「そう言えば、アルバイトをしていたんだね。キョンのためかい?」

我ながら、なんだがバカみたいな質問だ

朝倉「うん。月に一回だけど遠くまで行くから…どうしてもお金が、ね」

彼女はサラリと答えた。その様子が…やっぱり自分には…

佐々木「それなら仕方ないね。どこでバイトを?」

朝倉「家の近くのコンビニよ。時間ギリギリだから、いつも学校から直接行くのよね…」

佐々木「そう…じゃあ、バイト先までご一緒するよ。迷惑かな?」

>>59
おーマジか書いてるとこに出会えて幸せ

朝倉「迷惑なんて事はないわよ! こっちこそ、付き合ってもらうのは何だか悪いわ…」

佐々木「…気にしないでいいよ。一人で帰るのも寂しいからね。ほら、急がないと遅れるよ?」

朝倉「そうね…じゃあ、いきましょうか」


―バイト先

佐々木「へえ…ここのコンビニなんだね」

学校からは少し離れた場所にあるコンビニ

そこが彼女の働き場所だった

朝倉「すぐに入れるお店を探してたら、ここがね。お客さんが少ないから結構楽なのよ」

佐々木「くつくつ…暇でも時給は変わらないものね」

>>60
ありがとうございます
向こうとは設定が微妙に違いますが…(朝倉さんと付き合った時期やら、引っ越し時期やら)
色々ご愛敬という事でお付き合い下さい


朝倉「従業員も私一人の時があるし、あまりお客さん来ないから…本当暇なのよね」

佐々木「くつくつ…そんなに退屈なら遊びに来るよ」

朝倉「え、来てくれるの?」

佐々木「買い物ついでに、ね。お店に迷惑にならない程度に雑談して帰るよ」

朝倉「…それも楽しいかもしれないわね。じゃあ、私行くから。送ってくれてありがとう」

佐々木「どういたしまして。今日は私も帰るよ、また明日学校で」

朝倉「うん! いつか遊びに来てね」

同日…夜中 キョン

―ピリリリリ

…涼子からのメールだ

真面目に宿題をしていた手が止まる

彼女と勉強…優先順位は比べるまでもない

朝倉『今何してる?私はバイト中で頑張ってるよ♪』

バイト…ああ、そう言えばそんな事を言っていたな

確かコンビニだったか

働いてお金を稼げる彼女が少し羨ましかった

キョン『頑張ってるなら、メールなんてするなよ』

笑う絵文字をつけながら、彼女に返信する

バイト中とはいえ、暇な時間があるらしく…メールはすぐに返ってきた

朝倉『キョンとメールしないと頑張れないもん。メール来るだけで安心する…』

お互い連絡ができる時は話していたい…そういう気持ちは、俺もわかる

朝倉『…ねえ、次はいつ会おっか? やっぱりテストの後になっちゃうかな…?』

10月にはお互いテストがある

これが終わるまでは、安心して出かける事は出来ない

キョン『それくらい…かな。ちょっと遠いけど、今は時期が悪いからな』

朝倉『うん…それまで私頑張るよ。キョンも色々あると思うけど、頑張ってね?』

キョン『ああ、俺も涼子といれば…頑張れるよ』

朝倉『えへへ、嬉しいな…あ、そろそろ、ちょっとだけ忙しい時間だから…また終わったら返事するね?』

…何往復か、彼女とのメールのやり取りを終える

少し待っても、今の時間にはもう返事は来ない

よくわからない気持ちが込み上げてきた

多分これが、寂しいという事なんだろう

10月 土曜日

憂鬱だったテストも終わり、俺たち2人は…また同じ駅に立っていた

朝倉「キョン…会いたかったよ…」

およそ2ヶ月ぶりに見る彼女は…なんだか少し綺麗になっていた気がした


キョン「ああ、久しぶり…長かったな、今日まで」

朝倉「うん…1日1日がすごく遅く感じて…ずっとキョンの事ばかり考えてた…」

潤んだ瞳を見ると、キュンとしてしまう

キョン「ああ…俺も寂しかったよ。今日は時間もあるんだから、2人でゆっくりしよう、な?」

会う時間を増やすために、今回は早くに家を出る約束をしていた

今はまだ朝の9時過ぎだ

以前会った時はこれくらいの時間に出発していたのだが…時間が短かったので、早起き作戦に切り替えたわけだ

朝倉「うん! 今日はね、行きたい場所があるんだ」

キョン「行きたい場所?」

朝倉「うん。前みたいに歩き回るのもいいんだけど…やっぱり2人でゆっくりしたいな、って」

キョン「ふむ…」

朝倉「それで…カラオケならゆっくり座れるからいいかなって思って…」

キョン「確かに、安くて長くいられるな」

朝倉「ずっと歩くよりいいでしょ?だから、ちょっと散歩したらカラオケに入らない?」

キョン「そうだな…そうするか」

朝倉「決まりね♪」

彼女が笑うだけで…笑顔一つだけでこんなにも幸せになれる

差し出した手を何の迷いもなく握ってくれる彼女

朝の街を、俺たちは静かに歩き出す

2人で、ただのんびりと

お昼過ぎ カラオケ

軽い散歩と昼食を済ませ、俺たちはカラオケに入っていた

駅の近くにある、いたって普通のカラオケ屋だ

朝倉「ふぅ…落ち着いたね」

キョン「ああ、何か歌うか?」

彼女はススッ、と俺の隣に近付いてくる

朝倉「ううん…くっついてたい…」

キュッ、と…俺の首もとに抱きついてくる

久しぶりのぬくもり…女性から感じる暖かさ

俺も黙ったまま、涼子を抱き返す

朝倉「あったかい…キョン…」

キョン「涼子だって、あたたかい。いい匂いだ…」

朝倉「もう…ホント匂いと髪の毛好きよね」

涼子は呆れたように優しく笑う

キョン「涼子だから好きなんだよ。涼子の全部が好きだ…」

朝倉「…バカキョン」

どこかで誰かから聞いたようなセリフ

でも今はそんな事を考える暇などなかった

キョン「本当に好きなんだ…」

朝倉「うん……」

朝倉「…」

キョン「…」

長い沈黙

抱き合ったまま、2人動かない

空間が止まったような感覚

彼女の言葉で、時間が動き出す

朝倉「ねえ、キョン…」

キョン「ん、なんだ?」

朝倉「…ス……」

キョン「ん…」

朝倉「キス…したい…」

キョン「…!」

朝倉「したいの…ダメ…?」

キョン「い、いやダメなんかじゃないぞ。いきなりで驚いただけだ…」

朝倉「じゃあ…勝手に奪って…私、目とじてるから…」

彼女の姿勢は抱きついたままだ

前に読んだのは朝倉のいる地域の大学に行ってなんたらかんたらという感じだったかな

保守ありがとうです


体勢を直し、見つめる

目を瞑ったままの姿は…何だか妙に色っぽかった

…グイッ、と肩を掴み彼女の顔を見つめる

もう俺の目には唇しか見えていない

ゆっくりと…お互いの唇を近づけていく

3センチ…2センチ…1センチ…

チュッ

朝倉「ん…」

彼女が小さく声を漏らす

それと同時に、ギュッと手を握ってくれる

>>81
前回はハルヒメイン…今回は朝倉メインなんで、その時に省略した、高校時代と思っていただければ



数秒間、俺たちの唇は同じ場所にあった

でも次の瞬間

朝倉(……)ペロッ

キョン(……!)

彼女の舌が俺の唇に入ってくる

初めての体験、初めての興奮

つられて俺も舌を出し、彼女の舌を舐めるように這わせる

朝倉「ん…ふっ…」

彼女の小さな吐息が溢れてくる

…止まらない

朝倉「ん…ふ……」

朝倉「ふぁ……」

涼子の舌を夢中で舐めてる

味などはないが、えらく官能的なのだけはわかる

朝倉「…ぷはぁ……」

彼女が唇を離す

少し長い初キス…彼女の顔は真っ赤だった

朝倉「えっち…」

キョン「すまん、つい興奮して…」

先に舌を入れられたら、興奮するなという方が無理だ

朝倉「えへへ…でもキスできて嬉しいな…大事なファーストキスだもん、キョンでよかった」

キョン「ああ…俺もだ。なあ涼子、もう一回…」

朝倉「うん…次はもっと長くして…」

その言葉だけで、俺はもう…ただの思春期の男の子だ…

残りの数時間は、ただひたすら唇を合わせ、涼子とくっついていた記憶しかない

別れの時間はやって来るもので…黄昏時には、俺たちはまた駅にいた

時間よ止まれ、と歌ってる歌詞の気持ちと重さが…今なら少しわかる気がする

朝倉「また…離れちゃうね」

キョン「そうだな…」

朝倉「ねえ…次はいつ会えるかな?」

彼女の目には涙

それを直視することができない

キョン「11月か…12月だな。大丈夫、すぐだよ、すぐ…」

自然と俺も涙が浮かんでくる

以前はそこまで悲しくなかったのに…なぜだろう

気持ちと寂しさが変な形に進化してしまったんだろうか?

朝倉「うん…あ、電車…来ちゃったね…」

駅に電車が到着する

ああ…またこいつか

朝倉「…今日はお別れだね…またメールで話そう?」

キョン「そうだな…」

俺たちはまた別々の電車に乗って、もとの街に帰っていく

ガラス越しに、彼女は手を振ってくれた

彼女は…笑顔だ

泣いて顔をクシャクシャにしながらも…彼女は笑ってくれている

俺もなるべく笑顔で手を振るようにした


だが…自分も電車の中でまた泣いてしまった

笑顔が作れない…自分は彼女より、少しだけ弱いみたいだ

―ガタン ガタン

電車が動き…どんどん彼女が遠くなる

もう彼女の姿は確認出来なくなっていた

涼子に会いたい

別れた瞬間から、もう会いたくなってしまった

電車は夕闇の中を、急ぐように走り出していた

夜 キョン宅

帰る頃には、すっかり遅く…0時近くになっていた

荷物を片付け、風呂に入り…寝る準備をする

明日は日曜日だ…何をして過ごそうか

涼子は明日バイトだそうだ

俺はSOS団の活動も明日は無く…一人で過ごす日曜日だった

キョン「涼子のいない休日、か……」

―ピリリリリ

就寝前のメールが来る

朝倉『明日お昼からバイトだから、そろそろ休むね。またすぐ会えるわよね。じゃあ、おやすみ』

…待ってくれ

おやすみ、の一言が胸をえぐるように響く

キョン「…俺をこのまま一人にしないでくれ」

キョン「涼子とメールできないと眠れないんだ」

急いで返信をする

でも…

キョン『そうだな、おやすみ。明日バイト頑張ってくれ』

寝ないでくれ、なんて言えない

メールしてくれ、なんて言えない

寂しくても、ワガママを押し付ける事は出来ない

今は彼女を休ませてあげる…それだけだ

それ以外は迷惑になってしまう

キョン「仕方ない、よな…俺も寝るか…」

時計は夜中の3時をさしている

あれからずっと布団に入りながら、泣いていた


キョン「なんでたよ…なんで…」

キョン「なんで涼子の事を考えるだけでこんなに眠れないんだ…」

キョン「しかもこの涙はなんだ…なんで泣いてるんだ……!」

会いたい

会いたい

キョン「…涼子に会いたい…抱きしめて欲しい、キスしたい…」

昨日感じた彼女のぬくもりを、思い出す

それだけで、身体中が痺れて…胸がギュッと締め付けられる気持ちになっていた

どれくらい布団の中で泣いただろう

時計の針は、はもう朝の6時をさしている

…ピリリリリ

そんな時に携帯が鳴る

キョン「…! 涼子…」

朝倉『おはよう。バイトはお昼からだったけど、起きちゃったわ。キョンはまだお寝坊さんよね?』

彼女からの返事…朝一番でメールをくれる

泣いていた、自分を慰めてくれる

キョン「涼子…」


名前を呟きながら、俺は布団から出た

10月後半…そろそろ朝が肌寒くなる時期だ

その寒い中、シャワーを浴びて身だしなみを整える

服を着替え、財布の残金を確認して…玄関を出る

キョン「…行くか」

朝焼けの中…駅に向かって歩いていく

…俺の頭の中の大事な部分は、歩けと命令をしている

涼子がいる街を目指して…俺の日曜日は始まった

朝7時近くには電車に乗っていた

日曜日の割に、早朝から出掛けてる人が意外と多い事に気付く

こうして電車に乗るのは昨日以来…彼女に会いに行くのも昨日以来だ

キョン(涼子…)

電車に揺られながら、返してなかったメールを作成する

キョン『おはよう。今日は俺も早起きだ。なんだか体が軽くてな。まあ適当に過ごすよ』

会いに行く、とはとても言えなかった

今日これから涼子に会う…なんだか、想像ができない

キョン(…とりあえず乗り換えの駅まで2時間程か)

電車の暖かさもあって、俺は居眠りをしてしまった

携帯は震えない

次に俺が気付いたのは、いつも涼子と集合場所にしていた駅に着いた時だった

―乗り換え駅

昨日はここに、朝倉といた…そう思うと不思議なものだ

路線を調べてみると…この駅から1時間移動した後にまた乗り換えて…

そこから更に1時間電車に乗ると、涼子のいる街に着くようだ

つむり『A-B-C-D』と、4つの駅を経由して…地元のA駅から、涼子のいるD駅まで行けるわけだ

電車を待つ時間も考えると…ここからでは、およそ3時間かかる

でも、、今の俺には遠い距離だとは思わなかった

3時間すれば涼子に会える…涼子がいる街に行けるんだ

俺はまた電車に乗る

ここからはまだ行ったことのない、未知の領域だ

電車がゆっくりと走り出す

駅の周りや、出発してすぐには、ビルや住宅街が見えてたものの…

少し走ると…一気に緑が広る景色に変わった

線路の脇には田んぼや畑

国道や陸橋も途中見えたが、やはり少し走るとまた田畑が広がる景色になった

キョン(少し都心を外れると、もう田舎なんだな…周りに何も無いや)

のんびりとした景観をボーッと見つめながら…電車は進んで行く

知らない景色というのは、慣れてない分時間を長く感じてしまう

今はそれがもどかしくて…焦ってしまう
キョン(急げるわけでもないし…仕方ないか)

俺はまた、ゆっくりと目をとじて眠りについた

―1時間後

電車を降りて、駅に出る

2つ目の乗り換えの駅だ

キョン「ここはもう、全く知らない駅だからな…少し不安でもあるな」

とりあえず、涼子のいる街へ行く電車に乗らなければ…

路線がいくつかあったが、涼子から聞いた事のある街の名前が案内に書かれていたため…迷いはしなかった

ただ、その看板を探すのに手間取って電車を一本逃してしまったが…

キョン「…次は40分後か。少し間隔が開くな」

この駅も、少し乗り換えは悪いようだ

ふうっ、とベンチに座り携帯を取り出す

涼子からメールが来ていた

朝倉『おはよ。早起きさんだったんだ♪二度寝しちゃった私とは大違いね…今からバイト、行ってくるわね!』

時計は11時過ぎ…あと30分か、長いな

キョン『ああ、気をつけていってらっしゃい。終わったらまたメールしてくれ』

逆に言葉が浮かばない

…30分後、俺はまた電車に乗っていた

これで涼子のいる街まで行ける…

―電車に乗って、更に1時間後

『次はー……』

涼子がいる街の名前だ…

その名前を聞くだけで、胸がドキドキした

ドアを飛び出し、駅を歩く…結構広い駅だ

キョン「さて、着いたはいいが…どこに行くべきか」

広い駅だけあって、出口も東口と西口がある

どちらの出口から出て、どの方面に向かえばいいのか…

キョン「バイト先も涼子の家も駅から遠くはない、とは聞いていたが…家もバイト先も、方角が全くわからないな…」

キョン「歩くか…」

考えた末、とにかく歩き出す事にした

俺は東口の改札から外へ出る

駅前にはデパートや、居酒屋の連なった3階ビル…

結構人で賑わっている街のようだ

その反面、少しゴタゴタしたような…薄汚さも併せ持った街並みだった

キョン「…とりあえず探すしかないか」

コンビニ、という事は店舗名…つまりブランドがあるわけだ

駅の近くでそのお店の名前を聞けば、地元の人間ならどこにあるかわかるはずだ

キョン「すいません、この辺に○○というコンビニありますかね…」

「ああ、そのコンビニなら…」

店の場所はすぐにわかった

涼子の言っていたコンビニは、この辺りには1軒しかないらしい


駅からの国道を真っ直ぐ…途中裏路地に入り、少し要り組んだ道を歩いていく

駅から20分程歩いた場所に…そのお店はあった

看板は、確かにブランドと一致している

キョン「よし…」

心臓が高鳴る…

緊張しながら…俺はコンビニのドアを開け中に入っていった

14時近く 朝倉

日差しがさす午後のコンビニ

店内では立ち読みをしてる客が一人

他にお客さんもいない、暇なお店

朝倉(はぁ…やっぱり暇ね。かと言って今の時間はパートさんもいるからサボれないし)

立ち読みしてる客が、雑誌を閉じ外に出てしまう

これでお客さんは本当にいない

朝倉(…キョンに会いたいな…)

寝ても覚めても、考えるのは恋人の事ばかり

昨日会った余韻がまだ胸中に残っている

それが余計に切なかった

朝倉(でも、会えるのはまた一ヶ月だもんね…)

―ピンポーン

その時入店音が鳴る…お客さんだ

朝倉「あ、いらっしゃいま……」

そこには、いるはずの無い人

昨日会ったばかりの最愛の人がそこに立っていた

朝倉「え…キョン……なの?」

キョン「ああ…」

朝倉「何でここにいるのよ…?」

キョン「会いたくって…来ちまったよ」

それを聞いただけで、涙が溢れてしまった

大好きな人が確かにそこにいる

5時間以上かけて、私に会いに来てくれている

朝倉「嘘みたい…嬉しい…ありがとう…」

キョン「ああ…俺も会えてよかった…」

でも、この時間は、会っても触れる事はできない

たまにお客さんも来るので、会話もあまりできない

たまに話せても、パートさんがいるのであまりたくさん会話も出来ない

仕方ないとは言え、やはり寂しい

そんな状態が20分程続いた時…パートさんが口を開いた

「あの、君?」

キョン「…はい?」

「彼女、仕事中なんだよ?あまりお店にいられても…」

私は仕事、それは当然

わかってる

わかってるわよ…

キョン「そう…ですね…」

多分彼もわかっている…

「仕事であって、遊びじゃないからさ…だから、もう話すのは止めてね?」

…嫌だ。でも言えない

私はバイトの身だ、端から見たら確かにサボりにしか見えないかもしれない

それでも、目の前にいる大切な人と話せなくなるのはやっぱり嫌だ…

でも、私は何も言えない



キョン「…こっち…だってな……」

―え

キョン「こっちだってな! 遊びでここまで来てるわけじゃあねえんだよ!!」

お店に響き渡るような…大きな声…

キョン「遊びで……大事な人に会いに来るのが遊びなわけない…だろ……っ!」

泣いている…震えている

私も泣いている

キョン「……っ!」

彼はそのまま、お店を出ていってしまう

私は追いかける事もできないで、その場に立ち尽くしていた

「…行ってあげなよ」

朝倉「え…」

「なんだか…彼に悪かったかしら、あんなに必死に言われたら…ね…」

朝倉「…後でちゃんと話しますから、ちょっと行ってきますね…!」

急いで彼を追う…

彼は入り口の近くに立っていた

朝倉「よかった…いてくれて…」

キョン「…ごめんな。大声出して」

朝倉「ううん…後で私から話しておくから大丈夫…それに、嬉しかった…」

キョン「…」

朝倉「本当よ…?」

キョン「今日は会えてよかった…会いたかった…」

朝倉「うん…うん…」

キョン「昨日は寝れなくて…ずっと起きてて…」

朝倉「うん…」

キョン「朝メールが来たら、会いたくなって…気が付いたら電車に乗って…」

朝倉「それだけで十分よ…ありがとう…好き、大好きよ…」

私は彼の唇にそっとキスをする

昨日触れた唇と…全く同じ…やわらかさ…

ゆっくりと2人の唇が離れていく

キョン「…ありがとな。そろそろ俺は帰るよ。時間がかかるからな」

朝倉「うん…30分でも、会えて嬉しかった…」

キョン「帰りが5時間だけどな…でも、会えたから幸せだ」

朝倉「うん…気をつけて。またメールするから…」

キョン「ああ…じゃあ、またな…」

そう言って彼は走り出した

その後ろ姿を見れただけで、また頑張れる…

朝倉(ありがとう…大好きな人…)

そう想いながら…ゆっくりお店に戻っていく

今はさっきより笑顔でいられる、そんな気がした





佐々木「くつくつ…」

15時過ぎ 佐々木

ああ、僕はとんでもない現場を見てしまった

かつての友人とその恋人が…逢い引きしてる瞬間を

くつくつ…本当に2人が愛しあってた…それが見れただけで僕は満足だよ

―ピンポーン

朝倉「いらっしゃい…あ、佐々木さん」

佐々木「くつくつ、また来たよ。この時間は一人という事らしいからね」

朝倉「そうなのよ。パートさんが15時までで…夕方まで私一人なの」

確かに、お店には彼女の姿しか見えない

佐々木「…ところで、目元が赤いけど何かあったのかい?」

理由は知っているのに…私は理由を聞いた

朝倉「え…! あ…じ、実はね……」



佐々木「へえ、キョンがさっきまでこのお店に?」

朝倉「もう、ビックリしちゃったわよ。いきなり来るんだもの…」

佐々木「きっと驚かせたかったんだよ」

朝倉「嬉しかったわ…5時間かけて来てくれて…」

佐々木「帰るのにまた5時間…計10時間かけて、会えるのが30分。まるでロミオとジュリエットだね」

朝倉「遠距離だから、仕方ないわよ…でも会えただけで嬉しいのよ…」

くつくつ…彼女の目は、本当に恋する乙女の目をしているんだね

佐々木「…そっか、少しキョンに会ってみたかったな。あ、もちろん、友人としてね」

朝倉「佐々木さんが来るちょっと前まではいたんだけど…すれ違いね」

佐々木「くつくつ…」

―ピンポーン

新しいお客さんだ

見ると、2~3人が続けてぞろぞろとお店に入ってくる

佐々木「…あまり長居もできないかな。じゃあ、また明日学校でね」

朝倉「ええ、また明日ね」

僕はお店をあとにした

夕焼け空…日曜日ももう終わりそう

キョンの新しい姿を見る事ができた…朝倉さんの秘密を垣間見る事ができた…

今日はそれだけで、満足だよ、くつくつ…

そして季節は流れて…冬になってゆく

12月前半 キョン

めっきり冷え込んできたこの季節

ストーブの火が灯る学校の教室で、いきなり声をかけられた

声の震源地は後ろの席…ハルヒからだった

ハルヒ「キョン、あんた24日は暇なんでしょ?」

キョン「なんでしょ、ってお前な…決めつけるなよ」

クリスマスイブ…普通なら恋人と過ごす日だが、涼子がバイトに出なければいけないらしい

終わるのが夕方5時なので、その日は中間地点で会う事もできない

というわけで暇と言えば暇なのだが…

ハルヒ「SOS団でクリスマス会やるから、参加しなさいよ!」

一人寂しく、よりはマシか


キョン「クリスマス会か…ああ、わかった出席だ」

ハルヒ「決まりね。じゃあ24日の夕方6時に有希のマンション集合よ」


キョン「ああ、わかったよ」

ハルヒ「あ、プレゼント交換もあるんだから、ちゃんと用意しときなさいよね!」

プレゼント交換か…

…クリスマスに会えないとはいえ、俺も涼子に何かプレゼントしないとな

はぁ…会えないのが余計に悲しい

仕方ないとはいえ、やはり恋人と一緒に過ごしたいものだが…考えても、仕方ないか

クリスマスの事を考えたら、余計に寂しくなった気がする

ハルヒ『それとね…先週の日曜日にね……って、ちょっと待ちなさいよ!』

まだ何かを言っていた…気がする、ハルヒを置いて教室を出ていった

これ以上、学校に残るつもりも無かった

プレゼントでも買いに行くか…

あまり気乗りはしなかったが、俺はそのままデパートに向かった

デパート

キョン「さて…何を買うかな」

パッと、SOS団のメンバーが頭に浮かぶ

交換…となると誰か一人に対象をしぼってプレゼントを買う訳にもいかない

キョン「長門なら本…古泉ならボードゲームでも…と、簡単にはいかないよな」

誰に貰われても、ある程度喜んでくれそうな物…

うーん……

結局、今日のところは下見だけですませてしまった

キョン「まあ、クリスマスまではまだ時間がある…ゆっくり考えればいいさ」

もう暗くなった空を見ながら、俺は歩いていく

涼子がいる街の方向を見ながら…考える

今ごろ、彼女は何をしてるんだろう

気づくと…彼女の事しか頭に無い自分がいる

ああ…涼子に会いたいな

2日後 佐々木

女子高内教室

佐々木「朝倉さん」

朝倉「…」

佐々木「もしもし、朝倉さん?」

朝倉「あ…ごめん、どうかした?」

佐々木「寝不足かい?ボーッとしちゃって…」

朝倉「ううん…」

落ち込んでいる彼女の姿…とても弱々しい

なんだか心配になってくる

佐々木「…最近彼とうまくいってないとか?」

朝倉「そんなんじゃないわよ、先週も会えたし…でも、再来週に会えないのよ…」

佐々木「再来週…っていうと、クリスマスかな?」

朝倉「うん…イブに会いたかったんだけど24、25日はバイトだから…夕方5時まで」

佐々木「なるほどね…その時間じゃあ身動きできないわね」

朝倉「うん…お互い地元なら夜にでも会えるけど、移動時間が無いんだもの」

移動時間、ね…

佐々木「時間は…仕方ないわよね

朝倉「そうよね…だから、クリスマスは会えないのよ。残念だけど…ね」

彼女の顔が、本当に残念そうに沈んでいる

佐々木「あ…彼と会わないんだったらさ、夕方私と一緒に遊ばない?」

朝倉「佐々木さんと?」

佐々木「夕方からは暇なんだよね?」

朝倉「ええ、それなら…大丈夫よ」

佐々木「よかったら、24日…私と遊ばないかな? 実は最近お菓子作りが趣味でね…」

支援

良SSの予感

完結希望

>>130
頑張ります



朝倉「あら、いいじゃないお菓子! それなら…私も何か作って持ってくわよ」

佐々木「そっか、断られなくてよかったよ。段々作り慣れてくると、誰かに食べて欲しくてね…楽しみだよ」

朝倉「決まりね。少しやる気が出てきたわ♪ あ、時間は…夕方ね…6時で大丈夫かな?」

佐々木「くつくつ、そうだね…バイト後なら、それくらいかな」

朝倉「わかったわ。じゃあ…日が近づいたら、また打ち合わせしましょ! またね佐々木さん」
佐々木「うん…また、ね」




クリスマスだから、ちょっとだけ気まぐれでお節介をさせてもらうよ、くつくつ

同日 キョン

SOS団部室

キョン「…これで王手だ」

古泉「僕の負けです。相変わらずお強いですね」

長門「…」ペラッ

朝比奈「はい、涼宮さんお茶ですよ」

ハルヒ「ありがとう、みくるちゃん」

いつもの部室…いつもの日常

涼子と付き合ってからも、SOS団の活動を止めた訳ではなかった

月に1度は会いに行くので、たまの休日活動には参加はできてないが…

それでも両立はしていたつもりだ

俺たちが付き合っている事は部員のみんなが知っている

親しい、谷口や国木田にもちゃんと事情は話してある

…聞いた話によると、一部の生徒の間では俺と涼子は遠距離カップルとして人気者…らしい

噂が一人歩きして、どんな話になってるかは知らんが…憧れを抱く人間も多いんだそうだ(谷口談)

まあ、噂はしょせん噂だ

―ピリリリリ

そんな事を考えてると、携帯が鳴る

メール…涼子からだろうか?

しかし今回は違った

メール画面には、佐々木の名前が出ている

佐々木『24日に彼女と遊ぶ約束をしたよ。夕方6時に駅前に集合だよ、くつくつ』

…なんだこれは

疑問に思いながらも、返信をする

キョン『涼子と遊ぶのか。でも俺はそっち行けないから、全く関係ないぞ? クリスマスも、会えないしな』

―ピリリリリ

すぐに返信が来る

佐々木『夕方6時にこっちに来ればいいじゃないか。彼女に会いたいなら、ね』

…確かにその時間に涼子の地元に行けば会う事はできる

佐々木『無理にとは言わないよ。ただ会えるようなセッティングだけ…お節介かもしれないけどね』

とりあえず、時間だけ約束していれば…会う口実と、彼女が駅にいると言う保証は生まれる

キョン『…少し考えてみるよ。しかしなんでこんなことを?』
昔の知り合い…とは言え、ここまでしてくれる事が正直疑問だった


佐々木『クリスマスは一番大切な人と過ごすものだろ? それに、多分彼女が一番そう思ってるからさ』

…俺だって、本当は会いたいんだ

キョン「みんな、ちょっと聞いてくれ」

ハルヒ「ん…どうしたのよ?」
みんなの目が一斉に俺の方を向く

一息吸ってから…俺は言葉を発する


キョン「…俺は、24日のクリスマス会には参加できない」

長門「…」

古泉「おや…」

朝比奈「ふぇ…」

ハルヒ「な…何言ってるのよ! 欠席なんて許さないわよ!」

キョン「本当にごめん。後でパフェでもなんでも奢る。だから勘弁してくれ」

頭を下げて…必死に頼み込む

ハルヒ「そんな問題じゃないのよ! 大体、理由は何よ!」

バンッ、とハルヒは机を叩き立ち上がる

その音に負けないよう…俺も力いっぱいに答える

キョン「朝倉涼子に…会いに行くんだ」

ハルヒ「……!」

長門「……」

朝比奈「ふぁ…」

古泉「んっふ…」

キョン「だから、ごめん。みんな」

ハルヒ「…そう、だったらいいわよ。勝手にしなさい」

古泉「涼宮さん…」

怒った様子で椅子に座り…彼女はプイッと、窓の外を向いてしまう

キョン「…悪いな。じゃあ、今日は帰るよ。みんな…またな」

部室の扉を開き…外に出つつ、チョイチョイっと古泉に手招きをする

古泉「…?」

廊下で男2人、ちょっとした話し合いだ

キョン「すまないな」

古泉「いえ、僕は大丈夫ですけど…」

キョン「また閉鎖空間が発生しちまったら、悪いと思ってな」

古泉「……」

古泉は、何かを考え込むように口を手で押さえている

キョン「古泉…?」

古泉「…いえ、とにかく心配しないで下さい。僕なら平気ですから。涼宮さんも…何とか大丈夫でしょうし」

キョン「あ、ああ…まあ、何かあったら言ってくれ。じゃあな」

古泉「ええ…また」

同時刻 古泉

SOS団部室

彼は帰ってしまった

心なしか部室の空気が重い

涼宮さんにいたっては、無言で窓の外をじっと見つめている

ハルヒ「…」

冬の曇り空…灰色の空

彼女はただ空を見上げている

普段ならば、絶対に問題アリ…な状態なのだが、今は違う

僕の携帯電話は静かに…カバンの中で動かずにいる

つまり、閉鎖空間が発生していないという事だ

古泉(ほら…大丈夫なんですよ)

彼に聞かせるように、心で呟いた

もちろん、彼は何も知らないのだろう

いつもならこういう時に…

こちらに向くかもしれない関心が…今は全部、他の場所に向かってしまっている

古泉(まあ…仕方ないですよね)

ハルヒ「はぁ…仕方ないわよね」

空を見ていた彼女がいきなり口を開く

6つの目が、一斉に彼女に向けられる

ハルヒ「用事なら仕方ないわよね。一人欠席したけど…あ、変わりに妹ちゃんを呼べばいいのよ」

古泉「…それはいいですね。せっかくのクリスマスなんですから、大勢の方がいいですよね」
合わせるように…彼女に言葉を返す


ハルヒ「そうよね…あ! ついでだから国木田君や谷口辺りも誘ってみようかしら?」

長門「…それがいい」

朝比奈「みんな集まったら、それはそれで楽しそうですね」

古泉「元々、彼と妹さんも誘うつもりでしたからね」

ハルヒ「そっか、妹ちゃんには後で電話して…他の人間には明日声をかけて……」

古泉(…何だかんだで、涼宮さんは彼がいなくても大丈夫なようですね)

古泉(まあ、本当の所はわかりませんけど…ね)

SOS団の部室はちょっとした盛り上がりを見せていた

一つだけあいたイスが、なんだか別世界の物のように思えた

彼女達が今何を思って、何を話しているか…

今の彼には…あまり関係の無い事なのでしょう

デパート キョン

キョン「ふぅ…最近はここに来てばっかだな」

先日も、クリスマス会のプレゼントため、何度かここには来ていた

そのため色んなお店は見ていたのだが…

キョン「SOS団から、いきなり涼子だもんな…さて、何にするかな…」

ファンシーショップ、洋服、靴、小物…

今まで見たお店を見返してみても、いまいちピンと来ない

さて、どうするか、と考えながら歩いていた時…

目の前に一つのジュエリーショップが見える

キョン「宝石、か…」

店に入ってみると、ショーケースに並んだ眩しい光の数々

ネックレス、指輪、ピアス…それぞれが煌めきながらショーケースを彩っている

キョン「こりゃあまた、豪華なもんだな」

値段も…その輝きに比例してか、かなり高い

キョン「とても、高校生の小遣いじゃあ足りないな……」

しかしよく見てみると、決して手が届かないような値段でも無かった

もちろん高い物は高いが、それでも何とか買える値段の宝石があるのも事実だった

キョン「いいかもな…うん」


そんな事を呟きながら、ケースを見ていく

キョン「ん…これは…」

目に飛び込んで来た一つの光

キョン「これ…似合いそうだな」

値段も決して手が出ないわけでもない…



帰路につく途中、俺は佐々木にメールをした

キョン『24日、そっちに行く事にしたよ。知らせてくれてありがとうな』

―ピリリリリ

佐々木『そうかい、それはよかった。じゃあ24日の夕方6時に駅だから…遅れて、彼女が帰ってしまわないようにね』

今回ばかりは、佐々木に感謝だな

会える機会を一つ作ってくれた

今度お礼でもするよ、と軽く返事をしてメールを終わった

もうすぐ冬休み…そしてクリスマスには涼子に会える

12月20日 ハルヒ

放課後…あと2日で学校も終わり

少し短いながらも楽しい冬休みに入るっていうのに…

私の気持ちはなぜか暗い

冬みたいに凍ったままの気持ち

理由はわからない

前の席のバカが、SOS団のクリスマス会に参加しないとか…

決してそんな理由では無い…と思う

前の作品も良かったけど、今回のもめちゃくちゃ面白いです!

がんばってください!

ハルヒ(なんでこんなにモヤモヤしてるのよ…バカみたい)

机で考えいても…答えは見つからない

ハルヒ(やめた…帰ろ)

席を立ち、廊下を歩いていく

下駄箱まで歩くと、すでに靴を履き替えた古泉一樹の姿があった

古泉「おや、涼宮さん。今お帰りですか?」

ハルヒ「ええ。古泉君も?」

古泉「はい。今日はもう何もありませんしね…」

ハルヒ「ふうん…」

今は誰でもいいから、聞いて欲しかった

古泉「…どうかしましたか?」

ハルヒ「ちょっと、お話があるの。よかったら一緒に帰らない?」

>>155
本当に、ありがとうございます


古泉「自分の気持ちがわからない?」

ハルヒ「そうなのよ…なんかモヤモヤしっぱなしで。何をしてもスッキリしないの」

古泉「それはそれは…」

ハルヒ「ちょっと、考えるのに疲れちゃってね…」

普段ならこういう話はあのバカキョンによく話していた…気がする

でも今は違う

古泉「ふぅむ…そのモヤモヤの原因を考えた事はおありですか?」


ハルヒ「…あるけど、あまり話したくないわ」

多分わかっている事のに…私は口に出す事が出来なかった

古泉「それでもいいですよ。原因がはっきりしているなら…それを解決してみては?」

ハルヒ「…それが解決できなかったり、どうしようもない事だったらどうするのよ?」

正直、何をすればいいのかわからない…

何をしたいのかもわからない…

古泉「そういう時はですね、何をどうするかではなく、自分がどうしたいかを考えるんですよ」

ハルヒ「私自身…?」

古泉「はい。今やりたい事を考えて…そのためにはどうすればいいか。それだけで随分違うはずです」

ハルヒ「自分…自分ね…」

古泉「…ある程度、答えは決まってるんじゃないですか?」

ハルヒ「うん…決まってる。本当はキョンと一緒にクリスマス会に参加したいの…」

私は…素直にそう思う

ハルヒ「でも、それはどんなに頑張っても叶わないのよ…」

しばらく…静かに道を歩いていく

今年のクリスマスは…彼と一緒にはいられない…ずっとそう考えていた

古泉「それなら少しだけ…願望を変えてみては?」

ハルヒ「…?」

それでも、彼は口を開いてくれた


前作読んできた

これは支援せざる得ないwww

古泉「クリスマス会が無理でも、彼に何かの形でクリスマスを残せれば…いいんではないですか?」

ハルヒ「形……」

古泉「当日には会えなくても…彼とクリスマスを記憶に残してもらえるような……」

ハルヒ「あ…プレゼント……」

古泉「…それがあなたの答えならば、渡してあげるのも…いいと思いますよ」

ハルヒ「うん…私、今からデパートに行ってくる…」

古泉「そうですか。答えが…見つかったならよかったですよ」

ハルヒ「うん…ありがとうね古泉君」

古泉「ええ、暗いですから…お気をつけて」

彼は、優しく手を振ってくれた

支援の方、ありがとう

>>161
感謝です
前作の、省略した高校時代の部分としてお読み下さい



彼と別れてから、デパートに向かう

素直に考えたら…私はキョンに喜んで欲しかったんだ

恋愛感情なんかは別にして…なんだかずっとキョンの事ばかり考えてしまう

朝倉涼子と付き合ってから、キョンは遠くなってしまった

話しても上の空…

授業中はいつもボーッと何かを考えているか、携帯を見ているか

彼が遠くなってしまったからこそ、何だか気になってしまったのかもしれない

でも今は…そこまでの答えは、わからなかった

ハルヒ「何を買おうかしらね……」

ハルヒ「洋服…んー、何か違う…かな」

ハルヒ「玩具…これは、妹ちゃん向けかしらね」

ハルヒ「宝石…なんて、キョンのガラじゃないわよね…」

お店をいくつか…歩いて彼に合ったプレゼントを探していく…

ハルヒ「えへへ…キョンには、これがピッタリ…かしらね」

小さな紙袋に包まれた…綺麗な灰色をした毛皮の手袋

オシャレ過ぎず、かと言って地味すぎるわけでもない…使いやすい手袋

フワフワ、サラサラした手触りが気持ちいい

足取り軽く、帰って来る途中…

ハルヒ「あ…どうせデパート行ったなら、クリスマス会のプレゼントも買えばよかったかしら?」

でもこの考えは、手に持った紙袋を軽く抱きしめただけで…

ハルヒ「…まあ、いいか。今回はキョンのためにデパート行ったんだし…ね?」

もう一度デパートに行って、プレゼントは買えばいい

明日になったら、クリスマス会の連絡をして…準備もして…

忙しいけれど、やっと自分の冬休みが始まるような…そんな気がした

12月24日 夕方4時頃

キョン宅前

SOS団のクリスマス会…私は妹ちゃんを迎えに行くため、キョンの家に来ていた

―ピンポーン

ハルヒ「こんにちはー」

ガチャ

キョン妹「あ、ハルにゃんだ。おむかえに来てくれたのー?」

ハルヒ「ええ。一緒に行きましょう」

キョン妹「わかったー♪」

無邪気に手をとってくれる妹ちゃん…

開いたドアから、家の中が少し見えてしまい…思わず、妹ちゃんに訪ねてしまえ

ハルヒ「あ…キョンはもういないの?」

キョン妹「キョンくんはねー、お昼頃出かけちゃったよ。また遠くにいってくるんだってー」

ハルヒ「そう…遠く、ね…」

ハルヒ「そ、そう。まあいいわ、いきましょう、妹ちゃん」

キョン妹「はーい♪」

ギュッと手を繋いで…有希のマンションまで、妹ちゃんとゆっくり歩く

キョン妹「ケーキケーキ♪」

握った手を、ブンブンと振ってくる妹ちゃんが可愛らしい

―ピンポーン

鍵は開いている、と言われていたので中に入る

相変わらず小綺麗で大きなマンションだ

キョン妹「おじゃましまーす」

長門「…いらっしゃい」

ハルヒ「来たわよ、有希。あれ、みんなまだいないの?」

長門「古泉一樹と朝比奈みくるは買い出し中…他のみんなは合流して間もなく到着する」

ハルヒ「そう、じゃあ準備しちゃいましょう。手伝うわよ」

長門「問題無い。後は人と食料が集まればいいだけ…ゆっくりしてくれて構わない」

ハルヒ「そう…じゃあ妹ちゃん、遊んで待っていましょうか?」

キョン妹「わーい♪」

それから、20分もすると賑やかな足音とうるさい声が響いてくる

今日は…多分、楽しいクリスマス

夕方5時過ぎ

ハルヒ「…みんな、集まったわね。じゃあ乾杯しましょうか…乾杯よ!」

カンパーイ

古泉「しかし、これだけ集まると賑やかですね」

谷口「いやあ、モグ俺たちまでモグ呼んでもらえるとは思ってなかったからなモグ」

国木田「食べながら喋るのよしなよ…」

鶴屋「うんうん…めがっさなご馳走が目の前にあるんじゃ、我慢できないよね♪」

朝比奈「ちょうど焼きたてピザのセールをやっていたんで、買ってきたんですよ」

古泉「チキンとピザ、クリスマスには持ってこいでしょう」

長門「…もぐ」

キョン妹「コーンピザだいすきー♪」

鶴屋「お、いい食べっぷりだねえ! …そう言えば、キョン君はいないのかい?」

ハルヒ「キョンは……」

言葉に詰まっていると…

谷口「あいつは…女ですよ、女。全く…クリスマスに彼女と過ごすなんてあいつは…チクショウ!!」

鶴屋「ほうほう!青春だねぇ…確か遠距離恋愛だったかな?あまり知らないけど」

朝比奈「そうですね。確か…県3つほど離れてるとか」

鶴屋「ひゃあ…遠くまで、わざわざ会いに行ってるんだね」

谷口「でも確か、中間地点の街で会ってるとか言ってたよな」

国木田「うん。お金も時間もかかるから、って」

長門「…」

古泉「…あの、彼から聞いた話なんですけど」

ハルヒ「? どうしたのよ、古泉君」

古泉「今日…つまり今回は中間地点ではなく、朝倉さんの街まで行くそうですよ」

鶴屋「って事は、県3つかい! そんな遠く、想像がつかないにょろ…」

ハルヒ「…あれ、でも妹ちゃん?」

キョン妹「なーにハルにゃん?もぐもぐ」

ハルヒ「キョン、お昼くらいに出かけたって言ったわよね?」

キョン妹「そうだよー。お昼のハトさんが鳴ったらおでかけしたんだよ」

国木田「じゃあ12時に家を出てから…えっと、彼女のいる街までの時間は?」

古泉「乗り換えを含めて5、6時間かかると言ってましたが」

谷口「多く見て…まあ、6時間か」

ここまで話を聞いて…全員が顔を見合わせる

全員「……?」

谷口「あいつ…今日中に帰って来られるのか?」

国木田「そう言えば…終電とかもあるからね。夕方6時に着いたとして…夜7時に乗ればギリギリ終電くらいかな?」

ハルヒ「5時間かけて1時間だけ会って帰ってくるなんて…馬鹿げてるわ」

谷口「今日は帰らないでお泊まりだったりしてな」

ハルヒ「な……!」

キョン妹「キョンくん、お泊まりっておかーさんに言ってなかったよ?夜に帰る、って」

鶴屋「…て事は、本当に1時間足らずで帰りの電車に乗るみたいだね」

長門「…」

ハルヒ「ふぅ…今度一度、あのバカを尋問する必要があるみたいね」

谷口「おっ、いいなそれ。色々楽しい話が聞けそうだ」

朝比奈「ふぇぇ…あまり聞いちゃあ悪いですよ…」

鶴屋「はははっ、まあそれも青春なんだからいいじゃないかっ! 楽しい話は大歓迎だよ」

古泉「たまにはそういう話も、いいのかもしれませんね」

国木田「彼女がいるのは貴重なサンプルだからね。僕もぜひ聞いてみたいよ」

谷口「くそっ……あの節約野郎が……」

鶴屋「おっ、節約ってなんの事だい?」

国木田「キョンがね、昼食分のお金を貯めてね……」

彼の話で笑いながら…夜は深くなっていく

夜9時

クリスマス会を始めて数時間…

パーティーもそこそこに盛り上がり、そろそろ帰宅の準備を始めていた頃だった

谷口「じゃあ、帰るか」

国木田「そうだね…今日は誘ってくれて、ありがとね」

鶴屋さん「めがっさ楽しかったよ」

朝比奈「みなさん、よい冬休みを過ごして下さいね」

古泉「では行きますか。女性の方は送る必要がありますね…」

ハルヒ「ほら、妹ちゃん帰るわよ」

キョン妹「う~ん…ねむぃぃ…」

古泉「…これではおぶって行く必要がありますかね?」

谷口「あいつの家までなら、俺がおぶってくよ」

古泉「わかりました、では行きますか」

みんな準備をすませ、玄関に並んでいる

ハルヒ「じゃあ有希、戸締まりちゃんとするのよ?」

長門「…わかった」

古泉「では、失礼します長門さん」

玄関をあけ、皆外に出ていく

最後に私が家を出ようとした瞬間

長門「…待ってほしい」

ハルヒ「ん…」

私は…彼女に呼び止められる

…みんなを扉の外で待たせながら、一人玄関に残っている

ハルヒ「どうしたのよ?」

長門「…」

有希は少し戸惑っているようだ

それでも、口ごもりながら…彼女は言葉を話してくれた

長門「今日、彼は…」

彼…キョンの事?

長門「彼は最愛の人に会っている…」

ハルヒ「…そうよね。だからこそ、出かけてるんだものね」

いたって冷静に、受け返したつもりだ

胸の中は、なんだがズキッとしたけれども…

長門「その状態で、私たちが何を言っても、彼には届かない…」

ハルヒ「…そうよね。盲目な人間て、そんなものよね」

長門「それでも…あなたは彼にそれを渡したいの?」

なぜかここに持ってきてしまった、彼へのプレゼント…

静かな玄関に…紙袋が、カサリと鳴る

ハルヒ「だって…せっかく買ったんだもの。彼に喜んで貰えるなら……」

長門「彼の事が…好き?」

好き…?

ハルヒ「わからない…わからないのよ。彼には喜んで欲しい、プレゼントをあげたい…でも…」

長門「でも?」

ハルヒ「隣にいる事を望まれてるのは…私じゃ無いもの……」

長門「……」

ハルヒ「自分に、どんな気持ちがあってもダメなのよ…! 結局は…相手が認めてくれないと……」

長門「じゃあ、諦める…?」

ハルヒ「それも…嫌、でも…本当に今はわからないの…」

長門「…」



ハルヒ「…変なこと言って、悪かったわね。みんなを待たせてるから、もう行くわ…」

長門「…引き止めてしまって申し訳無い」

ハルヒ「ううん…平気よ。じゃあ、またね」

長門「…おやすみなさい」

―ガチャリ

古泉「おや、終わりましたか?ではみなさん帰りましょうか」

夜の闇を、みんなで歩いている

歩きながら、有希の言葉を思い返す…

なんだろう…やはり考えてもわからない

ハルヒ(そりゃあ…好きな人と会ってたら幸せに決まってるわよね…)

持っていたカバンの中を探る…
―カサリ

手に触れた…紙袋一つ

彼へのクリスマスプレゼント…

ハルヒ(…私だって、今日会えたら…)

会いたい


ハルヒ(うん…難しい事は考えられないけど、やっぱり私は彼に…会いたいみたい)

妹ちゃんを送って、みんなそれぞれに帰って行った

まだ、キョンは家には帰っていなかった…

国木田「さて…じゃあ、またね」

谷口「じゃあな」

古泉「お気をつけて」

鶴屋「みんな、よいお年をっさ」

朝比奈「さよなら、風邪ひかないで下さいね」


私も一人…夜道を歩いている

寒い…空気は清みきっていて、星空が綺麗だ

その冷たい空の下で、私はただ星を見ながら歩いている

ハルヒ「あ、もう…着いたのね」

私が来たのは駅だった

ハルヒ「ここで待っていればキョンに会える」


ここにいれば、キョンの方から私に近付いてきてくれる

ハルヒ「…我ながら、本当よくわからないわね」

待合室のベンチに座る…時計は9時27分…

今、彼はどの辺りにいるんだろうか

あと数時間もすれば会える…

それだけが、今の彼女の支えだった

12月24日 キョン

少し前…夕方6時頃

電車を乗り換えて向かった…涼子がいる街

これで2度目だ

2ヶ月前に来た時とは、駅の様子も空気も少し違う

まだ慣れていなかった景色をもう一度見た違和感…だろうか

それとも、単純に季節が変わっただけだから…そう感じただけだろうか?


それはとにかく…

俺は東口に行き、彼女の姿を探す。たしかこっちでよかったはずだ

歩いて駅を出ると…すぐに目的の人は見つかった

駅から一歩外に出ると…それだけで彼女と目が合う

彼女もハッとした様子で俺に気付き…こちらに歩み寄ってくる

朝倉「あのさ…なんでここにいるのよ…?」

キョン「…佐々木が来られなくなったからな。変わりを頼まれたんだよ」

朝倉「……」

キョン「迷惑だったか?」

朝倉「…嬉しすぎるのと、佐々木さんへの怒りで言葉が出ないのよ…」

怒り…とは口ばかりなんだろう

彼女は目から涙を流しながら、俺を見ている

キョン「さて…行くか。2人だけのクリスマスだ」

朝倉「うん…うん……!」

手を繋いで歩き出す

今ここに2人で一緒にいられる

本当に奇跡のようだ

キョン「それで、どこに行こうか? この街は、涼子のバイト先のコンビニしか知らないからな……」

クリスマス用にライトアップされた…駅前通りを歩く…

とは言っても、落ち着けるお店があるわけではない

居酒屋とデパートくらいで…駅前には、他に何も無いような場所だ

朝倉「んー…この辺には座れるお店が無いのよね。でも駅から離れすぎても…キョンの帰りが心配だし」

キョン「帰り?」

涼子からその言葉を聞くまで…帰りの電車の事など、あまり考えていなかった

ここからまた約5時間…気が遠くなるが、隣に涼子がいればそれだけで…

キョン「まあ、なんとかなるさ。駅の近くで落ち着ける場所は無いのか?」

朝倉「…あ、そうだわ」

そう言って、彼女に引っ張られて来たのは小さな神社だった

キョン「神社か…」

朝倉「駅からも近いし、座れるわよ。少し寒いけど…」

キョン「…こうしてれば、暖かいさ」

俺はすぐに涼子に抱きつく

朝倉「あ…」

キョン「会いたかった…」

朝倉「私も……」

ベンチに腰をおとして、2人ずっと抱き合ったまま…

今度は唇を近付ける

朝倉「ん……」

1ヶ月ぶりの彼女の唇は、柔らかく暖かい

しばらく時間が止まる…

前回のもリアルタイムで見てたから
また会えて光栄だね

念のためsageにしようか?

支援ありがとうです

>>197
どちらでも、大丈夫ですよ
自分も、1時間に1回くらいは適当にageてますし…本当感謝


一通りくっついた後…彼女は持っていた袋から…


朝倉「私ね、お菓子作ってきたんだよ」

キョン「お菓子か…そりゃあすごいな」

朝倉「本当は佐々木さんとお互いのお菓子を交換するはずだったんだけどね」

彼女は…フッ、と半目で笑いながら嫌みっぽくこちらを見ている

キョン「…うん、すまない、悪かった」

朝倉「ふふっ、冗談よ。新作だったから、キョンに一番始めに食べて欲しかったの…お願いが叶ってよかったわ」

キョン「涼子…」

彼女は箱を取りだし…開ける

そこには一口サイズの小さなケーキが6つ並んでいた

キョン「すごいな…これ全部手作りなのか?」

朝倉「そうよ。こっちのがチーズケーキで、これがマドレーヌ…ショートケーキに、チョコに……」

キョン「ああ、じゃあ俺はとりあえずショートケーキをもらうかな」

朝倉「うん♪ じゃあ…はい、あーん♪」

何の恥ずかしげも無く、俺は涼子の差し出したフォークにかぶり付く

口の中に生クリームの甘味が広がる

キョン「うま…すごく美味しい」

朝倉「ふふっ、よかった…あ、口にクリームついてるよ」

キョン「え…?」

―チュッ

朝倉「……」

キョン「……」

朝倉「ぷはぁ…」

キョン「…」

朝倉「ふふっ、クリスマスだから、ね」

唇と舌を、ずっと押し付けられていた感触と…

そんな行動をする大胆な彼女自身が可愛すぎて、俺はしばらく放心していた気がする

朝倉「ケーキ…どうだった?」
キョン「全部美味しかったよ。おかげで腹もいっぱいだ、ごちそうさま」

クリスマスらしい料理は食べられなくても、彼女が作ってくれたケーキを食べる事ができた

本当に…幸せだ


朝倉「よかった…キョンが幸せなら、私も幸せよ…」

彼女はまた…体をこちらに任せてくる

肩に涼子の頭が寄せられて…また、俺の首筋に彼女の顔が触れ合っている形だ

涼子の肩を抱きながら…俺も、持っていた袋の事を思い出す

キョン「そうだ、涼子…渡すものがあるんだ」

朝倉「ん…なーに?」

持ってきたカバンから、リボンの巻かれた箱を取り出す

キョン「クリスマスプレゼント…涼子に」

朝倉「あ、ありがとう…嬉しい…でも、私今日プレゼント用意してないのよ…」

元々は佐々木と遊ぶ予定だったんだ

持ってなくて当然だ

キョン「俺はこれを涼子にあげたいだけだからな…プレゼントは、気にしなくていいさ」

朝倉「私だってプレゼント渡したいの! あ、じゃあ…今度! 会う時までに…用意しておくからね…?」

キョン「ああ、わかった。楽しみにしとくよ」

朝倉「うん…あ、開けてもいい?」

キョン「ああ。気に入るかはわからんがな」

シュッとリボンをほどき、袋を開けていく

中からはプラスチックで覆われた、透明な小さな箱

箱というよりは…スライドする、小さなショーケースだ

そのケースの中には…

朝倉「指輪が…2つ…?」

キョン「何にするか迷ったんだけどな」


朝倉「キョンがくれるなら、何でも嬉しいわ…でも、2つ…?」

キョン「これはお揃いの…ペアリングってやつだ。ほら、指貸してみ」

朝倉「あっ……」

彼女の左手を掴み…指輪を取り出す

その指輪は、彼女の薬指にスッポリとはまる

キョン「よかった、ピッタリみたいだな」

朝倉「薬指…キョン、これって……」

キョン「あ、ああ…指のサイズがわからなくてな、店員に相談したら薬指で考えるのがいいって言われて…それでな」

さすがに渡す時は緊張して…ドキマギしながら、答えてしまう

朝倉「本当、ぴったり…ね」

キョン「手はよく握ってたから…指の細さや、大体のサイズは覚えていたんだ。涼子の指は、平均よりちょっと細かったみたいだな」

朝倉「そう…なんだ…」

彼女はただうつ向いて…軽く両手を絡めながら、指輪を見つめている

キョン「もう一つのは俺の、と…」

指輪を取りだし、指にはめようとした時…

朝倉「あ…待って」

キョン「ん…?」

朝倉「もう片方は…私からキョンに付けさせて?」

キョン「そうだな…わかった」

自分の薬指に、彼女がもう一つの指輪をはめてくれた

朝倉「これで…お揃いね」

キョン「ああ…お互い離れているけど、少しでも近くにいられるように、な…?」

朝倉「うん……!」

また彼女はギュッと力強く抱きついてくる

そして俺も…ギューッと彼女を抱き返す

しばらく抱きついてると、俺の首筋に…ヒヤリとした液体が流れてくる…

キョン「ん…涼子?」

朝倉「……」

彼女は答えない

少しして、これが彼女の涙だと言う事に気付く

キョン「好きだ…本当に、大好きだ…」

朝倉「うん…私も…好きよ、大好き……」

遠い場所で、星が輝く下で、俺たちは長い時間ずっと抱きあっていた

今日この日…彼女と過ごしたクリスマス…

その日は星空がとても輝いて見えて…

流れる時間や冷たい空気…全てが、なんだか…

俺にとって世界が変わった日だったんだと…思う

…どれくらいの時間、ここにいただろうか

時計を見ると、もう夜中の7時を過ぎている

朝倉「時間、大丈夫…?」

彼女は不安げに、訪ねてくる

キョン「そろそろ電車に乗った方がいいのかもな」

朝倉「うん…」

キョン「じゃあ…行くか」

2人また手を繋ぎながら、駅に向かって歩いていく

朝倉「今日は…ありがとう。ここまで来てくれて嬉しかった」

キョン「…佐々木に感謝だな。俺も会えると思ってなかったからな」

朝倉「うん…お礼、伝えておくね?」

キョン「ああ…頼んだよ」

今、西の空に大きい満月ありますねん

>>211
こちらは曇り…今日は見れないのが、残念

彼女とほんの少し話をしただけで、すぐ駅には着いてしまった
近くの神社だ…移動距離も、こんなものだろう


キョン「もう駅か…」

朝倉「うん…」

キョン「…メール、するよ」

朝倉「うん…帰ったら、教えてね…?」

キョン「ああ…またな」

朝倉「今日はね、クリスマスに会えたから…たくさん話せたから寂しくないよ…」

キョン「そうだな…」

朝倉「こんなに素敵なプレゼントも貰ったし…今は、本当に幸せよ…」

キョン「涼子が幸せなら…それでいい。そろそろ…行くよ」

朝倉「うん! またすぐ会えるわよね。その日まで…またね、キョン」

キョン「ああ…またな、涼子」

最後は、2人とも笑顔でバイバイができた

駅の改札を通って、ホームに行く

案内に目を通すと…20時に次の電車が来るらしい

あと15分程待つようだ

キョン「ふぅ…」

俺はベンチに腰を下ろす

彼女に会えた安堵と、これから帰るという気疲れ…


さっきの出来事の色んな事を考えながらも…15分後には、帰りの電車の中に座っていた

夜8時

電車に乗り込み…やっと一息つく

足にかかる暖房が温かい…

キョン「ここから5時間か…やっぱり、遠いな」

電車が走りだし…涼子のいた街が、どんどん遠くなっていく

でも今は不思議と悲しくはなかった

好きな人に会えた満足感、プレゼントをあげる事ができた幸福感…

そして左手の薬指についている指輪

そのどれもが、俺の心を満たしてくれる

さっき涼子と…駅で話していた通りだ

そんな事を考えてると…すぐに、一つ目の乗り換えの駅に着いた

ここまでおよそ1時間…遠いようで近い…ここまでは、そんなだ

キョン「もう着いたか…早いな」

そのまま、駅の中を移動する

目的の路線を見ると…

昼や夕方の時と比べ、乗り換え本数がまた減っている事に気付く

昼間の時間帯なら30分に1本は電車も来ていたのだが…

キョン「…50分ほど、足止めか」

次の電車は10時近くに来るようだ

キョン「ここで…あせっても、仕方ないか」

ベンチに腰をおろし…冷たい風が吹き抜ける駅のホームで俺は…電車を待っていた

夜10時頃

―ガタン ガタン

待っていると…やっと電車が来る

あれから1時間。寒空の下で待つのも楽ではない

キョン(待った後に…涼子に会えるなら、別だけどな)

心の中でそんな事を思いながら、電車に乗りこむ

そしてまた揺られながら…帰っていく

―ガタン

この電車の先に、誰もいないのかと思うと…憂鬱になる

ただ家に帰って、また涼子のいない毎日が始まる…

キョン(よく考えたら…寂しいもんだな)

悲観的な考えしか浮かんで来ないのは…彼女から離れてしまっているからだろうか?

50分ほど走った後…電車はまた次の駅に着く

ここは、いつも涼子と会っていた駅だ

人もいない、空気も冷たい…

朝や昼に来るのとは、ずいぶん違った印象だ

キョン「やはり、一人で来ると味気ないもんだな」

真夜中のクリスマスイブだけあって、人は本当にまばらだ

そして、時刻表を見る…

今の時間は11時を過ぎている

キョン「次の電車、この時間は…また1時間か。くそっ、乗り換えがうまくいかないな……」

この時間では…次に電車に乗る頃には、日付が変わってしまえ

キョン(…日付?そう言えば、終電…大丈夫なのか?)

今さらになってその疑問が浮かんでくる

乗るわけではないが、この駅の時刻表を調べてみる

大体の基準を考えるわけだ

キョン「ここの終電は…夜中の1時8分」

キョン「次の駅でもう一回乗り換えなくちゃならんしな…間に合うのか?」

それを今考えても、電車が早く来る訳ではない

俺は潔く、電車を待つ事にした

もうすぐ、涼子と過ごした今日が終わる

12月25日0時 ハルヒ

駅で彼を待ってから数時間…

日付はもう変わってしまった

ハルヒ「…来ないわね…」

待合室では小さな電気ストーブが動いているが、やはり冬の空気は冷たい

ハルヒ「はぁ…息真っ白…」

フゥ、とため息を落とす

さっきから、何度同じ動作をしたかわからないくらいだ

ハルヒ「まったく…何やってるのよ、あのバカ…」

悪態をつきながらも、自分は彼の到着を待っている…

さっきまでの楽しかったクリスマス会が何だか嘘のような…

自分を寂しい気持ちにさせる、この寒い空気がなんだか嫌だった


ハルヒ「でも…キョンに渡さなきゃ…」

そんな寒さも、彼を思えば…何ともなかった

いつまでだって待っていられる…

それでも今はただ、私には座っている事しかできなかった

12月25日 0時12分 キョン

―ガタン

ああ、やっと電車が来た

しかし、この電車に乗った後にもう一つ乗り換えをしなくてはならない

キョン「終電…間に合うのか?」

考えれば考えるほど、もどかしい

キョン「またここから一時間か…」

改めて考えると、涼子のいる街まで本当に遠い

恋人が…なんでこんなに遠いんだろう

どうして俺は、彼女の近くに住んでいないんだろう

キョン「…こんな事考えるなんて、どうかしてきたな、俺も」

キョン(やっぱり…近くにいきたいな…涼子…)

電車の中の暖かさと、たまった疲れのせいで、俺はいつの間にか寝てしまった

最後の駅で乗り換えなので、乗り過ごす不安は無かったが…

ただ、帰りの電車に乗れるのかだけが、ちょっと不安だった

どんなに気持ちは焦っても…あと1時間は、どうしようもない時間だ

12月25日 1時17分

やっと最後の駅に着く

が…案内を見て愕然とする

キョン「電車が…もう無い…」

時刻表では、1時前でこの駅の電車は終わっていた

先ほど俺が乗ってきた電車が最後で…もう、電車は来ないみたいだ

この駅からの電車に乗れなければ、俺は家に帰れない

キョン「どうする…かな……」

こんな時間だ

高校一年生がうろついていい時間ではない

何かあって、補導でもされたらたまったもんじゃない

キョン「かといって、電車で一時間の距離を歩くわけにもいかないしな…」

漫画喫茶にでも泊まるか?

キョン「いや、未成年だからどちらにしろ危ないか…」

進めない、泊まれない、帰れない…

周りでは、ガラガラ、とシャッターが動く音がする

駅員が駅を閉めるような準備をしている

支援感謝

キョン「ここにいても…仕方ないか……」

途方にくれながら駅を出る

ここらの街並みは…少し小高いビルが並んだ…ちょっとした都会だ

…しかしそのビルが、今の俺にはとても恐ろしいものに見えた
駅前なのに、明かりが点るような店は何もない…真っ暗だ


街全体に広がる黒が、余計に俺を不安にさせる…

12月25日 1時49分 ハルヒ

―ガタン、ガタン

ホームに電車が来る

これがこの駅の最後の電車…

今までの電車にキョンはいなかった

この電車に乗っているはずだ

ハルヒ「キョン…よかった、やっと会える…」

改札の方を向きながら、出てくる人々に目をやる

一人…二人…

改札を、まばらになりながら人が通っていく

彼の姿は…まだ見えない

いつの間にか…改札を通る人はいなくなっていた

それでも、さっきの中に…キョンの姿は無い


ハルヒ「……」

「…そろそろ、駅を閉めますよ」

ハルヒ「…え、あ、はい…」

いつの間にか、時計は2時を過ぎている

駅員に声をかけられて、もう人が来ない事を理解する

「夜中だから、お気を付けて」

ハルヒ「はい…」

駅を出ると、寒い空気が一気に襲ってくる

さっきまでのストーブがあった待合室とはやっぱ違う…

何より、気持ちまで凍ってしまいそうだ…

ハルヒ「…来なかったじゃない」

ずっと待っていたが、彼は来なかった

ハルヒ「…お泊まりかしら」

嫌な考えばっかり浮かんでくる

ハルヒ「有希が言ってたのは、この事ね…最愛の人と会っている…ってさ……」

支援、ありがとうございます


ハルヒ「…もう、帰ってこないのかな」

今日一日会えない…それだけで、これから先もうずっと会えないような…

そんな気がした

真っ暗な空に向かって…ううん、キョンに向かって話しかけるように私は呟く…

ハルヒ「どこにいるのよ…早く…、帰って来なさいよ、バカ……」



ハルヒ(ここで文句を言っても…仕方ないのに、ね…)

ハルヒ「もう…帰ろっかな…」

私はしばらく、その真っ暗で灰色な空を一人で見上げていた…
そのまま空を、ほんの少しの時間…見上げていた……

12月25日 1時58分 キョン

「なあ、あんた」

キョン「……」

「あんたってば、大丈夫か?」

駅の前で一人座っていると、後ろから声をかけられる

キョン「…」

振り向くと…

白い帽子を被り白い手袋をつけた…初老くらいのじいさんが立っていた

キョン(この格好…タクシーの運転手…か?)

「何やってるんだい、こんな時間に」

保守本当にありがとう
2~3時までは飛び飛びになってしまうかも


とりあえず…補導の警察官で無かった事に俺は安心した

そして何より…

「家出でもしたのか?」

その人物は不思議な雰囲気で…柔らかく話しかけてくれる

だから俺も…つい、話しをしてしまう

キョン「…電車が無くなって、帰れなくなっただけです」

「そか…家はどこだ?おじさんのタクシーで送ってやるぞ?」

キョン「……」

「どうした、ほら?」

キョン「場所は……」

電車で一時間の街の名前を、俺は口に出す

「ああ…あの街か。ここからだと高速使わにゃな」

タクシー…か

家まで送ってくれるのなら、確かにありがたい

だが…一番の問題は、また別にある

キョン「いや、でも俺お金が…」

「…いくらもってる?」

キョン「…一万円ちょうどです」

遠距離のタクシーなんて、いくらかかるか想像が全くつかない

みるみる料金メーターがあがるようなイメージしか、俺には無い

そんな乗り物を…選択肢に入れる事は、最初から出来るはずも無かった

「…そうか。まあ乗りなさい、すぐそこの…ほら、あのタクシーだから」

これで…足りる計算なのだろうか?

こんな深夜に声をかけて来た人物…

一応ちゃんとした身なりをしているとは言え、他人に付いていくなど、確かに危険極まりないだろう

しかし今の俺には何をどうする事もできなくて…

キョン「はい…お願いします」

俺は言われるままに、タクシーに乗るしかできなかった

一人で無い安心感と…ちょっとした車の中の温暖具合が、俺に少しの安らぎを与えてくれる

「さ、行くか」

車は夜の街を走っていく…

オレンジ色の街灯が流れていく

暗くてビルの向こうまでは見えないが…

それでも、昼は人間がたくさんいて賑やかそうな…そんな、真夜中の都会なのだというのがわかる

「何か約束でも?」

走る窓の外を見ていると、ふいに運転手が話しかけてくる

キョン「あ…出掛けて帰るところです」

「ははは、そういえばさっきもそう言ってたな」

気さくに笑ってくれる運転手が、今はとても優しく感じた

さっきまでの孤独とは違う

意外と、人間の感情とは左右にぶれるものらしい

今は、見ず知らずのこの人物が、俺の不安を少しだけ解消してくれている

だが…それ以上に料金メーターを見ていると、不安になる

カシャカシャと、どんどん料金があがっている

少し走っただけで、もう千円近くになっている

キョン(…大丈夫なのか、これ?)

「いやー、俺も昔は色んな場所に出かけてなぁ…よく怒られてたもんだよ」

キョン「あ、あの……」

「お、もう高速だからな。大丈夫、高速乗ればすぐだよ、すぐ」

カシャリ、と運転手が手元をいじると前の方に表示されていた文字が『高速』に変わる

キョン(ダメだ、話を聞いこうとしてくれない…)

そして、車は高速を走っていく…

カシャ

カシャ

カシャ

さっきまでの道とは違って、すごい勢いでメーターがあがっていく

キョン(待て待て…高速に乗るとこんなに早く値段上がるのか…!)

やはり不安だ…たまらず、俺は運転手に話しかけてしまう

キョン「あ、あの……タクシーってお金かかるんですね…」

「ん?ああ、メーターはな、時間と距離で計算してるんだよ」

キョン「そうなんですか…?」

「さっきまでの一般道では走った距離と…時速10キロ以下だったかな。になると、停止時間が加算されるんだ」

キョン「ふむふむ…」

「その停止時間だと…例えば信号待ちだな。時間が累積されて、停止時間が1分45秒を越えると金額が加算されるんだ」

キョン「ほう…」

「これがタクシーの仕組みだ。で、高速に乗ると、この停止時間は加算されないんだ」

キョン「このカシャカシャすごい勢いであがってるメーターですか?」

この間も料金はどんどんあがる

「高速だと、距離だけで計算されてるんだ。それだけ進んでいるって事だよ」

キョン「はぁ…なるほど」

料金はもう3000円を越えている

まだ見覚えのある街の名前は、高速の案内表示に表れない…

キョン(まだ…遠いみたいだな)

ひたすら、夜の高速道路を車は走っていく

なんだか、時間の流れが遅すぎるような…そんな気がした

2時22分

…カシャ

走りに走って、とうとうメーターが1万円を越えた

キョン(おいおい…まずいぞこれ…)

「でな、兄さんみたいな長距離移動者をタクシー用語で、おばけって言ってな…」

相変わらず、タクシーの事を一方的に喋っている

「いやあ、あんな時間にあんな場所にいるんだからな。しかも長距離…本当兄さんおばけだよおばけ! ははははっ」

とても嬉しそうに、じいさんは笑っている

客がタクシーに乗ったら、疲れていようがなんだろうが話し掛けるタイプなんだろう…

ここはまだ高速の途中だ…おろしてくれと言った所でどうにもならない

キョン(帰ったら、親を起こして…金を借りるしかないか。なんて説明するかな……)

その後も、運転手によるタクシートークを聞きながら…なんとか地元まで戻ってくる事ができた

結局時間は…夜中の3時近くになっていた

時計は…3時2分

高速を降りて、少し走ると見慣れた町並みが広がっていく

キョン(ああ…懐かしい…とにかく、帰ってこれてよかった)

「さて、どこまで行けばいいのかな」

この時点で、料金メーターは2万円を軽く越えている

家に着くという事は、すなわちこの料金を支払わなければ降りられない…

キョン「とりあえず家まで…あの、お金が足りないんで親を起こしてから支払いを……」

「ああ、1万円でいいよ。オーバーしてる分はいらないよ」

キョン「え…」

「家はどの辺り?」

キョン「ま、待って下さい。お金はちゃんと払いますよ!」

「いいよいいよ、帳尻合わせればいいんだから。ほら、気にしないでいいから」

運転手のおじさんは…さらっと、軽い様子で事を伝えてくれる

…俺には、タクシーの仕組みなんてわからない

それでも、この足りない分のお金がどこから出るのかは…俺にだって何となく想像はつく

キョン「本当に…いいんですか…?」

「ああ、大丈夫だよ。おじさんな、客とは殆ど喋らないんだよ…気恥ずかしいっていうか…何て言うかな」

キョン(……)

「こんな日に、兄さんと話せてよかったよ。トークに付き合ってもらったお礼みたいなもんだ」

キョン「ありがとう…ございます……」

俺は運転手の好意を、素直に受けとる事にした

話慣れている様子や、タクシーの仕組みの詳しい説明…

客とあまり話さないなんて嘘に思えて…

駅で拾ってくれた時も、街の名前を聞いてから…料金が1万円を越える事も多分きっと…わかっていたはずだ

キョン(ありがとう、おっちゃん…)

心の中で、もう一度、深く頭を下げ…お礼をした

「それでな、明日のクリスマスは非番だから、娘とケーキをな……」

こんな日…そう言えば今日はもうクリスマスだったな

さっきまで、涼子と会っていた事も、なんだか少し遠い事のように思えてきた

それくらい、今日の帰り道…タクシーでは色んな事が心の琴線に触れた…そんな体験だった


気付くと…タクシーはいつの間にか駅の近くを走っていた

キョン(駅か…ここから今日はスタートしたんだよな…って、いつもこの場所から、か…)

安心した余裕からか、心の中でも言葉が多くなる

深夜…さすがにもう電気も落ちて、待ち合わせで賑わうような駅の周りに人影も何も……

人影……?

よく見ると、駅の前に一人誰かがたたずんでいる…ようだった

キョン(こんな時間にか…)

寒空の下、誰かを待っている

その気持ちが、今はよくわかる

でもその姿をよく見ると…知っている人に似ているような…せんな気がする

あれは…

キョン(……! まさか、嘘だろ?)

キョン「運転手さん、ここで止めて下さい!」

「ん…駅の近くなんか?」

キョン「ええ、ここで…本当にありがとうございました」

「そうか。じゃあ、気をつけてな」

メーターはもう3万円間近だ…約束通り、そこを1万円にしてくれた

「これからまた、とんぼ返りさ、はははっ。気をつけてな」

笑いながら、運転手のじいさんは行ってしまった

キョン「…不思議な人だったな」

タクシーのライトが、来た道を戻っていく

キョン「……」

そして俺の足は、駅に向かっている

もしかしたら知っている人かもしれない、彼女の元へ…

真夜中3時

私…どれだけここにいたんだろう

体が震えている

ハルヒ「寒い……私、バカみたい……」

駅がしまってからも、私はずっとここにいる

電車に彼は乗っていなかった

今は遠い街に……彼女と一緒にいるんだろう

ハルヒ「…」

もう、独り言も…何も出てこない

もう、帰ろう…

そう思って歩き出した瞬間

横の路地から一台の…タクシーだ

車はそこから走ると、すぐに止まった

誰かが降りてくる

タクシーはすぐに来た道を引き返していく

キョン「風邪ひくぞ?」

ハルヒ「……」

キョンだ

ずっと待っていたキョンが…目の前にいる

キョン「こんな時間に…どうしたんだ?」

それは…こっちが聞きたい事

キョン「あのさ…」

ハルヒ「…なんで…ここにいるのよ?」

言葉を遮るように私は問う…

彼がここに…駅にいる今が、信じられない

なんだか、実感がわいてこない…

キョン「ああ…ちょっと色々あってな」

ハルヒ「なんでタクシーに乗って現れるのよ?」

キョン「電車が無くてな…親切なタクシーの運転手が……」

終電が無くなった事

タクシーに乗せてもらった事

…泊まりではないという事だけを聞いて、私はちょっと安心した

あくまで、自分の中でだけど…

ハルヒ「そ、そう…ともかくよかったじゃない。帰ってこれて…」

安心と嬉しさと不安…その全部が、溶けたチョコレートみたいに混ざっている

気持ちが、何だかザワザワしながら、ドキドキする

キョン「ああ、おかげでな。ハルヒはどうしたんだ、こんな時間に。窓から見て…ビックリしたぞ?」

ハルヒ「私は……」

私はずっとキョンを待っていた
この場所でずっと

今日プレゼントを渡すために

ハルヒ「あ、あのね…クリスマス会がさっき終わって…それでプレゼントが…プレゼント……」

ハルヒ「プレゼントが…余ったのから……! それで…その…」

キョン「クリスマス会、こんな遅くまでやってたのか…妹は?」

ハルヒ「あ…妹ちゃんは早いうちに送ったから安心して。大丈夫よ」

これは本当だけど…さっきのは嘘ばかり

キョン「そうか…それはよかった。で、プレゼントがどうしたって?」

ハルヒ「あ…うん…えっと……」

ガサガサと、袋を取り出す

ハルヒ「こ、これ…あげる」

綺麗に包装された袋…震える手

キョン「ああ…ありがとう。わざわざ…このために?」

ハルヒ「う、うん…」

彼が袋を受けとる…よかった、やっと渡せる…

ハルヒ(あ……)

でもその時彼の左手…薬指に、見つけてしまった

一つ…銀色の指輪が彼の指に……

ハルヒ「ま…待って!!」

急いで袋を取り上げ、手を引っ込めてしまう

キョン「な、なんだよ…どうしたんだ?」

ハルヒ「……」

左手の薬指に指輪…私だって意味くらいは知っている

ハルヒ(最愛の人からの…プレゼント…)

それを見た瞬間、なんだか自分の贈り物がとても小さく…小さく見えた


ハルヒ「…やっぱ、余り物なんて渡したら悪いわよね」

キョン「は?いや、別に構わないぞ。もらえるなら、何でも」

ハルヒ「何でも、じゃあ…ダメなのよよ。もうパーティーもおしまい。帰りましょう」


すぐにその場から逃げ出したかった

もう、彼の手を見たくなかった

私は…すぐに彼から離れるように歩き出す

彼の反対方向を向いて…彼を見てしまわないように…

キョン「お、おい待てよハルヒ……」

>>1の描くssは好きだな。

あ、よよミス
>>285
雰囲気を感じていただけたなら、幸いです



ハルヒ「…また学校でね。じゃあ、ね」

そのまま、すぐに走り出す

あんなに、駅から動かなかった足が、今は早く動かす事ができる

とても軽く…とても重く…

キョン「待てって、おい!」

キョンは追いかけてくれる

でも今はそれが痛い

ハルヒ「っ…来ないでよ、バカ!」

キョン「何怒ってるんだよ、ほら帰るなら家まで送るぞ」

グイッと、腕を引っ張られる

触らないで

ハルヒ「いい! いらない! 一人で帰るの。離してよ」

キョン「落ち着けって、何怒ってるんだ…ほら、夜遅いんだから…送るって」

エスコートしてくれるような…優しい手で私の腕を掴んでくる彼の右手…

どうしても、目は左手を見てしまう…

綺麗な銀、真ん中に黒のラインが一本通った、シンプルで…

それでいて気品を感じさせるようなそのデザイン…

それを見て、また言葉が頭に浮かばなくなってくる

ハルヒ「送るのなんて、いいわよ…あんたは遠くに行ってきて、幸せに帰る……私は…友達と遊んで家に帰る…それだけの事じゃないの」

だから今は、こんな言葉しか、口から生まれない

キョン「帰る行為は一緒だろ。それに…さっきのプレゼントの事だって…」

ハルヒ「あれは…余り物だから別にいいのよ…もう、その話はやめて」

キョン「ハルヒ…」

ハルヒ「私たちは…帰る場所が違うんだもの…誰と生きているか、違うんだもの…だから、もう帰りましょう? タクシー使うくらいなんだから、あんただって早めに帰らないと…」

キョン「それは…そうだけどさ…」

ハルヒ「じゃあ、それでいいじゃない…私も帰る。キョンも帰る…それだけの事よ」

キョン「……」

彼は少し黙った後…

キョン「そうだな、わかった…とにかく今日は、帰るか」

ハルヒ「ええ。まだ冬休みなんですもの。今度…また話しましょう」

キョン「ああ…でも、本当に気をつけてな」

ハルヒ「うん、キョンも……気をつけて……」

お互いの言葉を最後に…彼は反対方向に歩いていってしまう

一人になった通り道…私はまた…

ハルヒ(寒い……)

体が、寒いという事を感じ出した

コートの隙間から吹き込む風、頬を刺激するような冷たい空気…

ハルヒ「今は…冬なんだもの…当たり前じゃないの…」


彼と過ごせなかったクリスマス
渡せなかったプレゼント

ハルヒ「…バカみたい」

一人…本当に一人で歩き出す

いつの間にか…道端に落ちたままの、プレゼントの袋

彼女はそれを忘れて、家に帰っていく

それに気付いて…拾い上げる事はできなかった

行き場の無いクリスマスと、袋の中の両手だけが…彼女の中で終わっていった

1月1日 昼過ぎ キョン

冬休みも半分程を消化し…もう今日から、新しい年が始まっていた

元旦…正月だというのに、俺の気分は暗い

クリスマスの朝帰りが親にばれてしまい、外出禁止を言い渡されたからだ

涼子に会いにいけないのはもちろん…とりあえず、学校が始まるまでは動く事ができない

それに、クリスマスでのハルヒの態度も…ほんの少しだけ気になる

―ピリリリリ

そんな事を考えていると…電話だ

キョン(古泉…?)

キョン『もしもし?』

古泉『あけましておめでとうございます』

キョン『よう、おめでとさん』
古泉『体調など、お変わりありませんか?』

キョン『ああ、体は何ともないさ。特に何もなく…平和な正月を送っているよ』

古泉とも…久しぶりに電話をした気がする

古泉『それでですね…今から初詣に行きませんか?みんな集まりますよ』

キョン『悪いんだが実はな……』


古泉『ふむ、外出禁止ですか…』

キョン『あの日、朝近くに帰った事がバレてな…そう言えば、そっちのクリスマスも盛り上がってたみたいだな』

古泉『…ええ、人が多かったですからね、何だかんだで皆さん、楽しんでましたよ』

キョン『夜中3時近くまでやってたんだろ?そりゃあ盛り上がるよなぁ…』

古泉『…? クリスマス会は9時には終わりましたよ。夜中の3時なんてとても…』

キョン『え…だって俺パーティー帰りのハルヒに駅で会ったぞ?夜中の3時に』

古泉『…涼宮さんが、その時間駅にいたんですか?』

キョン『ああ…俺も帰りがずれたから、その時間になってな…』

古泉『彼女は、なんと言ってました?』

キョン『えっと…確か、プレゼントが余ったから…渡す、って…』

古泉『交換用のプレゼントですか?それならちゃんと全員で交換しましたよ。それに、交換というシステム上、余りなど出るはずがありません…』

考えてみれば、確かにそうだ…


古泉『それに、電車が来ない駅で人を待つはずが無いでしょう』

キョン『そう…だよな……』

じゃあなんでハルヒはあの場所にいたんだ

駅が閉まった午前3時に…プレゼントを持って待っていたんだ…

会える保証なんて無いのに…

古泉『でも、会えたなら渡せたみたいですね。時間はともかく…少し安心しましたよ』

―ズキッ

キョン『…もらってない』

古泉『…今、なんと言いましたか?』

キョン『ハルヒから…プレゼントは貰ってない。渡す瞬間…袋を取り上げられた……』

古泉『……』

キョン『古泉…?』

受話器越し…沈黙が流れてくる

古泉『あなたは……』

キョン『え…』

古泉『馬鹿ですか! あなたは!!』

ビリビリと…電話が震える

古泉のこんな声は…初めて聞いた

古泉『そんな夜中に、なんで彼女がそこにいたか…少し考えればわかるでしょう!』

キョン(これは…怒られているのか?)

古泉『…彼女が、プレゼントを持っていた理由が…わからないんですか?』

キョン『ま、待てよ古泉…俺には付き合ってる人がいて……』

古泉『そんなのは、僕も彼女も知っていますよ。付き合ってる人がいたら、プレゼントを渡しちゃいけないんですか?』

キョン『そんな事は…無い…』

古泉『どうして…受けとってあげなかったんですか』

キョン『それは…さっきも言っただろう、取り上げられたって……』

古泉『…取り上げられた?』

キョン『だから…俺には何もできなかったんだ』

古泉『…態度が、何か気にさわったとか?』

キョン『いや…特には何も…本当に、受けとる瞬間だったからな……』

古泉『…それなら彼女の中で、何かが変わったんでしょう。あなたの姿を見て…考えてしまって』

キョン『…俺にはわからない。これ以上は、ハルヒ本人に聞いてくれ』

古泉『……』

キョン『…少しは、納得してくれたか?』

古泉『ちょっと…感情的になりすぎてしまいましたね…すいません』

キョン『いや…古泉がそんなに声を荒くするのも珍しいな…』
古泉『僕らしくなかったですね…すいません。学校が始まったら、また少し話しましょう』

キョン『ああ、またで詳しく話すよ』

古泉『では、僕はこれで…失礼しますね』

1月1日 神社 古泉

彼との電話を終え…僕も待ち合わせの神社へ向かう

彼女の事であんなに感情的になったのは…これが初めてではない

口に出したのは初めてだけれども…

今までは、何か起こっても大抵の事は心の中にしまうことができた

でもさっきは、驚く程とても簡単に…自分の中の牙城が崩れてしまった

古泉(…最近、閉鎖空間で動き回ってもいませんからね…ストレス、たまってるんですかね…)

しばらく神社で待っていると…
艶やかな彼女達が、3人こちらに向かってくる

朝比奈「あ、古泉君。あけまして、おめでとうございます」

長門「…おめでとう」

ハルヒ「あけましておめでとう」

古泉「みなさん、おめでとうございます」

晴れ着…というわけでは無いが、新年に見る女性というのは、なんだかそれだけで神々しいような気がして…

朝比奈「古泉君…だけですか?」

古泉「ええ…彼は、ご家族の方に外出が禁止されているらしく…欠席です」

ハルヒ「……」

長門「……」

朝比奈「そうなんですか…」

チラリ、と涼宮さんを盗み見る

腕を組んで、難しそうな顔をして…機嫌の悪い時の彼女の雰囲気だ

ハルヒ「…とにかく、初詣に行きましょう。人も多いから、終わって落ち着いたらまた話しましょう」

スタスタと、彼女は歩いて行ってしまう

朝比奈「あ、涼宮さんまって下さい……」

朝比奈さんも、後を追いかける

長門「……」

古泉「…あれは、やっぱり気にしてると思いますか?」

思わず隣の彼女に訪ねてしまう…

長門「……」

彼女は何も答えず歩き出してしまう

古泉「やれやれ…」

人の波…お参りする本堂まで、かなりの人が並んでいる

スタートが遅れた僕と長門さんは、涼宮さん達と少し離れた場所で並んで待っていた

古泉「しかし、さすがにお正月。人がたくさんいますね」

長門「……」

古泉「何をお願いしましょうかね……」

長門「むしろ、気にしているのはあなた…」

ぽつりと…彼女は呟く

古泉「…先ほどの、続きですか。ずいぶん突拍子ですね」

長門「何か…あった?」

古泉「……」

彼女には、相変わらず何でもお見通しなようだ

周りの人間の、気持ちの変化も…敏感に感じ取っているんでしょう…

古泉「実はさっき……」

長門「……」

古泉「…そんなこんなでつい、怒鳴ってしまいましてね…」

長門「あなたらしくない…」

古泉「自分もそう思いますよ。彼が付き合っている事は知っている…クリスマスに、出掛けた事も…」


長門「それならば、なぜ?」

古泉「彼の事以上に…今の僕は、彼女…涼宮さんの事を知ってしまっています。プレゼントの事や、見え隠れしていた気持ちも…」

長門「……」

古泉「だから…ですかね。彼女の方に情が生まれてしまったようで」

長門「それがあなたの怒った理由?」

古泉「…おかしいですよね。彼には付き合ってる人がいて、涼宮さんのただの片思い…それだけの事なのに」

古泉「どうして…僕は彼に対して怒ったんでしょうかね…あんな理不尽な感じで…」

長門「理不尽…恋愛では、それが当たり前…」

古泉「…僕が、涼宮さんに恋をしていると?」

長門「それはわからない…私が言っているのは、彼……」

古泉「…?」

長門「恋人同士…好きあっている人間意外には理不尽になるもの…」

古泉「それは…」

長門「クリスマスの日…もし彼が受け止めるように、優しく接していたら…今度は好きあっている者同士が…理不尽にならなくてはならない……」

古泉「彼がプレゼントを受け取らなかった事は、結果的に正しかったと?」

長門「恋人同士にとっては、そう…なんだと思う」

思う…長門さんにも、本当の事はわからないんだろうか?

長門「でも、それは2人だけに限った話…周りの人間にとっては……」

古泉「……」

長門「プレゼントを渡せなかった彼女、彼を怒るあなた…人間関係は動くけれど、恋人の2人には干渉ができない…」

古泉「泥沼…ですね」

長門「特に…朝倉涼子には接触する機会が無い。彼が別れたがっているでもなければ…首を突っ込まない方が賢明だと、私は思う」

確かに、いくら涼宮さんが慕っても…彼の気持ちが本当に向かなければ…

古泉「…今日は、僕が少し迂闊でしたね」

長門「……」

会話の後、彼女はじっとした目でこちらを見つめてくる

古泉「…大丈夫、しばらくは僕も滅多な事は言いませんよ」

長門「そう……」

長門さんは、どこまで事情を知っているんでしょう…

彼の気持ち、彼女の気持ち…

何を考えながら、僕と話しているんでしょう…

…そろそろ、人の流れも落ち着いてきて…僕たちの番がまわってくる

長門「さ…お参り…」

古泉(何を…お願いしましょうかね)

手をあわせて…お祈りをする

古泉(……)


そうして、今年の初詣は終わりました

来年は…彼もこの輪にいるといあな、と…それだけをお願いして…

1月後半 キョン

新学期が始まり、またいつもと変わらない学校生活だ

年があけたとはいえ、特に環境が変わるわけでは無い

ハルヒの事を考えると、少し足取りが重い

キョン「…おはよう」

ハルヒ「あら、おはよう」

クリスマス以来の顔だ

普段とは何も変わっていない…ように見える

キョン「あのさ、ハルヒ…クリスマスの時の事なんだが…」

ハルヒ「…ああ、気にしないでいいわよ。どうせたいした物じゃなかったんだから」

キョン「……」

古泉から話を聞いて、事情は…知っていた

それでも、ハルヒのその言葉を嘘だと言って…本当の事を聞くことは、今の俺にはできなかった

キョン「ああ…そうか」

そのまま席に座り、朝はもう彼女とは話さなかった

…涼子からのメールを返すために、俺はまた携帯とにらめっこだ

支援、感謝


1月後半 佐々木

少し強い風が吹く朝…

今日から私たちの学校が始まる
…年が変わると、それだけで少し空気もかわったように感じる

教室には…すでに到着していた友人の姿…朝倉さんがいる



朝倉「あ、おはよう佐々木さん」

彼女もこちらに気付いて…挨拶を交わしてくれる

佐々木「やあ、おはよう。朝倉さん」

寒い冬の始まりも、友人と話していれば楽しいものだ

朝倉「今日からまた学校ね。嫌になっちゃう…」

佐々木「くつくつ、学校が始まるとキョンに会えないからかい?」

朝倉「そ、そんな事…ちょっとあるかな…」

佐々木「くつ…素直だね。キョンといえば、クリスマスはどうだったんだい?」

朝倉「あ、そう言えば…よくも騙してくれたわね! 全くもう……」

佐々木「ふふっ、ちゃんと会えたてたもんねね。彼も元気そうだったし…」

朝倉「え…見てたの?」

彼女の反応が、ドキッとしたように…体が揺れる

佐々木「ああ、駅前でだけ、ね。万一キョンが来なかったら…そのまま普通に遊ぶ予定だったしね」

朝倉「そ、そうなんだ…なんか恥ずかしいな……」

佐々木「くつくつ…その言い方だと、何か恥ずかしい事してたのかい?」

朝倉「ち、違うわよ…そんな事…! もしかして…見てたの?」

佐々木「くつくつ、駅前から移動した後は見てないよ。そんな野暮はしないよ」

朝倉「そ、そうよね…う、うん…そうね…」

彼女の顔が真っ赤になっている
佐々木(恥ずかしい事、したんだね……)

佐々木「…いい、クリスマスだったみたいだね」

朝倉「おかげさまでね、ありがとう」

佐々木「くつくつ…いいんだよ、恋人同士…お互いが幸せならそれだけで、ね」

>>319

> 朝倉「ち、違うわよ…そんな事…! もしかして…見てたの?」

> 佐々木「くつくつ、駅前から移動した後は見てないよ。そんな野暮はしないよ」

> 朝倉「そ、そうよね…う、うん…そうね…」

> 彼女の顔が真っ赤になっている
> 佐々木(恥ずかしい事、したんだね……)

> 佐々木「…いい、クリスマスだったみたいだね」

> 朝倉「おかげさまでね、ありがとう」

> 佐々木「くつくつ…いいんだよ、恋人同士…お互いが幸せならそれだけで、ね」

ミス


今日は珍しく…朝倉さんを誘わず、一人で帰り道を歩いていた

佐々木「ふぅ……」

佐々木「彼女…嬉しそうな顔をしていた。よっぽど楽しい冬休みだったんだね」

佐々木「でも……」

佐々木「でもさ……」

朝倉『ありがとう…佐々木さん…』



佐々木「周りの…気持ちがとり残されてしまった人間は…どうすればいいの……」

佐々木「好きな人にぶつけられない気持ちを……誰に向ければいいの……」

佐々木「密かに想いを寄せるのも…楽じゃないみたいね…」

恋人同士が幸せならばそれでいい…確かに私はそう言った

その気持ちは嘘じゃない

でも、自分の中に生まれているこの気持ちも…嘘じゃない

佐々木「最近は…彼女の笑顔を見るのも、ちょっとつらいのかな……」


もう暗くなり始めた夕闇空は…何も答えてくれない

何を言っても、空ではただ雲が…静かに私を見つめているだけだ…

佐々木「残された人間には何もできない…そんな事は…無いでしょう?」

2月前半

夜中…朝倉宅

キョンと最後に会ってから2ヶ月近く…

もう2月に入るというのに、次に会える目処はたっていない


朝倉「…外出禁止って…何よ…」

帰りの電車に乗れず、朝帰り

年齢がもう少し上なら、まだ許されたんだろう

でも私たちはまだ高校生…

夜遊びも、宿泊も容認されるような年齢ではない…

朝倉「私のせいかな…」

浮かぶのは、自分の責任だけ…

彼と一緒に遊んでいた自分が…一番悪いような気がして…

朝倉「やっぱり…気になっちゃうわよね……」

ベッドの上でゴロゴロして…携帯を見つめながら考え事…

そろそろ、彼からの電話が来るはず……

―ピリリリリ

朝倉「…あ、きた」

ピッ

朝倉『もしもし、キョン』

キョン『ああ、悪かったな、時間の予定より、少し遅れちまった』

朝倉『ううん、大丈夫…あのさ、外出禁止…まだ許してもらえない?』

キョン『ああ…まだしばらくは無理みたいだな』

外出禁止を言い渡されてから、私たちはよく電話をするようになった

最近はほぼ毎晩毎晩…

朝倉『ごめんね、私が無理言って長い時間残ってもらったから…』

キョン『何度も言っているだろ? 涼子のせいじゃないよ。あまり気にするなよ』

朝倉『うん…ありがとう、キョン…』

朝倉『で…バイト先でさ…キョンの名字の名札があってね、最近それつけてるのよ』

キョン『なんだそりゃあ…いや、ちょっとは嬉しいが』

朝倉『えへへ…』


キョン『ん…もうこんな時間だか…』

彼との会話で…夜がふけていく

時計は夜の1時を過ぎている

朝倉『うん…そうね。明日は…私から電話するからね』

交代で電話をして、せめて少しでも電話代を減らす…

キョン『ああ、また明日、いつもの時間にな…』

朝倉『……』

キョン『涼子?』

朝倉『…グスッ…』

キョン『…』

私、また泣いている

この電話を切る瞬間が、なにより寂しい

さっきまで聞こえていた彼の声が途切れてしまって…

このまま無音の部屋に戻ったら…寂しさに潰されそうで…

キョン『…もう少し、話してよう』

朝倉『でも…迷惑…』

キョン『迷惑なものか。俺も話したいんだ。涼子と離れるのは、電話の上ででも、やっぱり嫌だ』

朝倉『キョン……』

いつも私達は、お互い離れるのが寂しくて…すぐに電話を切れた事は無かった


…結局、電話を終えた時は2時を越えていた

最近は、毎日がこんな様子だった

いくら交代で電話をするといっても、毎日この様子では電話代もバカにならない

朝倉「……寂しい」

少し長く話した、それでも…

寂しさだけは何も変わらなかった

次の日

朝倉「おはよう…」

眠い目をこすりながら、居間に顔を出す

眠れたのは4時近く…

寝不足と、泣いたせいで目は真っ赤だ

朝倉父「……」

朝倉母「あら、おはよう涼子…あのね、ちょっと話が」

朝倉「ん…」

朝倉母「あのね、携帯…電話代の事なんだけどね…」

朝倉父「電話をしすぎだ。高すぎる。もう電話するな」

朝倉「……」

父は相変わらず…言い方一つにしても厳しい

渋みのかかったこの声…朝からこの声は嫌になる

お説教なら、なおさらに…

朝倉母「…あなたが恋人と話したい気持ちはわかるわ…でも、ちょっとお金がかかりすぎててね…」

両親には恋人がいる事は話している

何度も会っている事も

だからこそ、たまにこういう話をする

朝倉「携帯は…ちゃんとバイト代から払ってるじゃないの…」
朝倉母「それはそうだけど…あんなにお金がかかってるのは親として…ね…」

朝倉「…ちょっと、我慢するわよ」

寝不足にお説教…早く切り上げたくて、私は返事半分に母との会話を終える

引っ越し先
山口か岐阜 
あたりだと思ってるんだが>>1はどう思う

朝倉母「わかってくれたならよかったわ。確か…キョン君だったかしら? 付き合ってるのって」

朝倉「うん…」

朝倉母「涼子がそんなに大事にしてる人なら、一度会ってみたいわね」

朝倉父「所詮、高校生の恋愛だ…子供だよ」

朝倉母「あなたったら…」


朝倉「…いつか時間ができたら、会えるかもね。じゃあもう学校行くから」

朝倉母「あ、朝ご飯は?」


朝倉「いらない。あまり…食欲無いから」

父の言葉に苛立ちを覚え…いってきますも言わずに学校へ向かう

…相変わらず、外は肌寒い

>>332
誤爆?


学校 昼休み

佐々木「へえ…今朝そんな事があったんだ」

朝倉「もう、朝から怒られちゃってね。嫌になっちゃうわ…」

佐々木「会えない時は寂しいものだよね」

朝倉「うん…遠距離だから、余計にそう感じるわ…」

佐々木「うんうん…電話もできない、会えない…つらい事この上無いね」

自分にしては、珍しい恋愛の愚痴…

その言葉を、さき程から佐々木さんは…受け止めるように聞いてくれている

共感してくれるその様子を見て…私は…

朝倉「…佐々木さんも好きな人いるの?」


佐々木「くつくつ…朝倉さんの気持ちがわかるだけだよ。それとこれとは別」

朝倉「そう…なんだ」

私の思い違いかしら?

佐々木「ましてや、遠距離恋愛なんて…いや、ちょっとはわかる気はするかな。近付きたいけど、近付けないってのが…ね」

朝倉「そうなの?佐々木さんの話…少し興味あるわ」

佐々木さんも、全く何もない…というわけでは無いようだ

佐々木「ん……」

朝倉「佐々木さんの恋愛話とか、聞いてみたいな。参考にしたいわ」

佐々木「私の話なんて、参考にならないよ?」

朝倉「ええー…そんなこと無いわよ。迷惑じゃなければぜひ聞きたいわね」

佐々木「くつくつ…学校じゃ恥ずかしいよ」

朝倉「あ…じゃあ今日遊びに来ない?」

佐々木「ん…いいの?」

朝倉「うん。どうせ親は夜まで帰ってこないから、ゆっくりしてって大丈夫よ?」


佐々木「そう…じゃあお言葉に甘えて…ね」

朝倉「うん、楽しみだわ!」

佐々木「くつ…」

彼女は携帯を取り出して…メールをしている様子だ

朝倉(両親に…連絡でもしてるのかしら?)

同時刻 キョン

―ピリリリリ

携帯が震える

キョン(メール…佐々木か?珍しいな)

佐々木『今日彼女の家に呼ばれてしまってね。最近彼女は寂しがってるよ?』

キョン(寂しがってる…ね…)

キョン『まだ遠出ができない。仕方ないさ。寂しがってても…俺にはメールと電話しかできないからな』

多少ぶっきらぼうになりながら、返事をする

相手が佐々木だからだろうか?

返事はすぐに来た


佐々木『遠距離だからって、安堵してないかい?彼女は綺麗だから、誰かがを狙ってるかもよ?』

キョン『…涼子なら大丈夫だよ。それに女子高なら周りに男もいないしな』

なんだ、嫌に今日は佐々木がつっ掛かってくるな…

…しかし、このあとの返事がもう来ない

結局昼休みも終わり、もう放課後になってしまった

ハルヒ「今日の活動は絶対参加よ! わかったわね、キョン!」

ハルヒに声をかけられて、俺も忙しい放課後が始まる

キョン(…まあ、気にしても仕方ないか)

俺はそのまま…SOS団の待っている部室へと向かう



後で届いていたメールの時間を見ると、ハルヒに声をかけられてからすぐに来ていたようだが…

周りが騒がしく、俺は携帯を見る事ができなかった

結局メールを確認したのは家に帰ってからだ

…そこには、よくわからないメールが佐々木から届いていた



佐々木『くつくつ…僕が彼女を狙ってるんだよ』

3つ隣の県に引っ越した設定だから、山口か岐阜だと思ったんだろ

>>340
あ、なるほど。県3つの、細かい地名の設定はしてないんですよね…

遠いけど、会えないような事もない距離…そういう意味で決めたのが強いです



放課後、朝倉宅 佐々木

朝倉「さあ、あがって」

佐々木「うん、お邪魔するよ」

初めてあがる彼女の家…綺麗なマンション…いい匂い…

そのまますぐに朝倉の部屋に通される

佐々木(ああ…ここが彼女の空間なんだね)

朝倉「あ、適当に座ってね。今お茶を持ってくるから」

佐々木「うん、ありがとう」

彼女が寝ているベッド…

思わず、枕に顔を埋める

佐々木(いい匂い…いい匂い…)

彼女の髪の匂いがして…何度も何度も深呼吸…

枕をそのまま、ギュッと抱きしめる…

佐々木(…でも、今はちょっと我慢)

―ガラッ

朝倉「お待たせ。はいどうぞ」

佐々木「…ありがとう」

姿勢よく床に座っている私…

この空間に入ってしまっては、彼女の前で自分を抑えるのがつらい

朝倉「じゃあ、佐々木さんのお話聞きたいわね」

彼女はちょこん、とベッドの上に座って…

一口紅茶をすする…

その姿もたまらなく可愛い…

佐々木「くつくつ…それで、何を聞きたいんだい?」

朝倉「んー…佐々木さんて、今好きな人いるの?」

佐々木「いきなりだね。うん…好きな人はいるよ」

朝倉「どんな…人? 近くにいるとは言ってたけど…普段会えないの?」

佐々木「近いけど…遠いんだよ。好きだけど、手が出せないのさ」


朝倉「へ、へぇ…そうなんだ。他に彼女がいるとか…?」

佐々木「まあ…そんな感じかな。何より、その人は私の事を見ていないんだよ」

朝倉「…その人は、佐々木さんの気持ちを知ってるの?」

佐々木「告白なんてした事ないからね。ひっそりと想ってるだけさ」


ここまで会話をして、彼女は少し黙り込んでしまう

…何かを考えている様子だ

朝倉「あのさ…間違ってたらごめんね?」

佐々木「ん…」

彼女はうつ向きながら語りかけてくる


朝倉「もしかして、佐々木さんが好きな人ってさ…」

…心臓がドキドキする

彼女が一言一言を話すたびに…なんだが気持ちを紐解かれてるようで…

朝倉「佐々木さんが好きな人って、キョン…なの?」

佐々木「え……」

…自分の言葉を思い返してみる

佐々木「ふふっ…あはははっ!」

朝倉「な、なんで笑うのよ…」

佐々木「ははっ…ごめんごめん。確かに、さっきの言い方だとキョンになってしまうかもね」

朝倉「…って言うことは、違うの?」

佐々木「違うよ。私が好きな人はキョンなんかじゃないよ」

朝倉「そ、そう…よかったわ。変な事言っちゃってごめんね」

彼女はホッとした様子を見せる

佐々木「くつくつ…気にしてないよ。それにしても、朝倉さんは本当にキョンが好きなんだね」

支援ありがとうございます



朝倉「え、ええ…今は会えなくてちょっと寂しいけどね。でもキョンの事を考えてればそれだけで…」

彼女の寂しそうなその横顔

原因を作っているのは…他でもない彼なんだ…

その姿を見るだけで私は…

佐々木「…なんだか、妬けちゃうね…」

言葉を発しながら、私は彼女の座っているベッドに歩み寄る

朝倉「…? 佐々木さん…?」

佐々木「くつくつ…」

彼女の隣に座り…スッと顔を近付ける

朝倉「ど、どうしたの…かな?」

あげちまった、ごめんなさい…

佐々木「…私の好きな人、教えてあげる」

スッと顔を近付け…瞳をじっと見つめる

ちょっと困ったような顔をしながら…彼女もこちらをじっと見つめている

朝倉「え…あ、あの……」

言葉を待たず、彼女の肩を掴む

少し怯えたように、ビクッと肩をすくめる彼女を…

そのままベッドに押し倒す

朝倉「あ…」

佐々木「私の好きな人は、ここにいるのよ」

>>354
ageでもsageでもどちらでも大丈夫ですよ
ただ感謝です



朝倉「さ…佐々木さん…」

佐々木「……」

朝倉「あの…私たち女の子同士…よ?」

何度もまばたきしながら、彼女は問いかけてくる

体勢は押し倒されたまま…

佐々木「そうだね…だからずっと言えなかったんだよ。朝倉さんには恋人もいるしね」

朝倉「……」

佐々木「くつくつ…なのになんで私は…こんな行動をとってるんだろうね?」

肩にかけた手にギュッと力を入れる

…彼女が動かないのをいいことに、そのまま馬乗りの格好になる

朝倉「ま、待って……」

じたばたと、軽く肩を動かして抵抗はしているけれど…

それに構わず、彼女のお腹にちょこんと座る…もちろん、体重はかけていない

朝倉「こ、こんな事ダメよ佐々木さん…私にはキョンが……」

佐々木「…キョンと言えばさ、クリスマスの前に一度こっちに来ていたよね?」

朝倉「う…うん…バイト先に来ていたわね…?」

佐々木「…実はね、あの時見てしまったんだよ。2人がキスしてる瞬間をさ」

朝倉「え…見てたの?」

佐々木「くつくつ…路上でキスするなんてなかなか大胆だね。そんな所も可愛いんだけど…」

朝倉「見られてたなんて、は、恥ずかしいわ…」

佐々木「…ベッドの上なら、恥ずかしくないよ」

朝倉「え…?」

唇…私の唇を、彼女に近付けていく

朝倉さんの肩が少し震えている…暴れないよう、また力を込める

朝倉「ま…待って…」

佐々木「…ごめんね我慢できないんだ」

そのまま唇を近付ける…目を閉じる

―チュ

佐々木「ん…」

朝倉「あ…」

数秒、唇を合わせる…

佐々木(朝倉さんの唇…美味しい…)

そう思った瞬間、私は口の中に舌を侵入させていた

朝倉「ふぁ……」

彼女の色っぽい吐息が漏れて…身体中がビクビク動いている

そんな彼女の反応につられて、私も夢中で舌を動かす

朝倉「ん…ふ…」

佐々木「ふ…はぁ…」

佐々木(…まるで発情した犬みたいね、私)

朝倉「はぁ…は…」

佐々木(好きな人をこんな風に襲っている…背徳の塊)

でもその刺激が今は心地よい

佐々木(舌…止まってくれない……)

佐々木「…ぷは」

朝倉「ん…」

長く深いキス…やっと唇を離す

朝倉「はぁ…はぁ…」

朝倉涼子の頬は真っ赤に染まっている

佐々木「可愛い…」

離した唇でそのまま…彼女の耳たぶに甘く噛みつく

朝倉「あっ…ん…」

佐々木(ん…はむ…)

朝倉「そ、そんなこと…ダメ…」

佐々木「…柔らかくて気持ちいい…」

彼女の優しい吐息を感じる……

朝倉「っ…あ…」

感じやすい体質なんだろう

唇を動かすたび、色っぽい声が出る

佐々木「そんな声出されたら、もっと襲っちゃうよ…」

朝倉「だ、だめだってば…」

佐々木「くつくつ…」

耳たぶから舌を這わせて…彼女の耳の外側をなぞる…

朝倉「んんっ……」

その途中、耳の中にも軽く舌を入れてみる

深すぎず…浅すぎず…穴の入り口で舌を遊ばせる

朝倉「ひゃっ…それ…くすぐったすぎてダメ……」

さっきより、彼女の一層声は大きくなっている…

舌を動かすたびに…震える体の彼女…

佐々木(ああ…可愛い…)

彼女を襲っている、自分の感情…

女の子同士という事に何の疑問も持たず、唇で彼女の耳を噛み…

彼女の頭や首筋を…指で絡み付くような触り方をしている…


このまま、彼女の体をずっと触っていたかった…

でもその時…

―ガチャリ

と…玄関で扉の開く音がする

「ただいまー」

…遠くで玄関の扉があく

どうやら親御さんが帰ってきたらしい


それと同時に、自分の理性が戻るのがわかる

…そっと彼女から離れ、ベッドを降りる

朝倉「あ…」

佐々木「さすがに人がいる所でキスはしないよ?」

朝倉「……」

ベッドで体勢を直し…うつむいたまま、彼女は黙り込んでしまう

…耳まで真っ赤にしながら、下を向いている

少し乱れた着衣が…余計に色っぽく感じてしまう

朝倉「……」

佐々木「……」

彼女の同意なんてない、一方的な押し付け行為…

彼女は……何も話さない

佐々木「朝倉さん……怒った?」

あんな事の後だ…勢いのまま襲ってしまったとは言え、自分が悪いのは明白

どんな言葉でも…受け入れる覚悟はあった

朝倉「怒っては…ないわよ…」

下を向きながら…それでも、口調を荒くする事もなく…

いつもの、彼女の声で話してくれている

佐々木「そう……」

とりあえずは一息…安心する

朝倉「…私の事が好きならさ……」

彼女は言葉を続ける…少し、心臓のがペースが乱れるような言い回しだ…

朝倉「どうして…クリスマスの日に、私とキョンを会わせてくれたの……?」

朝倉「その時は…私をまだ好きじゃなかったの?」

佐々木「…好きだったよ。朝倉さんが転校してきてからすぐね…自分の気持ちは奪われてしまったよ」

朝倉「そう…なの…」

佐々木「本当に、精神病みたいだよね。女の子を好きになるなんてさ…」

自分の言葉が、なんだか心に突き刺さる

朝倉「それじゃあ…どうして嘘をついてまで、私たちを会わせてくれたの? 理由…キョンをわざわざこっちに呼ばなくても…」

佐々木「好きな人には一番幸せな時間を過ごして欲しいからだよ…」

朝倉「…」

佐々木「好きな人が…会いたい人に会えない…そんなの、せっかくの日なのに…悲しすぎるから…」

佐々木「そう思ったら、ちょっとだけお節介をしたくなったのよ…キョンも早いうちに返事をくれたから、変な期待も持たなかったし…ね」

朝倉「そうだったんだ……」

佐々木「今日は少しだけ、自分の気持ちを優先させ過ぎちゃった…ごめんなさいね」

朝倉「ううん…私こそ…気持ちに応えられなくて、ごめんね……」

佐々木「大丈夫だよ…まだ気持ちは消えないし…でも、今日みたいにいきなり襲うなんて事は…もうしないから、多分」

朝倉「多分……」

佐々木「くつ…冗談だよ。少し慌てた朝倉さんが見れただけで…今日の私は満足だよ」

朝倉「もう…みんなには絶対内緒だからね?」

佐々木「わかってるよ、2人だけの秘密……」

佐々木「さて…そろそろ今日は帰るよ。また明日…学校でね」

朝倉「う、うん……」

部屋の扉を開けて…彼女の空間から解放されようとしたその時…

朝倉「ま、待って佐々木さん……」

彼女に呼び止められてしまう

佐々木「なに…? どうかした?」

朝倉「佐々木さんの…本当の気持ちはどうなの?」

佐々木「…」

朝倉「さっきの様子だと…一歩引いて、私たちを見守ってくれるような…そんな口調だったわよね…」

佐々木「好きな人が好きな人と笑ってくれる…それが私の願望だよ」

朝倉「願望…」

さっきから、私は彼女に背を向けたまま…話を続けている

佐々木「くつくつ…でもあんな事した後じゃあ、言葉に説得力が無いからね…今日はもう、何も言えないよ」

朝倉「……」

この言葉も…扉に向かって話しているみたいだ

佐々木「じゃあ…さよなら、朝倉さん」

後ろは振り返らないで…外に出ようとする…

朝倉「いくら願望でも…それで自分が笑えなかったら不幸せよ……」

背中から…彼女の言葉が刺さってくる

佐々木「気持ちのどこかでは…不幸せなのかもしれないね。それは…今の私にはわからないよ…」

朝倉「それなら……」

佐々木「でもね、さっき言った…願望の事は本当だよ。そういう気持ちが…今の私の中にあるのよ」

朝倉「佐々木さん…」

佐々木「また…ね、朝倉さん」

彼女と別れた後の…帰り道で思い出す

終始ずっと…朝倉涼子はなんだか寂しそうな目をしていた

最愛の人に会いたいんだろう…

彼と付き合ってると知った日から…彼女を見るたび、ずっとそんな事を考えている

寂しい目をしている彼女は…どんなに周りの友人と話しても、遊んでも…

その寂しさが消えている事は無かった

彼女の好きな人…その寂しさを消せる人…

どんなに望んでも、その人になることは出来ない

それがとても寂しかった

佐々木「ああ、これが不幸せという気持ちなのかなあ……」

3月 キョン

日曜日


長い長い謹慎期間が終わり、今日…涼子に会いに行ける

キョン「はあ…長かったな」

クリスマスに会ってから3ヶ月…

会いたくても会えない…ずっとメールや電話で涼子の見えない姿を追いかけてきた

キョン「それが、今日やっと会える…」

嬉しさから、自然と移動の電車の中で独り言を言ってしまうのも、当然いうものだ

キョン(しかし、地元で会いたいなんて…一体どうしたんだ?)



朝倉『ねえ、今回は私の地元に来てくれない?』

キョン『涼子の?』

朝倉『うん。次の土曜日は両親いないから…』

キョン『それって…涼子の家ってことか?』

朝倉『うん…ダメかな?』

キョン『いや、それは大丈夫だけど…本当にいいのか?』

朝倉『うん、大丈夫よ。じゃあ、早速部屋を掃除しなきゃ!』


『―次は…』

キョン「おっ、着いたか……」

これで3度目…俺はまた涼子のいる場所に戻ってきた

キョン「お…」

朝倉「キョン…」

キョン「駅まで迎えに来てくれたんだな、ありがとうな」

朝倉「うん…キョンに早く会いたかったから…」

そう言う彼女の表情は、どこか暗いように見えた

キョン「涼子…?」

朝倉「…さ、行きましょう。時間が勿体ないわ」

彼女は、サッと俺の手を取り歩き出す

キョン(本当に、何かあったのか?)

駅を出て…道を歩いていく

道の途中、涼子が勤めているコンビニを通る

キョン「ん…この道を通るのか?」

朝倉「ええ、ここから…あと10分くらいよ」

キョン「そうか…」

その言葉通り、10分も歩くと住宅街…涼子が住んでいるマンションに着く

キョン「…相変わらず、大きなマンションに住んでるんだな」

朝倉「そんな事ないわよ。さ、あがって?」

俺はそのまま、涼子の家にあがって行く

キョン「おじゃまします」

朝倉「いらっしゃい。ゆっくりしてね」

初めて入った涼子の部屋…彼女の匂い…

キョン「いいなぁ、女の子の部屋…」

朝倉「なに、バカな事言ってるのよ」クスッ

整った勉強机、薄い青のカーテン、ピンクの布団…

キョン「いやあ、涼子の部屋にあがれるとは感動的だ」

朝倉「もう…バカ」

その言葉のまま、彼女は抱きついてくる

キョン「…何か、あったのか…」

朝倉「会いたかった…早くギューってしたかったの…安心…したかった…」

そのまま身体を崩し…座り込む形になってしまった

抱き合って、また甘い時間を過ごす

この瞬間が、何よりも幸せを感じる…この気持ちは、時間が経っても、何も変わらない…



朝倉「…お腹すいたわね」

二時間ほど抱き合った後…彼女が呟いた

キョン「もう、1時過ぎだからな…昼飯の時間だな」

朝の6時に出発して、着いたのが11時辺り…

よく考えたら、朝食も食べてなかったな

朝倉「何か作るわよ。何か食べたいものある?」

キョン「お、作ってくれるのか?」

朝倉「出掛けてまた帰ってくるのも大変だしね。さ、何が食べたいかしら?」

キョン「そうだな…卵焼きが食べたい、甘いやつ」

朝倉「わかったわ。他には?」

キョン「あとは…涼子に任せるよ。とりあえず卵焼きさえあれば」

朝倉「ふふっ…わかったわ。じゃあ待ってて。すぐに作ってくるわ」


涼子は部屋から出ていってしまう

俺は…テレビでも見て待ってるかな

キョン「いや…ちょっと待てよ」

部屋を出て、俺はキッチンに向かう

涼子が包丁を握りながら料理をしている

彼女のエプロン姿…斬新だ

朝倉「あ、キョン。どうしたのよ?」

キョン「いや、料理してる所を見たくてな。なるほど新鮮だ…」

朝倉「ふふっ、変なキョン」

キョン「いやあ、料理してるのを見るのがなんか好きでな」

朝倉「そう…見てても何もないわよ?」

そう言いながら、彼女は包丁を置いて次の作業にうつる

刃物を離した瞬間を見計らって、俺は涼子に後ろから抱きついてみる

朝倉「あ…ちょっと…」

キョン「こうやって襲うのも、いいかなと思ってな」

朝倉「もう…料理できないわよ…」

そう言いながらも彼女は手を動かして調理を続けている

朝倉「ほら、これから包丁と火使うから…これ以上は、めっ!」
子供のように怒られて、あしらわれてしまった…

キョン「そうだな…」

しぶしぶと俺は離れる

キョン「しかし、このまま部屋に戻るのもなんか寂しいもんだな」

朝倉「あ…じゃあ一緒に料理する?」

キョン「手伝いたいのもやまやまだが…足手まといじゃないか?」

朝倉「ふふっ、フライパンの中を混ぜてくれるだけで大丈夫よ」

それくらいなら、俺も家庭科の調理実習でやったことがある



テーブルには2人で作ったチャーハンと、ボイルしたウインナー…そして、涼子が作った卵焼きが机に並んでいる

キョン「じゃあ…いただきます」

朝倉「はい、召し上がれ」

キョン「…ふむ…」

一口、二口…卵焼きを口に運ぶ

朝倉「…(じーっ)」

彼女の視線が突き刺さる

キョン「ああ…うまい…」

朝倉「本当に…?」

キョン「甘くてふんわりしていて最高だ」

朝倉「えへへ…キョンにそう言ってもらえると嬉しいな」

彼女は満面の笑みを浮かべている

キョン(―ポンポン)

朝倉「あ…その癖…」

キョン「ん…ああ…美味いもの食べると、な」

朝倉「私の卵焼き、キョンがポンポンしてくれたら合格なのね」クスッ

キョン「もともと卵焼きが好きだからな。でも…涼子が作ってくれたから特別おいしい…」ポンポン

朝倉「もう…バカ…本当にキョンってバカよね…まったく…」

頭を軽く、ペシッと…バカという言葉と一緒に叩かれてしまう
…昼下がりのテレビを見ながら、ゆったりと過ごすこの空間だけ…

ゆるやかに、とても穏やかに時間が過ぎているのがわかる…

彼女に会ってから、俺は何度幸せを感じる事ができただろう…

新しいものを、たくさん…彼女からもらった気がする…

キョン「ふぅ…ごちそうさま」

朝倉「ふふっ、お粗末さまでした」

キョン「いやあ、本当に美味しかったよ。料理上手なんだな」

朝倉「これでも、高校では家庭科を専攻してるからね。料理する機会が多いのよ」

キョン「へえ…涼子の行ってる学校にはそういうがあるんだな」

朝倉「ええ、私料理とか好きだから。調理実習で作った料理も、いつもキョンにあげたいって思ってて…」

キョン「そうか…高校といえば、佐々木は元気か?」


朝倉「ん……」

涼子の表情が一瞬曇ったように見えた

キョン「涼子?」

朝倉「あのね実は…」



キョン「佐々木が、言い寄ってきた?」

朝倉「うん…」

キョン「しかし、女性同士でなぁ…」

朝倉「私も驚いたけど…彼女も、悩んでいたみたいよ。それに…私たちの仲を壊すつもりもないって言ってたから…」

キョン「確かに…クリスマスの時は協力してくれてたもんな」

朝倉「性別はともかく…佐々木さんは本当に私の事を好きで、大切にしてくれている…そう感じるの」

それは確かに…

俺も今までの言動を見ていればわかる

好きだから大切

大切だから好き

佐々木も、本当の気持ち…恋心を抱いている…

朝倉「…佐々木さんの事、怒った?」

少し…怯えたような目で彼女が聞いてくる

キョン「怒ってなんかないさ。佐々木のそういう気持ちも…何かわかるしな。それに、今こうして一緒にいられる…」

―ギュッ

朝倉「うん……」

限られた時間を少しでも彼女のあたたかさで埋められるように…

言葉のまま、彼女を抱きしめる

朝倉「今日…家まで呼んだのはね……」

キョン「ん……」

朝倉「部屋で佐々木さんが抱きついた私の記憶を…キョンに上書きして欲しかったからなの…」

キョン「…」

朝倉「私にとっては…やっぱりキョンが一番大切だから、私…私……」

キョン「ああ…そうだな…」

それから、記憶を少しでも長く、鮮明に覚えていられるよう…

そこからずっと…彼女を抱きしめていた

少し疲れたら、ベッドの中で一緒に眠って…

その日は帰る時まで、お互いの腕が離れる事はなかった

長い時間…ずっと、涼子のあたたかさと…髪の毛の甘い匂いと、ぬくもりを感じていた

帰りの電車には、涼子も一緒に着いてきてくれた

以前2人が会っていた駅まで、見送りをしてくれるのだと言う

朝倉「もうすぐ、二年生になるのよね」

キョン「…そうだな。付き合ってから今日まで、早いもんだな」

朝倉「普段会えないから、余計そう感じるのかもね。ホント…同じ街にいるなら会うのも楽なのにね」

キョン「こればっかりは…仕方ないよな」

もし電車で彼女のいる街まで1時間でいけたら、今以上に何度も何度も会いに行ってしまうんだろう

朝倉「仕方ない、よね…」

彼女と話す帰路は、時間を猛烈に早くする…

流れる景色が、いつもより早く感じて…

気付いた時にはもう、いつもの駅に着いていた



朝倉「着いちゃったね…」

キョン「ああ…今回はすぐに乗り換えの電車も来ちまうしな」

朝倉「うん…」

彼女はまた泣いていた

駅のホーム、人目があるのも気にしない…

毎回その姿を見るたび、俺も泣きそうになる

そして、いつもの言葉を言う

キョン「また、すぐに会えるさ」

朝倉「うん…」

別れ際には、俺たちはこう言う事しかできない

それ以外の言葉を探しても…すぐに会いたい、の感情以外が出てこない

キョン「じゃあ行くよ…またな」

俺はそのまま電車に乗り込む

…突然、電車が動かなくなって出発できなければいいのに

毎回そんな下らない事を考える

それでも、電車は動いてしまう
窓の外では、涼子が小さく手を振ってくれている

これも…何度か見ている、つらいビジョンだ

俺と彼女の距離が、また段々と遠くなる…

そして、すぐに彼女からメールが来る

朝倉『わがままなのはわかってる。でもキョンに会いたいよ…会いたい……』

別れてから1分のメールでこんな事を言われても…正直困ってしまう

ただ、自分も会いたい気持ちだけが…無駄にぶり返されてしまうだけだ

キョン『ああ…俺も会いたい。でも今は離れるしか無いんだよ…』

―ピリリリリ

涼子『無理なのはわかってる…でも、会いたい…ごめんね、変な事言っちゃって…』

以前の謹慎命令が無ければ、俺は次の駅で乗り換え引き返していただろう

でも今は…そのまま電車に乗って、元の街に帰っていくしかない…

キョン(ああ…遠距離ってつらいんだな……)

改めて…そんな事を考えてしまう

この頃からだろうか…

俺たちの気持ちの中に変な感情が生まれだしたのは

付き合い始めた頃とは絶対違う…

少し歪んだ気持ちの何かが…

キリがいいので休憩

次からは2年生になります

支援してくださる方、本当にありがとう

その一言だけで、書こうという源になります

さるよけのためもあって、まとめてこのペースなんですよね

申し訳ないです

キョン「明日からまた学校かよ...」
の著者とかぶる

正直、5~10分で一文の、今のペースが自分には精一杯なんですよね


改行おさえて、ギチギチに文章詰め込むのも苦手ですし…

なるべく、1回の投稿で改行ギリギリペースでやってみるのでそれで勘弁して下さい

まだ出かけてるんで、あと1~2時間で

保守ありがとうございました


>>420
拝見しました。言い回しや文が確かにちょっと似てますね



保守ありがとうございました



2年生4月

短い春休みが終わり…入学式の季節だ

俺も涼子も、学校が始まりほんの少しだけ寂しさが埋まった…ように思えた

ハルヒ「おはよう、キョン」

キョン「ん…よう、ハルヒか。久しぶりだな」

ハルヒ「…そうね、アンタが最近活動に来ないから、余計そう感じるわね」

最近、休日に運悪く予定が重なってしまう事が多く、よくSOS団の活動を休んでいた

キョン「こっちも、忙しいんだよ。平日の活動は参加してるだろ?」

ハルヒ「土日の活動が本番でしょ? おかげで不思議探索も、滞り中よ」

キョン「…悪かったよ」

俺の中でも、優先順位がある

今は涼子が一番にいる…それだけだ

みんなにも、少しずつだが涼子の事は色々と話している

理解はしてくれているが…やはりたまに一人欠員が出るのは、微妙な心情なんだろう

特に目の前の団長にとっては

ハルヒ「…全く、あんたはいつも……」

キョン(ああ…涼子に会いたいな…今頃何をしているんだろうか…)

もうハルヒの言葉はあまり耳に入っていなかった

4月 佐々木

久しぶりの学校…外の風はとても暖かい

佐々木「好きだな、この空気…」

太陽が眩しい…一人学校への道を歩く

その前を歩いている人の中に…朝倉さんの後ろ姿を見つける

佐々木「…や…」

朝倉「はぁ…キョンに会いたいな…」

佐々木「…相変わらず、キョン一筋みたいだね」

朝倉「あ…佐々木さん、お…おはよう…びっくりしたわよ」

佐々木「おはよう。驚かせてしまったかな、ごめんごめん」

朝倉「ううん、大丈夫。今日は暖かいわね…学校に行くのも楽しみだわ」

佐々木「そうだね…また同じクラスになれるといいね」

朝倉「そうね、休み時間でいちいち教室移動するのも面倒だもんね」

…以前にあんな事があっても、彼女は変わらずに接してくれる

もちろん、恋愛的な進展は何も無いけど…

佐々木(諦めきれないけど…でも、彼女達の仲を壊す事はできないよね…)

これが以前からの正直な気持ちだった

今は…友達として彼女を見守っていられれば…

朝倉「でね…この前キョンに会って…料理作ってあげたのよ」

胸はずっと痛いけど…少なくとも、笑う彼女の姿を側で見られる

佐々木(これだけは…唯一キョンに勝っている事だから、ね)

言い聞かせるように、言葉を繰り返す

気持ちが彼女の近くにいられなければ、意味はないってわかっているのに

佐々木(…まったく、精神病だよ本当に)

そんな自分に少し苛立ちを覚えながらも、私は彼女の隣にいる

学校に着くと、私たちはまた同じクラスだった

佐々木(彼女と一緒に笑える日々が…また始まるのね)

それだけが、何だか虚しくて嬉しかった…

4月後半 キョン

新しい…と言ってもあまり変わりの無いクラスにも慣れ、俺はまたいつもと変わらない日常を過ごしていた

今夜も涼子との電話…これだけが平日の楽しみだ

キョン『…そう言えばどうだ、そっちの新しいクラスは?』

朝倉『んー、あまり人が変わらなかったから特に何もないわね。あ、佐々木さんも一緒よ』

キョン『佐々木か…あれから何かあったか?』

朝倉『ううん…いつも通りよ。よく話してくれる、いいお友達』

キョン『お友達ねぇ…まあ、何もないならとりあえず安心だ』

朝倉『うん、何かあったらちゃんと言うわよ』

キョン『そうだな…』

いつもの彼女との会話…でも、今回はちょっと違った

『―バタン』

?『…また電話してるのか!』

受話器越しに…扉の開く音と、男の怒鳴る声…

朝倉『…お父さん…勝手に部屋に入らないでよ!』

朝倉父『お前、最近の電話代がどれだけかわかってるのか!』
お互いの大きな声が電話から響いてくる…電話代の事は、俺も耳が痛い

朝倉『ちゃんと自分で払ってるじゃない! それで何が悪いのよ!』

朝倉父『そういう問題じゃないんだ…いい加減にしろ!』

…ブツッ

…ツー、ツー

そして、電話は一方的に切れてしまった

父親に切られた事は容易に想像ができた

ただ張るだけで大丈夫な部分は比較的すぐ貼れるんですが…

手直しある部分はどうしても時間かかるので、先にすいません



受話器の向こうでは、俺には何もする事ができず…

彼女に電話をもう一度する事も…やはり躊躇われた

時間はもう2時を過ぎた

高校生には、ちょっとした夜更かしの時間だ

そろそろ限界だ…おやすみメールだけしておくか

キョン『涼子大丈夫か…?俺はもう休むけど、平気になったらまた連絡してくれ。じゃあ、おやすみ。好きだよ涼子』

メールを送ったが、不安は残ったままだ…

…とりあえず眠る事にした

キョン(おやすみ、涼子…)

その夜 朝倉

夜…といってももう深夜の3時だ…

朝倉「おかしいな…キョンからメールの返事が来ない…」

朝倉「なんでメールくれないのよ…バカ…バカ……」

朝倉「…変よね、こんなの…携帯取り上げられたんだから、連絡なんてわかるわけないのに…」

朝倉「寝れない…寝れないよキョン…キョン…不安だよ……寂しいよ……」

電話は、両親の寝室に電源が切られた状態で置かれている…

取りにいく事もできない…いつ返してもらえるかも解らない…

朝倉「キョン…キョン……駄目だよ、私耐えられないよ…助けてよ…キョン…」

…結局、あれからずっと朝まで泣いていた

眠れない…眠れるわけがない…

窓…カーテンの隙間から光が漏れてくる

もう学校に行く準備を時間だ…
重い体をベッドから起こし、服を着替え出す…

居間には、もう両親が起きて朝食が並んでいた

朝倉母「あら、おはよう涼子、ご飯用意できてるわよ」

朝倉父「…」

朝倉「…今日は早く学校行かないとダメだから、もう出るわね」

朝倉母「早くって…まだ7時じゃない。それに何だか顔だって赤いし…」

朝倉「何でもないってば! いってきます…」

朝倉母「ちょっと、涼子…」

母の言葉も聞かず、私は家を飛び出す

…学校には、まだ誰もいなかった

朝倉「…学校に用事なんて、あるわけないのにね…」

時計は7時20分をさしている

始業まではまだ1時間以上ある…

朝倉「でも…こういう雰囲気も悪くないわね…」

ひんやりとした空気…窓からは爽やかな風が私の髪を揺らす…

朝倉「…キョンに会いたいな…連絡、欲しいな」

頭は自然と、彼の事を考えてしまう

手元には彼と唯一繋がる携帯電話が無い…それだけで、涙が出そうになる

朝倉「考えても、仕方ないわね…」

そのまま、机に突っ伏して…何も考えない時間に入る事にした…

…そのうち、教室に何人か生徒が入ってくる

佐々木「おや…早いね、朝倉さん」

その中には、佐々木さんの姿もあったようだ

声をかけられて、私は頭をあげる

朝倉「…おはよ」

佐々木「…どうしたんだい、その顔。目が真っ赤だし…クマもできてるじゃないか」

朝倉「ちょっと、ね……」

佐々木「訳あり、みたいだね…」

朝倉「うん…」

佐々木「よかったら、話聞かせてくれないかな?吐き出せば、楽になると思うよ」

朝倉「…あのね…」



佐々木「そう…電話を取り上げられちゃったんだ」

朝倉「うん…いつ返ってくるかもわからないし…何より連絡を取れないのがつらい…」

佐々木「自分が望んだならともかく…他人に好きな人と離されるのは泣いてしまうだろうね」

朝倉「昨日から、泣きっぱなしよ…」

佐々木「…もう、二度と会えないような気すら出てくるよね」

朝倉「うん…そんな感じね…」

…佐々木さんも、少し困ったような表情で私の事を見ている

佐々木「ふぅ…携帯を返してもらうしか、元気になる方法は無いみたいだね、」

朝倉「…とりあえず、帰ったらまた話してみる。連絡が全くできないのは、嫌…」

佐々木「…何かあったら、遠慮なく相談してね?」

朝倉「うん…ありがとう、佐々木さん」

佐々木「…朝倉さんの、そんな悲しい顔、見たくないからね…」

朝倉「ありがとう…ね…」

そこまで話すと、始業のベルが鳴った

…はっきり言って、その日の授業は先生が何を喋ってたか全く覚えていない

ノートも一枚もとっていない

今日だけは、早く家に帰りたかった…キョンにどうしても…近付きたかった…

朝倉「ただいま…」

と言っても、家には誰もいない…両親が帰ってくるのは夕方過ぎだ、しばらく時間がある

少し電話も探したが、やはり家には置いていないみたいだ

朝倉「なんだか疲れちゃった…」

昨晩は一睡もしていない…そして学校の後…疲れを感じる

朝倉「寝よ…」

そのままベッドに飛び込む



―コンコン

朝倉母「涼子、ご飯よ」

朝倉「寝てるの?大丈夫?」

朝倉「…んん…はぁい…」

部屋の外からの、母の声で目を覚ます

朝倉(あんま…食欲ないや…)

それでも、居間に向かって歩いていく

朝倉「…いただきます」

朝倉父「…」

朝と変わらず、父は何も話さない

私も何かを話す気はなく…黙々と食事を過ごす

『それでね……ハハハハッ…』

テレビからは、乾燥したような笑いが響いている

…今は何を聞いても楽しいとは思えない

私は黙々と箸を動かしているだけだ

朝倉「…あのさ、お父さん。携帯いつになったら返してくれるの?」

朝倉父「…」

朝倉母「お父さん…今朝話した時は返してあげるって…」

朝倉父「…親が家にいる間だけな。それと、しばらく電話は禁止だ」

朝倉「何よそれ…電話くらい…いいじゃない!」

朝倉父「しばらくは…ダメだ」

朝倉「しばらくっていつまでよ…明日?明後日?!」

朝倉父「しばらくだ…メールで我慢しなさい」

朝倉「…何でよ、電話代だって、ちゃんとバイトのお金で払ってるじゃない!」

朝倉父「深夜遅くまで電話、それがほぼ毎晩続く…そんな生活はダメだ許さん」

朝倉「学校だって…ちゃんと行ってるじゃない…!」

朝倉父「…でも、成績は少し落ちたな。勉強に支障が出ているんじゃあ、以前と同じというわけには行かないよ」

朝倉「…」

確かに、私の成績は以前と比べちょっとだけ悪くなっていた

でも今の私には…口撃する手段の一つにしか、聞こえない

朝倉父「…いいか涼子。何も携帯を解約しようってわけじゃない…ほんの少し使う時間を制限するだけなんだ」

―解約

そっか…私の電話は親名義の携帯だ…

父親が店に行けば、すぐに電話は解約できる

…その言葉を聞いて、自分の中に新しい恐怖が浮かぶ

朝倉「解約は、嫌…」

朝倉父「時間で…使いすぎなければいいんだ。ほら…」

父はポン、と携帯をテーブルの上に置く

朝倉父「明日、学校に行く前には返すんだぞ」

朝倉「……」

すぐに携帯を取り、私は部屋に戻っていく

電源を入れる、懐かしい重量感が手にフィットする…

メールをチェックすると…一通、二通、三通…

全てキョンからだ

返せなかったおやすみメール…

学校に行く前のいってきますメール…

夕方、私の身を心配してくれているメール…

朝倉「キョン…」

すぐに私は、返信のためにメールをうつ…

同日 キョン

変だ…あれからメールが返ってこない

深夜のメールはともかく、朝と夕方…学校が始まる前と、終わった後でも返事が来ていない

思い当たる節は…父親との口論らしきやり取り

無理やり切られた電話…

そしてこれだけ時間が過ぎているという事は…携帯を没収された?

キョン「…涼子と連絡がとれないだけで、こんなに気持ちがザワザワするなんてな」

…それでも、いつか来ると思う連絡を信じて…俺は携帯を握りしめていた

―ピリリリリ

キョン「…!」

これは…メール、いや電話か?

携帯の表示を見ると…ハルヒからだった

キョン「なんだ、ハルヒか…」

がっかりしたとは言え、電話に出ないわけにはいかない

これが涼子だったらどんなに嬉しい事か…

―ピッ

キョン『…もしもし?』

ハルヒ『もしもしキョン?今大丈夫かしら?』

あまり大丈夫な気分ではない

キョン『ああ、どうしたんだ。いきなり電話なんて』

ハルヒ『連休…ゴールデンウィーク中の活動内容をちょっとね』

キョン『なんだよ…そんな事なら明日学校で話せばいいだろ?』

ハルヒ『本当は、今日話すつもりだったのよ。なのにキョンがさっさと帰っちゃうから…』

キョン『…ちょっと、居残りする余裕がなくてな。』

ハルヒ『ははぁ…また朝倉涼子ね』

キョン『…そうだよ、悪いかよ』

ハルヒ『別に悪いなんて言ってないわよ。ただ、そのおかげで確認だって取れなかったんだからね』

こういう気分の時は、些細な小言を言われても、気持ちが焦り不安定になる

キョン『…わかってる、悪かったよ。それで、ゴールデンウィークがなんだって?』

ハルヒ『今年のゴールデンウィークは、火、水、木曜日が3連休になるじゃない?』

ペラッ、とカレンダーをめくり確認してみる

キョン『ああ…月曜日と金曜日が厄介な週だな。それで?』


ハルヒ『それでね…活動に都合がいい日を今みんなに聞いているのよ。とりあえず日曜日から……』

…結局、ハルヒとはニ時間くらい話していた

月曜日と金曜日に学校はあるものの、放課後も含めて一週間丸ごと活動しよう、という結論になった

彼女に会いに行くには、その中で1日あればいい

一週間のうちに、1日くらいは活動を休んでも文句は言われないだろう

休みをもらうのは、いつもの事だ


キョン「ふぅ…なんだかんだで、話し込んじまったな」


改めて、メールを問い合わせする

…ピリリリリ

キョン「メールが…来ている?」

時間を見ると、電話をし出してから…10分ほど後


キョン「…涼子だ!」



俺はすぐにメールをひらく

朝倉『長い時間メール返せなくてごめんね。携帯親にとられてたわ。学校行ってる間は親に電話預けないといけなくなっちゃった』

朝倉『電話も禁止されちたから…夜しかメールできないの。しばらくは我慢しないとね』

キョン「…」

考えた通りだった。やはり親に携帯を使わせてもらえなかったらしい…

キョン「…夜の間だけ、か」

キョン『こっちも、返事が遅れて悪かったな。親に止められたなら、仕方ないな…とにかく、できるだけメール返すからさ』

…送信

メールはすぐに来た

朝倉『そうね。今は我慢するしかないわね…』

…短いメール。落ち込んでいる様子が手にとるようにわかる
キョン(よしてくれ…涼子がそんなに落ち込んでいたら…)

キョン『そうだな』

朝倉『うん…』

…お互い、1行のメール

朝倉『…今日はもう寝るね、おやすみなさい』



なんだろう、この気持ちは

電話が出来なくなったのは…どちらが悪いわけでもない

確かに、電話をし過ぎた自分たちのせい…自業自得なのかもしれない

俺はまだそれで納得はできる。多少の寂しさはあるが…

でも涼子は…親から電話を禁止され、携帯を持つ時間も制限されている

今日もすぐにメールを返せなかった…

気持ちが荒んでいくのは、なんとなくわかる

キョン「…本当は、俺が優しい言葉をかけるて支えるべきなんだろうな」

それなのに、自分もつられて寂しげなメールをしてしまった

キョン「…俺も寝よう」

その日は、なぜだかよく眠れた

胸には突っかかってるものが沢山あるのに…

さる→居眠りしてました
やっぱさるはつらいんで、いつものペースで


起きて少しメールをして…

眠るまで少しメールをする…

涼子との連絡これだけになってから、数日…

そんなに日にちは過ぎてなかったと思う

相変わらず、どこか寂しい様子の涼子のメール

電子の文字が無表情のまま、画面に並んでいる

キョン『…連休中に会うなら、どこか遠出でもするか?』

朝倉『1日じゃあ厳しいわよ? 時間ができたら、ね』

佐々木の一人称,二人称は"僕"、"君"なんだが、"私"と"あなた"になってるのは何か理由が?

>>463
気持ち、女の子(乙女)っぽくするためです
まあ、イメージというか雰囲気というか…


なるべく元気に振る舞ってみても、彼女の反応はどこか寂しそうで…

朝倉『そろそろ…寝るね。おやすみなさい』

今日も…短い彼女との時間は終わった

何となく、言葉の裏に本音が隠れているのはお互いわかっている…

でも、本当に言いたい事を言えないような…そんなもどかしさがあった

歯切れの悪い生活…それが数日、続いてしまった

翌日…朝

―ピリリリリ

目覚ましとは違う電子音で目が覚める

この音は…メールだ

キョン(多分…涼子かな…)

時計を見ると…朝の5時か

朝倉『寂しい。ここから逃げ出したいよ…キョンに会いたい…家出したい…』

キョン(…何を言ってるんだ涼子…)

家出…その考えは全く無かったわけじゃない

でも俺たちは高校生だ

身の回りの色んなものを捨てて、大好きな人の所へ逃げていく…

そんな大それた事は考えが浮かんでも、口には出せなかった

外に出した所で…相手にかかる負担、周りに言った所で、絶対に変わる事のない日常

そのアンバランスさと優先度の不等号が…いつも自分の考えと言葉を遮っていた

それを…涼子今朝のメールで言葉に出してきた

少し意外なような…安心はしたような印象もある

でも…

キョン『おはよ。ちゃんと眠れたか? 連休中には会いに行くからさ』



朝倉『休みまで待てないよ…今日…すぐに会いたい…』

今日も明日も学校だ

…これは困った

キョン『…何かあったのか?』

朝倉『寂しい…会いたい…もう寂しい思いをするのは嫌だよ…』

キョン『家出したら、学校はどうするんだ?家族は?』

朝倉『もうなんでも…キョンがいればいい……』

キョン『……』

自分も密かに持っていた願望

この環境から逃げたしたい欲望

止めるという考えより先に、会いたい気持ちが出てきてしまう

キョン『…それでいいのか?』

朝倉『いい…会いたい…私、あなたについて行きます…』



この時の俺たちは…学校とか、友達とか…

明日の事も何も考えないで…寂しさを我慢する事も全部忘れて…

ただ彼女に会いたかった…

周りから見たら、とても愚かな事なんだろう

今の俺たちには、周りの言葉なんて何の関係も無い事だった

5月2日(月)

昼過ぎ 佐々木

学校

佐々木「朝倉さん、ご飯にしようか」

朝倉「そうね。食べましょう」

彼女は…心なしか軽い感じで昼食を机に広げる

その様子は、なんだが少し嬉しそうだ

佐々木「…何かいい事でもあったのかい? あ、携帯を返してもらったとか?」

朝倉「ふふっ…ちょっとね。携帯はまだだけど…もういいのよ」

もういい?

今まではあまり聞かなかった…彼女からは初めて聞くような言葉だ

佐々木「ふぅん? まあ、元気そうならよかったよ。明日から3連休だね」

朝倉「そうね。今週はあと金曜日に学校があるだけだから楽よね」

佐々木「やっぱり、連休中はキョンに会いに行くの?」

朝倉「…」

佐々木「ん、都合が悪い…とか?」

朝倉「まだちょっと…わからない、かな。キョンも忙しいみたいだし…」

彼女が少ししょんぼりとしてしまった

佐々木「ああ…ごめんごめん。でも休みがたくさんあるんだから、1日くらいは時間を作ってくれるはずだよ」

慰めるように、言葉を投げ掛ける


朝倉「…ふふっ、ありがとう。佐々木さんにはなんか心配して貰いっぱなしね…」

彼女の笑顔につられて、自分も少し安堵をする

佐々木(心配は…いらなかったかな? 朝倉さんに対して…ちょっと敏感になりすぎ、かもね)

不思議そうな顔を、自分もしていたんだろう

彼女も、ハッと私の方を見つめ直してくれる

朝倉「あ、ごめんね。なんだか変な話して…」

佐々木「…ううん、いいんだよ。人の話を聞くのは好きだからね」

朝倉「いつかちゃんとお礼もしないとね…」

佐々木「お礼なら…いつも朝倉さんが作った卵焼きを貰ってるから、それで十分だよ」

彼女の作る卵焼きは…おいしい

砂糖のきいた甘い卵焼き…それを一切れ食べるだけで幸せになれる

朝倉「そう…じゃあ、今日はこれ全部あげるわよ」

佐々木「全部…? 食欲無いの?」

朝倉「ううん、そんなじゃないわよ。今日のは佐々木に食べて欲しいの」

佐々木「くつくつ…じゃあ、遠慮なく…いただきます」

彼女からもらった卵焼き…
相変わらず美味しい…けど、今日は少しだけ砂糖が抑えられていた気がした

微妙に砂糖の量が違ったのか

私の味覚がいつもと変わったのか

彼女に何か変化があったのか

さっき…考える事をやめた私には、食事中に微かに沈む彼女の顔を見つける事は…

私にはできなかった

佐々木「じゃあ、よい休日をね」

朝倉「うん、さよなら佐々木さん」

彼女とは、いつものコンビニ…バイト先まで彼女を見送ってから別れた

明日から連休だ…何をして過ごそう

ちょっと遠出でもしようか、誰か友達と遊ぼうか…

朝倉さんと遊ぶのもいいかもしれない

そんな事を考えながら帰路につく



佐々木「ただいま」

家に帰ってきたものの…特別やる事があるわけでもない

カバンを置き、服を着替え…自分の勉強机に座る

佐々木(…ああ、そう言えば宿題も多目に出てるんだったな…)

カバンから教科書を取りだし、ザッと目を通す

佐々木(…まあ、ちょっとだけ片付けておこうかな)

スラスラと、問題を説いていく

時間は…帰宅してから1時間が経っていた

佐々木「ふぅ…ちょっと休憩しようかな」

トタトタ、と台所の冷蔵庫に向かう

佐々木「あら…飲み物、何も無いじゃない…」

佐々木(買ってこなくちゃ…)

玄関を出て、彼女…朝倉涼子がいるコンビニに向かう

買い物のついでだ、少し話して行こう

私の舌は、彼女の卵焼きの味をまだ覚えていた

それくらい、今日食べた卵焼きはおいしくて、嬉しかった

―ピンポーン

店内に入り、辺りを見回す

いつものレジには、いつもの彼女の姿が…無い

佐々木「あら…」

佐々木(裏の仕事をしてるのかしら? でもこの時間はいつも一人だったし…)

つい1時間前に、このバイト先で別れたばかりだ

彼女がいないはずがない…

佐々木「あの…すいません」

店員「はい?」

佐々木「今日朝倉さんて、来ていませんか?」

店員「あー、朝倉さんね。あの子辞めちゃったんだよね。ほんの数日前にさ」

佐々木「え…」

辞めた?

彼女からは一言もそんな事は聞いてない

佐々木「あの…理由とかわかりますか?」

店員「んー…ちょっとわからないかな。特にトラブルも無かったから…」

佐々木「そうですか…」

とりあえずその場は、ジュースを2本だけ買ってお店を出た

佐々木(彼女に、連絡してみようか…)

しかし、携帯は持ってきていない

ここからだったら、家に帰るより朝倉さんの家に行く方が距離は近い

でもなんだか、今日は胸騒ぎがする

佐々木「…ちょっと行ってみよう」

―ピンポーン

急ぎ足で向かった、朝倉涼子のマンション

ここに来るのは…彼女に手を出してしまった、いつかの日以来…

ちょっと嫌な記憶がよみがえる…

―ガチャリ

朝倉母「はい?」

中からは彼女の母親が出てきた

何度か顔を合わせた事もあるので、お互いに知己の仲だ

朝倉母「あら、佐々木さん、こんばんは」

佐々木「こんばんは。あの、涼子さんいらっしゃいますか?」

朝倉母「あら、涼子は今日はバイトの日なのよ。ほら、あの大通りのコンビニで……」

佐々木(……)

朝倉母「なにか用事だった?」

佐々木「あ、いえ…ちょっと近くまで来たものですから」

朝倉母「そう、ごめんなさいね。来たこと伝えておくわね」

佐々木「…はい。連休が終わったら、学校で会えますしね」

朝倉母「そうね…じゃあ、体に気をつけて休日を過ごしてね」

佐々木「はい…お邪魔しました」



公園

ベンチに座って、さっきのジュースを一口…

佐々木「ふぅ……」

一息ついて、何もない空を見ている

辺りはすっかり暗い…

確証なんて無いけれど…多分、自分にはわかってしまったような気がする

佐々木「ああ…君はもうこの街にはいないんだね……」

同時刻 駅 朝倉

―ガタン、ガタン

夜を走る電車の中に私はいる

手には…ちょっとした荷物と、胸にいっぱいの不安

朝倉(キョンに…会いたい…)

会いたいからこそ、私はこうやって電車に乗っている

家族も、友人も、学校も…

全てを捨てて、私はここにいる

朝倉(…早く着かないかな…)

ただ彼に会う時間だけが待ち遠しい

でも、この数時間を乗りきれば…あとはずっと、キョンと一緒にいられる

朝倉(キョン…キョン…)

今からでは、向こうに着くのは0時近くになってしまう

それでも、大好きな人に会えるなら…残りの時間なんて、どうでもいい事だった

乗り換え駅

朝倉「あ…」

キョン「よう…おかえり」

彼がいる

ずっと会いたかった、大好きな彼が目の前にいる

朝倉「うん…うん…ただいま…」

キョン「…泣くなよ。ほら、とりあえず電車に乗るぞ」

グイッと彼は私の手をとる

朝倉「うん…」

―電車

朝倉「迎えに来てくれて、ありがとう」

キョン「いいんだよ。いつもあの駅で待ち合わせしていたからな…思い出の駅みたいなもんだ」

朝倉「思い出…本当ね…」

キョン「…携帯も置いてきたんだろ?」

朝倉「持ってて、連絡くると嫌だから…あ、キョンとのメールはちゃんと別に保存してあるからね?」

キョン「ああ…ありがとうな。今日からは、ずっと一緒だ」

朝倉「うん…思い出…キョンといっぱい作りたいな…」

キョン「ああ、ああ…一緒にいるんだ。これから、たくさん作ればいい」

朝倉「キョン……」

自分のワガママ…全部を受け止めてくれる彼の横顔…

やっぱり私は…彼に恋していたんだと…そう思った

地元駅 キョン

涼子と話していると、時間が過ぎるのがあっという間だ

もう、俺たちを最後の駅まで運んでくれた

キョン「着いたな…ほら、カバン持つぞ」

朝倉「あ…ありがとう」

時間はもう0時近く…人影は、あまり見当たらない

人目が少ない駅は…今の俺たちにはとても落ち着ける空間だった

…クリスマスの日の、駅を少し思い出してしまう

朝倉「この時間なら、知り合いもいないわよね?」

キョン「さすがにこの時間じゃあな…誰か駅で待ち合わせでもしてれば、いるかもな」

朝倉「こんな時間に出歩く高校生も、なかなかいないわよね」

彼女はふふっ、と小さく笑う

…駅前で、待っていたハルヒの事が頭に浮かんだのは…涼子には秘密だ

キョン「…さ、いくか」

朝倉「うん!」

知っている道…家への帰り道を歩いていく

今日は涼子と一緒に、ゆっくりと…

朝倉「住んでいた地元でも…久しぶりに来ると、ちょっと懐かしい感じがするわね」

キョン「そうか?」

朝倉「うん。それに深夜だから、ちょっと雰囲気も違うし…ね」

キョン「確かにな…」

そんな話しているうちに、もう家の側まで来てしまった

キョン「っと…もう家か…」

朝倉「そうね…ねえ、本当に大丈夫なの?」

家出をするにあたって、まず涼子をどこに泊めるか…それがまず問題だった

一人でホテルに泊めるわけにもいかず…結局、家で匿う形となったのだが…

キョン「見つからないようにするから、大丈夫さ。家族に見られたら…ヤバいからな」

当然、家族には内緒だ

朝倉「うん…でもずっとキョンの部屋にいられるかなら…いいかな」

キョン「…ちょっと窮屈な思いさせちまうかもしれないけどな」

朝倉「キョンといられるなら…いい…」

キョン「涼子…」



キョン「ただいま…」

廊下には誰もいない…大丈夫…

言う間に涼子を部屋に走らせる

涼子が部屋に入った音が聞こえた

とりあえず…これで一安心だ

俺も部屋の扉を開け…中に入る

妹「きょんくんあーさーだーっ……」

妹「あかーさん! キョンくんがっ! キョンくんがああっ!」

キョン「」
朝倉「」

朝倉「もう、寂しい思いしなくていいんだよね…?」

キョン「ああ…一緒だ。ずっと一緒にいよう…」

朝倉「うん…うん……」

キョン「…もう、寝るか?」

朝倉「そうだね…もう1時だもんね」

キョン「…布団1つしかないけど、いいよな?」

朝倉「うん…一緒がいい…」

―ドクン

2人布団に入って…隣に並んでいる

キョン「涼子、ほら…頭」

朝倉「ん……」

彼女は頭をスッと、俺の腕にのせてくる

そのまま…彼女を引き寄せ、また腕にギュッと抱きいれる

朝倉「あったかい……」

キョン「布団の中に涼子がいる…いい匂いだ…」

心臓がドキドキ言っている

朝倉「本当に夢を見てるみたい…」

キョン「涼子……」

そのまま、彼女にキスをする

朝倉「ん…」

少し…肩がフルフルと、揺れている

キョン「涼子…緊張してるのか?」

朝倉「ほんのちょっと…」

キョン「それなら…心臓の音をきくといい。ほら」

もう一度、彼女を抱き寄せる

今度は胸の位置に彼女の顔が来るように

朝倉「んっ…」

朝倉「ふ~ん…じゃあ、キョンちゃんも落ち着く?」

キョン「ん…」

朝倉「心臓の音…きく?」

キョン「あ、ああ…そうだな…」

朝倉「えへへっ、じゃあ…おいでおいで♪」

ピョコッ、と布団から頭を出した彼女が腕を広げる

その胸に吸い込まれるように…俺は頭を彼女の心臓にくっつけた

―トクン トクン

朝倉「きこえる…?」

キョン「ああ…落ち着く…」

確かに落ち着く…心地よい鼓動が俺の耳をとらえて離さない…

が…それ以上に…

心臓…つまり涼子の胸が俺の頬に当たっている状況が…俺の心臓をまた早くする

キョン「…柔らかい」

朝倉「私の胸?」

キョン「ああ…なんか、柔らかい…」

朝倉「えっちだ…」

キョン「…心臓がちょっと早くなったぞ」

朝倉「そ、そういうのは、言わなくていいのよ…ばか…」

キョン「おっ…また少し…」

朝倉「…! もうダメ。胸に耳くっつけるの禁止!」

プイッと…彼女は反対側を向いてしまう

キョン「…そうか、涼子はそっちの方がいいのか」

朝倉「え…あ……」

彼女が向こうを向いたまま…俺は涼子を後ろから、覆うように抱きしめる

キョン「涼子は後ろからくっつかれる方が好きなんだな」

朝倉「……」

彼女の首筋が熱くなるのがわかる…

朝倉「キョン…余裕で襲ってるなフリしてるけどさ…」

キョン「ん……」

朝倉「心臓…すごい鳴ってるのがバレバレよ?」

…この言葉だけで、俺の余裕と優位な立場は崩されてしまった

…そのまましばらく、くっついて、抱きあって…今日が終わった

明日から涼子が一番近くにいる…

その日は、心が経験した事のないような幸せを抱えて眠った…

キョン「おやすみ、涼子…」

朝倉「おやすみ、キョン…」

5月3日 朝倉宅

―お父さん、お母さんへ

私は家を出ます

捜索届けは不要です
今までありがとうございました

こんな娘でごめんなさい

朝倉涼子


リビングの机には、娘からの置き手紙

朝倉父「家出なんて…馬鹿げてる…携帯の事が原因なのか?」

朝倉母「でも、携帯はここに…」

手紙と一緒には、携帯も置いてある

何かヒントになる事は無いかと思い、携帯を調べてみたがデータは何も残ってなかった

メール、履歴、電話帳…全て消去されていて、ここからは何もわからなかった

朝倉母「…とりあえず、お昼になったら涼子の友人に連絡してみますよ」

朝倉父「ああ…」

5月3日(火) 早朝

目が覚めて…隣に涼子がいる

キョン「夢じゃないんだな…」
朝倉「……」

腕の中で、彼女が寝息をたてている

もう一度、涼子を引き寄せ抱きしめる



次に俺に意識が戻ったのは、涼子に起こされて…だった

朝倉「あ…起きた?おはよう」

キョン「ああ…おはよ。もう…昼くらいか?」

朝倉「えへへ…寝顔見ちゃった…」

キョン「俺も一度起きたんだがな…涼子の寝顔を見るのを忘れてた」

朝倉「…見なくていいの。恥ずかしい…」

キョン「今度、意地でも見てやる…」

朝倉「もう…いいのよ、別に私の寝顔なんて」

2人笑い合いながら、目が覚めていく

キョン「あ…」

朝倉「どうしたの?」

キョン「…今日からSOS団の活動があるんだ、そう言えば」

この3連休…結局毎日が活動、という予定になってしまった

彼女を迎えに行く事に一杯で…すっかり忘れていた

朝倉「そうなの…」


彼女は少し寂しそうな顔をする…

でも、俺の気持ちはもう決まっていた

キョン「…でも、涼子を一人にはできないからな。活動は休むよ」

朝倉「え…そんな…それは悪いわよ…」

キョン「いいんだよ。こっちは連絡一つでなんとかなる」

すぐに、俺は携帯で連絡をとる

…古泉に変わりに言って貰うのは、さすがに悪いか

ハルヒに電話をかける

―ピリリリリ

―ピリリリリ

ハルヒ『もしもし、キョン?』

キョン『ああ…今大丈夫か?』

ハルヒ『ええ、どうしたのよ?』

キョン『ああ、実はな…どうやら活動に参加できそうに無いんだ』

ハルヒ『…理由は?』

キョン『ちょっと、病気でな』

ハルヒ『その割には、元気そうじゃない?』

キョン『いや…昼は体調がいいんだが夜になると一気に悪くなるんだ。典型的な風邪だよ』

ハルヒ『ふーん…また朝倉涼子に会いに行くの?』

キョン『…行かないよ。風邪だからな』

ハルヒ『…まあいいわ。3日のうちで、治ったら参加しなさいよね』

キョン『ああ…悪いな』

ハルヒとの電話を終え、俺は携帯を置く

キョン「…ところで涼子」

朝倉「なにかしらキョンくん?」

キョン「電話の間、ずっと抱きついてるのはやめてくれないか?」

彼女は後ろからくっついたまま、俺を離さない

朝倉「昨日のお返しよ。それに…他の女の子と話しているのが悔しいんだもん…」

キョン「…くっついてるんだから、いいだろ。それに俺は涼子以外に興味は無い」

朝倉「…」

キョン「な?」

朝倉「うん……」

そのまま…また布団の中で抱き合っていた

…とは言っても、下に家族がいる以上、俺は部屋にこもりっぱなしというわけにも行かない

時間も適度なところで、居間に向かい家族と顔を合わせる

この間も涼子は部屋にいるが…部屋から一人で出る事はない

妹にも、前日から部屋には入らないように言ったので…とりあえずは大丈夫だろう、多分…

キョン(あとはご飯とか、風呂のタイミングだな……)

まだ、涼子と一緒にいられる…連休は始まったばかりだ…

同日 昼過ぎ 佐々木

―プルルルル

家の電話が鳴る

佐々木『はい、もしもし佐々木です』

朝倉母『あ…もしもし。朝倉涼子の母ですが…佐々木さん?』

電話は、朝倉さんの母親からだった

その様子は…慌てて疲弊している事が声から何となくわかる

いい予感はしない

佐々木『…はい。どうかしましたか?』

朝倉母『実はね…涼子が…家出、してしまってね……』

佐々木『家出ですか……』

朝倉母『そうなの…それで誰か友達の家に行ってないかと思って…』

佐々木『いえ…家には来てませんね』

朝倉母『そう…バイト先もね、少し前に辞めていたみたいなのよ…家出した日にはまだバイトしてたと思ったんだけど…』

佐々木『ああ…昨日私がお宅にお邪魔した時ですね』

朝倉母『ええ…佐々木さんなら何か知ってると思ったんだけど…』

佐々木『私も、何も聞いてないですね…何かわかったら、連絡しますよ』

朝倉母『ありがとうね。涼子、携帯も家に置いたままでね…だから心当たりある人に聞くしかないのよ』

佐々木『…友達に聞いてみますよ』

朝倉母『ええ、お願いね佐々木さん…』

―ガチャン

佐々木「ふう…」

何となく予想はしてた

でも、彼女はもうこの街にはいない

それが何だか、とても悲しかった

佐々木「何を考えてるんだろうね、私は…」

佐々木「彼女のいる場所が…何となくわかってしまうよ…」

でも…

佐々木「どういう風に行動すればいいか…わからないよ…」

素直な自分の気持ちを推すか…

彼女の気持ちを優先するか…私はまた悩み出してしまう

佐々木「近くにいないから、特に…ね」

悩ましいこの連休は…まだ始まったばかりだ

同日深夜 キョン

もう日付も変わった頃…俺たちはそっと部屋を出た

涼子を風呂に入れるためだ

この時間なら妹はもちろん、親も寝静まっている

キョン「さ…なるべく早めにな」

朝倉「うん、ありがと」

キョン「俺は外で見張ってるからな」

朝倉「わかった。覗かないでね…?」

キョン「…気が向いたら、見ちゃうかもな」

朝倉「…えっち」

キョン「冗談だよ、ほら、向こうむいてるから」

俺は涼子に背を向ける

背中からは、衣服が擦れる音…彼女が服を脱いでいる音が聞こえる

なんだか余計に官能的だ

朝倉「ふぅ…気持ちよかったわ」

キョン「ああ。よかった」

朝倉「ええ…あ、ドライヤーなんて使えないわよね…?」

キョン「ドライヤーか…下から持ってくるよ。音も響かないだろうし…大丈夫だろう」

朝倉「ありがと。ごめんねワガママ言っちゃって」

キョン「いやいや、女の子はそういうのが大事なんだろ。何となくわかるよ」

そう言って、洗面所からドライヤーを持ってくる

彼女が髪を乾かすその姿が…なんだか新鮮だ…

朝倉「ん…どうしたの、そんなに見ちゃって?」

キョン「女の子のそんな仕草見たこと無いからな。珍しいんだ」

朝倉「…変なキョン」

キョン「なんか、俺はそういうのが好きみたいだ。女の子の日常って言うか…上手くは表現できないが」

朝倉「ふうん…」

彼女が少し顔に難色を示す

キョン「あ…いや、女の子というより、涼子の普段の姿が見れるのが嬉しいんだ。これは本当の気持ちだ」

朝倉「…そういう、ハッキリ言ってくれる所、好きよ」

キョン「ああ。本当だから、逆に恥ずかしくはないんだ」

朝倉「うん……」

彼女はもう髪を乾かし終えて…一息ついている

湯上がりの女性は、普段とはまた違った色っぽさがあるものだ

朝倉「…さ、もう寝ましょうか」

キョン「あ、ああ…」

2人…慣れた感じで布団に入る

まるでもうずっと前からここに一緒にいたように…

朝倉「じゃあ…おやすみなさい」

キョン「ああ…おやすみ涼子」

朝倉「チュー…」

キョン「……」

朝倉「おやすみのチュー…して?」

腕枕をしながら、ゆっくりと唇を重ねる…

キョン(風呂上がりの唇って、冷たいんだな…)

冷たい唇、暖かい体…

また彼女の心臓の音を聴きながら、眠った…

5月4日(水) ハルヒ

時間は午後1時

太陽がポカポカ暖かい

絶好の探索日和…なのだが…

自分の目線は、携帯の無機質な画面だけを見つめていた

もしかしたら、彼から連絡が来るかもしれない

でも…私の電話は一向に変化する様子が無い

ハルヒ「ふん…今日もあのバカは休みかしら」

古泉「そうみたいですね…」

朝比奈「心配ですね…」

長門「…軽度の風邪の場合、1日休めば症状は回復。完全回復には2~3日が必要」

ハルヒ(電話の様子じゃあ、平気そうだったのに…)

古泉「…さて。今日はどうしますかね。昨日に続いてまた隣町まで…」

ハルヒ「決めた…キョンのお見舞いに行きましょう!」

古泉「おや…」

朝比奈「お見舞いですか、いいですねー」

長門「…私は賛成」

ハルヒ「じゃあ、ちゃっちゃと行きましょうか。あ…その前に、何か買っていきましょう」

古泉「そうですね。お邪魔するわけですし…では、僕が彼に連絡を入れておきますよ。いきなりも悪いですからね」

ハルヒ「わかったわ。買う物は…どうしましょうか、みくるちゃん」

朝比奈「そうですねぇ…食欲が無さそうならみかんの缶詰めとかですけど…」

ハルヒ「一応缶詰めと…お菓子でいいかしらね。すぐに食べなくても、お土産みたいな感じでね」

朝比奈「そうですね。では、早速買い物に行きましょう」

長門「……」

古泉「ふふっ、ではこちらも……」

―ピリリリリ

―ピリリリリ

ピッ

谷口「もしもし? 珍しいな、どうしたんだ?」

古泉「おや……」

表示された電話番号を見返してみる

…そこには彼の番号では無く、以前クリスマス会の時に番号を交換した相手『谷口』の名前があった

古泉「これは…すいません、どうやら間違い電話をしてしまったようでして…」

谷口「お、そうなのか。おおかた、キョンとでも間違ったか?」

古泉「すいません。彼が体調が悪いという事でお見舞いをしようと…」

谷口「お見舞い…あいつ、具合悪いのか?」

彼に今日の事を説明する……

谷口「そうか…」

古泉「ええ、そういう事ですから……」

谷口「それなら、俺も参加していいか?」

古泉「あなたが?」

谷口『ああ、暇なんだよ。あ、国木田も誘ってみていいか? あいつと連休中どこか出かけたいとも話してたんだよ』

古泉『ふむ…少々お待ち下さい』

友人間の事とはいえ、一応はSOS団の活動、団長の許可が必要…ですよね

ハルヒ「いいじゃない。その2人も呼びましょう」

古泉『…というわけです』

谷口『うっし。じゃあ国木田にも連絡して……』

古泉「…というわけで、2名追加になります」

ハルヒ「一気に賑やかになったわね。じゃあ、こっちも買い物をして……」

朝比奈「あ、あの涼宮さん…一つ提案が…」

ハルヒ「ん、何かしら?」

朝比奈「その2人が来るなら、鶴屋さんもお誘いしてもいいですか?」

ハルヒ「…今さら、一人増えても変わらないわよね。よしっ、許可するわよ、みくるちゃん」

朝比奈「はい~。じゃあ私も連絡を……」



最終的には、以前行ったクリスマス会のメンバーが再び集まった

ハルヒ「今度は…キョンもいる…」

長門「……」

朝比奈「何か言いました?」

ハルヒ「な、何でもないわよ! さっさと行くわよ。時間がもったいないわ」

朝比奈「は、はいぃ……」

古泉「では、行きましょうか」
…他の人間に電話をした事によって、その時僕は…

肝心の彼に、連絡をとるのを忘れてしまっていたのでした


長門「……危険」

失敗の多い古泉である

キョン宅

少し遅い昼食を、一人で食べている

涼子は、食欲があまりないから、俺一人居間で食事をすませた

今日はどうしようか…と言っても、部屋に戻って涼子とくっつく。それだけだ

穏やかな気持ちで…食後のお茶をすすっている…

―ピンポーン

妹「はいはーい」

妹が、とてとて、と玄関に向かって行く

妹「キョンくん、はるにゃんたちがきたよー」

キョン「…ゲホッ、ゲフッ…! ハルヒ…なんでだ!」

緑茶が気管の嫌な部分に入る…熱さは感じない

ハルヒ「なによ、やっぱ元気そうじゃない」

古泉「すいません、お邪魔します」

朝比奈「こんにちは、キョン君」

長門「……」

谷口「よ、お見舞いだ」

国木田「お邪魔するよ、キョン」

鶴屋「風邪だってね~、大丈夫かい?」

SOS団だけならまだしも、谷口や国木田…鶴屋さんまで…

ハルヒ「ほら、お見舞い品買ってきたから…あがって大丈夫よね?」

あがる? 部屋?

キョン「ま…待った! 部屋はダメだ! 断じてダメだ!」

ハルヒ「なによ…ははぁ、変な本でも広げっぱなしなのね、イヤらしい」

蔑んだような目でハルヒが見てくる…その怒りが変な本ですむのなら、今なら喜んで差し出そう

キョン「ち…散らかってるんだ! とにかく…ちょっと待ってろ、すぐ片付けるから!」

ハルヒ「別に気にしないわよ、みんなが座れれば……」

長門「……」ツンツン

話しているハルヒの裾を、長門が小さく突っついた

ハルヒ「なによ…待った方がいいっていうの?」

長門「……」コク

ハルヒ「はあ…有希が言うんじゃ仕方ないわね。待ってるから、さっさと片付けてきなさいよ」

キョン「すまないな…(ありがとう、長門)」

ダダダッ、と早足で部屋に戻り…涼子に知らせに行く

朝倉「…困ったわね…」

キョン「そうなんだよ…ベッドにずっと入ってるわけにもいかないし…見つかっちまう…」

朝倉「……」

キョン「…涼子。トイレは大丈夫か?」

朝倉「え…う、うん…」

キョン「水分は? 空腹は?」

朝倉「大丈夫…だけど……」

キョン「じゃあ…頼む……」

ハルヒ「お邪魔するわよ」

鶴屋「おじゃまっさ」

キョン「あ、ああ…適当に座ってくれ」

古泉「ふふっ、これだけの人数がいるとギリギリですね」

…とっさに、彼女と荷物を押し入れに隠したが…大丈夫だろうか

朝比奈「お見舞い品、たくさん買ってきたんですよ」

出された品は、スナック菓子にジュース…そして、桃缶とみかんの缶詰め等だ

キョン(本当に…お見舞いなんだな)

国木田「僕たち3人は緊急参戦だったんだけどね。涼宮さん達に無理行って連れてきてもらったんだよ」

谷口「いやぁ、古泉からの間違い電話でな…キョンと俺を間違えたんだとさ」

古泉「今から向かう連絡をあなたにしようと思ったんですがね…まったく、迂闊でしたよ」

キョン「肝心の、俺に連絡が来てないんだが」

古泉「…そう言えば、忘れてしまったようですね。すいません」

キョン(お前のせいか……)

…なんだかんだで、友人が集まれば話は盛り上がるもので…

いつも通りの、賑やかな空間が広がっている

押し入れに隠れている涼子にも、この会話は全部聞こえているので…少し気持ちはドキマギしていたが…

谷口「…そうだキョン!」

何かを思い出したかのように、いきなり谷口が叫び出す

キョン「な、なんだ谷口……」

谷口「お前…朝倉涼子とはどうなってるんだ。最近何にも聞いてないぞ!」

朝倉『……!』

キョン「な、な…何いってるんだい、谷口さんよ…」

国木田「ここに来るまで、ずっと言ってたんだよ。今日はいい機会だから、ってさ…」

鶴屋「…そう言えば、クリスマス会の時に尋問するって誰か言ってたねぇ」

キョン(クリスマス会…ああ、俺がいなかった時…)

谷口「そう! その辺りも全部含めて…白状したらどうだ、キョン?」

キョン「そんな事おおっぴらに言えるか!」

谷口「いいだろ別に! 何言っても、本人に聞かれるわけでもないんだぜ?」

キョン(聞かれるんだよ…いるんだよここに…)

鶴屋「いやぁ、実は鶴屋さんも、ちょこっと興味があるんだよ。遠距離恋愛って、どんなかなぁ、って」

キョン「鶴屋さん…」

朝比奈「わ…私も個人的に…聞いてみたいなあ…なんて…」

キョン「…はぁ…」

みんなの目は一斉に俺の方を向いている

俺だけは、涼子がいる押し入れの方向…

朝倉『……』

長門「……」

ちょうど、長門の後ろにいる、姿の見えない涼子の方を向いていた

キョン「やれやれ……」

観念して俺は…少しずつだが、涼子との恋愛模様を話す事にした

鶴屋「それでそれで…どんな恋愛なんだい!」

朝比奈「や、やっぱり大変なんですか? どうなんですか!」

…心なしか、鶴屋さんと朝比奈さんが興奮している

キョン「大変…確かに、大変かもしれませんね。あまり会えないですし…」

鶴屋「会う時は?」

キョン「お互い真ん中の距離の駅で…朝早くに出掛けて、夕方帰ってきますね」

ハルヒ「SOS団の活動も、それくらい熱心だと助かるんだけど?」

谷口「ままま、おさえて涼宮さん。で…クリスマスはお泊まりしたのか?」

キョン「は…何でお泊まりなんだよ」

古泉「…出掛けた時間を考えると、帰ってこられる可能性が見えなかったので…そういう会話になったんですよ」

キョン「勝手な事を…。その日は……」

ハルヒ「……」

ハルヒの事がチラッと頭をよぎってしまい…言葉につまる

鶴屋「や、やっぱりお泊まりだったのかい!」

朝比奈「大胆ですぅ…」

キョン「…ちゃんと、帰ってきましたよ。終電ギリギリでしたけど、ね」

国木田「ははっ、残念だったね谷口」

谷口「チッ…」

ハルヒ「……」

鶴屋「…その薬指のそれ。その時彼女からもらったプレゼントかい?」

鶴屋さんが、俺の左手を指差して言ってくる

キョン「ああ…これは俺があげたんですよ。その…ペアリングって…やつで……」

ハルヒ「……!」

谷口「学校でも、いつもつけてるもんな、それ」

キョン「…外す事に、段々抵抗が出てきてな」

古泉「体の一部、という感じですよね」

谷口「はぁ…俺もそんな大事な彼女が欲しいもんだぜ…」

国木田「まずは相手から探さないとね」

鶴屋「ふふっ…仲よくやってるみたいだね、キョン君」

ハルヒ「……」

そんなこんなで、時間は過ぎていく…涼子も、無音で押し入れに入ったまま…このまま平和に終わりそうだ

ハルヒ「そろそろ…帰る時間かしらね」


谷口「聞きたい事…まだあったのにな…」

国木田「また、次の機会でいいじゃないの?」

キョン(次があってたまるか……)

鶴屋「ふふっ、またこのメンバーで尋問っさね」

古泉「では…これで失礼しますよ?」

長門「……」

ぞろぞろと…みんな部屋を出ていく

キョン「…見送りするか。涼子、もう少しま……」

ハルヒ「…何、一人で喋ってるのよ」

キョン「うおっ!」

ハルヒだけが一人…部屋に戻ってきている

今のを聞かれただろうか…?

キョン「なんだハルヒ…忘れ物でもしたか? ん?」

焦っている…早口で訪ねてしまう

ハルヒ「ちょっと…話したい事があっただけよ。みんなの前だと…ちょっとね」

キョン「…何だよ、話したい事って」

先ほどの会話は、気にしていない様子らしい

ハルヒ「キョンがあれだけ話してくれたから…私も、少しお話……」

キョン「……」

ハルヒ「えっとね…クリスマスの日に、会ったわよね。あの時…私すごい嬉しかったんだよ…」

キョン「……!」

朝倉『……』

ハルヒ「本当はクリスマス会なんて夜9時くらいに終わって…ずっと電車待ってて…でも、キョンが来なくて…」

ハルヒ「なんで自分で…もあんな時間まで駅にいたかなんてわからないのよ…! 会いたいって願ったら…キョンがタクシーからおりてきて…それで……」

ハルヒも、焦っているのか知らないが…言葉がとても多くなっている

ハルヒ「…その指輪だって、朝倉涼子から貰ったとばかり…思ってた…だから、見た瞬間…」
キョン「渡すのを…戸惑ったと…?」

ハルヒ「…なんか、悔しかった。わかってたのに…キョンには恋人がいるってわかってたのに…やっぱり…実際に付き合っている形を見ちゃうと…」

キョン「……」

ハルヒ「バカみたいよね…。プレゼントしたいって思ってたのに、結局…渡せなくて、そのまま…」

キョン「あのさ、ハルヒ……」

ハルヒ「でもね! いいのよ、もう…キョンの気持ちを聞けたから…私も…思ってる事今言えたから…」

すいません、お早い方はお休み下さい
ここは書きだめしてある部分じゃないんです……
どうしても、時間かかってしまいますので、それだけ…すいません

クリスマスの彼女の独白…

多分、俺だけに伝えたかった事を…もう一人が聞いてしまっている…

ハルヒ「ねえ…もう一回だけ聞かせて? あなたは…朝倉涼子が好き?」

…それはとてもシンプルで…胸に響く質問だった

キョン「ああ…俺は朝倉涼子が好きだ…。今は…涼子しか見えないんだ…」

涼子『……』

ハルヒ「…うん、ありがとう…しっかり聞いたから…ね?」

キョン「ああ……」

ハルヒ「じゃあ…私も行くわ。みんなを待たせているしね…」

キョン「気をつけて帰れよ。今日はお見舞い、ありがとう…な」

ハルヒ「どういたしまして。元気になって学校来なさいよ」

彼女はしっかりした足取りで出口に向かっていく…

ハルヒ「あ、それと……」

キョン「まだ何かあるのか?」

ありがとうございます、の一言です


ハルヒの足が…途中でピタッと止まる

ハルヒ「…彼女にも、ごめんなさいって、一応謝っておくわね」

キョン「彼女……?」

ハルヒ「押し入れの中の彼女よ? 古泉君がちゃんと連絡していれば、私たちがみんなで来る事はなかったんですもの」

押し入れ…ハルヒはピンポイントで場所を言い当てる…

キョン「…なんで、知ってるんだよ…?」

ハルヒ「部屋に入った瞬間…女の子の匂いがしたのよ。意外と部屋に残るのよ?」

キョン「そ、そんな…」

ハルヒ「それにアンタ…押し入れ見すぎ。そわそわした様子でさ…最初はあまり気にしなかったけど…朝倉涼子の話題が出るたびに…」

キョン「……」

ハルヒ「ふっ…アハハッ! 冗談よ!」

そう笑いながら…優しい笑顔でこっちを見つめてくる

ハルヒ「最初の匂いと押し入れも気になったけど…さっきの会話聞いちゃったのよ。それで確信になって、ね?」

キョン「…マジかよ…」

ハルヒ「ちょっと…フザケすぎたわね、ごめん。でもね…彼女にもちょっと聞いて欲しかったの、私の気持ち…」

朝倉『……』

ハルヒ「あなたがここにいる理由はわからないけど…よっぽどキョンに会いたいから、ここにいるのよね」

キョン「ハルヒ……」

ハルヒ「クリスマスの日にできなかった、お泊まりできてよかったじゃない。お幸せに…ね? 嫌みなんかじゃないわよ? これも本音…」

キョン「泊まりまで…わかるのか?」

ハルヒ「…机の上のドライヤーと、女の子用の髪櫛。櫛はカバンに大抵しまうもの…出しっぱなしなのは、日常的に使っている証拠よ」

キョン「片付け忘れた…俺も迂闊だったよ」

ハルヒ「ま…細かい事は聞かないわ。じゃあ…またね、キョン。さよなら、朝倉さん」



今度こそ、ハルヒは行ってしまった…

結局彼女には…涼子が見つかってしまった。話をして…気持ちも全部見せつけられてしまった…

キョン「りょ……」

押し入れの中の名前を途中まで呼んだ時……

長門「……」

キョン「…今度は長門か。何か、話し忘れたことか?」

長門「忘れ物……」

…長門はそう言って、座っていた近くに置いてあった携帯を拾い上げる

長門「この、携帯電話を…」

涼子『……』

キョン「…そうか。長門も…知っているんだろ?」

長門「……」コク

キョン「そうだよな…わざわざ押し入れの近くに座ってくれたんだ…」

長門「あなたたちの恋愛に口を挟む気は無い…本人同士の気持ちが何より大事……」

キョン「ああ…ありが…」

長門「でも…彼女は携帯電話と一緒に、大切な物を忘れてきた気がする…」

キョン「忘れ…物? なんだよ、それは…」

―バンッ

涼子「私が、何を忘れてきたって言うのよ?」

キョン「涼子…!」

彼女が、押し入れから出てくる…

冷たい…氷のような表情で、長門の事を見ている…

長門「……」

朝倉「…私には、その忘れてきた物がわからない。長門さんはそれを知っているの?」

長門「話を聞いただけだから…はっきりとはわからない…でもそれは…」

長門「多分、2人にとって…大切な忘れ物…」

キョン「俺たちに…?」

朝倉「……」

長門「それだけ…さよなら……」

キョン「ま、待てよ長門…」

彼女は振り返らずに…そのまま部屋を出てしまう

さっきまで大勢いた人間が、今はただの2人…

扉を閉めて…この部屋はまた、また2人だけの閉鎖された空間に戻っていった

深夜

布団でまた俺たちは眠っている

二人とも、同じ天井を見つめて…多分、同じ事を考えている

朝倉「ねえキョン…長門さんの言ったこと…」

キョン「ん……」

やっぱり、同じみたいだ

朝倉「忘れ物…何なんだろうね?」

キョン「俺も少し考えたんだ…でも、全くわからない…」

朝倉「そうよね…。携帯電話…あとは、両親…?」

キョン「親…そうなのかな…?」

忘れ物…抽象的すぎるその言葉は、俺たちの頭の中でずっとぐるぐると回っていた

考えてもわからない…哲学のような…

いや、多分答えはちゃんとあるんだ…

長門はそれをわかっているようだった…

自分で勝手に哲学にして、わからない答えを誤魔化しているだけだ…

朝倉「いつか…わかるのかな?」

キョン「わからない…でも、二人にとって大切な物なら…二人で考えていけば、いつか見つかるさ…多分な」

朝倉「キョン……」

ギュッと…彼女が暗闇の中で手を握ってくる

そろそろ眠気も襲ってくる…

見えない答えを探すのをやめて…俺たちは夢の中に旅立っていった…

5月5日(木) 佐々木

この3日間…ずっと胸がざわざわしている

不安定な気持ちは相変わらずだ

佐々木「ふぅ…」

やはりメールも電話も、返っては来ない

佐々木「…どうしようかな」

迷っている、自分は…何をどうするか

彼女のために何をすれば一番いいのか

自分の気持ちをどう行動にうつせばいいのか…わからない

佐々木「ああ…遠距離恋愛ってこんな気持ちなのかな」

歩いて行ける場所に彼女はいない


佐々木「それなら…手の届く距離まで…」

佐々木「私に…それができるの? 私がそれを…していいの?」

5月6日(金) キョン

3連休も終わり…今日から学校だ

布団の中にいる涼子を横目に、俺は学校へ向かう準備をする

キョン「…じゃあ、いってくるよ涼子」

朝倉「ん…いってらっしゃい…」

布団の中から、彼女は唇をんー、とつき出す

キョン「…ほら、いってきます」

―チュ

朝倉「うん…いってらっしゃい」

彼女は満足そうに、また布団の中へ潜っていった

キョン「ああ…いってきます」

あれから、俺と涼子でずっと忘れ物について考えていた…

キョン(2日でわかるはずもない…か)

ただ学校に行って、涼子の待っている部屋に帰る…俺の今の生活は、これだけだった

女子校 佐々木

始業時間前…3日ぶりの学校

私はまだこの街にいる

もしかしたら、彼女が帰ってきているのかもしれない

そんな期待を抱いていた

…私は、まだ気持ちのどこかで臆病だったんだろう

朝のホームルームで、彼女…朝倉涼子の名前が呼ばれる

しかしその席に彼女はいない

欠席理由は、軽い風邪と先生は言っていた

自分の隣に彼女がいない

恋愛的な意味合いとは違うけど、彼女がこの空間にいないのが堪らなく不安だった

佐々木「やっとわかったよ…私も、バカみたいだね」

ホームルームの途中…席を立ち上がり、発言する

佐々木「先生、大事な用ができたので早退させて下さい」

佐々木さんの事調べたら、確かに男性には僕で、女性には私と、女言葉で…とありましたね

色々曖昧でしたね、失礼しました



気が付くと、私は電車に乗っていた

今から、とてもとても遠い…自分にとっては懐かしいあの街に向かう電車に…

学校のある日に、こんな風に電車に乗って何処かへ行く

何かから解放された、まるで旅のような気分だった

彼女に会いに行く…小さな旅

佐々木(…ここからどれくらいで着くんだろうね)

まだ電車は走り出したばかり…

知らない駅を、私の鼓動は駆け抜けていく…

北高 キョン

キョン「…まだ昼、か」

ハルヒ「今日またいな日は、もうお昼休みって言うんじゃないの?」

今日は特別に、学校に流れる時間がゆっくりな気がする

それもこれも…部屋で涼子が待っている事が全ての原因だろう

キョン「ハルヒとは、時間のベクトルが違うんだ」

ハルヒ「え、何々? なんか不思議な話かしら?」

キョン「…わかって聞いてらっしゃいます? ハルヒさん」

ハルヒ「あら…何か身に覚えがあるのかしら? 朝倉さん」

キョン「ハ、ハハッ…」

ハルヒ「…クスッ」

気持ちをぶつけて話した彼女とは…なんだか、少し打ち解けた気がした

だから、今はこんな冗談も言える

ハルヒ「…クスッ」

この冷たい笑い…本当に冗談か?

16時過ぎ キョン宅 朝倉

―ペラ

家から持ってきた小説を1ページ…また1ページとめくっていく

部屋から出る事が出来ない生活…行動が制限されている…

でもそれは自分から望んだこと、何より…

キョンの部屋にずっといられる幸福

朝倉「キョン…」

思わず名前を呼ぶ…もうすぐで彼が帰ってくる…

―ガチャリ

遠くで…玄関の扉が開いた音が聞こえる

朝倉「あ…帰ってきたのかな…!」

胸が高鳴る

学校から帰って来るキョンの姿が待ち遠しくて…

思わず正座して待ってしまう

―ガチャリ

朝倉「おか…え……?」

佐々木「くつくつ…やっぱり此処にいたね」

そこにいるべき彼の姿では無く…いるはずの無い彼女の姿…


朝倉「佐々木…さん? どうしてここに……」

佐々木「君を連れ戻しに来たんだ」

彼女は力強く…凛と答える

その真っ直ぐな瞳を、私は直視する事ができない

朝倉「…嫌よ。私は帰らない」

佐々木「ふぅ…好きになったら、ってヤツなんだろうけどさ…」

スッと、彼女は目の前に座る

近すぎもなく、遠すぎもせず…そんな距離に…

朝倉「そうよ…私はキョンが好き。離れたくないのよ…もうつらい思いはしたくないの…」

佐々木「好きな人の側にいられれば、それで幸せかい?」

朝倉「ええ、幸せよ…!」

威圧感に負けないよう力強く答えたつもりだけど…自分の声は震えている

佐々木「こんな小さな部屋に一人で…ただ待ち続けるだけの生活でも?」

朝倉「キョンがいるもの…」

佐々木「……」

しばらく沈黙が続いた

―ガチャリ

「ただいまー」

また遠くから声がする…キョンの声…

同時刻 キョン

キョン「ただいまー」

…急ぎ足で家まで帰ってきた

早く部屋に戻りたい。そう思う気持ちを遮るよう、母親が声をかけてくる

キョン母「あら、おかえり。あのね、女の子が……」

キョン「!!」

キョン母「…何びっくりしてるのよ。女の子が部屋で待ってるわよ。会う約束してるなら、遅れちゃダメじゃない」

…約束? 女の子が待っている?

キョン「女の子って…誰が?」

キョン母「誰って…ショートカットの…何て言ったかしら、忘れちゃったけど」

キョン(ショートカット? 長門?)

この時点で、涼子の姿では無い事に気付く

キョン(会ってみればわかるか…)

母親との会話もそこそこに、俺は部屋に向かった

―ガチャリ

キョン「……!」

朝倉「キョン…」

佐々木「やあ……」

キョン「佐々木…か?」

久しぶりに会う彼女…雰囲気は少し大人びたような…綺麗になったような…

そして、女子高の制服を着ている彼女の姿…

佐々木「お邪魔しているよ」

キョン「待っている女の子って、佐々木だったのか」

佐々木「…待ち合わせの約束なんて、嘘は使っちゃったけどね」

キョン「それはどうでもいい。なんで佐々木がここにいるんだ?」

佐々木「僕が逆に聞きたいよ。どうして朝倉さんがキョンの部屋にいるんだい? 彼女は学校にも行かずに…」

キョン「家出…だから……」

佐々木「家出ね…確かに彼女は自宅を離れてこんな遠くにいる。でもこの様子はまるで…監禁だね…?」

キョン「……」

朝倉「私は自分の考えでここにいる…そんな言葉使わないで…」

俺たちに構わず、佐々木は言葉を続ける

佐々木「朝倉さんは…さっき言ったよね。キョンがいるからこんな生活でも幸せだ、と」

朝倉「幸せよ…だって一緒にいられるんですもの」

佐々木「じゃあ…キョンは幸せなのかい?」

キョン「…俺だって、近くにいられれば幸せだ」

佐々木「……」

ふうっ、と彼女はため息をついて…

もう一度、俺たちをじっと見つめてきた

佐々木「確かに…今は幸せかもしれないね。でも、この恋愛に未来はあるの…?」

「……!」

佐々木「…もし彼女が家族に見つかってしまったら? 見つからなくても、後1年もしたらキョンは卒業して…彼女はまだこの部屋にいるの?」

朝倉「……」

キョン「…俺も家出するつもりだ」

口から出任せではない…本当にそういう話はしていた

佐々木「へえ…愛し合う2人が家出…駆け落ちだね。そのお金は? 最低50…いや、100万は無いと無謀だと思うよ…」

ただ…

具体的な計画なんて何もたててはいないんだ…

佐々木「それに、僕たち未成年に住む場所を貸してくれる会社なんて…まず無いだろうね」

さっきから…佐々木の言う事は最もだ

確かに俺たちの幸せは、刹那的なものかもしれない

でも今は…その刹那が欲しいんだ…

キョン「俺たちは……」

でも、それを上手く言葉には出来ない

佐々木「ねえ…学校や家族、それこそ…全てを捨ててまで…君たちは一緒になりたいの?」

佐々木「そんなに、未来に絶望しているの?」

朝倉「未来…」

佐々木「そうだよ…このまま大人になっても、周りは誰も祝福してくれない。それならば…今は少し寂しくても…自分の場所で生きるしかないじゃない……」

キョン「……」

佐々木「二人が欲しいのは…明日だけの幸せじゃないでしょ?」

言われれば…思い知る

言われなくても、多分俺たちにはわかっていた…

この家出が、どういう形なら成功と言えるのか…

分かれ道が何百通りもあって…本当はそのうちのどれかが明るい未来の…はずなんだ

でも俺たちが歩く道は…どこに行っても暗い、そんな道…

キョン「……」

朝倉「キョン…3日間、ありがとう。短かったけど…楽しかった…」

涼子……?

朝倉「キョンと一緒に起きて、ご飯食べて…同じ布団で眠る…幸せだったわ…」

そんな言い方しないでくれ…

朝倉「今はまた離れちゃうけど…もう一度ここに帰って来るから……」

佐々木「朝倉さんは…決めたみたいだね…」

朝倉「キョン…ありがとうね…」

佐々木「…帰ろう。今ならまだ、帰りの電車があるから…」

彼女は荷物をまとめ始め…帰る支度をしている

洋服や美容品…彼女の形がどんどんカバンの中にしまわれていく

俺と佐々木は、ただその姿を見つめているだけだ…

悲しさを感じさせないような、テキパキとした動きの彼女を…

佐々木「キョンも…納得してくれるよね?」

キョン「……」

佐々木は俺に問いかけてくる

キョン「……」

口が一つの塊になったように、俺は喋れない

冗談でも何でもなく…話し方をこの瞬間だけ忘れてしまっている…

佐々木「キョン……?」

もう一度…佐々木が名前を繰り返す…

自分も出掛けなければいけないので、今朝はここまでです

読んで下さってる方、支援して下さる方、本当にありがとうございます

居残りがなければ夕方早めに再開できると思いますので…

ちゃんと完結はしたいと思ってます

いってらっしゃい、いってきます

保守ありがとうございました

>>598の続きから


キョン「……だからな……」

佐々木「ん……」

キョン「俺は嫌だからな! このまま俺は…涼子と一緒に……」

朝倉「キョン…私だって一緒にいたいけど、でも……」

佐々木「本気で…言ってる? 違うね、キョンは意地になっているだけだよ…今は、その感情を出したらだめだよ…」

キョン「ぐっ……」

当たっているだけに、何も言い返せない

久しぶりに口を開いた第一声が…我ながら、わからない

佐々木「気持ちの中では、わかってるんでしょ…ここで一緒になっても何も無いって…帰らないといけないって…」

朝倉「キョン……」

俺も涼子も、ボロボロと涙をこぼしている

気持ちではわかっていても、体が…頭がそれを受け入れてくれない

それは…俺だけか…

ただこうやって駄々をこねる…まるで子供だ…

佐々木「朝倉さんは…今はここにいちゃいけないんだ…わかるだろ?」

キョン「今も早いもあるかっ! …涼子は今ここにいるんだ! ここから引き離して、何が幸せなんだ!」

佐々木「っ…いい加減目を覚ませ! バカキョン!!」

―バチイィィン!

キョン「……」

朝倉「……!」

佐々木の手が…俺の頬を力一杯に叩いた

一瞬、何が起きたかわからなくて…言葉を失った

頬がとてもビリビリする

佐々木「キョン…『私』だって本気なんだ。好きな人が遠くにいて、寂しいのはわかるよ。痛いほどにね」

キョン「…」

佐々木「でも、今は耐えるしか…ないじゃないか。僕たちには何も出来ない…色んな物が私たちを縛っている」

キョン(…だから俺たちは…それから逃げるために……)

佐々木「でも目の前の寂しさに負けて…全てを投げ出していいの?」

キョン(投げ出す…今回結果的には…先に涼子の方がそうなってしまった…俺は…まだ日常を変わらず生きている…)

キョン(俺は…まだ何も棄てていない…涼子にだけ…結果的にとは言え…俺はバカみたいだ…)

朝倉「キョン…私もう逃げないよ。ちょっとつらいけど…祝福の貰えない未来は、悲しすぎるから……」


佐々木「キョン…彼女は生きていく決意をしたよ。多分、心の中は…寂しさで満たされているだろうけど、ね」


キョン(俺だって…寂しい…涼子が帰るんだろ? いなくなるんだ)

キョン(でも……)

キョン「そう…だな。わかったよ…」

沈黙を破り…答えた

キョン「一緒に…帰ろう。いや、この言い方は変か…」

朝倉「ううん…キョンの言いたいこと、わかるから…帰りましょう。私たちの場所に」

佐々木「うん、それがいい…」

残りの荷物をまとめる彼女…

帰り支度をする姿を見ると、理由も無く悲しくなってしまう

それは、友達でも…恋人でも…
一人になっていく瞬間が、俺はたまらなく嫌だった

やりきれず、俺は窓の外に目をやる

外ではまだ夕陽が輝いている

…電車が無くなる心配は、大丈夫そうだ

朝倉「準備…できたわよ」

佐々木「じゃあ…帰ろう、朝倉さん」

涼子はこちらをジッと見つめてくる…

佐々木「…僕は、先に玄関に行ってるよ。朝倉さんは、お母さんに見つからないようにね」

そう言って、佐々木は部屋を出ていった

2人だけの時間…すぐに壊れてしまう空間だけれども

抱き合って…お互い力強く抱き合って…しばらくそのままでいた

朝倉「…」

キョン「…」

離れたくない。そう言ったら…ダメなんだろう

考えている事は…きっと同じなのに、俺たちは離れなければならない

朝倉「また…すぐ会えるわよね…」

キョン「ああ…すぐ会いに行くさ…」

朝倉「じゃあ、それまで…約束……」

涼子…俺に約束のキスをした…優しくて、痛い…

この先、もう会えないような…別れ際は、いつもそんな気がする

この手を離したら、もう二度と触れられないような…

でも今は…少しだけ違う…

朝倉「ほんの少しの我慢ね…」
一言一言が、名残惜しい

朝倉「…佐々木さんが待ってるから、そろそろ…」

キョン「ああ…そうだな」

俺は一緒に…外まで彼女達を見送る事にした

駅まで行ってしまったら、また悲しくなりそうだから

佐々木「じゃあ…またね」

朝倉「キョン…帰ったら連絡するから…ね」

キョン「ああ、2人とも気をつけてな」

彼女達は、駅に向かい歩き出す

その後ろ姿を、俺は見送らなかった

やっぱり…寂しいからだ

駅とは反対方向の道に、俺は歩き出した

このまま部屋に戻るのも…なんだか切なかった

…30分程、歩いただろうか

頭の中は真っ白で、歩いている間に何を考えていたか思い出せない

いや、何も考える事ができてなかったのかもしれない

フラフラと、俺はまた家に戻っていく

キョン「ただいま…」

キョン妹「あ、キョンくんおかえり~。もうごはんだよ~」

キョン「ああ…もうちょっとしたら行くよ」

返事も適当に、俺は部屋に戻る…

扉をゆっくりと開けると…彼女の甘い匂いがしてくる

女性の匂い…確かにわかる

部屋で涼子が待っている…涼子がいる…!

キョン「ただいま、涼子…!」

『おかえり、キョン…』

彼女の声は…返ってこない

ベッドにも彼女の姿は無い

…思わず布団に抱きつき、彼女の匂いを探す

さっきまで、彼女がここにいた…

でも…涼子はもういない

そう思うと…涙が止まらない

離れる事がつらいのは分かっていた

でも、この選択肢を選んだ俺は…もう、ただ泣くしかなくて…

涼子に会うために…ただ時間だけが過ぎてくれるのを待つしかない…

窓の外はもう、真っ暗になっている…

帰りの電車 朝倉

電車の揺れが、私たちの距離を確実に離していく

一駅、また一駅と…私は元いた場所へと帰っていく

数時間後には…私はまたあの街にいる

朝倉「……」

うつむきながら、持っているカバンを抱きしめる

隣には佐々木さんがいて…でも、私から何か話をする気分は起きない

佐々木「…そう言えばさ」

途中、佐々木さんが声をかけてくれる

佐々木「帰る前に…親御さんに連絡しておいた方がいいよ。今家に向かっている事だけさ」

朝倉「そう…ね。乗り換えの駅に着いたら連絡するわ」

佐々木「うん…」

それ以上彼女は会話をしなかった

落ち込んでいる私を気遣ってくれてるのだろう…

電車は相変わらず、揺れている

朝倉「じゃあ、ちょっと電話してくるから…」

佐々木「私はホームで待ってるよ」

緑色の…今では珍しい公衆電話に私は向かう

料金を入れて、自宅のダイヤルを押す…

―プルルルルル

朝倉母「もしもし…」

電話にはすぐに出た。懐かしい母親の声…

朝倉「……」

でも私は言葉が出ない

喉の奥がカラカラしてて…緊張のあまり呼吸も出来ていない

朝倉母「もしかして…涼子? 涼子なの…」

少し弱々しい声の母が…私の名前を呼ぶ

朝倉「うん……」

小さく…やっと出た言葉。その一言を返すだけで精一杯だった

朝倉母「ああ、涼子なのね……よかった、今どこにいるの…?」

朝倉「今…佐々木さんと駅にいる…今から帰る…」

朝倉母「佐々木さんも…そう。とにかく、早く帰って来なさい…心配かけて全く……」

朝倉「うん……」

電話を切り…私はホームに向かう

言葉通り、佐々木さんは待っていてくれていた

手には…ミルクココアが2つ握られている

佐々木「おかえり。はい、これ…落ち着くよ」

朝倉「……」

その言葉と温かさで……私は泣いてしまう…

夜の駅…人通りも多いのに、私は…

また、子供みたいに泣いていた
朝倉「…ヒッ……ヒック……!」

佐々木「…よしよし、よく頑張ったね…」

優しく頭を撫でてくれる彼女の手が…愛しい…あたたかい…

優しい…

―ガタンガタン

朝倉「…」

佐々木「…」

電車の中で、私は自然と彼女に寄り添っていた

彼女の肩に頭をのせて…そのぬくもりに揺られていた

佐々木「電話、大丈夫だった…?」

朝倉「…お母さん、泣いてた」

佐々木「心配だったんだよ…声聞けて安心したんだよ」

朝倉「……」

佐々木「…不安?」

朝倉「わからない…自分が今何を考えてるのか、わからないの。キョンの事でも…家族の事でも無いの」

佐々木「…一度に色々な事があったからね。時間をかけてゆっくり考えればいいと思うよ」

朝倉「うん…落ち着いたら…また佐々木さんとも話したいな…」

佐々木「うん…私はいつでも話相手になるよ。朝倉さんが不安に思ってる事…何でも聞くよ」

朝倉「うん…ありがとう…ね」

佐々木「…もう着くみたいだよ」

…荷物を抱え、私たちは電車を出る

キョンから遠く離れ…またこの街に帰ってきた…

何だか、目の前に見える景色が…少し違う気がした…

たった数日しか、この街を離れていないのに

―ピンポーン

朝倉母「…はい」

佐々木「夜分遅くにすいません。あの、涼子さんを送りに来ました」

…ガチャン

玄関の扉が勢いよく開く

…少し痩せた感じのお母さんが、私の目の前にいる

朝倉「あ、あの…」

佐々木「彼女が心配だったので…お家まで連れてきました」

言葉を繋いでくれるように、彼女がまず話をしてくれる

朝倉母「佐々木さん…本当にありがとう…涼子…」

朝倉「ん……ありがとう、佐々木さん…」

佐々木「いいんだよ。じゃあ私はこれでね…。お母さん、あまり彼女を…責めないであげて下さいね」

それだけ言い残し、佐々木さんは帰って行った

…残された私は、すぐにリビングに呼ばれた

そこには、とても落ち着いた様子の父親が座っていた

怒っているのか、何かを考えているのか…

朝倉父「…座りなさい」

私は言われるままに正座をする

母も一緒に座った

朝倉父「…どこに行ってた?」

朝倉母「涼子…」

朝倉「彼…キョンの所…」

朝倉父「…理由は?」

朝倉「…家出…のつもりだった」

朝倉父「…電話を制限したから?」

朝倉「ううん…とにかく近くに行きたかった……」

朝倉「今考えると…不満があったわけじゃないの…でも、会いたくて…待てなくて…」

朝倉父「そう…か。向こうの親御さんは?」

朝倉「事情は…知らない。こっそり会ってたから……」

淡々と…会話が続いていく

頭ごなしに叱られるかと思っていたが…雰囲気はとても静かで、口調も落ち着いていた

私は正直に…聞かれた事に答えていった

朝倉「…」

朝倉父「…あまり、唐突な事はするな。若いだけじゃ、認めて貰えない罪もある」

朝倉「…」

朝倉父「今日はもう遅いから…休みなさい」

その日は、それで部屋に帰された

あの怒りやすい父親から…思ったほど怒られる事が無かった…

それが私にとって一番の不思議だった

朝倉「あ…」

部屋に入り…机に目がいく…

置きっぱなしにした携帯電話の近くに…メモ書きが一枚

『あまり遅くまで使いすぎないように』

朝倉「…」

そのメモ書きがあって、携帯が没収されずにここにある理由が…わからなかった

私が理由を知ったのは…もう少し気持ちが落ち着いて、時間が経ってからだ…

今は…キョンに一通だけ…

『家に着いたよ。おやすみなさい…大好きなキョン…』

おやすみなさい…おやすみ…

―学校 キョン

あの家出から1週間

涼子が学校を休んだのも、連休の合間の1日だけだったので、周りで騒がれる事は無かったようだ

休みも終わり、俺は今まで通りの生活を送っている

ハルヒ「キョン」

ハルヒ「ねえってば…」

ハルヒ「…このバカ!」

キョン「…いてて…いきなり叩くなよ」

ハルヒ「なんで返事しないのよ。無視?」

キョン「…」

ハルヒ「…元気無いじゃない」

キョン「…ほっといてくれ」

以前の上の空に加え…人と話す元気も無くなっていた

誰と話しても楽しくない

ずっと涼子の事ばかり考えて…目の前の事など、いつも見えていなかった

そんな脱け殻のような姿の俺を見て…彼女は、ふぅとため息をつく

彼女には、多分理由も…わかっているんだろう

ハルヒ「…精神的な気休めだけど、教えてあげる」

キョン「ん……」

呆れたような表情で…彼女は会話を続ける

さっきまでの話題とは…違うんだろう…

ハルヒ「会いたい人がいたらね、心の中で会うの。何度も何度も…幸せな形を描くの…そうすると、現実で会えるのよ」

キョン「……」

ハルヒ「それだけよ……じゃあね」

プイッ、と彼女は教室を出ていってしまう

彼女なりの…慰めなんだろうか?

キョン「心の中で…ね……」

ある日の夕飯…いつもの食卓

キョン母「ねえ…」

キョン「ん…」

キョン母「今日の昼間に向こう…朝倉さんのお母さんとお話したのよ」

キョン「涼子…の…」

キョン母「ええ。事情を聞いて…一応謝罪もしたわ」

そうか…涼子、ちゃんと親に話したんだな

キョン「…ごめんなさい」

キョン母「…怒るつもりは無いのよ。ただ、他の家の人に問題を起こしちゃうと…ね」

キョン「反省…してます」

ふぅ、と母はため息をつき…何かを決めたように俺に話しかけてくる

キョン母「そんなに、彼女が好き?」

―コクン

俺は黙って頷く

キョン母「そう…。あのね、反省してるならって、向こうのご両親がね……」

キョン「え…休みの日……?」


妙な形ながらお互いの両親に関係を認めてもらい…

俺たちは、休日をまた新しい形で過ごせる事となった……

部屋に戻ると…外の空気を吸いたいために、窓を開ける……

もうすぐ…夏が来る…

何処かの道 何時かの日

佐々木「そうなんだ…休日に……」

朝倉「ええ…これから、色々……」

佐々木「くつ…それは忙しくなるかもね……」

朝倉「ふふっ…そうね……」

夕闇、景色が薄い藍色に染まる頃…私たちは一緒に街を歩いていた

行く場所も決めず…二人でただのんびりと……


佐々木「…いい、月だね」

朝倉「本当…綺麗な満月……」
空には大きなお月様…


月の光が彼女の瞳を照らしていて…私はその姿に心をまた奪われてしまう…

でも、今はいいんだ…

彼女と一緒に、お月様を見ている…この瞬間だけで……

朝倉「……」

月を見ている途中…彼女は携帯を取り出して…

佐々木「ん、電話?」

朝倉「うん…キョンから…」

佐々木「さっきの事じゃない?」

朝倉「そうかも……もしもし…?」

気を利かせて離れようとしたけれど…

電話はとても早く、15秒程で終わったので離れるまでいかなかった

佐々木「早いね?」

朝倉「う、うん……」

佐々木「そんなにすぐ終わる内容だったの?」

朝倉「えっと…その…言うの、恥ずかしいな……」

佐々木「くつくつ、いつもは聞かないけど…今日はちょっと聞いちゃおうかな?」

朝倉「イジワル…あ、あのね、実は……」

彼女と話しているこの一時が…ゆっくりと過ぎていく…

光を浴びた曇達を優しく運ぶ風のような…大切な時間…

これからも私たちは、そんな時間を…大切な人と過ごしていけたらいいな…

話の中で…彼女は言っていた

とても優しい目で…満月をみつめながら…

涼子「ただ月が綺麗だったから…私の声を聞きたいって……」

これで、とりあえず終わりとなります

本当は、まだ半分程の地点なんですけど…家出編がクライマックスな感じになってしまったので、ここで……

読んでいただいた方、支援して下さった方本当にありがとうございました

>>ただ月が綺麗だったから…君の声を聞きたい

全く、言ってみてえもんだな!乙!


一つ質問なんだけど
>俺たちは、休日をまた新しい形で過ごせる事となった……
て具体的にどういう事なの?

>>666
SSを投稿するまで、このラストもタイトルも決めてなかったんですよね

半分は思いつきですが、もう半分は「たったそれだけの事でも、恋人に伝えたい」
のような意味を含みました

>>668
残りの半分の中に書いてありますが、ここで終わりなんで引っ張る形に…
最後辺りの言葉も、あえてボカしてあります

すごく乙

余力があるのならただのイチャイチャもみたいれす

>>669
「月が綺麗」の元ネタはやっぱり夏目漱石かい?

>>670
まだ元気なんで…ポチポチやってみます

>>672
あそこまで、深い意味は本当に無いんですよね…
自分が深夜に出かける→月が綺麗→SS書く

正直、これがタイトルの理由です…冒頭だけができていたSSを、勢いで投下させて頂きました…

キョン「じゃあ…いってきます」

土曜日の朝…俺は駅に向かう

手には普段なら持たないような量の荷物と、胸いっぱいの希望…

いつもの電車に乗って…彼女の街に向かう

涼子「キョン、こっちこっち!」

駅に着くと、涼子と…今日は…

朝倉母「あら…」

朝倉父「…」

キョン「あ、あの…はじめまして。キョンと言います…その…涼子さんとお付き合いさせて頂いております……」

深々と頭を下げて…一礼をする

朝倉母「ふふっ、あまり硬くならなくていいのよ? ね、父さん…」

朝倉父「う、む……」

涼子「えへへっ…じゃあ早速ご飯食べに行きましょ! キョン、一緒に後ろに…」

引っ張られるまま、車に連れ込まれる

朝倉母「あらあら……」

まさか残り半分とやらか?

>>679
とりあえず、触りの部分だけ…全部書くかは…未定な感じで、


あれから…土日を利用して、俺は朝倉家に泊まり込みに来ている

朝倉家の親御さんが…来れる時は泊まりに来ていい、と話をしてくれた

俺はもちろんそれに甘える事にした…

まあ、今日が初顔合わせなんだが…

車内では、母親が運転をし、父親は助手席に座っている

朝倉父「……」

涼子「それで、お父さんてね……!」

朝倉母「ふふふっ」

キョン「は、ははっ…」

どうやら、緊張しているのは、男性側だけのようだった

朝倉母「はい…着いたわよ」

レストランでの食事を終えて、俺たちは涼子のマンション…第二の自宅に帰ってきた

望んでも、泊まる事のできなかった場所…

今日は…ここにいていいんだ…

朝倉母「あ、布団敷いておいたからね? 仲良く寝るのよ?」

キョン「……え?」

朝倉母「ウチって、部屋が少なくてね…私の部屋と涼子の部屋…それと居間しか寝るスペースが無いのよ」

キョン「そ、それなら僕は居間で……!」

朝倉母「あら、居間はお父さんが寝てるのよ。テレビを遅くまで見たりするから…そっちのがいい?」

キョン「いえ、お許し頂けるなら、そのままで結構です」

我ながら、初対面の親御さんを前にはっきりと言えたもんだ

朝倉母「ふふっ…涼子と、仲良くね? ……」ボソッ

一緒の部屋で寝る事は、両親公認らしい

少しは気持ちが楽だが…

俺は、じっと…涼子を見てみる…

涼子「?」

彼女は笑顔でこっちを見てくれている…俺も合わせて、引きつった笑いをする…

部屋に向かう前に…小さく呟かれた言葉を思い出しながら…

朝倉母『子供だけは作らないでね』

…はい

夕飯後…俺は率先して食器を片付け、皿を洗っていた

朝倉母「キョンちゃん、そんな事いいのに…」

キョン「いえ、お世話になるからには…何か手伝いませんと…」

これくらいはやらなければ…

ただ座って、涼子とお茶を飲んでばかりもいられない

涼子「ふふっ、お手伝い終わったら、このシートに書き込んでね」

見てみると、冷蔵庫に貼られた一枚の…シート

床掃除、洗濯、風呂、洗い物、猫の餌やり…家事全般と、涼子の印がついている

朝倉母「うちは共働きでね…平日は、どうしても家事が満足にできないのよ」

涼子「手伝ったらこれに印をつけるの。そうすると、お小遣いが増える仕組みなのよ」

キョン「そ、それはすごいシステムですね…」

風呂に入り…就寝だ

部屋の明かりは全部消えて…俺は涼子の隣にいる

布団とベッド…段差は違いがあるが、確かに隣に涼子が寝ている

こんな穏やかな気持ちで涼子と眠れる日が来るなんて…ちょっと、信じられなかった…

涼子「キョン……」

キョン「ん…起きてたのか?」

涼子「ちょっと…寒いかなぁ、って……」

キョン「寒い? じゃあ、俺の毛布やるよ。ほら、こっちの…」

涼子「…バカキョン!」

ヒソヒソ声の中で…涼子がちょっと大きな声を出す

キョン「な、なんだよ…」

涼子「…知らない」

プイッと…背中を向けて布団に顔を潜らせてしまう

その姿を見て…思い出した

キョン「……」

涼子「あ……」

後ろから、涼子を抱きしめて…ギュッとする…

キョン「これ…好きだったよな」

涼子「…うるさい、バカ…」

キョン「あのさ…涼子が良ければ…一緒の布団で眠りたいんだが……」

涼子「……」

キョン「ダメか…?」

涼子「腕まくらか…今みたいにギューってしてくれるなら…いいわよ……」

この日から、俺たちは…改めて、毎晩一緒の布団で眠るようになった

ベッドの中で、もう一度彼女を抱きしめて…

いつかのように、心臓に耳を当てながら…

涼子と過ごした時間も…もうすぐ終わってしまう

日曜日の昼過ぎ…今は、車で駅まで送ってもらう途中

別れる直前なのに、寂しさはそんなに生まれない…

心の余裕が、そうさせているんだろう

朝倉母「そろそろ駅だから、降りられる用意してね?」

キョン「は、はい」

涼子「気をつけて帰ってね?」

朝倉父「……」

この二日間、涼子の父親とは殆ど会話をしていない

テレビを見ていても、食事をしていても…涼子や母親とはよく喋ったが、父親とだけは話した記憶は無い

キョン(…嫌われてるのかな)

他人の家庭にお邪魔しているわけだ…人によっては、そういう感情が出るのが当たり前かもしれない

朝倉母「はいっ、到着よ」

そんな心配をよそに、もう駅まで着いてしまう

キョン「じゃあ…この二日間、お世話になりました…ありがとうございました」

朝倉母「どういたしまして…気をつけてね」

涼子「じゃあ…またね、キョン。落ち着いたら、メールしてね」

車を出て…助手席に座っている父親に、外から最後のお礼をする

キョン「あ、あの…色々ありがとうございました。本当に…ありがとうございます」

緊張で…ありがとう以外の言葉が出てこない…

朝倉父「…また、おいで。待ってるから」

キョン「は、はい…!」

彼女とは、これから会う時の話ばかりをするようになった

別れ際にずっと話していたような…まだ見えない未来の話じゃなくて…

周りが祝福してくれるような、そんな歩き方を…俺たちは始めていた…

父親とはまだ話がぎこちない…
母親は、もう俺を家族の一員だと言ってくれている…


猫は…少しずつ俺にもなついてくれている…

そして涼子とは…今も一緒の布団で眠っている…


このまま…いくつもの季節が流れて、俺の高校生活は終わって行くんだろう…

今日、俺は初めて夕方の電車に乗って…涼子のいる街に向かっている……

こんな感じの生活を…残り一年半、大学に行くまで繰り返す事になります

障害から安定に変わった2人は…幸せな高校時代を過ごしていきます

今回は、正直ここまでで…

ありがとうございました

書ききれないんで、残り後半のネタとか、設定を最後に…


キョン

大学試験を受けるために、また涼子の家に転がり込んでいる

彼女がいるから…近くの大学に進む決心をした

向こうの家族とも順調に仲を深めて、お正月や夏休みなど、長い期間を涼子の家で過ごす


朝倉涼子

2年目のクリスマスに、手作りのマフラーをもらう

3年目には、手作りのセーターだった

さらに、気合いの入ったバレンタインチョコなど、女の子のスキルを見せられっぱなしだった

大学に入ってからの、彼女との事はまだわからない…

もしかしたら、別れてしまうかもしれない

もしかしたら、ずっと一緒にいられるかもしれない…

最後の一文がわけわからん

>>698
学校の終わった金曜日の夕方に…電車に乗って会いに行ってます、という感じで…


佐々木

今でも、ずっと同じ人を好きなようだ

涼子とは、よく遊びに行くらしい


結局、俺と佐々木が会って遊ぶ事は無かった

たまに…涼子の事でメールをする

ハルヒ

一度お互いの本音を話したので、弱音から愚痴まで、なんでも言い合えるようになった

俺たちしか知らない(クリスマス、押し入れ)ネタを武器に、毎日俺を笑っている

周りに人がいる中、このネタを言って…二人で含み笑いをするのが最高に楽しいんだそうだ

2年生のクリスマスに、綺麗な灰色をした毛皮の手袋をプレゼントしてもらう

3年生になったら、クラスが離れてしまった…
古泉曰く「朝倉涼子の事を考えて身を引いたから」らしい
そのせいか、話す機会も減って、冗談も言ってくれなくなった

同時期に、遠距離の彼氏ができたみたいだ
チラッとハルヒに聞いた話だと「同じ事を感じたかったから」

それのせいかは知らないが、一緒の大学に行く事になる

古泉

ハルヒの大学を教えてくれたのは古泉だ

発生していない閉鎖空間の事を、俺に話してくれる

でも、その空間の本当の理由は、俺もまだ知らない…


朝比奈さん

遠くの街に引っ越してしまった
再会する予定は、一応ある


長門

あまり変わらずに3年間を過ごしたようだ

今日も彼女は、部室で新しい本のページをめくっている

俺たちが『忘れ物』を見つけるのは、もう少し先の事になってしまった

谷口

3年生でクラスが別れたので、あまり知らない

「愛しい彼女に会いたい会いたい、空腹のお前に昼飯をおごったのは誰だっけ?」

このセリフで、学食を13回おごらされた思い出しか無い

国木田
彼も、3年生でクラスが別れた

やっぱり勉強して、いい大学に行くんだろうか

鶴屋さん

卒業してからは、どこか遠くへ行ってしまったみたいだ

また…会いたい気もする

>学食を13回おごらされた

それどこのバルキリ-テストパイロット?

話としては、このまま前作に繋がっていきます

まだ書ききってない部分を…次はどういう設定で書くか、考え中ですが…やっぱり続けていきたいと思っています

大学に行って朝倉さんと別れないかもしれない、前作の続きを書くかもしれない…どのレールでまだ書くかは、サッパリですけど…

ネタをまとめて、また頑張りたいと思います

ここまで読んで下さって、本当にありがとうございました

凄まじく乙!!
登場人物の心境がもどかしくて切なくて
ビクンビクンしたよww

>>704
完全におふざけです
(笑)程度に見て下さい

>>707
今回は朝倉さんメインなんで、ハルヒの事をあまり書きませんでしたが…

高校時代は、ハルヒがキョンを慕う

大学時代は、キョンがハルヒを慕う

と、ハルヒが高校時代に感じていたもどかしさを、大学でキョンに感じさせてやる…

っていう、ハルヒの願望があったり、なかったり

曖昧やもどかしい表現が大好きなので、それを感じとっていただけたら幸いです

なるほど、こっから大学の話へつながるわけかwww

ってことは・・・そうか・・・



正直、ハルヒでやらなくともいい
むしろ、オリジナルでみたい中身の濃さだな
(褒めてるつもり)

続編wktkしときます。
鳥でもつけてくれるとありがたい

こんなのが読みたかった
朝倉Loveな俺にとってはもう本当に良SS
朝倉の感情などの描写がうまい
言い回しとかも違和感ない
長かったけど読んでよかった
また書いて下さい






激しく乙






最近ハルヒSSが少ないと思うんですよね

いつ頃立てるとか決まってる?

◯乙
コレはポニーテールであって乙なんかじゃないんだからね!!
変な勘違いするんじゃないわよ!!!

>>711
どんなに好き合っても「人間て別れる時はそんなもの」
…前回省略しすぎて、全く伝わってないテーマだと思いますけど

でもそれがもしかしたら…ずっと別れない形もある、になる…かも?
今はまだ頭の中、そんな段階です

>>712
とりてす
キャラがあっての内容だと、自分では思ってます
キャラが助けてくれた事(古泉の間違い電話とか)が多々あったので…

>>713
喜んでいただけたなら幸いです
女の子の気持ちの描写、正直苦手なんですよね…
またハルヒで書きたいな、と…

>>714
ネタはそこそこあるんですけど、作品内容は全く…今は別のSSをチクチク書いていて…

今年中…くらいですかね?

>>717
ポニテ派

保守変わりに、完全にお遊び

高校一年の夏

俺は朝倉に恋をした。理由なんて何もない

ただ少し趣味と考え方が合って、俺から告白した

見事にオッケーをもらえ、二人で遊園地へ。初デートだった

しかし付き合ってからすぐの事…

朝倉「私引っ越すんだ」

キョン「え…」

朝倉「県3つ越えた場所なんだけどね。でももう気軽には会えなくなるわね」

キョン「それくらいだったら…会いにいくさ。4、5時間くらいで着くだろう?」

朝倉「でも普段は遠距離恋愛よ…?」

キョン「少しつらいけど…朝倉のためなら頑張れるさ。海外とかだったら流石にお手上げだけどな」

朝倉「…うん…ありがとう…」

…彼女と付き合ってから確実にハルヒ達と話す時間は減っていた

SOS団部室

古泉「噂、聞いてますよ」

キョン「噂?」

古泉「月に1度、引っ越しした朝倉涼子に会いに…お泊まりしてるんですってね」

キョン「ああ…そのことか」

古泉「しかし、相変わらず移動費もバカにならないでしょう?」

キョン「高校生にはキツい額だ…だから月に1回が限度でな」

古泉「あなたも、よっぽどですね」

キョン「…」

古泉「…最初は、涼宮さんに何か影響が出るのではと思ってましたが…」

キョン「その様子だと、特に何もないみたいだな」

古泉「…こちらにも、色々ありましてね」

月に1度、朝倉に会いに行く以外、俺の日常は何も変わらなかった…

古泉「…なんですって?」

キョン「俺…涼子がいる街の大学に行くんだ」

古泉「……」

キョン「呆れたか?」

古泉「そういう訳ではありませんが…いえ…」

古泉「親御さんはなんと?」

キョン「涼子と付き合ってることは…まあ、色々あって知っている。理解は示してくれてるよ」

古泉「そう…ですか…」

キョン「どうした?何か都合が悪いのか?」

古泉「あなたには話してませんでしたが…実は涼宮さんにも恋人が出来たんですよ」

キョン「いつから…」

古泉「三年生に進級した2ヵ月後。男の方から言い寄ったみたいですね」

キョン「へぇ、あのハルヒがなぁ…ハハッ、良いことじゃないか」

古泉「…その彼が住んでる場所がですね…朝倉涼子がいる街なんですよ」

古泉「…その彼が住んでる場所がですね…朝倉涼子がいる街なんですよ」

キョン「…!」

キョン「偶然にしては…なぁ…」

古泉「ええ。でも正直意味がわからないのですよ」

キョン「ん…」

古泉「この2年間、あなたと朝倉涼子が付き合ってからも彼女の観察を続けていましたが…」

キョン「何もなかったんだろう?」

古泉「いえ、実は閉鎖空間は発生していたのですが…その…」

キョン「?」

古泉「空間の規模が小さすぎて…」

キョン「小さすぎる?」

古泉「ええ。神人も確かにいるのですが…全く動かないのですよ。機関では、問題無しと判断はしていますが…」

キョン「それがハルヒの付き合い始めた時期と重なると?」

古泉「…いえ空間が発生したのは、あなたが朝倉涼子と付き合い出した時期からですよ」

キョン「な…」

古泉「大事では無かったので言いませんでしたが…でも、やっぱり変なんですよ」

キョン「…」

古泉「単純にあなたに嫉妬しているなら…もっと直接的な事態が僕らを襲っているはずです」

キョン「確かにな…でも表面上は何もない、と」

古泉「この二年は何もありません…が、今回はそれが起こってしまいました…あなたと彼女が行く大学は、同じ場所なんですよ」

キョン「…は?」

古泉「あなたから大学の名前を聞いた時は冗談だと思いましたよ」

キョン「嘘だろ、そんなの…」

古泉「本当ですよ。大学の事にだけ関して言えば、あなたと一緒の学校に行きたい、と彼女が願ったのでしょう」

古泉「でなければ、こんな偶然はあるはずが…」

キョン「じ、じゃあハルヒが付き合ってる相手の事は…」

古泉「そっち方面は僕らもお手上げです…」

古泉「本来なら、朝倉涼子と別れさせる、あるいはあなたを別の大学へ連れてくでしょう」

古泉「でも他の男性と付き合い…尚且あなたと同じ大学へ行く…朝倉涼子の近くの、ね」

キョン「…わけがわからんな」

古泉「ええ…ですから我々も多分同じ学校へ行くでしょう。機関からもそう命令されてますので…」
キョン「我々ってことは、長門も…」

古泉「ええ。卒業した朝比奈さんも既にその大学へ転入手続きをしています」

キョン「…」

古泉「また彼女を取り巻く生活になりそうですね」

キョン「…あいつは関係ないさ。あくまで俺は朝倉の傍にいくだけだからな」

古泉「ええ…わかっています。」


もう一度朝比奈さんに会える。もう一度ハルヒや長門と学校生活が送れる

今の俺には…その名前はときめかなかった

今は涼子がいて、それだけで幸せ。もうすぐで涼子の近くに住める…

ハルヒが付き合い出した人間やら、他の人間関係はどうでもよかった


朝倉宅

涼子「そう…涼宮さんが…ね」

キョン「ああ、こっちの大学に来るみたいだ。しかも…彼氏というおまけ付きだ」

涼子「あら……あの涼宮さんが…ね…」

いつものお泊まりの…その中の一日

涼子には、古泉から先日聞いた話を教えていた

閉鎖空間以外は、隠す事でもない…自分に何か害が出てくるわけでも無いんだ

涼子「涼宮さんといえばさ…覚えてる? 私が家出した時の……」

キョン「……」

忘れるわけが無い

あの日はいろんな感情がいろんな場所に動きすぎて…いま思い出しても、少しが出る

涼子「あの時の涼宮さん…ずいぶん大胆な事をしてくれたわよね?」

キョン「お…俺は関係ないからな」

涼子の目が、笑っているようで笑っていない

涼子「あの時さ…涼宮さんがもし私に気付かなくて…本当に告白してたら…どうかなってたかな?」

キョン「どうか、って……?」

涼子「それを私が言っていいの?」

キョン「い、いや…そうだな…付き合ってはいたんだから、断るに決まってるさ。涼子の事意外は、頭に無いんだから…な」

涼子「本当に~?」

…長い時間付き合っている中で、涼子も俺に冗談っぽく言葉を仕掛けるようになった

その度にいつも遊ばれて…尻に敷かれる形になってしまう……

キョン「当たり前だろ。こうやって近くにいて…大学だって、今頑張って勉強してるんだ。涼子を嫌うわけがない」

涼子「涼宮さんも一緒の大学来るのに?」

キョン「う…あ、あいつは……」

成績が悪いから、と誤魔化す程の学力がむしろ俺の方に無くて…詰まる…

キョン「で、でも最近ハルヒとは話さないんだぞ。クラスも違うし…SOS団の活動だって、こっちに来る日が増えたから…あんまりな」

涼子「…あのさ、さっきのは冗談だけど、この言葉は真面目ね。SOS団の活動時間奪って、迷惑?」

さっきまでの緩い表情とは違って…確かに、まっすぐこちらを見つめながら、俺に聞いてくる

キョン「…どうして、そう思うんだ?」

涼子「だって…キョンはずっと…一年生の時から、私を優先させてくれているじゃない…」

そんなの…当たり前に決まっているだろ?

涼子「普段の週末…家出の時だって…何かと私に時間を割いてくれた…。なんだか、最近そういう事を考えるようになったの…」

キョン「涼子……」

家出をして…家に泊まるようになってから、確かに…涼子の話すことは少し変わっていた

未来の話をし始めたのと同時に…俺の過去…

あの時、何をどう考えていたのか…

そんな話を、たまに彼女とするようにもなった

その度に、俺は言葉に困ってしまう

いつも理由は「涼子がいたから」

…大抵、自分の中ではこれだけで片付いてしまう

涼子「今までは、キョンが近くに来てくれるだけで…自分の中で終わっていたの。でも…キョンだって…当然時間を使ってこっちに来てくれている…」

涼子「本当は、無理してるんじゃないか…って…」

キョン「無理なんて…あるもんか。ハルヒ達とだって、普通に友達関係は続いてるし…成績だって、怠けてるわけじゃない。生活は、なにも問題無い」

涼子「そう…」

自分もそうだが、思春期には…思い込みの激しさが顕著に現れる

考えれば考えるほど、ハマってしまう…そんな悪循環を、彼女も味わっているんだろう…

こういう時には…精一杯の言葉をかけて、時間が経って落ち着くまで…一緒に考えを共有する…

それが…一番いいのだと、今の俺は思っている

支援というかこれここの>>1が前に書いた奴じゃないのか?
なんかすごい読んだことあるんだけど

キョン「付き合い始めた時に…言っただろ? 好きな人のためなら、無理もするってさ…」

涼子「じ、じゃあ…やっぱり無理してる…?」

キョン「…今は、まだ全然していないよ。俺にとっては…会えないで毎日過ごす方がつらいんだ」

涼子「それは…私も…」

キョン「涼子が、そう考えてくれるのは嬉しいさ。でも…じゃあ、涼子自身はどう思ってるんだ? あまり…会いたくないとか?」

涼子「そんな事…無い…」

キョン「…それだけでいいんだ。俺は会いたいから、会いに行く…会って欲しいから、涼子は俺を呼ぶ…な?」

キョン「今は…まだそんなに考える事も無いさ。もしまた考えるようになったら…俺がいくらでも話を聞くよ」

涼子「それでも…解決しなかったら……?」

>>740
古泉云々の所は、以前書いたのをベースで投下しました、すいません
あくまで、試作みたいな物なので、気軽に見て下さい



キョン「そしたら…そうだな。もう話し合って…解決するまで何度でも話すよ。途中でケンカして…関係が無くなるのは嫌だからな」

涼子「…」

キョン「今だって、涼子が話してくれたから…こうやって話せるんじゃないか。俺はそれが嬉しい。それだけだ」

涼子「そっか……ありがとう、話聞かせてくれて」

彼女に、フッと笑顔が戻る…少しは落ち着いてくれたんだろうか

キョン「ああ…落ち着いたか?」

涼子「うん、大丈夫。また…話聞いちゃうかもしれないけど…」

キョン「いくらでもいいさ。俺だって…話たい事はたくさんあるんだしな…」

涼子「じゃあ…次はキョンが聞かせて?」

キョン「お、そうだな…じゃあ……」

高校生活の大半を終えた辺りから…大学に入るまでに…

涼子にも色々と気持ちの変化が出たみたいだ

考え方が変わって…なんだか大人びてきたような気がする…

涼子「ふふっ…相変わらず、楽しそうに活動はしてるのね……」

比較してしまうと…自分自身が変わっているか不安になってしまうが…でも…

大学に入ってからは、もっと彼女に近付く事ができる…

考えるのは…それからでも、いいじゃないか

今は隣で笑いあっている彼女を見つめて…一緒に同じ時間を過ごしていけばいい

そうだよな…涼子…

今日は早出で、携帯も触れないのでここまでで…

追加で、残り半分を書きたかったけどペースも早くできないんで…限界です…


次に書き込む時は、次回作ができた時に…なったらいいと思います

もう一度…支援して下さった皆さん、読んで下さった皆さん、ありがとうございました

さよなら

どなたか前作のurl貼ってください
おねがいします

国木田「お互いに嘘を言いあって付き合って、幸せなのかな…」

情弱だからurl貼らないとBB2Cでスレ見る方法知らないの

間違えた

国木田「お互いに嘘を言いあって付き合って、幸せなのかな…」

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