三船美優「耳かきはいかがですか?」 (31)
モバマス
地の文
Pが美優さんに耳かきしてもらうだけのSS
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今日も今日とて残業地獄。時計を見たらもう午後11時を回ってる。大きな伸びをした後にため息一つ。
関節がパキポキいい音を立てる。無論、仕事が多いのは喜ぶべきだが、どうしても疲れは溜まってしまう。
ちひろさんからもらったスタドリの効力はとうに尽きてしまった。
「今日はこの辺でいいか」
孤独なつぶやきが、薄暗い事務所にむなしく響く。
「鍵はどこだったかな、えーっと……」
ちひろさんから預かった鍵を探すも、書類の山に紛れてしまったのかなかなか見つからない。
コンコン
ノックの音が聞こえた。こんな時間に誰だろうか。しかしノックをするということは、少なくとも
こそ泥ではなかろう。よしんば不審者であっても、人がいることをアピールした方がいいはずだ。
そう考えた俺は、あとワンプッシュで通報できるように携帯を準備してから
「はい、開いてますよ」
と声を張り上げた。
ガチャ
静かにドアを開けて入ってきたのは、俺にとって少し意外な人物だった。
「すみません、こんな時間に……お仕事の邪魔ですよね?」
と申し訳なさそうな顔で頭を下げるのは三船美優さん。
「いえいえ、ちょうど終えようと思ってたところなので、いいタイミングでしたよ。
ところで、三船さんはどうしてここに?」
「……忘れ物です。明日でも……いいかなと思ったのですが、
大事なものなので不安になってしまって……」
「そうですか。でもあと10分遅かったら施錠してましたよ。あと、アイドルが夜遅くに
一人歩きするのは感心しません。ですから、次からはどんなに些細なことでも俺に連絡してくださいね」
「ごめんなさい……。私……Pさんに迷惑……かけてしまいましたね」
「いえいえ、迷惑だなんて。三船さんに無駄足を踏ませたくないだけですから。
それに、やっぱり夜は物騒ですからね。忘れ物くらいなら俺が届けますよ。で、忘れ物はどちらに?」
「あ、はい……多分、ここに……」
三船さんは、靴を脱いで仮眠室に入って行った。後に付いていく。
「ありました……。これです」
仮眠室は和室のようになっていて、畳も敷いてある。隅には布団、中央にはちゃぶ台。
そのちゃぶ台の上にある小さなポーチが、三船さんの探していた物のようだ。
「見つかってよかったですね」
「はい、それに……Pさんがいてくれて……よかったです」
「いえいえ、そんな。俺は何もしていませんよ」
実際、俺がいたのは単なる偶然で、特に何かしたわけではない。三船さんは俺の顔をじっと見つめている。
「そんな……Pさんがいなかったら……私、困っていました。ですから……その……
お礼ということで……耳かきはいかがですか?」
耳かき? 俺は首をかしげた。三船さんは、件の忘れ物のポーチを開け、俺に細長い棒を見せた。
「これです。失礼ですが……Pさんは、あまり耳の手入れをしていないみたいです。
……そんな時間も惜しいくらい……お仕事に精を出しているんですね。
ですから……今夜くらいは少し休みませんか?」
「えっ、き、急にそんなこと言われても……」
戸惑う俺に構わず、三船さんはなにやら準備を進めている。ほのかな香りが仮眠室に漂ってきた。
見ると、火の点いたアロマキャンドルがいつの間にかちゃぶ台の上に載っている。
「Pさんも知っていると思いますが……ラベンダーの香りです。リラックス効果があります。……さあ、どうぞ」
薄暗い部屋で、正座している三船さんがひざを軽くぽんぽんと叩く。魅力的な誘惑だった。
気づいたら、靴を脱ぎ捨て、仮眠室に上がりこみ、女神の枕に頭を載せていた。
温かい。ほどよい弾力。俺の重たい頭を天国の感触が優しく、本当に優しく受け止めてくれた。
「ふふっ……それでは、始めますね」
三船さんは穏やかに言いながら、ポーチからまた何かを取り出している。
「まずはウエットティッシュで……耳を拭きます」
ウッ……冷たい感触が右耳に来た。そのまま、三船さんは、耳の複雑な形に合わせて指を滑らせ、やさしく拭き取っている。
何度も何度も繰り返し、三船さんの指がウエットティッシュ越しに耳をなでる感触が、えもいわれぬ気持ちよさを生み出す。
スーッ、スーッ。サッサッ。
「知っていますか? 耳は人体の縮図と……言われているんですよ。ほら……形がうずくまった胎児に……
似ていますよね。だから……耳は大切にしないと……いけないんです」
ある程度拭いた所でやや力を入れる。
きゅっきゅっ。
かすかに薄荷の香りがした。清涼感が心地いい。
「お風呂に入ったときでも……意外と洗うのを忘れがちなのが……耳の裏です」
ぐにぐにと強めに拭く。ここちよい。そういえば、そんなところを洗ったことは無かったかもしれないな。
「はい……耳の外側はこのくらいでいいでしょう」
三船さんはポーチからまた何か取り出して、俺に見せてくれた。
「粘着綿棒です。まずはこれで耳垢をくっつけて……できるだけ取ります」
綿棒が、俺の右耳にそっと入ってきた。といっても、本当に先っちょだけなのだろう。
耳の穴のふちにわずかに触れた感触がしただけだ。
ぺとぺとぺと。
綿棒を取り替える。穴の入り口にくっつけては離し、くっつけては離し。
ぺとぺとぺと
また綿棒を取り替える。ちょっとずつ深く入ってくるようになった。
ぺとぺとぺと
またまた綿棒を取り替える。不安になってきて尋ねた。
「そんなに耳垢がありますか?」
「答えにくいのですが……はい。目立つのはだいたい取れましたが……まだあるので……
ここからは耳かきで取ります。痛かったら……すぐに言ってくださいね」
三船さんはポーチから取り出した耳かき棒を見せてくれた。さっきのものだ。
「煤竹(すすたけ)で出来た……薄くて細いことで有名な耳かきです。職人さんが手作りしているそうです。
煤竹というのは……田舎の古いおうちの天井で……何百年も囲炉裏の煙で燻された竹で……
とてもいい弾力の高級素材です」
「三船さん、詳しいですね」
「いえ……この耳かきの説明に書いてあったことの……受け売りです。では……」
ゆっくりと、慎重にかつ確実な手つきで、耳かき棒が入ってきた。
ごく優しく……ということは、もどかしいのだが、耳の穴の中をなでる。
すーっ、すーっ。ぷちぷち。すーっ、すーっ。ぷちぷち
ぷちぷちというよく分からない感触。
「なんかぷちぷちという音というか、感触がしますね。それで、段々と耳がかゆくなってきました」
「あっ……耳毛に触れているからだと……思います」
「えっ、俺そんなに耳毛生えてますか?」
「……はい」
うわあ、ちょっと恥ずかしい。でも三船さんは構わず、少しずつさじの向きを時計回りに変えながら
耳かき棒を穴の外から中へ、中から外へと滑らせる。絶妙な力加減で初めて味わう快感だった。
つーっ、つーっ。ぷちぷちさわさわ。つーっつーっ。ぷちぷちさわさわ。
耳毛に触れるたびにかゆみが増していく。うう……。軽いうめき声が漏れてしまった。あまりの気持ちよさで
口がだらしなく開いていることにも気づいた。天にも昇りそうな心地とはこのことか。
つーっ、つーっ。ぷちぷちさわさわ。つーっつーっ。ぷちぷちさわさわ。つーっ、つー……こりっ!
滑らかに出し入れを繰り返していた耳かき棒が何かに引っかかった。三船さんも、指先でそれを感じたらしい。
「大きめの耳垢が……くっついているみたいです。取りますから……痛かったら本当に言ってくださいね」
三船さんは、へばりついている耳垢に狙いを定め、優しくも確実に掻き始めた。
かりっ……こりっ……かりっ……こりっ……かりっ……。
こりっ……かりっ……こりっ……かりっ……こりっ……。
なかなか手ごわい相手のようだ。1回掻かれるごとに、こそばゆい感覚が耳に伝わる。
ちょっとずつ、ちょっとずつ耐え難いむずかゆさが耳から延髄、延髄から脊髓を通って
末梢神経へと伝播し蓄積されてくると、なんだか足の指先までむずむずが達したように錯覚する。
隔靴掻痒。耳への優しい刺激が、これほどまでにもどかしい気持ちよさを生み出すとは。
「むぅ~」
三船さんの声が漏れる。かわいい。耳垢取りに集中するあまり、本人も意識していないのだろう。
三船さんの手は美しく優しく動きつづける。
かりっ……かりっ……かりっ……かりっ……ぺりっ……。
!? 今までと違う感じ。何か少しはがれたようだ。と同時に非常に強い痛痒感が生じた。痛みが1で痒みが9くらいの割合。
「Pさん……危ないですから……絶対に動かないでくださいね」
いつに無く真剣な声だ。唇さえも動かさないように気をつけながら「はい」と低い声で答えた。
はがれかけた耳垢の隙間に、耳かき棒の先端が入り込む。
ぐっぐっ
……ぺり……ぺり……べりべりべり……ぺり…………ベリッ!
「んあっ」
あまりの快感にあらぬ声が出てしまった。耳垢がはがれた瞬間、ぴっというするどい感触。
急激に痒みがおさまり、快楽へと転換されていく。頭の中に花火が上がり、そのまま真っ白になった。
「……はがれました。取り出します。まだ動かないでくださいね……落としたら大変ですから」
三船さんは、ふぅーと長く細い息をはきながら、ゆっくりゆっくりと耳かきを動かす。
…………ごそ…………ばさ…………がさっ
ごそごそという音とともに、やっと耳の外に出てきた。とてつもない開放感。頭まで軽くなったようだ。
「取れました……ふふっ」
この位置からでは見えないが、きっと三船さんはいい笑顔をしていることだろう。
「見ますか?」
俺は、「はい」と返事し、ティッシュに載せられたそれを目の当たりにした。
「なんだこれ!?」
生まれて初めて見るサイズだった。例えるなら、フリ○クの粒を押しつぶして薄くしたような。
耳毛とおぼしき毛も巻き込んでいる。こんなものが今まで耳の中にあったのか……。
「三船さん、どうもありがとうございます。すごくすっきりしました」
「あっ、まだ起き上がらないでください。……最後に仕上げをします」
「そうでしたか。お願いします」
女神の膝は名残惜しかったので、正直嬉しかった。でも仕上げって何をするんだろう?
三船さんはまたポーチから何かをとりだした。
「……ベビー綿棒です。普通の綿棒だと……太過ぎるので。これに耳用ローションをつけて拭きます」
爪楊枝よりも細い、個包装になっている綿棒と、小さい瓶に入ったローションを見せてくれた。
「残っている細かい耳垢を取るのと……消毒のためです。……始めます」
そっと入ってきたけど、ひやりとした未知の感触に、つい体がこわばってしまう。
しかし、慣れてくるとこれがすこぶる気持ちいいことに気づいた。知らない間にリラックスし、体から力が抜けていく。
耳の中は、最初は冷たいけど、少しずつ温かくなってきた。しばらく経つとまたひんやりすーすーとしてくる。爽やかだ。
「これ、いいですね。まさに耳をきれいにしてもらってるっていう感じがします。
それにしても耳用のローションがあるなんて知りませんでしたよ」
「昔……ある床屋さんが作ったのを……商品化したものだそうです」
三船さんは話しながらも、指先を巧みに使って耳をきれいにしてくれている。
ところが、綿棒の先端があるところに触れたとたん、背筋に快感がはしり、びくっと反応してしまった。
それに気づいた三船さんは、その気持ちいい部分をたまに刺激してくる。
そのたびに首と肩が、意識に反してぴくぴく動いてしまう。ちょっと遊ばれているのかも。でも綿棒には勝てなかったよ……。
「はい……おしまいです。……お疲れ様でした」
三船さんの声が聞こえるも、快感のあまり、しばらくぼーっとしていた。ふわぁ……みみかき……おわりー?
――はっ!? 意識を取り戻す。危ない危ない。相当にしまりの無い顔だったに違いない。
「いいですから……気にしないでください」
三船さんが言う。そもそも、今の俺には性的な気分は一切無い。
そういうものとは全く異なる快感の余韻にひたっていたからだ。邪念など生じる余地が無い。
それに三船さんもそう言っていることだしと心の中で言い訳しながら素直に従う。これは……。
「はい……まずは、またウェットティッシュで……耳を拭きますね」
あっ、優しい匂いだ。疲労の蓄積した心と体を全て癒やすような、そんな優しい匂い。
担当しているアイドルたちよりもずっと幼かった頃の、過ぎ去った昔の記憶がよみがえる。
風通しのよい涼しい部屋で、微笑みながら耳かきをしてもらった遠い遠い日の思い出。母の膝。
とても幸せな、だが、かすかな追憶。知らぬ間に、目の端から涙がこぼれていた。
日々のつらいこと嫌なことを全て洗い流す温かい涙だ。
「いいんですよ……ゆっくり……おやすみなさい」
三船さんが優しくささやいた。その言葉に抗えず……抗う必要など、どこにあるのか。
意識は次第に夢の中へ……憩いの闇へ……。
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このSSまとめへのコメント
これまとめ損なってる
元スレみればわかるけど>>17、>>19、>>20が落丁してる