京太郎「これが今の俺に出来る最高の和了だ……!」 (549)

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――俺は時々こう聞かれる事がある。

「お前は部活辛くないのか?」と。

……全く辛くないって言ったら嘘になるのかもしれない。

高い実力を持つ女子達の中にただ一人いる男の初心者。

まともな練習相手にもならない、雑用だけが存在価値の状況を笑って受け入れられるほど俺は人間が出来てない。

当然負ければ心がざわめいたりするし、情けないが悔しさに枕を濡らした事だってある。

だけど、それでも俺はきっと問いかけに笑ってこう答えるだろう。

京太郎「辛いわけねえだろ。むしろ楽しんでるよ、麻雀を」

何回も何回も負けて、時々和了れるだけで大袈裟に喜んで、二位になれただけで飛び跳ねちゃうような仲間で先生で憧れで目標なあいつらとの部活。

昔なら卑屈になってたかもしれない、反発してたかもしれない、だけど今なら俺ははっきりこう言える。

――麻雀って楽しいよね!

あいつが言ったこの言葉は正しいってな!




――

夏の気配が遠ざかり、入れ替わりに秋特有の気配が空気に混じり始める日々。

清澄高校麻雀部の部室で一人の少年が欠伸を噛み殺し、本を読みながら時折ペンを走らせていた。

「うーん……」

少年の名前は須賀京太郎。

清澄高校麻雀部六人……正確に言えばこの前引退した部長竹井久を抜いた五人の中で唯一の男子部員。

インターハイに出場する女子のために雑用を引き受け、料理まで作るようになった彼をクラスメイトはよく【清澄高校の裏方】だの【舞台を間違えた男】だの【ステルス京ちゃん】と呼んでいる。

なお最後のあだ名に関しては京太郎の中学からのクラスメイトで麻雀部の仲間でもある文学少女が

「京ちゃんって呼んでいいのは私だけなのに……」

と不機嫌になっていたりしたが、そこは今回の話には関係ないので割愛。

「えーっと、この状況で捨てる牌は……」

こんな風に多分に皮肉も混じっているあだ名の数々を与えられている京太郎だが、本人は特に気にしていない。

理由は諸々あるがその中でも大きいのは、彼が軽そうな見た目に似合わず温厚な性格をしているという事と、彼はそれを当然の事として受け入れてるという二点だろう。

「よし、正解だ!これで和にもらったテスト初心者用は全部クリアしたぜ!」

そもそも彼は麻雀を始めて半年近くの初心者で、一方彼の部活の仲間達と来たら最低でも二、三年の経験がある経験者ばかり。

そんな環境で自分が一番弱いのは当たり前であり、あっさり追いつく事が出来るなんて考える事の方がみんなへの侮辱だ。
彼女達の努力を間近で見てきた京太郎は本気で思っているのだ。

「あーっと、もうこんな時間か。勉強はこの辺にしてそろそろ牌譜整理でもするか」

無論京太郎だってただ置いていかれるつもりは毛頭ない。

彼の今の目標はインターハイを通してさらなる飛躍を遂げたみんなの練習相手くらいにはなる事。

ひたすらに自分が教えられる立場に甘んじるのを許容出来ない程には、京太郎にだってプライドはあるのだから。

――

「こんにちはー」

それから数分後、部室に来た宮永咲を出迎えたのは開けっ放しの窓から入り込む風とそれに揺られるカーテンだった。

「あれ、誰もいないや……鍵は開いてたからどこかに行ってるのかな?じゃあ本でも読んで待ってようっと」

少しばかり周りを見回して部室に誰もいない事を確認した咲は、鞄を置くとまだ読んでいない本を探すため部室に置かれた本棚へと向かう。

「あれ?」

しかし本棚に向かう途中チラッとベランダを見た咲は、そこに佇んでいる金色に気付いた。

「……」

「京ちゃんだ、ベランダで何してるんだろう」

中学からのクラスメイトであり、自分に再び麻雀を始めるきっかけをくれた男の子。

口にこそ恥ずかしくて出せないものの、咲が強く感謝している人はどうやら困っているようで。

「……」

しきりにベランダから下を見てブツブツ呟いている京太郎に何をしてるんだろうと咲が首を傾げたのと同時、京太郎がベランダを乗り越えそこにあるベッドチェアーを素通りする姿が映った。

「……」

だんだん部室から姿が見えなくなっていく京太郎に咲が一抹の不安を覚えたのは文学少女な彼女が想像力を鍛えられすぎたせいか、はたまた虫の知らせか。

とにもかくにもこの時咲は……

(京ちゃん……まさか!?)

――途方もない勘違いをしていた。

――

「ちくしょう、ついてねえな……」

一方咲がとんでもない勘違いをしているどころか来ている事にもまだ気付いていない京太郎は、屋根の端に立ちながら数分前に自分を襲った悲劇に頭を抱えていた。

勉強を終えてみんなが来る前に牌譜整理をしておこうと思い至ったまではよかったのだが、ファイルから牌譜を取り出した瞬間に突風が吹き京太郎の手から牌譜をさらっていってしまったのである。

もちろん京太郎もすぐに飛んだ牌譜を拾い集めたのだが、その中の一枚が窓から出て屋根の端に引っかかってしまって。

最初は旧校舎から出て落ちてくるのを待とうかとも考えたが、何回風に吹かれても動きもしない牌譜に自分が取りに行くしかないと決断したのが少し前。

というわけで現在京太郎は足を滑らせたりしないように慎重に屋根の端に向かっているのである。

「見事に引っかかってんな……っと」

こんな事なら風があって涼しいからって窓開けなきゃよかったな……と呟きながら京太郎は牌譜に手を伸ばす。

何回も手を伸ばしては届きそうで届かない状況に、微妙に顔をひきつらせながらも京太郎は諦めずに手を伸ばし……

「よし、取れ……」

「京ちゃん、だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


牌譜を掴んだ瞬間、背中に強い衝撃を受けた。

「さ、咲ぃ!?」

いきなりの衝撃に京太郎が何事かと後ろを見てみれば、そこにいたのは彼が常日頃ちんちくりんとからかっている少女の姿。

普段はよく転び、よく迷子になるおそらく京太郎が一番仲のいい女友達は、どこにこんな力があるのかと言いたくなるくらい京太郎の腰をガッシリと掴んでいる。

「ちょっ、お前危な……」

ここで思い出して欲しい……京太郎は牌譜を取るために腕を伸ばしていた状態だという事を。

加えて牌譜を取れた安堵から緊張を解いた彼の身体はこれ以上なく油断した状態だったのである。
そんなところに小柄な女の子とはいえ人間が突っ込んできて耐えられるわけがなく。

「ぐえっ!?」

――結果落ちないように身体を無理に捻り、バランスを崩した京太郎は屋根に思いっきり顔を打ちつけた。

「だめ、だめ、だめだよ京ちゃん!確かに京ちゃんが麻雀の腕がなかなか上達しないって悩んでたのは知ってたけど、何も死ぬことなんてないよ!早まらないで京ちゃん!」

腰にしがみついたまま泣き叫ぶ咲に京太郎は彼女がとんでもない勘違いをしているのだと察した。

察しはしたのだが……はっきり言って今はそれどころではない。

(いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?)

京太郎は屋根に鼻と歯を強打した痛みに声無き悲鳴をあげていたのだから。

歯が取れなかったのは奇跡といってもいいかもしれないが、そんな喜びもすぐに痛みのせいで塗り潰される。

「……と、とりあえず落ち着け咲」

だが京太郎はそんな状態でも咲を宥めようと起き上がり声を出す。

咲がこんな事をしたのは勘違いしたとはいえ自分のためだし、自分の背中を濡らすものを止めたいと思ったから。

「落ち着いてなんていられ……ああっ、京ちゃん、鼻血出てるよ!?」

涙でグシャグシャになっていた咲は京太郎の顔を見るなり悲鳴をあげる。

そこでようやく京太郎は自分が鼻血を出して自分の学ランとシャツを真っ赤に染めていた事に気付いた。

(ぐあっ、マジかよ!?この前クリーニングから返ってきたばっかりだってのに!)

「は、はい、ティッシュ。京ちゃん、大丈夫?痛い?」

思わず恨み言を言いたくなった京太郎だが、心配そうにあたふたしている咲を見るとそれもどんどん萎んでいって。

結局感情の持って行き場を失った京太郎に出来たのは大きくため息を吐く事と、咲から受け取ったティッシュを全て使って鼻に栓をする事だけだった。

――

「京ちゃん!なんでこんな事したの!いくら悩んでるからって自殺なんて……」

鼻血を止め、部室に戻った京太郎は涙目の咲に詰問されていた。

とはいえ京太郎からすれば咲の考えは見当違い以外の何物でもないわけで。

「だから落ち着けっての」

「あうっ!?」

これくらいは許されるだろうと京太郎は咲の頭に軽くチョップを落とす。

自分のために泣いてくれる事に関しては思うところがないわけではないが、勘違いされたままではまともに話も出来ない。

「いいか咲よく聞け、まず俺は……」

だが咲が頭を抱えた隙に事情を説明しようとした京太郎の言葉は……大きな音を立てて開けられたドアに遮られた。

「今日も楽しく麻雀だじぇ!」

「もうゆーきったら……」

「おーう、咲と京太郎はもう来とったんか……って京太郎、あんたなんじゃその服についた血は!?」

「鼻にティッシュ詰めてるけど……なに、どうしたの?」

ゾロゾロと入ってくる部のメンバーに京太郎は服を何とかしないとまた勘違いされるんじゃないかと悟ったが時すでに遅し。

目ざとく京太郎の異変に気付いたまこと久の問いに京太郎がどう説明したものかと少し考えたその隙に

「あっ、みんな!ちょっと聞いてくださいよ、京ちゃんが……」

「ちょっ!?」

勘違いしたままの咲が勘違いしたままの話をみんなにしてしまったのだった……

――

「……」

咲が多分に主観の混じった話をしてくれてから数分後、椅子に座りながら京太郎は目の前の惨状にどうしたものかと頭を抱えたくなった。

それだけ京太郎が自殺しようとしていたと誤った話を聞かされたみんなの反応が、予想以上に深刻だったのである。

「まさか須賀君が飛び降りを図るなんて……」

「そこまで思い詰めとったとは……気づいてやれんで本当にすまんかった!」

「いえ……」

チラッと先輩二人を見てみれば久は申し訳なさそうに、まこは心底悔しそうにという違いこそあるものの揃って沈痛な面もちを浮かべている。

必死に隠そうとはしているものの目は潤んでいて、ほんの少しきっかけがあれば泣き出してしまいそうな二人に京太郎は自分が悪いわけではないはずなのにいたたまれない気持ちになった。


「ひっく、ぐすっ……きょ、京太郎、私のせい?私がいつも負けた時馬鹿にしてたから……」

「ゆーき……」

そんな状態で二人が泣かないのは間違いなく和に抱き締められながら号泣している優希がいるからだろう。

京太郎本人もまさかここまで泣かれるとは思っていなかったが、優希が嘘泣きが得意という話は聞いた事がないので間違いなく本心で泣いているのだろう……これまたいたたまれない、というかそもそも誤解なので見ていて辛くすらある。

「見てよ京ちゃん、みんな京ちゃんが死んじゃうなんて嫌だからこんなになってるんだよ?だから馬鹿な事を考えるのは……」

京太郎は胸の前で手を合わせて説得を繰り返しているつもりなのだろうこの状況を作り出した元凶を見やる。

自分のためにここまで言ってくれる事には正直嬉しい気持ちがないわけではなかったが……さすがにこれ以上誤解を解こうとしなければ自分にもとばっちりが来るのは間違いない。

そういう事を色々考えた結果……京太郎は道連れにされる前に誤解を解く事に決定した。

(すまん咲、怒られるなら一人で怒られてくれ)

「あの、とりあえず話を聞いてくれませんか……」

「なに、須賀君……言いたい事があるなら恨み言でもなんでも……」

誤解を解くために口を開いた京太郎に久が勘違いしているが京太郎はそれを遮るようにして話を進める。

「えっと、ですね……大前提として、俺は死ぬ気なんかありませんよ?」

「……は?」

そう口にしたのは誰だったか、今となっては京太郎は全く覚えていない。

ただ確かなのは、自分がそう言った途端に場の空気が凍りついた事、そして……

「……咲、これはどういう事かしら」

「言っとくが、冗談では済まされんぞ……」

「咲ちゃん、嘘ついたのか……?」

「咲さん、説明を求めます……」

「……え、えっと」

京太郎が事情を話していくにつれて自分が勘違いしていたと理解した咲が、みんなに睨まれて冷や汗をダラダラと流していた事だった。

「きょ、京ちゃん、助け……」

「……悪いけど巻き込まないでくれ」

「京ちゃーん!?」

無論京太郎が咲を庇うわけがなく。

「咲ぃー?」

「咲!」

「咲ちゃん!」

「咲さん!」

「ご、ごめんなさーい!!」

みんなの追求を受け壁際に追い詰められた咲はただひたすらに謝る事しか出来ずにいたのだった……







京太郎(全く咲はおっちょこちょいだな……でもまさかこんなに心配されるとは思わなかったな)

――しかしこの時の出来事が自分の中の歯車を変えた事に

京太郎(へへっ、こんなに思ってくれてるならみんなのためにもっと頑張らないとな)

――この時の京太郎は全く気付いていなかった。






――翌日

久「いやあ、昨日は色々と大変だったわね」

まこ「結局全部咲の勘違いだったからのう」

優希「そういえば昨日打ってないじぇ」

和「それどころではありませんでしたからね」

咲「ううっ……」

京太郎「全く咲の奴は人の話を全然聞いてくれないしまいっちゃいましたよ」

咲「い、いや、でももしかしたらって可能性もあったし……」

京太郎「あのなあ、いくら麻雀で勝てないからってそんな馬鹿な事するわけないだろうが!お前ならそれくらいわかってると思ったんだけどな……」

咲「うっ……ご、ごめんなさい」

優希「もう、咲ちゃんと京太郎は人騒がせだじぇ!」

京太郎「俺もかよ!?」

和「でも勘違いでよかったです……」

久「いやー、私が買い出しを任せっきりにしてたからって焦っちゃったわ。まあ、勘違いだったならこれからも須賀君には買い出しを頑張ってもらって……」

まこ「あんたは少しは反省せんかい!」

京太郎「いやー、それにしても……」

まこ「んっ?」

京太郎「俺って意外に愛されてたんですね、あはは……」

優希「んなっ!?ちょ、調子に乗るなよ京太郎!」

京太郎「そういや誰かさんはすごく泣いてたもんなあ……」

優希「わ、忘れろバカ!」

京太郎「いやー、あれはなかなか忘れられないだろー」

優希「そのニヤニヤ笑いはやめろー!」

久「はいはい、じゃれ合いもそこまでにして部活始めましょう」

咲「ううう……」

まこ「叱った身としてはあんまり言えんが、咲もいつまでも落ち込んどってもしかたないぞ、切り替えんさい」

咲「は、はい……」

優希「京太郎、こうなったら麻雀で決着をつけるぞ、卓につけ!」

京太郎「はっ、望むところ!俺だって勉強してるんだ、簡単には負けないからな!」

――

京太郎「リーチ!」

優希「通らないな!ロン!倍満だじぇ、24000いただきー!」

京太郎「げえっ!?」

――

京太郎「……うっ」

京太郎(牌が一つも被ってないとか勘弁してくれよぉ!?)

――

京太郎「」

優希「ふふん、これくらいで勘弁してやるじぇ」

京太郎「ち、ちくしょう……容赦なく何回も何回もとばしやがって……」

久「全局ヤキトリか……これはまた酷いわね」

京太郎「ぐうっ……」ガクッ

まこ「うなだれてしもうた」

久「まあまあ、須賀君。こういうのはこんな日もあると思うしかないわよ」

京太郎「それもそうですね……よし、もう一回だ優希!」

優希「ふん、何回来ても返り討ちにしてやるじょ!」

咲「が、頑張って京ちゃん!」

京太郎「おう!」

京太郎(そうだよな、ただでさえやってる時間がみんなより短いんだし、気合い入れて頑張らないとな!)

――

優希「ツモ!」

和「ロン」

咲「カン!」

京太郎「点棒が、俺の点棒が羽生やして飛んでいく……」カタカタ

優希「京太郎も飛んだな!」

京太郎「ぐふっ……」

――須賀家

京太郎「くああ……今日は疲れたなあ」

京太郎「全局ヤキトリなんて久しぶりだったな……ここ最近は一、二回は和了れてたんだけど」

京太郎「一応牌譜は借りてきたけど……酷すぎるだろこれ」

京太郎(配牌は五向聴、ツモは裏目が当たり前、鳴いても対子や順子、暗刻が二、三出来ればいい方……酷いと対子三つくらいしか出来てない局もある)

京太郎「はあっ、さすがにちょっとヘコむなこれは……」

京太郎(やっぱり俺が練習相手になるにはまだまだ時間がかかりそうだな……)

京太郎「頑張らないとな……」

ザザッ!

京太郎「……んっ?」

京太郎(何だ、今の耳鳴り……それに急に眠く、なって……予想以上に疲れてたのか、俺……)

京太郎「とりあえず、寝よう……明日はもう少し運が良くなってますように、ってな……」


京太郎「グー……」

――翌日

京太郎「……はあ」

咲「京ちゃん、どうしたの?」

京太郎「いや、昨日結局一回も和了れなかったなあって思ってさ」

和「長くやっていればあんな日もあります。あまりひきずったらダメですよ?」

京太郎「ああわかってるよ、さすがにあれが続くなんてないだろうしな」

優希「ふっふっふっ、それはどうかな……今日も私が昨日みたいにボコボコにしてやる、座れ京太郎!」

京太郎「言ったなこのやろ、昨日みたいにはいかねえからな!」

――数分後

優希「ダブリーだじぇ!」タンッ!

京太郎「相変わらず速いな、おい……」

優希「東場の私は無敵だからな!一発……はならずだじぇ!」タンッ

和「ゆーき、もう少し落ち着いて打ってください……」

京太郎「……ふむ」

咲(京ちゃんも聴牌したみたいだね……うーん、まだカン出来ないしどうしようかな……)

京太郎「……リーチ」

咲「……あれ?」ピクッ

優希「どうした咲ちゃん?」

咲「う、ううん、なんでもない」

咲(何だろう、今何か変な感じがしたような……今は何も感じないし気のせい、かな?)



京太郎「あ、あれ?……あ、ああっ!?」

優希「のわっ!?ど、どうした京太郎?」

京太郎「……い、いや、なんでもない」

優希「なんだ、タコスを忘れたのかと思ったじぇ」

京太郎「いや、お前じゃないんだからそれだけはない」

優希「私がタコスを忘れるわけなかろう!」

京太郎「そっちじゃねえよ!」

咲(京ちゃん、どうしたのかな?えっと京ちゃんのリーチ時の捨て牌は5索か……)

京太郎「あっ、き、来たぜツモ!1000-2000!」

京太郎手牌

345m 34577p 13888s ツモ2s

咲「えっ」

咲(タンヤオ三色捨てての2索単騎リーチ!?確かに4索は一枚切れで残りは私が二枚持っててもう一枚は嶺上牌だったけど、京ちゃんにそれがわかるはずないのに……)

優希「なっ、東一局で私じゃなくて京太郎がリーチ一発ツモだとぉ!?」

京太郎「へへっ、今日は調子がいいみたいだな……というか咲、いくら俺が一発ツモしたからってその驚きに満ちた顔は酷くないか?」

咲「えっ、あっ、ごめん……」

優希「だがしかし京太郎!偶然一回和了れたからって調子に乗るなよ!」

京太郎「これくらいで調子に乗るかっての、さて次だ次!」

咲(き、きっと結果的に上手くいっただけだよね。京ちゃん、驚いてたしきっとそうなんだよね……?)

――

京太郎「よ、よし、とりあえず二位にはつけた……ここから大逆転だ!」タンッ

咲「カン」

京太郎「あっ」

咲「嶺上ツモ、責任払いで6400だよ、京ちゃん」

京太郎「ラ、ラス転落……やられた!」

優希「きゃははは!あんなにかっこつけてそれじゃ話にならないじぇ!」

和「ゆーきも大差ない点数でしょう……」

優希「いやん、それは言わない約束だじぇ、のどちゃん」

咲「……」

咲(なにこれ、どういう事……おかしい、絶対何かが変だよ!?)

久「おはよー、早速打ってるみたいね、感心感心」

優希「おはようだじぇ、部長!」

京太郎「いいんですか、受験生なのにこっちに来てて」

久「大丈夫よ、勉強は家でちゃんとしてるから。それで調子はどう?」

和「今半荘一回終わったところです」

優希「京太郎が生意気にも東場の私を差し置いて和了ったんだじょ!」

京太郎「今日は運がよかったみたいでこのメンバー相手にオーラス前は二位だったんですよ」

和「最後は咲さんにまくられてましたけどね」

京太郎「それを言わないでくれよ……」ガクッ

久「ふふ、やっぱり昨日みたいな絶不調は一時的なものだったのね」

京太郎「はは、そうみたいです」

咲「……部長」

久「なにかしら?」

咲「ちょっと見ててもらっていいですか?」

久「私は構わないけど、どうかしたの?」

咲「見てもらえればたぶん、わかります」

久「……わかったわ、それじゃあみんなもう一回やってもらえる?」

和「わかりました」

優希「はーい!」

京太郎「了解です」

――

優希「ツモ!6000オールだじぇ!」

京太郎「二巡目で親跳ねかよ!?」

優希「今度はさっきまでのようにはいかないじょ!さあ、一本場だ!」

京太郎「くうっ、なんとか流さないと……」タンッ

咲「……」タンッ

和「……」タンッ

優希「どんどんいくじぇー!リーチだ!」

久(二巡目でリーチ、やっぱり東場の優希は手作りが速いわね……他はまだ二向聴……須賀君の配牌がいいって事以外はいつもと変わらない気がするけど咲は何を見せたいのかしら)

――五巡目

京太郎手牌

123579m 123p 99s 白白 ツモ9s

久(須賀君が聴牌か……八萬はまだ誰も持ってないし河にもないから、須賀君なら当然ここはチャンタを狙うために五萬を……)

京太郎「……リーチ」打9m

久「!?」

久(チャンタを消す九萬切りリーチ!?六萬は二枚切れなのにどうして!)

京太郎「あっ、また……!」

和「須賀君?」

京太郎「……いや、なんでもない」スッ

京太郎手牌

12357m 123p 999s 白白 ツモ6m

久「嘘……」

京太郎「よ、よっしゃ、ツモ!リーチ一発ツモ、1300-2600は1400-2700だ!」

優希「ぬあああ!また京太郎に流されたー!」

京太郎「どうだ優希!これが俺の実力だぜ!」

優希「ま、まだまだ勝負はこれからだ!早くサイコロを回せ京太郎!」

京太郎「はいはいっと」

久「……」

久(今のはなんだったの……まるで須賀君が次に六萬を引くってわかってたような……いえ、まだそうと決まったわけじゃないわね。とりあえず終わりまで見てみましょう)

京太郎「ツモ!1000-2000!」

優希「ま、またぁ!?」

和「これで須賀君は四回目の和了ですか……どうやら今日は本当に調子がいいみたいですね」

京太郎「そうみたいだな……まあ、ドラは乗らないし他の役全然つかないからあんま稼げないけど」

和「ロン、9900です」

京太郎「おぉ……まくられたか」

久(調子がいい、ねぇ……三巡目から五巡目に必ず聴牌して、リーチしたら絶対に一発ツモなんて調子がいいって言葉で片づけていいものなのかしら……)

京太郎「ど、どうでした部長?」

久「須賀君、いくつか聞いていいかしら?」

京太郎「はい?」

久「あなた時々役を捨ててリーチしてた時があるけど何か考えがあってそうしてたの?」

京太郎「えーっと……すいません。いつの間にかそうなってるんです……」

久「いつの間にか?」

京太郎「えぇ、違う待ちにするべきなのはわかってたんですけど、なぜか気付いたらいつもその待ちにしてて……やっぱりミスでしたよね?」

久「そう、いつの間にか……須賀君」

京太郎「は、はい!」

久「これはまだ予想の段階だけど……もしかしたらあなたにもあるのかもしれないわよ」

京太郎「な、何がですか?」







久「さしずめ……咲や優希みたいな普通なら考えられない力、ってところかしらね」






咲「……!」

優希「へっ?」

京太郎「マジ、ですか?」

和「そんなオカルトありえません」

久「まだはっきりとは言えないわ……でも少なくとも一回の半荘でリーチ一発を四回も叩き出すのは普通じゃない。咲、前の半荘で須賀君は何回和了った?」

咲「えっと、三回です」

久「その内和了役がリーチ一発だったのは?」

咲「……三回、です」

久「……これはいくらなんでもねぇ」

京太郎「俺が咲達みたいな、力を……?」

咲「京ちゃん……」

久「まあ、もう少しデータを取らないと何とも言えないけどね。とりあえず須賀君にはもう少し卓に入ってもらうから」

京太郎「わ、わかりました!」

久(さて、力に関してはほぼ間違いないとは思うけど。それにしても須賀君がリーチする時を覚えてないというのは気になるわね……)

――

京太郎「うーん……!」

咲「疲れちゃった?」

京太郎「こんなに続けて打ったのは初めてだからな……もしかしたら合宿の時より打ったんじゃないか?」

咲「京ちゃん今日の部活が終わるまでずっと打ってたからね。合宿の時は交代してやってたし」

京太郎「そりゃ疲れもするわな。でも力かー……」

咲「京ちゃんにもあったなんてね……部長、ずっと牌譜見ながら唸ってたよ」

京太郎「まだ実感湧かねえし、勝ててるわけでもないけどな……一位だって一回もなかったし」

咲「それはきっと打ってれば慣れるよ!今日の対局だって京ちゃんヤキトリゼロだったし、和了も多かったし!」

京太郎「……なあ咲?」

咲「なあに?」

京太郎「これで、少しは俺もみんなの練習相手になれんのかな?」

咲「えっ?」

京太郎「やっぱり、練習してても初心者な俺が足を引っ張ってた気がしてたからさ……みんなに迷惑かけてたんじゃないかって思うんだよ」

咲「……」

京太郎「インターハイ中も自分なりに勉強はしてたけどまだまだみんなの背中は遥かに遠くで……そんな俺でもこれで少しは役に立てるのか?」

咲「……」

京太郎「……悪い、変な事言ったな。忘れてくれ」

咲「おかしいよ、そんなの」

京太郎「えっ?」

咲「役に立つってなに?京ちゃんは私達と同じ部員であってマネージャーとかじゃないんだよ?」

京太郎「いや、それはそうだけど……」

咲「いいんだよ、京ちゃんだってみんなに頼って。京ちゃんが支えてくれた分、みんな返してあげたいって思ってるんだから」

京太郎「……」

咲「京ちゃんが何かに目覚めたって言うなら私達がそれをものに出来るようにサポートするから……一緒に頑張ろう?」

京太郎「そっか……ありがとな、咲」

咲「ふふっ、どういたしまして」

京太郎「よし、じゃあ頑張るかー!」

咲「おー!」

咲(うん、これでいいんだよね。京ちゃんだって麻雀が好きなんだからきっと牌が応えてくれたんだよね……)

京太郎「さあて、明日も忙しくなりそうだな!」

咲(だけど、なんでだろう……)



咲(なんで、こんな変な気分になるの……?)

――須賀家

京太郎「ふぅ、とりあえず部長に言われた通り自分でわかる限りまとめてみたけど……うーん、これでいいのか本当に?」

京太郎「まあ、部長に見せて確認すればいいか……それにしても今日は色々あったな」

京太郎「俺が咲達みたいな力を、か……確かに言われてみればこのリーチ一発率はおかしいよな。あのインターハイ見てたから感覚おかしくなってたのかね俺」

京太郎(部長が外から見ていて感じた感想によれば、俺のこの力は俺自身の配牌とツモ運を上昇させているらしい)

京太郎(そう言われてみれば確かに今日打った卓で配牌が四向聴以上はなかったし、無駄ツモだってほとんどなかった)

京太郎(うまく使えば麻雀歴半年の俺でもそれなりに戦えるって言うんだからすごい話だ)

京太郎「だけどなんでいきなりこんな力が身についたんだろうな……」

京太郎(それにリーチをかける時、決まって俺はその瞬間を全く覚えていない……咲達はそんな様子もないしどういう事なんだ?)

京太郎「……考えてもわかんねえな。とりあえず今はこの力をうまく使えるように頑張ろう」







――須賀京太郎の能力に関してのメモ


・配牌は常に四向聴から二向聴以内、三から五巡目に必ず聴牌する

・リーチをかけると次巡に一発で当たり牌をツモれる

・この時俺自身は自分がなにを捨てたかどんな待ちにしてるか覚えてない

・和了る時つく役はツモ、リーチ、一発だけ。他の役はつかないしドラも全く乗らない

・聴牌してる時他の役の可能性があっても俺は全部崩しているらしい


今のところ俺自身にわかるのはここまでである……






――翌日

京太郎「部長、一応まとめてみました」

久「ありがとう。うーん……やっぱりリーチ時には意識がなくなっちゃうわけね?」

京太郎「はい、一瞬ですけど気付いた時には牌を捨ててリーチしてるんです」

久「ふむ……とりあえずその事に関しては様子を見ましょう。今日はいくつか試したい事があるから早速打ってみましょうか。私と後は……まこ、優希、お願い出来る?」

優希「了解だじぇ!」

まこ「おう、京太郎。昨日はわしがいない間に色々あったらしいのう」

京太郎「えぇ、まあ……自分でもイマイチ実感がわかないんですけど」

優希「私の得意な東場で和了っといてなにを言うか!今日は絶対に京太郎のペースにはさせてやらないからな!」グリグリ

京太郎「わかったから指でわき腹を突くな!」

久「咲と和は牌譜の方をお願いね。特に咲、須賀君の部分は念入りに、ね」

和「はい」

咲「わかりました!」


久「よし、始めましょう!」

優希「私の親だじぇ!サイコロ回れ!」

京太郎「今日はどうなるかね……」カチャ

咲(京ちゃんの配牌は……えっ!?)

京太郎配牌

11m 139p 11s 白白白 發發發


咲(す、四暗刻二向聴……!)

京太郎ツモ1m


咲(しかも第一ツモで最低でも三暗刻確定……この局は力を使う必要はないみたいだね)

京太郎「俺の麻雀人生で見たこともない最高の配牌なのに……」ボソッ

咲(えっ?)

京太郎「……」打1m

咲「!?」

咲(す、四暗刻捨てるツモ切りしちゃった……)

優希「リーチ!」

咲(も、もしかして……京ちゃん、力のオンオフが出来ないの?)

優希「一発ツモだじぇ!親満4000オールだ!」

京太郎「やっぱりこうなるのかよ……くうっ、持ってけ持ってけ!」

咲(じゃあ京ちゃん、五巡以内にリーチ一発ツモのみの手だけで聴牌できない局はどんなにいい手でも和了れないって事じゃ……そ、そんな!)

京太郎「……気付きたくなかった、こんなの」

久「須賀君、何か新しく気付いたのね?」

京太郎「えぇ……正直凹みそうな新事実が」

久「わかったわ。終わったら教えて」

京太郎「はい……」

咲(京ちゃん……)

咲(それから京ちゃんは二回リーチ一発でツモ和了しました)

咲(だけど他のみんなの火力相手だと京ちゃんはどうしても稼ぎ負けてしまい……)

咲(そして京ちゃんが和了れない局はまるで京ちゃんを笑うかのように最低でも跳満確定ばかりの配牌で……)

咲(そして京ちゃんが三位のまま半荘はオーラスを迎えました……)

京太郎配牌

2477m 569p 3579s 北白 ドラ5s

咲(京ちゃんはタンヤオドラ1の四向聴だね……)

京太郎(まくるにはリーチ一発ツモだけじゃ足りない……なんとかしないと)

京太郎ツモ3m

打白

――二巡目

23477m 569p 3579s 北 ツモ3s

京太郎「……」打北

――三巡目

23477m 569p 33579s ツモ3s

京太郎「……」打9p

――四巡目

23477m 56p 333579s ツモ7p

京太郎(よし、聴牌!ここで、9索を捨ててリーチ、ツモ和了すれば、メンタンドラ1、ギリギリ逆転に……な、る……)

京太郎「……」ガクッ

久(来た!もし私の予想が正しければここで……!)

京太郎「……リーチ」打5s



久「ポン!」



京太郎「……はっ!え、えっと待ちは……」

咲(京ちゃんダメ……それじゃ和了っても、トップには足りない……!)

京太郎「く、そっ……あれ?」

京太郎(なっ、なんで……)

京太郎ツモ7m

京太郎(当たり牌じゃないんだ……!?)

久「須賀君、気付いてないのかもしれないけど……あなたがリーチした瞬間、私が鳴いたのよ」

京太郎「あっ、本当だ……じゃあツモ切りですね……」タンッ

久「それでね、須賀君……あなたには酷な話かもしれないけど」

京太郎「はい?」







久「ロン」

久手牌 5557m 555p 777s 555s

久「タンヤオ三色三暗刻トイトイドラ3……親倍24000よ」






京太郎「……えっ?」

まこ「京太郎、リーチ棒含めて-25000……あんたのトビじゃ」

京太郎「あっ、あぁ……ま、まいったなー!まさか当たり牌掴まされちゃうなんて……」

久「須賀君」

京太郎「本当に、運が悪かっ……」

久「須賀君!」

京太郎「……」

久「あなたには残酷な話かもしれない。だけど聞いて……」

京太郎「い、いやです……!」

久「……」

京太郎「だって、だってそれを聞いたら……」

京太郎(聞いたら俺は……!)

久「須賀君、それでも聞きなさい。あなたは……」

京太郎(言うな、言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うな……部長、言わないでくださ――)







久「――リーチ後に鳴かれたら、次のツモで誰かの当たり牌を掴まされる可能性が高いわ」












――須賀京太郎の能力新情報

・五巡目以内にリーチ一発ツモのみの待ちに出来ないようなら、たとえそれが配牌で聴牌出来ても絶対に和了れない

・リーチ後に鳴かれた場合次のツモで必ず誰かの当たり牌を掴まされる






――須賀家

京太郎「……まいったな」

京太郎(結局、今日は俺の能力について色々試してはみたけど結果はいいものとは言えなかった……)

京太郎(まず俺が気付いた五巡目時点でリーチ一発ツモのみの待ちに出来ないならその局は絶対に和了れないという法則……)

京太郎(試しに一回だけ他のみんなが当たり牌を引いても和了らずに流局まで行ってみたが、ツモどころか捨て牌にすら俺の当たり牌は来なかった)

京太郎(次に、リーチした後に鳴かれたら他家の当たり牌を掴まされる……これは十回試して十回全部掴まされた時点で俺は考えるのをやめた)

京太郎(さらにその後新しい欠点が二つも見つかった……俺が和了れるのはツモだけでロンが全く出来ないって事、もう一つは俺自身が鳴く事が出来ないって事だ)

京太郎(不思議な事に俺の当たり牌や有効牌を相手が出してくれた事は一度もない……これは相手が清澄のみんなだからなのかもしれないけど)

京太郎(とにかく俺のこの力は打点は低い、和了は制限される、鳴かれたら振り込み確定、リーチの形すら自分の意志で選べないという四重苦を抱えてるわけだ)

京太郎「ははっ……ここまで来ると笑いしか出てこないな……」

京太郎(ひょんな事から手に入れた力だけど、これならいっそのこと何もなかった方が良かったんじゃ……)

京太郎「ダメだ、どうしても考えがマイナスになっちまう……あっ」

京太郎(そういえば、咲が前にネト麻した時牌が見えないとか言ってたような……)

京太郎「あの時は何言ってんだとしか思わなかったけど、もしかしたら!」

――

京太郎「……六巡目なのに、まだ俺は聴牌してない。それなのに他に和了られてるわけでもない」

京太郎「やっぱりそうか……ネト麻なら力に影響されない!俺の思うように、俺の意志で麻雀が打てるんだ!」

京太郎「どうしても力が出ちまう部内の麻雀だと自分の地力が上がらないからどうしたもんかと思ってたけど、ネト麻を使えば今までみたいに打てる!」

京太郎「ははっ、ドラが乗る!役もつく!平和だってタンヤオだってネト麻なら和了れるんだ!」

京太郎「よっしゃあ、まだまだやるぞー!」

――

京太郎手牌

123445679m 444p 6s ドラ9m

京太郎ツモ6s

京太郎(よし、これで頭が出来た!九萬がドラだからリーチをかければツモでもロンでも満貫!八萬は一枚切れだから一通のチャンスは十分あるはず……!)

京太郎「それじゃ、四萬切ってリーチっと……」
グラッ……

京太郎「……あ、れ?」
京太郎(視界が、歪んで……嘘だろ、これいつもの……ネト麻なら力の影響は受けない、はずなのに……)

京太郎「……」ガクッ



カチ、カチカチ……

京太郎「はっ!?ま、待ちは、待ちはどうなって……」





京太郎手牌

12344567m 444p 66s

打9m

京太郎「あ……」





京太郎ツモ牌8m

京太郎「は、はは……あはっ、ははははは……!」

京太郎(一発ツモとか……和了ってたら跳満だったじゃないかよ……)

――数巡後

京太郎ツモ牌4m

京太郎「500-1000……跳満12000がたったの2000……」

京太郎「傑作だ、ここまでだと笑う以外に選択肢ねえや……」

京太郎「確かに配牌とかツモには力は影響しなかった……だけどリーチかける時はネットじゃなくて俺の意識の問題だから影響されるってところか?」

京太郎「あはははははは……」

京太郎「……」

京太郎「ううあぁああああぁあああああ!!」

京太郎「はあ、はあ……ふざけんな、こんな、こんなのってねえだろ……?」

京太郎「俺が何したんだよ……俺、みんなと麻雀やって、負けても少しずつでいいから麻雀うまくなりたかっただけなのに……俺は、俺はぁ!!」

京太郎「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

――数日後

京太郎「……リーチ」

優希「ポ、ポン!」

京太郎「……誰か鳴きましたか?」

久「……えぇ、優希が鳴いたわ。見事にずらされたわね須賀君」

京太郎「そうですか、直前に部長も捨ててたから大丈夫だって思ったんですけどね……」

優希「え、えっと三巡目から五巡目に必ずリーチだから対策も取りやすいし、その……」

京太郎「いいんだよ優希、そんな畏まるな。鳴けば必ず直撃が取れるんだ、そりゃ俺だってそいつを狙うさ」タンッ

優希「あっ、うっ……ロ、ロン、7700だじぇ」

京太郎「ああ、ほら点棒……」

久「須賀君の打ち方は一度対策されたらもうボロボロになっちゃうわね……かといってリーチしたらもうどうしようもないし」

咲「リ、リーチせずにダマにすればいいんじゃないかな?それなら鳴かれて掴まされても直撃はされないし!」

京太郎「だけどそれだとドラも乗らないし役もつかないからツモのみになる……ただでさえ今でも火力不足なのにさらに下げたらもう戦いにならないんだ」

咲「……」

京太郎「それに疲れるんだよ……リーチが頭よぎらないようにするの。少しでも考えたらいつの間にかリーチしてるんだからな……」

咲「そ、そうか……ご、ごめんね京ちゃん、適当な事言っちゃって」

京太郎「いいよ、考えてくれるだけで俺は嬉しいからな……ありがとな咲」

咲「京ちゃん……」

まこ「じゃが現実問題として初見ならまだしもそれ以降はリーチをかけたら鳴かれて終わりじゃろうな。しかも誰かの当たり牌を掴まされるとなるとのう……」

久「うーん……どうしたものかしら」

京太郎「……俺、ちょっと飲み物買ってきます」

バタンッ……

咲「あっ、京ちゃん……」

久「1人にさせてあげなさい、咲。須賀君も須賀君なりに色々考えたいだろうし」

まこ「しかしどうしたもんかのう……今のままじゃと京太郎が新人戦で勝ち進むのはちと厳しいぞ?」

久「そうね……」

和「偶然の出来事について気をもんでもしょうがないと思うんですが」

優希「のどちゃんは相変わらずだじぇ……」

久(確かにこのままいっても須賀君は新人戦で勝ち残れない……だけど問題はそこじゃない)


――京太郎「……リーチ」

――京太郎「ツモです……」

――京太郎「……」ジャラッ


久(今の須賀君は、はたして麻雀を心から楽しめているのかしら……)

咲(京ちゃん、大丈夫かな……)

京太郎「……」フラフラ

京太郎(どうしてこんな事になったんだろうな……もう麻雀やってる意味すらわからなくなってきそうだ)

京太郎(ただ負けるだけなら頑張れた……だけどこんな、自分の意志を無視された麻雀なんか打たされたら……辛い、だけだろ)

京太郎(まさか好きなものでこんなに苦しまされるなんてな……部をやめればすむ話でもないし、俺はどうしたら……)


ズルッ!


京太郎「えっ……」

京太郎(あっ、やべえ……階段の途中で足滑らしちまった……ああもう、本当に最近はついてねえなあ……)

ゴロゴロゴロゴロ……!

ドサッ……

京太郎「いってえ……頭、打っちまった……足も挫いたか……はあ、もう嫌になるわマジで……」







ブツンッ……






――数十分後・麻雀部部室

京太郎「……」

まこ「まさか階段から足を踏み外すとは……」

京太郎「すいません……考え事してたらつい」

久「でも大した怪我じゃなくてよかったわ……頭に大きなコブは出来ちゃってるけど」

咲「し、心配したんだよ!京ちゃんが遅いからって迎えに行ったらまさかあんな……」ウルウル

優希「さ、咲ちゃんの言う通りだじぇ!もしあのまま京太郎がって思ったら……この馬鹿!」ウルウル

和「ふ、2人共、須賀君だってわざと怪我をしたわけじゃないんですから……」

京太郎「……いや、俺がボーッとしてたのが悪いんだ。咲、優希、心配かけてごめんな」

咲「京ちゃん……」

優希「むうっ……」

京太郎「和と先輩達もすいませんでした」

和「そんな、謝る必要なんて……」

久「そうね、別に謝らなくていいわ。考え事も何の事だかだいたい想像がつくし」

まこ「わしもじゃ。しかしこうして心配してくれるんがいるのも事実、あまり思い詰めるなよ京太郎」

京太郎「はい……」

久(これは重傷ね……まこ)

まこ(わかっとる)

まこ「とりあえず今日はここまでにしとくかの」

久「そうね、今日は解散しましょう。須賀君は保健室に行ったとはいえ、帰ったらちゃんとご両親に事情を説明して念のため病院にも行く事、いいわね?」

京太郎「わかりました……」

――翌日

京太郎「おはようございます」

咲「おはよう、京ちゃん。病院にはちゃんと行った?」

京太郎「ああ、やっぱり大した事ないってさ。全くこの前顔打ったばっかなのについてないよな……」

優希「麻雀で調子がいい分、普段の運が悪くなったんだな!」

和「そんなわけないでしょうゆーき……」

まこ「部活には来て大丈夫なんか?」

京太郎「激しい運動しなきゃ問題ないらしいです」

久「そう……まあ、とにかく今日も打ちながら話し合いしましょうか。席につきなさい須賀君、メンツは私、後はまこ、咲に入ってもらいましょう。和、優希、牌譜取りお願いね」

和「はい」

優希「うぇぇ!?わ、私牌譜とか書けないんですけどぉ……」

和「私が教えますよゆーき」

久「須賀君、とりあえず色々考えてあなたが怪我してたら元も子もないわ。私達も一緒に頑張るからどんどん頼ってちょうだいね?」

京太郎「はい、ありがとうございます……」

――

京太郎手牌

234m 45569p 22666s

京太郎ツモ7p

京太郎(聴牌……普通ならタンヤオ付けるために9筒捨てる場面だけど……今まで通りならそろそろ意識飛んで勝手に9筒残しての8筒待ちになるんだろうな……まあ一発つくなら点数は変わらないか……)

京太郎「……」

咲「……」

久「……」

まこ「……」

京太郎「……」

京太郎(……あれ?意識が遠く、ならない?)

久「どうしたの須賀君?」

京太郎「い、いえ……リーチです」

京太郎打9p

まこ(来たか……んっ?なんじゃ、なんか違和感があるのう)

久(ちょっと待って……今、須賀君がリーチ時に受け答えをしなかった?)

咲(な、なんだろう。昨日までなんとなく感じてた京ちゃんに和了られちゃうって感覚がないよ……)

優希(あ、あれ?京太郎の待ちがおかしいような……)

和(ふむ、あの手牌なら当然この待ちにするでしょうね……)

京太郎「……あれ?」

咲「どうしたの京ちゃん?」

京太郎「い、いや、なんでもない……」タンッ

久(一発ツモじゃない!?)

まこ「あっ、それロンじゃ京太郎。3900」

京太郎「あっ、はい」

まこ「それにしてもどうしたんじゃ、あんたがリーチかけて鳴かれてもいないのに一発じゃないとは」

京太郎「……それもそうなんですけど」

久「けど?」

京太郎「なんか、リーチする時意識が飛ばなかったんですよ……今までは少しでも意識したらいつの間にかリーチしてたのに」

咲「それってまさか……」

久「……とりあえず続けましょう」

――

京太郎(なんで、なんでだ?今までは遅くても五巡目には聴牌出来てたのに、なんで十巡目の今でも俺は二向聴なんだ……?)

京太郎「……」タンッ

咲「ロン!8000だよ京ちゃん」

京太郎「あ、ああ……」

――

久「テンパイ」

咲「テンパイです」

まこ「テンパイじゃ」

京太郎「……ノーテン、です」

――

京太郎「リ、リーチ」

京太郎(オーラスまで来てヤキトリか……意識も飛ばない、リーチしても一発じゃない……まるで、まるでこれは!)

まこ「ツモ!3000、6000じゃ!」

京太郎(少し前までの俺に戻った、力がなくなったみたいじゃないか!)パァァ

和(ヤキトリなのになんで須賀君はあんなに嬉しそうなんでしょうか……)

――

京太郎「……」プルプル

咲「きょ、京ちゃん大丈夫?」

優希「結局数回やって全部ヤキトリかー。まるで昔の京太郎に戻ったみたいだじょ」

京太郎「……まるで、じゃない」

優希「へっ?」

京太郎「完全に、消えちまったんだよ……もう俺は、あの時みたいにリーチ一発で和了れない」

京太郎(だけどその代わり俺は、また俺の麻雀が……出来るんだ!)

久「須賀君……」

京太郎「はは、すいません。もう悩む事もなくなったみたいです」

京太郎(でもあの力が消えた瞬間ヤキトリか……結局俺、地力は全く上がってやしなかったって事だよな)

京太郎「それはさすがにメゲるわ……」ガクッ

まこ「京太郎、何を考えてるかは想像がつくがそう気を落とすな。あれはあんたの可能性を狭めて縛り付けとった。今日だっていきなり消えたショックで思うような打ち方が出来んかっただけじゃ」

京太郎「そう、ですね……そう思う事にします」

和「元々あんな偶然がずっと続くわけなかったんです。須賀君が気を落とす必要なんてありません」

京太郎「ああ、サンキューな。そう言ってくれると助かるわ」

和「私は事実を言ったまでなんですが……」

京太郎「……あ、あの!」

久「どうしたの?」

京太郎「ちょ、ちょっとベランダ行ってきていいですか?」

まこ「別に構わんが……」

京太郎「じゃあちょっと……」スタスタ

優希「京太郎、さっきからソワソワしてたけどどうしたんだ?」

咲「えっと、多分……」








京太郎「いやったああああああああああああっ!!」






咲「叫びたいくらい、嬉しいんだよ京ちゃん……」

――須賀家

京太郎「ふふっ、ふふふふふ……!」

京太郎「リーチ!リーチリーチリーチ!」

京太郎「ツモ!よっしゃ、満貫!一気にトップだ!」

京太郎「最近ネト麻もリーチしないように意識してやってて楽しめなかったからなー……やっぱり変な事考えずにやるのが一番だ」

カピー「キュー」トコトコ

京太郎「おぉ、カピー。よしよし、こっち来い……今日の俺は機嫌がいいからいつもより可愛がってあげるぞー」ナデナデ

カピー「キュー」スリスリ

京太郎「へへっ……」

ザザッ!

京太郎「……うん?」

京太郎(耳鳴りか……それに眠くなってきたな……ちょっとはしゃぎすぎたか……)

京太郎「ごめんなカピー、俺ちょっと眠くなってきたから遊ぶのはまた明日……」

カピー「キュー!キュー!」

京太郎「はは、大丈夫だよ、ちゃんと約束は守るからさ、おやすみ……」

京太郎(あ、れ……ちょっと待て……確か、前にもこんな事あっ――)

ドサッ……

京太郎「Zzz……」

カピー「キュー……」

――翌日

京太郎「おはようございまーす!」

和「おはようごさいます、須賀君」

まこ「おう、おはよう。今日は随分と元気じゃのう京太郎」

京太郎「いやー、昨日ネト麻で調子がよかったんですよ。久しぶりに思いっきり自分の麻雀が打てて最高の気分です」

優希「よかったな京太郎、だがしかーし!たとえネト麻で調子がよかろうとまだまだここで勝つには力不足だじぇ!」

京太郎「それはどうかな?昨日はヤキトリだったけど今日の俺は一味違うぜ優希!」

久「そうね、なんだか須賀君、今日は本当にツキがよさそうだし。もしかしたら今日辺りトップ取れちゃうかもしれないわよ?」

京太郎「マ、マジっすか!?うおお、なんかそう言われると燃えてきたー!」

咲「ふふっ、頑張って京ちゃん!」

京太郎「おうともよ!」

久「じゃあ今日は一年生でやってみましょうか。私とまこは見てるから思う存分やりなさい須賀君」

京太郎「わかりました!」

――

京太郎「……」タンッ

咲(今日は京ちゃん、全くリーチしない……やっぱり京ちゃんからあの力は消えちゃったんだね。あの時の京ちゃん、麻雀楽しくなさそうだったからよかった……)

六巡目
京太郎手牌

66m 233889p 112s 北北

京太郎(うーん……気合い入れたはいいけどやっぱりみんなが相手だとなかなか上手くいかないな。まあ、もうあの力に苦しまされる事もないしじっくり行きますか)

優希「むむむ……」打6m

京太郎(うっ、六萬出ちまった……こりゃ三暗刻は難しいか?しゃーない、無駄に鳴くのもあれだし七対子に切り替え――)







京太郎「……」ガクッ






優希「へっ?」

久「なっ……」

まこ「これは!?」

咲「……!」ゾクッ!

和(須賀君、また……本当に怪我は大丈夫なんでしょうか?)

京太郎「……ポン」タンッ

優希「じょ!?」

京太郎「……」

咲(今のって京ちゃんから……だけど、京ちゃんにはもうあの力はないはずじゃ……!)打1s

京太郎「……ポン」タンッ

咲「っ!」

京太郎「……あ、あれ?な、なにがどうなって……」

京太郎(いつの間に、俺二副露もして……)

まこ「なんという、事じゃ……」

久「まさかこんな……」

和「……」打8p

京太郎「く、そっ……ポン!」タンッ

京太郎(くそっ、何がなんだかわかんねえけど、今の状況じゃもうこれで突っ張るしかないじゃねえか……!)

――数巡後

京太郎「ロンだ……!トイトイのみ、2000!」

優希「うう……」

久「須賀君……」

京太郎「……」

京太郎(消えてなんか、いなかった)

京太郎(形を変えただけで、あの力はまだ俺の中にいた)

京太郎(なんでこうなったのかなんてわからない。だけど一つだけ言えるのは……)

京太郎「また、俺は振り回されるのかよ……?」

咲「京ちゃん……」




京太郎(俺がまた自分で考えてする麻雀を出来なくなったって事だけだった)

――

京太郎「ロン、トイトイのみ2600……!」

まこ「リーチの次は鳴きときたか……」

久「……」

久(須賀君が和了る時は全部三回鳴いての対対和のみ……時々赤ドラが一枚絡みはするけど打点はやっぱり高くない。しかもこれは……)

京太郎「……」タンッ

和「ロンです、11600」

京太郎「うあっ……」

咲「……」

優希「……」

京太郎「あはは……今日は調子がいい気がしたんですけどね」

まこ「京太郎、あんた……」

京太郎「あっ!そ、そういえば俺今日予定があるんで早く帰らないといけなかったんだ……すいません、今日は早退させてもらいますね」

久「……無理はしないようにね」

まこ「また明日な」

京太郎「はい、また明日……」スタスタ

久「……まこ。須賀君の今の対局の牌譜見せてくれる?」

まこ「……ほれ」

久「……」

和「どうしたんですか、部長」

久「ちょっとね……」

久(全局配牌の時点で常に五つ対子が出来てる状態……だけどどんな動かし方をしても絶対に三元牌や風牌は三つ揃わないし、何より……)

久「……」

久(和了る時リーチ一発が十割だったここ数日間の牌譜とは似ても似つかないわね。しかもただでさえ、制限が酷すぎたこの数日間だって須賀君があんなに落ち込んでたのに……)

久「なんで彼ばかりこんな力を手にするのかしらね……」

咲「部長、やっぱり……」

優希「えっ、えっ、どういう事なんだ?」

まこ「わからんか優希、今の対局京太郎が和了った局を思い返してみんさい」

優希「え、えーっと確か最初和了った局は京太郎が私と咲ちゃん、のどちゃんから一回ずつポンして私が振り込んだじょ」

和「二回目は咲さんからゆーき、私の順番で須賀君が一回ずつポン。その後私が振り込みました」

咲「最後の三回目は……和ちゃん、優希ちゃん、私の順に京ちゃんがポンして……優希ちゃんが振り込んでたね」

久「……振り返ってみて気付かない?」

優希「あっ……」







優希「京太郎、相手全員から一回ずつ鳴かないと和了れないとか……」

和「そういえば今気付いたんですが、須賀君全部ツモ切りしてませんでしたか?」

咲「それと、京ちゃん全部ロンで和了ってますよね……」

まこ「そう……予測したくもないがおそらく京太郎は――」












久「須賀君、ツモで有効牌を持ってこれなくなってるわ」












――須賀京太郎の発展した能力についてのメモ

・相手全員から一回ずつ、三回のポンをする事により対対和を相手から直撃で取る事が出来る

・配牌時点で五つの対子が出来ているがツモで有効牌が来ることはないため七対子や三暗刻は作れない

・三元牌、自風、場風牌は雀頭には出来るが三枚揃うことはない

・配牌時点で中張牌、ヤオ九牌が混ざるのでタンヤオ、混老頭は複合しない

・相手の内誰か一人でも鳴く事が出来ない局は絶対に和了れない

・時折赤ドラが一枚だけ乗る事がある

・意識が飛ぶ間隔は一回目のポンから二回目のポンが終わるまで






――須賀家

京太郎「……」カチカチ

ツモ、4000オールデス

京太郎「……」カチカチ

京太郎(俺はどうしたらいいんだろうな……前に比べたらネト麻は順子中心にすれば意識飛ばないからやりやすくなったけどリアルでの対局はきっとまた……)

京太郎「俺、このまま麻雀続けていていいのか……?」

カピー「キュー」

京太郎「カピー……そういえば昨日遊んでやる約束したな……一回休憩するか」

カピー「キュー」スリスリ

京太郎「なあ、カピー……俺、麻雀続けていられる自信なくなってきちまったよ」

カピー「キュー?」

京太郎「別にさ、力にビビってるとかそういうんじゃないんだ。ただ……このままじゃ俺、麻雀部のみんなに迷惑かけるだけな気がしてさ……」

カピー「キュー……」

京太郎「みんなが色々考えてくれてるのに当の俺は何も対処法が思いつかない……実際に対局してもまるで他の誰かが打った状況を俺がやったみたいに言われてる気さえするんだよ」

カピー「キュー」

京太郎「咲や部長は俺も部員だからみんなに頼っていいって言ってくれたけど、本当にそれに甘えていいのか?」

京太郎「最近はずっと俺が卓に入ってるし……何がどうなってるかもわからない俺の力をどうにかするために、みんなを振り回し続けていいのか?」

京太郎「正直、もうわかんねえよ……」

カピー「キュー……」

京太郎「……はは、ごめんなカピー。遊んでやるつもりが愚痴こぼしちまった」

カピー「キュー」スリスリ

京太郎「慰めてくれるのか?いい子だな、お前は」ナデナデ

カピー「キュー♪」

京太郎「……カピーに愚痴言ったら少し楽になった気がするよ。こんな事みんなには言えないからな」

カピー「キュー」

京太郎「ああ、もう少し頑張ってみるよ。このまま逃げてたって何もいい事ないもんな!」

カピー「キュー!」

京太郎「よし、明日も頑張るとするか!」

京太郎(だけどもし、みんなが迷惑に感じてるってなったら俺は――)

――翌日

京太郎「こんにちはー」

久「須賀君、来てくれたのね……正直来ないことも覚悟してたんだけど」

京太郎「そりゃそうですよ。俺だって今の状況何とかしたいですからね」

まこ「無理はせんでええんよ?」

京太郎「大丈夫です、このくらいで凹んでたら一緒に頑張ってくれてるみんなに申し訳が立ちませんし」

優希「京太郎……え、えっとタコス食うか?」

京太郎「おう、サンキュー、くれるならもらっとくわ」バクッ

優希「……って三つ全部食べるなー!」

京太郎「えっ、全部くれるんじゃないの?」

優希「一個だけに決まってるだろー!」

京太郎「わりいわりい、今度作ってくるから許してくれ」

優希「よし、許す!」

京太郎「それでいいのかよ!」

和「須賀君」

京太郎「あっ、和」

和「私は力とかそういったオカルトは全く信じていません。須賀君の身に起きている事も偶然の産物だと思っています」

京太郎「おう……」

和「ですが、もしもそれによって須賀君が麻雀に悪感情を抱いてしまうのなら……とても悲しいです」

京太郎「和……」

和「何か私に出来る事があるなら言ってくださいね?須賀君も清澄高校麻雀部の仲間なんですから」

京太郎「ああ、ありがとうな!」

咲「京ちゃん」

京太郎「咲、これからも色々面倒かけると思うけどよろしく頼むな」

咲「ううん……私は面倒なんて思ってないから」

京太郎「……ありがとう」

咲「うん……」

久「よし、それじゃあ今日も須賀君を中心に打ちましょうか」

京太郎「みんな……よろしくお願いします!」

――

京太郎「ポン」

まこ「持ってかれたか……」

京太郎「ポン」

和「……」

咲(これで京ちゃんは二回鳴いた……そしてたぶん次に京ちゃんが鳴きたいのはこれだから……)タンッ

京太郎「……」タンッ

咲「カン!」

京太郎「うおっ……」

咲「嶺上ツモ、8000の責任払いです」

京太郎「直取りされたか……これで間違いないですね」

久「前が前だから予想はしていたけど……まさか本当に鳴けない相手がいるとそこに振り込むなんてね」

まこ「京太郎が鳴く局は毎回二回までは順調に鳴いとるんじゃがな……三回目からは鳴けるか鳴けないか8対2の割合ってところかの」

久「須賀君が鳴いた相手はその局和了る事は出来ない……とも言えるわね」

久(つまり須賀君は鳴く事で相手の和了を封じてる?確か全国で戦った相手にも和了を封じる人がいたけど……似たような力って事なのかしら?)

――

京太郎「ロン!トイトイ赤、6400!」

咲「はい」

久「ふむ……直撃する相手はランダムみたいね」

まこ「確かに鳴かれた順番は多々あれど、そこに法則はなさそうじゃな……」

久(須賀君の意識が飛ぶのが二回目のポンが終わるまでってところも気になるわね……なにこれ、三回目からは自分でやれって事?)

京太郎「……」ガクッ

久(そもそも意識が飛ぶ理由が理解できないのよね……永水女子の神代さんは神様を降ろしていたらしいけど、須賀君はあくまで一般人……まさか神代さんと同じ事をしてるわけではないでしょう)

優希「ロン!12000だじぇ!」

京太郎「やられたー!」

久(また鳴いてない優希から須賀君が直撃を受けたか……あら?よくよく考えてみればこれって……)

久「まこ、最近の須賀君の対局の牌譜ってどこにあるかしら?」

まこ「すぐ見られるようにそこの棚に分けてあるが……どうかしたんか?」

久「ちょっと気になる事があってね……まこは対局を見ててちょうだい」

――

京太郎「お疲れ様でしたー……」

まこ「二位と四位が二回ずつか……あんだけ場を荒らしておいて一位になれんっちゅうのもおかしな話じゃのう」

京太郎「直撃してもそれ以上持ってかれますからね……」

咲「京ちゃん、和了る時の打点が低いもんね」

優希「だったら親番でひたすら和了ればいいんだじょ!」

京太郎「そりゃ連荘が相当続くならいけるのかもしれないけどなあ……このメンバーだとそれもなかなか……あれ、そういえば部長は?」

和「ベランダで須賀君の対局の牌譜をずっと見てますよ」

咲「な、何かわかったのかな?」

まこ「気になる事があるとは言っとったが……」

バタンッ

久「……」

まこ「おぉ部長、ちょうど今あんたの話をしとったところじゃ。それで何かわかったんか?」

久「……糸口になるかはわからないけど、一つわかった事があるわ」

京太郎「っ!?」

優希「さすが部長だじぇ!それで何がわかったんだ!?」

久「……」

和「部長?」

久「おかしいとは思ってたけど、まさかこんな……」ブツブツ

咲「ど、どうしたんですか?」

久「……ねぇ、みんなはおかしいとは思わなかったかしら」

まこ「何をじゃ」

久「須賀君の力はデメリットが非常に多い……最初の頃はリーチをかけた後鳴かれたらその人に振り込んでたわよね?」

咲「は、はい」

久「そして今は三回目鳴けなかった相手に振り込む……」

京太郎「た、確かにそうですけどそれがいったい……」

久「……おかしいじゃない」

和「……ああっ!」

久「和は気付いたみたいね」

和「確かにおかしいです……」

優希「ど、どういう事だ、のどちゃん?私全然わからないじぇ!」

和「考えてみてください……なぜ須賀君が一定の状況下にある時、それに対応している人も必ず聴牌してるんですか?」

咲「あっ……そういえば京ちゃんの力がリーチ一発だった時、京ちゃんは鳴かれたら必ず直後にロンされてたね……」

まこ「……まさか」

久「えぇ、私もそう思って確かめてみたわ。ここ最近の須賀君の対局……【須賀君の相手の状況】をね」

京太郎「相手の状況……?」

久「そう、そして他の牌譜と比べて確信した」







久「――須賀君が入った卓、全員聴牌になるまでの速度が異常なレベルで跳ね上がってるわ」






京太郎「聴牌速度が上がってる、ですか」

久「須賀君の力に当てられたのかわからないけど、須賀君が入った卓は平均して五巡目から遅くても七巡目には聴牌……力がリーチ一発の頃は早い時には三巡目で全員一向聴か聴牌なんて場面もあったわ」

和「東場のゆーきとほとんど同じくらいですか……」

優希「むう、でも東一局の私に比べたら微妙に遅いじぇ」

まこ「毎回あんなスピードでやられてたまるかい……」

咲「だけどどうしてそんな事が……」

久「残念だけどそこまではわからないわね。そもそもなぜ須賀君が今の力を持つに至ったのかさえ私達は知らないんだから……だけど数日前の須賀君と今の須賀君で共通してる聴牌速度の上昇というポイントは見逃せないと私は思ってるわ」

京太郎「……」

京太郎(共通する聴牌速度の上昇か……まさか俺の力の根本って……)

咲「京ちゃん?どうしたの、顔色悪いよ?」

京太郎「いや……」

まこ「京太郎も混乱しとるんじゃろう。とりあえず今日の京太郎の力に関する話はここまでにしとくべきじゃろうな」

久「そうね、根を詰めすぎてもよくないし……今日はもう通常練習に切り替えましょうか」

京太郎「あっ、俺ならまだ……」

和「ダメですよ須賀君。病院の検査で問題ないという診断結果が出たとはいえ、須賀君は怪我をしているんですから無理は禁物です」

優希「焦ってもろくな結果は産まれないじぇ、とりあえず休憩しておけ!というわけで休憩ついでにタコスを……」

和「ゆーき?」

優希「じょ、冗談だじぇ……」

久「とりあえず須賀君は色々思うところもあるでしょうし休んでおきなさい。なんならベッドで寝ておく?」

京太郎「いえ、大丈夫です。とりあえず外に出てきますね……」

ガチャッ、バタンッ

久「……やっぱりまいってるわね」

優希「縛りプレイの上に相手の強化なんて私だったら嫌になるじぇ」

まこ「そうじゃなあ……せめて全体的じゃのうて京太郎が自分で選んで特定の相手にだけ使える言うんなら色々使い道もあるんじゃが」

和「そんなオカルトありえません。この平均聴牌速度も牌の偏りで説明できない話ではありませんよ」

久「和は本当にブレないわねぇ……」

咲「……」

咲(京ちゃん、あんなに顔色悪かったの本当にそれだけなのかな……)

久「さてと、じゃあ咲達も練習するわよ。新人戦が控えてるのは須賀君だけじゃないんだからね」

優希「今からなら三回は半荘出来るじぇ!」

和「いえ、出来ても二回が限度だと思いますが……」

まこ「優希、それ京太郎が入っとる卓の時間で計算しとるじゃろ……」

優希「……あれー?」

――

京太郎「ふう……」

京太郎(聴牌速度の上昇……つまりそれだけ一半荘が早く終わるって事だよな)

京太郎(そして俺がみんなの練習相手になるために経験が不足してるのは俺が一番よくわかってる)

京太郎(つまり、この力の根本にある俺の気持ちは……)

京太郎「さっさと終わらせて、場数を踏もうって事なのか……?」

京太郎「……いや、まだそうと決まったわけじゃない」

京太郎「そんな自分勝手な理由でみんなのペースを崩すような真似……本末転倒じゃないか」

京太郎「とにかく聴牌速度の上昇については後回しだ……俺はもう一つの共通点、意識が飛ぶ事について考えよう……」

――数日後

京太郎「うーん……一応麻雀のオカルトに関しての雑誌も読んではみたけど信じがたいのばっかりだな……つうかなんだよ、相手の心拍数や体温とかまでわかるとか、縛りプレイしたら次のメンバーが倍の飜数で和了れるとか……でも咲とか見てると本当にあるんだろうな……」

京太郎(だけどやっぱり麻雀してる時限定で意識が飛び飛びになる話なんてどこにも載ってないな……)

京太郎「そういえば女子のインターハイには意識が飛ぶっていうか打ちながら寝てる巫女さんがいるって優希が言ってたけど……」

京太郎「巫女って事は鹿児島の永水女子か……長野県内の高校ならともかく鹿児島まではさすがに部長もコネはないよなあ」

京太郎「どうしたもんか……」

咲「あっ、京ちゃん!」

京太郎「んっ、咲か」

咲「京ちゃんが図書室にいるなんて珍しいね。文字読むだけで眠くなるとか言ってたのに」

京太郎「俺なりにこの力について調べてみようと思ってよ。特に意識が飛ぶってのはよくわからないしな」

咲「京ちゃんも頑張ってるんだね……あっ、隣座っていい?」

京太郎「おう」

咲「それで何かわかった?」

京太郎「ぶっちゃけると手詰まりだよ。なんせ俺の力がどうやって生まれたのか自分でもわかってないんだからな」

咲「やっぱりそう上手くはいかないよね……私の家族麻雀みたいにきっかけがあればわかりやすいんだけど」

京太郎「きっかけ、か」

京太郎(やっぱりきっかけは俺の考えてる通りなのか?だとしたら俺……)

咲「あっ」

京太郎「どうした?」

咲「この本ケースと中身が違う……」

京太郎「あらら、それは災難だったな」

咲「もう、借り物なんだから本はちゃんと扱ってほしいよ……ちょっと行ってくるね」

京太郎「さすが文学少女だな……さてと、俺も怒られない内に読んだ本戻しておきますか」

ガタッ

京太郎「んっ?」

ガタガタッ!

京太郎「うおっ、地震か!?」

京太郎(しかも結構デカいぞこれ!?)

咲「きゃうっ!?」

京太郎「咲!?」

咲「いたた……きょ、京ちゃあん……」

京太郎「転んじまったのか……待ってろ、今こっちに……」







グラッ……






京太郎「!?」

咲「えっ……」

京太郎(咲が転んだちょうどその場所に向かって、本棚が倒れてきたその時、俺は周りの全部が遅くなった気がした)

京太郎「さ……」

京太郎(気付いたら俺は走り出していた……間に合うか間に合わないかなんて考えもしなかった)

咲「京ちゃ……」

京太郎(ただ俺は、目の前で涙を浮かべるあいつを助けたい一心だった)

京太郎「咲ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」







ドンッ!

バタンッ……!!






咲「……あ」

京太郎「……」

咲「きょ、京ちゃん……?」

京太郎「大丈夫か、咲……」

咲「わ、私は大丈夫……それより京ちゃんが!」

京太郎「ならよかったわ……」

咲「よくないよぉ!!」

京太郎「なんでだよ……」

咲「だって京ちゃん、京ちゃんが私の代わりに本棚の下敷きに……!」

京太郎「ああ、確かに脚がすっげえ痛いわ……まあ、最近は怪我ばっかりしてたから特に問題ないって……」

京太郎(……あっ)


――(いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?)

――「いってえ……頭、打っちまった……足も挫いたか……はあ、もう嫌になるわマジで……」

――「全くこの前顔打ったばっかなのについてないよな……」


京太郎(ああ、あったわ……もう一つ共通点……俺、力を手に入れる前怪我ばっかしてたんだ……)

京太郎「そういえば、あのオカルト系雑誌にあったっけな……【生死の境をさまよって一巡先を読む力を手に入れた雀士】の話……」

咲「京ちゃん、何言って……」

京太郎(全く……俺の力の根本についての悩みはなんだったんだよ……本当に、馬鹿、みてえ……)

京太郎「……」ガクッ

咲「……京ちゃん?」

京太郎「……」

咲「京ちゃん、京ちゃん!やだ、目を開けてよ、京ちゃん!!」







咲「京ちゃあああああああああん!!」






京太郎(咲が俺の名前を叫びながら、意識が薄れていく中俺は……)




ブツンッ……




京太郎(聞き覚えのある音を聞いた気がした――)

――病院

ガラッ!

久「咲、須賀君は!?」

まこ「京太郎!」

京太郎「あっ、部長と染谷先輩来てくれたんですね。でもちょっと静かにしてくれるとありがたいです」

久「えっ、あっ……」

咲「すぅすぅ……」

京太郎「咲の奴泣き疲れちゃって寝るまでずっと俺に謝り通しだったんですよ……起きたらまたそんな感じになっちゃうと思いますんで」

まこ「そうか……それで大丈夫なんか、京太郎?本棚の下敷きになったと聞いたんじゃが」

京太郎「骨に異常はないらしいです。一応検査って事で1日入院する事になっちゃいましたけど」

久「それならよかったわ……須賀君が大怪我をしたって聞いた時は血の気がひくかと思ったもの」

まこ「優希なんて顔を真っ青にして大泣きしてしまっての。今は疲れて寝てしまったんで部室のベッドに寝かせて和が側におるんじゃが……」

京太郎「ああ、だから2人はいないんですか……心配かけてすいませんでした」

久「そんな謝らなくていいわよ須賀君。咲を助けてこうなったって言うのはちゃんとわかってるから」

京太郎「あはは、咲と一緒に自分も逃げ切れてれば格好ついたんですけどね」

まこ「そう言うな京太郎、まだ揺れてる中とっさに咲を助けに動けた事自体が十分称賛に値するんじゃからな」

京太郎「そう言っていただけると助かります……あっ、ところで部長」

久「なにかしら?」

京太郎「その、俺の力について新しい共通点が見つかったんですけど、聞いてくれますか?」

久「こんな時に……と言いたいところだけどどうやら今の状況と関係ない話ではないみたいね」

京太郎「えぇ、実は……」

――

久「力を手に入れる前に必ずする怪我か……」

京太郎「あくまで可能性ですけど……」

久「この際何でもいいから情報は必要よ。もし須賀君の推測が正しければこれで終わらないかもしれないもの」

まこ「……」

久「まこ、どうしたの?」

まこ「京太郎の言葉をふまえてちょっと思い返してたんじゃが……もう一つあるぞ共通点」

京太郎「えっ!?」

久「本当なの、まこ?」

まこ「確信はないんじゃが……京太郎、退院して落ち着いたらでええから一度家の店に来てくれんか?」

京太郎「染谷先輩の雀荘にですか?いいですけど……」

まこ「後もう一つ、家で打つまで麻雀をいっさい打たないでほしいんじゃ」

京太郎「ネットも、ですか?」

まこ「一応自粛してくれるとありがたい」

久「随分徹底してるわね……」

まこ「全く打たないでおかんとわしの予測は確かめられんからの……まあとりあえず今日はゆっくり休んでおくんじゃ」

久「そうね、須賀君も最近は麻雀漬けだったし……休んでおく事も大切ね」

京太郎「わかりました」

まこ「それじゃあわしらは帰るか……またな京太郎」

久「またね」

バタンッ

京太郎「……」

京太郎「俺の力の共通点か……一体なんなんだろうな」

咲「すうすう……」

京太郎「……咲」ナデナデ

咲「ふにゅ……」

京太郎「……」

――「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!私のせいで京ちゃんが、ううっ、ごめんなさい京ちゃん……」

京太郎「絶対に、何とかしないとな……お前のあんな顔、もう見ないためにも」

――数日後

カランカラン

京太郎「お邪魔しまーす」

まこ「おぉ、よく来たの京太郎」

京太郎「ああ言われたら来ないわけにはいきませんからね」

まこ「それもそうじゃな。そんじゃあ早速で悪いが一局打ってくれんかの」

京太郎「わかりました。じゃあ適当な所に……」

まこ「ああ、待て待て。そんじゃあ意味がないんじゃ」

京太郎「へっ?」

まこ「京太郎、あんたにはあっちの卓についてもらう」

京太郎「あっちって……」

「えっと、えっと……ツモかな?」

「えーっと……あっ、役なしだよこれ……」

「えー!?」

京太郎「……あそこですか?」

まこ「あそこの卓におるんは最近家に通い出した子達なんじゃが、如何せん役もまともに覚えとらん初心者でな」

京太郎「数ヶ月前の俺を見てる気分ですね……」

まこ「……気分が悪くなるかもしれんがすまん、予告しておく」

京太郎「えっ?」







まこ「わしの予測が正しければ……京太郎、あんたはあの子達に勝てん」






今日はここまで
前は一回中断してしまいましたがまたよろしくお願いします

遅くなりましたが今日の分を更新します

京太郎「なっ!?さすがにそれは……」

まこ「……」

京太郎「……わかりました。じゃあ打ってきます」

まこ「ああ」

――

京太郎「よろしく」

「は、はい!」

「よろしくです!」

「よろしくお願いします」

京太郎(俺がこの子達に勝てない、か……確かに麻雀は運で初心者も勝つ事があるゲームだけどあそこまで断言されると気になるな……染谷先輩がいい加減な事を言うとは思えないし)

京太郎「……」チャッ

京太郎(配牌五向聴……まあ、手作りしつつ様子見が妥当か?)

「あっ……」

京太郎(ん?)







「リ、リーチ!」






京太郎「!?」

京太郎(い、いきなり親のダブリー!?おいおい、さっきまでのこの子の惨状考えたら運がいいなんてレベルじゃねえぞ……)

「わあ、すごいすごい!」

「は、初めてだよ最初からリーチ出来るなんて!」

京太郎(嬉しそうだなー……俺もダブリーなんて出来たらはしゃぎたくなるから気持ちはわかる。とりあえず予定変更、ベタオリしとくか)タンッ


まこ「……」

――二巡後

京太郎(これは通るだろう……)

「あっ!ロ、ロンです!」

京太郎「!?」

「えっと、えっと……ドラが3つで、裏ドラも3つで……ば、倍満24000!」

京太郎(ドラもろ乗りの倍満!?なんてこった……!)

「やったやったー!こんなに大きな点初めてもらったよ!」

「よかったね!」

「うんうん!」

京太郎(の、残り1000点……こりゃかなりヤバいな……)

――

「ありがとうごさいました!」

京太郎「……お疲れ様でした」

京太郎(結局三回やって全局ラス、か……見事に染谷先輩の予測通りだったな)

まこ「お疲れさん」

京太郎「ありがとうございます……あの、染谷先輩はなんでこうなるのがわかってたんですか?」

まこ「振り返ってみて気付いたんじゃがな。京太郎、あんたは怪我をした後の対局で運が底辺に落ちとるんじゃないかと言わんばかりにツキがない。裏目、焼き鳥は当たり前、見ていて牌に嫌われとるのかと思うほどにな」

京太郎「言われてみれば……確かにそうですね」

まこ「そしてその次の日何かしらおかしな事が起きる……おそらく明日にはまた新しいなにかが使えるようになっとるじゃろう。ここ最近の事を考えたらあまり好ましくはないのかもしれんが……」

京太郎「いや、俺は大丈夫です。少しでも今の俺に起きてる事について手がかりが掴めるなら……」

まこ「……焦る気持ちはわからんでもないが、あまり気負うなよ京太郎。わかっとると思うが、あんたが傷つけば悲しむ人間がおるからな」

京太郎「……はい」

――須賀家

京太郎「力があるってこんなに大変な事だったんだな……」

京太郎(全く憧れなかったわけじゃない。モニターや実際に打って見るみんなのような麻雀が打ってみたいと思った事だってある)

京太郎「だけど実際に身についてみたらわからない事ばっかりだ……」

京太郎(力が使えるようになる前にする怪我、次に打つとまるでツキに見放されたみたいに勝てない事、意識が飛ぶ事、聴牌速度の上昇……俺自身の身にいったい何が起きてるんだ?)

京太郎「……とりあえず明日か。染谷先輩の話が正しいなら明日また……」

京太郎「……Zzz」

ザザッ!

京太郎「んっ……」ピクッ

京太郎「……Zzz」

――翌日

京太郎「こんちわっす」

和「こんにちは須賀君」

久「来たわね須賀君、昨日初心者にコテンパンにされたんだって?」

まこ「それは違うと説明したじゃろうが……」

京太郎「もう全員来てたんですね」

まこ「みんな京太郎が心配みたいでな。今日は来る知った途端授業終了後すぐ来たみたいじゃ」

久「須賀君こそ早かったわね」

京太郎「少しでも早くこの力について知らないといけませんからね……それじゃ早速」

久「ちょっと待った、その前にあの2人何とかしてくれないかしら?」

京太郎「えっ、あっ……」

咲「私のせいで京ちゃんが、京ちゃんが……」ブツブツ

優希「……」グッ

京太郎「……フォローしてきます。咲、優希ちょっと来てくれないか?」

和「お願いしますね須賀君……」

京太郎「ああ」

京太郎(くそっ、まずったな……いつもの俺ならフォローを真っ先にしたはずなのに。俺も焦ってるのかもしれない……気をつけないとな)

――数分後

京太郎「ふうっ……お待たせしました」

咲「す、すいませんでした。心配かけて……」

優希「ごめんだじぇ……」

久「二人共いいのよ。私達だって大なり小なりあなた達と同じように須賀君が心配なんだから」

まこ「咲、経緯を考えたら自分を責めたくなる気持ちもわかるがの……京太郎はそれを望んでいない、そこはわかってやってくれな?」

咲「……はい」

久「それじゃあ打ちましょうか。私と……咲達はまだ冷静に打てないだろうから和、まこ入ってちょうだい」

和「わかりました」

まこ「了解じゃ」

京太郎(俺に何が起きてるか……少しでも知ってみせる!)

――

京太郎「……」タンッ

久「ロン、5200点よ」

京太郎「はい」ジャラッ

まこ(ふむ、東二局が終わって場に動きはなしか……今んところ京太郎がおかしくなっとる様子もないが……)

和(須賀君が放銃ですか、捨て牌を見る限り切る選択は間違えてはいないようなんですけど……)

咲(京ちゃんの様子に変わりはなし……このまま何も起きなきゃいいんだけどな)

久(さてと須賀君の親番……ここで何か起きるかどうか……)

京太郎「親番か……」

カラカラッ……





京太郎「……」ガクッ

久(来た……!)

まこ(今度は局の始まりからか!)

和(……私はいつも通りに打つだけです)

咲(やっぱり何も起きないっていうのは無理、なんだね……)

京太郎「……」カチャカチャ

優希「……うーむ」

久「優希?」

まこ「どうかしたんか?」

優希「えっと、なんでもないじぇ」

優希(うーん、なんなんだこれ……)


京太郎手牌
12377m 588p 11299s


優希(今までに比べるとなんだか普通なような……)

京太郎第一ツモ3s

打1s

優希(うーむ……)

――二巡目

12377m 588p 12399s ツモ7p

打5p

――三巡目

12377m 788p 12399s ツモ9p

打8p

優希(聴牌してるけどリーチしないのか……それじゃあツモのみだじぇ……)

――四巡目

12377m 789p 12399s ツモ9m

打7m

優希(おっ、これは……)

――五巡目

京太郎「……ツモ」

京太郎手牌
12379m 789p 12399s ツモ8m

京太郎「純チャンツモ、3900オール」

久(相変わらず速い……でも無駄ツモがなかったとはいえ、今まで程には異常性を感じないわね……)

京太郎「……はっ!ど、どうなりましたか!?」

久「うーん、確かに速度は速いんだけど……やっぱり今のところは答えは保留しておくわ」

京太郎「えーっと、どういう事ですか?」

久「まだ一局だから何とも言えないのよ。とりあえず半荘終わらせてから話し合いましょう」

京太郎「わ、わかりました」

――

京太郎「……ツモ。2000、3900」

久(……なるほどね)

まこ(今までのような動きはなかったが……こういう事か)

京太郎「っ……ど、どうですか?」

久「結論から言わせてもらうと今回の半荘、須賀君が意識を飛ばした三回……須賀君は全て純チャンツモで和了ってるわ」

まこ「単純計算で三局に一回、あんたは必ず純チャンツモを和了れるようになっとるちゅう事じゃな」

京太郎「三局に一回必ず和了れるように……」

咲「い、今までに比べると良くなったんじゃないかな?」

京太郎「そう、だな……確かに前に比べたら全然――」







和「――本気で言ってるんですか、それ」






京太郎「の、和?」

和「須賀君、本当にこの状況がいいものだとあなたは思っているんですか?」

京太郎「……」

咲「の、和ちゃん!そこまで言わなくても……」

和「いいえ、須賀君がそう思ってないとわかっているからこそ言わせていただきます。咲さんだってわかっているからこそ須賀君を傷つけないようにさっきああ言ったのでしょう?」

咲「それ、は……」

久「まあ、和。そこまでにしておきなさい」

まこ「ここから先は先輩であるわしらの仕事。あんたが憎まれ役を買う必要はないからのう」

和「……」

久「……さて須賀君。なんで和があんな風に言ったかわかるわよね?」

京太郎「俺が……ラス確和了したから、ですか?」

まこ「ああ、それもあるのかもしれんが……もっと根本的な話じゃな」

京太郎「……ですよね」







京太郎「和了った局以外全局放銃してるなんて状況、前よりよくなったとは言えませんよね……」












――須賀京太郎の発展した能力についてのメモその2

・三局に一回五巡以内に純チャンツモを和了る

・その他の局は全局放銃する

・発動がたとえオーラスで純チャンツモではまくれない状況でも構わず和了る

・意識が飛ぶ間隔…一局






今日はここまで

更新します

――須賀家

京太郎「はあ……」カチカチ

カピー「キュー」

京太郎「とうとう一局ずっと意識が飛ぶようになっちまったか……」

京太郎(気付いた時には点棒が動いてる、知らない間に自分が和了ってる……そのくせ自分の意識がある時は全局振り込んでるときたもんだ)

京太郎「まあ、そこは俺が下手なだけなのかもしれないけどな……っ、また――」

京太郎「……」ガクッ

カチカチカチカチ……

京太郎「うっ……なんかこうなるのも慣れてきたな、ははっ」

カピー「キュー……」

京太郎「……自分の意思で麻雀を打てないって辛いよな」

京太郎(だけど麻雀をやめて放置ってわけにはいかない……また何かが起きるかもしれないし、そもそも俺はこんな状況でも麻雀をやめたくないと思ってる)

京太郎「ふうっ……俺もいい具合に麻雀中毒になってんな全く」

京太郎(踏ん張れよ、俺……絶対にこうなった理由を見つけるまでは折れてやるか!)

――翌日・部室

京太郎「……」タンッ

咲「ロン、2000点だよ」

京太郎「おう」ジャラッ

久「昨日はドタバタしてたから冷静に考えられなかったけど、段々今回の力についても情報が揃ってきたわね……」

まこ「まず和了るのはやっぱり三局に一回、その他の局は削られとるな……昨日のようにロンだけじゃなくツモで削られる事もあるみたいじゃが」

久「ツモればツモるほど引く牌が危険牌なのよね……七巡目辺りで手牌の中に通る牌が3つしかなかった時は何とも言えない気分になったわ」

まこ「そん代わりなのか知らんが京太郎が和了った局は全て五巡以内じゃな」

久「三局に一回必ず純チャンツモを和了れる……デメリットさえなければなかなかいいと思うんだけど」

まこ「しかしのう、何でか知らんが満貫には絶対ならんし、三局に一回最高3900オールを和了れたとしてもそれ以上持ってかれるようじゃ……」

久「……いや、勝つだけなら意外に何とかなるかもしれないわよ?」

まこ「は?」

久「牌譜を見てみて。須賀君が放銃する時他の三人はだいたい聴牌してるんだけど……その中で必ず一人は2000点しか振り込まない待ちをしてるのよ」

まこ「ん?つまり全てその2000点に振り込むかツモなら……京太郎は和了る時最低でも7900は稼いどるから……」

久「上手く立ち回ればトップになるのも不可能ではないでしょうね……そんな勝ち方を須賀君が喜ぶかどうかを度外視すれば、ね」

まこ「まあ、のう……」

久(それにしても2000点の待ちにする子が必ず一人いるってところは気になるわね……それに、今までの情報からわかる何かを見落としてるような……)

まこ「どうしたんじゃ?眉間にしわが寄っとるぞ」

久「あ、あぁ、ごめんなさい。ちょっと色々考えちゃってね」

久(それにしても一見するとまるで須賀君が場を支配してるみたいね)

久「……」

久(さすがにそれはないか……咲も優希も何か邪魔が入った様子もなく普段通り打ててはいるし、私を含めた全員変わってるのは聴牌速度だけみたいだし……)

まこ「それにしてもてんでバラバラじゃなあ……一発ついたり、対々直撃させたり、純チャンツモったり……」

久「そうね……」

久(――えっ、ちょっと待って……まさか、まさかこれって……!)

――

京太郎「ツモ、2000、3900」

咲「京ちゃんが二位で終了だね……」

優希「うぎぎ、せっかく逆転手を完成させつつあったのにー!」

和「ゆーき、そんな事を言ってもしかたありませんよ」

京太郎「す、すまん……俺も本当は二位確なんてしたくはないんだけどな……」

咲「京ちゃん……」

京太郎「……悪い、ちょっと休憩させてくれるか?半日打ちっぱなしはさすがに疲れたしな」

和「そうですね……一回休憩しましょうか」

咲「私もちょっと疲れちゃったかな……」

優希「全くだじぇー……タコスを食べて回復しないと倒れちゃいそうだじょ」

京太郎「タコスで回復するのかお前は……」

優希「タコスは私の血みたいなものだからな!」

和「またゆーきは……」

咲「ふふっ、でも優希ちゃんらしいよね」


グー……


京太郎「んっ?」

和「へっ?」

優希「じょ?」

咲「……あ」グー……

京太郎「……さ、咲?」

咲「あ、あうう……」

優希「あははは!咲ちゃんもお腹が空いてるんだな!よし、じゃあタコスを分けてあげるじぇ!」

咲「い、いいの?」

優希「もちろんだじょ!」

咲「あ、ありがとう優希ちゃん!」

京太郎「俺もお茶菓子でも取ってくるか……和はどうする?」

和「それじゃあ……少しだけ」

京太郎「了解」

咲「美味しい……」モキュモキュ

優希「ふふふ、かかったな咲ちゃん……」

咲「えっ?」

優希「これで咲ちゃんもタコス好きの呪われた血族の仲間入りだじぇー!」

咲「え、えぇ、私呪われちゃったの!?ど、どうしよう和ちゃあん……」

和「そんなオカルトありえません。ゆーきも変な事を言って咲さんを困らせないでください」

優希「はーい」

咲「な、なんだ冗談だったんだ……」

優希「咲ちゃんは素直過ぎるな、私は将来が心配だじょ」

和「……それは私も同感ですね」

咲「そんなあ……」

優希「あははは……あぐっ!?」ガリッ!

咲「優希ちゃん!?」

優希「ひは、はんら……」プルプル

和「ああもう、喋りながら食べるから……」

京太郎「どうした?」

咲「ゆ、優希ちゃんが舌を噛んじゃって……」

京太郎「お、おいおい、大丈夫なのか?」

優希「うー……」

和「血がけっこう出てますね……すいません、私はゆーきを保健室に連れていきますので、後の対局相手は部長達にお願い出来ますか?」

咲「う、うん」

京太郎「何か手が必要なら連絡してくれよ?」

和「ありがとうございます。ほら、ゆーき行きましょう」

優希「……」コクコク

バタンッ

京太郎「大丈夫かね……すっかりおとなしくなっちまってたけど」

咲「ううっ、見てるだけで痛そうだったよ……」
ガチャッ

久「あら、和と優希はどうしたの?」

京太郎「優希のやつが舌噛んじゃって保健室に」

まこ「それはまた災難じゃな……それじゃあ今は打つにも面子が足りんわけか」

咲「和ちゃんは部長達にお願いしてほしいって言ってましたけど……」

久「あー……」

京太郎「部長?」

久「そうしたいのは山々なんだけどね……ちょっとまこと二人きりで話がしたいから……」

まこ「すまんが、少し席を外してくれると助かると言いに来たんじゃ」

京太郎「そうだったんですか。それじゃあしかたないですね……咲、食堂でも行くか。タコス一個だけじゃ足りないだろ?」

咲「京ちゃん、そんな事言ってまたレディースランチ頼ませる気でしょ……」

京太郎「ばれたか」

咲「京ちゃーん?」ジトー

京太郎「そうにらむなって!なんだかんだ言ってつきあってくれるんだろ?」

咲「……京ちゃんはしょうがないなあ」

京太郎「さっすが咲だ!じゃあ早く行こうぜ!」

咲「わわわ!?ひ、引っ張らないでー!」

バタンッ

久「……」

まこ「……何も言わんでよかったんか?また何かわかったんじゃろう?」

久「今はちょっと……無理」

まこ「……そうか」

久「問題を先送りにしてるのは、理解してるんだけどね……はあ、あの子達にスパッと話せるほど私強くなれないみたい……」

まこ「一人で抱え込まれるよりはマシじゃ。一年に話せないならわしに言ってくれればええよ」

久「……ごめん、本当に助かるわ」

まこ「気にするな。そんじゃあ……話した事をまとめるとするかの」

久「そうね……」

――

久「須賀君には今までに大きく分類して3つの力があったわ」

まこ「リーチをかけると一発になる、三回ポンすると対々を直撃させる……で、今の三回に一回純チャンツモを和了るじゃな」

久「そう、さらに全てに共通して須賀君の入った卓は聴牌速度が非常に速くなる……そして力が機能してる時須賀君は意識を失っている」

まこ「京太郎に何かが起きる前に必ず起きるのは怪我をする事と直後の対局で全く勝てない事……」

久「大きなネックは2つ……まず怪我をする事。まこももう気付いてると思うけど段々酷くなってきてるのよ、これ」

まこ「最初が顔を打った、次が階段から転げ落ちた、そして本棚の下敷きになった……確かにの」

久「意識を失う間隔も同じように酷くなってきてるわ。最初はリーチする瞬間、次は二回鳴くまで、そして今は一局分……」

まこ「ふむ……」

久「ねぇ、まこ……私は今回の事についてこれだけわかったってそう思っていた……これだけ情報があればきっと何かしら対策が浮かぶはずだってね」

まこ「……」

久「だけどこれに気付いた時、一番重要な事に気付いてなかったんだってさすがに思っちゃったわ」

まこ「……部長、あんたは何に気付いたんじゃ?」







久「一発、対々和、純チャン……」






まこ「は?」

久「須賀君の力でついた役よ。何か気付かない?」

まこ「……飜数か!」

久「そう、一発は1飜、対々和は2飜、純チャンは3飜……須賀君の力は段階が進むにつれて1飜ずつ上がってたのよ」

まこ「そうか、バラバラだと思っとったがそんな……ちょっと待て」

久「……」

まこ「もし、もしもその考えが事実なら……!」

久「そう、少なくとも後三回……4飜、6飜、それを超えた役満分、須賀君の身に何かが起きる可能性があるのよ」

まこ「今回で既にあいつは本棚の下敷きになってるんじゃぞ!?これ以上何かが起きたら!」

久「そう……そしてもし今までみたいに大怪我には繋がらなかったとしても、意識を失う間隔が長くなってる以上――」







久「――最終的に須賀君は、意識を持ったまま麻雀が出来なくなる可能性が高いわ」






今回はここまでで

更新します

――新校舎

京太郎「ふうっ、やっぱりレディースランチは最高だぜ!」

咲「京ちゃん、本当にレディースランチ好きだよね……」

京太郎「まあなー……っとあれは和と優希か?」

咲「あっ、本当だ。おーい、和ちゃん、優希ちゃん!」

和「咲さん達も新校舎の方に来てたんですね」

咲「うん、京ちゃんに付き合ってちょっと食堂に……優希ちゃん、大丈夫?」

優希「まだ舌がヒリヒリするじぇ……」

和「保健室で見てもらったんですが、一応今日は大事をとって帰るという話になりまして……」

京太郎「そりゃあんだけ噛んでりゃなあ……」

咲「食べたらしみそうだね……これじゃあタコス食べられないんじゃ……」

優希「いいや、たとえ激痛が走ろうともタコスを食べるのだけは……!」

和「そんな事を言っていたら治るものも治りませんよ……先生からも数日間は刺激物を控えるよう言われたんですからタコスは禁止です」

優希「」

京太郎「うわ、優希にはキツいなそりゃ……」

優希「そ、そんな!タコスを食べないと私は人の形を保てないんだじぇ!」

和「そんなオカルトありえません。どうも一人で帰すと寄り道しそうですね……ゆーき、今日は私が家まで送っていきます。お家の方にも事情を説明して、タコスを控えてもらうようお願いしておきますからね」

優希「じょ!?そんな殺生な!」

京太郎「ご愁傷様……」

咲「優希ちゃん、ちょっとの辛抱だから頑張って!」

優希「そ、そんなー!」

和「それでは咲さん、須賀君、私達は今日は帰りますね」

咲「うん、また明日和ちゃん」

京太郎「じゃあな」

和「はい。ほら部室に荷物を取りに行きますよゆーき」

優希「うわあああん!のどちゃんの鬼、おっぱいー!」

和「変な事を言わないでください!」

京太郎「まるで親子だな……」

咲「あはは……」

――部室

京太郎「ただいま戻りましたー」

咲「ましたー」

久「おかえりなさい」

まこ「優希と和は荷物だけ取りに来て早退してしもうたぞ」

京太郎「あっ、それはわかってます。向こうで会ったんで」

久「そう……須賀君」

京太郎「なんですか?」

久「まこと話し合って決めたんだけど……やっぱり当事者であるあなたには話しておいた方がいいって結論になったから、話させてもらうわ」

まこ「あんたの力について、な」

京太郎「……覚悟は出来てます」

久「咲はどうする?」

咲「私は……聞きたいです。それで京ちゃんの力になれるかもしれないなら……」

久「わかったわ。それじゃあ2人ともよく聞いてね……」

――

京太郎「……」

まこ「今のが、あんたの力についてわかった新しい事じゃ」

咲「そ、そんな……」

京太郎「そう、ですか」

咲「京ちゃん、なんでそんなに落ち着いていられるの!?だって、この話が本当なら京ちゃんは……」

京太郎「だって喚いてどうにかなるもんでもないだろ……」

久「須賀君、無理はしなくてもいいのよ?」

京太郎「大丈夫です……いや、もしかしたらまだ現実味がないだけなのかもしれませんけど」

京太郎(最低でも後三回、鳴きの清一が入れば四回。俺に何かが起きてその代わりに力が手に入るってか……とんでもない話だな全く)

京太郎「……まっ、何とかするしかないか」

咲「京ちゃん?」

京太郎「逃げたっていずれは何か起きるかもしれない。なら大きな怪我をしないように気をつけるしかないと思うんだよ……大した怪我もせずに切り抜けられたら御の字ってな」

まこ「じゃが麻雀の方はどうする?今のままならあんたはいずれ……」

京太郎「役満までいってそれ以上なにも起きないなら時間はあると思いますし、ゆっくり何とかする方法を探しますよ。あっ、その時は手伝ってくださいね?」

久「……」

まこ「……」

咲「……」

京太郎「な、なんですか?その生暖かい視線は?」

久「いや、なんというか……須賀君、ポジティブだから戸惑っちゃって」

京太郎「ははは、そうでしょう!」

まこ「いや、何も考えとらんだけじゃろ」

京太郎「……ナンノコトデショウカ、ボクニハワカリマセン」

咲「……」

久「……ふふっ、いいわ。須賀君がそこまで言うなら私達もただ嘆いてるだけじゃなくてやれる事を探してみましょう」

まこ「じゃな。とりあえず優希と和には明日話すとして……今日はもう解散にしとくかの」

久「そうね。須賀君、私達は私達でもっと調べてみるからあなたはとにかく怪我とかしないように注意しておきなさい」

京太郎「わかりました。それじゃあ今日はこれで失礼します」

バタンッ

咲「あっ、わ、私も失礼します」

久「……咲!」

咲「は、はい!」

久「須賀君の事、お願いね」

咲「……もちろんです!」

バタンッ

久「はあ……やっぱりこういう時は咲に任せるしかないのかー」

まこ「何を言うてもあいつはわしらには隠すじゃろうしなあ……」

久「……情けない先輩ね、私達」

まこ「全くじゃ……」

――

京太郎「……」

咲「京ちゃん!」

京太郎「んっ……ああ、咲か」

咲「……」

京太郎「いやー、まいったよな。まさか後三回も痛い目を見るかもしれないなんてさ」

咲「……」

京太郎「まあちょっと痛い思いするだけで麻雀が強くなれるなら儲けものかもしれないけどな!あははははは!」

咲「……京ちゃん」

京太郎「あははははは……」

咲「いいんだよ京ちゃん、そんな無理しなくても」

京太郎「は、は……」

咲「そんな演技したって私にはバレバレだよ……京ちゃん、本当は怖いんでしょ?」

京太郎「……」

咲「……」

京太郎「咲には、かなわないな……」

咲「京ちゃん……」

京太郎「ああ、怖いさ。これから自分がどんな目に遭うのかとか、もしかしたら麻雀やってる時だけの意識の飛びが日常的になるんじゃないかとか……怖いに決まってる」

咲「そっか……」

京太郎「……だけどさ!部室で言った事も嘘ってわけじゃないんだからな?」

咲「えっ……」

京太郎「なんだろうな、なんとなくだけど大丈夫な気がするんだよ。根拠はないし上手く説明は出来ないけど、きっと何もかも丸く収まるって」

咲「……」

京太郎「まあなんにしろビビってたって解決するわけじゃないし、せいぜい部長の言った通り怪我しないように注意するさ」

咲「わ、私も!」

京太郎「んっ?」

咲「私も出来る事があったら手伝うから!何でも言ってね!」

京太郎「何でもねぇ……咲じゃ頼りないんだよなあ……」

咲「ひ、ひどいよ京ちゃん!」

京太郎「あははははは!」

咲「もう!」

――数日後

京太郎「さてと、今日も部活に行くとしますか。咲行こうぜ」

咲「うん」

京太郎「今日こそトップ取ってやるから覚悟しとけよー?」

咲「京ちゃんにはまだまだ負けませんよーだ」

京太郎「言ったなこいつ!」

咲「えへへ……あれ?」

京太郎「どうした?」

咲「あれ、染谷先輩じゃない?」

京太郎「おっ、本当だ……なんで染谷先輩あんなフラフラしてんだ?」

咲「私に聞かれても……染谷先輩!」

まこ「んー?その声は咲か?」

京太郎「俺もいますよ」

まこ「そっちにおるんは京太郎か……2人とも今から部室に行くんか?」

咲「はい。あの、ところで染谷先輩」

まこ「ん?」

咲「メガネかけてませんけどどうしたんですか?」

まこ「実はのう……今日体育の授業があったんじゃが、転けかけた拍子にメガネを落としてしまったんじゃ。しかもバランスを取ろうとしたら運悪く落とした場所に足がいってしまってな……ほれ、ごらんの有様じゃ」

京太郎「うわー……見事にレンズが割れちゃってますね。フレームもひしゃげてるし」

まこ「で、予備なんか持っとりゃせんからこうしてメガネなしで過ごしとるんじゃが……歩きにくいったらありゃせんわ」

咲「た、大変ですね……よかったら手をつないで誘導しましょうか?」

まこ「ああ、そうしてくれると助かるわ。悪いが頼めるかの?」

咲「はい!」

京太郎「おい大丈夫なのか咲……?」

咲「大丈夫だよ!それじゃあ行きましょう染谷先ぱ……きゃうっ!?」

まこ「のわあっ!?」

京太郎「っと、危ない危ない……咲、お前転けやすいんだからこういうのは向いてないって。染谷先輩は俺が誘導するからお前は自分が転けないよう気をつけた方がいいぞ」

まこ「すまんのう、咲……気持ちだけはありがたく頂戴するけぇ」

咲「ううっ……」

――部室

咲「こんにちはー」

京太郎「遅くなりましたー」

久「はいこんにちは咲、須賀君……まこどうしたの?今更イメチェン?」

まこ「違う違う、ちっとばかしドジ踏んでしもうてな。メガネがおしゃかになってもうたんじゃ」

久「あらそれは奇遇ね。私も今日ちょっとドジっちゃったのよ」

咲「えっ、何かあったんですか?」

久「学生議会の引き継ぎの途中でちょっと変な風に手をついちゃてねー……骨は折れてないみたいなんだけど見事に捻挫しちゃった。だから悪いんだけど当分見るだけになると思うから」

まこ「全くお互いついとらんのう」

久「本当にね」

京太郎「……」

京太郎(なんかこの前の優希といい、みんなも色々怪我とかするもんなんだなあ……)

咲「そうなると和ちゃんと優希ちゃん待ちになりそうですね……」

久「そうねぇ、私もまこも出来ない事はないと思うけど……」

まこ「ちぃとキツいわな……」

優希「うおおお、部活だじぇ、部活ー!」

和「ゆーき、待ってください!」

京太郎「噂をすれば来たな」

咲「優希ちゃん、もう舌は大丈夫みたいだね」

優希「うん!ようやくタコスが解禁されたし、これで最下位地獄から脱出出来るじょ!」

和「ここ数日は本当に抑えるのに苦労しました……」

咲「お、お疲れ様和ちゃん」

まこ「おうおう、元気な事じゃ」

優希「むむっ、染谷先輩がどこかおかしいじぇ!……髪切った?」

まこ「なんでそうなるんじゃ!」

和「ゆーき……メガネですよメガネ」

優希「おぉ、言われてみれば確かにメガネがない!」

まこ「言われんでも気付いてほしかったわ……」

久「くすっ……ほらほら優希も和もまこと遊ぶのはそこまでにして卓についてちょうだい。私達は参加できそうにないからね」

和「私は別に遊んでいたわけではないんですが……」

優希「ハグハグハグ……んっ!よっしゃー!タコスパワーフル充電完了!今日は今までやられた分京太郎にお返ししてやるじぇ!」

京太郎「俺限定かよ!?」

咲「が、頑張ってね京ちゃん」

――

京太郎「い、勢いが止まらない……」

咲「京ちゃんが純チャンツモ和了れなかったの初めて見たよ……」

優希「ふはははははは!これこそ優希ちゃんの真の実力だじぇ!」

和「少し落ち着いてくださいゆーき……」

久「タコス断ちすれば強くなるのかしら」

まこ「試してみるか」

優希「じょ!?そ、それだけはご勘弁を……」

京太郎「下手に出るの早っ!?」

咲「あはは……あっ、お茶切れちゃった」

和「ああ、それなら私が取ってきます」

咲「ご、ごめん和ちゃん」

和「ふふっ、困った時はお互い様ですよ」スタスタ

京太郎「はあ、和はやっぱりいい嫁さんになりそうだなあ」

優希「こら京太郎、浮気は許さんじぇ!」

京太郎「浮気じゃねえし!そもそもお前とそういう関係になった覚えはないわ!」

咲「もう2人とも、あんまり騒ぐとまた和ちゃんに怒られちゃうよ?」

ギャーギャー

咲「聞いてないよ……」

――

和「お待たせしました」

咲「和ちゃんありがとう!」

和「いえ、これくらいなら……」

ガッ!

和「きゃあっ!?」

優希「のどちゃん!?」
バシャッ!

和「きゃんっ!?」

久「あらー……見事に転んだわね」

まこ「お茶も見事に頭から……あそこまでいくと芸術じゃな」

京太郎「の、和大丈夫か?」

和「は、はい……」ビッショリ

咲「……はっ!?きょ、京ちゃん!」

京太郎「な、なんだよ」

咲「あっち向いてて!」

京太郎「えっ、なんで?」

咲「そ、それはその……」

京太郎「わけわからん事を……ほら和、立て――」







ブツンッ……






京太郎「……あ、れ?」

和「……須賀君?」

京太郎「……」

和「須賀君!」

京太郎「……!あ、ああ、悪い!ほら掴まれよ和……はっ!?」

京太郎(こ、これは!?お茶を被った事によって和の制服が透け……)

まこ「そこまでじゃ」スチャッ

京太郎「どわっ!?ま、前が歪んで見えない!?」

久「ナイスよまこ。ほら和、風邪ひいちゃうといけないから着替えなさい」

和「はい……」

咲「京ちゃーん……」

京太郎「ま、待て咲、これは違うんだ」

咲「何が違うの?」

京太郎「そ、それは……」

咲「京ちゃんの馬鹿!エッチ!スケベ!」

京太郎「だ、だから違うんだー!」

――

和「今戻りました」

久「おかえりなさーい。須賀君への制裁準備は出来てるわよ」

京太郎「俺は無実だー!」

優希「嘘ばっかり言うな!のどちゃんのどこを見てたか私わかってるんだからな!」

京太郎「ぐぐぐ……」

和「須賀君」

京太郎「の、和……」

和「覚悟してくださいね」

京太郎「……はい」

――

京太郎「は――?」


久「なっ……」


まこ「馬鹿な……」


優希「えっ、えっ?」


和「……」


咲(な、なんで……?)


京太郎「……どういう、事ですかこれ」


「……」


京太郎「黙ってないで誰か答えてくださいよ!なんで、なんで……」







京太郎「――なんで俺は怪我とかしてないのに、力を得る前段階の焼き鳥状態になってるんですか!?」






本日はここまで


なんたよこれ……なんだよこれぇぇぇぇぇ……!
もう一刻も早く姫様のお婿さんになるしか

実際あの世界でマイナス効果のオカルトって存在するのかね?

>>249
阿知ポの京太郎の能力は「1割の確率で確実に自身の不要牌を引く」だそうだ
にわか先輩は「誰かがテンパイしたときに一発で振り込む可能性上昇」だそうだ
所詮ゲームとはいえちょっとなんだかなぁという気はする

生存報告
それと最低でも明日には更新出来ると思います

ふとこのSSのジャンルが元々ギャグだったと言ったらどれだけの人が信じてくれるのか気になった今日この頃

更新します

――須賀家

京太郎「……」

京太郎(何もかも、わからなくなっちまった)

京太郎「部長達も困ってたな……そりゃそうか、今までの考えが根本的に崩れたんだから」

京太郎(俺が怪我をする事が引き金じゃなかった……つまりそれは俺や部長達が解明したと思ってた他の事ももしかしたら間違ってるのかもしれないって事だ)

京太郎「結局、何もわかってなかった時に逆戻りか……どうすりゃいいんだよ、俺」

カピー「キュー」ノソノソ

京太郎「カピー?」

カピー「キューキュー」スリスリ

京太郎「もしかして、励ましてくれてんのか?」

カピー「キュー……」

京太郎「……ありがとうな。お前がいてくれるから俺もまだまだ頑張れそうだ」ナデナデ

カピー「キュー!」

京太郎「ははっ、本当にお前はかわいいなー!このこの!」

カピー「キュー♪」

――翌日・部室

久「和は風邪で休みか……」

まこ「まあ、昨日あれだけ派手に水を被ればのう……あんたも怪我しとるし今日はわしが入ろう」

久「はあ、なんだか須賀君だけじゃなくて私達麻雀部そのものが呪われてる気さえしてきたわ」

まこ「またあんたらしくもない……いつもの飄々としたあんたはどこ行ったんじゃ」

久「だってここまで色々あっても解決の糸口さえ見つからないのよ?落ち込みもするし、普段通りになんていられないわよ……」

まこ「じゃがあんたも何もしとらんわけじゃないじゃろうが。この前藤田プロに連絡して何とかプロのコネを使って永水と話ができないか打診したんじゃろ?」

久「といってもね……まだ靖子から連絡は来てないし、他に何か出来たわけでもないのよ。これじゃ何もしてないのと変わりないじゃない……」

まこ「久……」

久「……ふふっ、ごめんなさいね、まこ。変な愚痴聞かせちゃって」

まこ「前に言ったじゃろう、一人で抱え込むくらいならわしに話せってな。だから気にせんでええ、あんたはよくやっとる。それはわしが保証しちゃるから」

久「……ありがとうね」

――

京太郎「……」

久(今回は東一局一本場から……やっぱり意識がなくなる間隔は短くなってる、それは間違いない)

京太郎配牌

13478m 2569p 白 中中 發

京太郎第一ツモ發

久(それでいてこの手牌……やっぱり次の須賀君の力は)

優希「これだじぇ!」打中

京太郎「ポン」

優希「じょ!?」

まこ(うーむ、これは……試してみるか)

まこ「……」打發

京太郎「ポン」

まこ(やはり手牌に三元牌の対子があったか……おそらく白も持っとるなありゃ)

京太郎手牌

234m 569p 白 / 中中中 發發發

京太郎ツモ中

京太郎「カン」嶺上牌1p

京太郎「……」打1p

久(加槓して嶺上牌をツモ切り……今のカンはおそらく……)

――二巡後

京太郎手牌

234m 569p 白 / 中中中中 發發發

京太郎ツモ白

京太郎「……」打9p

久(これで小三元が確定した。四筒か七筒の両面待ち、ツモでもロンでも和了れば満貫……さっきのカンはそのためのものか)

――さらに二巡後

京太郎「ツモ。2000、4000の一本場は2100、4100」

久(複合役ではあるけど四飜……この力が1飜ずつ強化されるのも間違いないみたいね)

京太郎「……うっ」

まこ「大丈夫か京太郎?」

京太郎「は、はい。大丈夫です」

咲「京ちゃん、無理しないでね……」

京太郎「おう。その時はちゃんと言うから安心しろ」

優希「何もないのが一番いいじぇ」

京太郎「そりゃそうだ」

――東三局

京太郎配牌

118m 469p 789s 西西 北北

久(三元牌が一枚もない?これって一体……)

京太郎第一ツモ9p

京太郎「……」打4p

まこ(ん?三枚目の發が来たじゃと?どうなっとるんじゃ、小三元が力じゃないのか……?)打1m

京太郎「ポン」

まこ「!?」

京太郎「……」打8m

京太郎手牌

699p 789s 西西 北北 / 111m

京太郎ツモ9s

京太郎「……」打7s

久(この牌の形はもしかして……)

――二巡後

優希「こ、これだ!」打西

京太郎「ロン」

優希「うえっ!?」

京太郎手牌

999p 西西西 北北 / 111m 999s

京太郎「混老頭、トイトイ、8000」

優希「うぐぐ……」

京太郎「うっ……な、なんで睨まれてんだ俺」

まこ「どうやら小三元だけじゃないようじゃな」

久「みたいね。どうしてそうなるのかはわからないけど今回は小三元と混老頭を使い分けるようになってるわ」

久(こうなるとやっぱり私達の出した結論は間違ってないはず……だったらなんで須賀君の力の発展に関してだけは間違えてしまったのかしら?)

京太郎「……」ガクッ

久(咲に聞いたけどあの日須賀君に何かがあったわけじゃない……あったと言ったら私が捻挫してまこがメガネを壊したくらいよね)

京太郎「ツモ、4000オール」

久(そういえば数日前には優希が舌を噛んだのよね。そして今日は和が風邪……)

久「まさか……」

まこ「どうした?」

久「い、いや、なんでもないわ。続けて」

久(何を考えてるのよ私は!?そんな話があるわけない、今までだって色々な打ち手を見たけどそんな事を起こす打ち手の話なんて……)

京太郎「部長?」

久(……だけど、もし本当にそうなら私はどうするの?)

優希「ぶ、部長、顔が真っ青だじぇ!」

咲「部長、大丈夫ですか!?部長!」

久(そうよ、私は部長……だから部長として、須賀君を……)

久「っ!!」ダンッ!!

優希「ひゃっ!?」

まこ「お、おい久!」

久「あっ……」

咲「部長、ど、どうしたんですか?」

久「……ごめんなさい。ちょっと出てくるわ」

ガチャッ、バタンッ……

まこ「部長……」

優希「いったいどうしたんだ……あんなに怖い顔の部長初めて見たじょ……」

京太郎「……俺の、せいなのかもな」

咲「きょ、京ちゃん?」

京太郎「俺が迷惑ばっかりかけてるから……」

優希「京太郎、そんな事を言うな!部長の機嫌が悪かったからってそれが京太郎関係とは限らないじぇ!」

まこ「優希の言うとおりじゃ。京太郎、なんでもかんでも自分のせいだなんて考えても事態は好転せん。あんたは今は自分の事だけ考えておけばええから、な?」

京太郎「……ありがとう、ございます」

まこ「……全く、空気がよくないのう!よし、今日の部活はもう終わりじゃ終わり!今日はわしがあんたらを飯にでも連れて行ってやるわ!」

優希「おぉ、染谷先輩太っ腹だじぇ!」

咲「い、いいんですか?」

まこ「もちろん構わんよ。ああ、でもあんまり高いのは勘弁な?」

京太郎「……ぷっ、な、なんですかそれ!」

まこ「しかたないじゃろう。わしだってまだ学生なんじゃ、限度っちゅうもんがある」

優希「よし、お言葉に甘えてこの高級タコスをいつもの倍……」

まこ「あんたは人の話を聞いとらんかったんか!?」

京太郎「いやいや、やっぱりここは回らない寿司だろ」

まこ「あんたもかい!?」

京太郎「咲はなにがいい?」

咲「えっと、えっと……」

まこ「さ、咲……あんたはこの2人みたいな事言わんよな?」

咲「……ま、満漢全席とかどうかな!」

まこ「」

優希「おぉ、咲ちゃん、ナイスチョイスだじぇ!」

京太郎「そんなのやってる店あんのか?」

まこ「……はっ!つ、つい呆然としてしもうたわ……」

優希「おっ、あった!」

京太郎「よし早速電話だ優希!」

優希「任された!」

咲「の、和ちゃんに悪い気もするけど……」

京太郎「まあ、いないんじゃどうしようもないしな……楽しんだ話を聞かせてやったらいいんじゃないか?」

咲「そうだね……うん、そうするよ!」

まこ「お、おーい……」

久「ただいまー……さっきはごめんなさいね、ってどうしたのまこ、そんなこの世の終わりみたいな顔して」

まこ「はははっ、口は災いの元とはよく言ったもんじゃな……」

久「んー?」

――

京太郎「いやー、やっぱりここのラーメンはうまいよな」

咲「そうだねー」

優希「タコスラーメンおかわり!」

まこ「よかった、冗談で本当によかった……!」

久「なんでそんな地獄から蜘蛛の糸つたって天国来たような顔してるのよ……」

京太郎「あっ、おい優希!人のチャーシュー取るなよ!」

優希「隙を見せた京太郎が悪い!」

京太郎「チャーシュー麺からチャーシュー取ったらただのラーメンじゃねえか、こらやめろ!」

優希「止められるものなら止めてみろー!」

咲「やめなよ二人ともぉ……」

久「……」

久(全く、私も変な事を考えちゃったわね。あんな推論ありえるわけないのに……そうよ)







久(ここ数日私達に起きた事が須賀君の力のせいだなんて、そんな事あるわけない――)












――須賀京太郎の発展した能力についてのメモその3

・二局に一回手牌にヤオ九牌か三元牌が偏る

・狙える役は小三元か対々和の形の混老頭に限られ、他の役が絡む牌やドラは引く事が出来ない

・配牌時点で狙える役が小三元だとツモ、混老頭だとロンのみで和了れる

・牌を揃える際最低でもポンを二回以上する

・三元牌の内一種類の2つは必ず裏ドラの中に入り、大三元を和了る事は出来ない

・小三元時、点が満貫に届かない場合は必ずカンをする

・その際引いた嶺上牌は絶対に不要牌になる

・牌が偏るだけなので能力が発動した局も必ず和了れるわけではない

・逆に能力が発動していない局は絶対に和了れない

・意識が飛ぶ間隔…二局に一回、一局ずっと






本日はここまで

すいません、遅くなりました
更新します

――1週間後……

久「さていよいよ新人戦が間近に迫ってきたわね」

咲「新人戦かぁ……」

和「もうそんな時期なんですね」

優希「うおお、なんか燃えてきたじぇ!」

まこ「とりあえず咲達は登録しとるが……京太郎」

京太郎「はい」

まこ「あんたはどうする?現状あんたを取り巻いとる問題は何一つ解決しとらん。もしそれどころじゃない言うんなら……」

京太郎「……いえ、俺も出ます」

久「無理はしなくていいのよ?」

京太郎「ここ1週間麻雀は相変わらずですけど、特にトラブルは起きてませんし……新人戦は今年しか出られませんから」

まこ「そうか……わかった。なら京太郎も男子の部に登録しておこう」

久「頑張ってね、こうして来てるとはいえ私は形式上引退してる身だから大っぴらにサポートは出来ないけど応援してるわ」

一年組「はい!」

まこ「……部長、ちょっとええか」

久「なにかしら?」

まこ「いや……一言謝りたくてな」

久「謝る?」

まこ「あんたは毎日来とるとはいえ既に引退しとる……前に抱え込むなと偉そうな事を言いはしたが、本来ならあんたが抱える荷物はわしが一番持たなければいかんはずのもんだったんじゃ」

久「……」

まこ「わしはそれがわかっとるはずなのにあんたにこうして重責を負わせ続けとる……すまん」

久「なんだ、何かと思えばそんな事?元々新人戦までは形式上引退しても部長として面倒見るって引き継ぎする時に話し合ったじゃないの」

まこ「それはそうかもしれんがな……あんたは新人戦が終わっても京太郎の問題を解決するまで自分の予定よりこちらを優先するつもりなんじゃろう?」

久「まあ、確かにそのつもりだし須賀君の問題を新人戦までに解決するのは無理だったけど……でもねまこ、私は自分を犠牲にしてるつもりなんてさらさらないわよ?」

まこ「……」

久「みんなに支えてもらって私は夢を叶えたわ。その過程でみんなに色々教えてきたけどどうしても須賀君は片手間になってしまってた」

まこ「それは、あんただけの責任じゃないじゃろう」

久「そう言ってくれるのは嬉しいけど、でも私は部長だからね……やっぱり全体を見る責任はあったと思うのよ」

まこ「むうっ……」

久「だからきっとこれが私に与えられた最後の仕事……部長としてあなた達にしてあげられるだろう最後の事がみんなより目をかけられなかった須賀君に関してなんだから、むしろこれが片付くまではまこに渡したくないわね」

まこ「部長……いや、久、あんたぁ……」

久「だから謝罪なんて受け取る気はないわよ?これは私が自分の意思でしてる事なんだから」

まこ「……二年近く過ごしてきたが、やっぱりあんたにはかなわんの」

久「ふふっ、それはほめ言葉として受け取っておくわ」

――数日後

実況「さあ始まりました、高校生麻雀選手権新人戦。解説の藤田プロ、よろしくお願いします」

藤田「よろしく」

実況「藤田プロ。今年の新人戦、注目の選手は?」

藤田「やはり団体戦優勝校の清澄……ここは団体戦出場の一年生が三人というインターハイ出場校としては珍しいところだからな。しかも今年の個人戦は清澄から一年生が二人長野代表として出て優秀な成績を残している」

実況「そうなるとやはり清澄が勝ち進む可能性が高いというわけですか?」

藤田「まあ平滝の南浦、鶴賀の東横、風越の文堂……他にも優秀な選手はいるから油断は禁物だが」

実況「なるほど……」

藤田「だけど私が今回注目しているのは女子ではないんだ」

実況「と、言いますと?」

藤田「男子の方にも清澄から一人エントリーしている選手がいる。私が注目しているのはそっちだ」

実況「えぇ、確かに一人エントリーしていますね、清澄高校の須賀京太郎選手。しかし彼は……」

藤田「ああ、県予選個人戦では午前の部で敗退している」

藤田(その時牌譜も見たがこれといった特徴があったわけでもない……しかし久は今の彼は県予選の時とは違うと断言した。なら一回それを見せてもらわないとな)

――清澄高校控え室

「それでは新人戦第一回戦開始です」

久「始まったわね」

まこ「そうじゃな。ふぅ、新人戦までに修理が間に合って良かったわ」

久「あの眼鏡を直したの?」

まこ「まあの。こいつには色々思い入れもあってどうしても捨てる気にはなれんかった」

久「ふふっ、やっぱりまこはその眼鏡が一番ね」
まこ「言っとれ……おっ」

優希『ツモ!6000オール!』

和『ロン、8000です』

咲『カン!嶺上ツモ、1600、3200です!』

久「相変わらず三人娘は大暴れしてるわね。特に目新しい選手もいないしこれなら三人共上位にいけそうだわ」

まこ「さて、京太郎はどうしとるか……」

――京太郎の対局室

京太郎「……」

京太郎手牌

123m 2399p 3578s 東東東 ドラ東

実況「清澄高校須賀京太郎、三巡目で東を引き、場風のドラを暗刻で抱えたまずまずの手といったところでしょうか」

藤田「そうだな、ここからどう手を伸ばすつもりなのか……」

京太郎「……」打東

藤田「……ほぉ」

実況「き、清澄高校須賀、ドラ暗刻を崩しました!藤田プロ、これはいったい……」

藤田「……これは、まさかオリてるのか?」

実況「確かに東は既に一枚河に出ていましたが、まだ誰も聴牌すらしていないこの段階でですか?」

藤田「時々こんな風に打つ選手を見るが、その手のは大体がまるで既に和了れないのをわかっているかのような打ち方だった」

実況「須賀選手にはそれが見えていると?」

藤田「さあ、どうだかな……」

――数巡後

モブ1「ロン!7700!」

京太郎「……」ジャラッ

実況「○○高校モブ1が和了りました。振り込んだのはこの次の親となる清澄高校須賀京太郎」

藤田「……」

藤田(結局東一局はまるで勝負を始めから捨てていたかのような打ち方だったな……確かに上達してはいるが久が言うような特異な点はどこにも――)

京太郎「……」ガクッ

藤田「……!?」

実況「おっと須賀選手、振り込んだのがショックだったのかうつむいてしまいました……おや?どうやらそのまま打つつもりのようですね」

藤田「……」

藤田(ショックでうつむいた?違う、アレはそんなものじゃない……)

京太郎手牌

468m 3568p 白白 發發 中中

実況「おっとこれはまたいい手が入ったか、清澄高校須賀」

京太郎「……」打8m

モブ1「……」打白

京太郎「……ポン」

実況「須賀選手、白を鳴きました。藤田プロ、これはもしかするかもしれませんね」

藤田「そうだな……」

藤田(なんだこれは……須賀はうつむいて相手の河をまともに見ていないのになぜこんなにスムーズに牌を動かせる?これではまるで……)

モブ2「……」打發

京太郎「……ポン」

モブ2「っ……!」

モブ2(な、なんなんだよこいつ……うつむいてるせいで表情は全然見えないのになんでこんな……)

京太郎「……ツモ」

京太郎手牌

46m 567p 中中 / 發發發 白白白 ツモ5m

京太郎「小三元、4000オール」

実況「清澄高校須賀、小三元を親満ツモ!東一局で振り込みましたが逆転してトップに立ちました!」

藤田(まるで初めから和了る事がわかっているかのようじゃないか……!)

――

京太郎「ロン。混老頭、トイトイ、8000」

京太郎「ツモ。小三元、2000、4000」

京太郎「ロン。混老頭、トイトイ、8000」

藤田「……」

実況「……き、清澄高校須賀京太郎、二局に一回の頻度で満貫を和了り続けています!しかも役は小三元か混老頭、トイトイのみ!これはおかしな事になっているぞー!」
京太郎「ツモ。小三元、2000、4000」

実況「そしてたった今□□高校モブ3がトビ、試合終了!終わってみれば振り込みも多かったが、それ以上の点を取ることで清澄高校須賀がトップに立ちました!」

京太郎「……ありがとうございました」

モブ1「……」

モブ2「マジかよ、なんだよこれ……」

モブ3「なにもできなかった……」

藤田「これは……聞いていたよりも厄介かもしれないな」

――

京太郎(勝ったのか、俺)

京太郎(そうだよな、掲示板にある結果は俺がトップなんだから勝ったんだよな)

京太郎(……本当に俺は勝ったのか?何も覚えてないのに、覚えてるのは振り込んだ事ばっかなのに)

「新人戦二回戦、開始します」

ビー!

京太郎(――俺のしたかった麻雀って、こんなんだったっけ……?)





京太郎「……」ガクッ

本日はここまで

明日21:00頃更新したいと思います


4つ出た京太郎の能力でデメリット抜きにしたら一番強いのはやっぱり今のやつなのかふと気になった今日この頃

寝てしまった……23:30に更新を開始します

――数時間後

京太郎「ロン。混老頭、トイトイ、8000」

「四回戦が終了いたしました。お昼休みの後試合を再開します」

実況「こ、これは何と言ったらいいのでしょうか……新人戦男子の部各部屋半荘四回が終了、午前の部が終わりました。トップは清澄高校須賀京太郎!」

藤田「半荘四回全て、二局に一回小三元か混老頭か……清澄にまだこんな隠し玉があったとはな」

実況「藤田プロ、このままいけば須賀選手の一位通過はほぼ間違いなさそうですね」

藤田「本来ならまだ決まってない結果に関する事を口にするべきではないんだが……まあ、今のままいけばそうなるだろうな」

実況「二局に一回満貫ですからね……」

藤田「そうだな。須賀は満貫までならたとえ直撃で取られても次の局で取り返してしまう。だから他の選手は跳満以上の手を作ろうとして手が遅くなる……安手を捨てた結果流局になった局もいくつかあった」

実況「後半は何人かの選手もヤオ九牌を抱えこんで須賀選手の和了を止めようとしていましたが?」

藤田「ああ。だがそれは結局自分の和了を捨てるのと同じ……しかも団体ならともかく個人で戦うこの場では毎回そんな事をするわけにもいかなくなる」

実況「長引かせるのも危険ですからね」

藤田「結果満足に止める事も出来ずに稼ぎ負けてしまう……全く新人戦で一年生限定とはいえとんでもない話だ」

実況「各選手がどうするのか注目したいところですね。それでは続いてたった今午前の部が終了した女子の方について――」

――控え室

京太郎「ただいま」

咲「あっ、おかえりなさい京ちゃん」

京太郎「おう。そっちはどうだった?」

優希「なんだ京太郎、私達の活躍を見てなかったのか!?」

和「ゆーき、私達が打っていた頃は須賀君も打っていたんですからね?」

優希「おぉ、そういえばそうだったじぇ」

京太郎「……部長」

久「女子の方は咲が一位、和が二位、優希が四位よ」

まこ「まあ順当なところじゃな。優希はやはり平滝の南浦に苦戦しておったのう」

優希「あの人、南場になると南風吹かせてくるんだじぇ!」

和「そんなオカルトありえませんから……」

咲「ところで京ちゃんはどうだったの?」

京太郎「ん、一応今一位だ」

優希「一位!?やったじゃないか京太郎!」

京太郎「……まあ、な」

優希「んー?なんか反応が鈍いじぇ。そうか、まだ実感がわかないんだな……よし、京太郎にはこれをやろう!」

京太郎「タコス?」

優希「頑張ったからにはご褒美をやらないとな!さあ、遠慮なく食べるがいい!」

京太郎「……ってこれ俺が作ったやつじゃねえか!」

優希「まあな!」

京太郎「お前なあ……」

和「もうゆーきったら……」

久「はいはい、みんな喜ぶのもいいけど上位だからって気を抜いちゃダメよ」

まこ「とりあえず飯じゃ飯。腹が減って対局に集中できんかったなんて話にならんようにしっかり栄養を取っとかんとな」

京太郎「そうですね……じゃあ俺コンビニで飯買ってきます」

咲「あっ、私も行くよ」

京太郎「そうか?じゃあ一緒に行くか」

――

咲「京ちゃん」

京太郎「なんだ?何か欲しいものでも……」

咲「麻雀、楽しい?」

京太郎「……えっ?」

咲「京ちゃん、一位なのに全然嬉しそうじゃないよね?もしかしたら麻雀自体、楽しめてないんじゃないかなって……」

京太郎「……」

咲「京ちゃん……」

京太郎「本当にお前って奴は……」

咲「えっ?」

京太郎「……バーカ」ペシッ

咲「あうっ!?な、なにするのー!?」

京太郎「お前は色々考え過ぎなんだよ。そこまで心配しなくても俺は大丈夫だって」

咲「……本当に?」

京太郎「本当だ。まあ全然思うところがないって言ったら嘘になるけどさ、それだってそんな深刻な事じゃないからそんな顔するなよ」ナデナデ

咲「んうっ……私にまで隠したりしちゃダメだからね?」

京太郎「わーってるっての。ほらもう何もないなら戻ろうぜ」

咲「あっ、待ってよ京ちゃん!」

――

京太郎(あー、全く咲の奴には本当にかなわない。俺が感じてる不安とかなんだかんだで見抜かれちまうんだもんなあ)

「五分後に五回戦を開始します。各選手は対局室に移動してください」

京太郎(でも、あいつがいなかったらとっくのとうに潰れてたかもしれないな俺……)

京太郎「……よし!」

京太郎(今は色々考えるのはなしだ!こんなんでも俺の力なのには変わりないんだから自覚がなくても俺が勝ってるのに変わりはない!)

「五回戦、開始します」
ビー

京太郎(だったら俺は、みんなのためにも勝ち進んでやる!)

――数時間後

京太郎「終わったー……!」ググッ

優希「まさか一位のままいくとは……やるようになったな京太郎」

京太郎「部活だと二位までが大半だしなー。こんなに連続してトップになったのは初めてかも」

咲「ふふっ、とにかく京ちゃん、一位通過おめでとう」

京太郎「おう、そっちこそ一位だったらしいな。おめでとう咲」

咲「何回か和ちゃんに抜かされちゃったけどね。ずっと一位だった京ちゃんに比べたらまだまだだよ」

和「ですが結果的には咲さんが一位ですから。それに男子の方に今の須賀君を止められる人は少ないと思いますよ」

久「そうね。最後は他の三人でマークにし来てたみたいだけどもうその時には須賀君の一位確定してたものね」

まこ「色々懸念材料はあるとしても……京太郎、よくやったの」

京太郎「結局、二局に一回の満貫以外和了れませんでしたけどね……」

まこ「それは確かにそうじゃな……だが京太郎。あんたは今回満貫以上には振り込まんかったし和了れはせんでも流局に持ち込んで罰符などで稼いでた時もあった」

久「部活だと跳満以上に振り込んでる事もあるなかでこれだけ出来たのは、それだけ須賀君の振り込まない技術が成長したからと言えるわね」

京太郎「部活だとそれを覚えなきゃ飛ばされちゃいますからね……東一局で優希に倍満振り込む事も多かったですし」

まこ「つまりあんたはわけのわからん力だけで勝ったわけではないっちゅう事……今回の結果は紛れもないあんたの実力じゃ」

京太郎「……はい」

久「とにかくみんな上位入賞おめでとう。みんな揃って通過したんだから次もキッチリ勝ってもらうわよ!」

一年組「はい!」

久「それじゃあまこ、後はお願いね。私は靖子と話してくるから」

まこ「わかっとる。そっちも知り合いじゃからってあんま藤田プロに迷惑かけるなよ?」

久「はいはい、わかってます」スタスタ

まこ「……よし、じゃあ帰るとするか」

優希「染谷先輩、ラーメン食べて帰ろうじぇ!」

まこ「またか!?」

和「こらゆーき、染谷先輩に迷惑をかけるんじゃありません」

優希「はーい……のどちゃんは固すぎるじぇ……」

和「……帰りにタコス屋になら付き合ってあげますから」

優希「本当!?のどちゃん、大好きだじぇー!」

和「全く現金なんですから……」

咲「ふふっ、もう優希ちゃんったら……」

京太郎「何やってんだか……」

――

まこ「じゃあの、気をつけて帰るんじゃぞ」

和「私達もこっちなので失礼しますね」

優希「またなー!」

京太郎「おう、また明日な」

咲「バイバーイ」

京太郎「今日は疲れたなー。まあ半分くらいは記憶ないんだけどさ」

咲「でも後半の京ちゃんは前半に比べて楽しそうだったね」

京太郎「そうか?自分では自覚なかったけどな……」

咲「うん、なんか吹っ切れた感じというか……うーん、上手く言えないや」

京太郎「吹っ切れた感じか……だったら多分咲のおかげだな」

咲「へっ」

京太郎「……正直に言うとさ、前半終わった時に麻雀楽しめてたか自信なかったんだよ」

咲「やっぱり、そうだったんだ……」

京太郎「だけど咲にそういうところ見抜かれてさ。ああ、俺は支えてもらってるんだなあって思ったら……なんかモヤモヤが消えてた」

咲「京ちゃん……」

京太郎「……ありがとうな、咲。お前がいてくれてよかった」

咲「え、えーっと、どういたしまして……」

京太郎「……」

咲「……」

京太郎(な、なんか気まずいな……)

咲「あー!」

京太郎「おわっ!?」

咲「わ、私夕飯の買い物しないといけなかったんだ!それじゃあまた明日ね京ちゃん!」

京太郎「あ、ああ……」

京太郎「……咲の奴、耐えきれなかったか。いや、まあ俺も人の事言えないけど」

京太郎「……帰るか」

――須賀家

京太郎「ただいまー」

京太郎「なんだ、まだ帰ってきてないのか……カピー、帰ってきたぞー」

キュー……

京太郎「カピー?」

カピー「キュー……」グッタリ

京太郎「カピー!?お、おい、どうしたんだよカピー!」

京太郎(な、なんだよこの熱……今朝はあんなに元気だったのになんでこんな事になってんだよ!)

カピー「キュー……キュー……」

京太郎「そうだ、びょ、病院に電話しないと……」

ヴー、ヴー……

京太郎「和から電話?ああ、もうなんだよ、こんな時に……」

ピッ

和『須賀君!』

京太郎「ああ、和?悪いけど今取り込み中なんだ、話なら後で――」







和『今連絡があって……咲さんが、車に轢かれたそうです……』






京太郎「……は?」

カシャン

京太郎(咲が車に轢かれた?何の冗談だよ、それ……だってついさっきまで話してたんだぞ?なんで、なんで……)

――

京太郎『どうした?』

咲『ゆ、優希ちゃんが舌を噛んじゃって……』

――

京太郎「……あ」

――

まこ『メガネがおしゃかになってもうたんじゃ』

久『骨は折れてないみたいなんだけど見事に捻挫しちゃった』

まこ『全くお互いついとらんのう』

久『本当にね』

――

京太郎「まさか、そんな……」

和『須賀君?どうしたんですか須賀君!?』

優希『のどちゃん貸して!おい京太郎!返事をしろ京太郎!』

――

和『きゃあっ!?』

――

京太郎「俺の、せい……?」

――

京太郎『――なんで俺は怪我とかしてないのに、力を得る前段階の焼き鳥状態になってるんですか!?』

(俺が怪我をする事が引き金じゃなかった……)

――

京太郎「俺のせいで、みんなが、怪我した?俺のせいで、咲もカピーも……」

京太郎(俺が、いたから――)

京太郎「嘘だ……」

京太郎(俺のせいで、俺さえいなければ、俺がみんな、みんな……)

京太郎「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……」







京太郎「嘘だああぁあああぁあぁぁあああ!!」











ブツンッ……






本日はここまで

明日には更新出来ると思います

ちなみに前に元々ギャグだったと言いましたが、この話は最初

・京太郎が怜の記事を見つけ痛い目にあえば自分も力に目覚めるかもと言い出す
・実際にやったらこの話に出たリーチしたら必ず一発がつく能力をデメリットなしで習得
・もっと痛い目にあえば能力が強化されるかもとノリノリの京太郎、何回もわざと怪我をして能力をどんどん強化
・しかし最終的に得た力が【必ず十三不塔を和了る】になり、ローカル役のため和了れずただ配牌がボロボロになってしまうという結果に終わる

こんな話でした
今考えたら路線変更して正解だったかも……
それではまた明日に

オチがなんとも今日太郎らしいな

このスレの京太郎は上条にそげぶしてほしい

>>356
和「………」カオマッカ
タコス「のどちゃん発熱だじぇ」
???「熱膨張って知ってるか?」

こうゆうこと?

更新します

――病院

京太郎「……」

コンコン

「どうぞ」

京太郎「……」

ガラガラ


咲「あっ、京ちゃん!来てくれたんだね」

京太郎「ああ……」

京太郎(あの最低最悪の日から数日経った)

京太郎(どうやらあの後俺は失神していたらしく、帰ってきた親が慌ててカピーを動物病院に連れていった事、咲が腕を骨折して入院する事を次の日に聞かされた)

京太郎(咲は骨折した以外には大きな怪我はなく、カピーも命に別条はないらしい)

京太郎(親や麻雀部のみんなは俺が倒れた原因を咲とカピーの件が同時に来た事によるショックからだと判断したみたいで、昨日初めて見舞いに行った時なんて咲にまで大丈夫なのと心配されてしまったくらいだ)

京太郎(ショック、か……まあ、はずれてはいないんだよな)

京太郎「腕、どうだ?」

咲「うん、複雑とか粉砕骨折じゃなかったみたいだし利き腕じゃなかったからそんなに不便ではないかな。強いて言うなら本が読みにくくて困るかも……そういえば京ちゃんこそ大丈夫なの?昨日はすごい顔してたから心配したんだよ?」

京太郎「怪我人のお前に心配されるほどじゃないっつうの。お前はそんな事気にしないで自分の事だけ考えとけ」

咲「もう、人が真剣に心配したのに京ちゃんったらそんな言い方しなくても……」

京太郎「……なあ、咲」
咲「なに?」

京太郎「もしも……」

咲「もしも?」

京太郎「……いや、やっぱりなんでもない」

咲「えー、なにそれ」

京太郎「たいしたことじゃないから気にしなくていいって」

京太郎(はは、馬鹿か俺は……もしもお前のその怪我が俺のせいだって言ったら、お前は今みたいに俺と話してくれるか?なんて聞いてどうしようっていうんだよ)

咲「京ちゃん?」

京太郎(ごめん、ごめんな咲。みんなともう少しでいいからいい勝負したいって思ってたはずなのに、よりによって俺の存在がみんなを傷つけて、お前に至ってはしばらく麻雀をできなくさせちまった……)

咲「京ちゃん、ねぇ、京ちゃんってば!」

京太郎「……!あ、ああ、どうした咲?」

咲「それはこっちの台詞だよ。京ちゃん、どうして泣いてるの?」

京太郎「えっ……あ、あれ?おかしいな、そんなつもりなかったんだけど……」

咲「もしかして……」

京太郎「……!」

咲「カピーの事?」

京太郎「へっ?……あ、ああ、そうなんだよ!あいつ、病気なんかしなかったしさ。もう心配で心配で……」

咲「……」

京太郎「……」

咲「……そっか。やっぱり心配だよね、私も遊んだりしたけどいつも元気だったし」

京太郎「まあ、な……」

京太郎(なんとか、誤魔化せたか?)

京太郎「……そろそろ行くわ。やらなきゃいけない事もあるしな」

咲「うん……」

京太郎「じゃあ……」

咲「京ちゃん!」

京太郎「んっ?」

咲「……抱え込んだら、私嫌だからね?」

京太郎「……ああ、わかってるよ」

ガラガラ……

京太郎「ごめんな咲……」ボソッ

ピシャン

咲「……京ちゃんの、嘘つき」

――

京太郎(色々悩んだ、短い時間とはいえずっと考えに考えた)

京太郎(だけどどれだけ考えても、俺が出せる結論なんか1つしかなかった)

京太郎「部長」

久「あら、須賀君……どうしたの、今日は休みって言っておいたはずだけど」

京太郎「部長こそ来てるじゃないですか」

久「私は部長だもの。まだ今回の問題が片付くまでは……」

京太郎「……」

久「それで?何か部室に用があって来たんでしょ?」

京太郎「……これを渡したくて、部長を捜してました」

久「これは……」







久「退部、届……」






京太郎「はい……俺、麻雀部を……いや、違いますね……正確に言えば麻雀そのものを辞めます」

久「……理由、聞かせてもらえる?」

京太郎「部長が今の今まで気付いてなかったなんて言わせませんよ……考えてはいたんじゃないですか?」

久「……まだ、そうだと決まったわけじゃないわよ」

京太郎「いいえ、決まってます。そう言ってくれるのはありがたいですけど……もう間違いありません」

久「……」

京太郎「おかしいと思うべきだったんですよ、俺自身に何も起きてないのに力が強くなった時に。その少し前に麻雀部のみんなが怪我したりしてたのに俺は何も気付けなかった……」

久「それは……」

京太郎「ああ、でも……今から思えばやっぱり俺自身にも何かが起きてたのかも」

久「えっ?」

京太郎「みんなが怪我した時、俺は心の底から心配しました……この力が強くなる引き金、肉体的な痛みから精神的な痛みに移ってたのかもしれません」

久「須賀君……」

京太郎「試してはいませんけど多分俺の力はさらに強くなってます。そうなると次は役満の可能性が高い……もしかしたらその時は怪我だけじゃすまなくなってるかもしれなません」

久「……そう、ね」

京太郎「染谷先輩のおかげで何かが起きた後俺は一回麻雀をしなければ力は使えないってわかってます。もう今しかないんです、これ以上何も起きないようにするためには」

久「……わかったわ。これは預かっておく」

京太郎「ありがとうございます……今までお世話に――」

久「だけど、まだ退部って形にはしないわ」

京太郎「えっ……」

久「靖子を通じて、やっと永水女子と連絡がついたの。一週間後なら空いてるからご足労だけど直接霧島に来てほしいって言われたわ。あくまで麻雀しなければいいんだから、あなたが辞めるかどうかは永水に行ってから決めても問題ないはずよね?」

京太郎「それはそうかもしれませんけど……」

久「お願い、私はどうしてもこのまま須賀君がいなくなるのはいやなの。これは最後のわがまま、これでダメならもう引き止めないから……お願い、鹿児島に来て」

京太郎「……」

久「……」

京太郎「頭まで下げられたら、受けるしかありませんよ」

久「じゃあ決まり!さっき言った通り一週間後に鹿児島に行くから旅行の準備しておいてちょうだいね!」

京太郎「わかり、ました」

――須賀家

京太郎「ふう……ネト麻のアカウントは消した、教本も縛った。これでいつでも麻雀をやめられる」

京太郎(にしても鹿児島か……スケールの大きな話になってきちまったな。それにしても、まさか部長がそこまでしててくれたなんて思わなかった)

京太郎「永水なら俺のこの力をなんとか出来るのか?もし何も変わらなかったら……いや、今からそんな事考えてたらダメだよな」

京太郎「……」

京太郎「俺の部屋って、こんなに静かだったっけ……」

京太郎「ああ、そうか……カピーがいないから静かなんだ」

京太郎「早く帰ってきてくれよカピー……このままじゃ俺寂しくて死んじまうぞ……」

京太郎「……Zzz」

短いけど本日はここまで

22:00頃更新したいと思います
一応今のところ起承転結の転中盤といったところです

更新します

――1週間後

京太郎「見送りありがとうな」

優希「これくらい気にするな!それよりお土産楽しみにしてるからな京太郎!」

京太郎「いや、遊びに行くわけじゃないんだが……」

優希「だから元気なお前をお土産にしろって言ってるんだじぇ!」

京太郎「優希……」

優希「やめるなんて、私は絶対に認めないからな」

京太郎「……わかったよ。帰ってきたら改めて麻雀でボコボコにしてやるから覚悟しとけ!」

優希「言ったなこいつ!」

久「私とまこがいない間留守はお願いね、和」

和「わかりました」

まこ「悪いの、面倒かけてしもうて」

和「いえ……たとえ悪い偶然が重なったとはいえ今の須賀君には少し休息が必要だと思います。こちらの方は任せてどうかゆっくりしてきてください」

まこ「おう、明後日には帰るけぇの」

久(それにしても本当にブレないわね和は……まあ、冷静な人が一人いるだけで随分違うんだけどね)

京太郎「部長、電車来ましたよ」

久「それじゃあ行きましょうか」

まこ「いい報告を楽しみにしとれよ」

京太郎「……行ってくる」

和「いってらっしゃい」

優希「頑張れよー!」


――病院

咲「京ちゃんが鹿児島に行くの今日だったっけ……」

咲「……」

咲「私は何も出来ないけど、頑張ってね京ちゃん」

――電車内

京太郎「ふぅ……」

久「大丈夫?」

京太郎「えぇ、ここ3日くらいちょっと眠れてないだけですから」

まこ「それはいかんな。ただでさえ色々重なって疲れとるじゃろう。着いたら起こすけぇ、目を閉じるだけでええからしといたらどうじゃ?」

京太郎「そうですね……じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらいます」

久「おやすみなさい、須賀君」

京太郎「はい、おやすみなさい……」

京太郎(どうにかなればいいんだけどな……)

京太郎「……すう」

まこ「また早いのう……そんだけ疲れとったちゅう事なんじゃろうけど」

久「そうね……それじゃあ私達は永水の人達に話す内容を確認しておきましょう」

まこ「おう、そうじゃな」

――???

京太郎「あれ、ここどこだ?俺は確か電車に乗って……ああ、夢って事か」

???『――ロン』

京太郎「んっ?」

???『清一のみ、12000』

京太郎「あれは俺!?」

京太郎『……』

京太郎「そうか、これが力を使ってる時の俺なのか……すごい変な気分になるな」

京太郎手牌

38m 11233456888p

京太郎「おいおい、なんだよこれ……偏ってるにも程があるだろ」

京太郎『……』

――数巡後

京太郎手牌

1112334567888p

京太郎「無駄ツモほとんどなしで清一を聴牌か。待ちもひーふー……六面待ちだし相手によっては直撃いけそうだな」

京太郎『ロン。清一のみ、12000』

京太郎「……とか言ってる間に直撃しちまったか。まあ相手もリーチしてたみたいだからしょうがないな」

京太郎(そういや俺ははっきり見えるのに相手は手以外全然見えないな……うーん、夢だからなのか?)

――数局後

京太郎『……』カラカラ

京太郎(……なんか、おかしいな)

京太郎「さっきから和了りまくってるけど、どれもこれも清一ばっかりだ……さすがにここまでやったら普通警戒するだろうにどうして……」

京太郎(ちょっと今度は相手側から見てみるか……)

――数巡後

京太郎『ポン』

京太郎『チー』

京太郎『カン』

京太郎『ツモ。清一のみ、2000、4000』

京太郎「マジか……」

京太郎(相手がほとんど咲が全国二回戦でなった絶一門とか言うのと似た状態になってやがる……いや、正確に言えば配牌時点で必ず一枚持たされてる)

京太郎「一枚しか来ない牌を捨てないでいつまでも持ってると聴牌も出来ないってか……まあ、最初は早かったけど局が進むにつれて聴牌するまで時間かかってるから上手い人は早和了して流せるみたいだけど」

京太郎(だけど俺が聴牌しない内に捨てても、リーチしたら三巡後くらいには当たり牌を引かされてロンされてる……えげつなさすぎだろこれ)

京太郎『……テンパイ』

京太郎「……」

京太郎(確かにこれ強いのかもしれないけど……こんなの、麻雀打ってるって言えるのか?)

京太郎『うっ……』

京太郎「んっ?」

京太郎『また、こんな……』

京太郎「夢の俺も意識戻ったみたいだな……今回はオーラスだけ、か」

京太郎(つまり今ある力はオーラス以外、俺は自分の意思で麻雀を打てな――)

『ロン!』

京太郎「……は?」

『国士無双、48000!』

京太郎『はい……』

京太郎「……おい、待てよ。まさか、嘘だよな?」

――

『ロン!24000!』

『ロン!36000!』

『ロン!48000!』

京太郎『……』

京太郎「な、なんだよこれは……何回打ってもオーラスは全部親の倍満以上に直撃?」

京太郎『ありがとう、ございました……』

京太郎(序盤は清一で稼ぎまくって、オーラスは必ずデカいのに放銃して終わる……何回やっても絶対にそれは変わらない)

京太郎「こんな、こんなの……麻雀じゃねえよ。こんなの、こんなの……」







京太郎「――ただの、作業じゃねえか……!」












――須賀京太郎の発展した能力についてのメモその4

・配牌時点で萬子、索子、筒子のいずれかが9~10牌揃う

・配牌時点で相手に自分が偏っている牌を一枚持たせる

・東一局の場合二巡目以内にその一枚を捨てないと四巡目以内では鳴かれ、それ以降は当たり牌となる

・鳴いた場合三巡目以内に清一をツモ和了する

・相手がリーチした場合必ず三巡以内に京太郎の当たり牌を引かされる

・聴牌速度は局が進むにつれて遅くなり、オーラス前になると京太郎は聴牌するのに最低でも十巡以上かかる

・京太郎はオーラスに必ず親に倍満以上振り込む

・意識を失う間隔……始まってから南三局まで






――

京太郎『……』

京太郎(結局、夢の中の俺は決められているかのように清一とオーラスのデカい放銃を繰り返し続けた)

京太郎(まるでお前の意思でしている事に意味はないと言われてるみたいにオーラスで夢の中の俺はゴミ手すら和了れず……)

京太郎(その表情は諦めにも似た、酷いものだった)

京太郎「……そりゃ、そうか」

京太郎(こんな麻雀楽しいわけがない。実際に体感した小三元と混老頭の時ですら、俺は咲がいてくれなきゃ麻雀を嫌いになってたはずなんだから……)

京太郎「夢から覚めたら部長達に話さないとな……それにしてもまだ覚めないのかこの夢?」

京太郎『……』

『京太郎!』

京太郎「あれ、あいつはクラスの……どうしたんだ、あんなに慌てて」

京太郎『……どうした?』

『い、いいか?落ち着いてよく聞けよ?さっき連絡があって――――が、その……―――って』

京太郎『……は?』

京太郎(なんだ?何があったんだ?よく聞こえなかったけど……)

京太郎『嘘、だ……』

『信じられないかもしれないけど、本当なんだよ……もう―――は……』

京太郎『!!』

『あっ、おい須賀!?』

京太郎「な、なんだなんだ!?」

――病院

京太郎『……』

京太郎「いったいどうしたんだよ……ここって」

京太郎「霊安室……?」

京太郎『……なんで』

京太郎「……おい、誰だ?」

京太郎『なんで、こんな事になっちまうんだよ……』

京太郎「なあ、誰が、誰がそこにいるんだよ!」

京太郎『俺のせいだ……ごめん、ごめん……!』

京太郎「おい――」







京太郎『ごめん、咲……!』






京太郎「……えっ?」

咲『……』

京太郎『咲、咲……ごめん、ごめん……』

京太郎「さ、き……」

京太郎『……俺のせいだ。俺のせいでみんなが、みんなが……』

京太郎「みんな?」

京太郎『みんな……ごめん、ごめんなさい……』

京太郎「!?」

京太郎(いつの間に、周りにベッドが増えて……)

京太郎『俺が、俺が麻雀を続けなかったらこんな事には……』

和『……』

優希『……』

まこ『……』

久『……』

カピー『……』

京太郎「う、あああ……!」

京太郎『ぐっ……!』

ブツン……

京太郎『……これで、役満か』

京太郎「まさか、みんな俺の力のせいで……」

京太郎『行かないと……俺のせいでみんな死んだんだ……みんなを殺した力で、勝たないと……みんなは何のために……』

京太郎「……」

京太郎『みんなの分も、俺が麻雀をしないと俺は、俺は……!』

――

京太郎『ツモ。天和……16000オール』

京太郎『ツモ。天和……16000オール』

京太郎『ツモ。天和……16000オール』

京太郎『ツモ。天和……16000オール』

京太郎『ツモ。天和……16000オール』

京太郎「もう、やめろ……」

京太郎『ツモ。天和……16000オール』

京太郎『ツモ。天和……16000オール』

京太郎『ツモ。天和……16000オール』

京太郎『ツモ。天和……16000オール』

京太郎「こんなの、何の意味があるんだ……」

京太郎『ツモ。天和……16000オール』

京太郎『ツモ。天和……16000オール』

京太郎『ツモ。天和……16000オール』

京太郎「やめて、くれよ……」

京太郎『俺は、勝たないといけないんだ……みんなを殺して手に入れた力があって負けるなんて許されない……』

京太郎『父さんと母さんが事故で死んだ?ああ、また俺のせいなのか……』

京太郎『辛い、嫌だ、もう麻雀なんかしたくない……だけどやらなきゃ、やらなきゃいけないんだ……だって俺が――』







京太郎『――みんなを殺したんだから』

京太郎「もうやめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」












――須賀京太郎の発展した能力についてのメモその5

・必ず起家となり天和を和了る

・意識を失う間隔……対局中全て






今回はここまで

遅れてすいませんでした。
更新します

――

京太郎「うっ、くっ……」

「…賀君」

「京…郎」

京太郎「ううっ……」

久「須賀君!」

まこ「しっかりせぇ、京太郎!」

京太郎「えっ、あっ……部長、染谷先輩?」

久「よかった、目が覚めて……すごくうなされてたのに何度声かけても起きないから心配したのよ?」

京太郎「すいません……ちょっと、いやな夢を見ちゃいまして」

まこ「いやな夢?」

京太郎「はい、力に関する夢で……その」

京太郎(みんなが、俺のせいで死んで……俺は壊れたように麻雀を続けて、それで最後は……)

京太郎「うっ……!」

久「す、須賀君!?」

京太郎「だ、大丈夫です……少し気持ち悪くなっただけですから」

京太郎(あれがもし、この先起こるかもしれない事なら……ダメだ、それだけは絶対あっちゃならない)

まこ「そろそろ乗り換えじゃが……京太郎、本当に大丈夫か?」

京太郎「はい……」

久「須賀君、夢で何を見たのかまでは私達にはわからないけどそれはあくまでただの夢、必要以上に気にしてあなたがまいったら意味がないわ」

まこ「そういうわけじゃから無理はせんで辛かったらちゃんと言いんさい。とりあえず様子を見ながら行くとするからの」

京太郎「はい、ありがとうございます……」

京太郎(ただの夢……俺もそう思いたいんですけどね……)

――長野・病院

咲「……」

優希「咲ちゃーん、お見舞いに来たじぇ!」

和「ゆーき、病院なんですからもう少し静かに……お邪魔します咲さん」

咲「あっ、和ちゃん、優希ちゃん」

優希「うん、元気そうで何よりだじょ!」

咲「あはは、別に病気ってわけじゃないからね」

和「痛みなどはありませんか?」

咲「うーん、痛みはないんだけど、ギプスで固定されてるからかゆくなった時は大変かも……本も読みにくいし」

優希「こういう時も本とは咲ちゃんは筋金入りの文学少女だじぇ」

咲「うっ、だって他にやる事ないし……そういえば京ちゃん、様子どうだった?」

和「そうですね。少し思い詰めている気はしましたが、概ね普段通りだったと思いますけど……」

咲「そっか、よかった……ごめんね、代わりの見送りなんてお願いしちゃって」

優希「気にしなくていいじぇ。咲ちゃんに頼まれなくても行くつもりだったし……ふああ」

和「……ゆーき、寝過ごしたくないからって昨日寝てないみたいなんです」

咲「そうなんだ……」

優希「んうっ、眠いじぇ……」

和「足元が覚束なくなってますね……すいません咲さん、私達はそろそろ」

咲「うん、優希ちゃんをゆっくり寝かせてあげて」

和「ええ、ほら行きましょうゆーき」

優希「また来るじぇ咲ちゃん……」

咲「うん、待ってるね」
ガラガラ、ピシャン

咲「私も、あんまり眠れなかったしちょっと寝ようかな……」

咲「京ちゃん……」

――鹿児島

久「着いたわよ、鹿児島!」

まこ「やっと着いたか。でもまだまだ折り返し地点ってわけでもないんじゃなあ」

京太郎「ここが鹿児島……永水女子がいるところ、か」

京太郎(もし違う用事で来たならはしゃぎまくってたんだろうな、俺……あんな夢を見た今はとてもそんな気分になれないけど)

まこ「真っ直ぐ永水まで行くんか?」

久「私としてもそうしたいんだけど、今から行ったら着くのは夜だからさすがにそれはね……だからこっちで一泊して朝一番で向かうって話になってるわ」

京太郎「まあ妥当なところですね」

まこ「じゃあ宿を探さんとな」

久「そうね、じゃあ行きましょうか」

京太郎「はい」

――宿

京太郎「ふぅ……」

京太郎(今日は移動だけだったってのにすごく疲れたな……半分以上あの夢のせいだな)

京太郎「明日……どっちにしても明日で全部終わるんだな」

京太郎(俺が麻雀を続けられるか、これからもみんなと一緒にいられるのか……)

京太郎「いい結果で終わってほしいもんだ……」

京太郎「すう、すう……」

――翌日・長野

優希「なあなあ、のどちゃん。京太郎はもう永水に着いたかな?」

和「そうですね……鹿児島には昨日の内に着いたと思いますけど、今はまだ移動中といったところだと思いますけど」

優希「そうか……」

和「須賀君が心配ですか?」

優希「それは、まあ……うん」

和「ふふっ」

優希「な、なんだじぇのどちゃん、その笑いは」

和「いえ、すっかり須賀君に親友を取られてしまったなと思いまして」

優希「んなっ!?」

和「私としてはゆーきにもそんな一面があったと知れて嬉しいですけどね」

優希「なんかのどちゃん、最近部長に似てきた気がするじぇ……」

和「そうですか?自分ではよくわからないんですけど」

優希「間違いないじぇ……んっ?」

和「どうしました?」

優希「……」

和「ゆーき?」

優希「誰か、来る」

和「えっ?」

――病院

咲「……!」ビクッ

咲「この感覚、知ってる……」

――駅

??「ふうっ、やっと着いたね」

???「ここが長野かー。宮永さん元気にしてるかなー?」

??「あのトシさん、なんで岩手に帰る途中で急に行き先を長野に変更したんですか?しかも私と豊音には絶対付き合ってほしいだなんて」

トシ「ちょっとした年の功ってやつさ。まああんたも私くらい年をとればわかるようになるよ塞」

塞「はあ……よくわからないけどトシさんの言う事だから信用します。だけど胡桃達にシロを任せちゃって大丈夫だったかな……」

豊音「どうせならみんな来れたらよかったのにねー」

トシ「それは次の機会にね。さて、清澄高校に行くにはどっちに行けばいいのか……誰かに聞きたいところだけど誰もいないねぇ」

塞「……やっぱりシロも連れてくるべきだったか」

豊音「ちょー不安だよー……」

――鹿児島・神代家

久「いよいよね」

まこ「おう、なんか緊張してきよったわ……」

久「どうしてあなたが緊張するのよ」

まこ「手が震えとるあんたには言われたくないわ……」

京太郎「……」

霞「清澄高校の竹井久様ですね?お待ちしておりました、どうぞこちらへ」

久「今日は家の部員をよろしくお願いします」

霞「はい、出来る限りの事はさせていただきます」

京太郎「……部長ってあんな風に喋れたんですね」

まこ「猫を被るんがうまいからの、あいつは」

久「聞こえてるわよ2人共……変な事言ってないでさっさと行くわよ」

京太郎「は、はい!」

まこ「地獄耳じゃのう……」

――長野・病院

コンコン

咲「はい」

豊音「宮永さーん!」

咲「わわっ!?姉帯さん!?」

豊音「入院してるって聞いてちょー心配したよー!大丈夫?何があったのー!?」

咲「あ、姉帯さん、落ち着いて……」

塞「こら、豊音!相手は怪我人なんだから離れなさい!」

豊音「あっ……ご、ごめんねー」

咲「い、いえ、ちょっと驚いただけですから……あの、ところでどうしてここに?」

豊音「私達はトシさんの付き添いでここまで来たんだよー」

咲「トシさん?」

塞「宮守女子の監督なんだけどなんかここに来なきゃいけない気がしたらしくて」

豊音「さっきまで一緒だったんだけど気になる事があるからって清澄に行っちゃったんだ。私と塞は宮永さんが入院してるって聞いて病院に飛んできたんだよー」

塞「私は豊音のストッパーみたいなものだけどね」

豊音「ううっ、言い返せないよー」

咲「あはは……」

咲(やっぱりあの時感じたのは姉帯さんだったんだ……もしかして宮守の監督さんって京ちゃんに関係する事で来たのかな……)

――清澄高校・麻雀部

トシ「……」

トシ「これはまた、随分と歪んでしまったもんだ」

トシ「……哀れな話だね、全く」

――神代家

霞「姫様と六女仙、全員で見た結果を単刀直入に申し上げます」

久「……」

まこ「……」

京太郎「……」

霞「今彼の身に起きている現象を抑える事は出来ます」

久「本当に!?」

まこ「やったな京太郎!」

京太郎「は、はい!」

霞「……ですが、それはオススメ出来ません」

京太郎「えっ……」

まこ「な、なんでじゃ!?」

久「……理由、説明していただけるのよね?」

霞「ええ、もちろん。説明させてもらいましょう」

まこ「……」

霞「……さっきも言った通り抑える事は出来るの。それも六女仙で一番力の低い者が1人で行っても終わるくらい簡単に」

久「……」

霞「だけどそれはあくまでも抑えるならばという話……これは六女仙、ひいては神代家の見解として受け取ってもらって構わない……」

霞(小蒔ちゃんが話すのを躊躇ってしまっていたから私が代わりを引き受けたけれど……頼ってきてくれた人にこんな事を言わなければならないなんて……まだまだ未熟ね、私達は……)







霞「――この現象は、どれだけ抑えても間違いなく時をたたずして再び発現します」






短いけど本日はここまで

明日更新します
今年中には終わらせたい……

ちなみに京太郎が最終段階に進んでもすこやんと打ったら支配力で配牌天和潰されます

気がついたら寝ていてどこを押し間違えたのか書いていた物が全て消えていた件
すいませんがもう少しお待ちを……

ちなみに現在の状況は底なので後は上がるだけです。

お久しぶりです
まだちょっと更新は出来そうにありませんが生存報告だけさせていただきます
一回粗が見つかると徹底的に直したくなる……

長々と申し訳ありませんでした
更新します

――長野

京太郎「……」

久「……帰ってきたわね」

まこ「そうじゃな……」

京太郎「じゃあ、失礼します。お疲れ様でした……」

久「須賀君!」

京太郎「……」

久「ごめんなさい、結局何も出来なかったわ……」

京太郎「……そんな事ないです」

久「えっ?」

京太郎「俺すっげえ嬉しかったです。部長やみんながここまでしてくれた事が」

まこ「京太郎……」

京太郎「そんな顔しないでくださいよ!いつかこの力が何とかなってまた麻雀が出来る日が来るかもしれないですし」

久「……そうね、そんな日が来たらいいわね」

京太郎「はい!それじゃあ今までありがとうございました!」

まこ「ああ……じゃあの」

久「……ねぇ、まこ」

まこ「なんじゃ」

久「なんでこんな事になっちゃったのかしら」

まこ「……わからん。わしにはもう何にもわからんよ」

久「……」

――須賀家

京太郎「……」

京太郎「色々あったけど、とうとう短い俺の麻雀人生も終わりか」

京太郎「俺がした事はみんなを無駄に痛めつけただけ……しかもそれでも部内じゃ一位になれなかった。全く、とことん俺は麻雀には向いてないのかもな」

京太郎「ああ……寝よう」

京太郎「もう、何も考えたくねえや……」

――翌朝

京太郎「んっ……朝か」

京太郎「早く部室行って掃除とかしないと……あっ」

京太郎「そうか、俺麻雀部辞めたんだった……」

京太郎「もうこんな時間に起きる必要もなければ旧校舎に行く必要もないんだ……」

京太郎「……二度寝、するか」

――旧校舎・麻雀部部室前

京太郎「……」

京太郎(何してんだ俺……結局眠れずにまたここに来ちまって)

京太郎(もう俺は麻雀なんて出来ないっていうのに……)

ガチャッ……

京太郎「誰もいないか……」

京太郎(まあ当たり前か。元々朝練の時間より早めに来てるわけだし……)

京太郎「……」ギシッ

京太郎(最近は感じる事が多くなってたこの椅子の感触も……文字通りこれが最後になるわけだ)

京太郎「……」カチャカチャ

京太郎(この指に馴染んできた牌の固さも、綺麗になった牌を見て満足した気持ちも……)

京太郎「……」ジャラッ

京太郎(点棒が減ったりして落ち込んだ時、初めて直撃して点棒が増えて嬉しかった時のあの感覚も……)

京太郎「……」キュッ

京太郎(そういや、一時期盲牌に凝ってた事もあったっけな……一応成果というか、だいたいの牌はわかるようになった)

京太郎「麻雀は別に強くはならなかったけどな……」

京太郎(ああ、もうそんな風に強くなるためにがむしゃらに何かする事もないのか……)

京太郎「時間が出来るから何でも出来るな……まずは何をやろうかね」

京太郎「……」

京太郎「………」

京太郎「…………」

京太郎「……ははっ、何も思いつかねえや」

京太郎(今まで時間がある時はひたすら教本を読むかネト麻三昧で、他にやりたい事をやる余裕もなかった)

京太郎(だからやりたい事は山ほどあるはずだったのに、今の俺の頭に浮かぶやりたい事は1つしかない)

京太郎「麻雀、してえ」

京太郎(無理な願いなのはわかってる。もう俺は麻雀をしたら自分だけじゃなくて周りも傷つける疫病神だ……まだ取り返しのつかない事にはなってない今が……)

京太郎「……ならなんでまだ未練がましくここにいるんだ俺」

京太郎(立てよ、立ってさっさとここから出ていけよ……なんで牌から手を離さないんだよ!?なんで頭の中は麻雀の事ばっかり考えちまうんだよ!?なんで、なんでなんでなんで……)

京太郎「なんで、俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ……」

京太郎「いやだ、やめたくねえよ……麻雀を続けたい、楽しみたいんだよ……どうしてそんな単純な事も許してくれないんだよ……」

京太郎「俺は、こんな力欲しくなかった……もしまた麻雀が出来るなら喜んで捨ててやるってのに……」







トシ「それは本心かい?」






京太郎「っ!?」

トシ「ああ、悪いね。声をかけようとは思ったんだけどそんな雰囲気ではなかったから」

京太郎「あっ、その……」

トシ「アンタが清澄高校1年の須賀京太郎だね?」

京太郎「そ、そうですけど……」

トシ「さっきの言葉に偽りはないかい?」

京太郎「さっきのって……」

トシ「また麻雀が出来るなら力なんていらないって言葉さ」

京太郎「それは……」

トシ「成績は見せてもらったよ。新人戦で勝てた時嬉しくなかったのかい?」

京太郎「……最初は嬉しかったです。そりゃあ全国まで行ったみんなに勝てるほど甘い話じゃなかったけど、それでもただ数合わせみたいにいるだけじゃなくて、みんな相手に麻雀が出来てる……それだけで嬉しかった」

トシ「ならいいじゃないか。今のアンタには相当強い力がある……やめなくてももしかしたら誰も知らない遠い地なら影響なく麻雀が出来るかもしれない、それではダメなのかい?」

京太郎「……ダメです」

トシ「どうして?」

京太郎「結局ただ数合わせでいた頃と変わってないからです」

トシ「ほう……」

京太郎「俺は麻雀がしたい……ただ気がついたら点棒が移動して、いつの間にか終わってる。そんなものがしたいわけじゃない」

トシ「また和了れない日々が待っているかもしれないよ」

京太郎「それでも今より何倍もマシです」

トシ「……」

京太郎「……」

京太郎(俺、何やってんだろう……知らない人にこんなにペラペラ喋って……まあ、みんなにはこんな事言えないから最後に吐き出せてよかったのか?)

トシ「……正直な話」

京太郎「……?」

トシ「もしも力に執着心があるようなら何もせず帰るつもりだったけれど……まいったねぇ、こんなに麻雀が好きな若者を放っておくのは寝覚めが悪くなる」

京太郎「あの……」

トシ「また麻雀がやりたいかい?」

京太郎「……」

京太郎(いきなりの問いかけに疑問はあった、不信感もあった)

京太郎「……はい!」

京太郎(だけど俺は答えていた、自分の本音を)

京太郎「俺は麻雀がやりたい!力がなくなったって構わない!俺は……みんなとまた笑って麻雀がしたい!」

トシ「……いい目だね。わかった、アンタがまた麻雀出来るよう協力しようじゃないか」

京太郎「……で、出来るんですか?俺がまた、麻雀を?」

京太郎(あのオカルトの極みみたいな永水の人達でも何とも出来なかったのに……)

トシ「この問題は霧島の巫女様とは領分が違うからねぇ」

京太郎「えっ、なんで……」

トシ「顔に出てたからさ」

京太郎(そんなにわかりやすいのか俺……)

トシ「さて、アンタが再び麻雀を出来るようになるためにはその渦巻く力を何とかしなきゃならない」

京太郎「あの……そもそもこの力って何なんですか?」

トシ「まあ詳しい話は解決してからするとして、簡単に言えば初心者だからこそかかる病……といったところだね」

京太郎「病……それで治すために何をするんですか?」

トシ「んっ?アタシは何もしないよ」

京太郎「へっ?」

トシ「力を何とかするためにはアンタ自身が力を乗り越えなきゃいけない。そのために必要なのはただ1つの事だけ」

京太郎「ただ1つ……?」

トシ「勝つのさ」

京太郎「勝つって……」


トシ「力なしでアンタ以外の清澄高校麻雀部の面々に勝つ。それがアンタの中にある力を消すただ1つの方法だよ」

京太郎「……」

京太郎(それは口にするのは簡単で、だけど行動に移すのは何よりも難しい……今までみんなの側にいた俺が一番よくわかってる事実)

京太郎(初心者である俺が、あの力があっても勝てなかった俺が、自分の実力だけで全国優勝したみんなに勝つなんて、夢物語だって笑われても仕方がないレベルの話だ)

トシ「諦めるかい?」

京太郎「……」

京太郎(だけど……)

京太郎「……やります、やってみせますよ」

京太郎(どんなに難しくても……俺はまたみんなと麻雀がしたい。そのためにも……)

京太郎「俺はみんなに、勝つ……!」

短いけどここまで
次回から京太郎による清澄5人抜きに入ります
それでは長々と放置して本当に申し訳ありませんでした

生存報告だけさせていただきます。
すみませんが現在原作で清澄メンバーの打ち方見ながら唸ってますのでもう少しお待ちを……

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年03月18日 (火) 01:11:15   ID: SaWvSLiz

京太郎、部活やめるってよ

2 :  SS好きの774さん   2015年01月12日 (月) 05:20:20   ID: bg0wnpOB

あくしろよ

3 :  SS好きの774さん   2015年01月26日 (月) 01:35:18   ID: WW5sq9YT

まだー?

4 :  SS好きの774さん   2015年11月02日 (月) 11:17:56   ID: xKSKpdFU

つまらん

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