モバP「俺この仕事向いてないのかな……」 (140)

P「凛、これ明日の○×スタジオの仕事の資料だから……」スッ

凛「見とけばいいんでしょ」バッ

P「あ、ああ……あと内容を――」

凛「奈緒、加蓮、あっちで明日の仕事の資料見ようよ」スタスタ

加蓮「うん」スタスタ

奈緒「おー」スタスタ

ガチャッ……バタン

P(…………はあ)

ちひろ(プロデューサーさん……)ヒソヒソ

P「はは、まあアイドルたちも年頃の女の子ですしね……こんなもんでしょう」

ちひろ(随分と乾いた笑いを……)

P「まあ、プロデューサーがアイドルたちと仲良く出来ないっていうのは致命的だと思いますけどね」

P「たくさん仕事させてやれると、加蓮だって自分に自信を持てるようになるだろうし」

P「ニュージェネレーションとトライアドプリズムのリーダー兼任してる凛だってやりがいを感じてくれるだろうし」

P「奈緒も現場にどんどん慣れてくれているし、もっとみんなにはアイドルを楽しんでもらわないと」

ちひろ「はあ……まあ、プロデューサーさんがいいっていうなら私は別にいいんですが」

P「それに俺と仲良くしてくれなくても、仲間内で楽しくやってくれてるならいいんですよ」

P「さて……それじゃちょっと□△局まで行ってきますね。打ち合わせが入ってるので」

ちひろ「あ、はい、気をつけてくださいね」

P「いってきまーす!」ガチャッ……バタン



楓(…………)コソコソ

ちひろ「あれ、楓さん見かけないと思ったらソファで寝てたんですか……」

――夜、事務所

P(よしよし、来月のバラエティ番組だけど番組の最後のほうでNGとTPで歌わせてもらえるようになったしいい感じに話をもっていけたな)

P(今日中に構成決めて明日持っていかないとな……あれ、まだ事務所に明かりが?)


凛「プロデューサーってさ、ホント口煩いよね」

卯月「現場で実際に頑張ってるのって私たちなのにねー」

奈緒「あたしたちだって仕事できるようになってんのにな」

加蓮「毎日顔合わせるたびに『今日は調子どうだ?』とか『頑張れよ』とか一々声掛けてくるのイライラするんだよね」

未央「あははは!プロデューサーってもしかして加蓮にその気でもあるんじゃない?」

加蓮「え、やだそんなのキモすぎ。事務所これなくなっちゃうじゃん」

凛「アイドルに手出すとか犯罪じゃん。どうかしてるって」


アハハハナニソレヤダー


P(…………適当な場所で時間潰してから戻るか)

――レッスン場

ボイトレ「うーん……もういい時間ですし、今日はこれでおしまいにしましょうか」

楓「……お疲れ様でした」

ボイトレ「もうちょっと全体的にキリッと歌えるようになりましょうか」

楓「もう少し、頑張ります」シュン



楓「あら、プロデューサー……こんなところでどうしたんですか」

P「ああ楓さん、レッスンお疲れ様です。……ちょっと今日の打ち合わせ内容の整理をしようと思いまして」

楓「事務所でやらないんですか?」

P「ははは、事務所は他の娘たちがまだいたので……」ポリポリ

P(しまった、楓さん今日はレッスンだったな。わざわざこっちで仕事してるなんて変に思われるだろうか)

楓「そうですか」

P「あ、そ、そういえば!今日のレッスンはどうでしたか?」

楓「それが、あまり進んでなくて……」

P「ふむ、やっぱり初めてのCDですしね。大変でしょう?」

楓「いえ、プロデューサーのほうが毎日大変じゃないですか。一人でアイドル全員受け持ってますし」

P「俺はいいんですよ。これが仕事なんですから」

楓「でも……」

楓(プロデューサーの頑張りが全然みんなに評価されてない……)

P「そうだ、歌の話ですけど上手くいってない場所、俺が見ましょうか?」

楓「いいんですか?」

P「うちのアイドルが困ってるなら助けるのが俺の仕事ですよ!あ、それとももうお帰りですか?」

楓「ふふっ……いえ、ではお願いします」クスッ

P(楓さんはやっぱり大人だし落ち着いてるな……俺ともちゃんと話してくれるし)


楓「レッスンが上手くいかなくてれっすん先は闇……ふふふっ」ウキウキ

P(大人……うん、大人のはず……)

――深夜、事務所


P「とりあえずはこんな感じで、あとは先方と決めていくか」カタカタカタ

P「うーん……っと、もう0時過ぎてるか。今日も事務所で寝るかな」

P(そういえば、最後に休んだのっていつだろうか)カチッカチッ

P(勤務表、今月は土日も全部出てるな……先月と先々月も)カチカチ

P「4ヶ月前に半休取っただけか……もう着替えとかもめんどくさいから事務所の仮眠室に置いてるし、たまには家に帰っておかないとなあ」

P「残業代も働いた分全部出るわけじゃないし、全額出るならもうちょっと頑張れるんだがなあ」

P「はあ……まあ次のバラエティ番組は全国放送だし、歌枠も取らせてもらったしもう少し頑張るか!」

P「みんなだってせっかくユニット組んでるんだし歌わせてあげたいしな。仕事もまだまだ増えていい調子だし」



P「楓さんも……最近はあまりレッスンが捗ってないみたいだけど何とかしてあげれないものかなあ」

P(最初の頃に比べると仕事もできるようになってるし……まあ初めてのCDだしもう少し楓さんには付いててあげないとな)

P「俺がもう少し要領よく仕事できてたらなぁ……」ボソッ

――翌日

ちひろ「おはようございまーす」

P「おはようございます」

ちひろ「あ!Pさんもしかしてまた徹夜して事務所に泊まりましたね?」

P「ははは……」

ちひろ「ははは、じゃないですよ!Pさんここ半年くらい毎月の長残100時間以上付いてるんですから、たまには早く帰ってください!」

ガチャッ

凛奈緒加蓮「おはようございます」


ちひろ「長残ばっかりで、うちは残業代も全額出せないし体調管理はしっかりしてください!」

P「む、無理そうだったらちゃんと休みますので……」

凛「何ちひろさん、またプロデューサー徹夜だったの?」

まゆの存在すっかり忘れてた

いや、今回Coのメンバーしかいないからそもそも考えてなかったっていうか、うんごめん

ちひろ「あ、凛ちゃんおはよう。……そうね、仕事が残ってたみたいで」

凛「プロデューサーいつも残業してばっかりだね。要領悪いんじゃないの?」

加蓮「私には体調管理はしっかりやれって口煩く言ってるのにね」

P「め、面目ない……」

加蓮「私にいつもあーだーこーだ言う割りにそんなんじゃ全然説得力ないよね」

P「いやまあ、加蓮には体調管理には特に気をつけてほしくてな……」

加蓮「何それ」

凛「ま、どうでもいいや。荷物置いたら私たちレッスンいってくるから」

P「おう、頑張ってこいよ。気をつけていってこい」

凛「はいはい」スタスタ

楓「おはようございます」

Pちひろ「おはようございます」

楓(プロデューサー……寝癖がある)

楓「プロデューサー、昨日も徹夜でした?」

P「はは、まあ……」

楓「たまには息抜きも大事ですよ。今度飲みにでもいきましょう」

P「じ、時間のあるときならいつでも」

P(いつ時間ができるかは分からんが)


加蓮(うわっ……楓さんの顔見てニヤニヤしてる……キモ)ヒソヒソ

奈緒(鼻の下伸びてるよな、あれ)ヒソヒソ


P(はは……は……)

――それから数日後


トゥルルルルル

ちひろ「はい、CGプロダクションです」ガチャッ

楓「……」ボケー

ちひろ「はい、はい?……ええっ!?」

楓「?」

ちひろ「はい、わかりました、すぐそちらに向かいますので……失礼します」ガチャッ

楓「どうしたんですか?」

ちひろ「プロデューサーさん、現場の移動中に倒れて病院に運ばれたって……」

楓「……え?」

ちひろ「ちょっと私行ってきますね。楓さん、レッスン行くときは事務所の鍵閉めておいてください」ガチャッ

バタンッ……

楓(……プロデューサー)

――病院


P「すみません、忙しいのところ来て頂いて……」

ちひろ「まったく、だから働きすぎだってあれほど言ったじゃないですか」

P「まさか1週間入院することになるとは……」

ちひろ「いい機会ですから、ゆっくり休んでください。ここ最近有給どころか休日すら無かったんですから」

P「そうですね……あ、みんなにはとりあえず今のところ持ってる仕事だけやってくれって言っておいてください」

ちひろ「はいはい、こんなときまで仕事熱心なんですから……それじゃ私は戻りますね」

P「早く治して戻ってきますよ」

ガチャッ……バタン

P「……はあ、結局ちひろさんやみんなに迷惑掛けることになったか」

P「NGとTPは……今週はレギュラーのラジオ収録と現場の撮影くらいだしまあ大丈夫だろう」

P「楓さんはしばらくはレッスン漬けだし……」

P(レッスン……楓さん、歌は大丈夫かな……中々上手くいってないみたいだし」

P「こんな大事な時期に倒れるなんてなあ、やっぱり俺って全然ダメだな……仕事も片付いてないし」

P「やっぱり俺、この仕事向いてないのかな……」

凛「は?プロデューサーが倒れて入院?」

ちひろ「ええ、だからみんなには悪いけどしばらくは現場にも自分たちで行ってねって」

加蓮「残業ばっかやって結局ぶっ倒れるとかバカみたい」

卯月「けど、私たちだけでも仕事できるようになってるしプロデューサーさんいなくても全然大丈夫だよね!」

未央「仕事はいつもあるし、プロデューサーいなくても普段と何も変わんないんじゃない?」

ちひろ(その仕事を必死に取ってきてるのはプロデューサーさんなんだけど……)

奈緒「んじゃ早く現場行くか。今日は電車かあ……」

ちひろ「ごめんなさいね、私が送れるときは送ってあげるから……」

凛「ちひろさんが謝る必要なんてないよ。プロデューサーが倒れたのが悪いんだから」

ちひろ(はあ……この娘たちはまったく……)

ちひろ「はいっ、こちらCGプロ……はいっ、え、今日打ち合わせ!?」

ちひろ「申し訳ありません、Pですが本日から1週間ほど入院中でして……はい……はい、申し訳ありません」ガチャッ


ちひろ「はいCGプロダクションです……お世話になっております。はい……申し訳ありません、Pは今日から1週間ほど入院しておりまして……」

ちひろ「了解致しました。それでは明日そちらにお伺いしますので……はい、失礼致します」ガチャッ



ちひろ「あの人どんだけ仕事持ってきてたのよ……把握してなかった私も悪いけどこれよく一人で回してたわね……はあ」

ちひろ(こりゃあれだけ残業するはずよ……)

楓「おつかれさまです」ガチャッ


ちひろ「新しいプロデューサーでも雇おうかしら……」


楓「……!?」

ちひろ「電話多すぎよ……あ、楓さんお疲れ様です。レッスンどうでした?」

楓「え、まあ……それなりですけど、それより……」

ちひろ「プロデューサーさんがいなくなってホントもうしんどいですよ……現場の仕事全部あの人に任せてましたけど」

ちひろ「よくもまあ一人でこれだけ仕事持ってきて回してましたよ。報告書だけじゃなくてちゃんと進捗も聞いておくべきだったわ」ハァ

楓「ちひろさん、さっき新しいプロデューサーって……」

ちひろ「え?ああ、正直プロデューサーさん一人にアイドル全部お任せしてるのもやっぱり酷かと思いまして……」

ちひろ「楓さんのレッスンも最近よく見てくださってたみたいですけど、こう倒れることがこれからあるなら人増やそうかと」

楓(新しい人が増えたら、いまのプロデューサーは……)


ちひろ「ま、とりあえず1週間は何とかしてみますよ。帰ってきてからプロデューサーさんが泡食わないようにやっておかないと……はあ」

――××スタジオ

監督「はいオッケー。みんなお疲れ様」

凛奈緒加蓮「お疲れ様でした」

監督「そういえば今日はプロデューサーさんは来てないのかい?」

凛「なんか倒れて入院したみたいで」

監督「入院?そりゃまた……」

加蓮「すみません、ご迷惑お掛けしてしまいまして」ペコッ

監督「いやいや大丈夫だよ。ちょっと次のお仕事の話をしようと思っててね。まあ次の機会にでも」



奈緒「あーあ、次の仕事の話ってなんだったんだろうなあ」

加蓮「プロデューサーいないせいで仕事1つ取り逃ちゃったのかもしれないよね」

凛「ホント何やってんのって感じ。私たちの足引っ張って……」

奈緒「まあ明日はレギュラーのラジオ収録あるしさ、まだまだ仕事だってたくさんあるじゃん」

加蓮「そうだね。プロデューサーいなくても何とかなってるし、別にこのままいなくてもいいんじゃないかな」

凛「今日も私たちだけで十分やっていけてるしね」

――翌日、病院


P(仕事してないってこんなに暇なのか……)

P(今日はTPメンバーはラジオ収録か。卯月と未央は雑誌のインタビューだし、楓さんは今日はグラビア撮影だったか)

P「あーあ、来月のバラエティ番組の話してーなぁ……先方も結構期待してくれてるみたいだし」ゴロゴロ

P「やっぱり奈緒はいじられ役にして、凛と未央と加蓮で突っ込みか……卯月はまあ普通にこなしてくれるだろうし」

P「あー、費用の話もちゃんと出来てないんだよなあ。どうしたもんか」

コンコン

P「ん?はい」

楓「失礼します」ガチャ

P「あれ、楓さん?今日は撮影のはずじゃ……」

楓「もう終わりましたよ」

P「あれ、もう?いつもより早く終わってるような」

楓「なんですかそれ」プクー

P「え、ああいや、特に他意はないです、はい……」

楓「その、プロデューサーのお見舞いに来たかったので」

P「えっ、そんなわざわざ……忙しいのにありがとうございます」

P(その手に持ってる酒瓶は一体……)チラッ

楓「あ、これお見舞いの品です」

P「いやあんたこれ病人に渡すもんじゃないでしょう」

楓「…………」シュン

P(ああもう……!!)

P「た、退院したら一緒に飲みましょうか」

楓「早く退院しましょう、今すぐに」パアッ

P(自分が飲みたいだけか)

楓「えっと、大丈夫ですか?」

P「まあそれなりに……すみません、大事な時期に」

楓「いえいえ、プロデューサーは少しどころじゃなく働きすぎだったのでちょうどいいお休みになるかと」

P「ははは、ちひろさんにも同じこと言われましたよ……」ポリポリ

楓「ちひろさん……そういえば……」

P「はい?」

楓「ちひろさん、今日事務所で『新しいプロデューサー雇おうかしら』って……あっ」



P「」

楓「あ、あの、えっと……」


P「いや、ちひろさんの言うことは当然ですよ……はは」

P「俺はいつも残業ばっかりで仕事片付けるの遅いし、アイドルたちと仲良くできてないし……」

P「鈍くさいから凛たちにはいつも呆れられてますしね」

P「プロデューサーの俺がしっかりしてなきゃならないのに……」

楓「プロデューサー……」

P「あっ、楓さんこのあとレッスンじゃないんですか?」

楓「あれ?あ……もうこんな時間」

P「ほらほら、遅刻するとボイトレさんに怒られちゃいますよ。早く行かないと」

楓「はい、けど……」シュン

P「楓さん……?」

楓「最近、全然レッスンが上手くいかなくて……せっかくプロデューサーにも見て頂いているのに」

P「そんなことは……」

楓「私、プロデューサーにいつも面倒見てもらって……撮影のお仕事も、レッスンだっていつも一緒にいてもらってばっかりで」

P「いやいや、みんながちゃんとアイドル出来るように見てあげるのが俺の仕事ですよ」

楓「けど他のみんな……私より年下の子たちはしっかりお仕事できてるのに」

P「まあ楓さんは凛たちよりも後に入ってきましたし、それは踏んでる場数が違うだけで……」

P「ってほら、早く行かないともう時間ギリギリじゃないですか?」

楓「あ……はい、それじゃあ行ってきます」

ガチャッ、バタン


P「……新しいプロデューサーか」

P「やっぱり次に入れるなら、もっと仕事出来る人探すよなあ」

P「ちゃんとアイドルたちとコミュニケーション取れて、仕事もしっかりできて、残業しない人」

P「……俺は、アイドルとコミュニケーション取れなくて、仕事も残したまで、残業してばっかりだな」


P「嫌だな……俺だって、頑張ってるのに……アイドルたちにもっと気持ちよく仕事させてあげたいのになあ」グスッ

P「せっかく女の子の憧れのアイドルになれたのに、プロデューサーが俺じゃあハズレくじもいいとこだよな」ポロポロ

P「ごめんな、みんな……ダメなプロデューサーで、ごめんな……俺がもっとしっかりしないと……」ポロポロ



楓(……プロデューサーさん)コソコソ

トゥルルルルル

ちひろ「はいCGプロダクション……はい、申し訳ありません、Pは現在入院中でして……え、凛ちゃんたちが?」

楓「?」

ちひろ「はい、はい……わかりました、すぐそちらに向かいますので……はい、失礼します」ガチャッ

楓「どうしたんですか?」

ちひろ「凛ちゃんたち、現場でトラブルがあったみたいで……ちょっと行ってきます」

楓「トラブルですか……他の子たちも心配ですし私もいきます」

ちひろ「すみません……はあ、やっぱり人手不足よね……」

楓「ちひろさん、新しいプロデューサー……雇うんですか?」

ちひろ「ええ、やっぱりそうしたほうがいいかなって思ってまして」

楓「……」

ちひろ「NGとTP両方抱えてると楓さんのレッスンもちゃんと見れてるかわからないですし」

楓「あの……私、これからもプロデューサーにレッスン見てもらいたいんです」

ちひろ「えっ……」

楓「だから、新しいプロデューサーを入れなくても……私、もっと頑張りますので……」

ちひろ「そうはいいましても……実際プロデューサーさんは倒れちゃってますし」

ちひろ「ま、まあとりあえずこの話は置いておいて、早く現場に行きませんと」

楓「……そうですね、こんなときにすみません」シュン

――○★スタジオ

ちひろ「この度は本当に申し訳ありませんでした」ペコリッ

凛奈緒加蓮卯月未央「申し訳ありませんでした」ペコリ

監督「まあ今回は、幸い壊してくれたセットもすぐ直せたし撮影自体は予定通り終わったからいいんだが」

監督「まったく、そちらのプロデューサーさんがいるときはこんなこと無かったのに……」

ちひろ「重ね重ね申し訳ありません……」

監督「まあ病気ってなら仕方ないよなあ。次の撮影の話も早くしたいし、まあ今度そちらの事務所にお邪魔させてもらいますので」

ちひろ「はい、Pには伝えておきますので……」

凛奈緒加蓮卯月未央「……」

――夕方、事務所

奈緒「はあ……今日はツイてなかったな」

卯月「うう、せっかくみんなで同じお仕事だったのに失敗しちゃった……」

未央「明日の仕事もちゃんとできるかな……」

ちひろ「まあまあ、たまにはこんな日もあるから……」

楓「そうね……あまり気にしないで」


加蓮「私たち、いままで怒られたことなかったのに」

凛「まったく……なんでこんなときにプロデューサーいないのかな」

加蓮「こういうのってプロデューサーの監督責任でプロデューサーが怒られるべきなんじゃないかな?」

ちひろ「えっ……」

凛「ホントにプロデューサーって役に立たないよね。たまに必要なときに限っていないとか」

卯月「全然使えないよね!」

加蓮「やっぱりもっと仕事が出来る人にプロデュースしてもらったほうがいいんじゃない?」

ちひろ「あ、あなたたちねえ……」

未央「けどもうそろそろ退院するんだっけ?」

卯月「このまま戻ってこなかったら新しいプロデューサー入れてもらえるのにね!」




楓「……みんな、それはプロデューサーに対してあんまりにも失礼だわ」

凛「か、楓さん……?」

楓「プロデューサーがいつも遅くまでお仕事しているのは要領からじゃなくて、みんなのためにたくさん仕事を取ってきてるから」

楓「みんなが、アイドルの仕事にやりがいを持ってくれるように、色んな人たちに頭を下げてもらってきた仕事なのよ」

奈緒「だ、だって……あたしたちは仕事の取り方なんて分からないし……」

ちひろ「ちょ、ちょっと楓さん」

楓「みんなのことをいつも気に掛けているのは、気持ちよく仕事が出来るようにプロデューサーなりに気遣っているから」

楓「加蓮ちゃんをよく気にしていたのだって、昔病気がちだったから挫けないようにってプロデューサーが思ってたからなのに」

加蓮「私だって、仕事休まないように自分の体には気を使ってるつもりなのに……」

楓「プロデューサーは、みんなが気持ちよくアイドルとしてお仕事できるように毎日頑張ってるのよ」

卯月「で、でも今日はたまたま失敗して怒られちゃっただけで……!」

楓「普段からだって、プロデューサーはきっとみんなの小さな失敗に気付いて迷惑掛けた人たちに謝っているはずよ」

凛「けど、現場で仕事してるのは私たちだから……」

ちひろ「……その仕事はプロデューサーさんが必死に取ってきたものなんだから、本来はみんなが仕事で失敗しないように気をつけなきゃダメなのよ」

ちひろ「むしろ、仕事で失敗したときはちゃんとプロデューサーに謝らないと」

未央「……」

楓「せっかくプロデューサーさんは頑張ってるのに、みんながそれに応えないとがっかりしちゃうわ」

楓「みんなプロデューサーに甘えすぎているから、もっと自分たちで出来ることはしっかりこなすようにしないと……」

楓(……そうよね)


楓『最近、全然レッスンが上手くいかなくて……せっかくプロデューサーにも見て頂いているのに』
楓『あの……私、これからもプロデューサーにレッスン見てもらいたいんです』


楓(……私だって、プロデューサーに甘えてた)

楓(レッスンがちょっと上手くいかないからって、自分で何とかしようって思わなくて、プロデューサーに見てもらえば大丈夫って)

楓(私も、もっとしっかりしないと)

ちひろ「……まあ、今日はもう遅いし、5人とも明日は□△局でCM撮影の日でしょう?」

凛「はい……」

ちひろ「今日の失敗はあんまり気にしないで、早く帰って気持ちを切り替えて明日からまた頑張りましょう」

凛奈緒加蓮卯月未央「……お疲れ様でした」

ガチャッ

バタンッ……


ちひろ「ごめんなさい、楓さん。あの娘たちを叱るのは本当は私の役目なのに……まあプロデューサーさんが甘いのもありますけど」

楓「いえ、いいんです……私も、自分が全然ダメだなって思ったので」

ちひろ「え、どういうことです?」

楓「私も、初めてのCDを出すからって緊張して、不安でよく分からなくて、プロデューサーにいつも気に掛けてもらってばかりで」

楓「ずっとプロデューサーに頼ってばかりじゃダメだって、私だってちゃんとやれるんだってあの人に見てもらわないと」

ちひろ「楓さん……そうですね。きっと楓さんならやれますよ!」

楓「ふふっ、自分で言うまで気付かないなんて、恥ずかしい。……これからもっと頑張るために、"気づけ"薬の代わりに酒を一杯、なんちゃって……」

ちひろ(それは恥ずかしくないのかよ)

――翌日、□△局


モブ「……はいカット、オッケーでーす」

凛奈緒加蓮卯月未央「お疲れ様でしたー」

奈緒「ふうー……今日はちゃんと出来たな」ヒソヒソ

加蓮「うん、よかった」ヒソヒソ

未央「昨日の今日で失敗続きだったらシャレにならないもんねー」ヒソヒソ

監督「あー、CGプロのみなさん、ちょっとこの後いいかな?」

凛奈緒加蓮卯月未央「!」ビクッ

監督「来月の○○番組のゲスト出演の件なんですけどね」

凛「えっ、○○って……」

卯月「全国放送のバラエティ番組ですよね!?」

監督「そうそう、プロデューサーさんと今日打ち合わせの予定だったんだけどね、まだ入院中なんだよね?」

凛「えっ、あ、はい……」

奈緒(っていうかこの番組のゲストにあたしたち出る予定だったのかよ。聞いてないし)ヒソヒソ

加蓮(確か、結構有名な人たちも出てたよね……プロデューサーこんな仕事取ってたんだ……)ヒソヒソ

監督「ちょっと先こっちのお話だけ聞いてもらおうと思ってね、これから少し時間いいかな?」

卯月「えっと……」

凛「……」


楓『せっかくプロデューサーさんは頑張ってるのに、みんながそれに応えないとがっかりしちゃうわ』
楓『みんな、プロデューサーに甘えすぎているから、もっと自分たちで出来ることはしっかりこなすようにしないと……』


凛「わかりました」

奈緒加蓮卯月未央(えっ!?り、凛……)

凛(昨日楓さんにも言われたじゃん。……私たちだって聞くくらいなら出来るでしょ)

監督「おっ、それじゃあ控え室でいいかな。移動しようか」

――控え室


監督「――で、ここで司会の人が呼ぶからこんな風に出てきてもらって……」

未央(うぅ……何かごちゃごちゃした手書きの図見せられても全然分かんないよお……)

監督「んでゲスト席に座る順番がこの通りね」

加蓮(ええ?これ数字しか書いてないけどどういう風に座ったらいいの……)

監督「ああそうだ忘れてた。今回の費用なんだけどね、こっちの見積もり書がこれなんだけどね」

奈緒(いやいやあたしたちに金の話されても!?)

卯月(合計のお金の部分しか書いてること分かんない……)

凛(どうしよう……話聞くだけならって思ったけど全然分かんない……)

監督「――っと、ここまで大丈夫かな?」

凛「え、あの、その……」

凛(こんな熱心に話してもらったのに全然分かんない……けど、今更分かんないですって言えないし)ウルウル

加蓮(私たち全然甘かったのかな……プロデューサーいつもこんなことやってたのかな……)ナミダメ

凛(うぅ……プ、プロデューサー……)グスッ


ガチャッ、バタン!!

P「すみません遅くなりました!」

凛奈緒加蓮卯月未央「!?」

凛「プ、プロデューサー……?」

監督「あれプロデューサーさん、まだ入院中って聞いてたんですけれども」

P「ははは、ちょうど今日退院でして……遅れてくる連絡を忘れてしまいまして申し訳ない……」

加蓮(あれ、でも確か退院って……)

監督「ああいえいえ、病み上がりで随分仕事熱心で……それじゃあすみませんが、今からお願いできますかね?」

P「もちろんですよ。あ、ちょうどいいや、お前たちもここ残っておいてくれ。そろそろ話そうと思ってた仕事だし一緒に聞いてくれないか」

未央「う、うん……」

P「よし、あ、すみません監督、まだこの娘たちには話してなくて……最初からやってもいいですかね?」

監督「ああそうでしたか。それじゃあまたお話させて頂きましょうか」

P「ありがとうございます。それじゃお前たち、まず概要からだけどな……」

P「――で、ここで出てくるときの演出で今度の新曲を……」

監督「なるほど、それじゃここで司会に引っ張らせてもらうので……」

奈緒(……すごい)

P「あーこの配置は……リーダーの凛の左隣に奈緒を座らせましょう。メンバーの中じゃ弄りやすいので表情が映りやすいところで」

監督「ほうほう、それじゃ未央ちゃんはリアクションが大きいので奥の席でも大丈夫かな?」

未央(プロデューサー、こんな感じで仕事してるんだ……)

P「卯月は何でも真面目に答えれると思うので色々振っちゃっても大丈夫かな?いいよな卯月」

卯月「えっ!?あ、だ、大丈夫です」

監督「あと最後に取った歌枠なんですが順番どうしましょうか?」

P「新曲を出すTPが後ろで、最初にNGからやりたいですね」

加蓮(えっ、この番組ステージなんて無かったはずなのに……ちゃんと用意してくれるんだ)

P「やっぱりアイドルですし、ちゃんと歌って踊ってファンにも盛り上がってもらわないと」

監督「今回は別番組で使ってるセット持ってきますので、これ費用なんですが……」

凛(ちゃんと私たちのこと考えてくれてるんだ……プロデューサー……)

――夕方、事務所

ちひろ「まったくアンタは……」

P「いやすみません、まあけどもう済んだことですし……」

楓「……退院は明日って聞いていたんですけど」ムスッ

P「いやあ、もう寝てばっかりで退屈で退屈で……午前中に退院できるよう許可もらえたので現場行こうかなと」

ちひろ「どこに一週間も休んだあとに退院した足で現場に行く人がいますか!」

P「ここに」

ちひろ「ほんっとに……電話で聞いたときはビックリしましたよ。書類は全部事務所にあるからまさかとは思ってたけど病室で作ってたなんて……」

P「ま、まあ今回は結構大きい仕事だったので」

ちひろ「いいですか?いまうちの事務所はプロデューサーさん一人しかいないんですから、体調管理はしっかりとしてください!」

P「わ、わかりました……」

楓「プロデューサーがいなくて、ちひろさん毎日死にそうだったんですよ?」

P「うっ……そういわれると返す言葉も無い……」

凛「ね、ねえプロデューサー……」

P「ん、どうした?」

加蓮「私たち、番組の収録頑張るから」

卯月「こんな良いお仕事取ってくださって……ありがとうございます」

P(……は?どうしたのこいつら)

未央「あ、あとこの前撮影の仕事のときセット壊してしっぱいしちゃって……」

奈緒「ご、ごめんなさい!」

P「あ、そ、そう……まああとでお詫び入れとくからいいよ」


ちひろ(……どうやら、プロデューサーさんのありがたみが分かった、って感じね)

楓「…………」


P「ま、今日はCM撮影でみんな疲れただろう。早く帰ってまた明日仕事頑張れよ」

凛奈緒加蓮卯月未央「お疲れ様でした!」

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