インターハイ、個人戦初日。
会場施設の一角。
たたっ…
美穂子「ど…どうしよう……急いで来たのはいいけど…いつの間にか迷っちゃった……」
美穂子「まだ時間は少し余裕はあるけど…華菜たちのお弁当を作っていた所為で遅れたなんてあの子たちに知られたりしたら……」うう…
美穂子「そう思ったら、余計に焦っちゃって訳が分からないよ――――」おろおろ
……。
菫「まったく…照の奴め…この会場なら何度も来ているというのに、どうしていつもいつも私に案内をさせるんだ……」はぁ…
ぶつぶつ
菫「本当にアイツは麻雀以外の事は――――!?」
菫<ん?>
菫「あそこで…うろうろしているのは確か……」
美穂子「~~~~~ッ………」きょろきょろ
うろうろ
菫<……あれは確か長野の……だが、どこか様子がおかしい様にも見えるが……ん?あの様子は…もしや――――>
美穂子「うう…どうしよう……あっそうだ、こうなったら誰かに聞いt――――」
菫「ちょっといいかな?」すっ
美穂子「!!?」びくっ
美穂子「は…はひ」くる…
どきどきびくびく
菫「!!…ああ…驚かせてしまったのなら済まない。私は白糸台高校の弘世と云う者だ」ぺこり
美穂子「は…はあ……」おどおど
菫「失礼だが、もしかして貴女は…風越女子の福路さんではないかな?」
美穂子「は…はいそうですが……あの…何か?」
菫「いや…違っていたら申し訳ないのだが……もしかして今、会場までの行き方が分からなくなっているのではないかと思って」
美穂子「!!は…はい……お恥ずかしながら……//////」かぁ
菫「そうか…やはりな……」
美穂子「でも…どうして……」
菫「いや…今さっきも迷子の常連を、会場に送って行った所だからな」
美穂子「?」きょとん
菫「そう言う訳で福路さん。もしよかったら私が…貴女を会場までの案内をさせて頂きたいと思うのだが、どうかな?」
美穂子「えっ!?」
美穂子「いいんですか?でも…もしかしたら私は…貴女の対戦相手になるのかもしれないのに……」
菫「いや…私は個人戦には出ていないよ」
美穂子「それに…白糸台と言えば、前年覇者の宮永さんは当然出ているでしょうし……」
菫「それも含めて…それとこれとは全く別の話だ。別に貴女が気にする様な話では無いよ。困った時はお互い様だ」
美穂子「弘世さん……」
菫「どうかな?」
美穂子「……はい。そう言う事なら是非お願いします」ぺこり
菫「ああ。分かった。そうだな…まだ少し時間があるからゆっくり話しながら行こうか?大丈夫。必ず間に合う様にするから」
菫「どうかな?私相手でも話をすれば、少しはリラックスできるかもしれない」
美穂子「はい。お気遣いありがとうございます」にこ
……。
てくてく。
美穂子「でも…どうして弘世さんが私の事を?風越は団体では去年も今年も全国大会に出られなかったのに」
菫「いや。今年の団体戦で…長野の清澄。特に大将の強さが際立っていて、個人戦にも出ているだろうから、チェックをしていたんだよ」
菫「だが…個人県予選ではその彼女を差し置いて、トップで通過した者がいた……」
菫「それが福路 美穂子。貴女だった――――」
美穂子「…………」
菫「慌ててチェックしたよ。とは言っても実際に試合に出る奴は、そんなに気にしてなかったがな……」はぁ
菫「それで、チェックした上での私の率直な感想なんだが……貴女の相手の打ち筋を見切りった上で、蔭で場を支配する打ち方……」
菫「いや…貴女特有の能力と云うべきか……」
美穂子「…………」
菫「私は宮永 照とは相性がいいのか、それ程には打ち負けたりはしないのだが……」
菫「私は寧ろ貴女にはとても勝てる気がしないと思ったよ……まあ、単純に打ち方に因る相性の問題なのかもしれないが……」
美穂子「…………」
菫「はは…個人戦に出ない私がこんな事を言うのも何だな……」
美穂子「弘世さん……」
菫「話を戻そう…私は正直にいって今回の個人戦。照の最大の障壁となるのは、荒川 憩でも辻垣内 智葉でも宮永 咲でもなく――――」
菫「福路 美穂子。貴女だと思っている」
美穂子「そんな…こと……」
菫「だがしかし。そんな場を裏から支配する様な人間が、こんなおっとりした可愛いお嬢さんだとは思わなかったがな」ふふ…
美穂子「――――――!?/////」
美穂子<可愛い?私が??>かぁぁ
菫「ん?どうした?顔が赤くなってないか?熱でも――――」
美穂子「なっ何でもありませんっ!!//////」かぁー
てくてく。
菫「まぁそれはそれとして。福路さんはよく迷ったりするタイプなのかな?遅刻する様なタイプではなさそうだし」
美穂子「方向音痴では無いと思うんですが……あの…その……――――」
菫「……では何か?自分の応援に来た部員の為に、弁当を作っていたら時間が無くなってきて、それで急いで来たら今度は焦って迷ってしまったと?」
美穂子「はい……」
菫「もしかして…貴女は普段から、こんな世話焼きみたいな事をしているのか?」
美穂子「え…ええ……部員のみんなに少しでも麻雀に専念して貰いたいと思って……」
菫「今日の事でその部員たちは何も言わなかったのかな?」
美穂子「……部の皆には試合に専念してほしいから、そんな事はしなくてもいいって言われました……」
菫「成程……何となく貴女と言う人が分かった様な気がするよ」
美穂子「私の何が分かったのですか?」
菫「貴女がしっかりしている様で、どこか少々抜けているところがあるんだな…と云う事だよ」ふふ
美穂子「えっ!?」
菫「ああ…済まない。気を悪くされたなら申し訳ない。少々調子に乗ってしまったな」
美穂子「……抜けているなんて言われて、気を良くする人なんていませんよ」むぅー
菫「それはそうだな……改めて申し訳ない」ぺこり
美穂子「もういいですよ」
美穂子<でも…何故なのかな?あんな事を言われて、口ではこんな事を言っているのに……>
美穂子<本当は悪い気なんて全然していない…ううん…それどころか寧ろ……>
菫「いや……アイツの事を思い出して、つい口に出してしまってな……」
美穂子「……アイツって誰の事なんですか?」
菫「ん?……ああ、照……宮永 照の事だよ」
美穂子「宮永さん?」
菫「アイツは外面は良いくせに、普段は無愛想で、おまけに麻雀以外の事は方向音痴だったり、結構ポンコツな面も有るんだよ」
美穂子「そうなんですか……何か意外ですね。それに凄い云われ様……」
菫「そのくせ私と二人っきりの時なんかは、私に甘えっぱなしで、今さっきも会場に送り届けてやった所なんだ」
菫「本当にまったく以ってアイツは……」ぶつぶつ
美穂子「…………」むっ
美穂子「あのっ失礼かもしれませんけど…私はそこまで―――」
菫「あれ…?確かに貴女は一人で何でも出来そうだし、一見して似ている要素は無いのだが……」ふぅ~む
菫「でも…どうしてだろうな…貴女はアイツと何処か似ている印象を受けるんだ」
美穂子「そうですか……」
菫「アイツは…貴女と違って結構な甘えん坊だしな。まったく困った奴だよ」ふふ…
美穂子「でも文句を言われている割に、何処か楽しそうな貌をされてますよ?」
菫「!?そうか?……そんな筈は無いのだが……でもそうなのかな……」はは…
美穂子<……………>むむっ
美穂子「……………もうっほんとに知りませんっ!」ふいっ
菫「!?」
菫<……まいったな…思ったよりもむっとさせてしまった様だ……>うーむ
美穂子<……でも私…どうしてこんなにむっとしてしまったの?>
………。
とことこてくてく。
菫「ん。よし着いた。ここだよ」
美穂子「わざわざ送ってまで頂いて…ありがとうございます……」ぺこり
菫「いや…私も久し振りに他校の…しかも貴女の様な素敵な女性(ひと)と話せてよかったよ」にこ
美穂子「――――――!!///////」
美穂子<す…素敵って……わ…私が……?>どきどき
菫「ん?また顔が赤くなって……本当に大丈夫なのか?」
美穂子「だっ大丈夫です。何でもありませんっ」あせあせ
菫「私は出場選手では無いのでここで失礼するが、蔭ながら貴女の御武運を祈らせて貰うよ」
美穂子「弘世さん……」
菫「ああ…あと一つだけ。貴女が部員思いの優しい人間だというのは判るが……」
美穂子<――――違う…私は……>
菫「だが…実際に試合をするのは貴女なのだから、あまり自分に負担を掛けない方が良いし、恐らくは部員たちもそう思っている筈だ」
美穂子<違う…そんなんじゃない。私が華菜達に色々しているのは――――>
菫「大きな言世話だったかな?さっきもそうだったが、可笑しな事を言ってしまって済まな――――」
美穂子「だったら……」ばっ
菫「えっ!?」
ぎゅっ…
菫「お…おい……/////」
美穂子「済まないと思ったのなら…そのお詫びに、少しだけ…少しだけこうさせて下さい……」
美穂子「だめ…ですか……?」じ…
菫「わ…分かった……/////」
美穂子「ありがとうございます……弘世さん…聞いて下さい……」
菫「ああ」
美穂子「私が部員のみんなに色々してしまうのは、あの子たちの為と言うより、寧ろ…私の為なんです……」
菫「…………」
美穂子「風越はチームとして、今年も去年も全国舞台まで辿り着く事が出来なかった……」
美穂子「長野一の名門校として、結果を出す事が出来なかった……」
美穂子「私にはそのチームのキャプテンとして、その使命があったと言うのに果たす事が出来なかった……」
菫「……………」
美穂子「それでも…どうにか私は個人とはいえ、全国大会に出場する事が出来た……」
ふるふる…
美穂子「でも…もしここでも、惨敗して結果を出す事ができなかったと思うと……」
美穂子「そう思うと…不安になって…身体が竦んで……なにかしないとどうにかなってしまいそうで……それで私は……不安を紛わす為に………」じわ…
菫「そうか……」
美穂子「勿論。元々…皆のお世話をするのは、普段から自分から進んでしていますから、決して嫌いでは無いんです」
美穂子「でも本当の私は皆が思っている程、面倒見も想いやりも良くない……」
美穂子「私は…本当の私は…ただの心根の弱い、一人の女子高生でしか無いんです……」ぽろぽろ
菫「そうか……」
ぎゅっ…
美穂子「あっ……//////」かぁ
菫「貴女は本当に責任感が強い人なのだな……」
美穂子「そんな…別に私は……」
菫「色々な物を一人で背負い込んで、とても重いだろうに……その重圧に押し潰されてしまいそうなのに……」
菫「その重荷を下ろそうとせずに、その責任を果たそうとして……」
美穂子「……でも…降ろす事なんて………」ぐすっぐすっ
菫「そうだな…ほっぽり出して、逃げ出す事なんて貴女には出来ないだろうな……」
美穂子「…………それが出来れb――――」ぽろぽろ
菫「でも私は…そんな貴女を尊敬するし、その『重み』を放棄する事はしない方が良いと思っている」
美穂子「!!…………」
菫「その重さは貴女にとって重圧にもなるのかもしれないが、同時に『力』にもなるのだと、私は思う」
菫「伝統校としての意地と誇り、そしてその重みが、それまでキャプテンとして背負っていた貴女に、力を与えてくれる事もあると私は思う」
美穂子「…………そうでしょうか……?」
菫「ああ。私は掛け値なしにそう思う」
美穂子「弘世さんがそう言われるのであれば…私は信じます……」こく
菫「ああ。だから投げ出す必要はない。とは言ってもやはり重い物は重い事位は、私にだって分かっている」
美穂子「…………」
菫「そして…私はそんな貴女の重荷を肩代わりする事も、支える事も出来ない」
美穂子「…………」
菫「だが、今だけは…私といる今だけはその重りを降ろして、こうして私により掛かってくれたらいい……」
美穂子「えっ?…弘世さん……」
菫「あるたった意味一人で今まで頑張ってきた貴女に…私にはそれ位しか出来る事はないが、それで許してほしい……」
ぎゅっ…
美穂子「ありがとう…ございます……私…うれしい…………」
美穂子<どうして…逢ったばかりのこの人に…誰にも言った事の無い…自分自身にすら云えなかった事を言ってしまったのか……>
美穂子<今…判った様な気がする……>
美穂子<この人なら私の事を…私の知らなかった事まで分かってくれる…私の全てを受け止めてくれる……>
美穂子<そう…昔から私の事を知っているかの様に……そう思えてしまう『何か』を私はこの人から感じてしまうんだ……>
美穂子<だから私はこの人に…全てを曝け出したいと思ってしまうんだ……心も体も預けたくなってしまうんだ……>
美穂子<部に甘えられる人がいないから…余計にそう思っちゃうのかな……>
菫<どうしてなのかな…この人を見ていると…何故か知った様な事を…どうしても言ってしまいたくなる……>
菫<私と共通している処があるからか?……いやそれよりもやはり、アイツと似ているような印象を受けるからなのか……>
菫<何故だろうな…似ていないのに似ている……そう思えて仕方が無いんだ>
菫<だから…私はこの人に対して…特別な想いを抱いてしまうのかもしれないのかな……>
美穂子「弘世さん…あと一つだけいいですか?」
菫「ああ…私に出来る事なら」
美穂子「それじゃあ…今まで頑張ってきた御褒美に、いい子いい子って頭をなでなでして貰っていいですか?」じ…
菫「ん?ああ……」すっ
美穂子「ん……」
菫「貴女は本当にいい子だよ……」
なでなで
美穂子「――――//////」きゅーん
美穂子「くぅ~ん/////」
菫「くぅ~んって……まるで犬みたいだな」はは…
美穂子「そうですか?」
菫「ああ」
美穂子「えへへ…あんまりにも嬉しい気持ちになっちゃって、つい出ちゃいました……//////」かぁ
菫「ふふ…そうか……」にこ
菫<差し詰め甘えん坊の犬のお姫様って言ったところかな?>ふふ…
………。
美穂子「そろそろ行きますね」
菫「改めて…貴女の御武運を祈っているよ」
美穂子「弘世さん……弘世さんは私の事を応援して下さるのですよね?」
菫「ああ。勿論だよ」
美穂子「では…もし私と宮永さんが同じ卓に着いたとしても、私を応援して下さいますか?」じ…
菫「!?」
菫「……申し訳ないが…その時には照の奴を応援すると思う。何と言ってもアイツとは同じチームだしな」
美穂子「……そうですか…そうですよね。それが当たり前の事だと思います」
美穂子「寧ろそう言って頂けて、俄然やる気が出て来ました」ぐっ
菫「?……そうか…それなら…いいのだが……」
美穂子「それともう一つ……今日…必ず勝ちますから、その…明日も……ここまで案内して頂けますか?」どきどき
菫「……ああ勿論。喜んで」にこ
美穂子「!!ありがとうございます。では明日もあの場所で……」ぱぁ
菫「分かった。あの場所で待ってる」こく
美穂子「では…行ってきます――――」ぺこり
ガチャ…
美穂子<これで負けられない理由がまた一つ出来た……私は負けない…宮永さんと当たるまで―――>
ゴゴゴゴゴゴ……――――
出場選手たち「「「!!?」」」びくぅ!!
出場選手たち<<<な…何……今の…あの子入って来た瞬間、何か凄い威圧感を感じたんだけど……?>>>
ざわ…ざわ…
美穂子<ううん違う……何時でもあの人の一番傍にいられる、宮永さんだけには絶対に負けたくない――――>
美穂子<でもそれは『チーム』ではなく、『私だけ』の願いと感情だから――――>
美穂子<これは…私の独りよがりの…ただの嫉妬と羨望なのかもしれない……>
美穂子<でも……だからこそ…私は彼女にだけは―――――>
美穂子<絶対に負けない―――――――!!!>
菫<福路さんか…しっかりしている様で、何処か抜けていて…母親の様でいて、何処か甘えん坊で……魅力的な女性(ひと)だったな……>
ざわざわ…がやがや…
菫<って!?そう言えばここは選手用の会場出入り口前だった……>はっ
菫<迂闊だった……どこで誰が、今までのやり取りを聴いていたか判らんからな……>
菫<まぁこんな事はもうないだろうが…以後、気を付けなければな……>
一回戦終了後。
会場施設内のロビー。
尭深「――――と云う事がありまして……」
照「ふーん…そう…そんな事あったんだ……」
…。
誠子「あっ宮永先輩お疲れ様です…予想通り圧勝でしたね」
照「うん……ありがとう」
……。
菫「ああ。もう戻っていたのか。お疲れ様」
照「ありがと菫……ちょっと話があるのだけど」
菫「ん?どうしたんだ。勝ったと云うのに、随分と浮かない貌をしてるな?」
照「菫……どうしてそうなったのか知らないけど、会場の入り口の前で、風越の福路さんと抱き合っていたって本当?」じ…
菫「!?」
照「渋谷さんに今聞いたのだけど、福路さん…菫の胸にむしゃぶりつきながら泣いていたって……」じとー
菫「むしゃぶりつくって……」
菫<それにしても―――渋谷のやつ見ていたのかっ!!>きっ
尭深<ふふん>ニヤリ
菫「――――」イラッ
照「おまけに福路さんの頭をなでなでしてたみたいだし…私だってして貰った事ないのに……」むぅー
菫「それは……ってわざわざ高校生にもなって、したりされたりする事か!?」
照「……で…どうなの本当の事は?」
菫「本当の事って…別に何でも無いよ。ただ彼女が迷っていたから、会場まで案内しただけだ。言うなればお前と一緒だよ」
照「ふーん…そうなんだ。まぁ菫がそう言うのなら、そう言う事にしておいてあげる」
菫「そう言う事って……」はぁ
照「それに菫…にやついた顔してる……まるで彼女が出来てデートをする約束をした時の様な……そんなウキウキしてる様な……」
菫「――――!?そっそんなわけないだろ!!//////」ぎくりっ
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