菫「あの時の君は、もっと手強かったがな」 (194)

ID:ul8GlIHl0
代行やで~

代行感謝です

さきに言っとくと百合とかそういうのないです

全国女子高校麻雀選手権大会団体戦
次鋒区間最優秀選手賞
松実 宥<マツミ ユウ>(奈良・阿知賀女子 3年)

  下馬評では白糸台・弘世や臨海・ハオが圧倒的であった次鋒区間賞は、優勝校の清澄と並ぶダー
クホース・阿知賀女子のキーマンであった松実の手に渡った。「いつも玄ちゃんに助けられてばかりだ
ったから、お姉ちゃんらしいことをしなきゃと思った」――卓に座っていたときの心境を彼女はこう語
る。全国屈指の火力を持ちながら不振にあえいだ妹の松実玄(同2年)の失点を取り返すことこそが、
選手である以前に「姉」である彼女の、大きなモチベーションとなっていたのだ。チームの最上級生
でありながら部長ではないということにははじめ違和感を覚えるが、高水準の火力と速度、そして弘世
の狙い撃ちに対応しきる潜在能力は「平部員」としてプレーに集中出来たからこそこそ発揮されたの
かもしれない。少人数の新設チームという特殊な状況、そして名将・赤土の采配が、彼女の力を最大
限に引き出した。


(『女子インターハイ特集』(WEEKLY麻雀TODAY)より抜粋)

咏「次鋒賞ね、わかんねーけどしょーじきイチバン揉めたんじゃないかなー」

健夜「対策がうまく嵌ってたけど、総合的な地力は弘世さんの方が上、っていうのは皆同意するとこでしたからね。ただこの賞は――」

理沙「団体戦!」

咏「大事なのは、一言で言えばチームへの貢献度――単純な得点収支に限らず、その和了りが、その振込みが、一打一打がチーム全体の空気にどれほど影響したのか」

はやり「そーいうこと考えると、先鋒のリードを守ることが仕事になりがちだった白糸台や臨海の娘よりかは宥ちゃんの方が妥当だったんじゃないかなっ☆」

宥(最初で最後のインターハイ挑戦は、私にとってもかけがえの無い経験になりました)


宥(皆で夜までクタクタになりながら練習して、時には遠征なんかにも行って)


宥(試合が始まったら、一戦一戦潜り抜けるたびに皆で大喜びして)


宥(それで、最後……決勝で負けちゃったとき)


宥(決勝に進んだ時点で全員の目的はもう達成できてたから、ここでどうなっても悔いは無い……そう思ってたのに)


宥(凄く寂しくて、悲しくて………今まで頑張って来たのが、私たちの夏がここで終わっちゃうんだなって思うと、とっても切なかった)


宥(一生懸命努力して、報われたときには嬉しくて、終わったときは悲しくて)


宥(コタツの中に引きこもったままだったら、絶対に味わえないようなことばかりだった)


宥(そんな経験は、今感動的ってだけじゃなくて、私のこれからについても大きく影響しそうです)

読みにくいから2行あきではなく1行あきにしてくれ

>>14
基本1行空き、独白は2行空きみたいな感じでやっていくつもり

灼「本日は、どうもありがとうございました」

晩成監督「ん、お疲れさん。次もよろしく頼むよー」

灼「はい……」

玄「それでは、失礼します」



灼「挨拶して来た……」

憧「お疲れー」

穏乃「これ、二人の荷物です」

玄「ありがと、しずちゃん」

憧「次、いつやるって?」

灼「まだちゃんとは決まってな……。でも、多分来月の第二週の土日あたりだと思……」

玄「今までの感じから行くと、その辺だね」

穏乃「春日野高校さんとかは?」

灼「春日野は次は当分先でいいって言われたから、来週の荒蒔高校が一番近……」

憧「夏前を思い出すと、子供だけでの殴りこみも随分受けてもらえるようになったもんよねー」

玄「殴り込みって……ちゃんとアポもとってある、正式な合同練習だよ?」

憧「分かってるって。気分よ、気分」

灼「どこも3年が抜けて、新しくチームをどうしていくかって時期だから、定期的に外からの刺激を入れたいんだと思…」

玄「特に晩成さんは進学校だから、引退した人たちが顔を出すっていうのも中々できないしね」

穏乃「3年が抜けちゃったのは、お互い様だけど……」

灼「……」

憧「……宥姉、卒業まで残ると思ってたけどね。本人もそのつもりだっただろうし」

穏乃「色々あって、気持ちが変わったって言ってたね。凄く立派だと思うし、私は応援してるよ」

憧「そりゃ、私だって応援してるわよ。……ただ、あの人見知りの宥姉が馴染めるかだけはちょっと心配かなー」

玄「うん……二人とも、ありがとう。お姉ちゃんにも、伝えておくから」

灼「それじゃあ、お疲れ」

穏乃「お疲れ様です!」

憧「また明日ねー」

玄「ただいまー」

宥「おかえりなさい、玄ちゃん」

玄「ただいまお姉ちゃん、お勉強は順調?」

宥「うん。返ってきた結果も、なんとかC判定がでてたから……この調子でいこうかなって」

玄「おお!さすがお姉ちゃん!憧ちゃんもしずちゃんも応援してるって言ってたよ!」

宥「そっか……。ちょうどキリがいいとこまで来たから、晩ご飯食べようかと思ってたんだけど、玄ちゃんも一緒に食べる?」

玄「うん!」



玄(大学に行きたい、ってお姉ちゃんが言い出したときは、私もお父さんもそれはびっくりしました)


玄(お姉ちゃんは高校を出たらすぐにそのまま松実館で働くって、皆思ってたから)


玄(インターハイを経てちょっとだけ有名になった松実館は、新しい従業員さんを雇ってもちょっとだけ余裕が出来るくらいになっていて)


玄(4年後にお前がしっかりと学費の分稼ぎなおすんだぞって言われたときのお姉ちゃんは、とっても嬉しそうでした)

宥(大学に行きたい理由は、いくつかある)


宥(まず、私がこのまま卒業して普通に修行しても、ちゃんとした宿の従業員になれるか分からないってこと)


宥(今までぐうたらやってきて、手伝いも多くはしてこなかった……ここから半年程度やったって、ただ不出来なだけの存在からのスタートになってしまう)


宥(それに何より、この体質………震えながらとか、厚着したままとかで接客したら、不快に思うお客さんだっているかもしれない)


宥(それなら、経理や会計、内側にこもったままで出来る仕事……税理士や会計士の資格なんかも考えてる)


宥(大学の経営学部に入って、そういう技能を身につければって思った……人見知りも、少しは改善できればいいな)


宥(それから――)

――2月末 某日 松実館大広間


玄「えー、皆さん!グラスを手に持ってください!」

穏乃「ばっちりです!」

灼「ん」

憧「ま、ジュースだけどね」

玄「それでは!お姉ちゃ……もとい、松実宥が、見事第一志望に合格したことを祝いまして!」

宥「えへへ……」

玄「カンパーイ!」

「「「カンパーイ!!」」」

灼「宥さん、おめでとうございます」

宥「ありがとう、灼ちゃん」

穏乃「ホント、おめでとうございます!私信じてましたから!」

憧「よく言うわよ……発表前日なんか夜通し震え声のまま電話しっぱなしだったじゃないの」

穏乃「あ、あれは……その、なんていうか、落ち着かなくて……」

玄「ふふ。お姉ちゃん、すっごくがんばってたんだよ?」

宥「えへへ……ちょっと、頑張っちゃった」

憧「大学でやりたいことも決まりきってると、モチベーションも続くわよね」

宥「うん。……大学でやらなきゃいけないことが、いっぱいあるから。短い期間でも、予備校も使わせてもらっちゃったし」

玄「……それもこれも、この松実館のお客さんが増えたからできたのかなって思うと、感慨深いよ」

憧「凄いわよね、インターハイ効果。合宿所としての以来も来てるんだっけ?」

宥「そうみたい。流石に、受けるかどうかはちょっとわからないけどね」

穏乃「合宿かー……じゃあ、私たちが先にやっちゃおう!ここで!」

憧「それ、ただのお泊り会」

玄「でも、合宿とか遠征はしたいよね。今年も」

灼「……それには、ついてきてくれるような顧問の先生を見つけなきゃ駄目。今は名義上、ハルちゃんになってるけど……」

宥「……赤土先生も、本当は今日、お呼びしたかったんだけどね」

灼「ハルちゃんは、新人扱いで入団してるから。シーズンで使ってもらえるか決まるオープン戦は、一番大事な時期。仕方ないと思……」

穏乃「赤土さんは、今この瞬間も麻雀打ってるんだなー……」

灼「いや、今日は出な。検討会だと思」

憧「……もしかして、オープン戦から全部チェックしてんの?ハルエの日程」

灼「当然」

玄「さ、流石……」

宥「麻雀……」

憧「……やるんでしょ?大学でも」

宥「……うん」

穏乃「そうなんですか!?」

憧「そりゃそうよ。レベルとか学部とか距離で言っても候補は2,3あると思ったのに、第一志望だけは言い切ってたもの」

灼「麻雀、強いところなんですか?」

宥「2部リーグの、中堅どころ。部としてちゃんとはしてるけど、プロ狙いとか推薦入学ばっかりってわけじゃないの」

穏乃「なるほど……」

宥「ただ、勉強もちゃんとやりながらだから、ちゃんとついていけるかはちょっと心配かも……」

玄「大丈夫だよ、お姉ちゃんなら。ほら」

宥「これ………」

穏乃「次鋒区間、最優秀選手賞……」

憧「面白かったなー、宥姉がこれ貰ったとき。呼ばれてんのに完全に固まっちゃってんだもん」

灼「私たちは、全国ベスト4に入ったチーム。宥さんは、そこの稼ぎ頭」

穏乃「宥さんの麻雀は、どこに行っても絶対に認めてもらえますよ」

宥「みんなぁ……ありがとぉ………」

玄「お姉ちゃん……」

憧「――さ、湿っぽいのもその辺にして!お祝いの場なんだし、パーっといきましょ!パーっと……て、あれ?ちょっと、唐揚げが無くなってるんだけど!」

穏乃「あむ……もむ?」

憧「しず……もしやアンタさっきのマジメな空気の中でかまわず食ってたわね……」

穏乃「もっむむっもめむもーむもっむんむん」

憧「ずっと目の前にあったからって全部食うやつがあるかー!」

灼「わかるんだ……」

玄「……もう1回作ってこようかな?唐揚げ……」

宥「あ、あはは……」

宥(――やっぱり皆といると、あったかいし、楽しい)


宥(みんな私より年下なのに、私のほうがいろんなことを教えてもらっちゃった)


宥(麻雀というものの本当の楽しさ、みんなで頑張って何かを成し遂げることのあたたかさ)


宥(あんな素敵な時間を、私は1年………ううん、半年足らずしか過ごせてない)


宥(あのあたたかさを、もう一度味わってみたいなって、そう思った)


宥(だから、大学に行きたいもう一つの理由)


宥(――大学で、もうちょっとだけ、麻雀がしたい)

――4月初頭 某日 新入生向けガイダンス終了後


宥(ふぅ、結構長かったなあ………これから履修を決めるって感じなのかな?でも、何分野が何単位とか、必修とか語学とか、まだちょっとよくわからない……)

「何とるー?」

「なんかこれいいらしいよー、木3の……」

宥(……というか、なんでもうお友達同士な人たちがいっぱいいるの!?)

「中国語だと、この教授はハズレなんだって」

「あ、そこ空いてるから取ろうとしてたー!あぶなかったー!」

宥(すごい情報交換しあってる……あっちなんか10人ぐらいのグループが……なんで!?まだ入学式と今日の2回だよね!?同じ高校!?あんなに――)

「ねえ、そこの君。ひょっとして困ってる?」

宥「ほ、へっ!?わ、私ですか!?」

「そ。なんかおろおろしちゃってるみたいだし、履修とかがよくわかんないんじゃないかと思って」

宥「ええと、まあ………あの、どちらさまでしょうか……」

「あ、私、Stylipsってボランティアサークルの○○っていうの。それでどう?ちょっと食堂まで来てくれれば、他の子と一緒にお昼ご飯食べながらでも色々教えて――」

宥(――こ、これは………『サークルの勧誘』!!)

サークルの勧誘<さあくるのかんゆう>

「サークル」という大学の中にたくさんあるなんだか怖い団体がその本性を隠して4~5月にかけて新入生に行う行為。
新入生に気さくな感じで魅力的な提案を持ちかけたりしながら食事などに誘い、自分たちの仲間に入るよう言ってくる。

例:憧ちゃん「宥姉って、――とか断れなさそうー」

(松実宥脳内辞書より抜粋)



宥「あわわわわわわ」

「もう君以外にも何人か……ってあれ、聞いてる?」

宥「えと、あの、ご……」

「ご?」

宥「ごめんなさいいいいいぃぃぃー!」

「……行っちゃった」

宥(どうしよう……思わず逃げてきちゃったけど……)

「体育会女子ラクロス部でーす!2時からグラウンドで体験会やりまーす!履修案内もするよー!」

宥(履修については、確かに先輩とかに聞きたい……でも、これ一度行ったらいろいろと断れなくなっちゃいそうだよね……)

「漫研です、大学会館2階でやってます。履修相談も――」

宥(あ、そうだ。どこもやってるみたいなんだから、麻雀部の人に聞けばいいんだ。じゃあ何にせよ麻雀部のところに……)


宥(……麻雀部って、どこでやってるのかわからない)


宥(どうしよう……部のホームページとかも、活動場所は書いてなかったし……)


「ラクロス部でーす!みんなおいでー!」

「漫研でーす。よろしくでーす」


宥「………ゴクリ」

「はい、ここね。中の階段からいけると思う。部屋の近くに行けば、誰か呼び込みがいると思うから」

宥「はい、あの、ありがとうございました……」

「いえいえ~」



宥(怖かった……どちらかというと怖くなさそうな漫研の人に訊いてみたけど、それでも怖かった……なんか○ョナサンに入ってデ○ーズの場所訊くみたいで……)


宥(……大学会館本館の、3階の大部屋。そこが麻雀部の活動場所らしい)


宥(1階は大学生協だから、この建物に来ることは多くなるのかな)


宥「……うう、緊張する…………」


『宥さんの麻雀は、どこに行っても絶対に認めてもらえますよ』


宥(………ふう、よし!)



宥(松実宥、麻雀部にお邪魔します!)

先輩「いらっしゃい、新入生の子だよね?名前訊いてもいい?」

宥「あっ、はい。松実、っていいます……」

先輩「マツミさんね、ちょうど空いてる卓もあるし、相手探してくるから、ちょっとだけ待っててね」

宥「はい……」


宥(大部屋っていうだけあって、凄く広い……卓もたくさんある。それに、人もいっぱい。立って見回ってるのは、上級生の人かな)


宥(新入生の割合はわからないけど、ざっと見た感じ、この部屋に40人はいる……いつも部室には5人で雀卓も一個だったから、凄く不思議……)


先輩「――お待たせ。面子揃えたから、こっちで打と」

宥「はい、わかりました……」


先輩(………この子絶対見たことあるわー。この厚着、マツミ、マツミ………多分、インハイの有名選手)


先輩(宮永照以外は今年わりと流し見だったから、多分1年の子に聞いたほうが早いかなー)


宥(相手はこの先輩と、あとの二人は多分新入生かな……というか、この部屋に入ってからいっそう目線を感じるよ………やっぱり、こんな厚着してるの変だよね……)


「「「「よろしくお願いします」」」」

先輩(起家か……このマツミさんが所謂ビッグネームなんだったら、お手並み拝見といきたいところだね)

宥(いつも通り打とう。いつも通り――大丈夫、知らない相手と打つぐらい、いくらでも大会でやってきたこと)

先輩(あくまでこれは新勧活動。普通に談笑しながら打ってるとこだってあるけど……多分、今現在はここが一番真剣に打ってる)

宥(不安なのは、2つ。回転率を上げるためらしいけど、この東風戦っていうのには正直私は慣れてない。それから――)

先輩(単に会話が無いっていうわけじゃない。賽を振って始まった途端に、明らかにマツミさんの放つ空気が変わった……インハイ選手であることは間違いないかも)

宥「……」

先輩「ロン。11600」

宥「……!はい……」

先輩(――何にしたって、容赦はしない。ウチの部のレベルを正しく知ってもらうためにも、これは部全体の方針でもある)

宥(6巡目で、ダマの11600なんて――)

先輩(インハイ特化の選手なら、東風は多分不慣れでしょ………慌てちゃうかな?)



宥(――よかったあ。接待麻雀とかされちゃったら、どうしようかと思ってたよ)

宥(結局、今日は東風戦を4回やって、順位は1-1-2-1。ちゃんと自分の力が出し切れた感じがする………阿知賀の皆のおかげかな)

部長「お疲れ様、松実さん」

宥「あ……お、お疲れ様、です……」

部長「しかし驚いたわー。強い1年がいるぞーって聞いて見てみたら貴女みたいな人がいるんですもの………ごめんね?このおバカさんがすぐ気づけなくて」

先輩「なはは……面目ない」

宥「い、いえ……全然、大丈夫です………」

部長「まあ、『ワタクシこそがあの松実宥でございまーす』なんて言いづらいでしょうし、正確に思い出せるまでは訊く側も怖いんだけどね」

先輩「凄かったんですよ。最初の東風戦終わった後に同卓してた子が意を決するように『松実、宥さんですよね!?』って言ったら部屋全体が『どよっ……』みたいな」

部長「ふうん……。ねえ、松実さん」

宥「は、はい……」

部長「もしも答えにくいことだったら、答えないでいいんだけど……どうして、ウチに来たのかしら」

先輩「うん、私も聞きたかった。ていうか、今日ここにいた全員が気になってたよー」

部長「インハイベスト4メンバー、最優秀次鋒賞……1部リーグの大学でも推薦で入れるだろうし、高卒プロですら狙える位置だもの」

宥「……実家が、旅館をやってるんです。ちゃんと大学をでたら、すぐそっちに就職するので………」

部長「家業を継ぐってことね、なるほど。……ところで、松実さん。この後新歓飲みやるんだけど……」

先輩「もちろん新入生はタダ!どう?」

宥「えっと……そういうのは、ちょっと、ごめんなさい……」

部長「そう、わかったわ。じゃあ、アドレスだけ教えてもらえる?これからの予定とかも送ってあげたいし」

宥「はい、わかりました……」

部長「……よし、完了。それじゃ、次の活動は明後日だから。それ以外にも食事会とか、ちょっとしたイベントもやると思うから、おって連絡するわね」

先輩「で、本入部は5月の10日!それまでに決めといてね!」

宥「はい」

部長「じゃあ今日はこの辺で。気をつけて帰ってね」

宥「はい、ありがとうございました」

先輩「お疲れさーん」

『あ、あの……松実、宥さんですよね!?』

『やっぱり!絶対そうだと思った!』

『えっ松実宥?あの?』

『うわー道理で強いと……』

『えっと……次、空いてる?打ってくれない?』

『うわ、挑んどる!勇者やなー』

『はいはい怖がっちゃってるでしょーが。そこまでにしなさーい』



宥(……予想してなかったわけじゃない。けど、いざああやって押しかけられると、やっぱりびっくりしちゃった)


宥(取材のときもだったけど………あんな風に注目されると、自分が達成したことの凄さっていうか、価値を実感する)


宥(受け入れてもらえるって意味ではよかったけど、プレッシャーもすごくて………あ)


宥(履修、見てもらうの忘れてた………)

――5月10日 大学会館3階 麻雀部練習場


部長「――というわけで、今年の新入部員は君たち8人。これで我ら麻雀部は31人になりました。………改めて、ようこそ。歓迎するわ」

「「「「はい!」」」」

部長「皆新歓期から顔を出してくれてた子たちだから、ある程度分かってるとは思うけど、ウチの立ち居地について、軽く話すわね」

宥(8人………部長さんの話だと、今は4年が5人、3年が9人、2年が8人らしい。例年通りの人数、ってことなのかな)

部長「私たちが所属するのは、インカレ2部……例年はこの中におけるベスト8、あるいはベスト4を目標にしているわ」

宥(ベスト8、ベスト4……言い換えればインカレ2部の準決勝、あるいは決勝への進出。ただベスト8も過去数回、ベスト4はまだ達成されたことがなくて、悲願って言われてる)

部長「これから新しく発進するにあたって、目標として悲願のベスト4を掲げたい……ところなんだけど、それはやめようと思うの」

宥「………」

部長「――今年のメンバーなら、2部優勝が狙える。私は、そう思ってる」

宥「―――!」

ザワッ……

宥(視線が、集まってるのを感じる。気のせいじゃない。……奇体、されてるってことなのかな、もしかして)

部長「対外戦も多く取り入れるわ。場合によっては実業団やプロを呼ぶことも考えてる。まずは夏に向けて、この30人でスタートしましょう」

宥「――ツモ。2000、3900の一本場」

「……っあー!だめだ勝てないー!」

先輩「捲くられちゃったか……あれ、これもしかしてランキング抜かれたかな?ねーぶちょーあ痛っ」

「部長は対局中だ、バカ。それに5月程度のランクなんて気にしてもしょうがないってわかってんだろうが」

先輩「うー、ごめんなさい……」

部長「ロン、6400。終わりね……あら、もうこんな時間。じゃあ活動のほうは締めましょうか。全員集合っ!」

宥「はいっ」



部長「――話は以上。今日の分の牌譜はここに置いてあるから、最後記録だった人も一緒にしといて。気になる牌姿や状況があった人は、他の人呼んで検討しておくこと」

先輩「あいっ!」

部長「じゃあ何か連絡ある人は……いないみたいね。それじゃ、お疲れ様でしたー」

「「「「お疲れ様でしたー」」」

「――あの、部長!今日私たちが同卓したときの、南3なんですけど……」

部長「ああ、これね。こういうのは3面張残しばっかり考えないで……」

先輩「活動後飲みやるよー。お店取るよー。行く人手ー挙げてー」

宥「あの……それじゃあ私はこの辺で……」

部長「ん、お疲れ様……ねえ、松実さん」

宥「はい?」

部長「たまにはちょっとぐらい残って、検討やってってもいいのよ?貴女の意見が聞きたいって人だって、結構いるでしょうし……」

宥「……おうちの人が、心配しちゃうので」

部長「………そう。まあ、無理にとは言わないけど……」

宥「………失礼、します」



宥「ただいまー」

玄「おかえりなさいお姉ちゃん。ご飯にする?お風呂にする?それとも、お・も・」

宥「先にシャワー浴びちゃおうかな……」

玄「うう、お姉ちゃんがつめたい……大人だあ。大学生の対応だあ……」

宥「……大学生、かあ」

玄「今更だよ、お姉ちゃん……どう?順調?」

宥「………うん」

宥(順調な大学生活っていうのを送れてると思う。……少なくとも、今のところは)


宥(麻雀部の戦績も、このままいけばレギュラーには入れる。授業だって、1回だけ1限の授業を寝坊しちゃったけど、あとはちゃんと出て講義聴いてるし)


宥(生活全体のリズムが安定してきたから、会計とか、自分のお勉強も始めようかな……)


『たまにはちょっとぐらい残って、検討やってってもいいのよ?貴女の意見が聞きたいって人だって、結構いるでしょうし……』


宥(検討、かあ………)


宥(『赤い牌が集まる』なんて、言って変に思われちゃったらどうしよう。よしんば理解してもらえたとしても)


宥(私自身はもうそれを前提に打ってるから、他の人の参考になる意見なんて……)

――6月 某日 新子家 憧の部屋


穏乃「んんー」

灼「ふー……」

玄「ほえぇ~~」

憧「お待たせ、飲み物……ちょっと、何よこのだらけきった空気は」

穏乃「だって~こんななんも無い休日久しぶりじゃんか~んんん~」

憧「人のベッドの上でゴロゴロすんなっ」

灼「……開放的なのは、同意……」

玄「このところ、練習試合がない休日でも何かしら話し合ってたもんねえ」

穏乃「新しい牌と自動卓、いつ来るんだっけ~」

憧「明日もう届くはず。部費の追加申請が通ったその5分後にケータイから発注したんだもの」

灼「……正直、追加が通るのは難しいと思ってた。お疲れ様、憧」

玄「これで、もうちょっとは楽になるといいねえ」

穏乃「それにしても、赤土さんと宥さんが抜けた代わりに、20人も1年生が来るなんて……」

玄「4人の状態からどのくらい増えるかなっていうのを漠然と楽しみにしてただけだったから、色々てんてこまいになっちゃったよね……」

灼「私は晩成高校に視察に行って、大人数の部活が普段どうやってるかを見て」

玄「お父さんの同業者の方に連絡して、出来る限り切り詰めた合宿の日程と費用を出して」

憧「多めに出てたはずの部費も合宿差し引いても全然足りない計算になっちゃったから、部費の途中追加申請書なんて過去にもないような書類作って」

穏乃「晩成に比べて用具も運営のノウハウも足りないままどんなふうに練習するか、一生懸命考えた」

灼「……部費が通ったなら、ひととおり今年の見通しが済んだってこと。あとは前みたいに、ひたすら練習するだけ……」

玄「対外戦が減っちゃったのは、残念だったけどね……」

憧「しょーがないじゃない。追加分ありきでもカツカツだもの……部員も雀卓も増えれば部内での回りやすさは段違いになるわよ。おあいこだと思いましょ」

穏乃「記録のつけ方はもう全員覚えたしね!あとはあの練習サイクルの中で、自分の個性を皆に見つけてもらおう!」

灼「それから、もう仕事は少なくなったんだから、もっと1年とコミュニケーションをとるべき」

玄「私たち4人で閉鎖的になって、1年生がなんとなくくっついてるだけって状況にはなっちゃ駄目だよね」

憧「あ、あとしず。あんた強打するクセいい加減直しなさい。オーラスの逆転手とかほぼやってるじゃない」

穏乃「うっ……。ご、ごめんなさい……」

憧「後輩が真似するし、破損とか故障とかしたら一大事よ?もうそんなお金残ってないんだから……」

灼「……憧を会計にしといてよかったと、常々思…」

玄「あ、会計といえば……お姉ちゃん、最近会計のお勉強始めたみたいだよ」

穏乃「へえ、宥さんすごいなー。頑張ってるって感じがする」

憧「大学の授業と、麻雀部と、自分の勉強かー……なんか、あの宥姉がねえって思うわ」

玄「お姉ちゃんはやれば出来る人なのです!」

憧「あんたそう言って高校生になるまで甘やかしてたんでしょーが……」

灼「実際、大したモチベーションだと思……」

憧「まあ、ね。……玄は、宥姉から麻雀部の話とかいろいろ聞いたりしてる?」

玄「うん。お姉ちゃん、このままの成績でいけば夏にはレギュラーになれそうだって」

穏乃「おおー……流石」

灼「あの能力は、気づきにくいし対応もし辛……」

憧「対応はそりゃそーだけど、気づくかどうかなんてのは問題じゃ………」


憧(―――ん?)

憧(………まさか。いや、ありえる。すっごくありえる!)

穏乃「………憧……?」

憧「………ねえ、玄。正直に答えて欲しいんだけど」

玄「え、な、何……?」

憧「宥姉から部活の話聞くって言ったわよね……。それ、どんな内容?」

玄「それは、普通に……どのくらい打って、順位はどうで、みたいな……」

憧「宥姉が自分の能力について話したって話は?」

玄「えっと、特には……たぶん、話してない、ような」

憧「うん。私もそう思うわ。話してたら多分言う。それに手の内あかした1年生がこんな時期にレギュラー確信してるのもおかしい。対応を恐れてないってことだもの」

灼「……憧、どうしたの」

憧「まだわからない?じゃあ部活の知り合いとこんな話をして楽しかったとか、遊びに行ったとか、一緒に帰ったとかは?これも部活の話のうちよ」

玄「それは……聞いたことない、けど、言ってないだけかも――」

憧「―――同期でも先輩でもいいわ。部活の話の中で、ほんのちょっとでも特定の個人についての話が出てきたことは、ある?」

玄「それ、は………」


穏乃「………」


灼「………」


憧「どうなの?」







玄「………無い。一回も、ないよ。お姉ちゃんが麻雀を打った。いっぱい勝てた。……麻雀部の話は、いつもそれだけ」

宥「ありがとうございまし……わぁっ」

「――ありがとうございましたっ!」

部長「こら、大きな音立てない。………松実さん、ちょっと来てもらえる?」

宥「はい……」




宥(別室……会議とか、資料集めとか、正式対局に使う部屋、らしい)

部長「ごめんね松実さん。別に説教とかの類じゃないから、身構えなくたっていいわよ」

宥「はあ……」

部長「実はね、改めて貴女の高校時代の資料を見せてもらったの。本当に素晴らしい実績ね」

宥「あ、ありがとうございます……」

部長「試合単位で牌譜を見せてもらったから、去年の阿知賀女子のほかの子達の牌譜も見れたんだけど……妹さん、随分ドラが寄ってくるのね。羨ましいわ」

宥「……!」

部長「特定の牌が寄る、特定の役でよく和了る……近頃の麻雀界にはそういった特徴を持つ選手が跋扈してる。このぐらい目立つと、私でも気づけた」

宥「……そう、ですね……」

部長「こういうの、貴女にもあるんじゃない?プロファイリングから粗方の検討はついてるわ。でも、貴女の口から正解を聞きたい……部全体のためよ。教えてもらえない?」

宥「そ、そう、ですね………」

部長「………」

宥「ま、萬子が、よく、来るような……」

部長「……それだけ?」

宥「えっ……えっと……そ………」

部長「…………」

宥「それ、だけ……です」

部長「――そ。わかったわ。じゃあ、大部屋戻りなさい」

宥「はい………」





部長「……どーしたもんかしらねえ……」

宥(――詮索された。つい誤魔化したけど、見当はついてるって言ってた)


宥(確かに、最近少し感じてることではあった。対応されてるとまではいかないけど、違和感のある相手の打ちまわしは)


宥(もし、全部明かしたら……どうなっちゃうのかな)


「ロン。3900」

宥「……っ。はい……」


宥(全部、露呈する。この体質と、赤土先生の教えで勝ってきた………そうだ、本当は、私自身の実力なんて大したことないんだ)


宥(―――レギュラーに、なれないかもしれない)


宥(そんなの、嫌だ………あんなに、期待されてたのに。試合にすら出られないなんて)


宥(麻雀なら、私にも出来るから。麻雀でなら、こんな私でも他の人の役に立てるから)


宥(そう思ったから、大学でも続けようと思ったのに―――)

宥「ただいま………」

玄「おかえりお姉ちゃん。今日はどうだった?」

宥「……ちょっと、負け込んじゃった。調子、悪かったみたい。あは、あはは……」

玄「そっか。そういうこともあるよね………ねえ、お姉ちゃん」

宥「なあに?」

玄「えっとね……」


憧『考えてもみなさい。ただ出席して、相手が誰かも気にせずただ打って、ろくに検討もせずに帰るだけ………それじゃ、ネット麻雀となにも変わらないわ』


玄「――どう?大学の麻雀部で、友達はできた?」

宥「………うん、まあ……それなりに、ね」

玄「……そっか。よかった」

宥「……先、お風呂入っちゃうね」

玄「うん………」

玄(………多分、お姉ちゃんは今のままじゃだめなんだ。もっと積極的にいこうって、相談乗るよって、言ってあげたい、けど)


『あんたそう言って高校生になるまで甘やかしてたんでしょーが……』


『実際、大したモチベーションだと思……』


玄(あのお姉ちゃんが、今は自分の意思で頑張ってる。なんとなくウチを継ぐんじゃなくて、自分でやりたいと思ったことを、やるべきだと思ったことをやってる)


玄(お姉ちゃんが自力で解決するか、自分から全部話して相談してくるか……私は、それを待ってなきゃいけないんだ)



宥(何やってるんだろう、私……。玄ちゃんに、ウソまでついて)


宥(友達なんて、できてない。………それどころか、最近どんどん『敵意』が増えてきた気がする)


宥(私に負つと、露骨に不機嫌そうに席を立つ人。私に勝つと、こっちを一瞥もせずに自慢しにいく人。……私の能力について、情報を引き出そうとしてくる人)


宥(ぜんぶ、敵に見える。おんなじ部活のはずなのに、ぜんぶぜんぶ。……阿知賀のときと、全然違う)


宥(怖いよ。寂しいよ。あったかくないよ………)

――6月末 某日 麻雀部部室


宥「対外試合……」

部長「東京からわざわざ遠征に来るそうなので、丁重にお相手してあげること。今週末よ」

先輩「えっ、でも、このW大って1部リーグのちょー強いとこじゃないっすか!人数だってウチの倍以上……」

部長「もちろんあの大所帯が全員で来るわけではないわ。1軍やその候補者はまた違うところへ行って、ウチに来るのは2軍以下の面々……それでも、各上には違いないけど」

先輩「ほえー……」

宥「……」


宥(東京の巨大私立の2軍………たぶん、テストだと思ったほうがいいんだろう。7月末に、10人の1軍メンバーを決定するための)


宥(インカレ公式戦では、1試合ごとに更にそこから5人を選抜する。……私は、5月までは5指には入れるとたかをくくってたくせに、今はその10人の当確線上)


宥(何かをしなきゃ、だめなんだ。このままだと……)

宥(……検討、とか……付き合ってくれる人、いるかな……)


「ねえせんぱーい。今日2本付けを2倍付けって言い間違えたせんぱーい」

先輩「なにをー!このこのー!」

部長「もしもし、監督?ええ、はい、伝えました。それで……」


宥「………」

「――ちょっと。邪魔なんだけど。どいてくんない?」

宥「あっ……ご、ごめんなさい……」


宥(――嫌だ。もう、役立たずは嫌だ。なんとか、そこで結果を出さないと……勝ててる間は、みんな優しくしてくれてたから……)

―― VS W大 練習試合当日


宥(さすが、って言うべきなんだろう………2軍以下といっても、去年インターハイで見たような人たちが何人かいる)


宥(私とあたる人は、せめてその中でも、私と対戦経験の無い人なら……私のこの特質を知らない人なら、多分有意に立てるから)


宥(それで、なんとか今日良い成績を出せれば、レギュラーには残れるから……)


宥(――そう、思ってたのに、なんで)


「久しぶり、だな」


宥(神様は、意地悪だ)




菫「――松実、宥さん」

宥「は……はいぃ……」

宥(……入った。9sを切って、3900のテンパイ。曲げて7700にしたいところだけど……弘世さん、白を鳴いてるし、手出しの回数を見ても張ってておかしくない)


宥(弘世さんの親でもあるし、振れば大きいかもだけど、8sは4枚出てるし、9sも2枚見え……あるとしたら、地獄単騎)


菫「………」


宥(たとえそれでも相手の余剰牌待ちで構えるのがこの人……でも、右手の動きも無いし、視線も特段私にだけ集中してるわけじゃない。いける、よね……)


宥「リーチ」


菫「……舐められたものだ」

宥「――っ!」

菫「ロン。5800」

「「「「「ありがとうございました!」」」」」


宥(――結果は、散々だった)


宥(最初に弘世さんにいいようにやられて、せめて自分の今日の収支をプラスにしようと躍起になって……結局、今日の最終的な収支は下から数えた方が明らかに早いってぐらい)


「せんぱいせんぱい!私今日プラスでしたよ!プラス!」


宥(多分、これで1軍入りは難しくなった。最近の部内戦の感覚からいっても、これからは落ちる一方な気がする)


先輩「お、やるじゃん!最近うなぎのぼりだねー。最初はあんなへっぽこだったのになー」


宥(どうしよう、かな。居心地もいいとはいえない場所で、成績で誇ることもできなくなって、私がここにいる意味はどれだけあるだろう)


「羨ましいなー。………どっかの期待の星さんとは、大違いだなー」ボソッ

宥「………ッ」




菫「…………」

宥「………」


玄(お姉ちゃんは帰って夕飯を食べると、途端に炬燵にもぐりこんでしまいました。その夕飯もろくに食べたとはいえない量)


玄(今日は対外戦って言ってたから……多分、良い結果が出せなかったんだろう)


玄「おねーちゃーん、お風呂はー?」

宥「あとで、入るからぁ……」


玄(……私が、いけなかったのかな。私が、お姉ちゃんのこれからなんて偉そうに気にせずに、もっと相談にのってあげれば……)


「ごめんくださーい」

玄「はい!ただいまお伺い致します」


玄(………お客さん?)


玄(なんか、どこかで聞いたことあるような……)

玄「お姉ちゃんお姉ちゃん!!」

宥「ふぇっ!の、ノックぐらいしてよう……」

玄「あ、ごめん……ってそんな場合じゃないよ!お姉ちゃんどうしたの!?」

宥「どうしたのって……私が聞きたいよ。玄ちゃんどうしたの……」

玄「どうしたもこうしたも……」



菫「すまないな。夜分遅くに急に現れて」

宥「う、ううん……大丈夫だよ。お客さんとか、このぐらいの時間でもよく来るし……」

菫「そうか……だが私は旅館の客ではないし、やはりこうして人一人呼び出す時間としては唐突だったよ。すまない。ただどうしても気になったんだ」

宥「気に、なった?」

菫「ああ。とんでもない偶然で出会った顔見知りだ。近況のひとつぐらい気になったっていいだろう?」

宥「………インターハイ、以来ですね。それが初対面ですけど」

菫「そうだな。ただ――」



菫「あの時の君は、もっと手強かったがな」

宥「……弘世さんが、強くなったんですよ。クセだって、完全に直っちゃってた」

菫「同級だ、敬語なんて使わないでいい………君はどうだ。高校の頃に比べ、自分が伸びた実感はどれほどある?」

宥「………全然、かな。あはは……」

菫「だろうな。今日打ってみて思ったよ。成長していないどころか、高校の頃のほうがまだ覇気があった」

宥「覇気?私が……?」

菫「そうさ。『勝とう』という強い思い……インターハイの選手なんて、みんなそんなものだが、君もそういった気概に満ちていた」

宥「………今日だって、勝とう、勝たなきゃって、思ってたよ」

菫「『勝とう』というより『勝てなかったらどうしよう』だな。大方1軍争いにおいて今日が重要だったんだろう」

宥「………!」

菫「………君には感謝してるんだ。自らにつけ込めるような癖があるなんて、あの時にはじめて分かった」

宥「……私が、気づいたわけじゃないの。赤土先生に、教えてもらっただけで……」

菫「私からすれば同じことだ。阿知賀は皆伸びしろがある選手だったし、私と当たった3年ともしまた戦うことがあれば、恩返しとリベンジの両方を果たそうと思っていた」

宥「………」

菫「率直に聞きたい。………君は、いったい何をしてるんだ?」

宥「……考えが、甘かったんだと思う。高校のときに結構活躍できて、賞だってもらって……大学でも、多分こんな風に活躍できるだろうって」

菫「………」

宥「でもね……大学では、だめだったの。人が増えるだけだと思ってたら、それによってなにもかもが違うものになってた」

菫「……違う、とは?」

宥「阿知賀にいた頃は、みんな仲良しで、あったかくて……赤土先生は、一人ひとりの特徴を開花させたり、対戦相手のことも考慮した打ち回しとかまで指導してくれた」

菫「……それが、今は自分の居場所もおぼつかないし、個人に指導が行き渡るわけでもない、と」

宥「……!う、うん……」

菫「一目見ただけでわかったよ。君の部活内での立ち位置とか、まわりの評判の移り変わりまで手に取るようだった」

宥「……私、こんな性格だし、なかなか上手く皆と接することができなくて……でも」

菫「でもこの中では成績をキープできる自信がある。一定の実力を示していれば自然と皆から近寄ってくると思ったが、露骨に目の敵にされ勝率も立ち行かなくなった」

宥「……よく、わかるね」

菫「似たような後輩を見たことがあってな。……では、その後輩に言ったのと同じことを言おうか」

宥「………」

菫「――チームを舐めるな。この大馬鹿者が」

宥「ふぇっ………」

菫「プロでもあるまいし、勝てばそれでいいだろうなんて思考が学生競技で良く思われることなんてそうない。上には上がいるのが当たり前だしな」

宥「……それでも、最初は、勝ってる間は」

菫「始めのうち優しいのは、勝ってたからじゃない。おそらく、君をチームに溶け込ませようと必死だったんだろう」

宥「チームに、溶け込ませる……」

菫「……阿知賀は、新生チームだったがな。脈々と受け継がれるチームに入った新人は、まずは身を削ってその中に自分を当てはめなければならない」

宥「身を、削る?」

菫「素人なら自身の形が決定してないから、いかようにもなれる……しかし、自分の形がある程度できた選手ならば、合わせるべきなのは選手側なんだよ」

宥「………」

菫「内向的である自覚はあるようだが……おおかた積極的に部活に参加してはいないんだろう。勝手に打って勝手に自己反省しかしないようでは、部活にいる意義は確かに薄い」

宥「………それ、全部、本当に推測なの……?」

菫「………実を言うと、君のところの部長に聞いた話もいくつかだ。松実さんとお知り合いなのって、向こうから声をかけてきた」

宥「部長さんが……」

菫「……少なくとも彼女は、今や疎むものすらいる君の再生を願ってやまないようだ。せっかく来てくれた大物新人の自爆なんて、チームリーダーは絶対に望まない」

宥「大物新人、なんて……私なんか、大学の麻雀に通用……」

菫「違う。君が通用しなかったのは、大学麻雀じゃない。大人数の部活の形式そのものだ」

宥「形式………」

菫「さっき、君自身も言っていた。阿知賀の頃と違って今無いのは、全員が一つになっている感覚、そして個人にくまなく行き渡る指導」

宥「……うん」

菫「人数が増えれば、限られた部活動の時間自体の中でそれを全て達成するのは難しい……では、君以外の部員はいつの間に仲良くなっている?伸びしろはいつ発見されている?」

宥「活動の時間、以外……」

菫「そう。部活動のアフターで新鮮な感覚のまま検討をする、朝や空きコマに部室に顔を出す。個人の技術を高めたいなら、個人でやるんだよ」

宥「……じゃあ、部活の時間は?」

菫「部活時間は、あくまで全体の時間だ。試したいことを実践するとか、私の実力はこうですよ、と公表して共有しあうためにある――そうやって個が融合して、チームになる」


菫「自分の能力すら教えないなんて、チームメイトとかけらも思ってないこの上ない証拠じゃないか」

宥「…………」

菫「――説教は以上だ。すまないな、本当にいきなり連れ出して………」

宥「………ううん、ありがとう。色々間違えてたんだなって、ようやくわかったし……怒られてびっくりしちゃったのは、本当だけど」

菫「あぁ、感情的にもなるさ……勝手ながらライバルと認定していた選手と偶然再戦になって喜んでいたら、2部ですら埋もれかけていたんだ」

宥「……菫ちゃんは、1部で頑張るんだね。やっぱり、推薦?」

菫「いいや、一般受験だ。君と同様麻雀で食っていくつもりでもないし、ここでやれるだけやって終わろうと思ってな」

宥「ええっ!?だってW大って、すっごい頭いいとこじゃ……」

菫「なんだ、私はそんなに頭が悪そうか?」

宥「そ、ごめ、そうじゃない、けど………凄いなあ、と思って」

菫「勉強をおろそかにしていたつもりはなかったし、根気と集中力は鍛えてきてたからな。同じ期間で照を倒せと言われるよりよほど楽だよ」

宥「そ、それは、確かに………」

菫「――さて、そろそろ戻るとするよ」

宥「あ、うん……よかったの?合宿に近いことだと思うんだけど、抜け出してなんかきちゃって」

菫「夕飯付きの旅館に泊まってるわけではないんでな。各自自由に過ごして、9時からの全体会にさえ戻っておけばいい」

宥「へえ……なんだか、ゆったりしてるねぇ」

菫「その時間で今日の分の検討と明日の方針決めをするのが模範生だし、私もそのつもりだったがな。如何せん、それ以上に気になることができてしまった」

宥「……なんか、ごめんなさい」

菫「気にしないでくれ。むしろ、私にも耳を貸さずに枯れていかれたほうが百倍謝って欲しいところだったよ」

宥「……そっか。じゃあ、ありがとう。かな?」

菫「ああ、そのほうがいい。………2軍から出れるか分からないとはいえ私は1部、そして君は2部だ。もしかしたら、公式での再戦は叶わないかもしれないがな」

宥「……叶うよ」

菫「は?いや、だから……」

宥「叶う。4年になるまでに、私たちが1部リーグに昇格すればいいんだもん」

菫「………!」

宥「私たちが2部で優勝して、入れ替え戦に勝って1部に入るの。で、菫ちゃんはそれまでに1軍レギュラーになる」

菫「………さっきまで私なんか私なんかと言ってたとは思えないほど大きく出たな。それに、私まで巻き込んで」

宥「モチベーションがあった方が長続きするんだよ?私、受験のときだって実践したんだから」

菫「それはその通りなんだろうが……私のほうが難しいんじゃないか、もしかして」

宥「菫ちゃんなら大丈夫だよ。だってあの白糸台の部長さんだもん」

菫「その白糸台の部長サマを団体戦で凹ませて、あまつさえ密かに狙っていた次鋒賞すら持っていった君に言ってもらえるとは光栄だよ」

宥「……お互い、なれるといいね。あの頃みたいな立ち位置に」

菫「それは部長になれといっているのか?……環境が変わったんだ、目指す立ち位置だってそこで見つけるべきだろう」

宥「それは、そうだけど……」

菫「――ただ、心のどこかで高校時代の気持ちを思い出すのは、悪くないな」

宥「でしょ?」

菫「宥は、もう一度あの頃のように……自分のためにチームがあるんじゃない、チームのために自分がいるんだ」

宥「菫ちゃんだって、No.1の高校で部長やってた人が、2軍から出られるか分からないなんて言っちゃだめだよ」

菫「ああ!」

宥「うん!」

玄(立ち直った、のかな……良かったけど、なーんか嫉妬しちゃうなー)


玄(まあ、いいや。ああいう間柄の人、お姉ちゃんにはずっといなかったし)


玄(もう、大学生だから………家族の外の、自分の友人関係を使って悩みなんて解決するべきなんだよね)


玄(これでいいんだ。姉離れ、妹離れの時期はそろそろ……いや、遅いぐらいだから)


玄「私は、阿知賀女子麻雀部の副部長!まずは自分のことをがんばるとこからなのです!」

宥「ただいまー」玄「おかえりなさいお姉ちゃん!ご飯にする?お風呂にする?それとも、お・も・」宥「先にシャワー浴びちゃおうかな……」玄「うう、お姉ちゃんがつめたい……大人だあ。大学生の対応だあ……」


玄(……思ったより、姉離れって難しいのです)

玄(立ち直った、のかな……良かったけど、なーんか嫉妬しちゃうなー)


玄(まあ、いいや。ああいう間柄の人、お姉ちゃんにはずっといなかったし)


玄(もう、大学生だから………家族の外の、自分の友人関係を使って悩みなんて解決するべきなんだよね)


玄(これでいいんだ。姉離れ、妹離れの時期はそろそろ……いや、遅いぐらいだから)


玄「私は、阿知賀女子麻雀部の副部長!まずは自分のことをがんばるとこからなのです!」

宥「ただいまー」

玄「おかえりなさいお姉ちゃん!ご飯にする?お風呂にする?それとも、お・も・」

宥「先にシャワー浴びちゃおうかな……」

玄「うう、お姉ちゃんがつめたい……大人だあ。大学生の対応だあ……」


玄(……思ったより、姉離れって難しいのです)

――7月初頭 麻雀部 部室


宥「お、お邪魔しまーす……」

部長「――松実さん!珍しいじゃない」

宥「はい……。ええっと……その……わ、私の……」

部長「ど、どうしたの?」

宥「私の特徴はっ!萬子や中などにとどまらず、赤い色を含む牌を寄せ集めることです!」

部長「―――!」

宥「それだけ、なんですけど、別に絶対そうじゃない牌をひかないわけでもなくて、もっと詳しい法則とか、対応策があるかもしれなくて……」

部長「……そう。じゃあ、どうしましょうか?」

宥「えっと――こっ、個人練習に、付き合ってください!」

部長「おっけー!じゃあすぐ用意するわよ!ちょっとごめん、あなたたちもお願い!」

「え……」

「は、はい!」

菫「ロン。12000」

「うわっ、狙われてたかー……」

?「命中率、そして気配の隠し方……どっちも格段に精度があがってるな。恐ろしい限りだこった」

菫「……真正面から捕まえて投げ返してくるようなやつに言われてもな」

?「自分に向けられりゃそりゃ気づく。褒めてるんだから、素直に受け取れよ」

菫「上から過ぎるんだよ。……今に見てるんだな、いずれお前も背後から射抜いてやる」

?「言うじゃねえか……それは、『こっち』の部屋に来たいってことでいいんだよな?心境の変化でもあったか」

菫「今年中には、1軍部屋にノック無しで入るようになるさ……ちょっと、約束をしたんだ」

?「誰と。どんな」

菫「1部リーグの公式戦で会おうってな。誰かってのも……いずれわかるよ。智葉も見たことぐらいはある相手だ」

智葉「へえ……そいつは、楽しみだな」

――8月 某日 インターカレッジ2部リーグ 会場


部長「――さ、準備はいい?」

先輩「はい!」

部長「5月10日、私が言った目標、覚えてる?――宥」

宥「2部リーグ優勝、です」

部長「そう。今まで練習してきて、私は時にプレーして、また時には全体を見てきた。……その上で、もう一度言うわ。今年私たちは、2部リーグ優勝を狙う!」

「はいっ!」

部長「改めてオーダー発表するわよ!初戦を華々しく飾っちゃいましょう!」



部長「エース先鋒――松実 宥っ!」

宥「はい!」


カン

くぅ~w


特にさるったときとか支援ありがとうございました
部活っていいよね

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