P「分かりました音無さん、もういいです」 (32)
【17:00 765プロ事務所】
小鳥「はい……そうです……えぇ……分かりました、よろしくお願いいたします……はい、失礼いたします」
小鳥「ステージ衣装の件もこれでOK、っと」
小鳥「あとは……頼まれてた件はこれで全部片付いたわね」
小鳥「他は全部明日以降でも大丈夫なものばかりだし……あら、まだ5時なのね」
小鳥「外が明るいうちにお仕事が終わるなんていつ以来かしら」
小鳥「プロデューサーさんと律子さんは確か直帰って言ってたわね」
小鳥「アイドルの子達もお休みか直帰ばかりだし、社長は明日まで出張だし」
小鳥「メールチェック……よし、面倒なメールは来てない!」
小鳥「久しぶりに早く帰れるって訳ね。うふふふ」
小鳥「さ、面倒な電話が来ないうちにさっさと帰ろうっと」
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【17:20 765プロ事務所前】
小鳥「う~ん……パンフの件も返事もらったし、ノベルティの件もちゃんと連絡したし」
小鳥「大丈夫、今日のお仕事は全部終わったはずよ」
小鳥「明るいうちに帰ると何か忘れてそうで不安になるのよね……」
小鳥「ダメダメ、これじゃせっかくの5時帰りが台無しよ。楽しい事を考えなきゃ」
小鳥「何しようかなぁ。週末買おうと思ってた本とCDでも買って帰ろうかしら」
小鳥「撮りためてたビデオも消化できそうね」
小鳥「となれば、コンビニでお弁当でも買って……」
【17:40 765プロ事務所】
美希「事務所真っ暗だよ?」
春香「小鳥さん、帰っちゃったんじゃ……」
千早「普段ならこの時間まだ残っているはずだけど」
P「まさか……やっぱり、鍵がかかってる!」
春香「えぇー?!」
千早「夕食を買う為に一時的に外出中とか」
P「いや、それなら完全に真っ暗にして出かけることはないはずだ」
美希「ねぇ、どうするの? 小鳥帰っちゃったらここに来ても……」
P「とりあえず律子に連絡するが……場所は予定通りで行きたいな」
千早「音無さんを呼び戻すんですか?」
P「そういう事になるが……もしもし、律子か? 俺だ。今電話大丈夫か?」
律子『運転中ですけど、ハンズフリーにしてますから大丈夫です。例の件ですか?』
【17:45 765プロ社用車内】
P『そうだ。予定外の事態が発生した』
律子「予定外?」
P『あぁ。音無さんがもう帰ってしまった。事務所にはいない』
律子「えぇ?! そんな、まだ6時にもなっていないのに?!」
P『あぁ。今日に限って仕事が早く片付いてしまったらしいな』
律子「そうなると……場所の変更は今からじゃ無理ですね」
P『そうだな。俺としても場所は予定通りで行きたいと思ってる』
律子「それしかないですね。他の子達も予定通りに動いてもらいましょう」
P『了解。こっちから連絡しておく』
律子「お願いします。こっちは予定通りにそちらに着くのは予定通りになると思います」
P『了解。それじゃ、気を付けて帰って来てくれ』
律子「はい、よろしくお願いします。……はぁ。今日に限って……」
亜美「ねぇ律ちゃん、まさかピヨちゃん帰っちゃったの?」
律子「その『まさか』よ」
亜美「えー?!」
あずさ「まぁ、それは大変ねぇ」
伊織「ちょっと! 事前に残ってるように言っておかなかった訳?!」
律子「あんた達が秘密に、って言うから、怪しまれるような事は言えなかったのよ」
あずさ「何かあったんでしょうか? 普段ならまだ事務所でお仕事していますよね?」
律子「あんまり仕事が多いと誘導に乗ってくれないかもと思って、ばれないように仕事をいくつかこっちに回したんです」
亜美「それで律ちゃん、今日一日普段より忙しそうだったんだ」
伊織「裏目に出た、って訳ね」
律子「えぇ。早めに終わるだろうとは思ったけど、まさかあの仕事量を5時までに終わらせるとは……想定外だったわ」
あずさ「それじゃ、私たちはどうしましょう?」
律子「小鳥さんを誘い出してダンスの振付見てもらって、って言うのは無しですね。このまま事務所に行きます」
亜美「それじゃ、ピヨちゃんはどうすんの?」
律子「そこが問題だけど……そうね……」
【19:00 小鳥のマンション】
小鳥「それじゃ、頂まーす……あら、電話だわ。プロデューサーさんから」
小鳥「何かしら……もしもし、音無です。プロデューサーさん、どうしました?」
P『もしもし、音無さんは今自宅ですか?』
小鳥「えぇ、そうですけど……プロデューサーさんは今どちらに? 今日は確か直帰でしたよね?」
P『今は事務所にいますよ。律子も』
小鳥「そうなんですか? もしかして、何かありました?」
P『音無さん。何か忘れていることはありませんか?』
小鳥「えっ……」
P『思い出して下さい。大切な事を何か忘れていませんか?』
小鳥「えっと……プロデューサーさんや律子さんから頼まれたことは全部終わらせました……他には……」
P『はぁっ……他には?』
小鳥「社長からも特に……あ、吉澤さんへの伝言はちゃんと伝えましたし……えっとあとは……」
P『分かりました音無さん、もういいです』
小鳥「えっ……」
P『今から迎えに行きますので、準備していてもらえますか?』
小鳥「は、はいっ!」
P『それじゃ、着いたらまた電話しますから』
【19:05 765事務所】
P「ふぅ……どうだ、この演技力」
真美「どう、って……」
亜美「兄ちゃん、そんな冷たい声出せるんだね……」
やよい「あ、あの、ごめんなさい……」
P「ちょ、ちょっと待った! なんだその反応は!」
伊織「演技とは言え、ちょっとやりすぎよ」
あずさ「私、プロデューサーさんにあんな事言われたら、立ち直れないかもしれません……」
美希「ミキも……想像しただけで悲しくなってくるの……」
律子「考えた私が言うのもなんですが、小鳥さんが可哀想になってきました」
P「おぉい! 律子、お前俺がどんな気持ちで音無さんに電話したと思ってる!」
真「ちょっと……予想以上の演技力だったので、その……」
貴音「えぇ。演技と分かってはいるのですが、その……」
響「口調だけじゃなくて表情まですっごい冷たかったから、その……」
P「だ、だって、そうしないと演技出来ないだろ! なぁ、雪歩、分かってくれるよな?!」
雪歩「ひっ! ご、ごめんなさいぃ……」
春香「あの、プロデューサーさん、あんまり怖がらせちゃ……」
千早「素晴らしい演技力だという事には同意します。でも、これじゃ……」
P「そ、そんなにか? そんなに俺の声冷たかったか?」
律子「途中の溜め息がなければまだ……」
P「だ、だって! 音無さんがあんまり可哀想な声だすから、心労で思わず……」
亜美「ピヨちゃんもやっぱり怖がったんだ」
真美「そりゃそうっしょ。だって、あれじゃ……」
高木「ふぅむ、少々やりすぎてしまったが、それはこの後挽回すればいいだろう」
律子「そうですよ。ほら、さっさと迎えに行く」
P「えっと……誰か一緒に……」
律子「不自然です。ここまで来たら最後まで演じてください」
P「分かった……はぁ、気が重い……行ってきます」
高木「あぁ。気を付けて行ってきたまえ」
【19:40 小鳥のマンション前 車内】
小鳥「あの、すみません、わざわざ……」
P「いえ。それじゃ出発します」
小鳥(な、なんで思い出せないの……プロデューサーさんがこんなに怒る位大切な用事なのに!)
P(音無さんめちゃくちゃ凹んでるし……あーもー、共犯とはいえ、なんでこんな役回りを……)
小鳥「あれからずっと思い出そうとしているんですけど……私が何を忘れているか、教えてもらえませんか……?」
P「事務所に付けば分かりますから」
小鳥「……はい」
P(ごめんなさい音無さん! 後で蹴るなり殴るなり好きにしてもいいですから! ごめんなさいっ!)
小鳥(そうよね……大切な事忘れて帰っちゃったんですもの。口もききたくないわよね……)
P(駄目だ、口開いたらネタばらししてしまいそうだ……我慢、我慢だ……)
【20:00 765プロ事務所】
P「どうぞ、入って下さい」
小鳥「はい……失礼、します……」
律子「お疲れ様です、小鳥さん。まだ思い出せませんか?」
小鳥「ごめんなさい、本当に、まったく思い出せなくて……あの、教えてもらえませんか?」
律子「分かりました。小鳥さんが忘れている事は」
亜美「今日がピヨちゃんの」
真美「誕生日だって事だよ!」
小鳥「……はぇ?」
やよい「蠅?」
美希「もしもーし、小鳥、分かる? ミキだよー?」
小鳥「えっと……え?」
春香「と、とりあえず予定通りみんなで行こうよ。せーの!」
一同「小鳥さん、お誕生日おめでとうございます!」
P「そしてすみませんでした! この通り! なんでもしますから許して下さい!」
響「土下座?!」
真「膝をつくまでの一連の動作がとてもスムーズでしたね」
貴音「えぇ。まこと、参考になります」
伊織「ならないわよ。あんたどういう場面で土下座するつもりよ」
真「ドラマとか?」
響「土下座する貴音なんてドラマの役でも見たくないぞ……」
律子「ほら、外野が脱線しないの」
小鳥「あ……それじゃ、私がやらなきゃいけないお仕事忘れて、っていうのは……」
P「大丈夫です。小鳥さんはちゃんと全部お仕事を終わらせましたから」
律子「まさか5時までに全部終わらせるとは思いませんでしたけど」
小鳥「それじゃ、それじゃ私……」
あずさ「大丈夫ですよ、安心してください。今日はみんな、小鳥さんの事をお祝いしたくて集まったんですよ」
高木「とりあえずお茶でも飲んで落ち着きたまえ。萩原君、すまないがお茶……おっと、準備がいいねぇ」
雪歩「はい、どうぞ。これを飲んで落ち着いて下さい」
小鳥「ありがとう……ふはぁ……あれ、社長?! 出張中のはずじゃ?」
高木「はっはっはっ、元々2日間で終わる予定だったからね。一日早く帰ってきたんだよ」
小鳥「そ、そうだったんですか……」
千早「ケーキと料理も用意してありますから、奥に行きましょう」
P「音無さん、立てます? 手を貸しますよ」
小鳥「はい、すみません……って、プロデューサーさん!」
P「は、はいっ!」
小鳥「私っ、本当にびっくりしたんですから! あんなに冷たくされて、私、もうプロデューサーさんが私の事……」
P「すみませんでした、本当に」
亜美「あ~あ、泣かせちゃった」
真美「兄ちゃんも悪い男よのぅ」
律子「あんたらはちょっと黙ってなさい」
P「意図的にやるべき仕事を残して帰るような人じゃないって事は、ここにいるみんなが知ってますから」
小鳥「ぐすっ……お世辞位じゃ許してあげませんよ」
P「お世辞じゃありませんって」
伊織「それじゃ、許すまで下僕としてこき使ってあげなさい」
P「お前な……」
真「ほら。王子様としてエスコートしてあげなきゃ」
P「真まで……音無さん、立てますか? 肩、貸しましょうか?」
雪歩「そこはお姫様抱っこだと思いますぅ」
P「ぐっ……それじゃ」
小鳥「えっ? だ、大丈夫です、立てます、立てますから! それより、この料理とケーキ、もしかして……」
春香「はい、ケーキは私と千早ちゃんが作ったんです」
千早「は、春香! 私はただフルーツを切ったりしただけで……」
小鳥「本当においしそうだわ。ありがとう」
響「おにぎりは美希が、料理は自分とやよいが作ったんだぞ!」
美希「自信作なの!」
やよい「お口に合うといいんですけど」
小鳥「合うに決まってるじゃない! いえ、たとえ合わなくても口の方を合わせるわ!」
律子「他の子達は仕事でどうしても手伝えなくて。終わってからみんなで準備していたんですよ」
小鳥「そうだったんですね。私なんかの為にわざわざ……」
美希「それと、はいこれ。アイドル一同からのプレゼントなの」
小鳥「ありがとう! 開けてみていいかしら?」
美希「どうぞなの」
小鳥「それじゃさっそく……化粧品? うそ、すっごい高そう……」
伊織「にひひっ、秋の新色よ。うちの会社のだから、安心して使ってちょうだい」
美希「みんなで相談して、小鳥に合いそうな色で攻めてみたの」
真「メイクさんにも相談したし、小鳥さんにも絶対に合うはずですよ!」
雪歩「ぜひ使ってくださいね」
小鳥「ありがとう、みんな……一生大切にするわ」
伊織「いや、使いなさいよちゃんと」
P「それと、これは俺と律子と社長から」
律子「万年筆とボールペンのセットです。社長の発案なんですよ」
高木「こういうのを持っていた方が良いだろうと思ってね。さっそく開けてみたまえ」
小鳥「はい……こっちもとっても高そう……あの、本当にいいんですか?」
高木「気にすることはないさ。こっちもぜひ使ってくれたまえ」
律子「スリムだし、普段使いにも良さそうですよね」
高木「一人前の社会人たるもの、しっかりしたペンを……なんて、少々年寄りじみた考えかもしれんがね」
小鳥「ありがとうございます。とっても……嬉しいです……」
P「そういってもらえると企画した甲斐があります」
律子「それじゃ、ケーキの蝋燭に火を点けますね」
小鳥「……ちょっと待ってください。なんですか、その蝋燭が林立したケーキは」
貴音「ですから、これは春香と千早が用意したものだと先ほど……」
小鳥「ううん、そうじゃないの貴音ちゃん。この蝋燭の本数が気になるんだけど」
律子「一応、正確な数を用意してありますけど」
真「そうなんですか? ちゃんと数確認してなかったなぁ」
亜美「亜美、数えてみるね。いち、にー、さん」
小鳥「きえぇえええええ!」
真美「あー! ピヨちゃん何するのさ!」
小鳥「ダメっ! これはダメっ! 数えちゃダメっ!」
春香「な、なにもそんなに鬼気迫る顔で抜かなくても……」
千早「あの、いくらなんでも抜きすぎでは?」
小鳥「じゅうご、じゅうろく、じゅうなな。よし。これでおっけーですっ」
律子「おい」
響「17歳って……」
小鳥「なんくるないさー」
響「なんくるあるよ、いくらなんでも17歳って……」
P「ま、まぁ、今日の主役だし」
伊織「やよい、ああいう大人にだけはならないようにしましょう」
やよい「なんで? 私、小鳥さんとっても素敵な大人の人だなーって思うけどなぁ?」
真「素敵な大人の人ってあんな形相で蝋燭引っこ抜いたりはしないと思うよ……」
律子「えー、それじゃ、火をつけたんでさっさと吹き消して下さい」
小鳥「扱いが雑すぎません?!」
律子「ついさっきの行動を思い出してみてくださいね」
美希「ほら、一気に行くの」
亜美「どばーっと!」
真美「ぬわーっと!」
小鳥「そ、それじゃ……ふーっ! ふーっ! ふーっ!」
響「一気には無理だったかぁ」
真「ほら、肺活量ってだんだん……」
春香「そっか……」
千早「でも、適切なトレーニングで維持することは可能ですから」
小鳥「うん……千早ちゃんのおかげで怒るに怒れなくなっちゃったわ」
律子「それじゃみんな、せっかくの料理が冷めないうちに頂ましょう」
響「貴音にも取ってあげるね……って、貴音、それ一人で全部食べちゃダメ!」
春香「これ、取りにくいからそっちのテーブルに……っとっとっときゃぁあ!」
千早「は、春香?!」
真「危ないっ!……よっと、よかったぁ」
亜美「おー、まこちんナイスキャッチ!」
やよい「あー! 真美、直接食べるなんてお行儀悪いよ!」
伊織「あんたたちね、少しは落ち着きなさいよ……」
高木「これは、何かかけたほうがいいのかね?」
あずさ「味が付いていますから、そのままでも大丈夫ですよ」
雪歩「美希ちゃん、おにぎりだけじゃなくておかずも食べようよ……」
P「はい、どうぞ音無さん。料理、一通り盛ってきました」
小鳥「ありがとうございます。それじゃさっそく……」
P「俺もさっそく……うん、美味い!」
小鳥「美味しい。おにぎりも塩加減が絶妙ですね」
P「あの、音無さん。改めて、すみませんでした」
小鳥「プロデューサーさん、なんでもするって言いましたよね?」
P「えぇ。なんでも言ってください。出来る事ならやりますから」
小鳥「それじゃ、お仕事、あんまり無理しないこと」
P「え?」
小鳥「それと、辛くなったら遠慮せずに周りを頼ること」
P「……そういうお願いですか」
小鳥「お願いじゃなくて約束ですからね! これは絶対守ってもらわないと困ります!」
P「ありがとうございます。これじゃなんだか立場が逆ですね」
小鳥「……こんなに祝ってもらって、私、今とっても幸せです」
P「そう思ってもらえてよかったです」
小鳥「私、てっきりプロデューサーさんに嫌われちゃったとばっかり」
P「俺は音無さんの事を嫌いになることなんてできませんよ」
小鳥「お世辞でもうれしいです」
P「お世辞じゃありません。むしろ俺、音無さんの事……」
小鳥「プロデューサーさん……」
高木「いやぁ、二人とも! 食べて飲んで楽しんでいるかね?」
P「……飲み物、取ってきますね」
小鳥「……えぇ、お願いします」
高木「ん? どうしたんだね?」
小鳥(プロデューサーさん、その言いかけた一言が、今日一番のプレゼントです。ありがとう)
高木「そうだ、音無君。この豆腐チャンプルーが絶品でね!」
律子「社長……空気読みましょうよ……」
終わり
以上で終わります。
一日遅れましたが小鳥さん、誕生日おめでとうございます。
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