穂乃果「超特急ベガ?」にこ「ヴェガよ、超特急ヴェガ!」 (730)


カラン カラ~ン♪ カランカラ~ン♪ 


「大当たり~!」


梅雨が明け、夏の模様を映し始めた商店街

その福引場で店員の声と鐘の音が鳴り響く


「う、嘘……」


長い頭髪を両端で結んだ少女。
その幼い顔に暗い影が落ちた。


店員「おめでとうお嬢ちゃん! 特賞の超特急ヴェガの乗車券だぁ~!」

「こ、これは夢よ……絶対に夢なのよ」

店員「ところがところが、現実!」

「……」

店員「……どうしました?」

「現実なら、三等の『人生踏んだり蹴ったりゲーム』が当たるはず。私のクジ運なんてそんなものなんだから」

店員「いや、いやいやいや、いいですかお嬢ちゃん?」

「私はもう高校三年生よ……中学生じゃないの」

店員「失礼しました。……今や話題沸騰中のこの乗車券。
   稚内から鹿児島の最終駅まで日本を縦断する、夢のような列車の乗車券なんですよ? 喜ぶところなんですよ?」

「そんな、私困る……」

店員「そうだな、困るよなぁ。一枚しか渡せないから、一人旅になる。お嬢さん一人じゃ寂しいよなぁ」

「……学園祭で使用したい講堂のクジは外して……こんなところで運をっ……あぁ…! みんなに怒られる!」

店員「大事なこと先に言っておくけど、申し込み期限が明後日までだから注意するようにしてね」

「どうしよう、どうしよう……」

店員「話聞いてる……? ……とりあえず、恒例の説明といこうかな。気持ちも変わるだろうし」

「おじさんっ、これ要らないから三等に替えて!!」

店員「えぇー!?」

「これは私が持ってていい代物じゃないの!」

店員「お嬢さん!? この乗車券、プレミア付いてて滅多に手に入らないんだよ!?」

「いらない! 三等、三等でいいからぁ!」

店員「クジ引き店員として特賞を拒否されるのは納得できないな。それじゃ、こうしよう!」

「え?」

店員「今まで出ることのなかった特賞の券、全てお嬢さんにあげようじゃないか」

「9枚あるのよね?」

店員「そんなにはないなぁ」

「じゃあ要らないから! お願いっ」

店員「もう無理やり渡しちゃえ。はい、どうぞ」

「だから、要らないって言ってるのにっ」

店員「いい旅を!」


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――… 翌日


「おっはよー! にこちゃん!」

にこ「穂乃果……おはよう」

穂乃果「週の初めの月曜日! 頑張って張り切っていこー!」

にこ「……そうね」

穂乃果「あれ、どうしたの? 元気ないような……?」

にこ「そ、そんなことないわよー」

穂乃果「顔、笑ってないよー? なにか悩み事?」

にこ「……」

穂乃果「にこちゃん……そんなに深刻なことなら相談に乗るから」

にこ「別に……いい」

穂乃果「……にこちゃん」

にこ「いいって言ってるでしょ! 私のことなんて放っておいてっ!」

タッタッタ


穂乃果「にこちゃん!」


穂乃果「……」

「おはよう、穂乃果」

穂乃果「絵里ちゃん……おはよう」

絵里「……後ろから見ていたけど、なにがあったの?」

穂乃果「わからない……。どうしたんだろう、にこちゃん」

「様子が変だった……心配だよ……」

「そうですか? 三文芝居のようでもありましたが」

絵里「おはよう、ことり、海未」

ことり「おはよう~」

海未「おはようございます」

穂乃果「……きっとそうだ」

海未「どうしたのです、穂乃果?」

穂乃果「きっと、にこちゃんはアレが原因で悩んでるんだよ」

ことり絵里「「 アレ? 」」

穂乃果「恋だよ、恋! ラブ!」

海未「早く行かないとホームルームに遅れてしまいますよ」

スタスタ


ことり「えっと」

絵里「話の続きは放課後、とりあえず遅刻は厳禁よ」

ことり「う、うん……」

穂乃果「全面的に協力してあげなくっちゃ!」


――… 放課後


穂乃果「にこちゃん!」


バンッ


「うわぁ!?」

「にゃっ!?」


海未「穂乃果、ドアを乱暴に開けては駄目です」

ことり「二人がびっくりしてるよ」

穂乃果「あはは、ごめんごめん……って、にこちゃんがいないね」

「に、にこちゃん?」

穂乃果「探しているんだけど……花陽ちゃん、今日はまだ部室に来てない?」

花陽「わ、私もさっき来たばかりだけど……まだ見てない……」

「なにがあったのにゃ!? 事件の匂いがするにゃ!」

海未「事件……そうですね。朝のあの態度はやはり、事件なのかもしれません」

穂乃果「事件じゃなくて恋だよ!」

海未「まだ言っているのですか……それはあり得ません」

「張本人を探して来るにゃー!」

タッタッタ

花陽「ま、待って凛ちゃん!」

タッタッタ


ことり「行っちゃった……」

穂乃果「あり得ないってどういうこと、うみちゃん!」

海未「どうして穂乃果が怒るのですか」

穂乃果「だって、素敵なことじゃない!」

海未「思い出してみてください、穂乃果。一昨日の土曜日、にこの様子はどうでした?」

穂乃果「……いつもと変わらず……学園祭に向けて……」

海未「そうです。いつもと変わらず、私たちとダンスや歌の練習、体力トレーニングに励んでいましたね」

穂乃果「そうだけど……」

ことり「それが……どうしたの?」

海未「それはいつも通りということ……、その時には変化が見られませんでした」

穂乃果「……うん」

海未「穂乃果の言う恋だとしたら、土曜日の時点で変化は見られていたはずです」

穂乃果「ちっちっち、甘いようみちゃん」


海未「……」

穂乃果「きっと、昨日の内に見知らぬ誰かさんに一目ぼれをしたんだよ、きっと」

海未「そうかもしれませんね。……ですが、朝の態度、あれはどう説明するのです?
   それと、きっとを二回も使う必要はありません」

穂乃果「……うーん…………」

海未「人が誰かを好きになって、誰かのことを考えているとき、
   あのように人を突き放すような言動には至らないと思いますよ」

穂乃果「そうだね……うん。そうだね」

「なんて言ってたの?」

ことり「『私のことなんて放っておいてっ!』」

 
         『『 ――放っておいてっ! 』』

  
        『『『 ――――放っておいてっ! 』』』


「……ふ、ふぅん」

海未「……ことり、それは大げさです」

ことり「感情を込めてみたんだけど……」

穂乃果「なんか、エコーが聞こえた……」

「それで、どうして今日は集まりが悪いのよ」

穂乃果「花陽ちゃんと凛ちゃんはにこちゃんを探しに」

海未「絵里と希は生徒会で少し遅れると聞いています」

「……そう」

ことり「みんなが集まるまで、どうしよう」

「ほら、新曲できたから」

穂乃果「凄いよ真姫ちゃん! もうできたんだね!」

海未「さすがですね」

真姫「こ、これくらどうってことないわ」

ことり「それじゃ……プレーヤーにセットして……」

穂乃果「μ's、ミュージックスタート♪」


―― 屋上


凛「にこちゃん!!」

花陽「早まらないで!」

にこ「……いいのよ、私なんて……私なんてっ」

凛花陽「「 だめーッ! 」」

にこ「こんな私なんてー!」


にこ「がつがつ、もぐもぐ」

凛「あぁ……、カロリー高い焼きそばパン……」

花陽「た、食べちゃった……」

にこ「このふぁとのふぉと考えると億劫になるのよね……おいひぃわ」

凛「いったい、何があったのにゃ?」

にこ「もぐもぐ」

花陽「一心不乱に食べてる……どこで買ってきたんだろう……」

「なにしとるん?」

にこ「うぐっ」

「体系管理のため、みんなで食事制限しとるはずや」

にこ「ぐふっ、ごほっ」

「これは、罰としてワシワシの刑やなぁ」

にこ「な、ななな……」

「そっちの二人もやね」キラン

凛花陽「「 えぇ、どうして!? 」」

「自暴自棄の部長を止めなあかんやん」ワキワキ

凛「ひぃっ」

花陽「よ、用事を思い出したので帰りますっ」

にこ「ぶ、部長命令よ、止めなさい希!」

希「聞こえへんなぁ」ウヒヒ

にこ「部長の権限は無いのー!?」


―― アイドル研究部


絵里「話?」

にこ「……そうよ。話しておかなくちゃいけないことがあるの」

真姫「そんなに大事な話?」

にこ「……まぁ、そういうことよ」

希「さっきの自暴自棄と関係あるん?」

にこ「……」

ことり「自暴自棄……?」

花陽「さっき、屋上で焼きそばパンを一心不乱に食べていたの……」

海未「なんて恐ろしいことを……」

穂乃果「に、にこちゃん!」

凛「穂乃果ちゃんが怒るのも無理ないにゃ。
  今までそうしてきたように、これからもできるだけおやつは抜きにしようとみんなで決めたのに」

穂乃果「ずるいよ! どこの焼きそばパンなの!?」

花陽「気にするところそっちなの!?」

にこ「交差点にあるパン屋さんよ」

穂乃果「あぁ、限定一日10個の幻の焼きそばパン……!!」

にこ「生地がもふもふっとしてて、キャベツと麺のハーモニーが……」

真姫「先に屋上へ行ってるから」ガタ

絵里「早く話を始めてちょうだい。真姫が呆れているわ」

にこ「えっと……」

ことり「重要なことなんだね」

穂乃果「しっかり聞かなくちゃだよね」

にこ「べ、別に期待するようなことじゃないんだからねっ」

希「練習時間が無くなるから、おふざけは無し」ワキワキ

にこ「わ、わかったわよ……」

真姫「……それで?」

にこ「……えっと……その……」

絵里「悪い報告、なの?」

にこ「いいことのような、悪いことのような……」

凛「うん?」


にこ(うぅ……やっぱり言い難い……怒られる……)


海未「顔色が悪いですね……」

花陽「余程のことなんだ……」

穂乃果「にこちゃん……」


にこ(みんなを不安にさせてるわ……ちゃんと言わなければ無駄に心配させるだけ……さぁ、言うのよ、にこ!)


穂乃果「そうだ、みんな商店街のクジ引き知ってる?」

にこ「……!」

真姫「そんな話、今はどうでも――」

海未「穂乃果は言い辛そうにしているにこを気遣って世間話をしているのです。緊張を解そうと……」ヒソヒソ

真姫「…………」

ことり「知ってる~。一等が凄いんだよね」

絵里「一等?」

希「確か、日本を縦断する列車の乗車券やったね」

花陽「そ、そうです! あの列車には今売り出し中のアイドルが乗車することになっているんです!」

凛「ほぇ~、凄い列車ですにゃ~」

穂乃果「その一等が、昨日出たんだって、雪穂が騒いでたよ」

海未「とてもラッキーな方ですね」

穂乃果「そうだよね、いいな~誰が引いたのかは知らないけど~」


にこ(余計なことを……言い出しにくくなったじゃないの……!!)


花陽「うわぁ、うわぁ! 日本縦断できれば、各都市のスクールアイドルに会える……!!」

ことり「かよちゃん、ラブライブの出場をかけたライバルだよ?」

花陽「あ、あはは……そうですね……」

絵里「でも、刺激を受けるにはいい機会かもしれないわね」

穂乃果「私は観光に行きたいな~」

真姫「……はぁ、話が脱線してる」


にこ(でもいい流れになったわ、今がチャンス!)


穂乃果「その乗車券があればの話だけどね~」

にこ「あ、あのね――」

海未「あるわけがないじゃないですか。どれほどの運が必要だと思っているんですか」

にこ「ぐっ……?」

ことり「にこちゃん……?」

希「まさか……にこっち……」


にこ(希……気づかれたかしら……とりあえず誤魔化すしかないわ……)


にこ「にっこにっこにー?」

希「タロット占いで、青天の霹靂が訪れると明示されたんよ」

にこ「にこー?」

希「引いたんやな?」

にこ「にこ分かんなーい」

花陽「にこちゃんの様子が……???」


凛「あの列車の名前、なんだったかな……? えーと……確か星の名前だったような」

穂乃果「超特急ベガ?」

にこ「ヴェガよ、超特急ヴェガ! 発音を間違えるなんて致命的よ穂乃果!」

穂乃果「ベガ」

にこ「ヴェガ」

穂乃果「ベ」

にこ「ヴェ!」

海未「やけにこだわりますね」

絵里「譲れないものがあるのね」

真姫「まさかとは思うけど……その乗車券、引いたの?」

にこ「し、しまった……穂乃果の発音の悪さに反応してしまった……!」

ことり「どういうことかな」

海未「つまり……部長であるにこが、学園祭で私たちが踊るのに最適な場所・講堂使用のクジ引きを外したわけですが、
   それ以上に運を必要とする日本縦断のプレミアが付いた乗車券、それを引き当てたということですね」

ことり「なるほど……運を……」

にこ「あれれ、にこ、急に眠くなっちゃったー」

希「講堂の件についてはもう誰も責めたりせんけど、腑に落ちない部分もあるなぁ」

凛「……羨ましい気持ちがあるけど、それだけじゃ済まないモヤモヤがあるにゃ」

花陽「にこちゃん、それを気にしてたんだね……」

にこ「くかー」

ことり「狸寝入りだね……」

穂乃果「にこちゃん、私たちのことは気にしないで、日本縦断の旅を楽しんできてよ!」

にこ「穂乃果……」

穂乃果「にこちゃんが観たこと聞いたこと、帰ってきたときに聞かせてほしいな」

にこ「ほのか……」ウルウル

希「そうやね。安全には気をつけて楽しんできてほしいわ」

海未「学園祭でのステージはいつも練習で使用している屋上とすでに決まっています。
   それを今更にこに責任を負わせようなんて思っていませんよ」

にこ「そ、そうよね」

凛「講堂使用のクジを外したことなんて、しょうがないことにゃ……うんうん」

にこ「みんなぁ……」ウルウル

絵里「運をそこで使っちゃったのね」

にこ「うぐ」グサッ

希「エリち……」

花陽「そ、そういう考えもあるんだ……」

にこ「なによっ、そう言われるのが嫌だから言いたくなかったのに!」


真姫「話が終わりなら、屋上へ行きましょ」ガタ

にこ「……まだ終わりじゃないわよ」

真姫「え?」

にこ「実は……その……乗車券は1枚じゃないの」

穂乃果「?」

ことり「1枚じゃない?」

花陽「も、もしかして9枚あるってこと!?」

海未「えぇ?!」

凛「やったにゃー! みんなで日本縦断ー!」

絵里「はらしょー……」

にこ「ちょ、待って! 話をちゃんと聞きなさい!」

希「1枚以上、9枚未満ってこと?」

にこ「そうよ。……全部で3枚」


「「 …… 」」


 シ ー ン


穂乃果「はいっ! 私、行きたいです!!」

ことり「穂乃果ちゃんずるい!」

希「3枚……。エリちはどう?」

絵里「本音を言うと、乗りたい」

希「そやねぇ」

凛「にこちゃん! 凛を連れてって!」

花陽「わ、私も乗りたいです!」

海未「そうですね。こんなチャンス、滅多にありませんから……」

にこ「う……!」

真姫「……くだらない。その争いの種を誰かに譲ればいいじゃない」

穂乃果「その選択肢は無しだよ真姫ちゃん!」ガバッ

真姫「ひっ」

海未「抱きついてどうするんですか……。真姫の言うとおり、誰かに譲ったほうがいいのでは?」

にこ「私もそう思って、親に渡そうとしたんだけど……『仕事があるから』と断られたわ」

希「親孝行やね。優しいやん、にこっち」

にこ「当然でしょ、私を誰だと思ってるのよ」

真姫「誰なの?」

にこ「ぇ…………ワタシハダレ?」

絵里「アイデンティティの崩壊ね」

にこ「にっこにっこにー♪ 危ない……自我を喪失するところだったわ……真姫には絶対に譲らない」

真姫「いいわよ別に、興味ないから」

にこ「ふふん、これを聞いても素っ気無い態度でいられるかしら?」

ペラペラ


凛「その紙切れはなに?」

にこ「この乗車券の価値を示すものよ。ほら、読んでみなさい」

真姫「……」

にこ「声に出して。滑舌の練習にもなるから」

真姫「えっと……8月1日から8月15日をかけて夢の超特急ヴェガは日本を縦断していく……と。
   稚内を出発後、順に札幌 青森 仙台 東京 松本 金沢 名古屋 京都 大阪 広島 博多、
   各都市を24時間停車。最終日には鹿児島の駅に到着」

海未「ふむふむ」

真姫「次はヴェガの概要ね……動力車を先頭に寝台車・シャワー室のある売店車・客車1号車・2号車・3号車・4号車、
   食堂車・娯楽車、と続き、最後尾は展望車」

絵里「豪華と云われるだけあるわね」

花陽「楽しそうな列車……」

にこ「観光地への足だけではなく旅の宿となる寝台車、いつでも使えるシャワー室があるのは有難いわね」

穂乃果「はい、質問です!」ズバッ

真姫「え?」

穂乃果「おやつは幾らまで持っていけるのですかっ」

ことり「穂乃果ちゃんのテンションが高いよ~」

真姫「知らないわよ、そんなの……3千円くらい?」

希「相場の10倍や」

穂乃果「そんなに持っていけないよっ」

海未「穂乃果、落ち着いてください」

穂乃果「な、なんだか楽しくて興奮しちゃった」フンフン

海未「どうします? 3枚の乗車券で練習に身が入らなさそうですが」

絵里「そうね……。にこはどうしたいの?」

にこ「私だって……みんなと旅行に行きたいわよ」

真姫「……」

にこ「だけど、3枚しかないし……」

絵里「それじゃ、残りの2枚を賭けて公平にじゃんけんでもしましょうか」

海未「後腐れがないよう、スッキリさせるべきですね」

凛「まっけないにゃー!」

花陽「わ、私も乗りたい! そして、松本でのアイドルイベントを見逃さないためにも!」

穂乃果「ほら、真姫ちゃんも」

真姫「い、いいわよ私は別に……」

穂乃果「えぇー、一緒に行こうよ~」

真姫「うちは毎年、夏はフィンランドに行くことになってるから」

穂乃果「フィンランド! 陽の沈まない夏だね!」

ことり「冬は夜が明けないんだよね」

真姫「詳しいのね……って、また話がずれてる」



にこ「賭けるのは3枚全てよ!」ドン


凛花陽「「 えぇ!? 」」

希「にこっちもじゃんけんに参加するということ?」

にこ「そうよ」

絵里「い、いいの? 引いたのはにこなんだから、無条件に乗車できるのに」

にこ「勝てばいいだけの話。それに、講堂の件は私も引っかかっていたから、これでチャラよ」

穂乃果「にこちゃん……!」


にこ「さぁ、勝っても負けても恨みっこ無し! 超特急ヴェガの乗車券を賭けた大勝負よ!!」


希「この中の3人か……どんな組み合わせになるんやろね」

絵里「そういう意味でも楽しみな企画ね」

海未「なんだか、とんでもないことになってきました」

ことり「夏……」

穂乃果「どうしたの、ことりちゃん?」

ことり「う、ううん…なんでもない……」

穂乃果「楽しみだよね!」

ことり「……うん」

花陽「9人中3人……どきどきしてきた……」

凛「凜はわくわくしてるにゃ~」

真姫「…………」


にこ「それじゃ~、行くわよ~」


「「「 じゃーんけーん! 」」」


「「「 ほい 」」」


穂乃果「おぉー!!」

海未「一発、ですか」

ことり「……これは」

花陽「あ、えっと」

凛「言葉にならないにゃ……」

希「こうなる運命やったんやね」


にこ「負けたぁぁっ!!」


絵里「やり直し、する?」

真姫「文句なしなんでしょ。一人脱落で次、いくわよ」

希「淡白やな」


にこ「どうしてっ、どうしてここで負けるのっ、しかも一人負けっ」シクシク


海未「時間も押していることですし、早く決着を付けましょう」

穂乃果「よしきた!」


「「「 じゃーんけん! 」」」



……





               8月1日


日本最北端の駅に一つの列車が佇む

先頭車両を覆いつくす人々。関係者によるセレモニーが開催されていた



「注目されてるだけあって、凄い人だかり……」


パーパラララッパッパー


「あの人がいたら、きっと興奮していたわね……」

「穂乃果のことですか」

「っ!?」

「そうですね、穂乃果は昔から賑やかなことが大好きでしたから……この演奏も楽しんでいたでしょう」

「う、後ろからいきなり話かけないでっ」

「すいません、物思いに耽っていたようでしたから。……穂乃果がいなくて寂しそうですね」

「そ、そんなわけないでしょっ」

「そういうことにしておきます」

「な、なによそれぇっ」

「いよいよ始まるんですね、ヴェガの長い旅が……」

「ちょっと、海未! 車体を撫でながら想いを巡らせてるんじゃないわよっ」

海未「? 真姫も興奮してはしゃいでいるのですか?」

真姫「違うわよっ、あなたが私をからかってるんじゃないの!」

海未「そういうつもりはないのですが……」

真姫「もういいわよ……なんていうか、やりづらい……」

海未「見てください」

真姫「?」

海未「客車で寝ています」

真姫「……この3人でやっていけるのかしら」

海未「そろそろ出発です、私たちも乗りましょう」

真姫「……そうね」


「あずさちゃ~ん」


真姫「……?」

海未「どうしたのですか、真姫?」

真姫「なんでもないわ」


―― 1号車


海未「さすが豪華列車、座席の座り心地も最適ですね」

真姫「……変な顔」


にこ「くー……」


海未「楽しみで眠れなかったと聞いています」

真姫「子供ね……」


にこ「くぅー……すぅ……」


海未「よだれが……」

真姫「しょうがないわね……」フキフキ


にこ「うぅん……」


真姫「ほら、起きて」

にこ「すやすや」

真姫「起きなさいよ」ユサユサ

にこ「……んー」バシッ

真姫「あいた……なにするのよっ」

海未「寝かせておきましょう、眠りを妨げるのはよくありませんよ」

真姫「そ、そうね……」

海未「なにを怯えているのですか?」

真姫「べ、別に……」

海未「おかしな人ですね」

真姫(別荘で眠りを邪魔されて暴れたあなたに言われたくないわよ……)


prrrrrrrrr


海未「発車のベル……いよいよです」

にこ「くかー」

真姫「この3人でヴェガに乗るなんて……思いもしなかった」

海未「そうですね。……穂乃果が乗車券をにこに譲った時は、長い付き合いの私でも驚きましたから」

真姫「あんなに楽しみにしていたのに、どうして」

海未「きっとなにかを企んでいるのだと思います」

真姫「なによ、それ?」

海未「さぁ? いつも私たちの想像を上回りますから、検討がつきません」

真姫「……ふぅん」

にこ「すやすや」



真姫「あ……あの人」

海未「駆け込み乗車……?」


プシュー



真姫「……」

海未「……」



ガタン 

 ゴトン


ガタンゴトン ガタンゴトン



真姫「乗れたのかしら、今、外を走っていた人……」

海未「タイミング的に、ギリギリでしたが……」

真姫「あんなに……慌てて……」

海未「そう……ですね……っ」

真姫海未「「 ふふっ 」」

にこ「すぅ……っ……ん?」

真姫「ふふっ……なんだか変……」

海未「そうですね……大したことじゃないのに笑ってしまいました」

にこ「……あーっ、発車してるぅっ!」

真姫「やっと起きたのね」

にこ「どーして起こしてくれなかったのよぉ! 記念すべき最初のスタートの始まりを体験したかったのにッ!」

海未「意味が被りすぎです」

真姫「私の手、払ってまで寝るのを優先したんだけど」

にこ「……私がそんなことするわけないでしょっ」

海未「これが、わくわくしている、ということなのでしょうか……」

真姫「そうかもね」

にこ「あんたたち……楽しそうじゃない……なにがあったのよ」

真姫「なにもないわよ」

海未「そうです。まだ、なにも……」

にこ「教えなさいよぉ!」


―― 4号車


真姫(この扉の向こうが食堂車……)


プシュー


「おっとぉ」

真姫(出会いがしらね……びっくりした)スッ

「……」スッ

真姫(お互い譲るなんて……気まずい……)

「こういうのって、気まずいよね」

真姫「……!」

「あはは、じゃあ、遠慮なく通してもらうよん」

真姫(あれ……この人……)

「ん?」

真姫「あ、いえ……」

「私の美貌に見蕩れちゃったのかなぁ~」

真姫(関わらないほうが身の為……穂乃果と同じ匂いがする……)

「あらら、スルーされちゃった」

「失礼します。乗車証の確認をさせて頂きます」

真姫「?」

「あ、はい、どうぞ」

「ありがとうございました。
 私、当特急『ヴェガ』の車掌を務めさせていただきます。美弥 澪(れい)と申します」

「私の名前は山口星奈といいます。よろしくお願いします、車掌さん」

車掌「はい、よろしくお願いします。
   ご用の際は、気軽にお申し付け下さい。では、良い旅をお楽しみ下さい」

星奈「はーい!」

車掌「それでは失礼します」ペコリ

真姫(私はさっき手続きしたからいいのよね……)

星奈「それで、君の名前は?」

真姫「え……?」

星奈「私が名乗ったんだから、次はあなたの番です」

真姫(早く立ち去ったほうがいいわね……)スッ

星奈「ちょっと待ったぁ!」ガシッ

真姫「な、なに……?」

星奈「無視することないでしょー? 同じ列車に乗ったよしみじゃないの」

真姫(穂乃果より強引……!)


星奈「さぁさぁ」

真姫「わ、私は西木野――」

「なにやってんだ、星奈……?」

真姫「?」

星奈「見て分かるでしょ? お互いの親睦を深めてんのよ」

「強引に絡んでるんじゃないだろうな……」

星奈「人聞きの悪い……あー、ひょっとしてカワイイ子の前ではカッコつけたいの、亮太~?」

亮太「なに言ってんだ……そうじゃないっての」

星奈「なら邪魔しないでよね、私はこれから友達100人作るんだから」

亮太「そんなに乗ってないんだけど……」

真姫「……」



にこ「なによあれ……真姫が社交的じゃないのよ」

海未「社交的というより、巻き込まれているだけのようですが」

にこ「負けてられないわ、私もひと夏の想い出を作るんだからっ!」

海未「受験勉強、しなくてもいいのですか?」

にこ「にっこにっこにー♪」

海未「誤魔化さないでください……今更ですが」



亮太「俺の名前は鶴見亮太……って、なんで俺まで自己紹介……?」

星奈「これからなが~い列車の旅をするんだから、お互い顔を合わせることもあるでしょう」

真姫「……」

星奈「そのとき無言ですれ違うなんて寂しいじゃないの侘しいじゃないの、哀しいじゃないの~」

亮太「すいません、なんか、騒がしくて」

真姫「……慣れてるから」

星奈「慣れてるってどういうこと?」

真姫「……知り合いに、同じように……その……騒がしい人がいるから」

星奈「なるほどね~って、騒がしいってどういうことかなー?」

真姫「うぅ……」

にこ「にっこにっこにー? あれ~、通路の真ん中でどうしたにこー?」



海未「強引に割り込みましたね……」


―― 食堂車


店員「ご注文の確認をさせていただきます。
   オレンジジュースにコーヒー、アイスティー2つでございますね」

にこ「よろしくにこ~」

店員「か、かしこまりました」

真姫「海未は?」

にこ「一人で探索するって言ってたにこ♪」

真姫「あ、そう……」

星奈「それ、キャラ作り……? ちょっと寒いかな……」

にこ「あァん? いま、寒いって言った?」ゴゴゴ

星奈「ここ、冷房効きすぎかなぁ……」

真姫「ぷふっ」

にこ「笑ってんじゃないわよっ。それで、なんなのよ、あんたたちは?」

星奈「なんなのよ……と聞かれても」

にこ「真姫に絡んでたでしょ? 見ていたんだから」

亮太「……絡んでたのは星奈だけだから、俺、関係ないし」

星奈「あ、ひっどーい」

真姫(どうして食堂車で席を共にしているのよ……)

星奈「名前を聞こうとしただけだよ」

にこ「……本当かしら」

星奈「私の名前は山口星奈。稚内出身の高校三年生、よろしく~」

にこ「矢澤にこ、アイドルよ。……隠し切れないオーラで気付いてるかもしれないけど」

星奈「え、本当に!?」

亮太「アイドル……」

にこ「ふふん、いい反応してくれるじゃない」サラサラ

真姫「マイナーのマイナー……知名度なんて無いに等しいけど」

星奈「サインちょうだい!」

にこ「すいません、今、プライベートですから……って、それ割り箸の紙じゃないのよ」

星奈「大丈夫、大丈夫、私だけの宝物にするから」

にこ「絶対ウソよ、間違えて捨ててそれっきりなんだわ」

星奈「あはは、その通り」

にこ「否定しなさいよっ」

真姫「なんか、息が合ってるみたいだけど……本当に初対面なの?」

亮太「俺もさっき初めて会ったばかりだけど、星奈は誰にでもこんな感じみたいだ……」

真姫「ふぅん……どうでもいいけど」


店員「おまたせしました~、オレンジジュースです」

にこ「私よ」

店員「はい、どうぞ。……コーヒーの方」

亮太「俺です」

店員「はい、……アイスティーになりま~す」

真姫「どうも」

星奈「それじゃあ、飲み物も揃ったところで、私たちの新たな門出を祝って、カンパーイ!」

にこ「カンパーイ!」


チン


真姫「……」

亮太「……」


星奈「ノリ悪いね、この二人」ヒソヒソ

にこ「本当、なんなのかしら」ヒソヒソ

亮太「コーヒーで乾杯なんてできるわけないだろ」

真姫「乗車したの、失敗だったかも……」クルクル


……




亮太「音ノ木坂学院のスクールアイドル……」

真姫「そういうこと」

星奈「このカニ御膳おいし~♪」

にこ「丸々一杯のカニを使うなんて、やるわね、特急ヴェガ……」

亮太「そういえば、学校の友達がそういうの言ってたような気がする」

真姫「最近流行っているみたいだから、普通の学校生活をしていたら耳にするのも不思議じゃないわね」

星奈「見てみて、にこ」

にこ「食べ物で遊ぶと罰が当たるわよ?」

星奈「にっかにっかに~♪」

にこ「酷いパクリしないでくれる!?」

真姫「会話に参加して」

星奈「ごめんごめん、ご飯がおいしくて……もぐもぐ」

にこ「なんの話よ?」

亮太「えっと……矢澤さんが活動している部活について」

にこ「名前でいいわよ、同い年なんだし」

亮太「……わかった」

星奈「部活、ねぇ……もぐもぐ」

真姫「さっき言ったアイドルとはこのことよ。プロとは全然違うけど」

にこ「そう、全国のスクールアイドルが集うラブライブ……前回は出場を逃したけれど次こそは……!」

星奈「ラブライブ?」

にこ「スクールアイドルの甲子園よ。高校生なのに星奈は知らないのね」

星奈「全然知らなかったよ……時代は動いているんだねぇ」シミジミ

亮太「なにを感慨耽っているんだ?」

星奈「ウチの学校、田舎だから、そういうの疎いんだよね」

真姫「ネット環境があれば……なんでもないわ」

星奈「あー、今、稚内をバカにした?」

真姫「してないわよ」

にこ「鶴見亮太も稚内出身なの?」

亮太「なぜフルネームで……? 俺は千葉だから」

にこ「わざわざ千葉からヴェガの始発駅、稚内まで来るなんて、余程の物好きね」

真姫(私たちが東京出身ってこと、忘れてるわね……)

亮太「せっかくだから、ってことで、格安深夜バスを乗り継いで稚内まで来たわけですよ」

星奈「それはまた、ご苦労様です」


亮太「みんなはどこまで行くの?」

にこ「特に決めてないわ」

真姫「東京」

星奈「……松本。亮太は?」

亮太「せっかくだから、終点まで行ってみようかな……?」

真姫「終点……鹿児島?」

亮太「そういうこと」

にこ「当てのない旅、ね……いいわね、そういうの」

亮太「……当てのない、か」

真姫「?」

星奈「どうしたの?」

亮太「いや、俺さ、この列車に乗るの、両親に微妙に反対されてたんだよ」

にこ「受験生だから?」

亮太「うん。……学校の友達にも『気楽でいいな』とか言われてて……そうなのかな、って思ってた」

真姫「……」

亮太「だけど、今こうやって話をしてて、知り合ったばかりの人にヴェガの旅を肯定されたみたいでちょっと嬉しかった」

にこ「ふぅん……」

亮太「変な感じで、よく分からないんだけど」

星奈「そりゃ、私たち、仲間ですから」

真姫「な、仲間……?」

星奈「そう、旅仲間。……同じ目的地へ向かう同志とも呼びますな!」

にこ「ふむふむ、悪くないわね……むしろ、いいわね!」

星奈「さすがにこ、話が分かる~」

にこ「ふふ、星奈……あなたもね」

星奈「絆が深まった証として、カニの甲羅あげる」

にこ「いらないわよ」

亮太「はは……」

真姫「……」

海未「探していたんですよ」

にこ「ずっとここにいたんだけど」

真姫「意味もなくだらだらとね」

亮太「ここ座ってください、俺は個室へ戻りますから」

海未「すいません、ありがとうございます」

星奈「ごちそうさま、亮太~」

にこ「ごちそうさまにこー♪」

亮太「な、なんでだよ!?」

星奈「こんな美少女たちと会話できたんだから、それくらいの甲斐性を見せておいたほうがいいわよん?」

亮太「まぁ、挨拶代わりってことでいいけど……そのカニ御膳は自分で払えよ、じゃあな」

星奈「えぇ~?」


店員「ご注文は何になさいますか?」

海未「ミルクティーをお願いします」

店員「かしこまりました~」

海未「豪華列車という割にはリーズナブルな価格ですね」

真姫「長旅になるから、配慮されているんじゃないの?」

星奈「カニ御膳は相応の値段だけどね~」

にこ「探索してたんでしょ? どうだった?」

海未「展望車には真姫が喜びそうなモノがありましたよ」

真姫「?」

海未「それと、乗客ですが……」

星奈「面白い人がいた?」

海未「あ、私、園田海未と申します」

星奈「山口星奈、よろしく~」

海未「よろしくお願いします。それでは報告に移ります」

星奈「あはは、報告だって……うむ、聞こうじゃないか」

真姫「ねえ、なにか様子が変なんだけど」

にこ「そうね……、もしかして……穂乃果が言ってたことじゃないかしら」

真姫「……?」


――……

―…


穂乃果『うみちゃん恥ずかしがりやで人見知りするから……きっと緊張の連続で固まってしまうと思うんだ』

『ふぁぁ……ねむ……』

穂乃果『ちょっと、にこちゃん聞いてる!?』

『はいはい……キイテマスキイテマス』

穂乃果『だからね、そういう時はフォローして欲しいんだよ』

『フォローって……もう17でしょ……自分でなんとかできる歳じゃないのよ』

穂乃果『甘い、甘いよにこちゃん、マカロンのように甘いよっ』

『わかったわよ……それで、どうフォローすればいいの?』

穂乃果『それは……そう、現場の状況に合わせてだよ』

『具体的な対応策はないわけね……』


…―

……――


にこ「――だってさ」

真姫「このメンバー駄目かも……」


海未「娯楽車に設置されたゲームですが、メダルの使いすぎにご注意を」

星奈「だいじょーぶ、私の運の強さでいつでもフィーバーだから」

海未「ふぃーばー?」

星奈「スロットのゲームあるでしょ、私の手にかかれば7が揃うのなんて朝飯前さ」

海未「その心遣い真に感謝します」ペコリ

星奈「いや、そこまで感謝されるとね……」

にこ「緊張してるだけから、あまり気にしないで」

星奈「どうして緊張してんの?」

にこ「人見知りなのよ」

真姫「いつもの二人がいないから……」

海未「おかしなことを仰います。穂乃果とことりがいないと私は駄目みたいじゃないですか、ふふふ」

にこ「その通りじゃないのよ、しっかりしなさい」

星奈「……じゃあ、私はそろそろお暇しようかな」

真姫「……」

星奈「それじゃあ、またね~」

スタスタ


にこ「変に気を遣わせちゃったわね」

真姫「海未」

海未「なんでしょう?」

真姫「今の人……駆け込み乗車した人よ」

海未「……あ、あの人が」

にこ「駆け込み?」

真姫「大したことじゃないから」

海未「……」


―― 旭川駅


にこ「うーんと、うーんと!」

海未「日差し浴びながら~」

にこ「夏色えがおで1.2.jump!」

真姫「駅のホームで歌の練習は恥ずかしいわよ」

にこ「なに言ってるのよ、私たちアイドルは人前で歌うのが仕事じゃない」

真姫「……」

海未「……ふぅ」

真姫「穂乃果がいなくて寂しいのって、あなたなんじゃないの?」

海未「そそっそんなわけないじゃないですかっ」

真姫「……」

海未「小さいころから一緒にいるんです、たまにはこういう距離も必要なんです」

真姫「……」

海未「だいたい、穂乃果はいつも騒がしすぎるんです、周りの目も気にせずに急に声を上げたり」

にこ「あ、乗客の人だ……ちょっと行ってくるわね」

海未「この間なんて、夜なのに部屋の窓を開けて大声を出したんですよ」

真姫「売店にでも行って来よ……」

海未「いつも私が注意をしているんですよ、ことりは甘やかしますが」


海未「そういう人がいないとどうなるか、これを機会に身をもって知るべきなんですよ」


海未「最近、私に内緒で何かをしていましたが、それもまた良からぬ事なんでしょう」


海未「私は一応止めるのですが、それでも大した効果は得られず、突き進んでいってしまうのです……」


海未「話が逸れましたが、穂乃果がいないことで清々している部分もあるんです!」


海未「分かりましたか!?」

星奈「え、あ……うん」

海未「え?」

星奈「あ、ごめん、頷いちゃったけど、何の話かな?」

海未「穂乃果なら……こんな風に置いていったりしないんです」

星奈「……そっか」

海未「……こんな風に……独りにしないんです……穂乃果は……穂乃果は」

星奈「膝を抱えて落ち込んじゃった……絵に描いたような落ち込みっぷり……」


prrrrrrrrr


海未「穂乃果はいま…何をしているんでしょう……体力トレーニングは欠かさずにしているのでしょうか」

星奈「あのさ、発車のベル鳴ったから、乗ろうよ」


―― 売店車


ガタンゴトン
 
 ガタンゴトン


店員「いらっしゃいませぇ」

真姫「札幌の観光ガイドブック……ね」

店員「デートの待ち合わせ場所に役立ちますよぉ~」

真姫「相手がいないけど……、一つ」

店員「はい、ありがとうございますぅ~」

真姫「……ふぅん、結構な情報量ね」

店員「あ、お客さん」

真姫「?」

店員「星奈さんとぉ、仲良しさんですよねぇ」

真姫「そんなことないけど」

店員「そうなんですかぁ」

真姫「……それじゃ」

店員「はい、またいらしてくださいねぇ~」


―― 娯楽車


チャラララッチャラー


星奈「どうよー」

海未「凄いですね……よく分かりませんが」

星奈「7が三つ揃うってそうそうないことなんだよね」

海未「へぇ、そうなんですか」

星奈「うん……そうなんだよね」


真姫(気付かれないように通り抜けないと……絡まれても面倒)


星奈「はい、やってみて」

海未「は、はい……それでは」


ジャララン


星奈「その三つのボタンを押す」

海未「はい……」


真姫(この先が展望車……)


海未「えいっ、やぁっ、ふんっ!」


チャラララン


海未「揃いませんでしたか……あれ?」


星奈「……」ポン

真姫「うぇぇっ!?」ビクッ

星奈「どこ行くの?」

真姫「べ、別に……関係ないでしょ」

星奈「この先、展望車だけど、まだ行ってなかったんだ」

真姫「わ、悪い?」

星奈「悪いことは無いけど、おっくれってる~♪」

真姫「なによ、その古い煽り方……」

星奈「え、古いの……?」

真姫「最近聞かないわ。じゃあね」

星奈「真姫も一緒に遊ぼうよ」

真姫「遠慮しとく。……呼び捨てなのね」

星奈「いや?」

真姫「そうじゃないけど、知り合って間もないから……」

星奈「私のことも星奈でいいから。ほらほら、遊ぼうよ」

真姫「……」


海未「メダルを入れて……レバーを引く」


ジャララン


海未「そして……えいっ、やぁっ、せいっ」


チャラララン


海未「外れ……ですか」

星奈「次は私の番」


ジャララン


星奈「ほいほいほいっ」


チャラララッチャラー


海未「わぁ、鈴が揃いましたね」

星奈「どうよー」

真姫「……」

にこ「年頃の女の子がこんなので遊んでるんじゃないわよ」

星奈「ごもっともです」

海未「揃えるの難しいんですよ。次は私が」


ジャララン


海未「せいっ、やぁっ、とぉっ!」


チャラララン


海未「……難しいですね」

星奈「狙って押しても当たらないからね~。……気合もあまり関係ないかな」

海未「的を射るのは私の得意分野なのですが……」

にこ「私と同じ髪型の子がいるらしいんだけど、会った?」

真姫「?」

にこ「なんでもないわ。それより展望車に行きましょ」


―― 展望車


真姫「ピアノ……」

にこ「ここまで豪華なんて……」

星奈「すごいよね、まるでサロンみたい」

海未「天井と壁面がガラス張り……景色を見て過ごすには最適な場所ですね」

にこ「観葉植物がオシャレでいいじゃない」

真姫「……」

星奈「? ピアノがそんなに気になるの?」

海未「真姫は、弾けますから」

星奈「へぇ~、乗客に演奏者が二人もいるんだ」

海未「二人、ですか?」

星奈「そのうち会うんじゃないかな」

海未「?」


真姫「……」


ポンポポンポポン


星奈「あ、この曲知ってる……薬のCMで使われてるよね」

海未「薬のCM……見たことがありませんが」

星奈「あ、あれ……ジェネレーションギャップ?」

にこ「あんた、私と同い年でしょ、使い方間違えてるわよ」

海未「なんという曲なんですか?」

真姫「ショパン、プレリュード第7番よ」


―― 展望車


真姫「ピアノ……」

にこ「ここまで豪華なんて……」

星奈「すごいよね、まるでサロンみたい」

海未「天井と壁面がガラス張り……景色を見て過ごすには最適な場所ですね」

にこ「観葉植物がオシャレでいいじゃない」

真姫「……」

星奈「? ピアノがそんなに気になるの?」

海未「真姫は、弾けますから」

星奈「へぇ~、乗客に演奏者が二人もいるんだ」

海未「二人、ですか?」

星奈「そのうち会うんじゃないかな」

海未「?」


真姫「……」


ポンポポンポポン


星奈「あ、この曲知ってる……薬のCMで使われてるよね」

海未「薬のCM……見たことがありませんが」

星奈「あ、あれ……ジェネレーションギャップ?」

にこ「あんた、私と同い年でしょ、使い方間違えてるわよ」

海未「なんという曲なんですか?」

真姫「ショパン、プレリュード第7番よ」


―― 3号車


真姫「観光?」

にこ「そうよ、せっかくなんだから楽しまないと損でしょ」

真姫「……別に、適当に行けばいいじゃない」

にこ「そうも言ってられないわよ。24時間しか停車していないんだから」

海未「のんびりしていたらあっという間に出発です」

真姫「……行きたいところとか、あるの?」

にこ「北海道といったら!」

海未「ラム肉、でしょうか」

にこ「ら、ラーメンでしょ!?」

海未「ジンギスカン、有名ですよ」

真姫「食べ物以外に無いの?」

にこ「時計台!」

海未「小樽運河!」

真姫「……統一性がない」

にこ「羊が丘展望台も有名ね」

海未「神の子池なんてどうでしょう」

真姫「池?」

海未「透明度の高い、神秘的な池だそうですよ。話を聞いただけで、詳しくは知りませんが」

にこ「札幌にそんな池が……さすが北海道ね、自然の宝庫と呼ばれるだけあるわ」

真姫「それじゃ、そこでいいのね」

海未「そうしましょう」

にこ「夕飯はどうするの? おいしいものが食べたいわ」

真姫「ジンギスカンかラーメン……どっちかでいいんじゃない?」

海未「しかし、女性三人がラーメンですか……」

にこ「そうね……アイドルがラーメンを啜るなんて……前代未聞よね」

真姫「面倒な人たち……」


―― 真姫の個室


pipipipi


真姫(……凛からメール?)


『驚いた~? 凛も負けないにゃ!』


真姫「……?」


コンコン


真姫「は、はい」

「札幌に到着するわよー、準備できてるのー?」

真姫「えぇ、できてるわ」

「到着したらホームで待ってること、いいわねー?」

真姫「わかった」

「ラーメン、ずるずる♪」

真姫「どれだけ楽しみにしてるのよ……ふふ」



ガタンゴトン 


 ガタンゴトン


プシュー


にこ「よっ」ピョン

スタッ

にこ「着いたわね、札幌!」

車掌「行かれる場所はお決まりですか?」

にこ「あ、車掌さん。はい、今日はラーメン横丁と大通り公園にあるTV塔へ行ってきます」

車掌「そうですか、それでは気をつけて行ってらっしゃいませ」ペコリ

にこ「は、はい。行ってきます」ペコリ

スタスタ

にこ「乗客のお見送りまでしてくれるのかぁ」

真姫「お待たせ」

にこ「それじゃ、出発するです!」

海未「するです?」

にこ「す、するわよ!」

真姫「とりあえず、一度駅から出る?」

海未「それとも、地下鉄に乗ってそのまま移動しますか?」

にこ「そうね……うーん……」

真姫「せっかくだから、駅の外観を見て実感するのもいいと思うけど」

海未「そうですね、札幌に着いたと確認するのも、また楽しいものです」

にこ「それじゃ、改札から一度出ましょうか」


―― 札幌駅・改札口


にこ「東京も人が多いけど、ここもそれなりにいるのね」

真姫「看板が多い」

海未「そうですね……お菓子の看板が目立ちます」


「……――!」


海未「あれ?」

真姫「どうしたの?」

海未「……聞きなれた声が聞こえたような」

にこ「もうホームシック? 見た目通り繊細なのね~」

海未「ち、違います!」


「――ちゃーん!」


海未「いえいえ、そんなはずはありません」

真姫「なに?」

海未「いくらなんでも、それはありえません」

にこ「どうしたっていうのよ?」


「うーみーちゃーん! 真姫ちゃーん! にこちゃーん!」


海未「……」

真姫「……」

にこ「……」


「おーい! こっちこっちー!」


海未にこ「「 いやいやいや…… 」」

真姫「ここ、札幌よね……秋葉原じゃないわよね?」


「もぉー! 無視するなんてひどいよぉー!」


海未「穂乃果……?」


穂乃果「あ、目が合った、やっほー!」


海未「はは……どうやら私は穂乃果に会いたくてしょうがないみたいです」

にこ「……」

真姫「私は花陽に会いたいみたいね」


花陽「真姫ちゃーん」


にこ「なにこれ」


穂乃果「ちょっとぉー! はやくこっちに来てよー!!」

花陽「おーい、おーい!」


海未「……」

にこ「……」

真姫「……」


穂乃果「ようこそ、札幌へ! なんちゃってぇ!」

花陽「お、お疲れ様です!」

海未「ここでなにを、しているんですか?」

穂乃果「えー、3日ぶりに会うのに、失礼しちゃうなー?」

海未「……父方の実家へ行ったはずでは?」

穂乃果「あれは、ウソ♪」

海未「ウソ?」

穂乃果「うみちゃんたちを驚かそうと思ってー♪」

海未「えぇ、十分驚きました」

穂乃果「それにしては落ち着いてない?」

海未「驚きを通り越して、素に戻っているだけです」

穂乃果「そうなんだ、ちょっとガッカリだよ」

海未「最近、何か隠していると思ったら……ことりのバイト先でお世話になっていたんですね」

穂乃果「えぇ!? うみちゃん、やっぱりエスパー!?」

海未「この時のために資金を貯めていたのでしょう?」

穂乃果「見透かされてる! 必死に隠してきたのに!」

海未「ことりは?」

穂乃果「いないよ?」

海未「花陽と二人で来たのですか……?」

穂乃果「そうです! 格安チケットをゲットして、ここまできました……!」グッ

海未「泊まるところは?」

穂乃果「早割りというのがあって、超格安で泊まれるビジネスホテルがあるのです。全国チェーンです」

海未「……」

穂乃果「……」

海未「……」

穂乃果「感動の再会は……?」

海未「そんなものはありません」

穂乃果「そっか……あれ、にこちゃんたちがいない?」

海未「私たちを置いて、先に行きましたよ」

穂乃果「ひどいっ!?」


―― 札幌時計台


花陽「わ、わぁ……不思議な雰囲気……だけど、思ってたのと違う……」

穂乃果「本当だ……なんだか、こじんまりしてて……」

海未「きっと、知らないでいたら通り過ぎてしまうのでしょうね……」

にこ「……あれ、真姫がいないわよ?」

花陽「あ、あっちにいる」

海未「……あ」

穂乃果「知らない人と歩いてる!?」


星奈「あれ、増えてる?」

真姫「……」

にこ「星奈も来てたのね」

星奈「時計台を見つけられずにこの辺りをウロウロしてたら真姫に捉まっちゃった」

真姫「この人、ずっと同じ場所を行ったり来たりしていたから……」

星奈「有名な観光名所だから、一度はと思って来たわけさ」

海未「そうですね、観光ガイドには必ず載っているような場所ですから」

星奈「ところが……周りのビルに埋もれてて発見できず、苦労する羽目に……まいったまいった」

真姫「観光ガイドに地図があるでしょ」

星奈「だってぇ……街の真ん中で地図を開いたら田舎モノだって思われるもん」

にこ「変な見栄張って目的地にたどり着けないほうがよっぽど恥ずかしいと思うけど」

星奈「まぁ、そうなんだけどね」

海未「私が一人で札幌の街を歩いたとしたら、ここへ辿りつけていたのでしょうか……」

星奈「それより、中に入ったの?」

にこ「まだよ」

星奈「それじゃおっさき~♪」

真姫「……マイペースね」


穂乃果「ほぉー」

花陽「……知らない人と楽しげに……話を……」

海未「私たちも中に入りましょう」

にこ「そうね、せっかくだから」

穂乃果「そうしようそうしよう~!」

真姫「私はここで待ってるわ。あの人と……」チラッ

穂乃果「ん?」

真姫「……がいると、落ち着いて展示物なんて読めやしないから」

穂乃果「今、いや~な視線を感じましたけど~」スリスリ

真姫「い、いいから早く入ってっ」

穂乃果「はーっい! それじゃ、ちょっと待っててね~」

タッタッタ


真姫「……まったく」

花陽「あはは……」

真姫「花陽は中に入らないの?」

花陽「わたしも……ここから時計台を眺めていたいから」

真姫「……そう」

花陽「……」

真姫「凛のメールはこれだったのね……」

花陽「凛ちゃん?」

真姫「なんでもない。……それにしても、思い切ったことしたわね」

花陽「う、うん……」

真姫「明日、駅でライブをするっていうアイドルのため?」

花陽「それもあるけど……わたしも少し冒険してみようかなって」

真姫「……」

花陽「じゃんけんに負けて、ガッカリしたけど……穂乃果ちゃんが密かに計画してるの知って」

真姫「付いてきた、と」

花陽「うん……」

真姫「……代わりに、乗る?」

花陽「え?」

真姫「私の代わりに、ヴェガに乗ってみるか、って聞いてるの」

花陽「え、で、でも…………いや……なの?」

真姫「嫌ってわけじゃないけど……私より花陽の方がヴェガに乗るべきだと思うから」

花陽「……」

真姫「はい、乗車証」

花陽「これが……?」

真姫「夏の大三角形の一つ、琴座からきているんだって……そのバッヂ失くさないで」

花陽「α星のヴェガ……」

真姫「乗客も悪い人はいないから、きっと楽しめるわ」

花陽「……」

真姫「車掌も話せば分かってくれる」


「おぉーい、真姫ちゃーん、花陽ちゃーん!」

「やっほーぃ!」

「ふ、二人とも止めてください、そんな大声でっ」


真姫「もう打ち解けてる……」

花陽「ふふ……」

真姫「……」

花陽「さっきね、穂乃果ちゃんと改札口で待っているとき……」

真姫「?」


花陽「真姫ちゃん、楽しそうだった」

真姫「え……?」

花陽「海未ちゃんもにこちゃんも楽しそうに……してた」

真姫「そうかしら」

花陽「雰囲気が伝わってきた」

真姫「…………」

花陽「だから、もう少し乗ってみるべき……なんだよ」

真姫「……」

花陽「返すね」

真姫「…………やっぱり乗りたいって言っても遅いわよ?」

花陽「や、やっぱり乗りたい」

真姫「遅い」

花陽「……ふふ」

真姫「なに、笑ってるのよ」


穂乃果「お腹減った……」

にこ「なにも食べていないって、本当なの?」

穂乃果「うん……北海道で食事するの楽しみだったんだもん」

星奈「野菜にお肉、魚、お菓子……素材が活きてるからね~」ウンウン

海未「お店を探しますか。早めの食事になりますが」

穂乃果「さんせーい!」

星奈「ラーメン屋に行くなら注意したほうがいいかも、全部が全部おいしいわけじゃないから」

穂乃果「なるほどなるほど……お勧めはありますでしょうか」メモメモ

星奈「北海道だから、寿司とか魚かな……海鮮丼とかおいしいよ」

穂乃果「カイセンドン」メモメモ

真姫「……」コクリ

星奈「スープカレーも人気かな、北海道の野菜をふんだんに使ってさ」

にこ「なによそれ、スープなのかカレーなのかハッキリしないわね」

星奈「私に言われても……」

にこ「カレーラーメンも馴染めないのよね、あとハヤシライスとか……」

星奈「カレーが苦手なのかね」

真姫「それはないわ。合宿で自ら進んで料理していたから」

星奈「こだわりがあるんだね」

穂乃果「……ベガ」

にこ「ヴェガよ」

星奈「あとはお肉とか、鹿肉なんかは普段食べられないから……どうかな」

花陽「し、シカ!?」

真姫「聞き慣れない肉ね」


海未「肉といったらジンギスカンではないでしょうか」

星奈「そうだね~、ヘルシーだから女性にも人気があるよ」

海未「やはりラム肉なのです」

にこ「そこまで食べたいのね……」

穂乃果「野菜といったらなんでしょうか」

星奈「大通公園に行ったらトウモロコシの屋台があるはず……蒸かしじゃがいももあるかなぁ?」

穂乃果「じゅるり」

海未「穂乃果、涎が……」

星奈「おっと、そろそろ時間だ……それじゃ私はこれで~」

穂乃果「星奈ちゃんも一緒に食べていこうよ~」

星奈「嬉しい申し出だけど、これからデートなのだよ!」

にこ「で」

海未「え」

真姫「と?」

にこ「ひょっとして、相手は鶴見亮太!?」

星奈「あっはっは! どうして私とアイツがデートするのよ、にこってばケッサク~!」

海未「え?」

真姫「じゃあ、誰と……?」

星奈「ふっふっふ~、それはひみつ。じゃあね~」

スタスタスタ


穂乃果「あ~、行っちゃった」

花陽「……な、なんだか、爽快な人」

真姫「騒がしいだけよ」

にこ「相手が気になるわね……鶴見亮太以外に星奈が親しくしている人っていたかしら」

海未「相手が男性だと限らないのでは?」

真姫「きっとそういうオチね」


―― ラーメン横丁


海未「……」

穂乃果「もう、うみちゃん、まだそんな顔してるの~?」

にこ「多数決は絶対なのよ、諦めなさい」

海未「ジンギスカンが私一人なんて……作為的なものを感じます」

真姫「それをいうなら、海鮮丼も怪しいわ」

海未「そうです、ここはやはり、やり直しを求めたいと思います」

花陽「で、でも……ここまで来たから」

穂乃果「そうだよ、さっさとお店を選ぼう」

にこ「むっ!」ピキーン

穂乃果「あのお店だね、にこちゃん!」

にこ「おいしそうな雰囲気が漂っているわ!」

穂乃果「れっつごー!」

タッタッタ


海未「あ、ちょっと穂乃果!」

にこ「時代は味噌なのよ!」

タッタッタ


真姫「……」

花陽「な、なに味にしようかな~」

海未「花陽がジンギスカンに手を上げていれば……!」

真姫「海鮮丼に手を上げていれば……」

花陽「わ、私はどっちでもいいかなぁ……って」

海未「そういう優柔不断な態度がこういう事態を招くのです!」

花陽「ご、ごめんなさぃぃ」

海未「たった二票ですよ!? にこはともかく、穂乃果は目に入ったからという理由でラーメンに票を入れたんです!」

真姫「それじゃ、別々で行動すればいいじゃない」

海未「そうもいきません。団体行動を乱してはいけませんから」

真姫「……面倒ね」クルクル

花陽「ら、ラーメンも美味しいよ、きっと」

海未「……」


「うみちゃーん!」


海未「……そうですね」


……



にこ「……」ズドーン

穂乃果「……」ズドーン

花陽「……」

海未「……」

真姫「麺は伸びてて、スープは油でギトギト……」

にこ「うぅ……がっかり……」

海未「こ、こういうこともあります! 口直しに大通公園でトウモロコシでも買いましょう!」

穂乃果「はぁ……楽しみにしていたのになぁ」チラッ

にこ「う、うるさいわね! ラーメンに票を入れたの穂乃果でしょ!?」

穂乃果「お店を選んだの、にこちゃんだもん……」

にこ「うぐ……」

花陽「り…リベンジしましょうっ」

海未「そうですね……北海道のラーメンの思い出がアレでは……あまりにも寂しいですから」

真姫「とうもろこしはどうするの?」

海未「それは、明日にでも」

花陽「あのお店はどうでしょう」キラン

穂乃果「ちょ、ちょっと待って花陽ちゃん……もう少しお腹の準備をしてからにしない?」

花陽「そ、そうだね……」

にこ「それじゃ、散歩でもしましょ」

真姫「……」



……



「へいらっしゃい! ご注文をどうぞ!」

にこ「味噌よ! 味噌をお願い!」

「気合入ってるねぇ……そっちは?」

花陽「わ、私も味噌をお願いします! トッピングにコーンとバターを!」

にこ「そんな裏技が!?」

「そこのお品書きにあるよ、表に出てるよ!」

穂乃果「私も真似しようっと……醤油にホタテの貝柱と海苔をお願いします」

「はいよっ」

にこ「二件目……絶対に外せないわ……!」

海未「真姫……」フルフル

穂乃果「うみちゃん、注文は?」

海未「ずるいです……」フルフル

にこ「あれ? 真姫はどこよ?」

海未「今……メールが届きまして……」

花陽「?」


『海鮮丼食べてくる』


穂乃果「真姫ちゃんずるーい!!」


―― 札幌駅・海鮮丼屋


店員「ありがとうございましたー!」

真姫「……」


亮太「あ……」

真姫「……」

亮太「一人で食事?」

真姫「……えぇ」

亮太「なんか、がっかりしてるような?」

真姫「あの味なら東京でも食べられた……」

亮太「あぁ……そっか」

真姫「……」

亮太「漁港の定食屋なら外れはないってヤツだな……」

真姫「…………」フゥ

亮太「二人は一緒じゃないんだ?」

真姫「ラーメン啜ってる」

亮太「ふぅん……」

真姫「それじゃ」

亮太「ヴェガに戻るの?」

真姫(どうしようかしら)


pipipipipi


真姫(穂乃果からメール……?)


『ラーメン最高に美味しかったよ! 
 腰のある麺、そしてコクがあるのに後味がすっきりとして少しもしつこくない……って、にこちゃんが言ってた!

 真姫ちゃんはどうだった? p・s 暇ならテレビ塔に集合だよ! 夜景が綺麗なんだって!』


真姫「寄るところあるから」

亮太「うん……それじゃあね」

真姫「……」

スタスタ


亮太「……ふむ」


―― 札幌駅前


男「彼女、一人~?」

真姫「……」

スタスタ

男「無視しないでよ~、暇ならお茶しない?」

真姫「……」

スタスタ

男「あ、もしかして観光客? 案内するから一緒に廻ろうよ~」

真姫「……ふぅ」

「彼女、俺の連れだから」

真姫「?」

男「あ、そっスか~、失礼しました~」

真姫「……」

亮太「こうなるかな、と思って付いてきました」

真姫「あ、そう……」

亮太「虫除けスプレーのような感覚で利用してくれればいいかな、と……」

真姫(……便利ね)


「なぁ~にやってんのよっ!」

バシィッ


亮太「いづッ!?」

真姫「星奈……?」

星奈「私の友達をナンパしようなんて……あれ?」

亮太「星奈……おまえ……!」

星奈「なぁんだ、亮太じゃないの」

亮太「背中を思いっきり叩きやがって……」ヒリヒリ

星奈「あ、あはは……ごめんごめん」

真姫「騒ぎの種ね……」

亮太「……西木野さん、どこへ行くの?」

真姫「テレビ塔だけど」

亮太「星奈、一緒に行ったらどうだ?」

星奈「今行ってきた帰りなんだけど」

真姫「穂乃果たち、いた?」

星奈「見てないよ、入れ違いになったかな?」

真姫「……そう」

亮太「ほら、一人じゃ危ないだろ? 星奈がいれば」

星奈「男が寄って来ないから安心よね……って、なにぃ~?」

亮太「そこまで言ってないだろ……」

真姫「ふふ……」


―― テレビ塔


海未「発車のベルが鳴って、駆け込み乗車をしたのが星奈さんなんです」

穂乃果「……」

海未「そのとき、真姫と一緒に笑ってしまいました」

穂乃果「どうして?」

海未「何かが始まるような、そんな予感がして……わくわくしたんだと思います」

穂乃果「真姫ちゃんも?」

海未「それは分かりませんが……、穂乃果がことりと私を引っ張ってくれるように、
   ヴェガも私たちの知らない場所へ連れて行ってくれる……そんな期待が膨らんでいたのです」

穂乃果「うみちゃん……」

海未「だから、改札口で穂乃果を見たときは……安心したと同時にガッカリしました」

穂乃果「が、ガッカリ!?」

海未「安心している自分にですよ。……旭川駅で頑張ってみようと思った後だったので」

穂乃果「……」

海未「穂乃果とことりがいなくて心細い気持ちもありましたが、にこと真姫がいるんです。
   知らない自分に出会えるかもしれない、頑張ってみよう、なんて思っていたんです」

穂乃果「ひょっとして……来ないほうが良かった……かな?」

海未「何を言っているんですか、そんなわけがありません」

穂乃果「そっかぁ……よかったぁっ」

海未「これはこれで、とても楽しいですから」



にこ「綺麗ね……宝石がちりばめられてるようだわ」ウットリ

花陽「大通りの灯りが綺麗……」

にこ「灯りの数だけ人の想いが輝くのね」キラキラ

星奈「……」

真姫「……」

にこ「な、何か言いなさいよ……」

花陽「街の灯りも素敵……」

星奈「これだけの灯りの下に人がいるんだと思うと、なんだか不思議な感じがするよね」

真姫「……うん」

にこ「な、なかなか情緒的なこというじゃない……」

星奈「今の受け売りなんだけどね~」



穂乃果「そろそろ戻ろうか~」

にこ「そうね、色々と歩き回って疲れたわ」

海未「穂乃果たちはどこで泊まるのですか?」

穂乃果「駅から歩いて5分です!」

真姫「……」

星奈「ほら、かよちゃんも帰るよ~」

花陽「は、はい」


―― 札幌駅前


海未「それでは穂乃果」

穂乃果「うん……」

海未「どうしたのですか?」

穂乃果「なんか、変な感じだね」

海未「……そうですね、見知らぬ土地で、見慣れない駅でお別れの挨拶を交わすなんて」

穂乃果「……うん!」

海未「なんだか、嬉しそうですね」

穂乃果「来て良かった、って思ったから!」

海未「……」

星奈「札幌駅も近代的になったなぁ……」

にこ「あんた、たまに老けたこというわよね」

真姫「じゃあね」

にこ「ちゃんとお肌のケアしなさいよぉ~?」

花陽「お、おやすみ」

星奈「おやすみ~」

海未「おやすみなさい」

穂乃果「また明日ねー!」



穂乃果「……行っちゃった」

花陽「……」

穂乃果「ホテルに戻ろうか、花陽ちゃん」

花陽「う、うん」

穂乃果「真姫ちゃんと海未ちゃんが心配だったけど、楽しくやっててよかったよ~」

花陽「星奈さん…だよね……」

穂乃果「そうそう、星奈ちゃん。二人ともすぐに仲良くなれるなんてね~、やっぱり来てよかった~♪」

花陽「あ、あれ?」

穂乃果「どうしたの、花陽ちゃん?」

花陽「ほ、穂乃果ちゃん……あれを見て」

穂乃果「あれは……にこちゃん?」

花陽「どうしてあんなところに……?」

穂乃果「なにか探しているみたいだけど……あれれ? 服装が違うよね」



「――先輩、どこにいったんだろう」

穂乃果「あのぉ?」

「……はい?」

穂乃果「あ、人違いでした。失礼しました」ペコリ

「……?」

花陽「……あ、乗車証」

「乗車証を知ってるってことは……あなた達も……ヴェガの乗客ですか?」

穂乃果「違います! 友達が乗っているのです」

「そうですか……」

穂乃果「あ、でも……これからちょくちょく顔を合わせることになるかも」

「どういう意味……?」

穂乃果「私の名前は高坂穂乃果、高校二年」

花陽「わ、わたしは小泉花陽です……高校一年生です」

「どうして自己紹介を……」

穂乃果「私たち、別ルートでヴェガと一緒に縦断していく予定なんですよ!」

「……へ、へぇ」

花陽「ひ、引いてる……」

穂乃果「にこちゃんと同じ髪型だから、なにかご縁があるのかなって」

「……そうですか」

穂乃果「うん!」

「……よく分かりませんけど……、一応、私の名前は――」

穂乃果「……♪」

「――中野梓といいます」



1日目終了

今日はここまで

このSSは ラブライブを軸としたお嬢様特急のクロス になります

超特急ヴェガシリーズの3作目になります。
が、ラブライブを中心として書いていくので前作を読まなくても大丈夫な構成になっていると思います(多分)

それでは、また明日です。

乙!

今年もお嬢様特急クロスが読めるとは
今回は、何作品ちょっと登場するのか


               8月2日



穂乃果「いただきまーす!」

海未「いただきます」

穂乃果「もぐもぐ……うーん、今日もパンがうまいっ」

真姫「乗車証を持って無い人が食堂車使ってもいいの?」

海未「店員さんに確認をしましたが、快く承諾してくださいましたよ」

真姫「ふぅん……」

穂乃果「だって、ホテルはもうテイクオフしちゃったんだもん」

海未「チェックアウトです、離陸してどうするんですか」

穂乃果「ホテルの朝ごはん、おにぎりだけで、白いご飯がなくて」

真姫「花陽のため……?」

穂乃果「ううん、私がうみちゃんたちと一緒に朝ごはんを食べたかったから!」


店員「おまたせしました~」

花陽「白いご飯っ」キラキラ

星奈「大盛り……」

にこ「朝からよく食べられるわね」

花陽「だって、今日はこれからライブがあるんだよ……! にこちゃんも体力を付けておかないと……!」

にこ「……あのアイドルよね」

花陽「そうだよっ、今から楽しみ~」

にこ「……」

星奈「もぐもぐ……食欲無いの?」

にこ「そんなことないわ……もぐもぐ」

花陽「米粒の一つ一つが立っています……きっと北海道のお米と水を使用しているのでしょう」

星奈「なんか、キャラが違うような……」


にこ「星奈、今日はどこ周るのよ」

星奈「羊が丘展望台でしょ……夕方には出発だから……その後、大通りを散策かな?」

にこ「神の子池って知ってる?」

星奈「うん、知ってる……もぐもぐ」

にこ「私たちそこへ行こうと思うのよ。よかったら一緒に行かない?」

星奈「うんん?」

にこ「昨日、行こうって話しをしてたんだけど、穂乃果たちが合流してすっかり忘れてたのよね~」

星奈「神の子池に……行くの?」

にこ「神秘的な池なんでしょ? せっかく北海道に来たんだから、見なきゃ損ってものよ」

星奈「ふぅん」ニヤリ

にこ「……なによ」

星奈「そっか……神の子池に……ブフッ」

にこ「ちょっと、なんなのよ?」

星奈「あっはっは! さいっこーだよ、にこ!」

にこ「???」

花陽「……ど、どうしたんですか?」


真姫「……?」

海未「星奈さんが笑ってますね……」

穂乃果「もぐもぐ?」


にこ「海未、ちょっと来なさい」


海未「は、はい……」ガタ

穂乃果「なになに~?」

真姫「……」

星奈「えっとね……これが北海道全域の地図ね」

にこ「……うん」

星奈「で、ここが私たちのいる札幌」トン

海未「はい……」

星奈「この辺りが道東……それで、ここが摩周湖」トントン

にこ「……ま、まさか」

星奈「そう、そのまさか。……神の子池はここにあるんだよ~ん」

海未「え……?」

星奈「行って戻ってきたころにはヴェガは青森に到着してるかな? くっくっく」

海未「あ……なるほど」

にこ「ちょっと、なるほど、じゃないわよ」

海未「わ、私は言いましたよ、詳しくは知らないと」

にこ「それが通用すると思ってないわよねぇ? おかげで恥かいちゃったじゃないのよぉ」ゴゴゴ

海未「すいません……」

真姫「大都市にそんな神秘的な観光名所があるわけないわよね」

穂乃果「もぐもぐ」

花陽「水はご飯の命ですっ、甘みもあってとてもおいしいです~」


―― 札幌駅前


海未「困りました……」

亮太「どうしたの?」

海未「私一人、暇をもてあまして……、え!?」

亮太「え?」

海未「い、いつからそこにいたのですか……!?」

亮太「い、今来たところだけど……」

海未「そ、そうですか」

亮太「……」

海未「……」

亮太「そ、それじゃ」

海未「は、はい……」

亮太「……」

スタスタ


海未「ふぅ……びっくりしました」

男「ねえ、かーのじょ♪ お茶しない?」

海未「っ!?」

男「かわいいね~、もしかして観光客? だったら俺が案内してあげるよ」

海未「い、いいです!」

男「そんな固いこと言いっこなし、ね?」

亮太「彼女、俺の連れなんです」


―― 大通り公園


亮太「……」

海未(何を話せばいいんでしょうか……)

亮太「みんなは?」

海未「にこはスクールアイドルの見学に……真姫は……えっと……星奈さんと一緒に……羊を飼いに」

亮太「ふーん…………ん?」

海未「羊が丘展望台に……」

亮太「あ、あぁ……なるほどね……羊を飼うって聞こえたよ……あはは」

海未(気まずいですっ、穂乃果…っ……にこっ、早く戻ってきてくださいっ)

亮太「俺と一緒に散歩なんてつまらないよね……」

海未「い、いえ……そんなことはっ」

亮太「……って、ごめん、嫌なこと言って」

海未「……っ」

亮太「……」

海未(気を遣わせてしまいますっ)

亮太「どうして一緒に行かなかったの?」

海未「は…い……?」

亮太「羊が丘展望台に」

海未「あ……それは……その……」

亮太「置いていかれてたりして」

海未「そ、そういうわけでは……」

亮太「あはは、そうだよね」

海未(ラム肉が目の前を歩いているって思うと……食べられなくなりそうで)

亮太「いい匂いがする……」

海未「トウモロコシ……?」

亮太「屋台やってるよ、ほら」

海未「ほんとうですね……」

亮太「……凄いな…」

海未「?」

亮太「俺さ、下調べとかしてなくて……北海道というか、札幌の知識なんて無かったんだ」

海未「……」

亮太「車掌さんや店員さんから色々聞いて、想像を膨らませて……、
   そして、その場の空気を感じたら、感動が倍になってさ……それが面白くて」

海未「……」

亮太「自分で調べたりすると頭が固定されちゃって、こんな風に楽しめないんだよ……って、変な話してるな」

海未「いえ……なんとなく、分かるような気がします」

亮太「そう?」

海未「期待が大きければ大きいほど、現実が小さく感じてしまい……勝手にガッカリしてしまうんです」

亮太「そうそう、そんな感じ」


海未(昨日の時計台……花陽が受けた印象と似ているのかもしれませんね)

亮太「人から聞くのと自分で調べるの、大差ないと思うんだけどね……」

海未「時計台、観て来ましたか?」

亮太「うん、行ったよ」

海未「どうでした?」

亮太「時計の針が進むの見てたら、不思議な感じがした」

海未「花陽も、そう言っていました」

亮太「ハナヨ?」

海未「わ、私の友達です……最初はガッカリしていたんですけど、星奈さんの話を聞いて……その」

亮太「星奈が? なんて言ってたの?」

海未「約130年間時を刻んでいる、と」

亮太「……場所の印象がわかった、と」

海未「はい。周りがどれだけ変わっても、ここだけは変わらずにいて欲しい……とも」

亮太「星奈が……そんなことを」

海未「……はい」

亮太「ブフッ」

海未「え?」

亮太「似合わねえ~、あはははっ」

海未「……」

亮太「他の人が言ったら感動するとこなのにっ……星奈ッ!」

海未「し、失礼なのではありませんか……?」

亮太「そ、そうだね…………グフッ」

海未(……それだけ星奈さんを知っているということでしょうか)

亮太「……ふぅ……笑いすぎた、……あ」

海未「?」

亮太「あの噴水のところにいる子」

海未(俯いてますね……知ってる人でしょうか)

亮太「園田さん、話しかけてみたらどうかな?」

海未「えぇ? わ、私がですかっ!?」

亮太「うん、女性同士、男の俺が話しかけるよりいいかなって」

海未「知り合い……というわけではないですよね」

亮太「うん、知らない……困ってそうじゃない?」

海未「そうですが……」

亮太「なんでもなかったら、それでいいし……旅の恥は掻き捨てっていうし」

海未「それなら……鶴見さんが……」

亮太「俺が話しかけたら余計に困りそうだから、ね」

海未「……」

亮太「……」

海未(穂乃果なら、どうするのでしょうか)


「……」


海未(……旅の恥はかき捨て……ですね)


「……」

海未「あの……」

「はい……?」

海未「……あれ?」

「私になにか……?」

海未(……この人……アイドルの)

「……?」

海未「な、なにか困ったことでもありませんか?」

「え?」

海未(失敗しました……これではただの変な人ではありませんか……!)

「……」

海未「いえ、なんでもありません、私はこれにて失礼します」

「あ、あの……」

海未「は、はい?」

「私……そんな……困ってそうな顔していましたか?」

海未「……はい」

「……」

海未「……」

「……ッ」パンッ

海未「!」

「顔を叩いたら気合が入りました……これから仕事なのに、プロとして失格ですね」

海未「……」

「私、飯山みらいといいます」

海未「はい、よく知っています。私は……園田海未といいます」

みらい「……」

海未「……」

亮太「とうもろこし、買って来たけど……食べる?」


……




―― 札幌駅前・特設ステージ


花陽「にこちゃん、急いで~!」

にこ「わかってるわよー!」

花陽「ライブが始まっちゃう!」

にこ「……私……あのアイドル好きじゃないのよね」


穂乃果「花陽ちゃーん! にこちゃーん!」

花陽「穂乃果ちゃん!」

穂乃果「やっときた~、始まるとこだよ~」

花陽「よ、よかった……間に合ったぁ」

にこ「……ふぅ」

海未「どうでした、girlish seasonは」

にこ「た、大したことなかったわー」

花陽「す、凄かったよ!」

海未「どっちなんですか」

花陽「札幌のスクールアイドル、girlish season……ランキング上位になるだけの人気と実力を兼ね備えています!」

にこ「確かに見ごたえがあったわ……でも、私たちだって負けてないんだから!」

穂乃果「そうだっ、私たちだって負けてはいない! 輝け明日の日本!」ビシッ

海未「どこを指差しているんですか……」


ガヤガヤ


にこ「……それにしても、凄い人だかりね」


「みんな~っ! きてくれてありがとね!」

俺「みらいちゃーん!」


花陽「あ!」キラキラ

にこ「……」


「私、飯山みらいは今日からヴェガの一日車掌になっちゃうんだ!」


穂乃果「おぉー! 本物のアイドル!」

海未「……」

星奈「なになに?」

海未「アイドルの飯山みらいです。乗車イベントと共にライブを行うんですね」

星奈「ふぅん……かよちゃんの様子がおかしいけど」

花陽「おぉー、おぉぉぉーー!!」

海未「アイドルのこととなると人が変わるので、気にしないでください」

星奈「そ、そうなんだ……」

にこ「……」


みらい「みらいは、車掌さんのお仕事ってあんまり、よくわからないけど、でもでも、やるからにはガンバッちゃうよ!」


にこ「よくわからないのに車掌するなんて、車掌さんに失礼じゃないのかしら」

星奈「あれ……冷たいね。……というか、その格好はなんなの?」

にこ「アイドルには色々あるのよ」

星奈「そっか……変装がかえって不審者のように見えるけど……色々あるんだよね」

花陽「みらいちゃんだ~」キラキラ


みらい「だからみらいのこと応援してね~~~!」

俺ら「「「  みらいちゃーん!!! 」」」

みらい「みんなありがと~!」


海未「警察署長なら聞いたことありますが、車掌になるのは珍しいですね」

星奈「一日ですむのかな?」


みらい「あのねっ! みらいが車掌になる感想なんか聞いてみようとおもうんだけど・・・そうだなぁ」


にこ「……」


みらい「あっ、それじゃ、そこのお姉さん!!」

にこ「?」

花陽「?」

みらい「キミ~、どこをみているの! みらいはキミを指しているのだっ」

にこ「わ、わたし?」

みらい「あはははは!やっぱり驚いてる! みらいが指名したんだから喜んでくれてもいいんじゃない?」

にこ「……」

みらい「お姉さんのお名前から教えてくれる?」

にこ「にこよ」

みらい「それじゃ、にこくんはみらいが車掌さんになったらどんな事を期待する?」

にこ「真面目に働いて欲しいわね」

みらい「……」

にこ「一日車掌として、そしてアイドルとして、真面目にね」

みらい「あ……」

にこ「……」

みらい「あははは……ま、真面目が取り得のみらいにそれはないぞ~?」

にこ「……ふん」

みらい「それじゃ他の人にも聞いてみようかな、ありがとね~」


花陽「にこちゃん、いいなぁ~」キラキラ

にこ「…………」

海未「にこ……?」

にこ「ヴェガに戻ってるから」

スタスタスタ


穂乃果「どうしたんだろう、にこちゃん……」

海未「いつもと雰囲気が違いましたね」

星奈「あまり良い感情を持ってなさそうだね」

海未「え?」

星奈「あの子、みらいちゃんに対してさ」

海未「…………」

穂乃果「え~、だって、アイドルだよ?」

星奈「うん……?」

穂乃果「にこちゃんが好きで、憧れている本物のアイドルなんだよ?」

星奈「そっか、にこはアイドルに憧れているんだ……それより、真姫は?」

穂乃果「羊が丘から戻ってきて、すぐに列車に乗ったみたいだよ」

星奈「キミたち、意外と纏まっていないよね……」


―― ヴェガ・1号車


真姫「……」

にこ「隣、いいかしら?」

真姫「どうぞ」

にこ「失礼するわね」

真姫「……」

にこ「……」

真姫「穂乃果と花陽は?」

にこ「海未と一緒にライブを楽しんでいるんじゃないかしら」

真姫「……」

にこ「……」

真姫「その格好はなんなの?」

にこ「変装に決まってるじゃない」

真姫「……そう」

にこ「……」

真姫「……」

にこ「その雑誌、面白いのかしら」

真姫「……そうでもないわ」

にこ「……ぎっくり腰のお父さんの容態はどうなの?」

真姫「べ、べつに……あなたが気にすることじゃないでしょ」

にこ「毎年旅行に行くと言っていたスウェーデン、残念だったわね」

真姫「いいわよべつに、って……今更ね」

にこ「……」

真姫「…………フィンランドよ」

にこ「羊が丘、どうだった?」

真姫「……それなりに」

にこ「楽しかったのね」

真姫「いつも以上に絡んでくるけど……どうしたの?」

にこ「発車まで暇なのよ」

真姫「穂乃果たちのところへ行けばいいじゃない……」

にこ「……」

真姫「……?」

にこ「大人には色々あるのよ、子供にはわからないでしょうけど」

真姫「あ、そう……」

にこ「……」

真姫「夕方の発車までまだ時間あるんだけど……」

にこ「……」

真姫「まったく……もぅ。……ほら、行くわよ」グイッ


―― 札幌駅前


花陽「はぁ~、いいライブでした~」

穂乃果「さすがプロ……ダンスや歌声が一段階上って感じだよ」

海未「……」

花陽「海未ちゃんたちが羨ましいですっ、みらいさんと同じ列車なんですからっ」

海未「…………」

穂乃果「うみちゃん……?」

海未「は、はい」

穂乃果「どうしたの?」

海未「にこの様子が気になりました」

穂乃果「……にこちゃんかぁ」

花陽「た、確かに様子が変だった……!」

海未「……穂乃果は飯山みらいをどう思いますか?」

穂乃果「みらいちゃん? そうだなぁ……さっきも言ったけど、やっぱりプロなんだなぁって」

海未「……」

穂乃果「元気があって可愛くて、本物のアイドルなんだなぁって、思ったかな」

海未「そうですか……」

花陽「人気も実力もある将来を期待されたアイドルですっ」

穂乃果「うんうん!」

海未「……にこはどうして――」

真姫「ここにいたのね」

海未「あ……」

にこ「……」


穂乃果「にこちゃんまだ変装してるの?」

にこ「私のファンに見つかって囲まれでもしたら大変じゃないの」

穂乃果「そんな人いないって、ほら、サングラス外して~」

にこ「か、返しなさい穂乃果っ」

真姫「さっきまで変に塞ぎこんでいたのよ」

花陽「に、にこちゃんが?」

真姫「本当、なんなのかしら」

穂乃果「どう、うみちゃん? にこちゃんが被っていた帽子……ダンディでしょ?」

海未「帽子だけでは効果がありませんよ」

穂乃果「じゃあ、このポーズはどうかな」キリ

海未「似合いません」

にこ「星奈は一緒じゃないのね」

花陽「大通公園を歩いてくるって……」

にこ「ふーん……まぁいいわ。お昼ごはん食べに行きましょ」

穂乃果「賛成ですよ、お嬢さん」キリ

にこ「いいから、返しなさいよっ」バッ

穂乃果「私の新たな一面がー!」

真姫「何を食べるの? 海鮮丼はもういいわよ?」

花陽「海未ちゃんはなにが食べたい?」

海未「……私はなんでも」


―― ヴェガ


穂乃果「おいしかった~、これで北海道の思い出はバッチリだよね~」

花陽「イクラと鮭が美味しかったですっ」

海未「気が付いたら海鮮丼を食べていました……」

にこ「ボーっとしてるからじゃないのよ」

真姫「……どうして昨日に続いて食べなきゃいけないのよ」

穂乃果「多数決は絶対なんだよぉ?」ウシシ

真姫「美味しかったから、べつにいいけどぉ」


車掌「お帰りなさいませ」

海未「た、ただいま戻りました」

穂乃果「ただいま~」

車掌「あら?」

海未「彼女たちは私の友人です。東京から追いかけてきたみたいで」

車掌「そうですか……。まもなく出発となりますので、乗り遅れに注意してください」

海未「は、はい」

真姫「ほら、さっさと乗りましょ」

スタスタ


にこ「あんたたちはどうするの?」

穂乃果「この後出発する夜行列車に乗って追いかけるよ」

花陽「は、はいっ、追いかけます!」

にこ「そう、それじゃ先に行ってるわね」

穂乃果「うん! すぐに追いつくから!」

にこ「気をつけなさいよね~」

スタスタ


花陽「だ、大丈夫……! 何度も確認したからっ」


海未「……」

穂乃果「うみちゃん?」

海未「穂乃果、私の代わりに乗りませんか?」

穂乃果「え?」

海未「ここから乗車するアイドルの飯山みらい……
   さっきのライブでにこが拒否反応を示したことが気になっているんです」

穂乃果「駄目だよ、うみちゃん」

海未「……」

穂乃果「あの時、じゃんけんで決めたでしょ?」

海未「しかし、穂乃果は乗車券をにこに譲ったではありませんか」

穂乃果「私はやりたいようにやっただけ、だからこうやって札幌まで来たんだよ」

海未「……私ではなく、穂乃果なら」

穂乃果「昨日言ってたじゃない、期待が膨らむって」

海未「ですが……」

穂乃果「ほら、乗っちゃったほうが早いよっ、さぁ、乗った乗った」グイグイ

海未「お、押さないでください穂乃果っ」

穂乃果「あんこより生むが易しっていうでしょ」

海未「いいません」

穂乃果「それではっ、海未二等兵に敬礼っ」ビシッ

海未「変な見送りは止めてください」

花陽「そ、それじゃあ」

穂乃果「あ、そうだ! やってみたかったことがあるんだ~、うみちゃん早く客車に行ってよ!」

海未「?」


―― 1号客車


コンコン


真姫「?」

にこ「なに?」





穂乃果「開けて~」





にこ「この窓、どうやって開くのよ?」

真姫「……開かないわよ」





穂乃果「あ、そっか……特急だもんね」

花陽「ほ、穂乃果ちゃん……?」





真姫「どうしたの?」

にこ「なにか言い忘れたことでもあるの?」





穂乃果「そういうんじゃないんだけどねー」

花陽「……?」





海未「……なにを企んでいるのですか」

にこ「企む?」

真姫「……?」





穂乃果「うっしっしー、テレビドラマでよくやってたでしょー?」





海未「ま、まさか……」

にこ「?」

真姫「嫌な予感……」




prrrrrrr


穂乃果「あ、発車のベルだ」

花陽「そ、それじゃ、青森で」フリフリ





にこ「それじゃあね」フリフリ

真姫「……」

海未「やめてください、穂乃果」


プシュー


ガタン ゴトン





穂乃果「私……ずっと待ってるからぁ!」





にこ「……」

真姫「……」

海未「……やはり」





穂乃果「ずっと、ずっと待ってるからねぇ!!」





にこ「ほ、穂乃果……ぐすっ」

真姫「うわ、感染してる……」

海未「並走は危険なんですよ、穂乃果!」


ガタン

 ゴトン 




穂乃果「私のこと、忘れないでねぇ!」





にこ「穂乃果ぁ! 必ず帰ってくるからねぇ!」


真姫「なにごっこなのよ」

海未「引き裂かれる恋人同士という設定なのでしょう」






穂乃果「約束っ! 約束だからぁ!」





にこ「絶対っ……絶対に!」





穂乃果「あ、梓ちゃんだ、バイバーイ!」フリフリ





にこ「ちょっと!? 途中で止めるんじゃないわよ!」

真姫海未「「 アズサ? 」」


ガタンゴトン

 ガタンゴトン


車掌「コホン」

にこ「……あ」


―― 車掌室


車掌「ご友人の方にも伝えておいてください」

にこ「……はい、すいませんでした」

車掌「注意事項は以上となりますので」

にこ「……はい、失礼します」


ガチャ


にこ「お騒がせしました」ペコリ


バタン



星奈「怒られた?」

にこ「注意だけ……。穂乃果のせいよ……まったく」

星奈「いやぁ、楽しそうに見えたけどね~」

にこ「み、見てたの?」

星奈「私も1号車にいたからね、面白かったよ、くっくっく」


―― 売店車


にこ「よく考えると恥ずかしいわね……客車に戻りにくいわ……」

星奈「みんな笑ってたよ、だから大丈夫だって」

にこ「……うぅっ」

星奈「一流のエンターテイナーとして仕事は果たしてるんだから、胸を張ってもいいと思うよ」

にこ「アイドルよっ」

星奈「人を楽しませるなら、同じじゃないの?」

にこ「全然違うわ……いい、星奈」

星奈「……うん」

にこ「アイドルというのは、人を元気にさせる仕事なの。
    歌って踊って輝いて、人を魅了する仕事なの!」

星奈「……はい」

にこ「私もああなりたいって、憧れの対象になるべき存在なのよ! エンターテイナーとは違うの、分かった!?」

星奈「わかりました」

にこ「まったく」

星奈「でも、エンターテイナーも人を笑わせて元気にするよね」

にこ「あんたが言ってるのはお笑い芸人の要素が強いでしょ」

星奈「なるほど、勉強になりました」

にこ「ほら、見て、星奈……」

星奈「?」

にこ「車窓から見える夕陽……なんて綺麗なの」キラキラ


店員「いらっしゃいませぇ」

星奈「青森の観光ガイドを一つ」

にこ「アイドルを無視しないでっ!?」

星奈「あ、二つで」

店員「かしこまりましたぁ~」


―― 1号車


にこ「青森は今、ねぶた祭りが開催中なのね……ふむふむ」

星奈「……あ、みらいちゃんだ」


みらい「君はどこまでいくのかな!?」

亮太「行ける所まで行ってみようかなって思います」

みらい「それじゃ、終点まで? すっごいな~、そんな君をみらいは応援しちゃうぞ!」

亮太「あ、ありがとう……」

みらい「みらいが応援してあげるんだから、もっと喜んでくれなきゃ困るな~」

亮太「よ、喜んでるよ、嬉しいなぁ」

みらい「あはは! そうだよね!」


星奈「亮太のヤツ、しどろもどろだ……くっくっく」

にこ「……」

星奈「にこ……?」

にこ「私の言うアイドルと対極にあるのよ……飯山みらいは」スッ

星奈「……どこいくの?」

にこ「個室よ」

星奈「……」


ディレクター「はい、おっけ~」

亮太「……ふぅ」

みらい「あの、ありがとうございました」ペコリ

亮太「……いや、これくらい」

星奈「どうってことなかった、って~? 緊張しまくりの亮太くんが~?」

亮太「う、うるさい……」

みらい「……?」

星奈「私は山口星奈、よろしく~」

みらい「わ、私は――」

星奈「飯山みらいでしょ、知ってるよん」

みらい「……」

海未「……」コソコソ

星奈「ところで、海未ちゃんはなにをしてるの?」

真姫「撮影が終わるまで隠れてたのよ……隠れてなかったけど」

海未「お、終わりましたか?」コソコソ

星奈「テレビに映るの恥ずかしいんだ?」

海未「ぜ、全国放送なんですよ、当然です!」

真姫「にこは?」

星奈「個室に戻ったよ」

真姫「……個室…ね」


D「みらいちゃん、次いくよ~」

みらい「それでは、海未さん、亮太さん、失礼します」ペコリ

亮太「うん……頑張ってね」

海未「そ、それでは撮影頑張ってください……」

みらい「はい!」

真姫「……?」

星奈「二人ともみらいちゃんと知り合いなの?」

亮太「大通公園でとうもろこしを食べた仲だから」

海未「……ふぅ」

星奈「おー? 亮太も隅におけないですな~?」コノコノ

亮太「そんなんじゃないっての……それより、みらいちゃんをどう思う?」

真姫「?」

星奈「どうって?」

亮太「ほら、撮影中とさっきとじゃ雰囲気が違ってただろ?」

星奈「そういえばそうだね。札幌駅のイベント見てたけど、別人のようだった」

海未「……」

星奈「でも、キャラ作りでしょ?」

亮太「……うん」

星奈「アイドルは大変だなぁって……それくらいかな」

亮太「そうか……」

星奈「キャラ作りしてるのは、にこも一緒だよね~」

海未「……ふふっ、そうですね」

真姫「……」



ガタンゴトン


―― にこの個室


 ガタンゴトン


にこ「……」


コンコン


にこ「はい」

「……私」


ガチャ


にこ「……なにか用事?」

真姫「用ってわけじゃないけど……どうして個室に篭ってるのよ」

にこ「疲れたから休んでいただけよ」

真姫「これくらいで疲れるなんて……体力トレーニングさぼってたのね」

にこ「ちゃんとやってるわよ、今だって鉄アレイでトレーニングしてたんだから」

真姫「……」

にこ「……?」

真姫「様子を見に来ただけだから、それじゃ」

スタスタ


にこ「……」


ガタンゴトン


海未「次は私と話をしませんか?」

にこ「……」


―― 展望車


「ゆうくん見て……夕陽が綺麗」イチャ

ゆう「弘子……君も綺麗だよ」イチャ

弘子「ありがとう、ゆうくん……!」ラブ

ゆう「お礼なんていらないよ、弘子……!」ラブ

みらい「ゆうさん……私より彼女を……?」

ゆう「え?」

弘子「?」

みらい「ずっと私と一緒にいるって……約束をしたのに」

ゆう「……ええ?」

弘子「そ、そんな……!?」

みらい「私のところへ戻ってきて、ゆうさん……!」

ゆう「ええぇ……?」

弘子「わ、私がアイドルに勝てるわけ無い……!」ガタ

ゆう「弘子、そんなんじゃないよ!」

弘子「鼻の下伸ばしてるじゃない……! さようなら……ゆうくん……!」

タッタッタ


ゆう「弘子ぉぉーー!!」

みらい「やっと二人きりになれましたね……なんちゃって」テヘッ


D「はいカット~、面白い画が撮れたよ~」

「んっふっふっふ」

みらい「あ、あの、私……少し失礼します」

「どこへ行く、みらい」

みらい「……」


―― にこの個室


にこ「飯山みらいは好きじゃない」

海未「……」

にこ「はちゃめちゃな言動が売りだってのは分かるけど、人を巻き込んで迷惑をかけてるのが嫌なの」

海未「ですが……」

にこ「テレビの演出だってことを承知の上で言ってるのよ」

海未「……」

にこ「周りを盛り上げるためとはいっても、相手に嫌な思いをさせてる」

海未「……」

にこ「アイドルってそういうのじゃないでしょ……」

海未「……」

にこ「そういうのじゃ……」

海未「にこ……」

にこ「……シャワー浴びてくるから」

海未「はい……」


ガチャ

 バタン


海未(結局、何も言えませんでした……)


海未(にこは……本当の飯山みらいを知っているのでしょうか……)

スタスタスタ




「まるで子供のようやな――」



星奈「――にこっち」


―― 売店車・シャワー室


弘子「あの子が謝りに来てくれたの……」イチャ

ゆう「信じてくれるかい、僕は弘子しか見ていないんだ」イチャ

弘子「ゆうくん……!」ラブ

ゆう「弘子……!」ラブ

スタスタ


にこ「ふぅー、サッパリしたぁー」

星奈「お、おっす」

にこ「どうしたのよ、顔を赤くして……?」

星奈「い、いやぁ、さっきのカップル見てたらなんだか恥ずかしくなっちゃって」

にこ「あれくらいなら、そこら中にいるでしょ」

星奈「そ、そうなの?」

にこ「星奈って……」

星奈「?」

にこ「見かけによらずウヴなのねぇ……プフッ」

星奈「……」スッ

にこ「な、なに?」

星奈「髪を結ってあげる」スィスィ

にこ「そ、そう? 悪いわね」

星奈「綺麗だね、にこの髪~」スィスィ

にこ「当然でしょ、アイドルなんだから」フフン

星奈「よーし、できたー」

にこ「……あれ? ツインテールじゃないの?」

星奈「たまにはポニーもいいんじゃない? おぉ、カワイイ!」

にこ「そうね……たまには気分を変えるのも悪くないわ」


―― 3号車


星奈「ここにいたんだ、君たち」

海未「はい、沈む夕陽を眺めていました」

にこ「にっこにっこにー♪」

真姫「え……?」

にこ「どう? いつもと違った……わ・た・し」

海未「た、確かにいつもと違いますが」

にこ「イメチェンで可愛さアップのにこにー♪」

星奈「プクク……」

亮太「みんな集まって何を――……!」

にこ「ふふ、私の新しい魅力に異性もたじたじね~」

亮太「星奈、人で遊ぶのやめろよ!」

星奈「あっはっは!」

にこ「え?」

真姫「ぷふっ」

海未「にこ……自分がいま、どんな髪型をしているのか、分かっているのですか?」

にこ「ポニーじゃないの……? あれ……なによこの形?」

海未「ちょん髷です」

にこ「え?」

海未「お相撲さんのあれです」

にこ「チョンマゲ?」

星奈「あっはっは、くるしー!」

亮太「バカっ……失礼だろ……ブフッ」

真姫「……っ」フルフル

にこ「道理で……すれ違う人たちが優しい顔をするわけだわ!」

星奈「あぁ、駄目だよ、似合ってるのに解いちゃ」

にこ「うるさいわよッ!」フカー!

真姫「よくあれだけの髪の量をまとめられたわね」

星奈「妹によく実験してるからね~」

にこ「とんでもない姉ね、まったく」

星奈「喜んでくれるよ? さっきのにこみたいに」

にこ「喜んでないわよ」バサッ

星奈「あーぁ、解いちゃった」

海未「あ……!」サッ

真姫「な、なに?」

海未「隠してください」

みらい「みんな元気してる? みらいだよっ!」


カメラマン「……」ジー

にこ「……」

みらい「なんだか楽しそうだったけど、何の話をしていたのかな~?」

星奈「チョンマゲの話をしていたのだ」

みらい「ちょんまげ? お相撲さんの髪型だよね?」

星奈「そうそう、それを女の子がしていたらどうなるか、っていう実験をしてたのだー」

みらい「それは楽しそうなのだー! その女の子はどこにいるのかなー?」

にこ「……」

海未(にこ……)

真姫「……」

みらい「うん?」

星奈「残念、一足遅かったようだ」

亮太「みらいちゃんが来る前に隣の車両に行ってしまった」

みらい「そっか~、残念~」

星奈「だが安心したまえ、次は亮太がチョンマゲをする番なのだー」

みらい「おぉ、それはいいですなー!」

亮太「いや、なにがいいんだ……男のチョンマゲとか……」

みらい「こうやって~」グイッ

星奈「こうやれば~って、髪の長さが足りないよ」グイグイ

亮太「いてて……当たり前だろっ…力士は長髪なんだからっ」

星奈「ほら、早く伸ばしてよ」

亮太「できるかっ」

D「はい、カットー、次いくよ~」

みらい「……はい。……お騒がせしましたっ」ペコリ

にこ「……?」

海未「……」

星奈「気にしない気にしない、仕事でしょ?」

亮太「うん」

みらい「そう言っていただけると……助かります」

亮太「……おい、いつまで引っ張っているんだよ?」

星奈「あ、ごめんごめん、引っ張り続けたら伸びるかなって」

亮太「伸びねえよ!」

みらい「ふふ……」

にこ「…………」

海未「……ふぅ」

みらい「すいません海未さん、いつも突然で」

海未「い、いえ……星奈さんの言うとおり、お仕事ですから……」


みらい「海未さんが言っていたお友達の方……ですよね?」

海未「はい、私の一つ上の矢澤にこ」

にこ「……」

海未「一つ下の西木野真姫です」

真姫「どうも」

みらい「飯山みらいといいます、よろしくお願いします」ペコリ

にこ「……」

「んっふふふふふふふ…」

亮太「なんだ、この気持ちの悪い笑い声は……」

「ずいぶん楽しんでいるようだね……みらい」

みらい「あっ……」

亮太「な、なんだおまえは……」

「僕は、みらいのマネージャーをしている望月将人。ファンならファンらしく節度を持って欲しいんだよ」

亮太「……」

将人「言ってる意味ぐらい分かるだろ?」

にこ「……」

将人「さぁ、次だ。行くぞみらい」

みらい「はい……私仕事がありますのでこれで失礼します」ペコリ

スタスタスタ


真姫「……なによ、あれ」

海未「……」

亮太「あのマネージャー……俺にだけ言ってたよな……」

星奈「当然でしょ、男はアンタだけなんだから」

亮太「そうか……俺はみらいちゃんのファンだったのか……」

にこ「星奈、あの山はなんていうの?」

星奈「羊蹄山だよ」

海未「……凄いですね、突然山が現れました」

真姫「夕陽に照らされてるわね」

海未「幻想的です」

星奈「……」

亮太「……」

スタスタスタ


にこ「……」


ガタンゴトン

 ガタンゴトン


―― 函館駅


にこ「もっと、気持ちを分かりあいたくて~」

海未「隣にいる君いつでも、一緒にいるから~」

真姫「……」

にこ「真姫」

真姫「わ、分かったわよ……」


にこ「胸弾むwonderful stage 僕が~」

海未「目指すのは綺麗な 遥か遠くの虹 だから~」

真姫「さぁ、出発だよ~♪」



wonderful!



「なにをしているんでしょうか……?」

「……綺麗な声」

星奈「歌の練習だって」

「にゃっ!?」

星奈「毎日欠かさずやってるみたいよ?」

「そ、そうですか……びっくりさせないでください」

星奈「二人で覗き見?」

「違います。様子を伺っているだけです」

「素敵ね。思い切って話しかけてこようかしら?」

「練習中ですよ」

「……そうね、我慢しなくちゃ!」フンス!

星奈「……結構本格的なんだね」

「星奈さん、あのグループと仲がいいですよね」

星奈「まぁね~」

「ラップ?」


WOW! どうしようか? Dreams Come True

突然 Let's Go! three,two,one,ZERO!!

ハイハイ Super jump! oh yeah, Super jump!!

Life is wonder まだまだ Let's go!!

ハイハイ Super jump! oh yeah, Super jump!!

Life is wonder Wonder ful Rush ハイ!


海未「もっと、近くで~……」

真姫「……三人だと、パート別けに限界があるわね」

にこ「……くっ」ガクッ



「……あ、膝をつきました」

「体調が悪いのかしら!?」

星奈「違うと思う」



にこ「どうするの、にこっ、こんなことじゃトップへなんて夢のまた夢よっっ」

海未「すいません、私が止めてしまったせいで……」

にこ「いいのよっ、海未は頑張ってくれているんだからっ」

真姫「……なに、この三文芝居」

にこ「三文芝居っていうな!」



星奈「にこは少し熱血だからね……うんうん」

「なにを納得しているんですか」

「私たちがバック演奏なんてしたら、面白いと思う!」

「無理です」

「しょぼん」

「あ、あぁ……えっと、まだ話もしてないじゃないですか、今はまだ他人ですから、しょうがないです」

「そうよね……」

「穂乃果の友達ということですけど……なんとなく大変なことになりそうなので……慎重に行きましょう」

「……そうなの?」

「……はい」ゴクリ

星奈「札幌駅のアレは忘れられないよね」

「突然声をかけられてびっくりですよ、危険な匂いがするんです……あの人たち」

「私、にこちゃんと何度か話をしてるのよ?」

「え、いつの間に?」

「旭川駅とか、ラーメン横丁とか」

「……そうだったんですか」



prrrrrrr


にこ「時間ね、さぁ、乗り込むわよっ」

海未「はい」

真姫「……ふぅ」


―― 娯楽車


真姫「……」キョロキョロ

店員「遊んでいかれますか?」

真姫「……いえ、……人を探しているんだけど」

店員「どなたをお探しでしょう」

真姫「……山口…星奈って人」

店員「星奈さんですか……」

真姫(名前を覚えられてる……)

店員「少し遊んで行かれて……それっきりですね」

真姫「……そう」

店員「失礼します」ペコリ

真姫「……まぁ、いいか」


―― 食堂車


星奈「うまうま」

真姫「な、なんでぇ」ズルッ

星奈「真姫がずっこけた」モグモグ

真姫「ど、どうしてここにいるのよ!」

星奈「え?」

真姫「列車の端から端まで探したのにっ」

星奈「私をですかい?」

真姫「そ、そうよ、……どこに隠れてたの?」

星奈「厨房にいたんだよん。料理長に頼んでポテチを作らせて貰ってた」

真姫「道理で見つからないわけね……ポテチ……?」

星奈「ほら、真姫も座って」

真姫「……」

星奈「どうして私を探してたの?」

真姫「そのうち分かるわ」

星奈「……?」


海未「真姫、星奈さんは……あ、いました」

にこ「なんでここにいるのぉ」ズルッ

星奈「にこがずっこけた」モグモグ


にこ「列車の端から端まであんたを――」

真姫「厨房にいたそうよ」

にこ「……どういうことよ?」

真姫「このポテチの山、星奈が厨房を借りて作ったって」

海未「こんなにたくさん……」

星奈「冷めたらみんなに配ろうかなって思っててさ~、我慢できなくて先に食べちゃった、あはは」

にこ「骨折り損のくたびれもうけね」

星奈「私を探していたんでしょ?」モグモグ

海未「一緒に食事でも、と思ったのですが」

星奈「私を気にせず食べていいよ、どうぞどうぞ」

にこ「そうもいかないのよね」

海未「星奈さんの協力が必要なんです」

星奈「?」

真姫「区間限定のスペシャル料理、4名2組までしか出せないらしいのよ」

星奈「……なるほどぉ」

にこ「一緒に食べてくれるわよね?」

星奈「うん、いいよ」

真姫「そのポテチはどうするの?」

星奈「乗客のみんなに分けるから気にしないで」

海未「……それでは、店員さんを呼びましょう」

真姫「祈願達成ね」

海未「すいません!」

店員「は~い、ご注文はお決まりですか?」

海未「限定のジンギスカンをお願いします!」


……



海未「これがジンギスカン……」


ジュー

 ジュー


にこ「星奈遅いわね……」

真姫「……」

星奈「おまたせ~、うわーっ、おいしそー!」

にこ「全部捌けたの?」

星奈「うん、みんな喜んで食べてくれた。……じゅるり」

真姫「顔広いわよね」

星奈「そうかな? 早くいただきますしようよ」

にこ「私なんて……星奈の他に一人しか知らないのに……」

海未「それでは、いただきます」

星奈「いっただきまーす」パクッ

海未「……! これは……!」

星奈「なにこれ、すっごくおいし~!」

にこ「思った以上に柔らかいのね……おいしいわ」

真姫「あ……トンネルに入った」


ガタンゴトン

 ガタンゴトン


……



海未「ごちそうさまでした」

真姫「まだ残ってるけど?」

海未「さすがにこれ以上は……」

にこ「大丈夫、大丈夫、私が食べちゃうから」

星奈「……」ヒョイ

にこ「あ、それ私のお肉よ!」

星奈「早い者勝ち~……もぐもぐ」

にこ「星奈の周りにもやしを固めておくわ……立派な作戦よ」ススッ

星奈「わざわざご苦労様~」ヒョイ

にこ「あ、だから私のお肉だって言ってるでしょ!」

星奈「タレが利いてておいしい~」

にこ「まったく……お肉の上にキャベツを被せて……これで気付かないわ……フフフ」

真姫「……」ヒョイ

にこ「ちょっと、なにすんのよ!?」

真姫「これがジンギスカンの食べ方なんじゃないの?」

にこ「ちがうわよ! 隠してあったの!」

真姫「あ、そう……キャベツと一緒に食べるものだと思ってたから」

海未「……」

にこ「敵も味方もいない過酷なサバイバルだったのね……」

星奈「ほら、にこの分焼いておいたよ」

にこ「気が利くわね、それじゃさっそく……」

海未「……」ヒョイ

星奈にこ「「 あ…… 」」

海未「もぐもぐ……?」

真姫「ごちそうさま、したでしょ?」

海未「みんなが食べているのを見ていたら……箸が伸びてしまいました」

にこ「このお肉、私の! 私のお肉なんだから!! 分かった!!?」

真姫「凄い気迫……」

にこ「お肉……お肉……」ガルルル

星奈「飢えた肉食獣みたいになってる……」

海未「ここは下手に動かないほうがよさそうです……」

真姫「走る列車で鉄板料理なんて、よく考えたら凄いわね」

海未「そうですね……滅多に味わえない体験で、楽しいです」


星奈「ほら、焼けたみたいだよ、にこ」

にこ「――ッ」シュッ

星奈「はやっ」

真姫「誰も取らないわよ」

海未「先ほど、取ってしまいましたが」

亮太「飢えた狼の群れに放たれた羊か……」

星奈「お、亮太のくせに巧いこというじゃん!」ドスッ

亮太「うぐ……」

真姫「肘が綺麗に入ったみたいだけど、大丈夫?」

亮太「アバラが2,3本といったところか……」

真姫「大丈夫みたいね」

にこ「おいひぃ~」


……




店員「ありがとうございました~」

星奈「はぁー、おいしかった、それじゃまた誘ってね~」

スタスタ


にこ「……」

海未「さて、私たちはどうしましょうか」

真姫「個室で休んでくる」

海未「にこはどうします?」

にこ「星奈を尾けるわ」

真姫「そんなことしてどうするの?」

にこ「ただの暇つぶしよ」

スタスタ


海未「私はどうしましょうか……」


―― 展望車


星奈「うわー、綺麗に描けてるね~」

「せ、星奈さん……」

星奈「あはは、ごめんごめん、驚かせちゃって」

「い、いえ……」

星奈「それ、羊が丘展望台でしょ?」

「そうです……少し手を加えているんです……」

星奈「雰囲気が絵に表れてるよ、うんうん」

「そ、そうですか? そう言ってくれると……嬉しいです」

星奈「絵心の無い私が言ってもしょうがないけどね~、あっはっはー」

「そんなことありませんよ、褒めてくださるのは、なんであっても嬉しいものですから」

星奈「そういうものかな?」

「ふふ」



にこ「画家の卵ね……」




―― 4号車


「あー、星奈さんだー!」

星奈「おいっすー、なにしてんの?」

「意味も無くフラフラとしてただけ……そうだ、お兄ちゃんみなかった?」

星奈「アイツか……食堂車かな……」

「ありがとー、それじゃ行ってくるね!」

星奈「うん、走っちゃ危ないよー」


「はーい」


にこ「……」

「ふんふふーん♪」

テッテッテ


にこ「あの子……中学生よね?」



―― 2号車


「あ、星奈さん、ちょうど良かったです」

星奈「ん?」

「娯楽車で遊びませんか?」

星奈「お、いいねー」

「それじゃ行きましょう」

星奈「あ、待って……少し運動してからにするよ」

「運動?」

星奈「晩ご飯、食べすぎちゃってね……動力車まで散歩してんの。後で行くから」

「分かりました。それでは後で」

星奈「はいよん」


にこ(私と同じ髪型……たしか、あの人の後輩だったわね)

「……」ジー

にこ「……?」

「……」

スタスタスタ


にこ「なんなのよ……?」

星奈「変な格好をしてるなーって思ったんじゃない?」

にこ「この姿は変装なのよ、普段のオーラを出してると星奈に気付かれちゃうから」

星奈「ふーん……その星奈って人に気付かれないようにしてる理由はなんなの?」

にこ「観察してるだけよ、邪魔しないで……って…」

星奈「……」

にこ「違うわよ」

星奈「なにが?」

にこ「……」

星奈「どうして私を観察していたんでしょう?」

にこ「にっこにっこに~? 用事を思い出したから失礼するにこ~♪」

星奈「逃がすとお思いか?」ガシッ

にこ「う……」

星奈「何を企んでおる、お主」

にこ「ただ、見てただけ……」

星奈「見てた? よく分からないことしてるね」


みらい「こんばんは」


星奈「あ、みらいちゃん」

にこ「……」


みらい「そろそろ青森に着くみたいですよ、トンネルを抜けましたから」

星奈「本当だ……外の景色になってるね~。……今は撮影中じゃないんだね」

みらい「……はい、今日の分は撮り終えたので」

星奈「そっかそっか、お疲れさま」

みらい「ありがとうございます」ニコ

にこ「……」

みらい「矢澤にこさん……ですよね」

にこ「……そうよ」

みらい「海未さんから話は伺っています、短い間ですけどよろしくお願いします」

にこ「……」

みらい「……」

星奈「挨拶してるのに、無視はないんじゃない?」

にこ「……よろしく」

みらい「……」

にこ「……ふん」ツーン

スタスタ


星奈「――」

みらい「……嫌われてしまいましたね」

星奈「どうやろ」

みらい「え?」

星奈「なかなか素直になれないようやね――にこっち」


―― 海未の個室


海未(ねぶた祭り……迫力があるということですが、見物客が多いのでしょうね……)


コンコン


海未「はい」

「青森に着くわよー」

海未「分かりました」

「ホームで待ってるからねー」


ガタンゴトン

 ガタンゴトン


海未(降りる準備をしますか……)



ガタンゴトン


ガタン  


 ゴトン


プシュー


にこ「よっ」ピョン

シュタッ

にこ「青森、到着!」

真姫「これから観光にいくつもり?」

にこ「ねぶたを一目でも見ておきたいじゃない」

真姫「……きっと人がたくさんいるわよ?」

にこ「そんなの、東京と変わらないでしょ」

真姫「……」

にこ「海未が降りてこないわね……」

真姫(ヴェガから乗客が降りてくる……)


「どこいくー?」

「やっぱりねぶたでしょー」

ゆう「弘子……」

弘子「ゆうくん……」

「……」


ガヤガヤ


真姫「色んな人が乗っているのね……」

にこ「なによ、今更」

真姫「ただ、なんとなくよ」

にこ「そうだ……穂乃果たちが到着する時間、車掌さんに確認してくるわね」

真姫「メールした方が早いんじゃないの?」

にこ「そうなんだけど、何か引っかかるのよね」

真姫「……引っかかるって?」

にこ「よく分からないんだけど、少し待ってなさい」

テッテッテ


海未「にこの勘は当たっているかもしれません」

真姫「どういうこと?」

海未「穂乃果はまだ何かを企んでいるようでしたから」

真姫「そういえば……札幌駅で何か話をしていたわね」

海未「……困ったものです」

真姫「何か企んでいるって知っていれば心構えもできるし、問題ないわ」

海未「それはそうですが、いつもいつも――……なんて、いない相手の愚痴を溢しても仕方ありませんね」

真姫「そうね」

海未「明日、どこへ行くのか考えていますか?」

真姫「竜飛岬とか……その辺」

海未「意外ですね」

真姫「そう?」

海未「ベイブリッジへ行くのだと――」


「ウチは――恐山やね」


真姫海未「「 っ!? 」」ビクッ

星奈「スピリチュアルな場所やと聞いてるから」

真姫「せ、星奈……!?」

海未「な、なんなのですか、今のは……!?」

星奈「ウチ、おかしなこと言うた?」

真姫「えぇ!?」

海未「な、ななな!?」

にこ「穂乃果たちは深夜に到着するって……どうしたの?」

星奈「ふふ♪」

海未「せ、せせせ星奈さんに……!」

真姫「あの人の霊が憑いた……!?」

星奈「――」

にこ「霊って……お化けよね!?」

星奈「ん……んん?」

にこ「夜にそんな話するのやめなさいよっ!」

星奈「あれ……? なに……今の?」

海未「星奈さん……?」

星奈「なんだか……意識がボーっとしてて……んん?」

真姫「へ、変な冗談はやめて!」

星奈「なんで真姫に怒られてるの……」

亮太「……みんな顔色が悪いけど……どうしたの?」

にこ「にに、にっこにっこにー♪ にこにーのキュートな笑顔で悪霊退散にこっ♪」

星奈「お、アイドルっぽくていいね」

にこ「アイドルなのっ!」


海未「聞き間違いなのです」

真姫「そ、そうね……そういうことにしとくわ」

星奈「ん~……なんか、体がダルい……」

亮太「おい星奈、現地集合はどうなった?」

星奈「あぁ、うん……分かってるって、今から向かう」

亮太「乗客の人たちと遊びに行くんだけど、みんなも一緒にどう?」

にこ「にこ?」

亮太「新町通りで、ねぶた見物」

海未「やはり、避けては通れませんね……ねぶた祭り」

真姫「私はどっちでもいいけど」

にこ「どうしよっかなー? にこ忙しいしぃ」

星奈「体が重くて、しんどい……行くのやめようかな」

亮太「いや、企画者だろ、星奈」

星奈「亮太がカキ氷奢ってくれるなら行くにこっ♪」

にこ「ちょっと、パクらないでくれる?」


―― 新町通り


「本当に、ここへ来ているの……?」

「う、うん……穂乃果ちゃんが言ってたから」

「駅で待っていたほうが良かったんじゃない?」

「でも……ほら、ここで会ったら運命的だと思うから」

「ふふ……しょうがないわね」

「えへへ」


ドンッ


「きゃっ」

亮太「あ、すいません!」

「い、いえ……こっちも余所見をしていましたから」


「こらー、亮太ー! 目を離したらすぐにナンパかー!」

「お兄ちゃん!?」


亮太「ちげえよ! 前方不注意でした、これから気をつけます、すいませんでした」ペコペコ

「い、いえ……こちらこそ」ペコリ

「……」


「早くカキ氷を買って来るにこ~♪」

「パクるのやめなさいってば!」

亮太「星奈おまえ……!」

タッタッタ


「今の……」

「にこの声よね」

「あの人に付いて行けば会えるんじゃないかな!?」

「えぇ、きっとね」

「あ、あのー! すいませーん!」

「……人ごみに紛れちゃったわね」


「……」


「あ、いた! にこちゃん!」

「え?」

「ほら、あそこ!」

「あ、本当……」

「にこちゃーん! にこちゃーん!!」

「雰囲気が違うような気もするけど……」


ガヤガヤ


「……」


 ザワザワ


「この距離が遠いっ……!」

「この人だかり……届きそうで届かないわね」

「人が私たちの距離を遠ざけていくの……! 今のどうかな……次の歌詞に使えないかな!?」

「それは後で考えましょう、ことり」

ことり「そ、そうだね……にこちゃーん!」


「……」


ことり「にこ……ちゃん! もうちょっと!!」


「……」


ことり「にこちゃん、捉まえたー!」クイッ

「……?」

ことり「あ、あれ?」

「なんですか……?」

ことり「すいません、人違いでした」ペコリ

「またですか……」

ことり「すいませぇん……」ションボリ

「ことり!」

ことり「絵里ちゃん……」

絵里「にこ……じゃなかったのね」

ことり「うん……」

「……」ジー

絵里「すいません、私たち人を探していて、後姿が似ていたので間違えてしまいました」

ことり「ごめんなしゃい」

「ひょっとして、穂乃果の知り合いなんじゃないですか?」

ことり「え、穂乃果ちゃんを知っているんですか?」

「……やっぱり……危険な匂いがする」

絵里「危険な匂い?」

「昨日、穂乃果にも同じように間違えられましたから……同じ髪型をしているって理由で」

ことり「あは…は……穂乃果ちゃんも間違えたんだ……」


「……」ジー

絵里「穂乃果を知っているってことは……あなたもヴェガの乗客……?」

「そうです」

絵里「それなら、矢澤にこ、園田海未、西木野真姫をご存知ですよね」

「いいえ、知りません」

ことり「穂乃果ちゃんを知っているのに?」

「乗車しているのは確認済みですけど、話をしていないので」

絵里ことり「「 ??? 」」


真姫「あれ? ことりに…絵里……?」

絵里「あ……」

ことり「あ……」

真姫「えぇ!? どうしてこんなところにいるの!?」

海未「どうしたのですか、そんなに驚いて……?」

絵里「出会えたわね」

ことり「うん!」

海未「なるほど、穂乃果の企みはこれだったのですか」


「あずさちゃ~ん!」


「!」サッ

ことり「ごめんなさい、探していた人、見つかっ――あれ?」

絵里「消えた……?」

ことり「そんな!? さっきまでここに居たんだよ!?」

絵里「はらしょー……」


星奈「カキ氷を食べると頭がキーンってするよね~!」キーン

にこ「くぅ~! こういうのたまんないわ~!」キーン

亮太「人にたかりやがって……」

ことり「あ……さっきの」

亮太「え?」

ことり「さっきぶつかったんですけど、覚えていませんか?」

亮太「……うん?」

星奈「こんな美少女にぶつかって覚えていないって、どれだけ失礼なんでしょう、罰として頭キーンの刑!」

亮太「ばっ……やめろっ、無茶すんなッ」

星奈「ほら、口をあけて」グイッ

亮太「やめ――」

星奈「ザァーっと氷を流し込む」

ザァー

亮太「んぐ――!?」


にこ「あれ? ことりと絵里じゃない、二人も来てたのね」

ことり「あ、あれぇ……?」

絵里「もっと驚いてくれるものだと思っていたけど」

にこ「穂乃果の仕込みが足りないのよ…………くぅ~!」キーン

絵里「驚いてくれたのは真姫だけ……ね」

真姫「べ、別に驚いてなんか……!」

星奈「真姫も食べる? カキ氷」

真姫「会話の途中に話しかけないでっ」

星奈「はい、どうぞ」

真姫「話を聞きなさいよ、まったくぅ。……私も絵里たちが来るの予想してたけど……ぱく」

ことり「驚かせようと思って、ずっと内緒にしてたんだけどなぁ」

絵里「1ヶ月の苦労が水の泡ね」

真姫「ふん、残念だったわね…………くっ」キーン

海未「あの日からすぐ計画していたんですね……」

亮太「――」キー--ン

星奈「ほら、亮太、うずくまっていないで立って……邪魔になってるよ」グイッ

亮太「おまえが……無理やり食べさせるから……頭いたい……」

星奈「温かいものでも食べれば治るって」

亮太「聞いたことねえよ……」

星奈「ほら、行くよ、みんな待ってるんだから」

亮太「色んな人にぶつかって平謝りしてるんだから、覚えてるわけ無いだろ」

星奈「何の話?」

亮太「……もういい」

星奈「じゃあ、後でね~」

スタスタスタ


ことり「……」

絵里「……」

真姫「どうしたのよ、星奈は」

にこ「私たちに気を遣ったんじゃない?」

海未「そうですね。ゆっくり話が出来るようにしてくれたのでしょう」

ことり「ほぇー……」

絵里「……」

にこ「なに?」

ことり「楽しんでるんだなぁって思ったの!」

絵里「……うん」

海未「……そうですね、それは間違いないです」

にこ「それじゃ、時間まで見物して行きましょ」

絵里「えぇ、そうね」

真姫「……っ」キーン


―― ヴェガ


ことり「穂乃果ちゃんは明日?」

海未「えぇ、そうなります」

ことり「そっかぁ、明日かぁ」

海未「ことりも駅近くにあるビジネスホテルに泊まるのですか?」

ことり「うん、あまり贅沢はできないから」

海未「そうですか……」

ことり「泊まるところを節約して、食事は海未ちゃんたちと豪勢にしようって」

海未「ことり……」

ことり「少し変わった旅行だけど、楽しもうね海未ちゃん!」

海未「えぇ、大丈夫です。きっと、楽しい旅になります――」



――



みらい「 仮面を脱ぎ捨て 素顔の自分に出会うの 私は恐れを知らない
     過去には縛られずに 背を向け サヨナラと進む 私の軌跡  」


星奈「素敵な歌詞やん」


みらい「せ、星奈さん……!」

星奈「素敵な歌詞やのに、どうしてそう寂しそうなんやろな」

みらい「それは……」

星奈「思い入れのある曲なん?」

みらい「……はい。……私のデビュー曲なんです」

星奈「……」

みらい「あまり売れませんでしたけど」

星奈「せやけど、誰かの胸に届いて響いた曲かもしれんよ?」

みらい「……!」

星奈「……そんな寂しそうに歌ったら、そのファンはどう思うんやろね」

みらい「……ッ」

星奈「おやすみ……」

スタスタスタ


みらい「…………」


――


絵里「……」

星奈「……聞いてたの?」



2日目終了


               8月3日



真姫「星奈?」

絵里「えぇ」

真姫「どんな人かって……昨日、新町で見たとおりだけど」

絵里「……」

真姫「どうしてそんなことを聞くのよ?」

絵里「ちょっと、ね」

真姫「?」

ことり「いいのかな、私たちが利用しても……」

海未「停車中なら乗車証に関係なく誰でも利用できるようにと食堂車を開いているそうです。
   だから気にする必要ありませんよ」

ことり「そうなんだぁ~」


穂乃果「うはっ、寝坊したっ」

店員「いらっしゃいませ~」

花陽「ご、ごはんをお願いしますっ」

店員「か、かしこまりました~」

ことり「穂乃果ちゃん~!」

穂乃果「ことりちゃ~ん!」

にこ「朝から騒がしいわね……」

海未「……やれやれ、ですね」

星奈「更に増えてる?」

亮太「……本当だ」


星奈「混ざっちゃおう~♪」

亮太「……」スッ

星奈「どこへいく?」ガシッ

亮太「そ、外で食べて来るんだよ」

星奈「照れてるの?」ニヤリ

亮太「女性集団の中に男一人なのがちょっとな……」

星奈「みんなー、亮太がプリン奢ってくれるってー!」

穂乃果「え、本当!?」

ことり「そんな、悪いよー♪」

海未「いつも、ご迷惑をおかけしています」

真姫「遠慮なく」

花陽「炊きたて♪」

亮太「おいこら! 何人いると思ってるんだよ!?」

星奈「アイドル8人に、私……9名」

亮太「というか、恒例化しないでくれ」

にこ「なにを企んでいるの?」

亮太「なんか疑われてるし……」

星奈「一緒に食べよう、みらいちゃん」

みらい「は、はい……」

絵里「……」

海未(絵里の星奈さんへの視線が気になりますね……)


―― 青森駅前


ことり「南ことりです」

絵里「絢瀬絵里です」

穂乃果「高坂穂乃果です!」

花陽「小泉花陽……です」

海未「いえ、穂乃果と花陽は自己紹介しなくていいんです」

穂乃果「そうだよねー」

花陽「そ、そうなんですか?」

星奈「知ってるからね」

亮太「……いや、俺知らないんだけど」

穂乃果「鶴見さん、明日はゼリーをお願いします」

海未「穂乃果は少し遠慮を覚えてください」

亮太「予約された……」

にこ「あんた、これだけのアイドルに囲まれてどうして平然としていられるのよ」

亮太「……え?」

にこ「普通なら、緊張して巧く話ができなるはずよ。腑に落ちないわ」

亮太「……それは……そうだけど」

にこ「なるほどね……分かったわ……あんたの正体」

亮太「正体……?」

真姫「また妙なこと始めるんだから」

星奈「亮太の正体とは?」

にこ「男装した女の子なんでしょ!?」ビシッ

亮太「……」

海未「発想が飛躍しすぎです」

ことり穂乃果「「 えぇー!? 」」

海未「二人ともにこに合わせないでください」

にこ「おかしいと思ってたのよね。一緒にいても男性として意識できないし、
   あんただって私たちを女性として意識してなさそうだし」

亮太「……」

にこ「どうなの?」

亮太「確かに、学校の女友達にも『一緒にいて気が楽だ』と言われますけど」

にこ「ほぉら、私の推理が外れることはないのよ」

穂乃果「にこちゃん凄いよ!」

亮太「同時に男友達には『男として致命的だな』とも言われます」

にこ「……え」

亮太「異性として意識していない変わりに、異性として意識されないみたいで……はは」

にこ「あ、そう……そうなんだ……へぇ」

花陽「外れたね……推理」

にこ「た、たまには外れる事だってあるわよぉ」


星奈「でも、さっき『女性集団の中に男が一人でいたら~』って言ってたじゃん」

亮太「親友にもよく言われててさ……『周りの目を気にしたほうがいいよ』って」

星奈「ふぅん」

亮太「それで……よく周囲に誤解をさせてしまって…………というわけだ」

星奈「そっかそっか……」

海未(星奈さん、なにか引っかかることでもあるのでしょうか……?)

真姫「そんなことより観光、どうするの?」

にこ「そうよ! 夜には出発するんだから、さっさと行動するわよ!」

ことり「みんなでどこ行こう~」ワクワク

穂乃果「私はまだ、ねぶた観てないんだよ!」

花陽「わ、私も……観てない!」

星奈「夕方ごろにもう一度新町に行けばいいんじゃない?」

海未「そうですね、私ももう一度拝見したいと思っていましたから」

真姫「昨日みたいに、遠くから離れてみたら意味無いと思うけど」

海未「早めに行って場所を確保しておくのもありかもしれません」

穂乃果「そうだね、今からでも!」

ことり「それだと観光できないよ~」

絵里「星奈さん」

星奈「うん? なんでしょ?」

絵里「少し、話があるのですが」

星奈「……うん、いいよ」

穂乃果「話?」

絵里「後で追いかけるから、みんなは移動してて」

ことり「絵里ちゃん……?」

絵里「大した話じゃないから」

星奈「これはひょっとして、アレかな」

亮太「アレ?」

星奈「アイドルになりませんかって」

亮太「それはない」


……



絵里「貴重な時間を割いてもらって申し訳ありません」

星奈「いいよ、でも手短にお願いね」

絵里「はい。時間は取らせませんので……」

星奈「はいよん」

絵里「星奈さん、あなたは……私たちがアイドルグループとして活動していることをご存知ですよね」

星奈「うん、知ってる。スクールアイドルだよね」

絵里「そのメンバーは分かりますか?」

星奈「えっと、リーダーの穂乃果ちゃん、海未ちゃん、にこ、真姫にかよちゃん、ことりちゃん、……あなた」

絵里「もう一人、知っているはずですが」

星奈「……さぁ?」

絵里「……」

星奈「……?」

絵里「聞いてみただけです。……それより、昨晩のことについて」

星奈「……」

絵里「あれは、どういうことですか?」

星奈「……あれは」

絵里「……」

星奈「よく覚えていないんだよね……」

絵里「そうですか……」

星奈「……」

絵里「私の友人と重なったので、少し引っかかっていました」

星奈「そうなんだ……」

絵里「……」

星奈「……」

絵里「話は終わりです」


―― 津軽鉄道


ことり「穂乃果ちゃん!」


穂乃果「え?」


ことり「電車、来てるよ!」


穂乃果「の、乗ります!」


海未「急いでください!」


穂乃果「ま、間に合え~!」

タッタッタ


プシュー


穂乃果「ふぅ、よかったー、間に合ったー」

海未「ボーっとしていましたが、何を考えていたのですか?」

穂乃果「うん……絵里ちゃんのことが気になって」

海未「確かに、2人きりで話がしたい……なんて、気になりますね」

ことり「うーん、涼しい~♪」


チリンチリン


穂乃果「……まさか」

海未「まさか?」

穂乃果「う、ううん、なんでもない~」

海未「穂乃果、あなた……また何か企んでいますね?」

穂乃果「ソンナコトナイヨ?」シラー

海未「私の目を、見てください」ガシッ

穂乃果「ほ、本当だって! もうネタが無いんだもん!」

海未「ネタってなんですか……それは本当に?」

穂乃果「ホント、ホント……先回りして驚かしてやろうかなって思ったけど、物理的に無理だし」

海未「算数の苦手な穂乃果が物理なんて言わないでください」

穂乃果「ひどいっ」


ことり「ほら、二人とも座って座って~」

穂乃果「外は暑いけど、中は冷房が効いてて涼しいね~」

ことり「それだけじゃないよ、ほら、風鈴」


チリンチリン


穂乃果「おぉー、これまた風流ですな~」

ことり「そうですな~」

海未「ことりは楽しそうですね」

ことり「だって、私たち3人でこうやって旅行できるなんて夢みたいだから~」

海未「……それもそうですね」

穂乃果「中学校の修学旅行以来だよね」

ことり「穂乃果ちゃんが夜遅くまでお喋りしていたから巡回に来た先生に怒られたんだよね」

穂乃果「あはは、あったあった」

海未「私は寝ていましたが」

ことり「なんだか、嬉しい♪」

穂乃果「よーっし! 今日はとことん遊ぶぞー!」ガタッ

ことり「おーっ!」ガタッ

海未「座ってください……そして周りの目を気にしてください」

穂乃果「旅の恥はかき捨てって言うでしょ?」

海未「率先してかく必要はありません」

ことり「君の遅刻を願っちゃう~ぶる~べりぃとれいん~♪」

海未「風鈴電車ですよ」

穂乃果「もぉー、うみちゃんツッコミばっかり、たまにはボケてよ~」

海未「どうしてですか! 嫌です!」


チリンチリン


―― 竜飛岬


ビュウウウウゥゥゥゥ



花陽「か、風が……!」

真姫「な、何なの……!」

にこ「まるで台風じゃないの……!」

真姫「そこまで強くないでしょ」

にこ「足が進まないわ……!」

真姫「ほら、引っ張ってあげるから」スッ

にこ「しょ、しょうがないわね」ギュ

真姫「……で、花陽はなんで背中に張り付いているわけ?」

花陽「か、風除け」ピト

真姫「はぁ…? わ、私をなんだと思ってるのよ」

にこ「思えば遠くまで来たものね……」ギュ

花陽「……うん、少し寂しい風景」ピト

真姫「台詞と行動が合ってないんだけど」


―― 青森港


にこ「こっち、こっちよ絵里!」


絵里「お待たせ」

にこ「星奈となんの話をしてたのよ?」

絵里「色々とね」

にこ「隠し事ぉ?」

絵里「そうじゃないけど……昨日の夜、ホームで飯山みらいさんと話をしてるとこ聞いちゃって」

にこ「飯山みらい……と?」

絵里「えぇ、それで、少し気になることがあったから……どうしたの?」

にこ「……別に、なんでもないわ」

絵里「?」


「おーい! 絵里ちゃーん、にこちゃーん!」


絵里「穂乃果は相変わらずね……」

にこ「……」

絵里「……にこ?」

にこ「え、あ……うん、……まったく、昨日も海鮮丼食べたってのに……飽きないわねぇ」

スタスタ


絵里「……」


花陽「のっけ丼…ってなにかな……?」

穂乃果「よくぞ聞いてくれました花陽ちゃん、それでは説明しよう!」

花陽「……」ゴクリ

穂乃果「真姫ちゃんが!」

真姫「は、はぁ? どこまで他人任せなのよ!」

穂乃果「しょうがないなぁ、それでは博識な私が教えてあげよう!」

海未「……」

穂乃果「えっと……小・中・大の器入り白ご飯を……購入して、
    市場に並んである新鮮な切り身をその器にのせてお会計……と、これがのっけ丼だよ!」

海未「……」


穂乃果「このシステムは釧路の勝手丼と同じで……ことりちゃん、これなんて読むの?」

ことり「ふところぐあい、だよ」

穂乃果「貧乏旅行をしていたライダーの懐具合を配慮した店主がご飯を買ってこさせて、
    その上に少しずつ海産物を提供したことが始まりなんだそうな」

花陽「そ、そうなんだぁ」

穂乃果「ふふん」

海未「観光ガイドを堂々と使用しておいて、そんなしたり顔をしないでください。博識が聞いて呆れます」

穂乃果「でも、この市場を見つけたの私だもん!」

海未「それでは知識ではなく嗅覚を誇るべきですね」

絵里「……真姫は?」

ことり「先に行っちゃった……にこちゃんと一緒に、ほら」

絵里「さっそく具材を選んでいるのね……真姫も相変わらずね」



にこ「海草はお肌にいいのよ、ちゃんと摂取しなさい」スッ

真姫「ちょっと、勝手に乗せないでっ」


―― 青森ベイブリッジ


にこ「ラブリッジ……」

真姫「恥ずかしいネーミング」

絵里「そうね……」

花陽「……」

穂乃果「よし、歩いてみよう!」グッ

真姫「私は遠慮するわ」

にこ「私もここで待ってるから」

海未「……同じく」

穂乃果「えぇ~、付き合い悪いなぁ」チラッ

ことり「う、うん……私は付き合うよ」

穂乃果「さっすがことりちゃん!」

ことり「あは…は……」

真姫「嫌なら嫌ってハッキリ言えばいいのに……」クルクル

穂乃果「じーっ」

花陽「わ、わたしも行こうかな」

穂乃果「じじーっ」

絵里「……しょうがないわね」


穂乃果「もぉー、結局付いて来ないんだからぁ」

絵里「人それぞれよ」

穂乃果「橋を渡ったらそれなりに楽しいはずなのに」ブツブツ

ことり「そうだ、穂乃果ちゃん、にこちゃんと同じ髪型の人と話をしたんだよね?」

穂乃果「……えっと、梓ちゃんかな?」

ことり「名前は知らないんだけど……」

花陽「その人が……どうしたの?」

ことり「私も昨日、穂乃果ちゃんと同じように、にこちゃんと間違えて声をかけちゃったの」

穂乃果「そうだよねぇ、間違っちゃうよねぇ」ウンウン

絵里「危険な匂いがするって言ってたけど、何をしたの穂乃果?」

穂乃果「危険な……?」

花陽「あれかな……札幌駅での派手な見送り」

ことり絵里「「 なるほど 」」

穂乃果「どうしてそれだけで納得できるの!?」

絵里「そのせいで、その……梓さん? が三人を避けてるみたいなのよ」

穂乃果「え……」

花陽「ほ、穂乃果ちゃん……」

穂乃果「えぇぇええぇぇ!?」

ことり「かつて無いほどのショックを受けてるよ~」

穂乃果「ご、誤解を解かなきゃ!」

絵里「誤解ってわけでもないんだけど……無理に話そうとすると拗れるかも知れないわよ?」

穂乃果「う、うーん…………絵里ちゃん、いまひどいこと言わなかった?」

絵里「そ、そう?」

ことり「梓ちゃんって、どういう人なの?」

穂乃果「軽音部の先輩と2人でヴェガに乗ったんだって。知ってるのはこれくらいだよ」


―― 新町通り


亮太「あれ、みらいちゃん?」

みらい「こんにちは、亮太さん。お一人ですか?」

亮太「偶には一人で観光もいいかなー……なんて、俺の相手をしてくれる人がいないだけなんだけど」

みらい「ふふ、そうですか」

亮太「撮影の仕事はないの?」

みらい「午前中に撮り終えたので、後はヴェガでの撮影だけです」

亮太「そっかぁ……」

みらい「……」

亮太「どうしたの?」

みらい「あの……ヴェガの……雰囲気ですけど」

亮太「……あぁ、うん」

みらい「やっぱり、良くない……ですよね」

亮太「……うん、良くない」

みらい「……」

亮太「カメラが向けられると、乗客の人たちが避けていくよね」

みらい「…………はい」

亮太「露骨に嫌な顔をする人もいるし、和やかだった雰囲気が一気に引いていく時だってあるよね」

みらい「……亮太さん、ハッキリと言ってくれるんですね」

亮太「みらいちゃんだって気付いているだろうから、変に遠回りで言っても意味無いかなぁって」

みらい「その気配りが嬉しいです」

亮太「……そう?」

みらい「大抵の人は気を遣ってくれるので……それが嬉しいことは嬉しいんですけど」

亮太「ためにならないよね」

みらい「……」

亮太「ごめん、調子に乗りすぎた」

みらい「……いえ」


「あ……!」


みらい「……?」

亮太「……あ」


花陽「みみみ、みらいちゃんだ……!」ヒョコ

真姫「気になるんなら私の背中に隠れてないで、出てきなさいよ」

花陽「そそ、そんな、恐れ多いっ」サッ

真姫「はぁ……駄目ね、これは」


穂乃果「みらいちゃんだー!」

みらい「……!」

穂乃果「いつもテレビで見てるよ! カワイイね!」

みらい「ほ、穂乃果さん……ですよね」

穂乃果「おぉー! 名前を覚えてもらっちゃった!」

ことり「よかったね、穂乃果ちゃん」

穂乃果「ヴェガの乗客じゃないのに名前を覚えてもらえるなんて凄いよね、にこちゃん!」

にこ「……そうね」

海未「落ち着いてください、穂乃果。注目を集めています」

穂乃果「あ……えへへ」

みらい「くすくす」

絵里「私もテレビで拝見しています」

みらい「あ、ありがとうございます」

絵里「みらいさんの歌を披露する姿は私達の理想とする形なので、勝手ながら参考にさせていただいています」

みらい「……そう言ってくれると、とても嬉しいです」

花陽「おぉぉー、かわいいです。本物のアイドルだよ真姫ちゃん!」ヒョコ

真姫「だから、前に出なさいって」

海未「おかしいですね……私は紹介したはずがないのですが」

にこ「……」

絵里「にこ……?」

にこ「…………」



亮太「空気か俺は」


……



みらい「仕事の準備があるので私はこれで」

穂乃果「それじゃーねー!」フリフリ

にこ「……」

穂乃果「あれ?」

にこ「なによ」

穂乃果「この辺に……鶴見さんがいたような?」

にこ「幻影じゃないの?」

穂乃果「そっか、幻影かぁ」

海未「幻影ではなく、ちゃんといました。ヴェガに戻ると言って去っていったではないですか」

穂乃果「あはは、知らなかった」

ことり「あ、次の山車が来たよ!」

花陽「お、大きい……」

真姫「間近でみると結構な迫力ね」

ことり「面白い形だよね~」

絵里「これが日本の文化……」

海未「にこ、真姫、私達もヴェガに戻りましょう。そろそろ発車の時間ですよ」

にこ「時間が経つのは早いわね」

真姫「穂乃果たちはどうするの?」

穂乃果「見送りにいくよ!」

真姫「……そうじゃなくて、この後、追いかけてくるの?」

穂乃果「ううん、今日は青森で一泊して、明日の朝一に仙台に向かうよ」


―― ヴェガ


pipipipipi


真姫(凜からメール……)


『にゃー! うにゃにゃにゃにゃぁぁ!! にゃあああ!!!』


真姫「威嚇?」

花陽「?」

真姫「これ、通訳して」

花陽「え、えっと…………わからない」

真姫「イタズラメールね」

花陽「退屈……してるのかな?」



車掌「あら?」

海未「ただいま戻りました」

車掌「日に日に増えていきますね」クスクス

にこ「私の顔を見たいと駆けつけてきたらしくて……
   部長として厚い信頼を寄せられるのは嬉しいことですが、困ってしまう部分もありますね」ウフフ

穂乃果「車掌さん! にこちゃんがご迷惑をおかけしていると思いますが、これからもよろしくお願いします!」

絵里ことり「「 にこ(ちゃん)をよろしくお願いします 」」

車掌「はい、お任せください」

にこ「どうして名指しなのよ!」


車掌「まもなく出発です。みなさん、乗り遅れに注意してくださいね」

海未「はい、わかりました」


星奈「ふぃー、間に合ったぁ」

真姫「どうしたのよ、そんなに汗かいて」

星奈「いやぁー、新町から全力疾走だよ、あっつぅー」パタパタ

絵里「……」

穂乃果「青森では一緒に観光できなかったね」

星奈「そうだね、ざんねーん。仙台にも来るんでしょ?」

穂乃果「もちのロンです」

星奈「よかったら仙台で一緒に観光しようよ」

穂乃果「わかった! 楽しみにしてる!」

星奈「あはは、私もー、それじゃ、先に乗ってるから」

穂乃果「うん、明日ね~」フリフリ

星奈「かよちゃん、ことりちゃん、絵里も、じゃーねー、バイバーイ」フリフリ

花陽「そ、それでは……」

ことり「バイバ~イ」フリフリ

絵里「……」


海未「汗を拭かないと風邪をひいてしまいますよ、中は冷房が効いているんですから」

星奈「は、はいよー」

穂乃果「うみちゃん、年下なのにお母さんみたいだねぇ」

海未「誰のせいでこんな性格になったと思っているんですか」

穂乃果「ことりちゃんでしょ」

ことり「えぇー?」

海未「自覚は無いようですね」

絵里「ほら、海未も乗って。にこと真姫は先に乗ったわよ」

海未「い、いつの間に……。それでは一足先に行っています」

絵里「えぇ、次の仙台で会いましょう」

穂乃果「ふっふっふ、早く客車に行きなよ、うみちゃん」

海未「やめてくださいよ、穂乃果」


―― 1号車


コンコン


真姫「またぁ?」

にこ「や、やめなさいよ穂乃果……私、釣られちゃうんだから……!」


――


絵里「なにをしているの、穂乃果?」

穂乃果「時代が引き裂く2人の恋! 第二章!!」

花陽「……」

ことり「な、なんだか乗客のみなさんが注目してるような……」


――


海未「変な期待をされていますね……なにをするんだろう、と」

真姫「個室に行ってるから」

にこ「逃げることは許さないわ!」グイッ

真姫「は、離してっ」


――


prrrrrr


ことり「綺麗な車体だね」

花陽「……うん」

絵里「にこと真姫が揉めてるみたいだけど、どうしたのかしら」

穂乃果「すぅ――……」



――


プシュー


海未「昨日に続いて今日もやるつもりですね……」

真姫「いやよ、同類と思われるじゃないっ」

にこ「部長命令よ、ここにいなさいっ」


ガタン

 ゴトン


――


 ガタンゴトン


穂乃果「私を置いていかないでぇ!!」


――


海未「穂乃果……どうしていつも私の言うことを聞かないんですかっ」


真姫「……」

にこ「ほ、穂乃果ぁ……」ウルウル


――


穂乃果「せめて……せめて私の気持ちを――」

絵里「はい、そこまで」グイッ

穂乃果「あぅっ!?」


――


海未「!」

にこ真姫「「 止まった……!? 」」


――


穂乃果「もぉー、絵里ちゃん! 名場面に水をさすなんてっ!」

絵里「こういうことをするから、あの三人が避けられてるのよ?」

穂乃果「だって、やりたかったんだもん」

ことり「確かに、活き活きとしてたね、穂乃果ちゃん」

花陽「た、楽しそうだった」


――


海未「うぅ、止めてくれる人がいるなんて……これほど嬉しいことは他にありません」シクシク

真姫「こっちはこっちで変な感動をしてるし」

にこ「ふぅ……危なかったわぁ」

海未「穂乃果のことをよろしくお願いします、絵里っ」シクシク


ガタンゴトン


―― 食堂車


ガタンゴトン


亮太「……ん? 高坂さん達だ……」


「きゃぁっ」


亮太「なにか一悶着って感じだったな」


ザバァ



亮太「え……?」

店員「す、すいません!」

亮太「な、なに、これ?」ポタポタ

店員「配膳中のスープを頭から……!」フキフキ

亮太「あぁ、スープなんだ、これ……」

店員「真に申し訳ありません!」フキフキ

亮太「いや、いいですよ……走る列車ですから、こういうこともあります」

店員「今回のお食事代とクリーニング代はこちらで出させていただきます!」

亮太「じゃあ、ご馳走に。クリーニングはいいですから」

店員「で、ですが……!」

亮太「熱いスープじゃなかったのがラッキーってことで、いいですよ。それじゃ、シャワー浴びてきますから」

店員「申し訳ありませんでした!」ペコリ


―― 4号車と3号車の連結部分


亮太「早く洗わないと」

星奈「おっす、なにしてんの?」

亮太「星奈こそ、こんなとこでなにしてんだ?」

星奈「客車は冷房が効いてるからね~、ここで汗を……くんくん……スープの匂いがする」

亮太「犬か、おまえは」

星奈「なに亮太、こんな香水付けてるの? 絶対止めたほうがいいよ?」

亮太「違うっての……トラブルでスープを被っただけ」

星奈「ふーん……火傷とかしてないよね?」

亮太「大丈夫、冷たいスープだったから」

星奈「そっか、良かったじゃん」

亮太「不幸中の幸いだな……じゃあな」

星奈「はいよー」


pipipipipi


星奈「おっと、電話電話」

亮太「……」

スタスタ


「……なに、母さん」


亮太「?」


―― 1号車


亮太「さっきの星奈の声……いつもと違ってたな……」

海未「うぅっ……これほど嬉しいなんて」シクシク

にこ「いつまで感動してるのよ」

真姫「……」

亮太「なにが……あったの?」

にこ「なんでもないわ……って、何の香水? 絶対に止めたほうが――」

亮太「ご忠告ありがとう」


―― シャワー室


亮太「……水につけてっと」


亮太「人それぞれ、色々あるんだな……」ヌギヌギ



バンッ


亮太「っ!?」


みらい「おっとぉ! 鍵がかかっていないので開いてみたらー、なんと下着を脱ぐ決定的瞬間でした!」

カメラマン「……」ジー


亮太「――!?」


みらい「全国の女性の皆さん! 彼はキュートなクマのトランクスを使用しています!
    彼女として立候補する方はご覧の宛て先まで連絡をくださーい!!」


亮太「ちょっ、みらいちゃ――」


みらい「それでは失礼するのだ!!」


バンッ


亮太「なん…という……ことだ…………」


……



―― 展望車


亮太「……」ズドーン

星奈「よっ、なんだか暗い顔で沈んでるじゃん、どうしたのよん?」

亮太「あんな姿を全国に……ウソでしょぉ」メソメソ

星奈「……全国?」

にこ「ここにいたのね、星奈」

星奈「うん? 私に何か用ですかな?」

にこ「暇だからみんなでトランプでも……って、どうしたのよ、鶴見亮太?」

亮太「もう……お嫁に行けないっ」メソメソ

星奈「はいはい、つらかったねー、何があったのかなー? お姉さんに話してみようかー?」ヨシヨシ

亮太「着替え中にみらいちゃんが突撃訪問してきて……俺のあられもない姿が全国に流れるみたいなんだ」メソメソ

星奈「ありゃ……シャレにならないね……」

亮太「…………中に入ってたのが俺じゃなくて……女性だったら……どうするつもりだったんだろ」

星奈「シャレにならない」

亮太「……だよな」

にこ「なによ、それ……」

亮太「……?」

にこ「そんなことまでするのね、……今の飯山みらいは……」

星奈「にこ……」


みらい「やっほー、元気してる? みらいだよっ!」

にこ「――!」

みらい「三人とも沈んだ顔をしてるのだ、ひょっとして――」

にこ「ずっと、そんなことしていなさいよ……」

スタスタスタ





「嫌いよ、あんたなんか――」


みらい「え――」





星奈「ちょっと、待ってよにこ!」

タッタッタ



みらい「――あ……」

D「はい、カット~……うーん……撮影が進まないねぇ」

将人「みらい、何をしている。次だ」

みらい「……ぁ…」

亮太「……」

みらい「亮太…さん……」

亮太「……俺も向こうが気になるから行くよ」スッ

みらい「…………」

将人「おい、みらい! 俺を待たせるな!」

みらい「…………は……い」


―― にこの個室


コンコン


海未「にこ、何があったのですか?」


「別に、何も無いわよ」


海未「いきなり部屋に篭るなんて……おかしすぎます」


「ちょっと疲れただけ。今日はもう、寝るから」


真姫「まったくぅ、なんか、らしくないんじゃない?」


「……」


真姫「札幌から変にふさぎ込んだりして、そんなだと周りが心配するじゃないの」


「……」


真姫「何も無いなら無いって、普段どおりの顔してなさいよ」

海未「真姫、それは言いすぎですよ」

真姫「……」

海未「話を、聞かせてくれませんか?」


「……」


ガチャ


にこ「入って」

真姫「困った部長ね……今更だけど」

海未「そうですね」

にこ「どうしてもっていうから開けてあげたんじゃない!」

真姫「……ふぅ」

海未「……」

星奈「……」スッ


バタン


にこ「ちょっと?」

真姫「?」

海未「なんですか?」

星奈「さぁ?」

にこ「星奈、あんたのことよ、スッと入ってくるんじゃないわよ、スッと」

星奈「まぁまぁ、私のことは悪さをする透明人間だとでも思っていればいいから」

にこ「最も警戒をしなきゃいけない存在じゃないの……適当に座って」

真姫「元気なんだか落ち込んでいるんだか、ハッキリしないわね」

にこ「……」

海未「飯山みらいのこと……ですね」

にこ「……気付いたの?」

海未「その名前が出る度、にこの表情が曇りましたから」

にこ「わ、私のポーカーフェイスを見破るなんてやる…じゃない……」

海未「いえ、あからさま過ぎです」

にこ「う……」

星奈「にこってさ、飯山みらいのファンなんじゃないの?」

真姫「え……?」

海未「……」

にこ「違うわよ、あんなアイドル……私は認めないんだから」

星奈「じゃあ、ファンだった……とか」

にこ「!」

星奈「図星みたいだね」

にこ「花陽にでも聞いたの?」

星奈「さっき言ってたでしょ、『今の飯山みらいは』……って」

海未(昔を知ってるということ……ですね)

にこ「……」

真姫「どうなの?」


にこ「 仮面を脱ぎ捨て 素顔の自分に出会うの 私は恐れを知らない 」


海未「それは……?」

にこ「飯山みらいのデビュー曲よ」

星奈「……」


にこ「その曲を披露する歌番組で、私を応援してくれる全ての人を楽しませたい……と言ってた」


にこ「それを聞いて、すぐに……ファンになったのよ」


にこ「そして、ある時を境に突然売れ出したわ」


にこ「……歌もダンスもとても引き込まれた。……だけど、テレビで見る飯山みらいは、デビューした時と違ってた」

真姫「……」

にこ「よくいるでしょ、名前が売れ出したらファンを辞めるって人。……私もその内の一人かと思ってたけど」

海未「……」

にこ「違うみたい……ね」

海未「いつも言っていましたからね、アイドルの在り方を……」

にこ「……えぇ。だから、……なんていうか……札幌駅で見て……その」

星奈「ショックだった……?」

にこ「……テレビと同じで」コクリ

海未(デビューしたころの飯山みらいは、にこにとって理想とするアイドルだったのかもしれません……。
   そして、いま現在の飯山みらいは……。とても複雑ですね……)

真姫「……」

にこ「……」

星奈「それで?」

にこ「え……?」

星奈「それで終わりなの?」

にこ「……」

真姫「ちょっと、あなた――」

海未「真姫……」スッ

真姫「な、なによ」

海未「私たちが口を挟める時ではないのかと……」

真姫「……」


星奈「しょうがないじゃん、アイドル飯山みらいは現在進行形であの形になるんだから」

にこ「……」

星奈「にこがどうこう言ったって、どうにもならないことは気付いているでしょ」

にこ「……そうよ。……勝手に理想を作って勝手に裏切られたって、傷ついた気になってるだけ」

海未「……」

真姫「……」

にこ「そうよね、たったそれだけのことなのよ」

星奈「……」

にこ「私が、飯山みらいのファンじゃなくなっただけ――」


コンコン


にこ「?」

海未「……」



コンコン


真姫「……?」

にこ「……は、はい」


ガチャ


みらい「……」

にこ「え……?」


星奈「このタイミング、聞いてたな~?」

亮太「まぁ……な」

真姫「え……どうして?」

星奈「にこの後を追いかける前に、亮太にみらいちゃんを連れてきてもらったのだ」

亮太「……」


海未「納得してやっているとは思えないのです」


みらい「――!」


にこ「……どういうことよ?」

海未「にこは、はちゃめちゃな言動で相手を不快にさせる行為が認められない、と言いました」

にこ「……えぇ」

海未「それについては私も同意です。……しかし、その後……彼女が一人一人に謝罪をしてるとしたら」

にこ「……」

海未「それは今までのアイドル活動を否定していることだと思えませんか?」

にこ「…………」

海未「みらいさんと出会った大通公園で、私はもう一つの顔――『素直な飯山みらい』を見ているんです」

にこ「……」

海未「だから……」


亮太「あ……」


トン


みらい「りょ、亮太さん……?」


バタン


真姫「?」

にこ「な、なに?」

みらい「す、すいません……亮太さんが押したので……勢いで」

海未「……」

星奈「個室に5人は狭いね」



「おい、みらいはどこだ?」

「さぁ?」

「隠しているとただでは済まないぞ」

「個室にでもいるんじゃないのか?」

「さっき探した」

「じゃあ、知らないな」

「ふん……」

「……時間がないか」

スタスタスタ



にこ「なんなの……?」

みらい「わ、私……仕事を放り出して……マネージャーから逃げているんです」

海未「そうなんですか……」

星奈「おぉ、なんかワクワクするぅ」

真姫「遊んでいる状況じゃないわよ?」

星奈「まぁ、いいじゃないの」

真姫「楽天的ね」

海未「話を戻しますが、……にこ」

にこ「な、なによ?」

海未「まだファンを辞めるには……早いのではありませんか?」

にこ「……」

みらい「……」

にこ「さっき、星奈も言ってたじゃない、私の理想を押し付けるのは――」

みらい「もう、ファンを裏切るようなことはしたくないんです」

にこ「……」

みらい「ずっと……悩んでいました」

にこ「…………」

みらい「このまま続けていても、私の夢は遠くなるだけなんじゃないかって」

にこ「……」

みらい「だけど、もう一度……頑張ってみようと思います」

にこ「!」

みらい「……応援……してくれますか?」

海未「……」

真姫「……」

星奈「……どうするの?」

にこ「しょ、しょうがないわね~……、もう…少しだけ……応援してあげようじゃない」

みらい「……ありがとうございます。にこさん」ニコ


ガチャ


星奈「今戻っても平気?」

みらい「はい、大丈夫です。頑張りますから」


バタン


にこ「……大丈夫じゃないわよね」

星奈「そうだよねぇ、あのマネージャーだから」

にこ「そうじゃないわよ。……今のヴェガの状況で、仕事なんてできるわけないわ」

星奈「……あぁ、うん。そうだね」

海未「……」

真姫「……」

にこ「……」

星奈「気になるから見てこよ~っと」


ガチャ

 バタン


にこ「そ、そうだ~、仙台の観光ガイドでも買って来ようかしら~」


ガチャ

 バタン


海未「……素直じゃないですね」

真姫「ふぅ……退屈しないわね……」


―― 3号車


D「今日はもう終わりにしよう」

みらい「だ、だけど……」

D「やる気になってくれたのは嬉しいけどね、協力してくれる人がいないんじゃ仕事にならない」

みらい「もう少しだけ、お願いします!」

D「……マネージャーさん、どうします?」

将人「どうして今までのように強引に行かないんだ?」

みらい「……それは……ちゃんと、手順を踏んでから相手との会話を」

将人「そんなことをしていても無駄だ」

みらい「無駄じゃありません! 話せば分かってくれます! 協力してくれるはずです!」

将人「ちっ……どこでそんな入れ知恵を仕込まれたんだ」

みらい「マネージャー!」

将人「今日はもう終わりだ! 一晩よく考えることだな」

みらい「待ってください!」

D「そういうことだから……おい、引き上げるぞ」

カメラマン「はい」

みらい「……!」


みらい「…………」

亮太「みらいちゃん……」

みらい「……」

亮太「あれから一度も乗客に協力してもらえてないよね……?」

みらい「……はい」

亮太「……」

みらい「自業自得ですから……しょうがないんですけど」

亮太「……」
  「よし、俺が協力をしてあげよう!」

みらい「え……?」

亮太「……」
  「そんな可愛い顔に涙はこぼさせないぜー」

亮太「お前は何をやっている?」

星奈「ちょっと、こっち向かないでよ。腹話術がバレちゃうじゃない」

亮太「バカみたいだぞ?」

星奈「バ、バカ……? 口下手な亮太の代わりに私が声に出してあげたのにバカはひどいじゃないの!」

亮太「誰が口下手だ」

みらい「くすくす」

亮太「……」
  「よぉし、協力してくれる人を探すぜ!」




にこ「……」

海未「どうして隠れているのですか?」

にこ「か、隠れてなんていないわよ? ただ、見ているだけ。そう、見ているだけなのよ」

真姫「……ふぅ」


―― 展望車


にこ「にっこにっこにー♪ あなたのハートにラブにこっ♪」

みらい「にこさんはスクールアイドルとして活動しているんですよね」

にこ「あっ、いっけなーい、にこったら、ちゃんと自己紹介をしてなかったのね♪」

みらい「……」

にこ「音ノ木坂学院のスクールアイドル、矢澤にここと、にこにーでぇす♪ 
   好きな食べ物は~……えへっ、マシュマロです♪」

真姫「ラーメンでしょ」

にこ「に、にこにーはアイドルなんだからぁ、ラーメンなんか食べないんだよっ♪」

真姫「穂乃果から聞いてるわよぉ? 腰のある麺だとか言って」

にこ「にに、にこにーの好きな動物は、羊ですっ♪ ……しまった」

真姫「おいしそうに食べてたからね」

にこ「どうして邪魔するのよ!!」


星奈「はい、カットー!」

真姫「え、撮ってたの?」

海未「……はい。真姫の横槍も全て入っています」

星奈「カメラマンちゃんと撮れてたー?」

亮太「うん……撮れてはいるけど……」

星奈「よーし、次いくよー、はい、海未ちゃん入ってー」

にこ「ちょっと、撮り直ししなさいよ!」

星奈「うーん、にこちゃんさぁ、画的にいいんだけどぉ、少し寒いんだよね」

にこ「なに、いま寒いって言った?」


みらい「くすくす」

海未「真面目にやって欲しいものです」

みらい「ありがとうございます、協力してくれて」

海未「この映像をディレクターに見せて、撮影を再開できればいいんですよね」

みらい「はい……! チャンスを与えてくれたので活かしたいと思います!」

海未「……」

みらい「よろしくお願いします!」ペコリ

海未「はい」



星奈「それでは、スタート!」

亮太「……」ジー


みらい「自己紹介をお願いします!」

海未「はい」

みらい「……」

海未「……」

みらい「音ノ木坂学院に通う、園田海未さんですね」

海未「はい」

みらい「スクールアイドルとして活動されてると聞きました!」

海未「はい」

みらい「プロにも迫る勢いです! 私もうかうかしていられません!」

海未「はい」

みらい「ヴェガに乗ったきっかけはなんでしょう? 福引で当てたのですか?」

海未「はい」

みらい「それはすごい! 列車の旅は順調で楽しそうですね!」

海未「はい」

みらい「次の到着駅は仙台ですが、行きたいところは決まってますか?」

海未「はい」

みらい「それはどこでしょう、山寺ですか?」

海未「いいえ」

みらい「違いましたか、それでは松島?」

海未「はい」


星奈「カットォー!」

亮太「うーん……」

星奈「みらいちゃんさ、海未ちゃんが『はい』か『いいえ』でしか答えられないのに気付いて質問変えてるでしょ」

みらい「それは……」

星奈「それだとインタビューの内容が薄くなるから困るんだよね~」

みらい「すいません……」


海未「どうして私を責めないのでしょうか……」

にこ「相手の緊張を解すのもインタビュアーの仕事だからよ」

海未「頑張ってみたつもりなのですが」

にこ「もう一度私がやるしかないってことね。……まったく、しょうがないわね~」

星奈「はい、次は真姫……って、逃げたか……」

にこ「しょうがないわね~!」

亮太「次はどうするんですか、監督」

星奈「まぁ、あと四人はいるから、楽勝よ楽勝~」

にこ「 しょ う が な い わ ねーッ!! 」



……




『こうやって、おりゃー! ってね!』

『その勇敢な精神は見習いたいですね!』

『はい、カットー』


にこ「どう、星奈のインタビューは?」

真姫「ヴェガに乗ったいきさつから不良撃退の武勇伝に変化している意味が分からない」

星奈「いやぁ……私は緊張すると余計なことまで喋っちゃうから、あはは」

海未「星奈さんも福引でヴェガの乗車券を引き当てたんですね」

星奈「すごいでしょー」ブイッ

亮太「あの、そろそろ本格的に進めないと……」

にこ「そうよ、もう少しで盛岡駅に到着するんだから。
   仙台に着いちゃうと乗客が寝てしまうのよ……遊んでる場合じゃないのよ!」

星奈「うーん……そうは言っても、乗客の友達の分はやっちゃったからなぁ」

海未「7人分を一通り観た感想はどうですか?」

真姫「個性が強すぎて話が纏まってないわ。方向性もバラバラね」

海未「……そうですよね」

真姫「私は撮らなくてもいいの……?」

海未「個性の強い一人なので、変わらないかと思います」

真姫「……」

亮太「やっぱり、他の乗客にお願いするしかないか?」

にこ「そうね……鶴見亮太、売店でプリン買って来なさい」

亮太「なぜ?」

にこ「粗品作戦よ」

亮太「なんで俺のポケットマネーを資金とする」

星奈「カニアイスも忘れないで、分かった?」

亮太「おまえ、食べたいだけだろ!」


みらい「……」


にこ「ちょっとみらい、離れてないで会議に参加しなさいよ」

みらい「……」

にこ「まさか、落ち込んでいるんじゃないでしょうね」

みらい「いえ……その逆です」

にこ「逆?」

みらい「自分を素直に表現しているのが楽しくて……」

にこ「……」

真姫「……」


みらい「……ありがとうございます、みなさん」

にこ「まだ終わってないわ」

海未「そうです。にこが力を貸すというのなら、私も協力を惜しみません」

真姫「乗りかかった舟だし」クルクル

星奈「面白いし」

亮太「……」
   「美少女に囲まれて幸せだし」

亮太「楽しいか、星奈?」

星奈「誰も反応くれないから止めようかなって思ってるところ」

亮太「そうしろ」

みらい「みなさん休んでいてください。私、乗客の方で協力をしてくれる人を探してきます!」

タッタッタ


星奈「あらら……行っちゃった」

真姫「事前に交渉して撮影するなんて、これが常識なのに……どうして今までしてこなかったのかしら」

亮太「テレビ局の連中が我が物顔でやってたからなぁ……これには車掌さんにも頭を痛めてたみたい」

真姫「あの連中にお咎めなしなんて、それはそれで……」

海未「過ぎたことを嘆いても仕方がありません。その中にはみらいさんも含まれていますよ」

真姫「それはそうだけど」

亮太「汚名返上か……並大抵の努力じゃ無理だよな」

星奈「動き出したようやね――にこっち」


―― 展望車


みらい「ヴェガに乗車した理由を聞かせて欲しいと――」

「嫌だよ。俺、アンタ達に恥ずかしい思いさせられてんだから」

みらい「……っ」

「断りもなしにカメラ回されて屈辱だったんだぞ、無理だ無理」

みらい「……はい、すいませんでした」

「……じゃあな」

スタスタスタ


みらい「……」


みらい「あの、すいません話を聞いてくれませんか!」

「え、なに?」

「あぁ、アイドルの……」

みらい「撮影に協力をして欲しい――」

「ごめんなさい、いま忙しいの」

みらい「は、はい……失礼しました」

「それでねー」

「えー、ありえないでしょー」


みらい「……」


みらい「…………」


にこ「なんて顔してんのよ」

みらい「……にこさん」

にこ「あなた、アイドルなんでしょ」

みらい「……っ」

にこ「……」

みらい「私、アイドルなのに、誰にも見向きされていないようです」

にこ「……」

みらい「変ですね……注目されるはずのアイドルなのに」

にこ「だから、なんて顔してんのよ」ムニー

みらい「いふぁいでふ」

にこ「笑顔を見せるのがアイドルでしょ。そんな沈んだ顔で、相手を笑顔にさせるなんて絶対に無理よ」

みらい「……!」

にこ「しょうがないわね……見てなさい」

みらい「……」


にこ「にっこにっこにー♪」

「え、なに……?」

にこ「少しだけ、話をしてもいいにこー?」

「……え?」

「ちょっと、なんなの?」

にこ「実は私、アイドルをやっててー♪ お姉さんたちに話を聞きたいなーって――」

「あ、札幌駅で凄い別れをやってた子たちだ!?」

にこ「うぐ……」

「なにそれ?」

「まるでドラマのように別れをやってたんだよね。あれは面白かったよー! 映画研究会的な??」

にこ「あー、それはー、そのー」

「青森も期待してたんだよー?」

「面白い子だね~、私達とお喋りしようよ」

にこ「えっと、そうじゃなくて」

「いいからいいから、飲み物おごってあげる。なにがいい? アップルティー?」

「さっきの、にこー♪ って可愛かった~」

にこ「そ、そう……ですか」

「照れてる、かっわいい~」

にこ「って、違うわ! そうじゃないのよ!」

タッタッタ


「あ、待ってー!」


にこ「行くわよ、みらい!」

みらい「は、はいっ」


タッタッタ



ガタンゴトン

 ガタンゴトン


―― 盛岡駅


にこ「ふぅー、予想外の展開ね……」

みらい「でも……凄いですね」

にこ「?」

みらい「相手の方たち、楽しそうでした」

にこ「あれは穂乃果の副産物よ。私は実力の半分も出してないわ」

みらい「にこさんだから、楽しそうな雰囲気が生まれたんだと思います」

にこ「まぁ……そういうことにしておくけど」

みらい「『相手を笑顔にしたいなら自分が笑顔でいなくちゃいけない』」

にこ「?」

みらい「基本ですよね」

にこ「……」

みらい「にこさんといると……どうしてか、あるファンのことを思い出します」

にこ「……ファン?」

みらい「私がデビューしたときからずっとファンレターを送ってきてくれて……励ましてくれるんです」

にこ「……」

みらい「落ち込んだとき、挫けそうなとき、そのファンからの声を聞くと、勇気が沸くんです」

にこ「……それがファンってものよね」

みらい「はい、とても力になります」

にこ「のんびり話をしていられないんじゃないの?」

みらい「そうですね。東京に着くまでが期限ですから」

にこ「明日は丸一日仙台に停車するでしょ……ということは、ここから仙台、仙台から東京への走行時間だけね」

みらい「……はい」

にこ「展望車が気持ち的に楽なんだけど、そうも言ってられない……どう考えても時間が足り無いわね……」

みらい「あの、にこさん」

にこ「なに?」

みらい「どうして……協力してくれるんですか?」

にこ「ヴェガに乗ったからよ」

みらい「え?」

にこ「ヴェガに乗って『飯山みらい』と出会った。それだけよ」

みらい「……」


にこ「人と行動を起こすのなんて、始めは些細なことだったりするんだから」

みらい「そうです…ね」

にこ「穂乃果と出会ったから可能性を感じて……進んできた……みんなのおかげで……って」

みらい「……」

にこ「い、今の……内緒……みんなに内緒……よ」

みらい「ふふ」

にこ「笑ってる場合じゃないのよっ、時間が無いって分かってるのっ!?」

みらい「はい、分かってます」

にこ「……まったく」

みらい「にこさん」

にこ「なによ」

みらい「『飯山みらい』のファンでいてくれますか?」

にこ「頑張り続けるならいつまでも応援してあげるわ」

みらい「……裏切らないよう、努力を尽くします」

にこ「そのファンレターの子も大事にしなさいよ~?」

みらい「はい、大事な人ですから」

にこ「え……? そういうアレなの?」

みらい「違いますよ。女性の方ですから」

にこ「あ、そう……」

みらい「ギターとボーカルをしているそうです」

にこ「そこまで聞いてないけど」


―― 展望車


ゆう「僕は昔から貧弱な体でね。今でこそ一般男性の平均値まで取り戻すことが出来てるわけだけど、
   中学まではすぐ病気にかかって寝込んだりしていたんだ」

みらい「……」

ゆう「そんな僕を看病をしてくれていたのが彼女」

弘子「……」

ゆう「学校の友達と遊べなくて塞ぎ気味だった僕を励ましてくれて、遅れている勉強を教えてくれて……。
   彼女だって友達と遊んだりして楽しく過ごすことができたはずなんだ。
   だけど、それを犠牲にして僕のために時間を費やしてくれた」

みらい「……」

ゆう「中学校に上がっても病弱な体質は変わらず、彼女に迷惑をかける日々。
   その時はもう、ずっとこのままなんじゃないかって、諦めていた部分もあった」

みらい「……」

ゆう「だけど、近所に住む……当時高校三年生のお兄さんが写真を見せてくれたんだ」

みらい「写真……?」

ゆう「全国各地の美しい観光名所の写真。……僕はそれを見て、いつかは日本全国を見て周りたいと思うようになった」

みらい「……」

ゆう「こうして、体質を改善して日本縦断の列車に乗って旅をしていられるのは、彼女と…この写真のおかげなんだ」

みらい「弘子さんとその写真がゆうきさんの未来を変えたのですね……」

ゆう「あぁ、そうだ。僕の人生に彼女は無くてはならない存在なんだ……!」

弘子「ゆうくん……!」

ゆう「弘子……!」


……




『はい、カットー』

『ゆうきさん、弘子さん、ありがとうございました!』

『あれ、星奈は?』

『隣の車両に駆け込んだけど……ハンカチ持って』

『い、意外と脆いのね』

『涙声ですよ、にこ』


みらい「……どうでしょうか」

D「ふむ……」

みらい「二人の話を聞いてると……胸に込み上げてくるものがあるんです」

D「……」

みらい「ヴェガの乗客のみなさんは、それぞれ目的や意味を持って乗車していると思います」

D「……」

みらい「その理由に一つ一つ焦点を合わせていけば、きっと今まで以上の内容になります」

D「……その二人にあんなことしたのか、俺たちは」

みらい「は、はい……。それなのに、快く引き受けてくれて」

D「……そうか」

みらい「お願いします、撮影を始めてください! もう一度撮り直しを――」

D「いや、撮り直しはしない」

みらい「……ッ」

D「この映像はそのまま使おう」

みらい「……え?」

D「前半のバラエティ要素を残しつつ、後半はこういうドキュメンタリーもいいかもしれない。
  今まで撮ってきた分も見直そう」

みらい「そ、それじゃあ……!」

D「時間が無いから、これから出来る分、やってしまうよ」

みらい「は、はい! お願いします!」


―― 食堂車


にこ「よかったじゃない。……まぁ、私の指導の賜物ってところよねぇ」

亮太「俺もご馳走になっていいの?」

みらい「はい、スタッフが協力してくれたお礼に、ということですから」

亮太「じゃ、遠慮なく。……青森りんごを使用したアップルパイか……贅沢だな」

にこ「みんなもよく付いて来てくれたわ。さすが私の見込んだだけのことはあるってものよ」

海未「いいんですか、夜なのにそんなものを……」

星奈「大丈夫だって、昼はたくさん動いているんだから」パクッ

海未「ジャンボパフェ……太りますよ」

星奈「う~ん、おいしぃ~!」

にこ「この統制力、部長という肩書きに相応しいわよね」

真姫「私はなにもやっていないんだけど」

みらい「協力してくれたことに変わりはないですから。……それでは、仕事があるので失礼します!」

真姫「頑張って」

みらい「はい!」

タッタッタ


にこ「優秀な部下をまとめるのは優秀な上司の務めなのよ」

海未「お、おいしいですね」

星奈「でしょ~?」

亮太「凄いな料理長……なんでも作れるのか」

真姫「リンゴの紅茶も悪くないわね」

にこ「――って、誰も聞いてないんかーい!」


―― 娯楽車


真姫「どうだった、撮影の方は?」

にこ「順調みたいよ」

海未「撮影の姿勢が変わったと乗客のみなさんは判断したようで……協力してくれる人も増えているようです」

真姫「……そう」

にこ「あとは、どうにかするでしょ」

海未「そうですね。……さて、仙台までまだ時間がありますが、どうしましょうか」

真姫「……」

にこ「……」

海未「手持ち無沙汰になりましたね……」

店員「遊んでいかれますか?」

にこ「スロット以外になにがあるの?」

店員「金魚すくいとクレーンゲームがございます」



―― 2号車


星奈「ふぁーあ……ねむ……」

「疲れているんですか?」

星奈「うん……観光地たくさん周ったからねぇ……さっきは撮影の協力ありがと」

「あまり役に立てなかったみたいですけど」

星奈「そんなことないよ、みらいちゃんも感謝してたし」

「……そうですか、それなら良かったです」

星奈「今日はもう寝ようかなぁ……」

「あの、星奈さん」

星奈「ん?」

「私と同じ髪型の人なんですけど」

星奈「にこ?」

「……撮影中、なんだか睨まれてるような気がして」

星奈「あぁ、あれはねぇ……」

「私、知らないうちに何かしたんですかね」

星奈「キャラが被ってるってだけじゃないかな」

「はい……?」

星奈「同じ髪型やから」

「そうですか……変な人ですね」

星奈「せやね、かわいいとこあるから――にこっちは」

「どうして関西弁なんですか」



―― 娯楽車


にこ「ひっくしゅっ」

真姫「風邪?」

にこ「違うわよ、誰かが噂してるのね……」

真姫「今日はもう、到着したら寝ましょ」

にこ「そうね、そうしましょ……くしゅっ」



テーレッテレー


海未「あ、高得点です」



ガタンゴトン

 ガタンゴトン



3日目終了

今日はここまで
それではまた明日。


登場人物が複雑なのでまとめます。


― ヴェガ乗車客 ―

 にこ、海末、真姫 

 星奈、亮太、???(画家の卵)、???(中学生)、???(不運)

 中野梓(にこと同じ髪型)、???(梓の先輩)



― 別ルート ―

 穂乃果、花陽、ことり、絵里


               8月4日


穂乃果「いただきまーす!」パクッ

海未「まさか、穂乃果に起こされるなんて思いもしませんでした」

穂乃果「もぐもぐ、んー、今日もパンがうまいっ」

海未「……ふぅ」

ことり「海未ちゃん、食欲ないの?」

海未「いえ……そうじゃないんです。……ただ」

ことり「ただ?」

海未「増えているんです」

ことり「増えて……? ……あ……そ、そうなんだ」

海未「思い返してみれば、札幌からここまで、カロリーを摂取しても消費することはほとんどありませんでしたから」

穂乃果「いいんふぁないふぁな?」モグモグ

ことり「いいんじゃないかな?」

穂乃果「ごくり。さっきも朝のランニングしてきたし、問題ないと思うけど」

海未「そうです、穂乃果に起こされなければ私はそのまま寝ていたんです。
   絵里に誘われなければ自堕落な一日がスタートしていたんです」

絵里「旅の疲れもあって、よく眠れていたのかもね」


にこ「……なにか、嫌な予感がするんだけど」

海未「良い事を思いつきました。今日一日、ヴェガはここ仙台に停車しています。
観光は止めて、体力トレーニングに励むというのはどうでしょう!」

穂乃果「えぇーッ!?」

真姫「……本気?」

海未「当然です。にこと真姫も疎かにしているはずですよ。
   松島を眺めながら、というのもいいのではないでしょうか」

にこ「うわ、また痛い方向にスイッチが入った……」

絵里「……でも、せっかく仙台に来たんだから」

海未「では、私達らしい仙台の楽しみ方を提案します。その名も、観光地めぐりフルマラソン in 仙台」グッ

穂乃果「……にこちゃん、部長でしょなんとかしてよ」ヒソヒソ

にこ「幼馴染のあんたの役目でしょ、ストップかけなさいよ」ヒソヒソ

海未「青葉城もコースに取り入れましょう。そうですね、定禅寺通りで七夕祭りも開催されてますから……」

花陽「ひ、人が集まっていると思うんだけど……その中を走るのかな……」

星奈「お、みんな揃ってるね、おっはよー」

海未「星奈さんもご一緒にどうですか?」

星奈「もっちろん、お邪魔するよん」

海未「ほら、星奈さんも参加するそうですよ」

星奈「みんなで食べたほうがおいしいよね~」

絵里「う、海未? 勘違いさせたまま巻き込むのは駄目なのよ?」



亮太「なにか空気が変だな……」

「そこで何をしているんですか、鶴見さん」

亮太「っ!? って、中野さんか……ほら、見てよ食堂車」

「……スクールアイドルの方々ですね」

亮太「みらいちゃんの話を聞きたかったけど、君子危うきになんとやらだ……退散」ソソクサ

「…………やっぱり危険なんだ」ゴクリ


―― 仙台駅前


海未「全員揃いましたね」

穂乃果「……」

ことり「……」

花陽「……」

真姫「……」

絵里「……」

にこ「……」

海未「みんなの言いたいことも分かります。
   この猛暑の中で運動を行う危険性についてですね。ですが大丈夫です! 飲み物はちゃんと用意してありますから!」

にこ「そうじゃなくて……」

海未「少し頭を冷やして考えてみました。そして気付いたのです。フルマラソンを決行するのは特に意味がないのだと」

穂乃果「冷静になってくれたのは嬉しいけど……」

海未「ですから代案として、1時間みっちり振り付けの練習と30分の体力トレーニングを行います!」

花陽「う、うん……」

海未「私たち三人はそれぞれの個室で出来る限りのトレーニングを行っていました。
   ですが、こうして仲間と共に活動を行い、モチベーションを高めることもまた必要不可欠なのです」

真姫「それはいいんだけど」

海未「どうしたのですか? みんなも同意したではありませんか」

絵里「はやく、移動しない?」


ザワザワ


ことり「海未ちゃん、後ろ……」

海未「――え?」



「なにが始まるんだ?」

「劇団なのかしら」

「ストリートパフォーマンスかな? 見物していこう」

「学校の行事かな?」

星奈「スクールアイドルらしいですよ」

「へぇ……スクールアイドル」

「待てよ、ランキングで見たことあるような……」



海未「――人ッ!?」ヨロヨロ

穂乃果「あわわ、うみちゃん!」

花陽「だ、誰か、助けて……」

にこ「星奈…! なに部外者みたいな顔してるのよ……!」

真姫「そ、それよりはやく行きましょ」

絵里「近くに公園があるから、場所を間違えないでね」

ことり「うんっ」

海未「ど、どうしてこんなに人が……!」

穂乃果「うみちゃんが熱く語るからだよ!」



「車掌さんはすぐ近くにいるって言ってたけど、どこかにゃ~?」


ザワザワ


「ん? なんだろうあの人だかり……――あ!」


「君子危うきに近寄らず――……」

「にこちゃん、見つけたにゃ~!」

「にゃっ!?」

「うにゃ!?」

「な、なに……?」

「あ、あれ~? にこちゃんじゃない……同じ髪型だからってっきり」

「また間違えられた……」

「?」

「穂乃果たちなら、あっちにいるから」

「名前を知ってるってことは、お友達?」

「友達というか……」

「よく分からないけど、穂乃果ちゃんを知ってるなら一緒に行くにゃ」グイッ

「ちょちょ、待って」グググ

「うん?」

「お互いよく知らない間柄だから」

「ひょっとして、照れてる? かよちんみたいに引っ込み思案なんだにゃ~?」

「違う、そういうのじゃないから……かよちんって誰……」

「ほらほら、行くよ~」グイグイ

「ま、待って……私は先輩と約束があるから……!」グググ

「あ、そうなんだ……ごめんね~」

「別にいいけど……この強引さはなに……」

「えっと、穂乃果ちゃんたちはどこかな?」

「だからあっちに集まって……あれ、いない……」


「どこ行ったか聞いてる?」

「ううん、知らない。……あ、星奈さん!」

星奈「お、こんなとこでなにしてるのー?」

「穂乃果たちがどこへ行ったか知りませんか?」

星奈「近くにある公園で練習だって」

「練習?」

星奈「この子は?」

「穂乃果の知り合いだそうです。私は行きますから、星奈さん、あとはお願いしますね!」

テッテッテ

星奈「あぁ、この子が……って、ちょっと待って! 梓ちゃん!」

「……?」

星奈「逃げたか……というかどうして逃げるの」

「うん~……?」

星奈「私の名前は山口星奈。ヴェガの乗客で、にこ達とは友達~」

「星空凛っていいます、よろしくお願いしま~す!」

星奈「元気一杯だなぁ……とりあえず、どうしようかな」

凛「とりあえず?」

星奈「今ね、みんなは体力トレーニングしてるんだけど……凛ちゃんも参加したいんじゃない?」

凛「したい! みんなと一緒に頑張るにゃー!」

星奈「キミたち纏まってないようで纏まってるよね……それじゃ着替え持ってきてる?」

凛「うん、一応持ってきてるけど」

星奈「お姉さんに付いておいで~」


―― 公園


絵里「ワン、ツー、スリー、フォー、ワン、ツー、スリー、フォー」

パン パン パン パン


穂乃果「大事なことはなんだっけ~」

海未「小さな努力が明日を作るんだ」


タン タン タタン...



にこ「あっつ……!」

ことり「本当、夏だね~」

花陽「今日も快晴で気持ちがいい……!」

真姫「ちゃんと水分補給しておきなさいよ」

凛「真姫ちゃん、ドリンク取って~」

真姫「ほら」

凛「ありがとー。駅から全速力で喉渇いたにゃ~」

真姫「ぅぇぇっ!?」ビクッ

花陽「り、凛ちゃん!?」

ことり「あ、あれ?」

凛「うん?」

真姫「な、なんでここにいるのよ!?」

凛「どうして驚いてるの? 穂乃果ちゃんには連絡入れてあるけど」

にこ「その連絡が行き渡ってないのよ……まったく」

星奈「わ、私にも水をおくれ……!」

ことり「はい、どうぞ」

星奈「ありがと……ごくごくっ」

花陽「せ、星奈さん……?」

星奈「凛ちゃんと一緒に走ってきたから……ふぅ…っ」



絵里「はい、3分の休憩」

穂乃果「ふうっ、ふぅ~」

海未「……やはり、毎日動いていないと、体がなまってしまいますね」

絵里「そうね、続けてこそ身に付くことだから……」

穂乃果「あ、星奈ちゃん、連れてきてくれたんだ!」

星奈「うん、約束だからね~」

絵里「り、凛……!」

凛「予定を切り詰めてなんとか来る事ができました! だから凛も練習するにゃー!」

海未「来ている事にも驚きますが、どうしてトレーニングウェアなのですか?」

凛「着替えたからだよ?」

海未「そうではなく……いえ、問題はそこではありませんね」

絵里「……そうね。……さっき、聞き捨てならないことを言っていたわね、穂乃果」

穂乃果「……え?」

海未「『連れてきてくれたんだ』と言いました」

穂乃果「うん…………あ」

海未「どうして凛が来ることを知っていて、それを私たちに伝えなかったのかが問題なんです!」

穂乃果「ち、違うよ! 企んでいたわけじゃないよ!」

海未「札幌から隠し事が多すぎますよ穂乃果!」ズイッ

穂乃果「ち、近い……」

星奈「私と約束してたから。一曲披露するって」

海未「披露……ですか?」

星奈「海未ちゃん達に協力してあげてくれって。その変わりのお礼として、ダンスを披露するからってね」

海未「そういうことですか……。黙っていたのはやはり、驚かそうという魂胆ですね」

穂乃果「そうです」

星奈「私の為にアイドルが踊ってくれるなんてカンゲキでしょ~?」ウキウキ

海未「それはいいのですが……穂乃果」

穂乃果「なんでしょう?」

海未「一人足りませんよ?」

穂乃果「あれ? 凛ちゃん、一緒じゃないの?」

凛「あ、うん……用事があって仙台には行けないって。だから一人で来たんだよ~」

絵里「……」

星奈「誰? 9人目がいるの?」

海未「そうです。9人で私たちは――」

にこ「9人目ならここにいるわよ」

絵里「え……?」

にこ「ほら」

みらい「……?」


海未「みらいも来ていたのですか?」

みらい「はい、昨日の件でみなさんに伝えたいことがあったので、星奈さんと凛さんと一緒に……」

絵里「9人目って……どういうこと?」

にこ「臨時加入メンバーよ。星奈に披露するためって訳じゃないけど、1曲本番のつもりでやりたいからね」

絵里「……なるほどね」

穂乃果「みらいちゃんと一緒に踊れるの!?」

みらい「き、聞いてないですよ、にこさん」

にこ「なに、昨日のお礼をあの食堂車で済ませるつもり?」

みらい「い、いえ……そんなことは……」

にこ「それじゃ、決定ね」

真姫「ちょっと待って、何の話?」

にこ「みんな聞きなさい! これから飯山みらいを入れた9人で『Wonderful Rush』を踊るわよ!」

花陽「そそそっ、そんなっ!」

凛「うー! なんだか知らないけど楽しみー!」

絵里「それじゃ、振り付けを凛と花陽がみらいさんに教えてあげて」

花陽「わわわ、分かったっ」

凛「こっち来て~」

みらい「……は、はい」

テッテッテ


真姫「なによ、それ」

にこ「あんた観てないわよね、札幌のライブ」

真姫「そう、だけど」

にこ「色々と刺激になるわよ」

真姫「観てないのはあなたもでしょ?」

にこ「ふっ」

真姫「な、なんで鼻で笑うのよ」

にこ「絵里とことりと花陽、各々の魅力が一人に備わってるのよ」

真姫「……」

海未「ダンスの絵里、ビジュアルのことり、ボイスの花陽……そういうことですか」

穂乃果「にこちゃん! 私が入ってないよ!?」

にこ「私も入ってないわよ! 自分でビックリよ!」

穂乃果「うみちゃん! 私の魅力ってダンスビジュアルボイスのどこなの!?」

海未「元気、でしょうか」

穂乃果「なにかがちがーう!」


凛「今を愛してぶつかろう~、で手を引く」

みらい「……」

花陽「そんな勢いでずっと一生懸命なんだよって、で手を下から上にっ」

みらい「……」


穂乃果「にこちゃんとみらいちゃん、なんだか雰囲気違うね」

海未「気付きましたか?」

穂乃果「うん、それはもちろん。にこちゃんも本当の部長みたいだし」

絵里「おさらいしておかなくていいの? 呑まれても知らないからね」

穂乃果「よし、負けられないっ」グッ

海未「確かに、いい刺激ですね」


にこ「私たちもおさらいしとくわよ。特に、センターのことり」

ことり「はーい!」

真姫「持ち歌を喰われたんじゃ、恥ずかしいわね、確かに」


星奈「みんな、私のためにここまで頑張ってくれるなんて……涙がほろり」キラリ


真姫「星奈のためじゃないんだけど」


凛「あ、そうだ、みんなに伝言があるにゃー!」


穂乃果「え、なーにー!?」


凛「『東京で待ってる』ってー!」



……




参考動画
http://www.youtube.com/watch?v=zhC-HUYp19w



μ's ― Wonderful Rush



Dan-dan ココロ Dan-dan アツク

 夢いっぱい叶えてみせる

Dan-dan ススム Dan-dan ハジケル

 未来をしっかり見て!

(Hi hi,ススメ!まだまだLet's go!! Hi hi,ススメ!ほらほらLet's go!!)

大事なことはなんだっけ?

 ちいさな努力が明日(あす)を作るんだ

いまを愛してぶつかろう!

 そんな勢いでずっと一生懸命なんだよって

(一生懸命なんだよずっと!)


もっと近くで語り合いたいな

うなずいた君とどこまで走ろうか

(果てまで)走ればいいさ(限界しらない All right?)


これからの Wonderful Rush

 みんな幸せになるため 新しい世界 探しに行こうよ

迷ったら Wonderful Rush

 僕は輝きを信じて 遙か遠くの虹だけどいつか手にする

Wonderful Stage みんな次の場所立つんだ

 めぐり逢う季節 新鮮な景色 胸はずむ Wonderful Stage

僕が目指すのはきれいな 遙か遠くの虹だから…さあ、出発だよ!


Dan-dan ココロ Dan-dan アツク

 夢いっぱい叶えてみせる

Dan-dan ススム Dan-dan ハジケル

 未来をしっかり見て!



穂乃果「はぁっ、はぁ……っ」

にこ「はぁ……ふぅ……」


星奈「おぉー!」パチパチ


パチパチパチ


ことり「えへへ」


「すごーい」

「練習とは思えない気迫だったね~」

「すごいすごい!」



海未「――人ッ!?」ヨロヨロ

穂乃果「うみちゃん、しっかり!」

花陽「す、凄いです……一回の通しでしか教えていないのに……」

凛「完敗にゃぁ~……」

みらい「付いていくのに必死でした」

真姫「涼しい顔でよく言うわね」

みらい「……恐縮です」

絵里「本番のつもりで望みましたけど、私も途中から意識が引っ張られました」

みらい「……」

にこ「まったく、呑まれてどうするのよ。私たちの曲でしょ~」

絵里「にことことりだけはいつも通りだったのよね」

にこ「当然」フフン

ことり「夢中だったから」

みらい「ふふ、楽しかったです」

穂乃果「私もみらいちゃんに引き込まれちゃって」

にこ「そのせいでいつものバランスが取れてなかったのよね」

穂乃果「どうしよう絵里ちゃん!」

絵里「え?」

穂乃果「にこちゃんが部長みたいなこと言ってる! おかしいよ!」

にこ「どういう意味!?」

星奈「いやー、よかったよー、感動だよ私はー」パチパチ

ことり「ありがとう~♪」

真姫「まぁ、良かったんじゃない? 最初は仙台で練習なんてどうかと思ったけど」

海未「そうですね……本物のアイドルと踊ることで意識も高められましたから」

花陽「も、もっと頑張らなくちゃ……」

凛「同い年でこんなに差があるなんて……軽く考えすぎたにゃ~……」


みらい「でも、やっぱり何かが違いますね……9人目は私ではなく……」


真姫「なに?」

みらい「い、いいえ……」

海未「それでは、体力トレーニングをしてヴェガに戻りましょう」

ことり「はーい」

凛「あ、シャワーはどうするにゃ?」

花陽「ヴェガのシャワー室を使ってもいいって、車掌さんが言ってくれたから」

絵里「後でちゃんとお礼を言わないとね」

穂乃果「よーし、頑張ろうー!」

にこ「星奈も付き合いなさいよ。トレーニング」ニヤリ

星奈「ゑっ!?」


―― 仙台駅


穂乃果「よし、シャワーを浴びてすっきりした所で、お昼ご飯だっ!」グッ

ことり「だっ!」グッ

海未「少し早いですが、お店を探しましょう。何が食べたいですか?」

花陽「仙台と言ったら……ずんだ餅?」

凛「かまぼこだよ、かよちん」

真姫「どっちも運動後に食べたくないわね……」

絵里「それじゃ、牛タン?」

にこ「萩の月とか」

星奈「あの歌やダンスの纏まりはなんだったのだろうか……。
   数人いた観客を感動にさせたあの空間を、この子達が演出したとは思えない……」シミジミ

真姫「なに遠い目してるの?」

星奈「なんでもない。それじゃ、後でね~」

にこ「え、どこに行くの?」

星奈「約束があるから私はここで失礼するよ、じゃあね」

穂乃果「星奈ちゃん! 青森で一緒に周るって約束したよね!?」

星奈「……あ、そうだった。……あはは、人気者は辛いですな~」

穂乃果「じぃー……」

星奈「う……えっと、ごめん! どうしても外せない約束なんだっ」

穂乃果「そう……だよね……しょうがない……よね」

にこ「穂乃果、行かせてあげるのよ……外せない約束なんだから……」

穂乃果「うん……わかってはいるんだけどね……でも……」

にこ「星奈には星奈の生き方があるのっ」

穂乃果「でもっ、私たちが最初に交わしたはずだよっ!?」

にこ「約束ってのは順番じゃないのよっ、比重によって優先順位が決まるのっ」

穂乃果「そ、それって……!」

にこ「そうよ……私たちは順位を下回っていただけの話なんだから」

穂乃果「そんなっ……そんなぁ」

にこ「ここは引くのよ穂乃果……!」

穂乃果「う、うん……辛いけど……」

にこ「……辛いのは星奈だって同じのはずっ」

穂乃果「……うん、そうだよね……わがままだなぁ、私って」

にこ「星奈ならきっと、分かってくれるはずだから」

穂乃果「しくしく」

にこ「きっと、ね」


穂乃果にこ「「 …… 」」チラッ


し ー ん


穂乃果にこ「「 誰もいない!? 」」



星奈「それじゃ、夕方に定禅寺通りね」

海未「はい」

星奈「くっくっく、あの二人によろしく」

タッタッタ


真姫「忙しいわね、星奈も」

海未「そうですね。列車内でも忙しそうですから」


絵里(彼女の人柄が分かれば分かるほど、青森駅の事が引っかかる。あれはなんだったの……?)

海未「どうしたのですか、絵里?」

絵里「え?」

海未「星奈さんの後姿を見つめていましたが……」

絵里「いえ、なんでもないわ。それより、何を食べるか決まった?」

花陽「や、やっぱり牛タンを食べておいたほうがいいと思います!」

凛「賛成~! 真姫ちゃんは?」

真姫「別に、それでいいけど」

ことり「観光ガイドにお勧めのお店があるよ、ここに行こう~」

海未「そうですね、そうしましょうか」

凛「二人の意見を聞かなくていいのかな~?」

花陽「多数決だから……」

海未「その通りです」


穂乃果「置いていくなんてひどいよー!」

海未「しょうがないんです、星奈さんには待ち合わせ時間があったのですから」

穂乃果「ぶーぶー!」

にこ「チームワークが聞いて呆れるわね」プンスカ

絵里「ほら、ことり達を追うわよ」

穂乃果「ことりちゃんにまで置いていかれたっ」


―― 牛タン屋


絵里「列車内でそんなことが……」

にこ「私の率先力と判断力のおかげよね~」

穂乃果「すごいよにこちゃん!」

ことり「それじゃあ、みらいちゃんはもう大丈夫なんだね?」

海未「はい。話を聞く限りでは問題なさそうです。スタッフの方も考えを改めてくれたみたいですから」

真姫「みらいの姿勢が正しいんだから、当然よね」

凛「真姫ちゃんが……」

真姫「?」

凛「真姫ちゃんが知らないうちにお姉さんになってるにゃ!」

真姫「ど、どういう意味よ?」

凛「一回り大きくなってるってことにゃ!」

真姫「は、はぁ? なによそれ」

花陽「わ、分かる……」

真姫「……訳わかんない」

絵里「…………」

穂乃果「そのみらいちゃんは?」

海未「仕事だそうです。急な用件が入ったと言っていましたよ」

にこ「……」

穂乃果「一緒に観光地を周れたらよかったのにね~」

海未「……そうですね。少し残念です」

ことり「色んなことしてるんだね」

にこ「こんなのまだ序の口よ。これからもたくさんの出来事が私たちを待っているんだから」


―― そう、彼女はまだ気付いていなかった。

    これから起こるベガ史上最大の危機が迫っていることに ――



穂乃果「果たしてにこちゃんは無事、目的地へたどり着けるのであろうか……!」

凛「近日公開」

穂乃果「カミングアウト――」

絵里「それを言うならComing Soon,ね」

にこ「変なナレーション付けないでくれる? それと、ヴェガよ」

海未「帰ったら英語の勉強もしなくてはいけませんね、穂乃果」

穂乃果「り、凛ちゃん間違ってたよ……」

凛「凜に聞くからいけないにゃ。英語がダメなの知ってるはずなのに」


真姫「それより、この後どうするの?」

ことり「私はやっぱり松島に行きたいな」

穂乃果「あ、さんせ~い! 行こう行こう!」

花陽「わ、わたしは青葉城に行きたいな……」

穂乃果「いいよね、お城! 行こう行こう!」

絵里「私は山寺ね」

穂乃果「山に寺? 凄い! 行こう行こう!」

真姫「3つに別れて行動ね」

穂乃果「えっと……まずは松島行って、すぐに青葉城でしょ……そして山寺……よし、行けるっ」グッ

海未「全部周るつもりですか?」

穂乃果「せっかくの仙台だよ、周らないと損だよ!」

ことり「無理があるような……」

真姫「無理よ」

穂乃果「やってみなきゃ分からないよ!」

花陽「タイミングが合わないから一緒には観て歩けないよね……」

にこ「そうね、一人で観光するなら不可能じゃないわね」

穂乃果「それだと意味無いよ!」

凛「わがままにゃー」

絵里「落ち着いて穂乃果。夕方には定禅寺通りに集合なんだから、あまり時間を無駄には出来ないわ」

穂乃果「うーん……せめて二つは周りたいな」

海未「残念ですが、時間的に一つでしょうね……」


店員「おまたせしました、牛タンセットになります」


……



―― 松島


穂乃果「松島ぁぁああ――ぁぁああ――!!」

海未「意味もなく声を上げないでくださいっ!」

ことり「うみねこ可愛い~♪」


ミャー

 ミャー


「松島湾には大小260の島々が点在しその美しい景観は松尾芭蕉をはじめとする多くの文人に称賛されてきました」


穂乃果「うみちゃん知ってた!? 松尾さんはこの景観をみて一句も出来なかったそうだよ!!」

海未「知ってはいましたが……その興奮具合はなんなのですか。松尾さんってご近所さんみたいに呼ばないでください」

ことり「はぁ~かわいい~♪」


ミャー

 ミャー


穂乃果「遊覧船っていいよね! ちょっとした船旅がいいよね!」

海未「その気持ちは分かりますが、ゆっくり楽しみむことも大事ですよ」

ことり「うみゅ~カワイイ~♪」


ミャー

 ミャー


穂乃果「うみちゃんの怒った顔、あの島の岸壁にそっくりだよ」

海未「どういう意味ですか!」

穂乃果「ほら」

海未「確認のしようがありません。それなら、あっちは寝ている穂乃果の横顔にそっくりですね」

穂乃果「そんなわけないでしょー? 岸壁と人の顔が似ているわけがないよー」

海未「そういう手に出るのは卑怯ですよ、穂乃果」フルフル

ことり「あ、私の手からパンを取っていったよ~♪」


ミャー

 ミャー


―― 青葉城址


真姫「よく此処に来ようなんて思うわね」

凛「そういいながらも真姫ちゃんも来たよね~」

真姫「私は消去法で来ただけ」

凛「消去法?」

真姫「寺には興味ないし、松島は……色々と面倒そうだし」

凛「でもぉ~、青葉城には興味あったんだよね~?」

真姫「仕方なく来たの」

凛「お城が好きなんだよね~?」

真姫「違うわよ。それに、城址であってお城がないじゃない」

凛「跡地を見て色々と思いを馳せるんだよね~」

真姫「私はそんなにロマンチストじゃないわ」


花陽「会話が成り立ってないようで成り立ってるような……ううん、成り立ってないかな」


凛「でもでも~、作曲家はロマンチストじゃないと書けないって聞いたよ~?」

真姫「誰が言ってたのよ」

凛「穂乃果ちゃん!」

真姫「あの人が言うことは8割がた大げさだから、真に受けないことね」

凛「そうかな、凛は真姫ちゃんが作ってきてくれる曲、好きなんだけどな~?」

真姫「そ、そう」

凛「だから、穂乃果ちゃんの言ってることは本当だと思うな~」

真姫「……そうかもしれないわね、過去の偉大な作曲家たちもそういう傾向が見られることもあるから」

凛「ということは、真姫ちゃんも想いを馳せて作曲してるんだよね~?」

真姫「否定しないけど」

凛「青葉城が建っていた頃を想像するのは楽しいよね」

真姫「……まぁ、そうね」

凛「じゃあ此処に来た意味があったよね~?」

真姫「わかったわよ、それでいいわよもう」

凛「やっぱりお城が好きなんだ」

真姫「どうしてそうなるのよ!」


花陽「う、うーん……凛ちゃんと真姫ちゃんならではの観光の仕方なのかな……」


凛「おーい、かよちーん! ここから仙台が一望できるよ~!」

真姫「悪くない景色ね」

花陽「本当だ……凄い景色……」

凛「夜景も綺麗なんだろうな~」

真姫「札幌のテレビ塔から見た景色も綺麗だったわね」

花陽「うん……街灯がとても綺麗だった」

凛「あー、行けなかった凜に意地悪してるにゃー!」

真姫「夜までここに居たらいいじゃない。忘れられない景色が待ってるかも」

凛「それだと七夕祭りに行けないにゃぁあ!!」

花陽「ふふっ」


―― 山寺


絵里「……ふぅ、到着っと」

にこ「まったく……この暑さの中、1000段も上がるなんて……っ」

絵里「でも、ほら見て……」

にこ「……山に建てただけあって景色いいわね」

絵里「これも日本の美しい文化ね……亜里沙にも見せてあげたい」

にこ「どうして山寺になんて来ようと思ったのよ?」

絵里「この階段を上りきると、その先で誰かが待っていてくれそうな気がしたから」

にこ「……箒を持って、巫女服姿で?」

絵里「ふふ、そうよ」

にこ「意外ね、そういうこと言うなんて」

絵里「そう?」

にこ「えぇ……。これは新たな一面を知ることが出来たってことかしら~?」ニヤリ

絵里「それを言うなら、公園でのにこもいつもと違ってたわよ」

にこ「公園? 私、なにか言った?」

絵里「いつもより頼もしかったわ。まるで妹の前では背伸びをするお姉さんのように」

にこ「な、なによそれっ!」

絵里「それは冗談として……でも、頼もしく感じたのは本当ね」

にこ「……」

絵里「せっかくだから、お参りしていきましょうか」

にこ「みらいは、私の理想とする存在だったのよ」

絵里「……?」

にこ「ファンの期待を背負って、それに応えようと一生懸命なアイドル。私はそんな姿に憧れてた」

絵里「……」

にこ「だけど、あの子……みらいは、私たちと変わらない普通の女の子だったわ」

絵里「……」

にこ「大きな悩みを一人で抱えて苦しんでた。だから……なんとかできないかなって、思ったのよ」

絵里「……」

にこ「それはたぶん、海未も真姫も同じ。だから協力してきたつもり」

絵里「公園で、あの曲を踊ろうと言ったのは……どうして?」

にこ「競争の激しい世界だけど、スクールアイドルの私たちとなら仲間意識を感じられるかなって、それだけよ」

絵里「……そう」

にこ「でも、お節介だったかもね」

絵里「……そうね。少しだけの時間だったけど、彼女から強い意志を感じられたわ」

にこ「私たちの想像も付かない世界で頑張ってる証拠よ」


絵里「やっぱり頼もしくなったみたい」

にこ「なによそれ。今までが頼もしくなかったみたいじゃないの」

絵里「ふふ、そうは言ってないわ」

にこ「……でも、少し気になってるのよね。連絡が入った時、異様に驚いていたから」

絵里「心配は尽きないわね」

にこ「うーん……」

絵里「……変わっていくのね、真姫と同じように」

にこ「……? なにか言った?」

絵里「なんでもないわ。それよりお参りしましょう」

にこ「……そうね」




チャリンチャリーン

カランカラン

パンパンッ


絵里「…………」

にこ「…………」



「それでは亮太さん、失礼します」ペコリ

亮太「うん、それじゃあね」


亮太「さて、と……俺もお参りしていこうかな」

「星奈と一緒じゃないのね」

亮太「うぉ!? ……なんだ、後ろからいきなり話しかけないでくれ」

にこ「あれは、桜井真美よね?」

亮太「うん。一人で来たんだって」

にこ「ひょっとして……避けられた?」

亮太「二人で話をしていたから話しかけづらかったって。彼女、引っ込み思案だから」

にこ「へぇ……って、そうよね、避けられる理由がないわよね……うんうん」

絵里「彼女は?」

にこ「ヴェガの乗客。昨日のねぶたも一緒に観たのよ」

絵里「……そう」

亮太「どうして星奈が出てきたの?」

にこ「約束があるって言ってたから、あんただと思ったのよ」

亮太「俺と星奈が…か……あははっ、面白いこというな」

にこ「星奈にも同じリアクションされたわ……」

亮太「それじゃ、俺も参拝してくるから。ヴェガで」

にこ「じゃあね」

絵里「私たちも行きましょうか」

レスありがとうございます。
展開が遅いのは、ほんと申し訳ないです

ここから少しずつ加速していきます
縁があり読んでくださった方ありがとうございます。


―― 定禅寺通り


ザワザワ

 ザワワ..ザワ...


絵里「凄い人の数……」

にこ「こんなので見つかるのかしら」

絵里「それも楽しみってことね。しばらく歩いてみましょう」

にこ「そうね。それにしても……この大きな飾りがいくつも並ぶと見ごたえあるわね……」

絵里「はらしょー……」

にこ「飾りに目を奪われて迷子にならないようにしなさいよ~?」

絵里「ねぶたも凄かったけど、この飾りも凄い……」


絵里「日本の文化ってとても魅力的ね、にこ」


絵里「にこ……?」


絵里「……」


絵里「はらしょー……」ションボリ

亮太「あれ、絢瀬さん……?」

絵里「?」

亮太「にこさんと一緒じゃないんだ?」

絵里「さっきまで一緒でしたけど、はぐれてしまったみたいで……」

亮太「この人だかりじゃ、しょうがないよね」

絵里「……」

亮太「俺は待ち合わせなんですけど、これくらいの身長の中学生の女の子、見ませんでした?」

絵里「この辺りにたくさんいるから……」

亮太「あはは、そりゃそうだ」

絵里「その子もヴェガの乗客、ですか?」

亮太「そうなんです。幼馴染で北海道に引っ越していったのを偶然、札幌で再会して……」

絵里「運命的ですね」

亮太「そうですね、逃げるなって言ってるのかも……」

絵里「?」

亮太「つばさのことだから、奥に行ってるのかも知れない……それじゃ」

絵里「はい、それでは」

亮太「あ、入り口に戻ったら会えるかも知れませんよ」

スタスタスタ


絵里(そうね、戻ってみましょうか……)クルッ


絵里(小さい子供を連れた親子、仲の良さそうなカップル、一人旅らしき観光客……)


絵里(私とかわらない年代の子達、祭りの関係者らしき年配の方……露店を開いている外国人……?)


絵里(色んな人がいるのね……)


「オー、商売繁盛とはこのコトですネ!」

「本当~、たくさん稼げたね~!」


絵里(外国人と日本人のコンビ……とてもパワフル……)


「そこを行くか弱いお嬢サン、お一ついかがデスカ?」


絵里「わ、私……?」


「もう店じまいしようと思ってたところ! 安くしておきますから~♪」

絵里(少し見ていこうかしら……)

「これなんて、いかがデスカ?」

「わー、お客さんにピッタリ~!」

絵里「アクセサリーは必要ないかな、と……」

「それじゃ、これなんてどうでしょう、伊達政宗の兜キーホルダー!」

絵里(亜里沙のお土産にいいかも……)

「今ではサービスが付いて、ナント! このナマズちゃんキーホルダーをお付けするネ!」

「それは付けない方がいいかもしれない……」

「ソーですカ? キュートで中々いいと思いますヨ?」

「うーん……なんていうか、余りモノを押し付けてるみたいだから」

絵里「くすくす……それじゃそれをお願いします」

「ありがとうございまーっす!」

「毎度ご贔屓に」

絵里「ふふ、どうも」

「よーっし、それじゃ観光に行こうか!」

「張り切って行きますネ!」

絵里「それでは」

「それじゃあね~!」

「また何処かでお会いしまショウー!」

タッタッタ


絵里「結局貰っちゃった……ナマズちゃん」


ドサァ...!


絵里「?」


「飾りが落ちたぞー!! おい! 大丈夫かー!!」

「は、はい……大丈夫、です……」


絵里(けが人は居ないみたいね……よかった)


ザワザワ


絵里(みんな来ているのかしら……)


「……」


絵里「あ……!」


「……」


絵里(にこなの……? 服が見えれば判断できるんだけど……後頭部だけでは分からない……)


絵里(また、梓さんと間違えたら失礼よね……ここは確認取れるまで声をかけるのは止めましょう)


「絵里ちゃん」

絵里「ほ、穂乃果……?」

穂乃果「私たちもにこちゃんらしき人物の後を追っていたんだけど……」

海未「また間違えて迷惑をかけるのもなんですので」

ことり「尾行しているんだよ~」

絵里「そう……とにかく、合流できてよかった」

穂乃果「真姫ちゃんたちとはまだ合流できてないんだけど、そのうち会えるよね」

海未「にこらしき人を見失いますよ」

ことり「同じ轍は踏んじゃダメだよね!」



「私はここなんですけどね」

「うふふ、穂乃果ちゃん達が追ってるのは本物のにこちゃんなのよね」

「なんというか、状況を複雑にするのが得意みたいなんです、あの人たち」

「でも、楽しそうじゃない?」

「それはそうですけど」

「私たちももう少しだけ尾行を楽しみましょう~」

「楽しいんですか」

「たんてい部みたいでいいでしょ?」

「私たちは軽音部です」キリ




花陽「にこちゃんが知らない人と歩いてる……!」

凛「本当だ!?」

真姫「あれはにこじゃなくて、同じ髪型をした人だと思う」

花陽「あ、梓さんなのかな……?」

凛「隣に居る人は?」

真姫「ヴェガの乗客。だから、一緒に居ても不思議じゃないけど……服装が見えないから」

花陽「判断できないね……」

真姫「やっぱり、にこである可能性は低いと思うけど」

凛「朝に駅で間違えたから……また間違えるわけにはいかないにゃ……」

真姫「彼女、また間違えられたのね……災難」

花陽「でも、どうしよう……はやくみんなと合流しないと……」

凛「どうする? このまま二人を尾行する?」

真姫「待って、いまチャットで呼びかけてみるから」

ポパピプペ

花陽「みんな席についてる状態だよね……」

凛「こういう時に利用しなきゃね~」


――――  ――――

― ただいま、8名が席に着いています。


Maki  ―― 今、定禅寺通りに来ているんだけど、みんなどこ?


――――  ――――



チャラン


穂乃果「うん?」

海未「チャットですね」

ことり「真姫ちゃんからだ」

絵里「ひょっとしたら、すぐ近くにいるのかも」

穂乃果「飾りの下を歩いてるよ、と」

ポパピプペ



――――  ――――


Honoka ―― 飾りの下を歩いているよ


――――  ――――

チャラン


真姫「明確な位置を伝えない内容ね」

花陽「でも、ここに来ているみたいだよ」

凛「……」

ポパピプペ



――――  ――――


Rin ―― にこちゃんらしき人物を追跡中!


――――  ――――


チャラン


ことり「え?」

海未「凛たちも後を追っているのですか?」キョロキョロ

穂乃果「すぐ近くにいるってことだよね」キョロキョロ

絵里「状況が複雑化してきたわね……」


チャラン


――――  ――――


Nikony ―― ちょっと、私らしき人物ってどういうこと?

Minalinsky ―― 梓ちゃんとにこちゃん、後姿が似てるから

Hanayo ―― また間違えてはいけないと思って…

Nikony ―― そんなこと気にしなくていいから早く声をかけなさいよ! 

Honoka ―― にこちゃん、一人なの?

Nikony ―― そうよ

Rin   ―― 凛たちが尾行していたのは梓さんでしたー!

Erichi ―― 私たちが追いかけてた人がにこだったのね…見失ったけど

Nikony ―― それ見なさい。早く声をかけないからよ

Umi   ―― どこかに集まりましょう

Minalinsky ―― なにかいい目印があればいいけど

Maki  ―― そっちで決めて

Honoka ―― なにかいい目印があればいいんだけどね

Hanayo ―― それ、ことりちゃんが言ったよ…?

Nikony ―― こんなにも人が居るのに孤独を感じている

Nikony ―― 無情なロンリネス

Rin   ―― ・・・。

Honoka ―― ・・・。

Erichi ―― ・・・。

Umi   ―― それはギャグですか?


――――



にこ「ちょっと星奈! 変なこと書き込むんじゃないわよ!」

星奈「あっはっは! みんな引いた!」



――――  ――――


Nikony ―― 違うわよ今のは、星奈が書いたんだから

Maki  ―― 人のせいにするのね

Rin   ―― 少し寒かったにゃ

Hanayo ―― 昔の歌詞みたいで良かったかな…

Honoka ―― ウン、ソウダネ、ヨカッタヨカッタ (((┗―y(`A´ )y-~ケッ!!

Nikony ―― 変なフォローはやめてくれる!?

Nikony ―― ちょっと穂乃果!? ケッってなによ!!!!

Honoka ―― にこちゃん、前に私たちの掲示板に書いたでしょ! お返しだよ!

Nikony ―― あれは、まだあんたたちがアイドルの何たるかを知らないからで

Erichi ―― 文字でケンカしないの

Rin   ―― (ノ≧∇≦)ノ ミ ┸┸ ムキーーーー!!!

Honoka ―― ヾ(o´▽`)ノ ヾ(*´▽`)ノミ☆

Hanayo ―― 二人とも仲良し

Nikony ―― どっちがどっちよ

Minalinsky ―― 右が真姫ちゃん?

Maki  ―― なんで私が出てくるのよ

Rin   ―― ちゃぶ台をひっくり返した凛はどうすればいいの?

Erichi ―― 大人しくしててね

Umi   ―― 遊んでいないでさっさと合流しましょう

Erichi ―― にこ、何かいい目印はない?

Nikony ―― 変な銅像がある

Maki  ―― 変って?

Nikony ―― 体を捻った女性の像よ。そこで待ってるから

Minalinsky ―― 分かった! すぐ行くからね!

Rin   ―― どっちが先に見つけられるか勝負だー!

Nikony ―― 試練のラビリンス


― Makiさんが席を離れました。 !NEW!

― Umiさんが席を離れました。 !NEW!

― Honokaさんが席を離れました。 !NEW!


――――  ――――



真姫「なにがラビリンスよ……ただの迷子でしょ、まったく」

凛「女性の像って、あれかな?」

花陽「あ、いた……」


にこ「あら?」

星奈「見つけるのはやっ!」



穂乃果「なんだ、近くにいたんだね」

ことり「チャットを終えて1分も経ってないよ~」

海未「アレは本当に星奈さんが書いていたのですね……」

星奈「もちのロン!」グッ

にこ「あんたたち、私が書いたと思ってたわよね……!」

真姫「……」シラー

凛「あはは」


チャラン


絵里「?」



――――  ――――


― Minalinskyさんが席を離れました。

― Nikonyさんが席を離れました。

― ただいま、Erichiさん、1名が席に着いています。

― Nozomiさんが席に着きました。 !NEW!


Nozomi ―― 楽しそうやね? 


――――  ――――


絵里「……」

ピッピップ


――――  ――――


Erichi ―― えぇ、楽しんでる

Nozomi ―― くれぐれも気をつけて

Erichi ―― 分かってる。怪我だけはしないよう、注意をしてるから

Nozomi ―― そうじゃないんよ

Erichi ―― どういうこと?

Nozomi ―― タロットが暗示してるから

Nozomi ―― 詳しくはウチにも分からないけど、一波乱ありそうやね

Erichi ―― そう…

Nozomi ―― 楽しみに待ってる


― Nozomiさんが席を離れました。 !NEW!


――――  ――――



絵里「暗示……」


ことり「面白い像だね~」

星奈「グレコ、夏の思い出、だって」

にこ「ふぅん……」

真姫「夏の思い出、ね」

海未「さすがに人が多いですね」

穂乃果「東北三大祭りの一つだからね~」

凛「後二つはなに?」

穂乃果「えっと、昨日行ったねぶたでしょ」

凛「……しゅん」

真姫「行けなかったのはしょうがないわ、今を楽しみましょ」

凛「そうだにゃ!」

花陽「あと一つは……?」

穂乃果「札幌の雪祭り?」

海未「突っ込みどころが多すぎます」

絵里「『青森ねぶた祭』『秋田竿燈まつり』『仙台七夕まつり』……ね」

星奈「秋田までは行けないな~、惜しい」

ことり「せっかくだから、短冊に願い事を書いて行こう~」

花陽「さ、賛成!」

海未「移動しますか」

穂乃果「そうだね、はぐれたらここを目印にしよう!」

にこ「まったく、子供ね~」

凛「そういいながらも付いてきてるにゃ」

絵里「にこの願い事はなに?」

にこ「全人類を笑顔にすることよ!」

星奈「おー! にこってばやるじゃん!」ガバッ

にこ「ちょ!? なにするのよ!」

星奈「いやぁ、かわいいなーって思ったから抱きついてしまったのだよ」

にこ「暑苦しいんだから、離れなさいよっ」


「星奈さ~ん!」

亮太「あれ、増えてる?」


星奈「ん? つばさちゃんと亮太?」

にこ「離れなさいって!」


「みなさん、来ていたんですね」

海未「こんばんは。真美さんも来ていたんですね」


凛「なんだか知らない人が集まって来たにゃー……」

花陽「そ、そうだね……」


ことり「あ、あっちにいるのって」

穂乃果「おーい、梓ちゃーん!」

真姫「なんか、穂乃果に呼ばれて複雑そうな顔してるけど……今度は何をしたの?」

穂乃果「なにもしてないよ!?」


絵里「……杞憂であって欲しいわね」



……




―― ヴェガ


にこ「15人で戻ってくるなんて……」

星奈「大所帯だよね、楽しかった~」

穂乃果「星奈ちゃん、顔が広すぎるよ!」

星奈「そうなんだよね、化粧するときは普通の人の3倍の量を使ってるからお金がかかってたいへ~ん…ってこら!」

凛「これがノリツッコミ……」

海未「他の乗客の方とも仲がいいですからね」

星奈「といっても、片手で納まる数だから大したことじゃないよ」

真姫「そんなことより、これからどうするの? 他の乗客は個室に戻ったけど」

ことり「ホテルに戻るには早いよね……」

凛「もうちょっと遊びたいな~」

花陽「で、でも……どこで?」

絵里「……」


車掌「お帰りなさいませ」

にこ「ただいま戻りました」

車掌「どうでしたか、仙台の観光は」

にこ「おかげでとても楽しめました。シャワー室の使用を許可してくださってありがとうございました」

車掌「いえ、お気になさらないでください」


穂乃果「にこちゃんが部長らしいこと言ってる!」

ことり「失礼だよ、穂乃果ちゃん」

絵里「そうよ。にこは今回、とても頑張っているんだから」

海未「茶化してはいけません」

凛「にこちゃんの様子が変にゃ……?」

花陽「うん……」

真姫「……」

星奈「……」


にこ「あの、飯山みらいは、仙台に着いてからもずっと仕事をしていたんですか?」

車掌「そのことで、ご相談があるのですが……よろしいでしょうか」

にこ「え……はい」

車掌「此処ではなんですから、娯楽車へいらしてください」

にこ「……わかりました」

車掌「みなさんもよろしければ同席していただけますか?」

絵里「え?」

穂乃果「わ、私たちも、ですか?」

車掌「公園で一緒に練習をしたと聞いたものですから」

ことり「……」

凛「???」

星奈「アイツ呼んでこようかな」


―― 亮太の個室


コンコン


亮太「はい?」


「わたしだよん!」


亮太「こんなこと言うヤツは一人しかいないな」


ガチャ


亮太「どうした?」

星奈「ちょっと用件があってね。寝る準備してた?」

亮太「もう少ししたら寝ようと思ってた」

星奈「悪いんだけど、娯楽車まで来てくれない?」

亮太「……うん」


バタン


星奈「みらいちゃんのことで、車掌さんが話があるんだって」

亮太「そうか……」

星奈「なにか、知ってる?」

亮太「いや、全然。あれからどうなったのか知りたかったけど……」

星奈「そっか」


―― 娯楽車


車掌「みらいさんの行為に他の乗客の皆様から苦情をいただいておりまして、
   それをテレビ局の責任者に伝えていたのですが、中々考えを改めていただけなかったのです」

穂乃果「……」

車掌「車内の雰囲気も悪化の一途を辿り、乗客の皆様に列車の旅を楽しんでいただけないことから、
   やむを得ず仙台にて下車していただく予定でした」

にこ「みらいも……?」

車掌「はい。テレビ局の関係者全員を対象としていましたから」

にこ「……」

車掌「ですが、青森を出発後、にこさん、海未さん、真姫さん、星奈さん、亮太さん、
   五名のご協力によりヴェガ内の雰囲気が改善されていたことを知り、下車していただくことを見送ることにしたのです」


凛「……」

絵里「……」

花陽「……」

ことり「……」


星奈「話は終わった?」

穂乃果「ううん、まだだよ」

亮太「……」

車掌「そして、ここからがご相談ということになるのですが」

にこ「……」

真姫「……」

海未「……」


車掌「今回の撮影で、飯山みらいさんを出演から外すと彼女のマネージャーから伺っております」

海未「え……?」

真姫「な、なによそれ」

にこ「ど、どうして……」

車掌「その辺りの事情は私には分かりかねます。みらいさんの代わりのアイドルが乗車するとしか聞いておりませんので」

にこ「――ッ」

真姫「その代わりのアイドルが、またヴェガの雰囲気を悪くするのね」

車掌「その辺りの問題はこちらで対応させていただきますが――」

にこ「納得できないわッ!」

穂乃果「に、にこちゃん……?」

にこ「みらいを連れてくる。本人から聞かないと気が済まない」

タッタッタ


真姫「……」

海未「……」


車掌「……」

絵里「車掌さん、一つ、伺ってもよろしいでしょうか」

車掌「なんでしょう?」

絵里「取材陣の乗車を認めなければいいのでは?」

車掌「その通りです。ですが、その場合、飯山みらいさんはどうされるでしょう」

亮太「一緒に降りる、かな」

星奈「……うん」

絵里「……」

車掌「私が乗車証をお渡ししたのは事務所側ではなく、飯山みらいさんです」

絵里(乗客として、みらいさんにも楽しんで欲しいから相談をした……ということ……?)

穂乃果「あの……」

車掌「はい?」

穂乃果「どうして……私たちにもその話を……?」

車掌「一人より二人、二人より三人、三人よりたくさんの仲間といた方が心強いのではないかと思いまして」

絵里「……」


―― みらいの個室


コンコン


「は、はい」

にこ「私よ」


ガチャ


みらい「にこさん……」

にこ「車掌から話を――……って、あんた、まさか降りる気?」

みらい「あの、話をしなくてはいけないことが……」

にこ「……ッ」

みらい「すいません、協力してくれたのに私の力が足りなくて……」

にこ「ばかっ、なんでっ……あんたが謝るのっ」

みらい「に、にこさん……どうして……泣いて」

にこ「な、泣いてなんかないわよっ、ほら、行くわよ!」グイッ

みらい「え?」

にこ「今までは一人で頑張ってきたかもしれないけどっ、これからは私たちがいるんだからっ」

みらい「……ぁ」


―― 娯楽車


車掌「それでは、私はこれで失礼します」

海未「はい……」

絵里「ありがとうございました」

車掌「いえ、私の要望を聞き入れてくださったこと、まことに感謝致します」スッ

絵里「……」

車掌「……」

スタスタ


凛「……凛たち、何ができるの?」

花陽「……」

絵里「そうね……」

ことり「……」

穂乃果「見守ることしかできないんじゃないかな」


にこ「連れてきたわよ」

みらい「みなさん……」

星奈「お嬢ちゃん、話を詳しく聞かせてもらおうじゃないの~」

亮太「星奈……少しは場の空気を察してくれ」

海未「車掌さんからさわりの部分は聞いています。ですが、細かい点が省かれているため納得できません」

真姫「どういうことなの?」


穂乃果「……」

ことり「……」

花陽「……」

凛「……」

絵里「……」


にこ「朝、撮影も順調で東京までは難なく終われるって聞いたわよ」

みらい「……はい」

にこ「それが戻ってきたら、飯山みらいは外されて他のアイドルが出演するっていうじゃない」

みらい「『飯山みらい』じゃないんです」

海未「ど、どういうことですか?」

みらい「はちゃめちゃな言動が売りの『アイドル飯山みらい』には後半のドキュメンタリーが邪魔だって言われました」

真姫「な、なによそれ……あなた言ってたじゃない……自分を素直に表現しているのが楽しい……って」

みらい「……」

真姫「それが『本当の飯山みらい』なんじゃないの……?」

みらい「求められている姿は……それじゃありませんから」

真姫「……っ」


星奈「あのディレクターさんは理解してくれてたみたいだったけど……?」

みらい「契約の上で成り立っていますから、マネージャーの意見が変われば撮影の方針も変わってしまうんです」

海未「……」

みらい「せっかく手伝っていただいたのに……私のせいで……乗客皆さんの厚意が……」

にこ「……」

みらい「……すいませんでした」

海未「……ッ」

にこ「いまの……『素直な飯山みらい』じゃ……通用しないってこと……?」

みらい「そうです。言うことを聞かないやつは要らないと、言われました」

にこ「…………こんなことって」


「んっふっふっふっふ、その通りだ」


亮太「……」

星奈「……」


将人「やりたいようにやっていれば夢が叶う。そんな子供の考えが通用する世界ではない」

にこ「……!」

将人「残念だったなぁ、みらい」

みらい「マネージャー……」

将人「今までのように、僕に従っていれば、こんなことにはならなかったはずなのに」

みらい「……」

将人「それがこんなくだらない連中に関わったせいでアイドル生命の危機だ」

みらい「やめてください、みなさんを……悪く言わないでください」

将人「今からでも遅くない。僕に謝れば今までのように仕事を与えてやろう」

みらい「……ッ」

将人「大企業のCM、雑誌の表紙、有名作曲家の音楽、歌番組、ステージ、どれもこれも全て用意してやる」

みらい「……」

将人「今まで通りにやっていればいいんだ。あの映像は一時の気の迷いということで許してやる」

みらい「今までたくさん嘘をついてきました。だけど……それは、みんなが幸せになれる嘘のはずです」

将人「それが子供だと言っているんだ。商売だということを忘れるな」

みらい「誰かを傷つける嘘はもう嫌なんです」

将人「それも入れ知恵か……余計なことを」

みらい「お願いですマネージャー! ちゃんと話を聞いてください!」

将人「どこまでも逆らうのか……?」

みらい「…………」


将人「従わないならそれでいい。その代わり……この業界で活動できるなんて思うなよ」

にこ「な――」

海未「なんてことを……」

真姫「……最低」

将人「んっふっふ、これが芸能界だ。
君達も所詮はアマの世界で背伸びをしているだけの存在……よく覚えておくがいい」


みらい「……――。」


将人「さぁ、謝るんだ、みらい」

みらい「……ッ!」


亮太「辞めちゃえば?」


みらい「――!」


将人「なにも知らないガキが、簡単にその言葉を口にするな」

亮太「そのガキに血相変えてるアンタはなんなんだよ」

将人「貴様ッ」グイッ

亮太「どこまでも格好の悪い大人だな」

将人「ふんっ、くだらん。せいぜい社会に甘えてろ」バッ

亮太「……っ」ドサッ


将人「さぁ、決めるんだみらい」

みらい「謝るのはあなたです」

将人「なに……?」

みらい「私の友達に失礼なことを言っただけじゃなく、全てのアイドルを侮辱しました!」

将人「ふっ、そうか……それでいいんだな?」

みらい「……っ」

将人「まぁ、いいだろう。おまえの代わりなんてたくさんいる」

みらい「……っっ」

将人「よかったじゃないか、これからは普通の女の子だ。そいつらと一緒に観光でも楽しめばいい」

みらい「や、辞めるわけ……ないでしょ!」

将人「なに?」

みらい「アイドルを続けます」

将人「んっふふふ」

みらい「私の夢を、あなたなんかに潰されたくありません!」

将人「アーッハッハッハ! フリーのアイドルか、これは面白い!」

みらい「……ッ」

将人「せいぜい頑張ってくれたまえ……『飯山みらい』」

スタスタ


星奈「亮太、塩!」

亮太「あるわけないだろ」

にこ「ブレないわね、あんたたち……」


花陽「し、心臓がどきどきしてる……」

凛「緊迫したにゃ~」

ことり「……」

穂乃果「……」

絵里「……」


海未「みらい、まさかとは思いますが……」

みらい「……はい。事務所をクビになりました」

にこ「そう…よね……」

真姫「あの時、この場にいた全員が同じことを思ったはず」

にこ「……」

真姫「誰かさんが口に出さなくても、同じ結果になっていたと思うけど」

みらい「…………」

星奈「その誰かさん、どうしてキレたの?」

亮太「俺のことはいいだろ……」

星奈「その言い方はないんじゃない」

亮太「あ、うん……そうだな。……あのさ、みらいちゃん」

みらい「……はい」

亮太「俺も重要な選択を迫られたときがあったんだけど、今のみらいちゃんのように決断できずにいたんだ」

みらい「……」

亮太「だから、今では後悔に近いような気分で過ごしてる。あの時、ちゃんと自分の意思で決めていたらどうなっていたんだろうって」

みらい「……」

亮太「これから先、みらいちゃんがこの時の選択を誤ったと思うことがあっても、それは前に進むための決断だったと思えるはずなんだ」

みらい「……はい。ありがとうございます」

亮太「あ、いや……お礼を言われることじゃなくて……逆にお礼を言いたいくらいで……凄いなって」

星奈「つまり?」

亮太「なんか言葉もおかしいな……考えが纏まらなくて……すまん」

みらい「いえ、亮太さんが背中を押してくれたから……迷いが晴れました」

亮太「……」

星奈「要約すると、応援してるってことだよね。私も応援してるから!」

みらい「……ありがとうございます、星奈さん、亮太さん」


にこ「これから、どうするの?」

みらい「……」

真姫「降りるの……?」

みらい「仕事もなくなって、乗り続ける意味、ありませんから……」

海未「……」


穂乃果「いいんじゃないかな、乗り続けても」


みらい「……」

穂乃果「だって、今は意味がなくても、後からついてくるかもしれないでしょ?」

みらい「……」

穂乃果「私たちだってヴェガの乗客じゃないのにこうやって娯楽車で話をしてるんだよ。
    その意味だって、きっと後から付いてくると思うんだ」

みらい「…………」

穂乃果「だから、今降りちゃうのはもったいないって思うな」

みらい「……」

穂乃果「もし、降りちゃうんなら、私がみらいちゃんの乗車証を引き継ごうかな?」

ことり「穂乃果ちゃん、ずるい~」

穂乃果「えへへ~早いもの勝ちだよ~」

海未「いいえ、車掌さんは飯山みらいに渡した、と仰いました」

みらい「え……?」

海未「ですから、その乗車証はみらい、あなたのものです」

穂乃果「そっか、ざんね~ん」

ことり「ざんねん」

海未「もう少し、乗り続けてみませんか?」

みらい「……っ」

にこ「悩む必要は無いでしょ」

みらい「……は……はいっ」

星奈「……ふぅ、よかった」

亮太「……うん」

真姫「当然ね」

花陽「うぅ、よかったっ」

凛「かよちん、泣いちゃダメだよ~?」

みらい「みなさん、ありがとうございます」

にこ「何度も言ってるけど、礼を言うのは早いわよ」

みらい「そ、そうですね……!」



絵里「…………」


―― 仙台駅前


海未「さすがは穂乃果ですね」

ことり「みらいちゃんを強引に引き寄せちゃったね」

海未「みらいはヴェガを降りて、一人で頑張るつもりだったと思います。
   それはにこも気付いていたはず……私もなんとか引きとめようと考えてはいたんです」

ことり「それを一足飛びで捉まえちゃったんだよね」

海未「私たちが考えていたのはなんだったんだろう、と……頭が空になるくらい呆気なく簡単にやってしまう」

ことり「それが穂乃果ちゃん」

海未「そうなんです」


「うみちゃーん! ことりちゃーん! 絵里ちゃんがどこ行ったか知ってるー!?」


ことり「私は知らないよー!」

海未「電話してはどうですかー!?」


「わかったー!」


ことり「しょうがないよね」

海未「しょうがないんです。きっと、みらいの置かれた状況を分かっていませんから」

ことり「うん、しょうがない」

海未「ですが、これが最善の選択だったと信じられます」


穂乃果「そっか、わかった!」

ピッ

花陽「絵里ちゃんどこにいるの?」

穂乃果「どうして星奈ちゃんと一緒なんだろう」

凛「星奈さんと一緒……?」

穂乃果「時間にはバス停に向かうから安心してって」



……



絵里「……」

星奈「早く行かんでええの?」

絵里「少し、考え事をしていたいので」

星奈「ふぅん……」

絵里「にこが、みらいさん――いえ、みらいに対してのめり込み過ぎのように感じていたんです」

星奈「……」

絵里「らしくないって言えばそうなんですけど。でも、それは私の目が曇っていたみたいで……杞憂でした」

星奈「そう……」

絵里「誰かの為に一生懸命なにこ……それも彼女の姿ということですね」

星奈「せやね。人は常に変化しとるもんやし」

絵里「星奈さんも?」

星奈「それは、いつか話せるときが来たら話すわ」

絵里「……」

星奈「ウチ、可笑しなこと言うた?」

絵里「ふふ、……いえ、特には」

星奈「……」

絵里「私たち、3枚の乗車券を9人でじゃんけんをして決めたんです」

星奈「……」

絵里「私が勝っていたらどうなっていたのかな、って……思ってしまって」

星奈「そうなんや」

絵里「どんな自分になっていたんだろうって、考えてしまいます」

星奈「ええんとちゃう?」

絵里「……」

星奈「想像するくらいなら、人は自由やから」

絵里「……そうですね」


にこ「ちょっと、ここでなにしてるのよ、時間がないわよ?」


絵里「……行きます」

星奈「うん……」

絵里「東京で待ってますから」

星奈「わかった」


にこ「なによ……大人の会話……?」


―― バス停


凛「日帰りなんて、慌しいにゃ~」

花陽「凛ちゃんだけ忙しいね……」

穂乃果「それでは、先に帰っています! 海未伍長!」ビシッ

海未「はい」

穂乃果「えぇ? はいってそんな……適当すぎるよ!」

ことり「それじゃ、先に帰ってるね」

真姫「気をつけてね」

ことり「大丈夫、マイ枕もあるから♪」

真姫「……なにが大丈夫なのよ」

みらい「変な気分ですね……これから私たちも向かう場所。そこへ行く人たちを見送るなんて……」

穂乃果「え? どういうこと???」

海未「みらい、あまり穂乃果を混乱させないでください」

みらい「す、すいません……」

穂乃果「みらいちゃん、ぜひ家へ寄って行ってね!」

みらい「え、えっと……?」

穂乃果「雪穂の驚く顔をみたいから!」

みらい「……っ」

にこ「困らせるようなこと言ってないでさっさと乗りなさいよ」

穂乃果「絵里ちゃんは?」

にこ「ほら、荷物を積み込んでるでしょ」

穂乃果「うん、よしっ。それでは、あばよっ」ビッ

テッテッテ


海未「あばよ……?」

星奈「さようなら、っていう別れの挨拶ね」

にこ「ちょっと、穂乃果に変な言葉教えるんじゃないわよ」

星奈「な、なんで私だって分かったの?」

にこ「あんたしかいないでしょ」

真姫「時代が一週周って新鮮な気分ね」

花陽「あ、あばよっ」

凛「あばよ~」

テッテッテ


星奈「あの二人はイントネーション間違ってるね」

ことり「そ、それじゃあ……」

星奈「あばよっ」

ことり「あ……あばょ……っ」

星奈「おぉ……カワイイ」

海未「やらなくていいんです」

ことり「な、なぜか恥ずかしい~っ!」

テッテッテ


絵里「変な挨拶が流行ってるのね」

星奈「絵里、あばよっ」

絵里「それでは、東京で」

スタスタ


星奈「流されないかぁ……」

みらい「あ……」フリフリ

真姫「穂乃果たちもこんな気分だったのかしら」フリフリ

海未「そうですね。同じ目的地なのに、その相手を見送るというのは不思議な気分です」フリフリ


穂乃果「え? なーに?」


海未「周りの人のこともちゃんと考えてくださいね」


穂乃果「もぉー、心配性だな、うみちゃんは」


海未「窓から身を乗り出すのは危険ですよ」


穂乃果「それじゃあね~」フリフリ


海未「はい。私たちの地元、東京で」フリフリ


ドルルルン


穂乃果「むふっ」


海未「ま、まさか……!」


プァン

ブロロロロロロ


星奈「……行っちゃったか……なんだか寂しい感じだね」

真姫「そう? 静かになって良かったって思うけど」

にこ「ヴェガに戻って休みましょ」

みらい「海未さん……?」

海未「ほ、穂乃果が……また何かを企んでいます!」



4日目終了

今日はここまで
明日はいよいよ最後の一人が待つ東京です。

ついでに他2つの作品がクロスします。


               8月5日


ガタンゴトン

 ガタンゴトン



―― にこの個室


にこ「……もう発車していたのね」


にこ「……」ボケー


にこ「ちょっと、ダルい……」


にこ「疲れが取れていないのかしら……」ボケー




――――  ――――


― Seaさんが席に着きました。 !NEW!


Sea ―― 私は海…

Sea ―― 果てなく続く海…

Sea ―― 人の悩みを小さくさせるくらい大きな存在…



――――  ――――




星奈「ふむ……」

ピッピッピ

海未「そんなに面白いですか?」

星奈「うん……だけど、相手がいないと寂しいね」

真姫「……」



――――  ――――

― ただいま、Seaさん、1名が席に着いています。

― Makiさんが席に着きました。 !NEW!


Sea  ―― どうしたの?

Maki  ―― 話し相手になってあげる


――――  ――――



星奈「いや、直接話せばいいんじゃないかな」

真姫「……っ」



――――  ――――


― Makiさんが席を離れました。 !NEW!


――――  ――――


星奈「あ……!」

真姫「ふん……」

星奈「ご、ごめんね、遊び相手になってくれたのに」

真姫「……」

海未「何をしているんですか?」

星奈「振られちゃった」


にこ「みんなおはよう。……どうして海未の端末持ってるのよ?」

星奈「あ、おはよー。昨日、にこの電話でチャットしたでしょ。それが楽しかったから貸してもらってた」

にこ「ふぅん……おもちゃを手に入れて喜ぶ子供みたいね」

星奈「テレビゲームとか好きだから、こういうの楽しいんだよね~」

海未「……そうですか」

店員「いらっしゃいませ、ご注文は何になさいますか?」

にこ「えっと……軽めのもので」

店員「フルーツとオレンジジュースのセットでよろしいでしょうか?」

にこ「うん……それでいいわ」

店員「かしこまりました」

真姫「……顔色が優れないみたいだけど、体調悪いの?」

にこ「そういうのじゃないと思うけど、あまり食欲ないから軽めにね」

海未「兆候かもしれませんね……、熱は測りましたか?」

にこ「まだだけど。これくらい平気、すぐにいつもの調子に戻るわ」

海未「そうだといいのですが」

にこ「それより、みらいは?」

真姫「まだ会ってないけど、そのうち顔を出すんじゃない?」

にこ「……」

亮太「おはよー、清々しい朝だな」

星奈「……」チラッ

亮太「?」




――――  ――――

― ただいま、Seaさん、1名が席に着いています。


Sea  ―― そのお間抜けな顔

Sea  ―― 清々しさからかけ離れてますわ!


――――  ――――



星奈「くっくっく」


亮太「なにしてんだ?」


星奈「べっつに~」

にこ「……」


――――  ――――


― Nikonyさんが席に着きました。 !NEW!


Nikony ―― 悪用はやめなさい


――――  ――――


チャラン


星奈「ん? ……はい、すいません」

海未「……そういう使い方をするのなら、返してもらいます」ヒョイ

星奈「あ、待って! もうちょっと遊ばせて!」

海未「そんなに楽しいのですか?」

星奈「私の電話、ほら、通話とメールしかできないから」

真姫「化石ね」


亮太「パンセットをお願いします」

店員「かしこまりました。昨晩は失礼致しました」ペコリ

亮太「え? あ……いいえ、もう気にしないでください」

店員「そう言っていただけると助かります。少々お待ちくださいませ」


星奈「亮太~」


亮太「なんだー」


星奈「あんたの電話、チャットできる?」


亮太「チャット?」


星奈「こうやって席が離れていても文字で会話が出来るという最先端技術を駆使した」


亮太「いや、チャットの説明はしなくていいけど、どうして今、それが必要なんだ?」


星奈「遊ぼうかなと思って」


亮太「今じゃなくてもいいだろ……それに、俺のケータイはそのアプリが入ってないし、対応できないから」


星奈「あぷり?」

海未「ソフトウェアのことです。それがお互いの端末に入っていないと遊べません。その言葉も馴染みがなさそうですね」

星奈「うん、地元じゃあまり見かけなかったし、必要性もないからね~」

店員「おまたせしました~」

にこ「ありがと」

真姫「……」ジー

星奈「あ、いま稚内をバカにしたでしょ、真姫?」

真姫「し、してないわよ」

にこ「いつも新鮮な材料を使用しているのね、この食堂車は」モグモグ


亮太「……」

ピッピッ...ピ


星奈「……?」


海未「次はいよいよ東京ですね」

にこ「真新しいものがないから退屈なのよねぇ」

真姫「……そうね」

海未「真姫は東京でヴェガを降りると言っていましたが、どうするのですか?」

真姫「…………どうしようかしら」


ガタンゴトン

 ガタンゴトン


にこ「考えてみれば、稚内からここまで、あっという間だったわ」

海未「そうですね、色々ありましたから」


星奈「亮太のケータイも古そうだね」


亮太「ん? ……あぁ、中学のときから使ってて……6年くらい前のモデルだからな」スッ


星奈「ふぅん……」

真姫「化石直前ね」

海未「……その表現は新しいですね」

にこ「いちごが甘酸っぱくてキュートな私を象徴としているみたい」モグモグ


星奈「ひょっとしてー、消したくないメールがあるとか~?」


亮太「――!」ビクッ


星奈「お、図星みたいじゃん」

にこ「?」モグモグ

星奈「詳しく聞かせて貰おうじゃないの~」


亮太「なんでだよ」


星奈「ひょっとして、彼女とのラブラブな内容?」


亮太「そんなわけないだろ。なに言ってんだ」


星奈「隠そうとするのが怪しい~」


亮太「…………」


チャラン


星奈「?」


――――  ――――

― ただいま、Seaさん、Nikonyさん、2名が席に着いています。


Nikony ―― 探りすぎではありませんか?


――――  ――――


海未「……」チラッ

星奈「……?」


――――  ――――


Sea   ―― うみちゃん、何か知ってるの?

Nikony ―― いいえ、そういうわけではありませんが

Nikony ―― 鶴見さんの雰囲気を察しているんです


――――  ――――


星奈「大丈夫だって」

海未「っ!?」

真姫「?」

にこ「もぐもぐ」


星奈「ほら、白状したほうが気が楽だぜ?」


亮太「……あのな」


星奈「前に言ってた親友かな?」


亮太「しつこいぞ、星奈」


星奈「しつこいって……なによそれ」


亮太「他人に言いたくないことの一つや二つ、誰にだってあるだろ。……星奈、おまえにだって」


星奈「……」


亮太「……」



みらい「おはようございま……?」

にこ「おはよう、そっち座ったら?」

みらい「は、はい。……亮太さん、失礼してもいいですか?」

亮太「うん」

みらい「……?」


星奈「なによ……」

にこ「今のは星奈が悪いんじゃないの?」

星奈「…………うん」

海未「にこ、返します」

にこ「……」

真姫「走行中は必ず何かが起こるのね」フゥ



――――  ――――


― Seaさんが席を離れました。 !NEW!


――――  ――――



ガタンゴトン

 ガタンゴトン


―― 展望車


にこ「集まってもらったのは他でもないわ! これからみらいの今後について話すわよ!」

真姫「いつものメンバーしかいないじゃない」

海未「……そうですね」

星奈「……」

みらい「……」

にこ「しょうがないじゃないの!」

真姫「一人足りないけど」

星奈「う……」

にこ「あれだけ突かれたら誰だって嫌な気分になるわよね」

星奈「うぅ……」

海未「ちゃんと話をしてきたほうがいいと思いますよ」

星奈「……でも、なんて言えばいいのか」

みらい「星奈さんらしく、ポテトチップを作るのはどうでしょう」

にこ「悪くないわね。それでいきましょう」

星奈「じゃがいも……仕入れてないし……」

海未「そうですね……やはりここは矢文で伝えるというのはどうでしょう!」

にこ「車内で矢を射てどうするのよ」

海未「……そうですね。弓もありませんし」

星奈「まぁ、この件は後回しってことで」

真姫「誤魔化さない」

星奈「……へい」


「おはようございまーす!」


海未「おはようございます、つばさ」

にこ「来たわね、元気中学生……」


つばさ「ここで何をしているんですか?」

真姫「特に何もしてないわ」

つばさ「なぁんだ、楽しいことしてたら混ぜてもらおうと思ってたのに」

みらい「つばささんは亮太さんと幼馴染なんですよね」

つばさ「お兄ちゃん? うん、そうだけど……?」

にこ「千葉に住んでたってこと?」

つばさ「そうでーっす! 千葉から北海道へ引越ししたんでーっす!」

海未「環境が大きく変わりますから、苦労されたのでは?」

つばさ「そうなんですよー。親の都合とはいえ、幼い私と本当のお兄ちゃんが試される大地に連れて行かれ、
    厳しくも辛い生活が始まったのです……しくしく」

真姫「中学生が半生を振り返ってどうするのよ……」

つばさ「新生活が始まって8年の月日が流れ……札幌で運命的な再会をしたお兄ちゃんはちっとも変わっていませんでした」

星奈「……」

つばさ「お兄ちゃんの記憶の中では私のこと、男の子だったんだよ!? 失礼しちゃうよね!」プンプン

海未「感情の変化が著しいですね……」

にこ「これが若さよ……」

つばさ「はぁー、お姉ちゃんに対してもこんな感じだったのかなぁ……レディに対してデリカシーがなさすぎるよねぇ」

星奈「お姉ちゃん?」

つばさ「うん、幼馴染のお姉ちゃん。本当のお兄ちゃんと結婚することになって、そのお祝いにいくの!」

真姫「……?」

みらい「少し、複雑な関係図ですね……」

にこ「本当のお兄さんの名前はなんていうの?」

つばさ「まさる、だよ。七尾勝」

にこ「幼馴染のお姉さんって、鶴見亮太とも幼馴染ってことよね?」

つばさ「そうでーす。私たち四人、小さいころはいつも一緒に遊んでいたから」

海未「そのお姉さんと本当のお兄さんが結婚ですか……喜ばしいことですね」

つばさ「そうなんだけど、まだ18だよ、18……早すぎると思うんだけどねぇ」フゥ

真姫「大学生……よね」

つばさ「東京の大学に通ってるの。久しぶりに連絡が来たと思ったら『結婚します』だって。
    お家では大騒ぎだったよー」

にこ「人それぞれ色々あるのね……」

海未「そうですね」

みらい「……」コクリ

つばさ「ということで、私は親戚のおじさんの所に泊まるので、水戸でお別れでーっす!」

星奈「そっか……」

つばさ「せっかく海未さんたちと仲良くなれたのに……残念ですけど……」

海未「……そうですね」


つばさ「というわけなのでぇ、真姫さぁん」チラチラッ

真姫「?」

つばさ「昨日の話、覚えていませんかぁ?」チラッ

真姫「……そうね、演奏するって話だったわよね。リクエスト、ある?」

つばさ「わーい!」

みらい「演奏、ですか?」

にこ「七夕祭りから戻ってくる途中にそんな話をしてたわ」

みらい「……いいですね、そういうの」


つばさ「いつも真姫さんが演奏してたの聴いてたんだけど……話しかけられなくて……えへへ」

真姫「べつに、話しかけても問題なかったけど」

海未「いえ、真姫に話しかけられるのは穂乃果ぐらいです」

真姫「どういう意味よ!」

星奈「私も話しかけたんだけど……」

海未「やはり、星奈さんと穂乃果は波長があっているのかもしれませんね」

星奈「ふ、ふぅん……喜んでいいとこだよね……なんで深刻そうなの?」


つばさ「私、あまり曲知らないんです」

真姫「……それじゃ、勝手に弾いてもいい?」

つばさ「はいっ」

真姫「聴いたことあると思うけど……――トロイメライという曲よ」

つばさ「トロイメライ……」


ポン  ポン ポン ポン ポロロポロン――――



にこ「真姫のクラシックなんて、ヴェガに乗るまで聴いた事なかったわ」

海未「私もです」

みらい「……」

星奈「いいじゃん……」


真姫「……」

ポンポロロ ポンポン


つばさ「……っ」


ポロロ ポン ポン ポン 


つばさ「……~っ」グスッ


真姫「……?」



―― ポン ポロ ポロポロ ポン......


真姫「どうしたの?」

つばさ「ごめんなさいっ、小さかったころのこと思い出しちゃって……えへへ」グスッ

真姫「……思い出、ね」

つばさ「大事にしてた人形を遊んでる途中に失くしちゃって……哀しくて泣いてたら、お兄ちゃんが探してくれてね」

真姫「……」

つばさ「勝お兄ちゃんも、お姉ちゃんも一緒に探してくれて……それがとっても嬉しくて」

真姫「……」

つばさ「ずっと忘れてたのに、真姫さんのピアノ聴いてたら思い出しちゃいました」

真姫「……そう」

つばさ「えへへ、泣いちゃったりしてごめんなさいっ。そして、ありがとうございました!」

真姫「……」

つばさ「それじゃ、他の人にも挨拶をしてくるから――」

真姫「きっと……」

つばさ「?」

真姫「きっと、優しい思い出だから」

つばさ「……」

真姫「その思い出と出会えて、嬉しかったんだと思う」

つばさ「……うん! ありがとう、真姫さん!」

真姫「……」

つばさ「私、ヴェガに乗ってよかった。……それじゃあね!」

テッテッテ


真姫「…………」


つばさ「あ、お兄ちゃん」

亮太「降りる準備、できてるのか?」

つばさ「えへへ、まだ」

亮太「早くしないと着いてしまうぞ」

つばさ「分かってますよーっだ。……それじゃあね!」

にこ「到着したら見送りに行くわ」

つばさ「わーい! 嬉しいなーっ」

テッテッテ


海未「……」

みらい「……」

亮太「忙しいヤツ……。それじゃ、俺もこれで」

星奈「亮太、あのさ……」

亮太「……」

星奈「聞きたいことあるんだけど……いい?」

亮太「なに?」

星奈「結婚式、参列するんでしょ?」

亮太「つばさに聞いたのか……、そうだけど」

星奈「前に言ってた親友って、その式の新婦さん、だよね」

亮太「…………」

星奈「……」

亮太「あぁ」


星奈「……祝福できるの?」

亮太「――!」


海未「せ、星奈さん……!」

にこ「ちょっと……!?」

みらい「……」

真姫「……」


星奈「ごめん、私……バカで不器用だから言葉を選べなくてさ……」

亮太「……っ」

星奈「ここまでずっと一緒に旅をしてきたから、分かるよ。その人のこと――」

亮太「お、おまえにそこまで言われる筋合いはないだろ!」

星奈「……な、なによそれ」

亮太「出会って数日しか経っていないおまえに、俺の何が分かるんだよ!」

星奈「……本気で言ってるの?」

亮太「本気もなにも、事実だろ。お節介も度が過ぎると取り返しのつかなくなることだってあるんだよ」

星奈「そ…そんなこと……」

亮太「……!」

星奈「言われなくたって……わかってるわよ」

亮太「……っ」

スタスタスタ


星奈「……馬鹿亮太」

にこ「……」

海未「……」

真姫「……」

みらい「……」



ガタンゴトン

 ガタンゴトン


―― 水戸駅


亮太「先に行ってるからな」

スタスタスタ


つばさ「もぉー、お兄ちゃんってばー」

星奈「なによあれ」

にこ「いつまでケンカしてるつもり?」

星奈「さぁね。私が悪いってのは分かってるけど、自分を誤魔化してるアイツが嫌い」

つばさ「お兄ちゃん……一度拗ねたらずっとああなんだから。小さいころとちっとも変わってない」

星奈「……」

つばさ「でもね、私たち以外の子とケンカしたことなかったんだよ」

にこ「どういうこと?」

つばさ「初対面の人でも話を合わせられるし、なにをされても怒らない、いつでも周りに気を遣ってくれて、
    困っていたら声をかけてくれる。優しすぎるくらい優しいお兄ちゃんだから」

星奈「昔の話でしょ」

つばさ「そうだけど……でも、札幌からここまで一緒にいたけど、少しも変わってなかったよ」


つばさ「頭を冷やす為にここで一度降りるんだと思う。わざわざ私を送っていくっていう理由をつけて」

星奈「…………」

つばさ「そんなお兄ちゃんだからねぇ、勝お兄ちゃんとお姉ちゃんとしかケンカしたことがないの。きっと今までもそうだったはず」


つばさ「だからきっと、星奈さんとケンカをしちゃって、お兄ちゃんもどうしたらいいのか分からないんだよ」

海未「……ふふっ」

つばさ「えへへ」

にこ「そういうことね」

真姫「子供ね」

つばさ「あははっ、そうだよね~」

星奈「な、なによみんなしてっ」

つばさ「東京でみなさんを見送りに行きます! それじゃっ!」

タッタッタ


星奈「あ……」

海未「見た目以上に大人なのですね、つばさは」

にこ「そうね……」

真姫「……」

星奈「すぅ――!」


星奈「 亮太の 馬鹿ぁぁああッ!! 」


星奈「――ふぅ、スッキリした」

海未「きゅ、急に大声を出さないでください!」ビリビリ

にこ「み、耳が……!」ビリビリ

真姫「なんなの……!」ビリビリ


―― 展望車


ガタンゴトン

 ガタンゴトン



にこ「集まってもらったのは他でもないわ! これからみらいの今後について話すわよ!」

海未「そういえば、代わりのアイドルの件、どうなりましたか?」

真姫「アイドルだけじゃなくて、テレビ局の連中もいないみたいだけど」

星奈「どういうことなの……?」

みらい「……?」

にこ「当事者が首を傾げてもどうしようもないのよ!?」

みらい「は、はい……」

にこ「諜報員がいないとこうなるのね……」

真姫「車掌さんに聞いてくるから、それ以外の話、進めておいて」スッ

星奈「頼んだよ~ん」


―― 娯楽車


真姫「本当にスッキリしたって顔よね……」





―― 2号車


真姫(絵のモデル……?)



「……」シャッシャッ


「いよいよ東京ですね、どこに行きましょうか」

「そうね~、あ、後楽園遊園地があるわ」

「遊園地ですか……」

「浅草寺の後に行くのもいいわね」

「ですね!」

「うふふ」


「……」スラスラ



真姫(あれで絵になるのかしら?)

スタスタ




―― 1号客車


「はぁ……」


真姫(深い溜め息……)


「……」


真姫(……私は誰かさんとは違うの……!)

スタスタ


―― 動力車


真姫(車掌室ってここよね……)


コンコン



ガチャ


車掌「はい、何かご用ですか?」

真姫「昨日の件で、話を聞きにきました」

車掌「どのようなことでしょう」

真姫「取材陣の姿が見えないのは、降りたから?」

車掌「そうです。昨晩、みなさんとの話を終えた後、下車されました」

真姫「……」

車掌「ここだけの話なのですが……」

真姫「?」

車掌「マネージャーとの摩擦が原因のようです」

真姫(考えてみれば当然よね、……今までの撮影を没にされたんだから)

車掌「……」

真姫(撮影が無くなったからマネージャーも降りて、代わりのアイドルも乗ってこない……と)

車掌「他にご質問はありますか?」

真姫「……この、乗車証なんだけど」

車掌「はい」

真姫「他人に渡すことは可能?」

車掌「……そうですね」

真姫「……」

車掌「規則では認められておりません」

真姫(まぁ、そうよね。……私の代わりに誰かが乗るなんてこと……)

車掌「……ですが、ヴェガに乗車される理由があれば認めています」

真姫「理由?」

車掌「はい。渡す側と受け取る側、両方の意志が一致した場合……ということですね」

真姫(それって、双方同意があればってことよね……車掌さんの匙加減?)

車掌「質問が無いようであれば仕事に戻りますが、よろしいでしょうか」

真姫「は、はい……ありがとうございました」

車掌「失礼します」


―― 展望車


真姫「――だって」

にこ「意外とあっさりね。もっと嫌味を言われるのもだと思ってたわ」

海未「みらいの置かれた状況は変わっていませんが……」

星奈「フリーのアイドルって言ってたけど、具体的には何をやるの?」

みらい「私がまだ新人だったころと変わりないと思います。街に出てCDやチラシを配ったり、
    デパートや遊園地などの施設へ営業をかけたり」

星奈「デパート?」

にこ「催し物のステージがあるでしょ、そこでパフォーマンスをするのよ」

星奈「あぁ、あったあった」

真姫「意外ね、もっと華やかなイメージだったけど、地道なこともしてたなんて」

海未「小さなことをコツコツと積み重ねる大切さ、ですね」

みらい「そうですね……でも、私は運のいい方でしたから」

星奈「そうそう、運も必要だよ」ウンウン

にこ「わかってないでしょ、あんた……」

海未「運と一括りにしてはいけないのですか?」

にこ「トップアイドルがその場所へ辿り着く為に必要な条件、それが運を掴むこと」

真姫「……」

にこ「たとえ、トップアイドルになれるほどの潜在能力を秘めていたとしても、本人にやる気がなければ凡人のまま。
   本人にやる気があっても、育成できる環境がなければ埋もれたまま。
   実力や気力が備わっていても、マネジメントする人物に能力がなければ鳴かず飛ばずのまま……」

星奈「熱いな……」

にこ「逆に、能力が低くて魅力的にも平凡なアイドルがトップに立つこともあるわ。
   それはプロデュースする側の才能があってこそ成り立つ方程式」

真姫「それって、アイドル本人が分不相応の仕事をさせられてるってことじゃないの?」

にこ「確かにそういう事例もいくつかあるわね。だけど、そのほとんどは一時の人気で終わるのよ。
   実力を伴わないから長続きしない……。まぁ、それでも運のいい方だけど」

真姫「……」

海未「実力もさることながら運も必要……。
   思った以上に厳しい世界なのですね、プロのアイドルというのは……」

にこ「無数に散らばる糸の中で、トップアイドルへの道筋を示すのはたった数本しかないの。
   歴史に名を刻んでいるアイドル達はその糸を手繰り寄せているのよ……、
   それを掴むのは並大抵の運じゃ通用しないわ!」

みらい「……」

星奈「……」バリッ

にこ「飯山みらいは敷かれたレールの上を走っていただけに過ぎない。
   そういう意味では事務所の力によってこの地位まで駆け上がってこれたこともまた事実!」
   
星奈「もぐもぐ」

海未「なにを食べているのですか?」

星奈「ポテチ、カニみそ味。食べる?」

海未「では、一つだけ」


にこ(例によって聞いてないわね……)シーン



星奈「おいしいでしょ」

海未「……ソウデスネ」

にこ「だけど、ヴェガという列車に乗ることで、アイドル人生の起点へと新たな道へ踏み出すことになった」

星奈「食べる?」

真姫「……遠慮しとく」

にこ「私はこれからもずっとあなたのファンでいてあげる。そして、友達でもありライバルだとも思ってる」

みらい「……」

にこ「仲間と一緒なら強くなれるから」

みらい「……」

星奈「頑張ってきたもんね、――にこっち」

にこ「……そう、私も今年の梅雨明けまでアイドル研究部として一人で活動していたわ。
   だけど穂乃果たちが押しかけてきてから変わった。諦めていたことにもまた頑張れた、
   励ましあってきたから頑張ってこれた」

海未「……」

にこ「結果的には、目標に手が届かなかったわけだけど……でも、
   諦めずに頑張っていれば、その先にいる自分は後悔していないって言えるから」

みらい「……はい」

にこ「って、なにを言わせるのよ、のぞ――……あれ?」

星奈「うまうま」モグモグ

にこ「聞き間違い…よね、……なにいまの」

海未「頑張るとはいっても、具体的にどうするのですか?」

にこ「それは……」

海未「私たちのようにダンスや歌の練習という努力では方向性が違うと思うのですが……」

にこ「……そうよね」

みらい「次の東京で営業をかけてみようと思うんです」

にこ「当てはあるの?」

みらい「以前、お世話になっていたプロデューサーがいるので」

にこ「顔は知られているんだから飛び込みでなにかできるかもしれないわね」

星奈「東京…か……」

真姫「あなたはどうするの?」

星奈「特に決めてないんだよね、どうしよっかなぁ……もぐもぐ」


―― 売店車 


店員「いらっしゃいませぇ。東京の観光ガイドはいかがですか?」

海未「……必要ありますか?」

真姫「地元だから、必要無いっていえば無いけど……一つ」

店員「はい、ありがとうございますぅ」

海未「……」

真姫「いつでも行けると思っていたから、東京の観光地なんて興味なかったでしょ?」

海未「そうですね……。客観的に見てみれば、新たな発見があるかもしれません」

真姫「そういうこと」

海未「……」

店員「あ、お客さん」

真姫「?」

店員「星奈さんとぉ……とっても仲良しさんですよねぇ」

真姫「違うわ」

海未「否定するのですか」



―― 展望車


星奈「ひっくしゅ」

にこ「いよいよ東京ね……こんな気持ちで到着を待つなんて思わなかったわ」

みらい「あの、にこさん……」

にこ「なに? まさか、一人で行くなんて言うんじゃないでしょうね」

みらい「気持ちは嬉しいですけど……迷惑じゃありませんか……?」

にこ「一度関わったのなら最後まで関わりぬく……たとえどんな結果になってもね」

みらい「……」

星奈「……」

にこ「……な、なによ、この沈黙は」

みらい「私……頑張りますっ」グッ

星奈「にこって、本当にいい子だよね」ナデナデ

にこ「幼い子を褒めるようにしないで!」

みらい「他にも営業かけられないか探してきます!」

にこ「どうやってよ?」

みらい「朝に駅の売店で求人雑誌を手に入れました! とってきます!」

テッテッテ


にこ「……たくましいわね」

星奈「……」

にこ「……」

星奈「あのさ、にこ……」

にこ「なによ?」

星奈「無理してない?」

にこ「……え?」

星奈「絵里が少し気にしてたんだよね……気負いすぎじゃないかって……あれ、入れ込みすぎ、だったかな」

にこ「……そう見えるの?」

星奈「言われて初めて、あぁ、そうかもしれないな。ってくらいだけど……」

にこ「……」

星奈「みらいちゃんのために一生懸命なのはとても伝わってくるよ」

にこ「……違う」

星奈「?」

にこ「昨日、ここでみらいが出演を外されるって話を車掌から聞いて……納得ができなかった」

星奈「……うん」

にこ「納得できないのは不満があったから。……不満というのは、一昨日の努力が報われなかったから」

星奈「あの撮影、みんなで頑張ったもんね……」

にこ「そうよ……」

星奈「うぅん……」


にこ「みらいは今までの努力や立場を捨てて……頑張っていたのに、あんまりじゃないか……って、思った」

星奈「……うん、そうだ」

にこ「――なんて」

星奈「?」

にこ「本当は謝りたくても謝れないからなのよ」

星奈「……」

にこ「みらいに『嫌い』って言ってしまったから」

星奈「あぁ……亮太がきっかけになった時…ね」

にこ「『アイドル飯山みらい』を嫌いになったのは事実だけど……でも、あれは本当のみらいじゃないし、
   だからといって今更謝るのも違うような気がするし……」

星奈「ふむ……」
   
にこ「うぅん……絵里の言うとおり……ね」

星奈「……?」

にこ「客観的に見たら……気負いすぎって言われてもしょうがないわ。真姫にも、らしくない、って言われた」

星奈「それがダメだって言ってなかったけど……?」

にこ「でも、良くはならない。……らしくないってのは無理してるってことでしょ?」

星奈「そうだねぇ」

にこ「……うーん…」

星奈「何を考えてるのさ?」

にこ「信じたことにまっすぐ進む人物を知ってるから、その人はどうするんだろうって考えてる」

星奈「……」

にこ「何も考えないで進むって本当に凄いことなのね…………うん」

星奈「『にこらしさ』ってなに?」

にこ「……え?」

星奈「それが大事なんじゃないかな」

にこ「…………」

星奈「あれじゃないの? 『にっこにっこにー』」

にこ「棒読みやめなさいよ……」

星奈「私と最初に会ったときさ、それをみて思ったんだよね。邪気のない子だなぁ、って」

にこ「当たり前でしょ、邪気なんてこれっぽっちもないわ」

星奈「絶対いい子だから、友達になろう。って……ちょっと寒かったけど」

にこ「あんた、寒いって言い過ぎなのよっ」ムニー

星奈「あはひゃ……ごふぇんふぉふぇん」

にこ「……まったく」プンスカ

星奈「まぁ、そんな感じでいこうよ」

にこ「…………」


星奈「な、なんてねー、あっはっは…………あー、……また余計なこと言っちゃったかな」

にこ「言ってないけど」

星奈「そっか…よかった。……私って余計なことばっかり言って相手を傷つけちゃうから」

にこ「鶴見亮太みたいに?」

星奈「あいたた……痛いとこを突きなさる」

にこ「星奈が居てくれてよかったわよ」

星奈「そう?」

にこ「こんな風にぐだぐだ考えてるところ、海未たちに見せたくないから」

星奈「それって海未ちゃんたちを信用してないみたいなニュアンスだけど」

にこ「そうじゃなくて、見栄みたいなものよ」

星奈「おー? ということは、私には心を開いてくれてるのね~?」

にこ「そういうとこ直しなさいよ、人が真面目に話してるんだから」

星奈「……はい、……すいません」

にこ「…………」

星奈「…………」


にこ星奈「「 ……プッ 」」


星奈「あっはっは!」

にこ「あははっ」



真姫「笑ってる……」

海未「……?」



星奈「なんか変だね、笑えてくるっ」

にこ「はははっ、わかるっ、なんか、くすぐったいっ」



真姫「……」

海未「時間を改めましょうか……」

「……そのほうが良さそうですね……邪魔はしたくありませんから」


星奈「照れくさいやら恥ずかしいやら」

にこ「少年漫画か、って話よね」

星奈「私は好きだけどね、友情、努力、根性!」

にこ「まぁ、私も嫌いじゃ……――ん?」


真姫「……」

海未「お取り込み中のところ悪いのですが、話をしてもいいですか?」

にこ「いつからそこにいたのよ!?」

真姫「……大笑いしてるところから」

にこ「あ、あれは演技指導よ。クールな私が大口あけて笑うわけないじゃな~い」

真姫「いつからクール路線になったのよ」


「……」

星奈「どうしたの、真美ちゃん」

真美「……あの、私……次の東京で降りるので……挨拶をしに来ました」

星奈「あ、そっか……」

にこ「桜井真美、あなた……東京へ進学するのよね?」

真美「……そう…です」

にこ「これ、渡しておくわ」

真美「これは……?」

にこ「私たちが通う学校のアドレスよ。
   スクールアイドルの映像もあるから、落ち込んだ時にこれを観ると励まされるわ」

真姫「よく自分で言えるわね……」

海未「……そうですね」

真美「あ、ありがとうございます」

にこ「礼には及ばないわ。それがアイドルの務めってものよ」フフン

星奈「真美ちゃんが住む寮ってインターネットあるのかな?」

真美「どうでしょう……、詳しいことはわかりませんから……」

星奈「そもそも、パソコン持ってる?」

真美「……いいえ……持ってるのは画材一式だけ…です」

にこ「…………そぅ……なの……ね」

真姫「どうして魂抜かれたような顔してるのよ、通う学校に行けばネットの繋がったパソコンの一つや二つあるでしょ」

にこ「そ、そうよね~」

海未「格好をつけて紙を差し出した手前、予期せぬ展開に頭が真っ白になったのですね……」

星奈「あっはっは! さっきの顔、間抜けだったよッ」

にこ「うるさい! あんたわざとでしょ!?」

星奈「あったりまえじゃん、真美ちゃんがネットに詳しくないの知ってたもんね~」ウシシ

にこ「ホント、いい性格してるわねぇ!!」

星奈「お誉めに預かり恐縮でぇす~」

にこ「うわぁ、はら立つぅ~!!」ダンダン

真姫「子供みたいに地団駄を踏まない……」


真美「クスクス」

海未「二人とも、遊んでいないで話を聞いてください。まもなく東京ですよ」

星奈「おっと、そうだった」

にこ「……あなた、東京へは初めて?」

真美「東京というより……地元から出ること自体が初めてです」

真姫「……そんな人が東京でやっていけるのかしら」

真美「……っ」

海未「真姫……」

真姫「あ……」

真美「本当の気持ちを言うと、とても怖いです。不安が大きすぎて……帰れるものなら帰りたいくらい……です」

星奈「……」

真美「一人でやっていけるのか、と……そればかり考えてしまって……絵を勉強をしにいくのに、それを考える余裕もなくて」

真姫「……」

真美「でも……」

星奈「でも?」

真美「あの時も、ただ習慣となったスケッチを……ただなんとなく描いていたんです。目の前の風景をただ、見ただけをそのまま」

にこ「……」

真美「そしたら、後ろから声をかけていただいたんです。『私たちも入っていい?』って」

真姫「あ、あの時って……もしかして」

真美「クスクス……そうです。穂乃果さんです」

海未「穂乃果?」

真姫「羊が丘展望台で彼女と会ったの。穂乃果が、描いてもらおうとかなんとか言ってたわ」

星奈「あの絵、完成したの? 見せて!」

真美「……どうぞ。……少し恥ずかしいですけど」

海未「これが羊が丘ですか……」

真姫「……」

にこ「……む?」

星奈「あれ? どうして、行っていないはずのにこが描かれてるのかな?」

にこ「私じゃないわよ、これ」

真美「す、すいません……私の表現力が足りなくて……ちゃんと描ききれませんでしたっ」

星奈「大丈夫だよ、梓ちゃんだってすぐ分かるから」

にこ「あんたね……」

真姫「なんとなく描いたようには見えないけど」

海未「……そうですね。描かれた、穂乃果、真姫、星奈さん、梓さん……4名と場所のいい雰囲気が感じられます」

にこ「…………」


真美「あの時は慌てて描いてしまったので……ヴェガに戻って何度か手を加えているんです。あの景色を思い浮かべて……」

真姫「……」

真美「何度も向き合っているうちに気付いたんです。もっとこんな風景に出会って、絵に表していきたい……」

真姫「…………」

真美「だから……頑張ってみようと……思っています」

星奈「うん! 応援してるからね、真美ちゃん!」

真美「ふふ、星奈さんに応援していただけると心強いです」

にこ「同じ東京にいるんだから、何かあったらいつでも訪ねて来るといいわ」

真美「あ、ありがとうございます」

にこ「そのアドレスにライブの情報も載せるから、絶対に来なさいよね」

真美「……はい」

海未「……」

真姫「……」

真美「それでは、準備があるので私はこれで……」

星奈「真美ちゃん、すっごく楽しかったよ」

真美「私もです」

にこ「はい、返すわ」

真美「……あ、穂乃果さんに渡していただけますか?」

にこ「?」

真美「描き終えたら渡す約束なので……」

海未「強引に強請ったのではありませんか?」

真美「い、いえ……そんなことは……」

真姫「本当に貰ってもいいの?」

真美「はい、……私なんかの絵でよければ」

真姫「そうじゃなくて、きっかけの一枚なんじゃないの?」

真美「……きっと、これからも出会えると思いますから」

真姫「……」

真美「それでは、みなさん」

海未「……はい。それでは、またいつの日か」

真姫「…………」

星奈「バイバイ、真美ちゃん」

にこ「それじゃ、またね」


真美「――いい旅を」


―― 真姫の個室



真姫「……」



ガタンゴトン

 ガタンゴトン




『私、ヴェガに乗ってよかった』

『……きっと、これからも出会えると思いますから』


真姫「…………」


『だって、今は意味がなくても、後からついてくるかもしれないでしょ?』



真姫「ここで降りて……いいのかな……」


―― 東京駅・ホーム



『まもなく、3番線にヴェガが到着します』


穂乃果「なんだかわくわくしてくるね!」

花陽「う、うん……」

凛「あの、穂乃果ちゃん」

穂乃果「なに?」

ことり「これってなにかな」

穂乃果「横断幕だよ。ほら、送別するときとか、歓迎するときとか、よくやるでしょ?」

ことり「意味を聞いているんじゃなくてね……」

絵里「理由を聞いてるのよ」

穂乃果「あ、来た!! ほら、ちゃんと持って!」


ガタンゴトン

 ガタン

ゴトン


凛「でも、すぐに見つけてくれるよね」

花陽「そ、そうだけど……恥ずかしいよ」

穂乃果「確かに、注目を集めちゃってるねぇ……」

絵里「……」

ことり「……」



ガタン

 ゴトン



  穂乃果  ことり  花陽  凛  絵里

  [ めんそ~れ!  ようこそ東京へ! ]


穂乃果「来た来た~」

ことり「ところで……この横断幕……なにが書かれてるのかな……」

凛「有無も言わさずに持たされたから……凛も確認してないよ……」

絵里「こっちを見る乗客の視線が優しくて……嫌な予感がするんだけど……」

花陽「だ、誰か助けて……」


プシュー


穂乃果「あ、開いたよ。誰が先に降りてくるのかな~?」


星奈「ふぅー、東京ダァ」

みらい「……」


穂乃果「おーい」


星奈「みらいちゃん、お勧めの観光名所ってドコカナー」

みらい「浅草寺なんかドウデショウ」

星奈「ウン、ソコニイコウ」

みらい「イキマショウ」

スタスタスタ



穂乃果「あ、あれ……気付かなかったのかな?」

ことり「たぶん、他人の振りをしたんだと思う……」

凛「あーっ、めんそーれって書かれてるにゃー!?」

絵里「メンソーレ?」

花陽「お、沖縄の方言で『歓迎』を意味する言葉……」

絵里「OKINAWA?」

ことり「ほ、穂乃果ちゃぁん」ウルウル

穂乃果「だって、この列車って鹿児島までで、沖縄までは行かないでしょ? だからどうかなって」

ことり「ここ東京だよぉっ!?」

絵里「片付けましょう……」

クルクル

穂乃果「作るのに3時間かかったのにっ!」

絵里「その3時間の成果が、恥をかいただけなのよ」


海未「さて、一旦帰りましょうか」

にこ「そうね」

真姫「夕方にもう一度集合でいいのね?」

海未「そうです」

にこ「それじゃ、行くわよ」

真姫「……」


穂乃果「ちょっとまったぁ!」ガシッ

海未「ナンデスカ?」

穂乃果「ひどいっ、うみちゃんまで他人の振りしてるっ」



……




にこ「なにがめんそーれ、よ……」

海未「……」

穂乃果「ヴェガの乗客、みなさんを歓迎したいと思って……」

にこ「その心意気は買うわよ。横断幕で歓迎しようって気持ちはとても凄いわよ、誰にでも真似できることじゃないわよ、
   だけどね、できれば予想の範囲内でやってくれない!?」

海未「……」

穂乃果「でも、3番ホームはあまり人が居なかったから、目撃されてないかなって……」

にこ「見てる人は見てるのよ! 札幌のあの寸劇だって私は冷やかされたんだから!」

みらい「……」ウンウン

海未「……」

穂乃果「あの時、にこちゃんも楽しそうにやってなかった?」

にこ「い、今は横断幕の話をしてるんでしょぉ? 寸劇のあれはあれで別にいいのよぉ」

穂乃果「……はい」

海未「……」

にこ「ほら見なさい、海未がだんまりじゃない」

海未「……いえ、私はもう、特に言うことはありませんから」

穂乃果「見捨てられた!?」

星奈「いやぁ、穂乃果ちゃんさ、さすがの私もちょっと、……ないかなぁ……なんて思ったりしたわけよ」

穂乃果「だって……うみちゃんたちを驚かせたかったんだもん」

海未「……」

穂乃果「いつも見ている東京駅だから、特別ななにかで表現したかった……だけだもん」

海未「…………」

星奈「ぐすっ……えぇ子や……」シクシク

にこ「まったく……」

真姫「手段と結果は置いといて、気持ちは嬉しいかもね」

海未「これからはちゃんと相談してください。書かれた文字についてもちゃんと議論をするべきです」

穂乃果「そうだね、あれはないか、たはー」ペシッ

海未「……しょうがないですね、穂乃果は」




「うふふ」

「なんだか、いい話になってますけど……」

「私たちも行きましょうか。まずは浅草のもんじゃ焼き~♪」

「あっちはあっちで楽しいのかも。……あ、待ってください、むぎ先輩!」


―― 秋葉原


星奈「あれ、にことみらいちゃんは?」

海未「ラジオ局です。飛び入りで使ってくれないかと、売り込みに行きましたよ」

穂乃果「昨日の今日でさっそく行動するなんて、凄い!」

星奈「そうだねー」ゴシゴシ

真姫「どうしたの?」

凛「目が痒いのかにゃ?」

星奈「うん……東京の空気に私の体が拒絶してるみたい」ゴシゴシ

花陽「繊細なんですね……」

星奈「こう見えても、心と同じでデリケートなんだよね、なんちゃって。……かゆい」

絵里「そんなに掻かない方が……」

星奈「いやぁ、なんというか、気持ちいいような……」ゴシゴシ

真姫「……」

スタスタ

ことり「真姫ちゃん……?」

凛「ドラッグストアに入ったね」

穂乃果「……目薬を買いに行ったのかな?」

凛「たぶん、そうだと思う。真姫ちゃん優しいにゃ」

星奈「……んー、一度掻いたら止まらないやめられない」ゴシゴシ

海未「我慢できませんか?」

星奈「うん……って、私のことはいいから行動しようよ。どうするの?」

ことり「私は一度、お家に帰らなくちゃいけないの」

海未「私もです」

穂乃果「私はそのまま行けるけど……」

凛「それじゃ、一緒に行くにゃ! かよちんはどうする?」

花陽「私もそのまま行く」

星奈「どこへさ?」ゴシゴシ

穂乃果「星奈ちゃんを我が音ノ木坂学院へ、ご招待します!」



……




星奈「秋葉原…ね……」キョロキョロ

真姫「ここを通ったほうが早いのよ」

星奈「ふぅん……」キョロキョロ

真姫「大きな建物が多いから珍しいのは分かるけど……前を見てないと人にぶつかるわよ。
   眼帯もしているんだから」

星奈「そうだねぇ……って、また稚内を馬鹿にした?」

真姫「してない。……というか、どうして星奈の案内を私に押し付けるのよ、まったくぅ」

星奈「東京って迷宮みたいだねぇ」

真姫「ちゃんと前をみて、……置いていくわよ」


「ちょっとまて、そこの君」


星奈「?」 


「そうだ、君だ。今、なんと言った」

星奈「稚内を馬鹿にした?」

「その後だ」

星奈「東京って迷宮みたいだねぇ」

「……来たか」

真姫「……なによ、あなた」

「我が名は鳳凰院凶真!」バッ

星奈「変なポーズ……これはバラエティ番組の撮影かな?」

真姫「し、知らないわよ」

凶真「――もしもし、私だ。ターゲットと接触した。……なに!? 事態は急を要しているだと!?」

星奈「……ターゲット、って私?」

真姫「行きましょ」

星奈「放っておいていいの?」

真姫「いいの。……というか、怖いわよ」

凶真「追って連絡する。エル・プサイ・コングルゥ」


星奈「色んな人がいるんだね、東京って」

真姫「稀よ稀……どこでもいるわけがないでしょ…急いでっ」


凶真「待て!」


真姫「――!」ビクッ

星奈「ん?」


凶真「我が名は鳳凰院凶真である!」



真姫「走るわよっ!」グイッ

星奈「う、うん」

タッタッタ


凶真「なぜ逃げる!?」

タッタッタ


真姫「付いて来た!?」

星奈「本当は知り合いなんじゃないの?」

真姫「冗談じゃないわよっ」

星奈「……悪い人には見えないんだけど」

タッタッタ


凶真「我が名は狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真だ。フゥーハハハハハ! ゲホゲホッ」

タッタッタ


真姫「ひっ」

星奈「むせてるっ」

タッタッタ


凶真「はぁっ……はぁ……ま、待て…!」

タッタッタ


真姫「止まったらダメっ」

星奈「オッケー!」

タッタッタ


凶真「はぁ……はぁっ、……ま、待ってくれぇ……っ!」

「やめんか、この変態ッ!」ザッ


ドスッ


凶真「ぐはっ」


ゴロゴロゴロ


ズサーッ


真姫「はぁ……はぁ……?」

星奈「ふぅ……止まった?」


凶真「なにをする、助手クリスティーナよ……あばらが2,3本イッてしまったではないか……ぐっ」

紅莉栖「なにをする、じゃないでしょ。
    仲間が顔を赤らめて息をはぁはぁさせながら女の子を追いかけるなんて……我が目を疑ったわ」

凶真「横から強烈な飛び蹴りとは卑怯な……いや、さすがというべきか」

紅莉栖「逮捕される前に止めてくれてありがとう、でしょ。助手って言うな」


真姫「……常識人?」

星奈「みたいだね」

紅莉栖「すいませんでした。悪い人物ではないので通報は考え直していただけませんでしょうか」

真姫「……」

星奈「どうして私たちを追いかけたの?」

凶真「だから言っているだろう! 我が名は鳳凰院凶真であると!」バッ

紅莉栖「ちょっと黙ってろ、岡部倫太郎」

岡部「ぐ……その名を口にするな。我が名は鳳凰――」

紅莉栖「こいつ、ご覧の通り精神年齢が実年齢に追いついていません」

真姫「でしょうね」

星奈「えっと、だから、どうして私を?」

岡部「迷宮、と言ったではないか。それは深淵へと導く禁断の……む?」

星奈「?」

岡部「もしかして、人違い…か?」

星奈「……たぶん」

岡部「……」

真姫「なにそれ、勘違いで追いかけられてたの……?」

紅莉栖「ぷふっ、恥ずかしいヤツ」

岡部「ふ、フゥーハハハハ!」

星奈「?」

岡部「もちろん知っていた! だが、敢えて遊びに興じていたのだ!」

紅莉栖「ハイハイ、勘違い男、乙」

岡部「その右目の眼帯だ。それのせいで間違えたのだ」

星奈「あぁ、これは……目が痒くて無意識に掻いてしまうから、真姫に付けろって言われただけ」

岡部「……そうか。だが、この俺を欺こうとする気概は認めてやらんでもない」

紅莉栖「調子に乗るな、一歩間違えばタイーホだったんだから」

真姫「もう行ってもいい?」

紅莉栖「変なことに巻き込んで悪かったわね」

星奈「びっくりしたけど、まぁ、いいかな」


「迷宮錯綜のヘルマフロディトス」


岡部「なに!?」


「我は邪王真眼、正統継承者――」バッ


岡部「我が名は鳳凰院凶真――」ババッ


「ようやく会えた」


岡部「貴様か、我がラボのマシーンに即効性のウィルスを運び入れたのは」


「ふふ……ご名答」


紅莉栖「ウィルスっていうか、メタルうーぱの画像だろ」

星奈「……だれ、あの可愛い子」

紅莉栖「たぶん、小鳥遊六花って子……まゆりっていう、私たちの仲間と意気投合したみたいで、
    わざわざ秋葉原まで遊びにきたみたい。それで岡部が頼まれて迎えに来たところ……」

星奈「同じ眼帯をした私がいたから間違えたと……あっはっは! なにそれサイッコー!」

真姫「……」


六花「貴方になら、我が右目の障壁にも耐えられるだろう」

岡部「俺を試そうというのか、面白い……!」

六花「さぁ、見るがいい……! 今こそ封印を解き放――」

「やめろっ」バシッ

六花「あいたっ……痛いよゆうた……」

勇太「注目を集めてるんだから、もうやめてくれ」

六花「うぅ……」

岡部「もしもし、俺だ……機関による妨害が入った。……俺のことは心配いらない。
   分かっている…定期連絡を待て……エル・プサイ・コングルゥ」

六花「か、かっこいい……」キラキラ

勇太「うわぁ……中学生のころの俺だぁ……」

六花「ゆうたも、ゆうたもやって!」

勇太「断固拒否する!」



真姫「私……もう…ムリ……」

星奈「もうちょっと見ていたいけど、私たち行くね」

紅莉栖「あ、ちょっと待って」

星奈「?」

紅莉栖「あなた、名前は?」

星奈「私? 山口星奈……だけど」

紅莉栖「星奈さん……ね。あなた、強いデジャヴとか残ってない?」

星奈「うーん……?」

紅莉栖「デジャヴの意味、分かるでしょ?」

星奈「あるような、ないような……」

紅莉栖「ごめん、気にしないで」

真姫「行くわよ、星奈」

星奈「うん。……それじゃ、またどこかで会いましょう~」フリフリ

紅莉栖「えぇ、さようなら」


紅莉栖「……」

岡部「どうした、助手よ」

紅莉栖「彼女、不思議な雰囲気を持っていたから。……だから、助手って言うな」

岡部「うむ……。喩えて言うなら、決して交わることのなかった線……か」


勇太「各世界に亀裂が生じているようだ。これから何が起こるか分からないぞ」

六花「邪王真眼が開かれるとき――――世界を混沌が覆いつくす」

岡部「世界を混沌に陥れるのはこの俺、マッドサイエンティスト鳳凰院凶真だ、フゥーハハハハ!」

紅莉栖「中二病乙乙乙ッ!」



―― 音ノ木坂学院


真姫「……」フラフラ

穂乃果「真姫ちゃん、フラフラしてるけど……どうしたの?」

真姫「ムリ、無理よ、ムリ……私の理解の外にいるから……無理なのよ……」

穂乃果「……今までにないダメージだね」

星奈「色んな人がいるってことですな」

真姫「ちょっと保健室で休んでくる」

トボトボ


穂乃果「足取りが重いね……なにがあったんだろう……」

星奈「もう痒くないから外しちゃおうっと」

穂乃果「それより、星奈ちゃん……」

星奈「うん?」

穂乃果「例の件、どうなりました?」ウシシ

星奈「絵里に見られてちょっと焦ったけど、大丈夫だった。まだバレてないよ」ウシシ


―― ラジオ局


「あらぁ、みらいちゃんじゃな~い」

みらい「ご無沙汰しています、プロデューサー」

P「突然連絡くれるんだもん、びっくりしちゃったわぁ~」

みらい「お忙しいところすいません」

P「いいのよぉ、そんなこと気にしないでぇ……ぶっつけ本番だけど、大丈夫よね?」

みらい「はい!」


コンコン


P「ん?」

「すいません……ちょっと、話が」

P「はいは~い、じゃ、ちょっと待っててねぇ~」

スタスタ


にこ「なんていうか……凄い人ね」

みらい「以前、お世話になった方で……とても良くしてくれたんです」

にこ(芸能界ってこういうものなのね……男の人なのに……いえ、深く考えちゃダメよ、にこ)

みらい「……」

にこ「緊張してるの?」

みらい「ふふ、そうですね。でも、楽しみな部分が大きいかもしれません」

にこ「そう……」

みらい「使ってくれるなら、頑張りたいと思いますっ!」グッ

にこ「…………」


P「えっとねぇ……」

にこ「?」

みらい「……?」

P「悪いんだけど、この件は無かったことにしてくれないかしら」

みらい「え……」

にこ「ど、どうして……ですか」

P「ちょっとねぇ、……色々と問題があるみたいなのよ」

みらい「…………」

にこ「問題って……」

P「簡単に話せたら苦労はしないんだけど……とりあえず、この件はなかったということで。それじゃあね」

スタスタスタ


みらい「……」

にこ「……」


……



にこ(結局、後に周った2件も同じような反応……)

みらい「……」

にこ「……」

みらい「…………」

にこ(当事者が前を見ているんだから、私が下を向いてちゃダメじゃない……!)


にこ「……ッ!」パンッ

みらい「!」

にこ「ふぅ……顔を叩いたらスッキリしたわ」

みらい「……どうしたんですか?」

にこ「ちょっとね、考えてたのよ」

みらい「……」

にこ「あなた、ステージに立ちたいでしょ?」

みらい「はい」

にこ「例えば、私たちアマチュアのようなスクールアイドルと同じ舞台でも、その気持ちは変わらない?」

みらい「もちろんです。どんな規模のステージでも、全力で取り組まなくては観客を楽しませられませんから」

にこ「……」

みらい「……と、教わっています」

にこ「前の……事務所?」

みらい「そうです。……私が移籍していたこと、知っていたんですね」

にこ「ま、まぁね」

みらい「基礎の基礎を教えてくれて、叩き込んでくれて。
     いつでも一緒に活動していたプロデューサーと候補生がいるんです」

にこ「……」

みらい「飯山みらいは根性がある、なんていわれますけど……ほとんどその二人のおかげだったりします」

にこ(その事務所から移籍して売れ出したのよね……。
   デビュー当時からファンだったこと、隠す必要ないんだけど、言いにくいわね……うぅん……)

みらい「……にこさん?」

にこ「な、なに?」

みらい「やっぱり、退屈……でしたよね」

にこ「……」


みらい「結局使ってもらえませんでしたから……」

にこ「……」スッ


ビシッ


みらい「いたっ」

にこ「話を戻すけど、松本で行われるアイドルイベントがあるのよ。それは知ってる?」

みらい「は、はい……」ヒリヒリ

にこ「なに笑ってるのよ」

みらい「こうやってデコピンもされたんです。……思い出してしまって……なんだか変ですよね」
    
にこ「決めた。飯山みらいも出場よ」

みらい「?」

にこ「私たち、そのイベントに参加することになってるのよ」



―― アイドル研究部・部室


星奈「知らない校舎を歩くって楽しくていいね~」

穂乃果「そ、そうだね」アセアセ

絵里「……」

「……」

星奈「あ、自己紹介がまだだったよね、私の名前は山口星奈、よろしくぅ」

「……」ペコリ

星奈「無口だね……私なんかに緊張しなくてもいいんだけど……三年生?」

「……」コクリ

穂乃果「せ、星奈ちゃん、紹介するね。彼女が9人目の――」

絵里「星奈、変なこと聞いてもいい?」

星奈「おっけー、どんなことでも答えるよん」

絵里「星奈は……降霊術、なんてことできる?」

星奈「……いいえ」

穂乃果「!」

海未「降霊術……嫌なことを思い出しました。……今でも思い出しただけで背筋が凍りつきます」ブルッ

絵里「どんなこと?」

海未「それは……青森のねぶた祭りへ見物しに行こうとしたときの話……」

星奈「……ぁ」


凛「なんだか怪談みたい……かよちん電気消して~」

花陽「う、うん……」


カチッ

 シャーッ


凛「カーテンを閉めると、雰囲気バッチリ」


海未「私はホームに到着したヴェガから降りて、真姫と観光をどこへ行こうかと話をしていました……」

星奈「……」

海未「すると突然……私たち二人の背後から予期せぬ声が聞こえたのです……!」


花陽「……っ」ブルブル

凛「……」ワクワク


海未「――『ウチは恐山やね』」


凛「どういうこと?」

花陽「さ、さぁ……」

絵里「それは誰が言っていたの?」

海未「星奈さんです」

星奈「……」

絵里「私も星奈が関西弁で喋るところを目撃しているわ。……希」

希「なぁに?」ニコニコ

絵里「変なことを聞くようだけど、人の身体の憑いたりできる?」

希「ウチ、そんな力無いよ?」

絵里「そうよね……。ということは、稚内出身の星奈に関西弁で海未たちに会話をするよう促した人物がいる」

海未「凛、照明を点けてもらえますか。その犯人が浮き彫りになるはずです」

凛「了解!」

海未「犯人は――」


カチッ


花陽「だ、だれ……?」

星奈「私がやりました」

海未「それは知っています。真犯人がこのアイドル研究部の中に居る!」

希「……ふむ」

凛「一人足りない?」

絵里「……」

海未「机の下!」バッ


穂乃果「ひゃぁぁっ」


海未「黒幕は高坂穂乃果、あなたです!」

希「さぁ、出ておいで~」ワキワキ

絵里「やっぱり、穂乃果だったのね」

希「えらい、楽しいことしてたんやねぇ」ワキワキ


穂乃果「ち、違うよっ!?」

海未「なにがですか。無駄な抵抗は止めて出てくるのです」


星奈「……絵里、気付いてたんだ」

絵里「青森駅でみらいと話をしているときは驚いたけど、よく考えたら遊んでいるだろうと思って」

星奈「だから希はさっきまで喋らなかったんだ……。うーん、一杯食わされたかぁ」

絵里「ふふっ」


希「問答無用、ワシワシの刑やな」ワキワキ

穂乃果「あわわわ」

星奈「なに、その手の動き……」

希「星奈ちゃんもや」

星奈「……え?」

希「人を使って何しとったかわからんけど、勝手はあかんやん?」

星奈「せ、せやなぁ……穂乃果ちゃんバリア!」

穂乃果「星奈ちゃん!?」

希「わしっ!」


ワシッ


穂乃果「ひぎゃっ!」


……



真姫「……どうしたの?」

穂乃果「う……ぇ……ぇ」

真姫「そんなところで寝てると風邪引くわよ」


星奈「一人称はウチ、にこのことをにこっちと呼ぶ。そして関西弁で喋る。
    スピリチュアルな恐山と、そんな条件だったよ」

海未「また変なことを……」

星奈「ごめん、ふざけすぎたよね」

希「えぇよ、別に。それよりきちんと自己紹介してなかったね。……ウチは東條希」

星奈「9人目、と」

希「うん」

絵里「走行中もそれをやってたの?」

海未「はい。にこと絡むような場面ばかりでしたが。それも、たまにという程度」

星奈「ぴぃ~ぷぅ~」

凛「口笛吹いてそ知らぬ顔をしてるにゃ」

花陽「でも……どうしてそんなことを?」

星奈「いやぁ、穂乃果ちゃんが『うみちゃん達のことが心配だから』って」

海未「だからと言って、希の真似をする必要があるんですか?」

星奈「そうした方が、『助言者ぽくって良い!』って押されちゃって」

海未「確かに、希は私たちにいくつか助言してくれていましたが……」

希「困った子やねぇ」


穂乃果「……ぅぅ……星奈ちゃんに希ちゃんのこと言うの……すっかり忘れてた」

真姫「……そういうことね」


ガチャ


にこ「みんな揃って……いるわね。それじゃメールで伝えたように会議を始めるわよ」

みらい「失礼します……!」

希「あれ……?」

にこ「見たことあるでしょ、飯山みらいよ。そして、アイドル研究部の東條希」

みらい「初めまして」

希「初めまして」

にこ「さぁ、椅子に座ってちょうだい。時間が無いわ」


絵里「……」

海未「……」

花陽「に、にこちゃん……?」

凛「まるで別人にゃ……これも降霊術……?」

希「そんな気配は感じられへんけど……」

穂乃果「もう降霊術はコリゴリです……」

ことり「椅子をどうぞ」

星奈「ありがと。って、いつ来たの?」

ことり「にこちゃん達と校門で会って~」

星奈「そうなんだ」

みらい「……」


にこ「会議の内容は他でもない、松本のアイドルイベントについてよ」

みらい「……」

星奈「松本でそんなことやるんだ」

にこ「まずはみらいと星奈に私たちスクールアイドルの話から伝えないといけないわね。穂乃果」

穂乃果「はい、ここからは私が説明をします。……コホン」

海未(声の質まで変えて……)

穂乃果「我が音ノ木坂学院は先日まで統廃合の危機に直面しておりました」

星奈「ふむふむ」

穂乃果「そこで私は、廃校を阻止するためにはどうしたらいいのかを考え、
    入学希望者を増やすためにうみちゃんとことりちゃんの三人でスクールアイドルを結成することのしたのです!」

星奈「おぉー」

みらい「……」

穂乃果「そして、ここにいるみんなも一緒に活動することになり、来年までではありますが、
    音ノ木坂学院の存続が決定しました!」

星奈「……ん?」

穂乃果「あ、あれ? 伝わってない?」

海未「少し話を飛ばしてしまったようですね。二人ともラブライブというイベントをご存知ですか?」

みらい「はい」

星奈「食堂車で聞いたよ」


海未「アイドルの甲子園と呼ばれるラブライブ。
   そこでの出場枠が上位20組、ファン投票のランキングにより参加が決まるのです」

星奈「ファン投票……人気順ってことね」

海未「そうです。私たちはネットでPVを流したり、秋葉原でパフォーマンスを行ったりと活動を続け、
   なんとか19位まで上がることができました」

星奈「なぁるほど、人気が出たから入学希望者が増えて存続決定! ってことね」

穂乃果「そういうことです」

星奈「今回はラブライブに参加できるんだね……それっていつ? 私も観たい!」

みらい「……」

穂乃果「それが……」

ことり「ぁ……」

絵里「……」

花陽「……っ」

凛「……」

希「……」

真姫「……」

海未「それは……」

星奈「……あれ? どうしたの、みんな」

にこ「……」

穂乃果「私のせいで……」

ことり「穂乃果ちゃんのせいじゃ……」

穂乃果「ううん……私が……あんな無理をしなければ」

星奈「え?」

希「あれはしょうがなかったんよ」

穂乃果「でも……私が……!」

絵里「止めなさい穂乃果」

穂乃果「……ッ」

星奈「え、えっと……」オロオロ

真姫「……っ」フルフル

穂乃果「ごめんね……いつまでも引きずってて……」

ことり「ううん、穂乃果ちゃんは悪くない!」

穂乃果「私が無茶をしたから、ことりちゃんの様子にも気付かずにいたんだよ……」

ことり「違うの、私の海外留学は……自分に自信を持つ為に決めたことだったからっ」

星奈「りゅ、留学!?」

絵里「穂乃果が無理な練習をして風邪をひいてしまってね。
   そのまま学園祭のステージで踊ったから、倒れてしまったのよ」

穂乃果「……っ」

凛「責任を押し付けたいわけじゃない、でも……それがラブライブ不参加という結末になった……のにゃ」

花陽「もう少しだったけど……手が届かなかったね」

星奈「……」ゴクリ

真姫「……ぷ、ぷふっ」


みらい「そんなことが……」

星奈「い、色々あるんだね……」

にこ「ひっくしゅっ」

星奈「ん……?」

にこ「鼻がムズムズするわね……。まぁ、それがランキングから私たちが消えた理由ね。分かった?」

星奈「ちょっと待って、今のシリアスな場面はなんだったの?」

ことり「お芝居~♪」

星奈「オシバイ?」

絵里「アイドルに多少の演技は必要ってことでね」

にこ「うまい具合に星奈が勘違いしたからね」

星奈「あ……前回って今回のこと?」

にこ「そうよ」

星奈「紛らわしいよ、にこ!」

にこ「あんたが勝手に早とちりしたんでしょ」

穂乃果「うぅ……やっぱり胸が痛い……」

希「みんな演技が上手やね」

花陽「わたしも、少し呑まれちゃった」

海未「真姫はずっと笑っていましたが」

真姫「ちが……星奈の様子見てたら……堪え切れなくて」

星奈「また引っ掛けられたかぁ」


穂乃果「私が無理な練習をしすぎたせいで、風邪をひいてね。
    そのままで学園祭のステージで踊ったから……倒れちゃった」

絵里「その責任という形で、ラブライブの出場は見送ることになったのよ」

凛「そして、学校の存続は決まったけれど、これからどうしようって時に」

花陽「にこちゃんがヴェガの乗車券を引き当てていたから」

希「ヴェガの停車駅、松本でアイドルイベントがあるから、ラブライブの変わりと言ってはなんやけど」

海未「出場してみようということになりました」

ことり「エントリーも出来たということで、明後日の松本でのイベントに私達は参加します」グッ

にこ「分かった、みらい?」

みらい「は、はい」

星奈「ことりちゃんの留学は?」

ことり「無し~♪」

星奈「軽いな……」

真姫「規模もそんなに大きくないし、参加するアイドルは私たちのような無名に近い人たちばかりだから、
   集客力のあるイベントじゃないんだけど」

穂乃果「そんなことないよっ、人前で披露することには変わりないんだから!」

にこ「花陽、まだ参加枠は残ってたわよね?」

花陽「う、うん。朝に見たときは2つくらい残ってたけど……もう一度確認してみるね」

星奈「明後日開催なのに、まだ集まってないんだ」

にこ「規模が規模だからね」


穂乃果「絵里ちゃん」

絵里「?」

穂乃果「アレはどうなったかな」

絵里「向こうの会長さんも乗り気だったわ」

穂乃果「そっか……そっかそっか!」

海未(また何か企んでいますね……それとなく探りを入れましょう)


希「それはいいとして、どうしてみらいちゃんを連れて来たん?」

にこ「そのイベントにみらいを参加させるためよ」

凛「みらいちゃんも一緒かぁ~」

みらい「よろしくお願いします」

ことり「ねぇ、穂乃果ちゃん」

穂乃果「うん?」

ことり「会長さんって、どこの会長さん?」

海未「ことり、直球すぎます。ここは変化球で射止めないと」

穂乃果「ナ、ナンノコトカナー?」

海未「こうやって白を切ることになるんです。無駄ですよ穂乃果、思いっきり態度に出ていますから」

穂乃果「しちにじゅうし、しちさんにじゅういち、しちしにじゅうろく、しちごさんじゅうご」

海未「九九で誤魔化そうとしていますね……」

星奈「……あれ、いま間違えたよね」


花陽「に、にこちゃん!」


にこ「なに?」

花陽「こっち来て!!」

にこ「なんだっていうのよ……?」


星奈「それにしても凄いポスターだね……」キョロキョロ

絵里「にこの私物だけどね」

星奈「本当にアイドルが好きなんだねぇ……」

みらい「A-RISEに福岡のスクールアイドル……」

希「詳しいやん?」

みらい「……はい。実は――」

凛「さすがA-RISE、ランキング一位なだけはあるにゃ~」


にこ「なによこれ!?」


穂乃果「ど、どうしたのにこちゃん、そんな大きな声を出して」

海未「何があったのですか?」

絵里「?」


花陽「朝までは変わりなかったのに……!」

にこ「ど、どうしてこんなことになってるのよ!?」

星奈「んー?」

ことり「えっと……イベントの参加者リスト……だよね」

海未「こ、これは……!?」


真姫「なに? まだお芝居が続いているの?」


にこ「トップアイドルの名が連なっているわ……!」

花陽「江戸前留奈……大海恵……、速水玲香……舞園さやか……!!」

にこ「な、なんで……こんな大物が揃っているのよ……」

花陽「掲示板も大盛り上がりです! ログを辿っていけば、分かるかもしれません!!」

にこ「頼んだわよ、花陽!」

花陽「ふむふむ……こ、これは! ファンのみなさんの興奮具合が伝わってきますぅ!」

凛「かよちんの興奮具合も伝わってくるにゃー!」


穂乃果「にこちゃん、出場者リスト、見せてくれる?」

にこ「プリントアウトするから待ってて」

絵里「私でも聞いたことのある名前ばかりね……」

希「すごいやん」

絵里「希、他人事じゃないのよ?」

希「それじゃ、辞退する?」

絵里「それについても話をしましょうか」


星奈「なにこれ、伝説のアイドル伝説?」

みらい「希少価値が高いそうですよ」

星奈「ふぅん……見てみようか」

みらい「そうですね、勉強にちょうどいいですから」


にこ「当事者、こっち来なさい」

みらい「は、はい……」

星奈「ねぇねぇ、これ見たいんだけど」

にこ「うるさいわね、今はそれどころじゃないのよ!」

星奈「冷たいなぁ……もぅ」


穂乃果「絵里ちゃん、あの人たちのグループは……?」

絵里「残念ながら入っていないわ。登録できなかったのね……」

穂乃果「そんなぁ」

絵里「仕方ないことだけど……誘っておいてこんな形になるなんてね。……後で連絡入れておくから」

穂乃果「……うん。お願いね」


真姫「なんだか騒がしくなってまとまりが付かなくなってるわね」

海未「傍観者ですか」


にこ「残念だけど、枠が埋まってしまったわ」

みらい「……そうですか、残念です」

にこ「これが、出場者リスト」

みらい「…………ぁ」

にこ(やっぱり気付いたわね……そのアイドルを)

みらい「……」

花陽「経緯が分かった!」

にこ「説明して」

花陽「こ、この人が一番最初に登録したみたい!」スッ

みらい「……え?」

にこ(みらいが移籍する前の事務所のアイドル。
   ……さっき反応してたってことは、なにか意味が?)

花陽「それからなの、他のアイドル……江戸前留奈さんが登録して……
    辞退するアイドルが出て、大海恵さんが入って、入れ替わり状態に」

にこ「……」

花陽「こんなアイドルイベント、他では絶対に観る事が出来ません! 
   きっと歴史に残ること間違いなし、はぁ~今から楽しみ~!」キラキラ

穂乃果「あのね、花陽ちゃん……私たちの名前も登録されてるんだけど」

花陽「……え」

凛「ほら、ここ!」スッ

花陽「あれっ!?」

凛「忘れていたみたいにゃ!」

ことり「ステージの規模はどうなるんだろう?」

海未「そうですね……あの会場ですから…………あれ、ということは観客も増える……?」

穂乃果「そうだね、きっとお客さん増えちゃうね~うみちゃん、どうしよっかぁ?」ニヤリ

海未「今からでも遅くはありません、今回の出場は見送りましょう」

穂乃果「決断はやっ」

海未「無名の私たちがトップアイドルと肩を並べるなんておこがましいと思いませんか?」

穂乃果「説得しようったって無駄だよ!」

海未「きっと、観客はそのアイドルたちが目当てで会場に訪れるのだと思います。
    私たちが今まで披露してきたステージとは規模が全然違ってきますよ」

穂乃果「そ、それは……」

絵里「状況が変わったからきちんと話をしないとね……花陽もこっちに座って」

花陽「う、うん……」

ことり「星奈ちゃんがいないね」

真姫「電話が鳴って出て行ったわ」

ことり「……そうなんだ」


絵里「現状を整理すると……」

にこ「私たちが出場する予定の松本のアイドルイベント。
   朝まではそれなりのアイドルたちばかりで、ここまで盛り上がるような状況じゃなかった」

花陽「そうです」

にこ「だけど、どういうわけか、今をときめくトップアイドルが登録をしたことを皮切りに、
   朝まで登録をしていたアイドル達が出場を取り辞め、今のようなリストになるまで入れ替わりが続いた……」

海未「辞退する気持ちは分かりますね」

絵里「きっと私たちのことなんて霞んでしまうでしょうね」

希「そうやね。仮にラブライブに出場していたとしても、それはファン投票やから、私たちを知っているという安心感があったはず」

ことり「……松本でのイベントはそれが一切無いんだよね」

凛「そう考えると、なんだか怖い……」

真姫「私たちを知ってる人たちの前で歌を披露するのと、知らない人の前とじゃこっちの重圧も違ってくるわね」

にこ「辞退をするなら今の内よ。きっと、他にも参加したいと思っているアイドルがいるはずだから」

花陽「譲ったほうが……盛り上がるのでは……ないでしょうか」

海未「……」

ことり「……」

絵里「……」

希「……」


穂乃果「そうかなぁ?」

みらい「……?」

穂乃果「私たちはやりたいようにやれば良いと思うけど」

海未「観客は、そうは思わないのではありませんか?」

穂乃果「うん……興味を持たれないって、とても辛いけど……でも、参加者の意思は自由でしょ?」

にこ「そうね……。まだ私たちの名前が残っている訳だし……」

穂乃果「だったら、辞めることはないよ! 今までどおり楽しく歌って踊るだけ!」

花陽「……そう…だね」

穂乃果「それが伝わったらとても嬉しい、興味を持ってくれたらもっと嬉しい!」

ことり「うん、知ってもらえるチャンスだね」

絵里「異議のある人は?」

海未「……ふぅ」

希「……異論無し、やね」

凛「よぉし、だんだん燃えてきたにゃぁ」

真姫「結局、やることは変わらないわけね」

穂乃果「よしっ、さっそく練習を――」

海未「まだ話は終わっていませんよ、穂乃果」

穂乃果「え?」


にこ「登録が埋まっていてこれ以上の参加は受け付けていない……」

穂乃果「あ、みらいちゃん……」

みらい「……」

にこ「みんなに提案があるんだけど、みらいを含めて参加できないかしら」

凛「9人+1人?」

希「10人なら、9人の女神とは呼べない、ね……」

にこ「……」

穂乃果「そのことで、私に妙案がございまして~」

海未「……」

ことり「妙案って?」

穂乃果「ふっふっふ~、それはまだヒミツ――」

海未「何を企んでいるのか、白状してください穂乃果、ことがことです!」ズイッ

穂乃果「……はい」

真姫「また何かするつもりなのね」

穂乃果「9人+1人+5人だよ」

海未「5人?」

穂乃果「私たちと、みらいちゃん、そしてもう一つのグループで参加してはどうかなって」

にこ「もう一つって誰なのよ」

穂乃果「にこちゃんたちは毎日会ってるでしょ~?」

真姫「毎日?」

海未「時間が無いんです、変な謎かけはやめてください!」ズズイッ

穂乃果「わ、分かった……近いようみちゃんっ」


……



穂乃果「――というわけです」

海未「……そんなことまで考えていたのですか」

絵里「向こうの生徒会長にも話は通してあるけど、まだ未確定な部分ね」

みらい「……」

海未「そんなこと、いつ思いついたのですか?」

穂乃果「仙台の七夕祭りからヴェガに戻る途中で、そうできたらいいよねって話をしてて」

にこ「まぁ、あの人なら穂乃果の案に乗るのも不思議じゃないわね……」

希「みんな楽しんでたんやね」シュッシュ

星奈「なにそれ? あ、タロット占い?」

希「そうや、これからのことを占っておこうと思ってな~」

ペラッペラッ


にこ「登録チームがステージで披露するのは30分程度……それをどれだけ有効に使えるかが勝負ね」

ことり「そうだね、歌う曲は慎重に決めないと」

絵里「話は大体決まったから、解散しましょうか」

穂乃果「練習しないの?」

絵里「星奈はせっかくの東京なんだから、学校にいるだけってのはもったいないじゃない?」

真姫「それもそうね」

星奈「そんなこと気にしなくてもいいんだけどね」

にこ「どこか行きたいところとかないの? 案内してあげるわよ、真姫が」

真姫「どうしていつもそうなるのよっ」

星奈「観光地には行こうと思えばいつでも行けるけど、
    ここには今しか居られないでしょ? だからいいかなって」

花陽「ふ、深いです……!」

凛「そんな視点、凛にはたどり着けないにゃ!」


みらい「これが伝・伝・伝……」ゴクリ

にこ「観たいの? しょうがないわね~」

星奈「伝説のアイドル伝説……略しても伝が一つ多いよね」

花陽「それはですね!」キラン

真姫「始まった……」

星奈「え?」


花陽「伝説のアイドル伝説とは、各プロダクションや事務所、学校などが限定生産を条件に歩み寄り、
    古今東西の素晴らしいと思われるアイドルを集めたDVDBOXで、その希少性から伝説の伝説の伝説――
    略して伝伝伝と呼ばれる、アイドル好きなら誰もが知ってるDVDBOXです!」


星奈「……すごいね」

花陽「凄いなんてものじゃありません! とっても凄いんです! 
    三つの伝説が付いたDVDがここにあるんです!」

星奈「せっかく東京に来て……DVD鑑賞ってのも……ね」

真姫「さっきと言ってることが違うような気がするけど」クルクル

花陽「絶対に見過ごしてはいけません!」ズイッ

星奈「私、アイドル好きってわけじゃないんだけど……ち、近いよかよちゃん……!」

穂乃果「それじゃあ、家で観ない?」

みらい「?」


……




絵里「みんな行ったわよ希……私たちも帰りましょう」

希「何度やっても同じカードやね」

絵里「……内容は?」

希「The Moon。――不安定、幻惑、現実逃避、潜在する危険、欺瞞、猶予ない選択……つまり、好くない表示」

絵里「……」

希「最後にもう一度……」


ペラッ

 ペラッ


絵里「変化が必要ってことかしら」

希「ふむ……なるほど。……エリちが引いてみて」

絵里「これでいいの……?」

希「……」コクリ


ペラッ


絵里「さっきと同じ月……気を引き締めろって意味なのね、きっと」

希「…………」

絵里「帰りましょ」

希「同じカードでも、位置が違うと意味も変わるんよ」

絵里「?」

希「エリち次第ってこと、かもね」


―― 高坂邸


穂乃果「じゃーん、我が家です!」

星奈「お邪魔しまーす」


ガラガラッ


穂乃果「勝手に開いた!?」

海未「お店でもあるんですから、間違ってはいません」

ことり「星奈ちゃん……気後れしないんだね」


母「いらっしゃい、ってなんだ……穂乃果じゃないの…――みらいちゃん!?」

みらい「お邪魔します」

穂乃果「えへへー、連れてきちゃった」

母「たいへんっ!」


バタバタ


星奈「ありゃ?」

穂乃果「ちょっと、どこ行くのお母さん!?」


「撮影があるならあるっていいなさいよー! それなりの準備が必要でしょー!」


穂乃果「なんか、ごめんね……」

みらい「あの、撮影で来た訳じゃありません」


母「え? そうなの?」ヒョコ


穂乃果「友達として呼んだの。……それに、化粧してもしなくても大して変わらな――」

母「ふんっ」ブンッ


パコッ


穂乃果「いぅ!?」

星奈「ティッシュ箱が命中した……くっくっく」

凛「このやりとり、前にも見たにゃ……」


―― 雪穂の部屋


穂乃果「先に妹を紹介するねー」

みらい「……」

穂乃果「雪穂ー、みらいちゃんを連れてきたよー」


スーッ


雪穂「ぐぬぬ……もうちょっとでベルトが締まるッ……燃やせ皮下脂肪ぉ!」グググ


 スーッ

パタン


穂乃果「それじゃ、居間に行こうか」

スタスタ

みらい「……あれ?」


―― 居間


雪穂「お姉ちゃん! さっき私の部屋開けたでしょ!?」

穂乃果「そうだけど?」

雪穂「って、人多ッ!? 突然開けるなんてビックリするじゃない、って知らない人ッ!?」

星奈「姉に負けず妹も個性強いな……お邪魔してるよん」

雪穂「はっ、みらいちゃん!?」

みらい「お邪魔しています」

海未「しています」

ことり「していま~す」

凛「してまーす」

花陽「さっそくDVDを……」スッ

にこ「花陽もブレないわね……」

雪穂「うわっ、とっても恥ずかしい!」

テッテッテ


「穂乃果ー、ちょっと来てー」

穂乃果「はーい! ちょっと店番してくるね~」

テッテッテ


星奈「お手伝いか……偉いなぁ……」

海未「そうですね。穂乃果たち家族は仲がいいですから」

星奈「……」


チャーチャチャララチャッチャラー


花陽「始まりますっ」

みらい「……」ジー



―― とある部室


「どうして集められたんだ?」

「生徒会長様が直々にお話があるんだってさー」

「まだ拗ねているのか……」

「だって、二人で日本縦断なんてずるいやい!!」

「はいはい」

「あたしだって、仙台で運命的な出会いがあったかもしんないんだぜー?」

「しょうがないだろ、乗車券は2枚しかないんだから……じゃんけんにも負けたんだし、文句言うな」

「そうだけど、あぁッ! 今頃楽しんでいるんだろうなー!」

「ストレスが溜まってそうだな……ドラム叩いて解消すればいいよ」

「そいつぁ名案だぜ! って、ずっとやってるから意味無いだろぉ、飽きたぁッ!」

「困ったヤツだ……」ヤレヤレ

「あのさぁ……」

「うん?」

「高校三年生の女子二人が、夏休みにこんなところで時間を潰していてもいいのだろうかって思わない?
 ……もっと青春を謳歌するべきではなかろうか……むぎ達のように」

「それを言うなっ」ビシッ

「あいてっ」


ガチャ


「お二人さん、こんにちは! 暑中お見舞い申し上げます!」

「お、それはアイスか!?」

「ご名答、お好きなものをどうぞー!」

「よく分からない気合が入ってるな……。というか、全部同じ種類……」

「うんめー! やっぱ夏はアイスだよな!」

「そうだね~、う~ん……アイスは……最高~……」

「さっそくだらけた!」


コンコン

ガチャ


「失礼するわね」

「用件ってなんだよー?」

「東京の音ノ木坂学院から連絡があってね」

「連絡~?」

「学校の部室でそれを伝えるということは……」

「そう、軽音部としての誘いになるわね」

「お誘い~?」

「面倒なことならパース!」

「東京ってことは、むぎと梓が絡んでいる?」

「そうみたいよ」

「なんですと!?」

「詳しく聞かせろ和!」

「落ち着け……律」

「み、澪ちゃん! ついに来たよこの時が!!」


「その話をする前に、顧問である私を忘れてもらっては困るわね。寂しいじゃないの」

「さわちゃん、いたんだね」


―― 高坂邸


海未「……!」ブルッ

ことり「どうしたの、海未ちゃん?」

海未「なにやら寒気が……」


『 遠い彼方へ 旅立った 』


花陽「この歌唱力……さすがですっ」

みらい「……」


星奈「何度も観ているって言ってたのに、よく飽きないね」

にこ「本物はいつの時代でも残されていくものなのよ。
   聞く度に新しい変化を生み出してしまう、文化そのものなのよね」

星奈「アイドルが文化、ね……ふぅん」

にこ「星奈は少し、アイドルを軽んじてるところがあるわね……そこ座りなさい」

星奈「軽んじてないよ?」

にこ「いいから、座りなさい」

星奈「……はい」


『 あなたは 嘘つきだね 』


にこ「いま映っているアイドルはデビューして1年と少しでトップの中のトップ、頂点を極めようとしているのよ」

星奈「……」

にこ「最初はあまり知られていなくて、ライブハウスも客が入っていなかったというわ。
   だけど、それでも頑張り続けて伝伝伝に選ばれるまでの功績を残している」

星奈「……」

にこ「人々を魅了し続け、今でも生きた伝説となっているほどの人物。
   ドームライブは即完売。私でも無理という競争率よ。
   タイアップされた商品の売り上げは倍増、日本経済の一角を支えているとまで言われているわ」

星奈「はは、それは大げさでしょ」

にこ「ことり、そこの新聞紙を取って」

ことり「う、うん……どうぞ」

にこ「ありがと、経済面は……と、これね」

星奈「……」

にこ「見て星奈……この会社、一応聞くけど知ってる?」

星奈「知らない……」

にこ「そうよね。私も知らなかったし、世間でもあまり知られていない会社だから」

星奈「ふむ……」

にこ「会社は知らなくても商品は知ってるはずよ。先月まで流れていた炭酸飲料のCM]

星奈「炭酸……うーん……?」

凛「もしかして、レモン風味のCM?」

にこ「そう。さっきの映像で歌っていたアイドルが出演していたCMよ」

星奈「あぁ、知ってる。美味しいよね、あのジュース」


にこ「……この会社の目玉はそれしかないのよ」

星奈「え?」

にこ「株の話なんて、私は詳しくは知らないんだけど……ほら、この有名な企業と数字が近いでしょ?」

星奈「あぁ……うん」

にこ「ここまで言ったら、このアイドルの凄さが分かると思うけど」

星奈「生きた伝説のアイドルが影響してるってことでしょ? でも、それって企業努力じゃないの?」

にこ「そうね……あの炭酸飲料を開発した努力は無視できない」

星奈「……」

にこ「でも、商品は取ってもらわないと、味なんて分からないのよ」

星奈「……そうですね」

にこ「5月から始まり、7月いっぱいの期間でCMを打ち切ったことで話題性を増して更に売り上げが伸びている」

星奈「そっか……それって……凄いね」

にこ「……うん」

星奈「どうして沈んでるのさ?」

にこ「事の大きさが……今頃になって気付いてしまったのよ」

星奈「?」

海未「……この人……え?」

ことり「出場者リストにあったよ……ね?」

凛「……ま、まさか、そんな人と同じステージに立つなんて」

にこ「そのまさかよ」

凛「同姓同名なんじゃないのかな?」

花陽「違うよ凛ちゃん! 同姓同名なんかじゃないよ! 何度も確認したんだから!」キッ

凛「かよちん、怖いにゃぁ……」

花陽「あのアイドルと同じステージに立てるんだよ、凄いよね……」キラキラ

凛「そして、状況が見えなくなってるにゃぁ……いつもなら遠慮するのに」


穂乃果「あれ、みんな麦茶に手を付けてないみたいだけど……甘いものがよかったかな?」

海未「ほ、穂乃果は知っているのですか? アイドルイベントの規模の大きさを……」

穂乃果「トップアイドルが多いんだよね、その話は終わったはずだけど」

海未「それはそうなのですが……」

ことり「もう、やるだけのことをやるしかないよねっ」

海未「そうですね、もう後には引けません」

穂乃果「?」


真姫「お邪魔してるわよ」

穂乃果「あ、真姫ちゃん、いらっしゃい」

「お邪魔してます……」

星奈「あ、なにその美少女!」ガタッ

穂乃果「絵里ちゃんの妹、亜里沙ちゃん」

亜里沙「こんにちは」

星奈「はぁ、可愛いー」

亜里沙「うぅ……?」ビクビク

海末「人畜無害ですから、おびえる必要はありませんよ」

亜里沙「は、はい」

真姫「そこで一緒になってね」

穂乃果「そうなんだ。雪穂に用事かな? 部屋にいるよー」

亜里沙「はい、行ってきます」

トテトテ

星奈「なにあれ、人形? お人形さん? 肌と髪が繊細な絹のようだったけど、天使か何か?」

真姫「なに、このテンション鬱陶しい……」

凛「真姫ちゃんも来たんだね~」

真姫「べ、べつに、暇だったから来ただけよ」

凛「星奈さんとみらいちゃんが気になったんだよね~」

真姫「もう! それ以上言わないでっ」

凛「へへ~、素直な真姫ちゃんも好きだにゃ~」

星奈「そうだにゃ~……もぐもぐ」

にこ「あんた、適当にパクるの止めなさいよ」


花陽「……」ジー

みらい「……」ジー


真姫「花陽はまだ映像を観てるのね……」

ことり「真剣だよね。みらいちゃんも一緒になって」

穂乃果「真姫ちゃんも座って。はい、麦茶と……ほむら名物ほむらまんじゅう略してほむまん!」

真姫「ありがと」

星奈「それをいうなら『ほむほむ』じゃないの?」

海未「それだと饅頭の名前がなくなっていますよ」

星奈「『ほむじゅう』とか……まぁ、おいしければどうでもいいか」モグモグ

穂乃果「ネーミングは大事だよ!」

凛「いつも美味しいにゃ~」

穂乃果「ありがとう。お父さんに伝えとくね、喜ぶよきっと」

星奈「お父さん……か」

穂乃果「?」

星奈「挨拶、しておいた方がいいかな」

穂乃果「いいよ、そんなの気にしないで」

凛「凛も行く! いつもご馳走になってますってお礼を言わないと失礼だよね」

真姫「私の分もお願いね」

星奈「勝手に入ってもいいのかな?」

穂乃果「わかった、こっちだよ」

星奈「なんだか緊張してきた……『娘さんをください』……って言ってみようかな」

スタスタスタ


海未「真面目なのか不真面目なのか、よくわかりませんね、星奈さんという人は……」

にこ「そうね」

真姫「……」

ことり「結局お喋りしているだけで、いつもと変わらないね」

にこ「東京で活動しているみらいはともかく、星奈は観光にも行きたいはずなのに」

海未「もう陽が暮れてしまいますから、明日の午前中に限られてしまいますね」

真姫「……充分楽しんでるみたいだけど」


……




―― 玄関


星奈「うわ、真っ暗だ……長居しすぎたね」

穂乃果「気にしないでよ、雪穂も楽しんでいたから。ね?」

雪穂「う、うん……楽しかった、です」

星奈「晩御飯をご馳走になったうえに、お土産まで……感謝の言葉が足りないよ」

母「いいのよ~、小さい頃は海未ちゃんたちも一緒にご飯を食べていたんだから」

海未「そうですね、私もあの頃を思い出せて楽しかったです」

ことり「私も♪」

母「それはよかったわ。またいらっしゃいね」

海未ことり「「 はい! 」」

星奈「稚内から晩御飯を食べに東京まで足を運ぶ……それはなんて贅沢~♪」

雪穂「ふふ」

母「あら、それじゃあ豪華なのを用意しないといけないわね」

星奈「あはは、冗談ですよ、じょうだん~」

母「ふふ……また、東京へ来ることがあったら、寄って行ってね」

星奈「あ……はい」

穂乃果「それじゃ、駅まで送ってくるね」

母「元気でね、星奈さん」

雪穂「それでは」

星奈「はい、ご馳走様でしたー!」


―― 駅前


穂乃果「にこちゃん達も一緒に食べていけばよかったのに~」

海未「まだ言っているのですか……花陽も凛もそれぞれ用事があるのですから仕方がありませんよ」

穂乃果「それはそうなんだけど、せっかくなんだから……ねぇ、ことりちゃん」

ことり「そうだね、仙台で一緒に食べたように、みんなで食事をしたかったね」

穂乃果「みらいちゃんもお家に帰っちゃうし、真姫ちゃんも『遠慮しとく』って帰っちゃうし……とほほ」

海未「それほど落ち込むのなら、しがみついてでも離さなければよかったんですよ」

穂乃果「なるほど、その手があったか!」ポンッ

海未「あぁ、穂乃果に余計なことを……。真姫には悪いことをしましたね……」

ことり「穂乃果ちゃんはまだなにもしてないよ……」

星奈「……」

海未「星奈、さん……?」

星奈「……ん?」

海未「どうしたのですか、ぼーっとして……駅に着いてしまいましたが」

星奈「あ、うん。見送りありがと」

海未「なんだか元気がないようですね」

星奈「……そうかな」

穂乃果「まさか、星奈ちゃん!?」

星奈「?」

穂乃果「餡子ダメだったんじゃ……それともつぶあん派!?」

星奈「そんなことないよ、どっちも好きだから。……ただ、家族って良いなぁと思ってさ」

穂乃果「家族?」

星奈「あ……えっと……私んちって父さんの居ない母子家庭ってやつなの……」

海未「……」

星奈「だから、さっきの家族の雰囲気が、こそばゆいやら恥ずかしいやらで……でも、いいなぁって思った。
   妹も弟も小さかったから、こういうの覚えて無いんだろうなって考えてたんだよ」

ことり「星奈ちゃん……」

星奈「あ、もう会えないって訳じゃないんだよ? 離婚して遠く離れて暮らしてるってだけ」

穂乃果「……」

星奈「とまぁ、そんなことを思ったりなんかしたわけですよ」

穂乃果「お父さんも楽しそうにしてたよ」

星奈「そう?」

穂乃果「うん。いつも喋らないからよく誤解されるけど、今日はいつもより喋ってたし」

星奈「……頷いてただけのような気がするけど」

穂乃果「お母さんも言ってたけど、東京へ来ることがあったら、また寄ってね」

星奈「うん、そうさせてもらう。お土産ありがとね、ヴェガの友達と食べるよ。そいじゃあね」

穂乃果「それじゃ、また明日ね~」

星奈「海未ちゃんも、ことりちゃんも、また明日~」

海未「おやすみなさい」

ことり「バイバ~イ」



穂乃果「……」

海未「私たちも帰りましょうか」

ことり「……そうだね」

穂乃果「特別なこと、なんだよね」

海未「?」

ことり「特別?」

穂乃果「星奈ちゃんをお家に招いて、みんなで一緒にご飯を食べて、いつもの駅でお別れをするのって」

海未「そうですね……札幌駅と似た状況でしたが、穂乃果が言うまで気が付きませんでした」

ことり「……特別」

穂乃果「さっき、うみちゃんが見せてくれた絵……あれも特別だよね」

海未「羊が丘展望台、ですね」

ことり「……」

穂乃果「こうやって、三人で並ぶことも」

海未「……」

ことり「……うん」

穂乃果「少し話をしていこうよ」

海未「そうしたいところですが、明日も早いので今日は帰りますよ」

ことり「ちょっとだけ、ヴェガの話を聞かせて海未ちゃん!」

海未「ダメです。また風邪をひいてもらっては困りますから」

穂乃果「うみちゃんの、いじわる」

ことり「実を言うとね、部室でのあの演技、ちょっとドキドキしてたの」

穂乃果「ことりちゃんもなんだ……実を言うと私も~、ほろ苦い想い出だからね」

海未「私もです……。あの出来事を笑い飛ばせる日が来るのは、もう少し先だと思っていましたから」

ことり「うん……。だから、ちょっと変な感じだね」

穂乃果「そうだね。神社に移動しようか」

海未「ダメったらダメです」

ことり「海未ちゃん、お願い~」

海未「私たちにはまだ時間がありますよ、ことり」

ことり「あ……うん、そうだね」

穂乃果「ことりちゃんが懐柔されたっ」

海未「人聞きの悪い……お家の人も心配する時間です、大人しく帰りましょう」

穂乃果「……はぁい」

ことり「当たり前のことが特別……なんだよね」


海未「そういえば、真姫はどうするのでしょうか」

ことり「真姫ちゃん?」

穂乃果「?」

海未「東京で降りると言っていましたから」

ことり「どうするんだろう?」

穂乃果「うーん、分からないや」

海未「……気になりませんか?」

穂乃果「迷ってるみたいだったから、ポンと背中を押せば乗ってしまいそうだよ」



5日目終了

ここまで。
今回の旅の折り返し地点となる東京でした。

松本へ集結するアイドル達は後でまとめたいと思います。
>>50 たくさん出るようです。(悪い癖で・・・)

ラブライブ、二期決定していたんですね。今日初めて知りましたorz

朗報ありがとうございます。(ひとつは購入確定として・・・収録曲次第では2つ買わなくては……ぐぬぬ)

6日目です。


               8月6日


穂乃果「もぐもぐ……うーん、毎日パンがうまいっ」


車掌「あら?」

穂乃果「あ、おはようございます、車掌さん!」

車掌「おはようございます。お一人……ですか?」

穂乃果「そうです。ヴェガで朝食を、と思って」

車掌「ふふ、映画に似たようなタイトルがありましたね」

穂乃果「食堂車のパン、とってもおいしいので食べに来ちゃいました」

車掌「ありがとうございます。それを聞いたら料理長も喜びます」

穂乃果「同じようでいていつも違うような気がするんですけど、どうしてですか?」

車掌「それは――……調理している本人に聞いてみましょう」

穂乃果「え?」

車掌「料理長、少しよろしいですか?」

コック「あぁ、なんだ?」

穂乃果「!」

車掌「こちらのお客様からご質問があるそうです」

コック「お嬢ちゃんか。なんでも答えてやるぞ、聞いてみろ」

穂乃果「毎日パンの味が違うのはどうしてかなって」

コック「それはな、その土地、その土地で育った小麦と水を使用しているからだ」

穂乃果「ふむふむ、お父さんと似たようなことを言っている……ような気がする」

コック「親父さんはなんの仕事をしてんだ?」

穂乃果「和菓子を作ってます。小さい頃からそればっかり食べてて、飽きています」

コック「がっはっは、面白いな!」

穂乃果「だからパンが珍しくて……もぐもぐ」

車掌「ふふ、彼女、乗客じゃないんですよ」

コック「道理で見慣れないと思った……それなのに、いつもってどういうことだ?」

車掌「ご友人の方が乗車されていまして、穂乃果さんは別のルートで縦断しているそうなんです」

穂乃果「もぐもぐ」コクリ

コック「それはまた、愉快なことしてるな」

穂乃果「お米もそうですよね? 花陽ちゃんがそう言ってました」

コック「はっはっは、そうかそうか、その味が分かるなんて気に入った! ジャムをサービスしてやる」

穂乃果「ふぉんふぉ!?」

車掌「ふふ」

コック「イチゴとオレンジを作ってみたけど品として提供できる量じゃないんでな。ちょっと待ってろ」

穂乃果「やった♪」


車掌「それではごゆっくりお楽しみください。失礼します」

穂乃果「あ、車掌さん!」

車掌「はい?」

穂乃果「梓ちゃんと星奈ちゃんはまだ観光に行ってない……ですよね?」

車掌「個室へは行ってみましたか?」

穂乃果「それが……個室の番号分からなくて、車掌さんを探していたらお腹空いちゃって……」

車掌「それでは、個室へ伺ってきます」

穂乃果「そんな、悪いですよ」

車掌「いえ、お気になさらずに。ですが、見当たらなかった場合はご了承ください」

穂乃果「はい、……お願いします」

車掌「それでは、失礼します」


穂乃果「……ぱくっ」


穂乃果「うーん、うまいっ」

店員「おまたせしました~、料理長特製のジャムで~す!」

穂乃果「結構多い!?」

店員「大丈夫ですよ、おかわりのパンもサービスで持ってきていますから」

穂乃果「いいのかな……」

店員「すいません、あまりにも美味しそうに食べるものですから、つい……」

穂乃果「そうじゃなくて、ダイエット……ま、いいか。ありがとうございます!」

店員「はい、それではごゆっくり~」

穂乃果「一人で来てよかった……! うみちゃんが居たら『ダメです!』って言ってたよね」モグモグ

「太りますよ、穂乃果……」

穂乃果「もぐもぐ」

星奈「……」

穂乃果「おはよう!」

星奈「声真似したのに驚かなかったか……。昨日貰ったまんじゅう、料理長にもあげていいかな」

穂乃果「星奈ちゃんに渡したものだから」

星奈「うん、それじゃお裾分けしてくる。待ってて」

穂乃果「もぐもぐ」



「……」

「おはよう……ございます」

「っ!? って、なんだ、松浦さんじゃないですか、驚かさないでください」

「すいません……。こんなところで、どうしたんですか?」

「穂乃果が私を探しているみたいで……、嫌な予感がするので様子見です」

「……?」

「あ、まだ面識が無いんですね。えっと……」

「いえ……七夕祭りで一緒でした……」

「あ……そういえばそうですね」

「……それでは、私も朝食をとってきますので……失礼します」

スタスタ

「失礼なこと言っちゃったかな……。むぎ先輩が来るまでホームで待っていよう」

スタスタ



穂乃果「オレンジの香りがいいよね~」

星奈「ほんとだ、おいしい~」

穂乃果「……星奈ちゃん、梓ちゃんはまだ起きてこないのかな?」

星奈「起きてはいると思うけど……外で食べるのかもね、むぎちゃんと」

穂乃果「ふーん……もぐもぐ」

星奈「今日の予定は?」

穂乃果「お昼には出発だから、それまでは学校で練習だよ」

星奈「頑張ってるね~」

穂乃果「明日が本番だから。星奈ちゃんはどうするの?」

星奈「浅草に行って参拝してくる。その後は……臨海副都心に行けたら行く」

穂乃果「そっか……」

星奈「私に用事でもあった?」

穂乃果「学校に来ないのかなと思って」

星奈「そっちも行けたら行くってことで」

穂乃果「うん、来れたら来てね」

星奈「……」

穂乃果「もぐもぐ」

星奈「究極の選択だなぁ……どうしよう」

穂乃果「そういえば、星奈ちゃん」

星奈「?」

穂乃果「むぎちゃんって……?」

星奈「えぇ!? 時間差すぎるよ! って、どうして知らないの? 
   仙台で七夕祭りから一緒に戻ったでしょ」

穂乃果「あぁ、梓ちゃんの先輩って言ってたね。愛称は聞き慣れてなかったから」

星奈「そうなんだ……」

穂乃果「……あ」

「おはよう~。そのあずさちゃん見なかったかしら?」

星奈「おはよう。まだ見てないけど、待ってたら来るんじゃない?」

「そうね。ご一緒してもいい?」

星奈「……」チラッ

穂乃果「どうぞ~」

「うふふ、お邪魔するわね」

星奈「二人ってお互い、まだ自己紹介してないんじゃない?」

穂乃果「うん、まだだよ。私は高坂穂乃果、高校二年です」

「私は――」

「あ、あれ、どうして食堂車にいるんですか?」

「あら? 先に行ってるのかなと思ってたの」

「……そうですか」


星奈「ほら、逃げてばっかりじゃなくて、座って座って」

「逃げてたわけじゃないですっ」

穂乃果「私のこと危険な匂いがするって……聞いたよ」ツイー

「机に『の』の字を書いてイジケないでいいから。……あぁ、本格的に関わってしまった」

「うふふ、ようやくお友達になれたわね」

「なんとなく嫌な予感がするんですよね……」

穂乃果「嫌な予感って?」

「ううん、なんでもない」

穂乃果「……?」

星奈「二人にもお裾分け。穂乃果ちゃんのお家で販売されているほむまん」

「「 ほむまん? 」」

穂乃果「ほむら名物ほむらまんじゅう略してほむまん!」

「可愛い形ですね」

「本当、ふわふわね」

星奈「仕切りなおしでもう一度自己紹介しようか」

「自己紹介?」

「いままでちゃんとしてなかったから、穂乃果ちゃんと挨拶をしてたのよ」

穂乃果「改めまして、高坂穂乃果です」

星奈「私は山口星奈」

「……中野梓」

「私は――琴吹紬、といいます。よろしくね」


―― 音ノ木坂学院・屋上


真姫「その人がピアノを?」

海未「そうです。偶に展望車で演奏をしていましたよ」

真姫「ふぅん……」

海未「それにしても、穂乃果は遅いですね」

ことり「連絡はあったの?」

海未「いえ、メールの返信もありません」

真姫「何をしているんだか」

絵里「にこもまだ来ていないわ」

希「珍しいこともあるもんやね」

凛「着替えてきたよー!」

花陽「凛ちゃん、一緒に柔軟体操しよう」

凛「わかったにゃー!」

海未「今日はまず、ダンスレッスンからですね」

絵里「そうね。みんな、明日が本番なんだから、気を抜かないようにね!」


「「 はい! 」」


真姫「……」

希「何か悩みごと?」

真姫「悩みというほどじゃないわ。迷ってる程度」

希「ふぅん」

真姫(誰に譲ればいいのか……分からないわ)

海未「いちに、さんし」

ことり「ごーろく、しちはち」

真姫「体操しながら聞いて欲しいんだけど」

花陽「?」

絵里「どうしたの?」

真姫「ヴェガの乗車証、誰かに譲ろうかと思ってて」

希「……」

凛「真姫ちゃんは、もう降りてもいいの?」

真姫「稚内から乗ってるし……もういいのかもしれない」

絵里「……」

花陽「うーん……」

真姫「車掌にも、ちゃんと話をしてあるから……乗れるわ」

海未「ことりはどうですか?」

ことり「うーん……」

真姫「なによ、じゃんけんで決めるときはみんな乗りたがってたじゃない」


希「迷ってるくらいなら、乗り続けたほうがええんと違う?」

真姫「え?」

絵里「そうね、まだ降りたくない、とも聞こえたわ」

真姫「そんなことは……ない。私が乗る理由が無いから」

花陽「穂乃果ちゃんが言ってた意味を……真姫ちゃんは見つけた?」

真姫「なによ……それ」

花陽「私にもよく分からないけど……」

真姫「……」

海未「私も、この乗車証を誰かに譲りたい気持ちがありますが、
   それと同じくらい乗っていたいという気持ちもあります」

真姫「……」

海未「ですが、ここで降りる理由がまだ、ありません」

真姫「……!」

海未「それに、私たちはまだ旅の途中ですよ」

真姫「途中……?」

海未「昨日、家に帰って父に叱られました。『途中で帰ってくるんじゃない』と」

真姫「…………」

海未「私は無意識に穂乃果とことりに甘えていたのだと思います。だから、駅で何も考えず星奈さんを見送ったのです。
    本来なら、一緒にヴェガへ戻るべきなのに」

真姫「……」

海未「この旅で少しは強くなること。それが私の乗り続ける理由です」


真姫(まだ、終わっていない……のね)


にこ「はぁっ……はぁ……またせたわね」

凛「遅刻ぅ~」

にこ「はぁ……ふぅ……悪いんだけど、水くれない? やけに渇いちゃって」

ことり「はい、どうぞ」

にこ「ありがと……ごくごく……ふぅ」

絵里「あとは穂乃果だけね」

希「顔が真っ赤やね……にこっち、走ってきたん?」

にこ「そうよ……すぅ……はぁ」

希(なんだか見たことある風景……デジャヴ?)


凛「どうするの?」

真姫「……」

花陽「やっぱり乗りたい」

真姫「……遅いわよ」

花陽「ふふ」


海未「穂乃果がまだ来ていませんが、にこのストレッチが終わったらすぐに始めましょう」

凛「テンション上げるにゃぁ~!」

ことり「夏の運動は午前中に限るね~」

絵里「にこ、背中押すわよ」

にこ「……よろしく」

絵里「……?」

にこ「なに? 人の顔をじっと見て……」

絵里「なんだか、前にも同じようなことがあったような気がして。こういうの既視感っていうのよね」

にこ「……」

希「エリちも……?」

絵里「うん……って、希も?」

希「二人揃ってデジャヴはあり得へんよ。実際に経験しとるはず……」

絵里「……なにかしら、この感覚」

希「……」

絵里「ほら、いくわよ?」

にこ「うん…………ふぅ……はぁ」

絵里「にこ……?」

にこ「なに……よ?」

絵里「体が熱いのは走ってきたからじゃなくて、風邪をひいてるからじゃないの?」

にこ「……」

海未「え!?」

ことり「にこちゃん!?」

花陽「えっと、着替え取ってきます!」

凛「凛も行くにゃ!」

希「穂乃果ちゃんの時と同じやったんやね」

絵里「えぇ……」

真姫「……」


穂乃果「ビックリしたぁ……二人ともぶつかりそうだったよ~。……って、どうしたのみんな?」


―― 西木野総合病院


にこ「ほら、風邪薬も貰ってきたから、安心してよね」

海未「キャラが固まっていません……!」

ことり「にこちゃんであってにこちゃんじゃない……!」

にこ「みんなの言うとおり練習は止めるけど、大丈夫ですよ。ちゃんとイメトレしますからね」

希「にこっち……」

絵里「ほら、座って」

にこ「うん、ありがとう、えり」

絵里「はらしょー……」

穂乃果「素直にお礼を言った……!?」


真姫「熱は?」

母「38度、安静にしていれば大丈夫だそうよ」

真姫「……原因は? ウィルス?」

母「担当医から聞く限りじゃ疲労でしょうね。慣れない環境で無理をしていたのが原因だと思うわ」

真姫「無理を……」

母「無茶をしなければどうってことない症状よ。どうして、そう深刻なの?」

真姫「無茶をしそうな状況だから……」

母「……」

真姫「……にこ」

にこ「はい?」

真姫「点滴、打っておく?」

にこ「注射は、いや」

真姫「……」

凛「甘えん坊さんだにゃ……」

花陽「風邪に慣れてないのかな……」

海未「ま、まぁ……このほうがありがたいですね。倒れるまで無理をしすぎる人よりは」

穂乃果「う……」グサッ


にこ「悪いんだけど、誰か学校に戻ってくれない?」

絵里「どうして?」

にこ「みらいが来てると思うから……」

凛「わかったにゃ!」

テッテッテ

にこ「ありがとう、りん……」フラフラ

ことり「にこちゃん……」

希「時間はないよ、エリち」

絵里「……」

海未「早く横にした方がいいです」

絵里「…………」


穂乃果「にこちゃん」

にこ「……ん?」

穂乃果「ヴェガに乗るよね?」

にこ「うん」

絵里「!」


―― ヴェガ


亮太「久しぶりのヴェガだぁ」

つばさ「もぉ、恥ずかしいよお兄ちゃん」

亮太「いや、なんだか感慨深くてな」

つばさ「乗客のみなさんに忘れられてたりして」

亮太「……それはあり得る」

つばさ「じょ、冗談だよ、冗談!」

亮太「はは……」

つばさ「うわぁ……そうと決まったわけじゃないのに傷ついてる……」


「鶴見さん、つばささん、そこをどいてくれますか?」


亮太「え……?」

つばさ「?」

絵里「……」

にこ「ふぅ……ふぅ……」

亮太「どうして背負ってるの?」

絵里「事情は後で――」

にこ「待って、えり……」

絵里「え?」

にこ「つばさ」スッ

つばさ「な、なに? 握手?」スッ


ギュ


にこ「じゃあね」

つばさ「あ……! うん、短い間だったけど、楽しかったよ!」

にこ「……うん、私も」

絵里「……っ」

つばさ「また、ね! にこさん!」

にこ「また、ね」

絵里「行くわよ?」

にこ「うん」


亮太「風邪?」

海未「はい。ここまで、ずっと頑張っていましたから」

亮太「だからおんぶされてたのか……」

みらい「……それでは、つばささん」ペコリ

つばさ「うん、頑張ってね、みらいさん!」

みらい「はい!」

タッタッタ


真姫「それじゃあね、つばさ」

海未「お別れ、ですね」

つばさ「うん! 二人ともお元気で!」

真姫「元気でね」

海未「それでは」

つばさ「さようならー!」


亮太「じゃあな、つばさ」

つばさ「うん、お兄ちゃんも気をつけてね」

亮太「あぁ」

つばさ「それと、星奈さんと仲直りすること」

亮太「……分かってるよ」

穂乃果「仲直り?」

つばさ「二人はね、ケンカしてたんだよ」

穂乃果「星奈ちゃんから聞いてないよ~?」

亮太「いや、言うことじゃないと思うし……」


星奈「お、穂乃果ちゃんたちだ。見送りとは偉いね」

穂乃果「あ、星奈ちゃん、もしかして学校に来てた?」

星奈「行けなかったけど……?」

穂乃果「そっか……えっと、……時間が無いから乗車した後にうみちゃんたちに聞いてね」

星奈「よく分からないけど、わかった。みんなはもう乗ったんだ?」

凛「乗ったよ~」

花陽「そろそろベルが鳴ります」

星奈「おうよー、じゃあ松本でね」

穂乃果「待っててね~」

亮太「視界に入ってないって対応するなよ、星奈」

星奈「あれ? 幻聴かな?」

亮太「子供かお前は」

星奈「なによ」

亮太「後で話がある」

星奈「……うん」

亮太「つばさ、元気でな!」

タッタッタ


つばさ「……うん! 元気でね、お兄ちゃん!」


prrrrrrrrrrr


星奈「元気でね」ナデナデ

つばさ「ありがとう、星奈さん! とっても楽しかったよ!」

星奈「こっちも。それじゃあね、バイバイ!」ブイッ

タッタッタ


つばさ「みなさん、いい旅をー!」



プシュー


穂乃果「お別れ、なんだね」

凛「……」

花陽「……」

ことり「……」

希「あれ……?」



ガタン

 ゴトン




 
ガタンゴトン

 ガタンゴトン




「「 乗っちゃった…… 」」




ガタンゴトン

 ガタンゴトン




短いですがここまで。

登場した紬、梓はけいおん! のキャラクターです。
一作目の 紬「超特急ヴェガ?」 の主人公になります。

今作が初見の方には大分見通しの悪い状況になると思いますが、
ヴェガ乗客者たちの旅を楽しんでいただけるとうれしいです。


―― にこの個室


にこ「ふぅ……はぁ……」

車掌「38度2分……」

海未「……」

車掌「水とタオルをお持ちします」

海未「あ、一緒に行きます」

車掌「はい、お願いします」


ガチャ

 バタン


真姫「……」

にこ「はぁ……はぁ……」

真姫「眠れないの?」

にこ「うん……頭がグルグルしてて」

真姫「色々と考えてるからよ、今は治すのが最優先」

にこ「……うん」

真姫「余計なこと考えないで、ゆっくり休んで」

にこ「…………うん」

真姫「みらいのことは大丈夫だから、ね?」

にこ「わかった」

真姫「……」

にこ「…………ふぅ……はぁ」

真姫「口で呼吸しないで……ゆっくり吸って吐いて」

にこ「うん……すぅ…………すぅ」

真姫「そう、ゆっくり」

にこ「……すぅ……すぅ」

真姫「……」

にこ「すぅ……」

真姫「……おやすみ」


ガチャ

 バタン


真姫「……」

みらい「どうですか?」

真姫「寝付いたから大丈夫。今日中は絶対に安静ね」

みらい「……はい」

真姫「同い年なんだから、敬語じゃなくてもいいのに」

みらい「あまり学校に行ってなくて……友達もいないので……」

真姫「業界はみんな年上……と」

みらい「そうなります」

真姫「面倒なとこにいるのね、あなた」

みらい「ふふ、そうですね」

海未「どうしました……?」

真姫「ううん、なんでもない」

海未「しばらくは私が看ていますから。二人は自由にしていてください」

真姫「分かったわ」

みらい「……はい」


―― 車掌室


車掌「あら……?」

亮太「この二人、間違えて乗っちゃったみたいなんです」

「……あの、私キップを持っていないのに乗ってしまって……」

車掌「列車を間違えてしまったのですね?」

「えっ、えぇ…本当にすみません」

「すいません」

車掌「……わかりました。とりあえず、お名前を教えてもらえますか?」

「は、はい……千歳さとみといいます」

車掌「千歳さんですね。じゃあ4号車の空席でお待ち下さい。連絡を入れて次の駅の停車時間を調べてまいりますから」

さとみ「すみません、ご迷惑をおかけします」

「……」

亮太「それじゃ、二人とも4号車へ案内するよ」

さとみ「あ、あれ? 自己紹介するの私だけ……?」


―― 4号車


「……」

さとみ「ごめんなさい、迷惑かけっぱなしで」

亮太「いいよ、発車したばかりで時間を持て余していたから」

「……」

さとみ「せっかくの旅行中なのに……変なことに巻き込んでしまって」

亮太「本当に気にしないで。目的地へ着くまではこういう出来事があった方が楽しいからさ……って、失礼か」

さとみ「……えっと」

亮太「あ、俺の名前は鶴見亮太」

「……」

さとみ「鶴見さんはどこまで行くんですか?」

亮太「特に決めてないんだけど……とりあえず、行ける所まで行こうかなって思ってる」

さとみ「こ、この列車って日本縦断する列車でしょ? じゃあ……」

亮太「そういうことになるかな。でも、気が向いたら途中で降りちゃってもいいし……」

さとみ「……あてのない旅ね、憧れるなそういうの」

亮太「!」

さとみ「?」

亮太「驚いた……同じことをヴェガの始発後に言われたから」

さとみ「……そうですか」

亮太「にこさんに」

「!」

亮太「やろうと思えば誰にでもできると思うけどね」

さとみ「そうかな……そんなことないと思うけど」

亮太「それだったら、いっそのこと旅に出ちゃうのはどうかな」

さとみ「え?」

「……」

亮太「新鮮な体験ばかりで楽しいよ。……って、思ってるのは俺だけかもしれないけど」

さとみ「ふふ、本当にいいかもしれませんね。あっ」

亮太「どうしたの?」

「……?」

さとみ「今、私の家の周りを通ったの。電車からみたらこんな風に見えるんだ……」

亮太「不思議な感じがするよね」

さとみ「えぇ……なんか、家から離れていくとドキドキする」

亮太「きっと、旅に出たいんだよ」


さとみ「そうかも……しれない」

「…………」

さとみ「ねぇ、鶴見さんはどうして旅に出たの?」

亮太「えっ……旅に出た理由……?」

「理由……」


星奈「じぃー」


亮太「なんだよ、星奈」

星奈「また可愛い子と仲良く話をしているなって、見てるだけ」

亮太「また、とか言うな」

星奈「まったく……話がある、とか言ってどこにも居ない――え?」

「……っ」

星奈「え? どうして?」

「間違えて乗っちゃって……」

星奈「へ、へぇ……っ」

亮太「失礼だろ」

星奈「ご、ごめん、いやぁ、盛り上がってきたね。こういうのワクワクする」

亮太「何を言ってんだ……にこさんの事情知らないだろ」

星奈「事情? そう言えば穂乃果ちゃんが何か言ってたね……」

「……っっ」

さとみ「???」

星奈「車掌さんに話はしてあるんでしょ?」

亮太「あぁ。準備中だからここで」

星奈「一緒に待ってる、と。わかった、それじゃ話は後で」

スタスタ

亮太「……」

さとみ「すいません……なんだか邪魔をしているみたいで……」

亮太「いえ……あ、えっと……星奈とはケンカしてて……、
   松本まで時間はまだあるから、それまでに話が出来ればいいだけですから……変な空気をだしてすいません」

さとみ「……」

亮太「……俺が旅に出た理由は――」


『お客様の千歳様、絢瀬様。準備が出来ましたので車掌室にお越し下さい』


さとみ「あっ……私、行かなくちゃ。ごめんなさい変な質問しちゃって
    気にしないで楽しい旅を続けて下さい。それじゃ」

亮太「千歳さんも気をつけて」

さとみ「ありがとう」

絵里「……」


―― にこの個室


『お客様の千歳様、絢瀬様。準備が出来ましたので車掌室にお越し下さい』


海未「絢瀬!?」

にこ「すぅ……すぅ」






―― 展望車


ポンポロロポン


みらい「あー、あぁー、あぁぁー」

真姫「さすがね……練習は必要無いみたいだけど」

みらい「ううん、まだまだ、完成まで遠いって言われてるから」

真姫「向上心もあるのね」


『お客様の千歳様、絢瀬様。準備が出来ましたので車掌室にお越し下さい』


真姫「絢瀬……? 絵里!?」

みらい「あれ、どうして絵里さんが……?」



―― 車掌室


車掌「あら、全車両に放送してしまいました」ウッカリ


……




車掌「走行区間の料金はいただきますが、絢瀬さんは松本まででよろしいですか?」

絵里「はい、お願いします」

さとみ「あの、車掌さん」

車掌「なんでしょう?」

さとみ「このまま、乗車することはできますか?」

車掌「ヴェガの乗車証を希望されるということですね」

さとみ「はい。個室が空いていれば……」

車掌「理由を聞かせてもらえますか?」

さとみ「それは……」

絵里「……」

さとみ「その理由を探す為に、乗りたいと思いました」

絵里「…………」

車掌「わかりました。ちょうど空きもありますので構いませんよ」

さとみ「ありがとうございます」

絵里「……」


ガチャ


絵里「失礼しました」

さとみ「失礼しました」


バタン


海未「本当に乗っていたんですね……」

真姫「……」

絵里「色々あって、ね……」

さとみ「すいません、絢瀬さんが乗ってしまったの私のせいなんです」

海未「……あなたは?」

真姫「……」

さとみ「千歳さとみといいます」


―― 1号車


絵里「にこは?」

海未「みらいが看てくれています。とりあえず絵里から理由を聞きたいと思って」

絵里「そうよね……」

真姫「……」

さとみ「……」

絵里「私がにこを背負って個室まで運んだ後のことなんだけど……」

海未「はい」

絵里「発車のベルが鳴って降りようとしたら……」

さとみ「私が出入り口を塞いでいたので……」

亮太「絢瀬さんが左に避けたら千歳さんが右に譲って。
   千歳さんが左に譲ったら絢瀬さんが右に避けて。これを繰り返してたらドアが閉まったんだよね」


絵里さとみ「「 そうです 」」


さとみ「本当にすいません」

絵里「気にしないでください……」


亮太「星奈見なかった?」

真姫「見てないけど」

海未「私も見ていません」

亮太「どこ行ったアイツ……」

絵里「にこの個室かもしれません」

亮太「あ、そっか。さっきその事情を言ったから……」

海未「話、ですか?」

亮太「まぁ、うん。ちゃんと話をしないとダメだなって」


さとみ「……」


星奈「お、いたいた。亮太、顔貸してもらおうじゃないの」

亮太「どこのチンピラだよ……それじゃあね」

さとみ「あ、あの、鶴見さん」

亮太「?」

さとみ「私、旅に出ることにしました」

亮太「……理由を聞いていい?」

さとみ「たぶん、この列車に乗ったから」

亮太「……すごいな」

星奈「理由か……ふむ」

真姫「どうしたの?」

星奈「新しい乗客を歓迎するためにもみんなで食堂車に行こうか」

海未「え?」


―― 食堂車


店員「ご注文の確認をさせていただきます。
   ミルクティーをお2つ、アイスティーをお2つ、コーヒーをお1つ、ロシアンティーをお1つですね」

絵里「……はい」

店員「少々お待ちくださいませ~!」


真姫「どうしてこうなるのよ」

星奈「まぁまぁ、いいじゃないの。にこが居ないけど、始発の再現ってことで」

亮太「四人席に六人も座らせて……料理長に怒られるかもしれないだろ」

星奈「なに、怖いの?」

亮太「俺がじゃなくて、店員さんがだよ」

星奈「ちゃんと許可を取ってきたって、言ってたじゃん」

亮太「強引すぎるんだよ」

星奈「はいはい、真面目っ子な亮太君には心苦しいですよね~」

亮太「千歳さんと絢瀬さんを巻き込む必要あるのか?」

星奈「同じ列車に乗ったよしみじゃないの」


海未「私と真姫はいいのですか」

真姫「まぁ、今更ね」

さとみ「みなさん、仲がいいんですね……」

海未「いまの会話、ギスギスしていたと思うのですが……」

絵里「私と海未、真姫は同じ学校に通っています」

真姫「そっちの二人は列車で」

さとみ「……いいですね、こういうの」

星奈「ほら、さとみちゃんだってこう言ってるからいいの。記念にほむまんあげる」

さとみ「ま、饅頭ですか……」

星奈「おいしいよ」

さとみ「ありがとうございます」

絵里「どうしてほむまんが……?」

海未「昨日、穂乃果のお家にお邪魔してお土産に貰ったのです」

星奈「さとみちゃんで最後。乗客の友達に配ったから亮太の分はもうありません」

亮太「そう言われると食べたくなるだろうが」

さとみ「あ、それじゃ……半分ずつに」

亮太「あ、いや……ありがと」

星奈「遠慮しないんだ~」

亮太「感想とか言いたいだろ。これからはもう食べられないんだから」

星奈「……そうだね」


絵里「……」フゥ

海未「?」

絵里「まさか、こうなるなんて思ってもなかったわ」

真姫「にこが起きていたらはしゃいでいたわね、きっと」

海未「……そうですね」

絵里「ヴェガでゆっくり休んでもらわないとね」

海未「はい」


星奈「私がヴェガに乗車した理由は、父さんに会って話がしたかったから」

海未「……!」

真姫「?」

星奈「私んちさ母子家庭なんだ。父さんは6年前、私たちを捨てて家を出て行った。
    いまは母、私、弟、妹で暮らしてんの」

絵里「……」

さとみ「……」

星奈「酷いよね~、妹も弟もまだ小さかったのに。
    母さん一人で私達を育ててくれて、妹弟もいい子でそれなりに楽しく暮らしていたんだよ」

亮太「……」

星奈「それなのに最近、母さん宛に一通の手紙が来たんだ。『私たちに会いたい』って」


星奈「名前を見たら案の定父さんだった……。好き勝手に生きてたくせに急に父親顔で『会いたい』だもん。
    母さんの苦労を知らずによくそんな事が言えるなと腹が立ったよ」


星奈「文句を言いたかった、『どうして母さんと私たちを捨てたんだ』って……これがヴェガに乗った理由」

さとみ「……」

星奈「今でも許せないし許すつもりもない……けど」


星奈「ヴェガに乗って、むぎちゃん達や……亮太のおかげで……前向きに話せると思う」

亮太「……」

星奈「私がいまこうやって……少し緊張するけど……こんな気持ちでいられるのはみんなの……ヴェガに乗ったおかげだから。
   余計なお世話だってのは分かるけど、亮太にも……その」

亮太「……頑張って欲しかったって?」

星奈「そういうこと……です」

亮太「……」

星奈「ごめん、亮太」

亮太「…………」

店員「飲み物をお持ちしました~。はい、コーヒーです」

亮太「ありがとうございます」

店員「アイスティーです」

星奈「うん」

真姫「どうも」


店員「ミルクティーです」

海未「ありがとうございます」

店員「あとは……」

絵里「ロシアン・ティーは私です」

店員「はいどうぞ。あ、穂乃果さんもそのジャムを使用されましたよ」

絵里海未「「 え? 」」

真姫「いつの話?」

店員「今朝です。料理長がサービスでお出ししたんですね。結構な量でしたけどおいしそうに食べていました♪」

海未「ほ、穂乃果……っ」

真姫「何をしているかと思えば……」

星奈「あはは、バレちゃった」

店員「どうぞ、ミルクティーになります」

さとみ「ど、どうも……」

星奈「なにがロシアンなの?」

絵里「紅茶にジャムを入れて飲むのがロシアン・ティーなの」

星奈「ふぅん……あ、絵里の妹ちゃんに会ったよ」

絵里「亜里沙に?」

星奈「穂乃果ちゃんの家でね。可愛かった~」

絵里「ふふ」

さとみ「……」

真姫「話はどうなったの?」

星奈「あ、そうそう。そういうわけだから、次は亮太の番」

亮太「この状況で話を促すか……」

星奈「問題あるの?」

亮太「たくさんあるだろ」

星奈「まぁ、いいじゃん。旅の恥はかき捨てっていうでしょ」

亮太「それは旅先の話で、道中、共にしている仲間にかいていい恥ではない」

星奈「理屈っぽいなぁ……」

絵里「おいしい……本格的ね」

さとみ「そうなんですか?」

絵里「えぇ……私と妹はロシアで暮らしていた経験がありますから」

星奈「じゃあ、ロシアの血が流れてるんだ?」

絵里「そういうこと」

星奈「だから絵里も美人なのか……ふむふむ」ジー

絵里「や、やめてよ……」

真姫「話が転がっていくわね」

海未「ですね」

亮太「……勝手に喋るけど、恥ずかしい話だから……聞き流してくれると助かる」

星奈「……」


亮太「俺は……、ふぅ……すぅ……はぁ」

星奈「なんで深呼吸?」

亮太「変に緊張してるんだよ……こんな話誰にもしたことないから……」

星奈「私だって、さっきの話は誰にもしたことないんだから。
    それに、亮太、言ったじゃん」

亮太「?」

星奈「旅を共にしている仲間って」

亮太「……」

星奈「ね?」

亮太「…………俺は、物心ついたころから……片思いをしていたんだ」

海未「!」

真姫(予想外の話ね)

絵里「……」

さとみ「……」

亮太「ずっと一緒に居たから、これからも一緒にいるものだと思って疑わなかった」


亮太「初めて手に入れた携帯電話のメールが彼女からだった。『これから、よろしく』って。
    人生初のメールで、好きな人からの言葉だったから保護機能を設定するくらい嬉しかった」


亮太「そんな彼女も片思いをしていると気付いたのは、中学の卒業前に相談されたのがきっかけ。
    小さい頃引越ししていった友達が居て、『北海道まで会いに行こうよ』って。
    目をキラキラさせて、とても楽しそうにしていて……失恋したと同時に、応援しようって気持ちになった」

星奈「……」

亮太「今でも思ってしまう。ちゃんと告白して振られていればよかったんじゃないかって。
    みらいちゃんのように決断していれば……その人を……傷つけることもなかったんじゃないかって」

星奈「傷つけたって、なにがあったの?」

亮太「最初は些細なケンカだったんだ。いつも世話を焼いてくるから、鬱陶しく思って……。
    それでも北海道に行くことは決まっていたから、時間が経てば仲直りするものだと思ってた」


亮太「だけど、ケンカがエスカレートしていって、大喧嘩。結果的に北海道は無くなって……、
    それからは顔を合わせる事も自然となくなった」


亮太「そして、今年の梅雨明け、『私たち、結婚します』って、伝えに来た」


亮太「俺に黙ってそんな大事なことを進めていたのかって。
    そう思ったら彼女が遠くに行ってしまった気がして……親友が居なくなったんだって思って」

星奈「ひどいこと言ったんだ?」

亮太「うん。……勝手にしろ、って言ってしまった」

星奈「……」

亮太「そしたら、泣いてしまって。今まで彼女が泣いたところ見たこと無かったから、驚いて何も言えなくて」

星奈「……」

亮太「そのまま置いて、俺は立ち去った。……俺がヴェガに乗車した理由は――」

さとみ「……」

亮太「逃げたかったから」

さとみ「……!」


亮太「あ、一応言っておきますけど、ちゃんと結婚式に参加して祝福しました」

海未「……」

真姫「……」

絵里「……」

星奈「ふぅん……もぐもぐ」

亮太「おめでとう、って言ったら……『ありがとう』って泣かれちゃって……はは」

真姫(それが理由……)

海未「よかったですね」

亮太「うん。よかった。……水戸駅で星奈が叫んだの聞いて、腹が立って……
   でも、逃げないでちゃんと向き合おうって思えた」

星奈「もぐもぐ」

亮太「って、なに食べてんだよ?」

星奈「ほむまん……だけど」

亮太「千歳さんの分はあるから……どこから出した」

星奈「隠してた一つだけど……なに?」

亮太「鬱陶しそうにするなよっ、あったんなら俺にくれよっ!」

星奈「今でもその人のこと好きなの?」

亮太「急に話を戻すなよ……言っただろ、失恋したって。
   俺だって、二人一緒に居るのが良いって思っていたから、北海道の計画の時点でとっくに終わってたんだ。
   ほら、ケータイも機種変更してきた。女々しい俺はもういない」

星奈「なにをカッコつけてるのかなー?」

亮太「そこは流せよ……ちなみに、いくつ食べた?」

星奈「三つ」

亮太「おまえというヤツは……!」

さとみ「どうぞ、鶴見さん」

亮太「あ、ありがとうございます」

真姫「前から思ってたんだけど、二人ってどうなの?」

絵里「真姫!?」

星奈亮太「「 どうって? 」」

真姫「ほら、わかるでしょ。なんだかんだで仲がいいし、息も合ってるし」

星奈「亮太……」

亮太「せ、星奈……?」

絵里「……」

海未「……私も少し気になってはいましたが」

さとみ「……えっと」


星奈「……」

亮太「……」


星奈亮太「「 あっはっは! 」」


絵里海未真姫「「「 え? 」」」

さとみ「?」


星奈「ないない! 私が亮太と付き合うとかっ! ナイスギャグだよ真姫!」グッ

亮太「それ、俺に対して失礼……ブフッ……確かにないっ」

真姫「あ、そう」

星奈「いやぁ、ヴァージンロードを歩いた先で、神父さんと待つタキシード姿の亮太を想像したら笑えちゃって」

亮太「そうだなぁ……俺もそれは想像できないな」

海未「……」

星奈「どっちかというと、亮太は長年連れ添った戦友って感じ?」

亮太「あぁ、わかる」

星奈「銃弾を受けて負傷をした亮太を抱えた私が叫ぶの『しっかりしろー』って」

亮太「胸のポケットから結婚指輪を出して言うんだよな『これを故郷で待つ婚約者にわたしてくれ』」

星奈「そうそう。そんなこともあったねー」

亮太「本当にあったみたいに同意するなよ。前世の記憶じゃないんだから」

星奈「ほら、亮太が敵の矢に打たれて『この文を……里で待つお静に渡してくれ……』ってのもあったよね」

亮太「なんで俺が瀕死の状態ばっかりなんだよ」

星奈「あれ、真姫は?」

絵里「話が長引きそうだからと言って、にこの個室へ」

星奈「えぇ~?」

さとみ「ふふ」

亮太「確かに、長かったかな……」

海未「気にする必要はありません。にこが気になっているだけですから」

亮太「うん……」

星奈「そういえば、マンモスの牙で負傷した亮太に渡してくれって頼まれた綺麗な石なんだけど、違う人に渡しちゃった」

亮太「石器時代まで遡るのか……。って、おまえ……いくらなんでも酷くないかそれ」

さとみ「ふふふっ」

海未(人それぞれ、色々あるものなんですね……)

絵里「……おいしい」


―― にこの個室


コンコン


みらい「どうぞ」


ガチャ


真姫「代わりましょ」

みらい「ううん、まだ平気」

真姫「……」

にこ「すぅ……すぅ……」

真姫「起きた?」

みらい「うん。一度水を飲んで、そのまま寝ちゃった」

真姫「……そう」

にこ「すぅ……」

真姫「あなたが、ヴェガに乗り続ける理由ってなに?」

みらい「?」

真姫「穂乃果に言われたから?」

みらい「……それもあるけど、それだけじゃないと思う」

真姫「……」

みらい「にこさんが言ってくれたから……
    『今までは一人で頑張ってきたかもしれないけど、これからは私たちがいる』って」

真姫「……!」

みらい「それが嬉しくて。……でも、みなさんに甘えているだけだったり……するんだけど」

真姫「…………」

にこ「すぅ……すぅ……」

みらい「これから先、失敗して……芸能界を引退して……失望させてしまっても、
     私からはこの人を絶対に裏切りたくないって、思った」

真姫「……」

みらい「そうならない為にも頑張らないと……」

にこ「すぅ……」

真姫「強いわね」

みらい「そんなことない。……強く見えるのは、応援してくれる人がいるから。
     私は何も変われてない……」

真姫「……」

にこ「すぅ……すぅ……」


―― 食堂車


さとみ「お金は、貯金を下ろせばなんとかなるし・……親も話せば分かってくれたし……」

絵里「よかったですね」

さとみ「えぇ。改めまして、千歳さとみと言います。よろしく」

海未「園田海未と申します」

亮太「鶴見亮太です」

星奈「東條希といいます、よろしゅう」

さとみ「あれ? セイナって呼ばれていませんでした?」

星奈「あ、バレてたか」

絵里「怒られるわよ?」

星奈「みんなが黙っていればバレないバレない」

亮太「誰……?」

海未「次の松本で紹介します」

星奈「おっと、降りる準備しなくちゃ」

さとみ「?」

星奈「私は松本で降りるから」

海未「!」

星奈「……えっと、そうだな、手を出してさとみちゃん」

さとみ「こ、こうですか?」

星奈「ほい、バトンタッチ」ポン

さとみ「?」

星奈「深い意味は無いんだけど。……きっと楽しい旅になるよ」

さとみ「……」

星奈「それじゃあね」

スタスタ

絵里「次で降りるのね……星奈」

海未「そうです……すっかり忘れていました」

さとみ「今のバトンはどういう意味ですか?」

亮太「うーん……気まぐれだから、よく分かりません。気にしないでいいと思いますよ、千歳さん」

さとみ「そうですか……。出来れば名前がいいかな……苗字だと学校の先生に呼ばれているみたいで……」

亮太「わかった。さとみちゃん、ね」

さとみ「うん」

絵里(出会いの瞬間、ね……なんだか不思議)

海未(私もにこの個室へ行ってみましょう)


店員「おまたせしました~、料理長特製のスープで~す」

絵里「え?」

海未「?」

さとみ「誰か、頼みました?」

亮太「いや……頼んでいませんけど……?」

店員「あれ?」

「こぉら、羽田ァ! ちゃんと説明をせんかァ!!」

店員「あ! 熱が出て寝込んでいるにこさんに栄養満点のスープをどうぞ、とのことです」

絵里「そうですか……ありがとうございます」

店員「いえいえ、早く治って欲しいですから。それでは失礼しま~す」

海未「冷めない内に持っていったほうがいいですね」

絵里「そうね。それじゃ、私たちはこれで」

亮太「うん、お大事に」

さとみ「……」


―― にこの個室


コンコン


真姫「どうぞ」


ガチャ


絵里「失礼するわね」

みらい「それは?」

絵里「スープの差し入れ。まだ寝てる?」

真姫「えぇ……」

にこ「すぅ……すぅ」

海未「匂いで起きるかと思っていましたが……そうでもありませんね」

みらい「私、出ていますね」

海未「そうですね、窮屈ですから。絵里、頼んでもいいですか?」

絵里「えぇ」


バタン


真姫「起こす?」

絵里「そうね、お昼もまだだから……早めに食べてもらいましょう」

真姫「……にこ、起きて」ユサユサ

にこ「……ん……ん?」

真姫「起こして悪いんだけど、食事をとった方がいいわ」

にこ「……」ボケー

絵里「少しでいいから、食べて」

にこ「……ん」

絵里「料理長の特製スープなんだって」

にこ「……いらない」

真姫「だ、だめよ」

にこ「しょくよく、ない」

絵里「にこの為に作ってくれたのよ?」

にこ「あした、たべるから」スッ

モゾモゾ

真姫「しょうがない部長ね……」


絵里「食べないと治らないわよ」

にこ「……」

絵里「ほら、食べさせてあげるから、体を起こして」

にこ「……ん」

絵里「ほら、あーんして」

にこ「あーん」

絵里「……どう?」

にこ「おいしい」

絵里「でしょ?」

にこ「……ん」

真姫「慣れてるみたいね」

絵里「亜里沙が風邪をひいたとき、こうやって食べさせていたから。ほら、にこ」

にこ「あ……ん」

絵里「……あとは自分でやってみて」

にこ「……ん」スッ

カチカチカチカチ

真姫「震えてるわね……」

絵里「せっかく食欲が沸いたのに、これじゃ……」チラッ

真姫「なに?」

絵里「食べさせてくれる?」

真姫「な、なんで私が!? 絵里がやればいいでしょ」

絵里「海未と明日のことで話をしておきたいから、お願いね」

真姫「……っ」

にこ「……ん」

カチカチカチカチ

絵里「ほら」

真姫「わ、わかったわよ……。貸して」

にこ「……」ボケー

真姫「ほら、口をあけて」

にこ「ぁー」

真姫「……っ!」

にこ「……ん」

絵里「あと、お願いね」


バタン


真姫「はい、次」

にこ「あーん」

真姫「どう?」

にこ「……うん、おいしい」

真姫「……」



絵里「さて……」

海未「食べてくれましたか?」

絵里「えぇ。最初は拒んでいたけど、食べさせたら気に入ったみたいで、全部食べると思う」

みらい「……そうですか、よかった」

絵里「あとは真姫に任せましょう」

海未「……」

絵里「明日のことで話が……海未?」

海未「今は真姫が食べさせているのですか?」

絵里「えぇ、そうだけど」

海未「……ふむ」

みらい「どうしたんですか、海未さん」

海未「見たいと思いませんか?」

絵里「だ、ダメよ? 真姫だって……少し……恥ずかしそうにして……いたんだから」

みらい「……」

海未「ちゃんと食べているのか確認をするだけです。決して真姫の優しい姿を見たいとかそういうのじゃ」

絵里「ダメだって言ってるでしょ……」

みらい「そう言いながらドアに近づいてますけど」

絵里「そぉーっとね」

海未「……はい。そぉーっと」


ガチャ

 ソォー


絵里海未「「 ……あ 」」

真姫「聞こえていたんだけど」ドン


 ソォー

バタン


海未「明日の話ですね」

絵里「そうよ、客車に移動しましょう」

みらい「切り替えが早い……」


―― 1号車


海未「ふぅ……真姫の表情にビックリしました」

絵里「えっと、梓さんはどこにいるの?」

海未「食堂車から来て会っていないのなら、展望車かもしれません」

絵里「なるほど。長い間乗っているだけあるわね」

海未「そうですね……稚内からここまで……」

みらい「呼んできますか? それとも……?」

絵里「展望車に移動しましょう。そっちの方が椅子があって落ち着くでしょ」



―― 展望車


『おりゃー!』


星奈「行けー! ジャイアントマックス!」ブンッ

亮太「あぶねっ!?」サッ

スカッ

星奈「そこだー! 叩きのめせー!」ブンッ

亮太「おいっ!」サッ

スカッ


紬「うふふ、仲がいいのね」

梓「騒がしいです」


絵里「あの二人は何を……?」

梓「星奈さんがプロレスを観戦しているんです。なんか、気分が乗ったら腕を振り回す癖があるみたいで」

紬「鶴見さんはそれを全部避けてるのよ」

みらい「……すごいですね、亮太さん」

海未「二人はいま、時間空いていますか?」

梓「え……?」

紬「……あ、もしかして」

海未「そうです、明日のことで打ち合わせを――」

紬「はい、ありますよ~。話は食堂車でいかがですか?」

絵里「いえ、人数が人数なので――」

紬「あぁー、えっと」チラッ

梓「なんですか、むぎ先輩?」

紬「えぇっとぉ」アセアセ

海未(デジャヴ……じゃなくて……穂乃果が隠し事をしているときと同じ雰囲気ですね)

梓「何かあるんですね、楽しいことですか? 教えてください!」ワクワク

紬「あ……その……」

絵里「明日のアイドルイベントのことで打ち合わせをしたいと思いまして」

梓「アイドルイベント?」


絵里「紹介が遅れました。私は音ノ木坂学院の生徒会長をしている、絢瀬絵里と申します」

紬「琴吹紬です」

梓「中野梓……です」

絵里「穂乃果から伝わっているとは思いますが、もう少し詳しい話がしたいので……」

紬「はい、それじゃそちらの椅子でお話しましょう」

梓「……」

海未(梓の顔には『嫌な予感がする』と書いてありますね……)

みらい「……」

絵里「紬さんと梓さん、二人が所属する軽音部と私たちアイドル研究部の合同で、
    アイドルイベントに参加をできないかとのお誘いです。この件は桜が丘高校の生徒会にも伝えています」

紬「返答はありましたか?」

絵里「先ほど連絡をいただきました。本人たちの意思も、私たちに同意するものだと伺っています」

紬「二つ返事でおっけーということですね」

梓「ちょっと、ちょっといいですか、むぎ先輩」

紬「な、なぁに?」

梓「松本でアイドルイベントがあって、私たちがそれに参加するって話ですよね……?」

紬「正解~」

梓「聞いてないですよ!?」

紬「ごめんね、唯ちゃんが内緒にしておいた方がいいって」

梓「そうですね! 私が聞いたら絶対に反対しますからね! 澪先輩はどうなんですか!?」

紬「賛成みたい!」フンス!

梓「あぁ……説得させられたんだぁ……」

海未(やはり……知らなかったのですね……。分かります、分かりますよ梓……)ウルウル

絵里「あの……」

紬「どうぞ、話を進めてください」


梓「私が穂乃果を避けていたのはこれを予感していたからなんだ……それなのに……知らないところで決定していたなんて」

海未「その気持ち、痛いほどわかります。私も同じような経験を積み重ねてきましたから」

梓「海未……」

海未「梓は一人で戦ってきたのですね」

梓「戦ってはいないけど……うん」

みらい「結束が生まれましたね……」


―― にこの個室


真姫「ほら、薬と水」

にこ「うん……」

真姫「……」

にこ「……ふぅ」

真姫「どう……?」

にこ「まだ……ねむい」

真姫「もう少し寝てて」

にこ「……うん」

真姫「……」

にこ「すぅ……」

真姫(明日、どうなるのかしら)


コンコン


真姫「はい」


ガチャ

車掌「失礼します、替えの水をお持ちしました」

真姫「ありがとうございます」

車掌「スープは全部飲まれたようですね」

真姫「はい」


―― 展望車


真姫「……ここにいたのね」

海未「どうでした?」

真姫「全部食べて、薬も飲んで休んでるわ。料理長にもお礼を言っておいたから」

絵里「そう……ありがと、真姫」

真姫「ううん……それより」


梓「あぁ……練習してないのにぃ……!」

紬「だいじょうぶ、……うん、大丈夫よあずさちゃん!」

星奈「あはは、励ましになってないよむぎちゃん」

亮太「いてて……全部を避けるには無理があったか」


真姫「この状況は一体……?」

海未「全てを話すには時間が足りません」

真姫(すぐに理解もできそうにないわね)

みらい「にこさんは?」

真姫「車掌さんが看てくれているから」

みらい「……」


梓「ちなみに、どのくらいの規模なんですか?」

絵里「ネットの紹介ページを見る限りでは、街の公園にステージを作成していました」

梓「あ、そのくらいなら平気……かな」

紬「そうよね、私たちも体育館やライブハウスくらいの演奏経験しか無いから」

梓「アイドルっていうからもっと大きいものを想像していました」

紬「それじゃあ、参加に問題は無いのね?」

梓「練習時間の少なさが不安ですけど、唯先輩のギターに頼りますから!」

紬「その意気よ!」


星奈「出場者リスト見せた?」

絵里「見せにくくなった……」

星奈「……だよね」

亮太「なに?」

星奈「亮太がそれを知っても、あの規模の大きさは理解できないと思うな……」フフン

亮太「……」ムカ

梓「なんですか、いま聞き捨てならない台詞が聞こえましたけど」

海未「隠していてもいつかは知ることです。梓、これを」

ペラペラ

梓「紙……?」

紬「それは?」

海未「出場者リストです」

梓「ふぅん……ん?」


紬「まぁ、よく知ってるアイドルの名前がたくさん」

梓「これはアレですね、ドッキリとかそういう」

紬「なるほど~……あら? 私たちにドッキリをしかけてどうするの?」

梓「一般人を騙してお茶の間に親近感を持たせようという企画なんですよ。そうでしょ、海未」

海未「いいえ、違います」

星奈「疑り深いな……」

絵里「残念ながら、梓さんの思っていた規模とは異なるようです」

梓「むぎ先輩」

紬「……」

梓「今からでも遅くはありません、今回の出場は見送りましょう」

絵里(海末と同じこと言った……)

梓「それに、私たちはアイドルではありません。学校の部活で結成されたバンドです」

紬「そうね」

絵里「……」

梓「急な話で驚いているというのもありますけど……観客は私たちを求めていないと思います」

海未「……」

梓「リストに載っている人たちはプロとして努力をし、頑張っている人たちですよね」

紬「うん」

みらい「……」

梓「そんな人たちと同じ舞台に立つんです。部室でのんびりティータイムを過ごして、
  楽しく気ままに演奏しているだけの私たちとは全くと言っていいほど違う立場にあるんです」

紬「そうね、そのアイドル達と肩を並べて立つことは……失礼なことかもしれないわね」

絵里(にこの体調のこともあって、軽音部の参加は頼みの綱だったけど……)
  
紬「一つ聞いてもいいかしら?」

絵里「はい、なんでしょう」

紬「うちの生徒会長は返答の際に、引き受けた理由を言っていましたか?」

絵里「はい、『楽しそうだから』と」

紬「うふふ、それを誰が言っていたのか分かるわよね、あずさちゃん」

梓「唯先輩……ですね」

紬「それでいいんじゃないかしら」

梓「……」

紬「確かに、私たちは誰からも求められていないかもしれない。
  目指す場所が全然違うから、見向きもされないと思う」

海未「……」

真姫「……」

紬「でも、私たちだけじゃないから」

梓「?」

紬「全員で15人、これだけの仲間がいればどんなことでも楽しめられるって思えない?」

梓「…………」


紬「つらいことがあっても1/15よ!」フンス!

梓「少しズレてますよ」

紬「あら?」

梓「……わかりました。もう反対はしません」

紬「よかった」

梓「曲目は決まっているんですよね?」

紬「それは……連絡が来ないから……まだ?」

梓「もぅ!」

ポパピプペ

紬「メール?」

梓「はい、『早く決めてください』と送信しました」

海未「参加決定、でよろしいですか?」

紬「はい。よろしくお願いしますね」ニコニコ

絵里「……正直、助かりました」

紬「?」

絵里「私たちに与えられた時間は30分です。それを活かす為にも軽音部の協力は必須でしたから」

紬「どうしてですか?」

絵里「矢澤にこが今朝から熱を出してしまって。……頑張ってみても2曲が限界なんです」

紬「まぁ、大変……」

梓「……ということは、私たちの時間はどのくらいに?」

絵里「みらいは一曲と決めているそうなので、私たちと同じくらい演奏していただければ」

紬「わかりました」

梓「熱って……その状態で参加するの?」

海未「本人の気力次第ですね」

梓「……」

みらい「……」

星奈「にこっちの気力かぁ……大丈夫だな、うん」

梓「その信頼はなんなんですか。……ところで、これは誰が企画したんですか?」

星奈「これって?」

梓「軽音部とスクールアイドルと飯山みらいが合同で参加するって企画です」

絵里「……穂乃果」

紬「穂乃果ちゃんよ」

梓海未「「 やっぱり…… 」」

紬「まぁ、綺麗に声がハモったわ。息ピッタリね」


亮太「……」ピッピッピ

星奈「こっちで真面目な話をしてるのに、亮太は電話でチャットですか」

亮太「そのアプリ入れてないっての。どこの誰とチャットしてるんだよ俺は……」

星奈「どれどれ」スッ

亮太「覗き込むなよ……」

星奈「私と亮太の仲でしょ。昔助けてやったのに……」

亮太「それは星奈が勝手に作った前世の話だろうが……。……絢瀬さん、公園のステージって言ってましたよね」

絵里「はい。今朝、サイトを見たときはそうでしたけど」

亮太「更新されてて……駅前の広場に変更されてるみたいだけど……知ってたかな」

絵里「え……」

真姫「なに、それ」

紬「まぁまぁまぁ……」

亮太「なんか、強引に会場を変更させたらしいよ……もうちょっと調べてみないとわからないけど」

星奈「強引って?」

亮太「えっと……出演するアイドルの父親が資金を提供したことで会場が大きくなった。
   ってあるけど……どうなんだろ」

梓海未「「 余計なことを……! 」」

ここまで

登場人物が多すぎるのでまとめます。


―― ヴェガ乗車客 (東京駅出発時点) ――


 にこ、海末、真姫、絵里

 星奈、亮太、さとみ、???(不運)、???(外国人)、???(日本人)

 梓、むぎ


―― 別ルート ――


 穂乃果、花陽、ことり、凛、希


―― イベント参加者 ――


 江戸前留奈、大海恵、速水玲香、舞園さやか

 ???(トップアイドルの中のトップ)

 軽音部


―― 高崎駅


海未「やはり、穂乃果はちゃんと進めていなかったのですね」

絵里「それは私の仕事でもあるから、気にしてくてもいいわ」

海未「いえ、結局丸投げですから」

絵里「……」

真姫「気になっていたんだけど」

海未「なんですか?」

真姫「みらいをステージに立たせる意味ってなに?」

絵里「そうね……」

真姫「にこがみらいを松本のイベントに参加させるって言ったんでしょ?」

絵里「アイドルだから、じゃない?」

真姫「……」

絵里「理由なんて無い、ただそれだけだと思うわよ」

真姫「……そう」

海未「紬さんも仰っていましたが、15人の仲間……にこが一人欠けてしまうとバランスが崩れてしまいます」

絵里「そうね、私たち8人では9人の女神とは呼べない……だから不参加は絶対に避けないと」

真姫「ここまで進めておいて、私たちは出られません……じゃ、余りにも無責任よね」

海未「そうですね。……ここでいいのではありませんか?」

絵里「それじゃ、真姫、いつもの発声練習を始めましょうか」

真姫「……背に腹は代えられないってことね」


――


さとみ「いいのかな……こんなことしちゃって……」


亮太「どうしたの、さとみちゃん」

さとみ「……亮太君」

亮太「なんか、溜め息吐いてたよね」

さとみ「ちょっと、ね」

亮太「慣れない列車旅行に緊張してるとか」

さとみ「ふふ、そうかもしれないわね」

亮太「乗客のみんなはいい人たちばかりだから、すぐに打ち解けるよ」

さとみ「うん……」

亮太「……明日も晴れるといいなぁ」

さとみ「亮太君、変なことを聞いたついでに、もう一つ聞いてもいい?」

亮太「変なことって、乗車した理由……だっけ」

さとみ「……」コクリ

亮太「いいよ……?」

さとみ「結婚式で二人を祝福したことで、亮太君の旅は終わったんじゃないかなって思ったの」

亮太「……」


さとみ「ごめんね、人の心に土足で踏み込むようなことして……」

亮太「ううん、これも旅仲間でしか聞けないことだと思う」

さとみ「?」

亮太「ほら、地元の友達にはこんな話をするのってとっても勇気がいると思うんだよ」

さとみ「……」

亮太「普段の俺を知ってるから、『こいつ、こんな悩みを……』なんて思われるんじゃないかって」

さとみ「!」

亮太「俺はそう思われたくなかった……。失恋して、終わった話だから……今更振り返ってもどうしようもないって。
   だけど、それが逃げる原因になってたんだ」

さとみ「……」

亮太「友達はすぐ出来るけど、親友は出来ないタイプの人間だから。……肝心な所で距離をとって、深く関わらないようにしてた」

さとみ「……うん」

亮太「だけど、ヴェガに乗って、……同じ自分と出会ったような気がして」

さとみ「同じ自分?」

亮太「星奈のこと。アイツも今まで深く関わることを避けてたって言ってたんだ」

さとみ「……」

亮太「水戸駅で一度降りて、考えてみた。……逃げるってことはまだ終わってないんじゃないかって」

さとみ「……」

亮太「でも、せっかくヴェガに乗って色んな人に出会えたのに……変われてないのは無駄……? もったいない?」

さとみ「……」

亮太「上手く表現できないけど、そんな感じ。星奈とケンカして、そのまま別れるのは間違ってるって、
    それだけはハッキリと分かったから……東京からもう一度乗ったって訳」

さとみ「そっか」

亮太「また長く演説しちゃったな……はは」

さとみ「ふふ、気にしないで」

亮太「……うん」

さとみ「星奈さんは亮太君にとって、唯一無二の存在なのね」

亮太「そうだね、得がたい友人。……って、聞かれてないよな?」キョロキョロ


「うっしっし、ちゃんと録画してあるよー」

亮太「げっ!?」

「バッチリですネ」

亮太「撮影してたのか凸凹コンビ! 消去! デリート!」

「ちょっと、あたしたちの取材の邪魔しないでよ。いい話だったから世界に広めるんだ!」

亮太「やっ、やめろ、小麦!」

「貴重なデータですワ!」

亮太「おい、エレナ!?」

さとみ「ふふっ」

小麦「なーんてね、録画してないよー」

エレナ「構えてただけですネ」

亮太「ふぅ……」


小麦「それより、アイドルがたくさん乗ってるって聞いたんだけど、どこ?」

亮太「あぁ……えっと……停車駅で練習してるって言ってたから……そこら辺にいるんじゃないか?」

小麦「よぉし! 突撃インタビューだ!」

テッテッテ

エレナ「オー! 待つですヨ! 小麦~!」

テッテッテ


亮太「騒がしいな……」

さとみ「色んな人が乗ってるのね」

亮太「うん、退屈することはないよ」

さとみ「……」



――



『 嬉しい?愛しい? 世界一ハッピーな恋 』

『 見せて見せてっどうか見せてっ うんと、がんばっちゃう! 』


絵里(……さすがに駅のホームでの練習は……でも、真姫もちゃんと声に出してるのよね)



エレナ「オヤ?」

小麦「あれ?」


絵里「あ……!」

小麦「ひょっとして、仙台でキーホルダーを買ってくれた人……だよね!」

絵里「やっぱり……」

エレナ「素晴らしい縁ですワ!」

真姫「?」

海末(カメラを構えて!?)


絵里「驚いた……こんなところで会うなんて」

小麦「本当~! あたしもビックリしちゃった!」

エレナ「偶然ですネ~!」

真姫「誰?」

絵里「あ……えっと」

小麦「あたしの名前は伊東小麦! こっちは相棒のエレナ・ユーリ・ノーディス」

エレナ「お初にお目にかかりますワ」

絵里「私の名前は、絢瀬絵里です。こっちは西木野真姫と園田海末」

真姫「どうも」

海末「は、初めまして」

小麦「はい、初めまして~! ところで、アイドルがいるって聞いたんだけど~?」

絵里「あ……それは……私たちのことです」

エレナ「それでは、取材をするネ、小麦~」

小麦「よぉーっし!」

海末「取材、ですか!?」

エレナ「ワタクシは、このカメラで世界を撮るという旅をしているネ」

小麦「あたしも付いていくんだ!」

絵里「……」

真姫「どういう知り合いなの?」

絵里「仙台で露店を開いてて……そこで会ったのよ」

真姫「ふぅん……って、海末がいないわね」

絵里「逃げたのね……」


―― にこの個室


にこ「すぅ……すぅ……」

みらい「……よいしょ」

にこ「すぅ……」


コンコン

みらい「はい」


ガチャ


海未「様子はどうですか?」

みらい「今タオルを変えたところです。
     水が温くなってきたので替えてこようと思うんですけど」

海未「お願いします」

みらい「はい」


ガチャ

 バタン


海未「ふぅ……いきなり取材なんて……ビックリしました」

にこ「……ん」

海未「起こしてしまいましたね」

にこ「……うん」

海未「水、飲みますか?」

にこ「たいおんけい……とって」

海未「……どうぞ」

にこ「……ん」

海未「水分補給もしてください」

にこ「うん……ありがと」

海未「……」

にこ「……ごく…ごく」

海未「にこが寝ている間に、色んなことが起こりましたよ」

にこ「……?」

海未「まず、星奈さんと鶴見さんが仲直りをしました」

にこ「……うん」

海未「そして、東京から新たな乗客が二人。……一人はすぐに降りてしまいますが」

にこ「だれ?」

海未「千歳さとみさんといいます。もう一人はにこにスープを飲ませた人ですよ」

にこ「……まき?」

海未「覚えていないのですか?」

にこ「……えり?」

海未「そうです」


ピピピピピピ


にこ「……ん」

海未(38度3分……中々下がってくれませんね)

にこ「…………」

海未「汗は拭きましたか?」

にこ「……しゃしょうさんに」

海未「そうですか。……話をしすぎました、水を飲んで横になりましょう」

にこ「……うん」

海未(ここまで素直に聞くのは……最低限のエネルギーで抑えているからでしょうか)

にこ「……すぅ」

海未(意識してか無意識なのか……治すのに専念しているのですね)

にこ「すぅ……すぅ……」

海未「……」


prrrrrr


海未「絵里が私たちの知らないところで友人を作っていたみたいです」

にこ「すぅ……すぅ……」

海未「楽しいことが待ってますよ……にこ」

にこ「……すぅ……」


プシュー


ガタン ゴトン


―― 売店車


小麦「なるほど、始発から乗っているんだね」

店員「そうでぇす」

小麦「ふむふむ」メモメモ

亮太「なにしてんだ?」

小麦「取材だよ取材」

店員「スクールアイドルのみなさんのことを聞かれていたんですぅ」

亮太「なんでそんなことを?」

小麦「新聞作ろうと思ってね! 乗客の人たちに有名みたいだから、おいしいネタでしょ?」

亮太「ふむ……」

絵里「小麦さん、本当に書くつもりなの……?」

小麦「あ、絵里ちゃん……。だいじょうぶだよ、あたし、こう見えても新聞部だから!」

絵里「そういう意味じゃなくて……」

小麦「あ、やっぱり嫌?」

絵里「……ううん、記事にしてくれたら嬉しい」

小麦「よかった! それじゃ、取材してくるから。それと、あたしのことは呼び捨てでいいよ~」

テッテッテ

亮太「許可してよかったの?」

絵里「宣伝してくれるなら、私たちにとって励みになりますから」

亮太「……なるほど」

絵里「それより、花陽並の情報収集力を持つ鶴見さんに頼みたいことが……」

亮太「いいよ」

絵里「まだ内容を言っていないのに……引き受けてもいいんですか?」

亮太「話を聞いてて俺も何か手伝えないかなって思っていたから。
    みらいちゃんに偉そうなこと言ったままで、何もしてないし」

絵里「助かります」

亮太「それで、何を調べるの?」

絵里「トップアイドルたちが登録した経緯を。特に重要というわけではないんですけど……気になっているので」

亮太「分かった」

星奈「なんかいいね、みんなで頑張ろうって雰囲気があって」

亮太「そうか?」

星奈「梓ちゃんたちもイメトレしててさ、楽しそうだったよ」

亮太「あぁ……分かる気がする。文化祭の準備のようなノリ?」

星奈「そうそう」

絵里(そんな気分じゃなかったけど……そう言われるとなんだか嬉しいわね)

亮太「じゃあ、客車で調べてくるよ」

スタスタ

星奈「それじゃ、みんなに挨拶してこようかな~」

絵里「……」


―― 3号客車


亮太「変な動きだな……事務所の力でも働いてるのか……?
    でも、どこにも所属していないスクールアイドルが残ってるし……、そもそもどうして松本なんだろ」

さとみ「ここ、座ってもいい?」

亮太「あ、さとみちゃん……いいけど、あまり会話できないよ?」

さとみ「メールのやりとりしてるの?」

亮太「そうじゃないんだけど、情報収集してて……」

さとみ「邪魔かな?」

亮太「生返事になるけど、それでいいなら、どうぞ」

さとみ「ふふ、失礼するわね」

亮太「……」ピッピピ

さとみ「……凄い速さで進むのね」

亮太「……うん」


ガタンゴトン

 
さとみ「これなら目的地まであっという間ね」

亮太「うん……稚内からここまでもあっという間だったよ」

さとみ「……あ」


星奈「……」フリフリ


亮太「どうしたの……?」

さとみ「星奈さんが……通り過ぎて行っちゃった」

亮太「そっか……」ピッピ

さとみ「……」


「あの、亮太さん」

亮太「ん? 愛ちゃん?」

愛「にこさんのことで相談が……」

亮太「え、俺に?」

紬「うふふ、鶴見さん、スクールアイドルの方達と仲がいいから、何か知ってるかなと思って」

亮太「う、うん……わかった」

さとみ「……」

紬「初めまして、琴吹紬といいます」

さとみ「千歳さとみ……といいます」

愛「松浦愛……です」


亮太「それで、相談って?」

愛「にこさんが風邪をひいた原因って……」

亮太「あぁ……疲労からくる熱で、ゆっくり休んで栄養を取れば治るって聞いてるから」

愛「……」

亮太「愛ちゃんのせいじゃないよ」

愛「そう……でしょうか」

さとみ「?」

愛「私……なにかと運が悪くて……それに、にこさんを巻き込んでしまったのではないかと」

亮太「思い当たる節でもある?」

愛「先日、七夕祭りでカキ氷を……」

亮太「あれは、俺たちも被ったから、それに少しの量だし……」

愛「そうでしょうか」

亮太「それよりさ、原因を探すより治る方法を考えたほうがいいよ。お見舞いとかして」

愛「……そうですね」

亮太「うん……」ピッピッピ

紬「さとみさんとは……どこかで会ったような……」

さとみ「わ、私も同じ気持ちなんです……」

「亮太君、ちょっといい?」

亮太「今度は小麦か……なんだ?」

小麦「えっとね……ん?」

さとみ「ど、どうも……」

小麦「あたしの名前は伊東小麦! エレナと旅の真っ最中だよー!」

紬「梓ちゃんのところに行ってくるわね」

愛「は、はい」

さとみ「……」

小麦「それでね、明日の出演時間を聞いておこうと思って」

亮太「絢瀬さんたちの? ……というか、何で俺に聞く?」

小麦「だって広報担当でしょ?」

亮太「星奈が言ったんだな……。えっと……あれ、知らないぞ、俺」

小麦「そうなの?」

亮太「というより、順番も公表されてないな……なんでだろ」ピッピ

小麦「あ、おーい、エレナー!」

エレナ「ここに居たんですネ、小麦ー」

亮太「うーん……」

小麦「ちゃんとした情報がないと新聞に書けないよー」

亮太「わかった、聞いてくるからここで待っててくれ」

小麦「よろしく~」

愛「忙しそうですね」

さとみ「……うん。でも、楽しそう」


―― 展望車


絵里「曲目は決まりました、後は演奏順を考えましょう」

紬「交互にしましょうか?」

絵里「機材の関係もありますから、ステージの大きさを把握しておかないと決めるのは困難ですね」

紬「そうですね~……」

海未「リハーサルも必要ですね」

真姫「松本に着いたら色々とやることが多くなってきたわね」

梓「~♪」ジャジャン

亮太「中野さんは練習に集中してるんだ……エアギター?」


亮太「お取り込みのところ悪いんだけど、ちょっといいかな」

絵里「はい……?」

亮太「出演者の順番は決まってるの?」

海未「それが……」

亮太「?」

絵里「会場のほうに問い合わせてみたのですが、まだ決まってないそうです」

亮太「……あぁ、トップアイドルが揃ってるから、決めるに決められないってところかな」

真姫「たぶんね」

亮太「困ったな……」

絵里「私たちが到着する頃には決まるそうですから」

亮太「じゃあ問題ないね。小麦に伝えておくから」

海未「……なにを、ですか?」

亮太「え、出演時間を……だけど」

海未「伝えることで、何が変わるんですか?」

亮太「え、それは……新聞に掲載されるから……ヴェガの乗客も応援に来てくれるかなって」

海未「こ、これ以上人を集めて……どうするんですか……っ」

亮太「えぇ?」

絵里「海未、落ち着いて」

真姫「はっきり言ってアウェーよ。その中でも私たちを応援してくれるなら心強いじゃない」

海未「そっ、そうですね」ウンウン


紬「ふんふふん~♪」

ポンポロロン

梓「飛んで行っちゃえ~」ジャジャン


真姫「私たちよりあの二人のほうが重圧が大きいはず」

海未「……そうでした。私は自分のことしか考えていなかったのですね」

絵里(スクールアイドルという肩書きと、部活動というバンド……)

亮太「松本に到着しないと始まらないのか……なるほど」

スタスタ


―― にこの個室


ピピピピピ


にこ「……ん」

車掌「38度4分……」

にこ「……ふぅ」

車掌「摩り下ろしのりんごジュースです、飲めますか?」

にこ「……うん」

車掌「どうぞ」

にこ「……ありがとう」

車掌「……」

にこ「ごく……ごく」

車掌「先ほど、星奈さんがいらっしゃいましたよ」

にこ「……せい…な?」

車掌「様子を見て、しばらくした後、個室へ戻られました」

にこ「……」

車掌「もう少し飲みますか?」

にこ「……はい」

車掌「蜂蜜が入っているので、たっぷり栄養を吸収できますよ」

にこ「ごく……ごく……」

車掌「……」


コンコン


車掌「どうぞ」


ガチャ


絵里「車掌さん……?」

車掌「お飲み物をお持ちして、飲んでいただいたのです」

絵里「わざわざありがとうございます」

車掌「いえ、それでは仕事に戻りますので」


バタン


にこ「……ふぅ」

絵里「汗を拭くからじっとしてて」

にこ「……ん」

絵里「……」フキフキ

にこ「……だいじょうぶ?」

絵里「え?」

にこ「いべんと」

絵里「それは、にこにかかってるのよ」

にこ「……うん」

絵里「先の見えない状況だから、恐れがあるし、にこのことで不安もある」

にこ「……ん」

絵里「だけど、みんなで何かするっていう目的があるから、少なくともヴェガの中は期待が生まれつつあるわ」

にこ「……きたい?」

絵里「えぇ、『楽しもう』って」

にこ「……」

絵里「松本に着いたらみんなで合わせてみる。だから、今までどおり、頑張りましょう」

にこ「……ごめ――」

絵里「それは言わないで」

にこ「……うん」

絵里「今はゆっくり休んで、しっかり栄養を取ることが大切。まだ、飲む?」

にこ「……ん」

絵里「乗客のみんなも応援してくれているみたいよ」

にこ「ごく……」

絵里(とは言っても……38度4分……厳しい状況に変わりない)



ガタンゴトン

 ガタンゴトン


―― 売店車


ガタン ゴトン


海未「減速しましたね」

店員「そうですねぇ。あ、いま駅のホームに入りましたぁ」

海未「松本の観光ガイドを一つお願いします」

店員「ありがとうございますぅ」

海未「……とりあえず、降りる準備をしますか」

店員「あの、お客さん?」

海未「はい?」

店員「あ、いえ、なんでもありません~」

海未「?」


ガタン

 ゴトン


プシュー


海未「到着しましたか」


海未(星奈さんとも……お別れなんですね……ここまでずっと一緒にいましたが……)


海未(とりあえず、明日観に来てくれるのか聞きに行ってみましょう)


―― 星奈の個室


真姫「そんな……」


海未「真姫……?」

真姫「……」

海未「どうしたのですか?」

真姫「…………」

海未「真姫も星奈さんに――」

真姫「居ないわ……あの人」

海未「え?」

真姫「……」


コンコン


真姫「……」

海未「……」


真姫「でしょ?」

海未「え……? どういうことですか?」

真姫「車内を探してみる」

スタスタ


海未「……」


―― 展望車


真姫「ねぇ、絵里」

絵里「なに?」

真姫「星奈……見なかった?」

絵里「見てないけど……?」

真姫「そう……邪魔したわね」

スタスタ


絵里「……?」





―― にこの個室


コンコン


みらい「はい」


ガチャ


真姫「星奈、来た?」

みらい「星奈さん? 来てないけど……」

真姫「そう……悪いけど、にこのことお願いね」

みらい「……うん」

にこ「すぅ……すぅ……」





―― 3号車


真姫「あ、いた」

亮太「ん?」

真姫「星奈がどこ行ったか……知ってる?」

亮太「ううん、知らないけど……」

真姫「……」

亮太「まさか……アイツ……降りた?」

真姫「…………」

亮太「車掌さんには聞いた?」

真姫「まだ」

亮太「行ってみよう」

真姫「……」


―― 車掌室


コンコン


ガチャ


車掌「はい、なんでしょうか?」

亮太「車掌さん、星奈は挨拶に来ましたか?」

車掌「はい、先ほど……お見えになりましたが」

亮太「降りて行ったんですか?」

車掌「……そうです」

真姫「え――」

亮太「……」

車掌「ご存じなかったようですね」

亮太「……はい」

真姫「……」

車掌「……あまり、気を落とさないでくださいね」

亮太「はい、失礼します」

真姫「……」


―― 松本駅


海未「――降りた?」

亮太「そうみたい」

絵里「……」

海未「鶴見さんに一言も無し、ですか?」

亮太「うん……」

絵里「そんな無責任なことをするような人には思えないけど……」

真姫「乗客の誰にも声をかけてないみたいね」

海未「真姫……聞いてきたのですか?」

真姫「……」コクリ

海未(それほどショックだったのですね……)

亮太「うーん……らしくないな」

海未「?」

亮太「何か理由があったと思う。俺達に何も言わないで降りた理由が」

真姫「それは?」

亮太「知らないけど……」

真姫「そういうものなのかもね」

絵里「え?」

真姫「あの人にとって、出会いと別れなんてこんな形で終わるような、些細なものなのよ」

亮太「……」

海未「そう決め付けるには、まだ早いのではありませんか?」

真姫「…………」

亮太「やっぱり星奈らしくないと思う。こんなモヤモヤを残すなんて……」

絵里「心当たりがあると?」

亮太「いや、そんな予感とか、前兆めいたものは全然感じられなかったけどさ」

真姫「何が言いたいの?」

亮太「もっとこう、アッサリとしてないと納得できないっていうか」

海未「具体性に欠けますね」

亮太「あぁ……! アイツが悪いのになんで俺がフォローしなくちゃいけないんだ……!」


車掌「お取り込みのところ失礼します」

亮太「?」

絵里「なんでしょう?」

車掌「大したことではないのですが、先ほど星奈さんが使用されていた個室をチェックしました」

海未「……」

亮太「書置きとか……?」

車掌「いいえ、綺麗に片付いていましたので、そのようなものはありませんでした」

亮太「そうですか……」

真姫「……やっぱり――」


車掌「ただ、乗車証を返していただいてないのです」

絵里「乗車証?」

車掌「はい。乗車される際に、乗車券と引き換えにお渡しするバッヂのことです」

海未「これのことですね」

車掌「そうです」

真姫「……ということは、返しに戻ってくる……?」

車掌「いえ、記念に渡す場合もありますので、その可能性も低いことを覚えておいてください」

真姫「……」

亮太「記念に……ってことは、悪用されない人物に渡すってことですか?」

車掌「走行中は私が車内をチェックしていますので、乗車証の不正利用はできません。
    バッヂを身に付けたことを忘れたまま下車されることもありますので」

亮太「じゃあ、誰でも持っていけると……」

車掌「そうです」

真姫「……」

車掌「ですが、私の経験上、星奈さんはどちらも当てはまりません」

真姫「どういうこと……ですか?」

車掌「申し訳ありません、これ以上断定できる要素がないため、ハッキリとは申し上げられないのです」

絵里「わかりました。ありがとうございます」

車掌「……それでは、失礼します」

スタスタ


亮太「……えっと……車掌さんの今の言葉にヒントが?」

絵里「そういうこと、ですね」

亮太「…………」

真姫「なに、どういうこと?」

海未「……」

絵里「車掌さんの立場上、真姫に期待を持たせるようなことを言えないってこと」

真姫「な、なによ期待ってっ」

絵里「要は星奈を信じるかどうか、ってことね」

真姫「……」

亮太「……あ、だから経験上……って」

絵里「間違いなく言えるのは、車掌さんは乗客のことをちゃんと考えてくれているってこと」

真姫「……」

海未「もし、戻ってきたら、一言言ってやらないと気がすまないですね」

絵里「それがいいわね。私たちはステージの確認に行きましょ」

海未「……そうですね」

真姫「戻ってこなかったら、それで終わりよね」

絵里「……」


真姫「今まで……一緒に……ここまで来たのに」

絵里「星奈が許せないの?」

真姫「そうじゃ……ないけど」

絵里「気持ちの整理がつかない?」

真姫「……」

絵里「今は車掌さんの言葉を信じて星奈を――」

亮太「そう簡単に割り切れないと思う」

絵里「?」

亮太「稚内からここまで来て、その結末がこれって、あまりにも酷いよなぁ」

海未「鶴見さんも戻ってこないと思っているんですか……?」

亮太「いや、友達の気持ちとして思ったことを言ってみただけなんだ」

真姫「……」

亮太「俺は絶対に戻ってくると思う。車掌さんの言葉を抜きにして」

真姫「どうして?」

亮太「アイツが言い出したことだから。食堂車で、俺達は『旅仲間』って」

真姫「……!」

亮太「それを裏切るようなことはしない」

海未「そうですね。鶴見さんがそういうのなら、疑う余地はないはずですよ、真姫」

真姫「……わかったわよ。そういうことにしておく」

絵里(私は真姫の気持ちに気付けなかった……? 鶴見さんより私のほうが付き合い長いのに……)

亮太「戻ってこなかったら末代まで語り継ごう、『山口星奈はとんでもないアホだ』って」

海未「それは無しです。言い切ったのですから、自信を持ってもらわなくては」

真姫「……そうね」

亮太「くっ……後ろ足で砂をかけるようなことしやがって……アイツ!」

絵里「……」


―― 松本駅・アルプス口


「こっち機材足りねえぞー!」

「はい! 今すぐ持っていきます!」


「よーし、そのまま降ろせー!」

「ゆっくりだ、ゆっくりー!」


「おい、配線どうなってる!?」


「こっちに人回してくれー!」


絵里「……」

海未「……」

真姫「……」

亮太「……すごい」

梓「ナンデスカコレ」

紬「まぁ……想像以上ね」


トン トン

 ガシャガシャ

ガン ガンガン


「トラック到着しましたー!」

「ダメだ、もう少し待ってもらえ!」

「分かりました!!」


「こっちは十分だ、向こう手伝ってやれ」

「了解!」


亮太「修羅場ってヤツだ……」

絵里「会場の広さは知ってたけど……」

海未「ステージの規模は……予想外です」

真姫「これはダメかも……」

梓「ハハハ」

紬「あずさちゃん、しっかり!」

亮太「とりあえず、関係者を……」


―― 運営部


亮太「すいません、明日のアイドルイベントについてお伺いしたいのですが」

「あなたは?」

亮太「俺は……えっと……参加するアイドルのマネージャーの役割を持ってるものです」

「ハッキリしませんね……」

亮太「出演者の順番は決まっていますか?」

「いえ、まだですが……」

亮太「確か、連絡を入れたときは、この時間にはもう決まっていると聞きましたけど」

「……それが」


「んっふふふふふ」


亮太「……」フゥ

将人「僕が止めてもらっているんだよ」

亮太「なんであんたがここにいる」

将人「それはこっちの台詞だ! 目の前をウロチョロと……目障りだ、消えろ」

亮太「そうもいかないんだよ」

将人「なに?」

亮太「詳しく教える必要はない、運営の邪魔をしてないでさっさとどけよ」

将人「素人が口を出すな。これはビジネスなんだよ」

亮太「ビジネス……?」

「マネージャー、まだぁ?」

将人「もう少し待っているんだ、千秋」

千秋「はやく、リハとかやっておきたいんだけどぉ……こんなとこいつまでもいたくないしぃ」

亮太「スタッフが頑張ってるのに……こんなとこって……」

将人「そう慌てるな。時期に交渉に移るんだから」

亮太「交渉……?」

将人「盗み聞きとはいい趣味をしているな」

亮太「はいはい」

スタスタ


千秋「なにあれぇ?」

将人「気にするな、どうでもいいハエだ」

千秋「なにそれ、だっさーい」

将人「それより、出演するアイドルはまだ来ないのか?」

「さっきの子、参加するアイドルのマネージャーだとか言ってましたけど」

将人「なにぃ?」


―― 松本駅・アルプス口


亮太「まだ順番は決まってないんだって」

絵里「連絡を入れたときには決まっていると聞きましたけど」

亮太「それが、誰かさんが格好の悪いことをしてて、運営の邪魔をしてるみたいでさ……」

海未「格好の悪い……?」

真姫「なにそれ?」

亮太「交渉って言ってたから……多分――」

将人「やはり君達か」

亮太「つけて来たのか……」

将人「ハエは黙ってろ」

亮太「な……! ハエ、蝿ぇ!?」

真姫「なんですか、あなた」

将人「まぁ、そう噛み付くな。以前の話はお互い水に流そうじゃないか。おいしい話を持ってきてやったんだ」

海未「……嫌な予感しかしません」

絵里「……」

亮太「きっとあれだ……ベルゼブブっていう……凄いんだ俺は」ブツブツ

梓「誰ですか?」

紬「みらいちゃんのマネージャー……だった人よ」

梓「過去形ですね」

将人「君達、明日のアイドルイベントに参加するのだろう?」

真姫「それがなにか?」

将人「リーダーはどこだ? 話がしたい」

海未「……」チラッ

絵里「……彼女です」

真姫「え?」

絵里「そうよね?」

真姫「そ、そうよ、私よ」

将人「……まぁいい。その参加権を僕に譲ってくれないか?」

真姫「はぁ?」

将人「少し考えれば気付くことだ。このイベントには大勢の観客が押し寄せるだろう、君達にはまだ早い」

真姫「な……!?」

将人「代わりにうちの千秋が出演する」

千秋「どうもぉ、千秋でぇす」

将人「彼女なら君達の代わりを果たせる。解るだろ、会場のブーイングを味合わなくて済むんだ」

真姫「あ、あなたって……!」

将人「仕方ない、5つだそう」

真姫「5つ……? いきなりなに?」


将人「君たち学生には中々手に入らない数だ」

真姫「だから、なにを――」

亮太「いや、相手にするのやめよう」

真姫「え?」

絵里「行きましょう」

海未「?」

梓「え、なんですか?」

紬「知らなくていいのよ~」

将人「仕方ない、10でどうだ?」

亮太「テメエ、いい加減にしろよ!」

将人「部外者のハエには言っていない、地面に叩きつけるぞ」

千秋「きゃはは、マネージャーさいこー!」

亮太「あんた、自分が何をしてるのか分かってるのか?」

将人「言っただろう、ビジネスだと。社会を知らないガキが、しゃしゃり出てくるんじゃない」

亮太「あの時は言い返せなかったけど……今ならハッキリ言える……」

将人「このイベントは芸能界の歴史に残るのかもしれないのだ、それを――」

亮太「あんたより、みらいちゃんの方がよっぽど格好良いよ」

将人「なに?」

亮太「もがいてもがいて、一生懸命に頑張っているみらいちゃんの方が、
   今まで思い通りにしてきたあんたより、ずっと格好良いって言ってんだよ」

将人「……言いたいことはそれだけか?」

亮太「あぁ、そうだよ! だから向こうには近づくな!」

将人「お前もいつかは気付くことだ。どけ」

亮太「どくかよ」

千秋「なにコイツゥ……だっさーい」

将人「しょうがない、サービスだ。おまえにも分けてやろう。いくらだ?」

亮太「おまえ――!」


「お断りします!」


将人「?」


穂乃果「お断りします!!」


将人「やはり君がリーダーだったか……改めて交渉を――」


穂乃果「お断りします!!!」

将人「なんなら僕の――」

穂乃果「 お 断 り し ま す ! 」

将人「――顔が利く事務所に紹介してやっても」


穂乃果「 お こ と わ り し ま す !! 」


将人「ぐっ!?」

凛「おまわりさーんこっちです!」

警備員「どこだ!?」

花陽「あ、あの人です!」

警備員「おまえか、女の子を強引に!!」

将人「なに!?」

ことり「ぐすっ」

警備員「現行犯だな、そこを動くな!」

将人「ふざけるなおまえたち!」

希「ウチ、怖い……」フルフル

警備員「恐喝だと!?」

将人「くそっ」

タッタッタ


ザザッ

警備員「被疑者が逃亡した模様、直ちに応援を要請します。服装は――」

『――了解しました』

ザザッ

警備員「これで安心――あれ? 誰もいないだと!?」


梓「はぁっ、はぁ……ど、どうして逃げるんですか?」

絵里「後々面倒になるから……ふぅ」

梓「大丈夫ですか、むぎ先輩」

紬「ふぅ……うん、大丈夫よ。みんなで一生懸命走るなんて、やってみたかったの」

凛「少し……ううん、結構ズレてるにゃ……」

真姫「な、なんで私たちが……」

希「警察が来たら、色々面倒やん?」

真姫「なにも悪いことしてないじゃないの」

海未「みらいのこともありますから……」

ことり「そうだね」

花陽「どうしてあんなことをしたのかな?」

海未「私もよくは分かりませんが……鶴見さんの雰囲気はただ事じゃなかったので……」

亮太「はぁっ……はぁ……なんか、すごい疲れた」

さとみ「結構、怒ってたからね」

亮太「いや、許せなかった……って、さとみちゃん!?」

さとみ「ふふ、人だかりが出来ていたのよ? 気付かなかった?」

亮太「マジで……?」

さとみ「うん、本当。小麦さんもエレナさんも見ていたから」

亮太「……うわっ、恥ずかしい……。けど、あれでもう近づいてこないだろう」フゥ

さとみ「あの子は?」

亮太「高坂穂乃果さん。チームのリーダーだよ」



穂乃果「参加権を譲るなんて、絶対に嫌だよね!」プンスカ

海未「ところで、穂乃果……あれは誰の真似なんですか?」

穂乃果「あれって?」

真姫「お断りします、よ」

穂乃果「真姫ちゃんとうみちゃん」

真姫海未「「 …… 」」


―― にこの個室


みらい「……」

にこ「すぅ……すぅ」


コンコン


みらい「はい」


穂乃果「お邪魔しま~す」

ことり「穂乃果ちゃん、声が大きいよ」

穂乃果「あ、ごめんねぇ」


みらい「到着したんですね」

穂乃果「うん、ついさっき」

ことり「果物がいっぱいあるね」

みらい「乗客のみなさんがお見舞いに持ってきてくれたんです」

ことり「そうなんだぁ……」

穂乃果「愛されてるね~、にこちゃん」

にこ「すぅ…………ん」

穂乃果「あ……」

にこ「……ほのか…?」

穂乃果「ごめんね、起こしちゃった?」

にこ「……ううん」

ことり「色々持ってきたんだけど、オレンジとかスポーツドリンクとか」

にこ「……おれんじ」

ことり「ちょっと待っててね、……えっと、コップは」

みらい「これを使ってください」

ことり「ありがと~」

にこ「……みんなは?」

穂乃果「近くの公園で歌の練習してるよ」

にこ「……そう」

ことり「はい、どうぞ」

にこ「……ありがと。……いつきたの?」

穂乃果「さっきだよ。到着して早々、事件が――」

ことり「穂乃果ちゃんっ」

みらい「事件?」

穂乃果「あー、えっと……ウミチャンガ、コロンジャッテ」

にこ「……ごく……ごく」


ことり「にこちゃん、プリンもあるけど……お見舞いの果物とどっちがいいかな?」

にこ「……あれがいい」

ことり「桃だね、わかった。切ってくるから待ってて」

みらい「私も行きます」

ことり「うん、お願いね」


バタン


にこ「……ありがと」

穂乃果「……」

にこ「……ふぅ」

穂乃果「はい、体温計。熱測って」

にこ「……うん」

穂乃果「咳とか頭痛は?」

にこ「……ない。すこし、あたまがぐるぐるする」

穂乃果「熱のせいかな……」

にこ「……」ボケー

穂乃果「ちゃんと栄養とってる?」

にこ「……うん、たべてる」

穂乃果「……そっか」


コンコン


穂乃果「あ、はい」


ガチャ


希「失礼するね」

穂乃果「希ちゃん?」

希「ここがヴェガの個室なんやね、予想してたのより豪華やな」

にこ「……」ボケー

希「穂乃果ちゃん、エリちが呼んでる」

穂乃果「まだ交代の時間じゃないよね」

希「軽音部のメンバーが到着するようやからね」

穂乃果「そっか、挨拶しないと」

希「にこっちのことはウチに任せて」

穂乃果「うん。行ってくるね、にこちゃん」

にこ「……うん」


バタン


希「……」

にこ「……」


ピピピピピ


にこ「……ん」

希「体温計? 見せて」

にこ「……うん」

希「38度5分……上がっとるようやな」

にこ「…………」

希「そんな顔せんでも大丈夫や、きっと好くなる」

にこ「……うん」

希「病は気からって言うから、気持ちで勝たな」

にこ「うん」

希「……」

にこ「……」キョロキョロ

希「何を探しとるん?」

にこ「……でんわ」

希「電話……こっちにあるよ。……はい」

にこ「……ありがと」

希「素直やね」

にこ「……」ピッ

希「汗、拭くからじっとしてて」

にこ「……」

希「……すごい汗」フキフキ

にこ「……めびうすのわって、なに?」

希「え?」

にこ「……ほら」

希「……ふむ」

にこ「……」


希「メビウスというのは、面の一方をたどっていくと、いつのまにかスタート地点の裏側に戻り、
  さらに進んでいくと再びスタート地点に戻る…という……」

にこ「……」

希「実際に見せたほうがいいね。なにか帯は……この割り箸の紙、使うよ?」

にこ「……うん」

希「これを、開いて、一つ捻って、端と端をくっつける。これがメビウスの輪」

にこ「……」

希「ここからスタートして……なぞっていくと……、一周したときには裏面にたどり着いた」

にこ「……」

希「そして、もう一周したら……スタート地点に戻ってきたね」

にこ「……うん」

希「ゴールが無い、終わりの無いという意味が強いんよ」

にこ「……わかった」


コンコン


希「どうぞ~」


ガチャ


絵里「希、桃と水よ」

希「ことりちゃんとみらいちゃんは?」

絵里「軽音部の人たちが到着して、これから展望車で最初のまとめをするの。
    だからしばらくはにこのことお願いね」

希「了解~」


にこ「もどってくる……ってこと?」


―― 展望車


穂乃果「集まっていただいたのは他でもありません! 我が音ノ木坂学院と桜が丘――」


「おぉぉー、みらいちゃんだよ、みらいちゃんがいるよあずにゃん!」

梓「落ち着いてください」

「落ち着いてなんかいられないよっ」フンス!

紬「そうよね、興奮の坩堝よね、唯ちゃん!」

唯「その通りだよ、むぎちゃん!」

みらい「えっと……」

穂乃果「あのぉ、話を……」

「唯……」

「な、なんか恥ずかしいな……」

「恥ずかしがってなんかられないんだぜ、澪」

澪「そ、そうだけど……人が多い……」モジモジ

海未(あの髪の長い人、親近感が沸きますね……)


「恐れおののけ! あたしが軽音部の部長! 田井中律様だッ!」ドドン


ことり「……」

真姫「……」

花陽「……」

凛「……」

律「あ……はい、そういうことです……大声出してすいません」

澪「謝るならするな!」


絵里「音ノ木坂学院・生徒会長、絢瀬絵里です」

「桜が丘高校・生徒会長、真鍋和です。今回はこのような企画にお誘いいただいき嬉しく思います」

絵里「突然の連絡でしたが、快く引き受けてくださったこと真に感謝致します。
    これからよろしくお願いします」

和「こちらこそ、よろしくお願いします」


唯「みらいちゃん、この木綿のハンケチーフにサインください!」

みらい「は、はい」スラスラ

律「……どこかでみたハンカチだと思ったら……あたしのじゃねえか!」

唯「私のはさっき手を洗ったときに使ったから、マジックが滲んじゃうんだよ!」

律「知らねえよ! それ返してもらうからな! お気に入りなんだぞ!」

みらい「ど、どうぞ」

唯「わーい! ありがとー、家宝にするからね!」

律「話聞いてるのかよ!?」

澪「お、おい、注目を集めてるぞ、恥ずかしいから落ち着けっ」


紬「はい、どうぞ、真姫ちゃん」

真姫「こ、紅茶?」

紬「海末ちゃんも、召し上がれ~」

海未「あ、ありがとうございます」

穂乃果「むむむ……なんだか知らないけど押されてる……!」

梓「……」シーン


「場が馴染んできたところで、出すもの出してもらいましょうか」


穂乃果「え?」

海未「あ、あなたは……?」

「私のことなんて今はどうでもいいのよ、さぁ出しなさい! 
 あなたたち9人のスリーサイズを記した書類をね!」

律「初対面の人になに言ってんだよさわちゃん!」スパーン

さわ子「あいた!?」

穂乃果「大人を叩いた!?」

澪「こうみえても私たちの顧問であり、教師なんだ……」

穂乃果「教師を叩いた!?」

律「大丈夫、観光ガイドを丸めたやつだから、大した攻撃力はない」

澪「待て、いつの間に手に入れたんだ」

律「売店車に決まってんだろ? さっき探検したときに買っておいたんだよん」

澪「その 観 光 ガイドをだな?」

律「そうだ、悪いか!」

澪「私たち練習時間が足りてないのに、 観 光 に行くつもりなんだな?」

律「今日はもう遅いから、いいかなぁ……なんて……ダメかな?」キャピ

澪「可愛く言ってもダメだ!」

律「せっかく松本に来たんだぜ? 行かなきゃ後悔するってもんだぜ……北アルプスが呼んでいるぜ」フッ

紬「ダンディに言ってもダメよ、りっちゃん、真剣にやらないと!」

梓「ふぅ、紅茶を飲んでる時が一番落ち着く……」

花陽「一人だけ違う空気を纏ってる……」

和「唯、律、しずかにしてちょうだい。これから――」

律「観光、観光ー!」

唯「みらいちゃんがいるんだよ、和ちゃん!」

和「夏季講習で数学の先生が言ってたわ、二人には追試をするべきかどうかって」

律唯「「 え? 」」

和「とりあえずフォローしておいたけど、やっぱり二人のためにも――」

律「ちゃんと話を聞こうぜ、唯」

唯「そうだね、りっちゃん」


律唯「「 どうぞ、話の続きを 」」


和「お待たせしました、よろしくお願いします」

絵里「わ、わかりました」


律「……」

唯「……」

真姫「まるで忠犬ね」

花陽「し、失礼だよっ」

澪「いや、気にしないでくれ……楽しくて尻尾を振る犬そのものだったから」

凛「個性が強すぎるにゃ……」

絵里「さぁ、穂乃果……自己紹介……を」


穂乃果「うぅ~ん、美味しい~」

ことり「なにをやってるの……穂乃果ちゃん……」

穂乃果「紬さんの淹れてくれた紅茶が美味しくて~」

紬「うふふ」

海未「ほ の か」

穂乃果「あ、あれ?」

海未「溶け込んでいないで、話を進めてください……!」ゴゴゴ

穂乃果「……はい。それじゃ、まずは私たちの自己紹介から」


穂乃果「高坂穂乃果、高校二年です!」

ことり「南ことり、同じく二年生です」

海未「園田海未と申します……二年生です」

真姫「西木野真姫……一年」

凛「星空凛! 高校一年生!」

花陽「こ、小泉……花陽ですっ、一年生です!」

絵里「絢瀬絵里、三年生です」


唯「あれ、7人しかいないよ?」

絵里「部長である矢澤にこが熱を出して寝込んでいるため、看病のため東條希が付き添っています。
    その二人も改めて紹介をしますので」

唯「イエッサー、ボス!」ビシッ

海未(穂乃果と同じことをしていますね……)

律「旅の途中で風邪をひくなんて、気合が足りないな……ふっ」

澪「人のこと言えるのか!?」バシッ

律「いて!? 何の話だよ!?」

澪「……あれ、何の話だ?」

律「こっちが聞いて――」

和「コホン」

律「話 進める 大事 あたし 黙って 聞く」

紬「りっちゃん 気を抜く テンション 上がる」

澪「なんだそのカタコトは」


唯「私 平沢唯 みらいちゃん ファン 大好き 応援してる」

みらい「あ、ありがとうございます」ペコリ

澪「私の名前は秋山澪。担当はベースです」

律「田井中律 ドラム」

紬「琴吹紬。キーボード担当です」

梓「ふぅ……紅茶があると落ち着けていいな……」ノンビリ

律「こら、一人でまったりするなよ」

梓「え?」

唯「自己紹介だよ、あずにゃん」

梓「な、中野梓……担当はリズムギターです」
  「好きなおやつはたい焼きです」
  「好きな先輩は平沢唯ですにゃん」
  「将来の夢は80日間世界一周の旅をすることだぜ」

梓「腹話術をしないでください」

紬唯律「「「 てへっ☆ 」」」

和「この時間なら職員室にいるわね」ピッピッピ

唯「電話するつもりだ!?」

律「やめてっ! もう大人しくしてるから!」

澪「むぎも悪乗りをしてはダメだ、二人が勢いづくだろ」

紬「……はい、ごめんなさい」

海未「……」

真姫「……」

律「そんで、あっちで紅茶を飲みながら新聞を読んでるのがあたしたちの顧問、山中さわ子だ」


さわ子「……地方新聞は面白いわね」ズズーッ


ことり「関心がないのかな……」

穂乃果「自己紹介が一通り済んだところで、明日の内容を伝えたいと思います。真姫ちゃんが!」

真姫「わ、私じゃないでしょ」

絵里「代わって私が。先ほど出演者の順番が決まったとの連絡がありました」

律「確か、出演リストには10の登録名があったけど……」

絵里「そうです。私たちの出番は9番目になります」

澪「え……!?」

絵里「ラストの前ですね。そして、これが出演順のリスト……」

ペラペラ

梓「どれどれ……」

花陽「やっぱり……最後はあのアイドルなんですね」

唯「ほほぉ」

和「最後を飾るのは、現在もっとも売れているであろうアイドル……と」

みらい「……」


さわ子「訊きたい事があるんだけど、いいかしら」

絵里「は、はい」

律「さわちゃんが動いた……?」

さわ子「このイベント、ギャラは発生するの?」

律「なに聞いてんだよ!?」

絵里「いいえ。参加者を募って、応募してきたアイドルだけが出演することになっているため、ギャラはありません」

さわ子「あなたたちスクールアイドルが登録したのはいつ?」

海未(にこがヴェガの乗車券を引いて……学園祭の後……)

絵里「7月の終わりごろになります」

さわ子「その、現在最も売れているアイドルが登録したのは?」

海未(仙台を出発した後……8月5日の朝……)

絵里「昨日の朝になると思います」

さわ子「……ふむ」

律「なにか気になることでもあるのか?」

さわ子「7月の終わりから昨日の朝まで、なにかがあった……のよね」

みらい「……」

唯「よくわからないけど、重要なこと?」

さわ子「動きが変じゃないの、ノーギャラで、東京じゃなくて松本のイベントに参加するなんて」

絵里「その点については、にこも私たちも気になっていたところですが……」

ことり「どうして登録したんだろう」

律「プロポーションじゃねえのか?」

澪「ん……?」

律「宣伝だよ宣伝」

海未「しかし、彼女はもうトップアイドルです。
    他のアイドルもそうですが、ここまで来て宣伝をする必要があるとはとても思えません」

律「なるほどな」

海未「……」ウズウズ

澪「突っ込んでもいいんだぞ」

海未「――! そ、それと、プロモーションです!」

律「なにを言っているんだこの子は」

澪「おまえがプロポーションだと恥ずかしい言い間違いをしたからだ!」スパーン

律「いてっ」

穂乃果「あはは、りっちゃんって面白いね」

海未「あなたは笑える立場じゃないんですよ、穂乃果……」


凛「……英語が弱いのは一緒にゃ」

唯「にゃんですと!?」バッ

凛「っ!?」

和「コホン」

唯「あいたたた、興奮のうつぼと化したせいで右わき腹を痛めちゃった……いたたた、あずにゃん助けてぇ」チラッ

梓「意味が分かりません」

唯「冷たい……」ズドーン

紬「るつぼよ、唯ちゃん」

花陽「えっと、話の内容はなんだったかな……?」

紬「この人が登録したことで、イベントは盛り上がりを見せているって話よね」スッ

みらい「……」

さわ子「そうよ、マイナーイベントに参加する理由がいまいち分からないのよね」

紬「何か知ってる? みらいちゃん」

みらい「――!」

唯「どうしてみらいちゃんに聞くの?」

澪「同じアイドルだから……かな」

紬「ううん、そうじゃなくて、さっきから黙ってその名前を見つめているから」

穂乃果「おぉ、鋭い!」

海未(ほんわかしていますが、意外と観察しているのですね……)

絵里「理由があるの?」

みらい「あ、えっと……自惚れかな、なんて思ってて……」

穂乃果「どういうこと?」

みらい「私が移籍する前に所属していた事務所で……同期だったりしますから」

花陽「えぇぇえぇえええ!?」

凛「かよちん、落ち着くにゃ!」

穂乃果「この人――三浦あずさ…さん……だよね」


―― 松本駅・アルプス口


「よーし、次は音の確認だ!」

「はい、出しまーす!」


紬「まぁ、短時間でここまで完成に近づけるなんて……職人さんって凄いよね!」

律「マジかよ……マジでこんな大舞台に立つのかよ……」

澪「今からでも遅くはない、今回の出場は見送ろう」

紬「あずさちゃんと同じこと言ってるわ」

澪「そうだよな、梓!」

梓「もう出演することに決まってますから……」

澪「あぁ……梓だけは私の味方をしてくれると思っていたのに……」


唯「みらいちゃんのデビュー曲はその事務所だったんだよね」

みらい「そうです。……とても、身になる時間でした」

穂乃果「人に歴史ありだよね!」

唯「そうだよね~!」


海未「おかしいですね、穂乃果が二人に見えます」ゴシゴシ

澪「私も唯が二人に見える。目が曇ったかな」ゴシゴシ


律「いや、澪と海未も変わらないぞ……ダブって見える」ゴシゴシ

さわ子「ほら、これを見なさい絵里ちゃん」

絵里「写真……ですね……これは?」

さわ子「メイド服よ。可愛いでしょ」

絵里「……」

さわ子「あなた達がこれを着て踊るのよ、素敵だと思わない?」

ことり「で、でもぉ……私たち衣装は準備していますから。……それに、一度着ていますし」

さわ子「そう……じゃあ、これ……バニーよ」

和「やめてください」スパーン

さわ子「あいた!」

穂乃果「生徒会長が先生を叩いた!?」

絵里「えっと……とにかくみんな、みらいから聞いた話、にこには内緒よ」

穂乃果「どうして?」

絵里「花陽のようになったら困るでしょ」


花陽「も、もう大丈夫だよ……凛ちゃん」

凛「ほんと? 目を回したんだからじっとしてなきゃ……」

花陽「ちょっと興奮の坩堝と化しただけだから……」

凛「変な言葉が流行りだしたにゃ……」



絵里「わかった?」

海未「……わかりました」

みらい「……大した話じゃないんですけど」

真姫「まぁ、過去の話はファンにとって貴重だったりするから……」クルクル

穂乃果「ところでぇ」チラッ

梓「なに……?」

穂乃果「どうして、あずにゃん、なんて呼ばれてるのかな~? なんて疑問に思っちゃったわけでぇ」

梓「…………」

穂乃果「梓ちゃん、にゃんにゃんって言ってみてぇ?」

梓「お断りします!」

穂乃果「おぉ、うみちゃんと真姫ちゃんを足した感じだっ」

凛「にゃんにゃん?」

穂乃果「にゃん?」

凛「にゃーん!」

穂乃果「さんはい」

梓「お断りします!」

穂乃果「勢いに乗せて言わせてみよう作戦、失敗だ……」

梓「いいですね、この台詞。ズバッと断る感じがとてもいいですね」

海未「気に入ったようですね……」

唯「あっずにゃん! せっかく松本に来たんだよ、観光に行こうよ~」スリスリ

梓「お断りします!」

唯「ガーン!!」

律「うちのマスコットに変な言葉覚えさせるなよな、まったく……。ほら、練習に行こうぜ梓」

梓「お断りします!」

律「なんで!?」ガーン

澪「靴紐が解けたか……悪いけど梓、ベース持っててくれないか」

梓「お断りします!」

澪「えぇ!?」ガーン

梓「あ、しまった……つい調子に乗ってしまいました。すいません澪先輩」

律「あたしにも謝るべきだろー!?」

真姫「な、なんか馬鹿にされてるような気分なんだけど……」

さわ子「ほら、梓ちゃんにはこの衣装を」

梓「絶対にお断りします」

さわ子「冷静に完全拒否されたじゃないの! あんたたち代わりに着なさいよ!?」

ことり「えぇー!?」

穂乃果「なんて理不尽な……でも、可愛い服だよね」

紬「あずさちゃん、ちょっと刺激の強い果物、ドリアンを手に入れたんだけど、食べる?」

梓「い、いただきます」

律「そこは断れよ!」


―― にこの個室


コンコン


希「はぁい」


ガチャ


みらい「報告会、終わりました」

希「ご苦労さま~」

みらい「今はそれぞれに分かれて練習中です。出演の順番は聞いていますか?」

希「まだ聞いてないよ」

みらい「9番目になるそうです。絵里さんがにこさんの体力回復と練習不足を解消するためだと説明を受けました」

希「そうするやろな、エリちは……。順番は希望で選べたんやね?」

みらい「はい、先着順だそうですから。えっと……後は……」

希「ええよ、これから練習に合流するから。あと、お願いするね」

みらい「はい。私は歌うだけなので、振り付けを覚える必要もありませんから」

希「ほな、よろしくぅ」

みらい「……はい」


バタン


みらい「……」

にこ「すぅ……すぅ……」



……





  ~ ~ ~ ~ ~


……。


あれ……


さっきまでとは違って体が軽い……?


……。


ここは私の個室……よね?


まるで夢の中にいるみたいにふわふわした気分……


やっぱり夢なのかも。


さっきまで熱で寝込んでいたんだから……そうよね。


まさか……振り返ったら私の体があるなんてこと……!


ないわね。


幽体離脱かと思ったじゃないの。


……。


頭が冴えて眠れそうもないわ。


あれだけ眠ったんだから当然ね……


松本に着いたのよね……?


……。


散歩してこよう。




意識もハッキリしてるし、体の疲れも感じない。むしろ軽い……


でも、夢にしてはリアルというか……



「……」


あの人は……


「もう夜も遅いから、会えるわけないわよね……ふぅ」


あ!


「あら?」


ど、どうしてあなたがここに!?


「えっと?」


わ、私は矢澤にこと言います!


「あらあら、これはご丁寧に……。私は、三浦あ――」


し、知ってます! いつもテレビを見て応援していますから!


「うふふ、ありがとうございます~」


……夢?


「はい?」


やっぱりこれは夢なのよ……


「……?」


熱にやられてしまったのね、にこ。


「まぁ……」


こんなところにトップの中のトップ、アイドル界の頂点を極めようとしている人がいるわけないんだから。


「そうですね、これは夢なのかもしれません」


夢か……なんだ……


「私がここまでこられたのも、夢のようなことですから」


……。



「でも、こんな私でも、ファンや事務所のみんなに支えられてここまで来ることができたんです」


……。


「隣に…、居てくれた人がいたから。たくさんの応援があったからここまで頑張れました」


……。


「だから、夢では終わらせられませんね」


…………。


「それはそうと、人を探しているんですけど……、飯山みらいちゃんを知りませんか?」


知って……ます。


「よかった。夜も遅いですから、伝言を――」


……あれ……力が……


「にこちゃん……?」


名前で……呼んでくれ……るなんて……


「にこちゃん!?」


あ、支えてくれるんだ……この肌触りは……


……。


ダメ……立っていられない……


「探しましたよ、あずささん……また迷子になって」

「プロデューサーさん!」

「え?」

「急に倒れちゃって!」

「えぇ!?」



意識が…………


……………遠く……


…………


……


  ~ ~ ~ ~ ~ ~



6日目終了

ここまで

7日目、にこと海末にとって長い一日になります。

すいません、放置気味で・・・
色々と悩んでいます。とりあえず、松本の発車までは。。。

まとめきれているかどうか、不安ですが長い長い一日の始まりです。


※ 出演者リスト ※


1. 江戸前留奈 ―瀬戸の花嫁
2. 大海恵    ―金色のガッシュ!!
3. ???
4. ???
5. 舞園さやか ―ダンガンロンパ
6. 速水玲香  ―金田一少年の事件簿
7. ???
8. 咲坂ひだり ―もっと、姉ちゃんとしようよ

9. μ's featuring 飯山みらい with 放課後ティータイム

10. 三浦あずさ ―アイドルマスター


               8月7日


穂乃果「うーん、明日もきっとパンがうまいっ」

ことり「ヴェガではいつも食べてるよね」

真姫「そんなにパンが好きなのね」

凛「毎日同じもので喜べるなんて、羨ましいにゃ~」

花陽「だいじょうぶかな、にこちゃん」


―― にこの個室


にこ「――っ!?」

海未「目が覚めましたか?」

にこ「ここは……?」

海未「あなたの個室です」

にこ「……なんだ、夢か」

海未「なんだではありません! 昨日の夜のこと覚えていないのですか!?」

にこ「え?」

絵里「海未、落ち着いて」

海未「……!」プンスカ

にこ「夜って……?」

絵里「車掌さんが駅のホームで歩いているにこを見つけたそうよ」

にこ「じゃあ……やっぱり夢じゃなかったのかしら……?」

絵里「にこがそこで倒れたと言っていたのよ?」

にこ「……私が?」

絵里「そう、あなたが」

にこ「……なんだ、結局幻だったのね」

絵里「なんだじゃないでしょ! 車掌さんに迷惑かけて、みんなに心配かけたのよ!?」

にこ「え?」

希「落ち着いて、エリち」

絵里「……!」プンスカ

海未「ほら、熱を測ってください」

にこ「なによ……棘々しいわね……」

絵里「原因はあなたでしょ……」

希「にこっち、夜のホームでなにしとったん?」

にこ「……あまり覚えてない」

絵里「え……」

海未「夢遊病でしょうか……」

希「可能性はあるね……」

にこ(詳しく言ったら本気で心配されそうね……。憧れているアイドルに会ったなんて……
   夢見る少女そのものじゃない……)

海未「なにはともあれ、顔色はいいようなので安心しました」

希「そうやね」

絵里「……」


にこ「ふわぁぁ…ん……お腹空いた」

海未「食堂車まで行けますか?」

にこ「うん、行くわ」

絵里「待って、体温計を見てからよ」

にこ「……」

希「エリち……?」


ピピピピピピ


にこ「36度7分……よし、行ける」

海未「……ふぅ」

希「……」

にこ「よいしょっと……ふぅ~、少しダルさが残るけど、こんなものよね」

海未「食堂車で穂乃果たちが待っています、行きましょう」

にこ「ちゃんとお礼も言わないとね~」

絵里「待って、にこ」

にこ「なに?」

絵里「あなた分かってるの? 病み上がりなのよ?」

にこ「……」

海未「……」

希「……」

絵里「このステージで倒れたらどうなるか、分からないわけじゃないでしょ」

にこ「…………」

海未「え?」

希「エリちは責任を取って、スクールアイドルを辞めるやろな」

海未「え!?」

絵里「……」

にこ「……」

希「穂乃果ちゃんが倒れた件もあって、次はないから」

海未「!」

絵里「そうよ。同じことを二度も起こして許されるわけが無い」

にこ「…………」

絵里「それがどういうことか――」

にこ「そうなったら私が辞めるわ」

絵里「え――?」

海未「に、にこ!?」

にこ「どうして絵里が辞めるのよ、おかしいでしょ」

絵里「そんな話をしてるんじゃないの」

にこ「……」


希「9人揃ってのウチらや……にこっちが居なくなることは……」

海未「私たちのグループは……っ」

にこ「今日、このステージに立たないと……この先ずっと後悔する」

絵里「それは責任感?」

にこ「違う。……確かに最初はそうだったけど……今はみんなで同じステージに立ちたいって、それだけ」

絵里「……」

にこ「私一人が観客席で見ているだけなんて、悔しすぎるじゃないのよ」

絵里「まだ分かってないみたいね」

にこ「……」

絵里「ステージで倒れることは許されないって言ってるの」

にこ「……!」

絵里「穂乃果が倒れて、私たちが活動していく理由を見つめなおすことになって、
    これからの希望を乗せたステージで、あなたが倒れたらどうなるのか――」

にこ「言いたいことがあるならハッキリ言ったら?」

絵里「……」

にこ「出場は諦めろって言ってるんでしょ!?」

絵里「――!」

にこ「できるわけないじゃない! みらいをけしかけて、私自身――」グラッ

絵里「にこ……!?」

にこ「うぅ……」

海未「にこ!」

希「頭に血が上ったようやね……」チラッ

絵里「……っ」

にこ「大丈夫よ、海未……」

海未「ですが……」

にこ「希の言うとおり、血が上っただけみたい……。言っておくけどね、絵里……」

絵里「……」

にこ「心配されるより……応援されたほうが……力が沸くのよ」

海未「……」

希「……」

絵里「……」

にこ「なんて、今のは……昨日見た夢の受け売りだけど……」

絵里「わかったわよ。ほら、肩を貸してあげるから」

にこ「……」

絵里「体に負担をかけないようにしてるの。体力を温存しておかないと」

にこ「悪いわね」

絵里「こういうの、一蓮托生……っていうのよね」

にこ「って、背が合わないから余計疲れるじゃないのよ!」

海未「……」

希「元気そうやね」


―― 食堂車


梓「だからってなんで私が……」

にこ「助かるわ」

紬「あずさちゃんファイトー」

海未「後ろから見ると分身したみたいですね」

希「そやね。見分けつかんわ」

絵里「そんなわけない……でしょ」


穂乃果「にこちゃんが二人!?」

凛「分身の術!?」


にこ「あんたたち、髪型で人を判断するのいい加減やめなさいよ」

梓「……」キッ


凛「梓ちゃんの目が怖いにゃ~」

真姫「どうして肩を貸してあげてるの?」


梓「身長が近いからって理由。それだけの理由でろくに会話もしていない私の肩を借りているの」

にこ「……そう言われると……ちょっとへこむわね」

梓「あ、いえ。貸すこと自体は……いいえ、なんでいつもこうなるんですか、もぅ!」

希「こっちのにこっちも元気やね」

梓「どっちの誰がなんですか?」キッ

希「うふっ☆」

紬「みんなおはよう~」


「「「 おはよう~ 」」」


紬「まぁ、一斉に返ってきて嬉しいわ」キラキラ

梓「むぎ先輩は誰とでも上手くやっていくんですね……、ここでいいですか?」

にこ「えぇ、ありがと」

梓「いいえ、礼には及びません」

真姫「自分で立てないの?」

にこ「体の様子を見てるのよ。時間と体力を無駄にはできないわ」

みらい「……」

にこ「最高のステージにしてみせるから、そんな顔しないの」

みらい「はい、私も頑張ります!」


……



にこ「なによ、この厚待遇」

穂乃果「プリンにアイスにホットミルク……」

ことり「ぶるぅべりぃに、ますかっと、いちごに、りんご、ぱいなっぷる、キウィ」

海未「最後だけ発音がよかった気がしますが」

絵里「にこ、食べながらでいいから聞いてちょうだい。昨日までに纏まった話をするわ」

にこ「わかった……いただきまーす」

絵里「穂乃果たちが松本に到着した後、合同で参加する軽音部のみなさんも到着して、お互い自己紹介したの」

にこ「もぐもぐ」チラッ


紬「私たちも栄養をしっかりとらないとね」

梓「先輩方はホテルで食事をしてるんですよね」

紬「そうよ」

梓「ここに押しかけてくると思ってました。……居ないほうがしずかでいいです」

紬「あずさちゃん、辛口なのね」

梓「厳しくしてるんです、これから騒がしくなりますから……。
  昨日、和先輩がいなかったらと思うと背筋が凍りつきます」


にこ(余程のことがあったのね、一体なにがあったのかしら……)

絵里「彼女達は後で紹介するとして、10時開幕のイベント、それまで私たちは練習――」

穂乃果「ヴェガ、松本、到着。9人揃った、観光地ー!」

絵里「――と思ったんだけど、せっかくだから一つだけ観光へ行って来てもいいわ」

穂乃果「やった!」

にこ「いいの?」

絵里「にこは体力温存のためにも練習はあまりできない。合わせるのはリハが最初で最後よ。
    移動中はPVを見てイメージトレーニングしておくこと」

にこ「……わかった」

絵里「まずは行きたいところを決めて。その後にイベントの内容を教えるから」

にこ「もぐもぐ」コクリ

凛「どこ行くの~?」

花陽「お、温泉とか……!」

ことり「でも、にこちゃんが疲れちゃうかも」

希「そやね。体に合わなかったら逆効果やし」

にこ「行きたいところがあったら行けばいいと思うけど……」

真姫「み、みんなで行くのも悪くないわ。一つって限られてるんだし、これも醍醐味よ」

にこ「そういうものかしら……もぐもぐ」

凛「あ~?」

真姫「な、なによ」

凛「真姫ちゃん……ふふ~ん、なるほどにゃ~」

真姫「だ、だからなんだってのよ」


凛「松本城に行きたいんだよね!」

真姫「行きたくないわよ! お城しかない場所なんか!」
   
凛「またそんなこと言ってぇ~」

真姫「……あんなのただの昔の建造物じゃない」フン


「そう……ですよね」


真姫「え?」

海未「長い年月を保ったまま人々に受け継がれてきた国宝なんです……
    築城当時から内装は変わらないと聞きます、それはとても魅力的ではないですか……
    烏城と呼ばれるほど黒を象徴とした珍しい松本城……
    ですが……現代人にとってはただの昔の建造物なんですよね……」ヘヘッ

真姫「わ、悪かったわよ……」

凛「真姫ちゃんは照れてるんだよね~、本当はお城が好きなのに~」

真姫「それは凛が勝手に作った設定でしょ! 
    というか、今の聞く限りじゃ海末の方が絶対に好きでしょ!」

にこ「……じゃあ、松本城で決まり?」

海未「いえ、実は昨日、穂乃果たちと行って来たのです」

穂乃果「ね?」

ことり「ね!」

にこ「あ、そう……」

海未「ライトアップされて綺麗でした。もう一度行って、中に入ってみるのも悪くはありませんが、
    ここはにこを優先しますので気にしないでください」

にこ「決めづらくなったわね……」

希「アンテナに引っかかる場所でええんと違う?」

にこ「アンテナ……?」

希「次の内、どれか」

花陽「松本城、浅間温泉、旧開智学校、上高地」

にこ「……!」ピコン



―― 松本駅・アルプス口


唯「おぉー! でっかいどー!」


亮太「なんだろう、あの人……両手を広げて……」


澪「ゆ、唯! 変な目で見られてるぞ!」

唯「でっへっへ~」

亮太「あ、いや……すいません。驚いただけで……」

澪「すいませんすいません、厳しく言って聞かせますので!」

亮太「いや……なんで俺は謝られてるんだろう……」

唯「あ、あっずにゃ~ん!」

タッタッタ

澪「こらー!」

タッタッタ

亮太「あれは……ギターかな?」



「ふぅ、さっぱりしたぁ……」

唯「あっずにゃん! おはよう~」ダキッ

「うわっ!?」

唯「リンス変えたんだね、夏は人を朝顔のように成長させるんだねあずにゃん」スリスリ

「違うわよ」ジロ

唯「大丈夫だよ、あずにゃんはあずにゃんだから」スリスリ

「だから、違うって言ってるでしょ!」

唯「わかってるよ、わかってるからね」スリスリ


梓「何をわかっているんですかね……」

紬「唯ちゃん、あずさちゃんはここよ?」


唯「あれ?」

「私は、にこよ」

唯「……お?」

にこ「……」

唯「少し成長したあずにゃんじゃなくて?」

にこ「目の前に居るでしょ本人が!」


梓「……ぷふっ」


穂乃果「梓ちゃん、嬉しそう」

ことり「……うん」

凛「間違えられてて、色々と溜まってたみたいにゃ……」


「久慈川りせのグッズ、いかがですかー!」

「江戸前留奈もありまーす!」


花陽「はぁぁっ……これは……これは!」フラフラ

凛「かよちん、ダメ! これから観光に行くんだからー!」グイグイ

和「一日限りの舞台とは思えないわね」

律「ついに完成したか……あたしたちの舞台が……」

澪「……」シーン

海未「……」シーン

唯「観光? どこ行くの? あずにゃん三号ちゃん」

にこ「おねがい、この人を私から半径三メートル以上近づけないで……」

梓「唯先輩、病み上がりなんですから意味も無く絡まないでくださいっ」グイグイ

唯「スキンシップは大事だよっ」ズルズル

亮太「やっぱり知り合いだったか……」

真姫「やっぱりってどういう意味」

亮太「同じ空気と言うかなんというか」

真姫「……」ジト

亮太「……それよりっ、有力な情報をつかんだんだ」

絵里「有力?」

亮太「このライブの目玉となるアイドルと、飯山みらいちゃんの情報」

絵里「あ……」

にこ「なによそれ、詳しく話しなさい」

亮太「みらいちゃん、移籍する前はそのアイドルと同じ事務所だったらしくて、
   しかも、同期という情報が――」

にこ「同期なの……!?」

みらい「えっと……はい」

絵里「観光に行きましょう、ここで話をしても時間がもったいないから」

亮太「そっか、それじゃまたあとで」

にこ「話の続きは移動途中に聞くわ。ついてきなさい、鶴見亮太」

亮太「……俺、浅間温泉に行きたいんだけど」

にこ「ちょうどいいじゃない」


―― 電車内


ガタンゴトン


亮太「あれ? 方向が違うような……?」


唯「さわちゃんは?」

律「なんか、用があるって別行動。大体予想はつくけどな」

澪「……あの舞台で……私たちがっ」

紬「澪ちゃん、手の平に人という字を3回書いて飲み込むといいらしいわ」

澪「人……人……」スラスラ

律「……あ、今『ん』って書いたぞ」

澪「あぁっ! もうダメだ!」

紬「りっちゃん」

律「わかった、あたしが書くから手を出せ」

澪「うん……」

梓「どうして同じ観光地へ行くんですか?」

唯「結束力だよ」ピッピ

律「なに見てんだ、唯?」

唯「school idolのみなさんが踊っている姿をネットで見られるということで、是非拝見しようと思いまして」

律「唯はたまに言葉が丁寧になるな……」



絵里「希、私は……」

希「もう乗ってしまったから遅いやん?」

絵里「でも、和さんだけ置いていくなんて……」

希「人を待つと言っていたから、気にする必要も無いと思うけど」

絵里「……」

希「同じものを見て聞いて感じる。これはとても大事なことだと思うんよ」

絵里「…………」

希「どうしたん? 前のエリちに戻ってるみたいや」

絵里「前……?」

希「頑固なエリち」

絵里「……」

希(また一人で責任を負おうとしている……以前のエリち)


穂乃果「ついに……ついに新聞に載ったよにこちゃん!」

にこ「新聞?」

海未「嬉しいものですね……!」

ことり「わぁ~!」

穂乃果「見てよにこちゃん! 『ベガ新聞!』」

にこ「『ヴェガ新聞』ね……誰が書いたのよ?」

海未「小麦さんです。学校で新聞部に所属しているらしく、
   このように新聞を作成するのは慣れていると言っていました」

みらい「詳しく書かれていますよ」

希「そうね、書いた本人もノリノリな文や」

にこ「ふぅん……」

絵里「売店車にイベント告知のポスターもあったわよ、確認した?」

にこ「ううん、まだ。それもその人が?」

ことり「それは私が作成しました~」

穂乃果「いいよいいよ~、気分が盛り上がって来たよ~!」

海未「まだ早いです。下げていてください」

花陽「ほ、本当にトップアイドルが来るのかな……私たち騙されてるんじゃ……?」

凛「今は観光地のことを考えたほうがいいよ~?」

真姫「そうね、今更慌てたってどうしようもないわ」

にこ「私が寝ている間にいろんなことが起きていたのね……」

みらい「ふふ、色々とあったみたいですね」


亮太「騙されてるのは俺なんじゃないか……?」


ガタンゴトン


―― 旧開智学校


亮太「……」ガクッ

さとみ「あら、亮太君?」

亮太「さとみちゃんも来てたんだ……」

さとみ「どうしたの、膝なんかついて……手も汚れるわよ?」

亮太「俺は……北アルプスを望みながら……温泉に入ってのんびりとしたかったんだ」

さとみ「……そう」

亮太「よく考えたら、病み上がりのにこさんが温泉なんかに入る訳がない……」

さとみ「にこさんって……」

亮太「ヴェガの乗客だよ……中に入っていった……」

さとみ「話を聞いただけでまだ挨拶してなかったけど……。亮太君、置いていかれたのね……」


―― 教室


唯「かよちゃん、メガネ貸してくれる?」

花陽「ど、どうぞ?」

唯「ありがと~。……はい、むぎちゃん」

紬「ありがと~。……それでは、これから授業を始めるザマス」クイッ

絵里「何が始まるの?」

律「ここは教室だろ? 机も椅子もあるだろ? やることは授業しかないだろ?」

希「そうやね」

絵里「希は順応性が高すぎるのよ……」

梓「私も今の説明だけで理解は出来ても納得が出来ないんですけど……」

紬「みなさん、はやく席に着くザマス」

梓「はい!」サッ

唯「あれ? あずにゃん、乗り気?」

梓「よく考えたらいいですよね、こういうの。先輩方と授業なんて」ルンルン

穂乃果「そうだよね~」

海未「穂乃果……抵抗感は無いのですか……」

ことり「え?」

海未「いいえ、なんでもありません。ことりまで席に着いて……」

花陽「みんなで授業を受けるって、新鮮だよね」

凛「うん、楽しみ~!」

真姫「一人足りないんじゃない?」

律「澪は遅刻するってさ。さっきメールがあったぜ」

にこ「まったく、しょうがないわね~」

穂乃果「きっと夜遅くまで歌詞を書いてて、起きられなかったんだね」

ことり「私も経験があるからわかるよ~」ウンウン

唯「駅前においしそうなお店があったよ、帰りに寄っていこうよ~」

凛「さんせ~い」


亮太「なんか、日常風景になってるな。……ここ、観光地なんだけど」

さとみ「ふふ」

みらい「……」


澪「なにをやっているんだ?」

唯「あ、来たよ」

律「せんせー! 澪さんがこっそり席に着こうとしていますー!」

紬「澪ちゃんはバケツを持って廊下に立っていましょう!」ビシッ

澪「……」スッ

律「ちょっと待て! どこへ行く!」ガシッ

澪「ナンデスカ?」

律「今更他人の振りをしても無駄だ、席はこっちだぜ」グイグイ

澪「ワタシ、アナタタチトハキョウハジメテアイマシタァー」ズルズル


穂乃果「全員座りました!」

紬「はい。それでは、今日のテーマ『宇宙について』の講義を始めます」

ことり「宇宙論……」

凛「ダイナミック……」

穂乃果「今日も朝練疲れたなぁ……ふぁぁ……おやすみぃ」

にこ「さっそく寝るのね」

ことり「どこでもやることは変わらないんだね……穂乃果ちゃん」

絵里「いつもこうなの?」

海未「そうです」


ゆう「お、なんだか面白いことをしているよ弘子」

弘子「本当だ、少しみて行きましょう、ゆうくん」

「なにかしら、イベント?」

「面白そうだな」


真姫「……ちょっとお手洗い」スッ

凛「逃げようとしてもダメにゃ!」ガシッ

真姫「……っ」


紬「みなさんは『宇宙は何度も繰り返している』と言ったら、どう思いますでしょうか」クイッ

穂乃果「……え?」

ことり「あ、起きた」

紬「E=mc2、という数式を知っている方、手を上げてもらえますか。ヒントは相対性理論です」

穂乃果「……」シーン

海未「……」ハイ

ことり「……」シーン

真姫「……」ハイ

凛「……」シーン

花陽「……」シーン

にこ「……」シーン

絵里「……」ハイ

希「……」ハイ

唯「……」ハイ

澪「……」ハイ

律「……」ハイ

梓「……」シーン

亮太「……」ハイ

さとみ「……」ハイ

みらい「……」シーン


紬「16名中、9名ですね。では、唯ちゃんに質問です。この数式を発表したのは誰でしょう」

唯「モーツァルトです!」

紬「違います。次、りっちゃん」

律「外国人っぽいな、そして数学だから……よし、アルキメデス!」

紬「違います。惜しいですが違います」

律「じゃあ、ドストエフスキー?」

紬「遠ざかりました、その人は小説家ですね。絵里さん、どうぞ」

絵里「アインシュタインです」

唯「あぁ、アイちゃんか」

律「なんだよ、このまえ会ったばかりじゃん」

澪「どの人を指してるのか知らないけど、黙っててくれないか……」

にこ「よ、よく知ってる人よね、度忘れしてたみたい」

紬「そうですね。かの有名な物理学者アルベルト・アインシュタインです」

にこ「……あ、物理学者…そっちの方なのね」

希「そっちの方が有名やと思うんやけど」

穂乃果「物理かぁ……算数苦手ぇ……おやすみぃ」

真姫「また寝た……まだ入り口なのに……」クルクル


紬「アインシュタインが発見したこの数式、E=mc2……
  それを紐解くと『宇宙は繰り返している』という仮説が導き出されるのです」

穂乃果「……?」

ことり「あ、起きた」

紬「宇宙は今でも膨張し続けています。そしていつしか膨らませすぎた風船のように弾ける。
   弾けたあと、凋んでいく風船のように収縮。収縮したのち、再び膨張が始まる……」

凛「にゃ?」
  
紬「その繰り返し……宇宙は終わりと始まりを何度も繰り返している……という仮説です」クイッ

希「宇宙の始まりはビッグバンやったような……?」

紬「そうですね。小さな火の玉が爆発を起こして宇宙が始まった……とあります」

花陽「わたしもその仮説はテレビで言っていたのを覚えています」

亮太「二つの仮説がぶつかると、宇宙が繰り返しているという仮説が崩れたみたいにみえるけど」

紬「いいえ、崩れていません。宇宙は火の玉になるまで収縮するのですから」クイッ

さとみ「……たしかに、それだと崩れてない……かな? ちょっと強引のような気もするけど」

亮太「ビッグバン以前は時間が存在しなかったと言われてるけど……逆説があったのか」

ことり「……えっと、『宇宙は何度も繰り返している』というのは分かりましたけど……それがどういう意味なのか……」

みらい「……」コクリ

紬「時間を繰り返していること。それは、この地球上で流れた時間も同じく繰り返していると言うことになります」キリ

絵里「それって……宇宙が生まれて、銀河系・太陽系が形成され、その中に地球が存在したらという話ですよね」

紬「そうです」

絵里「この仮説の確率は奇跡の中の奇跡……天文学的数字……じゃないかと思うんだけど」

希「舞台は宇宙やから、可能性はあるんちゃう?」

絵里「……なるほど」

真姫「随分と浪漫のある話だこと……」

紬「ふっふっふ、今までの説明を総括すると! この時間は何度も繰り返されている……らしいのです」

梓「言い切ってください……」

穂乃果「じゃあじゃあ、私たちがこうやって、松本の旧開智学校で授業を受けているのも、すでに経験済みってことだよね!」

紬「……はい、宇宙規模のタイムリープ……ですね」

穂乃果「あれ、自信なさそう……」

澪「なんだか、受け売りっぽいな……むぎ、その話は誰から聞いたんだ?」

紬「えっと……旅行者からです」

澪「ヴェガの人?」

紬「そうですね」

梓「……?」



律「じゃんけんほい」

唯「ほい」

律「あっちむいて、ほい」

唯「……」スッ

律「じゃんけん」

唯「ほい。……あっちむいてほい」

律「……ぐ! 負けた!」

唯「勝った!」

にこ「……」ジャカジャカ

亮太「二人は遊んで一人は音楽聴いてる……なんて自由な学級なんだ……」


紬「時間を繰り返しているということは、同じ出会いを繰り返していることにもつながります。
  身近に居る人はそれだけ強い繋がりがあるということ」

梓「……」

紬「ヴェガに乗って私たちがここで出会ったのもきっと何か意味があって、理由があるはず」

にこ「……」

紬「だから、これからのイベント頑張りましょう~」

律「途中までいいこと言ってたのに……纏めは軽いな……」

希「人との繋がり……か」

絵里「……」

紬「はい、これで授業はおしまい~」

唯「起立、礼、着席。ありがとうございましたー」ペコリ

梓「一人で何をやっているんですか」

凛「難しかったにゃ~」

花陽「で、でも……面白かった」

真姫「あくまで解釈の一つね。……信じて前に進んでいたほうがいいのかも」

凛「どうしたの真姫ちゃん?」

真姫「べつに、とある人のことを考えてたのよ」

凛「ある人?」

律「それじゃ、あたしがヴェガに乗ってた世界もあるのかな」

紬「そうね。一緒に旅をしていたのかも。花陽ちゃん、ありがとう」

花陽「いえ……」

穂乃果「あれ、花陽ちゃん、コンタクトじゃないんだ?」

花陽「急いでいたから……いま気付いたんだね……」


ゆう「どの時間でも君と一緒だっただろう、弘子」イチャイチャ

弘子「そうね……ゆうくん」ラブラブ


にこ「次は鶴見亮太の番よ」

亮太「え?」

にこ「みらいと三浦あずさ…さんの件について」

亮太「本人がいるんだから、直接聞いたほうがいいんじゃないの?」

みらい「わかりました」

にこ「待ってみらい。こういうのは客観的視点から見たほうがいいのよ」

希「そうね、これから出会うかもしれんから……心の準備は必要やね、にこっち」

にこ「ち、違うわよ!」

亮太「よく分からないけど、わかった」

絵里「鶴見さん、説明は私からします」

亮太「?」

にこ「え? 知ってたの、絵里?」

絵里「まぁね」

希「……」

みらい「……」

絵里「二人が同期だということから話を進めるけど――」

唯「エリチー、何のために教壇があると思っているんだい?」

絵里「え、エリチー?」

律「ここは学校の教室、そして教壇……その意味はわかるかい?」

澪「ただの学び舎だな」

絵里「教壇に立て……と?」

唯「その通りです」

絵里「……」

スタスタ


穂乃果「くぅ……すぅ……」

海未「いつの間にか寝ていますね……」


絵里「ここに立つことの意味が分かりませんが……」


さとみ「……絵里さんも委員長なの?」

亮太「生徒会長だって」

さとみ「……そう」


絵里「みらい、あなたは、三浦あずさと同期なのよね」

みらい「そうです」

絵里「昨日、私たちに説明したこと、にこにも話してくれない?」

みらい「……はい」

希「結局本人から説明するんやね」

にこ「ごくり」


みらい「私と彼女は同じ時期に入所して、アイドル候補生として活動していました」

にこ「……」ドキドキ

みらい「体力トレーニングやダンス・ボイスレッスンにはほとんど一緒に……。
     彼女はとてもマイペースな人で、どんなことが起きても笑顔を絶やさない、
     強くて優しいひとでした」

にこ「リアルな視点ね……」ドキドキ

花陽「はうっ」バタリ

ことり「かよちゃん……!」

みらい「私のデビューが決まった時も励ましてくれて、私が移籍する時も応援してくれました」

にこ「……」ドキドキ

みらい「あの、にこさん……?」

にこ「な…なにっ!?」

梓「声が裏返ってますけど」

律「どうして花陽とにこが興奮の坩堝と化してんだ?」

にこ「そ、それはっ、雲の上の存在だった人が身近にいるのよっ!?」

絵里「にこ、落ち着いて……」

にこ「そ、そんな人と……会えるかもしれないと思うと……っ」ドキドキドキドキ

希「実は、その人、出演を取り消したそうなんや」

にこ花陽「「 え…… 」」

希「じょうだん♪」

花陽「うぅっ」シクシク

凛「かよちんが今までになく傷ついたにゃ……!」

にこ「の、希ッ!」

希「憧れていて嬉しいのは分かるけど、それで自分を見失ったらこれからどうするん?」

にこ「う……」

希「同じ舞台に立つんや、観客に笑われるよ」

にこ「それも……そうね…」

唯「だれ?」

海未「後で会えば分かると思います」

みらい「私の自惚れじゃなければ……あずささんは私に何か伝えたいことがあるんだと思います」

にこ「……」

みらい「だから、私……このイベントに出たいと思いました」

にこ「……」

みらい「すいません、にこさん」スッ

にこ「どうして、頭を下げるのよ」

みらい「私、ただのわがままで出場したいと思っていたんです」

にこ「……」


みらい「みなさんの気持ちを……利用していたんです……」

にこ「今も、そうなの?」

みらい「…………」

にこ「今も、利用してるの?」

みらい「……いえ、今は……みなさんと同じステージに立って……楽しみたい……です」

にこ「ならいいじゃない」

みらい「でも……」

にこ「私も最初は、なにかしらのアピールができればいいなんて思ってたわ」

みらい「……」

にこ「芸能関係者がいるだろうから、目に留まれば幸運ってくらいの考えだった。
    それは今でも変わらないけど……」

みらい「……」

にこ「でも今は、みんなと同じステージに立って、楽しみたい。
    ……ううん、他のアイドルに負けないくらい、最高のパフォーマンスがしたいって思う」

みらい「……!」

にこ「だから、謝る必要はないわよ」

みらい「は……はいっ」

唯「感動だよっ!」ガバッ

にこ「ちょっと!?」

みらい「ゆ、唯さん!?」

唯「私も頑張るからね!」

にこ「三メートル離れなさいよっ!」

唯「嫌だよっ」ギュウウ

にこ「苦しっ……疲労が溜まるじゃないのよっ」

みらい「ふふ」


梓「唯先輩が本気になりましたね……」

澪「……そうだな。私も頑張ってみるか」


律「……芸能界目指してるの?」

海未「いえ、にこが言ったアピールというのは、みらい自身についてです。
   このイベントにみらいを参加させたい理由がそれなので……」

律「……なるほど。みんな、結構本気なんだな」

紬「…………」


絵里「それじゃ、最終確認をします。ことりは穂乃果を起こして」

ことり「穂乃果ちゃん、起きて」ユサユサ

穂乃果「……ん……んん?」


絵里「これから、私たちが演出する30分間についての確認を行います。
   質問があればその都度、なんでもいいので聞いておいてください」

紬「わかりました!」

律「なぁ、今日帰りにアイス食べてこうぜー」

唯「いいねぇ~」

澪「話を聞け!」

唯「凛ちゃんも行くよね?」

凛「……」

澪「巻き込むな!」

真姫「緊張感無いわね……」

絵里「放課後ティータイムの『ぴゅあぴゅあはーと』で始まり、
   続いて私たちの曲『もぎゅっと“love”で接近中!』に続きます」

律「あ、ごめん、聞き取れなかった。なんて曲をやるんだって?」

絵里「『もぎゅっと“love”で接近中!』です」

律「うん? もぎゅっとラフで洗濯中?」

絵里「……『もぎゅっと“love”で接近中!』……です」

律「もぎゅっと絞って――」

澪「いい加減にしろ」ゴスッ

律「あふッ!」

梓「すいませんでした」ペコリ

絵里「……っ」

律「い…いひゃい……ッ」ズキズキ

紬「りっちゃんが悪いと思います」

唯「うん、りっちゃんが悪い。『もぎゅっと“love”で接近中!』だよ。私は覚えました」

絵里「……っっ」

唯「『もぎゅっと“love”で接近中!』『もぎゅっと“love”で接近中!』……簡単だよね。『もぎゅっと“love”で接近中!』」

海未「すいません、連呼しないでください」

唯「どうして? 『もぎゅっと“love”で接近中!』」

絵里「~っ」カァァッ

穂乃果「どうしたの、絵里ちゃん? 顔が真っ赤だけど……」

ことり「は、恥ずかしいんじゃないかな……」

にこ「絵里もまだまだ甘いわね」

花陽「は、恥ずかしいのかな……このタイトル」

希「あれだけ突かれたら……それは…ね」

凛「にこちゃん、『夏色』じゃくて良かったの?」

みらい「初めて聞くタイトルですね……」

穂乃果「新曲だからね」

にこ「今回はセンターを譲ってあげるわ」

真姫「センターじゃないからって気を抜かないでよ?」

にこ「当然でしょ」


さとみ「……色んな曲があるのね」

亮太「……」

絵里「コホン、話を続けます」

唯「いいよね、『もぎゅっと――」

梓「唯先輩」

唯「どうしたんだい、あずにゃん」

梓「いえ、なんでもありません」

唯「そうかい」

澪「この曲を選んだ理由は私たちの曲に合わせたからなのかな」

絵里「そうです、流れを紬さんと一緒に考えました」

亮太「あのさ、俺なんかが口を挟んでいいことじゃないんだけど……」

にこ「なによ?」

亮太「その新曲って、にこさんがセンターなの?」

にこ「そうよ」

亮太「……」

絵里「?」

にこ「言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ」

亮太「……これからの舞台って、背水の陣だよね」

にこ「……」

絵里「……」

亮太「新曲で挑戦するにはもってこいなんじゃないかなって……思いました」

にこ「そこまで言うからには、私たちのPV観たのよね?」

唯「見ました」

亮太「先に答えられたけど……見た」

にこ「……難しいところなのよね」

亮太「……うん」

海未「穂乃果はどう思いますか?」

穂乃果「……新曲は、にこちゃんがセンターってだけじゃなくって……激しいダンスにもなってるから」

ことり「そうだよね……。元々このステージで披露するつもりだったから……練習はしていたけど」

穂乃果「私は、にこちゃん次第だと思う」

にこ「…………」

みらい「……」

亮太「ごめん、一度決まった話を蒸し返して……」

にこ「いいのよ、そんなの気にしなくて」


さとみ「むぎさん……PVってなに?」

紬「これよ、ネットに動画をアップしているの」

さとみ「……わ、凄い」


真姫「……どうするの?」

にこ「……」

真姫「あれだけ練習してたんだから、私はやった方がいいと思うけど」

凛「凛もそう思う」

花陽「……うん」

にこ「…………」

希(重圧が予想以上に圧し掛かってる……。
  最初から続くトップアイドル達、そしてラストへ繋げる9番目の私たち)

にこ「……」

希(万全の体調じゃないから倒れる危険性もある。それは……この舞台を台無しにするようなもの)

絵里「……」

希(少しでも不安を取り除く曲を選ぶか、それとも……)


律「なんか、空気が重たいな……」

澪「……風邪ひいてたってことだから、それに関わるんじゃないかな」

唯「……」

梓「……」

紬「……」


希(決断のとき……)

絵里「にこ」

にこ「?」

絵里「一蓮托生、私たちは15人よ」

にこ「……そうね。……決めた」

みらい「……」


にこ「新曲でやる」


希(上弦の月ってところやね……)


絵里「それでは、開幕の時間までこの場を借りて、確認の続きを行います」

唯「はい! 聞きたいことがあります!」ズバッ

絵里「なんでしょう、唯さん」

唯「『もぎゅっと――」

梓「唯先輩」

唯「なんだい、あずにゃん」

梓「いえ、なんでもありません」

唯「そうかい」

真姫「何が聞きたいのかしら」

律「大したことじゃないから、気にしないでくれたまえ」

紬「うふふ、楽しくなってきたわね~」

にこ「……そうね、楽しんでこそよね」

穂乃果「盛り上がってきたよ~!」


絵里「それでは話を続けます――」


―― イベント会場


ザワザワ

 ガヤガヤ


『おまたせしましたー、ただいまより、アイドルフェスタ in 松本を開催しまーす!!』


ワァァァアアアア!!!

 ワァァァァアア!!!


『それではさっそく、江戸前留奈ちゃんの登場でーす!』

『みんなー! ルナだよー!』


ウォォォオオオ!!!


『わぁー、凄い歓声ー! ルナびっくりしちゃったー』


ルナチャーン!!


『あはっ、ありがとぉー!』


『それじゃー、歌っちゃうよー! ――ULTRA☆LOVE!!』



ワァァアアアアアアア!!!



『 想像以上の愛の電波で

  きっとみんなを虜にしちゃう

  だから聴いて もっと

    ULTRA☆LOVE    』


『 Singing With Me 』



にこ「……」

花陽「……」

唯「おぉー」

海未「想像以上ですね……」

梓「二人は呆けてますね」

にこ「……」

花陽「……」

絵里「規模に驚いているのか、アイドルに感銘を受けているのか……」

希「後者やね」

澪「」サラサラ

律「こっちは石化してるな」 
  
紬「凄い観客の数ね」



「おーい、みんなー」

「こっちに来て~!」


ことり「穂乃果ちゃんと凛ちゃんが呼んでる」

絵里「ほら、行くわよ、にこ、花陽!」



『 想像以上の愛の電波はきっと「世界も救う」はずなの だから効いて 月のULTRA☆LOVE 』

『 Singing With Me 』


『 それがどんな世界だって 次元だって 』

『 Singing With Me 』


『 追いかけてよっ! よそ見なんて しないでね♪ 』

『 Follow Me 』



にこ「……」キラキラ

花陽「……」キラキラ

穂乃果「もぉー! にこちゃん、花陽ちゃん!!」

海未「よそ見しないでください!」

にこ「盗めるものは盗まないと……もっと近くで観てきていいかしら」

花陽「わたしも行ってきます」

穂乃果「ダメだよっ!」

「研究は後にしてくれないかな」

にこ「え? 鶴見亮太……いつの間にスーツを着たのよ?」

亮太「いや、俺はこっち……ちら見しただけで人を判断しないでくれないかな」

絵里「ちゃんとこっちを見なさい」

にこ「?」

花陽「あ、あなたは……?」

「三浦あずさをプロデュースしている者だ。よろしく」

にこ「???」

P「とりあえず、場所を移動しよう」

花陽「え、え?」

穂乃果「リハーサルをするから、移動するんだよ」

ここまで。参考に動画を。

ULTRA☆LOVE(江戸前留奈)
https://www.youtube.com/watch?v=_r0Vigt4l_A

ありがとうございます。
お祭りとか賑やかな雰囲気が好きなんですが、いつも読者を置いてけぼりで…
雑ですが登場アイドルを画像で纏めてみました。ご活用できれば幸いです

http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4529555.jpg 
-1枚目

      大海恵
江戸前留奈     久慈川りせ
     ランカリー

舞園さやか 速水玲香



http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4529566.jpg 
-2枚目

巴マミ
            三浦あずさ
咲坂ひだり(一条鈴音)

  軽音部 飯山みらい

     μ's


それでは、松本中篇です


―― 元イベント会場


「そうちゃん、すずちゃんいない……」

「えっと、鈴音は用事があって、後で合流するって」

「うぅ……」グスッ

「あ、ほら、ひだりんを応援するんでしょ?」

「……します」


P「……あの二人……確か」

穂乃果「プロデューサーさん! 準備できました!」

P「あ、うん。それじゃ、軽く説明するけど」

唯「はいよ!」

みらい「……!」グッ

P「見ての通り、使う予定だった舞台はそのままにしてある。
  君達は本番と平行してここでリハを行っていく。……これは棚ぼたであって意図されたものじゃないけど」

にこ「……」

P「他のアイドルたちはリハーサルを終えているから、君たちはこの場所を存分に使える。
  だから、じっくりやっていいし、何度も練習していい」

絵里「……」

P「だからといって、張り切りすぎて本番でバテないようにしておいてくれよ?」

ことり「えへへ、そうですよね」

P「舞台はいま、バンドが――」

唯「放課後ティータイムです!」

P「放課後ティータイムがスタンバイをして――」

唯「さっそく行ってきます!」フンス!

タッタッタ


P「行動力あっていいな。……えっと、君たちは彼女達が終わったらリハーサルに入ってくれ」

絵里「はい、分かりました」

P「あとは、彼と確認を取りながら進めてくれればいい」

亮太「俺ができることなんて、物を運んだり本ステージの状況を確認するだけだけど」

にこ「どうしてあんたが?」

亮太「人手不足でバイトを頼まれたんだ……俺も何かしたいから」

P「給料は現物支給だけどな。……顔見知りだろうからスムーズに進むはずだ」

にこ「まぁ……ね」

P「……みらいは、個別で練習だな」

みらい「はい!」グッ

P「亮太に連絡用端末を渡しておくから、何かあったら連絡をしてくれ。それじゃ俺は現場に戻る」


絵里「あの、すいません」

P「ん?」

絵里「……こんなことを聞くのは失礼に当たるのかも知れませんが」

P「何でも聞いてくれて構わないよ」

花陽「あ、あずささんはどこですか!?」

P「それは……別の場所で仕事の打ち合わせをしているけど」

にこ「忙しそうね……」

花陽「あ、会えますか……!?」

P「えっと……今はそんなことより」

希「花陽ちゃん、暴走しとるようやね」ワキワキ

花陽「ひゃっ」

P「……それじゃ」

絵里「そうではなくて……どうして三浦あずさのプロデューサーである貴方が現場の指揮を……?」

P「人手不足と人材不足……で分かるかな」

絵里「……はい」

海未「それと、どうして私たちだけが……?」

P「亮太から話は聞いてる。事情があって練習不足だと」

にこ「……」

P「スタッフにも伝わってるから、ここは自由に使っても構わない。それじゃ、任せたよ」

亮太「はい!」

絵里(人材不足……規模がそれだけ大きくなったってことよね……)


ジャカジャカジャカジャカ


亮太「舞台はいま、ティータイムが使ってるから、裏手でやろうか」

穂乃果「よし来た!」

タッタッタ

にこ「私達の状況を話したのね」

亮太「大体は……。昨日、マネージャーのような者だと言ったから」

真姫「曲のデータも渡したし……問題ないわよね……」

凛「さっそく練習にゃー!」

花陽「ぼ、暴走してないよー!」

タッタッタ

希「まてまて~!」

タッタッタ

ことり「仙台の公園を思い出すよね」

海未「そうですね……。……しかし、あの規模を見ていつも通りでいられるなんて……みんな凄いです」

絵里「にこ、体調はどう?」

にこ「久しぶりに体を動かすから、少し不安ね」

絵里「最初は見学よ」

にこ「……わかったわ」


―― ヴェガ・食堂車


唯「いただきます!」

律「いただきまーっす!」

梓「もぐもぐ」

紬「今日も暑いから、お昼ごはんでしっかり栄養を取らないとね」

澪「……そうだな」

紬「澪ちゃん、食欲無いの?」

澪「……うん」

紬「それなら、甘いものはどう?」

澪「……そうだな、うん」

紬「ジャンボパフェがあるんだけど、どうかしら」

澪「じゃ、ジャンボ?」

紬「50cmくらいあるの」

澪「っ!?」

律「じゃあ、食後にそれ食べようぜ」

梓「話を聞いていたんですか? 50cmですよ?」

唯「甘いものは~、あぁ~、べつぅぅばらぁぁあ」

梓「こぶしを利かせて歌わないでください」



真姫「向こうはマイペースね」

希「物怖じせんのやろか」

絵里「……」

凛「食堂車のご飯っておいしいね~」

穂乃果「その土地その土地で育ったお米と水を使用しているんだって、こだわりだよね」

海未「よく知っていますね」

穂乃果「料理長から直接聞いたー」モグモグ

ことり「……え、いつ?」

穂乃果「東京駅の朝だよ」

ことり「練習に遅れてきたときだね」

海未「……たしか、ジャムをサービスで頂いたとか」

穂乃果「な、なぜそれを!? うみちゃん、絶対にエスパーだよ!?」

海未「いえ、店員さんに聞いたんです」

穂乃果「なぁんだ、そっか」モグモグ

海未「たくさん食べたそうですね」

穂乃果「ぐふっ」

凛「お、落ち着いて穂乃果ちゃん、水だよ」

穂乃果「ごほ……あ、ありがと……」

海未「栄養をたくさん摂った穂乃果には今日もしっかり頑張ってもらいましょう」

穂乃果「……ふぁい」


にこ「花陽、今は誰が出てるの?」

花陽「えっと……蘭花さんというアイドルだよ」

にこ「聞いたこと無いアイドルね……」

花陽「にこちゃんも?」

にこ「ま、いいわ。……次は?」

花陽「咲坂ひだり……愛称、ひだりん」

にこ「一目見たいわね」

花陽「最近人気が上昇してきたアイドル……見逃せません!」

絵里「にこ、体調は?」

にこ「ダイジョウブよ」

絵里「いま、声が変だったけど」

にこ「大丈夫、行けるわ」

絵里「正直に言って」

にこ「……」

穂乃果「にこちゃん……?」

にこ「あー、その……、少し、踊ってる最中に変な汗を掻いたかな……?」

ことり「え……?」

にこ「力が抜けるというか……」

希(現実は甘くない、か……。どうする、エリち)チラッ

絵里「……」

希(このステージで倒れるわけにはいかない……。
  それはウチらの存続にも関わってくるから)

にこ「……どうにかなるでしょ」

絵里「2回」

にこ「……」

絵里「リハーサルで、私たちが本番で踊る曲を一曲ずつ、計2回の踊りでそうなった。ってことよね?」

にこ「……そうよ」


絵里「本番とリハーサルとでは重圧が全然違う。……体の負担は思った以上に圧し掛かるわ」

海未「……」

希(倒れたらどうなるのか。それを知ってるのはウチとエリち、海未ちゃん、にこっちの四人だけ……。
  解散もありえる状況やのに……みんな知らない)

ことり「どうしたのかな……?」

穂乃果「なんだか、空気が……」

絵里「なんでもない。それより、ちゃんと食べて本番に備えましょう、時間が無いわ」

凛「う、うん……」

希「ええの?」

絵里「……」

みらい「お疲れさ……?」

亮太「あれ、どうしたの、みんな?」

にこ「なんでもないわ」

唯「ねぇねぇ、このあと暇だったらみんなで観光に――」

澪「お邪魔しました」グイッ

唯「あ~れ~」ズルズル

真姫「ふふ、マイペースよね」

ことり「そうだよね~」

海未「見習わないといけませんね……」

亮太「みらいちゃん、あっちに座ろう」

みらい「はい……」


にこ「……食べ終わったら展望車に集まって。みんなに話があるわ」

真姫「……?」

絵里「……」


―― 展望車


穂乃果「話って、なにかな?」

にこ「……」

真姫「また、ヴェガの乗車券を当てたような話?」

にこ「違う。どっちかというと、悪い話」

穂乃果「え……」

ことり「わ、悪い話……?」

花陽「……」

絵里「熱は測った?」

にこ「37度2分」

真姫「……え」

凛「上がってる……」

海未「……」

にこ「さっきのリハーサルで、私……手を抜いた」

希「……」

にこ「みんな、本番と同じ気持ちでいたのに、私は手を抜いたわ」

穂乃果「でも、それは……体調が悪いって気付いたからでしょ?」

にこ「そうかもしれない、無意識にやったかもしれない。けど、本番でそれは絶対にしちゃいけない」

ことり「……っ」

にこ「それは通用しない」

絵里「……」

にこ「だけど……これ以上無理をすればどうなるのか、自分でも分からない」

穂乃果「……」

にこ「さっき、力が抜けていったのが分かったから、最悪、倒れる」

穂乃果「……ッ」

にこ「もし、ステージで倒れたら、私は――」

穂乃果「後のことより、今だよ、にこちゃん」

にこ「え?」

海未「……」

穂乃果「にこちゃんはステージに立ちたいんだよね」

にこ「もちろん」

穂乃果「軽音部のみなさんの音楽を聴いて思った。負けたくないって。私ももっと頑張れるって」

にこ「…………」

穂乃果「そして、ここまで一緒にみらいちゃんと目指した場所があるんだから、頑張ろうよ!」

にこ「……当然でしょ」

穂乃果「うん!」

にこ「考えることはそれだけ、よね」


希「でも、これ以上体に負担は絶対に避けなあかんよ」

凛「リハーサルのステージまで距離があるから……」

ことり「タクシー呼んで、移動……だね!」

海未「そうと決まれば移動しましょう。時間がありません」

亮太「あ、待って。プロデューサーに連絡入れるから」ピッピッピ

花陽「ぷ、プロデューサーさんに……ですか?」

亮太「頼れる人だから一緒に考えてくれると思う。とりあえず、駅前へ」

trrrrr

真姫「どうするの?」

穂乃果「協力してくれるなら、頼っちゃおう!」

ことり「そうだね!」

花陽「今は……ステージのことだけ……だね」

凛「よぉーっし、行っくにゃー!」

タッタッタ

にこ「……よいしょ」

真姫「ほら、捉まって」スッ

にこ「……助かるわ」


希「みんな前を見てるんやね……、ウチらも……」

絵里「……」

希「どうしたん?」

絵里「私はにこが倒れたらどうしようってそれしか考えてなかった……、一蓮托生なんて言っておきながら」

希「……」

絵里「少し怖かったわ、イベントが終わったときどうなっているんだろうって」

希「そやね、後悔があるかもしれんし……」

絵里「どうして、私はにこを信じられなかったんだろう……」

希「怖くなったのは実際のステージをみたからや。
   プロのアイドルと大勢の観客を目の当たりにして現実を思い知らされた」

絵里「……」

希「それはウチも同じ。そして……海未ちゃんもやろ?」

海未「……はい」

絵里「う、海未……!」

希「見えてなかったようやね」

絵里「……っ」

海未「私たち9人の中で、にこが倒れることを一番に恐れているのは穂乃果です」

絵里「え?」

海未「二度とあってはならない。それを、重く受け止めているんです」

絵里「……」

海未「ですが、走り出しました。私もそれを追いかけます」

絵里「…………」


―― イベント会場・控え室


留奈「あぁ……そこよ……♪」

「ここね」

留奈「そう、そこっ……気持ちいいわぁ……」

「ふふ、留奈ちゃん、ここ弱いわねぇ」

留奈「はぁ……っ、ライブ後のマッサージ……癖になりそぅ……」

P「失礼するよ」

留奈「あァん? あんた、人のプライベートに入り込んでるんじゃないわよ」

P「すまん、留奈の専属マッサージ師に頼みがあって」

留奈「頼み?」

師「私ですか?」

P「はい、少しだけ時間を貰ってもいいですか? 今すぐ」

留奈「ちょっと!? 私の専属だって言ってるんだからまずは私に話を通しなさいよ!」

P「いいかな?」

留奈「ダ・メ☆ オォーッホッホッホ!! どうしてもというなら、地面に額を擦り付けて――」

P「お願いします、あなたの力が必要なんです」

師「ま、まぁ……そんな風に頼まれたら私……」ポッ

留奈「くらぁ! 私を無視して話を進めてんじゃないわよぉ!?」

P「スクールアイドルの一人が体調を悪くしてな」

留奈「体調……?」

P「この後のステージのためにも疲労を回復させておきたいんだ」

師「……」

留奈「……」

P「頼む、留奈」

留奈「ふん、しょうがないわね……行ってきなさい」

師「分かったわ。戻ってきたらちゃんと続きをやるから」

P「ありがとな。……こっちです」

スタスタ


留奈「私様を呼び捨てにするなんて……この業界であのプロデューサーしかいないわ……」

マネージャー「素の留奈ちゃんを見せられる人物なんてそうそういないわよね」

留奈「あのプロデューサーにはその必要がないってだけ。……他に意味は無いわよ……ふぁぁ」

マネージャー「あらぁ、留奈ちゃんにしては決断が早かったみだいだけどぉ?」

留奈「単独ライブじゃないのよ、それくらい弁えてるってのよ」

「……」ジー

留奈「なによ、ちびっ子」

「……」フン

テッテッテ


留奈「ちょっと恵! 子供の躾はちゃんとしておきなさい!」


恵「ごめんね、留奈ちゃん」


留奈「けっ」


恵「もぅ、ティオったら」

ティオ「ふん、なによあの留奈って人……偉そうにしちゃって。ステージとは大違いじゃないの」

恵「ガッシュ君が来ないから、拗ねてるのね」

ティオ「ちちち違うわよっ、なに言ってんのよ!」

恵「ふふ、はいはい」

ティオ「……それより、体調の悪い人がいるって言ってたわよ、あのプロデューサー」

恵「そうね……」

ティオ「私のサイフォジオで治してあげましょうよ」

恵「うーん……でもね、ティオ」

ティオ「?」

恵「人との間に魔法や奇跡は、そう簡単に使っちゃいけないのよ」

ティオ「……」

恵「それを乗り越えていくのも大切だから」

ティオ「……わかった」

恵「でも……ティオの優しい気持ちも大切。ありがとう」

ティオ「な、なんで恵がお礼を言うのよっ」

恵「ふふ、どうしてかな?」


留奈「魔法って言ってなかった?」

マネージャー「さぁ? 私たち人魚には関係の無いことだと思うけどぉ?」


―― 元イベント会場


にこ「マッサージ?」

P「そう、疲労回復にマッサージは有効だ」

にこ「え、でも……」

P「陰に移動すれば人の目は気にならないだろ?」

にこ「そうじゃなくて、そこまでしてもらう訳には……」

P「最高のステージにする為だ。万全を持ってもらわなくては困る」

にこ「あ……」

P「では、お願いします」

師「はい。……さ、こっちよ」

にこ「……」



P「君たちの出演まで、あと2時間ってところだな……けほっ、けほ」

絵里「大丈夫……ですか?」

P「うん、大丈夫……。30分前には会場に入ってくれ」

絵里「わかりました。これから最後の調整に入ります」

P「移動するときに連絡をくれれば車を用意させるから」

絵里「助かります」

P「それと、この二人を紹介しておく」

絵里「……」

P「蘭花とひだりだ」

蘭花「は、初めまして」

ひだり「は、初めました」

絵里(何を?)

P「いま、会場の控え室は人が多くてちょっとした混乱状態なんだ。出番が終わった二人はここで待機してもらう」

絵里「わかりました」

P「それじゃ、またあとで」

タッタッタ


絵里「私は練習に戻りますので……。日差しを避けるなら、にこのところがいいと思います」

ひだり「にこ……?」

絵里「向こうでマッサージを受けています。人目を避けるためにもそこが一番ですので」

蘭花「……」コクリ

絵里「それでは」

タッタッタ


蘭花「……」

ひだり「……」


師「どう?」

にこ「力が抜けていきます……」

師「リラックスできてる証拠ね」

にこ「ふぅぅ……」

師「勘違いしないで欲しいのは、体調が完全に回復したわけじゃない、一時的なものだということ」

にこ「……わかりました」

師「慣れない環境で無理をしたから疲労が溜まったって、ツリ目の子から聞いてる」

にこ「真姫ね……」

師「後は楽にして、イメージトレーニングをしてて」

にこ「……はい」

蘭花「お邪魔します」

ひだり「どもぉ……」

にこ「咲坂ひだり!?」

師「あ、体が緊張した……、ほら、姿勢をもどして、リラックスして」

にこ「は、はい……」

ひだり「横になって……なにしてはるん……ですか?」

にこ「ま、マッサージを」

ひだり「そうでっか……」

にこ(なんか、キャラが違う……私の知ってるひだりんとは……。それに、もう一人のほう)

蘭花「……」

にこ(やっぱり見たこと無い……。……二人はトップアイドル達が登録したあともそのまま名前を残してた)

ひだり「やっぱり夏はあつい……ですな」

蘭花「スポーツドリンク、飲みますか?」

ひだり「これはかたじけないでし」

にこ(キャラが滅茶苦茶……素のひだりんってこんな感じなのね……)

蘭花「このうちわ、使ってもいいですか?」

にこ「どうぞ。回りにあるものは勝手に使ってもいいと思う……」

蘭花「わかりました」パタパタ

ソヨソヨ

にこ「え? どうして私に……?」

蘭花「体調がすぐれないと聞いたので……」パタパタ

にこ「あ、ありがと……」

ひだり「それじゃ、あたしも……」パタパタ

ソヨソヨ

にこ「……っ」

師「リラックスしてね」

にこ「は、はい……」


ひだり「夏バテ?」パタパタ

にこ「ううん、病み上がり」

師「熱も少しあるから……ぶり返しているみたいね……」

にこ「……」

ひだり「それじゃ、うちわで扇ぐのはよくないですね」

師「そうね、せっかくのご厚意だけど……」

蘭花「あ、すいません」

にこ「う……謝るのはこっちだから……」

師「体の冷えは疲労回復の妨げになること、よく知ってたわね」

ひだり「弟と妹が風邪をひいたとき、姉さんから教えられたもんです」

師「……そう」

ひだり「…………」

にこ(急に真面目な顔になった……?)

ひだり「二人とも楽しんでれたかな……」

蘭花「家族の方が来てるんですか……?」

ひだり「その弟と妹が来てるの。…人が多くてちゃんと確認できなかったけど……」

にこ「……」

ひだり「あんなに……たくさんの人の前で歌ったの初めてだから……緊張した……あはは」

蘭花「……」

師「……」ギュウギュ

にこ「……」ジー

ひだり「はは……はぁ……。な、なんだよぅ……あんまり…見ないでくれよ……は、恥ずぃ……」

にこ「あ……ごめん…なさい」

蘭花「緊張してたのは伝わってきましたけど……」

ひだり「いつまで経っても……慣れなくて……へへ……へぇ……」

にこ(笑いながら溜め息吐いてる……)

蘭花「一生懸命さも伝わってきました」

ひだり「……ありがとぅ」

にこ(照れて笑う顔は……やっぱりアイドルなんだって……思うわ)

蘭花「二人を連れてきます、特徴を教えてくれれば!」

ひだり「うぇ!? ダメ、だめ……! 駄目!」

にこ「?」

師「せっかく応援に駆けつけてくれたんだから、呼んであげてもいいんじゃない?」

ひだり「内緒にしてるんです……なんていうか……失望されたくないから……だから駄目っす!」

蘭花「……はい」

ひだり「自分、人気のないアイドルなんで」

にこ「……」


「にこちゃ~ん!」


にこ「凛……?」


凛「そろそろ歌の練習に参加して欲しいんだけど、どうかな?」

にこ「分かったわ。……あの、これで――」

師「駄目よ。中途半端が一番いけないんだから」

にこ「う……」

凛「分かった。それじゃ終わったら来てね~!」

テッテッテ


師「急いては事を仕損じる。もう少しで終わるからね」

にこ「……はい」

ひだり「15人でステージに立つんだってね、それもバンドとダンス。話題になってはりますよ」

にこ「そ、そうなんですか?」

蘭花「私も聞きました。『スクールアイドルとバンド』と聞いてます」

にこ(みらいは知られてないのかしら?)

師「ひだりさん、変なことを聞くようだけど」

ひだり「はい?」

師「あがり症で、自分には人気がないと言う割には、このイベントには参加したのよね」

ひだり「はい。へへ、分不相応ってやつです」

師「うちの留奈ちゃんが登録して、他のトップアイドルの子達も登録を始めたんだけど……、
  それでも参加をしようと思ったのはどうしてかしら? 宣伝という理由には見えなくて、なんだか興味が沸いちゃった」

ひだり「……それは……その、えっと」

師「言いたくなかったらそれでいいから、気にしないで」

にこ(私も気になるけど……私たちと変わらない気持ちだと思う……)

ひだり「最初は登録を取り消すつもりだったんですけど、弟に応援されまして……
    あ、弟は知ってるんです、私がアイドルやってること。それと、上の2人の姉さんも」

にこ「……」

ひだり「弟は私の夢、知ってますから……。背中を支えてくれる人がいるんだから頑張ってみようって」

にこ「……」

ひだり「今朝到着したら……想像以上のステージで腰抜かしそうになって……。でも応援してくれたので頑張れました」

にこ「……」

ひだり「プロデューサーやスタッフさんがアイドルを守り立ててたのが……助かった。
     やってよかったって……思ったもんです……はい」

師「……そう」

ひだり「観客の人たちも私なんかに声援くれて……」

蘭花「……」

ひだり「必ず、私の歌声を天まで届ける、って誓いを立てましたから。それが理由です」

師「なるほどね」


にこ(みんな色々あって、本気で頑張っているんだ……)


「にこちゃ~ん」


にこ「唯……?」


唯「ここに鈴音って人いる~?」

ひだり「うぇ!?」

にこ「いないけど……って、もしかして?」

ひだり「そうです……私が鈴音です……」


唯「澪緒ちゃんって子が澪ちゃんとお話してるんだけど~、なんちゃって」

律「おまえは何を言っているんだ……で、いるのかいないのかー?」


ひだり「あわわわわ……やっば……まずい……どどどうしよ!?」

師「貴重品と一緒に、着替えもあるんでしょ?」

ひだり「あるっす、着替えるっす!」ヌギヌギ

にこ「ここで!?」

律「うわっ、何してんだこのアイドル!?」

ひだり「ぬぎゃー、急げ急げ急げ急げ」

律「さすがアイドルだ。いいプロポーションをしている、うむ」

澪「観察するな!」バシッ

律「いでっ」

鈴音「よぉし……セフセフ」

にこ「ウィッグだったんだ」

鈴音「そうでやんす。えっと、このことはご内密に。服はそのままにしてくださいまし」

「すずちゃ~ん! どこ~?」

鈴音「ミオミオー! こっちだぜーい!」

タッタッタ


にこ「……あれが……ひだりんの正体……」

師「人それぞれ、色んな想いでステージに立ってるのね――っと」ギュウ

にこ「……ぁぅ!」

師「よし、これでオッケー。体を起こしてもいいわよ」

にこ「……」

師「どう?」

にこ「まだ、よくわからないけど……楽にはなった……?」

師「練習する前にゆっくり体操をして、体をほぐしてね。
  それから体に異変があったら私に言って、このイベント中は留奈ちゃんの近くに必ずいるから」

にこ「……はい、ありがとうございました!」

師「うん。それじゃ、頑張ってね」

にこ「ここまで応援してくれるんだから……頑張らないと失礼よね……!」

蘭花「……」

にこ「ただの練習風景だけど……見てく?」

蘭花「……はい」


……



―― 舞台袖


海未「悲鳴が聞こえたような気がします……」

穂乃果「悲鳴のような歓声なんだよ!」

ことり「きっとそうだね!」

真姫「興奮の坩堝と化してるのね」


にこ「とうとう私たちの出番が来たわよ!」


絵里「体調はどう?」

にこ「マッサージと栄養補給のおかげで、午前よりだいぶ体が軽いわ」

絵里「……そう」ホッ

にこ「ありがと、絵里」

絵里「え?」

にこ「心配かけすぎた」

絵里「にこ……」

希「……」


P「みんな揃ってるな。……準備はできたか?」

穂乃果「はい!」

ことり「すぅ……はぁ……、よしっ」

海未「ついに、この時が来ました……!」

真姫「……ふぅ」

凛「よぉっし!」

花陽「ここまで頑張ったんだから……だ、大丈夫っ」

にこ「……」

希「……」

絵里「軽音部のみなさんは、準備できてますか?」

律「バッチリだぜ!」

梓「一夜漬けというか、なんというか……」

澪「……が、頑張るぞ」


唯「あ、憂だ~!」


紬「唯ちゃん、観客席見てないでこっちに来て~」

みらい「……この緊張感は……久しぶり」


P「何度も説明しているけど、最後の説明だからしっかりきいてくれ」

穂乃果唯みらい「「「 はい! 」」」

P「ステージを二つに分けて、君達はパフォーマンスを行うわけだけど、
  客席から向かって左側が放課後ティータイムになる」

律「スタッフがセッティングしてくれてるな……」

P「そう、あの場所だな。ステージに上がる時は反対側の袖だから、裏から回ってくれ。行き方は大丈夫か?」

紬「確認済みです!」

P「よし。……そして、君達はここからそのまま出場だ」

穂乃果「わかりました!」

P「司会の人にマイクを持たされたら後は自由だから、トークしてもいいし、そのまま歌を披露してもいい」

澪「わ、分かりますた!」

穂乃果「自己紹介も忘れずに、ですね」

P「そういうこと。……それじゃ、まずはステージの雰囲気を楽しんでくれ」

にこ「?」

P「こういうのは楽しんだもの勝ちだ」


穂乃果「……それにしても凄い観客の数だねぇ」

海未「いよいよ……いよいよなんですね……っ」フルフル

ことり「海未ちゃん……」

穂乃果「あ、雪穂がいる、亜里沙ちゃんも」

絵里「本当?」

穂乃果「ほら、客席の左奥だよ」

絵里「……応援に来てくれたのね。……和さんの隣は誰かしら」

穂乃果「唯さんの妹ちゃんじゃないかな? 似てるよね」

みらい「……そうですね、きっと」

唯「うへへ、正解~」

梓「あ、純は来てないんだ……」

花陽「き、緊張する……!」

凛「大丈夫だよかよちん、ここまで頑張ってきたんだもん!」

希「こういう時こその占いやね」シュッシュ

真姫「それで悪い結果が出たらどうするのよ」クルクル

律「そうだそうだ! いい結果になるよう工夫してくれ!」

凛「それはズルにゃ~!」

唯「あずにゃんは凛ちゃんを見習うべきだよ!」

梓「お断りします!」

唯「そんなこと言わずにぃ、あずにゃんの特権なんだよ~」スリスリ

梓「もう効かないなんて……!」

紬「唯ちゃんは常に進化しているのね」フムフム


P「緊張してる子とリラックスしてる子……極端だな……」

亮太「プロデューサー、俺も観客席から見てきていいですか?」

P「あぁ、いいよ。終わったらもう一度ここに来てくれ」

亮太「分かりました!」

タッタッタ


P「……まだ少し余裕はあるから、水分補給はしっかりな」

ことり「は~い。欲しい人いる?」

穂乃果「じゃあ、うみちゃんと花陽ちゃん、にこちゃん、澪さんの分をお願い!」

ことり「わかった!」

にこ「ちょっといい?」

P「?」

にこ「蘭花って子、いるわよね。……あの子、どこの事務所なの?」

P「フリーだそうだ」

にこ(立場的にはみらいと同じね……)

P「さっきのステージを観る限りじゃ、無名であることが不思議なんだが……」

にこ「私はその歌を聞いてないから分からないけど……プロの目で見て、そこまで言うほどの実力があるの?」

P「あぁ……独学でもたまにああいう子がいるんだが……。なにか聞いてないか?」

にこ「なにかって?」

P「さっき、リハーサルで一緒にいただろ? 歳の近い君達なら話が出来ると思ってな」

にこ「だから連れて来たのね……」

P「あぁ」

にこ「『迷子になった』、『見つけて欲しいから登録した』って言ってたわ」

P「ふむ……」

にこ「外国の子……じゃないわよね」

P「……ちょっと、こっちに来てくれ」

にこ「……?」


P「これから見ること、他言無用で頼む」

にこ「なにそれ……機械?」

P「預かってるんだ。……彼女、無一文らしくて、昨日までなにも口にできなかったらしい……」

にこ「え……」

P「スタッフに相談されてな。昨日は俺たちと食事して、あずささんの部屋に泊まった」

にこ「……よくそんな子と一緒の部屋にしたわね」

P「あずささんのこと知らなかったからだよ。そこは問題じゃないんだ、重要なのはこれ」

にこ(私たちの年代で知らないなんて……変な話ね。だから逆に信用できた……?)


P「えっと……こうだっけか」カチカチッ


ウィーン


『 はおちーらいらい めいくーにゃん  』


にこ「なによこれ!?」

P「立体ホログラムだと、本人から聞いた」


『 娘々 にゃんにゃん にーはお にゃん

  ゴージャス☆デリシャス☆デカルチャぁ~ 』


にこ「っ!?」

P「映ってるのが蘭花だな……。世話になったお礼にって渡されたんだが、こんなの表沙汰にできない」

にこ「す、すごい……」

P「彼女が持ってきたデータが今朝まで解凍が出来なくて困ってたんだ。
  オーバーテクノロジーってやつだから……ひょっとしたら彼女は――」

凛「にゃん?」

穂乃果「なにしてるんですか?」

P「いや、なんでもない」スッ

にこ「み、見た今の?」

凛「見てないよ?」

穂乃果「何を企んでるのにこちゃん! 隠し事はだめだよっ」

海未「あなたがそれを言うのですか」

P「……っと、もうすぐだな。スタンバイだ」

穂乃果「はい!」

にこ「……あの子、どうするの?」

P「後のことは後で考える。今はステージに集中しよう」

にこ「……そうね、わかった」


真姫「なにやってるのよ、早くこっちに」

絵里「さぁ、中に入って」

にこ「ふふん、主役は遅れてくるものなのよ」

凛「本番前の円陣……燃えるにゃ!」

みらい「……はい!」

唯「凛ちゃんの言うとおり燃えるよね、かよちゃん!」

花陽「そ、そうですにゃん……!」

唯「ね、あずにゃん!」

梓「ですね」

穂乃果「絶対に釣られないね」

ことり「さ、部長から一言~」

律「よーし、いいかお前ら、よく聞けー!」

にこ「……」

絵里「……」

希「……」

紬「……」

律「ちがうっ! 流れ的にあたしじゃなくて、にこだろ! 止めろよ澪!」

澪「え、あ、……止めろ律!!」

律「止められてはしょうがねえ、後は頼んだぜ、にこ」

にこ「え、あ、……うん」

律「ふぅ……びっくりした」ヒヤヒヤ

澪「お前は何がしたいんだ、田井中律」


にこ「……気合を入れるのよね……よし」


にこ「よく聞きなさいあんたたち!」

唯穂乃果「「 聞きます! 」」

にこ「その反応やりづらいわね……。コホン」

みらい「……」


にこ「全てはヴェガのクジ引きから始まったわ」

真姫「……」

にこ「その列車に乗って、みらいと出会った。色々悔しい思いもした、私が風邪をひいて心配もかけた」

絵里「……」

にこ「参加するこのライブに憧れのアイドルが登録した、正直言うと心が躍った」

花陽「……」

にこ「幸運が舞い降りたって……思った」

希「……」

にこ「だけど、そうじゃなかった。これは私に、私たちに降りた幸運なんかじゃない、みらいの為の幸運でもない」

海未「……」

にこ「ここに集まったのはアイドル一人ひとりの想いの結果よ」

ことり「……」

にこ「そんなステージに立てることを存分に楽しまなきゃ損ってもんよ!」


にこ「だけど、私たち――、15人も他のアイドル達に負けない!」


澪「……!」

律「へへっ」

紬「……」コクリ

唯「よぉし」

梓「…………」


絵里「……」

希「……」

真姫「……」

凛「……」ウズウズ

花陽「……」

ことり「……」

海末「……」

穂乃果「……」


にこ「さぁ――」

みらい「…………」


にこ「観客を最高の笑顔にさせるわよッ!」


「「「 おぉー!! 」」」



にこ「……フゥ」


穂乃果「あついッ、熱いよにこちゃん!」

海末「夏の日差しにも負けていませんね」

ことり「……うん!」

凛「熱いにゃー!」フルフル

花陽「すぅ……ふぅぅ」

真姫「……」

希「すごいね、にこっちは」

絵里「負けていられないわね」

みらい「……はい」


P「放課後ティータイム、スタンバイだ」

唯「行ってくるよ、みらいちゃん!」

みらい「はい、頑張りましょう!」

澪「……人、人、人」スラスラ

紬「あ、『メ』って書いた」

澪「あぁぁ……大丈夫っっ、書き直せばいい!」

紬「こうやって人は成長していくのよ、りっちゃん」

律「う、うん……どうしてあたしに言うんだ?」

梓「それでは、お互い頑張りましょう」グッ

にこ「えぇ、悔いのないよう出し切りましょ」


……


ぴゅあぴゅあはーと
https://www.youtube.com/watch?v=1DeE351N14I

もぎゅっと“LOVE”で接近中!
https://www.youtube.com/watch?v=nsgg4WrPJM0


にこ「この緊張感もたまんないわねー! にっこにっこにー♪」

絵里「唯さんにマイクが渡ったわ」


『みなさんこんにちは! 私たち、アイドルではないですけど、頑張って演奏します! 聞いてください! 』



放課後ティータイム ― ぴゅあぴゅあはーと



『 頭の中 想いでいっぱい あふれそうなのちょっと心配

   とりあえずヘッドホンでふさごう♪ 』 
 
『 Don't stop the music! 』


『 欲しいものは欲しいって言うの したいことはしたいって言うの
   だけど言えない言葉もあるの 』

『 Can't stop my heartbeat! 』

『 いきなり! チャンス到来 ぐうぜん同じ帰り道
   wow! ふくらむ 胸の風船 急に足が 宙に浮くの
    上昇気流にのって 』

『 飛んでいっちゃえ! キミのもとへ わたしのぴゅあぴゅあはーと
   受け止めてくれるなら 怖くはないの 
    この気持ちが 大気圏 越えたとき
     キミは見えなくなってた 道の向こう側 あい☆Don't mind 』
  


P「……呑まれずに頑張ってるな。……中々できることじゃない」

―― ♪


ワァァァアアア!!


『それでは次、スクールアイドル――μ'sのみなさんです!』


にこ「それじゃ、行くわよ! 9人の歌の女神!」


「「「 はい! 」」」



μ's ― もぎゅっと“LOVE”で接近中!


 だって… (ぎゅっと…) 

  “love”で接近! (もっと!) 

 もっと…(だって…)ドキリ焦っちゃう!(もっ!ぎゅー!) 

  だって…(ぎゅっと…)“pure”な冒険!(もっと!) 
 

 もっと…(やっぱ…)ぴゅあらぶもっと…(もっ!ぎゅー!) 



紬「まぁ……!」

律「リハで聞いてたけど……」

澪「気合が違うな……!」

唯「私達だって負けないよ!」

梓「はい……負けたくないです」

紬「うふふ」


 なにか違うどきどき だれを誘う知りたい あくまでも“pure”☆“pure” 

  やっぱ…(ヘンね)顔赤い 


 恋は魔法いまから 始めましょふたりで! ハジライも勇気で

  ぐっばい…(ヘンね)大胆ね 


 (きいて)情熱で勝負!(饒舌に)キミに語ろうか 

  (きいて)じんじん高まるあつい(想い)とどけ!(想い)うけとめて 


 あげたい!決めたい!
 
   世界中ラッキーになあれ




―― 観客席


「「「 お姉ちゃん……! 」」」

さとみ「お姉ちゃん?」

「あ、私っ、高坂穂乃果の妹っ、雪穂ですっ」

「私はっ、絢瀬亜里沙っ」

「私は、平沢憂といいます」

さとみ「もしかして、東京から応援に……?」

雪穂亜里沙「「 そうですっ 」」

憂「私は……別ですけど」

和「唯たちも、楽しんでいるみたい」

さわ子「……あの子達は私の手から離れていってしまったのね」

和「……」


―― 舞台


律「かわいい衣装だな」

澪「そうだな……踊りも可愛い」

唯「アイドルだよね!」

紬「さわちゃんが用意してくれた衣装……着てみたかったね」

澪「いや、私達は制服でいいんだ……」

律「そうだ。バニーとか着られるかよ」

梓「……そろそろ次の曲ですよ」

唯「はいよっ」

梓「……穂乃果のソロ」


穂乃果『 あげたい!決めたい! 私たち今日のために 

     “pure”な“love”で“pure”で“love”な本気 I miss you!! 』


梓「……」


 嬉しい?愛しい? 世界一ハッピーな恋 

  見せて見せてっどうか見せてっ うんと、がんばっちゃう! 

   嬉しい?愛しい?いじらしい?すきよ…(すごく…)すきよ… 

 (つかまえて)ぎゅっと(もっと)私を見て 

  “love”で接近!だって大好き 

   もっと(ぎゅっと…) もっとぎゅっと(もっ!ぎゅー!) 


 今日はドキリ焦っちゃう! 


 もっぎゅー! 


I love you

 I miss you

  Holy time

Uh baby

 Happy love

  miracle love


be with you

mogyu(もぎゅ) baby



ワァァアアアア!!

『声援ありがとうございます! 音ノ木坂学院のスクールアイドル、μ'sでしたぁー!』


雪穂「うわっ、この歓声……!」

亜里沙「す、すごい……!」

さとみ「……」

亮太「凄いな……なんか、感動する……」

さとみ「うん……」

さわ子「ふむ……」

和「さわ子先生……?」

さわ子「病み上がりだから……まぁ、しょうがないわよね」

憂「?」


『さぁ、次は放課後ティータイムに戻ってー! 「ふわふわ時間」でーす!』


放課後ティータイム ―― ふわふわ時間


ジャガジャガジャガジャガジャガ


唯『 キミを見てるといつもハートDOKI☆DOKI
   揺れる思いはマシュマロみたいでふわ☆ふわ
   いつもがんばるキミの横顔 ずっとみてても気づかないよね
   夢の中なら二人の距離縮められるのにな 』


唯澪『 あぁカミサマお願い 二人だけのDream Timeください☆
    お気に入りのうさちゃん抱いて今夜もオヤスミ♪ 』

唯『 ふわふわ時間 』

澪『 ふわふわ時間 』


さわ子「せっかく可愛い衣装を用意したのに……!」ワナワナ

和「……」


―― ♪


唯澪『 あぁカミサマお願い 一度だけのMiracle Timeください!
    もしすんなり話せればその後は・・・どうにかなるよね 』


ジャンジャンジャンジャンジャンジャン


唯『 ふわふわ時間! 』

憂和「「「 ふわふわターイム! 」」」

唯『――! ふわふわ時間っ!!』

さとみエレナ小麦「「「 ふわふわターイム! 」」」

唯『ふわふわ時間ーっ!!!』

「「「「 ふわふわターイム!! 」」」」


ジャジャジャジャッジャーン


パチパチパチ
 パチパチパチ


『ありがとうございましたぁー!!』


穂乃果「す、すごい……!」

希「ティータイムも気合が入ってたね」

絵里「えぇ……、私達も負けないように頑張りましょう!」

凛「うん!」

花陽「……」コクリ

にこ「すぅ……ふぅぅ……」

真姫「……合同で参加できてよかったかも」

海未「真姫……」


『それでは~次の曲、μ'sで――夏色えがおで1,2,Jump!』


ふわふわ時間
https://www.youtube.com/watch?v=UJ0bSf9s74M

夏色えがおで1,2,Jump!
https://www.youtube.com/watch?v=-6Y8hoH8uYM


μ's ―― 夏色えがおで1,2,Jump!


Summer wing

 飛んで Summer wing


すれ違って互いにときめく…どうしたんだろう?
 
 おいかける そうだShinin' そうだDreamin'

  ふしぎな予感で

通りすぎた風から感じる懐かしさ

 みあげれば遠い空 遠い海 夢中になって T.R.Y!!

やっとやっとここで会えたから
 (キラキラキラってうれしい気分 キラキラキラリここで会えた)

 私と思い出つくろうよ(キラキラキラって私の夢)

  熱い胸のなかで奇跡を探していたんだ

星よりたしかな 1,2,Love!

 光が夜を照らせば 未来があるよ、あるよね?

  最高のLocation(Summer time)

星までだれかの 1,2,Love!

 どきどきハートうちあげ 希望があるよ、あるよね?

 
 願いを言って



絵里(にこ……!)

穂乃果「……っ」


にこ『 星よりたしかな 1,2,Love!

     光が夜を照らせば 未来があるよ、あるよね?

      うなずいてVacation 』


(Summer wing)


真夏のせいだよ 1,2,Jump!

 光のシャワーはじける 気持ちがいいね、いいよね?

  うなずいてVacation(Summer wing)

夏色えがおで 1,2,Jump!

 ぴかぴかフェイスあげたい 一緒がいいね、いいよね?

 
  うなずいてよ(Summer wing) 


暑いけど(熱いから) 熱いから(嬉しくて)

 嬉しくて (楽しいね) 楽しいね 


  『 Summer day 』


――


パチパチパチパチ!!

 パチパチパチパチ!!


にこ「ふぅっ……はぁっ」

絵里「……はぁ……はぁ……」

穂乃果「にこ…ちゃん……っ」

希(大丈夫みたいやね……)

にこ(みらい、次はあんたよ……!)



―― 観客席


さとみ「すごい……あんな風に歌って踊るなんて……」

小麦「すごいすごい! 振り付けもみんな揃ってた!」

エレナ「これがIDOLというモノですネー」

和「唯たちも……頑張ったわね」

憂「うん……!」

雪穂「お姉ちゃん……!」

亜里沙「はらしょぉ……!」

小麦「あれ? 亮太君は?」

さとみ「さっき、走っていったけど……どこへ行ったんだろう……?」

エレナ「次はいよいよみらいサンですヨ!」

雪穂「みらいちゃん! わ、私の家でくつろいでいたんだよ!」

亜里沙「はらしょー!」

さとみ「くつろいでた……?」

「はぁ、相変わらず可愛い……」

雪穂「あ、あれ……?」



―― 照明操作エリア


スタッフA「あの人は?」

スタッフB「飯山みらいのマネージャー。演出に変更があるんだとよ」

A「だからって操作を任せていいのか?」

B「向こうの事務所、色々と面倒なんだよ……それに、責任は持つからって」

A「責任って、これフリーイベントだから損害も何もないだろ」

B「それはそうだが……マネージャーが言うんだから、任せるしかない」



将人「おまえにだけいい思いはさせないぞ……んっふふふ」


―― 観客席


雪穂「みらいちゃんが……出て!」

亜里沙「こない……?」

エレナ「オー?」

小麦「どうしたの、エレナ」

エレナ「イエ、少しにこサンたちの様子が変ですネ」

さとみ「トラブル? それとも……」

エレナ「accident?」

「どうしたんだろ? 舞台袖に行ってみようかな」



―― 舞台


にこ「……?」

希「曲が流れない……?」

ことり「ど、どうして……」

穂乃果「わ、私たちどうすればいいのー……」

凛「動けないにゃー……」

花陽「あ、あれ? あれ?」

海未「これは、一体……」

真姫「な、なんなの……?」

絵里「みんな、じっとしてて……!」

にこ「打ち合わせと違う……」



唯「おや?」

律「みらいが出てこねえぞ?」

澪「曲が流れないからな……どうしたんだろう」

梓「トラブルですかね……」

紬「……」



P「みんな、そのままでいてくれ!」


―― 観客席


「なんだ、どうしたー?」

「せっかくの盛り上がりを止めんなよー」

「演出だろ」

「それにしては長くないか?」


ザワザワ

 ザワザワ



雪穂「……どうしたんだろ?」

亜里沙「……?」

さとみ「あ、あれ? ……星奈さんもいなくなった」


―― 照明操作エリア


スタッフA「あの、観客も不審に思ってますけど……」

将人「んっふふふ、これも演出の内だ、問題ない」

スタッフB「熱気が下がっていて……」

将人「なんだ、文句があるのか?」

AB「「 …… 」」



亮太「テメエ!!!」


将人「ちっ……」


亮太「なにやってんだよ!!」グイッ

将人「うぐっ」


A「お、おい君!」


亮太「なんで邪魔ばっかりするんだよ! みらいちゃんが、みんながここまで頑張ってたのに!!」

将人「離せッ! ガキ!」

亮太「お前見てただろ! みらいちゃんが自分を抑えて頑張ってたの! どうして応援してやらないんだよ!」

将人「おい、お前達! 見てないでコイツを剥がせ!」

AB「「 は、はい! 」」

亮太「どうして……! 15人で頑張ってきたのに! どうしてそれをぶち壊すようなこと平気でするんだッ!!」グッ

将人「うぐぅッ」

亮太「絶対に許さな――!」

B「いい加減にしろ!」グイッ

亮太「うッ!」

A「な、なんなんだ、この子は……」

将人「ゲホッ、ゲホッ」

亮太「離せよ! 人の気持ちをなんだと思ってんだ!!」

B「大人しくしてろ!」

将人「みらいのストーカーだ……以前から付きまとっていて……迷惑していた……ゲホッ」

亮太「お前がみらいちゃんの味方って顔をするなよッッ!」

将人「いいから、そいつをつまみ出せ」

AB「「 は、はい! 」」

将人「これが社会だ、覚えておけ」

亮太「ふざけんなッ!!」


「出て行くのはあなたです」


将人「なに?」

P「二人は彼を離して、位置についてください」

A「し、しかし……」

P「まだステージは終わってません」

B「……」

P「時間がない、急いで」

AB「「 はい! 」」

将人「お前に何の権限があって――」

P「これ以上話をすることはありません。何かあれば後日、事務所へ正式に通達してください」

将人「……!」

亮太「~ッ」

P「ふて腐れてる暇はないぞ、亮太」

亮太「え?」

P「アイドル達を控え室に集めておいてくれ」

亮太「え、どうして」

P「ステージはもう動き出している」


三浦あずさ ― 9:02pm



『 Good night ひとりきり 』



『 Make up 落とした素顔 

  鏡にそっと聞いてみる

  ねぇ・・・幸せ・・・? 』



『 逢いたい・・・ 』



『 メールも携帯も 鳴らない tears 泣いてるよ 』



『 一秒だけでもいい

  君を今 感じたら

  ずっと・・・  』





にこ「……」キラキラ

希(魅入っとるな……)

穂乃果「アカペラ……!」

海未「…………」

絵里「……って、見惚れてる場合じゃない……みんな、予定通り下がって」

凛「了解~」

ことり「かよちゃん……!」

花陽「す、すてき……」キラキラ

真姫「……ふぅ、どうなることかと思ったけど」


―― 舞台袖


律「なんとかなったか?」

紬「そうね、観客のみなさん、これが演出だと思ってるみたいだから」

梓「やっぱり事故だったんですね」

澪「ふぅ……びっくりした」

唯「次はみらいちゃんの番だよ! わだす、観客席で応援してぐるだっ!」

律「興奮の坩堝と化し過ぎだ……どこ生まれだよ」


亮太「待って、平沢さん!」

唯「え?」

亮太「話があるから、ここで待機しておいてくれって」

唯「いやだす!」

タッタッタ

亮太「断った……!?」

澪「スタッフの指示なんだぞ唯!」

梓「まったくもう……」

律「梓、GO!」

梓「しょうがないですね、唯先輩は……!」

ダッ

梓「って、なんで私なんですか」ピタッ

澪「新しいノリツッコミだな……」

律「むぎも行ったからだよ。あたしには無理なんだ……でも、梓ならきっと二人を連れ戻せると信じて……!」

梓「律先輩は面倒なだけです、絶対そうです!」

タッタッタ

律「その通りだ」エヘン

澪「威張るな!」

穂乃果「でも、ちゃんと動くんだね……梓ちゃん」

ことり「先輩想いだね……」

海未「そうでしょうか……そうは見えない部分もありますが」

絵里「ほら、座って」

にこ「す、座っていいの……?」

絵里「どうして遠慮してるのよ」

にこ「だ、だって……」

希「憧れのアイドルが揃ってるからね」

にこ「……ごくり」


留奈「えっとぉ、どうして私たちが集められたのかなぁ?」

ひだり「挨拶……かな……」

蘭花「……?」

「先輩のところに行きたいんだけど……」

亮太「えっと、俺も詳しくは知らないんですけど、とりあえずここで待っててください」

留奈「はぁい、分かりました~」

恵「まだなにかあるのかな……?」

留奈「……ったく、三浦あずさをトップから引きずり下ろすためにここまで来たってのに」ケッ

凛「え……? いま、なんて……?」

マネージャー「留奈ちゃん、本心が漏れてる漏れてる」

留奈「まだ私にはステージの幕引きなんて荷が重いですよね、てへっ☆」

「最後にみんなで歌うとか……かな?」

「そうですねぇ……」

亮太「プロデューサーが来るまでしばらくそのままで」


飯山みらい ― ノン・トロッポ


ポンポンポロポロ


『 心を映し出す 丸い月 

  赤くやんなり浮かぶ 

   誰にも知られず   』



『 私を形作るすべてが 涙をもっていると 誰にも言えずに  』



―― 観客席


さとみ「アカペラから続いて……みらいさんの曲」

エレナ「最高の演出ですネ!」

小麦「引っ張っただけはあったね、あの歌!」

和「えぇ……」

憂「……」

亜里沙「……」

雪穂「あのみらいちゃんがこんな曲を歌うなんて……」



『 それでも明日は満ちている

  この先にずっと
 
  わたしは自分に偽りはしない 』


『 仮面を脱ぎ捨て 

  素顔の自分に出会うの 

  私は恐れを知らない  』
  


―― 舞台袖


あずさ「ふぅ~、なんとかなったかしら」


にこ「――!」

花陽「ふぅ」フラリ

凛「かよちん! しっかりするにゃ!」ガシッ


あずさ「あらあら、大変!」


ことり「えっ、こっちに来るよ!?」

穂乃果「どどどどうして!?」

海未「おおおお、落ち着いてください二人とも!?」

真姫「……」シーン


あずさ「えっと、こうやって」スッ

花陽「」

絵里「熱はないと思うんですけど……」

あずさ「うふふ、手当てっていうのよ。人の体温には人を癒す効果があると云われていて」

絵里「……すいません、逆効果です」

あずさ「あら?」

凛「もう手遅れにゃ……っ」

にこ「」

希「にこっち、しっかりするんよ」ユサユサ

あずさ「にこちゃん、まだ体調が悪いの?」

絵里「は、はい……どうしてそれを」

あずさ「昨日の夜、私の目の前で倒れちゃって……心配していたのよ。
    でも、ステージでは頑張っていたから、もう大丈夫だと思っていたんだけど……」

真姫「昨日の夜……?」

穂乃果「憧れの三浦あずささんが二人を介抱しているというのに……!」

ことり「もったいないことしてるね……」

あずさ「まぁまぁ……」

にこ「」

花陽「」



P「あずささんがアクシデントにも対応してくれたので、なんとか繋げることができました」

あずさ「それは良かったです。それで、この後は……?」

P「みらいが終わったら、3人で場をつなげて、その間に残り時間をどうするか決めます」

あずさ「分かりました~」


P「それじゃ、これから話を始めるけど……揃ってはいないんだな」

亮太「軽音部の3名だけが抜けています。後は指示通りに集まってくれました」

P「うん、ありがと。……みんな聞いてくれ――!」

穂乃果「なにが始まるんだろ?」ワクワク

留奈「きっと楽しいことだよね~、そうじゃなかったら許せないわ……」ギリ

海未「え?」

留奈「初めまして~、ルナです☆」

海未「ど、どうも……いつもテレビで拝見しています。……いまのは気のせいですね」

P「これから、3人のゲストが登場する。
  その曲が終わったら、この場にいるメンバーのメドレー形式でもう一度出演してほしい」


「「「 …… 」」」


P「突然のことで理解がついていかないかもしれないが……とりあえず、次の曲が終わるまでには決めてくれ」


「「「 …… 」」


P「一人でも不参加なら、この提案は流れて、三浦あずさ一人で幕引きだ」



ワァァアアアアア!!!


『ありがとうございました!』


「うぉぉぉ、みらいちゃーん!」


律「唯のやつ……どさくさにまぎれて一番前で応援してるぞ……」

澪「むぎと梓も一緒か……あの3人は誰よりも楽しんでいるな……」


『次は私たちが歌いまーっす! 天海春香です!』

『はいさーい! みんな楽しんでいってねー! 我那覇響だぞー!』

『如月千早です! それでは聞いてください MUSIC♪』



穂乃果「ゲストの三人って?!」

海未「これは……!」

ことり「豪華な顔ぶれ……!」


あずさ「千早ちゃん、間に合ったんですね」

P「はい、なんとか」

9:02pm
http://www.youtube.com/watch?v=LUGzDG7hDN4

MUSIC♪
http://www.youtube.com/watch?v=GlWR9vo1qsg


『 さあ PLAY START MUSIC♪
  
  進めGO!! かけ出すMELODY 今へ 』


『 もう DON'T STOP MUSIC♪

  掴めGOAL!! のり出すRHYTHM 未来へ 』



にこ「――はっ!?」

花陽「……うん……?」

凛「意識を取り戻したにゃ……!」



『 PHRASE!! 心を自由に描いてみよう

  歌詞(ことば)にして 声にして 響いてく  』



にこ「こ、この曲!」ガタッ

絵里「待ちなさい」グッ

にこ「なにするのよ!」

絵里「いまは疲労回復に努めるのよ」

にこ「え? もう終わったんだからいいでしょ?」


『 FRESH!!

  歌うよ音楽に壁なんてない VOLUME上げて 最高に 

  STANDBY STAND UP 』



『 てっぺん目指せ!! 』



絵里「ラストに向けて状況が変わっているの」

にこ「ラスト……?」


留奈「私、やってみようかな……?」

恵「……」

留奈「せっかくここまで来たんだからぁ……それに、お祭りみたいで、えへへ、楽しい☆」

ティオ「恵はどうするの?」

恵「もちろん、出るわ。まだまだ歌い足りないもの!」

留奈「他のみなさんはどうするんですかぁ? あ、強制するわけじゃないですよっ」アワワ

「「「 …… 」」」


『 奏でよう 夢のMUSIC 音符の翼 』


『 どこまでも翔ばたいてゆけるPOWER 』


留奈「りせさんはどうするんですかぁ?」

りせ「出ようかな……先輩も観てるだろうし……。特に断る理由もないっていうか……うん」

留奈「そ、そうですかぁ……」チッ

蘭花「私も……いいですか、プロデューサーさん」

P「あぁ、もちろん構わないよ」

留奈「えっとぉ、あなたはどうするんですかぁ?」

ひだり「で、出たい……と思いましゅ」



『 鳴らそう 好きなMUSIC どんなKEYだって 』



「私も出たいです」

「私も」

「……」コクリ

P「μ's、放課後ティータイム、飯山みらいは?」

みらい「私も参加させてください!」

律「……どうすんだ?」

にこ「も、もちろん出るわよ!」

澪「体、大丈夫?」

にこ「こんな機会なんてもう二度と無いかも知れないんだから! 出るに決まってる!」

穂乃果「さっすがにこちゃん! よっ、部長!」

凛「ひゅーひゅー!」

真姫「宴会みたいなノリ、やめて」

P「……全員決まったな」

澪「あれ、私たち出るって言ってない……」

律「乗りかかった箱舟だ、頑張ろうぜ」

澪「どこへ行くんだその舟は……」


『 歌えばほら新しいDOOR 開いてく輝いて
  
  始まる世界LISTEN!!  』


『『『  私のMUSIC♪  』』』


留奈「あはははー、そんなー、せっかく私様が三浦あずさの出番を頂いてやろうと思ったのにー」

マネージャー「出てるっ声に出てるからっ」

留奈「……クッ、これじゃ、何のために松本まで来たんだか分からないじゃないのッ」ギリッ

「なー、留奈ちゃん、永澄さん知らん~?」

留奈「瀬戸燦! 控え室に入ってくるなとあれほど――!」


留奈「まてよ……、こうなったらもう、こんなイベント私様にとって必要無いわ」

燦「なにブツブツ言うとるん~?」

留奈「そうだ、いいことを思いついた……会場の全てを私様の虜にしてあげる。……燦! 私と出場しなさい!」

燦「うん、ええよ」

留奈「軽いわね。まぁいいわ、
   このイベントを終わらせてあげる……私様と燦の持つ人魚の力……、歌の魔力でね!!」

燦「留奈ちゃんが一緒に歌いたいなんて、せっかくのお誘いを断るわけにはいかん……永澄さんには悪いけど~」

留奈「こんなイベントもういらない。……全て、全てを灰にしてしまうのよぉ! オーッホッホッホ!」

マネージャー「歌の力ってそういう方向じゃないからね、人間の精神をコントロールすることだからね……」

恵「待って、留奈ちゃん」

留奈「なによ、邪魔しようっていうの?」

恵「あれを見て」

留奈「?」


ティオ「体調が悪いのってあなた?」

にこ「……うん……そうだけど」

凛「可愛い子だね~」

ティオ「えっと、私が治してあげましょうか?」

にこ「?」

ティオ「だから、体調を回復させるってことよ」

凛「何をしてくれるの?」

ティオ「詳しくは言えないんだけど……ちょっと、ずるいこと……かな。
    そしたら、この後は元気に踊れるのよ、その方がいいでしょ?」

にこ「ずるいこと……なのね」

ティオ「……うん。恵がそう言ってたから」

にこ「…………でも、大丈夫。ありがと」

ティオ「どうして? 成功させたいでしょ?」

にこ「みんなが支えてくれたから、ここまでこれたのよ。……だから、ずるいことはしたくないわ」

ティオ「失敗してもいいの?」

にこ「……しない。私たち――μ'sはいつもそうやってここまで来たんだから、失敗なんかしないって信じてる」

ティオ「…………」

にこ「ありがと」

凛「ありがとう」

ティオ「ううん、私はなにもやってないわ」

テッテッテ


恵「……」

留奈「……」

P「留奈、準備はいいか? 最初は君からだ」

留奈「……わかったわ」

P「って、君は?」

燦「私は瀬戸燦。訳あって次のステージには私も出ることになりました」

P「せと、さん……聞いたこと無い名前だな……?」

燦「どうか、私の出場を認めてはもらえんじゃろうか……」


チャララランチャラン 

燦「幼馴染が困っているというなら、そっと手を差し出すのが心友の役目。
  どんなことであろうと私は留奈ちゃんを助ける。
  旦那に気を取られて大事な友を見捨てるようじゃ、瀬戸内人魚の名折れじゃきん!」

 ナイテドウナルーモノデショウカー  


燦「任侠と書いて人魚――」

留奈「はいはい、行くわよー」グイグイ

燦「あぁっ、最後まで言わせて留奈ちゃん~」

留奈「禁止ワード言い過ぎなのよ。別に困ってるわけでもないんだけど」

燦「一緒に歌えるなんて久しぶりでわくわくじゃ、留奈ちゃん」

留奈「話聞きなさいよ。……それと、渡したデータの7曲目、それを歌うわ」

P「……わかった。それじゃ、ステージへ」

留奈「……」



師「どうする? マッサージしましょうか?」

にこ「大丈夫、ここでステージ見てるから」

絵里「てこでも動かないわね……」

蘭花「楽しみですね、にこさん」

にこ「出来れば正面から見たいけどね……こんな祭典!」

ひだり「こんなことに……なるなんて……思って…なかったどす」

穂乃果「そうどすなぁ」

ことり「穂乃果ちゃん、適当に合わせちゃ駄目だよ~」

にこ「もう一度料理長のスープが飲みたいわね……」

亮太「こういうこともあろうかと」

にこ「え?」

亮太「あ、ごめん、スープじゃないけど……プロデューサーの指示で蜂蜜リンゴジュースなんだ」

にこ「まぁいいわ、貰っておく」

花陽「ま、まるで大御所……!」

凛「貫禄があるにゃ!」


留奈「なによ、人が集まるなんて……まるで、燦みたいじゃない」

燦「どうしたん、留奈ちゃん?」

留奈「なんでもない、行くわよ!」

燦「うん!」



『ありがとうございましたー!!』


ワァァアアアアア!!!



『次は私たちが歌っちゃうよー!』

『よろしく~』


「えぇっ、燦ちゃん!?」


「あ、永澄さん」

『みんなー、これから私たちアイドルが歌い続けるからちゃんと付いてきてねー!』


ウォォォオオオオ!!!



留奈「いいこと、歌は全力、力は微力よ」

燦「巧くできるかわからんけど、やってみる」


留奈「――人魚古代歌詞」
燦「――〝エンシェントリリック〟」


『『 祭りの詩 』』


『 ―NON STOP!!!― 』

祭りの詩
http://www.youtube.com/watch?v=tdDeUswkNMg

happy tomorrow☆
https://www.youtube.com/watch?v=iHP3bbrkNh0


P「留奈と並んで歌えるなんて……あの子も凄いな……」

恵「私は何度か会ってますけど」

P「燦って子、どこの事務所なんだ?」

恵「ふふ、秘密です」

P「……そうか。……次は君でいいな?」

恵「はい!」


P「恵の次は蘭花、君だ。存分に楽しもう」

蘭花「はいっ!」

にこ「曲は決まってるの?」

P「あぁ、歌いたい曲をアイドル全員に提示して貰ってるからな。……さて、中盤戦は」

にこ「よくスタッフが対応出来てるわね」

P「一緒に仕事をしたことがある人たちばかりだからな。……玲香と……」

にこ「規模が大きくなったことでベテランが集められたのね……」

P「そういうことだな。律子が手配してくれたみたいだ」

にこ「律子って秋月律子っ!?」

P「覚えていてくれてるのか、本人も喜ぶよ。……えっと、さやか、りせ……」

にこ「そ、その本人は今日、来てないの?」

P「あぁ、来られなかった。……よし、とりあえずはこんなものかな」

にこ「プロデューサーになって最近――」

海未「にこっ、邪魔をしてはいけませんよ!」

にこ「う……」

ことり「情報を引き出そうとしてたね」

穂乃果「恐るべし、アイドルファン魂……」



瀬戸燦 & 江戸前留奈 ―― 祭りの詩 


『 Everybody 』

『 NON STOP! on beatで NON STOP! 心まで

   NON STOP! 繋いでしまおう party tune 』

『 NON STOP! 楽しみを NON STOP! 分け合って

   NON STOP! 踴ろうよ party night!!! 』


『 NON STOP!!! 』

 『 NON STOP!!! 』


ワァァアアア!!



恵「行って来るわね、ティオ!」

ティオ「えぇ、頑張って恵!!」


『声援ありがと~』

『次は大海恵さんでーっす!!』


ウォォオオオ!!


『ノンストップで歌っちゃいまーす! みんな楽しんでねー!』


ワァァアアアア!!


にこ「……」

絵里「ちゃんと座っていなさい」

にこ「わ、分かってるわよ……」


さわ子「ほら、着替えなさい」

律「まだ諦めてないのかよ、さわちゃん……」

梓「……」

澪「って、着てるのか梓!?」

梓「あ、アイドル達に感化されたわけでは……ありませんよ、ありませんからね!」

律「感化されたんか……まぁ、かわいいけどさ」

唯「おぉー、むぎちゃんもかわいいよー!」

ことり「かわいい~♪」

紬「ありがとう~」

穂乃果「私たちとお揃いでとってもいいよぉー!」

さわ子「穂乃果ちゃんたちの衣装は、赤を基調としていて凛々しくていいわね」

穂乃果「お褒めに預かり光栄でありますボス!」ビシッ

澪「私たちは青か……」

律「ふむ……」

さわ子「ふむふむ」ジロジロ

穂乃果「そ、そんなに見られたら恥ずかしい……であります……っ」

真姫「……」

凛「穂乃果ちゃんが押されてるね」

ことり「そうだね……」



大海恵 ― Happy Tommorow☆


『 一緒に自分を忘れて めいいっぱい騒ごう

   今日はね なんでも出来るよね自由に楽しんじゃお 』

『 未来はいいコトが待っている

   Happy Tomorrow☆ 』




花陽「来て良かった……参加できて本当によかった……」ウルウル


澪「さ、さわ子先生……これ、少しキツイです……けど」

さわ子「おかしいわね、サイズはぴったりのはずなのに……どの辺りがキツイの?」

澪「特に腰周りが……」

律「ここら辺だな、食べすぎか?」ツンツン

ゴスッ

律「ぐふッ!」

澪「なにか言ったか?」ゴゴゴ

律「何を言ったか忘れました」ズキズキ


穂乃果「……」

海末「……」

花陽「こ、怖い……っ」


澪「……ハッ!? 暴力で怯えさせてしまった!」

凛「梓ちゃん似合ってて可愛いにゃー!」

梓「そ、そう?」

ことり「うん! とってもかわいい~!」


澪「どうせ……どうせ私なんか……梓とくらべたら……」イジイジ


さわ子「ちょっと、りっちゃん……イジケモードに入ったわよ」

律「やべ」

唯「もぉーりっちゃん」


澪「いいんだ……いいんだ……朝のランニングを怠けていたのが悪いんだ……そうだな、うん」ジメジメ


紬「あらー……」

律「しょうがない……梓、こっちに来てくれ」

梓「……?」

律「ごにょごにょ」

梓「……それになんの意味があるんですか?」

律「梓がやるから意味がある。まずはやってみてくれ」

梓「……」


澪「みんな綺麗な服着て、華やいでいるのに……私は……着こなすことすらできず……」ブツブツ

梓「澪先輩!」

澪「……ん?」

梓「よっ」


クルリ


梓「どうですか?」

澪「ん?」


穂乃果「一回転?」

海末「これは……」

ことり「魅力をアピール?」


律「梓、笑顔だ。笑顔を忘れるな」

梓「……」

律「いやな顔をするんじゃないっ」

澪「フフフ……後輩に励まされても立ち直れないダメダメな私だ……」ズドーン

さわ子「意外と深いとこに落ちたわね……」


ことり「梓ちゃん、穂乃果ちゃんのポーズを真似をしてみて」

梓「?」


穂乃果「こうやって~」キャピ

梓「こうやって」キャピ


穂乃果「こうして♪」テヘッ

梓「こうして」テヘッ


穂乃果「こう☆」ニコッ

梓「こう!」ニコッ


唯「ふおぉぉ……!」

海末「こ、これは……!」

ことり律紬さわ子「「「「 かわいい~ 」」」」

花陽「……」ホワァーン

真姫「ふぅん……」

凛「真姫ちゃんが対抗意識を燃やしてるにゃ」

真姫「な、なに言ってるのよ!」

律「どうだ見たか! うちのマスコットの魅力を!!」

唯「これがあずにゃんだよ!」

さわ子「目的が変わってるわね」


澪「可愛かったぞ、梓」ナデナデ

梓「そ、そうですか?」エヘヘ


穂乃果「むむむ……!」

希「うちらだって負けてないんよ!」

凛「そうだそうだー!」

穂乃果「みなさんご注目ください! うちのマスコット的存在を!」

紬「わくわく」

凛穂乃果「「 矢澤にこちゃんです! 」」


にこ「うぅん……腰が……」トントン


凛穂乃果「「 年老いてるっ!? 」」

希「これは、違うんよ」

律「いや、うん……大丈夫」

海末「同情されましたね」

ことり「……」

真姫「……」


にこ「なによ、どうして哀れんだ目で見られてるのよ……?」

絵里「腰が痛いの?」

にこ「というか、背中の辺り……? そこら辺がビリビリしてるというか」

絵里「この辺り?」

グイグイ

にこ「う、うん……っ…」

絵里「緊張してるみたいね……筋肉が収縮してる」

グイグイ

にこ「ぁぅ……!」

絵里「……」

グイグイ

にこ「ちょっ、絵里っ、どこ触って……ぅぁっ」


紬「まぁ~」キラキラキラキラ

希「ふむ……」


絵里「ここが弱いみたいね」コチョコチョ

にこ「ふはっ……あははっ、やめっ……あははは」

絵里「ほらほら」コチョコチョ

にこ「や、やめぉ……ふふっ…あはっははっ…えりっ、やめへっ」

絵里「どう? 緊張は解れた?」

にこ「はぁ……はぁ……解れたかもしれないけど……無駄に疲れたじゃないッ!」


律「着替えてきたぜー、どうよー!」

穂乃果「かわいいよ、りっちゃん!」

律「お、おうょ……!」

澪「照れてるな」


さわ子「こうやって一同に並ぶと……一つのチームみたいでいいわね」

絵里「私達の衣装に合わせてくれたんですね」

さわ子「ことりちゃんから衣装を見せてもらっていたからね」

唯「みらいちゃんのは?」

さわ子「もちろんあるわよ。ほら」

唯「おぉ、さすがさわちゃん!」

花陽「どうして準備できるんだろう……」

澪「考えないほうがいい」

律「てっきりバニーを着させるのかと思ったぜ」

絵里「……」コクリ

さわ子「着させるわけないでしょ。教え子にそんな格好でステージに上げられないわよ」

梓「さわ子先生……!」ジーン

澪「私はさわ子先生を少しだけ見直しました!」

さわ子「ふふん……え、少しだけ?」

希「大分、信頼が地に落ちてるようやね」

ことり「あれ? でも……私達にバニースーツを勧めていませんでしたか?」

さわ子「あなたたちは学生である前にアイドルでしょ☆」ウィンク

絵里「な……!?」

律「この教師ときたら……ほら、絵里……ハリセンで叩いてやれ」スッ

絵里「――!」スッ

希「エリち、相手は他校の先生なんよ」

絵里「……!」ハッ

澪「いや、私達は全員目を瞑るから問題ないぞ」

律「うむ」

絵里「私ったら……生徒会長でありながら先生をハリセンで叩こうとするなんて……ありがとう、希」

希「ええんよ、生徒会長を止めるのも副会長の勤めやし」

絵里「勢いと感情に身を任せるところだった」

希「ふふ、でもたまにはええんと違うかな」

絵里「もぅ……希ってば……」


さわ子「なにか花が咲いて、いい話っぽくなってるけど……」

紬「うんうん」


みらい「あの……さわ子先生……本当にこれを着るんですか?」

さわ子「当然じゃない、あなたも仲間の一人なんだから」

みらい「でも、私だけバニースーツなんて」

さわ子「これで観客の視線は一人占めよ♪」

にこ「やめんかい!」スパーン

さわ子「あいた!?」

絵里「にこ!」

律「そういえば、ステージはどうなってんだ?」

紬「恵さんが終わって、次は蘭花ちゃんね」


さわ子「私をハリセンで叩いた件、音ノ木坂学院の理事長に抗議させてもらいます」

穂乃果ことり「「 えー!? 」」

凛「急に真面目になったにゃー!」

律「無視しろ、無視」

海末「ものすごい悪人に見えますね」

真姫「外れてないでしょ」

さわ子「それが嫌なら、そこの二人! バニーを」

真姫海末「「 お断りします!! 」」

澪「即答だ!」

さわ子「……はぁ、なんのために私はここまで来たっていうのよ」

律「引率者だろ、さわちゃん」


「あのチーム、なんだか知らないけど……盛り上がってる?」

「ステージじゃないところで盛り上がるなんて」

「たくさんの仲間、か……いいな……」

「私達も盛り上げよう、さやかちゃん」

さやか「うん、そうだね、玲香ちゃん。負けられない」

玲香「楽しませてみせる、速見玲香の名にかけてね!」



『 みんな、抱きしめて! 銀河の果てまでぇ! 』



ランカ・リー ― 星間飛行



『 水面が ゆらぐ 風の輪が広がる

  触れ合った指先の 青い電流 』



『キラッ☆』


にこ「……!」

星間飛行
https://www.youtube.com/watch?v=QebgOv7xE2s

射手座午後九時Don't be late
https://www.youtube.com/watch?v=OVBV4Qz7rbc

トライアングラー
https://www.youtube.com/watch?v=ObBsg0kiUaA


『 流星にまたがって あなたに急降下 ah ah

  濃紺の星空に 私たち花火みたい 心が光の矢を放つ 』


にこ「……初めて聞いたけど……!」


『 けし粒の生命でも 私たち輝いてる

  魂に銀河 雪崩れてく

  魂に銀河 雪崩れてく―― 』 


ジャッジャジャーン

ジャッジャッジャーン......




『 私の歌を聞けぇ~ッ! 』



にこ「?」

海未「この声はどこから……?」



蘭花「シェリルさん!?」

シェリル「よっと……探したわランカ、時空迷子になるなんて、向こうでは大騒ぎなんだから」

ランカ「助けに来てくれたんだね!?」

シェリル「冗談! こんな面白そうなステージ、参加しない手はないわ!」



ジャンジャジャーンジャンジャジャーン



海未「なんだか、理解不能な言葉が聞こえたような……」

にこ「気のせいよ」




―― 照明操作室


スタッフA「あの子、どこから現れた!?」

スタッフB「この曲もどこから流れているんだ!?」

P「これは……」

A「どうします、プロデューサーさん!」

P「そのまま彼女達に任せましょう。それと照明の演出はあなたの腕の見せ所です」

B「……っ! わかりました!」

P「……迎えに来たのか?」


シェリル・ノーム ― 射手座午後九時Don't be late



『 重力反比例 火山みたいに光るfin

  君は知ってんの あたしのbeating heart 』


『 何億光年 大胆なキスで 飛び越えろ

  ハラペコなの♪

  次のステージにいきましょう 』


『 持ってけ 流星散らしてテイト 

  ココで稀有なファイト エクスタシー焦がしてよ 』



にこ「あの人も凄い……」



『 射手座☆午後九時Don't be late! 』



シェリル「この時間で歌う最後の曲、行くわよランカ!」

ランカ「よぉし☆」



『『 君は誰とキスをする 』』


『 わたし 』


『『 それとも 』』


『 私 』



『『 君は誰とキスをする 

    星を巡るよ 純情  』』




― ♪



ワァァアアアア!!!


ランカ「みんな、ありがとー!」

シェリル「心配掛けてるってのに楽しんじゃって、まったく……ほら帰るわよ!」

ランカ「うん!」


タッタッタ


海未「すごい歓声ですね……本当に無名のアイドルなんですか?」

にこ「……そのはず、なんだけど……この歌唱力で私と花陽が知らないなんて……」


ランカ「あ、にこさん! 観てくださいましたか!?」

にこ「う、うん……それはもう、しっかりと」

ランカ「とっても楽しか――」

シェリル「急いで! 時間がないわ!」

ランカ「あう、……それじゃ、お別れです」

にこ「え?」

海未「次のお仕事ですか?」

ランカ「プロデューサーさんとあずささんに、ありがとうって伝えてください……お願いします」

にこ「……わかった」

シェリル「ランカ!」

ランカ「短い時間でしたけど……絶対に忘れませんから……」

にこ「また、会いましょ」スッ

ランカ「はい……ッ」スッ


ギュ


シェリル「残念だけど、もう二度と会うことは無い。私たちのことは忘れたほうが気が楽よ」

ランカ「シェリルさん!」

海末「え?」

にこ「それって……」

シェリル「だけど、私たちは忘れないでいてあげる。時空を越えたこの出会いを―― chu♪」


にこ「!」

シェリル「じゃあね♪」

タッタッタ

ランカ「さようならっ」

タッタッタ


にこ「投げキッス……」

海末「……て、照れますね」


「私たちは歳は違っても会えます、どうしてあんなことを言ったんですか?」

「時代が違えば立場も違うからよ。
 ……私たちが参加したことで、歴史に名を残すステージになるかもしれないけどね」

「はやくしろランカ!」

「アルトくぅ~ん」

「いい演出だったじゃない、アルト!」


ゴォォォッォォ


にこ「?」


プシュン!


海未「今の音は……?」

にこ「……見つけてくれたのかしら?」

P「二人ともここにいたのか」

海未「は、はい。にこがどうしても観たいと言って聞かないので……」

P「座って体力を回復しておくんだ。とくに、君」

にこ「わ、わかってるわよ」

P「蘭花は?」

にこ「多分、彼女達の場所へ帰ったわ。ありがとうって言ってた」

P「そうか……返しそびれたな」

にこ「……会って返せばいいじゃない」

P「遠い未来の話だからな。……奇跡でも起こらない限り、難しいだろう」

にこ「奇跡は待つものじゃないわ、起こすものよ」

P「……そうだな、会いに来てくれるよう、頑張ってみるか」

海未「何の話をしているんです?」

にこP「「 なんでもない 」」

海未「これは疎外感というものでしょうか……」

P「さて……今は速水玲香が出て、そのあとに舞園さやかのグループ、
  久慈川りせと続いて、μ'sの出番は……この椅子を使って」

にこ「……」ストッ

海未「水を取ってきます!」

P「いや、海未もここに座ってくれ。あ、すいません!」

スタッフ「なんでしょう?」

P「二人に飲み物を」

スタッフ「はい!」

タッタッタ

海未「そんな、悪いですよ」

P「今はそんなことに気をまわさなくていい。スタッフも成功させたい一心なんだから」

海未「……!」


P「座って、話を続けるよ。呼び捨てにするけど、了承してくれ」

にこ「構わないわ」

P「留奈と恵、そして今の二人で序盤の勢いが増した。
  これからの中盤戦、玲香、さやか、りせで更に観客をつかむ」

にこ「……」

P「そして終盤戦の、マミ、ひだり、君達でキッチリ仕上げてもらう」

海未「さ、最後なんですか私たち!?」

P「正直迷ってる、μ's、放課後ティータイム、みらい、三つの内どちらにするか」

にこ「三浦あずさ……はどうなのよ」

P「あずささんはもう満足していて――」

スタッフ「どうぞ!」

P「どうも――ラストを譲る気だ。はい、飲んで」

海未「ありがとうございます」

にこ「満足って……一曲しか歌えてないのに……」

P「あのアカペラな、実は初挑戦だったんだ」

海未「え……!?」

P「決してこのステージを練習台にしたわけじゃ――」

にこ「分かってるわよ。試しにやったことじゃないってことくらい」

P「……そうか」

にこ「じゃあ……みらいは?」

P「正直、みらいにはもう持ち歌がない。色々と規則があってさっき歌った曲以外、ここでは披露できないんだ」

にこ「……じゃあ――」

P「分かりやすい選択でいうなら、μ'sか放課後ティータイムだ。……どちらかにみらいを加えるという手もある」

海未「にこ、私たちと一緒に踊ったあの曲を……あ」

P「どうした?」

にこ「一曲だけ一緒に躍ったことがあるけど、みらいは希の代わりをしただけで、歌ってすらいないわ」

海未「そうですね……」



ワァァアアアア!!


『みんな、応援ありがとう~!』


P「玲香が終わった」

にこ「……」

海未「どうします? 穂乃果を、みんなを集めたほうが」

P「君が決めてくれ」

にこ「わ、私!?」

P「最後をどう締めくくっても、誰も文句はいわない」

にこ「ど、どうして!?」

P「この流れを作ったのは君だからだ」

にこ「え、え!?」


P「ヴェガから降りようとする『飯山みらい』、彼女を引っ張ったのは君――『矢澤にこ』だろ?」

海未「どうしてそれを……」

P「君達を見ていたらわかる。みらいが君に寄せる信頼」

にこ「みらいが……?」

P「事務所のいざこざもあって、みらいがフリーでやってるのも知ってる」

にこ「……私じゃないわ、あれは穂乃果が」


「にこちゃんだよ」


海未「穂乃果?」

穂乃果「あの時、展望車にみらいちゃんを連れて来たのはにこちゃんだもん」

にこ「……っ?」

絵里「混乱してるみたいね……」

真姫「…………」

P「水を飲んで、深呼吸をして、リラックスしよう」

にこ「う、うん……」

凛「素直なにこちゃんも大好きにゃー!」

花陽「り、凛ちゃん……落ち着いてっ」

ことり「二人が戻ってこないから、みんな心配したんだよ?」

海未「そうでしたか……迎えに来てくれたのですね」

P「……落ち着いた?」

にこ「……まぁ……はい」

穂乃果「あの時、展望車にみらいちゃんを連れて来たのはにこちゃんだもん」

海未「同じ台詞を言うなんて……やり直しですか……」

にこ「それは事情を聞くためでしょ、穂乃果」

穂乃果「ううん、私たちの中へ、にこちゃんがみらいちゃんを連れて来たんだよ。そうだよね、ことりちゃん」

ことり「うん。それがあったから話ができた」

にこ「……」

穂乃果「だから、にこちゃんが決めてよ」

にこ「……っ」

P「『飯山みらい』がヴェガに乗り続けていると知ったから、あずささんはこのアイドルイベントに参加することを決めた。
  ヴェガに問い合わせたのは律子だが」

にこ「……!」

P「そして、あずささんが……このフリーイベントに参加したことで他のアイドルたちも気持ちが乗った」

にこ「……」

P「みんな、純粋に歌を歌って踊りを踊って観客を楽しませたい気持ちなんだ。
  このステージが生まれたのは、『矢澤にこ』、君のおかげだ」

にこ「――!」


ワァァアアアアア!!!


『応援ありがとうございました~!』


P「さやかが終わったか……順調だな」

にこ「まだ考えが……纏まらない……!」

P「焦らなくていいよ、まだ時間はあるから」

にこ「だ、だけど……」

穂乃果「にこちゃん……」

希「きっと、事の大きさを理解しているから……すぐに決められないんやね」

絵里「えぇ……」

「プロデューサー、ちょっといいですか?」

花陽「り、りせちーだ!」

凛「おぉー」

P「……どうした?」

りせ「この子の様子が……」

ひだり「うぅ……おえっ」

にこ「あ……」

真姫「ちょ、ちょっと!」

花陽「ひだりん!?」

ひだり「き、緊張して……吐きそう…です……ぅぇ」

P「すいません! スタッフの方いませんか!?」

スタッフ「はい、なんでしょう!?」

穂乃果「ば、バケツ――」

P「観客に、この子の弟が来ているはずです、連れて来てください」

ひだり「なふぇそれふぉ!?」

スタッフ「それは構いませんが……どこですか?」

P「クマのぬいぐるみを抱っこした女の子と一緒にいるはずです、さっき見たときは後ろ側にいました」

スタッフ「わかりました!」

タッタッタ

ひだり「ななな、なぜそれを知っとうと!?」

P「君の名前は鈴音だろ? 会場の下見を姉弟で来ていたのを覚えてるし、
  女性に対して失礼な言い方だが、体系をみれば同一人物だとわかる」

ひだり「こ、このことはご内密にぃ、お願いしましゅ!」

P「秘密だったのか……悪いことしたかな……」

ひだり「いいえ……弟は知ってますから平気だがっ」

P「そうか。……悪いけど、花陽、ひだりを連れて行ってもらえるか?」

花陽「は、はい!」

ひだり「うぅ、ごめんねぇ」

花陽「いいえ、これくらい平気ですっ」


P「りせは急いでステージに上がってくれ」

りせ「はい! テレビノナカで鍛えた私のペルソナ、みんなに披露しちゃう♪」

テッテッテ


絵里「ぺるそな?」

P「もう一人の自分か……意味深だったな……」


ワァァァアアアア!!


にこ「……」

P「考えはまとまった?」

にこ「えぇ、私たち……μ'sが出るわ」

P「……わかった」

真姫「いいの? そんなおいしいところを、私たちなんかが持っていって」

にこ「どうしてもやりたい曲があるのよ。学園祭で踊った曲」

穂乃果「No brand girls」

にこ「そうよ……発音いいわね」

絵里「歌い終わって、倒れるのだけはやめてよ?」

穂乃果「う……」グサッ

にこ「大丈夫、私は穂乃果を越えるんだから」

穂乃果「なっ! 私だって、あの時より成長してるんだから!」

にこ「あーら、本当かしら。トラウマになってないか心配なんだけどー」

穂乃果「出来るったら! にこちゃん意地悪だよっ」

ことり「まぁまぁ、穂乃果ちゃん」

絵里「にこも煽りすぎね」

希「エリちが最初に煽ったんよ?」

海未「それでは、時間もありませんので、最終確認をしましょう」

にこ「……と、その前に」

P「?」

にこ「私たちが最後じゃないわ。『三浦あずさ』と『飯山みらい』でラスト……がいい」

P「……準備しておくよ」

にこ「ひょっとして、それは最初から決まってたの?」

P「その案はあった。だけど、君達が出ることは予想してなかった」

にこ「まぁいいわ、それじゃ――」

「待ちなさいよ」

にこ「え?」

「さっきのステージ観てたけど、あんた、甘々よ」

にこ「……!」

「アンタも気付いてたでしょ、どうして言わないのよ」

P「……」


花陽「プロデューサーさん、ひだりんがありがとうって――水瀬伊織さん!?」

伊織「いいことを教えてあげる」

P「伊織、言わなくていい」

伊織「……まぁいいけど、それで気が済むのなら。頑張って想い出作りに励みなさいな」

P「伊織……」フゥ

真姫「想い出作りって……」

穂乃果「……?」

絵里「ハッキリと仰ってください」

伊織「言ってもいいの、プロデューサー?」

P「ここまで言って、黙っているのは負担になるだけだ」

伊織「じゃ、遠慮なく」

にこ「……」

伊織「あなた、体調悪いでしょ?」

にこ「――!」

真姫「ど、どうしてそれを……」

ことり「いつもどおりに踊れていたのに……!」

伊織「いつもの状態で踊れれば、それがベストね。
   完璧に踊れて100%、それが最高で満点花丸といったところかしら」

にこ「……」

伊織「でも、あんたたちは、このツインテールの――」

P「矢澤にこ、だ」

伊織「にこのせいで95%なのよ」

にこ「――ッ」

真姫「ちょっとあんたねぇ!」

伊織「それでも頑張ってるし、その状態で中々できることじゃないわ。
   だけど、周りのアイドル達に比べたらその5%にハッキリと差が出てるのよ」

絵里「……」

伊織「足りない分、それは仲間にフォローされてるところ」

にこ「……ッ!!」

真姫「どうしろって言うのよ」

伊織「?」

真姫「私たちはもう、ステージ上で倒れるわけには――」


絵里「後で倒れろ。ということですね」


真姫「……!」

希(月が満ちた……)


伊織「そういうこと。話を聞いてたら、倒れないように頑張ろう、なんて聞こえたものだから」

P「……」

伊織「今のステージはプロもアマもない。ただ純粋なアイドルしかいないのよ。
   ここで全力を出さないでどうするってのよ」

にこ「…………」

P「という、伊織の励ましだ。さ、集中してくれ」

穂乃果「は、はい!」

希「ほな、行こうか」

凛「うぅ~、武者震いにゃ~!」

ことり「緊張もあるけど、楽しみだね~」

花陽「そ、そうだね……」

真姫「……負けないんだから」

にこ「…………」

絵里「先に行きましょ」

海未「は、はい」

スタスタ


にこ「…………」

伊織「……?」

にこ「あ、ありがと」

タッタッタ


伊織「アンタに言ったの?」

P「いや、流れ的に伊織だろう」

あずさ「うふふ、二人に言ったのかも」

「でこちゃん、偉そうだったの」

伊織「あんたが言ったことを代わりに言ってあげたんでしょ美希!」

美希「そんなの知らないよ、でこちゃんが勝手にやったことなの。……ねむたい……あふぅ」

伊織「ふ、ふんっ、あれくらいが丁度いいのよ……ね?」

P「そうだな……彼女達は根性あるから……甘い言葉なんて必要ないだろう。
  彼女達を見くびっていたのは俺だな……」

あずさ「それはそうと、プロデューサーさん」

P「はい?」

美希「すやすや」

伊織「こんなところで寝るなんて……邪魔になるから端っこに片付けておきましょ」グイグイ

美希「うぅん……」ズルズル

あずさ「みらいちゃんと話をしまして、もう一度出演したいのですが、よろしいですか?」

みらい「お願いします」

P「はい、大丈夫ですよ。そのつもりでしたから」

あずさ「そこで、もう一つ提案があるのですが~」

P「なんですか?」

みらい「にこさんも一緒に歌いたいんです」


『今日は私にボコボコにされちゃったね! この幸せ者たち! BANG☆』


ウォォッォオオオオオ!!!


にこ「歓声の色が変わったわ……」

花陽「さ、さすがりせちー……」

律「あのさー、あたしらの出番ってもうないのかー?」

絵里「律、悪いんだけど、その話はプロデューサーにしてくれない?」

律「わかったぜ!」

タッタッタ


澪「待て律! 参加するつもりか!?」

梓「私たちはついで、のような歓声でしたからね」

唯「えぇ~? そうかな~」

紬「なにはともあれ、これで良し、よね!」

にこ「まだ終わってないんだけど……」

希「そういえば、これからの曲のデータ、プロデューサーさんに渡したん?」

穂乃果「私は……知らない……けど?」

絵里「真姫……?」

真姫「……」フルフル

絵里「にこ!」

にこ「わ、私は持ってきてないわよ……?」

ことり「えっと……誰も……用意してないみたい」

穂乃果「よし、プロデューサーさんに相談だ!」グッ


律「あたしらの出番は無いんだってー」

澪「そっか、残念残念」

唯「ちぇー」

紬「あらあら、せっかく着替えたのに」

さわ子「ほらね、最初から着ないからこういうことになるのよ」

梓「……なんだろう、この感覚」


P「段取り悪くてすまない! 曲のデータを至急――」

穂乃果「ありません!」

P「えぇ!?」

真姫「ネットにあることはあるんだけど」

海未「でも、それはPVですから、私たちの歌声が入っています……」

絵里「万事休す……ね」


P「作曲者は誰?」

穂乃果「真姫ちゃんが!」

P「オンラインストレージには?」

真姫「……ある」

P「……」

穂乃果「なんだ、解決だよねー」

ことり「よかった~」

P「楽譜は?」

真姫「……曲と一緒にある…けど?」

P「よし……出番だ、放課後ティータイム」

律「……来たか」ガタッ

梓「やっぱりこうなった……」

澪「呼ばれた気がするけど……気のせいだな」

紬「空耳じゃないのよ、澪ちゃん」

唯「よぉーし、やったろうじゃんかー」

さわ子「面白いこと考えるわね、あの人……」


P「5人はPVで聞いて、できるだけ耳でコピーしてくれ。これから楽譜を持ってくる」

真姫「楽譜……!?」

唯「イエス、マム!」ビシッ

さわ子「唯ちゃんはわざと間違えているわね」

P「あずささーん!」


「はーい」


P「順序入れ替わりましたからー、よろしくお願いしますねー!」


「わかりました~」


穂乃果「そのやりとりだけで対応できるの!?」

ことり「凄い信頼関係……」

P「よし、行こう!」グイッ

真姫「っ!?」

タッタッタ


絵里「引っ張られるように連れて行かれたわね……」

穂乃果「生演奏だね! すごいっ、すごいよー! 興奮の坩堝と化すよぉー!」

希「大丈夫なん?」

律「あぁ、唯は意外と出来る子だし、澪も日ごろから頑張ってるし、梓は猫だ。
  むぎも小さい頃からピアノに触れてるから……楽譜を見ながらやればなんとかな」

澪「……」ジャカジャカ

梓「……」ジャカジャカ

紬「ふんふん♪」ジャカジャカ

唯「おーいぇい! おーいぇい!」ジャカジャカ

律「あたし以外大丈夫だって、あはは!」

希「そうなん」

律「だから、話しかけないでくれ」シクシク

希「なんとかなりそうかな?」

さわ子「……」



――



P「そうです! マミの次は咲坂ひだり、三浦あずさ、飯山みらいの順です!」

タッタッタ


ピッ

P「……あとは」

真姫「どうして楽譜なのよっ、曲の方が安全でしょっ?」

P「それはそうだが、全員で作り上げてこそのライブだ、除け者は可哀想だろ?」

真姫「あの決断の早さ……あなた、この曲を知ってるのね」

P「一応、な」

真姫「……わざわざ危険な橋を……って、私たちが言えた台詞じゃないわね」


※ 出場者リスト ※


江戸前留奈 ―瀬戸の花嫁
大海恵    ―金色のガッシュ!!
ランカリー  ―マクロスF
速水玲香  ―金田一少年の事件簿
舞園さやか ―ダンガンロンパ
久慈川りせ ―ペルソナ4
巴マミ    ―魔法少女まどか・マギカ
咲坂ひだり ―もっと、姉ちゃんとしようよ
 
三浦あずさ 千早 響 春香 伊織 美希 ―アイドルマスター

μ's 放課後ティータイム 飯山みらい




―― 運営部


P「すいません! ネットとプリンター貸してください!」

スタッフ「はい、こっちです!」

真姫「借りるわよ……」カタカタカタ

P「どれくらいで出せる?」

真姫「一・二分で……」カチカチッ

P「……よし」

真姫「トークでも入れたらいいんじゃないの……?」

P「そうしたいが、それだと今までの流れを止めてしまう。最後まで駆け抜けてほしい」

真姫「……」カチッ

P「せっかく生まれたこの勢い、君達で締めくくるのが一番綺麗なんだ」

真姫「…………」カチカチッ

P「そろそろマミの曲も終わるな……」

真姫「印刷したわ。担当分もそれぞれ出してあるから」

P「早いな。後はこっちに任せていいから、戻ってくれ」

真姫「わかった……一つ訊かせて」

P「これがギターで、これがベースだな……これが……」

真姫「どうしてそこまで一生懸命なの?」

P「ドラム……リズムギターはこれか……そして鍵盤と、よし」

真姫「……」

P「これを持っていけば……」

スタッフ「プロデューサーさん、この端末使えますよ!」

P「データをメモリに移しておくか……5つありますか?」

スタッフ「あります! 元々バンド用に支給されたモノなので!」

P「使えるかもしれないな……それじゃお借りしますね!」クルッ

真姫「!」

P「うわ!? って、なんでここにいるんだ!?」

真姫「あ、いえ……その」

P「戻るぞ!」

真姫「う、うん」



―― 舞台袖


『 ティロ・フィナーレ! 』


どぉん!


ワァァァアアアア!!!



P「ちょうどマミが終わったか……」

あずさ「プロデューサーさん、ラストに向けてなんですけど」

P「あ、俺も相談したいことがあったんです」

あずさ「私達はμ'sのみんなと入れ替わりになりましたから……」

P「そうですね、多分……考えていることは一緒かと思います」

あずさ「うふふ、わかりました。最後は流れに任せましょう」

P「そうですね」


真姫「あずさとプロデューサーって……ひょっとして……?」

P「まだそんなところにいたのか……さっきから動きが鈍いみたいだけど、どうした?」

真姫「えっと……どうしてそこまで一生懸命なのよ?」

P「あずささんが出演するからだよ。俺の担当しているアイドルだから、全力だ」

真姫「……」コクリ

P「ほら、みんなのところへ戻って、時間が無いぞ」

真姫「はい」

タッタッタ


P「残り10分が勝負だな……けほっ」

「プロデューサー、信頼されたみたいだぞ」

P「世間話をしてる暇は無いんだ、響……楽譜を配らないと」

響「その機械って、楽譜を見るやつだよね?」

P「起動できるか? けほっ……っ」

響「いつもやってるから出来るぞ、任せて! 無理しないでプロデューサー」

P「助かる。このメモリに入ってるファイルを開いて準備しておいてくれ。……心配しないでいいよ、響」

響「わかった。ここはまかちょーけー!」

P「頼んだぞ!」

タッタッタ

響「とりあえず、全部起動してっと」

「響ちゃん!」

「私たちも手伝うわ」

響「春香にドジ踏まれると困るし、千早は機械音痴だから、触らないほうがいいぞ」

春香「う……」グサッ

千早「くっ……」


にこ「あれ、ひだりん……ウィッグは?」

鈴音「あたしは一条鈴音! もう隠すのは辞めたんだぜーい!」

にこ「や、自棄になってない?」

鈴音「えへへ、妹のミオミオに正体を明かしちゃったからね」

にこ「……」

鈴音「本当は、もっと早くに伝えたかったんだけど、あたし、小心者だから」

にこ「人前で歌って踊っているんだから、そんなこと」

鈴音「あるよ。自分に自信が無いから、みんなに嫌われたくないからウィッグを被って自分を偽ってた」

にこ「……」

鈴音「だけど、もう捨てた。家族が応援してくれるんだから、自分に負けたくない」

にこ「……!」

P「鈴音、出番だ!」

鈴音「はいっ!」


鈴音「見ていてね、母さん……!」

タッタッタ


にこ「あ……」

花陽「に、にこちゃん……?」

にこ「な、なんでもない」ホロリ

花陽「……」

にこ「『天まで届ける』って……そういうこと……」グスッ



ザワザワ

「誰だ……?」

「特別ゲスト……?」


『驚かせてすいません! 私……咲坂ひだり……です!』


ザワザワ

「は……?」

「なんだ?」

 ザワザワ


『同一人物かどうかは歌を聞いて判断してください……!』


咲坂ひだり ― Brand New Melody



『 溢れだす melody 約束の

   優しい風は um…memory 』


『 叶うまでvoices

   歌い続けるstory いつまでも 』

Brand New Melody
http://www.youtube.com/watch?v=Y2Fc5TBmoxM


「鈴音ー!」

「すずちゃーん!」

「ひーだりーん!!!」


『 心ほどいて そっと眼を開けば

   こんなにも たくさんの 愛に 出会えてたんだよ 』


『 そうよ brand new day 

   毎日が うまれ続ける 駆けだして 』


『 キミと brand new world

   歌にのせ 今日の奇跡
    
    天まで、響け 』



『 素顔のままで 輝いて
 
   今日の奇跡

    空まで、届け 』


『 天まで、響け 』



りせ「ふぅん……」

留奈「知名度の低いアイドルだと思ってたのに……!」

恵「この歌声は……」

さやか「本物……」

マミ「うかうかしていられないですね……」

にこ「鈴音……」

みらい「……歌にたくさんの想いが込められていました」

あずさ「彼女も、支えてくれる人がいるのね」

千早「そうですね……芯の強さが伝わってきます」

春香「もっと歌いたいなぁ」

響「自分もだぞ」

伊織「もう少し早く到着していれば……参加できたのに……!」


穂乃果「す、すごいよ、にこちゃん……!」

律「トップアイドル達と肩を並べているな……」

花陽「と、とてもじゃないけど……向こうへはいけない」

凛「にこちゃん……出世したにゃぁ」

絵里「変なこと言ってないで、集中しなさい」

紬「りっちゃんも」

律「へい」


ワァァアアアア!!


鈴音「緊張したぁー!」

あずさ「はい、ターッチ」スッ

鈴音「いえーい!」スッ

パァン


にこ「ちょっ、鈴音っ、恐れ多いわよっ」

鈴音「うひひ、めっちゃテンション上がってるから怖くともなんともないぜー!」

にこ「ななな……」


あずさ「それでは行ってきますね、プロデューサーさん」

P「はい、いつもとは違いますけど……いつものように、です」

あずさ「はい」

みらい「……」ペコリ

テッテッテ

P「あ……しまった。……みらいに何も言えなかった」


鈴音「はぁー、楽しかったー!」

にこ「ウィッグ被ってる時のほうが大人しくてよかったじゃないの……?」

鈴音「それは言いっこなしだぜ、ブラザー」

にこ「あんたね……」

絵里「お喋りしてないでこっちに来なさい、にこ」グイッ

にこ「あぅ」




三浦あずさ ― my song


『 始まってゆく

  果てなく続くひとつの道を 』


『 駆け出してゆく
  まっさらな名もない希望を抱いて 』


『 どんな行き先でも
  喜びと悲しみは廻る 』

  
『 辛くても進んでゆけるのは 』


『 大切な夢があるから 』


にこ「……一転してバラード」

花陽「…………」

凛「観客のみなさんも静かに聞き入ってる……」


my song
http://www.youtube.com/watch?v=PRkUEmJkLZI


『 Stay この My Love Song

  エールくれる人よ  愛を込め贈ろう

  Shine 輝いて  ねぇ幸せあれ

  いま明日が生まれる 』


P「どうだ、律?」

律「うーん……聞き慣れない曲をいきなりやれって無理だろ、普通」

P「……そうだな」

律「そりゃ、何度か聞いてイメージは掴めたけど……ぶっつけ本番って……」

P「普通は無理だよな」

律「ったりめーだ!」

P「プロと同じステージに立てたんだ、普通とは違うものを感じたんだが……」

律「え?」

P「……仕方ない、少しずるいけど、ドラムは合わせる感じで頼む」

律「な、なんだよ、合わせる感じって」

P「ここまできてバンド無しは避けたい。だからベースに――」

律「ち、ちげえよ! その妥協案は何だって聞いてんだよ!」

P「無理なんだろ?」

律「むっか! いいですよ、やってやるですよ!」

梓「なんですか、その口調は」

P「頼むな、すべてはドラムに懸かっているんだ」

律「任せろ!」

澪「……名プロデューサーと呼ばれるだけあるな。お釈迦様の手のひらで遊ぶ田井中律だ」ウンウン

さわ子「澪ちゃん、ここの部分だけど、慣れていないはずだから気をつけてね」

澪「は、はい!」

さわ子「梓ちゃんはこの辺り、少し遊んでみてもいいかも」

梓「いいんですか?」

さわ子「あなたたちの音楽を取り入れないと意味ないでしょ」

梓「でも……穂乃果たちは戸惑うはずです」

さわ子「そのための打ち合わせよね、絵里ちゃん」

絵里「はい。……みんな、聞いてのとおり少し変化があるから本番で間違えないよう気をつけて!」

「「 はいっ 」」

穂乃果「呑まれないように頑張らなきゃっ!」

梓「負けないから」

穂乃果「こっちだって!」

さわ子「いい感じに火花が散ってるわね」ウンウン


P「あの人……うまいな……」


『 Stay この My Love Song

  エールくれる人よ

  愛を込め贈ろう
  
  Shine 輝いて

  ねぇ幸せあれ

  いま明日が生まれる 』



『 終わらない My Song... 』



唯「おーいぇい!」

紬「ふむふむ」

唯「おーいぇい!!」ガタッ

バサッ

澪「あー! 唯!!」

唯「お?」

澪「楽譜が飛んでいった!」

P「大丈夫だから、集中しててくれ」

澪「で、でも、汚れてる」

P「大丈夫、大丈夫。……よかった、端末持ってきて」


みらい & あずさ ― ノン・トロッポ


『 心を映し出す 丸い月 赤くやんなり浮かぶ 誰にも知られず
  私を形作るすべてが 涙をもっていると 誰にも言えずに  』


『 それでも明日は満ちている この先にずっと わたしは自分に偽りはしない 』


『 仮面を脱ぎ捨て 素顔の自分に出会うの 私は恐れを知らない
  過去には縛られずに 背を向け サヨナラと進む 私の軌跡 』


花陽「あずささんとみらいちゃんのデュエット……!」

絵里「綺麗な旋律ね……」

にこ「……」

希「さっきまで歓声を上げていた観客も静かに聞き入っとるようやね」

海未「なかなかお目にかかれないステージです」

凛「……この後、凛たちが出ていいのかな」

真姫「それは……」

ことり「こ、ここまできたんだもん、頑張ろうっ」

穂乃果「その通りだよ、みんな! 最高のパフォーマンスを披露しようよ!」

絵里「……私たちも楽しみましょ、希」

希「ふふ、そうやね。……それでこそ、ウチらの生徒会長、エリちや」

絵里「?」

希「ううん、なんでもな~い」


にこ「よぉーし! 最後の気合を入れるわよー!」

唯「おいっす!!」

紬「わかったわ、にこちゃん、お願いね!」

にこ「わ、私っ!?」

穂乃果「自分で『やるぞぉ!』って言い出したんだから!」

真姫「そうよ、時間が無いから早くして」

にこ「むむむ……さっきので言いたいこと言ったから……」

澪「うん、さっきの言葉は胸に来た」

にこ「!」

律「ああいうの、もう一回しようぜ」

にこ「わかった。……それじゃ、とっておきの魔法をかけてあげるわ」

ことり凛花陽「「「 マホウ? 」」」

にこ「そうよ、これさえやっておけば、怖いものなんてないんだから!」


絵里「まさか……」

希「オチが読めた」

真姫「……私も」

梓「?」


にこ「それじゃ、みんな、私に付いてきて!」

紬「わかったわ!」

澪「よ、よし」グッ

にこ「せぇーのっ」


にこ「にっこにっこにー♪ はいッ!」


穂乃果ことり海末「「「 にっこにっこにー♪ 」」」


唯「おぉ……!」


海末「あぁっ、いつもの癖でやってしまいました……ッ!!」

ことり「わ、私も釣られちゃった……っ」

穂乃果「気合入ったー!」


にこ「ほらもう一回! にっこにっこにー♪」


澪紬唯「「「 にっこにっこにー♪ 」」」

律「っ!?」

梓「むぎ先輩まで……、というか……澪先輩」


澪「…………」


さわ子「あの子、無表情になったわよ」

律「……『私、今なにをしたんだ?』って自分を見つめ直しているんだよ」



澪「危ない危ない、乗せられるところだった…………フゥ」


凛「かいてもいない汗を拭ったにゃ」

律「『私はそんなことしていない』と、過去を改ざんしやがった……」


澪「……」チラッ

梓「ミテマセン」

澪「!」ボフッ


穂乃果「頭から蒸気がっ」

律「現実を受け入れたか……」


澪「あぁぁっ、恥ずかしいッ!」

にこ「……なんなのよ!!」


絵里「こうなるわよね」

希「しょうがないんよ」

真姫「……絵里と希は、やったことないわよね」


絵里希「「 っ!? 」」


真姫「私達、『アイドルのなんたるか』を教えられる為に何度もやらされているんだけど」

花陽「……うん」

海末「そういえば……」

ことり「……そうだね」

穂乃果「やってみようか、二人とも」

凛「おー? 予想外の展開にテンション上がるにゃー!」

にこ「それでこそμ'sってもんよね、時間も無いから元気よく行くわよ~」


絵里「プロデューサーに確認したい事があるから、少し席を外すわね」

希「あ、ウチも」

絵里「私が行くから、希はここで待ってて」

希「いつもエリちが大変な思いしてるの、知ってるんよ? ウチに任せて」

絵里「大変なんてことはないの、私が行くから」

希「ええんよ、無理せんでも、ウチが行く」


さわ子「深刻な顔で譲り合ってるわね……」


絵里「二人で行きましょう」

希「そやね」


海末「逃げようとしていますね」


P「もめてるのか……?」

穂乃果「あ、ちょうどいいところに~♪」

絵里希「「 …… 」」

真姫「ほら、もう逃げられないわよ」

にこ「観客を笑顔にしたいんでしょ!」


絵里希「「 ………… 」」


にこ「こっちを見なさいよ!」

春香「代わりに私たちがやります! ね、響ちゃん!」

響「なんだか知らないけど、面白そうだからやってみるさー!」

にこ「ゑ!?」


穂乃果「おぉ……まさかの展開……」

唯「もう一回だよ、むぎちゃん!」

紬「わかったわ! あずさちゃんもね!」

梓「うぅ……ぅ!?」

律「梓の中で熾烈な戦いが繰り広げられている……」

澪「みんなでやるなら……」


りせ「なになに、盛り上がってるけどどうしたの?」

さやか「なにか、気合の入るおまじないをするそうです」

マミ「魔法って言っていたような……? まさか、彼女も魔法少女?」


にこ「ななな……!?」

絵里「どうやら、やるしかなさそうね……」

希「そやね……」

留奈「楽しい事なら仲間に入れて欲しいな~☆」


P「よくわからないけど、やってみせてくれ、時間が無いぞ」

にこ「わ、わかったわ……!」


にこ「そ、それじゃー、行くわよー!!!」


「「「 おぉー! 」」」


凛「こうなったら凛たちもやるにゃ!」

花陽「うん……!」


にこ「せーっの!」


にこ「にっこにっこにー♪」


絵里希「「 にっこにっこにーッ!! 」」

凛花陽「「 にっこにっこにー♪ 」」

澪唯紬「「「 にっこにっこに~♪ 」」」

梓「に…にっこ……にー……」


響「にっこ……んっ!?」

春香「にっこにっこにー♪」

伊織「春香……あんた、馬鹿みたいよ?」

春香「えぇ!?」ガーン

千早「真なら、まっこまっこまー……プフッ……フフッ」フルフル

P「おい千早、大丈夫か」


留奈「……これは……パスね」

りせ「……うん」

さやか「……ふぅ、危ない危ない」

玲香「ちょっとやってたよね、さやかちゃん?」

さやか「楽しそうだったから……っ」

律「見てるほうが面白いな」

さわ子「そうね」


亮太「意外と冷静だ……」


にこ「……もういい、……封印する」

穂乃果「にこちゃん! 私たち見てるだけだったけど、絵里ちゃんたちやってたよ!」

にこ「……自棄気味だったじゃないのよ……もういいから」

海末「明日から毎日、私たちはやります! にこの精神を見習いますから!」

にこ「心にも無い事を言って……もういいの、にこにーはみんなの前から姿を消すわ」

ことり「にこちゃぁんっ、そんな寂しいことを言わないでっ」

希「にこっち、あれを見るんよ」

にこ「うるさいわね……希だけは楽しくやってくれると信じてたのに……」

希「それは謝るけど」

にこ「謝るなら同情はいらないのっ」


ティオ「にっこにっこに~♪ どう、恵!」

恵「ふふ、気に入ったのね、ティオ」

ティオ「なんだか楽しくなってくるわ! にっこにっこにー♪」

鈴音「あたしもこれ好き、にっこにー♪」

マミ「私もちょっと好きかも、にっこにー♪」

ティオ「違うわよ、にっこにっこにー♪ よ」

鈴音「にっこにっこに~♪」

マミ「ふふ、にっこに~♪」

ティオ「あははっ、上手上手!」


にこ「アイドルやっててよかった……」ウルウル

穂乃果「子供って無邪気でいいよね」ウンウン

海末「にこを見て頷かないでください」

にこ「さぁ、最高のステージにするわよー!」

ことり「よかった、元気を取り戻してくれて」

真姫「単純ね……まぁ、そこがいいとこだけど」

凛「……」ウンウン

さわ子「子供の笑顔が一番の魔法なのよ」キラン

澪「あ、靴の紐が解けてる」

さわ子「…………」


花陽「いい事いってたよね……?」

凛「聞こえなかったけど、なんて言ってたの?」

花陽「子供の笑顔が一番の魔法って」

唯「おぉ、いい事いった!」

紬「素敵な言葉ね、花陽ちゃん」

花陽「わ、わたしじゃないですっ」


P「少し、浮き足立ってるな……」

亮太「?」


P「さて、いよいよ最後の時間だ!」


伊織「100%越えるのがプロってもんよ、見せてみなさい」

響「応援してるさー!」

千早「えぇ、みなさんの姿、この目でしっかりと見させてもらいます」

春香「ファイトですよ、ファイトっ!」


にこ「……!」


留奈「私様がお膳立てしてあげたんだから、全力出さないと承知しないわよ……なんて☆」

恵「頑張ってね、みんな」

玲香「おいしいとこ、全部持っていっちゃえ!」

さやか「信じあえる仲間がいれば、希望は必ず」

マミ「円環の理に導かれて、あなたたちはあのステージへ立つのよ♪」

りせ「敵は自分の中の怯える自分、受け入れてこそ本当の自分になれる、ってね」

鈴音「ここからみんなで応援しているから!」


穂乃果「みんなありがとー!! よぉーっし!!」

海末(一人だけ難しいことを言っていましたね……)


P「放課後ティータイム、スタンバイだ」


唯「行くよ、みんな!」

律「よっしゃー!」

澪「全力だ!」

紬「みんな一緒よね!」

梓「先に行ってます!」

にこ「うん……!」

タッタッタ


にこ「さて……!」

希「あれ、やな」

絵里「あれ、ね」

にこ「さぁ、みんな手を出して!」

ことり「うん!」

花陽「……!」

凛「うー、ふかー!」

真姫「……誰に威嚇してんのよ」

海未「…………」


穂乃果「いち!」

ことり「に!」

海未 「さん!」

真姫 「よん!」

凛  「ご!」

花陽 「ろく!」

にこ 「なな!」

希  「はち!」

絵里 「きゅう!」

星奈「じゅう!」


真姫「……」

海未「……」

星奈「なぁんちゃって!」

にこ「ほら、邪魔するんじゃないわよ星奈、少しどいててくれる?」グイグイ

星奈「あ、冗談だよ冗談~! みんな衣装カワイイね!」グッ

にこ「どうやって入ったのよ」

星奈「梓ちゃんに入れてもらったんだよん。みんなを近くで応援しようと思って」

真姫「……」

星奈「だけど不審者扱いされちゃってさ~、いや~……参った…参った……あはは……」

真姫「…………」

星奈「あ、あれ……視線が痛い……お呼びでなかったかな」


亮太「まぁ、お呼びではないな……」

留奈「誰なのあの人、スクールアイドル?」

亮太「いいえ、ただの一般人です」

恵「ふふ、張り詰めてた空気が解けちゃったね」

ティオ「空気読めないわね、あの人」

P「いや、ある意味、空気を読んでくれた。ああいう関係は貴重だな」

ティオ「?」


真姫「…………」

星奈「えぇ……私なにかした?」

にこ「知らないわよ。私は寝込んでいたんだから」

絵里「自分の胸に手を当てて考えてみることね」

星奈「うぅーん?」

真姫「どうするのよ、せっかくの空気が冷めちゃったじゃない」

星奈「あ、本当にごめん……」

海未「……」

真姫「……まったく、こんな時に顔を出すなんて」


あずさ「あら?」

みらい「どうしたんですか?」

真姫「なんでもない……」

みらい「あ、星奈さん」

星奈「観てたよ、すっごかった!」

あずさ「あらあら」

星奈「うわっ、伝伝伝に出てた人! すっごい綺麗~!」

あずさ「うふふ、ありがとう」

星奈「いえいえ――」

にこ「慣れなれしいのよあんた!!」グイッ

星奈「うわっ?」

みらい「にこさん、ありが――」

にこ「ストップ」スッ

ビシッ

みらい「いたっ!?」

にこ「私たちはこれからなんだから、終わったようなこと言わないで」

みらい「す、すいません」

あずさ「うふふ、誰かさんに似てるわね~」


P「放課後ティータイム、スタンバイオーケーだ」

穂乃果「ちゃんと見ててね、星奈ちゃん!」

星奈「一番近くで応援してるから!」

にこ「みらいも、見ていなさいよ!」

みらい「はい!」


にこ「さぁ、行くわよ、みんな!」


「「「 はい! 」」」

No Brand Girls
http://www.youtube.com/watch?v=_HSXEQLObHY


μ's & 放課後ティータイム ― No brand girls


ジャジャッジャッジャジャジャー


Oh yeah! Oh yeah! Oh yeah!

 一進一跳!

 Oh yeah! Oh yeah! Oh yeah!

  ほら負けないよね?



悔しいなまだNo brand

 知られてないよNo brand

  なにもかもこれから熱い気分


楽しいよNo brand(Do you know?)

 張り切ってるんだNo brand(Do you know?)

  だから(おいで)ここで出会うために(Yes,I know!)
   

目指す場所は(高い)

 いまより高く(どこまで?)

  チャンスの前髪を

(持って)はなさないから

 (ぎゅっと)はなさないから

  (Oh yeah!)奇跡の虹を渡るんだ



闇をHi Hi Hi 吹き飛ばそうよ Hi Hi Hi 追い払おうよ

 自分からいまを変えればいいのさ

  Hi Hi Hi 吹き飛ばそうよ Hi Hi Hi 追い払おうよ

   勇気で未来をみせて


そうだよ覚悟はできた


Oh yeah!


  全身全霊!


Oh yeah! Oh yeah! Oh yeah!



タンタタタン......


ワァァアアアアア!!!

 ワァァアアアアア!!!


穂乃果「はぁっ……はぁ……」

ことり「……っ……はぁ」

海未(にこ……)

にこ「はぁっ……ッ」

絵里「にこ、カーテンコールよ」

にこ「わ、わかった……」

希(足が動かなそうやな……)

にこ「私じゃなく、前を見て」

花陽「……!」

凛「……!」

真姫「……」

穂乃果「μ'sでした! みなさん、ありがとうございました!!」


「「「 ありがとうございました! 」」」


ワァァアアア!!


「にこにー!」


にこ「っ!?」

海未「乗客の人ですね、返事をしてはどうですか?」

にこ「星奈が言わせたのね、きっと……」フリフリ


あずさ『ただいまのμ'sの演出をもちまして、松本でのイベントは終了となります~』


アズササァァアン


あずさ『いきなりマイクを持たされてしまって、うふふ、困ってしまいます~』


あずさ『それでは、最後に一人ずつ紹介をした後、幕を下ろしたいと思います』


絵里「もうちょっとよ、にこ」

にこ「大丈夫だから、不安そうな顔を……しないで」

凛「し、してないっ」

真姫「支えてあげるから、私に持たれたら?」

にこ「だいじょうぶ……!」


あずさ『生演奏だった最後の曲を披露してくれたのは、 
    放課後ティータイムのみなさんでした、みなさん盛大な拍手を~』


パチパチパチパチ

  パチパチパチパチ


唯「桜が丘高校・軽音部でした!」

梓「唯先輩、前に出ないでくださいっ」

澪「……」

律「……ふぅ」

紬「うふふ」


あずさ『スペシャルゲストで駆けつけてくれた、天海春香ちゃん、如月千早ちゃん、我那覇響ちゃん!』

春香「ありがとうございました~!」

千早「……」ペコリ

響「楽しかったぞー!」


にこ(まずいわ……足が震える……)


あずさ『それから、このステージを製作してくれた江戸前留奈ちゃん!』

留奈「私じゃなくて~、パパなんですけどぉ~、でも、細かいことは言いっこなし、えへ☆」


あずさ『そして、大海恵ちゃん、速水玲香ちゃん、舞園さやかちゃん――』


にこ(限界――……)


P「後ろに下がって、少しずつ移動するんだ」


にこ「!」


あずさ『巴マミちゃん、久慈川りせちゃん、咲坂ひだりちゃん。
    蘭花ちゃんともう一人の方は都合があって会場を後にしました~』



にこ「ふぅ……はぁ……」

P「ほら、そこの椅子に座って」

にこ「無理……」ペタン

P「……頑張ったな」

にこ「もう、いいでしょ?」

P「あぁ、横になってもいい」

にこ「疲れたぁ……」ゴロン

P「俺の上着で我慢してくれ」ファサ

にこ「……ふぅ……高いんじゃないの、このスーツ」

P「アイドルを床に寝かせてるんだ、とっくにプライドは崩れてるよ……伊織ー!」

にこ(アイドルを最優先にするのね……どこかのマネージャーとは大違い……)


伊織「……なによ」

P「俺の代わりに、ここに居てくれ」

伊織「な、なんで私が」

P「俺が居るよりいいだろ」

伊織「……しょうがないわね」

P「頼んだぞ……最後の曲を準備してくる」

タッタッタ


伊織「……まったく」

にこ「……終わりでしょ?」

伊織「あの二人、あずさとプロデューサーはまだ何かをやるつもりね」

にこ「……?」

伊織「よかったわ」

にこ「……!」

伊織「根性あるじゃない」

にこ「……私が倒れて、みんなの努力を無駄にしたくなかったから」

伊織「プレッシャーは無かったの?」

にこ「……あった。……本音を言うと押し潰されそうだった……だけど、みんなが居た」

伊織「……」

にこ「一度、苦い思いをしてるから……二度と味わいたくないって、
   みんなとまだまだ一緒に踊りたいって……それだけが支えだったから」

伊織「……」

にこ「それに……」

伊織「?」

にこ「アイドル、みんなが創ったこのステージ……絶対に……倒れるわけには……っ」

伊織「……」

にこ「……っ」

伊織「プロデューサーが楽しそうにしていたのはそれだったのね……」

にこ「……?」

伊織「あんたたちも含めて全員が本気でやってたでしょ。だから夢中にれたのよ」

にこ(認められたってこと……? よく考えたら、あの水瀬伊織が介抱してくれているなんて……!)

伊織「体のことを忘れるくらいに……夢中だったのよね、プロデューサー……」

にこ(体…? そういえば何度も咳をしていたわね……体調悪いのかしら)

美希「うぅん……あたたかそうだから…………こっちで寝るの……」

にこ「星井美希!?」

美希「仕事で疲れてて…………参加できなかったけど…………すぅ……すぅ」

にこ「寝つきはやっ、って、添い寝なの!?」

伊織「美希のせいで遅れたのに……っ、寝るんなら来なければよかったじゃいのよ……!」プンスカ



あずさ『飯山みらいちゃんでした~!』

みらい「ありがとうございました!!」


にこ「みらい……」

星奈「みらいちゃんも輝いてたよ」

にこ「……当然でしょ」

星奈「スタッフさんが慌しいけど、まだなにかあるのかな?」

にこ「……それは知らないけど、星奈、あんた真姫に何をしたのよ」

星奈「それが、思い当たる節が全然なくてさ……」

にこ「すごい怒ってたわよ?」

星奈「どうしよ?」

にこ「素直に謝ることね」

星奈「……そうだよねぇ」


――


P「どうした、亮太」

亮太「いえ……すごいなって思って」

P「あの時、亮太が怒ってくれたから俺は冷静に状況を判断できた」

亮太「!」

P「ありがとう」

タッタッタ


亮太「……俺なんかにフォローまでしてくれるのか……あんな人もいるんだな」


――


あずさ『それでは、みなさん――』


「「「 ありがとうございましたー!! 」」」


アーズーサ

 アーズーサ!


あずさ『あらあら、まぁ……』


アーズーサ!!

 アーズーサ!!!


真姫「な、なに?」

花陽「アンコール、かな?」

絵里「……」

海未「これは……」


唯「あずにゃんコール!?」

梓「本当にやめてください、唯先輩……」

紬「……」

澪「むぎ?」

紬「……すごい、景色ね」

律「だな、ここに来なかったら絶対に見られなかった」


あずさ『そうですね、結局私は、出番が少なかったですから……最後に一曲』


オォォォオオオ!!

 オォォォオオオ!!


凛「さすがトップアイドルにゃぁ……」

ことり「絶大な人気だね」

希「声が地響きを起こしとる……すごい」

穂乃果「い、いつか私たちも……こんな風に応援されたい!」フルフル


にこ「寝て……いられないじゃないの!」ガバッ

テッテッテ


星奈「あらら、病み上がりなのに」

伊織「……参加できないのがこれほど悔しいなんて」

美希「むにゃむにゃ」



あずさ『隣に・・・』



― 空に抱かれ、雲が流れてく 風を揺らして木々が語る


― 目覚める度、変わらない日々に 君の抜け殻探している




……




―― ヴェガ


花陽「会場全体のコーラス……胸に響いて…」グスッ

凛「凛も、感動したにゃぁ」グスッ

真姫「か、会場が一つになって……」

ことり「……」ポワポワ

絵里「観客にも泣いてる人がいたわ……あれがトップアイドルの力……」

希「……うん。今はもう……胸がいっぱいで……頭が空っぽや」

穂乃果「あんな経験……滅多にできないよぉ」

海未「はい……一番近い場所で聞けるなんて……私たちは幸運でしたね……」

にこ「…………」


P「みんな、おつかれさま」

穂乃果「お、お疲れ様です!」

P「他のアイドルたちも、君たちのことしきりに褒めてたよ」

穂乃果「本当ですか!?」

P「うん、楽しめたのはμ'sのおかげだ、ありがとうって言ってた」

穂乃果「うわぁ! すごいよね、うみちゃん!」

海未「そうですね、そう言ってくれるのはとても嬉しいですね!」

穂乃果「ところでプロデューサーさん、私たちの次のステージなのですが!」

P「え?」

海未「強引に私たちのプロデューサーに仕立て上げないでください。相手はプロのお仕事なんですよ?」

穂乃果「あはは……そうだよねぇ」

P「今回はとても楽しめた。それは君達がいたからこそだと俺も思っている、最高の時間をありがとう」

穂乃果「プロに褒められたぁ……」ジーン

P「また一緒に仕事が出来る日を楽しみにしてるよ」スッ

穂乃果「は、はい! いつの日か、また!」スッ

ギュ


穂乃果「いつの日かといわず、明日にでも!」

海未「穂乃果!!」

穂乃果「じょうだんだよ~」

ことり「目が本気だよ~」

P「手を……離してくれないかな……」

ギュ


穂乃果「私たちをプロデュースできるのはあなたしかいません!」

海未「いい加減にしてください!」グイッ

穂乃果「くぅ~ん」

海末「犬ですか!」

P「これも個性だな……」


にこ「あの、聞きたいことが……」

P「みらいのことだよな?」

にこ「うん……」

花陽「そ、そう言えば」

凛「さっきから見当たらない……」

P「あずささんと話をしてるよ」

にこ「伝えたかったことがあるって言ってたけど……?」

P「おそらく、それだろうな。もうすぐ来るはず……」

真姫「……」

絵里「そういえば、軽音部のみなさんもいない……」


「プロデューサーさ~ん」

P「……きた」

真姫「……へぇ」

絵里「どうしたの?」

真姫「この二人、ひょっとしたら、と思ってたけど……ただのプロデューサーとアイドルの関係じゃないみたい」

にこ「な、なによそれ?」


あずさ「話は終わりました~」

花陽「り、凛ちゃん、わたしを隠してっ!」ササッ

凛「いい加減慣れて欲しいよ、かよちん~」

みらい「みなさん……」

にこ「……」

P「大事なこと、ちゃんと伝えられたんですね」

あずさ「はい……あ、いいえ。それはまだ~」

P「え?」

あずさ「にこちゃん」

にこ「は、はい!」ビシッ

穂乃果「背筋が真っ直ぐ伸びた……」

海未「茶化さないでください」

あずさ「みらいちゃんは私の所属する事務所に入ることになりました」

にこ「そ、そうですか……」

あずさ「私が松本のアイドルイベントに参加しようと思ったのは、みらいちゃんと出会う為だったんです」

にこ「……」

あずさ「仕事現場で、『飯山みらいが事務所を辞めた』と聞いて、
    うちの事務所に戻ってきてもらうチャンスだと思ったんですね」

にこ「…………」

あずさ「それをプロデューサーさんに伝えたところ、すぐに許可をいただきまして、
    今回のイベントに参加することになりました」

にこ「……」


あずさ「律子さんもそれを望んでいて――」

P「あずささん、要点をまとめて下さい……時間が……」

あずさ「そうですね。えっと……そういうことなので……私たちと頑張るから、安心してね」

にこ「……はい」

P「纏めすぎた……」

あずさ「本当は、それが目的だったんだけど、いつの間にか規模が大きくなっちゃって……」

絵里「あれは意図したものではなかったのですか?」

P「あずささんの次に登録した留奈に話を聞いたけど、『楽しみたかっただけ』だそうだ」

にこ「……」

P「色々と縛りのある世界だから、たまには自由なステージに立つことも必要だと思う」

にこ「……そう」

P「最後の曲も、みらいが言い出したことなんだ」

にこ「え?」

あずさ「私とみらいちゃん、そしてにこちゃんの三人で歌いたい、という希望だったけど、
    順番が替わっちゃったから、みんなで歌うことになったのよ」

にこ「……」

穂乃果「にこちゃんが最後の会場全体の合唱を作り上げた……!?」

あずさ「うふふ、そうなるわね~」

にこ「いえ、あれは……!」

P「全ては君とみらいがきっかけだ。いい経験ができたよ」

にこ「……!」

みらい「あ、あの……」

P「あずささん、伝えたかったことはいいんですか?」

あずさ「それなんですけど、いいですか?」

P「はい……?」

あずさ「それじゃ、伝えちゃいますね」

P「あの……いまの返事は疑問系だったんですけど……」

あずさ「此処だけの話にしてね、みんな」

花陽「?」

にこ「え?」

凛「うん?」

みらい「?」

あずさ「私、来月のライブで引退することになっているの」

絵里「……」

海未「……」

希「ふむ……」

みらい「え……」

花陽「えぇっぇぇええ!?」


にこ「ほ、本当ですか!? どうして!?」

あずさ「私たち結婚するんです~」

P「ちょ!? あずささん!?」

真姫「やっぱり……ぇぇっ、結婚!?」

絵里「これは凄い情報なのでは……」

穂乃果「寿引退ですね、おめでとうございます!」

ことり「おめでとうございます!」

あずさ「うふふ、ありがとう」

真姫「ちょっと、もう結婚……!?」

P「いや、まだ……付き合ってすら……!」

真姫「まだって……?」

P「あ、いや……その……色々あってな」

にこ「」

海未「に、にこ! しっかりしてください!」

希「魂が抜け落ちたようやね」

あずさ「プロデューサーさん、病気を患っているのね。だから、私が支えになろうと――」

P「伝えすぎですよ!?」

あずさ「みらいちゃんの仲間ですから、安心していいと思います」

P「いえ、そういうことじゃなくて……!」

みらい「あずささん、私に伝えたかったことって……」

あずさ「そう、このことなのよ。大切なことだから、きちんと伝えなくてはと思って」

みらい「そうですか……はい」

希「事務所の話はついでやったんやね……」

ことり「これが芸能界……」

にこ「」

みらい「あの、にこさん……!」

にこ「はっ!? いけない……急なことに意識が飛んだわ」

みらい「……みなさんにもお話が」

P「あずささん、俺達は行きましょう」

あずさ「そうですね。それではみんな、楽しい時間をありがとう~」

にこ「は、はい! こちらこそ貴重な体験をさせていただきました!」


穂乃果「ありがとうございましたー!」

海未「私たちのために色々としてくれて嬉しかったです。ありがとうございました!」

真姫「ありがと」

P「うん、また会おう。君達とならまた一緒に仕事がしたいと思う」

絵里「そのときは是非」

希「ありがとうございました~」

凛「楽しかったにゃ~!」

P「ティータイムのみんなにもよろしく伝えておいてくれ」

あずさ「さようなら~」フリフリ

花陽「さ、さようならですっ!」


穂乃果「私たちはいつでも貴方を待っていますからね~!」

ことり「あ、二人並んで笑ってる……なんだか素敵♪」

海未「そうですね……」


みらい「ありがとうございました、にこさん……」

にこ「……うん」


絵里「……」

海未「……」

真姫「……」


みらい「……」

にこ「……」

みらい「伝えたいことが多すぎて……何から話せばいいのか」

にこ「……いいわよ、べつに。私達だって、やりたくてイベントに参加したんだから」

みらい「…………」


「みらいちゃ~ん!」


みらい「あ……唯さん」

唯「私たち帰るから、挨拶しようと思って」

みらい「演奏、とてもよかったです」

唯「ありがとう~!」ダキッ

みらい「!」

澪「こら、勢いで抱きつくな」グイ

唯「うい……」

みらい「にこさん、いつか話したファンレターの人、覚えていますか?」

にこ「え、えぇ……デビューからずっと送ってきてくれるって人ね」

みらい「唯さんなんです」

にこ「え?」


唯「そうです、私がファンレターの人です!」

にこ「……へ、へぇ」

唯「みらいちゃん、この鶏キーホルダーあげる」

みらい「あ、ありがとうございます」

澪「どうしてそんなものを……」

唯「今日という日の記念品だからだよ」キリ

みらい「ふふ、ありがとうございます」

唯「応援してるからね」

みらい「はい、頑張ります!」

にこ「……」


みらい「……あの」


にこ「降りるのよね?」

みらい「あ……ぅ……」

にこ「どうしてそう、気まずそうにするのよ」

みらい「わ、私……! 結局……なにもできず……なにも変われてない……ッ」ホロリ

にこ「なんで泣くのよっ」

みらい「にこさんに守られてただけ……ッ……ヴェガに乗って……なにも……なにもっ」グスッ

にこ「変わった……ううん、もう変わってたのよ、『飯山みらい』は」

みらい「ぐすっ……?」

にこ「鶴見亮太に背中を押されて、私の個室に入った時、あの時点でもう変わったの」

みらい「……っ」

にこ「ファンを裏切りたくないって言ったでしょ。 
   それからずっと一緒に居たからわかる、今までの『飯山みらい』とは違うって」

みらい「――!」

にこ「だから、誇っていい、胸を張っていい、今までそうしてきたように、前を見て……進めばいい……っ」グスッ

みらい「にこさん……っ」

にこ「アイドルなんだから、またそんな顔したら……デコピンじゃ済まないわよ?」

みらい「は、はい……!」

にこ「そのときは……ファンを辞めてやるんだか――」


絵里(素直になりなさい)

トン


にこ「――?」

ガバッ

みらい「に、にこさん?」

にこ「だ、誰かが押したからよっ」

みらい「……」

ギュウウ


にこ「楽しかった……」

みらい「はいっ」

にこ「札幌から、色々あったけど……全部がいい想い出だから……っ」

みらい「はい」

にこ「絶対に忘れないから……ッ」ボロボロ

みらい「……はいっ」

ギュウウ


絵里「……」

真姫「……っ」

希「にこっち……」

海未「……ッ」


みらい「私……一人じゃありませんでした……っ」

にこ「……うぅ」ボロボロ

みらい「海未さんに声をかけてもらえて……本当によかった……」

にこ「……ぅっ」グスッ

みらい「真姫とお友達になれて……本当によかった……」

にこ「……そうでしょ、一人じゃ出来ないことも、みんなと一緒なら、頑張れるんだから」グスッ

みらい「はい……楽しかった……とても……とても」

にこ「……っ」グスッ

みらい「にこさんと出会えて、本当によかった」

にこ「わたしも…みらいに会えて……よかった……っ」ボロボロ

ギュウウ


にこ「ずっと……おうえん……してるから……っ」グスッ

みらい「はい」グスッ

にこ「ずっと……友達だから」グスッ

みらい「ライバルですね」

にこ「そうよ……負けないように私も頑張るわ……!」

みらい「私も負けません」

にこ「……うん」

みらい「……」

にこ「……元気で」

みらい「……はい。お体には気をつけて」


唯「……澪ちゃん」

澪「……うん?」

唯「頑張ってよかったよ」

澪「そうだな」


みらい「それでは、ここでお別れです」

花陽「お、お元気で……」

凛「テレビをみて応援してるにゃ~!」

みらい「みなさん、本当にありがとうございました」ペコリ

真姫「……元気でね」

みらい「真姫も、元気で」

ことり「いつの日か、また会えるのを楽しみにしてるから」

穂乃果「きっとすぐ、会えるよね」

みらい「はい!」

海未「……」

みらい「海未さん、握手をしてくれますか?」スッ

海未「え、は、はい」スッ

ギュ


みらい「あの時、噴水の前で声をかけてくれなかったら、どうなっていたのかって考えていました」

海未「私もです。噴水の前で声をかけなかったら、ここに私たちはいたのだろうかって」

みらい「……」

海未「人との出会いとは不思議なものですね。小さなことで大きく変わるのですから」

みらい「……はい。この出会いが私を大きく変えてくれました」

にこ「……」

唯「……」

海未「応援していますよ」

みらい「私も、μ'sのみなさんをこれからも応援しています」

海未「ふふ、やはり……ずっと前から私たちを知っていたのですね」

みらい「はい。一生懸命に歌って踊る姿を見て、励まされていました」

にこ「え?」

みらい「私、μ'sのファンなんです」

花陽「……!」

にこ「じゃあ……札幌駅のイベントで私を指名したのは……」

みらい「はい、意図的です」

にこ「…………不思議な縁ね」

みらい「そうですね、……私はこの縁に感謝します」

海未「いつの日か、またお会いしましょう」

みらい「はい、必ず」


にこ「悪かったわね……『嫌い』なんて……言って」

みらい「……今でも、そう思っていますか……?」

にこ「まさか」

みらい「……よかった」

唯「大好きってことだね!?」

にこ「うぅ……そ、そういうことになるかもしれないわね」

海未「素直じゃありませんね」

絵里「ふふ、まったく、しょうがない部長ね……」

希「これもにこっち、やね」

にこ「なによ、それ」

みらい「くすくす」

にこ「……それじゃあ、ね」


みらい「みなさん、いい旅を」


穂乃果「行っちゃった……」

海未「振り返ることなく」

ことり「……まっすぐに」

にこ「……」

希「にこっち」

にこ「な、なによ」

希「辿り着けたね」

にこ「――!」

絵里「……」


凛「軽音部のみなさんは、どこにいるのにゃ?」

花陽「ホームにもいないみたいだけど……」

唯「……はぁ、もう少し一緒にいたかったな」フゥ

紬「娯楽車で紅茶を飲んでいたのよ。……唯ちゃん、話しかけられてるんだから、気をしっかり!」

真姫「……」

和「唯、そろそろ時間だから挨拶しましょう」

唯「え~、やだやだ、帰りたくない~!」

和「子供のように駄々をこねてもダメよ」

唯「嫌ですたい、嫌ですたい。おいどん、帰りたくないでごわす!」ドスコイ

和「お相撲さんのように駄々をこねてもダメ」

唯「違うよ、今のは西郷さんだもん」ブー

和「ドスコイって言ったじゃないのよ……」

澪「ほら、帰るぞ、律!」グイグイ

律「嫌ですたい! 嫌ですたい! 拙者帰りたくないでござる!」ズルズル

澪「キャラを統一しろ!」

紬「帰らないで欲しいですたい!」ドスコイ

和「むぎもやらなくていいのよ」

さわ子「帰りたくな~い!」

和「仕事があるって言ってましたよ」

さわ子「だから帰りたくないのよ~!」ヤダヤダ

梓「明日の天気は……曇りなんだ」ピッピ


穂乃果「凄い……並んで歩いているのに他人の振りしてる……」

ことり「慣れてるね梓ちゃん……」

にこ「なによ……個性強すぎじゃないの……!?」

希「ウチらには到底及ばない空気やね」

絵里「そ、そうね……」

真姫「……」ジリジリ

凛「真姫ちゃんが後ずさりしながら逃げようとしてるにゃ!」

花陽「だ、ダメだよ、挨拶をしないと!」クイッ

真姫「は、離して、すでに注目を集めてて恥ずかしいんだからっ」


和「どうしても言うことを聞かないのね……」ピッピピ

唯「電話しようとしてる!?」

律「させるか!」バッ

和「ちょっと、返しなさい律!」

律「誰が返すか、数学の先生に連絡を取られたら、あたしらの夏休みが無くなって――」

和「ま、いいけど」ピッピッピ

律「……どこかでみたケータイだと思ったら、あたしのじゃねえか! なんでだよ!?」

澪「……」

律「おまえか澪! でもあたしの電話帳に学校の番号は登録されてませ~ん!」

唯「やったよりっちゃん! これで思う存分駄々をこねる!」

律「よし、盛大に駄々をこねようぜ!」

和「えっと……」ピッピッピ

律「なんだ、そのメモは」

和「先生の番号」

律「ごめんなさい。帰ります」

和「駄々こねないわね?」

律「はい」

さわ子「りっちゃん、もう少し頑張りなさいよ!」

唯「そうだよ!」

和「まぁ、ただの紙切れなんだけど」

律「敵わねえ……」ガクッ


和「ということで、帰ります」

海未「はい」

唯「はいって、そんな適当な! 引き止めて欲しいよ!?」

絵里「みなさんのおかげでとてもいいステージになりました。本当にありがとうございました」

穂乃果「ありがとうございました!」

唯「えへへ、お礼を言われるのって嬉しいね」

律「気付いてるか、唯……お前はいま、流されているだけだ」


にこ「――……っ」フラッ

絵里「にこっ?」

にこ「……――え?」

絵里「いま、体が傾いたわよ?」

にこ「あ、あぁ……そう……支えなくても大丈夫。ありがと、絵里」

星奈「これは……疲労の蓄積によるものだな……うん」

にこ「……ふぁぁ…ぁ……」

星奈「頑張ったね、にこ……凄かったよ」

にこ「ん……ありがと」

星奈「感動した」

にこ「…………応援してくれたおかげよ」

律「あたしも感動したよ。……演奏中ずっとこの時間が続けばいいなって思ってた」

にこ「……!」

律「なんて、楽譜追いかけるので必死だったからあんまりよく覚えてないけどさ」

唯「うん、私も楽しかった。来て良かったって本当に思ったもん」

にこ「……」

唯「なんて、みんなの後姿しかみてなかったけどね……えへへ」

律「楽譜見てなかったんかい! すげえな!」

穂乃果「……」

澪「私も、楽しめた。……たぶん、これから先、あの時間を思い出すとき……ちょっと切なくなるんだと思う。
   夢のような、幻のような、小説の中の出来事のような……」

律「実はこれ、夢なんです……――いででっ」

澪「この痛みがあるから夢じゃないってはっきりわかる」ギュウ

律「自分の頬っぺたつねって下さいっ」ヒリヒリ

澪「とても大切で、かけがえのない時間だった。ありがとう」

にこ「……」

希「こちらこそ、みんなのおかげで楽しめました。ありがとう」ペコリ

さわ子「いいステージだったわ」

和「あの歓声がそれを証明していたと思います」

にこ「…………」


真姫「いい演奏だった。お互いを支えあう音色が心地よかった」

澪「伊達に同じ時間を過ごしてないからな」

真姫「のんびりまったりしてるって、梓さんから聞いてるけど?」

梓「う……」

律「間違ってはいないな」エヘン

澪「それも私達には必要なんだ。
  最初から約束された友情じゃない、たくさんの時間を越えて仲間になったんだから」

海未「……!」

梓「澪先輩……!」ジーン

唯「澪ちゃんがいいコトを言いました!」

紬「素敵なことを言いました!」

澪「や、やめろっ!」

律「あはは」


穂乃果「15人で目指したから、頑張れたんだと思います」

唯「うん、とっても楽しかったよ」

穂乃果「私達もです。最高のライブでした!」

唯「また一緒のステージに立てたらいいよね」

穂乃果「……そうですね!」


和「それじゃ、帰りましょうか」

唯「はいよ!」

絵里「ありがとうございました」

澪「元気でな」

海未「はい、みなさんのこと忘れません」

ことり「さようなら……」

唯「アディオース!」

凛「また、逢える日までさようなら~!」

花陽「お、お元気で!」

さわ子「気をつけて帰りなさいよ?」

律「感動の別れがぶち壊しだ! さわちゃんも見送られる側だろうが!」

梓「早くしないと、時間がないって言ってましたよ」グイグイ

紬「あでぃおーす……」

さわ子「分かったわよぅ……梓ちゃんもむぎちゃんも気をつけなさいよね」

梓紬「「 はい! 」」

唯「部室で待ってるからね」

梓「はい、お土産話をたくさん持って行きますから!」

澪「楽しみにしてる。楽しんでな」

紬「うん!」


真姫「さよなら」

星奈「バイバーイ」

律「ん~、あんたとは初めて会った気がしないんだよな」

星奈「やっぱり? 私もそう思ってたんだよね」

律「……まぁいいや。……それじゃ、にこ、ありがとな」

にこ「……うん」

律「本当は、観光ついでに参加するつもりだったんだ……」

にこ「……」

律「だけど、PV観て、リハーサルを見て、μ'sの真剣さを目の当たりにしたら……負けたくねえなって思った」

にこ「…………」

律「おかげで、いい思い出ができた。だから、ありがとうだ」

にこ「こっちこそ、ありがとう」

律「先のことなんて分からないから、あたし達が再会することはないかもしれない」

にこ「……」

律「でもさ、この時間は確かにあったとあたし達の胸の中に刻み込まれたぜ」

にこ「私も、あの時間は絶対に忘れないわ」

律「じゃあ、な」スッ

にこ「宣誓?」

律「ちげえよ! ハイタッチだよ!」

にこ「……うん」スッ

星奈「いえ~い!」スッ


パァン


律「よし、いい響きだったぜ。じゃあな」

星奈「待って! にことしてないでしょ、律!」

律「あのさ、星奈……」

星奈「……はい、すいません」

真姫「……」

海未「……」

律「じゃ、元気で」スッ

にこ「また、ね」スッ


パァン


律「それじゃあな、みんな! あばよ!」

タッタッタ


にこ「せ、星奈……?」

星奈「私は教えてないよ、律とシンクロしただけだから」


「わ、私もやってくるよ!」

「時間がないわよ、唯」

「おまたせ~」

「私たちは日常に帰るのか……それはそれで、覚悟を決めるか」

「駄目よ澪ちゃん、若いんだから守りに入ってちゃ」

「……」ペコリ


穂乃果「あ……妹ちゃん……バイバーイ!!」

にこ「……」

絵里「……」

希「……」

凛「……」

花陽「……」

ことり「……」

梓「……行ってしまいましたね」

紬「うん……」

穂乃果「雪穂たちものんびりしていったらいいのにね」

絵里「時間が無かったから、しょうがないわよ」

星奈「梓ちゃんたちは帰らないの?」

梓「私の目的地はもう少し先なので」

紬「私は最後までっ」フンス!

星奈「そっかぁ……」

海未「……」

真姫「それで、星奈」

星奈「……うん?」

海未「何事もなく溶け込んでいますが、私たちに言うべきことがあるはずです」

星奈「あ……えっと……舞台に上がる前、ふざけちゃってすいませんでした」ペコリ

真姫「……」

海未「……」

絵里「……」

穂乃果「私は……あれでよかったと思うけど……」

ことり「うん……」

希「そやね。あの時はみんな、アイドル達に応援されて興奮の坩堝と化していたから」

凛「冷静になれたにゃ」

星奈「……?」


絵里「私たちはあの時、重圧に負けないようにと、期待に応えなきゃいけないと、
    気付かないうちに気合が入りすぎていたのよ」

星奈「……」

にこ「だけど、あんたがいい具合に緊張を解してくれたから、体に余計な力を入れずに済んだわ」

星奈「それは、フォローとかじゃなくて?」

にこ「少なくとも…………私はね……」フラリ

梓「肩、借りますか?」

にこ「だ、大丈夫よ……」

穂乃果「うみちゃんと真姫ちゃんが言ってることは?」

海未「……」

真姫「……黙って、降りないでよ」

星奈「……?」

ことり「えっと……話がよくみえないんだけど……」

海未「みんなには『後で見送りにくるから』と伝えてありましたが……実のところ、私たちになにも残さず降りて行ったのです」

真姫「酷いんじゃない?」

星奈「???」

花陽「……本人が驚いてる?」

星奈「だって……にこに伝えてあるでしょ?」

にこ「聞いてないわよ」

星奈「チャットに残したでしょ……」

にこ「……チャットって……もしかして……アレ?」

星奈「……うん」

にこ「あんたね……私しか受け取ってないわよあの文字」

星奈「そうなの? チャットに書いたら全員に届くものじゃないの?」

にこ「……席から離れたらログも消えるのよ、まったく……。みんな、席に着いて」

穂乃果「?」

凛「なんだろ?」

にこ「ほら、あのときの言葉、もう一度書いて」

星奈「……うん」

ポパピプペ


――――  ――――


― ただいま、9名が席に着いています。


Nikony ―― メビウスの環の果てへ


――――  ――――

チャラン


海未「……?」


真姫「メビウスの環?」

穂乃果「……ってなに?」

にこ「私も希に聞いてやっと理解したくらいなんだから、みんなが解る訳ないでしょ」

海未「その文字すら受け取っていませんでしたから……」

絵里「……言葉が出ない」

星奈「あはは……文明に取り残された結果がこれなんだから、仕方がないよね」

凛「真姫ちゃんが怒るのも無理ないにゃ」

真姫「べ、べつに怒ってないわよ! って、これどういう意味なのよ!」

星奈「うーん……説明しにくいな」

希「えっとな、みんなこの画像みて」

花陽「……?」

ことり「あ、みたことある」

希「一つ捻ってるため、ちゃんとした輪じゃないんよ。
  2週すると面の全てを通ってスタート地点に戻る構造……これがメビウスの環」

海未「……ということは?」

絵里「つまり、星奈が残したメッセージは『戻ってくる』という意味なのね」

穂乃果「解りづらいっ!」

にこ「最後の最後までかき乱していくわね……」

星奈「そのほうが面白いでしょー」

凛「開き直ったにゃー」

真姫「……」

海未「……」

にこ「ほら、原因はそこなんだから、ちゃんと謝りなさいよ。二人は特に怒ってるわよ」

星奈「はい、すいませんでした。……急に用事が入ったため慌てて降りる羽目になりまして」

絵里「……用事?」

梓「ひょっとして……」

星奈「そう、父さんに会いに行ったの」

海未「え……!」

真姫「……」

紬「そうだったのね……」

にこ「なに?」

星奈「にこには言ってなかったね。……6年前にね、私の両親が離婚してるの。
   昨日は到着してすぐ、松本で暮らしてる父さんに……私たちを捨てた理由を聞きに行ってた」

にこ「…………」

星奈「話を聞いたら、父さんは父さんで色々あったらしくてさ……
   まぁ、それを聞いたからって簡単に許せるわけでもないわけで……」

海未「……」

真姫「……」


星奈「という、複雑な事情があるわけよ~。
   でも、前向きに話せたのは梓ちゃんのおかげ、ありがとね」ワシャワシャ

梓「や、やめてくださいっ。私じゃなくてむぎ先輩ですからっ」

紬「ううん、強いて言うなら……みんながいたからだと思う」

星奈「……そだね。ヴェガに乗ったからかな……うん、ありがとう、みんな」

にこ「……なにもしてないわよ」

星奈「そんなことないって、一緒にここまで旅してきたじゃん。勇気……じゃなくて、なんだろ、
   みんなと出会ったからここまで来れたって思う」

にこ「そこまで言うなら、そういうことにしておく」

星奈「うん。そうしておいて」

絵里「……」


星奈「って、ことで……亮太もありがとね」

亮太「……あぁ」

星奈「あれ? なんか元気ない?」

亮太「そんなことないけど?」

星奈「あー? あー?? これはひょっとしてアレかなぁ?」

亮太「?」

穂乃果「アレって?」

星奈「好きな子が降りちゃって寂しいんでしょ」

亮太「ハァ?」

花陽「……ビックリしたような、呆れたような声です」

星奈「また失恋したんだ、亮太」

亮太「またっていうな!!」

星奈「亮太って意外と……惚れやすいタイプなんだね」

亮太「うるさいよ。……どうしてお前はいつもいつも傷口に塩を塗るようなことばっかり……」

星奈「なんだ、違うんだ……あはは、良かったじゃん」

亮太「よくねえよ、三人が神妙な顔つきになってるだろうが!」

海未「あ……いえ……聞かなかったことにします」

真姫「……次、頑張ればいいんじゃない?」

絵里「……うん、そうね」

希「うん?」

にこ「何の話よ?」

星奈「実はねぇ――」

亮太「人の過去を勝手に話そうとするなよ……まったく」

星奈「元気でた?」

亮太「まぁな」


星奈「何があったか知らないけど、頑張ってよ」

亮太「それはこっちの台詞だ。これから、頑張れよ」

星奈「もちのロン」グッ

亮太「じゃあな」

星奈「楽しかったよ、亮太。さんきゅ」

亮太「俺もだ。ありがとう、星奈」

スタスタ


ことり「…………列車に乗っちゃった」

凛「今のが別れの挨拶……?」

星奈「うん。もう時間がないからね、気を遣ったんだよ」

穂乃果「あれだけでよかったの?」

星奈「しんみりしたのとか、私たちに似合わないから」

絵里「アッサリしてるのね」

梓「あんなに仲が良かったのに……」

紬「もう存分に語り合ったのよね」

星奈「そういうこと~」

にこ「まるで少年漫画ね……」

星奈「あ、車掌さん」

車掌「やはり……星奈さんは戻って来ましたね」

絵里「はい。……車掌さんが言っていた、経験上の意味を教えてくれますか?」

車掌「ふふ」

星奈「何の話?」

絵里「車掌さんが、星奈はバッヂを記念に持っていくような人ではないと仰ってたのよ」

星奈「?」

車掌「乗車バッヂを返却することで、旅の終わりを迎える方だと思いました。
    区切りをつける、けじめをつける、と言ったニュアンスが含まれますね」

真姫「……」

海未「……」

星奈「……当事者なのによく分からない」

車掌「ふふ、どうかお気になさらず。……山口星奈さん」

星奈「はい」

車掌「当特急ヴェガへのご乗車、誠にありがとうございました」

星奈「ありがとうございました。とっても楽しかった!」

車掌「これ以上無いお言葉です」

星奈「一つ、聞いてもいいですか?」

車掌「なんでしょう」

星奈「この乗車証、人に渡してもいいかなって」

車掌「そうですね……、相手によりますが」

星奈「絵里に」


絵里「え……?」

車掌「はい、構いませんよ」

絵里「え……!?」

にこ「?」

星奈「だってさ、ほら……絵里、受け取って」

絵里「ど、どうして……」

星奈「乗りたいでしょ?」

絵里「……っ?」

希「混乱してるね」

車掌「乗車料金はいただいておりますので、問題はありません」

絵里「た、足りない額ですよ……?」

車掌「……」スッ

希(人差し指を口に当てて……意外とおちゃめな人やね。……どうしてエリちなんやろ?)チラッ

星奈「仙台で絵里が言った事、思い出してよ」

絵里「…………」

希「……。荷物はウチに任してええよ、エリち」

絵里「で、でも……」

穂乃果「きっと楽しいよ、絵里ちゃん!」

ことり「うん、きっと!」

凛「ほら、乗った乗った~」グイグイ

絵里「ちょ、ちょっと凛!?」

穂乃果「のこったのこった~」グイグイ

花陽「押し出し……」



車掌「まもなく発車です。乗り遅れにご注意してください」

紬「私たちも乗りましょうか」

梓「そうですね」

穂乃果「次は金沢で」

梓「うん」

紬「先に行ってるね~」

星奈「ほらっ、絵里!」ピンッ

シュルルルル


絵里「ッ!?」

パシッ



星奈「思いっきり楽しんでよ!」

絵里「星奈……!」


prrrrrrrrrr


ことり「発車のベルだよ!」

花陽「海未ちゃんと真姫ちゃんも乗らないと!」


海未真姫「「 ぷふっ 」」

星奈「?」


海未「ふふ……、あなたは……最後の最後まで期待を持たせてくれるのですね」

星奈「期待?」

海未「ヴェガの始発……、駆け込み乗車しましたよね」

星奈「あ……見られてたんだ」

真姫「目立ってたわよ」

海未「真姫と二人でそんな星奈さんの姿を見たら、
   楽しいことが待っていると期待が膨らみましたから」

星奈「そっか」

海未「星奈さん、あなたに会えてよかったです」

星奈「うん、私も……みんなに会えてよかった。とっても楽しかった」

海未「また、どこかでお会いしましょう」

星奈「うん」


真姫「退屈しなかったわ」

星奈「こっちも毎日が楽しすぎた。……なにも言わなかったこと、ごめんね」

真姫「ううん。ちゃんと戻ってきたし……あれが、星奈らしかったとも思えるから」

星奈「そっか。……またね」

真姫「えぇ……また……っ……会いましょ」

タッタッタ


星奈「真姫……」


にこ「ほら」スッ

星奈「にこのそういうとこ、好きだよ」スッ


パァン


星奈「体力的に限界の癖に、意地で立ってるとこも」

にこ「ふん、私を誰だと思ってるのよ」

星奈「にっこにっこにー」

にこ「棒読み止めなさいってば! じゃあね!」

テッテッテ


星奈「みんな、ありがとう!」ブイッ


絵里「あ――」


プシュー



ガタン

 ゴトン



絵里「――ありがと……星奈」

にこ「……ふぅ」フラッ

海未「……」

真姫「区切り…ね……」



ガタンゴトン

 ガタンゴトン


―― 娯楽車


真姫「それはなに?」

梓「いつも持ってたラッキーコインだって。縁起物だとか」

真姫「ふぅん……」

海未「個室に戻らなくてもいいのですか?」

にこ「……私もライブ映像見たいのよ」

海未「無理をして、またぶり返しでもしたら……」

にこ「大丈夫……もう重圧とかないから……」

絵里「エレナがライブを撮ってくれていたなんてね……」

エレナ「モチロンですネ! 素敵な想い出は記録に残しておくヨ!」

小麦「それじゃー、スタート!」


ピッ


『 頭の中 想いでいっぱい あふれそうなのちょっと心配

   とりあえずヘッドホンでふさごう♪ 』 
 
『 Don't stop the music! 』



梓「私たちからなんですか?」

エレナ「ソーリィ、容量の事を考えて他は映してないネ」

小麦「エレナ、日本のアイドルのことはあまり知らないから」

真姫「私はそれでいいけど」

海未「にこは残念がるでしょうね」

絵里「そうね……」

紬「紅茶を淹れて……あらあら」


にこ「すぅ……すぅ……」


海未「とても頑張っていましたから」

真姫「えぇ……」

絵里「おやすみ、にこ」



にこ「……すぅ……すぅ」



ガタンゴトン

 ガタンゴトン




……




はい。
みらい篇が終わりました。

正直、ここで落とそうと悩んでいました。
東京から書き直そうかと。
けど、むぎと梓の最後の旅を無視できませんでした。

ゴチャゴチャとしていて、作品としてはかなり質が落ちていますが、最後まで書きたいと思います。
全然筆が進まないので投下が遅くて恐縮ですが、乗客みんなの旅を見守ってくれるとうれしいです。

隣に・・・
http://www.youtube.com/watch?v=6BXL-dKtM0I


大トリを貼り忘れるなんて


紹介が遅れましたが、真姫が秋葉原で出会った4人は次のとおりです。

岡部倫太郎、牧瀬紅莉栖 【シュタインズゲート】
富樫勇太、小鳥遊六花 【中二病でも恋がしたい!】

この二作品は花田十輝がアニメの脚本をしています。
そして、次にクロスする作品も一期二期と脚本でした。
http://www.youtube.com/watch?v=B2JplQgMfis
メインは黒・金・翠・紅の4人(多い)



― 乗客 ―

にこ、海末、真姫、絵里

亮太、愛、エレナ、小麦、さとみ

梓、紬

― ―


……





『会場が興奮の坩堝と化していて、とても最高のライブでした~』


『――松本のイベントでのコメントでした』

『すごく盛り上がっていたみたいですね』

『トップアイドルたちが揃っていましたからね。「興奮の坩堝」……これは今年の流行語になりそうです』


真姫「最初に言い出したの誰……?」

にこ「すぅ……すぅ……」


『それでは次、スポーツコーナーです』

『芸能界も話題が尽きないようですが、スポーツ界も期待高まるニュースが入ってきました!』


真姫「……」ピッ

プツッ


にこ「……すぅ……すぅ」

真姫「よく寝るわね」


ガタン

 ゴトン


真姫「……着いた」


プシュー


にこ「ん……?」

真姫「起きた?」

にこ「えっ!? 金沢に着いちゃったの!?」

真姫「着いてないわよ。停車したのは糸魚川駅」

にこ「……なんだ……って、距離の半分も寝過ごしたのね」

真姫「病み上がりであれだけ動いていたら、疲れるのは当然だと思うけど」

にこ「……映像も終わってるし……ハァ」

真姫「……」

にこ「みんなは?」

真姫「それぞれ別行動」

にこ「そう……。…ふぁぁあ」

真姫「眠たいなら個室で寝たら?」

にこ「少し寝たから十分よ。……それより、降りてみましょ」

真姫「……」


―― 糸魚川駅


にこ「もう駅で練習しなくていいんだけど……、なんだか物足りない感じもするわね」

真姫「……」

にこ「……?」

真姫「…………」

にこ「どうしたのよ、ぼんやりして」

真姫「寂しくないの?」

にこ「……え?」

真姫「……」

にこ「別れの後、だから?」

真姫「……」コクリ

にこ「……」

真姫「……」

にこ「それは家に帰ってから考える」

真姫「今じゃないの?」

にこ「まだ旅の途中で、終わってないから」

真姫「……」

にこ「前を見て進むって、私も決めたから。振り返るのは終わってからでいいでしょ」

真姫「…………」

にこ「ひょっとして、真姫は寂しいと思ってるの?」

真姫「分からない」

にこ「……」

真姫「ライブの映像を観てるとき、ずっと考えてた……。始発から松本までのこと」

にこ「……」

真姫「寂しいという気持ちは……ないと……思う」

にこ「当然でしょ、まだあんたも終わってないんだから」

真姫「……」

にこ「帰ってから、部室で思い出話でもしましょ。そしたら、分かると思うわよ」

真姫「…………」

にこ「……ふぁぁあ」

さとみ「おつかれさま、にこさん」


にこ「……えっと、さとみ……だったわね」

さとみ「そうです。ちゃんと挨拶していませんでしたけど、覚えていてくれたんですね」

にこ「あなたでしょ、客席から呼んでくれたの」

さとみ「あ、気付いていたんだ……。あんな沢山の歓声だから分からないかなと思っていたんですけど」

にこ「当然よ、私くらいになると観客の全てを視界に収めることができるんだから」

さとみ「それは凄いですね」

にこ「……なんていうか、調子狂うわね」ボソッ

さとみ「?」

にこ「矢澤にこよ、よろしく」

さとみ「千歳さとみです。こちらこそよろしくお願いします」

真姫「……」

さとみ「夕陽が綺麗……」

にこ「あぁ、違うのよこの子は……夕陽を見ているんじゃなくて、物思いに耽っているだけだから」

さとみ「そうなんですか」

真姫「違うわよ。……個室に行ってるから」

スタスタ

にこ「……」

さとみ「お邪魔でしたか?」

にこ「ううん、そうじゃないわ。……真姫もなにかしら思うところがあるのかもね」

さとみ「……」

にこ「それより、絵里と一緒に間違えて乗車したって聞いたけど……」

さとみ「そう、そうなんですよ! 東京駅で私が邪魔をしてしまったから絵里さんが降りられなくて!」

にこ(……何か調子狂うと思ったら……敬語だからなのね)

さとみ「また松本から乗車してきたときは驚きました!」

にこ「嬉しいのはわかったけど……、その敬語はなんとかならない?」

さとみ「え?」

にこ「確か、同い年だったわよね」

さとみ「……はい、そうです」

にこ「私は呼び捨てにしてるんだから、そう対応されるとなんだか調子が狂うのよね」

さとみ「……」

にこ「無理に合わせろとは言わないけど」

さとみ「うん、分かったわ」

にこ「……そう、それで」

さとみ「変わった人ね、にこさんって」

にこ「違うのよ……そういうのじゃないのよ」

さとみ「?」


にこ「絵里と肩を並べたら……いつもいつも年下扱いされるのよっ」

さとみ「……あ、うん」

にこ「なによ、納得したわね!?」

さとみ「いえ、……えっと」

にこ「一年生の凛に後輩呼ばわりされたし、穂乃果には子供って言われて……希にはあろうことかマスコットって!」

さとみ「そうなんだ……」

にこ「なんなのよ……っ」ワナワナ

さとみ「……古傷でもあるのかな」

にこ「間違えて乗ったって言ったけど……どこまで行くつもりなの?」

さとみ「まだ決めてなくて……。とりあえず、ヴェガに乗車した理由を見つけるまでは」

にこ「理由……ね」

さとみ「間違えて乗車してしまったけど……乗り続けたいと思った理由があるはず」

にこ「……」

さとみ「漠然としていて、自分でもよく分からないんだけど」

にこ「いいんじゃない?」

さとみ「……」

にこ「きっかけなんて、そんなものなんだと思うわよ」

さとみ「……そうね」


絵里「それじゃ、私も探してみようかな」


さとみ「絵里さん……」

絵里「さっきはごめんなさい、さとみさん」

さとみ「ううん、私のほうこそ……ついカッとなっちゃって」

にこ「何の話よ?」

絵里「ちょっとね」

にこ「?」

さとみ「私、小さい頃からの習慣で日記を書いてるのね。
    それで、ヴェガに乗ってからも書くことにして」

絵里「それを私が拾ってしまったのよ。そのとき、中身を読んでしまって……」

にこ「ふぅん……」

さとみ「私が悪いの。ちゃんと名前を書いていなかったから……」

にこ「私が寝ている間にそんなことが起こっていたのね」

絵里「……」

さとみ「……」

にこ(お互い少しだけぎこちないのは気まずいから……?)


―― 真姫の個室


真姫(私はどうして――……)


pipipipipi


真姫「……もしもし」

『もしもし、ウチやけど……いま大丈夫?』

真姫「えぇ、個室にいるから平気」

『……』

真姫「どうしたの?」

『今、電車が来るのを待ってるんよ。にこっちの様子はどうかと思って電話したんやけど』

真姫「大丈夫よ。少し疲れて寝ていたけど、気持ち的にはスッキリとしてるから……心配いらない」

『そう……それはよかった』

真姫「そっちは?」

『花陽ちゃんが寂しそうにしてるかな』

真姫「花陽が……?」

『真姫ちゃんたちを見送った後、ウチらも別れの挨拶を交わしたんよ』

真姫「……」

『呆気ないくらいアッサリしてたけど、素直な気持ちを言葉に出していたから……胸がいっぱいになったんやね』

真姫「…………」

『在来線の乗り継ぎをしてるから、忙しくて考える暇もないんやけど……電車内ではぼんやりしてる』

真姫「……そう」

『旅の終わりが近いってのもあるから』

真姫「あ……」

『花陽ちゃんと穂乃果ちゃんは金沢で終わりなん……忘れとったん?』

真姫「…………うん」

『……』

真姫(それは最初から決まっていたことなのに……)

『なぁ、真姫ちゃん』

真姫「……なに?」

『ウチらはいま、駅のホームで次の電車が来るのを待ってるんやけど……』

真姫「……?」

『周りを見渡すと5・6人の地元の人たちがいるんよ』

真姫「……」

『電車に乗っているとな、地元で生活している人たちが乗ってきてん』

真姫「何が言いたいのよ?」

『色んな人がいて、面白いって穂乃果ちゃんが言うててな』

真姫「面白い?」


『色んな人がいるって、それは地元、東京でも同じこと。……それなのに、今はそれが特別に見えるって』

真姫「特別……」

『今も、ことりちゃんがお婆ちゃんと話をしていたり、凛ちゃんがペット病院に通う猫と遊んでいたりしてるんよ』

真姫「……」

『あ、電車が来た』

真姫「……結局、何が言いたかったの?」

『ウチらはウチらで楽しんでるから、真姫ちゃんも楽しまな』

真姫「……!」

『なんて、お節介やったかな?』

真姫「……」

『花陽ちゃんも猫と遊んでて笑ってるから……心配せんでもええよ。……それじゃ、金沢で』

真姫「……どうして、私は乗り続けてるのかって考えてた」

『……』

真姫「寂しいって気持ちもないから……損をしているんじゃないかって」

『損……?』

真姫「……私じゃなく、花陽なら……もっと有意義に過ごせたんじゃないかって思う」

『……それはどうやろ』

真姫「え……?」

『ウチはウチの、花陽ちゃんは花陽ちゃんの……そして、真姫ちゃんは真姫ちゃんの旅があるから』

真姫「…………」

『気付いてないかもしれんけど、真姫ちゃんも変わっているんよ?』

真姫「私が……?」

『自分からこんな話、言わへんやんな』

真姫「!」

『希ちゃん! 乗り遅れるよぉ!!』

『ほなぁ』

プッ

 ツーツー


真姫「……」


ガタン

 ゴトン


―― 2号車


にこ「難しい顔してるわね」

さとみ「本当……」


亮太「……」


さとみ「……亮太君、どうしたの? 元気がないみたい」

にこ「何があったのよ、聞いてあげるから話してみなさい」


亮太「……」


にこ「なによ、無視?」

亮太「……ん?」

さとみ「ぼーっとしてたのね」

亮太「あ、ごめん。話しかけてた?」

にこ「……」ジト

亮太「あ……ごめんなさい……」

さとみ「にこさん、そんな目で見ないでも……」

にこ「……ふん」

亮太「昨日のことでちょっと考えててさ……」

さとみ「昨日……って、アレのこと?」

にこ「?」

亮太「そう、そのアレ」

にこ「もしかして、穂乃果が事件があったって言ってた気がするけど……それのこと?」

亮太「……まぁ、発端となったことは別にいいんだ。それがきっかけだったってだけで」

さとみ「……」

にこ「それで?」

亮太「聞いてくれるの?」

にこ「『旅仲間』だから、聞いてあげなくもないわ」

亮太「……正直、考えが詰まってたから……助かるよ」

さとみ「……同じこと言ってる」ボソッ

にこ「同じこと?」

さとみ「ううん、なんでもない」

亮太「俺が考えてたのは理想と現実ってやつでさ」

にこ「また深いテーマね」

亮太「ちょっとしたことがあったんだけど、俺はそれに腹を立てて感情をむき出しにするだけで……結局は何もできなくてさ」

さとみ「……」

亮太「俺の手の及ばないところで、そのちょっとしたことが解決してて……」

にこ「……」

亮太「理想を掲げるほどの力を持っていなくて、現実の壁に跳ね返されてるという話です」

さとみ「…………」


にこ(ちょっとしたこと、ね……)

亮太「……」

にこ「いいんじゃないの、べつに」

さとみ「え……?」

亮太「……いいの?」

にこ「現実を語れるほど生きていないし、理想を捨てるほど大人でもないわ」

亮太「……」

にこ「それに、理想が無くなったら、私たちアイドルはどうなるのよ」

さとみ「……」

にこ「見知らぬ誰かの理想がアイドルという形を成すのよ!」


「なるほど……『見知らぬ誰かの理想がアイドルという形を』……ふむふむ」


にこ「?」

小麦「名言っぽいお言葉いただきましたー」

にこ「ぽい、じゃなくて名言でしょ。……あなたがヴェガ新聞を書いた伊東小麦?」

小麦「あたしのこと知ってるんだ?」

にこ「新聞読んだわ。中々いい着眼点を持ってるじゃない」

小麦「……なんだろ、大物を相手にしてる気分だぁ」

絵里「彼女が部長の矢澤にこ。今は疲れからか気が大きくなっているみたい。
    次に行きましょう、小麦」

小麦「次は真姫ちゃんだね……どこにいるんだろ」

にこ「なに?」

絵里「取材だって」

にこ「ちょっと待って、今の名言を載せるの?」

小麦「うん、そのつもりだけど?」

にこ「今のナシ。もう一度取材を受けるから展望車に行きましょう」

小麦「え、でも……」

にこ「あんなの新聞に書かれたら私の今まで培ってきたイメージが崩れちゃうでしょ」

小麦「あまり変わらないような……」

にこ「いいから! 行くわよ!」

小麦「……」

絵里「ごめんね、小麦……」

スタスタスタ


さとみ「……行っちゃった」

亮太「本当に疲れてるみたいだね……」

さとみ「昨日の駅での出来事、アレはちょっとしたこと、なんだ?」

亮太「……知らなくてもいいことだと思って」

さとみ「そう……。それにしても、含蓄のある言葉だったわね」

亮太「にこさんを中心に色々あってさ。……説得力あったよ」

さとみ「……」

亮太「さとみちゃんも行ってきたら? 楽しめるよ、きっと」

さとみ「うん、そうしてみる」


―― 寝台車


真姫(私は私の……か。……部屋に篭っているのはもったいないわね)


真姫「……?」


人形「――」

真姫(翠色の服を着た……人形……?)

翠の人形「……」

真姫「乗客の落し物、よね……」









―― 紬の個室


紬「さぁ、どうぞ」

「ありがとう」

紬「……」

「……おいしいわ」

紬「うふふ」

「……あなた、変わってるわね」

紬「そうかしら?」

「えぇ。……私に平然と紅茶を差し出す人物なんて、この世に片手で数えるほどしかいないのだから」


―― 展望車


にこ「にっこにっこにー♪ にこにーこと、矢澤にこでーす♪」

エレナ「ニコニーコト・ヤザワニコ……サンですネ」

にこ「違いますぅ~、矢澤にこ、でーす♪」

エレナ「チガ・イマスゥ・ヤザワニコ……サンですネ」

にこ「コホン……キュートなアイドル・ヤザワニコでーす。髪の毛が跳ねてぴょんぴょこー♪」

エレナ「矢澤にこサンですネ」

にこ「なによ、これ」

小麦「エレナはからかってるだけだから」

にこ「なんでからかわれなくちゃいけないのよっ……っと」フラリ

エレナ「オー、おふざけが過ぎましたカ?」

にこ「ちょっと疲れた……」

エレナ「ソーリィ」

にこ「謝る必要無いんだけど……。気を抜くと……力が抜ける」フゥ

絵里「休んだ方がいいんじゃない?」

にこ「ううん、今日という日は今日しかないんだから……」

小麦「あはは、いいこと言うね!」

にこ「時間が……もったいなくて……寝ていられ……ない……のよ」

絵里「電池が切れそうなおもちゃみたいね……」

さとみ「ねぇ、ちょっといい?」

絵里「?」

にこ「……なに?」

さとみ「誰か、むぎさんを見てないかな?」

絵里「見ていないけど……」

エレナ「ワタクシも見ていませんネー」

にこ「……」ボケー

小麦「あ、さっき……厨房でお湯を貰ってたよ」

さとみ「……だって、梓ちゃん」

梓「そうですか……どうもです」

にこ「」ウトウト

梓「うーん……それじゃあ、個室かな……」

さとみ「探し回って見つからないんなら、そこしかないと思うけど」

梓「勉強していたら邪魔になるので……居場所が分かればそれでいいです」

絵里「出てくるのを待つしかないわね」

梓「……そうですね」

小麦「……あれ? おかしいよ?」

梓「?」


にこ「くぅ……すぅ……」

エレナ「結局、寝ちゃいましたネ」

絵里「何がおかしいの?」

小麦「だって、紅茶のティーカップは2つ用意していたんだよ?
    梓ちゃんがここにいるってことは……誰と一緒なのかな?」

さとみ「ここに居ない人と一緒……ってことよね」

梓「居ないのは……愛さん、鶴見さん、海未、真姫……」

小麦「四人だけ……?」

梓「はい。……他に個室へ招待するような人なんて……いないはずです」

さとみ「亮太君は2号車に居るから……」

愛「みなさん……ここで何をしているんですか?」

エレナ「愛サンですネ」

愛「?」

海未「客車に居ないと思ったら、ここにいたんですね……」

絵里「海未も来た……ということは、真姫と一緒にいるってこと?」

梓「……」

にこ「くぅ……すぅ」

小麦「車掌さんと一緒かもしれないよ?」

海未「……なにかあったのですか?」

絵里「ちょっと、ね」


真姫「……みんな、集まってなにをしているの?」

翠の人形「――」


海未「真姫……その持っている人形は?」

真姫「誰かの落し物みたいで……車掌さんと一緒に持ち主を探しているんだけど」

小麦「アンティーク人形だぁ」

翠の人形「…………」

絵里「精巧に作られてるわね……服のデザインとか、肌も柔らかそう」

エレナ「翠のお人形……? どこかで聞いたことアリマスネ」

小麦「さすがエレナ。世界を周ってるだけあって色んな情報も持ってるんだね」

エレナ「グランドマザーから少し聞いただけですネ……このオッドアイ……フムフム」ジー

翠の人形「……」ピクッ

真姫「っ!?」

海未「どうしたのですか?」

真姫「……動いたような……?」

愛「似たお人形を、紬さんが持っていましたよ」

梓「どうして持っているのかな……真姫と同じように持ち主を探して……?」

エレナ「bisque doll......愛情を込めて作られたみたいですネ」

さとみ「エレナさん、人形について詳しいの?」

エレナ「なんとなくそう思っただけですヨ」

「さっさと、――を見つけて帰るですぅ」

にこ「……ん…?」

絵里「起きた?」

にこ「あれ……いま、聞いたことの無い声が……?」


―― 紬の個室


「私の名は――……私の名は真紅。ローゼンメイデンの第5ドール」

紬「しんく…ちゃんね、琴吹紬です」

真紅「そこそこ美しい名前ね」

紬「うふふ、ありがとう」

真紅「あなた、紅茶を淹れる職業に携わっているのかしら?」

紬「ううん、そうじゃないのよ」

真紅「この香りと温度……とても私の好み。これほどの腕前ということは……名家の従者なのね」

紬「えっと」

真紅「あなた――、ツムギ。これからは私に仕えなさい」

紬「わかりました」ニコニコ

真紅「いい返事ね。あなたはスキルも高くて私に相応しいというものよ……どこかの家来と違って」

紬「家来?」

真紅「なんでもないわ。……それより、外の景色がとてつもない速さで流れていくのだけれど……」

紬「列車の中だからよ」

真紅「……レッシャ? ……そう。……レッシャね」

紬「真紅ちゃん、理解した気になるのはよくないことなのよ?」

真紅「バ、バカにしないで欲しいものだわ。列車くらい知っていてよ。……乗ったことはなかったけれど」

紬「それじゃ、車内を探検してみましょうか」

真紅「あら、気が利くわね。せっかくだけど、この紅茶が飲み終わってからにしましょう」

紬「えぇ、そうね」ニコニコ


―― 展望車


「どこ行きやがったですか」

にこ「……なに?」

真姫「?」

にこ「何か言ったでしょ?」

真姫「私が? 何も言ってないけど」

にこ「……?」

翠の人形「……」

梓「幻聴を聞くなんて……。今日はもう寝た方がいいですよ」

にこ「いやよ。昨日も私が寝ている間に楽しいことがいっぱいあったそうじゃないの」

海未「まるで夜更かしをしたがる子供のようですね……」

にこ「それより、さとみ」

さとみ「?」

にこ「鶴見亮太、何か言ってなかった?」

さとみ「さっきの話ね」

にこ「偉そうなことを言ってしまったから……」

さとみ「ふふ、感銘を受けてたわ」

にこ「……そう、ならいいけど。……うぅ、目が乾く……」パチクリ

翠の人形「……」

海未「今にも動き出しそうな作りですね……生きているようです」

梓「真姫、とりあえずむぎ先輩のところへ行ってみよう」

真姫「そうね。この人形について何か知ってるかも」

「さっさと案内しやがれですぅ」

にこ「ちょっと、真姫?」

真姫「なに?」

にこ「言葉が悪いんじゃない?」

真姫「さっきから何を言ってるの?」

翠の人形「……」


―― 2号客車


紅い人形「……」

亮太「琴吹さん、その人形はどうしたの?」

紬「真紅ちゃんです。えっと、車内を案内しているんです」

亮太「……?」

紬「……気にしないでください」

亮太「……いや、……うん」

紅い人形「……」

亮太「いやいや、突然そんな人形を抱っこしてるんだから気になるよ」

紬「うーん……」

「レディに対して失礼極まりないのだわ」

亮太「……――え?」

紬「キワマリナイノダワ」

亮太「なんで二回言ったの……というか、凄いよ今の!」

紬「腹話術の練習もしているんです」

亮太「声まで違ってたよ……そんな特技があったなんてね」

紬「松本まで何度か練習していたので。……それでは~」

亮太「あ、うん……じゃあね」

紅い人形「……」

スタスタ


亮太「あの人形の持ち主は松本から乗ってきたのかな……?」


―― 4号車


車掌「あら?」

紅い人形「……」

紬「こんばんは、車掌さん」

車掌「はい、こんばんは。……そのお人形は、紬さんの所有物でしょうか?」

「な、なんですって!?」

車掌「あら……?」

紬「所有物デハナイノダワ。オ友達ナノダワ」

車掌「それは失礼いたしました」ペコリ

「まったく……」

車掌「……腹話術がお上手ですね」

紬「うふふ。……さぁ、挨拶をしましょう」

真紅「私はローゼンメイデンの第5ドール、真紅よ」

車掌「第5……ということは、少なくとも5体の同様な人形が存在するということですね」

紬「そうなの、真紅ちゃん?」

真紅「えぇ、そうよ。正確には全部で7体になるのだけれど」

車掌「……」

真紅「なにか知っていそうね、心当たりでもあって?」

車掌「もう1体、真紅…さんと似た人形がご乗車しています」

紬「……!」

車掌「……」

真紅「……」

車掌「それでは、私は仕事がありますのでこれで失礼します」

スタスタ


紬「お友達が乗っているのね?」

真紅「友達ではなく姉妹よ。……誰が来たのかは分からないけれど」

紬「探してみましょうか」

真紅「そうね……。……聡いわね、彼女」

紬「車掌さんのこと?」

真紅「えぇ……ツムギ、あなたの表情の変化で大体察したみたいだから」

紬「……もう1体乗っているって聞いて、少し動揺しちゃったわ」

真紅「私のような存在が乗車していても事を荒立てない冷静さと理解の深さ。
   そんな心構えを持つ人間、そうはいなくてよ」

紬「車掌さんのおかげで楽しい旅が出来ているから、そう言ってくれると嬉しいわ」

真紅「おかしな人ね、あなた」

紬「そうかしら?」

真紅「えぇ。……だからこそ信頼されている、というべきかしら」

紬「信頼?」

真紅「なんでもないわ。……さ、私の姉妹を探すわよ」


―― 食堂車


紬真姫「「 あ…… 」」

紅い人形「……」

翠の人形「……」


梓「むぎ先輩、その人形……どうしたんですか?」

紬「シャワー室で出会ったの」

梓「……そうですか」

にこ「真姫が人形を抱っこしているなんて面白いわね。
   写真に撮っておきましょ……凛と花陽が喜びそう」

真姫「やめて」

紅い人形「……」クイッ

紬「あ、……えっと、真姫ちゃん」

真姫「?」

紬「そのお人形さん、貸してくれないかしら?」

真姫「えぇ……どうぞ」

紬「ありがとう」

エレナ「紅い人形デスネ……ヤハリ……」

小麦「この人形も知ってるの?」

エレナ「……ワタクシが小さい頃……聞いたことがアリマス」

紅い人形「…………」


紬「落ちないように……よいしょ」

翠の人形「……」

梓「持ち辛そうですけど……」

紬「大丈夫よ」

にこ「重くない?」

「失礼です、このチビッコ」

にこ「ち、チビッコ!?」ガーン

紬「チビッコクッキーサックサク」

真姫「???」

さとみ「そんなお菓子あったかな……」

梓「……」

にこ「真姫が腹話術していたと思ったんだけど……違うみたいね」ジー

翠の人形「……」アセアセ

紬「そ、それじゃあ、私は個室へ戻るわね」

絵里「人形の持ち主を探さなくてもいいの?」

紬「えっと……その……」アセアセ


にこ「その翠の人形、貸してくれない? 少し気になってて……」

紬「えぇっとぉ……」

翠の人形「……」

紅い人形「……」

梓「とりあえずここから離れましょう。他の乗客の邪魔をしていますよ」

エレナ「ソーデスネ」

真姫「客車に行きましょ」

海未「持ち主が現れたかもしれないので、私は車掌さんのところへ行って来ます」

スタスタ

絵里「陽が沈んで……後1時間で金沢に到着ってところね」

にこ「……今日は長いようで短い一日だったわ」

絵里「目が据わってるわよ、にこ」

にこ「う……アイドルとしてあるまじき表情してるのね……」

さとみ「……あれ?」

にこ「どうしたの?」

さとみ「むぎさんが居ない……」

絵里「?」

エレナ「神隠しですヨ、小麦!」

小麦「早速調査しなくっちゃ!」

梓「……」


―― 4号客車・トイレ


紬「あずさちゃんのおかげで助かったみたい……ふぅ……」

真紅「まさかあなたが来るなんてね、翠星石」

紬「すいせいせき…ちゃん」

翠星石「まったく、あのツリ目人間……抱っこの仕方がなってねーです」

紬「真姫ちゃんのことね」

真紅「ツムギ、紹介しておくわ。……彼女が第3ドール、翠星石よ」

紬「よろしくね、翠星石ちゃん」

翠星石「……ふん、人間とよろしくなんてしてやらねえです」ツーン

紬「……」ションボリ

真紅「翠星石は臆病で人見知りだから……あまり気にしないことね」

紬「……それなのに真紅ちゃんを探しにここまで来たのね。優しいわ、翠星石ちゃん」

翠星石「ち、違います。翠星石はただ、真紅を放っておけなかっただけですっ」

紬「あらあら」

真紅「翠星石、あなた……ジュンに言われて来た訳ではないのね」

翠星石「そうです……ジュンが怒っていたですよ、真紅……」

真紅「呆れた……自分の非を認めないなんて……」

紬「そのジュンって人は真紅ちゃんのお友達なのね?」

真紅「違うわよ、ツムギ。……私とジュンは主従関係にあるだけ……友達と呼ぶには色々と足りていないわ」

翠星石「……真紅……帰らないですか?」

真紅「当然よ。……ジュンが謝ってクンクンを返すまでは帰らない。置手紙にもそう書いたはず」

翠星石「……」

紬「クンクン?」

翠星石「真紅が大事にしているぬいぐるみですぅ……」

真紅「よく、この列車に通ずる鏡を探り当てたわね」

翠星石「スィドリームに真紅を追わせていたです。……真紅が帰らないと花まるハンバーグが食べられないですから!!」

真紅「それは非常に残念だけど、私がそこで折れてしまうわけにはいかないのよ」

紬「……」

翠星石「もう帰るです!! あのチビチビ人間も翠星石のこと怪しんでいたですよ! 居心地悪いったらねえですぅ!」

真紅「それなら一人で帰りなさい」

翠星石「ん~!!」

紬「真紅ちゃん、一緒に帰らないと花輪ハンバーグが食べられないのよ?」

真紅「花まるハンバーグよ」

紬「花まる……ハンバーグの上に花を添えるのね。……食事はみんなで楽しく頂いた方がいいわ」

翠星石「その通りです! それはノリも言ってたですよ、忘れたとは言わせねえです、真紅!」

真紅「う……!」

紬「海苔も乗せるの?」

真紅「ノリはその家来の姉なのだわ。食物ではないのよ」


翠星石「ノリが怒るとどうなるか……身をもって知っているはずです……!!」

真紅「だ、駄目よ……恐怖に屈しないわ!」

紬「……」

真紅「私はここを梃子でも動かないのだわ!」ドン

翠星石「ここ、トイレですよ」

真紅「う、うるさいわね!」

紬「とりあえず、話の続きは私の個室でしましょう」

翠星石「……」

紬「いつまでも使っていていい場所じゃないからね、真紅ちゃん?」

真紅「……」


―― 4号客車


「……げ、チビチビ人間が待っていやがるです」

紬「にこちゃんのことだったのね……」


にこ「どこ行ってたの?」

紬「厨房ノ美味シイ匂イニ誘ワレテイタノダワ」

紅い人形「……」

にこ「ふぅん……。それはいいけど、その紅い人形が口を開かなかったから違和感があるわよ」

紬「あ、あら……」

にこ「夕飯はどうするの? よかったら金沢でハントンライスを食べに行かない?」

紬「うん……そうしたいところだけど……」

「ハントンライス……是非食してみたいわね」

「真紅ってば、帰る気が全くねえです……」

にこ「なに? 私の見てないところで腹話術を披露しないでくれる?」

紬「見ていないところで人は努力するものなのよ、にこちゃん!」

にこ「それはそうだけど……」

エレナ「見つけましたよ、小麦ー!」

小麦「あー! やっと見つけたぁ~」

「ちっ、うるせえ人間どもが来やがったですぅ」

「……翠星石」

「?」

「あの、身長の高い方の人間、よく見ておいて」

紬「エレナさんになにかあるのね」

紅い人形「……」

翠の人形「……」


にこ「……眠いけど……眠りたくない!」


―― 紬の個室


紬「さぁ、どうぞ」

真紅「もう7時を20分も回ってしまったのだわ」

翠星石「まったく、人間というやつは……どうしてああもやかましいのですか。
    見ているだけで疲れたです」

紬「ふふ、あの二人はいつも賑やかだから」

翠星石「それだけじゃねえです、あのチビチビ人間だってやかましくしてたです」

真紅「ツムギ、あの背の高い方の人間……名はなんというの?」

紬「エレナさんよ」

真紅「ミドルネームとファミリーネームは?」

紬「ユーリ・ノーディス。……エレナ・ユーリ・ノーディスね」

真紅「やはり……」

翠星石「あの人間を見ていろって言ってましたけど……なにかあるですか?」

真紅「翠星石は会っていなかったのね」

翠星石「はい?」

紬「エレナさんと顔見知りなの?」

真紅「いいえ、彼女じゃなくて、彼女の祖母に当たる人よ」

翠星石「あの人間のばあさん?」

紬「まぁ……」

真紅「あの子の名は――……ユーリ・ヴェルヌ・ターナー」

紬「ユーリ……?」

真紅「彼女達の住む土地の慣わしとして、祖父・祖母の名前を頂いてミドルネームにつけたのよ」

紬「……」

翠星石「だから私の顔をジッと見てやがったのですか。……でも、翠星石には覚えがないですよ?」

真紅「あなたじゃなくて、もう一人の方じゃないかしら」

翠星石「そういうことですか。……真紅が覚えているのなら、他人の空似じゃないはずですから」

紬「?」

真紅「彼女、翠星石には双子の妹がいるのよ……って、説明することが多すぎるのだわ」


―― 1号車


にこ「また部屋に篭ってしまったわね」

梓「……」

絵里「次の駅ではどこへ行くか決めているの?」

海未「いくつか候補はあるのですが、まだちゃんと決めていません」

絵里「そうなの?」

真姫「穂乃果たちと合流して決めるから。……こっちで勝手に決めてもいいんだけど」

絵里「そうね……いままでもそうだったわね」

海未「私は兼六園です」

にこ「梓は?」

梓「まだ決めていません……むぎ先輩と決めようと思っているんですけど」

真姫「あ……観光ガイド買わないと」


―― 売店車


店員「いらっしゃいませぇ」

真姫「金沢の観光ガイドを一つ」

店員「ありがとうございましたぁ」

真姫「ふむ……朝市をやってるのね」

店員「朝早いですから、気をつけてくださいねぇ」

真姫「行くと決めたわけじゃないんだけど……」


紬「えっと……左から三番目の……」

真姫「?」

紬「あ、あら……真姫ちゃん」

真姫「どうしたの?」

紬「左から三番目のシャワー室に用があるの」

真姫(またおかしなことを言ってるわね……、あれ……光ってる?)

紬「それじゃあね」

真姫「待って、胸の右ポケット……紅く光ってない?」

紬「これは……その……ホーリエと言って、人工精霊なの」

真姫「……」

紬「あ、ちょうど空いてるみたい。……よかった」


バタン


真姫「……」

店員「紬さん、どうしたんでしょうかぁ?」

真姫「……梓さんに報告しておくわ」

店員「あ、そういえばお客さん?」

真姫「なに?」

店員「あ、いえ……なんでもないですぅ~」

真姫「……?」


―― 2号車


真姫「梓さん……ちょっといい?」

梓「どうしたの?」

にこ「深刻そうな顔ね」

真姫「あなたの先輩、ちょっと行動がおかしいけど……様子を見に行った方がいいんじゃない?」

梓「……ううん、いい」

真姫「気にならないの?」

梓「話すときが来たら話してくれると思うから」

真姫「ふぅん……」

にこ「よくわからないけど……信頼してるのよね」

海未「あの2体の人形のことでしょうか……」


絵里「乗車していると色々なことが起こって……、あっという間に次の都市に着いちゃうのね」


―― 沖縄


黒い人形「フフッ、久しぶりねぇ、真紅ぅ」

紅い妖怪「……」

黒い人形「2時間と34分ぶり……」

紅い妖怪「……」


金の人形「水銀燈(すいぎんとう)は何をやっているのかしら」コソコソ


水銀燈「あらぁ、無視をするなんて随分と幼稚な作戦を思いつくのねぇ、真紅ぅ!」イライラ

紅い妖怪「……」


金の人形「カナはもう帰ってもいいよね、ピチカート?」

ピチカート「」シュンシュン

金糸雀「動きも無いようだから……よし、カナはこれで帰るかしら」


紅い妖怪「我、シンク、違ウ。キジムナー也」

水銀燈「きじむなぁ?」


金糸雀「あんなのを真紅と間違えるなんて……」

ピチカート「」シュンシュン

金糸雀「その通りかしら! 頭脳明晰、知性あふれる、カナのこのバイオリンの音色で
     水銀燈をマインドコントロールしてやったということかしら~!」エッヘン

ピチカート「」シュンシュン

金糸雀「そんなに褒めても何も出ないわよ、ピチカート~♪」


水銀燈「共通点は髪の紅色だけで、肌も露出していて全くの別物ねぇ……私ったらおバカさぁん」

キジムナー「……」

水銀燈「それじゃ、失礼するわねぇ」スィー


金糸雀「あ、移動したかしら!」

ピチカート「」シュン

金糸雀「いけない! クンクン人形を突き止めるというカナの役目があるのに!」

ピチカート「」シュー

金糸雀「ちょっとピチカート! 能力の無駄遣いってどういうことかしらー!?」


―― 金沢


にこ「……到着、と」

海未「希たちの到着はいつごろですか?」

絵里「9時くらいと言っていたから……後、1時間後ね」

真姫「待っていたら、お店が閉まってしまいそうだけど……」

にこ「……そうね」ボケー

真姫「明日でもいいんじゃない?」

絵里「そうね、せっかくだからみんなで食べないと。明日なら、乗客のみんなとも合わせられるから」

海未「にこ、それでいいですか?」

にこ「…………そうね」ボケー

海未「目が半分閉じていますね……」

絵里「もう、限界みたいね」

真姫「あの人形、どうなったのかしら」


……




穂乃果「到着!!」

凛「やっと着いたにゃ~!」

ことり「大変だったね~」

花陽「……」ボケー

絵里「待っていたわよ、みんな。長旅、おつかれさま」

希「迎えに来てくれたんやね」

絵里「えぇ。他のみんなは娯楽車でくつろいでる」

希「にこっちはどう?」

絵里「軽く夕飯を食べて、すぐに寝てしまったわ」

穂乃果「にこちゃん、頑張っていたからね~」

絵里「ふふ、穂乃果は元気ね」

穂乃果「本当は、私も眠たいんだけどね」

絵里「それじゃ、食事を取って、今日は早めに休みましょう」

穂乃果「明日は存分に遊ぶぞー!」

ことり「おー」



……



―― 紬の個室


紬「……」スラスラ


ガチャ


紬「?」

真紅「……いま、何時かしら」

紬「10時を過ぎて……もう少しで11時ね。眠れないの?」

真紅「……えぇ。……勉強しているのね」

紬「受験生だから」

真紅「……そう」

紬「紅茶、淹れようかしら?」

真紅「今は遠慮しておくわ。心遣い、感謝するわね」

紬「そのトランクの中でしか眠れないなんて、少し窮屈じゃない?」

真紅「そうでもないのだわ。私たち人形は人間と構造が違うのだから……」

紬「そうなのね」

真紅「……ツムギ」

紬「?」

真紅「人間には、出会いと別れがあるわね」

紬「そうね。……この列車の旅がそれを体験させてくれているわ」

真紅「私たちドールは、螺子をまかれることで目が覚めるの。……時代を越え、世界を越えて」

紬「……」

真紅「螺子をまいた人間との出会いはあっても、別れは存在しなかった。
   まいた人間は幼い子が多くて、彼女達が成長する過程で自然に離れていったから」

紬「……」

真紅「私たちもそれが当然の成り行きだから、気にはしていない。……妹の雛苺がそれを怖がっていた節があったのだけれど」

紬「……長い眠りの中で、真紅ちゃんたちはどうなっているの?」

真紅「夢を見ているわ。目覚めている時に見た景色を、幾度と無く繰り返す夢。……何度も何度も同じ景色を見ている」

紬「…………」

真紅「その中で一人、懐かしい顔を思い出したのだわ」

紬「エレナさんのお婆様ね」

真紅「そうよ、察しがいいわね」


―― 海未の個室


海未「……エレナさんにイベントの映像をダビングしてもらった方がいいですね」


カチッ


海未「……ふぅ、……今日は色んなことがあって……」モゾモゾ


海未(疲れました…………)


海未(おやすみなさい……みんな……)



コンコン


海未「?」


「夜遅くにごめんなさい、私です」

海未「……紬さん……?」


ガチャ


海未「……どうしました?」

紬「ちょっと、話があるんだけど……いいかしら?」

海未「……はい」

紬「ごめんなさいね、こんな時間に」

海未「それは、構いませんが……。人形も一緒なんですね」

紬「そうなの、うふふ」

紅い人形「……」

翠の人形「……」

海未(紅い人形が抱っこされているのは解りますけど。翠の人形が紬さんの頭にしがみついているように見えますが……)

紬「ここではなんだから、外に行きましょう」


―― 金沢


海未「話とは……?」

紬「色々とごめんなさい、海未ちゃんの協力が必要なの」

海未「私の?」

紬「えぇ。どんなことが起きても冷静に対処できそうだから」

海未「え――?」


翠の人形「もういいですか?」

紬「あ、まだダメよ、翠星石ちゃん」

海未「ぇ?!」

紅い人形「喋ってしまったのなら、しょうがないのだわ」

海未「――ッ!?」


翠星石「よいしょっと」ピョン

真紅「あなたの抱き心地はなんだか暖かくて、不思議と安心するのだわ」ピョン

紬「ちょ、ちょっとまって、二人とも」

海未「え――ぁ――ぇえ?」

翠星石「ウヒヒ、人間……これからお前を呪ってやるですぅ」ユラリユラリ

海未「――ひっ!?」

紬「お、落ち着いてね、海未ちゃん」

真紅「翠星石の悪乗りが始まったのだわ」

翠星石「これから一生、おまえを蝶々結びができない不器用な人間にしてやるですぅ!!」イーッヒッヒ

海未「紬さん、離れてください!」

紬「え?」

翠星石「え?」

海未「こういう時のために、お守りの破魔の矢を常備しているんです!」

翠星石「ゑ!?」

海未「一撃必殺! ラブアローシュートッ!」


シュン


翠星石「ひいっ!?」


サクッ


海未「避けられましたか……!」

翠星石「真紅ぅッ!」サッ

真紅「ダーツの要領ね」

翠星石「おっかねえです! これだから人間と言う暴力的な生き物は嫌いなんですぅ!」ブルブル

真紅「今のは翠星石、あなたが悪いのよ?」


海未「なんと……なんということですか」フルフル

紬「落ち着いて、海未ちゃん。呪いの人形なんかじゃないからね」

海未「でも……蝶々結びができなくなる呪いをかけられようとして……」

紬「ほら、できなくても困らないでしょ?」

海未「…………」


翠星石「帰るです、帰るです真紅っ」

真紅「自分で巻いた種でしょう。それに、あなたの力が必要なのよ、翠星石」


海未「魂を持った人形……ローゼンメイデン……」

紬「そうなの。心があるのなら人と大して変わらないんじゃないかしら」

海未「……」

紬「時間がないから急ぎたいのだけど……」

海未「少し混乱しています……すいませんが、時間をください」

紬「えぇ、わかったわ」


翠星石「そんなに気になるですか、あの人間のばあさんが……」

真紅「えぇ。……彼女は契約者以外で私と対等に話をすることができた数少ない人物の一人だから」

翠星石「……」

真紅「あなたも気になるでしょ?」

翠星石「それはそうですが……。ジュンが迎えにいけっていうから来てやったですのに」

真紅「いいのよ、あんな薄情者。放置よ」

翠星石「……ハァ、面倒臭いったらねえです」


海未「……ふぅ」

紬「……落ち着いた?」

海未「はい……」

紬「話を進めてもいい?」

海未「どうぞ」

紬「協力をしてほしいと言ったけれど、……絵里ちゃんの個室へ案内して欲しくて」

海未「絵里の個室……?」

紬「そうなの。……その前に、真紅ちゃんとエレナさんのお婆様の話からしないといけないわね」

海未「エレナさん???」

紬「真紅ちゃん、失礼するわね」

真紅「構わないのだわ」

紬「よいしょ」ヒョイ

海未(抱っこされた人形……なんだか絵になりますね。……意思を持って喋ることは置いておきましょう)


紬「真紅ちゃんたち、ローゼンメイデンは全部で7体居て、人間に螺子をまかれることで動くことができるらしいの」

真紅「私の螺子をまいたのがジュンという家来になるのだわ」

翠星石「翠星石のミーディアムでもあるです」

海未(螺子をまいた人物、家来、ミーディアム、契約者……同一人物として考えたほうがよさそうですね)

紬「それで、数十年前に真紅ちゃんの螺子をまいた方が居て、その人のお友達がエレナさんのお婆様に当たるらしいの」

海未(数十年……随分とスケールの大きい話……)

真紅「彼女――、ユーリと言葉を交わした数はそれほど多くはないのだけれど、
   刹那とも言える時間の中で心を通わせた数少ない人間なのだわ」

海未(ユーリ……)

紬「少し複雑になるけれど、大まかに捉えてくれればいいから」

海未「……はい」

紬「これから絵里ちゃんの夢の中へ入って、ユーリさんと再会をするのよね?」

真紅「そうね、そういうことになるわね」

海未「……夢?」

翠星石「この翠星石の力があればそれくらい容易いです。……スィドリーム」


スィドリーム「」シュンシュン


海未「翠の光……これは……?」

紬「人工精霊というの。……真紅ちゃんのホーリエちゃんは紅い光を放っていたわね」

真紅「そうよ。私たちドールに一つずつ所有しているのだわ」

翠星石「この力を使うです。分かったですか、人間?」

海未「やろうとしていることは分かりましたが……どうして絵里なんですか?」

真紅「ツムギから聞いたのだわ」

紬「エレナさんと心を通わせている人が絵里ちゃんだから、そうよね、翠星石ちゃん」

翠星石「そうです。一度、あのパツキン人間の夢に入って、
    それから世界樹へと渡り、あのデカ人間の夢へと移動するです」

海未「エレナさんと心を通わせている……? 小麦さんではないのですか?」

紬「小麦ちゃんはエレナさんと一緒の部屋にいるでしょ? 二人一緒だから……その、ね?」

海未「そうですね……突然、人形が『夢の中へ入らせてくれ』と言われれば……どうなるかは想像がつきやすいですね」

真紅「話が伝わったところで……さ、行きましょう」

紬「絵里ちゃんの個室へ、案内してくれるかしら」

海未「……危ないことはしないと、約束をしてください」

真紅「えぇ、誓うわ」

翠星石「……翠星石は誓いませんが」ウヒヒ

海未「……気になるのは、どうして私なのです?」

紬「こういう事には難なく対処できそうだと思ったの」

海未「……どちらかというと、希の分野ですが」


真紅「はやく、早く行きましょう」ソワソワ

紬「そうね、夜更かしは肌に悪いものね」

真紅「それもあるけど、なんだか嫌な視線を感じるのよっ」

翠星石「なんです?」

真紅「ネコよっ、きっとネコがいるんだわっ」

海未「ローゼンメイデンの天敵なんですか?」

翠星石「違うです。真紅だけの天敵なんですぅ」

海未「そうですか……失礼しますよ」ヒョイ

翠星石「ひゃぁ? なにするですか、人間っ!」ジタバタ

海未「人と同じ……ですか」

翠星石「抱っこの仕方がなってねーですっ」

真紅「いたわっ! あそこよっ!!」


「にゃふん」


真紅「斑模様のネコっ!」

紬「あらあら、はやく行きましょうか」

海未「……そうですね。……慣れてしまえば、怖い存在でもありませんね」

翠星石「まぁ、ちょーっとは居心地がいいかもしれねーですが」


―― 絵里の個室


絵里「……エレナにイベントの映像をダビングして貰ったほうがいいわね」


コンコン


絵里「……はい?」


「絵里、私です」

絵里「海未……?」


ガチャ


海未「夜分、失礼します」

絵里「その人形、海未が持っていたのね。……どうしたの?」

海未「少し用事があって……お一人ですか?」

絵里「今、のぞ――」

翠星石「さっさと始めるです」

絵里「……」

翠星石「な、なんですか! やるっていうならこの翠星石が相手になるですよっ」ビクビク

絵里「私に腹話術の練習成果を見てほしいのね。分かったわ」

海未「いえ、違います」

絵里「?」

紬「えっと、なにから話せばいいのか……」

真紅「……」

絵里「紬さんも一緒?」

海未「はい。実は――」

翠星石「覚悟しやがれですぅ!!」ピョン

絵里「えっ?」

翠星石「えいっ」ブンッ


スパーン!


絵里「――ふぅ」フラリ

海未「絵里!?」ガシッ

紬「翠星石ちゃん!」

翠星石「相手が寝ていなくては夢の中へ入れないですから、致し方なかったのですぅ。翠星石悪くないです」

紬「無防備な人を叩くのはダメよ!」メッ

翠星石「ですが……説明しても理解に時間がかかりそうで……」


紬「やり方は他にいくらでもあったわ、協力をしてくれる人に対して今の行動はとても失礼にあたるのよ?」

翠星石「でもでも、ハリセンですから……」

紬「めっ」

翠星石「ごめんなさいです……」

真紅「私の我侭から始まったこと。申し訳ないのだわ」

紬「……海未ちゃん、絵里ちゃんの様子は?」

絵里「――」

海未「気を失っているだけです……びっくりしました。いきなりハリセンで叩くんですから」

翠星石「あの……その」

海未「絵里にはあとで話をしておきます」

翠星石「はい……よろしくです」

真紅「翠星石、お願いするのだわ」

翠星石「スィドリーム」


スィドリーム「」スィスィ


ズゥーン


紬「雲……?」

翠星石「これが夢への入り口です」

海未「絵里の夢への入り口……」

真紅「先に行ってるわ」


シュー


海未「飲み込まれましたね……」

紬「……」

翠星石「さっさと行くです」

紬「私は絵里ちゃんをみているから、お留守番をしているわね」

翠星石「分かりました。ほら、行くですよ、人間」グイッ

海未「ちょ、ちょっと待っ」


シュー


紬「あらら、海未ちゃんまで……」

絵里「すやすや」


―― 絵里の夢の中


キーンコーン

 カーンコーン



真紅「綺麗な風景の中に学校があるのね」

翠星石「どんよりしていたヒキコモリのジュンとは違って、こっちは晴れ晴れとしているです。
     きっと、希望に満ちた精神状態なんです」

海未「わっ、わわわっ」


シュウー

 ストッ


海未「ふぅっ……びっくりしました……空中へ放り出されるんですから……」

翠星石「ちゃんと着地しやがりました。やっぱりおまえは運動神経が良さそうです」

海未「弓道を嗜んでいますから……ここが夢の中……」

翠星石「いざとなったら利用してやるです」ウヒヒ

海未「あれは……音ノ木坂学院……?」

真紅「あら、ツムギは?」

翠星石「留守番をすると言っていました」

真紅「そう……。まずは世界樹ね、案内してちょうだい翠星石」

翠星石「こっちです」


スィー


海未「ちょっ、ちょっと待ってください!」

真紅「なに?」

海未「夢の中、ということは……これは絵里が見ている夢?」

翠星石「『夢』と一括りにしてはいけないです。人間にはその言葉の意味が複数込められているですから」

海未「将来の夢、寝ているときに見ている夢……とありますが……」

真紅「その二つとも違うわ。ここは謂わば、潜在意識の中」

海未「……」

翠星石「パツキン人間の精神がこの世界を創っているのです」

海未(学校の存続を誰よりも強く願っていましたから……。だから、音ノ木坂学院の校舎が建ってあるのですね)

真紅「移動しながら説明するから、付いてらっしゃい」

スィー

海未「……置いていかれたら困りますね」

タッタッタ


翠星石「走るより、飛んだほうが早いです」

海未「と、飛べませんよ! 私は人間ですから!」

翠星石「空を浮くイメージをすればいいですぅ」

海未「う、浮く?」


フワリ


海未「わ……!」

翠星石「とっとと行くです~」

スィー


海未「宙を浮くというのはこんな気分なのですね……!」

真紅「楽しそうね。……ツムギからあなたの事を聞いたとき、
    この状況に対応できるかどうか不安だったのだけれど」

海未「確かに……人形が喋って動いたり、夢の中へと移動したりで戸惑いは残りますが」

翠星石「……」

海未「紬さんが許した現象なのです、私もそれほど身構える必要はないと思いましたから」

真紅「ツムギとあなた……この列車に乗車して出会ったのよね」

海未「そうですよ」

真紅「それほどの信頼、どうして生まれたのかしら」

海未「ふふ、一つの壁を共に乗り越えた仲間、だからです……きっと」

真紅「……」


……




翠星石「そろそろ出口に到着するです」

真紅「えぇ、わかったわ」

海未「出口?」


フッ


海未「……心なしか下降しているような…………?」


―― 世界樹


スッ

海未(落ちる――!?)


ヒュー

海未「ひっ!?」

真紅「その枝に掴るのだわ!」

海未「――ッ!」


ガシッ


海未「――フゥ……どうして、突然重力が……?」

翠星石「そんなこと知らねえです。それより、さっさと登りやがれです」ギュ

真紅「……」ギュ

海未(私の服にしがみついてますが……落ちるという恐怖心はないようですね)


ギシッ

 ギシ


海未「……枝と言っていましたが……これは」

翠星石「世界樹の枝です。反対側を見るです、あのパツキン人間の夢に繋がっているのが分かるです」

海末「……」

真紅「ちょっと翠星石、さっきから気になっているんだけど、その『パツキン』ってやめてくれないかしら」

翠星石「どうしてですか?」

真紅「私の髪も金色なの、見て分かるでしょ? その言葉が引っかかっているのだわ」

翠星石「真紅は『真紅』と呼びますから、気にしないでください」

真紅「そういうことじゃないの、金色に輝く美しい髪がなんだから、
    そう呼ばれると安っぽいイメージになるでしょう?」

翠星石「相変わらず細かいですね、真紅は……」

海未「どうか、絵里と呼んでください」

翠星石「しゃーねえです」ヤレヤレ

海未「よいしょっと……。ところで、ここは雲の上のようですが……地上までどのくらいあるのでしょう」

翠星石「さぁ? そんなこと知ったこっちゃねえです」

海未(地上まで落下したら…………いえ、そんなことは考えないほうがよさそうですね)ブルブル

真紅「さぁ、行きなさい」

海未「自分で歩かないのですか?」

真紅「ドールと人間の歩幅を考えれば分かるでしょ?」

海未「分かりました……肩から落ちないでください」

真紅「心配には及ばないのだわ」

翠星石「さぁ、行くです~♪」

海未(また人の頭の上に……この位置が好きなんでしょうか……)

スタスタスタ


……




海未「幹……ですね」

翠星石「違うです。これも世界樹の枝です」

海未「こ、この大きさで枝……!?」

翠星石「世界樹をナメるな、です」

海未「……想像を絶しますね」

翠星石「しょうがねえですから、説明してやるです。
     夢と夢が交じり合うことは決してないのですが、世界樹の枝の干渉により、
     心を通わせる人間同士の夢を繋いでいるのです」

海未(絵里とエレナさんの心が……)

翠星石「ここへ来るには『nのフィールド』を経由するか、私たち双子が夢の扉を開くか、
     どっちかしかないのですが……まぁ、細かいことは気にスンナです」

海未(また聞きなれない言葉が……)

真紅「翠星石、あの人間の夢は上なの? 下なの?」

翠星石「下です」

真紅「聞いたでしょ? ほら、降りなさい」

海未「え……この幹のような太さの枝をですかっ!?」

真紅「そうよ」

海未「……っ」

翠星石「おや?」

真紅「どうしたの、翠星石?」

翠星石「……誰か、入ってきたみたいです」

海未「?」

真紅「水銀燈かしら……こんな時に……」

翠星石「いえ、違うです……人間です」

真紅「ツムギ?」

翠星石「まったく、勝手なことを!」ピョン

テッテッテ

海未「どこへ行くんですか!」


「迎えに行ってやるですー!」


真紅「当然の行動ね。人間がこの夢の世界で彷徨ってしまったら、自力では決して出られないのだから」

海未「…………」

真紅「さ、私たちは行きましょう」

海未「……はい」


海未(紬さんが絵里をそのままにして来るのは……違和感がありますね)


……



真紅「そこの枝に降りるのよ」

海未「ここから、エレナさんの夢へと繋がっているのですね」

真紅「そうよ」

海未「よいしょっと」スト

真紅「……不思議なものね」ピョン

海未「?」

真紅「翠星石が言っていたけれど……心を通わせる者同士じゃないと枝は繋がれないの」

海未「……」

真紅「たとえば、長年連れ添った夫婦とか、弟を心配する姉とか」

海未「……」

真紅「あなたたちが出会って、そう時間は経っていない……それなのに、枝は繋がっている」

海未「…………」

真紅「どのような時間を過ごせば……人と人との心は通じ合えると言うのかしら」

テクテクテク


海未「……」

スタスタスタ


―― エレナの夢の中


ザザーン

 ザザァーン



海未「港……?」

真紅「そのようね。船もあることだし……間違いないのだわ」

海未「この世界に……ユーリさんが居るのですね」

真紅「居ないわ」

海未「え……?」

真紅「ツムギは勘違いをしているようだけれど、本来、夢の世界に住人は存在しないのよ」

海未「…………」

真紅「ここまで連れ回して、悪いことをしたわね」

海未「……いえ、貴重な体験ができたということで……善しとします」

真紅「いい子ね」

海未「……」


真紅「…………」


海未(表情がなんだか、和らいでいるような気がします。……想いを馳せているのかもしれませんね)


真紅「……」


海未「……」


「フフ、誰かと思えば、シンクじゃないですカ」


真紅「あら?」

「ワタクシのコト忘れてしまったのデスカ?」

真紅「忘れる訳ないのだわ、ユーリ」


海未(この人が、エレナさんの祖母……ユーリ・ヴェルヌ・ターナー)


ユーリ「彼女は……エレナのご友人カシラ?」

真紅「えぇ、一緒に旅をしているそうよ」

ユーリ「It’s so nice to meet you.」

海未「ナ……Nice to meet you too. 」

真紅「……ユーリ、この夢で目覚めたのはいつ?」

ユーリ「サキホド、ですヨ」

真紅「夢の主の精神に反映されたのね……期待通りなのだわ」

ユーリ「詳しいことはサッパリですネ~」

海未「あれ、そういえば……日本語……?」

ユーリ「ワタクシも日本を旅していましたカラ」

海未「え……!?」


ユーリ「シンクとは、ドイツで会いましたネ」

真紅「えぇ、あの時代の家来の友人として、家に招かれたのよね」

海未(祖母と同じ道を歩んでいるのですね、エレナさん……)

ユーリ「アナタ、お名前は?」

海未「……海未、園田海未といいます」

ユーリ「ウミ……、この世界をどう思いますカ?」

海未「……?」

真紅「……」


ザザァーン

 ザザーン


海未(広がる青い空、その下にはきらきらと輝く海、そして大きな白い船)


ユーリ「率直な回答を希望しますワ」

海未「とても……鮮やかで……気持ちのいい世界だと思います」

ユーリ「そうですネ。トッテモ美しい世界」

真紅「……」

ユーリ「ヘイオン、そのものデスヨ」

海未「?」

ユーリ「ワタクシが旅をしていたときは、恐らく毎日がハリケーンでしたネ」

真紅「一人で旅をしていたからでしょう?」

ユーリ「ソウデスワ」

海未「……」

ユーリ「船は、停泊していては駄目なのです。いつかは必ず次の港へと航海しなくてはいけません」

海未「…………」

ユーリ「Human is a traveler by nature...」

真紅「……」


ユーリ「フフ、もう時間です、帰った方がいいですヨ」

真紅「そうね……たとえ今のあなたがこの再会に気づかなかったとしても、会えてよかったのだわ」

ユーリ「ワタクシモ、です」


真紅「それじゃあ、ね」

ユーリ「Goodbye my friend.」


海未「……」


―― 世界樹


海未「あの質問の意図はなんでしょうか」

真紅「言葉通りの意味ね。……彼女は一人で世界を周っていた。
    だから、ユーリの夢の世界はきっと荒れていたのだわ」

海未「……」

真紅「ユーリの、あの顔を見ればわかるでしょ?」

海未(エレナさんが平穏無事な旅をしていることが嬉しい、といった表情でしたが……)

真紅「遅いわね、翠星石……」

海未「あの言葉……」

真紅「?」

海未「『船は、停泊していては駄目』……と。……あれは、一体?」

真紅「さぁ、それは私には関係のないことなのだわ」

海未(気になりますね……あの世界のままではいけないのでしょうか)


真紅「待ってても仕方がないわね……、登るわよ」

海未「わかりました、行きましょう」

真紅「ほら」スッ

海未「?」

真紅「抱っこしてちょうだい」

海未「……」


……




海未「……ふぅ、大分登ったと思うのですが、まだ着きませんか?」

真紅「もう少しよ、頑張りなさい」

海未「木登りなんて……小さいころに穂乃果に唆されて以来です……」フゥ

真紅「見なさい、ウミ」

海未「?」

真紅「あそこなら歩いて登れるわ」

海未(……初めて名前で呼ばれました)


海未「よいしょ……これでしばらくは楽に登れますね」

真紅「そうでもないのだわ」

海未「え?」

真紅「上よ」


「かしらぁぁぁああああ」


海未「何かが落ちてくる……!?」

真紅「キャッチするのよ、ウミ!!」

海未「っ!?」


 ひゅー


金糸雀「たー! たた、助けてぇぇええ」


海未「ふんむっ!」ガシッ

金糸雀「ぎゃう!」

真紅「金糸雀……? あなた、どうしてここにいるの?」

金糸雀「うー……助かったかしらぁ」

海未(カナリア……おでこが可愛い)ホンワカ


「よくも私をコケにしてくれたわねぇ、金糸雀ぁっ!」ゴゴゴ


金糸雀「ひぃっ」

海未「……?」

真紅「あれは……水銀燈!」


水銀燈「あぁら、どこの紅い妖怪かと思ったら、真紅じゃなぁい」

真紅「誰が妖怪よ……」

水銀燈「ちょうどいいわ、今ここで、あなたのローザミスティカをいただいてあげる」

真紅「いま、あなたに構ってる暇はないのだわ」


海未「あれは……?」

金糸雀「第1ドール水銀燈よ。……私は第2ドール、金糸雀かしら」

海未「ローザミステカ?」

金糸雀「ローザミスティカ、私たち人形の魂かしら」

海未「……なにがなにやら、ですね」フゥ

金糸雀「真紅にクンクンのことを教えないと……」


水銀燈「そんなこと言ってもいいのぉ?」

真紅「相変わらずしつこいわね」

水銀燈「あなたの大好きな、だぁいすきな……クンクン」

クンクン「――」

真紅「クンクンッ!?」

水銀燈「どうなってもいいのぉ?」


海未「……黒いですね」

金糸雀「水銀燈からクンクンを奪い返して、カナが真紅たちとの決闘を有利に進めるはずだったのに……」

ピチカート「」シュンシュン

金糸雀「楽してズルしてローザミスティカを集める作戦、失敗かしら~……」

海未(やろうとしてることは同じですが、なぜか憎めませんね……)


真紅「わ、私のクンクン……返しなさい、水銀燈!!」

水銀燈「返せと言われて返すバカはいないのよぉ、おバカさぁん」

真紅「バカって言ったほうがバカなのよっ!」

水銀燈「フフッ、ほぉら、さっさとよこしなさい、真紅のローザミスティカ……」

クンクン「……」
     「助けてぇ、真紅ぅ」

真紅「くっ、卑劣な!」


海未「人形が腹話術ですか……。それより、そろそろ戻らないと……」

金糸雀「カナもみっちゃんが待ってるから……早く帰りたいかしら……」


真紅「私とクンクンを引き裂こうとするのは……やはりあなたしかいないのよ……!」


翠星石「よくいうです、ジュンのせいにしていたくせに」

真紅「覚悟しなさい、水銀燈!」

翠星石「無視しやがったです」


希「熱い展開やねぇ」

海未「どこか真剣さが欠けていて、とてもそうは思えないのですが……」

金糸雀「人数が増えたから、もう水銀燈なんか怖くないのかしら~」

海未「の、希っ!?」

希「ちょっと寄り道をして遅れたんよ」

海未「な、なぜここに!?」


クンクン「……」
     「真紅ぅ」

真紅「クンクンっ! 待ってて、いま解放してあげるからっ」

水銀燈「フフッ、弱点は――……そこの人間」


翠星石「二人が狙われているのに真紅は冷静さを失ってるです……スィドリーム!」

スィドリーム「」スィスィ


フワァーン


海未「な、なんですか……これは」

希「弓矢、やな」

翠星石「武器を用意してやったですから、自分の身は自分で守りやがれ、です」

海未「え!? これから戦闘が始まるのですか!?」

翠星石「翠星石は真紅のところに行ってくるです、離れるですから金糸雀、頼んだですよ」

スィー

金糸雀「しょうがないのかしら」


クンクン「……」
     「もう、真紅の傍にはいられないんだぁ」

真紅「そんなっ」ガーン

水銀燈「おバカな真紅は置いておいて、……契約を結ばれる前に、退場してもらうわぁ!」バサッ


希「おぉー、大きな翼が開いた」

海未「相手は人形といえど……!」オロオロ

金糸雀「攻撃してくるかしら!」


水銀燈「フフッ、フフフフッ!!」バサバサッ


ゴォォォォオ


海未「羽が――ッ!」

金糸雀「ピチカート!」

ピチカート「」シュー

金糸雀「音は振動、風圧なんて余裕よ! 防御は任せるかしら!」


ギュィーン


海未「バイオリン……!」

金糸雀「ふっふ~ん、この音色に酔いしれるかしら~♪」



水銀燈「……フフ」


翠星石「周りをよく見るです! 金糸雀!!」

金糸雀「え?」



ゴォォッォオオオオオ



希「……っ……いきが……くるしっ」


海未「希ッ!!」

金糸雀「うー、音が届かないかしらぁっ!」


水銀燈「まだまだ甘いわねぇ、隙だらけじゃなぁい!」バサバサッ


海未「カナ、一瞬だけ……音を止めてください」グググッ

金糸雀「了解よ!」


水銀燈「……弓?」


金糸雀「今かしら!」

海未「――!」


シュンッ


水銀燈「――ッ!?」


海未「次は、外しませんよ」


水銀燈「チィッ……!」


翠星石「弓による攻撃と防御……意外といいコンビです」


希「……ふぅっ、……苦しかった」

海未「大丈夫ですか、希!」

希「うん……呼吸ができなかったくらいやから……大丈夫」

海未「……よかった」

金糸雀「今度こそカナが二人を守るかしら!」

ピチカート「」シュンシュン


翠星石「真紅、しっかりするです!」

真紅「もう離さないわ、クンクン!」ギュ

クンクン「――」


水銀燈「あぁら、私のクンクン、奪われてしまったわぁ」

真紅「私の、よ!!」


蒼い人形「おーい、翠星石ー!!」

苺の人形「しんくぅ~!」


希「人形が二人……降りてくるね」

海未「え、……あ、本当ですね……ピンクのと蒼の人形……」

金糸雀「雛苺と蒼星石かしら」

希「ひないちご……と」

海未「そうせいせき……」


蒼星石「大変だ、翠星石!」

翠星石「こっちだって大変なんですぅ!」

雛苺「真紅っ、薔薇水晶が現れたのぉ!」

真紅「ばらすいしょう……それは誰なの……? 雪華綺晶でしょ?」

雛苺「うゆ? きらきしょー?」

蒼星石「そうだよ、雛苺?」

雛苺「ヒナ、間違えちゃった」エヘヘ

真紅「それより……!」


水銀燈「あぁら、1対5なんて……ずいぶん卑怯じゃなぁい?」

真紅「人質を取ったあなたに言われたくないわね!!」


金糸雀「形勢は圧倒的にひっくり返ったかしら」

海未「……ふぅ、どうなることかと思いました」

希「また人形が現れた……」

金糸雀「え?」

希「ほら、あそこ」


スゥー......


「わたしは、だれ?」


水銀燈「っ!?」


雛苺「見て、しんくっ! 薔薇水晶なのっ!」

真紅「え!?」


スゥー......


「わたしは、だれ?」


翠星石「こっちにも現れたですぅ!」

蒼星石「雪華綺晶だよ、真紅ッ!」


薔薇水晶「……」

雪華綺晶「……」


真紅「な、なに……!?」

水銀燈「……全部で8体……!?」


薔薇「あなたは、だれ?」

雪華「あなたは、だれ?」

薔薇「わたしは、だれ? わたしの偽者は、あなた。あなたの偽者は、わたし」

雪華「わたしは、だれ? あなたの偽者は、わたし。わたしの偽者は、あなた」

薔薇「フフ……」

雪華「……フフ」


翠星石「とんちんかんなこと言ってないで、どっちがどっちかはっきりしやがれですぅッ!!」

蒼星石「や、やめるんだ、翠星石! いま、彼女たちに敵意は無いみたいだからっ!」

真紅「そうね、触らぬドールに祟りなし、よ」

雛苺「タタリ? おいしいの?」

金糸雀「アタリって魚なら知ってるかしら」

水銀燈「それは魚じゃないわぁ、おバカねぇ」

雛苺「それじゃ、なんなの?」

水銀燈「釣りをするときに、魚が針にかかった時をアタリというのよ。……これだから温室育ちは」

金糸雀「水銀燈は苦労してるのかしら……」

真紅「可哀想な水銀燈……きっと、花まるハンバーグを食べたことがないのね……
    独りでさびしいから……だからクンクンを……」

翠星石「それは、いくらなんでもカワイソウです」

雛苺「ぐすっ……水銀燈ぉ……」ウルウル

水銀燈「はぁ? なによこの雰囲気……」

蒼星石「みんな、やめるんだ……水銀燈は魚が好きなんだから」

水銀燈「フォローになってないわぁ……。フン、なによ……七輪で焼いた魚の味も分からないくせに」トンッ

スゥー......


海未「消えてしまいました……」

希「もうお開きってことやね」


真紅「……」

金糸雀「七輪……」

翠星石「……」

蒼星石「……」

雛苺「しちりんで焼いたお魚……? 食べたいのぉ!」

真紅「言わないでっ、食べたくなるでしょ!?」

金糸雀「きっと、おいしいのかしら……」ゴクリ

翠星石「ふ、ふんっ、気にする必要ないです。どうせ、水銀燈の悔し紛れの言葉ですから」

蒼星石「……ボク、食べたことあるよ」

真紅翠星石「「 ッ! 」」
 
雛苺「うゆ!? どんな味なのっ!?」

蒼星石「魚の身がとてもふっくらとしていてね、何より木炭で焼くから香りがいいんだ」

金糸雀「こ、今度、みっちゃんに作ってもらうかしら」ジュルリ


薔薇「フフフ」
雪華「フフフ」


真紅「あの二人は放っておきましょう」

蒼星石「うん」


希「合わせ鏡のようやな」

海未「そうですね……」


雛苺「しんくっ、ジュンが帰ってきなさいってっ」

真紅「しようの無い家来ね、私が居ないと駄目なんだから」

翠星石「間違いを認めないです……」

蒼星石「さ、帰ろうか」

テクテク


金糸雀「ふぅ……カナのおかげで危険は去ったかしら」


金糸雀「この実力を見れば、カナと戦おうなんて思わないわよね」


金糸雀「だけど、今日のところは見逃してあげるかしら~」

海未「カナ、置いていかれていますよ」

金糸雀「うぅ……! あんまりかしらぁ」ウルウル


海未「……」

希「ほな、ウチらも戻ろうか」

海未「……希は、どうしてこの世界へ?」

希「紬ちゃんの話を聞いてな、確認したいことがあって」

海未「確認……?」

希「エリちの夢のこと。海未ちゃんは、どう思った?」

海未「……絵里らしい世界かと思いましたが」

希「そうやね……」

海未「……?」

希「でも、ウチ思うんよ」

海未「……」

希「高校三年生の女の子が持つ夢なんかな、って」

海未「…………」


希「今日はもう、疲れたから早よ寝てしまうんよ」

海未「……そうですね。……もうクタクタです」


「ウミー! はやく来るですー!」



7日目終了


               8月8日


穂乃果「今日はご飯がうまいっ」

花陽「おいしいっ」

ことり「あれ、パンじゃないんだね?」

穂乃果「たまにはご飯を味わいたいからね」

花陽「わたしは毎日でもっ」

海未「……」

穂乃果「眠たそうだね、うみちゃん?」

海未「は……はい……少し寝不足で」

ことり「夜更かししてたの?」

海未「……そうです」

穂乃果「ふぅん……珍しいよね」

ことり「うん……規則正しい生活をしている海未ちゃんが、寝不足だなんて……」

海未「ふぁぁ…ぁ……いけません、つい……あくびが……」


にこ「ふぁぁ……みんなおはよう」

スタスタ


「「 おはよう~ 」」


にこ「10時間も寝てしまったわ……」

スタスタ


真紅「……」

テクテク


海未「――ッ!?」

にこ「な、なによ……そんなに驚くこと?」


海未「なにをしているのですか……ッ!」

ダッ


穂乃果ことり「「 うみちゃん? 」」


にこ「た、確かに寝すぎたかもしれないけど……!?」ビクビク

...タッタッタ


海未「……!」


にこ「あわわっ」


スッ


にこ「あれ?」


真紅「ちょうどあなたを――」

海未「喋らないでくださいッ!」ヒョイ


タッタッタ...


にこ「…? ……???」

花陽「あれ、今……人形を抱えて行ったような?」

ことり「どうしたんだろう、海未ちゃん……」

穂乃果「……謎だね」


車掌「穂乃果さん、お食事の途中申し訳ないのですが、よろしいでしょうか」

穂乃果「?」


―― 4号車


海未「心臓に悪いですね……自由に出歩かないでください」

真紅「……私は別に、見つかっても構わないのだけれど」

海未「甘いですよ、大甘です。穂乃果に見つかったら……
    あなたはずっと身動きが取れない状況に陥るんですよ、
    それでもいいんですかっ」ズイッ

真紅「それは遠慮したいわね……って、近いのだわ」

海未「帰ったはずでは……?」

真紅「ツムギに挨拶をしにきたのよ」

海未「挨拶……?」

真紅「鏡の扉が閉まってしまうのだわ」

海未「そうですか……、カナは一緒ではないのですね」

真紅「金糸雀?」

ホーリエ「」シュー


―― ヴェガの屋根上


金糸雀「さて、と……みっちゃんが作ってくれた焼き魚。朝ごはんに持ってこいかしら」

ピチカート「」シュンシュン

金糸雀「えぇ、とってもおいしそうね、ピチカート」

ピチカート「」フワフワ

金糸雀「それではでは、いただきまーす♪」

パクッ

金糸雀「ん~、なんておいしいのかしら~♪」ムグムグ


金糸雀「蒼星石の言っていた食感……そして、朝日を浴びながらそよ風を受けて……」ウットリ


斑模様の猫「……」ジー


金糸雀「手強いカラスもいないから、安全よね、ピチカート」

ピチカート「」シュンシュン

金糸雀「え? 猫?」


......タッタッタ


金糸雀「――え?」

斑模様の猫「……にゃふん!」バッ


タッタッタ......


金糸雀「あぁぁ――!!」



金糸雀「弁当箱ごと持っていかれたかしらー!?」



――



斑模様の猫「がつがつ、もぐもぐ」


斑模様の猫「……げふぅ」


斑模様の猫「ふむ、中々――」

「おいっ」ゴスッ

斑模様の猫「にゃふッ!?」

「人様の弁当を盗み取るとは……」

斑模様の猫「」プシュー


亮太「うん? なにしてるんだ?」

「あ、いや……なんでもない」


―― 紬の個室


紬「――そう」

真紅「えぇ、だから……ここでお別れなのだわ」

紬「さびしいわ」

真紅「あなたは本当に、不思議な人ね……」




―― 金沢駅・ホーム


海未「そっちですか?」

ホーリエ「」シュンシュン


海未「えっと……」キョロキョロ


金糸雀「うぅ……みっちゃんが作ってくれたお弁当……」シクシク


海未「あ……!」


ピチカート「」シュンシュン

金糸雀「泣いてないかしらぁ……目にごみが入っただけよ、ピチカートぉ……」シクシク


海未「カナ、降りてきてください」


金糸雀「?」


海未「鏡の扉が閉まってしまいますよ」


金糸雀「そ、それは大変かしら……」

ピチカート「」シュンシュン


―― シャワー室


海未「左から三番目のシャワー室……」

紬「そう、ここよ」

紅い人形「……」

金の人形「……」


ガチャ

 バタン



真紅「金糸雀、あなた……ホーリエが気づかなかったらどうするつもりだったの?」

金糸雀「策士は常に冷静かしら。常に逃走経路は二つ用意しているから心配ご無用よ~」

海未「それはスパイですが……まぁ、いいです」ギュ

金糸雀「あの、もう降ろしても平気かしら」

海未「帰ってしまうのですね」

金糸雀「う、うん……帰れなくなるのは困るから……」

海未「……」

金糸雀「うぅ……」


真紅「金糸雀にはもう契約者が居るから、残念ね、ウミ」

紬「うふふ、海未ちゃんは金糸雀ちゃんが気に入ったみたいね」


海未「もう少しゆっくりしていってもいいのでは?」

金糸雀「そうしたいのはヤマヤマだけど」

海未「穂乃果も喜びます」

金糸雀「誰だか知らないけど、扉が閉まると帰るのがめんどうかしら」

真紅「身動きが取れない状況に陥れようとしてるのだわ」

紬「?」


真紅「ホーリエ」

ホーリエ「」シュー


ピカーッ


海未「鏡が……!」

紬「これで最後なのね……」

真紅「えぇ……」

金糸雀「それでは、さよなら~」ピョン

海未「……」グィッ

金糸雀「ふぎゅっ!?」

海未「あ、すいません」

金糸雀「急に引っ張られるとびっくりするのかしら!?」

海未「……名残惜しいですね」

金糸雀「……」

海未「……」

金糸雀「これ、あなたにあげる」スッ

海末「?」

金糸雀「みっちゃんが言うには、サンゴの石らしいかしら」

海末「サンゴ……これをどこで?」

金糸雀「砂浜で拾ったのよ。本当はみっちゃんにプレゼントだったんだけど」

海末「……そんなものを、私がもらってもいいのですか?」

金糸雀「みっちゃんが『出会いの証にプレゼントしたら?』っていうから、あげる」

海末「…………ありがとうございます、カナ」

金糸雀「ううん、拾ったものだから」

海末「……」

金糸雀「真紅たちが再会したように、カナたちもまた会えるかもしれないのかしら」

海未「……!」

金糸雀「カナたち、ドールと人間はなにかしらの糸で紡がれているから、きっと、ね」

海未「はい」

金糸雀「それではでは、チェリオ、かしら~♪」ピョン

シュゥー


海未「……」

紬「……」


真紅「私たちドールは、いつ眠りに入るか分からない。いつ目覚めるのかもわからない」

紬「……」

真紅「そんな不安定な時間を過ごしているの」

海未「……」

真紅「だから、螺子をまいた人間との間に不思議な力が宿るのだわ」


真紅「そして、契約を結めばより強い力を得ることができる」


真紅「そんな契約者以外の人間と深く関わることなんて稀なの」

紬「……」

海未「……」

真紅「金糸雀が言ったように、この扉が開いたのは何かしらの意味があるのかもしれないわね」

海未(夢の世界での……冒険……ですね)

真紅「ツムギ」

紬「?」

真紅「あなたは人と人との輪を紡いでいるみたい。名前の通り美しいことなのだわ」

紬「ふふ、そうだと嬉しい。ありがとう、真紅ちゃん」


ホーリエ「」シュンシュン

真紅「……時間ね。……それじゃ、ツムギ、あなたは家来として役目を終えたわ」

紬「それは残念……」

真紅「二人に翠星石が『よろしく』と」

海未「私からも『よろしく』と伝えておいてください」

真紅「えぇ、わかったわ」

紬「うふふ、こっちを気にかけていたのね」

真紅「…………それと、ウミ」

海未「はい……?」

真紅「宇宙と世界、どちらが広いと思う?」

海未「――え?」

真紅「その答えの意味を、ユーリの孫にも聞いてみるといいのだわ」

海未「…………」


真紅「楽しかったわ、ツムギ。それじゃ、さようなら」

紬「うん、さようなら」


真紅「……」ピョン

シュゥー


紬「……」

海未「……」


―― 売店車


紬「どこへ行くか決めているの?」

海未「まずは能登半島へ行こうかと」


バタン


亮太「え?」

紬「え?」

海未「え?」


亮太「……なんで、二人一緒にシャワー室から出てくるの?」

紬「えっと……鏡を調べていたんです」

海未(間違ってはいませんね……)

亮太「ふぅん……俺の知らないところで、何か始まってたりしてない?」

紬「常に変化があるのが旅です」キリ

亮太「うーん……良いこと言って誤魔化されているような」

絵里「海未、ここにいたのね」

海未「絵里……?」

絵里「食事の途中に走り去ったと聞いて、心配していたけど……大丈夫なの?」

海未「え、えぇ……体調は万全です」

絵里「それならいいけど」

紬「それじゃ、私も朝ごはんをいただいてくるわね~」シャランラ

スタスタ

亮太「ねぇ、園田さん」

海未「は、はい?」

亮太「あの人形、どうなったの?」

海未「在るべき場所へ帰りました」

亮太「意味深だね……」

絵里(海未の様子が変ね……)

真姫「ねぇ、穂乃果知らない?」

絵里「穂乃果なら、さっき車掌さんに呼ばれていたけど……」

真姫「突然居なくなったって聞いて……気になっただけ」

海未「車掌さんに……?」


―― 車掌室


穂乃果「私に何の用でしょう?」

車掌「先ほど、ヴェガ宛に一通の手紙が届きまして……、こちらをどうぞ」

穂乃果「手紙……?」

車掌「差出人を見れば分かるかと」

穂乃果「差出人は……秋月…さん……?」


穂乃果「なんだろ……?」ガサゴソ


― 突然お手紙を差し上げる失礼、お許しください。

   私、765プロダクションに所属し、アイドル兼プロデューサーとして活動している秋月律子と申します。


穂乃果「にこちゃんが騒いでいた人……? あれ、チケットが入ってる」


― 先日のイベント、μ'sの活躍により大成功を収めたと彼から聞きました。

   そのイベントにより、私たちの事務所にも大きな追い風が生まれ、

   夢へと一歩近づくことができたと確信しています。


穂乃果「ふむふむ」


― そこで、お礼といってはなんですが、宿泊チケットを同封しますので、ご活用ください。


穂乃果「遊園地……?」

車掌「そうですね。フリーパスポートも付いているようですよ」

穂乃果「これは、まだまだ楽しめそう…………むふっ♪」

車掌「まぁ……うふふ」


―― 金沢駅前


海未「車掌さんの用事とはなんだったのですか?」

穂乃果「うん、ちょっと……オトシモノヲネ」

海未「落し物ですか……、
    届けてくれた人に感謝して穂乃果は注意を怠らないことです」

絵里「そこまで厳しくしなくてもいいんじゃない?」

ことり「……」


凛「東口って近代的だよね~」

真姫「金沢は芸術文化が盛んだって聞いたわ」

凛「芸術は爆発にゃ!」

真姫「はいはい」

花陽「えっと、能登半島は……」

凛「バスに乗って移動だね」

花陽「うん、まずは朝市へ……あ」

真姫「何か見つけたの?」

花陽「兼六園の隣に金沢城がある…けど……」チラッ

真姫「い、行かないわよ」


絵里「ねぇ、海未」

海未「なんでしょう?」

絵里「昨日の夜、私の個室へ来た……わよね?」

海未「……」

絵里「あの辺りから記憶がなくて……妙な感覚なの」

海未「ソウデスカ」

穂乃果「うみちゃん、なにか隠してるよね」

海未「ソンナコトアリマセンヨ」

ことり「……」ジー

海未「今日も夏の空が高くて、清清しいですね」キラリ

穂乃果「曇ってるよ」


にこ「うーん、と」ノビノビ

希「体の調子はどう?」

にこ「絶好調よ!」

希「よかった」


絵里「希と海未が夢に出てきたんだけど……変な雰囲気で……」

海未「……」ハラハラ

にこ「そうそう、私の夢にも希が出てきたのよね」

海未「え?」

にこ「どんな夢だったかは忘れてしまったけど」

海未「希!?」

希「うん?」

海未「寄り道と言っていましたが、まさかにこの夢の中に……!?」

希「うふっ☆」

海未「いくらなんでも、勝手に人の――」

穂乃果「ねぇ、何の話をしてるの、うみちゃん」ジー

海未「な、なんでもありませんよ」

ことり「じぃー」

海未「えっと、まずは……輪島からですね、朝市に行きましょう!」

希「あ、エリち、向こうから人が……」

絵里「?」


「……」

タッタッタ


絵里「おっと……」

真姫「今の人、急いでいたみたいね」

絵里「えぇ……さ、行きましょう」

海未(おでこがチャームポイントでしたね……)

穂乃果「さぁさ、私と花陽ちゃんはここまでだから存分に楽しもう~!」

花陽「そうだねっ」

凛「帰っちゃうんだよねー」


ことり「二人ともなんだか怪しい……」


海未「……」ソワソワ

穂乃果「ふんふふ~ん♪」


―― 輪島


真姫「朝市はもう終わったの?」

絵里「そうね……お店の品数も少ないわ」

希「ちょっと遅かったみたいやね」

にこ「あそこで店を覗いているのって……」

凛「さとみちゃんだにゃ」


さとみ「うーん……」

にこ「どうしたの?」

さとみ「あ、にこさん……あのね、お魚を買おうか迷ってて」

にこ「ふぅん……」

凛「新鮮だよね」

さとみ「そうなの……せっかく輪島に来たんだから、食べないと損かな、と思ってね」

真姫「確か、少し先へ行ったところに、刺身の食べられるお店があったはず」

さとみ「そうなの?」

真姫「えぇ……雑誌の情報だけど」

さとみ「じゃあ、そっちで食べたほうがいいかな……?」

穂乃果「行こう行こう~♪」

海未「七輪で焼く魚もおいしいと聞きます」

さとみ「焼き魚かぁ……うーん……それもいいな~」

希「余計に悩ませたみたいやね」

ことり「七輪って……誰から聞いたの?」

海未「とある人からの情報です」

ことり「海未ちゃんの様子が変だよ」

穂乃果「これはきっと……恋だね」キラン

海未「違います」

にこ「へぇ、海未がねぇ」

海未「否定したのが聞こえなかったのですか」


穂乃果「うみちゃん、今日はなんだか心ここにあらずって感じ」

海未「人のことが言えるのですか? 穂乃果こそ、なんだか浮かれすぎのようにも見えますが」

穂乃果「そ、それは、せっかくだから……楽しもうと思ってるだけだもん」

ことり「二人とも、様子がおかしい……」

海未「わ、私は……少し、さびしいなと感じているだけです」

穂乃果「何がさびしいの?」

海未「も、もう……! 私のことなんてどうでもいいではないですか!」

穂乃果「よくないよ!」

ことり「穂乃果ちゃんは?」

穂乃果「わ、私?」

ことり「いつもよりはしゃいでいるようにも見える」ジー

穂乃果「そ、そんなことないよー」

海未「ほら、ことりもそう言ってます」

ことり「穂乃果ちゃんと海未ちゃん……二人ともなにか隠してる気がする」

穂乃果「そ、それは……」

海未「その……」


にこ「なんなのよ、あの三人は……」

凛「こういうの、不協和音っていうんだよね」

絵里「なにかあったの?」

希「さぁ~?」シラー

さとみ「仲がいい証拠よね」

真姫「それはいいから、はやく砂浜へ行きましょ。日本海が見えるわよ」

花陽「いままで太平洋側を走っていたから、真姫ちゃんたちにとっては新鮮だよね」


―― 能登半島


エレナ「海がキラキラ輝いてますヨ、小麦!」

小麦「ほんとだー、綺麗だな~!」

愛「日本海が広く見えますね…水平線まで真っ青できれい……」

紬「本当……白い砂浜と対照的で」

小麦「あれ、紬ちゃん」

エレナ「オー、いつの間に来ていたのですカ?」

紬「ふふ、今ついたところよ」

梓「海の向こう、雲の切れ間から光が降りていますね」

愛「天使の梯子、ですね……」


亮太「ふぅ、ふぅ……ここにもいないかぁ……」

梓「鶴見さん? 誰か探しているんですか?」

亮太「うん……おでこがチャームポイント? の女の子なんだけど……」

梓「なんで疑問系なんですか……とりあえず、ここには来ていないみたいですけど」

亮太「そっか……じゃあ……もういいや……」

愛「どうかしたんですか?」

亮太「駅前でさ……その子が蜂に追われてたところを助けたんだけど……、
   なんていうか……思い込みが激しくてね。ちゃんと話をしたかったんだけど」

梓「よく分かりませんけど、何かとトラブルに巻き込まれますね」

亮太「……確かに」

愛「わ、私のせい……ですよね」

亮太「あぁっ、違うよ、愛ちゃんは関係ないからっ」

愛「……はぁ」

小麦「あーぁ、愛ちゃんが気にしてるのに傷つけちゃった~」

エレナ「先生に言ってやろーですワ」

亮太「小学校じゃないんだから」

紬「それじゃあ……弁護士に言ったほうが?」

亮太「なんかリアルになったっ、やめてくれっ」

愛「ふふ」

亮太「……許してくれてなによりだ」フゥ


梓「……」

紬「あずさちゃん、朝から少し、元気が無いみたいだけど」

梓「あ……はい。……昨日、先輩方と別れて……、
  一緒に旅が出来たらどうなっていたんだろうって考えてしまって」

紬「……」

エレナ「……」

小麦「あー、出発前に展望車で一緒に紅茶を飲んだよね」

愛「そうですね、楽しい人たちでした」

亮太「へぇ、そんなことしてたんだ」

梓「はい、久しぶりのティータイムでした」

紬「そうね……」

エレナ「日本には、一期一会という美しい言葉がありますネ」

小麦「一生に一度の出会いだね」

エレナ「そうですワ。ワタクシ、あの展望車でその言葉の意味を実感しましたヨ」

小麦「あはは、あたしも~」

愛「……」コクリ

梓「そうですか……そう言ってもらえると嬉しいです」

紬「……うん」

亮太「……」

梓「帰ってからたくさん話ができるように、思いっきり楽しみましょうむぎ先輩!」フンシュ!

紬「うん、そうしましょう!」フンス!

愛「そういえば、あのお人形……持ち主は見つかりましたか?」

紬「えぇ、帰るべき場所へ帰ったわ」ニコニコ

梓「結局、あの人形はなんだったのですか?」

紬「そうね、……家出をしたってところね」

梓「そうですか、なるほど」

亮太「あ、納得できたんだ……」

エレナ「グランマから聞いた話では……蒼い服を着たボーイッシュな人形だったそうですネ」

小麦「翠の人形の姉妹って、その人形のことだよね?」

エレナ「そうですワ」

紬「……私は会えなかったのよね」

梓「あ、穂乃果たちです」


「しつこいですよ、穂乃果!」

「しっ、しつこいって言い方はないよ!?」

「落ち着いて二人ともっ」


梓「……ケンカ?」

紬「まぁまぁ」


エレナ「オー、アイドルのみなさんですワ」

小麦「さとみちゃんもいる……ってことは、10人だね」

愛「大所帯ですね……」

亮太「……人が多いと迫力があるよね」


にこ「にっこにっこにー♪」

エレナ「部長サンですネ、本日も麗しゅう」ジー

にこ「あわわ、にこ、砂浜に足を取られちゃってうまく歩けなぁい」

亮太「いや、みんなの先頭を歩いて来たでしょ」

にこ「にこー?」ジロ

真姫「カメラの写りに隠れるようにして人を睨まない」

小麦「プクク」


海未「だから、言っているではないですか! 『言う必要が無いこと』だと!」

穂乃果「今までそんなことなかったよ! 必要があるかないかは聞いてから判断してもいいでしょ!」

海未「それは身勝手です! 私の言い分を無視しているではありませんか!」

穂乃果「うみちゃんが頑なに喋ってくれないからだよっ!」


ことり「もぅ……」

梓「あの二人はどうしたの?」

ことり「うん……なんだか、海未ちゃんが隠していることを穂乃果ちゃんが知りたいらしくて」

凛「海未ちゃんがあそこまで隠そうとする事情があるなら、聞かない方がいいと思うんだけど……」

花陽「穂乃果ちゃんはそれが……いや、なのかな……」

紬「隠していること?」

絵里「私達も心当たりがないから、どうフォローしたらいいのか分からなくて」

さとみ「なんだかんだで、ここまで言い合っていたね……」

希「むぎちゃん」ヒソヒソ

紬「?」

希「夢の話なんよ」ヒソヒソ

紬「な、なるほどぉー……」


海未「大体、穂乃果の企んでいることはどうなんですか?」

穂乃果「な、なんの話?」

海未「とぼけたって無駄です、札幌からここまで来て、
    穂乃果が今、ナニカを隠していることは分かりますから」

穂乃果「むむぅ……じゃあじゃあ、私が言ったら、うみちゃんも話してくれる?」

海未「それとこれとは話が別です」

穂乃果「なにそれ! ずるいよっ!!」



希「まぁ、にわかに信じがたい話やからしょうがないんやけど」

紬「そうよね……」

梓「二人とも、なんの話しですか?」

希紬「「 ううん、なんでも 」」

梓「……」ションボリ

凛「梓ちゃんが疎外感を感じて落ち込んでるにゃ……!」

花陽「でも、このままだと……」

真姫「ろくに観光もできやしないわね」

にこ「放っておけばいいのよ、そのうち熱も冷めるでしょ」

ことり「ううん……穂乃果ちゃんがムキになってるから……結構長引くと思う……」


海未「どうして今回に限ってしつこく聞いてくるのですか!?」

穂乃果「だって……なんだか雰囲気が違うんだもん」

海未「ふ、雰囲気?」

穂乃果「寂しそうな、嬉しそうな、複雑な表情しているから」

海未「……」

穂乃果「長い付き合いだから分かるよ、うみちゃんにとってとても大切なことがあったんでしょ?」

海未「…………」

穂乃果「もし、立場が逆だったら……うみちゃんは聞かないでいられる?」

海未「そ、それは……」

穂乃果「……」

海未「……」

穂乃果「それで、何があったの?」

海未「……ッ!」


ことり「あ……」


海未「決めました。もう絶ッ対にッ! 穂乃果には話しません!」

穂乃果「どうして!?」

海未「誰にでも、人には言えないことの一つや二つ持っているものですから!」

穂乃果「うみちゃん!」


亮太「みんな揃ってるし、記念撮影しようか」

小麦「さんせ~い!」

エレナ「いいですネー」

にこ「賛成にこー!」

花陽「大喧嘩してるのに!?」


にこ「それにしても珍しいわね……穂乃果があんなに食らいつくなんて」

絵里「そうなのよね、引くときは引くって、弁えていたけれど……」

希「複雑やな……」


海未「もう話すことはありません」

穂乃果「ここまで意固地なうみちゃんも珍しいよ……!」

ことり「……今のは穂乃果ちゃんが悪いと思うよ」

穂乃果「ことりちゃんはうみちゃんの味方するんだ!?」

ことり「そういうわけじゃないけど……」

小麦「はーい、ハイハイハイハイ~! ちょっとごめんよー!」

海未穂乃果ことり「「「 ? 」」」

小麦「海をバックにみんなで記念撮影するから、向こうへ集合~!」

海未「……」

穂乃果「……」

ことり「……」


紬「お願いしますね、鶴見さん」

亮太「はいよー」

にこ「うん? どうして当然のようにあんたがカメラを受け取ってるのよ?」

亮太「札幌からここまで、俺がカメラマンとして撮影してるからね」

にこ「ふーん…………ん? 集合写真……撮ってたの?」

亮太「……うん。にこさん達は毎回いなかったから写せてないけど」

にこ「なにそれ、ちょっとショックじゃない!」

希「まぁ、ええやん。ウチらもはよ入ろ~」

愛「わ、私も……いいですか?」

亮太「もちロン。さ、入って~」


希「はい、にこっちと梓ちゃんは隣同士」

梓にこ「「 …… 」」

希「うん、いいね」

にこ「なにがよっ!?」

梓「写真を現像したときにも、また同じようにからかわれるって目に見えています……」ササッ

凛「逃げたにゃ」

花陽「現像ってことは……フィルムなんですか?」

紬「そうなの。デジカメじゃないのよ~」

エレナ「現像が楽しみですネ」

小麦「あ、いいよねそういう楽しみ」

愛「待つ楽しみですね、分かる気がします」

絵里「エレナのカメラも少し使い古しているみたいね」

エレナ「えぇ、ここまで共に旅をしてきましたカラ」

愛「とても愛着が沸きますよね」


さとみ「世界を旅しているのよね、私にはヴェガに乗る事で精一杯だから……凄いな」

エレナ「このカメラで世界を撮ることがワタクシの夢ですネ!」

真姫「撮るって言ってるけど、いいの?」

小麦「あ、忘れてた」


亮太「忘れんなよー! 撮るよー!?」


小麦「いいよー!」


亮太「はい、チー……」


にこ「にこー♪」


亮太「あの……高坂さん、園田さん? そのままでいいの?」


穂乃果「……」

海未「……」

ことり「二人とも……っっ」

希「ふむ……」

凛「珍しいこともあるにゃ」

梓「これはこれで思い出になりますよね」

紬「まぁ、あずさちゃんったら」

花陽「あはは……」

絵里「記念撮影ね……どうして思いつかなかったのかな……」

さとみ「今まで一枚も撮ってないの?」

絵里「えぇ……観光地の写真は撮っているけど、集まっての撮影は無かった」

小麦「思い出は心の中に……ってことだよね」

エレナ「記録ではなく記憶ですネ!」

真姫「撮影者がいなかっただけなんだけど」


亮太「お喋りしてるけど、撮るよー!? ハイ、チー……」


にこ「にこっ♪」


亮太「二人とも、こっち見てー!」


海未「……」

穂乃果「……」

希「大丈夫、二人はこう見えてもアイドルやから」


亮太「よくわからないけど、……じゃあ、撮っていいんだね?」


絵里「お願いします」


亮太「じゃ、撮るよー! ハイ、チー……」


にこ「にこーッ♪」


亮太「……あ、ごめんごめん、レンズの蓋が」


にこ「いい加減にしなさいよ!? このポーズ疲れるんだから!!」


亮太「すいません……じゃあ本当に撮りまーす! ハイ、チーズ!」


穂乃果「……」

海未「……」

にこ「にこっ♪」


カシャ


亮太「あ……ちゃんとこっち見た」


にこ「さぁ、次の観光地に行くわよー!」

穂乃果「……そうだね」

海未「……」

にこ「う……なによ、この雰囲気は」

ことり「……」

エレナ「オー! 小麦! 時間ですワ!」

小麦「あ、本当だ!」

絵里「どうしたの?」

エレナ「これからバイトに行かなくてはいけませんネ!」

小麦「働いて稼がないと、今日の晩御飯も食べられないのだー」

紬「まぁ、逞しいのね」

エレナ「それではミナサン、ご機嫌ヨウ~!」

海未「あ、エレナさん!」

エレナ「?」

海未「Human is a traveler by nature...」

エレナ「……!」


凛「にゃ?」

海未「この言葉の意味を教えて欲しいのですが」

さとみ「人は生まれながらにして……」

絵里「旅人……?」

エレナ「ソレを……ドコで……?」

海未「あ、……それは」

小麦「どうしたの、エレナ?」

エレナ「グランマの口癖……ですワ」

小麦「……? どうして海未ちゃんが知ってるのー?」

海未「そ、それは……」

エレナ「…………」

穂乃果「……」

希「歌詞に、そのフレーズがあるんよ」

エレナ「フム……そうでしたカ。ビックリしたネ」

小麦「エレナ、時間!」

エレナ「オー、急がば回れ、ですヨ小麦!」

小麦「使い方間違えてるから! それじゃあね、みんな!」

エレナ「時間がありませんから海未さんとはヴェガでお話しまショー!」

海未「は、はい」

小麦「亮太くんは後でねー!」

亮太「はいよー」


タッタッタ


にこ「人生の旅がどうしたのよ、海未?」

絵里「少し、違うわね」

希「何が聞きたかったん?」

海未「直訳ではない意味を聞きたかっただけです……」


穂乃果「……」

海未「……なにか?」

穂乃果「……べつに」

海未「…………」


絵里「……しょうがないわね」

希「この後の観光、どうしよか」

絵里「3人ずつに別れて行動しましょう。穂乃果、ことり、海未に別けてね」

凛「誰がどこへ行くの?」

絵里「そんなに遠くへは行かないはずだから……」



さとみ「私はどうしようかな……」

梓「私たちも移動しましょう、むぎ先輩」

紬「そうね、そろそろ駅に向かわないと」

梓「それと、髪型を澪先輩のようにしたいので、お願いできますか?」

紬「澪ちゃんのように? どうして?」

梓「これ以上、髪型をネタに遊ばれたくないと思って」

紬「まぁ……」

愛「スッキリしない空模様ですね……」

亮太「本当だ……」


―― 金沢・ファーストフード店


凛「なんで凛たち、東京にもあるファーストフード店に入らなくちゃいけないのー?」

穂乃果「つい……自然と……いつもの癖で……」

絵里「凛もハンバーガーを注文してるわよね、私はドリンクだけだけど……」

凛「凛もいつもの癖で注文してしまったにゃ……」

穂乃果「……」

絵里「金沢の名物、ハントンライスを楽しみにしていたんじゃなかったの?」

穂乃果「……うん」

凛「……」

絵里「どうして海未に対してあんなに何度も聞いたの。
    あれは誰がどう見ても逆効果だと分かるわよ」

穂乃果「うん……そうなんだけど」

絵里「けど?」

穂乃果「悔しかったから」

絵里「?」

凛「悔しい?」

穂乃果「にこちゃんのように、うみちゃんも……なんだか知らないとこへ行ってしまうような気がして」

絵里「……」

凛「もぐもぐ」

穂乃果「自分で言っててよく分からないんだけど……」

絵里「不安、なの?」

穂乃果「うーん……」

凛「にこちゃんはどこにも行かないにゃ」

穂乃果「うん……そうなんだけど……」


絵里「……」


凛「それで、海未ちゃんが言ってた、穂乃果ちゃんが隠していることってなぁに?」

穂乃果「……もう隠していてもしょうがないよね。これなんだけど」

絵里「手紙?」

穂乃果「車掌さんから渡されて……中に宿泊券とフリーパスが入ってるの」

凛「どこの券なの?」

穂乃果「次の都市にある遊園地……」

凛「……でも、穂乃果ちゃんとかよちんは……金沢で終わりなんだよね?」

穂乃果「そのつもりだったんだけどぉ」

絵里「なるほどね、それを驚かせるために内緒にしていたのね」

穂乃果「そうです……」

凛「……ということは!? 二人ともまだ帰らないってことだよね!」

穂乃果「うん、そのつもり」

凛「やったー!」

絵里「急に決めていいの? 予定とかは」

穂乃果「大丈夫。先立つものが無かっただけだから」

凛「かよちんも大丈夫なんだよね!?」

穂乃果「花陽ちゃんにもまだ……」

絵里「あのね、穂乃果……」

穂乃果「だって、うみちゃんと喧嘩してて……そんな暇なかったんだもん……」

凛「さっそく電話して伝えるにゃ」

ピッピッピ


trrrrrrrrr


穂乃果「あ、うみちゃんには内緒だよ!」


―― 金沢城


真姫「へぇ、屋根が白い瓦になっているのね」

にこ「まるで雪でお化粧をしたみたいにこっ」

真姫「真夏に何いってんのよ」

にこ「季節のより感性が大事なんだよ♪」

ことり「にこちゃん、エレナさんがいないからビデオ撮影もないんだよ?」

にこ「これが自然体のにこにーなのっ」

ことり「そうだったんだ……知らなかった」

真姫「どうせここへ来るんなら、歴史の勉強でもしておけばよかったかも」

にこ「どうしてにこ?」

真姫「さとみさんが言ってた、『せっかく行くんだから、知識があった方が楽しめるんじゃないか』って」

にこ「ふぅん……じゃなかった……そっかぁ、さとみちゃんはいいことを言うにこ!」

ことり「そんな話してるんだね」

真姫「世間話程度でしょ……って、なんで城を見に来てるのよ!」

にこ「あれぇ? 真姫ちゃん、ここへ来たかったんじゃないにこ?」

真姫「一言も『行きたい』なんて言ってないわよ! 語尾を無理につなげてるけどとても不自然よ!」

にこ「ついでに怒られたにこ……」

ことり「……雨が降りそう」

にこ「いやぁん、雨が降ったら困っちゃう~」キャピ

真姫「どうでもいいけど……私達の前でキャラを作っても意味無いわよ?」

にこ「だから自然体だって言ってるでしょ! ……っと、にこにーは怒鳴ったりしないにこっ」

真姫「……髪型を変えただけで性格が変わるなんて……苦労するわね」

にこ「でもでもぉ、絵里ちゃんとお揃いでいいかもぉ、なんて☆」エヘッ

ことり「にこちゃんも、今日は一段と元気だね」


―― 片町


pipipipipi

花陽「……凛ちゃんだ」


ピッ


花陽「もしもし?」

希「片町は綺麗な城下町なんやって」

海未「そうですか……」

希「穂乃果ちゃんが気になる?」

海未「いいえ!」

希(強く否定するってことはそういうことやね……)


花陽「えっ!? 本当なの凛ちゃん!?」


海未希「「 ? 」」


花陽「え、あ……うん」チラッ


希「どうしたん?」

花陽「な、なんでもない。…………わ、わかったよ、凛ちゃん」ヒソヒソ

希「?」

海未「大方、穂乃果が隠していたことが凛から花陽に伝わっているということでしょう」

希「まるで見ているかのようや、さすが幼馴染……」


ピッ


花陽「……凛ちゃん達も片町に来るから、合流しようって」

希「うん、そうしようか」

海未「……なにを驚いていたのですか、花陽?」

花陽「そ、それは……その」アセアセ

海未「いえ、答えなくてもいいです」

希「興味ない?」

海未「隠している内容については、もう気にしません。……ですが、あそこまでしつこくされると」

希「穂乃果ちゃんには穂乃果ちゃんなりの考えがあるのかもね」

海未「……」


……




海未「この喫茶店でいいのですか?」

花陽「凛ちゃんが言うには……ここなんだけど」

希「とりあえず入ってみよ」


カランカラン


穂乃果「お帰りなさいませ、ご主人様♪」


海末「……」

花陽「……」

希「穂乃果ちゃん……?」


穂乃果「あ、うみちゃん」

海未「希……私はもうヴェガに戻って休むことにします。……幻影が見えるなんて」

希「名前呼んでたし、本物やと思うけど」

海未「……」チラッ


「ちょっと、高坂さんっ!?」

穂乃果「なんでしょう、チーフ!」

チーフ「ここはメイド喫茶ではありません!」

穂乃果「す、すいませんっ、つい……いつもの癖でっ」


海未「本物のようですね……」

花陽「???」

希「どういうことやろ?」


エレナ「いらっしゃいませですワー!」


海未「エレナさんもいる……?」


凛「かよちーん!」

花陽「あ……」

絵里「こっちよ、希」

希「……どうして穂乃果ちゃんがウェイトレスを?」

絵里「エレナのバイト先がここだったのよ」

凛「だけど……エレナさんは日本にまだ慣れていなくて」

海未「……?」


エレナ「どうぞ、こぶ茶ですネ」

客「私が頼んだのは紅茶なんだけど……」

エレナ「オー、ソーリィ」


絵里「……と、聞き間違いをしてしまうから」

希「穂乃果ちゃんがフォローに?」

凛「そういうこと~」

花陽「よく、受け入れてくれたね」

絵里「バイトの人が遅れていて、ちょうど良かったって」

希「ふぅん……」

海未「余計に混乱を招きそうですが……」


穂乃果「エレナさん、紅茶です」

エレナ「これはこれは、かたじけないですワ」

穂乃果「これも我の勤めというもの、お気になさらず、殿」フフン

エレナ「オー、NINJAですネ!」

穂乃果「ううん、それを言うならくの一だよ」

エレナ「ホノカさんは日本の古き良き伝統を守っていたのですネ!」


客「くすくす」


チーフ「……」ジー


海未「穂乃果っ、チーフの視線に気づいてくださいっ」ハラハラ

絵里「誰か、代わりにフォローに入ったほうがいいかもね……」

希「ウチ、ウェイトレスの経験は……」

凛「凛も無いにゃ」

花陽「わ、わたしも……」


カランカラン


穂乃果「いらっしゃいませ、ご主人――じゃなかった、いらっしゃいませ~!」


にこ「二回も歓迎されたわよ」

真姫「おかしなウェイトレスね……勢いが誰かに似てる」

ことり「あれ、穂乃果ちゃん?」

穂乃果「ようこそ~」

真姫「本人だったのね……」


……



ザァー


紬「わぁっ、雨が強くなってきたわ!」

梓「あの喫茶店に入りましょう、むぎ先輩!」

紬「わかった!」


タッタッタ


梓「ふぅ……急に振り出してきましたね」

紬「うん……向こうの空は明るいから、きっと通り雨ね」

梓「少しだけ雨宿りしましょう」

紬「なんだか、新鮮ね、あずさちゃん」

梓「えへへ、いつもと違う髪形なので少し楽しいです」

紬「絵里ちゃんとお揃いね」

梓「まぁ、そうなんですけど……にこさんよりはからかわれないはずです」


カランカラン


ことり「いらっしゃいませ」


梓「……ことり?」

紬「あら?」


ことり「あ、梓ちゃんと紬さん」


梓紬「「 ? 」」


エレナ「いらっしゃいませー!」

「すいませーん」

穂乃果「はーい、ご注文ですね~!」


梓「穂乃果とエレナさんもウェイトレスを……?」

紬「どうしたのかしら……?」

にこ「こっちに来なさい二人とも、説明して――……って、えぇ?」

梓「えぇ!?」

希「二人ともポニーテールやね」

絵里「あら……」

凛「ここまでシンクロするなんて……やっぱり運命の二人なんだにゃ」

花陽「そ、そうかな……」


梓「どうしてこのタイミングで髪型を変えるんですかっ!」

にこ「あなたが何度もからかわれてるから変えたのに……どうしてうまくいかないの」

希「はい、にこっち、梓ちゃん、こっち見て~。ハイ、チーズ」


にこ「にこっ♪」

梓「……」ピース

パシャッ

希「うん、いいね」

にこ梓「「 ハッ!? 」」

紬「あらあら、記録に残ってしまったわね」



エレナ「どうぞお麦茶でゴザイマス」

客「私が頼んだのは冷麦よ!」

エレナ「ですから、冷えた麦茶ですネ」

客「まぁ、私をバカにしているの?」

エレナ「エート?」

ことり「まって、エレナさん。冷麦は麺類よ」

エレナ「間違えました。カタジケナイデス」

客「……外国の方? 日本に来てどのくらい?」

エレナ「かれこれ2ヶ月になりますワ」

客「2ヶ月でそれだけ喋れるの? すごいわね」

エレナ「恐れ入るネ」

ことり「はい、エレナさん」

エレナ「これが冷麦ですネ?」

客「ふふ、そうよ」


紬「なるほど、だからフォローをしているのね」

絵里「えぇ……」

真姫(穂乃果もことりも楽しそうね……)


穂乃果「いらっしゃいませ!」

客「3人です」

穂乃果「こちらへどうぞ~」


絵里「混んできたことだし、私達は出ましょうか」

にこ「私はもう少し説明しとくから、先に出てて」

真姫「私もここにいるから」

絵里「わかった」

凛「バイトが終わるまでどうするにゃ?」

花陽「雨も止みそうだから、散歩しよう?」


―― 片町・公園


梓「なんで私まで……」

凛「にこちゃんと並んでいたらまたからかわれるから、しょうがないにゃ」

梓「……はぁぁ」

花陽「ため息が深い……」

絵里「夏休みだけあって、子供が多いわね」

希「ふふ、みんな楽しそうやん」

海未「……」

絵里(そういえば、まだ花陽以外には宿泊チケットの件、話していないのよね……)


「おじょうさん~、おはいんなさい~♪」

「きゃっきゃっ」


花陽「なわとび、してるね」

凛「楽しそうだにゃ~!」

テッテッテ

花陽「り、凛ちゃん?」

梓「?」


凛「仲間にい~れて♪」

「うん?」

「お姉ちゃん、一緒に遊びたいの?」

凛「うん、ちょっとでいいから遊ぼう~?」

「いいよー」

「あそぼ、あそぼー!」

絵里「それじゃ、私が縄を回してあげるから」

希「ウチも回してあげる、みんな入って」

「「 わーい! 」」

凛「かよちんも、海未ちゃんも!」

花陽「わ、わたしは見てるから」

海未「私も見ています」

凛「えー、せっかくなんだからみんなで遊ぶのー」グイッ

花陽「り、凛ちゃんっ」

海未「強引ですね……」

梓「……」

希「ほら、梓ちゃんも」

梓「私はいいです……にこさんじゃないんですから」

絵里「それじゃ、行くわよー」

希「せーっの!」

「「「 いーっち! 」」」


……




エレナ「二人ともサンキューですワ」

穂乃果「お礼はいいですよ~、バイト代も貰えたことだし~」

ことり「うん、私も知らない所で働けて、楽しかったですから」


紬「あずさちゃん達はどこへ行ったのかしら」

真姫「絵里のメールでは公園にいるって話だけど」

にこ「あそこで遊んでいるのって……」

紬「あら」


梓「よんじゅうに! よんじゅうさーん!」

ピョンピョン


ことり「楽しそうになわとびしてるね」

穂乃果にこ「「 よしっ 」」

ダッ


エレナ「オー?」

真姫「飛び入り参加するみたいね」



「「 よんじゅうご! 」」

ピョン

凛花陽海未「「 よんじゅうろく! 」」

ピョン


絵里「よんじゅうしち」

希「よんじゅう……ん?」


にこ「た、タイミングが難しいわね」

穂乃果「そ、そうだね……」ゴクリ


海未「ま、待ってください! 穂乃果、にこっ!」

「「 よんじゅうきゅうー! 」」

ピョン


にこ「次で入るわよ!」

穂乃果「うん!」



梓「ごじゅう――……!」


にこ穂乃果「「 それっ 」」


バシッ


にこ「あいた……」

穂乃果「あ……」


「「 あーっ! 」」

凛「なにするのっ、にこちゃん、穂乃果ちゃん!!」

にこ「ほ、穂乃果が……!」

穂乃果「にこちゃんだよ! 『あいた……』って、縄に当たってたでしょ!」

海末「二人とも同罪です」

梓「せっかく50回に到達するところだったのに!!」

絵里「惜しかった……残念」

希「にこっち達も跳べたら盛り上がったんやけどね」

花陽「ふぅ……もう疲れちゃった」

「私もー」

「疲れたぁ~!」

「あーぁ、50回跳べなかったなぁ~」

海未「待って、と言ったではありませんか……」

穂乃果「う……ごめんなさい」

梓「あと一回、あと一回だったのに……!」プンスカ


紬「誰よりも怒ってるみたい……」

ことり「真剣だったんだね」

エレナ「思い入れがあったのでしょうネ」ウンウン

真姫「……意外とノリがいいのね」


―― 金沢駅


海未「小麦さんとの待ち合わせはここでいいのですか?」

エレナ「そうですワ。もう少しで来ると思うネ」


真姫「結構長いこと遊んでいたのね」

凛「休憩を挟みながらやってたんだよ、みんなでどうやったら上手に跳べるかとか考えて」

花陽「……うん、みんなで目標の50回跳ぼうって決めたんだよね」

絵里「子供達が一生懸命だったから、こっちも手を抜けなくてね」

希「……」チラッ

にこ「わ、悪かったわよぉ……!」

穂乃果「そんな事情があったなんて……」

凛「目標には届かなかったけど、楽しんでいたからよかったにゃ」

花陽「……」

紬「だからあずさちゃんも気合が入っていたのね」

梓「そ、そうです、……夢中になっていました」

ことり「大丈夫、梓ちゃん?」

梓「……私は文化部だから……足が少し痛い」


花陽「凛ちゃん」

凛「うん? なぁに?」

花陽「小さいころ、なわとびしたの……覚えてる?」

凛「うん、覚えてるよ~。二人跳びとか、みんなで跳んだり、たくさんしたよね」

花陽「私が怖がって、うまく中に入れなかった時、さっきみたいに凛ちゃんが手を引っ張ってくれたんだよね」

凛「強引だってよく言われるにゃ」

真姫「……」

花陽「ありがとう、凛ちゃん」

凛「うん? どうしたの、かよちん?」

花陽「うん……なんとなく」

凛「変なかよちんだにゃ」


真姫「どうしてかしら……」


凛「?」

花陽「真姫ちゃん……?」

真姫「どうして、昔のことを懐かしんだりするのかなって……」

凛「うん~……?」

真姫「……ううん、なんでもない」

花陽「……」

エレナ「おそらく、日常から離れているおかげですネ」


真姫「おかげ?」

エレナ「ありふれた日常の大切さ、それはきっと、特別な状況じゃないと気づけないですヨ」

真姫「……それは、なんとなく分かるけど」

エレナ「イイコトもワルイコトもありますが、それをトットリ早く教えてくれるのが旅ですネ!」

小麦「鳥取じゃなくて、手っ取りだよ、エレナ」

エレナ「オー、小麦、いま到着したのですカ?」

小麦「そうだよ~」

花陽「思い出が……日常の大切さ……?」

凛「う~ん……?」

小麦「エレナが言いたかったのは、多分……お祭りの帰り道なんじゃないかな?」

真姫「また話が飛ぶわね……」

小麦「ほら、屋台の綿飴とか、大きな花火とか、いろいろ楽しいことがたくさんあるでしょ?」

真姫「……」

小麦「それを思い出しながら家に帰ると……なんだかさびしくなるよね」

凛「……切ないよね」

花陽「……うん」

小麦「そうそう、切なくなるの。それはきっと……特別なことだから」

真姫「……」

小麦「明日から学校だー、なんて思ったらガッカリしちゃうけどね」

真姫「ガッカリするけど……それも楽しかったり……ね」

小麦「なーんて、話の途中からしか聞いていないからよく分かってないんだけど~、あはは」

絵里「ふふ」

エレナ「旅と言っても、遠路はるばる~、じゃなくてもいいネ。いつもと違った場所で、
     いつもと違うゆったりとした時間を味わうだけ……それだけで特別ヨ」

真姫「……」

凛「不思議な感じだにゃ……」

花陽「……うん、そうだね」

海末「……」

穂乃果「……」

にこ「私も、そろそろ決めないとね……」

希「なに?」

にこ「帰らなくちゃいけないでしょ」

絵里「あ……ちょっと、穂乃果」

穂乃果「え?」

絵里「ほら、みんなに伝えないと……」

穂乃果「あ、うん……」



亮太「なんか、エレナが言うと言葉に重みがあるな」

エレナ「ソーデスカ? 日本語ムズカシイですから、伝えられたか自信ないヨ」

花陽「ううん、なんとなくだけど……わかる気がします」

凛「振り返ってばかりじゃもったいないにゃ! 楽しみはまだまだこれから~!」

真姫「……そうね」

エレナ「本当は、本に書かれてあったのを言っただけですネ」

亮太「おぉ……、感動を返せ……!」

小麦「あははは!」

海末「それでは、次の観光地へ行きましょう」

梓「……鶴見さん、いつの間に?」

亮太「小麦と一緒に来たんだけど……話し込んでいたから、声をかけづらくて」

梓「一緒に?」

亮太「バイト先に行っていたから」

にこ「どんな仕事してたのよ」

亮太「工事現場」

紬「まぁ、小麦ちゃんも頑張っていたのね」

海末(訪れた土地で働きながら、世界を旅しているエレナさん……
    いつかは日本を出て行くのでしょうか……)

穂乃果「どうしたの、うみちゃん? ボーっとして」

海末「いえ……、知らない世界へ飛び込んでいける勇気が、なんだか羨ましくて」

ことり「……」

梓「あれ、二人はいつの間に仲直りしたの?」

紬ことり「「 あ、あずさちゃん……! 」」

海末「……そうでした」プイッ

穂乃果「……むぅ」

梓「……幼馴染だから自然と仲直りしたのかと」

ことり「もうちょっとで話をしてくれそうだったけど……」


小麦「それじゃー、武家屋敷へ出発、だっ!」


―― 武家屋敷


にこ「え、本当に!?」

穂乃果「……うん、ほら……そのチケット」

にこ「す、すごい……!」

希「けど……どうして穂乃果ちゃんは嬉しそうじゃないん?」

穂乃果「どうして私たち、ケンカしてるんだろうって……思って」

希「……」



――


絵里「聞かなくてもいいの?」

海末「はい、その必要はありませんから」

絵里「……海末、意地になってない?」

海末「…………否定はできませんが」

絵里「……」

凛「ここはまるで迷路みたいだね~」


――


花陽「凛ちゃんたち、どこへいったのかな……」

真姫「すぐに見つかるわよ」

ことり「……」


――


梓「あ、さとみさんです」

紬「あら、本当……」


さとみ「……」


梓「一人で観光していたんですね」

紬「うふふ……驚かしてみましょう♪」


さとみ「……ここはさっき通ったような?」

「わぁーっ」

さとみ「……?」

紬「わー……!」

さとみ「あ、むぎさん……よかった。独りで心細かったの」

紬「……わぁ」

さとみ「?」

梓「どんまいです、むぎ先輩……!」グッ


―― 


エレナ「いいですネー! この景色!」ジー

小麦「城への侵入を防ぐためにここらへんの道はやたら曲がりくねって作られているのでーす!」

亮太「えっほ、えっほ」コキコキ


真姫「?」

花陽「どうして自転車をこいでいるんだろう……?」

ことり「あ、わかった。線がカメラと繋がってるから、充電式なんだよ」

真姫「なるほどね」


エレナ「これなら何時間撮っていても飽きないネ」ジー

亮太「か、勘弁してくれー!」

小麦「という訳で、武家屋敷は今も形を残しているのです――……って、二人とも聞いてた~?」

亮太「あ、悪い」コキコキ

エレナ「ソーリィ、撮影に集中してたネ」

小麦「もぉ~、せっかくリポートしてたのにぃ」


――


にこ「ここ、さっき通ったでしょ?」

希「……そうかもね」

穂乃果「……」

にこ「沈んでる穂乃果も珍しいわね……」

穂乃果「そうかな……」

にこ「ちゃんと海末と話をしなさいよ?」

穂乃果「……ごめんね、せっかくの観光を台無しにしちゃって」

にこ「なに言ってるのよ、これくらいのことで私達が影響されると思ってるの?」

穂乃果「……ありがと、にこちゃん」

にこ「んー……お礼を言われるほどのものじゃないんだけど」

穂乃果「……うん」

希「にこっちもお姉さんになったやん……あ、そっち曲がってみよ」

にこ「私はいつでもあんた達を引っ張って来てたでしょ――」


ドンッ


「あ、ごめんなさい」

にこ「すいませんでした、前方不注意で――」ペコリ

真姫「……」

にこ「……って、真姫じゃないのよ」


真姫「びっくりした……誰かと思ったら……」

エレナ「誰でしたカ?」ジー

にこ「にっこにっこにー♪ 髪型をポニーテールにした、にこにーでぇす♪」

エレナ「今日も一段とキュートなニコサンですネ~、バッチリ映像に撮っておくヨ~」ジー

にこ「やだぁ、本当のことを言われるとにこってば少し照れちゃう~♪」

エレナ「バッテリーが切れたネ」

にこ「……あ、そう」

花陽「素に戻ったね……」

小麦「グフッ」

亮太「いつも思うけど、にこさんの切り替えの速さはすごいよ」

にこ「褒められてる気がしないわ」

真姫「『自然体のにこにー』はどこに行ったのよ?」

にこ「今日も暑いにこね!」

真姫「……っ」

にこ「なに、笑ってるのよ」

真姫「べ、べつに……?」

ことり「どうしたの、穂乃果ちゃん?」

穂乃果「……うん、ちょっとねぇ」

ことり「気にしてるんだね」

穂乃果「……うん」


「抜き足、差し足、忍び足……」コソコソ


花陽「……?」


「しー、内緒よ、花陽ちゃん」


花陽「……」コクリ


真姫「そろそろ戻らないと、ハントンライスが食べられなくなるわよ」

にこ「そうにこね、それは避けないと――」


「「 わーッ!! 」」


にこ「!」ビクッ

真姫「ひっ」ビクッ

穂乃果「……あ、さとみさんに、紬さん」

真姫「も、もう! ビックリするじゃない!」

紬「うふふ」

さとみ「大成功ね」

ことり「……あれ、にこちゃん?」

亮太「ものすごい勢いで向こうに走って行ったよ」

希「あらら」


―― 


にこ「なによ、なによ今の!?」


にこ「……ふぅ、ビックリした……!」


にこ「……」


にこ「…………あれ」


にこ「ココハドコ?」



海末「……」

凛「……」

絵里「……」



にこ「あっちから来た……のよね? それとも、向こう?」


にこ「こんなとこで迷子になってる場合じゃないってのに……」


にこ「……どうしよう」



海末「……」

凛「……」

絵里「……」


にこ「とりあえず、歩いてみるべき? ……いやいや、それこそ迷子になるってものよ」


海末「……」

凛「……」

絵里「……」

スタスタスタ


にこ「うー、どうしよう……!」オロオロ


凛「……どうしたんだろ、にこちゃん」

海末「すれ違ったのに私達に気づきませんでしたね」

絵里「何か遊んでいるのかもしれないわ、しばらくそっとしておきましょう」



――


希「にこっちは?」

絵里「え?」

花陽「そっちから来たんだから、にこちゃんに会ったはずだよ?」

凛「……うん」

真姫「……?」

海末「迎えに行ってきます」

スタスタ


希「???」

絵里「遊んでいる様に見えたから……置いてきてしまったのよ」

穂乃果「結構ひどいっ!?」

凛「にこちゃんが戻ってきたら、どうするの?」

絵里「そうね……とりあえず、駅に戻りましょうか。二人分のチケットを手配しないといけないから」

ことり「二人分?」

穂乃果「ことりちゃんにもまだ言ってなかったね……
     実は、私と花陽ちゃんは次の名古屋まで行ける事になったの」

ことり「ほ、本当?」

穂乃果「うん」


梓「……」

紬「まぁまぁ、もう少しだけ一緒にいられるのね」

さとみ「うーん、結構歩いたなぁ」ノビノビ

亮太「俺も今日は体力を使ってばかりで、少し疲れたなぁ」ノビノビ

小麦「ありがとね、亮太君」

亮太「いいって、みんなで観光できたし」

エレナ「……」

梓「私達は戻りましょう、むぎ先輩」

紬「そうね」

小麦「あたし達はどうしよっか、エレナ」

エレナ「…………」

小麦「エレナ?」

エレナ「……? なんですか、小麦?」

小麦「どうしたの、ボーっとして」

エレナ「いいえ、なんでもないデスヨ」

小麦「?」

亮太「エレナも疲れたんじゃないか?」

エレナ「そうですネ~、色々と周りましたカラ」

小麦「……」


海末「いませんでした」

希「え?」

海末「にこは、いませんでした」

絵里「えぇっと……それじゃあ、誰か、にこを探すから、私と一緒に来て」

穂乃果「私が捜索するよ」

希「駅に向かってるかもしれないから、ウチは戻ってみるわ」

絵里「いたら連絡して」

希「りょ~かい」

亮太「俺も探すの手伝うよ、散歩がてら」

絵里「いえ、それには……」

亮太「発車時間になったら勝手に戻るから、気にしないで」

エレナ「ワタクシモ、お供するネ」

小麦「それじゃ、あたしも~!」

エレナ「小麦、ディスクが切れてしまったから、買っておいてくれますカ?」

小麦「あ、そうだね……わかった!」

エレナ「よろしくですワ」

さとみ「私も行こうかな、原因は私にあるから」

亮太「なんだ、結局観光の続きじゃないか」

絵里(気を遣わせてるわね……)

海末「穂乃果と私は向こうです」

穂乃果「……わかった」

ことり「私達は駅に戻ってるね」

海末「はい」

絵里「見つけたらこっちにも連絡してね」

穂乃果「……うん」


凛「みんなに迷惑をかけてるにゃ~」

花陽「凛ちゃんが捕まえなかったからだよ?」

真姫「困った人ね、本当」

梓「……」コクリ

紬「うふふ、トラブルメーカーなのね」



……




海末「……」

穂乃果「……」

スタスタ


海末「……」

穂乃果「……」


――


絵里「ごめんね、うちのにこが……」

さとみ「ううん、気にしないで」

亮太「あの走りっぷりはすごかったなぁ、あはは」

エレナ「まさに、脱兎の如くですワ」

亮太「相変わらず偏った日本語だよな……エレナ」

エレナ「?」

亮太「爪楊枝を知らなかったでしょ?」

エレナ「そんなコトもありましたネ~」

さとみ「爪楊枝を知らなくて、脱兎の如くを知ってるのね……確かに偏ってるかも」

絵里「エレナはどんな勉強方法で日本語を覚えたの?」

エレナ「ほとんどはグランマからですワ。最近は小麦に教えてもらってるネ」

絵里「在住の経験があるの?」

エレナ「ノーノー、違うネ。グランマも旅をしていましたから」

亮太「……だけど、小麦の日本語も怪しいときがあるんだよなぁ」

さとみ「そうなの?」

亮太「うん……『善は急げ』を『ゲンは担げ』とか言ってたから」

さとみ「ふふ、小麦さんらしいわね」

絵里(それを言ったら穂乃果も怪しいのよね……わざと間違えてるように見えるけど……)


――


穂乃果「うみちゃん、話があるんでしょ?」

海末「……」

穂乃果「話があるから、二人で探そうって言ったんだよね」

海末「……そうです。このまま、ヴェガに乗っても良いことにはなりませんから」

穂乃果「……」

海末「穂乃果は、私が……――夢の中の世界へ行った、と聞いたら……どう思いますか?」

穂乃果「……」


――


絵里「見つからないわね……」

さとみ「一度電話してみたらどう?」

絵里「さっきかけてみたんだけど、繋がらなくて」

さとみ「こういう時に限ってうまくいかないのよね」


エレナ「亮太サン、お願いがあります」

亮太「?」


――


穂乃果「夢の中……」

海末「細かい説明は省きますが、昨日の夜、私はエレナさんの夢の中へ入ったのです。
    あの人形を通して」

穂乃果「……」

海末「これを見てください」

穂乃果「石……?」

海末「そうです、サンゴの石。出会いの証として私に譲ってくれた物……」

穂乃果「……」

海末「……」

穂乃果「それを聞いて、私が信じないと思ったから話してくれなかったんだね……」

海末「いいえ、違います。穂乃果なら――」

穂乃果「もぅ、どうして起こしてくれなかったの!?」

海末「――と言って、もうどうしようもないことで騒ぐからです」

穂乃果「私も行きたかったのにー!」

海末「しょうがないじゃないですか、もう後の祭りなんですから!」

穂乃果「ずるい、ずるいよ!!」

海末「…………こうなるから話したくなかったのですよ」フゥ


――


亮太「お願いって、なに……?」

エレナ「……それは――」


さとみ「どうして絵里さんは松本から乗車したの?」

絵里「勢い……かな?」

さとみ「……」

絵里「乗車証を渡されても、本当は乗るつもりはなかった……。だけど、断ることもできなくて」

さとみ「断らなかったのは乗りたかったから、じゃない?」

絵里「……そうね、東京から松本までの間……色んな人と会話をして楽しかったと思ったから」

さとみ「自分に正直なのね、絵里さん」

絵里「ううん……私は頑固なのよ。希にもそう言われたわ」

さとみ「でも、今は素直に言葉にしてる」

絵里「それは……さとみさんだから、じゃない?」

さとみ「……そうね、自分をよく知らない相手だから言えることかもしれないわね」

絵里「えぇ、そうだと思う」

さとみ「ふふ、なんだか楽しいわ。こういう会話ができるなんて」

絵里「うん、私もそう思ってる……」


亮太「――え、なんで?」

エレナ「ウミさんが……グランマの口癖を言っていたので……考え直したネ」

亮太「なんで……そんな……いきなり」

エレナ「ずっと考えていたコト。……日本は、出会った人みんなが優しくて……
     居心地がいいから……ずっと居たいって……思ってしまうヨ」

亮太「だからって……!」

エレナ「もう決めたことネ。亮太サン、協力してくれますか?」

亮太「小麦に……なんて言えばいいんだよ……」

エレナ「後で手紙を渡しますから、それを……」

亮太「自分で言わなくちゃ駄目じゃないのか?」

エレナ「そうしたい所ですが……自信ないネ。
     小麦の顔を見ていると……きっと……一緒に旅をしたくなるヨ」

亮太「どうして俺にそれを……ッ」

エレナ「小麦のことを考えてくれると思ったネ」

亮太「~っ!」


さとみ「どうしたのかな、亮太くん……?」

絵里「……?」

エレナ「ニコさんはまだ見つからないのですカ?」

絵里「そうなのよ……これだけ歩いて見つからないってことは……駅に居るのかもしれない」

亮太「……」

さとみ「亮太くん?」

亮太「え?」

さとみ「どうかしたの?」

亮太「いや、なんでもない……腹減ったなぁって」

エレナ「……」

絵里「これ以上迷惑はかけられないから、捜索は打ち切りにしましょう」


―― コンビニ


「アリャアザッシタァ」


ウィーン


にこ「……」バリッ


にこ「はむっ」


にこ(冷た~い♪ やっぱり夏はガルガリ君ソーダ味よね♪)


にこ「はむはむ」


にこ(これからどうしよう)ガリガリ


にこ(こんな時に限って電池切れなんて……ついてないわ)


にこ「駅に戻ったほうが良さそうね……」ガリガリ


愛「あ……にこさん……」

にこ「松浦愛……?」

愛「私はヴェガに戻るところなんですけど……にこさんは?」

にこ「ちょっと考え事をね」

愛「考え事……ですか……」

にこ「そろそろヴェガを降りようと思ってて」

愛「……そう、ですか」

にこ「とりあえず、次までは乗っているけど……」


にこ(希に見つかる前にはやく食べてしまいましょ)ガリガリガリ


愛「……」

にこ「どうしたの?」

愛「え……?」

にこ「なんだか浮かない顔をしてるけど」

愛「……いえ、なんでもありません」

にこ「…………」


ベチャッ


愛「あ……」

にこ「あぁっ、アイスが落ちちゃった……!」

愛「……っ」

にこ「これ、地味にへこむのよね……」ガクッ


愛「す、すいません……私のせいで……」

にこ「……運が悪いって……言ってたけど、それのこと?」

愛「……はい。私の不運は周りを不幸にしてしまうんです」

にこ「……」

愛「…………」

にこ「じゃあ、これをあげる」スッ

愛「?」

にこ「アイスの当たり棒。……これは貰ったのだから、今食べてたヤツじゃないわよ」

愛「……」

にこ「売店車のカニアイスなんだけど、品切れでもう取替えできないから、幸運グッズとして持っていたら?」

愛「……はい、ありがとうございます!」

にこ「……私のは当然のように外れなんだけど」

愛「……」

にこ「ヴェガに戻りましょ」

愛「……はい」


にこ(さっきは嬉しそうだったけど……沈んだ顔に戻ったわね……どうしたのかしら)


―― 金沢駅


にこ「きっと今頃、私が居なくて寂しがっているわ」

愛「……部長……ですよね」

にこ「そうなのよ~、あの個性だらけの子達をまとめるのは大変なのよね~」

愛「まぁ……」クスクス



希「それじゃ、みんなが揃ったら兼六園でええんやね?」

ことり「うん、そのままバスに乗って移動しよう」

凛「真姫ちゃんたち、一度は行ったんじゃなかったの?」

真姫「……時間がなかったから、片町に移動したのよ」

凛「時間が……?」

真姫「き、喫茶店に集合ってメールしたでしょ、だから兼六園は後回しにしたの」

凛「どうして焦っているのにゃ?」

ことり「真姫ちゃん、お城の修復工事に興味を持って、設置された映像を見たまま動かなかったの」

真姫「よ、余計なこといわないでっ」

凛「ふぅん、やっぱりお城が――」

真姫「それでいいわよ、もう!」

花陽「本当に好きになってるんじゃないかな……」

希「あ、ちょうど穂乃果ちゃんたちも来たみたいやね」

ことり「いつもの雰囲気だね」


海末「宙を浮かんだのです」

穂乃果「うぁー! そんな楽しそうなこと聞きたくないよー!」


真姫「そうね、いつもと変わらない」

凛「よかった」

ことり「うん♪」

花陽「あ、紬さん……」

紬「みんな揃って……いないのね~」

花陽「にこちゃんがまだ迷子になってて……」

希「あ、にこっち」

梓「……」

希「これから兼六園に行くんやけど、一緒に」

梓「お昼ごはんを食べた後に行ってきたので」

希「そうなんや、残念やね」

紬「そうね……、あんころ餅がおいしかったわよ~」

凛「にゃっ」キラン

真姫「移動しましょ、絵里も到着するみたい」

希「ほな、行こか」


海末「木の枝を私は歩きました、雲の上の大きな大きな木の枝を」

穂乃果「聞きたくない聞きたくないー!!」

ことり「ほら、置いていかれちゃうよ」


にこ「……」シーン


愛「あの、にこさん……?」

にこ「ワタシハドコ?」


絵里「あ! こんなところに! ちょっとにこ!!」

にこ「うぅ……絵里ぃ……」ウルウル

絵里「え!?」

にこ「みんな……私のことなんてどうでもいいみたいで……!」シクシク

絵里「そ、そう……」ヨシヨシ

にこ「ぐすっ……」

絵里「大丈夫よ、にこ」

にこ「うん……絵里が私を見つけてくれた……それだけで自分を保てるわ」ウルウル

絵里「そうじゃなくて……ほら、向こうを見て」

にこ「?」


希「……」オイデオイデ


にこ「手招きしてんじゃないわよ希ーッ!」

ダダダダッ


絵里「まったく、もぅ……」

さとみ「ふふ、見つかってよかった」

愛「?」

絵里「愛さんが見つけてくれたのね……ありがとうございます」

愛「???」

エレナ「アッハッハー、これにて一件落札ネ!」

亮太「落着、な……」

エレナ「そうともいいますネ~!」

さとみ「偏ってる……」

絵里「鶴見さんもエレナも、探してくれてありがとうございました」

亮太「ううん……」

エレナ「持ちつ持たれつですワ」

絵里「そう言ってくれると助かる。それじゃ、後でね、さとみさん」

さとみ「えぇ、それじゃあね」


愛「これからまた観光へ……?」

さとみ「兼六園に行くんだって」

愛「そうですか……」

梓「私たちも移動しましょう」

紬「そうね、洋服を選んであげないとね」


「おーい、エレナー!」


愛「あ、小麦さん……」

エレナ「よろしくお願いしますネ、亮太さん」

亮太「……わかった」

さとみ「……?」


―― バス停


絵里「今、何時?」

海末「16:30です」

にこ「バスで行くの?」

真姫「当然でしょ?」

穂乃果「兼六園の閉園時間って何時かな」

ことり「18時だよ」

花陽「はやく向かわないと」

希「バスが出発してしまうよ、はよ乗ろ」

凛「うーん……歩いて行ったらどのくらいだろ」

花陽「観光ガイドによれば……大体40分くらいかな」

にこ「……30分あれば園内を周れるわよね」

真姫「いやな予感がする……先に乗ってるから」

スタスタ

穂乃果「にこちゃん、一度行ってるから場所はわかるよね」

にこ「任せなさい」

凛「それじゃ、歩いて行くにゃ。お腹を空かせてハントンライスを食べたい!」

にこ「私もそうしようと思っていたのよ」

穂乃果「同士よ!」

海末「……」スッ

絵里「海末」

海末「私もバスで行きます」

絵里「えぇ、海末も兼六園を楽しみにしていたわよね、だからその気持ちは分かる。
   だけど、あの3人を放ってはおけないでしょ?」

海末「絵里……」ウルウル

絵里「悪いけど、私も行きたかったのね。そして、ゆっくりと園内を歩きたいの」

海末「こ、ことり!」


――


ことり「海末ちゃ~ん」フリフリ


――


海末「すでに乗ってる!?」

絵里「希と花陽もね……」


にこ「それじゃ、兼六園でね」

穂乃果「少し早めに歩かないと」

凛「知らない町を歩くってわくわくするにゃ~」

スタスタスタ


絵里「ほら、海末……公平を期するためにジャンケンを――」

海末「待ってください! 穂乃果、凛、にこ!!」


「大丈夫だって~、心配性だな、うみちゃんは~」

「私たちを信じなさいよね~」

「凛たち、もう高校生だよ~、迷子になんてならないよ~」


海末「あぁ……! 分かってはいましたが聞く耳を持っていません!」

絵里「バスを待たせてるから、ジャンケン」


海末絵里「「 ポン 」」


絵里「悪いわね」パー

海末「……やはり」グー





― 16:35


海末「こうなってしまうのですね……」

穂乃果「日差しは弱くなったけど、まだまだ暑い」

にこ「これも夏の醍醐味ってものよ」

凛「夏の夕暮れって好きだにゃ~」






― 16:40


穂乃果「うわっ、ハチだっ!」


蜂「」ブゥーン


にこ「ちょっ、こっちこないで!」

凛「あまり刺激しないほうがいいよ~」

海末「……」


― 16:45


穂乃果「あ、金沢カレーだって」

にこ「地名を入れればいいってもんじゃないのよ、味が大事なの」

凛「厳しいよね、にこちゃん」

海末「……」





― 16:50


にこ「ここが武蔵ヶ辻ね」

穂乃果「駅前の案内図では、この信号を右だったよね」

凛「あ、信号青だよ! 渡らないと!」

海末「……」




― 16:55


凛「ここは……どこ?」

穂乃果「にこちゃんがまっすぐ行こうっていうから……」

にこ「感覚的に、駅からまっすぐ東に歩けば着くのよ」

海末「…………」




― 17:00


にこ「……あれ」

凛「どうして太陽が沈む方向に歩いてるの~」

穂乃果「武家屋敷とは違った迷路だね」

海末「…………」





― 17:05


穂乃果「周りは住宅だらけ……どう考えても道に迷ってるよね……」

にこ「そうね……ゴミの分別表示が生活観を漂わせているわ」

凛「一度大通りに出たほうがいいよね~」

海末「…………」



― 17:10


にこ「大通りはどこよ」

凛「うーん……?」

穂乃果「今度は左、右どっちに進もうっか?」


海末「あと50分で閉園なんですよッ!?」


穂乃果「静かだったうみちゃんが怒った!」

海末「そんな行き当たりばったりの選択で、
    時間内に目的地へ辿り着くと思っているのですか!?」

穂乃果「そ、それは……思ってないけど」

にこ「しょうがないでしょ、迷ってしまったんだから」

海末「どうして大通りを道なりに進まず、わき道へ入るのですか! 地元民ですか!?」

にこ「ち、違うけど……」

凛「海末ちゃんっ、落ち着くにゃっ」

海末「えぇ、黙って付いて来た私にも責任はあります。ですから、ネットの地図で検索します!」

凛「だ、ダメだよ! 金沢で道に迷ったっていう想い出も大切なんだから~!」

にこ「そうよ! 目的地だけを見ていては本当に得るべきものを見失ってしまうわ!」

穂乃果「時間を管理するのと時間に管理されるのとでは違うよ、うみちゃん!」

海末「小難しいことを次々と、あなたたちは玄人ですか……
    それでは、あと20分で着くように考えてください」


にこ穂乃果凛「「「 わかった! 」」」


海末「この団結力はなんなのですか……。
    確かに思い出にはなりそうです……悪い方の」


― 17:15


凛「あつい……」

にこ「みんなも、歩きすぎて沢山汗をかいてるわね……」

海末「水分の補給もしなくてはいけません……」

穂乃果「アイス……カキ氷……冷えたラムネ」

凛「ラムネっていいよね~、夏の定番~」

にこ「麦茶もいいわね、キューっと」

穂乃果「むぎちゃん?」

にこ「はいはい」

海末「……あの階段坂」

凛「うわ~、キツそうな角度~」

穂乃果「いつも体力トレーニングをしている階段を思い出すね」

海末「いえ、それ以上ですよ」

にこ「そのまま道路を進むか、あの階段を上るかの選択よ」

海末「では、多数決です」

穂乃果「直感で決めよう!」

凛「はやく大通りに出てコンビニかスーパーに入るにゃ~」

にこ「私はこのまま、道路を進んだほうがいいと思う」


凛「凛は決~めた!」

穂乃果「私も決定~!」

海末「それでは、進みましょう」


にこ「どうして階段に向かうのよー!?」



― 17:20


凛「お寺を発見!」

穂乃果「お寺が近くにあるってことは、兼六園も近くにあるよね」

海末「また適当なことを……」

にこ「あ、大通りじゃない、あれ!」

凛「車が沢山走ってるにゃ~!!」

穂乃果「はやく、クーラーの効いてるお店を!」

タッタッタ


海末「あ、二人とも走らないでください!」

にこ「……ふぅ、あの階段結構きつかったわね」


― 17:25


「イリャッサァッセー」


凛穂乃果「「 涼しい~ 」」

にこ「やっぱりオレンジジュースね」

海末「……あと、35分」




― 17:28


穂乃果「ゴクゴク……」

凛「ぷはっー! おいしい~!」

にこ「疲労回復に甘いものは欠かせないわね!」

海末「ごくごく」

穂乃果「ふぅ~……さて、どうしよっか?」

凛「到着しても20分も園内にいられないよね~」

にこ「行っても意味ないわね。しょうがないから、このままバスに乗って駅に戻りましょ」

凛穂乃果「「 そうだね 」」


海末「フフ、フフフ」


にこ「じょ、冗談よ」

穂乃果「さぁ、急ぐよ! 走って行くくらいの気合だよ!」

凛「店員さんに場所を聞いてくる!」

タッタッタ




― 17:31


ダダダダッ

凛「うぅ……! 飲んだ後に走ると……っ」

穂乃果「もう近くまで来てるからっ……がんばろうー!」

海末「……予想通りの……展開ですっ」


にこ「はぁっ……はぁ………ま……まって…ッ」


―― 兼六園


凛「到着~!!」

海末「はぁ……ふぅ……あと25分……」

にこ「あ…あっちに……案内所があるわ!!」

穂乃果「……ふぅ……ふうぅ…、さっそく…入ろう……っ」


案内人「時間が無いけど……それでも入るのかい?」

凛「もちろん!」

にこ「ここまで来て駅に戻るなんて、みんなに笑われてしまうわ」

穂乃果「はいっ、入場料!」

案内人「はい、これがパンフレットと入場券です」

海末「ありがとうございます」


にこ「パンフレットねぇ……」

凛「案内図があるよ」

穂乃果「ふむふむ……総面積、11.4ha……広い! ピンとこないけど!」

海末「今いる場所が、木立野ですから……本当に広いですね」

ザクザクザク


凛「……どうするにゃ?」

穂乃果「せっかくだから全部周ろう」

にこ「それならコースを決めた方がいいわね」

海末「私が決めます」

凛「……」

にこ「……」

穂乃果「……」

海末「なんですか、この沈黙は」

凛「なんとなく、いやな予感が……」

にこ「……同じく」

穂乃果「えっと……うみちゃんと私たちの二つに別れて……」

海末「私は、あなたたちに付き合って、ここまで歩いてきました」

にこ「だ、だからなんだっていうのよ……」

海末「ですから、私に付き合う義務があります」

凛「逃げるにゃ……」ソロリ

穂乃果「……うん」ソローリ

海末「そこの二人」

凛穂乃果「「 はい! 」」

海末「時間もないことですから、急ぎ目で周ります……つまり、走ります」

凛「えぇー!?」

穂乃果「コンビニからここまで、すでに500メートルくらい走ったよ!?」


にこ「……」ソローリ

海末「体力トレーニングを兼ねた見学、いいアイディアではないですか」ガシッ

にこ「うぎゅぅ」

凛「駅からここまで歩き疲れたにゃ~! ゆっくりするにゃ~! あんころ餅にゃ~!」

海末「えっと……芭蕉の句碑というものがあります……まずはそこから行って」ブツブツ

凛「聞いてないにゃ~!」

にこ「身動きが取れない……誰か、助けて」

凛「にこちゃんが犠牲になってる今のうちに……、あんころ餅はどこかな?」

穂乃果「そうだなぁ……あ、この時雨亭ってところじゃないかな」

凛「きっとそこだね!」

穂乃果「それじゃ、さっそく」

にこ「はやく助けなさいよ!」

穂乃果「にこちゃんの事は忘れません、敬礼」ビシッ

凛「にこちゃんの分まで食べてくるからね!」ビシッ

にこ「海末、あの二人逃げようとしてるわよ」

凛穂乃果「「 裏切った!? 」」

にこ「裏切ったのはそっちでしょ!」

海末「……よし、これでコースは決まりました。では、行きますよ!」グイッ

にこ「ちょっと! 手を繋いだまま走る気!?」

海末「では、背中を押しますか?」

にこ「……凛」

凛「?」

にこ「旅は道連れ、にこ♪」ギュ

凛「捕まったにゃ!」

にこ「凛は穂乃果を」

凛「穂乃果ちゃん」ギュ

穂乃果「……うん」

海末「それでは、スタートです!」

ザッザッザ!





海未「――到着」

穂乃果「走りにくいよ!」

にこ「意外と近いわね……」

凛「もう、手を離してもいいかな……?」


海末「――あかあかと日は難面も秋の風」


凛「こっちに関心がないみたい……」


穂乃果「というか、律儀に守らなくても……」

にこ「海末が私の手を離すまで、凛を離すつもりはないわ」

凛「……うん」

穂乃果「……」

海末「三人とも、松尾芭蕉の句を詠んでいますか?」

穂乃果「松尾さん、ここにも来たんだねぇ」

海末「奥の細道ですよ、穂乃果」

にこ「あかあかと、ひは……なんめん(難面)も、あきのかぜ」

海末「つれなく、です」

凛「どういう意味?」

海末「……」

穂乃果「どうして黙るの?」

海末「本当に興味を持っているのですか?」

にこ「つれなく、の意味が分かれば理解くらいできるでしょ」

海末「……私も勉強不足ですが、恐らく……『つれない』という意味ではないかと」

凛「つれない?」

海末「やはり、凛には教えても無駄のようです」

凛「海末ちゃん……」

にこ「ちょっと……!」

穂乃果「今の言い方は冷たいよ、理解しようとしてたのに!」

海末「そういう意味です。相手の気持ちを汲みもせず突き放すことを『つれない』といいます」

穂乃果「実践教育だったんだね」
   
にこ「少し冷や汗かいたわ」

海末「すいません、凛」

凛「ううん、少し悲しくなったけど、言葉の意味がよ~く分かったよ」

海末「話を戻します。――あかあかと、日は難面も、秋の風」

にこ「日はなんなの? 太陽?」

海末「そうです。『あかあかと太陽の日差しは強いけれど、秋の風はさわやかだ』という意味合いです」

凛「秋の風って、涼しくて気持ちがいいよね~」

穂乃果「……秋…かぁ」

海末「松尾芭蕉の旅もここから終わりに向かっていきます。
   その為か、涼しさが強調されているようですね」

にこ「ヴェガが最終駅に着いたら……秋はすぐそこなのよね」

凛「センチメンタルな、にこちゃん」

海末「あぁっ、3分も費やしてしまいました! 次に行きますよ!」グイッ

にこ「うわっ、急に走らないでよ!」

ザッザッザ




穂乃果「秋……、なんだろう、とても胸が……」


「穂乃果ちゃん、はやくはやく~!」


穂乃果「あ、待ってよー!」

ザッザッザ



―― バス停・兼六園下


絵里「こないわね……」

希「時間も無いし、引き返したんやろか?」

絵里「時間ギリギリでも入りそう」

花陽「ここで待っていれば必ず見つけられると思ったんだけど……」

ことり「あ、でも……別の入り口から入ったのかもしれないよね」

絵里「4人が来ているとしても、帰りはさすがにバスだろうから、しばらく待っていましょ」

真姫「園内で待っていればよかったかも」




―― 兼六園内


にこ「待て……まって……はぁ……はぁっ」

海末「急ぎすぎましたね……ふぅ」

にこ「分かったから……自分のペースで走らせて……っ」

海末「駄目です」

にこ「どうしてよっ!?」

海末「18時を過ぎれば退園なのですから、にこのペースでは絶対に間に合いません」

にこ「言い切ったわね……」

凛「海末ちゃんたち早いよ~」

穂乃果「もうちょっとゆっくり楽しもうよ!」

海末「ここが梅林です、急いで観察をしましょう」

穂乃果「聞く耳を持とうよ!」

凛「あの銅像怖かったね~」

にこ「それより、根上松がよかった。整えられた造形が美しさを醸し出すのよ」

穂乃果「それ、うみちゃんが言ってた台詞でしょ」

にこ「な、なんで分かるのよ……」

凛「梅林かぁ……花が咲く季節に来たらよかったね~」

海末「はい、次です」

穂乃果「ちっとも堪能できないよ!」



海末「このままぐるりと回れば時雨亭です!」

凛「あんころ餅~!」

ザッザッザッ

にこ「はぁ…っ……はぁぁ……ひ、一息つけるのね」

穂乃果「にこちゃん、ファイトだよ!」

凛「あー! 建物が見えてきたにゃ~!」

海末「あれが時雨亭です!」

にこ「ぜぇ……っ……ぜぇ……」

穂乃果「にこちゃんの体力が限界に近いようです、うみ隊長!」

海末「頑張ってください! そのまま走り抜けますよ!」

凛「えー!?」

にこ「根性出せと、それだけ!?」

穂乃果「店じまいしてるもんね……!」

ザッザッザッ



海末「そして、正面に見える池が霞ヶ池です!」

凛「鴨がいるにゃ~!」

穂乃果「変なの咥えてない?」

海末「口ばしの模様がそう見えているのですよ」

にこ「た、たいむ……!」

海末「……そうですね、ここからは歩きながら呼吸を整えましょう」

穂乃果「椅子があるよ、少しだけ休んで行こ――」

海末「いいえ、時間が無いので回復は歩きながらです」

にこ「鬼……」

凛「あ、こっちには鯉がいるよ~」

海末「餌をもらえると思って口をパクパクさせていますね……」

穂乃果「私たちもあんころ餅が食べたいです」

凛「食べたいです」

海末「近くにお土産を売っているはずですから、そこで買いましょう。今は見学に集中です」

にこ「……すぅ……はぁ」

海末「いけません! あと10分で閉園です!」グイッ

にこ「だから急に走らないでよぉー!」

ザッザッザ

凛「もう諦めるにゃ……」

穂乃果「そうだね」



海末「おかしいですね、この辺りに有名な灯篭があるはずですが」

にこ「み、見当たらないんだけどっ?」

ザッザッザッ


「うみちゃーん! こっちだよぉー!」


海末「通り過ぎたようです!」クルッ

ザザーッ

にこ「まったくー!」クルッ

ザザーッ


凛「おぉー、二人とも見事な切り替えし!」

穂乃果「息が合ってる……!」


海末「これが雑誌などでよく見かける……」

にこ「ぜぇ……っ……ぜぇ……」

凛「ここ! このアングル!」

穂乃果「おぉー! 本当だ、見たことあるよー!」

海末「いいですね、どこを切り取っても絵葉書になりそうで……」

にこ「……その台詞いただくわ」

凛「かよちん達も見たのかな?」

穂乃果「きっと見てるよ」

海末「さて、残すところは、あと3分の1といったところですね」

にこ「時間もあと……5分しかない!?」

海末「急ぎますよ!」グイッ

にこ「なんで私だけなのー!?」

ザッザッザッ

穂乃果「はっ! 二人はもう駆け出している!」

凛「待つにゃ~!」



海末「ここが桜が丘です!」

にこ「春に来たら……っ…桜が満開で……さぞ美しい風景にこッ!」

穂乃果「自棄だ……」

凛「今度来たときはゆっくりするにゃー!」



海末「はい! 右手に夕顔亭!」

にこ「畳の上でくつろぎたいにこー!!」

穂乃果「横になりたいよーっ」

凛「朝顔亭はないのかにゃ?」



海末「左に見えるのが瓢池! これで最後です!」

にこ「……ぜぇっ……ぜぇ……や、やっと終わった」

穂乃果「はぁっ……はぁぁ」

凛「り、凛たちほど、兼六園を短時間で周った観光客はいないよぉ……」グッタリ


―― バス停・兼六園下


絵里「あ、出てきた」

希「向こうから来たってことは……、真弓坂から出てきたんやね」


海末「充実した時間でしたね」

穂乃果「走った想い出しかないよ!?」

にこ「わき腹が……」

真姫「時間いっぱいまで周っていたの?」

凛「体力トレーニング IN 兼六園」

希「トレーニングしとったん?」

凛「そうだよぉー」

ことり「が、がんばったね」

にこ「こういう疲れは温泉に入って癒やしたいわ」

海未「年老いてますね……」

にこ(誰のせいよ……)

花陽「あ、にこちゃん。加賀温泉があるよ」

にこ「聞いたことあるわね、詳しく教えて」

花陽「えっとね……片道30分くらいで行けるみたい」

にこ「……よし」

絵里「よし、じゃないでしょ。温泉に浸かってる時間を考えなさい」

にこ「…………」

絵里「ちょ、ちょっと、俯かないで……」

にこ「……」トボトボ

絵里「に、にこ……」

真姫「ご飯食べたら元気になるわよ」


にこ「あ……。穂乃果ここ、涼しい風が、吹いている」

穂乃果「五・七・五?」

にこ「……いい風」

穂乃果「……あ、本当だ」

 サヤサヤ
      ソヨソヨ

にこ「あかあかと、日は難面も、秋の風」

穂乃果「秋の風」

花陽「陽も傾いて気温は30度を……」

希「そっとしておくんよ」

海末「私は全部覚えているのですが……」

凛「海末ちゃんは、行きたいと思ったところ全部行ったからにゃー」

絵里「それじゃ、駅に戻りましょ」

凛「あ、待って! あんころ餅を買う~!」


―― 金沢駅


凛「……」グッタリ

にこ「……」グッタリ

穂乃果「……」グッタリ


海未「あ、紬さん」

紬「どうだった、兼六園は?」

海末「いい想い出になりました」

梓「後ろの三人を見ると、とてもそうは見えないけど……」

海末「道に迷ったりといろいろと大変でしたが、それも今はいい想い出です」


凛「うぅ……行くときと言ってることが違う」

にこ「……」

穂乃果「つかれた」


絵里「ごめんね、待った?」

さとみ「ううん、私は今来たところだから」

真姫「どうして、さとみさんが……?」

絵里「一緒に夕飯を食べようって話をしててね」

真姫「ふぅん……って、あの三人、相当疲れてるみたいだけど」

ことり「海未ちゃんだけが楽しそうだね」


凛「体のエネルギーが全部無くなったにゃぁ……」

穂乃果「私も……」

にこ「……」


希「それじゃ、この雑誌のイチオシ店にしよか」

花陽「おいしそうだよね」

海末「ほら、三人とも置いていかれますよ」

凛「ハントンライスにゃ!」

穂乃果「よしっ、お腹を空かせた分しっかり食べるよー!」

にこ「……」

真姫「一人だけ元気が無いけど」

凛「海末ちゃんに引っ張りまわされたから」

希「梓ちゃん、一緒に夕飯はどう?」

梓「私とむぎ先輩はヴェガで食べますから」

希「それじゃあ、デザートをご馳走してあげる」

梓「むぎ先輩はどうします?」

紬「そうね、発車まで時間があるから……、一緒に過ごしましょうか」

梓「よろしくです」

希「ほな、行こか」


……




梓「ごちそうさまでした」

希「ええんよ、美味しそうに食べるにこっちを見てるとこっちも嬉しかったし」

梓「そ、そんな顔してましたか」

希「うん♪」


にこ「なにあれ! どうして『にこっち』と呼ばれて自然に受け入れてるの!?」

真姫「し、知らないわよ……諦めたんじゃないの?」

凛「にこちゃん、ご飯食べて元気になったね~」

にこ「どういうことなの、むぎ!?」

紬「そうね、あずさちゃんは柔軟性が高いから」

花陽「敏捷性も高いよね」

穂乃果「好奇心も旺盛だよね、あずにゃん?」

梓「はぁ、おいしかった」

穂乃果「無視されたっ」

海末「勝手に愛称で呼ばないでください……嫌われますよ」

ことり「もっと早くに仲良くなっていればよかったね」


さとみ「みんな楽しそう」

絵里「……なんだか不思議」

さとみ「?」

絵里「私とさとみさん、東京からヴェガが発車するまで、お互いの存在すら知らなかったわけでしょ?」

さとみ「……そうね」

絵里「それなのにこうして一緒に歩いてるなんて、ね」

さとみ「……うん」

希「ふぅん、エリちがそういうこと言うなんて」

絵里「の、希……!」

希「ウチの知らないエリちがまだまだおったんやね~」

絵里「へ、変なこと言わないでよ……」

さとみ「それじゃあ、私は普段の絵里さんを知らないのね」

希「そうやな。全校生徒の前で立つ姿や、屋上でみんなとレッスンをする姿なんか」

さとみ「へぇ……」

絵里「なんだか恥ずかしいわね……」


さとみ「…………」

希(安心するって表情やね、さとみちゃん……)


にこ「帰ってしまえば、また日常に戻るのよね」

紬「そうね……でも……」

にこ「まだ旅の途中なんだから、楽しみましょ」

紬「うん♪」


梓「……」

穂乃果「なんの話をしてるんだろ?」

ことり「楽しそうだね」

海末「そういえば……穂乃果と花陽はいつ帰るのですか?」

穂乃果「あ……」

ことり「まだ話してなかったのっ?」

穂乃果「忘れてた」エヘヘ

海末「?」


花陽「ことりちゃんが驚いてるね」

真姫「穂乃果がまた何か企んでいるのよ」

凛「あれ? 真姫ちゃんは知らないの?」

真姫「?」

花陽「わたしと穂乃果ちゃん……次の名古屋まで行けることになったの」

真姫「ふぅん……そ、そうなの?!」

凛「真姫ちゃんも嬉しそうだにゃ~」


海末「なんだか、後ろで真姫がとても驚いているようですが……」

ことり「真姫ちゃんも知らなかったんだね」

穂乃果「私と花陽ちゃん、名古屋まで行くことになったの」

海末「そうですか」

穂乃果「もっと驚いて喜んでよっ!!」

梓「恒例の企みだから今更……って気がする」

海末「はい」

穂乃果「……」ションボリ

ことり「私はもう少しだけ一緒に居られて嬉しいよ、穂乃果ちゃんっ」


にこ「なんだかことりが必死ね……」

紬「にこちゃんはどこまで乗るの?」

にこ「穂乃果たちが名古屋までだから……私も、そこまでにしようと思ってて」

紬「……」

にこ「でも、気になることがあるのよね」

紬「あずさちゃんのことね」

にこ「それは違うけど。……次の名古屋で降りるかどうか決めるわ」

紬「あずさちゃんは京都までなのよ」

にこ「ふぅん」

紬「京都、あずさちゃんは京都まで」

にこ「そこまで乗れってこと?」

紬「そうよ、京都まで」

にこ「どうしてそこまで推すのよ?」

紬「みんなが降りちゃうって思うと、なんだか寂しくて」

にこ「……」


さとみ「ふふ、むぎさんって意外と強引なのよね」

絵里「……そう、なの?」

さとみ「自分を素直に出してて、知らない人とでも自然と輪の中へ入れてくれるの」

絵里「……」

さとみ「むぎさんの紅茶があってね、それがみんなと打ち解けるきっかけになったかな」

希「ふぅん……紅茶ね」

さとみ「むぎさんの人徳ね」


梓「えへへ」テレテレ

穂乃果「なんで梓ちゃんが照れるの……?」

ことり「穂乃果ちゃんも同じ……かな?」

海末「そうですね、私たち――……μ'sが生まれたのも穂乃果のおかげです」

穂乃果「えへへ」テレテレ

海末「……という、梓の気持ちなんですよ」

穂乃果「それを教えるための言葉だったんだね……がっかりだよ」ガッカリ


希「ちょっと違うね」

絵里「尊敬している人を褒められると嬉しいからね」

紬「えへへ」テレテレ

にこ「絵里ちゃんはいつも凛々しくて格好良いにこ♪」

絵里「ありがと」

にこ「……」

絵里「……」

さとみ「?」


にこ「ほら、私のいいところ、あるでしょ?」

絵里「こういうのは催促しないからいい話になるのにね」

にこ「う……」

紬「にこちゃんはいつも……にこにこ笑顔よね!」

にこ「とりあえず褒めたわね……」

さとみ「褒め言葉にしても、少し足りてないような……」

希「今日はいつもと違った髪形でええやん、にこっちの新たな魅力、発見やね」

にこ「何が新たな魅力よ……さっき梓と間違えてたでしょ」

希「にこっちの反応を見たかったから」

にこ「やっぱりわざとだったのね! 私をからかうのやめなさいよ、もう!!」

希「好きな子には意地悪をするって言うやん☆」

にこ「うるさーい!」

紬「なるほどぉ……好きな子には意地悪をしたほうがいいのね」メモメモ

さとみ「あぁ、ダメよむぎさん、それは男の子が興味を引くためにやる行為だから」

絵里「高校三年生のする会話じゃないわね……」


亮太「なんか盛り上がってるね」

穂乃果「上級生同士、息が合うのかも」

ことり「そうだね、楽しそう~」

梓「こんなところでどうしたんですか、鶴見さん」

亮太「アイツとこの辺を散歩してたんだ」

海末「アイツ……?」


「先生、その服、大事にしてくれよ」

「面倒だな……さっさと戻るぞ」


海末(あの二人もヴェガの乗客……?)

真姫「姉弟? ……松本から乗ってきたのね」


凛「そろそろ20時! ヴェガの出発時間~!」

真姫「花陽たちはどうするの?」

花陽「わたし達は22時発の夜行バスに乗って行くから」

真姫「……東京から楽な道のりじゃないでしょ……体は大丈夫なの?」

花陽「うん、だいじょうぶ。……みんなと一緒だし、……次で最後だから、平気」

真姫「同年代の人より体力は付けてる方だけど……体調管理にも気をつけて」

花陽「……ありがと、真姫ちゃん」

真姫「べ、べつに……」

凛「……」ウンウン

真姫「なに頷いてんのよっ!」


梓「次で最後なの?」

穂乃果「そうだよー、私と花陽ちゃん、凛ちゃん、ことりちゃん」

梓「……そうなんだ」

亮太「高坂さんたちも次で終わりなのか……青森から随分と長く旅をしてきたね」

穂乃果「札幌からだよ! 忘れてもらっちゃ困るよ!!」

海末(……たち『も』?)

亮太「あれ……札幌から?」

花陽「う、うん……」

穂乃果「ひどい! 忘れた罪の償いとしてえびふりゃーをご馳走にならないと気がすまないよ!」

海末「どさくさに紛れてなにを言っているのですか!」

にこ「随分と薄情なのね、あんた」

亮太「いやいや、青森で自己紹介されたのが初めてだから」

ことり「そうだよ、4人で挨拶したんだよ」

穂乃果「……そうだっけ?」

ことり「プリンをご馳走になったよね」

穂乃果「あ、そうだった」ウッカリ

梓「食べ物で思い出したー!」


紬「うふふ、すっかり仲良しさんね」

希「すっかり?」

絵里「最初は避けられていたのよね」


さとみ「…………」

亮太「楽しそうだね、さとみちゃん。ハントンライスがそんなに美味しかった?」

さとみ「もぅ、そうじゃないわ。ただ――……」

亮太「?」

絵里「……?」

さとみ「このまま、行けたらいいのにな……って」

亮太「どこへ……?」

さとみ「……それは」

絵里「知らない人しかいない場所」


さとみ「――!」

亮太「複雑な場所だね」

さとみ「――待って!」

絵里「?」


にこ「?」

紬「さとみさん……?」


さとみ「私……そこまで絵里さんに話してない……」

絵里「……あ、えっと」

さとみ「日記ね……そこまで読んでいたなんて……!」

絵里「ごめん、なさい……、さとみさん」

さとみ「……っ」

タッタッタ

絵里「さとみ!」

希「待って、エリち」

絵里「だけど……」

希「ウチが話をしてくるから、ヴェガで待ってて」

絵里「……お願い」

希「うん」

タッタッタ

凛「?」

花陽「あ、あれ……?」

真姫「どうしたのよ?」

にこ「私にはさっぱりだけど……。なにか、知ってる?」

亮太「……いや、知らない」

穂乃果「改札口じゃない方に走っていったけど……時間は大丈夫なのかな」

ことり「……」

梓「……」

紬「あらあら……」


海未「…………」


―― 金沢駅東口


希「待って!」


さとみ「――!」


希「はぁ……ふぅぅ……意外と、足はやいんやね」

さとみ「……テニス部に入ってるから」

希「そうなん。瞬発力はある、と」

さとみ「…………」

希「エリちも不用意やな」

さとみ「……っ」

希「きっと、さとみちゃんにとって不都合なことを言ってしまったんやね」

さとみ「……そうでもないわ。……日記に書かれてたこと、それだけだから」

希「でも、他の人には知られたくなかった」

さとみ「えぇ、そうよ」

希「……」

さとみ「だって、そうでしょ。日記の内容なんて、誰かに言われたくない」
   
希「……うん」

さとみ「……って、さっきと言ってることが違う。『それだけ』なんて言っておきながら……」

希「普段のエリちなら、あんなミスをしないんよ」

さとみ「……?」

希「いつも慎重に物事を見て、一歩下がって全体を把握し、何が必要なのか判断する。
   生徒会長という役があるから、それはとても大切なこと」

さとみ「……」

希「時には前に出て、事項や意見を述べたりもする。だから、ミスをしないようしっかりしようと振舞ってる」

さとみ「振舞って……?」

希「さとみちゃんと一緒にいるとき、……ううん、今だけは、生徒会長でもない普通の女の子なん」

さとみ「…………」

希「ウチは、ちょっと妬いてるんよ。そんなエリちを引き出したのはさとみちゃんやから」

さとみ「……ううん、そうじゃないわ。エレナさんに小麦さん、愛さんに亮太君。
     むぎさんや、梓ちゃんがいるからよ」


さとみ「私じゃ、ないから」


希「二人は似てる」

さとみ「……え?」


希「……時間も無いし、話の続きは次の都市でしよか」

さとみ「……」

希「ほら、待ってる人がおるよ?」

さとみ「……――え?」


亮太「……あ」

にこ「早く来なさいよね~」

紬「出発しちゃいますよ~」

海未「…………」


希「行こ」

さとみ「ふふっ……おかしなひとたちばかりね」

希「しょうがないんよ、不思議な人たちが集まっているから」

さとみ「本当は、このまま降りちゃおうかなって思ってた」

希「え……」

さとみ「私には、ヴェガに乗った理由が見つけられそうに無いから」

希「…………」

さとみ「……なんて、ね」

希「……」


さとみ「待っててくれたんだ?」

亮太「にこさんが、『待っていよう』って」

にこ「言ってないけど」

紬「言いました」

にこ「あ、あれ……白が黒になっていく」

希「乗り遅れたら大変よ、ホームへ急ごうか」

さとみ「……そうね」


海未(誰も『待っていよう』なんて言っていませんよ……)


―― ヴェガ


絵里「……さとみ」

さとみ「ごめんなさい」ペコリ

絵里「……!」

さとみ「勝手に怒ったりして……」

絵里「私のほうこそ、無神経でした。申し訳――」

紬「少し堅いみたい」

絵里「――……そうね、友達に対して堅すぎたかな。……ごめんなさい、さとみさん」

さとみ「うん。……それじゃ、この件はこれでおしまい、ね」

絵里「……えぇ」

さとみ「ふぅ、なんだか緊張しちゃった」


亮太「おしまい、か」

にこ「あんた、踏み込むなら覚悟決めなさいよ?」

亮太「え?」

にこ「私たちと同じように接したらダメだって言ってるのよ」

亮太「え、どういう意味……?」

にこ「言わないと分からないの? しょうがないわねぇ……さとみは私たちとは違うってこと」


「あ~! やっぱり運命なんですね~!」


亮太「……ぇぇええ」

真姫「顔がどんどん青ざめていくけど……」

にこ「誰?」


「亮太さん、私とあなたはやっぱり運命の赤い糸で結ばれているんです!」

亮太「あ、秋子ちゃん……!?」


穂乃果「誰だろ?」

ことり「?」

梓「誰ですか?」

紬「新しい乗客みたいね」


秋子「これが夢の超特急ヴェガ……!
    私と亮太さんを乗せてどこまでも走っていくの……あぁ! 胸がドキドキするぅ!」

にこ「あの……鶴見亮太なら、もうヴェガに乗ったけど……」

秋子「あぁん、もう! 照れ屋さんなんだからぁ!」

にこ「……またすごい子が乗ってきたわね」

秋子「あ、私、加古川秋子っていいます。これからよろしくお願いしますね」

にこ「う、うん……よろしく」

秋子「それでは、車掌さんに手続きを取ってきますので、失礼します!」

タッタッタ


絵里「それじゃ、乗りましょうか」

さとみ「そうね」

希「次はいよいよ名古屋、やね」

穂乃果「こっちはこっちで何事も無かったように話が進んでる……」

凛「真姫ちゃんも乗らないと」

真姫「そ、そうね……呆気に取られている場合じゃなかった」

花陽「それじゃあね」

真姫「ちゃんと栄養を摂って、寝ること、いい?」

花陽「うん、だいじょうぶだから」

真姫「水分補給も忘れないで。
    この袋にアイマスクや耳栓、酔い止め薬……みんなの分も入ってるから、使って」

花陽「あ、ありがと……」

真姫「あまり使用は勧められないけど、睡眠導入剤もあるから、寝付けそうになかったら服用してみて」

花陽「うん……」

真姫「それから――」

凛「真姫ちゃん、心配なのは分かるけど、これでも夜行バスは経験済みだから~」

真姫「それはそうだけど……」


どんっ


真姫「にゃっ」


「……」

スタスタスタ

真姫「な、なんなのよ、あの人……ぶつかっておいて……」


紬「今……『にゃっ』って……?」

花陽「言ったよね……?」

ことり「言ったね……!」

にこ「え、本当に?」

海未「どうしたのですか?」

凛「真姫ちゃんが、『にゃっ』って」

海未「そんなこと、あるわけないじゃないですか。真姫ですよ?」

梓「やっぱり気のせい……?」

真姫「あ、当たり前でしょ、言うわけ無いじゃない」

にこ「これだけの証言があるのに?」

真姫「な、なによ」

花陽「言ったよね?」

真姫「……私じゃないわ」


穂乃果「動揺が広がってるみたいだけど、どうしたの?」

海未「真姫が『にゃあ』と猫の真似をしたそうです」

穂乃果「そんなまさか~」

ことり「私、聞いたよ、真姫ちゃん言ってたもんっ」

絵里「どうしたの、乗らないの?」

にこ「ちょっと、事件が起こってて」

穂乃果「真姫ちゃん、事実はどうなんですか!」

海未「芸能リポーターですか」

真姫「う、うるさいわね……! ど、どうでもいいでしょ……!」

凛「動揺を隠し切れないみたい……どうでもよくないにゃ!」


prrrrrrr


真姫「じゃあね!」

タッタッタ


花陽「に、逃げた……」

にこ「凛と梓に影響されたのね」

梓「……え、なんで私の影響を受けるんですか?」

紬「あずさちゃん、わたし達も乗らないと~」


にこ「希にからかわれた分、真姫をからかい尽くしてやるわ」ウシシ

海未「またそういうことを……ですが、気になりますね、これは本当の事件です」

絵里「それじゃ、希……みんなのことよろしくね」

希「うん、任せて。ほな、名古屋で~」

穂乃果「むふっ」

海未「穂乃果……?」


穂乃果「く~るくるくるくる~」

クルクル

希「どうしたん、穂乃果ちゃん?」


海未「希から距離をとっている……? ということは、まさか……!」

絵里「?」

海未「絵里がここにいるから……止めてくれる人がいないということです!!」

絵里「……あ」


穂乃果「よーし、それではいってみよー、時代が引き裂く2人の恋! 最終章!!」ドドン


海未「ほ、穂乃果!」


プシュー


絵里「……希に言っておくべきだった」


―― 2号客車


紬「真姫ちゃん」

真姫「言わないわよ」

紬「まだ何も言ってないのに……」

梓「……」ジー

真姫「う……」

にこ「あれ……」

梓「あれ?」



――


穂乃果「うっしっしー」

凛「穂乃果ちゃん……?」


――


紬「あら?」

にこ「なにか言い忘れたことでも……って、デジャヴね」

真姫梓「「 ――! 」」ハッ


ガタン

 ゴトン


――


穂乃果「――。」


――


紬「?」

梓「え?」

にこ「なんて、言ったの?」

真姫「き、聞こえなかったけど……?」


ガタンゴトン

――


穂乃果「――っ!」

タッタッタ


――


ガタンゴトン


紬「穂乃果ちゃん?」

真姫「な、なにを伝えようとしているの……!?」

にこ「ちょっと、穂乃果!」

梓「???」


――


穂乃果「……――!」

タッタッタ


――

ガタンゴトン

 ガタンゴトン


にこ「穂乃果ッ、ほのかー!」

真姫「ちょっと……どうしたの!」


梓「……」

紬「口パクね」

海未「そうです。ただの、口パクです」

絵里「……ふぅ」


――


穂乃果「待っててねー」ボソッ

凛「あははっ、にこちゃんと真姫ちゃんが焦ってるー!」

タッタッタ

――


真姫「……」

にこ「……」

海未「最終章だとか言っていましたが……」

梓「くだらない……っ」

絵里「なるほど、こういう気分になるのね……確かに恥ずかしい」

紬「うふふ」フリフリ


――


穂乃果「すぐ追いつくからねー!!」


ガタンゴトン

 ガタンゴトン


―― 展望車


絵里「海未、これをみて」

海未「穂乃果が言っていた宿泊券ですか……、もう少し詳しく聞かせてください」

絵里「……何も聞いてないの?」

海未「はい。穂乃果は観光に夢中でしたから」

にこ(観光に夢中だったのはあんたでしょ……!!)

海未「……あのアイドル事務所からいただいたと聞きましたが」

絵里「えぇ、イベントのお礼だって」

真姫「お礼って……助けてもらったのはこっちなのに……?」

にこ「飛ぶ鳥を落とす勢いだから、あの事務所。更に勢いを増したってことなのよ」

真姫「ふぅん……」

にこ「…………」

真姫「どうしたの?」

にこ「……ううん、なんでもない」

海未(たまにテンションが落ちますね……)

絵里「……」

にこ「さすがね、こんなものをポンと出せるなんて」

絵里「私も驚いた」

海未「……なな、はち……きゅう?」

真姫「9枚も……」

にこ「これ、使ってもいいの?」

絵里「さすがに遠慮するわよね。……そのホテルに確認を取ってみたけど、予約されてたわ」

真姫「仕事が速いのね」

絵里「……というより、私たちが遠慮しないようにって配慮だと思う」

海未「利用しなければ無駄になりますからね……」

にこ「……9枚、か」

絵里「どうしたの?」

にこ「乗客も一緒に行けたらいいな……って」

海未「そうですね……」

真姫(……不思議なこと言うわね。……ここまで社交的だった……?)


『 カキーン 』

亮太「よっしゃ! 回れまわれー!」

『 わぁぁあああ 』

亮太「よーしよし! 一点追加で点差は縮まった!」

『さぁ、次は今季調子のいい木村!』

亮太「ごくごく……くぅー! この一杯のために生きてるな!」


にこ「サラリーマンかい!」

スパーン!

亮太「いて!?」

にこ「あんた……今飲んだものって……」

亮太「これが……どうかした?」
  
にこ「一日の仕事を終えて、風呂上りにナイター中継を観戦しながら疲れを取るための一杯じゃないでしょうね」

亮太「物語性の感じる飲み物だけど……違うよ、それを飲もうものなら料理長に絞られるって」

にこ「ならいいけど……」

亮太「……そのハリセン、持ってきたんだ」


にこ「さて、話の続きをしましょ」

海未「いきなり人を叩くのはどうかと思いますよ」

真姫「同感」

にこ「いいのよ、ツッコミ待ちみたいな雰囲気あったでしょ」

絵里「どういう雰囲気なのよ……」



『ストラーイク! バッターアウッ!』

亮太「ああぁぁぁ……ッ!」

『いやー、残念でしたねー』

亮太「残念でしたねぇ……ごくごく……くふぅー!」


にこ「やけにテンションが高いわね……?」

海未「……そうですね」

真姫「たまには、はしゃいでもいいんじゃない?」

絵里「そうね、真姫もはしゃいでみましょうか」

真姫「なにを言っているの?」

絵里「にゃん?」

真姫「……っ」


亮太「ごくごく」

『ピッチャー交代、押さえの岩見です』

亮太「ぷはぁ……この喉越しがうまいっ……って、
    俺、サラリーマンになったら絶対に同じことしてるな」

車掌「亮太さん」

スパーン!


亮太「いつッ……って、痛くないけど……車掌さん……?
    これ、唯のサイダーですよ?」

車掌「あ、いえ……叩いたのは私ではなく」

小麦「あたしだよ~♪」

亮太「おいっ、勘違いしただろ!」

小麦「ダメだよ、未成年は――」

亮太「サイダーだって言ったろ」

小麦「あ、ごめんね、あはは」

亮太「あはは、じゃない」

車掌「くすくす」

亮太「あ、すいません……テレビの音量が大きかったですね」ピッピッピ

車掌「いえ、他の乗客のみなさんに配慮していただければそれで構いませんよ。
    用件は、こちらの手紙です」

亮太「……俺宛……?」

車掌「はい」

亮太「……」

にこ「幸せの手紙でしょ、喜んで受け取りなさいよ」

亮太「ポジティブすぎるでしょ……、ありがとうございます」

車掌「いえ、それでは私はこれで」

小麦「少し前に流行ったよね、不幸の手紙」

絵里「メールは聞いたことあるけど、手紙は……聞いたことないような」

小麦「あれ、ジェネレーションギャップ?」

真姫「小麦さん、絵里と同い年でしょ……」

海未「穂乃果が受け取った封筒と同じデザインですね」

亮太「なんだろ……?」

ガサゴソ

亮太「あぁ、バイトの現物支給……って、豪華すぎる!!」

にこ「なになに? アイドルの生写真? だったら私にちょうだい」

海未「図々しいですよ」

亮太「長島スパーランドのフリーパスと宿泊チケット!」

にこ「え?」

絵里「あら……」

亮太「え? なにその反応……?」

小麦「亮太君……遊園地を独りで周るんだ……」

真姫「そのチャレンジ精神は見習わないとね」

海未「……はい」

亮太「4枚あるよ! 独りじゃないよ!!」


―― 紬の個室


『悪いな』

紬「ううん、急な予定だから無理を言ってごめんね」

『気にしないで、二人で楽しんでくれ』

紬「うん、そうする。おやすみ」


プツッ


紬「……そうよね。……いきなり誘われても困るわよね」


コンコン


「むぎ先輩、いますか?」

紬「は、はぁい、居るわよ~」

「夕飯はもう少ししてからでいいですよね」

紬「そうね、そうしましょう」

「わかりました。私は展望車にいますので」

紬「はいは~い」


紬「……あずさちゃんをぬか喜びさせても可哀想よね。……このチケットどうしよう」




―― 展望車


絵里「ふふ」

にこ「はぁ……いい気持ち」マッタリ

絵里「にこの髪ってサラサラしてて、さわり心地いい」ナデナデ

にこ「当たり前でしょー……毎日の手入れは欠かせないんだからぁ……ふぁぁ……」

絵里「寝ちゃう?」

にこ「それもいいわね……」ウトウト

絵里「いいわよ、寝ても」

にこ「……すぅ」


梓「うわ、膝枕されてる……」


にこ「すぅ……すぅ」

絵里「今日も疲れたみたいね。どう? 左脚、空いてるけど」

梓「遠慮します」

絵里「この時間帯、展望車にはあまり人が来ないって言うから」

梓「いいですよ」

にこ「くぅ……すぅ」

絵里「おいで、梓」

梓「……」


―― 売店車


店員「ありがとうございましたぁ」

真姫「折り返し地点の名古屋ね」

店員「最後まで楽しんでくださいね~」

真姫「……うん、楽しませてもらう。それじゃ」

スタスタ


どんっ


真姫「あ、すいませ――……」


「……」

スタスタ


真姫(あの人……! 乗車する前にもぶつかったのに謝りもしないなんて……!)

海未「どうしたのですか、真姫?」

真姫「……なんでもない」フゥ

紬「二人ともお買い物?」

海未「真姫が観光ガイドを買いたいというので」

紬「事前の調査は必要よね」

真姫「……まぁ、ね」

紬「あら? これ……」ヒョイ

海未「……?」

紬「誰の落し物かしら……?」

真姫「生徒手帳ね……それと、写真?」

海未「幼い子供が二人、笑顔で微笑ましいですね」

紬「えっと、北上緑?」

真姫「あ……さっきぶつかった人かも」

紬「それじゃ追いかけましょう」


―― 1号客車


紬「あの、……すいません」

「?」

紬「これ、落としましたよね?」

「……それっ、返して!」

バッ

紬「!」

真姫「ちょっと、届けてあげたんだから、その態度はないんじゃない?」

「…………」

海未「……」

紬「北上、緑さん……ですよね」

緑「そうだけど……?」

紬「私、琴吹紬といいます」

緑「……」

紬「……」チラッ

真姫(わ、私も自己紹介しろってこと……?)


真姫「西木野……真姫」

海未「園田海未といいます」

緑「そう……、それじゃ」

スタスタスタ


真姫「な……!」

紬「あらあら」

海未(素っ気無い方ですね)




―― 2号車


海未「紬さんもですか」

紬「そうなの、遊園地のフリーパスをいただいたのよ」

真姫「夏休み真っ只中だというのに……よく手に入ったわね」

紬「そうね、こんな豪華な券……ちょっと困ってしまって……」

海未「手紙に、『仕事で入手したものだから、遠慮しないでください』とありました」

紬「それなら問題ないわね」ニコニコ

真姫(この切り替えの早さ……)


―― 4号客車


紬「明日の段取りを?」

海未「そうです、午前中に行きたいところを決めようと思いまして」

紬「午後からはどうするの?」

真姫「海水プールがあるから、そこで遊ぼうって案が……」

紬「ふむふむ」

真姫「今年は一度、海へ行ってるからもういいと思うんだけど」

海未「まだ案を出してるだけですから、決定ではありませんよ」


紬「……あら、さとみさん」

さとみ「あ、むぎさん……どうしたの?」

紬「展望車に行く途中なの。車窓から何か見えるの?」

さとみ「ううん、そうじゃないけど……ただ、面白くて」

海未「?」

真姫「面白い……?」

さとみ「そうね……たとえば……あの灯りがあるでしょ?」

紬「二階建てのお家ね」

さとみ「そう、その……二階の部屋で生活をしている人のことを考えるの」

真姫「……」

さとみ「ひょっとしたら、私と同じ歳の人がいて……受験勉強を頑張っているのかもしれない」

海未「……」

紬「ひょっとしたら、テレビを点けてドラマを観ているのかもしれない」

さとみ「そうそう、そんな風に考えるの。私の知らない人が、そこで生活をしている」

真姫「……」

さとみ「そう考えたら、嬉しくて」

真姫(嬉しい……?)

亮太「嬉しいってどういうこと?」

さとみ「あ……聞いてたのね?」

亮太「はは……まぁ、その……さとみちゃんを探していたから」

さとみ「私を?」

亮太「はい、チケット」

さとみ「これは……?」

海未「エレナさん達と、愛さんはどうでしたか?」

亮太「二人はすぐに受け取ったけど、愛ちゃんは少し困って……受け取ってくれた」

海未「そうですか……」

紬「……」


真姫「自分のは?」

亮太「遊園地で遊ぶだけだから、自腹でいいかなって」

さとみ「……そんな、悪いわ」

亮太「いやいや、いい格好をさせてくれ。なんちゃって」

さとみ「……わかった、考えとく」

亮太「なにを……?」

紬「さとみさん、何が嬉しいの?」

真姫(話の続き、ね)

さとみ「私ね、学校では優等生って肩書きを持っているの」

海未「……」

さとみ「学級委員はいつも私、『真面目な千歳さとみに任せれば大丈夫』って」

真姫「……」

さとみ「そう言われるのが嫌じゃなかったから、それを受け入れてたけど……、でもね」

紬「でも?」

さとみ「それって『本当の私』なのかなって」

亮太「……」


さとみ「だから……私を知らない人が、そこに居て、
     その人と出会ったら……『本当の私』に出会えるのかもしれない」


さとみ「そう思ったら……なんだか嬉しくなったの」

亮太「……知らない人しか居ない場所」

さとみ「うん。その場所に行きたいなって……ずっと思ってた」

亮太「そっか……」

さとみ「でも、そのせいで……絵里さんに情けないところ見せちゃって」

亮太「……それでいいと思うよ」

さとみ「……」

亮太「俺だって、ヴェガに乗って……乗客のみんなに情けないところいっぱい見せてる」

さとみ「そうなんだ」

亮太「そうそう。だからこそ、羽を伸ばせているのかもしれないけどね」

さとみ「ふふ、そうなんだ」

亮太「うん……って、あれ?」


―― 娯楽車


海未「話の途中でしたが、なぜ置いてきたのですか?」

紬「うふふ、なんだかいいなぁって思ったから」

海未「???」

真姫「……なるほどね」




―― 展望車


にこ「くぅ……すぅ……」

絵里「……」ナデナデ


真姫「うわ……膝枕されてる」

海未「……え?」

紬「……あら」


梓「すやすや」

絵里「ふふ、かわいい寝顔でしょ?」


紬「…………」


亮太「まったりしてるね……」

さとみ「今夜はしずかなのね」

紬「この時間帯はこんな感じなのよ」

さとみ「一定のリズムも重なって、きっと心地いいのね、二人とも」

紬「……うん」

亮太「試合結果が観たいんだけど……どうしよ」

真姫「くつろぎすぎね」

海未「……にこは……わかりますが」

紬「あずさちゃん……」


梓「すぅ……」

にこ「……すぅ」

絵里「ちょっと両足が痺れてきたり」


紬「そうだ、今のうちに……」ゴソゴソ


真姫(もしかして……写真を撮るつもり?)


紬「……」パシャッ


梓「ん……?」

紬「……」ピッピッピ


『 あずさちゃんが珍しく唯ちゃんたち以外の人に気を許しています 』


紬「……送信」ピッ

梓「送信ってなんですか! むぎ先輩!!」ガバッ

絵里「あ、いきなり起き上がったら――」

梓「うわっ」ズルッ


ドサッ


梓「にゃうっ」


真姫「落ちた……」

亮太「……ッ……グフッ」

梓「笑わないでください!」

さとみ「だ、だいじょうぶ? 体が床に叩きつけられ……っ」

梓「さとみさんまで笑わないでっ……というか、むぎ先輩!」

紬「誰が最初に反応するのかしら?」

梓「あぁ……全員に送ったんですか……!」

絵里「体、大丈夫?」

梓「わき腹が痛いです……けど、平気です」


pipipipipi


紬「あら、りっちゃん……早いのね」

梓「……?」

紬「『確かに珍しいな。たまには他の人にもじゃれてもいいだろう。』……だって」

梓「じゃれてません!」


『 P・S 唯には送るなよ 』


紬「……唯ちゃんにも送っちゃった」


pipipipipi


『 梓が甘えてるところは珍しいな、それくらい楽しめている証拠だ。
  P・S 唯には送らない方がいいぞ 』


紬「澪ちゃんまで……どうしよう……。あ、そうだ」

ピッピッピ


『 さっき送った画像は合成だから気にしないでね 』


紬「これでよし」


絵里「梓、もういいの?」

梓「目が覚めましたからいいです。……なんですか、その吸引力は……」


亮太「もうテレビ点けてもいいよな……」

ピッ

『キャッツは今シーズン調子がいいですねぇ』

『そうですね、やはり岩見の好調がチームに影響しているといってもいいでしょう』

亮太「おぉ、勝ったぞ!」

梓「ガープはどうですか?」

亮太「……えっと、速報ではまだ試合中みたい、ほら」

梓「あ、負けてる……」

亮太「もしかして、ファンとか?」

梓「純の……友達の影響で」

亮太「なんというか、珍しいね」


にこ「すぅ……」

絵里「起きないわね……」

真姫「疲れてるの?」

絵里「結構動き回っていたみたいだから」

にこ「……すぅ」

真姫「……」

絵里「私と代わる?」

真姫「……意味わかんない」

さとみ「お母さんみたいね、絵里さん」

絵里「それはどっちかというと、希なんだけどね」


海未「…………」


紬「どうしよう、唯ちゃんから返信がこない……」オロオロ


海未(いろんな人が同じ場所に集まって、それぞれの時間を過ごしているのですね……)


亮太「いや、今年こそはキャッツだよ」

梓「いいえ、ガープです」


真姫「ほら、起きなさいよ」ユサユサ

にこ「……ん」バシッ

真姫「あいた……!」

絵里「起きて、にこ」

にこ「……ん?」

さとみ「おはよう」

にこ「え、朝……?」

真姫「まだ夜よ!」

にこ「……なんで怒ってるの?」


pipipipi

紬「あ、あら……りっちゃん……?」ピッ

紬「もしもし~」

スタスタスタ


海未「…………」

エレナ「なんだか嬉しそうですが、どうしましたカ?」

海未「あ、いえ……この時間が続けばいいなと思っています」

エレナ「オー、それは素敵なことですネ~」

海未「物足りなさも感じますが……貴重な時間を過ごしていると実感できて」

エレナ「物足りないのはどうしてですカ?」

海未「小さいころから一緒にいた二人がこの場にいたら、
     また違った時間になるのではないかと」

エレナ「フム……」


亮太「木村の勢いは誰にも止められないよ」

梓「そうでしょうか、岩原さんのゲームコントロールがあれば」

亮太「確かに、先月の試合では抑えられたけど……今はもっと勢いづいてるから」

梓「その勢いも止めてくれます。……あれ、むぎ先輩がいない……?」

亮太「そうなんだよな、相性が悪いというか……むむむ」


絵里「明日の予定を考えましょ」

さとみ「みんなで観光するの?」

絵里「たぶん、3つに分かれて行動すると思う。午前中だけね」

さとみ「そういう予定を決めるのも楽しいわよね」

絵里「えぇ」

にこ「真姫……?」

真姫「…………なによ」

にこ「なんでもない……」

真姫「……」ムスッ

にこ「真姫の機嫌が悪いのはどうして……?」

絵里「さぁ?」


エレナ「昼の話の続きですワ。座席に座りまショウ~」

海未「はい」

エレナ「あー、どっこいしょー」

海未「エレナさん、それは……」

エレナ「小麦が座るときに、こう言うといいと教わりましたネ。『疲れが取れる』と」

海未「……そうですか。訂正はしないほうがいいのかもしれませんね。
    その小麦さんは?」

エレナ「今日もたくさん動いていたので疲れて寝てしまったヨ」

海未「はやいですね……」

エレナ「明日はきっと、今日以上に元気いっぱいになりますワ」

海未「ふふ」

エレナ「ウミさんが、グランマの口癖をおっしゃっていましたネ」

海未「……はい」

エレナ「Human is a traveler by nature...」

海未「……」

エレナ「さとみさんと絵里さんが答えたように、『人は生まれながらにして旅人』という意味ですワ」

海未「……」

エレナ「グランマは世界を歩いていまして、ワタクシが小さいころ、よく世界の話をきかせてくれました」

海未「……」

エレナ「ですから、今度はワタクシが、このカメラでグランマに世界を見せてあげるネ」

海未「それが、エレナさんの夢……?」

エレナ「ノーノー。グランマに映像を見せるのは、あくまで夢の延長上の話ですワ」

海未「……」

エレナ「グランマの後を追っているのではなく、世界を周るというというのはワタクシの夢」

海未「……!」

エレナ「一緒にしてはダメですヨ」

海未「……どうして、ですか? ひとつの夢として叶えてもよいのでは?」

エレナ「目的を見失うと、迷いが生まれるネ」

海未「迷い……?」

エレナ「夢を諦めてしまおうか、と……」

海未(……なんだか、さびしそうな表情ですね……)

エレナ「ですから……今を存分に楽しむネ」

海未「……」


にこ「真姫ちゃん、機嫌を直して欲しいにこっ」

真姫「……」

にこ「こっちを見てくれないにこっ」

絵里「そうね、きちんと話をするためにも、今日は二人一緒に寝たらいいんじゃない?」

にこ「意味が分からないわよ。絵里、ちょっとはしゃぎすぎじゃないの?」

絵里「そうかもね」

さとみ「絵里さんでもはしゃいだりするんだ?」

絵里「たまにはね」


亮太「中野さん、野球のゲームがあるんだけど、これで白黒つけようか」

梓「望むところです」

海未「ゲーム機なんてこのヴェガに……あるんですね」

にこ「なんでこんなの持ち込んでいるのよ」

亮太「売店で借りてきたんだ。一人でやろうと思っていたんだけど」

エレナ「オー、いたセリつくセリですワ」

亮太「いたれり、だな。……このゲームは実在のチームが登録されてるから面白いよ」

梓「やったことないですけど、チームを信じれば勝ちます」

亮太「……操作できないんなら勝負にならないよ?」

梓「純が遊んでいるのをみたことがあるので、大体は分かります。勝ちます」

亮太「その自信はどこから……」

さとみ「友達のお家みたいな雰囲気になってる……」

絵里「みんなでできないの?」

亮太「コントローラーが二つしかないから、交代交替でやろうか」


紬「あら、ゲームをするのね」

梓「あ、むぎ先輩、どこへ行っていたんですか?」

紬「うふふ、ちょっとね」ニコニコ

梓「むぎ先輩と一緒のチームになります」

にこ「じゃあ、にこにーと真姫のチームね」

真姫「見てるから、勝手にやってて」

にこ「取り付く島がないにこっ」

海未「私も見ています」

エレナ「ビデオゲームですか、難しそうですネ~」

絵里「さとみさん、一緒にやってみましょ」

さとみ「コントローラーなんて、触ったこともないんだけど……できるかな」

梓「それでは、絵里さんと勝負です」

絵里「ふふ、負けないわよ?」

梓「やってやるです」

亮太「あれ、俺があぶれたぞ」

エレナ「アッハッハー、除け者ですネ」


紬「あずさちゃん、ご飯はどうするの?」

梓「あ、そうでした。勝負は後にしましょう」

絵里「夜の時間はまだ長いから、ゆっくりしてきて」

梓「はいです」

紬「それじゃ、後でね~」ルンルン

スタスタ


さとみ「むぎさんもご機嫌ね」

亮太「俺との勝負が無かったことになってる……?」

にこ「ほら、絵里ちゃんたちと勝負するにこ♪」

真姫「……しょうがないわね」

にこ「分かってるわね、絵里?」

絵里「?」

にこ「真姫の機嫌が直るように手を抜いてあげるのよ」

絵里「……わかったわ」

海未「接待ですか」

エレナ「ワタクシは部屋に戻るネ」

亮太「遊んでいかないのか?」

エレナ「映像の編集作業がありますカラ」

亮太「……そっか」

エレナ「Good night」

スタスタスタ

亮太「…………」

海未「どうかしましたか?」

亮太「いや……なんでもないよ」

海未(急に雰囲気が変わりましたが……)


……



にこ「やった! 最下位は免れたわ!」

真姫「…………」

海未「真姫が2回連続最下位ですね」


絵里「あら、おかえり」

紬「ただいま~。料理長の腕は超一流ね!」

さとみ「もうこんな時間……私も食堂車でゆっくりしてこようかな」

梓「あれ、野球ゲームは終わったんですか?」

亮太「デッドボールでしか出塁できなくてさ、試合にならないんだ」

梓「……そうですか」

紬「今はすごろくゲームをやってるのね」

さとみ「これならみんなでできるから、楽しいわよ」

絵里「手加減するんじゃなかったの?」

にこ「うるさいわね、連続1位のあんたに言われたくないわよ」

絵里「にこも機嫌が悪くなってるわね……」

にこ「私にばっかり仕返しカードを使うからでしょ! そういうのやめなさいよ!」

さとみ「ランダムで相手を選ぶから、意図的じゃないと思うんだけど……?」

海未「さとみさんは気づいていないようですが、
    タイミングを計れば意図的に仕返しをする相手を選べます」

さとみ「あ、そうなんだ……」

梓「友情を壊すゲームなんですね」

紬「あらあら、それなら修復をしないと」

スタスタ

梓「どこへ行くんですか?」

「紅茶を淹れて来るわね~」


亮太「まぁ、絢瀬さんが一番、そのカードを使用していたんだけどね」

絵里「ごめんね、つい」

にこ「つい、じゃないわよ!」

真姫「それでも負けたんだけど」

にこ「あー……、えっとぉ……失敗は成功のもと、なんだよっ♪」

真姫「ボタンを押してるだけなのに……うまくいかない。……今日はもう駄目ね」

海未「……珍しくネガティブですね」


ガタン ゴトン

 ガタン

   ゴトン


さとみ「岐阜駅に着いたみたい」


 プシュー


にこ「もう一回遊ぶ?」

真姫「私はもういい。ちょっと外の空気吸ってくる」

スタスタ

さとみ「私もこれで失礼するわね」

絵里「おやすみ」

さとみ「おやすみ、みんな」

スタスタ

亮太「……もうゲームをしないなら返してくるけど?」

梓「むぎ先輩と遊びたいので、もうしばらく貸してもらえますか?」

亮太「分か――」


「ここが展望車なんですね~!」


亮太「外の空気吸ってこよう」コソコソ

海未「避難しましたね」

梓「……真姫はどうしたんですか?」

絵里「虫の居所が悪いのかな……」チラッ

にこ「わ、私が悪いって言うの!?」

海未「真姫は淡々とボタンを押していましたが、にこは必死でしたから」

にこ「必死ってなによー!」


―― 岐阜駅


ザー--


真姫(雨、降ってたのね……)


「ふぇ~ん、ママ、ママ~」

「ほらほら泣かないで、一緒に探してあげるから」


真姫「……?」


真姫(あれは……北上、緑?)

亮太「迷子みたいだね」

真姫「!」ビクッ

亮太「?」

真姫「う、後ろから話しかけないで……!」


迷子「ほ、ほんと…?」グスッ

緑「えぇ、だから泣かないで」


真姫(優しい表情……あんな顔もできるのね)

亮太「知り合い?」

真姫「金沢から乗ってきたのよ」

亮太「ふぅん……」

真姫「……」


緑「さ、行きましょうか」

迷子「う、うん……」


亮太「発車まで時間がないから一緒に探してあげよう」

真姫「わ、私も……!?」

亮太「知り合いでしょ?」

真姫「会ったばかりよ。知り合いとも呼べないから」

亮太「面識があるんなら、十分知り合いだと思うけど」

真姫「……」

亮太「あの、さ」

緑「なに……?」

迷子「……」

亮太「その子の親を探すんでしょ? 手伝うよ」

緑「……」

真姫「……」

緑「勝手にしたら?」

真姫「……!」ムッ

亮太「じゃあ、俺は駅長室に行ってみる」


……




ザー---


母親「ありがとうございました。助かりました」

迷子「おねーちゃん、ありがと……じゃあね」

緑「……」

真姫「よかったわね」

緑「あの子……寂しかったのよ」

真姫「?」

緑「誰もいないところで一人で……」

真姫「…………」

緑「……子供なら泣いてもしょうがないわ」

真姫「何が言いたいの?」

緑「……別に」

亮太「あ、見つかったんだ?」

真姫「……」コクリ

亮太「それは良かった」

緑「……」

スタスタスタ


真姫「……」

亮太「あの人の名前は……?」

真姫「北上緑、よ」

亮太「新しい旅仲間が乗車したのか……」


真姫「…旅仲間、ね……」


―― 展望車


にこ「これがむぎの紅茶なのね」

紬「どうぞ、召し上がれ」

絵里「いい香り」

海未「……」

真姫「楽しそうね」

梓「長いこと外にいたけど、なにかあったの?」

真姫「大したことじゃないから」

紬「真姫ちゃんも座って」

真姫「……うん」

にこ「どうやら、機嫌が直ったようね」

真姫「べつに、悪かったわけじゃないんだけど」

海未「この紅茶を飲んだら、今日はもう寝てしまいましょう」

絵里「そうね、明日もスケジュールが詰まってるから。備えておかないと」

にこ「何を言ってるのよ! 今日はまだ終わってないわ! もったいないじゃない!」

真姫「それじゃ、何をするの?」

にこ「え? えっと……雑談とか」

真姫「無計画ね」

紬「お喋りをして過ごすのもいいと思う」

梓「そうです」

亮太「ちょっとちょっと、中野さんは俺との勝負――」

真姫「さっきのゲームの続きをしましょ。負けてばっかりじゃ悔しいから」

にこ「真姫の闘志が燃えてるわね」

亮太「……」

海未「つ、鶴見さんもどうですか?」

亮太「いや、心遣い感謝するよ。俺は部屋に戻って寝るから、返却お願いね」

スタスタ

海未「はい……、おやすみなさい……」

にこ「夜はまだまだこれからよ!」

絵里「しょうがないわね」

真姫「……いろんな人がいるのね」

紬「うふふ、そうね~。悪い人じゃないわ、きっと」

真姫「……見てたの?」

紬「そうよ。陰からそっと……ひゅ~どろどろ」ジッ

真姫「ふふ、なんで怪談風に見てるのよ」


海未「絵里、聞きたいことがあるのですが」

絵里「なに?」

海未「エレナさんと、小麦さんと出会ったのは……仙台でしたね」

絵里「そうよ、七夕祭りでね」

海未「……それ以外に、なにか、特別なことってありましたか?」

絵里「特別?」

海未「えっと……その……絵里が二人を信用するような、きっかけというか」

絵里「……特にはないけど」

海未「そうですか……」

絵里「どうしてそんなことを?」

海未「いえ、なんでもありません」

絵里「???」

海未「人との出会いとは、不思議なものですね」

絵里「……」


「人がいるな、個室に戻るぞ」

「……あぁ」


にこ「?」

亮太「まぁまぁ、せっかくだから一緒に遊ぼうぜ」

「遠慮しとくよ」

亮太「遠慮してばっかりだろ、少しでいいから」

「……」

「ん~、なんだこれは。おい、夏目」

夏目「テレビゲームだよ。うちには必要ないから置いてないけど」

「私はやったことあるぞ。ゲーセンというヤツだ」

夏目「……その姿で勝手に出歩くなよ」フゥ


にこ「あなた、名前は?」

夏目「あ、おれの名前は……――夏目貴志といいます」


「私にも遊ばせろ」

梓「ボタンを押すだけだからつまらないと思いますよ?」

「面白いかどうかは私が決める」

梓「待ってください、キャラクターを登録しますから」

真姫「寝るって言ってなかった?」

亮太「夏目たちと遊ぼうと思って」

「はやく進めろ、画面が動かないじゃないか」

梓「最初は時間がかかるんです。というか、自己紹介くらいちゃんとしてください」

紬「はい、夏目さんも紅茶をどうぞ」

夏目「あ、ありがとうございます」

にこ「……」ジー

「なんだ、何を見ている?」

にこ「二人は姉弟……よね」

姉「それがどうした」

にこ「顔は似てるのに性格が全然違うから……」

姉「同じ血だからといって性格が似るわけがないだろう。人間の勝手な印象付けだ」

にこ「……深い」

夏目「す、すいません。口が悪くて」

梓「名前はどうしますか?」

姉「なまえ?」

梓「キャラクターに名前を登録するんです」

姉「『先生』でいいぞ。……あ、『ニャンコ先生』にしろ」

梓「にゃんこ……先生っと。変な名前ですね。……はい、できました」

姉「おい、にゃんこじゃないじゃないか」

梓「猫のキャラクターなんてありません」


姉「……まぁいい。どれ、貸してみろ」

梓「まだみなさんのキャラクターを作ってないんですから、待ってください」

姉「まだなのか、はやくしろ」

梓「急かさないでください。その間に自己紹介をしたほうがいいですよ」

姉「自己紹介だと?」

梓「みなさんが呆気に取られているじゃないですか」

姉「……ん?」


絵里「……」

真姫「……」

海未「……」

にこ「……」

姉「レイコだ。……これでいいか、ネコ娘」

梓「誰がネコ娘ですか!」フカーッ

にこ「レイコ、ね……」

絵里「姿を何度か見ていたけど、話をするのは初めてね」

海未「……そうですね」

真姫「……」

レイコ「まだか、まだか?」

梓「もう少しですから。真姫はさっきと同じでいいよね」

真姫「……うん」

梓「じゃあ、絵里さんと海未も」

絵里「えぇ、それで」

海未「構いません」

梓「鶴見さんはどうしますか?」

亮太「やるよ、お願いね」

梓「はい……と」

紬「私も入れる?」

梓「これ以上の登録は無理みたいです。むぎ先輩は私と一緒にやりましょう。
   これで登録は終わりです」

レイコ「よし、じゃあ私からだな」

梓「順番を決めるんで待ってください」

レイコ「おい、待たせすぎじゃないのか!」

梓「レイコさんは急ぎすぎなんですよ!」

にこ「あ、梓……」

亮太「中野さんって、なんか普通だね」

梓「普通……?」

絵里「誰にでも普通に接している、という意味よ」

梓「私は面識のある人としか話をしませんから、
   そういうのとは違うような気がします」

真姫(誰にでもできることじゃないと思うけど……)


夏目「……」フゥ

亮太「たまにはみんなで集まって遊ぶのもいいだろ?」

夏目「……あぁ。……だけど、こういう経験はあまりないから」

亮太「じゃあ、少しずつ慣れていくか。……って、迷惑か?」

夏目「いや、みやげ話にもなるから、いいと思う」

亮太「そうか……」

レイコ「順番があるのか……面倒だな」チッ

梓「だから『つまらないはず』と言ったじゃないですか」

にこ「仕返しカードを絵里に使って最下位にするのよ、分かってるわね?」

海未「そういうことをすると、自分に返ってきますよ」

真姫(まずは仕返しカードを手に入れないとね。……見てなさいよ、にこ)ジー

にこ「……? なによ?」

真姫「にこには負けないから」

にこ「ふふん、望むところよ」

紬「そうだ、絵里ちゃんはどこまで乗るの?」

絵里「……そうね、……私は……にこと一緒に降りるかな」

紬「そうなのね……」

亮太「時間がないな……」

夏目「時間?」

亮太「明日、存分に遊ぶ時間が足りないなぁって話だよ」

夏目「そうか……」

亮太「あ、そうだ。夏目も明日、長島に行こうぜ」

夏目「ナガシマ……?」

梓「明日も長い一日になりそう……」


にこ「罰ゲームを決めましょ! 『最下位の人は一位の人のいうことをなんでも聞く』」

レイコ「面白い」

真姫「いいわよ」

絵里「本気を出さないとね」

海未「最下位にならなければいいのです」

亮太「こういうの負けるんだよな……」

夏目「……」

にこ「梓とむぎは?」

梓紬「「 どんとこいです 」」


にこ「それじゃ、新しい旅仲間を入れて、ゲームスタートにこ!」



8日目終了


色んなキャラが出すぎですね。
だから長くなるんですよ……(ため息)

夏目貴志、レイコは夏目友人帳という作品のキャラクターです。
https://www.youtube.com/watch?v=q9DgUtoXKu0

以下の二作品を夏目と、μ'sのとある誰かとを絡ませるのですが、
にことは深くは関わりませんので、気楽に読んでくれると助かります。すれ違う程度。

https://www.youtube.com/watch?v=3RS4wYGfDV0
https://www.youtube.com/watch?v=OQi6H1HVkPM
境界の彼方は花田十輝が(以下略)
第五話で同じ『みらい』が同じ台詞を言っていました


名前のご指摘ありがとうございました。全然気が付かなかったです。

次は9人が揃う最後の都市・名古屋
にこの旅の終わりがこの作品の終りとなります。

よろしければもう少しだけ、お付き合いをお願いします。


               8月9日


海未「すぅ……すぅ……」


コンコン


海未「……?」


「うみちゃーん……」


海未「ん……ほの…か……?」


ガチャ


ことり「朝早くにごめんね~……」

海未「ことりも……?」

穂乃果「一緒に寝てもいい?」

海未「あ……はい。車掌さんから話は聞いていますよ、どうぞ」

ことり「失礼しまぁす」

穂乃果「毛布まで用意してくれている!」

海未「ほのか、朝早いんですから、しずかにしてください」

穂乃果「はぁい」

海未「バスの座席ではよく眠れなかったのではないですか?」

ことり「うん……。真姫ちゃんがいろいろ用意してくれたけど、私たちには効果なくて」

海未「それなら、二人はベッドを使ってください。私は床で寝ますから」

穂乃果「そんな、悪いよ」

海未「敷き布団はありますから。
    今日もたくさん遊ぶのですから体力を回復しておかないと」

穂乃果「それじゃあ、お言葉に甘えて~♪」

ことり「うん~、海未ちゃんの匂いがする~」

海未「……いけません、私も頭がボーっとします……」

穂乃果「昨日も夜更かししてたの?」

海未「展望車でずっと遊んでいましたから」

穂乃果「楽しそうだねぇ」

海未「はい……たのしかった……ですよ」

ことり「……すぅ……すぅ」

穂乃果「寝るのはやっ!」

海未「すぅ……すぅ……」

穂乃果「こっちもはやっっ!」

海未「……すぅ」

ことり「すぅ……」


穂乃果「よし、今は6時だから、あと3時間は眠れるかな? ……おやすみぃ」


―― ヴェガ


花陽「よいしょっと」

紬「あら、花陽ちゃん」

花陽「お、おはようございます」

紬「おはよう~。朝早いのね」

花陽「わたしだけたくさん寝たから……目が覚めてて……」

紬「バスで移動したのよね。……その服装はジョギングにでも行くの?」

花陽「……はい。この旅行中、少し食べすぎちゃって」エヘヘ

紬「!」

花陽「それでは行ってきます!」メラメラ

紬「ちょっと待って、花陽ちゃん。私も行きます」

花陽「は、はい……?」

紬「すぐ戻ってくるから、待っててね!」フンス!

テッテッテ

花陽「あ、あれ……?」


花陽「一緒に走ってくれるのかな……?」


亮太「おはよう、朝早いね」

花陽「お、おはようございます」

亮太「まだ朝の6時だよ……?」

花陽「と、トレーニングをしようと思って」

亮太「努力してるんだね」シミジミ

花陽「えっと……」

亮太「……って、どうしてここにいるの?」

花陽「わ、わたしと凛ちゃんは、真姫ちゃんの個室で仮眠を取ることになって」

亮太「小泉さんは仮眠とらないの?」

花陽「わたしは、その……真姫ちゃんのおかげで、ぐっすり眠れたから」

亮太「そっか……、一人で大丈夫?」

花陽「紬さんも一緒に……」

亮太「なら大丈夫か。って余計なお世話だね。それじゃ、気をつけて」

スタスタ

花陽「は、はい」


花陽「……ふぅ」


コツン


花陽「……?」


コロコロ


花陽「なんだろう、この石……?」ヒョイ


花陽「今、蹴ったから欠けちゃった……のかな?」


パァァァ


花陽「……――え?」


シュゥゥゥ


コロンコロン




にこ「……よし、誰もいない。今のうちに体力トレーニングよ、にこ」


にこ「みんなに心配かけないためにもがんばるのよ、アイドルにこっ!」グッ

テッテッテ





紬「あ、あら……?」


紬「……花陽ちゃん……、一人で行ってしまったのかしら」キョロキョロ


紬「……?」


紬「なにかしら、この勾玉?」ヒョイ

「まて、触るな!」

紬「レイコさん?」

レイコ「はやくそれを捨てろ!」

紬「……?」


パァァァ

紬「……――え?」

シュゥゥゥ

コロンコロン



レイコ「チッ……!」


レイコ「面倒なことを……」


「……頭が……痛い」


レイコ「おとなしくしていろ、夏目」

夏目「この頭痛はなんだ……?」

レイコ「それが原因だ」

夏目「それ……?」

レイコ「小娘が連れて行かれた」

夏目「え……!?」

レイコ「俗に言う『神隠し』だな。どうする、夏目」

夏目「琴吹さんが連れて行かれたなら放っては置けない!」

レイコ「……」

夏目「……おれも『向こう』へ行くにはどうしたらいい?」

レイコ「行ってどうする。出てこられる保証もない」

夏目「『此処』にいても同じことだよ。この石……?」ヒョイ

レイコ「相手がお前を気に入るかどうか――」

パァァァア

夏目「説得してみせる」

レイコ「……しょうがない、私も行ってやる」

夏目「ありがと、先生――……」


シュゥゥゥゥ


亮太「……あれ? ここに行ったと思ったんだけど……夏目ー?」



……





―― 海未の個室


海未「すやすや」

ことり「すやすや」

穂乃果「すやすや」


ピピピピ


穂乃果「ん……もう……そんなじかん……?」

ピ

穂乃果「ふぁぁ……ん………もうすこし……だけ」ゴソゴソ

ことり「んん……」

穂乃果「すやすや」



……




―― ヴェガ


車掌「おはようございます」

真姫「あ……、おはようございます」

車掌「よく眠れましたか?」

真姫「おかげさまで……。個室の利用を勧めてくれてありがとうございます……」

車掌「いえ、観光を楽しんでもらうためですから、お気になさらないでください」

真姫「……」

車掌「それでは、私は仕事がありますのでこれで失礼します」

真姫「はい……」


真姫「……」


『まもなく、6番線に快速列車が到着致します』


「真姫ちゃーん!」


真姫「……?」


凛「かよちん、知らない~?」

真姫「花陽……? そういえば、起きてから見てない……」

凛「どこ行っちゃったんだろ……」

真姫「車内は探してみた?」

凛「うん……、一応」

真姫「もう一度探してみましょ。私は前方から探すから、凛は後方からね」

凛「わかった」

真姫「店員さんにも聞いてみて」

凛「……うん」

真姫「すぐ見つかるから、心配しないで」

凛「そうだね。じゃ、行ってくるにゃ!」

テッテッテ

真姫「……」


ガタンゴトン

 ガタン ゴトン


真姫「もうそろそろ8時だから……食堂車にいるのかも」


ガタン

 ゴトン

  プシュー


「やっと着いたか。あぁ、めんどくせー!」

「いつまでボヤいてんだろうね、この子は……」

「なんで名古屋まで来なきゃなんねーんだよ! あぁ!?」

「私に凄んだってどうしようもないだろ? 来ちまったならしっかり働いてもらうよ」

「チッ、こき使いやがって」


真姫(……珍しい髪型してるわね)


「……?」


真姫「!」ビクッ


「こらぁ!」ゴンッ

「ふげっ!?」

「レディを睨むとはとんだ無礼者だよ」

「睨んでねえよ! 殴るこたぁねえだろ!!」

「馬鹿は殴んなきゃ分からないんだよ。あんた自分が不良だってこと忘れたわけじゃないだろうね?」


ギャー

 ギャー


真姫「不良……?」

亮太「騒がしい二人だね。……夏目を見なかった?」

真姫「見てないけど……」

亮太「うーん……約束の時間なんだけど姿が見えなくてさ」

真姫「……こっちも花陽を探しているんだけど、知らない?」

亮太「朝早くに、ここで見たけど……それからは見てないよ」

真姫「早く……って、何時?」

亮太「6時」

真姫「……そう。探してくるから」

亮太「うん」


「いいかい、今度の相手は今までの様に力づくでは解決できないんだよ」

「わーってるよ。さっさとその相手とやらを見つけろよ。帰りてえんだよ」

「せっかちだねぇ。ちょいと待ってて」

「なんでこんな……ぁ?」ジロ


亮太「……?」


「おいてめぇ、さっきからなに見てやがんだよ」オラオラ

亮太「いや、……珍しい髪形をしているなと」

「これは俺のポリシーだからな」フフン

「今時リーゼントなんて、あんただけだよ」

「はぁ? 桑原もやってるだろうが」

「よし、これだ。ジャジャーン! 霊界七つ道具の一つ、異次元発見装置ー!」

「おい、すでに七つ以上出してんぞ、ぼたん」

ぼたん「細かいことは言いっこなし。
     この装置を使えば次元の亀裂が生じた場所を特定――」

ピピピピ

ぼたん「……あれ?」

「どうした?」


亮太「レイカイ……?」


ぼたん「この場所を指してる……故障だね、こりゃ」

「使えねえええ!!!」

亮太「君たちって一体……?」

ぼたん「はっ!? まだいたのかい!」

「探偵だ、探偵。あまり気にすんな」

亮太「レイカイってなに?」

「あまり俺たちに首をつっこまないほうがいいぜ? 最悪の場合……」

亮太「最悪の場合……?」

「閻魔の野郎に舌を引っこ抜かれちまうからな! あっはっはー!」

ぼたん「失礼なこと言ってんじゃないよ!」ゴスッ

「ひぐぇっ!?」

ぼたん「ほら、行くよ幽助」グイグイ

幽助「いつつ……、当てはあるんだろーな?」ズルズル

ぼたん「どうだかねぇ。まぁ、助っ人も呼んでいることだし、今日中には帰れるよ」

幽助「せっかくの夏休みに、コエンマのパシリとかやってらんねえよ」ブツブツ


亮太「……」


亮太「見た目は中学生くらいだよな。そんな子が探偵……?」


亮太「部活の話だな」ウンウン


……




―― 名古屋駅前


「うっはー! ここが名古屋かー!」

「結構な都会だね」

「はやく幽助を見つけろ」

「うっせ! 浦飯より観光が先だ、観光!」

「いや、観光より幽助が先だよ、桑原くん」

桑原「めんどくせーなー。アイツ一人いりゃ、敵なんてギッタンギッタンのぼっこぼこじゃねえか」

「お前の顔のようにな」

桑原「そうそう、俺の顔のように潰れてしま――……やんのかコラァ!」

「上等だ。潰れ顔を整えてやる」

桑原「てめえ……ヒデエことをよくもまあ……!」ビキビキ

「飛影もあまり挑発しないでくれ」

飛影「フン……」

「桑原くんも落ち着いて」

桑原「いつか、逆に潰す!」

「……それじゃ、改めて今回の話をするけど」

飛影「俺は上から幽助を探しておく。さっさとケリをつけるぞ」

シュッ

桑原「こういう時便利だな。それで、話ってなんだよ、蔵馬」

蔵馬「今度の相手は敵とは限らないんだ」

桑原「どういうことだぁ?」

蔵馬「コエンマから聞いた話だけど、相手は『神』だからね」

桑原「『紙』だぁ? そんなら俺様のこの次元刀で蝶々のように細かく切り刻んでやるぜ!」

蔵馬「ペーパー、じゃなくて、ゴッド」

桑原「あぁ、そっちね」

蔵馬「相手、と言ったんだからそっちしかないんだけど」

桑原「細かいことはいいじゃねえか、話の続きを聞かせろ」キリ

蔵馬「ふぅ……。……それで、桑原君はそのゴッド、『神』を倒すことができる?」

桑原「無理だ無理! そんな罰当たりなことできるわきゃねえだろぉ!」ビクビク

蔵馬「そうだよね。人間の桑原君には無理な話」

桑原「おい、まさか……お前らは……その『神』とやらを倒すつもりじゃ……」

蔵馬「さすがに遠慮願いたいけどね。場合が場合なら……仕方なし」

桑原「おいおい、おいおいおいぃぃ!!」

蔵馬「今はその『神』が荒れているだろうから、まともに話ができるかどうか」

桑原「ひぇ~、おっかねえ~」ガクガクブルブル

蔵馬「だから、幽助を先に見つけないといけない」

桑原「あのバカ、『まっすぐいって右ストレートでぶっ飛ばす』キリッ!
    って感じで殴りかかりそうだからなぁ」

蔵馬「……1時間前に到着しているはずだけど」


桑原「まてよ、なんでその『神様』は荒れてんだぁ」

蔵馬「神事の際、トラブルがあって、移動途中にそのご神体を落としたそうなんだ」

桑原「なるほど、そりゃ怒るわ。人間が落としたのか?」

蔵馬「いや違う。人ならざるもの――……『アヤカシ』というそうだよ」

桑原「アヤカシぃ? なんだそりゃ、聞いたことねえぞ」

蔵馬「説明が難しいんだけど……。
    桑原君は、僕と飛影が『妖怪』だってことを認識してるよね」

桑原「おう。……そんで、俺と浦飯が『人間』。……ぼたんちゃんが『霊体』になんのか?」

蔵馬「その別け方でいいよ。ぼたんのことは、今は置いておこう。幽助は半分ね。
    とりあえず、今挙げた三つのグループがある」

桑原「『妖怪』『人間』『霊体』の三つか。
    その『アヤカシ』ってのが、また違うグループになんだな」

蔵馬「そういうこと。……僕たち『妖怪』は個として存在するけど、
    『アヤカシ』は人間と密接な関係にあるらしいんだ」

桑原「もしかして、『神』は人間の信仰が生み出した存在だって話かぁ?
    だから力は無いが無力じゃないっていう」

蔵馬「詳しいね」

桑原「そういう話は……幻海ばぁさんから叩き込まれたからなぁぁ……」シミジミ

蔵馬「遠い目をしているけど、話を続けるよ」

桑原「いや、待て。『神』と『アヤカシ』は一緒なのかよ?」

蔵馬「いいところに目がついたね。前に戦った仙水、覚えているよね」

桑原「あぁ……とんでもねえ強さだったぜ……。ついでに魔界にまで観光に行ったからなぁ」

蔵馬「仙水も力だけは『神』に近い存在だった」

桑原「ふむ……」

蔵馬「『人間』が力を手に入れて『神』になるのなら……」

桑原「『アヤカシ』が力を持った『神』にもなるってか」

蔵馬「そういうこと。大体はそんな流れで理解してくれれば――……しまった」

桑原「どうした?」

蔵馬「後ろの二人に……聞かれた」

桑原「後ろ?」


梓「……」

真姫「……」


桑原「おぉ、可愛い子ちゃぁん! って、空気を見るような目で見られてるぞ」

蔵馬「はやくここから立ち去ろう」

桑原「お、おうよ」


シュタッ

飛影「邪眼を持ってしても見つからない」

桑原「じゃあ、相当遠くにいんだな。どこほっつき歩いてんだあのバカ」

飛影「移動するぞ、蔵馬」

蔵馬「そうだな」


梓「あれ、あの黒い人……どこから?」

真姫「ジャガン……あぁ、そういうこと」

梓「どういうこと?」

真姫「中二病、なのかもね」


飛影「?」

蔵馬「ちゅ、中二病……っ……グフッ!」フルフル

桑原「どうした蔵馬? なにがおかしいんだよ?」

蔵馬「ひえいがっ……ちゅうに……ブフッ」

飛影「おい、なんだか知らないが、不愉快極まりないぞ」

蔵馬「わ、悪い……っ」

桑原「なんだぁ?」


梓「はやくむぎ先輩を探そう」

真姫「そうね、花陽も見つけないと」


蔵馬「――!」

桑原「夏に黒いマントって暑くねえのか?」

飛影「軟弱な人間と一緒にするな」

蔵馬「まって、君たち?」


真姫「!」ビクッ

梓「なにか……?」

蔵馬「誰か、探しているんだよね?」

梓「……うん。あなたは……?」

蔵馬「僕の名前は南野秀一。探偵の手伝いをしてて、情報を集めているんだ」

梓「探偵……? なんで探偵が……」

蔵馬「あ、いや。警戒しないでほしい。君たちの探し人もすぐみつかるから」

梓「…………」

蔵馬「探し人は何人で、君たちはどこを中心に探しているの?」

梓「二人。……違う、四人かな。……ヴェガを中心に」

蔵馬「わかった、ありがとう。これからどこへ?」

梓「ヴェガに戻るところ……」

蔵馬「うん。きっと、そこに探し人はいるから」

梓「……」


蔵馬「初対面の僕に言われて心中穏やかじゃないのはわかる。けど、安心してほしい」

梓「知らない人に安心してほしいと言われて安心できるほど……私は強くない」

蔵馬「……」

桑原「大丈夫だって、お嬢ちゃん」

梓「私はもう高校2年生……中学生じゃないんだけど」

桑原「おぅ……年上のねーちゃんだった……。
    コイツ、ちょっとミステリアスちっくだけど、悪人じゃねえから」

梓「……わかった。行こう、真姫……って」


真姫「……」


梓「そんなに離れて、警戒心強い!」

タッタッタ


蔵馬「……ふぅ」

桑原「蔵馬にしちゃあ、ダメな方だったな」

蔵馬「彼女は、かなり強いね」

桑原「強い?」

蔵馬「怯えていたけど、目が真っ直ぐ僕を見ていた」

飛影「蔵馬、さっきのはどういうことだ?」

蔵馬「?」

飛影「どうして場所を指定した」

蔵馬「……これから僕たちが相手をするだろう、その『神』は『時を操る神』なんだそうだ」

桑原「時を操るぅ?」

飛影「……」

蔵馬「『この時間に、ヴェガの前に移動』をすれば、彼女たちは合流できるって寸法さ」

桑原「よくわかんねえけど、それって約束っぽいな」

蔵馬「そうだね。だから、なんとしてでもその四人を見つけ出さないと」

飛影「まずは幽助からだ。先に行くぞ」

シュッ

桑原「また単独行動かよ……。まぁ、いいや。俺たちも行こうぜ」

蔵馬「……」

桑原「そういや、どうしてあのねーちゃん達が関わってると思ったんだ?」

蔵馬「相手は『神隠し』で有名らしいからね」



……



―― ヴェガ


真姫「……いないんだけど」

梓「……」


「真姫ちゃーん! 梓ちゃーん!」


梓「凛……、花陽は……」

凛「見つからないよぉ~! どうしよう~!!」

真姫「落ち着いて……大丈夫だから」

凛「電話も置いて、車掌さんも誰も知らないんだよ! おかしいよぉ!!」

真姫「凛……」

梓「……」


絵里「まだ見つからないのね……」

希「駅周辺を探してみたけど、見つからなかったわ」

にこ「どこ行ったっていうのよ……まったく」


凛「うぅ……っ……かよちん……っ」グスッ

真姫「大丈夫だから、凛……」

凛「……ぐすっ」


絵里「紬さんは?」

梓「花陽と同じ状況です」

絵里「……そう」

希「海未ちゃんたちも連絡が――」


「うわっ、マジだ!」

「蔵馬君の言うとおり、本当にいたね」

「あずさちゃ~ん!」

「……すぅ……すぅ」


梓「むぎ先輩!」

凛「あ――……!」


紬「みんなお揃いね~」

花陽「すぅ……すぅ……」


凛「かよちん~ッ!」

真姫「……よかった」


梓「どうしておんぶをしているんですか?」

紬「寝ちゃってるから、起こさないようにしてたの」

梓「……そうですか」


凛「かよちん、起きて~!」ユサユサ

花陽「う…ん……ん…………、りん……ちゃん?」

凛「もぅ、どこ行ってたの~!」

花陽「あれ……あれ?」


幽助「すげえなあのガキ」

ぼたん「神様に向かってガキとはなんだい、罰当たりだね、ホント」


真姫「あ、さっきの……」

幽助「ん? ……もしかして昨日の……?」

真姫「昨日?」

幽助「いやいや、なんでもないなんでもない」

ぼたん「変なこと言って心配をかける前に私たちは退散するよ」ヒソヒソ

幽助「そうだな。……それじゃあな!」

紬「あ、二人とも……ありがとう」

ぼたん「いいんですよぉ、結局私たちは何もしてないんですからぁ」オホホ

紬「ううん、そんなことない。助けに来てくれたもの」

ぼたん「だけど、相手と会話をしたのは夏目って子だからねぇ」

幽助「まぁなぁ。桑原の次元刀で異次元に入れたわけだし。
    外に結界が貼ってあったから、俺らは浦島太郎にならずにすんだわけで。
    本ッ当に何もしてないんだなぁ、これが」
 
希「なにをいうとるん?」

幽助「こっちの話だから気にすんな」

ぼたん「年上に対して礼儀を覚えなさい」スパーン

幽助「でっ!? 不良に礼儀なんてねえよ!」

ぼたん「ほら、その桑原君たちが向こうで隠れて待ってるんだから、さっさと帰るよ」

幽助「ふっざけんな! 時間的にトンボ帰りじゃねえか! えびふりゃーを食べさせろ!」

ぼたん「早く帰りたいって言ってたのはどこの誰だい?」

幽助「昨日の俺であって今の俺じゃねえ」

ぼたん「はいはい。さぁ、次の仕事が待ってるよ」グイグイ

幽助「この仕事、マジで疲れたんだから、頼むよぼたん!!」ズルズル


「遊園地で遊んでおいて、よくいうよ」

「お願い……! せめて……せめてきしめんだけでもいいだろ!?」


ギャー

 ギャー


絵里「……」

真姫「……」


紬「うふふ、一日得しちゃった~♪」

梓「どういう意味ですか?」

紬「えっと……あ、いけない。迎えに行かないと」

梓「むぎ先輩、どこへ行っていたんですか。あの人たちと一緒だったんですよね」

紬「その……ね。話は後でするから、ね?」

梓「わかりました。急いでいるんですか?」

紬「えっとぉ……その」

梓「むぎ先輩、今度は何を隠しているんですか」

紬「か、隠し事なんてないのよ~?」アセアセ

梓「冷や汗かいてますよね」

紬「あずさちゃん、私の目を見て!」

梓「はい」

紬「…………」ジー

梓「…………」ジー

紬「……」スッ

梓「あ! 目を逸らした!」

紬「ごめんね、あずさちゃん! にこちゃん、あずさちゃんをよろしくね~!」

タッタッタ

梓「ちょっ!? どこへ行くんですかむぎ先輩!」


「ごめんね~!」


にこ「慌しいわね」グイッ

梓「離してくださいにこさん! むぎ先輩ー! むぎ先輩ーッ!!」

絵里「悲痛な叫び声……」

真姫「こっちも哀しくなるわね」

希「引き裂かれた姉妹や……」


凛「かよちん、大丈夫?」

花陽「うん……平気。……心配した?」

凛「当たり前だよ、急にいなくなるんだからー!!」

花陽「……ごめんね、凛ちゃん」

凛「むぅー……、本当に心配したんだから……」

花陽「ごめんなさい……」

凛「もう……あんな気分になるのは嫌にゃ」

花陽「……」

凛「怖かったんだよ……? 胸騒ぎがして……、遠くに行っちゃった気がして……」グスッ

花陽「りんちゃん……」

凛「不安が大きくなって……怖くて怖くて……仕方がなかったんだからぁ」ボロボロ

花陽「……うん」

凛「なんで、凛は泣いてるの……?」ボロボロ

花陽「心配してくれて、ありがとう……凛ちゃん」

ギュウウ


凛「うぅ……なんで……怒ってるのにお礼をいうのぉ……?」ボロボロ

花陽「もういなくなったりしないから」

凛「……当たり前……だよぉ」グスッ

花陽「うん。……当たり前だよね」

凛「かよちん……、よかったにゃ!」グスッ

ギュウウウ

花陽「く、苦しいよ……りんちゃんっ」

凛「心配かけたお礼だから、おとなしく受け取るにゃー!」


にこ「まったく……世話をかけさせるわね」グスッ

真姫「……」

絵里「海未たちは……?」

希「まだ寝てるんと違うかな……?」


花陽「あ……!」

凛「?」


レイコ「もう少しで個室だ、しっかりしろ」

夏目「あぁ、すまない、先生」

花陽「夏目…さん……!」

夏目「え、あぁ……小泉……」

花陽「あの……ありがとう……」

夏目「いや……おれは何も」

花陽「わたし……寝ていたけど……声は聞こえてたから」

夏目「……そうか」

花陽「みんなのおかげで助かったから……」

レイコ「夢だと思って忘れろ」

花陽「ううん、忘れたくない……です。わたしがここにいることって……奇跡だから」

夏目「奇跡……か」

レイコ「お前がそう言うならそれで構わんが……」

花陽「うん……」

夏目「きっと……」

花陽「?」

夏目「自分に出来ることをやっただけなんだ」

花陽「……」

夏目「助けに来てくれたあの5人と、外で結界を貼った兄妹……」

花陽「あの人達が結界を……?」

レイコ「それがなかったら、後ろにいるやつらとは永遠に会えなかっただろう」

花陽「……!」


凛「なんの話をしてるにゃ~?」

絵里「大切な話なのよ」

真姫「……」

にこ「あぁ、お腹空いた……」

梓「朝ごはん、食べなかったんですか」

にこ「讃岐うどんを食べたいのよ。そのために朝のランニングもこなして……」

希「一人でランニングしとったん?」

にこ「に、にこー? にこにーは、そんな隠れた努力とかしないにこー♪」

希「そういうの墓穴っていうんよ?」

にこ「ぐっ……」


夏目「小泉が出来ることを、みんなにしてあげればいいと、思う」

花陽「……うん!」

夏目「あと、亮太に、『今日はヴェガで休んでいるから』って伝えてくれないか?」

花陽「わ、わかった……」

レイコ「ほら、行くぞ。……私はあとでえびふりゃーだ」ムフフ

夏目「ダメだぞ、先生……」

レイコ「お前はおとなしく寝てろ」

夏目「……」


花陽「……ありがとう」


真姫「…………」


―― 名古屋駅前


希「『神隠し』……」

花陽「うん……。みんなが助けてくれたの」

希「あぁ……よかった、花陽ちゃん……!」

ギュウウ

花陽「うぅ……!?」

希「凛ちゃんの予感は当たってたんやね……」

ギュウウウ

花陽「希ちゃん……くるしっ」

希「この話、今は凛ちゃんにしたらあかんよ?」

花陽「う、うん……」

希「今日は今日で楽しまな」

花陽「そうだね……」

希「体はなんともないん?」

花陽「大丈夫。わたしは、寝ていただけだから……」

希「……」

花陽「あとで、お姉さんにエビフライをお土産しないと」

希「ふふ、そやね」

花陽「あ……、あの人達だ……」

希「?」


「ほら、栗山さんにとっておきの眼鏡がー!!」

栗山「不愉快です。実に不愉快です!!」

「えぇぇ……、今日はとても機嫌が悪いね」

栗山「先輩! 今日はとてもお金になるっていうから名古屋まで来たんですよ!?
    今月と来月、再来月の家賃を払えるからって」

「言ったのは僕じゃないんだぜ?」キラリ

栗山「不愉快です」ジー

「僕のしたり顔が不愉快なんだ!?」

「秋人、いい加減に落ち着きなさい」

秋人「落ち着いていられるかい! 
    名古屋まで足を運んだ理由……それは名古屋のオシャレな眼鏡を買うこと!」

「……」

「アッキーはみんなと旅行ができて嬉しいんだよ、わが妹よ」

秋人「おいおい、人の眼鏡フェチを子供の遠足と同レベルにしてもらいたくないね」

「全国の子供達に謝れ」

栗山「……はぁ…」


花陽「あ、あの……!」


「うん?」

「?」

秋人「はっ、ここにも眼鏡の似合う美少女が!?」

栗山「先輩、ちょっと引っ込んでてください」


花陽「ありがとうございました、美月さん、博臣さん!」ペコリ

美月「え、どうして私の名を……?」

博臣「君も……協会の……?」

花陽「あとで分かると思いますっ。それでは失礼しますっ」

テッテッテ

博臣「なぜお礼を言われたのか……?」

美月「さぁ……?」

秋人「だれ、今の子?」

美月「知らないわ。……それより、秋人」

秋人「?」

美月「卒業式の日に、伝説の木の下で私に告白するのなら、
    こんなとこで油を売ってる暇はないはずだけど」

秋人「うちの学校にそんな木はないし、そんな目的も存在しない!」

栗山「ふむふむ……」

秋人「そして栗山さんはなぜ観光ガイドを手にしているのか」

栗山「あ、先輩……金沢に兼六園がありますよぉ~」キラキラ

秋人「さらに北上するつもりなの栗山さん!?」

美月「趣味は盆栽だけじゃなかったのね」


絵里「あの四人とは知り合いなのね」

花陽「う、うん……ちょっと……助けてもらって」

絵里「……?」

希「花陽ちゃん!」ダキッ

花陽「ひゃっ!?」

凛「希ちゃんが変だにゃ」

真姫「変なのはいつものことでしょ」

にこ「そうそう、はやく観光に行くわよ」

希「ほほぅ……」キラン

にこ「まずい……!」

真姫「行くわよ、にこっ!」

ダダダダッ


希「あの二人は後回し~」

ギュウウ

花陽「の、のぞみちゃん……!」

凛「ほら、凛たちも行くにゃ~!」

絵里「どうしたのよ、希……?」

希「花陽ちゃんの温もりを大切にしてるんよ……」スリスリ

花陽「もう大丈夫だから……! くすぐったいっ」


博臣「ふむ、中々の妹属性だな……」

美月「アニキ、お願いだから犯罪に走らないでね」

秋人「えっと……妖夢の出現場所は……と」

栗山「はやく倒して移動しましょう!」メラメラ

秋人「えっと、とりあえず、北上はしないからね、栗山さん」

栗山「そんな……! 何をしにここまで来たんですか!?」

秋人「妖夢退治でしょ!? 家賃がどうとかってさっき言ってたよね!?」

栗山「そ、そうですね。そのついでに兼六園に行くのもありですよね? ね?」フキフキ

秋人「なんで動揺して眼鏡拭いてるのか知らないけど、ついでにならない距離だからね」

博臣「僕と美月がいるから、結界の中で存分に暴れるがいい、わが第二の妹よ」

美月「……えいっ」


シュー

 パシパシッ


博臣「……これは、『私のお兄ちゃんを結界に閉じ込めて独り占め』って意味かな?」


美月「馬鹿じゃないの? 保護してあげてるんでしょ、アニキが罪を犯さないように」


博臣「ふふ、こういう兄妹愛もいい」


美月「馬鹿じゃないの? 馬鹿じゃないの?」

秋人「二回続けて言ったよ」

栗山「合計三回言いました」



……



亮太「ヴェガで休んでるの?」

花陽「は、はい……」

亮太「そうか……。それなら一度見舞いに行ってくるかな。それじゃ、後でね」

花陽「…………」


希「どうしたん?」

花陽「わたしも、お見舞いに行ったほうがいいよね……?」

希「返って迷惑になるかもしれんよ?」

花陽「……うん」

希「あまり気にせん方が向こうも気が楽ってこともあるんよ」

花陽「……そうだね」


真姫「……穂乃果とことりも電話が通じない」

にこ「揃って寝てるんじゃないの?」

花陽「バスの中では電源を切ってたから、そのままなんだと思う」

絵里「二人はバスでどうだったの?」

希「ウチも花陽ちゃんと同じくぐっすり寝てたから……」

絵里「よく知らないと……」

希「そうなん」

凛「きっと、一緒に寝てるんだよ」

絵里「起こしてくる……?」

にこ「その内起きるでしょ。海未がいるんだから」

真姫「……そうね、私達、観光場所は別々なんだし、無理に起こす必要もない」

凛「たまに連絡を入れればいいにゃ」

花陽「そう、だね……」

絵里「メールを入れておこうかな」ピッピッピ

にこ「ちょっと待って、真姫の個室で凛と花陽が仮眠を取ったのよね?」

凛「そうだよ」

にこ「海未の個室には、ことりと穂乃果がいる……」

真姫「らしいわね」

にこ「……絵里の所に、希が」

希「にこっち、考え過ぎはあかんよ?」

にこ「どうして……私の所には誰も来なかったのよ……?」

絵里「……」

凛「……」

花陽「……」

希「……」

梓「なんですか、この静けさは……。私の準備はできましたよ、早く移動しましょう」

絵里「そうね、そうしましょう」


希「みんな、行きたいところ決めてるん?」

凛「凛は、絵里ちゃんと動植物園に……行こうと思ってたけど~」

絵里「ふふ、今日は花陽と一緒ね」

凛「そうするにゃ~!」

真姫「それじゃ、にこ。私達も行きましょ」

にこ「……」

真姫「……?」

にこ「なんで一緒に行くような雰囲気出してんのよ」

真姫「……」

にこ「言っておくけど、行かないわよ名古屋城なんかに!!」

真姫「じゃあどこに行くのよ?」

にこ「そ、それは……」

真姫「決めてないんじゃない」

にこ「決めてるの!」

梓「もうどこでもいいですよ、早く移動しましょう」

花陽「やさぐれてる……」

絵里「それじゃ、梓は私と希と三人で動植物園へ行く?」

梓「そうですね。そっちの方が気が楽――」

にこ「待ちなさいよ」

梓「な、なんですか?」

にこ「むぎにあんたのこと頼まれたんだから」

梓「そんな責任感は持たなくてもいいですよ」

花陽「そっけない……」

真姫「どうしたいの?」

にこ「今日のにこは……地下街へ行って洋服を見てくる予定なの」

真姫「服なら、東京にもたくさんあるでしょ。わざわざ名古屋じゃなくてもいいわよね?」

梓「私に同意を求められても……」

にこ「にこにーが、二人をファッションチェックしてあげるにこ♪」

真姫「……」

梓「あれ、きしめんがどうとかって言っていませんでしたか?」

にこ「讃岐うどんよ、間違えないでっ!」

真姫「そんなの、後でいいでしょ」

にこ「そんなにお城がいいのぉ~?」ニヤリ

真姫「……べ、別にそういうわけじゃ」

梓「……話がまとまらない」


絵里「……」ツンツン

梓「?」

希「……」オイデオイデ

梓「…………」


真姫「ほら、せっかくだから、見に行ってもいいでしょ?」

にこ「行きたいなら『行きたい』って言えばいいでしょ。素直になりなさいよ」

真姫「……見に……行きたい」

にこ「でもダメ」

真姫「……っ」ムニー

にこ「ふぁにふんのふぉ!?」

真姫「よく伸びるほっぺたね」

にこ「……ッ! 痛いわね! アイドルの顔になにすんのよ!」

真姫「名古屋城に行った帰りに、地下街でもどこへでも行ってあげるから」

にこ「なんなのよ、その情熱は!」

真姫「観光ガイド見ていたら、実物を見てみたくなったのよ」

にこ「一人で行けばいいでしょっ」

真姫「観光を一人でって、寂しいじゃない」

にこ「そういうとこは素直なのね……。……もぅ、分かったわよ」

真姫「……うん、にこのそういうところ――」

にこ「なーんてね、絶対にいや!」

真姫「……っっ!」ムニー

にこ「いふぁいっていっふぇるでふぉぉ!」ムニー

真姫「あんふぁが悪ふぃんでふぉ!」ムニーー

にこ「……ッ」ムニーー

真姫「……痛いわよッッ」

にこ「うぅ……思いっきり引っ張ったわね」ヒリヒリ

真姫「まったくぅ……諦めなさいよね」ヒリヒリ

にこ「ここまで頑固だとは思わなかったわ。
    絵里、ちょっとこのわからず屋に言ってやって――」


シ ー ン


にこ「――って、いないし!」

真姫「置いて行かれたわね……。誰が分からず屋よ」

にこ「……」

真姫「ほら、急がないと午後になっちゃうわよ」

にこ「あのねぇ……」

真姫「徳川家康が天下統一の最後の布石として築いた城なのよ」

にこ「『わぁ、歴史があって素敵! はやく行きましょ行きましょ』ってならないわよ?」

真姫「クスッ」

にこ「なに、笑ってるのよ」

真姫「ちょっとおもしろかった」

にこ「あんたを笑わせるために言ったんじゃないの!」


真姫「ほら、行くわよ」

にこ「あのね、真姫ちゃん」

真姫「……なに?」

にこ「にこにーね、真姫ちゃんとデートがしたいな♪」

真姫「…………」

にこ「一緒にお洋服を選んで、同じアクセを買って、二人でアイスを食べるの♪」

真姫「……」

にこ「ね、今までこういう事したことなかったから、新鮮で楽しいと思うな♪」

真姫「……うん」

にこ「それじゃ、まずは地下街へ行こう? その後に名古屋城でいいよね?」

真姫「…………うん」

にこ「決定~♪」

真姫「……そうね、そういうのもいいかも」



にこ「フフフ、にこにーの魅力は同性をもタジタジにしてしまうのよ。カワイイは罪ね」フフフ



……



―― 海未の個室


ことり「すやすや」

穂乃果「すやすや」


海未「う……ん……ん?」


海未(……なんだか、空気が……朝とは違う……ような……)


海未(……えっと、時計……端末はどこへしまいましたっけ)

穂乃果「すぅ……すぅー」

海未「どうして穂乃果が持っているのですか」ヒョイ


海未「少しばかり寝過ぎたようですね……」


ピッピッッピ


『 11:23 』


海未「……」


海未「……?」


海未(いえいえ、そんなはずはありません。目が霞んでいるのです)ゴシゴシ


海未「……」


『 11:23 』


海未「……――えー!?」

ことり「……ん……ん? うみちゃん……?」

穂乃果「すやすや」

海未「はっ……ははっ……」

ことり「母?」

海未「あぁ……! 信じられないほど寝過ごしました!!」

穂乃果「ん……んん……うるさいよ、うみちゃん……」


海未「起きてください穂乃果! 11時と23分を回っています!」

ことり「……えぇっ!?」

穂乃果「……そんな、冗談でしょぉ」ムニャムニャ

海未「見てください!」

穂乃果「……?」


『 11:23 』


穂乃果「……」


穂乃果「……え」


『 11:23 』


穂乃果「ええぇぇぇ!!」

海未「目が覚めましたね」

穂乃果「うわ! 2時間も寝過ごした!?」

ことり「う……ん……寝心地がいいから……たくさん寝ちゃったね……」

穂乃果「あわわ! どうしよー! どうしよぉーー!!」

海未「ほら、急いで外に出る支度をしてください」

穂乃果「あぁー! ヴェガで取る最後の朝ごはん食べそこねたー!」

ことり「……気にするところ……そっちなんだね」ボケー


海未「……絵里からメールが届いていますね」ピッピッピ


『 このメールを見たら席に着いて 』


海未「……?」ピッピッピ


―― ――


Nikony ―― 後ろのベンチよ

Maki  ―― なんでそこにいるのよ!

Nikony ―― 足が疲れたのよ

Maki  ―― 私が独り言喋ってたみたいになったじゃない!

Nikony ―― お城の解説とかどうでもいいってのよ

Maki  ―― ひどい…

Rin    ―― ひどいにゃ~

Hanayo ―― にこちゃん、今のは…

Erichi  ―― ちょっとひどいわね

Nozomi ―― にこさんの評判ガタ落ちです

Nikony ―― うるさーい!! あんたたちは真姫の名古屋城解説とか興味ある? ねえ!?

Nozomi ―― 興味が湧くかもしれません

Nikony ―― 私は来たくもない名古屋城へ連れて来られて一方的にお城の歴史を聞かされてるのよ! なんのバツゲームよ!

Rin    ―― 真姫ちゃんがそこまで楽しそうなら、にこちゃんも楽しまないとダメ!

Nikony ―― もういいわよ、文字で言っても伝わらに

Hanayo ―― ?

Rin    ―― 伝わらにって、なに?

Erichi  ―― 真姫がにこの携帯電話を奪い取ったんでしょ

Hanayo ―― なるほど

Nozomi ―― そろそろ合流する時間やね。って、希さんが言ってます

Hanayo ―― どこで集合する?

Rin    ―― 遊園地、現地集合だにゃ!


―― ――


海未「……よくわからない状況ですね」

ことり「……希ちゃんの端末で入力してるのは、誰?」

穂乃果「さん付けだから……梓ちゃんとか?」

海未「とりあえず、席に着いてみます」

穂乃果「そうだね」

ことり「わたしも」



―― ――


Umiさんが席につきました。!NEW!

Minalinskyさんが席につきました。!NEW!


Umi    ―― おはようございます。

Minalinsky ―― おはよう~

Nozomi  ―― 昼やで

Umi    ―― 梓、無理に希の口調にしなくてもいいのです

Hanayo ―― よくわかったね

Erichi  ―― 梓が顔を真赤にしてる♪

Minalinsky ―― 可愛い~♪

Maki   ―― それより、今まで何してたの?

Umi    ―― 地下街にいたので、電波が入りませんでした

Rin    ―― そうなんだ~。寝ていたのかと思ったよ~


Honokaさんが席に着きました。!NEW!


Honoka ―― そんなお寝坊さんじゃないよぉ~

Umi    ―― そうです。そんなわけないじゃないですか

Minalinsky ―― そうそう、今起きたなんてことはないんだよ~

Erichi  ―― 私達も地下街へ行ってたのよ。入り口の大きな人形みた?

Honoka ―― みたよ

Nozomi ―― 大阪の食い倒れ人形の兄弟っていう設定なんやって

Honoka ―― そうなんだ~。通りで顔が似ていると思った。でも男前だよね~

Nozomi ―― 三人とも今起きたんやな

Umi    ―― どうしてですか?

Nozomi ―― 『弟』という文字に騙されたんや。本当は妹なんやけど

Honoka ―― あぁ、そうそう、女の子だったよ

Erichi  ―― 人形も無いんだけどね

Minalinsky ―― はい。寝ていました。


―― ――


海未「二人にしてやられましたね」

ことり「かなわないね」

穂乃果「むむむ……」


―― ――


Hanayo ―― どうして嘘をついたの…?

Maki   ―― しようもない見栄よ

Erichi  ―― でも、何事も無くてよかった

Honoka ―― どういうこと?

Erichi  ―― 話はあとでね。早く準備しなさい。プールに行きましょう

Minalinsky ―― わかった!

Rin    ―― にこちゃんがしずかにゃ

Honoka ―― 本当だ。どうしたの~、応答せよ~

Maki   ―― ちょっと落ち込んでいるみたい。みんなが冷たくするから

Erichi  ―― そう

 
Rin    ―― そっとしておくにゃ

Nozomi ―― ・・・。

Maki   ―― 優しくしてあげて。にこは、本当は繊細で傷つきやすい子なんだから

Hanayo ―― 真姫ちゃん…?

Maki   ―― どうしたの、花陽ちゃん?

Hanayo ―― ううん、なんでもない

Maki   ―― 私たち、地下街へ行ってくるから少し遅れるわね

Erichi  ―― チケットは私が持っているんだけど、入れなくなるわよ?

Maki   ―― じゃあ、待っててくれると嬉しいな

Rin    ―― それはダメ! はやく来て!

Maki   ―― 真姫からの一生のお願い

Umi    ―― 子供ですか

Nozomi ―― こども

Maki   ―― 違うのよ、いまのは。にこが勝手に書き込んだんだから

Erichi  ―― 知ってる

Honoka ―― 知ってるよ

Rin    ―― 知ってるにゃ

Hanayo ―― うん、知ってる

Umi   ―― 知っています

Nozomi ―― ε- (´ー`*)フッ


―― ――


にこ「な、ななな!!」ワナワナ

真姫「日頃の行いね」

にこ「梓の反応が一番堪えるわね……!」



―― ――


Nozomi ―― 穂乃果たちは今、どこにいるの? 【11:29:35】

Honoka ―― ベガだよ                【11:29:41】


―― ――



凛「あ! にこちゃんより先に訂正しなきゃ!」

花陽「競い合ってるの?」



―― ――


Nikony ―― ヴェガよ                      【11:29:42】

Rin   ―― ヴェガだよ、ほのかちゃん( ・`ー・´) + キリッ 【11:29:46】


―― ――



凛「あぁぁーっ!!」

花陽「は、早い……! 一秒で!?」



―― ――


Rin   ―― にこちゃん4文字だなんてずるい!

Erichi ―― 遊んでないで合流するわよ

Umi   ―― それでは、長島スパーランドで会いましょう


―― ――


ここまでです。
妖怪戦争。
三つ巴戦を思い描いた時期がありましたが、夏目はそんなことさせない、と思います。。


報告があります。
半端なところですがここで一度、筆を置きたいと思います。
今まで少しずつ進めていたのですが、それが仇となって、いつものgdgdになっているのです。
ここからの総まとめは、今の状況だと絶対に良くならないと思っての筆置です。
少し離れて、全体を見直したいと思います。

本作とは別に二作品描いていて、それを集中して書き終えて、
その後にまたヴェガの運行を再開したいと思っています。
勝手ですいません。続きは年明けになる……かもしれません。

ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました!

>>721
もしよければ他の作品も教えて欲しい!

>>721
マジすか…
夏目好きだし、境界の彼方もアニメは見てるし、幽白はモロ世代だったからめちゃくちゃ楽しみにしてた……

>>722
興味を持ってくれたなら嬉しいです。ラブライブ!のSSは今作が初になります。
今進めている話は 穂乃果「時の旅人」 ですので、見かけた時はチラ見していってください

他に、反応が良かった以下の作品があります。
男「……」影女「あけましておめでとうございます」(とっぱら※エロゲ原作)
あずさ「嘘つき」(アイマス)
他にも書いてたりしますが……あまり需要に応えられなくて……(´Д⊂

>>723
本当にすいません。これ以上、話の軸がブレると『何が書きたいんだろう』ってなるのでご了承ください。
じゃあなぜ幽助、秋人を登場させたのかってことになりますが、それはあとがきで言い訳させてもらいます。
……YOU解決編書いちゃいなよ(小声)

>>722
紬「超特急ヴェガ?」
夏目「超特急ヴェガ?」紬「超特急ヴェガです」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年05月20日 (火) 02:47:57   ID: 5ZJVmFT2

続きが読みたいです・・・

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