家臣女「さぼってないで仕事してください」
領主男「いや勘違いするな、これはあれだあれ」
家臣女「息抜きと?」
領主男「そうだそれ!息抜きだ」
家臣女「では半日の息抜き分は仕事をしてもらいますよ」ガシッ
領主男「ちょ」
家臣女「さあさあ」ズルズルズル
領主男「おい、服が伸びる」
家臣女「新しい召し物は用意してありますので」ズルズルズル
領主男「首が締まったらどうする」
家臣女「領主様の丈夫さは指折りですから」ズルズル
領主男「…敵わねえなぁ、昔から」ハァ
家臣女「なにか?」
領主男「なんでも」
家臣女「それで今夜は隣国の殿と会談の予定が」
領主男「うんうん」
家臣女「その後は警備団の視察が」
領主男「気が乗らないな」
家臣女「そうおっしゃらず」
領主男「どうしてこんな仕事が多いんだろう」
家臣女「あなたが領主だからです」
領主男「さいで」
家臣女「さいです」
家臣女「・・・」ズルズル
領主男「・・・」グデー
家臣女「・・・」ズルズルズル
領主男「・・・あのさぁ」
家臣女「はい?」
領主男「いや、俺だって成人男性でさ がたいもそれなりに良い訳よ」
家臣女「町では大層おもてになられてますね」ズルズルズル
領主男「いや、そうじゃなくてだな」
家臣女「ははぁ」
領主男「それを片腕で引き摺れるお前って何なの一体」
家臣女「家臣です」
領主男「そうか」
領主男「いやな、お前をただの女と思ったことは一度も無いんだが」
家臣女「失礼極まりない言い分で」
領主男「それにしても男のプライドとしてだな、こう女に引き摺られるのはだな」
家臣女「興奮するので?」
領主男「べらんめえ、そんなわけないだろ」
家臣女「ははぁ」
領主男「お前には喧嘩で勝った事が無い」
家臣女「そうですね、どちらかと言うと勝手に空振りしているように見受けられますが」
領主男「勉学でも勝てた事が無い」
家臣女「あの程度の事出来て当然です」
領主男「おまけにこうして主導権まで握られたとあってはだな、面子が」
家臣女「ああ、そろそろ到着しますが何か?」
領主男「・・・なんでもありませんで」
家臣女「さいですか」
領主男「さいですよ」
数刻後
領主男「やっと粗方片付いた・・・」
家臣女「緑茶でも飲みますか」
領主男「いや、今はあれを飲んでみたい。舶来のあれだ」
家臣女「こぉひぃ、ですか」
領主男「そうだそうだ、かーひぃだ」
家臣女「私はどちらかと言うとこぉひぃに聞こえましたが」
領主男「いいや、あれはかーひぃだった」
家臣女「・・・」ムスッ
領主男「・・・悪かった、こぉひぃだ」
家臣女「そうでしょうとも、こぉひぃでしょうとも」
領主男「お前は変な所で子供っぽいな」
家臣女「なにか?」
領主男「なんでも」
領主男「それで、さっきの話の続きだ」
家臣女「さっきとは」
領主男「私がお前に勝った事が無い件だ」
家臣女「はて」
領主男「ついさっきの事だぞ、もう忘れたのか」
家臣女「悪かったですね」ムスッ
領主男「怒るな」
家臣女「怒ってません」
領主男「どう見ても怒っている」
家臣女「怒ってません!」
領主男「分かった、お前は怒ってないから落ち着け」
家臣女「もう、領主様はこれだから・・・」
領主男「(こういう所で御しやすいな、こいつは)」
家臣女「それで、話と言うのは」
領主男「うむ、お前は強すぎやしないか」
家臣女「えっ」
領主男「無自覚だったのか」
家臣女「そんな筈はありません、私は特段力を出そうとしたことはありませんし」
領主男「お前、この前自分の丈ほどの大岩をひょいと持ち上げただろう」
家臣女「はい、そうですが」
領主男「邪魔だった木の根を素手で引っこ抜いただろう」
家臣女「畑を作るのに邪魔だったもので」
領主男「それがおかしいと言っておるのだ」
家臣女「えっ」
領主男「普通の女はそんな事は出来ん」
家臣女「そんな筈はありません」
領主男「えらいはっきりと言ったなこいつ」
家臣女「だってそんな事をしても誰も驚いた様子を見せませんから」
領主男「それはお前が怪力女だと皆に知れ渡っているからだぞ」
家臣女「えっ」
領主男「気付いてなかったのか」
家臣女「・・・気付いておりましたとも、ええ」
領主男「いや、それは嘘だろう」
家臣女「・・・」ダクダクダク
領主男「まあ、それはひとまず置いておくとしよう」
家臣女「忘れてください」
領主男「いいや当分は忘れない」
家臣女「いっその事ここで・・・」
領主男「まて、そのばぁるの様なものは何だ」
家臣女「凶器です」
領主男「えらいはっきりと言ったなこいつ」
家臣女「あなたを刺して私も後を追います」
領主男「お前混乱してるだろう」
家臣女「いいえ混乱していません」
領主男「流れるような嘘を言うな」
家臣女「いいえ混乱していません」
領主男「その事については忘れるからその物騒なのをしまえ」
家臣女「はい」ゴトン
領主男「(恐ろしい奴だなこいつは)」
領主男「それでだ、その馬鹿力の秘訣は分からんと」
家臣女「・・・女子力?」
領主男「多分それは根本的に間違えていると思うぞ」
家臣女「いえ、街中では女子力が高いと意中の男性を射落とせると」
領主男「お前はどうせ射落とすを流鏑馬か何かと思っているのだろう」
家臣女「違うのですか?」
領主男「そこまで素直に間違えているとはさすがの私も思わなかった」
領主男「・・・まあいい、分からないならそれ以上聞くことも無いだろう」
家臣女「・・・・・・」
領主男「・・・家臣?」
家臣女「・・・・・・」ポカーン
領主男「(ショックだったのだろうか、だらしない顔をしよって)」
領主男「おい、家臣」ペシペシ
家臣女「わひゃぁん!?」ビュオッ
領主男「おわぁ!?」
家臣女「・・・あ、ああ領主様・・・ついはしたない顔を」
領主男「う、うむ・・・大丈夫だぞ、あまりまじまじとは見ていないから」
家臣女「こ、こぉひぃを持ってきますね!」
領主男「ああ、熱いだろうから気をつけろよ」
領主男「(・・・中々かわいい悲鳴だったな、新しい一面とやらだろうか)」
領主男「(・・・しかし恐ろしいストレートだった、顔を持っていかれるかと思ったぞ)」
領主男「(・・・全く、こいつと付き合うのは命がけだな)」
家臣女「こぉひぃをお持ちいたしました」
領主男「おお、これがかーひ・・・こぉひぃか」
家臣女「どす黒いですね、飲んで大丈夫なものなのでしょうか」
領主男「なに、あの肌の黒い男も美味そうにごくごく飲んでいたから大丈夫だろう」
家臣女「そうですが・・・なにやら妙な臭いもしますし」
領主男「ははぁ・・・さてはお前、怖気づいているな
家臣女「なぁっ!?」
領主男「そうだろうそうだろう、やはりお前も一介の女と言ったところか」
家臣女「・・・いいでしょう、領主様こそ泣いても知りませんよ?」
領主男「そっくりお返しするぞ(女子力が云々言っていた割に張り合うのだな)」
領主男「・・・」ゴクゴク
家臣女「・・・」ゴクゴク
領主男「む、中々美味いなこれ」グビグビ
家臣女「ひょ、ひょうですね領主様」チャプチャプ
領主男「この舌を突き抜ける酸味といい苦みといい、癖になりそうだ」ゴクッ
家臣女「はひ・・・私も美味しいとおもいまひた」チロチロ
領主男「どうした家臣?妙な顔色をして」
家臣女「なんでもありません・・・あっち向いてください」
領主男「・・・ははぁ、お前さては我慢してるな?」
家臣女「してません」
領主男「こぉひぃそんなに残して」
家臣女「してません!」ゴクッ
領主男「あっ」
家臣女「―――――――!!」バタッ
領主男「この馬鹿者が・・・」アセアセ
領主男「取り敢えずは布団に寝かせた」
家臣女「・・・」スゥスゥ
領主男「盛大にかーひぃを吐き出しおって・・・随分汚れてしまったぞ」
家臣女「・・・」ムニャムニャ
領主男「こいつは昔から負けず嫌いと言うか、なんというか」
家臣女「・・・領主様・・・」
領主男「安心せい、私はここに居るぞ」
家臣女「・・・・・・」ムニャ
領主男「そう言えば、昔からこいつには振り回されていたな」
家臣女「・・・」ゴロン
領主男「どうした、私の膝が恋しいか」
家臣女「・・・」ムニャ
領主男「・・・なわけないよな・・・」ハハッ
十数年前
子領主「・・・」グーグー
???「・・・領主様!」バチーン
子領主「いってぇ!?・・・ああ、お前か家臣」
子家臣「いけません領主様!もっと次代領主としての威厳をですね!」
子領主「わーってるわーってるって・・・」
子家臣「分かってません!」
子領主「分かってる!」
子家臣「分かってません!」バチーン
子領主「いってぇ!?」
領主男「(昔から変わらんな)」
家臣親「ああ子領主様!お怪我は!?」
子領主「・・・痛い」
家臣親「子家臣!この馬鹿者!」
子家臣「だって領主様が」
家臣親「だってもあるか!仮にも次期領主様に家臣が手を挙げるとは何事か!」
子家臣「・・・」ショボン
子領主「・・・」
家臣親「これだからいつまでも半人前なのだ!このままでは役割を継がせられるか…」
子家臣「・・・ごめんなさい」グスッ
家臣親「全くお前は・・・もう駄目だ、お前はこの役を下す事にする」
子家臣「すみません!それだけは!」
家臣親「もう駄目だ、これ以上家の恥を晒す訳には」
子領主「なぁ、もういいだろ?」
家臣親「領主様!?」
子領主「こいつは俺が悪い事をしたから咎めたんだ、俺の悪い事を止めるのは悪い事か?」
家臣親「それは…」
子領主「家臣は領主を立てる為だけじゃないって教わったぞ、間違いを咎めるのは駄目なのか?」
家臣親「…領主様、ぐうたらだと思っていたのに立派になられましたな」
子領主「おい」
子領主「こんなもんでいいか?家臣」ニイッ
子家臣「・・・っ」ドキッ
家臣親「子領主様がそこまで言うならば子家臣はこのまま、と言う事で」
子領主「ああ、頼んだ」
家臣親「子家臣」ギロッ
子家臣「はっ」
家臣親「くれぐれも己の役割を忘れるでないぞ」スタスタ
子家臣「・・・はい」ペコリ
子領主「よかったな、家臣」
子家臣「・・・なんで」
子領主「ん?」
子家臣「なんで領主様は私を助けてくれたの?叩いたのに・・・」
子領主「そりゃお前・・・なんでだろうなぁ」
子家臣「へ?」
子領主「よく分からん、けどお前は俺の事を考えて叩いたんだろ?」
子家臣「・・・まあ、そうですけど」
子領主「俺の事を考えてくれた奴がその所為で怒られたら気分が悪いからだろ、きっと」
子家臣「少し、見直しました」ニコッ
子領主「お、おう」ドキッ
子家臣「まあ少し、ですけどね」
子領主「なんだよー、腑に落ちないなー」
子家臣「・・・えへへ」
領主男「・・・思えばその後からだったな、こいつがやたら私に構ってくるようになったのは」
家臣女「・・・」スゥスゥ
領主男「まあこいつは力持ちだし頭も良いしでこっちとしては情けなくなってくるのだが…」トホホ
家臣女「・・・えへへ」
領主男「なんだかんだ言って頼りにしているのだぞ?お前の事は」
家臣女「・・・」ムニャムニャ
領主男「可愛い寝顔を晒しおって、こちらとて男なのだぞ?」
領主男「(もしお前がそれなりの身分だったら…いや、それは詮無きことだな)」
家臣女「・・・」
領主男「さて、寝床は使われてるから床で寝るとするかな(起きた時もし隣に居たら命が危ういからな)」
家臣女「・・・むー・・・」ムニャムニャ
領主男「それではお休み・・・」
領主男「・・・・・・」
領主男「・・・」zzzzz…
家臣女「・・・」
家臣女「相変わらずヘタレなんですね」
終わりです
なんかこのまま行くとどんどん妙な方向に行きそうな気がするので
最強家臣と領主のだらぐだ話書こうとしたのにどうしてこうなったし
領主男「・・・」グーグー
家臣女「領主様、起きてください」
領主男「うーむ、あと半日・・・」
家臣女「領主様、もう昼ですよ」バシバシ
領主男「あいてててて」
家臣女「今日も仕事が立て込んでおりますよ領主様」
領主男「お前の起こし方は洒落にならん」
家臣女「では駄洒落で起こしましょうか、さぞ体が冷えますよ」
領主男「そう言う意味ではない」
ぼちぼち続きます ぼちぼち
領主男「今日はいつにもまして仕事が多いな」
家臣女「最近の大雨で治水の手続きが多いと思われます」
領主男「そんなの全部許可すればいいじゃないか」
家臣女「そうともいきません、領主様直々の許可がないと物事が動きません」
領主男「面倒だな」
家臣女「なにを今更」
領主男「・・・・・・」サラサラ
家臣女「・・・」ジーッ
領主男「・・・ううむ」サラサラサラ
家臣女「(・・・あらイケメン)」ジィーッ
領主男「どうした、そんなに見ても私の顔に穴は開かんぞ」
家臣女「いえ、仕事をさぼっていないかと」
領主男「お前はどれだけ信用してないのだ」
家臣女「万が一ですよ」
領主男「私が信用できぬか」
家臣女「・・・いえ、そのような事は(妙な言い訳をするべきでなかった)」タジタジ
領主男「・・・まあいい、これを関係者に持って行け」
家臣女「ああ、はい」スタスタスタ
領主男「おい」
家臣女「なんでしょう」
領主男「・・・・・・気になるではないか、そんなに見られたら」
家臣女「・・・すみません、以後気を付けます(やはり失礼だったか)」
領主男「気を付けい、作業に集中できん(何か妙な受け取り方をされている気がする)」
家臣女「そう言えば領主様、風の噂ですが」
領主男「なんだ、話せ」
家臣女「領主様の命を狙う輩がクニに入ってきていると」
領主男「物騒な話だな」
家臣女「お気を付けを、全警邏には既に通達をしてはいますが手練れであることも考えられます」
領主男「お前が夜に見張りをしたらいいじゃないか、私より強いし」
家臣女「眠いから嫌です」
領主男「なんだそれは」
その夜
領主男「・・・」グゥグゥ
シーン
領主男「・・・」ムニャムニャ
…ガタッ
領主男「・・・・」
???「・・・」
領主男「・・・」スースー
???「・・・お命貰い受ける」ギラッ
領主男「・・・はっ!」ガシッ
???「!?」
領主男「はっはっは、気配でバレバレだぞ」
刺客「くっ、離せ」
領主男「離せと言われて離す阿呆は居ない」
刺客「ならば殺せ」
領主男「いいや、お前には喋ってもらう事が山のようにある」
刺客「・・・くっ」
ワーワー リョウシュサマガシカクヲトラエタゾ!
家臣女「人を呼んでおきました、後はお任せを」
領主男「なんだかんだで起きていたのかお前」
家臣女「万が一もありますし」
領主男「だからちょっとは私を信用せい」
領主男「あれはどこの者だろうか」
家臣女「最近妙にきな臭い噂の国が」
領主男「・・・ロのクニか」
家臣女「ええ、口を割るかは分かりませんが」
領主男「何としても割らせろ、薬でもなんでもいい」
家臣女「冷酷な事で」
領主男「善人ぶっていてはクニは守れんよ」
家臣女「・・・そうですね」
家臣女「それにしても本当に倒してしまうとは」
領主男「どうだ、見直したか」
家臣女「あんなに私より弱いのに…」
領主男「お前が強すぎるのだ」
家臣女「えっ」
領主男「さすがに傷つくぞ」
家臣女「私が強いと?」
領主男「何度も言わせるな」
家臣女「・・・」テレテレ
領主男「なぜ照れる」
家臣女「もう!領主様ったら」バシーン
領主男「ごぶふっ」ゲホゲホ
家臣女「それでは私は処理に回ります、おやすみなさいませ」トテトテ
領主男「…あいつにはいつになったら勝てるのだ」
領主男「・・・ふむ」
家臣女「何を見ているので?」
領主男「いやなに、最近は気候も良く中々の取れ高らしい」
家臣女「良い事ですね、税収も増えるでしょう」
領主男「まあ税収が増えても仕事は減らんがな」
家臣女「真面目に喜んでください」
領主男「喜んでるぞ?」
家臣女「そんな顔で言われても説得力ありません」
領主男「・・・ちっ」
家臣女「まったく・・・もうちょっとクニの頭目としての責任感をですね」
領主男「持ってるもってる、ちゃんとあるって・・・」
家臣女「それではこの仕事をちゃちゃっと終わらせてください」ドサドサ
領主男「・・・うぐ、昨日よりも量が多いぞ」
家臣女「昨日も家出してさぼってたでしょう」
領主男「だって、仕事が増えるから」
家臣女「さぼっていても仕事は減りません、増えます」
領主男「ああ、もう!」
領主男「ったくもう!やりゃいいんだろやりゃ!」ヒー!コラヒー!
家臣女「・・・」
領主男「こちとら外ぐらい行きたいっての…クニの頭が城に缶詰めとか…」ブツブツ
家臣女「・・・はぁ」
領主男「くっそー・・・あの寺院のジジイ共、面倒事増やしやがって・・・」
家臣女「しょうがありません、出かける準備をしましょう」
領主男「は?」
家臣女「見回りです、確かにクニの様子を見て回るのも頭目の重要な仕事でしょう」
領主男「なんだか知らんがよし!ならば今すぐ行くぞ!」
家臣女「見回りですからね、あくまで」
領主男「わーってるわーってる、見回りだろ?」
家臣女「(本当に分かっているのでしょうか)」
・・・・・・
農民A「おっ!あそこに居るのは若でねえか?」
農民B「おお若!若じゃないですか!」
領主男「よお、精が出るな」
農民C「そりゃもう、お日様もご機嫌で」
領主男「良い気候だ、適度な雨に夏の日差し」
農民A「こないだの大雨が嘘のようですわい!」ハッハッハ
領主男「取れ高がおおければ税収も増える、良い事づくめだな」
農民B「もう、若はいやらしいですな!」ヒッヒッヒ
農民C「鼻の下が伸びておりますぞ!」ヒャッヒャッヒャ
家臣女「(・・・慕われているのですね)」
農民A「見なせえこの青々とした野菜を」
領主男「ほほぉ・・・こいつは中々」
農民B「この時期はとんもろこしが美味いですぞ若!」
農民A「なすびもじゃ!胡瓜もよく冷やしてありますぞ」
領主男「・・・」ゴクリ
家臣女「いけませんよ領主様」
領主男「わーってるって・・・」ソワソワ
家臣女「・・・(絶対分かってないですね)」
農民A「ほら若、丁度とんもろこしが蒸せましたぞ」ヒョイ
領主男「おわっ!?投げるでないぞ!」アッチッチ
農民B「胡瓜も冷やされてますぞ!」
農民C「好きなのを取っていってくだされ、若」
領主男「美味い、格別に美味いな!」ハフハフ
家臣女「・・・良いのですか?」
農民D「はっはっは、この程度をケチる様程貧窮しておりませんぞ家臣様」
家臣女「いえ、しかし・・・」
農民D「これを、よく冷えた西瓜です」
家臣女「・・・ありがとうございます」シャクシャク
農民D「美味いでしょう」
家臣女「・・・ええ、とっても」シャクシャクシャク
農民D「・・・儂らは若に恩があるのです」
家臣女「恩?」
農民D「若はあの年でもう国を背負っております、その重荷たるや察しきれませぬ」
家臣女「・・・」
農民D「あなたも知っているでしょう、若がどれほどクニに心血を注いでいるか」
家臣女「(普段の領主様を知っている分に複雑ですね)」
農民D「儂らは政に口出しできる頭も力もありませぬ」
領主男「おいちょっとまて、そんなに運びきれんぞ!」
農民D「ですから、せめて若をああして楽しませてやれば・・・と」
家臣女「・・・」
農民D「ああして立派な君主の元には自然と徳と人が集まるのですよ」
家臣女「領主様の父上は・・・そんな方でしたね」
農民D「若も立派に父君の後を継いでおられますぞ」
家臣女「そうでしょうか」
農民D「信じてあげなさいな、家臣様が一番近くにいるのですから」
領主男「いやぁ、散々な目にあった」
家臣女「良かったですね」
領主男「・・・ああ、皆息災そうで何よりだ」
家臣女「(なんだかんだでしっかりしているのですね)」
領主男「さて、暗くなる前に出来るだけ廻ろう」
家臣女「はい」
領主男「なんだ、やけにしおらしいな」
家臣女「・・・」バチコーン
領主男「おうぐふっ」
家臣女「しおらしい?」
領主男「訂正しよう、いつものお前だ」
家臣女「(いけない、つい反射的にやってしまいました・・・)」
領主男「(女として扱うべきかそうでないかさっぱり分からんぞこいつ)」
ワカー!コレヲモッテイキナサレー!
キャーリョウシュサマー!
ワカー!イエニトマッテイケー!
・・・
領主男「・・・疲れた」グッテリ
家臣女「お疲れ様でした」シャッキリ
領主男「なんでお前・・・そんな元気なのだ」グテー
家臣女「あまり絡まれませんでしたから」シャキーン
領主男「そういう問題じゃない気がするのだが、第一お前私の荷物持っていただろう」
家臣女「はい、領主様の手を煩わせる訳にはいきませんから」
領主男「後で試しに持ってみたのだがな」
家臣女「軽かったでしょう」
領主男「なんでお前あれを軽々と持ち運べるのだ?」
家臣女「えっ」
領主男「えっ」
領主男「それにしても、お前も随分と絡まれていた気がするのだが」
家臣女「確かにまあ、話しかけられたりは」
領主男「何と言われたのだ?」
家臣女「・・・・・・」
〜〜〜
農民G「家臣様!若を頼みましたぞ!」
村女A「家臣、あの若に変な虫がつかないように気を付けてね」
村女B「若は”いい男”だから」
子供達「おねーちゃん!わかを守ってね!」
〜〜〜
家臣女「・・・・・・領主様が悪さをしないように見張っておけと」
領主男「・・・信用ねーなー・・・」ガッカリ
家臣女「(すみません皆さん)」
家臣女「(私は領主様のように重荷を背負えるかは・・・まだ分かりません)」
領主男「ったく少ししょげるぞ・・・あっ」
家臣女「?」
領主男「・・・明日からは溜まった書類が山のように」ウゲゲ
家臣女「・・・はぁ」
領主男「どーすっかなー・・・時間と気力足りるかなー・・・」ショボン
家臣女「しょうがありませんね、出来る分はやっておきます」
領主男「本当か!?」
家臣女「領主様を連れ出したのは私ですし、頭が書類の山で唸っているとあれば情けないですしね」
領主男「かわいくない奴だな、つくづく」
家臣女「なんですって?」
領主男「なんでもありません!」ビクッ
家臣女「・・・はぁ」
家臣女「・・・それに、頼まれましたから」
領主男「何か言ったか?」
家臣女「いえ、なんでも」
領主男「・・・?まあ、明日は早いから寝るぞ」
家臣女「はい、おやすみなさいませ」
領主男「そうだ、家臣」ガシッ
家臣女「ひゃいっ!?」ビクッ
領主男「無理せず寝ろ、残ったのを片付けるのは頭の仕事だ」
家臣女「・・・領主様は優柔不断なので」
領主男「なんじゃそりゃ」ガックシ
家臣女「それではお休みなさい(領主様、不意打ち過ぎます)」
領主男「お休み家臣(偶には格好いいところ見せようとしたのだがな)」バタン
家臣女「・・・・・・」
家臣女「・・・領主様を頼む、か」
期待コメありがとう
答えられるかは別問題として
領主男『おい・・・・・・おい、家臣』
家臣女『・・・なん でしょう』ゼェゼェ
領主男『お前、胸から血が』
家臣女『少し、痛いですね』ゼェゼェ
領主男『おい家臣、死ぬな、死んでくれるな』
家臣女『駄目ですよ領主様・・・人はいつか死ぬのです』
領主男『おい家臣、許さんぞ、死んだら貴様絶対に許さんぞ!』
家臣女『りょうしゅ さま・・・』
領主男『なんだ』
家臣女『私 あなたのことが・・・』
領主男「家臣!」バッ
領主男「・・・夢か」
領主男「・・・酷い汗だ」ダクダク
領主男「おい、おい!」
従者A「お呼びで」スタッ
領主男「着替えを持って来い」
従者A「かしこまりまして」シュタシュタ
領主男「・・・まったく縁起でもない夢を見た」
領主男「あの家臣に限って死ぬことなぞ考えられぬと言うのに・・・」
領主男「まったく殺しても死なないのではないか、あいつは」
領主男「・・・ほんとうにか?」
領主男「本当にあいつは死なぬのか?」
領主男「そういえば家臣の姿が見えぬな」
領主男「あいつに起こされるのが常だから寝坊してしまったぞ」
領主男「・・・家臣はどこだ?」
従者B「領主様!」
領主男「なんだ、なにがあった」
従者B「家臣様が・・・家臣様がお倒れに」
領主男「なんだと!」
家臣女「・・・油断した」
家臣女「まさか一晩徹夜した程度で熱を出すとは・・・不覚」
家臣女「こんな姿領主様に見せられん、今日は面会を拒絶する事に・・・」
ドタドタドタドタ
領主男「家臣!」バァン
家臣女「・・・噂をすれば影、ですか」
領主男「まったく!残った仕事は私が片づけるとあれほど言っただろう」プンプン
家臣女「それは領主様が」
領主男「言い訳をするな、見苦しいぞ家臣」ビシッ
家臣女「うぐっ」
領主男「お前は無理をするなとの私の命令を無視したのだ、これ以上私に逆らうな」
家臣女「・・・こればかりは言い逃れできませんね」
領主男「ふん・・・大方妙な義務感でも感じたのだろう、迷惑な性格だな」
家臣女「申し訳ない・・・」シュン
領主男「(いつもなら反論するのだろうが・・・大分参っているな)」
領主男「これ以上の命令違反をされては面子が立たん」
家臣女「領主様の面子なんてあって無い様なものでしょうに」
領主男「ぐっ、こやつ・・・」
領主男「ともかくだ、これ以上命令を無視されては困る」
家臣女「そんな言いがかりに近い・・・」
領主男「だまらっしゃい、故に今日は私がお前を監視する事にする」
家臣女「・・・へ」
領主男「期限はお前の病態が完治するまでだ、それまではこの部屋を出る事を許さん」
家臣女「厠は」
領主男「適宜対応する」
家臣女「それって体の良い看護ですよね?」
領主男「そうともいう」
家臣女「仕事は」
領主男「全部お前がやってしまった」
家臣女「休憩は」
領主男「仕事以外は休憩も同じだ」
家臣女「また仕事が入るかも」
領主男「後でやる」
家臣女「そんな都合よく・・・」
領主男「ええい、主の好意を素直に受けれんのかお前は」
家臣女「いえ、でも領主様看護の経験はおありで?」
領主男「・・・医療班に聞いた」
家臣女「・・・はぁ」
家臣女「・・・しょうがありませんね(こうなると領主様は頑固ですからね)」
領主男「こういった時ぐらい素直になっておけ(頑固なのはお前だろう)」
家臣女「それでは、どうする予定で?」
領主男「病人にすることと言えば氷嚢と食事の世話ぐらいだろう、後はお前が寝れば完璧だ」
家臣女「まあ、それぐらいしかありませんね」
領主男「・・・昔は、お前がよく看護してくれたからな」
家臣女「また懐かしい事を」
子領主「おい、暇だ」
子家臣「寝てください」
子領主「寝れん」
子家臣「羊でも数えてください」
子領主「駄目だ、目が冴える」
子家臣「寝ないと直りません」
子領主「眠れんと言っているのだ」
子家臣「・・・」ズイッ
子領主「どうしたのだいきなり立ち上がって・・・」
子家臣「御免っ!」ドズン
子領主「ぐぇっ」グッタリ
子家臣「これで万事解決」
家臣女「ああ、懐かしいですねー」シミジミ
領主男「懐かしいなぁ」ハッハッハ
家臣女「・・・」
領主男「・・・」
家臣女「・・・申し訳ありませんでした」
領主男「未だに覚えているからな?忘れんからな?」
家臣女「(しかし、初めて病床につくが)」
家臣女「(これ程までに窮屈で退屈なものだったのか)」
領主男「暇だろう」
家臣女「中々苦痛ですね」
領主男「頭が冴えて体が疼くだろう」
家臣女「嫌がらせですか」
領主男「それが私があの時味わった苦痛だ!」
家臣女「どこの子供ですか」
領主男「あの時はお前がまさか病気になるとは思わなかったものでな」
領主男「出来たぞ、林檎の兎だ」
家臣女「あら・・・可愛い」
領主男「どうせお前の事だから見たことも無いだろう」
家臣女「ええ、初めて見ました」
領主男「そうだろうそうだろう、病の子供はこれを見ると自然と元気になるのだ」
家臣女「どこかの家で見たのですか」
領主男「いや、これは昔母上が作ってくれて・・・」
家臣女「あ・・・」
領主男「・・・母上か、懐かしいな」
家臣女「お母上 ですか」
領主男「・・・すまん、もう思い出させないでくれ」
家臣女「・・・はい」
領主男「もう立ち直ったと思ったが・・・やはり、くるな」
家臣女「(無理もない、領主様のお母上はこの人の最大の理解者だったのだから)」
領主男「喰え、林檎は美味いぞ」
家臣女「はい」シャクシャク
領主男「どうだ、美味いだろう」
家臣女「・・・美味しい」
領主男「そうだろう、この林檎は美味いぞ」シャクシャク
家臣女「どうして領主様が自慢げなのですか」
領主男「私の領地で獲れた物だ、私が自慢せずに誰が自慢するのだ」シャクリ
家臣女「(とても嬉しそう、よかった)」
領主男「喰い終わったら早く寝ろ」
家臣女「寝れません」
領主男「・・・だろうな」
家臣女「どうにも目が冴えてしまって」
領主男「羊を数えるのはどうだ」
家臣女「五万六千飛んで七十二で諦めました」
領主男「随分数えたなおい」
家臣女「時間だけは有り余っていますから」
領主男「・・・」
家臣女「・・・」
領主男「・・・夢を見たんだ」
家臣女「どんなでしょう」
領主男「お前が死ぬ夢だ」
家臣女「!! それはまた・・・」
領主男「嫌な夢だった、それと同時にお前が死んでいない事に安心した」
家臣女「ありがとうございます・・・でしょうか?」
領主男「知らん」
領主男「正直に言うと私は『お前が死ぬ筈がない』と思っていた」
家臣女「随分根拠の無い自信ですね」
領主男「お前が死ぬ姿が想像できなかったのだ」
家臣女「死にますよ、私も」
領主男「理論上はな、だがどうしても私はそれを想像できなかった」
領主男「だが夢の中でお前は死んだ」
家臣女「どんな死に方だったのでしょうか」
領主男「胸に大きな穴が開いてな、私を庇って死んだ」
家臣女「領主様を護って死ねるなら家臣として本望ですが」
領主男「体面上は、な」
家臣女「・・・」
領主男「その夢を見ても、まだ私はお前が死なぬと言う幻想を持っていた」
家臣女「随分と脆いようで硬い自信ですね」
領主男「お前は私より強い、賢い、負けた所がない」
家臣女「領主様が弱いのです」
領主男「お前が強いのだ」
家臣女「・・・そう言う事にしておきましょう」
領主男「私にとってお前が死なぬのは神話だった、不敗神話だ」
家臣女「そんな大仰な」
領主男「どうしても私が勝つ事が出来ん相手がお前なのだ、家臣の癖に」
家臣女「家臣だからですよ」
領主男「だがお前は病気になった」
家臣女「そうですね」
領主男「病気になったと言う事は死ぬだろう」
家臣女「死なぬ人間は居ません」
領主男「私はお前をただの人間だと思ったことは一度も無い」
家臣女「失敬ですね、私も人間ですよ」
領主男「お前が死ぬのだ、そう思うとなんだか無性に怖くなった」
家臣女「え」
領主男「親父は死んだ」
家臣女「先の戦で、お父上は兵を先導して戦ったと聞いています」
領主男「おふくろも死んだ」
家臣女「お母上は病弱でしたね・・・美人薄命とはよく言ったものです」
領主男「そうしてお前も死ぬ、死ぬのか?」
家臣女「死にますよ」
領主男「そうか、死ぬのか」
領主男「家臣、命令だ」
家臣女「はい」
領主男「死ぬときは私の前で死ね」
家臣女「はい」
領主男「戦士でも病死でもなんでもいい、お前の納得する死に方で死ね」
家臣女「はい」
領主男「納得して死ななければ許さんぞ、決して許さん」
家臣女「私が死んでも領主様は咎められませんよ」
領主男「言ったな、三途の川を越えても私はお前を追いかけに行くからな」
家臣女「それだと領主様死んでしまうじゃないですか」
領主男「そうだ、私を殺したくなかったら私の言う事を聞け」
家臣女「随分無茶苦茶な命令をする」
領主男「私は一国の主だからな」
領主男「それではさっさと寝ろ、命令だ」
家臣女「はい」
領主男「・・・」
家臣女「・・・」スースー
領主男「私は、こいつが死んで納得できるのだろうか」
家臣女「・・・」ムニャムニャ
領主男「出きんのだろうなぁ・・・」
領主男「因みに家臣はその次の日には完治した」
領主男「まったく丈夫な奴だ、羨ましい」
家臣女「何か言いました?」
領主男「いいや なんにも」
家臣女「はぁー・・・」
領主男「・・・」
家臣女「ふん!やぁ!とぉ!」
岩石ボガーン
家臣女「まあ軽くこんなところでしょうか」
領主男「いや、やっぱりおかしい」
領主男「普通の女はな、と言うより人間は岩石を拳で叩き割ったりは出来ない」
家臣女「そうなのですか!?」ガビンチョ
領主男「そうだぞ」
家臣女「だって普通にこう言う事・・・できません」ミシミシバキッ
領主男「最近お前が人間なのかすら分からなくなってきた」
家臣女「人間で女です」
領主男「だってお前、暴漢に対してモツ抜き決めてただろ」
家臣女「追剥なんていきなりでしたから、つい」
領主男「あれ普通の人間には出来んぞ」
家臣女「えっ」
家臣女「でも、それだけじゃないですか」
領主男「普通の人間は虎と同じ速度で走ったりはしない」
家臣女「えっ」
領主男「五桁の暗算を一瞬で終わらせたりは出来ない」
家臣女「えっ」
領主男「城の二階まで一足飛びによじ登ったりできない」
家臣女「まじですか」
領主男「まじだ」
家臣女「では単騎で城に潜入して機密書類を盗み出すのは」
領主男「最近私はお前が人間なのか分からなくなってきたよ」
家臣女「どうしましょう、私は人間でないかもしれません」
領主男「いや、今更だろう」
家臣女「でも人間じゃなかったらどうしますか?」
領主男「どうもしない」
家臣女「ですよね」
領主男「ぶっちゃけお前が妖怪でも外人でも驚かない自信がある」
家臣女「流石に傷つきますよ?」
領主男「大丈夫だ、お前の鋼の精神力は知っている」
家臣女「領主様・・・」ポッ
領主男「おい、なぜ頬を染めた」
家臣女「冗談です」
領主男「さいで」
領主男「外人と言えばあれだ、こないだの外人」
家臣女「斗夢でしょうか」
領主男「そうだそうだ、その前は確か遍李威とか言ったか」
家臣女「いやに難しい字を使うものだと思いましたよ」
領主男「流行りなのだろうか」
家臣女「ナウなヤング・・・というやつでしょうか」
領主男「我々も流行と言うのに乗ってみるか」
家臣女「とはいえ我がクニは老人子供が大方ですので流行もなにもありませんよ」
領主男「うむ、急に未来に暗雲が掛かってきた気がする」
家臣女「まあ老人の中には熊と素手で闘う猛者も居ますが」
領主男「おかしい、それはおかしい」
家臣女「その昔一人で一国に戦争を挑んだ強者も居ますし」
領主男「もしかしておかしいのは私の方なのか?」
家臣女「憧れますよね」
領主男「お前はその域に達していると思うのだが」
家臣女「やだ領主様ったら口が上手い」バチコーン
領主男「おごっ」
領主男「なあ家臣よ」サラサラ
家臣女「なんでしょう」
領主男「最近は熱いな」
家臣女「書類も大層厚く仕上がって御座います」
領主男「たわけ、そういう事じゃない」
家臣女「知ってます」
領主男「だろうな、たちが悪い」
家臣女「この女狐めだなんて、ひどい」オヨヨ
領主男「そこまでは言っていない」
領主男「第一だ、外はあれほど暑いのになぜ私は長袖なのだ」
家臣女「領主が半袖をきて闊歩するなぞ恥ずかしくはありませんか、みっともない」
領主男「すまん、その理論はよく分からん」
家臣女「えっ」
領主男「第一このクニに私の外見に気を使う輩がいると思うか?」
家臣女「居ませんね」
領主男「そうだろう、情けないが」
家臣女「そうですね、情けないですが」
領主男「重ねて言うな」
領主男「第一だ、頭目だからこうしろなんてのがおかしいのだ」
家臣女「と、言いますと」
領主男「あれだぞ?肩書きなんてものは人を畏れ恐れさせるためにあるのだぞ?」
家臣女「威厳を保つ意味もあります」
領主男「威厳なんて気にするのが居るのか?」
家臣女「居ませんね」
領主男「なんだか一巡廻って元に戻ってきた気がするな」
家臣女「三文作家のやることですね」
領主男「まったくだ」
家臣女「要は『俺も涼しい服装がしたい』と」
領主男「熱い、こう暑いと仕事が出来ん」
家臣女「普段からさぼり気味でしょうが」
領主男「休み休みやっているのだ」
領主男「そう言えばお前も長袖厚着だな、見ているこちらまで暑くなる様だ」
家臣女「そうでしょうか?」
領主男「暑くないのか?」
家臣女「全然」
領主男「冬は薄着をしてもけろりとしているし、お前はやはり人間ではない気がする」
家臣女「何度目の話題でしょうか」
領主男「しめて三十七回目だ」
家臣女「よく覚えてますね」
領主男「すごいだろう」
家臣女「さっさと仕事してください」
領主男「ちっ」
領主男「第一だ、お前のその恵まれた体形を生かさないのは惜しい」
家臣女「体形を生かす?」
領主男「・・・」ジーッ
ポン
キュッ
ストン
領主男「(豊満ではない、だがすらりとした中に女性の膨らみが見て取れてポイントはかなり高いな)」
領主男「(やはりこいつも女なのだな・・・いや、女の体をしているだけなのかもしれんが)」
家臣女「なにか今物凄く失礼な事を想像されている気がします」
領主男「気のせいだ」
家臣女「さいですか」
家臣女「第一私は必要ありませんで」
領主男「つまらん奴だ」
家臣女「あくまで私は家臣ですから」
領主男「しかしだ家臣、お前は一つ忘れている」
家臣女「はい?」
領主男「そんな格好をされてはだな、こっちまでむさくるしく感じるのだ!」
家臣女「それがなにか」
領主男「ええいたわけめ、私の為を思ってお前も衣替えをせい」
家臣女「まあ、命令とあらば」
領主男「うむ、お前には素直さが足りん(家臣の奴口ではああだが満更でもない顔をする)」
領主男「それでだ家臣よ」
家臣女「はい」
領主男「服と言うのはどうやって買うのだ」
家臣女「知らんのですか」
領主男「普段は下の者が勝手に持ってくるのを着ているのだ」
家臣女「ははぁ・・・どうにで」
領主男「着ないと言う事もできるのだが、やはり好意は受け取っておくに限るからな」
家臣女「(やけに気合の入った刺繍はそのせいか)」
領主男「それにだ、何かしようとすると決まってお前が先にやってしまうからな」
家臣女「領主様が何かやらかさないか心配なのです」
領主男「本当に信用してないのなお前」
家臣女「大抵こういえば丸く収まると思います」
領主男「本人の前で言うのはどうかと思うぞ」
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