小梅「白坂小梅のラジオ百物語」Season3 (217)
第二十六夜 百物語
小梅「白坂小梅の……ラジオ百物語」
ほたる「第三シーズンっ!……が、がんばりました」
茄子「はい。みなさん、こんばんは。白坂小梅のラジオ百物語、第三シーズンの始まりです」
白坂小梅(13)
白菊ほたる(13)
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鷹富士茄子(20)
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小梅「第三シーズン……。なんだか、ずいぶんやってきた感じ……」
茄子「そうですねえ。でも、ここで失速してはいけませんよね」
ほたる「……ええ、がんばらないと」
小梅「あんまりがんばるのも……。怪談、だから……」
ほたる「あ、そ、そうですね……」
茄子「ふふっ。でも、いろいろと楽しめるといいですね。今シーズンも」
小梅「う、うん」
ほたる「そういえば……前回のシーズンは偶数シーズンということで、ゲストさんが多めでしたが……」
茄子「奇数シーズンの今回は私たちがメインとなりますね」
小梅「……三人で……ゆっくり? さっぱり? うぅん?」
茄子「怪談ですし、しっとり、ですかね」
小梅「あ、そ、それ……」
ほたる「なるほど……。しっとり……」
茄子「さて、第二シーズンの感想のメールなどたくさんいただいておりますが、それらを読むのは後回しにしまして……」
小梅「うん、今日は……アイドル百物語から。実は……今回は百物語についてのお話」
ほたる「へえ……」
茄子「百物語についてですか……」
小梅「うん。実際に……百物語をした経験があるって……」
茄子「なにやら面白そうですね。一体どなたなんでしょうか?」
小梅「えと……柊志乃さん」
ほたる「それでは……柊志乃さんのお話、お聞きください」
柊志乃(31)
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○一言質問
小梅「これまでで一番背筋が凍えた時は……?」
志乃「前日は新宿で飲んだはずなのに、起きたら静岡にいた時かしらね」
こんばんは……小梅ちゃん。
いい夜ね。
酔うにも、語るにも。
うふふ……。
いやだ、プロデューサー。
さすがに小梅ちゃんにワインを勧めたりはしないわよ。
それは、もっと先のお楽しみ。
さてと……怪談だったわよね。
それなら、ちょうどいい話があるわ。
私が、昔……そう、怪談会に参加した時のお話。
いまから、七年……いえ、八年だったかしら。
それくらい前のこと
蒸し暑い夏の夜に、なにか変わったことで夜明かしをしようと、そう決めた一団があったのよ。
その中に、私もいたの。
……と言っても、私はその頃から、ゆっくりワインが味わえればそれでいいと思っていたけれど。
ただ、ノリがよくて、さらには実行力のある人がその中にいたのね。
たしか、どこかの社長だとか言ってたかしら。
私がワインを味わってる間に、あれよあれよという間に話ができあがっていたの。
その人が後援しているとある劇団の練習場で百物語を開催しようって、そんな話がね。
月も見えない曇り空の蒸した空気の中、私たちは、その練習場とやらに移動したわ。
薄暗い中で見る限り、ただだだっ広いだけの場所に見えたわね。
そこで、私たちは怪談を始めたの。
そう……百物語をね。
小梅ちゃんのことだから……百物語の本当の作法を知っているかしら?
ええ、そう……ろうそくを立てるのではないやつね。
行灯に青い覆いをして、百本の灯心を入れる。
そうして、話が一つ終わるごとに灯心を引き抜いていく……。
それが、昔々の百物語の作法。
本当はいくつか部屋を隔てたところに行灯を置いて、わずかな青白い灯りの中話すものらしいけれど……。
さすがにそこまではできないから、劇団の小道具の行灯を練習場の端において、私たちは逆の隅に集まったわ。
それでも、行灯の光しかない中に飲み仲間の青白い顔が浮かぶっていうのは、一種幻想的な光景だったわね。
話が終わるごとに行灯から灯心を引き抜きに行く。
たったそれだけのことなのに、暗い中を一人進んで行くのは心細いものよ。
たとえ、後ろに友人たちがいると知っていても……。
いえ、知っているからこそ、無様なことはできないし、余計に気が張っていたかもしれないわね。
怪談話は進んでいったわ。
まあ、みんな知っているようなものやら、ちょっとそれは怪談なのかって思うようなものまで混じり初めて……。
それでも、空気というのかしら。
私たちはひたすらに話を進めていった。
そういえば、百の話を終えると、怪異が現れるというね、とふと漏らす人がいたわ。
そうらしいわね、という賛同の声。
いくつか話をすると、今度はまた別の人が、百の灯りを消したら、現れるものはなにか決まっているのかい? と尋ねる。
さあ、どうなのかな、曖昧な声がそう応じる。
そんなことが何度かあって、おい、どうした、と誰かが言ったのね。
なにを気にしてるんだ、と。
顔を見あわせて黙り込む一同。
そうして、しばらくして、何人かが口をそろえて言い出したのよ。
行灯の上に……なにかいるってね。
私たちの視線はもちろん、行灯に向かった。
そうしたらね……。
いたのよ。
たしかに行灯の上に、なにかの影があるの。
慌てて、ここをよく知っている件の社長さんが、灯りをつけたの。
行灯じゃない、蛍光灯をね。
そこでぱっと消えていたら、それはそれで面白かったんでしょうけれど……。
残念なことに、それは消えていなかった。
それどころか、はっきりと見えてしまったのよ。
青い光を発する行灯の上、そこに、女性がいるのが。
いいえ、浮いていたのではないの。
ああ、いえ……。
浮いているとも言えるのかしら?
それは、なにか帯のようなもので首をつっていたのよ。
人が驚くと、どうなるか知っている?
きっかけがあれば恐慌状態になるんでしょうけれど……。
私たちの場合は、むしろ魂が抜けたようになってしまったわ。
悲鳴を上げるでもなく、呆然とそれに近づいていったの。
怖いとか不気味とか以前に、わけがわからないって気持ちが強かったのでしょうね。
それが実在のものなのか、それとも、霊だとかそういう……まあ、変なものなのか、それもわからなかったから。
だって……私たちが入ってきた時には当然そんなものはなかったし、百物語をしている最中に首を吊ることなんてできるものかしら?
そうして、私たちはそれを見た。
でもね、やっぱり顔って見られるものじゃないのよ。
首を吊っているらしいこと、浴衣らしきものを着ているその体のラインからして女性であること。
そこまでは判別しても、顔はなかなか見られない。
ところがね、大胆な人が……あるいは短気だったのか、緊張に耐えられなかったのか、そのあたりはわからないけれど……。
とにもかくにも一人が顔を見たの。
そうして、
『Kだ!』
って彼は叫んだわ。
私たちはその声に、揃ってその首をくくった女性の顔を見た。
苦しそうに歪み切った、鬱血した顔。
でも、それは、たしかに飲み仲間のKそのもので……。
そして、そのKは、その場にいたの。
だから、おぞましい縊死者の顔に集まっていたみんなの視線は、一斉に、そこに立つはずのKの顔に移ったわ。
そこに、Kはいた。
真っ青な顔でね。
けれど、たしかに生きた人間として。
そのことにみんなで驚いて、もう一度振り向いたら……。
もう首を吊っている女は消えていたのよ。
幻だったのか。
みんなが百物語の雰囲気と暑さにやられてしまったのか。
なんだったのかはわからないし、誰も語ろうとしなかった。
もちろん、その後で百物語は続くことはなく……。
それどころか、この夜のことを話題に出す人はいないくらいだった。
でも……。
それから、二年くらいしてからかしらね。
人づてにある話を聞いたのは。
Kが自殺したって。
え?
首をくくったのかって?
さあ……。そこまでは知らないわ。
茄子「……不思議というか、なんというか……」
ほたる「不気味な話……ですね」
小梅「う、うん」
茄子「未来の自分を見たとも、あるいは、これを見てしまったから死を選んだとも取れるお話ですが……」
ほたる「真実は……わかりませんよね」
小梅「……でも、なにかは、あった……」
茄子「そうですね……。しかし、語り終えてもいないのに出現していたんですよね……?」
ほたる「百の物語が語られたら……という噂はありますが」
小梅「う、うん。百物語が降霊の儀式って考える人は……いる。でも、怪談話をしてるとそれだけで寄ってくるとも……言う」
茄子「実際の所はどうなんでしょうねえ……」
ほたる「ええと……果たして、どんなことが作用して、どんな結果を生み出すかはわかりませんが、次のコーナーでは、物語を語ることで……」
第二十六夜 終
そんなわけで、第三シーズンスタートです。
今回は、岡本綺堂の『百物語』あるいは、それの原話となった『首くくりの女』(宝暦頃の綺談随筆集に収録)を元にしたお話でした。
古典的ですが、シーズンスタートには似合っていると考え、志乃さんに語ってもらいました。
前スレ等は>>1のWikiページからリダイレクトした先に記させてもらいました。
あるいは
http://ss.vip2ch.com/ss/小梅「白坂小梅のラジオ百物語」
からどうぞ
なお、今回からトリップをつけております。
では、今スレもよろしくお願いいたします
第二十七夜 供物
茄子「さて、それでは、今日もアイドル百物語へと参りましょうか」
ほたる「ええと……今日はなんでも『こっくりさん』のお話だとか?」
小梅「そう。こっくりさん」
茄子「懐かしいですね。私の場合、流行ったのは小中学生の頃でしたが……」
ほたる「私も……小学生の頃……。ただ……」
小梅「ど、どうしたの?」
ほたる「いえ……。私が参加すると、いつもなんだかおかしな結果が出てしまって……。そのうちあまり呼ばれなく……」
茄子「ああ、それは私もですね」
ほたる「茄子さんもですか!?」
茄子「はい。私の場合、そもそもこっくりさんが……なんて言うんでしょう。降りてこない? そんな感じで」
ほたる「なるほど……」
小梅「じ、実際、うまく行かないことは……よくある。それに、うまく行っても参加者が変になっちゃったり……」
茄子「うちの学校でも、集団ヒステリーを誘発すると禁止されてましたねー」
ほたる「先生たちがだめって言ってもやってる子たちもいましたけど……」
茄子「なにか惹きつけるものがあるんでしょうねえ」
小梅「……不思議なこと……たとえば鉛筆や十円玉が自分の意志とは離れて動いたりする……。そのことを共有するのは、きっと……魅力的」
茄子「なるほどー」
小梅「でも……それで根を詰めすぎておかしくなってしまうのは……だめ」
ほたる「そうですね。気をつけないと……」
茄子「ところで、今日はどなたから、こっくりさんのお話を?」
小梅「さっちゃん……じゃなかった。えと、輿水幸子さん」
茄子「ああ、近頃、ユニットで一緒の……」
小梅「うん。仲良くしてもらってる」
ほたる「それでは、輿水幸子さんのお話、お聞きください」
輿水幸子(14)
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○一言質問
小梅「朝起きて……自分がゾンビになってると気づいたらどうする?」
幸子「カワイイゾンビってありえたんだ! って感心しますね!」
こんにちは。
今日も真っ白でカワイイですね、小梅さん。
もちろん、ボクには……え? プロデューサー、うるさいですよ。
まあ、いいです。話を進めましょう。
怪談でしたよね?
ええ、わかりました。
では、行きますね。
小梅さんは、もちろんこっくりさんは知っていますよね?
へえ、エンジェル様とか、キューピッド様とかも言うんですか。
え?
こっくりさんが禁止される学校が多かったので、言い換えが流行った?
なるほど、ずるい手口ですね!
ええと、それはともかく、これは少し前……ボクがまだ中学一年生の頃のことです。
友達の一人がそういう……オカルト全般にかぶれちゃいまして。
とは言っても、せいぜいタロット占いとか、そういったものを披露して楽しんでいるという程度ですけれどね。
ただ、その友達は困ったことに、こっくりさんをよくやりたがったんですよ。
ボクたち友達を巻き込んでね。
もちろん、元々そういうことに興味ある子もいましたし、適当に参加していたようなんですが……。
だんだん……なんて言うんですかね、取り憑かれたようになって、毎日毎日こっくりさんを主催するようになったんですよ。
それでも、別に嫌がられるでもなく、参加する人はいたんです。
ええ、ボクもたまに参加してましたよ。
放課後に時間があるとき限定ですけど。
質問の内容とかは本当にどうでもいいことばかりでしたね。
ただ、その主催している友達は実に楽しそうでした。
ところが、学校のほうで、こっくりさんを禁止にするって話になったんですよ。
小梅さんが言うように、禁止する学校は多いみたいですからね。
ただ、そうなると毎日こっくりさんを主催していた彼女としては面白くない。
かといって、禁止されているのにそれを無視して参加するほど、周りの子たちは夢中ってわけでもない。
だから、彼女は……実際に禁止される前に、『最後のこっくりさん』をやろうとしました。
そこに、ボクも呼ばれたわけです。
その『最後のこっくりさん』は、大がかりなものでした。
いえ、大がかりといっても、人数が多いとかではなく……。
何というのでしょう。儀式がかった……そういう感じですかね。
こっくりさんで使う紙もこれまでは、ただの適当な紙に、ペンで書いていんです。
ところがそのときは、たいそうな和紙に墨で書いていましたっけ。
墨も特別なもので、その上、主催者のつばが練りこんであったとか……。
不気味ですが、まあ、そういうものなんでしょうねぇ……。
後はどこかの神社の鳥居の写真なんかも飾っていましたっけか。
さすがに鳥居のミニチュアを用意するのは無理だったみたいですよ。
ともかく、そんな風にいろいろと小道具を用意して、最後のこっくりさんは始まりました。
ボクたち参加者は、また大げさなことをと思いながら、彼女の言うとおりにしました。
東西南北をしっかり拝んだり、いろいろとです。
始まってみれば、いつもと変わらず、大したこともなく、たわいない質問にそれなりの答えが返ってくるというものでした。
ただ……。
しばらくしてから、主催者の女の子の様子がおかしくなり始めたんです。
ずっと下を向いてぶつぶつ言っていて……。
周りは彼女に怖いからやめてくれと言ったんですが、聞こうとしない。
それどころか、ボクたちが指を置いている十円玉の動きもめちゃくちゃになり始めました。
ぐるぐると円を描くようなその動きはどんどんと激しくなり、ボクたちは呆然と自分の指が乗る十円玉を見ることしか出来ませんでした。
指を離せばよかったんじゃないか、と思い返して考えることはあります。
でも、誰もそんなことはしなかったし、出来なかった。
なぜか、十円玉は吸い付くようにボクたちの指を離さなかったんです。
そうこうする内に、まるでなにか獣が絞め殺される時のような声が、聞こえました。
それは、主催者の女の子の喉からほとばしる悲鳴です。
先ほどまでうつむいていた彼女が体をのけぞらせ、顔を天井に向けて、甲高い悲鳴を放っているのです。
ボクたちはパニックになりました。
一体なにが起きているのだと。
けれど、そうなっても、ボクたちは席を立ちません。
いえ、立てませんでした。
相変わらず十円玉から指が離せなかったんです。
そうして、主催者の女の子が悲鳴を上げ続ける中、十円玉は動き始めます。
先ほどまでのめちゃくちゃな動きとは明らかに違う、明確な意志を持って。
『お・ま・え・た・ち・は・わ・が・く・も・つ』
そう、十円玉は綴りました。
『ぜ・ん・い・ん・い・け・に・え・に・す・る』
供物。
生贄。
そんな単語を読み取ったボクたちは、顔を見あわせました。
そして、その顔色を見れば、皆が――もちろん、悲鳴を上げ続ける彼女は別として――その内容を理解したと、如実にわかります。
友達のおびえた表情を見た途端、ボクはかっとなりました。
供物ってなんですか!
生贄ってなんですか!
ボクの大事な友達を!
ボクはそこで立ち上がりました。
十円玉が発する奇妙な力なんて、もう感じていませんでした。
『この人たちを持って行きたいなら、まずボクから奪ってみろ!』
そう叫んだボクは、皆の指を十円玉から払いのけ、そして、下に敷いた和紙を乱暴にひっつかみました。
それから……ボクが、どうしたと思います?
紙をびりびりに破いて、呑み込んだんですよ。
硬い紙をもっしゃもっしゃと無理矢理かみ砕き、嚥下したんです。
さすがに十円玉はお腹を壊しそうだったので、呑み込まずに窓から捨てましたけどね。
皆は、ボクの突飛な行動にあっけにとられて、なにも言えずに固まっていましたっけ。
悲鳴を上げていた彼女さえ、ぽかーんと口を開けてボクを見ていたのが、思い出されます。
結局、悲鳴を聞いて駆けつけてきた先生方にボクたちは解散させられて……。
その後は……。
小梅さんには申し訳ありませんが、なにもありません。
実害と言えば、その晩に、ちょっとボクのお腹が痛かったくらいですかね。
まあ、こっくりさんといえど、カワイイボクには敵わないってことでしょう。
ええ、そうですとも。
ほたる「ええと……」
茄子「輿水さんはとても優しい方ですね」
小梅「う、うん。さっちゃんはとてもいい人……」
ほたる「でも……。いきなり悲鳴を上げだしたり、生贄にするとか言われちゃうのは……怖いです」
小梅「うん……。こっくりさんは手軽だから……みんなやろうとするけど、それだけに……怖い」
茄子「たとえ霊的ななにかがなくとも、年頃の子が思い込みの強さから暴走したりとか……ありますからね」
小梅「そう……。それに、降霊術として作用しちゃったら、もっと……危ない」
ほたる「そのあたりは……聞いてみたいようなそうでないような……」
茄子「実際に、いろいろなお話がありますからねえ」
小梅「うん……。つ、次のコーナーでは、こっくりさんをはじめとした『遊び』から始まった怖い体験談について……」
第二十七夜 終
本日は以上です。
幸子は男前。
第二十八夜 神域
ほたる「では、そろそろ……。本日もアイドル百物語のお時間、です……」
茄子「今日はどんなお話なのでしょう?」
小梅「うーん……。民間信仰……のお話とも言えるし……。なんだか違う気も……する」
ほたる「複雑な話なんですか?」
小梅「複雑では……ないと思う。実害も……ないお話」
茄子「奇妙なお話ということでしょうか?」
小梅「うん……。でも、怪談としては、あんまり聞いたことがない類……かも」
ほたる「……ふむふむ」
茄子「それで、今日はどなたなのでしょう?」
小梅「伊集院惠、さん。惠さんの……旅行先での体験談」
茄子「なるほど。どこかを訪れたときの」
小梅「そ、そう」
ほたる「どんなお話なのでしょうか。では、伊集院惠さんのお話です。どうぞ」
伊集院惠(21)
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○一言質問
小梅「これまで旅行して……一番怖かった場所は?」
惠「怖い場所は怖いなりに対処するけれど……。それでも、やっぱり外で銃撃の音が聞こえると身がすくむわよね」
今日はよろしくお願いするわね。
それにしても、アイドルというのは楽しいものね。
怪談話を披露するなんてこれまでもしたことなかったけれど、まさかアイドルのお仕事として経験するなんて。
ええ、貴重な体験をさせてもらえてありがたいと思っているわ。
あまり、こういうことを話す機会もないものだしね。
さて……始めましょうか。
私は一人旅が趣味なのだけれど、これは旅先での体験談。
旅はいいものよね。
新しい土地に行き、見たことない物や新鮮な景色を見ると、なんだか自分が自分じゃないみたいに思えるものよ。
さっきも言ったように、いまから話すのはそうした経験の一つなのだけれど……。
あなたなら知っていると思うけれど、それぞれの土地、地方で、様々な信仰の場所ってあるものよね?
海外だと組織宗教が発達しているせいか寺院や教会以外のそういった信仰の地は少ないけれど、国内はそうじゃない。
神社仏閣は当然として、山自体が神域だったり、巨石信仰といったものもある。
道ばたの地蔵や稲荷堂なども目にするわね。
それに、町中や自然の景色の中に、ふっと清らかな場所があったりもする。
谷底に、色んな人が拝んでいたらしき場所が見えたり……。
森の奥にある滝の脇に、社が建ってたりといったようにね。
古い時代のものもあれば、いまでも綺麗に手入れされているものもある。
あるいは、最近、誰かが新しく作った祭壇みたいなところもあったりする。
そう、急になにかを感じ取って、新しい聖域を作り上げてしまう人というものはいるものなのよ。
私はそれはそれでいいのだと思うわ。
だって、古くからあるものだけがいいってわけじゃないでしょう?
当然ながら、カルト宗教などに利用されるのは困りものだけれどね。
前置きが長くなったけれど、具体的な話に行きましょうか。
今回は、そんな『新しい場所』に出会ったお話。
とある地方の中心都市から、少し外れたあたり。
そんなところをぶらぶら歩いてた時のこと。
観光客相手に開けた場所に飽きたりすると、そうしたところを歩いたりするの。
一人旅のいいところは、自分の好きなように動いても他人に迷惑をかけないですむことよね。
まあ、コースを外れることが必ずしも良い結果になるとは限らないのだけれど……。
ともあれ、そうして歩いていたら、ふと派手なのぼりが目に入ったの。
真っ赤な地に白抜きで、とある名前が書いてあるもの。
最後は洞窟の洞という字で……。
要するに、そこにある洞窟が信仰の場所となっているらしいのね。
興味を惹かれて、近づいていったわ。
特にあてもなく歩いていたから。
近くまで寄ってみると洞窟の中に、おばあさんの姿があったわ。
入り口から遠くないところに椅子を置いて、腰掛けていたの。
にこにこと、実に福々しい笑顔をしてね。
『ここはどんな場所なんですか?』
私がそう尋ねたら、おばあさんは待ってましたとばかりに話し始めたわ。
『ここは、あたしがお世話してる神さんがおられる場所なんです』
おばあさんは楽しそうに私に語り出した。
四十数年前にこの土地に住みはじめ、二十年ほど前に連れ合いを亡くした事。
どうやって生きていこうかと考えて歩いていたら、この洞窟を見つけた事。
『最初見たときはね、昼間だから、なんだこんな場所もあるんだってくらいだったんですけどね』
おばあさんはそこに至って声を潜めたわ。
『ところが、夜中に気晴らしに散歩に来てみたら……。きらっきらしとったんですわ』
きらっきら。
本当に目をきらきらさせながら、嬉しそうに繰り返すの。
よくよく聞いてみると、この洞窟は、夜になると光を放つというの。
毎晩というわけでもないし、見える人も限られているけれど。
でも、見えるときは、それはもう美しいと、彼女は主張していたわ。
『あたしゃ、それでわかったんですよ。ここの神さんのお世話をせにゃならんって』
彼女は、寡婦で親戚も近くにいないことを身軽さに転じて、働きに働いたんですって。
そうして、お金を貯め、洞窟を含む一帯の土地を手に入れた。
それから、『お世話』を始めた……という経緯らしかったわ。
『お世話って言ってもね。ただ、汚れを掃き出して、たまに水をかけてやるくらいなんですけどね』
どうやら、おばあさんは洞窟そのものをご神体のように考えているらしくて、下手に触らずに、ただ維持しようとしていたみたい。
そうしていると、夜中、洞窟の中を舞う光たちが嬉しそうにしている、と彼女は言うの。
『光はいくつもあるんですか?』
『ええ、ええ。楽しそうに踊ってますよ。ほら……蛍みたいにねえ』
おばあさんは嬉しそうに……そう、まるではしゃぐように言っていた。
『あんたも夜中に、また来てくださいよう。きっと見えますよ』
そう誘ってくる声も、本当に楽しそうだった。
それから、しばらくおしゃべりをして、おばあさんの手製のパンフレットを買って、私はその場を離れたわ。
パンフレットは大したものではなかったし、別に欲しかったわけでもないんだけど、話を聞かせてもらったお礼にね。
そうして、そのまま近くの店に入ったの。
すると、店の人が妙な目で見てきたのよね。
『あんた、あのばあさんの洞窟に行ったんかい?』
パンフレットをしまうところを見たのか、お店の人はそう尋ねてきた。
だから、素直にそうだと答えたわ。
『夜中に来いと言われなかったかい?』
それにも肯定の返事をすると、店の人は、ぱたぱたと手を振りながら、それはやめといたほうがいいと言うの。
私は不審に思って、なぜかと尋ねたわ。
おばあさんは、いい人そうに見えたけれど、と付け加えて。
『ああ、あのばあさんは悪くねえ。でも、ありゃあ、人がたくさん死んだ場所だから』
思わず、え? って聞き返してしまったわ。
そうしたら、店の人は、しかたないというように苦笑して、こう言ったっけ。
『あれは、防空壕だったの。ところが、すぐ近くに爆弾が落ちて……中の人は蒸し焼きだったってさ』
夜?
ええ、いかなかったわ。
申し訳ないけれど、ね。
ほたる「人魂……でしょうか」
小梅「そうかもしれないし……。別のものかもしれない」
茄子「惠さんは見に行ってないようですからね」
小梅「実際は……そのおばあさんだけが見える……ってこともよくある」
ほたる「……幻、ですか?」
小梅「ううん。そういうことじゃなくて……。その場所で起きてることに波長の合う人は、おばあさん一人かもしれない……から」
茄子「防空壕で亡くなった方がおられるということとはまるで無関係になにかがあるかもしれませんしね」
小梅「そう……。それに……」
ほたる「それに?」
小梅「人が住んでいる土地の近くで……人が死んでない場所なんて、ほとんど、ない、から……」
ほたる「そう言われると……」
茄子「本当に神様がおわすのかもしれません。少なくとも、おばあさんにとってはそこは紛れもない神域なのでしょうしね」
小梅「うん」
ほたる「ふうむ……」
茄子「ともあれ、なかなか味わい深いお話でした。では、次のコーナーでは、あまり広くは知られていない土着の信仰について……」
第二十八夜 終
今日はパッションの人を出そうかと思っていたのですが、急に伊集院さんが来たので順番を変えてみました。
ああ、それにしてもドイツ行きたい。
第二十九夜 海
茄子「それでは、本日もアイドル百物語のお時間となりました」
ほたる「今日は……いったいどんな?」
小梅「今日の話は……海でのお話」
茄子「海ですかー。山もそうですが、海も怪談は結構聞きますよね」
ほたる「昔の……船幽霊とか……」
小梅「うん。山や海は……一つ間違えると死と隣り合わせだし……。不思議な話もたくさんある」
茄子「海難事故はいまでも大変ですからね」
小梅「うん。事故で遺体があがらないこともあるから……」
ほたる「いつまでも行方不明というのは……つらいですね」
小梅「だから……。『戻ってくる』話は多い。今回はそれはあんまり関係ないけど……」
茄子「今回はどなたのところに?」
小梅「……及川雫さん」
ほたる「及川さんはあまり海……というイメージではないですが……」
小梅「うん。だから、旅行の時のお話……みたい」
茄子「なるほど。……では、及川さんのお話です。お聞きください」
及川雫(16)
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○一言質問
小梅「超常現象に……遭遇したい?」
雫「うーん。あんまり怖いのはいやですねー。あ、でも、件さんは会ってみたいです。牛さんなんですよねー?」
こんにちは、小梅ちゃん。
今日は怖いお話なんですよねー?
はい?
怖くなくてもおかしなお話ならなんでもいい?
そうですかー。
じゃあ、私の話でも大丈夫かなー?
私自身は実体験だから怖いお話だと思ってるんですけど……。
試しにプロデューサーさんに話してみたらそうでもないかなって思っちゃって。
え?
感じ取り方はそれぞれだから、あんまり気にしなくていい?
なるほどー。ありがとうございます。
じゃあ、始めますねー。
これは、私が臨海学校で海に行った時の話ですー。
実家の近くは、海水浴場が無いので、なかなか海に行くのって難しいんです。
最近はお仕事でビーチに行ったりするんで、私は楽しんでるんですけどねー。
あ、違いました。臨海学校の話でした。
えっと、そういうわけで、うちの地方の学校は臨海学校として、海に出かけてくんですよー。
私は小学校、中学校と行きました。
今日は、中学校の時のお話です。
臨海学校の二日目に、遠泳の時間があったんです。
臨海学校に行ったみんながみんな遠泳したってわけじゃないんですよ。
泳ぐのがそれほど得意じゃない人は浜辺にいましたし、漁業関連の資料館に行ったグループなんかもあったはずです。
でも、私はせっかくの海だったんでいっぱい泳ぎたくて。
遠泳のグループに申し込んだんですよ。
土地の方に船を出してもらって、先生たちがその船で併走する横を、みんなで一生懸命泳ぐんです。
でも、やっぱりそこまで海に慣れてませんから。
すぐに限界って人が出てきて、その子たちは船に乗って、みんなを応援するんですね。
私もしばらくは泳いでたんですけど、どれくらいですかねー……。
自分では結構泳いだなってところで、船に乗ったんです。
それからは、まだ泳いでいる友達を応援しつつ、ぼーっと波間を眺めたりしてました。
揺れる船の上でどこまでも続く海を眺めてるって……。
なんだか不思議な気持ちになるものですよ。
もしかしたら、これって海の近くに住んでる人にはわかりにくい感覚かもしれませんねー。
海が珍しいものじゃないんですものね。
ともあれ、そうして眺めていたら、別のグループが近づいてくるのが見えたんです。
数人の人の頭が固まってこちらに近づいてくるのが。
地元の人かなー。
それとも、私たちと同じく遊びに来た人かなー。
そんなことを考えながら、そちらを見てました。
ところがですね。
近づくその人たちの様子がなんだか変なんです。
なにが変なのか、船の上から見ている私はずっと気づかなかったんですけど……。
そちらを見た遠泳中の友達の一人が悲鳴を上げて、ようやくわかりました。
『く、首っ!』
彼女はそう叫んで船に転がるように上がってきたんです。
ああ、そうか、と私は思いました。
近づいてくる集団には、いつまで経っても体が見えなかったんです。
水の下ですから、遠ければ見えないこともあるでしょう。
でも、すぐそこに来ているのに、首の下にあるはずのなにも見えなかったら?
体を動かしている気配すらなかったら?
そうなんです。
その首の……首たちの下にはなにもなかったんです。
ただ、長い髪が……黒々と水に揺れるだけで……。
『生首が寄ってきてる!』
誰かがそう言った途端、遠泳してた子たちはみんなパニックになりました。
先生たちが大声で船に上がってこいと叫び、わらわらとみんなが船に取りすがり……。
私はそんな中で、なんとなく生首をまだ見てました。
一、二、三、四……。
数えてみると、全部で七個。
しかも見る限りは女の人のものばかり、七つもありました。
そう、女の人の生首が七個
七人も一度に亡くなられたのかな……。
私はそんなことを思って、なんだか悲しくなりました。
でも、そんなにたくさんの女の人の生首が見つかった、ってなったら、大きなニュースになると思いませんか?
ええ、そうです。
実際には事件として取り上げられていないことでわかるとおり、それは、海を流れてきたご遺体じゃあなかったんです。
っていうのも……。
けらけら笑い出したんですよ。
その首たちが。
それまでたしかにつぶられていたはずの目をかっと見開いて、私たちを見て……笑ってる。
もうパニックなんてものじゃありませんでした。
みんな、船の上で腰を抜かしてましたよ。
そこで、騒ぎを聞きつけて、船を動かしていた地元の漁師さんが出てきました。
『ああ、こんなもん、相手にしちゃだめだ』
漁師さんはそう言って、ばしんばしんと銛で海面を叩きました。
なんだか、そのとき、笑っている生首が不満そうな顔をしたのを、覚えています。
漁師さんは、苛立ったように、銛で何度も海面を叩き、私たちにはよくわからない言葉を首たちに投げかけました。
ええかげんにせんと、なんとかをかけるぞとかなんとか言っていたような。
ごめんね、耳慣れない言葉だから覚えてないんです。
それから、漁師さんは船の運転に戻って、ぐいぐいスピードを上げ……。
生首は、するすると離れていきました。
どこに行くのか……そもそもどこからやってきたのか……。
七つの生首が、お互いの真っ黒な髪をからませあいながら、波間に消えていきました。
それの正体?
ええ、先生がかなり強い調子で漁師の方に聞いていたみたいですけど……。
知らんほうがいい、って言われて、教えてもらえなかったらしいですよ。
あれが妖怪とかそういうものなんですかねぇ?
考えてみれば、目の前に現れても、ただ笑ってるだけでしたけど……ねえ。
茄子「生首が固まって……」
ほたる「七個も……」
小梅「正体はわからないけど……漁師さんの態度からすると……。あまりよくないもの、かも」
茄子「地元の人はなんとなく知っている『悪いもの』なのかもしれませんよね」
小梅「う、うん」
ほたる「そういうものがあるんですねぇ……」
茄子「でも、七つというのは、なにかありそうですね。意味ありげな数ですし……」
小梅「きょ、凶悪な亡霊だっていう、七人ミサキ……って伝説もあるけど……」
ほたる「凶悪なんですか……」
茄子「ふうむ。いずれにしても、近づかれすぎなくてよかったのかもしれませんね」
ほたる「漁師さんが追い払ってくれなかったら……」
小梅「笑い声を聞いてるだけでも……怖い結果になる話はあるし……。ともかく、雫さんやお友達に……害がなくてよかった」
茄子「そうですね、本当に」
ほたる「さて、それでは、次のコーナーは海の……特に夏の海の怪談特集を……」
第二十九夜 終
いやあ、夏も終わりますね。ということで海でのお話を一つ。
雫さんは泳ぐとき胸は邪魔じゃないんでしょうか。
第三十夜 潜む者
茄子「さて、本日もアイドル百物語のお時間となりました」
ほたる「今日は……どんなお話が聞けるのでしょうね」
小梅「今日は……芸能界のお話?」
茄子「ほうほう。身近な話題ですね」
ほたる「でも……昔からテレビ局とか劇場での幽霊話って……多いですよね」
小梅「うん。深夜までずっと人がいるし……。映像や音声も扱うから……かな」
茄子「それにこの番組のように怪談番組もありますしね」
ほたる「引きよせられて……来ちゃうんでしょうか」
小梅「どう……かな? どっちかというと見えやすいだけ、かも」
ほたる「そう、なんですか?」
小梅「感受性の強い人のほうが……やっぱり見えやすい」
ほたる「……なるほど」
小梅「それに……実際には見えなくても気配だけで、イメージを描いちゃうこともある」
茄子「普通の場所なら形にならないものも、想像力豊かな人によって形になっちゃうってことですかねぇ」
小梅「も、もちろん、芸能界というのが、現代の……語り部になってるっていうのも、大きいけど……」
ほたる「情報発信の力ですか……」
茄子「そのあたりは、ネットの発達によって変わってきている部分もありそうですね」
小梅「うん。都市伝説とか……ね。でも、やっぱり語り口の上手い下手はあるから……」
ほたる「それは……この業界の人のほうがたしかに……」
茄子「そうですねえ……。ところで、今回のお話はどなたから?」
小梅「岡崎泰葉……さん」
ほたる「なるほど……。泰葉さんは芸歴も長いですしね」
茄子「ほたるちゃんも私たちより先輩さんですけどねー」
ほたる「や、やめてください。私なんか……。え、ええと、岡崎泰葉さんのお話です、どうぞ!」
岡崎泰葉(16)
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○一言質問
小梅「過去に戻れるとしたら……いつに戻りたい?」
泰葉「それは……。いえ、戻らなくていいです。いまが、いいです」
小梅ちゃん、こんにちは。
怪談のお仕事、楽しそうですね。
ええ、私も聞かせてもらっています。
放送時間に聞くのはきついので、録音ですが……。
え、いや、別に昼間じゃなきゃ怖いわけじゃなく……。
ええと、怪談、でしたね。
どんなお話でもいいという話でしたが……。
はい。
そうですか。
これは、メインのお話とはそこまで関係ないことですが、人の情念って恐ろしいですよね。
特に、なにかを好きになる、嫌いになるってのは、とても強い思いで……。
それだけに恐ろしいと思います。
小梅ちゃんも、ファンレターもらいますよね。
あれ、プロデューサーさんやスタッフの人が選り分けているって、知っていますか?
ええ、そうです。
カミソリとか、おかしなものが入ったものを避けるためですね。
まあ、実際は、顔写真とか、携帯メールのアドレスとかを排除するほうが数としては多いんですが……。
え?
ああ、アイドルとファンという形を逸脱して、個人的に親交を深めるのは避けるべきだ、と思う事務所は多いんですよ。
それでです。
ともあれ、基本的には妙なものは私たちの目には入らないようになっているんですが……。
私、一度見たことがあるんです。
当時のマネージャーさんが、大きな封筒の中から、ごっそりと……人の髪の毛の束を取り出すところ。
それは私宛てではなく、同じマネージャーさんが担当していた女優さんへのものでしたが……。
本当にぞっとしたのは、髪の毛に、血まみれの皮膚の断片らしきものがついていたことですね。
ええ……。
自分でむしりとって送ってきたんでしょうね。
それほどのことをさせる感情っていうのはどれほどのものか……。
いまではそちらのほうが背筋を冷やします。
さて、そんな情念渦巻く芸能界ですから、色んな事があります。
おかしなこともあれば、確かにあるんだろうなと納得するようなこともあります。
たとえば……。
自動販売機ってありますよね。
ええ、ジュースとかコーヒーとか売っている、あれです。
テレビ局やラジオ局の局内にも、自販機コーナーがあったり喫茶スペースに置いてあったりしますよね。
その近くには、飲み終えたカップやペットボトルを捨てるゴミ箱があるのが通例ですよね?
ところがあるテレビ局のとある階の自販機横には、ゴミ箱が一つも無いんです。
それどころか、廊下には一つもゴミ箱が置かれていない。
控え室や、スタジオの中にはあるというのに。
なんでだと思います?
実は『覗いてくる』んだそうですよ。
はい。
ゴミ箱の中から。
あの、カンやペットボトルを入れる、丸いところから。
小さな子供が興味津々の様子で。
もちろん、ゴミ箱を開いてみても、子供なんていません。そもそも入れる場所もありません。
でも、その階にゴミ箱を置くと、必ず、子供が覗いてくるんだそうです。
入れるはずのない小さな暗闇の中から、二つの目がじーっと。
でも、不思議じゃないですか?
それなら、スタジオや控え室にはなんでゴミ箱が設置されているんでしょうか。
私はその話を聞かせてくれた顔なじみのディレクターさんに尋ねました。
彼はこう言ってましたよ。
『だって、あんたら、見られ慣れてるだろ?』
って。
ほたる「これって……」
茄子「私たちも知ってる局、ですかね?」
小梅「うん……。場所も聞いてきた」ゴニョゴニョ
ほたる「うわっ。……あそこですか」
茄子「……もうあそこでゴミ箱のほう見られませんね」
小梅「口が完全に開いているゴミ箱だと現れないみたいだから……」
ほたる「それなら……まだましですかね」
茄子「狭い断面が、どこかとつながってるとかなんでしょうか……?」
小梅「……わからない。悪戯したいのかもしれないし……」
ほたる「うーん……」
茄子「先に語られていたのもさらりと怖かったですけどね」
小梅「う、うん……。プロデューサーさんたちは……大変」
ほたる「そうですね……。いつもありがとうございます」
茄子「裏方さんたちの苦労というのはなかなか表には出ませんからね……」
ほたる「本当に……。さて、次のコーナーでは、各分野を支える裏方の方たちが主役となる怪談、都市伝説について……」
第三十夜 終
本日は以上です。
先輩の知る芸能界の闇(超常)。
第三十一夜 神託
ほたる「では、そろそろ今日もアイドル百物語の……お時間です」
茄子「さてさて、今日はどんなお話が聞けるのでしょうね」
小梅「今日は……前回に続いて、芸能界のお話、かな」
ほたる「また……どこか怖い場所が……?」
小梅「ううん……。今回はどこかに現れる変なものの話じゃ、ない」
茄子「と言いますと?」
小梅「今回お話してくれるのは服部瞳子さんだけど……。瞳子さんの昔の……知り合いのお話」
ほたる「なるほど……昔のお話なんですね」
小梅「うん。もう何年も前の……お話」
茄子「瞳子さんも芸能界は長いようですからね」
小梅「うん」
ほたる「いったいどんなお話なのでしょうか。では、服部瞳子さんのお話です。どうぞ」
服部瞳子(25)
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○一言質問
小梅「死んだ人を一人だけ呼び出してもらえるとしたら……誰を呼ぶ?」
瞳子「そうね……。ひばりさんかしらね。一度はお話してみたいわ」
こんにちは、小梅ちゃん。
今日は……怪談、だったかしら。
そうね……。
怪談……。
暑い日には、そんなものでひやりとするのもいいのかもね……。
じゃあ……うん、今日は少し昔話をしましょうか。
私が以前にデビューした頃の話を……。
知っているかどうかわからないけれど、これでも、若い頃に一度デビューしたのよ。
うまくはいかなかったけれど……。
さすがに小梅ちゃんほど若くはなかったけれどね……。
ともあれ、何年かがんばって、結局そのときは芽が出なかったのだけれど……。
その頃の同期で仲の良い子がいてね。
今日はその子の話。
その子も、私と同じようにがんばってて……。
でも、なかなか努力が実らなかった。
芸能界っていうのは面白いものよね。
才能と努力。
それに運。
当人が持つそういったものに加えて、周囲の人たちの力やタイミングで、売れるかどうかがまるで変わってくるんだもの。
たとえば私がこの年になり、そして、導いてくれる人と出会ったことで、ようやくいま、少しは名前が知れてきたように……。
その子も、本当にずっとがんばっていて……。
そして、不意に売れ始めたの。
なにがきっかけだったのか、周りもわからなかったけど、とにかくどんどん仕事が増え始めた。
私は正直嫉妬もあったけど、あの子ならと納得する気持ちや、仲の良い子が売れて喜ぶ気持ちのほうが強かったわ。
だから、彼女の時間が空いたとき、お祝いに自分の部屋に招いたの。
ケーキなんて用意して、一通りお祝いをしたら……売れてなかった頃みたいに、二人で深夜まで話し込んだわ。
まあ、当時も私は売れてなかったんだけど。
布団に潜り込んで、電気を消してもまだ話を続けて……。
そうしてね、彼女が言ったの。
『ねえ、ヒトミ。ヒトミも売れたくない?』
ああ、もちろん私の名前はトウコなんだけど、その子は、ヒトミって呼んでたの。
あだ名みたいなものね。
私はそんな問いかけに笑いながら、もちろんあなたにあやかって売れたいものよ、と返した。
すると、彼女は声を潜めて、こんな事を言ったわ。
『じゃあ……教えてあげるよ。どうしたら……成功できるか』
どうするの? と私はふざけたように聞き返した。
だって、そんなこと教えられるものではないもの。
ところが、それから彼女は真剣な声で、とんでもないことを言い出したの。
『猫だと少し小さいかな……。出来れば犬。子犬でもいいけど、出来るだけ大きいのがいい。そのほうが声が大きいから』
最初はなにを言っているか、さっぱりわからなかったわ。
『先に殺しちゃうほうがいいね。死んで何日も経ってるのはだめだけど、その場で殺したのなら、ちゃんと聞こえるから』
なにを言っているの、と私は震える声で尋ねた。
彼女は、はっきりとこう言ったわ。
『ご神託の聞き方だよ』
彼女によると、動物……出来れば大きめの動物の喉を切り裂くと、その……。
ぱっくりと開いた傷口が『喋る』のだというの。
未来の出来事や、自分がそのときどうしたらいいか、それを教えてくれるのだ、と。
『私はそれで……こうなったんだよ』
私はなにも言えなかった。
彼女もそれ以上は口を開かなかった。
彼女にしてみれば、ただ方法を教えてあげたって、それだけのことだったのかもしれないわね。
その後、私はくすぶり続けたけれど、動物の喉を切り裂いたりすることはなかった。
彼女はそれなりに売れていたはずなのに、突然芸能界から姿を消した。
最後にかかってきた電話……。
私の携帯の留守電に残された録音で、彼女はこう言っていたわ。
『ヒトミ。わかったんだ。動物じゃなくて、自分の体なら、もっとよく聞こえる。喉じゃなくて、体のどこかでいいんだよ!』
嬉しげに、楽しげに、彼女は笑っていたっけ。
風の噂では、彼女の引退の原因はリストカットをはじめとする自傷癖だったというわ……。
ほたる「傷口が……喋る?」
茄子「死体を切り裂くと、それが未来を予言する……。なんとも……陰惨というか、不吉にしか思えないのですが……」
小梅「う、うん……。しかも自分の体の傷も……」
ほたる「精神のバランスが……?」
小梅「それは……わからない」
茄子「オカルト的には……予言の代償としての生贄……というところでしょうかね?」
小梅「うん……。でも、ただ殺して、喉を切り裂くと声が聞こえるって……。どうつながってるのかもわからないから……」
ほたる「うーん……。もし、予言が本当でも……。結局は不幸になっちゃってる気が……」
小梅「……うん。未来を知って、幸せになることは、あまりない。物語でも……」
茄子「そうですね。たいていは、よけい悪くなる気が……」
小梅「うん……。なにかから助かることもあるにはあるけど……」
ほたる「私は……良い未来でも悪い未来でも知りたくないかな……」
茄子「ふふ。私もそうですね。さて、次のコーナーでは、件の伝説なども含めて、予言にまつわるお話を……」
第三十一夜 終
本日は以上です。
瞳子さんは幸せにしたくなる。
第三十二夜 栄光の手
ほたる「それでは……。今日もそろそろアイドル百物語へと参りましょう」
茄子「本日はどんなお話なんですか?」
小梅「今日は……賭け事のお話」
ほたる「……へえ」
茄子「……というと、兵藤レナさんですかね?」
小梅「そ、そう。レナさん」
ほたる「ああ、なるほど。兵藤さんと言えば、元カジノディーラー……として有名ですよね」
茄子「アイドルとしてはなかなか珍しい経歴ですよね」
小梅「レナさんのトランプさばきは……すごい」
ほたる「それは……見てみたいですね」
茄子「今度みんなで見せてもらいましょう」
小梅「うん……それがいい」
ほたる「楽しみですね。それはともかく……」
小梅「う、うん……。今日は、レナさんの……怪談」
茄子「では、兵藤レナさんのお話です。どうぞお聞きください」
兵藤レナ(27)
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○一言質問
小梅「トランプで……攻撃できる?」
レナ「……精神攻撃ならね」
今日はよろしくね。小梅ちゃん。
さて、怪談だったわね。
んー……。
そうね、やっぱりなじみ深いギャンブルの話をしましょうか。
小梅ちゃんには、まだギャンブルなんて縁遠いものよね?
そうよね。
うん……。あれはあくまで大人の遊びだから。
いろいろな意味で、余裕がある人だけが楽しめる。
ギャンブルってそういうものよ。
勝負事っていうのは、真剣にやればやるほど、勝てば嬉しいし、負ければ悔しい。
そして、勝てば次も勝とうと、負ければ次こそは巻き返そうと熱くなる。
その熱をコントロールできる人間だけが、ギャンブルを楽しめるの。
コントロールと言ったって、抑制するだけじゃないわよ?
押さえるだけじゃなく、熱を発散するタイミングをしっかりと見定められる人が……。
勝負所を決められる人こそが、結局は楽しめるのよ。
とはいえ、やっぱりそうそううまくいかないのが現実よね。
熱くなりすぎて、心の余裕を保てない人のほうがはるかに多い。
たとえば、ジャックポット……メダルゲームの大当たりを引き当て、その途端心臓麻痺で亡くなっちゃった人がいたわ。
これなんて、あまりにのめり込みすぎよね。
まあ、死んでるはずのそのおばあちゃんが、その後もたまにメダルゲームをやってるところを目撃されてたのは、ご愛敬といったところね。
そして、もっと単純に、ギャンブルに取り憑かれて、身を持ち崩す人はもっと多かった。
生活に必要なお金をつぎ込むようになったらもう駄目。
まして、借金したり、詐欺にあったりするくらい周りが見えなくなったらいよいよ終わり。
妙なものに頼りはじめるのも……そう。
私が働いていたカジノの常連にもいたわ。
バカラで勝つために『栄光の手』を手に入れたんだって自慢してきた男。
小梅ちゃんなら知っているわよね。
『栄光の手』って。
そう、死刑になった人間の手を死蝋化させた……なんていうのかしら、ああ、呪具?
なるほどね。
そいつはね、その『栄光の手』に手錠をかけて、手錠のもう一方を自分のベルトにかけてた。
そうして、懐に持っているんだって、ちらっと見せてくれたの。
まあ、見たくもなかったんだけど、お客さんだしね……。
『なんで、手錠なんかかけるのか、不思議だろ?』
あいつはテーブルの他のメンバーが集まるまでの間に、にやにや笑いで話しかけてきた。
ああ、これは話を聞いてやらないとおさまらないんだろう。
そう思ったわ。
だからしかたなく、私も興味あるように装ったの。
そうしたら、こんなことを言ってきたわ。
『実は、こいつは絞殺魔の手なんだよ』
そいつによると、その『栄光の手』は、生前何人もの人を絞め殺した罪人のものなんですって。
『だから、手錠をかけておかないと、俺も絞め殺されちまうんだ』
奴はそう言って笑ってたわ。
『それ』には、色んな加護があると、そいつは吹聴してたけど、疑わしいものよね。
なにより、人の……しかも罪人の死体から切り取ったしなびた手を自分の懐に隠し持つなんて……。
その神経がもうおかしいじゃない?
とはいえ、そいつは本気で信じていたんでしょうね。
実際、その日の彼は、勝ちに勝ちまくってたわ。
当人はその『栄光の手』の加護だと思っていたことでしょうね。
でも、ディーラーの私から見たら、ただやけっぱちな手が当たってただけだったわ。
それでも、その『栄光の手』とやらを手に入れるために払った代金を回収出来たかというと、かなり疑わしいところよ。
少なくとも一日に稼げる額じゃ追い付かなかったはず。
そもそもあまりに一人が勝ちすぎると、テーブル自体を閉めてしまうし……。
そして、すぐにそいつはカジノに顔を出さなくなってしまった。
噂では死んだというけど、定かじゃない。
まして、締め切った部屋で絞殺されていたなんてのは与太話に過ぎないと思う。
だって、夜中に動き出した『栄光の手』に絞め殺されるより、マフィアに借りた金が焦げ付いて、体ごと持ってかれるほうがはるかにありそうだもの。
まあ、いずれにせよ、ろくでもない結果に変わりはないけれど。
え?
『栄光の手』はどうなったかって?
さあ、どうなったのかしら。
いまでも、色んな持ち主のところを転々としているんじゃない?
茄子「『栄光の手』……不気味ですね」
ほたる「死体から作るなんて……」
小梅「人の死体から魔術や呪いに使う道具を作るというのは……よくある話。それをするために墓が荒らされたり……」
茄子「いやな話ですねえ……」
ほたる「そんなものを使おうとするってことも……。なんだかすごいですけど……」
小梅「う、うん」
茄子「私は大当たりして亡くなってしまったおばあさんが死後も見かけられるってほうも……」
ほたる「たしかに……そちらもすごい執着です」
小梅「賭け事は世界中でいろんな話が……あるから」
茄子「それだけ魅力があるのでしょうが……。それでもほどほどがいいと思いますね」
小梅「……本当に」
ほたる「さて……それでは、次のコーナーでは、洋の東西を問わずギャンブルに関わる不思議な話を……」
第三十二夜 終
本日は以上です。
レナさんはメダルから出てくれなかった想い出。
第三十三夜 まじない人形
茄子「本日もアイドル百物語のお時間となりました」
ほたる「今日のお話は……?」
小梅「きょ、今日は……呪いの人形のお話……」
ほたる「呪い……。不吉な呪いがかけられたお人形……ということでしょうか」
小梅「ううん、違う……。人形を使った呪い……って言う方がいい?」
茄子「丑の刻参りのような?」
小梅「うん……。近いものがある」
ほたる「こ、怖いですね。人を呪うって……」
小梅「うん。それに……ううん、詳しくは聞いてもらう方が、いい、かな?」
茄子「そうですね。どんなお話なのか……。さて、今日はどなたがお話ししてくれるのでしょう?」
小梅「今日は……相原雪乃さん」
ほたる「では、相原雪乃さんのお話です。どうぞ」
相原雪乃(22)
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○一言質問
小梅「吸血鬼がいきなり襲ってきたら……どうする?」
雪乃「驚いて紅茶をかけてしまうと思いますわ」
ごきげんよう、小梅さん。
まずは紅茶とお菓子はいかがです?
ええ、私もいただきながらお話させてもらいますわ。
はあ……やっぱりあたたかな紅茶は落ち着きますわね。
はい、怪談でしたわね。
お仕事をいただいてから、少し悩んでいたのですけれど、やはり、この話をしようと思います。
これは私にとっても悲しいお話で、胸に秘めていようかとも思ったのですけれど……。
話すことも大事な気がしますの。
これは、とある女の子のお話です。
彼女は私の地元のお友達でした。
幼い頃……小学生の時分までは、二人でも皆とでも、よく遊んだものです。
けれど、彼女と私は別々の中学に進学したせいもありまして、だんだんと疎遠になってしまいましたの。
そのことは寂しかったのですけれど、でも……あの年頃の女の子というのは自分の周りで精一杯なものです。
ああ、そうですわね。
小梅さんがちょうどその年代でしたね。
ともあれ、そうしてしばらく会わない時期があったのですが、高校生の頃に、彼女とたまたま再会して……。
それからは連絡を取り合って、お話をするようになりましたの。
そう、ショッピングに行ったり、お茶をしたり……。
ただ……その頃の彼女は、なにか幼い頃にはない影のようなものをまとっていましたわ。
もちろん、多感な時期の女性ですもの。
隠し事もあれば、悩むこともあります。
ですから、私は彼女の言動の端々になにやら暗いものを感じても、あまり踏み込まずにおりました。
いま考えれば、もっとしっかりと追求すべきだったのではないかとも思いますけれど。
ともあれ、そうして再び遊ぶようになってしばらくして……。
たしか、あれは、高校二年の冬の事だったと思います。
彼女はこう打ち明けてくれました。
『実は私、中学時代にいじめられてたんだ』
私はすっかり驚いてしまい、彼女が話すままに聞いておりました。
『結構ひどいこともされた。男の子の前で脱がされたりさ……。でも……もう大丈夫』
彼女は晴れ晴れとした顔で、こう言ったのです。
『もう、あいつらいないからさ』
どういうことだろう? と首をひねる私に、彼女は自分の荷物の中から、なにかを取り出しました。
『これが、最後。昨日、最後のやつが死んだから』
それは、人形でした。
どこにでも売っているような、子供の遊び道具としてのお人形です。
けれど、それは、ひどい有様でした。
髪は抜き去られたのかぼさぼさで、顔は火を押しつけられたようにどろどろに溶け崩れ、足は叩き折られておりましたもの。
『これでね、呪ってやったの。そうしたら、みんな死んじゃった』
なんと、彼女は、彼女をいじめていた集団――六人のグループ――を一人一人呪って、死に追いやったのだと言うのです。
『一人に一つ。だから、これは六体目』
憎しみと共に人形を惨い目にあわせたら、それが現実に反映された、と彼女は主張しました。
私は絶句しました。
呪いの存在や効力ではなく、それを語る彼女のぎらぎらとした目が……あまりに恐ろしくて。
しかし、彼女は話し終えると、ふっと悲しそうにうつむきました。
『これ、埋めに行くんだ……。一緒に行ってくれないかな?』
泣き出しそうな顔で、彼女は言いました。
いえ、私に懇願していました。
もちろん、私は共に参りましたわ。
二人でとある場所に穴を掘り、丁寧に埋め……いえ、埋葬いたしました。
その間、彼女はずっと呪いのやり方を解説していましたわ。
いま思うと、あれは懺悔の一種だったのでしょうね。
自らの行いを私に打ち明けることで、自らの罪と向き合おうとする……。
そんな行為だったのだと思います。
正直、そのような呪いの術を事細かに聞くのは嫌でしたが……。
彼女の必死な様子に、口を挟むことは出来ませんでした。
ただ、最後に……。
人形を埋葬し終わり、二人で手を合わせた後で、私は彼女に約束させました。
『もう、これで終わりですわよね? 二度とこんなことはしませんわよね?』
『うん、もちろんだよ』
彼女は快諾してくれました。
『夜中に墓地に人形取りに来るのも、もうこりごり』
そんな風に笑って。
……ええ。
呪いに使う人形は、いくつかのやり方で入手していたようなのですが……。
一番手っ取り早いのは、自分で購入した市販の人形を、墓地に放置し、『力』を得ることなのだそうで。
私にはさっぱりわかりませんけれど、なるべく近い時期に亡くなられた方がおられる墓の間近に置くとより強くなるとか……。
少なくとも、彼女はそう信じていたようです。
実際に、彼女をいじめていたグループに不幸があったのか、それが彼女が呪いをかけたせいなのか……。
いずれも私にはわかりませんし、わかりたくもありません。
けれど、一つだけわかっているのは……。
彼女は、それを最後とは出来なかった、ということですわ。
あれほど苦しそうに、悲しそうに人形を埋葬しておきながら……。
私とも二度としないと約束しながら……。
彼女は、新たな人形を手に入れようと向かった先で、車にはねられ、亡くなってしまいました。
一週間ほど前にも事故のあった、とある十字路で。
なぜ、彼女が人形を手に入れようとして死んだと思うか、疑問ですわよね?
それは、彼女がこう言っていたからですの。
『一番強い人形はね。事故現場に供えられてる奴。そう……小さい子が死んだその場所にね』
と。
茄子「事故現場に供えられた人形を奪って……呪いに、ですか」
ほたる「……たしかになんだかいろいろとマイナスな要素が重なっている気がしますけど……」
小梅「こないだの……『栄光の手』と同根、かも……。人の死や罪や怒り……そういった穢れを利用するって意味では……」
茄子「しかし、人を呪わば穴二つ、ではありませんが……」
ほたる「結局、当人も……亡くなっているようですしね……」
小梅「も、もしこのとき事故にあってなくても……。呪いを……やめられなくなっている時点で……かなり危ない」
ほたる「最初は復讐だったわけですが……。それが終わっても、ということは……」
茄子「だんだんと、呪うことそのものに取り憑かれた、ということでしょうか」
小梅「たぶん……」
茄子「うーん……。業が深いですね」
小梅「……うん」
ほたる「え、ええと、では、次のコーナーでは、ずばり呪いにまつわる話を……」
第三十三夜 終
本日は以上です。
ゆきのんとお茶したい。
第三十四夜 ペンダント
ほたる「……それでは、本日もアイドル百物語のお時間となります」
茄子「さて、今日のお話は?」
小梅「きょ、今日も……呪いの話、かな?」
ほたる「つ、続きますね……」
小梅「うん……。丑の刻参りの話が有名なように……。人を呪うっていうのは……よくあることだから……」
茄子「憎しみや嫌悪の感情はどうしても生じますからね……。それを呪いという形にするのは、理解できませんが……」
ほたる「そうですよね……。なんで嫌いな人にそこまで……」
小梅「理解しようとしないほうがいい……よ」
ほたる「うーん……」
茄子「そういうものかもしれませんね。ところで、今日はどなたが?」
小梅「今日は……大西由里子さん」
茄子「ほうほう。では、由里子さんのお話、お聞きくださいませ」
大西由里子(20)
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○一言質問
小梅「死ぬ前に……なにを願うと思う?」
由里子「やっぱり、『積み荷を燃やして』だじぇ!」
やっほ、小梅ちゃん。
ユリユリの登場だよ!
いやー、相変わらずちんまくてかわいいよねー。
目隠れ小動物系女子って感じ?
え?
プロデューサー、なに?
ああ、大丈夫大丈夫。
さすがに小梅ちゃんにやばいことは言わないからさー。
でも、小梅ちゃん男体化もなかなか……。
あ、なんでもない、なんでもないよっ。
ええっと、怪談でした。
うん。
残念ながら、あたし自身はそういう経験はないんだよねー。
でも、実際見ちゃったら、憑依系の妄想とかはかどっちゃうかもね。
まあ、それはともかく、こないだ泰葉っちが話してたの聞いて思い出したことがあるんだ。
ほら、事務所に送られてくるものの話、してたでしょ?
そう、あの髪の毛ごっそりってやつ。
それに似たような話を、知り合いから聞いたことあるんだよね、あたし。
えっと、小梅ちゃんは、同人誌とかわかる?
あ、比奈っちからもらったことあるんだ。
じゃあ、わかるか。
そうそう。
好きな人がね、漫画描いたり、小説書いたりいろいろするんだよね。
それでさ……なんていうか、そういう業界ってあるわけさ。
描いて売ってる人と、それを買うファンたちのコミュニティね。
で、これは、結構売れてる……大手って言われてる売り手のお姉さんから聞いた話。
その人はあたしが話を聞いたときでも、同人歴がもう二〇年近かったって人なんだけどね。
いろいろと送られてきたって言ってたよ。
同人誌ってさ、イベントで売るだけじゃなくて、通販ってするのよ。
うん、郵送とかで送るのね。
だから、自分の住所って晒してたりするんだ。
自分の出した同人誌とかでね。
まあ、いまは、大手はショップ委託も多いけど……。
ああ、うん、話がそれたじぇ。
そんなわけで、直に色んなものが送られて来ちゃうわけ。
アイドルやプロ漫画家みたいに事務所や編集部を通すわけじゃないからね。
ファンになってくれた人の生の声が聞けるのは嬉しいけど、その分、生の悪意もいっぱい向けられたって、お姉さんは言ってたな。
んー。
なんで、そんな悪意を向けられるかっていうと……。
まあ、やっぱり好きだから、かな。
その人が同人誌で扱ってるものが自分も好きで、でも、ちょっとだけ意見が違う。
そのことでまずかちんとくる。
しかも、売れてる人ってのは、やっぱりうまいんだわ。
絵自体もそうだけど、話の作りや、雰囲気が、うまいの。
でも、普通はそんなこと出来ないのね。
だから、嫉妬も入る。
なんで自分は出来ないんだ。
なんでこの人はこんなことを描くんだ。
私が見たいものを、なんで作らないんだ。
そんな風に許せないことが重なっていって、憎悪に変わっちゃう。
世の中には、そんな人がいるんだじぇ。
でも、わかりやすい憎悪は、心情的にはきついけど、慣れちゃえばそんなもんだと割り切れる。
まだましなもんだってお姉さんは言ってた。
たとえば古典的なカミソリや、きちゃないものや、虫の死骸の類なら、処分すれば終わりだから。
『気持ち悪いけど、結局はその場だけだものね』
お姉さんはそんな風に笑ってたよ。
じゃあ、なにが怖いか。
それが今回の本題。
ある時、ファンからの手紙に、プレゼントが入っていたんだって。
真っ白な素材で作られた、とあるデザインのペンダント。
それは、お姉さんが描いてた漫画の主人公が使っている武器を象ったもので、とても精巧に細工されてたらしいんだ。
ファンからの手紙には、象牙を自分が加工したもので、もしよかったらつけてください、って書いてあったそうでね。
お姉さんは喜んでそのペンダントを身につけた。
それから、数日経った頃。
お姉さんは部屋に帰る度に、なにかいやなにおいがすることに気づいたらしいのよ。
下水管がつまったんじゃないかと思う……腐ったようなにおい。
生ゴミを腐らせたかと確認したけど、そんな様子はない。
住んでいたマンションの管理会社に連絡してみたけど、定期的に業者を入れているから、配水管が詰まるわけがないと返事をされた。
それでも、気が滅入るようないやなにおいがする。
ついには自分で業者を呼んで水回りを見てもらったりもしたけど、異常がないと言われる始末でね。
会社とかではそんなにおいはしないから、鼻がおかしくなったわけじゃない。
でも、部屋に帰るととても落ち着いていられないようなにおいがする。
おかげで同人活動もはかどらないし、夜中も熟睡できずに何度も起きるくらいになっちゃった。
とにかくどこからにおいがするのか、なんとか探り当てようと一晩中部屋の中をうろつきまわったりとかもしたらしいよ。
『そのときは、もうおかしくなりかけてたんでしょうね』
そうして、はじめてにおいに気づいてから、二週間ほど経ったある日。
お姉さんは近いうちに実家の法事に帰る用があるからと、服とお数珠を確認しようとしたらしいのね。
すると、ずっと昔にお祖母さんからもらったお数珠が、ばらばらになってる。
はじけ飛ぶようにして散らばってる上に、いくつかの珠は粉々になってたんだ。
それを見た途端、お姉さんはとるものもとりあえず部屋を出て、地元へ向かう列車に飛び乗ってたらしい。
『あのときは、絶対、実家でなにかあったかあるかすると思ったのよ』
ところがさ、とお姉さんは苦笑してたな。
お姉さんは地元に着く前に電話をかけて、家族の無事を確かめると、お寺さんに向かったんだって。
いまのところ家族になにもないのなら、数珠が壊れたことを相談しようってわけだね。
ところが、境内に入る前に、大声で怒鳴られた。
『なんてものをつけとるか!』
お姉さんにとっても昔なじみの住職さんが、見たこと無いようなものすごい顔で怒っていたそうだよ。
そして、住職はお姉さんのペンダントを外させた。
受け取りながら、住職はこう言ったんだって。
『髑髏を首からさげるなんぞ、なにをやっているのやら』
って。
象牙だって言われてたそれは、人の骨で作られたものだったんだってさ。
数珠が守ってくれなかったら、腐ったにおいだけじゃあ済まなかったとも言われたらしいよ。
どうなってたかは……わからないけど。
『だからさ、タチが悪いのは、善意を装っているものだね。あいつらのはさ、本物の善意と見分けがつかないくらい、巧妙だよ』
お姉さんはそんな風にしみじみ言ってたよ。
……ほんと、ろくでもないのはいるんだよねぇ。
茄子「人の骨を削ってペンダントですか……」
ほたる「材料もそうですが……。そこまで加工するのも気分がいいものじゃありませんよね……」
小梅「呪う当人は……もう、きっとおかしくなってるから……」
ほたる「やはり……そういうものなのでしょうか」
茄子「当人には落ち度がなさそうなのが、理不尽ですよね」
小梅「うん。アイドルもそうだけど……目立つだけでも、嫌がる人はいるから……」
ほたる「確かに……」
茄子「ただ、私たちはファンの皆さんから、すごい力をもらってますからね。ねじくれた思いの何十倍もの声援を」
小梅「……それは、思う……。ファンのみんなに喜んでもらうと……とても、うれしいし、力が……出る」
ほたる「たしかにいろいろとわきでてきますよね」
茄子「ええ。本当にみなさんの応援が私たちを支えてくれてます」
小梅「ありがとう……」
ほたる「さて、それでは、次のコーナーでは、この番組に届いたリスナーのとっておきの怪談を……」
第三十四夜 終
注:積み荷を燃やして
元は『風の谷のナウシカ』のアスベルの双子の妹ラステルの台詞。
オタク業界では、アヤシイものを処分してくれという意。
そんなわけで、本日は以上です。
三次元も完全にテリトリーとしつつあるユリユリはさすがです。
第三十五夜 ひひ
茄子「それでは、本日のアイドル百物語へと参りましょうか」
ほたる「今日はどんなお話でしょう……?」
小梅「今日は……交通関係のお話、かな」
ほたる「交通、ですか?」
茄子「なにかが追いかけてきたりとかって話は、よくありますよね」
小梅「う、うん」
ほたる「ああ、なるほど……」
小梅「それだけじゃなくて……。実話怪談だと、車が関わる話は多い。あ、アイドルの人たちだとそう多くならないけど……」
茄子「移動手段ですしね」
小梅「それに……密閉空間だし」
ほたる「閉じられた空間になにか現れたら……怖いです」
小梅「あとは……事故がらみも」
茄子「ああ、なるほど……。私たちは自分で運転しないから、そのあたりは身近ではないですが……」
小梅「うん」
ほたる「今回のお話はどんな感じなのか楽しみですが……。さて、どなたのお話なのでしょう?」
小梅「今日は大槻唯さん」
茄子「では、唯さんのお話です。お聞きください」
大槻唯(17)
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○一言質問
小梅「ホラー映画のヒロインをやるなら……なにに殺されるのがいい?」
唯「殺されるの前提なのかー☆ じゃあ、派手に死ぬ方がいいな。こう、お腹の中から食い破られる系!」
ちゃーす☆
ゆいだよ。
小梅ちゃん、キャンディ食べる?
うん、食べれ、食べれ。
それで、今日は怪談だよねー。
うーん。怪談かー。
そうだねー、怖い話はあんまり得意じゃないね。
ゆいはやっぱり楽しいほうがいいし。
といって、嫌いってわけじゃないよ。
たまにはぞくぞくするのも面白いもんねー?
じゃ、今日はゆいのとっておきの話をしちゃおうかな。
これは、少し前の……まだ暑くてしょうがなかった夏の日の出来事だよ。
みんなでちょっと遠くに営業に行ったんだ。
と言ってもそこまで遠くじゃないよ。
無理すれば日帰りできちゃう場所。
でも、その日のイベントのスポンサーさんが、とってもいい人でさ。
ちょうどそこから東京への帰り道にある温泉でゆっくりしていけって宿を手配してくれたの。
ねー。
すごい嬉しいよね、そういうの!
それで、イベント参加したみんなで汗を流してゆっくりしてたら、事務所から……え?
あ、うん?
いつもみたいに呼ぶな?
あ、なるほど。
うん、わかったー♪
ごめんごめん。
それでね、ゆいたちの……えっと、プロデューサーに電話がかかってきて。
うん、事務所から。
それが、他の事務所がへましちゃったから助けてくれないかって話だったみたいなんだ。
ほら、ダブルブッキングとかね。
そういうの。
まあ、急に番組に出られなくなったりとかそういうのってどうしてもあるものだもんね。
そういうのは助け合いだよねー。
で、そのときヘルプに入れそうなのが、ゆいと、一緒にイベントに行ってたたくみんの二人だったのね。
そうそう、向井のたくみん。
それでさ、ゆいにもたくみんにも悪い話じゃなかったから、プロデューサーはゆいたちを連れて一足先に戻ることに決めたわけ。
車を飛ばせば夜の内に東京に戻れちゃう距離ってのが、こう、絶妙だったわけだね。
後に残る子たちの面倒任されたちなったんはぶーぶー言ってたけど、しかたないよねー。
ああ、えーと。
ゆいたちもちょっとは文句言ってたかなー。
そりゃあ、温泉宿でゆっくり出来ると思ったら、帰らされる上に朝から急な仕事だもん。
少しは言いたいことも……ねえ?
でもでも、車に乗ったらたくみんもゆいもなにも言わなかったよ。
お仕事のことであんまり言ってもしかたないし、夜のドライブはドライブで楽しまないとね☆
そうして三人で戻ってきたわけだけど……。
もう夜も遅いから、車の流れが速いんだよね。
走ってるのがさ、トラックとか、ゆいたちと同じく早く東京に戻りたい人たちだから、しょうがないんだけど。
うちのプロデューサーも普段は絶対飛ばしたりしない人なんだけど、ずいぶん速度上げてたよ。
そうしないと、周りとあわせられなくて危ないしねー。
それで……とあるトンネルを出たところでね。
プロデューサーが急にハンドルを切ったの。
もうタイヤとかすごい音させて、ゆいたちもシートベルトしてるのに振り回される感じ。
どっかこすってるような音もしてたかなー。
いったん対向車線にまではみ出てさ。
それから、なんとか元の車線に戻って……。
クラクション鳴らされまくりだし、ゆいたちも、たぶん、プロデューサーも心臓ばくばくだったと思うよ。
でも、ゆいもたくみんも、プロデューサーを責めたりはしなかったよ。
だって……。
見たもん。
ゆいたちの車の先……。
ヘッドライトに照らされた、それを。
『なんだよ、あのでっかいの!』
たくみんはそう大声を上げるし、
『さ……ううん、5メートルはあったよね!』
ゆいも動転してそんなことしか言えないし、
『……ともかく、事務所に戻ろう』
プロデューサーは低い声でそう言うだけだし。
でもねー。
しょうがないよね。
路上で座り込んでる、5メートルもあるお猿さんなんて見ちゃったら。
うん。
でっかい猿がね、いたんだよ。
ニホンザルじゃない。
ヒヒっていうの? ああいうやつが。
ぶつかってたら、もうゆいたちの車なんて木っ端微塵だよ。
あー、いや……。
実体があったかどうかはわからないけどね。
実際、たくみんにはヒヒじゃなくて、超巨大な赤ん坊に見えてたらしいし、プロデューサーはなにが見えたのか、絶対言おうとしないし。
それに、調べてみたらね、あのトンネルのあたりって、かなり事故多いんだって。
だから、なにかはいたんだよ、絶対。
そう見せかけてるだけのやつであっても、ね。
茄子「事故を引き起こしている『なにか』がいるとしたら……恐ろしいですね」
ほたる「運転してる人がとてもじゃないけど……直進はできないなにかを見せて、ですか」
小梅「その場所に……なにかあるのかもしれないけど……」
茄子「そうですねえ……。移動している方は、わかりませんよね。その土地土地のことなんて」
小梅「たとえば、元から神隠しが多い土地だったりとか……」
ほたる「なるほど……。ヒヒにぶつかっていったら、どこかへ消えていた……なんてこともありえたわけですか……」
茄子「それはいやですねえ……。まあ、今回は対向車のほうが危なかったと思いますけど」
小梅「うん。無事で……よかった」
茄子「そうですね。もしかしたら、このラジオを車の中で聞いてくれているリスナーさんもいるかもしれませんが……」
ほたる「運転にはくれぐれも……お気をつけて」
小梅「安全……第一」
茄子「ええ。そうですね。では、次のコーナーでは、まさにこの夏に起きた怪談特集を……」
第三十五夜 終
本日は以上です。
ゆいたんの髪の毛わしゃわしゃしたい。
第三十六夜 女怪
ほたる「それでは……今日もアイドル百物語のお時間となりました」
茄子「本日はいったいどんなお話でしょうか」
小梅「今日は……昔話みたいなお話」
茄子「ほうほう」
ほたる「時代が……古いんでしょうか?」
小梅「それもあるし……。起きる出来事も、そう」
茄子「昔話も案外と怖かったり残酷だったりもしますからね」
小梅「面白く語り継いできたものだから……。派手になる部分も、ある」
ほたる「ふむふむ。ところで、今日はどなたのお話なんです?」
小梅「今日は……松山久美子さん」
茄子「それでは、松山久美子さんのお話です。どうぞお聞きください」
松山久美子(21)
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○一言質問
小梅「学生時代……学校に七不思議はあった?」
久美子「あったあった。有名だったのは『音楽室でピアノを弾き続ける自殺者の霊』実際は、私が一心不乱に練習してるのを目撃されたらしいんだけど」
こんにちは。
今日は怪談だっけ?
怖い話ではなくて……昔話みたいなものでもいい?
大丈夫?
そう。
なら、昔聞いた話を一つしようかな。
これは、近所に住んでいたおばあさんに教えてもらった話。
おばあさんのひいおばあさんが見た話だって言うから、ずいぶんと昔よね。
もしかして、まだ江戸時代かな?
そうかもね。
ともあれ、とある地方に、ある男がいたの。
普段は農家なんだけど、農閑期には山に入って猟をしたりもする……。
まあ、当時にしてみれば普通の生活をしてた人ね。
それで、その男が普段通りに山に入った。
でもね、通い慣れている山のはずが、その日は獣の姿を見ない。
鳥の声が遠くでするばかりで、まるで獲物の気配が無かったらしいの。
こりゃあ困ったと思いながら、男は水場を目指した。
地下水がわき出る泉がある場所を知っていたのね。
そこで少し休んで猟を再開するつもりだったのでしょうね。
ところが、泉につくと先客がいた。
美しい女が腰のあたりまで身を沈めて、ゆっくりと髪を洗っている。
男はその女性のあまりの美しさに、はっと息を呑んで見つめていたそうよ。
そりゃあね、美しいものを見たら、人は惹きつけられるものよね。
特に、山中の謎の美女なんてシチュエーションならなおさらでしょう。
でも……。
よくよく見ていると、異常に気づいた。
女の黒髪は、まさに鴉の濡れ羽色で、美しい艶を持っていたけれど……。
水の上に広がっている長さを含めてみたら、ずいぶんと長すぎる。
ざっと見ても六メートルはあるんですもの。
これは、物の怪の類だろう。
さては、山に獣が見えないのも、こやつのせいに違いない。
男はそう考えたみたいなの。
ただ髪が長いだけなら、けしてありえない話ではないはずなのにね。
ただ……。
山中で若い女……しかもとびきりの美女が、ってなるとそう思い込んでしまうのもわからないでもないわ。
美というのは突き抜けすぎると恐怖を呼び起こすものだしね。
男は、銃を構え、女を撃った。
狙い過たず、見事に命中。
すると、女の体が倒れ込んだ途端、泉の水面がざわざわと揺れ出したの。
ばしゃばしゃと波を立て、荒れ始める水面。
それは女の体を中心に大渦となっていく。
女の体が渦の底に引き込まれたと見るや、渦はさらに回転を増し、ついにそれは立ち上がった。
そう、泉の水を巻き上げる竜巻が、そこに出現したのよ。
竜巻は天にまで達し、そこら中から雲が集まり始める。
男はここに至って、とんでもないことをしでかしてしまったと気づき、銃を投げ捨てて山を駆け下りたそうよ。
這々の体で村の自分の家までたどり着いた頃には土砂降りの大雨で、前も見えないくらいだったって。
村では、急に嵐のように荒れ狂い始めた天気に、皆、それぞれの家にこもっていたみたい。
男は、家に戻ると、濡れた体をぬぐいもせず、自分の妻と幼い娘に事のあらましを語った。
そうして、自分はもう駄目かもしれない、と打ち明けたんですって。
妻は寺や神社でどうにかできないものかと言ったそうだけど、男はもうその余裕はないと応じた。
というのも、すでに竜巻が村を襲っていたからよ。
いくつもの家や小屋を巻き上げながら、竜巻はその男の家を目指す。
男は妻と娘を逃がそうとしたけれど……。
もう間に合わなかった。
竜巻は男の家を破壊し、そして……男を空高く連れ去ってしまった。
……結局、その嵐と竜巻で村はかなりの被害を受けたけれど、人間や家畜は誰も傷ついたりしなかったそうよ。
ただ一人、行方不明になった男を除いて、ね
この話をしてくれたおばあさんのひいおばあさんというのが、まさにこの話に出てきた『幼い娘』なんだそうだけど……。
その人は生涯言っていたんですって。
あのとき、父親を連れ去ったのは、竜巻なんかじゃない。
天を衝くような人影の……真っ白な大きな手が、父親を握りしめて行ったんだって……。
ほたる「神様……だったんでしょうか」
小梅「そう……だと思う。山の神か、なにかの精……」
茄子「先に手を出したのは猟師さんのほうだとはいえ、ちょっと規模がすごいですね」
小梅「そ、それでも、他人は……持って行ってないから……」
ほたる「他の人も、家は壊されちゃったみたいですけど……」
小梅「……ちょっとしたことでも、祟りはすごいしね……」
茄子「まだましだった、と思うしかないのでしょうかね」
小梅「たぶん……」
ほたる「へんなものを見たときは……見なかった振りをするほうがいいんでしょうかね……」
小梅「敬して遠ざけるのが……一番、かも」
ほたる「なるほど……」
茄子「さて、それでは次のコーナーに参りましょうか」
ほたる「そうですね。では、次のコーナーでは人気の無い場所でおかしなものを見るというシチュエーションのお話を集めて……」
第三十六夜 終
本日は以上です。
『美はしきもの見し人は、はや死の手にぞわたされつ』ということで。
第三十七夜 狸
ほたる「それでは、そろそろアイドル百物語へ参りましょうか……」
茄子「今日はどんなお話が聞けるのでしょうね?」
小梅「今日は……ええと、なんだろう」
ほたる「なんでしょう……?」
小梅「恩返し……じゃないし。祟り……というのも違う気がするし……。うーん……」
茄子「なにやら奇妙なお話のようですね?」
小梅「うん……。不思議」
ほたる「ともあれ、聞いてみればわかる……でしょうか?」
小梅「そう、だね」
茄子「それでは、どなたのお話か、教えてください」
小梅「今日は……赤城みりあちゃん」
ほたる「では、赤城みりあさんのお話を……お聞きください」
赤城みりあ(11)
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○一言質問
小梅「ホラー映画……見るなら、誰といっしょがいい?」
みりあ「え、見るってきまってるの? そ、それなら、家族とかなあ。夜もおうちにいるわけだし……」
こんにちは、小梅ちゃんっ。
今日は怪談だよね。
えっと、怖い話だけじゃなくて変な話だったらいいんだよね?
えへへ、そうだよね。
うん。
怖い話限定だったら、私あんまり知らないから困るなーって思ってたんだけど、変な話だったら知ってるよ。
これはね、親戚のおじさんから聞いたお話。
おじさんは、お仕事でいろんな地方にいく人で……。
いつも自分で自動車を運転して移動しているの。
すごいよね、大人の人って。
私、あんなずっと運転とかしてられないなー。
あ、そうじゃなかった。
おじさんが車で移動してる話ね。
うん。
それで、おじさんが、とある地方で車を運転してたんだって。
あんまりおっきな道路じゃなくて、山のほうの狭い道だったみたい。
時間は、夕方で、空も夕焼けからだんだんと暗くなりかけてる頃。
ふっと道の横からなにかが飛び出してきて、おじさんは急ブレーキを踏んだの。
でも、止まりきれなくて、横から出てきた影をはね飛ばしちゃった。
おじさんはね、車を止めて、下りてみたんだって。
そうしたら、地面に横たわっていたのは、大きな狸さん。
はね飛ばされた勢いと道路にたたきつけられたせいで、もうそのときには死んじゃってたっておじさんは言ってたよ。
かわいそうなことしたなあ、と思って、適当な布でくるんで、狸の死体をおじさんは持ち上げたの。
どこかに埋めてやろうって思ってたみたい。
そこで、ふっとおじさんは思い出したの。
その地方の……お得意さま?
うん、お仕事の相手の会社。
そこの人が亡くなってお葬式に出たことがあったんだって。
そのお寺が、この近くのはずだって、思い出したんだ。
山に勝手に埋めるよりは、お寺のどこかに埋めてもらう方がいいんじゃないか、っておじさんは考えたそうだよ。
お寺なら、掘る道具も借りられるだろうし、って。
そうして、お寺を訪ねて事情を話したら、お坊さんもそうするのがいいでしょうって賛成してくれたんだって。
あ、でも、さすがにお墓があるところに埋めるわけにはいかなかったみたいだよ。
それはしかたないよね。
狸だし……。
だから、境内のすみっこのほうに埋めたんだって。
おじさんは、そうしてお仕事に戻って……。
一年くらい経った頃。
同じ地方に行く機会があったらしいんだ。
ああ、そういえば、以前にここのお寺さんに頼んで狸を埋めてもらったな、って思い出したおじさんは、お礼がてらお寺を訪ねたのね。
するとお坊さんも覚えていて、いろいろお話したらしいの。
そうしてると、お坊さんが、奥からスイカを持ってきたんだって。
まるまんま、一個。
『最近、うちのが家庭菜園をはじめましてね』
それはお坊さんの奥さんが、境内で作ってるものだったらしいんだ。
お店で売ってるのよりはだいぶ小さかったみたい。
そうして、お坊さんがスイカを切ろうと包丁を入れた途端……。
あのね。
スイカが、爆発したんだって!
ぱーんって!
おじさんもお坊さんもお汁で真っ赤っか!
なんだこれはと思って見ても、スイカは飛び散ってちっちゃなかけらになっちゃってるし、もうわけがわからない。
腐ってたわけじゃないよ?
そんな変な感じは全然しなかったって。
ともかくその場を片付けてから、お坊さんは奥さんを呼んで、スイカがなっていたところまで案内させたの。
そうしたら、なんと、あの狸を埋めたその場所に、奧さんは菜園を作ってたんだって!
だから……狸から、生えてたんだよね、たぶん。
『ありゃあ、怒ってたんかなあ。いや……からかわれたのかもしれんな』
おじさんはそう言って笑ってたよ。
服がスイカの汁まみれになったくらいで大したことはないし、怨みに思ってっていうよりは、悪戯だよなって。
どうなんだろうねぇ。
変なお話だよね。
茄子「たしかに妙なお話でしたね。ある意味でかわいらしいというか」
ほたる「……轢かれた仕返しにしては、スイカの汁まみれというのはかわいいものですしね」
小梅「うん。怨みとかは……ないと思う」
茄子「狸のほうも、轢かれたこと自体はしかたないと思っているのかもしれません。それでも、ちょっと最後に……という感じで」
ほたる「そうかもしれませんね。……ふふっ」
小梅「でも……スイカが爆発したら……びっくりするね」
ほたる「そうですよね……。食べられませんし」
茄子「うんうん。もったいないですよね。さて、それでは、次のコーナーに参りましょうか」
ほたる「はい、次のコーナーでは、動物の死にまつわる怪談を……」
第三十七夜 終
本日は以上です。
狸じゃないくまー。
第三十八夜 桜
茄子「……さて、本日は次のコーナーにて終わりとなります」
ほたる「最後のコーナーは……アイドル百物語、です」
小梅「きょ、今日で第三シーズンが終わりだから……これが、最後」
茄子「それにしても第三シーズンも終わりですか。早いですね」
ほたる「でも……次の第四シーズンでようやく百物語も半分なんですよね?」
小梅「うん……。次のシーズン終わりで、ちょうど五十個だから……」
茄子「まだまだ先は長いですね。ずいぶんいろいろなお話を聞いてきた気もしますが」
ほたる「ええ、怖い話も、寂しい話も、面白い話もありましたね……」
小梅「うん……楽しい。ふふ」
茄子「さて、それでは今回はどんなお話なんでしょう?」
小梅「きょ、今日は、あいさんにお話を聞いたんだけど、あいさんらしい……お話だと思った」
ほたる「東郷……あいさんですね?」
小梅「あ、うん。そう」
茄子「東郷さんといえば、いろんな意味でかっこいい方ですよね」
小梅「うん……。それに、気を遣って……くれる」
ほたる「細やかそうですよね」
茄子「そんなあいさんらしいお話、ということですか」
ほたる「楽しみですね……。では、お聞きください」
東郷あい(23)
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○一言質問
小梅「あいさんは……怖いものってある?」
あい「怖いものばかりさ。たとえば、小梅君に嫌われたらどうしよう、とかね?」
やあ、小梅君。
怪談だったね。
……うん。
では、はじめようか。
これは、私がまだ髪を長くしていた頃の話だ。
そうだな、小学生……だったかな。
その日は週末で、休みの日だったはずだ。
早朝、私は散歩に出た。
実を言うと、前日に、父が家に知り合いを招いていてね。
普段とは違う雰囲気なもので、幼い私ははしゃぎまわってしまったのさ。
その結果、その頃にしてもずいぶん早くに寝付いてしまったんだ。
おかげで妙に早く起きてしまった私は、悪戯心を出して早朝の散歩としゃれこんだわけさ。
そうはいっても遠くまで行くほど分別がついてなかったわけじゃない。
せいぜい朝ご飯までには戻れるように、私は近所を歩き回った。
そうして、公園に近づいたところで、見知らぬ老婦人が向こうから歩いてくるのに気づいた。
実に上品な様子でね。絣模様の着物を、こう……ぱりっと着こなしていらした。
それだというのに、その肩に桜の枝を担いでいるのが、妙な気持ちにさせたものさ。
いや、季節がおかしかったわけじゃない。
桜真っ盛りの頃だったよ。
父が知り合いを招いたというのも、花見にかこつけたものだったしね。
でも、満開の桜の枝を担ぐなんてね。
そもそも、桜の枝は折るものじゃない。
そうだろう?
こんなしっかりとした老婦人が……という気持ちが、私の胸をぎゅっと切なくさせたのさ。
『あの』
だから、私は勇気を出して話しかけた。
『桜の枝を折るのはよくないと……思います』
婦人は私の言葉にびっくりしたように目を見開くと、次いで実に穏やかな笑みを浮かべたものだ。
『ええ、ええ。お嬢さんの言うとおり』
でもね、と彼女は続けた。
『これは、取り返してきたものなの』
とね。
不思議そうな私に、婦人は続けた。
『雨風ならば耐えられましょう。けれど、大勢で根を踏み、幹を揺らし、花見と称するだけでも、本当はつらいことなの』
彼女は悲しそうに言っていたよ。
『まして、見ていない人のために持って行こう、なんて言って枝を折っては家に持ち帰る人に至っては、ね』
だから、取り返して回っているのよ、と彼女は笑ったものだ。
取り返すと言っても、どうやってそんなことを?
『興味がおありなら、見ていても構いませんよ』
疑問に思っている私を前に婦人は言って、とある家の前に立った。
家の扉をじっと見ながら、担いだ枝を、左右に三度振る。
それだけして、また歩き出す。
私は、黙って後を追いかけたよ。
どういうことか、さっぱりだったからね。
婦人はまた別の家の前に立ち、同じように枝を振る。
そこで、気づいた。
老婦人が、先ほどより若返ってはいないか?
肌の張りが戻るどころか、身長すら変わっているように見える。
私はごしごしと目をこすったよ。
だが、見間違いではなかった。
五軒目を終えた時には、もう、老婦人ではなく……。
そうだね、いまの私くらいの女性に変じていた。
『これで、終わり』
彼女がそう言った途端、強い風が吹いた。
目を開けていられないほどの突風が過ぎ去ったときには、女性も、桜の枝も、もうどこにもなかったよ。
花びら一枚も、そこには残っていなかった。
わけがわからないまま、私は家に帰った。
朝ご飯に遅れるわけにはいかないからね。
この話の結末を耳にしたのは、その日の昼食時の事だ。
井戸端会議で近所の噂を仕入れてきた母が教えてくれたのさ。
実は、そのしばらく前に、公園の桜の中でも一番の大木の……しかも最も見目いい枝が折られていたんだそうだ。
ところが、その朝になって、まるで折られたような痕もなく元に戻っていたらしい。
不思議なこともあるもんだねと言い合う両親を前に、私は一人秘密を知っているというそのことに奇妙な喜びを抱いて口をつぐんでいたものさ。
ほたる「なんとも……しっとりしたお話ですね」
茄子「なるほど、あいさんらしい素敵なお話でした」
小梅「う、うん」
ほたる「なんだか、ほっとしますよね」
小梅「うん。でも……なにかの精は、怒らせると怖そうでも、ある」
茄子「たしかに……。やはり何事にも敬意をもって接するべきでしょうね」
ほたる「ううむ……」
小梅「じゃ、じゃあ、次のシーズンの……お話……」
ほたる「ええと、次回からは第四シーズンということで……。偶数シーズンはゲストさんもいらっしゃるんですよね?」
茄子「その通り。なんと、次回はお二人もゲストさんが来てくれます」
小梅「じ、次回は、しょーちゃ……星輝子さんと輿水幸子さんが、来てくれ……ます」
ほたる「三人でパーソナリティをやられるということで、私と茄子さんは……一回お休みですね」
茄子「はい。次にお会いするのは第四十夜となりますね」
小梅「ちょっと……緊張する。楽しみだけど」
ほたる「イレギュラー、ですからね」
茄子「ともあれ、今シーズンはここまでとなります。では、小梅さん。第四シーズンを前に一言」
小梅「色んなお話で、あなたたちが知らない世界に……連れていってあげる。あの子も早く、って言ってるから。また、ね」
第三十八夜 終
そんなわけで、第三シーズン終了です。
おつきあいいただきまして、どうもありがとうございました。
小梅ちゃんも言ってますが、まだ半分にも達していないので、これからもがんばっていきたいと思っております。
第四シーズンのスレは九月後半か、十月頭くらいに立てられたらいいですね。
では、また。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません