キョン「お前、誰だ?」(859)


携帯電話が鳴った。

どうやら意識を失っていたらしかった俺は、その振動で目を覚ました。
あたりを見回すとそこは見慣れたにも程がある自分の部屋で、俺はベッドの上に居た。
時計の針は午後5時40分を指している。

はて。
俺はどうしてベッドの上なんかに居るのだろう。
携帯電話はまだ手の中で震えていた。
画面の名前を確かめてみると、そこに表示されていたのは俺の知らない名前だった。



『古泉一樹』

……誰だ?
見たことも聞いたこともない名前だった。多分、男だろう。
目を閉じて思考するも思いつかない。電話帳に登録した覚えもない。
しかし、こうして表示されているということは登録したからであろう。
では、どうしてその覚えがないのか。
考えている間も電話が切れることはなかった。
しつこいやつだな。そんなに俺と話がしたいのか。
しかし相手は知らない奴だ。素直に出てしまっていいものだろうか。
躊躇った俺は、あと10数えても電話が切れなかったら通話ボタンを押すことに決めた。


3数えたところで、手の中の携帯電話が静まった。
諦めてくれたか。
俺は安堵し、携帯電話を枕元へ置こうとした、が。
いや、待て。ここで確かめておいたほうがいいのではないだろうか。
再び携帯電話を手に取り、俺は電話帳を開いた。

思ったとおりだ。
そこには「古泉一樹」以外にも俺の知らない名前が幾つかあった。

朝比奈みくる
涼宮ハルヒ
長門有希

履歴を見るとよく電話をかけているらしかった。
特に「涼宮ハルヒ」。
こいつとは昨日も電話したらしい。俺はそんな奴記憶にないんだがな。
もちろん通話した覚えもない。どうなっているんだ、これは。
他にも幾つか知らない名前があった。
いや、ひとつだけ知っている。

「朝比奈みくる」ってのはもしや、同じ学校のひとつ上の先輩の、朝比奈さんのことだろうか。
名前は知っている。顔もなんとなくだが見たことがある。
確か谷口がギャーギャー騒いでいた気がするな。この学校のアイドルだなんだってな。

電話帳を見ている最中に、また電話がかかってきた。
さっきと同じ、「古泉一樹」からだ。


気づいたら俺は通話ボタンを押してしまっていた。
しまった。
慌てて電話を耳元へ持っていくと、向こう側から男の声がした。
『こんばんは、古泉です』
声を聞いてもやはり心当たりはなかった。

やけに爽やかなトーンで話すその男は、口調からして俺と親しい関係らしい。
『涼宮さんから聞きましたが、今日早退なされたそうですね』
早退?
『あなたが早退だなんて珍しいので、なにかあったのかと思いましたよ。どうかしたのですか?』
待て、俺は今日早退した覚えなんてないのだが
『……何を言っているんですか?涼宮さんがとても心配していましたよ』

キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
うっはwwwwwwwwwwwwwwwwwwおkwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwktkrwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
待った甲斐があったおwwwwwwwwおっwwwwwwwwwwww


というかキョン「お前、誰だ?」 - SSまとめ速報
(http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1233031120/)これの続きだよな?

>>8
そうです
ごめん、最初から投下していきます
一回読んでんだよアホって方は明日くらいにまた覗きに来てくれるといいと思います。

いや待て。
慌てて記憶を辿ってみる。
俺は今日もいつもどおり普通に登校して、普通に授業受けて、普通に飯食って……
あれ?
どういうことか体育の授業の前に着替えた後のことが思い出せなかった。
確かに昼休みに体操着に着替えた覚えはある。
しかし体育の授業を受けた覚えがない。どういうことだ?

『どうしました?』
しばらく黙っていた俺を不審に思ったのか男は電話口で心配そうに、
いや、落ち着け俺。そもそもだな、

「お前、誰だ?」

『……失礼ですが、寝ぼけていらっしゃるのですか?』
寝ぼけてなんかいない。
「本当にお前のことを知らないんだ。お前の言っている涼宮、って奴のことも俺は知らない」
『…………』
「だがな、なぜかお前の名前が俺の携帯電話に入っているんだよ。これはどういうことだ?」

俺がそう言うと、電話の向こうは静かになった。
反応があったのは30秒後ぐらいだ。
電話口からは心底困ったような声で
『……これは……困ったことになってしまったようです』
「あ?」
『すみませんが、これから外に出てもらえませんか』

相手は知らない奴だ。
だが相手は俺のことを知っているらしい。
少し躊躇ったが、了承の意を伝えると男は
『ではいつもの場所で……と言っても分からないですよね、すみません。北口駅前でお待ちしております』
と、それだけ言ってから電話を切った。

いつもの場所、ということはいつも駅前で待ち合わせをして一緒に出かけていたということなんだろうな。
思考をめぐらせてみても、やはりそんな覚えはなかった。
とにかく俺は、財布だけ持って家を出た。

何も考えずに家を出たわけだが、俺は相手の顔を知らない。
どうやって相手を見つければいいのだろうか、と待ち合わせ場所へ着くまで考えていたのだが
それは杞憂で終わった。


駅前につくと、俺に向かって手を上げている男が居た。
その男は俺と同じ制服をきっちりと着ていた。どうやらあれが古泉一樹だろう。
その両隣にはうちの高校の制服を着た女生徒が1人ずつ立っていた。
左にはカーディガンを着たショートカットの女子が無表情で直立し、
右にはなんだか見たことのある……ああそうだ、あの人が朝比奈みくるさんだ。
朝比奈さんは俺を視界に捕らえると、今にも泣きそうな顔をした。

「やあ、どうも」
電話で聞いた声と同じだった。
「僕のこと、覚えてらっしゃいませんか?」
顔を見ても、やはり俺の記憶の中にはなかった。

軽く頷くと、急に片腕に柔らかさを感じ、そこへ顔を向けてみると
朝比奈さんが俺の腕に抱きついていた。
「キョンくん……あ、あたしのことも、忘れちゃいましたか……?」
さびしげな表情で、しかも目に涙をいっぱい溜めながら見上げられても
やはりなにも思い出せない。というか覚えがない。
とても申し訳ない気持ちになり、すみません、と呟くとその人は惜しむように俺の腕から離れた。
本当に俺はこんなに可愛らしい人と親しかったのであろうか。
いくら考えてもやはり思い出せなかった。

ふと、視線を感じてそちらに顔を向けると
カーディガンを着た女生徒がこちらをじっと見ているのに気がついた。
ずっと目を合わせているとその瞳に飲み込まれそうな気がしたので、目をそらすと
男が一歩近づいて口を開いた。……なんていうか、顔が近い気がするんだが。

「僕は古泉一樹です。よろしく。こちらの方は朝比奈みくるさん、そしてこちらが長門有希さんです」
名前にあわせて古泉が左右に手をスライドさせた。
それにつられて俺も2人の顔を見る。
片方はとうとう泣き出してしまっていて、片方は無表情のままだった。
「……俺のことは知っているんだよな」
「もちろん。仲良くさせていただいていましたよ。ここで立ち話もなんですから、どこかお店に入ってお話しましょうか」
そういうと古泉は慣れた足取りで喫茶店へと向かっていった。
それに俺もついていく。


喫茶店へ入り、適当に席に着くと古泉はウェイトレスに「コーヒーを4つ」と頼み、手を組んで俺に顔を向けた。
「さて、早速ですがお話しましょう。……その前にいくつか質問をしてもよろしいですか?」
「ああ」
「先程、涼宮さんのことを知らないと仰っていましたよね」
「……ああ」
「入学時を思い出してください。あなたの後ろの席には、どなたが座っていたのでしょう」
「……瀬能、だっけな」
「そこから既に、僕たちが持っている記憶と違いますね」
そんなこと言われてもな。

「涼宮さんは、あなたと同じクラスなんです」
「だったら、俺の後ろか前の席に座っているはずだろう」
「ええ、そうです。僕たちの記憶では、涼宮さんはあなたの後ろの席に座っていました」

何を言ってるんだこいつは。
「待て、俺は本当に涼宮なんて知らないし、この記憶は確かなはずだ」
ところどころ抜け落ちている部分はあるだろうが、俺はちゃんと入学式の日のことを覚えている。
涼宮なんて生徒はいなかったし、今もクラスには居ない。
こう見えても俺は人の名前を覚えるのは苦手ではないし、もうクラス全員の名前は覚えてしまっている。
確かに涼宮なんて生徒はいない。
「始まりから、僕たちとあなたの記憶は違っています。これはただの記憶喪失ではなさそうです」

「そう」
会ってから初めて口を開いたショートカットの少女(長門さん、だっけか)は、
俺の目をじっと見つめながら
信じられないことを言い出した。
「今ここにいる彼は昨日までここに存在していた彼と異なる」
「と、いいますと」
「彼は異世界同位体」

「……なるほど。では、昨晩までこちらの世界に存在していた彼は、今は違う世界に居ると、そういうことでしょうか」
「そう。正確には今日の13時10分00秒まで」
「では、13時までここに存在していた彼は、今は何処へ?」
「おそらく、以前にわたしが改変した世界にいる」
「……!やはり、2つの世界は同時に存在していて、今までも同時進行していたということになるのですね」
「違う。わたしが改変した世界は、あの時確かに消滅した。しかし、今なぜかまた存在している。これは予想していなかった事態」
「ということは、なんらかの理由でまた世界が存在し始めた、と」
「そう。今ここに居る彼は、改変後の世界にいた彼。つまり、」
「待ってくれ!」

店内の空気が静まった。
思わず俺は立ち上がっていて、3人は黙って俺を見上げていた。
俺が椅子へ戻ると、また店内はそれまでの空気を取り戻したような気がした。
「……勝手に話を進めないでくれ。俺にもわかるように説明しろ」
異世界同位体だと?なんだそれは。意味がわからない。

古泉は申し訳なさそうに笑い(そういえばこいつはずっと笑っているな)長門さんに目配せしながら
「すみません。一から説明しますと、長くなってしまうので簡潔に説明いたしますね」
古泉はポケットからペンを取り出すと、テーブルの端にあった紙を1枚取り出し、
何やら図を書き始めた。

ひとつ、ふたつ。大きな円を2つ書いた古泉は、片方の円の中を指差し、
「これが、今、僕らが存在している世界だとします」
そう言って、円の中に涼宮と俺、それと一緒に居る3人の名前を書き出した。
「そしてこちらが、この世界ではないもうひとつの世界だとします」
そう言ってその円の中へ長門さんと俺、朝比奈さんの名前を書いた。
「元はあなたはこちらの世界に存在していたはずなのですが」
そう言いながら後に名前を入れたほうの円を軽く指で叩き、
「何らかの理由で、こちらの世界にいるあなたと入れ替わってしまった」
そう言って、先に名前を入れた方の円を指で叩いた。
2つの円の中の俺の名前が、矢印で結ばれる。

「先程僕と長門さんが話していたのはこういうことです。簡単に言いますと、あなたは別の世界から来た、ということになります」
そう説明されても俺にはちっとも分からなかった。
俺は、別の世界から来た、だと?
「憶測ですが、あなたが元居た世界も、こちらの世界とはなんら変わりはないのでしょう。ただひとつ違うのは、涼宮ハルヒと面識がなかった」

わけがわからない。
古泉は口を閉じず今も平行世界がどうだか、時空移動がどうだかくっちゃべっていたが
それは俺の頭にはまったく入ってこなかった。なにがどうなっているんだ。入れ替わった?どうして。
「ご理解いただけましたか?」
話は終わったようだ。まったく聞いていなかったがとりあえず肯定しておく。

そこに見計ったかのようにコーヒーが運ばれてきた。
ウェイトレスが各々の前にコーヒーカップを置いていくのを皆で静かに見守り
最後に伝票が置かれたところで、俺は口を開いた。
「ところで長門さん、とやらは何者なんだ。さっきから聞いていれば世界を改変したとかどうだか……」
長門さんが口を開いた。
「さんはいらない」

「そういえばまだ僕たちの事をお話してませんでしたね、失礼しました」
またお前が喋るのか。
「実はここに居る3人は普通の人間ではないんですよ。まぁ僕は一点を除けば至って平凡な高校生なのですが」
コーヒーを一口、すすり
「長門さんは宇宙人で朝比奈さんは未来人。そして僕は、そうですね、超能力者と呼ばれる存在なのです」
にっこり。

……もっと早く気づけばよかったな。
こいつらはみんなまとめて頭がお花畑なんじゃないだろうか。

………
……



「……ョン!キョン!キョン!」
……うるさいな。
「キョン!起きたか!」
「よかった……」
目の前は安堵感溢れている谷口と国木田の顔があった。
「……ここはどこだ」
身体を起こす。頭が痛い気がする。
「保健室だよ」
「ったく、お前は何も覚えてないのか!?」
落ち着いた声で答える国木田の横で、谷口はでかい口をあけて声を張り上げた。うるさいぞお前。

俺は体操着を着ていた。目の前の谷口と国木田も同じ体操着を着ている。
おかしいな。俺はこの体育が嫌で早退したはずなんだが。
「何言ってやがる。お前はなあ、体育館に行く途中の階段で滑って頭打ったんだよ」
は?
「もしかして、覚えてない?」

だんだん、ぼやけていた頭がはっきりとしてきた。
おかしい。

「お前らこそ何言ってやがる。俺は確かに昼休みに早退したはずだ」
今日は珍しいことに朝から体調が悪く、昼休みに限界がきた。
国木田はそんな俺を見て、次は体育なんだから早退しちゃえば?なんて言ったんだ。
俺はその言葉に背中を押され、早退することにした。ああ、ちゃんと家にも着いて、自分のベッドの上に寝転んだんだ。
……それから?
「……キョン、もしかして頭打っておかしくなっちゃったんじゃ……」
目の前の国木田は心から心配しているような顔を俺に向けた。
「おかしくなってなんかいない。ちゃんと記憶がある。俺は確かに昼休みに早退して家に帰ったんだ」
「じゃあなんでお前はここに居るんだよ。それに俺もちゃんと記憶はあるぞ。確かにお前と一緒に着替えた」
谷口が言う。
「俺は体操着に着替えた覚えなんぞないぞ」
俺はそれに答えた。
既視感。

俺と谷口の間に眉を八の字にした国木田が割り込んだ。
「キリがないよ。とにかく、体育には出られる?もうすぐ授業始まっちゃうけど」
「……頭は大丈夫だ」
俺がベッドから降りたちょうどその時、予鈴がなった。


気がついた。

噛み合わない谷口との会話。心配そうな国木田の目。
前にも一度だけ同じことがあった。
忘れもしない去年の12月。
もしかしたら。
胸が騒ぐ。

どうしてかは分からない。わかってしまったんだ。
古泉、今ならお前の気持ちも分かる気がするよ。


今この学校にはハルヒと古泉は居ない。

いくら2度目だといっても、落ち着きすぎていないか、俺。
自分の適応力に喜べばいいのか、嘆けばいいのか。

体育の授業を特になんの問題もなく終え、
体操着のまま俺は真っ先に2年9組の教室へと向かった。
俺の勘が外れていれば、そこには万年ニヤケ野郎が居るはずだった。

しかし予想通りと言うべきか、俺の記憶上9組の教室があったその場所は
初めからそうであったように、非常階段へと続く踊り場が広がっていた。
当たり前か。きっと最初からここは踊り場だったんだ。
流石に2回目は驚かない。少し残念ではあったがな。
しかしまだわずかに残る希望を抱えて俺は着替えるべく教室へ戻った。

「キョン、さっきすごく急いでたみたいだけど、どこに行ってたのさ」
教室で着替えている最中に国木田に問われ、適当に「トイレ」と答えた。
俺の後ろの席に座っているのは誰なのか。今はそれで頭がいっぱいになっていたからだ。
……大体検討はついているが。
視界の端で国木田が眉を下げるのが見えた。


「男子、入っていいよ」
女子が着替え終わるのを廊下で待っていた俺たち男子一同は、その声を合図に教室へと足を向けた。
扉の正面。窓際の後ろから2番目が俺の席である。
窓際の一番後ろの席。つまり俺のひとつ後ろ。
そこに座っていたのはやはり予想通りであり、期待はずれの人間だった。

「階段から落ちたって聞いたけど、大丈夫なの?」
にっこり。
俺の後ろの席。昨日までハルヒの席だったそこに座っていたのは。

「……朝倉」
どうしてお前がここにいる、なんて野暮な質問はしないさ。
可哀想な奴扱いされるのはもう懲りたんでね。
朝倉涼子がここに存在していることを確認して、確信した。
俺はまた厄介なことに巻き込まれてしまったらしい。

「どうしたの?顔色が悪いわよ」
席に着くと、朝倉が後ろから肩越しに覗き込んでくる。
ああ、顔も青くなるさ。
なんせ今、俺の後ろに座っているのは俺を殺そうとした殺人未遂犯だ。しかも2度もな。
俺がだんまりを決め込んでいると、朝倉は俺にしか聞こえないような小さな声で
囁いた。

「お久しぶり、ね」


背筋に電撃が走った。

思わず振り向いてしまう。バッチリ目が合う。しまった。
そこには「にっこり」と形容するのはさわやかすぎる、
えげつない笑みを顔に張り付けた朝倉涼子が居た。
「お、前……」
こいつは全部知っている。
「あーあ、あの時は残念だったわ。遂にやったと思ったのに」
にたり、と効果音が聞こえるんじゃないかと思えるほど、朝倉は顔を歪めた。目が笑っていない。
「でも、こうしてまた会えて嬉しいわ」
どうしてここまで顔と声の感情を分けられるのか、尊敬するね。
声だけはやたら爽やかだ。

これ以上目を合わせていてはいけない。

俺の脳内で警告音がけたたましく鳴り響く。
しかし、目を逸らすことができなかった。

「ねぇ、放課後空いているかしら?少しお話したいことがあるの」
一体何をする気だ。
「あら、警戒しなくてもいいわよ。楽しみは最後までとっておいた方がいいもの」
今度は「にっこり」と微笑んだ。
「あなたも長門さんに聞きたいことがあるんじゃない?」
チャイムが鳴った。

教師が教室に入ってくると同時に、すかさず朝倉が号令をかけた。
起立、礼、着席。
雑音に紛れ、朝倉の声。
「ちょうどいいわ。放課後、文芸部室ね」

もう一度にっこり微笑むと、すっかり委員長モードに戻った朝倉が授業の準備をはじめた。
俺も前に向き直る。

……朝倉の誘いにホイホイついて行ってもいいものだろうか。
しかし長門に聞きたいことがある、というのも確かである。
黒板とすっかり親友になっている教師の背中を見ながら、
俺は早くハルヒに会いたいと思った。

………
……


「わたしの家に来て欲しい」という長門の申し出に、俺たちは頷いた。
これ以上は喫茶店なんぞでは話せない、ということだったんだろう。
長門が一人暮らししているらしいマンションへ向かっている最中、俺は隣を歩く古泉から多数の質問を受けていた。
北高に入学してから今までになにか変わったことは起きなかったか。
部活動は。
放課後は何をしていたか。
「そんなこと聞かれてもお前の期待には応えられないぞ俺は」
「ありのままを話してくれればいいのですよ」
ありのまま、ねぇ。

俺は入学してから2学年に上がった今まで、特になにもなく、平凡な高校生活を送っていたに過ぎない。
目の前に宇宙人が現れたりとか、時空を超えただとか、そんなことは一切なかった。
「ではこちらから質問します。去年の12月のことです。些細なことでもいいので、何か変わったことはありませんでしたか」
「……そういえば」
去年の12月と言われて思い出した。

12月の中頃だっただろうか。
俺の記憶が3日間、ぽっかりと穴があいていることがあった。
何を言われても、その時自分が何をしていたのか覚えていないのだ。
だが友人によれば「確かに学校に来ていた」と言う。
しかもおかしなことばかり口走って、明らかにいつもと様子がおかしかったと、皆口を揃えて言うのだ。
「それです。今のあなたの言葉で確信しました」
古泉は得意げに笑った。
「それがなんだって?」
「詳しいことは長門さんのマンションでお話します。もうすぐそこですよ」

古泉がそう言ってから5分後くらいだろうか。長門が立ち止まった。
見上げる。いかにも高級そうなマンションである。こんなところに一人で暮らしているのか。
長門は玄関のキーロックに暗証番号を打ち込んで施錠を解除し、そのままロビーへ向かった。
4人で無言でエレベーターに乗り込む。
長門はまっすぐ前だけ向いていて、古泉は笑ったまま顔を固定している。
朝比奈さんは何かに怯えているように身を縮めていた。
そういえば会ってからあんまり喋っていないが、この人はお喋りが苦手なんだろうか。

エレベーターが止まる。すこし歩き、ある扉の前で立ち止まった。
708号室。
「入って」
長門が静かに言った。

「お邪魔します」

長門の部屋はぱっと見た感じ、こたつしかない。
「座って」
そう促され、俺は適当に腰を下ろした。古泉が俺の左隣に座る。
朝比奈さんは俺の右隣に腰を下ろそうとして、はっとしたように口を開いた。
「あっ、あたし、お茶淹れます。い、いいですか?」
長門が朝比奈さんを見る。
いかにもオドオドとしている朝比奈さんに向かってゆっくり顔を縦に振ると、
朝比奈さんはそれを笑顔で受け取り、キッチンへと向かった。
それを見送り、長門は俺の正面に腰をおろした。

「さて、どこから説明しましょうか」
古泉の問いかけに答えたのは長門だった。
「わたしから」
喫茶店で改変がどうの異次元がどうの言っていたよな。
俺は、どんな電波話が繰り出されるのかと身構えた。
長門が静かに口を開く。



長門の口からは俺の想像以上の規模の電波話が繰り出された。
とても俺の脳みそでは処理しきれない。
古泉は時々「なるほど」やら「確かに」などと相槌を打っていたが、本当に分かっているのか。
そうか、頭がお花畑だったんだっけな。

「……つまり、長門は人間じゃなくて、その対有機なんたらっていう……」
「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」
「簡単に言ってしまうと宇宙人なわけです」
「涼宮ハルヒとかいう女の監視をするために地上に降りてきた宇宙人ってとこか」
「そんなところですね」
これはどこから突っ込めばいいのかね。

「にわかには信じられないかもしれませんが」
「でも、信じて」
長門と古泉の目は、真っ直ぐに俺を捕らえていた。
信じて、ねぇ。

「お待たせしましたぁ」
そこにカチャカチャと音を立てて、朝比奈さんがキッチンから現れた。
湯のみを乗せたお盆を持ったその足取りは、なんとも危なっかしいものだ。

「わたしからも、お話ししなければならないことがあります」
朝比奈さんは長門、古泉、俺の順に湯飲みを目の前に置いていき
最後に自分の前に盆ごと置き、腰を降ろして俺と目を合わせる。
「聞いてもらえますか?」
この人からも電波話を聞かなければならないのか。


結局、2時間かけて3人から各々の視点で「涼宮ハルヒ」という存在を説明された。
それから、SOS団とかいう涼宮ハルヒが立ち上げた団での出来事なども聞かせていただいた。
電波話もここまで詳しく、しかも3人から聞かされてしまうと信じてしまいたくなる。

「あなたはこの話が僕たちが妄想で造り上げた話かと思っているかもしれませんが、全て本当のことなんです」
そう言う古泉は至って真剣な顔をしている。朝比奈さんもだ。
長門は相変わらず無表情である。
視線が突き刺さる。
「……分かったよ。お前たちを信じる」
負けた。付き合ってやろうじゃないか。

「お前は、俺がその涼宮ハルヒにとって鍵である存在だって、言ってたよな」
「その通りです」
「……俺はどうすればいいんだ」
「そこが問題です」

「涼宮さんには、このことは黙っていたほうがいいのでしょうか」
このこと、とは俺が「涼宮ハルヒを知らない世界」から来たってことだろう。
俺の言動が涼宮ハルヒに大きな影響を与えるのだとしたら、下手な行動は取れないんじゃないだろうか。
「隠し通せる可能性は低い」
「記憶喪失ってことにすれば……いいんじゃないですか?」
朝比奈さんが控えめな口調で言った。
「やはりそれが一番いいでしょう」

「では、彼は自宅の階段からすべり、頭の打ち所が悪く記憶をなくしてしまった、ということにしましょう」
古泉の言葉に朝比奈さんと長門が頷く。
やけに軽く言われたような気がするが、まぁ大体合ってると言っちゃ合ってるんじゃないだろうか。
実際、涼宮ハルヒと過ごしていた記憶は俺にはないんだ。目の前の古泉や長門、朝比奈さんに対しても同じだが。

「では明日の朝一番、部室に集合です。涼宮さんには僕から連絡しておきます」
古泉が立ち上がる。長門と朝比奈さんもそれに倣い、俺もつられて立ち上がった。
今日はこれにてお開き。


長門のマンションからの帰路。俺はぼんやりと考えていた。

世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。長門と古泉と朝比奈さん。
この世界の俺はSOS団と一緒に野球大会に出たり、でかいカマドウマと戦ったり、七夕には3年前に行ったり、
孤島で嵐に遭ったり、夏休みを1万回も繰り返したり、映画を撮ったり、雪山で遭難したり、していたのか。
ここの俺は頭がおかしかったんじゃないだろうか。

ほんの少しだが、楽しそうだなと思ってしまった俺を殴るべきだろうか。
世界崩壊寸前を立ち会ったり、同級生に刺されるなんてのはまっぴらごめんだが
宇宙人と未来人と超能力者と、そんな体験をしている俺を羨ましいと思ってしまった。
この世界に居たはずの俺は、今どんな気持ちでいるのだろうか。
いかんな。俺も頭がおかしくなってきたらしい。

「そういえば」
帰宅後。
自分の部屋に入り、携帯電話を部屋に忘れていった事に今更気づき、思い出した。

古泉が確信したとか言っていた、俺の12月の3日間の記憶がない理由。
それをまだ説明されていないぞ。
今から電話したら、多分すぐに出るだろう。
携帯電話を手にとり、やめた。わざわざ電話しなくてもいい。明日聞くことにしよう。

こちらの世界でも毎朝妹が起こしにくるのだろうか。
そんなことを思いながら俺はベッドに潜った。

………
……


放課後。
女子と談笑する朝倉を横目に、俺は急ぎ足で教室を出た。
向かうところはひとつしかない。文芸部室だ。
朝倉の物言いからして、長門は文芸部室に居るはずだ。
居てくれ、長門。

「文芸部」と書かれたプレート。
その上にハルヒの字でSOS団と書かれた紙なんて、やはり貼ってなかった。
なにを期待しているんだ俺は。分かっていただろう。
扉を軽くノックする。2回。
中から返事は聞こえなかったが、俺はドアノブに手を伸ばした。

「……長門」
安心した。
そこには、一度見たことがある光景が広がっていた。
本棚と数個のパイプ椅子、長テーブルとその上に置いてある旧式のデスクトップパソコン。
本を読む長門有希。
長門は膝元に置かれた分厚い本から顔をあげ、俺を見た。

…………あれ?

長門は眼鏡をかけていた。ここまでは予想通りである。
しかし、眼鏡の奥にある瞳はとても落ち着いたものだった。
「待ってた」
落ち着いた声で呟いた長門は、昨日も一緒にSOS団部室に居た、長門有希そのものだった。

思い出した。
短針銃を撃ったんだ。
俺の前で頬を紅く染め、微笑むような長門有希を、
俺の良く知っている宇宙人・長門有希が撃った。
そうだった……。

またあの長門に会えるかもしれない、と心の片隅で楽しみにしていた俺を誰か殴ってくれ。
むしろよかったじゃないか。こっちの長門のほうが頼りになる。
頼りになるから……。

目の前で項垂れている俺を見て、眼鏡をかけた長門は首をかしげた。

「どうしたの」
長門の声で我に返った。
そうだ。こんなことで落ち込んでいる場合ではない。なんてお気楽野郎だ俺は。

しかし2度目ということもあってか、
何があっても結局は元の世界に戻れるんじゃないかという余裕が俺の中にはあった。
この世界には俺の知っている長門も居る。案外簡単に戻れるんじゃないか?

コン、コン

長門が俺に向かって何かを言おうと口を開いた、ちょうどその時だった。
「長門さん、わたしよ」
朝倉の声だ。

反射で背筋が伸びる。
いかんな。こんな調子では朝倉の思う壺ではなかろうか。
長門は朝倉の声を受け取り、俺のほうに目をやった。
……俺の許可を待っているのか、これは。
試しに頷いてみる。
それを見て、長門は扉に向かって「入って」と言った。

「お邪魔するわよ」
両手でドアノブを持って扉を開ける朝倉の顔には、委員長スマイルが広がっていた。
「キョン君ったら、置いて行っちゃうなんて酷いんじゃない?」
「朝倉涼子」
パタン。
長門が膝元で開かれていた本を閉じた。
「何しに来たの」
バタン。
朝倉が微笑んだまま後ろ手でドアを閉めた。
「その言い方は酷いんじゃないかしら、長門さん」

「2人っきりで居るところをお邪魔したのは悪かったわ」
「朝倉涼子」
長門の顔には「これ以上喋るな」と書かれていたようだ。
朝倉は長門の顔を見て、笑顔で肩をすくめた。

「さっきの質問だけど」
朝倉はドアの側に立てかけてあったパイプ椅子を長門の隣に持って行き、広げた。
「このキョン君に話があるの」
あなたも座ったら?と朝倉。
俺はそれに従った。
パイプ椅子を、机を挟んで長門の正面になる位置へ持っていく。
「そういえば、俺のことが分かるか?長門」
我ながら可笑しな質問だと思ったが、長門には意味が通じたようだ。
「……あなたはこの世界のあなたではない」

「確認するがお前は、えっと……対有機生命体」
「コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」

俺が最後まで言い終わる前に言われてしまった。
ここに居る長門は宇宙人らしい。
「お前もだよな?朝倉」
俺の問いに朝倉は笑顔で答えた。朝倉も宇宙人、と。

俺は長門に向かって聞いた。
「一体どうなっているんだ?説明してくれ」
「他人に答えを請う前に少しは自分で考えろって教わらなかったのかしら」
すかさず朝倉が口を挟んだ。ぐ、その言葉は痛い。
怯んだ俺を見てニヤリと笑った。長門は朝倉を見ている。
「わたしが説明するわね」

「あ、その前にひとつ。言おうと思ってたことがあったんだわ」
ぱんっと両手を合わせて、俺を見てにっこり笑った。
「わたしね、もうあなたに殺意なんて抱いていないのよ」
それだけよ。朝倉は言った。

「はぁ?」
おっと、思ったことがそのまま口に出てしまった。
「じゃあ、さっきのは」
「さっきって言うのは教室で話してたことかしら、あれね」
長門が不思議な表情で朝倉を見ていた。この表情は、見たことがないな。
「あなたの反応がとっても面白かったから、ついからかってみたくなっちゃって」
ウインクから星が出そうな勢いである。随分楽しそうだな。
勘弁してくれ。

「だから、これからもうあなたの命を狙うようなことはしないわ。安心して」
そうは言われても、俺は既に朝倉に2度も殺されそうになっているのである。
易々と信じられる自信はないな。
「約束するわ」
朝倉は寂しそうに言った。
その目は「わたしのことを信じられないのね」と言っているようだ。
「……分かったよ」
何が分かったんだろうな、俺。

「大丈夫」
聞き役に徹していた長門がようやく口を開いたようだ。
「朝倉涼子の言葉が嘘であったとしても、わたしがあなたを守る」
俺をまっすぐに捕らえる長門の瞳。
「必ず」
それは見たことがあるようで、見たことのない瞳だった。
この世界の長門は、やっぱり俺がよく知る長門ではないようだ。

「そんな怖い顔をしないでよ、長門さん」
朝倉はきゃぴきゃぴという擬音が似合いそうな仕草で長門の肩をつついた。
対して長門は無表情……いや、拗ねているような、呆れているような顔をしている。
それは完全に、俺の知らない長門有希だった。

この世界の長門は、俺の知っている長門よりも感情豊かなのかもしれない。
というか、そうである。先程から驚かされてばかりだ。
俺の知っている長門も、初めて会った頃に比べれば、随分人間くさくなったもんだ。
冗談を言ったり、朝比奈さんの台詞を真似たりな。

今俺の前に居る長門は、それよりも一段階も二段階も人間に近いのかもしれない。
俺はこの長門ともっと喋ってみたいと思った。

「さて、そろそろ本題に入ろうかしら。まずは何から聞きたい?」
長門を散々つつき回して気が済んだようだ。朝倉が俺に向き直した。
「ここはどこだ。……俺の勘ではここには一回来たことがある気がするんだが」
「あなたの言う通りよ」
朝倉は顔の前で手を組み、続ける。
「去年の12月に長門さんが改変した世界、って言って分かるかしら」
それだけで十分だ。

だが待て、この世界は長門によって再改変されたんじゃなかったのか。
「長門さんはそうね、例えるなら上書き保存しようとしたんだわ」
でもね、と朝倉は続けた。
「上書き保存って、保存しようとしているファイル名とされようとしているファイル名が同じだから実行されるわけでしょ」
この例えはちょっと分かり難かったかしら、と朝倉は首を傾げた。
「そこでね、私はある細工をしたの」

同じ場所に同じ名前のファイルは存在できない。
「だったら少しでも、名前を変えればいいんだわ。ドットでもカンマでも、ひとつ入れればそれは違う名前のファイルになるの」
なるほどな。朝倉の言っていることは大体分かった。
「長門が再改変しようとした世界を、お前が防いだのか」
「ええ、そうよ」


ん?いや、ひとつおかしな点がある。

考えてみれば明らかにおかしい。
俺が怪訝な顔をするのを見て、朝倉は俺が何を言おうとしているのか分かったらしい。
微笑みながら俺の言葉を待っているようだ。
あまり待たせるのはよくないな。朝倉の期待に応えてやる。
「お前はどうしてここに居る」

今正面に居る長門は短針銃の効果をもろに浴びている。
ならば朝倉は?どうして平気な顔をしている。あの時確かに長門にナイフと一緒に消されたはずだ。
俺は目の前で朝倉が消えていく瞬間を確かに見た。
待っていた、とばかりに微笑んだ朝倉は、自分の頭部から髪の毛を一本抜きとった。
「わたしたちって結構便利につくられているのよ」

「この髪の毛一本からだって、朝倉涼子を構成することができるの」
自分の髪の毛を指で弄りながら朝倉は言った。
俺の視線をどう取ったのか、
「今ここでわたしのコピーを作ることもできるけど、今はしないわよ」
弄っていた髪の毛を床に落とす。
「それにね、作るにはそれなりのエネルギーと時間がかかるの」

「あの時ね、念のために自分の髪の毛を切り取っておいたの」
あの時とは、俺が朝倉に横腹を刺された時のことだろう。
朝倉がこれくらい、と指を広げた。ざっと10cmはあるんじゃないだろうか。
「素材が多ければ多いほど時間は短縮できるのよ」
長門に消去された後、その髪の毛を使って「朝倉涼子」を再構成したっていうのか。
「さすがキョン君ね。そうよ。なんとか長門さんが再改変を完了させる前に手を加えることができたわ」
なんとかって。朝倉が消えてから長門が再改変を行うまで、その間はほんの十数分しかなかったはずだ。
そんな短時間で人ひとり再構成できてしまうのか。
「ね、便利でしょ」

キタ━━━(゚∀゚)━━━!!
毎日「キョン」で検索をかけてた甲斐があったぜ
wktk


ガタッ。
急に長門が立ち上がった。
「……どうした?長門」
「約束の時間」
約束の時間?
「誰と?」
「涼宮ハルヒ」
思わず俺も立ち上がった。

もしかして、あの時から今までSOS団は続いていたのか。

長門が軽く頷く。
「ハルヒがここに来るのか?」
「違う。駅前の喫茶店」
ああ、そういえばハルヒが言ってた気がするな。
学校からここまで来るのは交通が不便だって。思い出したよ。
「もうすぐ朝比奈みくるが来るはず」
長門の話によると、放課後は毎日朝比奈さんと文芸部室で待ち合わせをして、2人で喫茶店に向かうらしい。
喫茶店でハルヒと古泉と落ち合うと、そこから色々なところへ赴くようだ。
この世界のSOS団は、俺たちが土曜日に行っている不思議探索パトロールを放課後に行っているらしかった。

コンコン
扉が鳴った。
「入って」

「長門さん、お待たせしまし……た……」
扉の向こうから現れたのは朝比奈さんだ。

この部屋に長門以外の人間がいることが相当珍しかったのだろう。
朝比奈さんは大きな目をパチパチ、と瞬かせて、それから朝倉と俺の顔を順に見た。
「あっ……」
俺の顔を見て可愛らしい口元が開かれる。どうやら俺のことを覚えているらしい。
そして俺も思い出した。あの時の朝比奈さんの目。
なんとも居ずらい状況に置かれてしまった俺は
どうすればいい、と長門に目配せをした。我ながらヘタレである。

「あのっ……キョン君、ですよね?……ジョン君って言ったほうがいいのかな」
予想外だ。朝比奈さんの方から声をかけていただいた。
「涼宮さんからいつも話を聞いているの」
にっこりと笑った。その笑顔はまるで向日葵のごとく明るく綺麗なものだった。

「あの時は、その……ごめんなさい。私、酷いこと言いましたよね」
朝比奈さんはハルヒから全てを聞いているらしい。
あの時の俺は、別の世界から来たらしいということ。
その俺は朝比奈さんや長門を知っていたこと。

それからこちらの朝比奈さんはやけに勘が良い。
今の俺を「あの時、ここに連れて来てくれたジョン君ですよね」と何の説明も聞かずに言ったのだ。
こちらの朝比奈さんも未来人か何かなのか?
「朝比奈みくるは至って普通の人間。未来人でも宇宙人でもない」
長門が言うんなら間違いないな。
「なんだか、見た瞬間そんな感じがしたんです。あ、ジョン君だって」
恐るべき第六感。

「そろそろ行った方がいいんじゃないかしら」
いかん、朝比奈さんの笑顔に見とれていた。
長門は朝倉の言葉に頷くと、自分の鞄を肩にかけた。
「長門、俺も一緒に行っていいか」
「もっもちろんです!涼宮さん、きっと喜ぶんじゃないかなぁ」
長門への問いかけに朝比奈さんが答えてくれた。両手を合わせて微笑む朝比奈さん。
また、あのハルヒに会える。

まだ部室に残っていると言う朝倉に、部室の鍵を渡して俺たちはこの部屋を後にした。
「キョン君」
長門、朝比奈さんの後に続いて退室しようとしていた俺に、朝倉が声をかけた。
「長門さんに何かあったら、真っ先にあなたを疑うからね」
にったり。
……おいおい、さっきの約束はどこにいった。
掴まれている右腕から殺意を感じるんだが気のせいかな。
「長門さんに、お夕飯作って待ってるからって伝えておいて。じゃあね」
朝倉は微笑み、俺を扉の外へ軽く突き飛ばす。バタン。
やけに乱暴に閉じられた。
……なんなんだ、あいつは。
名前を呼ぶ朝比奈さんの声を聞き、俺は小走りで2人の後を追った。


校内から出て、坂道を降りている最中。
朝比奈さんと長門はずっと寄り添って俺の前を歩いていた。
とても楽しそうに話をしている朝比奈さんと、それを頷いて聞いている長門の横顔が見える。
俺の知っている朝比奈さんと長門からは想像のできない光景だな。
あの調子じゃ休日には2人で買い物行ったりしているんじゃないだろうか。

駅前に着き、馴染みのある喫茶店が目に入った。
朝比奈さんがそこを指差した。
「ジョン君、あそこです」
この世界のSOS団もここの常連らしい。

喫茶店に入り、朝比奈さんは店内を見回した。
「涼宮さんたちはまだ来てないみたいです」
そうですか、と俺が朝比奈さんに返す前に
長門は店の奥まで進んでいき、あるテーブルの前で立ち止まった。
「いつもあそこに座るんですよ」
朝比奈さんも長門について行く。俺もそれに倣う。

奥から長門、朝比奈さん、俺の順に一列に座ってハルヒを待つ。
「朝比奈さんたちは、あの後どうしたんですか?」
ここに来る最中に浮かんだ疑問を朝比奈さんに聞いてみた。
あの後、とは俺が部室でエンターキーを押した後のことである。
「えっと……ジョン君が目の前で消えちゃったんです」
消えた?

さるタン防止支援

「そうです。びっくりしちゃって、慌てて皆で部室の周りを探したんですけど、どこにも居なくて」
朝比奈さんは指を口元に当てて、必死に思い出しているようだ。
「その後、えっと、自己紹介しようって涼宮さんが言ったんです」
部室で、4人が輪になりひとりひとり自己紹介している光景が頭に浮かんだ。
なんというか、シュールだ。
「それから、喫茶店、ここです。このお店に、明日の放課後集合!って言われて」

それを聞いて俺は懐かしいような、嬉しいようなむず痒いような、
形容しがたい気持ちになった。
「そうですか」
俺がそう呟いた瞬間、喫茶店のドアが来客の合図を鳴らした。
扉の向こうから光陽園学院の制服を着た女が現れる。
ハルヒだ。

俺は思わず自分の目を疑った。
そこに居たハルヒは、俺の記憶の中にあった「この世界のハルヒ」と微妙に外見が異なっていた。
リボン付きの黄色いカチューシャが収まっている髪の毛の長さが、
俺の見慣れたものだったからだ。

以前見たときは腰まであった長い髪の毛が、肩の上で揃っていた。
爛々としている瞳はよく知っている。服装を除けば俺のよく知っているハルヒと全く同じだった。

なぜにジョン君?

>>118
とりあえず原作を読むことをお勧めする

ハルヒの後ろには学ランを着た古泉も居た。
ハルヒは手を上げている朝比奈さんに気が付き、それから俺にも気がついたらしい。
顔に驚きと、喜びの表情を浮かべて、しかしそれは一瞬で引っ込んでしまった。
眉を寄せてこっちにずんずん歩いてくる。なんだ?

「ちょっとあんた。今更何しにきたのよ」
ハルヒは俺の前に立ち、そう言った。
なんのことだか分からない。
「しらばっくれんじゃないわよ、あんたあたしに向かってお前、誰だ?なんて言ったじゃない」
あたしは忘れてないわよ。とハルヒ。
その瞳は怒り一色で塗られていた。相当お怒りのようだ。

朝比奈さんが慌てて立ち上がり、
「ちょっと待ってください、涼宮さん。えっと、ジョン君なんです!」
ハルヒは怒った目のまま朝比奈さんのほうを向いた。「ひぃっ」とたじろぐ朝比奈さん。
「……本当に?」
どうやらハルヒはこの世界の俺に酷い扱いを受けたらしい。
そりゃ悪いことをしたな、この世界の俺が。
「久しぶりだな。俺はまた異世界に飛んできたみたいだ」
ハルヒに抱きつかれた。

「!!!」

朝比奈さんも長門も、ハルヒの鞄を持って立っている古泉も驚いたようだ。
つーか俺が一番驚いた。
「は、ハルヒ、ちょっと」
ハルヒの両腕が俺の首を容赦なく締め付ける。そろそろ苦しくなってきた。

俺の声を聞いて我に返ったらしいハルヒは、ハッと顔をあげてすぐに飛びのいた。
「えっ、えっと、これは、その、ちがうのよ」
何が違うんだって?
みるみるうちに真っ赤になっていくハルヒの顔。

「っ、ジョン!いいから説明しなさい!」
沈黙に耐えられなくなったハルヒが俺を指差した。

俺は保健室で目が覚めてから今までの出来事をハルヒに話した。
こうして説明してみると、なんだか短い気がするな。

「ふーん。とにかくあんたは12月に会ったジョンなわけね」
ああ。
「あの時は急に消えちゃうからびっくりしたわよ。探したのにどこにもいないし」
それは朝比奈さんからもう聞いた。
「あたし、次の日に北高に行って確かめてみたの」
「どうやって」
「中学の制服を着て、『部活動の見学をしたいんですけど』って言ってみたのよ」
なるほど。よく思いついたなそんなこと。
「すんなり入れたわ。拍子抜けしたわよ。あんたの学校ユルユルね」
ハルヒは右手を頭の横でくるくる回した。

「とりあえず、1年の教室を端から見て回ったわ。あんたの教室聞いておけばよかったと思ったわよ」
そりゃ悪かったな。5組だよ。
ハルヒは「今言われても遅いわよ」と少し目を吊り上げて言った。
朝比奈さんや古泉は微笑しながらハルヒの話を聞いていた。多分既に一回聞いたんだろうな。

「それでね、やっと見つけたの。あんたと同じ顔」
ハルヒは幼稚園児に怪談話をしているような仕草で、顔の横に指を立てた。
「あたしはやっと見つけた!と思ったわ。すぐ教室に入っていったの。そしたらあんたと目があったわ」
それで?
俺が続きを促すと、ハルヒの目は「聞きたい?」とでも言うように一層輝いた。
なんか楽しそうだなお前。
「あたしは言ったの。あんた昨日どこに行ったのよって」

「そしたら、あんたあたしになんて言ったと思う?」
お前、誰だ?だっけか。
「そうよ!なんで分かったの?」
ハルヒは目を開いて身を乗り出した。なんでって、お前。
「さっき自分で言ってただろ」
「そういえばそうだったわ」
こいつアホなんじゃないだろうか。

「続けるわ。あんた、あたしが何を言っても知らないの一点張りで、どうしてやろうかと思ったの」
「でもね、その時教室にあたしと同じ中学の奴が居たみたいで」
ハルヒは水を一口飲んで、続ける。
「こいつが涼宮ハルヒだよ!って誰かが叫んだの。そしたら教室に居る連中が皆あたしの方を向いて、あぁ、こいつが涼宮ハルヒかって顔をするのよ」
多分叫んだのは谷口だ。その光景が頭に浮かんでくる。
「わけがわからなかったわ。あんたはまだ俺は知らないって同じことばっかり言うし」
ハルヒは水の入ったグラスを両手で持ち、目を閉じている。
多分思い出しているんだろう。

「それからどうしたんだ?」
「帰ったわ」
帰った?
予想外である。
こいつなら俺の首根っこを掴んで無理矢理文芸部室に連れて行きそうなもんだが。
それもよかったけど、とハルヒ。
「あたし悟ったの、こいつはジョンじゃないんだって」

俺の隣でハルヒの話を聞いている朝比奈さんは目を涙で潤わせている。
今の話のどこに泣く要素があったのだろう。
「それからね、またジョンに会えるんじゃないかって、そんな気がしてたの」
だからそれ以降あんたに会いに行かなかったわ。と、ハルヒ。
「本当にまた会えるなんて思ってなかった」
話は終わったらしい。
ハルヒは掴んでいたグラスを口へ持っていき、中身を全部飲み干してしまった。


「涼宮さん、門限……大丈夫ですか?」
朝比奈さんが控えめな声をハルヒに向けた。
「門限なんてあるのか」
「一応ね。まぁ少し遅れたって平気よ」
そう言ってハルヒはまたグラスを口に運ぶ。こら、氷を食べるなんてお行儀がよくないぞ。
「古泉君、今何時?」
「6時43分です」
古泉よ、お前はいつから財布から時計に成り下がってしまったんだ。
「でもそろそろ帰ったほうがいいわね」
ハルヒは片腕をあげると、解散!と高らかに言った。

ちなみに長門は、ずっと黙々とチョコレートパフェを食べていた。
長門の前には空の容器が5つ並んでいる。
「今日は喋ってるだけで終わっちゃったわね」
そういえばいつもは探索しているんだっけか。
「明日はちゃんと行く場所を決めておくわ。じゃあね」
ハルヒは俺たちを置いてさっさと喫茶店を出て行ってしまった。

このパフェの代金は誰が払うのだろうと思っていたら、まぁ予想通りと言うか、古泉が払うようだ。
いつの間にか「ハルヒの財布」から「SOS団の財布」へとグレードアップしていたらしい。
今は古泉が支払いを終えるのを喫茶店の外で待っている。そういえば。
「長門、朝倉が夕飯作って待ってるって言ってたぞ」
「カレーが良い」
俺に言われても困る。

扉から古泉が出てきた。
「それじゃあ、また明日」
軽く手を振る朝比奈さんの後姿を見送る。
長門も歩き出した。さて、俺も帰るか。
方向転換したところで右肩を叩かれた。
「すみません、少しお時間よろしいですか」
他の誰でもない。残っているのは古泉のみである。振り返る。
「2人でお話したいことがありまして」

なにこの既視感


丁度目に入ったファーストフード店に、2人で入る。
喫茶店では気づかなかったが、古泉の顔はやつれていた。
悪い予感しかしないぞ。
「えーっと……どこから説明しましょうか」
笑みが消えている古泉の顔は、疲れきっているようだった。

なんとなく、俺に伝えたいであろう内容は分かっていたので、こちらから話を振ることにする。
「閉鎖空間か」
「……ええ、そうです。本当に驚きました。あなたの言っていた事と同じなんです」

>>138
>>1からレス全て嫁

マダー?

「3ヶ月前です。目を覚ますとそこは一面灰色でした」
3ヶ月前。俺がここのハルヒに会った後だ。
「薄暗い空間の中で、青白く光る巨人……神人が暴れていました」

この世界の古泉も、妙な肩書きを持つことになってしまったらしい。
「それが涼宮さんの力だとはすぐに分かりました。なんとなくですが、分かってしまったのですよ」
同じような台詞を別の古泉からも聞いたよ。
「それから、機関の人間が僕の元にきて……多分、あなたの知っている僕と同じだと思います」
古泉はコーヒーを口へ運んだ。
「……そちらの世界の僕も、こんなことをしていたんですね」
俺には返す言葉が見つからなかった。


「涼宮さんには願望を実現する能力がある」
古泉は目を閉じて呟いた。

「本当に驚いたんです。あなたが言った通りでした」
なんだか申し訳なくなってきた。
「俺がハルヒに余計なことを喋ったからか。ハルヒの能力が目覚めたのは」
「そうではありません。きっと、能力自体はあなたの世界の涼宮さんと同様3年前、いえ4年前になりますか。その時からあったんだと推測しています」
あくまで我々の憶測ですが、と古泉。
「あなたの世界の涼宮さんと違って、能力が表にでなかっただけであって、ずっと涼宮さんの中にはあったんですよ。それが、丁度3ヶ月前に表に出始めた」
きっかけはなんだ?
「僕たちはこう考えているんです」
あなたに会いたいと、強く望み始めたからではないかと。

きっかけは俺か。結局俺が悪いんじゃないか。
「謝らないでくださいよ。むしろ感謝しているくらいなんです」
感謝だと?神人狩りの仕事を押し付けられて感謝しているなんて、なんてマゾヒストなんだお前は。
「そうではありませんよ」
古泉は苦虫をつぶしたような顔で笑った。
「あなたに会ってからというもの、涼宮さんは毎日輝いているんです」

「まるで別人ですよ。涼宮さんがあんな表情をするなんて、僕は知りませんでした」
古泉は俯きながら続ける。
「今では毎日が楽しそうで、なによりです」
この世界の古泉は笑顔を固めるのが苦手らしい。俺の世界の古泉と会わせてやりたいよ。


「そういえば、お前ハルヒのことが好きだって言ってたよな」
ハルヒに告白はしたのか?
おれがそう聞くと、古泉は目を大きく見開かせた。
「えっと……言い方が悪くなってしまうかもしれませんが」
古泉は一度視線を右に向けてから、俺に戻した。
「僕は、切れると分かっているロープでバンジージャンプするほど馬鹿ではありませんよ」
はぁ?なんだそれは。
「……あなたのそれは天然ですか?それとも僕をからかって」
「俺は至って真面目に話しているんだが」
古泉はきょとんとしている。
それからすぐにふっと笑って、貴方には敵いませんよ、と呟いた。

「話はこれだけです」
それでは、と軽く手をあげる古泉。
「早く寝ろよ」
俺はそれだけ言って背を向けた。

………
……


「キョーンくぅーん、おーきーてー!ちこくだよぉー」
妹の声で目を覚ます。朝か。
「でんわ、ぶーぶーってなってるよ?」
電話?

枕元で手を動かす。あった。
ディスプレイには「古泉一樹」の文字。通話ボタンを押す。
『僕、朝一番に部室で、って言いましたよね』
忘れてた。
どうやら一晩で世界は元に戻らなかったらしい。


『詳しい時間を伝えなかった僕も悪いです。とにかくできるだけ急いで学校に来てもらえませんか』
電話の向こうではすでに俺以外のメンバーは揃っているらしい。
急いで来いと言われたので急いで行く。
俺は今までにこんなスピードで着替えが終わっただろうかと思うほどの速さで制服に着替え、
妹の「ごはんたべないのー?」という言葉を背に家を飛び出した。

「…………」
これほど坂道がキツイと思ったことはない。
あのハイキングコースを走ったのは初めてかもしれないな。
文芸部室の扉を前に、俺は何故こんなに必死になっているんだろうと思う。
2回ノック。

「おはようございます」
笑顔の朝比奈さんが出迎えてくれた。なんだこれ、癒される。
部室には長門、古泉と他にもう一人居た。後ろを向いていて顔は把握できない。
……というかなんだこの部室は。やたらめったら物が多いな。
「やっと来たの!?遅いじゃない!」
部室の中を眺めていると、後ろを向いていた女が振り向いた。

驚愕した。えらい美人がそこに居たからだ。
これが涼宮ハルヒなのか。

「古泉君、本当に記憶喪失なの?」
「ええ、先ほどご説明したとおりです」

涼宮ハルヒが俺の前まで歩いてきた。
「キョン、あたしのことが分からない?」
俺のほうが背が高いので、自然と見おろす形になる。
「あ、ああ。何も覚えてないんだ。すまないな、えっと……涼宮、さん」
俺の言葉を聞いた涼宮ハルヒは目を大きく見開いた。

「……本当に記憶がないのね」
その目の中には明らかな落胆の色が浮かんでいる。
「もしかしたら古泉君とキョンがグルになってあたしをドッキリに仕掛けようとしてるのかと思ったけど」
どうやら違うみたいね、と呟いた直後、チャイムが鳴った。
「そろそろ教室に戻ったほうがよさそうですね」
古泉が席を立った。
「また放課後に会いましょう」

教室の俺の座席は、俺の記憶のものと同じだった。
涼宮ハルヒは俺の後ろの席らしい。
俺の記憶の中では、俺の後ろは委員長の朝倉の席だったな。

「いつから記憶がないの?」
古泉から聞いたんじゃなかったのか。
「昨日の夕方、自分のベッドの上で目が覚めた時からだ」
これは本当である。
「……じゃあ早退した後ね。ベッドの上ってあんた、階段から落ちたんじゃなかったの?」
「階段から落ちた後、家族がベッドに運んでくれたらしいんだよ」
ふーん、と涼宮ハルヒ。なにか気になる点でもあるのか。

「おはようキョン」
「おーすキョン」
谷口と国木田だ。こっちの世界にもちゃんと居るんだな。
軽く手を上げて答える。
「ちょっとキョン」
右腕をシャープペンシルの先で突かれた。結構痛いぞそれ。
「あいつらのことは覚えてるの?」
と、谷口と国木田を指差す。
「ああ、なんとなくだがな」

「記憶がないのはSOS団のメンバーだけなのね」
涼宮ハルヒは紙切れを机の中から取り出し、そこに書き出し始めた。
・SOS団のメンバーを覚えていない
・SOS団以外の人物は覚えている

「涼宮さんさ」
「涼宮でいいわよ」
紙切れに視線を固定したまま返された。
「あんたに涼宮さんって呼ばれるとなんだか鳥肌が立つのよね、気色悪くて」
そりゃ悪かったな。
「記憶喪失だからって、あたしは態度を変えたりしないわよ。いつも通りで居たほうが早く思い出すかもしれないでしょ」
荒治療だな。
「うるさいわね」
涼宮はまだせっせと紙にシャープペンシルを走らせていた。


午前中の授業もつつがなく終了して、昼休み。
振り向くと涼宮の姿はなかった。学食か?
「あー飯だ飯だ」
谷口が弁当片手に俺の元へやってきた。
国木田がハルヒの席に座る。
やっぱりこの3人で昼飯を食べているのか。
「何やってるの?キョン。早く食べようよ」
国木田に促され、俺は鞄から弁当を取り出した。


何の問題もなく昼休みも終わり、午後の授業も終了。
「涼宮、放課後って……」
後ろを振り向くと涼宮の姿はない。デジャビュ。
あいつは瞬間移動でも使っているのだろうか。
とりあえず俺は朝と同じ場所に向かうことにした。

「やぁ、どうも」
文芸部室には古泉しか居なかった。
「他は?」
「先ほど涼宮さんが、朝比奈さんと長門さんを連れてどこかお出かけに行かれましたよ」
なんだそりゃ。
「いつもこんな感じなのか?」
「いつもこんな感じですよ」
オセロでもいかがですか
と、古泉は部室の隅からオセロの箱を取り出した。

古泉が肩をすくめて笑う。
「もしかしたらと思ったのですが、やはりダメでしたね」
こいつはオセロが弱かった。
俺はいつもこんな感じで古泉とボードゲームを嗜んでいたのか。
勝敗が決まったボードの上のコマを片付けているところで、部室の扉が開いた。


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長らくお待たせしました
次から未投下分いきます

まってました!!!

「待たせたわね!」
大きな音を立てて開いた扉の向こうでは、涼宮が仁王立ちしていた。
両肩には紙袋をぶら下げている。
ズカズカ、という擬音が似合うような歩き方で、涼宮は扉からパソコンが置いてある机まで歩き、振り返る。
「今日は皆でこれを読むわよ!」
涼宮は肩にかけていた紙袋を下ろし、その中から本を取り出した。

『記憶喪失の謎』
『記憶喪失学』
『記憶喪失の治療法』

……次々と紙袋から現れる書籍は、タイトルから察するに、全て記憶喪失に関連するものらしい。
「みんなでこれを読んで、キョンの記憶喪失を治すの!」
開け放たれた扉から、朝比奈さんと長門が入ってきた。
2人も同様に紙袋を持っている。

「これ、一体どうしたのですか?」
オセロのコマを片付けながら、古泉が問う。
「あたしの家の裏の雑木林から拾ってきたの。ちょうど昨日本が捨ててあるのを見かけてたのよ」
涼宮は、朝比奈さんが紙袋を机の脇に置いたのを見て、「みくるちゃんお茶!」と言い放った。

「ノルマは1人5冊よ」
朝比奈さんからお茶を受け取り、涼宮は言った。
5冊?良く見てみろ、1冊の厚さがどれくらいあると思ってるんだ。
「5冊読み終わるまでは帰っちゃ駄目だから!」
無茶なことを言う奴だ。
ふと前に顔を向けると、古泉は既に本を開いていた。
「キョン君も、どうぞ」
横から朝比奈さんが俺の前にお茶の入った湯飲みを置く。

俺は長門の家でのことを思い出した。
あの時も朝比奈さんはお茶を淹れてくれた。結局飲まずに帰ったがな。
「いただきます」
一口。なんだこれ、うまい。今までに飲んだ茶の中で一番うまい。
朝比奈さんはにっこり笑って、古泉の前にも湯飲みを置いた。礼を言う古泉。
ははぁ、俺は毎日のようにこうして朝比奈さんのお茶を飲んでいたのか。くそ、羨ましい。

朝比奈さんは「わたしも読まなくっちゃ」と呟き、俺の隣に座った。
長門は古泉の隣に座っている。
仕方なく俺も、積み重なっている本の中から1冊取り、開いた。
うむ、文字がたくさんある。読む気が失せた。

誰も一言も発しない静かな空間に、ページを捲る音だけが響く。
いかんな。眠くなってきた。
眠気を払拭するために頭を振り、本に視線を向ける。
うむ、文字がたくさんある。


「起きなさい!バカキョン!」
誰かに頭を叩かれた。

目を開ける。
古泉と長門の姿がなかった。横に視線を滑らせると、朝比奈さんの姿もない。
「ったく、あんた記憶戻す気ないわけ?」
横に涼宮が立っていた。片手に分厚い本を持って。それで俺の頭を叩いたのか。

窓の外を見てやっと気がついた。
俺は寝てしまっていたらしい。外は真っ暗だった。
「みんなはとっくに帰ったわよ」
ちゃんとノルマを果たしてね、と涼宮。
「仕方ないからあんたは家で読みなさい。罰として1冊追加で!」
涼宮は俺の目の前に6冊の本を重ねて置いた。
……これを読むのに何時間かかるだろうか。

支援砲撃!!

「あたしはまだ調べることがあるから、先に帰って良いわよ」
涼宮はパソコンの前に座り、そう言い放った。
「いやしかし、女子ひとり置いて帰るなんて」
「別にあんたにそんな心配される筋合いはないわ」
涼宮はマウスをカチカチ鳴らす。
「そうは言ったってな」
「いいから先に帰りなさいって言ってんでしょ!」
睨まれてしまった。
これ以上食い下がったら本当に怒らせてしまうかもしれないな。
仕方なく俺は自分の鞄に本を詰め込み、涼宮に背を向けた。

ドアノブに触れたその瞬間、
「明日、駅前に9時ね」
後ろから涼宮の声が聞こえた。
「明日も変わらず市内探索はするわよ」
そういえば休日はパトロールという名の散歩をしてるって聞いた気がするな。
「遅れたら罰金だから!」


学校を後にし、坂を下りている途中。ポケットの中の携帯電話が震えた。
発信者は「長門有希」。

「もしもし?」
『これからわたしの家に来て欲しい』
これまた唐突だな。
「でも俺はお前の家知らないぞ?」
昨日行ったとは言っても、長門の後について歩いていただけだし、
今は辺りは真っ暗で目印を覚えていたとしても、一人で行ける自信はない。
『大丈夫』
長門は電話の向こうで静かに言った。
『古泉一樹が駅前で待っている』

駅前に着くと見慣れた制服姿の男がひとり。
「やぁ、どうも」
古泉が本当に待っていた。

「お前、ずっとここで待ってたのか?」
「まさか。一度帰宅いたしましたよ」
じゃあ制服ぐらい着替えてから来いよ。
「すみません、面倒で」
あはは、と古泉は笑った。

「それにしてもどうして案内役がお前なんだ」
どうせなら朝比奈さんに案内してもらいたかった……と心の中で呟いてから気がついた。
こんな暗闇に朝比奈さんのような方がひとりで居たら危ない。間違いなく危ない。
やっぱり古泉でよかった。
古泉は前を向きながら、すこし拗ねたような表情を見せて言った。
「今回くらいは僕にも出しゃばらせてくださいよ」
おい古泉、あれだけペラペラ喋っておいてまだ出しゃばり足りないっていうのか。
「毎回毎回、あなたばかり楽しんで、僕はあなたの報告を聞くだけなんです」
だから、ね?と古泉は俺に顔を向けた。そんなの俺は知らん。


「着きました」
目の前には見たことのある高級マンション。

古泉が先に中に入っていき、エントランスでナンバーキーとベルボタンを押した。
「古泉です」
『入って』
古泉が自分の名前を言っただけで返答が返ってきた。っていうか古泉、
「お前も部屋に行くのか」
「ええ、ちゃんとお呼ばれされていますよ」
俺はてっきり、お前はマンションまで案内したあとすぐ帰るのかと思っていたよ。
さっきマンションに着いたときに礼を言わなくて良かった。
古泉はまた笑い、エレベーターに向かう。俺もその後に続く。

7階に着き、この前と同じ扉の前に立ち、古泉がベルを押す。
「開けていい」
扉の向こうから長門の声がした。扉を開ける。

つっこんじゃいかんと思うが・・・

消失キョンは一回図書館で長門に会ってるよな?

>>196
キョンにとって些細なことすぎて記憶に残ってないとか そんな感じで書いてるすまん
----------

扉の先では、鍋を持った長門が出迎えてくれた。
「入って」
ちょうどキッチンから出てきたところだったらしい。
長門は俺たちに背を向け、リビングに歩いていった。俺たちも靴を脱ぎそれに続く。
「もうそんな時間か」
「そう」
時計を見ると、もう少しで19時といった所だった。ばっちり夕飯時である。
俺はかなり寝過ごしてしまったらしい。涼宮はさすがにもう帰ってるだろうな。

長門がこたつの上に鍋を置き、ふたをあけた。
たちまち、部屋中が特徴のある香りで満たされる。
この匂いを嗅いで連想されるものはひとつのはずだ。
中を覗くと、中身は想像通りのものだった。カレーである。

「座って」
長門はまたキッチンへと戻っていった。
それを見送ってから、俺と古泉はこたつの中にお邪魔する。

「カレーなんて久しぶりです」
俺の正面に座った古泉から「うきうき」という擬音が聞こえてきそうだ。
こいつ、ご馳走になる気満々である。もしかしてお前、
「これが目的だったのか?」
俺が声を潜めてそう言うと、古泉は一瞬きょとんとした顔をしてから
「バレましたか」
と笑った。

「何分、お皿に盛られた料理なんて久しぶりでして」
お前が普段どんな生活をしているのか気になるところである。
「おまたせ」
長門が3人分の皿とスプーンを持って戻ってきた。
「悪いな、ご馳走になって」
「別にいい」
「ご馳走になります、長門さん」

長門は俺たちの目の前で皿にカレールーを盛り始めた。
ちなみに、皿にはすでにご飯が盛られていた。俺の目の錯覚でなければ茶碗3杯分くらいはある。
長門さん、いくら健全な男子高校生だと言っても俺はこんなに食べきれる自信はないぜ。
「おかわり自由」
長門の言葉と一緒に俺の前に配膳されたカレーは、まさに山である。
さすがの古泉もこれには苦笑だろうと思い、正面に目を向けると
既にカレーの山を切り崩しせっせと口に運んでいた。
お前どんだけ腹が減ってるんだ。

「話がある」
俺も古泉に倣い、山を崩し始めようとした時、長門の声が止めた。
ちなみに長門の前にもカレーが配膳されている。俺のより標高が高いかもしれん。
スプーンを置こうとして、長門の「食べながらでいい」という言葉を聞いてまた戻した。
お言葉に甘えて、一口食べる。うん、美味い。

「微量だがわたしと同様の周波をキャッチした」
周波?
「もう少し分かるように頼む」
俺の言葉を聞き、長門は少し考えるように黙ってから、また口を開いた。
「あなたが元に居た世界のわたしと通信できるかもしれない」
「それは本当ですか?」
黙ってカレーを食っていた古泉がやっと口を開いた。

わっふるわhhhるう

これはtkらずにはいられない

「本当」
「ならば驚くべきことです。世界を超えてテレパシーとは、流石長門さんというべきでしょうか」
「できると決まったわけではない」
俺には何がなんだかさっぱりである。

「もしかしたら、近いうちにあなたは元の世界に戻れるかもしれない、ということですよ」
俺の顔を見て察したのか、古泉が解説をしてくれた。
元の世界に戻れる?
「それは本当なのか、長門」
長門は静かに頷いた。
「まだ時間がかかる。むこうの世界とコンタクトがとれるようになったらあなたに連絡する」
だからもう少し待って、と長門は呟き、やっとカレーを口に運び始めた。

元の世界に戻れる、か。
本来ならば喜ぶべきなのに、この気持ちはなんだろうか。

目の前の山を半分以上平らげたところで、長門のほうをチラリと見てみる。
驚いた。長門の皿には真っ白なご飯が乗っている。
つまり2杯目である。
「長門、そんなに食って大丈夫か」
「平気」
鍋から自分の皿へカレールーを移す。さっきと変わらない程の大きさの山のできあがりだ。
「長門さんの胃袋は宇宙ですからね」
何わけの分からないことを言ってる古泉。
そんな古泉も途中までは勢いが良かったが、やはり胃袋は俺と同じ一般サイズらしい。
3分の1ほど残したところで表情に曇りが出てきた。
多分俺も同じ顔をしているだろう。ここまでくればヤケだ。
残してたまるものか。俺がこの手で平地にしてやるぜ。

それから長門が3杯目を食べ終わる頃に俺たちはゴールインした。
やったよ。俺はやり遂げたよ。
「カレーでよかったらいつでもご馳走する」
長門はそう言って、空の鍋を持ってキッチンへと姿を消した。
悪いが、もうカレーは懲り懲りだ。
目の前の男も同じことを思ったんだろう。
俺と古泉は目を合わせ、肩をすくめた。

長門の部屋を後にし、マンションの前。
「じゃあ、よろしく頼むよ」
長門は静かにうなずいた。
「明日は北口駅前に9時ですよ」
明日は忘れないでくださいね、と古泉が言った。
分かった分かった。今度はちゃんと目覚ましをかけておくよ。

「車で家まで送っていく」という古泉の誘いを、俺は断った。
なんとなくひとりで歩きたい気分だったのだ。

古泉は迎えに来た黒い車に乗り、長門のマンションを後にした。
俺も家へ帰ろうと駅の方に体を向けたとき、後ろから長門の声がした。
「明日は十分な金銭を用意しておいたほうがいい」
その理由を聞こうと振り返ったとき、既に長門の姿はなかった。

………
……



翌朝。
いつもどおり妹が俺を起こしにやって来たので、
もしかして昨日の出来事は全部俺の夢だったんじゃないかと思ったりしたが、
学校へ行き、自分の後ろの席に座っている奴の姿を確認して現実を受け入れる。
「おはよう」
爽やかな委員長スマイルで挨拶をくれた奴の名前は、朝倉涼子。
寝ている間に元通りなんて、都合が良すぎるか。

「昨日はよく眠れたかしら」
「ああ、おかげでな」
俺は自分の席に腰を降ろした。
「そういえば、昨日の夕飯はなんだったんだ?」
「ん?おでんよ」
「そうか」
残念だったな、長門。

「ねぇ、今夜お夕飯一緒にどうかしら」
朝倉はシャープペンシルをくるくると回した。
今まで授業の予習かなんかをしていたらしい。朝倉の目の前には教科書とノートが広がっていた。
「長門さんもあなたと一緒だと喜ぶわ」
ね?と朝倉が微笑んだ。

朝倉の顔を見ていて思いついた。
この世界の創造者は長門……だが、その長門が消去しようとしたのを防いだのが朝倉である。
この場合結局どちらが創造者になるのかはわからんが、
その創造者が望まない限り、俺は元の世界には戻れないんじゃないだろうか。

朝倉は俺の頭の中が読めるらしい。それとも俺が分かり易すいのだろうか。
「そのことは今夜お話するわ。ね、どう?」
行く理由が出来てしまった。

戦艦長門!支援砲撃だ!!
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                              __|_i/         ,,_ェt_-}__
                                 ゛/|\          jxi:i:-{''
                 ____       rュ/`|!, \:iiiiii:        t|xii_i:|ュ
                  |-‐'''"~!      -rロ¬「j   .__|Ξ|o。_   ┌「ii=ェェェ}  /i
              ====/ ̄`ュ_       /|:「ti|_―‐i゛|i=ii_―|/_r「二二 i‐l"_ェ´ ̄ヽ====
  j,_____====/ ̄`ュ || ̄┌i""""""''‐┴‐‐┴二二ii二冖‐_冖‐_冖‐i―┴┐ ̄|_ェ´ ̄ヽ====   ____,,..;
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~  ~                      ~     ~      ~      ~   ~    ~   ~

もしや最後まで書き留められているのですか!?

わっふるわっふる

「じゃあ、長門さんの家で待ってるから」
あっという間に放課後である。
朝倉はそう言って、鞄を持って素早く教室から出て行ってしまった。
さて、俺も部室に向かうとしよう。

「よう、長門」
部室には長門しか居なかった。
長門は膝の上で広げている本から顔をあげ、一度頷いた後また本に視線を落とした。
俺は壁に立てかかっていたパイプ椅子を手に取り、適当に広げそこに腰を降ろす。
長門がページを捲る。
俺がずっと長門を眺めていても、前のような反応は見られなかった。

「すみません、遅れましたぁ~」
しばらくして朝比奈さんが現れた。
長門が立ち上がり、素早く鞄の中に本を入れる。
俺も立ち上がり、パイプ椅子を片付けた。
「じゃ、いきましょうか」


「今日は時計屋に行くわよ!」
喫茶店に入ると、既にハルヒと古泉は席をとっていた。
店中に響くようなでかい声で遅いわよ!と叫んだ後、俺たちが席に座るのも待たずにそう言い放った。

「時計屋さん、ですかぁ」
朝比奈さんが目をぱちくりさせる。
「駅前に新しく時計屋さんができたみたいで、それが今日開店なんですよ」
「この時期に開店なんて怪しいわ!」
別に怪しくもなんともないだろう。開店する時期くらい好きにさせておけよ。
「いいえ!怪しいわ。あたしの直感だけど、なにかあるはずよ!」
じゃあ早速行きましょう!とハルヒは勢いよく立ち上がる。
隣に座っていた古泉もそれに合わせて立ちあがり、伝票を手に取った。
ハルヒは俺たちが来る間に何か頼んでいたらしい。まあ、ご苦労さんなこった。


その時計屋は喫茶店からすぐ近いところにあった。
「ここね!」
外見は至って普通である。っていうか見たことがある。
「なぁ、ここ前からなかったか」
「何言ってんのよ、今日開店だって言ってるでしょ」
念のため古泉にも聞いてみる。
「確かにここは、今日開店のはずですが……。この店が建つ前は駐車場だったそうですよ」
ハルヒと同じ回答が返ってきた。
おかしい。それに段々思い出してきた。
俺はここで、確かに時計を買ってもらったことがあるはずだ。

俺が記憶の海に飛び込んでいる間に、ハルヒたちは店の中に入って行ったらしい。
長門が俺の腕を引っ張ってくれたおかげで路上に取り残されずに済んだ。
俺も店の中へ入る。

「……普通ね」
当たり前だろう。お前は何を期待していたんだよ。
「おっかしいわねー、絶対なにかあると思ったのに」
ハルヒは店の中をうろうろし始めた。古泉と朝比奈さんもハルヒの後に続いて歩き出す。
店内の広さは大体、文芸部室と同じくらいである。あまり広いとは言えない。

俺と長門は扉の前に立って、ぐるぐる回っているハルヒたちを眺めていた。
扉の正面にあるカウンターの中に座っている、初老の男性と目が合う。微笑みを返された。
やっぱりあの男性にも見覚えが……
「ねえこれ見て!」
ハルヒがある掛け時計の前で立ち止まった。

ハルヒが指差しているそれは、丁度半分ずつ蛍光ブルーと蛍光グリーンで縁取られ、
その中にピンク色の時計の針が納まっている、なんともサイケデリックな時計であった。
「いいじゃないこれ!」
ハルヒはその時計を一発で気に入ったらしい。是非とも病院に行くことをお勧めしたいね。

「みくるちゃん、古泉くん、これ良いと思わない?」
朝比奈さんが面を食らったようにひえぇ!と声をあげ、必死に答えを考えている間に、
古泉が「大変よろしいかと」とハルヒ的100点満点であろう答えを返した。
それを聞きハルヒは顔に満開の花を咲かせ、
「おじちゃん!これ買うわ!」
と高らかに言ったのである。

しかしあの色合いはどこかで見覚えがあるな。
自分の脳みその引き出しを開けてみると、すぐに見つかった。
ハルヒが作ったSOS団のシンボルマークだ。
脳内のそれとハルヒが手にしている時計を見比べると、本当に似ている。
よくもまぁあんな時計が存在したものだ。それともこれもハルヒの能力だろうか。

「これは有希、文芸部室にでも飾っておいて頂戴」
ハルヒは時計の入っている紙袋を長門に渡した。
あの部室にこの時計とは、さぞミスマッチだろう。
ごちゃごちゃ物が置いてあるSOS団部室だったら少しは合うかもしれないが。

「あー満足したわ。今日はこれで解散でいいわね」
自分の気に入った時計を買えて、今日はもうやり残したことはないらしい。
そこで俺は昨日から考えていたことを提案することにした。
「朝比奈さん、明日空いてますか?」
突然話を振られた朝比奈さんは、また目をぱちくりさせて俺を見た。
「長門も、どうだ?」
長門は一瞬でも考えるそぶりを見せずに、静かに頷いた。
「わ、わたしも、大丈夫ですよぅ」
長門に続いて朝比奈さんも答えてくれた。
よし、残るはハルヒと古泉だ。

支援

「こっちじゃ土曜日も普通に授業があんのよ。あんたたちの学校と違って」
ハルヒは昨日と同じように、右手を頭の横でくるくる回した。
なるほど。だから放課後に市内探索してたってわけか。

「で、明日がなんだってのよ」
「実はな、俺の世界では休日に不思議探索してたんだ」
それは前にも聞いた気がするわ、とハルヒ。
「だから俺たちでも、休日に不思議探索してみないか、と思ってさ」
放課後よりも時間があるだろう?
「だからってあたしたちに学校サボれって言いたいの?今が大事な時期なのよ」
「いいじゃないですか、涼宮さん」
古泉が横から入り込んできた。
「一度くらい休んでも、涼宮さんの学力なら心配ありませんよ。それに、楽しそうではありませんか」
古泉がにっこり笑う。

古泉の笑顔を見て、ハルヒは一度小さなため息をついた。
「……そうね、古泉くんがそういうなら、まぁいいわ。一度くらいなら」
グッジョブ、古泉。
「じゃあ明日の9時に北口駅前でいいか?」
ハルヒ以外の3人は頷いてくれた。
ハルヒはまだ完全に乗り気ではないらしい。
「で、明日どこに行くわけ?」
「それは明日決めるさ」
はぁ?とハルヒが不満そうに顔を歪める。
「楽しみはとっておいたほうがいいだろ?」

その後、不満そうなハルヒの合図で解散した。
俺は夕飯をご馳走になるべく、長門と2人であのマンションへと向かった。

すまん、寝ます
期待に添えるか分からんが書き溜めはしてあるので
明日には絶対終わるはず

ほしゅおねがいしたい

寝る・・・だと!?
仕方ない俺も寝るか

おkおまいらがんばれ

保守……ついでに

俺はとある県立の北高に通う高校1年生である。

「涼宮ハルヒの憂鬱」という売れないライトノベルを読んだ事が原因かどうかは不明だが、
程なくして同じくコアな読者である鈴木はるこという少女に出会い、そして様々な事件、人物に巡り会う事となった。

俺は人から「キュン」と呼ばれていた。

やめて

>>249

はい

いやー毎日“キョン”で検索してた甲斐があったぜ

>>275死ね
>>275 KY
>>275吊れ
>>275去れ

保坂AAまで用意してスタンバってたのに・・・・・

>>276
なんの為に一文字目を“い”にしたと思ってるんだ
普通いやーなんて書かないぞ^^

>>275
千秋「お前はカナを超えるバカヤローだバカヤロー」

>>278
 >>267-275見てみろよ。お前の所業の全てがわかるから。氏ね

この一週間、「ほ」の字をみたら「さ」と書き込む生活だよ。
あるときは「ほさし」
あるときは「ほさかきもちいわ」と邪魔される。

やっと、やっと「ほさかきもちわる」まで来たんだよ。おれの絶望と落胆がお前にわかるのか

春香「…?(何この気まずい空気)」

ふじおか「・・・・・・・・(まあ、そこまで怒ることでもないよな。よくあることだ)」

キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

ほしゅthx
さぁはじめるざますよ。でもその前に
かいておきたい事があります。俺が書いてて、
きが付かなかった矛盾など、沢山あるかもしれないけど
もしもそのときは、各自で
ちょいちょい脳内補完おねがいします。すまんこ。
わるい書き手でごめんなさい。
るんるん!
いじょうをふまえてまたよろしく

キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!


「おかえりなさい、今日は早かったのね」
長門の部屋に着くと、エプロン姿の朝倉が出迎えてくれた。
朝倉の言葉に長門は軽く頷き、靴を脱いでリビングへと向かった。
あまりにも自然すぎるそのやりとりに、
「おい、朝倉。お前、毎日長門の家に飯を作りに来てるのか?」
「ええ、そうよ」
笑顔で返されてしまった。
「長門さん、放っておくとろくなもの食べないから」
聞いたことのある台詞である。

朝倉はまた微笑み、さぁ上がって、と言ってキッチンへ姿を消した。


俺もリビングへ向かい、長門の正面に腰を降ろした。
「今日はカレーよ」
朝倉が3人前のカレーを運んでくる。

長門の前に山盛りのカレーが配膳される。
心なしか、長門は少し嬉しそうである。
俺の前には並盛りのカレーが配られた。すこしホッとした。
長門の目の前にあるカレーと同じサイズのものは、俺は食べきれないと思ったからだ。

朝倉が自分の前に長門と同じくらい高さがあるカレーを置き、腰をおろした。
「わたしね、こうして長門さんとご飯を食べている時が一番幸せなの」
朝倉が目を閉じて呟いた。
「前にも、3人でお夕飯を食べたときがあったでしょ。その時はおでんだったけど」
ああ、覚えている。
「あの時、わたしすっごく楽しかったの。あなたはそうじゃなかったでしょうけど」
ふふっと笑って、朝倉はカレーを口に運び始めた。俺もスプーンを手に取る。

「だからわたし、これからもずっとこうして長門さんとお夕飯を一緒にできたらなあって思ったの」
それがこの世界を残した理由ってわけか。

自分勝手よね、と朝倉は笑った。
「いいんじゃないか」
朝倉が残してくれたおかげで俺はまたあのハルヒたちと会えたんだ。
視界の端で、朝倉が手を止めたのが分かった。
「お前には感謝してるさ」
朝倉が少し驚いた顔で俺を見る。俺は朝倉を見なかった。
何恥ずかしいこと言ってんだよ俺。

それからカレーを食べ終わり、朝倉に淹れてもらったお茶を飲む。
朝比奈さんのお茶ほど美味いとはいえないが、また違った良さがある味だ。
「あなたがここに来た理由、正確にはこの世界のあなたと入れ替わってしまった理由、だったわね」

目の前で朝倉のお茶をがぶ飲みしている長門を眺めていると、朝倉がそう言い出した。
「ああ、是非聞きたいな」
朝倉は長門の湯飲みに茶を注ぎながら言う。
「この世界の涼宮さんにも能力があった、って話は聞いたわよね」
急須を置く。
「ああ、古泉から聞いたさ。ハルヒが俺に会いたいって思ったからだかなんだか……」
くそ、自分で言うとなんて恥ずかしいんだ。言わなきゃよかった。
「理由はそれよ」
あっという間に空になった長門の湯飲みに、また茶を注ぐ。
「涼宮さんがあなたに会いたいと思ったから。涼宮さんがあなたを違う世界から引っ張りだしたの」
それでこの世界のあなたと向こうの世界のあなたを入れ替えちゃったのよ、と
朝倉は右手の人差し指をくるりと回した。
引っ張りだされたのか俺は。
朝倉は微笑んだ。

「まさか涼宮さんがそこまでできるとは思わなかったわ」
長門はまた口に湯飲みを運んだ。
「本当に、強く願い続けたのね。3ヶ月経ってやっと力が発揮されたってわけよ」
それじゃあ俺はどうやって帰ればいい。

「わたしと同様の周波をキャッチした」
長門がやっと口を開いた。
「なんだって?」
「もしかしたらあなたが元に居た世界のわたしと通信できるかもしれない」
望みはあるってことか。
長門が自分の体にお茶を流し込む。
「すこし時間がかかるかもしれない」
「ああ、それでもいい」
よろしく頼むよ、長門。


「それにしても、あなたからまったく危機感を感じないけど」
朝倉は眉をさげて笑った。
「戻れるかもしれないって分かったんだからもう少し喜べばいいのに」
「もう2回目だしな」
この世界のハルヒたちとも楽しく過ごせていて、
別にこのままでもいいか、と思い始めているのも事実だ。
「でも戻れるのは嬉しいさ」
朝比奈さんのお茶もまた飲みたいし、古泉が新しく買ったっていうボードゲームもまだやっていない。
半ば自分に言い聞かせるように呟いた。
そうだ。
俺はまたあのSOS団に戻って、やりたいことがたくさんあるんだ。

………
……




土曜日。
ちゃんと目覚ましで起きることができた俺は、時間に余裕を持って家を出ることができた。
これなら9時10分前には駅前に着くだろう。

しかし、駅前には俺以外の4人が既に揃っていた。
あの4人組は遠くから見ても目立つ。
涼宮、朝比奈さん、古泉は三者三様のファッションで、各自独特の雰囲気を醸し出していた。
が、なんで長門だけ制服姿なんだ。
「遅い!罰金!」
涼宮は両手を腰にあて、眉を吊り上げている。
「9時には間に合ってるだろう」
「時間に間に合っていても一番最後に来た奴は罰金なの。それがあたしたちのルールよ」
涼宮の横に立っている古泉が笑っている。おい、ニヤニヤするな。
「だから全員にお茶おごること!いいわね」
はぁ、なるほど。昨日の長門の言葉の意味が分かった。

俺たち5人は喫茶店に入った。各々好きなように店員に注文する。
「じゃあクジ引きするわよ」
涼宮はテーブルの端からつまようじを5本取り、用意してきたらしいペンでそのうちの2本に印をつけた。
どうやら二手に分かれて散歩するらしい。
「じゃあ引いて」
朝比奈さん、長門、古泉、俺の順でそれを引いていく。
俺の手元には印のついたつまようじ。他の3人は無印だ。
「この組み合わせね」
涼宮の手元には印つきのつまようじが残った。
2人きりか。なんとなく気まずい。

「じゃあ12時になったらまた駅前に集合ね」
喫茶店を出て、涼宮が歩き出す。
ちなみにさっきの茶飲み代はちゃんと俺が払った。
長門の言うとおり余分に金を用意しておいてよかったよ。
朝比奈さんと古泉に手を振られ、俺は先に行く涼宮の後を追った。

「どこに行くんだ?」
「あんたは黙ってついてくればいいわ」
涼宮は大またでずんずん進んでいってしまうので、俺はその後ろ姿を眺めながら黙ってついていった。

支援

「ここで映画の撮影をしたのよ」
あの後バスに乗り込み、山の中にある停留所で降りて、それから少し歩き
片道1時間程度かけてたどり着いた場所は、森林公園だった。
ここには俺も来たことがある。
「……そうなのか」
どうやら涼宮は、今までに一緒に来たことがある場所を巡るつもりらしい。
涼宮は移動中もたくさんの事を話してくれた。
その中には前に長門の家であの3人から聞いた話もあった。
「近くの神社にも行ったわ」
俺の顔を一瞥し、涼宮は溜息をついた。
その横顔を見て嬉しそうだとか楽しそうだとか言う奴はまず居ないだろう。

とてつもなく申し訳なくなってきた。
涼宮が俺の為に色々やってくれたとしても、
俺には思い出すべき記憶そのものがないんだからしょうがない。

「少し座りましょ」
涼宮はそう言うと、近くのベンチまで行き、腰を降ろした。
その隣に俺も座る。

しばらく俺と涼宮の間には沈黙の時が流れていた。
き、気まずい。
土曜日ということもあり、公園には親子連れがたくさん居た。
子供の楽しそうな声と噴水の音が耳に届く。

「……あんたは忘れてると思うけど」
俺が心地よさを感じ始めた時、隣から涼宮の小さな声が聞こえた。
沈黙で続きを促す。
「月曜日かしら。あたし、部室に時計がない事に気がついたの」

「今までずっと気づかなかったの。そういえばこの部室、時計ないわねって」
俺は黙って涼宮の声を聞いていた。
「そしたら、あんたが、今度の日曜にでも買いに行くかって」
涼宮の声が涙で震えているように聞こえるのは気のせいだろう。
気のせいであってくれ。
「……約束したのに、あんた記憶喪失、とか」
ふざけんじゃないわよ。

涼宮は俯いてしまっていて、まったく顔が見えない状態だ。
「いつになったら、記憶、戻るのよ……このまま戻らないとか、考えたら」
嗚咽が聞こえてきた。くそ、こんな時どうすればいいんだ。
長門でも朝比奈さんでも、古泉でもいい。誰か助けてくれ。

公園の真ん中では小学校低学年だと思われる子供たちが、キャッチボールをしていた。
「……涼宮、その、すまん」
涼宮はピクリとも動かない。
「色々してもらってるのに、全然思い出せなくて……」
本当に困った。どうすればいい。

「……ハルヒ」
勢いで名前を呼んでしまった。

涼宮はビクリと肩を震わせた。しまった。逆効果だったか。
「……何よ」
かと思いきや、涼宮から反応が返ってきた。
よかった。
「俺でよかったら、一緒に買いに行こう」
涼宮が凄い勢いで頭をあげた。

「約束は果たす。駄目か?」
涼宮はぶんぶんと頭を振り、その勢いのまま立ち上がった。
「仕方ないわね!いいわよ!付き合ってあげる!」
おいおい、それは本来俺が言うべき台詞じゃないか?

涼宮は袖で目を擦り、体を反転させると
「そろそろ戻らないと間に合わなくなっちゃうわね!」
ぐずぐずしてないで行くわよキョン!
と、これまた大またでずんずん先に行ってしまった。
やれやれ。俺もその後に続くことにする。

くっ!出かけるまでに終わりそうにないな・・・しかし支援するぞ!

どうにか12時までに駅前に戻ってきた俺たちは、
待っていた長門たちと合流し、適当に駅前のファーストフード店に入った。
古泉が涼宮の赤くなった目に気づき、なにやら意味ありげな視線を送ってきたが無視だ。

涼宮がハンバーガーをでかい口で頬張りながら、
「午後のクジ引きやるわよ」
みんなが食べ終わってからにしなさい。
涼宮の隣に座る長門はもう既に食べ終わっており、
俺の隣に座る朝比奈さんはまだ半分も食べきっていなかった。
食べる姿も可愛らしい方である。

全員が食べ終わったところで、さっきの喫茶店から頂いてきたらしいつまようじを引く。
また印つきだ。
正面で長門が印つきのつまようじを眺めていた。今度は長門とペアか。

涼宮たちと別れ、俺が長門にどこへ行くかと聞く前に長門は歩きだしていた。
慌てて後を追う。
「どこに行くんだ?」
「図書館」

しばらく歩き俺と長門は図書館に着いた。
長門は明確な目的を持っているらしい。本棚を目指す足取りに迷いがなかった。
「俺はそこらへんに座っているよ」
と長門に告げ、昼寝でもしていようと椅子を探そうとしたが
長門に袖を掴まれ、それを阻まれてしまった。
「あなたも側にいて」
長門はそれだけ言ってまた本棚の間へ進んでいった。
なんなんだ、あいつは。
とりあえず長門の後ろについて歩くことにした。


数分後、本棚の間を歩き回ったところで長門が立ち止まる。
やっと目的のものを探り当てたらしい。
長門が目の前の本棚から一冊の本を取り出した。

分厚い。
睡眠薬みたいなタイトルと表紙からして、SFか何かの小説らしい。
長門はその場で、物凄い速さでページを捲り始めた。
大体半分ほど捲りきったところで長門の手が止まる。
そして、一言。

「繋がった」

支援

………
……



土曜日。
いつもよりも数十分早く起き、駅前へ向かった。
言いだしっぺが遅刻じゃ格好つかないからな。

しかし集合時間30分前に着いたにも関わらず、既に長門と古泉が揃っていた。
「お前ら、少し早過ぎやしないか」
古泉は微笑み、長門は頷いた。
至って変わりない2人の仕草だが、しかし俺はある違和感を覚えた。
「おはようございます」
振り返ると朝比奈さんがパタパタとこちらに向かって走っているのが目に入った。
朝比奈さんはふわふわしたワンピースに薄いカーディガンをお召しになっている。

「あっ長門さん!それこの前一緒に買ったお洋服ですよね!」
朝比奈さんの言葉で違和感に気がついた。
長門が制服姿じゃない。

朝倉さん可愛い

長門は、朝比奈さんに比べると比較的落ち着いたワンピースと、
どうやら朝比奈さんと色違いらしいカーディガンを着ていた。
朝比奈さんは長門の側に駆け寄り、嬉しそうにペタペタと長門を撫で回している。
どうやら本当にこの2人はよく一緒に買い物に行っているようだ。

こうして見ると姉妹に見えるな。
古泉がそれを眺めて「微笑ましいですね」と微笑み、俺がそれに答えようとした時だった。
「あらみんな早いのね!」
ハルヒが両手を腰に当てて俺の後ろに立っていた。
ハルヒはというと、丈の長いTシャツにショートパンツといった、
朝比奈さんや長門と比べて随分アクティブな格好である。

お前ら・・・
8時まで保守しといてくれよ・・・
たのんだぜ!

「で?どこに行くのかしら」
「とりあえず喫茶店に入ろう。それから決めようじゃないか」
いつもならハルヒが担っているこの役、今日限り俺が引き受けよう。

「クジ引き、ですか?」
朝比奈さんが片手をストローに宛がいながら言った。
俺はテーブルの端からつまようじを5本取り、それに家から持ってきたペンで印をつける。
いつも我らが団長様がやっているようにな。
「二手に分かれて探索するんです」
さぁ引け、と俺はつまようじを握った左手をテーブルの中央に突き出した。
「ふぅん。面白そうじゃない」
ハルヒが真っ先につまようじを引く。印付きだ。
その後に続いて古泉と朝比奈さんも引く。2人とも印なしだ。
最後に長門が残った2本のつまようじを、えらい時間をかけて吟味し、1本抜き取った。

俺の手元に残ったつまようじには印が付いていた。
午前中は俺とハルヒ、古泉と朝比奈さんと長門に分かれることになる。

「じゃあ12時にまた駅前に集合。午後はまたクジ引きをして二手に分かれる」
喫茶店を出て、そう告げると目の前の3人は軽く頷いた。
「俺たちはこっちに行くからお前らはそっちをよろしく頼む」
と、俺は自分の後方を指差した後に、前方を指差した。
古泉が頷く。
「わかりました。では、また12時に駅前で」
古泉が軽やかに片手をこめかみまで持っていき、ゆっくり振った。

朝比奈さんと長門がゆっくり歩きだし、その後ろを古泉がついていくのを見送ってから
俺は隣に立っている午前中のパートナーに顔を向けた。
「で、どこに行くのよ」
「お前に任せるよ」

はぁ?とハルヒ。仏頂面だ。
「あんた決めてこなかったの?」
「俺よりお前の方が不思議を見つけるのが上手いんじゃないかと思ってさ」
そう言うと、ハルヒは納得したような顔で
「まぁ確かにそうね」
と得意げに言った。扱いやすい奴である。

「それじゃ早速行くわよ!案外そこらへんに転がっているものなのよねーそういうのって!」
嬉々とした表情で歩き出すハルヒを追う。


ハルヒはマンホールやガードレールを注意深く見回りながら練り歩く。
俺はそれを後ろから眺めながら、ただ歩いていた。
姿勢を低くしながらキョロキョロするハルヒ。こいつの方がよっぽど不思議だ。

1時間程過ぎた頃だろうか。
「うーん、思ったよりないのねえ」
そりゃそうだろ。道端にごろごろ転がってたら堪ったもんじゃない。
「つまんないわね」
ハルヒは立ち上がり、腕を組み、ゆっくり辺りを見回した。
ちょうどアイスクリーム屋が目に入ったらしい。
「ジョン!あれ奢りなさい!」
ぱあっと目を輝かせ、思いっきりそれを指差した。
やれやれ。
まぁ、今日ぐらいは奢ってやるさ。

「ここのアイスクリームって初めて食べたけど結構おいしいわね」
ハルヒの両手には、カラフルなアイスが三玉乗っかったコーン。
こいつ、一番値の張るものを頼みやがったな。
早速一番上に乗っているチョコレートアイスにかぶり付き、嬉しそうに笑う。
対して俺は、コーンの上にバニラアイスが一玉乗ったシンプルなものを注文した。

アイスクリーム屋を後にし、適当にブラついていると河川敷に辿り着いた。
いつの日か、朝比奈さんと歩いた道だ。
「ちょうどいいわ、ちょっと座りましょ」
ハルヒがベンチに腰を降ろす。
奇遇にも、朝比奈さんに未来人だと告げられた、あのベンチである。

「ジョン!それ一口頂戴!」
お前、三玉も食ってまだ足りないって言うのか。
「味見よ、味見」
仕方なくハルヒの前に持っていたアイスを突き出す。
すると、あっという間にコーンの上のアイスは半分以上減ってしまった。
「お前それ一口じゃないだろ」
まぁ大体こうなることは想定していたが。
「ふひふぁあい」
口に入れすぎだ。

「ねぇジョン」
口の中のアイスが溶けきったらしい。
もう一口欲しいのか、と言いかけた所で、俺はその言葉を飲み込んだ。
ハルヒの目が真剣そのものだったからだ。

「……なんだ」
「あたし前に、ジョンともう一度会えるような気がしてたって言ったでしょ」
「ああ」
「本当にそう思ってたの。ジョンが消えた日から、ずっと」
ハルヒは視線を自分の足元に固定している。
「そしたら、本当にこうしてジョンに会えたでしょ」
俺はずっとハルヒの目を見ていた。
「今度はさ」
ハルヒが顔をあげる。まっすぐ前を向いたままだ。
「ジョンが消えちゃったら、もう二度と会えないような気がするの」

「……別の世界から来たんだから、いつかはそこに帰るわけでしょ」
「……そうだな、このままずっとここに居るわけにはいかないな」
この世界の俺だって、元に戻りたいはずだ。
「俺には待ってくれている人が居る」
きっと、そうだ。
向こうの世界のハルヒや、長門や朝比奈さん、ついでに古泉。
俺を待ってくれているはずだ。
俺は戻らなくちゃならない。
「……ジョン」
俺に顔を向ける。目が合った。
ハルヒは口を開き、戸惑うように視線を泳がせて、口を閉じた。
「やっぱりいいわ」

ハルヒが携帯電話を取り出し、画面を一瞥して
「もうこんな時間だわ、そろそろ戻りましょ!」
勢いよく立ち上がった。俺も携帯を取り出す。
本当だ。もうそろそろ駅前に向かわないと時間に間に合わないな。
「お昼ご飯は何がいいかしら」
ハルヒは明るく言い放つと、すたすたと大またで歩いていってしまった。
まるで早くこの場から立ち去りたいと言わんばかりに。

3人は既に駅前で俺たちのことを待っていた。
それぞれ片手に紙袋を持っている。
「有希、それどうしたの?」
ハルヒが長門の手にぶらさがっている紙袋を指差し言った。
「本」
この機会に、前から欲しかった本を買ったらしい。
紙袋の大きさからして、5冊以上は入っているだろう。

長門の隣に立っていた朝比奈さんが、紙袋から何かを取り出した。
「わっ、わたしはお茶の葉を買ったんですぅ」
朝比奈さんの手にはお茶の葉が入っているらしい袋。
「お茶の葉?」
「なんだか眺めていたら、すごく欲しくなっちゃって……」
一緒に急須セットも、と朝比奈さんは恥ずかしそうに微笑んだ。
「今度、お家で淹れてみようかな」

「僕はこれです」
古泉も紙袋から何かを取り出す。やたらでかい。
それは見覚えのある箱だった。
「オセロ?」
ハルヒが箱を覗き込んだ。
「ええ、そうです。僕も朝比奈さんと同様、眺めていたら無性に欲しくなってしまいまして……」
買ってしまいました、と頭を掻いた。

「みんなして普通に買い物しちゃって」
今日は不思議を探しに来たのよ!とお怒りのハルヒの横で
俺はなんだかとても嬉しくなってしまっていた。
なんだなんだ。
まるで俺の知っているSOS団に近づいてきているようだ。
これでハルヒと古泉が北高に通っていたならば、そのまんまコピーが出来上がるんじゃないだろうか。

「まぁいいわ。とりあえずお昼にしましょう」
ハルヒが歩き出したので、俺たちもそれについていく。
「おい古泉」
「なんでしょう」
「機会があったら相手をしてやるよ」
隣を歩いていた古泉は、一度自分の持っている紙袋に視線を落としてから、
「お願いします」
と微笑んだ。

「次はこの組み合わせか」
俺たちはレストランで昼食をとって、2回目のクジ引きを行った。
印つきは俺と長門、他3人が印なしだ。

「みくるちゃん、古泉くん、今度こそちゃんと不思議を探すわよ!」
ハルヒは指を突きたてる。2人は軽く微笑みすみません、と呟いた。
「じゃああたし達はこっちを行くから!」
ハルヒが背を向け、早足で歩いていってしまった。
朝比奈さんと古泉もその後を追っていく。

俺は隣に立っている長門に問いかけた。
「長門、どこか行きたい場所はあるか」
「図書館」
即答だ。

追いついた。

面白すぎです!!

支援!支援!

「じゃあ、俺はそこらへんに座っているよ」
図書館に着き、特に用がない俺は昼寝でもしていようと椅子を探そうとしたが
長門に袖を掴まれ、それを阻まれてしまった。
「あなたも側にいて」
長門はそれだけ言って、本棚の間に進んで行ってしまった。
なんだ?
とりあえず長門の後について歩くことにする。

長門はしばらく本棚の間をうろつき、ある場所で立ち止まった。
目の前の棚から本を一冊抜き取る。そのタイトルは見覚えのあるものだった。
確か前に長門から借りたものだ。栞が挟まっていた、あの分厚い本。
長門はその場でページを捲り始めた。凄い勢いである。
大体半分ほど捲りきったところで、長門の手が止まる。
眼鏡を一回指先で持ち上げた後、長門が静かに呟いた。

「繋がった」

………
……




「繋がった?」
一体何が、と俺が問いかける暇もなく、長門はまた口を開く。
静かにぼそぼそと何かを呟き続ける長門。
頑張って耳を澄ませてみるが、何も聞き取れない。
長門が呟いているのは、なんだか早すぎる早口のようで、段々気味の悪さを感じてきた。

5、6分経った頃だろうか。
長門が本を閉じた。静かにその本を棚へ戻す。
「な、長門?」
制服姿の長門は、俺の方へ顔を向け、
「終わったらわたしの家に来て欲しい」
それだけ言うと、また歩きだしてしまった。
一体なんだったんだ。


長門の用事はあれだけだったらしい。
俺も図書館には用がなかったので、

このまま駅前まで向かうことにした。

駅前に着き、時計を見ると約束の時間まではまだ30分以上あった。
隣をちらりと見ると、長門は時間までここで待っているつもりらしい。
はあ。俺も黙って待っていようかね。

それから45分経って、涼宮たちが戻ってきた。
「有希!何かあった?」
涼宮の問いかけに、長門は頭を横に振る。
「なかなか見つからないものね」
涼宮は小さく溜息をつき、次に右腕を思い切り振りあげた。
「今日はこれで解散!」

長門、朝比奈さん、古泉の順に
それぞれ別方向へ歩き出すのを見送ってから、涼宮は俺にこう言った。
「明日は12時にここで良いわね」
長門の早口が衝撃的で、うっかり忘れかけていた。
明日は涼宮と時計を買いに行くんだったな。

「どっかでお昼食べてから買いに行きましょ」
「ああ、分かった」
「じゃあね、遅れたらお昼奢りだから!」
俺に向かって人差し指を突き出し、涼宮は得意げに笑った。
それから背を向けて、駅の構内へ消えていった。
俺はその涼宮の背中を見送りながら、3人が再び集合するのを待った。

「明日はデートですか」
一番最初に戻って来たのは古泉である。
「お前、どこで聞いてたんだ」
涼宮が喋りだしたのはお前がビルの角を曲がった後だ。
「壁に耳あり障子に目あり、ですよ」
ふふ、と古泉は得意げに微笑んだ。
微妙に使い方が間違えているような気もするが、どうでもいい。
そのニヤケ面をこっちに向けるな。

次に長門が現れ、最後に朝比奈さん。
「涼宮さんに見つからないように再集合って……何かあったんですか?」
「話がある」
長門がそう言って、歩き出した。
多分向かう先は長門のマンションだろう。
俺たち3人も、黙って歩き出した。

「あなたの世界の長門有希とコンタクトを取る事ができた」

所変わって長門の部屋である。俺たちは前に来た時と同じ形で座っている。
俺の正面で長門が言葉を紡ぐ。
「あなたの世界の長門有希との話し合いの結果、あなたを元の世界へ戻す方法が決まった」
な、なんだって?

それはすごい、と古泉が呟いた。
「そもそも、どうやって向こうの世界の長門さんとコンタクトを取る事ができたのですか?」
古泉の顔に興味津々と書いてあるのが見えるようだ。
朝比奈さんは真剣な顔をして長門の話を聞いていた。
長門は図書館であった出来事を話す。それは俺が見た光景と同じ内容だった。
「なるほど」
古泉は顎に手をあて、頷いた。

支援

ゆきりん!ゆきりん!

「つまり同じ場所、同じ条件で、同じ事をすると、向こうの世界と繋がることができる、と」
長門が頷く。
「じゃ、じゃあキョンくんと、向こうの世界へ行ってしまったキョンくんが、同じ事をすれば」
「元に戻れるわけですか」
朝比奈さんと古泉が長門へ問いかける。
長門はまた頷く。

俺をそっちのけにして3人の会話はヒートアップしているようだ。
すまん。俺にもすこし優しく説明してくれないか。
「2つの世界が繋がる条件を見出すことができたのです」
長門に顔を向けていた古泉が、こちらに向きなおす。
「2つの世界が繋がったその瞬間、あなたと今違う世界に居るあなたを入れ替えようと、考えているんですよ」
入れ替えるって、どうやって。
「それは長門さんにお任せするしかありませんね」

支援!


そういえば長門は宇宙人だっけか。
「そんなこともできるのか」
「可能」
ただし、と長門は続ける。
「失敗する可能性もある」
「僕たちは長門さんの能力を信頼していますよ」
古泉が微笑んだ。

「そっそれで」
朝比奈さんが口を開いた。
「その、条件っていうのは、なんなんでしょう……?」
朝比奈さんの質問に、長門は静かに、シンプルに答えた。
「朝比奈みくるがデコピンすること」

デコピンって(笑

支援

………
……


「デコピン?」
長門の言葉に俺たち3人は声を合わせてしまった。
デコピンって、額に指を弾くあれか?
「そう」

所変わって、ここは喫茶店である。
あの後、長門と図書館を後にし、駅前で解散したあと、ハルヒを除く4人で再集合した。
長門が「大事な話がある」と言ったからだ。
俺の隣には朝比奈さん、俺の正面に長門、その隣に古泉といった席順である。

「文芸部室で朝比奈みくるがあなたにデコピンすることが条件」
朝比奈さんのデコピンで時空が歪むってわけかい。
「それを2つの世界で同時にすることで、世界を繋げることができると」
古泉は不思議そうに手で顎をなでていた。
「わ、わたし責任重大で、ですね……」
朝比奈さんは水の入ったコップを両手で包み込み、長門を上目で見つめた。

長門「ただし、彼が気を失う程の威力がなければならない」

「ところでどうして朝比奈さんなんだ?」
「話し合いで決まった」
さっき言っていた、俺の世界の長門とコンタクトを取った時か。
長門と長門で話し合いをしたわけか。想像してみると中々面白いかもな。

「どうしてデコピンなんですか?」
今度は古泉が長門に質問する。
「対象に衝撃を与える方法が最も有効。ただしその衝撃は同値でないといけない」
なかなか難しいんじゃないだろうかそれは。
「そ、その衝撃ってわたしのデコピンの強さってことですよね……」
まずい、朝比奈さんがプレッシャーに押しつぶされそうだ。
「大丈夫」
長門が朝比奈さんに向かって呟いた。その瞳はなんとなく優しそうである。
「思いっきりやればいいだけ」

ひょえぇ……と呟いて朝比奈さんは肩を縮めて小さくなってしまった。
この人次第で俺が元に戻れるかどうか決まるわけだ。
……不安じゃないと言えば嘘になるかな。
「肝心の日時は、いつです?」
古泉の質問に長門はまた静かに答えた。
「月曜日の17時」
明後日か。

「文芸部室ということは……僕は放課後北高へ向かわなければいけないのですか」
「そう」
そうか。古泉は学校が違うんだった。
「古泉も居なくちゃいけないのか?」
「わたしたち4人が揃っていることも条件のひとつ」
「涼宮さんにこの事は」
「内緒」
そりゃ大変だ。
どうにかしてハルヒを巻いてきてくれよ、古泉。
「分かりました。僕はアルバイト、あなた方3人は課外授業がある、とでも言っておきましょう」

>>402
自重すべし

ちょい飯
時々さるさんくらうので間が空いててすまんこ

いってらさ~い(^0^)/

え、ごめんよ・・・

この間にまた1から読み直そう!!

ちょっとごめん
妹とブタメン買ってくるわ
少し留守にします

ぷひ

ブタメン!  ブタメン!

まだか!

じゃあ保守ついでに……

俺はとある県立の北高に通う高校1年生である。

「涼宮ハルヒの憂鬱」という売れないライトノベルを読んだ事が原因かどうかは不明だが、
程なくして同じくコアな読者である鈴木はるこという少女に出会い、そして様々な事件、人物に巡り会う事となった。

俺は人から「キュン」と呼ばれていた。

やめなさい!

>>441

はい

[Event "vip match"]
[Date "2009.02.15"]
[Round "-"]
[White "ID:i/hFeulg0"]
[Black "ID:KO7O8ZAC0"]
[Result "0-1"]

1.e4 c5 2.h3 Nc6 3.Nf3 e5 4.a3 Nf6 5.Nc3 Be7
6.Bc4 O-O 7.d3 a6 8.O-O b5 9.Ba2 Qc7 10.Bg5 d6
11.Re1 Bd7 12.Bxf6 Bxf6 13.Nd5 Qd8 14.Re3 b4 15.Qd2 Be7
16.axb4 cxb4 17.Nxb4 Nxb4 18.Qxb4 Kh8 19.Bb3 d5 20.Qa5 Qxa5
21.Rxa5 d4 22.Re1 Bb4 23.Rxe5 Bxe1 24.Nxe1 f6 25.Rd5 Be6
26.Rxd4 Bxb3 27.cxb3 Rfd8 28.Rc4 Kg8 0-1

white resign for sarusan

一応貼っとく

俺はとある県立の北高に通う高校1年生である。

「僕はできる!」という売れないライトノベルを読んだ事が原因かどうかは不明だが、
程なくして同じくコアな読者である鈴木はるこという少女に出会い、そして様々な無理難題、無茶振りに会う事となった。

俺は人から「キャン」と呼ばれていた。

あ、ごめ。誤爆

>>451
やめろ

>>451
やめろ

>>453
>>454


はい

>>456
なんでお前が返事するのだ

なんか楽しくなってきたな

こういう流れ好きだぜ

ただいま 
ブタメン買ってきた
http://www.uploda.org/uporg2019078.jpg



続き



「明日はゆっくり休んで」
喫茶店を出て、長門がそう言った。
その言葉は主に朝比奈さんに向けられたものだろう。
当の朝比奈さんは顔が蒼い。ちょっと心配しすぎではないだろうか。
「では、また月曜日に」
古泉が軽く手を上げ、背を向ける。
長門も歩き出し、朝比奈さんもとぼとぼと歩きだして行ってしまった。
うーん、大丈夫だろうか。


その夜。
俺は制服を着て校庭に寝ていた。
あたりは一面灰色である。
ははぁ、閉鎖空間かい。

起き上がる。
校舎から漏れる灯りで、校庭は薄明るかった。
神人は見当たらない。赤い玉も居なかった。
代わりに校庭の真ん中に人影がひとつ。

「ハルヒ」
俺が名前を呼びかけると、その人影はびくりと肩を震わせ、こちらに振り返った。
「ジョン……?なんであんたがここに、ていうかここどこなのよ」
ハルヒは光陽園学院の制服を着ていた。
黄色いリボンが暗闇に映える。
「そうか、きっと夢ね、これは夢なんだわ」
ハルヒは辺りをキョロキョロと見回し、両手を合わせてそう言った。
「ああ」
適当に肯定しておく。きっとその方が都合がいい。

「夢の中だったら、いいわ」
ハルヒが一歩俺に近づく。
「ジョン」
名前を呼ばれたので、俺も一歩ハルヒに近づくことにした。

「あの時、言おうと思って言えなかったことがあるの」
「ああ」
「今言うわ」
ハルヒの瞳は俺を捕らえて離さない。

「あたしの前から居なくならないで」

ハルヒがまた一歩俺に近づく。
「ジョン、戻っちゃ嫌。行かないで。ずっとあたしの側に居て」
ハルヒが俺に近づいてくる。

遂に腕を伸ばせば届く距離まで近づいた。
ハルヒの手が俺の腕を掴む。
「行かないで」

俺はこのハルヒになんて言葉を返すべきだろう。
いや、考えなくても答えはもう出ている。
「あたし、ジョンのことが」
「ハルヒ」
ハルヒの瞳が震えた。
「その続きはお前からは聞けないよ」

ハルヒの手が俺の腕を離した。
「すまん、ハルヒ」
ハルヒが一歩後ろに下がった。
「俺は戻らなくちゃならない」
その分俺がハルヒに近づいた。
「でもさ」
ハルヒの瞳はずっと俺を見つめたままだ。
ハルヒの肩を掴む。

「俺に会いたくなったら、いつでも呼んでくれよ」
ハルヒの目が大きく開いた。
「呼ばれたらすぐに来るよ、お前の所に」
「な、なんで……」
ハルヒが小さな、小さな声で呟いた。
「お前にはその力がある」
俺は前に閉鎖空間に閉じ込められたことを思い出した。
今のハルヒとは違うハルヒと、2人きりで閉じ込められた時だ。
あの時はどうやって閉鎖空間を抜け出した?

「ジョン、また会える?」
ハルヒの瞳は涙で潤んでいる。
「ああ、会えるさ」
ハルヒが小さく微笑んだ。
俺には、今のハルヒにあの時と同じことはできない。
今のハルヒはハルヒであっても、俺の求めているハルヒとは別人なんだ。

「よかった」
俺がどうするべきか頭をフル回転させていた、その最中。
校舎の灯りが全て消え、校庭を照らすものがなくなった。
真っ暗になる。

掴んでいたはずのハルヒの肩の感触が消えた。

次には自分の部屋の自分のベッドの上に居た。
あれ?戻ってきた。
起き上がり時計をみる。2時35分。

寝よう。
ハルヒの言ったとおりあれは夢だ。そうだ夢だったんだ。
俺はまた布団に潜り込み瞼を下ろした。

………
……



日曜日である。
昨日、長門の家で俺が元に戻る方法がなんたらを聞いた。
どうやら明日、元の世界に戻れるらしい。
明確な日時が分かってしまうとなんだか寂しさを感じてきた。
この世界に慣れてきてしまっているらしい。大分染められてしまったな、俺。
最初は頭がおかしいと思っていたあの3人組も、
今はもう前から付き合っている友人のように思える。
思い返してみるとまだ3日しか経っていないのだ。不思議なものである。

俺は今駅前で涼宮を待っているところだ。
昼飯奢りは嫌だからな。
30分前に来てみると、涼宮の姿はまだなかった。
心の中でガッツポーズをしたのは内緒だ。

「……キョンの癖に生意気よ」
どこぞのガキ大将のようなことを言う。
涼宮はむすっとした顔で、集合時間の10分前にやってきた。

「じゃ、そこらへんで飯食うか」
悠々と歩き出してみる。
涼宮の悔しそうな顔を見て、なんだか笑ってしまった。
「なによ」
「なんでもないさ」
ああ、本当に寂しくなってきた。


ファーストフード店で適当に昼食をとり、早速時計屋に向かった。
「あれ?」
こんなところに時計屋なんてあっただろうか。
「何ボケてんのよ、前からあったじゃない」
俺の記憶が正しければ確かここは駐車場だったはずなんだが。
そうか、少しズレが起きていても不思議じゃないか。世界が違うんだった。

涼宮はドアを大きく開け、ズカズカと中に入っていった。
もうちょっと静かに入ればいいものの。
「うーん、なんかいいものないかしら」
店内をぐるぐる歩き出す涼宮。
扉の前でその様子を眺めていると、正面のカウンターに座っている初老の男性と目が合った。
微笑みかけられたので少し頭を下げる。

「なんかもっと派手なのないかしらねー!」
お前は何を求めているんだ。
「もっとほら、蛍光ピンクの針とか、そういう奇抜な時計よ」
普通の時計じゃつまらないじゃない、と口を尖らせる。

すると、カウンターに座っていた男性が立ち上がった。
「そういえば前にお嬢さんと同じようなことを言ってる人がいたよ」
面白い時計を買っていってね、と男性は笑う。
「ちょうどお嬢さんと同じ歳くらいの子だったなぁ」
「その時計ってまだありますか?」
「ああ、ちょっと待っててね」
そう言い残すと男性は店の奥へと消えていった。

「なんだか凄い時計が現れる気がするわ」
涼宮の瞳は爛々と輝いている。俺にはわからん。

男性が持ってきた時計は、まさに「奇抜」であった。

蛍光グリーンと蛍光ブルーで縁取られ、中にはピンクの針が納まっている。
なんてサイケデリック。
「これだわ!」
涼宮はお気に召したらしい。
「SOS団のシンボルマークとそっくりね。これに決まりよ」
涼宮は自分の鞄から財布を取り出して
男性に値段を聞き、数枚の札を取り出した。

男性から時計を受け取り、とても嬉しそうである。
「きっと皆も喜ぶわね」
その前に驚くだろうな。
「もう用は済んだわ、あんたどっか行くところある?」

「あー……そうだな」
明日の放課後には俺は元の世界に戻る。
そうすれば涼宮とはお別れだ。
「喫茶店にでも入らないか」
俺は涼宮に言いたいことがあった。

「……なんですって?」
「だからさ、ただの勘なんだが」
喫茶店に入り、俺は早速話を切り出した。

店員が俺たちの前に水を置いて、その場から立ち去るのを待ってから
俺はまた口を開いた。

「明日か、明後日か。俺の記憶は元に戻る気がするんだ」
「なによ、気がするって」
「自分のことだから分かるんだよ」
長門たちには、月曜に入れ替わることは涼宮には内緒にしてくれと言われたが
これくらいならまだセーフだろう。セーフだよな?
「……本当に?」
「ああ」
水を一口飲んで、俺は続けた。
「それでさ、俺の記憶が元に戻ったら、今の記憶は消えるんだ」

涼宮が怪訝な顔をする。
「本で読んだだろう?」
俺の一言で、涼宮ははっとした顔をした。
まぁ、俺は本を読んでないんだがな。こんなの嘘っぱちだ。

「失くしている記憶を戻したら、記憶喪失になっていた間の記憶は消えるんだ」
涼宮は頷く。
「つまり、今の記憶は消えちゃうってこと?」
「そうだ」
涼宮は眉間に皺を寄せた。
「ここ3日、4日か。その間の記憶は消えちまう」

「だから今日お前と時計を買いに行った事も、明後日の俺は知らない」
すまないな、と俺が呟くと涼宮は俯いてしまった。
「別に謝ることじゃないわ」
それに、と涼宮は続ける。
「あたしが覚えてるんだからいいの」
そっか。それじゃわざわざ謝る必要なかったな。

「ここ数日さ、俺は楽しかったよ」
涼宮が顔を上げ、俺の目を見た。
何を言っているんだ、という顔である。
「明後日、お前の前に居る俺は今の俺じゃない。だからさ、今のうちに言っておきたくてな」
俺も涼宮の目を正面から見る。
「できればこのままSOS団の一員として、ずっと過ごしたかったかな」
「何言ってんのよ」
自分でも何を言ってるのかわからなくなってきた。
「キョンは、キョンよ。この先もずっとSOS団の雑用係なんだから」


喫茶店を出て、涼宮は時計の入った紙袋を俺に押し付けた。
「あんたが時計を飾っておいて」
今渡さなくてもいいんじゃないか。
別にいいでしょ、と涼宮は不貞腐れたようにそっぽを向いた。
やれやれ、わかったよ。

「あんたの勘が本当なら」
涼宮がそっぽを向いたまま喋りだした。
「明後日には記憶が戻るのよね」
「ああ」
「……今日はありがと」
涼宮はそれだけ言うと、今度は完全に背を向けてしまった。そのまま歩き出す。
さっきの言葉は別れの挨拶だったらしい。
よく分からない奴だ。
「また明日な」
涼宮の背中にそう言って、俺は家に帰った。

一応まとめてみる

>>1 >>3 >>6 >>7 >>10 >>12 >>13 >>16
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その②
>>103 >>104 >>106 >>107 >>108 >>110
>>111 >>113 >>116 >>117 >>123 >>124
>>127 >>128 >>130 >>133 >>134 >>136
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>>160 >>161 >>164 >>166 >>168 >>169
>>172 >>176 >>179 >>181 >>182 >>185
>>188 >>191 >>193 >>198 >>199

その③
>>202 >>203 >>208 >>210 >>213 >>215
>>217 >>220 >>224 >>226 >>228 >>230
>>231 >>232 >>235 >>237 >>318 >>320
>>321 >>323 >>324 >>325 >>326 >>330
>>333 >>334 >>335 >>337 >>338 >>340
>>341 >>342 >>345 >>347 >>354 >>356
>>358 >>359 >>361 >>363 >>366 >>367
>>371 >>373 >>377 >>378 >>379 >>381
>>382 >>383 >>389 >>392

>>522
容量落ちするからやめて

>>524

はい

勝手な真似すみませんでしたm(_ _)m

………
……



日曜日の朝。
「キョンくーん、あさだよ?おきてよぉー」
重い。
「今日はいっしょにゲームするっていってたじゃーん」
どん、どん、と俺の上にタックルをかましてくるの奴は、俺の妹しか居ない。
耐え切れなくなってきた俺は布団から顔を出した。
「あれ?キョンくん、おめめのしたがまっくろだよ~?」
うるさい。昨日はちょっと眠れなかったんだよ。

夢の中のハルヒの顔が脳裏に焼きついてはなれない。
その事を考える度、ハルヒに会いたくなってくる。
ちくしょう。
携帯電話を開いた。だが電話帳にハルヒの名前がない。
まだこっちでハルヒと電話番号を交換していなかったんだっけか。

今更後悔しても遅い。
俺は必死に脳みそを掻き回した。
ハルヒとはしょっちゅう電話をしてるじゃないか。電話番号くらい覚えてないのか俺。
もしかしたらこの世界のハルヒと、俺の知ってるハルヒの携帯電話番号は一緒かもしれない。
その可能性に賭けてみることにした。
必死に搾り出し、浮かんできた数字の羅列をそのまま携帯電話に打ち込んだ。
その番号が合っているかも分からない。一か八か。
さぁ、果たしてどうなるか。

『もしもし……あんた誰?』
電話の向こうの声は俺が聞きたかった声だった。
俺ってもしかして凄く運が良いかもしれない。

「俺だ」
『……ジョン?』
「ああ、そうだ」
『知らない番号だったからびっくりしたわよ』
「なぁハルヒ、今日暇か?」
『そうだけど』
「今から会えないか」
『はぁ?今から?』
「駅前に集合だ。いいな?」
『ちょっと待ちなさいよ』
「暇なんだろ?昼飯ぐらいは奢るからさ」
『……もう、分かったわよ』
「ああ、待ってる」
電話を切り、俺は急いで支度をし、妹に見つからないよう家を出た。

俺が駅前に着くと既にハルヒが待っていた。ちょっと早すぎないかお前。
ハルヒが俺を見て、最初に一言。
「あんた目の下酷いわよ」
「お前もな」
どうやらハルヒも眠れなかったらしい。

「で?何の用なのよ」
「お前に会いたかっただけだ」とは流石に言えないので、つーか言いたくないので
ここに来るまでに考えついた事を実行することにする。
「ちょっと俺に付き合ってくれないか」
「……別に良いけど」
俺の向かう先は時計屋だ。

どうも読み辛くてすまん。投下してる途中でAとかBとかやればよかったと思ったぜ

----------

「すまないが、ここでちょっと待っててくれ」
時計屋の前に着き、涼宮を扉の前で待たせて俺1人で入店した。
カウンターには昨日と同じ男性が座っていた。
「おや、昨日の」
向こうも俺のことを覚えてくれていたらしい。軽く頭を下げる。

俺は数分悩んでから、
並んでいる腕時計の中から、一番先に目に着いたものを購入することにした。
ハルヒも待たせていることだし、長くは悩んでいられないからな。
腕時計を受け取り、男性の謝辞を背中で受けながら店を出た。
「待たせたな」
ハルヒは俺が店に入る前と同じ位置でちゃんと待っていてくれた。

「喫茶店にでも行かないか」
「だったら最初からあたしを喫茶店で待たせてればよかったじゃない」
ハルヒに言われて気がついた。そうしたほうがよかったな。
「すまないな」
「別に良いけど」
行くわよ、とハルヒが俺の前を歩き出す。

喫茶店に入り、ハルヒはカフェオレを頼んだ。俺は適当にコーヒーと言っておいた。
「ハルヒ、これをお前にやる」
さっき時計屋で買ったままの、腕時計の入った箱をハルヒの前に置いた。
包装紙もリボンもない。
「……急になによ」

「……実はさ、俺もう少しで元の世界に戻る」
ハルヒは驚きに目を開き、それから箱に視線を落とした。
「その前にハルヒに、……何か残していきたいと思ったんだ」
「……何よそれ」
二度と会えなくなるみたいじゃない、とハルヒは呟いた。
「それに、戻るって何時よ」
「……それはまだ詳しくは分からないが、俺の勘だよ」
月曜日に戻るということはハルヒに言わないほうが良いだろう。
長門も内緒にしろと言ってたからな。

どっちの世界のキョンも律儀な奴だな

「意味分かんない」
ハルヒは箱を手に取り、開けた。
「……腕時計?」
店員がカフェオレとコーヒーを運んできた。
伝票を置いてその場を去るまで、ハルヒはずっと腕時計を見つめていた。

「俺が元の世界に戻ったらさ、この世界に居たはずの俺も元に戻るはずなんだ」
つまりハルヒに「お前は誰だ」と言った俺が、この世界に戻ってくるという事だ。
「その俺の事もさ、よろしく頼むよ」
ハルヒが顔をあげた。
「よろしく、って」
「俺の代わりだと思って、SOS団に入れさせてやってくれ」
これは完全に俺の勘だが、
俺と入れ替わって向こうの世界に行った俺は、きっとSOS団に入りたいと思っているはずだ。

俺の代わりに俺、というのもなんだか可笑しな話だがな。
「……ジョンの代わりなんていないわ」
「俺の事を忘れろと言ってる訳じゃないんだ」
コーヒーを一口飲んだ。苦い。
「時々さ、その腕時計を見て俺を思い出してくれよ」
ついさっき買った時計で悪いが。
「……なによ、それ」
ハルヒは俯いて、しばらくの間黙っていた。

ハルヒが、さっき俺がプレゼントしたばかりの腕時計を、自分の腕に回した。
「この世界に居たはずのあんたってやつ」
俺がコーヒーを飲みきってしまった時だ。
ハルヒが顔を上げ、にやりと笑った。
「SOS団の雑用係にしてやるわ!」
俺もつられて笑った。

「そういえばあんたに聞きたいことがあったんだわ」
さっきまで大人しかったハルヒはどこに行ったのか
そう言ったのハルヒの目は元気そのものだった。

「なんだい」
「あんたの世界で、あたしが入学式の日に自己紹介で言った台詞ってあんた覚えてる?」
忘れるわけがない。
俺はハルヒに、かつてハルヒが吐いた
あの台詞をそのまま投げた。
一字一句間違えずに。多分。
それを聞いてハルヒは満足そうに微笑んだ。
「ふ~ん……分かったわ」
一体何を企んでいるんだ?
「あんたじゃないあんたに伝えておきなさい、覚悟してなさいってね!」
残念ながら俺には長門みたいな能力はない。
ただ、また良からぬことを企んでいるに違いない。
覚悟してろってさ、俺。

………
……



遂に月曜日が来た。
涼宮は朝から机に突っ伏したままで、
昼休みになってもまだ会話を交わしていなかった。
やっぱりよくわからない奴だ。

時間が遅く進まないだろうか、と思っている時に限って
いつもより時間が早く進んでいるような気がするのは不思議なもんである。
あっという間に放課後だ。
「涼宮、今日の放課後なんだが」
後ろを振り向くと珍しく涼宮の姿があったので、
どこかへ消えてしまわないうちに話しかけた。
「何よ」
「実は、飼い猫が通院しててな……」
「今日の団活ならナシよ」
必死に考えた俺の言い訳が数秒で砕け散ってしまった。
「古泉くんはアルバイト、みくるちゃんは歯医者で、有希も用事があるんですって」
さっきメールが来たの、と涼宮。

>>552
ハル鬱は人生

>>555
春鬱ですね分ります

「みんな今日は都合が悪いらしいから今日のSOS団の活動は休み。あんたも帰りなさいよ」
そう言って涼宮は鞄を持ってさっさと教室から出て行ってしまった。
なんだか皆して涼宮を騙しているようで、罪悪感を感じる。
しかし今回はしょうがないだろう。涼宮に知られちゃマズイらしいからな。

文芸部室へ向かうと、既に3人が揃っていた。
「時間には、まだ早いですね」
古泉が自分の腕時計を見て、言った。

古泉の腕時計を見て涼宮に言われたことを思い出した。
「そういえば昨日涼宮と時計を買ってきたんだよ」

俺は紙袋から時計を取り出した。
その時計を見て、朝比奈さんがわぁ、と小さな歓声を上げ
古泉が声を出して笑った。
長門は無表情で時計を見つめている。
「すごい時計ですね」
「これを部室に飾っておけと言われたんだ」
「ど、どこに飾りましょうかぁ」
「そうですねえ……」
3人で辺りを見回し始めた、その時
「あそこに飾る」
長門が一点を指差した。

長門の示した先には、太陽のような変な飾り物があった。
「なるほど、あそこがいいでしょう」
「すぐに飾るべき」
わかりました、と古泉が答え、時計を手に取った。

「この辺りでしょうか」
「いい」
古泉が設置し終わり、また席へ戻った。

早速設置された時計を見ると、17時まであと1時間ほどだった。
「あ、あと1時間ですね……」
朝比奈さんが両手を合わせぷるぷる震えている。
「本当に、わ、わたしにできるんでしょうか……」
「予行練習でもしましょうか」
そう言ったのは古泉だ。
「そのほうがいいんじゃないでしょうか。ね、長門さん」
古泉の言葉に長門が頷く。
「僕の額を使ってかまいませんから」

古泉wwwwwww

古泉の一言で、朝比奈さんのデコピン予行練習が始まった。
「えいっ」
「もう少し強く」
「えっえいっ」
「もっと思い切りやって」
朝比奈さんは可愛らしい掛け声を上げながら、古泉の額にデコピンを打ち続ける。
長門は朝比奈さんが一発打つたびに細かく指示をしていく。
俺はこれほどまでに赤くなった額を見たことがあっただろうか。
いや、ない。

「古泉、大丈夫か」
左手で前髪を押さえ、額を突き出している古泉に問いかけると
「大丈夫ですよ」
と微笑が帰ってきた。
目尻に涙が浮かんでいるように見えるのは俺の気のせいだろうか。
「いやぁ、デコピンもあまり侮れませんよ」
俺、あまり痛いのは嫌だなあ。

「今の強さ」
長門がそう呟いたのは、17時まであと10分程になった頃である。
「今の、ですか?」
「そう。今の感覚を覚えていて」
「わっわかりました」
やっと練習は終わったらしい。
古泉も安心したようだが俺も安心した。
もう少しで古泉の額から血が出そうになっていたからだ。

「……あと10分くらいで元の世界に戻るのか」
俺が呟くと、3人が俺のほうに顔を向けた。
「この数日間、結構楽しかったよ、俺は」

「……あなたの事は忘れませんよ」
古泉が微笑んだ。
「俺もSOS団のことは忘れないさ」
できれば最初から、この世界に居たかったな。
SOS団の一員として、お前らと過ごしてみたかった。

俺がそう言うと、長門は俺に一歩近づき、
「向こうの世界で涼宮ハルヒはあなたを待っている」
「なに?」
「あなたはこの世界ではなく、もうひとつの世界でSOS団に入るべき」

「……俺が元居た世界にも、SOS団はあるのか」
「ある」
俺の問いかけに長門は静かに答えた。
胸が高鳴る。
「素敵じゃないですか」
古泉が芝居がかった口調で言った。
「向こうの世界の僕も、どうぞよろしくお願いしますよ」
「わっわたしのことも!」
元に戻ってからやることができてしまった。
俺の中にさっきまであった、戻りたくなかった気持ちが消えた。
俺には俺の場所があるんだな。

「もうすぐ時間」
長門の言葉を聞き、俺たちは一斉に時計を見上げた。
3分前。

「ここに座って」
長門が指差した椅子は、その時計のちょうど正面にあたる所に配置してあった。
言われたとおりにそこに座る。
「朝比奈みくるはここに立って」
長門に指示され、朝比奈さんが俺の正面に立つ。
「古泉一樹は朝比奈みくるの隣に」
「ここでよろしいでしょうか」
古泉が、俺から見て朝比奈さんの右隣に移る。
「いい」

「あと30秒」
「わ、わたしがんばりますねっ」
「よろしくお願いします」
「僕は成功することを祈るだけですね」
「も、もし失敗したらっ……」
「その時はその時です」
「失敗することは考えなくていいですよ。きっと大丈夫です」
「あと20秒」
「ううぅ……すっごくドキドキしてきました」
「朝比奈さん、深呼吸です」
「はっはい」
「頑張ってくださいね」
「ひゃ、ひゃい」
「あまりプレッシャーかかるようなことを言うな古泉」
「どうもすみません」
「あと10秒。目を閉じて」

長門に言われて目を閉じる。
最後に朝比奈さん越しにハルヒが買った時計が目に入った。

いよいよラストか!!

ハンカチが必要そうだな(>_<)

………
……


月曜日の放課後がやってきた。
文芸部室には既に俺と長門と朝比奈さんが揃っていた。
あとは古泉が来るのを待つだけである。
「い、いよいよですね……」
朝比奈さんが両手を合わせ小さくなっている。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、きっと」
朝比奈さんは俺の言葉に軽く微笑み返してくれた。
しかしその笑顔は明らかに引き攣っている。大丈夫だろうか。

文芸部室には、この前ハルヒが買った時計がちゃんと飾ってあった。
SOS団部室に例えると、太陽みたいな変な置物が飾ってある辺りの位置だ。
長門はちゃんとハルヒの言いつけを守ったらしい。
17時まであと40分ほどである。

「どうもすみません、遅れてしまいました」
古泉が部室に入ってきた。
学ラン姿である。
「その格好で大丈夫だったのか?」
俺の言葉で古泉は、初めて自分が学ランのままだったことに気づいたような顔をした。
「なんとか入れてしまいましたね」
本当にこの高校ゆるすぎるんじゃないだろうか。

時計を見るとあと30分くらいだ。
待っている間というのは時間の流れが遅く感じるものである。
何かすることはないだろうか。
古泉も同じようなことを考えていたらしい。
「時間がありますね。……そうだ、予行練習なんてしてみませんか」

「予行練習ですか?」
「力加減など、確認しておいたほうがよろしいかと」
「確かに」
長門の言葉に、朝比奈さんも頷いた。
「でも、どうやって……」
「僕の額を練習台に使って構いませんから」
古泉はそういうと、左手で前髪をかきあげ、そのまま押さえた。

それから20分くらいだろうか。
朝比奈さんが古泉の額にデコピンを打ち続け、
長門がそれに「もうすこし強く」などとアドバイスを出していく。
どんどん赤くなっていく古泉の額。居た堪れなくなってくる。

さらに5分後。
「その位」
長門の一言で、朝比奈さんのデコピンの嵐が止んだ。
「さっきの感じ」
「わっわかりました!」
確認は終わったらしい。古泉が目尻に涙を浮かべながら前髪を戻した。

古泉はやっぱりどっちの世界でも・・・

「そろそろ準備に移る」
長門が呟き、ガタガタとパイプ椅子を用意し始めた。
「あなたはここに座って」
長門が用意した椅子に、言われたとおりに座る。
ちょうど時計の真正面である。
「朝比奈みくるはここ」
長門の指示で、朝比奈さんは俺の正面に立たされる。
「古泉一樹は朝比奈みくるの隣」
そう言われ、古泉は俺から見て朝比奈さんの右隣へ移動した。
長門が軽く頷き、一度眼鏡を上げて、カウントダウンを始めた。

「あと30秒」
「わ、わたしがんばりますねっ」
「よろしくお願いします」
「僕は成功することを祈るだけですね」
「も、もし失敗したらっ……」
「その時はその時です」
「失敗することは考えなくていいですよ。きっと大丈夫です」
「あと20秒」
「ううぅ……すっごくドキドキしてきました」
「朝比奈さん、深呼吸です」
「はっはい」
「頑張ってくださいね」
「ひゃ、ひゃい」
「あまりプレッシャーかかるようなことを言うな古泉」
「どうもすみません」
「あと10秒。目を閉じて」

長門に言われて目を閉じる。
最後に朝比奈さん越しにハルヒが買った時計が目に入った。


「いきますよ、キョンくん」
「いきますよ、ジョンくん」

朝比奈さんの声がダブる。

次の瞬間、額に衝撃。
これは、想像以上に痛い。


それから一瞬だけ、体が浮いたような感覚に陥る。




目を開けた。

なんか黙って待ってられないよ

谷川はこれを文庫化すべき

>>610

激しく同意!!


一番最初に目に入ったのはサイケデリックな時計。
次に朝比奈さんの心配そうなお顔。
「だ、大丈夫ですかぁ」
朝比奈さんの右隣には、俺が目を閉じている間に衣替えしたらしい古泉。
左隣には無表情の長門が立っていた。目を閉じる前とは一箇所だけ違う。
とても簡単な間違い探しを見ているようだ。
思わず笑ってしまった。

「……成功したのですか?」
古泉が心配そうな声を出した。
長門が頷く。
それから俺のほうを向き、静かに言った。

「おかえりなさい」
「……ただいま」

俺は元の世界に戻ってきた。

「キョン!記憶が戻ったのね!」

デコピンひとつで世界を跨ぐとは、思い返してみるとなんともあっけないものである。
あのあと俺は3人から三者三様の反応を受け取った。
朝比奈さんは泣きじゃくり、古泉は眉を下げて笑い、そして長門はやっぱり無表情である。
北高の制服に着替えた古泉に、入れ替わっていた間の出来事をざっと説明され
明日の朝一番に部室に集合することになった。
俺は記憶喪失扱いになっていたらしい。

その次の日。俺はいつもより30分早く家を出て、部室に向かった。
部室にはもう3人が揃ってて、笑顔で俺を迎えてくれた。
「今回はちゃんと忘れずに来てくれましたね」
「何のことだ」
「こちらの話です」
ね、と古泉は長門と朝比奈さんに微笑みかけた。朝比奈さんも笑う。
長門が軽く頷いた時、部室の扉が開いた。
「今日はみんな揃ってるわね!」

>>1

時間を合わせて来るとはなかなかやるな!!

扉の外にはハルヒが立っていた。
何故だか懐かしい気分になる。
「おはよう、ハルヒ」
ハルヒは俺の言葉を聞き、ぱあっと目を輝かせた。
そして上記の台詞である。

しかしハルヒの顔が晴れていたのも束の間。一瞬にして曇り、
「やっぱり昨日までのことは覚えてないの?」
と言った。
なんのことだろう。
古泉の方をちらりと見ると、奴は眉を下げて首を傾げた。
俺も心の中で首を傾げてから
「あ、ああ。覚えてないかな」
「そう」
一度俯いてから、またハルヒは顔を上げた。

「でもよかったわ!記憶が元に戻ったのね!」
にかっと笑い、ハルヒは腰に手を当てた。
「もう二度と忘れたりするんじゃないわよ、いいわねキョン!」
「ああ」
朝比奈さんも古泉も笑った。長門は無表情だが、少し眉が下がったように見えた。
気のせいじゃないと思う。

きっともう、向こうの世界に行くことはないだろう。
あのハルヒに呼ばれることはないと思うからな。
俺はもう用無しのはずだろ?もうひとりの俺よ、ハルヒをよろしく頼むぞ。

「あっちの俺はどうだった」
部室から教室に向かっている最中、隣を歩いている古泉に尋ねた。
「思ったより、いつも通りでしたよ」
オセロも負けてしまいましたし、と古泉。
それはお前が弱すぎるんだよ。

「ですが涼宮さんは薄々勘付いていたようです。あなたであってあなたじゃないとね」
やっぱり閉鎖空間がたくさん発生したんだろうか。
そうだったら古泉には労いの言葉くらいかけてやらないといけないな。
「そうでもありませんでしたよ」
古泉は微笑み、
「今回はあなたをただ心配する気持ちが強かったようです」
そうか、なら安心したよ。

「あなたも、向こうの世界の事を詳しく教えてくださいね」
ああ、放課後な。
古泉にそう言って、俺は昨日までのことを少し思い返してみた。
結構楽しかったかもしれないな。
命を狙われるようなこともなかったし、平穏だったと言えるんじゃないだろうか。
……いや、ちょっと危なかったかもしれない。

「向こうの世界の僕はどうでしたか」
古泉の言葉で、あの学ランの古泉を思い浮かべた。
「あいつもお前と変わらず」
苦労しているみたいだ、と言いかけて、やめた。
今の古泉を「苦労している」の一言で片付けていいのだろうか。
こいつも現状を割かし楽しんでいるみたいだし、相応しくないな。
あの古泉だって、結構楽しんでいるのかもしれないし。
「ハルヒの隣でニヤニヤしていたさ」
別に嘘はついていない。
「ならよかった」
そう言って古泉はまた笑った。

「今頃、向こうのあなたはどうしているんでしょうね」
「そうだな」
きっと上手くやっているさ。

「あら古泉くん、自分の教室に戻らなくていいの?」
前を歩いていたハルヒが振り返った。
気がついたら俺のクラスの前まで来ていた。
すっかり話に夢中になっていたよ。
「おや、気がつきませんでした」
古泉は頭を掻いてから、
「それでは、また放課後に」
と、背中を向けて歩いていった。

「今日は放課後皆でどっかに食べに行きましょうよ」
あんたの奢りでね、とハルヒはニコニコしながら俺に言った。
「皆に心配かけた罰よ」
はいはい、分かったよ。
「今日はいい天気だしね!」
やれやれ。

あんた作者乙

………
……


「キョンくん!大変です!」
朝の教室に朝比奈さんの声が響いた。

あの日、元の世界に帰ってきた俺は、
何もない文芸部室で眼鏡をかけた長門と、学ランを着た古泉、そして朝比奈さんに歓迎を受けた。
「おかえりなさい!ジョンくん……じゃなくて、キョンくん、ですね」
朝比奈さんが目に涙を溜めて俺の手を握ってくれた。
長門は眼鏡を一度持ち上げ、
笑顔が少し減ったように思える古泉からは、微笑を受け取った。
その後、古泉が涼宮に連絡を取り、そのまま喫茶店へ集合することになった。

「ジョンじゃなくて、キョンな訳ね」
向こうの世界でも何度か行った喫茶店に集まり、そこでこの世界の涼宮とご対面だ。
顔はもちろん髪型やカチューシャはまったく同じだった。ただ、着ている制服が違うだけだ。

涼宮は俺を、怒っているような残念がっているような顔で眺め回した後、
やっぱり外見は同じよね、と呟いてから、
「あんたをSOS団雑用係に任命してあげるわ」
と人差し指を突き出した。
隣に座っている朝比奈さんに「おめでとうございます」と微笑みかけられた。
雑用係だぞ、おめでたいのだろうか。

兎にも角にもこうして俺もSOS団の一員となったわけだ。
活動内容は向こうの世界とほぼ同じだった。不思議を見つけること、だそう。

終わるか・・・?終わるか・・・?

数週間が経ち、喫茶店SOS団にも慣れてきた頃である。
ある日の朝。
「キョンくん!大変です!」
既に上でも記した通り、俺の教室に朝比奈さんがやってきた。
出入り口付近でおろおろしている朝比奈さん。
その隣には長門も立っている。

俺が朝比奈さんのもとへ向かおうと席を立った時だ。
「おいキョン」
誰かに呼び止められた。
「あれって3年の朝比奈さんだよな?」
声の主は谷口である。
「どうしてお前があの人と知り合いなんだ?しかも隣にはあの長門有希まで揃ってやがる」
朝比奈さんが有名なのはなんとなく分かっていたが、まさか長門までとは。

いや、まだだ


まだあわてる時間じゃない

「お前いつの間に抜け駆けしたんだよ!ずるいぞ!」
「まぁまぁ谷口、醜いよ」
今にもハンカチを咥えだしそうな谷口を、国木田がなだめた。
俺は小さな溜息をついてから、谷口の横を通りドアへ向かった。
「おいこら無視かよ!」
無視だ。

「きょ、キョンくん、大変なんです」
何がそんなに大変なんですか、と俺が朝比奈さんに尋ねる前に
長門が答えてくれた。
「涼宮ハルヒが転校してくる」
「はぁ?」
「ついでに古泉一樹も」
朝比奈さんがアワアワしていらっしゃる。何がそんなに心配なんだろう。
とても面白そうじゃないか。

「こら、そろそろ教室に戻りなさい」
朝比奈さんの横から担任の岡部が現れた。
朝比奈さんは小さく悲鳴をあげ、「じゃあまた放課後に」と残して教室を後にした。
長門も朝比奈さんの後ろについて行った。

「朝比奈さん、なんだって?」
席に戻ると谷口が寄ってきた。お前もしつこい奴だな。
「今日転校生がくるってさ」
「何!?女か、男か?」
「美少女だぞ」
「本当か!?」
谷口が手をあげ喜んだ。遂に俺の時代が来るとか意味の分からないことを言っているが
無視だ。なんとも単純な奴だな。

岡部が教卓の前に立ち、
「皆席につけ、今日は転校生が来る」

おっ

教室中がざわめいた。
「えー静かに。じゃあ、入って」
岡部がドアに向かって言うと、教室中が静まる。
乱暴にドアが開かれた。

「涼宮!?」
大声を上げたのは谷口である。一気に教室がざわつき始めた。
教室に入ってきたのは女子と男子が1人ずつ。
北高の制服を着ていた。当たり前か。
なんだか不思議な気持ちになる。また向こうへ飛んでいったみたいだ。
やっぱりあの黒い制服より、こっちの制服の方が似合うな、と俺は思った。

女子生徒は黄色いリボンを揺らして、教卓の前まで進んでいった。
男子生徒もその女子生徒に続く。
教卓の両端に手を置き、爛々とした瞳を正面に向けた。
岡部が黒板に名前を書き出す前に、その生徒は自己紹介を始めた。

「あたしの名前は涼宮ハルヒ。で、こっちが古泉くん」
涼宮から紹介され、古泉はにこっり微笑んだ。
教室中の女子から小さな歓声が生まれる。ああ、忌々しい奴だ。


それから涼宮はニヤリ、と笑って大きく息を吸った。

「ただの人間には興味ありません」

教室が再び静まり返った。
涼宮は教室中を見渡して、続ける。

「この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい!」

ktkr

ktk                                  ______

.                  ./ ̄ ̄ ̄ ̄\,,    / -、 -、    \
    ┏┓    ┏━━┓   /_____  ヽ  /   |  ・|・  | 、    \       ┏━┓
┏━┛┗━┓┃┏┓┃   | ─ 、 ─ 、 ヽ |  |  / / `-●-′ \    ヽ.     ┃  ┃
┗━┓┏━┛┃┗┛┃┏━|  ・|・  |─ |___/━|/ ── |  ──   ヽ    |━━┓┃  ┃
┏━┛┗━┓┃┏┓┃┃ .|` - c`─ ′  6 l.  |. ── |  ──    |   |   ┃┃  ┃
┗━┓┏━┛┗┛┃┃┗━ヽ (____  ,-━━| ── |  ──   .|   l.━━┛┗━┛
    ┃┃        ┃┃     ヽ ___ /ヽ   ヽ (__|____  / /     ┏━┓
    ┗┛        ┗┛     / |/\/ l ^ヽ   \           / /.      ┗━┛
                   | |      |  |    l━━(t)━━━━┥


名言……どうぞ!

今この教室に漫画的擬音をつけるとしたら「ぽかーん」である。
涼宮の隣に立っている岡部も口を開け、涼宮の後頭部を見つめていた。
古泉はニコニコしている。
俺の後ろで朝倉が「あらあら」と楽しそうに呟いた。

「以上!」
涼宮はそう高らかに言うと、教卓を一回叩いた。
その音に岡部ははっとして、空いている席を指差す。
まあその席ってのは俺の隣とその後ろな訳だが。
この机、朝からあっただろうか。
俺の隣に涼宮が歩いてきた。一度俺を見て、ニヤリと笑う。
俺もつられて笑ってしまった。

やれやれ。
面白いことになりそうだ。



おわり

【審議中】
    ∧,,∧  ∧,,∧     このオチどうよ?
 ∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧  いいよな。  伏線上手いし。
( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )     ナイスだよな。
| U (  ´・) (・`  ) と ノ  面白いね。

 u-u (l    ) (   ノu-u          泣いた。
     `u-u'. `u-u'
【審議結果】


パッ   パッ   パッ    パッ   パッ    パッ

 [ 乙 ]  [ 乙 ]  [ 乙 ]  [ 乙 ]  [ 乙 ]  [ 乙 ]
  ∥∧∧  ∥∧∧ ∥∧,,∧ ∥∧,,∧ ∥∧∧  ∥,∧∧
  ∩・ω・`)∩・ω・`)∩・ω・`)∩・ω・`)∩・ω・`)∩・ω・`)

   (    ). (    ). (    ) (    ) (    ) (    )
   `u-u´  `u-u´   `u-u´  `u-u´  `u-u´  `u-u

最高でした

文庫化希望!

大変長らくお付き合いどうもありがとうございました。
半月くらい待っててくれた人もありがとう

あと時間リンクは偶然です
自分でも鳥肌立っちまった あのときブタメンを買いに行ってよかった

>>718

キョンの後ろの席は朝倉でうまってなかったの?

マジ目から汗が…。

>>1
妹は大切にするから安心しろ

>>729
俺の隣とその後ろ


俺の後ろとは言って無いぞ

俺の隣と「そ の 後 ろ」だ

>>739
とりあえずお前は黙ってろって
ニコ厨は本当に癌だな
内輪ネタならそっちでやれと

>>742 お前に妹はやらん

蛇足だが一応別々にまとめてみた

A   北高SOS団 ← 消失世界キョン
B 喫茶店SOS団 ← キョン(ジョン)

A
>>1から>>33まで
>>57から>>80まで
>>160から>>215まで
>>326から>>342まで
>>378から>>392まで
>>498から>>517まで
>>554から>>582まで

B
>>35から>>55まで
>>84から>>157まで
>>217から>>325まで
>>345から>>377まで
>>401から>>495まで
>>528から>>551まで
>>586から>>598まで

そのあとは元に戻ったりなんたら
わかりにくい書き方をしてすまん
でもちゃんと伝わってたみたいなので俺感激

また作品作って下さい!!

今後のジョンの話ってのはどうです??

>>747
これもコピペ改変?

>>747

そんなに熱くならないで!励ましてやるよ

面白かったが最後ニコ厨のせいで萎えた
くるぞ・・とかきたああああ!!!とか

>>757他人の儲けが気に食わない

コピペブログは別におk
LRに反しない

ただしこれ↓はダメ
お金儲け目的、アフィサイトへの転載は禁止だお
違反サイトはVIPPERみんなで遊びにいきます
(LRより抜粋)

さあ糞ssも終わったし
もっとおもしろいの書いてやるわ

>>760

萎えたんだね、可哀想に、励ましてやるからこれからは心に留めとけ

とりあえず黙って見ればいいんだよ

専ブラおいしいです

>>766
わっふるわっふる


スレ立ててね

>>766
わっふるわっふる

正直、変な流れの元凶を作ってしまい申し訳ないと思っている。


お詫びといってはあれだが……

俺はとある県立の北高に通う高校1年生である。

「涼宮ハルヒの憂鬱」という売れないライトノベルを読んだ事が原因かどうかは不明だが、
程なくして同じくコアな読者である鈴木はるこという少女に出会い、そして様々な事件、人物に巡り会う事となった。

俺は人から「キュン」と呼ばれていた。

やめて

>>788

 〉はい
  いいえ

読者めちゃくちゃおったんやね!!

で、この痛いニコ厨たちは生ごみかね、不燃物かね?それとも粗大ごみ?

>>797
NG登録してスルーするか100年ROMれ

ところで>>766マダー?

もぉ言いあいは他スレでやってよ!!

で、この痛いニコ厨たちは生ごみかね、不燃物かね?それとも粗大ごみ?

│ 
│  
│  
├─ キョウハゴミカイシュウビジャナイノキワミ、アーwwwwwwwwww

│  
│  
│ 
頼む…あおらないでくれ……空気嫁よとか仲間はずれ的な孤独扱い発言はやめてくれ………涙出ちゃう……………うっ……ううう……

なーんてNE☆(*^_^*)
ごめんなさい………ごめんなさい……一人にしないで…ぼくのことはどう言われてもいいから…お願い…ほかのIDさん達と仲良く話してるように…仲間はずれにしないで(´;〇;`)
お願いします・・・・お願いします・・・・無視しないでください・・・そうやってほかの人に安価つけて「何こいつ?」という目で僕を見ないでください・・・orz
なーんてNE☆(*^_^*)


これか

ブタメンうめえな
1000はいかないかなぁ

>>1乙!!

ところで>>1は天使のくれた時間が好きなんじゃないかと思った

>>815
それ初めて聞いた
ぐぐってみたけど面白そうだ 今度機会があったら見てみたい


楽しませてもらったぜ!

流石、本物は違うな!!!!!!

谷川さん、驚愕お願いしますwwwwwwwwwwwwwww

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