東方陽那拓 (519)


 

 もしも。もしもこんな悲しい事が、運命なのだとしたら……

 

    せめてこんな歴史、なかったことに……!

 


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 このスレは、東方Project二次創作SSです

 1.原作準拠(極稀二次ネタ)
 2.幻想入りシリーズ(オリジナルキャラ)
 3.風神録以降、地霊殿前(地霊殿以降のキャラが出ないわけではない)
 4.基本台本。時々地の文混じり

 といった内容でお送りしますので、色々とご注意ください


~~~人里~~~

「せんせー、さよーならー」

「またねー、せんせー」

「ああ、気をつけて帰るんだぞー」

「もこーも、ばいばーい!」

「おーう。また明日ね~」

「……ふぅ。あいつらも、随分と焼けてきたな」

「まったくね~。ま、こんだけ晴れが続けばそうなるわよ。ね、慧音先生?」

「おかげで川遊びが、授業の一環になってしまった。歓迎すべきか否か……」

「そんな悩む事でもないでしょ。泳ぎを教えてるってことで、いいじゃない」

「……あのな、妹紅。私はあくまで、幻想郷の人と妖怪の歴史、その対処法について教えているんだ」

「それが?」

「それが? じゃない。本業を疎かにしてあの子達を遊ばせていては、いかんという話でだな……」

「そんなに泳ぐのって、悪い事かしら」

「勿論泳ぎは大事だ。だが、歴史はそれ以上に重要だという話でな。それこそここ、幻想郷では」

「それぐらい分かってる。けど、例え歴史を教えてても、あの調子じゃ頭に入らないわよ」

「まぁな。だからこそ、息抜きにと思っていたのだが……」

「今年は暑いものね~。なんでかしら」

「分からないが、噂では天候や気候は外と同じだそうだ。その関係じゃないか?」

「へぇ。じゃぁ今年はずっと、水泳があるわね!」

「……はぁ。なんで妹紅が、楽しみにしてるんだか」

「なんでって、慧音を連れ出そうにも毎日勉強を教えてるんじゃぁ、連れだせるのがこういう時しかないじゃない?
 その数少ない日が沢山来る。考えただけで楽しいわ」

「……そうか」フッ

「ええ」ニカッ

「…………」

「…………」ニヤニヤ

「……川に着いて早々飛び込んで、「足つったー!」って言って私に助けられるのが、そんなに楽しいか」ジロ


「え゛……いや、あれはたまたま……」

「たまたま? あれは柔軟体操せずに入ったから起きた当然の結果だ。それも一度や二度ならず……」

「さ、最近はちゃんと体操してから入ってるでしょ! そうじゃなくって……」

「確かに、8回目以降はしなくなったな。だが、8回もだぞ? お陰で子供たちの勉強になったとはいえ、お前はな……」

「ぐぐ……」

「そもそも、毎年飛び込む馬鹿があるか。暑いのは否定しないが、それでも不死鳥なのか。他にもな――」ガミガミペチャクチャ

「……うぅ」シュン

 

 こんな風に笑って、泣いて、怒って、謝って。

 そんな毎日を繰り返して、明日をまた迎える。

 極々当たり前で、充足した日々。

 そんな平穏な暮らしの中に起きた、大きな大きな彼女達の小異変。

 その物語を、語ろうかと思う。

 


  カッチン

「……お取り込み中の所、失礼しますわ」

「――ああ、片づけもだ……ん? おや、紅魔館のメイド長さんですか」

「咲夜です。イチャラブしている所悪いのですが、慧音さんをお借りしてもよろしいですか?」

「あんな説教垂れられてて、イチャラブも無いわよ。ってか何、借りる?」

「はい。お嬢様が、お連れしろと」

「それを尋ねるなら、私にだろう。そもそも、要件はなんだ」

「さぁ。お連れしろと言われただけですので」

「相変わらずねぇ。サッカーの時も、そうやって適当に呼びだしたじゃない」

「お嬢様は、思い立ったら吉日なお方ですから」

「気紛れというんだ、それは。……この後に予定はないし、付き合ってやらないこともないが」

「あら、いいの?」

「下手に断れば、満月の夜に乗りこんできて邪魔をするからな。どうせ、話を聞くだけさ」ハァ

「それでしたら、門番には言付けておきますので、御自由に御来館下さいませ」カッチン

「……行ったわね。本当によかったの、慧音?」

「良い訳ないだろう、全く。採点だって済ませなきゃいけないし、明日の用意があるというのに……」

「御愁傷様。それじゃ、家に帰って竹炭の様子でも……」ガシィッ

「何を言っているんだ、妹紅。お前もついてくるんだ」

「えぇっ、なんでよ?!」

「サッカーの時は、お前が私に頼んでついて行っただろう。だから、そのお返しだ」

「あー、そういうこともあったわね……」

「そういうわけだから、支度をしてくるよ」

「支度って、そんな身構えるの? 」

「まぁ、少しだ」

 


~~~紅魔館・門前~~~

「やっほー。おっひさー、美鈴」

「おや、来ましたね、慧音さん。妹紅さんも、お久しぶりです」

「ああ。話がついているらしいが」

「はい。どうぞ、中へ」 ギィィ

「前回みたいなことは、ないんだな?」

「……おそらくは。今回は、丁重にお持て成ししろとのことで」

「ふ~ん。ますます以て、怪しいわね」

「本当ですね~。あ、私は何の用か聞いていないので、答えられませんよ」

「どうせ、すぐに分かるから気にしないさ。とんでもないことでなければいいんだがな」ハァ

「ははは……まぁ、何とかなりますよ。咲夜さーん、来ましたよー」

「ありがとう、美鈴。御苦労さま」

「約束通り、来てやったぞ。お土産も持って、な」

「あら、何でしょうか」チラッ

「レミリアの好きな物さ」

「そうですか。それでは、御案内しますわ」

 

~~~迎賓室・月光カーテンルーム(命名:レミリア)~~~

「おお、よく来たな、里の教師よ。長旅御苦労」

「長旅でもないし、相変わらず似合ってないわよ、吸血鬼」

「……似合ってないかしら、咲夜?」

「お嬢様は、何を為されてもお似合いですわ」

「…………」

「こほん。まぁともかく、座ってくれたまへ」

「既に座らせて貰っているよ」

「それでは早速本題だが、今日呼んだのは他でもない。ある事を頼みたくってね。あれは確か――」

「あれは~とか、ある事~とか、もったいぶらずにさっさと……」

「待ってくれ、妹紅。お土産があるのです。それを受け取って頂いてからでも、遅くはないでしょう」スッ

「ほう。貢物とは、謙虚な事じゃないか」

「面倒事はなるべく避けたいので。なので、要件は手短にお願いします。私も、暇ではないですし」ジッ


「ちぇ。少しぐらい付き合って貰ってもいいじゃないの。……あら、この藁鼓は納豆かしら」

「ええ。好みなのでしょう?」

「まぁ、そうね。咲夜ー」ホイッ

「分かりました、お嬢様」パシッ

「……。さてそれじゃぁ、ご要望に答えますか。単刀直入に言えば、フランの教育係になって欲しいの」

「フラン? ……ああ、妹か。確かいるって言ってたわね」

「そう。私の妹」

「…………」

「あの子ったら、ここ最近館の中をウロウロするようになったのだけど、この紅魔館の領主の妹である自覚と、教養が足りなくてね」

「例えば?」

「メイド妖精に無茶な命令したり、部屋の模様替えを姉の私に尋ねることなく勝手にしたりだな」

「……はぁ」

「教養を教えるなら、パチュリーさんに頼めばいいのでは?」

「ああ、パチェは駄目よ。面倒だって言うだろうし、フランの体力に追いつかないわよ」

「それはそんな問題児なのか、動かない図書館がもやしなのか、どっちなの」

「愚問ね。そういうことだから、お願いするわよ」

「まだ、引き受けたつもりはないのですが」

「何を言っているのかしら。”人里の教師様が、ちゃんとした知識のない子を放っておくわけないじゃない”」

「あんたねぇ。吸血鬼は昼間出歩け難いってのに、どうやってうちに来るのよ」

「昼間じゃなければ、いいじゃない」

「はぁ!? あんたさっき、慧音が忙しいって言ったの、聞いてなかったの?」

「聞いていたわよ、失礼ね。だから夜って提案してあげてるのに」

「いや、だからそれは……」

「……一度会わせて貰いましょうか。でなければ、判断の仕様がないので」

「……慧音?」

「別に会っても、変わらないだろうがな。咲夜、フランの所まで案内して差し上げろ」

「御意に。こちらですわ、お二方」スッ

「……いいの?」

「言っただろう。会ってみなくちゃ、判断しかねると」

 


~~~紅魔館・東の通路~~~

「こちらですわ。妹様、お客様が話をしたいとのことです。入ってもよろしいでしょうか」

「……べっつにー」

「どうぞ、中へ」

「お邪魔します。……なんだ、良い部屋じゃないか」

「あら、本当。レミリアが文句言ってるから、どんなのかと思えば」

「で、だーれ? 何の用? 誰の差し金?」

「それはですね、かくかくしかじかでございます」

「むがむがもにょもにょ? まーた、お姉様の思いつきなのね」

「それなんだけども、慧音はどうするつもりなのよ」

「条件次第だ。だがそれよりも、フランドールの意思を尊重すべきだろう」

「あら、私の?」

「ああ。やりたくない事を無理矢理させた所で、身にはつかんからな」

「……へぇ。いつか来た教師とは、違うわね」

「ん? 前にもあったの?」

「すっごく昔の話よ。貴女達が生まれる前の話」

「ふーん、千年前か……」

「えっ?」

「いや、正しくは千四百年ほど前だろう?」

「えっ?」

「あー、自棄になってたのが長いから、あんま覚えてないわ」ガリガリ

「…………人間じゃないの、そっちの紅白は」パチクリ

「人間っちゃ人間よ。[ピーーー]ないだけでね。それで、それよりも前の話?」ケラケラ

「んーん。もっと後ね、それじゃ。お姉様やパチュリーが言ってた不死身の人間って、貴女の事なんだ」

「そーいうこと。理解したかしら?」

「まぁね。……興味湧いてきたかも」

「それは、妹紅にか?」

「そんな人間と一緒にいる、教師さんの頭もよ」

「それでは妹様。お嬢様のご提案を許諾して頂けるのですね?」

「ええ、飲んであげるわ。何より、外に出られるって、すっごく魅力的!」キャッ

「……そうか。なら、私はこれで帰るとするよ。レミリアに、条件だけ伝えておいてくれ」

「もう一度、お話にはなられないので?」

「まだ完全に決まったわけじゃないからな。里長との話し合いがついたら、連絡をするさ」

「分かりました。お嬢様には、そうお伝えします」

「それじゃぁフランドール。まだ正式には決まっていないが。……よろしくな」

「ええ、ケーネ先生。それに、モコー先生? も」ヒヒヒ

「……言っとくけど私、別に教師じゃないからね?」

 


~~~紅魔館・西のテラス~~~

「……という話で御座います、お嬢様」

「そう。……条件というほどじゃないな、これは。どちらかといえば、約束だ」

「私も、そう思いますわ」コポコポコポ  トッ
           運命
「これも含めて、予定通りだ。まさか、端っから掌の上だとは、思いもしまい。あとは、そう……」チャッ

  あいつ次第だ。

 ズズッ……
                  これ
「…………ねぇ咲夜。今日の紅茶、すっごいまずいんだけど……」

「本日は夏の代名詞、向日葵の花で淹れてみました」

「………………」

………………

…………

……


之にて、初回分の投下終了です

では



 レミリアの云う運命に沿って、フランドールの教師となったらしい慧音。
 ここからが小異変の始まりだったのか。
 あの時に狂い始めたのか。
 それを知るために、また少し、話を進めようかと思う。


~~~一週間後~~~

「せんせー、さよーならー」

「またねー、せんせー」

「ああ、気をつけて帰るんだぞー」

「もこーも、ばいばーい!」

「おーう。また明日ね~」

「……ふぅ」

「今日もお疲れ様、慧音」

「ところが、今日はまだ終わりじゃないんだ」

「何、まだあんの?」

「フランドールが来る日だよ。あっちが忘れていなければ、だがな」

「…………ああ。そんな話もあったわね。許可取れたんだ」

「何とかな。あれこれと、根も葉もない不安が多かったよ」ハァ

「それで。予定通りならいつ来んの?」

「一刻程後だな。この時期の斜陽の灯りは、吸血鬼にとって厄介この上ないらしい」

「斜陽? ……没落?」

「レミリアの受け売りさ。「忌わしい太陽が落ちて行く様に、ぴったりだろ?」だとさ」

「じゃぁ、陽が暮れてからってわけか。大変ねぇ」

「それも考慮した上で、引き受けたからな。それに、これは色々と好機さ」

「ほう。例えば?」

「夕方以降の授業日程を組めるようになるかもしれないし、フランドールが生徒として申し分なければ、私のやる気も上がる。
 何より、他の精神的に幼い野良妖怪達に対する教育の目途も立つかもしれん」

「……え、他の妖怪?」

「そうだ。まだまだ考案の段階だが、夕方以降は妖怪相手に寺子屋を開けるようにしたい。これは、野良妖怪の意識改革に繋がるだろう?
 それでもし、その中に友好的かつ協力的な妖怪が居れば、昼の部に出て貰い、子供達に実践的な知識を与える事が出来る。
 ここまで来れば、その妖怪達にも新たな存在意義を与えられ、里ともよりよい関係を築けるようにもなるだろう。
 そうなれば……」

「…………はぁ。相変わらず、前向きに先を見てるわねぇ」

「悪い方に考えても仕方ないからな。利用できる物は、利用させて貰うさ」

「ま、それもこれも全部フラン次第よね」

「四日前に会った時の調子なら、心配は不要だと思うが」




  コンコンコン

『ごめん下さいませ~』

「はーい、ただいまー。……来たか」ヨイショ

「っぽいわね~。……まだ空が暗くなりきってないじゃない」

「やる気があるのは、良い事さ。……弄ってやるなよ?」ザッ

「分かってる分かってる」  トンッ

 ギッ……ギッ…………

 ギギギッ……ギギギッ……

「とりあえず、この部屋で待っていてくれ。お茶を持ってくるから」

「はーい」

「わざわざすみません、慧音さん」

「あら、美鈴じゃない。……さては、お守を任された?」

「違うわ。美鈴は傘持ちよ」

「傘持ち?」

「ええ。フラン様が『約束の時間より早く行くのは、礼儀でしょ!』と言われまして。
 ですが、まだ陽が照っていたため、私が日傘を差してこちらまで同行を」

「そ。あいつが、私の教養が足りないとか言ったから、これぐらい気遣えるって見せてやったわ」フフン

「それって要するに、早く来たいから、それっぽい言い訳用意しただけじゃないのー」ニヤニヤ

「(あちゃー、それ言っちゃいますか……」

「ち、違うわよ! あいつを早く見返したいだけ! 勘違いしないでよねっ!」

「あいつって、レミリアの事? それも本音でしょうけど、実際はワクドキし――」

 ゴンッ!

「テェッ?!」

「弄るなと言ったはずだが。全く……すまないな、フランドール。帰れと言ったんだが……」

「ほんと、失礼しちゃうわ」プンプン

「いーじゃんかー。授業の邪魔はしないしさー」ヒリヒリ

「どの口が言うか。たった今、フランドールに悪戯した所だろう」

「いやいやー、だって愛いじゃん? 苛めたくならない?」

「ならん。……というか、それは好きな子を苛めたくなる男子の心理だ。少しは自重してくれ」

「はい、はい。分かったわよ~」

「返事は一度だ」

「は~い」

「…………」イライラ

「あはは……」

「返事はみじk…………まぁいい。今日はフランドールが主役なんだ。なっ?」


「そーよそーよ。関係ない人間はあっち行きなさいよ」ムカムカ

「関係なくはないわよ。私だって、慧音が何――」

「…………」ギュッ

「それよりっ!!」

「をおうっ!?」ビクッ

「!?」ビクッ

「今日は一体何を教えて下さるのですか!」

「「「…………」」」ポカーン

「慧音先生っ!」

「……あ、ああ。今日は軽く面談と、フランドールの勉学がどの程度なのかを知ろうかと」

「そうですかっ! それで私は、フラン様の為に何をすればよいでしょう!」

「……はぁ。まずは静かにな。まだ多少早いが、もう夜五つなんだ」

「はっ……あああ、すみません! ついいつもの癖で」

「だろうとは思ったよ。……面談の時に、少し補佐して貰えると助かる。構わないな、フランドール?」

「う、うん。美鈴なら、別にいいわ」

「なら、臨時三者面談としようか。妹紅、盗み聞きするんじゃないぞ?」

「えーー、分かったわ」

「じゃぁ、私室で話そうか。こっちだ」

 …………

「……あれ、明らかに止められたわよね? ちょ~っと、やりすぎちゃったか?」

 

~~~半刻後~~~

「うむむ……これはなかなかに……」

「? なかなかに?」

「やはり、相当ですか?」

「はっきり言ってしまえばな。まさか、読み書きからしてここまでとは……」

「そーなの?」

「……あの壁に掛けてある紙の文字、一部でも読めるか?」

「…………読めない」

「『教育とは、一方で行われるものでなく、常に教え合うもの。』ですか」

「難しい漢字はないし、そもそも平仮名でさえ読めない。これは相当なものだ」

「うううー……だって……」ムカッ

「だがそれもこれも、言語が違うんじゃ仕方ないな」

「……え? 言語?」

「ああ。詳しい所までは分からないが、これは明らかに日本語じゃない」トントン

「……ニホンゴ?」


「今、私達が話している言葉さ。……幽閉されていた間、文字と言葉の妙な乖離に、違和を持った事がないか?」

「あるある」

「それもこれも、フランドールが知っている文字と言葉が違う所為だったわけだ。
 大方、幽閉される前に読み書きを習っていたのが、原因だろうな」

「へぇー……」

「……よし。なら今後の予定だが、しばらくは読み書きからにしよう。幻想郷の文字が分からない事には、教育にならないしな」

「それって、長くなるかしら」

「さぁ、どうだろうな。既に言葉として覚えているから、音と形を揃えるだけで済むし……」

「すむし?」

「後はフランドールのやる気次第だろう。私は既に、教える気だからな」

「あら、なら決まりね!」

「ふふっ。なら今日は、平仮名から学ぶとしようか」

「ようやくね!」ワクワク

「さっきの部屋に戻っていてくれ。準備したら、すぐに行く」

「はーい! ほら美鈴、行こう!」グイグイ

「はい、フラン様」オットット

「……平仮名であれだけはしゃぐ生徒も、初めてだな」

 

~~~数十分後~~~

「この、ぬとめは似ているから、注意するんだ。それから……」

「これと、これと、これも似てるわね。なんで紛らわしい形にしているのかしら」

「それにも理由があってな。平仮名や片仮名は、象形文字というのが祖となっているんだが――」

 
「あ~あ、慧音のよくない癖が始まった」

「いいですねぇ、こういう光景」ポワ~

「……何よ急に。別に否定しないけど」

「フラン様が机に座って勉強している姿を見られるようになるとは、考えた事もなかったもので、つい」

「そんなに深刻だったのね。幽閉がどーたらって奴?」

「おや、知らないのですか?」

「ええ、全然。慧音は生徒の秘密を守るって言って、教えてくれないのよ」

「なるほど。ならば私も、慧音さんの後に続きますか」

「ちょっとー。私だけ除け者扱い酷くない?」

「私の口からは言えないだけですよ。フラン様からお話になられるのなら、気にはしませんが」


「……じゃぁ今は駄目ね。邪魔したらやられるわ」

「! それは、どういう」

「授業の邪魔をしたら、かなりクルやつかまされるのよ」ハァ

「……先程の拳骨、とか?」

「あれも脳天に響くけど、違うわね。……頭突きよ」ヒソ

「…………頭突きですか?」

「ええ。そりゃぁもう、一瞬意識飛ぶくらいの。だから、別の機会にね」

「尋ねる心算ではあるのですね」

「そりゃそーよ。私だって関係してるんだから」

「まぁ、止めはしませんが。……しかし、いいですねぇ」ポワ~

「……なんとなくだけど、親馬鹿臭がするわね」



~~~再び、半刻後~~~

「よし。今日はこれぐらいにしておこう」

「えー。まだ半分しか終わってないわよ」

「だからこそさ。後は宿題として、明後日までに終わらせて来るんだ」

「宿題~?」

「そうだ。初めから最後までを、10回も書けば十分だな」

「えー。フランはまだまだ元気だし、もっと教えてよー」

「駄目ですよ、フラン様。慧音先生にも都合があるんですから、ね?」

「やだ。もっと勉強するー」

「ですから、それは館で宿題を……」

「ここでがいいのー」ブーブー

「……慧音先生」アハハ

「うーん……やる気があるのはいいことなんだが……」

「でしょっ? だからほら、もっと教えてよ」

「だがな。今日はフランドールにあった勉強方法を模索する用意はあったが、肝心の中身はあり合わせになってしまった。
 その分の穴埋めをする為にも、今日は早めに切り上げたいんだが……」

「むー……」

「それにな、フランドール」

「ん?」

「宿題を出すという事は、約束をするという事だ。これだって、立派な勉強だぞ?」

「え、そうなの?」

「ああ。学び舎以外で勉強に割く時間を考えたり、色んな雰囲気の中でどれだけ出来るか確かめたりな」

「それも、勉強……」


「ああ。だから今日は、ここまでで、な?」

「…………」

「駄目か?」

「むぅぅ……」

「…………」

 
「以外と粘るわね」ヒソヒソ

「少しばかり、意外です」ヒソヒソ

 
「……ふむ。そんなに勉強熱心だと、先生感動物だ」

「……!」ピクッ

「これはやはり、気合を入れて問題を作る必要があるな」

「えっ、本当?」キラキラ

「ああ。だからこそ余計に、今日は帰って貰わないと」

「えぇー……」ガクッ

「仕方ないだろう? さっきも言ったが、今のままではただのあり合わせなんだ。
 これでは私としても瑕がつくし、フランドールに対して礼を失するというものだ」

「! ……」

「だからどうか、聞き分けてくれ。先生の顔を立てると思って、頼む」バッ

「……しょ、しょうがないわね。そういうことなら、今日は大人しく帰って上げるわ」

「そうか、ありがとう。なら、明後日の夜に備えないとな」

「私にぴったりの物を用意しててよね?」フフン

「ああ。宿題は忘れずにな?」

「はーい。じゃぁ帰ろ、美鈴!」

「はい、フラン様。それでは、お邪魔しました」

「気をつけて帰れ……って、お前達なら大丈夫か」ハハハ

「まぁ、余裕ですね」ハハハ

「ほらほら、早くー」トタトタ

「お待ちください、妹様~」タンッ

「…………ふぅ」

「お疲れさん。さっきのあれ、同じ事しか言ってないわよね」

「ん? ああ、そうだな。繰り返したようなものだ」

「なのに、褒めただけでああも変わるもんなのねぇ」

「なんだ、気付いていたのか」

「どれだけ慧音と付き合ってると思ってるのよ」ケラケラ

「……それもそうだな。さて、片づけるかな」ヨッコイショ

「頑張るわねぇ。今日出来る事は今日する、だっけ?」

「教える者として、な」

………………

…………

……


以上で投下終わりです。

別のスレと同時進行なのと、元から超まったりペースな為、投下間隔が長いです。

どうか、ごゆるりと。失礼します。


投下は大体一ヶ月毎と思っておk?

>>19
大体2週間~1か月間隔だと思って頂ければいいです。それより長くなる場合にも、連絡しにきますので。


 フランドールの授業を受け持つようになって、二週間。
 もうひとつの転機が訪れる、半月前。
 思えばこの時に、間違ってしまえばよかったのか。
 今となっては分からないが、もう一度、物語を進めていこう。
 

~~~おおよそ二週間前~~~

「ああ、巫女様。お忙しい中、態々お越しいただいてありがとうございます。あ、こちらは自家製の煎餅で……」

「ほんとにね~。なんで私が出向かなきゃいけないのよ」パリッ

「あははは……本当に申し訳ない」

「で、どんな要件なの」

「あ。実はここ最近、あの紅い館の吸血鬼が、人里……いえ、寺子屋に入り浸っておりまして」

「……レミリアじゃないわね。フラン?」

「ええ。妹の方で」

「ふーん、あいつがねぇ……」

「吸血鬼といえば、『血喰い』事件を起こした悪名高き妖怪! それも、気狂いで有名な妹の方!」

「…………」ズズズ

「あのような妖怪が寺子屋に屯しているとなると、いつ子供達が襲われやしないかと心配で心配で……」

「ぷはぁ。無駄な取り越し苦労ね」

「へ?」

「あいつが暴れるつもりなら、とっくに暴れてるわよ」

「え、いや、いつ暴れ出すかも知れないので追い出して欲しいと……」

「面倒臭い。それで恨まれたらどうしてくれんの?」

「で、ですがそれは巫女の役目では……」

「ん~? そんなの、異変が起きてからすればいいのよ。起きてもないのに、出向くなんて時間の無駄」シッシ

「そんな! 異変を未然に防ぐのも、博麗の巫女の責務では!」

『……は?』

「っ!」ゾクッ

「何? 先代がやってた事を、私にもしろっての? 馬鹿らしい」

「い、いえ……そういうわけでは……」

「それにさぁ。危険だからーとかいって退治? はっ。年がら年中張り付けっての?」

「…………」

「たく。……けれど、何を学んでるか気になるわね」

「……お、おぉ?」

「ちょっと、見に行ってみようかしら」ヨット

「あ、あのぉ……」

「あ、煎餅ご馳走様。?油付け過ぎてて美味しくなかったわ」ヒョイヒョイ

「…………」

「んじゃね~。賄賂ごくろーさま」フワ~

「……ちっ。不良巫女が偉そうに。……煎餅持ってかれた……」ハァ

 


~~~二週間後~~~

「…………」ズズ

「…………」

「けーね先生。今日もちゃんと宿題してきたわよ! ……うげっ」

「ぷはぁ。あら、本当に来た」

「は、博麗の巫女!?」

「なんであんたがここにいるのよ!」

「お前達の様子見だと」ハァ

「そ。最近寺子屋に入り浸ってる、吸血鬼がいるから退治してくれってね」パリッ

「た、退治って……」

「安心しろ、フランドール。霊夢は退治しに来たわけじゃない」

「え? じゃぁ、なんで……?」

「もぐもぐ……」

「さっきも言ったが、様子見だと。依頼は受けてないが、興味は湧いたらしい」

「ごくんっ。……そりゃ、気になるでしょ。妖怪が何を学ぶのかしら、って」

「では、妨害するつもりではないのですね?」

「ええ。いつものよーに、適当にやっちゃいといて」ズズ

「むぅうう……」

「そう嫌な顔をするな、フランドール。……正直、お前よりこいつの方が厄介だ」

「……知ってる」

「あら、失礼ね。退治するわよ」ニコニコ

「…………ごほん。さ、始めようか」

「…………はーい」

「ははは……」

「ずずっ……」

 
~~~一刻後~~~

「…………」パリッ

「――というわけだ。だから、こっちの算術はこうしてだな……」

「ふむふむ」カキカキ

「…………」パリッ

「…………」ニコニコ

「……はぁ」ヨッ

「ん? ……どうした、霊夢」

「飽きたから帰る」

「え? ……えー?」

「何よ」

「べっつに~」

「……あっそ。ま、下手な事しなけりゃなんもしないから、何もしないようにね~」シュッ

  ザシュッ


「きゃー!? 刺さってるー!?」

「フ、フラン様! 今抜きますので!」

「んじゃ、お勉強頑張りなさい」ファ~

「……全く。あいつはいつも通りだな」ハァ

「いつも通り過ぎるわよ。吸血鬼だって、痛いものは痛いのに」ピュー

「動かないでください、フラン様。今、気で止血しますので」

「……意外と便利なんだな。気功というのは」

「いえ~。この程度の傷しか、塞ぐ事は出来ませんし……」

「十分だと思うが。……どうせだから、少し休憩とするか」

「はーい」

「包帯を持ってくる。どの程度で傷が塞がるか分からんが、その傷で出歩くのは良くないだろう」

「治りました」フゥ

「……はやいな」

~~~翌日~~~

「へぇ。あいつに目をつけられたんだ」

「ああ。何事もなく……というわけじゃないが、大事がなくて助かったよ」

「ははは。相変わらず、臭いを嗅ぎつけるのが早いわね」

「おかげで、大義名分が立ったから良かったものの……」ハァ

「御愁傷様。……って、なんで立ったの?」

「……ん? 何がだ?」

「大義名分の事よ。霊夢が来て、なんで立つの」

「そりゃ、博麗の巫女が来て何事もなければ、それは異変ないし、企て事じゃないと認められことになる。
 霊夢に頼んだ奴が誰か分からんが、これ以上は下手に手を出せなくなった、と言うわけさ」

「なるほどねぇ」

「……なぁ。妹紅」

「ん? なぁに。慧音」

「お前、本当に藤原の娘か?」

「!?」

「最近、考えが足りないぞ? 古文でも読むか?」

「いや。あのね、慧音? 私は、あくまで慧音の顔を立てる為にね?」

「…………」

「胡散臭いなぁ。なんて顔しないでっ!」

「冗談さ」ハァ

「目が本気だし、溜息吐いてるし!?」

「……ふっ。流石に悪かったな。ははは」

「いくら私がいつもあれだからって、やりすぎよ」シクシク

「ははは、悪い悪い。授業が終わった後、何か作ってやるさ」

「………………麩の焼きね」

「はいはい。わかったよ」


短いですが、今回はここまでとなります

では


 お騒がせな巫女が来るだけ来て、なんにもしないで帰ってから二週間。
 たぶん、一回目の転機がきた、その日。
 その出会いが私にくれた物を思い出す為にも、思い出を顧みる事にするわ。

~~~紅魔館・図書館~~~

「ねーねー、パチュリー」

「…………」

「……ねーえー?」

「…………」

「…………」

「…………」

「『レバ剣』」

「止めなさい」

「無視しないでよ」

「気付かなかっただけ」

「この本借りていいかしら」

「……あら、珍しい。妹様が本だなんて」

「お姉様から聞いてないの? 私最近、勉強しているのよ」

「ふーん。……いいけど、ちょっと貸して」

「ん」っ

「…………」ブツブツブツ

  ポウッ

「……はい。もういいわよ」

「ありがとー♪」トタッター

「…………」

「あ、行きましたか? もう行きましたか、パチュリー様?」

「…………」フイッ

「無視っ、無視ですかっ! 本の虫なだけに!」

「…………」

「うーん、使い古されたギャグでは反応がないようで。なら、どうせですのでこのまま黙り続けて頂いて……」

「パチュリー様。外の物と思わしき本を60冊ほどお持ちしました」

「ありがとう。後は小悪魔がするから、貴女は紅茶でも淹れて」

「既に」

「流石ね」

「流石じゃねーですよ! なんですか全く間が悪いったらありゃしない。何が瀟洒ですか!」プンスカ

「とか言いながら、既に動いている貴女はどうなの」

「哀れな習慣ですっ!」

 


~~~寺子屋~~~

「ねーねー、けーね先生」

「……ん? どうした、フランドール」

「ちょっとこの本を見てほしいの」ガサゴソ

「ほう。フランドールからというのは、初めてだな」

「これなんだけど」

「どれどれ。『フランダースの犬』?」

「図書館で何か準備なされていましたが、それでしたか」

「つまり、パチュリーの持ち物か。これがどうしたんだ?」

「これを読もうと思っているのだけれど、かんじが多くて読めなかったの。だから教えてほしいなって」

「……教えるのは吝かでないが、それなら美鈴に聞いても良かっただろう」

「……あっ」

「…………」ショボーン

「ごめんね、めーりん」

「いえ。お気になさらず」

「ふふっ。しかし、中々に分厚いな。読み終えたら、感想を聞かせてくれ」

「うんっ!」

「……だが、これはまだそんなに経っていないのだな」

「そーなの?」

「ああ。外じゃまだ、西暦200X年のはずだ。だがこいつは1994年出版と、ここに書いてある」

「おや、本当ですね」

「汚れや折れた跡もないし、どうして入って来たのやら」

「それだったら、前にパチュリーが綺麗にしてたよ」

「そうなのか?」

「そーなのよ」

「貴重な本は何であれ、最高の状態で保存しておきたいのだそうです。……所で、何故そのような事を?」

「ん? そのような、とは?」

「その本が”幻想入り”したのが不思議そうにしていたのが不思議でしたので」

「……なるほど。”幻想入り”の事を、話程度には知っているというわけか」

「ええ、まぁ」

「私はしらなーい」

「なら、良い機会だ。今日は幻想入りについて説明しよう」

「はーい!」

「お願いします」

「よし。特に資料はないから、すぐにでも始めるとしよう」

………………

…………

……


~~~幻想郷・南の原~~~

人「……んんっ。…………ここは?」

「……知らない場所だ。というよりも、なんでこんな所に……?」

「…………」

「……確か、僕はと……」

「お兄さん。こんな時間にどうしたの?」

「……って、ん? 声?」キョロキョロ

「あはは、こっちこっち」

「ああ、いた。……男の子?」

「…………」ジトー

「…………(なんだろう。すごく睨んでいる」

「…………」ジトー

「……もしかして女の子、とか?」

「…………うん」

「ああ、ごめん。失礼だったよね。本当にごめん」

「むすー」

「あ、あれだよ。こんなに可愛い子が女の子のはずがない、っていうか……」アハハ……

「……ぇっ!」キラキラ

「……(おっ?」

「それ、本当? 私、可愛い?」

「……(あ、この子扱いやすい」

「…………」キラキラ

「うん。そのショートヘアーが似合っているよ。それにそのマントも、少し背伸びしている感じがいい」

「あはは。そうかなー」テレテレ

「うんうん。その笑顔も、すごく女の子らしい」

「いやーん、もー。上手なんだからー」キャッキャッ

「……(漫画の見様見真似で言ってみたけど、案外通るんだ。……ってかこれ、最初と真逆だよね?」

「……ところで、君はこんな時間に何をしているのかな?」

「それ、私がお兄さんに聞いたんだけど~?」

「あっ……」

「まぁいいけど。私は夜のお散歩よ? 夏なんだもの」

「へぇ。……まぁ、夏だしね(何が……?」

「ええ。それで、お兄さんは?」

「……僕はついさっきまで倒れていたみたいだ」

「ふーん。遅かったのね~」

「ん? 遅かった?」

「なんでもないわ。それより、倒れる前はなにしていたの?」

「え? …………それ、は……」


「うん。それは?」

「…………死のうと、していたんだ。いや、もうした……というのが、正しいかもしれない」

「…………」

「すごく高い事で有名な崖があって、そこから飛び降りれば死ねると思って、飛び降りたのだけど……その途中で気絶しちゃったらしくて」ハハハ

「…………」ギラッ

「……でもそれなら、どうしてこんな野原にいるんだろう。……もしかしてここって、冥府……?」

「めーふ?」

「あ……地獄の事、かな」

「んー。じゃぁ、違うかな~。ここはね、『幻想郷』って言うんだ」

「『げんそうきょう』?」

「お兄さんは”幻想入り”……いや、”神隠し”にあったってことになるかな」ニコニコ

「神隠し……って、突然人が居なくなる、あの現象の事……っ」ゾクッ

「そーそー。お兄さん、結構賢いんだねー」

「……それは君の方じゃないかな。神隠しなんて、今時の女の子はあんまり知ろうともしないし(何だ、今の寒気……」

「へぇー。でも、私『達』は生きる為に必要だしね~」ニコニコ

「私達?」

「そ。神隠しにあったのか、幻想入りなのかで、手を出していいか変わるんだ」フフフ

「???(何の事?」

「だけど、久しぶりだな~。人間の肉って」

「人間の肉?」ゾクッ

「ねーえ、お兄さん」ジロリ

「う、うん?」

「お兄さんは、どんな味がするのかな~?」ニヤァ

「な、何の冗談……かな(何が」

「ん~。別にわかんなくてもいいけよ~? だってお兄さん、これから死ぬんだから」ギロッ

「……! (瞳孔が、縦に」

「ふふふ……」ブブブッ

「冗談……だよね?(次は羽……」ジリッ

「あれ~? 賢いと思ったのに、やっぱり駄目かしら」ブブブッ

「ん? 羽音………………」

「でもまぁいいか。どうせ胃の中に入っちゃえば同じだし」ブブブッ

「……あ……あわわ……」

「じゃぁ、覚悟し――」ブブブ

「む、むしぃいいい!」ダッ!


「――て、……って、えー」

「うわ、うわああああ! (虫、虫、虫!?」

「待ちなさい、人間!」フワッ! ブブブッ

「いやだああああ!!」

「食べられなさーい!」

「虫だけはいやだあああああ!!!」

………………

…………

……

「……全く、何よこれ。人の叫び声が聞こえたかと思ったら」

「うわああああああ!」

「まてーーー!」

「本気で逃げてる男に、あの蛍か。……男の方は涙目じゃない」

「むりむりむりむりーーー!」

「まったく。よっと」スタッ

「っ!? た、助けてー!」

「構わないから、後ろに……」 ピュー

「虫だけは無理なんだあああー!」

「…………いい年に見えたんだけど。まぁいいわ」

「……み、巫女っ!?」

「色だけで判断してないの。馬鹿?」

「馬鹿じゃないっ! ……って、ち、竹林にいる火人間じゃない」ガタガタ

「ひ人間、ね」

「な、何の用!」ガタガタ

「単に悲鳴が聞こえたから来ただけよ?」

「ど、退いてよ! あの人間を食べれると思ったのに!」

「はぁ。あのねぇ。私がそう易々と見過ごすと思ってる? いや、思ってないわよね」

「そ、そんなこと……」

「あんたさっきから震えすぎ。虫だからって、分かりやす過ぎよ」

「む、むむ」

「判ったらさっさと帰った帰った。さっきの男を追いかけなくちゃいけないんだから」

「そう言って、貴女が食べるつもりなんじゃ?」

「……人間なんて、美味しくもないわ。それが外のなら、尚更にね」

「………………そうだっけ?」

「そーよ。ほら、しっしっ」

「ぐぬぬ、覚えてろー!」

「あんたがねー。……さて、と。さっきの男はどこ行ったのかしらね~」フワッ


~~~南の原の東の方~~~

「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」

「……はぁーー。なんとか逃げ切れたみたいだ」

「さっきの女の子には悪い事したかな……」

「…………それより、あの子だ。瞳孔が縦になるなんて、人じゃあり得ない……はず」

「それとも、『げんそうきょう』の子なら普通なのか? ……いや、そんな地方の話は聞いた事もない」

「一体、どういう……」

「なんだ。以外に平然としているわね」

「……! だ、誰! ……あれ、誰もいない?」

「上よ、上」フワー

「う……え? …………浮いている」パチクリ

「やっほー。さっき置いてかれた女の子よ」フリフリ

「あ……ご、ごめん。……虫を止めてくれたのかな」

「まぁ、一応ね。あんたはわき目も振らず、全力で逃げてたわね」ケラケラ

「う……虫は苦手で…………ごめん」

「苦手って感じじゃなかったけど? もっとひどかったじゃない」

「……あ、あの数相手なら、大抵の人は逃げると思うよ。……本当に大丈夫?」

「まぁねー。傷の一つも負ってないし、負ってても残らないから大丈夫よ」

「それは良かったけど、やっぱりごめん。……見知らぬ女の子に任せるのは、あまりに……」

「あー、まぁ謝りたいなら別にいいから。それよりも、あんた外の人間?」

「? 外?」

「そ。『幻想郷』の外の人間か、って話」

「うー……うん。僕は長野の……」

「別に、何処に住んでたかはとうでもいいのよ。……なるほどね~」

「っ! もしかして、君も僕を襲おうって考えて……?」

「……何? 私って、そんなに人喰いに見えるのかしら」

「い、いや、ごめん。でも僕が『げんそうきょう』を知らないって言ったら、さっきの子が似た事言ったから……」

「ここに住んでるのは、だいたい同じ反応するわよ。十中八九」

「ああ……そうなのか(皆慣れている……って、事なのかな」

「だから、一々気にしなくていいわよ。それより、移動しましょ」

「あ、うん、ごめん。何処に行くのかな」

「人里。ああいうのに襲われない、安全な場所よ」


~~~人里・静寂が支配する頃~~~

「……ほほぉ」

「ここが人里。この中で手を出すのは御法度だから、安心していいわ」

「うん。……でもそれって逆を言えば、襲われたくなかったらずっといろって事……?」

「自衛出来るなら、私みたいにすればいいのよ。でもまぁ、あんたじゃ出来そうにないけど」

「う……お察しの通りです」シュン

「足は速いのにね。さてま、この時間じゃぁ長老に迷惑かしらね」

「長老?」ジリ

「身構えるほどの事はないわよ。けどま、どうせその前に話さないといけない事があるし、慧音の所に行くかな」

「……? (知人……かな?」

「……どーしたの。ほら、突っ立ってないで着いてくる」

「あ、うん。ごめん」

「…………」

~~~寺子屋~~~

「やっほー慧音。お邪魔するわよー」

「あ、あれ。ノックとかは……」

「いーのいーの、私と慧音の仲な……」 ヒュン

  パコーン

「あいたっ」

「良い訳ないだろう。人が授業しているのを知っている癖に……」ハァ

「す、すみません。かみ……しろさわさん?」

「上白沢(かみしらさわ)です。貴方が謝る必要はないですよ」ニコッ

「あ……(優しい人っぽい」

「叱るときは、相変わらずチョークなのね。ってか、なんで対応が違うのよ」

「その人はちゃんと礼儀がなっていたからだ。それに、簿記の場合もある」

「……? (そういう話なのかな?」

「それでどうしたんだ、妹紅。見知らぬ人だが」

「外の人間よ。襲われてたから、助けたんだけどね」

「あ、すみません。助けて頂きました……」

「……そういう事でしたか。何も分からず、大変でしたでしょう」

「あ、はい。すみません、その通りで……」

「…………」

『けーね、まーだー?』

「ああ、もう少しだけ待ってくれー! ……妹紅、どの程度まで話した?」


「幻想郷って事だけ。後は見たまんま、って所かしら」

「……ふむ。ちょうどいいな。どうでしょう、”この世界”について、知りたくはありませんか?」

「この……世界?」

「はい。大げさと感じられたかもしれませんが」

「い、いえ、すみません。そんな風には思ってもいません!」

「……でしたら、宜しいのですが。それで、どうなされますか?」

「あー……じゃぁ、お願いします」

「はい。では、どうぞ中へ。ただくれぐれも、大声は出さないでくださいね」

「はい……? (夜だから、かな。普通は」

  ギィ ギィ ギィ

「こちらです。すまないな、フランドール。待たせてしまって」

『本当よ。まーたもこうの所為でしょ』

「ぐぬぬ」

「何がぐぬぬだ。……だが今日は、感謝する方かもしれないぞ?」ガラッ

「お邪魔しま…………す……? (なんだ、あの子?」

「? だーれ、その人間?」

「? 妹紅さんの知り合いですか?」

「いいや、里の外で知り合ったんだそうだ。……”幻想入り”してな」

「えっ、幻想入り!?」ガタッ

「…………羽飾り?」ポカーン

「そうだ。だがまだ、この人はそれを知らないぞ?」

「なんと。では、これから?」

「ああ。だがそれは、フランドールに任せる事にしよう」

「えっ? なんでなんでっ??」

「覚えるには、教えるのが近道だからさ。抜けている部分はその都度合の手を入れるから、安心しろ」ニヤッ

「あ、あの。上白沢さん」

「はい、なんでしょうか?」

「あの子……貴女がフランドールって呼んでいる子なんですが、……あれは、ファッションなのですか?」

「……それも含めて、お教えしますよ。ようこそ、『幻想郷』へ。貴方のお名前、聞かせて貰っても?」

「あ、はい、すみません。申し遅れました、

 伊東 陽向と言います」


以上で投下を終わります

次回はこの続きということで

では

今更だけどタイトルはなんて読むの?

>>37
そういえばきちんと言っていませんでした。「とうほうひなたく」と読みます


 思えば、あの時は酷い事をしたものね。
 みてくれさえ見ずに、わたしわたしわたし…………。
 それでも見てくれたあの人の、でもやっぱり情けなかった姿を、今も、昨日の様に……。

~~~寺子屋~~~

「…………」

「――が、幻想入りって事よ」フフン

「…………? (何を言っているのかな、この子??」

「良かったぞ、フランドール。きっちり覚えていて、先生は嬉しい」

「えへへー」

「…………え、えーっと?」

「流石、聞いただけで話せるようになっただけはありますね、フラン様!」

「ふーん……」

「…………(おいてけぼりだ」

「だが……どうやら伊東さんには、きちんと伝わらなかったようだな」

「え、あ……はい。すみません……」

「もー。ちゃんと聞いてなかったの、人間」

「え、いや、あの……」

「そういう問題じゃないぞ、フランドール。もっと根本的な問題だ」

「そうなの?」

「そーそー。そもそも、外の人に結界だのなんだの言っても、通じるわけないでしょ?」

「……そうなの、けーね?」

「そうだな。外の世界じゃ、魔力や霊力、妖力が関わる、所謂不可思議な力は、その殆どが夢か嘘だからな」

「へー」

「そうでしょう?」

「え? あ、いや、結界とか……そういう話は、まぁ、分かったんですけど……」

「……けど?」

「『ハクレイ大結界』の外で忘れられたモノが、結界を通って、ここ『ゲンソウキョウ』に来るだなんて、そんなの……」

「…………」

「……冗談、ですよね……?」

「…………」

「ま、当然の反応ね」

「ね……ね?」

「……残念ですが、事実ですよ。現に、外で忘れられた私達妖怪が、ここにはいますから」

「よ、妖怪? 妖怪って、から傘お化けとか、ぬりかべとか、こなきジジイとか、目玉おやじとか……?」

「最後はともかく、他はいるわね」


「……貴女達が、その、妖怪……だと?」

「その通りです。おおよそ、見えないでしょうが」

「み、見えるわけないじゃないですか! 皆さん、ただの少女にしか……」

「えーっと、妹様……あ、こちらの幼女を見ても、そう思われます?」

「めーりん……?」ジトー

「う、うん」

「この羽根をみても?」ガシッ

「コスプレしているようにしか……」

「この羽根では駄目ですか」ウムム

「……黙っていたが、その羽根は吸血鬼でも相当珍しいと思うぞ」

「……吸血鬼??」

「ええ」

「…………吸血鬼は妖怪じゃなくって、西洋の怪物ですよ? こんな、可愛らしい子なわけ……」

「…………」バサッ

「っ!? う、浮いた!?」

「さっき見せたじゃない。何驚いてんの」

「い、いや、確かにそうだけど……よくよく考えたら、浮かんでいるのはおかしいですよ!?」

「私達からすれば、普通なんですけどね~」フワッ

「わっ!」

「浮かび過ぎないでくれよ?」

「はーい」

「な、な、な……」

「あははー。変な顔ー」

「あまり笑ってやるな。慣れていないのだろうからな」

「…………」

「しっかしまぁ、これでよく蛍から逃げれたわねぇ」

「蛍? ああ、あのリグルという妖怪ですね」

「強いの?」

「いえ。弾幕勝負でなければ……」

  ワイワイガヤガヤ……

「…………(な、何、この状況」

「…………」


(……ここは、げんそうきょうで、妖怪が居て……)

(……そっか。そうじゃないと、あの虫の大群が僕に来た理由が説明出来ないや……)

(そう……あれは、明らかに………………)ブルッ

(じゃぁ、まさか、まさか……僕は外で、忘れられた……?)

「……伊東さん。大丈夫ですか?」

(…………ははは。そっか、そっか……そうだよね……僕なんて、忘れられて当然だ……)

「おーい、伊東?」

(何も出来ない奴だ。皆が覚えてなくても……当然か……)

「はは……」

「!」

(……なら……もう…………)

「は、ははは――」

 どうにでm パシンッ

「――っ!?」

「? 何々、どうしたの?」

「まだそうと決まったわけじゃないぞ、伊東!」

「……? 何が、ですか。今の話が本当なら、僕は、外で……」

「物分かりの早い奴は嫌いじゃないが、お前は少し早すぎる!」ガシッ

「だから、何がですかっ!? 幻想入りしたってことは、僕は外でふよ――」

「いいから聞けっ!」ドンッ

「――ぅ、うわっ……!」

  ドスンッ

「いっ……な、何を……」

「…………」

「……!」ドキッ

「…………」ジーー

「…………(眼が、青色……で……」

「一体どうしたというのですか、慧音さん?」

「……壊れるのを、堰き止めてる感じかしらね」

「壊れる? どーいうこと?」

「……心が死にかけている、という事ですか」

「……話を、聞いてくれるな?」

「へ? なんで今ので死ぬの??」

「…………はい」ボー


「……よし。悪い、フランドール。事情はもう少し後だ」

「……やだ。なんでそいつが壊れるのか教えてよ」

「それは伊東さんが話す事だ。だがそれはまだ早い。これから私が説明しなくては……」

「ならさっさと話しなさいよ、“ニンゲン”。なんでお前はこわ――」

「フランッ!!」

「――っ!」ビクッ

「……ヒュゥ」

「…………」ボー

「これも授業の一環だ。大人しく聞いていられないと言うなら、帰って貰うぞ」

「やだっ!」

「なら、良く聞いておくんだ。幻想入りとは別の方法について、これから……」

「ヤダヤダヤダッ!! そいつばっかり構ってズルイ! 慧ネの授ギョうは私ガ受ケテるノニ!!」

「フラン様っ、いけません。見ているのも立派な勉強で……」

「ダマッテ、メイリン! ドウシテモワタシヲムシスルナラ、ソンナニンゲン……!」

「……ちっ。慧音、そいつ守って……」

「……良いですよ、上白沢さん。……僕が、話してからでも」

「「!」」

「え、あ……大丈夫なのか?」

「……はい」ボケー

「いや、明後日の方向みて「はい」じゃなくってさぁ……?」

「モコーは黙ッてテヨ。ソイつがハなすって言ウんダから」

「……あんたねぇ」

「良いんですよ。除け者みたいにして、ごめんね」ボー

「イいから、早ク話シナサい」

「うん。君がさっき話していた、幻想入りの話。良くわかったよ、有難う」

「っ。と、当然ジャない。わたシを誰だと思ってルのヨ」

「うん。……それで、僕は自分の事を考えたんだ。僕がここに来たのも、その、幻想入りなら……」

「…………」

「……僕は、外の世界で要らなくなったんだな、って……」

「…………」

「そしたら、急に、全部、どうでもよくなってさ……どうにでもなれーって、死んじゃってもいいんだ。って、さ……」

「どーして?」

「どーして、って……?」

「あなた、まだ生きてるじゃない。どーしてそんな簡単に、死にたがるの?」

「え、えーっと……」


「フランドール。人間というのは、独りじゃ生きていけない生き物なんだ」

「それとこれとが、どー関係してるの?」

「それは、場合によりけりなんだが……」チラッ

「……僕の場合、社会の歯車……集団の一員だと思っていたんだけど、それは勘違いだった……って、事かな」

「ふーん。それで?」

「……独りなら、どうなっても……生きている意味がないや、って……」

「やっぱり分かんない。けいねやもこーは?」

「そうね。……独りは、潰れそうになるわ」

「私も、厳しいな」

「……分っかんない。美鈴は?」

「私は……忘れてしまいましたね」ハハハ

「とにかく、そういうものなんだ。……それで、私の話を続けてもいいか?」

「分かりそうにもないから、いいわ」

「……そうか。伊東さんも、構わないですね?」

「はい。……別の何かがある、って事なのですよね?」

「……ええ。神隠し、というものが」

「かみかくし?」

「……人が忽然と消えてしまう、あの現象」ボソッ

「ええ。その可能性が、まだ残って……」

「あの女の子も、」

「……?」

「僕を襲ってきた、あの…………む、虫の……」

「ああ、あいつか。あいつがどうしたのよ?」

「……あの子、も、僕は神隠しにあったって、言っていました」

「…………」

「もしかしてそれって、頻繁に起ることなのですか?」

「ええ、まぁ。特定の人間を、とある妖怪が…………助ける為に、するのですよ」

「「…………」」

「助ける……為……」

「とある妖怪って誰~?」

「八雲紫さ。スキマの事は、知っているだろう?」

「お姉様が時々話してるのは聞いたことあるけど……」ウーン

「これもおいおい教えることだから、今は流すぞ?」

「はーい」


「じゃぁ、僕がここに来たのは、助けられたから……だと?」

「そうかどうかは、貴方の話次第ですね」

「僕の、話?」

「はい。……ここ、幻想郷へ来る前に、何をしていたのか」

「っ!」

「「…………」」

「……(まただ。あの子に話した事と、同じ……」

「覚えていなかったり、辛いのでしたら、無理に話さなくても構いません。こちらから、話すだけですので」

「……(皆、聞くのが習わしなのかな?」

「どうしますか?」

「……いえ、大丈夫です。何をしていたか、ですよね」

「ええ。今日、一日の事を」

「……死のうと、していました。それも、崖から」

「…………」

「僕は、生きる意味を見失って、何日か塞ぎこんでいました」

「……何も出来ない僕なんか、生きる価値がないだろう、と」

「そして今日、死ぬ事を、決心しました」

「後は殆ど何にも眼もくれず、ネットで近場の高い所を探して、そこに車で直行して……」

「山奥だったから、途中から歩いて、崖について……」

「……綺麗な山の景色を見て、虚しくなって……」

「……飛びおりました」

「…………」

「その途中で意識が途絶えて、気付いたら、原っぱにいました」

「後はもこうさんが知る通り、だと思います」

「……そうですか。何故、生きる意味を見失ったのか……」

「…………」

「……は、聞きません。思い出したくないでしょうしね」

「えー? そこがかんじんなところでしょー?」

「フラン様。そこは、流石に……」

「……フランドールは、この男に裸を見られたいのか?」

「ぇっ……見たら壊す」

「……まぁ、それでいい。今、お前が言ったのは、同じようなのだと思うんだ」

「むー。まーいっか。どうでもいいし」

「……(どうでもいい、か」


「後、一つだけ。飛び降りた時、何か不自然な光景が見えたりは?」

「不自然な?」

「あり得ない光景です。空間が割れたように見えた、とか」

「……すみません。すぐに意識が途切れたらしくて……覚えが」

「そうですか。しつこくなって、申し訳ない」

「い、いえ」

「ですがこれならば神隠しにあったと考える方が、自然だと考えられますね」

「……つまり、死にそうな所を救われた……」

「ええ。だから、貴方が思ったような事では、決してない」

「…………」

「さっきから、何のことー?」

「なんでもない。ともかく、これが幻想入りと、神隠しとの違いだ」

「…………」ハァ

「お疲れですね。まだ、話さなければならない事はあるのですが、それは明日以降にしましょう」

「……すみません。でも、寝泊まり出来る所って……」

「うちの、客間をお使いください。もう、夜も遅いですし」

「え、そ、そんな。迷惑じゃ」

「構いませんよ。元々、この家は部屋が余っていますし」

「私もちょくちょく、泊まってるしね。右も左も分からないんだし、遠慮しないの」

「あ、はい。すみません……」

「そういうわけだが……時間も頃合いだ、今日はお開きとしよう」

「えーっ!」

「いいじゃない、フラン。今日は結構、珍しく実証的だったんだし」

「もこーの所為でしょ、こうなったのは!」

「そう怒るな。埋め合わせは、必ずするから」

「……約束だからね、けーね」

「ああ、約束だ」

「ふん。じゃぁ帰りましょ、美鈴」

「はい。それでは、また。イトウさんも、あまり落ち込まれませんよう」

「はい。……すみません」

「…………」

「……行ったわね。じゃ、こっちは」チラッ

「…………」ボー

「? どうしました、伊東さん。どこか、痛む所でも?」ヌッ

「っ! い、いえっ! だ、大丈夫です!」サッ

「……それならいいのですが。では、こちらへどうぞ」


~~~客間~~~

「人里に入った時から思っていたのですが……」

「ん?」

「すごく純和風だなー、と」

「ここ、人里の家はその殆どが日本家屋ですからね。西洋や大陸建築となると、里を出なければ中々みれません」

「へぇ……」

「布団ですが、左手の押し入れにありますので、そちらを。浴衣は、これから探してきますね」

「はい。お願いします」グーー

「!」

「あ……(は、腹の虫ー!」カーッ

「あはは。それから、少しだけお腹に入れられる食べ物も」ニコッ

「す、すみません……」 ピシッ

「……そういえば、どれぐらい寝ていたんだろう」

「落ちた時は……たぶん、5時……だと思うけど……」

「…………時計もないから、分からないや」

「…………」

(……慧音さんの目……綺麗だったなぁ……)ボー

「…………」

………………

…………

……

「すー……すー……」

「…………」ピシッ

「寝たわね、伊東さん。あんなこと言ってるから、もーすこしかかると思ってたけど」

「飛び降りる勇気があるぐらいだ。どこか、肝は据わっているんだろう」

「残念な据わり方してるきがするわね。……ところで、慧音」

「なんだ」

「あの嘘……あいつの為なんだろうけど、いいの?」

「……仕方ないさ。ああでも言わないと、折れていただろうしな」

「そうだろうけど、いつかはばれるわよ?」

「その時までに克服出来ていなければ、やはり神隠し相応だったというだけさ」

「そうだろうけども。……でもま、助けた命がすぐに無駄になるのは、良い気持ちじゃないからいいか」

「ただ、彼は物分かりがよすぎる。気付くのも、そう遠くない気はするな」

「……駄目だったら、蛍に返せばいいのかしら」

「知らん。というか、そういうことはあまり考えたくない」ハァ

「はは。ごめんごめん」

 


以上で投下を終わります

次回は視点がだいぶ変わります。空の上的な理由で

では


 あの子が、何処から来たのか。
 あの子は、どうして来たのか。

 あの子に、何を貰ったのか。
 あの子に、何をしてやれたのか。

 それを今も、私は探している。

~~~???~~~

「…………」

「…………」

「…………?」キョロキョロ

「……」♪

「…………」ギッ

「…………」パクッ

「…………」ギギッ

「――――っ」♪♪

「……ああ、こちらに居られましたか、幽々子様」

「おーいしー」キャッ

「? 何を食べているのですか?」

「五平餅よ~。藍が持ってきてくれたの~」

「そうですか、それはどうでもいいのです。実は少々聞きたい事がありまして」

「ん~? あの犬のことかしら~?」

「はい。あれはやはり、幽々子様が?」

「さ~。どうかしら~?」

「どう、とは?」

「それぐらい自分で考えなさい。なんでも人を頼るのは、ナンセンスよ~?」

「すみません。…………」トコトコ

「……すぐに引き返すのも、従者としてはだめだめよ~、ようむ~?」ショボーン

 

~~~白玉楼・枯山水~~~

「…………」

『…………』

「おまえ、そこに座ってどうしたの?」

『…………』

「そんな足場の悪い所(*石燈籠の上)よりも、あっちの石のほうがいいわよ?」

『…………』

「…………」

「……(犬の霊。は、別段珍しくない。動物の魂だって、ここ、冥界には溢れているのだから」

(そしてまた、生前の習性に従って動く者も珍しくはない。幽霊とは生体の気質であり、習慣を繰り返すのはある種、当然)

(けれど、この犬は少し珍しい)


『…………』

(生前の習慣を繰り返す。それは、往々にして未練がある者がする事が多い)

(自分が死んでいると知らなかったり、あるいは認めないで、生きているのだと錯覚するために)

(そのどちらも、死を認めるまでは、せいぜい道具を動かす程度)

(激しい習慣があればその分規模も大きくなるが、それでも害は殆どない)

(だが、死んだと気付いた時……その現実に気付かされた時)

(多くはその縛りから解放され、亡者生活を満喫するか、成仏して輪廻に帰るかする)

(残りの少数は、それでも死を認めず生に縋ろうとして、あるいは生ある者を恨んで、怨霊と化す)

(私が生きてきたこの45年の間、それ以外の存在を見た事は、主とその他ごく少数しかない)

(それでも、この犬は少し珍しい)

『…………』フリフリ

「っ!」バッ

『…………』フリ……フリ……

「…………」ジッ

『…………』ショボーン

「…………」?

(この犬も自分が死んだ事は分かっているようで、なのに習慣らしき行為を続けている)

(この1週間、ずっと、ここに座ったままで)

(まるで、誰かを待ち続けるかのように)

「…………」

『…………』

(先程のその他の中にも、習慣を続けている者は、いるにはいる)

(だがそれは、まず確実に、ただの遊びであり、刹那的に”今”を感じるための行動に過ぎない)

(この犬の様に、真剣に行っている訳ではないはず)

(でなきゃ、私は一体何をしていることに…………)

「……こほん」

(いけない、話が逸れた。集中集中…………)

(……ともかく、そういった理由のはずであり、生前への未練は欠片もないはず)

(だからこそ、この犬は珍しい)

(何を考えているかまでは分からないが、この真剣な様子は、総合的にも霊として珍しいの)

(だから少し、興味がある。何を考え、何を思っているのかが気になる)

(この新米幽霊は何故、怨霊にもならず、他のようにふらふらともしないのか)

(しかし、しかしだけど……)


「ほら、わんちゃん。おいでー」

「ほーら、骨よー」

「犬マンマのほうがいいかなー?」

「…………(ふりふり」←猫じゃらし

「…………」グイー

『…………』

(このざまである)

(まるであの妖魔(*レミリア)の所の石像ような、はたまた私を完全に無視しているのかわからないが、この状態)

(中々の難敵で、聞きだし様がない)

(あれこれと試してみたけど、八方塞がりかしら……)

「…………」

(……いや、あった。師匠の教えに、やり様があった)

(いつか、閻魔様に叱られた気もするが……最近は控えていたし、大丈夫だろう)

「真実は、斬って知る……!」シャキンッ

『…………』

「心抄……!」   ヒュー

「ぱこんっ♪」

「っ。な、なんですか、幽々子様。今、斬ろうとしていたのに」

「お腹が空いたわ~。何か作って頂戴」

「え……五平餅はどうしたのですか」

「全部食べたわ~。藍ったら、あれっぽっちしか持ってきてくれなかったのよ~」

「どの程度でしょうか?」

「二箱かしら?」

「…………」

「あれなら、もう十箱は行けたのに~」

「……分かりました。では、何か指定は?」

「なんでもいいわ~。焼き醤油以外なら~」

「畏まりました」タッタッタッ……

「……うふふ」

『…………』

「なかなか胆力のあるワン公なのね~、あなた」

『…………』チラッ

「待ち人は、ここに来るか分からないわよ~?」

『…………』スッ

「……ふふっ。気に入ったわ~。今は生かしておいてあげる」

『…………』

「往生して死ねるといいわね~」

『…………』


以上で投下を終わります

短めですが、陽那拓のもう一つの物語。その序幕です

では


 忠とは、心の中の信念につき従う異也。
 信とは、人の言の葉を纏って従う異也。

 祖を体現するに、必要なのは想いだけ也。

~~~白玉楼~~~

「…………」ジトー

『…………』

「……相変わらず、おまえはじっとしているのね」

『…………』

「あれから一週間、か」

『…………』ポフン

「……尻尾で返事」

『…………』

「……はぁ。犬畜生に舐められていて、良いのだろうか……」

「けれど、幽々子様には斬る事を禁じられたし、何か別の方法で動かせ、ということだろうか」

「うーん……」

『…………』

「……はぁ。買い出しいってこよう。何かいい考えでも浮かぶかもしれないし」

『…………』

………………

…………

……

~~~人里~~~

  カラカラ カラカラ

「……」

「お、妖夢ちゃん。買い出しかい?」

「はい。月一の方で」

「ははは……大変だなぁ」

「これも鍛錬……なんですよ、きっと」トオイメ


(ここも、私も、殆ど何も変わっていない)

(何でも最近、妖怪の山の上に、外の技術を持った神様が引っ越してきた……とかいう話を聞く)

(だが、里の風景も、人の営みも、殆ど変わらない)

(紫様曰く、幻想郷は全てを受け入れる。とのことだが、実のところは受け入れさせているのではないだろうか?)

「なーんて、ね」ハハッ

(私には、関係無い話だ)

(この事を幽々子様に訊ねてみたが、難しい事を言われただけで、結局よく分からなかった)

(……というか、「この間おちびちゃんがしたもの~」って、何か答えが違う気がする)

(だが私は気にせず、ただその答えを探し……たりもせず、お仕事だ)

「オロシさーん。豚丸ごとお願いしますー」

(深く考えたって仕方がない。これまでだって、答えの出た試しがないんだから)

………………

…………

……

  ゴロゴロゴロ……ゴロゴロ……

「……ふぅ。これで、大体かな」

「……相変わらずねぇ、妖夢。何なの、その量は」

「あ、鈴仙。白玉楼では、これが普通なんですよ」ハァ

「それは知ってるけど、やっぱり見慣れないわ……」

「一月交代すれば、身に染みると思うわよ」

「止めとく」ジリッ

「賢明。……はぁ」

「また溜息。あんたの所も結構よね、ほんと」

「鈴仙は、いつもの?」

「そ、薬の補填。まだ、途中だけど」

「そう。頑張って」ノシ

「ええ。貴女もね」フリフリ

「……あ、まって、鈴仙!」

「ん? 何、珍しい」

「あの後のことで聞くのもなんなんだけど……」

「?」

「……月に犬って、いた?」

「なーんだ、そんなこと。んー……似たようなのはいたけど、それが?」

「その面倒を見てたりとか、気の引き方とか、知らないかしら」

「……飼い始めたの?」

「いや、そういうわけじゃないの。最近、幽霊犬がうちに住みついて」

「成程ね~。残念だけど、飼ってなかったから分からないわ。元の主人からすれば、私がペットだったし」

「そっか。ごめん、呼びとめたりして」

「~~」フリフリ


「他に、犬を飼っていそうなのは。……」

  ・・・・・・

「……いなさそう。仕方ない、もう少し手探りでいこうかな」

………………

…………

……

~~~白玉楼~~~

「…………」トントントン

〔――――〕フヨフヨ

「それはあっちの鍋。入れたら弱火にして、少ししたら隣のを継ぎ足して」

〔――〕コクッ フヨフヨ

「……ふぅ」

「後は往々、様子見で……」

  ピリッ

「……妖気」カチャッ

〔――っ〕ヨロ

「…………」タッタッタッ

〔――?〕

(久しい。霊夢さんや魔理沙さん以来の襲撃ね)

(でもこいつは流石に弱弱しすぎる。身の程知らずね)キリッ

「……庭」トンッ

  サッ

「……!」

『…………』

【…………】

「あの子……なんであそこから動いていないのよ」

『ぅぅぅ……!』

【…………】グニュッ

『わんっ! わんっ! わんっ!』

「全く、世話の焼ける……!」キンッ

       白楼の太刀――『永世斬』!

【!   /
   /
, /  ?】ズッ

「妖怪の鍛えた白楼剣。斬れぬモノなど、ほとんどない」チンッ

『…………』

「仕方なく斬ったけど、こんなただの集合体なら良いわよね、別に」

『…………』


「大丈夫? けがはない?」

『……うぅぅ……』

「……何よ。せっかく助けたのに、そんな威嚇しないでも……」

『わんっ! わんっ!』

 ――】グワッ

「っ!」シュッ

 ―――――

「…………」

 ―┼】……

  ドシャッ

「……生きてたのか。おまえ、それを教える為に?」

『…………』ポフポフ

「……はぁ。私もまだまだ、か」

『…………』ポフポフ

(師匠なら一太刀で斬り伏せているだろうし、そもそもこのワン公の声の意図にもすぐ気付けた……だろうなぁ)

『……?』スンスン

〔――! ――!〕

「ん? この臭い……は…………!!!」

「しまった、かまどの火がっ!」ダッ

『…………』ポフポ……フ……

『…………』……

『…………』シュン

………………

…………

……

「晩御飯が遅いじゃない、妖夢~」

「あ、幽々子様! 申し訳ございません。今、米を炊いておりまして……」

「……」チラッ

「…………」ムスッ

「妖夢。貴女、あれはどうしたの」

「あ、あれ……ですか」アセ

「…………」ジトー

「さ、先程、狼藉を働いた者を滅する際に……焦がしてしまいまし……て……」

「…………」ジトーーーー

「…………」アセアセ


「……貴女が、あれを食べきりなさい。いいわね?」

「…………はい」ガックシ

「それで。その狼藉者って~?」

「……はい。怨念の集合体のようでした。まだ、気質という程度でしたが」

「どうしたの~?」

「二刀で、すっぱり。あの犬を襲っていたので、えんりょ……ごほん。仕方なく」

「そう。まだまだね~、妖夢は」

「うぐ。仰るとおりです」

「それじゃぁ、手早くお願いね~」

「分かりました……」

「……」フヨフヨ

「……怨念の思念体、ねぇ?」

「……」フヨフヨ

「……」

『……!』ピンッ

「ふふっ。そう畏まらなくていいわよ~?」

『……』

「……」

『……?』

「……この程度が……」

『……』

「……」ナデナデ

『……』フリフリ

「妖夢も駄目駄目ね~。もう少し、疑わないと~」

『……?』

「……貴方が、引き寄せたのかしら?」

『……?』フリフリ

「ふふっ。本当に、一途なのね~。相手がうらやましいわ~」

『……』ポフポフ

「でも、そこから動くぐらいは、してもいいんじゃない~?」

『わんっ!』

「あら。そう、ごめんなさいね~」ナデ

『……』ポフポフポフポフ


以上で投下を終わります。次回はこの続きか、陽向の話か、ちょっと不明です

なお、この犬の外見は真っ白な柴犬です。お父さんではありません悪しからず

それでは


 思い出はいつもでも思い出せる。
 思い出せてしまう。

 だけどもそれは、僕を苛む。

 綺麗であればある程、より強く、より鮮烈に。

~~~紅魔館・妹様の寝室~~~

「――こうして、旅の先に辿りついた教会で、ネロはフランダースと共に天へ召されました」

「……」

「死してなお愛犬を離さないその姿に、自責の念を抱いた人々は彼らを共に寝かせて埋葬します」

「……」

「死後もなお、永久に共に居続けられるよう、祈りをささげて。……」パタン

「……ん? 終わったの?」

「はい。読み終わりました、妹様。どういたしましょう?」

「……美鈴に渡してあげといて。一応約束だから」ファァ

「畏まりました。随分と、退屈なようでしたが」

「んー、まーねー」

「お気に召しませんでしたか」

「そりゃねー。人生の敗者が凍死しただけじゃない、それ。何がベストセラーなんだか」フン

「外の趣向は、解りかねますね」ウーン

「私、宿題してくるわ」ノシ

「よく、お学びくださいませ」カッチン

~~~紅魔館・門~~~

「と、言うわけだから。はい、美鈴」

「フラン様が……。触りは可愛らしい物語だと思ったのですがねぇ」

「読み進めればわかるわよ。ただし、門番はサボらないでね」カッチン

「はいはい、わかり……って、行っちゃいましたか。……」ジー

………………

…………

……


~~~人里・長老宅~~~

「……」

「……」

「……(気まずい。ここの仕来りらしいけど」

「……」ジー

(なんでこんな、面接のような事を……)

「……ひなさんと、申されたか」

「あ、あの、陽向です……」

「……ふむ、ひなたさんか。おぬし……」

「……」ゴクッ

「……何が、出来ますかいの?」

「わ、私は、が、学生時代に、か、家庭教師を、やっていまして」

「……家庭教師?」

「こ、個人の御宅に赴いて、一対一で勉、学の指導をする……職、です」

「……なるほど。つまり、先生さんと」

「は、はい」

「…………」

「……」ドキドキ

「……他には?」

「えっ?」

「……他に、得意な事などは……ありませんかの?」

「他……ですか。えー……後はまぁ、か、か、家事は一通り出来る。とかだけ、です」

「……ふぅむ」

「……(パソコンは使えなさそうだし言っても仕方ない、よね」

「……」

(凄く考えているな、長老さん。……やっぱり、この規模の里に二人も教師は……)

「……となれば、後は慧音さん次第じゃな」

「えっ?」

「……おや? 何を驚いておられるのですかな?」

「いえ、あの、いいのですか……?」

「……何がですかな?」

「この里に、二人も教師がいても仕方ないのでは、と。そもそも、余所者の僕に、教えてほしいと思う人なんて……」

「……ほっほっほ。この小さな里程度なら、教師一人で事足りる、と」チラッ

「あ、いえ! そんなつもりで言ったわけでは!」


「……気になさるな。外の街は大きいと、よく聞くゆえな」

「あの、本当に、無神経な事を……」

「……よいよい。それに、余所者の方が人気は出ますぞ。外の知識に、飢えておるからの」

「は、はぁ。そうなのですか」

「……じゃから、後は慧音さんと折り合いをつけてもらうだけじゃよ」

「……(いい、のかなぁ……?」

「……衣食住も、もう暫くは面倒見てもらえるじゃろう。その間に、よう考える事ですな」

「は、はい」

「……」

「…………」

「……それじゃぁ、話はここまでとして。……失礼」

「あ、はい。わざわざ、済みませんでした」ペコッ

「……」

………………

…………

……

「……という事に、なりました」

「よかったじゃない、慧音のとこにいれるようになってさ」

「は、はい。上白沢さんと藤原さんが教えてくれたおかげです。ありがとうございます」

「いえいえ。それにしても、伊東さんも教える立場にいたとは」

「と言っても、アルバイト……あ、一時的に仕事に就いていただけ、ですけど」

「ふむ。一応聞かせて貰いますが、どれほどお勤めに?」

「確か、二回生の夏頃からずっとだから……二年と七カ月です」

「へぇ。長いかわからないけど、十分なんじゃない?」

「ただそうだとしても、上白沢さんがどういう風に教えているのかとか、どの程度の知識が必要なのかによって、僕は不要になるのじゃないかと」

「……伊東さんは、何が得意ですか?」

「えと、数学と科学です。他は苦手じゃない程度で」

「あ、そろばん使える? 算盤」

「はい。頭の回転に良いからと、九段までは取りました」

「その段位はともかく、もしかしたらなかなかいい分担が出来るかもしれません」ニコッ

「え、あ、は、はい」///

「……何、眼逸らしてるの?」

「な、なんでもありません!」

「ですがその前に、私の授業を見てもらいましょう。幸い、今日は子供達がきますし」

「その事なのですけど、一昨日のあの妖怪の子って……」

「フランの事~?」

「はい。……寺子屋って、人以外にも開いているのですか?」


「……いえ。あの子が特別に来ているだけで、他にはいませんよ」

「そう、ですか……」

「安心した?」

「え? ……い、いや、不安だとか、そういうわけじゃなくって、ただ、気になっただけで」

「ふぅ~ん」

「妹紅、あまり苛めてあげるな。急に知った事で警戒してしまうのは無理ないですよ、伊東さん」

「ほ、本当にそうじゃなくって! ……ただ、上白沢さんが半妖だと言うので、手広くやっているのかな、と」

「なるほど。確かに、そう思われるのも仕方ない。
 ……ですが妖怪というのは往々にして智に疎い者が多く、聡い者は逆に私を必要としないのですよ」

「…………」

「大半が馬鹿だけどね。ほら、襲ってきたあいつもさ」

「疑わしいお前が言うな」パシ

「あいたっ」

「ははは……。では、教えている姿を見学すればいいですか?」

「はい。今日は算術と、幻想郷の歴史についての授業がありますので、筆記具だけ用意しましょう」

「すみません、お借りします」

「……なんか気になるから私も参加しよ」

………………

…………

……

~~~寺子屋~~~

「せんせー、こんにちわー」

「けーねせんせー、こんちゃー」

「はい、こんにちは。今日も元気だな、お前達」ニコニコ

「こんにちわー。もこーもこんにちわー」

「おーう。こんにちは」

「お邪魔しまーす。……ん? 誰だー?」

「あれ、本当だ。だーれ、あなた?」

「始めまして。僕は伊東 陽向。上白沢先生の授業の見学に来たんだ(11,2ぐらいの子かな」

「…………」

「見学かー」

「本当? せんせー」

「ああ本当だ。ただ、もしかしたら伊東さんは教壇に立つことになるかもしれない。ちゃんと敬語で話すように」

「おお?」


「けーねせんせー! それって、新しい先生になるってことー?」

「それを、これから判断するんだ。その為には、みんながちゃんと授業を受ける必要がある。わかったな?」

「「「はーい」」」

「……(そうなれたら、いいんだけど」

「それじゃ、伊東さんについては全員集まってから、きちんと紹介する。みんな、用意して」

  ザワザワザワ……

「……(13人で、まだ全員じゃないのか」

「あと二人だけどね」

「あ……そうなのですか」

「うん。今期は結構多いんだよねぇ。なのにまぁ、よくフランの事を受け持ったよ」ハァ

「すごく、精力的ですよね。昼も夜も頑張っているわけでしょうし」

「あー……いや、まぁそういうことね」

「?」

「よーし、皆揃ったなー。一応点呼するぞー。……」

「あ、始まる。そんじゃ私は後ろで見てるわ」

「あ、はい。……」

………………

…………

……

「……。そういうわけだから、今日はとりあえず生徒と同じようなものだ」

「一日生徒です。……よろしくお願いします」ペコ

「「よろしくおねがいしまーす!」」

………………

…………

……

「……」カツンカツン

「せんせー。ここってどう計算するんだっけー?」

「ん? ああ、そこはだな……」

「……(懐かしいなぁ、この光景」

「――?」

「~~。……」

(先生と生徒があれだけ近くで話して、算数をやって……)

「――! ――、――!」

「…………~?」

(解けたーって言って、あっていたり、間違っていたり。それで唸ったり、笑顔になったり……)

(……変わらないなぁ……)

………………

…………

……


「……」

「この頃から、人里と余所の里との認識の差が生まれ始めた。おそらくは……」

「……」チラッ

「……」ウツラウツラ

「……」カキカキ

「……」ボー

「……」

………………

…………

……

「けーね先生、またねー」

「じゃあねー」

「ああ。気をつけて帰るんだぞー」

  ワイワイキャッキャッ

「……ふぅ」

「お疲れ様です。午後丸々だとは」

「毎日出来ませんから、その分一日に凝縮しているのですよ」

「いついつ、やっているのですか?」

「月、木、土です。ついでに夜は火、金でやっています」

「……なるほど」

「それでどうでしたか。外との違いは?」

「童心に帰ったつもりで、受けられました。……流石に、歴史は教えられそうにないですけど」

「教えられた方が驚きですよ。ただ、外の『物の歴史』なら歓迎なんですよ?」

「物の。……そういう事はあまり調べた事がないから、微妙かな……」ハハ…

「……」

「……あ。動物に関する事なら結構知っていますよ」

「動物? 飼われていたので?」

「ええ。………………でも、幻想郷の人のほうがよっぽど詳しいか」フルッ

「……? 今、震えて……」

「そんな事より、藤原さんは放っておいていいのですか? 池ポチャしていますけど」

「……。いいんですよ。人の授業中に鼻提灯垂らして寝たんですから###」

「あ、ははは……」

「いくら知っている事だといえ、子供達の意欲をそぐような事……」ブツブツ

「……(あちゃ、愚痴モードかな……?」

「……それに、わざわざ聞かなくてもよかっただろうに。……――」ボソッ

「ん?」

「…………」

「……? (今、何か言った気が……?」

「…………」


「あの、上白沢さん……?」

「……ん、ああ。すみません、ぼーっとしてしまって」

「いえ。それは、いいのですが。本当に、あのままで?」

「まぁ、用があるのでそろそろ起こした方がいいとは思いますが」

「じゃぁ上げてきますね」トットットッ

「……震えたのを誤魔化す、か」

………………

…………

……

「いやぁ。久々にどきついの貰ったわ。頭まだ揺れてる……」ウーン

「そういう時はここのつぼを、ぐいっと」

「おぉおぉおぉ。きもぢぃー」

「……何をやっているんですか、伊東さん」

「酔いに効くつぼを押しています。用があると言っていたので、意識ははっきりさせた方がいいかな、と」

「ね゛ぇーごれ゛ぇ、二日酔いにも効くの?」

「残念ながら、一時的にしか。外なら、酔い止めの薬と合わせれば効果的なのですけど」グリグリ

「……はぁ。ちゃんと感謝しておけよ、妹紅」

「うん、わ゛がぁっでぇる゛ぅ」ア゙ー

………………

…………

……

「それで、何のようなの。慧音」キリッ

「……ああ。ちょっと、伊東さんと勝負してほしくてな」ゴソゴソ

「勝負? 何の?」

「算盤のだ。授業中、だいぶ暇を持て余していたから、やっていたというのは本当なのでしょうが……」ヨイショ

「藤原さんって、算盤は得意なのですか?」

「まぁ一応ね。こう見えて、英才教育? ってやつ受けた身だから」ホホホ

「…………」

「……なんでそう、疑わしいって目してるの」

「あ、いえ。別に」

「ついさっき、教養の欠片もないことしたのはどこのどいつだ。……さて、と」カラカラッ

「うお、多い」

「えっと……読上算に、伝票算だ。懐かしい」

「里ではこっちを売上算と呼んでいますけどね」フフフ

「より、生活に密着している感じですね」ニコ

「もしかして、どっちもしろって?」

「ああ。本当は別に、妹紅にしてもらう必要はないんだけどな」


「……ま、こういうのは競争気味にさせた方が緊張感持てるでしょ」

「そういう事だ」

「……(競争、か」

「さて、始めましょうか。ほら、妹紅の算盤」

「ほい。……伊東ー?」

「は、はい。すみません、ぼーっとして」

「うーん、以外と余裕ね。これは私の実力を見せてやらなきゃ」ボッ

「余裕だなんて……って、炎が!?」

「こら、妹紅。鬼火だすな」

「演出よ」キラッ

「なんのだ。……それじゃ始める。願いましては、捌萬肆仟――」

………………

…………

……

「……」

「んー」ノビー

「……(終わった後のこの緊張感も懐かしい。本当にどれもこれも、懐かしいや」

「採点、終わったぞ」トントン

「お。どうだった、慧音? 私の点数は」

「計にして180点。まぁ、流石といったところか」

「へっへーん。どーよ」ドヤ

「だが、伊東さんはそれ以上だぞ?」

「なんですと?」

「200点満点だ。流石は九段、というところでしょうか?」

「た、ただの偶然ですよ。僕だって、ミスすることは多々ありますし……」

「……ふむ。ついでだが、妹紅の間違えた問題は売上算の8,9問目だ」

「……なんでわざわざ言うの?」

「どう思います、伊東さん?」

「え?」

「妹紅が連続して間違えた理由ですよ。どちらも、途中で見るべき段差を一つ間違えていました」

「……(そういう事か」

「あれ? そうなの?」

「……藤原さんと出会ってまだ間もないのに言うのはどうかと思いますけど……」

「……」

「集中力が切れたから、じゃないかと。もうすぐ終わると焦った……いや、気を抜いた……」チラッ

「……」

「……かと」

「……」

「……」


「……(やっぱり、失礼だよね。謝らないと……」

「どうなんだ、妹紅」

「いやぁ、まぁ、そのとおりかな。途中から飽きてきたのよ、計算」

「……あれ? (あっていたんだ?」

「だろうな。途中からめくり方がぞんざいで、ちらちらと横を見ていたものな」

「そうだったのですか……全然気付かなかった」

「それでいいんですよ、普通は。……それはともかく、伊東さんが算盤を得意でいらっしゃるのは解りました」

「え? あ、はい」

「ここまで出来て、掛算割算の実法がないはずもないでしょう。珠算は来週から、一緒に教えていきましょう」ニコッ

「あ……」///

「その分担と、残りの分野については明日の昼間に話し合いましょう。今日はいろいろ忙しくて、お疲れでしょうし」

「は、はい。……あ、いえ、別にまだ、大丈夫で……」グー

「……ね?」

「……はい(まただよ、もう……」カー

「腹の虫は馬鹿正直ねー」ハハハ

………………

…………

……

「それでは、御休みなさい」

「お休みなさい。上白沢さん、藤原さん」

「うん。お休みー伊東」

  ピシッ


「……で。わざわざ私をだしにする必要あった?」トコトコ

「なんだ。ばれていたのか」トコトコ

「そりゃね。慧音が自分で言ったじゃん、「妹紅にしてもらう必要はないんだが」って」

「悪いな。……彼はどうも、謙遜しすぎる嫌いがあるように思うんだ」

「ああ、それは私も思った。ミスすることもあるって、そりゃ人間なんだから当たり前でしょうに」

「そこで、少しずつだが自身のつくように仕向けることにした。……子供達にするのと、同じようにな」

「その一環ってわけね。私が言う事じゃないけど、肩入れするじゃない」

「彼の経験が嘘じゃないと、一つ証明されたからな。疑った分、返さなくては平等じゃない」

「疑ってたんだ」

「まぁな。……神隠しにあった人間がやってきたような事とは、到底思えなかったし」

「家庭教師だもんねぇ。十分、社会の歯車じゃない。たぶん」

「もしかしたら、そっちが嘘交じりなのかもしれないが……」

「ま、嫌な事は黙ってていたいわよね。そんな風には見えなかったけど」

「だからもう少し、様子をみる。お互いにまだ、信頼関係を築けていないのだからな」

「……まるで、あの頃の私達みたい」

「……だな」ハァ

………………

…………

……

「……」

「……(上手く、里にいられる事になったのはいいけど、教師の手伝いか」

(今日のを見ていた限り、小学校の高学年から、中学の一年ぐらいまでかな)

(……大丈夫。住ませて貰うからには、ちゃんと働かなくちゃ)

(…………)

「……」zzz

………………

…………

……


~~~???~~~

「……」

「……あれ?」

「ここは……――市……?」

「……っ!」

『…………』

「あ……ああ……」

『ちょっと待っていて、――。すぐ、戻るから!』

『…………』

「……駄目。行くな……」

『…………』

「置いて行ったら駄目だ……駄目なんだ!」

『…………』チラッ

「っ」

『……』ジッ

「み、みないで……」

『……』……

「やめろ……やめろ……!」

『……』……

  ―――――

「止めてくれええええ!」

 

 

「はぁっ!」

「……はぁ、はぁ、……」

「……夢……」

「……」

「……ごめん。ごめんよ……僕の、せいで……」

「……ごめんよ……」

 那拓………………

…………

……


以上で投下を終わります。陽向の話となりました

二話程度でサイド交代していこうかな、と思います

それでは


 人は誰も、理由なしにそこにはいない。
 それが寂しくても、嬉しくても、忘れられてだとしても。

 今なら……分かるんだよ? ――――。

 

~~~寺子屋~~~

「……」ジー

「……」カキカキ

「せんせー、これの書き順ってー?」

「ん、どれどれ……」

「……(やっぱりというか、旧字体が多い。それも、一割二割じゃなく、半分以上」

(まぁ、歴史の授業からしてそうだったし、当然なのだろうけど)

「…………?」

「……(それよりも、この授業の方法。全員で用意ドンじゃなく、それぞれに合わせる手法」

(算術がそうだったから何気なく見逃したけど、個々に合わせてやっているみたいだ)

「…………」ジーーー

(いいなぁ。慧音さん)ホッ

「…………」ジーーー

………………

…………

……

~~~西の更地~~~

「とおりゃー!」

「伊東先生、そっちいったぞー!」

「よーし、任せて……とぉっ!」スカッ   ドテッ

「何してんだよ、せんせー」

「こけてやんのー」

「大丈夫ー?」

「あは、あははは……(穴があったら入りたい」

「なーにしてんのよ、伊東」スッ

「どうにも、運動は苦手みたいで……」ハハハ

「走るのは得意なくせに。ほらほら、ボールがあっち行っちゃってるわよ」

「あっとっと……」ダッ

「うん。やっぱ走るのは早いわよね」ウンウン

………………

…………

……


「じゃぁまたねー、せんせー」

「ああ。気をつけて帰るんだぞー」

「いとーさんもー」

「うん、またー……」ハハ

「……ふわぁぁぁ」

「だいぶ、お疲れのようですね」

「恥ずかしながら。子供達の体力は、どこの世界でも無尽蔵ですね」

「そういう伊東はあんまりないわよね。家庭教師って奴、長い事してたんでしょ?」

「家庭教師は基本的に、『書いて覚える事』を教える事しか求められていません。それに僕は元々、運動が苦手ですから」

「そうなんですか。なんというか……」

「俗に言う、もやしってやつ?」

「はは……否定できません」

「ずばって言うなよ、妹紅……」ハァ

「こればかりは、本当にセンスの問題ですから。それよりも、サッカーが幻想入りしているとは思いませんでした」

「あら。外で廃れているもんだと思ったけど」

「いえ、全然。ワールドカップ……世界の国々の代表同士での試合をする大会ですけど、それが四年に一度行われています。
 TV中継されて、意外と皆見ている感じで……幻想入りする程忘れられているとは」

「世界規模ねぇ。……なんで知ったんだっけ、慧音?」

「私も詳しく『視ていない』から分からない。ただボールとルールブックがあって、気付いたら自然と広がっていたようだ」

「へぇ」

「……? 見ていない?」?

「ええ。……あ、そういう透視能力があると思って頂ければ」

「はぁ……透視能力が」

「誰かの持ち物が入ってきたのかもね~」

「かもしれないな。まぁ、害はないし詮索することもないさ。それより、伊東さん」

「あ、はい?」

「そろそろ、身の回りの物を揃えては? 色々と、不便でしょうし」

「そうしたいのは山々なんですけど、お金がないですし……」

「それでしたら気にせず。前払いだと思って頂ければ」

「いえ、でも……」

「それともなーにー? 慧音のお古がずっと使いたいとか?」

「え? い、い、いや! そういうわけじゃないですよ!? ただ、そんな借りるような事してもいいのかと……」

「……」

「うちはお金に困っているような事はありませんし、そんな重く考える必要はありませんよ」

「……」ンンン


「……はぁ。妹紅。頼めるか?」

「ん? ああ、構わないわよ。無理やり連れて行くわ」

「え? あ、そんな」

「はーいはい、つべこべ言わない~。里の案内も兼ねるんだから、さっさと来る」グイッ

「あ、あああー…………」ズルズル

「あまり遅くならないように~」フリフリ

「……さて、明日の用意でもしておくか」クルッ

 

「……(結局、色々な物を買い揃えてしまった……」

「……ん~? 荷物大丈夫~?」

「はい、大丈夫です。……ただ、ちょっとこれは流石に多くありませんか?」

「ああ、私のもいくつか入ってる。ついでだから買っといた」

「えぇ……」

「男なら気にしないの」ニヒヒ

「……おん? 竹林の案内人じゃねぇか」

「ん? ああ、棟梁さん。久しぶり」

「……(妹紅さんの知り合いか」

「あの時は世話になったぜ。それより、連れの男は?」

「……外の人間。先週、神隠しにあったのよ」

「ほぉ。……」ジロジロ

「あ、どうもすみません。伊東と言います……」

「……俺は篠坂。里の大工受け持ってやがる。よろしくな」

「はい。よろしくお願いします」

「何か大工仕事があれば、任せてくれ。ある程度、融通きかせやすから」

「え、は、はい」

「うんうん。そんじゃなっ!」

「…………江戸っ子?」

「さぁ。ま、人間相手には気の悪い奴じゃないし、腕も確かだから頼っていいんじゃない?」

「そうなのですか。……ん? 人間相手?」

「そ。昔ちょっとあってねー。人間以外不信? みたいな」

「……話せないようなことがあった、というわけですか」

「そーいうこと。知りたかったら、あいつに直接ね。んじゃま、寺子屋に戻りましょ」

「はい。……でも、そういう人達って…………?」

「ん? なんか言った?」

「ああ、すみません、何も。上白沢さんに怒られないうちに、早く帰りましょう」ササッ

「まーた呟きか。……しっかしなんで、風呂敷が似合うかな?」

………………

…………

……


~~~翌日・夜~~~

「けーねー! 今日も来たわよー!」

「お邪魔します、慧音さん」

「待っていたぞ、フランドール。美鈴も」

「ねーねー、今日は何を教えてくれるの~?」

「予定通り、お前がこっちに来てからの歴史の続きだ」

「お姉様が暴れたっていう、あのやつね。めーりんは知っているのかしら?」

「ええ。ただあの時、私は館で留守を預かっていましたので、詳しくは……」

「こらこら。私の役目を取らないでくれ」

「はーい。てへへ」

「全く。ほらほら、早く教室に入った入った」

「はーい」トッタッター

  ガラッ!

「へへーん。……あれ?」

「ど、どうも」ハハ……

「……なんでいるのよ」ジロ

「その、歴史の勉強を……」

「一緒にと思ってな。彼もこの里で暮らし、ここで教壇に立つ以上、ある程度は知っておいて貰わないと」

「里に暮らすとかなんてどうでも…………え? きょうだんに立つ?」

「ああ。里の子達相手にだが、珠算と化学の助手になってもらった」

「ほほぉ。イトウさん、学問が得意なんですね」

「それほどでも、ないですけど」

「……ふーん。こんな弱くて青っぽい人間がねー」

「うぐ……」

「こら。強さだけなら、私だってお前には負けるぞ?」

「でも、けーね先生は長生きで、だからいろんな事を知っているでしょ?」

「確かに色々と知っている自信はある。だが、それに若いとか高齢だとかは関係ないぞ」

「?」

「現にお前さんや美鈴は、知っている事しか知らなかった。違うか?」

「う……それは知る機会がなかっただけよ」ブー

「生きることに精いっぱいでしたしねぇ、私は」ハハハ

「まぁ、フランドールの場合は止むをえないが。しかし、彼はこの年で他人に教えられるほど、知識を持っている。それも、多方面でな」

「……信じらんない」

「ははは……」

「私が実際に目で確かめた。そういうわけで、住み込みで働いてもらう事になった」

「えー! 住み込みでー!? なんでー、ずるいー!」

「仕方ないだろう。ここは紅魔館程広くないし、そもそも日差しを遮断出来ん」

「ぶーぶーぶーぶー」


「フラン様……」

「……ああ、やっぱり太陽の光が弱点なのか」

「何よ、文句ある?」

「ご、ごめん。なんでもないです」

「……いーわよ。泊まれない事はよくわかってるもん。好きにすればいいじゃない」フン

「はは……(嫌われ放題だなぁ」

「やれやれ。ともかく、始めようか」ハァ

………………

…………

……

「……これが、レミリアの起こした吸血鬼異変。里では『血喰い事件』と呼ばれるものだ」

「ふーん」

「死者は出なかったのですね」

「レミリアのやつが小食だったからな。そのころから、スカーレット・デビルというあだ名が着いたそうだが」

「……! そういえば、あの頃からでしたね」ハッ!

「でもちょっと驚きかな。お姉様も、月に酔うなんて」

「月に酔う?」

「うん。赤い月を見た私とお姉様はなんでかノリノリになるのよね~?」ウーン

「そういう事か。視た限り、とくに何もなかったが」

「……気分的な問題なのかしら?」

「かもな」

「……(満月見ると吠える、狼のような?」

「まぁ、この事でとやかく言う里の人間はいくらかしかいない。だから下手な事をしないようにな」

「はーい」

「それじゃぁ、今日はここまでとしようか」

「ん……んー!」ノビー

「お疲れ様です、フラン様」ゴソゴソ

「うん! ……あー、そういえばけーねー」

「?」

「めーりん、あの本渡してたわよね」

「はい。確かにここに」スッ

「ああ、その本か」

「何の本ですか?」

「『フランダースの犬』だ」

「……っ!」ビクッ


「これ、つまんなかったわ。なーにがかわいs……」

「ああ、妹様。物語の終わりを話すのはいけませんよ」

「……そっか。ま、つまんなかった。けーねも読んでみたらいいわ」

「という事です。……(私は泣けたんですけどね」ボソボソ

「そうか。時間がある時に読ませて貰うよ。……パチュリーには断ってあるのか?」

「ええ。それだったら墓まで持っていくつもりで構わないのに。だって」

「はは……魔理沙さんのことですね」

「…………」ギリッ

「? 伊東さん、どうしました?」

「な、なんでも……。ちょっと、夜風当たってきます」サッ

「ああ……行ってしまいましたね」

「ほっとけばいいじゃない。どうせ遠くなんて行けないんだし」

「まぁ、確かにそうだが」

「さ。めーりん、帰りましょ」

「……」

「……めーりん?」

「……すみません、フラン様。ぼーっとしていました」

「もー」トコトコ

「……」チラッ

「私が面倒みますし、気になさらず」

「いえ、そうでは……あー、はい」スタスタ

「…………分かっているさ。この題名に反応したことぐらい」

 

「……」

「伊東さん?」

「……上白沢さん。すみません、急に飛び出したりして」

「いえ。それより、風に当たって落ち着きましたか?」

「……はい。いえ、まだ……すみません……」

「……ゆっくりと息を吸うんだ。なるべく長い時間をかけて」

「……」

「そしたら今度は吐く。同じぐらいの時間をかけて、ゆっくりと」

「すぅぅ……」

「……」

「はぁぁ……」

「もう一度。吸って」

「すぅぅ……」

「吐いて」

「はぁぁ……」


「どうだ?」

「……少し、落ち着きました。たぶん……」

「そうか。……無理はしなくてもいい。嫌な事を思い出しそうになったら、部屋から出て落ち着ける場所に行けばいい」

「……はい。すみません……」

「……お茶を持ってきますね。何か飲んだ方が、落ち着きますから」サッ

「…………」スー

「はぁ……(今日も疲れたな」

(ネロと、フランダースか。…………いいや、僕はネロ程、純真無罪じゃない)

(…………)

(比べる事自体、おこがましい)

(…………)

(とにかく。……この世界の事は少しずつ分かってきた)

(まだ、先代の博麗の巫女とか、古い事は分からないけれど)

(幻想郷。忘れられたモノが辿りつく楽園)

(……そう。僕なんか、楽園にいちゃいけない。あんな目に合わせた僕が……)

(…………)

(でも、命を救われたんだ。それも、二度)

(少なくともそれだけは、返さなくちゃいけない)

(……八雲 紫。この幻想郷で、『妖怪の賢者』と呼ばれる管理者。……らしい)

(その人と、上白沢さん。そして藤原さん。この三人に、恩返ししなくちゃいけない)

(…………)

「だから……もう少しだけ。……」

『……』

………………

…………

……

~~~慧音の寝室~~~

「……」パタン

「……これがつまらない、か。やはり吸血鬼なのか、はたまた情操教育がまだまだなのか」

「……美鈴は涙したと言っていたが、それは少し行きすぎな気もするな」フッ

「……」

「そしてこれに反応した伊東 陽向」

「……まだまだ、何がどうか分からないな。何が彼のトラウマを刺激するのか」

「…………」

「……」

「何、時間はある。受け入れられるまで、ゆっくりじっくりと……」

「……」


以上で投下終了です

後回ししていたツケが、@数日だったという現実

それでは、また


 ぼく まっているよ
 ぼく まもっているよ
 ぼく ぼく…………

~~~白玉楼~~~

「……」ジョキジョキ

『へっへっへっ』

「……」ジョキジョキ

『…………』ガリガリ

「……ふぅ」

『っ! ……』フリフリ

「……」ヨシヨシ

『~♪』パタパタ

「……(侵入者騒ぎから三カ月。特に何事もなく、日々が過ぎた」

(人里も、白玉楼も、妖怪の山も変わりなく。ただただ幽々子様の暇を潰すように過ぎていく)

(この子が来て、多少は楽しみも増えたが、それでもやっぱり、私にとってはただの日常だった)

「……」ジー

『……』フリフリ

「……クロマユ」

『……?』フリフリ

「……はぁ。やっぱりそんな安直な名前じゃないか」ヨシヨシ

『~♪』ポフポフ

(ポチ。シロ。タマ。ユキ。ワン公。白銀丸。ホワイト。他にも色々)

(色々な呼び名を試してみたけど、この子の反応はいまいちだ)

(……もしかして、名前はまだないとか? ……野良?)

『……~*』クワー

「あ、欠伸……ふわ~~……釣られた」

(いけないいけない。今のはピシッとするところだった)

(……)

「剪定の続きしよっと」シャキン

………………

…………

……


「……って、なんで魔理沙さんがいるんですか」

「いやぁもうすぐ春だし、なんかねーかなと思ってさ」

「そうやすやすと何かあると思わないでください。むしろ地上の方が色々あるじゃないですか」

「つってもなぁ。山の上に来た神様達は微妙だったし」

「ああ、例の。会ったんですか?」

「まぁな。けど、あんま食指がなぁ。だから、こっちに毎春期待だぜ」

「そうですか」

「今回は期待できなさそうだけどな」

「そうですか」

「それでほら、客人だぜ? 私は」

「そうですか?」

「そうだぜ」

「はぁ……」

~~~~~~~~~~~~

「あぁ、そういえば魔理沙さん」

「あん?」モグモグ

「魔理沙さんって犬か何か飼っていませんでしたっけ?」

「ああ」モグモグ

「どんな犬でしたっけ?」

「いや、犬じゃないぜ」モグモグ

「あれ。じゃぁ、一体なんの動物なんですか?」

「ツチノコだぜ」

「はぁ、ツチノコ……」

「それがどうかしたのか?」

「え? あ、ええ。ツチノコ……」

「なんだよ。欲しいのか?」

「いえ、別に。ただ、ツチノコならツチノコで、どうやって気を引いていますか?」

「んー、それはだなぁ。……ん」スッ


「それは?」

「茶がなくなったぜ」

「はぁ」

「…………」ニヤニヤ

「……」

「…………」ニヤニヤ

「……それは?」

「おかわりってことだぜ」ムスッ

「……はぁ」ススッ

「出涸らしは認めないからな?」

「はぁぁ……」

~~~~~~~~~~~~

「はい。お茶のお代わりです」

「さんきゅー。……」ズズッ

「……」

「ぷはぁ。で、ツチノコの気の引き方だったっけか」

「はい」

「なんでんなこと聞くんだ?」

「……実は少し前から、庭に幽霊犬が住み憑いたのですよ」

「なんだ、珍しくもない」

「これだけなら確かに。ですけど、その幽霊犬は他のとは違って、なんというか……違うんですよ」

「……? なんだよそれ」

「えーっと、その……見ます?」

「見る」

 

「この子なんです」

『?』

「うお、真っ白。こいつは珍しい」

「そうですか?」

「そうだぜ。で、こいつのどこが違うんだ?」

「他の畜生霊はもっと自由気ままというか、いつの間にか成仏している事が多いんですが、この子は全く」

「へぇ……」ジッ

『……』

「だってさ。どうなんだ、おまえ?」

『?』

「……」


「なので色々と気を引こうとはしたんですが、どうにも手ごたえがなくて。斬ろうとも思いましたけど、禁止されましたし」

「禁止? 幽々子にか?」

「はい」

「幽々子がなぁ」

「はい」

「……」ジー

『……?』

「……ほら」スッ

『……』クンクン

「……」

『……』ペロ

「……」

『……』ヘッヘッ

「……」ナデ

『……~♪』ポフポフ

「普通だな」

「そうですか?」

「ああ。……んー」

………………

…………

……

「ふぅ~。堪能したぜぇ」キラッ

「……途中から完全に遊んでましたよね」

「失礼な。検証していたって言ってもらいたいぜ」

「はぁ、そうですか。それで、堪能した御感想は?」

「んー。手ごたえないってのがよくわらかなかったなぁ。なぁ?」

『わふっ』フリフリ

「んー」ナデナデ

『~♪』

「なんで魔理沙さんにはそんななついているんですか」イラッ

「きっと、私の人徳のなせるわざだぜ」ヨシヨシ

「……そうですか?」

「だがしかし、かわいいやつだなーお前。家来るか?」

『……』フリフリ

「え? あの、勝手に持ち出されては」

「かたい事言うなよ。こいつの事調べてやるって言ってんだからさ。ほら、行くぞーシロ!」

『……?』


「お前の名前だよ、シロ。白いからシロ」

「それは既に試した名前ですが、駄目でしたよ?」

「試すから駄目なんだよ。ビシッて決めたら、バシッてそうだと……って、おいおい」

『……』ヘッヘッ

「どうしたんだよシロ。着いてこいよ」

「……」フフン

「……何で得意げな顔してんの、妖夢」

「いえ?」

「……とにかく。シロ、行くぞ」

『……』シュン

「……? 幽霊なんだから、飛べるだろ?」

『……』

「まさか、飛び方が分からないとか? 全く、しゃーねーなぁ」グイッ

『……』

「? ……んー。んーーー!」グイーーーッ

「……」フフ

「はぁはぁ……んだよ、おまえ……なんで、動かねーんだ……」ハァハァ

『くぅん……』

「……そんな申し訳なさそうに鳴かれても。どういうことだよ、妖夢」

「? 何がですか?」

「シロが動かない理由だよ。知っているんだろ?」

「いえ、全然。私も知りたいぐらいです」

「じゃぁさっきの顔はなんだよ……」

「特には」

「……はぁ。なー、シロ。お前どうした……ん?」

「? どうしました?」

「首に何かある。こりゃ……首輪か……う、うわっ!」

「! どうしました!」

「……見てみろよ、これ」

「? ……うわ。これは……」

「……な?」

『……』


「どうしてこんな事に」

「……血まみれで拉げた首輪」

『くぅん……』

「でもどうして、気付けなかったんでしょう」

「随分と細いしな、この首輪。名前はー……駄目だ。めちゃくちゃで読めなくなってる」

「本当。まぁこれで、このワン公は飼い主がいたと分かった、わけですが……」

「これじゃぁ分かんないのと同じだな。しっかし、随分とひどいなこれ」

「ええ、本当に……」

『……』

「……」

………………

…………

……

「あら、そんな事があったの~」

「はい」

「それで~?」

「はい。そのまま魔理沙さんは帰ってしまわれて、あの犬もそのままです」

「ふ~ん」ハム

「……」

「妖夢は遅いわねぇ」モグモグ

「え? あ……申し訳ございません」

「んふふ~」

「……」

「あー、春巻きが美味しい♪」

~~~~~~~~~

「……」フワフワ

『……?』ピクッ

「んふふ~。昼間は騒がしかったようね~?」

『わんっ』

「あらそーお? あの魔法使いが聞いたら、調子に乗りそうね~」

『?』

「気にしなくていいわ~。……妖夢がまだまだで悪いわね、『――』」

『!』

「ふふふ~」

『……』フリフリ

「……」ナデナデ

『~♪』

~~~~~~~~~
 

「あ。結局聞きそびれた……」ズーン


以上で投下終了です

明ける前の投下はこちらになりましたと

それでは、また


 空が映す、世界の色
 私は蒼天だと、あの天人は言った

 なら……あの子は、なんだったんだろうか
 ふと、疑問が頭によぎった

~~~白玉楼~~~

「あら。どうしたの~、そんな眠そうな顔をして」

「幽々子様に報告をしたい事がありまして……。眠くはないですけど」

「聞かない」

「いや、聞いて欲しいです。……最近、幽霊の数が減っています」

「あら、増やして来ましょうか? ざっくりざくざく」

「いえいえ、減っていること自体は問題ないのですが……」

『……?』

「どうやら次々と成仏もせずに、消えていっている様なのです」

「それで貴方はどうしたいの?」

「調査に出かけたいと思います。ちょっと、留守にしても良いですか?」

「駄目。行きたいのなら、この私を倒してからにしなさい」

………………

…………

……

「……なんでこうなっちゃうのかなぁ」

「お見事! 私を倒したのだから、好きにすればいいわ」

「さて、何を手掛かりに探せばいいのか……」

『……』

「取り敢えず、行ってきます!」

「行ったわね。全くあの子は、痛い目に会えばいいのよ。勉強がてら」

『……』ポフポフ

「貴方はその呪縛のおかげで、浮かばなかったのね」

『……』ピタッ

「ああ、ごめんなさい。呪縛じゃなくて、約束だったわね」

『わんっ』

「あらあら、怖い怖い。……それにしても」

『へっへっへっ』

「態々地上に降りるなんて、あの子は修行不足が過ぎるわ。ねぇ?」

『?』

「ふふっ。分からないなら、それでいいわ」ナデナデ

『~♪』ポフポフ

「……」

………………

…………

……


『……』ボー

『……』

『……』カイカイ

『……~*』クワー

『……』

  ~∞

『?』

『……』

『~*』クワー

『……zzz』

  ゾ……

『……?』チラッ

【…………】

『! うぅぅぅ……』

【……ウ――マシイ】

『……』

【…………】

『うぅぅ』

【っ!】グワッ

「『鳳蝶紋の槍』」

【ガッ】

『!』

「……こんなところで、何をしているのかしら」

【……ァ……ァ?】ジロッ

「その子に手を触れることは許さないわよ~。身の程も知らぬ怨霊よ」

【……マブ―イ】

『……』

「地底の管理者は何をしているのかしら。仕事くらい、ちゃんとしてほしいものだわ」ハァ

【ウ――レタ……ウシナワ――……】

『うぅ……』

「ここは白玉楼。お前のような未練に溢れたお馬鹿さんが来る場所じゃないの」

【マッ―モ……――イ】

『……』
       ひと
「あらあら。死人の話は聞かなきゃ駄目よ」スッ

【オ―エモ……イッショ―……】

「『スフィアブルーム』」

【イキモノ……ウラ】

 ガッ


【―ウゴッ! ……グッ】

「爆ぜなさい。呪いに塗れたまま」

【イタ……イ?】

『?』

【イタイ? イタイ! イタイ……イタイイタイイタイ!】

『!』ビクッ

「私は妖夢みたいに優しくない。……さてもっと、痛くしましょうか」クイッ

『っ。……?』スッ

 サァ……

『……』ポカーン

【イタイイタ……アアアアアアアア!?】

「うふふ……」

【イタイ! クルシイ! ツライ!! イダイ!!!】

「もっと鳴きなさい。もっと、もっと……!」

『……』

【イヤダ! イタイ! モウ、イタイ!】

「うふ……うふふ……ふふふふふふふ」

『……わんっ!!』

「…………あら。可哀そう?」

『くぅん……』

「そうね。……」シュッ

【イダイイタ……ガッ】ズッ

「……」

『……』

【…………】

  ドシャッ

【……】ポゥ

「気質になって、霧散なさい」

【】

[]

|

 


『……』シュン

「あら。どうしたの? 貴方が落ち込むことはないわよ」

『くぅん……くぅん』

「確かにね~。自分の意思でここまで来れた訳じゃないから~」

『わぅ……』

「あの結界の通り方は、生に執着がないからこそわかるのよ~。なのにまた昇って来たわ~。
 そう。まるで、何かに惹かれたように」

『……?』

「貴方のその、ご主人様を待ち続ける姿に心。それは怨霊には眩しすぎる。目印となって、引き寄せてしまう。
 宛ら、蛾を寄せ集める灯りのように」

『……』ジー

「そしてそれは……」ズイッ

『?』

「わ た し も」

『……』

「…………」

『……へっへっ』ポンポン

「……うふふ。なんてね」ナデナデ

『~♪』ポフポフ

「貴方はよく、人を見ている。その眼は、ずぅっと見て……」

『……っ!』ブルブルッ

「……」ベチャァ

『へっへっへっ……』

「濡れちゃったわ~。そうよね~、霧雨だものね~」

『……』

「お陽様ぽかぽかの方が好き?」

『わんっ!』

「そうね~。じゃ、変えちゃいましょうか~」

『?』

「貴方の気質に」シュッ

  バァーーーーン!

『っ』ビクゥ

「……」

『……? ……~*』ポケー

「お気に召して貰ったようで、幸いだわ~」

『~*』

「……」

『……zzz』


「……」

『zzz』
                                               ソラ
「……紺碧の空。それは人を惹きつけて止まない、正真正銘、混ざり物のない宇宙の色」

『zzz』

「これは、生前に持っていた気質なのかしら。それとも、死んで悟った真理なのかしら」

「ねぇ……――?」

『zzz』ポカポカ

………………

…………

……

「ただ今戻りました。幽々子様」

「あら~、お帰りなさい」

『わんっ』

「ただいま……コロスケ?」

『?』

「やっぱり違うわよね」ナデナデ

『~♪』

「それで?」

「はい。異変を起こしていた天人は懲らしめました。もう、あのような事は起きないでしょう」

「それでなのね。もー、暑い夏に戻っちゃったじゃないの。貴方が勝手な行動を取るからよ?」

「いえ。あのままだと、大変な事になっていたのかも知れないです」

「大変な事って?」

「身の回りの天気がおかしかったのは、気質の現れだったのです。だから、雪が降ったりしていたみたいで」

「で? そんな判りきった事を、今更言ってどうするの?」

「はい?」

『……』

「貴方は気質が駄々漏れだった事に気付いていなかったのかしら」

「残念ながら……」

「勿体ないわね。気質の本質、つまり無意識になれば、天候を操作し放題だったのに」

「え? もしかして、幽々子様は判って雪を降らせていたんですか?」

「さぁね。でも、涼しい方が暮らしやすいよ、ねー?」

『わんっ!』フリフリ

「む……。そうでしたら最初からそう言って頂ければ……」

「あ、でも。その天気を呼ぶ秘色の雲が、地震を呼ぶらしいのです。ですからどのみち、解決させないといけなかったみたいで」

「貴方はそれを解決したと?」


「ええ。緋色の雲は無くなりました」

「残念ね。それだけでは地震は起こるわ」

「え?」

「一度目覚めた物は、そんな簡単には止まらないわ。妖夢派いつも詰めが甘いのよ。脇も甘いわ」

『?』

「……えー。じゃぁ、どうすれば……」

「取り敢えず、箪笥が倒れないようにしておきなさい」

「分かりました。では、地震に備えて屋敷中の地震対策を……」スッ

「はい、あーん」

『? ……』ペロペロ

「ふふふ。あの子ったら、相変わらず学び足りないのよ」

『??』フリフリ

「緋色の雲。あれが真に集めている気質は、生物のそれとは違う。何かは、妖夢にも見えているはずなのに」

『……』ペロペロ

「……ふふっ」ナデナデ

『~♪』ポフポフ

「……」


以上で投下を終わります

緋想天と同時期の話でした

次の投下は数日中に

では


 何か、これが自分だと自慢できる物を、僕は持っていなかった
 それでも、僕は僕の知る知識を後に伝えようとしていたのかもしれない
 何故だろうか。どうしてだろうか

 それはきっと、僕が生きた証を残したかったから

 なら、それは出来たのかな……?

~~~寺子屋~~~

「ぅぅ……寒い……。上白沢さん、おはようございます」

「おはようございます、伊東さん。急に冷え込みましたね」

「油断していました。幻想郷は早いのですね……」

「まだ少し早いです。『秋祭』から二週間で、冬になっていきますよ」

「まだ三日。確かにちょっと早いのか」

「きっと里の男衆は、慌てているでしょう」アハハ

「……僕も手伝いに行った方が?」

「どうでしょう。畑仕事の経験は?」

「中学校の体験学習で、一日だけ。……後は、ここの庭よりも小さい規模を、手伝っていたぐらいで」

「おや。庭園を持っていたのですか」

「僕の、じゃぁないですけど」

「では、親御さんの?」

「………………はい。母の、庭でした」ニコッ

「……」

「よし。それじゃぁ僕、手伝ってきます。今日は暇ですから」

「授業は明日からですしね。お気をつけて」

「はい。では、行ってきます!」

「……」

「また暗い顔、か。ふむ……」

「……」

「……でもまぁ、積極的になってきたのはいい傾向だろう。後押ししてあげなくてはな」フンス

 

~~~人里・大通りの一角~~~

「はっ、はっ……ふぅ~……」

「……(逃げるように出てきちゃったな。慧音さんに、ばれてないといいけど)

(って言っても、バレバレだろうな。我ながら、騙すのは下手だと思っているし)

(…………母、か)

(はたして僕なんかが、あの人を母だと思っていいのだろうか)

(自殺なんかした僕が……)

(…………)

  モリヤジン――ゴリエキハ――

「……ん?」


(何だろう。少し騒がしい?)

「……ちょっとだけ見て行こう。それから畑に行っても、きっと大丈夫」

  ワイワイガヤガヤー

(やっぱり、人だかりがある。なんとなく、見世物チックだ)ハハ……

『お騒がせしましたが、私達守矢は決して侵略するために来たわけではありません! むしろその逆です!』

(はっきり声が聞こえてきた。女の子の声かな)

『外の世界では、今や神の存在や奇跡の力といったモノはオカルトや超常現象、果ては騙しの手段とされ、信じる方が馬鹿らしい風になってしまいました。
 ですがここ幻想郷では、未だにそれを信ずる心があると聞き、――』

(……なんだろう。聞き飽きた、新人の宗教勧誘みたいな感じ)

(時間の無駄になりそうだ。やっぱり止めておこう)クルッ

………………

…………

……

~~~人里・刈り取られた田畑~~~

「ふーっ、ふーっ……どはぁ!」バサッ

「おーう若いもん。御苦労さん」

「これで、今日の分、終わり、ですか……」ゼーハー

「そうだな。後はとりあえず女房達の仕事だ」ガハハ

「はー……疲れたぁ」ハァ

「いとーせんせー。はい、お水」

「ありがとう。……ぷはぁ」

「なんだ。あんたが、いとーせんせーか」ニヤニヤ

「あぁ、はい。……すみません、あまり役に立たなくて」

「そうだな。まぁ、ガキ以上には働いてくれたさ!」ガッハッハ

「は、ははは……(うわー、ストレート……」

「さてと。後は鳥避けだな。もうちっとだけ頼むわ、いとーせんせ」ニヤニヤ

「は、はいぃ……」

 

「……あれ、これは」

「ん?」

「もしかして、鷹の目……?」CD……

「おう。なんだ、知ってんのか」ソッチモテ

「はい。外の田んぼにあるのを頻繁に見かけました」ア、ハイ

「ああ。そうか、お前さん外の人間か」ハシノボウニククリツケテ

「……あっ。すみません、自己紹介がまだで……」ココデスネ

「別にかまわねーよ、いとー先生。外の、力のねぇ先生ってな」ケラケラ

「あ、はい。あ、いえ、その……先生って呼ぶのを止めてほしいかな、と」


「あぁん? なんでだよ。ガキ達に教えてくれてんだろ?」フシギナムスビメダナ

「まだそんなに日が経っていませんし、僕はあくまで上白沢さんのお手伝いなだけです。
 それに……」モヤイムスビデス

「それに?」

「貴方となら、僕の方が生徒の立場ですよ。……ほら、鎌の扱い方とか、腰の入れ方を教えてくださったじゃないですか」

「そりゃ、先生が下手糞だったからよぉ。見てて危なっかしいったらありゃしねぇ」ピントハルゾー!

「あ、あはは……と、ともかくです。僕が教えて貰っている以上は止めて貰わないと……そう、けじめがつきません」ハーイ!

「はぁ。ややこしいこと考えてんだな」

「ええ、まぁ……」

「んー、しゃあねぇ。だったらまぁそうしてやるよ。えーっと?」

「陽向です。好きに呼んでくださって構いません」

「そうか。じゃ、ヒナタって呼ばして貰うぜ?」

「はい!」

「んじゃ、残りにも括りつけていくぞ、ヒナタ先生!」

「はい! …………あれ?」

………………

…………

……

~~~人里・夕焼けに染まる原風景~~~

「結局、先生って敬称が直らなかったな……」ハァ

「……(まぁ、嫌味というよりも、からかって言っているだけだしいいか」

(それにしても不思議だ。鷹の目って普通、植えている間の野鳥避けのはずなのに、天日でしか使わないのか)

(それに、CDが普通に使われている不思議。それの使い方があれこれあるのって、やっぱり……)

  ワタシノキセキ――ミナサンニモ――

「……あれ。まだやっているのかな、勧誘」

(朝から……だいたい8時間? 疲れないのかな。まさか、疲れないのがモリヤの御利益?)

(それだと地味だけど凄く有り難いけども……うん、人だかりも出来ていないし、今度こそ見てあげよう)

 

「乾とは即ち天の事。それ操ることのできる八坂様のお力とは――」

「……(はっきり喋っているから大人だと思っていたけど、慧音さんと似たような背丈の女の子だ」

(……外見がそのまま年齢に当てはまるか、わからないけど)ハァ


「――諏訪子様のお力とは、大地を穿つことも、濁流を以て大河を作り上げることもできます!
 ですがその力は、皆さんの信仰心なくして成り立ちません! 事実、信仰を失った外では震度3程度の地震しか起こせなくなっていました!」

(いや、凄い迷惑だよそれ。いくら日本は地震慣れしているからって……)

「……ん? 外で、地震?」

「っ! そうです。外です! そこのお方っ!」ズビシッ

「え? あ、ぼ、僕?」

「はい! 今、私の言葉に反応してくださりましたね! 外という言葉に!!」

「は、はい……(やばい。元気有り余っているよこの子」

「……」スマーイル

「……」アハハ

「……あれ。どうして外って言葉に反応したんです? 今さら」

「え? あ、いや、僕はついさっき聞き始めたところで」

「おや。それは失礼しました」

「いえいえ。……それで、外で地震がどうって」

「はい!」

「まさか君、幻想郷の外から来たの?」

「ええ、そうです! 外の世界から、神奈子様と諏訪子様に連れられて来ました!」

「……そっか。ここに妖怪や神様がいるのだから、外に神様がいてもおかしくないのか」

「そうそう! ……まるで外で暮らしていた様な口ぶりですね?」ハテ

「うん。僕もつい最近、幻想郷に“神隠し”されたばかりだから」

「…………おおおおおお! つまり先輩でしたか!」

「あ、いや。まだ二月も経ってないよ」

「いえいえ。受験戦争の先輩と言う事です!」

「そっち!? しかも今そこでそれを言う?」

「?」パチクリ

「……いや、まぁ、うん、そうだね(着眼点が分からないよ……」

「そうでしたか。まぁ私もまだ二カ月程ですし、御相子ですね」

「はは……そうだね(何が御相子ナノカナ」

「なるほどなるほど。つまり、まさか外から神様がやってくるとは思っていなかったと」

「そうなるかな。それに僕はまだ、僕以外の外の人にあったことがなかったからね」

「私もです。いやぁ、思わぬ遭遇という奴ですね」

「そうだね。それで……」


「ではでは是非に、守矢神社に入信してみてはどうですか! 今度こそ、神を信じ敬うのです!」

「あ、いや。僕は無神論者……というのも今となっては変だな。んーっと……」

「ああ~」

「……分かるかな?」

「大体は。否定していた物が実在すると、困惑しますよねぇ」ドヤ

「否定……まではしてなかったけど、興味はなかった、かな」

「そうですねぇ。興味がないと、てんで気にかけませんよねぇ。私も歴史に興味がなくて、いつも赤点でした」テヘ

「いや、それはあんまり……って、もう関係ないんだよね、僕達」

「はい!」

「……元気だねぇ。あ、そうだ。その、モリヤ神社について、聞いてもいいかな?」

「構いませんよ。えーっと、お名前なんでしたっけ?」

「あ。僕は陽向」

「私は早苗です。ではまず、何から話しましょうか~」

 少女説明中……

「……えー!? 八坂神社を湖ごと!? 山のてっぺんに?!」

「その通り! 神奈子様のお力と、私の奇跡が合わさればこんなものです」フンス

「……」ポカーン

「驚きすぎて、顎が外れていますよ」フフン

「いや、そんな力を持っている様には見えないなーって……」

「あははー。まだまだこちらに馴染んでいない証拠ですねぇ」

「はは、そうかも」

「まぁ実際、私はお力添えしただけで、ほとんど神奈子様がしてくれたのですが」

「それでも凄い事だよ。あ、それじゃぁ……」

「ああっと、いけません!」

「えっ?」

「もうこんな時間です。晩御飯に遅れてしまいます」

「確かに、もう5時は過ぎているね」

「はい。そういうわけで今日はここまで!」

「うん、分かった。話し込んだら、いつまでも止まらなさそうだしね」

「ですです。続きはまた、お会いした時にでも。いつここまで降りてくるか分かりませんが!」フワッ

「うん。それじゃぁまた」

「御機嫌よう!」ノシ

「……」ノシ

「……元気だなぁ」ハハハ

「って、自然に飛んでいる。流石、神様の手伝いが出来るだけあるや」

「……」

………………

…………

……


「ふぅ~……。お風呂、先にすみませんでした」

「いえいえ。晩御飯の方も、用意出来ていますよ」

「……居候の身分で、何もしていませんね。今日」

「外で働いていたのですから、気になさらずに。それより少し遅かったようですが、何かあったので?」

「ああ、いえ。畑仕事は夕方になるだいぶ前に終わっています。その後、外の人と出会って、長話を」

「ほう。外の人」

「はい。早苗さんという、妖怪の山のてっぺんに神様と一緒に引っ越してきた人だと」

「……あのお騒がせな三柱ですか。そういえば最近、里に守矢教を広めようとやってきていたな」

「ええ。……三柱ですか?」

「視た限りは、太古の戦神に土着神。そして現人神と……ぁ」ギクッ

「へぇ……カナコ様とスワコ様としか言っていなかったけれど、もう一人いるのですね」

「え、ええ。そのようで」

「……(今度、聞いてみようかな」

「……」アセ

「神話をもう少し勉強しておけばよかったな、これなら」

「歴史はあまり得意ではなかったので?」

「あ、いえ。歴史はそこそこだとは思うのです。けどそれも学校で学ぶ史実ばかりで、神話や逸話、地方の伝承はあんまり」

「なるほど」

「まぁ、後の祭りですけど」

「大丈夫ですよ。これから覚えても、遅くはありません」

「そう、かな。……いや、そうですね。いい機会ですよね」

「ええ、きっと」

「……よし。そっちも勉強、頑張ります。……あ、でも、そういった神話の資料って、どこにあるのでしょうか?」

「うーん。もしかしたら、稗田の家にあるかもしれませんが」

「稗田……確か、幻想郷縁起を代々書いている家系でしたっけ」

「その通りです。あそこにはそれ以外にも様々な文献があるので、あるとしたらあそこかと」

「……なら今度、見せて貰えないか聞いてみます。ただ、まだまともに挨拶もしていませんけど」

「あそこの当主は最近、外の音楽にも興味を持ち始めたらしいので、その事から切り出すといいかと」

「外の。……」

「……まぁ、後はご飯を食べ終えてからで」

「あ、そうですね。それでは、頂きます」

「頂きます」

………………

…………

……


以上で投下を終わります

まだまだ、陽向の馴染むお話

それでは


 ここに来る前の話。まだまだあんまり、聞かせて貰えなかったな
 私の能力が見られるのは、幻想郷の内側で起きた事だけなんだ
 だから結局、お前の事はこんなにも知ることが出来なかった

 そんなことも伝えられなかったな。陽向……

 

~~~人里・稗田邸前~~~

「……うーん。やっぱり大きい」

(流石は里で一、二を争うお金持ち。……“教会”より大きいかもしれない)

(そのうえ、隔世したうえで10代目って、ものすごい古参だよね……)

「……」

「いや、まぁ、変な事を聞きに来たわけじゃないから大丈夫だよ。うん」

「……」

「……ごめんください」コンコン

「……」  ギィィ

「はい?」チラッ

「あ、こちら、稗田さんのお屋敷で間違いありませんか?」

「はい、その通りです。どういった御用件で?」

「はい。妖怪や妖精、神についての文献を見せて頂けると聞いて、伺ったのですが」

「確かにその通りですが、貴方様は……?」

「申し遅れました、私、伊東陽向です。上白沢さんの寺子屋にて、住み込みで働いております」

「そうですか。少し、お待ちを。主人に聞いてまいりますので」

「お願いします。……」

(……使用人さんかな。大きな家にはメイドや使用人は付き物なイメージがあったけど……)

「……(変な想像しちゃだめだ。失礼だよ」ブンブン

「お待たせしました、主人が直接話を聞くと……あの、どうかなさいましたか?」

「い、いえ。なんでもないです!」

「? そうですか。ではどうぞ、こちらへ」

「はい」

 


「……(中は想像を越えて凄かった」ウワァ

「阿求様、お連れしました」

『……どうぞ』

「はい。どうぞ中へ」ガラッ

「……? (女の子……だけ?」

「すみません、お客人。きりの良いところまで書き終えたいので、もう少しお待ちを」

「あ、はい。……」

「……」スラスラ

「……(通された以上、この子が主人ってことなのかな。それとも、代わりだとか、下見だとか?」

「……」チョンチョン

(……あんまり詮索しても仕方ないか。それよりも……)チラッ

  ズラァァ……

(……所狭しと、物がおかれ放題。すごいな、これは)

「……」スッ スッ

(外の物も多いし、流石は里で一、二を争う大富豪……か)

「……」ピタッ

(……)

「……」スラスラスラ

………………

…………

……

~~~四半刻後~~~

「……」スッ

(……そうか。既視感が高いと思ったら、世のお父さん方の書斎なのか)ジー

「……」ピタッ

「んっ? ……あっ」

「……。すみません、待たせてしまって」

「い、いえ。こちらこそ、急に押しかけたりして、すみません」

「そんな、急というほどでも。……改めまして。私がこの稗田家の当主、稗田阿求と申します」ペコ

「……始めまして、伊東陽向です」ペコ


「今日は資料をご覧になりたいとのことでしたね」ガサゴソ

「はい。上白沢さんから、ここなら相当量の本や歴史的資料があると聞かされて、今後の為にも目を通しておきたくて」

「なるほど。勉強熱心な方なのですね」ニコッ

「あ、いえ、別にそうでもないですよ。むしろ、勉強不足だったぐらいで」

「……。それが勉強熱心だと思うのですが……まぁ、伊東さんの勝手ですね。
 それで、見たい資料というのは中の? 外の?」

「え? ……あ、中のです。はい」

「ですよね。……流石に、もうだいぶ慣れたようで」

「ええ、おかげさまで。……って、あれ? 初対面ですよね?」

「ふふ。実は使用人の一人が、寺子屋のお世話になっていましてね。伊東さんの話も、多少聞いているのですよ」

「道理で。……でも、僕はそんな話されるようなことは……」

「物珍しさの方が強いようですよ。はい、これが中の資料です」

「はは……有難うございます。……幻想郷縁起・その求……」

「これは阿礼乙女たる私が、今代の人外なる者達の脅威とその対処法を示す為に書いた本です」

「……え? これを、貴方が?」

「はい。驚きましたか?」

「あー……正直」

「どう思ったのか、聞かせて頂けませんか? 外の人の意見というのは、貴重ですし」

「僕の意見なんか、貴重って程でも……」

「……」

「……外でも早くから文字を書く練習はしますけど、阿求さんの年でこれだけの量を、この丁寧さで書くのは無理だろうなぁと。
 ……そもそも、普通の人間じゃないとか?」ハッ

「少々複雑ではありますが、普通の人間ですよ。言ってしまえば家庭の事情で、書かざるを得ないだけです」

「そうですか。……(安心したような、一層気になってしまうような」

「はい。それで、どうしますか? こちらで読んでいてもかまいませんし、持ち出してもかまいませんよ」

「あ、持ち出していいのですか。……それもそうか」

「ええ」

「……こちらで読ませて貰います。他にもあるのですよね?」

「ええ。でしたら、何かありましたら使用人の方にお願いしますね」

………………

…………

……


~~~寺子屋~~~

「ただいま帰りました」ガラッ

「お帰りなさい、伊東さん。遅かったですね」ニコッ

「長居してしまいました。幻想郷縁起が、以外に面白くって」

「それは何よりです。お茶、淹れますね」

「有難うございます。それに、少しあの空間が落ち着いたというか……」

「……?」

「……外の物がたくさんあって、懐かしかったというか……」

「……そうですね。稗田の家は、収集家でもありますから」

「とは言っても、特別見知った物があったわけでもないのですが」ハハハ

(基本、西洋の物ばかりだったし、家は)

「……」コポコポ

「それにしても、あの資料の数は凄いですよね。流石、十代にもわたる知識の伝達者なだけはある」

「九代かもしれないとは彼女の言ですけど。自分でもどっちか曖昧だとか」フフフ

「へぇ……(……なんで?」

「ただそんな細かいことを悩むぐらいなら、人と話す方が楽しいと」トン

「それなんですけど、ここに来る子達と同年代ですよね、彼女? だったら、分かる気も…………」

「教えるどころか、教えられることばかりですがね。……?」

「……(分かる……のかな。あの頃の僕は……」

「……」

(……なんだろう。こっちに来てから気付くことが、多いな。……やっぱり、離れてみて分かることもある、か)

「……」

「……っ」クイッ

「あ、それ淹れたばかり……」

「あつぅっ!?」


以上で投下を終わります

あっち投下して翌日から体調不良とか呪いかっ

次回もまた、陽向のお話です

それでは


 自らを虐げられていると叫ぶ健常者程、呆れかえる存在はいないと私は思う
 そんな愚か者でさえ、この幻想郷は受け入れるのだろう
 だから私は、ありのままを見過ごし、自らの役をこなして見せよう
 この世界が望む答えに、沿い続けよう

 だが本心を言えば、奴らが代わりになれば良かったのになどと、思ってもしまうんだ

 お前に褒めて貰って嬉しかったが……私はやはり、醜い女だよ。陽向……


~~~冬に至った頃~~~

「……ああ、鬱陶しい寒々しい腹立たしい!!」

「……」

「あの吸血鬼が里の中を我が物顔で歩いているかと思うと、夜も眠れませんっ!!」

「……」

「これはゆゆしき事態だ。というのにあの不良巫女も役に立ちませんしーーー!」キー!

「……」

「そもそもそのうちボロを出すと思っていたのに、意外とお利口さんでなんなんですかあの吸血鬼わ!」

「……」

「という事で、里の平和の為にあの小娘の本性をさらけ出してしまいましょう」フンッ

「……」

「頼みましたよ、篠坂?」ニヤァ

「……あー、そいつぁ構いやしねぇんだけどよ」

「はい? 何か御不満でも?」

「いや、別に今更不満ってことはねぇぜ。ただな」

「?」

「……おめーさんのその口調。なんとかならねぇのか?」

「……普段抑え込んでいるんです。このぐらいの時は大目に見て貰えませんかねぇ」ムカムカ

「あぁ……(めんどくせぇ……」

………………

…………

……


~~~白く染まった西の更地~~~

「そーれせんせー!」ポーイ

「おっとっと」スカッ

「ええーい!」フワッ

「あはは、当たらないよー」ガリッ

「……せぇーい!」シュッ

「のわぶっ!?」ボコッ

「あははー! 当たった当たったー」

「うわ、冷たっ……やったなー!」

「わー! いとーせんせーが怒ったー」

  アハハー キャーキャー

「……平和なものだな」ホッ

(子供たちとも随分仲が良くなったようだし、よほどじゃない限り不安もなくなった……か)

「あわわわわ」ボフッ ボフッ

「いとう先生、雪だらけー」アハハ

「こら、お前達。あまり一人ばかり狙うんじゃない」

「「はーい」」

「全く」ハァ

「お前達、なにやってんだ!」ドーン!

「えー? 何って……あー。妖精だー」

「ほんとだ。ようせいさんだー」

「? ああ確かに、背中に羽が。……水晶?」ン?

「! 伊東さん、子供達を連れて下がるんだ。その氷精に近づいたら危ない」

「こらー! 人の質問に答えろー!」ウガー!

「え? どうしたのですか、上白沢先生?」

「話は後で。あいつは妖精のなかで、唯一の例外なんだ!」

「わ、分かりました。皆、こっちだよ!」

「むむむ。あたいを無視すんなー!」

「無視なんかしていないさ。そういうお前はなんでここに来た? 何をするつもりだ? 何が目的なんだ?」

「え? う? あー?」

「……え? 同じ事を聞いているような……?」

「え? あ、本当だ!」

「ちょ、伊東!」

「す、すみません! つい、癖で」


「なんか集まってたからな。悪いたくらみしていないか、視察しに来たんだ!」

「それを言うなら偵察か観察だ。それに、子供達が遊んでいただけでどこが企みに見えるんだ」

「うぐぐ……」

「……(なんで悔しそうにするのだろう」タタッ

「……」チラッ

  ワーワー……タッタッタ……

「……ともかく、少し相手をしてやろう。気がすんだら、湖に帰れ!」バッ

………………

…………

……

~~~寺子屋~~~

「さよーならー、けーねせんせー」

「いとー先生も、さよーならー」

「うん。皆も足元に注意して帰るのだよー」ノシ

「風邪にも注意だからなー。……今日もお疲れさまでした、伊東さん」

「上白沢さんこそ。あの妖精と一緒において行ってしまって、良かったのですか?」

「危険とはいえ、あいつの対処はあまり難しい事ではないですから。さてさて、中に戻りましょう」

「はい」

………………

…………

……

「それで、上白沢さん。あの妖精が危険だというのは?」

「……伊東さんは、まだあの氷精のことを知らないようですが、幻想郷縁起はどの程度ご覧に?」

「えっと、阿求さんの書かれた分をざっと目を通したぐらいです。その後は外の資料の方を探していましたし……」

「なるほど。……あの妖精は、氷精『チルノ』と言います」

「氷精、チルノ。……そういえば書いてあったような」

「ええ。そちらを読めば分かるので少し省きますが、あいつは妖精の中でも特別、力が強いんですよ」

「へぇ……」

「子供達の手に余る程度に力が強い妖精なら、他にも少しはいます。ただ、それらの扱う自然の力はだいたい優しいんです」

「優しい?」

「『春の訪れを告げる風』 『花の鮮やかさを表す色』 ……他にも、『川のせせらぎを見せ』たり、『植物の種を飛ばしたり』と」

「……なるほど」

「大人であれば何でもない現象や悪戯。だが氷精の扱う力は、本人がどう思っているか分かりませんが、悪戯の範疇を超える」

「……」ゴクッ

「氷精の扱う力は、もう察しているかもしれませんが、『氷結』や『冷凍』……」

「凍らせる力……」

「はい。自然界の中で、在るだけで生物の脅威となるその力。妖怪の退治屋でも、下手をすれば怪我を負う……」

「だから、子供達を連れて逃げろと。危ないようには見えない分、余計という訳ですか……」


「そういうことになりますね。ただ幸いな事に、対処法は容易なのですが……」

「ですが?」

「どうせなので、ここからは宿題ということで」ニコッ

「え? ……あ、はい。ちゃんと、読んでおきます」アハハ……

「はい」

「それじゃぁ、先にお風呂入らせて貰います。着替えたとはいえ、流石に」ガラッ

「ええ。お構いなく」    ピシャッ

「……(伊東ならもう自主的に幻想郷に馴染むだろうが、一応危険な事は教えてやらないとな」フフッ

………………

…………

……

~~~翌日・夜~~~

「けーね先生、来たわよー!」ガラッ!

「お邪魔します、慧音さん」ニコッ

「おや、いらっしゃい。今日は少し早いんだな」

「この天気のおかげで、日差しがなかったの! その代わり、雪のせいでやになっちゃうけど」ヒリヒリ

「ん? 少し焼けているじゃないか」

「傘を潜って、フラン様に触れてしまったのですよ」

「なるほど。雪はそれだけじゃ流水じゃないが、肌で溶ければ駄目になるか。……それにしては、少ないみたいだが」

「だって途中から溶かしたもの。こうやってね!」ブンッ

「!」

「私が気で包みますと進言したのですが……」

「……フランドール。おまえその剣、ずっと振り回していたのか?」

「ええ。雪はこっちの気も知らんぷりで降ってくるんだから」

「里の中でもか」

「当り前じゃない」

「……あのな、フランドール。お前にこう言うのはあまり気が進まないが……」

「? なーに、けーね?」


「何を考えているんだ。お前は、ここに来たくないのか?」

「え? な、なんで……」

「里の中では、まだ血喰い事件のイメージが払拭出来ていない。それでも大人しく授業を受けるという条件で、許容されているんだ」

「そんなの、あいつのせいじゃない。私は関係ない!」

「そうだ、関係ない。だがな、それを言っても、じゃぁ違う事を証明しろと言われるのが常なんだ。
 ……授業でも、度々言っていただろう?」

「そんなの……」

「……申し訳ございません、フラン様。黙っていたことが一つ」

「何、美鈴?」

「里に入った頃、里の人らしき人物が妹様を見て、怯えた様子で物陰に隠れたのが見えていまして……」

「!」

「そういう事なんだ。直接被害にあっていなくても、吸血鬼が剣を振り回していると怖がる人はいる。
 その恐怖心を持つ人を増やせば……後は、どうなるか分かるだろう?」

「…………」

「……フランドールに理不尽を強いていることは良く分かっている。そしてそれを、申し訳なくも思っている」

「……」ギュッ

「けれど、これからも授業を受けたいなら……分かってくれ、フランドール」

「……うん……」ギュゥゥ

「……(肉ごと裾掴んでますフランさmイタタタタ」

「ありがとう。私はお前がきちんとした子なのはよーく分かっているからな」

「……」

「……じゃぁ、今日の授業を始めようか。ほら、上がった上がった」

「はい……」

「……」

(……)

「……」チラッ

………………

…………

……


以上で投下を終わります

手違いで半分まで出来ていた内容を消してしまって、その半分まで書き直せたので先に投稿という形に

なので次回もまた陽向のお話となります

それでは


 人生には転機ってのがあって、それは大きかったり小さかったり。
 その人を決定づけるときもあれば、小さく積み重なることもあって。

 フランにとってその大きな転機は、きっとこの時だったんだよね。
 ……きっと、きっと忘れないよ。――――。

~~~翌日~~~

「……うん。やっぱり、妖精ヘイトが高いよ、これ……」ハァ

「縁起求だけなのかと思ったけど、弥も結構辛口だし……」

「……(稗田の家系は、妖精に何かされたのだろうか」

「……まぁ、とやかくいうつもりはないけど」

(それにしても、知り合い……と言っていいのか分からないけれど、彼女達もそこそこ書かれていて……)

「……知っていて、止めなかったのだろうか。だったら、尋ねたほうがいい……よね」

(忍者はともかく)

………………

…………

……

「上白沢さん、よろしいですか?」

『構いませんよ』

「お邪魔します。……答え合わせを、お願いしにきました」ニコッ

「おや、もうですか?」

「はい。今、暇はありますか?」

「大丈夫ですよ。答案を見ていただけですし」ポスッ

「よかった。じゃぁ、さっそくですが氷精のことについて」

「はい」

「彼女の対処法。それは、二つ以上の問題を、同時に仕掛ける事」

「何ゆえか」

「元々妖精は頭がよくなく、物事を平行して考えることが出来ないからです。氷精の場合、それがより顕著になると」

「……その通り。ですが!」

「……!?」

「妖精達は、あくまでも目先の事に囚われやすいだけです。発想力や洞察力は、人に劣らない」

「……」

「それをどうか、お忘れなきようお願いしますね」

「……は、はい」

「すみません、迫力出してしまって」

「いえ。……あの、今のはいったい?」

「縁起に書かれていない事ですよ。私の経験から、そう考えているのです」

「なるほど」


「それにはっきり言うと、縁起の内容は嫉みが過ぎますし」

「……ですよね(よかった、僕だけじゃなかった」ハハ……

「妬みかも、しれないがな……」ボソッ

「……え? 何か?」

「いいや、何も。……それで、他に何か尋ねる事はありませんか?」

「え? ……いいのですか?」

「何がでしょう?」

「……上白沢さん、妖怪は妖怪でも、後天性の半妖だったのですね」

「……ええ。それも、ハクタクと呼ばれる妖怪に襲われた結果です」

「そして、『歴史を食べる程度の能力』……」

「襲われた後から、身に着きました。どうやらハクタクは、歴史を食う妖怪だったようで」

「……後もう一つの能力、『歴史を創る程度の能力』も?」

「満月の夜だけに発現する、“ハクタクの好みな歴史を嗅ぎ当てるため”の能力です」

「……」

「あまり、驚いてはいないのですね」

「あ、いや……驚いているのは驚いているのですが、どう驚くべきなのかよく分かっていなくて」

「思ったままで構わないんですよ? 恐ろしい、気持ち悪い、騙していたと怒るのも自由だ」

「……そんなこと、思いませんよ」

「……それはよかった」

「……あの」

「はい?」

「もしかして、満月の夜に部屋から出るなって言っていたのは、その姿を見られないため……?」

「……も、あります。ですが縁起をご覧になったのなら、短気になるという事も知られたでしょう」

「はい」

「それが厄介なのです。ハクタクの血が強くなると、角が生えてくるのだから」

「……まさか、その角でドスッ、と?」

「そこまでは行かないよう抑え込みます。ですが歴史編簿の邪魔をした者には結局、角を腹にめり込ませる頭突きを……」

「……(うわぁ……」

「ごほん。どうしても、そこまでは抑えきれないので、入らぬようお願いしていたわけです」

「そうでしたか。……でもだったら、やっぱりさっきの話は、思いませんよ」

「……えと、何を」

「能力について隠していたことや、知った上での反応のことです。気遣って貰えたのに、どうして悪く思いますか」

「……有難う。そう言って貰えると、嬉しいよ」ニコッ

「えっ? あ、いや、そんな、別にたいしたことじゃ」アタフタ

「?」キョトン

「……(その眼でその笑顔は反則ですよぉおお」ドキドキ


「……まぁ、だったら構わないんです。そろそろ、頃合いかと思っていたので」

「……頃合い? 何がですか?」

「伊東さん。こちらに来てから既に4か月経っていること、存じていますよね」

「はい。もう、随分と経ちました」

「出会った当初は酷く脆く見えていた貴方も、今なら安心して語れることがある。その、頃合いです」

「……」

「以前、透視能力があると言ったと思います。それは誤魔化しであり、実際にはこの能力に寄るものだというのは、既に察しているでしょう」

「はい」

「他にも多々、隠し事をしてきました。……それを全て打ち明ける、最後のテストを行わしてください」

「テストですか?」

「何も難しい事ではありません。ただ、満月の夜に私と会ってほしいだけ」

「……え」

「私はいつものように、歴史の編纂作業をしています。そこに、訪れてくれればいいのです」

「……」

「突然な事の上、満月まで後三日しかありません。……だが、そうする必要があるんだ」

「……」

「来るも来ないも、伊東の自由だ。お前の思うとおり、やってくれて構わない」

「どう、して」

「それもその時、あるいはその後に答える。今はもう、これ以上言えない」

「……」

「……悪いな。ただこれが、最後の無礼になるだろう」

「え……?」

「……さ、用意の続きをしなくては」クルッ

「……」

「……」

「……失礼しますね……」ガラッ

「はい」  ピシャッ

「……(どういうことですか、上白沢さん……?」

………………

…………

……


~~~二日後・殆ど満ちし月の夜~~~

「……明日、か」

「……(上白沢さんはどうして、あんな不自然な態度を……」  ザワ

(……いや、よそう。それは考えても答えが見つからなかった。……だって、彼女の気持ちが分からないから)

(分からないのに、考えても……)   ザワザワザワ

(……だから、僕が会うかどうかを決めるしかない、のだろう)

(急すぎても、やらなくてはいけない、何か……)   ザワザワワ……

「……? 何か、外が騒がしい?」

「それも何か……あの時のようで……」ゾクッ

「…………」

「……駄目だ、違う。あんなこと、幻想郷で起こるわけがない……」

「……違うって、確かめないと……!」ガタッ

 

~~~寺子屋玄関~~~

  ざわざわ  がやがや

(やっぱり、人が集まっているみたいだ)

  がやがや……  がやがや……

(……でもこれ、何か……怒っているような……?)

  ガララッ

「……! 上白沢さん!」

「! ……伊東さん」

「何かあったのですか? 何か、騒がしいよう……です……?」

「……」

「……? (人が、大勢?」

  がやがや ざわざわ わいわい

「……おお、あんちゃん。久しぶりだな」

「あれ、確か、しのさかさん?」

「……」ギリリ

「……どうしてこんな、人だかりが?」

 「棟梁、誰ですかそいつ」

 「確か数ヶ月前からいる、外の奴だろ。ほれ、新しい先生とかいう」

「そうだろ~けど、関係ねぇ奴だぜ。ほぉっとけ」


「……美鈴さん。いったい何が?」

「見ての通り、囲まれているんですよ……」

「だから、どうして」

「とにかく。そこの吸血鬼が里ん中で剣をぶんまわしたのを、見たぁ奴が居るんだ。言い逃れは出来ねぇぜ?」

「ぁ……」

「五月蝿い! だから私は、雪を溶かしてただけって言ってるでしょ!」

「フラン様、怒鳴っては……!」

「ぅぅ……!」ググッ

 「嘘吐け! 俺達が手ぇださねぇからって、調子のったんだろうが!」

 {ひかげの犬が――をこかしてけがさせたんだ!}

 「吸血鬼はすぐ俺達を舐めやがる!」

 {だからおれたちがおしおきしてやったんだ。なのに、ひかげがなぐってきたんだ!}

(ぁ……これ……!)

「違うと言っているだろう、お前達! フランドールは、この吸血鬼は流水が苦手だと……!」

『そんなもの、合羽なり肌を隠すなりでどうとでもなるでしょう!』

 「そーだそーだ! 」

『それに、稗田様の本によればどうでもいい弱点だとか、見ましたけどねぇ?』

「……(この声……烏彌か」ギリッ

「そんなの知らないわよ! 私は、あンタ達なんかドうダっていイモン!!」

{……ぼくは、ぼくはただ、なたくをまもろうとしただけだよ!}

「ばっ……フランドール! ……あ、ぐ(くそ、気持ちが……」

(……)

 「ほれみろ! やっぱ俺達のことなめてやがる!」

 {……陽向君。もし本当にそうだとしても、殴ったのなら謝らないと}

 「姉と同じで、食糧か何かとしか見ていねぇんだ!」

 {それにこかしちゃっただけかもしれないけど、君の犬だって悪いことしたんだよ?}

「いけません、フラン様! それでは逆効果にしかなりません!」

「ウルさイわよ、メイリン! あナタはワたシノみカたジャないノ!?」

{違う! なたくはぼくをまもってくれて、でもあいつらがぼうでたたいて……だから、ぼくとなたくはわるくない!}

(……駄目だ。駄目だよ、それは……)

「も、勿論ですよ! ですがそれでは、誤解しか……」

「だっタらだまッテテよ! ワタしノじゃマしナいで!!」

{なんでぼくがおこられるの……! なたくは、なたくが……ひっぐ……}

(そんな……僕みたいな、こと……!)

 「ほれみたことか! 自分勝手なこと言って、仲間割れしてやがる!」

 {……あーもう、泣いても分からないわよ。ちゃんと言わなきゃ}ハァ

「挑発に乗るな、フランドール! 本当に何もする気がなかったのなら、今ここでも手をだすな!」クッ……

「ナンデヨ……コンナ……コンナヤツラ……!」

{ぼぐや……な゛だぐだげ……いじべばれでも……}


 

[いい加減になさい、あなた達!]

 

(……そうだ。ここであの人は、院長は……)

 

(……)

 

(止めなきゃ。この先に起こることは、最悪なだけで、誰にとっても嫌な事しか、ない)

 

(今度は、僕の番だ。僕が……)

 

(院長。……那拓……!)

 


『そんな怒り心頭みたいな顔をして、どうせ図星だったんでしょうが!』

「ッ!」ギンッ

  バッ

「……」

「!?」

「な……伊東!?」

『……なんですか、新人先生。割って入ってきて』

「……いい加減にしてください」ボソッ

「……」

 「なんだって? よく聞こえ……」

「いい加減にしてくださいと言ったんです!」

「……」

 「何がだよ、あんた! 余所もんのくせに!」

「ソウヨ……アンタナンカムカンケイデショ!? ソレトモ、イッショニコワサレタイノ、“ニンゲン”!」

「……余所だとか、里の人だとか、人じゃないかとか、そんなくくりは知らない! 僕には関係ない!」

 「な……」

「……エ?」

「ほぉ?」

「なんなんですか、貴方達は! そんなに、そんなにこの子に、偶像を押し付けたいんですか!?」

『……は? 偶像を押し付け……?』

「ええ、そうですよ! さっきから貴方達……この子の話を聞かないで、自分たちで決めつけたことばかり言っている。
 この子は違うと言っているのに……聞く耳持たないで非難ばかり……」グッ

 「んなもん、嘘に決まってんだろ!」

「……どうしてですか。どうして嘘って決めつけられるんですか」

『吸血鬼は粗暴で野蛮だからですよ。事件の時にも、お構いなしに里を襲ったのが、いい証拠です!』

「ッ……」ジワ

「……(イトウさん。どうでますか」


「それのどこが嘘吐きになるんですか! それで分かることなら、むしろ素直で抜け目ないってところじゃないですか」

 「な、なにぃ?」

「だって、血喰い事件が起きたのって、他の妖怪達が弱まっていたから起こったことじゃないですか。
 自分の力なら、今の幻想郷を取って頂点に君臨することが出来るかもしれない……。
 その素直な自信がなくて、そんな無為無理無策を取れるわけがないと思いませんか?」

 「……そうだったのか?」

 「い、いや。俺はそんな妖怪のことなんざわかんねぇよ……」

 ざわざわざわ……

『よ、余計な事を……』ブツブツ

「……あれ、知らない? (上白沢さんの授業じゃ、普通に言っていたのだけど……」

「……おい、あんちゃん。その話、誰から聞いた」

「え? あ……」チラッ

「……私だよ篠坂。私が、その事実を授業で教えた」ハァハァ

「そうかい」

 「んじゃぁ、それも嘘かもしれねぇじゃ……」

「いんや、事実だ。慧音先生が、んなあめぇホラ吹くわけがねぇ」

「……篠坂」ハァ

 「え? と、棟梁?」

「……(あれ……篠坂さん……?」

『ぐぎぎ……な、何を言っているのですか。そんなこと、今は関係……!』

「! いいえ、大有りです。今、貴方達はそんな事実も知らずに、ただ里を襲われた怖さや恨みで相手を貶めていた。
 ……違いますか?」

 「……だ、だが、俺と俺の女房は確かにあいつに襲われたんだ! それは事実だ!」

 「そ、そーだ! 相棒は一か月以上貧血で悩んだんだぞ! 恨んで当然だろうが!」

「僕は痛みを否定していません。否定できるわけがないですよ……」

 「なら、黙って……!」

「でも、だからって、ありもしなかった設定を押し付けるのは間違っている!
 まして……この子は、そんなこと向けられる相手じゃない!」

「この子は、血喰い事件を起こした……レミリア・スカーレットじゃない!」

 「…………」

「……」

『……』


「貴方達を襲った相手は誰ですか?」

「貴方達が恐れている相手は誰ですか!」

「それはこの子じゃないはずだ! それは、他の吸血鬼なはずだ!」

「スカーレットデビルと呼ばれた、紅魔館の主のはずだ!」

  ざわざわ……

「貴方達が抱いた“粗暴”で“野蛮”な“嘘吐き”の偶像は、ここにはいない!!」

「ここにいるのは、上白沢さんの授業を熱心に受けている、一人の生徒ですっ!!!」

『ですが、そこの小娘は、その吸血鬼の妹ですy――』

 

   親子兄弟ってだけで、決めつけられて堪るか!!!

 

『――!?』ビクゥ

  しーん……

「……」

「なら、人殺しの親を持つ子は人殺しですか!? 宗教家な子の親は宗教家ですか!?」

「天才の子を持つ親も頭がいいのか!? 理系な姉の妹が文系なのはおかしいのか!?」

「違うでしょう! 子供に罪はない! 何を信じるかは親次第!」

「決して頭は良くないかもしれない! おかしいところは何もない!」

「どれだけ似通っていたとしても、血が半分同じでも、やった事も、性格も、才能も、全く違うんです!!」

『……』

 「……」

「はぁ……はぁ……」


「……大声を出して、すみません。けど、どうしても、譲れなかった……」

「構やしねぇよ。けどな、あんちゃん」

「……」

「あんちゃんの言い方だと、同じ吸血鬼だが赤の他人だっからよ、想像に当てはめんなってことになる」

「はい」

「それを、はいそうかよって、切り替えれると思うか?」

「思いません」

「ならどうすんだよ。まだ、俺達の中じゃぁ燻ってるかもしんねぇぜ?」

「……完全に取り去ることは出来ないとは思います。ただ僕は、そんな風に、自分達を追い詰めることを、止めてほしかっただけです」

「……」

「嫌な姿を相手に押し付けて……もし、本当にそうなったら……誰かが、怪我を負う事になるんですよ……?
 まるでそれを期待しているような言い方に、我慢ならなかっただけです……」

「……」

「それに……」

「?」

「……自分を見てくれないのは、悔しいから……」

「そうかい」

「……はい」

「……しらけた。けぇるぞ、おまえら」

 「えっ、と、棟梁!?」

 「いいんですか?」

「こんだけ熱心に庇われて、また野次れるのか、おめぇら?」

 「「…………」」

「それによぉ。あんちゃん、責任取るってことだよな、それ」

「……勿論です」

「なら、それでいいだろ。そこの吸血鬼の嬢ちゃんにしっかり言い聞かしてくれや」ノシ

 「……」ゾロゾロ

『……』コソコソ

「…………はぁぁ」

「……」クルッ

「……すまない、伊東。一人でずっと、話させてしまった」

「気にしないでください。僕の自己満足ですし、どうも上白沢さんは体調が良くないみたいですし。……」

「……」ギュッ

「……(さて、出しゃばってしまったけど……どうしよう、かな」


以上で投下を終わります

ここで止めです。次回は犬です

それでは、また


 あの子にも、心はある
 だがその機微に気付ける程、私はまだまだ達者でなかった
 だから今も、私は後悔し続ける

 あの子にも、心はあるのだ

~~~白玉楼~~~

『……~*』

「ふっ、せいっ!」

『……』ジー

「……たぁっ!」シュッ

  ズズッ……ぽてっ

「……」

『?』

「……うーん。まだまだおじいちゃんの太刀筋には遠い」ハァ

『……』

「それどころか、ちょっと鈍ってるかも」ナデナデ

『~♪』ポフポフ

「……おまえは相変わらず、日向ぼっこなのね」

『わんっ♪』

「これだけ暑いのに、よくまぁ根を上げないわね」

『へっへっへっ』

「まぁ、幽霊だからかもしれないけど」

『……』ショボーン

「……はぁ。今月の買出し行ってこよ」ヨット

『わんっ』

「あら。見送ってくれるの? そこからだけど」

『へっへっへっ』

「……新鮮な気分ね、これ」シミジミ

………………

…………

……


~~~夕方~~~

「……よっ、と」

『zzz』

「ただいまー。……って、寝てるのか」

『zzz』

「暢気な顔して、羨ましいわね。文句を言っても仕方ないけどさ」ハァ

『zzz』ピクッ

「……さっさとしまってしまおう。夜のうちに鍛錬を済ませたいし」ヨット

………………

…………

……

~~~夜~~~

「ふんっ、ふんっ、ふんっ!」

「……(時さえも斬れたという、師匠の剣技。そこへ辿りつくのに、私はまだまだ未熟」

(物事は斬って知る。その境地は未だ視えぬ遥か先だけども、それでも師匠が居る場所)

(……霊夢さんや魔理沙さんともっと勝負して、見極めなければ)

「……せぇぇぇいっ!」ブンッ

 『わぉおーーーーーーーーーーーーーーーん!』

「えっ!? な、何!?」ビクッ

「……」

「まさかまた、襲われて!?」バッ

(でも妖気は……だが確認するにこしたことはない!)

  タタッ

「!」バッ

「……」

『くぅん……』

「……何も起きていない?」ハテ

『……』シュン

「お騒がせな。……どうしたっていうの、おまえ?」

『くぅ……くぅん……』

「?」

『……』ヘタ

「……元気ないわね。何か嫌な事でもあったの?」

『……』ポフッ

「……」

『……』

「さっぱりだわ」

『くぅん……』


「ふわぁ。どうしたの~、妖夢?」

「あ、幽々子様。いえ、それがこの子が叫んだようなのですが」

「それは分かっているわよ~? 何にもいなかったのかしら?」

「ええ、まぁ、何も。……え、何も?」

「……」ジトー

「まさか……! 周辺を探索してきます!」バッ

「……」

『……』ズーン

「全然なってないわねぇ、妖夢。特に何も言っていないのに早とちりしちゃって」

『……』

「……どうして哭いたの、――?」

『くぅん……』

「あら。御主人の身になにか起きた気がしたのね」

『ぅぅ……』

「……そうね。気の所為ならいいのだけどもね」

『……?』

「分からないわ。……私だって、万能じゃないのだから」

「紫ほど、何かが出来るわけでもないのだから」

『……わんっ!』

「あら。慰めてくれるの? 貴方の方が傷心しているでしょうに」

『へっへっへっ……』

「……ふふっ。ありがとう」ナデ

『~♪』ポフポフ

「……」

『……』ジッ

「……『何かの和歌』」

『……』

「続き」

『……』

「続き途中で止めて」

『……zzz』

「……」

「きっと、きっと貴方のご主人様は、想い人は……」

『……』

………………

…………

……


「ただ今戻りました、幽々子様」

「あら、お帰り。どうだったの~?」

「はい。それが、姿かたちもなく……取り逃がした模様で」

「あら、残念ね。妖夢なら何か見つけるかと思ったのだけど」

「申し訳ありません」

「謝られても知らないわ。影を追いかけても、捉えられなければ意味はないのだから」

「……面目ありません」

「それより、お腹が空いたわ。何か夜食を用意させなさい」

「はい、分かりました」スッ

「……」

「むしろ何か見つけてこれば良かったのに~」ムー


以上で投下を終わります。動物の勘の、その強さ

 

途中、思い切り入れ替え忘れていました。西行法師の和歌、

『松風の音あはれなる山里に さびしさ添ふる蜩(ひぐらし)の声』

が入るところです

推古を忘れてお見苦しいところを見せました。すみません

それでは


 ありがとう。

 たったそれだけ。
 私はそれさえも欠いていた。

 あの子はそれを許してくれるかな……?

~~~白玉楼~~~

『……』ポフポフ

「ふわふわだぜぇ」モフモフ

「……なんでまた来たんですか」

「なんでってそりゃ、もうすぐ秋だからだ」

「秋だからどうだっていうんですか」

「食欲の秋だからな」

「……だから何がですか」

「美味しい物ぐらい、ここにもあるだろうってな」ニカッ

「……そうですか」

『わんっ!』

「お前も食べたいよなー、シロー」

『? わんっ!』

「よーしよしよし」グリグリ

『へっへっへっ』ポフポフ

「相変わらず、そう呼ぶんですね」

「私がそう決めたら、そうなんだぜ。首輪の文字が分かってれば違ったがな」

「そうですか」

「おう。それで、何か分かったのか?」

「いえ、それがさっぱり。何も」

「なんだよ、使えない。幽々子から何も聞いてないのか?」

「ええ。幽々子様もあまり気にかけていませんし」

「そーかー。……冷たい主だな、シロ」

『……』フリフリ

「そういえば魔理沙さん。ちょっと、決闘挑んでもいいですか」

「んー。別にかまいやしないがどうしたんだ?」

「いえ。ただ、もうちょっと斬りたいなと」

「物騒だぜ」

「弾幕にきまってますよ。たぶん」

「物騒だぜ」

『……くしゅっ!』

………………

…………

……


~~~二刻後~~~

「骨を埋めることに決めたの~?」

「悔いがなけりゃな。そんでまだまだ食いが足りないぜ、妖夢」モグモグ

「今日は私の当番じゃないので。それより幽々子様。追い出さなくてよろしいのですか」

「ん~? みんなで食べた方が楽しいじゃない。お月見なんだから~。あーん」パクッ

『へっへっへっ……』

「中秋の名月は来月だろ。なんで繰り上げてんだ?」

「来月晴れるかわからないじゃな~い。だから、晴れている今のうちにね~」

「そうなのですか。てっきり、無理矢理こじつけて食べているのかと」

「お前な……」

「駄目駄目ねー」

「へ? え? あれ、何かおかしい事言いましたか、私」

『……』

「ひたすらにやれやれだぜ」

「やれやれねー」

『?』

「???」

「ま、妖夢はいつもの事だな。それより幽々子さ」

「高くつくわよ」

「踏み倒すぜ。シロがこの石燈籠から動けないのって、なんでか分かるよな?」

「冥土払いでいいわ~。ええ、分かるわよ~? どうやら、御主人様との約束を守っているみたいね~」

「え、本当ですか。幽々子様」

「どうかしら~? でも、この子がそう言ったのよ~?」

『わんっ!』

「……約束で、ここまで固くですか」

「こいつはとんだ忠犬8公だぜ。眉的に」

「というか幽々子様。犬の言葉が分かるのですか?」

「失礼ね。犬語なんて分かるわけないじゃない」プンスカ

「え? あ、失礼しました」

「でも、分かるのよ~」

「どっちだよ。そしてどうやってだよ。幽霊同士じゃないと伝わらない霊波動か?」

「さぁ~?」


「そんな物、ない。……と思います」

「なんだ、ロマンがない」

「マロンもないわ」グゥゥ

「……団子のおかわりはあります」サッ

「よろしい」パクッ

『……』ジトー

「はい、あーん」

『~♪』ポフポフ

「……」ポカーン

「? どうしました、魔理沙さん」

「……幽々子が食べ物を犬に上げたぜ……」ポカーン

「失礼ですよ。幽々子様だって慈悲を施すことぐらい、たまにはあります」

「気まぐれよ~♪」

『♪』フリフリ

「そうなのか」

「そうみたいです。それで幽々子様。他に、他には何か分かった事は?」

「あら~? 妖夢は全部、私にまかせちゃうのかしら~?」

「そんな感じだよな。少しは自分で考えろっての」ケラケラ

「む……むぅ」

「うふふふふ」

「んじゃ、お邪魔したぜ」ヨット

『! わんっ』

「……本当、可愛い奴だなーおまえ」ヨシヨシ

『~♪』ポフポフポフポフ

「……」イラッ

「覚らないとだめよ~」モグモグ


以上で投下を終わります。一方はまったくのほほんと

次回は陽向を予定しております

それでは

こっそり……納得いく形にならなくて期限危ないので、かしこみかきこみ


 僕がこの行動を取ったのは、本当は他人の為じゃない
 ただ、自分の汚点から眼を逸らしたかっただけなのかもしれない

 そうやって考えることこそ罪だと、僕は知ったんだ

~~~寺子屋前~~~

「……」

「……」ギュッ

「……(さて、出しゃばってしまったけど……どうしよう、かな」

(あんなに温まって、変に見られたかな……)

「……フランドール。もう、落ち着いたか?」フゥ

「……うん……」サッ

「……(まさかの怖がられている?」

「フラン様。御隠れになられなくとも」

「……だってその人間、変なんだもん」ジー

「変、か(だよね。そう思うよね……」

「こら、フランドール。失礼だろう」

「え? いや、別に気にしていませんよ。それより、中に……」

{……――。~~}

[――?]

(あ……ぁ……)

{――。~~}

[……――!!]

「……」

「? どうしましたか、伊東さん?」

「……」

「……伊東?」

「あ。……なんでもない、です」

「それにしては、ぼーっとしていたが……」

「ほ、本当になんでもないです。ただ、ようやく怖くなってきた、といいますか」

「ようやくですか。まぁ、興奮すると遅れてやってくることもありますしね」

「……はい」

「……はぁ。とにかく、中に入ろうか。こう、寒空の下ではな」

「……うん」

「僕は少し、一人になってから戻ります」

「……大丈夫ですか? お茶でも飲んだほうが……」

「いえ。ただ、頭を冷やしたいだけなので」

「そうですか。では、お茶を用意しておきますね」


「……」

「……(そう、だった。どうして……忘れていたんだ……」

(院長は……院長は……)

(……僕は、院長が一番嫌ったことを……)

(……)

(……)

………………

…………

……

~~~寺子屋~~~

「……ふぅ」

「お疲れさまでした、慧音さん。……本当、無事に終わってよかったですね」

「全くです。それもこれも、伊東さんのおかげだ」

「……ねぇ。なんであいつはあんなことしたの?」

「それはまだ分かりません、フラン様。ですがきっと、心ある行いですよ」ニコッ

「ふぅん……」

「まだ、決めつけるわけには行きませんけどね。……ただ、彼には謝らなければいけない事が増えた」フフッ

「え?」

「おや。それにしては嬉しそうですね?」

「ん……そうか。そう見えたか」

「笑ってましたよー? 少し、察しはつきますが」

「どうして? 普通、謝るのって悪い事したからでしょ? なのに嬉しいの?」

「そうだ。……陰口叩いている様になってしまうが、正直なところ彼には期待していなかったんだ」

「期待って、何の?」

「……色々だな。以前、フランドールが言っていた事もだし、明日、試そうと思っていたこともだ」

「他には? 他には?」

「あまり聞かないでくれ。改めることばかりなんだからな」

「ははは。誤算ってやつですね」

「ああ、そうだ。……嬉しい誤算だ」フッ

 ギィッ ギィッ

「お?」  ガララ

「やっほー、慧音。お邪魔するわよ」


「だから玄関で挨拶をだな。……どうしました、伊東さん?」

「……」

「さぁ。玄関前でなんか神妙な面持ちでつっ立ってから、連れて来たわよ」

「結構経ったと思いましたが、落ち着かれましたか?」

「……はい。……すみません」

「……?」

「ほらほらー、そこで突っ立っていないで、座って下さいよ」ニコニコ

「……すみません」  トン

「むぅ? (何か気が淀んでますね」

「どうしたのよ、伊東。あれだけ熱く語ってたのにさ」

「見ていたのか」

「野次馬の後ろからね。何かあったら出ようと思ってたけど、勇者のお出ましでいらなくなったわね」ニヒヒ

「……」

「そうだったのか。はい、伊東さん。熱めのお茶です」トン

「……すみません」

「もぅ、どうしたんですかー伊東さん。そんなに落ち込んで」

「……」

「そうですよ、伊東さん。……何か、気になることでもありましたか?」

「……いえ。別に、そう言うわけじゃなくて……すみません」

「……(嫌な事でもあったのでしょうか。それとも、冷やし過ぎた……? 訳ないですよね。とにかく」

「いやぁ、それにしても先程のあの雄姿。その間といい、鬼気迫る言葉といい、素晴らしく真に迫っていましたねぇ」

「……そんなこと、ないです」

「いえいえ! あれをしていただかなければ、今頃悲惨な事になっていましたよ。それこそ、伊東さんの言った通りに」

「……」

「そうですよ。……反妖怪派が悪魔の姿を引き出そうとしていたのは、恐らく確かでしょう。
 それが分かっていても、それを食い止められるのは、そこにいる者達にはなかった。
 ……あの状況で言いだせる人は、貴方しかいなかったんです」

「……」

「ですがそれは強制出来るものでも、お願い出来るものでもない。
 まして、もし貴方が言いだしてくれなかったとしても、貴方が悪いということでもなかった。
 だが、貴方は割って入ってきてくれた。入って、あの場を静めてくれた。
 その行いに、私は心からの感謝を送りたい。……有難う御座います、伊東さん」

「……」

「私からもですよ、伊東さん。本当に、謝謝」パンッ


「むぅー……」

「……どうした、フランドール。お前も礼を言うべきだぞ?」

「だって私、頼んだ覚えないもん」フイッ

「おまえなぁ」ハァ

「……いいのですよ。僕は礼を言われるような人じゃない……」ボソッ

「……ちょっと、伊東?」

「……言われるほど……何もしてはいません……」

「……ふん」サッ

「フ、フラン様……。伊東さんも、そんな謙遜なさらず! ほら、感謝の言葉は素直に受け止めて下さいよ」アセアセ

「……すみません」

「……どうしたんですか、伊東さん? そんな、まるで出会った時のように……」

「……僕は――」ボソッ

「? 今、なんと……」

「僕は、こうしているのが相応しいのです。……僕は礼を言われていい人間じゃない」

「……」

「僕がああしたのは……所詮、ただの我儘だっただけです。だから……だから……」

「そ、そうだとしてもあれ以上の騒ぎを起こさず済んだのは貴方のおかげで……」

「……あれが盗んだものでも?」

「……え? 盗んだもの?」パチクリ

「……」

「どういうことだ、伊東」ッ

「……あれは、院長先生が僕を助けてくれた時に言ったことを……真似したものなのですよ」

「院長先生?」

「……あの子と僕を助けてくれた恩を、僕は……見たくないからといって、遠ざけるために利用した」グ

「……」

「僕にそんな資格はないのに。……僕が、してはいけないのに……」グググ

「なのに僕は……僕は……先生の顔を、汚した……!」

「恩を仇で返しながら、厚顔無恥にも……まるで自分の考えのようにひけらかした」

「……(こーがんむち?」

「最低の……人間なんです……」

「……」

「……」


「何故、お前がしてはいけないんだ。あの主張は、あの場で間違いなく効果があったんだぞ?」

「……場合とか、時とかじゃないです。……問題なのは、僕自身だ。……僕は罪人だ。……いくつもの教えに背いた、……」

「……背いた?」

「生きる価値のない、社会のクズです……」

「……」

「……」

「……(何を思い出したというのでしょうか。これでは懺悔どころか、自傷……いえ、自殺ですよ?」

「……」

「……お前がそう思うに至った理由は、その院長先生という人の教示に背いたからで、いいんだな?」ズキッ

「……はい」

「それは強制されたものなのか。それとも、お前の教訓だったのか」

「……教訓です」

「なら何故、それを取り返そうとしない。これからでも、その教えに背かず生きていけるだろう?」

「……」

「今の話を聞いて、そして伊東のこれまでの行動を見ていた限り、けして悪い教えではないはずだ。
 ならそれをこれからも全うすればいいじゃないか。反した事でも、盗んだものでも、返済していけばいいじゃないか?」

「……」

「……違うのか、伊東?」

「……」

「……」

「……すみません」ボソッ

「……何が、そこまでお前を追い詰めるんだ」クッ

「……」

「……」

「……」

「……(それほどまでに強烈な何か……」

「ならば仮にだ。仮に、お前が褒められるべきでなく、感謝されるべきでもなかったとして、
 ……これからお前はどうするつもりなんだ」ギリッ

「……」

「事は穏便にすみ、私とフランドールは恐らくこれからも教師と生徒の間柄でいられるだろう。
 だがおまえはどうするつもりなんだ」

「……里を出ます」

「何?」

「里を出て、中有の道へ向かいます」

「っ。お前、まさか」


「……今度こそ、確実に死にます」

「!」

「なっ……伊東さん!?」

「僕は生きていてはいけない人間です。……あんなことを、し――」

  パァンッ!

「――……」

「ふざ、けるな!」

「け、けい……ね……」ビクッ

「何が……何が生きていてはいけない人間だ!? 生きる価値がないだ!? いい加減にしろ!」ジワッ

「……(……また。……じゃないな。あの時より、よっぽど強い」

「死にに行くなど、私が黙って行かせるとでも思っているのか!? 納得も出来ないまま、放置すると思っているのか!?
 お前が、お前が何を罪としているかも分からないのに!」

(……本気、なんだろう。本気で怒っている……)

「……ごめん、なさい(……叩かれて当然だ。……こんな、僕みたいな人間は……」

「質問に答えろ、伊東! 私はそんな言葉が聞きたいんじゃないんだ!」

「……自殺、ですよ」

「自殺だと?」

「そうです。……僕は教えに……いいえ、教えて貰った事を忘れて、身を投げた……」

「確かに自殺は重い自責になるかもしれんな。だが、その教えとやらを思い出したのなら、今のこの矛盾する言動はなんだ!?」

「あの時、死んでおくべきだったからですよ!」

「っ……」

「上白沢さんと出会ったあの時に気が触れてしまうか、藤原さんと出会わずに……いや、逃げ出さずに、大人しくしておくべきだったんです!」

「だって僕は……責任から逃げたのだから……」

「僕は、那拓を……殺したも同然なのに、その責、から逃げた……卑怯者、なんだから」

「……」

「せん、せいからも……なたくからも……じぶんからも……にげだしたんだ……」

「ぼくは……ぼくは……」 ピチャッ

「……」

「こんなクズ野郎、生きてちゃいけないんだ! こんな不孝者、この世に存在しちゃいけないんだ!」

「僕は……誰からも忘れられるべきなんだっ!」

「伊東、あんた……」

「……」

「……ごめんなさい……めいわく……おかけしました……」

「……」

「……ごめんなさい」

「……」


「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


「……」スッ
 
「……そうか。伊東は、それが望みなんだな」

「……え?」

「伊東は、忘れられてしまう事が“望み”なんだな?」

「……それが、僕に相応しい、ことなんです」

「……」

「……」

「……だったら、私は忘れない」ギリッ

「……」

「お前がどれだけ望もうと、私は忘れてやらないぞ。お前が来た時のことも、お前がしてきたことも、お前の主張も……」

「……」

 

「私は絶対に、忘れない……!」

 

「なんで……!」バッ

「……」ギュッ

「あ……」

「お前が望む事など、叶えてやるものか。……お前にそれが合っていると思うなら、叶えてやるものか!」

「っ……(そうか。……僕の望みだから……叶えたら……」

「お前がどれだけ自分を貶めようと、咎めようと、私は“知っている”からだ。
 お前がここに来る前にしてきたことは分からないさ。
 だが、お前が培ってきた人間性は、この半年間でよく知ったつもりだ……」ギュッ

[―――……貴――ま――も“知らない”、素――未来を―――る子――よ。
 ―れを、――那――ゃんだ――った――で―足しちゃ―――いの。
 私――らない事を知――、―と違―、素敵な―――なれ―の]

「……! (あ……」

「それでも今日、お前は私が知る以上の人を見せてくれた。
 まだまだ知らない、お前の一面を……」ギュゥ

[そうな―――、―方の中――残り続け―わ。私の――ている、――しい貴方―]

「やめ……て……(せんせい……の……」ジワッ

「こんなに嬉しい気持ちにしてくれた相手を、忘れなどするものか。
 いいや、それだけじゃない。もっともっと、伊東の事が知りたいんだ。
 伊東の歴史を……伊東と歴史を、積み重ねたいんだ」

[そ――貴方のほんの―部になっ――、忘れず――――れるの。
 そこか――がる新しい貴―を、私に見せて――せて貰いたい―。
 私と―別の誰かと紡いだ、貴方―見せて―戴。そうやって、人の―は広がって行くの―から]

「ぁぁ……」フルッ

[ごめんなさい、気が早かったわ。そうね……。
 うん。陽向ちゃんと那拓ちゃんのように、助け合い、笑い合い、支え合える友達と、いつかきっと出会えるわ。
 その人のことを私達に紹介して欲しいの。那拓ちゃんと遊んだことを、話してくれるように、ね?]


「それにな、伊東」ナデ

「ぅ……は……?」

「こんな言い方はすごく不謹慎だとは思うんだが……。お前が幻想郷に来てくれたのは、良かったと思うぞ」

「……何故……?」ボソッ

「……お前の知る院長先生は、そしてナタクは、お前が死んで嬉しがるのか?」

「……!」

「お前が生き延びていて、残念がるような人なのか?」

「……」

「それは私には分からないんだ。だから教えてくれ、伊東」スッ

「その人達は、私と同じように、お前の無事を喜ぶのだろうか?」ニコッ

「……」

「……は、い」ポロッ

「……」

「きっと……ぎっ、ど……うぁ……」ポロッ

「……」ナデナデ

  ――――――――!

「なら、それでいいじゃないか。その人達が喜んでくれるなら、それだけでお前は生きていていいんだ」

「――……――!」ポロポロ

「迷惑なんかじゃない。それどころか、私の方が迷惑をかけたぐらいなんだ」ナデナデ

[……迷惑をかけられるぐらいが、頼りにして貰えていると思えるものよ?]

「……――」グズッ

「どうしてもというのなら、お互い様にしよう。その方が、気にしなくて済むだろう?」

[いつか貴方にも分かる時がくるわ。気の置けない人と出会う、その時が。
 あるいは、家族かもしれないわね]フフッ

「……――」ポロッ

「だから、もっと泣けばいいさ。後悔して、過ちを謝って、我慢したものを出し切ればいい。
 それが終わるまで、私が見ているから」ナデ

「……すみま、せん」

「……そうじゃないだろう、伊東」

「……ぅ?」

「ありがとう、だ」

[それから謝ってばかりよりも、ありがとうって感謝したほうが、皆、笑顔になれると思いますよ。
 だってその方が、嬉しいもの]

「……」

[ね?]

{「……はい。……ありがとう」}

[「どういたしまして」]ニコッ


「……ぅぅ」ギュゥ

「……」サスサス

「……フラン様。別の部屋で待ちましょうか」ボソッ

「……う、うん」コソコソ

「……私もお邪魔虫かな」ヨット

「――」

「……」

………………

…………

……

「……」

「……ふぅ。この茶は庶民的ねぇ」

「勝手に淹れて良いのですか、妹紅さん?」

「台所にあったのを失敬しただけよ。まだまだ熱いわ」ニコッ

「……ねぇ、めーりん」

「はい、何でしょうか。フラン様」

「あの人間は……悪いことをしたの?」

「……どうしてですか、フラン様」

「だって、けーねは怒ってたし、それに……泣いてたし」

「……確かに少し、人の話を聞こうとしなかったかもしれません。ですが、あれは決して悪いことではないと、私は思いますよ」

「……どうして?」

「多少、自虐的ではありましたが結局、全部背負い込もうとした結果でしょう。
 それ自体は、怒られるようなことではありませんから」

「自分が悪いって思い過ぎてたのは否定できないけどね。いやぁ、若い若い」ハハ

「…………もこーは分かってるの?」

「……ちょっと違うけど、やりすぎたことは私にもあるからね」フッ

「……」  ガラッ

「……」ピシャッ

「……どう、慧音?」

「今度こそ落ち着いた。……もう、あんな馬鹿な事は言わないと、約束もした」

「それはよかったです。正直、ひやひやものでしたよ」

「そうだな。……しかし、忘れていたことが続々と、か」

「? 何が、けーね?」

「彼が言ったのさ。堰を切ったように、色々思い出したんだと。……」ウーン


「何か気になることがあるみたいね?」

「ん、ああ。博麗大結界のことで、ちょっとな」

「むむ? どうしてそこで結界の話が?」

「さぁ。ただ本当に、なんとなく思い出しただけなんだ」ウーン

「それって、どんなの?」

「……『受け入れたなら、忘れよ』」

「?」
うた
「詩さ。初代博麗の巫女が、結界を結ぶために歌った、その一部だ」

「へぇ……? どういう意味なの、けーね?」

「それも、さっぱりなんだ」

「え?」

「他の『非常と忘失を取り込み肥やし続けよ』や、『抱え、抱き、離さぬことを誓う』はまだ分かったんだがな……」

「なにそれ。随分と変な言い回しね」

「直接的に言うより、受け手によって意味が変わるようにしたかったのかもしれん。……というか、お前がそれを言うか」

「……人間って皆、そういうのが好きなの?」マリサトカ

「どうだろうな。だが少なくとも、博麗の巫女に関しては『皆』の範疇外だと思うよ」

「違いないわ。それで、もうこんな時間だけど?」

「……今日の勉強はなしにしよう。その代わり、少しだけ話がしたい。構わないか、フランドール?」

「まぁ、いいけど」

「有難う」

………………

…………

……


~~~翌日・満月の幻想郷~~~

「……」

「……(満月の夜。……上白沢さんが、妖怪と化する日」

(……)

『無理なら次の満月でもいい。無理をして、またあんな状態になっては申し訳ないからな』

(……そんなこと、絶対ない。……とはまだ言い切れない、けど)

(後に、後にとはしてはいけない。後に伸ばすのは……あの頃の僕のままになる)

(――市にいた、那拓に甘えていた僕のままに)

(……それはもう、やめなくちゃ。……言い訳にしちゃ、いけないんだ)グッ

(それに……)

『……』ジッ

(……あの目をした人と会うのに、無理なんか、ない)

(無理なんて、ない)

(……)

「……///」ボッ

(だぁあー! お、思い出したら……は、はずか……!)

(……い、いけない。深呼吸、深呼吸)スー

「はぁぁ……」

「……(よしっ。……これは流石に、言い訳にしてはいけないよ。……うん」

「……っ」ギィ ギィ

 ギィッ ギィッ……

「……」

「……」コンコン

『……どうぞ』”

「お邪魔します。……上白沢さん」ガララ

「ああ。……来たんだな」’

「……はい(……尻尾に、耳。……そして角」

「ならば改めてだな。……これが、私のもう一つの姿……」’

 

「ワーハクタクとしての、半妖の姿だ」’

 


以上で投下を終わります。忘れたからどうでもいいわけでなく、思い出したから重要なのでもなく

次回、彼とワーハクタクということで

それでは


 ああ、そうか
 この時にもお前は、私を褒めてくれたんだな
 このこともしっかり覚えておかなくては

 じゃないと、歴史を食べた意味がない
 そう……意味が、ないんだ

 

~~~慧音の執筆部屋~~~

「ワーハクタクとしての、半妖の姿だ」’

「……雰囲気が、やっぱり少し違いますね(蝋燭で……ぼんやりとしているからかもだけど」

「まぁな。昨日から既に気付いているだろうが、この状態はかなり気をやる必要があってな」’ フッ

「でも、上白沢さんだってことは分かります。……そこは、変わっていません」

「……そうか。それは嬉しいことを聞かせて貰った」’

「……」

「さて、何から話すべきか。色々ありすぎて、色々話したい」’

「僕も、色々と……ありがとうございます」

「ああ、そうだ、感謝してくれ。お前に対して私が感謝したいのと同じようにな」’ フフッ

「え? あ、はい……?」

「ん? 何か気になるのか?」’

「その、対応がいつもと違うな、と」

「……ふむ。そうだな、いつもとは確かに違うか」’ ククッ

「?」

「いや、すまない。以前も言っていたようにこの状態だと、気性が荒くなる。だから、戸惑う事を言うかもしれん」’

「……」

「それでも、これも私なんだ。紛れもなく、間違いなく……」’

「……はい」

「……」’

「……」

「……さて。何を話そうか。いや、もう私の体質に関して話したか。うーむ」’

「……僕から一つ、聞いてもいいですか?」

「ああ、構わないぞ。むしろ、そうしてくれた方が早い」’

「はい。……どうして、部屋の灯りが一つだけなのか」

「……するどく来たな。お前に自覚はないかもしれんが」’

「あ……いけませんでしたか?」

「いや、どうせ話す事だ。灯りが一つな理由、それは……」’

「……」


「……言い訳を考えても仕方がない。怖かったんだよ」’

「怖い……?」

「ああ。私のこの姿は他の妖怪と違い、制御出来ていない本性が具現したようなものだ。
 ハクタクの、歴史を喰らう……暴食と偏食の性のな」’

「……」

「この姿の私は飢えている。しかも傲慢にも歴史に優劣をつけ、手を出そうとしてしまう。
 それを抑え込めば、次はなんでもいいから腹に押し込もうと見境がなくなる。
 実際にそうなったハクタクに、私は襲われた。その姿は、この能力がなかろうと忘れる事はない……」’

「……上白沢さん」

「もしかしたら、いつか私も飢えで暴れてしまうのかもしれない。だったら、離れるべきじゃないのか?
 人里から離れて、人眼のつかない場所に籠って……孤独に……」’

「……」ググッ

「……なんて出来るほど、私は強くない。人がいなければ、簡単に狂ってしまえる。
 それに私はこの里の皆が好きだからな。ここから離れるというのは、身を裂かれる思いだよ。
 だから、満月の日だけ人を避けるようにしていた。これまで、ずっとな」’

「……」

「それを無意識に行ってしまったんだろう。あれだけのことをお前に言っておきながら、情けない話だ。
 いつもなら、歴史の編纂作業で気が紛れるから明るさを意識することもないんだがな」’ ククッ

「情けなくなんかないです。そう気を掛けてくれる上白沢さんは、やっぱり優しい人です」

「……有難う。
 ならしかし、私も相応の態度で返さねばならないな」’

「え? いえ、見返りが欲しくて言ったわけでは……」

「違う違う、これは私のけじめの話だ。ついさっき言った事の、戒めの意味もある」’

「……」

「だから、私の姿をきちんと見てほしい。伊東のその決意への、敬意の形として」’

「……」コクッ

「……」’ スッ  ガラッ

「……」

「満月の夜に現れるなら、この姿はやはり月光の下に晒されるのが筋なのだろう。
 獣と人が重なった姿。幻想郷ではさして珍しくないかもしれないが……」’ クルッ

 

「お前の目にはどう見えるかな。伊東」’

 


「……(ぁ……」

「……」’

「……」

「……」’

「……」

「……ふっ。やはり少し、刺激が強かったか。だがもう少しだけ話を聞いて欲しい」’

「……」

「……私はお前に、数々の嘘を吐いた。偽りの話をでっち上げ、『伊東陽向』という人間を品定めするために。
 この四カ月の間、私はそんな目でずっと見てきた。この世界のこの里の中で、自立して生きていけるのか、上から目線で確かめ続けた。
 その最終審査として、今日のことを提案した。私自身を踏み絵にして、妖怪をどう見るのかを探るために」’

「……」

「……しかし、その必要はなかった。むしろこのことで、私の浅はかさが分かっただけだった。
 そう。つい昨日、お前が見せてくれた雄姿……いや、我儘で勝手な行動が、お前がどういう人間なのかを教えてくれたんだ。
 お前が種や思想に、囚われる人間でないという事をな。
 ……院長という方の話だけは、そうもいかなかったみたいだが」’ フッ

「……」

「おっと。これでは悪いみたいな言い方だな。それだけ大事な物があるのは、けして悪いことではないのに。
 ……私が言いたかったのはな、伊東。
 お前はもう、この里で、一人でも、立派に生きていける」’

「……」

「……」’

  「神隠しされた、ただの餌なんかじゃない。私達の、大切な友人だ」’

「……」

「それが一番、伝えたかった事なんだ。
 ……ただそれでも、些か刺激が強すぎたようだな。
 まぁ、当然か。私でさえ、この姿は醜く……歪なモノとして感じられるんだ。無理もなかろう」’

「……(みに、くく?」ピクッ

「今日のこの約束は……驚かせるだけになってしまったな。済まない」’

「……あの、上白沢さん。醜くって、今の、その姿が?」

「ん? ……ああ。自分で御せれぬ、人と妖怪の混ざった歪な姿だよ。恐ろしくて……醜いものだよ」’

「そんなことないです! 上白沢さんは……変わらず、優しくて、真剣で……!」

「……無理して言う事ではないぞ、伊東。それに、今のその反応だけで、お前を悪く思ったりはしないさ。
 フランドールを他の子と同じように見てくれたお前のことを、私を怖がった程度で見下げられるわけがない……」’ 

「……! (本当に嫌っているんだ、この『人』は。自分の良さに気付いていないんだ」

「……ははっ、いけないな。まだ、覚悟が足りなかったようだ。
 そうやって逃げることばかりしていた自分を戒めようと思っていたのに……」’


「……違う」

「……ん?」’

「違うんだ。違うんです、上白沢さん!」

「!」’

「……確かに僕が黙ったのは衝撃があったからかもしれません。
 けど、それは怯えとか恐ろしさとかじゃないんです。
 腑に落ちたから。納得したからなんです」

「なっ……とく? ……何に納得したというんだ?」’

「上白沢さんが、素敵だってことにです」

「……な、に……?」’

「上白沢さんはその姿が恐ろしく……醜いと思っているのですよね?
 それでも、僕と向き合うために乗り越えようと決めてくれた。
 真剣に、向き合う事を選んでくれた」

「……そんな、ことは……」’

「僕は、それが本当に嬉しいんです。こんな僕を叱咤してくれる事が……。
 ……どんな姿でも、やっぱり上白沢さんなんだと、安心したんです」

「……それが、素敵だと……言うのか?」’ アセ

「それだけじゃありません。上白沢のその姿も、元の姿と同じくらい綺麗だと……美しいと思います」

「っ!?」’ ドクンッ

「確かに、いつもと比べたらワイルドというか……野性的に感じられる所もあります。
 けどそれだって、上白沢さんの魅力になっています。……フワフワでモフモフで、でもさらさら……していそうで……」ニコッ

「ぁ……ぅ……」’ ///

「……ただ、それでも……『眼』が、変わらない」グッ

「……」’ プルプル

「赤くても、青くても、皆を見ているその眼は真っ直ぐです。
 ……僕は、その眼に救われた。あの時、言葉よりもその眼に惹かれた。
 だから、納得出来たんです。上白沢さんの眼が変わらず、僕を見据えてくれてたから。
 だから、だから……!」

「……」’

「上白沢さんは醜くなんかない! 本当に、素敵な『人』だ!」バッ!

「……」’ スゥ

「だからどうか――」

「……お前は、そんなハズカシイ言葉をいくつもいくつも……!」タンッ

「――自分を悪く……? (あれ、頭から……」ドンッ

「いったい何皮剥けたんだよ、お前はーーー!」’ ゴォッ

  ヒュゥッ

「かっ……(あれ……飛んでる……?」クルクル

「はー……はー……ハッ!? しまった、つい!」’ バッ

「……」ヒュー

「い、伊東ー!?」’

………………

…………

……


~~~翌朝~~~

「いやっほー、慧音。伊東。邪魔するわよー。……って、ありゃ?」ガラッ

「い、いたたた……」

「あー、こりゃあっちこっち打撲だなぁ。幸い、腰以外はさほどでもないがの」

「そ、それで、大丈夫なんでしょうか……?」

「ん? あー、まぁ一週間もすれば元に戻るじゃろ。歩くんはちょっと様子みんとなぁ。四日ぐらいか」ホゲホゲ

「すみません……先生。わざわざ、出向いて貰って」

「どーせ暇じゃし気にせんでええ。なんなら、竹林の先生さんでも呼んでこようかの?」

「医者が薬師呼んでどうすんのよ。それにおじいちゃん、外科でしょ?」

「あんの先生の薬はよーきくからのぉ。おかげで、弟子の面倒みるだけの余裕あるわ! はっはっは!」

「……前向きねぇ、おじいちゃんも」

「忙しいと身に堪えるからの。そんじゃ、わしゃこれで帰るぞ」

「ありがとうございました、外科医師さん」

「……」ガラッ チラッ

「? どうかなされたので?」

「どんだけ激しかったんじゃろなー、腰をあるとは。ほっほっほー」ピシャッ

「……」

「……」

「……」

「ち、違う! 別にそんな激しいことなど!」///

「……なーにやってんだか。ダイジョブ、伊東?」

「……結構、厳しいです」イタタ

「あ、うぅ……すまん」シュン

「い、いえ。あれは僕が無神経に色々言ったのが悪くて……」

「そ、そんなことはない。私がつい興奮したのが悪いんだ」アセ

「興奮させるような事を言っていたのに気付かなかった僕が悪くて」

「……あー、二人して私をおいてけぼりにしないでくれないかしら?」

「す、すまん妹紅」「すみません、藤原さん」

「見事なハモリっぷり。軽く嫉妬しちゃうわねー。んで? 告白はどうなったの?
 この調子だと、悪くなかったみたいだけども」ニヤニヤ

「……おほん。私が話すよ」

 少女説明中……

「……なるほどねぇ。恥しすぎて、思いっきり突いちゃったと」ニヤニヤ

「ぅ……そう、なるな」

「青春ねぇ。いやぁ、ワォトゥチファ ウールェチーイォ」ウンウン

「……???」

「唐突に飛鳥言葉を話すな。伊東が困っているだろ」

「へぇ、今のが。随分、間延びしているんですね?」

「あっはっは、まぁね。それで、慧音的にはどうなのよ」

「……そうだな。伊東には、やはり思いつく限りを話そうと思う。頭突きのお詫びも兼ねて、な」フフッ


以上で投下を終わります。先生と呼ばれても、歴史を探り当てても、彼女は少女であり続ける

 

1月以上かかる場合は連絡すると言いながら申し訳ありません

一か月ルールが施行されたされないにかかわらず、もう少し意識するべきですね。注意します

 

さて、まだしばらく陽向の話が続きます

それでは、また


 血が繋がってなくとも、家族にはなれる
 ただ必要なのは……受け入れる事。それだけなんだ

 出来れば生きている間に……それを、伝えたかったな

 

~~~寺子屋~~~


「……まずは、最初の嘘からだな」

「最初……『神隠し』の、ですね」

「ああ。『神隠し』の本当の目的はここ、幻想郷に住む妖怪に対して安定して餌を与えることにある。
 人を助ける為でもなく、人を無暗に殺す為でもなく……な」

「……少し、気になってはいました。幻想郷縁起には『人喰い妖怪』があれだけ載っているのに、人里が手だし無用な訳を」

「最初に私が言ったものねー。里の中に手を出すのは御法度だって」

「その人喰い妖怪や、人を強く脅かして糧を得る妖怪のために用意されたシステムというのが、『神隠し』だ。
 外から特定の生きた人間を取り寄せ、起きた状態で妖怪に襲わせる……」

「……」

「……(おー? 嫌な顔しないのね」

「伊東もまた、その『食用』だった可能性が非常に高い。……なぜか分かるかな?」

「自殺したから、じゃないでしょうか。僕が、僕自身の手によって、命を捨てたから」

「……流石だな。より正しく言えば、人知れず死のうとした人間だったから、だと思うがな。
 その他に『神隠し』される人間には、死ぬべき罪人がいる。外でいう極悪犯や、死刑相当の輩だな。
 これの共通点。それは……」

「……」

「社会的に死んだ、あるいは死ぬべき人間。つまり、社会的に不要な人間」

「……」

「……だと、思うのだよ」ウーン

「あ、あれっ? 断定しないのですか?」

「実はこれは憶測でしかない。システムとは言ったが、八雲がどういう条件で取り込んでいるのかは歴史に書かれていないんだ」

「……」

「だが、『神隠し』の生存者から話を聞いたうえでの憶測だから、大きく間違えているはずがない。
 記憶を取り込む妖怪の話も聞いたしな。……あれが偶然、極悪犯でよかったよ」ムゥ

「あ、ははは……なるほど」


「死ねるんならどうでもいいって言って、魔法の森に突っ込んだ人間もいたからねぇ。まぁ、あれは二日間笑い声が響いてたけど」

「うわぁ……僕も、そうなりかけていたのですね」

「そういうことだ。だが生存者の中には外のしがらみから抜け出せた事によって、里で生きていくことを選んだ者もいる。
 一度助けた命。そうなることを期待して、ああいう嘘をついた。というわけさ」

「……それでよかったと思います。実際、僕はそれで助けられました」ニコッ

「ああ。嘘も方便とはいうが、結果が良くなければそうも言えないからな。
 さて、他にも……ああ、くそ。昨日より、言いたいことが増えているな」フフッ

「どーせ伊東は四日ほど寝たきりだし、ゆっくりでいいんじゃないの?」

「それはそうなんだが。……構わないかな、伊東?」

「……はい。暇つぶしに、話してもらえれば」

「そうだな、そうしよう。……なら今は、お昼の用意とするか」ヨイショ

 トコトコ  ピシャッ

「……行ったわねぇ。さて伊東。ちょーっと話良いかしら」

「? ええ、構いませんが」

「なんて言ったの? 慧音にさ」ジリッ

「……昨日のことですか?」

「そうそう。慧音はかなりはぐらかしてたから、気になるのよねぇ」ニヤニヤ

「……どちらも素敵と言いました。人の姿でも、ハクタクの姿でも」

「あー、相変わらず「この姿は醜い」とか言ったのかしら?」

「はい。藤原さんも、聞いたことが?」

「あるわよ、そりゃ。なんか、家族にえらく迷惑かけたのが辛かったみたいね」

「……飢えたハクタクに襲われて、いつか自分もああなるんじゃないか、と」

「慧音なら大丈夫だって言ったんだけどねぇ。飢える妖怪ってのは大抵、普段から精神的に弱い奴ばっかだったしさ」

「そうなのですか。……妖怪事情に僕は疎いから、そういった経験からのフォローは、出来ないな」ハハッ

「若造が何、言ってんのよ。他の里の人間だって、今じゃ似たようなもんなのに」


「……藤原さんのことも気になっていたのですが」

「ん? 何」

「……藤原さんって、忍者なのですか?」

「………………稗田のね?」

「縁起・求です」

「はぁ。……別に、やってることは巫女と変わらないはずなんだけども。
 ま、忍者じゃないわよ。確かにそれっぽく妖怪退治はしてるけどね」

「すごいですね。上白沢さんもですけど、他人を守れるだけの強さが羨ましいです」

「……そういう風に取るなら、いいものなのかもね。得た経緯がどうであれ」

「……」

「ま、ここは素直に受け取っておくわ。……それでさぁ、素敵って以外に何を言ったの~?」ニタニタ

「……変わらない真剣な眼に、納得したとも。あの眼があったからこそ、今、ここにいられるって」

「……こりゃ確かに皮剥けてるわね。いやほんと、最初からは想像できないわ」

「藤原さんのおかげでもあると思います。あの時、出会えていなければ、そもそも人里に辿りつくことも困難だったでしょうし」

「あんまり貢献してる気にはならないけどね。でも、これで安心したわ~」ンー

「? 何がですか?」

「伊東をあいつにやる必要がなくなったことにねー。一時は真剣に考えてたんだから」

「……あいつ?」

「あの蟲の妖怪のこと。あんたを襲った奴ね」

「……(む……し……」ビクッ

「あいつ、リグルっていうんだけど、いつもはすぐ忘れる癖に、伊東の事はよく覚えててさ。
 でれでれしながら「私が食べるべきなの、あのお兄さんは!」とか私に言ってくんのよね」

「ぅ……(あの……光景が……か、体が……」ガクガク

「あまりにしつこいもんだからつい、「都合がついたらね」って口約束しちゃってさ。少し困ってたのよ」アハハ

「……(あ、無理だ)……ぁぅ」グデー

「もし人里に馴染めないとか、幻想を受け入れられないとかなままだと、残念だけど妖怪の餌だったしさ~?」チラッ

「……」

「けどま、そうならなくて本当によかったわ」バシバシ

「……」ゥ……

「……あれ? 伊東ー?」

「……」シーン

「……息はしてるわね。寝ちゃったのかしら」

「……」

「仕方ないか。ここ数日色々ありすぎて、息つく暇もなかったでしょうし、昨日がこれだものね」ウンウン

「……」

「今はゆっくりお休み。『里の男教師』さん」ナデナデ

「……」

………………

…………

……


~~~夢~~~

「……」

「……ここは……――市か。また、あの夢なんだね」

「あの日……僕が、那拓から離れた……ほんの僅かな間に起きた……」

「……」

『……』……

「……もう、眼は逸らさない。君が死んだときから、僕は……」

『……』……

「……でも……でも」ツゥ

『……』……  ゴォォォォォ

「僕は……その場に居なかった。君が亡くなった瞬間に……いあわせなかった……」ゥゥ……

『……』……  キィィィーーーッ!

 

 

「……だけど、君だったモノはみた。胴が潰れて、首輪が拉げてめり込んだ……モノを……」

「何より、眼を閉じず、ずっと真っ直ぐ見続けていた……その、顔を……」ク、ゥ……

 

………………

…………

……


~~~四日後の寺子屋・縁側~~~

「……」

「……」

「それからの日々は、ずっと現実味がありませんでした。
 体は言われた仕事をこなして、それを上から見ているような僕がいて。
 でも、人との付き合いがそれだけになっていて……次第に、仕事をするだけの存在になっていました」

「……」

「起きて、働いて、食べて、寝る。それだけを半年ほど続けたでしょうか。
 ある日ふと、那拓に声を掛け続けていた事に、気付いたんです。
 家に帰った時の……習慣を……那拓が死んでからの半年間……無意識に続けていたんです」

「……」

「それに気付いたら……急に、色々な感情が押し寄せました。後悔も、悲しみも、自分への失望も……。
 その現実に、僕は耐えられなかった。家に籠って、那拓の遺品に泣き縋って……。
 そして、死ぬことを決めた」

「……」

「後は以前話した通り、崖から飛び降りて……ここでの暮らしです。
 始めのうちは自分を出すつもりはなく、ただ恩を返す為に働いているようなものでした」

「確かに、隠し事が多かったものな。やたらと自虐的でもあった」

「でも、この世界を知るにつれて、上白沢さんや藤原さんと接するにつれて、僕は元気を貰った。
 改めて世界には……こんなにも頑張って生きている『ヒト』が大勢いるんだと……
 院長先生が言った、スバラシイ世界でもあるんだということを、思い出せて貰った。
 忘れていたことを次々と思い出して……そんなときに、あの騒ぎが起きて、あの痛みを思い出した」

「……」

「あれは、放ってはおけなかった。精いっぱい学んでいるあの子を、無視するわけにはいかなかった。
 ……けど、その次に思い出したことに、僕は囚われすぎた。院長先生を裏切ったと、思いこんでしまった。
 死ぬべきだと、生きている価値はないと、見苦しい姿を見せてしまった」

「……」

「だけどもそれは違うと、上白沢さんが教えてくれた。生きているだけで喜んで貰えるんだと……言ってくれた。
 ……僕は自分勝手だった。罪だの罰だの言いながら、その実、言い訳にして逃げようとしていただけだった。
 そんなことでは償いにはならないと……分かっていたのに……」

「その通りだ。償いとは、罪を理解し向き合うことで形となり、それを正すことで達成されるのだからな」

「はい。だから、僕はこの幻想郷で……いえ、どこでだって生きていくと決めました。
 それが、院長先生と那拓との約束だから。
 そして……上白沢さんと藤原さんへの恩返しでも、あるようにって」ニコッ

「そうだな。お前には、精いっぱい生きて貰いたいものだ」

「いいんじゃない、それでさ」ニカッ

「……。……」ズズズッ

「さて、決意を表明して貰ったところでだ。……その二人の事、尋ねてもいいかな?」

「……ほふぅ。院長先生と、那拓の事ですね?」

「ああ。その二人がお前にとってとても大事な人達であることは、良く分かる。
 だが、その人となりを、私は全く知らない。お前と共に過ごした人達のこと……教えてくれ、伊東」

「はい。僕の……母と兄弟のこと、知って下さい」


以上で投下を終わります。幸せはいつだって、失って初めて幸せと気付く、ささやかな不幸(某歌詞抜粋

次回、陽向の過去。そして……

それでは、また

 

ps.もう一つ出来た過去話(原作改変。オリ主無)をこのスレに投下するべきか、新しく建てるべきか悩み中……

おつ!
ここで投下しても大丈夫だと思うんです

続きが中々書けなくて1月経ちそうな気配なので、七夕ネタを……

>>191
そうですね
時系列的にはこの作品の後で、内容もそこまで多くありませんし、この作品が完結した後にここに投下しようかと思います

 

~~~短冊に、願い事を書くなら~~~

[面白いことがあるように]

[けーねがもっと色々教えてくれる!]

[日々、健やかであり続けますように]

[そんなのだから妖夢はダメなのよ。ダメダメなのよ]

[物事をもっと噛み砕いて言える様に成りたい]

[師の教え(物事は斬って知る)が早く理解出来ますよう]

[わんっ! 代筆:妖夢]

[フラン様 のかわ(二重線) により多くの智慧がつきますように]



「……なぁ、美鈴」

「はい? なんでしょうか、慧音さん」

「智慧はつくものではなく悟るものだし、そもそもそれ一つで完結する能力のことだぞ?」

「……アイヤー……」


 昔を思い出すというのは結構難しいんだなと、話している最中に思った
 なにせあの日々に思い馳せ、懐かしさと寂しさが蘇ってしまうから

 それは……涙を、誘ってくるんだ

 

 それでも、これを伝えなくてはいけない

 僕が、僕である理由
 伊藤陽向である、原点

 大好きな人達との思い出を、ここに残す
 それこそがまさに、僕の為すべき事だ


~~~回想~~~

 僕が初めて母と会ったのは三歳の頃。
 本当の両親に連れられて、保育院にやって来た時でした。

 そこは教会に児童養護施設と託児所を合わせた施設で、その市や県では割と有名な場所のようでした。
 当時の僕はそういうことを知らず、ただおばあちゃんに会うのだと聞かされて、浮かれていました。

「……よし、手続きは終えた。もう、大丈夫だろう」

「……」

{? ママ?}

「……ほら。陽向が呼んでいるぞ」

「あ、ええ、そうね。……」

{?}

「……しょうがないな。……陽向。パパ達はこれから、行かなきゃいけない所がある。
 そこには長くいなくちゃいけなくて、もしかするとすごく長い間、会えなくなるかもしれない。
 だから帰ってくるまで、院ちょ……おばあちゃんのいうこと、よく聞いて、いい子でいるんだよ?」

{うんっ}

「いい返事だ。……行こうか」

「……はい。……――――――、陽向。――――――」ゥゥ

{……?}

 そこに、僕を預けた両親は……そのまま蒸発した。

{おばあちゃんせんせー。パパとママは? もう、まっくらだよ?}

[どうしたのかしらねぇ。忙しくて、お迎えに来れないだけかしら……?]

 そのことを知らず、まだ帰ってくると信じていた僕は、そんな事を聞きました。
 母は経験上、既に可能性を危惧していたのですが、そうではないと信じたくて、暫く黙っていたみたいです。

 ただそれでも、十日経って……流石に、こう告げられました。

[陽向ちゃんのパパとママは、暫くお迎えに来られないみたい。
 だからその間、ここの住むことになるけども、大丈夫?]

{……うんっ!}

 一緒に遊んでくれたり、本を読んでくれるおばあちゃんと居られるならと、ただ返事をしていました。
 その日から、僕はその保育院の子供の一人になりました。

 それから黒尽くめの……スーツを着込んだ人達が来ては、僕に色んな質問や同意を求めてきました。
 まだ子供だった僕は、その姿に少し怯えて……でも、厳しげな表情の中にあった眼に『またか』と悲しげな色を見た。

『ふむ……』ガリガリ

{……ごめんなさい}

『……坊やは悪くないんだよ。怖がらせて、すまないね』

 そんな事があって、四歳の中頃には捨てられたのだと、なんとなく気付きました。

 その頃からでしょうか。
 ごめんなさいが、口癖になっていったのは。

 


 その保育院は教会でもある関係で、集会やミサなども頻繁に行われていました。
 保護された僕たち孤児は、その教義を教えられていました。
 ただあくまでも教えとしてであり、キリスト教に入信させようとは思っていないとも言われましたが。

 実際、僕は神や奇跡を、ここに来るまでどうでもいいと思っていました。
 でも、僕らに優しい、大好きな院長の言う事だからと、聞いていました。
 神様よりも、母の方がよほど僕らに何かをくれるから……。

 そうして六歳になった秋、白い柴犬の子供と出会いました。
 河原にあるバス停の裏側、『拾ってください』と書かれた段ボールの中に入っていた、その子と。

{……きみも、すてられたの……? ……ぼくとおなじだね}

「きゃんっきゃんっ!」フリフリ

{……}スッ

「クンクン……」ペロペロ

{……へへっ}

 無邪気にじゃれついてくるその子犬が可愛くて。
 でも、自分と同じように捨てられた境遇が可哀そうで。
 その白い子犬の面倒を、他の皆には黙って見るようになりました。
 僕が守るんだって、子供ながらの計画性のない決意を持って。

 それが、那拓との出会いでした。

{……(いぬのほん、いぬのほん……}キョロキョロ

[……?]

[陽向君。何か探し物かな?]

{あっ! ……ごめんなさい、なんでもないです!}トタタ

[……逃げられちゃった。どうも、私には懐いて貰えませんね]

[あの子は、他の子ともあまり仲良くしませんからね。……]

{……}コソッ

 犬についての知識なんて皆無だった僕は、何をすればいいのかさえ分かりませんでした。
 だけど、動物を飼う事が許されるかどうかも分からなくて、駄目だと言われるのが怖くて……。
 だから一人で本を読んで、自分が好きな食べ物を上げていました。

{……はいっ、おたべ!}

「きゃんっ!」ペロペロ

{へへっ。……そうだ、ゼリーももってきたよ!}ガサゴソ

「?」ベッチャァ

{えーっと……あった。ねぎははいってないからだいじょうぶ!}プッチン

「~♪」クチャクチャ

 那拓はどれも食べてくれて、それから一緒に遊んで、でも雨を防げて人がこない橋の下から連れ出せなくて。
 ……それでも、楽しかった。嬉しかった。

 {……}ジトー

 

 けどそれも、一月経たずにばれた。


{ぁ……ぅ……}

「?」フリフリ

 [……]

{……}

 子犬のことで、院長や他のシスターさんが僕に訪ねてきました。
 そして、子犬がいる場所まで案内して欲しいといわれ、院の大人が何人か一緒についてきて……。
 まるで、スーツの人達と一緒にいた時のような、苦しさを覚えて。

[この子犬が、内緒で飼っているっていう犬かな?]

{ぅ……はい。……ごめんなさい}

[うーん、謝られてもなぁ。……院長、どうしましょう?]

[……]スッ

「! ……」スンスン

[……]

「♪」スリスリ

[……ふふっ]

{……}オロオロ

[……シスター。少しお話を。陽向ちゃんは、ここで待っていて下さい]

{う、うん……}

 ザワザワ……アーデモコーデモ

{……}グッ

 それ以上に、その子が取り上げられるのじゃないかという怖さがありました。
 なにせ、隠し事がばれたらそうなると……散々見てきたから。

 けど、実際は違いました。

[……まぁ、院長がそう仰るなら]

[有難う。……陽向ちゃん。この子のこと、きちんと面倒見られるかしら?]

{……え?}

[この子の面倒を、これからは家で隠すことなく、きちんと見られるかしら?]ニコッ

{……う、ん?}

[ただし、一人で全部を見ようとはしないこと。解らないことがあれば、私達に聞いてください。解りましたね?]

{……うんっ!}

[よい返事ね。では、新しい家族を、さっそく家に案内しましょう]ナデ

 母は動物を飼うことを、むしろ肯定的に受け取る人でした。
 動物との触れ合いは優しい心を育み、その繋がりを感じられるから。
 それに、後で聞いた話ですが、この時漸く僕の事を知ることが出来ると思ったとも……。

「~♪」ブンブン

{うんっ。よかったね!}ニカァ

「わんっ!」ヘッヘッ

[……]ハァ

[ところで、その子の名前は? 陽向ちゃん]

 僕は気づかぬうちに、保育院のみんなに対して自分を出さなくなっていたみたいで……。
 だから、那拓に対して心から笑っている僕を見て安心したのだそうです。

 …………。


{えっ? ……その、まだ……}

[? まだ?]

{……まだ、きめてなくて。どういう名まえがいいか、分かんなくて……}

[貴方の好きなようにつければいいのよ。ただし、名を与えるのがどういうことか、よく考えなくてはいけません]

{……うーん……}

[……違うわね。その名前に意味を込めるの。その子にどうなって欲しいのか、その願いを]

{どうなって、ほしいか……}

[だから、急ぐ必要はないわ。ゆっくり、しっかり、名前を考えて――]

{……ナタク!}

[――あげ……なたく?]

{うんっ、ナタク! おかあさ…………ぁっ、みんなをまもってくれる、花のけしんさんの名まえ!}フンスッ

[……]

 ある漫画の登場人物、ナタク。
 母親を守るために“凄い事をする”、静かな戦士。
 それがまだ“背景”や“死”を理解していなかった僕の、格好いいと憧れた存在だった。

[陽向ちゃんは、その子にそうなって欲しいのね?]

{うんっ! ……ん? ぼくがナタクをまもって……?}アレ?

[……]ニコッ

 その後、その名前がそのまま登録できないと思った先生が、別の漢字を当ててくれた。

 それが、那拓。
 先生が那由多の夢を拓く子であれと、願いを込めて当ててくれた名前。

{きょーからきみは『那拓』だ! わかったかい?}ニカッ

「……?」フリフリ

{……?}

 正直、あのころは意味が分かりませんでした。
 けれど、院長が悪い事するはずないなんて思って、嬉々として受け入れていました。
 ……もちろん、今はもっと感謝しています。

 


【……】キリッ

{……}フンスッ

{わぁ……}

[すごいすごーい!]

[おおきなわんちゃんだー]

{ドーベルマンっていうんだぜー}ドヤッ

{友だちがふえるね、那拓}ニカッ

「わんっ!」フリフリ

{へへーん}ドヤァ

 そうして那拓と院で暮らすようになって、僕は確かに他人と付き合えるようになっていきました。
 それも初めのうちは、那拓のことを介さないとダメでしたけど。

 ただ、別の子が警察犬と呼ばれることもある、いわゆる格好のいい犬を連れてくるようになってからは
  男の子達はそっちに夢中になって、女の子ばかりと話すようになりましたが。

 


 ……それから約一年後の夏。

{あっるっこー、あっるっこー。わたしはーげーんきー}ルンルン

「~♪」ヘッヘッ

 いつものように那拓と、僕の住んでいた町にある森を散歩していたときのことです。

{やーまみちー、とーんねるー、くーさーーぱらー}

「……?」スンスン

{えーと、でこぼこー……ん? どうしたの、那拓?}

「……くぅ」ジー バササッ

 那拓がいつもと違う仕草で止まって、何かを探すように辺りを見回して、空を見上げて止まって……。

{?} ポトッ

  ポトッポトポトトザザザザザ

{………………ふぁ……}チクチク

  う、うわああああああああ!?

 大量の……虫、が、降り注いできました……。
 ……うじゃうじゃ、わらわら、かさかさと……。

{いや、うわ、あ゛あ゛あ゛あ゛ーー}ダッ  パッ

「! わんっわんっ!」

{ごめんなさ……うわあああ}ブンブンッ       ハハハー

「……」ポツーン

 訳が分かりませんでした。
 ただ、気持ち悪くて、怖くて……。
 だから只管に、走って逃げるしかなかった。

 けど、

{ひっ、ひぃ……あっ}ドスンッ

{ぅ……ぅ……いたい……?}ヒック

{あれ……ひも……? ……なたく!}

 無我夢中で、あの子のことを考える余裕がなかった僕は、逃げ出す時に那拓の紐を投げ出してしまったのです。

{あ……あああ}グズッ

 引き返そうにもどこを走ってきたのか分からず、しかも、また虫が降ってきたらどうしようと、怖くて引き戻せず。
 どうしようもなく、怯えるしかなかった……。

 けど、

 ガサッ

{ヒッ?!}

「……!」ヘッヘッ

{あ……なた……うぅぅ}ブワッ

「わんっ」フリフリ

{わぁーーーーん!}

 そんな僕を、那拓は追いかけてくれた。
 ただ本当に、追いかけてきただけなのかもしれないけど……それで安心した僕は、我慢しきれずに泣いた。


「くぅーん」ペロペロ

{うぁぁーん}

 涙と、虫刺されで真っ赤になった僕の顔を、那拓は慰めるようになめてくれた。
 

 それから院に帰った後、僕と那拓は両方とも熱を出して寝込みました。

{……なたく……いっしょ、だね}ニヘラァ

「……んー」ポフッ

 それも、一緒だということを感じられて、嬉しかった。
 後日、何があったのか母達に尋ねられて、もう一度泣き出したのは……さすがに、恥ずかしい記憶です。

 

 ……ただ、その頃からでしょうか。
 他の男子達の雰囲気が変わっていったのは。


以上で投下を終わります。誰かにとってありふれた出会いも、思い出も、自分にとって大事な宝物だと信じて

 

本当は過去話全部を通して投下したかったのですが、半分ほどで切り上げに……

……7月は、暇ができるんじゃなかったんですか……畜生

 

それでは、また

……今度の新作はパロが今まで以上に豊富でしたね(保守呟き

今回は相当なようです……申し訳ない

色々無断でうぉおおおい!?

今朝はテンションが壊れてしまいましたが、自分の動画が(無許可とはいえ)作られていたのには驚きました
……こっちも、あっちも、頑張っていきます。はい……!


 {やーいヒカゲー!}{ひかげひかげー}

 {……}ヘッ

 【……】キリッ

{……}

 高学年のある男子を中心に、僕の事を「ひかげ」と呼ぶグループが出来上がっていました。

 {なーきむーしひかげー}{よーわむしー}

 {虫が嫌いなくせになー}  ソーダヨナー

{……うぅ}グスッ

 他にも、いろんな悪口や名前を付けてきて……。
 でもそれは、決して大人たちの前では言いませんでした。
 そんな風に呼ばれる理由もわからず、だけど言い返せる度胸もない自分は黙っているしかなかった。

 それが二か月ほど続いた頃。

[……また泣いているのね、那拓ちゃん。どうしたの?]

{……}フルフル

「くぅ~ん……」

[……言えないことなのね]

{……}グスッ

[じゃぁ、無理には聞かないわ]

{……!}ピクッ

 部屋の片隅で泣く僕を何度も見た母は、流石に気づいて声をかけてくれた。
 それでも僕が黙っていると、すぐに別の手段で僕を励まそうとしてくれた。

[けどもね。もし、何が起きているのか、何をしたのか分からなくても、私は貴方を笑って欲しいの。
 泣き顔より、笑い顔のほうが、大好きだから]

{……}

[だから、その事以外でお話しましょう。貴方が嬉しそうに話せることで、涙を忘れましょう]

{……}

[でも]

{……?}

[嫌なことを、見逃し続けるわけにもいかないの。それがある限り、また、泣いてしまうかもしれないから]

{……}

[一人で立ち向かえるのなら、それに越したことはないわ。けど、そうじゃないのなら、
 独りで悩まないで、先生に相談して頂戴]

{……}

[お願い]ニコッ

 でも、僕は……。

{……だい、じょうぶ……です}

[……]

{ぼくだけだから……がまん、できる……}

[……そう。……陽向ちゃんは、我慢強いのね]

 自分だけがされていることだからと、避けてしまった。
 また黙って、先生に隠すことを選んでしまったのです。

 ……隠し事をするというのは、僕の生来の癖なのかもしれません。


 それからも虐められる日が続いて、少しずつエスカレートしていって……。
 一年ほど後に、その手は那拓にまで向けられました。

【うぅぅー……ワンッワンッ!】

{……?}チラッ

「……」シュン

 {いけっ、――! ほえるだー}

 {あはははは。ほら、棒だぞー!}ブンッ

「……くぅん」   カララッ

 ちょうど部屋の掃除をするために那拓を外に出していたところを、狙われた。
 犬が吠えて、棒を投げつけられて、怯えさせているように見えたんです。

{っ!}ダッ

 [あっと! ちょ、走らないの、陽向くーん?]

 僕はそれを見た瞬間、走り出していました。
 止めなくちゃいけない。
 傷ついてほしくない。
 そう思いながら、その場所まで全力で駆けつけて……。

{はぁ……はぁっ……!}

 {あ、ヒカゲだ。どーだ、おもしろ――}

{那拓を、いじめるなぁあ!!}ドンッ

 {――いぃっ!?}ドスンッ

「!」

 【!?】

 警察犬の飼主である子を、思い切り突き飛ばした。
 後先考えず、ただただ本当に、那拓から離れさせるためだけに。

 {い、ってぇ!}

{ぅ……、那拓だいじょうぶ!?}タタッ

「くぅん……」ハフゥ

 {……}ポカーン

 {く、っそ、このヒカゲ野郎! つぅかお前らもボケっとしてんな!}

 {え、あ……そ、そうだぞヒカゲ! ~~さんに謝れ!}  ギャーギャー

「くぅん」コスコス

 {――}ギャーギャーワーワー

{よかった……なたくぅ……}ギュゥ

 後ろから何か色々と言われていましたが、僕の耳には入らなかった。
 そんなどうでもいいことより、那拓が怪我していないかどうかのほうが大事だった。

 {ムシすんなこの野郎!}ドンッ

{あぅっ! ……ぅぅ}ジワッ

「っ!」バッ

 【……】キョロキョロ

 {あ、~~さん、いいの? ぼーりょくはダメ、って……}

 {これはお返し。せーとーぼーえいってやつだ! ヒカゲ野郎が先に手を出してきたんだからな!}


「ぅぅぅ……!」

 【! ……】ジリッ

 けど、その態度が余計だったのか、その子が怒りながら思い切り押してきました。
 何度も強く、揺さぶって……。

 {ほら、そうだ、ろっ!}ユッサユッサ

{……っ!}

「ううう……わんっ! わんっ!」グゥゥ

{!?}

 【……】コソコソ

 {う、おおう……}ジリッ

 そしたら、今度は那拓が吠えだしたんです。
 今までに見たことのない、怖い形相で……。

{な、なた……く……}

「ぐぅうう……!」

 {な、なんだよ。そいつが先に……}

{…………}

 犬歯を剥き出しにして、喉を震わせて、本当に怒っているんだとわかって……。
 でも、

「ぅぅぅ……!!」ギギギ

 {さき、に……}ゥ……

{……ダメだよ、那拓!}グスッ

「ぅぅ……う……?」

{コワいのは……こわいのは、やだよ……}ズズッ

「……くぅん……」シュン

 その姿は、とても耐えられなかった。
 見ていられなかった。

 その名前の元となったナタクが表情を変えずに戦っていたから、那拓にもそうなって欲しい。
 そんな、自分勝手で無茶な理由を、僕は那拓に願った。

{うぅ……}ポロポロ

「……」ペロ

{っ……!}ギュゥ

 そして那拓は、唸るのをやめてくれた。
 また、涙を拭ってくれた。
 願いが伝わったような気がして、今度はありがとうって思いながら抱き付いた。

 {……いい子ぶってんじゃねーよ! “ホドコシ”も出来ないくせによ!}ブンッ

 [あー……待ちなさい、貴方たち]ハァ

{……?}

 {あ、見習いねーちゃん}


 [……普通にシスターでいいでしょ。何があったのよ、貴方たち]

 だけど、その子達は違った。

 {……ひなたの犬にこかされましたー}チラッ

 {え、あ、そう! ひかげの犬が~~をこかしてけがさせたんだ!}

 {だからおれたちがおしおきしてやったんだ。なのに、ひかげがなぐってきてー……?}エット

 僕と那拓が悪いように見せかけた。

 それを聞いた僕は、我慢が出来ずにキレた。

{……ぼくは、ぼくはただ、なたくをまもろうとしただけだよ!}

{そっちが……そっちがなたくを……!}グズッ

 [……陽向君。もし本当にそうだとしても、殴ったのなら謝らないと]

 [それにこかしちゃっただけかもしれないけど、君の犬だって悪いことしたんだよ?]

{違う! なたくはぼくをまもってくれて、でもあいつらがぼうでたたいて……だから、ぼくとなたくはわるくない!}

 自分で何が言いたいかもわからなくなって、でも那拓を嗤っていたその子達が許せなくて。
 ……。

{なんでぼくがおこられるの……! なたくは、なたくが……ひっぐ……}

 [……あーもう、泣いても分からないわよ。ちゃんと言わなきゃ]ハァ

{ぼぐや……な゛だぐだげ……いじべばれでも……}

 悔しさと、悲しさと、理不尽という感覚が混ざって、頭の中がぐちゃぐちゃで。
 ……僕自身が、那拓を言い訳に使ってしまっていて、すごく嫌になって……。

 {泣いたってごまかされねーんだからな! 人にぼう力ふったのはお前が――}

[何があったのですか?]スッ

 そこに、母がやってきた。

 {――先って……あ、先生}

 [……院長]

[……]

{……ぅぅっ}ヒック

 いつもと変わらず静かで、はっきり聞こえる声。
 でも、少しだけ語気を強かった。
 それから場の中心に歩んで、話を聞き始めました。

[……何があったの。シスター?]

 [え? あー、喧嘩と言いますか]ガリガリ

[……]

 [どうもナタクが~~君をこかせちゃったみたいで、それで、あー……お仕置きしてた、だっけ?]チラッ

 {そうでーす}

[……]

{ぅぅ……}ヒック

 {しつけのためにやってただけでーす}


[……~~君。そうなのね?]

 {はーい。なのに、そいつが俺を殴って来たんです。だから叱ってましたー}シレッ

[……他の子達も?]

 {う、うん}{はい。そう、です}

[……]

 それを聞いて、少しだけ目を瞑ったかと思うと、険しい表情が悲しげな表情に変わりました。
 でも、僕に顔を向けた時の表情は、いつもの優しげな顔で、同じ質問を投げかけてきました。

[……陽向ちゃん。“何が”あったの?]

{ひっく……う……えっと……}ズズッ

 {だからその犬が――}

[……]ジィ

{ぅ……}

 {――こかせてきたか――}ペチャクチャ

[……]

{……}

 {――ですって、院長先生}

[……]

{……}

 それに、その子が反応してまた話してきたけど、母は僕に顔を向けたままだった。
 ずっと、待っていてくれた。

 だから僕は落ち着いて、一つ一つ、ゆっくりだけども口に出せた。

{……ぼ、ぼくがおへやのそうじをしてて、お外から吠えた声が聞こえたから――}

[……]コクッ コクッ

 上手く纏めて話すのが苦手だった僕は、それを順番に話していった。
 それでも母は頷きながら聞いてくれた。

{――それで、ぼくは……ぼくが、おして、こかせて――}

[……]コクッ

{――那拓が、コワくて……~~さんが、いっぱい言ってきて}

 {まてよ、てきとう言ってんじゃぁ……言うなよお前!}イライラ

[……人が話しているのに割り込むのは、好しとしませんよ]

 {だってそいつがデタラメ言ってるから!}

[好しと、しませんよ。~~君]

 {……はい}フンッ

 僕は、母ならちゃんと聞いてくれるのだと思って、起きた出来事を、起こした出来事を話し続けた。
 それにさえ口を挟んでくるその子を、母は毅然とした態度で制した。

{……あとはずっと、ぼくをおしてきて、そこに……シスターのおねーちゃんがきて――}

 [……]ムゥ

{――、そしたら、いんちょー先生が、きてくれた……んです}


[……そう]

{……}

 そのまま僕の話を聞き終え、優しげな表情のままシスターさんに向き直って、優しく問い掛けた。

[……どう思いますか、シスター?]

 [え? あー……うーん……]

[……]

 [どっちが悪いのか、どっちも悪い……のでしょう、か?]

[……]

 [……]

[……主は、皆を平等に扱い、皆から平等に話をお聞きなされた。そして、皆が均等に得て、手放す法をお教えくださった]

 叱ることなく、諭すように、いつも僕らに教えてくれるように、

 [あっ……あー……]ズーン

[分かってくれましたか?]

 [まぁ、その……はい。すみません、先生]

 まだ若いがゆえに、“ある事”に囚われていたシスターさんを導く。

[それは私に言うことではないわ]ニコッ

 [はい。……ごめんね、陽向君。話、聞こうとしなくて]アセアセ

{……}

 [ただ、私にも理由がー…………って、ただの言い訳じゃない、これじゃ]ハァ

{……うん}

 [……]ガリガリ

 それもまた、僕を落ち着かせたのと同じだった。
 僕が憧れた、母の優しさだった。

 [なんだよそれ。それじゃそいつが正しいみたいじゃん!]

[……そうは言いません。まだ、どちらが本当のことを話したのか、私には判断つかないから。
 でも、一方の話だけで決めるわけにはいかないの。決めつけてはいけない]

 [そんなの……俺と同じこと言ってる方が多いだろ! だったら、俺のほうが正しいじゃん!
  そいつはうそつきで、その犬が悪いんだよ。なぁ?]チラッチラッ

 [そ、そーだそーだ!]

[……多数の言うことが真実で、少数が嘘。そう、言いたいのね……?]

 [当然でしょ、先生。それにさ]

[?]

 [他人の金で生きてんのに感謝しないどころか、犬まで飼って平気とか、ドロボーと同じじゃん。
 そんなやつが正しいはずないでしょ?]

[……]

{……え?}ズキッ

 でも……その子の中の価値観は、それを認めたくなかったみたいでした。

 [……]アチャー

 {まぁ、子どもを押し付けて消えちゃうよーな親の子だし、こーがんむちなのもいるか。
  先生も大変だよねー}ヘラヘラ


[……]

{え……え……?}ジワッ

 どうしてそこまで言われるのか、そもそもまだ分からない言葉もあって、また頭がごちゃごちゃになった。
 でもやっぱり、嫌われていることはわかって、酷いことを言われたのもわかって……。
 本当に、僕が悪いのかと思いかけた。

 その時でした。

 

[いい加減になさい、あなた達!]

 

[憶測で物を語り、他人を傷つける]

 

[そんなことが、正しいはずがないでしょう!]

 

[ましてや、出会ったこともない人を貶める行為]

 

[どれ程、神に献身し、善行に身を費やした人でも、決して許されることではないっ!]

 

 母が、本気で怒ったのです。
 これまでに一度も見たことも、聞いたこともない姿で。

{……}

 その衝撃は、雷にうたれたというのが正しいのかもしれません。
 普段、怒らない人が起こった時は誰よりも怖い。
 それを証明するような瞬間でした。

 {……}ワナワナ

「……」シュン

 [……お、怒った……?]ボソッ

[……]


 他の皆も唖然とした様子で、静まり返って先生を見つめていました。
 そんな中で意を決したように、確かめるように、母は口を開いた。

[~~君。聞きたいことは沢山ありますが、この場では一つだけ答えてください。
 それはきっと、シスターも知りたいことでしょうから]

 [……えっ?]

  {……な、なんだよ!}

[他人の金とは、貴方のお父様のお金のことでしょうか?]

 {そ、そうだよ。父さんの寄付金だよ! それでここは成り立ってんだろ!?}

[……やはり、そうなのね]

 寄付。
 確かにこの院へ、個人的に物や作物の差し入れを持ってきてくれる人はいました。
 それが有難い事だとも聞かされていたけれど、お金まで貰っていたと、僕はその時まで知らなかった。

 母やシスターさんに取り巻いていた、大人の事情。
 それをこの時漸く、知ったのです。

 [えと、気づいてました……?]

[……もしかしたら、ではありましたが。けれど、考えたくはなかったわ]

 [えと、じゃぁ~~君が言っていることは……]

[……半分は否定しません。でも、もう半分は誤解よ]

 [!]

[ただ、それを解くのは後日にさせて頂戴。間違いを正すよりも先に、しなくてはならないことがあるから]

 [……ごめんなさい。私、先生に聞くのは失礼かと思って……]

[いいえ。むしろ、気を使わせてごめんなさい]

 {な、なんだよ、誤解って}

[貴方のお父様からのお金は、全て保管してあります。一度たりとも、持ち出したことはありません]

 {……うそだ}

[嘘は言いません。後日、確認して頂くことになりますけども]

 {そんなの、だって……}

 {……~~さん、父さんが寄付してるからえらいって――}{でも、院長先生がうそ言うはずないよ――}ボソボソ

[……話を戻します。~~君がこかされたという話ですが……]

{……}

 {……先生は、先生はうそつきだ! 孤児院ってお金沢山必要なんだから、父さんの金を使ってるはずなんだ!}

[……]

 {だから、父さんは偉くて、俺だって分け与えてるから偉いんだ!!}

[……確かに、ここは多くの金を必要としているわ。そして、寄付や献金の一部が教会の維持や修繕に使われているのも確かです。
 けれども]

 その表情は、つい直前まで僕に向けていた、悲しげなものだった。


[貴方のお父様が置いていったのは神への供物ではなく、私への授業料……だそうですよ]

 {……え? 授業料??}

[ええ。……あの方は信者ではない。もっと別の個人的な理由で、貴方を私に預けていた]

 {……}

[その、授業料のつもりなのよ]

 {……}

 もしかしたら先生は、その子にも他の皆と同じように接したかったのかもしれません。

[……話を戻すわね。貴方がこかされたという話だけども、実はそれを見かけた子達がいるの]

 {げっ……}

[……その子達は、陽向ちゃんの話していたことと限りなく同じ内容を、話していたわ]

{!}

 {……}

[そう、その子達と陽向ちゃんを合わせれば、その話が多数になる。……貴方の言った、正しい話になる。
 けど私は、それで判断したくない。……本当の出来事を知りたいの]

 何せ怒ったこと以外で、彼らを叱るようなことはなかったのですから。

 ……。

 その後、その子と一緒にいた子達がすべてを話してくれました。
 けれどその子だけはずっと黙ったままでしたが。

 

 そして父親が来たのを見てから数十分後、彼らが揃って僕の部屋に入ってきました。
 その子は、眼と片頬を真っ赤に腫らしながら。

 謝りに来たと、言っていました。
 そしてもう二度と、この院と母、そして院の子供達に迷惑かけないと。
 申し訳なかった、と。

 ……その子は泣きべそをかきながら、ひたすらごめんなさいと言っていて、正直僕は、呆気にとられていました。
 だから適当な相槌を打つだけしかできず、聞きたいことも聞けないまま、彼らは帰っていきました。
 そして二度と、その院には姿を現しませんでした。
 学校も、すぐに転校したようでした。



 だから何故、僕をあんなに嫌ったのか。
 それは結局、分からないままです。

以上で投下を終わります。兄弟のようになった者達は、その性質さえ近づけさせて

 

陽向視点の話で、自分の事となると話下手になるという設定が、こうも手間取るとは……

あっちといい、本当に見込みが甘いですわ自分……

 

さて、ごらんのとおり話はまだもうちっとだけ続くんじゃ

とはいえ、流石に次が回想編ラスト……にしたいですが

 

あっちの件ですが、自分の酉でggって下さればわかるかもです

ただ、その先にあるのはクロス作品と、ネタバレ(気味)の自分、ですが

 

それでは、また

乙レスに良スレと言ってもらえるなど、本当にありがとうございます
心苦しいですが、次の投下はまだ先になりそうという報告です……

ついでに、アチラも再開は年度末……かも、と
本当、遅筆で申し訳ないです

では……


 それから数日後。

{ただいまっ、なた……?}

「……」ヘッヘッ

{……那拓、なんでこやの上にいるの?}

「……わんっ!」ポフポフ

{……?}

 学校から帰り自分の部屋に戻ってきたら、那拓が小屋の上に登っていました。

{……那拓が楽しいなら、いいけど}ハハッ

「~♪」

{よいしょ、っと。ちょっと僕、せんせーに呼ばれてるから、いってくるね}

「!」ブンブンッ

{?}

 その顔がいつもより得意げだったのを見て、少し笑った僕は、用事があるのですぐ出ていこうとしました。
 けれど、那拓が何かを訴えかけてきて、しばらく何だろうと見守っていました。

「……」フリフリ

{……}

「……」フリ……フリ……

{……?}

「……」シュン

{???}

 睨めっこするような状態で固まっていたら、那拓の元気がしぼんで……。
 よくわからなかったけど、なんだか申し訳ない気分になった僕は部屋から出るにも出られなくなりました。
 あの時初めて、那拓の言葉が分かったらと思いました……。

{うーん……}

「……」ヘッヘッ

[陽向ちゃん。いるかしら?]

{あっ……はい、せんせー}

[入らせてもらうわね。……あら]

「~♪」フリフリ

 何なのだろうと考えていたら、気づけば三十分以上も経っていました。
 だからなのか、母が僕の部屋にまで訪れて来て……。

[……陽向ちゃん。那拓ちゃんは、いつからそこにいるの?]

{えーっと……わかりません。僕が帰ってきたら、もう}

[そう。……]チラッ

{?}チラッ

「……」チラッ

 那拓の姿を確認してから、窓のほうを見て、もう一度那拓を見て。
 そうして優しく微笑んでから、独り言のように、

[これも……愛情、なのね……]

{……?}

 と。


 その意味が分かるまで、僕には数年の月日が必要でした。
 何故そう言ったのかは、分からずじまいでしたが。

[……ここでお話ししましょう、陽向ちゃん。那拓ちゃんが、見守ってくれるここで]

{あ……うん}

[……あの子達の件。気付けなくて、ごめんなさい]

{!}

[いえ、動くのが遅すぎてだわ。目を逸らしていたのは、間違いないのだから]

{……}

[貴方とあの子の間にある問題に気づいていながら、ちゃんとした手をうたなかったこと。
 自分がきちんと断りきらなかったがために、あの子にあんな考えをもたらしたこと。
 そうして、貴方に悲しい思いをさせたこと。
 本当に、ごめんなさい]

{……}

 母はその宗教の教えの通り、他人を裁いたり、怒ったりするということをしない人でした。
 行動の理由を見極め、良し悪しを洗い出し、優しく諭す。
 こうして長所を伸ばし、短所を変えられるよう情操を育む。

 ……僕の、理想の先生像となった姿勢……。

[……]

{……うぅん。気にして、ないよ}

[……]

{せんせーは、ちゃんと話をきいてくれたもん。……守って、くれたもん}

[……]

{だから、もう、だいじょうぶだよ……?}

 そんな母が、悲しげな顔で謝ってくるのがやっぱり辛くて。
 また、優しく微笑んでくれるようになってほしくて。

{僕、せんせーと那拓がいたら、なんでもへいきだよ。
 せんせーと那拓だけで……じゅうぶんだよ。
 せんせーと那拓が、大好きだから!}

[……!]

 励ますつもりで、思いを告げた。
 僕の世界は、二人で満ち足りているのだって。

{……}ニコッ

[……]

{……}

[……]

{……?}

 でも、母は驚いてから困った顔になってしまった。
 そして、意を決したように答えてくれた。

[……ありがとう、陽向ちゃん。私も、陽向ちゃんが好きよ]

{……!}パァッ


[けれども、ごめんなさい。私はそれを、見過ごすわけにはいかないわ]

{……え?}

[貴方を狭めることを、したくはない]グッ

 戸惑いました。
 悪いことを言ってしまったのかと。
 何かまた、間違えてしまったのか……と。

[……]

{あ……その……}シュン

[! 違うの、陽向ちゃん。陽向ちゃんは悪くないわ。ただ、ただ、知っていてほしいの]

{……?}

[この世界は、確かに辛いこともあるわ。悲しいことも起きてしまう。
 けれど、そこで諦めては、世界を閉ざしてはいけないの]

{……どう、して?}

 けど、そんな考えもすぐさま消えた。

[……貴方はまだ何も“知らない”、素敵な未来を築ける子なのよ。
 それには、私や那拓ちゃんだけ知っただけで満足しちゃいけないの。
 私の知らない事を知って、今と違う、素敵な貴方になれるの]

 それは、優しげな声をしていたから。

[自分の好きなことを見つけて、それを共有できる人と出会って、お互いに磨き合う。
 その人が知る世界と触れて、新しい興味を抱き、また人と出会い、世界を広げていく。
 それは、悲しく、つらい事よりも素晴らしいということを、貴方は知っているはずよ]チラッ

「……?」ブンブン

{……}

 それは、穏やかな表情で見てくれたから。

[それを続けていけば、いつしか、変化球を自在に投げる野球選手に。
 あるいは、人を魅了する音色を生み出すピアニストや、世の不思議を、その奇跡を解き明かす学者になれるわ。
 諦めない限り、何にだって。……私はそう、陽向ちゃんを信じているから]

 何よりも、信じてくれていると……眼でも、語りかけてくれたから。

[そうなっても、貴方の中には残り続けるわ。私の知っている、やさしい貴方が]

{……}

[それが貴方のほんの一部になっても、忘れず思い出せれるの。
 そこから繋がる新しい貴方を、私に見せてあわせて貰いたいわ。
 私とは別の誰かと紡いだ、貴方を見せて頂戴。そうやって、人の輪は広がって行くのだから]

{……}グッ

[……]

 その時、全てが理解できたわけではありません。
 だけども、本気で話してくれていることは分かって。
 だから、胸が熱くなって。

[いつか貴方にも分かる時がくるわ。気の置けない人と出会う、その時が。
 あるいは、家族かもしれないわね]フフッ

{……}

[ごめんなさい、気が早かったわ。そうね……。
 うん。陽向ちゃんと那拓ちゃんのように、助け合い、笑い合い、支え合える友達と、いつかきっと出会えるわ。
 その人のことを私達に紹介して欲しいの。那拓ちゃんと遊んだことを、話してくれるように、ね?]


{……うん。……あの}

[なぁに?]ニコッ

{……ごめんなさい。せんせーと那拓だけでいいなんて言って……}

 本当に申し訳なく思った。
 子供心に、大事にされているのだと察して、顔が向けられなくなって。

[……顔を上げて。那拓ちゃん]

{……}チラッ

[貴方のその気持ちが嘘ではないのは、よくわかっているわ。
 だけども、だからなおさら、貴方には夢を見てほしいの。
 このスバラシイ世界。それを謳歌して、立派に、素敵に、過ごしてほしいの]

{……}

[その為に私が手伝えることはなんでもするわ。それが、私のしたいことだから]ナデ

{……///}

 優しさが心地よくて、その手が暖かくて。
 ずっと続けばいいと思って……。

[それから……]

{?}

[謝ってばかりよりも、ありがとうって感謝したほうが、皆、笑顔になれると思いますよ。
 だってその方が、嬉しいもの]

{「……はい。……ありがとう」}

[「どういたしまして」]ニコッ

 この時にまた、色んなことを教えてもらった。

 色んな、こと……を……。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……っ」ツゥ

「……伊東」

「なんで……なんで忘れてたんだろう。……やくそく、したのに……」

「……」

「ぅぅぅ……」グググ

「……」

「……もう、忘れない。忘れたくない。……忘れて、やるもんか……」

「“母親の真似”よりも……――」

――――――

 「……ごめんなさい、陽向。ごめんなさい」ゥゥ

――――――

「――……“母との約束”を……――」

――――――

 [これからは、私に相談して頂戴ね。頼られている方が、私もとっても嬉しいから]

――――――

「――……ぜったい、に……」グググ

「……」

「……」ズズッ

「……」

「……それから――」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ――僕が中学生になって、早朝に新聞配達のアルバイトをやるようになりました。
 件のお金の話がやっぱり実感できなくて、それを感じるために。

 それには那拓もついてきてくれて、毎朝一緒に散歩もしているような形でした。

{はっはっはっ}

「はっはっはっ」

{よしっ。次の番地で最後っ。終わったらご飯にしようね、那拓}

「! わんっ」

 その早朝の散歩は日課になって、社会人になるまで、ずっと那拓と走っていました。
 ……社会人になる……まで……。

 ……。

 

 ああ、それから那拓は、僕が学校に行った晴れの日は必ず、院の塀に登って帰りを待ってくれていました。
 雨の日は例の小屋の上から、窓をのぞき込んでいたっけかな。

{……ただいま、那拓}

「わぅっ」ポフポフ

{そんなに散歩がしたいの? ……待っててね。すぐ、用意するから}ナデナデ

「~♪」ポフポフ

 そうやって、待っていてくれたんです。
 ずっと。……ずっと。

 平日はそこから夕方の散歩をして、帰ったら学校の宿題や、母に習字等の習い事を教えて貰って、
  休みの日は一緒に公園で、時々他の子達も交えて、那拓とボール遊びをしていました。

 僕が投げるとあらぬ方向に飛んで行って、それをいつも那拓が拾ってきてくれて。

 [ヒナタは運動オンチだよねー。走るの上手なのに]

 [いっつもナタクがフォローして、まるで陽向の兄ちゃんみたいだよな]ケラケラ

{……え?}

 [言えてるー。兄弟だよな]ハッハッハッ

「?」モゴモゴ

{……お兄ちゃん、か。……僕が守るって、言ったのにね}アハハ

「へっへっへっ」ブンブン

{……でも、それもいいかな。那拓ならさ。……ボール、有難う}

 その姿を兄弟みたいだと言われて、とてもうれしくなった。
 彼らが茶化し気味だと分かっていても、よかったんです。

 どっちが兄で弟でも、構わなかった……。

 

 そんな日々が高校に入っても続き、三年も終わりの頃。
 遠方の教育大学に無事受かった僕を、母は祝ってくれた。

[陽向ちゃんの夢の第一歩ね]ニコッ

 ……と。


 それは確かにそうでした。
 母のように聖職者には為れずとも、教育者として先行く者になろうというのが、夢でしたから。

 けど、これ以上、母に金銭的な迷惑をかけたくないという思いの方が、もっと大きかった。
 アルバイトで稼げるお金の少なさが悲しみを思い知らせてくると同時に、母に負担を強いらせていると気づいたから……。

[でも、寂しくなるわ。……貴方の夢を応援していても、やっぱり、ね]

{僕も、ここから離れるのは…………少し、苦しいです}

[有難う。……だから、お手紙を頂戴]

{手紙、ですか?}

[ええ。私は携帯や、パソコンはどうにも苦手だから。知っているでしょう? 機械音痴なの]フフフ

{……はい}ハハッ

 当時の僕は、それを言い出せなかった。
 それを言えばまた、心配をかけさせるだけだと思ったのと、見栄を張ってしまっていたのと……。

{それから勿論、那拓も連れていきます}

[でしょうね。貴方達二人が離れる所は、想像できないもの]

{はい。幸い、ペットを飼うことが出来る安めな荘も見つけましたし。……ペット……}ズゥゥン

[理解のある処なのでしょう。見つけられて、よかったわね]ニッコリ

{! ……はいっ!}

 那拓と一緒に行こうとするのに、弱音を吐くのはよくないと思ったから。
 ちゃんと前を向いて歩こうって、思ったから。

 母のようになるには、うじうじしていたら駄目だって思った、から。

 

 そうして院を出て、大学に通いながら最初は居酒屋、二回生に入ってからは家庭教師をやり始めました。
 そんな中でも那拓とのランニングは欠かさずに、母とも手紙のやり取りをして……。

{今日はどこに行こうか、那拓?}

「わんっ!」クイクイッ

{ん、山の方? ……虫、少ないといいね}ハハ……

 ……そういえば、引っ越してからは散歩道を那拓が主導で決めていたな。
 毎日別のルートを歩いて、偶に川辺や原っぱを並走して。
 学校もアルバイトもない日はお弁当を用意して、少し遠出したりして……。

 それらは本当に、僕の心の支えになっていた。
 大学でも、学校の中での付き合い程度しかなかったから、本当に。

 

 ……母が死んだと、聞かされるまでは。

 


{……え?}

『ごめんなさい。貴方の電話番号が分からなくて、後回しにしちゃって……』

{……え。待って。は……院長、が?}

『……葬儀は明日。教会で行われるから、来られるなら……』

{……!}ダッ

 気付けなかった。
 その一年程前から車椅子に乗るようになったとは手紙にあったけど、まさかそこまでなんて……。

 そこで、居ても立っても居られなくなった僕は、兎に角急いで院に戻りました。

{携帯、財布…………くそっ……! ……あ}

「……」ジッ

{……}

「……」シュン

{……行こう、那拓}ウルッ

「っ!」ピンッ

 勿論、那拓も一緒に。

 

 

[――主の元に旅立つことを――]

{……}

「くぅん……」

 自分が院についたとき、葬儀は半分も過ぎていました。
 けど、それは僕にとって大事な事じゃなかった。

{……ぅぅ……}ツゥ……

「……」

 母の死の間際に立ち会えなかったこと。
 ……話したかったたくさんの事が、山のように浮かんできたこと。
 …………これまで、僕を支えてくれてありがとうと、伝えられなかったこと。

 後悔が……溢れかえってきたんです。

{――――!}

 そして本気で泣いてしまい、司祭様に宥められたのを覚えています。
 別れは悲しくとも、涙を堪え、祝福してあげるのが故人への弔いになるのです、と。

 その時ようやく、母が特異だったことを理解しました。
 母なら泣き止むまで、涙を流すことを止めはしなかったはずだから。
 キリスト教徒ではない自分に、“宗教の教え”を説いたりはしなかった。

「……くぅん」

{……なた、く……}グズッ

「スンスン。……」ペロペロ

{……っ}

 涙を受け止めてくれたはずだって。
 ……那拓が、そうしてくれたように。

{……くぅ}ギュッ

「……へっへっ」

 だから、誓った。
 那拓とは絶対に、最後まで一緒にいようと。
 僕が出せる感謝の限りを、母の分まで、那拓に返そう、って。


 

 だけど、僕は失敗した。

 


 教師になる夢をしくじり、それでもなんとか中規模の健康食品メーカーに就職できました。
 それから那拓との散歩が不規則から規則的なコースに変わり、仕事を必至にこなしていました。

 一年後、那拓に変化が訪れた。

「……はふぅ」ヘェヘェ

{……那拓?}

「! ……?」フリフリ

{……そうだよね。君も、だいぶ……}

 那拓と出会って、17年。
 柴犬の年齢からすれば、それはもう十分老人の域だった。
 むしろ、衰えるのが遅いくらいだったんだ。

{……っ}グッ

 だから僕は、車を買いました。
 那拓と母との思い出の地を、再びめぐるために。

 その代わりに仕事をさらに頑張ることになりましたが、目標があったからそれ自体は平気だった。
 けど、別れは唐突だった。
 ……――。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「――……そこからは、さっき話した通りです。
 那拓にお礼の肉と、最初のゼリーを買うために散歩に出かけ、しんどそうだったから公園で『待ってて』と言って……」

「帰ってきたら……ね」

「……」

「そうか。……確かにそれは、辛かっただろうな」

「……はい」

「……」

「……」

「……でもこれで確信したよ。やはり、その二人ならお前が生きていることを喜んでくれるさ」

「……はい。……はい」ウゥ

「……」ギュゥ

「……っ」

「辛いことを聞いてしまったな。……我慢する必要はないんだぞ、伊東」

「……はい……もう、ぜったい……わすれない……わすれない、から……」

「……」ナデナデ

「でも、やっぱり……やっぱり……」

「……」サスサス

「ありがどうっで、づだえ……だがった……ぁぁ……」

「……」ヨシヨシ

「……本当。泣き虫なんだから」ヤレヤレ

………………

…………

……

 


以上で投下を終わります。後悔は先に立たず。だけども、立ち直ることもまた先には出来ず

 

陽向の過去編はこれにて終了であります。……長かった……

というか東方キャラでない話過ぎてやばいですね。次回からはきっちり出ますけども

 

それでは、また


 魂には本体、形なんてないわ。
 ほら、今でもそこらじゅうに、魂の元となるソレが浮かんでいるもの。

 けれども、魂は生前の姿にとても似通る。

 それは、その姿こそが、その存在の本質を表すことになるから。

 ……紫からの受け売りよ、妖夢。


~~~白玉楼~~~

『……クシュンッ!』

「……あら~」

『……』ブルブル

「誰か、噂話でもしているのかしら~?」

『……?』

「ねぇ、“那拓”」

『……わんっ!』フリフリ

「そうかしら~? もしかしたら、悪口かも……」

『……』シュン

「……冗談よ~? そんなすぐに落ち込まないで~」アラアラ

『……』ジー

「怒ったの~?」

『……』ポフッ

「……」

『……クシュンッ!』


「……ふふっ。……でも、羨ましいわ」

『……?』

「私には、貴方のような生前の記憶がない。あるのはただ、西行の名と屋敷……」チラッ

『……!』

「そして……」スッ

【ァァ。モゲタ。ケズレタ。ツブサレタ】

「……」シュッ

【クダカレ……グッ】ズッ

『……っ』ビクッ

「ふふふ……」

【……】ドシャッ

「この、“死を操る程度”の能力しか、ない」

『くぅん……』ブンブン

「……?」

『あぅん……』クイクイ

「……妖夢も、僕もいるって?」

『わんっ』

「……」

『……っ!』ピンッ

「……そうよ。貴方には約束があるのでしょう? だから、ずっとはダメよ?」

『くぅん……』

「……でも、有難う。そうね、あの子がいるものね」フフフ

『!』フリフリ

「……さて、と。ちょっと出かけてくるわね~」

『?』

「ふふふ。な・い・しょ♪」

………………

…………

……


~~~幽明結界~~~

「……」

「あの程度が、またどうして登れたのかしら」

「……」

「それに、怨霊は地底のあそこが管理していたはず。簡単に行き来など、ヤマが許さないはずなのに」

「……」

「今度、直に聞く必要があるのかもしれないわね」

「……」

「防がなければ。アレに、穢れを与えては……」ブツブツ

「……」

「あら? この気配……いつものと違うわね~?」チラッ

「……」

………………

…………

……


~~~白玉楼~~~

『zzz』

「このあたりだって、聞いた気がしたんだがな~ット」チラチラ

『……?』パチンッ

「んーっと……ああ、イタイタ。こんなところに来てたのな~、わん公チャン」フリフリ

『?』

「んー、まぁ、気にしなくていいサ。迎えにきただけだし、ナ」キラン

『! ……』フルフル

「んー、嫌がられても、これが俺の仕事だからネ~。死して彷徨う魂は、冥土へごあんな~いッテ」

『くぅん……』

「んじゃま、さくット……」スッ

「何をしているのかしら~、死神様~?」

「あン? ……お嬢さん、だーレ?」

「あら~。冥界の管理者の話、聞いていないのかしら~?」

「……んー、ちょーっとは聞いたことあるカモ?」ペロペロ

「私がそうなのよ~、新米死神様~?」

「俺は新米じゃないヨ。外の方の管轄だから、会わないかもしれないけどナ」

「外の? それがどうして~?」

「んやサー。台帳を見てたら畜生を一匹逃してるのに気付いてな、探しに来たってワケ」クルクル

「……」

「それじゃぁ、お仕事させて貰うゼ?」

「待ってもらえないかしら~?」

「?」
                                  ここ
「この子が確かに貴方の管轄だったとしても、今は既に“冥界”にいる」

「……」

「そして、この子は既に一年はここに留まりつづけている。……逆を言えば」

「俺がそれだけ放置した、ってネ」

「あら~? 察しが速いのね~?」

「まぁナ。こう見えて、温情主義だからさ、俺ハ」

「なら、話が速いわ~。この子は怨霊化する恐れはないから、後は任せて下さらないかしら?」

「ンー。それで上司が納得するんならそれでも構わないけど、本当に大丈夫かネ~?」モゴモゴ

「……」

「なんせそいつ、半分地縛霊になってるゼ?」ピンッ

『……!』


「それも、本来なるべき場所から離れてるから、不安定ダ。それを、思い出だけで踏ん張ってる状態……」フリフリ

『……』

「ってのは、冥界の管理者様なら分かってるはずだロ?」

「……」

「それを任せろってことは、ダ。ンー……」フリフリ

「……」

「……んや、止めておく。こういうちょっかいは俺の分野じゃネー」モゴモゴ

「……」ジュル

「つぅかあんた、さっきからコレ見てるのナ」フリフリ

「……」チラチラ

「……アンコ玉だけど、いるカ?」ガサゴソ

「いただくわ~」ヒョイパク

「ったく、なにかん……」

「おかわりないかしら?」

「はえーよ」

………………

…………

……


「只今帰りました、幽々子様。……あれ、そちらの方は?」

「オッ? このちびっこが庭師カ?」

「そうよ~。見て判断なさい、妖夢」

「……死神さんだとはお見受けしますが」

「その通リ。魂魄一族ってのは、かなり昔に見たきりだったガ……」

「?」

「ちびっこいナァ。飴いル?」ホイ

「……チビチビ言わないでくださいませんか。それに、私がまだ未熟なだけです」ムゥ

「知ってル」ケラケラ

『zzz』

「……あっ。まさか、この子を迎えに……?」

「そのつもりで来たんだが、見逃すことにしたサ」

「え? そ、そうですか……」ホッ

「……」

「……んじゃま、帰らせてもらうカ。同僚も待たせてるしサ」ヨット

「あ。すみません、茶菓子も出さずに」

「へーきヘーキ。コレを舐めてるしサ」ヒラヒラ

「そうですか。それはすみません」ペコッ

「……真面目だナ」ケラケラ

「融通が利かないとも言うかしら~」フフフ

「それは幽々子様が緩すぎるのでは」ムッ

「はいはい、そういうのは俺が帰った後で頼むゼ」ノシ

「……ずいぶん軽い方ですね。死神って、ああいう人が多いのでしょうか」

「さぁ~? ……でも」

「でも?」

「似たような知り合いが、他にもいるわね~」フフフ

「そうですか。……っと、食材しまわないと」トットットッ

………………

…………

……


「……あれが冥界の管理者。西行寺幽々子、カ」ペロペロ

「……」ンー

「聞いてたより、まーだ分かりやすかったかナ?」ケラケラ

「……持ち帰れなかった分、土産話で勘弁してもらうカ」

「もう一人の方とは、会えなかったけどナ」

 

 「……なぁ、ミマッチ♪」

 


以上で投下を終わります。だがはたして、記憶のない魂は、何をするというのだろうか

 

幽々子様回。……とはいえ、オリキャラに食われたような、食らったような

 

そんなこんなで那拓バレとしましたところで、また次回まで


 「「この時、心底驚いたのを覚えている」」

 「「だけど、今なら言える」」

 「「ありがとう。慧音先生って」」

 

~~~寺子屋~~~

「せんせー、さよーならー」

「またねー、せんせー」

「ああ、気をつけて帰るんだぞー」

「いとー先生もねー」

「うん。木曜にまたね」

 ワイワイガヤガヤ……

「……お疲れ様です、上白沢さん」ニッコリ

「ええ、お疲れ様です。腰の方、大丈夫なようですね」

「先生に言われてから一週間ですしね。流石に、元通りですよ」ハハハ

「よかった。さて、片づけるかな」

「ですね。そういえば、明日は久しぶりにあの子の元に?」

「ええ。まだこちらが受け入れる体勢に戻っていませんから」

「……あの後、例の人達はどうしたので?」

「だんまりだよ。長老に意見を上げようともしていない」

「そう、ですか。……改めてくれたのなら、いいのだけど」

「そう思いたいがな。……」

「……? どうかしたのですか?」

「あ、あぁ、いや、なんでもないさ。さぁ、入ろう。もう少し厚着しないと、体にくる」ハハハ

「そうですね。……(何か考えていたみたいだけど、聞かないほうがよさそう、かな?」

………………

…………

……

 

~~~慧音の執筆部屋~~~

「……」

「……ふむ。どうしたものか」

「……彼はまず、拒否などしないだろう。……だが、あの子は……?」

「……うーん」

「……」

「……案ずるより産むが易し、か。二人とも、私が思うより先を行ってくれているのだから」

「……ふふっ」

………………

…………

……


~~~翌日・紅魔館―サラニフカイトコロ~~~

「……」カツンカツン

「……」カッカッ

「……なぁ、美鈴。本当にこっちなのか?」

「ええ、そうですよ。この先の地下の部屋に、フラン様はおられます」

「……監禁はやめたと聞いていたが」

「フラン様ご自身の判断ですよ」

「……」

「あの日、帰ってすぐは上の部屋におられたのですが、お嬢様に一方的に告げて降りたと。
 私は少し後に知らされたので、詳しいことは分かりませんが」アハハ……

「そうか」

「……」

「……」

「さ、着きましたよ。フラン様―! 慧音先生が来られましたよー」

『……』

「……あれ? フラン様、入りますよー?」ギィィ

「……!」スンッ

「……」モグモグ

「あ、お食事中でしたか、すみません」

「……(ゴクンッ)……んーん。ちょっと、のんびり食べ過ぎてただけだから」

「やぁ、フランドール」

「こんにちは、けーね。……あれ? おはようございます?」

「こんにちはであっているよ。……落ち込んでいた、というわけではなさそうだな」

「? どーして?」

「自分で地下のこの部屋に入ったと聞いたからな。あのことで、負い目でも感じたのかと思ったんだが」

「これでも、私なりに反省してるよ? けーねやめーりんに、あの人げ……イトーせんせーに悪い事したなー、って」ムー

「そうか。……まぁ、そんな劇的には変わらないか」ボソッ

「……」ピクッ

「? 何か言った、けーね?」

「いい傾向だと、な。この調子なら、また寺子屋に通っても問題ないだろう」フゥ

「やったー!」

「ということは、私もまた付添わなくては」フンスッ

「……ああ。暫くな」

「……お?」

「それでね、けーね。今日は何を教えてくれるのっ?」

「相変わらず勉強熱心で嬉しいが、今日は面談をしに来ただけさ」

「えー」ブーブー

「済まないな。……だが一つ、提案がある」

「え? 何々?」


 

 

 「なぁ、フランドール。……――」

 

 

  

………………

…………

……


~~~寺子屋・雪やこんこん夜の空~~~

「……」

―――――――――――――――――――――――――――――――――

{ゆきだー!}

「わんわんっ!」ダッ

{あ、まってよ、なたくー!}

「~♪」ブンブン

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「……はしゃぎ、たおしてたなぁ」ツゥ

「……」ゴシゴシ

「……っと、調理しながらじゃ危ないよ」ハハッ

「……」  ガラガラ ピシャッ

「あ……?(上白沢さん、帰ってきたかな?」

「……」トントントン

「……おっ、只今。やはり、こっちでしたか」

「おかえりなさい。……やはりって?」

「いい匂いが漂っていましたから。濃いめの匂いが」フフッ

「なるほど」

「さて、手伝いますね。手を洗らってこねば」

「え、いや、そんな。上白沢さんは休んでいても」

「……話したいことがあってな。まぁなに、そんな深刻なことではないんだがな」

「そう、ですか。分かりました」

「……」シュルルッ キュッ

「……」

「……」スッ チョロチョロ パッパッ

「……」

「よしっ。さ、何を手伝えばいいかな」

「そちらの窯の方をお願いします。……濃い匂いの元で、まだ味付けが」

「分かった。……知らない料理だな」

「あ、やっぱり。ポトフっていう…………外国の料理です」キリッ

「どこの国かは分からないんだな」アハハ

「恥ずかしながら」

「いやいや、私達も元を知らない料理は巨万とあるさ。こっちの香辛料で味付けすればいいか?」

「はい。それと、そっちのトマトをざるで漉しながら……」

 ワイワイフムフム

………………

…………

……


「……なるほど、これはうまい」フム

「口にあったようで何よりです」

「これは外で?」

「はい。……母がよく食べさせてくれた、僕にとっての母の味、でしょうか」

「……そうか。しかし、おかげで話を忘れていた」

「そういえば何かあると」

「ええ。まぁ、落ち着きながら話した方がらしいか」

「……?」

「そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫だ。……フランドールのことなんだがな」

「はい」

 

 

 

「……あの子の先生になる心算はないか、陽向」ニコッ

 

 

 


以上で投下を終わります。それはとても、温かい物で

ようやくこの物語の見所(にしたい部分)が始まります。ヤットカヨ……

 

年内最後の投下っぽいです。……あっちの頃のように、季節のイベント別話は余裕なく断念

では、また


新年明けましておめでとうございます

 

三が日の内に投下します宣言をして、挨拶回りをば

ではでは


 一期一会なこの人生。

 誰に出会って、自分が変わるのか。それは誰にもわからないの。

  

 分からないから楽しいんだって、教えてくれたんだよね。陽向―――。

 

~~~寺子屋~~~

「……」

「……」ジー

「うーん……」

「違うなぁ……」ススゥ

「……(引き受けたはいいけど、何を教えればいいのだろ」

「……」

(少なくとも、家庭教師の話は面白くない。あの子も、僕も)

「……――」


―――――――――――――――――――――――――――――――――

「――フランドール、さんの……?」

「ああ」

「……」

「フランドールには既に話をつけてある。陽向になら、教えて貰っても構わないそうだ」

「……あの、いったいどうして?」

「どうして、か。……逆に、どうしてだと思う?」

「えっ? …………?」

「ふふっ、分からないか。……あの子は、お前が言った通り、好く学び良く吸収している。
 だが、それだけではよくないんだ」

「……」

「読み書きが出来ても、それを伝えられなければ意味がない。
 歴史を知っても、それに至った理由を想像出来なければ続くことはできない」

「……」

「そこにある物。歴史と学問に隠れた、『人』が持つソレ」

「……心……」

「そう。気持ち、感情、想い……喜怒哀楽。
 そして、理解と共感」

「……」

「お前は知っているだろう。幻想郷の事を語った時。お前が狂い掛けた時。あの日の行い……。
 あの子は、我を強く出し過ぎていた」

「……はい」

「フランドールは他人の感情の機微に疎い。いや、疎すぎる」

「……」

「私はそれをどうにかしたい。あれだけ前向きで純粋なのに、たったそれだけで無知に成り下がるのは、勿体ないから」

「……」

「だから、お前にも頼みたいんだ。あの子の良さを知って、あの子に怯えない、陽向に」ニッコリ

「っ! ……」ドキッ

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「――……」ドキドキ

「……」

「感情、か。……道徳や保健…………」ブツブツ

「……」

「……よし」ムクッ

 ………………

 …………

 ……


「……」

「……」

『ごめんくださーい』

「!」ピクッ

「はーい。来たな」ヨット

「来ましたね。……」

「じゃぁ、打ち合わせ通り、私は別の作業を行っていていいんだな?」

「はい。あの子なら、大丈夫ですから」

「……そうだな。フランドールもお前も、気に掛けることはないか」ガラッ

「……」

「……」  タンタンタンッ

「?」  スッ

「……」

「……美鈴、さん?」

「……」ズイッ

「! ……な、なんですか?」

「……」ジー

「……」ゴクッ

「……良い気になりましたね。出会った頃の陰鬱とした感じが一切ないほど」ニコッ

「え? いい気に……え?」

「嫌悪感もなさそうですし、なるほど確かに、これなら先生と見てもいいのかもしれません」ウンウン

「……???」

「もー、めーりん。なんで貴女が先に行っちゃうの」ブー

「あぁ、すみませんフラン様。どうもつい、気が高ぶってしまったようで」

「……」

「全く、授業を受けるのは私なんだからね」ヤレヤレ

「あはは。……」チラッ

「?」

「……」パクパク

「……? (じゃ、ゆ? じゃゆ……?」ム?

「……」グッ b

「! ……(何か分からないけど、励まされたみたいだ」


「こらこら、お前たち。私を置いて急がないでくれ」

「めーりんが悪いのよ。それで、イトーせんせー。何を教えてくれるのかしら」パタパタ

「それ、なんですけどね。美鈴さん、申し訳ないのですが慧音さんと一緒に、他の部屋で待っていて貰ってもいいですか?」

「……え?」

「フランドールさんと付きっきりでいる方が、らしいかな、と。
 家庭教師というのは、だいたい一対一でしたから」

「……」ウーン

「そんなに悩むことか、美鈴?」

「いやまぁ、それが伊東さんの形式というなら、従います……が」トコトコ

「?」

「……フラン様に手を出したら、承知しませんよ」ボソッ

「えっ!?」

「……」ニコニコ

「……(この人、さっきと態度違いすぎるよ!」アワワワ

「……何やっているんだ、お前さんは」ハァ

「いえいえ、特には」

「?」キョトン

「……」ムムム

「それじゃぁ、よろしく頼むよ。陽向先生」

「……はい」  ピシャッ


「それで、それで?」

「相変わらず、勉強好きみたいだね。良かったよ」フゥ

「えへへー」

「……でもそうなると、期待外れになるかもしれないな」ハハッ

「えー? どういうこと?」

「でもその前に。改めまして、伊東陽向です」ペコッ

「えっ? あっ、フランドール・スカーレットよ」

「今回、慧音さんと代わり番で僕が君の教師を務めることになりました」

「う、うん」

「けれども僕は、君の事を何も知りません」

「うんう……え?」

「だから……」

 

 「君の好きな物事。嫌いな事。それを、教えてほしいんだ」ニコッ

 

「……?」キョトン

「……」

「えっと、それって……私がいとーせんせーにお話するってこと?」

「うん」

「……授業をするんじゃないの?」

「これも、確かに授業だよ。これまで慧音さんから受けていたのとは違うかもしれないけれど」

「……私のこと、知らないってどういうこと……?」

「……」

「いとーはあの日、私のために怒ってくれたじゃない。……怒ってくれたんでしょ?」

「うん。……君はただただ、慧音さんの授業を受けたくて、その日を楽しみにしていたのだよね」

「……うん」

「そのことは、この寺子屋に通っている君の姿を見れば分かった。……けど」

「けど……?」

「僕はそれ以前の君を知らない。ここに通う以前や……幽閉されていたころも、その前も。誰とどう過ごしたのか、全く知らないんだ」

「……」

「そんな子に僕が何を教えられるのか。
 僕の知る事から、君が知りたい事を。
 君の知っている事から、君の知りたくない事を、僕自身が見極めるために教えてほしいんだ」

「……」


「……駄目、かな」

「……」

「……」

「……わかんない」

「……」

「わかんない、けど」

「……?」

「初めてよ。私のこと、教えてほしいだなんて言われたの。なんだか、不思議な気分」

「……」

「……だから、いいわ、教えてあげる。いとー先生が知りたいこと、教えてあげる」

「……有難う」

「でもね」

「?」

「私だってたくさん知りたいから、貴方も私に、色々教えてね?」

「うん。約束するよ」

「……貴方って、本当に不思議」

「そうかな?」

「そうよ。本当に不思議。……全然、嫌いじゃないけどね」ボソッ

「それは何よりです」

「でも、何から話せばいいのかしら。いざ考えると難しいかも」

「身近な事でいいんだよ。例えば、美鈴さんの事とか」

「めーりんのこと? ……じゃぁじゃぁ……」

 ワイワイガヤガヤ

 

『……』ソソクサ


~~~別室~~~

「……」 ガラッ ピシッ

「おかえり。……どうだった?」

「上手く運んだようですね。あれなら、彼の望む結果も得られるでしょう」フゥ

「だろうな」フフッ

「おやおや、随分嬉しそうで」

「それはな。陽向が望む通りに事が運ぶなら、それは幸いな事さ」

「そうですね。悪い人ではないですし、悔しがる意味もありませんか。……それよりも、一つ気になることが」

「む? なんだ?」

「呼び名、変わりましたね。お互いに」

「……あぁ、その事か」

「確かつい先日、紅魔館にいらしたときは苗字呼びだった気がしましたが、いい仲になったのですか~?」ニヤニヤ

「………………」

「?」

「べっ、別にそんなことはないぞ!? か、勘違いしないでくれ!」///

「……(意外な反応ですね。いったい、どこまで考えたのやら」

「私はただ……ただ、大事な友人なのに、他人行儀な呼び方は間違っていると思っただけなんだ」

「……」

「なにせもう、彼はこの里の住人なのだからな」フフッ


以上で投下を終わります。素晴らしい世界を拓く為に、君を知りたいんだって

 

それでは、また


 未知であふれる世界に、ようやく触れ合えた。
 これが母の言っていたことなのかと、心が躍った。

 楽しかった。
 嬉しかった。

 きっと僕は、やっぱり、成長していなかったんだね……。

~~~陽向の部屋~~~

「……」ススッ

「……ふぅ(こんなもの、かな」コトッ

「……」ジィ

(あの子の、フランドールの、彼女の見る彼女の世界)

(お姉様がいて、人間で人外染みたメイド長さんがいて、美鈴さんがいて、お姉様の友人がいて)

(そこに、博麗さんとマリサさんが増えて、慧音さんと藤原さんと出会った)

(地下に長く居た、彼女の今)

「……――」

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「――なんてしているのよ。あいつってば、可笑しいわよね」ケラケラ

「へぇ。……お姉さんの事、あいつって呼ぶんだね」

「ええ、そうよ。私だけがあいつって……呼んでたのになぁ」ムゥ

「?」

「巫女やマリサもお姉様のこと、あいつって呼ぶのよ。今まで、そんな人間はすぐ殺せたのに」

「……」

「何も知らないのにあいつなんていう奴らなんか嫌い。……だけど、あの二人を、お姉様は殺さなかった。……殺せなかった」

「……異変の解決者。博麗さんと、霧雨さん?」

「うん。あの二人も本当に不思議。小娘なくせに、面白いことをたくさん知ってる」

「はは……」

「それに、私達のことを怖がらなかったな。初めっから」

「……」

「私と遊ぶのが楽しいって言ってくれて、でも最近は全然来てくれないなぁ。来ないかなぁ」

「……」


「……あっ!」

「ん? どうしたの?」

「あの二人、強いから私達のこと怖がらなかったのかな?」キラキラ

「んー……どうだろうね。僕は、その二人の事をよく知らないから何とも言えない、けど」

「けど?」

「強さは、関係ないのかもしれない。ほら、僕だって、君の事を怖がったりはしないよ」

「……そーね。イトー先生は泣き虫だものね」ウーン

「うん。……まぁ、君達が人型だったから、なのかもしれないけど」ハハ

「コウモリだったら、怖がってた?」

「大きさ次第で、びっくりするかもしれないね。……変身できるの?」

「ええ。……小さいけど」

「そうなのか、すごいね。見てみたいかも」

「エッチ」

「え?」

「……」

「……え。もしかしてはだ、えっ?」

「……」ジトー

「そ、そういう心算じゃなくって、あの、ごめん!」

「……」

「きょ、興味がない訳じゃないけどそれは変身の瞬間の話で、別に裸を知りたいってわけじゃなくって」アタフタ

「……ぷふっ。あははは!」

「……?」

「男の人って、そんな反応もするんだ。あは、あははは」プルプル

「……もしかして、からかわれた?」

「うんっ! めーりんが面白い反応が見られるかもって言ってたから!」

「……(あの人、何か微妙に怒っているのかな」

「あははは、あははははは」

「……――」

―――――――――――――――――――――――――――――――――


「……」

(あの子は別に、人の気持ちが分からないわけじゃなかった。ただ、興味が向かないと、気づかなくなるだけのようだった)

(小さな子と、そう、変わらない)

(慧音さんが、言っていた通りに)

「……」

「責任重大じゃないか。頑張らないと」

………………

…………

……

―――――――――――――――――――――――――――――――――


 ビリビリッ

「……」スゥ

「新年、あけましておめでとうございます」

「ああ、あけましておめでとう。今年も、宜しく頼む」ニコッ

「こちらこそ、宜しくお願いします」ペコッ

 ワイワイガヤガヤ

「……外も、賑わっていますね」

「一種のお祭りだからな。このまま夜通しして、初日の出を見る者も少なくない」

「外でも、結構いましたね。僕は、夜が弱いから一度も夜更かしできませんでしたが。……ふぁ」

「全くだな。……さて、今年の明けの明星は、どの程度抗うかな?」

「? 明けの明星……金星、ですか?」

「あぁ。そういえば、天体に関しての講義はしていなかったな」

「はい。何か、あるのですね」

「あぁ、妖怪のやる気に関してな。
 ……明けの明星は別名、天香香背男命(あめのかがせおのみこと)と呼ばれ、妖怪に力を与える存在と伝えられているんだ」

「妖怪に力を」

「まぁ、実際は活力を与えるというべきか。明けの明星が天香香背男命だとして、初日の出、太陽と言えば?」

「……アマテラス、でしたっけ?」

「その通り。慈母、天照大御神が新年になっても旧年と変わらず天に昇る。
 それはつまり、それまでの日々の平穏をその一年もまた、約束したのと同じ事となる。
 何せ彼女は太陽神。人々にとっては欠かせぬ、日常の存在なわけだからな」

「……」

「そんな彼女に抗う天に煌々と輝く明星が、日の出の邪魔をし、空に輝き続けたら、それは彼女の不調を意味する」

「それが、妖怪に活力を与えることとなる、ですか」

「日本にて最大の信仰を持つとされる彼女を、彼が多少なりとも抑え込んだわけだからな。妖怪が奮起するのも当然……なんだが」

「?」

「明けの明星が日の出を遅らせたのを見た事は一度しかないうえ、その一度も妖怪より巫女のほうが凄かった年だ。
 だから私からすれば、抗い続ける方が妖怪の為にならないと思っているよ」ケラケラ

「やる気出させちゃうわけですか。災難というか」

「そういうことだな。……あれももう、八十年も前か」

「えっ? ……(そういえば、慧音さんって幾つなんだろう」

「懐かしいな。……」

(どこか、寂しそうな眼。……何も、聞けないな)

「……よし。なら、今日は頑張って起きてみます。初日の出を拝むために!」

「ん? あぁ、頑張れ。応援しているよ」クスッ

………………

…………

……


~~~寅の刻~~~

「zzz」

「……」

「ん……」ゴロッ

「……ふふっ」

「zzz」

「……霊夢は今も、祈っているのだろうか。にしては少し、明星が明るいか?」

「……今年は、荒れるかもしれないな」ハハッ

「……」

………………

…………

……

―――――――――――――――――――――――――――――――――


~~~後日、里の東門・雪の降る日~~~

「……よっこいしょ、っと」バサァ

「雪かき……やっぱり大変だ」フゥ

「溶かしたらダメだって言われてるしねぇ。溶けた雪が凍ると余計に危ないって」ハァ

「仕方ないですよ。寒さの本番がようやく到来したって感じですし」

「まぁねぇ。……よっと」バサァ

「それにしても、綺麗な粉雪だ」

「汚い雪とかあるの?」

「ええ。外じゃ、北国でもなければ大体が重い雪ですよ」

「そんな違いもあんのね~」

「はい。重いと、あそこの木のように積もる前にへし折れてしまうのですよ」   モッサリ

「そんなもんなのね。っと」バサァ

「よいしょっ、とぉ」フゥ

「とりあえずこんなもんでしょ。ちょっと、お茶でも貰ってくるわね」

「あ、お願いします」ハァ

「……」スッ

「……(こんな雪でも、吸血鬼にはダメージになる、か」ジー

(でも、どうしてだろう。雨は流水と言っていいだろうけど、雪は固体のはず)チョロ

(……あ、でも人肌で簡単に溶けて液体になるか。これが原因?)

(だとすると、あの子達も温もりを持つことになる……かは、触らないと分からないか)ンー

「……」    ルールルー

「……ん?」    ルルルルールルー

「……あ(妖精、というかあの子は」

「るるるるー♪ るるるるーるるー♪」

「チルノ、だっけ」ボソッ

「ん?」チラッ

「あっ(こっち見た」

「なんだ、あたいを呼んだか?」

「えっ? あ……聞こえたんだ」

「あたいは耳がいいからな!」

「そっか。ごめん。ただ、名前を確認しただけなんだ(そういえば、あの時も小声が聞こえていたっけ」

「ふぅーん」

「……(この間と違って、攻撃的じゃないのか。……今は僕一人だからかな?」


「ところでお前、何やってるんだ?」

「雪かきだよ。一区切りついたところだけどね」

「ふーん。人間ってば無駄なことばかりするのね!」

「……え?」

「雪なんて冬になったら毎日積もるんだから、やったところで二度手間さ」フンスッ

「そうとも言えるけど、毎日しなきゃ、雪の重みで歪んだり壊れたりしちゃうからね。これは欠かせない事なのさ」

「そんなもんか」

「うん。放っておいて、家が壊れたりしたら大変だからね。君も、それは嫌だよね?」

「まーね。また作り直すのに手がかかるし」

「うん、“手間”がね。……」ジィ

「そーか、だから魔理沙はよく溶かしてたのかー」ウンウン

「……(やっぱり、稗田さんの本みたいなことはなさそうだな」

(それに、危険だっていう割には無防備というか。邪気は……妖精にはないのだっけ)ムム

「男ー。ありがとうな!」

「……ん? え?」

「あたいの疑問に答えてくれる奴って少ないんだよね。だいたいが逃げちゃうし」ムー

「……」

「逃げなくてもあしらわれたりでムカムカしちゃうし、やになるね人間ってば」ムスー

「……」

「よし、そうとなったら大ちゃんに教えてあげないと! じゃあな!」ビシッ

「……うん。じゃあね」ノシ

バッ

「……」

「……(もしかして、あの子も変わらないのか」

(逃げ方ばかり知られてて、そればかり実践されて、だからあの子もムキになって、悪循環を生み出して)

(……)

「どーしたの、伊東?」

「あ、藤原さん。いえ、ちょっと、考え事を」

「……今、氷精がいたわよね。大丈夫だったの? 喧嘩吹っかけられたりしなかった?」

「えぇ、大丈夫でしたよ。……何も、危険なんてなかった」

「珍しい。いっつもいちゃもんつけて来るのに」

「確かに、前回とは違って初めから好戦的……いや、いちゃもんをつけてくることはなかったです。
 けど、前回と同じで質問を先に投げかけてきていました」

「……」

「それに答えたら、あの子は僕を「いい奴」だと言いました。本当に、簡単な答えだったのに、です」

「ほほう」

「……あの子も、フランドールさんと同じなのかもしれません。噂に流されて、辛い思いをするという点において」

「……」

「なんて、まだまだあの子の事を知らないのに言うのも可笑しいですけど」ハハッ


「……やっぱあんた、肝が据わってるわ」

「?」

「縁起、読んだって言ってたわよね。あれ、里の中じゃかなり影響あってね。七割近くが信じてるのよ」

「……」

「それって歴史の重みが加重されてるのもあるけど、それを見て恐怖している里人が実物に出会って“実話”として広めちゃうわけでさ」

「……」

「あんたも一度、それを目の当たりにした。っていうのに、気にせず話しかけた」

「あ、それはちょっと違うのです。あの子の耳がよかったというか」

「……悪口でも言ったの?」

「まさか。ただ、名前を思い出そうとして呟いてしまっただけで」

「なら変わんないわよ。まぁ、珍しく私が真面目に言ってるんだから、続けるわよ」

「……(自覚あったんですね」

「とにかく反応されて、でもそのあといつものように答えたんでしょ? 慧音と戦う所を見たっていうのに」

「はい。すぐ、子供達を連れて逃げましたけど」

「そういう人間って里の中でも、“神隠し”でも“幻想入り”でも、貴重なのよね。かくいう私も、対応が雑把になってるし」フリフリ

「……」

「あんたみたいなこと出来るのは無知馬鹿か、怯えに負けない奴かしかいないと思ってて、あんたは前者じゃないって知ってるし」

「……」

「しかしそうなると、ある意味で妖怪の天敵よね。初見でビビってくれないし」ケラケラ

「なまはげには今でも驚きますよ。特に、突然現れると」ハハ

「そんなの、私でも少しビビるわよ。ま、だからあんたは肝が据わっていると思うのよ」ポンッ

「……」

「単に恐怖心が鈍いだけかもしれないけどね。私達みたいに」ケラケラ

「……」

「さーさー、それじゃ続きやるわよー」グイッ

「……あれ」

「ん?」

「あの、お茶は?」

「冷えてるけど、いる?」

「話、終わるまで待っていてくれたのですね」

「まぁね~」

「すみません。それ貰います」

「まぁ、温めるぐらいならすぐなんだけどね」ボゥ

「……からかいました?」

「ちょっとは」ニヒヒ


以上で投下を終わります。足りているもの。足りないもの。誰にでもあって、誰にもない

 

レス、ありがとうございます。……絶対的一方通行!

そしてまた連絡でございます。良い方の諸事情から、もう一つのSSは6月以降の再開になっております。ええ、本当にいい理由で

詳細はまだ明かせませんが、ね

 

しかし、最初はわざわざ80行調整してたのに忘れてた。ぐぬぬ

……それでは、また

セイゾーン


 貰うものって、命だけ?
 上げるものって、感謝だけ?

 んーん。
 私はもっと、違うものを貰ってる。
 私はもっと、いろんなものを返したかった。

 でもきっと、貴方に返せばいいってものじゃないのね。
 貴方は、貴方の大好きな人に、胸を張れるように生きていたもの。
 そうすることだって、大事なのよね、きっと。

 ……私にはまだわかんないけど、きっと、そう。
 だから、いつかきっと、見つけてみせるから……。

~~~紅魔館・フランの部屋~~~

 サクッ モグッ

「……」バリボリ

「……」ゴクンッ

「……」ジー

「……」

「どうかなされましたか、妹様?」

「……さくやー」

「?」

「これ、人なのよね?」

「はい。人間の肉と骨の入ったハンバーグでございます」

「……」

「お気に召しませんでしたか?」

「んーん。そうじゃなくってね。……」

 ……――


―――――――――――――――――――――――――――――――――

『――今日は少し、おさらいをしようかと思います』

『おさらい?』

『うん。フランドールさんが僕と出会った頃からの、おさらいを』

『……いつだったかしら』

『おおよそ、六ヶ月前だね。……あの時、確か慧音先生は“幻想入り”と“神隠し”について、話していたよね』

『あの時のね。へー、まだ六か月なの』

『……うん。それをまた、僕に話してみてくれないかな?』

『またー?』

『うん。もう一度、お願いします』ニコッ

『……んーっと、どうだったかしら。確か――……』

 少女説明中……

『……――が、神隠しね』

『そう。……そう、話してくれたんだったね』フッ

『ええ、そうよ。けーねがそう言ってくれたじゃない』

『……それが嘘だと言ったら、君はどう思うかな?』

『え?』

『幻想入りは確かにその通りだそうだけど、神隠しは……人の為じゃない。
 君達の為のシステムだ、って言ったら?』

『私達のため?』

『そう。……妖怪は人を食べ、あるいは人を驚かし脅かすことで糧を得る。
 けれど、この人里には不用意に手を出しちゃいけない。せいぜい、自身がいることを再確認させる程度しか出来ない。
 でもそれじゃぁ、到底足りない。食という意味でも、存在感……という理由でも』

『……』

『それじゃぁ、どうすればいいのか。……外から、居なくなっても構わない人を連れてこればいい。
 僕のような自殺をした奴や、社会的にいなくなるべき人を。
 ……それが、神隠しの狙い』

『それじゃぁ、いとー先生も?』

『たぶん、ね』


『じゃぁなんで、けーねはあの時嘘をついたの?
 誰かのご飯にしてもしちゃっても、よかったんじゃないの?』

『……
「神隠しを理解することは簡単だが、目の前でそれを見過ごせるほど、納得は出来ない。
 ましてや、一度助けたその命を散らせてしまうのは、やはり悲しい事なのさ。
 だから生きてほしいと、嘘を吐かせてもらったよ」
 ……って、慧音さんは言っていたよ』

『……』

『……』

『……嘘、だったんだ』ギュッ

『……許せないかな?』

『んーん。……そんなんじゃ、ないけど……』

『……』

『……ただ、なんでいとーが? けーねが言い出してきそうな気がするのに』

『そうだね。確かに、慧音さんが話そうとしたよ。けど、僕が言うって……聞かなかったんだ』ニカッ

『どうして?』

『僕の為に嘘を吐いてくれたから、それに応えたかった、かな。
 ……言い方はおかしいかもしれないけど』ハハッ

『それは、分かるわ』

『えっ?』

『お姉様がね、幻想郷に引っ越した後に話してくれていたことがあるの。
 外は私にとってつらい事ばかりあるから、それを亡くしてやる、って。
 それは嘘だったって巫女たちのせいで分かったんだけど、それでもよかったわ』

『……』

『だって、お姉様は私のこと、いつも考えてくれてるもの。
 私にいろんなことを話してくれて、いろんなものを用意してくれてたもの。
 だから、あの嘘だって、私のためなんだもん』

『……お姉さんの事、大好きなんだね』

『うんっ! でもあいつ、何でも分かった心算で話すのは嫌いなのよねぇ』ブー

『ははっ。なんでも好きになる必要はないからね。
 ……でも、そっか。なら、悪いことを言ったのかな』

『え? 何が?』

『あの時の夜、君のお姉さんを悪役のように言った事だよ。
 君の為に何かをしようとしたのかもしれないのにね』

『……』

『……』

『……』

『……』


『……ねぇ、いとー』

『うん? なんだい?』

『お姉様も私も、人間の血を吸うわ。私はスカーレットデビルとは違って、一人分ぐらいならぺろっと』

『……』

『それって、いとーはどう思うの?』

『……』

『……』ジー

『……どう、って?』ン?

『え? いとーがもしかしたら、私のご飯になってたかもしれないの。それって、怖くない?』

『……怖くない、とは言えないね。けど、どうしてだい?』

『野蛮だとか、ひ知性的だとか、言わない?』

『……言わないよ。言われたこと、あるの?』

『うん』

『……』

『前の家庭教師はね、そういうことを言ってきたわ。
 思考する存在である人を喰うのは分別のつけられない野蛮なケモノだって』

『……』

『いつもいつも私に言葉の弾幕をぶつけて来て、これぐらいも知らないのかと馬鹿にして。
 高名だって言われたわりに、私達《吸血鬼》を勘違いしてた“いらない奴”。
 一番ムカついた人間だったわ』

『……』

『だから、ぎゅっとしてドカーンしたわ。五月蠅かった喉を、それから、頭を』

『……ぎゅっとしてドカーン、って?』

『んー。……こんな感じにね』ギュッ

  パリンッ

『っ。……湯呑が、粉々に?』

『モノの核を手に寄せて、握りつぶしたら壊せるの。知らなかった?』

『あー、縁起に書いてあったね。あれだけじゃよくわからなかったけども、そうなるのか』

『そうよ。これでそいつを黙らせた。けど、言ってきたのはそいつだけじゃない。
 ご飯になった人間は度々、私をケダモノだの、野蛮な化物だの言ってきた』

『……』

『……』バサッ

『っ!』ドンッ

 キンッ


『これで』 チクッ

『……』ツゥ

『私は今にも首を刺せる。貴方を殺して、食べてしまえる。……それでも、言わない?』

『……』

『……』

『……ふふっ』スゥ

『?』

『こわいー、たすけてー、いのちだけはー。……とは、言うかな』

『……』シュン

『けど、君を野蛮とは言わない。ケダモノとも言わないよ』ニコッ

『……』

『だって、言えないよ。僕らだって、同じことをしているのだから』ジッ

『……!』

『僕らだって、他の命を貰って生きている。他の動物を殺して、食べている。
 それと、何が違うのか……僕には分からない。
 それが生きることで、死ぬことだって母は僕に教えてくれた。
 その積み重ねがあるからこそ、今に繋がっているって話してくれた』

『……私、不思議に思ってたの。人だって鳥や豚や馬を食べてるのに、どうして? って』

『たぶん、その前の教師さんは知性のある人は特別だって、考えていたのだと思うよ。
 そう考える人は昔からよくいるみたいだから。
 ……けど、ね』

『?』

『僕らが動物の言葉を理解出来ないだけで、もしかしたら彼らも同じことを言っているのかもしれない。
 助けて。食べないで。生きたい、って。
 ……きっと言っている。那拓が、励ますように涙を拭ってくれたんだから、きっと』ギュッ

『……』

『それでも、自分が生きるために僕らは命を貰う。食べ繋げて、生きていく。
 それを、野蛮だとは僕は絶対思わないよ』

『……』

『じゃないと、生きる事そのものが野蛮になっちゃうし、「頂きます」や「ご馳走様」って感謝する意味が、ね』ハハッ

『……そっか』スッ  トスッ

『うん。……よ、っと』ガササ

『ねぇ』パタパタ

『ん?』

『……んーん。なんでもないわ』パタパタ

『……? ……――』

―――――――――――――――――――――――――――――――――


 ――……

「……んーん。なんでもないわ」

「何か気になりましたら、遠慮なくお申し付けを」

「うん。……あーんっ」ガリゴリッ

「……」モグモグ

「……」ゴクンッ

「……」ポタッポタッ

「お拭きします」スッ

「んっ」

「……」カチャカチャカラン

「ごちそーさまでした。……それから、頂きました」モクモク

「……」ササッ

「さって、パチュリーのとこに行こーっと」フワッ

「……(勿体ない言葉ですわ。ただの肉塊ですのに」カッチン


以上で投下を終わります。ネガティブな考えを辞めた者の価値観。そして、少女は……。

 

次回は陽向の春の季節。今の時期と被さって……ない。寒い

では、ホウコクーということで、また


 似ているようで、違う。
 離れているようで、傍にある。

 それを私は、全て……。

~~~梅の花咲く頃の人里~~~

「……」

「……」

「どうもです、篠坂さん」

「……あんちゃん、何しに来た?」

「手伝いにです。この時期は人手が足りないと、農家のおじさんが言っていたので」

「そいつは助かるがよぉ」

「そぉーれい!」カーンッ

「おーえすっ!」グググッ

「……てめぇら、もっと気ぃはって仕事しやがれっ!!」

「「へいっ!」」

「……元気だなぁ」ハハハ

「大工衆だからな。あんちゃんと違って、頭より体が商売道具だ」

「でも、細かい作業もあるじゃないですか。あれでも十分、頭を使っていると思いますよ?」

「学者先生に言われたところで、嫌味にしか聞こえねーよ」

「……昔から続く建築とかって、科学的に調べたら黄金比や、理にかなった構造をしていることが多いらしいです。
 それも一つ二つじゃなく、沢山あるのだと。
 それを言葉や感覚で今にも伝えられているというのは、机の上でうだうだ言うよりも凄い事だと、僕は思います」

「……んなもんか」

「そんなもんです」

「……」

「……」


「……寺子屋、へーきそうだな」

「はい。お陰様で、あの子も無事通えるようになりました」

「お陰様って言われるようなこたぁ、なんもしてねぇよ」

「それが有難かったのです。……何もしないよう、眼を配ってくれていると聞きました」

「……慧音先生か」

「はい」

「……ったく、あの人もいらねーことしてくれるな」ガリガリ

「いらないこと、ですか?」

「あぁ。あんちゃんにとって、俺達反妖の一派は鬱陶しいもんじゃねーのかよ?」

「……いえ、全然」パチクリ

「あぁ?」

「?」

「……流石の先生でも、目の上のたん瘤だって言いそうなもんだがなぁ」ヤレヤレ

「そう、でしょうか。そういう人達がいるのも、無理はないと僕は思いますよ」

「……あんちゃん、おめぇ」

「はい?」

「……」

「?」

「……あんちゃんよ。なんで俺が妖怪嫌いなのか、聞いたか?」

「いいえ」

「あんだよ、それも知らねーのか。……ちっ、てめーらっ! ちと離れるが、手ぇ抜くんじゃねえぞ!」

「「へいっ!」」

「……(み、みみが」ビリビリ

「ちょっとこっち来な」

「は、はい」ビリビリ

「……」

「……」

「……俺はよ。親を妖怪に殺されてる」ボソッ

「! ……」

「まだ十にもなってねぇガキの時だ。怪我した狼をかーちゃんが見つけて、家で看病してやった。
 結構な図体してたそいつは、七日も経った頃にゃ怪我もほとんど直ってた。
 ……そう、そいつは妖怪だった」

「……」

「そいつは八日の朝に突然、親父に感謝してるだ、恩は返すだ言いだした。
 自分が縄張り争いで負けて怪我したってぇのも、言ってたっけか。
 それ以外にも、ガキの俺でもわかるほどのお世辞をべらべらべらべらと」

「……」

「親父たちは気を良くして酒呑んで、そいつはそれを煽って……。
 泥酔した親父たちが寝た後、そいつは本性を現して親父たちを食い殺した」

「……っ!」


「寝てた俺は妙な物音で目を覚まして、それを見ちまった。
 喉を掻っ切られて、腸剥き出しにされた親父たちを」ググッ

「……」

「んで、声を漏らしちまった俺に気付いたそいつは――」

  ご馳走
 『 童 は後に残しておきたかったんだがなぁ』

「――って舌なめずりしながら、笑いやがった」

「……」

「そこに先生が助けに来てくれたから、俺は生き残れた。
 ……だが、その時から俺は妖怪が憎くて仕様がなくなっちまった」

「……」

「だから俺は反妖怪になった。我武者羅にがた鍛えて、退治やの真似事して。
 でかくなって、そいつが人狼に成り上がったの知って、人の形してよーと妖怪なんざ信用しねぇぞってな。
 けどま、真似事のほうは無駄になっちまったんだがな」ヘッ

「え? 無駄?」

「ああ、今代の巫女様が退治しちまった。俺が襲われたときと同い年だったっつうのによ。
 あの糞狼、どんな気分で死んだんだか」カッカッカッ

「……」

「……そのせいか、最近はどーでもよくなっちまった。烏彌が頼んできたこと、やるくれぇだ。
 それがなかった、ただそれだけの話だぜ、あんちゃん」

「……」

「さ、戻んぞ。湿っぽい話は性に合わねぇ」クルッ

「……(慧音さんを人だと言って、素直に信じてくれるような人なのに、半妖怪を続けてるのは何故?」

「……」ノッシノッシ

「……あっ」トットットッ

「んじゃ、あんちゃんにも働いてもらうぞ? 見た目以上は任せられなそうだがな」カッカッカッ

「……痩せ体質ですみません」

「悪かねぇが、よくもねぇなぁ」アッハッハッ

………………

…………

……


~~~逢魔が時の寺子屋~~~

「ほほう、そんなことが」

「はい。お昼にあれだけ食べさせられるとは思いませんでした」ハァァ

「大工の若い衆に、腹十二分目まで食べさせるからな篠坂は。体を作るにはまず食え! と言ってな」フフッ

「道理で。……僕はなる心算はないのですが」ハハッ

「それだけ気に入られたということだろう。……反妖一派である理由、話してもらっただろう?」

「……はい。両親を、狼の妖怪に殺された、と」

「あの日は満月だった。だから偶々、危険な妖怪があそこにいることを知れた。……それでも、間に合わなかった」

「……」

「だが、篠坂は私を責めなかった。それどころか親の死後、面倒を見てくれた里に報いようと心身を鍛えた。
 そして私達よりその妖怪を責め、恨み、守ってくれなかった神を見限った。
 ……そうやって、私や元人間の存在以外を嫌うようになったのさ」

「……(神を見限る、か」

「……」

(……そうだ)

「あの」

「なんだ?」

「篠坂さんはその狼妖怪が今代の巫女によって退治されたと、死んだと、言っていました。
 それは、いったい? 博麗の巫女は、スペルカードルールを制定したのでは?」

「ああ、そうだな。確かに霊夢が決闘を制定し、人と妖怪の無用な殺生を抑制した。
 だがそいつが退治されたのはそれが制定される前、巫女に成ってすぐの話だ。もう、四年は前になるか」

「……博麗の巫女って、幾つなのですか?」

「十二、だな」

「八つで、妖怪退治を?」

「それも、巫女になって一日でな。当時は私も驚いたよ。……本当に、驚かされたよ」

「……」

「ただ、殺したのはそれ一度きり。
 後に起った血喰い事件では確かにレミリアを無力化までしたものの、屈服させただけで館へと帰らせた。
 そして数日たち、スペルカードルールを発布したのさ」

「……」

「それが、どうかしたのか?」

「その、スペルカードルールを作ったのに、どうしてかと思ってしまって」

「それは疑問に思うのも無理はないな。まぁ、時系列が少し前だったというだけの事さ」

「……(一度きりの完全な退治、か」

「……」

「……先代までの巫女の事、聞いてもいいですか?」

「ああ、好きなだけいいぞ?」

「それじゃぁ……」

………………

…………

……


~~~慧音の部屋~~~

「……」

「……――」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『――……それは、本当なのですじゃな?』

『はい。篠坂の一家を襲った狼妖怪は、私と同じく後天性の半人半妖です。妖怪の力に、飲み込まれはしていますが』

『……それを、あの坊主には?』

『話していません。……今はまだ、話すべき時ではないと思いまして』

『……正解じゃな。あの坊主、並々ならぬ復讐心を持ってしまっておる。
 今、話せば狂気に堕ちるやもしれん。それも取り返しのつかん、無差別な物を、な』

『……』

『……そうなるよりは、慧音さんと石焼きの烏彌に、恩を感じておる今のままの方が、扱いやすかろう』

『……! 里長、それは』

『……反妖の一派は最近、秘密結社がどーたらなど言うて力を蓄えておる。
 もしやすると、わしらの手に負えんくなるかもしれん。
 ならば、今のうちに探りやすい芽を植えておいて、損はなかろう』

『……』

『……じゃから、あの坊主に話すのは、その妖怪に諦めがついてからでよかろうて』

『……そうですね。あの子が、心の整理がつくその時まで……――』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「――……」

「……」

「……言えず終いだったな。……」

「……―――、篠坂」ツゥ


以上で投下を終わります。影に消えゆく、思惑の果てに

 

次回の内容は桜の舞う、その時の……恋路を

では、また


 気付いていない、わけがなかった。
 私を誰だと思っている?
 伊達に数十年、寺子屋の教師をやっているわけじゃないさ。
 子供達から、そういう視線や、想いを告白されることだって少なくない。
 だが、やはり流れる時間の早さが違えば、彼らだって…………。

 ……私らしくない、か。
 ……自分の気持ちは、どうなんだろうな……。

~~~春の人里~~~

「……ぷはぁ。……暖かいですねぇ」ポケー

「そうねぇ、もうずいぶんと桜も開き始めたものね。六分咲き、ってとこかしら?」

「開花宣言されてもおかしくないんですねぇ」ポケー

「開花宣言? 何、外じゃ桜の見時が知らされるの?」

「はい。気象庁からそういうのが毎年、全国に発せられます」ポケー

「狭い幻想郷じゃ関係ない話ね。……ってか伊東。さっきからのほほんとし過ぎじゃない?」

「そうですか~?」ポケー

「溶けそうなぐらい、呆けてるわよ? ……ま、今年は寒暖の差があったし、分からなくもないけどさ」

「それだけじゃなくて、僕がいた地域でこの暖かさは、もっと遅いからなんですよ~」ポケー

「そういや、どのあたりとか聞いたことなかったわね。まぁ、聞いてもたぶんわかんないけど」ケラケラ

「東北の、日本海側ですからねぇ。中々、こうはならなかった……って」

「ん?」

「……幻想郷って、どのあたりにあるのでしょう?」キリッ

「さぁ?」

「……」

「……」

「まぁ、どうでもいいですねぇ」ポケー

「そうだけど、緩み過ぎ」ペシッ

「あいてっ」

「意外な一面って感じよ。いつも以上に緩むなんて思わなかったわ」

「一番好きな季節でもありますし。那拓と桜餅食べながらの花見は格別でした」

「お爺さん臭い」ケラケラ

「よく、言われました」ハハッ


「んじゃ、私的開花予報は……まぁ、三日後ね」

「順調にいけばそれぐらいですよね。もうすでに、花見酒している人達も多いみたいですが」

「実はこの花見シーズン、里の外でもあんまり襲われないのよ。知ってた?」

「え? いえ、全然。どうしてですか?」

「妖怪も宴会騒ぎが好きなの多くてね、襲うよりそっちの方が気になって参加しちゃうのよ」

「な、なるほど」

「ついでに見所も決まってるから、そこに実力者が大抵いる、ってのも理由かしらね」

「なるほど。それで、見所って?」

「比較的近くて安全なのは里でて南西の辺りにあるかしら。西の荒れ地を南下してれば見えてくるわ。
 次いで、安全じゃないけどそこそこってのは北北東の、よーするに山の側の廃洋館近くかしら。
 半端に遠くて山に近いから、里の人間は基本行かないけどね」

「へぇ……」

「んで、安全か分かりにくいけど一番いいのは博麗神社。辺り一面、桜の園になるのよねーあそこ」

「博麗神社……そういえば、結局一度も行っていないですね」フム

「ついでだから行ってみる?」

「……考えておきます。どうせ行くなら、大勢の方が楽しめるでしょうし」

「それがいいわ。ついでに、お酒の当てもつけとかなきゃね」

「はい」

………………

…………

……

~~~寺子屋~~~

「花見?」

「はい。もうすぐいい具合に咲くはずなので行かないか? と」

「まぁ、確かにな。今年は寒い日が長かった所為か、花芽も一斉に開き始めているからいいかもしれない」

「じゃぁ」

「行くのはいいが、いつ行くんだ? 今日はフランが来るから難しいぞ?」

「三日後ぐらいでどうかと。藤原さんの開花予想では、それぐらいで満開じゃないかって」

「妥当だな。それで、場所は?」

「南西の方か、博麗神社か、ちょっと迷っています。僕って一度も、神社に行ったことないので、ついでに行きたいかなって」

「それで構わないさ。道中の安全は私達が保障する」フフッ

「お願いします。……後はお酒の当てって言っていたけど……」ウーン


「多めに用意しないとな。あそこで宴会をすれば、嫌でも大勢集まってくる」

「そうなのですか?」

「ああ。あそこは別名、妖怪神社と呼ばれていてな。色んな妖怪がそこそこな頻度で訪れているのさ。
 その大半が霊夢、目当てで他には全く理由なく、な」

「博麗の巫女さん目当てに」

「で、その当の巫女はといえば「境内で宴会するなら私も呑む権利があるわ!」と、みかじめ料を請求してくる」

「み、みかじめ料……」

「本人にそのつもりは恐らくないんだが、周りに他の妖怪がいるとなればそう感じるのも無理はない」ハハハ

「なるほど。……でもそれなら、かなり多めに用意する必要があるのでは?」

「そこは大丈夫だろう。私も何度か混ざったことがあるが、参加者が増える程、いつの間にか料理も増えていたからな」ハハハ

「そうなのですか」

「それに、そういうことを考えていたらどれだけ用意する羽目になるか」

「それもそうですね。なら、少し多めにですね」

「ああ」

………………

…………

……

~~~夜風に~~~

「……」

「……っと。これで今日の授業は終わりだよ、フランドールさん」

「はーい。おつかれさま、伊東先生」

「お疲れ様。……今日はちょっと、集中力がなかったみたいだね?」

「えっ。……ばれてたの?」

「まぁね。随分と外を見ていたみたいだから」

「うー」

「どうかしたのかな?」

「……お姉様がね、花見の自慢してきたの」

「……えっ。花見の?」

「そう。霊夢が相変わらず冷たいだとか、氷精が変な踊りしてただとか、そんな自慢」ムー

「……」

「しかもなんか、氷精が恐怖に陥れてやるーとか言ったから、私が真の恐怖を教えただとか……。
 きっと、モケーレ・ムベンベの真似でもしただけなのに」

「……お姉さんはよく、博麗神社に?」

「ええ、よく遊びに行ってる。咲夜も一緒だって言ってたわね」

「君はどうなんだい?」

「私は全然。紅霧異変の後に一度行ったっきり、行きたくないって言ったから……」

「どうしてだい?」

「霊夢がね、あんまり楽しそうに見えなかったから、私も面白くなかったのよ。
 だから、お姉様に私は別にいいって」

「……」


「でもね、お姉様はいつも嬉しそうに霊夢の所に行くの。帰って来ては、嬉しそうに話してくれる。
 それを見てると私も行きたくなる……んだけど……」

「……一度、いいと言った手前、連れていってとは言えないのかな」

「……うん」

「……そっか。……」

「……」

「……ねぇ、フランドールさん」

「なぁに、伊東?」

「特別授業、受けてみるつもりはないかい?」ニコッ

………………

…………

……

~~~二日後・薄明の空の神社~~~

 カランコロン

「えへへー、着いたわよ。……本当に満開」

「うわぁ……確かにこれは、名所だ……」ポケー

「口が開きっぱなしだぞ、陽向」

「あ、あっと」

「大丈夫よ、慧音。一昨日もかなり口がだらしなかったから」

「何が大丈夫なんだ」

「フラン様、こちら側がかなりいい景観ですよー」

「ほんとー? めいりーん」トタタ

「夜で人も少ないんだから、好きな場所でいいでしょうに」トコトコ

「全くだ。……それにしても驚いたよ。夜桜を見る、それもあの子と共にとはな」

「フランドールさんが、最近はあまりここに来ていないのと、花見も久しくしていないと言っていたので、一緒にどうかと思いまして」

「なるほどな」

「いけませんでした?」

「いいや、陽向らしいと思う。しかし、いけないなんて露程も思っていないくせに」

「ははっ。……それにしても、本当に見事ですね」

「ああ。手付かずでは、ここまで圧倒させてきたりはしないのだがな」ボソッ

「?」

「……」

「……っ!」ドキッ

「……」

「……(……綺麗、だ」

「……」

(……)


「……」

(……)

「……ん? どうした、陽向?」

「……」

「……おーい? 間抜けな顔になっているぞ?」

「え? あっ、いえ! な、なんでもないんです!」

「本当か? 何かまた、嫌な事でも……」

「だ、だ、大丈夫です! そ、それより早く、席の準備を手伝わなくちゃ」アタフタタッ

「……まったく」フゥ

………………

…………

……

 ワイワイガヤガヤ

「これ、伊東さんが作られたのですか?」

「はい。一人暮らしだと、やっぱりこれぐらい出来ないといけないかなと思って」

「にしたって、家庭的すぎない? 普通もっと、地味になる気がするんだけど」

「健康には気を使っていた方ですから。ほら、健康食品メーカーに就いたというのも、そういう理由ですし」

「へー。伊東って、健康に気をつかってるんだ」

「母の味も中々、彩が豊かだったな」

「ああ、冬の間に作ってたあれね。まぁそういわれれば納得できるかも」

「個人的にはもう少し桜にあった品を用意したかったのですが……」

「それちょっとこだ――」

「いよぉーぅ、やってるねぇ?」ヒック

「――わりってうわ酒くさ! 相変わらずね、萃香は」

「酷いなもこー。これでもまだまだだぞー?」

「えっと、この…………子鬼さんは? あ、僕は伊東 陽向です」

「子鬼だなんてなめちゃぁ……ゴクッ……いけねぇやぁ」プハァ

「喋りながら飲むな。こいつは伊吹 萃香。元、山の四天王の一角さ」

「二本だけどねぇ」ケケケ

「あぁ、あの縁起に載っていた」

「……」サッ

「あらら、フラン様」

「かっかっか。なんだか珍しい顔ぶれだと思ってきてみれば、中心がこんな若造だなんてねぇ」

「ど、どうも」


「ゴクッゴク……ぷはぁ。お前さんさぁ」

「はい?」

「あたしらが怖かないの?」ニヤニヤ

「え? ……いえ、特には」

「……」ジィ

「……」キョトン                     ~♪

「……かっかっか! そうだよねぇ、“そこ”にいる奴らと一緒なんだもんねぇ」ケラケラ

「……」ムッ

「ほらほら、呑め」グイッ

「わっとっと……え? あの、僕はそんなに酒は強くなくって……」

「あー、断らない方がいいぞ陽向。断ると、地味な嫌がらせを長々とさせられる」ハァ

「そーそー。それに、鬼の酒だ。一生に一度、味わうのも悪かないよぉ?」

「うぅ……頂きます。……んっ!」ゴクッ

「味見しながら飲まないのですね」

「伊東ってば、料理酒でも舐めるとしんどそうだったわよ」

「ぷはぁ! ……」ポー

「陽向、大丈夫か?」

「だいじょーぶ、です」ポー

「よしよし、じゃぁもう一杯……」

「萃香。あんた何しているのよ」トンッ

「あー、れいむぅ。面白そうなのがいたから、乱入だよぉ」ケラケラ

「面白そう? ……あら、珍しい。妹の方じゃない」             ~?

「霊夢、お久しぶり」

「姉と一緒、ってわけじゃないのね。……どういう集まりよ、これ」

「……」ポケー

「そこの男が中心みたいだよー?」

「彼は寺子屋の教師さ。手伝ってもらっているんだ」

「ふぅん」

「……目出度い巫女、さん?」カクッ

「随分出来上がってるみたいだけど」

「その酒を一杯飲んだだけで、この通りです」

「これ飲ませたの、萃香」

「当ったり前だろぉ。これじゃなきゃ、面白くない」ケラケラ


「ちょっと、あんたそれ酔うための種に変えたとか言ってなかった? ……あら、これ美味しい」モグモグ

「……」ジィ

「こら。頂きますぐらい言ったらどうなんだ」

「あら、言ったわよ心の中で」

「ちゃんと言葉にしなきゃダメなんだから」

「……あんたに言われるとなんか釈然としないわね」

「不良巫女に言われちゃしょうがないわ」

「……」ジィ

「妹紅。私はさっき――」

「……」ポケー

「――、――――」

「……(やっぱり、綺麗だ」ジィ

「――――」

(目だけじゃない。姿も、仕草も)

「――。――――?」

(桜の下だと、もっと、そう感じて)

「――――! ―――!」グビッ

(優しくて、強くて、でも、儚げなのも知って……)

「――? ――、陽向?」

(……だから、やっぱり、僕は……)                  ~♪

「―――。――」ケラケラ

「好き、なんだ……」ボソリ

「っ!」

「あん? なんだってー?」ヒック

「……」コックリ

「……」

「あぁ、伊東さんだいぶやばいですね」

「……そのようだな。どれ、私が少し面倒を見て居るよ」

「うん、任せたわー」モグモグ

「……少し席を離れるぞ。腕を貸せ」

「……ふぁい……」スッ

「……」

「……」


「……」ウツラウツラ

「……誰に向けて言ったのか、今は聞かない。ただ、どうせならば素の貴方の口から、聞かせてあげて欲しい」

「……ふぁ……い……」zzz

「……じゃないと、素直になれないから……」ナデ

「zzz……」

「……じゃないと、何かにこじ付けて言い訳してしまうから……」ボソリ

………………

…………

……


以上で投下を終わります。桜の中、映る蒼い幻想の少女よ

 

……リアルにあれが欲しい、これが欲しい、もっともっと欲しい……です

それでは、また


~~~春先の人里~~~

「……ふぅぁああ~(藤原さんにはああ言われたけど、やっぱり気が緩んじゃうなぁ……」

「……」ムニャムニャ

「……」チラッ

「……? (あー、見られちゃったかな」

「……ふんっ」

「っ! (わ、嗤われた?」///

「……」スタスタ

(……って今の人、こんなに暖かいのにまだマフラーしているのか。寒がりさんなのかな?)

「……こんなに日向ぼっこが気持ちいいのにねぇ」ポケ~


 敬う。

 憧れる。

 尊ぶ。

 お姉様と美鈴に抱くこの気持ち。
 今では四人に増えたこの気持ち。

 ずぅっと、忘れない……壊さないから、ね?

~~~紅魔館・春の庭~~~

「……うんっ。我ながら、綺麗に同時に咲かせましたねぇ。
 まぁ、躑躅は薔薇と違って素直な花ですし、当然かな」

「独り言かしら、美鈴」

「いやだなー、咲夜さん。貴方が来るのが分かってるから言ったんですよー」

「そう。ユーカリとエルダーフラワーはもう摘めるのかしら」

「いけますよー。咲夜さんが敷ってくれるおかげで、喧嘩することもありませんし」

「私はただ、空間を切ってるだけよ。土いじりをしているのは貴方の方」ブチッ ブチッ

「それでも大助かりですよ。前はこんなに多くの植物を植えることは出来ませんでしたし」

「腐らせたり、処理するのは――{カッチン}――得意なのだけども」

「相変わらずの種無し手品。そっちは、お役取られちゃいましたね」

「……貴方が教えてくれなければ、今でも無理だったと思うわよ」

「またまたー。ところで、それはパチュリー様に?」

「いいえ。妹様が飲みたいと仰っていたから」

「フラン様が?」

「ええ」

「……なら私が淹れま」

「門番の仕事をしてなさい」サクッ

「軽く叩くみたいに刺さないで下さいよー」ピュー

………………

…………

……


~~~紅魔館・フランの部屋~~~

「……」コクッコクッ

「……はぁ。いつも甘くて苦い」ベー

「申し訳ございません」ペコッ

「別に嫌いじゃないけど、お姉様たちは平気で飲んでるのよね」ムムム

「はい」

「……」

「……」

「……慧音と伊東は、飲んだらどう思うのかな」ボソッ

「里の教師お二人ですか?」

「うん」

「でしたら、慧音さんは普通に飲んでいましたが、味の感想は聞けませんでした。御友人にからかわれていましたので」

「もこーね」ブー

「はい」

「……どうなのかな。やっぱり、平気なのかな」

「私にはさっぱり。ですので、実際に飲んで頂き確かめては如何でしょう」

「あ、そっか。別に、飲んでもらえば分かるじゃない」

「その通りでございます」

「じゃぁさくや、いれ方教えて?」

「私で宜しければ。ではまず……――」

………………

…………

……

「――……あぁ。確かにこれは苦いですね」アハハ……

「でしょー。さくやみたいにはいかないや」ションボリ

「まぁ、初めはそういうものですよ。私だって別に、初めからチャイが上手く淹れられたわけではありませんし」

「そうなの?」

「ええ、そりゃぁもう散々でしたよ? 沸騰したてのお湯を思い切り注いで、冷めないうちに出したりしてました」

「どうだったの、それって」

「師父に怒鳴られました。こんな不味いチャイは初めてだ、この馬鹿弟子! って」テヘヘ

「あははっ。……そう言われたくないなぁ」

「……やはり、先生方に飲んで欲しいのですか?」

「うん。みんなはどんな風に飲むのかな、って」


「一度でも飲んだことがあるのであれば、それを尋ねればいいのでしょうが……反応が直に見たいですよね?」

「……うん。だから、めーりんがいれて上げて?」

「お任せを。……と、言いたいところですが」

「?」

「ここは御自身で淹れた物を飲んでもらうべきです、フラン様」

「ダメだよ。私のは苦いだけだもの」

「確かにまだまだ苦くて美味しいとは言えないかもしれませんが、ならば美味しく淹れられるようになればいいんです」

「美味しく?」

「はい。寺子屋の宿題と同じで、日々練習していけば上手く淹れられるようになります。
 すぐには上手くいかないかもしれませんが、そうやって苦労した先に、美味しいと言って貰う……。
 そんな目標を立て、頑張ることが大事だというのは、慧音さんの授業で知られたと思います」

「……」

「それを今度はあの方達の知らない所で、御自身が進んでやるのです。
 それによって得られる達成感は、きっとフラン様の為になると私は思います!」

「……出来る、かな」

「大丈夫ですよ! 私が付きっきりで、コツを教えますから!」

「本当に?」

「はい!」

「なら頑張る。あの二人に美味しいって言ってもらうために」

「その意気です、フラン様! (さて、先生方の教育方法に乗っからせてもらいますよ~」

「それではさっそくですが、まずはフラン様の淹れ方を見させて貰いますね」

「はーい。……――」

………………

…………

……


~~~三日月夜空の寺子屋~~~

「……はい。それじゃぁ、今日はここまでだね」パタン

「ありがとーございました、伊東先生」ペコ

「うん。それにしても、最近は時間が長く感じるね」トントン

「んー? そうかな、私は早く感じるよ?」

「お? ……どうしてかな?」

「分からないけど、でも、お部屋に籠りっぱなしの頃より、全然早いもん」

「……495年間、部屋に居続けたのだっけ」

「そう。地下にいた頃は、偶にお姉様が暇つぶしをくれるとき以外、何もなかった」

「……」

「でも、今は違う。毎日、違うことを教わって、違うことをお話して、すっごく楽しい」

「……」

「だから、気づいたらいつの間にか時間がすぎちゃってるの。これまでが惜しくなるくらいに、すっごく早く」

「……」

「それもこれも、二人のおかげだって思うの。私を見ててくれた、二人のおかげだって」

「……君が頑張っていたからだよ。だから僕も、フランドールさんを応援したく――」

「だから!」

「――なっ……て?」

「私、二人を尊敬する。これまでたくさん教えてくれた人だから、これからもずっと!」

「……」

「だから、だから……」モジモジ

「……?」

 

「……陽向お兄様って、呼んでもいい?」

 

「……」


「……」チラッ

「……」

「……」テレッ

「……ん? おにい、さま?」

「……うん」ジィッ

「え、いや、どうして……?」

「めーりんがね、教えてくれたの。目上の人のことは、年上のように呼ぶのが中国での礼儀だって」

「そ、そうじゃなくてね。ああいや、それも理由は分かったけれど」アタフタ

「尊敬してるからだって、さっき言ったよ?」

「あぁ、うん、そ、そっか(やばい、話が整理できてない」

「……駄目、かな?」

「い、いや、そんな、僕みたいなの、を……」

「……」ジィッ

「……」ドキッ

「……(眼が変わってる。首を狙ってきた時にも変わらなかった、眼が」

(あの日の夜のように、きっと、心の底からの想いなんだ……)

(……本当に、そう思ってくれているんだ。僕なんかを、兄と呼んでくれるんだ)

(……なら)

「……そんなことないよ。そう呼んでもらえるのは嬉しい」ニコッ

「っ!」パァッ


「でも僕は正直、そういう風に呼ばれるのに慣れていなくて……恥ずかしいんだ」

「そうなの?」

「うん。くすぐったいというか、体の奥が浮いてしまうというか……。
 それは悪い気持ちではないのだけれどね」

「やめたほうがいい?」

「いいや、君の好きなように呼べばいい。そう呼んでくれることに、僕が慣れなきゃいけない事だから」ジワッ

「そうなんだ」

「うん。……だから」グッ

「?」

「……だから……(泣いちゃ、ダメだ。今、この子の目の前で嬉し泣きでも、しちゃだめだ。だって、僕は」

「……」

「……宜しくお願いするよ。フラン、ちゃん」

「うんっ、お兄様!」エヘヘ

「……」

「それでね、それでね! 私、今、美鈴から教えて貰ってることがあるんだよ?」

「……へぇ、なんだい?」

「おいしい紅茶のいれ方! 私ね、さくやの――」

………………

…………

……


~~~夢~~~

『……』

「……!」

『……』ニコッ

『……』フリフリ

「……母さん。那拓」

「……僕、今日、妹が出来たんだ」ニカッ

「500年近く生きる、天使のような悪魔の妹、なんだよ?」

『……』コクッ

「その子はとっても頑張り屋で、本当に素直な子で」ジワッ

『……』ブンブン

「僕なんかを慕ってくれて、応えられるように頑張らなきゃって思って」

「でも、それが嬉しくて」

『……』ナデ

「……なたくと初めてあったときのようで、すっごくうれしくて」ツゥ……

『~♪』ブンブン

「だから、こんどこそ、こんどこそ……!」ポロポロ

「すなおに、いきるよ。……すなおに、いきるから」ポロポロ

『……』

「みまもってて、ふたりとも」

『……』

「やくそく、する、から……!」

『……』

『……』

………………

…………

……


以上で投下を終わります。本当に大事だった人達に出来なかったことを、本当に大事になった人”達”に

 

さて、六月になりました。5,6日に安価スレをやり終えた後、あちらも……!

 

それらをしつつも、次回は六月末までに投下するよう目標立てて

では、また


 涙はどれだけ流れても枯れない。
 それは世に降る雨のように、何度でも降り注ぐものだから。

 だけども同時に、止まない雨はない。
 雨が降った後に、大地は固まり強くなる。

 そう、僕は信じ続ける。
 僕が、そうだったように……。

~~~降り注ぐ雨の郷~~~

 ザァー

「……」パシャッ パシャッ

「……」

「……」スッ

(梅雨、か)

「……――」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――-

 

『――……え? しばらく、フランちゃんは来られない?』

『はい。この時期は雨が多すぎて、流石に出歩きづらくて』

『そういうことですか。雨も、流水でしたね。……美鈴さん、態々すみません』ペコ

『いえいえ。少し前からフラン様が一人でここまで通うようになって、伝えそびれていないかと思いまして』

『確かに、忘れていたようですね。流石は美鈴さん、フランちゃんの事がよくわかって……ん?』

『どうかしましたか?』

『……いえ。伝えたのかどうかって、フランちゃんに訪ねなかったのかな、と』

『今はまだ寝ていらっしゃるので、起こすのは忍びなくて。それに、別の要件もありまして』ガサゴソ

『別の?』

『ええ。……はい、これです』リィン

『鈴、ですね』リン

『はい。それは……――』

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……」

「……」パシャッ パシャッ

………………

…………

……


~~~晴れた雨の湖~~~

「……ふぅ。ここまでは比較的、安全地帯か」

「……」ゴソゴソ

「……(これを鳴らせば」スッ

「……」

 リィー……

「……」

 チャポンッ

「っ! 何? (何か、人影?」

 ザァー……バシャッ

「……魚? ……大きかったな」

「……」キョロキョロ

「いたいた。おーい、伊東さーん!」

「あっ、美鈴さん。良かった、本当に聞こえたのですね」

「言いましたよー? 霧の湖の対岸ぐらいからなら聴こえるって」ニコニコ

「そうなのですけど、雨音にかき消されていないかと。それとまだ結構、距離はありますし」

「門番は伊達じゃないということです。ささ、ここからは案内しますよ、先生」

「あ、お願いします。……」チラッ

「? どうかなさいました?」

「あ、いえ。……さっき、かなり大きな魚がすぐそばで跳ねたみたいで」パシャッ パシャッ

「ほぉ。それは今度、釣り上げてみたいですねぇ」

「美鈴さん、釣りは上手なのですか?」

「上手かは自信ありませんけど、忍耐強さには自信がありますよ?」

「釣りには大切な事、ですね」ハハッ

「そういう伊東さんはどうなんです?」

「えっ。……僕はあんまりですね。美鈴さんや太公望のように、待つことも得意じゃないし」ボソッ

「お? 呂尚ですかー。師父があの人の六韜を、これでもかと書き写すよう言ってきたのを思い出します」アハハ

「分かるんですかっ? (……りょしょう?」アレ?

「勿論。他にも孫子の物や司馬法も叩き込まれましたよ。お前は道理を学ぶことから始めよ! って」

「じゃ、じゃぁ、自軍よりもはるかに数の多い敵軍を前に取るべき……――」

………………

…………

……


~~~紅魔館・エントランス~~~

「……僕がにわかでした」ズーン

「いえいえ。流石にこれは年季が物を言いますから」アッハッハ

「ぐぬぬ……」

「私にとって負けられない所ですし。それに、その方の漫画でしたら紅魔館の図書館にもありますよ」

「……えっ!? 幻想入りしているんですか?!」

「数巻だけですけどね。全巻まーだー? と、お嬢様も心待ちにしています」

「はぁ……なんだか、ものすごく驚きました」

「それはなにより。では、本来の目的と参りましょうか」

「あっ。……つい」

「私もこういう話が出来て乗り気だったのでノーカンです。……さ、地下室へ。今はそちらにおられますから」

「……はい。サプライズ、家庭教師ですね」ニコッ


以上で投下を終わります。すみません詰まっております……

スレを生かすためにも、半端ですが一度、と

 

すみません、こちらはここまでとして、また


「とはいっても、フラン様はまだ寝られてますけどね~」

「やっぱり、来るのが早かったですか」

「そうですね。ですが、逢魔が時を超えてから来るよりは安全でしたでしょう」

「はい。……いつかのあの子に出会うのは、怖かったですし」

「虫の妖怪でしたっけ。確かに、昼間の上に雨なら出会うこともそうないでしょうね~」

「は、はは。……それで、どうしたらいいのか――」カッチン

「客人の自由にされて結構です。と、お嬢様は仰っていますわ」

「――なぁっ!? ……え?」

「ああ、咲夜さんちょうどいいところに」

「ただ、紅魔館は広大かつ、少々入り組んでいますのでお一人で散策されますと迷う事受けあいでございます」

「……そうですか(受けあい、なのか?」

「ですので、これからご案内する客間にて休憩されるか、もしもであればメイド妖精を一名、案内役として配備致します」

「……ご丁寧に、有難うございます」ペコ

「当然の事ですので、お気になさらぬよう。どちらが宜しいでしょうか」

「あ、えーっと……(別に、人の家を歩き回る趣味はないしなぁ」

「……」

「(でも、さっき美鈴さんが言っていた図書館は気になるかな。……聞くだけ聞いてみようかな」

「……その、図書館があると聞いていますが」

「はい」

「その図書館で時間を潰すことって、出来るでしょうか?」

「可能でございます。ただ、図書館はお嬢様のご友人の兼住居。
 館内の他の場所を彷徨うより、多少制限が付くことになりますが、宜しいでしょうか?」

「大丈夫ですよ(たぶん、騒がないとか、落書きしないとかだよね。……たぶん」

「畏まりました。では、内容は歩きながら説明致します。それから美鈴。貴女は持ち場に戻りなさい」

「あー、やっぱりですか」

「当たり前でしょう。外出しているのならともかく、館にいるなら仕事しなさい。客人は私が持て成すから」

「分かりましたよー。ちょーっと、指せるかと思ったんだけどなぁ」ヒュ~


「……お待たせしました。どうぞ、こちらへ」

「いえいえ。……(この人が時を止める、紅魔館のメイド長なのか」

「――。――――」スラスラ

(フランちゃんが言っていた通り淡々としていて、仕事人って雰囲気は感じるかな。人外染みた、と言うのはよく分からないけれど)

「――――、――。―――」スラスラ

(……縁起だと年齢を疑っていたけれど、外見は年相応な……って、そうか。時を操る能力が)ウーン

「――?」カツンカツン

(……稗田さんの考察は意外と当てにならないから、信じちゃだめだよね。うん、失礼だよメイド長さんに)ブンブン

「……」

(……でもさっきから、言い回しがどこかずれているというか、棘はないけど刺さっているというか)

「この扉の先が、図書館となっております」

「……えっ。……あ、はい(いけない、ちょっと危なかった」    ギィ

「それでは、こちらへ。……」

「……広い(階段を降りていたけど、少し地下にあるのかな」ワァ

「パチュリー様」

「……あら。どうしたの、咲夜」チラッ

「はい。妹様のお客人が、図書館にて暇を潰されたいと仰られておりまして」

「妹様の。……冴えない男ね」ジィ

「自分でも、そう思います」ハハ……

「……」パタン

「貴方、“外来者”?」

「……はい」

「なら、こういう所での振る舞い方、理解しているわよね」

「はい。静かに、本は丁寧に。後は、読み終えたら元の場所へ」

「分かっているならそれでいいわ。小悪魔」


「はいはーい。あら、地味で冴えない優男らしき人がいますね?」

「……(段階的に抉ってきているのかな、ここ」アハハ……

「咲夜から引き継ぎなさい。それ、お客だから」

「なーんだ、それならそうと早く言ってくださいよパチュリー様。ではではどうぞご案内します! 咲夜さん、何か特筆して上げることはありますかね? ない方がいいのですけども」ペチャクチャ

「……(ああ、違う。扱い雑なんだ、たぶん」

「通常通りに持成して差し上げて。お客人、何かご用命がございましたら、これからはこちらの小悪魔に申し付け下さい」ペコ

「はい。……本を探すのを、手伝ってもらうとかになると思いますけど(だからメイド長さんが一番まし、なのかも?」

「それでしたらお任せを。この図書館の隅から隅まで網羅はしていませんけど大体は覚えていますので。ではまず何から……――」

「あ、えーっと……(マシンガンだなぁ)……――」

「……」

「……」

「覚えておられたのですね、教師様の事」

「フランがあれだけ話していればね。……それに、レミリアがさせていることだし」

「左様で御座いますか」

「……」

「……」カッチン

………………

…………

……


~~~夜の客間~~~

「それでは、ごゆるりと」キィ

「……ふぅ。今日も一日、疲れたな」

「……(まさかあんなにも喜んでくれるなんて。よほど、退屈が苦手なのかな」

(それにしても、あの本の量。地方都市の図書館と言われても、信じられる量だったな)

(……この梅雨の間、フランちゃんの家庭教師ついでにお邪魔させてもらおうかな?)

「……ふぁぁ。……お腹、一杯過ぎて(血の滴るステーキとか、食べたこと、なか……った……」

「……zzz」

「……」

………………

…………

……

 バサッ

「……」トン  トコトコ

「……」スースー

「……」ジィッ

「……zzz」

「……」

「……ぅーん」ゴロッ

「……」

「……」スースー

「……」ニタァ


  ギィ バタンッ

「……ふふっ」  カッチン

「如何で御座いましたか、お嬢様」スッ

「平々凡々。態々、何かをするまでもないわ」ククク

「左様で御座いますか」

「えぇ。……私が何かをする必要はない」ギラッ

 

  ただ、己で選び取るだけよ。……フラン。

 


以上で投下を終わります。フランちゃん以外の紅魔館勢の番

 

どうして気づけば八月。……そろそろ涼しいあの子の出番

それでは、また


 あいつは霊夢や魔理沙と同じくらい好きだな!
 あたいが妖精だからって、馬鹿にしないからな!

 でも、あたいはあいつが嫌いだ。
 だって、嘘をついたんだ。
 ……人は、嘘、ばっかりだ……。

~~~日差しの痛い、夏の郷~~~

「あははー!」

「きゃー、つめたーい!」

「はい、顔を上げて」

「ぶくぶく……」バタバタ

「……元気だなぁ」ハァ

「そういう慧音は去年ほどの元気がないわね」ケラケラ

「そうかもしれないな。これまでと違って、運動は陽向に任せるようになったから」

「おかげか知らないけど、体力だけは一人前になったわよね」ケラケラ

「先生、こっちこっちー!」グイグイッ

「うわっ、急に引っ張ったら……うわぁああ!」バシャーン

「子供にも倒されるのは、変わらないがな。……こらー。伊東先生で遊びすぎたらいけないと言っているだろう」

「ごめんなさーい」キャッキャッ

「大丈夫ですよ、慧音さん。もう、慣れたものですから」ハハハ

「む。伊東先生がそういうのなら、構いませんが」

「ええ。あっ、そっちに行きすぎたら河童さんに尻子玉を抜かれちゃうよー!」

「ひゃぃっ!? 子供のは抜かないよ!」バシャッ

「本当にいたのね」

「みたいだな」

「あっ、しまっ……ひゃいー!」バシャバシャ

「あ、逃げたー」

「照れ屋って本当だね、せんせー」

「みたいだね。……適当に言っただけなのだけども」アハハ……

「川河童かしらね」

………………

…………

……


~~~夕暮れ時の寺子屋~~~

「ふぁぁー……」

「さよーならー、せんせー」

「さようならー。次は三週間後だからねー」

「ふぁーい……」トボトボ

「……あくびしながら。よっぽど眠いのかな」

「椰愛(ゆあ)ははしゃぎ倒していたからな。お姉さんなのだから、もう少しお淑やかになって欲しいものだが」

「元気なのは良い事ですよ。さて、夏の自主勉強期間か」

「あぁ。この時期、盆の行事で家の用事を手伝う子が多くてな。
 寺子屋に通う暇がなかなか出来ないから、どうせならばと設けたんだ」

「外で言う、夏休みみたいなものですね。でも、宿題は自由研究付きの絵日記か」

「自由研究……為るほど、それに近いかも。それぞれの家の手伝いを書き出させているわけだからな」

「……もし、フランちゃんにさせたら、美鈴さんとの練習日記になるのかな」

「紅茶のか。そういえばまだ、飲ませて貰えないな」

「お湯の温度に手間取っているみたいですね。それ以外も、かなり拘っているみたいで」

「熱中できる何かがあるのは良い事だ。……さて、私もこの暇に“あれ”を片づけねば」

「……今度は丸一日頑張るのですよね」

「あぁ。年に一度、この時期にはそうしている。夜も過ごしやすいから、書くのに適しているんだ」

「なら、僕はそのお手伝いを」

「いや、いい。それよりも、自由に動き回ってみたらどうだ?」

「自由に?」

「あぁ。フランの授業が夜にあるとはいえ、それも数日に一度。それ以外に、用はないだろう?」

「だから、自由に……(そういえば、そんな時間は殆どなかったんだ」

「あぁ。さっき言った、夏休みと言うわけだ」

「……」

「まぁ、どうしてもと言うなら少し考えておくが」

「……いえ、休ませてもらいます。というか、その方が慧音さんにとっていいのでは?」

「実はな。……だらしのない姿を見せたくないんだ。特に翌日の状態は」

「分かりました。……翌日ですか?」

「単純に、疲れ果ててしまうんだよ。徹夜で歴史を直視し続けると、身も心も」

「それって大変じゃぁ」

「だから翌日は見せられないのさ。何、その後は特に問題もなく居られるから安心してくれ」アハハ

「そうですか。なら、慧音さんの部屋に向かわないようにだけ注意していますね」

「頼む。……ひょろっと厠に行くところを見ても、見なかったことにしてくれよ?」

「ぜ、善処します」

………………

…………

……


~~~四日後・人里の茶屋~~~

「うーん……(早くも、人里の散策が終わってしまった」パクッ

(自由と言われても、思えばやる事が中々ないのは……僕の趣味が少ない所為か)モグモグ

(……趣味、か。……フランちゃんが紅茶を淹れるのを頑張るように、僕も何かを見つけるべきなのかも)

(……でも、人里歩いてぴんと来なかったからなぁ)グダァ

(もっと外も見てみるべき? なら、竹林か博麗神社?)

(……神社にお参りに行ってみよう。花見の時は結局、酔いつぶれてまともに覚えてないし)

(今日は飛び切り暑いけど、思い立ったら吉日だ)キリッ

「……よしっ」ゴクッ

「おばさん、お金ここに置いておきますねー」ジャリッ

『はいはーい』

………………

…………

……

~~~幻想の東の原~~~

「……」ツゥ

「……ふぅ」スッ

「……うん?」チラッ

「あ゛づぅー」ダラーン

「……あ、チルノさん。……羽がだいぶ溶けている?」

「んー? あー、誰だっけー?」

「いつか、雪かきしていた」

「……あぁ、話してくれた奴かー。髪きっててわかんなかった」グテェ

「うん。夏は暑いからばっさりとね(覚えてないと思ったけど、見た目の所為か」

(そりゃそうだよね。そんなに会ったことないのだから、覚えている方が珍しいか)

「んでー、なんのようだー。あたいは見た通り、忙しいんだー」グテェ

「……溶けているよね、君。大丈夫なの?」

「大丈夫……じゃないかもしれない」

「えっ」

「こんな暑いの、聞いてなかったもん。いくら夏が良くてもこれはないね……」ハァ

「まぁ、確かに暑いね。……川まで連れて行こうか?」

「おー、頼むぅ。いまのあたいはれいきもでない……」

「分かったよ。……(触れる、かな?」スッ

「……?」ピトッ

「……よいしょっと(確かに弱っているみたいだ。どうしてここにいるのかは、元気になってから聞いた方が良いな」

………………

…………

……


~~~咲き乱れる花園へ流る川~~~

「うへぇ……」グテェ

「ほら、もう少しで川だよ(それにしても見た目通り軽いな、妖精って。……まるで、那拓みたいだ」

「いそげー、おとこー。そうすればけらいにしてやるぅ」

「それは頑張らないとね(案外、まだ元気だったようだ」トットットッ

「あう、あう」

「……っと、着いたよ。とりあえず、木陰に……」

「いいー。それよりかわになげてくれぇ」

「え、えぇ? ……まぁ、そっちの方がいいなら(投げるのは流石に」スッ

  チャポンッ

「っと、どうかな?」

「……とぅっ」ピョン

「えっ」

  ザッパーン

「うわっ! ……あー」ベチャァ

「……」ブクブク

「……大丈夫、なのかな?」

「ふぅー、生き返った!」バシャッ

「……それは何より」ベチャァァ

「お前、ありがとうな。もう少しでまた一回休みになるところだった」

「いやぁ、うん、どういたしまして。ところで、どうしてあの場所で倒れていたの?」

「今、大ちゃんたちとかくれんぼ中でさ。私が鬼で探してたらああなった!」

「結構テンプレな熱中症例だけど、治るのが早いかな……? (氷の妖精だから?」

「私だからな! よし、治ったし探してくる!」

「ああっと、まだ駄目だよ。もう少し、涼んだの方がいい」

「えー? 大ちゃんが待ちくたびれちゃうよ」

「その子には悪いけど、でも。君がまた倒れたら友達が悲しむよ。例え、死んで蘇れたとしてもね」

「むぅ……」


「それに、十分涼んだとしても、水は持ち歩かなきゃ。見た所、持っていないみたいだし」ガサゴソ

「?」

「はい、竹の筒。ちょうどこの川の水を汲めばいいよ」スッ

「……良いのか? 話が上手すぎるぞ?」

「いやぁ……今日は暑くなりそうだったから、三本持っていただけだよ」

「そっか。悪いな、家来!」

「……どういたしまして。じゃぁ、ちゃんとお涼み下さい、親方様」ペコッ

「うむ、苦しゅうないぞ。……って、どっか行くのか?」

「うん。元々、博麗神社に行く予定だったから。ここでお別れだよ」

「霊夢のとこかー。気を付けろよなー」ノシ

「うん、ありがとう、またね」

「おう、またなー」

「……」トコトコ

「あ、カエル」キーン

「……」トコトコ

「……(氷精、チルノ。本来なら、触れば凍傷になるかもしれない程に凍えた妖精、か」

(……熱中症になると体温が上がるのは発見かな。そもそも、妖精が熱中症になるのも新発見かもしれないけど)ハハッ

………………

…………

……

~~~数十分後、某所~~~

「大ちゃんみーっけ!」

「――! ……?」

「この暑さで参ってた。家来が助けてくれたけどなー」ガサゴソ

「?」

「これ? そいつがくれた。水は持ち歩けってさー」アー

「――。~~」コクコク

「……んー? 凍っちゃって出ない」ブンブン

「~~」ケラケラ

「しょうがないなー。大ちゃん、持ってて」スッ

「~~。……っ!」ワタワタ

「あはは。さぁ、次はリグルかな? ルナチャかな?」キャッキャッ


以上で投下を終わります。暑すぎる日は地味に一回休みしているチルノであった

次はかなり短めで、その後は片方が動く……予定

 

気付いたら がんばれハート 浮かんでる

それでは、また


~~~??夢~~~

「……」

『……』ニコッ

「あっ……かあ、さん」

『~♪』フリフリ

「……那拓も。……あぁ、夢なのか」

『……』

「でも、夢でも二人に会えるのは……嬉しい」

『……』

「……あのね! 前は話せなかった事があったんだ。幻想郷に来て出来た……大事な人達の事」

『……』

「僕が……む、虫の妖怪に襲われて、危なかったところを助けてくれた藤原さん!」

『……』ボッ

「その人の友人で、僕を教師として働かしてくれる……大切な恩人の慧音さん」

『……』ニコッ

『……』ニコッ

「? ……! ……あれ、二人も……?」

『……』コクコク

「……そっか。これ、明……なんとか夢なのか。……だから、皆いるんだね」ジワッ

『……』ケラケラ

「……な、なら! 僕を兄と慕ってくれる……」

『……』ピョンピョン

「……吸血鬼のフランちゃん」

『……』

「……僕が……僕が、生きたいと思えるようになった、その、きっかけの人達」ツゥ

『……』

「……でも、そっか。これは夢の中で、自分の好きなように出来るのか」

『……?』

「……っ! だ、ダメ! そんな、そんなエッチな事なんか、考えたら……!」カーッ

『?』フリフリ

「なな、なんでもないよ、那拓! なんでも――」


 ――ドスッ

「――ないか……ら?」

『』

「……かあ、さん?」

『……』

「……えっ、なんで、倒れて……?」

 ――ドッ

『』

「!? ふ、藤原……さん!?」

 ――ドスッ ドスッ

『』

『』

「! フランちゃ……那拓!!」

「なんで、なんで……刺さって……何が……どうして……」

「そんな、そんなの……僕はこんなこと、望んでなんか……」

 ――シュッ

「はっ……慧音、っ!」

『……』ジィッ

 ――ッ

「やめて……止めてくれぇえ!!!」

 

――――――

 

――――

 

――

 


「はぁっ!」ガバッ

「……はぁ……はぁ……」ポロポロ

「……ゆ、め……みんな……ころ、され……?」ガタガタ

「……」ギュゥ

「はっ! 慧音さんっ!」ダッ

 

 ギィッギィッ

 

「っ!」スパンッ

「……んっ」

「……大丈夫だ。……よか、った……」ボスンッ

「……うーぬ……? ……どうした、陽向」ムニャムニャ

「……」ポロポロ

「? ……何を泣いているんだ、陽向」

「……っ」ズズッ

「怖い夢でも見たのか?」

「……は、い」グズッ

「……全く。もう、立派な大人の男だというのに、情けないぞ?」

「ずみば、ぜ……」

「……こっちにおいで」

「……は、い」

「……大丈夫だからな。……お前が泣いても、笑ったりしないから、すっきりするまで泣きなさい、陽向」ナデ

「はい……はい……」ウゥゥ

「……」ナデ

「っ……っ……」

「……」

………………

…………

……


以上で投下を終わります。明晰夢? 悪夢? 正夢?

次回、那拓の側としまして

それでは、また


 呪

 壊 奪 破 焼 捨

 怨

 切 圧 汚 貶 放

 盗

 断 殺 集 還 曖

 

 羨

   哀   相 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


~~~白玉楼・雪の化粧~~~

「……たぁっ!」

『……』フリフリ

「ふっ、ふんっ、ふぅっ!」ブンッ

『くぁ~』~*

「すぅ……」

『……!』ピクッ

「……っ!」

――千切れ、滅多切り!

 ――ドササッ

「……」チン

『わんっ!』フリフリ

「……? どうしたの、……し――みょんっ」ピトッ

「冷たっ……雪?」

「……もう、そんな季節なのね」

「……(この子が来てから、一年半がとっくに過ぎた、か」

「……」クシャクシャ

『~♪』フリフリ

「……ふふっ(ここをこうしてやると、すごく喜ぶ」

(……でも私は、それ以外をまるで分かっていない)

(相も変わらず、分かっていない……)

『……』ジィ

(幽々子様はこの子の名前も素性も知っているのだろう。だからこそ、偶に楽しげにお話されているんだ)

(けれども私にはさっぱりだ。この子の名前も、素性も……)

(……この子はこの子の御主人を待ち続けている。そう、幽々子様は仰っていた)

(そう、幽々子様……が……?)

「……そうだ。なんで私は」

『……』

(……どうして私は、どうして私はその話を鵜呑みにしていたのだろう)

(幽々子様が仰ったからと言って、全てがその通りだったとは限らないじゃない)

(そして幽々子様は、私を頼るなと言っていた)

「……なら」

『……!』ピクッ

「おまえは一体、だ――」


―――――――――――――

 

         怨

 

―――――――――――――


「――れ……っ!!」ゾクッ

『くぅ……』

「な、に……何、この妖気……! (それにここからでも感じられる程に……禍々しい圧気」

『……』シュン

(こんなものがどうやって、幽明結界を……!?)

(いや、壊された気配はない?)

(……幽々子様は出かけられてお留守。今いるのは、おおよそ給仕の霊達ばかり)

(そして……)チラッ

『……』ションボリ

「……大丈夫」

『……!』ピクッ

「この妖気がどんな相手か分からない。けれど、大丈夫だからね」ナデ

『……』ジィッ

「だから、退治して帰ってきたらおまえの事……」

「……(……今更、口に出すことじゃない、か」

『……』ポフ

「……行ってきます!」カチャッ

『……わんっ!』

 ――ッ

「……!(無駄な語りは不要。武士ならば己が剣で語れ……!」キキッ

「……!?」

 ―― 怨

   懐 化 他 人 腐 悪

呪 嫌 恨 【……】 奪 焼 壊

   絶 片 割 汚 澱 燃

「何、これ? (まるで……鎧?」

(……いや。こいつはこれまでに見た狼藉者と同じ? それが更に集まった存在かしら)

(継ぎ接ぎだらけなのは、そういうこと?)

(……)

「……っ!」ギロッ

(否、余計なことは後回しで良い。今はただ、斬って物事を知れ)キンッ

【……?】

「魂魄妖夢、いざ参るっ!」

 ………………

 …………

 ……


「はぁ……はぁ……」

【……】

「はぁ……(しぶと過ぎる……!」

【……】

(どれほど白楼剣で斬ろうと、迷いが断ちきれない……)

「……たぁあああ!」ブンッ

 ――ドシャッ

【……】  ,

…【……】 , ズズッ

 …【……】,

 ―― 怨

  【……】 スゥ

「また(くっついた……!」ギリッ

(何度やっても、本体が欠片にくっつき直してしまう)

(攻撃こそ単調なのに、キリがない……!)

(もっと早く、鋭く行くしか……!)

「……『幽明の苦輪』!」テケテン

「「……」」

「これで、休みなくいけば――」

【違う】

「――どうにか……えっ? (喋った……?」

【お前に用はない】ブンッ

「っ、しまっ……――!」

  ドフッ

「かっ……はっ……!」

【……】

「くっ……なんの、これしき……! (だけど、流暢に喋るなんて」

【どこだ? どこにいるんだ?】

(しかも、こちらには目もくれず……やはり狙いは幽々子様?)

(ならばやはり、中に入らせる訳にはいかない。いないとはいえ、ここは冥界が主のお庭……!)

「不逞の輩に荒らされるなど、そう何度もあってはならない……!」

「食い止――」

 【……】 【マーマー?】 【ウバエ、モドセ】 ゾロゾロ

「――め……えっ? (そんな、まだ?」

 ………………

 …………

 ……


「……」

【……】ジィ

「……」

【しつこいのも黙った。……俺はチャンバラごっこが嫌い。乱暴】

【ランボウ】 【コワス】 【オル】

「……ぅ」

【まだ生きてる。……もっと毀す?】

【コボス】 【オナジメ】 【シカエセ】

「……(私、死ぬのかな……?」

【思いは一致。……同じはしつこいお前にも】ズズッ

(結局、おじいちゃんの教え……たどり着けなかった……)

(ごめんなさい、おじいちゃん。……幽々子様……)

(……シ、ロ)

 

  バァーーーン!

 

【……あぁ。そこにいるのね】

【ミツケタ】 【アッタ】 【イッショイッショ】

【見つけた。お前を見つけた。僕が見つけた……】

 

 【同じ目にあったモノ。皆、一つに】

 


 ………………

 …………

 ……
 
「――。――」

「……」

「――妖夢。起きなさい、妖夢」

「……ぅ……幽々子、様?」

「……いつまで寝ているの、妖夢。駄目じゃない、護衛だというのに」

「……申し訳、ございま……うっ!」

「起きないの。まだ、体は治っていないのよ」

「……です、が……アレは……アレ、が……」

「……もう、いいのよ」

「……え?」

「もう、いいの。全部、終わってしまったから」

「……何、が、終わって……」

「アレはもう、居なくなったわ。地上で、誰かが消し去ったみたいね」

「……そう、ですか……」

「……」


「……幽々子、様」

「あら、なぁに?」

「……私は、何故……死んで、いないのでしょうか……?」

「あら。半人半霊の貴女はある意味死なないのが通りでしょう?」

「……何か、理由が、あるんですね?」

「どうして、そう思うの?」

「……幽々子様が茶化す時は、いつも何か……理由が、ありますから」

「……」

「……それに、今の幽々子様の目……笑って、いません」

「……」

「……何が。いったい、何が……?」

「……あの子が」

「……」

「あの子が、貴女の身代わりになったのよ」

「……っ。動け、ない……のに?」

「そう。だから、引きつけたの。……そして」

「……」

「あの子はもう、成仏したわ」

「……っ!」


以上で投下を終わります。那拓の行方。【】の目的。道はまだ途切れ途切れに

妖夢の話は残るところ一話。空気は再びガラッと変わり、陽向の続きへと

それでは、また

こっちまで落としてはいけない……

8日より、7日間。陽那拓、終幕へ(告知)


 嵐の夜。
 思い出すのは君が凄く怯えていたこと。
 僕も凄く、怯えていたこと。

 僕らが成長するにつれ、僕は嵐を恐れなくなって、
 でも君は、いつまでも怯えていて……。

 那拓には悪いけれど、そんな那拓を宥めているときはお兄さんしているって気分だったんだ。
 ……今だから言えることだね、きっと。

~~~台風の里~~~

 ゴォォォ……

 ガタッガタガタッ

「……」ガンッ ガンッ ガンッ

『伊東! そっちは大丈夫ー!?』

『はいっ! 後一か所、雨漏りしているところを塞げば終わりです!』

「気を付けてくれ、陽向。最後だからと油断したら滑りかねない!」

『はい、慧音さん! それは重々!』

「頼んだぞ!」

「ぅー……」ガタガタ

「……災難だったな、フラン。まさか急にこんな嵐に見舞われるとは」

「こんなにたくさん、嫌い」ブルブル

「そうだろうな。雨漏りの処置が終わればここの雨戸も閉めるから、そうすれば一先ず安心なはずだ」

「ぅー……」

「……」

「……」ブルブル


 ギシッ ギシッ

「終わりました、慧音さん!」

「お疲れ様、陽向。寒かったろう」バサッ

「おかげで目が覚めましたけどね。お風呂の方は?」ゴシゴシ

「そうか、湯は沸かしてある。ただ、加減は見れてないから……」ピシャッ

「それぐらいでしたら大丈夫です。……って、閉めちゃっていいのですか? 藤原さん、まだ外にいますが」

「あいつなら大丈夫だ。それより、風邪をひいては元も子もないんだ、早く行きなさい」

「あ、はい。行ってきます」タッタッタッ

「ぅー……」

 ………………

 …………

 ……

~~~風呂場~~~

「熱かった……あっ、藤原さん」

「お疲れー、伊東。さっぱりした?」

「はい、お先に失礼しました。どうぞ……って、濡れていませんね?」

「面倒だからスパッとリザレクションしたわ。嵐のときはいつもの事だし」

「えぇ……」

「ほら見ろ、妹紅。陽向が呆れてるじゃないか」ハァ

「仕方ないじゃない、伊東がいつ上がるか分かんないんだから」ブーブー

「私の時もそうやって譲ってくれるのはありがたい事ではあるんだがなぁ……」ハァ

「いくら気軽だからと言っても、死んだと聞かされるのはちょっと……」

「むぅ……っ!」ピーン

「?」

「じゃぁ、一緒に入ればよかったかしら?」ニヤニヤ

「……」

「……」

「きょ、兄弟や夫婦じゃないのにそんなの、は、ハレンチですよ!」アタフタ

「いや、まぁそれも里では普通なんだが、な」ムゥ

「……っえ? そうなんですか?」

「最近の外の論理観だと、風呂に男女で共に入るのは恥ずかしいとは知っていたからな。それを尊重していたんだ」

「そうでしたか」


「何? 解禁してもいいって? けーね」

「陽向、次第ではあるんだが……」チラッ

「や、やっぱり恥ずかしい、ですよ。……と言うか、フランちゃんに水漏れ直したよって、早く教えてあげないと」トットットッ

「むっ。……あぁ、そうだな。心細くしてるだろうな」

「……」ジィ

「……なんだ、妹紅」

「今、軽く嫉妬したでしょ?」

「馬鹿言うな。……春の花見の時といい、良い気配りだと思っただけさ」フッ

「強引に逃げたみたいだけどねー。まっ、兄上らしくていいんじゃない?」ケラケラ

「……お兄さん、か。ふふっ」

 ………………

 …………

 ……

 ガタッガタガタッ

「ぅー……」ギュッ

「風、強いままですね」ヨシヨシ

「朝までこの調子かもしれないな。陽が差し込まないようにしておこう」ヨッ

「あ、僕も……」

「陽向はそのままでな。フランに服を握られているんだから」

「……はい」

「ごめんなさい、お兄様。けど、こんな、強い雨は久しぶりだもん」フルフル

「仕方ないよ。苦手な事はそう簡単に克服出来ないものだから。……うん、出来ないものだよ」

「ぅー……」

「怖い夢とかねぇ」ニヤニヤ

「うっ……だって、怖い物は怖いですよ……」ムゥ

「いやいや、良い事よ? 素直に怖いって言えることはさ。妖怪が怖くないって言ってたから少し心配しただけ」

「……」

「まっ、これでしばらく弄るネタが出来たわ」ケラケラ

「はなさないほうがよかったですかね」ジトー

「にっしっしっ」


「……はぁ。藤原さんは仕方ない人です。……」チラッ

「ぅー……」ギュゥ

「……」

『ぅー……』シュン

「……大丈夫だよ、那拓」ナデ

「……? ナタク?」

「あっ、ごめん。……那拓も、台風のときはこんな風に怖がっていたって思い出して」

「……時々、話してる子だよね。その子も、こんな日が嫌いだったの?」

「うん。那拓は台風が来たときはいつも、尻尾を丸めて僕の体にすり寄せて怯えていたんだ……」

「尻尾? 人じゃないの?」

「ん? ……そっか、フランちゃんにはまだ話してなかったね。うん、那拓は白い柴犬だよ」

「犬なんだ」

「うん。真っ白で、眉だけ黒かった、大切な兄弟だよ」

「……兄弟なの? 人間と犬なのに?」

「……うん。僕が六歳の頃からずっと一緒にいた、何をするにも一緒だった、兄のような弟のような存在」

「……」

「フランちゃんが僕を兄と呼んでくれるのと、似たような理由かもしれないね」ニコッ

「……そっか」

「うん」

「……ねぇねぇ。じゃぁ、そのナタクって子のお話をして?」

「それは構わないけれど、どうしてかな?」

「だってお兄様、すごく優しい顔するんだもん。きっと、外なんか忘れさせてくれるわ」

「……! (やさしい、顔」

「それに、お勉強以外でお話するのもあんまりないんだし、いいでしょっ?」パタパタ

「……そうだね。慧音さんや藤原さんには話したのに、君にだけしちゃいけないということはないのだから」

「えっー! けーねやもこうはもう知ってるの? ずるいずるい!」

「ん? ああ、だいぶ前に聞いたよ。済まないな、別に仲間はずれにするつもりではなかったんだが」

「私達からする話でもないしねー。伊東が話してなんぼでしょ。っていうか話してなかったんだ」

「機会がなかった感じですかね」ハハッ

「じゃぁじゃぁ教えてっ! その子の事!」

「うん。……でもそうなると、母の事も話す必要があるかな」

「お母様の事?」

「うん。えーっとね、まずは僕の小さい頃からの話になるのだけれど……――」

 わいわいがやがや……


~~~嵐の中~~~

 ゴォォォ……

「んー……」

 ガタッ……わいわい……ガタっ……がや……

「……これは、迎えに上がらない方がいいですねぇ」アハハ

「何? 無駄足?」

「あー、パチュリー様には申し訳ないですがそうなりますかね」

「はぁ。レミリアがあんたの手伝いして頂戴って言うから着いてきてあげたのに」

「態々、ジェリーフィッシュプリンセスまでしてもらったのに、本当にどういっていいやら」

「後で小悪魔にでも愚痴るわ。さっさと帰るわよ」フイッ

「はいー。……(また、明日の朝に迎えに上がりますね、フラン様」

………………

…………

……


~~~翌朝・雲の晴間、涼む風~~~

「すぅ……すぅ……」

「くぅ……くぅ……」

「……ふふっ。結局、あまり起きていられなかったな。いつまでたっても、夜更かしは無理か」ナデ

「……んん」

「おっと。……昨晩頑張って貰ったのだから、まだ起こしては悪いな。……」

「……すぅ……」

「……くぅ……」

「……二人とも、幸せそうな寝顔だな。……いや。幸せ、なのか」

「……」

「そうだな、私は……私も……。……」

………………

…………

……


以上で投下を終わります。兄の、気持ち

陽向のお話、残り六つといたしまして

それでは、また


 いつからか、逆転していたのだな。
 私の方が余裕のあるように見せて……その実、よく見られていたのは私の方で。

 ……それもそうか。
 こうやって思い返さなければ、その思い遣りに気付くこともないのだから。
 こうやって見つめ直さなければ、その素振りに気付くこともないのだから。

 繋がる一つ一つの言の葉。
 結びゆく幾多数多の声。
 積み重なる願いと想い。

 ……。
 私は今更、自分から言うべき事に、気づいてしまった。

~~~秋めく里~~~

 ザッ ザクッ  ポスッ

「……ふぅー」

「いとー先生、こっち終わったよー!」

「こっちも、もうすぐ済むからー。……後、五束かな?」

(どうにも、鎌の扱いが上達していないな。あの子に負けちゃった)

「……もうすぐ秋祭、かっ!」ザクッ

「……ふぅー。後は干すだけと」

「おう、陽向先生。終わったかい?」

「あ、いえ。もう少しですね」

「おいおい、家のせがれに負けてんじゃねーか」

「あはは……子供の成長速度にはやっぱり敵いませんね」

「歳よりくせぇこと言ってんじゃねえって。まだわけーのに」

「いえいえ、もう四捨五入したら三十路ですよ、っと」ボサッ

「十分わけーと思うんだがなぁ」

「ほら、自分、老け顔でもありますし」

「外の考えってやつか~? ま、手伝って貰ったんだからいいんだがよ」

「はは。……よいしょっと」ボサッ

「こっちの方は俺がやっとっから、先生は……ほら、あのシーデーの準備、頼むわ」

「鷹の目、ですね。……えっと、どこに」

「あん荷車の中にあっから。支え棒もな」

「分かりました(……やっぱり遅い気がする」

………………

…………

……


「お疲れさま先生。はい、お水」

「うん、ありがとう、お疲れ様。……ぷはぁ」

「ねぇ先生。先生は明後日の秋祭、どうするの?」

「んー、たぶん皆と同じだね。秋神様に御供え物を奉げたら、後は少し食べるぐらい」

「飲んで食って騒いで、秋神様に感謝ってなぁ」

「お酒は苦手なので、あまり飲めませんが(そういえば……」

「なんだ、勿体ねぇ」

「よく、言われます(慧音さん、今年もやっぱり執筆で出られないよね」

「ふぅーん」

(……っと)

「でも、楽しみですね。遅い台風の所為で不作かと思われていましたけど、これだけ穫れたのなら大丈夫そうだ」

「夏のへんてこな空も、うちにゃぁ関係なかったからな。ただ、果物のは困ってるって話だ」

「今年は味がわかんないー、ってはなちゃんも言ってた」

「そうなのですか。実が生っていたので、てっきり平気なのかと」

「代わりに、茸が豊作だとよ。いやぁ、何がどう転ぶかわかんねぇな」

「……雷雨のおかげなのでしょうか。確か、そういった実験結果があったような」

「へぇ~」

「ほぉ~。やっぱ先生だな、博識でらっしゃる」ウン

「いやいや、ただ外のニュースで少し聞いた事があるだけですよ」

「……稲や米が豊作になる話、ねーのか?」

「安定した気候が必要だという事ぐらいですね」ハハ

「たりめーだぁな! かっかっか!」

………………

…………

……


~~~数日後・寺子屋~~~

 わいわいがやがや……

 えーんらほーらーどっこいしょー……

「……よしっ。昼のうちに片づける物は終わったな」フゥ

「はい。思いのほか、早く終われました(頑張ったとは言わない」フゥ

「そうだな。……まだ日が傾いてもいないのか」チラッ

「でも、外は既に大賑わいです」

「仕方ないとはいえ、毎年、このお祭り騒ぎにはそそられるよ」

「満月の日に、月見も兼ねての収穫祭ですしね。慧音さんには少し悪い気がしています」

「お前が気にすることも、里が気にすることもない。だが、出来ればもう少し、里の中心でやって欲しいかな?」

「あの神輿……のようなものが里全体を練り歩くのが大事なんだ! って、去年は聞かされました。
 その時の掛け声の大きさで、今年の収穫量を皆に知らせ、冬に備えるのだとも」

「そうだな。だから担ぎ手の音頭といい、その後ろで騒いでいる若人といい、元気よく、楽しげにするのだものな。
 本当、毎年、楽しそうだよ」ハハッ

「……なら、今から少しでも顔を出しに行きましょう。昼の内なら、頭痛もないですよね?」

「ん? まぁ、確かにほんのわずかしかないが……」

「でしたら、ほら。半刻程度ならまだ酷くもならないはずですし、早く終わって時間も余っていますし!」

「……そう、だな。折角、陽向が手伝ってくれて出来た暇だ。お前に付き合うよ」

「はいっ! じゃぁ、用意してきますね」

「あぁ。……ふふっ、分かってくれているのか」

………………

…………

……


~~~秋祭で賑わう里で~~~

 がやがや……

「……これはより一層、賑やかじゃないか」

「? そうなのですか?」

「あぁ。私が以前、この祭りに参加した時はもう少し、規模が小さかったように覚えてるぞ」

「以前、と言うと?」

「あれは……そうか。私がハクタクに噛まれる前なのだから、もう八十年も昔なんだな」

「八十年……確か大晦日の時にも、それぐらい前の話をしていましたね」

「それは巫女の話だったか。あの頃と比べれば、確かに人里も大きくなった」

「なるほど。里が大きくなれば、それだけ祭りも大きくなるのは当然ですね」

「そういうことだな。……だが、その当然な変化も、こうやって祭りに出なければ確認出来なかった、か」

「? そうでしょうか。慧音さんなら、そのうち気付かれていた気もしますが」

「それは流石に分からないさ。それに、今、こうして気付けた事に感謝したい。有難う、陽向」

「そ、そんな、大袈裟ですよ。僕は別に、そんな心算もなかったわけですし」///

「私が、感謝したいんだ。今回はただ、黙って受け取っていてくれ」ニコッ

「……は、はい」///

「……ところでだ」

「え、はい?」

「ならばどうして、今日はそこまで積極的なんだ? 何か、特別な事でもあったのか?」

「その事ですか。いえ、特に何かあったと云う訳じゃないのですが……」

「ですが?」

「……去年、僕が一人で祭りを楽しませて貰って、その他の祝祭にも、慧音さんはあまり参加されていなくって。
 そこまで根を詰めて働いているのに、前から気になって」

「……」

「夏の時も僕にだけ暇をくれて、慧音さんは一人で家庭訪問や里長さんの所に忙しなく足を運んでいたじゃないですか。
 一緒に休めたのは春のお花見の時ぐらい……それだって、半日です」

「……」

「それじゃぁ、慧音さんがたいへ……あぁ、いや、違う(この人はそう思わない。それにこれは……これじゃ、嘘だ」ブンブン

「……」


「……寂しいから」

「寂しい?」

「はい、寂しいです。一緒に寺子屋で働いて、子供達に勉強を教えている慧音さんと、一緒に楽しめないのは」ジッ

「……お前がか、陽向」

「はい。僕がです」

「……つまり、お前の策略にまんまと引っかかってしまったと云う訳か」フフッ

「策略と言うほどでもないです。ただの、我儘です」

「そうか、悪い子だ」

「すみません」

「それでも、誘ってくれて嬉しいよ。気にかけてくれているのも、本当なのだろうし」

「じゃぁ」

「もう少し、同僚さんに頼んで楽を覚えるとするよ」フフッ

「はい! ……あれ、楽しむ方は」

「それは今日のように早く片づけばの話だ。やるべき事を放置するつもりはないからな」フンスッ

「それは勿論です。ですから、今日は」

「あぁ。あまり時間はないが、祭りを楽しませてもらうよ」

「はいっ! じゃぁ、急ぎましょう。今、神輿……みたいなのはどこだろうか」トットットッ

「……そこまで言ってくれながら、告げてはくれないのだな」ボソッ

「……だが、いいか。まだ、私も……」

………………

…………

……


以上で投下を終わります。お前といた祭りの夜は……

明日は午前? といたしまして

それでは


 いつも引っ張ってくれていた貴方へ、僕はお返し出来ていたのだろうか。
 言葉だけでなく、行動で示しながら、共に歩めていたでしょうか。
 そう、僕が那拓と一緒に過ごしてきた時のように……。

 ……いや、違った。
 これでは失礼だ。
 慧音さんは那拓じゃないし、那拓は慧音さんじゃない。
 僕が僕であるように、母が母であったように。

 だから、これは僕と慧音さんの関係。
 僕を見つめてくれていた、彼女との思い出……。

 僕らの歴史なんだ。

~~~秋祭・夜の帳が下りた頃~~~

「……ふぅ~。宴はまだまだ、か」

「お待たせしました、月見うどんです。お酒はいりませんか? 今日は特別に安いんですよ?」

「あ、構いません。僕はお酒に弱いので、まだ飲むわけには」

「あ、それはごめんなさい」

「柚子ちゃん、酒の追加ー!」

「あ、はい、ただいま!」

「忙しそうだな。……宴はまだまだこれから、か。……」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

~~~夕日射す中央広場~~~

『穣子様ー!』

『はぁーい!』ヒック

『静葉様ー!』

『……』フリフリ

 わいわいがやがや……

『ふふっ。ここも賑やかだな』

『はい。秋の姉妹神様も元気そうで何よりです』

『野良神の中ではこういう催物のおかげか、健康的だからな。そのかわり、冬は酷い落ち込み様だが』

『そうなのですか。だとすると、今は冬眠に向けて食料を蓄えているようなものなのかな?』

『かもしれないな。そして、私もそろそろ戻らねばな』

『もう、陽が少し見えませんね』

『あっという間だったよ。いやはや、羽目を外してしまったようだな』

『時々ぐらい、そうして下さい。フォローなら、いくらでも頑張ります』

『分かってるさ。……本当に、楽しませて貰ったよ』フッ

『っ……』ドキッ

『それじゃ、私は一人で帰る。陽向はこのまま、続けて満喫してくれ』

『あ、いえ、家までお送りします。誘っておきながら、一人で帰らせるわけにもいきませんし』

『……そうか。じゃぁ、頼むよ』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……(そこから送り終えた後はここのうどん屋で腹ごしらえ、と」ズルズル

(……また、あの顔にドギマギしてしまった。……これじゃたぶん言えないな、正面切っては)ゴクッ

「ぷはぁ。……ご馳走様でした。すみません、お勘定をー!」

「はーい!」

(さて、次はどうしようかな。満喫してくれとは言われたけど)

「……適当にぶらつくかな。去年もそうしたし」ボソッ

「……? (注文じゃなさそうね」バタバタ

………………

…………

……


 ヒュ~♪ タララッタ

「……ん? 笛と……ピアノ?」

 タララ~ ヒュィー♪

「あそこの人だかりかな。なんだろう」

「……! ……」チョイチョイ

(あ、藤原さんもいる。ちょうど良かった、隣に行かせて貰おう)

ヒュ~(>Д<) (ー△-)タラタンタ

(……人形劇? 吹いているのも演奏しているのも人形みたいだ)

「――……。窮地に立たされてしまったチルノ。ですが」

「ここであたいの氷符『パーフェクトフリーズ』!」キーン

(おぉ、氷の花が咲いた。凄く本格的だなぁ……)

「……って、チルノさん?」

「んー? あー、おまえは」

「こほん」

「あっ……」フイッ

「?」

「……がさく裂し、悪しき三名の者達は凍えて……――」

「やっぱり、あたいにかなう者なんて……――」

(……あぁ、なるほど。役に成りきっているみたいだ。これだと、声をかけたら悪いや)

(……)

 少女演技中......

………………

…………

……


「……」スッ

 パチパチパチパチ

「ふふーん」エッヘン

「お疲れ様、チルノさん。格好良かったよ」パチパチ

「おぅ、当たり前だね! 久しぶりだな家来」

「……覚えているんだね」フフッ

「家来って、どーしたのよ伊東」ケラケラ

「夏のある日に、成り行きで認められたみたいです」ハハッ

「あら。貴方、チルノの知り合いなの?」

「はい。……と言っても、少し話した事があるぐらいですが」

「あんた、なんで普通に入ってきてるのよー」グイグイ

「今日はアリスが連れて来てくれたんだからなー!」

「へぇ、珍しい。普通の人にしか見えないのに、平然と話せるなんて」

「そうでしょうか」

「あ、ごめんなさい。悪く言った心算じゃないのよ? ただ、ほら、あっちとか」ボソボソ

「ん?」

「……」ジィ

「……反妖の方、ですね」ボソッ

「……」チラッ

「いいかげん、抓んなっ!」ベシッ

「えぇ。あそこまで露骨じゃないけど、里の人ってこの子にも友好的じゃないから」ボソ

「それにしては、見物客が多かったじゃないですか」

「それは私が毎年、里に出向いているからかしらね。固定客みたいなものよ。……って」

「?」      シャンハーイ

「貴方、私の事、知らない?」

「あー、時々、見かけたことはあるかもですが」

「……もぐりね」ボソッ


「ん? 今、何って……」

「何でもないわ。じゃぁ改めまして、私はアリス。お祭りの時にはだいたいこうやって人形劇を披露しているわ」

「僕は伊東 陽向です。去年から、寺子屋に住み込みで働いています」

「去年から? ……もしかして、幻想郷の外の人かしら」

「えっ、どうして分かったのですか?」

「やっぱり。簡単な事よ? 私の事を少しでも知らなくって、去年から上白沢さんの所に外の人が来たって噂を聞いていたもの」

「なるほど」

「話は終わったか、お前らー」ブー

「あ、ごめんねチルノさん。僕から声を掛けたのに」

「まっ、別にいーけどね! 茶は貰ってるしな!」

 シャンハーイ ホウラーイ

「それだけで気が済むのかしらね、あんたが」キシシ

「今日は凄く気分がいいからな。多少のぶれーは大いめに見てやるのさ!」

「……凄いですね。音楽を演奏するのもですが、お茶の用意まで……ん?」

「? どうかしたかしら?」

「今、アリスさんは僕と話していましたよね? その背後で、人形を操っていた……??」

「ふふっ。私の上海や蓬莱達は半分自立しているの。ちょっとしたことなら、簡単な命令で動いてくれるのよ」

「それって、コンピューターみたいなものじゃないですか! 凄いなぁ……って事はアリスさん、魔法使いか何かですか?」

「えぇ。一端の魔法使いよ」


「……じゃぁ、幻想郷縁起に描かれていたのは貴女?」

「……で、やっぱりあたいと話さない」ブー

「うっ、ごめんね。えーっと、ところでチルノさんはどうしてアリスさんと?」

「それがだな、この間サニー達をこらしてめてさ~……――」ペチャクチャ

「……家が壊れたらって例え、まさか本当にあったなんてね。……――」ウンウン

「……」チョイチョイ

「ん? どうしたの、アリス」

「……このイトウって人、チルノの言った通り。本当に物怖じしないのね」ボソボソ

「あー、その事? そうね、伊東は私とかこいつとかでも気兼ねなく話してくれるわ。それがどうかした?」

「……いーえ、何にも。……(こんなにも平気で話すような人間は人里じゃ、魔理沙以外そんなに知らない。
 そして、こういう人はもっと、“里と交流のある人外”と接点があって然るべき。
 そう考えたから、外来人だと分かった」

「~~」

「――!」エッヘン

(……なんて、言う必要はなさそうね)フッ

「?」 シャンハーイ? ホウラーイ?

………………

…………

……


以上で投下を終わります。まだ見ぬ出会いが世界を彩り

それでは、また


 約束、覚えてるよ。
 お兄様とした約束、いつまでも、覚えているよ。

 ……でも、本当はもっと約束したかった。
 ううん、約束だけじゃない。
 一緒に、もっとずっと、居たかった、お話したかった。
 教えて欲しかった。褒めて欲しかった。

 紅茶……ちゃんと上手に淹れられるようになったよ?
 勉強だっていっぱいして、それで、魔理沙に驚かれたりもしたんだよ……?

 でも、なによりも、もっと、もっと、もっと。おにいさまのこと、しりたかったよ……。

~~~寒空の暮れた里~~~

「ほぅ。祭りの時に、チルノが人里にいたのか」

「はい。どうやら人形遣いのアリスさんが、里長に頼んで同伴したようです」

「ねぇねぇ、それで何をしてたの?」

「人形劇の中で、一人だけ本人役で出てたみたいよ」

「本人役?」

「どうやら妖精達のちょっとした喧嘩……だったみたいです。それをアリスさんが演技の題目にしたようで」

「ほら、今年の春先、ちょっと妖精が騒いでたでしょ? あれみたいよ」

「あぁ、あれか。妖精達からすれば、大戦争だったようだな」

「大戦争って……妖精の、ですか?」

「どう考えても小さいわよね」ケラケラ

「私より小さいもんね」アハハ

「それだけ、大事だったということでしょうか。人形劇を見た後でも、絵面が想像できませんが」ウーン


「でも、いーなー。お兄様達、それが見れたんでしょ?」

「僕は終盤も終盤だったけどね」

「私は全部見たわよ。アリスは毎年、飽きさせない工夫をしてるわ」フフン

「へぇ~! いいなぁ。今度、パチュリーの所に来たら見せてもらおうかなー」キラキラ

「フランところの図書館にも行ってるのね。ってそっか、魔女同士だし行く事もあるか」

「あの図書館は魔術書が豊富のようですしね。……(でも」ゴク

「魔女が集うとなると、何か良くない集会のようになってしまいそうだな」

「たまに変な臭いがしてた。あれは私にはきついかも」

(彼女がアリス・マーガトロイドさん、か。縁起で書かれていたような人だったな)フゥ

「魔女の実験ってやつかしら。……死体とか使ってたり?」

「んー、血の匂いはしなかったかな? 鼻の奥がつーんとはしたけど」

(それに、目に楽しい劇だったし、アリスさん自身も楽しげにしていたのが印象的だった。
 チルノさんもそれにつられてなのか真剣に、それに自慢げな顔をして……)

「魔法薬の実験、といったところか。ならばますます、怪しげな集会だな」

「……また、見てみたいな」フフッ

「……えっ?」

「え?」

「?」

「うん? ……ああああ、いえ、集会の事じゃなくって!」

「いや、また、と言ったから違うだろうなとは思ったが」

「なーに考えてたのよ、伊東」

「……アリスさんの、人形劇の事です。今までまともに見ていなかったことを、ちょっと後悔しまして」

「なら、また見ればいいさ」

「!」

「機会はいくらでもあるんだ。次の祭のときにでも、見てくればいい」ニコッ

「あっ、その時は私も! 私も!」

「……はい。そうだね、フランちゃんも行こうか」ニコッ

「うんっ」


「そんな意気込むことでもないっての。でも、今度アリスにあったら、楽しみにしている人が増えたって伝えとくわ」ケラケラ

「なんだか、言葉にされると恥ずかしいです」ハハハ

「もっと恥ずかしい事を言ってたりするくせに、何を今更~。このこの」

「そ、それとこれとは」

「あまりいじめてやるな、妹紅。それよりフラン、そろそろ時間だぞ」

「えっ? ……あー、ほんとだ」

「……ちょっと、里の外まで見送ってきます」

「えっ? 着いて来てくれるの、お兄様?」

「うん。今日は特別にね」

「……あぁ、頼んだ。また明後日にな、フラン」

「うん、またねっ、けーね! もこーも!」

「明後日にいるかはわかんないけどね」

 ガラ……ピシャッ

「……さーって、何しに行くのかし――」コソ

「こら、いかせんぞ妹紅」グイッ

「――らぁっ! うっ、なによ慧音。別にいいじゃない」

「陽向が態々二人きりになりたがっているんだ。覗くのは野暮というものだ」

「慧音は気にならないのー?」ニヤァ

「気になりはするが、陽向の事だ。また、サプライズでも考えてくれているんだろう。なら、知らない方が良い」フフッ

「……もぉ。余裕なんだから」

………………

…………

……


~~~人も出歩かぬ夜の里~~~

「ふぅ、寒い。雪ももうじきかな」フゥ

「また降るのね。私、あんまり好きじゃないなぁ」

「もし降ったりしたら、また、僕が紅魔館にお邪魔させてもらうよ。梅雨の時のようにね」

「っ! うんっ、約束だよ、お兄様!」

「うん、約束」

「えへへー。……でも、今日はどうして一緒に来てくれてるの?」

「実は……あ、本当は君のお姉さんに断わってからの方がいいのだろうけども」

「? お姉様に?」

「うん。12月25日……クリスマスのその日に、パーティーを開きたいなと考えていてね。
 紅魔館って、ちょうどその雰囲気に似合っているから、場所を借りたいんだ」

「クリスマス……って、確かキリストとかいう人間のお祭りよね?」

「うん、生誕祭だよ。……そういう意味じゃ、悪魔である君達の家でするのはあまり良くないのかもしれないけれど」

「んー、それは別に大丈夫だと思う。あいつ、そういうの全然気にしないもの」

「そうなんだ。なら、レミリアお姉さんにその事を伝えておいて貰えるかな?
 後日、僕が直接お願いしに行くつもりではあるけども」

「うん、分かった。部屋を貸しなさいって言っておくわ」

「無理そうだったら、大人しく家ですることにしようか。あ、ただね、フランちゃん」

「何々?」

「この事は慧音さん達には秘密にしておこう。また、驚かせたいからね」

「二人だけの秘密だね。うふふ」

「そうだね。あ、秘密ついで、という訳でもないんだけどね」

「?」

「さっき、フランちゃんも一緒に人形劇を見ようって言ったよね。
 それが年に何度か祭のときにしている、って藤原さんからは聞いているんだ」

「うん
「けど、それってやっぱり、あまり夜遅くにはしていなくてね。もしかすると、機会に恵まれないかもしれないんだ」

「……そう、なんだ」シュン


「だから」

「っ」ピクッ

「僕はフランちゃんが太陽の下でも平気で動ける方法を、見つけようと思っている。
 君のお姉さんがしているような傘の下で歩くだけじゃなくって、普通の子のように走り回れるような、そんな方法を」

「そんなの、そんな方法あるの?」

「……ある。“外の世界”には日焼け止めのクリームがあるんだけど、その知識を応用すれば、いつかは必ず出来る。
 それがいつ出来るかは分からない。けど、皆で一緒に楽しみたいから。
 ……このスバラシイ世界を、もっともっと広げて、知っていきたいから」

「……」

「大好きな君達と、もっと、この幻想郷を知って大事にしたいから」グッ

「……うん。私も、もっと楽しい事を知りたい! 大好きな慧音と、お兄様と、美鈴とも!
 妹紅もまぁ、嫌いじゃないから一緒でもいいけど」

「ははっ。……でも、どうしてだろう。フランちゃんにはこうして話せるのに、慧音さんに……好き、だって伝えられないのは」

「……分かるよ、お兄様のその気持ち」

「えっ?」

「私もね、お姉様の前じゃ大好きって言えないの。恥ずかしくなって、悪態ついちゃう。
 本当は一番、いっちばん、大好きなのにね」パタパタ

「……」

「……」パタパタ

「……甘えているのかもしれないね。言わなくても、伝わっている……って(やっぱり、そう簡単に変われない、か」

「そうだね」パタパタ

「……さて、門に着いちゃったか」

「ここまでなの、お兄様?」

「うん。流石にこう、夜も遅いと、里の外は出歩く勇気がないかな」


「私がいるから大丈夫だよ? なんなら、お家に来ても――」   ヒュー……

  ッドーン……

「――いい……ん?」

【…………】

「……? 何かが空から落ちてきた?」

「すごいでかいのが落ちてきた。なーに、あの変なかた――」

【……!】ブワッ

「――ち……っ!」ギッ

「うっ、風が……(寒っ……?」ゾクッ

【……】ギロッ


 

  【――次、見つけた】

 


以上で投下を終わります。【】、来襲

それでは、また


 ……そう。

 ……。

 ……その時が、来てしまった。


―――――――――――――

 

         怨

 

―――――――――――――

 

「っ!」バンッ

「! 慧音、今の妖気!」

「里の北側……陽向達がいる方角か!」

「ここまで堂々と妖気だすなんて、身の程知らずも居たもんね」

「あの人狼でさえ、隠したりしたのだがな。すまない、妹紅。私は里長の所に事態を説明しに……」

「そっちは私に任せなって。貴女があの二人を守るべきなんだから」

「……分かった、頼んだ。里長には“里を喰う”ものと伝えておいてくれ!」フワッ

「おっけー!」フワッ

「……」

………………

…………

……


~~~北門~~~

「……お兄様、下がってて。あいつ、こっちに殺気を向けてるから」

【……いたよ。ミツケ……】ブツブツ

「殺気……? うん、分かった。けど、フランちゃんも隠れた方が」

「ううん、大丈夫。私なら平気だから」ニコッ

「……無理だけはしないでね。傷ついてほしくはないから」

「うんっ。でもこいつ、殺気だけ出してからだんまりしてる」

【……】ジィ

「……(殺気だなんて、さっきの寒気がそうなのかな」

  ガラッ  ざわざわざわ……

「なんだなんだぁ……さみいって時によぉ」

「ん? ……(皆、音が気になって顔を出してきた?」

「ってぇ、なんだあれ? そこの兄ちゃん、わかんか?」

「いえ、何かは全く。だけど、一瞬だけ殺気を出したらしいので、無害と云う訳ではなさそうです」

「んだってぇ!? おい、下手に顔出すな、何されるか分かんねーぞ!」

「あ、いや……(でも、なんだろう」チラッ

【……】

(どうしてか、寂しそうに見える?)

【……―ッテ……】

「兄ちゃんも、さっさとどっかに隠れな! ……ってあんた、寺子屋んとこの先生か?」

「え、はい」

「なら、早く上白沢さん呼んできな! こんな時に里を守ってくれる人なんだしよ!」

「あっ……はい、分かりました!」

「俺はあいつんとこだ」ダッ

「はっ……はっ……(そうだ、慧音さんは以前も里を隠して守ったと言っていた。なら、その方法で!」


「……! 陽向!」ヒュゥ

「あ、慧音さん! 探していたんです!」   トン

「こっちもだ。さっきの妖気の事だな?」

「妖気? ……あ、はい! 気付いていらしたのですね」

「あぁ。既に、里長の方にもその事と“里を喰う”かもしれないと伝えてある。
 お前も家に戻って大人しくしているんだ」フワッ

「あっ……(もう……いや、そうか。早く向かって事態を把握する方が大事、だよね」

(でも、三人に任せっきりで終わり、なんて……。
 だけど、僕に戦う力は……)

「……」

………………

…………

……

「フランっ!」

「あっ、慧音」

「あれが妖気を噴き出した奴か」

「うん。お兄様は?」

「すれ違った時に、家で大人しくするようにと伝えた。それで、何かあったか?」

「ううん。殺気をだしてから、ずっとあんな感じ」

【……】ゴポッ

「蠢いているが移動する気配はないのか。しかし、あれはなんだ?」

「わかんない。でも、あいつ変なの」

「変? 何がだ?」

「あいつの核ね、いくつもあって変だし、たまに勝手に消えてるのもあるの」

「ふむ。……手は出していないんだな?」

「うん。その方がいいでしょ?」

「あぁ。下手に手を出して暴れられては困るからな。さて、そろそろか?」チラッ


「ごめん、お待たせ。ささっと伝えてきたわよ」

「ちょうどだ、妹紅。あいつがそうらしい。……説明する前に、“里を喰う”」ポゥ

「あっ、初めて見るかも!」

「食事の光景をまじまじと見ないの。んでもってあいつ……“なり損ねたモノ”かしら?」ジトー

「む? なり損ねたモノ?」

「えぇ。妖怪や神、それから九十九。そういう存在になり損ねた残骸みたいなモノよ。
 でもあれだけでかいのは聞いたことぐらいしかないかな~。ああいうのって普通、長くもたないもんだから」

「だから核がいっぱいなのかな?」

「核……って、フランの能力か。ま、集合体みたいなもんだし、いっぱいなのも間違っちゃいないかもね」

【……?】

「……喰った」フゥ

【……ぅぁ】

「えっ? あ、本当だ、人里がない!」ピョンピョン

「さーって、何にもしないなら追い返すだけでいいんだけ――」

【!!!】ボコボコ

「――どって、言ってる傍から!」ボォ

「妹紅、話は後回しにしよう。こいつを退治するにはどうするべきなんだ?」

「さぁね、知らない! さっきも言ったけれど、普通はすぐ消えるから」

「だったら、さっさと全部壊しちゃえばいいわ!」

「できれば、追いやるだけに済ませたいがな。だが、おいたは叱らねばなるまい。
 ……里の人間は私が守る!」

【何処にやった……!】ブンッ

………………

…………

……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

~~~隠されし里~~~

『……これが里を食べた状態?』ボー

『……なんだか、包まれているみたいだ。意識も、ぼんやりと』トボトボ

『……戦っているのかな。あの、よく分からないやつと』

『……音が遠い』

『……慧音さんに言われた通り、家で待っていなくちゃ』ジャリ

『……』ジャ…リ…

『……でも、どうしてだろう。さっきのやつが気になる』

『……どうして、懐かしい視線を感じたのだろう?』

『……』

『……僕が行った処で仕方ない。邪魔をするのだけは駄目だ』

『……でも……どうして……こんなにも、気になって仕方ないんだ?』

『……何か、忘れてしまって……?』

 

 ――――――――――――――――!

 

『……はっ!』

『今の声』

『まさか……まさか!』ダッ

………………

…………

……

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


~~~荒野~~~

「あはははっ、よわーい!」

【お前じゃない。お前じゃない】ブンブン

「力だけは十分あるけど、単調だし手数もないわね~。諦めて大人しく帰りなさいよ」

【おいて行った者に同じ目を……同じモノに……】怨

「だが、再生能力は凄まじいな。妹紅の言った通りなら、切り離せば散ると思うのだが」

「集まりすぎてどうにかなってんじゃないの? でもまぁ、流石に……!」ヒュンッ

 ボォッ

【あぁ……奪われた……燃やされた……!】

「炎で焼いてやれば浄化出来るわね。削っては焼いてあげるわよ」

【やめろ……返せ。戻せ!】

「ならばさっさと引け! 幻想郷の道理も知らぬモノよ!」

【嫌だ。仕返す……人が……自分達にしたように……!】グワッ

「復讐か。人に……里の彼らに仇なすというのならば、私とて容赦はしない。
 ……国符『三種の神器 郷』!」

「焼くのは任せなさい。不滅『フェニックスの尾』!」

「お兄様を襲うつもりなら、刻んであげる! 禁忌『レーヴァテイン』!」

【っ!?】

 ――キンッ

【……がキばごがャきりがウばごがンきり!】

「うっわー、ひどい悲鳴。何種類混ざってんのよ」

「聞いていて、気の良くなるものではないな。だが、ここまで堕ちてしまった以上、少しずつ削ぎ落すしかない」

「同感ね。手が負える内で良かったわ」

【お前達じゃない……お前達に用はないのに……!】

「私を無視したら――」ブンッ

【あっ……】

「――酷い目みルカラ……!」ギンッ


「なんか、フランのやる気が出ちゃったみたいなんだけど」

「あまり暴れすぎてくれるなよ。これでも、里からは見られるんだからな」

「エッ、ソウなの?」ウッ

「まぁ、音は聞こえないし、隠している状態でも家の外に出るなとは触れ回っているから、大丈夫だとは思うがな。
 中の者曰く、意識も希薄だと言うし」

「夜中だから、野次馬もいないでしょうしね」

「なーんだ。……あれ、削ぎ落すの?」

「実際に、里に被害を出す前だったからな。二度と近寄る気を起こさないようにして、帰らせる」

「はぁーい。壊しちゃ駄目か~」ググッ

【やめろ、ヤメテ、辞めるんだ、止めなさい】

「命乞いするくらいなら、さっさと山にでも逃げなさいよ」

【断る。あいつを……――人―ヲ……】

「狙っている相手がいるというのか。ならば尚更、ここを通すわけにはいかない!
 里の人間を狙うのは、お前にとってもよくない結果しか生まない!」

【あいつらが先にした子どもが先にした同じ目に同じ目を】ブンッ

「うるさいわっ!」スッ

【また切られたまた折られた……腕を足を。あいつがしたこと……したことだろ……】ブツブツ

「それっ。……なーんかたまに動きが鈍いわね。重いのかしら?」

【違う違うのかチガウ違わない】ゲラゲラ

「不気味ー。変に答えるし」

「どうもあまり、私達を見てはいないようだな。ならばもう一度、大きく削るぞ!」


「おっけー。焼くのは任せなさい」

「めっためたにやってあげるんだから!」

「草薙剣の鋭さ、もう一度受け、身に染めて去るがいい!」

「斬って潰してコワシテアゲル!」

【また、やめっ!】

  ――キンッ

【……あ痛苦こキ止あいしれャめあ痛い以イろあいい上ンお!!!!!】

「さぁって、くっつけさせないわよ!」ゴゥッ

【仲間が同胞が同類が体の一部を】

「これで分かったか! 力の差は明白だ。無為な事はやめて即刻、立ち去れ!」

【あァぁぁぅゥぅぅ……】

「はぁ……はぁ……」

「ア、オ兄様」

「何、陽向?」

「やっぱり……そんな……!」

「どうした陽向。何故、大人しく家に戻らなかった!」

「那拓が、那拓の声が……その中からしてる……?」

「なに……!?」

「慧音、フラン、危ないっ!」

【貴方達が邪魔をしなければぁあ!】ブンンッ

「アブナ、ッ!」ガリッ

「しまっ……――」

  ――ボキッ

「ぐ、ぅ……!」

「――……も、妹紅っ!」


以上で投下を終わります。犠牲者第一……?

明日、また、この続きにて


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ―キ―――ャ―――ウ―――ン―――!

『まさか……まさか!』ダッ

(今の悲鳴……那拓の!?)

(そんな、さっきの中に那拓がいるの?)

(そんなの、それじゃあ、那拓を傷つけて……!)トボトボ

 ――! ―――……ッ!

(……皆、戦ってる。里を守るために、身を張ってくれている……)

(そうだ。あいつは殺気や妖気を向けて来た、明確な敵だ)

(なのに、僕が邪魔をしちゃいけない。那拓な気がしたからって、止めに、なんか……)

(……帰らなきゃ。気のせいなんだ。さっきのは、気の……)

 ――――キ―――――ャ―――――イ―――――ン―――――!―

(っ!)

「……あ……あぁ……!」ダッ

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「これで分かったか! 力の差は明白だ。無為な事はやめて即刻、立ち去れ!」

【あァぁぁぅゥぅぅ……】

「はぁ……はぁ……」

「ア、オ兄様」

「何、陽向?」

「やっぱり……そんな……!」

「どうした陽向。何故、大人しく家に戻らなかった!」

「那拓が、那拓の声が……その中からしてる……? (泣いてる……!」

「なに……!?」

「慧音、フラン、危ないっ!」

【貴方達が邪魔をしなければぁあ!】ブンンッ

「アブナ、ッ!」ガリッ

「しまっ……――」

  ――ッ

「ぐ、ぅ……!」ボキ

「――……も、妹紅!」


「あっ。ふじ、わら……さ……」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ――ドッ

『』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「あ……あぁ……(夢……あの、とき、の、あ……あぁぁ」

「がっ、ひゅ……っ!」

「っ! 妹紅を見るな、陽向!」

「……えっ?」

「がぁ、あぁぁぁあああああ!」ボォッ

【来たキタ居たいた】クケッ

「! (燃えて……」

 

  ―――『リザレクション』

 

「はぁ……ふぅ……」

【お前を同じ目に! 我らを捨てた、人間を!】

「『スターボウブレイク』! 私ハ平気ナノヨ!」

【がっ、がっ、がっ】

「何故来た、陽向! ここから隠し直すのは手間取るというのに……!」

「その調子でちょっとしばらくお願いね、フラン! それと、喰うのは後にして、慧音!」

「何? ……いや、分かった。頼んだぞ!」

「えぇ! ……さぁって、伊東っ!」ガシッ

「は、はぃっ! (叱られ……」


「……あんた、あの中にナタクがいるように感じたの?」

「……え? (なに、なんで」

「あの中に、本当にあんたが話してたあの子がいるの?」ジィッ

「……あ……はい(これ、初めて、皆と会った時の……慧音さんの……」

「確か?」

「……はい。あの声は確かに那拓のです(藤原さんの目は落ち着いている。……そうだ、兎に角、落ち着かないと」

「そう、参ったわね~。……会いたい?」

「!」

「忠告忘れて、無我夢中で来るぐらいだものね。会いたくてきたんでしょ?」

「……はい。那拓と……那拓に、出来るなら会いたい。会って、伝えたい事があるんです……!」

「分かった、何とかしてあげる。あんたの大事な兄弟だもんね」クルッ

「なら僕も、何か手を考えて……んむっ(指をっ」 ビシッ

「こういうのは私達に任せて、『お願い』って言えばいいの。
 こう見えても私達の方が年上だし、経験だって豊かなのよ?」

「……」 スッ

「それも、他人行儀にじゃなくって親しげにね、“陽向”」ニィ 

「……うん、お願い。那拓と会わせて、妹紅……さん」フフッ

「あーあ、さん付け。まぁいいわ、任せなさいっ! だからあんたは下がってなさいよ。
 それと、これが終わったらきっちり叱るから、そのつもりでね」トゥ

「うん、分かった。……(って、里には戻れないのか」

(そもそも、里から出られるなんて。……居ても立っても居られなかったとはいえ、大変な事をしたんだ。
 藤わ……妹紅さんがいくら不死身とはいえ、あんな目に……慧音さんも、ああなりかけて……)ググッ


「ちょっと聞いて、二人とも! あの中に、陽向の弟君が、いるっ!」シュッ

【退け、退けよ、貴方様方ぁああ!】

「弟君? ……那拓の事か!」

「エッ、弟ガイルノ?」ヒュン

「たぁっ! 確証はあるのか、妹紅?」

「あいつがその子の悲鳴を聞いた、じゃダメかしら?
 あれだけ優しい表情で家族の事、話せるんだもの。声だって、聴き間違えるはずないわ」ガリッ

「……そうか。ならばどうする? 削っていると、いつか那拓を傷つけてしまうかもしれん」

「その点はたぶん大丈夫……というか、多少削っちゃうのは勘弁してもらうしかないかもね」

「ソンナ、大丈夫ナノ?」

「さっきから私が燃やしてるの、物じゃなくて魂のかけらなのよ。
 しかも、本体に強く染まった、いわば厄みたいなモノ。だからくっつき直るのが早いわけ。
 だから、あの中に混ざっちゃってるその子も、少しぐらいならなんとかなる。……ちょっと、前提があれだけど」

「ウー……?」

「それにね、見つけさえすれば慧音がその子を捕捉――」

 【イター】【……】【ウバエウバエウバエ】フワフワ

「――出来……ってちょっと、空からも来てるんだけど!」シュッ

 【アテラレナイ】  【コワー】【……】ガリッ

「他にもいたというのか……!? もしまだいるとしたら、陽向が危ない!」バッ

「こいつ、避けた!? これなら、どうよ!」ヒュン

「デモ、小サイネ。アンナノガ来テモ、スグ消シ飛バセルヨ?」

「……」ジィ

【……集まれ集え。抑えつけろ、重心を】

 【ヤー】【オシコメロ】  【……!?】ボンッ

  グニュッ       ボスン


「……特に、いない?」

「一匹しか落とせなかったわね。小さかっただけで、知能はそこそこあったのね」

【……】ボコッ ガリッ

「マタ黙ッタ。アレ、デモ形ガデキテキテル?」

「ごつごつした形に成ってきたわね。というか、甲冑?」

「アーマーミタイダネ。デモパーツガ変」ケラケラ

【……】ガリッ ガチッ

「……他にはいないみたいだな。とにかく、今のうちに私は陽向の元へ」

【……あぁ。やっと黙ッタ。戻った。……こ、れ、で!】ブブブン

「ワァ!」キンッ

「剣!? いや、これは模造刀……?」

「急に手数が増えた。やっぱ、さっきのきっちり落としとけばよかったわね」

【お前たちも、一緒にどう。一緒に……なろう?】グルル

………………

…………

……

「……(あれの形が変わってから、那拓の声が変になった。凄く……凄く、怖い」ブル

(それに、皆の様子もそれまでより悪いみたいだ。フランちゃんしか、あいつの体を削れていない。
 まるで、第二形態のような。そんなお伽噺染みたこと……ある、んだよね。幻想郷、だから)

【轢かれて、潰れて、撃たれて、拉げて……!】

(……やだよ、こんな怖いの。どうして、那拓があんなものの中に)

(……いや、むしろなのか。むしろ……怒っているんだ。恨んでいたんだ)チラッ

【使い捨てた人も同じになれ。壊した彼奴らも壊れてしまえ。因果応報、それが君達だ】

「綺麗に話せるようになったじゃない。駄目な傾向だけど!」

「くぅ……お前の目的はなんだ!」

【さっきから言っているが? 一緒にナロウ? 共に壊そう?】

「壊、ス……ノハ駄目ナンダカラ!」ブンブン

「こいつ、こういう形の妖怪になりかけてるわ。余計、厄介になりそうじゃない」チィ


(……恨み辛みの言葉だらけで、こいつはきっとそういう……怨霊のような存在が寄り合ったモノ、なんだ。
 だから……那拓も……那拓は……あの時、置いて行った事を……)

(……違う、違う違う違う、落ち着け!
 そんなネガティブに考えるなんて、何も……何も、落ち着いていないじゃないか。
 だって、さっきまでの那拓の声は……我慢していた声だった)

(何か、変わったんだ。さっきの……さっき……あっ!)

  【】ボコッ

(地面から生えてきた!? あの向き……フランちゃんを狙って……!)

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ――ドッ

『』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(……フランちゃんも、ああなって……?)

【……】ニヤッ

「嗤った……? ……ぐっ、う!」ドンッ

「慧音っ! って、こっちも、おし、だし、てぇぇ」グギギ

「ケーネ! ッテ、今度ハ私バッカリ!?」

  グネグネ……――ッ

「フラン、横だっ! (やだ……止めろ」ダッ

「エッ?」

(駄目だ、止めろ……!)ダッ

「くそっ、フラ……いや、まて、陽向っ!」

(止めてくれ……そんな怖い事は……しちゃ、だめだ)ダッ

「――――、――!!」

「――――!?」

【―――】

  ……とん

「――……?」

(誰かを殺しちゃだめだよ、那拓)

 

  ――――ドシュッ

 

「っ……」 ビチャッ

「……おにい――」


 

「  陽向ぁああああああああああああ!!!  」

 


「――さ……!」ビクッ

「……!」ワナワナ

【クカ、クフっ……ふはははは! 結局一緒だ! 結局、結局……キャハハハハハハハ!】

「陽向、陽向! しっかりしろ、陽向!」

「……ぐほっ(……何か、ぽっかりと空いた気はするな」ゴボッ

「血が、くそ、とにかく、穴を……!」

「ぁ、ぁ……(……君に殺されるのは僕だけでいい。だけど……」スッ

「動くな、陽向。血が、お前が……!」ツゥ

「……ゴイ゛ツ、お兄様ヲ……ユルセナイ。コロシテ……――」ギンッ

「……だめ、だよ」ボソッ

「喋るのもやめ……何?」

「――……エッ?」

【そうだ、皆同じになれ。皆恨め、憎しめ、壊れて、死んで一つになる。物だけじゃなく、“人”も! 生まれなかった“我ら”も!】


 


{ 「 那拓。……こわいのは、やだよ…… 」 }

 


 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

  ――ゼリーももってきたよ!
 ――きょーからきみは『那拓』だ! わかったかい?

   ――那拓が楽しいなら、いいけど

 ――僕が守るって、言ったのにね
    ――有難う
  ――虫、少ないといいね……

 ――行こう、那拓

 

       ――ここで待っててね、那拓。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

『……!』

 


【呼んでいる元へ、手を携え……てぇっ!?】ボコンッ

「? 何の音?」

「モコー、アレ!」

【何故だ、黙っただろう畜生。お前の主も『』いっしょぉっ!】ゴンッ

「陽向……お前、そんなになっても……?」

「はぁ……はぁ……(きみがこわいのだけは、いやだから……」

「中で暴れてるの?」

【何故抑えられない。あばっ、れっ、るっぅっなっがっ、ごっ】

「……那拓が」

 『――! ――!』

「那拓が、頑張っているのか」

「……あの子が中から出ようとしているのね。陽向の言葉に応えて」

「……あぁ。そう、言っている。那拓が陽向を呼んでいる……!」

「ナタクチャンガ……お兄様を」スゥ

「なら、動きを止めてる今がチャンスじゃない」

「あぁ、そうだ。だから妹紅、陽向を頼む」

「えぇっ、慧音?」

「陽向の傷口はとりあえず塞いだ。……私とフランがやる」グググッ

「……分かったから、そんな怖い眼をしないで」

「そうも、いかないさ。……フラン」

「うん、慧音」

 

「あの粗大ごみから、全力で那拓を取り返す!」

 


以上で投下を終わります。叶えたい、願い事

それでは、また


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 『……っ!』

 

  バァーーーン!

 

 『……』ジィ

【居た。眩しい……けれど、同じ獣】

 『……』ジィッ

【ノボッテル】【イヌ】【ウエウエ】

【引き寄せたのは君。……けど、もう一つ?】

 『?』

【……まぁいい。人に捨てられたモノ同士、一つになれ】

 『……』ブンブン

【チガウ?】【……】【ベツベツ】

【あいつを毀すの、止めてやろう】

 『っ!』ピン

【もとから、少女に要はない。貴方様さえいれば、それでいい】

 『……』

【さぁ、仕返そう。……我ら《道具》を使い捨てた人間様共に】ズズッ

 『……』  ピトッ

【私達《道具》を忘れた人共を、僕と同じ目に……!】ズズズ

 『……くぅん』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【お前も僕らと同じ】

 『……』ブンブン

【拒んでも無駄。お前の主は逃げ出した】

 『……』シュン

【……人が消えた。建物が消えた。もう、お前の主も見えない】

 『……』

【こいつらが邪魔をするから。会いたいだろう? 会って合って逢って……一緒に成りたいだろう?】

 『……ゴ主人ヲ……』

 『……!?』

【そうだ、認めろ。お前も私達と同じ。人に捨てられた“道具”だ】

 『……くぅん』ブンブン

【首を縛られた。腕を折られた。足を砕かれた。胴を潰された】

 『うぅぅ……』ブンブンブン

【違う? 違うのか?】

 『チガウ……』

【違わない。同じこと】ゲラゲラ


  ――キンッ

【……また痛む。叫ぶ。お前も、この痛みを知っているはずだ】

 『……ァゥ……』

――那拓が、那拓の声が……その中からしてる……?

【来た】

 『キタ……? ……!』ビクッ

【邪魔者は毀して折ってしまえ。お前のご主人も折ってしまえ】

 『……』ガクガク

【……集まれ集え】【マーマー】【オトシコム】グニュッ

 『……』ブルブル

【自分の人間はあの時見捨てた】【ミナカッタコトニシタ】【コエモカケナカッタ】

 『……!』

【待ち続けたけど迎えに来なかった】【イシノウエニマッテタノニ】【ツイテキタノニオイテッタ】

 『……』

【今も声を掛けてはくれない】【ボクハカンジトッタノニ】【アンナニイッショダッタノニ】

 『……】

【【【だけド一つニなれバ別。混ザり合ってシマえば同じ】】】

 【……】

【私達は皆、一緒。壊されたものしかいない。捨てられたモノしかいない】

【……】

【【だから、分かり合える】】

【……あぁ。やっと黙ッタ。戻った】

【次はご主人だ。次は人間だ】

【……邪魔者は毀す。轢く。潰す。撃つ。拉げる】

【壊せ毀せ壊せ毀せ壊せ毀せ壊せ毀せ壊せ毀せ壊せ毀せ】

【すべてを混ぜ合い、融合し……新たな体を……!】

 

 ――――ドシュッ

 

【……】ズキンッ

【クフっ……キャハハハハハハハ!】

 

――だめ、だよ

 

【そうだ、皆同じになれ。皆恨め、にく……――――】

【……?】


 

――那拓。……こわいのは、やだよ……

 

 【……』ハッ

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

  ――ゼリーももってきたよ!
 ――きょーからきみは『那拓』だ! わかったかい?

   ――那拓が楽しいなら、いいけど

 ――僕が守るって、言ったのにね
    ――有難う
  ――虫、少ないといいね……

 ――行こう、那拓

 

       ――ここで待っててね、那拓。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 『……!』

 『……』

 『……っ!』ダンッ

 『わんっ! きゃんっ!』

 『アァォォオーーーン!』

 

………………

…………

……


「おぉおおおお!」

「やぁあああ!」

【動かせない……!】

 『――ッ! ――ッ!』ドンッ ドンッ

 ――キンッ

「まじでぶち切れてるわね、慧音。……私も、気持ちは分かるけど」

「ひゅー……はぁ……」

「頑張りなさい、陽向(でも、この傷はやばい。応急処置だけじゃ、少ししか時間が伸びない」

(こういう時、治癒の術でも使えたらよかったのに。蔑ろにしてたわ)ギリッ

「……捉えた! フラン、那拓は胴のあたりにいる! あの胸板の奴らを片っ端から剥ぎ取るぞ!」

「うんっ!」

【止めろ、来るな】ブンッ

 『ッ!』ドンッ

【邪魔をしないで、するなぁっ!】

「当たるかっ!」ガリッ

(内側からも外側からも攻撃されて、動きが鈍くなってる。あれなら、すぐにでも那拓が見える!
 ……見えてからどうするつもりなのかしら、慧音)

「この腕、邪魔っ!」ズバッ

【ぎゃぁああ!】

「そぉれっ! (まぁ、それは任せるしかないわ。私はここからでも、離れたのは燃やさないと」


「ぅぅ……」ブルッ

「あっ、寒い? もうちょい暖めるわ」バサァッ

「はふぅ……(……炎の羽。まるで……天使のようだ……」

「これでどうっ!」ガンッ

「よし、上出来だフラン! 後は那拓、飛び出してこい!」

 『……!』

「お前に纏わり憑くこいつらは、私達が切り捨ててやる!
 だから、そこから出て来るんだ、那拓!」

 『……わんっ!』

【!? 出るな、出るな出るな出るな!】

 『……ふんっ』プイッ

 『……!』ググッ

【ずるいずるいずるいお前だけ君だけ!】

「行くぞ、フラン!」

 『……はっ!』タンッ

(飛び出た!)

「今だ!」

「はーなーれーろー!」ブンッ

【絶対、逃 が さ な い ぞ】ガシッ

 

  ――ザクッ

 

 『きゃうんっ!』

「やった!?」

『けふんっ』ズサァ

「駄目、ちょっとだけ足、切っちゃった……」

「……いや」

『……』ヨロッ

「大丈夫だ。……魂だから、もう、関係はない」

『……へっへっ』

【足だけ、くっつく? ……あれ? 軽くなった?】

「良かったぁ。……ならあっち行ってろ、この馬鹿ぁっ!」ドーン

【あごごご】ゴロゴロ

 


「はぁ……はぁ……」

「ほら、陽向。約束通り、那拓が来たわよ」ナデ

「なた、く……?」チラッ

『……』フリフリ

「……那拓(真っ白い中に、黒い眉毛。……那拓だ」ツゥ

『……?』

「……どう、したの。……どうして、こないの……?」

『……』シュン

「……やっぱり……やっぱり、怒っているの……?」

「そうじゃないぞ、陽向」トン

「……? (慧音さん?」

「そうだろう、那拓。お前は……お前はずっと、守っているのだろう?」ナデ

『~♪ わんっ!』フリフリ

「こいつは死んだときから。……いや、死ぬ前から、お前との約束を守り続けているのだぞ?」

「……やく、そく……」

「そうだ、思い出せ。お前がプレゼントを買いに行く直前を」

「プレ……ゼント……(公園で……」

「……ぁ」

『へっへっ』フリフリ

「……―――」

『!』ピクッ

「……いいよ」


 

「おいで、那拓」

 


 

『わんっ!』フワッ

 


「……」パッ

「あぁ……(飛んで、きてる……」ツゥ

『わぅ、わんっ! くぅぅ』スリスリ

「あぁ……あぁぁ……(柔らかくって……ふさふさで」ポロポロ

『! スンスン。……』ペロペロ

「待ってで……ぐれだん゛、だね(舐めてくれて……」ギュゥ

『くぅん』コスコス

「ずっど、ずっと……(ごめんね……じゃない」

『……』

「あ゛り゛がどう゛……なだぐ(有難う……ありがとう……」

『わんっ。~♪』フリフリ


「……良かった、お兄様」ツゥ

「……? ……涙」スッ

【身が軽い……体が軽い】フワッ

「……そっか。これが痛くない、涙なんだ」クスッ

【今度こそ、全てを一つに……!!】ブンッ

「……嬉しいな」

  ――ドスッ   ドスドスドスッ

【人でない貴様らも同じ、一つにしてやろう。……ふは……ふははは!】

「それとね、お兄様」 リィン

【ははは……は?】

「私ね。大丈夫なんだよ?」ボソッ

【何故、あいつと同じようにならない。赤いのを出さない?】

「こんな風に突き刺さってても、痛く、ないんだよ」

【おかしい、違う? なんで止まらない。止まれ、止まれ!】ブンッ

「私達、丈夫だから……我慢、出来るんだよ。……偉い?」 キンッ

【……!?】

「……ごめん、慧音。私、もうね」

 

「「「「遊ばない」」」」ギンッ

 

【な、なんだ、どうやって、ふえ……――】

「「「「……許さない。消えろ」」」」

 

   『L ae v a t e i n n 』

 

【―――――ッ



「「「「……」」」」

「……お兄様!」ダッ


「……やはり、本気を出させなくて正解か」

『?』

「……けほっげほっ」

「大丈夫、お兄様?」パッ

「……はい。……もう、大丈夫……です」ニコッ

「そうだ、大丈夫だ。那拓もここにいる。あいつも退治し終えた。だから、後は里の医者のもとへだ」

「……那拓――えて、―か――」ボソッ

「こら、もう話さない。これ以上は体に響くわよ」

「――なのお――で、な―――あ――」

「ほら、里を出すぞ。もう、危険は去ったんだからな」

「……―――――、――……」

「分かった分かった。その言葉は元気になってから、また聞いてやるからな」

「……」

『……』シュン

「? お兄様、寝ちゃった?」

「……」

「そりゃ、この傷じゃいつ気絶しても可笑しくないも……の…………!!」

「ん? どうした、妹紅」

「……」

 

『……アォォーーーーーン!』

 


「! 那拓? ……お前、何を言っているんだ」

「……つめ、たい?」

「え?」

「陽向の体が冷たい? なんで、暖め続けてんのよ? なのに、どうしてっ!」

「……馬鹿な。まだ、大丈夫なはずだぞ……!?」バッ

「……」 ~○ポゥ

「「っ!」」

「何、これ?」

『……』フワッ

「魂、だと?」

「……」

「たま、しい? なんで、どうして、慧音!」

「……」ワナワナ

 『……』○

「……待て」

   『』○フワッ

「待て、逝くな……!」

          ……『』○

「待ってくれ、陽向! 陽向ぁあああ!!!」


「……」

「……」

「……どうして、お兄様から魂が出たの、慧音」

「……」

「ねぇ、妹紅!」

「……」

「どうしてよ、二人とも! 魂が出ちゃったら、それって死んだって事じゃない!」

「っ」ビクッ

「……」

「そんなのおかしいよ!
 お兄様、ようやくナタクちゃんと会えたのに、なんで、どうして死んじゃうの!
 孤独じゃないのに、死にたくなるような気分でもないはずなのにっ!」

「……あや、まったか」ボソッ

「……くそっ」バンッ

「こたえてよ、二人とも!」ギンッ

「……そうだ。……陽向は……死んだ」

「っ!」

「くそっ、くそっ!」ドンッ ドンッ

「那拓と一緒に……冥府に、逝ってしまった」

「……なん、で」ポロポロ

「私が……私が、見誤ったからだ……!」

「違う。私がもっとちゃんと、癒せる術を知ってたら」

「……やだよ……どうして……」ポロポロ

「頭に血が上って、正確に怪我を見られなかったから……!」

「最悪、私の血でどうにか……」

「やくそく……したのに……!」ポロポロ

「っ!!」

「こんなの……こんなさみしいきもち……やだよ……けいねぇ」ポロポロポロ

「……」

「……駄目っ。血なんか上げたら、陽向まで“忘れる”事に……!」

「……そうだな。悲しいのは……寂しいのは駄目だ」ボソッ

「……えっ? 慧音?」

「うぇ、ひっく……」

「……」ポゥ


 

 もしも。もしもこんな悲しい事が、運命なのだとしたら……

 

   せめてこんな歴史、なかったことにしてやる……!

 


~~~春の人里~~~

「せんせー、さよーならー」

「またねー、せんせー」

「あぁ。気を付けて帰るんだぞ」

「先生も、気を付けてね!」

「……あぁ。すまない」

「……」

「……」クルッ    トン

~~~自室~~~

「……」スッ スッ

「……」スー クッ

「……」コトン

「……終わったか」

「……」スッ キュッ

「……よいしょ」

「……」トボトボ ガラッ

「……ん? ……そうか。もう、5巻にもなっていたか」

「……」

「……」

「……」コトッ

「……」ジィ

「……さらばだ。――」トン


 幻想郷 第百二十四季 弥生の三

 新たな春に包まれた、この人里。
 空に浮かぶ大きな船の話題が少し上った程度で、目立った話も噂もない、平穏な日。

 誰にも語られることなく、誰からも語られることのなく。
 それでも、幻想郷は変わらない。

 彼が居なくなっても……その歴史が、人々の間から隠し去られても。
 人々は笑い、泣き、怒り、謝ることをかえない。
 毎日は繰り返される。
 明日をもまた迎える。
 極々当たり前で、当然ような日々。
 この平穏な暮らしの中に、彼という人間が一人いなくとも……幻想郷は変わらない。

 変わらずに……置き去りにしてしまう。
 未来へと、その歩を進めていく。

 これは変わらなかった物語。
 これは隠し通すことを決めた、私の罪。

 あの子を悲しませぬように。
 あの人を苦しませぬように。

 ……この悲しみは、私が独りで背負い続けよう。



                           東方―――  幕引き......?


投下、終了

Next......Last Word

アトワズカ……ですもうしばらくお待ちを


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『せめてこんな歴史、なかったことにしてやる……!』 ポゥ ポゥ ポゥ

『なかったことにって……慧音! あんた、何するつも……りっ……!? (頭が、いた……!?』

『ひっ! あ、ぁぁあ!』ズキズキ

『……』 ポポポポゥ

『待ち、なさいよ……けい……ね……(まさか……記憶まで……全部……』

『これも……これも……これも!』

『あぅ……』バタン

『フラ……ンっ……』ドサッ

『……ふ……ぅ。……うぅぅ……』


 

  うぁああああああああああああああああああああ!!!

 


 ……。

 この時の私は感情に振り回され、周りが見えなくなっていた。
 ただただ、能力を使おうとする部分だけが冴え、――に関する人々の記憶や歴史を正確に、精確に、私の中に押し込めていった。
 その副作用ともいうべきなのか、彼と関わりの深かった者達ほど激しい頭痛に見舞われ、気絶してしまった。

『…………』

 私は嘔吐感に苛まれ、そんな状態でも――の痕跡を隠しつくそうとし……実際、何度か戻してしまった。

 だが、私は止まれなかった。
 西の空が白み始め……彼の全てを“なかった事”にする、その瞬間まで。

『……もう、そんな時間か』ボソッ

『……』

『……』ツゥ

 彼を、誰の目にも入らぬように……覆い隠すまで。


 私は悲しそうに、そして、苦しそうに眠るフランを紅魔館へと送り届けた。
 妹紅は里の門の内側に、もたれかけるように寝かせておいて。

『……!』

『ぅっ……』

『……美鈴』

『ん? おや、慧音先生では……って、フラン様!? ……あぅっ』ズキッ

『……無茶はするな。この子は私が連れて行くから……』

『そうは、いきません。何があったのですか? どうしてこんな夜更けに、フラン様を背負って』ズキズキ

『……なんでもないさ。……ただ、無法者を退治し、その疲れで寝ているだけだ』

『……とにかく、早くなかへ。もう直に、陽が射します』

『……あぁ。……すまない』

『……』

 紅魔館に着いたとき、美鈴が門に手を突きながら立ち上がるのを見た。
 どうやら彼女にも、相当な負担をかけてしまったようだ。
 だというのに、フランドールと私の身を気にかけ、しかも深く追求はせずいてくれた。

『……』

 その優しさが……眩しかった。


 ただ、

『おや、慧音じゃないか。こんなに朝早くからご苦労ね』

『……レミリア』

 フランを横にしすぐに帰ろうとした所で、レミリアに出逢った。
 いや、待ち伏せされていたと言うほうが正しいのかもしれない。

『あら、随分と憔悴した顔じゃない。何か嫌な事でもあったのかしら』

『っ……』ズキッ

『ふっ……』トコトコ

『……私はもう帰る。お前と、無駄話をしている暇は……』 スッ

『私が視ていた運命は、もう少し、幸せな結末だったのだけれど』

『!?』

『……』ジィ

『お前……!』

『……』

『…………っ!』クルッ

 何せレミリアは何かを識っていたようだった。

 だが、その言葉に私は何も言い返せなかった。
 何故教えてくれなかったなど……彼女に言うのはお門違いでしかないと、分かっていたからだ。

『よろしかったのですか、お嬢様』カッチン

『よく理解しているようね。流石は教師様、他人にあたる真似はしない大人の鑑だわ』

『……っ』ギリッ

 だから、その皮肉染みた言葉も聞こえてないふりをした。
 その語気に、憐れみを感じ取ったから。
 それにまだ、私にはやるべきことがあったから……。

………………

…………

……


 人里に戻った私はその足で里長の元へ向かい、なり損ねたモノを退治した旨を伝えた。

『……そうか。……一晩かかったみたいですな?』

『案外、手こずってしまいました。……あのモノについて、ですが』

『……今日はもうよいですぞ、慧音さん。お疲れのようですしの』

『いえ、だが』

『……』ジィッ

『……』

 そして詳細と予防策を話そうとして、眼で強く制された。
 その眼光は有無を言わさぬモノで、従わざるを得なかった。

『……分かりました。後日、稗田の当主も交えてお話します』

『……急がんでええからの』

『……はい』

 それほど私は疲れを滲ませてしまっていたのかもしれない。

『……』ガラッ

『……っ』ボフン

 なにせ実際、家にたどり着いて部屋に戻ってすぐ、泥のように眠ってしまったのだから。

 そうして妹紅の事を思い出したのは、目が覚めて、目の前で彼女が困った顔を見せて来た時だった。

………………

…………

……


『それでねぇ、あの日の事、いまいち思い出せないのよ』

『……あの日?』

 後日、妹紅がいつものように家にやってきた時。
 他の者同様――の事は忘れ去っていたのを見て少し、寂しかった。

『そ。北の門にもたれて寝てた日の前日。起きた時、頭痛が酷かったから、飲み過ぎたのかしらねぇ?』ウーン

『妹紅が二日酔いになるとは、よほどだな』ハハッ

 ……白々しい。
 この時の私を表すのに、これほど当てはまる言葉もない。
 彼女のその日の記憶を奪ったのは、まさに私だというのに。

『覚えてないなぁ。……んでさ、慧音』

『……ん? なんだ?』

『あんた私に、何か隠し事してない?』

『……いいや。何も隠してはいないよ』ニッコリ

『……そっか。私の気のせいか』フゥ

『……』

 本当に、白々しい。

………………

…………

……


『……何? フランが冬の間、来たくないと?』

『はい。どうにも、やる気が随分と無くなってしまったようで』アハハ

『……そうか。いや、構わないさ。無理に教えても、あの子の為にならない』

 数日たち、フランが無断で二日間、寺子屋を休んだその翌日。
 その知らせを美鈴が伝えにやってきた。

『やっぱり、あの日に何かあったのでは? あれだけ楽しそうに学んでいらしたのに』

『……何か、気に障る事でもしてしまったのだろう。……あの子の様子は?』

『地下にずっと籠りっぱなしです。何故だか分からないけれど、人里には行きたくない、と』

『……』

 それはもしかしたら、彼女のどこかに残った哀しみの記憶なのかもしれない。
 それが人里に寄り付かせぬよう、あるいは、ここに来させないようにしているのかもしれない。

『まぁ、お伝えすることは以上です。すみません、遅れてしまって』

『……いいや、ご苦労様。……すまないな、手間をかけさせて』

『……きちんと、寝て下さいね? 目の下に隈、出来ていますよ』チョンチョン

『……あぁ。……すまない』

『それでは。……』フワッ

 それでよかった。
 どんな顔をしてフランに会えばいいのか、私にはまだ、分からなかったから。

『……すまない』ボソッ

 分からなかったんだ。

………………

…………

……


『……しまったな、作りすぎた』

 年を越し、冬の寒さが増して早一月。
 ふと気づけばポトフを、それも二人前も作っていた。

『……』

 それ自体は翌晩にも頂けばいい、食べ物を粗末にするつもりは毛頭ない。
 だが、これまでは一人分の料理を作ることを意識していたのに、今回は素でやってしまった。
 魚も、米も、一人分の量を忘れていなかったのに。

『……』コト

『……頂き――』

『やっほーう、慧音ー。なんかいい匂いするから寄ったわよー』

『――ま……ノックをしろと、あれほど言っているだろう、妹紅』ハァ

『私と慧音の仲なんだからいいじゃないの。どれどれ、どの匂いかしら~? ……この料理?』スンスン

『あぁ。知らな……いのか』ボソ

 そこに、見計らったかのように妹紅がやってきた。
 ――が教えてくれた料理の、その一つ。
 そしてやはり、彼女にこの料理の記憶はない。
 当然か。これとて例外なく、喰らった記憶なのだから。

『ん? まぁ、見たことないわね。シチューみたいに白くないし、クリーミーでもないし』チラッ

『……ポトフだよ。外の国の郷土料理だそうだ』

『へぇ~。……あら? 鍋にまだ残ってるじゃない』

『あぁ。どうやら、二人前の分量を教えてくれたようだ』

『おやおや。では、ご同伴に預かっても?』ニヤァ

『元より、そのつもりで入ってきたのだろう。よそってくればいいさ』

『ありがと慧音。茶碗も持ってくるわね~♪』

『……あぁ』

 この頃までには、自分なりに嘘を自然と吐けるようになっていた。


 ……いや、「吐けている気になっていた」のが正しいのかもしれない。
 料理の件もそうだが、三月も中頃になって……妹紅に詰め寄られたのだから。

『さよーならー、せんせー』

『さっぶー!』

『滑らないように、気を付けるんだぞ』

『先生も、お体に気をつけてね?』

『……あぁ、分かっているとも。……』クルッ

『……』

『! ……妹紅』

『……慧音』ジリッ

『……どうしたんだ、そんな怖い顔をして』

『どうしたんだじゃないわよ。どうしたのよその顔』

『ん? 何か、可笑しいのか?』

『おかしいわよ。あの日からずっと』

『……何がだ。言ってくれないと、分からないぞ』

『目の下の隈! それに、その覇気の無さ!』

『……』

『子供達だって、最近はあんたの心配ばっかしてんのよ? 元気がないね、とか。寝不足なのかな? とか』

『……』

 子供達に心配をかけてしまっているのは知っていた。
 だがそれが、表情や態度からくるものだとは気付かなかった。


 そう、どれほど言葉を取り繕えど、体は嘘を吐かない。
 他人の動きの機微を見て知り尽くしているつもりだったが、自身のそれには気が向かなかったんだ。

 ……ああそうだ。
 だからこそ、彼も気付いて気を掛けてくれたのだろう。

『私だって、年末のときからどこか変だって気付いてた。けど、あんたから話してくれないなら、聞かない方がいいかもって。
 けど、それももうそろそろ限界。もう一度聞くわよ、あんた……どうしたのよ』

『……』

『……』

 私はついぞ、自身に疎かった。
 気を付けなければ……。

『……すまない。別に、お前達が気にする必要はないんだ』

『っ!』

 それでも、私は嘘を吐き続けよう。

『これは私だけの問題なんだ。だから、話すわけにはいかない』

 私が犯した間違いで、彼女達を苦しませないために。

『なんでよ。別に、代わりに解決するつもりはないわ。ただ、少しでも気が晴れたらって』

 喪った悲しみで、あの子を閉ざしてしまわないように。

『……』フルフル

 後ろを見続けるのは、私だけでいい。

『……なんでよ、慧音。何があったのよ……』

 わたしが……

『……すまない』ボソッ

 わたしが、かれのみらいをうばったもどうぜんなのだから……。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


~~~春の人里~~~

「……さらばだ。――」トン

 そうして、月日は過ぎ去っていった。

 

 年を越すときに、太陽が明けの明星を打ち負かし、無事に新年を迎えた。
 正月の大雪の中、里の若い衆達が雪かきに勤しんでいた。
 冬が去り、春が訪れ、雪が解けだした頃に、壊れた縁側を修理する大工が働きまわっていた。

 

 満月に誘われ、妖怪の血がこの身を変え、去っていく事、三度。
 赤子が生まれ、祝いの飾りがつく近所の家を眺める日が幾日。
 忙しくも賑やかで、騒がしくも穏やかな……里の日常。

 

 そんな中、あの思い出ばかり浮かび上がり、既に隣にいない者の事を想う。
 そうして、気付けば紙に書きだしていて、これが思いの外、すらすらと書けて。
 思い出す限りを書き記していたら、終わったころには5巻にもなっていた。

 

 変わらない日々。
 変わらない里。
 変わらない、幻想郷。

 

 確かにあった、この思い出。
 ……もう、私しか知らない、変わらなくとも違った……過去の日々。

 

 ……さらばだ。

 

………………

…………

……


~~~紅魔館・地下~~~

「……」

「失礼いたします。妹様、お食事の用意の方が出来ました」カッチン

「……」

「本日は、最近、妹様の体調が優れぬ事を憂慮なされたレミリアお嬢様から、
  お嬢様と同量のメニューをお出しするよう仰せつかまりました」

「……うん」

「ですので、いつものお食べになられている量よりも少な目となっております。ご了承くださいませ」

「……ううん、いいよ。私も、ずっと残してばかりだもの」

「幸いです」

「……」カチャ

「……」

「……」モグ……モグ……

「……」

「……ん。……」カチャン

「お口に合いませんでしたか?」

「んーん。ねぇ、咲夜」

「はい、何でございましょう」

「咲夜はね。ずっと楽しくってわくわくしてたことが、突然辛くなったら……どうする?」

「申し訳ございません、妹様。私、そういった経験がありませんので「どうした」とは、お答え出来ません」

「えっ……そっか、ないこともあるんだね」

「はい。……ですが」ンー

「?」

「もしも楽しかった事が辛くなったとしたら、私でしたら、気分転換でも見つけて気を晴らすと思います」

「気分転換……」

「はい。辛い事は元がどうであれ、一度離れてしまえばいいのです。
 自身に無理を強いても、それで得られる物は少ないと思いますので」

「……」

「ご期待に添えられましたでしょうか?」

「……わかんない。けど、ありがとう、咲夜」

「いえ。……」

「……」モグ……モグ……

………………

…………

……


「……」

「……」トクトク

「……」

「……なんでかな」ボソッ

「……ん? 何がですか、フラン様?」

「やっぱり、もうこれ、嫌」コトン

「……分かりました。今日はもう、紅茶の淹れ方の勉強は終了としましょう」

「……うん」

「それでは片づけますね。……」ススッ

「……ごめんね、美鈴。突然、嫌だなんて言って」

「いえ。いずれ、こちらもそう言われるかとは思っていましたし」

「えっ? 分かってたの?」

「去年の暮れごろから、あまり“気”乗りしていらっしゃらないなぁ、とは」

「……うん」

「……まぁ、私はいつでもお教えしますし、フラン様の好きな時にやりましょう!」

「……」

「……(あぁ、苦しまれている。これも、あの日から悩んでいる事、なのでしょうね」グヌヌ

「……ねぇ、美鈴」

「はいはい、なんでしょうか?」ニッコリ

「美鈴はね。ずっと楽しくってわくわくしてたことが、突然辛くなったら……どうする?」

「楽しかった事が、辛くなったら……ですか」ウーン

「……」

「……楽しかった時を思い出して、乗り切りますかねぇ。あるいは初心に帰って見つめ直すか!」

「思い出して、乗り切る……」

「はい!
 私の場合ですが、これと決め功夫を積んだ拳法の道。
 辛く泣けることもありましたが、師父に褒められ嬉しかった事も、楽しくなった事もありました。
 それを想い、またそこに達せるよう精進する。それが私の乗り切り方です」


「初心に帰るのは?」

「それは乗り切り方と続くところがあるのですが、他の兄弟弟子に勝ち越せるからと、天狗になってしまった事がありまして。
 その時、師父に新弟子の鍛錬をするよう言いつけられ、厭々ながらその子に教えていたんです。
 そしたら、武術を習う中でその子が一喜一憂する姿に……かつての自分を思い出したんですよ。
 誰かに勝つためではなく、自分に克つために始めた、あの頃の自分を」

「……強くなるためじゃなかったんだね」

「はい。それはあくまで結果であり、自身のかざした目標からすれば副産物でしかありません。
 ですので、初心を思い出し、何を目指していたかを見つめ直す事が、辛さを克服する事に繋がると私は思います」

「……」

「ですが、どうしてこのような質問を?」

「ん。なんとなく、咲夜に聞いたの。だから、美鈴にも聞こうって」

「そうでしたか。……フラン様の為になればよいのですが」ヨット

「……」

(ですがきっと、駄目でしょうね。今のフラン様は、何が辛いのか分かっていないご様子。
 そしてそれは私にも分からない……)チラッ

「……」ポフン

「……」ギュッ

(……何かが欠けたような、そんな歪さです)ハァ

………………

…………

……


~~~図書館~~~

「……」ピラッ

「アー忙しい忙しい、猫の手も借りたいですよ全くー!」ドタバタ

「……」ゴクッ

「本が大量に入ってくる時期ってのは嫌になりますね! 種類分けに軽く読まなくてはいけませんしー!」ドタバタ

「……」カチャン

「……ねぇ、パチュリー」

「……何かしら?」ピラッ

「パチュリーはね。ずっと楽しくってわくわくしてたことが、突然辛くなったら……どうする?」

「唐突ね」ピラッ

「……」

「……」チラッ

「……」

「……どうするって、能動的にした事は少なかったわ。大抵、他の誰かが何かを変えてくれたって所。受動的ね」

「他の誰かが?」

「えぇ。研究が詰まった時に、貴女の姉が私に唐突な注文を付けて来て、それを済ませてたら解決策が見えてたり。
 難解な魔界文字を解読しようと本を山積みしていたら、白黒ネズミが上からごっそり盗って行って、残った本が手掛かりになったり。
 五行の地脈を整えようとしたときに、門番や咲夜が知恵を貸してくれたり」

「へぇ……」

「後は体調の関係でいけない場所に、魔理沙を騙して向かわせたり」

「あはは、それって酷いね。でも、ある意味能動的じゃない?」

「かもね。……」ピラッ

「……」

「……でも、少ないのは、ないって事じゃない」ボソッ

「?」

「詰まってしまったとしても、それでも私はやり続ける。私の中にあるそれまでの知識を総動員して。
 それが、作り上げなければならないものなら、尚更」ピラッ

「……」

「どうせ、完成させないとそこに課題として在り続けるもの。なら、目を逸らしても無駄。
 だから、私には楽しいとか辛いとかは関係ない。
 ただ、やり続ける」ピラッ

「……そっか」

「えぇ」ピラッ

「……」

「……」

「……ごめんね、邪魔して。ありがとう」

「別に、軽い話なら邪魔でもないわ」ピラッ

「うん。……」

………………

…………

……


~~~地下室~~~

「……」ポフンッ

「……」

「……皆、すごいな」ボソッ

「私には分かんない。どうすればいいか分かんない」

「何が分からないか……分からない……」ギュッ

「……どうして、けーねの所に行きたくなくなったのかな」

「どうして、あんなに楽しかったお勉強が、したくなくなったのかな」

「……嫌なことならすぐに気にならなくなったのに、今はそれも出来ない……」

「……けーね、怒ってるかな」シュン

「いよーっす、邪魔するぞー!」バァン!

「……魔理沙」

「思い立ったから遊びに来てやったぜ~。……けど、元気なさそうだな」

「うん、今、ちょっとね」

「弾幕ごっこする気力も?」

「……ないかな。今やっても、魔理沙を傷つけちゃうかも」ゴロン

「! そうか、それは困るな」ウンウン

「……」

「となると、ここに来た意味がねーかなぁ」ハァ

「……ねぇ、魔理沙」ジィッ

「ん?」

「魔理沙はね。ずっと楽しくってわくわくしてたことが、突然辛くなったら……どうする?」

「なんだ? それがお前の今の悩み事か?」

「……みたい、かな。……どう?」

「どう、って言われてもなぁ。私なら、当たって砕ける……かな」

「当たって、砕ける?」

「うん。ほら、私ってパチュリーみたいに知識はねーし、アリスみたいな経験もない。
 だから何か嫌になっても、そこで魔法の研究を止めるわけにはいかねーんだ。
 差を縮められないからな」 ピョン ポフン

「魔理沙が好きなのは魔法なんだ」

「好き、っていうと少し語弊があるけどな。
 そもそも、魔法ってのは失敗の中に成功の素があったりして、失敗も意外と馬鹿にできねーんだ。
 だから、ちょっと詰まってムカついたら軽く叫んで、すっきりしたらすぐにもう一度そいつに向き直す。
 何度も何度もぶつかって、手探りで前に進んで、成功したらそれを元に更に研究する。
 ずっとそれの繰り返しさ」 ギーシギーシ

「……」


「って、お前も魔法少女だったっけか。なら、そういうのわかるだろ?」

「んーん。私、やろうと思ったことはだいたい出来たから、パチュリーみたいな実験はしたことないかも」

「あー、そうかよ。羨ましい限りだぜ」ハァ

「……でも、何かは出来なかった」ボソッ

「あん?」チラッ

「……」

「……うーん」

「……」

「しゃーないっ。ここはお姉さんが気晴らしさせて上げますかっ」ヨット

「おねえさん?」ジィ

「おうっ。なんか、お前が落ち込んでるのは見てらんないからな」

「……ごめんね」

「気にすんな、ただの気まぐれだ。
 ……それに、そこまで落ち込んだら、他人がやらないと中々、立ち直れないしな」ボソッ

「?」

………………

…………

……


「よーっし、持ってきた」ドサッ

「お帰り。本、たくさん持ってきたね」

「適当にあったの持ってきただけだけどな。小悪魔が何かしてたみたいだな」ケラケラ

「ふぅーん……」

「だから面白いかはわかんねーぜ? ……ほら、これなんか古そうな言語だ」

「読めないね」

「外れっと。……あぁ、これなら読めるぞ。ってお前もよく知ってるのじゃねーか」

「? あ、ほんとだ。『十人のインディアン』だね」

「どうやら歌謡集みたいだな。後ろのページは別の作品だ」

「……本当だわ。あ、最後の一人は結婚してる」

「だろ。むしろ、なんで首つりなんかしてんだよって話でさ」ケラケラ

「何で間違えたのかしら」ウー

「『そして誰も居なくなった』はこれのパロディってことだろ。さて次は、と……」

「……」ガサガサ

「うーん、料理の本? 私はそんなに凝るつもりはないぜ。……錬金の本? これは借りて……」ガサゴソ

「……!」ピタッ

「うーん……おっ。これ、外の漫画か? 分厚いなぁ……月刊――」

「……フランダースの、犬」ボソッ

「――ジャ……ってなんだ、そっちの方が気になるのか?」

「……うん」ピラッ

「んじゃ私はこれでも読んでるぜ。確かレミリアが好きな漫画がこれっぽいのに載ってたって言うしな」ペラペラ


「……」ピラッ

「おー、格闘漫画か? いきなり寝技から始まったけど」

「……」ピラッ

「どういう原理だよ、これ」ゲラゲラ

「……」ピラッ

「おぉっ! こいつ、技を返しやがった!」

「……」

「って続きは来月!? なんだよ良い所なのに切りやがって!」ウガー

「……」ツゥ

「ったく……次はんーっと、なんか魔法っぽいのがっておい、フラン。どうしたんだ?」ポイッ

「……まり、さ」ツゥ

「なんでそんな泣いてんだよ。泣ける話なのか?」

「わかんない。前はこんなことなかったのに……涙、出て来たの」ズキッ

「んー、なら読むのやめといた方がんじゃね? 前ってことは、思い出し泣きかもしんねーけど」

「ううん、読む。……涙で見えなくなってきたけど、読まなきゃいけない気がするの」

「……なら、私が代わりに読んでやるよ。って、まだ十ページも行ってねーのか」

「ごめん……お願い、魔理沙」

「辛かったら言うんだぜ?」

………………

…………

……


「――こうして、旅の先に辿りついた教会で、ネロはパトラッシュと共に天へ召されました」

「……」ギュッ

「死してなお愛犬を離さないその姿に、自責の念を抱いた人々は彼らを共に寝かせて埋葬します。
 死後もなお、永久に共に居続けられるよう、祈りをささげて。……後は、あとがきか」パタン

「……」ブルブル

「……終盤の村人、調子のいいもんだな。少しぐらい、飯とか分けてやっても良かっただろうに」チッ

「いっしょに、天へ……!」ポロポロ

「んでフラン、お前……大洪水だな」

「……ひっく。……うぅ、うぅぅぅ」ギュゥ

「おー、よしよし。そこまで共感して貰えて、二人も有難いだろうぜ」ナデナデ

「そうじゃないの……ううん、そうかも、しれないけど……」ポロポロ

「? どーいう――」

「……魔理沙っ! その本、貸して!」ガバッ

「――こっうぉぉ! べ、別にいいけど」

「ありがとう! ……私、行かないと……!」トトッ

「行く、ってどこにだよ」

「……寺子屋! ……それからね、魔理沙……!」クルッ

「うん?」

「有難う」ニコッ

「……お、おう」キョトン

「……!」バサッ

「……なんなんだぜ?」


~~~図書館~~~

「……!(思いだした。思い出せた……!」

「パチュリー!」

「……何かしら?」ピラッ

「これ、また借りていい!?」

「……」チラッ

「……」ジィッ

「……いいけど、ちょっと……」

「ううん! 絶対壊さないから、傷つけないから。だから、このまま貸して!」

「! ……」ジィ

「約束するから!」

「……いいわ。約束よ」

「うんっ! 有難う、パチュリー!」バッ

「……約束、ね」

「いいんですか、パチュリー様? いくら最近は大人しかったとはいえ、妹様ですよ? 貴重な本を焼かれでもしたら勿体なくって仕方ありません!」

「……別にいいわよ、どうせ児童書だもの」ピラッ

「へっ? そんな本をあんなふうに抱えて、どうしたんでしょうね?」

「……ふふっ(それに、レミィと同じ……目」

「!? パチュリー様が笑った!?」ガビーン


~~~主賓の間・ロードオブオーバールーム~~~

「……そろそろ桜の季節かしら。また、霊夢の所へ寄らなくちゃね」

「はい。後、二週間もすれば頃合いだと思いますわ」

「ふふっ。……む」

  バンッ!

『……っ!』ジュゥ

「! 妹様が?」スッ

「……待ちなさい、咲夜。止める必要はないわ、美鈴に任せなさい」

「分かりました。少し、失礼します」カッチン

「……くくっ。やはり、もう少しだけ幸せな結末だったわ。慧音?」

「いよーう、レミリア。邪魔してるぜ」ドッサリ

「あら、魔理沙。……そう、貴女のおかげというわけ」

「ん? 何がだ?」

「くっく、くっくっく……やっぱり、幻想郷は……!」クスクス

「……なんか今日は姉妹揃って変な日だな」ヤレヤレ

「紅茶をどうぞ、魔理沙。それから、お嬢様方は変なのではなく、楽しまれているだけよ」カッチン

「おう、そうか。やっぱ変だな」ズズ


~~~紅魔館・門前~~~

  バンッ!  ジュッ

「……いっ! (痛い……けど、夜なんて待ってられないの」

「!? フラン様、何を!?」  カッチン

「美鈴、傘」スッ

「ああ、咲夜さんありがとうございます」ワタワタ

「それから、お嬢様から伝言。止める必要はない、貴女に任せる、と」

「! ……分かりました。門番、誰かにお願いしてください」タンッ

「……」チラッ  カッチン

「フラン様!」

「美鈴?」ピタッ

「大丈夫ですか、フラン様。早く傘の内側へ」バンッ

「あっ、ありがとう。でもね、私ね、早く寺子屋に行きたいの!」

「寺子屋……慧音さんの所へですか?」

「うん! 行って、話さなきゃいけないの。沢山、たくさん……!」

「……分かりました。私も供に行きますので、全力で飛んでいただいて構いません」

「うんっ! (思いだしたよ、慧音。……やっと、やっと分かったよ」

「……(気が晴れている。私が止める必要は、確かにありませんね」フッ

………………

…………

……


~~~人里・寺子屋~~~

「……静かだな。……雪の解ける音ばかり」

「……」

「……」ゴクッ

「……」

「……ふぅ」

  ドンドンドンッ!

「……む? どちら様かな」ヨット

  ドンドンドンッ!

「はいはい、ただいま。聞こえていますよ」カタン

  ガララッ

「どちら様で…………フラン」

「……」ジィッ

「どうもです、慧音さん」

「それに、美鈴も。どうしたんだ、こんな昼間に。何か、急ぐようなことでもあったのか?」

「……」グッ

「……」

「……フラン? 美鈴?」

「私からは何も。フラン様が慧音さんとお話したい、と」

「……そうか。だが、無茶をするほどでもなかっただろうに。肌がだいぶ、焼けてしまっているぞ?」

「……」

「……とにかく、上がってくれ。玄関先で話していたら外に丸聴こえだ」 カラン

「……」ツゥ

「しかし、久しぶりだな。来たくないと言われてから、もうすぐ四カ月か。
 あぁ、別に怒っているわけではないぞ。元々、お前さんがやりたいと思った日にやる心算でいたのだからな」

「……」


「そうか、だからだな? ようやくやる気が出たから、昼間から来てその遅れを――」

「……けい、ね」

「――とり……」ビクッ

「……」

「……なんだ……フラン?」

「……あのね。私、わたし……」ツゥ

「……」

「……!」ブンブン

「……っ」

「……天国……いけた、かな」ポロッ

「……なにが、だ?」

「……ひなたおにいさま……てんごく、いけたかな……?」ポロポロ

「……っ!!!」

「なたくちゃんと、いっしょに、いけたかな……?」ポロポロ

「……フラ……なぜ……!」

「うぅ……うぐっ……」ポロポロ

「……っ」フラ

「! 慧音さん!」トンッ ポスッ

「……フラン……お前、どうして……」

「……あの、ね。このほんがね。おもい、ださせてくれたんだよ」スッ

「この本……? ……『フランダースの犬』?」

「うん……」ポロポロ

「……馬鹿な。フランはあの時、つまらなかったと……それに、陽向と関係など……」ボソボソ

「……」


「……! まさか……まさか、お前……陽向と那拓を……ネロと、パトラッシュに見立て……?」

「わかんない。けどね……おにいさまも、わるいこと、してないもん。
 ずっと、ずっと、フランにべんきょうおしえてくれて、ほかのこにもおしえてて、やさしくって……。
 だから、ネロとおなじように、てんごく、いけたよね」ヒック

「……」

「……ぐずっ」

「……私は……陽向に託したことを……見て……」

「それにね、けいね。ありがとう」

「……何?」

「おにいさまがしんじゃったの……わすれさせてくれたの、けいね、でしょ?」

「っ……」

「それって、わたしが、こわれないように、して、くれたんだよね」ニコッ

「……ぁ」

「でもね、わたし、だいじょうぶだよ。
 おにいさま、しんじゃったのはかなしいけど、わたし、もう、こわさないから……。
 おにいさまがすばらしいせかいっていってくれたここを、わたしも、だいじにするから……!」

「……ぁ、ぁぁ」ツゥ

「だから、だいじょうぶだよ。ありがとう、けいね」ポロポロ

「っ! …………私は……私は、なんてことを、したんだ……!」

「ひっく……」ポロポロ

「あいつは……あいつが……残した、のは……!!」

「っ……」

「私が……したことは……!!!」


「ぅ、ぅ……」

「……違うんだ、フラン。私は……私は、嘘を……吐いていたんだ」グッ

「……?」

「私はお前達の為にだと……お前達の所為にして、自分の気持ちから目を背けていたんだ。
 陽向が死んだその事実から……陽向の傷が致命傷だった事に気付けなかった事実から、目を、逸らしていたんだ……!」

「……けい、ね」

「そうだ、私の不手際だ!
 陽向を……陽向が血まみれになったときに、否が応でも八意の元へ連れて行けばよかったんだ!
 いや、その前に、出て来た時に、無理やりにでも安全な場所へ連れ去っていれば、死なずに済んだ、はずなのに……!」

「ううん、ちがうよけいね……!
 わたしがちゃんと、おにいさまに、わたしがきずついてもへいきだって、いってれば……!」

「ダメなんだ、フラン。あいつは……陽向はそれでも、お前を庇ったに違いないんだ。
 だってあいつは……妹紅の不死でさえ、良い顔をしなかった!
 そうだ。雨や雪の時に紅魔館へ向かっていたのも、フランが傷つくのを嫌ったからなんだ……!」

「……!」

「あいつは、そういう奴だった。
 だから、だから……私がどうにかしなければ……いけなかったんだ……!
 なのに、私は……!」ポロポロ

「ちがうの……ちがうの……! わたしがもっと、わたしのことをはなしてればよかった……」ポロポロ

「フラ、ン……!」

「もっと、はなしてれ、ば……っ……――」

「あぁ、そうだ。もっと、話していれば……!」ギュッ

「―――っ!」


「話したかった! 今も、今も……言いたいことが山ほどある!
 なのに……なのに、あいつはもう、いない……!」

「―――――!」

「そうだ……最後に『ありがとう』などと言って……死んでしまった……!!」

「……―――――?」

「あの馬鹿者、何がありがとうだ! 感謝するのなら、生きて、行動で示せっ!
 勝手に死なれたら……私が『ありがとう』と……伝えられないじゃないか……!」

「―――……!」

「お前のおかげでこの子はもう、大丈夫だというのに……『お疲れ様』と、労えないじゃないか……!」

「―――――、―――」ギュゥ

「あぁ……そうだな、フラン。私も、わたしもかなしい……!
 だから、もう、ないてやる……!
 あいつがこうかいするぐらい! めいっぱい、めい、っぱい……! ぅっ……!」

 

 ―――――――――――――――ッ!!

 

 ――――――――――――!

 

 ――――――――――――――――――!!!

 

 ………………

 …………

 ……


 

 泣いた。

 

 これでもかというほどに、泣き叫んだ。

 

 他人の目など知らずに。

 

 ただ、悲しみを目一杯に、寂しさを声の出る限りに。

 

 お前を亡くした痛みはこれほど大きいのだぞと。

 

 お前を亡くした苦しみはこれほど大きいのだぞと。

 

 私とフランは、泣き続けた。

 


 

 そして私は彼の記憶を戻していった。
 彼の歴史を、幻想郷に返していった。

 

 本当にしなくてはならなかった事をするために。
 想い出を、分かち合うために。

 


~~~竹林~~~

「……」ポゥ

「……! ……慧、音。あんた…………っ!!」スッ

  パァンッ!

「っ……! ……」

「あんた、あんたねぇ……!」ツゥ

「……有難う、妹紅。気をかけてくれて」

「有難うじゃ、ないわよ……あんたも……陽向も……!」ツゥゥ

「……」ギュゥ

「共に歩んでくれるって、あんたが言ったんでしょ……なら、あんたも、私に悲しみ……見せなさいよ、バカ……!」

「あぁ……あぁ……!」

 友も、泣いてくれた。
 二人だけの約束を思い出しながら。
 この“人間”もまた、彼の為に泣いてくれた。


~~~人里・里長の家~~~

「……そうじゃったか。あの先生、死んでしまわれたか」

「はい。……隠していて、申し訳ない」

「……いやいや。心中、お察しする」

「……忝い」

「……しかし、残念じゃの。貴重な、乗り越えた男じゃったというのに」

「はい。まだ、これからだったというのに、残念な限りです」

「……あぁ。世はなんと、諸行無常じゃ」

「……はい」

 里長は偲ぶように眼を細めた。
 それは既に世を去った、彼の友人に向ける目で。
 かつての教え子の、今、もっとも年老いた子は若き別れに何を思うのだろうか。


~~~寺子屋~~~

「えぇー! いとー先生、死んじゃったの!?」

「ずい分みかけないと思ったら」

「じゃぁけーね先生、どくしん?」

「……こらこら。私は元から独身だぞ」

「「「えーっ!」」」

「結婚してなかったんだー」

「あんなに仲良しだったのにね」

「優しかったのにねー」

「ざんねんだなぁ……」

「……」

 子供たちの反応は様々だ。
 まだ死を見ていない子が多いから、仕様のないことだが。

「……おやすみなさい、伊東先生。なむなむ……」

「……さて、それじゃぁ死についての授業を……――」

 それでも、少しばかり子供達に悲しい気配があったのは、錯覚ではないのだろう。
 これもまた、環の一つだ。
 これも、育み伝えていくべき、人の情なのだ。


~~~居酒屋~~~

「……そうか。あん野郎、逝っちまったか」

「あぁ。……お前も仲良くしてくれていたからな、話しておきたかった」

「だーっ、先生もあめぇんだって。俺はあいつとは違って、妖怪嫌いだぜ?」

「……」

「……はぁ。……っ!」グビッグビッ

「かっはぁ! 親父! 一升瓶もってこい!」

「あん!? どうした、大将!」

「弔い酒だ。飲み明かすぞ、てめぇら!」

「うっす!」「うっす!」「誰の弔い酒ですかぃ、篠坂さん!」

 ざわざわ……

「……有難う、篠坂」

「俺はただ、辛気臭ぇのは嫌ぇなだけだ、先生」ケッ

 若頭は酒を煽った。
 あの日から、涙は流さないと誓ったから。
 代わりに夜通し騒いで、人の死を盛大に弔った。
 口にはしない、言葉を紡ぎながら。


~~~人里・中央通り~~~

 彼の歴史が世界に戻る。
 終わってしまった物語が、再び皆の心に刻まれる。

 

 それを思い出し、何かを感じる者達がいる。

「あら、霊夢じゃない。珍しいわね」

「まぁね、アリス。ちょっと、里の側に出来た寺に用があったのよ。……――」

 

 それを知らず、何も感じぬ者達もいる。

「我々の寺は人妖問わず、誰の悩みも聞き、受け入れる事を……――」

「命蓮寺の地を均し、建造のお手伝いをしたのは守矢! 守矢神社です! その他にも……――」

 

 されとて、それが当然だ。
 繋がりは人それぞれ違うのだから。

 

 それでも、幻想郷は変わらない。

 だからこそ、世界はその歩を進めていける。

 なかったことになどせず、誰かの心に、確かに残り続けるのだから。


~~~人里近くの新寺~~~

「……おや? 早速、入檀希望の方でしょうか!?」キラキラ

 私は知った。彼が吸血鬼の娘にくれた、思い遣りの絆を。

「いえ、新しく出来たお寺を見に」

「そう、ですか。……貴女、半妖ですよね?」

 私は気づいた。歴史には刻まれない、彼の思いを。

「そういう貴女も、人であった名残がありますね」

「やっぱり、分かるのかしら。ねぇ、雲山」

 私が抱いた素直な気持ち。

『……』ニッコリ

「ふふっ。……ただ、墓をこちらに移したい人がいるんです」

 だから私も、その形を残そう。

「でしたら、相談は姐さ……聖様として頂ければいいかと」

「ひじり様?」

 そして、心の中で、彼の面影を覚え続けていよう。

「はいっ! ここ、命蓮寺の長者様ですっ!」パァッ


~~~命蓮寺・客間~~~

   ガラッ

「! ……どうも」ペコッ

 

 吸血鬼の少女に思い遣る心をくれた、兄としての気持ちを。

 

「お待たせいたしました。ここ、命蓮寺の化主をしております、白蓮と申します」ペコッ

「人里で寺子屋を営んでいる、上白沢です」

 

 私の心配をしてくれた、同僚としての優しさを。

 

「人里で。それは、良い事を聞けました。……本日は墓を移したいとの相談とお聞きしましたが」

「はい。最近、死んでしまった男の人を、きちんとした墓に入れたいと思いまして」

 

 母と兄弟を想い続けた、人の子としての強さを。

 

「なるほど。ご家族の方は?」

「いません。彼は元々、“神隠し”で幻想郷にやって来た人でしたから」

 

 後悔に悩み、夢に怯えた、泣き虫だった弱さを。

 

「……なるほど。でしたら、こちらで看る事は可能です。が、良いのでしょうか?」

「よい、とは?」

 

 あの陽のように暖かく、私達を包んでくれた人を。

 


「我々は人妖の平等を目指し、戒律の一つとし、実際に妖怪の僧も寺におります。
 対し、未だ妖怪を好ましく思わない人がいる……という話も、とある少女らから聞いています。
 ですので、その方が妖怪についてどうお考えかによっては、ここに合祀するのは御仏にとって良くないと思いまして」

「それならば大丈夫です。彼は人妖問わず等しく接する……優しい、人だったから」フッ

 

 那由多の夢を拓いた、愛しき人を。

 

「……これは、失礼な事を聞いてしまったようですね。分かりました、こちらでその方の墓を管理させていただきます」

「有難うございます」

 

 そう、

 

「いえ。……ところで、その方のお名前は?」

「あぁ、そうでした。……――」

 

 彼の名は――

 


 

 

 ――伊東 陽向

 

 


~~~是非曲直庁・日之本の他の審問所~~~

「――……、私の前の席へ」

『……――!』

「……私が貴方へ沙汰を下す、ヤマの四季です」

『……』ペコ

「さて、貴方の生前の行い、既にこの浄瑠璃の鏡にて見させて貰いました。
 本来ならば貴方の口からも話を聞くのが定常でしたが、今では時間をかけるなとの意向です。
 なので、前置きは省き手短に判決を述べましょう」

『……』

「貴方は生前、己が身を崖から落とし、自害をはかった。
 これは生を無為に投げ捨てる、他者を巻き込まぬ形としては最大の罪……親不孝の極悪行となる。
 よってこれに、等活地獄行きの沙汰を下す。
 異論はありますか?」

『……―――』

「結構。これで、行先はもう変わりません。
 ……ですが」

『……?』

「貴方は自殺した後、幻想郷と呼ばれる地に迷い込み、教え導く者として立ち居振る舞った。
 これは己が罪に向き合い“役”を全うするという事であり、親孝行の善行となる。
 その行いは自ら意識して成したがゆえに、地獄にて行われる罰による贖罪よりも、尊いものです。
 ……本来ならば、あり得ないが為に、余計に」

『……』

「よってこれに、罪の減刑という裁量を加えましょう。
 それが、冥銭の対価というものです」

『……――。――――――――――』

「礼を言われるようなことではありませんよ。私はただ、貴方の行いに白黒つけただけです。
 よって、刑期は獄歴一年……人の言う処の五十年と処す」

『……?』

「……人手が足りないのは、何も十王だけではないのですよ」ハァ

『……―――』

「……ごほん。
 刑期が終わり次第、輪廻の中へと戻ることになります。
 その時まで、行きたい先を忘れることなきよう」ニコッ

『……はい』

「好い返事です。
 ……これにて!」ビシッ

『……』

 

「我ヤマザナドゥによる、第拾参億四千百弐拾弐万参千弐百参拾参回、閻魔王裁判を……閉幕とする!」

 

 

                                              東方陽那拓       結


以上で投下を終了します。陽向と那拓の話は終われど、物語は生きる者達の心へと

 

残り、妖夢ともう一つの話をまとめて東方陽那拓EXという形で一週間後に

なお、別の過去話の件は個別にスレを立てる事にしましたので

それでは、まだもうちょっとだけ、また


~~~幻想野原~~~

「……こっちね」フワッ

「……」

「地底のさとりでもなく、無縁塚の方でもなかった……あれは一体、誰の差し金なのかしら?」

「……。……っ」ピクッ

 

    ぁ……き、え……】

 

「……残滓。また、出て来ていたのね」

 ……や……だ……き……え……】

「放っておいても消えるでしょうけど」シュッ

  た……ガッ】

  ]

 |

 

「気に食わないの、おまえは」

 


「……ん?」

 

 『……』○フヨフヨ

 

「……那拓」

 『! わんっ!』 ○?

「呪ば……いえ。約束、終わったのね。ということはそこの魂が?」

 『へっへ……っ! くぅ~ん……』 ○……

「……何か、あったのね。……」スッ

 『……』 ピトッ ○

「……妖夢! ……そう。貴方が、守ってくれたの」

 『くぅん』シュン ○ナデナデ

「えぇ、まだ分からないわ。けれど、そんなに簡単に死ぬ子じゃない」

 『……わんっ!』○ジッ

「駄目」

 『!?』 ○ビクッ

「貴方達はもう、冥府へ向かいなさい。私の来た方角を行けば、じき三途の川につけるから」

 『……』 ○……

「……迷ってはだめよ。また、あいつに取り込まれてしまいかねないのだから」ナデ

 『~♪ …………わん』 ○

「……良い子ね。それじゃぁ主さん、さようなら。閻魔様に出逢ったら、宜しく伝えておいて」

  ○……コクッ

「……。……っ!」フワッ

………………

…………

……

 


 


~~~春~~~

「たぁーーーーっ!」ブンッ

 ズッ…… ドォン……

「ふぅ……。薪はこれで足りるかな。……」チラッ

「……斬れ筋、悪いな」ボリボリ

「……(謎の怨霊紛いがあの子を強奪して、はや三ヶ月。下界では雪が解け、春度が充ち始めている頃」

(私は……修行に明け暮れていた)

「枯れ木だったのに。これも、まだ、修行が……!」グググッ

(己を強く、罰するために)

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『あの子はもう、成仏したわ』

『……っ!』

『でも、安心なさい。あの侵入者と同化したわけではなく、純粋にあの子として、旅立ったから』

『……』ハァ

『……』

『……幽々子様。それは、幽々子様が送り届けたのでしょうか』

『いいえ。無縁塚から戻ってきた時には、既に同伴していた』

『同伴? ……他に、誰かと……?』

『えぇ。あの子のご主人様と一緒に』

『……あの子の事は、全て知っているのですね。幽々子様……』

『すべてではないわ。あの子が話してくれた事だけ』

『……』

『……あの子はね――』

『……聞きたく、ありません』バッ

『――貴女……そう』

『……私は……聞ける、立場にありません……』ツゥ

『……そぅ。やっぱり、貴女は半人前よ。妖夢』

『……』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……」

「……っ!」シュッ

(私は……痛感した。ただ一人でさえも守れないのだと)

「はっ……!」シュッ

(一匹の畜生でさえも、守れないのだと)

「ふんっ……!」ブンッ

(その声さえも、分からないのだと)

「はぁーーーっ!」ブンッ

(見届けることも、出来ないのだと)

「……いやぁーーーっ!」スパァンッ!

「……」

   ……ッコーン

「……おじいちゃんのようには、成れないのかな」ボソッ

「……でも、だから」グッ

(私は自分に科そう)

(剣の腕も、物事を悟る術も、声を聴く事も)

(それを達人に足るとするまで、幽々子様の知ることを知らぬままでいようと)

(私を救ってくれた恩ある者の……あの子のことを、知らぬままでいようと)

(されど、忘れずにいると)

「……魂魄妖夢。全身全霊をかけて、二度とこの失態は犯さないと……!」ギリッ

「真実は斬って知るもの。それは畜生とて変わりなし!」

 

(……先はまだまだ、永いなぁ)

 


東方陽那拓 妖夢―那拓之側 閉


―― 東方陽那拓 EX Side ――


 

  {}

 

    {○}

 

    {●}……

 

    { ●}……

 

    {● }……

 

    { ● }ギョロッ

 

   私  は  見  て  い  た




~~~???~~~

「……」ツゥ

{「紫様。“種”が他にいない事、確認してきました」}トン

「そぅ、ご苦労様」

「……? どうかなさいましたか?」

「……何でもないわ。それより、無様なものね」チラッ

「……人間が一人、犠牲になったようですね。やはり私が手を貸すべきでしたか?」チラッ

「それでは余剰よ。それに、あの寺子屋の半妖ならばともかく、後の二人に知られては他に広まりかねない」

「そうでした。上白沢さんだけでしたね、暗黙を知っているのは」

「そう。……」フゥ

「?」

「……」ジィ

「……必要な人材でしたか?」

「在れば良い人材だったわ。思わぬ拾い物……という程でもなかったけれど」

「それにしては、残念そうですが」

「……」グイッ

「っ!」

「……」

「……」

「……」


「……幻想郷を愛してくれる人、だったわけですね」

「……」

「貴女ではなく」ギンッ

「そうよ」

「……」

「私ではなく、“このスバラシイ世界”を見つめていた人。能力も霊力もない、けれど、いつか必要になる人種」

「……ならばやはり、助けるべきだったのでは。それとなくするのなら、こかせるなりで済んだはずです」スッ
            み
「駄目よ。妹の方を監視ていて分かったことだけれど、あの男はその失態だけで強く自責する。
 そうなればあれを強く意識させる羽目になったわ。
 そして、価値観を変えてしまったでしょう」

「監視ていた方に、ですか」

「助ける価値が僅かあるのに、助けたら価値が失せる。そして、秩序を破る程の意味もない。
 だからただ、残念なのよ」

「……」

「それに、助けなかったからこそトリガーを引けたのよ、彼は」

「はい?」

「……」

「……そのあたりに興味はありません。とにかく、紫様が納得しているのでしたら、それで構いません」

「そうね、これ以上は話しても仕方ないこと。人がただ一人死んだ、今回の騒動はそれで終わりね」

「……」

「……眠るわ。結界の管理、任せたわよ」

「御意に」

………………

…………

……


~~~~~~~~~

 

{―なんだ、ここは。海に飛び降りたはずなのに……―}

 揺蕩う

{―っざけんなよ、おい! ムショの監察官どもはどこに……ぎゃぁあああ!―}

 浮き、沈む

{―死ねるなら……どうでもいい……―}

 意識、世界

{―虫だけはいやだあああああ!!!―}

 外と中

{―くすりなんかより、よっぽど、とべ、ふふっ、ふへへ……―}

 均衡と役割

{―…………―}

 生と死

{―新天地、なのか。やった、逃げ切れたんだ……!―}

 

 それを私は見続ける

 

 夢の中で

 


{―ん? 地霊殿には来てくれないのか、って? ……あんたの主人が嫌いなのよ―}

 乙女の言葉を見つめ

{―最近、あまり妖怪が暴れてくれませんねぇ―}

 世界を巡り

{―うぅーん。冬の終わりは仕事が残ってしかたないや―}

 変わらぬものを確かめて

{―……永琳。今年の桜はどこで見ようかしら?―}

 安堵し

{―……梅はもう少し。……ふふっ―}

 どこか、落胆する

{―永かった夜が短くなってきて、やになるわねー、咲夜―}

 それを春夏秋冬

{―大ちゃん、おはよう。今度、人里に遊びに行くぞ? あいつが寺子屋にいるって言ってたからな―}

 何度も繰り返し

{―……どうしたんだ、そんな怖い顔をして―}

 幻想郷を守りつづ……け……?

{―おぉっ。……死体からきの……―}

 ……

{―うん! 秋にな、アリスと一緒に人里に行ったんだけどさ……―}

 …………

 ………………

 

 { }パッ

 


~~~霧の湖~~~

 { }トンッ

「……」チラッ

「あの時、竹の水筒くれたやつがあたいの劇を見てたんだ」エッヘン

「――! ――~~?」

「その前にも雪かきしてたんだけどな。だから大ちゃん、二人で行って驚かせよっ」ククク

「……ねぇ、チルノ」

「うわぁっ! あっ、紫!」

「!?」

「その、竹の水筒をくれた人って、地味な男の人かしら?」

「そうだけど、お前には関係ないだろ。というか、急に出てこないでくれる!?」

「……」

「な、なんだよ。また急に黙ってさ」

「……ふふっ」

「……?」

「まだ、隠されているのに覚えているのね。……ふふっ。フフフフフ」

「うわぁ……。大ちゃん、放っておいてあっち……」

「……ねぇ、チルノ」

「……ぅー、なんだよぉ」


 

   私の弟子に、なってみるつもりはないかしら?

 


 

 ないっ!

 


以上で東方陽那拓を終わります。彼の物語は終われど、枝葉は続く、新世界へと

 

ここまで読んで頂き、有難うございました。東方陽那拓は完結でございます

最後、EX内は私の別の作品へと繋げる為の展開です

ですので、陽那拓だけ読みたかった方はこんなEX、なかったことに……

 

あちらもですが、無駄に待たせてしまうことが多かったと思います

それについて謝罪と、読み切って下さった方々に感謝を

そしてまた、別の機会に出逢えることを

それでは、さようなら

途中フランダースとパトラッシュを書き間違えていたのが物凄い痛恨でしたと断末魔の叫び

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