男「今日から仕事か……」(12)

男「スーツに塵は無し、ネクタイも曲がってないし、眼鏡にも汚れはない」

男「……」

男「仕事か……。楽だといいんだけどな」


コンコン ガチャ

男「おはようございます」


男「本日から、この"処刑事務所"でお世話になります、男と申します」

所長「はじめまして、所長です」

女上司「女上司です。よろしく」

男「よろしくお願い致します」

所長「不躾だが、『殺人』の経験はあるかな?」

男「履歴書通りです。アルバイトで数回ほど……。人並み程度には」

所長「よろしい。業務内容に関しては女上司に説明させる。……じゃあ、女上司」

女上司「はい、所長」

女上司「まず『処刑事務所』について、改めて説明するわ」

女上司「『処刑事務所』は『国』の代行機関であり、依頼と言う形で『重犯罪者の強制的死刑』を執行する機関です」

男「国民の権利として許容された『殺人』とは些か異なると言うわけですね」

女上司「そうね。一応、我々は公務員。給金は市民の血税で賄われている。その貴重な血を無駄に流させないという自覚を以て、職務にあたるように」

男「かしこまりました」

女上司「あなたの仕事道具はこれね」

ゴトッ

男「日本刀ですか」

所長「昔ながらの鍛造技術と、最新鋭の技術を合わせたハイブリッドだ」

男「有り難く頂戴します」

女上司「業務規定などはこの契約書を。確認したら同意の捺印をお願いね」ペラッ

男「わかりました」


……
………
…………

男「終わりました……」ペラッ

女上司「預かります」

所長「じゃあ、早速だが仕事をしてもらおうか」

男「いきなりですか?」

所長「不満かね?」

男「いえ、仕事ですから」

女上司「……」



所長「今回の処刑対象は、とある殺人犯だ」

所長「厄介な奴でな、人肉愛好家で何人も犠牲になっている。サイバネ手術でも受けたのか、並みの警官では止められない」

所長「そこで我々の出番だ。殺戮者の首を『執って』きたまえ」

男「了解です」


……
………


殺人犯「クチャ…ブチ、んぐ…グチッ」

男「お食事中大変失礼致します」

殺人犯「!」

男「はじめまして、『処刑事務所』の者ですが……」

殺人犯「はじめまして……。あんたも、一つどうだい?」

男「遠慮しておきます。仕事中ですから」

殺人犯「鶏肉に似てるんだが……結構、それより繊細な味わいなんだ」

男「興味ありません」

殺人犯「なあ、見逃してくれないかな」

男「駄目です。仕事ですので」

殺人犯「食事の為なんだよ。豚や牛を食うのと同じなんだ」

男「あなたが食べているのは人間でしょう。……まあどんな事情があるにせよ、仕事をこなすだけですが」

殺人犯「……」ブチブチッ…ゴクン

男「……」

バッ

男「!(逃げた。さすがサイバネ化した逃げ足だ、速いな)」

男「……」

コツコツコツコツ…

カラン…ッ

男「!」

チャキ……シャガッ

男「空振り、か……」

コツコツ…

ウィィ……

男「!」

ドガガガガガガガガ!

ギギギギィン!

殺人犯「……ひへっ」

男「……(自動けん銃内蔵の義肢か)」

殺人犯「……(刀なんかで銃弾を捌ききるとは……)」

殺人犯「……」

ダッ

男「……」

コツコツ…

男「……居ない」

チャキ

殺人犯「後ろだよ」

男「!」

パァン……ッ

男「   」

ドサッ

殺人犯「……サイバネ化が普及したとはいえ、頭撃ち抜かれちゃ、生きてはいられないだろ……」

男「   」

殺人犯「……へへ(細くて筋張ってそうだけど、こいつの肉も旨そうだな)」

コツ…

殺人犯「……(新鮮なうちに、捌いて喰うか)」

男「   」

コツ…

男「  ぁ」

ザシュッ

ドチャッ……

ブシュッ、バシャシャ、パタタ……


殺人犯「――ぁ」

殺人犯「ア゙ああぁあっ!いひゃっいたあああああ!うでっうでへぇええ~っ!」

殺人犯「はっ、はぁああっ!アヴぅつ!なんで!?うでえっなんで!」

男「……」

殺人犯「ぁ……あああ?」

男「……」

スッ――チャキ

殺人犯「そうか――お前、お前は!」

男「……」

殺人犯「……へっ、へへ」

殺人犯「……そうか、なら見ててやる」

男「……」


KILLER IS DEAD
殺 戮 者 に 死 を


ザシュッ!ボトッ……ゴロン……

男「……」

【続】

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