ミカサ「エレンがウォール教に入信した……」(239)

~休日~

エレン「おお、やっぱり街は賑わってるな。アルミンも来ればよかったのに」

ミカサ「アルミンは今日、図書室で調べ物をしたいらしい。次の休日に一緒に来ればいい」

エレン「そうだな。さてと、じゃあ適当に店でも回って……」

ニック「そこの少年……」

エレン「ん、なんだおっさん? 俺に何か用か?」

ニック「失礼、私はニックという。ウォール教という宗教を開いている司祭だ」

エレン「えっと……宗教?って、なんだっけ?」

ミカサ「エレン、あまり相手にしないほうがいい。あの男から漂う胡散臭さが半端ない」ヒソヒソ

ニック「ふむ、ご存知ないのなら教えましょう。我々は迷える子羊達を救済し、神のご加護を授ける者……それが我らウォール教なのです。失礼ですが、あなたから良からぬ死相が見えますな」

エレン「はぁ? 死相だぁ?」

ニック「ええ、そうです! あなたは見たところお若いようだが、体つきはしっかりしている。恐らく訓練兵の方でしょう。しかし、私にはそんなあなたの行く先が見えてしまうのです……」

ミカサ「さあエレン、せっかくの休日をこんなところで潰すわけにはいかない。早く行こう」グイ

エレン「あ、あぁ。そうだな」スタ

ニック「お待ちなさい、私には見えるのです! あなたが将来……なんの成果も得られないまま巨人に食べられてしまう未来が!」

エレン「」ピクッ

ミカサ(まずい、エレンが立ち止まった)

エレン「俺が……巨人に食べられる? なんの成果も得られないまま?」

ニック「そうです、そうなのです! ああ可哀想に、あなたもしや、過去に辛い思いをなさいましたね?」

エレン(か、母さんのことか!?)「どうしてそれを!!」

ニック「私には何もかもお見通しなのです。なぜなら私はウォール教の司祭……神の言葉が、この私にそのまま伝わるのです」

エレン「あ、あんた、本物なのか?」

ニック「はい、そうですよ。どうですか少年、あなたもウォール教のご加護を授かれば、神があなたを巨人から守ってくださいますよ」

ミカサ「バカバカしい、それだけで巨人に食べられずに済むのなら人類はここまで苦労していない……」

エレン「…………」

ミカサ「エレン?」

エレン「はっ!? いや、ミカサの言うとおりだよ。祈っただけで巨人に勝てるなら俺達は何のために毎日辛い訓練をしてるんだっつーの!」

ニック「悲しい話です。祈りの力は神の力……それを信じれば辛い肉体訓練などしなくとも巨人に打ち勝つことはできるのです。しかし、世の中にはそれを信じられない者があまりにも多い」

エレン「…………」

エレン「俺、ちょっとだけこのオッサンの話聞いてみるわ」

ニック「おお、少年よ! 実に素晴らしい!」

ミカサ「な、何を言っているのエレン。こんなのは時間の無駄でしかない。それより今日は私と一緒に……」

エレン「大丈夫だって。ちょっぴり聞いてみるだけだから、すぐ戻る。だいたい俺がこんなバカみたいな話、真に受けるわけ無いだろ?」ケラケラ

ミカサ「で、でも……」

ニック「さあ少年、教会はこっちです。ささ!」

エレン「はいよ」

ミカサ「ううぅ……早く戻ってきてねエレン…………」

あれからどれだけ時間が経ったのだろう。エレンは一向に戻ってくる気配がない。

30分が経過した頃、エレンを連れて帰ろうかとも思ったが、そもそも教会がどこにあるのかも知らず、私はその場でただ待ち続けるしか無かった。

そしておよそ6時間が過ぎた頃だ……ようやくエレンが私の前に姿を現した。

ミカサ「エレン! やっと戻ってきた! ずっと心配していた!」

エレン「ああ、悪いなミカサ。長いこと待たせちまって」

ミカサ「全然構わない。エレンが無事に戻ってきて良かった。私はてっきり、あの男に何かされたんじゃないかとずっと……」

ミカサ「…………」

ミカサ「エレン」

エレン「ん?」

ミカサ「……その首飾りは何?」

エレン「ああ、これか。これはウォール教の信者の証だよ。綺麗だろ?」ジャラッ

ミカサ「……なんでエレンが信者の証を付けているの?」

エレン「そりゃあお前、決まってんだろ? 俺、ウォール教に入信したんだよ」ニコッ

ミカサ「」

ミカサ「ちょっと何言ってるか分からない」

エレン「いや、だってさ……最初は冗談半分で司祭様の話を聞いてたんだけどさ。それが本当に素晴らしくてよ、俺感動のあまり思わず涙流しちゃって」

エレン「それで気づいたんだ。ウォール教は本物だ、司祭様は俺を導いてくれる存在だってね!」

ミカサ「」

~夕食~

アルミン「え、ごめんエレン……何の話?」モグモグ

エレン「だからさ、ウォール教は素晴らしいんだってことだよ! いいか、俺達を守ってくれている三つの壁は神が授けてくれたものなんだ。マリア、ローゼ、シーナの神々が俺たち人類を巨人から守るために築いてくださったんだ! そしてその啓示を聞き、壁を守り続けると最初に誓ったのが我らがニック司祭様なんだよ!」

アルミン「……ミカサ、エレンに何があったんだい」

ミカサ「それはエレンの首飾りを見ればなんとなく想像つくはず」

アルミン「なるほど……これは厄介なことになったみたいだね」

エレン「おいアルミン、ちゃんと話を聞けよ! まず今から百年前、俺達人類はな……」クドクド

ジャン「なんだぁ、エレンのやつ。妙に熱心に話し込んでるな」

マルコ「そうだね。それに、なんだか派手な首飾りをかけてるよ」

ジャン「ケッ、だっせぇ飾りだなぁ、おい。まさかあれでおしゃれしてるつもりなのかあのバカは」

マルコ「う~ん、確かにあまり趣味の良い首飾りには見えないけど……どこかで見覚えあるんだよなぁ、なんだっけ」

サシャ「エレン、さっきからご飯が進んでいませんよ! もしや私が食べてもいいってことですね!」

エレン「あ、サシャ。駄目だ、まだ食べてる途中……」

サシャ「」パクッ

エレン「お前、よくも俺のパンを!」

サシャ「す、すみません。てっきり食欲が無いのかと……」

エレン「…………」

アルミン「ははは、駄目だよサシャ、勝手に人のもの食べちゃ。エレンも、怒らなくても僕の分を分けてあげるから」

エレン「いや、いい。それよりサシャ、お前には少し向こうで説教をする」

サシャ「ええ、なんですか、エレンが説教だなんて!?」

エレン「ウォール教の教えにあったんだよ。人の食べ物を盗るべからず……時には自らを制し、神にそれを捧げよと」ズイ

サシャ「って、うわあああ! どこに連れてくんですかエレーン!!」ズルズル

アルミン「あわわ、あんまり女の子に乱暴しちゃだめだよエレン」

~翌朝~

アルミン「ふあぁ、おはようミカサ」

ミカサ「おはよう、アルミン。エレンはどこ?」

アルミン「あれ、おっかしーな。朝起きたら部屋にいなかったから、てっきり先に食堂に来たのかと思ったけど」

ミカサ「……そう言えば、サシャも部屋にいなかった。でも食堂にはいないようだ……」

スタスタ

サシャ「」

エレン「よう、おはようお前ら」

アルミン「あ、エレン、それにサシャも。朝からどうして二人とも一緒なんだい?」

エレン「どうしてってお前、昨日からずっとサシャに司祭様のありがたいお言葉を教えてたんだよ」

アルミン「」

アルミン「え、ごめんエレン……朝から?」

エレン「いや、昨日から。あの夕食の後からだよ」

アルミン「おぅふ……」

サシャ「」

ミカサ「サ、サシャ、どうか返事を」

サシャ「」

サシャ「神はおっしゃいました。我らの民が飢えを覚えるのは、二つのパンを一人で食べるからだと」

アルミン・ミカサ「!?」

サシャ「恵まれた者ほどパンを欲してはなりません。私は恵まれています……ゆえに、パンを欲するべきではないのです」

サシャ「ですのでアルミン……私のパン、あなたにあげます」ヒョイ

アルミン「!!??」

アルミン「だ、駄目だよサシャ! 君もちゃんと食べないと!」

サシャ「いいえ、いんです。私はこれまで多くの方から食べ物を奪い、神に背いてきました。ですからこれからは、私のほうからパンを与えるべきなのです」

アルミン(サシャ……これは本当にサシャなのか……?)

エレン「素晴らしいぞサシャ! ちゃんと神の教えを理解したみたいだな!」

サシャ「エレン、あなたにも感謝します。あなたのおかげで、私は目を覚ますことができました。司祭様のお言葉はなんと素晴らしいのでしょう!」ウルウル

エレン「よし、じゃあお前にこれをやろう!」ジャラッ

サシャ「はっ、それは信者の証たる首飾り! いいんですか!?」

エレン「ああ、司祭様が『お友達が神のご加護を受けたくなったらこれあげてね』って、たくさんもらったんだ」

サシャ「感謝します! 次の休日には必ずや教会に出向かわなければ……!」

エレン「そうだな、司祭様も喜ぶぞ」

クリスタ「あれ、サシャ、エレンと一緒にいるよ」

ユミル「珍しいな、あんなに意気投合して。ん? なんだあの首飾りは」

クリスタ「エレンと同じのだね。なんだか高級そう」

ユミル「はん、悪趣味なだけだろ。それにしてもあいつ、いつもよりなんだか清らかな感じが……いや、気のせいか」

クリスタ「いや、気のせいじゃないかも。ほら、あのサシャが自分のパンをアルミンにあげたみたいだよ!」

ユミル「おいおい、マジかよ。あいつ、頭でも打ったんじゃねーか?」

エレン「よぉクリスタ、ユミル。どうした、こっちをジロジロ見て」

クリスタ「ご、ごめん。なんだかサシャがいつもと様子が違ったから」

エレン「お、興味あるのかクリスタ? いいぞ、お前にも教えてやるよ!」

エレン「なぁクリスタ、お前は自分がいったい何のために生まれ、何のために死ぬか……そんなこと考えたことないか?」

クリスタ(え……?)

ユミル「あぁ? なんだその質問?」

エレン「誰だって一度は考えるだろう? 自分の生きる意味……それを、司祭様が教えてくれるんだ」

クリスタ「私の……生きる意味…………」

ユミル「ぶわっはっはっ! そんなことで真剣に悩んでる奴なんかいるかっつーの!」

エレン「そうかな。世の中には生まれた時から周りから必要とされなくて、どうやって死ねば周りから褒められるか悩んでるような奴もいるかもしれねーぞ?」

クリスタ「…………」

ユミル「けっ、くだらねぇ。そういう活動はよそでやりなよ」

エレン「とにかく、何か悩んでたりしたら俺に言ってくれ。ウォール教の神々が救ってくださるからな。じゃあな」スタスタ

ユミル「おうおう、じゃあな。まったく、アホくせぇ話を聞かされたもんだ。なぁ、クリスタ?」

クリスタ「……そうかな」

クリスタ(ウォール教かぁ……)

~しばらく後~

ミカサ「うぅ、エレンが……エレンが変わってしまった」グスン

アルミン「確かに、あれは異様な光景だね……」チラッ

エレン「神よ、我らを救いたまえ……偉大なる司祭様、この哀れな子羊にどうか力を……!」ジャラッ

サシャ「我らを守りしローゼの神……その慈しみをもって人々の飢えを救いたまえ」ジャラッ

アルミン(二人とも、目をつむり、両手を合わせて何やら唱えている……)

教官「そこの二人、その様子だとこの問題を解くのも余裕に見えるな」

エレン・サシャ「」

アルミン(いや、そりゃあ座学中にそんなことやればね)

~対人格闘訓練~

ミカサ「エレン、一緒にやろう」

エレン「すまん、ミカサ。今日はサシャとやることにする」

ミカサ「ど、どうして?」

エレン「やっぱり同じウォール教を崇める者同士として、ね。親睦を深めたいっつーか、分かるだろ?」

ミカサ「そんな……」

サシャ「エレーン、何してるんですかー? ほら、訓練やりますよー!」

エレン「ああ、今行くぞサシャ!」タタッ

ミカサ「」ブルブルブルブルブル

アルミン「ミ、ミカサ、僕とやろうよ」

ミカサ「」コクリ

アルミン(それにしてもエレンがサシャと急に仲が良くなったな。やっぱり同じ宗教を信じていると親近感を感じるものなんだろうか)

~夕食~

エレン「神に感謝を。いただきます」ジャラッ

サシャ「同じく感謝を。いただきます」ジャラッ

ミカサ「…………」

アルミン(食事も一緒だよ。なんかミカサが凄い形相だよ)

エレン「はは、なんだかお祈りをしてから食う飯って随分美味く感じるな。これも神のご加護に違いない」モグモグ

サシャ「そうですね。欲張ってたくさん食べなくても、少量の食事だけで充分幸福を得られます!」パクパク

ミカサ「あ、あの、エレン……」

エレン「ん、どうしたミカサ?」

ミカサ「わ、私も……私もウォール教に入りたい!」

アルミン「!?」

エレン「おおおお、本当かミカサ!」ジャラジャラ

サシャ「素晴らしい決心です、ミカサ! 神はあなたを歓迎しますよ!!」ジャラジャラジャラ

アルミン「ななな何を言っているんだミカサ!? 血迷ったか!」

ミカサ「このままエレンと心が離れたままでいたくない……それならいっそ、私も同じ宗教に入信しよう」

アルミン「落ち着くんだミカサ! それよりもむしろ、エレンを元に戻すべきだと……」

エレン「おい、なんで邪魔するんだよアルミン! お前、それでも親友かよ!」ジャラジャラジャラジャラ

サシャ「そうですよ! せっかくミカサが私達の同胞になろうとしているのに!」ジャラジャラジャラジャラジャラ

アルミン(ジャラジャラうるせえええええええ!)

エレン「よぉし、じゃあ今度の休日は三人で教会に行こう! そこでニック司祭様から正式に信仰者として認めてもらうんだ!」

サシャ「わぁ、楽しみです、ニック司祭様にお会いできるなんて!」

エレン「もちろん、それまでにミカサに司祭様のお言葉を学ばせ、この首飾りをあげないとな!」

ミカサ「!」コクコク!

アルミン(ああ、三人がなんだか遠くへ行ってしまったような気持ちに……)

~数日後~

エレン「我らが神、我らへの一切れのパン、感謝の限りを」ジャラッ

サシャ「この命、我らに生きる糧を与えてくださる」ジャラッ

ミカサ「偉大なるニック司祭様に多大な感謝を」ジャラッ

アルミン「」

ライナー「なぁ、あの三人……なんか怖くねぇか?」ヒソヒソ

ベルトルト「ご飯に感謝すること自体はいいと思うんだけどね……でもあの三人の雰囲気はなんだか異様だ」ヒソヒソ

ミカサ「ああ、神よ!!」

ライナー「!?」ガタッ

ミカサ「今、見えました! 神の心が……私は、今までなんて未熟だったのだろうか!!」ツーッ

ライナー(なんか涙流してるぞ……)

エレン「いいぞミカサ! お前にも神を感じられるようになってきたんだな!」

サシャ「その調子ですよミカサ! きっと私達、司祭様にも認めてもらえます!」

ミカサ「ありがとう、二人とも。ああ、なんて清らかな気持ちだろう。私はこれまで、実にちっぽけな人生を生きてきたのだと実感した」

サシャ「分かりますよ、その気持ち。私も、この間まで人の食べ物を奪っていた自分がとても浅はかに感じるようになりました!」

エレン「俺もだ。これまでずっと、復讐のために巨人を一匹残らず駆逐してやろう……そう思っていた。でも今は全然そんな気持ちじゃないんだ」

アルミン(……え?)

エレン「決めたぞ。俺は調査兵団なんてもう目指さない……これからは、少しでも司祭様のそばにお近づきできるよう、憲兵団に入るんだ!」

ミカサ「!! エレンが調査兵団を目指すのをやめてくれた! では私もあなたと共に憲兵団を目指そう!」

サシャ「もちろん、私もです! 憲兵団に入って、司祭様にお仕えしたいです!」

アルミン(おいおい、何を言っているんだ!)

ジャン「何を言ってやがる、死に急ぎ野郎!!」ガタッ

エレン「ジャン、何か用か?」

ジャン「用も糞もあるか。お前、あれだけ血眼開いて調査兵団目指すとか言っておきながら、その夢をこんなにあっさり捨てるってのか?」

エレン「別にあっさりじゃねえよ。俺はな、ウォール教の信徒として、今まで見えなかったものが見えるようになったんだ。ちっぽけな復讐心のために壁の外を目指すほうがおかしかったんだ」

ジャン「てめぇ、わけの分かんねぇカルトにハマりやがって……おまけにミカサまで巻き込んで…………だいたいお前、母親の仇はどうしたんだよ、悔しくないのか!?」

エレン「仇? バカバカしい、ウォール教の人間でない限り、どんな死に方をしても地獄行きだ」

エレン「つまり、母さんはたとえ巨人に食われようが寿命を全うしようが、どちらにせよ地獄に落ちる運命だったんだよ!」

ジャン「!? お前、それ本気で言ってんのか!!??」

エレン「ウォールの神を信仰しない者は皆地獄へ落ちる。誰であろうとな」

ジャン「このっ……糞野郎が!!!」

バキィ!

エレン「ぐあっ!」

アルミン(ジャンがエレンを殴った……!)

ミカサ「エレン!」

サシャ「大丈夫ですか、エレン!」

エレン「ぐっ……いってぇ」

ミカサ「」ギロッ!

ジャン「…………」

サシャ「は、早く保健室へ行きましょう!」

エレン「あ、ああ、そうするよ。こんなところでやり返して、憲兵団行きがおじゃんになっても困るしな」

ミカサ「行こう、エレン……やはり、神を信じない異端者は野蛮」

ジャン「…………チッ」

ジャン(これでミカサにも完全に嫌われちまったな……)

ユミル「あーあー見たかよ、ジャンのやつエレンを思いっきり殴っちまったぞ」

クリスタ「……そうだね」

ユミル「喧嘩はいつものことだけどよ、さすがにあの殴り方はやりすぎだったな。エレンのやつ血ぃ出してるじゃねーか」

クリスタ「エレンも珍しく抵抗しなかったね」

ユミル「それはやっぱあれじゃないの? 神の教えとやらだよ。無闇に人を殴っちゃいけません、みたいな」

クリスタ「そっかぁ。偉いねエレン、ちゃんと神様の言いつけ守ってるなんて」

ユミル(偉い……って言うのかねぇ)

~休日~

エレン「じゃあ俺はミカサとサシャと一緒に教会に行ってくる」

アルミン「う、うん、気をつけてね」

エレン「すまんな、またお前を一人で置いてって」

アルミン「大丈夫だよ、僕は平気だから三人とも行ってきなよ」

ミカサ「それにしても、エレンの怪我がすぐに治って良かった。これで安心してニック司祭様にお会いできる」

サシャ「そうですね。あぁ、早くお会いしたいです司祭様に!」

エレン「おう、きっと司祭様もお喜びになるぞ!」

バタン

アルミン「…………」

アルミン(あはは、挨拶もなしに行っちゃったよ)

エレン「それで、この道をまっすぐ進めば……」

クリスタ「あ、あの……」

サシャ「ん? って、クリスタじゃないですか! どうしたんですか?」

クリスタ「えへへ、実はちょっと気になっちゃって」

エレン「気になったって?」

クリスタ「その……ウォール教のこと」

エレン「!! おお、じゃあクリスタももしかして?」

クリスタ「うん、私も……ウォール教に入りたい!」

サシャ「おおおおお!!!」

ミカサ「同胞が増えた!」

エレン「しかし驚いたな。まさか本当にクリスタが入信する気になるなんて」

クリスタ「私もね……やっぱり、救済されたいという気持ちがあるんだ。あはは、我ながら勝手な人間だけど」

サシャ「そんなことありませんよ! 神を信じ、ウォール教の者として司祭様を称えれば、誰もが救済されます! それを求めることは決して悪いことではないのです!」

ミカサ「サシャの言うとおり。だからクリスタも一緒に教会へ行こう」

クリスタ「……うん!」

ベルトルト「おや、どうしたんだいユミル。こんな休日に一人テーブルでうなだれて」

ユミル「ベルトルさんか……実はよ、朝からずっとクリスタが見当たらないんだ」

ベルトルト「確かにいないね。いつもなら君と一緒にいるのに」

ユミル「どこ探しても訓練所の敷地内にはいないみたいなんだよ。だからまさか私を置いて誰かと出かけたんじゃ……」

ベルトルト「そ、そんなことないと思うよ。クリスタが理由もなく君を置いてけぼりにするはずないよ。どこかへ出かけたとしたら何か理由があるんだ」

ユミル「だといいけど……ん、ライナー?」

ライナー「よう。何してるんだこんなところで?」

ユミル「ちょっと天使成分足りなくてうなだれてんだよ。お前、クリスタ見てないか?」

ライナー「クリスタか? それなら今朝、そそくさと街へ行くのを見たが」

ユミル「本当か? まさか一人で行ったのか?」

ライナー「と言うより、エレン達の後をつけてる感じだったな」

ベルトルト「エレンって……確か今日はミカサとサシャを連れて教会に行くとか行ってなかった?」

ライナー「お、そう言えばそうだな。しかしそうなると、クリスタはなぜその三人の後を……!?」

ユミル「…………」

ユミル「まずい……!!」ガタッ

ライナー「どうしたユミル?」

ユミル「あいつ……もしかしたら、エレン達と同じ宗教に!」

クリスタ「あ、ただいまユミルー!」ジャラッ

ユミル「」

ライナー「ク、クリスタ、その首飾りは……」

クリスタ「これ? えへへ、実は私も入っちゃったんだ、ウォール教!!」ジャラッ ジャラッ

ベルトルト「……なんてことだ」

エレン「お、早速見せびらかしてるな、その首飾り」

クリスタ「うん、ユミルには最初に見せてあげたかったの!」

ユミル「…………」

クリスタ「ユミル! 私ね、今まで色んなことに悩んで、実を言うと毎日苦しい気持ちでいっぱいだったんだ。それこそ、いつ死のう、いつ死のうって悩んじゃうぐらい」

クリスタ「でも、今は全然そんなことないの! 司祭様のお言葉を聞いていくうちに、自分の悩みがいかにちっぽけで、そしてそれを救済することが神の前ではいかに容易いかを理解したの!」

クリスタ「私、ウォール教に入って良かったよ!」ニコッ

ユミル「…………そ、そうか」

~お馴染みの夕食~

エレン「神よ」ジャラッ

サシャ「神よ」ジャラッ

ミカサ「神よ」ジャラッ

クリスタ「神よ」ジャラッ

アルミン「」

ユミル「…………」

アニ「なんだい、なんか昨日より増えてない?」

ミーナ「隣でアルミンとユミルが呆然としてるよ……」

ライナー「なぜだ、天使よ……どうして」

ベルトルト「クリスタは幸せそうだよライナー。良いことじゃないか……」

エレン「さて、祈りは終わったし、飯を食うか」

クリスタ「それじゃあエレン、あーん」

エレン「おう、そうだったな。あーん」パクッ

「「「!!??」」」

ユミル「ちょっと待てええええ!!」

アルミン「おかしいおかしいよそれは」

ライナー「なんだ……何が起きたんだ今!?」

エレン「な、なんだよお前ら、突然」モグモグ

ミカサ「ほらエレン、私からもあーん」

エレン「あーん」パクッ

ジャン「うおあああああああああああ!!!」

マルコ「ジャン、落ち着くんだ! ジャン!!」

エレン「なんか急に食堂全体が騒がしくなったな」

サシャ「エレン、私にもあーんしてください!」

エレン「分かった分かった。あーん」

サシャ「あーん!」パクッ!

ユミル「やめろ、それを大勢の目の前でやるな! いったい何のマネだ!?」

エレン「何って、今日司祭様から教わったんだよ。食料とは常に人々の争いの火種となる……だから、これを互いに食べさせ合うことによって心を通わせ、争いをなくすべしと」

クリスタ「そうだよ。だから私達四人はこれからはこうやってご飯を食べさせ合うことにしたの」

ライナー「マジでぇ?」

「おいおい、ウォール教ってそんな教えがあるのか……」
「俺、ちょっとウォール教に興味持ったかも」
「おい何言ってんだ」
「クリスタマジ天使!!」

ライナー「…………エ、エレン」

エレン「ん? どうしたんだライナー?」モグモグ

ライナー「俺も……その、なんだ……ウォール教?ってのにさ……入ってみよーかなー、なんて」

エレン「え、本当か!」

「「「!?」」」

「ライナーの奴、クリスタと食べさせ合いっこしたいがために」
「ライナー……お前、それでも兵士かよ!」
「い、いや、俺も入るぞ、ウォール教!」
「あ、なら俺も!!」
「クリスタマジ天使!!」

アルミン(大変なことになってきた……)

アルミン(これはまずいぞ。男性陣はクリスタに釣られてどんどんウォール教に入信するだろう……そして、一度そういった宗教が蔓延すれば歯止めがかからなくなり、女性陣もそれに巻き込まれ、訓練兵全体がウォール教に侵されることになりかねない……)

アルミン(別に何を信仰するのも個人の自由だ。しかし、これはあまりにも……)

ユミル(わ、私のクリスタが、なんだか遠く……)

ジャン(チッ、どいつもこいつも女に釣られやがって)

アニ(なんだか嫌な流れだね)

ベルトルト(…………)

コニー「お、今日の飯はなんだか美味いな! ん? みんな何を騒いでんだ?」モグモグ

その後、予想通りウォール教は訓練兵全体に広まった。エレンは訓練所ではちょっとした指導者のような立ち位置になり、彼は訓練兵達を一人、また一人とウォール教へ入信させていった。

無論、僕もエレンから勧誘された。しかし僕はそれを断った。エレンは少し悲しそうな顔をしていたが、僕は入信するつもりは全くなかった。周りからどことなく冷たい視線が突き刺さった気がした。

そして気がつけば、僕はエレンと……いや、周りとあまり関わらなくなっていた。一部の人間を除いて。

アルミン「……はぁ」

ジャン「どうしたよ、ため息なんかついて」

アルミン「ジャン……そうか、君はウォール教に入っていなかったね」

ジャン「まあな。ていうか、誰があんな胡散臭い集団に入るかってんだ。俺が入りたいのは憲兵団であって、あんな気持ち悪い連中の一員になりたいわけじゃねーよ」

アルミン「でも、ミカサもいるよ?」

ジャン「…………」

ジャン「そんなこと言ったら、お前こそどうして入信しないんだ。幼馴染が二人とも入ってるってのに」

アルミン「多分、ジャンと同じ理由だよ」

ジャン「……そう言えば、ユミルの奴も最近クリスタとめっきり関わらなくなったな。気持ちは分かるが」

ガヤガヤガヤ

ジャン「お、そろそろ夕食だったな。部屋が騒がしくなってきた」

アルミン「じゃあ僕達は隅っこのテーブルに行かないとね、お祈りの邪魔になるし」

エレン「ええ、それじゃあみんな、恒例の神への祈りを!!」

ミカサ「神は全てを救ってくださる!」

クリスタ「神を信じなさい! さすれば我らはみな救われる!」

ライナー「全てのものに、神からの祝福があらんことを!」

マルコ「うおおおおおおお神よおおおおお!!!!」

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

アニ「毎度毎度、よく飽きないねぇ」

ユミル「…………」

ジャン(マルコが遠い……)

コニー「なぁ、よく分かんねぇけどみんな楽しそうだぞ? なんで入っちゃ駄目なんだ?」

ベルトルト「コニー、君はそのままでいてくれ」

ベルトルト「あれ、そう言えばサシャが見当たらないね」

ジャン「そういえばそうだな。あいつはエレンの次に入信したもんだから、いつも儀式の中心に混ざってたのに」

アルミン「確かにおかしいね。他の信者達は特に気にしていないみたいだ」

ユミル「お前ら今更気づいたのか? そもそもサシャは最近訓練にも出てねーじゃねーか」

アルミン「どういうこと、ユミル?」

ユミル「いや、私だって理由はわからないよ。少なくとも私は最近あいつの顔を見ていない」

ジャン「なんだそりゃ……」

コニー「うぅ、俺ちょっとトイレ行ってくる」スタスタ

~廊下~

コニー「えーと、トイレトイレっと……ん?」

ハァ……ハァ……

コニー(あれ、誰か倒れてるぞ? なんでこんなところで?)

サシャ「はぁ……はぁ……」

コニー「!! サシャ、お前どうしてこんなところで倒れてんだ!?」

サシャ「はぁ……はぁ……ぐぅ……お腹が空いて……もう動けません」

コニー「お、お腹が空いたってお前……どうしたんだよその体!? 骸骨みたいに痩せこけてるじゃねーか!!」

サシャ「はぁ……はぁ……」

コニー「と、とにかく今は夕食の時間だ! ほら、早く食堂へ行くぞ!!」

サシャ「ひっ! だ、駄目です! それだけはいけません!!」

コニー「何言ってやがる! そんな体じゃ、いつ餓死してもおかしくないだろ!」

サシャ「これは天罰なのです。私がこの間、食の誘惑に負けて食料庫へ忍び込んだところを他の信者に見つかってしまったのです。その罰として、一週間断食するようエレンから命じられたのです」

コニー「おい、なんだそりゃ……一週間断食って、死ねって言われてるようなもんじゃねーか!」

サシャ「これは天罰なのです。悪いのは神に背いたこの私……罰を受けるのは当然のこと」

コニー「つまみ食いだけでそんな罰を与える神様なんて糞食らえだね! いいからここで待ってろよ、パンを持ってくる!」

ダダダダダダ

コニー「ほら、持ってきたぞ、早く食え!」

サシャ「だ、駄目です! 私はまだ罰を受けている身なのです!」

コニー「本当にいいのか? パンだぞ、お前が大好きな。前は毎日嬉しそうに食ってたじゃねーか。あの宗教に入ってからは、つまんなそうに食うようになったけど、本当は食べるのが好きで仕方なかったんだよな?」

サシャ「う……うぅ……」ポロポロ

コニー「もう泣くなよ。神様だって、お前のことを許してくれるって。だからほら、食え」

サシャ「は、はいぃぃ……」パクッ

サシャ「!!! お、美味しいです! 凄く美味しいです!」バクバク ポロポロ

コニー「はは、良かった。やっぱり飯食ってる時のお前が一番だ」

サシャ「あ、ありがとうございますコニー……本当にありがとうございます!」ポロポロ

エレン「……ずいぶん幸せそうに食べてるな、サシャ」ジャラッ

今日はここまで
おやすみ

再会する

サシャ「ひっ……エ、エレン!!」

エレン「お前、自分が今何をやっているのか分かっているのか? 神に背いた罰を受けながら、その罰すらも放棄したんだぞ!」

サシャ「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

コニー「おい、いい加減にしろよエレン!」

エレン「は?」

コニー「いくらなんでもやりすぎだ! 食料庫をつまみ食いに行くのは確かに良くねぇ……けどな、それで一週間何も食うなだと? お前、サシャが死んでもいいのかよ!!」

エレン「……神からの罰によって死ぬのなら、それもまた神のご意思なのだろうよ。そもそもお前はウォール教の者ではないはずだ。口出しする権利はない」

コニー「ある! なぜなら俺はサシャの仲間だからだ!」

サシャ「コ、コニー……」ジワァ

エレン「ふーん、異端者の思考回路は分かんねぇな……おいミカサ、いるか!!」

ミカサ「すぐそばに」スチャッ

エレン「今すぐサシャを……この背信者を切り捨てろ」

ミカサ「承った」ブレード

サシャ「ひいっ! お、お許し下さい、お願いします! 命だけは!!」

コニー「な、何考えてやがるお前ら!? ミカサ、お前本気で仲間を殺す気か!?」

ミカサ「神の教えに背いた者を許すわけにはいかない。しかもエレンが殺れと言っている……ためらう理由などない」

コニー「狂ってる……やっぱりお前ら狂ってるよ!!」

ザワザワザワザワ

ジャン「おい、これは何の騒ぎだ?」

アルミン「これはいったい……ミカサ、どうして剣を構えているんだ!?」

ミカサ「サシャは神に背いた。エレンはその背信者を斬れと命じた。だから今からサシャを斬る」

ユミル「ちょっと待ちなよ、人を殺してただで済むと本気で思っているのか?」

エレン「俺は神に代わってこいつに罰を与えているだけだ。これは神のご意思だ」

ユミル「ちっ、やっぱイカれてやがるな。そんな妄想に当てられてないで、いい加減目を覚ましたらどうだ?」

クリスタ「それは聞き捨てならないね、ユミル」スタスタ

ユミル「!? く、クリスタ」

クリスタ「私はね、本当に残念だと思ってるよ……あなたがウォール教に入信してくれなくて。ユミルなら分かってくれると思ってたのに」

ユミル「…………」

アルミン「と、とにかく、サシャを殺させるわけにはいかない。それに、君達は教官の許可無く必要以上の罰を彼女に与えた。このことは報告させてもらうよ」

キース「いったいこれは何の騒ぎだ」スタスタ

アルミン「き、教官、いいところに!」

キース「アッカーマン訓練兵……貴様はなぜ剣を構えている。訓練以外での使用は禁じられているはずだ」

ミカサ「…………」

アルミン「お聞きください、キース教官! 彼らは、ブラウス訓練兵を食料庫に忍び込んだ罪で罰則を与えていたのです、それも教官の許可無く!」

キース「……あぁ、先日の盗みの件か。それなら私にも報告が来ているが……確か罰則についてはイェーガー訓練兵に一任していたな」

アルミン「……え?」

エレン「はい。ですから自分は、ブラウス訓練兵に十日間の断食を命じました」

キース「うむ、そうか。しかし彼女はその罰則すら破った……だからアッカーマン訓練兵が彼女の処分を行うことになった……そういうことかね?」

エレン「ええ、そうです」

キース「ふむ……君に罰則を一任したとはいえ、さすがに訓練兵に手をかけるのは心苦しい。ここはひとつ、三日間の営倉行きで勘弁してやってくれないか?」

エレン「し、しかし……」

アルミン(や、やった。これならサシャも助かるし、その三日の間に自分が入った宗教の本性を見つめなおすことができるはずだ)

キース「ではアッカーマン訓練兵、彼女を営倉へ運びたまえ」

ミカサ「くっ……は、はい」

キース「……それから、ただ営倉の中で三日間正座させるというのも、あまり罰則として意味が無いだろう。というわけで、営倉にいる間はウォール教の祈りを捧げることを命じる!」

アルミン「え……ちょ、ちょっと待ってください。なぜ訓練兵の罰則に祈りが必要なのですか!?」

キース「ただの精神的ケアだ、彼女が心から反省するための。それに利用するのがたまたまウォール教だったというだけだ」

アルミン「お、おかしいですよ! 公共の訓練所が、特定の宗教に関係する罰則を与えるなんて……!」

キース「決定権は私にある。この訓練所は既にウォール教徒が大半なのだ、問題はないだろう」ジャラッ

アルミン(!? その首飾りは……!!)

キース「さあブラウス訓練兵、早く営倉へ行きたまえ!」

サシャ「は……はい…………」

~その後~

アルミン「…………」

ジャン「まさかキース教官まで信者だったとはな」

ユミル「そりゃあ、ウォール教の肩を持つわけだ」

コニー「くそっ……許せねえよ、俺。サシャをあんな目に合わせて」

アルミン「……ねぇ、こうなったら僕達で教会に抗議に行かないかい?」

アニ「抗議って、いったい何ていうつもりなの?」

アルミン「訓練所と縁を切ってもらうよう説得するんだ。もちろん簡単なことじゃないけど……」

ベルトルト「諸悪の根源に直接……ね」

ジャン「なるほど……いいぜ、次の休日に決行だ。ニック司祭様とやらの顔を拝みに行ってやろうじゃねーか!」

~休日~

アルミン「地図によると、この街をまっすぐ進めば教会があるみたいだ」

ジャン「ならもうすぐだな。さっさと行くぞ」

ユミル「はぁ……上手くいけばいいんだけどな」

コニー「うおー! いくぜー!!」

アニ「何もこんなに朝早くから来なくてもいいと思うけどねぇ……」

ベルトルト「ははは……」

アルミン「……ん、あれは…………クリスタ?」

コニー「本当だ、クリスタじゃねーか。なんであいつ、教会のある方向から歩いてきてるんだ?」

ジャン「そりゃあお前、信者なんだから教会へお祈りに行ったんだろう。きっと今から帰るところなんだよ」

ユミル「……いや、おかしいぞ。私達は今日、誰よりも早く街へ出かけたはずだ。にも関わらず、なぜクリスタが私達より先に教会に来て、なおかつ用事を済ませて帰るところなんだ?」

ベルトルト「た、確かにおかしいね」

アニ「まさかだとは思うけど……あいつ、昨日の夜から教会に行ってたんじゃないの?」

ジャン「は、はぁ? なんでだよ」

アルミン「……確かにそう考えると辻褄が合うね。ただ、なんのためにクリスタはそんなことをしたのか……」

ユミル「……直接本人に聞いてみるしかないな」

クリスタ「…………」スタスタ

ユミル「よぉ、クリスタ」ズイッ

クリスタ「ゆ、ユミル……みんなも!?」ビクッ

アルミン「こんな朝早くから教会から帰りなんて、ずいぶん夜遅くから来てたんだろうね」

ジャン「いったい何しに来たんだ? エレンにおつかいでも頼まれたのか?」

クリスタ「…………」

コニー「? どうしたんだよクリスタ、答えてくれよ」

クリスタ「…………」

アニ「ねぇあんた、黙ってちゃ分からないんだけど」

クリスタ「…………」

クリスタ「……全ては、神の思し召しなのです」

ベルトルト「お、思し召し……?」

クリスタ「ええ、そうです。神聖なる神の一族を育むためには、誰かがその苗床になる必要があるとエレンがおっしゃったのです。ですから私は自らこの教会へおもむき、敬愛すべきニック司祭様に……この身を捧げたのです」

ユミル「ちょ、ちょっと待て……この身を捧げたってどういう意味だよクリスタ!?」

クリスタ「…………」

アルミン(クリスタが自分の下腹部を撫で始めた……ま、まさか……まさか!)

クリスタ「そのままの意味ですよ、ユミル。昨夜、私はこの体に、ニック司祭様の子供を授かったのです」

クリスタ「これからは神の一族を育む苗床として、誇りを持って生きていくつもりです……」

ユミル「何を……何を言っているんだよ……おい、苗床ってのはお前のことか!? お前……いったい何を考えてるんだ!?」

クリスタ「安心してください。子供を授かった以上、これ以上母体に負担をかけるわけにはいきません。ですから私はしばらくしたら訓練兵を辞退させていただきます。これからはこの教会でニック司祭様とともに暮らしていくのです……」

コニー「おい……クリスタが何言ってるのか分からないのは、俺が馬鹿だからじゃないよな!?」

ジャン「いや、お前は馬鹿だよコニー……こいつが何を言っているのかは、普通に考えれば分かることだ……普通に考えちまえば……!!」

ユミル「嘘だ……嘘だクリスタ!! お前は、お前は……」ガシッ

クリスタ「!? は、離してくださいユミル! どこへ連れて行く気ですか!?」

ユミル「今すぐ診療所だよ! 早く、そのお腹にいるガキを堕ろすぞ!!」

クリスタ「!!!!!!!!!!!!」

バシン!

ユミル「」

クリスタ「何を言ってるんですか、ユミル……子供を、堕ろす? ははは、冗談ですよね? あなたはそれがどれほど罪深いことなのか理解しているのですか?」

ユミル「……え」

クリスタ「一度この地に授かった命を”堕ろす”など……それは、殺人と何も変わらないではありませんか! よくも……よくもそんな恐ろしいことを平気で言えますね!!」

ユミル「だ、だって……その子供は、好きでもない男との間に作ったんだろ? お前はその司祭様とやらに、欲望の吐け口にされただけなんだ! 堕ろして当然じゃないか!!」

クリスタ「……っ! よくも司祭様にそんな言葉を!! あなたには天罰が下るでしょう、絶対に! だいたい、欲望の吐け口という意味ではむしろあなたのほうじゃありませんか?」

ユミル「はぁ? 何言ってるんだよ」

クリスタ「とぼけないでください! あなたはこれまで、何度となく私を邪な目で見ていたではありませんか! あなたはいわゆるレズビアンです。ウォール教の教えでは、あなたのような同性愛者は実に罪深い存在なんですよ!!」

ユミル「れ、レズビアンだぁ……? 私は別にあんたをそんなつもりで見ていたわけじゃ……」

クリスタ「うるさい、近づくな罪人め!! 二度と私に関わるな!!!」ダッ

ユミル「!! く、クリスタ!!!」

アルミン(クリスタが行ってしまった……)

ユミル「」

ジャン「……おい、しっかりしろよユミル」

アニ「そっとしてやりなよ。大好きだったクリスタにあそこまで言われれば、こうなるさ……」

コニー「……ユミル」

アルミン「悲しいかもしれないけど、ここで立ち止まっているわけにはいかない。ニック司祭に会って、これ以上の被害を食い止めるんだ……クリスタのためにも」

ユミル「…………」

~教会~

アルミン「……着いたね」

ジャン「あぁ。あの野郎、まずは一発顔面にお見舞いしてやらねぇと気がすまねぇ……」

ベルトルト「お、落ち着いて、ジャン。そんなことしても状況を悪化させるだけだよ……」

アルミン「ベルトルトの言うとおりだ。とにかく落ち着いて……そして粘り強く説得するんだ。今回はそれが目的で来たんだ」

コニー「……早く入ろうぜ、みんな」

アニ「……そうだね」

ユミル「…………」

~教会内部・礼拝堂~

ニック「ふむふむ……事情は分かりました。なるほど、あなた達もずいぶん苦労をなさったようだ」

アルミン「……分かっていただきましたか?」

ニック「ええ、とてもよく分かりましたよ……」

ジャン(なんだ、思ったより理解のあるおっさんだな。てっきり門前払いされかねないと思ってたが)

ニック「……あなた達はずいぶん苦労をなさったようだが、同時に我々に対する誤解も生じてしまっているようですね」

アルミン「ご、誤解ですか?」

ニック「ええ、そうです。あなた達はまだお若い……ゆえに我々の理念をそう簡単に理解できないのは仕方のない事です。しかし分かってください、我々はあくまで神に仕え、神のために尽くしているだけなのです」

アルミン「で、ですからその考え方がそもそも間違っているのです! あなた達が決めた教義を、勝手に我々にまで押し付けないでください!」

ニック「我々が決めた教義……? いいえ、これは我々ではなく、神が決めたことなのですよ。あなた達にはその神の存在を感じられないというだけなのです」

アルミン(なんだこいつは……話がまるで通じていないぞ)

ニック「ところで……先ほどから俯いているそこの綺麗な黒髪の方」

ユミル「…………」

ニック「あなた、ずいぶん心が病んでいらっしゃるように見えますね。実に見ていて嘆かわしいです……ああ救ってあげたい!」

アルミン(いったい誰のせいだと思っているんだ……!)

ニック「どうでしょう、あなたもウォール教に入信してみてはいかがですか? あなたのその心の傷、神が癒してくださりますよ?」

ユミル「……え」

ジャン「何言ってんだよおっさん! そもそもあんたのせいでこいつはクリスタと仲違いしたんだ! 誰がお前の口車なんかに乗せられるかよ!!」

ニック「いいえ、仲違いの原因は、彼女とクリスタとの間に価値観の違いがあったからです。つまりです……彼女さえクリスタと同じ価値観、すなわちウォール教の教えを理解さえすれば、すぐにでもクリスタとの友情を取り戻すことができるということなんですよ!」

ジャン(こいつ……本気で言ってやがるのかぁ?)

ユミル「……クリスタとまた、仲良くできるのか?」

コニー「だ、ダメだユミル! このオッサンの言うことなんて無視だ、無視!」

ニック「私を信じてくださいユミルさん! それともあなたは、これからもずっと彼女と仲違いしたままでいいのですか? これからずーっと……」

ユミル「嫌だ……クリスタに嫌われるのは嫌だ……それだけは」

ニック「では決まりですね、あなたもウォール教に入信しましょう! さぁこちらへ!!」

ユミル「う、うぅ…………」

アルミン「ユミル!」

アニ「ちょっと待ちなよ、ユミル。あんたはクリスタを救いたいんじゃなかったのか? それとも、あいつに嫌われるのが怖くて自分もあいつと同じ道に進むっていうの?」

ユミル「だって……だって、もうクリスタは帰ってこない」

アニ「そんなのただの決めつけじゃないか。このままじゃクリスタは訓練兵を辞め、この教会で司祭のおっさんと一生を過ごすことになるんだよ……あんた、本当にそれでいいと思ってるの?」

ユミル「…………」

アニ「私の知ってるユミルは、いつだってクリスタのことを第一に考える……あんたはこんなところで屈したりはしない……そうでしょ?」

ユミル「……そうだ、アニの言うとおりだ。このままじゃクリスタは幸せになれない……だから私が、あいつを救ってやらないと」

コニー「へ……へっ、焦ったじゃねーかブス。安心したぜ」

アルミン「そ、そういうことです司祭様。彼女はウォール教には入信しません」

ニック「…………」

ジャン「悪いが、今日のところは帰らせてもらうぜ。無論、これで諦めるつもりはさらさらないけどな」

ベルトルト「行こう、ユミル」

ユミル「悪いねベルトルさん、あんたにも心配かけちゃって」

その日、僕達は訓練所へと帰還した。はっきり言って収穫はなかった……でも、僕らは諦めない。必ずこの狂った訓練所を元に戻してみせる……!

~翌日~

キース「それでは立体機動訓練を始める! 全員、出動せよ!!」

バシュー

アルミン(例の件も気になるが……僕は劣等生だ、訓練に集中しないと)バシュー

クスクス
ククク

アルミン(……気のせいだろうか、さっきから周りから視線を感じる。いったいなんで……)

ガタタッ!

アルミン(な、なんだ!? 突然、立体機動装置の調子が……!)

キリキリキリ

アルミン(まずい……ワイヤーが故障した! このままじゃ……)

ドサアアアアアッ

キース「何をしているアルレルト訓練兵! 立体機動装置を身につけていながら地上へ落下するなど情けない!!」

アルミン(う……痛い。あんな高さから落ちれば当然だ……くそっ!)

キース「!! あっちではフーバー訓練兵まで落ちているではないか! いや、キルシュタイン訓練兵もか!? いったい何をしているんだお前達!!」

アルミン(え……僕だけじゃなくて、ジャンとベルトルトも? どういうことだ)

ユミル「ぐっ……痛い」

アルミン「ゆ、ユミル……君もなのか?」

ユミル「私だけじゃない……さっきアニとコニーも同じ目にあっていた。いったいなんなんだこりゃ……」

アルミン(ジャン、ベルトルト、ユミル、アニ、コニー……そして、僕)

アルミン(偶然じゃない……こんなの、どう考えたって偶然じゃない!)

「くすくす……なーにあれ?」
「なっさけねーなぁ」
「落ちたのは全員異端者の連中か……おお怖い怖い」

アルミン(やっぱり……!!)

~しばらく後~

キース「貴様ら……なぜ揃いも揃ってあのような事故が起きたのか……理由はわかるかね?」

アルミン「…………」

ジャン「…………」

ベルトルト「…………」

コニー「…………」

アニ「…………」

ユミル「…………」

キース「それは貴様らが……神を信じていないからだ」

アルミン「……………………は?」

キース「貴様らには信仰心が足りない。だからあのような不幸な自己に見舞われたのだ。つまりあれは、神からの天罰だったのだ」

アルミン「ちょっと待って下さいよ……まさかそれは本気で言っているわけではありませんよね?」

キース「他に理由はあるまい。それとも何か、心あたりがあるのか?」

アルミン「今回事故にあったのは、全員ウォール教に入信していない者です。その意味を考えれば何が起きたのかお分かりのはずです」

キース「いや、分からないな。なぜ貴様はその理由を理解できない? 今回事故にあったのは全員ウォール教徒ではなかった……それこそがつまり、貴様らが神の天罰を受けたという証明ではないか!!」

アルミン「そんなの……メチャクチャです! 論理的ではありません!」

キース「論理だと? 神を信じぬ者ほどそういう言葉を口にしたがるものだ愚か者め!」ボコッ!

アルミン「ぐあああッ!!」

ジャン(アルミン!)

キース「ふん、少しは反省することだな。もし神の怒りに触れればこの程度では済まされん。神に代わってこのような優しい罰で済ませた私に感謝することだ」スタスタ

アルミン「…………っ」

コニー「おい、大丈夫かアルミン!」

ジャン「あの野郎……わけの分からない理由で殴りやがって」

ユミル「あの教官も狂っちまったんだよ……もう……」

アニ「…………」

ベルトルト「…………」

~その後~

ジャン「湿布を貼ったとは言え、あまり無理するなよアルミン……」

アルミン「大丈夫だよ……これぐらい」

エレン「よぉ、アルミン。その頬、どうしたんだ?」

アルミン「!? エレン……それに、ミカサも」

ミカサ「…………」

エレン「可哀想に。聞いたぞ、さっきの訓練で不幸にも立体機動装置が故障したらしいな。本当に災難だ……」

アルミン「…………」

エレン「俺はお前の親友として、心配で仕方がないんだアルミン……お前もウォール教に入信すれば、きっとあんな不幸にも見舞われなくてすむ」

ジャン「おいエレン、てめぇもアルミンみたくぶん殴られてみるか?」

ミカサ「…………」ガタッ

ジャン「…………ちっ」

エレン「ったく、本当に異端者ってのは野蛮な発想しかできないんだな……いや、アルミンは違うぞ、お前も俺達と同じになるんだもんな!」

アルミン「……エレン」

ジャン「アルミン、さっさと行こうぜ。こんな奴の相手をしてもなんにもならねぇ」

アルミン「あ、あぁ……そうだね。そろそろ夕食の時間だし」

エレン「…………」

ミカサ「…………」

~夕食~

エレン「それでは今日も神に感謝し、互いの杯を交わしあおう!」

オオオオオオオオ!

ユミル「毎日毎日飽きないねぇ」

ベルトルト「ははは……いつも僕らは隅っこのテーブルで食べなきゃいけないから肩身が狭いね……」

アニ「別に飯の味までは変わらないよ」

ジャン「さて、俺らもさっさと飯食うか。コニー、お前もさっさと自分の分の配膳持ってこいよ」

コニー「おう、行ってくるぜ」スタッ

コニー(えっと配膳は……あった。よし、これを持ってテーブルに戻るか)

サシャ「…………」スタスタ

コニー(ん? あれは……サシャじゃねーか! やっと営倉から解放されたのか……良かった!)

サシャ「…………」スタスタ

コニー(あ、こっちに向かってくるぞ。何か俺に話でもあるのかな……)

ドカッ!

コニー(えっ……?)

ガシャーン!

コニー(…………あれ……いきなりサシャにぶつかられたせいで、配膳落としちまった)

コニー(え……なんで? なんでだ……?)

サシャ「あっちゃー、すみませんねコニー。あなたがあんまり背が小さいので、見えませんでしたよぉ」

コニー「え……え……?」

サシャ「困りましたねぇ、これじゃああなたの夕食無くなってしまいましたね。でもまぁ、仕方ないですよね! あなたがもう少し周りを見ていればこんなことにはなりませんでしたからね!」

コニー「ちょ、ちょっと待てよ。これはいったいどういう……」

サシャ「あ、それとこの落とした食事、全部コニーが自分で掃除してくださいね! 私は知りませんから!」

コニー「お、おい……!」

ジャン「おいてめぇ! どういうつもりだサシャ!!」ガタッ

サシャ「……は?」

ジャン「お前、この間の件でコニーに助けられたばっかじゃねーかよ。あの時コニーがパンを持ってきてくれなかったらお前は死んでたんだぞ?」

ジャン「それなのによぉ……こいつはいったいどういう仕打ちだ、サシャ?」

コニー「じゃ、ジャン……」

サシャ「……何偉そうな口聞いてるんですか、異端者の分際で」

ジャン「あ?」

サシャ「コニーが私を助けた? あはははは、それは逆ですよジャン。そもそもコニーがあそこで私を誘惑してパンを与えていなければ、私は罰則を全うできていました」

サシャ「なのに……こいつのせいで、私は神からの罰すら満足に受けられず、営倉行きになったんですよ……!」

ジャン「何言ってんだよてめぇは。お前はあの時、コニーに命を救われたんだぞ……?」

サシャ「うるさい!! 口を聞くな馬面が!!! お前達の言葉にはもう、惑わされない!!!」ダッ

ジャン「ちっ、言うだけ言って逃げやがったぞ……」

コニー「…………」

ジャン「……そんな悲しい顔するな、コニー。俺も掃除手伝うからよ」

アルミン「ぼ、僕も手伝うよ。それに、夕食は僕のぶんも分けてあげるから……」

ユミル「しょうがないな。ここはひとまず皆でコニーに分けてやるか」

コニー「ありがとうな、みんな……」

コニー「俺が……サシャをあの時助けなければ、こうはならなかったのかな……」

ベルトルト「そんなこと言っちゃ駄目だよ。君は何も悪く無い」

アニ「あんたは確かに馬鹿だけど、別に悪いやつではないよ」

コニー「……ありがとう」

アルミン(サシャはまるで何事もなかったようにエレン達のテーブルに座り、食事をとっている)

アルミン(もしかすると、さっきの行動をエレン達に見せつけることで、自分がウォール教側であることを示したのかもしれない……)

アルミン(どちらにせよ、とても褒められることじゃない。あろうことか命の恩人であるコニーにあんなことをするなんて……!)

アニ『……ねぇ、ベルトルト』ヒソヒソ

ベルトルト『なんだいアニ、小声で』ヒソヒソ

アニ『今のライナー……自分が戦士であることを覚えていると思う?』

ベルトルト『……正直なところ、今は完全に兵士のライナーだと思う。……いや、兵士ですらないかもしれない、あれはもう……」

アニ『…………そう。でも、一応本人には問い詰めてみないとね。まさかだとは思うけど、自分の使命まで忘れていたのなら困るし』

ベルトルト『……そうだね。夕食が終わったら、タイミングを見てライナーを問い詰めよう』

~しばらく後~

ライナー「それで、話ってなんだよ二人とも」

ベルトルト「ライナー、君は最近ウォール教とやらに入ってしまったみたいだけど……一つ確認したいことがあるんだ。君は、自分の使命を忘れてはいないよね?」

ライナー「使命……?」

アニ「ああ、そうだよ。まさか私らがなんのためにこの壁の中に入ってきたのか、その理由を忘れたわけじゃないでしょ?」

ライナー「…………」

ベルトルト「ライナー、辛いのは分かる……でも僕らは人類の敵だ。僕らは巨人に変身して、またあの壁を壊さなければならない」

アニ「それなのに、あんな胡散臭い宗教にうつつを抜かして、ほんとうに大丈夫なの、ライナー」

ライナー「…………」

アニ「ねぇ、答えてよ。なんで黙って――」

ライナー「うあああああああああああ!!!!!」

ベルトルト・アニ「!?」

ライナー「何言ってんだ、何言ってんだよお前ら……頭でもおかしくなっちまったのか!?」

ベルトルト「そ、それはこっちのセリフだよ。いったいどうしたんだ突然!」

ライナー「巨人に変身するだと? そんなこと、不可能に決まってるじゃねーか! 俺達は”人間”だろ? 巨人じゃない!!」

アニ「あんた、本格的におかしくなったみたいだね……!」

ライナー「お前ら、人類の敵だとか言ってたな……それは本気で言ってるのか!? いったい何を企んでやがる……!!!」

ベルトルト「ライナー、落ち着くんだ! 君は僕らと同じ戦士――」

ライナー「俺は兵士だ! 壁を守り、人類を守る兵士なんだ!! お前らが何を企んでいるのかは知らんが……好き勝手にはさせないからな!」

アニ「ライナー……!!」

ライナー「もうお前達とは縁を切らせてもらう。お前達は人類への反逆者だ。到底許されるものじゃない」スタスタ

ベルトルト(行ってしまった……)

~男子寮~

アルミン「はぁ……今日はもう疲れたよ。寝よう……」

ジャン「それがいい。なにせあんな”事故”にあったんだもんな。早く寝て体力を回復させたほうがいい」

コニー「そうだな、ベルトルトはまだ戻ってきてないみたいだけど寝るか」

アルミン「うん。それに、エレン達がこの部屋に来たら寝づらいからね。僕らは先に寝たほうがいいよ……」

ジャン「ああ、おやすみ」

コニー「おやすみー」

アルミン「……おやすみ」

~翌朝~

アルミン「ふあぁ……よく寝た」

コニー「おはよう……今日も訓練かぁ、疲れるな」

ジャン「あぁ………ん? なんだか俺ら三人以外誰も部屋にいないぞ?」

アルミン「あれ、本当だ。みんな先に起きて出ていったのかな?」

コニー「ベルトルトもいないぞ。なんでだ?」

アルミン「……なんだかおかしいぞ。僕ら以外のベッドがどれも昨夜の綺麗なままだ。本当にみんなここで寝たのか?」

ジャン「……なぁ、なんだかさっきから外が騒がしくないか?」

ザワザワザワザワ

アルミン「本当だ。僕ら以外全員外に出ているみたいだ」

ジャン「……嫌な予感がする。お前ら早く行くぞ!」

~外~

アルミン「はぁ……はぁ……」

コニー「あそこか」

ジャン「……おい、なんだよありゃあ」

外へ出ると、目を疑うような光景が待っていた。

大勢の訓練兵達が何かを囲んでいるのが見えたからだ。

それは……磔にされ、猿ぐつわを噛まされたベルトルトとアニだった。

アルミン「なんだ……いったいどういう状況なんだ!」

エレン「おや、アルミンじゃないか。おはよう」

アルミン「エレン! これは、君の仕業なのか!?」

エレン「あぁ、昨日の夜、ライナーが知らせてくれてな。この二人は、人類への反逆を目論んでいたんだ」

ジャン「人類への反逆だと……?」

エレン「そうだ。だからこれから、二人を斬首刑に処すところなんだよ」

コニー「斬首刑!?」

アルミン「何を考えてるんだエレン! そんなこと、許されるはずがない!!」

エレン「それが許されるんだよ、アルミン。教官からの許可も下りた。いくら訓練兵とはいえ、人類への反逆を企む者を生かすわけにはいかない」

エレン「そう……ウォール教の教えにおいても、人類へ歯向かう者は巨人同様絶対に許してはならない存在だ! だから処刑するんだ!」

アルミン「おかしいよこんなの……間違ってるよ!」

エレン「まったく、まさか二人を捕まえるのに夜明けまでかかるとは思ってなかったよ。腐っても訓練兵上位なだけはあるな。まぁさすがにあれだけ大勢の訓練兵に追われれば時間の問題だったが」

ベルトルト「んー!!」

アニ「んー! んー!!」

エレン「ははっ、猿ぐつわのせいで舌を噛むことすらできなさそうだな。まぁ何はともあれ時間だ……ミカサ、こいつらの首を切り落とせ!」

ミカサ「御意」ブレード

アルミン「やめるんだ、ミカサ! 仲間を……ベルトルトとアニを殺すな!!」

ミカサ「言ったでしょう、アルミン……」

ベルトルト「んんんんんんんんんん!!!!」ポロポロ

アニ「んんん………んんんん!!」ポロポロ

ミカサ「神の教えに背いた者を許すわけにはいかない。しかもエレンが殺れと言っている……ためらう理由など……ない!」

ザクッ

それは悪夢だった。ミカサが鮮やかに剣を振ると、ベルトルトとアニの頭部は宙を舞った。

赤い鮮血が雨のように訓練兵達にかかると、しばらくの沈黙がその場を支配し……そして次の瞬間、一斉に歓声があがった。

ウオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

サシャ「裏切り者が死にました!」

クリスタ「良かったー、これでもう安心だね」

ライナー「神の天罰が下ったんだ! ウォール教万歳!!」

マルコ「……ちょっと待って。この血……蒸発していないか?」

「うわ、本当だ」
「二人の血があっという間に消えちゃったぞ!」
「おいおい、これってまさか……」

ミカサ「血だけじゃない……ベルトルトとアニの死体も、蒸発し始めている」

エレン「おいおいマジかよ、それじゃあまさかこいつらは……巨人だったっていうのか?」

アルミン(どういうことだ……二人が、巨人だって?)

ライナー「そうか……あいつらが昨日言ってたのはそういうことだったのか! あの二人は人間に化けて、俺達人類に攻撃するつもりだったんだ!」

クリスタ「まさに今回の処刑は神の天罰だったんだね。ライナー、二人を告発したあなたには感謝しないと」

ライナー「へへ、ウォール教の信仰者として当然の事をしたまでだ」

ジャン「…………」ジャキッ

コニー「!! おい、ジャン……なんで剣を抜いているんだよ!」

ジャン「あの二人の素性は知らねぇ……だが、こいつらは仲間だった二人をためらいもなく殺しやがったんだ……!」

ジャン「これ以上好き勝手にはさせねぇ……だから、ここで指導者であるエレンを……殺さねぇと!!」

アルミン「やめるんだ、ジャン!!」

ジャン「これで全て終わりだ……エレエエエエエエエエン!!!」ダッ

エレン「!?」

ザクッ

ジャンは走りだし、剣をエレンに振った。
そしてエレンの首筋を刃で斬りかかった……と思った次の瞬間

ザシュッ

ジャンの首がとんだ。

ミカサ「……………………」ジャキッ

コニー「ああ、ジャンが……ジャンがミカサに殺されちまった……」

アルミン「ああ………ああああ……」

エレン「ぐっ、くそ……いってぇ。た、助かったぜミカサ」

ミカサ「大丈夫、エレン!?」

サシャ「し、しっかりしてください!」

エレン「だ、大丈夫だよ。さっきから段々、痛みがひいてきて――」

ミカサ「…………………………………ねぇ、エレン」

ミカサ「どうしてあなたの傷が回復しているの……?」

エレン「え……なんだこれ、なんだか傷口から蒸気が……今までこんなこと起きなかったのに」

クリスタ「ちょ、ちょっと待って。これってさ……まさか、あれじゃないよね……?」

エレン「あ、あれって……あれってなんだよ!?」




ミカサ「エレン………あなた……………………巨人なの?」

エレン「!?」

エレン「はは、冗談キツイぞミカサ……俺は、巨人共を誰よりも憎んでいるんだぞ?」

ミカサ「でも、その傷の回復は明らかに巨人の性質と同じ。人類には不可能」

エレン「いや……違う! これは何かの間違いだ!! 俺は巨人じゃない、お前達と同じ人間なんだ!!」

ライナー「…………エレン、いくらなんでもこいつは言い訳ができないぞ」

エレン「待てよ……待ってくれよ!! おい、ミカサ……お前、なんで剣を構えてるんだ? まさかだとは思うけど、この俺を殺すつもりとか言うんじゃないだろうな!?」

ミカサ「……エレン、私はとても残念だ。あなたは私の命の恩人、そして大切な家族……それなのに、こんなことになってしまうなんて……」

エレン「そうだよ、家族だよ……そして俺は以前、お前の命を救った……だから…………!!!」

ミカサ「エレン……」




ミカサ「巨人を許してはならない……ウォール教の教えは絶対」

ザクッ

アルミン「……………………」

コニー「嘘だろ……」

ザワザワザワザワザワザワザワザワ

アルミン(エレンが、ミカサに殺された……? しかも、その死体が蒸発し始めている)

アルミン(エレンも巨人だったっていうのか……?)

アルミン(そんな……どうして、どうしてミカサはあんなに簡単にエレンを殺してしまったんだ!!)

コニー「なぁ、エレンが死んじまったってことは……もうこの訓練所でウォール教の指導者はいなくなったってことだよな……?」

アルミン「あぁ……そうだね」

コニー「じゃあ……この悪夢も、もう終わるのか……やっと――」

ミカサ「聞け、神に救いを求める子羊たちよ!」

アルミン「!?」

ミカサ「今、人間に化けていた神の敵が地獄へ落ちた! 恐ろしいことに、敵は我々の指導者として君臨し、神を欺くつもりだったのだ……!」

ミカサ「しかし、我々はこの程度のことでは屈しない! 我々はどこまでも司祭様についていく!」

ミカサ「……ので、私が新たな指導者として、みんなを導いていく!」

「ミカサが……新たな指導者だって?」
「なるほど、確かに訓練兵の首席なら、ふさわしいかもしれない!」
「そうだ、エレンなんていなくても、俺達は司祭様についていく!」
「うおおおおおお! ミカサああああああああ!!!」

アルミン(ああ、なんてことだ……)

~朝食~

ミカサ「それでは、食事をとるとしよう。神に感謝を!」

クリスタ「神に感謝を!」

サシャ「ウォール教の民にお導きを!!」

ライナー「ウォール教万歳!!!」

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

アルミン「…………」

コニー「泣くなよ、アルミン。悲しいのは俺も一緒だ……」

アルミン「ベルトルトも、アニも、ジャンも……そして、エレンも…………みんなみんな死んじゃったんだ」

コニー「……あぁ」

アルミン「それなのに、どうして彼らはあんなに楽しそうにしていられるんだ……!」

コニー「…………」

ミカサ「それから、食事の前に……アルミンとコニーに言いたいことがある」

アルミン・コニー「!?」

ミカサ「あなた達はこの訓練所で唯一の異端者……あなた達の存在は神に背き、我々を脅かす」

ミカサ「しかし、だからといってあなた達に理由もなく危害を加えるつもりはない……ので、安心して欲しい」

ミカサ「……でも、もし何かあれば、私は容赦するつもりはない。アルミン、コニー……私はあなた達を傷つけたくはない」

ミカサ「だから……もしもウォール教に入信したくなったら、いつでも言って欲しい。私はあなた達を歓迎する」ニッコリ

アルミン(!! ミカサが……笑っている……)ゾクッ

コニー(なんだこれ……笑ってるのに、すげぇ怖ぇ……)ゾクッ

ミカサ「それでは皆の者、お待たせした。食事を始めよう」

バタン!

ミーナ「た、大変だよミカサ!!」

クリスタ「騒々しいなぁ、ミーナ。神聖なる食事を始めるときに……」

ミカサ「構わない……いったい何があったの?」

ミーナ「それが…それが……ああ、なんと恐ろしいこと!!」

ライナー「な、なんだよ……早く言ってくれ。飯は冷めちまう」

ミーナ「うぅ……でも、こんなことお伝えしてもいいのか……うああああ!!!」

サシャ「早く言ってください! ご飯に手がつかないじゃないですか!」

ミカサ「ミーナ、落ち着いて……伝えることをゆっくりと伝えて」

ミーナ「う……うん…………実は……」




ミーナ「ニック司祭様が……何者かに殺されたの!!」

ミカサ「」

サシャ「司祭様が……殺された?」

クリスタ「はは、嘘だよ……そんなの」

ライナー「ちょっと待てよ……司祭様がいなくなったら……俺たち、どうすればいいんだ?」

ザワザワザワザワザワザワザワザワ

コニー「マジかよ……それじゃあもしかして、もうウォール教はお終いってことか!」

アルミン「……かもね。エレンと違って、ニック司祭はまさにウォール教の柱だから、失えばそう簡単に替えがきくものじゃない……それに、信者達はみんな心の底から司祭を敬愛していたからね」

「嘘だ……嘘だろ……どうすれば」
「ニック司祭様が死んじゃった……ニック司祭様が死んじゃった……!!」
「もう、お終いだ……なにもかも」

アルミン(これで全て終わったんだ……しばらくは憔悴するだろうが、訓練兵達もいずれ目を覚まし、元に戻るはず……)

ミカサ「静まれええええええええ!!!」

ミカサ「全員、静かに。慌てる場合じゃない」

クリスタ「でも、司祭様が死んじゃったんだよ!」

サシャ「もう、私達を導いてくださる偉大なる司祭様はいないんです……!!」

ミカサ「そんなことはない。司祭様ならいらっしゃる」

アルミン(……え?)

ライナー「な、何を言ってるんだミカサ……司祭様はもういないんだぞ!」

ミカサ「いや、いる。確かにいる」

マルコ「いったい、どこにいるって言うんだよ……」




ミカサ「そんなの、決まっている……神のもとにだ」

~夜の街~

ユミル(はぁ……はぁ……なんとか逃げおおせた。くそっ、まさかあそこまでしつこく追いかけられるとは思わなかった。立体機動装置を持って来るべきだったな……)

ユミル(でも、これでウォール教もお終いだ。あの司祭は死んだ……フードのおかげで顔も見られずにすんだ。これで……全て終わったんだ)

ユミル(司祭の死はとっくに訓練所にも伝わっているだろう。最初はショックだろうが、そのうちみんな目を覚ます。クリスタも……)

ユミル(そしたら子供も堕ろしてくれるかもしれない。いや、この際堕ろさなくてもいい……あいつが訓練兵なんてやめて、開拓地でゆっくり生きる道を選べば……そのほうが幸せかもしれない)

ユミル(とにかく訓練所に戻ろう。私がいなくて怪しんでるかもしれないが、やむを得ない。適当な言い訳を言ってごかまそう)

~訓練所~

ユミル(……やっと着いた。今は確か夕食の時間だったか……それにしてはやけに静かだな)

ユミル(まぁ、敬愛なる司祭様とやらが死んだんだ……楽しく食事とはいかないだろうな)

ユミル(……さて、入るか)

ギィ……

ユミル「よ、よぉ……元気かお前ら」

ユミル(なんだ……食堂の中まで静かじゃないか……いったい何が……ん?)

ユミル(……なんだこれ)

ユミル(なんだよこれは……)




ユミル(なんでこいつら……全員血まみれで倒れてるんだよ!)

食堂はまさに血の海だった。あちこちに剣が落ちているのを見るに、集団で殺しあった……いや、これは自殺か……?

ミカサ「」

サシャ「」

ライナー「」

マルコ「」

ミーナ「」

アルミン「」

コニー「」

ユミル「おい……どうしてお前らまで死んでるんだよ、アルミン、コニー」

ユミル「ベルトルトは……アニは……ジャンは……エレンまでいないじゃねーか」

ユミル「それに……クリスタは……?」

クリスタ「」

ユミル「クリスタ……?」

ユミル「嘘だよな、クリスタ……お前、なんで死んでるんだよ? あの雪山での約束……忘れちまったのか?」

クリスタ「」

ユミル「なぁ……返事してくれよ、クリスタ……クリスタあああ!!」ポロポロ

クリスタ「うぅ……」

ユミル「!!! く、クリスタ!? 生きてるのか!!」

クリスタ「ユミル……?」

ユミル「そうだよ、私だよ! しっかりしてくれよぉ!!」

クリスタ「……ないで」

ユミル「…………え?」

クリスタ「触らないで、罪人め……」

ユミル「え……え…………」

クリスタ「みんな、先に行っちゃったんだね。アルミンとコニーは泣きながら抵抗してたけど、彼らもきっとあの世でウォール教に入信してくれるよね……」

クリスタ「あぁ……でも、こんなに中途半端じゃ、私もみんなのところへ行けないなぁ……」

ユミル「な、なんだよクリスタ……刃物なんて持って…………」

クリスタ「ニック司祭様……そしてみんな…………私も、このお腹の子供と一緒に、今からそちらへ参ります」

グサッ

クリスタ「」バタッ




ユミル「…………」

ユミル「ひっ…………」

ユミル「嘘だ……こんなの嘘だ……嘘に決まってる…………!!!」

ユミル「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

私はみんなのために司祭様を殺しました。それで全てが終わると信じていました。

確かに全てが終わりました。ウォール教はもちろん……それを信じていた彼ら全員の命も。

とても、とても悲しかったです。わたしはこんなにがんばったのにだれもたすけられなかったです

もうつかれました かみさまはこんなわたしをゆるしてくれるでしょうか
わたしがしんだらじごくへおちてしまうのでしょうか……?

終わり

くぅ疲
これでやっと4作目
エレン達がウォール教にハマったらどうなるんだろと思って書いた

ちなみに自分はカトリックですが、残念ながら微塵も信仰心はありません



過去作は何書いてるんだ?

>>216
一作目
サシャ「」ムシャムシャムシャムシャ エレン「…………」
二作目
エレン「巨人どもの小人化に成功しただって?」
三作目
クリスタ「朝、目を覚ますと巨大な虫に変身していた」

こんなところです
読んでもらえたら嬉しいです

やっぱアレの作者か。2作目と3作目は正直苦手だったけどこれは好きだ
何か毎回クリスタが酷い目に合ってるな

ライナーとエレンは自分が巨人だと分からないから絶望しそうだw
この時期のエレンは傷がついてもすぐ治らなかったはずだし
ベルアニの体も人間体なら蒸発しないだろうけどSSだしな

なんか意外に反応あって嬉しい

>>229
クリスタが毎回ひどい目にあってるけど、決してヘイトではないのでご安心を。むしろ好きなキャラです
ただ、可愛い女の子が黒化したり悲惨な目にあったりするのが個人的に好きなだけです
原作でクリスタが自分の都合のためにダズを利用しようとしたと知ったときは正直ニヤニヤした

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