ジャン「マジLOVE…」コニー「1000%…?」(31)

<プロローグ>



「おい……どういうことだよ!!」


エレンがテーブルに勢いよく拳を叩きつけたため、部屋の雰囲気は一気に緊張感の増したものになった。
けたたましい音に、クリスタだけが肩を震わせる。
しかし、エレンに睨みつけられている当の二人は顔色を変えないままだった。


「どういうことだって聞いてんだ!!」

「エレン、落ち着いて」


見かねたミカサがエレンを宥めるが、あまり効果はないようだ。
激昂するエレン。決意を固めた様子のコニーとジャン。そしてこの状況に戸惑いを隠せないその他104期成績優秀者たち。
様々な思惑が部屋の中に渦巻いており、重苦しい雰囲気にアルミンが耐えきれなくなったところで―――
二人が口をようやく開いた。


「だから、さっきも言ったように」

「俺たちは、訓練兵団をやめて……アイドルになる」


アルミンはまさしく混乱していた。ただただコニーとジャンの意図がわからなかった。


「アイドルになるって……どうして?どうしてそんな急に!」

「そうだぞ、二人とも。俺たちずっと一緒に訓練頑張ってきたじゃねえかよ……」

「ジャンもコニーも、憲兵団に入るって夢はどうしたんですか!?諦めるんですか?」

「ていうか……アイドルって……なに?」クリスタは涙目だった。


立体機動の操作にかけては右に出る者のいないジャン。
お調子者でムードメーカー、運動神経のいいコニー。
成績もよく将来有望な彼らが兵士になることを諦め、アイドルになると告げたのは今より数刻前だった。


「ああ。そうさ。俺たちは憲兵団に入ることをずっと夢見ていた……」

「でも、ある日気づいたんだ。もっと大切ななにかがあるんじゃないかって」


そう語るジャンはこれほどにないほど真剣な眼差しをしていた。
ベルトルトが尋ねる。「大切な……何かって……?」彼の額にはいつもの5倍の冷や汗が噴き出ていた。


「音楽さ」


コニーがニヤリと笑った。

知ってるか……キスよりすごい音楽ってあるんだぜ……!


「ふざけんなよ!!」


コニーの渾身のキメ顔と台詞は、再び激昂するエレンに遮られた。


「音楽なんかで巨人が殺せるか!?人類を守れるのか!?馬鹿言ってんじゃねえよ!
 ……明日も訓練だぞ。早く寝ようぜ」

「…………教官にならもう伝えてきた。俺たちは明日、ここを去る」

「え……!?」


誰もが冗談なんじゃないかと思っていた。ジャンとコニーならやりかねないジョークだ。
しかし二人がふざけているわけではないということが分かると、途端に皆騒ぎ出した。


どうして? なんで? うそでしょ? まじかよ。

矢継ぎ早にぶつけられる質問にも二人は困惑する様子すらない。
ただ目配せをし合うと、すうと息を吸い込んだ。

二人のただならぬ様子に、だんだんと周囲の声が止んでいき、やがて場は水を打ったかのように静まり返る。


―――いくぞ、コニー。
―――ああ。ジャン。

言葉で分かってもらえないなら、音楽で伝えればいいだけだ。
俺たちが世界に伝えたいと思った理由を……みんなにも五感で知ってもらいたい。

アイドルになって、世界に音楽の素晴らしさを伝えるんだ。
目の前の友人たち数名すらファンにできないなら、俺らにその夢を追う資格なんてない……!!


ああ……やってやろうじゃないか!


「♪ドキドキで壊れそう 1000%LOVE」

「!?!?」


彼らの歌声は、最初は湖面に立つ漣のようだった。
聴衆の心に広がる混乱と動揺の間を、静かに通っていく。


「ジャン?コニー…?」
「いきなり歌い出して……なんだこいつら」


♪まだ~見ぬ星座を~
♪ふたーりで紡いでぇっ↑


「……な、なんだこの歌は……」
「なんでしょう……聴いてると、パンに包まれたかのような……」


それは徐々に歌を聴く者の緊張や不安を解していった。
初めての感情に戸惑いつつ頬を紅潮させる少年少女たち。
ジャンとコニーの歌声に魅了されはじめていた。


♪さあ Let's song!
♪夢をうたーおおー 空ににうたーおおー


「う……うおおおおおおおおおお!!」
「ラ、ライナー!?」


やがて彼らの心に、二人の歌声の織りなすシンフォニーによる大きな感動の波が押し寄せた。
ライナーを筆頭に次はサシャ、クリスタ、アルミンが叫び始めた。
叫ばずにはいられなかった。これが……音楽の力!

コニーとジャンはまさしく今この瞬間、アイドルとして生まれたのだった。
ファン第一号は、辛酸を舐めて苦しい訓練を共に乗り越えてきた友人たち。

最高だ!!


♪今宵はほら二人で
♪1000%LOVE!!


「フゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーー!!」
「すごいよ、ジャン!!コニー!!!」


「……ありがとなっ!」
「聴いてくれてサンキュー!」


彼らはもうただの友人ではない。音楽という絆で繋がったソウルメイトだ。


「……馬鹿じゃないの?」一人白けた様子のアニ。かと思いきや、

「アニ、目から流れてるのはなんて液体だい?」

「!? なんで私……泣いて…?」

「ははは。そんなに俺たちの歌、気にいったのかよアニ?」

「違う!馬鹿いうな……」

「あ…どこ行くんだよ、エレン?」


くるりと背を向けたのはエレンだった。
呼びとめられても振り返りすらしないその頑なな態度は、彼の言葉より雄弁だ。


「俺は認めないからな……」


彼らしくなくボソリと呟かれた否定の言葉に、コニーは白い歯を見せて笑う。


「いいぜ。いつかエレンにも認められるくらい、ビッグなアイドルになってやるからな!」

「……やってみろよ」

<1>

一ヵ月後―――

そこには壁内人類全て虜にするという偉業を成し遂げた、英雄的アイドルがいた。
彼らの名前はコニー・スプリンガーとジャン・キルシュタイン。
いま人類で彼らの名前を知らない者はいないほど有名になった二人だった。


……なんてことはなく。


「え?アイドル?いやうち楽団だから。楽器弾けないと」

「オペラ歌手なら雇いたいんだけどな」


一躍スターに成りあがってやろうと内地にやってきた二人の目の前に立ちはだかったのは、非情な現実だった。
すなわち、必要とされる音楽はオーケストラやオペラ歌手、もしくは貴族のパーティーなどで活躍する演奏者だった。

「まあ、若いんだし、いろいろがんばんな。悪いね」

どれも二人の音楽とは異なったものであり、
彼らの必死の売り込みもむなしく、再び鼻先でバタンと扉が閉ざされた。



「ちくしょう!なんだってんだ」

ジャンが道端に落ちている桶を蹴り飛ばした。
カコーンと間抜けな音が路地に反響し、まるで桶すら自分たちを笑っているように感じてジャンは舌を打つ。


「アイドルになるって、難しいんだな……俺馬鹿だから分かってなかった」

「こうなったら、俺たちだけの力で成りあがってやろうぜ!」

「俺たちの力だけって、どういうことだよ?」コニーが訝しげにジャンを見やる。

「人通りのあるところで歌うのさ。そうして徐々にファンを増やして知名度をあげる!!」

「おお!そうすりゃ一気に俺たちは人気のアイドルに!!」

「そういうこった!!」


そうと決まればさっそく行動だと街へ向かう二人。
彼らはストリートミュージシャンになった。
最初こそ「なんだこいつら?」という白けた目で見られていたが、毎日続けるうちに徐々に立ち止まり歌を聴いてくれる者もでてきた。

そして一週間後には小さな人だかりができるほどになっていた。

アイドルへの道を、確実に前進できている。二人はそう思っていた。

しかし、ここで一つの困難にぶち当たる。


「毎日同じ曲じゃねぇ……ほかの曲はないの?」


二人はマジLOVE1000%しか持ち歌がなかった。



「やべえ……曲ってどうやってつくんだよ?」


歌うことに関しては自信をもっていた。音楽で世界を救えると信じていた。
しかし、全く作曲作詞に関して知識はなく、楽器を扱う腕も―――そもそも楽器を買う路銀すらもっていなかったので、
二人は「ほかの曲はないの?」というファンの一人の言葉に頭を抱えていた。

なんとか頑張って作曲してみよう!と奮闘してみたが……
出来上がったのはクソほどの出来の曲だった。こんなの歌うくらいなら巨人に食われた方がマシと言いきれるほどの出来だった。


「俺たちは無力だ……」

「どうすれば……どうすれば!!」


センスのある曲を作ってくれる、誰か―――!


「あ!いたー!二人とも、久しぶり!」


振り返ったその先には、女神さまがいた。



「ク……クリスタ!?」

笑顔で駈けよってくる女神に、コニーが元々大きな目をさらに見開いた。
クリスタの後ろから、長い足を持て余すようにゆっくりとユミルも歩いてくる。

訓練兵団にいるはずの彼女らが、何故ここに?


「お前らの歌が忘れられなかったんだとよ。私はこいつのお守」

「お、お守って。ユミルだって二人の歌に感動したんじゃないの?」

「ちげーよ」

「お前ら……まじかよ……」


信じられないことに、彼女らはジャンとコニーの後を追って兵団をやめたというのだった。
茫然とする二人の前でユミルが、「で?」と笑った。


「あんだけ威勢よく出て行ったくせに、なんてザマだよ?」

「うっ うるせえな!今は少ししかいねぇけど、これからどんどんファンを増やしてく途中なんだよ!」

「ふ~ん」


このまま喧嘩に発展しそうなコニーとユミルの間をクリスタが取り持つ。


「私たち、何か二人のためにできることないかなって思って。あのっ、これ!!」

「……これは?」

クリスタが渡したのは数々の記号が書かれた数枚の紙。
横に引かれた線や、おたまじゃくしのような記号にジャンもコニーも目を白黒させた。

「なんだこれ。暗号か?」

「ううん、楽譜だよ。二人の歌を聴いて、いてもたってもいられなくなって、曲を作ってみたの」


「…………か」


かみさま……?


「おいジャン!女神って本当にいたんだな!?」

「ああ……まじもんだぜ、これは」


ていうか、二人は楽譜を知らないのに、一曲目はどうやって歌ったんだろう……とクリスタは頭をひねった。
まあ、いいか。


「しょうがねえからな、私はこのギターを弾いてやるよ」


ユミルは肩にかついだギターを揺らす。
「お前ギターなんて弾けたのか」というコニーの問いに無言でニヤリと唇の端を釣りあげた。


ギターの入手経路は聞くなよ、という言葉から3人は一瞬で同じことを悟った。
しかし、背に腹は代えられない。
聴かなかったことにしよう、と3人の思考は再びシンクロした。


クリスタとユミルがジャンとコニーの元に来てから数カ月が経過した。


「今やすっかり街の人気者だね、二人とも」

「まあ私のギターとクリスタの作った曲のおかげだろ」


今のジャンとコニーのストリートライブの様子は、こんな感じである。


♪調子ハズレ~の声だって~
♪いいさ それがどうした~んだってぇ~


「キャーーー!コニーくぅぅぅぅぅぅぅん!!」
「ジャン様~~~~~~~~~~!!」
「かっこうぃ~~~~~~~~~!!!」
「コニーくんの独特の音程すてきぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


ライブはいろいろな都市を巡回して行っているが、徐々に追っかけと呼ばれる熱心なファンもつきはじめた。
日に日にライブに集まる人だかりは増えていき、静かに静かに二人の認知度は高まっていった。


貴族のような芸術としての音楽に触れる機会もなく、音楽といえば祭りの時に皆で歌うようなものしか縁がなかった街の人にとって、
ジャンとコニーの歌うエンターテイメント、娯楽としての音楽はかなり新鮮で楽しいものだった。

しかしアイドルに大事なのは歌だけではない。
皆が夢中になり、ファンにならずにはいられない外見も重要なのだ。

ジャンは目つきが悪く悪人面だが、かえってそこがいいという女子がファンになりやすい。
コニーは坊主スタイルをやめ、髪を伸ばし始めた。童顔でやんちゃなところが女性の母性本能を刺激しやすい。

身なりもクリスタのサポートにより、数か月前に比べ二人はかなりアイドルらしくなってきた。


「あとは、グループ名だよね」

アイドルといえばクループ名がなければ始まらない。
一言で人々の心を惹きつけられるようなキャッチ―でセンスのいい名前が必要だった。

「適当に『ジャンとコニー』でいいだろ」

「さすがに適当すぎだよ……」

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom