女魔法使い「人前で魔法が使えない」(452)

魔物「ゲギャギャギャッ!」

猿のような魔物に皆が飛びかかる。

勇者「喰らえ化物!」ズバッ

戦士「ふんっ、兜割りっ!」ゴッ

僧侶「風よ……『風斬呪』」シュオ

魔物「ガ、ギュ……」

私も、杖で叩きに行く。

魔女「えっ、えと……てあ」ポカッ

当然ながら与えられたダメージなんて皆無に等しい。
魔物は標的を私に決めて、襲いかかってきた。

魔物「ゲガアアアアアアアッ」

魔女「きゃあっ!」

勇者「使えねぇな! クズ魔女!」ズバッ

魔物「……ガ、フッ」

勇者「ったく……」

勇者様が助けてくれた。
あ、あ。でも、怒ってる。

魔女「あ、あ、あの」

勇者「おいクズ、お前はどうしてそんなに無能なんだ」

勇者「非力なくせに杖で攻撃なんかしやがって、お前が怪我したら回復のための魔力が無駄になるだろ」

魔女「で、でも……私も何かっ」

勇者「だったら魔法を使えよ、おい、お前魔法使いだろ?」

魔女「ひっ……」

私は魔法が使えない。
ただし『人前では』だが。

勇者「そうだろおい? ほら、使ってみろよ!」

魔女「ご、ごめんなさっ」

殴られる、殴られる。
ごめんなさい勇者様、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

戦士「勇者、そのへんにしとけ」

僧侶「そうですよ、そろそろ日も暮れてきましたし、野営の準備をしましょう」

勇者「ちっ、しかたねぇな」

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

――――――
――――
――

勇者「ふぅ……食った食った」

魔女「…………」

勇者様が、にやりと笑って私を見る。

勇者「おい、魔女」

魔女「……は、ひ」

勇者「後でちょっと来い」

勇者様がぺろりと舌なめずりをする。
また、『あれ』だ。

魔女「わかり……ましたっ」

勇者「お……来たか」

魔女「ゆ、勇者様」

勇者「まぁ、まずは咥えてもらおうかな」

そう言って、勇者様はズボンを下ろす。
ぼろんとグロテスクな性器が飛び出た。
一日中旅をしていたせいで、つんと鼻にくる臭気が漂う。

魔女「ひぃ……」

勇者「おら、さっさとしろ」

嫌だけど、嫌だけど。
あ、勇者様怒ってる、殴られる、それはもっとやだ。

魔女「……あ、む」

勇者「ん……そうだ」

魔女「む……ちゅ、れろ……」

口の中でだんだんと大きくなる。どくどくと脈動して気持ちが悪い。
苦しい、あ、あ。でも嫌がったら勇者様に、あ。

勇者「お前はこんなことでしか役立たないもんなぁ」

魔女「っ!!」ビクッ

勇者「魔法使いのくせに魔法を使えないなんてお荷物にしかならないからなっ」

勇者「そのお荷物をこうやって有効活用してやってるからパーティについてこられてるんだぞ?」

魔女「……ん、ぅ」ビク

勇者「おい、口を休めるな」

がつん、と殴られる。
痛い痛い痛い。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

魔女「んんっ……れろ……ちゅ」

勇者「お前、魔法使えないんだから魔法使いじゃなくて娼婦とか名乗ったらどうだ?」

勇者「娼婦、娼婦……ははは、おいぴったりじゃねぇか」

魔女「んーっ、ん、ん」

髪の毛を掴まれる。
勇者様が無理矢理腰を打ちつける。

勇者「役立たず」

魔女「んっ! っ、ぐ! んむっ!」

勇者「役立たず」

魔女「むがっ、ぐ! うっ!」

勇者「あー、あーっ出るっ!!」

魔女「んむぅっ!?」

どぷどぷと口の中に精が流し込まれる。

魔女「げほっげほっ! ……おぇ」

勇者「おい、何吐き出してんだ」

魔女「ご、ごめんなさっ……な、殴らないで」

勇者「ちっ……おら、服脱げ」

魔女「ひ」

勇者「モタモタすんなよ!」

勇者様が私の服を無理やり剥ぎ取る。
夜風が身体を撫でる。寒い。

魔女「ひぅ……」

にちゃりとまとわりつくような目で勇者様が私を見る。

勇者「お前……ほんと胸以外は良い身体してんだけどなぁ」

勇者「なんだよこのまっ平らな胸は」グニ

魔女「……んっ」

ぺたぺた遠慮無く手が身体を這いまわる。
少し汗ばんだそれはとても不快。

勇者「もういいや、入れるか」

魔女「うぁっ」

腰を掴まれ、勇者様のそれがあてがわれる。

勇者「せーのっ」

魔女「……か、はっ」

私の身体のことなんて考えずに乱暴に挿入される。
まるで道具のように突き込まれ続ける。

勇者「あー、きもちー」

勇者「お前のロリィな身体はキツキツでいいなぁ」

魔女「……っ、っ」

私の軽い身体を、力のある勇者様は軽々と持ち上げる。
おなかの中が圧迫されて痛い。
やめて、勇者様、やめて。

勇者「締まるー、いいねぇ」

勇者「……おい、声出して盛り上げろよ」

握り拳が振り上げられる。
殴られる。
殴られた。

魔女「ん……は、ぃ……っ」

魔女「あ、あん……あっ、あ、あっ」

勇者「ほら、今お前どうなってる?」

魔女「んぅ……ゆ、しゃさまのっ……おちんちんがっ」

魔女「わたしのっ、おなか……をっ、あっ、ずぼずぼしてますっ」

勇者「良く言えた、ごほうびだ」

思い切り頬を張られる。
すぱんと、音が響く。

魔女「ぅ……いたいよぉ……」

勇者「お? お前、叩くときゅっと締まるな」

勇者「もしかして、お前マゾかよ」

そんな訳ない。
痛みに身体が強張って、お腹に力が入ってしまっただけだ。
だから、やめて勇者様。いたいのやだよぉ……。

勇者「おらっ!」パチン

魔女「ぎっ!?」

勇者「二発目っ」バチッ

魔女「やっ!?」

勇者「締まる締まる、すげぇな」バキッドカッ

魔女「がっ、ぐ……やだよぉ……かはっ!」

顔も胸もお腹も、容赦なく叩かれる。
最初は張り手だったのが変わって、楽しそうな顔で私を殴る。

勇者「やばいやばいやばい、出るっ」

魔女「う、やぁぁ……」

勇者「うっ!」ドビュドビュ

どくんどくんとお腹の中で脈動する。

魔女「……やだぁ、あついよぉ」

勇者「あー、出た出た、お前はほんと良い玩具だよ」

魔女「うぅぅ……ひぐっ、うぇぇ……」

視界がぼやける、世界がにじむ。
どうして、何で私が。

勇者「……おいおい、まさか一回で終わりだと思っちゃいねぇだろうな」

魔女「もう嫌ですっ、勇者様お願いしますからっ! もうやめ、がっ!?」

顔を掴まれ、口を塞がれる。
ぎりぎりと握りつぶすように。頬に爪がささって、切れる。

勇者「口答え、すんじゃねぇ」

魔女「……っ! ……っ!」コクコク

――――――
――――
――


魔女「……! …………!」ドロ

勇者「おーおー、血やら汗やら精液やらが混ざってぐっちゃぐちゃ」

魔女「…………」ピクピク

勇者「まぁいいや、満足したし……じゃあな」

勇者「適当に後片付けしとけよ、あははははっ!」テクテク




魔女「…………」

魔女「…………」

魔女「…………ん」ムクリ

私は、魔法が、使えない。

『ただし、人前では』



魔女「召喚……水精霊《ウンディーネ》」フォン

水精「御身が傍に」

魔女「身体の洗浄お願い」

水精「……マスター」

魔女「いいから」

水精「……はっ」ピチョン




魔女「ありがと、ディーネ」

水精「マスター、どうしてあのような屑の言いなりになっているのです」

魔女「屑なんて言っちゃいけないよ、勇者様だから」

水精「しかしっ!」

魔女「それに、勇者様の言うとおりだもん」

魔女「私は、役立たず」

オマエナンカ、イキテルダケデ、メイワクダ

魔女「私の魔法のせいで」


  『熱い! 熱いよぉぉおおおおっ!』
『助けて、誰か助けて!』    『何処も燃え上がってる!』
       『なんでこんなことにっ!!』


魔女「私の、私の、私のわたしのワタシノ……せいデ」


『アイツの仕業だ!』
     『最悪の魔女だ!』
                  『お前のせいで! お前のせいで!』
  『おねぇちゃんをかえしてよ! ねぇ! ねぇってばあああっ!』


魔女「みん、なが、ががアア……皆みんなみんなみんなみんん、ミンなミンナみんナ!」

【回想】


初めて使った魔法は、火炎の最上位魔法だった。
全てを灰塵に帰す地獄の業火。
町の魔法学校は、私の手で燃やし尽くした。



『この子はすごいぞ! 内包する魔力の底が見えない!』

私が産まれたとき、教会で神父様がそう言ったそうだ。
期待されて、期待されて。
この子は将来大魔法使いになるだろうと期待されて。
そうやって育った。

町中から褒め称えられた。
まだ何もしていない、何にもなっていないただの子供だったのに。
やれ町一番の出世頭になるだ、やれ宮廷魔術師の長になるだと。

母はあらん限りの愛情を私に注いだ。
父は私を最大限に支援するために毎日働き続けた。

皆、期待した。
まだただの餓鬼に対して。

魔法学校に入学して、最初は平和だった。

『はーい、まずは魔法の仕組みについて学びましょう!』

若い女性の担任はそう言った。
座学は特に魔法を行使することは無かった。
だから、平和だった。

幸い、なのかどうかわからないけれど、私は魔力だけでなく知能の方も良かったようだ。
基礎を学ぶ一年度は同級生にはるかに差をつけ、首席だった。

大人たちの期待の声は激化した。

『天才だ!』
『全世界に名が轟く術師になるぞ!』

当時の私は、素直な餓鬼で。
大人たちに持て囃されて、嬉しくて、頑張って頑張って、さらに上の成績を取ろうと意気込んだ。

二年度。
ついに魔法実習が始まった。

初めての行使の授業には街中から沢山の人が集まった。
まるで、王族が来たときのように。

初めてとあって、少し緊張していたと思う。

それでも期待に答えようとして。
私が今できる全力を。
最高を。
最上を。

そう思って呪文を唱える。



「   炎よ!   」







世界が赤く染まった。





「え、え……なんで……」


ぎゃああああああああああああああああああ
   あついあついあついあつい     くるし たすけて
 ううううううううううううううううううああああああああああああああああ

劈くような悲鳴が至る所から発せられる

地が割れ、火炎が噴き出る。
人を飲み込み、消し炭すら残さない。
熱波は建物を溶かし、蒸発させる。

私にだけそれは届かない。
術者にだけは届かない。

「いやだ、なんで、わたしは、こんなこと」

困惑。
錯乱。
恐慌。
逃走。


いつの間にか、私は逃げ出していた。
気が付いたらそこは町の裏にある山の中だった。

「ちがうちがうちがうちがう」

「わたしはのぞんでない」

「みんなのきたいにこたえようと」

「いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ」

「わたしのせいじゃないわたしのせいじゃない」

「そうだあははあれはたまたまだったんだ」

「わたしはもっとよわいまほうだってつかえるんだ」

氷の魔法を使った。
永遠に解けない吹雪の山が出来上がった。

水の魔法を使った。
世界最大で世界最深の湖が出来上がった。

風の魔法を使った。
止まらない竜巻で木の無い荒野が出来上がった。

土の魔法を使った。
何の生物も生きられない砂漠が出来上がった。

確かに、大人たちの言った通りに、私は大魔法使いだった。

でも。
私は魔法の威力を制御できなかった。

何の魔法を使っても最上位しか使えない。

役立たずだった。

それからだ。


私は人前で魔法を使えなくなった。
誰かをまた殺してしまうから。

心に深く刻まれたトラウマ。

巻き込んで、消し飛ばしたくないから。



【回想終】

魔女「わたしは、役立たず」

水精「…………マスター」

困ったような声を上げるウンディーネ。
こんなことのために。

魔女「あなただってそう」

魔女「たかが身体の洗浄のためだけに、海王神《ポセイドン》級の精霊しか召喚できない」

水精「わ、私は気にしていません!」

魔女「……ありがと」

今日はここまで

あれぇ……?
がっつりエロ書こうと思ってたらがっつりシリアス書いてた
そんなつもり無かったんだけど

――――――
――――
――

勇者「さて」

どろりと欲情した目で勇者様は私を見る。

勇者『拘束呪』

魔女「っ、うぁ!」

鈍く光る魔法の紐が私の体を縛る。
ほとんど動けない。

勇者「馬鹿な魔女に問題です」

魔女「……ぇ?」

勇者「勇者が勇者足りえる条件ってのが一個あるんだけど。何だかわかるか?」

魔女「……かみ、なり……ですか?」

勇者「ご名答」

勇者様の手元で激しく空気を裂く音が響く。
雷。
勇者のみが使えるといわれる『雷撃呪』

勇者「んー、流石に普通に撃ったらヤバいだろうし……出力下げて……」

魔女「な、にを……」

勇者「まぁ、死ぬなよ? 『ちょっとだけ雷撃呪』」

視界が稲光で埋め尽くされる。
明転。

魔女「っっっ!? ――――――っ!!」ガクガクガクガク

勇者「おー、大丈夫そうだな、これなら」

あ、あ、あ。
あたまがまわらない。からだがぴくぴくけいれんしてる。

勇者「入れるぞ」クチュ

魔女「あ……あ……」

勇者「おー、中が小刻みに痙攣してるな」

魔女「はっ……はっ……っ」

勇者「俺はまぁ雷耐性あるし……『ちょっとだけ雷撃呪』」バチィッ

魔女「っ、ぎゅ、あああああああああああああああああああああああああああああああああっ」

いたみにからだがもだえる。
こうそくのせいであばれてきをまぎらわすことすらできない。

勇者「あー、きゅうきゅう締まっていいわー……『ちょっとだけ雷撃呪』」バチッ

魔女「ぎゃああああああああああああっ、いだいいだい、ああああああああああああ」

勇者「ガタガタうるせぇなぁっ!」バキッ

魔女「か、はっ……」

勇者「ちょっと出力上げ……『弱・雷撃呪』」バリッ

魔女「――――っ!?!? ……っっぁぁあああああああああああああああああっ」

この、ままじゃ、しんじゃ、う。
どうにかしな、きゃ。
ど、うするの?

勇者「ん? 出力上げ過ぎると逆に脱力しちまうか。力すら入らないと……」

勇者「おい、意識あるか?」ガッ ドゴッ

魔女「っ……ぐぶっ」

…………。
はんげき?


はんげき? ハンゲキ? ……反撃?

  『極・火炎呪』? 『究・豪風呪』?
     『火精霊《サラマンダー》・炎神《プロメテウス》級』?
『禁・死霊呪』?     『絶・消滅呪』?

魔女「…………」ジロリ

勇者「……っ?」ゾクッ

魔女「……『――


それは。

それは、駄目だろう。
また壊す気か。
人を町を山を国を世を。

魔女 ――』……けほ」

勇者「さて、そろそろだから最後にきゅっと絞ってもらおうか」

勇者『ちょっとだけ雷撃呪』バチ

雷撃が身体を奔る。

魔女「ううぅ、ああぁぁあああああああっ!?」ビクビク

勇者「出るっ……」ビュクビュク

魔女「……ぃ、あ」

勇者「ふぅ」

勇者「あぁ、魔法使ったら疲れたわ……もういい、解放してやるよ」

勇者様が指を鳴らすと拘束していた光輪が消える。
むりな形に押さえつけられていた身体がぎしぎし軋む。

身体が動かない。
雷撃のダメージが残って痺れている。

魔女「はぁ……はぁ……」

私は呪と呼ばれる黒魔法と召喚魔法しか使えない。
祈を唱える白魔法は使えないのだ。
つまり身体の回復は出来ない。

魔女「ここで寝たら……死ぬなぁ」

全裸で冷たい地面に寝っ転がったまま夜を過ごせば、凍死程の冷気が無くとも衰弱で死ぬ。

魔女「キャンプまで戻らなきゃ」

魔女「……『催眠呪・応用』『完全肉体操作《フルコントロール》』」

動かない身体を魔力で無理やり動かす。

魔女【ふぅん……初めてやったけど、普通に動かすのと大差ないなぁ】

最強の非魔法使い。
攻撃のみならず、こんなものまで十全にしか使えないみたいだ。

魔女【ん、ぅ……垂れてきた】

股からどろりと白濁がこぼれる。

魔女【身籠ったら……捨てられるんだろうなぁ】

ただでさえ足でまといなのに、そんなことになったら勇者様は迷いなく私を切り捨てるだろう。

――――――
――――
――

ちなみに、人前というのは魔物の前のことも含む。
たとえ周りに勇者様達パーティがいなかったとしても私は魔物と戦う事は出来ない。

なぜだろうか。
この桁外れの魔力持ちとして、むしろ魔物の方が親近感を覚えるからか。

僧侶「あの……魔女、さん」

魔女「う、ぇ? そ、僧侶さんどうしたんですか?」オドオド

僧侶「少し話があります」

魔女「え、え。なんですか? あ、もしかして囮役の話ですか? 大丈夫です、数発なら耐えて見せます……」

僧侶「いえ……違います」

魔女「違うんですか? わ、私なんか悪いことしましたか? したんですよね、はい、えへ、えへへ」

魔女「えっと、罰は何ですか?」

僧侶「いえ、だから違いますって……」

僧侶「あなたの魔力についてです」

魔女「……っ」ビクッ

僧侶「私も神官ですから、人の魔力量を見通すことには長けています」

僧侶「あなたは……『何』なんですか?」

魔女「…………」

僧侶「私は先ほど見通すなんていいましたけれど、あなたの魔力は見通すことができないほど多い」

魔女「…………」

僧侶「それほどの魔力を持ちながらなぜ魔法が使えないのですか」

僧侶「いえ……違いますね」

僧侶「あなたはなぜ魔法を使わないのですか」

魔女「っ、い、あの」

僧侶「呪さえ唱えれば簡単に使えるでしょう」

魔女「……うぅ」

僧侶「わざわざ足手まといをする意味はあるのですか?」

魔女「……えへへ」

僧侶「……?」

魔女「私は、魔法使えないんですよ」

魔女「理屈とかそういうんじゃなくて、使えないんです」ニコ

僧侶「言っている意味がわかりません」

僧侶「……正直にいえば私は心配してるんです、同じ女性として」

僧侶「このままだとあなた死にますよ?」

僧侶「魔物相手かわかりませんが、死にます」

魔女「いいんです」

僧侶「は?」

魔女「別に死んでも」

魔女「誰のことも傷つけなければ、私は死んでもいいです」

僧侶「あなたが魔法を使わないことと周りが傷付くことに関係なんて無いじゃないですか」

魔女「…………」ニコリ

僧侶「……っ、あなたと真面目に話そうとした私が間違っていました」

僧侶「もう良いです、精々死なないように」

魔女「はい……」

今日はここまで

エロが少ねぇ、どうしてもシリアス食い込む……

――――――
――――
――

うっそうと茂った黒い森を探索している私達。
高木に日光が遮られ、辺りは薄暗く見通しが悪い。

魔物「キュォオオァァアアッ!!」

魔女「なっ!?」

と、そこで。
背後からの急襲。

そんなつもりは無かったのだけれど、無意識に、反射的に、生物としての本能で、
呪文を、唱えてしまった。

魔女「『催眠呪』っ!」






森全域が、眠りに落ちた




魔物「ォ…………」ドサ

勇者「ぐっ……」クラッ

戦士「…………」ドスン

僧侶「……ぁ」パタ

生物は、一つ残らず昏睡した。
もちろん、術者を除き。

魔女「あ、あ、あああ、ああああああああああっ!?」

魔女「使った!? 私が、わたしが、魔法を!」

視界に亀裂が入る。感覚が曖昧だ。
吐き気、が、込み、上げ、る。
気持ち悪い気持ち悪い気持チ悪イキモチ悪イキモチワルイキモチワルイキモチワルイ。

魔女「がふっ、がふぁ……おぇ……ぐぶっ」

わたしがひと
まえでまほうをまたつかってし
まっ

てかげんもできないのにすべてをこわしてしまうのにとりか
えしのつかないこ
とになってしまうんじゃ



だろう
かみんなしんでしまうんじゃないのだ
ろうか


いやだいやだいやだいやだこのてでひとをころすのはもうこりごりだひめいがあたまにこびりつくちだまりがわすれられないなんでわたしがこんなことにこんなちからのぞんだことなんていちどもないだれかたすけてころしてしまうしんでしまうしがしがししししししししししあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

とんでもないところでぶった切りますが
すみません
今日はここまで

魔女「う、うぁ……」

…………
…………
…………

魔女「……なんとか、しなきゃ」

この状況をどうにかして。

まずは魔物を排除。

魔女「魔法を使ったら、勇者様達も巻き込んじゃうから……」

震える腕を無理やり可動させる。
勇者様に近づき、腰から剣を抜きとる。

魔女「お、もい……」

よたよたとふらつきながら、

魔女「せ、ぇのっ!」

魔物に剣を突き刺す。

ぶしゅっと緑色の血が噴き出る。

魔女「はぁ、はぁ……」

魔女「これで、大丈夫……この魔物は勇者様が倒した、ことにすれば」

魔女「…………」

パーティを見る。
呪術による睡眠、それも私の呪術によるものなんだから、叩いたところで起きるわけがない。

魔女「どうしよう、どうしよう……ううぅぁぁァァアア……」

オチツケ、おちつけ……パニックになるな、考えろ。
このまま放ってしまうと、死ぬまで永遠に起きることの無い森が出来上がる。
天変地異は起こってしまった、なら、元に戻さなければ。

魔女「でも、私……眠りを解く祈祷は使えないし……」

僧侶さんなら覚醒祈祷を使えるのかもしれないが、それでも、私の呪いを打ち消すほどの力は無いだろう。
第一、僧侶さん本人が眠っている。

魔女「アイテム、アイテム……それも無い」

この世の何処かには、睡魔を祓う聖なる鈴があるというが、それを見つけにいく時間も無い。

魔女「他に、何か、出来る、ことは……」ハァハァ

呼吸が荒い。
身体が震える。
焦るな、まだ終わりじゃない。
道を探せ。

魔女「………………」

魔女「…………!」


魔女『召喚……光精霊《リュミエール》』『太陽神級《ランク・アポロン》』

光精「我を呼んだか、我が主よ」

魔女「うん……エール、命令よ」

光精「何なりと」

魔女「……あなた、解呪の祈祷使えたよね」

光精「うむ」

魔女「この森が眠りの呪いに罹ってる。あなたの力で起こせる?」

光精「容易く」

魔女「お願い」

光精「目覚めよ……『神・覚醒祈祷』『朝の陽射』」

きらきらと薄暗い森の中に光が差し込む。
暖かな光が森を迸る。

呪いが解ける。

魔女「良かった……」

緊張の糸が切れたのか、その場に崩れ落ちる。

魔女「ありがとエール」

光精「主の為ならば」

魔女『帰還』

光精「また会おう、我が主よ」



魔女「これで、もう、あん……しん……」


私は。
呪いでは無い、眠りに就いた。

本日はここまでにございます


投下毎のご閲覧には感謝の念が尽きませぬ。

>>85
>>86
多分召喚する精霊の強さも加減出来ないのではないかと
神クラスしか召喚出来ないとか
いくら精霊自体が力を加減出来ても、そんなもの目の前で召喚されたら…
という感じでは?

>>87
その通りです、説明ありがとうございます

強さ的には、中ボス級なら裸足で逃げ出すレベルの召喚獣だと考えてもらえば
チート過ぎる感じで

それでは、始めます

――――――
――――
――

魔女「……!? ご、はっ!」

腹部に衝撃。
まどろみの中にあった意識が引きずり戻される。

勇者「ったく、やっと起きたか無能」

魔女「っ! っ! は、っ……!」

勇者様が私に吐き捨てるように言う。
しかし、恐らく蹴り起こされたのだろう。そのせいで呼吸ができなくなり、まともな受け答えができない。

勇者「いつまでものんきに寝てやがって、おら行くぞ」

涙で歪む視界で勇者様を見上げる。
呆れた目で見下す勇者様。
その後ろには、まるで私が見えないかのように無視を決め込む戦士さんと気まずそうな顔で目を逸らす僧侶さんもいた。

魔女「は、ひ……すいませ……」

勇者「にしても……何だったんだ?」

戦士「確か、魔物が現れたのは覚えてるんだが……」

僧侶「魔物ってこれですよね。勇者様が倒したんですか?」

勇者「ん? んー、この剣は俺のだけど……意識を失う前の記憶が曖昧だ」

僧侶「意識を失うと言うのは……」

そこで、僧侶さんはちらりと私の方を盗み見た。

僧侶「恐らく、魔物の呪術による昏睡だったのだと思います」

勇者「ってことは、あれか。魔物の攻撃で眠ってしまいそうになったところで俺がぎりぎり反撃して、その後皆眠ってしまったってことか」

僧侶「そういったところでしょう」

良かった。
必要とあらば私がその結論に誘導し、そう思い込ませようと思っていたが、どうやらその必要は無さそうだ。

勇者「はぁ……それじゃあ、時間喰っちまったから急ぐか」

戦士「おう」

魔女「は、はい」

がさがさと草を掻き分けて歩き出す。
時折、何処かで鳥の鳴き声が聞こえる。
エールの祈祷はしっかりと成功したようだ。眠りの森が出来上がらなくて済んだ。

僧侶「魔女さん、ちょっと」

進もうとしたところで僧侶さんに声をかけられる。

魔女「は、え? なんですか」

僧侶「あの、聞き間違いかもしれないんですが」

僧侶「意識を失う前に、あなた、何かを叫びませんでしたか」

魔女「……っ」

僧侶さん。
どうしてこう、この人は鋭いのだろう。私が魔法を『使わない』ことに気が付いたり。
いや、鋭いというよりは、気を張っているというか。

僧侶「いえ、私も記憶が混濁しているので正確ではないのかもしれませんが」

僧侶「あなたにしては、随分な大声……というほどではないにしろ声を出していた気がして」

厄介だな、と思う。

魔女「わ、私は何も……すぐに倒れてしまって」

僧侶「……そうですか」

眠気がバーストしてます

今日はここまで

――――――
――――
――

勇者「ふぅ……探索終わったー」

戦士「目当ての宝玉も手に入ったことだし、万事完了だな」

僧侶「そろそろ日も落ちてきました、町に帰りましょう」

そもそも、私たちがこの森に入ったのは、女神の封印を解くとされる宝玉探しの為だ。
近くの町では、この森の魔物による被害もあり、森に巣食う者たちを退治する名目もあった。
どちらも、達成できた。アクシデントがあったものの。

勇者「うへ……虫の体液まみれできっついな」

戦士「町に帰ったらすぐに宿屋で熱い風呂を借りよう」

皆、長時間の探索の所為で足取りは重いが、心地よい達成感のようなものに包まれている。
勇者様の機嫌も良い。
宝玉を見つけた後はあまり殴られていない。

と、勇者様がこちらを見る。近づいてきて耳元で囁く。

勇者「……魔女」

魔女「な、何でしょうか」

勇者「夜、『あれ』だ」

勇者「今日は目標の達成の祝いってことで……しっかり俺を楽しませろ」

魔女「ひ、あ……はぃ」

僧侶さんもこっちを見る。
やりきれないような思いに満ちた瞳だ。

町に着くと、町民たちは大歓声で迎えてくれた。

  「勇者様ご一行のご帰還だ!」  「やったあああっ!」
    「魔物を退治していただけたぞ!」
「あぁ、僧侶様も魔女様もお美しい……」 「これでこの町は助かるのね!」
      「死ぬ前に勇者様に会えるとは、ありがたやありがたや」

今すぐにでも宴会場に連れて行かれそうな雰囲気だ。
しかし、勇者様が事情を話すと、臭いに顔をしかめながら、納得したように宿屋まで先導してくれた。




魔女「はぅ……気持ちよかったし、美味しかった」

疲労した体を温かい湯に浸けることができ、ゆっくりと休むことができた。
『あれ』で出来た傷には少ししみたが、あざの治療には良いだろう。
宴では森の近くの町だけあって、美味しい山菜や鹿肉が沢山出た。

魔女「さてと……そろそろか」

僧侶「少し待ってください」

魔女「え?」

僧侶「いえ……少し、ではないですね。勇者様のところへ行くのをやめてください」

魔女「え!?」

急に不可解なことを言われる。
何を言っているんだろう僧侶さんは。
そんなことをしたら勇者様に殴られてしまう。

僧侶「良いから少し話をしましょう」

魔女「はぁ……」

僧侶さんは言うのを躊躇していたが、私を見ると、決断したように口を開いた。

僧侶「もう、やめましょう……あんなことをやらされるのは」

僧侶「私も……私もあなたの無能さには、確かに嫌気がさしますが……でも、だからって! あんなことは許せないんです!」

魔女「僧侶さん」

僧侶「勇者様の言う事も――長旅の中での性欲の処理の問題もあり、必要悪なのかもしれませんが」

僧侶「もう、見ていられないんです」

僧侶さんの瞳から、涙が零れる。
心配。
してくれてるんだなぁ……。

でも。

魔女「大丈夫です」

僧侶「何が大丈夫なんですか!」

強く腕を掴まれる。

僧侶「辱められて! 身体にだって切り傷もあざも沢山あって!」

僧侶「どうして……それで、笑っていられるんですか……」

僧侶さんの頬を大量の涙が伝う。

魔女「だって私」


これは、嘘でも何でも無く、本心なのだけれど。
信じてはもらえないだろうな。


魔女「勇者様のことが、好きですから」

僧侶「…………」

僧侶さんは、ぽかんと口を開けてしまった。
まぁ、そうだろうな。

魔女「それじゃぁ、私もう行くので」

立ち上がると、掴まれていた腕は簡単に解けた。
ぼぉっとした目で私を見る。

魔女「僧侶さん、心配してくれて、ありがとうございます」

僧侶「…………」

僧侶「う、うぅぅ……うあぁぁ……」

僧侶「ごめんなさいっ、助けてあげられなくて、ごめんなざいっ……」

何か、盛大に勘違いされてしまったようだ。
勇者様に脅されているとか、洗脳されているとかだろうか。
面倒臭いな。

それより、そろそろ行かないと勇者様が怒るだろう。
泣き崩れている僧侶さんには悪いけれど、置いていかせてもらう。

自分のこの気持が歪んだものだとは理解している。
はたから見たら、おかしくしか見えないだろう。
暴行されて、殺されかけて。
それでいて、その人を愛するなんて。

魔女「それが、私」

私はそれでいい。

魔女「勇者様に楽しませろと言われたけれど」

どうしようか。

魔女「…………人は、いないよね」

魔女「ふぅっ……『混乱呪・応用』『淫魔の誘惑』」



魔女【ふ、ぅ……あああぁぁっ】ガクガク

魔女【イ、ッちゃったぁぁ……】

精神系の呪い。催淫。
ちょっと……予想より、やばいかも。

魔女【ぅ……勇者しゃま、んんぁ!】

感覚がふわふわしている。
うまく立てない。

何とか勇者様の部屋の扉を叩く。

魔女【魔女ですぅ……来まひたぁ……】

勇者「? ……入れ」

魔女【んっ……あふ……】

勇者「お前……どうしたんだ?」

魔女【何でもいいでしゅ……から、早く、おねがいです】

まずい、まずい。
制御がきかない、頭がとろける。
身体が熱い。

魔女【勇者様の、早く……くださいぃ】

勇者「は、ははっ……お前発情してんのか?」

勇者「あはは、こりゃ面白い。ほら、まずは咥えろ」

魔女【えへ、やったぁ……】

魔女【あむ、ちゅる……れろ】

勇者「う、ぁ……ちょ、激し」

魔女【おいひぃよぉ……じゅる、んぅ】

ゆうしゃさまのにおいでいっぱい、いっぱい。

勇者「ま、まて……」

魔女【がまん、はむ……しないでくらはい……】

勇者「うぐ、ああ」

勇者「やば……出、るっ……」ビュグビュグ

魔女【んむぅぅ! んくんく……ぷはぁ】

魔女【おいひかったぁ……ん、ぅあああっ!】ビクビクッ

ゆうしゃさまのせいえき、のんだだけでイッちゃった……。

勇者「はぁはぁ、すっげぇ……」

魔女【服、じゃまぁ……】

ざつにぬぎすてる。
からだじゅうがじんじんして、きもちいい。
あしをあいえきがつたう。

魔女【もう、だめぇ……ゆうしゃさま、いれてくだはいぃ】

勇者「ぐっちょぐちょだなぁ……」

勇者「それじゃ、遠慮無く」クチ

魔女【んぁっ……】

魔女【ふ、ぅあぁぁっ!】ビクンビクン

勇者「入っ、た……」

おなかのなかゆうしゃさまでいっぱいだよぉ。

魔女【うごいて、うごいてくださいっ……んっ】

勇者「言われなくても、動いてやるよっ」ズンズン

魔女【あ、あっ! ありがと、ございまひゅっ、あんっ! うぁっ!】

魔女【きもちいぃ……きもちいいよぉっ!】

勇者「すっげ、締め付け」グチュグチュ

魔女【もっとぉ、おくのほうついてくださいっ】

勇者「おらよっ!」ズブッ

魔女【きゃぅっ!】ゾクゾク

魔女【ゆうしゃさまは、んああっ……きもちぃですか?】

勇者「最高っ」

魔女【よかったぁ、ゆうしゃさまが、たのしませろっていったから、がんばります……】

勇者「う、あ……やべ、そろそろ出る」

魔女【いっぱいくださいっ! なかにいっぱいっ!】

勇者「行くぞっ!」

勇者「出るっ!」ビュクビュク

魔女【イクっ、イッちゃっ……っ! ふぁあああぁぁああぁっ!】ガクガク

魔女【おくにたっぷりでてる……】

勇者「ふぅ……」

勇者「抜くぞ」

魔女【やぁ、ぬいちゃいやです】ガシッ

勇者「!?」

ご都合しゅg……ごほん

状態異常系の呪文は、森のようにとっさで無ければ対象だけは選べる設定です。
それでも、このように効果はチートじみてますが

魔女【もっと、めちゃくちゃにしてください……あう】クチュ

勇者「ちょ、休ませ……」

魔女【だめなのぉっ! もっと、もっとっ!】グチュグチュ

勇者「ぐぁ」

魔女【どうでひゅか? きもちいぃですか?】

勇者「と、止まれ」

魔女【んぁっ、このしせい、ふかくささるぅ】

――――――
――――
――

魔女【う、ああああっ!】ビクビクッ

勇者「も……出な……」

魔女【あ、あっ……】

魔女「だめぇ……」ドサッ

勇者「やっと、気絶したか」

勇者「俺も、もう駄目だ……」ガクッ

今日はおしまい

恐らくこれから、だいぶシリアスになります

――――――
――――
――

僧侶「どうでしょうか魔女さん、美味しいですか?」

魔女「あ、うん……美味しいよ」

僧侶「それは良かった」

……おかしい。
あの晩から、嫌に僧侶さんが優しい。
私に対する勘違いが僧侶さんの中で何らかの形に昇華したらしい。

僧侶「いっぱい食べてくださいね」

魔女「う、うん」

気まずそうに遠くから見ていたころとは打って変わって、積極的に私に話しかけてくるようになったし。
隣でご飯を食べたり。
お風呂で背中を流したり。
ごく稀に一緒に寝たりする。
まるでお姉さんができたかのようだ。

勇者「…………」チラッ

勇者様は……。
私の豹変ぶりに若干、怯えたらしく、『あれ』がしばらくない。
いつもの癖で殴る時以外には殴られなくなったし。
その上、その癖も僧侶さんに咎められてほとんど無くなった。
身体の傷も大分消えた。

はっきり言おう。

魔女「……居心地悪い」

私の無能は何も変わっていないのに。
相変わらず足手まといで、囮くらいしか出来なくて、それも満足には出来ないし。

魔女「……はぁ」

私はもっと、不幸であるべきだ。
過去の……ああいったことの贖罪になんてなりはしないだろうけど。
でも、私は幸せになってはいけない。

人を、あんなに、殺シテ、壊シテ、グチャグチャ、ボロボロ。

魔女「……ぅアアァあっ」

僧侶「ま、魔女さん!?」

魔女「っ!」

魔女「い、え……なんでも、ないです」

僧侶「大丈夫ですよ」

僧侶さんは慈愛に満ちた、優しい顔で私を抱きしめる。
いや、なにか勘違いを……。

僧侶「怖いことは何もありません。今夜は一緒に寝ましょうか」

魔女「え、いや」

僧侶「遠慮なんてしなくて大丈夫ですからね」

魔女「あのその……はい」





?「ふぅん、あれが勇者一行か……」

?「一匹、厄介そうなのがいるけど……他は雑魚だなぁ」

?「僕を楽しませてくれるかな?」

?「ふふふ」

?「まぁ、先手必勝」

今日はここまで

次回、魔女さん覚醒

僧侶「さて……もう寝ましょうか、行きましょう魔女さん」

魔女「う、わ、えっと、待ってください僧侶さん」

僧侶「ほらほら、テントはあっちですよ」

そういって、少しだけ皆が気を抜いたとき。
冒険者の夜営なのだから、完全に気を抜いたわけではないが、それでもいつもより少しだけ身体を弛緩させた。
そんな時。

?「やぁ」

何かが音もなく飛来した。

?「やぁやぁ」

皆、何が起きたのかわからなかった。
隙を見せたその一瞬の出来事だったせいで。

?「やぁやぁ、やぁやぁやぁやぁやぁやぁやぁやぁ」

声の主は、呆然とする私達をたっぷり眺めてから。

?「こんばんは、勇者一行」

?「私は、魔神といいます」

そう名乗った。

魔神「以後、お見知りおきを」

青黒い異形の肌。
煙を纏い、浮遊している。
ぎろりと魔物特有の黄色い目を持った。
それは、魔神と名乗った。

勇者「なっ!?」

戦士「皆、武器を取れっ――」

魔神「もう遅い」


魔神『降星呪』


星が、降る。

勇者「     」

勇者様が何かを叫ぶ。

戦士「        」

戦士さんが武器を振る。

僧侶「   」

僧侶さんが慌てて唱える。


全て、轟音に掻き消される。
光が押し寄せ、地が砕ける。

私は、何もできなかった。






勇者「げほっ……皆、無事か」

戦士「あぁ……」

僧侶「……平気です」

魔女「私も……」

皆無事のようだ。少なくとも、命は。
土埃が晴れる。


魔神「ほう、流石にこのくらいは耐えますか」


絶望は、変わらずそこに居た。

勇者「構えろ、戦士」

戦士「おう」

二人が剣を抜く。

僧侶「気をつけてください、そいつはかなりの魔力を持っています」

パーティに緊張が満ちていく。
魔神は、にやにやと芝居がかった笑みを浮かべて、こちらを見下す。

魔神「いいですねぇ、勇者様達のお手並み拝見といきましょう」

どん、と勇者様と戦士さんが同時に駆け出す。

身の軽い勇者様が一瞬先を進む。
戦士さんとの攻撃にわずかな変化を作り出す。
分散という、タイミングをずらし回避を困難にさせる戦闘技術。
二人の連携において、およそ最高峰の一撃。

勇者「う、おおおおおおおおおっ!」

戦士「おらぁああああああああっ!」

魔神はなすすべもなく、それを喰らう。
その身体は猛スピードで吹き飛び、岩肌に激突する。
岩壁に蜘蛛の巣のような大きな亀裂が走る。
人類の中でも最強といえるだろう二人の全力。

それを。

魔神「ふむ、パワーの方はなかなかのもの」

こともなげに言って、立ち上がる。

勇者「ちっ、無傷かよ」

魔神「流石は勇者といったところですかねぇ、はっはっは」

身体に付いた砂利を払いながら笑う。
こいつは、
不味い。

僧侶「魔女さん、下がっていてください」

魔女「でもっ」

僧侶「はっきり言って、足手まといです。後ろの草陰に」

魔神がこちらを見る。
私達の行動に不思議そうな顔をする。
その黄色い目が私を射抜く。
まるで、私の中を覗き込むように。

魔神「まぁ、良いでしょう」

勇者「よそ見してんじゃねぇッ!」

僧侶「『瞬速祈祷』『障壁祈祷』『強撃祈祷』っ!」

振りかぶった勇者様の剣に僧侶さんの祈祷が上乗せされる。
剣が輝き、速度を増す。
その一撃はただの人間には視認することすら不可能になる。

魔神「素晴らしい詠唱速度だ」

魔神は見もしないで、腕を軽く払う。
右は勇者様。
左は戦士さん。

勇者「がっ!?」

戦士「ぐっ!?」

まるで先ほどの仕返しのように、二人は岩壁に叩きつけられる。

勇者「ぐ、ぅぅ……」

戦士「……おぁ」

僧侶「勇者様! 戦士さん!」

二人は呻くばかりで、動けない。
ダメージが大きい。

魔神「そちらこそ、よそ見をしても良いのかな?」

僧侶「っ」

たった一瞬で、僧侶さんの背後に魔神が立つ。

僧侶「ううぅ、『風斬

魔神「残念」

魔神の振り抜いた腕が僧侶さんの身体を襲う。
めきめきっと骨の折れる乾いた音が響く。
僧侶さんは身体をくの字に曲げて吹き飛ぶ。

魔神「……大したこと、無かったですねぇ」

魔神「これで我らが魔王様を倒そうだなんて、少々調子に乗り過ぎでしょう」

魔神が哄笑する。

魔女「勇者様……戦士さん、僧侶さん……」


私は、何もできないのか。
ただあの化物の蹂躙を指をくわえて見ていることしかできないのか。

魔女「私は、私はっ……」

私はどうしても、無能なのか。

このままじゃ、皆、殺される。
でも、でも。
でもでも。
私が魔法を使ったら、皆死んじゃう。

だからって、何もしないの?
私に何ができるっていうのさ。

魔法を使えば、魔神も倒せるんじゃない?
そんなことしたら、皆もっ!

皆? なにそれ?
えっ……。


魔女「皆? 私をあんな目にあわせた奴ら?」

魔女「あんな目って……」

魔女「守る必要あるのかなぁ」

魔女「当たり前だよっ! 仲間だもんっ!」

魔女「仲間? あはは、あんな奴らを仲間だと思ってるの?」

魔女「そ、そうだよっ」

魔女「馬鹿じゃないの?」

魔女「なっ……」

魔女「復讐、しないの?」

魔女「……ふくしゅう」

魔女「私を怒鳴って、殴って、犯して、辱めたクズを殺すの」

魔女「殺、す」

魔女「焼き尽くす? 溺れさせる? 凍り付ける? 切り刻む?」

魔女「みんなを……」

魔女「私にはその力があるじゃないか」

魔女「…………」

魔女「あんな魔物に殺させるくらいなら自分の手でね」

魔女「…………」

魔女「ほら、一言呪文を唱えればいいんだよ」

魔女「ううん、復讐しない」

魔女「えっ、なんでっ!?」

魔女「前にも、いったじゃない」


魔女「私、皆のこと、好きなんだもん」

やってやる。
皆を守って、敵を倒してやる。

魔神「……おや?」

魔女「ふぅ、ふぅ……よし」

覚悟を決めて、魔神の前に立ちはだかる。
皆を守るように、魔神と皆の間に立つ。
魔神は初めて軽薄な笑みを消して、警戒する。

魔神「あなたは、出てこないものだと思っていましたが」

魔女「そんな訳無いでしょう、私だってパーティの一員なんだから」

後ろでもぞりと音がする。

僧侶「……まじょ、さん?」

勇者「魔女……ごほ、テメェじゃ無理だ……早く、逃げろ」

魔女「逃げません」

僧侶「そんな意地を張っていないで! 早く逃げてください!」

魔女「嫌です」

そんなのは嫌だ。
皆を見捨てて逃げるだなんて。

もう、
もう私は、

魔女「誰も、死なせたくないんだ」

魔女「僧侶さん、まだ魔法使えますか?」

僧侶「え、なんで……」

魔女「使えるんですか?」

僧侶「つ、使えます」

私の聞いたことのない冷徹な声に気圧されたのか、反論せずに答える僧侶さん。
いつもと違う私の様子に驚き戸惑っているようだ。

魔女「あなた方三人に、対魔法の障壁をかけてください」

僧侶「は、はい? わかりました……」

私の魔法を防ぎきれるかは分からないが、それでもましにはなるだろう。

魔神「あなたと戦うのは、正直避けたいところですが」

魔女「逃がしません、私の仲間を傷つけておいて」


大きく深呼吸をする。

腕が震える。
視界が歪む。
魔法を使うということに身体が拒否反応を起こす。
落ち着け、落ち着くんだ。

大丈夫だ、私なら出来る。

魔女「『拘束呪・応用』『範囲結界』」

ぶぅんと魔法が起動する音がして、辺りが薄いドームに覆われる。

魔神「……閉じ込められましたか」

かなりの焦りをみせる魔神。
舌打ちをする。

皆から驚愕の声が聞こえる。

勇者「魔女……お前、これ」

僧侶「魔法、使えないんじゃ」

戦士「どういう……」

魔女「ごめんなさい、みなさん……その話は後で」

今は、目の前の敵に。

魔神「結界は壊れそうにないですね……」

魔女「物理攻撃も魔法攻撃も効きません。全てを遮断します」

魔神「覚悟を決めた方がよさそうです……」

ぐぐっ、と魔神が力を溜める。
目に見えて、魔神の魔力が高まってゆく。

魔女「行きますっ!」

魔女「『極・火炎呪』っ!」

かつて、故郷を滅ぼした、地獄の業火。
今、もう一度それを呼び出す。
燃え盛る炎の竜が魔神を襲う。

魔神「う、ぉおおっ……『強・濁流呪』!」

魔神の魔法の水が竜に立ちはだかる。
しかし、豪炎は全てを蒸発させ、飲み込む。
炎は魔神を飲み込んだ。

魔神「ぐああああああっ!!」

魔神「ぐぅ……強烈……」

魔女「休ませはしません『爆裂呪』『風斬呪』『氷結呪』!」

最高位の広域殲滅魔法が魔神を吹き飛ばす。
爆発し。
切り刻み。
凍て付かせ。

魔神「ぐおおおっ!? 畜生、不味いっ!」

魔女『極・降星呪』

先ほどとは比べ物にならないほどの隕石が、襲う。

魔神「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

うむむ……
そういえば、そうですね。


魔神じゃなくって魔人にするべきだったか……

すみませんが、魔人で脳内変換しといてください

魔人「はぁ、はぁ……」

魔人「ははははっ、素晴らしい、その魔力」

魔女「そんなことはどうでもいい」

魔人「最高位の呪文を軽々と操る、それなのに尽きることのない膨大な魔力。恐ろしい」

と、
そこで、魔人はにやりと笑った。

魔人「ですが、それだけだ」

魔女「……?」

魔人「あなた、魔術師としては素人でしょう」

魔女「なっ!?」

魔人「あなたの魔法は、ただ魔力をばら撒いているだけ」

魔人「本物の魔に属するものとして、本当の魔法の使い方を教えてあげましょう」

魔女「ほ、本当って」

魔人『火炎呪・集束』

ごぁっ、と辺りを炎が埋め尽くす。
しかし、その炎は魔人の手に吸い込まれ……。

いや、違う。
吸い込まれるのではなく――圧縮されて。

魔人「さようなら」

もはや光の玉になった、超高温の火炎が。
私に向かって、あり得ないほどの速度で打ち出された。

魔女「いっ」

魔女「ぎ、ああぁぁぁあああああぁぁっ!?」


左腕が、無くなった。
打ち出された火炎に焼き尽くされて、消え失せた。


魔女「いだいぃうぁあああああ! あああああああ! う、うううう、うでがぁ!」


わずかに残る上腕は黒く炭化してぼろぼろと砕ける。

魔女「いたいいたいいたいいだい゛ぅぅあああああぁぎうぐぅぅぅあああああああああああああああああああっ」

魔人「五月蠅いですねぇ」

魔人が思い切り腕を引き絞る。
次の瞬間、それはぶれて消える。
先ほどの、勇者様と戦士さん、僧侶さんへの攻撃は、本当に手加減していたのだとわかる速度。
私を吹き飛ばす。

魔女「ぎゅ、ぐっ」

身体の軽い私はまるで弾丸のような速さで壁にぶち当たる。

魔女「…………ぁ」

今日はここまで

腕が……炭化とか……怖ぇ

魔女「げぼっ……ぐぶっ」

ばしゃばしゃと咳をするごとに血を吐きだす。
お腹に、嫌な感じの鈍痛がある。
たぶん、内臓が破裂している。

魔女「はーっ……はぁぁ、っ……」

魔人「所詮人間……物理攻撃には弱いですね」

魔女「ぐぶ、おぇ……」

魔人『氷結呪・集束』

魔人の手の周りにダイヤモンドダストが出来る。
びくびくと痙攣する私のもとに寄ってきて。

魔人「絶対零度、といったところでしょうか」

私の足に触れる。

魔人「凍れ」

魔女「ぎゃあああああああああああああっ! あしっ、わだしのあ゛しがぁああっ!?」

魔人「このようにすれば氷に閉じ込めるのではなく、完全に凍らせることが出来るんですよ」

魔女「ああああああああああ、たずけでぇっいだいよぉおおおおおおおおっ、ぐぷ……ぁあ゛あ゛あ゛っ!!!!」

魔人「こうやって凍らせれば――砕くのも簡単です」

にこりと笑って、凍りついた足を蹴り飛ばす。
かっしゃぁんと綺麗な音が響いて砕ける。足のかけらが散る。

魔女「ぎゃああああっ、あああああああ、あああああああああああああっっ、う、ぐ、えああああああああああああああああっ!?」

僧侶「魔女さんっ!」

今にも泣きそうな叫び声が響いた。

僧侶「もうやめろっ! 魔女さんに手を出すなっ!」

魔女「そ……りょ、さん……」

その声に魔人は不快そうに眉をひそめる。

魔人「羽虫がきーきーと五月蠅いですねぇ」

魔人「不快なのであなた達から先に――」

魔女「ふざけるなあああああああああっ! 『閃槍呪』ぅあああああああっ!」

魔人「ぐ、ぅ……ちっ」

直径数メートルほどの光線が空間を貫く。
魔人は僧侶たちから飛びずさって、避ける。

魔女「『閃槍呪』っ! 『閃槍呪』、『閃槍呪』、『閃槍呪』っ!」

魔女「げほっ、がはっ……」

魔女「皆を、傷つけたら……っ、殺すっ!」

魔女「ひとかけらも残さずに、ぐふっ……消し飛ばしてやるっ」

魔人「は、ははっ……満身創痍のあなたに今更何が」

魔女『拘束呪』

魔人「しまっ……!」

魔人の身体が硬直する。
最高位の拘束呪。前にやられた勇者様のような低位とは違い、光の紐など無く。
ただ単純に、何の動きも許さない拘束。

魔人「ぐ、ぉおおおっ……」

魔女「む、だ……あなたていどじゃ、解けるわけがないでしょ」

身体が、重い。

それもそうだ。
辺りの血だまりを見るに、総量の三分の一ほどの血が失われている。
何時、意識を失ってもおかしくない量だ。

魔女「でも、動かさなきゃいけない」

左腕は焼失したが、断面は焦げ付いて血は漏れていない。
右足は破砕したが、断面は凍り付いて血は漏れていない。

まだ動く。
無理矢理動かす。

魔女「『催眠呪・応用』『完全肉体操作』」

魔女【さてと】

身体を魔力で動かし、立たせる。
口から血が零れ出るが、無視をする。

魔女【……本当の魔法の使い方ね】

僧侶「魔女さんっ! もう立たないでっ、あなたの体はもうそんなことはっ!」

魔女【大丈夫です。あなた達は、絶対、死なせませんから】

僧侶「魔女さんっっ!!」

土気色の私の顔を笑顔にする。
魔力ですら、筋肉が動かしにくくなってきた。

細く長く息を吐き出して、気持ちを整える。

魔人「くそ……やめろっ」

魔女【やめません】

大丈夫だ、私ならできる。
私は、最強の魔法使い。
望んだことは無いけれど、最強。

魔女【……『火炎呪・集束』】

びかっと閃光が迸る。
圧倒的な熱が辺りを埋め尽くそうと、這い出る。
ごぉっ、と炎が暴れ狂う。



色は、青。

魔人「……は? ははっ?」

魔人「炎が、青くなるほどの圧縮? それでいて、その量の炎ですか?」

魔女【…………】

しゅうしゅう音がして、炎に触れてもいない樹や地面が蒸発していく。
勇者様達には、一切の熱を伝えないように制御する。

魔人「私の何倍も高温で、何倍も大量で……」

魔人「あなた、化物ですか」

魔女【いいえ、人間ですよ】


魔女【あなたが言ったじゃないですか……所詮、人間だと】

魔女【飲み込め】

青く変化した、炎の竜が大口を開けて魔人に襲いかかる。

魔人「ははは、楽しむどころじゃなかったですね」

魔人「さようなら、ありがとうご――」

言葉を全て言う前に。
魔人は、蒸発した。

炎が消える。
世界に暗闇が戻り、しんと静けさが辺りを包む。

魔女【…………】

魔女【……みなさん、いますか?】

勇者「魔女……」

僧侶「私達は……」

戦士「……大丈夫だ」

魔女【良かった】

魔女【『召喚……樹妖精《ドライアード》』】

樹精「御身が側に」

樹精「っ!? ご主人様!? その傷は!?」

魔女【私は良いから、みんなの治療を】

樹精「ですが!」

魔女【これは命令よ。みんなに治癒祈祷を】

樹精「……分かりました」

これで皆の命は助かる……。
良かった。



魔女【あっ……】

地面に倒れ伏せる。
目が見えない。真っ暗だ。
どうやら……もう、ダメみたいだなぁ。

魔力をどう使っても、身体はピクリとも動かない。

「   !    !!」

誰かが叫んでる。
でも、なんて言ってるのかなぁ、聞こえないなぁ。

でも。


これで。


私、みんなに。


少しは……認めてもらえた、かな。








今日はここまで

高温には星をイメージしてる

超高温の青色超巨星
スピカとかリゲル、ナオスとかね

【夢、回想】

魔女「…………」フラフラ

魔女「…………」

魔女「…………」ドサッ


あぁ、私は死ぬのか。
人を殺して世界を壊して、何の償いもせずに勝手に死ぬのか。

……私だって。
私だって制御するために頑張った。

私の魔法で、あんなことが起きてしまったのは私の努力不足なんじゃないかと思って沢山知識を求めた。
いろんな国を回って、魔法の勉強をした。
この世にあふれるあらゆる種の魔法を網羅した。
新しい魔法だって発見した。

それでも、それでも私は制御できなかった。

今度こそ、と思って魔法を行使するたび、取り返しのつかないことが起こっていった。
私は欠陥品だ。
私は役立たず。
私は無能なの。

こうやって、最期は誰にも知られずに孤独に死ぬっていうのも。
案外、私らしいのかもしれない。

私らしく、図々しく。

そうやって薄れゆく意識の中で、
ただ無意味に、
だらだらと思考を漂わせて、
下らなく死にゆく、

そして、
意識を手放そうとした、



ところで、


「大丈夫かい、あんた」


声がかかった。

――――――
――――
――

「……落ち着いたかい?」

連れてこられた、町のどこかの建物で、その人は言った。
私を……助けた、三十代程の女。

魔女「…………」

「はぁ……しかし、なんだってあんたみたいな小娘が東の荒野で行き倒れてるかねぇ」

魔女「…………」

「…………ま、詳しいことは聞かないさ。とにかくこれでも飲んで一息つけ」

重い音を立てて私の前に置かれたのは麦酒で満たされたジョッキだった。

魔女「…………!?」

「あはは、そんな顔すんなよ。まぁいいからぐいっといけ、ぐいっと」

魔女「…………!?」

「んん? 未成年だって? んなのどうでもいいんだよ、ほら、早く」

半ば恐喝と化した催促を受け、しぶしぶジョッキを手に取る。
ガラスから伝わる飲み物の冷たさに、久しぶりの喉の渇きを感じた。

ごくり。

ごく、ごくごく、ぐびぐびぐびぐび。ごくん。

「おーおー、いい飲みっぷり」

魔女「……ぷは」

魔女「……美味しい」

「なんだ、可愛い声してんじゃん」

魔女「っ!?」

「あはは、恥ずかしがってる恥ずかしがってる」

そう私をからかいながら女はシニカルに笑う。
ひとしきり笑ってから、彼女は手を差し出してきた。

「あたしはここの酒場のマスターやってるもんだ」

「ま、店主……とでも呼んでくれ」

魔女「……?」

店主「握手だよ、握手。知り合ったんだから握手くらいしないと」

困惑する私の手を無理矢理つかんで、握手をする店主。

店主「おし、よろしくな」

魔女「…………よろし……ねがいしま……」

半年以上まともに声を出していなかったせいで、うまく発音できなかった。
そのことを気にすることもなく、店主は笑う。

そのとき、
くぅ、と音が鳴った。

魔女「…………っ」カァァ

店主「ん? あんた腹減ってんのかい? おっしゃ、ちょっと待ってな。つまめるものくらいは出せるから」

魔女「……! え、えと……」

店主「遠慮すんなって」

強引に話を進められ、強引に行動させられる。
うざったいぐらいの性格の女店主。

磨り減った私には、すこし、心地よく感じた。

店主「ほら、豚肉の腸詰。あっつあつのうちに食っちまいな」

魔女「……じゅる」

ほわほわと湯気の立つ山盛りの腸詰。
鼻を刺激する、乱暴な肉の香り。
震える手で掴み、頬張る。

魔女「……ふぐっ、ううぅぅ……うあぁぁ」ポロポロ

涙がぽたぽたと机に落ちては、浸み込んでいく。

魔女「うぇぇ、おいしい……おいしいよぉ……」ポタポタ

店主「それは良かった」

魔女「……ひぐ、あむ……っごく……はむ、んむ……うぅぅ」

魔女「ひっく、ひぐ……店主さぁん……」

店主「何だい?」

魔女「わだ、わたしねぇ……っ、大変なことしちゃったんだ……」

魔女「いっぱい、いっぱい、壊して……たくさん、たくさん、壊して」

店主「そっか、そっか」

初めて会った人に、なぜか話をしてしまう。
意味が分からないはずなのに、店主さんは頷きながらしっかりと聞いてくれる。

魔女「わたし、どうしたらいいのかなぁ……」

魔女「もう……わからなくなっちゃった……」

店主「つらかったね」

魔女「うぇぇ……うぁぁ……」

店主「いっぱい泣いちゃいな。そんで、すっきりしな」

魔女「うあああああああん、うあああああああああああああああああん!」

魔女「うぐ、うあああっ! うあああああ、あああああああっ!」

私は店主さんに縋りついて、一晩泣き続けた。
店主さんは、黙って私の頭をなで続けてくれた。

とても、温かかった。

――――――
――――
――

店主「んで? あんたの名前は?」

魔女「女魔法使い……です」

店主「ふむふむ、年齢はいくつ?」

魔女「12です……」

店主「12! ずいぶん若いねぇ」

店主「えっと、性別は女でいいよね。んで職業は……見た目的に魔法使いかな?」

魔女「え、えっと……先ほどから何を書かれて……」

店主「ああ、これ? これは名簿」

魔女「め、めいぼ?」

店主「うん、名簿」

店主「なんか近々、勇者様とやらが魔王討伐の旅に出るらしくて、仲間候補をリストアップしとけって言われてるんだよね」

魔女「へぇ……って、え?」

その理屈で言うと、私は今その仲間候補に入れられているんじゃ……。

魔女「ちょ、ちょっと待ってください……私は……」

店主「いいからいいから」

魔女「違っ……」

またもや、強引に決められてしまった。
勇者様の仲間候補に。

そんなことを言われても……。
私は魔法が使えないのに。

魔女「まぁ……大丈夫か」

きっと何があっても、魔法を使えない魔法使いなんて選ばれないだろうから。

私は、誰からも必要とされないから。




     「勇者様、誰を選ぶだろうな」
「わたし、選ばれるかなぁ……」 「いや、無理だろ」
  「ふふふ、見よこの鍛え上げた肉体! 選ばれるのは私だ!」

勇者様の旅立ち。
その日の朝の酒場は興奮に包まれていた。
誰もが選ばれることを期待し、勇者様が現れるのを今か今かと待ち望んでいる。

私、一人を除いて。

魔女「…………」

がやがやと騒がしい店内。

店主「ん、どうした。元気ないな」

魔女「……いえ」

店主「ったく、辛気臭い顔して……」

店主「あんた、笑ってればすっごく可愛いんだからもっとしゃきっとしなさいよ」

魔女「え、えっ」カァッ

店主「そうそう、背筋伸ばして」

「来たぞ!」

誰かが叫んだ。
みんなの視線が入口に向けられる。

魔女「…………」チラ

ぎぃと、蝶番のきしむ音がして男がはいってくる。

先ほどと打って変わって、物音一つしなくなる。
皆、緊張し、口を閉ざす。

店主「いらっしゃいませ、勇者様」

勇者「えーっと、仲間を探しに来たんだけど……」

店主「はい、こちらが名簿になります」

勇者「うぇ!? こ、こんなに!?」

勇者「えっと、作ってもらったのに申し訳ないんだけど……」

勇者「自分で見て、会って選ぶんでいいですか?」

ざわっ、と店内に動揺が走る。

店主「別にかまいませんが……」

勇者「んじゃ」

てくてくと店内を巡る勇者様。

勇者様が最初に声をかけたのは、寡黙そうな戦士だった。
その戦士は言葉数こそ少ないが、ぺらぺらと自分の自慢をするものとは確かに違う、強者の貫録があった。

戦士「俺の力でよければ……喜んで貸そう」

勇者「ありがとう! これからよろしく頼む!」

その瞬間、店内にいた四分の一程からため息がこぼれた。
通常、パーティのバランスを考えると、メンバー選びにはセオリーが存在する。
物理攻撃職、魔法攻撃職、回復職、それにバランスのとれたオールラウンダー。
勇者様がオールラウンダー。
そして今、物理攻撃を担う戦士が決まった。
つまり、もう他の物理攻撃職の人間は望みがなくなったということだ。

次に、勇者様は僧侶に声をかける。
ぴんと、一本の針のように張りつめた真面目さをもつその僧侶。二人の話を聞く限り、その実力も申し分なさそうだ。

僧侶「勇者様のお力になれるよう、尽力いたします」

勇者「お互い、頑張っていこう」

店内のおよそ半数が机に潰れる。
中には、泣き出してしまうものもいた。

これで、残りは一人。

例外はあるが、基本魔法攻撃職だろう。

てくてく、皆を見回してゆっくりと歩く勇者様。
その足音は私の後ろで止まった。

勇者「君」

へぇ、私の後ろの魔法使い選ばれたんだ。
あの少し目つきの悪い男。

勇者「ねぇ、君……そこの魔法使い」

魔女「…………」

勇者「ねぇってば」ポン

魔女「……っ!?」

魔女「わ、私ですか?」

勇者「うん、君」

え。
ええええええええええええええええええええええっ!?

勇者「えっと、俺の仲間になってもらえないかな」

わ、私が!?
私が勇者一行の魔法使いに?

魔女「え、えと」

勇者「なんか、君を見て感じるものがあったんだ」

魔女「わ、私……魔法使えないんですけど……」

ごぉっと店内に緊張が走る。
怒りの感情も混ざっている。「なんで魔法の使えないお前が話しかけられるんだ」という感情。

勇者「え? うーん……」

勇者「でも、君を仲間にしたいんだ」

僧侶「っ」

隣にいた僧侶が私を見て息をのむ。
まずい、神官か。
私の魔力を見られた。

勇者「駄目かな……」

魔女「…………」

勇者「ほ、ほら魔法は旅の間に修行すればいいし」

魔女「…………」

勇者「君と旅がしたいんだ」

魔女「…………」

勇者「俺は、俺は……


   君が、必要なんだ


      …………」

魔女「……っ!」

魔女「わ、私が……必要?」

誰にも必要とされないと思っていたのに。
こんな欠陥製品、存在してはいけないと思っていたのに。

勇者「あぁ、必要なんだ」

私は、いてもいいの?
ねぇ、勇者様。

私は、死ななくてもいいのかな。


勇者「あぁ」

勇者様はまるで私の心の声にこたえるように言った。
そして、にっこりと笑った。

その瞬間。
私の、生き方が決まってしまった。

私の命なんてどうなってもいいから、この人に尽くさなければ。
この人の助けにならなくては。
それが、私の生きる意味。


私は、勇者様に恋をした。

今日はここまで


魔女さん、依存してんなぁ……

【悪夢、回想?】


勇者「大丈夫、大丈夫、頑張って魔法使えるようにしよう!」



勇者「……まだあせらなくても大丈夫だ、きっと大器晩成なんだよ」



勇者「…………まぁ。うん。もうすぐ使えるようになるから」



勇者「………………なぁ、まだできないの?」



勇者「……………………おい、いつになったら使えるんだ」





勇者「いい加減しろよ、この役立たず」



魔女「ひ……」

いつの間にか、私は立っていた。
何かの建物の中だろうか。
そこらじゅうが燃え上がり、天井の梁などは崩れ落ちてくる。

勇者「お前がやったんだ」

魔女「勇者様!?」

勇者様が、剣の切っ先を私に向けて睨んでいる。

勇者「お前がやったんだ」

魔女「私が?」

何を?
そりゃあ、この火事を。

魔女「……あっ」

ここは。
この場所は!

魔女「私の……学校……っ!」

私がこの手で初めて壊したもの。
燃やした。
焦がした。
塵にした。
私の町の、魔法学校!

魔女「う、わあああうあわわうあああっっ!?」

魔女「わたしがわたはこわしうああああああああころしたもやしてててぜぜががが」

頭の中を悲鳴が響く。助けを求める声が、私を呪う声が、声が、声が声が声が声が声声声声声声声声っ!!!!
やめろやめろやめろやめろ、うるさいっっ!?
私は! 私はっ!!

勇者「お前がやったんだ」

私はあああああああああっ!

勇者「お前がやったんだ」

勇者様が私に向かって切りかかる。
がくがく震える足で回避をしようとする。

ずとん。

骨の断ち切れる嫌な音が体内に響く。
私の左腕が根元から切り落とされた。
ぷしゅーぷしゅーと冗談のように血が噴き出す。

魔女「い、ぎ……う、うでがぁぁ……」

勇者「お前がやったんだ」

返り血を浴びた無表情な顔で私を見下ろす勇者様。

魔女「やめて……やめてくださいぃ……」

勇者様は私の懇願は耳に入らないかのように剣を振り上げる。
私の心臓を刺し貫くように振りぬこうと。
急速な血液の喪失によって、くらくらと揺れる頭で必死によける。

ずど、ぶちぶちっ。

心臓の代わりに右足を貫いて、そのまま力任せに足を引きちぎられた。

魔女「ああああああ!! いだいいいいい、やだ、やだよぉゆうしゃさまっ……!」

勇者「お前がやったんだ」

勇者「お前がやったんだ」

勇者「お前がやったんだ」

魔女「いやあああっ、来ないでっ! 来ないでえええっ!」

呪文も唱えていないのに手から魔法が飛び出す。
いや。
魔法じゃない。
ただの魔力が暴れ出ただけだ。

勇者「ぐあああああああっ!?」

勇者様は魔力の奔流に呑まれる。

魔女「勇者様っ!」

勇者様の四肢は千切れ。
腹部には風穴が空き。
皮は剥がれ。
顔の半分は崩れ。
吹き飛んだ。

ごろん。
何かが転がり出る。

魔女「え……え……」

獄炎の中でも溶けることなく氷付けになった戦士さん。
僧侶さんの服をかぶった、肉のミンチ。

魔女「い、や……」

勇者「お、前……ガ……ヤッタんだ……」

ぼろぼろに崩れた勇者様が言う。
私を呪う。

違う、違う違う。
私はやってない、やってない!
うう、ううぅぅ……

魔女「う、うぁ……っ」

【現実、教会にて】



魔女「うわああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

魔女「わああああああああああああああ、ああああああああ……」

魔女「はぁ、はぁ……」

魔女「こ、ここは?」

そこには何も起きていない部屋があった。
窓からは陽が差し込み、鳥のさえずる声が聞こえる。

僧侶「魔女さんっ!」

魔女「うわぁっ!?」

突然何かに飛びかかられる。

僧侶「まじょさんっ、まじょさんっ……よかったぁぁ……うぇぇぇん!」

魔女「え? え?」

何が起きてるの?
なんで僧侶さんが私に抱きついて泣きじゃくっているの?

僧侶「ひっく、ひっく……うぇぇ、ひぐ……」

魔女「え、えっと……ちょ、ちょっと離れて……っ!?」

僧侶さんを引き剥がそうとしたところで気がつく。
ゆっくりと目を落とす。

魔女「……左腕が無い」

僧侶「あっ……」

魔女「…………腕が」

寝かされていた布団を除ける。
右足が無かった。

僧侶「ごめんなさい、ごめんなさいぃ……」

僧侶「魔女さんの召喚獣さんが治癒してくれたんですけれど……間に合わなくて……」

魔女「そうか……私は……」

私は、ぼろぼろになりながらも魔人を倒して……。
それでアードを――ドライアードを呼んで、治癒をしようとしたんだ。

私の召喚獣は、私の性質を色濃く反映しているのか治癒祈祷が使えない。
唯一、樹精霊ドライアードだけが、特殊ながら使用できる。

ドライアードは周囲の植物の力を借りて、治癒祈祷を発動させる。
しかし、あの時は私の炎で植物はあらかた焼き尽くしてしまったため、応急処置程しかできなかったのであろう

僧侶「うくっ……わたしにもっと力があれば……」

魔女「いえ、いいですよ……」

僧侶「私たちは、全部回復してもらったのに……魔女さんは……」

そういえば。
皆は、助かったのだろうか。
僧侶さんは、この通り。どこも欠損することなく生きていてくれた。
他の人は?
部屋を探す。

勇者「…………」ビクッ

魔女「勇者様っ!」

勇者「ま、魔女……」ビクビク

良かった。
勇者様も戦士さんもご無事だった。

勇者「目を覚まして、よかったな……み、三日も眠り続けて、心配だったぞ……」ゴクッ

魔女「勇者様……?」

なんだか、私を見て、震えている?

魔女「どうしたんですか?」

勇者「あ、何でもない……何でもないです」ガタガタ

怯えている?

魔女「……あの」

勇者「も……申し訳ありませんでしたぁっ!」


……え?


勇者「魔女が、いえ魔女さんがあ、あ、あんな力を持っているなんて露知らず!」

勇者「た、大変失礼なことをしてしまって……」

魔女「…………」

勇者「ひ、ど、どうか命だけは……」

つまり、勇者様は私の力を知って。
それで、今までしたことの復讐をされるんじゃないかと怯えているの?

魔女「……許しますよ」

勇者「ほんとうか!」

魔女「た、但し条件が……」

勇者「なんでもしますっ」

魔女「まずは、その話し方やめてください」

私は勇者様のために生きている勇者様の、いうなれば下僕だ。
それなのに敬語を使われたりするのは嫌だ。

勇者「え……へ……?」

勇者「わ、わかった」

あまりにも簡単な条件だったためか拍子抜けした顔をする勇者様。

魔女「後は、えっと勇者様ミスリルの鉱石持ってましたよね」

勇者「あ、あぁ」

魔女「それ、ください」

勇者「ミスリルを?」

魔女「はい」

ミスリルがあれば、これは何とかなるだろう。
困惑する皆を連れ。
外へと出た。

魔女「『召喚……火精霊《サラマンダー》』『鍛冶神級《ランク・へパイストス》』

火精「……呼んだか」

魔女「うん、お願いがあって」

へパイストスは同じサラマンダーでもプロメテウスとは違い、炎の体を持っているわけではない。
その特徴は、鍛冶。

へパイストスは勇者様達を一瞥して、私に言う。

火精「……お前さん……こいつらはいいのか」

魔女「うん、もう大丈夫。ありがとマンダー」

火精「……ふっ……ならいい」


勇者様たちは、マンダーを見て絶句している。

勇者「す、っげぇ……」

僧侶「神格級ですか……」

戦士「恐ろしいな……」

火精「それで……?」

魔女「あ、うん」

へパイストス。
とてもいい子なんだけど……職人気質で堅物なのが玉に傷なんだよね。

魔女「今日は……えっと」

私の欠損した体を指さす。

魔女「この腕と、足のための義手義足を作ってほしいの」

火精「……わかった」

マンダーはミスリルの塊をひょいと手に取る。

火精「さて」


火精「……ぬ、ぅんっ!!」ゴァッ


一気に炎が燃え上がり、神の鍛冶場が出来上がる。
マンダーはトンカチでミスリルをたたき始めた。

叩くごとに大気が震える。

魔女「ちょ、ちょっとマンダー! 強い強い!」

火精「口出しするな!」

魔女「あ、ごめん」

へパイストスはこうやって仕事モードに入ると周りが見えなくなる。
召喚者である私の命令を無視するほどに。
まぁ、そのかわり、出来は素晴らしいものだけど。

魔女「…………」

火精「……お前さん」

魔女「なに?」

火精「その傷……どうした?」

それに、実はやさしかったりする。

――――――
――――
――

火精「……出来た」

魔女「お疲れ様、ありがとね」

火精「……かまわん」

魔女「ゆっくり休んでね……『帰還』」

さて。
物はできた。

魔女「ふぅ」

魔女「『地動呪・応用』『完全鉱物操作・半永久』」

義肢が私の体に装着される。
接着面は体と同化させてしまうために、少し痛みが走る。
試しに、動かしてみる。動力は魔力。

魔女「うん、いい感じかな」

僧侶「す、すごい……」

私の魔法だけあって、動きは申し分ない。
まぁ、感覚が無いのが難点かな。

勇者「なぁ、魔女」

魔女「なんですか?」

勇者「どうしてこんな魔法が使えるのに、今まで使わなかったんだ」

魔女「…………」

沈黙。

勇者「いや、あの、話せなかったら……」

魔女「……いえ、やっぱり、勇者様達にも知っていてもらわないと」


私は、勇気を出して言った。

そして、私は話した。

私の血にまみれた過去を。
決して許されることのない、私の罪を。
私の手で葬った、幾千もの命の話を。
壊れ狂わせた世界の終わりを。

そのせいで生まれた私のトラウマを。
耳にこびり付いた呪いの悲鳴を。
瞼に張り付いた恨みの光景を。

なんども吐きそうになって。
なんかいも錯乱しかけて。
目は泣き腫れ、喉は叫び嗄れ。


私のすべてを伝えた。

勇者「…………」

僧侶「…………」

戦士「…………」

魔女「これが……私です……」

魔女「この世に存在してはいけなかった私です」

僧侶「そんなことないです」

魔女「え」

僧侶「あなたは、存在していていいんです」

僧侶「だって、あなたがいなければ、私たちは死んでいました」

僧侶「過去に何があろうと、私たちの仲間です」

僧侶「だったら、生きていていいに決まっているじゃないですか」

魔女「そぅりょさん……ふ、ぇぇ……」

僧侶「私はあなたが大好きですよ、魔女さん」

魔女「うぇぇ、うわああぁぁぁんっ!」

久しぶりに、本当に久しぶりに。
14の子供らしく、泣いた。
僧侶さんは優しく私をなでていてくれた。
その手は、昔会った酒場の店主さんと同じ温かさを感じた。

店主さん、元気かなぁ……。

今日はここまで

あといくつかおまけというか特典映像(映像無し)と日常パート入れたら
そのあとは、ついに最終章です


やっと終わりが見えてきた……

それでは、おまけその1
投下始めます

おまけ1



しゃきしゃきとハサミの音が小気味よく響く。

僧侶「まったくもう、こんなに髪痛ませて」

魔女「あ、あの僧侶さん……」

僧侶「良いからじっとしててください」

私はなぜか僧侶さんに髪を整えられていた。
僧侶さんの細く白い指で優しく髪を撫でられる。

僧侶『治癒祈祷』

僧侶「はい、終わりましたよ」

魔女「あ、ありがとう……」

僧侶「全く……せっかく珍しい黒髪なんですからもっと大切にしてください」

ぼさぼさで辺りが見にくかった前髪もすっきりした。

僧侶「後は服ですよね」

私の頭から爪先までじっくりと眺めてから、僧侶さんは口に手を当てて唸る。
時折、明後日の方向を向いて首を振ったりしている。
脳内シミュレーションでもしているんだろうか。

魔女「え……私は別にこのままでも」

僧侶「よくありませんっ! 魔女さんだって14歳の女の子なんですから、可愛い格好しないと!」

僧侶「ほらほら、お店に行きましょう!」

魔女「わ、わわっ、僧侶さん押さないで」


「いらっしゃいませー」

僧侶「店員さん、この子の服見繕ってください」

「あら、可愛らしい子ですねーっ」

魔女「か、可愛くなんて……ないです……」カァァ

顔が熱い。
にこにこと見つめてくる店員から目をそらす。


僧侶「……あれ? ……本当に可愛いな……」ボソッ


後ろで僧侶さんが何かつぶやいたけど、よく聞こえなかった。
視線が勇者様の『あれ』と似ていた気がする。

――――――
――――
――

「でっきましたー! こんなんどうですかー」

魔女「…………うぅぅ」モジモジ

「素材がいいですからねー、下手にごちゃごちゃさせずに白ワンピースですぱーんと!」

僧侶「ぶっ!?」

魔女「僧侶さん!?」

僧侶さんが鼻血を噴き出した。
はぁはぁと息も荒い、いきなりどうしたんだろう?
大丈夫かな?

僧侶「はぁ、はぁ……かぁいい……」

僧侶「おっとっと……『治癒祈祷』」

魔法で鼻血を止め、ハンカチで拭き取る。
数歩引きながら、店員さんが尋ねる。

「えっと、それで……どうでしょうかー」

僧侶「お持ち帰りで!」

魔女「お持ち帰り!?」

「毎度ありがとうございまーす!」

同じものを数枚買う僧侶さん。色違いも少し。
足がすーすーするから恥ずかしいんだけど、その意見は聞き入れてくれなさそうだ。
僧侶さんがいつものテンションじゃない。

僧侶「ね、ねぇ……魔女さん」

魔女「何ですか?」

なんだか、近いんですけど僧侶さん。
近いですって。

僧侶「お願いがあるんですけど……」

僧侶「お……おねぇちゃん、って呼んでもらえませんか?」

魔女「え、えっ?」

僧侶「い、一回でいいんです」

なぜにおねぇちゃん?
妹が欲しかったりしたのだろうか?

魔女「えっと……その……」



魔女「お洋服、買ってくれて……ありがとう、おねぇちゃん」



僧侶「あふっ……」クラッ

魔女「お、おねぇちゃん?」

僧侶「可愛いよぉ……何この子、可愛過ぎるよぉ……」

魔女「おねぇちゃん!? 待って、こんなとこで倒れないで!」

僧侶「萌え死ぬ……はぅ……」

魔女「おねぇちゃーーーーーーーーーんっ!」




僧侶「失礼しました」

魔女「大丈夫? おねぇちゃん?」

僧侶「もっと呼んでくだ――こほん、えぇ……もう大丈夫です」

僧侶「ちょっと修道院仕込みの百合が暴れただけですので」

百合?
修道院でお花でも育ててたんだろうか。
でも、なんで今?

僧侶「さてと、魔女さんがとってもかぁいくなったところで……お昼でも食べにいきましょうか」

魔女「そうだね、おなかすいちゃった」クゥゥ


僧侶「静まれ煩悩っ……確かにかぁいいお腹の音だけど、静まれ、私……っ!」




魔女「今度こそ大丈夫?」

僧侶「はい、今度こそ……魔女さんが邪魔をしなければ」

魔女「私、何もしてないよ?」

僧侶「無自覚って怖いですよねぇ……」


閑話休題。

魔女「それで、何食べますか?」

僧侶「そうですねぇ……この町は山菜が名物だそうで」

僧侶「そういえばさっき、テンプーラという揚げ物屋さんがありましたね、そこに行きましょう」

テンプーラは僧侶さんいわく、新鮮な山菜に衣を付けてカラッと揚げたものらしい。
この地特有の黒っぽい麺と一緒に食べると美味しいんだって。

魔女「美味しい!」

僧侶「サクサクで美味しいですね」

テンプーラにつけるお汁もいい匂いで美味しい。
黒い麺は冷たくてさっぱりで喉越しがいい。

僧侶「そういえば、魔女さん……義肢ってどうしたんですか?」

魔女「え、つけてるけど」

僧侶「……普通の腕に見えるんですが」

魔女「あぁ……これは幻術」

『幻影呪』
流石に街中を歩くのにミスリルの義肢を見えるようにしていたらまずいと思って、先ほどかけておいたのだ。

魔女「触ればわかりますよ? ほら」

僧侶「本当ですね、ひんやりしてて堅いです」

僧侶「……ごめんなさい」

私が腕と足を無くしたことについて、ごめんなさい、と。
僧侶さんは目で伝えてきた。
嫌だなぁ、せっかく美味しく食べてるんですから、もっと元気出しましょう。

魔女「気にしてないですよ、私はおねぇちゃん達を守れてうれしいんですから」

僧侶「ありがとうございます」

魔女「私を認めてくれて、こちらこそありがとう」

僧侶「さて、お腹も満たされたことですし宿に帰りましょうか」

魔女「そうですね、勇者様達も待ってますし」

僧侶「宿に帰ったら、またお喋りしましょうね? 魔女さんのこともっと知りたいですから」

魔女「私のことなんてあんまりおもしろくないですよ?」

僧侶「いえ、十分可愛――興味あるので」

魔女「そうですか?」

僧侶「あの、魔女さん」

魔女「はい?」

僧侶「手、つないで帰りませんか?」

魔女「いいですよ」ギュッ

僧侶「はぅぅ……手ちっちゃいぃぃ……かぁいいよぉ……」

魔女「そ、僧侶さん?」


なんだかあわただしい1日でした。
楽しかったけどね。

おまけ1おしまいです


修道院のシスターさんは総じて百合だという偏見
私だけかな

……おまけH

投下、始めましょうか

【1年前】


勇者「おらぁっ!」バキッ

魔女「がはっ……や、やめ」

勇者「やめねぇよ!」ドゴッ

魔女「ぐぎゅっ!」

野営場所の裏手の森に連れ込まれて、滅多打ちにされる。
殴られた額が切れ、血が流れる。

勇者「あぁ……はぁ……ストレス解消……」

魔女「げほ、げほっ……」

勇者「勇者、だから、って、期待、されてっ、ストレス、溜まるん、だ、よっ!」ガガガガッ

一言ごとに身体中のいたるところを蹴り飛ばされる。
意識が、朦朧とする。

勇者様、もうやめてください。

勇者「あーあー! お前を仲間にしたのは間違いだったけど、いいサンドバッグにはなるなぁ!」

魔女「けふ……うぅ……」

魔女「もぉ……やめてぇ……」

勇者「……っ」ムラッ

勇者様の目の奥に、何か黒いものが沸き立った。
ぞくぞくと何か本能的な恐怖が背筋を走る。

魔女「……い、や」

勇者「魔女……服を脱げ……」ハァハァ

腕をだらんと下げて、勇者様がにじり寄ってくる。

勇者「ほら、命令が聞けないのか」

魔女「……わ、かりました……」

怯え固まる腕を動かして、ローブを脱ぐ。
指が震えて、うまく脱げない。
最後のボタンをようやくはずし、脱ぎ捨てる。

魔女「ぬ、ぬぎました……」

勇者「……全部だよ、下着も」

魔女「ひ、ぐ……」

ぎゅっと目を強くつぶって、下着に手をかける。

魔女「……っ……っ……ひっく……ぅ」ポロポロ

するするとショーツを下ろす。
外気に触れて、肌寒い。

勇者「……おぉ…………」ゴクッ

魔女「これで、いいですか……? もう、許してください……ひっく、ひっく」

勇者「そんな訳、ないだろ?」

ぺろりと舌舐めずりをする勇者様。
無遠慮な視線が、身体中を這いまわる。

勇者「はぁはぁ……そこの、樹に手を突け」

魔女「え……」

勇者「いいから、早く」

言われた通り、手を突く。
お尻を突き出すようになって、恥ずかしい。

勇者「首、細いな」

魔女「ひ……ぎ……」

じっとりと汗で湿った手で首を撫でられる。

勇者「背中も……こんなに白くて……」

首から流れるように背中に手が動く。
くすぐったいような、びりびりの変な感覚。

するすると勇者様の手は腰まで来ると、
そのまま胸へと向かった。

魔女「ひぁ……っ」ピクン

勇者「は、ははっ……胸無ぇなぁ……」

魔女「んぅ……はぁっ……やめてくだっ……あぅっ」ピクピク

ぐにぐに乱暴に胸を弄られる。
乳首をつねられると、痛みとともに電流のようなものが頭を貫く。

勇者「うぁ……もう駄目だ……」

勇者様が後ろでかちゃかちゃと何かをはずす。

勇者「いくぞっ……」

魔女「っ!?」

脈打つ熱い棒が私の股に押しつけられる。

魔女「まってっ」

勇者「あ、あ、入ってく……」ズブズブ

魔女「っ! う、ぁぁああっ!」

みちみちと私の芯を何かが分け入っていく。
おなかがくるしぃ。
いきができない。

魔女「は、ぁぁ……っ」ガクガク

勇者「ははは……やべぇ……きもちいぃ……」

勇者「全部入ってねぇのに、奥に届いちまった……」

魔女「い、ぎ……いた、いよぉ……」

どろりと足の内側を何がが垂れる。
同時に濃い血のにおいが辺りに広がる。

勇者「動くぞっ……」ズンッ

魔女「いたい、まって! いたいよぉ!」

勇者「うるせぇ!」ズンズン

魔女「か、は……っ」

いたいいたいいたいいたいっ!
う、ううううああああああああっ!
たすけて、だれかたすけて

勇者「はぁ……はぁ……」グチュグチュ

勇者「やばいっ、出る」

どくんと一際強く脈動する。

勇者「う、ぁっ!!」ビュルビュル

魔女「あ、ああああっ、ああああああああああああっ!?」ガクガク

勇者「…………」ズルッ

勇者「……はぁ、はぁ」

魔女「……い、たぃ」ピクピク

勇者様が我に返ったようにはっとする。
私を見て、青ざめる。

勇者「お、おまえ……きちんと片づけとけよっ」

冷や汗を垂らしながら野営の方に逃げていく。

魔女「……ぁ」ピクン

ざわざわと木々の擦れる音のみが響く。
意識が遠い。

それでも、お腹の痛みだけははっきりとしている。


魔女「……私の……初めて」

私の純潔。
勇者様に、奪われちゃった。

好きな人に、捧げちゃった。


魔女「……えへへ」


痛みが少しだけ、心地よかった。

おまけHおしまい

たぶんあと日常パート一回とおまけH一回を投下し

すみません、途中で書き込み押してしまいました


日常パート一回とおまけごにょごにょ一回を投下して、最終章です。

ご閲覧誠に感謝

おまけ2



魔人との戦いでトラウマを克服し、私は人前でも魔法が使えるようになった。
対象の制御も可能になり、もう仲間を巻き込まなくて済むようになった。

つまりは、私も戦闘に参加できるということだ。

魔女「足手まといにならないように精一杯がんばりますっ!」

勇者「お前の能力なら足手まといも何も、むしろ主戦力だろ」

僧侶「そうです、魔女さんがいれば百人力です」

戦士「今まですまなかったな、囮などやらせてしまって」

魔女「いえ、大丈夫です」

今までの分を取り返すために、全力で。
勇者様達の手を煩わせることは無いように。

――――――
――――
――

魔物「グガァァアアアアァァッ!!」

勇者「出たぞ! モンスターだ!」

勇者「全員、武器を――」



魔女『重力呪』グシャ



勇者「――構、えろ……」

魔女「終わりましたよ、勇者様」

勇者「お、おう……」

僧侶「……強ぉ……」

戦士「…………」

魔物「グオオオオッ!」

勇者「行くぞ! 突撃――」

魔女『風斬呪』ズバッ

勇者「――いぃぃ……」



魔物「ゴアアァァアッ!」

勇者「ドラゴンだ! 気を付け――」

魔女『閃槍呪・集束』ピシュン

勇者「…………一撃ぃ」



魔物「ギャアアァアアッ!!」

勇者「み――」

魔女『死霊呪・応用』『冥王の手招き』ズズズ

勇者「………………」

魔女「大分、洞窟の奥まで来ましたね」

魔女「皆さん、お怪我は無いですか?」


勇者「……怪我も何も、敵に近付けてすらいねぇよ」ヒソヒソ

戦士「……私は、一応前衛なのだがな」ボソボソ

僧侶「……回復担当……必要ですかね、これ」コショコショ


魔女「ん? 皆さんどうしたんですか?」

勇者「い、いや……何もないぜ!」

僧侶「はいっ、誰も怪我してませんので!」

魔女「良かったぁ……皆さんに迷惑かけないように私頑張りますので!」


戦士「これ以上頑張ったら、どうなるというのだ……」

勇者「しっ! 戦士それは言うな!」

勇者「……そろそろ、宝玉がありそうだが」

僧侶「前回の森みたいに、また番人がいるんでしょうか」

戦士「……番人、か」チラ

勇者「番人だな……」チラ

僧侶「あは……あはは……」チラ


魔女「ふん、ふふふーん♪」


勇者「一太刀は浴びせられるといいな」

戦士「……あぁ」

悪魔「……あ? 何だテメェら」

勇者「お前がここの番人か」

悪魔「はっはーん、もしやお前ら魔王様が言っていた勇者達だな」

戦士「わかっているなら、宝玉を渡してもらおうか」

僧侶「あなたも怪我はしたくないでしょう……」

悪魔「お? 俺のこと舐めてんだろ、俺強いぜ? かなり強いぜ? ドラゴンですら5秒で倒せるぜ?」

悪魔「だいたいテメェら、ここまで来るのに随分戦闘してきたろ。疲弊した状態で勝てるとでも思ってんのか?」


勇者「……何も言えねぇ」

僧侶「……ドラゴン、さっき1秒かかりましたっけ?」

戦士「……無知とは恐ろしいな」

魔女「……ふぅん」


悪魔「……っ」ビクッ

勇者「……ひぃ」ビクン

悪魔「何だぁ? その馬鹿でけぇ魔力は……」

悪魔「……お前、人間か?」


魔女「人間です」

魔女「……魔人といいあなたといい、どうしてそんなこと言うんですかねぇ」ハァ


僧侶「……ねぇキレてません!? あれキレてますよね!?」

勇者「やばいやばいやばいやばい」

悪魔「……ちっ! あんま舐めてっと火傷すんぞ! 『強・火炎呪』っ!」ゴァッ


魔女『消滅呪』フッ


悪魔「は? 俺の魔法が消え……?」

魔女「集束くらいしたらどうですか? 弱すぎて話になりませんよ?」

魔女「台詞は同じでも、魔人より数段は格下でしたか……」

悪魔「……調子乗ってんじゃねぇぞ?」ピキ


魔女「本気出しますか」



勇者「総員退避――――っ! 早くしろ――っ!」

僧侶「ひぃぃっ!」

戦士「逃げろ、不味いぞ」


魔女『空間呪・応用』『転移呪・応用』


魔女『連結』『共鳴』『集束』


魔女『禁呪・異次元への追放』


悪魔「」

魔女「さようなら、狭間の世界で永遠に彷徨っていてくださいね」

魔女「ふぅ……」

魔女「皆さーん! 終わりましたよーっ!」ニコッ


勇者「…………」ガタガタ

僧侶「…………」ブルブル

戦士「…………」チーン

勇者「なぁ、魔女」

魔女「なんですか?」

勇者「……攻撃魔法、使用禁止」

魔女「何でですかっ!?」



おしまい

おまけ2
『魔女さん無双の始まり』でした

ちなみに、支援魔法だけでも昏睡、混乱、能力減少などバトルにすらならなかったそうな

おまけH2



魔女「…………むぅ」モジモジ

私のことが皆に完全に知られてから、私に対する様々なことが改善された。
足手まといのゴミを見るような眼は無くなったし。
囮役なんかじゃなくきちんと戦闘に参加できるようになったし。少し、手加減させれられてはいるけど。
勇者様の『あれ』は話にも上らず、勇者様には大分畏怖されているみたいだし。

そう、『あれ』なのだ。
『あれ』が問題なのだ。

魔女「はぁ……もぅ……」

まぁ私は言ってしまえばおよそ一年間調教されていたわけであって。
つまりは私の身体はかなり出来上がっているわけであって。
そんな私をいきなり放置なんてされてしまっているのだから。

魔女「身体……あっついなぁ……」

欲求不満なのだ。

今日はここまで

おまけ水素、百合っちゃいますか

魔女「『淫魔の誘惑』……は、ちょっときっついし……」

前回ですら、軽く二桁――たぶん50は超えた――は絶頂したし。
というか気絶しなかったらいつまでやってたかわからないし……。
それを溜まってる今やったら、どうなるか想像もつかない。

あぅ……考えてたらさらに火照ってきた……。

魔女「自分で……ちょ、ちょっとだけ……」

悲しくなるほど平坦な胸に手を伸ばす。
すでに乳首は立っている。
軽くつつくだけで、ぴりぴりと変な感覚がある。

魔女「は……ぅ、ん……」

魔女「んっ、うぅ……はぁ……」

親指の腹で押し込むように潰してぐりぐり弄る。
身体がぴくんと感じて、無意識に息が荒くなる。

魔女「……物足りない」

私はほとんど、というか皆無といっていいほど自分で弄ったことが無い。
大抵は勇者様に玩具のように使ってもらっていたし、そうじゃない日も疲労の所為で性欲なんて感じる暇がなかった。
それに私、まだ14ですし。

本で読みかじった程度の知識では、満足には出来ない。

魔女「ん、ぁ……」

ショーツを脱ぎ捨てる。
勇者様のときとは違って、軽く湿る程度。

魔女「んん……? こう、かな……」

性器を弄る。
と、本にあったのでやってみるが、いまいち、こう、振るわない。

魔女「……魔法使っちゃおうかな……」




僧侶「何してるんですか、魔女さん」

魔女「な……ぁ……!?」

いつの間にか僧侶さんが宿に帰ってきていた。
もしかして、集中しすぎて気がつかなかったのか……。

僧侶「……えーっと」

困惑。

僧侶「……つまり」

状況整理。

僧侶「……そういうこと! ぶはっ!」

理解。
と同時に僧侶さんの両鼻から血が吹き出る。

僧侶「はぁっ、はぁっ……ま、まじょさん……なんてかぁいい……」

魔女「ひぃっ」

僧侶「んふふふっ……まぁったく、そういうことならおねぇちゃんに言ってくれればいいのに……」

魔女「そ、そーりょさんっ! 鼻血垂れてます! て言うかその出血量大丈夫ですか!?」

僧侶「大丈夫です大丈夫です、無問題です」フラフラ

魔女「足元が覚束なくなってますよーっ!?」

僧侶「そんなことどうでもいいですから、ほらおねぇちゃんに任せて……んふふふふふふ」

僧侶さんがするりと私に抱きついてくる。
帰ってきたばかりの冷たい手に驚き、身体が跳ねてしまう。

僧侶「こう見えても、修道院では後輩たちを何人も骨抜きにしてきましたから」

魔女「んはぁ……僧侶さん、くすぐったっ……」

しゅるしゅる僧侶さんの指が私の肌を撫でまわる。
脇腹のあたりにくるとくすぐったくて身体をよじってしまう。

僧侶「んふふ、かーわいいっ」

魔女「くすぐったいです……僧侶さん」

僧侶「僧侶じゃなくておねぇちゃんって呼んでください。敬語もやめて、ね?」

魔女「え、えっと……分かったよ、おねぇちゃん」

僧侶「あぁん、もう可愛過ぎっ!」

僧侶さん――おねぇちゃんに抱き締められる。
むぎゅむぎゅとされながら、頬ずりまでしてきた。

と、そこで目の前にある二つの山に気がつく。

魔女「……おねぇちゃん、胸おっきぃよね」

僧侶「んんぅ? 気になる?」

魔女「私、ちっちゃいし……」

僧侶「はぅ、ちっぱいかわいいよぉ――じゃなくて、気にすることはないよ。まだ魔女ちゃん14歳なんだし、成長するよ」

前半に本音がダダ漏れのおねぇちゃん。
後半の台詞といい笑顔が台無しだよ。

僧侶「18くらいで急に大きくなるひともいるん――ふへへへ! ちっぱいかぁいいよぉぅ! あーもー食べちゃいたいっ!」

あ、崩れた。

僧侶「さってとー、そろそろ本気でいじめちゃおっかなぁ」

魔女「や、やさしくしてね」

僧侶「うひゃああっ! ちくしょー、可愛過ぎんだろーが―! あっ、すみません神様、畜生なんて言ってしまって!」

魔女「…………」プルプル

僧侶「ふへ、それじゃ……いただきまぁす」

おねぇちゃんが私に覆いかぶさってくる。

僧侶「……胸とか敏感なところは一旦置いといて」

魔女「えっ……」

僧侶「そんな顔しなくても、あとでじっくりやってあげるからねぇ……」

おねぇちゃんの指が腿を伝って足の裏に伸びる。
触れるか触れないかのぎりぎりの距離でつつぅっと撫でられる。

魔女「うひゃぅ……くすぐったい……」

僧侶「んー、まだ駄目かぁ……勇者様のド素人め、調教するならきちんとしてくださいよ」

言いながらおねぇちゃんは足の裏をさわさわし続ける。

魔女「うひ、あっ、くしゅぐった、うゅっ」

五本の指を立てて、つま先からゆっくりと優しくひっかくように足を上ってくる。

僧侶「感じないところから、だんだん、気持ちいいとこに……」

魔女「んぅ……んっ、おねぇちゃ、待って! なんか変な感じっ」

僧侶「ん、感じてきたかなぁ?」

内腿は、丁寧に丁寧にさすられる。
足の付け根をほぐすようにくにくにと揉まれる。

魔女「ん、あぅ……それ、だめぇ……くにくに、だめぇっ」

僧侶「ふふっ、魔女ちゃんはここが気持ちいいんだぁ」

魔女「あっ、んんっ……おねぇちゃん、あっあっ!」

あと少しで秘部に触れそうになって……。

僧侶「……はい、ここはお預け」

魔女「えっ……」

僧侶「お次は……このちっちゃなお手手ー」

僧侶「魔女ちゃんの手ってすっごくちっちゃくて可愛いよね」

魔女「おねぇちゃんが……長くてきれいなんだよ」

僧侶「そう? うれしいな」

一しきりにぎにぎされてから、おねぇちゃんはおもむろに、
私の指を口に含んだ。

僧侶「はむ」

魔女「お、おねぇちゃん!?」

甘噛みで押さえられて、ぬるぬる動く舌でねぶられる。
時折ちゅうちゅう吸われて、何か変な感じになる。

ちゅぽんと音を立てて指が解放される。
舐められた指は、気持ちいいわけではないんだけど何かドキドキする。

僧侶「んふふ、これもまだわかんないかな?」

魔女「……んぅ」

僧侶「どんどんいくよ」

舐められた指先から伝って、手の甲からだんだん上へと舐められる。
指で触られた時とまた違った感覚のくすぐったさだ。

魔女「はぁ、はぅ……気持ちいいぃ……」

肘の裏側や脇なんかを舐められたときには身体が跳ねた。

魔女「はぁはぁ……んふぅ……」

首筋をぺろぺろ舐められて、

魔女「んぁ、あんっ……」

耳をぺろぺろ舐められる。

僧侶「気持ちいいでしょ?」

魔女「う、ん……身体中がじんじんしてる……」

耳に息が吹き掛けられる。
ぞくぞくぞくっと今までとは違う感覚。
目の前がちかちかする。

魔女「いまの……らめぇ……っ」

僧侶「あら、とろとろになっちゃった……耳弱いのかぁ」

僧侶「耳に息、ふーっ」

魔女「あっ! あっ、だめなのぉ、それりゃめっ!」

僧侶「弱点発見ー」

魔女「うやぁぁ……」

僧侶「ということで、ここもお預けー」

おねぇちゃんは胸の上を円を描くように撫でる。
たまに胸の間を通ってお腹を撫でる。

敏感なところをすべてお預けされて、
すごく、もどかしい。

魔女「おねぇちゃぁん……もう、わたしぃ……」

僧侶「がまんできないかな?」

僧侶「それじゃ、おまちかねの……いっちゃおうかな?」

おねぇちゃんの手が、ゆっくりと私のお腹をさする。
手のひら全体で、やさーしくやさーしく。
お腹の中に快感をすりこむように。

魔女「あ、ふ……ちからぬけちゃ……」

僧侶「リラックスしてね……ゆーっくり、のーんびり私に任せて」

魔女「うん……おねぇ、ちゃん」

お腹をさすっていた手が下にずれていって。

魔女「あ……あっ……」

おねぇちゃんが、



【宿屋】


目が覚める。

魔女「……あれ?」

え? 目が覚める?
て、ことは、今のは……夢?

魔女「わ、わ、わ……な、なんていう夢を見てるんだっ」

は、恥ずかしいっ!
淫夢を見るほど……た、溜まってなんか、いないもんっ!
わ、私そんな淫乱な女の子じゃないもんっ!

僧侶「……むにゃむにゃ……まじょちゃーん……すぴー」

魔女「っ!?」ビクゥ

私に、僧侶さんが抱きついていた。

左手は、私のぺったんこな胸を揉んで。
右手は私のちっちゃなお尻を撫でて。
口は私の耳を甘噛みして息を吹きかけて。

あの夢、絶対僧侶さんの所為だ。

魔女「うぅぅ……僧侶さんのばかぁ……」

僧侶「んふふ、魔女ちゃん抱き枕ー……すぴー、すぴー」

魔女「私は抱き枕じゃないですぅ……ぐっすり寝るなぁ……」


結局、欲求不満がさらに高まっただけじゃないかぁ!
うわあああああんっ!

おまけ水素おしまい。

魔女さん、結局お預けでした。


今日はしばらくおしまい。


勇者「ぜあああああああああああっ!!」

黒龍「……グ、オォ」

勇者様の剣が一閃、敵を切り裂いた。
最後の宝玉を守る黒鱗の龍、その大蛇のような巨体が地に落ちる。

勇者「はぁっ、はぁっ……」

僧侶「やり、ましたね……」

私自身には縛りがあったとはいえ、相当な強敵だった。
流石に、龍族の長。
その名に恥じぬ見事な戦いようだった。

魔女「これで宝玉がそろいましたね」

戦士「これらをどうすれば魔王のもとに辿り着けるのだ?」

勇者「え、っと……」

――――――
――――
――

勇者様の転移呪によって、私たちは『止まぬ霧雨の祠』に来ていた。

僧侶「……ここですか?」

戦士「忌々しい魔王の居城がよく見えるな」

勇者「確か……夢で女神がここだって言ってた気がすんだよな」

勇者様は時折、夢の中で神託を受ける。
勇者様が言うにはそんな神託なんて仰々しい感じじゃなくて、友達みたいに女神さまと話しているだけらしいけれど。
とにかく、この宝玉集めを始める際に、全ての宝玉のありか、およびこの祠について話されたらしい。

魔女「あっ、この窪みですかね……」

祠の最奥に、七つの窪みの空いた台座があった。

勇者「じゃあ、これを……」

勇者様が窪みに一つ一つ宝玉を填めていく。
宝玉は台座に収まるとぼんやりと光り始める。
窪みが埋まるにつれ、だんだんとその光も強くなっていき、

勇者「……何が起こるんだ」

辺りを見回し、警戒していた僧侶さんがびくんと体を震わせる。
魔力を見通す瞳が見開かれる。

僧侶「き、巨大な魔力が湧き上がっていますっ!?」

戦士「ぬ、ぅ……地面が揺れる……」

魔女「わ、ぁぁっ」

宝玉の光は強まり、もはや何もかもを白く塗りつぶす。
かっ! と一際光輝く。

床が割れ、壁が崩れ、祠全体が形を変えていく。
宝玉は強く明滅し、世界を七色に照らしていく。


やがて、揺れが、治まる。

勇者「……いってぇ、何だってんだ」

僧侶「皆さんお怪我はありませんか?」

戦士「……私は、問題ないが」

魔女「ゆ、勇者様……これっ」

勇者「え? 何が――っ!?」


ぽっかりと穴の空いた祠。
その穴からきらきらと輝く光の階段が伸びている。
階段の向かう先。

魔女「……円虹」

七色の光、円形に輝く。
濃密な魔力によって、止まぬ霧雨に投影された大きな虹。
虹中心から通して見える光景は、歪み、曲がって渦巻いている。

勇者「しかも、あれ……転移門《ゲート》じゃねぇか……」

僧侶「げ、ゲート!? 転移門って確か失われた魔法では?」

勇者「あぁ、神代の大規模行軍用の転移呪だ……」

戦士「……あの先に、魔王が」

戦士さんがぽつりと漏らす。

僧侶「……っ」

勇者「…………あぁ」

突然の出来事に混乱していたパーティに緊張が戻る。
あの、転移門の先に、魔王がいる。
その事実が否応なく私たちの心を高ぶらせる。

私たちの最後の戦い。
この冒険記に刻まれる最終章。

勇者「いくぞ」

私たちは、歩き始める。

【転移門内】


勇者「うが……不安定だな」

戦士「平衡感覚が、掴めん……」

僧侶「ふわふわしてますっ……」

魔女「あっ、おねぇちゃん待ってっ……」

私たちを飲み込んだ転移門《ゲート》は、物理法則のまったく異なる空間のようだ。
地面は無く、中空に浮いたまま門のつながる先へと流されていく。

勇者「……これ、大丈夫だよな。神代の装置だけど崩れたりしないよな」

僧侶「怖いこと言わないでください」

魔女「術式は安定しているので平気だとは思うけど……」

戦士「見ろ、出口だ」

【魔王城、城門】

転移門の出口から外に出る。
急に重力が身体にかかり、自由落下し始める。

勇者「おっと……」スタッ

戦士「ん……」ドスン

僧侶「あぶなっ……」ストッ

魔女「ぷぎゃっ!」ベチャ

思い切り着地失敗、墜落。
……運動神経は悪いんです! 仕方ないんです!

僧侶「だ、大丈夫!?」

魔女「う、うん平気……」


勇者「おら、ふざけてんじゃねぇ……もう敵の目の前だぞ」

ずぅんと重くそびえたつ城門。
黒く装飾された枠には、凶悪なガーゴイルが並んでいる。

勇者「さて、こいつはどうしたもんか……ん?」

ぎぎぃと大きな音がして、門が左右に分かれ始める。

戦士「門が、開いた?」

勇者「……何だぁ、まるで誘い込むように」

魔女「罠でしょうか……」

僧侶「なんにせよ、私たちの侵入はすでにばれているようですね」

門の向こうには、魔王城へと続く橋が長くかかっている。

行くしかない。
勇者様はそういって、橋を渡り始めた。

僧侶「……魔物、いませんね」

戦士「気配も、ないな」

隠れるところの何もない橋の上。
急襲されてもおかしくはないが、一向に魔物の姿は確認できない。

勇者「馬鹿にしてんのか、守りが手薄なのか」

戦士「仮にも、魔王城。罠の可能性が高いな」

?「止マレ」

重く硬質の声が橋の先から聞こえる。

勇者「……誰だ」

?「ココヲ守ッテイル」

番人「番人、ト我ラガ王ハ、オ呼ビニナッテイル」

闇より暗い鎧を着込み、身長より大きな大剣を携えた、ゴーレム。
番人と名乗ったそれは、胸のコアを鈍く光らせる。

勇者「何者だろうと、邪魔するなら排除するまで」

番人「一人ダ」

勇者「あ?」

番人「我ト一騎打チヲスル者ヲ選ベ。ソノ他ハ、先ニ進ムガイイ」

僧侶「戦力減らしですか……」

勇者「んなことはさせねぇよ、全員でかかって倒せばいいんだろ? わざわざ敵に従う必要は――」

表情のないゴーレムが、にたりと笑ったように見えた。

番人「逆ラウノデアレバ、自爆セヨトノ命令ダ」

勇者「なっ!?」

勇者「何か、防御するすべは」

僧侶「無理です……自爆は献身系の呪文です。物理障壁も魔法障壁も、結界ですら意味をなしません」

番人「ダ、ソウダガ」


不味い、打つ手がない。
誰かを残して先に進むしか、方法は無い。

……なら、私が。


戦士「私が残ろう」

魔女「……っ!?」

勇者「戦士!?」

魔女「待ってください! 残るなら私が!」

戦士さんが、私を手で制す。

戦士「魔女、お前は駄目だ」

戦士「主戦力としてのお前を欠いたらいけない」

戦士「勇者は魔王のもとへ行かねばならぬし」

戦士「僧侶は勇者のサポートをするべきだ」

戦士「ならば、私が残るべきだ」

勇者「でもっ!」

戦士「大丈夫だ」

戦士さんが、力強く答える。
寡黙な戦士さんには珍しく、笑う。

戦士「戦力減らしというが、勝てばいいのだろう?」

戦士「確かに私はあまり喋りはしないが、だからと言って私の強さまで忘れてしまっては困るな」

勇者「戦士……お前」

戦士「何、すぐに追いつくさ」

勇者様はぎりぎりと悔しそうに歯を食いしばる。
そんな勇者様を戦士さんはぽんと押す。

勇者「絶対追いついてこいよ! 絶対だからな!」

私たちは戦士さんを残し――戦士さんに任せ、先へ進む。
必ず再会すると誓って。




戦士「さて、待たせたな」

番人「フン、汝ヲ通シハシナイ」

戦士「私は世界一の大剣豪、名を戦士という」

番人「魔王城防壁部隊部隊長、名ヲ番人」

番人「参ル」

戦士「いざ、尋常に勝負!」

戦士「おおぉぉおおおおぉぉおおおおおおっ!」


空気が、爆ぜる。

――――――
――――
――

私たち三人は玉座の間へと向かい、走り続ける。

魔女「…………」チラッ

勇者「気にするな魔女、戦士は大丈夫だ」

魔女「……はいっ」

先ほどからずっと、橋から爆音が響き続けている。
戦士さんの戦闘だ。

いや、勇者様の言う通りだ。気にするのはやめよう。
今は、先に進むことを考えて。

僧侶「……相変わらず、魔物の姿がありませんね」

魔女「……うん」

勇者「扉だ、突っ切るぞ! 『雷撃呪』っ!」

勇者様の手から紫電が迸り、鉄でできた扉が木っ端みじんに吹き飛ぶ。
そのまま走りぬけると、私たちは広い空間に出た。

僧侶「大広間……」

魔女「玉座はまだ先ですかね」

勇者「もう少しなんだが……魔王の息吹を感じるのは」




?「うふふ、随分と派手なご登場で」




上空から、声が降る。

滝のように流れる銀色の髪。
端正な顔には似合わない深紅の眼球。
豊満な身体には、天界特有のトーガを纏う。

そして、背中に広がる漆黒の双翼。

堕天使「魔王軍統括大将軍を務める、堕天使よ。うふふ、よろしくね」


勇者「よろしくはしたくないな。その羽根、お前天使だろ」

堕天使「えぇ、女神に堕とされたけれどね」

堕天使は妖艶な笑みを浮かべる。

堕天使「ということで、大将として女神とかいう老害の手先であるあなた達と戦うことになっているの」

堕天使「ちなみに、戦うのは私だけじゃないわ」

堕天使『全軍、集まりなさい』


堕天使の声に導かれるように、大広間にぽっかりと暗黒が広がる。
暗闇から這い出るように、魔物が。
魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が。
魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が。
魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が魔物が。
大広間を埋め尽くすがごとき大群で現れた。


堕天使「うふ、流石に全軍は入りきらなかったわね」

魔王軍、全軍。
どうやらその一部が集まってきたらしい。

勇者「……消耗戦はきつい」

僧侶「待機がどれだけいるのか分からないのはつらいですね」

堕天使「……あ、忘れてた」

堕天使「魔王様から伝言よ」

堕天使「一人を残して、先に進むがいい。だって」

つまり、
また、戦力減らし。

勇者「……畜生」

僧侶「…………っ」

堕天使「うふふふふ、勇者以外のどっちが残るのかしら。どちらでもおもしろそうね」


魔女「ふぅ……」

魔女「勇者様。私が残ります」

僧侶「魔女さんっ」

魔女「私の得意分野ですし。広域殲滅」

魔女「それに、勇者様達がいると全力が出しにくいんです」

わざと、嫌な言い方をする。
勇者様達が気にせず進めるように。

勇者「魔女……」

二度の分断に、仲間を残すことの辛さに身体を震わせる勇者様。
絞り出すように言った。

勇者「任せるっ!」

魔女「勇者様」

勇者「何だ……」

魔女「全部、終わったら……伝えたいことがあります」

私の思い、私の想い。
心に疼く、甘酸っぱい気持ちを。

魔女「必ず、追いつきますから」

勇者様たちは走り始める。
階段を駆け上がり、魔王の待つところへ。

勇者「すぐに追いつけ! 待ってるからな!」

魔女「一度、言ってみたかったんですよね」

幼いころに読んだ冒険譚。
その中に出てきた、勇敢な女性が言った台詞。

魔女『ここは任せて、先に行け』

魔女「ってね」

堕天使「うふふ、かっこいいわね」

魔女「ありがとう」


あなたに言われても。
何もうれしくないけれど。

魔女「……全力でいいんですよね」

堕天使「出さないと、死んじゃうんじゃないかしら」

大量の魔物に囲まれて、堕天使は笑う。
見える限りでざっと一憶。

一対数億。

相手にとって不足なし。


魔女「名を女魔法使い、字は『十全の魔女』」

魔女「十全に参りましょう」


最後の戦いが、始まる。

今日はここまで。


次回、最終戦。

投下始めます

魔女「それにしても……」

悪が犇めく大広間を眺める。
その向こうにある暗黒空間も。

魔女「ぱっと見一億、待機も考えると数億はいるだろう空間を作るなんて、流石に私も片手間には出来ませんよ」

空間伸張し、大広間はもはや魔王城そのものより広いのではないだろうか。
大小様々な魔物たちを人間の軍と比べるのは難しいが、それでも一億が存在できる戦場なんていくら何でも広すぎだろう。

堕天使「真面目にやれば苦もなく作れるでしょ、あなただって」

魔女「当たり前です」

堕天使「うふふ、威勢がいいわね」

堕天使「それにしてもあなたの魔力、すごいわね。魔王様と同等かそれ以上の量があるわ」

魔女「へぇ、魔王ってのは意外と弱いんですね」

堕天使「魔力量に限ればあなたには負けるけれど、だからといって弱いわけではないってことは……あなたにはわかるでしょう」

堕天使が私の腕を見る。
義手となった私の左腕を。痛みの記憶を。
知られているのか。
警戒を強める。

魔女「つまりあなたも強いと?」

堕天使「愚問じゃないかしら」

それよりも。
先ほどから気になっていることが一つある。

魔女「私からも質問を一ついい?」

堕天使「どうぞ」

魔女「あなた、この空間を作りだしたときに……呪を使わなかったよね」

ただ、単純に号令をかけただけ……のように見えた。
少なくとも、呪は使っていなかった。

堕天使「あぁ……そんなことか」

こともなげに、言う。

堕天使「わたしは純然たる魔なんだから、呪なんて必要ないのよ」

堕天使「わざわざ呪文を使わないと魔法が行使できないなんて、随分と無能なのね。あなた」

にたりと見下す堕天使。
そして、声に魔力を乗せる。

堕天使『そろそろ、始めますか』

堕天使の声に従い、辺りの魔物が構え始めた。
もはやいつでも戦える。

魔女「……お喋りは、ここまでかな」

堕天使『総員、突撃』

黒い奔流が、なだれ込む。

魔女「さて、いきますか」

魔力を練る。
自ら、最強の威力を求めて。

魔女『極・火炎呪・収束』

ごぅ、と大気が鳴る。
地獄の業火すら焼き尽くす、強き炎が吹き出る。
燦然と輝く、色は蒼。
瞬く間に、近くの魔物が飲み込まれ消え失せる。
熱波にやられ、蒸発する。
身体は焼け爛れ、縮んで歪み、溶けて流れる。

堕天使「ひゅー、やるぅ……一撃で十万とか、随分派手に行ったわね」

魔女「まぁ……程良く十全に」

魔女「さて」

魔物たちは先ほど焼けた仲間の燃えクズを踏み越え、損害を補完する。
先が見えない、どれだけ居るのだろう。
パーティの広域殲滅担当とはいえ、流石にこうわらわらと居られては面倒だ。

魔女「軍には軍を」

魔女『召喚・全召喚獣』

魔女『降臨せよ……神々の軍勢《ラグナロク》』

光輝き、属性を司る精霊たちが顕れる。
全て、神格級。

魔女「命令だ」

召喚獣を代表して、ウンディーネが前に出る。

水精「何なりと」

魔女「敵は魔王軍。奴らを殲滅せよ」

魔女「手加減は無用だ、能うる権能の限り蹂躙せよっ!」

水精「はっ!」

魔女「休ませはしませんよ」

魔女『鈍速呪・応用』『拘束呪・応用』

魔女『連結』『共鳴』『集束』

魔女『禁呪・時よ止まれ』

ぱきんと魔王軍の動きが止まる。
あれほど怒号が響いていた大広間、今や誰一人声を上げない。
動きもしない敵を精霊たちが蹂躙する音のみが響く。

堕天使「時間停止だなんて、あなたどれだけ強いのかしら」

魔女「余裕で動けるあなたに言われたくありません」

堕天使「まぁ、ここまでされたら私も動かなきゃならないわね」

堕天使『時よ動き出せ、今すぐにね』

堕天使の声で、止まっていた時が動き出す。
耳を打つ轟音が再開される。

魔女「厄介ですね、そう簡単に解かれるのは」

堕天使「あなたのほうが厄介よ」

魔女「なら、もっと困らせてあげます」

ミスリルの義手に手をかざす。
魔法銀ミスリル。
その特性は、魔力充填が可能なこと。

魔女『閃槍呪・複重集束』

義手の中にいつもの数倍圧縮された魔力が注ぎ込まれる。

魔女『解放』

魔女『死光の雨《シャインスコール》』

全てを貫く光弾が、無数に降り注ぐ。

堕天使「はぁ……あなた相手じゃ魔王軍も障害物にすらならないようね」

魔女「雑魚が何匹いようと変わらないでしょう?」

堕天使「仕方ないわね」

魔女「……?」

堕天使が視界から消える。

魔女「なっ……!」


堕天使「私が直々に手を下すわ」

真後ろから、声を掛けられる。
ま、ずい。
間に合えっ!

堕天使『燃え上がれ、熱く熱くより熱く』

魔女「う、うぅ『水流呪』ぅぅあああっ!」

魔法同士がぶつかり、爆発が起こる。



魔女「ぐ……ぅ……」

堕天使「……痛ったぁ……」

魔女「あ、ぶな……」

少しでも遅れていたら、痛いでは済まなかっただろう。
久しぶりの死の恐怖。

堕天使「あぁ、もう……強すぎでしょあなた」

魔女「統括大将軍の肩書は伊達ではないと、よくわかりました」

魔女「雑魚は無視して、全力であなたに立ち向かわないと駄目なようですね」

堕天使「お手柔らかに」

魔女「するわけないです! 『極・氷結呪・集束』っ!」

堕天使『吹き飛べ、粉々に』

再び魔力がぶつかり合う。

魔女「『風斬呪・応用』『切り裂く竜巻』っ」

堕天使『うふ、掻き消えろ』

魔女「『閃槍呪・集束』『輝く槍《フォトンレーザー》』っ!」

堕天使『暗闇に飲み込みましょう』

魔女「このっ……『極・拘束呪』!」

堕天使『身体よ動け』

魔女「うぁぁっ! 『降星呪・三連』!」

堕天使『迎え討て、光の礫』

魔女「……あぁもうっ!」

堕天使「はぁ、はぁ……魔力使わせすぎよ……」

魔女「その程度でへばるの?」

堕天使「いくらなんでもあなたと一緒にしないで、普通に疲れるわよ」

そう言いながら、堕天使の顔から余裕は消えていない。
らちが明かない。

魔女「私は早く勇者様のところに行かなければならないんです」

堕天使「それを止めるのが私の役目」

魔女「強行突破します」

堕天使「できるのかしら」

ミスリルに魔力を詰め込む。

魔女『風斬呪』『火炎呪』『爆発呪』

魔女『強制連結』『複重集束』

膨大な量の魔力に、ミスリルが軋む。
でも、まだ詰め込む。
より強く。

魔女『閃槍呪』『水流呪』『地動呪』

魔女『強制連結』『複重集束』

ぴきっ。
嫌な音が響く。
でも、気にしない。
まだまだまだまだ、圧縮して詰め込んで。
限界まで、より強く。

堕天使「ちょっと……不味いかしら」

魔女『複重集束』『複重集束』『複重集束』



魔女『解放』

魔女『権限せよ』『覇王の鉄槌』


中空に巨大な拳が浮かび上がる。
魔力そのものが渦巻くような、圧倒的な暴力。

堕天使「……死ぬかも」

魔女「殺します」

魔女「さようなら」

その大きさからは考えられないほどの速さで拳が振り抜かれる。
避ける隙すら与えずに堕天使を吹き飛ばす。

堕天使「…………っあ」

半身が吹き飛んだ堕天使は、絶命した。
あまりにもあっけなく。
それほどまでに、私の力は強く。

魔女「……っはぁ、頭痛い……魔力使いすぎた」

余波だけで、魔物の大部分が砕け散っていた。
魔王軍はすでに壊滅。残りは恐慌に逃げ惑うばかりで、精霊たちに狩られていた。

魔女「天使にも、赤い血が通っているんだね」

魔女「……早く、勇者様のところへ行かなきゃ」

私は痛む頭を振り、走り出す。








堕天使『貫け、氷柱』

今日はここまで

サーバー移転の影響か、重いですね

堕天使「…………っあ」

半身が吹き飛んだ堕天使は、絶命した。
あまりにもあっけなく。
それほどまでに、私の力は強く。

魔女「……っはぁ、頭痛い……魔力使いすぎた」

余波だけで、魔物の大部分が砕け散っていた。
魔王軍はすでに壊滅。残りは恐慌に逃げ惑うばかりで、精霊たちに狩られていた。

魔女「天使にも、赤い血が通っているんだね」

魔女「……早く、勇者様のところへ行かなきゃ」

私は痛む頭を振り、走り出す。








堕天使『貫け、氷柱』




魔女「……え?」

背中を押される感覚の後、身体の中をひんやりとした物が通る。
胸から何かが飛び出ている。
何か赤いものでぬらぬらと濡れた。

氷柱が私を貫いていた。

魔女「が……ふっ……!?」

堕天使「あー、痛かったなぁ……死んじゃったじゃない」

魔女「な……はぁ……」

突き破られた肺が血で満ちた所為で、うまく喋れない。
くるしぃ……いたい……。

堕天使「うふ、蘇っちゃった」

魔女「……っ!」

堕天使「そんなに睨まないでよ」

堕天使はにたにたと笑う。
傷一つ無い身体を見せつけるように。

堕天使「堕ちたとはいえ、私、天使なの」

堕天使「残念ながら、不老不死」

力が抜け、膝が崩れる。
フロウフシ? そんなの、勝てるわけが……。

堕天使「うふふ、心折れちゃったかしら」

堕天使「いくら規格外に強くても、所詮人間ね」

魔女「……ぺっ」

口の中に溜まった血塊を吐き出す。

堕天使「あら?」

魔女「……せぇ、の」

血で滑る氷柱を両手でしっかりと握る。
そして、ひと思いに引き抜いた。

魔女「ぐぎ、ぅ……」

激痛と血液が身体の中を暴れ回る。

魔女「う、ぐぶっ……」

魔女「はぁ、がふぁ……『火炎呪・応用』『強制止血』」

吹き出る血ごとぽっかり空いた風穴を焼いて、血を止める。

魔女「あああ、がううううあああああああああああああああっ!」

堕天使「そんな応急処置したら、後で死ぬわよ」

魔女「それでも今は動ける」

堕天使「可愛くないわね」

はっきり言って、私はこの堕天使には勝てない。
少なくとも命を保ったままには。

魔女「勇者様の下には向かえそうにないですね」

堕天使「諦めるの?」

魔女「いえ、目標を変えます」

勇者様が、魔王を倒して帰ってきたとき、この堕天使がいたとしたら。
満身創痍であろう勇者様たちでは、この不死者に殺されてしまう。

ならば。

魔女「あなたを殺して、この道を拓きます」

堕天使「できるのかしら」

魔女「命を諦めましたから」

それでは、

魔女「十全に参りましょう」

はっきり言って、私はこの堕天使には勝てない。
少なくとも命を保ったままには。

魔女「勇者様の下には向かえそうにないですね」

堕天使「諦めるの?」

魔女「いえ、目標を変えます」

勇者様が、魔王を倒して帰ってきたとき、この堕天使がいたとしたら。
満身創痍であろう勇者様たちでは、この不死者に殺されてしまう。

ならば。

魔女「あなたを殺して、この道を拓きます」

堕天使「できるのかしら」

魔女「命を諦めましたから」

それでは、

魔女「十全に参りましょう」


魔女「『転移呪・集束』『高速転移・連続』」

魔女『極・爆発呪』

座標を操作して、堕天使の心臓へ。
爆音と共に、堕天使の身体が内側から弾け飛ぶ。

堕天使「がっ…………」

魔女「はぁ、はぁ」

まもなく。
死亡を無かったことにしたように、五体満足の堕天使が立ち上がる。

堕天使「んぅ、だから無駄だって」

魔女『極・風斬呪』

堕天使「……………………意味のない事を」

魔女『極・重力呪』

堕天使「……………………いいかげんに」

魔女「『極・閃槍呪』っ!」

堕天使『いいかげんにしろっ!』

魔女「ぐっ」

なぎ倒すように発せられた衝撃波に吹き飛ばされる。

堕天使「ああああ! 分からないのか! 無意味なんだよ、お前の行動は!」

魔女「……げほ」

堕天使「私は死んでも生き返るんだよ! いくら切り刻もうと磨り潰そうと消し飛ばそうと生き返るんだよ!」

魔女「つまり、蘇生に回数制限は無いんだ」

堕天使「理解した? なら早く死になさい」

堕天使『衝撃波で千切れ飛べ!!』

死がそこまで迫る。
私の体は、枯れ葉のように散った。

魔女「が、っは……」

魔女『火炎

堕天使『往生際が悪い!』

魔女「っ……!」

ミスリルの義肢が、砕け散る。
バランスを崩したせいで、受け身も取れずに地面に叩きつけられる。

堕天使「……その残った手足、邪魔ね」

魔女「……『氷結じ

堕天使『腕よ切り落ちろ』

不可視の刃が残った右腕を落とす。

魔女「う……ぁぁ……」

堕天使「悲鳴を上げる力もないか」

堕天使『爆ぜろ左足』

魔女「ぐあ……」

四肢が全てもがれた。
頭の中をどろどろに煮詰めたかのように思考が重い。
五感が遠い。

魔女「こひゅ……ひゅー……」

堕天使「残念だったわね、相手が私じゃなければ倒せたかも」

魔女「あは……それ、でも……まお……ぐんは、ぜんめつ……」

堕天使「とんだ損害よ、全軍8億がたった一人に潰されるなんて」

魔女「ざ、まぁ……みろ……」

魔女「あとは……あな、た……たおせ……おしま……い」

堕天使「まだ私を倒せると思っているのかしら」

潰れた肺で、無理矢理深呼吸をする。

魔女「げほっ……はぁ、はぁ……」

魔女「この呪文は、使いたく……無かったなぁ」

堕天使「……?」

故郷を滅ぼしてから、魔法を制御する力を求めて。
世界中を回った。
魔法を学んだ。

その中で、見つけた魔法。
私の町に、伝わる『呪い』。

魔女「非道な呪い」



魔女「不死殺し」

   『我が健やかなるときには、汝も共に健やかでありましょう』

   『我が病に苦しめるときには、汝も共に病に苦しみましょう』

   『ここに契ろう、固き約束を』

   『汝の命を我に捧げよ』

   『我の命を汝に捧ごう』

   『いつまでも、いつまでも、運命を共に』

   『汝の命尽きるときには、我も共に滅びましょう』

   『我の命滅びるときには、汝も共に尽きましょう』

   『汝の命は我の命』

   『我の命は汝の命』



   『ここに呪う、命繋ぎ』

魔女「――――がは、げほげほっ」

堕天使「不死……殺しだって?」

魔女「ふ、はは……殺しても死なない化け物を、殺すために作られた呪い」

魔女「効果は、対象者達の生死を等しく同じにすること」

つまり、片方が死ねばもう片方も死ぬ。


私が死ねば、堕天使も一緒に死ぬ。


堕天使「……その理屈で言うと、私の不死であなたも不死になるじゃない」

魔女「生き返る死体が無かったら、無理でしょ」

堕天使「なっ!?」

魔女「私の身体が、跡形もなく吹き飛んだら……あなたは生き返れない」

堕天使「お前っ!」

魔女「言ったでしょ、命は諦めたって」




魔女『全魔力解放』

魔女『究極・虚無呪』

何もかもを無に帰す最上位の魔法。
この世から存在を跡形もなく消し飛ばす。

対象は自分。

暴走した魔力が、私を襲う。

結局、

勇者様には伝えられなかったなぁ。


内に秘めた思いは遠く。
二度と届くことは無い。


私が死んでしまっても。
せめて、あなたは幸せでいてほしい。


魔女「ゆうしゃさま」






魔女「          」




女魔法使い「人前で魔法が使えない」


終了です

今までご閲覧ありがとうございました


私の駄文はやはりいつも最後が微妙になってるなぁ
精進いたします

なんにせよ、ありがとうございました

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