芳佳「バルクホルンさんのズボン、くっさ!」バルクホルン「ほう?」 (118)

リーネ「芳佳ちゃーん。これで洗濯物は全部だよー」

芳佳「ありがとう、リーネちゃん!」

リーネ「本当に手伝わなくても平気?」

芳佳「うん。大丈夫だよ。リーネちゃんだって掃除があるんだし」

リーネ「そっか。それじゃあ、がんばってね。芳佳ちゃん。掃除が終わったら手伝いにくるから」

芳佳「私も洗濯が終わったら手伝いにいくよ!」

リーネ「ありがとう!」

芳佳「こっちこそ!」

芳佳「よーし!! 早く終わらせてリーネちゃんと一緒に掃除しよーっと!!」

芳佳「まずは……。あ、これはバルクホルンさんのズボンだ……」クンクン

芳佳「うわ、くっさ!! 牛乳を拭いて生乾きさせた雑巾みたいな臭いがする……」

リーネ「ふんふふーん」ゴシゴシ

バルクホルン「リーネ」

リーネ「あ、バルクホルン大尉。おはようございます」

バルクホルン「宮藤を見なかったか?」

リーネ「裏で洗濯していますよ」

バルクホルン「そうか」

リーネ「芳佳ちゃんがなにか?」

バルクホルン「ああ。いや……。その、今日は非番でな……。やることもないから……その……」

リーネ「あぁ。きっと芳佳ちゃん、喜ぶと思いますよ。大尉が手伝ってくれるなら」

バルクホルン「そ、そうか? そんな気はなかったが……まぁ……行くだけ行ってみるか……」

リーネ「はい」

リーネ(もしかしてバルクホルン大尉、朝から芳佳ちゃんのことずっと探してたのかなぁ……?)

バルクホルン(こっちか……。宮藤、喜んでくれたらいいが……)

芳佳「おぇー!!」

バルクホルン「ん?」

芳佳「なんで、こんなに臭いんだろう……」クンクン

芳佳「うわぁ!! 酷い!!」

バルクホルン「……」

バルクホルン(あれは……私のズボンか……?)

芳佳「……」クンクン

芳佳「くっさ!!」

バルクホルン「……おい」

芳佳「きゃぁ!!」

バルクホルン「何をしている?」

芳佳「あ……あぁ……」

バルクホルン「私のズボンが臭いだと? ふざけるな。そんなわけあるか!!」

芳佳「あの……でも、ほんとうに……これ……生ゴミを夏場に1週間ぐらい放置したような悪臭が……」

バルクホルン「貸してみろ!!」バッ!!

芳佳「あ……」

バルクホルン「……」クンクン

芳佳「……ど、どうですか?」

バルクホルン「……すまない、宮藤」

芳佳「そ、そんな!! バルクホルンさん、謝らないでください!!」

バルクホルン「しかし、こんなのを持ってしまった手も臭くなっているんじゃないか?」

芳佳「え……?」クンクン

芳佳「くっさ!!!」

バルクホルン「……くっ」

芳佳「あぁ、ごめんなさい!! つい……!!」

バルクホルン「宮藤、私のズボンは責任をもって私が洗いたい。どうか、洗わせてくれ」

芳佳「で、でも……」

芳佳「ごめんなさい。バルクホルンさんにお手伝いさせるなんて……」

バルクホルン「いや、いいんだ。当然のことだ」ゴシゴシ

芳佳「はぁ……」

バルクホルン「気に病むことはない。こんな臭いを嗅げば誰でも宮藤のような反応をしてしまう」

芳佳「そ、そうですか?」

バルクホルン「……しかし、臭いな」

芳佳「……はい」

バルクホルン「宮藤のズボンはどうなんだ?」

芳佳「え?」

バルクホルン「参考までに嗅がせてくれ」

芳佳「あ、はい。どうぞ」

バルクホルン「ありがとう。――どれ」スーハー

芳佳「ど、どうですか……?」ドキドキ

バルクホルン「ああ……天にも昇るような馥郁たる香りだ……」スーハー

芳佳「はぁ……よかったぁ……」

芳佳「って、汗臭くないですか!?」

バルクホルン「それがいいんだろ?」

芳佳「あ、そうなんですか。よくわかりませんけど」

バルクホルン「しかし、謎だな」

芳佳「何がですか?」

バルクホルン「私ってそんなに臭いか?」

芳佳「え? バルクホルンさん自身がですか? それはないですよ」

バルクホルン「正直に言ってくれ、宮藤」

芳佳「ないです!! 訓練や戦闘のあとの汗臭さを除けば、バルクホルンさんは良い匂いです!!」

バルクホルン「よし。宮藤、こっちにこい」

芳佳「なんですか?」テテテッ

バルクホルン「つかまえたっ」ギュッ

芳佳「バ、バルクホルンさん!? む、胸が……!! やわらか……いぃ……」

バルクホルン「……臭いか?」

芳佳「と、と、とんでもないです!!」

バルクホルン「では、このズボンの強烈な臭いはなんだと思う?」

芳佳「汗を吸った衣服を洗濯せずにずっと放っておくと、とんでもない臭いになりますけど……」

バルクホルン「それはあり得ない。ハルトマンならありえるが、私はあり得ない。こんな便所のような臭いを発するまで放置などしない」

芳佳「ですよね。バルクホルンさん、綺麗好きですし」

バルクホルン「……わからんな」

芳佳「他の人のズボンも嗅いでみますか?」

バルクホルン「そうだな。手分けして嗅いでみよう。何か分かる可能性もある」

芳佳「はいっ!!」

バルクホルン「えーと……これはミーナのか……」スーハー

芳佳「これはルッキーニちゃんのだ……」クンクン

美緒「――ん?」

バルクホルン「……」スーハー

芳佳「うーん……」クンクン

美緒「お前ら、何をしている?」

芳佳「あ!! さ、坂本さん!!」

バルクホルン「少佐!!」

美緒「……皆が着衣するものだ。独特の臭いもするだろう。しかし、それをわざわざ嗅ぐとはどういう了見だ、バルクホルン、宮藤」

芳佳「こ、これには深い事情が!!」

美緒「言ってみろ」

バルクホルン「少佐。何も言わずにこのズボンを嗅いでくれ」

美緒「……」クンクン

美緒「ぐぁ!!? な、なんだ……!! このイカ臭さは……!!」

バルクホルン「それが知りたいんだ」

美緒「どういうことだ?」

芳佳「バルクホルンさんのズボンから異様な臭いがするです。それで、他のズボンはどうだろうって思って……」

美緒「なるほどな。臭いの原因を探っていたのか」

バルクホルン「その通りだ」

美緒「バルクホルン。悪いことは言わんから、健康診断を受けて来い」

バルクホルン「わ、私の体臭は正常だ!!! 宮藤が証明してくれた!!!」

芳佳「はい!! バルクホルンさんのおっぱいはおっきくて柔らかいです!!」

美緒「本当に確認したのか、宮藤」

バルクホルン「しかし、他のズボンからは特に悪臭がするということもなかったな。ハルトマンのズボンですら、程よい塩加減だったし」

美緒「味も確認したか、バルクホルン」

芳佳「何かをズボンの上にこぼしちゃったとか?」

バルクホルン「いや……そんな覚えもないが……」

美緒「とにかく洗えば済む話だろ」

バルクホルン「だが、少佐。原因がわからないと、その……ズボンを洗ってくれる宮藤に申し訳ないというか……」

芳佳「バルクホルンさん……」

美緒「1度、綺麗に洗え。そして再度、同じことが起これば徹底的に調査すればいい」

バルクホルン「……そうだな。今はそうしよう。金輪際、このような事態が起こらなければいいのだから」

芳佳「そうですね!! 洗いましょう!!」

バルクホルン「ああ!! ルッキーニのズボンも縞々が無くなるほど真っ白にしてやる!!」

芳佳「そこまでしちゃだめですよぉ!!」

美緒(にしても、臭かった……。死ぬかと思ったな)

格納庫

シャーリー「へぇー。そんなことがあったのかぁ」

芳佳「はい。もうびっくりしちゃって。バルクホルンさんにすっごく失礼なことしちゃいました」

シャーリー「大丈夫。そんなことをいつまでも引き摺るようなやつじゃないって」

芳佳「そうですか?」

シャーリー「で、どれぐらい臭かったんだ?」

芳佳「えーと……。誇張なしで、腐った卵みたいな臭いがしました」

シャーリー「そりゃきっついなぁ」

芳佳「はい……。手にも臭いが移っちゃって」

シャーリー「そういえば……。おい! ルッキーニ!!」

ルッキーニ「にゃにぃ? シャーリー」

シャーリー「いつだったか、ルッキーニのズボンも異様に臭いときあったよな?」

ルッキーニ「うん。あったあった。シャーリーが吐いちゃったときだぁ」

芳佳「えぇぇ!?! そ、そんなことがぁ!?」

シャーリー「吐いた言い過ぎだ。吐きかけただけだろ」

ルッキーニ「私はその日の夜、ご飯食べられなくなっちゃったなぁ」

芳佳「それ、原因は?」

シャーリー「いや。わかんなかった。まぁ、ルッキーニのことだから、長期間洗濯をしなかったからって結論になったけど」

ルッキーニ「あたしはそんなことしてないからね!!」

シャーリー「分かってるって」

芳佳「ところで、ルッキーニちゃんのズボンはどんな臭いが?」

シャーリー「うーん……。なんていえばいいかな……。すごく、生臭かった」

ルッキーニ「魚が腐ったみたいな臭いだった」

芳佳「待ってください。いくらなんでもそんな臭いが服に染み付きますか!?」

シャーリー「まぁ、普通はそうなんだけど。なにせルッキーニだからな。どこでどんな臭いをつけてきたかは、よくわかんないし」

ルッキーニ「あたしは良い匂いだってー!! ほら、ほら、よしかぁー!! 嗅いでみてよー!!!」

芳佳「う、うん……」クンクン

ルッキーニ「どう?」

芳佳「……うん。良い匂いがする」

ルッキーニ「でっしょー?」

ルッキーニ「ちなみによしかはぁー」ギュゥゥ

芳佳「あぁん。ちょ、ちょっと!! ルッキーニちゃん!! どこ触ってるの!!」

ルッキーニ「うーん。良い匂いだけどぉ、こっちは残念……」モミモミ

芳佳「もー!! ルッキーニちゃん!!」

シャーリー「まぁ、あれからルッキーニのズボンはあたしが半分管理してるからか、異様な臭いを発したことはないよ」

芳佳「そうですか……」

ルッキーニ「あたしは妖精みたいな香りを脇とかぁ、股から出してるしぃ」

シャーリー「はいはい。たまに小便臭いのは内緒にしておいてやる」

ルッキーニ「シャーリー、それいっちゃやだぁー!!」

芳佳「あはは」

シャーリー「ま、気にすることはないって。その日の体調で体臭なんて変わるもんだし」

芳佳「なら、いいんですけど」

シャーリー「あ、そろそろ昼飯の時間じゃないか?」

ルッキーニ「おー!! ごっはんごっはん♪」

芳佳「そうですね。行きましょうか」

食堂

ルッキーニ「おかわりっ!!」

リーネ「はーい」

バルクホルン「うん……うん……」

ミーナ「トゥルーデ? 頷くばかりじゃなくて、きちんと感想を言ったら? 作ってくれた宮藤さんとリーネさんに失礼よ」

芳佳「あぁ、そんなのいいですからぁ」

ペリーヌ「宮藤さん」

芳佳「なんですか?」

ペリーヌ「いつもいつも言っていますけど。この腐った豆は出さないでください!! 朝も昼も夜も!! 貴方は絶対に出しますけど!!」

芳佳「だって、体にいいんで……」

ペリーヌ「いくら体にいいからって――!!」ポロッ

芳佳「あ……」

ペリーヌ「へ……?」

リーネ「な、納豆が……ペリーヌさんのズボンに……」

ペリーヌ「……ふぇ……」ウルウル

エイラ「うわー……」

サーニャ「たいへん、ふかなきゃ」

シャーリー「ルッキーニ!! パス!!」シュッ

ルッキーニ「あい!!」パシッ

ペリーヌ「ねばねばぁしますぅ……いやぁ……」

ルッキーニ「任せて!! ペリーヌ!! 今、ふいてあげるからぁ!!!」

ペリーヌ「えぇ!?」

ルッキーニ「おりゃぁぁ!!!」ゴシゴシゴシ!!!

ペリーヌ「いやぁぁぁ!!!!」

芳佳「ルッキーニちゃん!! それ納豆の豆が潰れるだけだから!!!」

ルッキーニ「え?」

リーネ「納豆をペリーヌさんのズボンで濾しちゃった……」

ルッキーニ「あーネバネバしゅるー」ネチョ

ペリーヌ「うっ……うぇぇん……どうしてわたくしがこんあめにぃ……」

ミーナ「あらあら。とりあえず、ペリーヌさん。ズボンを脱いで。洗わなきゃだめよ」

芳佳「ふっ! ふっ!!」ゴシゴシ

ペリーヌ「もういいですわ。宮藤さん」

芳佳「え?」

ペリーヌ「そのズボンは捨ててください」

芳佳「そんな。今はとんでもなく臭いけど、洗えば……」

ペリーヌ「もういいですっ!!」

芳佳「だけど!! ペリーヌさん、お金ないし、ズボンだって5枚ぐらいを穿き回してるじゃない!!」

ペリーヌ「な、なぜそれを……!!」

芳佳「私、知ってるよ。ペリーヌさん、自分のズボンを売って復興資金に換えてるのは」

ペリーヌ「そんな……こっそりやっていたのに……」

芳佳「だから、洗わなきゃ」

ペリーヌ「……きちんと、洗ってくださいね」

芳佳「はい!!」クンクン

芳佳「あ、まだ臭いや」ゴシゴシ

ペリーヌ「はぁ……」

リーネ「芳佳ちゃん。どう? 臭いは落ちた?」

芳佳「リーネちゃん。嗅いでみて」

リーネ「うーん……」クンクン

リーネ「うんっ。もう少しだね!」

芳佳「がんばるよ!!」

ペリーヌ「……ちゃんと落ちるんでしょうね? タンスにしまって次に開けた腐った豆の香りがするとか、絶対に嫌ですわよ?」

芳佳「そうならないように頑張ってます!!」

リーネ「そういえば、バルクホルン大尉のズボンってこれ以上に酷かったの?」

芳佳「うん。あれはもうこの世のものとは思えないほどの臭いだったよ……」

ペリーヌ「そ、そこまで言われると、興味が出てきますわね」

リーネ「う、うん」

芳佳「なら、これを洗わずに放置すれば……」

ペリーヌ「そこまでして嗅ぎたくありません!!!」

芳佳「あ、そうなの?」

ペリーヌ「まったく……」

露天風呂

ペリーヌ「今日は酷い1日でしたわ……」

芳佳「でも、よかったね。臭いもおちて」

ペリーヌ「そうですわね。一応、お礼は言っておきますわ。ありがとう」

芳佳「どういたしまして」

エイラ「ネバネバズボンも味があっていいんじゃないか?」

ペリーヌ「エイラさん!!」

リーネ「納豆の味はあるね」

芳佳「え……」

リーネ「あれ? お、面白くなった……?」

芳佳「ううん!! 面白かった!!!」

バルクホルン「――随分と賑やかだな」

エーリカ「やっほー!!」バシャン!!!

バルクホルン「ハルトマン!! いきなり飛び込むやつがあるか!!!」

芳佳「あ、バルクホルンさん。お疲れ様です」

バルクホルン「ペリーヌも災難だったな。ズボンが悪臭に包まれるとは」

ペリーヌ「全くですわ。これから腐った豆は出さないでください!!」

芳佳「えぇー? それとこれとは関係ないよぉー」

ペリーヌ「大有りです。あんなものを食卓に並べるから、こんなことになるんですのよ」

エイラ「でも、あれはペリーヌのミスだろ? 宮藤が悪いわけじゃない」

ペリーヌ「で、ですから、根本的な原因は宮藤さんにあると言っているのです!!」

芳佳「ひどーい!! ちゃんと洗ってあげたのにぃ!! あれ、なかなかの臭さだったんだよ!?」

ペリーヌ「で、ですからぁ!! それについてはお礼をいいましたでしょ!!!」

リーネ「ペリーヌさん、落ち着いて」

エーリカ「宮藤ぃ。トゥルーデのクサズボンと比べたらどうだったの?」

バルクホルン「クサズボンはやめろ!!」

芳佳「圧倒的にバルクホルンさんです」

バルクホルン「宮藤」

芳佳「あ、すいません」

エーリカ「納豆を濾したズボンに勝つって、どんなだよぉ。トゥルーデ、やっぱり健康診断受けたほうがいいんじゃない?」

バルクホルン「私の体臭は正常だ!! 宮藤、そうだな!?」

芳佳「はい!! とっても大きくて柔らかいです!!」

リーネ「……なにが?」

エーリカ「世の中には自覚症状のない病気だってあるんだけど?」

バルクホルン「エーリカ……」

エーリカ「……」

バルクホルン「分かった。明日にでも健康診断を受けてくる。それでいいな?」

エーリカ「うん、いいよ」

バルクホルン「面倒なのは嫌なんだが……」

芳佳「あの。私、明日非番なんで、バルクホルンさんの健康診断にお付き合いさせてください」

バルクホルン「……いいのか?」

芳佳「はいっ!! あの臭いの原因、気になりますから!!」

バルクホルン「まぁ、宮藤がついてきたいというなら、構わない。そこは自主性を優先しよう」

芳佳「ありがとうございます!!」

エーリカ「……素直に、ありがとうって言えばいいじゃん」

翌日

芳佳「――あ、終わったんですね?」

バルクホルン「ああ。これがカルテだ」

芳佳「お疲れ様です」

バルクホルン「こうしてまな板の上の鯉になるのは、どうにも苦手だな」

芳佳「バルクホルンさん、歯医者とか苦手だったりするんですか?」

バルクホルン「そうじゃない!! 体を拘束されるのがあまり好ましくないだけで……」

芳佳(やっぱり、苦手なんじゃ……)

バルクホルン「それより結果だ!! 私の体に異変はないんだろうな!?」

芳佳「えーと……。カルテには特に異常はないって書いてますね」

バルクホルン「そうだろうな。全く。ハルトマンも分かりきっていることをさせて……。困ったものだ。うん」

芳佳「ハルトマンさんは心配してたんですよ」

バルクホルン「どうかな。健康診断を受けている間は私にうるさく言われないから……」

芳佳「でも、これであのズボンの臭いがなんだったのか、わかりませんね」

バルクホルン「そうだな……」

バルクホルン「ハルトマン」ガチャ

エーリカ「んぇ?」

バルクホルン「起きろ!! もう昼だ!! 訓練の時間だ!!!」

エーリカ「どうだったのぉ……けんこうしんだぁん……」

バルクホルン「特に異常は無い!! これが診断結果だ!!」

エーリカ「んー……どれどれ……」

バルクホルン「どーだ!! 私は頭から足の先まで健康だ!!」

エーリカ「……よかった」

バルクホルン「な……!!」

エーリカ「なに?」

バルクホルン「い、いいから、着替えろ!!! ほら!!!」

エーリカ「うん……。あれ……トゥルーデ、私のズボンはぁ?」

バルクホルン「しるかぁ!! 10分で準備を済ませろ!!!」

エーリカ「えぇー?」

エーリカ「えーと……。うわぁ……どこだぁ……?」

格納庫

シャーリー「ふぅーん。そりゃ、よかったな」

芳佳「だけど、結局あの臭いがなんだったのかまでは……」

ルッキーニ「どんな臭いだっけ?」

芳佳「えーと……動物園の臭い!!」

ルッキーニ「どうやったらそんな臭いになるのかなぁ?」

シャーリー「さぁ? バルクホルンの体に聞いてみたらどうだぁ? 丁度、訓練してるし」

芳佳「え?」


バルクホルン「ほら!! しっかりはしれー!!!」

エーリカ「やだぁー」

バルクホルン「それでもカールスラント軍人かぁ!!!」

エーリカ「そうだけどー?」


シャーリー「訓練直後の臭いを嗅げばわかるんじゃないか?」

芳佳「……行って来ます!!」

バルクホルン「これぐらいでいいだろう」

エーリカ「うぇーい」

芳佳「バルクホルンさん」

バルクホルン「どうした、宮藤」

芳佳「匂いを嗅がせてください!!」

バルクホルン「え……。ああ、でも、今は汗臭いから、風呂にはいってからに……」

芳佳「失礼します!!」

バルクホルン「あぁ!! こらぁ!!」

芳佳「……」クンクン

バルクホルン「……どうだ?」モジモジ

芳佳「……ハルトマンさん」

エーリカ「なに?」

芳佳「ちょっと嗅いでみてください」

エーリカ「えー?」クンクン

エーリカ「……別にいつも通りの汗臭さだけど?」

芳佳「やっぱり異臭はしませんね」

バルクホルン「それはそうだろう」

芳佳「たまたま、あんな臭いが出てしまうなんてことあるんでしょうか?」

バルクホルン「原因はあるだろうが、今のところ検討もつかないからな」

芳佳「あの、以前ルッキーニちゃんのズボンもかなり臭かったことがあるみたいなんですけど、覚えてませんか?」

バルクホルン「ああ。だが、あれはルッキーニの衛生管理が原因だったはずだ」

芳佳「でも、ルッキーニちゃんは違うっていってます」

エーリカ「……トゥルーデ。そういえばさ、少佐の服がとんでもなく臭かったことなかったっけ?」

芳佳「え!?」

バルクホルン「ああ。ペリーヌがそんなことを言っていたこともあったな」

エーリカ「ペリーヌはむしろ喜んでたから、気にもしなかったけど」

芳佳「ちょっとペリーヌさんに聞いてきます!!」

バルクホルン「あ、宮藤」

エーリカ「よっぽど、トゥルーデのことが心配なんだねぇ」

バルクホルン「……早く風呂に入るか。宮藤だけに任せておけないからな」

食堂

ペリーヌ「ふぅ……。おいしい」

リーネ「よかった。エイラさんはどうですか?」

エイラ「それじゃ、おかわり」

芳佳「ペリーヌさん!!」

ペリーヌ「ぶふっ!! な、なんですか!?」

芳佳「訊きたいことがあるんですけど!!」

ペリーヌ「は、はい?」

芳佳「坂本さんの服から異臭がしたって本当ですか!?」

ペリーヌ「え、ええ。欧州でのことですわね。洗濯を任されてたときに少佐の服を嗅いでみたら……」

エイラ「なんで嗅ぐんだよ」

サーニャ「くさいから?」

エイラ「なるほど。サーニャの言うとおりだ。臭いものって嗅ぎたくなるもんな」

ペリーヌ「さ、坂本少佐のは臭くありませんでしたわ!! 個性的な匂いでしたの!! まるでラフレシアの花の香りのような……」

リーネ「それって……あの……う……ち……の臭いじゃ……」

芳佳「ペリーヌさん。そのとき坂本さんに何か異常というか、体を壊していたとかはなかったですか?」

ペリーヌ「いいえ。そんなことはありませんでしたわね」

芳佳「……」

リーネ「芳佳ちゃん?」

芳佳「それじゃあ、あの、坂本さんの周りで何かありませんでしたか?」

ペリーヌ「坂本少佐の……? うーん……」

芳佳「何かをかけられたとか!! 服をなにかで汚したとか!!」

ペリーヌ「いえ。なかったと思いますけど……」

芳佳「そうですかぁ」

エイラ「何が気になるんだ?」

サーニャ「服が汚れたら、少佐も気がつくと思うけど」

芳佳「エイラさん、サーニャちゃん。ズボンや服が臭くなった経験はある?」

エイラ「私はないな」

サーニャ「私も」

芳佳「そっかぁ……。あー、なんだろー? きになるよー」

格納庫

シャーリー「よっし!! 整備完了!!」

ルッキーニ「シャーリー、あそぼっ」

シャーリー「はいはい。何して遊ぶんだ?」

ルッキーニ「えっとねー」

美緒「シャーリー、ルッキーニ。宮藤を見なかったか?」

シャーリー「え? ああ、食堂にいると思うけど」

美緒「そうか。ん? なんだ、整備中だったか。すまんな」

シャーリー「いや、今終わったところですよ。最近、調子が悪かったんで」

美緒「そんな風には見えなかったがな」

シャーリー「いやぁ。思うように速度が上がらなかったし。それに前のルッキーニみたいに空中でエンジンが停止したら敵わないですからね」

美緒「はっはっはっは。そんなこともあったな」

ルッキーニ「うじゅぅ……あれはあたしの所為じゃないしぃ……」

シャーリー「知ってるよ。でも、前兆に気がつけなかったお前も悪いんだぞ?」

美緒「そうだな。実はいうと宮藤にもそのことを伝えておきたかったのだ。あいつはまだストライカーの変調を感じ取れるほどではないからな」

食堂

バルクホルン「そうか。分からないままか」

芳佳「すいません。バルクホルンさん」

バルクホルン「どうして宮藤が謝る?」

芳佳「だって、私――」

美緒「宮藤」

芳佳「あ、坂本さん。どうしたんですか?」

美緒「これを渡しておこうと思ってな」

芳佳「これって……。ストライカーの……」

美緒「整備班が常に見てくれてはいるが、何があるかはわからん。その資料を参考に、細かな異変にも気がつけるようになっておけ」

芳佳「はい。わかりました」

美緒「私も何度が異変に気がつかないまま飛んだときがあってな。そのときは大変だった」

バルクホルン「思い出した。欧州でも少佐は1度やらかしていたな。突然、エンジンが停止して……」

美緒「あれは訓練でだ。実戦ではない」

バルクホルン「そういう問題だろうか?」

格納庫

芳佳「よっと」ブゥゥゥン

芳佳「……異常はなし……かな?」

ミーナ「あら? どうしたの? 非番なのに」

芳佳「あ、ミーナさん。いえ、ストライカーの調子を見ていたんです」

ミーナ「そう。感心ね。宮藤さんもそういうことを気にするようになったのね」

芳佳「坂本さんに言われただけで……」

ミーナ「それで、癇癪を起こしたりはしてない?」

芳佳「はい!」

ミーナ「よかったわね。宮藤さんはストライカーにも気に入られているのかしら」

芳佳「そ、そうでしょうか。自信ないですけど……」

ミーナ「それじゃあね」

芳佳「はい!!」

芳佳「うーん」ブゥゥゥン

芳佳「……よし。大丈夫。これぐらいしよう」

翌日

エイラ「うぇー……なんで、私がぁ……」

シャーリー「ルッキーニが逃げたんだから仕方ない」

エイラ「おかしいだろ……。廊下歩いてただけなのに……」

シャーリー「あとで肩ぐらいなら揉んでやるって」

エイラ「別にいいけど……。なんで、洗濯しなきゃいけないんだぁ」ゴシゴシ

シャーリー「ルッキーニが逃げたからだって言ってるだろー」

エイラ「それはきいたぞー」

シャーリー「はいはい。手を動かし――ん?」

エイラ「どうした?」

シャーリー「……」クンクン

エイラ「それ、宮藤の服だな」

シャーリー「うぇ!! くっさ!!」

エイラ「え?」

シャーリー「なんだ、これ!? 骨の髄まで不快になる臭いだ!! 宮藤のやつなにしたんだ!?」

食堂

芳佳「え? 私の服が?」

シャーリー「あぁ。もうなんというか……これだけど……」

エイラ「ゴムを焼いたような臭いが……」

芳佳「えぇぇ!? ――どれどれ」クンクン

芳佳「はぐぅ!? くっさ!!!」

リーネ「芳佳ちゃん、大丈夫?」

芳佳「わ、私、病気なんでしょうか!?」

シャーリー「いや、昨日なんかしたか? お前、非番だっただろ?」

芳佳「えーと……。昨日したのはストライカーの調子を確認したぐらいで……」

バルクホルン「朝から騒々しいな、シャーリー」

シャーリー「ほら」ポイッ

バルクホルン「これは宮藤の……」クンクン

バルクホルン「……独創的な臭いだが……悪くはないぞ……好きな奴は好きだとおもう……」

芳佳「あの! 無理に褒めなくてもいいですからぁ!!」

シャーリー「訓練したわけでもないのか」

芳佳「はい」

エイラ「何日か出さなかった服じゃないだろうな?」

芳佳「違います!! 私のはきちんと毎日洗濯してますから!!」

シャーリー「宮藤の服だけが臭かったんだよなぁ……」

エイラ「何か変なもんでも食ったんだろ?」

芳佳「そんなことしてません!!」

バルクホルン「……昨日、ストライカーユニットを使用したのは?」

芳佳「私と……」

エイラ「多分、サーニャだな」

シャーリー「あたしも弄ってはいたけど……」

バルクホルン「少佐とルッキーニ……それに私と宮藤か……」

リーネ「バルクホルン大尉?」

バルクホルン「宮藤、今から飛行訓練を行うぞ。ついてこい」

芳佳「え!? それ午後からの予定ですけど!?」

格納庫

バルクホルン「エンジン、始動!!」

芳佳「は、はい!!!」

シャーリー「急にどうしたんだ?」

エイラ「さぁ……」

バルクホルン「いくぞ!!!」ブゥゥゥン!!!!

芳佳「は、はい!!!」ブゥゥゥン!!!!

シャーリー「おー。良い感じだな」

エイラ「だな」

リーネ「よしかちゃーん!! 納豆、どうするー!?」

芳佳「だしておいてー!!!」

リーネ「わかったー!!」

バルクホルン「――よし。もういいだろう。戻るぞ」

芳佳「もうですか!?」

バルクホルン「ああ。十分のはずだ」

バルクホルン「……ふぅ」

芳佳「あの……飛行訓練にはなっていなかったような……」

バルクホルン「……ふんっ」スルッ

芳佳「えぇぇぇぇ!?!?! バ、バルクホルンさん!!! どうしてズボンをぉぉ!!!」

バルクホルン「……」クンクン

バルクホルン「……宮藤」

芳佳「な、なんですか!?」

バルクホルン「嗅いでみろ」

芳佳「えぇぇぇ!?! そんな脱ぎたてはちょっとぉ!!!」

バルクホルン「いいから」

芳佳「だ、だめですよぉ!!!」

バルクホルン「上官命令だ!!」

芳佳「その命令はきけませーん!!!」

バルクホルン「なら、無理やりにでも……!!」

シャーリー「おい!! こら!!! なにやってんだ!!!」

バルクホルン「シャーリーでもいい。嗅いでくれ」

シャーリー「な、なんで……」

バルクホルン「いいから」

シャーリー「……」クンクン

シャーリー「くっさ!!! なんだこれ!!!」

芳佳「え?」

バルクホルン「シャーリー。一つ聞かせてくれ。かなり前の話だが、ルッキーニがストライカーで航行中、エンジンが停止してしまったことがあったな?」

シャーリー「あ、ああ……」

バルクホルン「その少し前にルッキーニのズボンが臭くなったときがあったな?」

シャーリー「そうだ。そうだ。三日前ぐらいだったかな」

芳佳「あの……どういうことですか……?」

バルクホルン「坂本少佐にも訊いてみるか。恐らく、同じような答えがきけるはずだ」

シャーリー「おい。それって」

バルクホルン「この悪臭の正体はストライカーユニットが原因だ」

芳佳「ストライカーユニットが……?」

ブリーフィングルーム

美緒「確かに。私の服が臭くなったのは、丁度エンジンが不調を訴える数日前だった気がするな」

バルクホルン「やはりか」

ミーナ「バルクホルン大尉。どういうこと?」

バルクホルン「まだはっきりと分からないが、衣服が異様に臭くなる原因はストライカーユニットが何らかの不調が発生する前兆ではないかと考えている」

エーリカ「へぇー。よくわかったねぇ」

ルッキーニ「あたしのあれはそういうことだったんだー!?」

シャーリー「オイルもれ……? 何かが焼け尽きた……? うーん……」

美緒「ふむ。調査をする必要があるな」

ミーナ「そうね。みなさん、もし衣服から異臭がする場合はすぐに報告してください」

エイラ「了解」

サーニャ「わかりました」

リーネ「そうだったんだぁ……」

ペリーヌ「わ、わたくしのは……」クンクン

エイラ「こんなところで嗅ぐなよなぁ」

格納庫

サーニャ「……」ブゥゥゥン

サーニャ「……どうかな?」

エイラ「今、嗅ぐぞ!!」ギュッ

サーニャ「あ……エイラ……ちょっと……」

エイラ「サーニャ……サーニャァ……」ハァハァ

サーニャ「ま、まじめに……やって……」

エイラ「うん……うん……いい匂いしかしない……」スーハー

サーニャ「な、なら……もうはなれて……!!」ググッ

エイラ「まだ、まだ嗅ぎ足りない……!!」

美緒「……なにをやっとるか」

ペリーヌ「……」ブゥゥゥン!!!

ペリーヌ「リーネさん!! どうですか!?」

リーネ「んー……」クンクン

リーネ「大丈夫です。若干、納豆くさ――いえ、いつものペリーヌさんの臭いです」

ミーナ「……」ブゥゥゥン

ミーナ「坂本少佐、確認してもらえるかしら?」

美緒「ああ。構わんぞ」クンクン

ミーナ「ど、どう?」

美緒「ん!? これは……!!」

ミーナ「な、なに!?」

美緒「はっはっはっはっは。たまらんな。いい香りだ」

ミーナ「もう、美緒!! 真面目にして!!」

ルッキーニ「どうどう!?」

エーリカ「んー……心配ないんじゃない? でも、トイレのあとはしっかり拭いたほうがいいね。匂いは残るし」

ルッキーニ「えぇ!? そっち!?」

シャーリー「ルッキーニ。ちゃんと拭けっていつも言ってるだろ」

ルッキーニ「た、たまたま、めんどくさくて……」

バルクホルン「これからは服から異臭がした場合は、出撃を控えたほうがいいかもしれんな」

美緒「そうだな。整備班にこのことは伝えておかねばな」

食堂

芳佳「これでもう大丈夫だね」

リーネ「うん。原因も分かってよかったね」

バルクホルン「そうだな」

芳佳「あ、バルクホルンさん。ありがとうございます」

バルクホルン「なにがだ?」

芳佳「だって、異臭の原因を突き止めてくれましたから」

バルクホルン「宮藤がストライカーの点検をしていなければわからなかったことだ。お前の手柄でもある」

芳佳「そんなこと……」

バルクホルン「どうした?」

芳佳「あの……私、バルクホルンさんに酷いことを……」

バルクホルン「なんのことだ?」

芳佳「バルクホルンさんのズボンを臭いだなんて言っちゃって、それで……なんとかして原因を……」

バルクホルン「そうか。罪悪感からあんなに必死になっていたのか。宮藤、私は何も気にしていない」

芳佳「わ、私が気にします!」

芳佳「お役に立てずにすいません……」

リーネ「そ、そんなことないよ。芳佳ちゃん!」

バルクホルン「リーネの言うとおりだ。宮藤」

芳佳「でも……」

バルクホルン「そもそもだ。お前があんなに必死にならなければ、異臭に件とストライカーユニットの不備を結びつけようなどと誰が思う?」

芳佳「バルクホルンさん……」

バルクホルン「お前はよくやった。胸を張れ」

芳佳「……はいっ!」

バルクホルン「よしっ。いい顔だ。夕食、楽しみにしているからな」

芳佳「がんばります!!!」

リーネ「やろう、芳佳ちゃん」

芳佳「うん!! おいしい夕食にしなきゃ!!」

リーネ「そうだね!!」

バルクホルン「……」

バルクホルン(宮藤……。褒めるときは抱きしめたほうがよかったか……。いや、でも……しかし……あるいは……うーん……)

数日後

芳佳「リーネちゃん。洗濯物はこれで全部だから」

リーネ「ありがとう。芳佳ちゃん」

ルッキーニ「……リーネぇ」

リーネ「ミーナ中佐が見張ってるから」

ルッキーニ「ふぇ!?」

ミーナ「……」

ルッキーニ「うぇぇ……」

リーネ「がんばろ。はやく終わったら、お昼寝もいっぱい出来るよ」

ルッキーニ「うん……」

リーネ「さ、やらなきゃ」ゴシゴシ

ルッキーニ「はぁ……ねたいよぉ……」

ルッキーニ「んん!?」

リーネ「どうしたの?」

ルッキーニ「……くちゃい。バルクホルン大尉のズボン、くちゃい……」

格納庫

バルクホルン「なんだと!? また、異臭がしたのか!?」

美緒「ああ。ルッキーニとリーネからの報告だ」

バルクホルン「数日前にオーバーホールしたばかりなのに……!!」

美緒「だが、異臭がした以上、放っておくこともできまい」

バルクホルン「……1日で終わらせるようにと伝えてくれ」

美緒「分かっている」

バルクホルン「はぁ……」

エーリカ「トゥルーデ。なにしてんのー? はやく、飛行訓練しよー」

バルクホルン「私は基礎トレーニングをする……」

エーリカ「え? なんでさ?」

バルクホルン「ズボンから異臭がしたらしい……」

エーリカ「そう……」

バルクホルン「なぜだ……ストライカーユニットが限界なのか……?」

美緒「うむ。エースが飛べなくては困るな……」

食堂

バルクホルン「……」

リーネ「……芳佳ちゃん、バルクホルン大尉をなんとか元気付けられないかなぁ」

芳佳「うん。そうしたいけど」

ペリーヌ「あまり腫れ物を扱うようにするのも失礼なことですわよ」

芳佳「でも、このままにはできませんよ」

リーネ「はい!!」

ペリーヌ「それは、そうですけど」

エイラ「可哀想だなぁ」

サーニャ「……芳佳ちゃん」

芳佳「なに?」

サーニャ「あのね……」

芳佳「うん……うん……」

エイラ「なに私に内緒ではなしてるんだぁー!!!」

バルクホルン(時間に余裕ができたし……宮藤と二人でずっとお喋りしたいっていったら……いや、そんなことを言ってみろ、気味が悪いと思われるだけだ……)

芳佳「バルクホルンさん!!」

バルクホルン「どうした?」

芳佳「あの!! 今からお掃除しようと思います!!」

バルクホルン「掃除……? どこのだ?」

サーニャ「大尉の部屋」

バルクホルン「私の? いや、その必要はない。散らかっているのはハルトマンの領土だけだ」

芳佳「そのハルトマンさんのところを掃除させてください」

バルクホルン「なに?」

サーニャ「綺麗な部屋になれば、気持ちも晴れやかになるって思って」

エイラ「サーニャの提案だからな!! 宮藤は同意しただけで!!」

リーネ「できれば、私も……」

ペリーヌ「わたくしも掃除ぐらいなら、手伝えますから」

バルクホルン「気持ちは嬉しいが……」

芳佳「お願いします。バルクホルンさん」

バルクホルン「……ちょっと待っててくれ」

バルクホルン・ハルトマンの部屋

バルクホルン「ハルトマン、いいな?」

エーリカ「うん。綺麗にしてくれるなら、やってよ」

芳佳「よーし!! がんばります!!」

ペリーヌ「こうして改めてみると……中々の惨状ですわね……」

エイラ「どこから手をつけたらいいんだ……」

サーニャ「とにかく、片付けなきゃ」

エイラ「そうだな。やるか」

リーネ「ハルトマン中尉、これは捨ててもいいんですか?」

エーリカ「あー。それはダメ。捨てないで」

リーネ「はーい」

芳佳「ハルトマンさん!! この牛乳の空き瓶は!?」

エーリカ「すててー」

バルクホルン「……宮藤にはあとでどんな礼をしたらいいだろうか」

エーリカ「抱きしめてあげれば? 喜ぶだろうし」

バルクホルン「だ、だきしめる!? な、なにを言っている……!! そ、そんなこと……そんなこと……!!!」

バルクホルン『宮藤……。私のためにこんなに汚れて……。辛かっただろう?』ギュッ

芳佳『バルクホルンさん……。あったかい……』

バルクホルン『今だけ、お姉ちゃんって呼んでもいいんだぞ?』

芳佳『それじゃあ……お姉ちゃん、大好き……』

バルクホルン「――うおぉぉ!!!! そんなの!!! だめだぁぁぁ!!!!」

エーリカ「何興奮してんだ」

リーネ「あ、ここ。汚れてる……。何かがこぼれたのかな……」

芳佳「拭かないとダメだね。ペリーヌさん、雑巾ありますか?」

ペリーヌ「ええと……」

サーニャ「ごめんなさい。今、使ってるの」

芳佳「あぁ、そうなんだ……。それじゃあ、あとででいいかな」

エーリカ「宮藤ー。雑巾なら、そっちに落ちてない?」

芳佳「え? そっちって……この白い布ですか?」

エーリカ「そうそう。それ使っていいから」

バルクホルン「……ん?」

芳佳「よいしょっと」

リーネ「……雑巾?」

芳佳「……ううん、ズボンだよ」

ペリーヌ「しかも、大尉のズボン……ですわね……」

エイラ「なんで、こんなところに大尉のズボンが?」

芳佳「あのー。ハルトマンさん、これって……」

エーリカ「あれ?」

バルクホルン「ハルトマン中尉……。何がどうなっている……?」

エーリカ「あぁー。そうだった。昨日、牛乳を零しちゃって、拭く物が手元になかったからトゥルーデのズボンを代用したんだった」

芳佳「えぇぇ!?!?」

エーリカ「そのときに数枚拝借したんだよねー」

リーネ「それじゃあ、今朝の異臭って……」

ペリーヌ「牛乳を拭けば、まぁ最悪の臭いがつきますわね」

サーニャ「おぇ」

バルクホルン「……一つ、訊くが。これが初犯か?」

エーリカ「ううん。何回か借りたよー」

バルクホルン「……」

芳佳「それじゃあ、バルクホルンさんのズボンの異臭って……」

リーネ「ストライカーユニットの不調以外でも……?」

エイラ「あーあ」

エーリカ「ごっめん。トゥルーデ。言っておけばよかったね。洗濯に出せばいいやって思って――」

バルクホルン「エーリカぁ……」

エリーカ「なにぃ?」

バルクホルン「ちょっと、こい……」

エーリカ「はいはーい」

芳佳「あ、あの!!」

エーリカ「掃除はやっておいてねー」

バルクホルン「早くしろ……」

エーリカ「分かってるってぇ。トゥルーデはこわいなぁー」

露天風呂

美緒「ふぅー……生き返るな……」

シャーリー「はぁー……いやぁ。ホントに」

美緒「それでシャーリー。衣服から異臭がする件だが、どうなった?」

シャーリー「ああ。やっぱり内部で細かい部品の焼けた臭いがズボンについたみたいですね。飛んでいるときはそんな臭いなんて気づきませんけど」

美緒「ズボンや服にはしっかりと付着するというわけか。あれほどの異臭がまさかストライカーからとは思いもしなかったが……」

シャーリー「ええ。とてもわかりやすい前兆なんで、これから実戦中に故障するようなケースはぐっと減るんじゃないですかね」

美緒「はっはっはっは。それはいいことだな」

シャーリー「いやぁー。宮藤とバルクホルンのお手柄ですよ」

美緒「もっと早く気がついていればな」

シャーリー「まぁ、バルクホルンや少佐はともかく、ルッキーニの異臭だとどこかで汚したんだろって疑いたくなりますからね」

美緒「他の隊でも同様の事態はあるはずだが、そちらも確認せんとな……」

シャーリー「中佐の雑務が増えますね」

美緒「うんざりする顔が目に浮かぶようだ」

シャーリー「ですねぇ」

食堂

芳佳「結局、戻ってこなかったね」

リーネ「うん……」

エイラ「まぁ、綺麗になったし、いいんじゃないか?」

ペリーヌ「それにしても、ハルトマン中尉にも困ったものですわね」

芳佳「あはは……」

サーニャ「新品の雑巾、何枚か用意したし、これからはもうこんな悲劇は起こらないと思う」

芳佳「うん! そうだね!!」

バルクホルン「――ここに居たのか」

芳佳「あ!! バルクホルンさん!!」

バルクホルン「部屋を見せてもらった。あんなに綺麗になるとはな。ハルトマンに代わり、礼を言わせてくれ。ありがとう」

サーニャ「そんな……」

エイラ「サーニャの提案だからな!! サーニャの!!」

バルクホルン「わかっている。気持ちも晴れやかになった」

芳佳「あ、あの……ハルトマンさんは……?」

バルクホルン「ハルトマンは――」

ルッキーニ「たいへんだよー!!!」

芳佳「ど、どうしたの!?」

ルッキーニ「い、いま、ハンガーのほうで……ハルトマン中尉がミーナ中佐に……あわわわわ……!!!」

リーネ「な、なに!? 何を見たの!?」

ルッキーニ「うわぁぁぁ!!」ダダダッ

ペリーヌ「ルッキーニさん!! お待ちなさい!!」

ルッキーニ「こわいよぉー!!」

エイラ「な、なんだったんだ……?」

バルクホルン「ルッキーニには刺激が強かったのかもしれないな」

サーニャ「どういうことでしょうか?」

バルクホルン「ふっ。お前たちも、ミーナは怒らせないようにしたほうがいい」

リーネ「は、はい!」

芳佳「わ、わかりました!!!」

バルクホルン「よし」

宮藤の部屋

芳佳「今日は掃除と訓練で疲れちゃった……」

『宮藤、いるか?』

芳佳「あ、はい!! なんですか!?」ガチャ

バルクホルン「なにも焦らなくてもいいだろ」

芳佳「ああ、いえ。びっくりしちゃって」

バルクホルン「今から、風呂に行かないか?」

芳佳「はい。喜んで! でも、どうして……」

バルクホルン「きちんとお前にだけは礼を言いたくてな」

芳佳「え?」

バルクホルン「リーネから聞いた。掃除もお前が最も成果をあげていたと」

芳佳「そんなことないですよ!! みんなががんばった結果ですから!!」

バルクホルン「ともかく風呂に行こう」

芳佳「あ、はい!! すぐに準備します!!」

バルクホルン「慌てなくてもいいぞ」

露天風呂

バルクホルン「……」

芳佳「……」

バルクホルン「……あー……そのだな……」

芳佳「はい」

バルクホルン「お前がいなければ、原因は究明できなかった。非常にいい働きをした。ありがとう」

芳佳「いえ。バルクホルンさんのほうがよっぽど……」

バルクホルン「……」バッ!

芳佳「……!?」ビクッ

芳佳(な、なんだろう……? 急に両腕を広げて……)

バルクホルン「宮藤……」

芳佳「は、はい……!!!」

バルクホルン「……何を怯えている?」

芳佳「いえ……あの……迫力があるので……」

バルクホルン(腕を広げれば向こうから抱きついてくるって噂はうそだったか……くそ……)

芳佳「私のほうこそ、バルクホルンさんのズボンを臭いとか……言っちゃって……」

バルクホルン「その件はもういい。気にするな」

芳佳「バルクホルンさんはやっぱり、優しいですね。私もバルクホルンさんみたいなお姉ちゃんがいればなって思うときがあります」

バルクホルン「そうか」

芳佳「はい」

バルクホルン「はぁ!!」バッ!!!

芳佳「……!?」ビクッ

バルクホルン「いいんだぞ? こっちにきても」

芳佳「あ、あの……こわいです……」

バルクホルン「……すまない」

芳佳「いえ」

バルクホルン「……もう、あがるか」

芳佳「あ、はい」

バルクホルン(……嫌われたか……ふふっ……やはり、慣れないことはすべきじゃないか……)

芳佳「……」

翌朝 バルクホルン・ハルトマンの部屋

バルクホルン「うーん……ん? おわぁー!!!!」

エーリカ「ん? なんだよぉ……うるさいなぁ……。あぁ……おしり……が、まだいたいぃ……」

バルクホルン「ハ、ハルトマン!!! お前!! たった一晩で元に……!! 宮藤たちが折角綺麗にしたのに……!!!」

エーリカ「え?」

バルクホルン「え?じゃない!!! おきろぉ!!! お前はまた私のズボンで牛乳を拭く気かぁ!!!」

エーリカ「もう大丈夫だよぉ。サーニャと宮藤からお手製の雑巾ももらったしぃ」

バルクホルン「そうなのか?」

エーリカ「うん。ほら、ここに……あれ? ここだったかな? あれ? えーと……」

バルクホルン「エーリカぁ!!! 表にでろぉ!!!」

『バルクホルンさーん』

エーリカ「あ、宮藤だ。助かったぁ」

バルクホルン「どうした?」ガチャ

芳佳「あの。お洗濯なんですけど、手伝ってもらえませんか? 今日は量が多くて、一人ではちょっと……」

バルクホルン「上官に雑用をお願いするとはな。今日は許すが次はないぞ、宮藤?」

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