P「アイドルたちでブラスバンドですか?」 (776)

社長「うむ。アイドルたちに三か月ほど練習してもらい、その様子を公開する番組だそうだ」

P「なるほど……でも三か月って、どうなんですか?」

小鳥「上手くなるには短いし、仕事としてはちょっと長いですね」

社長「まあ、バラエティと仕事の兼ね合いの結果の期間設定だと思ってくれたまえ」

P「もう受けることは決まっているんですよね?」

社長「相手も贔屓にしてくれてる局だから、断れなくてね……すまない」

P「いえ、なんとかしますよ。それじゃあ、まず練習する楽器を決めないといけませんね」

小鳥「何人か楽器の経験がありそうな子もいますしね。案外なんとかなるかも」

P「経験がありそうといえば、たとえば>>3とかですかね」

765アイドル限定

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P「経験がありそうといえば、たとえば伊織とかですかね」

小鳥「そうですね。確かバイオリンが弾けるとかなんとか」

P「今回のテーマは吹奏楽ですからね……バイオリンはちょっと違うな」

伊織「何話してんのよ?」

小鳥「あっ、伊織ちゃん。ちょうどいいところに。実はかくかくしかじかなんだけど」

伊織「ふうん……私が一番得意なのはたぶんバイオリンだけど、弦楽じゃないのよね?」

P「そうだな。何か他にできるものはないか?」

伊織「そうねえ……あえて言うなら、>>8かしら」

リコーダー

伊織「そうねえ……あえて言うなら、リコーダーかしら」

P「リ、リコーダーか……」

伊織「リコーダーだって立派な木管楽器でしょ」

P「あ、それもそうか」

伊織「おじい様がそういうの好きでね。ソプラニーノリコーダーからアルトリコーダーぐらいまでなら一通りできるわよ」

P「それより低い音が出るのは?」

伊織「……うっさいわね。指が届かないのよ」

小鳥「まあまあ、ともあれ伊織ちゃんは立派に戦力になってくれそうですね」

P「他に経験がありそうなのは……>>12とか?」

春香さん

P「春香とか、何か経験がありそうだな」

小鳥「春香ちゃんですか。ちょっと呼んできますね」



春香「楽器ですか?」

P「そうだ。何か、吹奏楽でできそうなものはないか?」

小鳥「何もないなら、新しく練習するっていう形になるんだけど」

春香「えーっと、>>15みたいなのはOKですか?」

脇で音を鳴らす

春香「脇で音を鳴らすっていう芸があるんですけど……」

P「お前はその練習風景を三か月分披露するつもりなのか?」

春香「や、やだなあ。ちょっとしたジョークですよ!ジョーク!」

小鳥「特に何もないの?」

春香「はい……あ、でもやるなら>>19がやってみたいかな?」

ピアノ

P「ふむ、ピアノ?」

春香「はい! あの、私が幼稚園の頃に、アイドルを目指すきっかけをくれた先生がいたんですけど」

春香「その先生が、ピアノがすっごく上手な人だったんです。それで、昔から憧れてて!」

P「ほお、なるほどな」

春香「だから、練習するならピアノがいいかなって!」

小鳥「まあ、演奏するだけならわりとやりやすい部分の楽器ではありますしね」

P「よし、じゃあ春香はピアノで行ってみよう。……えーと、そうだな、>>25の担当楽器についても考えないと」

みき

美希「ハニーに呼ばれた気がしたの!」

P「地獄耳か……いやなに、実はかくかくしかじかな企画が上がってるんだけど」

美希「ふーん……楽器とか、美希あんまり経験ないなあ」

小鳥「まあ、経験ないなら練習すればいいのよ。むしろ、そういう練習風景を撮るのがメインの企画だから」

P「どうだ、何かやってみたい楽器はないか?」

美希「楽器……>>29とか?」

そもそもブラスバンドをよく知らないkskst

美希「アロ~波~、みたいな」

P「むむ……ウクレレは弦楽器だからなあ……」

小鳥「というかまあ、ブラスバンドに使える楽器という感じではありませんね……」

美希「むー、それじゃあ美希、何をすればいいの?」

P「そうだな……ウクレレとはちょっと違うかも知れないけど、>>37とか似合いそうじゃないか?」

フルート

P「フルートとか似合いそうじゃないか?」

美希「あっ、それいただきなの! キラキラーって感じ!」

P「む、思いつきで言っただけだぞ? フルートは難しいと聞くけど大丈夫か?」

美希「大丈夫だよ。難しい楽器のほうが、ハニーがつきっきりで教えてくれそうだもん♪」

P「ははは……そういう基準なのか?」

美希「うんっ! それに美希ね、ああいう楽器を演奏するなら、絶対にキラキラ光る楽器のがいいって思ってたの」

小鳥「まあ、なんとなくわかるような、わからないような」

美希「ハニー、美希絶対上手くなるから、期待してていーよ♪」

P「あ、行ってしまった……」

小鳥「まあ美希ちゃんならうまくこなしそうな気もしますね。……あ、>>42ちゃんが来たみたいですよ」

真美

真美「あれっ? にいちゃんにピヨちゃん、何話してんの?」

小鳥「ああ、実はかくかくしかじかで」

真美「まるまるうまうまというわけですかい。ふふーん、なっるほどねぇー」

P「真美は何かないのか? 経験したことのある楽器とか、やってみたい楽器とか」

真美「んー……あっ、>>47かな!」

ターンテーブル

P「た、ターンテーブル? なんだっけ、それ」

小鳥「あれですよ、よくDJがキュッキュしてるやつです」

真美「ヘイYO!」

亜美「チェケチェケチェケラッ!」

P「あ、亜美? いつのまに!」

亜美「んっふっふ~、面白そうな匂いがしたから決まってるっしょー」

真美「ナイスだぜっ、亜美! ヒューッ、最高のパートナーだYO!」

亜美「んで、真美ができる楽器なら、>>54があんじゃない? って思ったんだけど」

コントラバスクラリネット

亜美「コントラバスクラリネット」

真美「あー、あれかー。んんー、でも昔ちょっと触ったぐらいだしなあ」

P「お、お前ら、ずいぶんと珍しい楽器を持ってるんだな?」

亜美「パパがねー、なんか楽器いっぱい持ってる人んところに往診してたことあって」

真美「そんで、仲良くなって、真美たちも遊びに行ってたんだよね」

小鳥「でも、私コントラバスクラリネットって見たことないんですけど……名前からしてそうとう大きな楽器じゃないですか?」

P「大きいですよ。たぶん真美の身長よりも大きいです」

真美「まあ、今は結構手も大きくなったし、なんとかなると思う!」

亜美「そんでねー、亜美も>>59で遊んでのだ!」

コントラバストロンボーン

亜美「コントラバストロンボーン」

小鳥「……何? それ」

P「まあそういう反応が出るのもわかりますよ……お前ら、なんでそんな揃いも揃ってデカい楽器なの?」

真美「デカいほうが強そうじゃん!」

亜美「やっぱり楽器は攻撃力だよね!」

P「何と戦うんだ何と。……マウスピースが大きすぎなきゃいいんだけど」

小鳥「どのぐらい大きいんですか?」

P「そうですね……直径6cmぐらいありますよ。ほとんどチューバに近いです」

亜美「まあまあ、そこは成長した亜美の真のパワーで覚醒するからへーき!へーき!」

P「はあ……頼もしいんだか、不安なんだか。……おっ? あそこにいるのは>>64

雪歩

雪歩「プロデューサー、お茶がはいったんですけど……あれ、何してるんですか?」

P「小鳥さん」

小鳥「はい。……というわけなのよ、雪歩ちゃん」

雪歩「が、楽器ですか……」

P「何かないか? 雪歩なら、何か楽器をやっててもおかしくないイメージがあるんだけど」

雪歩「うう……だ、ダメダメですけど、>>68なら……」

サックス

雪歩「サックスなら……」

小鳥「あら、サックスができるの? 雪歩ちゃん」

雪歩「は、はい。その、私が昔お父さんに何か楽器を習いたいってねだったことがあって」

雪歩「その時に買って貰ったんです。おうちの離れに、練習用の部屋まで作ってもらいました」

P「ずいぶんといい環境だったんだな。上手いのか?」

雪歩「よくわからないです……一人で吹いたことしかないですから……」

小鳥「まあそれでも、経験ゼロよりは全然いいわ。頼りにさせてもらうわね」

雪歩「あ、あうう……あんまり期待しないでほしいですぅ……」

P「ちなみに雪歩、その楽器って、どこのメーカーだ?」

雪歩「えっと、確か『セルマー』って書いてあったと思います」

P「Oh……」

小鳥「? すごいんですか? ……あっ、そう言ってるうちに>>74も来ましたよ」

千早

P「おっ、千早じゃないか」

千早「春香から聞きましたよ。ブラスバンドですか?」

小鳥「話が早くて助かるわね」

P「まあウチじゃ音楽と言えば千早だ。どうだ、何か楽器に覚えはないか?」

小鳥「千早ちゃんといえば歌だけど……」

千早「楽器、ですか……>>80じゃダメですか?」

私の声

千早「私の声じゃダメですか?」

P「む……そうだな。確かに、千早に音楽といったら歌が最高の楽器なんだが……」

千早「無理にとはいいませんが……でも、やっぱり、披露するなら、自分を一番表現できるものにしたいんです」

小鳥「千早ちゃんの歌なら、企画番組も納得してはくれそうですけど……」

P「……よし! わかった、先方には、俺から話を通そう」

千早「! ありがとうございます!」

P「ただ、ダメだという可能性もある。メインは歌にしつつも、一応代替案も考えておこう」

千早「歌以外……ですか。歌の表現力を磨くために、>>87を練習したことならありますけど……」

かまぼこ

千早「かまぼこを……」

P「……え? かまぼこ?」

千早「はっ……いえ、そうじゃなくて、アレです、ティンパニを」

小鳥(なんだったのかしら……)

P「ティンパニか。渋いところを突くなあ」

千早「はい。リズム感を磨くのが主な目的だったんですけど、4つという限られた音の中で表現する、というのがすごく新鮮でした」

P「なるほどな。どんなキーでも歌いこなす千早からすれば、確かに全く違う世界だろう」

千早「練習期間はあんまり長くなかったですが……教則本をいろいろ買って勉強したので、それなりにはできるかと」

P「さすがだな、千早は」

小鳥「打楽器がひとり確保できてよかったですね」

P「さて、ここまでを整理してみると……」


伊織 リコーダー(経験)
春香 ピアノ(未経験)
美希 フルート(未経験)
真美 コントラバスクラリネット(遊び経験)
亜美 コントラバストロンボーン(遊び経験)
雪歩 サックス(経験)
千早 ティンパニ(経験)


小鳥「木管楽器は結構揃ってますね。反面で、金管楽器は亜美ちゃんのトロンボーンだけですか……」

P「それも重低音ですからね。せめて、ホルンやトランペットを吹いてくれる子が欲しいです」

小鳥「まあ、中には金管楽器の経験者もいるのでは?」

P「そうですね。とりあえずは皆の経験を聞いてみましょう。……おっ、そこにいるのは>>100か?」

千早

律子「ふぅーただいま戻りました。ん、小鳥さんにプロデューサー。何か相談してるんですか?」

小鳥「ああ、律子さん。実は――」

律子「――ブラスバンドぉ? それ、私も参加するんですか?」

P「まあまあ、ただでさえ楽団としては少人数なんだ。一人でも多く参加してほしいんだよ」

律子「まあ、そりゃ番組のためだっていうなら仕方ないですけど……」

小鳥「律子さん、何か楽器やってたことはないんですか?」

律子「んー、まあそうですね、>>109みたいなものなら……?」

角笛

P「つ、角笛ぇ?」

律子「昔、外国に旅行いったことがあって、その時にお土産に買ったんです。結構いい音がするんですよ」

小鳥「そ、そうなんですか……どうでしょうこれ、プロデューサーさん」

P「む、むう……そうだなあ」

律子「あ、それ、今のところ聞いてる子の担当楽器のメモですか? ちょっと見せてください……ふむ」

P「律子?」

律子「なるほど、わたし、ホルンでもいいですよ? ちょっと似てるところありますし」

小鳥「だ、大丈夫なんですか?」

律子「まあ私がメインになるわけじゃあなさそうですし」

P「むう……しかし律子の角笛っていうのも、ちょっと興味あるっちゃあるな……」

律子は角笛にする? ホルンにする? それとも別の楽器? >>118

角笛

P「……よし! 律子、その角笛でいこう!」

小鳥「え、英断ですね、プロデューサーさん……」

律子「いいんですか?」

P「ああ。本格的な楽団っていうわけじゃないし、律子も本業はプロデューサーだしな」

律子「まあ、イロモノ枠もあったほうが番組として締まりますからね……わかりました! 今回は私がその役を引き受けますよ」

P「ああ。その変わり、イロモノ枠なら中途半端じゃダメだ。『無駄にウマい!』ぐらいが一番ウケそうだから、しっかり練習してくれよ」

律子「ぐっ……ぜ、善処します……」

小鳥「頑張ってくださいね、律子さん」

P「さて、律子。ついでに>>123を呼んできてくれるか?」

小鳥

律子「ええ、小鳥さんですね……って、目の前にいるじゃないですか」

小鳥「ピヨッ!? わ、わたしまで参加するんですかっ!?」

P「一人でも多く参加者が欲しいって言ったじゃないですか」

小鳥「そ、そうは言っても……り、律子さぁ~ん」

律子「……まあ、道連れ、ということで」

小鳥「そんな!」

P「まあ、小鳥さん結構人気あるみたいですよ。ライブのアナウンスしてる事務員さん可愛くね? とか結構言われてますよ」

小鳥「そ、そうは言ってもですね……私、楽器なんて>>129ぐらいしか思いつきませんよ」

指揮者

律子「小鳥さん、指揮できるんですか?」

小鳥「えっと、その」

P「?」

小鳥「……とある少女マンガに触発されまして練習を……」

P「ああ……」

律子「まあ、でもちょうどいいんじゃないですか? 小鳥さんなら皆をまとめるのに適任って感じしますよ」

P「そうだな。じゃあ指揮は小鳥さんで」

小鳥「うう……やるしかないんですね……」

P「さて、あと決めなきゃいけないのは……ふむ、>>135と137はまだですね」

やよい

やよい「社長、送ってくれてありがとうございました!」

社長「はっはっは、構わんよ。――うむ? おお、Pくんに音無くん。熱心に進めてくれているようだね」

やよい「お仕事ですか?」

P「ああ、ちょうどいいところに。やよい、何か楽器の経験はないか?」

社長「彼にいま進めて貰っている企画でね、かくかくしかじかということなのだよ」

やよい「なるほどー! それって、社長も参加するんですか?」

社長「な、何っ? 私もかね?」

小鳥「ふ、ふふふ……せっかくですから、ねえ? 社長、断ると格好悪いですよ……」

社長「う、うむう。そうだな、あえて言うなら>>144の経験があるが……」

やよい「わたしはー……>>146かなーって」

コントラバス

ラッパ

P「コントラバスですか。渋いですね!」

社長「昔、まあ、友人と趣味でセッションをしていてね。大柄だからと、コントラバスの役になったのだよ」

小鳥「でも弦楽器ですけど、大丈夫ですか?」

P「問題ないでしょう。コントラバスが参加してるブラスバンドは普通に多いですから」

やよい「私はラッパかなーって」

小鳥「やよいちゃん、トランペット吹いたことがあるの?」

やよい「いえ、ないです……でも楽しそうだから、よく商店街の楽器屋さんにいって、飾ってあるのを見るのが好きなんです!」

P(トランペットを欲しがってショーウィンドーに張り付くやよい……)

小鳥(なんだかすごく想像がしやすいわ……)

やよい「あ、でも経験がないならダメでしょうか……」

P「なあに! 経験がないなら、いっぱい練習してやればいいんだ!」

小鳥「やよいちゃんなら、元気いっぱいの、パワフルな音色が期待できそうね!」

やよい「ホントですか!? うっうー! わたし、がんばりまーす!」

P「よーし、ずいぶん穴も埋まってきたな。あとは、>>152の担当楽器も決めないとな」

貴音

貴音「おや、小鳥嬢にプロデューサー。ご機嫌よう」

小鳥「ちょうどよかった、貴音ちゃん。楽器の経験はあるかしら?」

貴音「楽器……ですか? なにゆえ、そのようなことを?」

P「今度の番組で楽器を練習して披露するんだ。何か経験があるものならそれがいいだろうし、無くても練習すればいい」

貴音「ふむ……そういうことでしたら、>>156などいかがでしょうか?」

クアッドギター

P「……えっと、なんだそれ」

貴音「くあっどぎたー、弦を抑える、ねっくの部分が十字に伸びて四つあるぎたーでございます」

小鳥「……今スマホで画像検索してみましたけど、すさまじいビジュアルですね、これは……」

P「すまん、貴音……説明してなかったのが悪いんだけど、今回の企画はブラスバンドなんだ」

貴音「ぶらす?」

P「吹奏楽っていうことだ」

貴音「なるほど、弦楽ではないということですか。これは失礼をいたしました。それなら>>161ができますよ」

ホルン

P「おお、ホルンか。これは嬉しい戦力だな!」

貴音「とは申しましても、最近始めたばかりですので、ご期待に沿えるかどうかは保障しかねますが……」

P「大丈夫大丈夫。中には全く経験のないメンバーもいるぐらいだ。少しでも経験があるなら大歓迎だぞ」

小鳥「でも意外ねえ。貴音ちゃんが何かするなら、和楽器になるかと勝手に思ってたわ」

P「ホルンを選んだのには何か理由があるのか?」

貴音「いえ……形が、なるとに似て見えたので、これはと思って興味を持ったのがきっかけです」

P「……さーて、>>166もまだだな」

響「はいさーい! んっ、貴音にプロデューサー、ピヨ子もいる」

貴音「響。よい所に来ましたね」

小鳥「響ちゃーん、かくかくしかじかしかくいムーヴなんだけど、何かない?」

響「そうだなあ、一応、練習してた楽器といえば>>171があるんだけど」

パーカッション

P「パーカッションか。全般できるってことか?」

響「うん。うちなーにいたころに、そういう楽器教室みたいなところがあって」

響「琉球の楽器とかが多かったんだけど、自分、なんか吹いて音を出すタイプの楽器がうまくできなかったんだ……」

小鳥「それで打楽器に?」

響「そうだよ! あとにいにがバンドやっててドラムだったから、そこでいろいろ教えて貰ったりしたさー!」

貴音「さすがですね、響。これは頼りになりそうです」

P「そうだな。期待してるぞ! 響!」

響「ふっふん、自分、完璧だからな!」

小鳥「だいぶ決まってきましたねー。あとは真ちゃんとあずささんですね」

響「じゃあ、自分たちが呼んでくるさー。いこっ、貴音!」

貴音「ええ、それは少々お待ちを」

真「えっ、楽器ですか?」

あずさ「うーん、そうですねえ……」

P「何かないかな?」

真「楽器ですかあ。ボク、あんまりそういうの得意じゃなくて」

あずさ「困ったわねえ……私も、披露できるようなものがないわ~」

小鳥「別に、やりたいっていう希望だけでもいいのよ」

真「うーん、それなら>>181!」

あずさ「うまくできるかはわかりませんが……>>183でしょうか~?」

ガード

フルート

ごめん、ガードって何かの通称?

P「ガード? ……ああ、マーチングバンドの、アレか?」

真「はい! ボク、楽器の演奏にはいい思い出が一つもなくて……身体を使って表現できるものなら!」

小鳥「そ、そうねえ……確かに、演奏会で、舞台上でマーチングをするバンドもあるみたいだけど」

真「しっかりこなしますから! お願いします!」

P「うーん……そうだな。じゃあ、千早の歌の例もあるし、いちおうそれで認めていこう」

真「やーりぃ!」

P「でも、代替案も必要だからな。他のものも考えておこう」

小鳥「真ちゃんなら>>205なんてどうでしょう?」

チューバ

P「なるほど、チューバですか。真、これはパワーのいる楽器だけど、大丈夫か?」

真「正直、自信はないですけど……パワーっていうだけなら負けません! 頑張ってみせます!」

P「よし、大変だろうけど、頑張ってくれると願ってるぞ」

小鳥「あずささんは、フルートですか」

P「あずささん、フルートできるんですか?」

あずさ「その、できるといっても、友美が持っていたピッコロフルートを貸してもらったことがあるだけなんですが」

P「ピッコロフルートですか。これはまた難しいものをしてたんですね」

あずさ「はい。あのう、それでも大丈夫でしょうか?」

P「平気ですよ。あずささんなら、しっかりこなせると信じてますから」

P「ピッコロはソロパートも多い楽器ですが、あずささんの舞台度胸なら安心できますよ」

あずさ「あ、あらあら~……あんまり期待されると、困っちゃいます」

P「ふむ、担当楽器がこれで全員決まりましたね」

~金管楽器~
やよい トランペット
貴音 ホルン
真 チューバ(&カラーガード)
亜美 トロンボーン(コントラ)

~木管楽器~
あずさ フルート(ピッコロ)
美希 フルート
伊織 リコーダー
雪歩 サックス
真美 クラリネット(コントラ)

~パーカッション~
響 打楽器全般
千早 ティンパニ
春香 ピアノ
社長 コントラバス

~その他~
律子 角笛
小鳥 指揮

小鳥「なかなかいいバランスになりましたね。結構楽しみじゃないですか」

P「そうですね。指揮まで自前で用意できてるっていうのも、番組的にはかなりポイント高いですよ」

小鳥「うっ……頑張ります」

P「さて、そうなると、三か月というのはとても短いですね。さっそく練習に取り掛からないと!」

小鳥「そうですね。やる曲もきめないといけませんし」

P「それも問題ですね。曲数に関しての指定も特に無いみたいですし、そのあたりには、俺が頑張って決めますよ」

小鳥「お願いしますね、プロデューサーさん。……できれば指揮の簡単なので」

P「さあ、どうなるでしょうか? ――よしっ、みんな、集合だ!」

こうして、765プロアイドルたちの練習の日々は始まった!


春香「え、えっと、猫の手ってこんな感じのこと?」

伊織「そうそう、そんな感じよ。ピアノを弾く時は、腕の力を抜いて自然体、手首から先を動かすイメージよ」

春香「こんな感じかな?」

伊織「やるじゃない。それじゃあ、まずはこの練習曲から――」

小鳥「伊織ちゃんの指導、お見事ですねえ」

P「教養を感じさせますね。あれだけ的確に指示ができるって見事なものですよ。頼りになります」

小鳥「ピアノの経験自体があるみたいですしね。さすがとしか」

P「というか……持ってきたリコーダーの種類がすごいですね。ソプラニーノ、ソプラノ、アルト……どれも外国の一流のメーカーのものでしたよ」

小鳥「正直、リコーダーをナメてました……」

P「リコーダーアンサンブルで稼いでるプロもいますからね。結構奥が深い楽器ですよ」

千早「……ふうっ、こんな感じかしら」

響「すごいな千早、手つきが素人って感じじゃあないぞ」

千早「我那覇さん。いえ、まだまだだわ。音に滑らかさと迫力が足りないって、自分でわかるもの」

響「そうかな? すごいって思うんだけどな」

千早「我那覇さんだって。とりあえず用意されてた楽器のうち、半分くらいはできてたじゃない」

響「い、いや、千早のティンパニに比べたら全然だぞ……というか、自分は何の楽器を練習すればいいのかまだわかんないぞ」

響「ねえプロデューサー! 早く、やる曲を全部決めてほしいさー!」

P「あ、ああ……すまない、響。曲の選曲にはもうしばらくかかりそうなんだ」

P「今の段階では、とりあえず絶対使うであろう、ベースドラムとシンバル、あとスネアドラムの練習をしておいてくれ」

響「うー……わかったさー。でも、早く決めてね! 自分、せっかくだったら上手になって披露したいからね!」

あずさ「……♪~」

美希「ふーっ! ふーっ!」

小鳥「なんだか、美希ちゃんが苦戦してるみたいですね」

P「フルートは、音を出すのがちょっと難しい楽器なんです。コツを掴めばそうでもないんですが、それまでが……」

美希「んもー! 全然音が出ないのー!」

あずさ「あ、あらあら……美希ちゃん、最初からあんまり強く息を込め過ぎないほうがいいわ」

あずさ「ゆっくり、優しく、ね? それで、フルートを当てる位置を少しずつずらして、音が出る角度を探すのよ」

美希「むぅー……」

P「苦戦してるみたいだな、美希」

美希「ハニー。ミキ、キラキラできないかもなの……」

P「大丈夫だよ、練習期間はまだあるんだ。お前ならすぐにコツを掴むさ。それまであずささんにしっかり教えて貰うんだ」

あずさ「一緒に頑張りましょう、美希ちゃん」

美希「……ハニーとあずさがそういうなら、美希も頑張るの!」

真「うーん……チューバって難しいなあ」

亜美「亜美もうまく音が出せないよー。ねえ兄ちゃーん! なんかコツとかないのー?」

P「そうだなあ……俺も専門ってわけじゃないからうまく言えないが、まずはヴァジングを試してみろ」

真「ヴァジング?」

亜美「何それ?」

P「金管楽器は、まずマウスピースだけを取り外して、それを吹いて練習するんだ」

P「ブー、ボー、みたいな音がしっかり出せるようになれば、それを楽器につけて吹いても音がしっかり出る。ウォームアップみたいなものだ」

亜美「ふーん? どれどれ……」

ぶぅ~

亜美「あははっ! なにこれっ! 変な音~!」

P「おっ、なかなかうまく出せてるじゃないか。それならなんとかなりそうだな」

真「なるほど……よぉーし、亜美! 一緒に、マウスピースだけでどっちのほうが大きな音を出せるか、競争しよう!」

亜美「了解! んっふっふ~、亜美に勝てますかなっ?」

小鳥「なんか詳しいですね? プロデューサーさん」

P「ええ、まあ、昔ラッパをちょっと」

小鳥「トランペットですか?」

P「というか、コルネットですね。まあ似たようなものですが……おっ、そのトランペット担当が、なんだか苦戦してますね」

やよい「~~~~~~! ~~~~~~~~~~~~!」

やよい「……ぷはぁっ! うう~、音が出ないです……」

貴音「やよい。落ち着くのです。焦っていては、何事もうまくいかぬもの……」

やよい「で、でも……このままじゃ私、みんなの足手まといに……」

P「やよい。貴音のいうとおりだ。あせってちゃダメだ」

やよい「プロデューサー!」

P「いいか、肩の力を抜け。楽器を吹くときは、無駄な力が入ってちゃダメだ。必要な力は、お腹から下だけだ。上半身はリラックスしてないと、音が出づらいぞ」

やよい「リラックスですか……」

P「マウスピースだけでも音が出ないなら、唇をブルブルさせてみろ。できるか?」

やよい「それならできます!」

P「それをしばらく、できるだけよわ~く振動を続けてみろ。唇が、楽器を吹くのに適したやわらかいものになってくるから」

貴音「貴方様……」

P「貴音のほうは、音は出てるみたいだな」

貴音「はい。とは申しましても、まだまだ音の響きが足りず、出せる音域も狭いのですが……」

P「大丈夫だ。楽器の練習は、続ければ続けるほど、うまくなっていくものだから」

P「逆に、『一日サボると取り戻すのに三日かかる』なんて言われるぐらいでな。まあ、つまり積み重ねがモノをいうジャンルなんだよ」

貴音「なるほど……ふふ、そうなると、しっかり、教えていただかねばなりませんね」

P「あ、ああ……まあ、金管楽器の指導ができるメンバーが他にいない以上、俺が頑張って教えるよ」

貴音「頼りにしておりますよ、貴方様」

雪歩「~♪」

真美「雪ぴょん、今吹いてたの何? チョー格好いいじゃん!」

雪歩「ま、真美ちゃん……えっと、吹いてたのはジャズの曲だよ。わたし、こういうの好きで」

真美「ふぅーん。なんか、メチャイケてるね! 真美もそういうの吹けるようになりたいなあ~」

雪歩「い、イケてるなんて……私なんて、リズムは崩れてるし、音程だってめちゃくちゃだよ」

P「……ふむ」

小鳥「どうしました? 雪歩ちゃんのほうを見て」

P「いえ、雪歩は音感がいいなあと思ってたんですよ。演奏をしっかり振り返れています」

P「ただ、今はまだ実技がそこに追いついてない感じですね。ある程度吹けるようになってきたら、急成長しそうです」

小鳥「雪歩ちゃん、本番で強いですからね。何か出番でも用意しましょうか」

P「まあ、そこはまだ、やる曲次第ですね」

P「そして……」

社長「……ではいくぞ、律子くん」

律子「はい。……1,2,123っ!」

ボンっ♪ ボンッ♪ ボンッ♪ ボンッ♪ ボッボ~ン、ボンボンボンッ! ボボーボボンッ♪
ぷぉ~ぷぉっぽぽっ♪ ぶぉ~ぷぉっぽぽ♪ ぽっぽ~ぽぽっぽ、ぶぉ~ぽっぽ♪

小鳥「……コントラバスと角笛、絶妙にマッチしてませんね」

P「しかし、二人ともめちゃくちゃ上手いですね……もうセッションできてるし。社長はまだわかりますけど、律子にこんな特技があったとは」

小鳥「角笛って。もうなんというか、絵面がシュールすぎて、何人か練習の手を止めて笑いをこらえてる子がいますよ」

P「いったいどこの国の土産で買ってきたんだろう……」

P「全体をパッと見たところ、なかなかみんなスジがいいですね」

小鳥「このぶんじゃ、曲も早めに決めないといけないでしょうね」

P「そうですね。今はそれぞれ似た楽器同士で練習したり、教則本を見て練習してますけど……」

P「できるだけ早く決めてやって、不安を取り除いてやらないといけないでしょうね。先が見えないとどうしても不安になりますから」

小鳥「響ちゃんの打楽器のこともありますしね」

P「はい。それに、小鳥さんの指揮も」

小鳥「そ、そういえばそうだった……ぷ、プロデューサーさん、早めに決めましょうね!」

P「はは……わかりましたよ」

さらに練習の日々は続く!


伊織「それじゃ、いい? いくわよ。 4,3,2,1……」

あずさ・美希・伊織・雪歩・真美 『 ♪~ ♪~ ♪~ 』

P(……)

美希「――どうっ? 今のはよかったと思うの!」

雪歩「うんっ! 美希ちゃん、しっかり音が出るようになってきたね!」

あずさ「さすがね、美希ちゃん~。音が出るようになってから、めきめき上達してるわ~」

美希「あはっ☆ ありがとうなの!」

真美「ねえいおり~ん。今日、なんかうまく音が出ないんだけど……」

伊織「音が? ……あっ、あんた、これ、リードにヒビ入ってるじゃないの!」

真美「うぇっ!? ホントだ! ちょっと取り替えてくる!」

伊織「もう……リードの状態ぐらいしっかり管理しなさいよねっ!」

P(木管グループは、伊織が先導してうまく指導してくれてるみたいだな)

P(……しかし)

P「雪歩、ちょっといいか」

雪歩「あっ、はい、なんですか? プロデューサー」

P「ちょっと、この練習曲を吹いてみてくれ」

雪歩「えっと……うう、すみません、わたし、まだ楽譜がうまく読めなくて……」

P「ああ、そういうことか。これはただの『きらきら星』のメロディだよ」

P「メロディは知ってるだろ? それを吹いてみてくれ」

雪歩「あ、はいっ! わかりました」

雪歩「♪~ ♪~ 」

P(……やっぱり)

雪歩「♪~ ――ど、どうでしょうか?」

P「雪歩、たぶん、なんとなく自分でも違和感を感じてるとは思うんだが……」

P「……リズムが、全部スウィング気味になってるぞ」

雪歩「……あ、あうぅ……」

P「なんとなく気づいてたか」

雪歩「すみません……私、サックス・ジャスが好きで、昔からそういう曲を練習してて……」

雪歩「たぶん、それでクセがついちゃったんじゃないかと……」

P「そういう経緯だったのか……」

雪歩「こ、こんなダメダメな私が楽器の演奏なんて、やっぱり……」

P「雪歩。別に責めているわけじゃあないんだ。実際、楽器の上手さ自体は、皆の中でもかなりの上位だ」

P「大丈夫。直していけばいいだけだ」

雪歩「……うう、でも」

P「うーん……ああ、そうだ。それなら、ちょっと応援を頼もう」

雪歩「応援?」

P「おーい、千早ー!」

千早「なんです? プロデューサー?」

P「練習を中断させて悪い。雪歩にリズム指導をしてくれないか?」

千早「リズム指導? 私がですか?」

雪歩「そ、そんな、千早ちゃんに迷惑かけちゃいます……」

P「そういうなよ、雪歩。千早のリズム感は抜群だぞ。教えて貰うならこれ以上の人材はない」

P「それに……厳しいことを言うように聞こえるかも知れないが、リズムがズレてしまうことの方が、迷惑になってしまう。できるだけ早く、どんなリズムでも正確に打てるようになろう」

雪歩「……っ!」

千早「大丈夫よ、萩原さん。私は全然、迷惑なんて思ってないわ。……その、うまく教えられるかはわからないけれど」

P「雪歩」

雪歩「……うんっ! 千早ちゃん、わ、私ダメダメで迷惑かけちゃうかも知れないけど、よろしくお願いします!」

千早「こちらこそ。それじゃあ、まずはメトロノームに合わせて、手を打つ練習からしましょう」

雪歩「うんっ!」

P(よし。うまく行くかどうかはわからないけど、とりあえずはこれで様子を見てみよう)

P(さて、他のメンバーは……おっ)

貴音「では、参りましょう」

真「OK!」

亜美「せーのっ!」

 ♪~ ♪~ ♪~ ♪~

P「金管楽器で集まって練習してるんだな」

亜美「あっ、兄ちゃん! 今のどう?」

P「なかなかよかったぞ。ただ、亜美はちょっと音がトガッてる気がするがな」

亜美「ええ~! 迫力あっていいじゃん!」

P「迫力も大事だ。けど、にぎやかな曲ばっかりするわけじゃないからな。芯のある音も出せるようにならないと」

P「そうだな、貴音の音がそれに近い。参考にしてみろ」

貴音「わたくしですか」

P「まあ、もともとホルンの音はマイルドなんだが。でも上手いぞ」

亜美「うーん、何かコツとかある? お姫ちん」

貴音「コツ……ですか。ふむ、あまり具体的なコツというわけではないのですが」

貴音「わたくしは、演奏する時に、常に『いめえじ』を持っております」

真「イメージ?」

貴音「はい。自分の楽器から発せられた音が、やわらかに、それでいてたからかに、部屋中に響き渡るいめえじです」

貴音「常に、自分が理想とする音色を今出せている、と言い聞かせると、不思議とよい音になっていくのですよ」

亜美「なんかむずかしそ~……」

真「スピリチュアルだなあ」

P「いや、いい音のイメージを持つことはとても大切だ。貴音は間違っていないよ」

P「音の具体的なイメージがなくても、たとえば、何か情景を想像してみるという手もある。草原だったり、お城だったり」

真「なるほど……」

P「亜美は、トロンボーンの音はどんなイメージだ?」

亜美「むむ~……うまく言えないけど、タキシード着たおっちゃんが、ずっしりとしてる感じ!」

P「なら、それをイメージしながら演奏してみるといい。まあ嘘だと思ってやってみるといいさ」

真「プロデューサー、ボクはどうしましょう?」

P「ふむ、真は、チューバといえばどんなものをイメージする?」

真「そうですね……あっ! こう、王様のイメージかな?」

真「兵隊たちがラッパを軽快に吹いて歩くのに比べて、王様はどっしりと威厳のある音で歩く、みたいな!」

P「おっ、具体的なイメージがあるのはいいな。それは大きな武器になる。いつも意識していくといいぞ」

真「わっかりました!」

P「ラッパといえば、そういえば、やよいはどうした? 姿が見えないが」

真「……その、やよいは」

貴音「今、一人で屋上で練習しているはずです」

亜美「兄ちゃん、ちょっと見てきてあげて」

P「……? わかった」


~屋上~


P(やよいの奴、わざわざ屋上なんて選んで、いったい……)

P(……ん?)

やよい「――! ――! ――!」

…………ヴッ……ゥヴッ…………………ヴヴッ…………

P「!」

P(マウスピースだけで練習している……)

P(……が、まだ、音が出ないのか……!)

やよい「ううっ……! うっ、ううぅ"う"……っ!」

やよい「出ないっ……どうして出ないの……!」

やよい「うぇ……グスッ……ひっく……!」

P(や、やよい……!)

やよい「グスッ……ダメ、ちからを抜いて……り、リラックスしないと……」

やよい「……――! ――! ――!」

…………ヴヴッ……ヴ……………………………

P(くっ……トランペットは、確かに音が出すのが他の金管楽器と比べて難しいという話もあるが……)

P(しかし、もう練習を初めて二週間近い。さすがに、音自体がでないという段階は、もう通り過ぎたと思っていたが……)

P(――いや、違う。これは俺のミスだ)

P(皆がわりとうまくいっている、という雰囲気に少し安心してしまっていたんだ。個人個人のチェックを怠っていた!)

P(……くそっ!)

P「やよいっ!」

やよい「っぅっ!」

やよい「ぷ、プロデューサー……」

P「すまん……すまん、やよい」

やよい「っ! え、えへへっ、なんのことですか……?」

P「……やよい」

やよい「い、今もっ、練習してたばっかりですから!」

やよい「わたし、まだ下手だから、がんばって、みんなに、」

やよい「みんなに、……」

やよい「………………みん、な、に……」

P「…………」

やよい「……ぅ、ぐすっ……ひっ、ううっ……!」

やよい「みんなに、迷惑……! わたしっ、グスッ、ここでも……!」

P「…………やよい……」

やよい「ぅっ、うぅっ、うわあああああああああああんっ!」

~やや経って~

P「……少し、落ち着いたか?」

やよい「……っはい」

P「そうか」

やよい「あの……ごめんなさいです、プロデューサー」

やよい「わたし、もっと練習しなきゃいけないのに、こんな、プロデューサーにまで迷惑かけちゃって」

P「迷惑なんて言うな。いいんだ、俺も悪かった」

やよい「……わたし、ラッパ、ダメなんでしょうか」

P「……それは、わからない」

P「……楽器にも、向き不向きっていうのは確かにあるんだ。吹いてみて、どうしてもダメっていうものも中にはあるらしい」

やよい「じゃあ、やっぱり」

P「まあ、聞いてくれ。俺も昔、ラッパを吹いていたんだ。といっても、トランペットとは少しだけ違う奴をな」

P「でも、俺は一番最初は、ホルンを吹いていたんだよ」

やよい「貴音さんの?」

P「ああ。ただ、俺はいつまで経ってもホルンがどうしてもうまく吹けなくてな。ラッパに転向したんだ」

P「そしたら、あっさりと音が出たりしたんだ。嬉しかったよ。演奏が楽しくて仕方なくなるぐらいだ」

P「最期には結構いい線行ったんだぜ? コンクールにも出られたんだ」

やよい「……」

P「ただな、最近になって、皆が楽器を練習してる様子を見ると、ふと思うんだよ」

P「あの時、俺が諦めたホルンを、そのまま続けてたらどうなってたのかなって」

やよい「……あきらめた楽器を、続けていたら?」

P「ああ。……なんというか、可哀そうになったんだな」

P「当時、俺のつかってた楽器は、学校の楽器庫の、一番奥にしまわれてた、そりゃもうオンボロのホルンだったんだよ」

P「俺がラッパに転向して、そのホルンは、またすぐ倉庫の奥でほこりをかぶることになった」

P「そして、俺が在学してる途中で、整理に出されて、破棄されたよ」

P「その時に……なあ? その、すごく申し訳ない気持ちになったんだ。『俺が上手く吹いてやれなくてごめん』って」

やよい「……」

P「まあ、これはあくまで俺の話だ。今回のやよいの件とは何の関係もないし、事情も全然違う」

P「番組としても、あんまりに下手な演奏はできないし、やよいが音が出せなくて苦しむぐらいなら、俺は他の楽器に変えたいとも思ってる」

P「ただ、決めるのは、やよいだ」

やよい「わたしが、決める?」

P「ああ。そのまま、トランペットを続けるなら、続ける」

P「ダメなら、そうだな。ホルンか、ユーフォニアムでもやってみるか? 音を出すというだけなら、わりと出やすい部類だと聞くから」

やよい「……」

P「俺は、たとえどっちを選んでも、やよいならいい結果をのこせると思ってるよ」

P「……っと、すまん。小鳥さんと、選曲の話し合いがあるんだ。悪いけど、ここでな」

やよい「……はいっ」

P(結果から言うと、やよいはトランペットを手放さなかった)

P(自分が手にしているトランペットに、愛着を感じたのだろうか。モノを大切にしようという、やよいらしい判断だったとも取れる)

P(……俺は、やよいには選択肢を与えたが、正直、トランペットを続けるように誘導した)

P(それは、編成のバランスを考えたのもそうだが……本心では、どこか、今の俺のように後悔させたくないという、エゴが働いたのだと思う)

P「……」

P「ええいっ、迷っててどうする! やよいが決めたんだ! 後押ししてやるしかないだろ!」

P(とにかく、今はやよいを少しでもいい状態で練習させてやらないと)

練習開始から一か月ぐらい!


P「みんな、集まってくれ!」

春香「あっ、プロデューサーさん。練習室に来るの久しぶりですね」

P「ああ、久しぶりだな。調子はどうだ?」

春香「毎日指を動かし過ぎて痛いですよー。えへへっ、でもだいぶうまくなったと思いますよ」

伊織「ふふんっ、当然よ! この伊織ちゃんが指導してるんだもの!」

美希「それで、ハニー、皆あつめてどうしたの?」

P「ああ、ついに一曲目の楽譜ができたんだ!」

響「っ! ホント!? プロデューサー!」

小鳥「いやあ、ここまで漕ぎつけるのにだいぶ苦労しましたねえー」

律子「やっとですか。ホントもう、待ちくたびれましたよ」

P「悪い悪い。選曲もなんだけど、吹奏楽用の編曲を頼んだら、結構時間がかかっちゃってな」

響「これでやっと、ひたすら机に向かってバチを振り下ろす作業から解放されるさー」

雪歩「響ちゃん、途中からリズム指導に加わってくれてありがとうね」

千早「ふふっ、まあ、皆でいい練習ができたじゃない」

あずさ「それで、その曲は?」

P「はい……これですっ!」

P『といいつつ実はまだあまり決まってないので曲募集させてください!』
P『アイマスオリジナルの曲でお願いします!』

あと支援ホントありがとうございます。完結は頑張ってさせます。

展開考えてたら4曲構成がよさそうで、そのうちの一曲に9:02pmを入れようかと思います
他のリクエストを拾えなくて申し訳ない……
アイデア本当にありがとうございます!

P「とりあえず一曲目はこれです」


【9:02pm (吹奏楽アレンジver)】


小鳥「へえ、あずささんの……」

あずさ「あら~。なんだか嬉しいわ~」

P「実際、この曲はあずささんをはじめ、木管楽器に大きな出番が与えられてます」

P「伊織、お前のソロもあるぞ」

伊織「そ、ソロ? 私の?」

亜美「おお~! いおりん!」

真美「や~るぅ!」

伊織「ふ、ふん! いいわ、この伊織ちゃんに任せておきなさい!」

P「あずささんと美希のデュオパートもありますよ。これまで以上に、一緒にしっかり練習を見てやってください」

あずさ「わかりました~」

美希「むうっ、ミキだってすぐにあずさに追いつくの!」

P「それと、もう一曲あります」


【愛 LIKE ハンバーガー (吹奏楽アレンジver)】


律子「おおっ? これはまた変わり種を選びましたね」

P「テンポのいい曲を一曲入れておきたかったんだ。あと、こういうブロードウェイ音楽は、音を重ねるのに適している割に、少人数でもセッションしやすいんだ」

P「この曲で特に役目が大きいのは雪歩のサックスだ。ソロからメロディラインまで、いろいろと忙しいぞ」

雪歩「じゃ、ジャススウィングですか! 頑張ります!」

P「ただし、リズム練習の方は怠らないようにな」

雪歩「え、えへへ……わかりました」

P「それと、春香のピアノソロが途中で入ってる。あと、響はこの曲はドラムで全体のテンポキープを担うぞ」

春香「わ、私がソロですかっ?」

響「ホントかっ!? 任せるといいさー!」

P「他の皆も、とりあえず、まず午前中は楽譜を読んでくれ。午後から、一回、曲の雰囲気を掴むためにも、小鳥さんの指揮で合奏をしてみよう」

P「それじゃ、練習開始っ!」

アイドル『はいっ!』

亜美「兄ちゃーん。椅子ってどういう風に並べればいいの?」

真美「はるるんたちが今椅子並べてるけど、よくわかんないよー!」

P「ん、そうだな。図にするとだいたいこんな感じだ」


  ~~~ここらへんに響の打楽器~~~    千早(Tim)
 
       やよい(Tp)      亜美(Tb)
        貴音(Hr)  雪歩(Sax)
 春香(Pia)美希(Fl)         真(Tu)社長(Bass)  
     あずさ(Pic) 伊織(Rec)  真美(Cl)

               小鳥(指揮)

社長「ふむふむ、木管楽器が前、金管楽器が後ろ、そして打楽器がその外周というわけだね」

P「ええ。木管楽器は金管楽器と比べて、どうしても音が小さくなりがちですから、前面に出します」

貴音「すてーじの左側にいくほど、音が高い楽器が集まっているのですね」

P「そうだな。音が全く違う高さの楽器がすぐそばにいると、全体の音を聞いて、その音に和わせるのが難しくなるんだ」

P「今回は同じ楽器に属するのが、あずささんと美希のフルートしかないからな。楽器の配置が少し違うだけで、奏者の立場からしての曲の聴こえ方が大きく変わってくる」

小鳥「と、というか……こうして図にされると、私、なんか、すごく緊張してきちゃったんですけど……!」

P「ははは……指揮者は、演奏者の視線を一手に受けて、観客の視線を背中で受け止める役割ですからね。緊張してトチらないでくださいよ、小鳥さん」

小鳥「ぷ、プロデューサーさんがサドい……」

律子「……あの、プロデューサー。私の名前がないのですが」

P「……えーっと」

P「……すまん、俺も角笛の入った演奏編成はまったく経験がなくてわからなかったんだ……!」

律子「でしょうね」

P「わかってくれ!」

律子「わかりますよ」

P「ありがとう!」

律子「はあ……まあ気持ちは十分、ね。私も角笛がまさか正式採用されるとは思ってなかったし」

律子「ただ、立ったまんまもしんどいですから、とりあえず、真美の右隣りあたりに座らせてもらいますよ」

真美「へいへいりっちゃーん! ウェルカムだぜぃ!」

律子「はいはい……」

小鳥「……というか、編曲家の方は角笛のパートを入れてくださったんですか?」

P「依頼した時は『こいつ頭おかしいんじゃないか』みたいな視線で見られました」

小鳥「あの、まず何をすれば」

P「とりあえず、チューニングしましょう。伊織、お前がコンサートミストレスだ」

伊織「わかった」

小鳥「コンサート……え、なんですか?」

P「コンサートミストレス。指揮者とは別に、演奏者をとりまとめる役割の演奏者のことですよ。男ならコンサートマスターです」

P「オーケストラだと第一ヴァイオリン、吹奏楽だと第一クラリネットが担当することが多いです。ただ亜美のクラリネットは非常に低いですから、近い音色の伊織が適任かと」

P「コンサートミストレスが、Aか、あるいはB♭の音を出して行って、高い音の楽器から順に音を重ねていって、全体の音程を取るんです」

小鳥「なるほど……」

P「このバンドなら、まずリコーダー、そこにピッコロ→フルート→サックス→トランペット→ホルン→トロンボーン→チューバ→コントラクラリネット→コントラバス、ですね」

P「今回は俺が音を聞きますから、小鳥さんは入るタイミングを指示してください。おれが合図を出しますから」

小鳥「わかりました!」

P「それじゃあ伊織、音は……A、」

P「…………」

やよい「…………」

P「いや、……B♭で頼む」

伊織「……わかったわ」

小鳥「?」

小鳥「えっと、じゃあ、伊織ちゃんお願い」

伊織「 ~♪ 」

P(うん、さすがは伊織だ。リコーダーはクラリネットに比べて音が小さくなりがちだが、芯のある音だ。音程の揺れもない)

P「あずささんに」

小鳥「(あずささん、どうぞ)」スッ

あずさ「 ♪~ 」

P(初心者がピッコロを吹くとキンキンした音になりがちだが、いい音色をしている)

P(肝心の音程は……まあ、初回だし、こんなもの、か、な?)

P「美希を」

小鳥「(美希ちゃん)」スッ

美希「 ♪~~~~~~ 」

P(む、むむう……ちょっと音程のズレが激しいな……)

P(フルートにありがちな、音が小さくくぐもってしまうということはないみたいだが……)

P「美希、もう少し低めに」

美希「(低め?)…… ♪~~~~~~~~ 」

P(ま、まあマシになったかな?)

P「雪歩を」

小鳥「(雪歩ちゃん)」スッ

雪歩「 ♪____ 」

P「ゆ、雪歩。その1オクターブ上の音だ」

雪歩「っ! す、すみません!」

雪歩「 ♪ ―― 」

P(OKOK。雪歩は音程は安定してるな。揺れもない)

P(ただ、ジャズ系の曲に慣れてるせいか、音が少し硬いな。ちょっと周りと混ざりづらい音質だ)

P「……やよいを」

小鳥「(……やよいちゃんっ)スッ」

やよい「……」

やよい「っ!」

 G~ G~    ...B♭ッ、~~G~ G~

P(やよい、音は出るようになったか!)

P(……でも、まだチューニングに使う、真ん中のB♭が出ないようだ。B♭と同じ指使いで出る、Gの音が出てしまっている……)

やよい「―! ―!」

P「やよい。その1オクターブ下の音でいい。今日はそれで合わせるんだ」

やよい「は、はい」

 ♪__ ♪____

P(低い音はそれなりに安定してるな。まだ褒められるほどのレベルじゃないが……)

P(とりあえず、音が出ないという最初の壁は乗り越えたか。よく頑張ったな、やよい……)

P(その後も、チューニングを続けて言った……の、だが……)

貴音「♪__~~~~~~」
P(貴音、吹き続けると音程が上がっていってるぞ)

亜美「♪――――ッ!」
P(亜美、うるせえー! まわりの音を聞いてないだろ!)

真「ッッッ♪―――!」
P(真、タンギングが強すぎだ! もっと滑らかに音が出し始めてくれ!)

真美「♪――――ッ!」
P(お前もうるせぇー! 音量は大したもんだけど!)

社長「♪~~~」
P(見直しました社長)

P(その後、金管全体、木管全体、低音域全体などに分けて音程を取ってみても、なかなかかみ合わず……)

P(結局、チューニングだけで40分以上かかってしまった……)

律子「……えーと、やっと終わりましたか?」

P「なんとか……」

小鳥「多分……」

伊織「めちゃくちゃ疲れたわよっ! もう!」

律子「伊織だけじゃありません。チューニングしない組も……」

春香「…………」(ペダルを意味なくふみふみしている)

千早「…………」(教則本を読んでいる)

響「…………」(トライアングルをぶらぶらさせて遊んでいる)

律子「ね」

P「……はあ」

伊織「どうするのよ? この状態だけど、とりあえず合奏してみる?」

P「……まあ、ここまできてしないのも、な」

春香「そーですよー」

響「それはあんまりだぞ!」

P「……よし、やってみよう。まあ、曲の流れだけでも掴まないとな」

千早「ええ、お願いします」

小鳥「じゃ、じゃあ……とりあえず【9:02pm】からやってみましょう!」

一同『はーい』

P(この曲のメロディは、Aメロは主に貴音のホルン、サビ部分はあずささんと美希のフルート。そして間奏部に一つ、伊織のリコーダーソロがある)

小鳥「 ~ ~ ~ ~ 」

 ♪~

P(出だしの伴奏は……まあ、音程のことを除けば問題ない。リズムは取れてる)

P(さて、Aメロは……)

貴音「 ♪~ ― ~ 」

P(音の表現力は初心者にしては十分すぎるぐらいだ。ただ、やはり音程が少し伸ばしたときに上ずるな)

あずさ・美希『 ♪~ ♪~ ♪~ 』

P(サビは……あずささんの主旋律に美希のハモりだが、どうも音量が逆転してるな。あずささんは少し小さいし、美希は少し大きいな)

伊織『 ♪...  ♪、♪~~(え、えっと、ここがこうで、あわわわわ)』

P(まあ、今朝渡したばっかりのソロとか、当然こうなるわな……まあ、伊織なら、しっかり練習を積めばなんとかなるだろう)

P(…………えーと、あとは)

亜美・真美・真『 ッッ♪――――ッ! 』

P(低音トリオがうるせえ!)

続いて【愛 LIKE ハンバーガー】!!!


P(この曲は、Aメロはやよいのトランペット、Bメロで亜美のトロンボーン、サビで雪歩のサックスが主なメロディ奏者だな)

P(そして響はずっとドラムで出ずっぱり。そして2番の後に、原曲にはない春香のピアノソロが挿入されている)

P(響のドラムの出だしは快調だな……って、ありゃ)

響「♪っ♪っ♪っ♪っ」

P(響……足元のベースドラムのことを忘れてやがるな。手を動かすのに急がして気が回らないのか)

P(ん、Aメロに入ったな。さて、やよい……)

やよい「 ………… ――♪っ! ♪っ♪っ♪っ! ――♪っ!」

P(うっ……リズムは取れていて問題ないが、B♭よりも高い音が出ていない。やはり高音の壁にぶち当たってるな……)

亜美「 っ♪♪♪っ♪っ♪っ♪っ! 」

P(Bメロの亜美のメロディ、音量と迫力は大したものだが……早い! 響のドラムを無視して前のめりになってるぞ)

雪歩「 ッ ♪ ッ ♪ ッ ♪ ッ ♪ 」

P(雪歩はさすが、安定してるな。楽しそうに演奏している……だがやっぱり音が硬質だな。サビをソロにするわけにもいかないし、音質の改善をどうにかしないと……)

春香「ええっと、っ! こ、ここがこうであわわわわわわわ」

P(……いや春香、そりゃ鍵盤楽器だから喋れるけど、いちいち慌てようを実況しなくていいぞ――――はっ、まさか撮影用のリアクションなのか!?)

社長「……ふむ、一通り、楽譜はすべて攫った、な……」

P「…………」

小鳥「どうでしょう」

P「…………」

P「千早、俺の代弁を」

千早「もう一度個人で練習しましょう」

一同『はい』


P(最初の合奏は、当然ながら、なんともひどいものだった……)

小鳥「あのう、プロデューサー……今日の合奏は……」

P「まあ、改善点の山ですね」

小鳥「あはは……まあ、そうですよねえ……」

P「まだ始めて一か月ですしね。それを鑑みれば、むしろ大したものだともいえるぐらいです。普段から音楽に携わっている子たちだからでしょうかね」

小鳥「あ……実は私も、正直『すごい』って思ったんですよ」

小鳥「うまくいかないことも多々あったでしょうに、ここまで漕ぎつけてるなんて、むしろ大したものだと思っちゃうんです」

小鳥「あ、も、もちろんプロデューサーさんからしたら、まだまだ全然に映るんだろうなとはわかってますよ?」

P「いえ、実際、大したものですよ……みんな。やよいだって」

小鳥「やよいちゃん。大丈夫でしょうか」

P「上達は、たぶんできます。高い音が出ないなんていうのは、経験しない人がいない壁ですから。超えられる壁です」

P「ただ……やよいが、それまでに、壁に押しつぶされてしまわないか、それだけが心配です」

小鳥「…………」

小鳥「だいじょーぶですよ、プロデューサーさん」

小鳥「やよいちゃんは強い子ですから。765プロの元気タンクですよ、あの子は」

小鳥「それに……誰かが苦しんでいれば、必ず手が差し伸べられる。そういうところでしょう? この765プロっていうのは」

P「……小鳥さん」

P「そうですね。俺が間違ってましたよ。やよいなら、必ず壁を越えてくれます」

P「そのためには、まず俺たちから信じてやらなきゃ、ですね」

小鳥「ええっ! プロデューサーさんが、皆の頼りですから! しっかり指導してあげてください!」

P「……ええ、それじゃ、さっそく」


P「練習しましょうか、小鳥さん」

小鳥「え」

小鳥「えっと、あれ? ぷ、プロデューサーさん?」

P「ちゃあーんとみてましたよ、小鳥さんの指揮も」

P「響のテンポに合わせて指揮棒振ってましたよね。逆ですよ、響にテンポ指示するのが役割なんですよ」

小鳥「ぎく」

P「伊織がソロ吹いてるときリズムを見失ってましたよね。ソロ中も指揮棒は一定のテンポですよ」

小鳥「ぎくぎく」

P「4拍の指揮棒の振り方、左右逆でしたよ」

小鳥「ぎ、くっ……」

P「あと指揮棒落としてましたね。それも3回ほど」

小鳥「――――」(蒼白)


P「みーっちりレッスンしてさしあげますよ。マンツーマンで」

小鳥「お、お、お手柔らかにお願いします……」

小鳥(あ、でもちょっと嬉しいような……)

そして二週間ぐらい経った頃ッ!!!!

伊織「1・2・3・4、1・2・3・4……」

P(木管楽器グループは、伊織が中心となって指導を進めていった)

伊織「……ふうっ」

P「お疲れさま、伊織。ジュース買ってきたぞ」

伊織「あら、気が利くじゃない。にひひっ♪」

P「ずいぶん上手くなったな。あずささんと美希の音量バランス、だいぶ改善されてきてるぞ」

伊織「つきっきりで指導したから、まあ、このぐらいはね」

伊織「あずさなんて、どうしても音量が出ないから、千早を呼んで腹筋までしたのよ。もちろん、ばっちり成果は出たわ」

P「お前、マジですごいな……」

伊織「そりゃもう! 今を輝く、スーパーアイドル伊織ちゃんですもの!」

P「ははは……ホント、その通りだな」わしゃわしゃ

伊織「っ! ちょ、ちょっと、急に頭とか撫でるのやめなさいよ!」

P「いやなに、伊織が頑張ってくれてるのが、素直にすごく嬉しいし、助かってるから、褒めたくなってな」

伊織「……ふんっ、まったく……せ、せっかくセットした髪が乱れるんだから、ちょっとは気をつかいなさいよね……」

雪歩「――それじゃ、いくよ。サン、ハイッ」

亜美・真美・真『ッ! ♪! ッ! ♪! ッ! ♪! ッ! ♪! ッ! ♪!』

P(低音域のベースグループには、【9:02pmには律子】、【愛 LIKE ハンバーガー】には雪歩が加わって、それぞれ指揮を執って練習している)

雪歩「うん、いい感じだよ皆!」

真「ホントかい、雪歩!」

亜美・真美「よっしゃー!」

P(ベースグループのバリバリの迫力ある音色は、スウィングジャズによく合っている。こっちはかなり完成度も上がってきたな)

P(この曲は、間違いなくこのベースグループがバンド全体を引っ張ってくれるだろう)

雪歩「じゃあ、律子さん、【9:02pm】のほうをお願いします」

律子「ええ」

P(……ただ、問題はこっちだよなあ)

律子「――いいわね、復唱しなさいあんたたち」

律子『音量を抑えます!』

亜美・真美・真『音量を抑えます!』

律子『周りの音をしっかり聴きながら演奏します!』

亜美・真美・真『周りの音をしっかり聴きながら演奏します!』

律子「よしっ! では――4 ・ 3 ・ 2 ・ 1 …っ!」

 ッッッ♪――――――――――~~~~~~~~~~~~~ッ! 

律子「だあらっしゃああああああっ!!!!」

P「」

亜美「ええー! これでもダメなのー!?」

真美「これ以上は抑えようがないよー!」

律子「あんたらねえ。あんたらの伴奏の上に乗るのは、フルートやリコーダーなのよ。そこんところわかってる?」

真「でもなあ。ボク、これ以上音量抑えたら、高い音が出なくなっちゃうんだよ」

亜美「あっ、それ亜美も!」

真美「真美もだYO! ねえねえ、りっちゃーんどうしたらいいの?」

律子「うっ……そんなことを私に訊かれても……」

P「苦戦してるか、律子」

律子「あっ、プロデューサー」

P「話は聞いたよ。3人とも、高い音が出ないのか」

真「そうなんですよ! 低い音は出るんですけど、高い音に昇っていくと、途中で下に外れちゃうんです」

P「ズバリ教えてやろう。それはな、身体全体を使って演奏ができていない証だ」

亜美「カラダ?」

真美「ゼンタイ?」

P「うむ。いいか。管楽器初心者によくありがちな誤りだが、楽器というのは、口だけに頼ってちゃダメなんだ」

真「でも、実際に楽器に触れるのは口ですよね?」

P「直接触れるのは、な」

P「真、ちょっと、腹筋に力をこめろ」

真「え? あ、はい」

P「ちょっと失礼するぞ」サワッ

真「うひゃあい!」

真美「兄ちゃんのセクハラ現場ゲットォー! か!?」

亜美「芸能誌にすくーぷ発生か!?」

P「アホ。いいか真、今から俺がお前のお腹をグッと押すから、腹筋に力を込めてそれに対抗しつつ、軽く叫んでみろ」

真「は、はい(突然触られたからびっくりしたぁー……)」

P「ふんっ!」

真「ッ! ……あっ、アッ!!!! アッ!!!!!!!!!!!!!」

真「!」

真美「お、おおっ! まこちん、すごい声だったよ!」

亜美「びっくりしたぁー!」

真「じ、自分の身体のことなのに、軽く叫んだだけで予想以上に大きな声が出てびっくりしましたよ……」

P「これが『腹筋で支える』ということだ。歌を歌うときでも、トレーナーさんに言われるだろ。腹から声出せって。それは楽器でも同じだ」

P「高い声を出すときは、まず、下半身をしっかり固めて、足場を作ってやる。って、まあ、そんなイメージを持つといい」

亜美「うむうむ、なるほどですなあー」

真美「兄ちゃん物知りー」

P「師と仰ぐがいい。――逆に低い音が出ないというとき、身体中の力をいちど抜ききってみるんだ」

P「そうすれば、リラックスしていい音が出る。演奏してると、いつのまにか肩や腕に余計な力が入っていることは多いからな」

真「へええ……」

律子「プロデューサー、さすがですねえ」

P「まあ、律子の角笛はそのあたりもマスターしてるっぽいけどな」

律子「……なにかしら、褒められても全然嬉しくないわ……」

響「……」♪っ♪っ、♪っ♪っ

P「響、ベースドラム」

響「ひゃあっ!?」

P「また忘れてるぞ」

響「び、びっくりするからいきなり後ろから話しかけるのやめてよ!」

P「すまんすまん」

響「でも、自分、また忘れてたかー……」

P「まあ、最近はめったになくなったな。たまーにあるかなって感じだ」

響「そうだぞ! 毎回、忘れてるときに限ってプロデューサーが来るから……」

P「ははは、本番はいつ来るかわからんのだ。いつも完璧な演奏を、な」

響「が、がんばるぞ……」

響「でもさー、そういうことなら春香に言ってあげたほうがいいんじゃない?」

P「? 春香にか?」

響「いや最近春香が……」

響「……まあこれは自分で行って確かめるさー。GOだぞプロデューサー!」

P「お、おう?」




春香「」ポロリロポロリロポロリロポロリロ

P(し、死んだような目をして一心不乱に練習をしている……!?)

P「や、やあ春香。調子はどうだ?」

春香「」ポロリロポロリロポロリロポロリロ

春香「」ポロ……

春香「」

春香「……」

春香「…プロデューサー、さん?」

P「え、あ、はい」


春香「………………」

春香「……遅いですよぉぉぉぉっぉおおお―――ッ! もうーっ!」

春香「ばかばかっ! プロデューサーさんのばかばかぁっ!」

P「えっ!? お、おい、春香、何があったんだよ!?」

千早「それについては私から説明します」

P「千早!」

千早「春香は、練習風景の撮影班の取材によく応じてまして……」

千早「それも、春香の割合がかなり多いぐらいにです」

P「え? 俺はそのあたりチェックしてなかったけど、撮影班は他の皆の様子は見にいかなかったのか?」

千早「いえ、行ってはいるみたいなんですが……」

千早「『最近は周りの練習態度がガチすぎて、取材するのが正直ちょっと怖い』と……」

P「…………ワオ」

千早「そういう中で、春香がカメラ意識したリアクションばっかり取るものだから、そのうち撮影班も春香に頼りきりになっていっちゃって」

~初日~
春香「よーっし! 頑張りますよ! ……きゃあっ! い、椅子から落ちちゃった……」  >オイオイ ハハハ

一週間後
春香「だいぶ上達してきたなあ。えっと、左手はこうで……あっ! いっけなーい! 左手、ト音記号じゃなくてヘ音記号だった!」  >オイオイ ハハハ

一か月
春香「が、合奏のあとプロデューサーさんに叱られちゃったし、練習がんばらないと……」
春香「――――ぇっと、、あっ! いけない! が、楽譜端っこ、ちょっとやぶけちゃった……」  >オイオイ ハハハ

そして昨日
春香「」ポロロンポロロンポロロン
春香「プロデューサーさん……そういえば私全然プロデューサーさんに練習見て貰ってない気がする……」
春香「わ、私だけじゃないよね……でも千早ちゃんも響ちゃんも、管楽器の皆も見て貰ってるし……」
春香「」ポロロンポロロンンポロロン
春香「……うぇーん、プロデューサーさーん……」  >ハルカチャン ダイジョウブー?

P「……そんなことが」

春香「もう知りません」プイッ

P「わ、悪かったよ。ほら、春香はどうも手がかからないいい子だからさ、つい」

春香「伊織だって優秀なのに」

P「い、伊織はまあほら、ソロとか持ってるから、心配になるというか」

春香「私だってピアノソロあるのに」

P「えっと」

春香「もう知りません」プイッ

P「」

千早「私も知りませんよ」

P(春香に機嫌を直してもらうために、今日一日はつきっきりでレッスンをしてやると言ったらあっさり機嫌が直った)

P「――と言っても、実は俺、あまりピアノには詳しくないんだよな」

春香「えへへ、大丈夫ですよっ! 伊織からしっかり教えて貰ってますから」

P「それ、俺がいる意味あるのか?」

春香「……もちろんっ! 大有りです!」

春香「なんといっても、そりゃもう、緊張感が違いますから!」

P「そ、そうか」

春香「……二重の意味で(ボソッ」

P「ん?」

春香「何でもないです! じゃ、じゃあ弾きますから、聴いてておかしかったら言ってくださいね。えへ、えへへ」

春香「♪~」ポロロン ポロリロ

P(大した上達っぷりだ。こいつが初めて一か月半だと明かしたら、大抵の音楽教師は驚くことだろう)

P(春香の場合、未経験組の中でも、楽器を選んだ理由が一番ハッキリしているからかな。熱意は随一だ)

P(思えば、アイドルをやる理由だって、一番はっきりしてるよなあ。本当に、自分の目標にはまっすぐ進む子だ)

春香「――ふうっ。どうでしたか? プロデューサーさん」

P「見事なもんだよ。ピアノソロも、まあ、多少テンポが崩れるところもあるけど、いい出来だ」

春香「えへへ……ありがとうございますっ!」

P「このピアノソロはもともとの原曲にはないからな。イメージを掴むのが大変だったろう」

春香「んー、そうでもなかったですよ。ピアノを始めるっていうことで、千早ちゃんがいろいろピアノCDを貸してくれたんです。参考になるからって」

P「へえ、千早が」

春香「はい! どれもすっごく上手で、私、ますます『ピアノがやりたい!』って思っちゃいましたもん!」

P(想いが、そのまま力になる、か。これはもう、才能だな)

P「――っと、春香。もう夜だ」

春香「あっ。もうそんなに時間立ってたんですね」

P「ぼちぼち、何人か帰ってる子もいるな。春香も電車に遅れたらまずいし、そろそろ支度しとけ。あ、事務所そろそろ締めるって皆に伝えてくれ」

春香「はいっ! みんなー、そろそろ遅い時間だから、事務所締めるってー」

P(ふう。皆、夜遅くまでしっかり練習してるな。ちょっと張り切りすぎかとも思うが、しかし熱心に打ちこむことは悪いことじゃない)



P「えっと、火の元OK……忘れ物も、ないな。よし……」

P「じゃ、俺も帰るか……」

                      ……   …………♪―

P「ん?」

          ……  …………♪―  ♪―  ♪―

P「これは……」

P(トランペットの音……)

 ~屋上~

やよい「 ♪― ♪―   ――――ッ、ぅ♪―― 」

P「やよい」

やよい「はわっ!」

P「熱心なのはいいが、さすがに残りすぎだ。俺がいつまで経っても帰れないぞ」

やよい「ご、ごめんなさい、プロデューサー……でも、私……」

P「でも、じゃない。夜は冷えるんだ。屋上でずっと練習なんてしてたら、風邪ひくぞ」

P「ほら、帰ろう、やよい」

やよい「……はいっ」

P「うん。今日も一日、よく頑張ったな」

 ~社内~

やよい「あのっ、プロデューサー」

P「ん?」

やよい「あの……送っていってくれて、ありがとうございます」

P「気にすんな」

やよい「はい……」

P「…………」

やよい「…………」

P「……」

やよい「……プロデューサー、ごめんなさい」

P「ん?」

やよい「わたし、皆にいつまで経っても追いつけなくて」

やよい「音は出るようになりましたけど。でも、皆はもっと上手になってて」

やよい「今日、一人で練習する前は、貴音さんに練習みてもらってたんです」

P「……」

やよい「貴音さんすごいんですよっ。音が前よりももっと綺麗になってるし、ふわーって感じがするし……」

やよい「前にプロデューサーに言われてた、伸ばしてると音が上ずる、っていうのも、雪歩さんと一緒にトレーニングして直してますし……」

やよい「……わたしにも、優しく根気よく教えてくれるし」

P「…………」

やよい「……わたし、プロデューサーに言われて、悩みました」

やよい「けど、結局ラッパを続けることを選んで」

やよい「プロデューサーも、他の皆も、『それでいい』って言ってくれました」

P「……そうだな」

やよい「でも、本当にそれでよかったのかなーって」

やよい「最近、また、気持ちが、ぐらぐら揺れちゃってて」

やよい「…………」

やよい「……ごめんなさい」

P「おう」

やよい「…………」

P「やよい」

やよい「……はい」

P「過去を振り返ることに、意味はないんだ。その可能性を、確認する方法がないからな」

P「やよいがホルンを始めたら、ひょっとしたらものすごく上手くなっていたのかも知れない。それは、確かにそうかもしれない」

P「でも、それはあくまで可能性だ。結局のところ、自分を信じてやるしかないんだ。昔の自分の判断と、未来の自分の可能性を」

P「だからな、やよい」

P「お前の気持ちが揺らいでいるっていうなら……俺が、それを支えてやる」

やよい「……プロデューサー」

P「俺だけじゃない。伊織も貴音も、小鳥さんも社長も、765プロの全員が、お前の味方だ」

P「だからな、やよい。自分を信じてやれ。皆がお前を信じてるのに、お前がお前を信じてられないなんて、そんな馬鹿なことがあるはずないんだからな」

P「……なんて、ちょっとクサすぎたかな」

やよい「……えへへっ」

やよい「プロデューサー、似合ってないですっ」

P「な、なにぉう? せっかく気の利いた言葉を探したのに、」

やよい「ありがとうございます」

P「……」

やよい「ありがとうございます…………ぅっ、……グスッ……」

P「…………全く、泣き虫め」

P(それからやよいは、今の自分の現状を語ってくれた)

P(話すときはどうしても明るい声色にはならなかったが、しかし、涙はもう出ないようだった)

やよい「――それで、真ん中のド、レ、ミ、までは出るようになったんですけど」

P「B♭、C、D、な」

やよい「あれ? 伊織ちゃんはドがCだって」

P「あー、それな。やよいの持ってるトランペットは、B♭管トランペットなんだ。つまり、Cじゃなく、B♭がドになるんだ」

P「伊織のリコーダーはC管だから、ちょっと違うんだよ」

やよい「はわっ! そうだったんですかー!? うう、ずっと勘違いしてました……」

P「ははは。まあ、吹奏楽あるあるだな」

やよい「でも、なんで皆違うんですか? 全部の楽譜を見てる小鳥さんが大変そうかなーって」

P「んー……まあ、五線譜の中に書き込んだ時に見やすいようにってことなんだけど、まあ、俺も正直あまり変わらんと思うな」

やよい「へえー……」

やよい「そういえば、Cっていえば」

P「ん?」

やよい「マウスピースに、「C」っていう文字が書いてありますけど」

やよい「あれってなんなんですかー? 数字と一緒に並んでて、何のことなのかなーってずっと思ってましたー」

P「ああ……それはアレだ、マウスピースの大きさのことなんだよ」

P「マウスピースにもいろいろサイズがあるんだよ。Cは、その単位みたいなものだな。やよいのは、数字はなんて書いてあった?」

やよい「えっと、確か、ちょっと長くて……」

やよい「あっ! 思い出しました。確か、1 1/2 C って書いてありました!」



P「……………………………な、に?」

P(その後、すぐにやよいの家に着いたために、俺はやよいに対して「あ、ああうん気をつけてな」とか変なことしか言えなかった)

P(しかし、そのぐらい衝撃だったのだ)

P「1 1/2 C ……」

P「やよい、そんな大きなマウスピースを使っていたのか……」

P「なんで気づかなかったんだ、俺……」

P(マウスピースのサイズは、基本的に値が小さいほど大きい)

P(普通に初心者が楽器が始めるときには7~9Cぐらいの小さいマウスピースを使うのが普通だ)

P(口の大きさや体格、肺活量などによって適正なサイズは変わってくるが、基本的にサイズは小さいほうが高音が出しやすい)

P(楽器に慣れてきて、より大きな音や、深みのある音を求めるようになって、初めて5C、4C、3Cと下げていく)

P(1 1/2 は、『1と二分の一』、つまり1.5Cのことだ……そんなもの、それなりに大きな、慣れた熟練者じゃないと使わないシロモノだ)

P(アメリカの一流ジャズトランペッターだって、唇への負担を軽減するために3Cや5Cを使うこともあるのに……)

P(……高音が出ないというやよいの悩み。原因は俺の確認が甘かったってことじゃないか……)

P(だが……)

P(――これは希望でもある)

P「……よしっ!」

P(俺は自宅に車を走らせ、ひさかたぶりに、物置の扉を開けた)

そしてその翌日ゥ!!!!!


P「おはようございます」

小鳥「おはようございます、プロデューサーさん」

P「すみませんね、小鳥さん。最近は朝早くから練習に来る子たちのために、ずっと鍵開けてくれて……」

小鳥「ふふ、まあ、早起きには慣れてますから」

あずさ「あら~、おはようございます、プロデューサーさん」

P「あずささん。おはようございます」

あずさ「あの~、今日、美希ちゃんが仕事で来られないそうなので、よろしければ一度ソロチェックをお願いできませんか?」

P「いいですよ。あずささんもあれから上達したみたいですし、楽しみにしておきます」

あずさ「ふふっ、プロデューサーに予約を入れるために、朝早くから来て正解でした♪」

P「あ、あはは……あずささんは練習熱心ですねえ」

あずさ「うふふ」

小鳥「ピヨォ……」

春香「おはようございまーす!」

響「はいさーい!」

千早「おはようございます、小鳥さん、プロデューサー、あずささん」

P「おっ、3人ともおはよう」

あずさ「うふふ、おはよう。春香ちゃん、響ちゃん、千早ちゃん」

春香「あのー、小鳥さん。今日は合奏の予定は?」

小鳥「えっと、午後からね」

響「それなら、午前中、ちょっと自分たちを見て欲しいさー」

千早「【愛 LIKE ハンバーガー】を合わせて練習するとき、どうしても途中でテンポが変わってしまっている気がして……」

小鳥「ええ、いいわよ。仕事がちょっとあるから、片付け次第そっちに合流するわね」

春香「ありがとうございます!」

律子「おはようございます」

貴音「お早う御座います、皆さま方」

亜美「おっ!」

真美「ハロー!」

亜美「って、おりょ、りっちゃんいるじゃーん! ねえねえ、今日【9:02pm】の練習視てぇーん」

真美「真美たちの今のすべてを見てぇーん」

律子「あーはいはい、行くからそういうこというのやめなさい」

亜美「へへっ、やーりぃ!」

真美「後でまこちんにも伝えとくねー! そんじゃおっさきー!」

律子「あっ……もう、行っちゃったわね」

P「ははは……あいつらはホント相変わらずだな」

律子「ホントですよ。まあ、それでも随分、音量を抑えられるようになってきたから、いいんですけどね……」

貴音「あなた様、あなた様」

P「ん?」

貴音「先ほどから気になってきたのですが、ずっと抱えているその封筒は?」

P「! おっと、つい抱えたままだったな」

貴音「……なるほど。ふふっ」

P「……わかるか。皆にはまだナイショな。驚かせてやりたいから」

貴音「ええ、構いませんよ……まったく、あなた様はいけずです」

伊織「おはよう」

やよい「おはようございますー!」

P「お」

貴音「おはようございます。水瀬伊織、よろしければ、本日、私の音程のちぇっくに付き合ってはいただけませんか?」

伊織「貴音の? ふーん、別にいいわよ。でも、もう貴音はだいぶ直ってきてると思うけどね」

貴音「ふふ、どうせでしたら、より高みを目指したいですから……」

P「やよい」

やよい「おはようございますっ、プロデューサー。昨日はありがとうございましたー!」

P「ああ、どういたしまして。……それよりやよい、ちょっといいか」

P「後でお前にプレゼントがある」

やよい「ぷ、プレゼントですか?」

P「そうだ。あとで渡すから、それを覚えておいてくれ」

やよい「???」

P「よしっ。おおーい! ちょっとみんな、すまないが一度集まってくれー!」

亜美「どしたの兄ちゃん?」

真美「真美たち、ウォームアップも終わって練習し始めたところなのにー」

P「そいつはすまなかった。しかし、大事なことなんでな」

貴音「ふふ」

響「? たかね、何笑ってんの?」

律子「どういう要件ですか?」

あずさ「あらあら、何かしら」

やよい「???」


P「今日! 新しく楽譜を配る!」

春香「おおおっ!」

真「ついに着ましたか!」

P「ああ。4曲構成のうち、残りの2曲がついに届いた! ようやくだ!」

律子「できますかね? 確かにもともと4曲ってことで局に通した話ですけど」

P「完璧にとは言わないさ。それでも、形にはなると思ってる」

響「新しい曲は何になったの!?」

雪歩「き、気になりますぅ!」

社長「私も聞いていないからな、うーむ、早く発表してくれたまえ!」

P「わかりました。まずひとつ、三曲目は……」

【眠り姫 (吹奏楽アレンジver)】

千早「!」

春香「千早ちゃんの!」

P「ああ。千早にはティンパニばっかりさせてきてたが……歌がメインだと約束したしな」

P「千早の歌を、最も活かせる歌はなんだろう……とずっと考えてきてな。結果、これになった」

千早「私の、ために……」

P「ああ。しっかり頼むぞ。この曲の主役はお前だ」

千早「…っはい! あ、あの! 必ず! 必ず最高のものにしてみせます!」

P「いい返事だ」

P「それと……この曲にした理由は他にもあってな」

伊織「他の理由?」

P「律子なら、わかるかもな」

律子「? ………………―――! ああ、なるほど! 考えましたね、プロデューサー」

亜美「えっ、りっちゃんわかったの?」

律子「あんたらよ。亜美、真美」

真美「え"っ、真美たち?」

P「【眠り姫】の魅力は、ボーカルの高いトーンと、それに対となって響き渡る重低音にある」

P「お前たちベーストリオには、音量抑えろと言ってきたが……しかし、その迫力のある音量は同時に、活かしてもみたかったんだよ」

真美「やったーぃ!」

亜美「マジかっ! うっひょー、テンションあがってきたぜえぇーいぇぁっ!」

真「有難うございますっ! プロデューサー!」

P「おっと……真。お前はまだ、礼を言うには早い」

真「へ?」

P「そして2つめ! トリを飾る曲がこれだ!」

【自転車 (吹奏楽アレンジver)】

あずさ「まあ!」

雪歩「真ちゃんのっ!」

真「じ、自転車っ! ホントですか!? ホントなんですね!?」

P「ああ、本当だ! これをトリに持ってくる! 真には、ここでカラーガードをしてもらうぞ!」

真「やっ――……」

真「……ったぁ――っ! めちゃくちゃ嬉しいですよ! プロデューサー!」

春香「むむ、ちょっと悔しいけど、でも【自転車】なら……」

響「確かに、最後を賑やかに終わるにぴったりかもね!」

社長「いい選曲をしたねえ、キミィ」

P「ははは、ありがとうございます……それと、これも、真のためだけというわけじゃない」

貴音「と、おっしゃいますと?」

P「やよい」

やよい「は、はいっ」

P「この選曲は、お前を見て決まったんだ」

やよい「――えっ? ええっ?」

律子「どういうことですか? プロデューサー。いまいち要領を得ないんですが……」

雪歩「私も、ちょっとよく……」

P「雪歩。【自転車】の、ラストを飾る部分が、どういう風かわかるか?」

雪歩「真ちゃんがとびきり爽やかに『好きだァー!』って叫ぶ、ですよね」

P「そうだな。最後だけ、とびきり高らかに叫んで終わる」

P「これが、その部分のスコア(総譜)だ……」

小鳥「…………」

小鳥「ええっ!」

響「ピヨ子、どうなってるの?」

小鳥「えっと……」

小鳥「……『好きだー!』の部分は、トランペットが担当してるわ」

貴音「! なんと!」

やよい「……っ!」

千早「……音階は? どのぐらいの高さなんですか?」

小鳥「いつもチューニングの時に使ってる、B♭の、1オクターブ上……」

小鳥「……hiB♭よ」

やよい「い、1オクターブ上!?」

亜美「hiB♭?って、どのぐらい大変なの?」

P「そうだな……亜美のトロンボーンで、最初に出すドの音の、2オクターブ上を出すのと同じぐらいの大変さかな」

亜美「Oh……」

伊織「ちょっとアンタ! どう考えてこの編曲にOK出したの!」

P「落ち着いてくれ、伊織」

伊織「でもっ……!」

やよい「ぷ、プロデューサー……」

P「やよいも。何も、さらし者にしようとして、選んだわけじゃない」

P「俺は、やよいなら、このハイトーンを当てることができると、そう踏んだうえでこの結論を出したんだ」

伊織「はあっ?」

やよい「ど、どういう……?」

P「……先に謝っておく、やよい。すまん。お前が苦しんでいる原因は、俺にあった……」

プロデューサーは説明したッ!!!
やよいの使っているマウスピースは、初心者が使うには不向きなものであったことッ!!!
そして謝罪したッ!!! それは自分のチェック不足から来たことであるとッ!!!

P「……そういうわけなんだ! 本当にすまなかった!」

やよい「 」ポカーン

律子「1ハーフのマウスピース……やよい、あんた、そんなもの使って最初から練習してたのね……」

貴音「なんということ……」

春香「私にはよくわからないけど……ようするに、最初からハンデがあった、っていう認識であってます?」

千早「まあ、そういうことになるのかしら……」

伊織「……はあ。あんたって、ホント、肝心なところで抜けてるのね……」

P「言い返す言葉もない……」

やよい「えっと、その、まだよくわかんないですけど、プロデューサー」

やよい「と、とりあえず、そんな頭を下げるのやめてくださいっ!」

P「でも、謝らせてくれ! 俺は結果的に、やよいを無意味に苦しませてしまったんだよ、二か月近くも」

やよい「そんなのおかしいですっ! プロデューサーはずっとわたしが練習するのを助けてくれました!」

やよい「頭を下げてお礼を言いたいのは、こっちのほうですっ!」

P「やよい……」

春香「もうっ、プロデューサーさん。そのまま謝ってたら、やよいが困るだけですよ」

P「……ありがとう。春香。そうだな。こちらこそありがとう、やよい」

P「お前は、苦しんでも、くじけなかったんだ」

P「くじけずいてくれて、ありがとう。やよい。とても嬉しく思うよ」

やよい「えへへっ! ど、どういたしまして?」

貴音「しかし、お待ちを。プロデューサー」

貴音「高槻やよいが、適正でない用具を使用していたことはわかりました」

貴音「それがなぜ、大任を果たせるという結論に繋がるのです?」

P「簡単だよ。適切な道具が使えていなかったということは、だ」

P「適切な道具を使えば、今からさらに伸びる余地があるということでもある」

響「! あっ、なるほど! つまり……」

千早「高槻さんに、改めて別のマウスピースを贈ろうという、そういうことですね?」

やよい「――! あっ! じゃ、じゃあ、朝にプロデューサーが言ってた、『贈り物』っていうのは」

P「そういうことだ。……昨日、大急ぎで見つけ出してきたんだ」

P「……これだ、やよい」

やよい「……金色の、マウスピース……」

亜美「うわっ……金ぴかだね」

真美「綺麗だねー……」

P「ま、まあ別に高価なものということじゃないけどな。よくあるんだ、こういう色のマウスピース自体は」

律子「サイズは……へえ、5Cですか。いままでが1ハーフだったことを考えれば、ちょうどいいぐらいですね」

やよい「ぷ、プロデューサー。わたしを送ってくれた後、これを買いに行ったんですか?」

P「いや、さすがにもう楽器店も閉まっててな。だからそれは俺が昔使っていたお古なんだが……」


春香「!?」 千早「!?」 雪歩「!?」 真「!?」 伊織「!?」 響「!?」 
あずさ「!?」 貴音「!?」 小鳥「!?」 亜美「なっ!?」 真美「なんだってー!?」

やよい「ぷっ、ぷっ、プロデューサーのお古、ですか!?」

社長「ほほお」

P「あー、やっぱりイヤか? 一応、保存する前には消毒もしてるし、今朝もしっかり洗ってから持ってきたんだが……」

やよい「うっ、わ、わたしは別に、そういうの気にならないかなーって!」

P「ああ、それならよかった。実は新しいマウスピースを買うのもちょっと出費が痛いと思ってたんだよ。すまないなやよい」

やよい「い、いえっ! ありがとうございますっ! うっうー!」

春香「」

千早「春香。息をして」

あずさ「あらあら……あらあらあらあら……」

響「あ、あずさ……目の焦点が合ってないぞー……? あっ、貴音は笑顔のまま倒れてる……」

真「うわあー……やよい、やるなあ」

雪歩「今日は美希ちゃんが休みでよかった……本当に……」

真美「時間の問題だと思うけどねー……」

P(そういうわけで、謎の体調不良者が数人出たものの、皆が新しく配られた楽譜を、夢中になって練習した)

P(俺は、やよいの新しいマウスピースの調子を確かめるべく、付き添った)

やよい「 ♪ー ♪ー ♪ー ――――♪ー! 」

P「どうだ、やよい」

やよい「……す、すごいですー! 今までミの音までしか出なかったのに、こっちだとソの音までらくらく出ます!」

P「おお、そうか! 相性はよかったみたいだな。うむうむ」

やよい「あ、相性がいい、って……プロデューサーの……と……」

P「それじゃあ次の音にも――って、やよい? どうした、ぼーっとしてるぞ」

やよい「! い、いえっ! なんでもないですっ! ええっと、新しい音ですね! 指はどうすればいいですか?」

P「お、おう。1と2だ」

やよい「はいっ!」

 ……D―♪ D-♪ ――――ッ~~ D――――!

やよい「ううー、ラはちょっと難しいですー……」

P「いや、たぶんいけるはずだ。唇をあまり押し付けるな、すぐに疲れるだけだ」

P「身体の力を抜いて、リラックス。そして、お腹から下にだけ力を込めて、音の土台をつくれ」

やよい「……」スーッ   グッ

P「そうだ。そのまま、大きく息を吸う。吐くためには、まず吸うことが大事だ」

やよい「はぁーっ」

P「そこから、ドの音から、半音ずつ、滑らかに上がっていこう」

やよい「 B♭― H― C― C#― D― D#― E― F― ……」

P「途中で息を吸ってもいいぞ」

やよい「ぷはあっ! ……E― F― F#― ……っG―♪」

P「よっし!」

やよい「ぷっ、プロデューサー! 出ました! ラの音まで出ました!」

P(抑圧されていたやよいのポテンシャルを、ようやく引きだしてやることができたようだった。俺はとても嬉しかった)

P(だが、それ以上に、久々に見せてくれた、ヒマワリのような笑顔。引きだしてやれて嬉しかったのは、こっちのほうだったかも知れない)

P「……っ!」

P(い、いかん、つい涙が)

やよい「? プロデューサー? どうしたんですかっ?」

P「い、いや! ちょっと、ちょっと楽器に太陽の光が反射して眩しかっただけだ」

やよい「?」

P(やよいは「変なプロデューサー」と一言、可笑しそうに言った)

P(俺には、それが楽器に映った、もう一つの太陽のようだと感じられた)

そしてその日の合奏!

小鳥「それじゃあ、まずは『眠り姫』のほうから」

小鳥「千早ちゃん、大丈夫かしら?」

千早「ええ」

春香「がんばってっ、千早ちゃん!」

千早「……ふふっ、頑張るわ」

P(千早はまあ、この曲を歌うこと自体は何度も経験している)

P(なのでむしろ、頑張るのは、イントロでピアノソロがある春香のほうなのだが)

千早「――っ」

P(こんなに嬉しそうに、小鳥さんの指揮台の隣に立つ千早を見れば、そんな声をかけたくなるのもわかるというものだ)

P(【眠り姫】は非常に表情がよくわかる曲だ)

春香「 ―――― 」 ポロロポロロポロロポロロ……

P(イントロの春香のピアノソロ。何気に非常に難しい場面だ。今日配られたばかりだというのにずいぶんできている……集中して練習したようだ)

千早「――《ずっと眠っていられたら この悲しみを忘れられる》――」

P(Aメロは静かだ。千早の歌唱力が一番浮き彫りになるところは、実はこの最初だ)

P(だが、さすがの安定感だ。ティンパニを練習している間も、どうやらボイストレーニングは欠かさなかったみたいだな)

千早「《悪い夢ならいい そう願ってみたけど》――」

亜美「 ♪ッ! ♪♪ッ!  ♪――――、♪ッ! ♪♪ッ! 」

P(Bメロに入ってくると、トロンボーンを中心とした低音がだんだんと出てくる。曲の転換点だ)

P(リズムにも乗っている……いいぞ、問題ないようだな)

千早「《眠り姫――・・・! 目覚める 私は今――》」

響「 ♪ッ!!! ♪♪ッ!!!  ♪ッ、♪ッ!!! ♪♪ッ!!!」

P(そしてサビに入ると、低音グループにティンパニが積極的に加わってくるようになる)

P(千早の抜けた穴をしっかりカバーできているな、響……おそらく、千早がよく頼んでおいたんだろう)

P(それと……)

あずさ「 ♪_―~~―_♪―_―~~♪~~~~ 」

P(あずささん、主旋律のハモり無茶苦茶うまいな……こんな短期間でよくまあそんな完璧に……!)

P(……って、あれ? よく聞いてみたら、なんかスコア(総譜)と微妙に違うような……!? でも調和している……)

小鳥「 ……? ♪ ♪ ♪ ♪ 」

P(小鳥さんもどうやら気づいているみたいだ。じゃあ、あれはあずささんが感覚的にハモってるのか!? 隠された才能だな……)

P(そしてCメロからラスト! 曲が最高潮に、盛り上がるシーンだ!)

千早「《誰も 明日に向かって生まれたよ 朝に気づいて 目を開け》――」

P(楽団の全員がフォルティッシモで激しく音をかき鳴らし、ヒートアップ……!)

伊織「―――ッ!」
貴音「―――――」
雪歩「――っ! っ!」

P(……という場面なんだが、まあ、初日はまだこのあたりの音量の移り変わりは難しいよな)

真美「―ッ!!! ッ!!!!」
真「―――――~~~~~ッ!!!!!」
亜美「~~~~~ッ! ~~~ッ!」

P(あいつらは、許しを得たものと思って、Cメロに入る前からすでに最大出力だったしな……もう少し『音量落とせ』は現役だな)

小鳥「 ……――――ッ! 」

小鳥「……どうでしたか、プロデューサー」

P「……すごくよかったです。まだ甘いところもいくつかありますが……とても、最初に合奏をした時と、同じメンバーとは思えません」

亜美「おおーっ!」

真美「兄ちゃんがデレた! いおりん二世の誕生じゃーっ!」

伊織「だーれが一世よっ! コラッァ!」

P「あとは……千早、俺の代弁を頼む」

千早「……はい」

千早「ありがとう。みんな……!」

P(【眠り姫】。これを選んで本当によかったと思える。千早はそれだけ、満たされたような顔だった)

P(そして【自転車】だ)

P(真がそのための衣装に着替えるということで、わずかばかりながら、休憩時間ができた……のだが)

律子「あっ……」

P「ん、どうしたんだ、律子」

律子「いえ……肝心の、真のパフォーマンス、まださっぱり決まってないんじゃないですか?」

P「あ」

伊織「ちょっとあんた……」

P「い、いや! いける! 真ならいけるさ! 午前中に、自分でいい動きを考えてきてくれてるはず!」

真「おっまたせしましたーっ!」 バァーン!

律子「 」

伊織「 」

P「 」

雪歩「…」

真「えっへへ~! プロデューサー、この衣装すっごく可愛いと思いませんか!? いやー、ガードができるって決まった日から、ちょくちょく合間を縫って作ってたんですけど……」

P(足首まであるドレスにフリルを144個ぐらいつけたガードを、俺は未だ知らない)

雪歩「……」ガタッ

真「ん? どうしたのさ雪歩?」

雪歩「違う……」

雪歩「違うよ! 違うよ真ちゃん!! そんなの誰も望んでないよ!!!!」

真「あ、あの、雪歩?」

雪歩「プロデューサー! 衣装庫をお借りします!」

P「え、あ、はい」

雪歩「さあこっちだよ真ちゃん」ツカツカツカ

真「え? ちょ、雪歩!? 雪歩ぉ~~~!?」

P「……休憩時間が、延びましたね」

社長「……うむ」

P「……あ、そうだ。真のチューバがなくなった分、頼みは社長のコントラバスですから……お願いしますね」

社長「ん? ああ、うむ。任せておきたまえ」

P「お願いします」

社長「…………」

P「…………」

社長「…………時間の経過が遅くないかね?」

P「……いえ、この漂う微妙な空気のせいですよ」

P(雪歩によってもたらされた(?)奇妙な空白の時間も過ぎ去り、いよいよ曲の練習だ)

小鳥「 ♪ー♪ー♪ー♪ー 」

響「 ♪ー♪ー♪ー♪ー 」

あずさ「 えっと……♪ー~~……♪_―~~……? 」

P(イントロは響の軽快なビブラフォンと、フルートによる旋律で始まる)

P(……が、美希がいないため、ハモりであるあずささんが迷走している……どうやら、ハモる対象がいないとうまく発動しないスキルのようだった)

P(そしてっ!)

真「《ちょっと待って! ボクは君を… ぎゅっと抱きしめたクッション》――」

P(Aメロの歌い出しと同時に、舞台袖から真が登場だ!)

P(……白のズボンに黒のブーツ、そして赤いジャケット……。うわ、軽く引くぐらいキマってるな……無茶苦茶格好いい)

雪歩「♪♪♪♪♪ーッ! ♪ッ、♪♪♪♪♪ーッ! ♪♪♪♪♪♪♪♪ーッ!」

P(雪歩のテンションの上がり方がおかしい)

P(……あ、でもリズム面はきちんと改善されてるな。千早との特訓の成果がしっかり出たみたいだ)

真「《どんな 道でだって 負けないで進んで見せる》――ッ!」

P(真……動きのキレがすごいな。まだ迷いながら踊ってるから、完成度としては全然だが……これは、相当ハードな振りつけをしても答えてくれそうだとも思える)

真「《好きだよ! 心こめて 好きだよ! 力こめて》――-!」

P(そしてサビ。もう、ここまで来たら、あとは、皆が感じるままに弾ける。こういう曲のいいところは、演奏者も楽しいという、そこにある)

真美「~♪」

雪歩「♪♪♪~~~!!!」

春香「♪~♪~」

千早「♪、♪、♪、♪~」

伊織「♪~~~~~~~~~~~~♪」

P(皆がいきいきと、楽しそうに演奏をしている)

P(ほとんど、初見で弾いているようなものだ。上手いといえるものじゃない……でも、なんて楽しそうなんだ)

P(音"学"、じゃない。これは、まさに音"楽"だ。誰に言われてするものでもない。苦しんでするものでもない。流れるメロディに身を委ねることを、心から楽しんでいる……!)

真「《好きなとこへ! 連れていくよ! どこまででも!》――っ!」

P(そして……)

やよい「…………っ」

P(力むな、やよい)チラッ

やよい「っ!」

真「《だってキミが――》」

小鳥(……っ!)

P(………ッ!)

―――
――

P「まあやよい、何度も言うようだが、本番まであと一か月ある。それだけあれば、高音だって安定するようになるさ」

やよい「うう……悔しいですっ! この悔しさをバネに、頑張りますっ!」

P「そうそう、その意気だ。それまでは、俺もしっかり練習に付き合うからさ」

小鳥「でも、やよいちゃん、あの時出てたFの音、ものすごい音量だったわね。前で歌ってた真ちゃんがびっくりしてたわよ」

P(結果、やよいは最初の合奏でhiB♭を当てることはできなかった。まあ、そりゃ今のところGまでしか出していないのだから当然なのだけど。これでやよいが気を落とさないかと、少しだけ心配だったのだが)

P(やよいもそこはきっちり理解しているようで、「ドンマイ」の一言で立ち直ってくれた。まあ、ここで引きずられても困るので、これは俺の側が助かったともいえる)

やよい「わたしっ、音をひとつずつ高いのを出せるように頑張っていきますねっ!」

P「ああ、お疲れさま、やよい」

やよい「はいっ! それじゃあ、失礼しまーすっ!」

P「……小鳥さんの言ってたことは、やっぱりホントでしたね」

小鳥「え?」

P「やよいは強い子だって」

小鳥「ふふっ、そんなの、もう皆知ってることですよ。私の手柄にはなりませんよ」

P(その後の一か月は、とにかく練習に次ぐ練習だった)

P(とはいえ俺は、最大の課題・見せ場であるやよいにほぼつきっきりで、他のメンバーの様子を見ることはほとんどできなかった)

美希「ただいまなのー、ハニー♪」

P(語るべきことがあるとすれば、新楽譜の初合奏の翌日に来た美希のリアクションだろうか)

P「おう、仕事、お疲れさま。美希」

美希「ありがとうなの♪ ……でもね、美希、ちょっーと聞き捨てならない報告も受けてるんだけど……」

P「報告? 誰から?」

美希「春香から」

P(あ、嫌な予感)

美希「ハニー……金色のマウスピースを、誰かに譲ったって聞いたの」

P「……ああ、そうだなー。まあ俺のもったいない精神が働いたというか」

美希「まあ相手がだれかはもちろんわかるけど」

P「お、おう、そうか。美希は賢いなあ」

美希「ありがとうなの♪」

P「ははは」

美希「で、ハニーは喜んでるんだ。やよいに自分のおさがりを使って貰えて」

P「え」

美希「自分の唇跡地にやよいの唇を訪問させて」

P「なんだよその言い方は!?」

美希「間接キッスさせて」

P「……ぐ、むむむむむむ」

美希「……はあ。ハニーいじめても楽しくないから、このへんでやめるの」

P「……いやまあ、年頃の娘相手に軽率だったとは思ってるよ」

P「ただ、マウスピースは洗っていればおさがりもできるものみたいな風潮は、普通にあるもので……」

美希「もー! そんなみみっちく釈明しないでほしいの!」

美希「ミキ、そんなことで怒ったりしないもん。直接じゃないと意味なんてないと思うな」

P「そ、そうか。とてもありがとう(?)」

美希「……ま、もちろん諦めるつもりにもならないけど」

P「え?」

美希「なーんでもないの♪ じゃあねっ! あずさー、一緒に練習しようなのー!」

P(美希はそう言っていつも通りに練習を始めた。何かを再確認したような、そんな表情だったが……本当によくわからない奴だ)

P(そして、俺は、やよいの本番を成功させるべく、全てを注いだ)

P(俺の現役時代のテクニック、ノウハウ、心構え、休憩の仕方……そして、音楽への想い。文字通り、全てをだ)

P「やよい」

やよい「はいっ」

P「いいか。やよいは、今から一か月で、あと三つ上(半音数え)の音を出せるようになり、なおかつそれを本番で成功させなきゃいけない」

やよい「……はいっ」

P「そのためのステップとして、俺はこのように計画を立てた」

 1.高音域を開発する
 2.高音域を安定させる
 3.本番のコンディションを最高に整える

やよい「3つのステップですね」

P「そうだ。お前は、このスリーステップを、4週間のうちに完走するんだ」

 ステップ1.高音域を開発する

~ボイトレ室~

P「いいか、やよい。高い音を出すとき、お前はどうする?」

やよい「えっと……上半身の力を抜いて、下半身で音を支えます!」

P「うん。よく覚えてるな。えらいぞ」

やよい「いっつも意識してることですから!」

P「じゃあ、力を抜いて、お腹で支えて、吹いた……でも、まだ高音に足りない。どうする?」

やよい「え? えっっと……」

P「よーく考えてみろ」

やよい「ううーーん…………マウスピースを、唇に押し付ける?」

P「それはダメだ。確かに一時的に音が出ることはあるが、長続きしないし、綺麗な音でなくなってしまうんだ」

やよい「うーん」

P「ヒントをやろう。やよい、演奏する前に、しっかり息を吸うのはどうしてだ?」

やよい「え、えっと……しっかり息を吐くため?」

P「そうだ。『息を吐いて音を出す』ということを、高音の壁にぶつかった頃のラッパ吹きは、意外と忘れてしまったりするんだ」

P「唇の形の作り方がよくないんじゃないかとか、マウスピースを当てる角度がおかしいんじゃないかとか、そういうことに気を使い始めるとな。」

やよい「へえ……」

P「やよい。俺の立てたこの人差し指を、ロウソクだと思え」ピッ

やよい「ロウソクですか?」

P「そうだ。ロウソクの上では火がついている。それを、吹いて消すつもりで、息を吹いてみろ」

やよい「すううう……」

やよい「ふーっ! ふーっ!」

P「それじゃあダメだ。たくさん息を吹きかけても、それがゆっくりとした息じゃ、炎は揺れるだけで消えないぞ」

やよい「は、はいっ!」

やよい「すううううっ……」

やよい「――――ッフッ!」

P「ストップ! そう、今の感じだ! やよい、そのまま聞け。今、舌の形はどうなってる?」

やよい「えっ? 舌の形ですか?」

P「あっ、こら! 喋ったら舌の形がわかんなくなるだろうが!」

やよい「はわっ!? す、すみませんー!」

P「もう一回だ、やよい!」

やよい「はいっ! ――すううう……」

やよい「―――ッフッ!」

P「よし! そのまま聞け。舌の形が、『吐き出される空気の通り道』を作ってないか?」

やよい「?」

やよい「……」

やよい「!」コクコク

P「そうだ。吐く息を、より鋭いものにすることで、高音域はグッと出やすくなるものだ」

P「そして、そのためには舌を使って、空気の通り道を自分で作ってやるのが一番なんだ」

やよい「 」コクコク

P「その舌の形をよーく覚えて、楽器をつけても再現できるようにしていこう」

やよい「 」コクコク

P「もう喋っていいぞ」

やよい「はいっ!!!」

~本番まであと22日~

~ボイトレ室~

P「……よし。唇の疲れは残ってないな?」

やよい「はいっ! プロデューサーの言った通り、毎日早く寝てますから!」

P「よし。睡眠時間を確保することは演奏者の基本だ。忘れてないな」

P「それじゃあ、今日こそhiB♭に届かせるぞ、やよい」

やよい「わっかりました! 全力で頑張ります!」

P「力は抜け」

やよい「そうでした」

P「立って吹くぞ。座るより、立ったほうが下半身が安心しやすい」

やよい「こうですか?」

P「そうだ。足は肩幅に開いて、上体はリラックス。特に肩の力は抜ききれ」

やよい「――――」スッ

P「そして、トランペットを構える……脇はしめるなよ。二の腕が、ちょうど地面と水平になるぐらいの角度に持ち上げるんだ」

やよい「――――」グッ

P「マウスピースは、唇を無理させず、触れるぐらいでいい。押し付けるのはダメだ」

やよい「――――」ピトッ

P「……準備ができたら、お腹にいっぱい息を吸って、吹くんだ。あの時みたいに、ドの音から一つずつ上がっていく」

P「やよいの好きなタイミングで入るってくれ」

やよい「…………」

やよい「…………」

やよい「………すううううっ――――!」

やよい「――!」


ド―――……  ド#―――……  レ―――……  レ#―――……

P(……よし、いい出だしだ。無理のない音。チューニングのドが出せずに困っていた面影は、もうない)


ミ―――……  ファ―――…… ファ#―――……  ソ―――……

P(ここまではいいんだ……ソまでは、比較的、安定して出る音域。ここからだ……っ!」

やよい「っ! すうううう――――!」

ソ#―――……  ラ―――…………

P(Gまでいった! この上! 今なら出る!)


シ♭――――――……………………

P(いける! あと2音!)


…ッシ―――――――――――…………………

P(突っかかった、が、行けるっ! 行けっ! 行けっ! 行けッ! 届けっ! 届かせろッ! 行けっ! 行けッ! やよいっ、やよいッ―――――!!!)

やよい「~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」

 …………………………ッド―――~~……………………

やよい「…………」

P「………………」

P「聞こえた……」

やよい「出た……」

P「ほんと小さな音……かすれていた……」

やよい「すぐに消えちゃった……」

P「でも……!」

やよい「けど――ッ!」



P・やよい『――~~ぃやったあああああぁあぁぁあああ~~~~~~っ!!!!!』

やよい「出たっ! やった! できたっ、ぷ、プロデューサー~!!」

P「やったっ! やったぞっ! 出たんだっ! ついにっ!! hiB♭がっ!!!!」

やよい「わ、わたしっ! もうっ、嬉しくてっ! ううっ、嬉しいですっ! うっ、ううっ……!」

P「泣くなっ! 笑えっ! ほ~らたかいたか~いっ!!」

やよい「うっ、グスッ……ってうわああああああああんっ! 高いですーっ!? 怖いですーっ!」

P「お、おおおっとしまったぁっ!? ご、ごめん忘れてたよやよいの高所恐怖症!!」

やよい「エグッ、んっスン……ぅ、ぅああっ……!」

P「泣くな!? やよい、泣くなー!?」

やよい「うわああああああああああああああん」

P「泣くなーッ!! や、やよいーっ!!」

P「……すまん、つい興奮して」

やよい「は、恥ずかしいです……」

P「……だが、やったな。ついに!」

やよい「はいっ! ……私、初めて出たんですね!」

P「ああ! 高音は一度だけでも出してしまうのというのが一番の開発法だ。お前は、その大きな壁を見事乗り越えた! たった8日で!」

やよい「えへへっ……! プロデューサーに褒めてもらえると、すっごく嬉しいかなーって!」

P「おっと、喜ぶのは、まだ先にしておこう」

やよい「プロデューサー、さっきものすごく喜んでましたけど……」

P「…………」

やよい「…………あ」

P「ゴホンッ! 先にしておこう!」

やよい「は、はいっ!」

P「一度出ただけじゃダメだ! 今度はこれを安定して、単発的に出せるようにならないとな!」

~本番まで、あと20日~

 ステップ2.高音域を安定させる


~屋上~

P「いいか、やよい」

やよい「はい!」

P「お前は一度hiB♭を出せた。ということは、もう一度出せない道理はない」

やよい「出せます!」

P「いい返事だ!! ……だが、ニ十回、三十回に一回出せるんじゃ意味がない」

P「本番はたった一回だ! その一回に成功させるには、一回に一回、つまり100%成功できなくてはいけない!」

やよい「はいっ!」

P「よし……そのための練習が、ここだ。屋上」

やよい「どうして屋上なんですか?」

P「うむ。高音を安定させる……つまりに、キンキンした音じゃない、芯のある音にするためには、イメージの力が大切なんだ」

やよい「イメージの力……」

P「貴音に教えて貰ってたとき、一度でも聴いたことないか?」

やよい「あっ、貴音さんも確かにそれ言ってましたー! 『いめーじ』することで音がやさしくてほわ~んってするって!」

P「うむ。貴音が本当にそんな言い方をしたのかどうかはまあ置いておいて……それは事実だ!」

P「演奏者の出す音色っていうのは、不思議と、頭の中に描いた理想の音色に、少し引っ張られるものなんだ」

P「自分の音を聞かずに、一流のプロの音を録音したCDを聴きながら練習した結果、そのプロの音色とうり二つになったという事例すら報告されてるんだ!」

やよい「っ!! 本当ですかっ!?」

P「ああ、本当!!」

P(と報告されてる話だ!!)

やよい「それじゃあ、わたしも、貴音さんみたいな綺麗な音をイメージしながら……?」

P「いや……そうじゃないんだ」

やよい「??」

P「貴音の音は、確かにとても綺麗だ。初心者とは思えないぐらい。一種の才能だろうな」

P「だが……お前が吹いているのは、ホルンじゃない。トランペットだ」

やよい「あ……」

P「もちろん、ホルンのようなやわらない音色を出すトランペットの仲間も存在するんだが……しかし、今やよいに求められているのはそれじゃない」

P「真の、あの叫びを思い出せ。『好きだ』という、混じりっ気なない、この上ないまっすぐな叫びだ」

P「やよいに求められているのは、あの『好きだ』なんだよ」

やよい「混じりっ気のない、まっすぐな…………音」

P「そうだ。それを、お前に教えてやる――――――――俺が、な」

やよい「っ! プロデューサー、それ」

P「そう、俺が昔使ってた……そう、ラッパだ」

やよい「ちょっと小さいです」

P「まあ、トランペットとは厳密には違うが、それでも似た楽器だ。……ドレミの音だって同じなんだぞ」

P「……本当は、俺なんかじゃなく、本物のプロのCDでも聴かせてやったほうがいいのかもしれん」

P「だけど……なんだかなあ、俺の、わがままなんだよ、これは

やよい「プロデューサーの、わがまま?」

P「ああ……やよいに楽器を教えていくうちに、思っちゃったんだよ……」

P「俺の音を聴かせてやりたいって。俺の音で育ててやりたいって……」

やよい「……プロデューサー」

やよい「……ッ、ありがとうございますっ!」

P「…………そうか」

P「言ってくれるんだな、ありがとうって……ッ!」

P「……やよい、ありがとうッ!」

  ♪――    ♪――
     あの、プロデューサー……

     ―――♪   ―――♪  ん? 
 ―♪
    覚えてますかっ? わたしが……ここで泣いてたこと
    ♪――  ――♪      ♪――――
   ♪――                   もちろん
         ♪――――    ♪――
        ありがとうございます。 ―――♪    ――♪
                     というか、今でもしょっちゅう泣くし。
 ♪―――――    ♪―――
    あーっ! ひ、ひどいですぅっ!  ♪――      ――♪
       ♪――            ウソウソ。やよいは強い子だもんな。
                   ♪――
  そっ、そうですよ。もう泣いたりしません。
                        ふーん。  ♪――
     ♪――
      嘘じゃないですから。もうわたし泣きません。
                            約束か?
  ――――♪      ♪――――

             はい!約束です!       そっか。

~本番まで、あと6日~

P(やよいの音は、日増しに、力強く、優しく、まっすぐになっていってくれた)

P(俺ひとりの手柄じゃない。それは、真がくれたイメージが大元にある。貴音が授けた発想がある。俺はただ仕上げを見ただけだ)

P(やよいは、元から、強くて、優しくて、そしてまっすぐだった。それが、ようやく、音色に現れてきただけ……俺はそう思っている)

律子「……1・2・3・4っ!」

真美「-ッ♪!」
亜美「♪ーッ!」
やよい「――――♪っ!」
社長「♪、っ♪、っ♪」

P(…………)

律子「……はいっ、そこまで。どうです? プロデューサー?」

P「OK。……この数字は、なかなか安心していい数字だと思う」

やよい「っ♪」
亜美「やったねっ、やよいっちー!」
真美「やよいっち最高じゃーっ!」

社長「ふむふむ……10回やって、8回成功したな」

P「ええ。合奏でなく、低音パートだけの分奏ですが……これなら合奏もいけます」

そして合奏!


小鳥「…っ! …っ! …っ! …っ!」

P(小鳥さんの指揮もずいぶん様になったなあ……)

真「《好きなとこへ! 連れてゆくよ! どこまででも! だってキミが……》」
やよい「 ♪―――ッ! ♪―――ッ! ♪―――ッ!     ……    」

真「《好きだ――――――――――――――――ッ!!!》」
やよい「 ッ♪―――――――――――――――ッ!!!》」

P(よしっ)

P(合奏でも一発成功! ……これなら、きっといける!)

やよい「ふうっ……!」

P(すごいな。もう、誰と見比べても遜色ない。皆が皆、ステージで輝いてる)


P(本番まで、あと5日!)

~ステップ3.本番のコンディションを最高に整える~

P「やよい、もう本番まで残りは少ない」

やよい「はい」

P「これまでのやよいの頑張りは目を見張るものがある」

P「苦手だった高音を克服し……」

P「しっかりした音色を手に入れた」

やよい「はいっ!」

P「そして、合奏でのミスも減っている……」

P「……こういう時が、一番危ないんだ」

やよい「危ない?」

P「ああ。調子が上がってくると、演奏は楽しくなる。どんな風にも上手く吹けて、楽しくて仕方なくなるんだ」

やよい「わかります!」

P「が……やよいの身体は機械じゃあない。疲れてしまうと、当然ダメになってしまう」

P「具体的には、唇の筋肉とかだな。酷使すると皮がはがれたり、おできができてしまったりもするんだ」

やよい「はうう……怖いです」

P「そうだ。演奏者にはほんと、こういうのが一番怖いんだ……」

P「だからこそ。ここからは、適度に吹いて、調子を維持して、後は休む」

やよい「や、休んじゃうんですか?」

P「何もサボるってんじゃないさ。必要な休憩だ。本番に向けて、やらなきゃいけないことが、休むことなんだ」

やよい「ううー……でも」

P「……ふぅ。まったく。あのな、他のメンバーに申し訳ないとか思ってるんだろ」

やよい「そ、そういうわけじゃ」

P「顔に書いてあるんだよ。――考えてもみろ。練習の時にやすんで本番成功するのと、練習に参加しても本番失敗するの。仲間が嫌がるのはどっちだ?」

やよい「うっ……本番失敗するほうがダメです」

P「なんだわかってるじゃないか。ほら、そうと決まったら楽器しまうぞ。今日はもう十分だ。カンを維持すればいいんだからな」

やよい「……はい」

~本番まで、あと3日~

やよい「……♪ー 、♪ー……」

P(やよいは、練習のときはとても楽しそうだ)

P(だが)

P「よし、今日はここまでにしておこう、やよい」

やよい「で、でも……」

P「三時間も練習したら十分だ。無理だけは絶対にダメだ。楽器しまうぞ」

やよい「…………」

P「……うーん」

P(楽しみ始めた音楽……させてやりたい。させてやりたいが……)

P(……でも少しでも無理はさせられない。それは、他のメンバーも同じだ)

P(伊織や貴音の指示もあって、特に管楽器組は程度な練習時間を設けるようになった)

P(皆が本番に向けて、真剣だ。全力で役割を果たそうとしている)

やよい「…………」

P(……やよい、皆より練習しなきゃいけないとか、そんなことを、まだ心のどこかに抱えてるんだろうか……)

伊織「……で、私のところに相談に来たと」

P「そういうわけで」

伊織「はあ……あんた、馬鹿ね」

P「もう伊織からは100回単位で言われてるけど、このタイミングでそれは傷つくな……」

伊織「なによ、馬鹿じゃないの」

伊織「あんたはやよいに正しくないことを教えてるの?」

P「……そんなこと、するわけないだろ」

伊織「なら、なんで悩んで私のところに来るわけ?」

P「……それは」

伊織「正しいことを教えてるんでしょ。なら、自信持ちなさいよ! ――はあっ、全く情けないったらありゃしないわ」

P「自信、か……はは、俺がいっつもやよいに言ってることだったんだが」

伊織「医者の不養生、ね。指導者がそんなことじゃ説得力の欠片もない」

P「面目ないよ」

伊織「本当にそう思ってる?」

P「思ってるよ。それに比べて、伊織は本当に頼りになるなあとも思ってる」

伊織「……なによ、挑発かしら?」

P「本心だ。ありがとう、コンサートミストレス」

伊織「……ふんっ、当然でしょっ」


伊織「――じゃあ、頼りになるこの伊織ちゃんが、一つあんたに策を授けてあげるわ」

~本番まであと2日~

やよい「――みんなを訪ねる、ですか?」

P「ああ……練習を終えたあとのやよいが、どうも心ここに非ずって感じだからな……」

P「行ってこい。皆を訪ねてくるんだ、そして話でもしてくるといい」

やよい「……でもッ、迷惑になるかも」

P「なるわけない。……それに、最近は俺がやよいをつきっきりで管理して、独り占めしちゃってたからな。みんなもやよいと話したがるさ」

やよい「そう……ですか?」

P「そうだとも。――――思うところはあるだろうが、今は騙されたと思って、行ってこい」

やよい「…………はい」

やよい(プロデューサー、なんであんなこと言い出したんだろ……)

春香「――あっ、やよい! 練習はどう?」

やよい「春香さん! …………練習は、プロデューサーが、するなって」

春香「あー、調整か。管楽器の子たちはいろいろ大変そうだねー」

やよい「休んでていいんでしょうか、わたし……」

春香「……んん?」

春香「――ふふっ、やよいは、本当に頑張り屋さんなんだねえ」

やよい「春香さん?」

春香「休んでいいに決まってるじゃん! みんなも休んでるんだし、ねっ?」

やよい「……でも春香さん、今まさにピアノの前に座ってるのに」

春香「……勘違いしてもらっちゃ困るね、やよい。実は春香さんも今まさに立ち上がって休もうというところだったのです!」

やよい「う、ううー?」

春香「だから、さあっ! 一緒にお菓子でも……」

千早「あなたはまだでしょ、春香」グイッ

春香「ぐえっ。ち、千早ちゃん……」

やよい「ち、千早さん! 春香さんの首締まってます!」

千早「大丈夫よ、演技だから」

春香「む、むう……千早ちゃんもなかなか慧眼になってきましたね……」

やよい「やっぱり、春香さん休まないんですよね?」

千早「……確かに、私たちは特にまだ休まないけれど。でも、それはまだ休む必要がないから休まないのよ」

千早「高槻さんたちの唇に比べて、私たちが使う腕は普段からつかって鍛えているものだもの」

千早「だから、高槻さんは休んでいいんじゃないの。『休まなきゃダメ』よ」

やよい「プロデューサーにも同じことを言われました……」

春香「そういうことだよ。やよい」

春香「やよいは誰よりも頑張り屋さんだってことは、みーんな知ってるよ」

春香「でも、だからこそ、そんなやよいが無理して頑張るような姿は見たくないんだよ」

春香「――やよいは、人が見たくないようなものを見せるような、悪い子じゃなあないでしょ?」

やよい「――春香さん、千早さん……ありがとうございます」

春香「うんうん。それじゃあ、しっかり休むんだよ、やよい」

千早「無理はしないでね」

春香「うーん……その台詞は、少しだけ私にもかけてくれないかな、千早ちゃん……」

やよい「無理……は、みたくない。けど、わたし、無理なんて……」

真「あれっ? やよい、一人?」

雪歩「やよいちゃん。プロデューサーと一緒にじゃないの?」

やよい「あっ……いえっ、ちょっと、歩いてきたらどうだって言われて」

真「ふうーん」

やよい「お二人は……何してるんですか?」

真「ああ、アイシングだよ。雪歩にお願いしてるんだ」

雪歩「そ、そんな。わたしのほうからやらせて欲しいってことなんだから」

真「どっちにしろ嬉しいよ。ありがとうね、雪歩」

やよい「う、うー……あの、アイシングってなんですか?」

真「ん、こういう風に、運動した後に、筋肉を冷やすんだよ。氷を当てたり水をかけたりして」

雪歩「真ちゃん、今日もずいぶん張り切ってダンス考えてたから……」

真「へへっ、楽器も楽しくなってきたけど、やっぱりボクはダンスが一番だからね!」

やよい「……真さん、やっぱり全力で取り組んでるんですよね。休みもせず……」

真「いや、さすがにボクも明日はじっくり休むよ?」

やよい「……そうなんですか?」

真「まあ、さすがに前日にはぎゃぎまくって調子崩れましたー、なんて、格好つかないからね」

雪歩「真ちゃん、いつかのライブで、そんな感じだったこと、あったよね。ふふふっ」

真「ゆ、雪歩お……それ、もう結構前のことなんだかわすれてよ……」

雪歩「ふふふ」

やよい「……真さん、ダンスしたくても、我慢するんですね」

真「ん? まあ、そうだけど……」

雪歩「…………」

雪歩「やよいちゃん」

やよい「はい?」

雪歩「あのね、真ちゃんは我慢してるのとは、ちょっと違うと思うんだ」

雪歩「……本番で思いっきりハジたいから、元気を蓄えてるんだよ」

やよい「!」

真「あははっ、何それ? でも、その通りかもね!」

やよい「元気を、蓄える……」

雪歩「やよいちゃんの元気は、皆を幸せにできるものだから」

雪歩「どうせなら、できるだけ多くの人の前で、元気でいて欲しいなって、わたし、思うよ」

やよい「……真さん、雪歩さんっ! ありがとうございます!」

真「わっ、何? やよい」

やよい「わたし、もっとほかの皆のところにも行ってきます!」

真「やよい? うーん、行っちゃった」

雪歩「ふふっ……まあもう大丈夫じゃないかな? あっ、真ちゃん、左足だして……」

やよい「我慢するんじゃない……元気をとっておくってこと……」

亜美「あずさおねえちゃーん」

真美「真美たちお疲れモードだよ~」

あずさ「あらあら……うふふっ」

やよい「あずささん? それに亜美、真美?」

亜美「あっ、やよいっちー! はろはろー」

やよい「何してるの? こんなところで」

真美「そりゃもう! 真美たちはいーっぱい練習を頑張ったのでぇ~」

亜美「こうして、極上のあずさお姉ちゃん枕に顔をうずめているのだー!」

あずさ「あ、あらら~……と、まあ、そういうことらしいわ~」

やよい「亜美、真美ー、あずささんだって疲れてるんだから気をつかわないとダメだよ」

真美「えーっ! いいじゃんねー、あずさお姉ちゃん。いいよね?」

あずさ「うふふ、私でよければ、どうぞ~

やよい「平気ですか? あずささん」

あずさ「もちろんよ。……それに、頑張って人がいたら、それを労ってあげたい、癒してあげたいって思うのっておかしいことじゃないでしょう?」

あずさ「何もわたしだけじゃないと思うわ~。亜美ちゃん、真美ちゃんが頑張ったっていうなら、大抵の人は、それに応えちゃうんじゃないかしら」

あずさ「春香ちゃんだって、貴音ちゃんだって、律子さんだって、……ひょっとしたらやよいちゃんだって、亜美ちゃん、真美ちゃんたちに抱きつかれるんじゃないかしら」

やよい「わ、わたしですかっ?」

亜美「許可が出たっ!」

真美「うおおー! やよいっちー!! 真美だあー! 抱きつかせてくれぇーっ!」

やよい「ええっ! うわわわっ!」

やよい「……あ、ありがとうございました、あずささん。それに亜美、真美も」

亜美「どういたしましてー」

真美「どうしたしましてー。よくわかんないけど」

あずさ「うふふ……やよいちゃん、迷えるときはあったら、我が元へ……なーんちゃってね」

亜美「迷えるのはあずさお姉ちゃんの方だと思うんだけど」

あずさ「あらあら」

やよい「頑張っている人は、休んでいい……か」

律子「あら、やよい。どうしたの? 今日のぶんの練習は終わりでしょ?」

やよい「律子さん」

美希「ミキもいるの」

やよい「美希さんも……あの、廊下で何を?」

律子「単に、美希がソファで寝ようとしてたから、仮眠室に連れていくだけよ」

美希「あはっ、律子……さんに感謝なの」

律子「口開くだけ元気なんだったら自分で歩きなさいっ!」

美希「えー、やっ! 律子……さんに寄りかかって歩くの好きなの」

律子「はあ……やれまったく、何言ってんだか、この子は」

やよい「……あの」

美希「んー、なんか言わなくてもわかるよ、やよい」

やよい「え?」

美希「なんか、やよい、今、心がぐちゃぐちゃって感じなの」

美希「あはっ、でも治りかけてそうだね」

やよい「えっと、それって、どういう……」

律子「……ああ、そういうこと。ふーん、そういうことか」

やよい「律子さん? 二人で何を……」

律子「あー、そうねえ。私からはそんなたいそうなことなんて言えないけど……」

律子「……そうねえ、じゃあこう言っとこうかしら」

律子「『やよい、休みなさい』」

やよい「…っ! えっ?」

律子「まあ、こういう時は年長者の言うことを聞いておきなさいってことよ」

美希「あはっ、お姉さんなの~……」

律子「あんたはひとつしか違わないでしょうが……」


やよい「……行っちゃった」

やよい「…………」

貴音「――おや、高槻やよい」

響「あれっ、どうしたのさー、やよい? ひとりなんて珍しい気がするけど」

やよい「! 貴音さんに響さん!」

貴音「ふふっ、何やら、ちょうど良いところで会えたようですね」

やよい「えっ?」

響「なんのことさ? 貴音……でも、やよい、なんか暗いぞ」

やよい「えっ……わっ、わたし、暗いですか?」

響「うん。なんだかいつものやよいとは、ちょっと雰囲気が違う感じがあるさー」

やよい「……わたし、今日皆といろいろお話をしました」

やよい「わたしが、ちょっと何かを言ったら、皆、すぐにわたしの心を察しちゃうんですー」

やよい「それで、いろいろ意見をくれました。ほんとにたくさん」

やよい「……でも、誰もわたしを否定しようとしないんです」

貴音「……ふふっ」

響「はははっ!」

やよい「な、なんで笑うんですか?」

響「いや……なんだか、やよいが難しいこと言ってるなあ、って思ったら、なんだか笑えてきたというか……」

やよい「ひ、ひどいですー……」

響「ごめんさー。んー、でもさ、よくわかんないけど、やよいを否定する人がいないって、そんなの当たり前じゃないか?」

やよい「え?」

響「だってそうだろー? やよいは、否定されるような子じゃないからさー」

やよい「そ、そんな、私なんて」

貴音「高槻やよい」

やよい「っ、貴音さん?」

貴音「響の言ったこと……それは、わたくしも、まことであると考えます」

貴音「いえ、響の言うこと……ではなく、皆の言うこと、でしょうか」

貴音「この765ぷろの者は、誰一人でして、あなたを否定など、しませんよ」

貴音「全員が、あなたの味方です」

やよい「っ……!」

>P『俺だけじゃない。伊織も貴音も、小鳥さんも社長も、765プロの全員が、お前の味方だ』

やよい「……味方」

貴音「……ふむ。行きましょう、響。残念ですが、わたくしたちでは、やよいの心を裏返すのは役者不足のです」

響「ん? あー……まあ、そうだな。もっと適任がいるなあ」

貴音「やよい――――今、ぼいすとれーにんぐ室に、あなたが会うべき者がおります」

やよい「え……?」

貴音「言うべきことは伝えました……ふふっ、では、これで」

響「またなー、やよいっ!」

やよい「…………行っちゃっ、た……」

やよい「…………」

やよい「……」テクテク

やよい「…………」テクテク

やよい「………………」テクテク



やよい「………………」テク

 ガチャ

伊織「やよい」

やよい「伊織ちゃん」

伊織「もう、皆も片付けてるわよ。あんたも片付けて休むようにしなさいな」

やよい「……いいのかな? 休んだりして」

伊織「いいに決まってるでしょ?」

やよい「……でも、まだ春香さんたちは頑張ってるのに」

伊織「そりゃ管楽器と打楽器は違うわ」

やよい「でも、なんだかまだ吹いていたくて」

伊織「ダメよ。プロデューサーに言われてるんでしょ」

やよい「……」

伊織「ほら……片付けるわよ」

やよい「…………」

伊織「片付けるわよ」

やよい「…………」

伊織「片付けるわよ」

やよい「…………」

伊織「……はあ」

伊織「あんたがそうやって黙りこくる時は……他の人に言えなかったことを、私に言っていいか考えているとき。……よね」

やよい「…………」

やよい「……怖いんだ」

伊織「うん」

やよい「失敗しちゃうのが」

伊織「うん」

やよい「今は……ちょっと、できるようになったよ。プロデューサーのおかげで」

伊織「うん」

やよい「でも、自分じゃ、まだ、不安で」

伊織「うん」

やよい「……不安で、こわいんだ……」

やよい「……また、」

やよい「みんなの足手まといに戻っちゃうんじゃないかって……っ!!」

            ノヘ,_
    ,へ_ _, ,-==し/:. 入
  ノ"ミメ/".::::::::::::::::. ゙ヮ-‐ミ

  // ̄ソ .::::::::::: lヾlヽ::ヽ:::::zU
  |.:./:7(.:::::|:::|ヽ」lLH:_::::i::::: ゙l   いぇい!
 ノ:::|:::l{::.|」ム‐ ゛ ,,-、|::|:|:::: ノ   道端に生えてる草は食べられる草です!

 ヽ::::::人::l. f´`  _  |:|リ:ζ    畑に生えている草は美味しく食べられる草です!
 ,ゝ:冫 |:ハ、 <´ノ /ソ:::丿
 ヽ(_  lt|゙'ゝ┬ イ (τ"      ホント 貧乏は地獄です! うっう~~はいたーっち!!!

       r⌒ヘ__>ト、
      |:  ヾ   ゞ\ノヽ:    __  .      ri                   ri
      彳 ゝMarl| r‐ヽ_|_⊂////;`ゞ--―─-r| |                   / |
       ゞ  \  | [,|゙゙''―ll_l,,l,|,iノ二二二二│`""""""""""""|二;;二二;;二二二i≡二三三l
        /\   ゞ| |  _|_  _High To

伊織「…………」

やよい「プロデューサーも、みんなもっ。……ンそんなこと、ゥ、無いって、言うけど」

やよい「でもっ、ヒッ、わたしは、わたし自身を、そこまで信じられなくってっ」」

やよい「だから、っ、ぅえんそうが、楽しいか、ら、吹いてたいとかっ」

やよい「他の、みんなも、グスッ、がんばっでるがらとが、言うけどっ」

やよい「――でもそんなの全部ウソでぇッ……!!!!!」



ギュッ


伊織「バカね、あんたも」

やよい「いおり、ぢゃん……」

伊織「ねえ。やよい」

伊織「自分を信じられないって、辛いことよね」

伊織「自分のすること、全部を疑ってかからないといけないんだもの。疲れるし、自分の心を傷つけながらしか、生きていけないわ」

やよい「っ・・・グスッ」

伊織「私もね、無責任に、『自分を信じろ』とか、言いやしないわ」

伊織「それができる人間なら、最初から苦労していないもの、ね」

やよい「……じゃぁ、」

伊織「けどね、やよい」

伊織「あんたは高槻やよいを信じられなくても、水瀬伊織を信じてるでしょう?」

やよい「……いおりちゃん、を……」

伊織「……ま、あんたのことだから、信じてるのは、私だけだとは言わないけどね」

伊織「春香を、千早を、雪歩を、真を、あずさを、亜美を、真美を、律子を、美希を、響を、貴音を、小鳥を、社長も……アイツだって」

伊織「みんなをみんな、バカみたいに、ぜーんぶ信じてるでしょう?」

やよい「…………」

伊織「どうなの?」

やよい「…………うん」

やよい「…………信じてる。皆、みんな」

伊織「そう。いい子よね、あんた」

伊織「さて、そのあんたが信じる皆がこう言ってるわ」


伊織「『やよいなら大丈夫』」


やよい「…………みんな、が……」

伊織「……やよい。私は結論を出してあげることはできないわ」

伊織「だけど、あんたの前にある選択肢を教えてあげることができる」

伊織「一度だけ言うわよ」



伊織「 『自分を信じる』 か 『みんなを信じる』 」


やよい「…………」

伊織「――泣きやんだみたいね。私は、そろそろ出るわ」

伊織「どっちを選ぶかは、まあ、あんた次第よ。私にできるのはここまで」

伊織「ただ――私は、あんたなら、正しい答えを選ぶだろうって」


伊織「高槻やよいを、信じてるわ」

 バタン


やよい「…………」

やよい「伊織、ちゃん」


 ゴシッ ゴシッ



やよい「――ありがとう」

~本番当日、前日~


P(昨日の夜、伊織からメールがあった)

P(件名はなし。本文には『もう大丈夫』とだけ書いてあった)

P(普段はきっちりしたメールを送ってくる伊織なだけに、なんだか驚いてしまったが……しかし、何が言いたいかはよく伝わった)

P「……ありがとう」

小鳥「何がありがとうなんです? プロデューサーさん」

P「わっ!」

小鳥「だ、大丈夫ですか!?」

P「あいたた……ああ、すみません小鳥さん。いえ、ただの独り言ですよ」

小鳥「そうですか……? まあ、なんにせよ驚かせちゃってすみません」

P「あ、あの小鳥さん。やよいまだ来てませんよね?」

小鳥「やよいちゃんですか? そういえば、いつも朝早く来ますけど、今日はまだ来てませんね」

P「そうですか……」

P(伊織は大丈夫と言っていたが……しかし本当に大丈夫なんだろうか)



P(その後、他のメンバーたちが集まってきた。皆、本番前日ということもあって、少し張りつめたような、そんな空気が漂っている)

P(伊織は、俺が来た、そのすぐあとに事務所に来た)

P(しかし、やよいがまだ来ていないということを告げると、少し表情を険しくさせた)

伊織「やよいが……? いや、でも、まさか……」

P(身に覚えがあるようだったが、そこを深く訊くのは、やめておいたほうが良い気がしたので、その直感に従った)

P(そして、さらに30分ほどたった)

P「……おかしいな、こんなに事務所に来るのが遅かったことは一度もないぞ」

伊織「ちょっと! 事務所支給の携帯電話に連絡はしたの?」

P「した、が……出ない。メールを送っても帰ってこない」

律子「実家には?」

P「ちょうどいま小鳥さんが……」

小鳥「あ、あ、あの……」

小鳥「――――やよいちゃん、昨日からうちに帰ってないって……」

伊織「…………ッ!」

P「お、おいっ! 伊織どこにいくっ!」

伊織「決まってるでしょ! 探すのよ! 警察に連絡、ダメなら水瀬に……っ!」

P「落ち着けっ!! まだ何もわからない!」

伊織「じゃあ他に何があるってのよ!」

P「ッ……それは……!」


春香「なに? 何の騒ぎ?」

真「やよい、が……?」

P(やよいが見つからないということが、事務所中の人間に知れ渡った。大騒ぎだ)

社長「やよいくんが家に帰らず……いや、しかしまさか彼女がそんなことを……」

あずさ「本人がしなくても、周りの悪い方に……ということも……」

律子「とにかく、もし何事もなかった場合、警察を動かす要らないスキャンダルが来るわ」

律子「やよいを最後に見たのは伊織で、夕方頃、事務所で……となると、仮に事件が起こっていてもその時間を特定するのは限りなく難しいわ」

律子「とりあえず、私たちで、考えうる先を探してみましょう。警察に連絡するのは、それからでも遅くはないですから……っ!」

P(律子が捜索先をメンバーに割り振っていく。頼もしい。同時に自分が情けない。やよいがいなくなったというのに、俺は何一つ有効な手を思いつけずにいる……!)

律子「……真たちは、付近の公園を……」

 ガチャ

美希「あふぅ……なんか騒がしくて起きてきちゃったの……」

春香「み、美希っ! 寝てる場合じゃないよ! やよいが行方不明なんだよ!」

美希「やよいが?」



美希「やよい、仮眠室でお休みしてるよ?」

一同『   えっ?   』



P(事務所の全員で仮眠室まで行くと、布団のすみのすみ、布団に丸まって、スヤスヤ穏やかな寝息を立てているやよいが見つかった)

伊織「…………ねえ、あんた。やよいはまだ来てないって、確かに言ってたわよねえ」

P「い、いやそれは本当だって! 事務所のメンバーの目をかいくぐって、どうして仮眠室で寝てるんだ?」

美希「ミキは今日早くきたからそれまで寝ようと思って仮眠室に行ったの。そしたらやよいが寝てたから、先にきて寝てるのかなと思って隣に一緒にお休みしてたの」

小鳥「というか、鍵は私が開けてるし……」


やよい「ん、んん~~……」

伊織「っ、やよいっ! ちょっと、あんたいつの間に?」

やよい「……ふぁれぅ? いおりちゃん? なんで……」

やよい「……ぁあっ、そっか! わたし昨日ここで寝たんでしたー!」

小鳥「こ、」

P「ここで、」

伊織「寝たぁ!?」

社長「……どういうことかね?」

やよい「えっと、その……昨日伊織ちゃんと事務所でお話しした後に」

やよい「思ったんです。『休まなきゃ』って!」

P「休まなきゃ?」

伊織「…………~~~~」

やよい「だって、そうしないと、皆を信じたことにならないから……」

伊織「よし、もうわかったわ。やよい。とりあえず、今は口を閉じてなさい?」

やよい「伊織ちゃん、昨日は本当にありがとう! わたし、すごく楽になったの! あの時、伊織ちゃんにぎゅっってしてもらって……」

伊織「やーよーいいいいいいッ!!! お口にチャァーックッ!!!」

春香「ぎゅって……」

雪歩「してもらった、って……」

亜美「ほうほう。いおりん、亜美たちの知的好奇心が刺激されましたよ」

真美「ぜひその件についてコメントをいただきたいのですが……」

伊織「もーっっ!」

P(番組収録日の前日に起こったやよい失踪事件は、何やら伊織がダメージを受けただけであっけなく幕を閉じた)

P(いったいどういうことなのか、俺が知るすべはなかったが……しかし、くるまった布団から現れたやよいは、昨日までとは変わってみえた)

P(吹っ切れたような、より強くなったような……どちらにせよ、伊織の言う『もう大丈夫』というのは、つまり、そういうことなのだろう)

小鳥「 ♪~ ♪~ ♪~ ♪~ 」

P(この日の練習は、二時間ほどそれぞれで練習をし、合奏を一通りやって、仕上がりをチェックするというだけで終わった)

P(俺は改めて、皆をチェックして回った。疲れていないか、怪我などしていないか……)

P(しかし、ラスト一週間ほどからコンディション調節に当てたこともあって、疲労が見えるメンバーはいなかった。判断は正解だったのだろう)

P(どのメンバーを見ても、調子が良さそうだ。そしてそれは、音色からも伝わってくる)

P(小鳥さんの振るタクトに響が合わせ、それを元に千早や亜美真美、真、社長が音楽のステージを組む。
  やよいや雪歩、律子、貴音や伊織、そして春香がステージの上で飛び跳ね、その上を美希やあずささんが、軌跡を残して飛んでいく)

P(この状態なら、いける)

P(俺は現役自体に、そんな感想を抱いたことは一度もなかった。しかし、今は妙な信頼に裏打ちされ、ステージの成功を確信していた。不思議な感覚だが、あながち不思議とも思わなかった)

~収録、当日~


P(収録の開始は正午の予定)

P(そう遠い局というわけではないにしろ、しかし演奏を披露するともなれば、なるべく早めに入りを済ませたい)

P(そういうわけで、集合は7:30という早さだった)

P「小鳥さん、当日にまですみません、鍵開け……」

小鳥「あはは……いいですよ、それが私の仕事ですから」

P「いよいよ今日ですね。自信のほどは?」

小鳥「あー……あははっ、まあ、本番のお楽しみということでひとつ」

P「なんですかそれ……ははっ」

社長「うぉほん! おはよう、君たちぃ!」

P「! 社長、おはようございます。今日はずいぶんと早いですね」

社長「いやあ、なに。私も、テレビに自分が出ることなどめったにないものでね。妙に浮かれて早く起きてしまったのだよ! はっはっは!」

小鳥「ふふふっ、社長ったら」

社長「どれ、荷物の積みこみは私も手伝おう。確か、昨日ここにまとめておいたもの全部でよかったかな?」

P「あっ、すみません。助かります。じゃあこれらを」

小鳥「社長、あの、腰痛めないように気をつけてくださいね……」

春香「おはようございまー……って、え、社長? 今日は早いですね!?」

社長「おいおい天海くん、君まで同じ反応をするのかね……?」

P「おはよう、春香。調子はどうだ?」

春香「えへへ……実は昨日、指の一本一本にシップを巻きつけて寝たんですけど」

P「は?」

春香「すっごく快調になったんですよ! もう自由自在です! イソギンチャクのような滑らかさです!」

P「……お、おう、そうか……」

春香「今日の演奏は期待しててくださいねっ。天海春香は最高のパフォーマンスを保障しますっ!」

P(春香は今日もテレビにウケそうなことをしていた。まあ、いつも通りなのはいいことだよな……うん)

亜美「あっりゃりゃりゃりゃ?」

真美「ケッコー早くきたと思ったのにはるるんが……ぬぁにーっ!? 社長がもういるっ!?」

亜美「すげー! レアだYO! 時刻入りで写メ撮りたい!」

社長「ふ、双海くんたちまで……」

P「よう二人とも。今日の調子はどうだ?」

亜美「んっふっふ~。心配しなくても、亜美たちのスロットは常に馬力全開だよ~ん!」

真美「んっふっふ~。今日は音の衝撃波でスタジオ崩落させるのが目標だから、兄ちゃんも、覚悟しといてよねっ!」

P「恐ろしいことを言うな、お前らは……お手柔らかに頼むよ」

亜美「まっ、任せとけってことだねっ!」

真美「今日これから始まる真美たちの伝説ぅ~!」

P(亜美・真美はいつも通りの自由さだった。こんな舞台じゃあ、それが随分と頼もしいな)

あずさ「おはようございます~」

小鳥「あずささん。お早うございます」

P「おはようございますあずささん……時間通りに来てくれて本当にホッとしてますよ」

あずさ「うふふ、もう事務所にいくぐらいじゃ、迷ったりしませんよ」

P「体調はどうです?」

あずさ「バッチリですよ♪ 今なら、心に残る、そんな演奏ができると思います」

P「ははは、あずささんらしいですね、なんだか」

あずさ「プロデューサーさん。今日の本番終了まで、しっかり監督お願いしますね」

P(あずささんはいつものあずささんだ。それだけで安心できるんだから、本当にすごい人だな、この人は……)

響「はいさーいみんな! 今日はいい天気だなー!」

あずさ「あらっ、響ちゃん。おはよう。晴れ晴れとした、いい色の空ね」

P「よっ、響。体調はどうだ」

響「プロデューサー! へへーん、自分、完璧だからな! 体調管理ぐらいどうってことないぞ!」

P「そいつは頼もしい。腕に痛みとかないか?」

響「そんなの、完璧な自分にあるはずないさー!」

P「楽譜はしっかり覚えてるよな?」

響「もちろん! 完璧だから!」

P(完璧を連呼していた……あ、これちょっと緊張してる印だな……)

真「おはようございます!」

雪歩「お、おはようございますぅ」

P「真に、雪歩か。おはよう」

雪歩「ぷ、プロデューサー。わたし、今日は頑張りますねっ!」

P「おっ、やる気だな。雪歩。期待していいんだな?」

雪歩「は、はいっ! ……って、言いたいです。ううん、はいっ! って言います!」

P(雪歩は気合いに満ち溢れていた。持ち前の強心臓が、今日はずいぶん早くからスイッチ入ってるみたいだ)

P「…………で、真?」

真「はい、なんですか?」

P「なんで今日の私服がゴシックドレスなんだ?」

真「…………本番がアレだから、せめて私服を……と」

P(真は例によって微妙にズレていた)

貴音「おはようございます、貴方様」

P「うぉっ! び、びっくりした。突然背後に現れないでくれよ」

貴音「ふふふっ……これは、失礼をいたしました」

P「まったく。貴音、体調のほうはどうだ? 前日にラーメン食べすぎたりとかしてないよな?」

貴音「……貴方様は、時々、わたくしのことを童のように扱ってはいらっしゃいませんか?」

P「いや、まあ……貴音ならありうるかもと思ってしまってな……」

貴音「貴方様は、ひどいお方です……」

P「…………んで、食べたのか?」

貴音「……秘密、です」

P(今日も貴音は秘密が多かった…………いや、秘密のグレードが最近どんどん俗っぽくなってないか? お前)

千早「おはようございます」

貴音「おはようございます、千早。今日この日を、喜ばしい物に致しましょう」

千早「はい、四条さん」

P「お早う、千早」

千早「おはようございます。プロデューサー」

P「体調は……って、千早に訊くのは野暮だな」

千早「ふふっ……野暮かどうかはわかりませんけど、自分で見る限り、完璧に仕上げてきました」

P「さすがだな。……今日の収録の中で、ターニングポイントはお前だ。しっかり頼むぞ」

千早「つないでみせます。真と……高槻さんに」

P(千早は、今日は如月千早だった。やり遂げる、という言葉を使って、千早以上に信頼できる人物はそうそういないだろうな)

美希「あふぅ……おはようなの、ハニ~……」

P「おはよう、美希……なんでそんなに眠そうなんだ。いつも通りだけど」

美希「だって、7:30に集合なんて早すぎるの……おかげで昨日はだいたい7時間しか寝てないの」

P「十分すぎるだろ。……積み込みはまあいいから、顔でも洗ってこい」

美希「眠いの~……」

P「キラキラしてくれるんだろ?」

美希「……そうだったの。えへへ、ハニー、ちょっと待っててね♪」

P(美希は今にも立ったまま寝そうだった……が、スイッチが切り替わる準備はできてるようだ。ま、信頼していいだろう……)

律子「ふう、重かった……あ、おはようございますプロデューサー殿」

P「おはよう律子。今日の弁当か?」

小鳥「あっ、そういえば手配忘れてた! すみません律子さん……」

律子「別にいいですよ、小鳥さん。それと2Lのお茶をいくつか……ふう。ちょっと汗かいたんで、シャツを替えてきていいですかね……」

P「ああ、わかった。というか、今日までそんなスーツ着て来なくても。今日は出演者枠なんだぞ?」

律子「そうですけど……わ、私なんかが着飾っても仕方ないですよ」

P「……はぁ」

小鳥「これは溜息ですね」

律子「な、なんですかその反応……」

P(律子は今日もかっちりだった。……ステージで違った一面を見せてくれることを期待しよう)

P(そして)

伊織「おはよう、プロデューサー」

やよい「おはようございまーす!」

P「おはよう。ふたりいっしょなんだな」

やよい「伊織ちゃんが、迎えに来てくれたんですー!」

伊織「ま、遅刻しちゃいけないし、だからってまた仮眠室に寝られても困るし、ね……」

やよい「えへへ……ごめんね、心配かけちゃって」

伊織「……なんで謝るのよ。心配するぐらい当たり前でしょ」

P「はは……今日も仲がよくて、素晴らしいことだ」

小鳥「本当に素晴らしいことですピヨ」

伊織「プロデューサー…………こ、こういうこというの、好きじゃないんだけど」

P「ん?」

伊織「す、スーパーセレブリティアイドル伊織ちゃんも、たまには緊張することってあるのよ」

P「ほー」

伊織「それで、それがたまたま今日なの」

P「うむ」

伊織「……ねえ、私なら、できるかしら?」

P「できるさ」

伊織「!」

伊織「――っふふん! そうよね! 見てなさいよ、今日のステージ! バッチリキメてあげるわ! にひひっ♪」

P(正直に即答してやると、とても乗り気になってくれた……理由はわからないが、隣のやよいが訳知り顔で笑っていたので、まあいいか)

やよい「プロデューサー」

P「ああ」

やよい「あのっ……」

P「…………」

やよい「あ、あのっ…………」

P「……やよい」

P「リラックス。息をしっかり吸う。イメージを持つ」

やよい「! ぇ、ぇっと―――――すうううううううっ――――」

やよい「――きょっ! きょうは、力いっぱいがんばりますっ!」

やよい「よっ、よろしくお願いしますーっッ!!!」

P「――ああっ!」

やよい「……えへへッ!!」

P(多少緊張をしている。だが、訊かなくってもわかった。今日のやよいのコンディションは、最高だ!!)

P(荷積みを終え、皆がバスに乗り込んだ。運転席には社長だ。今日は小鳥さんは、最前列中央に座っている)

P「それじゃあ、一つ号令をお願いしますよ、小鳥さん」

小鳥「えっ、わ、私がですか?」

P「そりゃもう。俺はあくまで指導員。指揮者は小鳥さんです」

小鳥「そ、そうですか……では」


小鳥「みなさん、今日まで厳しい練習、本当にお疲れさまです!」

小鳥「今日の結果こそ、みなさんの三か月を決めるものです!!」

小鳥「で、でも、私はここまで積み重ねてきた三か月に自信を持っています!」

小鳥「みなさんの頑張りは、絶対に無駄になりません!」

小鳥「全力でぶち当たって、今日、それを証明しましょうーッ!」

一応『オオオオオーッ!!!!』

P(小鳥さんの慣れない号令も、三か月を共に過ごした仲間たちには十分すぎるほどの発破だった)

P(ボルテージはうなぎ上り……今、765プロは、無敵だ)

P(9時を少し過ぎて、バスは局に到着した)

P「よーし、みんな、自分の楽器は基本的に自分でな」

春香「はーいっ」

P「……グランドピアノ背負ってくか? 春香?」

春香「や、やだなー、冗談ですよ! 冗談!」

美希「真クン、チューバ持つ手伝い――」

真「よいしょっと。プロデューサー、楽しみですねー!」

P「お前、そのゴシックドレスで局の中練り歩くつもりなのか……?」

美希「(チューバってもっと重い物じゃなかったかな……)」

社長「あー、すまない、誰かコントラバスを出すの手伝ってはくれんかね?」

あずさ「それでしたら、わたしが~」

小鳥「うっひゃあ。中、涼しいですねー

律子「助かるわあ」

亜美「涼しいのは……いいんだけどさ……」

真美「真美たち、メッチャ重い……」

律子「あんたたち、楽器が大きくて目立ってるんだから、シャキっとしなさい!」

亜美「背中に角笛背負ってる人に言われないないよー!」

律子「ケースだけ見ても角笛だとは見えないでしょ」

真美「悔しい……真実を知っているのに、それを誰にも信じさせられない……」

P「楽しそうだな、おまえら……ほら、そろそろ控室だぞ」

~控室~

真「おおっ! 結構広いですねっ!」

響「普通に走り回れそうな広さだぞ!」

千早「壁を見る限り、どうやら防音みたいですね」

P「そうだな。ということは、ここでリハーサルやウォームアップをしていいってことだろうな」

やよい「壁に変な穴みたいなのがいっぱいですー……」

伊織「ボイストレーニング室にもあるじゃないの」

貴音「大きな姿鏡の面もありますね」

雪歩「む、対面の鏡と合わせ鏡になっててちょっと怖いですぅ……」

P「よし! 聞いてくれみんな!」

P「個人の荷物は北東の隅、そして楽器類は北西の隅にまとめておいてくれ!」

P「ここで一度、真のアピールを含めたリハーサルをする! なので、スペースは広めにとっておくように!」

P「椅子に座るタイプの楽器は、すぐ外に椅子があるからそこから取ってくること!」

P「とりあえず、10:30まで各自でウォームアップだ!」

P「以上! では行動開始!」

一同『はいっ!』

P(控室の中の様子を見る限り、問題は見当たらなかった)

P(むしろ、いつもよりもやる気を出して、ポテンシャルを上昇させているメンバーもいるぐらいだ)

P(朝の段階で少し緊張が見えた響や伊織も、練習を始めると、すっかりいつものカンを取り戻したようだった)

伊織「 ♪ー ♪ー ♪ー 」

響「 ッ♪ッ♪ッ♪ッ♪ 」

P(傾向はいい感じだ。ムードがある。音楽を創ろう、音楽を楽しもうというムードが)

P(気になっていたやよいの調子も……)

やよい「 B-C-D-E-F-G-A-B――――~っ!」

P(絶好調だ。順を踏んで上がっていっているとはいえ、なめらかに高音が流れ出ている)

やよい「♪~♪~」

P(やよいも嬉しくて仕方ないって感じだ……一応、釘だけは刺しとくか)

P「やよい、やよい」

やよい「? はいっ、なんですか? プロデューサー?」

P「楽しいのはわかるが、あんまり飛ばし過ぎるなよ。番組まで元気は取っとけ」

やよい「はいっ!」

P(そして10:30)

P「よし、それじゃあ一度、全員で合奏のリハーサルをする……前に、だ」

社長「うむ!」

亜美「ん?

真美「なになに?」

社長「いやなに……今日の番組の衣装だよ」

雪歩「衣装っ!?」

春香「衣装ですかっ!」

真「このタイミングでやっとですか! もうっ、待ちくたびれてましたよー!」

P(衣装は、この番組専用のものだ。デザインはいくつかあったが、俺と社長で話し合ってきめたものだ)

P(薄い金色のブレザー。胸元の校章は、もちろん765プロのものになっている)

P(まさにブラスバンドの格好だ。俺からすれば、なんとも懐かしい……)

P「せっかくだ、練習からこれを着てやろう! 本番と同じ状態で!」

一同『…………』

P「……あれ、全員固まって動きませんね」

社長「むむ……ひょっとしてデザインが気にいらないのだろうか……」

P「あ、あのー、どうしたんだ?」

春香「……ぷっ、プロデューサーさんと社長さんがいるから着替えられないんですよーっ」

P「!」

社長「!」

P(すぐに退散した。故意じゃないんだ、故意じゃないんだ……)

小鳥「 ♪ ♪ ♪ ♪ 」

一同「 ♪ー♪ー♪ー♪ 」

P(とまあ、とりあえず衣装に着替えて、合奏練習が始まる)

P(段差がないので、後ろの方の奏者は小鳥さんのタクトがやや見えづらいようだが、しかし、リズムをつかむ方法は何も眼だけではない)

P(……ちなみに、小鳥さんもブレザー姿である。本人は最後まで講義していたが、他に衣装もないことを理由に諦めてようだ)

社長「 ♪ー♪ー♪ー♪ 」

P(ただし、さすがに社長はスーツである。そりゃまあそうだ、社長の年齢の男子がブレザーを着ても、あやしいビデオに出てくる登場人物にしかならない……)

P(全体の完成度に関しては、もう語る必要は持つまい)

P(プロの演奏と比べるものではない)

P(しかし、誰もが熱心に、互いの音を聴きあい、団結して一つの大きな音楽を創り出そうとしている)

P(それゆえに、音が重なる部分がとても心地よい。そこだけ見れば、プロにだって戦えるんじゃないかと思ってしまうほどに)

P(ひいき目かも知れないと思っていても、やはり、俺には、もうバンドと言えば、このバンドしか思いつかないほどだった。

小鳥「……いかがですか」

P「俺から言う必要がありますか?」

小鳥「ふふっ」

小鳥「……もう、そろそろ時間ですね」

P「はい」

小鳥「…………」

小鳥「……みんなっ!」

一同『はいっ!』

小鳥「……もう、無用な言葉は言わないわ!」

小鳥「Are you ready!?」

一同『I'm ready!!!!』


P(……行ってこい!)

P(今回の収録では、先に演奏部分の収録をしてしまってから、その後にトークを収録する。まあ、大人のジジョーという奴だ)

P(だが、これはむしろ俺たち側にとってはありがたい話でもある。ウォームアップをしてすぐ、本番に臨めるのだから)

P「…………」

P(俺は一人、幕の袖で、舞台上のメンバーを見守っている)

P(今回の裏方は、765プロではまさに俺一人。社長も、小鳥さんも、律子も全員、ステージだ)

P(アイドルの付き添いなら、舞台裏で俺一人ということも多々あった。が、765プロ総出の仕事で、これは初めてのことだった)

P(765プロは、かつてない層の厚さで、番組に挑んでいる……裏方すらも表に狩りだして、『765プロ』を隅から隅まで見せつけてやる機会なのだ)

P(元アイドルのプロデューサーや、歌唱力抜群の事務員、長身ダンディな社長がいる芸能事務所なんてそうそう無いぞ! ないだろ! すごいだろ! と!)

P(声なき声で、高らかに叫ぶ! 俺たちが今しようとしていることは、そういうことなんだ!)

P(光が、舞台の闇を切り払った)

P(映し出された、天使たち)





P(何も考えられない)





P(そして音楽は始まった)

 【9:02pm (吹奏楽アレンジver)】

P(――始まった、運命の一戦が)

P(……この曲のメロディは、Aメロは貴音のホルンが主、サビはあずささんと美希のフルート。そして間奏部に伊織のリコーダーソロ……)


小鳥「 ~ ~ ~ ~ 」

 ♪~

P(出だしの伴奏は問題ない。落ち着いて、しっとりとした旋律。初めて合奏したときとは大違い……)
P(小鳥さんの指揮もしっかりとテンポを守れている……練習通りの早さを刻めているな。これは演奏者から非常に大きい。うまくやってくれたな、小鳥さん)

P(そしてAメロ……)

貴音「 ♪~ ― ~ 」

P(おおっ……! ほれぼれするほど美しいホルンの旋律……っ!)
P(ここまでの音色を出せるとは……やはり、貴音の音色はズバ抜けている! 観客を一瞬で曲にひきこんだ!)

貴音「 ♪~~ ♪~~ ♪~~ 」

支援

P(そしてサビに……あずささんの主旋律に美希のハモり。以前は音量が逆転してしまっていたが……)

あずさ「   ♪~   」
  美希「  ♪~ 」


P(……ッ! うまいっ! マイペースに曲を二人で同時に弾くだけだったのが、今では完全に調和して一つのメロディだ!)
P(ピッコロの軽やかさと、フルートの柔らかさが、お互いを引き立てあっている……!!)

P(そして、懸案事項だった、低音トリオの音量についても……)

亜美  ♪。  ♪。  ♪。  ♪。  ♪。  ♪。  ♪。
真  ♪っ  ♪っ  ♪っ  ♪っ  ♪っ  ♪っ  ♪っ
真美 ♪――~~~~~……     ♪――~~~~~~……

P(しっかり曲の中に納まっている! そうなんだよ、低音ってのは、そういうものなんだ!)

小鳥「 ♪~ ♪― ♪~ ♪― 」


P(いいぞ……ここまで完璧と言える。あとは……)

伊織「…………ッ!」

P(伊織の曲間ソロ……っ!)



伊織「 …………っ! 」

 -♪~~~~~~~~~………    ♪♪~~~~~~~~~~♪-♪


P(出だしはいい音色だ。リズムも崩れ過ぎず、嫡子定規でもなく、聴いていて心地いい。ミスもまだない……)

 ♪~~~~~~~~~~~~~~~    ♪-♪~~~~~~~~~~♪-♪


P(い、いけるっ! このままノーミスでいける……っ!)



伊織「 ッ~~~~~~~ッ!!!! 」


   ♪~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ


P(……やっ、やった!ノーミスだ! やりきった! 素晴らしい! さすがは伊織だ!)

伊織「…………」ハァッ、ハアッ……

伊織「!」クルリッ

伊織「♪」ニヒヒッ

げんかい

支援

遅筆な私にはこういう場面は1レスかくのに20分かかったりするのでもうなんというか寝そう……

【愛 LIKE ハンバーガー (吹奏楽アレンジver)】

P(さっきの伊織ソロの興奮も冷めない間に、第二曲目に突入だ!)

P(この曲の主な見せ場は、Aメロのやよい、Bメロの亜美、サビに雪歩。そして響のドラムが終始曲をリードし、春香のオリジナルピアノソロ……!)

P(山場が多く、曲調からテンポまで、正反対の曲と言える……。つかみは、どうだ……っ!?)

小鳥「 ッ・♪・ッ・♪・ッ・♪・ッ・♪ 」

P(よし、小鳥さんのリズムは完璧だ! ジャズ・スウィングは雪歩に練習を見て貰っていたんだったな……)

P(そして、問題は、響のドラムがそれにマッチするかどうか……ッ!! どうなるっ!)


小鳥「 ッ・♪・ッ・♪・ッ・♪・ッ・♪ 」
響 「♪、♪♪♪、♪♪♪、♪♪、♪♪♪ 」


P(よしっ! 縦のつながりは完璧だ! これで音楽の土台でできる!!
  あとは、この上に自分の音を一つずつ置いていけばいい!!)


P(さあ、Aメロだ! ―――――やよい!)

やよい「 ……っ! 」


 ♪っ♪っ♪~~♪、♪♪♪♪っ、♪♪♪♪っ♪っ♪-♪っ♪~~~~~



P(文句ない仕上がりだ! ジャズ・スウィングに必要なスタッタートのキレのよさ、そして一直線のロングトーン。どれもうまく表現できている!)
P(……思えば、最初はB♭より高い音が出ていなかったんだった。そこが、よくぞここまで……!)

やよい「 ♪~ 」

P(だ、ダメだダメだ! 感極まってる場合じゃない。ここからは亜美のBメロだ!)
P(最初の頃は音量はよくても、響のドラムを無視してしまいがちだったが……)


亜美「 ――~~! 」

響 「♪、♪♪♪、♪♪♪、♪♪、♪♪♪ 」
亜美「 ♪♪♪♪~♪・♪~♪~・♪♪♪ 

P(重なり合っているっ……! 迫力ある重低音が、軽快にメロディを飛び回るというギャップ! 響のドラムのリズムのよさも相まって、自然と踊りだしてしまいそうなぐらい、楽しいっ! 楽しいっ!!!)

P(そして、ここで順番が回ってくるのが……っ!)

雪歩「――…… っ!」

P(765プロの誇るジャズクィーン!)


雪歩「 …っ 」

 ♪――♪♪⌒♪♪⌒♪♪⌒♪,♪⌒♪♪⌒♪~~~~ッ!!
 ♪――♪♪⌒♪♪⌒♪♪⌒♪,♪⌒♪♪⌒♪~~~~ッ!!


P(…………は、ははっ、おいおい、やべえだろ! 雪歩の奴、元から相当だとは思っていたが……
  まさかここまでジャズ・サックスの音の出し方を研究していたとはなあ!)

P(普通の曲を演奏しようとすれば、邪魔にしかならない、わずかな『かすれ』『ノイズ』を、意図的に音に加えることによって、よりルーズな雰囲気を出すというテクニック!)

P(決してそこまで難しいという技じゃないが……しかし、わずか三か月の縛りがある中で、そこまでのこだわりを持って臨み、なおかつ本番土壇場で成功させてしまうとは……!
  あいつの勝負度胸は、本当に並じゃないな……)

P(……って、ありゃっ!? もう曲も佳境じゃないか。ノリノりすぎてどこまで進んだから待ったく把握してなかった)
 (しかし、ここに来ると、最後に残ってる……原曲にない、春香のオリジナル・ピアノソロ!)
 (期待していいといったな、春香。なら、期待に応えてくれっ……!)


春香「 ――♪ 」

 
 γ ♪ ♪~~♪♪⌒♪   γ ♪ ♪~~♪⌒♪っ。


P(軽やかな打鍵だ! 春香は、ピアノ独特の「ポロロン」という音を出すのが本当に巧い!)
 (さあっ、問題はここだ……!、しかしここからが……っ!)

        ♪       ♪       ♪♪♪♪♪♪♪~~~~~~ッ
     ♪ ♪ ♪     ♪ ♪     ♪
    ♪ ♪   ♪ ♪♪♪   ♪   ♪
   ♪       ♪       ♪ ♪
  ♪                 ♪
 ♪ 


P「 」
P「   」
P(ま……ま、マジか……! うそだろ、引ききったぞ、春香! あの鬼畜十六分音符の連続峠を!)
P(やったな! すげえ! すげえぞ春香! はははっ!)

すんませんがもう40時間ほど起きてるのでもうホント限界っす・・・

あと少しなのに完走できないのは悔しいんですけども、もう無理……
誰か続きかけるなら書いてほしいかなーって
やよいにhiB♭成功させてあげてほしいかなーって・・・

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