美琴「…マヨナカテレビ?」(273)

建ったら書く

「なによ、それ?」

友人の佐天涙子の発した聞きなれない単語に、御坂美琴は首をかしげた。
230万人が住む学園都市、その第11学区のとある公園内。

「知らないんですの、お姉さま?いま学園都市で囁かれている都市伝説ですのよ」

呆れた顔でそう話すのは、美琴と同じ常盤台中学の後輩であり、ジャッジメントを務める白井黒子である。

「雨の日の午前0時、真っ暗なテレビを覗くと運命の人が映る…でしたっけ。本当なんですかね?」

佐天と同じ中学に通う初春飾利がマヨナカテレビの概要を語り、皆がそれに対して思い思いの意見を交わしている。
どうやら随分と有名な噂のようだ

「あ、私はまだ試したことないんですけどね。友達のコが言うには、『ツンツン頭の男がひたすら不幸に見舞われる番組が映った』って…。でも、よく考えると噂と違いますね。全然好みじゃないって言ってたし。」
「そもそも、そんな噂本当なわけありませんわ。大体、私の隣には運命の相手が既にいるのですから必要な…」
「こっちを見るな!!」

白井に鉄拳制裁をお見舞いすると、美琴は持っていた缶ジュースに口をつける。
『胡椒博士』という名前のその飲料は、美琴の最近のお気に入りだった。
缶に描かれた、顔面に刺青の入った博士のイラストはあまり好きではなかったが。

(運命の人…ねぇ)

信憑性の無い噂だと思う。
だが同時に、美琴の脳裏にある人物が浮かんで来た。
学園都市最強のレベル5である美琴が何度挑んでも敵わない、いつも街中で出会うムカつくアイツ…。

「どうしたんですか、御坂さん?」

ダラダラとジュースを零している美琴に驚き、初春が声をかけてきた。
はっ、と現実に戻った美琴は「何でもない何でもない!」と、初春に返答するとともに頭の中の無能力者の姿を打ち消した。

(な、なんでここでアイツが出てくんのよ…!?それに、そんなコト本当に起きるワケないに決まってるわよ…!…で、でも…試してみるだけ、なら…)

「お、お姉さま?顔が赤いですわよ?」

もはや周囲の声は耳に入らない美琴であった。

場面は変わって、午前0時まで5分前。ここは常盤台中学校の学生寮の食堂である。
御坂美琴は、食堂に設置されたテレビの前に立っていた。
噂を聞いて、三日後。待ち望んだ雨の日。
夜中もぞもぞと起き出した後、静かに制服に着替えた(部屋の外では寝巻きの着用は禁止されている)美琴は、寮監の罠を掻い潜りつつ何とかここまで辿り着いたのだ。
都合のいいことに、黒子はジャッジメントの仕事の関係で先日から外泊している。

(よ、よし…)

誰に見られるでもないのに、身だしなみを整える美琴。
いつも以上に念入りにチェックした後、ようやくテレビの前に立つ。
時刻は23時59分。

(噂に決まってるわよ、噂に…)

そんなことを考えながらも、ザーザーとノイズが流れ続ける画面を見つめる。
心臓の鼓動がやけに早く感じるのは気のせいだろうか。

ついに、食堂内の時計が0時を示した。
美琴は画面を見続けているが、変化はない。

(やっぱり、ただの噂かぁ…。まぁ、当たり前よね…)

諦めて部屋に戻ろうとしたそのとき、テレビ画面がなにかを映しはじめた。

「…マジ?」

驚きつつも、画面に眼が釘付けになる。
徐々に映像が鮮明になっていく。美琴はゴクリ、と唾を飲み込んだ。
ついに映像がハッキリと映し出される。

美琴の目に飛び込んで来たのは、信じられない光景だった。

「な、なんで黒子が映ってるのよ…!?」

テレビが映し出したもの、それは花畑を優雅に駆ける白井黒子の姿だった。
何がそんなに嬉しいのか、満面の笑みを浮かべている。

>学園都市最強のレベル5

ミサカさんはレベル5の中のランクは第三位で
最強ってアクセラたんじゃなかったっけ?

うろ覚えすまそ

みすった


「な、なんで黒子が映ってるのよ…!?」

テレビが映し出したもの、それは花畑を優雅に駆ける白井黒子の姿だった。
何がそんなに嬉しいのか、満面の笑みを浮かべている。

これはどういうことだ。運命の相手が映るのではなかったのか。一体なぜ黒子が。そもそもこれは何の映像なのか。
まさか、本当に黒子が運命の相手…?
あまりのショックに、石のように固まる美琴。
未だ両の目はテレビが映し出す後輩を見つめ続けている。

テレビの中の黒子は誰かを見つけたのか、走りながら何かを喋っているようだ。
しかし、テレビの音量がミュートになっているので、何を言っているのかまではわからない。
そのとき、カメラが黒子の喋りかけた方向へとレンズを動かしはじめた。
映し出された人物を見て、驚愕する美琴。

そこに映っていたのは、御坂美琴――――自分自身だった。

>>26
学園都市の能力者の中で一番強いレベルなので、他のレベルと比べて最強ということでひとつ


(なななんで私が!?こんな場所行ったことも見たことも…)

動揺する美琴をよそに、テレビに映された二人の距離は次第に近づき…ゼロになった。
飛び込んだ黒子を、テレビの中の美琴が受け止め――――優しく抱き締めたのだ。

(ナニこれえぇぇぇぇっ!?あああありえないから!!ま、まさかCGとか…!?)

さらに混乱する美琴。
テレビの中の二人は、まるで全てを許しあった恋人同士のように見つめあっている。
二人はどちらともなく顔を近づけ、そしてついに唇が……

その時、美琴の中で何かが切れた。

id変わりましたが>>1です


「ふ…ふざけんなぁ!!」

怒り狂った美琴はテレビに向けて渾身の右ストレートを放つ。
これはきっとタチの悪いイタズラだ。
仕掛けた奴はどこかで美琴を見てほくそ笑んでいるに違いない。
そう結論づけながらも、美琴は拳を止める事が出来なかった。
取り敢えずこの不愉快な映像を眼前から消去しなくては。

そして美琴の拳はテレビの液晶にクリーンヒットし粉々に砕け…なかった。

(えっ!?)

右手はそのままテレビの画面の中に、『入り込んだ』。
美琴は驚愕のあまりバランスを崩す。勢いを殺す事ができない。
そしてそのまま、美琴の全身がテレビの中へと飲み込まれてしまった。

「いたたた…」

気づくと、美琴は土の地面にしりもちをついていた。
どうやら随分と高い所から落ちてしまったらしい。
土を払いながら立ち上がり、辺りを見まわす。
どうやらここは美琴のいた学生寮ではなく、先程テレビで見た花畑のようだ。
映像とは違い、霧が深く立ち込めている。

「何なのよコレ…何かの能力?でもこんな能力…」

一番最初に脳裏に浮かんだのは、『座標移動』を操る少女。
しかし美琴は即座に否定する。
彼女はすでにジャッジメントである白井黒子によって捕らえられたはずだ。

「とにかく、ここが何処なのか調べないと」

美琴が歩き出そうとしたその時、目の前に一人の少年が現れた。

黒い学ランを身にまとい、眼鏡をかけた少年。
年齢は、高校生くらいだろうか。
何処となくクールな雰囲気である。
手には一振りの日本刀握っていた。

「…………!」

少年はこちらを見ると驚いた表情を見せ、美琴の方へと歩み寄ってきた。

「なに!?あんた一体ダレよ!?」

少年はしばし考え込むと、口を開こうとした。
が、次の瞬間、少年は美琴の背後から聴こえた物音に反応すると、霧の向こうへと走り去ってしまった。

「ちょ、ちょっと!待ちなさいよ!!」

美琴が慌てて呼びかけるも、少年はすぐに見えなくなっしまった。
せっかくの手がかりを無くし、項垂れる美琴。
そんな美琴に背後から声をかける声があった。

「クマー!?なんでこんな所に人がいるクマ!?」

そこにいたのは、巨大なクマの着ぐるみだった。

「なっ…!何よアンタ!?」
「クマはクマだクマ!」

突然現れた着ぐるみに驚愕する美琴。
まじまじとその姿を眺める。

(よ、よく見るとカワイイかも…)

そんな事を思い始めた美琴だが、ぶるぶると首を振って再度クマと名乗る着ぐるみに問いかける。

「アンタ、ここがドコなのか知ってる?私、元の場所に戻りたいんだけど…」
「ここはテレビの中クマ!」
「はぁ!?んなわけないでしょ!!良い加減冗談は止めなさいよね!大体何そのカワ…変な着ぐるみ!脱げっ!脱ぎなさい!」
「や、やめるクマー!!」

ついに耐えきれなくなった美琴は、クマの着ぐるみを無理矢理脱がしにかかる。
ジッパーに手をかけ、思いっきり開いていく。

しかし、中身は存在しなかった。
ただ空虚な空間が広がっているだけだった。

投下遅くてすまんこ

「あァ?なンだってンだ、その…マヨナカテレビってェのは?」

一方通行は土御門元春へと向き直った。
学園都市の内部にいくつもある、グループの隠れ家の一室。

「なんでも、テレビの中に人が飲み込まれるらしい。行方不明者も相当数出ているようだ」
「なンだァ、能力者の仕業か?」
「まだわからん。殆ど情報がなくてな…上も相当焦っているようだ」
「はっ、そりゃイイじゃねェか。あいつらにヒーヒー言わせとけ。俺ァ帰る」
「問題なのはな…死人が出ているからだ」

帰ろうと扉に手をかけた一方通行だったが、土御門の言葉で動きを止める。

あらためて、土御門の話に耳を傾ける。

「表には出てないが、すでに数人の死者が出ている。死因は色々あるが…共通するのは、全員がマヨナカテレビに映っていたという点らしい」
「ほォ…?そりゃあ…」
「あぁ、犯人がいる。マヨナカテレビの噂が流れているとはいえ、テレビの中へ入る事が出来ることはまだ知られていないからな」
「それにも関わらず立て続けに行方不明者が出るってェことは、他人を突き落としてる野郎ォがいるってわけだな」
「…既に何度か捜索隊を突入させたが、全員死体で転がっていたそうだ」
「それでオレたちの出番ってェわけか。つくづく対応が後手後手だな、クソが」
「俺たちじゃない、お前だけだ」

一方通行は土御門を見た。サングラスのせいで表情は読み取れない。

「今回上の連中は、お前一人だけを指名してきている」

土御門はなおも言葉を続ける。

「今回お前に与えられた任務は二つ。一つはマヨナカテレビ内へ入り現象の分析と原因の調査。もう一つは、もし内部に犯人がいた場合、その存在の無力化だ」
「相変わらずクソみてェな仕事だな。…中の行方不明者はどォすんだ?」
「…そちらは考慮しなくていいそうだ。上の連中としては、これ以上被害が拡大しなければそれでいいらしい」
「…ますますクソだな」

一方通行はいつも通りの上の対応に怒りを通り越して呆れ果てた。
どこまでいっても保身が大事か。

「俺じゃなくても、てめェが行けばいいだろォが。俺は俺で好きにヤらせてもらう」
「今回ばかりはそうもいかないぞ…どうやら、アレイスターが直々にお前を指名したらしい」
「…なに?」
「アレイスターが直接関わってくるほどだ。学園都市の重要な機密に関わっている可能性がある」

確かに、それならばやる価値はある。
何としても、自由を手にするために。

「グループの他のメンバーにも今回の件は極秘だ。その為にわざわざこんな所までお前を呼び出した」
「こんな夜中になァ。しかも、都合よくテレビまである所を見ると、早速突入しろってことか」
「そういうことだ…そろそろ0時だ。頼んだぞ」

今回の仕事をか、自由になる為の情報なのか、行方不明者の事なのか、一方通行にはわからなかった。
ノイズを映していたテレビ画面が変化し始める。
一方通行は画面を確認もせず、テレビの中へと入っていった。

一方通行がマヨナカテレビへと侵入して行った跡、土御門元春はテレビ画面を見つめていた。
そこに映し出されるのは、一人の少年。
土御門の級友でもある少年の姿を見ると、もう一度小さく呟いた。

「…頼んだぞ」

「本当に見える…」
「だからそう言ってるクマ!クマはウソつかないクマよ!」

マヨナカテレビの中、霧の立ち込める花畑。
クマから渡された眼鏡をかけた御坂美琴は、途端に開けた視界に驚きの声を上げた。
クマの中身が無かったことに激しく驚いた美琴だったが、なんとか気を取り直してクマと話すうちに、いくつかの情報を手に入れる事が出来た。

ここは本当にテレビの中の世界だという事。
クマは気付いた時にはここに住んでいた事。
何人かが美琴より前にここへ来ている事。

先程見た少年の事を尋ねたが、クマは姿を見ていないようだった。
それとこの現象の原因についても尋ねてみたのだが、
「以前もこういう事があったクマ!でもその時のクマと今のクマは違うクマ!だからよく分からないクマ!」
という、何だかよく分からない回答をされてしまったのだった。

「さてと…マヨナカテレビに映ってたってことは、黒子もこっちにいるのよね?」
「そうクマ!きっと助けを待っているに違いないクマ!助けに行くクマ!」

美琴は静かに笑う。
その目は、怒りに燃えていた。

「…違うわよ。あんなモンをテレビに映した罰を与えにいくのよっ!」

そう叫ぶと同時にふと考える。
レベル4、大能力者である彼女が、果たしてピンチになっているのだろうか。
よっぽどの事態でない限り、黒子がピンチに陥るとは思えなかった。

「ミサカなにしてるクマ!置いて行くクマよ!」
「アンタいきなり呼び捨て!?『御坂さん』でしょーが!」
「ミサカだってクマのこと呼び捨てクマよ!」

二人はぎゃーぎゃー喚きながら花畑の奥へと進んで行った。

色とりどりの花畑だったが、奇妙な点が一つあった。
花壇に植えられた花の全てが百合なのだ。

「なんで百合ばっかり…ハァ」
「クマには難しい事はさっぱりクマ」

そんな事を話しながら歩いていると、突如目の前に人が現れた。
白井黒子だ。どうやら無事だったらしい。

「オネーサマ!」
「黒子!あんたね…きゃっ!」

美琴の言葉は、突如黒子が抱き付いてきたために途中で遮られた。
そのまま、黒子に押し倒される美琴。
よく見ると、黒子は黒い下着以外何も身に着けていない。

「あ、あんた、何考えて…」

黒子は美琴の言葉に応えず、美琴のブラウスのボタンに手をかける。
いいかげんおふざけが過ぎている。カチンときた美琴は電撃を白井黒子へと放った。

しかし、電撃を食らっても黒子は全く止まらない。
一体どうして。
その時、花壇の影から出てきた何者かが美琴に馬乗りになる黒子を突き飛ばした。

「お姉さま!」

信じられないことにその人物は――――白井黒子。
どういう事だ…黒子が、二人?

「黒子、アンタ…え?え?」
「気を付けるクマ!あれはシャドウだクマ!」

花壇の隅でブルブル震えているクマが指差す方向に、突然の事態に困惑しながらも振り向く美琴。
そこには先程の下着姿の黒子が、ニヤニヤと笑いながら立っていた。

「お姉さま、お気を確かに!あれは黒子の偽者ですの!」
「おやおや、偽者とは心外ですわ」

険しい顔をして身構える黒子に、下着姿の黒子――――シャドウ黒子が反論する。

「お黙りなさい偽者!一体何が目的で…」
「偽者ではないと言っているでしょう?私は貴女。貴女は私。正真正銘、常盤台中学に通う白井黒子でしてよ」

「…くだらない。それに、私に断りなくお姉さまに手を出そうとした罪…万死に値しますのよ」
「怒るとこ、ソコじゃないでしょ…」

シャドウ黒子は、先程より下劣な笑顔を浮かべている。

「オネーサマオネーサマオネーサマ……ほんっとくだらない」

「い、いきなり何を…」
「貴女、本当にオネーサマが振り向いてくれると思って?」
「っ…!」
「本当はわかっているのでしょう?オネーサマ…その女には、貴女よりももっと好きな殿方がいるんですのよ?」
「いっ!いきなり何言って…」
「うるさいうるさいうるさい!」

美琴は口を開きかけたが、いつもと違い余裕の感じられない黒子の叫びに遮られる。

「それなのにいつまで経ってもオネーサマの後を追っかけて。貴女、恥ずかしくないんですの?」
「……」

黒子は、青ざめた顔で立ち尽くしている。
そこへ、さらなるシャドウ黒子の言葉が、黒子を襲う。

「大体…貴女、本当にオネーサマの事が好きなんですの?」

その瞬間、空間転移した黒子はシャドウ黒子へ殴りかかっていた。

しかし、拳は空を切るだけだった。
黒子と同じく空間移動したシャドウ黒子は、既にその場所から3m程移動した地点に立っていた。
かわされたことでバランスを崩し、地面に這いつくばる黒子。
そこへ更にシャドウ黒子が言葉を浴びせる。

「私は貴女、ですのよ。当たるワケがありませんの」
「くっ…!」
「オネーサマ…レベル5と並び立つのは、かなりの優越感を感じますものねぇ?」
「……」
「『他のヤツとは違う!超電磁砲に付き従う私チョー素敵!』って感じ?」
「……」
「もういい加減認めてしまったらいかが?『貴女は私です』って。貴女の事は何でも知ってますのよ」

黒子はへたりこんだまま俯いていて、表情を窺うことはできない。
美琴は黒子に何と言葉をかけていいかわからなかった。

「く、黒子…」
「…がう」
「だ、ダメだクマー!」

黒子の異変を感じ、クマが飛び出してくる。
しかし、なおも黒子の言葉は止まらない。

「貴女は私ではありませんの!さっさと消えて下さいまし!」
「…ありがとう」

シャドウ黒子は、これ以上無い程劣悪な笑みを浮かべた。

次の瞬間、シャドウ黒子の周囲に霧が集まって行く。

「遅かったクマ…」
「ちょっとクマ、どういう事なの!?」
「シャドウは己を否定されると、周囲のシャドウを取り込んで暴走するクマよ!そして…否定した本人を殺してしまうクマ」
「アンタこんなのいるって先に説明しなさいよね!?」

美琴は床に臥せった黒子に駈け寄る。どうやら気絶しているらしい。
シャドウ黒子の周囲に集まった霧は、徐々に形を変えていく。
長く棘々しい四肢。針金のような胴体。爛々と輝く赤い眼。
その姿は、まさしく異形の怪物だった。

「何よコレ…ちょっとクマ!アンタどうにかし…」
「無理クマー!怖いクマー!」

泣き叫び逃げ惑うクマの姿に、ガックリと肩を落とす美琴。

「やっぱり、私がやるしかないか…!」

美琴はそう呟くと、ポケットからゲームセンターのコインを取り出した。

ゆっくりと近付いて来るシャドウ黒子へ向けて、右手を構えた。
美琴の全身からバチバチと電気が放出される。
次の瞬間、音素を超えるスピードでコインが射出された。
レールガン。
学園都市最高のレベル5、その第三位である御坂美琴の異名であり必殺の攻撃。
不可避の弾丸がシャドウ黒子へと激突し、見事打ち倒した…ように見えた。

「嘘…でしょ…?」

シャドウ黒子には、傷の一つたりともついていなかった。
何事も無かったかのように向かってくるシャドウ黒子。
ついに美琴の眼前へと到達すると…右腕を振り上げた。
左から迫り来るシャドウの攻撃。
美琴は薙ぎ払われた腕に吹き飛ばされる。

「がっ…!がはっ!」

吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられる美琴。
その攻撃は、一撃で美琴の意識を朦朧とさせる。

(や…ば…く、黒子…)

必死に起き上がろうとするが、身体が動かない。
シャドウ黒子は、気絶した黒子へと狙いを定めている。
振り上げられたシャドウ黒子の右腕。
その右腕が黒子の命を奪う一撃を放とうとした時、御坂美琴は意識を失った。


…何だろう、とても暗い。
自分は死んでしまったのだろうか。
情けない、後輩1人守れないとは。
こんな時に使えないとは、一体何の為の能力か。

「おやおや、久しぶりの御客人ですな」

美琴は目を開いた。

「しかも、女性の御客人とは。これは本当に珍しい…」
「…目を覚まされたようですね」

目の前には、鼻の長い老人が座っていた。
同時に自分が、車の中にいる事に気づく。
青い内装で統一された車内は、やけに静謐な空気で満たされていた。
ここは一体…どこ?

「ここは夢と現実、意識と無意識の狭間…とでも申しましょうか。」

何なのよソレ、と口を開こうとしたが言葉が出ない。

「御心配なされるな。言葉にしなくても、私たちにはわかります。ところで、貴女様はいま重大な危機に直面してらっしゃるようだ」

!その通りだ…!早く、黒子を助けなくては!

「御安心下され。ここでは時間など関係ありませぬ。…それより、私達は貴女様の御手伝いをさせて頂くためにここにいるのです」

手伝い?それはどういう…?

「貴女様の中にある、無数の可能性…それを扱う御手伝い、で御座います。」

「…『ペルソナ』とでも申しましょうか。その力を貴女様に…おや?」
「まぁ…」
「あら…」

次は何だ?左右に座っていた女達も驚いた顔をしている。

「これは…何とも面白い…。失礼、貴女は既に自分の中の一つの可能性を手にしていらっしゃる」

可能性…。もしかして、『自分だけの現実』のこと?

「もしかしたら…貴女もまた、『ワイルド』となり得るやもしれません」

ワイルド?

「いや、今は止しましょう。それより早くお戻りになった方がいい。この力でご友人をお救い下され」

わかった。
ところで、貴方達の名前って…

「私めはイゴール。こちらの二人は、私の助手といったところですかな」
「マーガレットで御座います。以後お見知りおきを」
「…エリザベスで御座います。御健闘をお祈り致します」

美琴は目を開き、立ち上がる。
そこには先程と同じ光景。
不思議と、やり方は理解していた。
静かな、しかし力強い声で呟く。

ペルソナ。

その瞬間。
頭の中でパリン、という音がした。
頭の中を白く柔らかな光が通り抜ける感覚。
美琴の身体を光が包む。
自分の身体から抜け出すように…『ペルソナ』は出現した。
純白の甲冑姿に、二等辺三角形に似た、太く長大な楯を持つペルソナは美琴と見つめ合う。

「我は汝…汝は我。我は汝の心の海より出でしもの…」

ペルソナは美琴にそう告げると、シャドウ黒子へと向き直る。
おもむろにシャドウへと楯の先端を向け、構える。
シャドウはこちらへと気付いたのか、黒子から放れて此方へと突進してくる。
距離はおよそ10m。
ペルソナの持つ楯…それは楯というだけではなかった。
突如として電光を放つペルソナの楯。
次の瞬間、楯の先から雷を纏った弾丸が射出された。
弾丸は一瞬にしてシャドウに着弾し、上半誌を丸々吹き飛ばした。

敵を屠った事を確認し、ペルソナは姿を霧散させた。

「我はユーピテル…我が雷撃、そなたの守るモノの為に振るおう…」

ペルソナの声が頭に響く。
よろしく、と小さく呟くと、美琴は黒子へと駆け寄った。

「黒子!!大丈夫!?」
「お…お姉さま…私…!!」

黒子が目を覚まして美琴はほっと胸を撫で下ろす。
が、黒子の視線の先にあるモノを見て息を呑んだ。
そこには、元の姿に戻ったシャドウ黒子が立っていた。
シャドウ黒子は何も言わず、じっとこちらを見つめている。

「黒子下がって!!私が…!!」
「お姉さま、お待ち下さい…」

そう言うと黒子はよろよろと立ち上がり、シャドウの前に立つ。

「……」
「貴女は…」

シャドウ黒子はじっと黒子を見つめている。
先程のように、黒子を罵倒する気はないようだ。

「そのシャドウは黒子ちゃんの心の一部クマー…。例え自分の嫌いな部分でも、認めてあげなきゃかわいそうクマよ…」

いつのまにか、美琴の隣にクマが立っていた。
…この野郎、いつの間に。

「そうですわね…。お姉さまと居る事に優越感を感じる…そういった汚い感情も持ち合わせている事を、私は認めますの」

黒子はシャドウを見つめたまま、続ける。

「それでも、私はお姉さまをお慕い上げ続けますの。振り向いて下さらなくても…お姉さまは尊敬に値するお方だという事は何ら変わりませんわ」

黒子はシャドウにほほ笑みかける。

「それに、隣に立つ事で他人に優越感を感じられないようでは、本当に尊敬しているとは思えませんの。だから認めますわ…貴女は、私ですのよ」

その言葉を聞くと、シャドウ黒子は満足そうに頷いて消えていった。
直後黒子の身体を光りが包む。
自身が立つ理由を得、黒子のシャドウがペルソナへと変化したのだ。

黒子は『並び立つ者』、ラウ二を心に宿した。

「なんですの…?いえ、これは…そう」

黒子は納得したように一人頷くと、美琴達へと振り返る。

「お姉さま。黒子は何時までも隣に立ち続けますわ…誰にも譲る気はありませんの」
「アンタは…まぁ、いいわ。ついてらっしゃい?」

ふふっ、と笑い合う二人。
そこにクマが割り込んできた。

「すごいクマー!あんなシャドウを倒すなんて…これからはアネサンと呼ぶクマ!」
「なんですの、この着ぐるみ…。大体、お姉さまに大して馴れ馴れしいんですのよ!」

美琴は、やれやれと溜め息を吐いた。

元ネタわからんけどペルソナっていうのはスタンドみたいなもんなの??

>>110
見事にその通りです。


少年は、霧の中を走っている。

学園都市でマヨナカテレビの噂が流れ始めた時、少年は自分の耳を疑った。
始めは「そっとしておこう」などと考えていたが…転校先のクラスメイトが噂を聞いた後、行方不明になった。
あの町で起きたようなコトが、この街でも起きるかもしれない。
そう思ったその日には、マヨナカテレビの中へ飛び込んでいた。
少年が中で出会った人は全員救助できたのだが、これでは根本的な解決にならない。
早く、アイツを探さなくては。

そういえば、テレビの中で出会った中学生くらいの少女は無事だろうかと少年は考える。
ペルソナ使いの雰囲気を感じたので、大丈夫だろうと放置してしまったのだが…。
しかし、ここでクマと似たものを見るとは思わなかったな、と少年は苦笑する。
あの子もまた、自分が旅したクマ同様に、自己について悩んでいるのだろうか。
懐かしい、仲間たちとの冒険。
しかしハッキリと思い出す前に、頭から消し去る。
やはり、あのクマ2号を見ると仲間を連想してしまう。
また彼等を危険に晒すわけにはいかない。
ただでさえ、学園都市は黒い噂が多過ぎる。
今回は、自分だけで。
だから、なるべくクマ2号には出会わないようにしよう。


そう結論づけ、少年は霧の向こうへと消えていく。

一方通行は霧の中を歩いていた。
彼が最初に降り立ったのは、霧の立ち込める駅のホームだった。
どうやら、ミサカネットワークはマヨナカテレビ内でも有効らしかった。

(まァ、そこら辺は俺が入る前に実証済みなンだろォが…)

松葉杖をつきながら、悠然と進む一方通行。
先程から攻撃を受けるどころか、人っ子一人見つからなかった。

(何だァ?捜索隊が全滅したってェから、もっと罠満載でお出迎えだと思ったンだが)

あまりの肩透かしっぷりに若干イラつく一方通行。
その時、彼の耳に少女の叫び声が聴こえてきた。

どうやら、目の前の角を曲がった先の改札口が声の発生源のようだ。
声の主まで一直線に向かう為、スイッチを入れようとしたその時。
曲がり角から少女が突っ込んできた。
激突し、盛大にすっ転ぶ一方通行と少女。

「…なンだってんだァ?」
「あわわ…!す、すいません!」
「ういはるー、諦めてパンツを…って、あれ?」

一方通行の前に現れたのは、二人の少女だった。
二人とも同じ制服を着ていることから、恐らく同級生だろう。
二人とも緊張感のカケラもない顔をしており、一人に至っては頭から花が生えている。

「あの、大丈夫ですかぁ?すいません、この子ほんとドジで…」
「さっ、佐天さんがスカートめくろうとするからです!」

二人のあまりの危機感のなさに、軽い目眩を覚えを覚える一方通行であった。

ちょっと休憩…
即興で書いてるので投下遅くてすまん
大筋はなんとなく考えてあるんで、まぁ見守っておくれ
細かい設定は多目に見ろ頼む

「…てェことは、二人とも誰かに突き落とされたってワケか…」
「残念ながら、犯人の顔は見れませんでしたけどね」
「二人とも画面に夢中でしたから…」

二人に話を聞いた一方通行は、溜め息を吐いた。
せっかく行方不明者に会えたというのに、手がかりは未だにゼロ。
これから先どうしたものか。

「で、お前ら帰り方知ってンのかよ?ガキはさっさと帰って寝てろ」
「た、たぶん帰る時は、この世界にあるテレビに良いんだと思います。あちこちにやたらデフォルメされたテレビが置いてあるんですっ」
「ほォ…って、お前ら…」

得意気に語る頭花畑女、たしか初春だとかいう名前だ…の言葉を聞いて、一方通行の頭に一つの疑問が浮かぶ。

(コイツらの言ってる事が本当ォだとして、そんな簡単に出口が見つかるンなら…なンで捜索隊は全滅してやがるンだァ…?)

その疑問を口にしようとした時、もう一人の少女ーー佐天涙子が興味深い言葉を発した。

「あー、でも危ないですよ?お兄さん一人より、三人で言った方が安全ですって」
「…ハッ、ご忠告アリガトウ」
「もー、本当なんですって!」

まさか自分が心配されるとは。
学園都市最強の能力者が、中学生の少女二人に。
なかなかに貴重な経験だが、やはり足手纏いは足手纏いだ。
事実、ここでも反射能力が使用出来る事を一方通行は確認済みだ。
一方通行の周囲には、霧がかかっていない。
出来るならばもっと広範囲で霧を晴らしたいのだが、どうやらマヨナカテレビ内部は激しく変動しているらしく演算が不可能だった。
もしかしたら、常に内部構造が変化している可能性もある。
それで結局、自分の周囲の霧だけが反射されているというわけだ。

そんなワケで二人をとっとと元の世界へ帰してしまいたいのだが…。

「私と初春がいれば無敵だよ!」
「もう、佐天さんったら!油断大敵ですっ!」

付いて来る気マンマンの二人だった。

引きずってでも出口に連れて行こうと一方通行が決意した直後、彼の目に霧の中を動く巨大な影が映った。
しばらくすると、影の全体が見えてきた。

(なんだァ、こりゃあ…!?)

風船のように膨らんだ巨大な胴体。そこにくっついている、舞踏会で着用するような仮面。
明らかに、異常な存在。

(学園都市の生体兵器かァ…?だが、それにしちゃあ…)

それは、生物と呼ぶにはあまりに色んな物が足りな過ぎていた。

「きゃぁっ!で、出ましたよ佐天さんっ!」
「馬鹿野郎ォが!どっかに隠れてろ!」

一方通行は、敵の眼前に立つと電極プラグのスイッチに手をかける。
これから先もこんなやつらに出遭うのならば、なるべく奥の手は温存しておきたいのだが…。

捜索隊全滅を外の人間が知ってるのは、テレビの中を外から見られるから?

さて

>>159
マヨナカテレビの中で死んだ場合、死体は現実に戻ってくるのよ

>>1はインフルエンザにかかった!


バチン!とスイッチを入れ、松葉杖を収納させる。
迫り来る化け物。しかし、一方通行は動かない。
そして、長い尻尾(頭頂部から生えているので尻尾と呼べるかわからないのだが)が一方通行へと振り下ろされる。
その攻撃は、届くはずではなかった。
一方通行の身体に触れた瞬間、ベクトルを変換された尻尾は化け物自身へと襲い掛かるはず…だった。

(なン…だとォ!?)

しかし尻尾は一方通行の身体へと直撃し、彼は数mも吹き飛ばされてしまった。
壁へと激突する一方通行。

(なンだってベクトルの操作が出来ねェンだァ…!?ただの物理攻撃じゃあねェのか…!)

なんとか態勢を建て直した一方通行は、手近にあったベンチを摑み怪物へと弾き飛ばそうとする。
が、しかし。

「…あァ…!?」

ベンチはビクともしない。
何故。
どうしてベクトル変換ができないのだ。

一方通行へと近付いてくる、風船のような怪物。
マズい。このままでは…!
無理を承知でもう一度突っ込もうとしたその時。

「「ペルソナーっ!!」」

背後からの暴風に襲われ、よろめく一方通行。
顔を上げたとき、既に化け物は力を失い消え去る寸前だった。

(あァ!?なンなンだよ、一体…!)

一方通行は怪物を消滅させた風の出どころへと振り向く。
そこには、二人の少女が笑顔で立っていた。

「だから言ったじゃないですか。1人じゃ危ないですって」
「い、一緒に行きましょうっ!」

学園都市最強の能力者である一方通行ですら倒せなかったバケモノを、事も無げに倒した中学生の少女二人。

(…ほンと、一体全体どォなってやがる)

確かにインフルはやばい

ここはまだ>>1の命を掛けるステージではない
出直してくるんだな

学園都市の一角、窓のないビル内部。
中央に取り付けられた円筒形の水槽に、一人の人物が逆さに浮いていた。

「『幻想殺し』に『一方通行』…これでプランを更に短縮する事が出来そうだ」
「いいのか?全員くたばるかもしれないが」

そう告げるのは、全身を黒に包んだ男。
水槽に浮かぶ人物----アレイスターを見ながら告げる。

「うちの学生達はそうか弱くできてはいないさ。それにしても…お互い、直接関わることが出来ないとは、難儀なものだな『這い寄る渾沌』」
「俺達は人間の選択に従うだけだ。勿論ちょっかいは出させてもらうが…」
「構わない。人間の普遍的無意識が生み出した街で、彼等はどう動くのか。その結果によっては、ヒューズ=カザキリはより強固なモノへとなるだろう」

アレイスターは目を閉じたまま静かに微笑む。
その表情から『這い寄る渾沌』と呼ばれた男は、彼の年齢も性別も特定する事は出来なかった。

「さて…AIM拡散力場によって形成された街で、『幻想殺し』と『一方通行』はどんな戦いを見せてくれるのか」

それと同時に、一つの不確定要素を思い出す。
学ランを身に纏い、一人戦い続ける少年。

「(…あるいは、彼こそがレベル6シフトの鍵を握っているのかもな)」

その呟きは、誰にも聞かれる事はなかった。

>>195
ちょっとぐらい長いプロローグで、簡単に諦めてんじゃねーよ!

みんなご心配ありがとう
取り合えず行けるトコまで頑張る

ダメだ、倒れそう

このまま落としてくれ
体調が戻ったらまた建てる

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