――ドン
タイムスクープ社
タイムワープ技術を駆使し
あらゆる時代にジャーナリストを派遣
人々の営みを映像で記録し
アーカイブ計画を推し進めている機関である
――ザッ
沢嶋「えー、ポジション確認」
沢嶋「アブソリュートポジション。N452、W221、E779、S947」
沢嶋「アブソリュートタイム。B7655573年32時18分88秒」
沢嶋「西暦変換しますと、1983年7月18日6時22分45秒」
沢嶋「無事タイムワープ成功しました」
沢嶋「コードナンバー888888。これから記録を開始します!」
沢嶋雄一! 彼はタイムスクープ社より派遣されたジャーナリストである!
あらゆる時代にタイムワープしながら、時空を越えて名もなき人々を記録していくタイムスクープハンターである!
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1379085881
沢嶋(1983年、まだ人通りのない月曜の早朝。東京のある住宅街)
沢嶋(今はまだ寝静まっている家々の中のひとつに、今回の取材対象者と家族が暮らしている)
沢嶋(今回の取材対象は小学生。特に『1980年代の小学生』を記録する)
沢嶋「この時代の人々にとって、私は時空を超えた存在です」
沢嶋「彼らにとって私は宇宙人のような存在です」
沢嶋「彼らに接触する際には細心の注意が必要です」
沢嶋「私自身の介在によって、この歴史が変わることも有り得るからです」
沢嶋「彼らに取材を許してもらうためには、特殊な交渉術を用います」
沢嶋「それは極秘事項となっており、お見せ出来ませんが、今回も無事、密着取材する事に成功しました」
――ヴン、ピッ
爆発10秒前! パーマン決死の爆弾処理
――バン
沢嶋(午前6時28分、この須羽(すわ)家の母親が起床した)
沢嶋(着替えと身支度を手早く済ませると朝食の用意を始める)
沢嶋(6時47分、まだ眠そうな父親の満太郎が食卓で新聞を読み始める)
沢嶋(それを横目に見た母は朝食の用意を一旦切り上げ、二階へ駆け上がっていった)
ミツ夫の母「ミツ夫さん! 起きなさい、朝ですよ、ミツ夫さん!」
沢嶋(須羽ミツ夫。今回の取材対象者で小学五年生。十一歳)
ガン子「お兄ちゃんったら、また夜中と明け方になんだかゴソゴソやってたみたいだよ」
母「ンまあ、ミツ夫さんったら! 夜ちゃんと寝なさいって、あれだけ注意したのに!」
父「おーい、母さん! 目玉焼きが焦げちゃうよー!」
母「ガン子ちゃんも急いで」
ガン子「ねえ、お兄ちゃんはー?」
母「もうすぐ夏休みだし、気が緩んでるんでしょ。いいからほっときなさい」
ガン子「うひひひ、また遅刻だね、こりゃ」
母「朝食、あなたも御一緒なさいますでしょ?」
沢嶋「あ、いえ、私は」
母「ご遠慮なさらずに、どうぞどうぞ」
父「おーい、母さん! 目玉焼きが目玉炭になっちゃうよー!」
沢嶋「あ、旦那さんがお呼びですよ」
母「んもう! はい、今行きますよ!」
沢嶋(その後、父と娘を送り出す事にやっきになった母は、ミツ夫を忘れ、登校時間10分前の8時20分になってしまった)
母「あら! 大変!! ミツ夫さん! ミツ夫さん!! 遅刻しますよ!!」
ミツ夫「ううーん、あと5分、いや、2分30秒……」
母「もう遅刻まで10分もないのよ、ミツ夫さん!!」
ミツ夫「へ? う、うわぁー、ホントだ! どうして起こしてくれなかったのさー!?」
母「起こしましたよ。ねえ?」
沢嶋「はい。一時間半前に一度」
母「ほーら、ご覧なさい!」
ミツ夫「うわぁー! 聞いておいてなんだけど、そんな事どうでもいいや!」
ミツ夫「行ってきまーーーーす!!」
母「忘れ物はないんでしょうね!」
ミツ夫「あ! 靴を忘れて靴下のままだ!」
母「これだもの」
沢嶋(ミツ夫は食パンを一枚くわえたまま学校に駆け込んだが、当然間に合うはずがない!)
ミツ夫「すみません、今日も遅刻しました……」
ヒゲダルマこと大山先生「またかねミツ夫くん」
カバ夫「ミツ夫、もう夏休みだと勘違いして寝てたんだろう」
サブ「ひょっとすると、冬休みと勘違いして、お年玉もらう夢見てたのかもしれませんよ」
晴三「いやいや。春休みだと思って、お花見でもしてたんじゃないかな」
サブ「それじゃあミツ夫くんはもう六年生ですね」
カバ夫「おいミツ夫、教室が違うんじゃないか。ここは五年生の教室だぞ」
クラスメイト「はははははwwww」
ミツ夫「なんだい、そんなに笑う事ないじゃないか」
大山先生「こら、みんな静かにしないか。ミツ夫くんをからかうのはよしなさい」
大山先生「ミツ夫くん、2学期こそ遅刻をなくすんだぞ。夏休みの間に、生活リズムを整えなさい」
ミツ夫「反省します」
大山先生「いいだろう、席につきなさい」
ミツ夫「反省のまま着席します」
ミチ子「あなた、パーマンの友達なのに朝が弱いのねえ」
ミツ夫「大事なのは朝より昼だよ昼」
ミチ子「昼だって、昼寝ばっかりじゃないの!」
ミチ子「それに朝が弱いというのは、時間にルーズって事よ!」
ミチ子「もっとしっかりしなくっちゃ。パーマンに失礼よ」
ミチ子「パーマンも、あなたの寝坊にはサジを投げてるのね、きっと」
ミチ子「だから親友のあなたでも助けてもらえないのよ」
ミツ夫「そ、そこまで言わなくても!」
沢嶋(パーマン。昭和58年、1983年の春頃から、東京で2人と1匹、大阪で1人が活動していた謎の集団だ)
沢嶋(彼らが行った救助活動や犯人逮捕は、数多くの記録されている)
沢嶋(正義の味方として当時の小学生から絶大な人気を得ていた)
沢嶋(そのパーマンと比べられ責められるミツ夫の悔しさは晴れる事のないまま、授業は進む)
沢嶋(算数、国語では寝ぼけたままチンプンカンプンな回答をしてしまい、クラス中から笑われ)
沢嶋(得意の社会では少し持ち直したものの、4時間目の水泳では、あわや溺死する寸前だった)
沢嶋「ミツ夫くん。これから給食ですね」
ミツ夫「まあね」
沢嶋「楽しみなんじゃないですか?」
ミツ夫「そうでもないよ」
沢嶋「どうしてですか?」
ミツ夫「アレだよ、アレ」
カバ夫「よーし、今日、俺に挑戦するのは誰だ!!」
サブ「カバ夫くんはな、お父さんの入れ歯が見っかるまで、牛乳の一気飲み競争で毎日勝つという願掛けをしてるんだぞ!」
カバ夫「我こそはと"思わない"、自信のない者! 手を挙げて俺に挑め!」
ミツ夫「毎度の事だけど無茶苦茶言ってるよ」
沢嶋(脱脂粉乳から国産牛乳に完全に変更されたのが約20年前の昭和39年)
沢嶋(脱脂粉乳の頃は、乳成分の皮膜によって牛乳の一気飲みは困難だった)※1
※1 脱脂粉乳が皮膜で一気飲みしづらかったかどうか、本当は知りません。
そんな話を古い映画か何かで聞いたような気がします。
沢嶋(これがいつ行われるようになったかは定かではないが)
沢嶋(この頃、声高に叫ばれていたテレビの悪影響のひとつとされ)
沢嶋(教師や保護者の厳しい取締りがあっても、一気飲みによる小さな決闘は後を絶たなかった)
沢嶋(なお、これより前は、漫画の悪影響という声が大きく、地域によっては漫画の焚書が行われた)
沢嶋(そして、これより後はテレビゲームの悪影響がマスメディアによって重大事件と結びつけられていく)
沢嶋(いつの世も、甘い誘惑の声は子供たちの心をつかんで離さない)
沢嶋(誘惑を糾弾する大人たちの声は大きいが、子供たちの胸にあまり響かない)
沢嶋(それは子供たち以外への声が混ざっていたからに違いない)
カバ夫「ふむ、みんな自信があるのか手を挙げないな」
カバ夫「よし! サブ、お前選べ!」
サブ「えー、今日もボクが選ぶのー? たまには自分の人生自分で切り開いて下さいよ」
カバ夫「なんか言ったか、サブ!」
サブ「さー、今日は誰にしようかなー!」
ミツ夫「この会話もいつも同じ」
沢嶋(何か、彼らなりの儀式なのか?)
ミツ夫「で、ボクが選ばれる」
サブ「よく分かってるなー、ミ・ツ・夫・くんッ!」
ミツ夫「毎日毎日の繰り返しで、忘れたくても覚えてンのよね」
カバ夫「よーし、ミツ夫、やるからには本気で来いよ!」
ミチ子「ミツ夫さーん! パーマンの親友として、パーマンの名誉がかかってるわよ!」
ミツ夫「そんな下品な名誉、知らないよボク」
カバ夫「つべこべ言うな! 行くぞ!」
沢嶋(こうして、ジャイアニズムの原点とも言える、ガキ大将カバ夫の暴君ぶりに加え)
沢嶋(給食における伝統行事とも言える牛乳一気飲みが記録できる)
沢嶋(そう確信した、その時だった!)
――ピリリリル、ピリリリル、ピリリリル……
沢嶋(突如として教室内に電子音が響く。この時代、まだ携帯電話やポケットベルは普及していない)
沢嶋(一体なんの音なのか!)
ミツ夫「助かった!」
サブ「なんか言ったかミツ夫?」
ミツ夫「な、なんでもないよサブくん。ボクちょっとトイレ!」
カバ夫「おい、ミツ夫、勝負の前だぞ!」
ミツ夫「すぐ戻ってくるよ!」たったったっ
サブ「逃げると国民が黙ってませんよ! まったくホントに!」
ミチ子「いやあねえ、給食の前にすませておけなかったのかしら」
ミツ夫「ったく、イヤな事はすぐボクに押しつけて逃げちゃうんだから」
カバ夫「なんか言ったかミツ夫」
ミツ夫「何も言ってないよ!!」
カバ夫「なんだかイヤに攻撃的だなあ。まあいい、勝負だぞ!」
ミチ子「ミツ夫さんったら、イヤに早いのねえ。ちゃんと手を洗ってるのかしら」
ミツ夫「くうう! みっちゃんったら、相変わらず好き勝手言っちゃって!」
ミツ夫「よーし、見てろ! 今日こそは、このボクがカバ夫をギュウの目に遭わせたるでー!!」
カバ夫「ごくり、なんか迫力あるなあミツ夫のくせに……」
サブ「昨日の夜、力うどん食べて、力をつけたのかもしれませんね」
サブ「それでは。よーい……ドン!」
ミツ夫「それ!」
カバ夫「カバッチ!」
沢嶋(当時はまだ牛乳瓶であり、紙製のパックではない)
沢嶋(厚生省の規定では学校給食用牛乳は、瓶の容量が200ml。一合強の容量は決して多くはない)
沢嶋(勝負は数秒で決まった!)
カバ夫「負けた……。これで父ちゃんの入れ歯は永遠に見っからないのか」ガクリ
サブ「また地道に探して行きましょうよ、カバ夫くん」
ミチ子「ミツ夫さんの勝ちよ! すごいわー、ミツ夫さん」
ミツ夫「なーにね、ボクがちょこっと本気を出せば、こんなもんよ。ハハハッハ」
ミチ子「さすがだわー。ステキよミツ夫さん」
晴三「カバ夫くんの大口に勝ったのは大したもんだよ」
沢嶋(当時の小学校におけるスクールカーストは単純でゆるやかなものだった)
沢嶋(勉強、スポーツ、絵など、何かひとつでも秀でたものがあればある程度の地位が得られた)
沢嶋(ミツ夫の場合、パーマンの友達という好条件を、本人のだらしなさで打ち消していたが)
沢嶋(こうして、新たな特技を見せた事で最下位のカーストから脱したのである)
沢嶋(上機嫌のまま授業が終わり、ミツ夫は帰宅した)
ミツ夫「ただいまー。おやつはー?」
母「さっき食べたばかりじゃないの」
ミツ夫「ははーん、またミツ夫くんだな」
母「? あなたがミツ夫さんでしょう?」
ミツ夫「自問自答する日々なのです、ハイ」
ミツ夫「しかし、そうなると、ウカウカ部屋に戻れないな」チラ
沢嶋「?」
ミツ夫「まあ、どうせもう、どこかへ遊びに行ってるだろう」
沢嶋(ミツ夫は帰宅したばかりなのに、母はミツ夫がおやつを食べたと言う)
沢嶋(そんな不条理をミツ夫は平然と受け止め、二階の自室に入ろうとした)
沢嶋(だが、その瞬間信じられない光景が飛び込んできた!)
ミツ夫1「よおー、お疲れお疲れ。学校はどうだった?」
ミツ夫2「み、ミツ夫くん!?!」
沢嶋(なんと、ベッドでくつろいでいたのは、もう一人のミツ夫だった!)
ミツ夫「分かってるよ。ボクがおやつを食べちゃってて怒ってるんだろう?」
ミツ夫1「ほら、ボク給食を食べられなかっただろ? お腹がすいて目が回ってきちゃってさ」
ミツ夫2「ダメだよ、ミツ夫くん! 今日は取材の人がいるのを忘れちゃったのか!」
ミツ夫1「あ! しまった!!」
ミツ夫2「ボクは知らないぞ!」カチッ
ミツ夫1「お、おい、待てよコピー! 逃げるなんてズルいぞ!」
沢嶋(そして、帰ってきた方のミツ夫が自分の鼻を押すと、のっぺりした人形に変わった!)
沢嶋「今のは一体?」
ミツ夫「え、い、いや、なんでも! なんでもないよ!」
沢嶋「今のはロボットですよね? しかも、形態を完全に模倣するなんて……」
ミツ夫「お願いだから今のは忘れてよ!!」
――ピピッ! ピピッ!
古橋『こちら本部、タイムナビゲーターの古橋です!』
古橋『沢嶋さん! 今すぐ取材を終了して帰還して下さい!』
沢嶋「やっぱり今のは」
古橋『はい。パーマンの装備品のひとつと思われます。パーマンは第一調査部の管轄です!』
古橋『これまで正体が確定されていなかったため、放置されてきましたが』
古橋『こうして正体が判明した以上、第一調査部が調査します!』
沢嶋「待って下さい!」
古橋『いいえ、これはもう私たちの権限ではどうにもなりません!』
古橋『すぐに帰還して下さい!』
バードマン「ところが、そうはいかんのよね、これが」
ミツ夫「バ!! バードマン!!! イ、イヤだ、動物にするのだけは許して!!」ガクブル
沢嶋「あなたは……?」
バードマン「カメラちょっと止めて」
――ブツッ
タイムスクープ社とバードマン及びバード星は、交渉の結果、
1.沢嶋、古橋両名による取材の続行。
2.パーマンセットやコピーロボットなどのパーマンの備品をスキャンしない。
3.タイムスクープ社取材関係者全員はパーマンの秘密を厳守する。罰則あり
4.本取材記録の半永久封印。
5.バード星は、最適な時期が来たと判断すれば、封印解除を許可する。
――以上の五点で合意した
――なお、秘密漏洩に対する罰則は、物質変換銃で動物に変換されるというものである
――ザッ
沢嶋「何故こういう措置をお取りになったんですか?」
バードマン「おっとっと、私への取材はご遠慮願いたいね」
沢嶋「そこをなんとか」
バードマン「ダメダメ、ダーメ。そんじゃあ私は去る。ヒラッチョ」
沢嶋(そう言い残してバードマンは窓から去っていった)
沢嶋(ここで、パーマンと、今朝からのミツ夫の行動について整理してみよう)
沢嶋「えー、それでは。ここからは『パーマン』の取材に変更します」
ミツ夫「本当に動物にされちゃうかと思ったよ」ガクブル
沢嶋「もう一人のミツ夫くんと入れ替わったのは一気飲みの前にトイレへ行った時ですか?」
ミツ夫「そうそう。ご飯の時が多くって」
ミツ夫「睡眠不足と兵糧不足のダブルパンチで、ボクはもうフラフラですよ」
ミツ夫「今朝だって、宝石強盗を追いかけて、ようやく戻ってきたのは6時ちょっと」
沢嶋「なるほど。2時間ほどしか睡眠時間がなかったんですね」
ミツ夫「そのせいで、学校には遅刻する! 授業中は居眠り!」
ミツ夫「今日の朝のママや先生、カバ夫たちにからかわれてたのを見ただろう!」
ミツ夫「6600倍の力。空を飛べば時速119km。おまけにどんな外国の言葉も分かる」
ミツ夫「でも、そんな苦労ばかりで、いい事なんかひとつもないんだ!」
ミツ夫「せめて、ママとミッちゃんと先生にだけでも――」
沢嶋(鬱積していた待遇への不満が一気に噴出したその時だった!)
――ピリリリル、ピリリリル、ピリリリル……
ミツ夫「あ、呼び出しだ」
ミツ夫「ちょうどいいから一緒に来ますか?」
沢嶋「是非お願いします!」
ミツ夫「えー、じゃあ、まずはこのコピーロボットね」
沢嶋(ミツ夫は、先ほどのプラスチック製の小さなロボットを取り出した)
ミツ夫「この鼻のボタンを押すと、押した人と同じ姿、同じ記憶や性格を持つんだ」
沢嶋「あ、もしよかったら、私に押させて下さい」
ミツ夫「いいけど、ちょっとだけだよ。パー子たちを待たせてるからね」
沢嶋「はい」
沢嶋(ミツ夫からコピーロボットを受け取り、鼻のボタンを押すと)
沢嶋(コピーロボットがムクムクと膨れ上がり、本当に私そっくりの姿になった)
ミツ夫「どうだい、すごいだろう?」
沢嶋「自分と向かい合うというのは、なんだかおかしな気分ですね」
コピー沢嶋「コピーのおでこを本人のおでこにあてると、コピーしてからそれまでの記憶が本人と共有されます」
沢嶋「なるほど。それは便利ですね」
コピー沢嶋「ミツ夫くんも毎日のように使っていて、宿題をやらせています」
コピー沢嶋「ですが、コピーされたミツ夫くんはいつもサボっているようです」
沢嶋「なるほどー。コピーロボットには自由意志があるんですね」
コピー沢嶋「意思は否定しませんが、どちらかと言うとミツ夫くん自身の性質がだらし――」
ミツ夫「まったくおしゃべりなんだから!!」
沢嶋(告げ口に怒ったミツ夫がコピーの鼻を押すと、先ほどと逆の過程でコピーロボットに戻った)
ミツ夫「肝心のパーマンセットはズボンのポケットにあるんだ」
沢嶋(そう言って取り出したのは、葉巻状のしおれた青い物だった)
ミツ夫「これをちょいともんでやると、ホラ」
沢嶋「あ、赤いマントと青いヘルメットに変わりましたね」
ミツ夫「これを身につけて、ポケットの中のバッジを胸につければ準備完了」
ミツ夫「まー、我々パーマンの専門用語では、これをパー着というのだよ、君ィ」
沢嶋「この姿がパーマンですか」
コピーミツ夫「なかなか格好がいいでしょう」
コピーミツ夫「でも、1号はドジばかりだから、専門家の間ではパッパラパーマンとも言うけどね」
パーマン1号「お前ね、一言余計だよ!」
コピーミツ夫「おっとっと。ほらほら、長々説明してたせいで、窓の外でカンシャクが待ってるよ」
1号「なぬ!?」
パー子ことパーマン3号「遅いオソイ遅い! まったく相変わらずグズなんだから!」
1号「なんだ、パー子か。パー子はいいんだよ、いっつも怒ってるんだから」
パー子「なんですってぇー! 人を待たせておいて、その態度!」
パー子「許さないわよお!!」
沢嶋「あの、あなたがパーマン3号のパー子さんですか?」
パー子「あら、あなた様が取材の方でございますわね。バードマンから承っておりますわ」
1号「はは、猫かぶってるつもりだよwwww」
コピーミツ夫「猫というよりも、虎やライオンなのにねwwww」
パー子「おほほほほほ、男の子は口汚くてイヤですわねえ」ギロリ
1号とコピーミツ夫「ぎくり」
パー子「1号。ボヤボヤしてないで、この方を背負って差し上げなさい」
1号「はいはい。じゃあ沢嶋さん、どうぞ背中に」
沢嶋「あの、本当に大丈夫でしょうか?」
パー子「沢嶋さんでしたら、2000人は背負えるんじゃございませんかしら。ホホホホ」
沢嶋「そうですか。それじゃあ失礼します」
1号「よし、行って来る」
コピーミツ夫「うん、ボクは漫画でも読んでる」
1号「宿題」
コピーミツ夫「はいはい、やっとくよ、やっとくよ」
1号「不安が残るなあ」
沢嶋「あの、よければ追加カメラを設置していきましょうか」
コピーミツ夫「そ、そんな、ダメだよ止めて!」
1号「……お願いします」じろ
コピーミツ夫「うう、ボクの貴重な息抜きの時間が」がっかり
沢嶋(身長の高い私を軽々と背負い、パワッチのかけ声と共に飛翔したパーマンたち)
沢嶋(高度80mを時速90kmで飛行していく)
沢嶋(眼下の街の人々は慣れたで、驚くどころか、見上げて手を振っている)
沢嶋(そして須羽宅から約13分で待ち合わせ場所のビルの屋上へ到着した)
ブービーことパーマン2号「ウッキー!」ぷんすか
1号「ごめんごめん。取材だから仕方ないだろう」
パー子「そうよブービー。今度バナナをプレゼントするから機嫌直してちょうだい」
ブービー「ウッキー。ウキウキー!」
沢嶋「ありがとうございました。空を飛ぶというのは、かなり気持ちがいいんですね」
1号「ボクたちは慣れてるからそうでもないけどね」
パー子「1号は特に慣れておりまして、居眠り飛行でお風呂屋さんの煙突にぶつかったりするんですのよ」
ブービー「バッキャー」
1号「こ、コラ! そういうのは内緒にしてくれよ!」
沢嶋「ところで、今回の集合はどういった目的ですか?」
パー子「昨晩とっ捕まえた――」
パー子「あ、いえ、捕らまえましたる宝石強盗から白じょ――」
パー子「宝石強盗の供述で、宝石密輸団のアジトが分かりましたの」
パー子「そいつらをギッタンギッタンにぶっ飛ばしてやろうと。そういう趣旨でございますのよ」
ブービー「ウッキャッキャー」
パー子「んまあ! 私のどこが暴力的だって言うのよ!」
1号「だって、ぶっ飛ばすはおかしいよ」
パー子「あら、おぶっ飛ばすが正確だったかしら?」
1号とブービー「へコー」
沢嶋(身長の高い私を軽々と背負い、パワッチのかけ声と共に飛翔したパーマンたち)
沢嶋(高度80mを時速90kmで飛行していく)
沢嶋(眼下の街の人々は慣れたで、驚くどころか、見上げて手を振っている)
沢嶋(そして須羽宅から約13分で待ち合わせ場所のビルの屋上へ到着した)
ブービーことパーマン2号「ウッキー!」ぷんすか
1号「ごめんごめん。取材だから仕方ないだろう」
パー子「そうよブービー。今度バナナをプレゼントするから機嫌直してちょうだい」
ブービー「ウッキー。ウキウキー!」
沢嶋「ありがとうございました。空を飛ぶというのは、かなり気持ちがいいんですね」
1号「ボクたちは慣れてるからそうでもないけどね」
パー子「1号は特に慣れておりまして、居眠り飛行でお風呂屋さんの煙突にぶつかったりするんですのよ」
ブービー「バッキャー」
1号「こ、コラ! そういうのは内緒にしてくれよ!」
沢嶋「ところで、今回の集合はどういった目的ですか?」
パー子「昨晩とっ捕まえた――」
パー子「あ、いえ、捕らまえましたる宝石強盗から白じょ――」
パー子「宝石強盗の供述で、宝石密輸団のアジトが分かりましたの」
パー子「そいつらをギッタンギッタンにぶっ飛ばしてやろうと。そういう趣旨でございますのよ」
ブービー「ウッキャッキャー」
パー子「んまあ! 私のどこが暴力的だって言うのよ!」
1号「だって、ぶっ飛ばすはおかしいよ」
パー子「あら、おぶっ飛ばすが正確だったかしら?」
1号とブービー「へコー」
パー子「昨晩盗まれたダイヤモンド『グンマーの星』も、きっとアジトに隠されているはずですわ」
沢嶋「なるほど」
パーやん「すまんすまん。えらい待たせてしもうて」
1号「いや、今来たところだよ」
沢嶋「あの、全員揃ったところで、自己紹介をお願い出来ますか?」
パー子「んまァ! 光栄ですわー!」
1号「チェッ、パー子の奴、舞い上がっちゃってるよ」
パーやん「まあまあ、ええやないか。ほんなら、1号はん、先輩から先にどうぞ」
1号「じゃあ、パーやんのお言葉に甘えて、ボクから」
1号「ボクはパーマン1号。本当の名前は須羽ミツ夫」
1号「えーと、他に何を言えばいいのかな?」
パー子「あら、ドジな話なら一杯あるじゃない。それを話したらどうかしら?」ニヤニヤ
1号「もう! 横から邪魔してくるなよな!」ムカー
ブービー「キキー、ウッキー!」
パーやん「通訳するとやな。えー、ボクがパーマン2号。みんなはブービーって呼ぶよ、やて」
ブービー「キッキー、キキ。ケッキャッキー」
パーやん「ブービーって名前は、おじいさんとおばあさんがつけてくれた名前だよ、やて」
ブービー「ウッキャッキャ、キッキー、ウキ」
パーやん「パー子が言うには、アフリカのキリマンジャロってところが生まれ故郷なんだってさ、やて」
1号「あ、それ! ボクも言う、ボクも言う! ぼ、ボクは東京の練馬――」
パー子「ブービーのマネしないの!」
1号「別にいいだろ! パーマンの仲間だからマネくらいするさ!」
パーやん「まあまあ。次はパー子はんの番でっせ」
パー子「おほん」
パー子「ワタクシ、パーマン3号という事になっておりますが、一部ではパーレディーという名称――」
1号「一部ってどこの一部だよwww」
ブービー「バッキャーwww」
パー子「何よ! さっきの仕返しのつもりね! 受けて立つわ!」
沢嶋「あ、あの、パー子さん! パー子さんの御本名は?」
パー子「あ、え?」
1号「お、ついにパー子の正体が明かされるぞ!」
沢嶋「え、1号さん、パー子さんの正体を知らないのですか?」
1号「うん、絶対に隠すんだよ、パー子の奴」
パー子「困ったわ……。あの、お願いです。正体の事は許して下さいません?」
沢嶋「そうですね、パーマンの仲間も知らない事なら秘密のままがいいと思います」
パー子「まあ! ありがとう! 感謝しちゃうわ、私!」
パー子「1号! ブービー、モテる男性というのは、こういう優しい人なのよ!」
1号「チェッ、モテるモテないより、パー子の正体の方が大事だい!」
ブービー「ウッホウッホ!」
沢嶋「最後はパーやんさんお願いします」
パーやん「あー、パーやんでよろしィわ。パーやんさんはどうも、むずがゆうて」
パーやん「ワイが浪花のパーやんこと、パーマン4号だす」
パーやん「その正体は大阪は金福寺で修行中の大山法善や。12歳で、パーマンでは最年長だっせ」
パーやん「1号はんらは心よう思てないようやけど、わて、パーマンの力でアルバイトしてますねん」
パーやん「ゆくゆくは、このパーやん運送を大きうして、パーやん貿易っちゅう、世界中を相手にする会社にしたろ思てますねや」
沢嶋「アルバイトが忙しくて、パーマンの平和を守る活動に支障はありませんか?」
パーやん「大阪はワイの担当やけど、ワイの手に余る事は滅多にありまへん」
パーやん「別に1号はんらを悪う言うンやないけど」
パーやん「1号はんらが東京を3人で守っとるのと同じくらいの仕事をワイだけでこなしとる訳や」
パーやん「せやから、別に支障ちゅう事はおまへんやろ?」
1号「パーやんは、力も知恵も、他のどこを取ってもパーマンで一番かもしれないね」
パー子「そうねえ。お金の事以外は本当に立派よね」
パーやん「何言うてますねん。パーマンはみんな協力してこそのもんや。一番も二番もおまへん」
パーやん「それに、お金は大事やで。ワイかて別にケチっちゅう訳でもなし」
パーやん「ケチっちゅーのは、お金を溜め込んで使わん事や」
パーやん「わて、今日も50円のタコ焼き買うて食べましてん」
パーやん「勿論、20円にまけさせましたんやけどな」
1号とパー子とブービー「へコー!」
沢嶋(自己紹介を終えたパーマンたちは目的地に飛んだ)
沢嶋(そこは古い倉庫街で、後に観光地化して有名になる場所だった)
沢嶋(今はまだ倉庫として使用されており、木箱やコンテナであふれかえっている)
1号「場所はどこだい?」
パー子「ここだというのは聞き出したんだけど……」
ブービー「アッキャ!」
1号「さすが探し物の名人ブービーだ! 行こう!」
沢嶋(1号の号令で、パーマンたちが倉庫の壁を突き破ってアジトへ突入する!)
沢嶋(私も彼らの後を追った!)
沢嶋(そこはギャングらしき黒づくめの集団が、頬かむりに地下足袋の窃盗集団と取り引き現場だった!)
ギャングボス「な、なんだ!?」
ドロボー親分「うわ、パーマンだ! 逃げろ!」
パー子「そうはいかないわよ! 全員まとめてかかってらっしゃい!」
1号「パー子の奴、取材が来てるもんで張り切ってるな」
1号「ブービー、パーやん。ボクたちもがんばっちゃおうぜ!」
ブービー「ウッキー、アキャ! ウッホウッホホ!!」
パーやん「よっしゃ! パー子はんばっかりに、ええカッコさせられへん!」
沢嶋(パー子が上空から突っ込むと、ギャングたちが弾き飛ばされた!)
沢嶋(ブービーは素早く回り込み、窃盗犯たちの逃げ道をふさぐ!)
沢嶋(1号は鉄骨の柱を簡単にへし折って振り回した!)
沢嶋(パーやんは逃げる自動車を正面から受け止めて、頭上に持ち上げた!)
沢嶋(時間にして9分32秒。総勢32名の武装犯罪者を全員縛り上げる事に成功した!)
沢嶋(自己紹介を終えたパーマンたちは目的地に飛んだ)
沢嶋(そこは古い倉庫街で、後に観光地化して有名になる場所だった)
沢嶋(今はまだ倉庫として使用されており、木箱やコンテナであふれかえっている)
1号「場所はどこだい?」
パー子「ここだというのは聞き出したんだけど……」
ブービー「アッキャ!」
1号「さすが探し物の名人ブービーだ! 行こう!」
沢嶋(1号の号令で、パーマンたちが倉庫の壁を突き破ってアジトへ突入する!)
沢嶋(私も彼らの後を追った!)
沢嶋(そこはギャングらしき黒づくめの集団が、頬かむりに地下足袋の窃盗集団と取り引き現場だった!)
ギャングボス「な、なんだ!?」
ドロボー親分「うわ、パーマンだ! 逃げろ!」
パー子「そうはいかないわよ! 全員まとめてかかってらっしゃい!」
1号「パー子の奴、取材が来てるもんで張り切ってるな」
1号「ブービー、パーやん。ボクたちもがんばっちゃおうぜ!」
ブービー「ウッキー、アキャ! ウッホウッホホ!!」
パーやん「よっしゃ! パー子はんばっかりに、ええカッコさせられへん!」
沢嶋(パー子が上空から突っ込むと、ギャングたちが弾き飛ばされた!)
沢嶋(ブービーは素早く回り込み、窃盗犯たちの逃げ道をふさぐ!)
沢嶋(1号は鉄骨の柱を簡単にへし折って振り回した!)
沢嶋(パーやんは逃げる自動車を正面から受け止めて、頭上に持ち上げた!)
沢嶋(時間にして9分32秒。総勢32名の武装犯罪者を全員縛り上げる事に成功した!)
1号「ざっとこんなもんだね」
パー子「あー、すっきりしたわ。いい運動になったわね」
ブービー「ウッキー、キッキャ!」
沢嶋「見事な活躍でしたね」
1号「これくらい軽い軽い。楽なもんよ」
パー子「そうよー。昨日の晩の宝石強盗の方が粘り強くて、歯ごたえがあったわねえ」
沢嶋「これなら怖いものなしでしょう?」
1号「銃で撃たれたり、ナイフで刺されたりしたら死んじゃうらしいからね」
1号「平気とは言えないよ」
パー子「あら、1号ったら怖がりなのねえ。私は平気よ」
1号「なんだい! 強がっちゃってさ!」
パー子「本心で言ってるのよ。女の子は強いのよ」
1号「ふんだ。女の子はちょっとくらい弱い方がいいに決まってるじゃないか!」
1号「そんなだから、パー子はモテないんだ!」
パー子「あ、あ、あ、あ、あ、あなたにだけは言われたくないわ!」
1号「正体を隠してるのだって、どうせ顔がオカチメンコのヘロヘロぴゃっぴゃなんだろう!」
パー子「言ったわね! この美しい顔をとっ捕まえて! 覚悟なさい!」
沢嶋「あの、止めなくていいんですか?」
パーやん「ええねんええねん。毎度のこっちゃ。恒例行事、年中無休って奴ですわ」
パーやん「さてさて、『グンマーの星』はどこやろか」
沢嶋(1号とパー子の間で内紛が起きようとしたその時!)
沢嶋(盗品と思しきコンテナをこじ開けたパーやんが驚きの声をあげた!)
パーやん「あらぁ、こらおかしいで?」
パーやん「見てみぃ。こら、宝石やない。爆弾でっせ、こりゃ!」
ギャングボス「!」
1号「ば、ば、爆弾!?」
パー子「あら、怖いのかしら?」
1号「驚いただけだい!」
ギャングボス「……へへへへ。あるところを爆破してやろうと思ってな」
ドロボー親分「そんな恐ろしい事を考えてたのか!」
ドロボー親分「そうと知ってたら、こんな奴と仕事なんかしなかったのに……」
パーやん「アホ言いなさんな。盗みも爆破もどっちもアカン事や。それより」
パー子「そうよ。どこを爆破しようと思ってたの?」
ギャングボス「しようと思ってた? 違うね、するのさ」
1号「なに言ってんだい。縛られて動けないじゃないか」
ギャングボス「ふふ、そう思ってればいいさ。爆発した後、お前たちの顔色が変わるのが楽しみだ」
パーやん「なんやコイツ。何を企んでるんやろか」
ブービー「ウッキャー?」
ドロボー子分「オヤビン。そうと言えば、あの屋敷じゃありやせんか?」
ドロボー親分「そうだ! コイツら小金山とかいう屋敷に出入りしてやがったな」
ギャングボス「ぎっくり! ち、違う! 小金山ってのは、な、な、な、何の事だ?!」
ドロボー親分「へん! 今更ぎっくり腰になったって遅いぜ!」
ドロボー親分「パーマン! コイツら、小金山邸を爆破して、何かかっぱらう気にちげえねえぜ!」
1号「なんだって!」
パー子「あらまた大それた事を」
ドロボー親分「くううー、金庫の中はお宝がうなってんだろうなぁ! ああー、俺もかっぱらいてえ!」
ドロボー子分「オヤビン、それでも爆破はよくねえですって」
ドロボー親分「うむ。それはそれ、これはこれだ。心情の話だよ、分かるかね君ィ」
パーやん「なんやよう分からん、独特の考えを持っとるなあ、このおっさんら」
ギャングボス「ふーんだ! こうなりゃもうパーマンでもバーチャンでも持って来いってんだ!」
パーやん「もう場所は分かったんや。残りの事も白状した方が、あんさんのためでっせ」
ギャングボス「やーだーよーーっだ!」
1号「ギャングのボスも意地になって、もうしゃべりそうにないなあ」
パーやん「時限爆弾かもしれへん。グンマーの星探しは後にして、急いだ方がええやろな」
1号とパー子「え、それってパータッチって事?」
パーやん「何をグズグズしとるんや。ええい、まどろっこしいなァ!」
パーやん「ブービーはん、1号はんとパー子はんの間に入っとくんなはれ。これで文句ないやろ!」
1号とパー子「不承不承ながらも」
ブービー「バッキャ!」
パーマンたち「パータッチ!」
沢嶋(パーマンたちは手に手を取り合い飛んだ。パータッチという飛行状態だ)
沢嶋(手と手を取り合って飛行する事で、倍々ゲームのように速度が上昇する!)
沢嶋(4人が協力した時の速度は、119kmの8倍の時速952km!)
沢嶋(マッハ0.8近くに達していた!)
沢嶋(振り落とされないよう、私は1号に必死でしがみついた!)
パー子「あれよ!」
1号「大きなお屋敷だけどさー、どうして言い切れるんだ?」
パー子「前に一度お邪魔した事があるのよ!」
1号「ふん、きっとガラスを割って謝りに行ったんだ」
パー子「いやねえ。うじうじした男のイヤミって。こっちの心まで汚れちゃいそう」
パー子「ねー、ブービー?」
1号「ふん、ブービーはこっちの味方だよ。なんたって男の子だもんな」
1号「なー、ブービー?」
ブービー「キャッキ、ウッキャ」あせあせ
パーやん「ケンカは後や。ともかく知り合いやったら話が早うて助かるわ!」
パー子「話が早くなるかって言うと、そうでもないんだけど……」
1号「?」
パーやん「到着や。なんとか爆発には間に合うたみたいや」スタッ
パーやん「それにしても、なんや、えらいにぎやかでんなあ」
1号「うわー。なんだいこりゃあ。クリスマスパーティより豪華だね」
1号「きっと、よっぽどの、すごく特別なお祝いですよ、これは」
1号「何かの50周年とかさ。今年83年が50周年と言えば、フニャコF――」
パー子「あら、去年もこんなも――いや、失言でした」
1号「?」
ブービー「ウッキャッキャ」
パーやん「うわあ、ほんまや。ごちそうがズラーッと並んで」
パーやん「あの真っ白な土管みたいなの、もしかしたらケーキやろか? 美味そうやなあ」
ブービー「ウッキー、キキ!」じゅるり
パーやん「ブービーはん! 盗み食いはあかん! わてら正義の味方なんやから!」
スネ子「あら、パーマンが私のお誕生日パーティに! 歓迎しますわ!」※2
※2 小金山スネ美のママには名前がない(はず)ですので、仮にスネ子とします。その少女時代です。
1号「パー子さん。知り合いなんでございましょ? さ、早く話つけてよ」
パー子「あのぅ、そのう。スネ子さん?」
スネ子「あら、私の名前ご存知だなんてうれしいわ。ところでお誕生日プレゼントは?」
パー子「いや、そうじゃなくって、ですね。あのぅ、私、星野スミレちゃんの知り合いなんですけど……」
スネ子「あら、スミレちゃん。去年はお誕生日パーティに来て頂いたんだけど」
スネ子「今年はスケジュールが合わないらしくって、いらしておりませんの」
スネ子「スミレちゃんに何か御用?」
パー子「そうじゃなくってー……」
パー子「ええい、もう言っちゃうわ!」
1号「! よせ、パー子!」
パー子「このお屋敷に爆弾が仕掛けられてるのよー!!」
スネ子「またまたご冗談を」
スネ子「このアイスクリーム製造機。5人用なんですけど、私とパーマンたちでちょうど――」
スネ子「ば、ば、爆弾ーーー!?」バタリ
パーティ客「!?」ざわっ
パーティ客「爆弾ってなんだ!?」
パーティ客「おいおい、そりゃすぐ逃げなきゃw」
パーティ客「本当なのか!?」
パーティ客「逃げろ、逃げるんだ!w」
パーティ客「危ないぞー、危ないぞー!w」
パーティ客「爆弾なんて、どうしてここに!?」
パーティ客「お、おい、出口はどっちだ?」
パーやん「むむ!」
ブービー「キェーキー」じゅるじゅるじゅるり
沢嶋(パー子の大声で、パーティ会場は一気に混乱した)
沢嶋(逃げ惑う人々の中でパーやんが何かを発見したが、ケンカを始めた二人はパーやんの仕草に気づかない!)
1号「ほら見ろ! パー子のせいで大パニックだ!」
パー子「……ごめん」
1号「パー子に交渉を任せると、力づくかパニックになるか、どっちかじゃないか」
パー子「そこまで言う事ないでしょ!」
1号「いいや、あるね! パー子の短気が原因だからね!」
パー子「なんですってぇー!」
1号「やるか!」
ブービー「キッキー、ケキャッキャキキーー!!」
1号「うるさい! 今パー子との決闘に挑む――って、なんだか妙に慌ててるな」
1号「なになに? みんないなくなったからケーキを食べた?」
パー子「そうしたら中から大きな爆弾が出てきたですって?」
ブービー「ウホッホ、ウキキ!」
1号「そりゃ爆弾だもの、時計くらいついてるさ」
パー子「そうよブービー。そういうのは時限爆弾って言うのよ」
1号とパー子「そんな事、今はどうでも……」
ブービー「ムッキャー!」
1号とパー子「よくない!!」
怪しいパーティ客1「しまった! もう見つかったぞ!」
怪しいパーティ客2「逃げろ!」
パーやん「そうはいくかいな!」
沢嶋(犯人たちに目星をつけていたパーやんが先端に重しを結んだ万国旗を投げる!)
沢嶋(あっという間に六人のギャングが絡めとられた!)
パーやん「御用や!」
パー子「大変! この爆弾、あと2分で爆発するわ!」
1号「なんだって!」
パーやん「あかん。パータッチでも海まで行く時間がない」
1号「だからって、ここで爆発させたら大変だよ!」
沢嶋(このまま爆発かと思った、その瞬間! 突然、1号が巨大爆弾を抱えて飛んだ!)
沢嶋(私はとっさにモスキートカムを放ち、その後を追う!)※3
※3 モスキートカムは蚊を模した超小型カメラ。移動する対象を追跡撮影する事が多い
沢嶋(方向は海や山を目指したものではなく、真上に向かって一直線だ!)
沢嶋(だが、その時! 1号の背後から飛来した何者かが掴みかかった!)
1号「うわ、パー子にブービー!?」
パー子「驚く事ないでしょ。さ、行くわよ!」
ブービー「ウッキー!」
1号「うん、パータッチだ!」
沢嶋(パータッチで1号に追いついたパー子とブービーが手をつなぎ、三人は時速476kmに加速した)
沢嶋(雲を突き抜けると、彼らのスピードに引かれて垂直の尾が伸び、やがて千切れて消えていった)
1号「なんだい。やっぱりボクのアイディアって、みんなも思いつく程度なんだなあ」
パー子「いいえ、思いついたのはあなただけよ」
パー子「私たち、あなたの飛ぶ方向を見て、あなたの考えに気づいたの」
1号「そうか、ボクもたまにはやるもんだ」
パー子「……ねえ、1号。さっきはごめんね」
1号「え?」
パーやん『1号はん、そっちは秒針どころやないやろうから、ワイが連絡しまっせ!』
パーやん『20秒前!』
パー子「な、なんでもないわ! さあ、10秒前にやるわよ!」
1号「……う、うん! 分かったよパー子!」
パーやん『14、13、12、11――』
パーやん『今や!!』
1号とパー子「それぇーー!!!」
ブービー「ウッキィーーー!!!」
沢嶋(時速476kmのままに6600倍の力で、爆弾を更に上へ放り投げた!)
沢嶋(そして、投げたと同時にパーマンたちはそのままのスピードで下降を始める!)
沢嶋(10秒後、住宅街のはるか上空で大爆発が起こった)
沢嶋(だが、街の人たちは爆発に誰も気づかない)
沢嶋(それは、文字通り、雲の上の出来事だった)
古橋『沢嶋さん』
沢嶋「はい、どうかしましたか?」
古橋『モスキートカムが爆発に巻き込まれてバラバラに壊れたようです』
古橋『自動消滅装置が起動しませんし、パーツが細かく散乱したので回収不能です』
古橋『帰ったら局長へ始末書を提出して下さい。映像特別管理局からも聴取があるようです』
沢嶋「……はい、分かりました」
沢嶋(10秒後、住宅街のはるか上空で大爆発が起こった)
沢嶋(だが、街の人たちは爆発に誰も気づかない)
沢嶋(それは、文字通り、雲の上の出来事だった)
古橋『沢嶋さん』
沢嶋「はい、どうかしましたか?」
古橋『モスキートカムが爆発に巻き込まれてバラバラに壊れたようです』
古橋『自動消滅装置が起動しませんし、パーツが細かく散乱したので回収不能です』
古橋『帰ったら局長へ始末書を提出して下さい。映像特別管理局からも聴取があるようです』
沢嶋「……はい、分かりました」
>>27
投下ミスです。失礼しました
パーやん「さすがは1号はんや!」
1号「いやあ、たまたまだよ、たまたま」
パー子「1号って、勇気があるのねえ――」
1号「いやあ」
パー子「――案外」
1号「な!? 案外!? ボクの活躍を案外だなんて、ひどいぞ!」
パー子「あら、さっきまで怖がってたのは誰でしたかねえ?」
1号「こ、怖くなんかなかったさ!」
ブービー「バッキャ」
パーやん「まあまあ、抑えて抑えて。ほんなら、『グンマーの星』を取り戻しに行きましょか」
1号とパー子「え!? 『グンマーの星』のありかが分かったの?!」
パーやん「さっきの爆発で、おおよその見当がつきましたんや」
沢嶋(小金山邸のギャングたちを警察に届けてから、アジトへ戻るパーマンたち)
沢嶋(中ではギャングと窃盗団たちがなんとか縄を解いて逃げようとしていた)
パーやん「おっさんら、なかなか往生際が悪うおますな」
ギャングボス「げ、パーマン!?」
ドロボー親分「お前たち爆弾はどうした!」
パーやん「そんな事はどうでもええねん」
沢嶋(パーやんはギャングたちを無視して、こじ開けたコンテナからたくさんの爆弾を取り出していく)
パーやん「おっさん。さっきの戦い、なんで爆弾を使わんかったんや?」
ギャングボス「そ、それは、そんな物がここで爆発したら、ワシらも巻き込まれるから……」
パーやん「そうや。ワイも、さっきはそう考えてしもうた」
パーやん「爆弾が見つかってすぐ、おっさんが小金山邸爆破の事をしゃべり出したせいで考える時間がなかったからや」
パー子「そうか! このコンテナの爆弾を調べられたくなかったからね!」
パーやん「それと自分らが逃げる時間を稼ぎたかったんやろな」
パーやん「実際に小金山邸で爆発しとったら、ワイら今頃救助活動中や」
パーやん「こン中から『グンマーの星』を取り出してまんまと高飛びされとったやろうなあ」
1号「おじさんたちのケンカも全部お芝居とはねえ。アキレタ」
ギャングボス「ふん!」
パー子「でも、どれが本物の爆弾か、宝石入りの偽爆弾か。それに宝石の数も分からないわね」
1号「『グンマーの星』以外にもあるかもしれないもんな」
ギャングボス「いいか、その爆弾はお前らのような素人が開けると爆発する精密なものだ!」
ドロボー親分「こうなったら最後の意地だ。絶対に何もしゃべらんぞ」
パーやん「別に開けんでもええやろ」
ギャング「なんで?」
パーやん「ちょっと手間はかかるけど、ワイの竿秤で重さを量っていったらええねん」
1号「それパーやん運送で重さを量るのに使ってる奴だね」
パーやん「宝石が入っとるのは、宝石の大きさや数で重さにバラつきがある」
パーやん「逆に本物の爆弾は重さが同じやろ」
パー子「ちょ、ちょっとパーやん、砂か何かで重さを揃えてるって事はないの?!」
パーやん「おっさんらの脅し文句から考えて、よっぽど爆弾に触って欲しうないんやろうから」
パーやん「きっとそこまで手間はかけてないやろ。それにやな――」
1号「?」
パーやん「ここで本物の爆弾を開けたら、おっさんらもただではすまん」
パーやん「きっとおっさんらも協力してくれると思うなあ、ボク」ニタリ
1号とギャングボスたち「こ、怖い!」ガクブルガクブル
ブービー「バッキャ」
沢嶋(ギャングと窃盗団が全てを自供し始めたのは、間もなくの事だった)
沢嶋(ここに宝石強盗事件は解決した)
沢嶋(そう思った瞬間、私の体は突然空間転移した!)
バードマン「いや、ドーモドーモ。取材ご苦労さん」
沢嶋「バードマン?! 一体、どうしたんですか! というか、私飛んでますが!?」
バードマン「驚かしたようで、すまんね」
バードマン「いやなに、私と、この円盤の力だよ。まあ気にしないでくれ」
沢嶋「はあ。ところで、この呼び出しは一体? 何か協定違反でもありましたか?」
バードマン「い、いや、その……。私は案外照れ屋の上がり性なのでね」
バードマン「しゅ、取材はお断りしたけど、役目上、一言残しておかなくてはならんので聞いて欲しい」
バードマン「んやーパ、子ーパ、ービーブ、号1。なかるいてっやに気元。あや」
沢嶋「あの、紙が逆さまです」
バードマン「あ、いや、こりゃまた、あらま」アタフタ
バードマン「えー、コホンコホン。それでは最初から」
バードマン「えー……。やあ。元気にやっているかな。1号、ブービー、パー子、パーやん」
バードマン「君たちの献身的活動には本当に頭が下がる」
バードマン「私自身も君たちから学ぶところは多い。君たちのドジの多さも相当なものだけどね」
バードマン「一方で君たちが報われているかどうかと考えると、必ずしもそうだとは言えない」
バードマン「多かれ少なかれ、そういう不満を持っているのは私も承知している」
バードマン「正義は代価を得る為に行う事ではないとはいえ、申し訳なく思う」
バードマン「だから、せめて君たちの記録を残しておいてやりたい」
バードマン「そして、その記録を見てもよい時代になったら、それを世間に知ってもらいたい」
バードマン「そういう気持ちは、君たちをパーマンに選んだ時から、ずっとあったものでね」
バードマン「だから、今回、タイムスクープ社の取材を許可した」
バードマン「私が君たちに報いる事が出来るとすれば、これだけさ」
バードマン「最後に、君たちの勇気ある活躍にお礼を言いたい」
バードマン「ありがとう」
バードマン「この取材映像を君たちが見る時、君たちが幸せである事を心から願う」
バードマン「ま、そン時は私も同席させてもらうつもりだがね」
バードマン「あ、それと。この映像を見る時になれば、君たちも知ってるだろうから言っちゃうが」
バードマン「パー子の正体は、星野スミレちゃんだよーーーーー!!」
バードマン「ははは、言っちゃった言っちゃった」
沢嶋「あなたの言葉、確かに記録しました」
バードマン「うん、映像の管理よろしく頼むよ」
バードマン「それじゃあまた会おう! ヒラッチョ!」
1号「あ、戻ってきた」
パー子「突然消えたからびっくりしたのよ」
沢嶋「ええ、ちょっとバードマンに呼ばれまして」
1号「ほら、だから言っただろう。あんな風に消えるのはバードマンの仕業だって」
パー子「ンまあ! 私だってそうねって言ったじゃないの!」
1号「言ってない!」
パーやん「まあまあ、そないな事でケンカせんでも」
沢嶋「あの、こんな時になんですが、そろそろ私も帰ります」
沢嶋「皆さんも、パー活がんばって下さい」
パーやん「はあ、こっちこそ見苦しうてすんまへんな。ま、お元気でやっとくんなはれ」
1号「やるかー!」
パー子「受けて立つわよー!!」
ブービー「バッキャ」
沢嶋(また1号とパー子が言い争いをし、パーやんがなだめ、ブービーがあきれている)
沢嶋(賞賛も栄誉もない英雄たちが、明日の平和を担う理由)
沢嶋(それは普通の少年少女が、この日常、この友人たちを大切にしたいと思う心ではないだろうか)
沢嶋(正義には様々な形があるが、きっと、これも正義のひとつの形なのだろう)
パーマンたちのその後は謎に包まれている。
唯一はっきりしているのはパーやんで、家庭を持った後もパーマン活動を続けた。
パーやんと同等の超人が共同経営者に就任したパーやん運送は急成長し、念願のパーやん貿易へ発展した。
ブービーはパー活を続け、育ての親の老夫婦と幸せに暮らしたと思われるが、詳細は不明である。
1号はバードマンに選ばれバード星へ星間留学したが、その後は不明。
パー子。アイドルの星野スミレはパー活に参加しながら、芸能活動では実力派女優として脱皮。
あの野比のび太との熱愛が約4時間報道された誤報事件を通じ、野比のび太とも面識があった。
野比のび太の回顧録には、明示は避けているものの、星野スミレに小学生からの想い人が存在したと思わせる一節が存在する。
沢嶋「えー。以上、コードナンバー888888。アウトします」
――ザッ
以上で終わりです。ご拝読ありがとうございます
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