亜美「亜美はもう大人!」 P「多分、まだ子供」 (160)

――夕方

――事務所――

ガチャ

P「ただいま戻りましたー」

真美「兄ちゃん、おかえり→」ヒョコッ

P「ああ、ただいま……って、真美だけか?」

真美「ううん。亜美もいるよ→。でも……」

P「……?」

――給湯室――


P「亜美が落ち込んでる?」

真美「うん。心配して声かけてみたんだけど……」

真美「あの感じだと、しばらく、そっとしてあげておいたほうがいいみたい」

P「そうなのか……」

P「それにしても原因はなんなんだ?」

真美「……わかんない。今日は竜宮小町の仕事があって、亜美だけ朝早かったから」

真美「真美が事務所に来たときは、もう……」

P「そうか……」

P(しかし……)

P(……いつも元気な亜美が落ち込んでるなんて普通じゃないな)

P(しかも、真美にもどうにもできないとは)

P(ここはプロデューサーとして、声をかけてみるか)

P(もしかしたら、俺に出来ることがあるかもしれないし)

P「ちょっと、亜美に声かけてみようと思うんだが……、どうだ?」

真美「うーん……」

P「……やっぱり、一人にしておいたほうがいいか?」

真美「……ううん。お願い。兄ちゃんとなら話すかも知んないし」

真美「亜美は応接室にいるから」

P「わかった」

――応接室――

……スタスタ

P(亜美は……、居た居た)

P(って……うわー……)

亜美「…………」グデー

P(ソファーに体を思いっきり預けて、目は虚ろ)

P(まるで絵に描いたような落ち込み具合だ)

P(これは、ちょっとやそっとじゃうまくいきそうにもないな……)

P(でも、このまま放っておくわけにもいかないし……)

P(ええい! ままよ!)

ダッ!

P「や、やあ亜美! ただいま!」

亜美「……」チラッ

P「……」

亜美「……」スッ

亜美「……おかえり」ボソッ

P「あ、ああ。ただいま」

亜美「……」

P「……」

亜美「……なに?」

P「……え?」

亜美「……亜美に何か用?」

P「え、あ、ああ。えーと……」

P「真美が給湯室にいたんだが……、一人で何してるんだ?」

P「ここは少し暑いし、向こうで……」

亜美「……別にいいじゃん。亜美の勝手でしょ」

P「……ま、まあそうなんだが」

亜美「……」

P「……」

P(……ど、どうしよう)

P(思っていた以上にテンションが低くて、話の糸口が見つからない……)

P(なにか、なにかないか……?)

P(なんでもいいんだが……)キョロキョロ

P(話の糸口さえ見つかれば……)チラチラ

P(……あ!)

P「な、なんだ? 雑誌、読んでたのか?」スッ

亜美「……あ」

P(今週発売の情報誌か)

P「どれどれ……、なにか面白い記事はあったか?」パラパラ

P(……ん? このページだけ癖がついてるぞ)

P(『いま話題の新鋭アイドルランキングBEST30』?)

P(こういったランキングはやっぱり気になるのか?)

P(ふむふむ……、載ってるのは流石に一度は耳にしたことがある名前ばっかりだな……)

P(……あ!)

P(伊織が4位!?)

P(こんな全国紙のランキングで4位とは……)

P(確かに最近の竜宮小町の活躍は凄まじいものがあるが……)

P(これは快挙といっていいんじゃないか?)

P(写真も載ってるし、コメントも良いことばかり書いてあるな)

P(大手事務所のアイドルよりも上の順位に765プロのアイドルの名前があるっていうのは)

P(なんか、こう、ジーンと心にくるな)

P(他には……)

P(あずささんが9位か!)

P(写真は載っていないが、コメントはしっかりとされているな)

P(……ん?)

P(なにか嫌な予感が……)

P(…………)

P(…………)

P(亜美は23位……)

P(なるほど……、これが原因か)

P(確かに同じユニット内でこう順位がつけられるっていうのは……)

P(…………)チラッ

亜美「…………」ジーッ

P(こ、こっちを見てる……!)ダラダラ

P(な、なんて声をかけてやるべきだ!?)

P(「気にするな」か? いやいや、そんなこと軽々しく言えないぞ……)

P(え、ええと……)

亜美「…………」ジーッ

P(ええと……)

亜美「…………」ジーッ

P「亜美は23位だったのか。すごいじゃないか!」

亜美「…………」

P「…………」

P「ほら! こんな全国紙でランキングに名前が載るなんてそうそうないことだ!」

亜美「……でも」

P「……ん?」

亜美「……竜宮小町の中では3位だよ」

P「…………」

亜美「いおりんは4位。あずさお姉ちゃんは9位」

亜美「亜美は23位」

亜美「……そういうことだよ」

P「…………」

亜美「……亜美さ」

亜美「なんか竜宮小町の中で」

亜美「お笑い担当って感じなんだよね」

亜美「引き立て役っていうか……」

亜美「いおりんはリーダーだし」

亜美「あずさお姉ちゃんはスタイル良くて大人って感じだし」

亜美「三人でインタビューされた時も」

亜美「質問される内容が違うんだよ……」

亜美「亜美はおもしろいことを言うの期待されてる感じでさ……」

P「…………」

亜美「……兄ちゃんはどう思う?」

P「……え? ああ、うん、そうだな……」

P(ど、どうするべきか……)

亜美「…………」ジーッ

P「……」

P(……考えてもしょうがないな)

P「……うん」

P「俺だったら亜美に投票してたけどな」

亜美「……!」

P(亜美は最近、すごく頑張ってる……)

P(うちのプロダクションで最年少にもかかわらず……)

P(その頑張りは認められていいはずだ)

P「よく見てみたら、なんだ? このランキングは」

P「有効回答数500? 全国紙の癖に手抜きもいいところだ」

P「竜宮小町のデビューシングルなんてこの100倍の数は優に売れてるんだぞ?」

P「こんな数じゃ、偏りがでて当然だな」

P「亜美もそう思わないか?」

亜美「え……?」

亜美「ま、まあ……、うん」コクリ

P「この間の竜宮小町のミニライブの時だって」

P「メンバーへのプレゼント数に差なんてほとんどなかったろ?」

P「それなのに、ランキングで差が出るってのは」

P「このランキングがいい加減なものっていう、なによりの証拠だ」

P「亜美だってそう思うだろ?」

亜美「……そうかも」

P「そうだよ」

亜美「そうだね!」

P「でも、名前が載ってるのは事実なんだからそれは喜ぼうじゃないか!」

亜美「うん!」

――給湯室――


亜美「~♪」トコトコ

P「……」トコトコ

真美「……あ」

亜美「真美→! ゲームしようよ→!」

真美「……え? あ、う、うん! しよしよ→!」

真美「……」チラッ

P「……」グッ

真美(ありがと、兄ちゃん)ニコッ

――しばらくして

――Pのデスク――


P(……なんとか亜美も元気を取り戻してくれたみたいだな)

P(そういったアイドルの心のケアも俺のプロデューサーとしての仕事だ)

P(しかし、今回はうまくいったが、正直、まだまだだな)

P(早く一人前のプロデューサーになって)

P(あいつらとトップを獲るぞ!)メラメラ



小鳥「(な、なんだかプロデューサーさんが燃えています!)」ヒソヒソ

律子「(いったい、なにがあったんでしょう……?)」ヒソヒソ

――数日後

――事務所――


亜美「兄ちゃん、兄ちゃ→ん!」トテトテ

P「……? どうしたんだ亜美?」

亜美「クッキー焼いたんだ→! 食べて食べて→!」サッ

P「……クッキー?」

P「……あ、ありがとう。でもどうしたんだ、急に?」

P(俺の誕生日はまだ先だし……、他にもらう理由は……、えーと……)

亜美「いいからいいから! 食べてよ!」ニコニコ

P「あ、ああ。ありがとう」

亜美「うん! それじゃあ、亜美、レッスン行ってくるね!」タタタッ

――しばらくして


P「あ、真美」

真美「……? どうしたの? 兄ちゃん」

P「いや、真美にお礼、言ってなかったからさ」

真美「……お礼?」

P「ああ。クッキー貰ったろ?」

真美「ああ、それ作ったのは亜美ひとりだよ→」

P「……。そうなのか?」

真美「うん。手伝うって言ったんだけど」

真美「一人で作りたいからーって」

P「……そう、なのか」

真美「んっふっふ~」ニヤニヤ

P「……?」

真美「兄ちゃんモテモテですな→」ニヤニヤ

P「モテモテ?」

真美「亜美ってば、最近、兄ちゃんのことばっか話してるんだよ→?」

P「そうなのか?」

真美「うんうん!」

P「はははっ。それはありがたいな」

真美「む→。兄ちゃん、本気にしてないでしょ!?」

P「いやいや、そんなことはないけどさ」ニコニコ

真美「亜美、本気なんだかんね!?」

P(うーん……)

P(亜美が俺のことをねえ……)

P(なんか、昔を思い出すなあ……)

真美「兄ちゃん!? 聞いてる!?」

P「……っ! あ、ああ、聞いてるよ」


ホントニホント-!? ホントダッテ…

――とある日

――車内――


亜美「兄ちゃんと仕事なんて久しぶり→!」ニコニコ

P「ああ。確かにそうだな」

P「竜宮小町もいつも三人一緒ってわけじゃないからな」

P「律子も大変だろうな」

亜美「でも、律っちゃんは今日は楽だよ→」

P「……? 何でだ?」

亜美「今日はあずさお姉ちゃんとだからね→」

亜美「いおりん相手だと律っちゃんも苦労するよ→」ウンウン

P「……」

P(亜美の相手が一番大変だと思うんだが……)

亜美「~♪」

P(……まあ、いいか)

亜美「ねえ、兄ちゃん!」

P「……?」

亜美「今日、仕事が終わったらさ?」

亜美「どこか遊びに連れてってよ!」

P「おいおい。無茶言うなよ……」

亜美「え→!? なんで→!?」

P「今日は遅くまでかかるの知ってるだろ?」

亜美「じゃあ、ディナーでもいいんだよ→?」…クフフッ

P「……また今度な」

亜美「……ちぇー」ショボン

――そして

――スタジオ――


P「機材の故障……、ですか?」

スタッフ「え、ええ。申し訳ありません」ペコペコ

スタッフ「せっかく来ていただいたのに……」

P「ええと、それじゃあ再開の見込みは……」

スタッフ「それが、全く目処が立っていないんです……」

P「そう、なんですか……」

スタッフ「今日中には必ず何とかいたしますので……」

スタッフ「その時はまたこちらから連絡を……」ペコペコ

P「……わかりました。では、一旦、双海と――」

亜美(…………)

――スタジオ前――


P「さて、どうしたもんか……」…フゥ

P(今日は一日撮影のはずだったからな……)

P(事務所に戻るか、それとも――)

亜美「兄ちゃん兄ちゃん!」

P「……?」

亜美「えへへー」ニコニコ

P「……」

――――――
――――

――――
――――――


亜美「イエ→イ!」

バコーンッ!

P「……おお」

亜美「んっふっふ~。まあ、亜美にかかればこんなものですよ」

亜美「兄ちゃんもやってみる?」

P「……よし」ヌギッ

亜美「おおっ! 兄ちゃんが上着を脱いだ→!」

P「パンチングマシンなんて久しぶりだな……」ギュッ

亜美「やっちゃえ→!」

P「……ッ!」グ…ッ

ドゴオッ!

亜美「いやあ、久しぶりのゲームセンターはたまりませんな→」ニコニコ

P「あんまりハメを外さないようにな?」

亜美「……兄ちゃんも楽しんでるくせに」ニヤニヤ

P「お、俺は別に……」

亜美「亜美のことそっちのけで最終ステージまで進んでたよね→?」

P「う……」

亜美「地球救ったヒーローだもんね→?」

P「……」

亜美「なあんてね! 冗談だよ、兄ちゃん!」ギュッ

P「お、おいおい……。こんなところ、ファンに見られたら大変だろ」スッ

亜美「大丈夫だよ!」グイッ

亜美「帽子もかぶってるし……」キュッ

亜美「伊達メガネもバッチリ!」キラーンッ

亜美「この恰好でバレたことないもんね→」フフン

P(…………)


prrr… prrr…


P「ん? 電話か……」

P「はい……、はい。わかりました。すぐに――」

…ピッ

亜美「……仕事の電話?」

P「ああ。機材が直ったらしい。すぐに再開できるそうだ」

亜美「なあんだ。つまんないの……」ショボン

P「おいおい。アイドルがそんなことでいいのか?」

P「もともと仕事の予定だったんだしな」

P「ファンの皆の笑顔のために頑張ろうじゃないか」

亜美「……うん」

P「よし。それじゃあ――」

亜美「……あ、ちょっと待って」

亜美「最後にこれ撮っていこ→よ!」

P「これって……、プリクラ?」

亜美「うん。いいっしょ→?」

P「いや、でももう仕事に……」

亜美「だからちゃっちゃと撮っちゃお→」サササッ

P「あ、亜美!?」

亜美「へへへ→。もうお金入れちゃったもんね→」

P「……仕方ない。じゃあ、俺は外で待ってるから――」

亜美「うええ!? な、何言ってんの兄ちゃん!?」

P「……?」

亜美「一緒に撮るに決まってるっしょ→!?」

P「い、一緒に? さすがにそれは……」

亜美「一人で撮ったってつまんないよ→」ショボン

P(う、うーん……)


――――――
――――

――――
――――――


亜美「ほらほら、撮るよ→?」

P「あ、ああ……」

亜美「ほら兄ちゃん、笑って!」

P「……ッ! あ、ああ」ニヘ

カシャ!

――そして


P(なんか、あっという間だったな……)

亜美「兄ちゃん、おまたせ→」テテテッ

P「……ああ、じゃあ、行くか」

亜美「これ兄ちゃんの分ね」サッ

P(さっき撮ったプリクラ……)

P「……」

P「……いや、俺はいいよ」

P「こういうのどうしていいかわからないしな」

P「無駄にしてもなんだし、亜美に全部あげるよ」

亜美「……むー」

P「ど、どうした?」

亜美「兄ちゃん全然わかってない!」

P「え……」

亜美「こういうのは二人でシェアするから意味があるの!」

亜美「だから兄ちゃんも持ってなきゃダメ!」

P「い、いや、そうは言ってもだな……」

亜美「……あ!」

P「……?」

亜美「……」チョキチョキ

P「……」

亜美「兄ちゃん! 手帳出して!」ニコッ

P「……いいけど、どうするんだ?」スッ

亜美「いいからいいから」

P「……」

亜美「……」

ペタペタ

亜美「これでよし!」

P「それ、仕事用なんだけどな……」

亜美「気にしない気にしない!」ニコニコ

亜美(……)ペタペタ

P「亜美はどこに貼ってるんだ……?」

亜美「うわあッ!? 見ちゃ駄目!」サッ!

P「……?」

亜美「な、ないしょだよ……」////

P(……)

P(……携帯?)

――それから数週間後

――事務所――


真美「ねえ亜美→」ヒョコッ

亜美「うわあ!?」バッ!

真美「……? どしたの→?」

亜美「な、なんでもない……」

真美「……」ニヤニヤ

亜美「……?」

真美「そこなら誰にも気づかれないよね→」ニヤニヤ

亜美「……ッ!」

亜美「な、なんのこと……?」アセアセ

真美「携帯の蓋の裏」ボソッ

亜美「……ッ!」

真美「んっふっふ~」

亜美「な、なんで……」

真美「亜美いっつも見てるからね→」

真美「いくら隠そうとしてもさすがに気づくっしょ→」

亜美「……」

亜美「……あの、このことは」

真美「わかってる。言うわけないっしょ!」

真美「かわいい妹のためだもんね→」ナデナデ

亜美「うう……」////

――その日の夜


P(さて、帰るか……)

律子「プロデューサー。少し、いいですか?」

P「……? ああ。どうしたんだ?」

律子「その、亜美のことなんですけど……」

P「……」


――――――
――――

――――
――――――


P「そうか。そんなことが……」

律子「その、私もそんなに偉そうなこと言えないんですけど……」

律子「あれくらいの歳って、すごく繊細なんです」

律子「だから、早めに言ってくれたほうが……」

P「……そうだな」

P「すまない、律子。俺が軽率だった」

P「迷惑かけたな」

律子「いえ、私は構わないんです……」

律子「それに、プロデューサーが悪かったとも思ってませんから……」

P「……いや、俺が悪かったんだ。責任を持って亜美にはきちんと話すよ」

律子「すみません、最後に確認したいんですけど……」

P「……?」

律子「その、プロデューサーは亜美のこと……」

P「……」

律子「……」

P「……まさか。亜美はまだ子供だぞ?」

律子「そう……、ですよね」

P「……ああ」

律子「すみません。変なこと聞いてしまって……」

P「いや……」

律子「それじゃあ、お願いします」ペコリ

P「ああ、おつかれ」

P(そうだよな……)

P(亜美は子供だ……)

P(……)

――翌日の夜

――事務所――


亜美「そ、それで話ってなに?」

P「ああ、まあ、座ってくれ」

亜美「う、うん……」ドキドキ

亜美「な、なんかさ→! 緊張するね→!」

P「……」

亜美「いま兄ちゃんと亜美の二人っきりだよ→?」////

P「……」

亜美「な、なんちゃって……」

P「今日、亜美に残ってもらったのは大事な話があるからだ」

亜美「……ッ!」

P「俺の勘違いってこともあるから、そうだったら許して欲しい」

亜美「な、なんだか兄ちゃん真剣だね→」アハハ…

P「……」

亜美「なーんて……」

P「真剣な話なんだ」

亜美「……」


――――――
――――

――――
――――――


P「……わかってくれたか?」

亜美「……」

P「亜美はまだ子供で、俺は大人なんだ」

P「……だから亜美の気持ちに応えることは出来ない」

P「ごめんな。亜美がなにかしたわけでもないのに、こんな話をして」

P「亜美が本気になってしまう前に伝えたかったんだ」

P「だから――」

亜美「兄ちゃん」

P「……」

亜美「亜美はずっと本気だよ」

P「……」

亜美「……」

P「……」

亜美「……大人って、なに?」

P「……え?」

亜美「……どうしたら大人なの?」

P「それは……」

亜美「亜美はもう大人だよ」

亜美「律っちゃんより背も高いし……」

亜美「アイドルとしてお金も稼いでるんだから!」

P「……まだ中学生だ」

亜美「なにそれ!?」ガタッ!

亜美「じゃあ何!? 世の中の人は二十歳になったら急に大人になるの!?」

亜美「二十歳になった途端、心も体も急に大人になるの!?」

亜美「そんなわけないじゃん! 絶対おかしいよ!」

P「そうやって……」

亜美「……?」

P「そうやって、取り乱しちゃうところなんか――」

P「まだまだ子供だよ」

亜美「そ、そんなの……」ジワッ

亜美「そんなの、ずるいよ……」グスッ

P「……」

亜美「……」グスグスッ

P「……」

亜美「……」

P「……ごめん」

――数分後


亜美「……」

P「……あー、そうだな」ポリポリ

P「確かに二十歳になったらって急に大人になるわけじゃない」

P「でも、法律で言うところの成人だ」

P「それが決まりなんだ」

亜美「……そんなの」

亜美「……そんなのずっと先のことじゃん」

P「…………」

亜美「……亜美、本気で兄ちゃんのこと――」

P「……俺さ」

亜美「……?」

P「俺も亜美と同じくらいのときに人を好きになったことがあってな」

亜美「……」

P「中学二年生の時だったかな。相手は教育実習に来てた先生だった」

P「つまり大学生だ」

P「当時、気になってる女の子がいたんだが……」

P「そんなこと、すっかり忘れて」

P「どうしたら先生と一緒にいられるかばっかり考えてたよ」

亜美「そんな話……」

P「まあ、聞いてくれ。すぐに終わるから」

P「先生が参加するからって、放課後には課外活動のボランティアして……」

P「普段勉強なんかしないのに、先生に授業の内容質問しに行ったり……」

P「同級生にからかわれたけど、そんなの全然気にならなかった」

P「それぐらいその先生のことが好きだった」

P「俺はこの先生と結婚する! ……って本気で思ってたんだ」

亜美「……」

P「でも、先生が学校にいるのなんて一ヶ月もない」

P「あっという間だった」

P「ほとんど何の準備もないまま告白した」

亜美「こ、告白!?」

P「ああ……。一ヶ月も一緒にいなかったのにだ……」

P「しかも中学生が、もうすぐ社会人になろうって相手に……」

亜美「……どうなったの?」

P「……見事に玉砕だ」

P「先生は、にっこり笑って『先生』として答えてくれた」

亜美「…………」

P「でも俺はあきらめきれずに……」

P「じゃあ、一緒に写真をとってくれって頼んだ」

P「先生のお別れ会でカメラはあったからな」

P「その時は言わなかったが……」

P「大人になったら迎えに行くつもりだったんだ」

P「それまでこの写真を見て頑張ろうって……」

P「その写真は宝物だったよ」

P「先生がいなくなってからも……、ずっと自分の家の机の引き出しにしまっておいて」

P「なにかある度にその写真を眺めてた」

亜美「……」

P「……」

亜美「それで……?」

P「……」

亜美「それで、どうなったの?」

P「んー、結論から言うとだな」

P「もう、その写真はどこにあるかわからない」

亜美「……」

P「学年があがって、受験勉強が始まって……」

P「高校に進学して……」

亜美「……」

P「……その頃にはもう持ってなかったと思う」

亜美「……なんで?」

P「……なんでだろうな」

P「多分、俺は子供だったんだと思う」

P「世間のことを何にも知らない子供だったんだ」

亜美「兄ちゃんは……」

P「……?」

亜美「兄ちゃんは亜美も同じだって言いたいの?」

P「…………」

亜美「亜美のこの気持ちが少ししたらなくなっていくものだって……」

亜美「そう言いたいの?」

P「…………」

P「そう思う」

亜美「……ッ!」

P「亜美……。亜美はまだこれからどんどん成長していくんだ」

P「心も、体も。いま亜美が見ているものは掛け替えのないものだけど」

P「これから、どんどん世界は広がっていくんだよ」

P「新しいものにたくさん出会うんだ」

P「俺はそのひとつに過ぎないんだ」

P「俺もそうだった」

P「高校でも恋をしたし、大学でも恋をした」

P「その先生のことは大事な思い出だけど……」

P「それが全てじゃなかったんだ」

P「亜美だってきっとそうだ」

P「そう思わないか?」

亜美「…………」

P「……亜美?」

亜美「……そう、かもね」

P「ああ。きっとそうだ」

亜美「…………」

亜美(全然違うよ……)

亜美(兄ちゃんとその先生は――)

亜美(離れ離れになったからそうなったのかもしれないじゃん)

亜美(亜美と兄ちゃんはこれからもずっと一緒なんだよ……?)

亜美「……」

P「……納得いってないって顔だな」

亜美「……」

P「…………」

P「そうだな……」

P「じゃあ、亜美が二十歳になっても俺のこと好きだったら……」

P「その時は俺も真剣に答えるよ」

亜美「……!」

亜美「ほ、ホントに!?」

P「……」コクリ

亜美「……絶対だかんね!」

P「ああ、約束するよ」

P「……その代わり!」

亜美「……?」

P「亜美が二十歳になるまではこの話は保留!」

P「この話は一切しない」

P「どうだ?」

亜美「……」コクリ

P「それと……」

亜美「……?」

P「他に好きな人が出来たら」

P「俺のことなんて気にしなくていいからな」

亜美「……うん。わかった」


――――――
――――

――――
――――――


――事務所――


…ガチャ

P「おはようございまーす!」

千早「あ、お疲れ様です。プロデューサー」ニコッ

P「……え。ち、千早か?」

P「いつ日本に戻ったんだ?」

千早「今朝早くに」

P「そうだったのか。随分久しぶりな気がするな」

千早「そうですね。お正月に会って以来ですから……」

P「そうか……、かれこれ四ヶ月ぶりか」

P「千早が毎日、事務所にいた頃が遠い昔のことのように思えてくるよ」

千早「プロデューサー……」クスッ

千早「それ、なんだかおじさんっぽいです」クスクスッ

P「え!? そ、そうか?」

千早「ふふ……」

――そして

――Pのデスク――


P「……おじさんっぽいかあ」ハア…

○○「プロデューサー、どうしたんですか? ため息なんてついて」

P「いや、今朝、千早におじさんっぽいっていわれてな」

○○「……? おじさんっぽいもなにも、実際におじさんじゃないですか」

P「」

○○「プロデューサー?」

P「お、俺はまだそんな年じゃないぞ!」

○○「そうやってムキになるところがまた……」

P「……ぐ」

○○「……?」

P「……さあて、仕事仕事」…シラジラ

ガラッ

○○「……? なんですか、これ?」サッ

P「……ん?」チラッ

P「……ああ、手帳だよ。俺がプロデューサーになって初めて買ったやつだ」

○○「へー」

P「初心を忘れないように置いてある……、というかだな?」

○○「……?」

P「人の机を漁るんじゃない」

○○「まあまあ、固いこと言わないでください」ニコニコ

○○「見てもいいですか?」

P「構わないが、他人が見て面白いものじゃないと思うぞ?」

○○「……いやいや、なにか発見があるかも知れませんよー?」パラパラ

○○「……あれ? この女の子」

P「……女の子?」

○○「これですよ、プリクラってやつですか? 時代ですねー」

○○「これ誰ですか?」

P「ん? ……ああ、亜美だよ」

○○「あ、亜美さんですか!?」

P「ははは。そんなに驚くことか?」

○○「驚きますよ! この時は私より年下なんですよね?」

P「ああ。中1だったな」

○○「流石にトップアイドルになる人はこの頃から違いますねー!」

○○「めちゃくちゃかわいいです!」

P「…………」

○○「プロデューサー?」

P「……ん?」

○○「どうかしましたか?」

P「……いや、なんでもない」

P「ほら、もういいだろ?」スッ

P「レッスンに行ってこい。俺も仕事しなくちゃな」

○○「はーい」…スタスタ

○○(あーあ、もうちょっと見たかったんだけどなー)スタスタ

○○(プロデューサーさん、急に思いつめた顔しちゃうからさー)

○○(それにしても……)

○○(手帳の横にあったリングケース……)

○○(あれはなんだったんだろう?)

P(……)パラパラ

P(……)パタンッ

P(……)カラッ

P(……)

亜美『……亜美、本気で兄ちゃんのこと――』

P(……)

――とあるテレビ局の楽屋――


スタッフ「竜宮小町さん、そろそろ準備お願いします!」

あずさ「はあい」ニコッ

伊織「さて、行きましょうか」スッ

亜美「……」カチカチ

伊織「……亜美?」

亜美「あ、うん。いま行く」

伊織「亜美……、別にいいんだけど」

亜美「……?」

伊織「……いい加減携帯変えたら?」

伊織「いま、その型式の使ってるの全国探したってなかなかいないと思うわよ?」

亜美「……うん、そうかもね」

伊織「最近のは色々、便利な機能も増えてるし――」

あずさ「あらあら、でも物を大事にするのは良いことだと思うわ」

あずさ「亜美ちゃんは良い子ねー」ウフフ

伊織「あずさ……」

あずさ「……? なあに? 伊織ちゃん?」

伊織「亜美ももう子供じゃないんだからその『良い子』ってのはどうなの?」

あずさ「あらあ? いけなかったかしら?」

伊織「……亜美ももう大人なのよ?」

あずさ「あらあら、ごめんなさい。そうよね、亜美ちゃんももう、大人なのよね」

亜美「ううん、別に良いよ。それにまだ亜美はまだ大人じゃないし!」ニッ

伊織「はあ!? あんたねえ、いつまでも子供扱いしてもらえると思ってるんじゃないわよ?」

伊織「もう一人前なんだから、責任とその自覚を持って……」

亜美「わかってるよ、いおりん」

伊織「……?」

亜美「あと、二週間なんだ……」

伊織「……なにが?」

亜美「亜美が大人になるまで」

伊織「……? どういうこと?」

あずさ「二週間後っていうと……、あっ! わかったわ!」ウフフ

伊織「ああ……、なるほどね」フフ

亜美「……」ニコッ


                                  おわり

おつ、若干読んだことある気がしたんだが、まぁ気のせいということにしておこう

>>153
マジですか/(^o^)\

機材故障→二人で遊びに行ってプリ→携帯の裏蓋
みたいな流れに覚えがあるというか…  全然関係ないSSだったかも…

>>156
吊ってきます

どっちにしろ覚えてないし、このスレは良かったよ

>>158
ありがとう
ネタかぶらないように気をつけます

読んでいただいた方、ありがとうございました

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