セシリア「わたくしが主役でしてよ」 (522)



このスレはIS<インフィニット・ストラトス>の二次創作SSスレです。
『鈴「あっづー」セシリア「な、なんですのこれは」』の続きとなっております。


セシリアが主人公、地の文あり、原作3巻(アニメ)以降、最新7巻までの登場人物が登場します。ネタバレあります。

カップリングは一夏×セシリア、そして鈴×セシリアとなっていますが、書きたいように書き殴っております。
稀に選択肢風安価を出す事があります。戦闘の時はオリジナル設定のISを登場させたりもします。

あまりSSを書いたことはないのでチャレンジと称していろいろなものを書きます。
なので一応「R-18」とさせていただきます。

更新ペースはランダムです、週一回~二回くらい、深夜更新中心となります。
一回の投下終了時にはAAを投下します。苦手な方はごめんなさい。


主な登場人物
セシリア・オルコット・・・主人公。専用IS《ブルー・ティアーズ》 一夏の恋人で鈴のルームメイト。
織斑一夏・・・ヒロイン(?)専用IS《白式・雪羅》 セシリアに告白、付き合い始めた。
凰鈴音・・・ヒロイン(?)専用IS《甲龍》 セシリアの部屋に転がり込み、現在同居中。
織斑千冬・・・一夏の姉、セシリアをはやく義妹にしたい姑。
ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・専用IS《シュヴァルツィア・レーゲン》厨二、ボケ担当。
モッピー・・・終了AA担当。





前スレのおはなし


「同居開始編」
 残暑の厳しいある日、エアコンが壊れた(破壊した)鈴はセシリアの部屋に転がり込むことに。そんな折、日頃から好き放題にトラブルを起こす専用機持ち達の相手に疲れ果てた千冬が授業をボイコットして逃げ出してしまう。同時に一夏も行方不明となったため捜索に出るセシリア、鈴、ラウラ。途中セシリアも行方不明になったりしたが、シャルロットの助けもあって千冬もセシリアも無事帰ってきたのだった。(セリフのみ形式)


「黒シャル暴走編」
 前回の騒動時に千冬に拉致られたために行方不明になったセシリアが何か頑なに隠しているのが鈴は面白くなく、千冬との約束の為に話せないセシリアは鈴と喧嘩になってしまう。なかなか仲直りできない二人を心配して箒や一夏が介入し、うまく仲直りできるかと思われたが、姉の為に心を痛めるセシリアに一夏の気持ちが向き始めてしまったことから、黒シャルがセシリアに牙を剥く。箒、鈴を捕え、この機に邪魔者を一掃できる直前まで黒シャル優勢に事態は進むが、ラウラがセシリアに敗れ、今回のシャルロットの行動に全面的な賛成のできないラウラがセシリア側につき、形勢逆転。救出された鈴とセシリアは晴れて仲直りした。(セリフのみ形式)


「3on3編」
 試験勉強をテスト前日まで失念していた鈴とセシリアは、各人からノートを借りて歩き、一夜漬けで試験に挑もうとする。すっかり試験そのものを忘れていた一夏も合流し、結局ろくに借りる事ができないまま時間が過ぎる。赤点、補習が確定的となり悶絶する鈴と一夏。ところがセシリアはただ単に高得点を狙えなくて嘆いているだけと判明。セシリアに勉強を見てもらいながら三人で一夜漬けに挑む。途中睡魔に負けて鈴がダウン。そして、翌朝裸同然で同じベッドにいる一夏とセシリアが発見され大騒ぎに。騒ぎはやがて、箒・シャル・ラウラ組と一夏・セシリア・鈴組の公開3on3戦にて決着をつけることに。激戦の末、セシリア組が勝利したのだった。(前半セリフのみ形式+戦闘開始から地の文あり)


「GTO編」
 休日の街に遊びに出たセシリアと鈴。3on3勝利の余韻も手伝い、つい浮かれた二人は門限を破って夜の街へ。お約束通り伸びる不良たちの手。絶体絶命のピンチに、グレートなティーチャーが駆け付けた。(地の文あり)


「イギリス旅情編」
 3on3で大きく損傷したブルー・ティアーズ修理の為にイギリスへと発つセシリア。弟がセシリアに惹かれているのを感じ、更にセシリアを認め始めている千冬は付添いのついでに一夏も連れて行くことにする。二人をくっつけようと画策する千冬、思惑通り一夏はセシリアを完全に意識するようにはなったが、暴走してセシリアを押し倒しかけてしまう。押し倒されかけてもそれを赦すセシリア、罪の意識にセシリアを一夏は諦めようとする。
 改修を終え、パワーアップしたブルー・ティアーズが復活、学園から離れたブルー・ティアーズを奪いにやってきたサイレント・ゼフィルスを退けたセシリアだったが、スコールの介入でエムの捕縛とサイレント・ゼフィルスの回収に失敗してしまう。あれ程誇り、愛した祖国から亡国企業からの内通を疑われて尚、祖国を愛するからこそ前を向くセシリアを千冬は一層、義妹にしたいと思い、一夏も思慕を募らせる。
 学園へ輸送する研究資材と共に帰路についた三人を、今度は妹を差し置いて一夏と急接近した事を快く思わない束が無人ISの部隊に襲撃させる。輸送機を離れるわけにいかない一夏にセシリアは、唇を重ね勝利を誓い雲海での激戦へと飛び立っていった。無人IS部隊との戦いは、学園から迎撃に出撃した鈴、箒、簪、ラウラの援軍もあり、全員無事に学園に帰ってこれた。そして一夏は、諦めようとした気持ち以上に、セシリアを想う自分の気持ちに気付き、ついに、多くの生徒の見守る前でセシリアに告白するのだった。






―― 第二部 プロローグ ――



 あれから、穏やかに日々は過ぎゆき、窓の外の木々には枯れ木が目立つようになり、すっかり気温も低くなった。

 織斑一夏とセシリア・オルコットの交際は、特にこれといった進展もなく……?続いてはいるが、当然の如く部屋は別々だし、何かと休日も訓練やらテストやらであまり進展はないようにも見える。

「一夏さん♪おはようございますですわ」

「セシリア、おはよう」

 それでも、明確に視線を合わせている機会は増えたし、どちらかを探せば大抵両方が同じ場所にいたりはする。

 もっとも……

「おはよ、一夏、箒」

「ああ、おはよう鈴。セシリアも」

「おはよう我が嫁、その他大勢」

「ラウラったら……もぅ。おはよう、みんな」

 相変わらず、専用機持ちのグループは一夏を中心に集まっているのだから、変わりはないのかもしれない。

「……おはよう」

 ただ、四組から更識簪が遊びに来る機会が今まで以上には増えていた。最近はいつも朝のHRが始まる直前までは一夏たちや布仏本音(のほほんさん)と談笑している。クラス代表でもある彼女が自分のクラスにいなくてよいのかといえば、良いわけはないのだけれど、今年の一年生には専用機持ちが多く、有事の際に行動を共にする可能性を考慮した場合、彼女が一組で他の専用機持ちと交流を深めるのは好ましいという事から、教師陣も特に強くは言わないようになっていた。





「そういえば鈴さん、いつも思っていたのですけれど、ご自分のクラスには戻らなくてよろしいのですの?あなたクラス代表じゃありませんでした?」

「えっ!?な、何よ今更!」

 ふとセシリアが、本当に思い出したように鈴に問いかける。鈴としてみればそこを忘れられてしまうと本当に立つ瀬はない。二年生になったらどういうクラス分けになるのかはまだわからないけれど少なくとも現時点で鈴と簪はクラスが違う。もちろん簪同様、鈴に関しても教師陣は一組で交流を深める事に異存は無く、望ましいとさえ思っているのだけれど、それは生徒たちは知る由もない。

「そうだぜ、鈴。お前も一度引き受けた以上はちゃんとクラス代表としての責務をだな……」

「あ、あんただってクラス代表でしょうが!それらしい仕事なんかしてるの見たことないわよ!?」

 一組のクラス代表は一夏になっている。呆れたように言う一夏に、鈴は眉を吊り上げて抗議していた。

「んな事言ったって……俺は副生徒会長の仕事があるから……」

「ふふん、実質的なクラス代表のお仕事は、わたくしイギリス代表候補性セシリア・オルコットが行っておりましてよ」

「セシリア、そんなに大きな口を叩くならちゃんと日誌を書いてよね、もぅ、細かいことは全部僕に投げるんだから……」

 だが、一夏は曲がりなりにも生徒会の副会長というポストにあり、その見返りとして生徒会主導の許クラス代表としての業務のサポートを受けていた。更に、男性である一夏では手の届かない部分やリーダーシップを必要とする場面では、元々クラス代表を競い合ったセシリアがフォローしていたし、セシリアの手が回りきらない部分はシャルロットをはじめクラスメイト達が自主的にフォローしていた。一組がこのように一丸になれたのは、旗印が一夏だからこそなのだから、一夏がクラス代表としての役割をきっちりこなしているという事でもあるのかもしれない。

「――お前たち、SHRの時間だぞ、凰、更識、さっさと自分の教室に戻れ」

 教室の入り口から織斑一夏の姉である織斑千冬、第一回モンドグロッソの優勝者でありIS学園一年一組担任の教師が日誌を抱えて姿を見せる。それじゃまた後で、と、一組ではない鈴と簪が教室から出て行くのを見送りながら各人は自分の席に移動してゆく。


 何の変哲もない日常が、ただ、織斑一夏とセシリア・オルコットが付き合っていると言う前提を挟んだ日常が、今日も始まる。



          ハヽ/::::ヽ.ヘ===ァ
           {::{/≧===≦V:/
          >:´:::::::::::::::::::::::::`ヽ、   モッピー知ってるよ
       γ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
     _//::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ハ ずっとAA探してたって知ってるよ。 
.    | ll ! :::::::l::::::/|ハ::::::::∧::::i :::::::i  あと今日はここまでだって知ってるよ、プロローグだけでごめんね。

     、ヾ|:::::::::|:::/`ト-:::::/ _,X:j:::/:::l
      ヾ:::::::::|≧z !V z≦ /::::/   
       ∧::::ト “        “ ノ:::/!  
       /::::(\   ー'   / ̄)  |
         | ``ー――‐''|  ヽ、.|   
         ゝ ノ     ヽ  ノ |
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 一限目の休み時間、セシリア・オルコットは次の授業の準備を千冬から頼まれ、転送されてきた教材データを各端末に転送するように教壇の端末を操作していた。

「……ふう……これでよし、ですわ」

 ひと段落してほうと一息ついた背が、不意に自分より小柄な温もりに包まれる。少し驚いたように小さく声を上げるセシリアだけれど、その温もりと背中にあたる感触でそれが誰のものであるかはすぐに判る。中側から腰に回され、腹部に添えられる両手の感触を感じながら、振り返るでもなく、口元に笑みを浮かべながら長い睫を伏せた。

「んもう、驚かせないでくださいまし……鈴?」

 普段はさん付けで呼ぶけれど、少し前からセシリアは鈴を呼び捨てで呼ぶようになった。いつもというわけでもなく、二人で話すときを中心にそう呼ぶようになったというのが正しいが。

「あれ?わかっちゃった?一夏のふりして困らせてやろうと思ったのに」

「一夏さんがそんな大胆なことするわけないですわ……」

 ちらと、教壇のほぼ真ん前である一夏の席に視線をやる。席の主、一夏は休み時間に入って早々山田先生に呼ばれて教室を出て行ったきりだ。

「……今日はまだですのに」

 唇を小さく尖らせて、拗ねるように一夏の席をにらみながら、ぼそぼそと小さな声で不満を漏らした。

「……なぁに?今日はまだって」

 鈴にも聞こえていないかと思っていたけれど、丁度セシリアの背に顔を寄せている為か、小さく肺が震える音も結構聞こえるもので、鈴がひょいと肩口に顎を乗せながらセシリアに問う。

「なっ、なんでもありませんわっ……!いい加減お離しになって……っ」

 聞こえてしまったことに狼狽しながら、体の向きを無理やり変えて鈴をべりっと引き剥がす。無理やり剥がされたことに不満なのか、今度は鈴が唇を尖らせる番だった。

「なぁによ、教えなさいよぉ……今日はまだって…………ん?今日は……まだ……?」






 唇を尖らせながらセシリアの呟きを反芻する鈴の顔が、みるみる紅潮してゆく。

「な、なななな、ま、まさかアンタ達ってば、ま、ままままま毎日……ッ!?」

 紅潮して狼狽する鈴の様子を見ていたセシリアが、一瞬はぁ?という顔をするも、まるで伝染するようにセシリアの顔もみるみる紅潮してゆき。

「ち、ちょっとお待ちになって!?な、何か勘違いされてますわ!わ、わたくしたちはそんな、まだ……だ、大体わたくしは毎日鈴さんと一緒に寝てるじゃありませんの!!」

「は、はあぁぁぁぁああああ!?バ、バカじゃないの!な、何想像してんのよ!そこまで言ってないわよ!このエロリア!」

「なぁんですってぇ!!い、言うに事欠いてエロ……ッッ 侮辱してますのッッ!?」

 段々と互いにヒートアップしていく。教室内の視線も何事かと二人に集まるけれど、誰も止めようとしない。二人のこんな姿もいつもの事過ぎて慣れてしまっているのか、それとも「アンタ達」「毎日」「エロリア」という単語から『アンタ達=セシリアと一夏』と推測し、二人の進展具合に興味津々聞き耳を立てているのか、あるいはその両方か。

「じゃあエロじゃなくて毎日なんだってのよ!」

 核心を突くような鈴の質問に、教室内の女子一同が心の中でぐっとガッツポーズをとる。中には相川や谷本のように実際にガッツポーズをとっている者もいた。


「ただのおはようのキスですわ!何を想像していらっしゃったのかしら?スケベですわね鈴は!」


 セシリアの声が、嫌に教室内に響いた。水を打ったように静まり返る教室。唖然とセシリアのカミングアウトを聞いている鈴や箒や、KKKを髣髴とさせる白装束に三角白頭巾をどこからともなく取り出して着替え始めるシャルロットをはじめとしたクラスメイトの大多数など、反応は様々ながら全員が一言も声を発さなかった。





「…………」

 自分で言っておいて二の句が継げなくなったセシリアは、耳まで真っ赤になりながら、ゆっくりと教室内を見回す。白装束のクラスメイト達がわらわらと音もなく教壇に近づいて、セシリアの肩にぽんと手を置く。

「詳しく話を聞かせてもらえるかな?セシリア」

 三角白頭巾は目出し帽のように目の部分だけくりぬかれた覆面となっており素顔は見えないが、声だけで十分それがシャルロットであるとわかる。

「ご、誤解ですわッ!というより何事ですのこれは!!何の真似ですの!?」

 黙々とセシリアを拘束してゆくクラスメイト。この縛り技術をセシリアは知っている、ラウラだ。三角白頭巾だけれどよく見れば片目が眼帯なのですぐに判る。

「僕たちが質問しているんだよ、セシリア……まあいいか、心配しないで、ちょっとした 異 端 審 問 会 をするだけだから」

 覆面の隙間から覗くシャルロットの双眸が明らかに笑っていない。完全に縛られた状態のセシリアが教室の中央に引き摺られていくのを、鈴はただ両手を合わせ、日本風に冥福を祈るしかなかった

「まったく、セシリアはエロいなあぁ……」

  「清い交際と信じていたのに……」  「どこまでしちゃったのかなー?」

     「――ォォォォォォォ……」

「ちょっ!!何ですの!?あなたたちバカテスの読みすぎですわよ!!――って今の誰ェ!?知らない人が混ざってますわよ!!ねえ!!」

 淡々と火焙りの準備を進めるクラスメイト達。リーダーと思しき人物の宣言で死の法廷が今始まる。

「これより、一夏の純潔を守る乙女の会、異端審問を開始します」

 明らかにシャルロットの声だった。





 |-――-  、
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 |   ヽ、___   ヽ
 | \ミ ー―‐ '   '.

 |  ヽ ― ミ|   |  |
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 | \|. 丐ミk    、  \
 |     ヒク }} ./ / ミΓ
 |      ''/ノ ./ノ Ν 今日はねぇ……ここまでなんだよー……

 |_冖__ .ィ/ // ノ
 | }X /ミゝ/_ノ ,∠.
 | 咒/{ ヘ=<.__.>
 |:.   :|. V ヽ   \





 沸き起こる歓声と『有罪』のシュプレヒコール。うすうすわかっていたけれど何を聞くまでもなく有罪らしい。しかしその時、クラスの入り口から山田先生の用事を終えた一夏が戻ってきた。

「判決、死刑」

「まだ何も言ってませんわよ!!」

 あっさりと死刑を宣告するシャルロットだと思われる白装束にセシリアは抗議の声を叫ぶ。流石にいきなりは彼女なりの良心が悼むのか、大仰に首を振ってから。

「じゃあセシリア。おはようのキスって何のことかなぁ?詳しく聞かせてくれる?」


「…………」「…………」


 見つめあったまま暫し、セシリアも勿論答えるわけにはいかなくて、ぐっと息を呑みながら考え続ける、ここを切り抜ける手段を。とはいえほとんどすべて自白してしまっているようなものなのだけれど。

「答えられないのかな?言葉が分からない?今日の下着の色はまた黒かな?」

 転がされたセシリアの頭側に腰を下ろして、顔を近づけながら言う。周囲の白装束から笑い声が聞こえてくる。

「く、黒ばっかりみたいに仰らないでくださいな!」

 反射的にセシリアが否定の声を上げる。

「なんだ、言葉は分かるんじゃないか、じゃあ答えてよ、『毎日』『今日はまだ』な、おはようのキスってなぁに?ひょっとして、毎日こっそりチューしてるってことなのかなぁ?」

「ぐぬぬぬ……り、鈴!箒さん!た、助けてくださいましーッッ!」

 窓際の箒の席で談笑している二人に向かって救いを求める叫びをあげる。が、二人は一度セシリアのほうを見てから、互いの顔を見合わせ、ひょいと肩を竦めて見せるゼスチャーを返すだけだった。「私たちには無理だ」と言いたいのか「知るか」なのかは判らないけれど。







「くっ……麗しい友情ですこと……ッ」

「答えられないなら……やっぱり焙るしかないよね?」

「……よ、よろしくてよ、答えて差し上げますわ!おはようのキスとはそのまま、毎朝の接吻でございましてよ」

 床に転がされたまま、セシリアがキッと白装束の瞳を睨み返す。

「ですが、それに何の問題があるとおっしゃるのかしら?わたくしは、一夏さんとお付き合いさせていただいておりましてよ!だ、第一、キスでしたらそれこそずっと前からしていますわ!ええ!毎日してますわ昨日もしましたわ!!だから何だと仰いますの?」

 開き直ったセシリアは顔を赤くしながらも熱弁をふるう。あまりにも直球で返されてしまったものだから、今度はシャルロットが言葉を失う番となった。

「だ、だからなんだって……それは……」

 白装束の集団(クラスメイト達)の間にも動揺が広がってゆく。会の名前こそ一夏の純潔を守る乙女の会とは言っているものの、結構な数の生徒がそれに盲信的なわけでもない。一夏は確かにかっこいいし、優しいし、憧れはするけれど、天然タラシだし、朴念仁だし、鈍感だし、機微にも疎い。

 積極的な箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラの五人の誰が射止めるのか、そこに興味の大半は向いていたし、追加で更識会長や黛先輩、山田先生、織斑先生、四組の簪等、どんどん立つフラグにワクテカしていたというのが本当のところだった。

 その為、結果としてセシリアが見事に射止めた事に不満はあまりなかったりする。自分の応援していた『一夏の嫁候補』が射止められなかったことに若干の悔しさが有るとしても、だ。何しろ、箒を応援していたのは剣道部の仲間たちが中心、鈴は二組とラクロス部で支持を集めていたし、シャルロットは一年全般に人気こそあったがどちらかと言えば男のふりをしていた頃より一夏の嫁候補としての支持率は下がっている、ただ、一夏の、を取っ払った嫁候補では断トツになっている、意外と腐っていたり百合百合してるようだ。支持率という点では圧倒的に不利なのがラウラだ、茶道部の一部は支持しているものの、やはり入学当初の印象が強く、支持率的には不利と言わざるをえない。

 ではセシリアの支持層はと言えば……今、セシリアの目の前で白装束を着て焙ろうとしているクラスメイトの大半がそうだったりする。







 気位が高くて大金持ち、通称「お姫様きどり」なんて呼ばれるけれど、実際の話そう本人を前にして呼べる程には誰とでも気安い関係を築ける。判り易いツンデレでちょろく、そして何よりとても仲間思い。気品によって他者を平伏させるのではなく、他者がすすんで支える、それがセシリアの女王の気質だった。

  「だってさぁセッシー、教えてくんないじゃーん」

「そうだよ、織斑くんとどこまで行ったのよ」  「おりむー意外と甘えん坊とか?」「それ意外じゃないし」

 「織斑くんの性癖ってS?M?」 「それはMじゃないかなぁ」 「いやいや意外と」

          「――……フシュルルルルルルルルルル」

「結局はあなたたち!興味本位ですのね……?ってぇ!またなんか!ねえ!コレ誰!?誰なんですの!?」

 とたんにざわつくクラスメイト達、ただし全員白装束。こんな事をする理由は何かと言えばやはり男女交際の機微を是非とも問いたい。できるだけ詳細に。

「僕は本気だよ」

「なお悪いですわよ!?」

 シャルロットだけは本気で断罪しようとしていたようで。祝福はしてくれたけれど、それで一夏を諦めたかどうかは別の話という事らしい。普段温厚な分、こういうときに出る黒シャルが過激だ、セシリアも以前の一件でそれを知っていたし、そもそも何かと気付く要素はあって。満面の笑顔で本気で焙ると宣言するシャルロットに、セシリアはジト目で返す。

「待て、来るぞ」

 ラウラが何かに気づいて素早く自分の席へ戻る。と、その時、教室のドアが開いた。






「ふう、終わった終わった……ん?みんな何してんだ?」

 IS学園はエリート校だ、全世界から国家を背負うべく、優秀な生徒たちが集められている。身体能力も個人差こそあれ、下限であっても一般のそれを凌駕する。白装束に身を包んだ一夏の純潔を守る乙女の会の姿と磔の柱に火焙りの準備は一瞬で消え、縛られたセシリアが床に転がされている状況だけが残った。

「あれ~織斑君どうしたの?私たちが何?」

「……い、いや……今…………まあ、いいか」

 今一夏に気付いたようにしか見えない相川さんの様子に、一夏は不思議そうに首を傾げてからセシリアのところに近づいてゆく。

「とにかく……セシリア……一体どうしたんだよ?なんでそんなところで縛られてるんだ?」

「話せば長くなりますというかなんといいうか……学校というものの抱える深刻な闇を垣間見た気がしますわ……とりあえず、ほどいてくださいませんか……?」

「闇……?わからん……もうちょっとわかり易く言ってくれよ。――あ、おう、悪い……あれ?なんだこの結び方……どうなってんだ?」

「きゃん!ちょっ、い、一夏さん!くすぐったいですわ」

 結び目を探る一夏の手が結果的にセシリアの体をいろいろ弄るから、セシリアは恥ずかしいやらくすぐったいやら、そのあげる声がちょっと艶っぽくて、一夏の頬に朱が差す。そういえばセシリアはくすぐったがりのくせにやたらとボディタッチを要求するよなぁなんて思いつつ。もちろんそんなことはおくびにも出さないでロープと格闘する。

「そ……そんなこと言われても、仕方ねぇだろう?本当に結び方がこれわけがわからなくて……あ、セシリアちょっと両足をそのまままっすぐ上にあげて……あ、あれ?」

「ちょ、ちょっと一夏さん!?足が下せなくなりましたわよ!?」

 背中を床につけて、揃えた足を高々と上げているセシリアの足側に一夏が膝立ちでいるという絵図は、非常に倫理的によろしくない。もっともスカートの上から縛られている為見えてはいけないものは見えていない。DVD/BD版をご購入くださいということ。思わずごくりと一夏が喉を鳴らす。







「うわぁ、おりむー……うっわぁ……」

「なっ!違う!そうじゃない!!」

 真っ赤になって否定してしまうから、クラスメイトにとってこのカップルは本当に、どっちもちょろすぎる、何が違うと言うのやら。周りから冷やかされながら、セシリアをその恰好のままに弁明を続ける一夏に痺れを切らした箒と鈴がつかつかと近づいて来た。

「いいからそこに膝立ちはやめろ一夏、まったく……破廉恥な。どけ」

 箒が一夏の首根っこを掴んで無理矢理に立たせ、ぐいと横にやってしまう。

「さー、セシリア、あたしがほどいたげる♪」

 両手をわきわきさせながら薄笑いを浮かべる鈴、そして視界の隅には安心しろ、と言いつつ少し嬉しそうに笑っている箒。

「……え、えーっと、け、結構ですわ?あの、一夏さんがほどいてくださいますので……」

「一夏じゃ次の授業が始まってもそのままよ、もしくはもっと恥ずかしいポーズを取らされるかよ……どっちがいいの?」

 鈴がセシリアに顔を近づけ、凄んで見せる。

「わ、判りましたわ、よろしくお願いします」

 承諾の返事に聞こえるが、鈴はその言い方一つで違和感を感じ、ぼそとセシリアにだけ聞こえる小声で問う。

「…………正直に言うと?」

「……え、えっと、い、一夏さん」

 やはり鈴にだけ聞こえるくらいの小声でセシリアがこっそりと返すと、鈴は身を起してにーっこりと笑うのだった。






                   「鈴者?」
                「……」
            _       「ちょっと?まさか……」

     _     ,'===ヽヽ 「今日はここまでッ!」
  M,'´  ミM,   l从从リリ)     「鈴者ァァッッ!?」
  Σ& 从ノ、>X  .リ゚д゚ リ (  「また見てねッ!!」
  ノl|ヾリ゚д゚ノl.l  ξ/>ξ、.リヽ
 ノ从 /l-Hiト从_ /  | .|ィ从)

   /./ |_|/ ̄ノlヽ ̄ ̄/.|ξξ

___(ニl⊃/  .( ( )  ./m|____
    \/ <`ー'> /



ohごめん、そこ消し忘れてた。
後から追加したのそこ以降ww

進捗報告

週末にはナントカ……。自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中




「よーし、じゃあはじめるわよー」

 そして徐に鈴がセシリアの生足首を掴んでロープを足のほうから外そうと試み始める。ロープは丁度セシリアの体にツタのように巻きついているわけで、ならば解かなくてもずり下すことで少したわむ。一か所たわんでしまえば、拘束自体が緩くなって解きやすいというものだ。ものなのだが。

「え、ちょっと鈴っ!?どうしてこの体勢のままですの!」

 立ったままぐいぐいと引っ張りながらロープをずらしてゆく鈴。きつく締まっているロープが鈴が動かすたびにきつく締まるものだから、セシリアの苦しそうな声が教室内に響き、箒によって引き離され、放置された一夏が顔を赤くしている。

「我が嫁一夏よ、セシリアの悶える声に何を想像したのだ?」

 いつのまにか、一夏の隣に録音用の指向性マイクらしきものを手にしたラウラが立っている。

「……い、いや……………………ラ、ラウラッ!?お前何やってんだ!?」

 何も想像していない、と答えるが、動揺隠せない様子で、少し俯き気味になる一夏だったが、さすがにラウラの装備の異常さに素っ頓狂な声を上げる。その反応に対してラウラは途端に不機嫌そうな顔になってギロリと一夏を睨むのだった。

「声が大きい、ノイズが入る」

「えっ……あ、ああ、悪い……?」

 何で怒られたのかが一夏にはイマイチ理解が出来なくて、でも、怒るのだから静かにするべきだろうと、声のトーンは落とした。マイクらしきものは本当にマイクのようだ。カラーリングや形状から察するに部分展開なのだろうか。 一夏がセシリアに告白したあの日に初お目見えした指揮管制パッケージ《オイレン・ケーニヒ》にはそんな装備もあるのだろうか、なんて一夏がなんとなく考えるうちに、また黄色い歓声が上がった。



自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中





「――ッ!」

 一夏はセシリアのほうを見て、即座に顔を真っ赤にして顔を背ける。セシリアはいつもロングスカートだし、基本的に一夏が見るのは正面、こっちを向いているセシリアばかりだ。だから、膝の裏側なんて見る機会は無い。

「ちょっとおぉぉおお!!り、鈴ーッ!ス、スカートが、スカートが捲れてしまいますわ!!足を!足を下ろさせてええぇぇぇぇええ!!」

「んふふふふ。綺麗な足なんだからいいじゃない……足首も細くて、いいなぁ」

「んッ!ぁあ……おやめ……おやめになって……あン!!」

 足首をがっちり固定しているロープをそのままに、スカートを押さえている部分からくぐらせているらしい、一本、また一本と拘束が緩むと、苦しそうな声こそは聞こえなくなってきたが、その代わりに重力に従って落ちるスカートの裾が捲れてゆき、弄る鈴の手の動きに苦しさだけではない声が聞こえてきた。

「…………ふむ」

 ラウラは一つ唸ると、頭部のハイパーセンサーを部分展開した。目元まで完全に覆うバイザーの形状は普段のシュヴァルツェア・レーゲンのものではなく、現在ラウラのISは一夏の推測通りの指揮管制パッケージを装備しているようだ。全く前が見えないようにも見えるが、無数の小型カメラによってむしろ肉眼視するよりもはるかに良く見えているし、見る映像もリアルタイムに処理が出来る。

「……うむ」

 ラウラはセシリアと鈴以外の人物の姿をカメラの視界内から映像処理で消し、満足そうに笑う。画面の右上には●RECと古典的な表示が出ていた。


「……ラウラ?」

「後にしてくれ一夏、今私は忙しい」

「あ、はい」



自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中




「ほ~らほら、見えちゃうわよ~?」

「い、いや……一夏さん……」

 涙目でいやいやと首を振りながら、セシリアは救いを求めるように愛する人を視線で探し求め。明らかに録画モード状態のラウラを、顔を赤くしてガン見状態の一夏の隣に見つけた。

「ら、ラウラさんッ!?何をなさってますの!!」

 セシリアの声に反応して鈴や箒たちもそちらを振り返った。もっとも、今のラウラには鈴と箒しか見える状態ではないのだけれど。

「構わん、鈴。続けろ」

 さっと手振りを加えながらGOを出すラウラに力強く頷きながら鈴は今度はセシリアのストッキングに軽く爪を立てた。ピッという小さな音と共にストッキングにあいた小さな穴は、包まれていた柔肉に押されて一気にその穴の面積を広げる。

「セシリアったら、ちょっとこのストッキングきつかったんじゃない?楽にしてあげる……」

「ああ……あああ……」

 スカートの裾がロープの移動にあわせて一度足首のほうへ向く、このロープが外れればきっとあられもない姿で下着姿を一夏に晒す羽目になってしまう。下着を見せたことが無いわけではないし、一度はブラなら剥ぎ取られた事だってある。でも、こうして衆人環視の中で、親友に剥かれて晒すのはちょっと、大分わけが違う。

「見ないで……見ないで、一夏さん……」

 顔を真っ赤にしてガン見状態だった一夏の耳に、その声は良く聞こえた気がする。いいのか?と一夏の中で問う声が聞こえ、はっとして周囲を見る。

(教室で、クラスメイトの見てる前で、恋人の前で、こんな事させられて、いいのか?いいわきゃねぇ!)

 ガン見していた事を棚に上げるわけではない、見たくないわけが無い、そういうことじゃない。飛び出した一夏の姿を二人以外を見えないようにしていたラウラは捉えられなかった。もしラウラがコラージュ素材にする為に背景をカットしていなければ、いち早く一夏の動きに気付いて止める事も出来たろう。

「―― 一夏……!」

 箒が一夏の動きに気付いたのは、鈴の背後から鈴を静止させようと一夏が既に腕を伸ばしているときだった。



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 箒が一夏の動きに気付いたのは、鈴の背後から鈴を静止させようと一夏が既に腕を伸ばしているときだった。

「はぁはぁ……ほぅらセシリア、全部晒しちゃいな……へ?一夏!?」

 目を輝かせながら公開羞恥プレイを楽しむ鈴は、箒の声に勢いよく振り返る。べしっとツインテールの髪に何かが当たった気がした。

「うおっ!?目が……!!」

「ンきゃああ!!どこ触ってんのよバカ一夏ァ!!」

「ぐっふあっ……!」


 織斑一夏は、ラッキースケベである。それもこれまで幾度と無く修羅場をくぐり抜け奇跡を起こしてきたラッキースケベである。鈴のツインテールが当たって視界を失ったラッキースケベはそのまま鈴の胸にタッチ、殴られた勢いで足を上げて足首だけを縛られているセシリアの太腿に顔面着地など、歴戦のラッキースケベ織斑 ハーレム 一夏にとっては日常のこと。むしろ好調なときなど更に脱がすくらいはする。


「きいぃぃぃぃぃいやあああぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」


 いきなりずぼっと大腿の間に頭をはさまれるように突っ込まれたら、それがたとえ恋人だろうが、ちょろいさんなんて呼ばれていようが叫ぶ。暴れる。教室を震わす悲鳴を上げながら、大変な場所へ顔を埋められないようにと足をぴったり閉じようとする。

「ふうぉっ!?」

 がっちりと頭をロックされてしまった一夏は一瞬何が起こったのかわからず、自分の頭を締め付けて離さないものを手で押さえて頭を抜こうとするが、それはセシリアにとっては脚を広げる格好の為、必死になってそうはさせじと力を込め、鈴の手が離れた膝を思い切り曲げて、踵を一夏の背中に何度も落とす。



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「…………そこだ!貰った!!」

 カシャァ!カシャァ!と動画だけでは足らないと判断したラウラの手に握られたカメラが何度もシャッターを切る。

「ふぐっ……!ぶふっ……!」

 肌の香りと感触でそれがセシリアだと判断した一夏は何とかセシリアを落ち着けようとは思うが、何とか目を開けたときに黒ストッキング越しの黒レースが目の前にあってまたきゅっと目を閉じる。背中をドンドンと叩かれる度に肺から空気が漏れて、呼吸も満足に出来ないから、出来る限り酸素を取り込もうと反射的に息は荒くなる。

「どぉしてそんなに息を……ぁっ……いやぁ……だめ……ぁぁンッ!」

 それがまたセシリアの悲鳴(?)を生む。完全な悪循環となっていた。

「……こ、これは…………」

 ラウラ以外さすがにあまりもな事態にクラスメイトの大半が呆然とする中、二限目開始のチャイムが鳴り始める。

「まずい!!」

 箒が緊迫感のある声を発する、クラス全員がそれに頷いた。




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――――――――



「お前ら、休み時間なにやら騒いでいたようだが、休み時間は騒がせる為にあるのではないぞー」

 教室のドアを開け、チャイムから少し遅れて千冬、織斑先生がやってきた。

「……ん?おい、織斑はどうした?オルコットもか?」

 最前列の唯一の男子生徒にして実弟の姿が無い、視線を教室内にやるが誰一人として千冬と目を合わせまいとしている上に、義妹候補の姿も見えない。途端に不機嫌そうに眉を顰める千冬は、一夏の隣である自分の元教え子の机に片手をバンと置く。

「ボーデヴィッヒ!」

「は……ハッ!教官!!」

 ガタと席を勢い良く立ち、直立不動のまま敬礼をする。もはや教官と教え子ではなく、教師と生徒に変わったが、ラウラに染み付いた千冬への態度は早々変わるものではないし、千冬も結構その関係を活用している。

「報告しろ。織斑とオルコットは何処へ行った。全く、少し目を離すとすぐこれだ、貴様がついていながらなんだこの様は」

「はっ!」

 びしとラウラは教室の後ろのほうを指差す。目隠し猿轡で縛られてもがいているセシリアの脚の間に弟らしき男子生徒が顔を突っ込んだままぐったりとしていた。


「むぐー、むぐむぐむー!!」


「」


「むぐー、むぐぐー!!」


「…………二限目は自習にする。ボーデヴィッヒ、その二人を指導室へ連れて来い」

「ハッ!!」



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―― エピローグ



「い、一夏さんのせいで、ひどい目にあいましたわ……」

「ひ、ひどいのはセシリアだろ……死ぬかと思ったぜ」

 結局三限目が始まって少ししてようやく指導室から解放された二人は、ふらふらになりながらの帰り道。互いに相手のせいだと譲らないで歩く。ふらふらのセシリアは一夏に寄り掛かるように、一夏はそんなセシリアの肩を抱くように支えながら。

「いーえ、一夏さんですわ……今朝寝坊なんてなさるから……今日はおはようのキスもまだですのよ?」

「……だから、休み時間に早めに用事を終わらせて着たんじゃないかよ……」

 拗ねるセシリアの恨みがましい視線に、自分にも言い分があるとついと視線をそらしつつ、答える一夏。もうすぐ教室に着く。セシリアが足を止め、じっと一夏を恨みがましい視線のまま見上げる。

「…………ここで?」

「ここでですわ」

「さっき千冬姉に学園内であまり羽目を外すなって言われたろ?」

「羽目を外さないとわたくしとキスもできませんの?」

「……いや、そうじゃなくて」

 一夏は周囲をきょろきょろと見回す。授業中の廊下に生徒の気配があるわけは無い。

「……じゃ、じゃあ…………」

 一夏はそっとセシリアの腰に手を回し、いつものように正面から抱く体勢にして、片手をそっとセシリアの顎先に触れさせて軽く上を向かせる。少し不安げで、それでいて期待に満ちるこの時のセシリアの表情が一夏は好きだった。こんな場所でと言うのに少し難色は示したけれど、恋人と唇を重ねることが億劫だったり嫌だったりするほど、一夏も大人ではないし、枯れてもいない。ゆっくり、互いの睫が同時に伏せられて、唇同士が意外としっかりと触れ合う。

「ん……ぁ」

 瞼を開け、唇が離れる際に、ちろと離れていくのが名残惜しいようにセシリアの唇を一夏が舐めると、セシリアは少し驚いた顔をして一夏の瞳を見つめる。一夏もまた、セシリアの瞳をまっすぐに見つめ。

「……んっ」

 再び、二人の瞼が同時に伏せられ、先程よりも長く、深く、互いの唇を啄み合わせるのだった。



 さて、指導室で二人を教育的指導した教師織斑千冬は、一年一組の担任である。二限目を自習としてしまった上に三限目も山田先生に任せたままになっていたから、千冬は教室への道を早足に歩いていた。

 廊下で濃厚なキスを交わすバカップルと姉が遭遇するまで……あと……――。



IS ifストーリー Cecilia Alcot #2

 「毎朝のちゅーは日常ですわ」

                fin



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      -‐    ̄ ̄    、、
 , '"/           ヽ   ヽ、
 \_二ニニニ===‐-    ヽ    ' ,
  /   /ヽ      |\ ヽ ',  |   i
  l  / ̄ヽ    | ̄\ ヽ |  |   |
  | / ___ \ \|:::::::::::\i |  |   |
.  i{从rテ示  \|::::::::::::::::::V  |   | うむ、本日はここまでだ。
  | リ ヒソ    ヾ;;;;;;;;;;;;;;/  /   |  映像データが欲しい者は
  | ′          ̄ ̄/  「`)  |     「ラウラちゃんマジ天使」と三回唱えろ。
  小、         /   r'´   |
  ヽ 丶 .. _  ̄   .イ   /     |
   | ヽ i   rュr勹  フ  /ヽ    |      嘘だがな。
.  |  \|/i:::::/ i7 i//::::/ヾ\  |

  |  / r ヘ::::i/ i/::::::/   ヾヽ  |
.  |  ;' /  i \i/;;;;ノi   i  !i |  |
  | / /  |:    :|   |  !i |  |



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次回予告

千冬「雨か……」

セシリア「雨はいいですわね、風情があって」

鈴「えー、めんどくさいじゃない。雨具の用意とかしなきゃいけないしさ」




       次回「ある雨の日に……ですわ」





ラウラ「モッピーが仕事をしていないんだが?」

箒「……」



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 朝から雨が振っては止んだりする落ち着かない天気。そんな休日のお話。


「一夏、これをお前にやろう」

 今日は非番なのだろう、朝から千冬は部屋で上下ジャージでゴロゴロとテレビなどを見ていた。そしていつも通り、思い出したかのように同室になった弟を呼びつけて唐突に話を切り出すのだった。

「ん?なんだこれ……博物館のペア招待券……って」

「無教養なお前には丁度良い物だろう、セシリアでも誘って行って来るといい」

 イギリス旅行を経て、セシリアと千冬はかなり私的に親しくなった。千冬もセシリアも学校ではオルコット、織斑先生と呼び合うが、非番となれば別。セシリアのことを千冬はセシリアと呼ぶし、セシリアもまた千冬のことを千冬さんと呼ぶ。

 ともあれ、千冬はセシリアの事になると随分と優しい所が目立つようになっていた。それは実弟の一夏から見ても顕著で、今日のように二人の関係に手を差し伸べてくることも珍しいことでもない。

「千冬姉……ああ!ありがとう…………ぅえ!?ちょ、千冬姉!これ今日までじゃないか!」

 それでも、千冬は千冬なのだが。

「それがどうした、どうせお前は一日家事をして過ごすつもりなのだろう?まったく、嘆かわしい。それでも思春期真っ盛りの男子か?セシリアが泣くぞ、連れて行ってやれ」

「だからって当日誘えってのはハードル高すぎるだろ……まあ……ありがとう、誘ってみる」

 当日にいきなり誘われると諸々の都合で断らなければいけない場合も、何とかねじ込む場合もどちらにせよ心残りを生んでしまう可能性がある。一夏にはそれが少し不安だった。

 セシリアは15歳の少女だが、既にオルコット家の若き当主でもある。イギリスに一緒に行った時も家の仕事に時間を割いていたし、時々片付けなければいけない仕事があるからと放課後や休日に部屋から出ずに端末と一日向き合っている日もある。ただのお嬢様ではない、背負った責任と釣り合った自信が支える高貴さが自分の恋人にあるというのは一夏にとっても少し自慢だ。






(用事が有っても、俺が誘ったら行くって言うんだろうな……)

 それ自体は嬉しい、嬉しいのだが、セシリアの為にはならない。後で無理矢理時間を作らなければいけなくなって無理をするのはセシリアなのだ。二人で博物館、悪くない。一夏は博物館は嫌いではない、古代の二文字にキュンキュンとくる、きっとセシリアも喜んでくれるだろう。あの展示室の古い木のにおいはロマンを感じさせる。隣にセシリアがいる博物館はきっといつもの一人で行く博物館より楽しいだろう。

「……でも悪いかもしれないんだよなぁ」

「何が悪いのよ?」

 いつの間にいたのか、鈴が両手を腰に目の前に立っていた。思わず漏れた呟きを聞かれてしまったらしい。

「一夏……そんな恰好してどこに行くつもり?」

 ずいと一歩一夏に迫りながら、鈴が問う。その双眸にあるのは警戒の色。鈴にしてみれば休日は一日セシリアといられる貴重な時間。ただでさえ今朝も、起きて早々にいそいそと出かける準備をするセシリアにどこに行くのかと聞いたら『キスしてきますわ!』なんて満面の笑顔で言われてアテられて不機嫌なのだから。

「ど、どこだっていいだろ」

 相変わらず一夏はこういう時の隠し事がめちゃくちゃ苦手だ。尤も、一夏が休日に外出着で行く場所なんてセシリアの所以外に無いのだけれど。

「ふーん……セシリアならさっきまでなんかパソコンに向かってうんうん唸ってたわよ?」

「……うっ……そ、そうか」

 一夏にしてみれば、悪い想像が的中した形になる。しかも唸っているということは結構忙しいのだろうか。一夏は残念そうに眉尻を下げ、溜息を吐く。

 鈴にしてみれば、悪い予想が的中した形になる。この反応から見て十中八九セシリアをデートに誘おうとしていたに違いない。彼氏の分際で親友同士のスイートタイムを邪魔しようとは不届き極まりない。

「なーによ?別に来週誘えばいいじゃない。大体あんた当日って乙女ナメてんの?シメられたいの?」

(なんて、来週はもうアタシと出かける約束してるんだけどねー!)

 呆れたと身振り手振り添えながら大仰にゼスチャーを添えながら、内心の笑いを堪えて不機嫌さを隠さない声で一夏に来週を提案する。来週誘って『先約が……』と断られる一夏、そして一夏の誘いを断ったことで落ち込むセシリアを自分が慰める。即興にしてはいい組み立てが出来た。







 大体、策抜きにしても当日誘いなんて馬鹿にしてる。恋人に誘われたら喜んで応じたい所だとしても、色々と入念に準備がしたいに決まっている。一日中髪型や化粧、香水のチョイスが正しかったのか迷い続けてデートを楽しむどころじゃない。

(……って、ティナが言ってた)

「いや、そりゃ俺だって……でも、千冬姉に今日までのチケット貰っちまったんだよ、さっき」

「さっきって……千冬さん相変わらず強引ねェ……ま、とにかくあきr――」

 諦めなさい。そう言い掛けて、ピンときた。鈴の頭の中でかちゃりと鍵が開き、一つのルートが見える。

「――……し、仕方ないわねぇ、あんたが箒とか簪とか他の誰か誘っても面倒なことになるだけだし……それ、アタシが使ってあげるわ」

 鈴は嘘はついていない、が、言っていない事がある。確かにセシリアは朝チューから帰って来てから、パソコンの前でうんうんと唸っている。―― マインスイーパーで。 要は、一夏の想像は杞憂であり、今日はセシリアはものすごく暇だった。当日誘われても何の杞憂も無く出掛ける事だろう。

「ええ!?お前とか?お前博物館なんて興味があったのかよ」

「はぁ!?博物館!?……いや、あんた、もうちょっと……あんでしょ、色々……この雨の中」

「いや、俺に言われても……千冬姉に言ってくれよ……」

「 だ い た い ! さっき言ったばっかりでしょ、あたし誘ってどーすんのよ!セシリアにばれたら頭ぶち抜かれるわよ?てゆーかセシリアを泣かせたらアタシが殺すわ!」

「……ぅ…………じゃあ、どうすんだよ?」

 博物館と言うのは予想外だったが、仔細に変更は無い。あとはチケットを二枚ともゲットして一夏に見つからないようにセシリアを連れ出すのだ、それでいい。

「そのチケットを貸しなさいってのよ」

 ――本当に、それでいいのだろうか。






                         ハヽ/::::ヽ.ヘ===ァ
                        {::{/≧===≦V:/
                         >:´:::::::::::::::::::::::::`ヽ、
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                      ヾ:::::::::|≧z !V z≦ /::::/   モッピー知ってるよ
                      ∧::::ト “        “ ノ:::/
                      |/::::(\   ー'   / ̄)|
         ハヽ/::::ヽ.ヘ===ァ    |  | ``ー──‐''|  ヽ、|
         {::{/≧===≦V:/    | _ゝ ノ     ヽ  ノ |
        >:´:::::::::::::::::::::::::`ヽ  「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  
       γ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽヘ                 /   
     _//::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ハ \_________/
.    | ll ! :::::::l::::::/|ハ::::::::∧::::i ::::::::  / ̄)
     、ヾ|:::::::::|:::/`ト-:::::/ _,X:j:::/:::: / /
      ヾ:::::::::|V≧z !V z≦/:::: / /
       ∧::::ト “        “ ノ::::ノ /  今日はここまでって知ってるよ
       /:::::\ト ,  'ー'  ィ::/:: ,/ 
       /__          /´
      (___)        /
          |        :::|
          i     \ :::/
          \     |::/
            |\_//
            \_/





ここで久々のルート選択です。
ダライアスのステージ分岐程度の軽い気持ちで選んでください、多数決。
1ID1レスのみカウントします。締め切りは14日。
更新が滞っており大変ご迷惑をおかけします。


展開選択。

1.一夏
2.鈴


意外とレスがついて嬉しいです。
あんま見てる人いないと思ってた、とても嬉しいです。
マジありがとうございます。


展開選択と書いて次の展開のメインキャラ選択させてるけど、
それがどうなるとは一言も書いてないんですけどね。

選んだのになんか違う……とか言われても当方は一切関知しないんだからね!


残尿感溢れるスレへようこそ。



さてここだけの話前スレであのまま亡国企業入りしてvs鈴の血戦に持っていきかけたけど、
戦闘が続いてレスが減って「あれ、ひょっとして誰得?」と思い直しました。

そんな経緯があるからドロドロは多分無いですよ、なので、お気軽に。
ID変わってから多重投稿でもカウントしますヨ。

正直レスがつくほうが好きです。
黙々と書いてると結構豆腐メンタルなのですぐ折れます。

現在「鈴」ですね、今夜24時がリミットになります。
投票と一緒に添えていただいた意見には結果如何問わずできる限り応えたいと思います。




決定です。書きます

進捗報告

現在リアルが死んでます。もう少しお待たせすると思います。

ところで21日にはインフィニット・ストラトスのブルーレイ最終巻が発売です。
また、11月にはオリアニも発売になります。

二期あるといいなぁ

お待たせしました、といっても書き溜めたわけではなく。
やっと書ける時間ができたので書いた状態です。

ゆっくりです。もうしわけないです。




「チケットを……?どうするんだよ」

「…………アタシが渡してきてあげる」

 いい訳がない。

 二枚とも自分のものにして、セシリアを誘って二人で博物館なんて、いいわけがない。楽しくない。セシリアが楽しいわけがない。セシリアが一番喜ぶのは雨の日であろうがなんだろうが一夏と一緒にいることだ。一夏の事を話すときのセシリアは本当に嬉しそうで、上機嫌。

「いぃッ!?い、いいよ別にそんなもん、誘うなら自分で誘うって!それに……セシリアも忙しいみたいだし……気を使ってくれてサンキュな、鈴」

 どうしてお礼を言いながらそんなに切なそうな顔をするの。鈴は問い詰めたくなる気持ちを抑えながら、きゅっと拳を握る。そして自分の吐いた嘘というかヒッカケにすっかり騙されている一夏に、奥歯の噛み合わせが悪いような、もやもやとした苛立ちを覚える。イライラするなら策なんか弄さなければいい、と言ってしまえばそれまでだけれど。策を弄してでも自分がセシリアと居たい気持ちにウソはない。なのに一夏が何も気づかない事にはイライラする。

 一夏はといえば、チケットを取り出して、字面を見る。間違いなく今日までの日付が刻印されており、明日になってしまえば紙切れになってしまうものだった。鈴はセシリアとは同室だし、何より二人ともとても仲がいい。些細な口喧嘩をしている姿も相変わらず見られるけれど、結局は大体いつも一緒に行動している。正直一夏としては羨ましい。

 ――それはとにかく。

 鈴に任せれば、セシリアも首を縦に振ってくれるかもしれない。セシリアの仕事が大変なのだって判っている。なにせオルコット家に関わる者、企業の全ての責任が最終的には彼女にかかるのだから。でも、それでも、一夏もセシリアもまだまだ10代だ、初めてできた彼女と休日はイチャイチャしたい。あわよくばなんて思ってもしまう。

「いーから!アタシがセシリアに聞いて来てあげるってのよ!」

「だから!自分で言うからいいって言ってんだろ!」

「わたくしがどーかしましたの?」

「「~~~~ッ!!!???」」

 ヒートアップしてきた鈴と一夏は、文字通り冷や水をぶっかけられたかのように声無き叫びをあげて身じろぎながら声のした方へそちらを見る。







「……と、言ってみるテスツ」

「……」

「……む、どうした鈴、一夏。口などあけて。」

 そこにいたのは金髪ロール髪の英国少女ではなく、銀髪ストレートの独逸軍人だった。

「……いや、アンタには言いたい事聞きたい事が一つや二つじゃないんだけれど……とりあえず、脅かさないでよね……」

 そのゴツイ一眼レフで何を撮影するつもりなのか、なぜ寮内で登山用のザイルを肩にかけているのか。なぜキャッツアイばりのレオタード姿なのか、そもそもタイツにスク水はレオタードとも違う。ツッコミ所が歩いているようにしか見えないが、

「ふっ……たるんでいるからだ、アマチュアめ」

 不敵に笑うラウラに、一夏も鈴も何も突っ込む気にはなれなかった。

「なんか、ごっそりとMPを削り取られた気分だわ……」

「……あぁ」

「大体、セシリアと私の声を聞き間違えるとは、情けない。いや……本当は私の声を求めているという事か?ふん、悪い気はしないが今日は私は忙しい」

 ニヤニヤと口端上げて笑いながら、上機嫌のラウラが紡ぐ言葉は冗談なのか本気なのかわからない。でも、その部分への突っ込みは薮蛇かもしれない。鈴は一呼吸置いてから、半ば予想はついていることを改めて問う。

「忙しいって、そんな格好で何をするのよ?」

 どうせ盗撮だろう。今日は誰を狙うつもりなのやら。鈴は適当に流す事に決めた。

「うむ、教官を激写しようと思ってな」

「死ぬ気ッ!?」

 流すつもりだったが、まさかの大将首狙いに結局突っ込んでしまったのだった。






「ああ、千冬姉なら部屋にいるぜ」

「一夏はどっちを売ってるの!?ラウラ?千冬さん?」

「ふっ、情報感謝するぞ我が嫁よ。それにしても……鈴。今日はツッコミのキレがいいな」

「誰のせいよ!?……てか、ああ、ボケだったのね。全く、なんだってのよ」

 この神出鬼没の独逸忍者は、時々わかりにくいボケをする。流石に今夜の食卓が独逸少女の女体盛りになるかもしれないような暴挙には、彼女を教官と慕うこの少女がするはずも無い。それにしても随分と丸くなった。転入してきた当初はそれはもう、敵対心むき出しだったと言うのに。ほっとしながら鈴は軽く安堵の息を吐く。

「さて、では私は教官の元へ急ぐとしよう。さらばだ!」

「マジじゃない!」

 ふっと、満足げな笑みを残して、ラウラが去ってゆく。残されたのはぜいぜいと息を切らせた鈴と、ラウラの背中を見送る一夏。

「なぁ、鈴」

 ラウラの去っていった方向を見つめたまま、一夏がポツリと呟く様に鈴の名前を呼ぶ。そんな風に真剣な声を、このタイミングで聞くと思っていなかったから、鈴は自分の心臓が早鐘を打つのを感じながら、無言で顔を上げる。吹っ切ったつもりでも、セシリアの次に好きな相手は一夏であることに変わりは無いから、複雑な感情が鈴の思考を乱す。

「……な、何よ……あ、アンタとはもう終わってるんだから」

「ラウラのやつ、なんでスク水なんか着てたんだ?」

 一瞬でもときめきかけた自分が本当にバカだった。いや、前からそう、ときめきかけたと思ったらイラっとさせられる。こんなのを選ぶなんてセシリアは本当に気が長い。






(……や、あれは長いんじゃなくて短すぎて感情の波のスパンが短いのかしら……)

 そういえば一夏にISを展開する時、発砲までするのはセシリアが多い。一夏の女性関係には全く働かない勘が、セシリアの嫉妬心には無駄に働いているのか、セシリアが手加減して当てていないのかはわからないが、幸いにして一発もあたったことは無い。そう考えると恐ろしく短気だ。でも、機嫌を直すのも一番早い。故にチョロイなんて言われるのだけれど。

「…………セシリアの殺気だけは敏感に察知してたのって、やっぱ結構前から気になってたって事なのかしら」

「ん?……いや、普通感じるだろ……セシリアのはなんていうか…………ぶっちぎりで恐いぞ?千冬姉のが抜き身の日本刀を構えられてる感じならセシリアのは障害物の何も無いところで弓を向けられてるみたいな……」

 首を左右に振りながら即答する一夏に鈴はジト目を向ける。

「……あんた一体セシリアのどの辺が好きになったのよ……?」

 鈴の問いに、一夏はみるみる頬を染めていく。真顔で問われるなんて思っていなかった、そんな顔をしている。もしかしなくてもきっとそんな所も好きなんだろう。一夏にはちょっとというかやっぱり少しMッ気があるのかもしれない。

「ど、どの辺って、い、いい言えるかよ……!」

「はぁ……ハイハイごちそうさま……まったく、話が逸れちゃったわ。それで、チケットよ!どーすんの?」

「っと、そうだったな……いや、やっぱ自分で誘いたいんだよ……でも……」

「だから一夏が誘ったらたとえほんとに忙しくても時間作るわよ、忙しいのに悪いなーとかそういうことならアタシが渡してきてあげるっての」

「……そうなんだよなぁ……でも俺が言わなきゃ………………」

 譲れないものがあるのだろう、一夏は眉根を寄せながら、再び取り出したチケットをじっとにらむ。テーマパークや恋愛映画のチケットならともかく、博物館のチケットでここまで思い詰めるそんな姿を見て、鈴は一夏の真剣さを感じて少しだけ嬉しく、少し悔しい。

「……一夏、いいじゃないそんなに悩まなくたって。あんた逆にセシリアがあんたを誘おうとして悩んでいたらどう思う?ったく、はじめはちょっと騙してやろうなんて思ってたけど……負けたわ、信じなさい、ちゃんとチケットはセシリアに渡すから。だから、あんたはいつも通りにしてりゃいいのよ」

「鈴……」

 一夏は鈴に無言で頷き、チケットを一枚手渡す。

「ところで騙そうとしてたって何だ?」

「そこは流しなさいよ……」






――――



「退屈ですわぁ……」

 窓の外、再び強くなってきた雨足が時折窓に水の模様を描く。イギリスは気候的に見れば日本よりもっと寒冷で、雨も実際に多い。だからというわけではないがセシリアは雨が嫌いではない。机の上に開かれたノートのディスプレイには、ドイツ商人から三万日本円で購入した一夏の半裸盗撮画像を加工した壁紙が表示されている。

「一夏さん……」

 惚けた声でその名を呼びながらそっとディスプレイを指でなぞる。同室の驚くほど口の軽い酢豚という親友は体を動かしてくると言って出て行ってしまったきりだ。

 だからこそ、こんな煩悩全開の壁紙を設定してアンニュイな午後にも浸れるというもの。少しシャワーでも浴びようか、モニターに映る一夏に見られてると思いながら、羽織っている上品な桜色のカーディガンからするりと袖を抜き、彼の視線を妄想しながら一枚一枚と衣服を……――。

――バン

「ただいまー」

「ほあああぁぁぁあああっ!?」

 半脱ぎのままバンとノートを閉じる。業務用のデータも入っているそれは開く時に静紋認証、開いてからの復帰に網膜認証を必要としているから閉じてさえしまえば不在時に覗かれる心配はない。

「……エロい恰好でなにしてんのよあんたは……は、はぁん?お邪魔だったかしら?」

 呆れたように深々と溜息を吐きながら鈴が後ろ手に戸を閉める。にやにやと口端を上げて笑みながら近づき、半脱ぎでパソコン前、ナニをしていたの?と、文字通りの舐めるような視線をセシリアの体に這い回らせる。

「な、な!何を仰いますの?わたくしはただシャワーでも浴びようかなぁと思っておりましただけでしてよ?鈴さんこそどちらへ行かれてましたの?屋内トレーニングルームに行って来ると仰っていたわりに随分お早いですけれど!」

 取り繕って話題を変えようとしていることがひしひしと伝わってくる慌てっぷりで、セシリアは早口にまくしたてる。シャワーを浴びようとしてたのなら脱衣所で脱げばいいし、慌ててノートを閉じることも無いだろうに。

「いや、行こうとは思ってたんだけど、そこで一夏と会ってね?」

「一夏さん!?まさか一夏さんがお見えになってますの!?――わたくしとした事が、こんな恰好で……ッ!す、すぐに準備をいたしますから少しお待ちになってもらってくださいましッ!!」

 いそいそとクローゼットに向かうセシリアの反応を見ながら、鈴は軽く額を抑える。

「いや、一夏は連れて来ちゃい無いから落ち着きなさいよ。で、どうせアンタ暇でしょ?」

「どうして連れて来てくださらないんですのっ! …………ま、まあ、偶然お時間がある状況ではございますけれど……」






    |/| ハ/_ヒ_l ハ ノ  /`ヽl_  }    }
    |/|〈/K:::::::lヾ ヽ  /∠:.:.lハ\/     ,
    |/|ヾ└==':.:.:.:.:.:\/:.:.んミ_:.l l /    l     本日はここまででしてよ?
    |/| ',:.:.:.:.:.:.:.:.;.:.:.:.:.:.:.:<::::::∧ レ  ∧ ハ
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あれ、このままだとチケット渡しちゃいそうだけどww
これからどうなるんだろうwktk

ラウラは何故スク水だったのか…

セシ×一夏がいいれす

むちゃくちゃレベル高す・・
この作者何者だ?

>>79
それはきっと伏線じゃね!?   知らんけどww

>>80
ぼきもれす

>>81
もっと高い人いっぱいいますよ。
if弾セシの人とか、禁書ボディビルとか素晴らしかった。
何よりセシリア付き合おうの人がきっかけで書くほうになりました、構成が面白い人は憧れます!
わたしはただのオルコッ党です。



ということで投下開始、久々なのでこれだけageてみる。




 暇な事は朝っぱらからマインスイーパーをやっていたからよく知っている。わざわざ偶然だなんて断らなくてもいいのに。鈴は意地っ張りな親友の態度に、そんな所もかわいいなんて思いながら、ポケットから預かったチケットをぴらりと出す。

「あら!鈴ってばそれ、どうなさったんですの?」

 チケットを見るや好感触の反応を返してきたセシリア。少しだけ博物館なんて色気がないかなんて思ったけれど本当に杞憂だったみたいだ。

「実はね、セシリア、これ――
「奇遇ですわね、わたくしも同じものを持っておりましてよ!一人で行くのもどうかと思っておりましたけれど、本当に丁度よかった。本日までのようですから早速参りましょう」
 ――……へっ?」


 食い気味に告げられたセシリアの嬉しそうな言葉に、鈴はチケットを持ったまま頬を引き攣らせる。






(え?今?え?持ってる??一夏が二枚持ってて、セシリアが一枚、え、あれ?うそ、なんで?)

 うきうきと服を選んでいるセシリアが肩越しに振り返り、茫然としている鈴を見て呆れたように鼻で笑った。

「ちょっと鈴、まさかそんな恰好で行くつもりですの?さっさと着替えて行きますわよ」

「――は!いや、そうじゃなくて、ええと……一夏!一夏に貰ったのこれ!だから……」

 一夏に貰ったのだ、なら一夏に返せばセシリアは一夏と行けるよね、となる筈。一夏にはチケットを渡してきてあげると言った以上、まさか『チケットを渡そうとした結果アタシがセシリアと行く事になりました』とは一夏に言い辛い。

「あら、そうでしたのね……お誘いいただければ喜んでお伴できましたのに…………やはり殿方は博物館はあまり好きではないのかもしれませんわね、今回の展示は特に、珍しい花や蝶の展示ですから」

 セシリアが口にした展示内容にぎょっとして鈴はチケットを両手で掴んでよく見れば、確かに、世界中の珍しい花を集めた展示のものだった。まずい、一夏が行くのを面倒くさがりそうな展示内容だ。同時に、なぜセシリアがこれを持っているのかも理解が出来た。

 ――『展示協力:大英博物館』

 自国の国家代表候補生が学ぶ日本で展示を行うから、自国の代表候補生に招待のチケットが送られるのは至極当然。鈴の元にも時折こういった招待のチケットが届く。

(バカ一夏……ッ!自分が誘おうとしてたチケットの内容くらいちゃんと読んどきなさいよ!!)

 当然一夏にもこういった招待はある。あるのだけれど、基本的に一夏の手元にそれらが届くことは実は無い。世界唯一の男性IS操縦者である一夏が例えば特定の国から送られてきたチケットで催しに参加した場合、無用な軋轢を生みかねない。そのため、基本的に姉である千冬が全て接収していたからだ。だから、チケットの内容を読んでそこに大英博物館の名前があったとして、それがセシリアがすでにチケットを持っている事には繋がりにくい。もちろんそんな事は鈴が知る筈も無い事なのだけれど。






「鈴?まだ着替えていませんの……?早く行かないと……見ている時間が無くなってしまいますわよ?」

 薄青のフリルワンピースに、袖口のレースがいかにもな白いファー付きボレロを羽織りストールを巻いたセシリアの表情が、一瞬不安げに陰る。鈴自身、あまり博物館で花や蝶の標本を眺めるタイプではない、それは自他共に認めるところ。もしかして、行きたくないのではないだろうか?セシリアがそんな風に思っているのが一瞬で伝わってきた。

(――くっ、一夏には悪いけれど)

「そ、そーね!あは、あはは、ちょっとラウンジで待ってて。すぐ着替えていくから!」

 セシリアの表情が曇るくらいなら多少の不義理も仕方が無い。

 行って待ってて!と言いながらセシリアの背中をぐいぐいと押して部屋から先に出させ、鈴は素早く自分専用のIS《甲龍》の片腕を部分展開し、プライベート・チャネルを開く。

「もしもし!?一夏!?」

≪うわっ、なんだ!?鈴か?どうしたんだそんなに慌てて……まさか!!セシリアに何かあったのか!?≫

 実のところ、一夏には以前から拭えない不安が一つあった。イギリスに行ってから、ずっと、暗い水の底から何かがゆっくりと近づいてくるような、予感。普段はIS学園という場所柄も考えれば表に出てくるようなものではないけれど、鈴が一人でいるセシリアの所に行って、切羽詰まったようなトーンで返してきた時、その不安が一気に増大した。

「――えっ?」

 が、そんな剣幕の一夏の声に、逆に気圧されてしまった鈴が戸惑いの反応を返すばかりだった。

≪――ぁ、いや。≫

「とにかく!いいから!今すぐアタシの言うとおりにしなさい!」

≪はぁ?いきなりなんだよ、なぁそれよりチケットは……≫

「うっさい!質問禁止!!博物館についてはセシリアなら行くから、いいから支度を整えてアタシの言うとおりにしなさいってば!!いい!まずは――」

 セシリアについて重大な事が有ったのではないようだ、ほっとしたのも束の間、どうも鈴のほうに焦らなければいけない要因が有るらしい。何が有ったのか一夏はとても気になったけれど、質問を禁止されてしまった以上何も言えず従うしかない。どっちにしろ、一夏にとってはセシリアが来るか来ないかの方が重要なのだから。







――――――




「鈴のやつ……なんだってこんな所に??セシリアがここに来るって事か……??」

 鈴に指定されて、一夏は一人で学園を出て駅前にやって来ていた。駅の階段が正面に見える、ちょっとお洒落を気取った珈琲チェーン店の屋根のあるテラス席でセシリアを待つ。

 生憎の雨だというのに街中は人が多い。この辺りではまだちらほらとIS学園の生徒らしき制服姿も見られる。三年生はもうすぐ卒業だ。

 無為に待っていると、色んなことが頭に浮かぶ。まず一夏には現状疑問が多い。チケットをセシリアに渡してきてあげると言った鈴は、渡したとも渡していないとも言わずにここへ来るよう指令を出してきた。事情はあるのだろうけれど。

(ひょっとして、これはセシリアがシチュエーションを指定したって事なんじゃないか……?)






――――



 不意に、背後からそっと手が目隠しをしてくる。ああ、セシリアの手だ。国家代表候補生として訓練も積んでいる彼女たちの手は、普通ならタコやマメができたりで荒れていてもおかしくは無い。むしろそれが普通だ。だが、専用機持ちはそこも普通と違う。それが専用機持ちが憧れの眼差しで見られる要因でもあるのだけれど。

 ISには若干ながら搭乗者の生命維持機能が有る。細胞の活性化や体調維持にも僅かに有効なのだが、専用機とはその機能を24時間使用できるということだ。女子にとって垂涎の美容機器と言える。

 セシリアの手は、更にその上でよく念入りに手入れされているから、肌の綺麗さでは群を抜いている。照れているのか少し控えめに目元に添えられているのも、セシリアらしい。これが箒ならば力が入っているだろうし、鈴は勢い余るだろう。シャルロットはうっかりかおっぱいが背中に当たるだろうし、ラウラは確実に目潰しにかかってくる。

「だぁれだ、ですわ」

 一夏は思わず噴出しそうになってしまう。聞かれる前からセシリアだとは分かっていたけれどこんな時くらいその独特の日本語はやめればいいのに。ですわつけりゃいいってもんじゃないわよ!なんて前に鈴と言い合いしてたことをちょっと思い出す。

「セシリア」

「んもう、どうして分かったんですの?」

 少し拗ねたような声色は、本当になんでばれるのか分かっていないのかもしれない、別にそれは正す必要はないだろう、そんな所もセシリアは可愛い、愛おしくて可愛い恋人。一夏はセシリアの手に自分の手を重ねて、離させて早くその顔が見たいと思ったけれど、不意に背中に添えられた感触に動きが止まる。

「……ふふ、わたくしは今何をしているでしょうか?」





 セシリアは、自分の体型を同年代に比べれば小さいほうとは言っていた。でもそれはイギリスの話。実話、イギリス人の平均バストサイズはDである。しかもここ10年でBからDに急成長している。そしてこの平均はブラをつける全年齢で出す。つまり、イギリス人は現在若ければ若いほどでかい。実際、日本やフランスもその傾向はあり、現代人は平均的なバストサイズは上昇傾向にあると言える。

(そんな事ァどうでもいい!!こ、こここここれは!!)

 パイ並べしたら山田先生は先頭だ。箒はでかい。千冬姉もでかい。WAVE盛りすぎだろうなんて意見もあるがあれでいい。一夏はイギリスで生で見たりしてるがそれはそれとして。

 箒は当てないが手を掴んで触らせる、シャルロットはうっかり当たってしまう。セシリアは当てるつもりで当てに来る。ラウラは当たらない。鈴は二組。これだ。

「そ、その……セ、セシリア……」

「ねえ、一夏さん……わたくし、何してますの?」

 目を覆っていた手を外し、そっと肩に手を添えたセシリアが更に密着度を上げて、くる。二つの膨らみが更に押し付けられる。

 右っぱい良し!左っぱい良し!

「――――!?」

 ふと一夏は気付いた、いくらなんでも柔らかすぎやしないか?

「まさか、まさか……」

「ふふ……ノーブラですわ……」

「 !? 」








「ふん、どれだけ偉そうなことを言っても所詮は口先だけの頭でっかちな童貞坊やか」

「ビームマグナムを使う!」



    ギシギシアンアン







――――



(なんつってな、なんつってな!)

 カフェのテラスで妄想にふけり、鼻の下をのばす一夏の姿は大層気持ち悪かった。


(しかしそっか、もう卒業に向けてか……三年生は天下のIS学園っつっても大変だ。……ん、ってことは楯無生徒会長……は、二年なんだよなあの人……引退まであと一年近くあるのかよ……)

 といっても、一夏の周りにはダリル先輩が一応三年生だが、あまりよくは知らない。楯無会長含め、ほぼ全員が進級するだけだ。

 学園最強の称号であるIS学園生徒会長の席は、二年生にしてロシアの"国家代表"である更識楯無が就いている。代表候補生ではない、国家代表。代表候補生は代表候補生で間違いなくエリート(セシリア談)だが、別に一人ではない。二年にも三年にも代表候補生はいる。だが、流石に国家代表の資格を持っている在校生は現時点で楯無ただ一人だ。

(そもそも、三年中期であの人がすんなりと引退するのか?…………やめよう、考えるのは)

 セシリアと付き合い始めてから、楯無から一夏へのアプローチは目に見えて減っていた。減ったと言っても以前と比べて、であって、相も変わらず神出鬼没。不意打ちの回数が一日数回から一日ゼロから二回に減った程度だけれど。

「い・ち・か・くぅ~ん」

 ふわっと香るいい匂いが鼻を擽ると思うや否や、背中から肩口に回される腕、そして嫌が応にも背中に押しつけられる柔らかく大きなふくらみ。

「ぁっ……た、楯無会長……ッ!?」

「あらあ、おっぱいの感触でバレちゃったかしら?ふふふ、助平だね?一夏くん」






 駅前での不意打ちははたから見れば所謂バカップル行為そのもので。当然のように周囲の視線がザクザクと一夏に突き刺さる。一瞬妄想具現化かなんて思った自分が一夏はあほらしいとさえ思っていた。

「こんな所で、どぉしたの?もしかしてナンパかしら?そんな事する子とは思わなかったわ~」

「ちがっ!違いますって!だから押し付けないでくださいィ!」

「あら、ナニを押し付けないで欲しいのかな~?」

 確信犯に言葉を濁して言った所で何の意味もない。判ってはいるのだけれど、かといって一夏にはっきりおっぱい押し付けないでくださいとは言えるわけがない。ちょっとは嬉しいんだろう。本当は判っているんだろう?男なら。以前、弾に愚痴った時に血涙を流した弾に訥々と語られた言葉だった。

(まぁ……ちょっとは)






 一瞬。






 一瞬だ。


 ほんの一瞬の気配。






 光学兵器はその性質上、銃の機構内での粒子加速稼働がある。光線に破壊力を持たせる為にはどうしても必要なものだ。開発当初は稼働から照射まで数分もの粒子加速が必要なものもあったという。しかし技術発展によって現在の光学武器、特にISに搭載される光学兵装はそのタイムラグをほぼ解決したと言えるレベルまで短縮されている。

 ただしそれは通常の光学兵器ならばである。口径を大きくすればする程、出力を上げれば上げる程に、どうしてもこの準備動作は大きくなる。

「あま~い」

 ほんの一瞬、しかし、通常よりもほんの少しだけ長いラグは、楯無にとっては読めて当たり前のレベルになる。一夏と楯無の周辺に、文字通りの水のヴェールが一瞬で形成され、飛来した光線を受け止めた。水のIS。ロシア代表更識楯無専用IS《ミステリアス・レィディ》の《アクア・クリスタル》を部分展開、製造されたアクア・ナノマシンを展開した防御だ。屈折と反射角を散るように制御され、それでも高い熱量で一部蒸発させながら。文字通り光線が霧散する。

「うわっ!?な、なんだ!」

 背中にふにょんふにょん楯無ッパイの感触を感じながら、突然の事態に一夏が楯無をかばいつつ、着弾した方向へ振り返ろう

 ――と……思った。






「あら、お待ちかねのお姫様の御到着かしら?これからデート?じゃ、愉しんできてね~」

 するりと背中からおっぱいの名残と、柔らかな香りを残して楯無が離れ、すぅ……と靄の中に消えていく。え、ここで帰るの?

 蒸発した霧は雨の中にゆっくり晴れる。ここで振り返らなかったら、余計に地獄を見るな。どこと無く冷静に判断している自分がいると思いながら、一夏はゆっくりと駅の階段のほうを振り返った。

「…………」

 片手に傘、片手は大口径狙撃用特殊レーザーライフル《スターライトmk-Ⅲ》を持った蒼いISの腕。隣には額を片手で押え、やはり傘を持ってがっくり項垂れる鈴。もしかしなくても、イギリス代表候補生セシリア・オルコット(激怒)がいた。

「……一夏ぁ~……ほんっとアンタってさぁ……」

 本当に、何と言葉をかけていいものか、大きくかぶりを振りながら時々隣にいるセシリアをチラ見しながら、鈴が静寂を破り、疲労感たっぷりのため息を吐く。






「――ちが
「違うとしても……一夏さん?」
 ……はい」



 弁解しようとした一夏の言葉に、セシリアの声が被る。雨音だけが必要以上に大きい。

「……今朝もあんなに愛を確かめ合いましたのに……」

「えっ!?」

 今度は鈴が驚く番だった。毎朝、休日も欠かさず朝と寝る前は二人きりで会ってるのは、セシリアと同室の鈴にとってはもうずっと繰り返されてる日課であり、別段驚くことではない。いくらでもいちゃいちゃしてればいい、セシリアのシャワーに乱入できるのは自分だけで、一緒のベッドで寝てるのも自分だけだ。だがちょっと今のは聞き捨てならない。

「――ッ!待て!鈴!!誤解だ!《双天牙月》を展開するな!」

 《双天牙月》、鈴の《甲龍》に搭載された二対の青竜刀型の近接武器を無言で赤い前腕部と共に展開する鈴を見れば、今のセシリアの言葉で余計な推測をしたことが嫌と言うほど分かる。

「…………誤解? 何が誤解なんですの!?……一夏さんは……一夏さんは……誤解と捉えていると仰いますのッッ!!」

「ぃいッ!!セシリア!?ち、ちが 今のは……!」

 セシリアの両肩後ろの空間に、大きなシルエットが二つ現れる。セシリアの専用IS《ブルー・ティアーズ》の象徴的武装であるシールドバインダーが展開される。そのすらりとした末広がりの形状は遠目から見ても美しく映えるのだが。以前のイギリス帰省の際に搭載された総合強化パッケージ《クイーンズ・グレイス》によって増設されたBITにより、そのシルエットには威風さえ漂う。

(セシリアの誤解を解こうとすれば鈴がキレ、鈴の誤解を正そうとすればセシリアの逆鱗に触れる!!)

 もう冬を感じさせる気温だと言うのに、一夏の背に嫌な汗が浮かぶ。






「…………ち、ちが
「ですから……違 う と し て も と申し上げておりますわ、一夏さん」
 ――いや、頼む!聞いてくれ!!セシリア!!」

 誤解であっても、振り解こうとはしていなかった、セシリアが違うとしてもと怒っていると言うことはそういう事だ、そう一夏は分析する。どこから見られていたのだろう。否、こういうときにどこからかはあまり重要ではない。
「一夏ァ!歯ぁ食い縛りなさい!」

「ちょっ!歯を食い縛れって言いながら刃物を振りかぶるな!鈴もちょっと頼むから聞いてくれええぇぇええ!!」







  ′  |:.:/ソ   |   ||  :i | ||\\ / :|     /   /
 |   |/ ノ   |  |、    |/   |  | ||.  × \ |      /   /
 |  ∠ソ     |  |、\ /     l  | j|/   \ :|    ./   /
 | | ーl- ..._i |、 | ヽ\    _:._. イ/ -‐ニ-ァく|   /   /
 |./|  |   |¨T \ー-- \    V '"´Vノ(_ノ } 〉ー /   ∧i
 || .|  |    | ーァッヤ卞マ  丶、_\_  ゝ-- '^ j /   /  }         本日はここまででしてよっ!!
 ||...l  l    | 〈〈'⌒V(_,ハ        ̄ ̄     / /   /   ム
 || !  l |   、ノへ、ゝ- ´   :.       /// /    / ,/  }
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※おまけ


最近読み始めた人、前スレを呼んでいない人向けの再解説。


―― 英国にとって特別の呼称"クイーン"の名を冠する、蒼穹を切り裂く光の女王 ――
 英国代表候補生セシリア・オルコット専用IS《ブルー・ティアーズ》
                総合強化パッケージ『クイーンズ・グレイス』装備

当SSでセシリアのブルー・ティアーズは前スレ後半でBT搭載試作IS二号機《サイレント・ゼフィルス》に搭載される予定だったパッケージを改修・搭載する事で大幅なパワーアップを施されています。
主役としてのパワーアップをコンセプトにしました。オリが苦手な方はごめんなさい。

・従来の両肩のシールド状のパーツは更に大型化、BITは従来の二つの中央と上部に増設され、三本下方向に伸びて一本が上に伸びている形になります。

・BITもまた少し大型化され、単体で近接用のブレードを展開させる事も可能になりました。これはシールドから切り離すこともできますし、マウントしたままブレードを展開する事で、ライフルを手に持った
まま近接兵装としても使用できます。

・更に腰回りは原作《ストライク・ガンナー》のようにスカート状のパーツになり、腰の後ろ、お尻のあたりに従来型の射撃専用BITマウントが二つ、背中側に一対あったパーツの上側にもマウントが一つづつつき、尾翼のように斜め下に先端を向けて計4つの射撃専用BITがマウントされています。

・全部で12基、ミサイル型も含めれば14基に増え、当然のように肥大化された重量はPICでの飛行に大きく支障をきたす為、機動力の確保として腰の左右にフロート型のユニットとして大型スラスター《テンペスト》が搭載されました。(イメージとしてはガ○ダム試作三号の腰についてるテール・バインダー)

・《テンペスト》の推力はすさまじく、瞬間加速性能は別として巡航速度ならば《紅椿》以上のスペックがあります。ただし、PICで制御できないものを無理矢理飛ばしている為、運動性が極端に低くなっており、小回りが利きません。と言っても、IS同士の比較で小回りが利かないだけであり、フレキシブルに噴射方向を変えられる為、障害物の少ない高高度高速機動戦闘ならばそのスペックを最大に生かせるでしょう。尚 本体の最高速度>BITの推力 のため、切り離した状態で最高速を出すと自身のBITを置いて行く事になります。




※おまけ2「一方そのころ」



千冬「絶対に許さない!!」

ラウラ │゚д゚)

千冬「千冬「爪弾くは魂の調べ!キュア・ビート!」

ラウラ |゚д【◎】パシャッ

千冬「いくよ!ソリー!  ――ハッ!?」

ラウラ |彡ピャッ



> これ、光学兵器じゃなくて加粒子砲じゃね?

oh、そやね。

ISの光学兵器ってどうなってんだ?ってBTが既に意味わかんねぇwwwだけど
まぁアレよ、長押ししなきゃ出ないのよ!

公式名称「レーザーライフル」「ビーム」「粒子砲」と色々あるんだし、
とりあえずこのSSでは

ためがいるときゃ溜めるけど何を溜めてるかは想像に任せます。の方向で。
個人的にはBTは意思が干渉できる粒子が混ざってる。

そして連日投下です、久々に。




「…………」

 セシリアにしてみれば、酷いとしか言いようがない。一夏はどうして、同じチケットが送られていたはずなのに、それを鈴にあげてしまうんだろう。チェルシーからひと月前に、大英博物館が協力している展示が有ると聞いた。一夏と千冬にも送られている事を聞いた。博物館なんてとはじめは思ったけれど、期限が近付くにつれて、二人で出掛けるいい口実なのに誘ってくれない事に少し切なさを感じていた。もしかして姉弟で行ったのだろうか?それならそれでいい。そうも思い始めていたけれど……今朝になってみれば、それは鈴に渡されていた。

(きっと、ご都合が合いませんでしたのね)

 今夜就寝前に会った時にでも、少し拗ねてみるのもいいかもしれない。きっと一夏は都合が合わなかった事を謝りながら、ぎゅっと抱きしめてくれる。お詫びにと少しキスの時間を長くしてくれるかもしれない。そんな風に考えていた。






「はあ、更にここからバス、ですのね。やはり車を呼ぶべきだったのではなくて? ――鈴さん、さっきから何をきょろきょろしてますの?」

 普段二人で駅前へ買い物に行くときはやたらと車を呼べとごねる鈴が、今日は頑なに公共機関での移動を主張した。今日は駅前で終わりじゃない、更にバスに乗らなければいけない。セシリアは日本のバスがどうにも馴染めなかったし、待ち時間が勿体無い。こんなときこそ車を呼ぶべきではないだろうか。

「え?あ、あは、あはは、ナンデモナイヨ!」

 しかも、今日の鈴はすこぶる怪しい、何か考えがあるのはさすがに分かるのだけれど。何があると言うのか。別に鈴の策ならそう心配することではないかと問い詰めはしないけれど。

「えーと、あ!いた!――じゃない! ねえねえセシリア、アレって一夏じゃない?」

 鈴が指差す方向を見ると、駅前のカフェに確かに一夏の姿が見える。機嫌も体調もすこぶる良好、と言った感じだ。鈴の台詞がやや棒っぽいのが若干気になるけれど、些事である。

(あら……別に一夏さん、ご都合が悪いようにも見えませんわね……??)

「何してんのかしら?いってみましょ」

「え?ええ……」

 そこから先は、セシリアはあまり覚えていない。ただ、一夏の後ろには楯無先輩がいて、一夏への殺意を意識するより早くトリガーを引いていた。






――――


「まぁ、鈴さん……聞こうじゃございませんの。いいわけを」

 激高する鈴を、少し冷静になったセシリアが制す。一夏がそんな事するわけがない。きっと、事情があったに決まっている。問答無用でぶっ放した事は、恋人である自分を差し置いて鼻の下を伸ばしていたのだ、狙撃の一発や二発は仕方がない筈だ。今、セシリアにとって最も重要な問題はもうそこではない。

「い、いいわけって……と、とにかく、セシリアが怒るのはもっともだ。ただ信じてくれよ!楯無さんがああいう人だってのはセシリアだって分かってるだろ、俺だってやめてくれって言ったんだよ!」

「鼻の下伸ばしてたくせに」

 セシリアに制止されて《双天牙月》を収めた鈴が、相変わらずむすーっとした顔で一夏に突っ込みを入れる。

「なっ!り、鈴!そんなわけねーだろ!?伸ばしてねーよ!」

「のーばーしーてーたー!アタシ見たもん!」

「―― 一夏さん?今はわたくしへの言い訳の最中でなくて?」

「ッ! はい!」

 鈴とやったやってないの口論を始めそうになった一夏の耳に、さっき冷静になったはずなのにもう沸点近くまで威圧感を纏い始めたセシリアの声が届く。その隣では鈴も思わず背筋を伸ばしていた。今、セシリアにとって最も重要な問題はそこでもない。







「それで?」

「え?それで……ええっと、それで…………」

 一夏は、セシリアが怒っている理由を知らない。ただ、そこは一夏の非ではない。最終日まで博物館に誘ってくれなかったというのは、そういったものは全て千冬ファイアウォールで止められてしまっていたし、今日、そのファイアウォールから渡されたチケットで一夏はセシリアを誘うつもりだった。ただ、気を使うあまり誘いにくくて鈴に渡すことを頼み、セシリアがここに来ると鈴から聞いてここで待っていただけなのだから。だが、セシリアにとって今最も重要なのはもうそこですらない。

(あ、あれ?楯無会長の事じゃないのか……?な、なんで俺こんなに激怒されてんだ!?……そうか!)

「あ、ああ!確かめ合ったよ!それは間違いない、誤解って言ったのはその、違うニュアンスで……!」

 今朝も愛を確かめ合ったと言う言葉を誤解と言ったかのような言い方をした。鈴がその反応でキレてる理由は大方一夏にも想像がつく、要は一線を越えたかもしれないことに鈴は怒ってるのだろう。それは誤解だ、一夏もセシリアも、いつ超えてもおかしくはないが朝や就寝前の時間はない。時間が足らない。かといって堂々と「鈴が俺たちが毎朝ヤッてると誤解してる」とは言えない、言えるわけもない、でもセシリアなら今の説明で分かってくれたはず。愛を確かめ合ったことは否定していない。鈴も誤解だったとわかる筈だ。

「……」

 しかし一夏の期待をよそに返って来たのはむすっと口を結んでじっと一夏の目を見つめるセシリアの表情だった。セシリアにとって、期待するものにはまだ足りていない。でも、怒りは収まっている、だからセシリアは、じっと一夏の瞳を見つめるし、何も言わないで待っていた。

(あ……あれぇ……)

 肝心の一夏がそれに気づける人なら、一夏ではないのが問題なだけだ。






 一方


(愛を確かめ合うって、言い方が悪いのよ、まったく……やっぱ一夏コロス!コロス!コロス!コロス!大体待ってるだけでなんでこうトラブルを呼び込むのよあのバカ!計画が台無しじゃない!…………あれ?計画?)

「――――っあ”!!!」

 毎朝そんな青少年の青の字が違うような事を自分の許可無くしてるなんてぶっ殺す。という感情に燃え上がっていた鈴だが、どうやら勘違いだったことは理解。ふと我に帰れば、怒りのあまり本来の目的がトンでしまっていたことに漸く気付く。鈴は、まさかの本人がチケットを持っているなんていう思いもよらない事態に遭遇し、一夏との約束を本当の意味で果たしていなかった。






――

鈴ちゃん『あれー、一夏ー。どこか行くの?』

バカ『え?なに言ってんだ……?博物館へ……』

セッシー『あら!奇遇ですわね、わたくしたちもこれから博物館へ行く所でしたの』

鈴ちゃん『よし!じゃあ三人で行こう!決まり!』

バカ『え、おいちょ―― ぎゃふん!』

セッシー『おかしな鈴と一夏さん』

鈴&セッシー『あははうふふ』

――


(やばああぁぁぁぁあああイ!!これじゃこうはなら無いじゃないのよ!!)







 とりあえず二人を会わせ、『偶然一人で博物館に行こうとして駅前にいた一夏』も一緒に行こうということにすれば結果オーライ、一夏が約束が違うと言ったら殴って黙らせればいい、アタシが行かないとは言ってない。想定ではこうだった。

「あ” ……なんて、鈴さんどうしましたの?立ったまま寝ていびきでもかいてまして?」

「そんなヒキガエルみたいないびきかいてないわよ!ってかいびきなんかかかないわよ!!」

 何とかして軌道修正しなければいけない。突然上がった鈴の声に少し驚いたように一夏から視線を外したセシリアに返しながら鈴は思考をめぐらせる。どうにかして一夏に約束が果たせなかったことを悟らせないように、三人で博物館へ行かなければいけない。

(……考えろ、考えるのよ…………あれ?)






(そういえば……)

 鈴は何かを見落としている事に気付いた、一夏の約束を守ろうとするあまりに本質を失念していないだろうか??

         「……もうっ!ここは……愛してると囁いて抱きしめるところですわよ!!」

          痺れを切らしたセシリアはずいと一夏に一歩近づいて、顔を近づけ一夏に迫る。

         「ぃいッ!?こ、ここでか……!?」

(そもそも……)

         「じゃ……じゃあ……いくぞ、セシリア」

         「……はい、来てくださいまし」

 セシリアは結局来たんだから別に、チケットを渡せなかったとしてもいいんじゃないだろうか?

         「セシリア……大好きだ、世界で一番……あ、愛してる」

         「今噛んだから、もう一回……ですわ♪」

 むしろ、チケットが一枚多くなったのだから普通に私も行くー!で万事解決なんじゃないだろうか?騙そうとした罪悪感から変な策を練ったが、この際二人きりにしてやれなくてもいいじゃないか。どうせこの二人は……。

         「ぃいっ……し、しょうがねーなぁ……セシリア、愛してるよ」

         「わたくしもですわ、一夏さん、お慕い申し上げております」

「って! こらあああぁぁぁあああ!? さっきから何やってんのよ!このバカップル!」





 鈴が真剣に考え込んでいる脇ですっかり二人の世界に突入してイチャイチャし始めていた。二人揃ってほっておけば勝手にこの調子だ。駅前のカフェで堂々と。尤も、IS学園の生徒、それも専用機持ちとくれば、誰も咎めない。※勿論学園に連絡は行くので帰ってからは推して知るべし。

「なんですのぉ?愛を確かめ合っているのですわ。ああ、一夏さん♪」

「ちょ、セシリア……流石にここじゃ……後で、な?」

「……はい……」

 ISを持ちだしてまでの痴話喧嘩は、すっかりなりを潜めている。もう何もかもがばかばかしくなって、深々と溜息を吐いて、鈴は、その感情に内心はっとして、勢いよく首を左右に振った。本当に犬も食わない。

「ったく!とにかく、さっさと行くわよ?見る時間無くなっちゃうんだから!」

 鈴は腕時計の時間とバス停の方向を交互に見ながら二人に言う。

「……どこへですの?」
「どこへ行くんだ?」

「なんっであんた等同じこと言ってんのよ!?博物館よ! 博 物 館 !一夏に渡してくれって頼まれたけどセシリアもチケット持ってたんだし三人で行きましょ?全く、余計なこと考えないで初めからこうしてればよかったのよ……」

 肩の荷が下りたと脱力しながら、片目を閉じて明るい声で笑う鈴。だが、

「……ぇえ? ……鈴さんのチケットを一夏さんに返して鈴さんは回れ右じゃございませんの?」

 一夏に抱きついたまま不満そうに眉根を寄せて返すセシリアの声はとっても嫌そうで。

「何よ!そのイヤっそ―な声!酷くない!?あたしがどんだけ……! あったまきた!絶対ついてく!とりあえずいいから離れなさいよ!さっさと行くわよ!」

「なんですの!?あ!ちょっと、引っ張らないでくださいまし!馬に蹴られたいんですの!?雨に濡れてしまうじゃありませんの!」


「ほら、一夏も早く会計済ましてきなさいよ!早くいかないとバスが出て行っちゃうわよ?」


 鈴の言うとおり、駅を始発とするバスがロータリーに現れた所だった。


「……え?俺お冷しか飲んでねぇよ」


「とんだ迷惑客ねあんた!」






――――


 一方


「さて、ボーデヴィッヒ」

「はっ!教官!」

「満潮前には回収してやる、反省しろ。そして今日見たものは忘れるように。いいな?質問はあるか」

 波打ち際の岩場に、鎖で縛られた掃除用具入れが置かれている。じき、潮が満ちてくる頃合いだ。

「はっ!教官!一つだけ、自分のカメラは!」

「 忘 れ ろ 」

「――ッ!」

 さらば我が愛機、既に腰の辺りまで水に沈み、荒れる波に揺らされながら、掃除用具入れの中でラウラは慟哭の叫びを上げるのだった。



                          r=-、

                 _,,..  ..,,_     |⌒ヽヽ
              , < : : : : : : : : :≧._- 、  l:!
               /: : : :/: : : : : _,,: : :- 、ヽ:> 、||
              /: : : :/: : : : : /: : : : : : :`、ー-、リ
          /: : : :/: : : : : : /: : : : :, -―-、:ー: : \

           /: : : :/: : : : : : /: : : : :/     ⌒'、: :ヽ
            /: : : :/: : : : /: /: : : : :/  千冬   l: : : : ',
        /: /: :/: : : : /: /: : : : :/          l : : : : ',
        /: /: :.': : ∧/: /: : :ー/- 、       |: : : : : !
       ,: :/: : ; : :/ヘ.V/:ヽ≧厶_-、\      |: : : : !:|
       /.:/.: : :!: ::{  /: : /弌t.ノ`ヽ    ,ニ¬/! : : : N
        /: :l: : : :|: :∧、|: : ; : : 厂     ' ィf7力:|: : : :.:| |
      ,: : :: : : : |: : : `:|: : |: :/      | ゞ'-/ l|: : : : | |
      |: : :|: : : :|: : : : :|: : |: |      .」   /: :l|: : : : | | 本日の投下はここまでだ。
      |: : :|: : : :|: : : : :|: : |: |    _, _   /: : /|: : : : '|  この格好か? 忘 れ ろ。
      |: : :|: : : :|: : : : :|: : |: |\   ー`´  イ: : :/ |: : : / ,'
      |: : :|: : : :|: : : : :| : :|: |  丶 _ . イ:: :|: / ,: : :/ /
      |: : :|: : : :|: : : :/| : :|: |   {:: : : :|: : :/: / / : / /




「……何でこんなことになってんだよ……」

 三人での博物館は、流石に館内で騒がない程度の常識は三人ともが持ち合わせていたようで、さほどの騒ぎは無く。いかにもなお嬢様とどう見てもユニクロな男のカップルである事を差し引けば、普通の国際カップルと女友達にしか見えなかっただろう。売店の前にさしかかるまでは。

 折角だからお土産買おうと鈴が売店に走り、恥ずかしいからおよしになってとセシリアがその後を追う。一夏は走る彼女の尻を見る。なにもおかしい事は無い。こういった偶然の積み重ねは時折一夏も写真に残してみたいと思う。今度ラウラに

「だっからさー、なーんでわかんないかなぁセシリアは?」

「鈴?この、イギリスの国家代表候補生にしてオルコット家当主のわたくしにそんな珍奇なものが似合うと思いまして!?」

 普段口論の絶えない二人も、こんな場所であればそこは分別のある、IS学園生徒、ひいては国家代表候補生であるという自覚から気を引き締めて……。

「いやですわよ、そんなラフレシアの髪飾りだなんて!」

「いいじゃない、着けてみなさいってば!原寸大じゃないんだから」

 気を……な……あ、ウツボカズラだ。






「原寸大の髪飾りだったら今すぐにでも無理矢理黙らせて差し上げましてよ?だいたい展示を見ませんでしたの?あのようなグロテスクなものが私に似合うはずが有りませんわ!?」

「何よ!いいからつけてみなさいってば!それから鏡を見て判断しなさい?」


「ねえ?一夏さん」
「ねー?一夏」


「ウツボカズラにも穴はあるんだよな…… へ?なんか言ったか??あ、えっと、どっちでもいいんじゃねぇかな……なんて」


「一夏さん!!!」
「一夏ァ!!!」


「ひっ……わ、悪かったよ、え、えーっと??」

 一夏は経験で理解していた。こんな時に論争の内容を確認するのはご法度だ。『何の話だ?』なんて言った日には総スカンを食う。こんな言い合いなんか日常茶飯事だ、交際を始めてからも一夏は時折セシリアの部屋の前に『通りかかる』事が多いのだけれど、中から声が聞こえたと思ったら、ビネガー味のポテチの是非について口論していた。つまり、今回もどうせくだらない事だ。






「あ、あー……俺は少し臭みがあるのも嫌いじゃないぞ?」

「鈴さん、折角ですからそれはいただきますわね。店主!ラフレシアの香水はございますかしら!?」

「香水はやめてセシリアッ!同室に少しは気を使ってぇぇえ!!」

「離してくださいましっ!わたくしは身も心もあの香りに……ッッ!」

「ぃいッ!?ラ、ラフレシアぁ!?」

 ラフレシアの香水を購入しようとするセシリアとそれを必死に止めようとする鈴。有名な話だが、ラフレシアとは世界最大の花であり、マレー半島周辺に咲いている。イギリスの植民地建設者にしてシンガポールを創設した"ナイト"であるサー・トマス・スタンフォード・ラッフルズが発見した。キモイ大きさ、グロイ見た目、汲み取り便所の臭いに喩えられる腐臭と、ちょっと普通は近付きたくない類の花だ。いかにも触手が生えて虫は余裕、人くらい食べそうに見えるかもしれないが、別に取って食ったりはしない普通の植物だ。

「あ、あー、セシリア?」

「一夏さん、待っていてくださいまし、今夜からはラフレシアの香りに包まれたわたくしに……」

「一夏!もー!!あんたが変なこと言うから!!」

「お、俺のせいかよ!?」

 反射的に鈴にそう言い返しはしたものの、実際、セシリアがそう判断するに至ったのは自分のせいだ。

(ビネガーの話じゃなかったのか……)

 抱きしめた時にほんのり香る薔薇の香りも好きだ。いつも少し違う香水を微かに香る程度に上品に身に着けているのも好感が持てる。ほんのりラフレシア臭がするのは流石に一夏も勘弁願いたい。







「せ、セシリア。その香りもそう、悪くは無いかな、なんて思うけれど……セシリアはやっぱりいつものセシリアの香りでいてほしい……そっちのほうが、抱きしめたくなる……から」

「……ぅっわ……ちょ、流石にベタ過ぎ……」

 横で鈴が軽く引いた眼差しで見ている、ベタで悪かったな。

「……一夏さん……!分かりましたわ!わ、わたくしもその、正直ラフレシアの香りは流石に、と思ったのですが、一夏さんが喜んでくれるなら……と。ふふっ、一夏さんはいつものわたくしの香りで抱きしめたくなってくださってるんですのね?ふふふっ!」

 セシリアは両の瞳をキラキラと輝かせ、胸の前で指を組んで間近に駆け寄って見つめてくる。軽く引いた目の鈴がそんな様子のセシリアを見て深々とため息をついてから腕を組み、顔を背ける。

「……」

 しかし、一夏が対応に困っているのか無言で何もしないのに気付き、イライラした様子で一夏を睨み、小声でささやく。

「何やってんのよ、一夏」

「え、何って……」

「そこは無言で抱きしめてってサインでしょうが!」

「げふっ!?」

 鈴の華麗な回し蹴りが一夏の背中にヒットし、よろけた一夏は自然と正面のセシリアに凭れ掛かるように抱きつくことになる。そのままセシリアを博物館の床に押し倒しかねない勢いだったが、セシリアが踏み止まった。予測していたかのようにがっしりと。

 一夏の腕が背中に回されたのを確認してからセシリアも腕を一夏の背中に回し。その右手は鈴だけに見えるようぐっと親指が立てられていた。

(グッジョブですわ!)

(アンタの狙いなんかお見通しなのよ)

 プライベートチャネル。ではない。ずっと計算ずくだったわけでもない。ただ鈴には、一夏のベタな台詞を聞いた時点でセシリアがどうするのか、どうしたいのかが理解できた、それだけの事だ。ならば鈴は不本意でもそれに乗る。

 売店のおばちゃんの生暖かい視線や、来賓扱いのチケットを持っていたイギリス国家代表候補生の少女が相手で注意も出来ない警備員(33歳・独身・魔法使い)の視線を浴びながら、二人は抱き合ったまま、時折互いの名前を囁き合うばかりだった。

 そんな二人を見守りながら、鈴は満足げに微笑んでいた。




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勿論。とっても鈴なノリで書いてますヨ?


次回予告。

今度こそ鈴のターンが来るまで書けるといいな。


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もつかれさまです。。



◆l5R7650ANI師になら是非書いていただいて読みたいネタ

ラウラで読みたいSS

ラウラに妹(後継の試験管ベビー)が現る。
戦闘機械として、女として、すべての能力・性能でラウラを遥かに凌駕する妹の出現に茫然自失のラウラ。
ラウラ妹はラウラを敵視かつ超がつくサドっ子でラウラをいたぶり、一夏を誘惑して楽しむ。
ラウラは打ち負かされた上で、一夏を奪われ、鬼畜凌辱され、なぶり殺しにされるのだった。

シャルで読みたいSS

シャルに姉(本妻の娘、色気たっぷりで性格キツメ)が現る。
IS学園転入の目的は無論デュノワの利益確保と裏切り者シャルの制裁。
「妾の子でメス犬」であるシャルに対して陰湿なイジメを行うシャル姉。
目の前で一夏を誘惑され、困惑ながらもまんざらでない様子の一夏をみて、シャルは泣きながら逃げ去る。
その晩、一夏のベッドにシャルが忍んできて……
「お願い……僕を、一夏のものにして……」

鈴とセシリアはここのIFSTORYより以上のものはないです。
モッピー?どうでもいいや……

なんだこりゃ、レスがついてると喜んでみれば……
とりあえず、一言。

俺のスレで荒れないでくれよ頼むから。



>>128
無理すねー。すいません。
ここのラウラは俺なりのラウラへの愛情をもって書いてます。
シャルもそうです。よって無理、書けない、書きたくない。

つか一夏とのカップリングはセシリア以外ありえねーだろJK。

自分で書いてください。





「ったく、いつまでやってるのよ」

 結局二人の抱擁は、10分ほどで鈴の手で強制的にぺりっと剥された。当然のようにセシリアはむっとしていたけれど、鈴にとって珍しかったのは、一夏の不満そうな顔だった。

(やれやれ、これじゃ完全にお邪魔虫じゃない?ははっ)

 自虐的な思考ではあったけれど、実の所鈴にとっては少しばかり嬉しい話だった。一夏のことはセシリアより昔から知っている、小学校高学年から中学生の二年間を一緒に過ごして来たのだ。唐変木・オブ・唐変木ズなんて異名を欲しいがままにしていた一夏が、あの一夏が、セシリアと抱き合って、それを無理矢理剥されるとむっとするのだ。それだけ想われている事を感じてセシリアは今どれだけ幸せな気持ちだろう?

「幸せそうな顔しちゃって?」

 セシリアの傍に行き、にっひひーと、悪戯めいた笑みを浮かべながら、一夏に聞こえないような声で囁きかける。はっとした顔で鈴の顔を見返すセシリアの、半分にやけつつ恥ずかしがる表情がとても可愛らしくて、鈴は笑みを深める。

「そっ!そんなこと……ありますケド……」

 赤くなって否定できないセシリアの腕をとり、歩き出す。もう博物館の順路も終わりだ、結局お土産は買えなかったけれど別にお土産はどうでもよかった。楽しい一日を過ごせた、引っ張らないでと抗議しながらも笑いながら共に歩く友を見れば、その感想が共通のものと実感できて、鈴は上機嫌に博物館の扉をくぐる。






「わぁ、綺麗……」

 館内にいるうちに、雨は上がって、空はまばらな雲間を斜陽が紅く照らしていた。それが余りにも綺麗で、素直に言葉が出る。

「ふふっ、鈴ったら子供みたい、語彙が有りませんわね」

 単純明快に、思った事をそのまま口に出す鈴の言葉尻に半ば反射的にセシリアが口を挟む。もはや習慣、ただそれは少し失言だった。内心にしまったと口を噤むももう遅い。

「な、なによー!じゃあアンタはどうなわけよ?綺麗だと思わないワケ?情緒がないわねー」

 少しむっとしたような顔で鈴は問い返す。綺麗なものを綺麗といって何が悪い。鈴は鈴で、どうしてセシリアがそんな事を言ったのか、ついぞ出た失言と判っていて回答を絞る。

「なっ!?そ、そんな訳ありませんわ!?……ぅぐ……え、ええと、う、美しい夕暮れですわね」

 そう言われてしまうと、語彙がないと言ってしまった手前、セシリアもただ綺麗だと言うに言えなくて、言い方を変えては見るものの、セシリア自身分の悪さに悔しそうに鈴を見る。

「そっちの方が語彙がないんじゃないの~?」

「う……ぐ……」

 セシリアが反射的にこちらをからかったのがいけないのだ、悔しそうなセシリアを見下すように顎を上げて勝ち誇り、まんまとやりこめたと満足げに笑っていると、ふと、約一名の姿が見えない。

「あれ?セシリア、一夏は?」

「あれ?じゃありませんわ!鈴さんがさっさとわたくしを引っ張って来たんじゃありませんの……確かにお姿が見えませんわね、まだ中にいらっしゃるのかしら……」

「んー……一夏に限って迷子って事ァ無いでしょうし……ほっといてもバス停にでもいれば来んでしょ」

 セシリアは一度博物館の方を振り返り、確かに、博物館からバス停まではほぼ一本道、特に問題もないだろうと考えてから鈴に頷きを返し、雨上がりの道を二人で歩き始める。







「あーあ、もうすぐクリスマスねぇ」

「もうすぐって……鈴さんは少々気が早いのではなくて?まだまだ先ですわよ」

「何言ってんのよ、このくらいあっという間よあっという間。ま、アンタは待ち遠しくてまだまだ先なのかもしれないけれど?」

「ふふっ、そうですわね。でもクリスマスの前にテストと試合が有りましてよ?部活のほうだって」

「ぅえ、ヤな事思い出させないでよ~、あーあ、この前の小テストやばかったのよねぇ……」

 畳んだ傘を手持無沙汰気味に、歩きながら足で先をコツコツと蹴りながら、鈴は空に向かって溜息を吐く。

「またですの?全く、国家代表候補生がまた赤点ギリギリだなんて流石に笑えませんわよ?」

「そりゃまぁ、そうなんだけれどさぁ……」

 鈴は口を尖らせる。実際セシリアが言うように余り笑える状況ではない。ただ、鈴も決して馬鹿ではない、元気だからなれる程国家代表候補生は安い看板ではない。世界最大の人口を誇る巨大国家中国でその地位につくという事はセシリアが言うところのエリート、専用機まで与えられたまさにエリート中のエリートというわけだ。当然学力も高い。良くある授業内容の変化についていけていないというやつだった。

「ISの教練はわかるのよ、教練は……」

「だったら簡単でしょう、特に試験勉強なんてパズルのようなものですわ、答えが用意されているのですから」

「そんなに簡単だっていうならセシリア教えてよー、ね?」

「いやですわ、ご自分でやってこその試験、それに折角教えようとしてもどうせまた寝てしまうんでしょう?」

 やれやれと掌を上に向けて顔を左右に振る仕草を見せながら、にべもなくセシリアが返す。持った気品から些細な仕草でも酷く挑発しているように見えるあたり、気品とやらもあまり持ちすぎるのも考えものか。

「ぐぬぬ……ふんだ、あったまきた!いーわよ!もう頼まないから!期末の学年トーナメントであたったら覚悟しときなさいよ!」

 ビシ、とセシリアに向け指を突き付ける、小柄な身体から溢れんばかりの負けん気の強さが見せるそんな仕草がとても鈴らしい。期末の学年トーナメントとは、ISの操縦にも慣れてきた一般の生徒たちも交えたトーナメント形式のイベントで、個人戦で行われる。尤も、至極当然のごとく専用機の保有者が勝ち上がるものであり、半ばデモンストレーション的なイベントとなっていた。

「なんですの?人の親切を……! ふん、無様に地面を転がるのは鈴さんの方でしてよ?」

「なによ!」

 しかし、三年生は一人、二年生は二人しか専用機持ちがいなかったが、今年の一年生は何度も繰り返しているが専用機持ちが7名、更に全員が亡国企業や謎の無人IS等が相手の『実戦経験』を持っている事からも今年の一年生トーナメントは数日かけて行われる異例の事態となっていた。

「なんですの!」







 話を戻そう。互いに、口論しているようにしか見えない二人だが、本人たちは周囲が思うほどの喧嘩はしていないつもりというのが迷惑というもので。

「あ、バス来た」

「一夏さん……どうしてしまったのかしら」

「どうしよ?一本見送る?」

 まさにこの二人は、あれでなんら口論も喧嘩もしていないと互いが思っている典型だった。

「……お前らなあ……何喧嘩してるのかと思って隠れちまったじゃねえかよ」

 少し離れた植え込みの陰からのそのそと一夏が出てくる。

「どうして隠れるんですの?」

 セシリアが不思議そうな顔で問う、鈴はと言えばどうして隠れたのか判るのか、わざわざ隠れていた事を宣言してセシリアに突っ込まれる一夏の鈍さに目頭を押さえていた。

「……え、ええっと、いや、邪魔しちゃ悪いかなーと、思ってさ??はは」

 勿論嘘だ。

 本当は、どちらかの味方をさせられるのが面倒くさかった。それは勿論セシリアの味方だけれど、授業の変化についていけてない人種としては鈴の言い分もわかる、というか一夏も教えてもらいたかった。ここはセシリアに何とか折れてもらいたい。かといって鈴の味方をしようものならセシリアの怒りゲージが一瞬で振り切れるであろうことも想像に難くなかったからだ。

「……」

 いつもはちょろいセシリアがじーっと訝しげに一夏の顔を覗き込む。もしかして藪蛇を踏んだだろうか?なんて今更一夏は考えているのだから始末に負えない。

「はー……お二人さん、運転手さん困ってるわよ!乗るならさっさと乗る!」

 道中のバス停ではないから本当は少し余裕があったが、バスのタラップを途中まで上がった鈴が一夏に助け船を出す。つまらない事で時間を取られるのも嫌だったし、どうせこの二人の事だ、ほっとけば雨降って地固まるよろしくその場でいちゃつきだすに違いない。

「はっ!わ、わたくしとした事が……失礼いたししましたわ!乗ります!」

「お、俺も!」

(……一日に何回雨降ンのよ)

 やれやれと嘆息するのも何度目か、もう鈴はその回数を数えるのもおっくうになっていた。三人を乗せたバスは、雨上がりの夕焼けの中、学園に向かう帰路についたのだった。






 ―――― 一方その頃





 満潮に近くなった海岸の懲罰房(廃棄ロッカーを鎖で巻いたもの)に入れられたラウラは、もはや首元まで迫る水面に必死に顎を上げて呼吸を確保していた。

 こんな事になってしまっているのには千冬の誤算が有った。確かに前回懲罰房送りにした一夏は満潮でも沈んではいなかったが、ラウラは比較的小柄な体形をしている。勿論泳げないわけではないのだが、縛られていては満足に立ち泳ぎさえできない。そして、何もしなければラウラは浮かない。専用機持ちを例にとって説明すれば、

 ラウラ ・・・潜水艦
 鈴   ・・・やや浮くそぶりは見せるが沈む
 簪   ・・・浮く
 シャル ・・・余裕で浮く
 セシリア・・・余裕で浮く
 モッピー・・・戦艦

 このような序列が存在する。このままいけば嫌が応にもラウラは溺れる事になる。

「……浸水だと!馬鹿な、これが私の最後と言うか!認めん、認められるか、こんなこと」

 波が顔を被おうとしたその時、外から鎖を引き千切る鈍い音と、聞きなれた友の声が響いた。

「――ラウラ、『貸し』ておくよ?」

 明るく優しい声色が聞こえる。恐らく《ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ》を展開しているのだろうその人物にロッカーごと持ち上げられ、浸水していた海水がロッカーの外へ流れてゆく。

「……ふっ、助かったぞ……シャルロット……」

 助かったからと、のんびりはしていられない。ラウラは次の一手を素早く考え始めていた。




 ――データは一つではないのだから。






   / |        | \    \ヽ、   ヽ、    ヽ       . |
   /./    /    .|   ヘ    \ ``‐- 、_   ヾ      .|.`|
   | |    /     .小    ` ・、  `\  、     .|      .|.|
  .||   ’     | .| ヘ      `ヾ-、_ _,`斗‐ ,,_   |      | |
  .||  .|    | ヘ_,,.ヾ-.     i、イ\ー-  `` - ..、    .| キ
  |.|   |    | .,|,;;- ヘ  \     .|.ヽ`、 \ ヽ \ | .`    | | '|
  |.|   |    イ.|   ‘ N \    i ヽ.、  \丶\|     i . |N
  .i |   .i  / |i .i   ヾ.、  \   丶 .丶   \ Y  ./  .|  i
 / ./|   i    .| iヾ    \   \  .ヽ ‐.;;;;;;;;;;;,,,,___.|   /   .|  .|
.//| | || | ` ,,,,;;;;:;''''‐‐    \ ヾ'   '  ''''` 、 /    | .| `
`'  | |  i .| 、 .| ,',''''''          .\\   , , , / ./    .| | \ヽ
   .|  .|   i | ヽ|、   , , ,     ,.    `'  ' ' '/ /|   、 .| |  `'
   .|  ||   i.|  、ヽヽ ' ' '      .i        // / |   ヘ ..| |
   |  | |   キ  `i-、`、       __.....__     / .//    ヘ | .|   今日はここまで、読んでくれてありがとね
  .i / |      .|、.,``-     r''"    `i    ./ .i    ' `i i
  ././  |  i    .|  ``' \    '、     ノ   , イ /   /,イ `、|
 ,'/   i ||   .|ヾ   __,,..`,,.,,、  ``'''' '''`  ,..  .i/ .i   /
      キ | |   | ヾ  |、``''┴、`- 、.  _,.: '    |  .|   ./
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        ヽ `   i ┌┘     ``'''ー-- 、、..,,,;;_,,,...| i  /
          .\ |                   .i /
           \|                   i/





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投下開始

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トリまちがったわw




 寮に戻り、自室の扉をあける。

「はー、博物館も結構バカにできないわね、存外楽しめたわ」

 外套を脱ぎ、コートハンガーに向かって放り投げながら鈴はまっすぐにベッドに向かい、ダイブする。

「ちょっと鈴。せめて部屋着に着替えてくださいまし」

 セシリアは鈴のように投げたりはせず、直接掛けに行ってコートハンガーに掛けながら、横目で自分のベッドに飛び込む鈴をジト目で見やる。

(……横着のくせにやたらと器用ですわね)

 鈴の投げた外套は、器用に襟元が引っ掛かっている。投げて掛ける事が出来れば色々と便利かも、今度コツを聞いてみようなんて一瞬思い、すぐにそれを否定する。とてもではないが淑女としてそんな真似は恥じるべきだ。

「セシリア―、ジャージとって―、あとテレビつけてよ」

 部屋着に着替えろと言ったらジャージを要求するようになったら淑女としておしまいだ、たぶん。一度呆れた眼差しで鈴を見た後、深々と溜息を着いてからクローゼットを開き、畳んである鈴のジャージを手に取ると……

「少しはご自分で動いてくださいましっ!」

 それを鈴の顔面めがけて思い切り投げつける。しっかりと丸めたものならともかく、畳んだだけのジャージは投げつけた所で勢いもなく、せいぜいばさっと鈴の顔にかぶさる程度だけれど。

「わぷ、サンキュー」

「全く……女子高というものは男性の目がないから油断しがちとは言いますけれど、一夏さんもいるのですからそこはレディとしての嗜みとして自律をですわね……」

 垂れ流されるセシリアの愚痴は聞こえているけれどハイハイと適当に相槌を打ちながら右から入った言葉が左に抜けていく。ベッドの上でゴロゴロと転がったまま服を脱ぎ、ジャージに着替える鈴。セシリアが持ち込んだ大型のテレビに電源が入り、リモコンを机の上に置いてセシリアは洗面所に向かう。






「えー、別に一夏ならいいんじゃない?」

「なんですのその理屈。ま!まさか一夏さんをまだこの期に及んで諦めておりませんの!?」

 セシリアは即座に踵を返しつかつかつかとベッドサイドまでやってきて両手を腰に鈴を睨みつける。

「いや、それはないわ。アンタね……一夏は男だけどフリーじゃないじゃん?そりゃ異性ってランクから外れるわよって意味」

 本当に一夏の事になると沸点が低いなーと少し呆れながら鈴が説明し、それを聞くと一度セシリアは目をぱちくりとさせて、浮かれた足取りで再び洗面所に向かう。

「ん……ふふっ、そういう事なら皆がずぼらになってゆくのも悪い気は致しませんわね♪」

「はいはい、そーねー。あ、リモコンとってよ」

 ゴロリと横になったまま、手だけを軽くセシリアに向ける鈴。ずぼらも悪くないと言った直後だけれど、そこまでズボラになってしまえるのもどうかとは思う。というかズボラのレベルは超えてないだろうか?

「ご自分でどーぞ」

 両肩を竦めながら洗面所の扉がぱたんと閉じられた。

「なによ、ケチ」

 少し勢いをつけて起き上がり、テーブルの上のリモコンを手にしてまたベッドへと戻ってゆく。

「セシリアー、ご飯どうする?」

 チャンネルをポチポチと変えながら鈴が大きな声でセシリアに呼び掛けるが、返事がない。テレビではつい先日米国で開催されたIS欧州大会の準優勝者が結婚というニュースを大々的に報じている所だった。欧州大会はその名前の通り欧州とその周辺地域の国家が参加するトーナメント大会であり、世界大会程ではないにせよ、国家代表だけでなく、国家代表候補も参加するそれなりに大きな大会だ。

「……あれ?欧州って事はイギリスも含まれるわよね?セシリア出てたの??」

 イギリスだけでなく、ラウラのドイツ、シャルロットのフランスも勿論欧州なのだけれど、この三人が出場したという話は聞かない。少なくともセシリアは連休でイギリスに仕事をしに戻っている時以外は毎日部屋にいたはずだ。洗面所から、タオルで頬の水滴を吸わせながらセシリアが出てきたので鈴は改めて聞いてみることにした。






「ねーセシリア」

「なんですの、まったく、洗顔中に話しかけられても回答に困りますわよ。わたくしは一夏さんと夕食を食堂で食べる約束をしていますの」

「いや、そのことじゃなくってサ、っていうかそんなら私も行くわ。この欧州大会って代表候補も出場する大会なんでしょ?」

 テレビの画面を指差しながら言う鈴に、セシリアもベッドへと向かいながら画面を見る。

「あら、ではいらっしゃらなくて結構でしてよ?あぁ、この大会ですの……鈴さん、わたくし達の性質をお忘れになってません事?」

「は?絶対行くし。性質?」

「…………はぁ……いいですか?私達IS学園在学の国家代表候補生は、IS学園に在学中は原則的に如何なる国家の制約も受けませんわ。つまり、国際大会の参加資格もございません」

 それは個人情報を男性と偽装して入学したシャルロット・デュノアや、VTシステムの暴走事件を起こしたラウラ・ボーデヴィッヒが在学し続ける事が出来る理由である特記事項。如何なる国家の制約も原則的に受けないという事は、国家の威信を背負う事は出来ないということに他ならない。母国を誇るセシリアにとってはそこは少しだけ不満だったりもするけれど。

「あー!そういえばそうだったっけ」

「それに、わたくし達の専用機は、第二世代であるシャルロットさんの《ラファール・リヴァイブ・カスタムII》や、規格外である箒さんの《紅椿》を除いてあくまで第三世代のトライアル機ですのよ?例え参加できるとしてもわたくし達を出場させる事はまず無いと考えていいでしょうね」

 第三世代ISの存在、技術は既に実用化に近い段階となってはいるにしても、未だ試作を繰り返している段階だ。ベッドにぽす、と腰を下ろしながら、セシリアもニュースを見ている。尤も、同じニュースを見ても興味の対象は別。

 結婚。

 結婚と言えば一夏しか考えられない。まだ10代とはいえ、五年六年などあっという間だ。いつか自分もこんな風にニュースに取り上げられて全世界から祝福されるのだろうか?『IS世界大会5年連続覇者セシリア オルコット結婚!お相手は世界唯一の男性IS操縦者織斑一夏』なんて大々的に新聞の一面を飾るのだろうか。

(……やはりプロポーズは改めて一夏さんに仰っていただきたいですわね)

 女尊男卑の時代とはいえ、それはそれ。一見、女尊男卑の精神が根付いていそうなセシリアだが、異性に求めるのは紳士たらんとする古風な男らしさを求めている。女尊男卑というよりは古くからのレディファーストの精神である。だからこそ、はっきりと言葉でセシリアの方から一夏に告白ができなかったわけで、告白できていたらこれまでの経緯も色々変わっていたかもしれない。





(ど、どんな風に?きゃー!きゃー!だ、ダメですわ!そんな恥ずかしい!)

「セシリアー、キモイ顔してるわよー」

「――ッは!?」

 からかうような鈴の声にセシリアははっとして両手を頬に首を振る。勿論その妄想が実現する可能性は世界大会連続優勝の辺りを除けば慢心でも何でもなく高いと思っているから別に妄想も今更感があったけれど、それでも考えるたびに頬が緩んでしまう。

「なぁに?『織斑一夏結婚!相手はIS世界大会3年連続準優勝のイギリス代表』みたいな見出しでも期待して妄想しちゃってたわけ?」

 鈴がピンポイントで正解を当てて来るのも驚いたが、それ以上に……。

「ちょ、何でわか……って!なんですのその3年連続準優勝って!?わたくしが出場する以上優勝以外あり得ませんわ!」

「は!無理無理。あんたが出るって事は当然同世代、アタシ達が相手にいるわけよ?だったら優勝はアタシに決まってんじゃない」

「ハァ?お言葉ですけれど……鈴さんの《甲龍》にそこまでのポテンシャルが有るのかしら?そもそも決勝まで勝ち上がれるとは思えませんわね!」

「ぁあ!?ちょっと!流石にそれは聞き捨てならないわよ!!」

「なんですの!!燃費だけが取り柄のくせに!」

「なによ!!欠陥機のくせに!」

 中国開発の《甲龍》は第三世代ISとしてのイメージインターフェイス兵装である全方位対応空間圧縮砲《龍咆》を装備しているが、あくまで第三世代兵器を武装の一環ととらえ、ISとしての運用効率を高める為のバランスに最大の重点を置いて設計されている。結果、機体の運動性に非常に優れ、パッケージ換装による汎用性までも実現していた。第三世代ISが世界の標準となって行く時代におけるシェアの世代交代に焦点を合わせ数年後のIS学園や世界の軍隊では《打鉄》や《ラファール・リヴァイブ》に代わり《甲龍》が使用されているかもしれない程の完成度の高さを誇る。

 ただ、それゆえに第三世代でありながら突出した性能がない機体となってしまっていた。兵器としては間違っていない、実に理想的な次世代機ではあるが、そこまでの機体、燃費だけが取り柄、と揶揄されてしまうのも頷けた。

 対する《ブルー・ティアーズ》はと言えば、突出した性能を持つ代わりに欠点を抱える設計の多い第三世代機の中でも、実験機とはっきり銘打たれた完全特化機体であり、例えBT兵装装備の機体が世界標準となる時代が来たとしても、ティアーズ型の派生機が量産される事はあれ、《ブルー・ティアーズ》というISはセシリアのものが最初で最後だろう。BT兵器以外の武装がほぼ無きに等しいとあっては兵器としての評価は欠陥機以外の何物でもない。

「よろしいですわ!では決闘で決着をつけましょう!」

「望むところよ!」

 びしと鈴の鼻先に指を向けるセシリア。鈴はその指に噛み付きそうな勢いで応と返し、ぴょんとベッドから飛び降りて収納棚のほうへ向かうのだった。





――――


 白熱した激闘が続く部屋の中。ドアが二度叩かれる。

「……ッ……セシリア……お客さん」

「ぁッ!ちょっと……そこはお待ちに……!」

「ダメ、待たない……っ!」

 一時中断を申し入れるセシリアだったが、鈴は待たない。ここぞとばかりに攻め立てる。

―― セシリア?いないのか?

「ッ!はーい!ちょっと……お待ちにッなってッ!!」

―― なんだ?大丈夫なのか?

「大丈夫ですわッ!?ぁあ!もう!鈴!?」

「ほらほら!これで!!」

「あぁッ!!」

―― っ!?入るぞ!?

 ガチャリとセシリアの部屋に駆け込んできたのは箒だった、そこで見た光景は、背中合わせに設置された二つのモニターを挟み、床に置いたローテーブルの上には二本のスティックが特徴的なやたら高価な専用コントローラーが二つ、片方にはガッツポーズの鈴、片方はそのまま仰向けに転がるセシリア

「……なんだ、ゲームか。何事かと思ったじゃないか」

「あれ、箒じゃん。どうしたの?」

 鈴はてっきり一夏でもやってきたのかと思っていた。声を思い返してみれば確かにあれは箒の声だったような気もする。それにしてもどうしたのだろう?





「なんだ、私は特に用がないと来てはいけないのか?」

 腕組をしながら室内へ足を運ぶとふんと揶揄するように口角を上げる。胸の下側で組まれた腕に寄せて上げられた偉大な双丘は地味めなトレーナーの下で存在をまるで街頭宣伝車の如き過剰な主張をしている。

「まったくいい年の女子が、お前達もピコピコか……全く、軟弱だぞ」

「も?」
「も?」

 敗北の屈辱に仰向けに伸びていたセシリアもハモりながらむっくりと上体を起こし、同じ箇所に突っ込みを入れる。

「ッ……。ええい、相変わらずだなお前たちは。セシリア、少し座らせてもらうぞ?」

「ええ、どうぞ。――ほら鈴さん!?これが普通ですのよ!」

 断りを入れてからベッドに腰掛ける箒に笑顔で返してから、今のを聞きましたか?と断りもなくベッドに外着のまま飛び込む鈴にセシリアが気を吐く。

「えー、だってアタシの部屋じゃんここ」

 鈴はと言えば、言葉にしなくても「いちいちうっさいなぁ」とまさに態度で語っていた。

「……い、居候っていう立場をすっかり忘れてるんじゃありませんこと……?」

 ヒクヒクと頬を引きつらせながら、セシリアが指先をわななかせる。

「……あー……ンっン。お前たち、ならそれ、そのピコピコで決着をつければいいだろう」

 噴火寸前のセシリアの様子を見て、箒が助け舟を出す。軟弱と言った手前、専用機持ち同士ISないし剣道で決着をつけろと言おうとしたが、

『なら第三アリーナに移動ですわ』

『受けて立とうじゃない!』

 とはならず

『この場で十分!抵抗する間も無くマッシュポテトにして差し上げますわ!《ブルー・ティアーズ》!!』

『冗談!逆に叉焼にしてやるわよ!《甲龍》!!』

 と、この場で始まるであろう事が予想できた。なるほど、ピコピコにもいい面はあるものだ、少し箒はピコピコに興味を引かれていた。





                                    、
                                   //:|
                                     //i :|/へ._ ..  -―‐ 、
                                  //斗七^^.. -‐―――:|
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              乂|//:: i| ノ          ′イ::::: i:::レ::::.′....../〈::::::::::|
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                |:::::::::::. ヽ `         /:八::::,リ八{:::::|//......./:::::::::: |    出番がしばらくなかったからと出て来たわけではないぞ!
              八i:::: ノ }小.__ _.. r≦{ /.:::::冫⌒} ::: |/..../}::::::::::::::::|     今日はここまでだ
                 ′ /. ノ}_ ..  -‐}七^ ./.:::/.. . .イ :::: l./ .:::| ::::::::::: │
              / / ノ「 ̄ ̄ ̄ . . ././-‐≦'く ::::::::::::::::::::| :::::::::.. !
                 / / / )}-- ‐…ァ 7/ . . . . . . ._}:::::::::::::::::::| :::::::::::.....,
        ヘ./{「^^K. / /rf}. . . . . ./ . . -‐… . . . .〉、:::::::::::::| ::::::::::::::::′
     _/_:/: :. :\、^'}  ' /「.ー-‐=≦ . . . -‐――=≦ハ..\:::::::::ト、::::::::::::::::..、
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     | ∨}、_,>‐‐‐〈_ ノ/ト-‐. .´. ./:|/ |: |  -‐={  /∧. . ...\   , :::::::::::::.'.
     |. :ト- 、「 ̄二/.>/.′. . . ..{ . /    ィ:.|   |:.|  \.}. . . . ...\  ′:::::::::::: ,



デスクトップが死にました
なんとか更新手段を確保します、停滞申し訳ないです

復旧完了 投下します




 さぁ喧嘩をするならピコピコで決着をつけるがよい、我ながらなんて平和的な提案だろう!暴力的と言われ続けた私とてこのように平和的な解決策を見つけることもできるのだ。もう暴力女などとは言わせない。箒はちょっとしたドヤ顔で、セシリアのベッドに腰掛けたまま足を組む。

 だがしかし、反応がない。

「ん? ……どうした、やらないのか?」

「いや……やるけどさ」

 鈴が訝しげな顔で箒を見ている。ふと視線をずらせば、セシリアも困惑した顔で箒を見ていた。

「なっ!なんだお前達!私が平和的な提案をした事がそんなに珍しいのか!?」

「いや……ねえ?」

「そういうわけではございませんけれど……」

 一度鈴とセシリアが目配せし合う。だったらなんだというのだ、何が不満だというのだこの二人は。そうか、私にも入れと言っているのか?ふむう、ピコピコの経験は無いが、今の私には敵などないなんとなく北斗の力が私にも宿っている気がする。そう、これぞもう何も怖くないというやつだ、よかろう、この私が……

「あのさ箒……ピコピコはないわ」


「!?」


「あの、ピコピコ、ってなんですの??」


「!?!?」






「いやぁ……ピコピコって……ピコピコはないわー、本当にないわ。一夏は結構ゲーム好きだから当然言わないし、アタシの母さんだってゲームはしないけど精々プレステって言ってたわよ?」

「なん……だと」

「あの、ぴこぴこって……」

 呆れたように鈴が語る言葉が、鋭利な刃物となって次々と箒に突き刺さる。ババ臭い、言葉にはしないがそう言っているであろう事はひしひしと伝わってくる。セシリアは日本語で言う擬音、しかもセシリアが知っているゲームにはピコピコなんて擬音が発生するゲームが無い為か、言葉の意味自体がわかっていないようで困ったように二人に問いかけている。
 箒は箒でそれの事だとゲーム機本体を指差して教えて、セシリアにまで笑われるかもしれないと思うとそうする事も出来ず、かといって鈴も鈴でいちいち箒のババ臭さをセシリアに解説するというのもあまりにモップが可哀想すぎてする気にはなれず、結果として二人してセシリアをとりあえずはスルーする事に決め込んでいた。

「う、うるさい。私の家はローテク指向と言うやつでな!あまりそういうものに触れてこなかったから……」

「あんた……お姉さん……」

 当代におけるハイテクの代名詞たる束の実妹でありながらどれだけローテクだと鈴が肩を落としながら、ものすごく残念なものを見るように箒に視線を向ける。

「う、うるさいっ!姉さんは関係ないだろう姉さんは!だ、大体ピコピ……て、TVゲームなど私にはやっている暇などなかったのだ!お、お前と違って打ち込むものが有ったからな!」

「聞き捨てならないわね!アタシだって別にそればっかりってわけじゃないんだから!」

(ああ……ピコピコとはゲームの事ですのね……)

 セシリア自身もあまりテレビゲームに触れることは少なかった。しかし一夏と交際を始めてからというものテレビゲームに触れる機会が多くなり。はじめはゲームセンターで一夏と鈴や弾が対戦するのを一夏側の後ろから見ているだけだったのだが、二人協力プレイのガンシューティング等から徐々に染まり、気がつけば家庭用のハードを揃え、自室でLAN対戦ができる環境まで揃えていた。

「まぁまぁ鈴さん。鈴さんがどれだけ怠惰な中学生生活を送っていたのかここでぶちまけた所で、全国大会優勝するほど剣道に打ち込んでおられた箒さんとは比べ物にならない程無為な青春だと自白する結果になるだけでしてよ? ただ箒さん、やってみるとテレビゲームも意外と面白いものでしてよ?」

「えっ!?何、なんでアタシがディスられてんの!?」

 そう言って、そっと自分の座っていた場所を箒にどうぞ?と示しながら立ち上がる。

「お二人とも、決着は平和的に、ぴこぴこで着けるとよろしいですわ」






「なっ……」

 自身の言葉を獲られる形になった箒は目を剥いて講義しようと口を開くも、ふと視界の中で鈴が勝ち誇った顔をするのが見えたから。ぴくんと眉根を寄せて、応とベッドから立ち上がるのだった。見ればどうやらいつも一夏がやっているボタンとスティックで操作するものではなく、セシリア達のは二本のスティックを動かして操作するものらしい。

「ふむ、少し慣らしをしてもよいか?」

「いいわよー、つーかアタシが負けたら何でも言う事聞いてあげるわよ?」

 箒が鈴にそう問いかければ、初心者をボコっても面白くないし少し練習すれば?と上から目線の回答。多少練習した所でボコボコにしてやるわよと表情が語っている。セシリアは箒と入れ替わりにベッドに腰を下ろし、箒の操作を見守っている。実際に体を動かすISと比べようもないものの、画面内のロボットは少しISに似ていなくもない。こう操作感覚が違うとシミュレーターとも全然違う感じだが、箒にはとっつきやすかった。 その結果……。


――


「え?あ、勝った!勝ったのか!?やった……!やった!私の勝ちだ!勝ちだよな!?」

 嬉しそうに箒が声を上げる。双方の話し合いの結果、やめた方がいいと鈴に言うセシリアの制止も聞かず、結局勝負形式は1本勝負デスマッチ形式となった。
 終始押して、余裕を見せつつ「遊んで」いた鈴だったが、勝負は箒の放ったレーザー直撃による逆転勝利で幕を閉じた。ゲームバランスが崩壊していると言われがちだれど、これは当たる方が悪い。以前一夏がそんなことを言っていたのを思い出す。 同時に、部屋で二人きりだったのにゲームに熱中して、嬉しそうにその解説をする一夏をどう誘惑したものか策を弄して全て滑った苦い経験をセシリアはついでに思い出していた。

「は……はああぁぁああ!? こッこんなの事故よ!!事故ッッ!!」

「あら、鈴さん。事故も何も……今のは当たる方が悪い、というものでしてよ?」

 セシリアが呆れたように溜息を吐く。確かに事故かもしれない、鈴自身の油断、慢心もあったろう、だがそれより何より、箒には動体視力と、そして基本動作を正確に素早く動かす器用さが有った。コンピュータゲームというものは操作には慣れていなくても、画面内のキャラクターは一定の操作さえすれば確実にその目的を完遂しようとしてくれる。どんなに気合を込めたって実際に波動拳は撃てないけれど、236+Pのコマンドさえ入力すれば画面内のキャラは手からビームだって出せる。基礎の動きを重視する性格と、剣道全国大会優勝剣士の動体視力はこの手のゲームの才能とも言えた。

(ぶっちゃけ強いですわね……)






「――こほん。ふん、なんだ、ぴこぴことは……なかなかに楽しいものだな!どうだ鈴、どーしてもと頼むのならば……泣きの一回を受けてやらんでもないぞ?」

 胸を張り、腕を組みながら威高々と箒はがっくりと崩れ落ちている鈴に言い放つ。早速調子に乗ってますわね、とセシリアは思うも、とりあえずは口に出さないでおいた。次はセシリアが箒と戦わせられるかもしれない。少しでも勝ちの可能性を上げる為には箒の慢心はとかない方がいい。そしてなんでTVゲームをピコピコと言うのかがいまだにセシリアには判らなかった。

「き、き、き」

「……鈴さん?」

「キ!キエエエェェェェエエエイ!!」

 鈴が絶叫を発する。最初、余りの無様な負けっぷりに頭でもおかしくなったかと心配げな表情で互いに顔を見合わせる箒とセシリアだったが、そうでもないらしい。わしゃわしゃと頭と掻くと、キリッとした顔つきになって箒を見つめる。

「……箒、泣きの一回をお願い」

 プライドを捨てた。腹を据えた。こういう時の鈴の思い切りの良さは、一年の代表候補生の中でも一番だ。 そして、こういう時の鈴は、強い。次は絶対に負けない。見ているだけのセシリアにもその気迫が伝わってくる。

「あ~~ 聞こえんなぁ!!」

 そんな一人でシリアスモードに突入した鈴を他所に、箒はばっさりとその願いを断る。その声色が一組のクラス内でプチ流行を見せている北斗の拳キャラのモノマネだったせいもあって、セシリアが顔をそむけて思い切り吹き出し、爆笑する。始めたのは誰だったかもう忘れてしまったけれど、竹本か相川辺りが悪ふざけではじめたのがきっかけだったと思われる。 そういえば今度の休みに集まって上映会をやるとか言っていた。一夏はその場に行けばいじられる(剥かれる)のが判っているからか不参加を決め込んでいた為、セシリアも不参加を決めたけれど。今日がその「今度の休み」だった。ということはもしかして箒はその帰りなのだろうか?

 もっとも、一組ローカルのバカウケネタなど鈴にとってはただイラっとくるだけで、けたけたと笑いあう一組二人を半睨みで見つめるばかりなのだけれど。

「何よ」

「ああ、ちがいますわ鈴、今のはですね……ぷっ!くくく!」

「そ、そうだ、別に喧嘩を売っているわけでは……ぷはっ!やめろセシリア!無言で仕草を真似るな!」

 鈴の不機嫌そうな声が聞こえると、慌ててセシリアは弁解しようとする、けれど、このタイミングで言われた事がそんなにツボなのか思い出し笑いに肩を震わせ、続いて箒も弁解するのだけれど、それを見たセシリアが声なしでそのポーズだけを真似るものだから弁解途中で笑いだす。そんな二人の態度が鈴の苛立ちを更に加速させる。冗談なのはわかった、別にそれはいい。いいの? 良くないけれどいい。そのいかにもなローカルネタで笑っているのが腹が立つ。面白さが判らない。単体で聞いても何にも面白くない。正常なのは自分のはずなのに何とも言えない疎外感、屈辱、このアホ乳どもどうしてくれようか……鈴は頬を膨らませせながら、二人をぎゃふんと言わせる方法を考えるのだった。





今日のモップ様

                                     、  入  t 、_,,'、::::::゙、:::: '、 |
  ,   ....;r ヽ::ヽ ll リ: |  ( _ノ~~ `'='ヘ.','''~:::'、 ::'、 ,,,, ',''''" ', j   聞  あ

| i ,r、iヽ::l   |:::リ ((: l|,、ゝ==ヽ_,,,、-' ノ)::::::ヽ'、  ゙ァ''''::',:::::::'、:::: '、〉.  こ  ∫
|;rf | |::ヽ、ノ レ;;r='";,,::、-z,::::::::ヽ、,,,,,,,,,、-'"〉:::::ヽ.',"~::'、 ::'、::::::'t:~~ 〈.   え  ∫
l|:i :|: ヽ::t::;;彡;シ::::::彡'´⌒:::;;、-ー''::、,,,,_ ,ノ :l,rーヽ', ,,,、:'ー '"~''"''ー- ヽ  ん  ∫

」tヽヽYr'''__Y'")::::::ノ":::(::::::::::t ~' 、,     リ|  ','{ ::::::::i}:::::{{、:::::、、 ノ   な  ∫
t::〉r'";r;杉"j:: {:::::;;; 、;;::::::、、、;;;t~' 、,,~'' ー―'"リ   }ヽ~''''""""""~~~ ヽ   //
:::::tilゝ'r;;;''";;(ヽ,,)";;;;`- '~、、、ァ、' 、_,,、、-―'''゙、 ー'")ノ,,ゝ"""´::::::ノ;;":::|  ・・

―',tr'ヽ'":::,、-''iiiiii乂、-ー''ニ";;;;ヽ::;;;从;;;;;;;:::: ミ'、 ノ::::~'' 、,~'::、::;;;;;":::::: '-、_____/
  ゙、:::::ヽ;;;( ::,r、''彡'''~´;;;;;;;;、;;、;;;t:::从从;;;;;;;;:: ミ', {::::::::::  ヽ::::;;;;;;::::::::::::  ヽ;;;;;;;/ ̄

     t:::::::〉;;'ミ;t、、;;;;;;;;;、::'''/'''  );}从从;;从;;;;::: ミ;'、::::::::::::::  il:;;;;;;;::::::::   ノ:: ヽ、\_
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     `ーi ll|从|li:';r 、,、r-ョ,、- '"ノ;}リlll从从: : : : ミ;;;;::::ヌ'ー、;;、'ヽ~'ーー ''",,、-'~ろ::ヽ;;;;;;

       ノイ リリ:l|:t`'ー ''"´,、-ー'~::::::リ:::::::从: : : : :ミ;;;;::;<'",、 t~''ー--ーー ''"彡彡彡、:::ヽ;;
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本日はここまで。



年末でいろいろ追われています。必ず続きは書きます。

あけおめです。
年末はいろいろありました、原作者のいろんな噂も耳にしたり……
それは別として、恋に焦がれる六重奏、ご覧になられましたでしょうか?

やっぱりISはいいなと再確認できる出来でした。
機会があったら是非ご覧になってください。絶賛発売中ですよ!

続きはお待たせしておりますが、今週末までには投下します。
時間が無いので書き溜めは出来ていないのですが、少しでも落としてゆきます。

IS以外ではベントー(著莪)を作業しながら見て、いいなと思って原作を読んだんですが、
かなり惚れました。これも機会があったら是非。
あ、原作のほうがアニメより1000倍面白いと私は思いました。




 頬を膨らませてこちらを睨んでいる鈴の姿はとても可愛らしい。同い歳相手に言うのも少しおかしな話かもしれないが、アジア系の少女はやはり愛らしさという点では秀でていると思う。それは勿論セシリアが欧州系だからという感性の違いもあるのだろうか。セシリアにとっての普通は鈴や一夏、箒にとっての普通とはやはり若干違う。鈴が特に小柄だからだろうか、普段生意気な鈴がそんな顔をしているのが殊更に可愛らしいという感覚を強くしてくれる。

「仕方ないですわねえ、鈴、わたくしがお相手になって差し上げますわ」

 もったいつけた口ぶりで、セシリアが一歩前に出て鈴に笑いかけながら片目をぱちりと閉じる。

「……は?アタシより弱くてチョロイのはすっ込んでなさいよ、箒に言ってんの」

 ばっさりと断られてしまうと、勿体ぶってポーズまで付けたセシリアに立つ瀬は無い。ポーズを着けたままピシリと固まってしまった。鈴がここまで不機嫌になるとは、少し箒もたじろいだが、すぐにその理由に行き着く。
 ばっさりと断られて勿論セシリアが黙っている筈が無いだろう。ここで二人のいつもの言い合いが始まっては更に話がこじれる。空気の読めないヒロインだのと言われ続けてきた箒だが、それがわからないほどセシリアとも鈴とももう付き合いは十分に長い。――どちらかと言えば、いつもの事過ぎて慣れた、とも言うが。ともあれ、指を指したポーズで硬直しわなわなと肩を振るわせ始める直前のセシリアの前へ、二人の間に割り入るように身を滑り込ませる。

「そうか、すまん鈴は二組だったな。今のはうちのクラスで少し前からプチブームになっているカサンドラ獄長のだな」

「解説なんか聞きたくないわよ、それに何よカサンドラ獄長って、知らないわよそんなの、どーでもいい」

 フォローのつもりで箒が今更のように解説するけれど、鈴にとっては本当にどうでもいいことだ、ハン、と鼻で笑い飛ばしながら小さく肩をひょいと竦める。フォローのつもりの言葉に返るのがそんな応答だから、箒も一瞬言い返しそうになるが、ちらと背後を確認すればセシリア火山が噴火直前の出鼻をくじかれ、うつむき加減にドリル髪に指をからめている。と、そのとき……

「ウイグル獄長をバカにした生徒はココですかッ!?」

 突然、バンとドアが開かれ、一人の影がそこに現れた。普段はどこかぼんやり、おっとりとしているその表情は今はキリリと引き締められている。全体的にもこもこした印象の冬物ワンピ姿、胸元はまるでスリムなウェアを着こんでいるように張って自己主張している。一年一組副担任、山田真耶がそこにいた。





「……へ?」

 ずかずかと部屋の中に大股で踏み込んでくる教師の姿に鈴は呆気にとられる。一組と二組はIS実習が合同になる機会も多く、元代表候補生である山田先生とはまだ入学したばかりの頃、セシリアと初めて組んでのハンディ模擬で2対1だったにも関わらず完封された相手なのだから知らない相手というわけではない。ただ単に、余りにも、その時の印象とも普段の印象とも違う剣幕に鈴はすっかり飲まれていた。ひょっとして「どーでもいい」なんて言ってしまった為にこの猛者を召還してしまったんだろうか? 箒とセシリアはと言えば、なぜか直立不動にピシリと足を揃えている。

「篠ノ之さん!カサンドラ獄長ではありません!監獄カサンドラのウイグル獄長です。まぎらわしい間違いはしないように!」

 山田先生は三人のちょうど中間の所で足を止めると、両肘を抱くように腕を組む。乳を下側から寄せて上げるようなあれだ。実はあれはあれで、腕で支える事が出来るので結構普通に楽な姿勢だったりするのだが。余談だが現在の室内でそのポーズがセックスアピールにしか見えないのは鈴だけである。普段であれば「何アレ、いやらしいッ!」なんてリアクションの一つもするところだが、てっきり自分がうっかりそのウイグル獄長とやらを馬鹿にしてしまったのかと思っていた鈴としては、矛先が箒に定まったのに余計なことを言ってやぶ蛇を突くのはごめんだった。

「えっ!わ、私ですか!?」

 自分が矛先であることに遅れて気付いた箒は心底意外そうに声を上げた。

「そうです!他に誰がいると言うんですかっ!?いいですか!あのシーンは命乞いを聞き流すというシーンです、ウイグル獄長の残虐性を見事に表している名台詞です!それが何ですか箒さん!あの使い方は!!あそこで使うべきは他作品になりますがやはり
――『だが断る』
でしょう!?」

 熱弁を振るう山田先生の姿に、三人ともすっかり飲まれていた。どうもこの手の話になると山田先生はスイッチが入るらしい。一組のセシリアと箒にとっては、少し前にも同じような光景を見た。といっても、その時はラウラが標的になっていたのだが。あの時は何のネタだったか、何かのフリに対してラウラが興味なさげに回答した事が原因だったか。どうでもいいことだが。





「――コホン あの、や、山田先生。箒さんも反省しておりますので……その辺で……。 ところであの、どこからお聞きになっていらっしゃったんですの……?」

 とりあえず、このままにしておいてJoJo第4部について小一時間語られるのは望ましくない。――むしろ小一時間どころで済まない事にもなりかねない。セシリアが話を逸らそうと恐る恐るといった具合に小さく手を挙げて口を挟む。

「オルコットさん!」

「は!はい!」

 結果矛先がセシリアに向いたようだ。箒は山田先生の矛先から解放されほっと一息吐き、鈴は不用意に手を出して見事にやぶ蛇を踏んでいる親友の軽挙に軽く目頭を抑えて首を振った。

「オルコットさんは今日の講習会に参加できなかったのですから、次の講習会は必ず参加してくださいね!織斑君を補佐すると言うのならば、今の篠ノ之さんの間違いは私が踏み込む前に解決してしかるべきです!このままでは織斑君に捨てられますよ!ヤリ捨てされますよ!」

「え、ええぇぇええ……」

 どうして北斗ネタにツッコミを入れる事が一夏との関係に影響が有るのか、そもそも山田先生からヤリ捨てなんて単語が飛び出してくるとは意外すぎてセシリアは納得のいかない呻きを零すけれど、山田先生の目が怖くてしぶしぶ了承の回答をした。

「なんですかオルコットさん!いいですか!男性と言うものは……その、特に織斑くんくらいの年頃の子はそれはもう、好奇心と、探究心と、情熱の塊で……!」

 やや頬を赤らめながら、思春期の少年像(少年誌調べ)を語り始める。
 ただ、一夏に関してはそれが当てはまらない気もすると箒が考えて頬を掻いていると、箒と同感なのか薄く苦笑いをしている鈴と目が合った。所謂一般的な思春期の少年だったのなら、今頃はもう少し大変な問題になっていたんじゃ無いだろうか?そもそも女子と同室で正気を保っていたというだけでも一夏は異常だ。

「で、でも一夏さんに限ってそんな………………でも、わ、わたくしはい、一夏さんな「ちょっ!バカ!!セシリアストーップ!ストォーップ!!」

 確かに箒も鈴も、セシリアの「一夏ならいい」という結論はわからなくない。勿論、もし捨てる何て事をしたら織斑一夏という男には地獄を見て貰うが、そうではなく、一夏なら何をされても許せるとセシリアが言うのは正しい。もしセシリアではなく自分が一夏に想われた世界があるのなら、きっとセシリアと同じ気持ちだろうから。
 だとしても、今この場でそれをのたまうタイミングじゃないのも間違いは無い。今の山田真耶に惚気何て聞かせることは、火がついたてんぷら油にから水をかけるくらい危険なことだ。慌てて箒はセシリアを羽交い絞めにして口を塞ぎ、鈴は大声で静止した。






          ハヽ/::::ヽ.ヘ===ァ
           {::{/≧===≦V:/
          >:´:::::::::::::::::::::::::`ヽ、  
       γ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
     _//::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ハ
.    | ll ! :::::::l::::::/|ハ::::::::∧::::i :::::::i   モッピー知ってるよ

     、ヾ|:::::::::|:::/`ト-:::::/ _,X:j:::/:::l  書き溜めは出来なかったって知ってるよ。
      ヾ:::::::::|≧z !V z≦ /::::/      今夜はここまで、次は年末年始ほどは開かないよ。
       ∧::::ト “        “ ノ:::/!  
       /::::(\   ー'   / ̄)  |
         | ``ー――‐''|  ヽ、.|   
         ゝ ノ     ヽ  ノ |
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


更新停滞していますすみません。
IS打ち切りの噂でちょっと気落ちしてます。

まじかよ……。
最悪どっか別の出版社に移って続けてくれるとは思ってますが……。

アニメ化済みの作品だけに、大きくイラストに変化は出ないと思いたい。
けど、それだけに他社出版にハードルになりそうで……

ともあれ投下




「……」

 無言、半眼に睨む山田真耶の視線から逃れるように体の向きを変えると、セシリアのほうから何やらふぐっとかコキッとか聞こえた気がするが箒は気にしない事にする。――頼む鈴、何とかごまかして退散させてくれ。 縋る様にチラチラと目配せを鈴に行えば、鈴は力強く一つ頷く事でそれに応じた。

「そぉだ山田センセ!折角来たんですからやって行きませんかッ??」

「居座らせてどーすんだー!!」

 ――箒がツッコムと同時にまた何か鈍い音が聞こえて腕の中のセシリアから力が抜けたが気にしない。
 これは失態だ。確かに退散させてくれと言う意思を目で伝えた筈だし、鈴は頷いた。だがその期待を裏切られた。そもそもだ、目で意思を伝えるなど出来るわけがないだろう?だからこれは仕方がないとしよう。問題はそれに対してツッコミを入れてしまった自分の方だ。

「篠ノ之さん」

 ただ一言、優しげな声で紡がれる自分の名がこれ程までの威圧感を持つとは。クラスメイトがまやちゃんとか呼んでるからぶっちゃけちょっとナメてましたごめんなさい。身震いしながら、苦い笑いを顔に張り付けて箒は振り返る。

「――はひっ!」

「いいお返事です。」

 畏怖に裏返った返事を聞き、それに満足そうにそう返す山田真耶の笑顔に、今後は一層気を引き締めて副担任と相対しようと肝に銘じる箒であった。担任がG.T.O.過ぎてゆるキャラ扱いされがちだが山田真耶も教師は教師なのだから。

「ところで鈴さん?皆さんは何をしているのですか?あ、先生も初代から好きなんですよこれ……
――え!?こ、これは!?まさか宅内LAN対戦環境を整えてあるのですか!?」

 言いたい事は終わったのか、急にいつも通りの穏やかな声音で笑いながらセッティングされているゲーム機を見やると、山田真耶が驚きの声を上げる。
 当然だ、と鈴は思う。自分と同じ驚きを彼女がえているに違いないであろう事が伝わって来る。

(ま、確かに驚くのも無理は無いわ……あり得ない環境よ、ホント金持ちのやる事ったら。)





 対戦型ロボットゲームは数あれど、二本のレバーコントローラーを使って操作するものなんてこの世に数えるほどしか存在しない。しかもその中で家庭用コンシューマに 専用コントローラ と共に移植されたのは一つだけだ。
 紆余曲折の末にそのハードの歴史に幕が下ろされて時は流れ……当時次世代機と呼ばれていたものの一つに、プログラマーの気まぐれが元に移植されることとなった。更にはハード本体より高い専用コントローラーが発売され、その上ハードが二台あれば家庭内LAN対戦すら可能というものだった。
 問題は、その専用コントローラーがハード本体より高い事なのだが。

「……ツインスティックが二つも……これはやっぱりオルコットさんが?」

 山田先生が目を輝かせる。触っても?なんてわざわざ確認してから、コントローラーの前に座り、スティックを握る。セシリアは箒の腕の中でぐったりしているから返事は無いが意識が有ったとしてもNOとは言わないだろう。

「くう……なんだか懐かしいです」

 感無量とスティックを握り嬉しそうにしている山田先生を見ていると、自分たちにはない感動を彼女が感じているのがわかる。今はどうも箒の腕の中で心身ともに無反応だがセシリアも面白いと思ったからこそ、手を尽くして新品未開封スティックを二つ、モニターを二つ、本体2つを揃え、LAN対戦環境を揃えたのだろう。 ――いくらかかったのか、聞くのも怖い。だから鈴も聞いていないし、存分に遊ぶのがセシリアの為だ。

 友達感覚に近い立ち位置の副担任だが千冬さんとのほうが近い世代の彼女とはあまりプライベートの話はしない。クラスの女子たちと話す時も大抵からかわれていたりして、なかなか彼女自身は見えなかった。といっても、日本のサブカル文化に結構どっぷりなのは最近の様子で知っていたが、友と同じピコピコが好きとまでは思わない。ピコピコにまともに触れたのが今夜が初体験の自分よりも余程好きなのは言わずもがな。良き夜に巡り合えたものだ。

「よ、よろしければ先生!鈴と対戦なさいますか?」

 妙に畏まった様子で箒が言葉を紡ぐ。鈴は内心しまった、などと思うが今更文句も言わない。これは先に言った者勝ちだ。箒が対戦するか自分が対戦するか、まさかCPU戦でもやってろ乳メガネなんて言えない。言ってはいけない、身の安全的に。

「い、いいのですか!?あ、でも、対戦なんて……いつぶりか……だから……先生…… ――手加減できませんよ?」

 嬉しそうに、しかし困ったように山田先生が口にした言葉。相当に自信があることがたった一言から十分すぎるくらい伝わる。画面に映る機体選択画面を見ながら緩く笑む副担任の表情は、箒が小さく身震いする得体の知れない深さがあった。

「だ、そうだ鈴。相手に不足は無かろう?」

 相手が教員で、しかも自分より明らかにIS操縦では上の相手で、しかも対戦を熱望してるとあっては流石に鈴も断りにくい。もっとも、もはやこの対戦を断る理由なんか鈴は持ち合わせてはいない。






「ふぅ……ンじゃ、アタシが勝ったら箒!リベンジマッチよ!」

 アーケード現役世代、ではないにせよそれに近い古参のVR乗り、勝てるだろうか……。 ――いや、勝たなければいけない。

 今の世代で現役を張っているのは自分達なのだから。

「引退して長い相手に、負けらんないわよ!」

 鈴がモニターの向こうで気勢を吐くのを聞きながら、山田真耶は笑みを深くして片手で眼鏡をなおすのだった。



――――






 夜の校内を足音を殺しつつ二つの影が迅る。

 一つはドイツの留学生ラウラ・ボーデヴィッヒ、もう一つはフランスの留学生シャルロット・デュノアだ。

「ラウラ、まさかもう一つって……」

 先行する銀髪の背に向け、ここまでの移動経路から得た推測をシャルロットが言外に問う。――あまりに危険、それ故に盲点、故に警戒される、故に、そこに隠す。データが一つではない事は当然だろうとは思っていたが、この移動経路から予測できる予備データの保管場所は……。

「ああ……我々の教室だ……!」

 織斑千冬の膝元、居城。そこに機密を隠す。織斑千冬に発見されれば一発で終わりだ、しかし、学園内で最も安全な場所でもある。生徒たちが寮に帰ったこの時間、校内に物音は無い。静寂と闇が、一年の教室棟には満ち、二人の体が裂く空気の乱れが緩く風を生んでいる。

「よし、室内の安全確認後、1、2、3で突入する。お前は周囲の警戒を頼む……!」

 ラウラは小声で相棒に告げると、ドアの脇に滑り込み、片膝をついた体勢で右下腕部のIS装甲を展開、ごく僅かに開けた扉の隙間から室内に向けて対人センサープローブを撃ち込むと、素早く展開した右腕の装甲を粒子化させる。
 ラウラの動きは素早く、無駄が無い。長くISを部分展開させていれば、それによって察知される危険性が高まる事を熟知したプロの動きだった。






――だが

「!? ――反応アリ……!」

 撃ち込んだプローブが一瞬反応を返し、即座にその反応が消えた。それの意味するところは一つ。扉の向こう側に何者かがいて、プローブを破壊したのだ。 ラウラは咄嗟にシャルロットへ撤退の指示を送ろうと振り返ると、結構遠くで猛ダッシュで消えてゆくシャルロットの背が見えた。

「……ふっ、それでいい」

 逃げろと言う前に何も言わずに逃げ始めていたのはちょっとマテと思わなくもないが、シャルロット、お前まで巻き込まれる事は無い、逃げ切ってくれ。もはや……
 覚悟を決めるしかない。

「必ずここへ来ると踏んでいたぞ、小娘」

 ――私はここまでだ。 ゆっくりと開いてゆく扉。その向こうに、金属バットを肩に担いだ鬼の姿がある。ラウラは覚悟を決めて姿勢をただし、両の目を閉じる。教官のプリキュアコス姿、もはや己の記憶の中に残るのみになるであろうそれを、もし本国にいる部隊員達に販売したならば一体どれほどの利益となったであろうか。何もかもが懐かしくさえ感じる。

「何、私も教師だ、加減はするさ。記憶が飛ぶ程度に」

 どうやら、体罰問題とかそういうレベルではないようだ。身を低くした姿勢から、右の掌で廊下を叩くようにしながらそこを支点にコンパクトに床を転がる。折れたプローブが先ほどまでラウラの足が有った場所へ突き刺さる。

(ノーモーションからの投擲で床に刺さるだと……!)

 改めて、織斑千冬という存在が規格外である事に息を呑む。投擲の瞬間が見えなかった以上にその威力が脅威だ。もし今動き出すのが一瞬でも遅かったならと思うと、その結果自身に何が起こっていたのかは考えるまでもない。
 爪先を床に掛けるように体重移動を行い、片膝を着いた体勢のままショートダッシュをかける。間合いに飛び込む、超低空からのタックルだ。目的は少しでも体勢を崩す。肩に獲物を構えている以上、タックルに対する攻撃は振り下ろしが来るだろう。だが、足が崩れてしまえばその振り下ろしの威力を大分殺す事が出来る。 ――覚悟は決めた。

「私は……あなたを超える! 教官……ッ!」


――




――――


「―― どうした」

 授業の時と些かも変わらぬ教師の声が上から聞こえる。タイミングは完璧だったはずだ。バットを振り下ろす暇もなく、その軸足を刈り体勢の崩れた千冬の横を抜けて自分の席の足元、以前に深夜に忍び込んで作成した床の隠し戸を開いてデータを回収。脱出は窓を使用、この際窓を破り飛び出してもいい。
 丁度今は以前の迎撃戦で換装したパッケージ『オイレン・ケーニッヒ』装備のままだ。勿論"IS学園の代表候補生のISが軍用機である筈がない"以上、AWACSとしての機能は作戦終了後に外した。その為火力を落とし電子戦装備を強化しただけのパッケージといった状態だが、その分重量が抑えられ、加速性は高くなっている。
 素手でISの武装を振り回せる怪人相手に戦うのは避けたいが、部隊のデータベースにデータを分散格納し、証拠を消してさえしまえばいくら織斑千冬と言えど手出しは出来ないだろうし、限りなく黒に近くても国際法廷に持ち込まれない限りはしらばっくれたっていい。

 はずなのだが。

「私の足にしがみついて許しでも請うか?んん? それとも、ボーデヴィッヒ。 ――今の……まさかタックルのつもりじゃあないだろうなァ?」

 暗くて良く見えないのが幸いした、はっきり見えていたら思わず涙目になっていたかもしれない。ラウラは小柄だ、勿論、だからと言ってラウラの本気のタックルならば意外と体術に優れている箒や、男性である一夏だって容易に崩す事が出来る。本国にいた頃だって自分の倍以上も体重のある巨漢を組み伏せた事もある。
 しかしこれはまるで、ビルの柱に向かってタックルをしたかのような感触だ。

「っ……そんな……」

 甘かった、そんな風に思いもするが、それは後でゆっくりとすればいい。

『ラウラ!ラウラッ!無事かい!?』

 安全域まで逃走が完了したらしき友からの個人通信に、ふと笑みがこぼれた。 良かった、無事か。

『今は、な』

 ラウラの回答の直後、通信の向こう側ではなく現実の聴覚に、遠くで低く大きな打撃音が響くのをシャルロットは聞いた。――ラウラごめんよ、今のボクには織斑先生を止めることはできない……せめてロッカーから救出した貸しはこれで差し引きゼロにしておくしお見舞いには行くからね。

 ラウラが自分を売る事は無いはずだ。もし逃げるのが一歩でも遅れていたら織斑先生に見られていたかもしれないがその気配もない。データのありかは大凡の予想もつく。ならば、動けぬラウラに代わりデータを手に入れるチャンスもある。そのデータの使い道はいくらでもあるだろう。現時点で英国女の味方であるG.T.O.を此方に引き込む事もできるかもしれない。
 勿論、二人の仲は祝福している、だが祝福する事と彼のオンナでありたいと願う事は別だ。自身の居場所をそこに作る事が出来るのならばそれでいいじゃないか。自分だけではないのは惜しいけれど、彼と自分の関係というものは唯一無二に違いなく、それは言いかえれば自分だけと言ってもいいのではないだろうか。

「明日は忙しくなるし、今夜は早めにシャワーを浴びて眠ろうかな」

 一息つき、ぐっと背筋を伸ばして寮に戻るべく歩き出す。他の5人がどうかは知らない、ただ、シャルロット・デュノアの恋が終わるときは自分からピリオドを打つ時だけだ。






――――



BGM:Bloody Sorrow(Virtual On Oratorio Tangram OSTより)
ようつべ→http://www.youtube.com/watch?v=b8B-Tho6iw4



 山田機の踏み込みに対し、鈴の操る機体が山田機を軸とした逆時計回りに踏み込みつつ、腕に直接装備されたビームトンファーを叩きこむ。格闘機と設定されたその機体のビームトンファーは、完全な踏み込みからの一撃でなくても十分な破壊力を持っている。しかしそれを読んでいた山田は素早くガード姿勢をとり、若干のライフゲージの減少で抑えつつ、反撃のショルダータックルの姿勢を取った。それを察知した鈴もまたガードの姿勢をとり、それをやり過ごそうとする。
 この間、僅か1秒に満たない応酬である。

「この…ッ!」

 鈴は素早くガードから左腕を振る、当然のようにガードを固めた山田。再びタックルで返してくるつもりであろう山田に対し、鈴は左腕のビームトンファーが当たる直前に、故意に一瞬だけガード姿勢をとり、連続で左を打ち込む。山田の虚を完全に突いたはずのそれは虚空を切った。先ほどの鈴が行った回り込みよりもやや鈍重ながら、山田機が鈴の右側にステップインしていた。来る!と判断した鈴は素早くガードの操作を入力するが……。

「まだまだ……!」

「いいえ……貰いましたよ」






 格闘戦の動作を素早くキャンセルした山田機が身を屈めながら両肩の花を思わせるレーザー照射器を至近距離で展開、1本の青い光条が一瞬で鈴の機体の下半身を貫き、鈴の機体は大きなダメージを受けながら吹き飛ばされて倒れる。即座に山田機が右手に持っていたバズーカを両手で掴み、滑るように踏み込みながら倒れた鈴の機体に叩きつけた。
 追い打ちの威力は低いが、それで充分だった。照射までの時間の短い伏せた態勢からのレーザーは威力は低く抑えられるが、それは立ち姿勢からのものに比べて多少低いという程度であり十分な火力を持っている。全てのライフゲージを失った鈴の機体は、いくつものコンテナが点在するフィールドの上で、またいくつもの爆炎を上げながら倒れ、勝者となった山田機は、見栄を切るように両肩のレーザーを水平方向に放っている。決着だった。

「……!」

 愕然、とした表情で鈴が放心した表情を画面に向けている。事故は惜しいという事で三本先取勝負だった。鈴もそれは了承した、長く離れていたブランクへのハンデという心の余裕のつもりだった。それは慢心というものとも言えるが、決して侮っていたわけではない。三本とる間に少しでも感覚を思い出して貰いたかったのだ、それでこその勝負。だが……

「鈴、手加減したのか?」

 背後から箒の言葉が聞こえる、モニターの向こうから此方を覗き込むように山田真耶が笑顔を覗かせる。その笑顔を見て、鈴は理解した。戦い合った者同士ならわかる事だ、鈴は手加減などしていない。 ――頑張った生徒に申し訳ないと思っているようなその視線が、より悔しかった。

「――ッ ……箒、交代よ」

 手加減したのかとの問いに鈴は答えない、答えられない。ただ無言で、未だ箒に抱えられてぐったりしていたセシリアを無言で受取り、とりあえず邪魔にならない位置に転がしておく。
 交代すべくコントローラーに向かいながら、今の鈴の様子について箒は考える。
 鈴が、手加減したのかと思ったが……違ったのだな。鈴は三本勝負の時間で山田先生が復調することを願いつつも本気で向かった、そして―― 復調ままならぬ山田先生相手に、サンタテした、そういうことなのか? と考えがまとまってゆく。
 と、いうことは……とんでもない強さと言う事か、IS学園の教員は伊達ではないという事だな。
 ぐっとレバーを握り、先ほど鈴に勝利した機体を選択する。 ――色が違うのだな、と思い。むしろこちらの色の方が好ましいと感じた。相変わらず白の方が面積はあるが、やはり赤いほうがいい。

「―― 篠ノ之箒、参る!」






      ∨ \\∨  / ヘ   ____    { ヽ,
ト-=ーォト-、\ヽ  j   r'":: :: :: :: :: :: :: :: ::>、 }  ヽ,
l   ̄/三三三ニL_/ン´::/:: :: :: :: :: :: :: ::/:: :: ::ヽ、i ヽ         ,ォ
L,,/三ニ>    ハ ̄/:: :://::: ::: ::/:: :: :: :: :: ::ヽ, i      _//

彡-'":: :: :: :: 入   ∧_,y'='"::/:: :: :: :/:: :: :: :: :: :: ::}:: :: ',l  _, -='"  _/
:: :: :: :: :: r'"_=ニニ=-''/::_::_∠j:: :: :: :: :: :: :: ::j:: :: :: ',r'" -ォ   /
:: :: ::/-='"   ̄イ川::/  ̄, イ i::リ{ミ、:: :: :: :: :: ::/:: :: :: :: i<____/
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:::::::i    /´  ̄j´:: :l:::::l ィ/ト恣zゞヾ:: :: :: ::/='、::イ::j::: ::::lヽ  > 今夜はここまでっ!

::::::::l   /    /∧:::∨l ゙ 辷ソ ゙/:;='"/__// ./X:: :: ::j {イ ヽ,     また次回よっ!
:::/l   , '    /:: :: ∨ヽ!   ̄  ̄   ィニ、 ̄./イ::/::/:/  \ /
::/ ト/    ./:: :: ::<ゝ ヽ  _   、  ¨ヾ.//::/::/::/i  /                 r'"マ
   j'     /:: :: :/ ヾ=、  /`´ `¨ヽ,    ///::イ:/:///                 /  i
         /:: :: :/   ヾト、 ヽ.    / -='イ::/:イ::/_,r'-=,  r=-、               /  /
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// 匕  {_,,='7 r'"l /-/゙::::r='"r'  // /  /  /-='"¨7 //∧   -、     .   ト、
´  j!   ナ//} ///l::l //li  / ./   /  ./    /::/::/ f三))     \  ヽl.  ∧:::>
   j!  /\_三≠/´三{ヾj// l i ./  /  /    /// f三リハ      ' , /  /  >
\ jj. /∠ニニニ;/二三ト、j/  l l/ /         f:::/:::/  r'三f  ヽ、_     /  ,, '  /
、__/Fニ     //\   ̄    l:/         \ ',::l::::i   【 】川    `ヽ./ ./   ∧
ミ{{ ̄ 、   <<f゙ /         l!          ,,=-\',:l::::ト、__ヽ三j_,=-'"三 7_/ __ノ j
ミさ,   ヽ   ヘ.<              ≠¨´     \:::\三三三三三三7<´    /








「すまん、負けた」

「はあああああああ!?
 何それ!?あんた思わせぶりに 参る!キリッ!とかやっといて、アンタ、三タテどころか全部パーフェクトってどういうことよ!?」

「ぅぅ……だ、だがキリッ!とか言うな!やってない!それは余計だ」

「―― 篠ノ之箒、参る!キリィッ って思いっきりドヤキメ顔でやってたでしょうが!あーもう、箒にちょっとでも敵討ちを期待したのが間違いだったわ。アンタあたしの期待分ジュース奢りなさいよ」

「無茶苦茶だなお前!」

「もー、篠ノ之さんも凰さんも、やめてください、喧嘩はだめですよっ!」





 見事な惨敗、鈴も負けているのだから負けに何かを言うつもりは無かったけれど、あまりに見事な惨敗だったものだから、思わず鈴は大声で抗議してしまう。
 実力差、正しくは経験の差だろう。山田真耶の攻撃に箒は尽く挙動の出鼻を挫かれ、潰され、狙い撃たれ、まさにあっという間に完全敗北を喫してしまった。ゲームは所詮はゲームで、どんなに自由に動けても"開幕"というものは必ず一定の距離を持って、同一のタイミングで開始される。と言う事は相手の動きはいくつか限られたものになるし、その中でも明らかな悪手ある以上より選択肢が狭まるのも必然。選択肢の幅はそれでも十分に広いが、そこを埋めるのは結局は絶対的な対戦経験数に依存すると言える。

 故に、この敗北は仕方が無かった。箒はこのゲームに触ったのは今日が初めて。そもそもTVゲーム自体が初体験なのだから。

 しかし、鈴の叱責にろくな反論もしないのは箒がやはりこの敗北が心底屈辱的であり、更には自責の念すら抱くものだったからだ。
 そも対戦経験数に比例するとはいえ、箒とて剣道と言う一つの競技で日本一の座に輝いた経歴を持つ剣士だ。対戦ゲームも競技などの試合も、そしてISの試合もそこは同じだ、よーいドンで同条件から開始する。

(――まるで未熟だ……私は……)

 こんな無様な負け方をした事だけじゃない。現時点での世界最強最新スペック機と言って過言でないIS《紅椿》を与えられ、制限を受けた環境化とはいえチーム戦では自身が属するチームで真っ先に敗北し、一夏への想いの丈とそれを届かせる戦いにおいては友に先を行かれた。 一夏のサポートとして動いた場合、彼を狙って動く敵との戦闘においては他の誰よりも効果的で、絶大な支援ができるがそれはIS戦闘に限定されるし、そうあるのは当然だ。《紅椿》は白と並び立つもの、一夏の《白式》をサポートする事を前提に設計されているのだから。






 部屋の隅にぐったりと転がっているいかにも育ちの良い、お嬢様然とした姿が見える。お嬢様は普通床には転がらないと思うがあれは事故だ仕方がない。それにちょろいうっかりさんな恋愛強者はこのメンツでは黙らせておく方が色々と安全だろう。 ――山田先生彼氏イナイ歴更新中だもんなぁ…… それはさておき、セシリアだ。クラスメイトであり、友人であり、一夏の恋人。認めているとも、祝福しているとも、もしセシリアを泣かせたら一夏には男を辞めてもらうべきだと思う。具体的には生物的に。

「……次は勝つさ、勝たなければならん」

 自分にだって意地はある。二人の友として並び行くのなら、自身の居場所を実力で示さなければいけない。そう箒は思う。

「連続で行こうっての!?アンタまたぼこられるだけよ? まぁ、わかったわ、その心意気やよしよ!」

「先生はどちらでも構いませんよー?さ、続けましょう続けましょう」

「はぁッ!? い、いや先生!今のは……!!」

 鈴への抗議に目を剥いて、それからふと目に入るのはわくわくと目を輝かせる山田先生の顔を見て、弁解は無駄だと、むしろ弁解して鈴にやらせたところでどうせ自分の出番がすぐに来る事を悟る。

「鈴、私が負けたら次はお前が三連戦だぞ……」

 恨めしそうな目で告げた言葉に鈴が引き攣った笑みを浮かべてから、突発耐久対戦会の犠牲者もとい参加者を増やす為にセシリアを介抱しに行く鈴を見送り、箒は再びモニターの前に座るのだった。








「セシリア……遅いなー……なんか有ったのか?」

 夕食を共にする約束。織斑一夏はボックス席の背もたれに寄りかかり、頬づえを突いてぼんやりと待っていた。テーブルには所謂お冷だけが置かれている。何気に学食のおばちゃんが奥の方の席の電気を消した、完全に閉店準備だ。

「……」

「……」

 その上でおばちゃんの視線を感じる、顔を背け、そちらを見ないようにする。一夏はこの視線を知っている、そう、あれは――






       / ヽ \         ヽ      ヽ   \
      // i  \ ヽ     \   ヽ      ヽ   `
     / /  |   \ ヽ    . \  ヽ      ヽ    ヘ
    / / !  |     \ヽ _,.-‐  ̄、 ‐--L_      i    ヘ
   / / | i  |  !_,   |\ ヘ \\\  ヽ       i    ヘ
  ./ /i |  !  |,="i\  ヽ. \ 、  ヾ \ |       i    `
  // i  |  f  v _ \ ヽ  ヽ _____  N       ヘ   |
 /  イ  i  |  /'hハ丶\ヽ  ''~' ̄~~`  |       ヘ    i
    |   i  i 《 i゚::::|   \        .|  ,   ト  ヘ  i\ i  今夜はここまでだよ
    i   | /  弋::ソ ,            i  /  / \  、ヽ ヽ   また次回、待っててくれる?
    | |  |/.  、              / /  / |  \ヽ ヘ
     i. |     、    -―--      //   /ノ 、i   ``ヾ
     :| | |    、 .  、    ノ    /    /   ヾ   ヘ
     | i |    .\   _       /  /  / /   ヘ
     ヽ ヘ    | \       / /  / / /´      ゝ
      V ヘ   .|  i \ _,,.  イ   / / /        イ´
         .ヘ  |  }.    |    / /   ,.::-´ ̄`ヽ、_/
          ヘ | `、    |  ' ノ    /        \
           ヘ i   \.   | _,,-'' ,   /          ヽ
            ヾ    /, r   .ム  /           、
          _,,,,...........,// .ト  /   /            、
        /     / ./ // |  /  イ'            . i
      /     /  / | | ト |   | i             .i
     /     ./  /  〈0〉' | / イ i              i







 ――中学一年の頃、鈴の旧実家の中華料理店。

「そんでさー! 小島のやつがよ! うはははは」 ※注:この弾は一夏による主観的な記憶です。

「あはははは! なにそれー! なにそれー! あはははははははは」 ※注:この鈴は一夏による主観的な記憶です。

 時間はもう夜の9時近かった。季節は秋口、俺と弾、そして鈴の三人は閉店前の店舗で来週に控えた文化祭について話し合っていたんだ。なぜって、同じ班だったから。中学に入って初めての文化祭、小学校の発表会とは違う、小学校六年生と一つしか学年が違わないのにやたらとハイテンションな弾がバンドやろうぜと言いだしたのが始まりだった。

「……で、どうすんだよ? まだ何にも決まってねーぞ」

「あははははは! なに一夏! なにいまの、もっかい! もっかい! あはははははは!」 ※注:この鈴は(ry

「どうすんだよ! まだ何も決まってねーぞ!  だってよ! うはははは!」 ※注:この弾は(ry

「……はあ、何がおかしいんだよお前ら……だいたい弾、お前が言いだしたんだろ? バンドって」






 そう、あれは夏休みが明けてすぐだった、弾が突然バンドやろうぜって言い出したんだ。どうやら夏休みの間に見たテレビの影響と中学生特有の背伸び感から洋楽を聴き始めた弾はこれすげえって! と突然鈴の家で昼食をいただいていた俺達の所にやってきて、店内でかけていたCDプレイヤーに持ってきたCDを投入。鈴の親父さんの店は昼間からドラゴンフォースを大音量でかける中華料理屋と化した。
 親父さんが即座にやめさせようとしたところ、愛娘の鈴が大ハマリ。しぶしぶドラフォはかけられ続け、住宅街にある町の中華料理屋さんは本格的な中華とドラフォのコラボレーションする謎の空間となった。

 そういえばそれ以来客層が変わったみたいな事を親父さんがポツリと漏らした事が有ったし、親父さんもイメージチェンジを何回か図っていたけど、まさかそれが離婚の原因だったんじゃなかろうか……。いや、深く考えるのはよそう。

 ともかく、そんな弾のバンドやろうぜという提案に鈴が同意。気がつけば俺も同意した事になっているいつものパターンで三人組が出来上がった。勿論三人とも扱える楽器と言えばリコーダーだけだ。あ、パプニカもそこそこいける。弾はパプニカでサックスの真似をするのが得意だった。音は出ていないけれど。
 その為この日はどうするかの最終決定をしなければいけない。よりにもよって既に実行委員会に書類は提出済み、今更キャンセルなんて出来そうもない雰囲気だ。

「お前ら! 少しはまじめに考えろよ」

「うはははは! 一夏、心配するな俺に作戦が有る」

 そういえばこの頃の弾は髪が短かったっけ、ワルはもてる! なんて言い出してソリコミをいれようとして、左右のバランスを取ろうとしているうちに落ち武者風になってしまったものだから一度全部剃ってしまえという事で坊主頭だった。自分で剃るのが怖いからと千冬姉に頼んだあいつが悪い。本人は後頭部に柔らかいものが当たって夢見心地でいたら気が付いたら解脱していたとか言ってたが何の事だ?

「あはははは! 作戦ってなによ? 第一英語の歌詞なんてアタシ達誰も歌えないじゃない? あはははは」

 それが今じゃセシリアと英語で口喧嘩ができるくらいの英語力はあるんだから、鈴はすごいよな。 あ、それと鈴は昔からツインテールだった。おかげで誕生日のプレゼントとか毎年楽で、リボンを二つ贈るのが毎年の習慣になってるくらいだ。一度違う髪形にしようかなとか言ってたけど別に似合ってるからいいんじゃないか? そういえば、あいつもうすぐ誕生日じゃないか。






「うはははは! ズバリ! エアギターだ!!」

「あはははは! エアギター! あはは! エアギター!!」

 そこで俺たちはエアギターとエアドラム、エアボーカルで全てを補う事にしたのだ。
 これが結構順調に練習が進み、俺たちは本番前日を迎える事になる。

「エアギターでバンドだと? はぁ……別に構わんが、やるなら完璧にやれよ、私も明日は中学の方に顔を出すつもりだからな」

 千冬姉が来る……!前日に告げられた衝撃の事実は俺達三人を見事に委縮させ、本番のステージは本当に散々なものだった……。

 ――その時の千冬姉の遠目からでも舌打ちしていると判るその顔!!






 ではなく。


 俺達が店内でドラフォのライブの真似をノリのいいお客達と繰り広げている横、カウンターの親父さんの愛娘のパフォーマンスにニコニコしているその後ろ……!

 ――鈴のおふくろさんが、注文もせずにライブにノリノリな客とやはり注文もせずにパフォーマンスの練習にいそしむ俺達と料理もしないで呑気にしている亭主とを見ているその眼差し!!


「俺は知ってる、知ってるぞこの視線……はやく何とかしねえと……ッ」

「……あれ? 一夏く……一夏? 遅い夕食ね……夜食?」

 背もたれから身を離し、おばちゃんの視線から隠れるように俯いていた一夏の背に遠慮がちな声がかかる。控え目な声の持ち主は、入口近くの券売機の所から此方を見ていた。4組の代表、地元日本の国家代表候補生、更識 簪だった。







 その日、結局食堂のラストオーダーまでセシリアが現れる事は無かった。








IS-ifストーリー Cecilia Alcot #2

 「彼女達のそれぞれ・休日編」
             -fin-

                to be continued








 次回予告

 二学期末学年別個人トーナメント大会。IS学園の一年生にとっては特別な意味を持つ大会。 二年の大きな学科分けが控えたこの時期から、各生徒は自分から技術班と実技班に分かれてゆくこととなる。 今回の大会のルールは一学期にあったものと同じ個人戦、しかし今回は上級生や教師が出場者の整備を行う事は無い。 ――つまり、


 一年生同士による整備と戦闘に分かれたチーム戦。


「全く! 整備する方の身にもなってよね! こんな荒っぽい使い方して」

「うっさい! 勝つ為なんだからしょうがないじゃない!」


 先人を頼れない緊張感がパイロットとの関係に溝を作る。


「――ッ! なんだ!? 右腕の出力に違和感が……!?」


「……ねぇ、なんか、ねじ余ったんだけど……」

「こんなのまだ習ってないよぉ!」


 未熟が呼ぶのは、カタログスペックに無い勝敗。


 次回 「本当の一歩目」


「 結 構! ですわ!」







            _

     _     ,'===ヽヽ
  M,'´  ミM,   l从从リリ)
  Σ& 从ノ、>X  .リ゚д゚ リ (  今日はここまでまた次回ですわ鈴者
  ノl|ヾリ゚д゚ノl.l  ξ/>ξ、.リヽ
 ノ从 /l-Hiト从_ /  | .|ィ从)

   /./ |_|/ ̄ノlヽ ̄ ̄/.|ξξ

___(ニl⊃/  .( ( )  ./m|____
    \/ <`ー'> /







 IS学園の各アリーナに隣接する形で設置されている「IS整備室」
先のタッグ対抗戦の際もそうであったが、やはり校内の大きな試合が近付くとここは活気づく。特に、今回は……。

「くー……歯がゆいったらありゃしない! なんだいあんなにモタモタして!」

「ははっ、一年前のアンタ達もあんなモンだったじゃないか」

「ちょ、センパーイ! 今は違いますよ!? 整備科でみっちり一年! 磨いてきましたから!」

「ハイハイ、そーかいそーかい」

 IS学園では生徒は二年への進級時に整備科と普通科を選択する事になる。従来は1クラスのみが整備科となっていたが、来年、つまりセシリア達が2年に進級する際には整備科が2クラスになるという。このクラス選択は卒業後の進路を大まかに決定すると言う事でもある。例をあげれば新聞部副部長として セシリア 達と面識もある 黛 薫子 先輩は2年整備科のエースであり、学園卒業後は特別待遇で倉持技研の研究室に迎えられ、研究を続けながら某超一流工学大へ留学という噂もある。





 現在、世界ではIS技術の世代発展につれ、各国で第三世代の開発が行われている。 が、所謂イメージ・インターフェース、またはマインド・インターフェースと呼称されるインターフェースを用いた特殊兵装の実装にはまだまだ大きな壁が有り完全な実用には未だに達していないとの見方が強い。

 現時点では
・中国の《甲龍》タイプのようにあくまでイメージ・インターフェイスをあくまでもトリガーとしての機能のみで装備した安定型。
・イメージ・インターフェイス兵装の運用に最適化され、全武装を完全にイメージ・インターフェース中心に構成したイギリスの《ティアーズ》系のような特化型。
・イメージ・インターフェイス兵装を別方面の能力とし、機体運用とは完全に切り分けたドイツの《シュヴァルツェア》系は独自型と言える。
・ロシアの《ミステリアス・レイディ》は機体構成そのものをイメージ・インターフェイス管理下に置いた特殊型、コンセプトとしてはコレが一番第四世代に近い。

 これらが第三世代の成功例として知られているが、まだまだそれだけだ。アメリカ・イスラエル共同開発機だった《シルバリオ・ゴスペル》の暴走事件も搭載された試作イメージ・インターフェイス兵装を原因としているのではないかなどと未だ暴走の原因を掴めていない関係者の間ではオカルト的に語られている。






 一度、第三世代兵装未経験のシャルロットが、自立機動兵装を扱うセシリアと箒に訪ねた事が有る。「BIT(※1)やビットはどうやって動かしているの?」と。答えは簡潔なもので、箒は「そうだな、ぶつける気で行く」という謎の一言だったし、セシリアは延々と計算式だの角度だの並べていたが要は「動きを頭の中で計算して導きだすのですわ」との事だった。二人とも言っている事は全く違うようで、彼女達のISはそれぞれの思考をインターフェイスを介して変換し、ぱっと見は同じ方法のように駆動させている。「開発・研究は専門外のこととはいえ、二人とも何言ってんのか全く分からなかった」と、シャルロットは語ったという。 尚、ラウラの場合は「止まれと念じるだけだ」 鈴の場合は「ゴルァ!って感じ」という回答だったという。一夏はイメージ・インターフェイスを使用している意識すらなかった。

※1 紅椿のビットもセシリアのビットも原作では「ビット」表記で区別化されていませんが、アニメIS BD2巻付属の設定集によるとセシリアのビットはB.I.T.という名称の与えられたBT兵装の一環です。読みは同じ「ビット」です。

 そも、イメージ・インターフェイス兵装は機械工学系の技術ではない。手足の操作によって駆動するのではなく、搭乗者のイメージにより操作される、つまり脳科学分野の装備だ。そんな畑違いと言ってよいイメージ・インターフェイス兵装を搭載した第三世代だけで手一杯の所に、篠ノ之 束 が妹に与えた第四世代機《紅椿》の登場である。展開装甲という従来の換装による機体汎用性の向上を過去の技術とする新技術は、第三世代技術を下地にそれを更に発展させたものである。

 ただでさえ限りあるISコアを再利用しながらの新型開発は世界中の研究機関が必死にやりくりして行っているもので、そこへきて世代を一足飛びにする新技術の登場は世界中の技術者を大いに悩ませた、今世界では深刻なまでの技術者不足を迎えているのだ。そこで、専門の教育機関であり、その性質上国際研究機構とも言えるIS学園の整備科増設が決定したというわけである。

 来年以降、これまで日本国にのみ負担とさせられていた運営及び資金調達の面においても協定参加国からも学園への出資が行われる事が決定しており、これによる設備の拡充が見込まれており、大学相当の専属研究機関を設けるべきとの声も上がっているという。ただし、協定参加国からの出資は協定参加国それぞれとIS学園の距離の変化に繋がり、特定国による運営への干渉や贈収賄の温床となる可能性を孕んでおり、未だ多くの議論がなされている。

 ともあれ、今年の二学期末チームトーナメントでは、単純に去年の二倍の数となる二年進級時に整備科に進級を考えている生徒(実際に整備科に進級すると決定するわけではない)が構成する整備班と専用機が学年に7機もいるという豪勢なトーナメントとなっていた。





――


「さゆかはどうするの?まだどっちにするか決めてないんでしょ?」

「うん、だからセッシーとはねー……。 一応織斑くんと篠ノ之さんってどこの国家にも所属していないからと思っていたんだけれど、第四世代だっけ?かなり規制厳しそうじゃない? しょうが無いから打鉄で一、二回戦負けコースか、いっそ整備科に絞ってふっきるかなあ……」

 クラスメイトの谷本に尋ねられ、夜竹 さゆか は腕組をして難しい顔をした。

 整備科への進路を迷っている生徒にとっては、単純に人物の好き好きでは割り切れない問題もある。この大会は当然のように専用機持ちが優勝する確率は高い、むしろ二学期を終える頃ともなると圧倒的と言えるレベルだ。現三年生では学年唯一の専用機 ダリル・ケイシー の《ヘル・ハウンドver2.5》(正確には当時は《ヘル・ハウンドver2.1》)が対戦相手を尽く5秒以内に瞬殺した為、本来一日がかりで行われるはずのトーナメントが午前中で終了してしまった。

 それを踏まえて翌年は フォルテ・サファイア の《コールド・ブラッド》と 更識 楯無 の《ミステリアス・レイディ》をトーナメントから除外し、決勝戦前のエキシビジョンマッチという形式で試合を行ったところ、今度は数時間決着がつかない死闘となった。その上、制止に入った決勝進出チームのISが両方とも瞬殺されてしまったという。






 それはさておき、なぜ夜竹は仲の良いセシリアと気楽にチームを組めないか、という話だ。そんな圧倒的優勝候補の専用機とはその技術の大半をその開発国が保有しているものだ。IS学園内では当然のように相互の技術はある程度公開されはするものの、その技術を学園外、協定非参加国へ持ち出す行為などは厳しく制限されなければならない。よって整備班として専用機持ちのチームに着くという事は従軍レベルの守秘義務といくつかの厳守事項が発生するのである。 《紅椿》と《白式》のように国家に所属さえしていない上にオーバースペックな機体の場合はさらに厳しい事は想像に難くない。

 勿論、その後の成績次第ではあるがその専用機と共に卒業後にその国の研究機関へと入るという特別待遇を受けられる可能性も高くなるし、ISに関わる第一線で生きるならこれらの制約も望むところだろう。しかし整備科に入るかどうかさえ迷っている生徒にしてみれば、その特別待遇を受けられる程の成績を整備科で残せるか疑問だし、そもそも整備科に入らなかった場合は息苦しいだけのものだ。

 学園にそのまま職員として残るという選択もあり、少し前まではそれが安全と言われていたが…… それに関しても謎のISによる度重なる襲撃を幾度も受け『亡国企業』の工作員に至っては校内に潜入して破壊工作を行ったという噂まである今、学園内とて、もはや安全とは言えない。

 ゆえに、夜竹 さゆか はクラスの中でもセシリアとつるんでいる時間が比較的長いグループにいるけれど、気軽にセシリアをバックアップすると言い出せないでいる状態と言うわけだ。 この事情はセシリアよりも一夏と箒にとっては大きな不利で、最悪の場合彼らは整備班無し、自分でメンテナンスを行いながら並居る専用機達と渡り合わなければいけない事になる。

「本音は四組の代表候補生の、ほら、最近よく来る…… 簪さん?の整備班でエントリーなんだっけ? あーあ、私も本音に頼んでみようかな……」

 ため息を大きく吐きながらがくりとうなだれる夜竹の髪が、まるで今の彼女の気分を表しているように軽く顔にかかるのを見て、同じく今回のトーナメントでの身の振り方を考えていた谷本も天井を見上げて苦笑いを浮かべ。

「確かに、簪さんは日本の代表候補生だし正直アタシら日本人メンタリティ的には海外で就職! ってより気が楽だよねえ、その上あの更識生徒会長の妹だし。
 ……あれ? そういえば今日キヨは?」

 ふと、大体いつも一緒につるんでいる相川がいない事に谷本が気付いた頃、その相川は第二アリーナのIS整備室にいた。





――


「えっと、ほ、本当にボクでいいの……?」

「良いに決まってるじゃない! 任せてよ」

 シャルロットの首にいつもかけられているペンダントには今はトップの飾りが無い。クラスメイトである 相川 清香 を中心とした整備科志望の同級生達が、ハンガーにかけられた《ラファール・リヴァイブ・カスタムII》の周囲でまずは機体の解析作業を進めている。

「カスタム、ってだけあって本当にフレーム周りは《ラファール・リヴァイヴ》とあまり変化は無いんだね。一応拡張スロットが増えてる分少しフレーム自体の拡張性はタイトな感じかな! 装甲周りの調節はちょっと大変そうだけど、うん。いけるね!
 あはは、正直さ、セッシーとかラウラの第三世代機って機密事項が多すぎちゃって扱いが難しそうなんだよね。その点この子は第二世代じゃない? だからイロイロやり易いかなって。 シャルはそんな理由じゃ嫌かも知んないけど。それに代表候補生といっても、でしょ?」

 ぺろっと屈託無く笑いながら舌を小さく出すクラスメイトに、シャルロットは笑みで応えた。明るく活動的な相川は、今回の大会の形式が発表されたその日のうちに同じソフトボール部とクラスメイトを集めた整備班を作り、シャルロットにチームへの参加を打診してきた。気を使われるよりも、はっきりと「都合がいい」と自分を選ぶ相川の言葉はシャルロットも気が楽だ。

 技術面でもほぼ未知の領域となる第三世代の機体よりも、第二世代のカスタム機を選択した堅実性は決して間違いではないし。第二世代でありながらシャルロットは一年の代表候補生の中では最強とさえ噂されている。

「とんでもない、ボクこそ少し相川さん達を誤解してたみたいだよ、みんなもっとこう、派手好きな風に思っていたから。 改めてよろしくね」

 整備班の人数に制限は無い。相川の部活仲間を中心とした人脈が揃えた整備班は人数はいるが経験は少ない部類だろう。しかし扱い易く、尚且つ専用機としてカスタムアップされた第二世代機を擁するシャルロットは、この大会に早速ながら確かな手ごたえを感じていた。






――


シャルロット・デュノア チーム
 IS:ラファール・リヴァイブ・カスタムII
 パイロット:シャルロット・デュノア(IS適性:A)
 整備班長:相川 清香
 整備班:8名

 ・一年専用機組唯一の第二世代IS。強力なワンオフ・アビリティやイメージ・インターフェイス兵装は有していないが、所謂「枯れた」技術の機体ゆえのメンテナンス性の高さは整備班の未熟による影響を大きく軽減させている。また、パイロットであるシャルロット・デュノア自身の操縦技術は学年でもトップクラス。「ラピッド・スイッチ」による全方位全距離対応力が強みだが、多量の火器を扱う故に整備班は機体のメンテナンス以上に武装のメンテナンスが重要となる。


――





――


「みなさん、深刻な顔をしてなんのお話をしていますの? よろしければ こ の セシリア・オルコットが相談に乗って差し上げますわ」

 金髪の巻き髪を左右に揺らしながらクラスメイト達の相談に加わろうとセシリアが近付いてくる。訳すと「深刻な顔をしてどうしたの? 何かあるなら相談に乗りますわ」という意味の言葉を吐きながらやってくるのを見て谷本は眉間を抑えた。今回の大会でチームを組む相手は同じクラスでなければいけない理由は無い。無いけれど、普段から仲良くしているクラスメイト同士が組むのはごく自然な流れでもある。

 ただし、専用機持ちでなければ、だ。

 セシリア・オルコットは当然専用機持ち、イギリスの国家代表候補生であり、IS適性は先月の診断ではA++。イメージ・インターフェイス兵器であるBT兵装を使いこなし、試作機である《ブルー・ティアーズ》でその完成型とも言える《サイレント・ゼフィルス》を破っている。次期国家代表を噂される彼女の整備に入るということはイギリスに対する強力なコネを持つことになる。つまり、前述の情報規制のリスクはかなり高い。




 見れば、本人がそんな空気を全く読んでいないのが一発で伝わってくる。駅前においしいけど値段の高いスイーツのお店でもできました?とでも言い出しそうな雰囲気だ。

「あ、いやー、セッシーはあんま気にしないでいい話なんだけどね」

「まあ! ということは谷本さん、気になる男性がいらっしゃるのですわね! そういうことならお任せくださいな、このセシリア・オルコット、友人の恋を全面的にバックアップさせていただきますわ!」

 どうしてこれだけでニュートラルから一発でギアを有頂天に入れられるのだろう。 テンション高く胸を張って浸ってるセシリア。なぜか本音がその隣で同じポーズをとっているし、セシリアのチームに行かないと言っていたさゆかは気まずそうにしている。

「いや、そうじゃないんだけれど……ほら、今度のトーナメントのさ……やっぱ気まずいじゃん?」

「……?」

「どうしてそこでキョトンとするのー!? セッシーはパイロットだけど整備班組まなくちゃでしょ? でも整備科に入るかもはっきりしてない段階だとやっぱり代表候補生につくのは覚悟がいるって言うかだし、第三世代機はハードル高いから」

「ああ、なるほど! そのことでしたのね。 ご安心ください! わたくし、今回は出場を辞退しようかと思っておりますの」

 一瞬の沈黙を置いて、教室内は驚きの叫びに揺れる事になった。





――


セシリア・オルコット チーム
 IS:ブルー・ティアーズ
 パイロット:セシリア・オルコット
 整備班長:不在

・出場辞退(?)


――






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  /ィ.    ̄`ヽ、',!.--、  ヽ Y ´ ハ ',  |   ;
  .',      `'ヾミミ廴   } ィ/ ハ   .;  l ;
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    ヽ           '´    >ミミ、 /./  / .| |
\   ヽ       __    '   ハ/ノ   ,'  |ノ 次回に続く!ですわ。
  {ヽ  \    /    `ヽ   ハノ   ,' ./!
  |  `ヽ、 ヽ   ',      .∨  ∧ ヽ   .; //
  ',    ヽヽ, .ヽ    /  ./{ .ヽ ヽ ,//
  ',ヽ   / ./   ` 二ノ /(`ヽ ヽ \ノ
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     イノ    /  ̄ ̄      |  `\  \   ヽ
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――


 イギリスの代表候補生が出場辞退?という噂は、本当にあっという間に一年生の全クラス、そして上級生、教員にまで広まった。

 これにまず黙っていなかったのは現二年のイギリス代表候補生。専用機こそ与えられていないもののIS適性はA+ セシリアにとってはIS操縦技術の師でもあり、二年第三位の実力者として知られる才女 サラ・ウェルキン だった。

 そして、セシリアが廊下に呼び出されている今へと続く。

「……セシリア、どういう事ですか? ……何かあったの?」

「先輩……いえ、な、何かあったと言う程では……ないのですけれども」

 一年の教室に上級生はそう頻繁に表れる事はない。約一名生徒会長と言う例外はいるが、最近は三年の卒業式も近い事もあってあまり姿を見せない。特にサラはセシリアの直接の先輩でありながらこれまで一度も一年一組を訪ねてきた事は無かった。
 それは、あくまでIS学園内においてはイギリスの代表候補生である立場よりも学生としての立場を優先すべきであるというサラ自身の信条でもあったし、BT-01、現在は《ブルー・ティアーズ》の名を与えられセシリアの専用機となっているISのパイロットの座を争った相手が現れる事でセシリアの精神状態を乱したくない、そんな気遣いだった。

 サラは母国にいた頃同年代でも非常に高いIS適正A+を持っていた。故に、第三世代ISのテストパイロットとして BT-01 の開発に関わっていた時期がある。しかしサラには、B.I.T.を一つがやっと、そこからの射撃も満足にできず、標的を狙うどころではなく、本体の動きも大きく停滞するという結果しか出せなかったのだ。

 イギリスの第三世代の特徴は前述の通り兵装の中心を《BT兵器》に頼る設計となっている。それは実験機として開発された BT-01 については特に顕著な特長となっており、パイロットには特別な素養が求められる事になった。それが《BT適性》である。
 これは単純にBTの稼働率の高さを数値化したもので、イメージ・インターフェイスをどれだけ動かせるか、というものである。複数の自立機動兵装を動かし、尚且つそこから射撃を行い、射出したレーザーを更に操作することを要求する《BT兵器》の素養。柔軟なマルチタスク型思考とそれぞれを独立させることができる空間把握能力。サラの結果は、サラの能力が低いからではない、はっきり言ってそれが普通なのだ。

 物事には例外がある。そして、才能というものは確実に存在する。初稼動でB.I.T.2基の同時機動、個別に別のターゲットを同時撃破をやってのけた異能者が現れた。先日大々的に報じられた列車事故に巻き込まれた資産家夫妻の遺児、セシリア・オルコット。
 他国であれば、専用機を確実に与えられた筈の サラ・ウェルキン は、当時未だ候補生ですらなかった少女にBT-01のパイロットの座を譲ることとなった。






 恨む気持ちがないと言えば嘘になる。しかし、両親を喪って日も浅く、一夜にしてオルコット家とそれに関わる人々を背負う事になり、尚気丈に有り続ける少女をサラが好ましいと思うようになるまでそれほどの時間はかからなかった。

「……何もなくて目立ちたがり屋の貴女が見せ場を辞退するとは思えないのだけれど」

「そんな、わたくし別に目立ちたがりでもなんでもありませんわ、わたくしと言う存在の求められたときに、期待に応えるのがイギリス淑女の務めというものであって……」

「じゃあ期待に応えて頂戴、セシリア・オルコット。 貴女は我等がイギリスの国家代表候補生、第三世代IS《ブルー・ティアーズ》を預けられているのですよ?」

「それは……」

 セシリアにしては歯切れが悪い。セシリアの公私に及ぶサポートを行っているチェルシー・ブランケット程ではないにせよ、サラとて彼女を妹分のように可愛がっているつもりだし、見てきた。

「織斑君が関係ある、と言う事ですね」

 織斑の名を出した途端、セシリアの顔色が変わったのをサラは見逃すはずがなかった。
 薄々、思ってはいたのだ。

 今回の大会、整備の有無が占める割合は存外に高い。IS自体に自己修復機能があり、コアさえ生きている限りは従来兵器に比べてIS自体の継戦能力は高い。コアが破壊される事などまず無いのだから、従来兵器と比べたら天地の差が開く程だが、IS自身とパイロットを円滑に繋ぐ為に人の手による調整が必要となる。

 それは、噂の域を出ないがコアとの対話関係を築いている 織斑 一夏 と《白式・雪羅》にしても、他の機体と比べれば整備の負担は軽いというが絶対に必要な部分だ。

 だが、今大会における専用機への整備には前述の通り特別な覚悟が必要となる。特に、展開装甲を有した第四世代ともなれば、最悪整備班なしでの参加を余儀なくされる。

 だから……

「セシリア、貴女、織斑君の整備に参加するつもりですね」

 サラの予想は当たっていた。セシリアは、今大会一夏へのサポートに終始するつもりだった。





――



 第三アリーナのIS整備室。クレーンに吊られた黒の機体は換装の真っ最中だった。

「くっ……私とした事が時期を誤ったか」

「いやー、時期云々じゃないと思うな―……怪我は大丈夫なの?」

 第三世代にはもう一つ特長がある。

 従来、第二世代型までのISは、基本フレームに火器や言ってしまえば四肢、スラスター等が接続されている。これはパイロットの操作をダイレクトに伝える必要があるが故の構造的な仕様だ。しかしイメージインターフェイスを搭載する第三世代では、機体の基本フレームと火器やスラスター類の間にそれを挟む事で、パイロットの操作をより簡単に各部へ伝える事が可能となった。
 これはISコア自体の助けもあり、B.I.T.のような遠隔操作とは別の、もっと根幹機能的な話だ。
 その結果、機体の四肢や火器、スラスターなどを後から増設、拡張する事が容易となり、《拡張パッケージ》機能として実装されている。
 この機能に一日の長が有るのは機体の安定性能において他国を圧倒する《甲龍》だが、各国も《甲龍》に後れは取りながらも《拡張パッケージ》を開発している。

 その一つが、今ラウラの《シュヴァルツェア・レーゲン》から取り外されている指揮管制統合パッケージ『オイレン・ケーニッヒ(梟の王)』だ。策敵、電子戦、航空管制能力に優れる半面、戦闘能力に劣るこのパッケージは本来、一年生以外が触れるうちに取り外し、通常のパッケージに換装するつもりだった。






「まさか、一週間近く目を覚まさないとはな」

「他人事だねぇ」

 ラウラは今でも額に包帯を巻いている。記憶が曖昧なのだが、どうやら深夜の校内で柱にしたたかに頭を何度も打ち付けているところを千冬に保護されたらしい。なぜそのような奇行に自分が走っていたのかはわからないし、シャルに聞いても目を逸らすだけで教えてはくれなかった。VTがまた暴走しかけたんじゃないだろうか?という事だが、とっくに取り外したはずというか、そもそも今の《シュヴァルツェア・レーゲン》は暴走したそれではなく、予備パーツで組まれたものなのだから搭載してる筈もないのだが。

「……そもそも、VTが発動してなぜ柱に頭を打ち付けるのだ? 教官の性癖という事か……?」

 口元を押さえ、作業を見守りながらラウラは考える。どうにも腑に落ちない事が多すぎる。眠っていた間はともかく、それが起こった直前辺りの事もごっそりと抜け落ちているのだ。

「ボーデヴィッヒ、私の性癖がどうかしたか?」

「教官!いえ、大したことではありません。このたびはご迷惑をおかけしました!」

「……ふ、気にするな。VTのせいであってお前のせいじゃないさ」

 いつの間にかやって来ていた 織斑 千冬 に声をかけられ、ラウラはそれ以上考える事をやめて彼女に敬礼を向ける。これは染み着いた癖のようなものだ、それに、なおすつもりもない。

「パッケージの換装か、鏡、いい経験ができているな。第四世代ではパッケージが不要となるとは言われているが、全身展開装甲などそんなものは束の気まぐれ以外には存在せん。今後においてまず第三世代の普及が先に来るだろう、今のうちにしっかりと見ておけよ。ドイツの《シュヴァルツェア》シリーズはイメージ・インターフェイスであるAICに依存した装備がないから扱いやすい部類だしな」

 ラウラのチームとして申請を出したのは、クラスメイトの 鏡 ナギ を班長とした5名のグループだった。人数としては十分平均的ではあったが、前述の通り準備不足が祟り現在急ピッチで通常装備への換装作業が行われている。

「ねえラウラ、これどう外すんだっけ?」

「ああ、少し待っていてくれ今行く。では教官! 失礼いたします」

「うむ、励めよ」

 小走りに仲間の元へ駆けてゆく教え子の背中を見送ってから、千冬は吊られている黒い機体を見上げる。スタート地点は他チームよりも悪い位置からだが、ラウラ自身にある程度の整備の心得もある。心配は無いだろう。それよりも、入学当初あんなに他者と壁を作っていたラウラが、クラスメイトに溶け込んでいる姿に彼女の成長を見る。

「デュノアと、争いたがらないものかと心配もしたがな……」

 ラウラがこのようにクラスに溶け込めるようになったのはやはり同室のシャルロットの影響は大きいだろう。だが、チーム戦では必ず一緒のチームを組む程にやや依存しているような部分も見受けられた。だが、元々の気性と軍隊生活が長いというものもあるのだろう、今回のようなケースで手心を加えることは無い。

「まったく、セシリアにも少し見習ってほしいものだ。ラウラもこれで諜報癖さえなければ文句は無いんだがな……あれは諜報と言うよりはただの盗撮か?ックク」

 その盗撮癖の結果がクラスメイトとの良好な関係形成に役立っているとは、千冬は知らなかった。






――――


ラウラ・ボーデヴィッヒ チーム
 IS:シュヴァルツェア・レーゲン
 パイロット:ラウラ・ボーデヴィッヒ(IS適正:A+)
 整備班長:鏡ナギ
 整備班:5名

 ・ドイツの第三世代IS。イメージ・インターフェイスとして装備されたAICは機体のフレームに組み込まれた完全独立機能であり、パッケージ装備とは干渉しない事が強み。機体自体の完成度は高く、強固な装甲と軽快な動作、大火力に定評がある。また、携行装備が存在しない為整備を集中して行うことができる。それでもワイヤーブレードや実体弾火器である大口径レールカノン等、精密さを求められるのはドイツの基礎技術力の高さをうかがわせる設計である。今回はパッケージの事前換装が間に合わず、標準パッケージの換装から行っている為かなり不利と見られているが、パイロットの技量も高く、直近のIS適正検査ではIS適正A+へと評価を上げてきている。


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  、ヾ|:::::::::|:::/`ト-:::::/ _,X:j:::/:::l
   ヾ:::::::::|≧z !V z≦ /::::/
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「セシリア、シャワーお先ー」

 バスタオルで髪を拭きながら、鈴がシャワールームから出てきた。はーいと返しながら一度そちらを見たセシリアは、あいも変わらず全裸族の鈴に軽くげんなりとしたため息を吐きはしたけれど、今更どうとも言わない程度には慣れてきた。

「……んん?」

 入れ替わりにシャワールームに向かったセシリアだが、すれ違う瞬間によく知っている匂いを嗅いで訝しげに眉を顰める。

「ちょ~っとお待ちになって、鈴? この前買ったばかりのわたくしのボディソープを勝手に使いましたわね!」

「いいじゃん減るもんじゃなし」

「普通に減るものですわよ!?」

「――そんな事よりさ、アンタ、辞退するって本気で言ってんの?」

 抑揚を抑え、髪を拭く仕草を止めぬまま振り返りもしないで鈴が問いを投げてくる。こんな風に鈴が問うて来る時、鈴がどんな感情で言っているのかが判る程度には付き合いも長い。だからセシリアは誤魔化そうとはしなかった。一度、ゆっくりと深呼吸をしてから、言葉にする。



「ええ、そのつもりですわ。今回は一夏さんの整備に回ろうと思っていますの」

「それ、一夏と決めたの?」

「……」

 鈴は相変わらず顔も見せようとしない。聞けば、鈴は以前同部屋だったティナ・ハミルトンとのチームを組んだらしい。元々メンテナンス性は抜群に高い《甲龍》だが、それを支える整備班も最多の12名。現時点では最も優勝を有力視されている。なんでも二組の整備科志望全員が鈴のサポートに入ったと言う事だ。

 鈴は、セシリアの親友であると言う自覚がある。親友とはどんな時でもその所業にニコニコと笑顔で全肯定すれば良いだろうか?違う。それは友ですらない。

「ねえセシリア、アンタなんか勘違いしてない?」

「!」

「一夏と二人で決めたんだったら、アタシは文句なんか無いわよ。一夏とまとめて叩き潰してあげる。 でも、そしそうじゃないなら……アンタ達、長く続かないと思うわよ」

「――っ鈴!何を仰いたいんですの!?わたくしと一夏さんの関係は関係ないでしょう!?」

 鈴は相変わらず背を向けたまま、髪を拭いたバスタオルを首に掛け、深くため息を吐く。セシリアは本当にわかっていないのか、図りかねている。ここでセシリアの激昂を買っても何の解決にもならない。大事なことだと思うから、鈴は真っ直ぐと事態を受け止めようと思った。

 セシリアが一夏の為に整備を買って出ようと言うのは判らないことではない。助ける人間がいない状態と言うのはつらいものだ。何より一組には専用機持ちが多すぎる。結構な数の生徒が整備科志望という噂は聞いたことがあるけれど、クラスメイトだけでチームを分けた場合それでもどちらに進むのか決めていない人間に協力してもらわなければとてもではないが回りそうも無い。

 それでも、専用機勢が多いとしても少なくともセシリア、シャルロット、ラウラの三人はまぁ、安泰だろうとは予測していた。なんだかんだと皆クラスメイトとは良好な関係を築いているのは、よく一組に出入りしている鈴は実際に見ていたからだ。そういう意味では一夏も箒も良好な関係は築いているがISが特殊すぎる。

 だからこそ、セシリアは一夏のサポートをしようと思い至ったのだろう。けれど……。

「……アンタは、イギリスの国家代表候補生でしょうが」

 国家代表候補生で専用機持ち、この大会でのチーム編成ではややマイナス面が目立ってはいるけれど、だからこそ、そんなチームの整備班に入りたいと思う生徒がいるのも現実だし、何よりIS学園に入学した本分は他国に対するアピール。背負っているものが違う。その自覚は、セシリアが一番強かった。

 忘れてない? その真剣さが、ひたむきさが、誇る威風が、アンタだって。

 背を向けたまま、鈴は願う、その感情をセシリアが忘れていないことを。その上で今の判断を口にしていることを。その判断の上なら……。





――バタンッ

 言葉ではなく、鈴の背後で、荒々しく廊下に向かう扉が閉められる。深く深く息を吸い込みながら、鈴は天井を見上げた。きっとセシリアは一夏の所へ行ったはずだ、でも、まだ安心はできない。一夏への好意にひたむきなセシリアが嫌いなわけじゃない、でも、辞退してサポートに徹するなんて、それを選択してしまったらセシリア・オルコットはセシリア・オルコットではないと思う。きっと、一夏と二人でちゃんと話しあえば、ちゃんと、きっと。

「――っ」

 ふる、と身を震わせ、自分の肩を抱いて鈴はその場にしゃがみこんだ。そりゃ全裸だから寒いのもそうだけれど、不安だ、怖い。一夏の所に行ったのが、本当に忘れてしまっていたなら一夏はどうセシリアに言葉を掛けるんだろう。忘れてなかったとしても一夏にセシリアの目を覚まさせることができるのだろうか。任せるしかないから、不安で仕方がない。

 ……セシリアはここに戻ってきてくれるだろうか。それも重要だ。 鈴は唇を噛んで立ち上がると、セシリアのベッドに飛び込んで手繰るようにシーツを引き寄せてそれに包まった。

 新品のボディソープは、少し甘いセシリアの香りがした。





――――


凰 鈴音 チーム
 IS:甲龍
 パイロット:凰 鈴音(IS適正:A)
 整備班長:ティナ・ハミルトン
 整備班:12名

 ・中国の第三世代機。機体の安定性は同学年の第三世代機の中でも随一、運動性にも優れ格闘機として非常に高い完成度を誇る。唯一二組であることが幸いし、二組の整備科志望生徒の全員が彼女のチームとしてエントリーしている。同学年第三世代の中では最もパッケージのバリエーションが開発されている同機だが、換装には時間と微調整が不可欠であり、トーナメント大会期間中の換装は非常に難しい。よって、万能型であるベース形態での運用となると予想される。衝撃砲のノウハウにこそ特殊性を持つがイメージ・インターフェイスは衝撃砲のトリガーくらいにしか使用されていない。


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. | ll ! :::::::l::::::/|ハ::::::::∧::::i :::::::i     久々のクセに今夜はココまでってこと。

  、ヾ|:::::::::|:::/`ト-:::::/ _,X:j:::/:::l
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――――



 学生寮の食堂前、自動販売機が並ぶエリアで 織斑 千冬 は紙コップのコーヒーを一人飲んでいた。

「まったく、こんな時間に……」

 本来、弟である 織斑 一夏 には個室を割り当てていたのだが、いつかの夜に部屋の中で某国某代表候補生のレールカノンが暴発、部屋が吹き飛ぶという惨事以降、彼を自分の部屋に住まわせている。元々二人きりの姉弟だ、気兼ねする事も無い。

 無い筈なのだが……


――




――


「……こんばんは、夜分に申し訳ございません」

「」

 女生徒がこんな時間に弟を訪ねてくるなど、いい度胸としか言いようがない。一発凄みを利かせてお帰り頂こうと思った千冬がいかにも部屋着といった出で立ちに缶ビールを片手に不機嫌そうにドアを開けると、そこにいたのは思い詰めた表情のセシリアだった。

 千冬はそのままの姿勢で固まりながら考える。 何、いつかはある事だ。むしろイギリス旅行にかこつけて一発キメてみせろなどと煽る気持ちもあった。結局最後の一線を越えさせなかったのは自分だった気もするが、それは置いておいて、一夏とセシリアの交際は認めている。認めているどころか後押しすらしている。 しかしアレだ、ここは寮だ。そして私は学園の教師として、こいつらの担任として、そして寮長として。これは見逃しちゃまずいんじゃないだろうか……。 いやいやいやいや待て待て織斑千冬、私はこいつらの担任だ。それにセシリアにとっては義姉とも言うべき存在。義妹が相談に訪れる事に何の不思議が有る。そう、セシリアは私に用が有るんだ。

 ごくりと喉を鳴らす千冬を、セシリアは上目遣いに見上げ、か細い声を絞り出すように問う。

「あの……一夏さんは、いらっしゃいますか?」

 ―― 一夏 キ タ ー ! !

「んっ……あ? あぁ! 何? 一夏? い、い、い、いるが? それが? どうした? ん?」

 至極冷静に、クールビューティ 織斑 千冬 は壁に寄りかかり、缶ビールを一口傾けて喉をうるおす。そうだ、少し喉が乾いてしまっただけだ。




「お邪魔しても、よろしいでしょうか?お話したい事が……」

 飲んだビールを吹き出しそうになりながら、一息入れてから「教え子」の目を見据える。――存外マジなセシリアの目を見て千冬の方が視線を逸らした。

「……セシリア……おま、お前なぁ……!」

「お願いします……二人でお話ししたい大事なお話なんです……!」

 ―― 一夏あぁあー!! 何やらかしたあぁぁあー!?

 こめかみを押さえ、考え込む仕草の千冬だったが、数度、ちらとセシリアの方を見て、一度大きく深呼吸をすると缶ビールの残りを一気に飲み干すと、カン、と玄関脇の靴箱の上に空き缶を置く。

「―― 一夏ァ! ビールが切れた、買ってくる!

 セシリア、すまないが缶を捨てておいてくれ。台所に缶ゴミの袋が有るから」

 そう言いながら、千冬はセシリアの肩をすれ違いざまに軽く叩くと、部屋を出ていった。





――


「……しかし」

 飲み終えた紙コップをくしゃりと潰して、自室のある方向を見やる。

「……ど、どれくらいで帰るのが良いんだろうか……い、いや、そもそも良かったのか……二人きりにしてしまって……いやいや、あいつらだって節度くらいは、何より深刻そうだったしな、うむ。
―― そもそも……何の話だったんだ……!?
ま、まさか一夏のやつ、既に大人の階段を……! しかもまさか…… 来 な い とかそういぅ……いや、一夏に限って、一夏に限って……
って、それだと逆算した場合……! じゃない! 逆算してる場合じゃないだろう私ィ!」

 ぶつぶつと呟きながら身悶えうずくまる姉であった。



       ハヽ/::::ヽ.ヘ===ァ
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    ∧::::ト “        “ ノ:::/!
    /::::(\   ー'   / ̄)  |
      | ``ー――‐''|  ヽ、.|                 あ、今日はここまでだよ。
      ゝ ノ     ヽ  ノ |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



 来客の対応に出た姉がビールが切れたと言って出かけて行った。

 自分のベッド脇の床に腰を下ろし、ベッドを背もたれに週刊誌を読んでいた織斑 一夏 は首を傾げた。買い置きが冷蔵庫に有った筈だし、この時間にアルコール類が売っている所まで出る程呑みたい銘柄があるのだろうか?

「って……おいおい、あの恰好で……? 全く、千冬姉いくらなんでも気を抜き過ぎだろ……明日にすればいいのに
――っは! ま、まさか……いや、まさか、千冬姉だぞ?気を抜ける異性の同僚と……た、爛れた関係!?密会!?

 …………ははっ無いな。悪い冗談だ」

 疑問に自答しながらまた紙面に視線を落とす。一夏は電子書籍よりも紙媒体の雑誌が好きだった。弾あたりに言わせるとジジ臭いとのことだが、紙には紙の良さが有る。

 入口がぱたんと閉じられる音が聞こえる。人の気配が一度台所に移動してから、此方にやって来る。もう帰って来た?いくらなんでも早すぎやしないか。

 一応ここはIS学園の学生寮だ。建物内でアルコール飲料を入手できる場所は無い。購買も自販機も当然入荷がないのだ。なにやら生徒間の「裏ルート」が存在するという噂も聞いた事もあるが、学園唯一の男性でしかも教師の身内という身の上のせいか、一夏そういう話には深く関われないし、クラスメイトも関わらせてくれない。

 したがって、さしものブリュンヒルデといえども流通に関しては一般人。部屋で良く冷えたビールをスルメを齧りながら嗜む為には、学外まで出なければいけない。 一夏達学生にとってこの時間に学外に出るなんてちょっとしたプリズンブレイクばりの一大事だが、そこは教員の強み、何も難しい事は無く身分証さえ示せば出入りできるのだろう。これまでも何度かどうしても『最後のあと一杯』が我慢できず、買い出しに行く事は何度かあった。

 だが早過ぎる。

 学外まで出て寮に帰って来るまでいくらなんでも一時間はかかる筈だ。ISを展開すれば話は別だが、流石に千冬姉が自ら規律を破るとも思えないし、何より、千冬の専用機だった《暮桜》は、あの事件の後一夏さえ見ていない。


『…………ははっ無いな。悪い冗談だ』


 ―― まさか聞かれた!? 千冬姉に!?


 畏れと共に、手にしていた雑誌を捨てやって来た気配に全力で振り返る。もし聞かれていたならば金属バットのフルスイングの一回や二回は覚悟した方がいい。背後から受けるよりは正面から受けた方がいいと判断しての事だ。


 結果として一夏は、ダイブしてきたセシリアを顔面で受け止める事になった。




――


 無言の室内、サイドボードに置かれたアナログの目覚まし時計が秒針を刻む音がはっきりと聞こえる程に静かだが、一夏の耳には自分の心音がけたたましく響いているようで聞こえやしない。ベッドの上に並んで座りながら、ちらりと隣に視線を向けると、真っ赤になって唇を抑えて俯いてモジモジしているセシリアが見える。

 ―― 事故だ。

 背中に抱きつこうと飛び込んできたセシリアに対して勢いよく振り返った一夏、結果は顔面同士をしたたかに打ち付けるというムードもへったくれもないダイビングキスとなった。当然物理的には痛い。

「えっと……セシリア?どうしたんだ、こんな時間に」

 キスくらい毎日しているのだし別に今更とも言えるけれど、不意打ちのキスに恥ずかしがってこうしてもじもじして照れているセシリアが可愛い。 照れているのか鼻を押さえて痛みに耐えてるのかはちょっと判断に困るが可愛いからいい。視続けるのもいいが、流石に千冬がいつ帰ってくるかもわからない。

 それに、セシリアがこんな時間にやって来るなんて余程のことだ。以前の一人部屋だった頃なら目を覚ましたら誰かいるなんて事はザラだったが、ここは鬼の棲み家だ。目を覚ましたら窓の外に銀髪眼帯が吊るされている事は何度かあったにしても、正面から堂々と誰かがやって来るなんてそうそう無い。

「……ふぁい……」

 結構強く鼻を打ったからか、未だ少し鼻頭が赤いし涙目だったけれど、セシリアが顔をあげて真っ直ぐと此方を見つめてくる。別に見つめ合う事は珍しくも無い、珍しくも無いからこそ、今夜のセシリアの要件が甘い恋人同士の時間ではない事が、見つめ合うだけで一夏には伝わって来る。





 何を言わんとしているのか、大体のところはわかっていた。今回の大会が近づくにつれてセシリアの様子に微妙な変化があった。白式について技術的な質問が増えていた。勿論、教えられることは教えたし、秘匿情報以外は学内のデータベースにあるから、それをずいぶんと読み込んでいるようだった。それがセシリアが出場を辞退するという噂を耳にしたときに合致した。

 セシリアは出場を辞退し、自分のサポートに入ろうとしている。

「い、一夏さん。今回の試合、もうメンバーは決まりまして?」

「ん……いや、やっぱり白式って相当特別みたいでさ。ただでさえ第4世代らしいし、セカンドシフトまで進んでるし、その上男性用ISなんて他に無いだろ? まあでもセカンドシフトのおかげか自己修復能力が上がってるらしいし、雪羅のほうは騙し騙し使えばいいし、元々武装は雪片一本で慣れてるし……うん。大丈夫、何とかなるさ。

 心配してくれてアリガトな? セシリア」

 全く問題はない。わけはない。言葉とは逆に冷静に考えて圧倒的不利としか言いようがない状況ではあった。

 セカンドシフトによって発現した多目的腕部展開武装《雪羅》は、エネルギー兵器の尽くを無効化する無敵の盾であり、かつ、防御無視の攻撃を放つ遠近両用の武器である。これにより、近接ブレード一本という偏った装備の《白式》は格闘専用機から近接戦型の機体へと進化した。

 しかし、それでも欠陥機は欠陥機。

 ワンオフアビリティー《零落白夜》発動を前提としている《雪羅》は膨大なエネルギーを消費する。自己修復だけで賄い切れるほど甘い消費ではない事は使用者である一夏が一番判っている。自分でもある程度のメンテナンスはできるようにしているが、やはり専門の整備要員がいるのがベストだ。

 よって、トーナメント中《雪羅》はほとんど使用する事が出来ない。《雪片二型》一本のセカンドシフト以前の戦闘スタイルで勝ち上がれる程、今年の一年は甘い環境ではない。

 それを考慮すれば、セシリアの申し出は本当にありがたい。セシリア自身は勿論国家代表候補生として整備の道に進む筈はないが、一年生のカリキュラムとして履修する整備教練においては、下手な整備科志望の生徒よりも成績が良く、第三世代兵装に関しても所謂『特化型』である《ブルー・ティアーズ》を徹底的な理詰めの思考で扱うセシリアの理解は人一倍深い。

 パイロットとの相性も考慮した上でも、ベストなチームが組めるだろう。

(……でも、そうじゃないだろう?)

 一夏は、特異な生徒としてそれこそ世界中から注目は浴びている、でも、今の時点ではどこの国にも属していない。本人の与り知らない期待は無駄にされているだろう事は嫌というほど理解もしている。

 だが一夏が背負うのは本人の与り知らない所からの期待ばかりだ。

 セシリアは違う。国家代表候補生は、自分の生まれた国の国民、その中に当然いるだろう旧友達やその家族、様々な関わりの知己、身内からの期待を背負っている。






「ぁ……ん、べ 別に心配というわけではございませんのよ? でも、その……いくら白式といえど整備なしの連戦ではともすれば専用機以外に後れを取る可能性だってありますわ」

「そんときゃそんときさ、しょうがねぇよ。試合形式の相性が悪かったってことで」

 気楽に笑う一夏とは対照的にセシリアの表情は暗い。流石にもうセシリアにも一夏の言わんとしていることは判る。彼もまたサラや鈴と同じ。

 ―― 一夏と決めたことなの?

 部屋を飛び出る前に言われた鈴の言葉が重い。彼の為を想い選択したつもりで、彼と想いを同じくしていたのは自分ではなく親友だった。きっと肯定される、嬉しいと思ってくれる。その確認なんて本当は必要ない。でも、鈴の言葉に心は乱れ、念の為の確認に来ただけの筈だった。

 出来る事が有ると、そう思っていた。でも、二人の考えは違っていた。好きな人の為に、好きな男の為に尽くしたい。でも、尽くされることを望まれてはいなかった。 ―― 長く続かない。 脳裏に親友の言葉が木霊する。嫌だ、続かないなんて嫌だ、でもどうすればいいかわからない。この判断だって考えて考えて考えた末だ、その結果が……

(勝手な自分の思い込みで尽くす事を押し付けようとしていた……のですわね)

 気付いたところで、もう、遅いんだ。サラ先輩も鈴もこうならないように言ってくれていたのに。鈴にああ言われた時、いつものようにどうして言い返さなかったのだろう。あそこで口喧嘩でもしていたら変わったんだろうか。弱気が錆びた心に罅を入れていく。

「……わたくしは……一夏さんの為に今回は……」

「――セシリア、俺は大丈夫、大丈夫だ。だからセシリア、対戦するときは手加減なんかしなくていいぜ?」

「えっ」

 一夏は、座ったままそっとセシリアに近付き、互いの腕同士の体温が伝わる距離で、真っ直ぐとセシリアを見つめながらそう言った。

 驚いて顔を上げたセシリアの瞳に、一夏のいつもの柔和な笑顔が映る。






 セシリア・オルコットは出場を辞退しようとしていた。それはクラスメイトの前で、同郷の先輩の前で、同室の親友の前で公言した事だ。学内では真しやかな噂として別学年にまで広まっている。それは一夏も当然のように知っている事だろう。知っていなければ、一夏が察していなければ、こんな会話にならなかったろう。大体は知っているであろう前提で話しているセシリアとしては寝耳に水だ。

「一夏さん…………」

 知っているからこそ、出来る行為が有る。その行為を”しらばっくれる”という。辞退しようとしていた事は知っている。知っているけれど辞退なんかするべきじゃない。そんな判断、ら し く な い 。一夏は察している上で、セシリアの意向を『不利な条件を強いられた恋人の為に彼との対戦時に手心を加えようとしている』ものと誤認している風を装う。

(わたくしをあなたの前で意思を覆してしまう女にしないでくださいますのね……)

 この期に及んで、プライドなんて。そう思い自嘲してしまう程度には、セシリアのプライドは筋金入りだ。もし普通にサポートはいらない、セシリアは代表候補生として頑張れと言ったところで、一度言い出してしまった「辞退」と覆すには足らない。それならそれで、観客席で応援する。

 そんなセシリアだから、鈴は二人で決めていないなら「長くは続かない」と言ったのだ。一事が万事、こんな行き違いは今後も日常茶飯事だろう。どちらが先に参ってしまうのかはわからないけれど、鈴の両親がそうであったように、長くは続かない。例え完全に前言撤回で出場を決めたってそれでセシリアとの交際が長く続かないなんて一夏は思ってやしないのだけれど。

 そんな危惧をされるだろう事も、実際にセシリアはそうなった時気に病む事も一夏は百も承知だ。だから意志は覆させない、他ならない恋人の前で覆していない意志ならば。恋人の前の真実を現実にする為ならばセシリアの誇りは保たれる。そんな一夏の想いは見つめ合う瞳からセシリアに伝わる。自分のつまらない誇りを護ろうとしてくれる恋人の気持ちを感じ、セシリアは昨日よりついさっきより一層一夏が好きになった、惚れ直した。頬が緩みながら上気していくのがはっきりと自分でわかる程に。

 ―― 恥ずかしい、でも、顔を伏せたり出来ない。見つめているだけでも満たされる、愛おしい。






「……セ、セシリア」

 見つめ合ったままの二人の顔の距離が近づく。一夏が上体をセシリア側に傾けていた。鈍感だって思慕の念は普通にある。ムード的にタイミングが少し早いのにアクションを起こすあたりが有る意味鈍感らしいといえばらしい。周りが思ってる以上に一夏はセシリアが好きだ。

 一般男子の若気の至りも込みで。

「ひゃっ!? い、い、い、いち……かさン!?」

 腰に回される一夏の腕。男の力で引き寄せられる。衣服越しに脚と脚が触れ合う。このタイミングで?という困惑と、いつもはどちらかと言えばセシリアから触れていく事が多いから、というのもあるけれど、完全な二人きりでベッドに座りながら抱きつかれるという状況にセシリアの声が上擦る。

「な、なあセシリア……俺達……付き合ってるんだよな?」

「え、ええ、それは勿論、わたくしも一夏さんを愛しております、けど……ちょ……今は」

 セシリアの困惑を押し切るように、一夏は首筋に顔を埋め、髪の匂いとふわりとした触感に心地良さを感じながら唇をその首筋に近付ける。

「……っあ、一夏さ……ンンッ!」
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
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     ∧::::ト “       “ ノ:::/! ハァイ!出番がない方のヒロイン、モッピーでーす。
    /:::人ト ,__ 'ー'_, ィ:/         あ?今日?ここまでだよ。

    // /         \           ティッシュだけ置いときますね。
       /         ::::i. ヽ
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ラウラが当たった。

新歓シーズンなので、少しお待ちください。

地の分と台詞の間とか空改行を入れまくってきましたが

なんか空改行が多いと読みづらいという話を某スレで知りました

空改行取ったほうがいいですか?
私は空改行無いと自分の文章なのに逆に読みにくいんですが……

今日も飲み会あしたのもにかい


ウエディングモッピーチ様キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア in 池袋




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業務連絡

リアル落ち着いてきたので来週から書き始めます。




 女性と男性の体格差は、女尊男卑を是とされる今の時代であっても変わりようは無い。 女性にはISが使えると言っても世界の女性人口と対比すればISを有事に使用できる個人なんてちょっと考えれば普通に 不可能 な比率だ。 その後どうなるかは明白ながら、未だに痴漢被害が根絶したという話は聞かないし、以前にこっそり夜遊びしたセシリアと鈴が遭遇したような事件だって未だにある。

 まぁ、セシリアは 可能 なのだけれど。

「ンッ……ぁ……ぁん! もう……っ 怒りますわよ?」

 首筋に顔を埋め、ベッドにセシリアを押し倒している一夏の顔の傍で、青の輝きが起こった。

 ―― ズゴン

 思った以上にエグイ音がして、部分展開による物質化しながらの打撃で額を小突かれた一夏がベッドから跳ね飛ばされる。 幸いにして窓ではなく壁面に背中は辺り、べしゃりと床に体は転がった。 一夏もまた男性であるにもかかわらず 可能 な人間なので、バリアに護られてはいるので死亡という事は無いだろうが、意識を刈り取られてもおかしくない一撃だった。






 予想外の打撃力に自身の右上をセシリアは青い顔をして恐る恐る見上げる。 現在『クイーンズ・グレイス』パッケージを装備中の《ブルー・ティアーズ》には《B.I.T.》が12基搭載されている。 ゆうに三倍の数の《B.I.T.》を自在に操る現在のセシリアではあったが、使用者の慣れというものがある。 やはり、いつもの4基は特別、咄嗟の時にまず動くのは左前側のB.I.T.だ。 さて、話を戻すと、いつもの4基は、パッケージ換装によって近接戦要素に対応するため大型化されている。 打撃とは質量と速度であって いつもの速度 で 一回り大きい B.I.T.をぶつければ当然威力も増しているというわけだ。

 ―― やっちまいましたわ! 内心で叫びながら慌てて床に倒れた一夏に駆け寄り、傍らに腰を下ろして彼を抱き上げる。 幸い(?)外傷は無いようだ、やはり《絶対防御障壁》は偉大だと言わざるを得ない。 以前、対人(対クラスメイト)相手に通常装備のB.I.T.による打撃を連打して車田飛びさせた事が有ったが、それに比べて一応は手加減してるのだから多少威力が上がったくらいで死にはしないのは判ってるが「彼がタイミングも考えないで求めてきたのでカワイくデコピンしちゃった!テヘペロ!」のレベルではない。

「一夏さん! 一夏さん! ごめんなさい、加減を間違えましたわ!!」

「ぉ……おう……大丈夫、あいたた、目がくらくらする……」

 良かった、意識はしっかりしている。頭部の強打によって軽くめまいを覚えている程度のようだ。 安堵のため息を吐き、がっくりと首を垂れると、玄関から千冬が部屋に入ってくる音が聞こえた。

「な、なんだ! 何の音だ!?」

 ―― 流されなくてよかったですわ。 物音に即反応して部屋に入って来たという事は、部屋の前で聞き耳を立てていたにしても、本当に買い出しに出ていたにしても、別の所にいたにしても、まさかの目撃シーンとなった事は明白。 つい加減を間違えてブッ飛ばしたが、逸る彼さえ抑えられればこのままなんて思いかけてた自分の判断が今は恐ろしい。






「おっ、お、お帰りなさいませ、千冬さん。 ちょっと……その、B.I.T.の挙動について議論していた所つい白熱してしまいまして、一夏さんに当たってしまって……」

 ナチュラルに膝枕の姿勢で一夏を支える金髪義妹というのはなかなかなシチュで、これは突入は早まったかななんて一瞬思ってしまう。のだが。

「お帰り千冬姉、あれ? お酒買いに行ったんじゃなかったのかよ?」

 こっちもナチュラルに膝枕をされる姿勢で、片手で額を抑えながら、苦笑いを浮かべている。






 問題は……

「…………い、一……夏………………否。 織斑ァ…………」

 何と言っていいのだろう。何が有ったのかはわからない、ついさっきまで《ブルー・ティアーズ》が部分展開していたのも見ている。問題はそこに至るまでの話だ。 なぜセシリアが、ビットで一夏をぶん殴ったのか、そこが姉としては問題だと思うのだ。

 つまり、どうして、セシリアは部屋着のブラウスの襟を大きく肌蹴てブラが見え、しかも微妙にずれてる? という事だ。 まるで手でも差し込んで上から強引に揉みしだいたかのように。

「……おかしいな。私には 何 が 有 っ た の か は わ か ら な い が また貴様がやらかしたようにしか見えないんだ」

「!!」

 織斑一夏は戦慄した。 付き合ってまだ一年経っていないけれど、美人で明るい彼女とはとてもうまくいっている。 と、思う。 実技の成績も相棒《白式》はピーキーな性能ながらスペック自体は高くて、一応そこそこいい所にはいる。 学科は少しランクは落ちるけれど、それは単に男の俺がISについて学ぶ機会なんてものが無かった事を加味したら十分なはずだ。 だから最近は出席簿でぶん殴られる事も減って来た。

「いや! それ

 「あ、一夏さん、頭を打ったんですからそんな急に……」

       は……!」

 がばと額に当てていた手を慌てて体の横に着いて起き上がろうとした一夏の指が、まだ寝ていた方がいいと判断して、それを制しようと上半身を乗り出したセシリアの 何 か に引っ掛かった。 下から勢いよく引き上げられたソレは、セシリアの肌を質量による抵抗と包んでいたものを空気中に、重力下にまろび出した。

 ぷるん でも たわん でもいい。 一夏の耳には目の前で揺れるそれが音を発したように見え、そして、己の顔がその落下地点となった……至福だ。






――


 同時刻・五反田家

「…… 一夏?」

「何? いきなり一夏さんがどうしたの」

「いや、なんか一瞬あいつの声が聞こえた気がして……」

 鏡のように室内を映す夜の窓を見ても、その向こうに親友の姿は無い。 ある筈がない、女の子に囲まれたうらやま寮生活を満喫してきっと毎日のようにラッキースケベを味わっている事だろう。いや、今は彼女ができたと言っていたからそれ以上なのだろうか。 妹に気持ち悪いものを見る視線でマジ蔑みされながら、弾は窓に近づいて夜空を見上げるのだった。



 ―― なぁ、弾。 お前知らないだろ?

       おっぱいって意外と重いんだぜ。



 その夜、寮長室を震源とした局地的な揺れが、学生寮を一瞬揺らしたという。






――


織斑 一夏 チーム
 IS:白式・雪羅
 パイロット:織斑 一夏(IS適性:B)
 整備班長:不在
 整備班:0名

 ・世界唯一の男性ISパイロット。専用機である《白式》はセカンドシフトにより多目的腕部展開武装《雪羅》を備えた世界二機目の第四世代機《白式・雪羅》へとバージョンアップしている。IS適性こそBという診断を受けているが、他の国家代表候補生達に先んじてセカンドシフトに至り、度重なる事件の渦中にあり続け成果を出し続けている事等、他の専用機を持つ各国の代表候補生たちとも実力的な遜色は無いとされている。しかし、その特殊性ゆえに今回は自己メンテナンスのみでの参戦を余儀なくされている。また、先ほど入ってきた情報では怪我により大会そのものの参戦すら危うい状況との事。


――



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 翌日・お昼休み

 いつもの屋上、一夏を中心に少女達が集まるのは一夏とセシリアの交際が始まってからも続いていた。特にやめる理由も無いし、なんとなく、誰が言い出すわけでもなくここに集まり、お弁当なり談笑に興ずる。

「ま、やっぱ出場辞退なんてアリエナイでしょ、そんなに出たくないなら一回戦でアタシと当たる事でも期待しておきなさいよ? ギッタギタにしてあげるわ! んで?一夏は今日はどうしたのよ?」

 鈴が紙パックのコーヒー牛乳を軽くストローで啜りながら、一組の面々に問う。 昨夜の時点でセシリアから報告は受けてセシリアも一夏もちゃんと別々に出場する事は知っていたが、鈴としてはそういう結論に至ってくれた礼を一夏にしたいとは思っていた。 勿論面と向かってはっきりと言うのは気が引けるから、からかい半分に。 ところが、今日はその一夏の姿を見ていない。

「それが……その……」

「うむ、何やら昨夜あったらしくてな、医務室だそうだ。 こんな大会前の大事な時期に体調管理もできないのかあいつは、まったく」

 セシリアが言い淀み、箒が腕組をしながら嘆息する。確か昨夜はセシリアが一夏に会いに行っていたはず。 セシリアの様子から何か話し合った以外にもあったとは思っていたけれど、まさか翌日休む程とは。

「セ、セシリア、アンタ昨夜一夏と何してたのよ……!?」

「何ッ!? セシリア、お前まさか!?」

「はぁ……セシリア……そういう事はもっと慎ましやかにやるべきだと思うなぁ。 まだ僕達学生なんだよ?」

「ふむ、シャルロット何の話だ? 夕べは話し合いの為に二人は会っていたのではなかったのか?」

「…………ボーデヴィッヒさん」

「ご、誤解ですわ!!」

 よくわかっていないラウラ以外の4人が赤面しながらセシリアに詰め寄る。 何をしていたとの問いではあるけれど、言いたい事は明白だからセシリアも即否定する。 ある意味間違っても居ないのがより困った所だ。






「しかし……セシリアあんた30分もしないうちに帰って来たわよね?」

「何ッ!? 鈴、それは、その、流石に……早くないかッ!?」

「コホン……ボクは時間の問題じゃないと思うよ! うん」

「なあシャルロット、だから何の話だ?」

「……ボーデヴィッヒさん、そこは後で」

「そ、それもタブン誤解ですわ!!!」

 首をかしげているラウラ以外の4人が赤面しながら30分と言う時間を指折りで何やら逆算している。セシリアとしては即否定したいところだけれど、残念ながら真偽の程はわからないのが困った所。 ともあれ、いい加減こんな誤解の応酬は終わらせるべきだ、セシリアがコホンと皆に聞こえるように咳払いをして、

「ただ単に昨夜千冬さんが一夏さんを折檻なさっただけですわ。 それだけ、それだけですのよ」






 真相を聞き、反応は各人まちまちながら一様に無言だった。 特に鈴は深々と溜息を吐きながら首を左右に振っている。

「な、なんですの? その反応は」

「セシリア~……アンタほんとわかっちゃいないわ、なってない」

「うん、ボクも今のは無いと思うなぁ……」

 シャルロットまで鈴に同調してくる。 しかし無いと思う等と言われてもセシリアとしては一夏が早いと誤解(?)されたり、しても居ない事をしたと言われるのは避けたいのだからさっさと誤解を解く以外に無い。

「学内唯一のカップルなんだから、このくらいはガールズトークのネタにしておいてほしいな。 それで困るならその程度って言ってるようなものだよ」

「まぁその程度云々、腹黒いのが揺さぶりかけてるのは無視するとして、それ以外はあたしも同感。 もっとドンと構えてからかわれなさいよ」

 シャルロットが含みのある、目の笑っていない表情でクスクスと笑い、鈴はイヒヒと唇の片端を上げて、意地悪く笑う。 セシリアはさっきの無言の反応からがみんなのいつもの冗談と分かれば、わざとらしく髪を指でさっと払い、殊更語気を強めた。

「お断りしますわっ! まったく、どうして好き好んでからかわれ無ければいけませんの?」

 そして、セシリア、シャルロット、鈴の三人は一拍置いてから三人でクスクスと笑い合うのだった。






「……それにしても……専用機持ちのうちこれで二人が織斑先生の手で出場辞退の危機とか、大丈夫なの? あの先生。 教師として」

 4組の更識 簪にとって、織斑先生はただの一組の担任だ、一夏の実姉であることも知っているが、特に深い面識があるわけでもない。 大事な生徒の現状を評価する為の大会前に、担任クラスの生徒二人に動けなくなるレベルの鉄拳制裁を下しているのは問題ではないのか? まして第一の被害者であるラウラはドイツの国家代表候補生、一夏は世界唯一の男性IS適正者だ。

「………………」

 場の空気が固まった。誰もが一度は思っていた事だが、疑問を感じてしまったらいけないと思っていた。『ひょっとして織斑先生って暴力教師じゃね?』付き合いが短いからか、簪からあっさりとその疑問が出てきたことに戦慄する。 どこで聞かれているかもわからないのに、この眼鏡は命が要らないのか!? と。

「すまない、コメントを控える……ボッチな姉さんにとって唯一の友なのだ……あれでも身内なのだ……くっ!」

「……え、ええと、あ、アタシ二組だしそういうことはわかんないかなー」

「ちょっと鈴ッ! 逃げる気ですの!? 貴女いつも一組に出入りしてるし実技は合同じゃありませんの!」

「更識さん。 八割ダメだけれど、ボクらは権力には逆らえないんだよ」

「問題ない。教官に間違いは無い」

 五人の回答を聞き、簪は頭が痛くなってきた。ラウラにいたっては自分も被害者のはずなのだけれど無駄に誇らしげだ。 そういうものなんだとでも思うしかあるまい、時計を見、ちょうど良い頃合かと弁当箱を片付けて簪は立ち上がる。

「……やっぱり、一組って変なクラスだわ。 ――じゃ、私は整備があるから」



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報告も出来ずごめんなさい。短いけれど続き。
心配なのはトリこれであってるかな・・・

おけ




「う、うむ、そういえば簪の整備班はうちのクラスの布仏だったな、よろしく言っておいてくれ」

「……箒、昼休み終わったらどうせ会うんだからよろしくもないでしょ。あなたはどうなの?……織斑君は一人で出るみたいだけれど」

 はじまりのIS《白騎士》を含めてもおそらくは世界で二番目。コアから何から、全てが一人の為にカスタマイズされた個人専用IS《紅椿》のパイロットである箒にとって、整備班探しは不要とさえ思えるものだ。 何しろ《紅椿》のワンオフアビリティ《絢爛舞踏》は無尽蔵のエネルギー循環機能を有している。 発動さえすればシールドエネルギーは全回復し、全身が展開装甲ゆえにあらゆる武装はその場で紅椿自身が展開する。構造上実弾射撃武器こそ無いものの、格闘戦から中距離戦までを行える多機能刀をメインウエポンとして標準装備しており、全く隙が無いと言って過言ではない。

 更に、どういうわけか、個人専用IS故か、一般的なIS適正がCの箒も《紅椿》搭乗時は適正S相当に引き上げられるという。IS適正Sとはそれこそ"初代ブリュンヒルデ"織斑 千冬に並ぶ適正であり、世界中探したところで5人といまい。

 その超スペックの機体とパイロットには、学園側からさえも緘口令が布かれる程の最重要機密の宝庫であり、一夏の白式以上に、学内のデータベースで参照できることが限られている。

 一般の生徒にとっては、まさに深謀遠慮の存在と言えた。





「うむ……それがな……まあ、なかなか上手くはいかんものだ、何! 気にするな。 簪、お前がよければ刃を交えたいものだ、大会の舞台でな!」

 箒が明るく笑うのが、痛々しい。 《紅椿》は彼女が望んで得た力だと、そう聞いている。 それが何の為なのか、それが判らないほど簪も疎い女ではない。 そして箒の望んだそれはこの場にいる誰もが判っている。 判っているからこそ、鈴も、シャルロットも、ラウラも、そしてセシリアも、何も言わないのだ。 結果としてセシリア以外の誰もが泣く結果にはなっても、結果として一夏は幸せなのだから。

「……箒。 良かったら《打鉄弐式》の調整、付き合わない?」

「簪? いや、しかし、いいのか?」

 簪は他人に《打鉄弐式》を触られる事をあまり好まない。 それは紆余曲折あって周知の事だったから箒は躊躇うような反応を見せる。 しかし、そんな箒の応答は箒にしてはしどろもどろなものだ。 箒は大会前のこの時期、対戦相手になるかもしれない友のメンテナンスを見るという行為を是とするような女ではない。







 しかし、いかに《紅椿》がスペック上で最強の機体であろうとも、いかに《絢爛舞踏》が出鱈目もいい所のワンオフアビリティであろうとも、どこまで行っても《紅椿》はISである事に変わりは無い。 天才と呼ばれる姉でさえ《紅椿》をリリースする際には、普段世界中から探されても見つからないくせに、わざわざ姿を衆目に晒して直接現れ、試着と微調整を行ったのだから。

 だから、簪の申し出は本当に嬉しいのだ。聞くところでは《打鉄弐式》は《白式》と開発期間が重なっており、構造や駆動系に近似の設計が多く見られるという。 また、束が《紅椿》を白と並び立つ者と称したように《白式》と《紅椿》にも共通点が多い。 これは束が意図的にそうしたのだろう。

「構わないわ。 いつも私と本音ばかりが見ているから、たまには他の視点からの目も欲しいし……行きましょう?昼休みが終わってしまうわ」

「あ、ああ! ありがとう簪! 恩に着る。 すぐ行く待ってくれ!

 ――すまん、そういうわけで私も」

 おにぎりを包んでいたアルミホイルをくしゃくしゃに丸めながら、その場にいる皆に声をかけ箒も立ち上がり、一足先に歩き出した簪と共に校舎の中に戻って行く。




「良かったじゃない、いってらっしゃーい」

 鈴がその背中に手を振るのを見ながら、セシリアも、シャルロットも、ラウラも、晴れやかな気持ちでほっとする。大会の性質上、自分に着いてくれた友人達の為にも、協力を申し入れるわけにはいかないけれど、誰だって箒にも一夏にも一人参加なんかしてほしくない。正式なメンバーじゃない立場でも、少し手伝うくらいはしたい。 比較的日の浅い、どこかクールな面のある簪がそれを言い出してくれた事は、二人が良好な関係を築いている事の証であり、ひいては自分達と簪の距離を縮めてくれるような気がした。


「で、セシリア。 お前は?」


「何がですの?」


「…………」

 ラウラの問いにきょとんとセシリアが問い返す。そう返って来るとはシャルロットも、鈴も、問いかけたラウラさえ予想できなかったから、三人は唖然と言葉を失うのだった。



――


更識 簪 チーム
 IS:打鉄弐式
 パイロット:更識 簪(IS適性:B+)
 整備班長:布仏 本音
 整備班:1名

 ・IS学園現生徒会長、更識 楯無 の実妹にして、日本の国家代表候補生。搭乗する打鉄弐式は元々は倉持技研開発の第三世代参入機として、代表候補用に開発が進められていたが、第三世代兵装搭載に至る前に世界初の男性IS搭乗者が国内に現れた為、開発のリソースを《白式》に奪われ、搭載されるはずだった第三世代兵装の実装を先送りにされ、第二世代型として仮完成されたという不遇の経緯を持つ機体。現在は未完成だった第三世代兵装《マルチロックオンシステム》は簪や学園の整備科生徒たちの手で完成、搭載しており、同時に複数の目標に対して追尾性の高いミサイル兵器での飽和攻撃を実現している。整備班は一人だが、布仏 本音は一年にして既に二年の整備科生徒に引けを取らないと噂されており、更にパイロット自身の整備技術も非常に高い。二人と打鉄弐式はここまで共に歩んできたチームであり今大会のルールにありながら「ほぼいつも通り」のスペックを発揮できる優勝候補筆頭チームである。


――


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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

このまま立ち消えるつもりは無いんですが、仕事忙しくて書く時間がマジでない。
書き溜めもひと段落書いて終わりとかなので月刊誌のおっそい連載くらいの区分で見てください……。

一つ誓えるのは、次回はバトル開始。




ところでさ、イズル新作発表したけど講○社でIS続けるとは一言も言ってねぇのよ……どういうことだよ……




 肘を抱き、顎先に指を添えながら、学園の廊下を早足にセシリアが歩く。まずい、まずいですわ。

『あんたねえ! 出る事にして満足してたわけ!? メンバーはどうするつもりよ?って ずーっとアタシは言ってたんだから! 何度も! アンタアタシと対戦するまでせめて動く状態でもたせなさいよね』

『うん、セシリアは一人で出ればいいと思うよ。 辞退は逃げたと判断するからね?』

『ナギは私のチームだぞ、やらんからな!』

 屋上での友人達の言葉を思い返す。 ……おかしい、箒さんの時と扱いが違う気がしますわ。 ああ、わたくしには彼氏がいるからですわね。

「ふっ……ふふ、そ~うでしたの! ええ、そうですわよねぇ~。 そう思うとあの三人の冷たい扱いも余裕で流せますわ。 何しろわたくし、一夏さんのカノジョですもの! しかも一夏さんのお部屋で一線をこえそうになったんですもの! い、イギリスでもそうでしたし、ふふっ、男の子かしら、女の子かしら……楽しみですわ~ぁ」

 未遂であって一線は超えてないのだから男の子も女の子もないのだが……それは一旦おいておいて、実際失念していたのだ。 一夏の件でいっぱいいっぱいだったが、いざ出場するとなってみれば成績上位の整備科志望生徒はこの大会にかけるモチベーションも高く、既にチーム結成済み。 ついでに思い出してみればクラスメイトの目の前で辞退宣言を既にしていた。 かなりまずい。 何しろ、一般生徒から見て専用機がかなり特殊な存在なのは間違いないとして、同様に専用機持ちにとってもそれは特別な存在だ。 我儘かもしれないが、気心の知れぬ人間に触らせたくは無いものだ。 この大会では例年同じクラスでチームを組むことが多いのに、今年の1組には専用機持ちが5人も集中している。

「ええっと、鏡さんがラウラさんの所で、シャルロットさんの所にも相川さんを中心に結構な人数が行っていましたわね! 鈴が二組なのは助かりますわ……。」

 二年になって整備科に入るのは全員ではない。 当然専用機持ち以外の大会出場者だっている。ひとクラス30人程いたならば5人1組で6チームは組まれるのが普通だ。 一組はうち3チームがラウラ、シャルロット、一夏で既に確定している。 一夏と箒の二人は現時点では整備班が0人なので、まだ無所属になっている生徒はいる可能性があるが、辞退宣言してしまったからには、既に別の普通科志望の班に組み込まれている可能性もある。 専用機組と違い、《打鉄》を使用する一般生徒の方が整備班として入るのは非常に敷居が低い。 勿論、例年の通りの結果であれば、汎用機である《打鉄》が専用機を相手に勝利するどころか、まともに戦えるかも怪しい為、好成績は望む事は出来ないであろうが。

 つまりこのままでは、セシリアは取りまわしの利きづらい『クイーンズグレイス』パッケージのまま、第三世代なのにサポートなしの一人参戦となってしまう。 国家代表に選出される以上、整備に関しても十分なスキルを有しているにしてもパッケージの換装となるとわけが違う。しかもそのパッケージは最新型の特殊にも程がある仕様だ。

 一縷の望みをかけてセシリアは自分の教室、一年一組へと向かったのだった。




「失礼しますわ――きゃっ!?」

 フリルに飾られた改造制服のすそと長い髪、そしてドリルを靡かせてセシリアが走る、走る。勢いよく教室の扉を開けたところで、丁度出てきた生徒と正面からぶつかってしまう。

「あたた……もー、危ないじゃない、って、セシリア?」

「あいたぁ~……――っは! これはッ……!! 流石わたくし! ナイスタイミングですわ!!」

 互いに尻餅を着き、ぶつけた額を撫でる相手を見て、セシリアは目を輝かせる。 おでこがジンジンと痛むけれどそんな事は構わない。 がばっと上半身を起して、廊下に膝を着いたままぶつかった相手の手を両手で確りと掴んで迫る。 ここを逃しては整備班なしで参加になってしまう、お願いできる最後のチャンスだった。 セシリアとぶつかった拍子に、相手の手から落ちた「チーム参加申込書」は何としてでも書き直してもらわなければならない。



 何 と し て で も 。


 セシリア・オルコットの本気が、今、炸裂する――。



 ――それは、またの機会に。



 そして、大会開催日がやってきた。今回の趣旨はあくまで生徒自身のこれまでの積み重ねと、二年に進級してから、更には遠く卒業後の進路に対する現在の自己の位置をはっきりと自覚するための予習という点を踏まえ、今年の一年生は一日一試合の3回戦トーナメント形式で行われる事となった。
 二年生はまさに本格的にISに携わるようになった成果を見るために一日三試合行う過酷なリーグ戦。 
 三年生は半ばエキシビジョンとして通常のトーナメントが行われる。 何しろ三年生ともなれば整備科も普通科もほぼ完全にプロであり、一日何試合だろうが整備不良が起こる可能性が非常に少ない為、どうせハードルを上げても面白くないという判断だったりもする。

 万全の態勢で大会に向けて調整を進めるシャルロットチームと鈴音チーム、一年優勝はこのどちらかというのが校内での下馬評で、大きな声では言えないが"オッズ"も大本命。 操作技術の差で"天才パイロット"シャルロットが一番人気だ。

 そんな評価は鈴にとっては当然のように面白くない。 鈴がISに触れた期間は意外と短い。 中学二年で中国に渡り、検査を経て選出されたのだから、およそ一年ちょっとといった具合だ。 これは各国代表候補生でも最短である。 そんな彼女が中国という世界最大の人口をもつ大国の代表候補に選ばれ、第三世代IS《甲龍》を与えられたのは、類稀な天賦の才があったからと言うほかない。

 適性だけではない、操縦技術であっても、鈴は何百何千何万という国民の少女達の中から選ばれたのだ。

 ただ、セシリアのように吹聴する事も、シャルロットやラウラのように長年の経験で磨かれて目立つわけでも無いというだけで、事純粋に才能というだけで言うならば、鈴こそが紛れもなく天才と呼ばれるに値する類の人材である。

「鈴、情けない負け方しないでねー」

「ったり前でしょ!  ――ってか……負けるもんですか! 《甲龍》発進よ!!」

 ごうと風を巻きながら赤と黒の機体が空に上がる。 今日の空は晴れ渡っており、アリーナの観客席も満員。 一年生の一回戦第一試合ということもあって、これから始まるバトルへの期待感も強く、鈴の機体が登場した瞬間に上がる歓声も心なしか大きかった。






――――――


「――やっぱ、気になるわね」

 軽く衝撃砲の砲口を動かし、反応をチェックする。 どうも相変わらず右の砲口がやや射角を開くのが遅い気もするが、鈴自身も立ち合ってその症状を検証したが異常は発見されなかった。 鈴自身の成長が《甲龍》を上回ってしまったということだろうか。 とはいえ、バージョンアップまで出来る筈もなく、それまでの間に合わせとしての矯正スクリプトを整備班が急ぎ作っている最中だ。

「ま、仕方ないわね! 頑張ってくれてんのに無駄にしちゃ悪いから、勝ってあげるわよ……! さぁ、舞台は整ったわよ?」

 大型の片刃剣を抜刀し、柄同士を連結させブンブンと回してから見栄を切るようにポーズをとる。 初戦の対戦者が空に上がって来ると同時に、アリーナ全体から良く見える大型のモニターに派手なインストミュージックと共に第一回戦のカードが表示されたのだった。







 第一回戦 第一試合

《フランスからやってきた貴公子》
   シャルロット・デュノア vs 鳳 鈴音
               《暴・走・酢・豚》







 尚、今大会から各選手には在校生がリアルタイムで応募した二つ名がランダムで表示されることとなったそうだ。





――――


「っククク、記念すべき一回戦で酢豚か……」

 その仕掛けを上層部に言わず許可を出した千冬がモニター室で肩を震わせて笑っている。

「お、織斑先生! ほ、本当にいいんですかこれ!」

「構わん構わん、生徒会がやりたいと言って来たのだ。 それに小娘どもにとっては大会は祭みたいなものだろう、このくらいは許してやれ」

「いや、私が許すとか許さないとかじゃなくてですね!?」

 山田先生のヘッドセットに先程からけたたましく呼び出し音が響いている。流石に放置の限界を感じてそれに応答した瞬間、鼓膜が破れそうなほど怒鳴られた。

「ひっ!! あ、はい、いえ、その、これはですね……!!」

「っくっくっく……くははははは! ――じゃ、頑張れよ」

 一頻り、ヘッドセットの向こう側にも聞こえるように笑うと、くるりと踵を返し千冬はモニター室を出ていく。 追おうに試合中はモニター室を離れられない山田先生の悲痛な叫びを背中に受け、千冬は愉悦を感じていた。

「ちょ!織斑先生!? 先輩! 待ってぇ千冬センパ~イ!!」





――――


「――おっ、そりゃそうだよな、下手にオリジナルで作曲するよりもこのほうが良いに決まってる、盛り上がるじゃんか」

 観客席で聞こえ始めたインストの入り部分で一夏がピクリと反応する。良く知っている格闘ゲームの対戦前デモの曲を使っている。放送部にも”わかっている”奴がいるようだと満足げに笑みを深める。周囲はそれどころでなく、笑いで盛り上がっている中なのだが。

 そして、周りとは違うのがもう一人、一夏の隣に座っている。

「ところでセシリア、何してるんだ?端末なんか開いて。」

「……ふっ。 ――えっ?あ、ちょ、ちょっとお仕事の方で!もう終わりましたわ!」

 セシリアは覗きこんできた一夏から隠すように、開いていた応募完了画面を閉じ、恋人に微笑みかける。 そして、表示されている対戦カードと、ここまで肉声で聞こえてきそうなほどキーキー言っている親友を口角を上げながら見つめるのだった。





――――




「誰よコレェ!?」

「フフッ、そういえば鈴いつも酢豚だもんね」

「うっさい! 好きだからって酢豚なんて呼ばれたいなんてこれっぽッちも思ってな………………」

 思わず言葉を失う。 鈴の見開かれた目には、見なれた友人の山吹色の機体を纏った姿がある。いや、見なれたというのは嘘だ。 こんな姿の彼女を鈴は見た事が無かった。



        ___      -‐z _
        ヽ__>ァ'´  /: : : : : :`: .
          f´: : : : : }∠ イ:/: : : : : : : : :\
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       / : : : /: |_,人 l(|八 | ゞソ   ノイメ、: : :!
     / : : : / : :/‐vヘ_| : : |" _   ´ =ミY: : :/:|
   / : : : /: >''⌒ヾト | : : |/`^ヽ、 ' ,.ィ|: :{/ハ!

.  / : : K´ : /,     !ト| : :八  ノ  人 :/V|  }    続くッ!!
  i : : /| `ヾ l      !|l|: ∧ーz:一う´: : :/  ′/
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    i: : lト、   《     Y/ミxイ::`{r─ }
    |: : :ゝ`ヽ リ     〃「`ヾ::ヘl!ノ´ハ



――


≪どう?シャル、いけそう?≫

「うん。 十分だよ」

≪よかった。 でもごめんね、切り札だったのに……≫

「いいんだよ、そもそも切り札は初見の相手に使うからこそ本当に切り札だしね。 《灰色の鱗殻》はとっくにタネが割れてただの高威力近接格闘武器に過ぎないよ。 むしろこれはこれで本当の切り札になったと言えるんじゃないかな」

 彼女はいい技師になれる。 失敗に直面した時に即座に新たなプランを提示する機転の早さはデュノア社にスカウトしたいくらいだ。 笑みを口元に零しながら、対戦相手の鈴が待つ空へと上がる。今からこれで彼女を貫くと思うとゾクゾクしてくる。 シャルロット・デュノアにとってISは決して親しみと愛情を連想させる思い出とともにあるものではない。 言葉も交わさない父の、ガラス越しの実験動物を見るような目。 およそトラウマにこそなれ、好きになれるようなものではない。 だが、自分でもわからないほどにシャルロットはISが好きだった。 はじめは、好きになった男性と自分の共通事項だからだと思っていた。





 でも、彼は馬鹿なブロンド娘に騙されて去って行った。 とりあえず自分もブロンドだということは別の話で。 それでも、シャルロットはISが嫌いにはなりきれなかった。 そして、前回の敗北で気付いたのだ。

 ――ボクは、ISの戦いが好きだ。

 対戦者が次々と切り替わる武器への対応に追いつこうと気迫を見せるのを見るのが好きだ。 攻め手に回っていた対戦者が、此方の罠に気付いた瞬間のあの表情が好きだ。 防戦一方に回りながらも凌ぎ切ろうとしながらも、弾幕に確実に削られている事に焦りを感じているあの息遣いが好きだ。 とうとう成す術も無くなった、最後の切り札を無効とした瞬間のあの目には恍惚さえ覚える。 だから、完全に動けなくなるまで……。

 鈴の体にコレを打ち込む瞬間を想像しながら、唇を舌で濡らす。 試合が終わったら換える下着の色を選びながら、呆気にとられた表情の鈴に笑いかけるのだった。

「おまたせ。 まさか一回戦から借りを返せるなんてね。運が良いのか悪いのか……。 ――そんな顔してどうしたの? 鈴」

「アンタ、何よ……? 何なのそれ!?」

 第二世代型である《ラファール・リヴァイブ・カスタム》は拡張パッケージが無い。ただし、シャルロットの機体にカスタムの名が冠されている通り、それは全く換装が出来ないというわけではない。あくまでパッケージングされた換装が出来ないというだけの話だ。

「そうだね……名付けるなら《ラファール・リヴァイブ・カスタムIII "シュヴァリエ"》って所かな」

 左腕に肩部シールドと一体化した長大なランスを携えた山吹色の機体の印象は、まさに"騎士"であった。





――――

 試合開始のブザー。 先に仕掛けたのは鈴だった。

「女王だの騎士だのと、アンタ達ユーロの連中はどうしてこう……!」

 ブーストを吹かしながら間合いを詰める。 長柄武器相手ならば遠中距離から衝撃砲の連射で押し切る事も考えられたが、相手はシャルロットだ。 現時点で銃器を取り出していないように見えても、その実あらゆる距離に対応できるよう、瞬時に取り出す準備ができている火器がある前提で考えた方が良い。 離れた事でより不利になる可能性があるのならば……。

「刃を着けるべきだったわね!」

 ランスの見た目から来る威圧感は確かに凄いが、それは武器として優秀かどうかという事には繋がらない。 これが《ブルー・ティアーズ》のクイーンズグレイスパッケージのように力任せの大推力スラスターを搭載しているような相手ならランスチャージによるヒット&アウェイという戦法もあるのだろうが、ラファール・リヴァイブにはそこまでの大推力もなければ、そんな装備もしていない。 近接武器の延長としてランスを装備している。 それも片側にだけ、装備位置は肩盾だ。

 鈴は小刻みに、シャルロットを中心として時計回り、即ちシャルロットの右側に踏み込むようなクイックなターンを混ぜながら間合いを詰めていく。

「判り易く死角を狙ってくるね……」

「見栄えだけのビックリ武器なんか使うからよ!」





 ランスのような大型刺突武器にとって、自分の体を挟んだ対角は、有効な刺突範囲の外、つまりは死角となる。 体を捻りさえすれば、先端を相手に向けることは可能だろうが、そこからの突きなどはまさしく小手先の技。 速度と体重を乗せて突ききるには不十分。 しかもシュヴァリエのランスは肩楯に連結されており、手持ち以上に有効と思われる角度は狭い。

「勿論、その死角はボクも承知してるけどね」

 当たり前のことだが、ランスにとっての死角はシャルロット自身の死角ではない。右手を腰だめに構えながら、鈴の回り込む角度に合わせて射角を調節するイメージを作り、射撃タイミングで初めて手にSMGを呼び出し、マガジン一本を打ちつくす勢いでトリガーを絞る。

――――

「流石はシャルロットさん……口惜しいけど上手いですわ」

「え?今のって普段と何か違うのか?」

 観客席でセシリアがいつになく真剣な表情で級友の挙動を評する。

「一夏さんは普段、例えばわたくしや簪さんのような射撃タイプと戦う時、どこをご覧になっていらっしゃいます?」

「……えっ」

 問いに対し、一夏はギクリとして視線を緩く泳がせる。 そういうことを言っているのではない。 自分と簪の体を比較して見ているのなら其れは其れで構わないがそういうことではない。 だからセシリアは唇を尖らせた。






「いーちーかーさぁん……? どうして赤くなるんですの!?」

「……いや! ――やましい所は見ていないっ!」

「その『間』がある回答については後でゆっくりお聞かせいただきますわ。
 ――コホン。 兎も角、銃器の弾速というものは、通常生身では『視てから避ける』なんて事はできたものではありません。 IS搭乗時でしたら、積んでいるハイパーセンサーの性能ですとか、例えばラウラさんの『眼』のような副次要素によってそれも全くの不可能ではございませんが、それでも完全ではありませんわ」

「まぁたしかにそうか、でも……」

「ええ、そうです一夏さん。 実際一夏さんは避けなければ始まりませんから、避けているわけです。 私が言いたいのは、回避するためにどこを見ていらっしゃるのか、ですわ」

「ああ、そういうことか……って言われてもなぁ、実際に戦っている最中は、そこまで意識していないから……相手がどこを見ているか、あとはどんな武器なのかと……銃口の向き……ああ! そうか!」

「正解ですわ。 予測して、当たらないように動く。 それが射撃武器を避ける、という事に繋がりますの。 今のシャルロットさんの動作は、射撃の瞬間まで武器を見せないようにしていた。 いえ、見せないどころではありませんわね、《高速切替》による呼び出しの速さを利用して射撃の瞬間までシャルロットさんにしか何を使うのか、どこに撃つのかさえ分からない」

 一夏もわかったのだろう事を見てとると、セシリアは一つ頷きながら、その一夏の気付きを代弁するように言葉を続ける。

「今回は小口径のSMGでしたから、多少当てられたところで《甲龍》の装甲でしたらダメージもあまり見られません……。 しかし、今と同じように撃たれたら被弾を覚悟しなければいけない。 それが重要なのです。 これがショットガンやグレネードランチャーだったなら致命傷になりますわ……。 こうなってしまったら鈴は死角だからと下手に回り込むこともできなくなったわけですわね」

「……きついな、正面から戦うにしてもどう見てもあのデカイ槍は威力も大きそうだし……でもセシリア、だったらどうしてシャルはわざわざ効きもしないサブマシンガンなんか使ったんだ?今の一撃で決めることだってできたはずだろ」

「そこがシャルロットさんのエグ……もとい、上手いところですわ。 なぜSMGだったのか? と考えると軽量で反動も軽いSMGだから今のは当たった、という見方もできますの。 ですがその答えはシャルロットさんにしかわからない。 SMGという《甲龍》相手では死んだも同然の武器をこのタイミングで使う事によって《甲龍》のお株を奪いつつ揺さぶりをかける一手にしたのですわ」





――――

 SMGの小口径弾ごときでどうにかなるほど《甲龍》は繊細な造りではない。 その気になればラウラのカノンだって凌げる余地がある機体だ、勿論あんなもの正面から受けたくはないが。 若干シールドエネルギーが削られた事を示す数値が視界の隅に表示されるがそれだけだ。 しかし。

「……っっっ!!」

 セシリアが地上で一夏に解説した通りだ。 やられた。 いつから仕込まれていた? 突撃槍というあまりに限定的な武器を堂々と掲げて空に上がってきたとき、シャルロットは既に鈴が回り込む戦術をとることを予測していたと考えるべきだろう。 見えざる射撃。 それは自分の専売特許の筈だった。

 祖国の開発局が苦心の末に作り上げた第三世代兵装《龍咆》 砲塔も銃口さえもなく、弾体すら存在しない。 大気中であればほぼ無尽蔵に撃つことが可能な全方位射撃武器。 流石にシャルロットのやってのけたそれには弾切れも存在するし、射角とて全方位ではないし、弾体も確実に存在する。 だが、撃つ瞬間まで射角が完全に隠れてしまっており、特に近接戦闘中においては自身の《龍咆》と遜色がない。 それをただ、パイロットの技量だけでやってのけた。

 負ける。

 勝敗というものは意外とあっさりと決まってしまうものだ。 回り込む戦術を致命傷覚悟で実行するのもいいが、相手はシャルロットだ、まだまだ対策は立ててあるのだろう。 いや、そう思わせる事が寛容で、実際には対策はないのかもしれない。 では正面から向かうべきだろうか? それはだめだ、それは無い。 これもまだそうだという確証はないが……あのランスは、パイルバンカーが装着されていた場所に装着されている。

「アレがもしそうだったなら……」

 ゾッとする。数倍、数十倍の質量のアレがパイルバンカーの機構で打ち込まれてくる……伸びるのはどこまでだろう、従来のパイルバンカーについていたリボルバー状の炸薬カートリッジもあるようだ、ということは連射されるということだろうか。





 どちらにせよ、一旦離れて態勢を。 そう思った鈴の耳に、ハンガーで待つ仲間からの声が届いた。

≪鈴! 引いちゃダメ! 突っ込んで!!≫

「ティナ!? ちょアンタ[ピーーー]っての!?」

≪違うわよっ!シールド残量をちゃんと見て!!あたし達を信じて!≫

 元ルームメイトである彼女のいつにない剣幕に、鈴はHUDを呼び出して残量を確認する。サブマシンガンでは確かに損害は軽微もいいところだ、ほとんど削られていないと言っていい。

「……これがなんだってのよ……え??」

 そんなものはとっくに承知の上だ、こんな豆鉄砲で削られる《甲龍》ではない。 しかし――


――――


「加速!?」

 掃射を浴びたまま、鈴が加速するのをシャルロットは確認した。 正気の沙汰ではない、こちらがこの使い方ができる武器がSMGだけだとでも踏んで賭けに出たのか。


[ピーーー]ったぁ・・・・・・投下しなおし




 どちらにせよ、一旦離れて態勢を。 そう思った鈴の耳に、ハンガーで待つ仲間からの声が届いた。

≪鈴! 引いちゃダメ! 突っ込んで!!≫

「ティナ!? ちょアンタ死ねっての!?」

≪違うわよっ!シールド残量をちゃんと見て!!あたし達を信じて!≫

 元ルームメイトである彼女のいつにない剣幕に、鈴はHUDを呼び出して残量を確認する。サブマシンガンでは確かに損害は軽微もいいところだ、ほとんど削られていないと言っていい。

「……これがなんだってのよ……え??」

 そんなものはとっくに承知の上だ、こんな豆鉄砲で削られる《甲龍》ではない。 しかし――


――――


「加速!?」

 掃射を浴びたまま、鈴が加速するのをシャルロットは確認した。 正気の沙汰ではない、こちらがこの使い方ができる武器がSMGだけだとでも踏んで賭けに出たのか。





「ランスをあくまで避けるって事かい? 悪い判断じゃないね、でも……!」

 撃ち切ったSMGから手を離す。過熱した銃身が重力に従って落ち、シャルロットの膝より下に降りる前にはもう本命がシャルロットの手には現われていた。 連装式ショットガン。 拡散しきる前に当たるこの距離で全弾打ち込めば、いかな《甲龍》とて無事にはすむまい。
 たとえこれで決着と行かずとも、被弾によって体制の崩れた鈴にランスを叩き込むのは十分に可能。 むしろそれが本命だ、撃ちこみながらアリーナの地面に打ち付けたら、鈴はどんな音を奏でてくれるのだろう。

「賭けはキミの負けだよ鈴! 








 ――……あぁ、でも……少し決着が早かったのは残念かな」





「おりゃあああぁぁぁあああ―――!!」



      !?



 視界がフッ飛ぶ。 ダメージを自覚した時、初めて自分が側面からの一撃に逆くの字になって加速している事を認識した。
 そんな風にスラスターを吹かした覚えはない。 今シャルロットの体を加速させているのは、鈴の手にした大刀だ。





――――

「なっ……!? なんですって!?」

 ガタっと立ち上がりながら、セシリアは信じられないものを見るように空を見上げる。 観客席のそこかしこでセシリア同様に思わず立ち上がる人影も見られる。 誰もが一様に信じられないという反応だ。

 SMGの掃射をうけた鈴は、そのまま弾幕へ突っ込んだ。

『やれやれ、おバカさんですわね』

 それを見たセシリアはハハーンと鼻で笑ったものだ。 相手はシャルロットだ、賭けのような判断を要する場合、そのどちら側にも罠を置いておく、そんなフランス女だ。 ならば、一旦下がるしかない。回り込むという手を潰されたことを踏まえてスッパリと切り替えるべきだ。 予想通りシャルロットはそこに罠を張っていたし、連装ショットガンが火を噴いたのだって見た。

 結果、シャルロットが全力でぶん殴られている。 いや、殴っているのか大刀を使って投げているのかもはっきりしない勢いだが、とにかく、直撃を受けているのは間違いなくシャルロットだ。

「すっげえな鈴……あんなのまともに受けて大丈夫なのかよ」

「そ、そうですわ。あれだけまともに受けて無事な筈が……!?」

 双方のシールド残量が表示されているメインスクリーンに視線を動かす。 防御体制もとっていない状態でクリーンヒットを受けたシャルロット側のゲージが、表示の遅延の関係できゅーっとゆっくり減っていくのが見える。 そして鈴のゲージは……

「…………はい?」

 吹っ飛ばされた勢いのまま地面に大音量を響かせて叩きつけられたシャルロット機に、とどめとばかりに衝撃砲の乱射が降り注ぐ。 これはもうだめだろう。



 対する鈴のゲージはまだ半分以上残っていた。








====RESULT====

○凰 鈴音 [00分23秒・双天牙月] ×シャルロット・デュノア







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   ノ |. . . . ',_:::\     △    u/:::}. . ./ .ソ
     ∨、. . .', Yヽ>,、       </|.,'. ./
         ヽ. ..', \:::ノ、 ` -  ´,, |ヽ:::/'. /
   ∠ ̄ ̄`:\.',''":::::{{l:::::``ニ''"´:::{}:::::`/./──''"´`ヽ
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えー、現在職場の引越しで死ぬほど忙しい状況です。
書ける時に書いてますが寝る時間すらないのでもう少しお待ち管竿




≪やったね! 鈴! 秒殺よ秒殺!!≫

「やったわ! 見たか我が国脅威のメカニズム! って言いたいところだけれど―― ティナ!あんた一体《甲龍》に何したの!? 何よこの出鱈目な頑丈さ!」

≪え?右の衝撃砲の空間圧縮機構にちょっと手を加えてね、今の《甲龍》は右の肩に大型の見えない楯を装備してるイメージかな。 まぁ、非実体楯だから完全に防ぐ事は出来ないけど、右側からの攻撃を圧縮空間で減衰させてダメージを減らすワケ。 ――いやぁ、あんたが相手の右側に踏み込んで良かったわ。 ……言ってなかったっけ?≫

「きーてないわよ!! ってか《龍咆》は弄るなって言ったじゃない! 何してくれちゃってんのよアンタは!?」

 要は空間を圧縮しっぱなしになってるということだ、そりゃ動きがおかしくもなるし、そんな改造を施した本人にとっては異常でも何でもない。 目の前で検証しながら「変じゃない?」と聞いたら「こんなもんでしょ」と返ってきたのはティナにとっては想定内の動きだったのだろう。 聞いてないけど。






 今回の大会が始まってから再三言っていることだが、各国の国家代表候補生専用機と言ってもIS学園で運用される以上は学園の整備士も整備に参加する。 当然参加する場合は整備士は秘密保持契約を該当国と結ぶし、秘密保持契約を結んでいる以上は将来的に他国の技術開発局には入りにくくなるというリスクがある。 そんな秘密保持契約にも保護されないブラックボックスに相当するのが、第三世代兵装というものだ。 これに踏み込むことは即ち、他国の技術開発局に入りにくいどころの話ではない。 その機体を保有する代表候補生の専属にして所属国家の研究所に籍を置くことになる。

 ティナはルームメイトだが、彼女にも当然祖国がある。 それを慮ってこそ、鈴は《龍咆》には触るなと言ったのだ。

 衝撃砲が弄りたいなら腕にだってついてるんだから……。

 だが、腕の衝撃砲は当然肩のものより小型で、出力も正直豆鉄砲だ、あくまで副次的な火器として搭載されており、鈴としてもあまり必要性を感じていない。 果たしてその程度の空間圧縮能力の盾であったのなら、シャルロットの連装ショットガンを防ぎきれただろうか……。

≪じゃ、今言った。 いーじゃない、勝てたんだし。≫

「そりゃ……そうかもしれないけどさぁ」






 ティナの言っている事は、たぶん正しいだろう。 肩の衝撃砲を改造したからこそ、連装ショットガンを減衰することができた。 むしろそれでも半分近くまで削られたのだから、腕の衝撃砲では突進の勢いを相殺され、あの特大ランス型パイルバンカーを食らって地表に叩きつけられたのはこちらだったろう。 あのパイルバンカーにも減衰はかかるかもしれないが、形状と質量がまずい。 空気の盾など文字通り空気だ。

≪前々から思ってたのよねー、《龍咆》のシステムを防御に使うほうが鈴に向いてんじゃないかなーって。アンタ大体突撃してドーンってやるのがメインじゃない?≫

「突撃してドーンって何よ! 突撃してドーンって! じゃなくて――」

 顔の前に浮かぶ元ルームメイトの顔は、いつも通り。 少し呑気でお気楽、ちょっといいかげんなそんなティナの顔だ、だからこそ鈴は心配だ。 自分の国は、あまり政治の話はしたくない程度には、いわゆる共産圏というやつの中でもイケイケな方だ。 IS開発後は流石に以前ほどの強硬的な態度や、近隣国に対する外交的侵略に出る事は少なくこそなったが、ゼロではない。 いつかの将来、ISで戦争を起こす国があるとしたら中国かアメリカだろう。

「……ティナ、わかってんの……? 《龍咆》は《甲龍》の第三世代兵装なのよ? 中国の国家代表候補生の専用機なのよ? アンタがした事がどういう意味かわかってんの!?」

≪はいはい、知ってますよ。 そんな事。 《甲龍》は鈴の専用機で、つまりその国家代表候補生も鈴でしょ。 じゃ、私にとっては問題ないよ≫

「……ティナ…………」

 鈴は言葉を失った、覚悟が無いのは自分の方だったのだろうか。






 IS学園に在籍する三年間、いつかのタイミングで世界中から集まった同級生、先輩、後輩から、自身の機体の調整を行う相棒と呼べる相手を見つけられるのは、IS学園に在籍できる代表候補生の利点だ。学園に派遣されなかった代表候補生は自国の研究機関の職員からそういう相手を見つけるかそもそも専属を持たない以外の選択肢が無い。

 だから、いつか誰かを国に連れていく事にはなる筈だった。

 共に暮らす中でもしかしたらティナがそうなるんじゃないかという予感はあった。 一夏を連れていきたいという気持ちはそれとは違うし、セシリアを連れて行きたい気持ちともまた違う。

 《甲龍》と、ティナと、自分。

 ハンガーへと降り、《甲龍》を粒子化した鈴の口元が笑みに緩む。

「……ふん!後になって中華食べ飽きたなんて言っても遅いからね!」

「え~? 中華オンリーは勘弁してよ、酢豚ちゃん」

「酢豚って言うな!」

 迎えに出てきたティナが掲げた手に鈴の手が重なり、ハンガーに軽快な音を響かせるのだった。





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     }: ヽ: :}:人   、' ,   フ: / 1: : |ノ つづくっ!
     /: : ハ:八:Y{≧=v=≦} : /  |: : ハ
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   {八: :〈 {{∩ =ミ、 マニ|__{ノ 「ア7´} `つ): :}
     \{ ゞ彳⌒Yて)し厂`ーヘノ `¨´ ¨´
         VニY´

           ゞ= ′






 さて、そんな代表候補生とその相棒の一蓮托生と言える関係だが、例外は存在する。 個人で開発された更識生徒会長の《ミステリアス・レイディ》は例外中の例外だろう。 あの機体と更識生徒会長はロシアの国家代表としてその籍こそはロシア連邦共和国にあるが、あくまで《ミステリアス・レイディ》は 更識 楯無 個人に帰属する機体という扱いとなっている為この機体に国家機密に類するブラックボックスは存在しない。

 その妹である 更識 簪 の《打鉄弐式》の場合も、機体は倉持技研、日本国が所有しており、簪本人も日本国籍の国家代表候補生だが、あくまで第二世代機として簪は受領しており、第三世代兵装である《マルチロックオンシステム》は 更識 簪 個人に帰属する為、姉の《ミステリアス・レイディ》同様国家機密に類するブラックボックスが無い。






 マルチロックオンシステムとはその名の通り、複数の標的に対してロックオンをかける、まんまなものだがそのプロセスに大きな違いがある。本来ロックオンは機体の射撃管制装置やミサイルに搭載された目標追尾機構で、敵を捕捉することだ。 マルチも何も複数ロックオンなどIS以前の前世代兵装でも常識であり、追尾型のミサイルを搭載しているISでは常識のような装備である。 簪の《打鉄弐式》のそれが従来のものと大きく違うのは、それをイメージインターフェースと同期させているところ。 言ってしまえば、意識を向けただけでロックオンがかけられる、そういうことである。

 ビジュアル的なイメージとしてわかりやすく言ってしまえば、種で自由が全砲門をぶっぱするときのアレ。 もっとも、ビジュアル的には種でも機構的にはマクロスFで視線をあちこち動かしてロックオンしているアレの発展型といったところだ。

 国家に束縛されない更識姉妹に相棒がいないのかと言えばそれもまた違う。 更識姉妹には対の姉妹、布仏姉妹が相棒のようについている。 彼女たちには国家の縛りもなく、ただ、それよりも濃い縁に従い更識姉妹についているのだ。

――――






BGM:ガンダムAGE-3~覚醒







――――

「……いくよ、弐式」

 たっぷりと溜めを作った動作で、一人つぶやきながらカタパルトに脚部を固定する。 簪はこのカタパルトスタートが好きだった。 いや、そうあるべきなのだ。 ISを地上で装着して、そのまま飛び上がるのも……悪くはない、悪くはないのだけれど、メカってのはそういうもんじゃない。 メカっていうのはもっとこう、見栄を切るべきなのだ。

 さっきの試合だってそうだ、鈴さんは双天牙月を構えるときにもっと頭の上で回してから構えるべきだ。 シャルロットさんの登場シーンはED曲のイントロに重ねるイメージで良かったのだけれど、キメに使ったショットガンはフルオートではなくポンプアクションがいい、惜しむらくはあのランスのパイルバンカーは一発ごとに排莢するのか、マガジン撃ち切りでまとめて排莢するのかを確認できなかったことだ。 やはり後者がいい、アルトアイゼンの排莢演出は最高だ。

≪ほいじゃ発進いくよー、かんちゃーん≫

 出撃前の厳粛な時間と思考に、のほほんとした幼馴染の声が割り込んでくる。

「……本音、やめてって言ってるでしょう」

≪わかったよー、かんちゃん≫

 全く聞いちゃいない、いつものことだが。







 幼馴染と言うには近すぎる関係、それが簪と本音の関係だ。 姉同士は幼馴染でありながら主従に近い立ち位置を互いに配慮して築いているが、文字通り物心ついたころには一緒にいた簪と本音の場合、主従と言われても正直ピンとこない。だから別にちゃん付けで呼ばれるのは構わない、問題はカンザシというどこで切ってもかわいらしくならない自分の名前にある。

 昔、本音と二人で呼び名を決めるための案を出したことがある。カンザちゃんザシちゃん、しまいにはアナグラム等を駆使することなったが結局カンちゃんということになった。 別にかんざしちゃんでいいじゃないと思ってしまうけれど、昔は本音がカンジャシとしか言えなかったのでかんちゃんで定着したのだ。

 本音は気づいていないかもしれないけれど、今のやめてはそっちではないのだ。 今の本音はいわばブリッジクルー、オペレーターなのだ、カタパルトにいるパイロットに告げる言葉は一つだろう。






≪打鉄弐式、いけますか≫

 もしくは、

≪更識機、カタパルトスタンバイ≫

 そして私はこう返すのだ。

「……更識 簪。 打鉄弐式 ――いきます!」

 これだ。

 本音はああ見えてリア充だ、リア従でもあるが、などと上手い事を言ってみる。

 友達も多く、誰とでも仲良くして、誰にでもすぐに可愛がられる。

 わからんか、リア充には……。 CV池田秀一サマで脳内で呟きながら、いつも通りの「……いってくるわ」という味のないセリフで空へと上がってゆく。 うん、コレはコレで悪くはない、クールだ。 さて、対戦相手が見えてきた。 代表候補生以外を見下すわけではないけれど、完成した《マルチロックオンシステム》の前に、姉妹機である《打鉄》(これはあえて壱式と読むべきだろう)が敵う筈もない。 何よりこの大会、普段から本音と二人でメンテナンスを行っている私達の為にあるようなレギュレーションなのだから。







――――




 目が覚める。 記憶は明瞭だ、はじめに視界に入った白い天井がどこの天井なのかは理解できるし、なぜここにいるのかも理解はできる。 敗北したのだ、最も特徴に乏しいとさえ評された友人に、学年最強とさえ謳われた自分が負ける。 しかも秒殺。

 今回のような大会でなくとも、IS同士の戦闘というものはそうそう時間のかかるものではない。ISは確かに前世代の兵器群のその尽くを凌駕する超兵器であり、元々が宇宙開発研究の産物であるISは第一世代でさえ宇宙空間での活動が可能な生存性がある。 まだ実行した公式記録はないのだが、理論上では単独での大気圏突入にも耐えられるはずとの事だ。

 そんなISとて、棒立ちで動かず正面から撃ちあったら戦車一台にも勝てない可能性がある。 ISが使う火器は基本的には同型サイズの従来型の火器とそこまで出力は変わらない。 勿論、《銀の福音》に搭載されている全方位砲や《ブルー・ティアーズ》のBT兵器、《紅椿》の飛ぶ斬撃等の、ISでなければ実用化のできない火器の出力は現行の一般兵器をやや上回るものもあるが、例えば《シュヴァルツェア・レーゲン》に搭載された大口径無反動レールカノンなどは最新鋭の戦車の主砲として使用されているものと火力自体はほぼ同等だ。

 ISの強さはその俊敏性であり、決して集中砲火を浴びて無傷で爆炎の中から現れるような真似は出来ないし、そういう戦術はISとしてナンセンスである。

「――……ナンセンスだなんて、負け犬の遠吠えだね」

 あの間合いで連装ショットガンをまともに受けて尚、力任せに振り抜かれた。 防御を捨てた一撃にも見えるがそれは無い、何らかの防御装置が存在していたということだろう。 だが、サブマシンガンもショットガンも、どちらもダメージは与えている。 ならば、一か八か、体勢を崩しながらでもランスを使っていたなら通ったのだろうか。



(AA無し)



簪「戦闘がカット!?どういうこと!本音!」

のほほん「まぁまぁ、二回戦は鈴ちゃんだよー。 本命は温存温存」

簪「そ、そうよね・・・・・・」

のほほん(噛ませかもね。)

簪「……本音?」


 
            ,i___ri
   . . . .―――‐r' //〈  ____

 ィ : : : : : : : :_:_:_:,v'辷r'´´ : : : : : : : : : :` : : .
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一'フ: /: : /: /,イ           ,  =、/| : ハ : /: : :{ノ
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=ミヽ....:ハ:_:_://:_:ハ   ,.:´:::::::::::\      'ハ ' : : i / : : |
_/:::::/`}´i:i:::::::ハ {:::::::::::::::::::V    ::: ゙/: : : /: : i: :| 「続くぅ~!!」

::::::/,――八―― 、ヽ::::::::::::::,ノ    , r'衍: : : ,ハ : ,゙ : |
// \        ヽ   ̄   . イノ:/:,: : / }/ ': |
〃  /:}        ||>= ニニ´//: : /: / 〃  jノ
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「……シャル、慰めでもなく客観的な判断として、どちらが勝ってもおかしくない戦いだった。 セシリアのやつなどお前に賭けていた分がパーになったと言って鈴と喧嘩を始めて先生に追い出されていたぞ
 ……だからその、元気を出せ」

「ごめんね……シャル、あたしのせいだ。 あたしがパイルバンカーのセフティを壊しちゃったから」

「ありがとうラウラ、いいんだよ清香、清香のランスは完璧だった、視覚的な威圧感は敵の動作を制限する事ができる。 実際に鈴はランスの有効範囲を避けたんだ、清香のランスがそうさせたんだ、それを生かしきれなかったのは僕の戦いだ」

 ベッドサイドで、清香の手を取って慰めあう二人を見ながら、ラウラは複雑な表情をして横にいた箒に耳打ちする。

「なぁ……今、セフティが壊れたとか言ってなかったか?」

「……うん?……うむ、要は止め具が外れているから使うとパイルが飛んでいくという事か……それはそれで恐ろしいが一発限りだな。 」

 ラウラの耳打ちに、箒が冷静に分析をする、しかし、ラウラはその銀の髪をフルフルと左右に振る。

「そうじゃない、そうじゃないぞ箒。 あのランスはその射出型になったパイルの代わりに装着されているということだ」

 ラウラの言いたいことが理解できたのか、箒がぎょっと目を剥いてラウラへと顔を向ける。

「それって、おい、つまり……」

「……あのランスは、飛んでくる」






 身の丈程もあったあのランスは見た目の威圧感も十分だが、当然重量も見た目通りにあるだろう機体のバランスもおかしくなっているのだろうが、それは調節が可能だろうし、それに合わせる事が出来る操作技術をシャルロットは持っている。リボルバーのように見える弾倉が着いたままなのはまさか飛んでくるとは思わせないためのブラフなのだろう。

「鈴はあそこで下がっていたら終わっていただろうな……」

 想像以上にキレた武装だ。 インファイトが始まって間合いを離そうとしたが最後、スッ飛んできたランスに昆虫標本にされる。 それで決着、よしんば耐えても両手がフリーになったシャルロットの追い撃ちが待っている。 以前のパイルバンカーは、最後の切り札的に使用するものだったが、これは序盤で切り、畳み掛けるカード。

「下がるように持っていけなかったから僕は負けたんだけれどね」

 しっかりとこっちの話を聞いていたのだろう、シャルロットが笑いかけてくる。 相川も随分と落ち着いたようだった。

「鈴は……ああ、そっか、さっき言ってたね。 でもまだセシリアと追い出されたままか、あの異様な頑丈さについて聞きたかったのだけれど……」

 シャルはぐるりと見回すけれど保健室には教員の姿がない。 いるのは箒、ラウラ、清香、簪だけ。 ということは一夏もいない。






「……あなたが寝ている間に聞いたけれど、二回戦で私とあたるからタネは明かしてくれなかったわ。 ――……でも、タネがあるという事は仕掛けがあるという事、単純に装甲を上げているダケじゃなさそうね、対策を考えなくちゃ」

 鈴も簡単には種を明かさないか、気持ちはわかる。 いつものメンテナンスや増装とは違う、同級生が施してくれたそれはなんだか特別なのだ。 装備としての完成度は決して高くはないけれど、チームで悩んだ結果の産物なのだから。

「そっか、二回戦の相手は更識さんなんだね、一度、キミとはボクも戦ってみたかったよ。残念」

「……光栄だわ」

 わっと暮れ始めた窓の外から歓声が聞こえてくる。

「あれ……まだ試合やってるの?」

 てっきりもう今日の日程は終わったのだと思っていた、時間的にも。

「……まあ、あの二人の試合だからな」

 ふっと半眼で遠くを見ながらラウラが乾いた笑いを浮かべた。 それだけで、今戦っているのがだれかは想像がつく。

 セシリアと一夏だ。






――




「お行きなさいッ!ティアーズ!」

 4基のBITから青の光条が次々と放たれる、すべてが放射された後で意識的に弾道を変える事が出来る必中の魔弾だ、しかし「意識的に変えられる」という事は、意識の外には必中ではない。そして何より、一夏はその意識をよく知っている。4つの光は、吸い込まれるように一夏がその位置に構えた《雪片》の刀身で掻き消えてゆく。

 試合開始から既に8分が経過している。 この二人、別に終始イチャイチャチュッチュしているわけではない。 親密になったことで以前よりも二人で訓練する機会も増えていたりする。 一夏はセシリアのBT操作のノウハウを知っているし、セシリアは一夏が突撃をかけるタイミングの取り方を知っている。 勿論、それを踏まえた上でどうやって裏をかくかになるのだが……それも踏まえた上で、互いに避け続けているのだ。

「素晴らしいですわ!一夏さん、今のをかわすだなんて」

「セシリアも腕上げたな……! じゃあ、今度は……こっちの番だ!!」

 一夏が小刻みなブーストをかけながら間合いを詰めていくのが見える。 対するセシリアはBITを戻しながら、こちらもやはり小刻みなスラスター噴射によって間合いを離す。 一夏が《イグニッションブースト》を使用しているのに対し、セシリアは腰部ミサイルBITの代わりに《クイーンズ・グレイス》パッケージのスラスターに背面と腰部のレーザーBITを姿勢制御用に装着した突貫工事の《ストライク・ガンナー》パッケージもどきのスラスターのみだ。

 二人の動きを見ながらティナと共に応援席にやってきている鈴が呻く。 セシリアのエントリーは間に合った。 整備班はギリギリで見つかったのだろうか? どちらにせよ間に合わせすぎる。 元々が特化機体の《ブルー・ティアーズ》は決してバランスの良い機体ではない。 それを更に尖らせた性能の《クイーンズ・グレイス》パッケージからの完全な換装は間に合わなかったのだろう。 強引な方法で換装しないまま性能を標準装備に近付けた仕様。 ティナあたりに言わせれば、やっつけ仕事だ。







「……舞踏会かっつーの」

 幾度目かの一夏の攻撃。 しかし、その全てが空を切る。 思わず鈴の口をついたのはそんな言葉だった。 あんな不安定な機体でリズムをとり、一夏の動きを予測しつつ、その突撃をかわし続ける。 まるで一夏が手加減でもしているかのように、仲睦まじく共にワルツを踊っているかのように見えるほど、寸分狂いもなく、最小限の動きで一定の距離を保ち続ける。 久方ぶりに見るセシリアの技術はイギリスに行く前と比べると格段にレベルアップしている。

 イギリスで《サイレント・ゼフィルス》と交戦、これを撃墜したものの、搭乗者であるエムの捕縛には失敗した。 亡国機業に大破レベルの損傷を受けた第三世代機の修復技術があるかは不明である以上、近い将来には再びエムと《サイレント・ゼフィルス》が襲撃してくる可能性はある。 例え《サイレント・ゼフィルス》ではなくとも、彼女らが《剥離剤》を所有している事は一夏が襲撃された事件により既に明らかとなっており、別のISを強奪してくる可能性は十分に残っている。 もし再び亡国機業が姿を現すことがあるとすれば……明確な障害となったセシリアがターゲットになる可能性は高い。

 国を背負う、家を背負う、モンド・グロッソでの優勝という頂点を目指すそれは、しかし決して命の奪い合い等ではない。 しかし亡国機業との戦いは違う。 彼女達はテロリストだ、亡国機業の活動で死者が出たとは聞いていないが、襲撃されたのが主に軍施設の為明らかになっていないだけで実際にはすでに死傷者が多数出ているとも噂されているし、実際問題セシリアは《サイレント・ゼフィルス》との初交戦の際には重傷を負いかけている。 殺しにかかってくる敵が明確に存在することが、確実にセシリアを強くした。







「くそ……ッ!!」

 あまりにも避け続けられ過ぎた、元々『欠陥機』と明言されている《白式》の欠点は極端な燃費の悪さと武装の少なさだ。 セカンド・シフトによって《白式・雪羅》に進化した事で、射撃武器を手に入れたが、燃費の悪さは悪化している。 日々の調整と操作技術の向上で若干の改善は見られるが、どうやっても対の機体である《紅椿》の《絢爛舞踏》無しには全力が出し切れない仕様となっている。

 ―― 一か八か《零落白夜》で突っ込むか?

 分の悪い賭けを思い浮かべるが、即座にそれを否定した。《零落白夜》だろうがなんだろうが、結局間合いを詰めるのをどうにかできないと無駄にシールドエネルギーを失うだけだ。

 一瞬の迷いに生まれた隙を突いて、セシリアの肩バインダーからBITが射出される。 以前、入学直後の彼女が相手であったならば、これが大きな隙となっていた。 BITの操作に集中しなければならないセシリア本体の動きが鈍くなるのだ。 しかし、今となってはその弱点もない。BIT四基を射出しながら、テールスラスターを巧みに操作してセシリアは間合いを維持しつつ、長大なライフルの砲口を向けてくる。

 ライフルの先端から生まれた光線を合図に、4基のBITが其々別の角度から射撃を行ってくるつもりだろう。 一夏は一際太いライフルから放たれた光線に対して十分なマージンを取ってから斜め左上前方へと前進回避する。 一夏の背後でライフルの光線が《BT偏向制御射撃》によって一夏の避けた方向に向かって曲がるが、捉え切れていない。 出力の高いライフルのBTは距離が近すぎると曲げても当てにくい、と以前聞いていた。勿論、今避けたからといってもある程度進んだ後で戻ってくるようには出来るし、あえてそうしない理由はない。 更には、ライフルを避けた事で前に出た一夏を撃たない理由もない。 4本の光線が一夏に向かって放たれた。






「―― ぅ……ぉぉおおッ!!」

 踏み込んだ体勢から強引に右側のスラスターだけを吹かす。 体が更に左へ回転すると同時に、一夏の過去座標に4本が収束『停止』した。 セシリアの方を見て表情を確認する余裕などない、《BT偏向制御射撃》だ。 ピンチだ、だが同時に一夏にとっては待っていたチャンスでもある。

「雪羅ァッ!!」

 回転するに任せた勢いで、雪羅のクローを展開、掬い上げるように収束した空間を切り裂く。 左腕の《雪羅》は、セカンド・シフトの際に現れた多目的武装だ。 荷電粒子砲、エネルギー刃のクロー、シールド、三様の使い方ができ、何より最大の特徴は生成される光は《零落白夜》の力が乗るというものだ。

 つまり、全てのエネルギーは触れた瞬間に『零』へと落ちる。

 間合いが動いた。 回避を読み、一度『停止』させる事で偏向方向を確実に一夏へと向ける筈だったBITの射撃がかき消され、間合いを離すよりもBTの操作を重視した為にスラスターの点火が遅れたセシリアとの距離が詰まる。 雪片では届かない、だが、

「零 落 白 夜 !!」

 全身のアーマーが小さく可動し、次いで振り被った刀身が変形する。 自身のシールドエネルギーが一気に消耗していくと同時に先程のクローと同じ性質をもつ光の剣が生まれる。 《 二段階瞬時加速 (ダブル・イグニッション)》で加速しながら、更に一夏は、はじめに発射されたライフルのレーザーの行方を素早く眼で追った。 今がセシリアにとってもチャンスのはずだ、こちらに向かって迫っているはずの光線は――






―― 無い。

 振り下し、セシリアのシールドエネルギーを削り切るほうが、こちらのシールドエネルギーが尽きるより早い。 だが、もし曲がっている筈の光線が当たってしまえば逆の結果になる。 ここまでしても、結局は分の悪い賭けを強いられる。

「迷ってる暇はねぇ!!」



 最後の一撃を振り下ろした一夏の目に、セシリアが余裕のある笑みを浮かべ、脚を左右に開くのが見えた。









 ―――― 股が……光った……!?












 驚愕に目を見開いてそこを凝視した一夏は、セシリアの背後から脚の間を抜けて伸びてきた光に顔面を撃ち抜かれた。



――――



====RESULT====

○セシリア・オルコット [12分03秒・スターライトMk-III] ×織斑 一夏









                       /´    ,ィェュ丶、
                     /  /  /  ̄`ヾ ヽ

                         /     l ∠ェェェェェュ、 ト ハ
                     / i i   | /」ト、ハ从  ノ>,! }、                        _     _  --‐¬
                       / { ,ト  Kイ它ソ` Yィュ孑}}, | }                   _/ ̄ 「 「`Y´ _  -‐'
                   / ∧ ヾ 、!       j じ'ノル ,ル             __, ‐'"´/  Y' j ! j‐'
                     / ∧∧  ヾ〉、 r‐┐ イレ//|!      __, イ/ / /  r'    j r' イイ、
                 /_∠厶云ト、_ 〈 ゝ-' ∠∠イ┴=='"´ ̄    / / / /  ノ    /´/´   ̄ ⌒Y
               / !二二ニヾ===、二二´              / / / /   ヽ  _    /´ ̄ ̄ ̄
              /  ∧ ̄ ̄ヾ===三三 _` ===== 、____/_/__, '__/   _,ノ  j ̄ ̄´
           _/´  / ∧      ミ    ` ====== '´ ̄ ̄ ̄`丶、     r'    ノ 続くっ!ですわ
          /    /  / ∧  _,云三二ニ==─テ云≧¬==、    | トヽ     }   /
         /   _ ィ  // lヽ_/ 丿トミ<斤  ヾ=イ彡ヲ    ̄`==ヾ\ヽ   /  /
       /   _/´/  /    l l    ゞミ三ミ>   ゞ三ユュ          ̄\ノ  /
      /  _/  / /     ヽ ヽ    「三ミイ  / rイヲヾ            \/
   r イ/ /   / /        \!     ≧ミヲ/   />テリ\
  ∧ ∨ /    /           l     ヾ=ュ   /∧イイ   ヽ
 ∧∧∨     /           /l     / ̄   //∧y''´   /
..〈 ∧ ∧    /     /   / 〈   __〉_   _,ヾ /-、   ト、__
 ヽヽ\ \_/'      /   /     Y´__|_|_|「 ¬イ/ヾ\\ l//∧
  >\ヽ   \  /   /     广´   〉   ̄` ┤‐-、、\ Y//〉




こんなかんじ


        (゚д゚ )
股が…光ったノヽノ |
         < <




(゚д゚)
ヽノ |
< <






「え、鈴、今のなんで?」

 隣にいるティナが茫然と疑問を口にする、丁度最後の激突を横から見る位置だったため、ぱっと見は正面からレーザーに自分から頭を突っ込んだようにしか見えなかったのだろう。 同様に疑問だったのか、周辺の席にいる二組の仲間達も鈴の回答に耳を向けていた。

「簡単な事よ。 アレよ、アレのせいで一夏はアリーナの外周をぐるっとセシリアの後ろまで回り込んでいたレーザーが見えなかったの」

 そう言って鈴は、目を回して落ちていく一夏を抱き止めるセシリアの足、左右の腰からテールスカートのように広がっているバインダーを指さす。 元々からして大型のスラスターだったそれは、姿勢制御の為にBITを補助として装着し更に大きくなっている。





 そんな使い方もできるんだ、と、一夏と二人で退場してゆくセシリアの機体を見つめる。 第三世代兵装は《龍咆》しか触ったことが無いし、やったことはと言えばイメージインターフェイスを扱い切れず常動型の防御機能に改造しただけだ。
 技術屋としては、イギリスの第三世代兵装《BT兵器》の存在は正直わけがわからない。 勿論、ドイツの《アクティブ・イナーシャル・キャンセラー》もわけがわからないのだが……。 ラジコンヘリを操作しながら戦うようなもんなのだろう、それ自体とても真似できるものでもないけれど。

「まさか。 自分の精神……ってか意思……ってか脳波? みたいなので動かしてるもんなんだからそんなヘマはしないでしょ。 もっとも……にっひっひ、一夏が愛してるでも連呼しながら突っ込んでたら《零落白夜》直撃の上に背中に自爆で爆散したんじゃない?」

 本日の日程終了を告げるアナウンスが流れると、鈴も立ち上がってうーんと一つ伸びをする。 セシリアと一夏の試合を見たら明日に備えて《甲龍》のチェックでもしようかと思っていたが二人の試合が思いのほか長かった。 寮の食堂は今日はきっと混むだろう、セシリアが料理の練習とキッチンを使い始める前に自分の分は料理してしまわなければ、明日は簪との試合なのに支障が出る。 同じく立ち上がったティナや、周囲の席にいた二組の、自分の整備班達と共に、関係者用の出入り口へ向かう。






「……あれ? でもなんでわざわざ織斑君は顔面に直撃なんて受けたの?」



「あのバカが助平だからよ、ビンタは顔面にするもんでしょ」






  
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ニ二/:::::::::ニ二:ニ二::ヘ .ヽニヽ .Y::::/  _,ヽ___.``"  ノ  /   {YQ:/ヘ /::::::
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――

 どうしよう。 華麗に足抜きショットを決めて、

「かかりましたわね、これで決着ですわ!」

 とやろうとした所、脚を開いた姿を、しかも……。 ……を凝視している姿が目の前にあったものだから、つい弾みで顔面にレーザーを偏向してぶち込んでしまった。

 本来なら、レーザーでシールドエネルギーを削り、《零落白夜》によるエネルギー切れを起こさせるつもりだったのだが、頭部への打撃がモロに入ったためか、削るどころか若干オーバーキル気味にK.O.
 意識自体はすぐに戻ったため大事は無いとの事だけれど、現在、セシリアの目の前の検査室で念の為医師による検査を受けているところだ。

「い、一夏さんが悪いんですわ。 戦闘中だというのに、全く……
 お、お部屋ででしたら、求めさえして頂けましたらわたくしはいつでも……」

 頬に手を添え、くねくねと身を捩る。 

 そんな事をしているものだから、背後に谷本癒子が迫っていることにも気づかなかった。

「セッシー、なぁにやってんの……」

 呆れた、といった体で谷本が半眼半笑いで声をかけると、セシリアは一瞬びくんと背を震わせてから、すっと姿勢を正して、

「…………というわけには参りませんわよ!一夏さん!……せ、節度を守った範囲で!!」

 慌てて扉に向かって人差し指を伸ばして繕う。






「はぁ、別にいいけどさ。 彼氏彼女になって一か月以内の中学生じゃあるまいしセッシーも織斑君もウブだねぇ。 それでどうなの?織斑君」

「……コホン。 念のための検査中です、《絶対防御》があるにしたって、頭部への打撃ですから大事を取っているだけですわ。 あと、別に――」

「そっかそっか、まぁ織斑君なら大丈夫でしょ。 あぁ、そうそう、さっき言われた件だけど、さゆか達はオッケーだってさ」

 セシリアが弁解しようとする言葉尻を食うように谷本が切り出す。 谷本の言うさゆかとは、一年一組の夜竹さゆかの事だ。

 夜竹さゆかは一般生徒ではあるが、両親ともに倉持技研の研究員であり、本人の強い希望でISパイロットを志望している。 その為、今回の大会でもパイロットとして出場したのだが、一回戦で早々にクラスメイトにしてドイツ国家代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒと対戦。 換装のままならなかったラウラ相手に善戦はしたという話だが、地力の差と、ドイツの第三世代兵装《アクティブ・イナーシャル・キャンセラー》の前に結局は及ばなかった。

「そう!良かったですわ」

「いやー、コレで楽ができるよ。 でもさ、すっごい今更なんだけどコレっていいの? 確かにさゆかも『このまま見てるだけに回るなんて嫌だし』とは言ってたけれど……負けたチームを裏で抱き込んで整備を頼むなんて聞いたことないよ」

「あら、癒子さん、だって『上級生・部外者』の協力は禁止ですけれど、同級生の協力は禁止されていませんわよ? それに、これは好意、級友の好意ですわ、わたくしの整備班は正式には癒子さん一人、他の方には専用機云々の縛りも適用されませんわ!」

「セシリアー? なんかさらっとあたしは適用されるって言われてる気がすんだけど……まぁいいけど」





 今回、整備班に困窮したセシリアはギリギリで単独のパイロット参加をしようとしていた谷本に泣き付いて二人チームで参戦していた。 セシリアに声をかけられ、谷本は「そんな事だろうと思った」と言いながらも快く引き受けてくれたのはセシリアにとって幸運だった。

 だが問題はその後だ、重装の《クイーンズ・グレイス》パッケージからの換装を試みた谷本は開始2秒で匙を投げ、二人で徹夜して今回の間に合わせ装備にするまでは漕ぎ着けたのだ。

 このままではまずい、試合開始直前まで二人で悩んでいたが、特に仲の良い相川がついたシャルロットに続き夜竹も敗退したと聞いてこの作戦を思いついたのだ。

 問題は一回戦だった。 正直、一夏は相性が悪い……戦力的な意味で。
 一夏の《零落白夜》は《ブルー・ティアーズ》の攻撃のほぼ全てを無効化してしまう。 恐ろしく悪い燃費が彼自身の自滅を生む諸刃の剣と言えど、そこまでの飽和攻撃を行うためには此方も《クイーンズ・グレイス》の全BIT解放射撃を行う必要がある。 だが、アリーナ戦では狭すぎて《クイーンズ・グレイス》の安定推力を保つことが難しいし、外周沿いをひたすらぐるぐる回るだけの挙動ではこちらが飽和攻撃を行う以前に容易に捕捉されてしまっただろう。

 4基しかBITが使えない状況で何とかして一夏を攻略する必要があった。

 そこでセシリアがとった手はライフルのBTを大きく、大きくアリーナの外周を迂回させ、自身を盾にその射線を隠し、足抜きショットを決めるというものだった。 これには、セシリアしか知りえない賭けが一つだけあった。

 ――わたくしの《BT偏向射撃》はわたくしの意識が向いている限り永遠に追いますわ。






 これはハッタリ、嘘だ。 確かに狙った相手に対して、回避されても再攻撃できるというのは事実だが、実際にはライフルのような高出力の場合は急角度の反転は難しいし、同時に4本5本と操作するのは非常に困難だ。 ――アレ全部マニュアル操作ですのよ?

 右手で経理処理の端末を操作しながら、左手で法務案件の打ち合わせをチャットで行うよりも難しい。 しかも、曲げれば曲げる程にその難易度が上がってゆく。 曲げた時点でそこまで組み上げたものがリセットされてまた組み直すようなものなのだから。

 倫敦の空での戦いは今思うと、あれは相当に無茶をした。 気持ちが昂っていると普段より敏感に、本当に手を動かすように曲げることもできる事はできるのだけれど、あの後、正直何度も吐いた。 医師の話では脳への負担が大きいらしい。

 だからセシリアはBITの射撃を一か所に収束させた一回の偏向の後はBTIのBTからは意識を手放していた。 あそこで一夏が《零落白夜》の爪で切り裂かなくとも、見当違いの方向に散った事だろう。 勿論そのうちの一本でも一夏に向かう可能性はゼロではなかったのだから、一夏の行動は間違ってはいない。 間違っていない判断の先に仕掛けるからこそブラフ足りうるのだから。 あとは残る全神経をライフルのBT一本だけに集中させ、先の試合の股抜きショットを決めたのだった。

「なんにせよ、人数さえいれば《クイーンズ・グレイス》パッケージの解除ができますわね! これで次の箒さんとの試合は今回のような賭けをしないで済みそうですわ」







「え? しないよ?」



「…………は?」



「だから、パッケージ外したりしないって。 今のままでもBIT4つ使えるんだし、外しても変わんないでしょ?」

「えっと……あの、癒子さん? 今の状態って結構マジできついんですのよ? スラスター推力が高すぎて姿勢制御の逆噴射を吹かしっぱなしに近かったり」

「噴射光が翼みたいでかっこいいよね!」

 目をキラキラさせている相棒の表情に、セシリアはげっそりとした溜息を吐く。 かっこいいかかっこよくないかで言えば、かっこいい、当たり前だ、だって《ブルー・ティアーズ》なのだから。 問題は癒子の頭から使えるか使えないかの判断がすっぽり抜けているという事だ。

「セシリアー。 《クイーンズ・グレイス》パッケージってのは凄いよ!PICで制御しきれない過積載武装を大型スラスターの推力で飛ばそうなんて と て も 正 気 と 思 え な い 。 流石は英国! 流石だよ英国兵器!! 流石は伝説の紳士兵器ジャイアント・パンジャンドラムの末裔!!」

「わたくしの《ブルー・ティアーズ》をあんな変態兵器の子孫扱いしないでくださいな――ッ!?」

 前言撤回、抜けていなかった。 抜けていない上でケレン味溢れるフォームに酔っているという事か。 谷本癒子は技術者として一番厄介な、それでいてハマッたときには結果を出すタイプのようだった。 ISの母、篠ノ乃束もこのタイプだ。

―― プシュ

 検査室の戸が開き、制服に着替えた一夏が自分のISスーツを片手に抱えて出てくる。







           ,,,_,,, ――-、_
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     .| .'   .|イ /|从ノ ヽ、ノ. イ ⌒ト | /| |

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      |  \\.  ヽ _/   ,   ̄ > 人  `ヽ. ブツ切りですが本日はここまででしてよ♪
     /   ||\`\,ゞ"  ┌┐ ,,,,イ く  \  \
    /   .ノ  \ ヽT-t‐-` イ >`ー イ ミ \  ヽ
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 /⌒( \_) ) ノ  ミニノ|| || ̄ ̄ | .| .|  \ ,,イ/ ノー、
 | /^(ミミノ 从从( V  || |┴--ー'`ヽ ト、  |,,,,, /)\,|
 V (-イ    _..> |//|__ノ    /  ヽ-'  / ヽ―'
       (⌒|.:::::::ヽ (,--イ   /      / 
        ヽ \:::''''>、 ̄ _/__   ノ
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              ( ̄`ヽ.:::::/

               ヽ..._/








 一夏は出たところで、見慣れた金の髪がこちらの姿を認めて揺れるのを見る。 間近な位置で足を止め体を預けてくるセシリアの肩にそっと手を添えて受け止める、一夏にもセシリアにもそれはごく自然な動きで、谷本も茶化す気になれなかった。

「お、セシリア。 待っててくれたのか? 谷本さんも。 そっか、セシリアの相棒は谷本さんだったんだな」

「お、夫の体を慮るのは妻の義務ですわ」

「やっほー、おりむー。
 あれぇセッシ~? 処置室送りにしたのもセッシーだよねー?」

 からかうようにセシリアの背に手を置いてじゃれる谷本の言葉、特に後半をセシリアはガン無視し。

「それで、診断のほうはどうでしたの? まさか頭に当たってしまうだなんて!」

「ああ、問題無しだってさ。 そもそも、避けられなかったにしても当たり方くらいはどうにかできただろうに、ぼさっとして顔面に直撃なんて受ける俺が悪いんだ、きにすんなって」






 緩く頭を撫でてくるその感触が、堪らなく心地よくて。 セシリアに尻尾でも付いていたらきっと今は派手に動いている事だろう。 何気ないコミュニケーションが嬉しくなる。 全幅の信頼は何気ない触れ合いも何もかもを心躍る愛撫に変えてしまう、昔、背伸びして読んだ女性作家のエッセイにそんな文句があったような気もする。

 そんなセシリアの表情を見ている一夏はといえば、頬に朱が差し、そんな無防備なセシリアを正視できないようだった。

「しかし……その……セシリア。 き、着替えないのか?」

 明らかに照れの混じる一夏の言葉に、セシリアはきょとんとした顔で一夏の顔を見つめる。 二秒目を合わせては、コンマ五秒目を逸らす、目ではない所をチラ見する、一夏の挙動は不審極まりなかったが、セシリアにとってはそれも凄く可愛いものだから、眦を下げた。

 いまさらと言えば今更な話だ。 ISスーツ姿などもういい加減見慣れている。 はっきり言えばクラスメイト全員おっぱいの形だけで誰か判る程度には見慣れている。 毎日乳袋スーツを見続けた一夏は自分がいつかEDになるんじゃないかという不安さえ抱えたこともある程には見慣れている。 遠くから五反田弾の恨みの念が届いたが一夏はスルーしておくことにした。

 更には度重なるラッキースケベにより織斑一夏はセシリアのほぼ全てを知っている。 ラッキーではない必然として柔らかさなどの情報も含みでだ。 それでも体が反応してしまうのは、一夏にも説明しろと言われても困ってしまう。 好きな相手なのだから仕方がないとしか言いようがない。

(知ってる知らないとか関係なく意識しちまうんだよぉぉ……)






 内心で言い訳を叫びながら、チラ見はやめられない。 間近に迫っているその顔立ち、肩に添えた己の手に吸いつくような肌、そして……。 セシリアのISスーツは青色の水着に白ニーソというカラーがもう反則なのに、目の前で開脚された後ではいやがおうにもその体を意識してしまう、勿論嫌でもない。 嫌ではないが、むらむらするなというのは無理な注文だ。 その結果、若干前屈みになろうとした瞬間の顔面を撃ち抜かれる負け方なわけだが。

(くッ……鎮まれ俺の雪片弐型……ッ! 谷本さんもいるんだぞ……!)

「――ふふっ、一夏さんのお着替えを持ってくる時に序に着替えておくべきでしたわね。 今、着替えてまいりますわね?」

 微笑んでするりと離れ、名残惜しそうにこちらを見ているセシリアの声が、なんだか全てを見透かしたうえで、それでいて全てを許して受け容れてくれるような、むしろ誘うようなトーンで耳から脳内へ絡みついてくるような錯覚さえ感じる。 もはや限界、二人は恋人なのだから ――恋人なんだから、人前で思い切り抱きしめて……したって許されるよな――






 うん、許されない。 危うく暴走する所だった、即座に否定して考える。 せめて別の場所に移動してからなら……?



 着替えてくると、セシリアは言った、今は大会期間中という事もあり更衣室を使うのはパイロットとして出場する生徒のみ、そして一夏とセシリアの二人の試合は本日の最終カードである、即ち女子更衣室を最後に使うのはセシリアだけだ、これはチャンスじゃないか。

 可能性を考慮すれば、他の出場者でISスーツのまま機体メンテナンスに向かった者が今着替えている可能性もある。 それに何より、更衣室の出入口に監視カメラが無いわけが無いのだが……。

 分の悪い賭けになった、しかし、それはいつもの事だ。

 あからさまにならないように、いこう、エデンへ……!









「あ、そうですわ! ところで一夏さん、お夕食はまだですわよね? 千冬お姉様も今日はお忙しそうですし……ですのでその、今夜は……わたくし、作ってみようかと思うので、楽しみにしていてくださいねっ」








「……ぇっ」



 雪片弐型――沈黙。






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         ',:::::::::∧`ヽ\          -- 、      /´:::/ ' つ、つづく
          ',:::::/ ',::::::::::::ヽ.        ̄.__ ̄     イ::::::/
          ',/   ',::::ハ:::::| \           /::::/|::/
              ∨ .、:::|   ヽ       / .|::::/ .|/
                      |     `   _ ィ   .|:/
                      |             .|




鳥間違った……しかもイーモバ連投できないのね……


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 かすれた音が、一夏の口から漏れ、その視線が近くにいた谷本を一瞬見た。 同じように谷本も一夏を見ていた。

「――たにm」

「セシリアったら上目づかいでもじもじしちゃってー! 織斑君やけるねぇ!」

 一夏が何かを言う前に谷本が囃し立て、僅かに間合いを離している。 逃げられた。

 セシリアの火力は家庭科の授業のおかげで既に周知、囃し立てることでセシリアの気分を盛り上げ、二人きりの夕食気分にさせてしまうことで、一夏が「谷本さんも一緒に」と言おうとしたのか「助けて」なのかは判らない、だが、どちらにせよ一夏の願いは届きそうもない。 癒子は保身の為にヘルズ・キッチンへと一夏を差し出し、速やかに離脱する気のようだった。

「じゃ! わたしはこれで。 セッシー、ティアーズは任せといてねー!」

 回れ右! 早足前進! 髪を躍らせながら谷本癒子は長い脚から生まれる大きな歩幅で、まるで走るような速度で歩き去ってゆく、一度も一夏の方には振り返らなかった。

「あ、癒子さん! あまり変な手は加えなくて結構ですからね! あとBT周りはブラックボックスですわよ!」

 セシリアが慌てて去りゆく背中へ声をかける、普段なら一夏に一言断りを入れて走って追いかけただろう。 セシリアには明日も試合があるし、パッケージを外してもらえないにせよ、それならそれでやることもある筈だ。 だが、行ったらそのまま帰りも遅くなるかもしれない。 そうすればそう、一夏がおなかを空かせてしまうではないか。 それに、一夏とイチャイチャしないと、今日の戦いで消耗した一夏ラヴのパワーが足らない。 二回戦の相手はワンオフアビリティー《絢爛舞踏》の使い手、篠ノ乃 箒と第四世代IS《紅椿》なのだ。 完全回復能力という出鱈目極まりない機体が相手では今日以上の攻撃力が絶対に必要になる。 サンドイッチでも作ってハンガーに差し入れに持って行き、優しい彼氏アピールと護身を成立させられたかもしれない。

 しかし、どうもセシリアはセシリアで何か気分が盛り上がってしまっているらしい。 一夏にとっては、詰みだ。

『着替えてからお部屋に参りますわね』

 と更衣室に向かうセシリアの弾む声が、一夏には

『小便はすませたか? 神様にお祈りは? 部屋のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK?』

 と聞こえたような気がした。



――



援護あり、場所変えたのでおけです。
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――

「うまい!うまいよセシリア」

「ふふ、わたくしの料理の腕、見直してくださいました? 練習してるんですのよ」

「流石だな!あ、電話だ……」

『おう一夏、今日は部屋に帰れない』

「千冬姉が、今夜は帰れないって……なぁ、セシリア…………」

「……それなら、仕方ない、ですわよね?」

「ああ、仕方ない……よな」

「……あ、先にシャワーを……」

「構うもんか……」

「あ、一夏さん……」

――





「うぅふふふふふふふふふふふふ……」

 うきうきと妄想しながら、更衣室のシャワーで体を清める。 シャワーを部屋で浴びる暇もなく求められる前提だからと本当にシャワーを浴びていないなど女としての沽券に係わる。 こんな事もあろうかと、更衣室のロッカーには私物のボディソープを持ち込んである。 勿論校則違反だが、今は校則など関係ない。

「そう!校則にも特別な事情を考慮していいと思うのですわ! 寮則にも校則にも恋愛関係による事情が全く記されていませんもの!! つまり寮内で愛をmakeしたって構わないという事ですわ!」

 シャワーブースで拳を軽く握り、吼える。 やってやるですわ。 ※勿論だめです。

「公共の場で卑猥なこと吼えてるなんてバカじゃないのかい、ライミー」

「ぅひゃあ!?」

 突然背後からかかった声と冷水に慌てて飛び退いたものだから、ボディソープに足を滑らせて盛大に転倒する。






 壁に額でも打ったのか、いたたと頭を押さえながらブース内に座り込んだ姿勢になったセシリアが肩越しに背後へ視線を向ければ、ブースの前には冷水を背後からぶっかけてくれた主、シャルロットが手桶を片手に立っていた。 これからシャワーを浴びようというところだったのか、彼女の髪はまだ濡れている様子はない。

「……だ、大丈夫かい?」

「誰のせいですの!? というかその目はやめてくださいまし……っ

 本当にしれっとしているのか、予想外の効果に普通に心配になったのか、憐れむような視線と共に声を掛けるシャルロットに返すセシリアの声がシャワールームに響いた。

「いやぁ、だって……ねぇ? うひゃあって……ふふ」

 そのセシリアの様子に大事はないと判断したのか、シャルロットは笑いを堪えながら、ひらと手を振って隣のブースに入ってゆく。 水栓を捻る音がして、暖かな湯気がセシリアのところにも届いた。

「それはそうと、一回戦突破おめでとう、ボクはご存じの通りだけれどね」

「まったく、あのブックで負けるだなんてありえませんわ、EUの恥ですわね」

 憮然と見送ったセシリアだったが、別に遺恨として引き摺る気もない。 立ち上がりながら未だに頭にかかるシャワーの栓を閉じ、髪に滲みた水を両手で丁寧に絞ってゆく。 そういえばシャルロットは試合直後に医務室に運ばれていた。 いつ目を覚ましたのかまでは知らなかったが、試合後のシャワーを浴びる事も出来なかったのだろう。






「はは……全く、僕もまだまだだよ。 しかし思った以上だね、鈴のところの……ティナさんだったっけ。 何かやってくる、とは思っていたけれど……」

「そうですわね、うちのクラスが特に優秀な人材がそろっているというわけではない、ということですわ。 未来を担う人材が豊富というのは大変喜ばしい事ですわね。
 ――……で……その、お一人になりたいようでしたらわたくしはお先に失礼しますわよ?」

 顔にかかる髪を一度撫で付けるように上げながら、揶揄めいた口調でセシリアが問う。 間仕切りの向こうの彼女の様子は判らない、一夏を巡っては特に熾烈というか実力行使を含めたやり取りのあった同士だし、何かと敵のポジションにつくことが多い相手だが、それでも本当に敵というわけではない。 セシリアにとっても、シャルロットにとっても、同じ一年一組のクラスメイトであり、同じ欧州系であり、仲間なのだから。

「…………遠回しだね、それはつまり愚痴を言いたいなら聞いてくれるって事かな?」

「いちいち聞きなさなくても結構ですわ、無粋というものでしょう?」

 ふん、と腕を組んで強気に鼻で笑っている姿が隣のブースにいても見えているようにわかる。 それが可笑しくて一頻り喉を鳴らしてから、シャルロットは大きく深呼吸し、そして、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「まあ、愚痴ってわけでもないんだけれどね、少し付き合っておくれよ…………。 《甲龍》のカスタマイズ、アレ……ブラックボックス触っちゃってるよね。 正直驚いたよ、別にこの大会で無理に干渉しなくたって、彼女ほどの技術力があれば学園の正式な整備ライセンスだって二年次で取得できるだろう? IS学園のライセンスは学園内にいる限り特別国際ライセンスと同等だ、第三世代兵装についても当然学ぶ」

「ええ、確かに《甲龍》の第三世代兵装《龍咆》をモロ改造してますわねアレ、鈴も承知の上なのかティナさんの独断なのかは判りませんけれど……彼女には今後機密保持の拘束力が働く事になりますわ、正式な学園ライセンス持ちの先輩方でさえあくまで認可があるわけではなく黙認という形ですから」

 セシリアはてっきり、あの戦いでの事について愚痴られると思っていたから、とりあえず語られた言葉に頷きながら当たり障りのない客観事実だけを返した。






 シャルロットも必勝の意気込みで試合に臨んでいたはずだ、それがよもやの敗北、しかも秒殺というのだから愚痴もあるだろう筈なのに……いや、これも遠回しには試合に関する事でもある。 ティナ・ハミルトンがカスタマイズしたアレがなければシャルロットの勝利は堅かっただろう。

「……意外かな? ボクは負けたことには愚痴なんかないよ。 あの出鱈目な防御は相性が悪すぎるだとか言っても穴はあるし、斬るというか叩き付けるようなあのバカ力は元々だしモロに当たるほうが悪い。 勿論心残りはあるけど。

 それよりも、ハミルトン君の判断がね。 ……正直衝撃的だったんだよ」

 心残りは、自らのパートナーとなってくれた清香の事だ。 彼女は整備中に武装を破損させてしまっていた、そしてその穴を見事な機転で埋め、必殺の武装として形にしてくれたのだ。 それを、生かすことなく、無残に負けた事は勝敗を引き摺る引き摺らないとはまた違う。 悔しくて、申し訳なかった。

「ハミルトン君と鈴は……元ルームメイトでクラスメイトだったよね、ただそれだけの為に……彼女にだって祖国はあるだろうに。 鈴は何とも思わないのかな……なんてね、想わないわけがないだろうけど……」

「それだけなんかじゃ、ございませんわよ?」

「……」

「元ルームメイトで、クラスメイトで、そして友であるという事は……『ただそれだけ』という言葉で括れるほど軽くはありませんわ。 ティナさんも、勿論、清香さんも」

「…………そう、だよね」

 ラウラ、鈴、簪、そしてセシリア。 国家代表候補生という肩書を背負っている自分たちに共通した自負、覚悟のようなものは、自分たちだけのもののように思っていた。 だが、その友人であるという事もまた、彼女たちにとっては自負であり、パートナーとして出場した時から覚悟などできているのだと、根拠なんかなくても言い切ってしまうあたり、このイギリス女らしいといえばらしいとシャルロットは思いつつ、その言葉を胸に収めた。






 代表候補生で良かった。 もしそうではなかったなら、今頃は何をしていただろう?

 母が存命だったのなら、あの生家で今も二人で暮らしていたのだろう。 平和な、穏やかに流れゆく田舎暮らしの中で、普通の学校に通い、普通の友情をはぐくみ、普通の恋をしていたのだろうか。

 父があのような仕事第一と考える人でなかったのなら、もしかしたらデュノア社の社長令嬢として社交界等に顔を出していたのかもしれない。 あれ? ということはこのイギリス女とは別の形で出会っていたかもしれないのだろうか。

 それは全てもしもの話だ。 現実は男としてIS学園に転入したのだから。

 シャルロット・デュノアは女として堂々と生きるとそう決めたとき、本当に全てを失うつもりでいた。 フランスの代表候補生はあくまで『二人目の男性ISパイロット シャルル・デュノア』であり、デュノア家の落胤であるシャルロット・デュノアではない。 筈だった。

 全てを学園側に明し、実の父が不正を働いて情報を得ようとしていたことも告発した。 流石に、学園内ならば他国の介入は受けないとしても……学園にいられるはずがない。 シャルロットはそれでも構わなかった。 学園の生徒だからとか、そんなものは関係ない。 自分が自分である限り、自分が自分でありたいと願う限り、

 いつか、一人の女として、ちゃんと一夏にまた会う。

「――ねえ、ビッチ。 ボディソープ貸してくれないかい? 匂いでわかるよ、持ち込みなんでしょ? 黙っててあげるから」






「藪から棒になんですの、フッカー。 取り寄せで今品薄なんですからあまり使いすぎないでくださいな。 使い終わったらわたくしのロッカーに入れておいてくださいな」

 したい話が終わったと察したセシリアは、掛けてあったタオルで髪に残った水分を吸うように当てながら、片手に持ったボトルを隣のブースに差し出す。 シャルロットの手が一度セシリアの手に重なってから、ボトルを掴む感触があった。

「――ボク、春休みにでも一度フランスに帰ってみるよ、父と、もう一度話がしたいと思ってさ」

「あら! シャルロットさんもようやく年貢の納め時ですのね、行ってもわたくしと一夏さんの幸せを祈っておいてくださいね?」

「あのね、帰るってそういう意味じゃなくて……別に実家に帰ったら帰って来られないわけじゃ……っていうかキミ、そこは付き合おうかって切り出すところじゃないのかい?」

「 い や ですわ。 わたくし、休みは一夏さんと二人で過ごすと決めてますの。 まぁ……どんな確執があるかまではお伺いいたしませんが、お話出来るところにいらっしゃるのなら、お話をするべきだと思いますわ。 ―― 話せなくなってしまってからでは遅いのですから」

「ああ、ゴメン……セシリア、君のご両親は……」

「フフン、あなただってお母上を亡くされているでしょう? 別に気にしていませんわ、わたくしは。 何を本気で済まなそうな顔してますの、フフッ、白・々・し・い」

「……ふんッ いちいち一言多いよキミは」

 言葉の応酬の終わり、去り際に隣のブースからひょっこり顔をだし、意地悪く口端をにんまりと上げたセシリアに少し気恥ずかしくなったシャルロットがそう返すと、セシリアは鈴が鳴るように笑いながらシャワールームを出て行った。

 一人になって、もう一度、考える。 今度は、本当にただの悔恨だ。 わかっている、後悔などしている暇はない。 生かせなかった。 笑顔にできなかった。 油断した。

 次は勝とう、共に。 もう負けない、友となら

 暖かなシャワーが、頭の上からシャルロットの体を洗い流し続けていた。






       / ヽ \         ヽ      ヽ   \
      // i  \ ヽ     \   ヽ      ヽ   `
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   / / | i  |  !_,   |\ ヘ \\\  ヽ       i    ヘ
  ./ /i |  !  |,="i\  ヽ. \ 、  ヾ \ |       i    `
  // i  |  f  v _ \ ヽ  ヽ _____  N       ヘ   |
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    |   i  i 《 i゚::::|   \        .|  ,   ト  ヘ  i\ i
    i   | /  弋::ソ ,            i  /  / \  、ヽ ヽ
    | |  |/.  、              / /  / |  \ヽ ヘ
     i. |     、    -―--      //   /ノ 、i   ``ヾ  ヘルズキッチン開始かと思ったかい!?
     :| | |    、 .  、    ノ    /    /   ヾ   ヘ 残念だったね!僕だよ!!
     | i |    .\   _       /  /  / /   ヘ
     ヽ ヘ    | \       / /  / / /´      ゝ 今日はここまでさ。
      V ヘ   .|  i \ _,,.  イ   / / /        イ´
         .ヘ  |  }.    |    / /   ,.::-´ ̄`ヽ、_/
          ヘ | `、    |  ' ノ    /        \
           ヘ i   \.   | _,,-'' ,   /          ヽ
            ヾ    /, r   .ム  /           、
          _,,,,...........,// .ト  /   /            、







 一夏は考えていた。

 ―― どう逃げ切る? どうごまかす!?

 それは生命としての本能、自然の摂理。 野生動物は、命絶たれるその瞬間まで死を受け容れる事などしないという。 覚悟を決めるという概念は野生にはない。 確かに草食動物の中には群れを逃がすための殿役を買って出る個体が発生することもあるが、喉笛に牙を突き立てられていようと最期の最期までもがく。 

「ああああ!
 違う! 違うんだ! 俺は草食系なんかじゃない!」

 この環境でどうにかならないあたり立派に一種の草食系だが、セシリア以外には異性としての興味が薄いと言ってしまえば本人の弁のとおり決して草食系というわけでもない。 むしろ狼だ、餓えた狼、生きる餓狼伝説 織斑 一夏だ。 しかし……

 ―― 餓えてるからって何でも食べると思うなよ







 セシリアの料理は、まずい。 彼女の料理を一言で表すなら、『裏切り』だろう。 砂糖と塩を間違えるどころではない。 塩とでん粉を間違える、砂糖の代わりにゆで卵の白身を使う。 しかし何をどうしたらそうなるのか、見た目だけは完璧だ、想像してみてほしい、ホカホカと湯気の立つ味噌汁があったとする。 しかし口に入れた瞬間、強烈な甘さが口の中に広がる。 ははぁん、これは黒蜜だな? すると豆腐に見えるのは角砂糖だな? これは味噌汁じゃない、スイーツなんだ、そう思えば……なんということはない。 ところがどっこい豆腐に見えたのは四角く切った豚の脂身でしたー! みたいな。

 ここまで芸術的に不味い組み合わせになることばかりではないのだが、不思議と一夏が知る限り正解に至ったことはない。



 料理は愛情?




 ―――― 嘘を吐くな!


 愛情は無味無臭だ、愛情を注いだところで消し炭は消し炭だ。

 料理は芸術なのだ、セシリアにとっての料理は芸術なのだ。 完璧な造形、完璧な色合い、艶、それが美味いならグラップラー刃牙の食事シーンのコマはさぞ美味しい事だろう。 美味しんぼの表紙はさぞ美味いのだろう。 レストランのショーウインドウなど舌が蕩ける筈だ。 さあ食ってみろ! 無理だろう?! だろ!? 例えがおかしい? 否、正しい。 セシリアの料理はその世界にいる。

 救いは、ちゃんと食材に分類される素材を使う所だ。 チェルシーさんによれば使用人を一人病院送りにした時に食べられないものは あ ま り 使ってはいけないと気付いたらしい。


書き溜めできてないので、また続きは今度です……ごめんなさい




「一夏? こんなところで何をしている? まあ……別に消灯時間まではまだ時間もあるし、あれだ、間違いさえ起こさなければ……構わんが」

 背後から掛けられた声に一夏が振り返ると、そこには訝しげに眉根を寄せた美女が立っていた、訝しげではなく心配しているのだと一夏にはピンときた、それはそうだ、弟が寮の廊下で最低野郎 ――この最低野郎とは別に性的な意味ではない。 むせるほうだ。 そんな最低野郎の顔をしているのだ、姉としては心配でない筈がない。 嗚呼、御姉様。 弟を死の淵からお救いになるというのか、さあ、慈悲を! 救済という名の姉ミッションを! ちなみにこの姉ミッションとは読んで字のごとく、姉により弟に下される緊急かつ絶対的な強制力を伴う任務のことだ。

「どうでもいいがお前、自分がこの寮で唯一の異性であることをもう少し意識しろ。 今更セシリアから寝取ろうなんて考えているのは片手で数える程しかいないだろうが、あまり他の生徒が男というものに幻滅するような行為はするな。 この学園の生徒は今後の世界の安定と平和を守り導いてゆく人材となってゆく、それが男嫌いとなるのは人類の未来にとっても避けたいからな」

 ――おかしい。 千冬姉の言葉がすごく胸に突き刺さってくる……。

 これではまるで心配しているのではなく中学に上がって少しした頃に弾がうちに泊った折、何が楽しいのか千冬姉の部屋に思春期真っ盛りな本の袋とじを持ち込んで開けていたのを、偶然帰ってきた千冬姉が発見した時のような、あの目で見ているかのようじゃないか。 ちなみにその時の千冬姉の怒りは、怒りと呼んでいいものか……警察は呼ばずに済んだ。 救急車は呼んだけど。






「い、いや、いやだ、あんな変態野郎と一緒にしないでくれ……ッ!」

「バカ者、同じとは言わん。お前のほうが幾分かマシだ」

「それって結局同ベクトルって事じゃないかよ!?」

 弾も酷い言われようだ。 でも弾だからいい。 あんな変態野郎ではないはずだ、なんか硬派な事やってたくせに中身はドがつくムッツリだったな、あいつ。 布仏先輩にはあいつがいかにむっつりなのかを更識会長から伝えてもらわなければ。

「待ってくれ! 待ってくれって! 第一俺はそんなやましいことがあるわけじゃなくて……」

「ほう、ではなんだ? 言ってみろ」

「……」

 ふと、冷静になる。







 言っていいのだろうか? いや、言って何の問題がある? 実際問題、IS学園の寮は非常に自由だ、緩い。 食堂はもちろんあるけれど、当然のように個室にも小さいながらもキッチンが設置されている。 その為、仕送りが少ない生徒や料理が得意な生徒は自炊していたりもする。 土地柄日本人生徒が多いものの当然海外からの留学生も多く、文化的習慣かは知らないが簡単なルームパーティが開かれることもよくあるし、他の生徒の部屋に遊びに行って食事をするなど別段特別なことはない。 特別なのは一夏とセシリアの関係だけだ。

 ――男子、織斑 一夏。 只今よりセシリア・オルコット嬢の個室に単騎突貫! あわよくばそのままの流れで男子の本懐を遂げ男となってファッキンオーイェーであります!!

 などと口走りさえしなければ、別に 織 斑 先 生 が止めるような筋はない。 いや、言ったほうが姉ミッション発生によって命拾いできるのではないか? ……別の方向で命を落としそうな気もするが。

 自分はどうしたいのだろう。

「……」

「……どうした」

「…………セ、セシリアの部屋に……夕食をご馳走になることになってて」

 食べ物のレベルかは別の話だ。

「……ほぅ……そうか」

「?」

 一夏は目を瞬かせながら千冬の顔を見る、とても意外そうな表情で、少しはにかんだように、嬉しげに微笑む千冬を見つめていた。






 ―― 予想外の反応、という顔だな。 まったく……

 千冬は、今更な話ブラコンだ。 テンプレート過ぎるほどの弟大好きおねーちゃんである。 だから、弟が望んだ相手を見つけて、それが個人的にも気に入っていたセシリアであった時点で、弟にとっての一番の幸せを望む姉脳は二人の仲の進展をより強く望むようになっていた。 セシリアは少し高慢な所や思い込みが強く形から入る所もあるが、基本的に根っこが善であり、純粋な愛情を持っている。 惜しむらくはその料理だった。 一夏ははっきりいって主夫向きなほど家庭的な男で、あれよりイイ男はそうはいない。 当然料理も上手く、それどころか独自の食の哲学さえ持っている。

 それが心配だった。 まずい料理というのは、食材への冒涜に他ならない。 それを一夏は許せるのだろうか? そんな風に考えてしまうのだ。 他人だからこそ口を挟まずに我慢したり素直に食べるのを避けていたものもあるだろう、では他人ではなくなったら? 女の料理にダメ出しをする男はカスだが、身内だからこそ言うべきは言うのも一夏という男だ。 だから千冬は一夏に料理を作ったことはほぼ無い。

 ―― 下手ダカラデハナイ。 決シテ。

 それでも、女としては彼氏に自分の料理を食べてもらいたい、そしておいしいと言ってもらいたいのは良き恋人の理想像として誰もが思い描く。 セシリアも自分の料理の腕が問題がないとは口でこそ「あなたの味覚がおかしいんですわ」とは言うものの本気で思っているわけではないだろう。 あそこまで頑ななほど自分で味見をする事がないのは半ばわかっているとしか思えない。 それでも、理想的な良き恋人たらんと料理を作る。 料理のジャンルが中華に偏っているものの鈴という料理の上手い親友に助けを求めればいいものを、独力で乗り越えようと足掻く。 もしそれにダメを出されたならば、セシリアは大きく傷つきながら纏った高慢で受けて立つだろう。

 ―― 難しい問題だ、難しい二人だ。






 一夏とセシリアの相性は当然悪くない、だが、食の相性は極めて悪いのだ。 一夏が毒料理に耐えきれるか否かの試練だけではない。 これは互いの試練なのだ、それを超えて向き合う二人となったなら、もう本当に千冬は心配も口出しもする必要がなくなるのだろう、それはとてもさみしいけれど、それはとても幸せなことなのだ。 今日はうまくいかないかもしれない、それでも、向かい合わないよりは一歩前進だ。

「では私は出前でもとるとしよう。 そうだな、ピザだな、ゴミ捨てが面倒だから真耶の部屋にでも行くかな。 お前もあまり遅くならんように、あまり早く帰ってきても学生に食わせるピザはないぞ」

 千冬はその場から踵を返して歩き出す。 唖然とした一夏に見送られながら、少しばかりそんなに私の微笑みは意外か? とやや憮然とした気持ちも過った。


「――……」


 ふと、彼女のことを思い出した。 また杯を交わしたいものだ、保護者同士。





今回はここまでです。

見てくださってありがとうございます。
相変わらず更新が遅くて申し訳ないです、進展も遅いです
何とかピッチを上げたい所です……

8巻は買ったのですがまだ読めていません……巻頭にIS解説みたいのがついてて嬉しいですね。
正直、新しい絵、前ももちろん好きという前提で嫌いじゃありません。千冬姉がふつくしすぎる。

新装の1巻2巻3巻も買いました、まだフィルムすら開けれてません
……新版ブルーティアーズのデザイン超楽しみです。

池袋とらのあなで買いましたが、お風呂ポスターとクリアファイルついてきました。
グレートですよこいつは。


進展しなかったなww
けど描写丁寧だし嫌な感じは全然しないんだよな

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(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368247350/)
こんなスレが出来たので一応注意を

>>448
あざっす。
スレは一応確認していました……

本当に申し訳ない、前にも一度そういう話はあったので一ヶ月は守ろうとしてたのですが……
次から何とか守りたいと思います。


保守してくれたひとありがとうございます。





――

 セシリアの部屋は相変わらずいい匂いがした。 一夏はこの匂いが好きだ、ハグをせがまれてはこんな所でかよ、と困ったように、躊躇ったような返しをするけれど、それこそ建前で、結局ハグはする。 するとどうだろう、160もない華奢な彼女の身体はすっぽりと自分の両腕の中に納まって、ふわふわの金髪が口元に近づいてきて、この匂いが鼻孔を満たしてくれる。 一度だけその前髪を唇だけで食んでみた事があったがアレは恥ずかしかった。 ヘアバンドの辺りの髪を軽く食んでみるだけのつもりだった。 なぜかって、そりゃ、美味しそうだったから。 そうしたら、丁度のタイミングで顔を上げたセシリアの前髪をはむはむしていた。 きょとんとしたセシリアと目がばっちり合った瞬間のことは今思い返しても恥ずかしい。

「……走馬灯か、フッ……出てくるのが早いんじゃないか?」

 やはりこれも運び込んだのだろう、たいして広くもない寮の部屋だが、結構立派なテーブルと広めのソファが置かれていて、一夏は今そのソファに体を預け、最近はまってしまっているというゲーム機を収納したテレビ台の上に何とかギリギリ置けたサイズの大型テレビをつけっ放しに、ひたすら無心を決め込んでいた。 というかスペースを確保するためなのだろうが、いつの間にやら鈴のベッドは壁面に収納できるタイプに交換されてしまったようだ、兵舎のベッドかよ。 と思ったが口には出さなかった。 当の本人はつい先ほどセシリアに追い出されて出ていった、明日は4組クラス代表、日本の代表候補生である簪との試合を控えているくせに、俺たちを冷やかすための時間はしっかり作ったらしい、今夜は格納庫で仮眠をとることになるのだろう。 ISには待機状態にすることで自動修復の機能が働く、しかし、その速度は決して早いものではない。 その為の整備であり、その試験を兼ねているのが今回の大会だ。





 シャルロット戦が完勝という結果に終わった鈴ではあったが、全くの無傷というわけにはいかなかった。 特に、改造武装である『無盾(むじゅん)』の発生時にエネルギーバイパスの一部が激しく損耗していたらしい。無盾というネーミングは鈴がつけた、姿の無い圧縮空間の盾という意味と、攻撃用の武装を防御用にしてしまう本末転倒の矛盾をかけていると言っていた。 ともあれ、損耗についてはセシリアの見立てでは、無盾のシステムは言うなればホースの口を意図的に塞いでしまっているようなもので、結果回路系に負担がかかっているのではないかとの事だった。
 改めて二人きりになって、まずはハグとキス、これは挨拶のようなものだ、二人きりなのだから、誰も見ていないのだから、当然だ。そしてセシリアはキッチンに向かっていった。

 それから一夏はソファに座り、以降動いていない、動かないことでこれから始まる何かを始めさせないことはできないのだが、動かない事しかできなかった。 そして思うのだ。


―― 悪くない人生だった。







「っじゃねぇだろ!? 何生への執着を捨ててるんだ俺は!」

「――? 一夏さーん? どうかいたしまして?」

 思わず大声を上げた一夏の声に反応して、少し驚いたセシリアが此方の様子をうかがう。 出刃を片手に。

「ひっ」

 出刃? 出刃包丁? なんで出刃包丁??? 別に料理をしている最中なら出刃包丁くらい持っていてもおかしなことは無い、けれども、一体セシリアが出刃包丁で何を作ろうというのか? 予想が一夏にはつかない、一夏は料理ができる男だ、女のプライドを砕く程度の腕はある。 だからこそ、調理器具を見ればそこから作る料理の予想はつく、しかし読めない、セシリアと出刃の関連が読めない、これが箒だったのならまだわかるのだが。

「いや、何でもない、何でもないんだ、それよりセシリア、包丁持ったままうろうろすると危ないぞ」

「あら、は、恥ずかしいですわ。 ふふ、もうすぐできますからね、もう少しお待ちになって」

 なんだこの可愛さは、天使か? 出刃包丁片手に可愛いなんてセシリアは革命を起こせるな、俺の彼女が可愛すぎて世界がヤバイ。 ラノベが一冊書けるぞ。






 いや、待て。 待てと一夏の中のちっさい一夏が警鐘を鳴らす、おかしい、おかしいだろう。 今セシリアは何と言った? ”もうすぐできますからね”だと? そして気付く、一夏はこの部屋に来てから、セシリアの匂いしか嗅いでいないのだ。 別に惚気ているわけではない、それ以外の匂いが殆どしないのだ、炊飯ジャーの中にはご飯が炊けてすでに保温状態にあるのは目視している。 そして時折セシリアが冷蔵庫を開ける音は聞こえていた、しかし……水の沸騰する音すら一夏は聞いていない、あの熱された鍋の微かな香りも感じない、そして出刃包丁。 ――まさか。


「さ、できましたわ! わたくしとしては少し手抜きではないかと思ってしまうのですけれど……和食というのは不思議なものですわね」

 セシリアの手にある大きめの更に盛り付けられたのは赤い色を中心とした……。

「これは……ッ 刺身!?刺身の盛り合わせ……!」

 その手があったか!! 一夏はこのチョイスに感動すら覚えた。 刺身、和食の代表的な存在にして、王道。 今頃ピザをつまみに一杯やってる姉も、もちろん一夏も、日本人なら大抵好きな刺身! 調理方法は簡単、魚を捌いて切り身にするだけだ。 勿論、ただ切ればいいというわけではない、この道の奥の深さは1000レスでは足らない。 しかし、今一夏の目の前にあるものは、そう、セシリアの『作品』だ、完璧な造形、完璧な色合いを持っている、それは即ち、完璧な捌き方をしたという事。 見た目の完璧さが意味を持つ料理ならば、彼女の芸術性は利点となるのだ。






「もう、そんなに驚いた顔で見つめることないじゃありませんの……し、知ってますわよ? わたくしの料理がマズい事くらい、というか一夏さん、この前嫁のメシがまずいスレで質問していらしたでしょう? 将来仲間になりそうな高校生ですがどうしたらメシマズ嫁を矯正できますか?って」

「ど、どうしてそれを……い、いや、というか矯正できたらここにいるわけがないって言われただけだったけど」

「ですから……箒さんに相談しましたの、わ、私魚を捌くなんて初めてでしたけれど、いっぱい練習しましたのよ? ご存知ですの? お魚には赤身魚と白身魚がいるんですのよ?」

 そこからかよ、赤い刺身は赤い染料で染めると思ってたのか。 喉元まで出かかった言葉をぐっと飲み込みながら、一夏は幼馴染に本気で感謝した。 箒はかなり料理ができるほうだ、だからこそ気付いたのだろう、セシリアの適性に。 元々が知識先行型のセシリアだ、魚の種別による違いさえ覚えれば、あとは持ち前の器用さで「作品」を完成させるだけだ。

「いただきます!」

 セシリアのよそってくれたホカホカのごはんの入った茶碗を手に、まずは赤身の刺身、マグロから口に運ぶ、文句なしに美味い、このレベルの包丁使いは一夏にも真似ができそうにない、千冬姉がいたら全部喰われかねない。

 次に透き通るような薄さに切り分けられた白身を口に運ぶ、これは食感が面白い、しかも一切れ一切れがどれも同じような食感になっている、まさに舌を巻く完成度だった。








「うん……セシリア! お前すげぇよ!! 美味い! チョー美味い!」

 心からの言葉だった、一夏自身も気づかない、何年振りだろう、美味しいものを美味しいと喜ぶ、そんな本当に素直な笑顔。 そんな笑顔を向けられることは初めての体験で、セシリアは頬が紅潮するのを感じていた。 愛する人に、そんな初めてを貰ったのだ。 嬉しくて、嬉しくて、本当は今すぐにでも寮中を走り回りたい気分だった。

「っと、悪いセシリアの分……」

「あ、いいんですわ。 その、わたくしまだ……ちょっと生魚は……で、でも、今日使ったお魚の鮮度は保証いたしますわ! オルコットの名にかけて!!」

 生魚を食べるというのが苦手な欧米人は多い。 特にイギリスでは生魚を食べるという文化は無いのだ、イギリスのスシバーでは生魚のスシは全くない程に生魚を怖がっている。 本格的な寿司が生魚であり、それを普通に食べる姿を見ていても、どうしても苦手意識が先行してしまう。 いわゆる食わず嫌いなのだと箒にも言われたが、いつかは慣れたいとしてもまだセシリアには食べるのはだめだった。







「そっか……じゃ、いつかだな。 一緒に食おうぜ! しかしこの白身、美味いな、こんなにフグっぽい味の魚って何だ??」


「さすが一夏さんですわ、味だけで魚がわかるんですのね! フグっぽいも何も、フグでしてよ?」






「えっ」










             . .-―-. .
.          ┌≦: : : : : : ミ: : :丶
        ./|: : : : : : : : : : :`丶: :\
       /: 八: : :\ : : : : : \‐一: :\

       ,: : : : :ヽ: : :、゙斗<: : : \: : : 、
        .八: : :.|斗\: 、≠以> ト、=ミ: : : 、
      /:イ \ { f以 \、     i/ ヘ .〉\ :、
     / Ⅵ: :\ 〈   `     __/: :! \、  <えっ?
        ヽ\{‘、  ___    / 川L
              丶 ー一’ . _,. ≦: : : L_,.  -ュ、
              ヽ _,.<  }: : : : : :/∧ _,∠⌒ 、
                <∧ |: : : :/ : : { ̄| \  丶
                 >:}:|: /: : : : : |  |  \  ト、
                ,/:∧!: : : : : : /  :|    \∧ 、
               /′/: : : : /  、 {    /ヾ  、
             f / : /: : : : /ー―‐┐ 、   ´   ヾ  、
            小 ̄7 : :.:/      8 |  `ヾ     ヾ  、
             } ヾ{: :/        |     \    ヾ  、



今日はここまでDEATH!







ちゃんと続くよ!




あれ・・・一ヶ月たってる?
おいおいふざけんな、終わらないでくれよ

>>468
盆前後で死ぬほど忙しいのです、ごめんなさい。
書く気はあって書きたいんですが……


更新します。
相変わらず短いですが……何とか速度を上げていきます。
10月から二期ですよ二期。




「一夏さん……大丈夫でしょうか?」

 最終調整を行いながら、セシリアは医務室のある方角を見やる。 本当は目を覚ますまで傍にいたかったのだが、本日試合のあるセシリアに被害者の実姉でありIS学園教員である千冬に試合優先と引き摺り出されてしまった。 曰く、専用機持ちがフグ毒如きでくたばるかとの事だが……あの後一夏の傍に居ながら自分なりに調べた結果、結構な致死毒であることを知ってしまっては不安も覚えようというものだ。

「てゆうかセシリア……フグはまずいって。 頭いいのにそういうとこ抜けてるよねー」

 タブレット端末を片手に《ブルー・ティアーズ》を展開したセシリアの周囲を回りくまなくチェックしている谷本が呆れ顔で溜息を吐く。 事前の根回し通り昨夜のうちに一組の敗退したチームのメンバーが集まり、一回戦の時に比べて格段に整備が楽になった。 ただ楽になったとはいえこういった細かいチェックについては正式に《ブルー・ティアーズ》のチームとして登録している谷本にしかできない。

「セシリア、いいの? 鈴の試合はじまってるよ」

「……え? 見る必要ありませんわ。



 だって鈴とは後で当たりますもの、戦法を見たなんて言われるのは、癪ですわ。」


 親友としての、絶対の自信だった。





――――

「逃がさない……ッ!」

 彼女の"眼"が向けられる。 向けられているのは視線だけだ、しかし、それは必殺の意味を以て上方へ逃れた《甲龍》を穿つ。 二つ、四つ、六つ、脚部左右のポッドが開口し噴煙を引きながら小型ミサイルが飛んだ。 鈴もそれに気づいて回避しようとするが、先程のミサイル程の弾速を持たない代わり、コンパクトな飛行体はずいぶんと小回りが利くようだ、かすかな動きにもクイックに反応してくる。 だから、ぐっと歯を食いしばり両腕を顔の前で交差させる。 シャルロット戦で見せた圧縮空間による防壁、その後ティナと二人で《無盾》と名付けたそれは使用しない。 《甲龍》の装甲を信じる!







 簪は追い打ちに肩のミサイルも打ち込むべきか考えながら、HUDを確認。 着弾を確認、脚部ポッドが次弾の装填を開始した旨を伝える表示がHUDに浮かぶ。 例の《無盾》は発動していなかったようにも見えた。 一つ一つは小型でも連続して炸裂する衝撃は確かにダメージとして蓄積されただろう。

「それにしても……複雑な名前ね」

 《甲龍》の《無盾》は本来攻撃用の特殊武装である衝撃砲という「矛」が「盾」であるという事から、「矛盾」にかけて、そのままではネガティブな印象があるために無盾と名付けられたものだ。 漢字こそ違うが楯無の姓を持つ身としては、自分の姓と「矛盾」という言葉が結びついてしまうようで、正直、不愉快だ。
 自分は一夏が、織斑 一夏が好きだ。 セシリア=オルコットと恋仲であるという事は知っている、知っているけれど、知っていたなら諦めてしまえるほど、彼の存在は小さくはない。 小さくはないけれど、仲を引き裂こうとも、セシリアに恨みを抱くこともない。 筈だ。
 おそらく彼女は勝ち進んでくるのだろう、ならば勝ち進めば、公衆の面前であのテンプレお嬢様キャラを地で行く彼女に『このわたくしが!』から始まるありとあらゆる敗北セリフというテンプレートの美学をなぞらせ、お嬢様キャラ=敗北という黄金律にも似たフラグを回収させることができる。 お嬢様は負けてこそ王道。 『覚えてらっしゃい』くらいは言ってほしいものだ。 別に、フラグが立つ前に一夏とゴールした彼女が憎いわけではない、それが美学だからだ。 憎いわけではない。
 目下一年生最強と呼ばれる日も遠くないであろう彼女に対して、勝算はある。 共に中距離射撃型……若干セシリアのほうが遠距離に適しているが、BITによるレーザー弾幕とマルチロックオンシステムによるミサイル弾幕、意識下で曲がるレーザーという代物はとんでもないが、こちらのミサイルは初めから曲がるし追尾するし、マルチロックオンシステムの場合は射出前のロックオンさえしてしまえばあとはミサイルの行く末について操作はいらない、回避に意識を集中できる。 更には飛び回るBITを破壊する事で大幅な戦力低下を期待できるうえに、そのBITもまた本人で操作しているとあれば、飽和攻撃vs飽和攻撃の場合彼女が不利で当然。 機体設計の時点でこちらに軍配が上がるのだ。






 突如!耳をつんざく炸裂音、一瞬でHUDが損害状況を次々と表示し、まるで血に染まるように視界が赤くなる。

―― 速過ぎる!

 まだ簪は鈴の姿を視認していない。 被弾の衝撃で弾き飛ばされながら、簪は鈴の姿を見ると、今更振り返る所だった。






「――忘れないでよね、中国の第三世代兵装《龍咆》があるのよアタシには!」

 右肩が《無盾》に改造されたとはいえ、当然のように左肩の衝撃砲は生きている。 そして《甲龍》に搭載された衝撃砲《龍咆》の特徴は……。

「死角なんてないの!!」

 連結させた大刀を振りかぶり、鈴が被弾による一時的な機能不全に陥った簪に迫る。
 《打鉄弐式》は決して鈍重な機体ではない。 ミサイル祭りな為か、グリス=ボックやらバンガイオーのような何かと思われがちだが元々が運動性重視の機体で、ぜひメサイアバルキリースーパーパックと言って欲しい所。 もっと繊細であり、簪自らが調整して完成させた火器コントロールシステムは繊細緻密。 要は、被弾には弱い。 特に、強い衝撃は最悪だ。 余談だが、昔、鈴は一夏たちと遊んだ際に弾が持ってきた専用マットを用いてDDR家庭用版プレイした際、曲の一歩目の勢いが強すぎてディスク読み込みエラーを起こして終了した経験がある。 翌日から震脚と呼ばれた。


―― 間に合って!!

 こんな時、姉ならどうするだろう……。

 そんな感傷は後だ!!!

 簪は、愛機《打鉄弐式》の復帰処理をマニュアルに切り替え、即座の反応を見せる。 近付いてくるのだ
 ならば、普段当たらない物だって、置いておくだけで当たる!

「こ……れでッ!!」




うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ



ミスです 


>>476

以降

以下


>>475

   
「!!」

 着弾点から広がる煙を割って、鈴が飛び込んでくる。 他事を考えるのは後だ、今はこの相手、個人的には最も苦手な相手《甲龍》に集中しなければ。 ダメージこそ確実に与えたのだろうが、安定性を重視して組み上げられた《甲龍》は軍用機に比類する程の装甲を持つ。 それを差し引いても、ただでさえインファイトが得意な鈴を少しでも押し退けたかった簪としてはこの成果は十分とは言えない、小さく舌打ちを鳴らし、追撃に肩部ポッドのミサイルを放つのを諦めて両の膝が胸に当たるほどに素早く引き上げ、水泳選手がコースをターンするように蹴り出しながら脚部スラスターを吹かせてやや上方気味に下がる。

「やるじゃない」

 煙の中から飛び込みざまに手にした大刀で繰り出された一薙ぎは軽く下がっても十分避けられただろう、だが、そのままの勢いで体当たりをされていたなら、最悪観客席との間にある障壁にまで弾き飛ばされていた、それほどの突進だった。 足の下を通り抜けた鈴の背がそう呟く、ここからどう振り向くか、お互いに背を向けた状態での駆け引きになる。 簪は、空中で頭を前に落とすようにして、上下逆さまになりながら相手のほうを向くことを選択した。 視界にさえ入ってしまえば《打鉄弐式》から逃れられる機体など存在しない、先程の小型弾頭ではない、肩部の中型弾頭も混ぜて飽和攻撃を仕掛ける!




>>479



 突如!耳をつんざく炸裂音、一瞬でHUDが損害状況を次々と表示し、まるで血に染まるように視界が赤くなる。

―― 速過ぎる!

 まだ簪は鈴の姿を視認していない。 被弾の衝撃で弾き飛ばされながら、簪は鈴の姿を見ると、今更振り返る所だった。



>>480





「――忘れないでよね、中国の第三世代兵装《龍咆》があるのよアタシには!」

 右肩が《無盾》に改造されたとはいえ、当然のように左肩の衝撃砲は生きている。 そして《甲龍》に搭載された衝撃砲《龍咆》の特徴は……。

「死角なんてないの!!」

 連結させた大刀を振りかぶり、鈴が被弾による一時的な機能不全に陥った簪に迫る。
 《打鉄弐式》は決して鈍重な機体ではない。 ミサイル祭りな為か、グリス=ボックやらバンガイオーのような何かと思われがちだが元々が運動性重視の機体で、ぜひメサイアバルキリースーパーパックと言って欲しい所。 もっと繊細であり、簪自らが調整して完成させた火器コントロールシステムは繊細緻密。 要は、被弾には弱い。 特に、強い衝撃は最悪だ。 余談だが、昔、鈴は一夏たちと遊んだ際に弾が持ってきた専用マットを用いてDDR家庭用版プレイした際、曲の一歩目の勢いが強すぎてディスク読み込みエラーを起こして終了した経験がある。 翌日から震脚と呼ばれた。


―― 間に合って!!

 こんな時、姉ならどうするだろう……。

 そんな感傷は後だ!!!

 簪は、愛機《打鉄弐式》の復帰処理をマニュアルに切り替え、即座の反応を見せる。 近付いてくるのだ
 ならば、普段当たらない物だって、置いておくだけで当たる!

「こ……れでッ!!」






       |\       __
    __ヽ ヽ>: :´: : : : : `丶、
    \__\V : : : : : : {:`: : : : : ∨⌒フ
    ィ/7: : : : : : : 八: : : ヽ: : :V⌒>

     〉ト イ : : : /: : : : : :ヽ: :、: \:}\:ヽ._
.    〈八: :{: : :7八{: : : : ハハト≧=-_,ノ: :}{
    }ハ V: :、kャ=ミ`\/  jノ}: : :厂 : /ノ
     }:、: ヽ:∧Vツ   x=ミ,ノノ/ : : /} つーわけで次回に続くのよ。
     }: ヽ: :}:人   、' ,   フ: / 1: : |ノ
     /: : ハ:八:Y{≧=v=≦} : /  |: : ハ
.    /:/: : :}: } }ノ_>zrz<⊥:{   |: :{ :丶
   /:/: : :八ノ人ヘ  { = | /_`   ゝ: \: :ヽ
   {八: :〈 {{∩ =ミ、 マニ|__{ノ 「ア7´} `つ): :}
     \{ ゞ彳⌒Yて)し厂`ーヘノ `¨´ ¨´
         VニY´

           ゞ= ′




き、近日中には必ず・・・




 ISの基本フレームから武装まで、それは量子に変換され、ISコアの持つ領域、ハードポイントに格納される。それを実体化させるのはIS操作における基本技術であり、それを技術の域にまで昇華させたものがシャルロット・デュノアの《高速切替》という技である。即ち、現在展開している武装を高速格納し、次の武器を高速展開する。彼女の機体《ラファール・リヴァイブ・カスタムII》はその技を生かすためにハードポイントを増強しているのが特徴のひとつだ。
 そして更識 簪 の愛機《打鉄弐式》はいわゆる格闘機である《打鉄》をベースに、他国に比べIS発祥国である利もあって高い技術力を持つ倉持技研が自国の国家代表機のテストベッドにすべく開発を進めていた機体。その基本設計は非常に柔軟であり、開発が進められていれば現在の遠距離火力支援だけではなく、壱式たる母体機同様の格闘パッケージ等も開発の候補にあったという。残念ながら倉持技研での開発は《白式》の登場により中断されたが、その柔軟な設計思想は、大小様々なミサイルポッドを装着して尚携行兵装の搭載に猶予を持つハードポイントとして残った。
 ただし、現状でさえ膨大な火気の制御にセンサーの性能を限界近くまで使用している以上、さらに追加でミサイルを搭載することはできない。その為、普段はアサルトライフルと近接戦闘用のブレードを搭載するだけで留めていたが、それでもハードポイントはあまっていた。

「……これが、私の切り札……!」

 更識 簪 は、隠れオタクである。隠れてさえいないという意見もあるが、日課として深夜アニメのチェックは行うし、新刊の発売日には通販に頼らずショップ特典の為に街に赴きもする。中でもやはりロボットものには特別の興味がある。

 ミサイル主体で戦う為に携行武装を出していなかったのが幸いした。シャルロットのような高速格納はできないまでも、高速展開くらいはできるつもりだ。両の腕に、ブ厚い箱のような盾が出現、それをボクシングのガードのような形で体の前に構える。迫る鈴の姿はコレでまったく見えない、だが判る、この間合いならば、この武装から逃れる術はない、この間合いでは、他の方法で鈴の突撃を凌ぐ手立てもまた無い。

「……クレイモア……ッ!全弾持って行きなさい……!!」

 簪の構えた盾の前面、鈴に向けた側が炸裂する。いわゆる対人地雷というやつだが、ただの対人地雷ではない、パッケージングされているベアリングは本来のクレイモアのものと比べて大型、ビリヤードのボールくらいの大きさの鉄球が盾を支える簪の体ごと後方に弾き飛ばす勢いの爆発で簪の前面に射出される。対人地雷をこんな使い方をするというブッチギリにイカレた発想はゲームから手に入れた。シャルロットと被るからパイルバンカーは装備しなかったが、本当はそれも装備しておきたかった。






「ンな……ッ! バカな――!!」

 バカな装備、と言いたかった、けど、二の句が継げない。 急加速接近した所へカウンター気味に入った簪が放った無数の鉄球。 即座に考えるのは右肩の《無楯》の展開、だが……。

 ―― 弾体が大きすぎる……ッ!!

 シャルロットのばら撒いた小口径の弾とはワケが違う。何より密集面積が違う。 先が見えなくなるような密度で鉄球の雨は《無楯》の有効範囲に守られていない脚部の装甲を幾度も打撃し、圧縮空間により減衰した鉄球もまた後からやって来る鉄球に弾かれ再加速して届く。シールドエネルギーが恐ろしい速さで削れていた。






――


「……なんと」

 唖然、と観客席からラウラが戦場を見上げる。 《甲龍》にも《無楯》にも当たらなかった弾体がすぐ近くの防護障壁に流れ弾として当たる音はまるでスコールのようだ。 今大会の決勝は、トリプルスレッドマッチになることが決まっており、運良く、と言って良い物か、ラウラは己のブロックで誰一人として代表候補と相対することなく先立って決勝の進出を決めていた。 無論、誰と対戦していたとしても決勝への進出は決めていたつもりだ。 しかし、改めて友人達の凌ぎを削り合う姿を見ると、果たして彼女達との戦いを制することができただろうかという疑問と、それと同時に。

「……クジ運に恵まれなかったな……」

 この二人のうちどちらか、そしてセシリアと箒のどちらか、決勝ではその二人としか戦えない。 この大会は順当に自分が優勝するだろう、連戦での損耗は、普段と違う整備環境も相まって大きい、対してラウラはコレまでほぼ無傷、補修にかける時間が減れば当然のように整備にかけられる時間が増える。 もちろんここまで残っっている誰もがそんな下馬評を覆せる実力の持ち主たちだ、しかし、ラウラ自身とてそこに肩を並べる一人である自負がある。 これほどの削り合いをしなければ勝ち上がれない他の仲間たちに対して、優勝しなければそれこそ手を抜いたと罵られてしまう。 今戦っている鈴にも、簪にも、シャルロットにも、一夏にも、箒にも、セシリアにも、仲間の為に、ラウラは負けてはいけない。 負けられない。

「……ナギ。 決勝へ向けて調整がしたい、付き合ってくれるか?」

「あ、うん。 ラウラ、見ておいて正解だったね、試合」

 ああ、と、小さく頷きながらラウラは席を立つ。 勝利は見えている、だからと、悠長に観客でいて良い理由にはならない。 万全に万全を期す。 嗚呼それでも……。

「万全の状態で戦いたかったぞ……鈴、そして簪も」





――――



 遠くで、ひときわ大きな歓声が上がった。 決着の時が来たのだろう。

「流石ですわね、鈴」

 浮遊させ、機動試験を行っていたB.I.T.をバインダーに戻す。 歓声が聞こえたとはそういうことだ、鈴が勝つ以外にはあり得ない、これで、決勝はラウラ、鈴とのトリプルスレッドになった、最後の一人は無論自分だ。 箒のデータを呼び出し、いくつものウインドウに表示させる。 以前のタッグマッチでも戦った相手、前回は勝利することができた相手。 規格外の第五世代IS《紅椿》は本当の意味での『専用機』だ。 ISの母 篠ノ乃 束 が妹である 篠ノ乃 箒 の為だけに作成し、自らの手ずから最終調整を行った。
 第五世代技術《展開装甲》を全身に配し、中距離戦闘から近接戦に対応可能な二本の刀、自律駆動型のビットを有し《絢爛舞踏》による無限ともいえるエネルギー。攻防に一切の隙は無く、全ての距離において最大火力の武装を持つ。 弱点は見当たらない、ほとほと対戦するのが嫌になる相手だ。

「唯一の弱点は、搭乗者……酷な機体ですわ」

 機体性能では負けるわけが無い、負けるはずが無い、そんなISを着る事になった心労は推し量れない。 篠ノ乃 束 博士という天才にとって、妹に最高の機体を与えたのは当然なのかもしれない、それは博士からの身内に対しての愛であり、織斑 一夏というもう一人の身内同然の少年が手にした《白騎士》を継ぐIS《白式》の対としての紅白という願い、そう、それは『期待』
 妹だから、親友の弟が白だから、二人を並び立たせたいから、博士は妹に、篠ノ乃 箒 という16歳の少女に最高の期待を与えた。
 果たしてその『期待』は叶えられることは無かった。
 白に並び立ったのは「蒼」だったのだから。

「酷だ……とは思いますが、恋路にやり直しやもう一度、はありませんわ。
 ―― 白い雲が浮かぶ空は、蒼くてよ」

 時間だ、谷本や協力してくれる同級生たちのナビゲートに従い、地上では鈍重と言うしかない重武装を施したままの愛機をカタパルトに接続する。

「BT-01"ブルー・ティアーズ"クイーンズグレイスパッケージ、セシリア・オルコットで参りますわよ!ライフルを射出してくださいまし!」

 隣のカタパルトがまず動作し、上に載っていた巨大な砲が先行して射出、追うようにセシリアの体にカタパルト発進のGがかかる。 谷本が中心となって考案したライフルは、あまりにも大きく、量子変換で戦闘中に取り出そうとすれば大きな鋤となり、抱えたままでカタパルトで出るには著しく重心を損なう物だった。 だからこうして先行してライフルを射出、カタパルトによる加速で姿勢を安定させながら空中でそれをキャッチするという方式をとることにした。 流石にピット内ではフルに開けない増設スラスターを開いてしまえば、いかに長大なバランスの崩れるようなライフルであっても、重心のゆがみを推力で押し切ることができる。
 通常のライフルのように片手に持つのではなく、右腕にマウントしてから左の手で支持すると、その重さがはっきりとわかる、かかる重心の傾きに逆らわずにバレルロールを一度行い体勢を立て直してから、自身の機体と同じ蒼い空へセシリアは加速していった。






――――



 鈴は、アリーナの地上に両手両膝を着き、肩で息をしていた、機体は無事とはいえない、特に左の脚部がひどいとしか言いようが無い。 装甲という装甲はひしゃげ、ところどころ鈴自身の足さえ見える程に破壊されている。 他の部位も無事ではない、ハイパーセンサーの要でもある頭部パーツも、鬼を思わせる角の片方は折れ砕け、バイザーにも亀裂が入っている。 鈴の視界に表示される情報は表示領域が半分になってしまっていて、表示される内容もノイズ交じりだ。

「――ッ!」

 脇腹にも痛みが走る、《絶対防御》を若干超えた衝撃があったのだろう、もはや動けない、もし、彼女が立ち上がったのならば、自分は確実に負ける。
 勝利した実感なんて、欠片も無かった。



 《クレイモア》は使い切りの装備。 一度炸裂させてしまえば、もう盾になるわけでもない、衝撃を相殺する為に吹かしていたスラスターを止め、残骸を放り捨てる。 当たったはずだ、穿ったはずだ、さもなければ、自分が今こうしているはずは無い、彼女の攻撃で叩き伏せられているだろう。

「……やっ……た……!!」

 もうもうと立ち込める硝煙の向こう、幽鬼の如き龍の姿が見えた。 ISの構造物が砕け散ったのだろう、左右の足の長さも違う、マッシヴな印象を与える上半身も肩のユニットももはや見る影も無いほどに変形しているであろう様子が見て取れる。

≪かんちゃん!!!!≫

「ほん……ね……私……やったよ……」

≪かんちゃん!ダメ!!まだ鈴ちゃんは……――!!≫

 親友の声が、一瞬で遠くなる。 必死の警告が届かない。

「――……??」

「ぅあああああああああああああああああッ!!!!」

 代わりに聞こえたのは絶叫と、衝撃、一瞬で簪は意識の糸を手放していた。 経験、簪は国家代表候補生ではあるが、いかんせん日本と言う国は平和すぎた。 文字通りの死に物狂い、土壇場、そういった修羅場の経験が著しく欠けている。 対する鈴は中国の国家代表候補生だ、それも、現在こそは国籍も戻し、本省人ではあるにせよ在日中国人として育った期間のほうが長い。 あらゆる差別、侮蔑、そういったものを乗り越え、たったの一年で代表候補生に上り詰めた、そこにどのような修羅場があったのか、地獄があったのか、想像に難くない。
 勝敗はあっさりと決した、生き残ったスラスターを爆発させながらのイグニッションブーストによるショルダータックルは、右肩の《無楯》を肩部ユニットごと破壊しながらも簪を真芯に捉え、そのまま防護壁に叩き付けた瞬間、《甲龍》のスラスターが停止、同時に《打鉄弐式》のシールドエネルギーは0、凰鈴音の勝利が確定した。





====RESULT====

○凰 鈴音 [20分18秒・ぶちかまし] ×更識 簪






                           ハヽ/::::ヽ.ヘ===ァ
  |`ヽ.     __      , -‐ ァ     {::{/≧===≦V:/           -──‐  .
  |  ,>: :´: : : ト: : `丶、/   ノ     >:´:::::::::::::::::::::::::`ヽ、     /r‐v‐v‐v‐、  ヽ

__l_/: : /  :: : |: :丶 : : : |   ∠   γ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ     , ' / ̄ ̄ ̄ ̄|   ',
\  / : : { : : : : : 、: : :\ : |_/ / //::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ハ   /  /_____j
   } / : !、ハ: : : : : : 〉: : トゝ|  く| ll ! :::::::l::::::/|ハ::::::::∧::::i :::::::i  /  /Y^Y^Y^Y^Y}     i
   Yイ: !/`V、 : /}メ._V\:ヽ:ヽ  j 、ヾ|:::::::::|:::/`ト-:::::/ _,X:j:::/:::l ′ !,メ、_{ l| 厶斗|     |
   |从 ┃ `′┃ }: :}-、:/: : :|    ヾ:::::::::|≧z !V z≦ /::::/′ { | ◯ \{'  ◯′/  八
  厶イ “   -‐v、 “/ :リ ノ: イ:|    ∧::::ト “        “ ノ:::/!i   Y “      “イ  /   、
   ト(\_{     }_ 7:// ̄)/: : !     (\    ー'   / ̄) | | /(\   ー'   // ̄) 、 〉
     | ``ー――‐''|  ヽ、.|         | ``ー――‐''|  ヽ、.|   | ``ー――‐''|  ヽ、.|
     ゝ ノ     ヽ  ノ |          ゝ ノ     ヽ  ノ |     ゝ ノ     ヽ  ノ |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

今日はコレまで、毎度待たせてごめんなさい








――同刻・医務室


「一夏! 気がついたんだね、もう起きて大丈夫そう??」

「あ、ああ、悪いなシャル……正直《絶対防御》が無かったら多分危なかった……」

 絶対防御が毒物に有効と言う話は聞いたことがないが、朦朧とした意識の中で例の白騎士少女と出会ったのだから《白式》が護ってくれた、そんな気分だった。 食べられるけれど食べちゃいけないものや要注意の食材について今度ゆっくりと話さないといけない。上半身を医務室の清潔感のあるシーツから起こしながら、軽く周囲に目を配ると傍らに控えているシャルロット以外はいないようだった。
 ふと見れば、シャルロットの手には濡れたタオルがあり、その傍らには水を張ったボウルがある。

「看病してくれてたのか……ありがとな、シャル。
 ところで今って何時だ? ……今日の試合は? セシリアは?」

「い、いいんだよ、これくらい……はぁ」

 そこまで答えて、シャルロットはため息を吐く。 わかっちゃいる事だけれど、間近であてられるのはまだまだ慣れそうもない。
 いや、きっとこれからもずっと、ずっとずっと、慣れる事はないのだろう。






「……まったく、こんな時までセシリアセシリアって……もう」

 小さく口の中で吐露する不満は、目の前の朴念仁には届いただろうか、届いて欲しいと思うけれど、届かないで欲しくもある。 例え届いたとして、一体どう反応して欲しいと言うのか。 謝って欲しいのか、それともいっそ盛大に惚気て欲しいのか、それとも――

 今からでも、乗り換えて欲しいのか。

「今は14時過ぎ、セシリアの試合はこれからだよ、今は……」

 小さく首を左右に振りながら、呟きの反応を待たずに現状を説明する。 シャルロットの中で一夏への想いが消えているわけではない、だが、シャルロットが好きな一夏は乗り換えるなんていう選択はしない。 それに、例え万が一にでもその選択をしたのならば、シャルロットは一夏を心の底から軽蔑するだろう。 その選択肢の先に、セシリアが悲しまない未来はない、それを是とするほどシャルロットはセシリアを嫌いではないし、どっちが勝っても恨みっこ無しと言い切れて、割り切れるほど好きでもない。 だから無いのだ、その選択肢だけは。






 その時、遠くで大きな歓声が上がるのが聞こえた。 今日の第一試合が行われているアリーナの方角だ。

「……鈴と簪、決着がついたみたいだね」

「そうか……じゃあ、行かなくちゃな」

 今日の試合日程では、鈴と簪の次がセシリアと箒の試合だ、おそらく今から出ても開始には間に合わないだろうけれどそれでも一夏は傍に行って応援したかった。 二人で話したのだ、互いの試合は必ず応援に行くと。 ところが蓋を開けてみれば一回戦は何しろ対戦相手だったものだから、どちらも応援なんて出来る筈が無い、約束と言えるほどしっかりとした話でもないし、様々な案件でどうしても都合が悪くなる、そう、例えば前日河豚を食わされる等、どうしたって外せない事情で応援に行く事が難しい場合がある事は、セシリアのほうが十分承知しているだろう。
 何せセシリアは学生であり、オルコット家の当主として仕事がある身なのだ。 恋愛最優先にしか見えていなかった一夏としては、恋人として付き合うようになって初めてセシリアの想像以上の多忙さを目の当たりにし、今までどれほど彼女が自身の為に時間を工面していたのかを知り、心から感謝をする一方で思っていたよりもベタベタにならない事に少し不満を感じたりもしている程だ。

 だから、だったら、自分の出来る限りはセシリアとの時間にする。 でも河豚はもう勘弁していただきたい。




            _................_
           _...::'´: : : : : : : : : :`:.ヽ
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      j: : : : :|: : : :l : : :/ : //;ハ: : : : /:/j:.:',
.      ノ: : : :/| : : : : : -|‐/ ̄|:ト |、: :/:/:/ }:.i
    /! : : /:.:|: : :|: : : /!/  {:|ヽ! : /:/:/:./:.:.!

    ノィ:.:.、:.|: /!: : :! : : lz==ミ从 レ':,.ィメ/:.:.:.|
     |:.:.:.:j;|:.{ |: : :|:. : :|7     ∠/ノ1/:.:.ノ:j
    !:.:|:.:.:.:.`| : : |、: :.|\、_人:7`゙ヽ /ィ:./:./

    j;八ハ:.:.:.!:i : |:i\! / ̄ヽ {l  /:.:.j:.{ノ
      _..-V=!|: : :|、   {   ノ >=イ:.:./:ハ!
    / /  、: :| \ `二 イ .,ィ´:.:/:/

    / /  ̄` ヽ\! //j;/V{_ {ハ:ノ:.:j ミ、ヽ
.   { /      \\\.r┼-- `!ヽ:./    ☆ 今日はここまでです。
.    i/    \  ヽ ヽ \!ー- Vノ
.    |        \  i i   \ヽ  \


新年明けましておめでとうございます……

リアル激務で今帰宅しました。
多分もう少しかかります……


二期、二期な、二期さ……



簪いるのに生徒会長出ない理由は察してください

もう、少し・・・

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