恒一「いつか……」 (110)
アニメ版Anotherのアフターストーリーとして書いてみました。
設定は所々、原作のものが入っている場合もあります。
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足を合わせて、一歩二歩と歩いてみる。意識して彼女の歩幅に合わせれば、転ぶことはないだろう。
と思っていたけれど、走り出してみると意外に上手くいかないもので、鳴がつまづいて勢いよく手をついてしまった。
「ごめん。手、赤くなってる」
「血は出てないから平気」
そう云って、手についた砂を払う。
そこに、
「おーい、二人三脚は相手の服掴んでやった方がいいぞー!」
という、ぼくに捕まらない距離からの勅使河原さんのありがたい御高説。
本当に怪我をさせる訳にはいかないので、大人しく実践してみた。
「いち、に」のかけ声に合わせて、なんと軽やかに進むことか。
走りながら、ひたすら無我の境地を目指した。
鳴は、唐揚げをひとつ小皿にとって食べた。
「おいしい」
「よかった」
肩の力が抜ける。
なんだ、こんなに緊張していたのか、ぼくは。
少し多目に見えた弁当も二人で空にして、食後のデザートを食べていた頃。
「足、本当に速かったんだね」
りんごをかじっている鳴が云った。
「サッカーとかバスケとか団体競技は苦手なんだけどね。走るのは好きなんだ」
正直に云うと、ぼくは嘘を吐いていた。
医者には一ヶ月は安静、それから徐々に運動を再開していくように云われていたが、クラスの足を引っ張りたくなかったというか、今まで走れなくて溜まった鬱憤やらを吹き飛ばしたくて、今日だけは本気で走った。
一位とまではいかなかったが、それなりに上位の成績だった。少なからず痛みはあったけれど、肺のパンクを恐れず全力で走るというのは久しぶりのことで、やはりとても気持ちがいい。
日は沈みかけ、雲は厚みを増し、辺りはますます暗くなってきた。
「そろそろ帰ろうか、傘持ってきてないんでしょ?これ使いなよ」
カバンから折り畳み傘を取り出して差し出す。
「夏の雨なら濡れるのもいいけど、この冷たさじゃ風邪引いちゃうよ」
「榊原くんはどうするの?」
「幸いここに放置されてる傘がある。この時間じゃまだ残っている人のだとも思えないし………って、うわ、壊れてる」
開いた傘は骨が四本も折れている。こんなものさっさと処分すればいいのに。
「あはは、まあ使えないこともないし……」
「こっちを使えばいいじゃない」
鳴はぼくが貸した傘を突き出す。
「いいよ。見崎が濡れるといけないし」
「頭のいい榊原くんには、一つの傘を二人で使うという発想がないのかしら」
ちょっと……その発想は最初に浮かんで無視し続けてきたっていうのに。
「えっと、折り畳み傘だから二人はきついんじゃないかな」
「でもほら、広げてみると普通のと同じくらいじゃない?」
傘を広げてくるりと回す。
確かに父からもらったものだから、それなりに質も良く大きいのだけど、やっぱり狭くないか?
「じゃあ、榊原くんがわたしを家まで送ってくれるのね」
トンと段差を降り、ぼくを待つ。
外は暗いし、人もいない。仕方がない。覚悟を決めよう。
一旦休憩。残り書いてくる
明日新刊が届くまでに終わらせます
「これだったら早退してしまった方がいいんじゃないかな。霧果さんに迎えに来てもらおうか」
そう云うと鳴は首を振って、
「今日…あの人……家に……いないし、……」
言葉の間に咳をはさみながら云った。鼻声だ。
それにしても、なんてタイミングの悪いことか。
「家に帰ってもひとりか……」
風邪を引いていて一人きりは心細いだろう。
ぼくも早退できたら………今すぐ〈いないもの〉を再開してくれないかな。
「とりあえず、保健室に行こうか」
「………うん」
父の荷物をひとつからい、色々な思い出話を聞かされながら空港を出る。
停まっていたタクシーに乗り込み、父が自宅の住所を告げた。
車窓を流れていくビル群、渋滞、喧騒に東京に帰ってきたことを実感する。
二人で住むには広い3LDKのマンションの自宅は、一年間の放置によりほこりを被っていたので、帰ってきてすぐに清掃し尽くしたのだが、その次の日に父がインドから帰ってきたため、家の中は二人分の荷物とダンボールで散らかっている。
そんな中、真新しい写真立てがリビングに飾られた。写真にはぼくと父が写っている。
「一年ぶりの家族サービスだ」とか云って、無理矢理遊園地に連れて行かれた時に撮ったものだ。
男二人で遊園地って……。
予めチケットを手に入れていたあたり周到だった。
前に母の写真のことを話したから、自分も息子との思い出の写真を残したかったのだろう。
ぼくも結構楽しんだのだけれど。
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