姉「私は常々思っていました。妹は、もっと可愛い服を着るべきだと」
妹「またいきなりだな……」
姉「家ではジャージ。外出しても短パンにTシャツ」
姉「ガサツでズボラで、女の子らしい所なんて一つもありません」
妹「…………」
姉「いつも鼻水垂らしてるし」
妹「垂らしてないよ! 言い過ぎだよバカ姉!」
姉「そんな妹も、もうすぐ中学二年生になろうとしています」
姉「私は焦りました。果たしてこの子は、このままでいいのか、と」
姉「身体は二次性徴を迎え、胸も膨らみ始める今日此の頃」
姉「この時期を逸してしまっては、妹が女の子になるチャンスは失われてしまうのでは?」
姉「だから私は決めました。姉であるこの私が、責任を以って、妹を女の子らしい女の子にしてあげようと」
妹「誰に向かって喋ってんの?」
姉「よくよく見てみれば、この妹、顔は悪くありません。体型はまるで少年のようですが、それはスレンダーと言い換えることも出来るでしょう」
妹「もう黙れ」
姉「加えて、時折見せる甘えた姿はとてもチャーミングです。普段の強気な態度と相まって、私のツボをグイグイと刺激します」
妹「そんな、甘えてないし! もうホント黙ってよお姉ちゃん!」
姉「あっ」
妹「えっ?」
姉「今のイヤイヤ『お姉ちゃん』はいいですね。妹力+5です。流石は妹、私のツボを心得ています」
妹「もうキモい! 本当にキモい!」
姉「と、いう訳で。今から私が、貴女のプロデューサーです。今後は妹の服装や身だしなみ、行動、発言、その全てを私が管理します」
妹「はぁ!? ふざけないでよ、気持ち悪いなぁ!」
姉「では、このまま男女として生きていきますか? 周りがドンドンと大人びていく中、貴女だけ鼻水を垂らし続けるのですか?」
妹「鼻水はもう垂らさない! けど……」
姉「けど?」
妹「…………私が、可愛い服とか着ても……どうせ似合わないし……」
姉「そんな事はありませんっ!!」
妹「わっ! び、びっくりしたぁ!」
姉「失礼。ですが、貴女は間違っています」
姉「お姉ちゃん、妹には、可愛い服がとても似合うと思いますよ」
妹「そんな事……」
姉「あります。断言します。世の中の可愛い服は、全てあなたの為にあると言っても過言ではありません」
妹「それは過言だよ」
姉「何よりも私が、妹に可愛い服を着て欲しい!」
妹「結局それなんだね……。はぁ、もういいよ……。好きにして」
姉「よろしい。貴女はこの瞬間、今までの人生に於いて最も正しい選択肢を選びました。GJ」
妹「……で、でも、いきなり凄いのとかは着れないからね!? は、恥ずかしいし!」
姉「把握しています。全て、この姉に任せなさい」
姉「では、私は向こう一ヶ月分のスケジュールを整理してきます。十分後、リビングに集合して下さい」
妹「……不安だなぁ……」
~十分後~
姉「これが、今後貴女がこなすスケジュールです!」
妹「ぶあついっ! なにコレ、原稿用紙何枚分!? っていうかこんなの十分で作れる訳ないじゃん!」
姉「貴女が私の妹としてこの世に生まれ落ちた瞬間に、作成を開始していましたから」
妹「……マジ引くわぁ」
姉「私にとっては褒め言葉です」
姉「では、まずはコレを貴女に渡しておきます」
妹「……これは、何? 腕時計?」
妹「わっ、ちょっと格好いいかも……。お姉ちゃん、これ、高かったんじゃないの?」
姉「はい。諭吉が何枚か飛ぶぐらいには、高かったです」
妹「そんなもの、私にくれちゃっていいの?」
姉「もちろんです。妹の為に購入したものですから」
妹「わぁ! ありがとうお姉ちゃん! 私、腕時計なんてするの初めてだよ!」
姉「はい。そうでしょうね。ですが、それは正確には腕時計ではありません」
妹「えっ?」
姉「腕時計型のデジタルカメラです」
妹「…………」
姉「円盤部分に超小型のレンズを搭載しており、内部の記憶媒体により約4時間の連続撮影が可能」
姉「おまけに太陽光で発電でき充電要らず、いつでもどこでも盗撮できる優れ物です」
妹「…………」ポイッ
姉「何故!?」
妹「何故じゃないっしょ! ふざんな! 堂々と盗撮宣言されて受け入れると思ったのか!?」
姉「盗撮ではありません、観察です。貴女をプロデュースするために、必要な事なのです」
妹「撮った映像はどうするつもりなの?」
姉「私の妹メモリアル、NO,198(番外編)に加わります」
妹「ひゃく……きゅうじゅう……」
姉「番外編では、妹のちょっとアホっぽい姿を収められないかと、大いに期待している所です」
妹「死ねっ!」ガンガン
姉「あっ、ちょ、やめ、壊さないで下さい! 解りました、解りましたから!」
妹「本当にやめてよ! 後、私の写真とか動画とかも全部消して!」
姉「えぇ~っ……?」
妹「何この世の終わりみたいな顔してんの? 当然っしょ!?」
姉「うぅ、解りましたよ……。後で消しておきます……」
妹(絶対に消さないな、こいつ。隙を見計らって消しておこう)
姉「さ、さぁ。気を取り直して、プロデュースを始めましょー!」
妹「…………もう、気力残ってないんだけど……」
姉「ではまずはじめに、服装から見なおしていきましょうか」
妹「やっとそれっぽくなってきたね……」
姉「妹は、家の中では、中学のジャージを着用していますね?」
妹「うん。楽だし、動きやすいし」
姉「それがいけません。女の子なんですから、家の中でも身だしなみに気を使わないと」
姉「ジャージなんて以ての外です。論外です。もう見飽きました。受け入れられません、私が」
妹「いや、知らんがな」
姉「と、いう訳で、まずは普段着を私チョイスで選んでおきました!」ババーン
妹「なに、これ……」
姉「なに、と言われても。パジャマですよ、パジャマ」
妹「これ、きぐるみでしょう!?」
姉「はい。フナ○シーです」
妹「のっけから意味が解らないよ! 何で私が家の中でこんなの着ないといけないの!?」
姉「妹がこれを着て、あの意味の解らない動きをしてくれたら、私は最高に幸せです」
妹「いや、知らんがな」
妹「こんなの着るわけないじゃん! もう、ふざけないで真面目にやってよ!」」
姉「あらあら、お気に召さないと。我儘ですねぇ、妹は」
妹「何処が!? 我儘なのはお姉ちゃんでしょう!?」
ID変わってる……
姉「解りました、解りました。お姉ちゃん、ちょっと調子に乗りすぎてたみたいですね」
姉「では、無難にこのピンクのネグリジュを着てもらいましょうか」
妹「そんなのあるんなら、最初から出せよ……」
妹「うん……。このぐらいなら、私にも着れるかなぁ。ちょっとフリフリが多いけど……」
姉「良かったです。フリフリにも、徐々に慣れていきましょうね」
妹「うん。お姉ちゃん、ありがとう!」
姉「いえいえ、お礼を言うのはまだ早いですよ。早速着てみてください」
妹「うん! じゃあちょっと着替えてくるー!」バタバタ
姉「あらあら、あんなに喜んじゃって……。可愛いったら、もう!」
バタバタ
妹「ど、どうかな、お姉ちゃん!」
姉「はい。とっっっても、似合ってますよ!!」
妹「本当!? へへ、こういうの着たこと無かったけど、凄い軽いんだね! 全然着てるって感じがしないよ!」
姉「そうでしょうそうでしょうとも。何せ、最高級のシルクで特注した、妹専用のネグリジェですからね」
妹「え、そんなに高かったの!? お姉ちゃん、お金大丈夫なの?」
姉「問題ありません。この前株で一山当てましたから」
妹「へー、よく解らないけど。とにかくありがとうね、お姉ちゃん!」
姉「いえ、お礼を言うのは、寧ろ私の方でしょう」
妹「えっ?」
姉「妹、ちょっとこちらに背中を向けてください」
妹「えっ、こう?」クルッ
姉「えいっ!」シュル
妹「ん? 今首触った?」
姉「いいえ? もうこちらを向いても大丈夫ですよ」
妹「うん。――って、どうしてそんなに鼻息荒いの?」
姉「な、なんでも……なんでもありません……!」
妹「そう? 何か変だよ、お姉ちゃん」
姉「そんな事は! そんな事は、あああああありませんよ!」
妹「いや、絶対おかしいって……。まっ、いっか!」
妹「じゃあ私、ちょっと鏡で見てくるね!」バタバタ
姉「あっ、ちょ、待っ!」
妹『ええっ!? なんで私ハダカなの!?』
姉「…………」
バタバタ
妹「こんの、クソ姉がぁ!」ドカッ
姉「アヒンッ」
妹「なにコレどういうこと!? いつの間に脱がしたの!?」
姉「さっき……背中向けた時……首の紐を解けば、全部パージされるように設計したから……」
姉「…………綺麗なピンクですね。GJ」
妹「死んでしまえっ!」
妹「もう! 何がしたいんだよお姉ちゃんは!」
妹「っていうか全然気付かなかった自分に腹が立つよ!」
姉「気付かれないように、重さも肌触りも、殆ど感じない特注のシルクで作りましたから、何も恥じることはありませんよ?」
妹「ふざけんなっ! もうヤダ! 私止める! お姉ちゃんなんか大っ嫌い!」
姉「はうっ……! そ、そんな、大嫌いなんて言わないでください……。私は、妹の為を思って……」
妹「違うじゃん! 全部自分の為じゃん! 私のハダカなんて見て、何が楽しいの!?」
姉「た、楽しいのではなく、とても、興奮するのです……」
妹「変態! 変態! 変態! 変態!」
姉「くっ、そこまで悪しざまに罵られると、少し、気持ちが昂ってきますね……」
妹「信じらんないっ! とにかくもう止める! お姉ちゃんなんかにプロデュースして欲しくないよ!」
妹「ネグリジュなんてもう着ない! 可愛くなんてならなくったっていい! ずっと男女でいいし! ずっと鼻水垂らしてやる!」
姉「いや、鼻水は拭いた方が……」
妹「バーカ! バーカ!」バタバタ
姉「あらら……。泣きながら行ってしまいましたね……」
姉「流石に、やり過ぎたでしょうか……」
~その日の夜~
姉「妹、部屋に入ってもいいですか?」
妹「入ってくんな!」
姉「まだ怒ってるのですか……」
妹「当たり前じゃん!」
姉「このままでは埒が明きませんね。失礼します」ガチャ
妹「はぁ!? 勝手に鍵開けるとか、信じらんない! っていうかなんで鍵開けられるの!?」
姉「マスターキーを持ってますから」
妹「もうやだ! ドアノブの鍵替えてやる!」
姉「まぁ、落ち着いてください。今、論点はそこではありません」
妹「うるさい! 出て行け!」
姉「私は昼間、貴女の事を酷く傷つけてしまいました。その謝罪をしたいと思います」
妹「今更なんなの!? もう謝って欲しくないし! 顔も見たくないっ!」
姉「……私は確かに、世間一般で言うところの“姉”とは、少し、違うのかも知れません」
妹「急に語りだすな! 人の話聴けっ! そういう所も大っ嫌い!」
姉「ですが、これだけは言えます。私は、世界中のどんな人よりも、貴女の事を愛しています」
姉「愛しています」
妹「……なんで二回言った……」
姉「その愛情の分だけ、気持ちが空回りしてしまって、その結果、今日、貴女を傷つけてしまったようです」
妹「そうだよ……。本当に、信じらんない……」
姉「ですから、謝罪致します」
姉「本当に、ごめんなさい……」
妹「……出てってよ……」
姉「いいえ、出て行きません。まだ、仲直り出来ていませんから」
妹「勝手なこと言わないでよ! もうお姉ちゃんの事なんて、大っ嫌いなんだから!」
姉「…………」
妹「出てってよ! 出て行け! 顔も見たくない! どっか行っちゃえー!」
姉「…………解りました」スッ
妹「…………」
姉「ごめんね、妹ちゃん」
バタン
妹「あっ……」
妹「…………」
妹「もう、寝よう……」
~三時間後~
妹「全然寝らんないし、喉乾いた……。頭痛いし……」
妹「これも全部バカ姉のせいだ……」
妹「…………」
妹「やっぱり、もう一言、文句言ってやろう!」
ドタドタ
妹「お姉ちゃん! ちょっと部屋入るよ!? お姉ちゃん!」ドンドン
「…………」
妹「……お姉ちゃん?」
妹「居ないの? お姉ちゃんってば!」
リビングにも、トイレにも、台所にも、お風呂にも。お姉ちゃんの姿は見当たらなかった。
時刻は深夜を回っている。
日付を跨ぐような時間に外出していた事がないお姉ちゃんが、この時間になっても家に居ない。
嫌な予感が、私のナイ胸を締め付ける。
「もしかしたら、部屋で寝ているのかもしれない」
そう思い立った私は、苛立ちと焦燥を抱えたまま、私の部屋の扉に差しっぱなしになっていたマスターキーを使って、お姉ちゃんの部屋へ入る事にした。
室内に、お姉ちゃんは居なかった。
ラベンダーの香りが、私の鼻腔を刺激する。甘い、嗅ぎ慣れた、お姉ちゃんの匂い。
妹「……何処に行っちゃったんだよ、あのバカ姉……」
妹「人の話聴かないし、変態だし、あと変態だし……」
妹「でも、それが私のお姉ちゃんなんだよね……」
妹「私を好きだっていう気持ちは、痛い程伝わってくるし……」
妹「…………」
妹「やっぱり、仲直り、したいな……」
妹「お姉ちゃん、会いたいよ……」
姉「その言葉を待っていました」
妹「すわっ!」
姉「その悲鳴は可愛くないですね、-4点です」
妹「一体何処から……!」
姉「ベッドの下に潜んでいました。まだまだ修行が足りないですね、妹」
妹「い、意味が解らないよ……」
姉「とにかく。仲直り、という事で、よろしいですか?」
妹「あっ……」
妹「う、う……」
ペラリ
妹「……あれ、何か落ちたよ?」
姉「あ、それは……!」
妹「これは……『妹、プロデュース計画書』?」
姉「あ、読まないでください! 読まないでください!」
妹「これ、中身が……日記になってる?」
妹「一体、どういうこと……?」
9月8日
妹、最高。
9月9日
妹、ラブリー
妹「…………」
姉「…………」
妹「……裏表紙にも、何か書いてあるけど……」
姉「あっ……!」
『妹、愛してる。マジLOVE』
姉「…………てへっ」
妹「……もう。お姉ちゃん、どんだけ私の事好きなのよ……正直、ウザいし、引く」
姉「そ、そんな……!」
妹「けど……」
妹「けど、こんなガサツで、ズボラな私を好きでいてくれるのは」
妹「凄く、嬉しい……」
姉「妹ちゃん……!」ガバッ
妹「ちょ、お姉ちゃん、苦しいよ……」
姉「あー、もう、可愛すぎます! キスしてもいいですか?」
妹「はっ?」
姉「いいえ、もう断られてもしてしまいます! 何故なら私の中の衝動が抑えきれないから! 行きます! 行ってしまいます!」
妹「ちょ、やめ――」
姉「むちゅ~!」
妹「やめろって言ってんだろバカ姉!」ゴッ
姉「アヒンッ」
妹「はぁ……はぁ……」
姉「…………むちゅー」ピクンピクン
妹「………………」
妹「……………………やっぱり、気持ち悪い」
終劇!
ID変わりまくってごめんなさい
支援ありがとうございました!
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