苗木「…ドーナツ」朝日奈「!」セレス「?」 (349)

朝日奈「何々!?ドーナツがどうかしたの苗木!!」

苗木「いきなりハイテンションだね朝日奈さん」

朝日奈「そりゃ私の大好きなドーナツだもん♪」

苗木「盛り上がってるところ悪いけどさ。僕はドーナツなんて持ってないからね」

セレス「…?では、今のドーナツという言葉にはどういう意味が?」

苗木「というかさっきまでセレスさんと二人っきりだったのに、朝日奈さんは一体どこから湧いて出たのさ」

朝日奈「人を虫のように言うな!!ド、ドーナツって単語に反応して出てきただけだよ、悪い?」

苗木「いや、相変わらず元気だなと思って。そういう明るいところは朝日奈さんの取り柄だね」

朝日奈「ん?褒めてくれてるの?ありがとね苗木!」

セレス「私の会話…」

苗木「あ、あぁ、そうだった。何でドーナツってつぶやいたかだね」

朝日奈「あれでしょ?ドーナツがつい食べたくなっちゃったんでしょ?素直になりなよ苗木~」

セレス「そうなのですか苗木くん?」

苗木「そういや何でドーナツってつぶやいたんだろう」

朝日奈「ん?新手のボケ?」

セレス「つまり、無意識のうちにドーナツという単語を口から出してしまっていたと?」

苗木「不思議なこともあるもんだね」

朝日奈「ちょ、ちょっと!!そこまでされると逆に何で言ったのか気になっちゃうよ!!」

セレス「…そうですわね。一度始まった会話、答えを聞かないことには何かモヤモヤします」

苗木「いや、自分でも分かってるよ。理由の心当たりはあるんだ」

朝日奈「だからさー。引っ張ってないでいい加減教えてってば苗木!」

苗木「実を言うとね、きっかけはセレスさんを見たことだったんだ」

セレス「…?あの、言ってる意味がよく分からないのですが…」

朝日奈「それマジで言ってんの苗木?」

苗木「うん、そうだよ」

朝日奈「えー!?理解できないよ!私を見て『ドーナツ!』って言うならともかくさ!」

苗木「何で朝日奈さんならOKなの?」

朝日奈「だって私ドーナツ大好きだから、私見てたらドーナツを連想してくれるんじゃないかなーって」

苗木「確かにその発想も有りだね」

セレス「…あの、つまり一体全体どういうことなんです?」

朝日奈「こら、苗木、説明しなさい。セレスちゃんの頭にハテナマークが上がってるでしょ」

苗木「本当だ。困ってそうな顔してるセレスさんって可愛い」

セレス「え!?//い、いきなり何を言い出すのですか苗木くん///」

朝日奈「おー、クールなセレスちゃんが照れてる姿なんて初めて見たかも」

朝日奈「あれ?もしかしてセレスちゃんって、苗木に惚れてる?」

セレス「はぐらかさないでください」

朝日奈「はぐらかしたのは私じゃなくて苗木だよ」

苗木「ゴメンゴメン、じゃあ言うね」

セレス「まったく。あなたが早く理由を言ってくれないからこんなことになるんです」

苗木「答えを言うとね…正確にはセレスさんじゃなく、セレスさんの髪を見てそう思ったんだ」

セレス「…?」

苗木「髪のクルクルがドーナツっぽいと思って、つい…」

セレス「……」

朝日奈「ちょ!?さっきまでの照れ顔が嘘のように消えて、なんかダークネスな顔になってるよ!!?」

朝日奈「こら苗木!セレスちゃんに謝りなさい!!」

苗木「え?ど、どうして??」

朝日奈「どうしてって、セレスちゃんが傷ついたからに決まってるでしょ!?」

苗木「!そうか!表現がまずかったんだね…。ゴメンね、セレスさん。訂正するよ」

苗木「髪のクルクルが黒タイヤみたいだ」

セレス「」

朝日奈「苗木!!?あんたにはデリカシーってのがないの!?見損なったよ苗木!!」

セレス「デリカシーとかそういう問題でもない気がしますが…」

朝日奈「あ、あれ?思ったより冷静だねセレスちゃん?」

セレス「そうですわね。おそらく、あなたが怒ってくれたおかげで私の気持ちも緩和されたのでしょう」

苗木「朝日奈さんのおかげだね」

朝日奈「いや、なに他人事みたいに言ってんのあんたは!?」

苗木「ゴメン。悪気はなかったんだ」

セレス「…まあ、その言葉を信じてあげましょう」

朝日奈「え?怒らないの?」

セレス「他の方ならいざ知らず、彼が意図的に誰かを貶めるような言葉を放つとは思えませんので」

朝日奈「つまり、苗木のことを信頼してるってことなんだねセレスちゃん!」

セレス「…それなりには」

朝日奈(ん?なーんか意味深だなぁ)

セレス「ですが、私がその言葉を聞いて気分を害したのは事実です。だから私の言うことを一つ聞いてください苗木くん」

苗木「う…それを聞いたら許してくれるんだね。分かった、何でも言ってよセレスさん」

セレス「何でも…」

セレス「……」

朝日奈「おお、またとないセレスちゃんの真剣な表情」

セレス「…すみません、考えがまとまらないので保留ということでいいですか?」

苗木「?いいけど、言い出したのはセレスさんなのに変なこともあるもんだね」

セレス(…あなたが“何でも”なんて言うからです)

朝日奈「そういえば苗木は私を見てなんとも思わないの?」

苗木「さっきも言ったけど、ドーナツは思い浮かばないよ」

朝日奈「いや、ドーナツのことじゃなくて!!」

セレス(私だとドーナツが思い浮かぶのですね…)

朝日奈「髪型を見て何か思わないのかってこと!」

苗木「あ、あぁ、そういうことか。うん、今日も似合ってるよ朝日奈さん」

朝日奈「…それだけ?」

苗木「…!!そういえば朝日奈さんの髪って、よく見ると凄いッ!今更だけど!」

朝日奈「やっと気づいたね苗木!」

セレス「…確かに、後ろ髪が重力に逆らって立ってますわね。珍しいポニーテールですこと」

朝日奈「いつも毎朝、セットには気合い入れてるんだ♪でも、さすがにセレスちゃんの髪のセットには負けるけどね」

セレス「これウィッグですわよ?」

朝日奈「そ、そうなんだ」

苗木「でも、確かに不思議な反重力ヘアーだ」

朝日奈「そんなに気になるんなら私のポニーテール触ってみる?」

苗木「え、いいの?」

朝日奈「いいよいいよ!減るもんじゃないしね」

苗木「じゃ、じゃぁ…」サワサワ

朝日奈「…ど、どうかな苗木?」

苗木「髪もふわふわしてるけど、なんか良い匂いがする…」

朝日奈「ちょ、そんなこと近くでささやかれたら照れちゃうじゃん!///」

セレス「……」

セレス「な、苗木くん」

苗木「?どうしたのセレスさん?」

セレス「私の髪だって…」

朝日奈「あれ。私に対抗心でも出てきちゃった?セレスちゃん」

セレス「そ、そういうのではありません」

朝日奈「苗木!セレスちゃんも髪触っていいって!」

苗木「え、セレスさんがそんなことを?」

セレス「…べ、別に嫌でしたら触らなくて結構ですことよ」

苗木「そっか。実を言うとね、前々からセレスさんの髪は気になってたんだ。どんな構造になってるんだろうって」

セレス「…まだドーナツに見えますか?」

苗木「うん。おいしそうだよ」

朝日奈「何言ってんの苗木!!?ドーナツを『おいしい』って言うのは私の台詞だよ!!」

セレス「とりあえず二人ともおかしいことは分かりました」

苗木「じゃあ遠慮なく。失礼するよセレスさん」サワサワ

セレス「ん…っ、何だかくすぐったいですわね」

苗木「でもこれウィッグなんだよね」

セレス「さっきの会話、聞かれていましたか。これは迂闊でした」

朝日奈(…セレスちゃん楽しそう。苗木と触れあえるのがそんなに嬉しいのかな。意外な一面を発見しちゃったかも)

朝日奈(…とはいえ、私も人のことは言えないんだけどね)

グー

苗木「?今の音は…」

セレス「お腹が鳴った音のようですわね」

苗木「セレスさん、お腹すいたの?」

セレス「私はあんなはしたない音は出しませんわ」

朝日奈「はしたなくてゴメンなさいー!」

苗木「ああ、今の腹の音は朝日奈さんだったんだね」

朝日奈「は、恥ずかしいよぉ…こういうの聞かれちゃうなんて」

苗木「そうかな?別に気にすることじゃないと思うけど」

朝日奈「あのね苗木!女の子ってのは、男の子の前だとそういうの気にしたりするもんなの!」

セレス「もしかして、苗木くんのドーナツ連呼に触発されてお腹でもすいてしまわれたのですか?」

朝日奈「当たり!全部苗木のせいなんだよ!!」

苗木「うぅ、ゴメン。まさか触発されるとは思っていなかったよ。さすがドーナツ好きは伊達じゃないね」

朝日奈「ふふふ、ドーナツ属性をなめてもらっては困るよ苗木!」

セレス(私の髪型はドーナツ属性ですか…)

苗木(セレスさんが深刻な顔をしてるように見えるのは気のせいだろうか。たぶん僕のせいだろうけどね)

朝日奈「苗木やセレスちゃんはお腹すいてない?昼なんだし、一緒に食堂に行こうよ!」

苗木「そういえばそろそろ昼食の時間だね。じゃあ僕も食べるとするかな」

セレス「私もそれに賛成ですわ」

苗木「そういえば今日って朝日奈さんとセレスさん以外の生徒を見かけないね。どうしたんだろう」

朝日奈「みんな実家に用があったり仕事があったりと、各々の事情で今日は学校にいないみたいだよ」

セレス「あら。そうでしたのね」

朝日奈「おかげで苗木とセレスちゃんとたくさん話せたけどね!
特にセレスちゃんとはあまり話したことなかったから、嬉しかったり!」

セレス「私もですわよ朝日奈さん。一緒にいて退屈しませんこと」

朝日奈「じゃあドーナツ食べる?♪」

セレス「文脈が意味不明ですが、あなたと一緒にいると楽しいのは事実ですわね」

こうして僕らは食堂へと向かった

朝日奈「それにしても、食堂にもドーナツが置いてあればいいのに…」

セレス「まだドーナツの話題を引っ張りますのね」

朝日奈「これも、そもそも苗木がはじめにドーナツを連呼しちゃったせいなんだからね!」

苗木「つられちゃったってこと?」

朝日奈「そ。言いだしっぺの法則だからね」

苗木「なんかそれ意味が違う気がするけど…まぁいいや」

朝日奈「そういえばセレスちゃんには何か好きな食べ物ってあるの?」

セレス「…私ですか?もちろん餃子です」

朝日奈「即答ってことは本当に餃子が好きなんだね!?というか、びっくりしちゃった」

セレス「あら。どうしてでしょう?」

朝日奈「だってセレスちゃんだったら、格好や雰囲気的に西洋の食べ物やお菓子が好きなのかなと思ってたからさ」

セレス「そちらも好きですよ。ただ、一番は餃子。ただそれだけのことです」

朝日奈「おぉ!なんかセレスちゃんがカッコいい!!私もそんなふうに華麗にドーナツ好きを宣言してみたいかも!」

セレス「あなたならきっとできますわ。自信をもってください朝日奈さん」

苗木(この二人と比べると僕ってスゴく無個性な感じがするのは気のせいじゃないよね…)

各々の食事をテーブルに運び終え、昼食をとり始める三人

苗木「いただきまーす」

朝日奈「ところでセレスちゃんってさ」

セレス「何でしょう」

朝日奈「苗木のこと好きなの?」

苗木「」ブフーッ!

セレス「…危ないところでした。私も口に何か含んでいたら、苗木くんみたいにきっと吹いていたことでしょう」

朝日奈「で、どうなの?」

セレス「仮にも本人を目の前に話す話題だとは思えませんが」

朝日奈「…そういう言い方をするってことは、やっぱりセレスちゃんって――」

苗木「…!!」

セレス「朝日奈さん。私は今お腹がすいてたまらないのです!…どうか食事に専念させてください」

朝日奈(うーん、この反応はやっぱり図星かな)

朝日奈「ねえセレスちゃん」ヒソヒソ

セレス「な、何です??今度は耳元でささやくような真似を――」

朝日奈「今日ってみんな学校にいないから、ある意味チャンスなんじゃないの?」ヒソヒソ

セレス「…っ!///」

苗木(二人とも何の話をしてるんだろう。セレスさんが顔を赤らめてるのは分かるけど)

苗木(まさか僕のことを?いや、まさか…セレスさんが僕を好きだなんて到底思えない)

セレス「……」ポー

苗木(…僕自身は?僕自身は、セレスさんのことをどう思ってるんだろうか…)

とにもかくも昼食を食べ終えた僕らは、各々の部屋へと戻ることにした

苗木「……」

ベッドの上で、僕は回想していた

朝日奈『ところでセレスちゃんってさ』

セレス『何でしょう』

朝日奈『苗木のこと好きなの?』

苗木「……」

さっきから何度もこの会話が頭の中で反響する。そんなに僕はセレスさんのことが気になってるのだろうか。それとも…?

苗木「……」

ダメだ、このまま考えていても埒があかない。外へ出て誰かと話せばきっと心も晴れる…はず
そう思って僕は、ふと頭に浮かんだ人物のところへ行ってみることにした

頭に浮かんだ人物とは? >>39

1 朝日奈
2 セレス

セレス「あら、苗木くん。私に何か用ですか?」

苗木「用ってわけじゃないんだけど、一人でいるのもなんかアレだったから…。迷惑だったかな?」

セレス「私も退屈していたところです。お相手していただけると嬉しいですわ」

そういうわけで、僕はセレスさんの部屋へと失礼する

セレス「ところで苗木くん」

苗木「ん?」

セレス「ここに来たということは覚悟はよろしいですか?」

苗木「…え?」

セレス「あら。まさかあなた、自分で言っておいて忘れたと抜かしやがったりはしないですよね?」ゴゴゴゴ

苗木(何か僕は彼女の気分を害するようなことでもしたのだろうか…)

『髪のクルクルがドーナツっぽいと思って、つい…』
『髪のクルクルが黒タイヤみたいだ』

苗木(あぁ、そうだった。間違いなく僕は彼女の気分を害したんだった。ついさっき)

セレス「私の言うことを何でも聞いてくれるのですよね?苗木くん?」

苗木(思い出した。それについて許してもらう代わりに、そんな約束をしたんだっけな…)

苗木「確かに僕は何でも言うことを聞くって言ったね。うん、覚えてるよ」

セレス「あの発言、本気にしてもよろしいのですか?」

苗木「本気も何も、仮に僕が否定したところでセレスさんはそれを容認しないでしょ?」

セレス「当たり前です。自分の言ったことの責任はとってもらいませんと」

苗木「じゃあ僕に本気かどうか聞く意味って、あまりないんじゃ…」

セレス「そこまで言うということは、あなたは始めからあの約束を破るつもりで、
私に一時しのぎとしての嘘の約束をした…ということなのですか?」ゴゴゴゴ

苗木「え?ち、違う違う!!別にあの言葉自体は嘘じゃないって!」

セレス「それならいいのです」フン

苗木(しまった…っ!安易に『何でも』なんて言うんじゃなかった!でもまあ、良い教訓にはなったかな)

苗木「で、でもセレスさん。お願いはあくまで僕のできる範囲内で、だからね」

セレス「では  100億円もってきてください」

苗木「『僕のできる範囲内で』って言葉の後にそのお願いは正直おかしいと思うんだ」

セレス「では  100億円に変身してください」

苗木「もっと悪化してるよね。というか、それ人間にできる芸当じゃないよね」

セレス「やはり『何でも』は嘘だったのですね。理不尽です」

苗木「それ以上にセレスさんが理不尽だよ」

セレス「冗談です」

苗木「…え?」

セレス「だから冗談です」

苗木「!?い、いやいやいや!!一体どこからが冗談だったのさ!!?」

セレス「もちろん、それは100億円のくだりからです」

苗木「あぁ、そっか。そりゃ冗談だよね。ハハハ」

苗木「…ってことは『僕に何でも言うこと聞かせる』のあたりはやっぱ本気なんだね…」

セレス「当然です」

苗木「でも、僕個人にできることなんて限られてるよ?」

セレス「そうやってまた話題をそらすのですか?」

苗木「え」

セレス「そこまで言うということは、あなたは始めからあの約束を破るつもりで、
私に一時しのぎとしての嘘の約束をした…ということなのですか?」ゴゴゴゴ

苗木(あれ?デジャヴ?)

セレス「……」ジー

苗木(セレスさん…無言で見つめなくても分かるよ。つまり、黙って言うことを聞いてればいいんだよね。僕はそう悟った)

苗木「しかし、セレスさんも物好きだね」

セレス「?それはどういう意味でしょう?」

苗木「いや、そこまでして僕に言うことを聞かせたいんだなと思って」

セレス「それはあなたが自分から言いだしたことでしょう」

苗木「そりゃぁまあ、そうなんだけどさ」

セレス「そう警戒なさらないでください。別に無理難題を言いつけようとしてるのではありません」

苗木「だったら、冗談でもさっきの100億円云々はやめてほしかったな…」

セレス「あれはつい魔が差したのです」

苗木「魔が差すって便利な言葉だよね」

セレス「とにかく、私の言うことを聞いてくれますか?」

苗木「もう一度言うけど可能な範囲でね」

セレス「そうですわね…では――」

セレス「苗木くん。今から私の椅子になりなさい」

苗木「へ?」

正直思った。この人は何を言ってるのかと

セレス「私の言うことが聞けなかったのですか?椅子になりなさいと言ったのです」

苗木「え、ええっと…」

彼女の顔を見るが相変わらずの無表情だ。冗談なのか本気かすら分からない

苗木(でも、さすがにまた冗談ってことはないよね…)

ということは本気か。けど人間に椅子になれって、一体どういう――

苗木(ああ…つまり人が座れるような椅子の体勢になれってことか)

なんとも屈辱的な内容だが、とはいえ実行不可なわけでもないので渋々それに従うことにする

苗木「こ…これでいいのかな?セレスさん?」

床にひざまづいて背中を高く上げる。何で僕はこんなことやってるんだろうか…

セレス「ダメですわね。綺麗な台形になっておりません。もっと頭のほうを下げてください」

苗木「……」

思うところはあったが愚直に従うことにした

セレス「では、座らせてもらいますわね」

そう言ってひざまづいた僕の背中に本当に座るセレスさん

セレス「なかなかの心地ですわね」

どうやら僕の背中はなかなかの心地らしい

苗木「でもセレスさん…どうしてこんなことを…」

意味不明にもほどがある。現に、座る場所ならこの部屋にベッド、本物の椅子とかいくらでもあるじゃないか

セレス「どうしてですって?それは…」

セレス「相手が苗木くんだからです」

苗木(ますます意味が分からなくなった…)

いや、『相手が苗木くんだから』ってことは、単なる僕への嫌がらせ?なるほど、確かにそれなら筋は通る

苗木(そんなにドーナツや黒タイヤ発言が彼女を深く傷つけ、僕への報復へと走らせたのか…?
タイムマシンがあるならあのときの僕をぶん殴ってやりたい)

……

というか――

苗木「あの、セレスさん?これ…いつまでやってればいいのかな?」

軽く5分はすぎたような気がする

セレス「もう少し待ってください」

苗木(もう少しって後どのくらいなんだ…)

このままひざまづいてても退屈なだけなので他のことを考えようとするが、そのときふと意識が背中のほうへといった

苗木(そういえば今の僕の状態って…)

見れば分かるがセレスさんが背中に座ってる。ということは当たり前だが、
彼女のお尻と太股が背中にあたってるということになる

苗木(…!!ぼ、僕は何を考えて…っ!)

一度意識してしまうと止まらなかった。やはりというか、背中にあたる感触が…
女の子特有の柔らかさを感じ取ってしまったから

苗木(これじゃ変態じゃないか僕は…)

まあ…この状況がすでに変態的なんだけど

セレス「ご苦労でしたわ。苗木くん」

それから3分くらいして、ようやく僕は彼女から解放された

苗木「や、やっと終わった…」

セレス「それでは次の命令は――」

苗木「!!?ちょ、ちょっと!!」

セレス「そんなに慌ててどうしたのです?」

苗木「いやいや…次の命令ってどういうこと??」

セレス「言葉通りの意味です」

苗木「てっきり僕は一回だけだと思ってたんだけど…」

セレス「あら。回数制限に関しては特にあなた自身が言及なさらなかったじゃない」

苗木「……」

苗木「もしかして、僕の背中に座ってる間、ずっと次の命令について考えてたの?」

セレス「ご名答です」キリッ

苗木(『もう少し待って下さい』ってそういうことだったのか…)

苗木「けど、さっきの命令といいこれからする命令といい、要は目的は僕への嫌がらせなんでしょ?」

セレス「あら。どうしてそう思ったのでしょう?私は、相手に嫌がらせをするような陰湿な人間ではありません」

苗木「……」

セレス「なぜ黙るのです?」

苗木「いや、何でもないよ」

セレス「まあ言わないでおくのもアレですし、ここらへんでネタばらししておきますか」

苗木「ん?ネタばらし?」

セレス「ですから、先ほどからの私の行為についての理由ですよ」

苗木「だから【それって僕への嫌がらせ】――」

セレス「違います」

BREAK!!!

苗木「はい」

凛とした表情で『違います』と言われたので、思わず背筋が伸びた。ちなみに論破された

セレス「答えを言いますと、苗木くんへのテストです」

苗木「テス…ト…?」

セレス「私のナイトにふさわしいかどうかの、ね」

苗木「……」

セレス「なぜそこで黙るのです?」

苗木「反応に困ったから」

セレス「即答ですか。あなたもなかなか言いますわね」

苗木「そうだよ。僕だって言うときはちゃんと言うんだ!」

セレス「それではナイト失格です…。ナイトとは、常に主君に忠実たるものです」

苗木「あのさ…。そもそもの前提として、僕はセレスさんのナイトになるなんて一言も言ってないんだけど…」

セレス「それを決めるのは私です」

苗木「えぇ…」

苗木「あの、なら一つ聞きたいんだけど、さっきの人間椅子がナイトと何の関係があったの?」

少なくとも、僕が知る限りではナイトと人間椅子には因果関係が見当たらない

セレス「あの私の命令に対して、あなたはどう思いました?」

苗木「え?」

セレス「さぞ屈辱…だったのではないですか?」

苗木「……」

苗木(この人はそれを知ってて敢えてやってたのか…)

苗木「だ、だったら何なの?」

セレス「さっきも言いましたわよね。ナイトたるもの、常に主君には忠実でいなければならない…と」

苗木「つまり忍耐を試した…?」

セレス「そう言って差し支えないですわね」

…なるほど。屈辱的な命令にも従えるのなら、他のありとあらゆる命令にも従えるはずだっていう、
言わば試金石だったってわけか。僕は凄く納得いかないけど

苗木「でも、やっぱりおかしいよ」

セレス「どうしてそう思うのです?」

苗木「自分で言うのも悲しいけど…僕は体格だって良くないし、何より喧嘩や格闘だって強いわけじゃない」

セレス「だからナイトには不向き…だと?」

苗木「そうだよ。【本来ナイトっていうのはそれが絶対条件のはず】じゃないか。それをすっ飛ばして僕を試したって、意味が――」

セレス「その言葉、撃ち抜きますッ!!」

BREAK!!!

苗木「!!?」ビクッ

セレス「誰が絶対条件だと決めたのです?」

苗木「え?」

セレス「ナイトを決めるのは主(あるじ)です。ならば、ナイトの定義を決めるのもまた主です。私は…苗木くんのことを…」

苗木「…セレスさん?」

セレス「では次の命令にいきます」

苗木「え!?さっきの言葉の続きは!?」

セレス「あら。そんなに聞きたかったのですか?」

苗木「そんなにってわけじゃないけど…あんなブツ斬りされると逆に気になっちゃうっていうか…」

セレス「たいしたことではありませんよ。ただ、私は――」

セレス「苗木くんのことが…。決して嫌いではないということです///」ニコッ

苗木「!!」ドキッ

苗木(何でだろう…今のセレスさん可愛かった気がする)

セレス「そんなことより。次の命令にいきますよっ」

苗木「次の命令…」

苗木(…?セレスさん?気のせいか顔が赤いような…)

セレス「苗木くん。私を…お姫様だっこしてください///」

苗木「えっ!!」

セレス「そこで驚かないでほしいのですが…」

苗木「いや、お姫様だっこ?え?聞き間違いじゃないよね?」

セレス「あなたの耳は正常ですよ」

苗木「と言われても…」

セレス「何を動揺してるのです?【先ほどの人間椅子と同じです。】要は相手を支えればいいのですから」

苗木「確かにどっちも支える行為には違いないけど…」

苗木(どうしてだろう。同一視することに謎の抵抗感があるぞ)

苗木「……っ!」

セレス「苗木くん?」

苗木「それは違うよ!!」

BREAK!!!

セレス「ちょ…っ、いきなり大きな声を出さないでください!びっくりしたじゃありませんか!」

苗木「あ…。ご、ゴメン」

セレス「それで、違うとは?」

苗木「人間椅子とお姫様だっこ、どうしても僕には同一視なんてできないよ」

セレス「…理由を聞きましょうか」

苗木「ずばり、それは屈辱感の有無だよ。そういう意味で捉えるなら、この二つには雲泥の差がある」

セレス「…?」

苗木「さっきセレスさん自身も言ったように、人間椅子っていうのは相手に屈辱感を与える類いの命令だ」

苗木「でもそれがお姫様だっことなると…全然違う!むしろそれをする男子にとっては…
このシチュエーションは憧れでもあったりするんだ!!」

セレス「そ…そうなのですか?女性がそれをされることに憧れを抱くならともかく、男性もそのように考えている、と?」

苗木「そうなんじゃないかな…。少なくとも、僕はそう思ってる」

セレス「…だとするならば。私の先ほどの命令、苗木くんは…」

苗木「その、なんていうか、正直嬉しかったな…って//」

セレス「そ、そうなのですか…///」

苗木「ええっと、それじゃ…お姫様だっこするよ?」

セレス「!ま、待ってください!」

苗木「え…?」

セレス「そ、そんなふうに言われると…心の準備が――」

苗木「…さっきまで意気揚々に命令を言い放ってた人はどこにいったんだか」

苗木「とにかく、お姫様だっこするからね」

セレス「え!な、苗木くん、ひゃ、ひゃぁっ!///」

僕は彼女の背中と膝裏を腕で抱き寄せる形で…勢いよく持ち上げた

苗木「…っ!」

やはりというか、腕に重みがはしる。断って言っておくと、別に彼女の体重が重いわけではない
むしろこの身長では軽い方だと思う。問題は…僕自身にあった。身長も彼女より若干低い上、
おまけに力もあるほうではなかったから。これを長時間続けるのはきつそうだった

苗木(でもやると言った手前、彼女を落とさないようしっかり支えなきゃ…!)

セレス「その…大丈夫ですか?」

苗木「あれ、心配してくれるんだ?意外だな…」

セレス「…どうして意外だと思うのでしょう?」

苗木「だって、さっきの人間椅子のときはそういうのなかったからさ」

セレス「そうでしたね…。でも、今はすぐ近くにあなたの顔が見えます」

苗木「だから僕のことが気になる…と?」

セレス「そうとも言えます」

苗木「『そうとも』ってことは、他にも理由があるってこと?」

セレス「ええ、そうですね…。というか無理にしゃべらなくて結構です」

苗木「え」

セレス「そういう作業の最中、口を動かし続けるというのは
それなりの労力を要するものです。ですから、私の話を聞いているだけで構いません」

苗木「…うん。分かったよ」

セレス「正直ですね、私は反省しているのです」

苗木「…?」

セレス「従者の立場に立って考えたことがなかったと言いましょうか…」

セレス「そのせいで、よく考えもしないでいろいろな命令を出していた気がします」

苗木(さっきの人間椅子について反省してるのかな?それなら良い兆候――)

セレス「先ほどの命令と今回の命令。一つ一つ自体は問題なかったと思います」

苗木(なんだ結局容認してるのか…僕の勘違いだった)

セレス「ですが、受け手がそれによって与えられる印象について、
私が把握しきれていなかったのは…主として落ち度だったと思ってます」

苗木「…?」

苗木(もしかして、僕がさっき言った『人間椅子とお姫様だっこ、
どうしても僕には同一視なんてできないよ』って言葉を気にしてるのかな)

セレス「正直、お姫様だっこに関して、殿方がそのような考えを持っていたことなど、
恥ずかしながら私は知らなかったのです」

苗木(そのような考えってのは、たぶん僕が言った“憧れ”ってのを指してるんだろうけど)

セレス「受け手が覚える印象を把握できていなければ、主としては致命的です
結局のところ、従者を使いこなせるかどうかは主の力量次第なのですから」

セレス「というわけで、私から苗木くんに一つお願いがあります
端的に言えば、私もそのような側に一度立って勉強してみたいのです」

セレスさんかわいい

苗木「そのような側って…どういうこと?」

しまった。聞いてるだけでいいって言われてたのに、つい口を挟んでしまった

セレス「そうですわね。その話をするためにも、この作業は終わりにいたしましょうか。というわけで苗木くん、お疲れ様でした」

苗木「おろしてもいい…ってことかな?」

セレス「はい」

苗木「分かった。じゃあおろすね」

……

終えた後に気づいた。腕は痛かったけど、同時に名残り惜しいと感じていた自分もいたことに

苗木(僕自身、もっとセレスさんをお姫様だっこしていたかったってことなのかな…)

そんな奇妙な感傷にふけていた

セレス「それにしても、これで私の夢がまた一つ叶いました」

苗木「夢って…まさかお姫様だっこのこと??」

セレス「そうですわ」

苗木「ってことはされるの初めてだったんだね…。でもそういうのって今までも機会はあったんじゃないの?」

セレス「ぶっちゃけて言うと、やろうと思えばありましたわ」

苗木「じゃあどうして…?」

セレス「私に対してそのような真似ができるのは、ランクC以上のナイトではないとダメだと、私が決めているからです」

苗木「…ということは、もしかして僕って――」

セレス「あなたは私が認めたランクCのナイトです。ですから、お姫様だっこだって託すことができたのですよ」

苗木「いつのまに僕はそんなランクに…というかナイトに」

苗木「でもセレスさんもさ、僕なんかよりカッコよくて背の高い男の人にやってもらったほうが嬉しかったんじゃ――」

セレス「苗木くんだから、私は嬉しかったのですよ」

苗木「え…」

セレス「二度は言いません///」

苗木「……っ」

どうしてだろうか。魔が差したのかどうかは分からないけど、セレスさんのことが可愛く思えてくる

セレス「さて、では先ほどの話の続きです」

苗木(先ほどの…)

苗木「あぁ、そういえば僕にお願いがあるんだったっけ。言っておくけど、
僕にできる範囲内で、だからね。というかもう何度も言ってるけど」

セレス「今回はそういった趣旨のお願いではありません。むしろ、逆ですわね」

苗木「逆…?」

セレス「私も一度、従者の立場に立ってみたい…ということです」

苗木「ええっと…」

セレス「まだ分かりませんか?では、単刀直入に言いますね」

セレス「私と立場関係を逆転させてください、苗木くん」

苗木「!!それって…」

もし僕の予感が間違いでないならば。その提案はひどく甘いものに聞こえた

セレス「男女の性差も考慮しなくてはなりません。この場合は男である苗木くんに、女である私が仕えるのですから――」

セレス「つまり私は、メイドのようなものです」

苗木「セレスさんが…メイド…」

普段の像とはあまりにかけ離れた、というか正反対の彼女の姿を想像したせいか。僕は内心動揺していた

セレス「というわけで、よろしくお願いしますわね」

そして、その言葉は放たれた

セレス「…ご主人さまっ///」

苗木「…っ!!//」

未知の感覚に襲われた

おっふ、ドM発言キタコレですなwwww
やすひろたえこ殿はなかなかに変態ですぞwwww

いつもの彼女から受ける印象とは180°違ったせいか、正直この状況を形容する言葉が見つからなかった

苗木「…!!…っ!!」

そういうわけで、僕もどう対応したらいいか分からず硬直してしまっていた

苗木(だって、こんなの初めての経験だし…)

どうすればいいのだろうか。彼女の言葉通り、セレスさんの主として振る舞えばいいのだろうか?

セレス「……」ジー

無言で僕を見つめるセレスさん。どうやら僕の返答を待っているようだ。だから僕は、精一杯の回答をした

苗木「その、いきなりのことだったから…もう一度仕切り直し、ってことでいいかな?」

セレス「…仕方ないですわね」

情けないとも思ったが、それもしょうがなかった。今の僕には、圧倒的に心の準備が足りていなかった

セレス「……」

今一度僕のほうへと向き直り、そして彼女は言った

セレス「…何なりと、私にお申しつけください。ご主人さま///」

僕は夢でも見てるのだろうか。これは心の準備がとかそういう問題じゃない
違和感全開だった。けれど、そういう感覚が決して嫌じゃない自分もいた

苗木「……」

意を決して、僕は彼女に命令してみることにした

苗木「じゃあ、僕の肩を叩いてもらおうかな」

セレス「…それでよろしいのですか?」

苗木「う、うん」

いくら従者といえど、いきなりハードな要求を突きつけるわけにもいかない。そこらへんは僕もわきまえていた

セレス「では…失礼します。ご主人さま」

彼女の手が後ろから伸びてくる。というか、いまだにこの“ご主人さま”には慣れない。変な感覚に侵されそうにはなるけど

トントントン

セレス「加減はどうでございますか?」

苗木「うん。ちょうどいい強さだよ」

セレス「それはよかったです//」

苗木(次は…そうだな)

苗木「じゃあ今度は叩くんじゃなく、揉んでもらえるかな」

セレス「かしこまりました」

そう言って彼女は静かに、されど強い力で僕の肩を揉み始める

苗木(うっ…絶妙な力加減だ…!こんなに気持ちいい肩揉みも初めてかもしれない…っ!)

苗木「いい…セレスさん、凄くいいよ…っ!」

セレス「…そんなに気持ちがいいのですか?」

苗木「うん…凄く気持ちいい」

セレス「……」

セレス「ふふっ、ご主人さまも、随分と肩が凝ってらしゃるんですね」

グリグリ

ツボを把握していたのだろうか。親指でその箇所が幾度も幾度も押さえつけられ、ますます僕は快感に陥る

苗木(!!なんて気持ちいいんだ…っ!)

苗木(というかセレスさんって、もしかしてメイドさんの才能のほうがあるんじゃ…)

そう思わざるをえない僕だった

……

苗木「本当に気持ちよかったよ。ありがとねセレスさん」

セレス「ご期待にそえて何よりです」

うーん、このセレスさんは本当にあのセレスさんなのだろうか。謎だ

セレス「次は何にいたしましょう?」

苗木「そうだなぁ…」

苗木「ところでこれっていつまで続けるの?」

セレス「私が飽きるまでですわ」

苗木「そ、そうなんだ」

セレス「!いけません。つい口調が戻ってしまいました。訂正、私が飽きるまでにございます」

苗木(ホント首尾一貫してるよなぁセレスさん…。もう尊敬の域だ)

苗木「それでセレスさん、この立場に立ってみて何か勉強にはなった?」

セレス「…具体的に何がとは申せませんが、きっとこれらの経験が
私のステータスアップとしての糧になっているであろうことは確信しておりますわご主人さま」

苗木「…あのさ、ちょっと思ったんだけど」

セレス「何でございましょう?」

苗木「僕がお願いや命令の類いをするとき以外は、普段通りのセレスさんでしゃべってもらってもいいんじゃないかな」

セレス「…私にキャラを使い分けろと、そう高度なことをおっしゃるのですか?」

苗木「別にそこまで難しく考えなくても…!?」

セレス「承知いたしましたわ。それもまた、貴方様の命令の類いだと考えることにいたしましょう」

セレス「というわけで――」

セレス「苗木くん。ぶっちゃけ、メイドとしての私はどうだったでしょう?」

苗木「とても優秀だったよ」

セレス「まあ。そうであるならば嬉しい限りですこと」

苗木「でも、個人的に言うなら――」

苗木「ちょっと刺激が強すぎたかな…」

セレス「それはどういうことでしょう?」

苗木「いや、立場が逆転しただけに普段のセレスさんとは
全然違うセレスさん?を垣間見た気がしたからさ…。内心かなり動揺してたんだよ」

セレス「そんなに普段の私とは違いましたか?」

苗木「うん。とてもね」

セレス「では、苗木くんからすれば【どちらの私が好み…でしたか?】」

苗木「それは違うよ!」

BREAK!!!

セレス「…ということは。どちらの私であっても、苗木くんは私のことが嫌いだと
そう受け取ってもよろしいでしょうか。正直これは…こたえますね…」

気のせいか、セレスさんが涙目になっていたような気がした。僕が…泣かしたのだろうか?

苗木「ま、待ってセレスさん!!僕はそういうことを言いたいんじゃないんだッ!!」

セレス「…というと?」

苗木「僕が否定したかったのは、どちらか一方のセレスさんを選ぶことなんてできないってことだよ」

苗木「だって…どちらにしろ、それがセレスさんであることに変わりはないじゃないか
どっちもセレスさんが持つ一面じゃないか!」

セレス「苗木くん…」

苗木「だから…!僕はそれらを含めた上で、セレスさんのことが好きなんだよ!」

セレス「……」

セレス「…あの。今なんと?」

苗木「セレスさんのことが…好きだ」

セレス「っ!!」

苗木「……」

苗木(何を言ってるんだ僕は…?これじゃまるで本当にセレスさんのことを…)

セレス「……」

セレス「ねえ苗木くん。よかったら、私のナイトになってくれませんか?」

苗木「…?セレスさんの中では、すでに僕はCランクのナイトだったんじゃ…」

セレス「確かに。ですがそれはあくまでCランク
私は、あなたを本格的なナイト、即ちBランクに招待したいと思っているのです」

苗木「…そのBランクってのは、セレスさんにとってはかなり重要な意味をもってる…ってことでいいのかな?」

セレス「そう受け取ってもらって構いません」

苗木(そんな重要な位置に、僕を…)

セレス「先ほどあなたからは、私のことを好きだという回答をもらいました
ならば、少なくとも私のことを嫌ってはいないということのはず」

セレス「だからこそ、私はこのような提案をしたのです
あなたが嫌でなければ…ぜひ私のナイトになってほしいと、そう思っているのです」

苗木(セレスさんのナイト…か)

確かに、セレスさんに対して好意をもっているのであれば、この提案はさぞ魅力的なのだろう。けれど――

苗木「……」

その関係に納得しきれていない自分がいたのも、また事実だった

朝日奈「別にさー、アタシも苗木のこと好きって訳じゃ無いけどさー、こうも何も起きないでさー、モブというか、脇役ばっかで安価もとってもらえないとさー、なんかさー………」ブツブツイジイジ

苗木「残念だけど…」

僕が出した結論――それは

苗木「僕はナイトにはならないよ」

セレス「ッ!!そん…な…」

さすがにこの流れで断られるとは思っていなかったのか。いつもの無表情らしからぬ彼女の姿が、そこにはあった…

セレス「どうして…。どうしてですか!どうして私のナイトになってくれないのですか!?」

セレス「私のことを…好きだと言っていたじゃありませんか…っ」

彼女を傷つけた。そう思うと、心が痛んだ。けれど僕だって…譲れない一線があるんだ

苗木「そうだね。確かに僕はセレスさんのことを好きだと言った」

セレス「なら、どうして…っ」

苗木「好きだからこそ…!僕はナイトという地位に甘んじたくないんだよ!!」

叫んで、そしてようやく自覚した。そうか…僕はセレスさんのことを――

セレス「っ!!」

驚いた彼女の表情がある。僕は言葉を続ける

苗木「ナイト…それがセレスさんにとって重要な意味をもつことは分かってる」

苗木「けどそれって、どこまでいっても結局は…主従関係の延長線上なんだよね」

セレス「…嫌ですか?」

苗木「僕は…そういうのは嫌なんだ」

セレス「では、逆に私が従者の立場になればよろしいのですか?そんなに、私を苗木くんの専属メイドにしたい…と?」

苗木「いや!そういうことじゃなくてね!!どういう立場であるにしろ、主従関係自体を僕は望んでいないんだ」

セレス「…そこまで言うなら聞きましょうか。なぜ、あなたはそこまでして主従の関係を拒むのです?」

苗木「それは――」

苗木「僕は、その先の関係を望んでいるから」

セレス「その先の…関係」

僕の言った言葉を、彼女は確認するかのように復唱した

苗木「たぶんセレスさんは…。僕がさっき言った『好き』って言葉を、誤解してるんだと思う」

セレス「……」

苗木「セレスさんは…あれを主従としての“好き”だと取ったんだよね
メイドとしてのセレスさん、そしてそれより前だと、逆に主としてのセレスさん…
いずれにしろ、そういう主従の話の流れから、僕は『好き』だと言ってしまったんだ
文脈上、そう取られるのは仕方のないことでもあるし、実際それについては僕にも責任がある」

苗木「だからこそ、今一度ここではっきりさせておくよ。僕はセレスさんのことを…主従とか関係なく――」

正直恥ずかしさのあまり、言おうかどうか躊躇していた自分もいた。けれど、それでも言おうと決意した
一息ついて…。そして僕は、精一杯の勇気でその言葉を投げかけたんだ

苗木「一人の女の子として、僕はセレスさんのことが好きなんだよ」

セレス「……」

セレス「何を言い出すかと思えば。あなた、自分が何を言ってるのかお分かりですか」

苗木「……」

返ってきたのは厳しい言葉だった。けれども、不思議と不快感は覚えなかった
そう言う彼女の顔が なぜか悲しそうに見えたから

苗木「…どういうこと?」

セレス「そのような関係に本当になれるのかと、私は言っているのですよ」

苗木「……」

セレス「今までの私との会話を思い出してください
そのやり取りの中で、常にあなたは私の言うことを聞く形で動いていましたよね」

セレス「あなたがもし私と対等な関係でいたいというのなら、苗木くんにはできるのですか」

セレス「自ら、相手のために何かできることが」

苗木「…!!」

核心をつかれたような気がした。そしてある種、正論でもあったように思う

セレス「私と恋人…仮にそういう関係になったとしましょう。それで苗木くんは、一体何をしようというのです?」

苗木「子作り」

苗木「……一緒に、餃子を作ろう」

苗木「それは…っ」

セレス「恋人らしい行為。その数、種類は様々ですが、どれか一つでも実行できる度胸が…あなたにお有りですか?」

苗木「……っ」

セレス「苗木くん、別に無理をする必要はないのですよ。ただ、私はあなたにナイトになってもらえれば――」

苗木「セレスさん!!」

僕は彼女の言葉を遮った。ほとんど衝動的だったと思う

セレス「な…何でしょうか」

苗木「……」

苗木(僕だって…。やるときはやるんだ…っ!!!)

その覚悟を見せつけない限り、セレスさんとの関係は一生変わらない。それは理解できていた

セレス「え…な、苗木くん…っ?」

そして考えるよりも先に――僕は体が動いていた

ズキューーーz___ン!!

苗木「……っ!!」

セレス「!?な、何をし――、ん…っ!!///」

僕はセレスさんに キスをした

苗木「…っ!」

セレス「苗木…くん…?//」

いったん唇を離した僕は  間髪いれず、もう一度彼女とキスをした

セレス「ん…//」

苗木「…セレスさん。これが僕の、本気だよ」

セレス「苗木くん…っ」

セレス「!!」

セレス「ぶ、無礼ですわよ!!断りもなく、どうしていきなりこんな――」

苗木「セレスさんのことが好きだから」

セレス「…ッ!!」

苗木「……」

セレス「そ、そんな真剣な顔で告白されて、そして見つめられたら――」

セレス「…!!も、もう何も言えなくなってしまうではありませんか…っ」

苗木「セレスさん…。僕の本気、分かってくれた?」

セレス「……」

セレス「…さすがにここで否定するほど、私も野暮な人間ではありません」

セレス「――ですが。言うべきことは言わなければなりません」

苗木「え?」

セレス「苗木くん…あなたは私のナイト失格です」

苗木「それって…」

セレス「当たり前でしょう?あろうことか主君に向かっていきなりの狼藉をはたらいたのです。
もはやナイトである資格もありません」

セレス「ですから…改めて言わせてください」

セレス「苗木くん。私の――、どうか私の恋人になってください///」

苗木「…っ!!」(か、かわいい…!)

朝比奈「解せぬ」

>>135
朝日奈さんはよく名前間違われて不憫

苗木「もちろんだよ。僕は…セレスさんのことが好きなんだから」

セレス「…これでカップル成立、ですわね」

苗木「カップルかぁ…」

セレス「…あの、何を呆けているんでしょう」

苗木「いや、カップルって良い響きだなと思って。それも、セレスさんとこんな仲になれるなんて…」

セレス「…嬉しいのは私も一緒なんですから、一人で勝手に呆けないでください」

苗木「ごめんごめん」

セレス「…そうと決まれば、まず苗木くんには私のことを知ってもらう必要があります」

苗木「セレスさんのこと…」

セレス「恋人なのですから、【なるべく相手のことを知っておくに越したことはないでしょう?】」

苗木「それに賛成だよセレスさん!」

同 意

セレス(苗木くんのテンションが今いきなり上がったように見えたのは気のせいでしょうか…)

セレス「まず、私の本名は安広多恵子です。次に、私の好きな食べ物についてですが――」

苗木「ちょ、ちょっと待って!!?」

セレス「説明してる最中に水をささないでもらいたいのですが…」

苗木「いやいやッ!今とても重要な情報がどうでもよさげに流されたよね!??」

セレス「何のことです?」

苗木「いや、それを無表情で返されても…。ほ、本名のことだよ!」

セレス「どうでもいいじゃありませんかそんなこと」

苗木(どうでもいいことなのか…)

セレス「お付き合いするんですもの。ならば、せめて本名はお知らせしておく道理が。ただそれだけの話です」

セレス「あ、ちなみに呼ぶときは、当たり前ですがセレスティア=ルーデンベルクのほうでお願いします。本名嫌いなんで」

苗木「了解しました」

意味不明だったけど、でもその有無を言わさぬセレスさんの迫力もまた、彼女の魅力の一つなんだと思う

まぁ婚姻届出す時に分かるしな

セレス「では好きな食べ物についてですが…」

苗木「……」

セレス「…苗木くん」

苗木「え?何?」

セレス「あなた今、好きな食べ物の情報は…あくまで私という人間を構成する上での断片としか見てない目をしていましたわね」

苗木(どんな目なのそれ…)

苗木「ええっと、ってことはセレスさんは食の好みについては重要視してる…と?」

セレス「当たり前です。そうでなければ、デートのときどうするのです」

セレス「あなたは彼女をデートに誘う際、相手の好みも知らないでお店に招待するおつもりですか?」

苗木「……」

…確かに。その点に関してはセレスさんの言う通りだ

苗木「そうだね。そうやって僕が“自ら”セレスさんをエスコートすることも、また恋人の一条件だものね」

僕は先ほどの彼女の言葉を思い出していた

『あなたがもし私と対等な関係でいたいというのなら、苗木くんにはできるのですか』
『自ら、相手のために何かできることが』

恋人になったからには、ちゃんとそれを有言実行しないとね

セレス「…ふふっ」

苗木「?どうしたのセレスさん?」

セレス「いえ…。やはり、あなたを恋人にしてよかったと思っているのです…///」

苗木「そ、そっか//」

苗木(改めてそれを言われると照れるな…)

セレス「さて、それで私の好きな食べ物についてですが…。そうですね、せっかくですから苗木くん、当ててみます?」

苗木「えっ」

セレス「答えは今日の昼、食堂で朝日奈さんとお話ししていた…その会話の中にすでにあります。あなたは覚えていますこと?」

苗木(あのときの食堂での会話…か。確かいくつかの食べ物が挙がってた記憶がある)

こんな感じだったかな

・西洋のお菓子
・餃子
・ドーナツ
・黒タイヤ

とりあえず、瞬間的に思いついたものを即興で挙げてみた。この中のどれかに正解があるはずだ

セレス「苗木くん」

苗木「何?セレスさん?」

セレス「今あなたが考えてる選択肢の中――私に凄く失礼なものがありません?気のせいですよね?」ゴゴゴゴ

苗木「や、やだなぁセレスさん。自分でも言ってるけどそれは気のせいだよ」

その瞬間ドーナツと黒タイヤを頭から抹消した。というか後者は食べ物ですらない
何でこんなの想像したんだ??それだけ、セレスさんの髪のクルクルイメージが強かったのかな…

苗木「ええっと、餃子だよね?」

セレス「分かればそれでよろしいのです」

苗木「…ということは、セレスさんを誘うには中華料理店とかがいいってことかな?」

セレス「苗木くん…」

セレス「その発想は安易すぎます」

苗木「え!?」

セレス「確かに、餃子といえば中華。それは分かります。しかしだからといって、餃子は中華料理店だけにあるものではありません」

苗木「う、うん」

セレス「日本でも広く普及しているだけあって、たいていの各種飲食店には置いてあります。和食店だってその例外ではないのですよ?」

苗木「……」

ここは… 一応餃子について理解しているフリをしたほうがいいのかな?

苗木「…言われてみればそうだよね。まあ、僕も餃子についてそれなりの見識はもってるけども」

セレス「っ!そうなのですか?では、今から出す私の質問に答えてみてください♪」ワクワク

藪蛇(やぶへび)だった

セレス「まあまあ。そう構えないでください。別に難しい質問をするわけではありません」

苗木(そうであることを願うよ…)

セレス「そうですね…。では――」

セレス「日本で一番メジャーな種類の餃子は何ですか?」

苗木「!!」

セレス「どうです?特に難しい問題とも私は思いませんが…」

苗木「ええっと…」

落ち着け、落ち着くんだ僕。これは餃子云々じゃない、おそらくは一般常識的な問題だ

苗木(でもこういうときに限って、なかなか答えが出てこないんだよな…)

蒸し餃子?水餃子?スープ餃子?…どれも違う気がする。それでも僕は考える
あと少し…あと少しで、何か答えの片鱗が見えてくる気がするんだ…っ!

『閃きアナグラム』  ウ キ ザ ギ ョ ヤ

苗木「そうか分かったぞ!」

苗木「答えはヤキギョウザ(焼餃子)だ!!」

セレス「ご名答ですわ。さすがに分かりますわよね」

苗木「ははは…」

まさか苦戦してたとは言えない

セレス「ところで私のことばかり話してしまいましたが、あなたはどうなのです?」

苗木「僕?」

セレス「あなたも人並みの人間なら、食べ物の好き嫌いくらいはあるはずですよ」

苗木「うーん、それがね。特にそういうのはないんだよね」

セレス「特に?あの、好きも嫌いも両方ともないと、そういうことですか?」

苗木「そうだね。特に食べられないものはないし、食事も和食、洋食、中華と…こだわりなくローテーションで食べてる感じだよ」

セレス「これはまた珍しい人がいたものですわね…」

セレス「しかし、それはそれで困ってしまいますわね」

苗木「?どうしてセレスさんが困るの?」

セレス「いえ、好きなものがあるのでしたら、私が料理してさしあげようと思っていたので」

苗木「!!」

苗木(セレスさんの…手料理…)ゴクッ

セレス「いわゆる彼女が彼氏のために料理を作ってあげるというのは、別におかしなことではないですよね?」

苗木「あ、当たり前だよ!!おかしくないどころか、むしろ嬉しいよ!!」

セレス「そ、そこまで大きな声で言ってもらうと…私も作り甲斐があるというものですわね」

セレス「というわけで何かご注文はありますこと?今からでも私がキッチンで作ってまいりましょう」

苗木「ほ、本当に!?じゃ、じゃあ、ええっと――」

セレス「お決まり次第、お知らせくださいまし」

セレス「…ご主人さま///」

苗木「!!?」

不意討ちだった

苗木「ちょ、ちょっと!セレスさん、またメイドさんモードになってるよ!?」

セレス「あら。いけませんか?」

苗木「いや、いけないことはないけど…」

セレス「…もしかして苗木くん、あのときの約束を忘れておいでですか?」

苗木「約束…?」

セレス「その様子だと覚えていないようですわね。まあ…あの後いろいろあったから、それも仕方ないのかもしれませんが」

セレス「あなたが言ったのですよ苗木くん」

苗木「僕が…?」

記憶をたどって思い出してみる

『僕がお願いや命令の類いをするとき以外は、普段通りのセレスさんでしゃべってもらってもいいんじゃないかな』

苗木「……」

苗木「…あれ。ということは――」

セレス「一時中断したというだけで、いまだメイドさんごっこはあのときから継続中なのですよ?」

苗木(ごっこ!?)

とりあえず、セレスさんが楽しそうで何よりだった

セレス「私…ちょっと考えてみたのです」

苗木「…セレスさん?」

セレス「もはや私とあなたの間には主従関係などどこにも存在しない…それは分かっています」

苗木「…うん」

セレス「ですが、その、たまには――」

セレス「苗木くんさえ嫌でなければ、ごっこ遊びに付き合ってくれると…」

苗木「……」

セレス「で、ですから!!たまにはそういう役回りも…。すみません、私どうかしてますわね」

苗木「もしかしてセレスさん…」

素直に思ったことを言った

苗木「メイドさん、結構気に入ってるんだよね?」

セレス「!!!」

今の彼女は、およそポーカーフェイスとは程遠い存在であったことだろう

セレス「…何を言っているのです?」

あくまで彼女は平静を装っていた

セレス「勘違いなさらぬよう。あくまでこれは、“苗木くんがそうすると喜ぶから”しているだけですわ」

苗木「……」

苗木(うん。確かに嬉しいのは否定しないけど…)

そこは僕も正直だった

苗木「…じゃあさ、僕からも提案いい?」

セレス「?何でしょう?」

苗木「僕も、たまにはナイトしてみていいかな?」

セレス「地味に今、“ナイトする”という…日本語にない動詞を作り出しましたわね」

セレス「って、どういうことです??苗木くん、あんなに私との主従を嫌がってたじゃありませんか」

苗木「でも、これは“ごっこ遊び”なんでしょ?なら、たまにはそういうのも面白そうかなって」

セレス「まったく、苗木くんときたら…」

セレス「あ、そうですわ苗木くん」

苗木「ん?」

セレス「また、先ほどのように。お姫様だっこを…してはもらえないでしょうか…っ」

苗木「!か、構わないけど――」

セレス「ただし」

そこでセレスさんが口を挟んだ

セレス「今回は“恋人として”、お願いいたします///」

苗木「あっ…!」

セレス「……」

何を言わんとしてるかは察した。さっきのあれは、あくまでナイトとしての行為だ

だからこそ、僕は精一杯の気持ちを込めて、彼女に優しく語りかけたんだ

苗木「セレスさん。好きだよ」

そして彼女も、それに精一杯の好意で応えてくれる

セレス「私も…っ」

セレス「私も、苗木くんのこと。大好きです///」

抱きかかえてふと横を見た

楽しそうな顔をした――
無邪気な女の子の姿が、そこにはあった

おわり

>>37から、今度は思い浮かんだ人物が朝日奈さんだった場合で始めます

朝日奈「お、苗木!私に何か用?」

苗木「用ってわけじゃないんだけど、一人でいるのもなんかアレだったから…。迷惑だったかな?」

朝日奈「全然全然!そんなわけないって!とりあえず入りなよ」

そういうわけで、僕は朝日奈さんの部屋へと失礼する

朝日奈「そうだ、この際聞いちゃおっかな」

苗木「?」

朝日奈「苗木って今気になってる人いる?」

苗木「気になるっていうのは、つまり好きな人がいるかってこと?」

朝日奈「そゆこと!」

苗木「朝日奈さん…それ今はやってるの?」

朝日奈「というと?」

苗木「さっき食堂でセレスさんにも同じ質問ぶつけてたよね」

朝日奈「そっかな?セレスちゃんには苗木と違って、結構具体的に質問してたつもりだよっ」

苗木「た、確かに直球だったかもね…」

すみません、いったん寝ます。朝の10時には来ます

しゅ

遅れてすみません。ブロードバンド接続でPCの電源を一度落としているので
IDが変わってしまっていますが1です。今から書こうと思います
保守ありがとうございました

苗木「ねえ朝日奈さん。無闇にそういうこと聞くのはよくないと思うよ」

朝日奈「…え、いきなりどうしたの苗木?」

苗木「僕はともかく、セレスさんにあんな踏み込んだ質問しちゃうのはちょっと…」

朝日奈「うーん、ダメだったかな?」

苗木「しかも僕のことを好きかどうか聞くなんて、セレスさんからすれば【決して良い心地ではなかった】と思うんだ」

朝日奈「それは違うよ!」

BREAK!!!

苗木「ち、違うって??何が?」

朝日奈「確かに、あんな質問をしちゃったのは軽率だったかも…それは認める
けど、苗木のこと聞かれてセレスちゃんが気分を害したとは、私は全く思わないよ」

苗木「…そこは断言するんだね朝日奈さん」

朝日奈「そりゃそうだよ!だって苗木が良い奴だってこと、私は知ってるし」

苗木「ありがとう朝日奈さん。そう思ってくれて嬉しいよ」

朝日奈「別に、今更改まって言うことでもないんだけどさ…///」

朝日奈「だから安心していいって!苗木は自分が思ってる以上に周りから好かれてるんだからさ!」

苗木「それは褒めすぎのような気もするけど…」

朝日奈「で、話は戻るけど――」

苗木「え?」

朝日奈「誰が好きなの?苗木?」ニヤニヤ

苗木「朝日奈さん…【さっきそういう質問はよくないよ】と言ったばかりなんだけどなぁ」

朝日奈「それは違うよ。(BREAK!!!)だって苗木言ってたじゃん、『僕はともかく』って
これって苗木相手ならそういう質問もOKってことだよね」

苗木「まいったな。朝日奈さんに一本とられちゃったよ」

朝日奈「じゃあ教えてくれる?」

苗木「そんなこと言われてもね…。正直、僕にはまだそういう“好き”って感情がよく分からないっていうか…」

朝日奈「ええっと、つまり好きな人がいるかもしれないし、いないかもしれないってこと?」

苗木「そう…なるのかな」

朝日奈「なるほどなるほど。苗木もまだまだお子ちゃまってことだけはよく分かったよ!」

苗木「!!それを言うなら、朝日奈さんはそういう経験はあったりするの?」

朝日奈「そ、それは…っ」

朝日奈「それについてはノーコメントってことで…」

苗木「……」

朝日奈「わ、分かったって!話すよ。うぅ、問い詰めてたつもりが逆に問い詰められることになるとは…」

苗木「あぁ、いや、無理して話す必要はないよ。朝日奈さんが嫌がることを僕はしたくないからね」

朝日奈「いやいや、ここまできて話さないってのは中途半端で私が嫌な気分になるからダメ!」

苗木「そ、そっか」

朝日奈「結論から言えば、私にもそういう経験ってないんだ」

苗木「…意外だな。朝日奈さんならそういうの一つや二つはあると思ってた」

朝日奈「んー?それは、何を根拠に私をそういうふうに判断したのかな?」

苗木「そ、それは…」

苗木(正直に答えちゃっていいのかな…)

苗木「だって、朝日奈さんって大人の女性ってプロポーションしてるし…そういうイメージがあったんだ」

朝日奈「っ!ちょ、苗木!今、もしかして私の胸見たでしょ!?」

苗木「ち、違うって!!誤解だよ朝日奈さん!」(確かに見ちゃったけど!)

苗木(バカ正直に話しすぎてしまった!これじゃセクハラととられても仕方ない…僕はなんてことを)

朝日奈「…そっか。苗木には、私ってそんなふうに映ってたんだ」

苗木「…え?」

朝日奈「さっき言ったよね、そういう経験ないって。だから私って異性からどう見られてるかってよく分かんないんだ」

苗木「……」

朝日奈「そのせいかな。どうも私ってそういうのに鈍感だから、
ついついさっきしたような質問もセレスちゃんにできちゃったんだよね」

苗木「朝日奈さん…」

朝日奈「…ねえ、さっき苗木は私のこと大人の女性って言ったよね。それってその、エロい…ってことなのかな?」

苗木「っ!!」

苗木(な、何なんだ…?普段は朝日奈さん意識したことなかったのに…急にドキドキしてきた…)

苗木「……っ」

朝日奈「ちょ、ちょっと!無言でじっと見られると…なんか恥ずかしいよ!///」

苗木「!ご、ゴメン!」

朝日奈「いや、いいよ…私のほうこそ変なこと言っちゃったしね」

朝日奈「私から言っといてなんだけど、この話題はやめよう!」

苗木「そ、そうだね。それが賢明だと思うよ」

朝日奈「こういう動揺したときは…。そうだ、ドーナツを食べよう」

苗木「本当にドーナツが好きなんだね朝日奈さん」

苗木「って、さっき昼食を食べたばかりじゃないか。それなのに食べるの?」

朝日奈「甘いものは別腹なんだよ!苗木!」

苗木「そ、そうなんだ…」

朝日奈「いただきまーす♪」モグモグ

苗木(ドーナツをおいしそうにくわえてる朝日奈さん可愛いなぁ)

朝日奈「?どうしたの苗木?」

苗木「!な、何でもないよ」(つい見とれてたな…)

苗木「というかそのドーナツどうしたの?」

朝日奈「どうしたのって、前もって買っておいたものだよ♪」

苗木「準備がいいんだね朝日奈さん」

朝日奈「それ褒めてるの?」

苗木「も、もちろんだよっ!」

朝日奈「本当かなぁ?またドーナツかよこいつはって顔してたような気もするけど」

苗木「それは違うよ!!」

朝日奈「その論破は残念ながら説得力がないかな…苗木のその微妙そうな顔を見てるとね」

苗木「うぅ…ゴメン」

朝日奈「いいっていいって!別に怒ってるわけじゃないんだから。それより苗木もよかったら食べる?」

苗木「え?いいの?」

朝日奈「私一人がモグモグしててもね。ってことで、はい!あげる!」

苗木「うん。ありがとう」

朝日奈「とまぁ、あげたのはいいんだけど苗木もさっき昼食とったばかりだったよね。大丈夫?」

苗木「甘いものは別腹でしょ?」

朝日奈「私はね!苗木はいいの?」

苗木「僕も、何でだろう、朝日奈さんの影響を受けたせいかな…なんか甘いものが食べたくなったんだよ」

朝日奈「私のおかげ?」

苗木「そうとも言えるね」

朝日奈「それは光栄だね!そうだ!今度さくらちゃんも呼んでドーナツ食べ比べごっこしてみようか!」

苗木「な、何でそういう話に??」

朝日奈「あれ?苗木も晴れてドーナツ仲間になったんじゃないの?」

苗木「僕っていつのまにかドーナツ仲間とやらになってたんだね」

朝日奈「さっきね」

苗木「さっき食べたいって言っちゃったせいか…こりゃまいったな」

苗木「といっても、僕なんかが参加してもなぁ…」

朝日奈「え?どうして?」

苗木「だって朝日奈さんも大神さんもバリバリの体育会系じゃないか
そんな二人相手に、凡人の僕が食べ比べで勝てるとは思わないよ」

朝日奈「んん?なんか苗木、食べ比べの意味を勘違いしてない?」

苗木「?食べられる量や速さを競うってことじゃないの?」

朝日奈「まさか!そんなことしたら、せっかくのドーナツの味がゆっくり堪能できないじゃん!!」

苗木「じゃあ食べ比べって…」

朝日奈「いろんな種類のドーナツを心行くまで味わってみようってことだよ!」

苗木「あぁ、そういうことだったんだね。それなら僕も参加できるね」

朝日奈「そういうこと。それより苗木食べないの?」

苗木「そうだね。じゃあありがたくいただくとするよ。ん?これは…」

朝日奈「…気づいたね苗木」

苗木「朝日奈さんからもらったこれ…穴があいて…ない…?」

朝日奈「そりゃ焦るよね。だって【苗木に渡したそれ、ドーナツじゃないんだもん】」

苗木「それは違うよ!!」

BREAK!!!

朝日奈「!!」

苗木「朝日奈さんは今この物体をドーナツじゃないって言ったね?でも、それは違うんだ!!」

朝日奈「…そっか。苗木はそう思ったのか。じゃあその理由を、私に納得いくよう説明してもらえるかな!」

苗木「もちろんだよ!!」

苗木「まず、朝日奈さんからもらったこれが食べ物であることは間違いない」

朝日奈「それは私が保証するよ」

苗木「さらに言えば、これはパンだ!」

朝日奈「見れば分かるけどね」

苗木「けど答えはそこで終わりじゃない。なぜならこれはドーナツだからなんだ!」

朝日奈「穴がないのに?」

苗木(考えろ…穴がなくてもドーナツと呼ばれる食べ物はあったはずだ…っ!)

『閃きアナグラム』  ナ - ツ ア ド ン

ツナ丼 アッー

苗木「そうか分かったぞ!」

苗木「答えはアンドーナツ(あんドーナツ)だ!!」

朝日奈「さ、さすがだよ苗木!私の敗北…だよ」

苗木「朝日奈さん…」

苗木「……」

苗木「ノリがいいね?朝日奈さん」

朝日奈「だよね!迫真の演技だったでしょ?」

苗木「うん。推理モードにノってくれてありがとう」

朝日奈「いやぁ、そういうのってついついノリたくなっちゃうよね!」

苗木「…あれ?ということは、朝日奈さんはこれがドーナツだと知ってて、敢えて知らないフリをしてたんだね」

朝日奈「当たり前じゃん!ドーナツ好きの私がそういうところを見逃すはずがないよ!」

苗木「じゃあ何で知らないフリしてたの?」

朝日奈「それはね…」

朝日奈「苗木を試したんだよ」

苗木「試す?」

朝日奈「いや、試すって言い方は違うか。反応を見てみたかったっていうのかな」

苗木「このあんドーナツで?」

朝日奈「うん。だってこのドーナツって穴があいてないでしょ?」

苗木「…なるほど。大体分かったよ。僕の動揺を狙ったんだね?“ドーナツに見えない”パンを渡すことでさ」

朝日奈「だって、あの場面ってどう見てもドーナツを苗木に渡す流れだったでしょ?」

苗木「加えて、ドーナツ好きの朝日奈さんだもんね。そりゃ普通なら動揺する、んだろうね」

朝日奈「でも結果…苗木はそうならなかった」

苗木「あんドーナツという存在を知ってたからね」

朝日奈「うーむ…“ドーナツは絶対に穴があいている”って先入観を利用して
苗木の慌てふためく姿を見たかったんだけど、失敗しちゃったな!」

苗木「あの瞬間にそんな謀略を張り巡らせてたんだね朝日奈さん…」

朝日奈「あんドーナツは処女で、普通のドーナツは非処女だよ」

苗木「あれ。でもそう考えると不思議だね。だとすると、結局ドーナツの定義って一体何なんだろうね」

朝日奈「それについては…確かこの本に書いてあったはず」

苗木「それは?」

朝日奈「ドーナツのクッキング本だよ!店のもいいんだけど、やっぱ自分でも直に作ってみたいからさ!」

苗木「朝日奈さん料理するの?」

朝日奈「ちょっとね。とはいっても、そんなに上手くはないんだけど」

苗木「そうなんだ。でも、料理する女の子って僕は好きだな」

朝日奈「な、苗木!?」

苗木「あ!!ち、違うんだ!そういう意味じゃなくて、なんかこう、魅力があって憧れるなって感じでさ」

朝日奈「もう!紛らわしい言い方しないでよね!!」

朝日奈(…あれ?何で私、慌ててるんだろう…?)

朝日奈「え、ええっと!それよりドーナツの定義だよね!この本によると…」

朝日奈「なるほど。ドウって生地を油で揚げた食品のことを言うんだね」

苗木「その生地で揚げられたものはみんなドーナツってことでいいのかな?」

朝日奈「うん。だから、穴があいてるかどうかってのは関係ないみたいだよ」

苗木「…そう考えるとやっぱり妙だね。だって現に、
僕らの間ではドーナツってのは穴があいてるものってイメージがあるんだからね」

朝日奈「たぶんそれは…あ、ここに書いてある。ふむふむ、一般的にはリングドーナツが代表的?
オーソドックスなドーナツみたいだから、そんな印象があったんだね」

苗木「ん?というか今更だけど、本で調べてるってことは、朝日奈さんも今それを知ったってこと?」

朝日奈「ははは…恥ずかしながら。あんドーナツの存在はもちろん知ってたんだけどさ、
ドーナツの定義ってのはよく鑑みると今まで考えたことなくて///」

苗木「まあそりゃ、普通は考えないよねそういうの」

朝日奈「でしょ?そこまで知ってたらもうそれただのドーナツ好きじゃないよ。ドーナツマスターの域」

苗木「ドーナツマスターの定義もよく分からないけど…。でも朝日奈さんがドーナツのことを好きっていうのは
確かだし、そこまで愛されてドーナツもさぞ本望なんじゃないかな」

朝日奈「ドーナツって意思があったの?」

苗木「いやいや、ドーナツを擬人化した覚えはないからね僕は!」

朝日奈「ふふ、冗談だよ冗談♪」

朝日奈(けど、愛される…か。その発想はなかったな)

朝日奈「あ、あのさ、苗木」

苗木「ん?どうしたの朝日奈さん?」

朝日奈「私もいつか…ドーナツみたいに、誰かを愛したりすることってあるのかな?」

苗木「ちょ、ちょっといい?誰かって人間ってことだよね?さすがに食べ物と一緒にするのは…」

朝日奈「うん。正直、私も今何言ってんだろうって思った///」

苗木(照れてる朝日奈さん可愛いなぁ)

朝日奈「で、どうなんだろ?」

苗木「どうなんだろと言われてもね…。一応聞くけど、それって異性に対しての好き…だよね?」

朝日奈「そうだね。さくらちゃんたちのことは確かに好きだけど…」

苗木「男性に対しての、か」

朝日奈「うん。それも友達とかそういうのじゃなくてさ、こう…」

苗木「言いたいことは分かるよ。彼氏彼女の好きってことだよね。さっきの『愛す』って言葉からもそれは推察できるよ」

苗木(そうだな…朝日奈さんか)

苗木「…朝日奈さんがその気になれば、そういう人はすぐにできるんじゃないかな…?」

朝日奈「…どうしてそう思ったの?」

苗木「だって朝日奈さんって凄く魅力的だし…。異性からしても、相手が朝日奈さんってのは素敵なことなんじゃないかな」

朝日奈「褒めたって何もでないよ?」

苗木「本当だよ。少なくとも、僕はそう思ってる」

朝日奈「ま、真顔で言っても何もでないんだから!///」

苗木(本当にそう思ってるんだけどな…)

朝日奈「…。あのさ、苗木は…誰かそういう人はいないの?」

苗木「…それについてはさっきも言ったけど、よく分からないんだ」

朝日奈「そうじゃなくてさ、そこまで確信に近い感情でなくてもいいから…誰か気になる人はいないのかなって」

苗木「気になる人…か」

なぜだろう。ふと、一人の女の子の姿が頭に浮かぶ

朝日奈「…苗木?顔が赤いよ?」

それも当然だった。だって、その女の子っていうのは…僕のすぐ目の前にいたんだから
…そういえば今日この部屋に来たのだって――彼女の顔が頭に浮かんだからだったな…

これ、朝日奈さんとは現在進行形でフラグが立ちつつあるけれど
セレスさんは分岐前の時点で既にフラグ立ってるんだよな

それを思うとちょっと辛い

苗木「!な、何でもないよ!」

慌てて彼女から顔をそらす

朝日奈「いや、だって本当に顔が赤いからさ…熱でもあるんじゃないかと思って」

誰のせいでこうなったと思ってるんだ…。そう思うと、彼女に反撃がしたくなった

苗木「…朝日奈さんこそ」

朝日奈「え?」

苗木「朝日奈さんだって…人のこと言えないじゃないか!」

朝日奈「!そ、それは…っ!」

そう。僕と同じように、彼女の顔もまた赤かった

朝日奈「~!!そ、そんなの私にも分かんないよ!!///」

朝日奈「それより!苗木の気になる人、まだ聞かせてもらってないよ!!」

苗木「そ、それは…」

結局、僕の話に戻されてしまった

苗木(どうしよう…)

このままはぐらかして別の話題に持っていくことも考えた。けど…

朝日奈「……」

彼女のこの真剣な眼差しだと、答えてくれるまで逃してくれなさそうな気がした

苗木(それに、仮に嘘をついたとしても…それすら見抜かれそうな雰囲気だ)

だから。僕はありのままの事実を彼女に告げることにした

苗木「…朝日奈さん」

朝日奈「…え?」

苗木「僕の気になってる人は、朝日奈さんだよ」

朝日奈「……」

苗木「……」

朝日奈「え、ええっと…。苗木の気になってる人が…私?」

苗木「…そうだよ」

朝日奈「う、嘘じゃないよね?」

苗木「…嘘つける雰囲気なんかじゃなかったと思うけどな」

朝日奈「そ、そうなんだ…。な、何て言うんだろう、とても意外…かな」

苗木「ゴメンね朝日奈さん。僕なんかに気になってると言われても迷惑、だよね」

朝日奈「ちょ、ちょっと!!何でそういうこと言うの!!?」

苗木「え?」

朝日奈「べ、別に嫌だったから意外って言ったんじゃないよ!
ただ、苗木なら別の人の名前が出ると思ってたから…。だから、私の名前が出てつい驚いちゃったんだ」

苗木「そ、そっか」

朝日奈「でもね、苗木。驚いた以上に私は――」

朝日奈「…嬉しかったんだよ//」

苗木「!」ドキッ

一瞬何が起こったのかと思ったが、それと同時に自分の顔が紅潮していくのも分かった

苗木「う、嬉しい…?」

朝日奈「そうだよ。嬉しいって言ったの//」

苗木「ええっと、それはまたどうして…?」

朝日奈「それは自分でもよく分かんないんだけど…。でも、心当たりはあるよ」

苗木「あれ?その言い回し…」

朝日奈「そうだね。苗木が今朝セレスちゃんや私に使ってたあの台詞だね」ニヤリ

苗木(なぜ僕がドーナツとつぶやいたかを二人に尋ねられたときのアレか…)

苗木「まいったね。今度は僕がそのやられる立場に置かれちゃうとは」

朝日奈「で、その心当たりについての心当たりはあるかな?苗木?」

すみません、お腹が減ったので朝食兼昼食とドーナツ食べてきます
ちょっと待ってください

苗木「いきなりそう言われてもね…」

朝日奈「……」

苗木(これは答えるしかなさそうだな…)

普通に考えれば、朝日奈さんも同じく僕のことを気になってたから…なのかな?

苗木「……」

でもそれだと自意識過剰みたいでなんか嫌だな。万が一間違ってたら恥ずかしいってレベルじゃない

苗木(けど、かといって他に心当たりも…)

苗木「……」

…悩んでても仕方ない。ここは、思い切って砕けてみよう

苗木「もしかして、【朝日奈さんも僕のことが気になってた】から…とか?」

朝日奈「……」

朝日奈「それは違うよ!」

苗木「え?ええ!!?」

苗木(ま、まさかの間違いだったなんて…っ!なんて僕は自意識過剰だったんだ…)

朝日奈「!ご、ゴメンって苗木!冗談だって!」

苗木「冗…談…?」

朝日奈「一発目で当てられたからつい悔しくてさ…思わず否定しちゃったんだ
まさか苗木がそれ聞いてそこまで落ち込むとは思わなくて…だからゴメンね?」

どうやら僕はそれくらい落ち込んだ顔をしていたらしい。僕って気持ちが顔に出やすい性分なのかな…

苗木「って、一発目で当てられたってことは…」

朝日奈「…うん。私も、苗木のことが…気になってんだよね」

苗木「それって…」

朝日奈「……」

苗木「……」

朝日奈「ちょ、ちょっと…何か言ってよ。無言だとなんか恥ずかしいじゃん…///」

苗木「だ、だって!そんなこと言われたら、僕だって朝日奈さんのこと意識しちゃって…っ」

苗木「そ、そもそもさ。何で朝日奈さんは僕のことが気になってるの?」

そうだ。まだ自惚れちゃいけない。気になってる理由が、必ずしも異性に対する好きとは限らないから

苗木「例えばその…僕のキャラが変だったり、だから気になってる…とか?」

苗木(そういう可能性だって十分あるはずだよね)

朝日奈「……」

朝日奈「確かにそれはあるかも」

苗木「そ、そうだったんだね」

苗木(まあ…そういうこったろうとは思ってたけど)

朝日奈「あ、何か勘違いしてる?別に悪い意味で変だって思ってるわけじゃないんだからね?」

苗木「…?」

朝日奈「なんていうかさ、一つ一つのリアクションが面白いんだよね苗木は♪
だから変…あ、いや、ここは新鮮って表現のが合ってるかも」

苗木「ええっと、つまり目新しいキャラ…って認識でいいのかな?」

朝日奈「そんな感じ!」

苗木(…とりあえず好意的には受けとめてくれてたようで、そこは良かったかな…)

朝日奈「でも、あくまでそれはきっかけ。それ以外にも私が苗木を気にしてる理由はあるんだよ」

どうやら話には続きがあったようだ

苗木「それ以外…?」

朝日奈「それはね、苗木と一緒にいると楽しいってこと♪って…これはさっきの理由とも微妙にかぶってるのかな」

苗木「一緒にいると楽しい…か。そう言われると僕も嬉しいな」

朝日奈「…けど、それを言えばさくらちゃんだってそうだし、
今朝のセレスちゃんだってそうだね。だからその、なんていうか…」

苗木「…?」

朝日奈「苗木はそれだけじゃないっていうか…。たぶん、その、友達以上の感覚を抱いたりしてるのかな…と思う」

苗木「!それって…」

朝日奈「…苗木はどう?もしかして苗木もそういう意味で、私のことを気になるって言ってくれた…のかな?」

苗木「……」

僕自身は朝日奈さんのことをどう思っているのだろうか。改めて、もう一度よく考えてみることにした

苗木(実際、今まで何度も朝日奈さんのことを可愛いと思ったことはあったよな…)

確かに彼女は魅力的だと思う。話していてそれは凄く分かる

苗木「…朝日奈さんって明るいよね」

朝日奈「?」

苗木「常に元気なオーラをまとってるっていうのかな
だから朝日奈さんと話してると、僕までその元気を分けてもらってる気がする」

朝日奈「ええっと、つまり一緒にいて楽しいってこと?」

苗木「そうだね」

朝日奈「!じゃあ苗木も私と同じだったんだね!」

朝日奈「…じゃあ結局、私たちの関係って――」

苗木「…親友?」

朝日奈「うーん、間違いではないとは思うけど、でも何か違う気はする…」

…確かに。実際、僕も自分で言ってて、その言葉に違和感を覚えていた

苗木(となると、これって一体…)

朝日奈「…さっき私言ったよね?友達以上の感覚を苗木に抱いてるって」

苗木「友達以上…。そういえばそう言ってたね」

朝日奈「それでふと思ったの。世間には友達以上恋人未満って言葉があったなって…」

苗木「うん、知ってる。恋愛に鈍感な僕でも、さすがにそのフレーズは聞いたことあるよ」

朝日奈「だからさ、私たちってその…」

苗木「…友達以上恋人未満?」

朝日奈「そう。それが言いたかったの」

苗木「つまりどういうことなんだろう…?」

朝日奈「え?そこで私に振る!?だから私にだって分かんないんだって!そういう経験がなかったからっ」

苗木「言葉では知ってても、いざ自分たちがそうなる?と…なんというか反応に困るね」

朝日奈「とりあえず、なんとなくで思ったことがあるんだ」

苗木「?」

朝日奈「これってつまり…状況次第で友達にもなれるし恋人にもなれるっていう関係…って認識でいいんだよね?」

苗木「それは…っ」

いや、でも…考えてみればそういうことなのかもしれない

朝日奈「苗木はさ…私とどうなりたい?」

苗木「どうなりたいって…」

朝日奈「私は…そういうのにも興味はあるかな、って」

苗木「……」

彼女が今言った“そういうの”の意味はもちろん理解できた。おそらく恋人の関係を指してのことなのだろう

苗木「僕で…いいの?」

朝日奈「…変なことを言うね苗木。相手が苗木だからこそ、私こういうこと言ってるんだよ?」

苗木「…そっか」

朝日奈「それで苗木は――」

苗木「……」

考えるまでもなかった。というより『僕で…いいの?』なんて言ってしまった時点で、僕の心中はもう決まっていたのだと思う

苗木「僕も…」

苗木「僕も、朝日奈さんとそういう関係になりたい」

朝日奈「!!」

苗木「……」

言ってしまった。これでもう、後戻りはできない

朝日奈「……」

僕は静かに朝日奈さんの返答を待った

朝日奈「あ、ご、ゴメン。ぼーっとしてた。いざそう言われると、なんか実感なくて」

朝日奈「あのさ苗木、これは私のわがままなんだけど…」

朝日奈「もっと分かりやすくそれを伝えてくれたら私…嬉しいかなって」

苗木「……」

彼女がどういう意図でそれを言ったのかは即座に把握できた
確かに、こういうのは男から言いだすものなのだろう

僕は覚悟を決め、そして―― 言い放ったんだ

……

苗木「僕、朝日奈さんのことが好きだよ」

朝日奈「…ちょっとびっくりしちゃったな」

苗木「え…」

朝日奈「いや、苗木って普段はおとなしい性格してるからさ。でも…言うときはちゃんと言うんだなって思って」

苗木「朝日奈さん…」

朝日奈「そのギャップに、ますます惹かれちゃった…っ。正直、今の苗木カッコよかったよ//」

苗木「そ、そう…かな」

朝日奈「ありがとう苗木。それを聞けて嬉しかったよ!だから今度は…私が言う番だね」

深呼吸して一息つき、そして彼女は告げた

朝日奈「私も、苗木誠くんのことが好きです…っ//」

苗木「!!」ドキッ

意識してたせいもあったのだろうか。前よりずっと、朝日奈さんのことが可愛いと思えてきた

苗木(僕は…幸せ者だな)

つくづくそう思った

朝日奈「……」

苗木「……」

で、これから一体どうするんだろう

朝日奈「な…何か言ってよ苗木」

苗木「えっと、そう言われても…」

状況を整理する。とりあえず、僕たちは恋人同士の関係になった…ってことでいいんだよね?

苗木(って、自問自答してどうするんだ。朝日奈さんにこそ聞いてみないと…)

すると彼女も同じようなことを言ってきた

朝日奈「あのさ…。私たちって、彼氏彼女の関係になったってことで…いいんだよね?」

その言葉を聞いたことで、ようやく自覚した
朝日奈さんが… 僕の彼女になったということに

苗木「そう…だね。これからよろしくね?朝日奈さん」

僕は思わず手をさしだす

朝日奈「あっ…う、うん!よろしくね!苗木!」

彼女もその手をぎゅっと握りしめてくれた

朝日奈「……//」

苗木「朝日奈…さん?」

そして、なぜか彼女は僕の手を握りしめたままでいる

朝日奈「いや、その…普段なら何にも思わないんだろうけど、好きな人の手に触れ合えるってのはなんか嬉しいな…って///」

苗木「…っ!///」

確かにそうだ。僕の手は今朝日奈さんに握られている。それも好きな人に。そう考えると…つい頬が緩んできてしまった

朝日奈「でも、手を握るだけだと友達の関係でもできることだよね。恋人同士がすることといったら…何があるかな」

考え込む朝日奈さん。え?そりゃ、恋人同士がすることって――

苗木「ッ!!」

な、何を考えてるんだ僕は。一瞬性的なことを思い浮かべるが、慌ててそれをかき消す
仮にそれが事実だったとしても今ここでそれを述べるのはあまりに即物的すぎる。僕は自分を戒めた

でも、そうはいっても、やはり恋人らしいことと言われると、何らかの形で
性的要素が入るのは防ぎきれないんじゃないだろうか。キスだってその最たるものだ

苗木(けど、ここでキスをするなんて、さすがにまだハードルが…というか心の準備が)

そうやって悶々としてるところに、先に朝日奈さんのほうから声をかけてくれた

朝日奈「例えばその…抱きしめたり、とか?」

苗木(抱きしめる…か)

別に驚くには値しない。それも恋人同士だと当然考えられる行為だから。キスよりはハードルが低い…のか?

朝日奈「……」

たぶんお互いにそういう行為について考えてたんだと思う
でも、そんな膠着状態についに朝日奈さんは痺れを切らしたのか――

朝日奈「ああっ!もう!!考え込んで動けなくなるなんて私らしくないよ!こういうのはまず、体から動かさなきゃ!」

体育会系の朝日奈さんらしい発言だった。って、え?

苗木「朝日な…さ!?ぅ!んんっ!」

ギュウウゥゥ

朝日奈「お、思い切って抱きしめてみたけど!ど、どうかな!?苗木!?///」

――本当に抱きしめられていた

苗木「ま、待って!心の準備が――」

とか言って抵抗してる間にバランスを崩し、そのまま朝日奈さんの胸に顔をうずめる体勢になった
一体どんなコケ方をしたんだとセルフツッコミせざるをえない

ムニュムニュ

朝日奈「えっ!!?///い、いやぁぁああああ!!!///」

苗木「~~!!///」

柔らかい豊満な胸の感触が 顔いっぱいに広がっていた

朝日奈「ひゃぁ!う、動かないで!くすぐったいよ苗木!!///」モニュモニュ

どうやら僕の髪の毛がちょうど胸に当たってて、それをくすぐったく感じてるらしい
って、そんなことより――!!

苗木「ん…っ!~~!!!///」バタバタ

僕は顔を胸に押しつけられ、窒息寸前だった。というか窒息した
柔らかい…マシュマロみたいなとても気持ちのいい感覚とともに、僕の意識は沈んでいった…

……

僕はあれからどうなったんだっけ…

朝日奈「…っ!苗木!気がついた!?」

苗木「朝日奈…さん?」

気づけば僕はベッドにいた。どうやら…意識を失っていたみたいだ

朝日奈「ゴメンね苗木!!私、苗木が息できないことに気づけなくて…っ!!」

涙目の朝日奈さんがそこにいた。そうか、朝日奈さんは責任を感じて…

苗木「僕は大丈夫だよ。だから、もう心配しないで」

朝日奈「うぅ…苗木が無事で、本当によかった…っ!」

苗木「……」

この様子だと、彼女は僕をベッドに運んで、それからずっと 看病してくれてたんだね

苗木「大丈夫だから…ね?」

僕は優しく彼女の頭を…。正確には彼女の髪をなでた

朝日奈「~~!///な、苗木は優しすぎるよ…っ//」

苗木「そうかな?そんなことはないと思うけど…」(というか逆に役得だった気もするけど…)

朝日奈「それで、苗木はどうする?」

苗木「?どうするって?」

朝日奈「いや、目が覚めたことだしこれ以上私の部屋にいる必要もなさそうに思えてきたから…自分の部屋に戻る?」

苗木「そうだね…」

そういえば時計を見るとすっかり夜になっていた。昼に意識を失ったのだからそれも当然か…

苗木「普通なら自分の部屋に帰るところだけど…」

苗木「朝日奈さん、僕がこれ以上ここにいると迷惑かな?」

朝日奈「え…?と、とんでもないよ!!そんなことない!むしろ一緒にいてくれたら嬉しい…かも」

苗木「じゃあ、今日はここで寝させてもらってもいい…かな?」

朝日奈「え!?」

正直、自分でも何を言ってるのだろうと思った。そこまで僕を大胆にさせてた理由は…
つまり、それだけ朝日奈さんと一緒にいたいって気持ちが強かった…ってことなんだろうな

苗木(別に明日でも会おうと思えば会えるのに、僕も欲が出てきたもんだなぁ…)

そんな自分に呆れもする。どうやら、人並みの欲は僕にもあったらしい

朝日奈「苗木がそう言うんなら…もちろん構わないよ!」

苗木「ありがとう。じゃあ寝させてもらうね」

朝日奈「うん」

朝日奈「……」

朝日奈「え?寝るって、今から??」

苗木「そうだよ」

朝日奈「そ、そうなんだ…いろいろお話しとかして夜ふかしできるかなと思ったけど…」ガーン

苗木「ゴメンね朝日奈さん」

朝日奈「いいよいいよ!眠たいんなら仕方ないよねっ!」

ついさっきまで寝てた(意識を失ってた)だけにまた寝るのもどうかと思ったけど、
それだけ疲れがたまってたっていうことなのかもしれない

苗木(朝日奈さんとの会話にそれだけ緊張してたってことかな…恋人云々なんて初めてだったし慣れてもなかったから)

朝日奈「じゃあ、苗木が寝るんなら私も寝よっかな。ちょうどさっきお風呂入ったばっかだったから、寝る準備はOKだよ」

苗木「あっ…」

そういえば先ほどは寝ぼけてたせいもあって、朝日奈さんの顔をあまり見てなかったから気づかなかったけど
彼女の髪型がいつもの型からロングのストレートへと変わっている。髪を下ろしてるのを見ても、確かにお風呂に入った後だったようだ

苗木「……っ」

それをまじまじと僕は見つめていた。だって――

苗木(か、かわいい…っ!!)

いや、かわいいというよりこれは――

苗木「び、美人だ…っ!!」

朝日奈「え!?ちょ、いきなり何を言い出すのよ苗木!?///」

苗木「あっ…!?」

しまった!うっかり声に出してしまっていた。だってそれくらい、ロングなストレートの彼女の姿はあまりに新鮮だったから

苗木「へ、変なこと言ってゴメン!でも、朝日奈さんが本当にかわいくて、美人だと思ったから…っ//」

朝日奈「な、何度も言わなくていいって!照れるから…///」

ダメだ、こんな姿の彼女を見せられて僕はうまく思考が働かなくなっていた

朝日奈「…あのさ、苗木」

苗木「!な、何?朝日奈さん!?」

朝日奈「もしかして苗木が動揺してるのって、私が髪を下ろしたせい…なのかな?」

どうやら彼女もその理由に勘付いていたようだった

苗木「…っ!」コクコク

僕は無言で頷く。ただ、理由はそれだけでもなかった。お風呂上がりのせいかシャンプーの良い匂いがしたっていうのもあるし
さらに加えて、薄い白のキャミソールを着てて余計にエロく感じたからっていうのもある。いろんな意味で…僕は彼女の姿に釘付けだった

苗木(けど、それらについては黙っておくかな…あまりに動揺してると知られるのも、それはそれで恥ずかしいし…)

と勝手に見栄を張るものの、おそらく彼女には僕が取り乱してる様は筒抜けだったと思う

朝日奈「そっか…。苗木って、こういう髪型が好きなんだね//」

苗木「う…うぅ…」

もちろん、いつも彼女がしている反重力ヘアー?だって僕は好きだ
いかにもな彼女の天真爛漫さを、まさに体現してるかのように感じるから

苗木(でも、こっちはこっちで…)

普段見たことがなかっただけに、もう一人の朝日奈葵の姿を見たような気になった。それが嬉しかった
おそらく彼女は意識してないんだとは思うけど、そんな姿を僕の目の前にさらしてくれたことが僕には凄く嬉しかったんだ

朝日奈「じゃ、じゃあ、ええっと…」

苗木「……」

朝日奈「寝よっか!苗木!!」

苗木「う、うん!そうだね」

お互いに恥ずかしい空気に包まれたこの空間を打ち破るかのように、彼女はそう叫んでいた

朝日奈「それじゃ、【失礼するね苗木】」

そう言って、彼女はベッドに潜り込もうとする。そこで僕は違和感に気づいた

『反論ショーダウン 開始』

苗木「!その言葉、斬らせてもらうよ!!」

BREAK!?

朝日奈「え…?ど、どうしたの苗木?斬る?え??」

苗木「このベッドは朝日奈さんの部屋にあるものなんだし、
その持ち主の本人が『失礼するね』って言うのはおかしいじゃないか!」

苗木「むしろ、【それを言うべきなのは僕のほうだっていうのに…っ!】」

朝日奈(…よく分からないけど私もこの流れに乗っちゃおっかな)

朝日奈「いや、苗木!その言葉こそ斬らせてもらうよ!!」

苗木「!?」

朝日奈「そもそも最初に、今日は自分の部屋に戻らずここで寝るって言い出したのは苗木だったよね?」1hit

苗木「そ、そうだね」

朝日奈「しかも苗木はそれを言った後もベッドに入りっぱなしだったし、逆に私はベッドには入っていなかった」2hit

苗木「う、うん」

朝日奈「つまり、私が苗木の後からベッドに入らざるをえないって状況を作り出したのは、苗木本人なんだよ!」3hit

苗木「…っ!」

朝日奈「この際ベッドの持ち主がどうとかは関係ないよ」4hit

朝日奈「人間の礼儀として、後から入る場合には『失礼します』って普通は言うものでしょ?どう?間違ってる?」5hit

BREAK!!!

苗木「ぼ、僕の負けだよ朝日奈さん…」

結局、僕は負けてしまった。というかあれじゃ、
僕が先に仕掛けて打ち負かされたわけだから、朝日奈さんが主人公みたいだったね

苗木「……」

苗木(っていうか何をやってるんだ僕は…また悪い推理癖が発動しちゃったのか)

最悪だ。これは朝日奈さんにきっとドン引きされ――

朝日奈「…ふふっ」

苗木「え?」

朝日奈「…くっ、あははは!ちょ、苗木!いきなりどうしたの?おかしすぎて笑っちゃったじゃないっ!」

よかった…?どうやら彼女は好意的に受け入れてくれたようだ

朝日奈「やはりというか、やっぱ苗木って変わってるよね。『言葉を斬る』なんて表現、あまりに独特すぎるよっ!」

苗木「驚かせてゴメンね。朝日奈さんを笑わせようと思って!」

とりあえず僕は、そういうことにしておこうと思った

実際はただの論破厨という
あれ? 苗木きゅん付き合うとなると面倒くさい……?

朝日奈「だったらその目論見は成功だね?実際、私は笑っちゃったわけだし♪でも…それと同時に嬉しかったかな」

苗木「?嬉しかった…?」

朝日奈「だって、そういうのもまた、苗木の新たな一面ってことでしょ?そんな面を私に見せてくれて嬉しかったなってこと!」

苗木「…っ!」

朝日奈「だって、今まで知らなかったその人のいろんな面を知っていくって、いかにも恋人らしいじゃん!」

なるほど…確かにそうだ。そういう意味では、僕もさっき同じことを思った
彼女の髪を下ろした姿も、また彼女の一つの面だったからだ

苗木(そうやって、互いにこれから少しずつ相手のことを知っていくのかな…)

そう考えると思わず頬が緩んだ

苗木「……」

とまあ、綺麗にまとめたつもりだけど、やっぱり僕の推理癖と彼女の髪を下ろした姿とを同一視するのはおかしい気がした

苗木(ま、そんな細かいことはどうでもいいか…)

今は彼女と一緒にいられるだけで。朝日奈さんと一緒にいられるだけで、僕は満足なんだから

朝日奈「じゃ、電気消すね?苗木?」

それに対する僕の頷きを受け、彼女は部屋の電気を消した

苗木「……」

朝日奈「それじゃ、今度こそ失礼するね?」

そう言ってベッドに潜り込んでくる朝日奈さん

苗木「…っ」

眠たいとは言ったけど、やっぱりすぐ隣に女の子が寝てるってことを考えると、そう簡単には寝つけそうになかった

苗木(だからこそ、あまり意識しないよう朝日奈さんに対しては背を向けて寝てるんだけど…)

朝日奈「…苗木」

ふと、朝日奈さんの呼びかける声が聞こえた

苗木「どうしたの?朝日奈さん」

朝日奈「いや、もう寝たのかなって…」

苗木「さすがに電気消した瞬間に寝るのは無理かな。でも、次第に眠くなるとは思う」

朝日奈「ふーん、そっか」

朝日奈「ねえ苗木」

苗木「ん?」

朝日奈「えい!」ギュゥゥ

苗木「!?」

気づけば朝日奈さんは背後から手を回してきて、僕を後ろから抱きしめる格好へとなっていた

苗木「あ、朝日奈さん///」

朝日奈「暇だったしちょっとイタズラしてみちゃった//」

苗木「朝日奈さん!そ、その、あたってるよ!!///」

抱きしめられただけじゃない。彼女の豊満なおっぱいもまた、僕の背中に押しつけられていた

朝日奈「ゴメンね。苗木の反応がつい見たくてっ」

苗木「そりゃこんなことされたら慌てるに決まってるって…」

朝日奈「…やっぱり苗木といると楽しいな…っ♪」

でもこんなに嬉しそうな声を出されると、なんというか怒る気にもなれなかった。まあ、怒る気とか端から無いんだけどね

朝日奈「ねえ苗木。明日、暇?」

苗木「暇だけど、どうしたの?」

朝日奈「その…よければデートとかどうかなって///」

苗木「…!!」

朝日奈「だ、だってさ。せっかく苗木と恋人になれたんなら、やっぱりそういうこともしてみたいし…!」

苗木「もちろん構わないよ。どこへ行こうか?」

朝日奈「ちょっと待って…今いろいろ考えてるから!え、ええっと…」

苗木(朝日奈さんとデート…か)

一体どんな時間になるんだろう。それを想像するだけでも、今から楽しみだった

苗木「……」

そうだ、僕自身が行きたいところも含めて朝日奈さんと相談してみるのも、また一つの楽しみかもしれないな

しばらくして、僕は後ろにいるであろう朝日奈さんに声をかけた

苗木「ねえ朝日奈さん。考えはまとまった?」

朝日奈「……」

苗木「?朝日奈さん?」

どうやらさっきとは様子が違っていた。なぜなら――

朝日奈「……」スースー

苗木(そっか。朝日奈さん…いつのまにか寝ちゃってたんだね)

背を向けてるから顔は見えないけども、かわいらしい彼女の寝息から…それは想像できた

苗木(まったく、自分から考えるなんて言っちゃって寝ちゃうなんてね…)

でも、いろいろ頭で考えてるうちに疲れて寝てしまったのだとしたら、それもなんか朝日奈さんらしくて…思わず笑みがこぼれた

苗木(いや…。彼女が疲れた理由は、もしかするとそれだけじゃないのかもしれないな…)

思い返せば、彼女は意識を失った僕をずっと横で看病していたはずだ。まあ…途中でお風呂には行ったみたいだけど

苗木(結構ああいうのって気を使ったりするから。それも影響してるのかもしれないね)

だとすると、明日ちゃんと朝日奈さんにはありがとうって言っておかなくちゃ

苗木(『自分が抱きしめたのが原因なんだから、お礼なんていらないって!』って言われそうだけど…それでも言っておこう)

やっぱり誰かに看病されるってのは 素直に嬉しいことだと思うから

……

苗木「……」

朝日奈「……」スースー

苗木(…魔が差したっていうのかな。朝日奈さんの寝顔が見たくなっちゃったな)

あまり褒められたことではないのは分かってるんだけど…。僕は欲求に負けて寝返りを打ってみた

苗木「……っ!」

朝日奈「……」スースー

苗木「……」

苗木(朝日奈さんって、寝てるときはこんなにも無垢な顔になるのか…正直驚いた)

もちろん普段の彼女が無垢じゃないって言うつもりはないんだけど
ただ、僕の知ってる朝日奈さんだと活発性あふれるイメージのほうが強かったからか…
そういう面が隠れてたように思う

苗木(これもまた、朝日奈さんの一つの姿なんだよね…)

寝顔も含めて、本当に朝日奈さんはかわいいと思う

苗木(すっかり朝日奈さんにぞっこんだな僕は…)

朝日奈「……苗木ぃ…」

苗木「…!」

朝日奈「……」スースー

苗木「……」

苗木(ね、寝言だった…みたいだね)

びっくりした。もし起きてたらどうしようかと思ったから

苗木(僕の名前が出てきたってことは、僕の夢でも見てるのかな…朝日奈さん)

朝日奈「…苗木…っ」

また僕の名前だ

苗木(朝日奈さん… 一体どんな夢を――)

朝日奈「大好き…っ」

苗木「え…!?」

朝日奈「大好きだよ…苗木…っ///」

目はつぶったまま、けれど幸せそうな表情をした彼女の顔が 僕の目の前にあった

苗木(本当に…どんな夢を見てるんだろうね朝日奈さん)

苗木「……」

彼女の顔を見据え、そして 静かにつぶやいた
聞こえてないことは分かってるけど

苗木「おやすみ…朝日奈さん」

朝日奈「……///」スースー

顔を赤くしてるように見えたのは…気のせいかな?

おわり

以上です。たえちゃんと朝日奈さんの話を見ていただき、ありがとうございました

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