魔法少女フラン☆マギカ� (959)

魔法少女まどか☆マギカと東方projectのクロスです。



いくつか注意点です

※初SSです。いろいろ足りないところがあると思いますがよろしくお願いします。

※独自設定がてんこ盛りです。

※一部オリキャラが出ます。

※東方キャラはすべて出るわけではありません。また、かずマギ、おりマギのキャラは出ません。

※駄文、超展開ありです。

※一部、残酷な描写がございます。ご注意ください。

※当SSはフィクションです。実在の人物、団体、歴史的事実とは一切関係ありません。

批判はいつでも受付中です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1362722680



このスレは2スレ目です。


全スレはこちら↓↓




第三次世界大戦だ

さあ皆、マミさん(とついでに恭介)をなんとか出来そうな人を喚ぶ儀式をするんだ!

せーの!

( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん!

乙でした
>>体が軽い。こんな幸せな気持ちで目覚めるのは初めて。もう何も怖くない。
なんでマミさんはすぐにフラグ建ててまうん?(´・ω・`)

>>31
虹色のあれってピアス的なものじゃないの?(無知)

こんなの見つけた!

http://www.youtube.com/watch?v=uyLsUJPjE_s



フランちゃんの羽についての設定はなかったような・・・・
ぶら下がっているのが賢者の石だとか、(レミリアの)羽は脱着式とかは、二次設定だったはず。


>>35
( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! ( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん!

Help me, ERINNNNNN!!
えーりん出て来るのか分からないけれど、( ゚∀゚)o彡゚えーりん!えーりん! って歌ってる人たちは・・・・・・

>>37

          ふらぐたてたって



          いいじゃないか



          まみさんだもの




>>43
いつか誰か気付くと思てました。
このSSとは何の関係もありません。

しかし、何でフランなんでしょうね?? こんなの書いといてあれですけど・・・・







               *







 契約と言うんだから、書類に名前でも書いてハンコを押すのかと思っていたけど、全然違った。
ただキュゥべえに向かって自分の願いを言えば、ソウルジェムが生まれ、それを受け取って完了らしい。
随分と簡素なものだ。
「本当にそれで願いが叶うの?」という、当然の疑問が浮かび上がって来たけれど、
マミという実例も居るし、さやかは取り敢えずその疑問に封をした。 



「さあ、受けるといい。それが君の運命だ」




 我らが魔法の使者、キュゥべえさんは耳から生えた手のような物(触手?)をさやかの胸元に伸ばす。
すると、その両方の触手(仮)の間から、浮き上がるように青い光を放つ何かが現れた。
同時に、何とも形容しがたい痛みが全身を襲う。
体の中から何かが抜けて出ていくような不思議な感覚。やがてその何かは形を作る。


 光り輝きながら自分の手元に収まる卵型のソウルジェム。
マミの黄金色のそれがトパーズのような輝きを持っていたと言うなら、さやかのジェムはまるでサファイアのようだった。
その深い青色に、さやかの同じ色の瞳を持つ眼は吸い込まれそうになり、
無意識にリップクリームの塗られた瑞々しい唇の間から、柔らかな吐息が漏れた。
清楚で、可憐で、そしてさやかの持つ生来の明るさを損なわない、宝石。
それを、さやかは愛おしそうに抱き寄せた。






 綺麗……。




 さやかは思わず自分のジェムの輝きにうっとりする。


 この大きさのサファイアなら、それこそ目玉が飛び出るような値がつくだろう。
世界中の富豪たちを魅了した止まない至高の蒼玉。
けれどこの宝石は、他のどんな高価な、例え世界一高いダイヤよりも、自分には価値があった。


 これが自分の願いが生み出した宝石。自分だけの輝き。プライスレスの石っころ。







「変身してごらん。念じるだけで出来るはずだ」





 目の前のキュゥべえが言う。

 契約したのに、特に変わった様子はない。

 自分にとっては特別な瞬間でも、キュゥべえにとっては数限りなく繰り返してきた作業なんだろう。
そこが、若干残念に思う。
キュゥべえの態度はなんだか淡々とし過ぎていて、いまいち感慨というものが湧かない。



 けれど、そんなことを気にしてもしょうがない。
さやかは、そういうもんか、と思うことにした。




「うん」


 取り敢えず、キュゥべえの言葉に頷く。
そして、静かに目を閉じ、さやかは変身するイメージを思い浮かべる。
参考にしたのは、幼いころに見た魔法少女もののアニメの変身シーン。
中学生にもなって思い出すとは思わなかったが、さやかの脳は毎週興奮させてくれたそのシーンを鮮明に覚えていた。



 まず、ソウルジェムから青い光が溢れ出し、さやかの全身を包んだ。
そして、服が無くなる感覚と同時に、一瞬全裸になり、今まで着ていた見滝原の制服とは違う服の感触に覆われる。




 あっという間。気が付けば一瞬。





 本当にうまくいったのかと、不安になりながら、恐る恐る目を開けると、ものの見事に変身していた。




「うわー」




 思わず自分の体を見下ろし、感嘆の声を上げる。

 見た目はファンシーな西洋の騎士と言ったところか。
白いマントを羽折り、肩と臍が露出している。
青い装甲が、マミ程ではないにしろ、同年代の女子より一回り成長しているさやかの双丘を柔らかに包み、
左右で丈の違うミニスカートと白いニーハイソックスがさやかに活発で軽快な印象を与えていた。
さらに、腕には青いアームガードと白い手袋が肌の露出を少なくし、
ニーソックスにを履いた足とのバランスを取っている。

 全体的に、白と青を基調としており、爽やかな印象を受けた。
特に、青色はさやか自身の髪と同じ色で、さやかも自分のイメージカラーと思っていたので、
似合っている。
ポカリスウェットっぽい色だと思ってしまったのは、秘密。



「お、おお。これが……魔法少女……」

 自分の両手を見下ろし、マントを翻し、全身をくまなく観察する。

 たった今初めて着たばかりなのに、服に違和感はない。
自分のイメージが作り出したのだから、自分にサイズがぴったりなのは言うまでもないようだ。
体を捻っても、手足を持ち上げても、衣装が絡みつくような感覚はしなかった。

 ただ、マミやほむらに比べて露出が多いのが気になった。
肩は思いっきり出ているし。



 ちょっと子供っぽいのは、気にしない方がいいかも。
まどかのセンスを笑えない。
……いや、あそこまで桃色ピンクのどファンシーではないか。




「えーっと……ソウルジェムは……っと、これか」



 青い宝石はどこに行った、と体を見下ろすと、お臍の上についたジェムを確認する。
形はCの字型。
自分でも不思議な形。確かにマミも変身時は、ソウルジェムが花形に変わっていたけれども、
本人は花が好きらしいし、特におかしくはない。
でも、さやかのソウルジェムの形はやや不可思議だった。



 私って、英語苦手なのになぁ。




 なんでCの字型なんだろうか?




 一瞬頭を捻る。けれど、さやかはすぐにそんな疑問を追いやり、二度三度、全身を見回す。






「マミさんとは違うんだね」







 ぽつりと呟いた一言。ちょっと残念なような気もする。
だって、憧れのマミさんとはいろいろ違うから。
でも、今の自分がマミと同じ格好をするのは、それはそれで恐れ入る。

「魔法少女の願いによって、ソウルジェムの色や変身後の形と位置、衣装や武器、
魔法の特性なんかは全部違う。
一人として、他人と同じ魔法少女は居ないよ」

 端的に答えるキュゥべえ。へー、とさやかは応じる。

「じゃあ、私は、何が使えるのかな? 魔法とか武器とかって」

「さやかは癒しの願いで契約したから、治癒魔法じゃないかな? 
武器は君自身が取り出して確かめてごらんよ」

「あ、そうなんだ。治癒かぁ。結構便利そうだねー」


 そう言いつつ、さやかは適当な調子で武器を出すイメージをしてみる。
両手を前に突き出し、取り敢えず、力を込めるように、それっぽくやってみる。







 う〜ん…………、




















 出てこない。



「あれ?」

「もっと集中しないとだめだよ」

 キュゥべえにダメ出しされてしまった。早速サポートされてるよ、私。



 容赦なく告げられた言葉に、がっくりと肩を落とすさやか。
が、それも一瞬、すぐに気を取り直し、今度は真剣に念じてみる。
でも、どんな武器が出てくるか分からないので、ただ武器を出すことを念じる。
目を閉じ、イメージを浮かべることに集中するが、肝腎の武器の姿はボヤっとしたまま。
マスケット銃だったらいいな〜、なんて思ったりして。











 うおりゃ〜…………、















 すると、今度は手ごたえがあった。
不意に腕から何かが出て、両の掌の先で形を作る。
しかし、さやかはそれを掴み損ねてしまった。
指先が何か、固い物に弾かれる感触と共に、次いでガランという意外に重そうな音が鼓膜を震わせ、
足元にそれが落ちた。



 見下ろすと、そこには一本の剣。



 片刃の西洋風のサーベルで、僅かに反っており、持ち手の部分にはアームガードも付いていた。
マミのマスケット銃同様、なかなかお洒落なデザインだった。
しかも、よくよく見ると、何か特殊なギミックもあるようだ。
持ち手の部分に、トリガーのような物が付いている。



「おっと、剣か」



 さやかは早速剣を拾い上げ、軽く振ってみる。


 さっきの音とは違い、重さは感じず、しっくりと手に馴染む。
自分が生み出した武器だ。
衣装と同様、違和感や扱いにくさは全くない。
それどころか、完全に自分の一部であるように振うことができた。
試しに、トリガーを引いてみる。



「うわっ!」



 バシュッ! という大きな音ともに、刀身がさやかの視界から消えた。
それは、一瞬後に20メートル近く上昇し、やがて重力に従い、さやかの眼前、
キュゥべえのすぐ後ろに豪快な音を立てて落下した。
幸い、そこには誰もおらず、キュゥべえにも当たらなかったが、派手な音にさやかの肩が大きく震える。



「危ないよさやか。当たるところだったじゃないか」



 上げられる、至極まっとうな抗議の声。その意味を理解して、冷や汗を流すさやかは、
「あはは〜」と苦笑いを浮かべた。
どうやら、剣の刀身を飛ばすことができるみたいだが、誰かに当たってしまわないように使う時は
注意しなければならない。




 しかし、それはともかくとして、さやかは自分の武器に満足した。



 憧れのマミのような銃使いではないが、マミのようにセンスのいいデザインの、
しかも特殊なギミックまでついた強力な武器を手にすることが出来たし、
何より自分はもう魔女に怯えなくてもいい存在になったのだ。
これで、戦線を離脱したマミの代わりに街を守ることができる。
恐怖に勝てるようになった。
もう何も怖くない。









後、気になることといえば、





「キュゥべえ。ちゃんと恭介の腕は治ったんでしょうね」

「間違いないよ。契約は問題なく結ぶことが出来た。きちんと君の願い事は叶ったよ」



 念を入れて確認するさやかに、キュゥべえははっきりと断言した。
「奇跡」について半信半疑だった部分があったので、こんなことを思わず訪ねてしまったのだ。
もし、これで恭介の腕が治ってなかったら、えらいことになっていたが、どうやら杞憂に終わったようだ。
キュゥべえの様子を見るに、わざわざ確認しなくても構わないだろう。
その言葉には、それだけの安心感があった。



「そっか。よし、これで魔法少女さやかちゃんが誕生したって訳か。
ふふふ。マミさんの代わりに街を守っちゃいますよぉ」

 などとのたまい、調子よく笑うさやか。





 その時、ふと違和感を覚えた。

 どこに、というのではない。
何となく、頭の中でそういうものを認識したのだ。
例えるなら、歯と歯の間に肉の繊維が挟まったような異物感。
早く取り除きたくなる不快感。
異物が挟まった気持ち悪さ。




 そんな感じのものだ。


 何気なくさやかはソウルジェムを見下ろすと、それは少し明滅していた。


「これは……」

「早速だね。少し離れているようだけど、その反応の強さだと、魔女が出たみたいだ」










 魔女。


 言わずもがなの、魔法少女や人類の敵。自然と、さやかの体に力が入る。
今更ながら、マミが依然言っていた「命がけ」という言葉が脳裏に蘇って来た。
ただ、キュゥべえの冷静沈着な声が、必要以上に緊張することを防いでくれる。
ある意味、いつも通りなキュゥべえの存在は、今のさやかにとって、とても安心できる材料だったのだ。


「魔女……よーし、この美少女魔法戦士美樹さやかちゃんが、サクッと倒しちゃいますよ。
初陣だけど、もうすでに負ける気がしない!」

 さやかは拳を振り上げた。
緊張はすれど、そこはさやか。
持って生まれた明るさや、元気の良さが、彼女の取り柄。
恐怖心はゼロではないけれど、それで足が竦むようなことはない。
昔から、物怖じしないことが彼女の持ち味の一つだった。


「気合十分だね。でも、早くした方がいいよ。巻き込まれた人が居るかもしれない」

「そうだね。じゃ、行きますか」


 キュゥべえの言葉にさやかは変身を解き元の制服姿に戻ると、緊張を解すように駆け出した。













>>47
>そして、服が無くなる感覚と同時に、一瞬全裸になり、今まで着ていた見滝原の制服とは違う服の感触に覆われる。

さて、さやかの下着はどこに行ったのだろうか? ちゃんとパ○ツ履いてるのか?

私、気になります!!



(真面目な話)
このシーンは本編5話アバンの、さやかが契約した直後の物です。
そのつもりです!!


本当にいろんな意味でアホだもんな、さやかって
もう本当にアホ



いつの間にかさやかちゃんがチルノと絡む流れにw
まあ、中の人からも「馬鹿」って言われてますからね。

でもそんなところが阿呆の子かわいいさやかちゃん。

>>59
あんまりアホアホ言うなしw

さやかはすごく潔癖で正義感が強いから、自分の汚いところを受け入れられない。
加えて、理想も高く(本編でもTDSでもマミさんを神聖視してた)、そこに至れない自分を否定する。
結果、自分を自分で追い詰めて、楽することも許せず、孤独になって破滅へひた走っていってしまう。
そんなところがバカとかアホとか�とか言われる所以なんだろうけど、一番人間臭いキャラクター。
さやかの心にもっと踏み込んで、殻を強引に壊さないと、さやかは救われないんですよね。
本編の杏子にしろ、TDSのマミさんにしろ、さやかに手を伸ばすのが遅すぎた。



という訳で、さやかちゃんを助けてくれるイケメソカモーン
(果たしてさやかちゃんに差し出される手は間に合うのか!? ご注目ください)


それはそうと、以下注意事項。
※ちょいグロシーンあり

※まどマギな要素あり

※マミさんは上半身裸×900,000,000
(大事な事なので�オク回ry)












「今言ったことが、あの時私のしたことよ」




 リビングで、テーブルの向かい側に座るフランがそう言って話を締めくくった。







 それまでマミが聞かされていたのは、あのお菓子の魔女との戦いでフランがマミを助けるために
やったことのすべてだ。

 マミが魔女にかみつかれる直前、フランはその場を飛び出し、さらに魔弾を放った。
それによって、砲撃の直後、油断と反動で動きを止めていたマミの胴体に命中し、彼女を転倒させた。






 結果的に、それがマミの命を救ったことになる。
頭を噛み千切られるという悲劇を回避できたわけだが、しかし、マミは胴体の半分以上を食い千切られるという致命傷を負ってしまう。
治療と魔女の相手を同時にしなければならないために、フランは分身を作り出した。
それが、あの「Four of a kind」という技。
かつてのマミの弟子が作り出したそれと同じく、実体を持ち、かつ独立した意志と行動能力を有する。
本体のフランは分身二体と共にマミの治療にあたり、残り一体が魔女の相手をした。




 その時、フランの頭は沸騰したという。
かつて感じたことのない怒りが体中を駆け巡り、それが同時に、彼女の心の奥底にしまわれていた
狂気を目覚めさせた。
しかし、それでもフランは怒りに囚われることも、狂気に身を委ねることもなく、冷静に、落ち着いて
マミを助けることに注力する。
フランは吸血鬼であり、また魔法の知識にも精通している。
その知識は、あの場でマミを助けるのに大いに役立った。
もし、フランが感情的になって暴れまわっていたとしたら、きっとマミは助からなかっただろう。
しかし、この時フランが行ったのは、魔法による治癒ではなく、吸血鬼本来の行為——吸血であった。





 吸血鬼の吸血行為とは、本質的には他者の魂の操作であるらしい。
血を吸うことは魂を奪うことであり、眷属を作るということは魂そのものを変化させることだそうだ。
正直、そのあたりの小難しい話はよく分からなかった。
分かりたくもなかった。
けれど、その後にフランが話したことは聞き逃せないことだった。












 フランがマミの治療にあたり、最も苦労したのは、マミのソウルジェムの処理だったそうだ。
なぜなら、それが固形化したマミの魂であったから。
















「ソウルジェムは魂……か。初めて聞いたわ。キュゥべえもそんなこと言わなかったし」











「『知らなくても不都合はない』そうよ」


「フランは分かっていたのよね」


「……会った時から」


「何で言ってくれなかったの?」


「…………きっと、ショックを受けると思ったから」


「そう……」









 マミは膝を抱える。今、この体には魂が宿っている。魔法少女という、抜け殻ではない。


 けれど、もう既にそれは人間のものではなかった。フランがそうしたからだ。理屈は分かる。
だから、感謝の気持ちがあるのは確かだ。
けれど、感情が納得しなかった。
頭で分っても、心は落ち着かない。



 それはそうだ。いきなり、「あなたは吸血鬼になりました」と言われて、
「はい、そうですか」と返せる人はいないだろう。
ひょっとしたら、すごく変わった価値観を持っている人ならできるかもしれないが、生憎マミは、
魔法少女関連を除けば、ごく一般的な価値観を持つ少女だった。




 だから、どうしても心の中に暗い感情が影を落とす。
あの時、もっとフランが早く行動してくれれば、あるいはまた別の方法を採ってくれていたら、
結果は違っていたかもしれない。
マミは吸血鬼にならずに済んだかもしれない。
でも、そうはならなかった。
現実として、フランはもうヒトならざるモノに変化してしまっていたのだから。


















 恨んではダメ。そう思うのに、恨まずにはいられない。














 思い浮かぶのは、狂ったような笑い声をあげながら魔女を弄するフラン。
マミの血で真っ赤になりながら会話するフラン。
狂っていたのか冷静だったのかよく分からない状態だったフランたち。
本人によれば、あれでまだちゃんと理性を保てていたらしい。
気を紛らわせるために、マミはずっと気になっていたそれを聞いてみた。




「意外と、冷静だったのね、あの時。おかしくなっちゃったんだと思ったわ」























「………………おかしくなってたのよ」































 妙な間があって返された答え。
先程と矛盾するその発言に、マミは首を傾げる。
あの時、フランは怒りと狂気を、ギリギリのところで抑え切れていたのではないか?










「どういうこと?」




「私ね、前に、ずっと地下に閉じ篭っていたって言ったでしょ?」

「うん」

「あれね。半分間違いなの」

「うん?」

「本当は、200年くらい閉じ込められていたの」

「なんで?」



 脈絡のなくなった話に、マミは多少混乱しながらも、何かを言わんとするフランのために、
取り敢えず話を合わせる。
テンポよく相槌を打ちながら、しかし、放り投げられたフランの次の言葉によって、マミは固まってしまった。

























「狂ってるから」






















「……」



 一瞬生まれる思考の空白。
フランの言葉がうまいこと耳に入ってこない。
否、物理的に聞こえては来るが、脳が認識しきれなかった。





 狂っているから、閉じ込められていた?





「生まれつき、精神的に不安定なところがあってさ。
心の天秤が傾いて釣り合いが取れなくなると、おかしくなっちゃうの。
私みたいな大きな力を持つ吸血鬼が暴れ出すと、なかなか手が付けられないからね、
私を閉じ込めてそうならないようにしていたのよ。
もちろん、今はそこまで不安定じゃないけど、まさか狂いかけるとは思わなかったわ」








 なんだろう? どういうことだろう、この感情。









 こんな状況で浮かび上がってくるある感情に、マミは戸惑いを覚えた。
おかしいと思うのに、止まらないそれは、「嬉しさ」。
気が付けば頬を伝う熱く、湿った感覚。





「マミ……」






 フランはマミのために精神のバランスを崩しかけた。
それだけ、マミのことを思っていたからだ。
マミにはそれが嬉しいのだ。
彼女が激しい感情に我を失いかけたのも、そこまでフランのことを思っていたからだった。



 両親を亡くして以来、それほどまでマミのことを大切に思ってくれる人はいなかった。
ずっと一人ぼっちだった。
友達はみんな離れて行ったし、家に帰ればキュゥべえしかいない。
彼は彼で、マミにとって大切な存在だったけれど、彼は自分のことをほとんど話さないし、
何か隠していたのも薄々感づいていた。
まさか、ソウルジェムのことだとは思わなかったけれど。











 だからだろう。それが嬉しい。唯々、嬉しい。

















 でも、暗い感情は止まらない。
嬉しいと思えば思うほど、またその感情も強くなっていくのだ。
まるで、強い光が、より濃い影を作り出すかのように。
目の前のガラスのテーブルに映る自分の眼は、徐々に暗い影を帯びていく。




 そんなに私のことを大事に思っているなら、どうして吸血鬼になんかしたのよ? 
お陰で私は、今こんなに苦しんでいるのよ。







 そう、恨まずにはいられない愚かな自分がいた。
理不尽な糾弾をせずにはいられない弱い自分がいた。
魔女を前にして油断をした自分が原因。
ましてや、フランは助けてくれたのに、その恩も忘れ、被害者面して一方的にフランを、
親友を責め詰る酷い自分がいた。














「……もう、私は戻れないの?」




 脈絡のない言葉。
けれど、今のマミにはそれを考える余裕すらない。
ただ、思ったままのことを口にする。
その心は、身勝手な責任転嫁と、それに対する自己嫌悪で、混乱し、疲弊しつつあった。
だから、ポロリとそんなことを零してしまったのかもしれない。




「それは……」


 フランの言葉は続かない。
ガラスのテーブルに映る自分の紅い瞳を見下ろすだけ。
同じく、マミも抱えた膝に顎を埋め、ガラスのテーブルに映る自分の顔を睨み下ろしていた。





「戻れるの? 戻れないの?」






 マミの口調は強く、問い詰めるようになる。

 言い訳はいらない。ただその答えだけが欲しい。




 考えるたびにマミの心の中によくないものが降り積もる。
恐るべき速さで、真っ黒な吹雪のように、どんどんマミの心を埋めていってしまう。
その勢いは、そんな自分を咎める心すらも覆い隠していく。





 客観的に見れば、それはとても恐ろしいもの。
自制をなくすということ。
しかし、マミはそれに気が付かない。
生まれつき狂気をその身に宿し、狂気との付き合い方も弁えているフランと違い、
元はただの少女だったマミに、狂気に対する免疫がない。
だから、それは本人に自覚すら与えることなく、徐々に彼女の心を支配していく。
狂った歯車は、不快な不協和音を出し、マミの心の向かう先を狂わせてしまう。









 マミは顔を上げる。
暗く、どんよりとした瞳で、蛍光灯の光を反射する“主”の髪を見つめる。
マミの顔の位置からでは、前髪に隠れて、フランの表情は直接に見れない。
だが、ガラスのテーブルに映っている鏡像を見ることはできた。





 その唇は白くなるまで噛み締められていた。
苦痛に呻く病人のような顔で、彼女はテーブルの自分を睨むのだ。
それは彼女が何かを後悔しているということ。
けれど、マミにとってはその様子がもう憎たらしい。
その顔をする資格があるのは自分の方だ。
何であなたがそんな顔をするの? 
私の方がずっと苦しいのに。
そんな醜い感情が、マミの心を突き動かそうとする。























「……ごめんなさい」




















 やがて紡がれた言葉。それがきっかけだった。




















 パリンと、何かが割れる音がした。


























「いい加減にしてよ」




 地の底から湧き上がってきた怨嗟のような声にハッと顔を上げるフラン。
驚いたような、戸惑ったような、悲しんでいるような瞳がマミを映す。

 それを見て、ついにマミの感情を抑えていたタガがはじけ飛んだ。
あとはもう、濁流のように飛び出すそれをフランにぶつけるだけ。
















「何よその顔はッ!!」
















 絶叫しながらマミは立ち上がる。
目を限界まで見開き、いつの間にか変化した真紅の瞳でフランを睨み下ろした。
その表情は、阿修羅の如き憤怒に満ち、ウェーブのかかった長い金髪が、今にも怒りで天を突かんとしている。

 溜まった鬱憤は留まるところを知らない。
恨み、憎しみ、怒り、悲しみ。
そういった負の感情がフランを襲う。
真っ黒で、ドロドロとした衝動がマミの胸の奥底からこみ上げ、それは全身を巡り、
最後に口から飛び出して、目の前の小さな体に、悪意の爆撃を見舞うのだ。





「苦しいのは私よ!! 
昨日、私がどれだけ苦痛を味わったと思ってるの? 
今、どれだけ未来に絶望していると思っているの? 
私、もう人じゃないのよ。人でなしなのよ? 
ふざけないでよ。なんでよ!! 
何でこんなことになるの? 
私何かした? 
あなたに恨まれるようなことした? 
あの時油断したから? 
ええ。そう! 私が悪かったわ。

でも、何よ! 
吸血鬼にすることないじゃない!!」




「マミ! 違っ!」




 あまりにも酷い言葉の数々。傷つけるためだけに口を出た悪意。
けれど、フランはそれらに反応せず、しかし「吸血鬼」という言葉には反応した。






 自分を責め詰るのはいい。けれど、吸血鬼になったことは否定しないで。
辛いだろうけど、それは自分には許せないことだから。





 フランが発する言外のメッセージ。当然、激昂するマミには伝わらなかった。





「何が違うのよぉぉぉ!? 
あなたがやったんでしょっ!! 
謝って済むと思ってるの? 
恩着せがましく言えば納得してくれるって思ってるの? 
バカにしないでよ。

私は人間でいたかっただけよ! 
吸血鬼になんてなりたくなかった。
魔女と戦いたくなんてなかった。
ただ、普通の女の子でいたかっただけなのに」











 なのに、何で?








 なんで、どんどん『普通』から離れていくの?












 家族を喪い、友達を失い、手に入れたのは魔法の力と自分のためだけに奇跡を祈った後悔と、
魔女と戦う運命。




 私が欲しかったのはこんなものじゃない。
ただ家族といたかった。
友達と楽しく遊んでいたかった。
本来なら、私は今頃家族に励まされながら受験勉強に苦労し、息抜きに友達と遊びに行っていたはずだ。



















 それがなんだこれは。
















 こんなもの、私の望む幸せじゃない。
私が欲しかったものは、取り戻したかったものは、もう永遠に手に入らない。









「こんなものがあるから」






 呻くように呟くと、マミは背中から生える一対の「羽根」のうち、右の方を左手で掴んだ。


 その瞬間、マミが何をしようとしているのか分かったのだろう。
フランが悲鳴を上げながらマミを止めようとした。
慌てて立ち上がり、フランはマミにしがみつく。







「マミ! やめてっ!!」





「離してッッッ!!」








 マミは力の限りフランを振りほどいた。
今のフランはただの幼女と変わらない。
その小さく軽い体は、マミの吸血鬼らしい膂力に抗うことなどできず、突き飛ばされて、
大きな音を立てて床に転がった。



 端正な幼顔が苦痛に歪む。
けれど、マミはそれを視界に入れることすらなく、力の限り「羽根」を引っ張った。




































「う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッッッッッッ!!」















































 





 ブチブチブチブチッと、背中から何かが引き千切られるいやな感覚と、
焼き鏝を押し付けられたような激痛が走った。
それを打ち消すために、マミの口から雄叫びが漏れる。
防音設備の整ったマンションだから、隣の部屋には響かないだろう。
しかし、マミの耳を塞ぎたくなるような絶叫は、部屋中の空気を震わせた。







 ボトリと落ちるのは、黒い蝙蝠のような「羽根」。
背後でびちゃびちゃと滝のように流れ出す血が音を立てる。
マミは、血まみれになった自分の左手を、軽く振って血を払う。


























「もう、やめて……」








 消えそうな声が聞こえた。フランの声だ。


 床に這いつくばったまま、真っ赤な目で彼女はマミを見上げる。
その小さな体ははっきりと分かるほど震えていて、まるで怯える小動物のようだ。
お願いだから、と懇願する彼女は、見た目相応の無力な少女だった。











 けれどマミはそれを無視した。聞く耳すら傾けなかった。


 今度は右手で、残った左の「羽根」を掴む。フランは視線を落とした。
































「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううううううッッッッッッ!!」
















 獣がうなるような音が、喉の奥から響いてきた。
床に落ちる黒い「羽根」と重なる水の音。
噛み締めた歯の隙間から、蒸気のように熱い吐息が漏れる。



 止めどなく背中から流れ出す赤い血は、テーブルの下の絨毯を、使い物にならなくなるほど
真っ赤に染め上げ、フローリングの床にゆっくりと広がっていった。
人が見れば、殺人事件でもあったのではないかと思うほどの凄惨な光景。
少女の部屋らしい、独特の甘い匂いに、強烈な鉄臭いにおいが混じった。
しかし、そんなことは最早マミの頭の中にはない。



















 これで「羽根」はなくなった。これで私は戻れる。
















「ハッ」












 激痛なんて感じない。血が減ってふらつくなんて関係ない。













「アハハッ。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッ!!」











 ゆらあっと、マミが一歩踏み出し、フランに近づく。


 狂ったように笑いながら。
解放されたような顔をしながら。
その背中から、どくどくと血を流しながら。



「どうよ。これで、私は、もう、戻れるわよ」



 フランは僅かに顔を上げ、床に落ちた黒い塊に目を向ける。



「マミ……」

「私は吸血鬼じゃない。『羽根』はなくなったのよ」








「それは……」

 と、フランが言い掛けたところで、引き千切られて床に落ちていた「羽根」が形を崩し、
真っ黒な煤のようになって、空間に溶けるように消えて行く。






 同時にマミは背中に強烈な違和感を覚えた。
ゆっくりと、何かが生えてくるような感覚と、それに伴い徐々に引いていく痛み。
まさかと思って振り返った時にはもう終わっていた。


















 そこには、先程と変わらぬ黒い「羽根」。化け物である証拠。
















 再び現れたそれは、マミに、自身が化け物であるということを、骨の髄まで思い知らせ、
その心を完膚なきまでに叩きのめした。






「うそ……」



 膝が折れた。全身から力が抜け、マミはその場にうずくまった。





 先ほどまで高ぶっていた感情は空気の抜けた風船のようにしぼみ、
あとはどうしようもない絶望がマミの心を支配する。
さっきまで血に汚れていた絨毯も床も、既にそんなものは最初からなかったかのように元通りになっていた。
マミの血も、さっきの「羽根」と共に消えてしまったのだろう。







「マミ。ごめんね。マミ」






 のっそりとした動きでフランはマミの傍にしゃがむ。
その一挙種一同が、マミには見なくても分かった。
なぜなら、彼女はマミの「主」だから。



 眷属は顔を両手で覆ったまま動かない。
それでも、フランは優しく言葉をかける。
その肩に両手を添え、耳元で囁くように謝る。









「ごめんね。ほんとにごめんね。
全部私が悪いの。
ちゃんとマミに言ってなかったから。
マミと一緒に戦ってあげなかったから。
本当に、ごめんなさい」










 マミは動かない。泣いているのかそうじゃないのか、音すら立てない。



「マミ……」







「……ねえ」











 くぐもった低い声がマミの両手から漏れ出す。



「何?」









「私、どうなるの?」









「……ずっと、吸血鬼のまま」









「そうじゃなくて。私は、このまま見滝原に住んでいられるの?」









「……」








 それが答えだった。



 そう、とマミは擦れた声を出すと、ゆっくりと顔を上げ、フランを見据えた。




「私は、ここにはいられないのね」







 肩から手を離したフランは頷く。
油の切れた人形が無理やり首を動かしたようなぎこちなさだった。







「もう、妖怪だもんね」








 そう言ってマミは、半身を起してフランの両肩を掴んだ。


 フランが苦痛に顔を顰める。
あまりに強い力で掴んだため、折れそうなほど華奢な肩がみしみしと音を立てた。
いっそのこと、折ってしまおうか。












「そうよね。この世界では妖怪は弱くなっちゃうものね。
私にはもうここで住む資格はないものね。
私はこの世界からも追い出されるのよね。
もう二度と鹿目さんにも美樹さんにも……佐倉さんにも会えないのよね。
笑っちゃうわ。無様ね。みじめね。
私の人生って何だったのかしら? 
家族を奪われ、人間としての生も奪われ、ついには住む場所さえも奪われてしまうのね。
これならあの時死んだ方がまだましだったわ。
今でも死ねるかしら? 
吸血鬼って、死ににくいだけで、不死って訳じゃないはずよね。
太陽の下に出れば死ねるかしら? 
心臓を杭で貫けば死ねるかしら?」














 吐き出される支離滅裂な言語。
悪意と絶望と恨みと憎しみが先行し、もはや文脈の体をなしていない。
それを、フランはただ黙って受け止めていた。







「ねえフラン。いえ、『ご主人様』。

教えてよ。私どうしたらいい? 
死ねばいい? 
死ねる? 
それとも、私に生きていて欲しい? 









……ああ、そうか。そういうこと……」









 マミの目が何かに気が付いたように見開かれる。
まるで、世紀の大発見をしたかのように。
それは、やがて歪んだ笑みへと変わった。
残酷なまでにはっきりとした、醜い情動の発露。
誰もが見ただけで体を震わせるような、凄惨な笑み。













 そして、マミの乾いた唇が、血の気の薄い唇が、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。























































「あなたは、私からすべてを奪って、幻想郷に行かなきゃならないようにした。だってそうすれば、もうずっと一緒に居られるものね」












































 マミの口から飛び出した悪意の槍は、過たずフランの心の一番弱い所を貫いた。










 心をずたずたに引き裂かれ、止めに刺し貫かれたフランの相貌はいかなるものなのか。
向かい合う吸血鬼のうち、片方の目が驚愕で大きく開かれた。















 それを見たマミの、


















 ——————ポキン——————



















 心の中で何かが折れた。







 急にマミは我を取り戻す。
そして、さっきとは真逆に、慌てて弁明を言い出した。




「あ……ちがっ、違うの……そういうつもりじゃ」








 その時のフランの顔を、マミは一生忘れないだろう。
黄金色の瞳が怯えたように揺らぎ、耐え切れなくなったマミは立ち上がって逃げ出した。
そして、寝室に飛び込む。














 こんな時だけ膝に力が戻る自分を卑怯だとなじりながら。
























マミさんェ・・・・・



途中、マミさんが乙女にあるまじき言動をしていますが、あんまり気にしないでやってください。
マミさんもストレスたまってるんです。



それと、さやかちゃんの回との落差がひどいw



まあ、マミさんのおppiがオアシス的なあれになるんですがね(ゲス顔)。


>>96

そこで紅魔館の良心、美鈴の出番ですよ

くれないみすずさん人食い妖怪じゃん

くれないみすずちゃんは紅魔館の花壇を管理する心優しい妖怪ですよー

確かにちょっと不便な生き物にはなったが
魔法少女と魔女の全貌を知った後で幻想郷に移り住んだら、きっとそんな気持ちすっ飛んじゃうぜ?
友達もいっぱい出来るよ!

「人間じゃなくなってた+いずれ魔女(化物)化する」に対し
「みんな死ぬしかないじゃない!!」で返した子が妖怪化させられれば‥どんな伝え方してもこうなるのか?

まあ‥少なくとも冷静に対応してもらうのは無理だな
そう考えるとこれならまだマシなほうか

あと托卵器との契約はどういう扱いになるのかちょっと気になるところだ

魂を抜き取ったQBじゃなくて、フランの方に矛先が向いてるのが余計に居たたまれないな

おお、皆さん期待通りの反応ですww

>>97>>98>>100
みすずの人気に嫉妬。
みすずは作者によってキャラがかなりぶれますね〜
咲夜さんにナイフ刺されて百合百合したり、フランちゃんにフルボッコにされてないたり、おぜう様にはぶられたり、魔理沙にマスパ喰らわされたり、基本Mですw
たまに、シリアス系だと人食い妖怪らしい面を見せることもありますが・・・・・

>>102
アリス「呼んだ?」


>>103
それはおいおい。前回で、その辺がどうなったのかちょっと明かしたつもりですw
SGの行方についても、すでに作中でヒント(というか答え)が出てます。
契約自体は既に完了されていて、後はマミさんがつけを払えば(=魔女化すれば)いいのですが、
吸血鬼になっちゃったので、魔女化しなくて済むようになりました。
ただ、これはいわば、ツケを払うために、闇金から金を借りた状態で、
・・・・・まあ、そういうことです。


>>104
ハッハッハッ何をおっしゃるwwwwwwww
まだ、こんなもので済むわけないじゃないですかワラ







              *





 ほむらと別れた後、まどかは駅前で親友の一人、志筑仁美を見つけた。

 様子がおかしいので話し掛けてみると、意味不明なことを言う。
よくよく見てみると、首筋に魔女の口付け。
ほむらにもマミにも連絡が取れず、
しかし仁美を放っておくこともできず、
まどかは彼女に付いて行くことにする。



 行きついた先は町はずれの廃工場。


 そこには仁美と同じように魔女の口付けを受けた人たちが集まっていた。
そして、密室に籠り、化学洗剤から毒ガスを発生させて集団自殺を図ろうとする。

 まどかはそれを妨害した。
途端に、呪われた幽鬼と化した人々に囲まれる。




 慌てて逃げた先に使い魔。
まるで不幸のピタゴラスイッチのように、そのまま魔女の結界に引き込まれてしまった。








 大きな青い卵型の空間の中。
まるで水の中に居るかのようにふわふわする。
空間を覆う壁にはメリーゴーランドのような馬の乗り物に、テレビ画面が乗せてある。
そして、そのテレビ画面には、魔女に食い千切られるマミと、魔女を破壊するフランの姿。









 その映像は、まどかの後悔を表していた。
あの時、マミを助けようとしなかった自分、ただ見て居るしかできなかった臆病な自分。
それを責める罰なのだと、まどかは薄れゆく意識の中で思った。






 だんだん自分という存在があやふやになる。
この青い、水とも空気とも言えない何かに満たされた空間に、徐々に自分が溶けていくような気がした。

 甲高い笑い声のようなものを発しながら、片羽根の人形が現れる。
それは、先ほどまどかをこの空間に引きずり込んだ使い魔だ。
そして、その使い魔たちにエスコートされるように、羽根の生えたパソコンのモニターが近寄って来た。







 これがこの結界の主なのだろうか。



 モニターの中には見たこともない記号と、長いツインテールの女の子のシルエットが現れた。








 魔女はまどかの傍を通り過ぎると、そのまま離れていく。
が、魔女を運んでいた使い魔はそのまままどかを捕まえる。
そして、数体がそれぞれまどかの四肢を引っ張った。
そのせいでまどかの手足はあり得ないぐらい伸びた。
結界の中で、他との輪郭が曖昧になってしまったまどかは、まるでゴムで出来ているかのように伸び切った。








 きっと私が、弱虫で、嘘つきだったから……バチが、当たっちゃったんだ。











 まどかは絶望する。
もはや抵抗はおろか、助けを求める気力すら失い、ただされるがままに身を任せる。
どんどん伸びる手足が痛い。
まどかは悲鳴を上げた。



















 だが、希望はそこに駆けつけた。













 突然、激しい破壊音と共に青い幾筋かの閃光が走ったかと思うと、まどかを引っ張っていた
使い魔が真っ二つになった。
更に、まどかの近くを漂っていた魔女も勢いよく吹っ飛んでいく。








 同時に、あやふやになっていたまどかの輪郭が元に戻り、意識がはっきりとする。
伸びていた手足も元に戻り、それまで絶望に覆われていた心も、霧が晴れたようにすっきりとした。















「えっ……さやかちゃん!?」














 すぐ下の方(と言っていいのだろうか?)に人が居るのを見つけた。









 体を包む長く白いマントがはためき、その向こうに青いミニスカートと健康的な太腿が覗く。
その青髪の英姿颯爽とした騎士の姿には嫌という程見覚えがあった。
しかし、その服装は全く見たことがない。







 蒼髪の騎士は名前を呼ばれると、微かにまどかの方を振り向き、口元にうっすらと笑みを浮かべた。
少なくともまどかにはそう見えた。








 まるで強風に煽られているかのようにマントがはためく。
その白い布の隙間から、まどかは確かに見た。
その手に握られた一本の長剣。
磨かれた光沢のある白銀の刃が青い騎士の姿を映す。









 騎士は親友を守るように異形の化け物の前に立ち塞がる。













 化け物は体を揺らし、そのモニターから多数の手下が這い出るように現れた。
ゆっくりとこちらに向かって来る使い魔は、片羽の人形。
致命的にまで可愛くない顔付き。
奇妙な笑い声を上げながら敵を囲む。
そしてまた、騎士もそれに呼応するかのように飛び出す。
そして、掛け声一発、自分を取り囲む使い魔たちを、白銀の剣で叩き切っていく。
最早、蟷螂の斧では彼女の怒りの刃を止められない。









 目にも留まらぬ速さ。電光石火の如く。










 瞬く間に使い魔は殲滅され、残された魔女はモニターに尚もフランやマミの映像を映す。
それは魔女の精一杯の抵抗。
しかして蒼髪の剣士、怒髪天を衝く。








「はああああああああっ!!」







 騎士は激昂。


 魔女は恐慌。


 剣技は速攻。







 まどかを苛み、マミさんを侮辱した悪鬼羅刹め! 

 地獄に堕ちて牛頭馬頭に虐げられろッ!!








 大切な恩人を精神攻撃の材料に使い、その上親友に無用な自責を強いた魔女に、蒼いヒーローは憤激し、
神速の剣を浴びせる。











「これでとどめだぁ!!」








 咆哮博撃。光芒一閃。魔女を斬る。



 もはやただの的と化した箱に、剣士は尚も容赦なし。

 





 轟き渡るは怒りの絶叫。

 それは疾風と怒涛(シュトゥルム・ウント・ドラング)。

 最後の最後に切り裂き魔(スクワルタトーレ)。


















 灰塵に帰せッ!!





















 剣の刀身が射出され、魔女に突き刺さったまま結界の底に彼女を張り付けに。
そうして爆発し、箱の中から人形が飛び出る。
球体関節の少女、放物線を描いて宙に舞い上がり、重力に捉まれば、底にぐしゃりと墜落。





 遺言残す間もなく、魔女は嘆きの種——漆黒の宝石に逆戻り。



 同時に、結界の中に浮いていたメリーゴーランドも落下、結界自体も崩れていく。























                *









 廃工場には、魔女の口付けをされていた人たちが倒れていた。

 その中には、もちろん志筑仁美の姿もある。
だが、彼女たちに脅威はもうない。
なぜなら、魔女はルーキーの魔法少女によって倒されたからだ。

 だが、そこにもう一人、魔法少女候補生の活躍があったことも忘れてはならない。
きっと、その少女の勇気ある行動がなければ、廃工場に集められた人々は二度と帰ってくることはなかっただろう。













「いやーゴメンゴメン。危機一髪ってとこだったねぇ」





 頭の後ろで両手を組みながらさやかは笑って言った。
それはまるで、悪戯が友達にばれてしまった時のような口調で、気軽なものだった。
戦いが終わって緊張が緩んだのか、随分とリラックスしていた。
初めての魔女討伐を終え、一仕事を完了した達成感と、親友二人を含めた大勢の人を助けられた充足感からか、
さやかは余裕の様子だ。







 反対に、まどかは戸惑っていた。

 助けられたのはいいものの、何故か親友が魔法少女になっている。
昼間にキュゥべえと別れたはずなのに、さやかは自分の知らない所で契約していた。
マミのような目に遭うかもしれないのにも拘らず、だ。彼女は怖くないのだろうか? 
助けられた安心と感謝と共に、そんな疑念や困惑が顔を持ち上げる。







「さやかちゃん……その格好」




 まどかの戸惑いと不安が混ざった声に、さやかは慌てて取り繕うように笑う。


「ん? あーはっは、んーまあ何、心境の変化っていうのかな?」



 そう言って頭を掻きながら、さやかはいつもの軽い調子で続ける。
その様子に、不安げなところはないが、逆にまどかにはそれが心配だった。

 さやかは辛い時でも無理して空元気を出すことがある。
マミのことは、さやかもよく分かっている筈だ。
本当は不安があるはずなのに、無い訳ないのに、さやかはそれをおくびにも出さない。
それがまどかが不安がる理由だった。
加えて言うなら、さやかが調子に乗っている時は、最後に大抵失敗をやらかすのだ。
だから、余計に心配だった。





 そんなまどかを見て、さやかはさらに安心させるように言った。


「大丈夫だって! 初めてにしちゃ、上手くやったでしょ? 私」

「でも……」


 それでもまどかの不安は拭えない。

 両手を胸の前で組み、眉尻を下げて心配そうにさやかを見つめる。
まどかの、そんな愛らしい姿に、さやかは内心クスリと笑う。




 ちゃんと心配してくれるなんて、まどかは可愛いなあ。





 まどかの心配の理由も考えず、さやかはそんな呑気なことを考えていた。













 と……、


 カツッ。




 小さな足音。さやかはハッとして振り返り、まどかもさやかの背後に目を向ける。




 そこに現れた人物を見て、二人の体は固まった。
和やかな空気が一転、即座に張り詰める。
今まで気が緩んでいたさやかは、再び緊張し、まどかも思わず身構えた。







 視界に映るのは長い黒髪。
月と街の灯りを背後に、黒々とした少女のシルエットが現れる。
その姿は、この街に引っ越してきたイレギュラーの魔法少女。
その力も、実力も未知数な、謎多き転校生。
故に、二人は警戒の色を濃くしたのだった。






「貴女は……」




 暁美ほむらはさやかを睨みつけながら、小さいながら、悔しさの籠もったような声色で言った。



 その剣呑な態度に、さやかも睨みを返す。







 一度はさやかもほむらのことを見直した。
何だかんだ言って、あの狂った空間から自分とまどかを助け出そうとしてくれたのだ。
だから、さやかもほむらと近付くつもりはあった。
彼女は実力ある魔法少女だろう。
もし説得できれば、彼女だって街のために戦ってくれるかもしれないし、
契約したばかりの自分には心強い味方になるかもしれないと思ったのだ。
だが、結局向こうに友好的な関係を築く意思がなければ、仲良くはなれない。
さやかの抱いた小さな幻想は、脆くも崩れ去った。


「何よ。なんか文句あるの?」

 結果、さやかは、失望感や転校生の態度に辟易したのもあり、かなり棘のある言葉を返してしまった。
自分で言って、少し後悔したほどだ。
まだ昨日の礼も言っていないのに、さすがに失礼だろうか、と思う。
一方で、まどかは、二人の間に流れ始めた不穏な空気に戸惑うしかなく、
ただ視線を交互に行き来させるだけだった。


 さやかは、そんなまどかの様子を視界の端に捉えながら、しかし、ほむらの目から視線を逸らさない。
ほむらもさやかの青い瞳をただ睨み付けている。







 そうしてしばらく互いに敵意をぶつけ合う。合ってしまう。初めてマミと会った時みたいに。
















 だが、睨みあうのは少しの間。





 不意にほむらが踵を返した。


 今まで張り詰めていた空気が緩み、さやかとまどかの肩から力が抜けた。








「精々、自分の願いに後悔しないようにしなさい」





 そんな負け惜しみのような捨て台詞を残して、ほむらは闇に消えた。
そんなにグリーフシードを取られたのが悔しかったのだろうか?






 余計なお世話よ。








 すっかりほむらの評価を元に戻したさやかは、そう思うのであった。











うん。
戦闘描写にもっと勢いが欲しい。


さやかちゃんの戦闘シーンは、アニメのシーンを意識して、勢いが出るように書きましたが・・・・




ところで、ここで漢字に振り仮名を振ったり、文字に傍点を付けたりするのはどうしたらいいんでしょうかね?


振り仮名は()になるし、傍点は消えるし・・・・


振り仮名や傍点を振る方法があるなら教えろください(´・д・`)

あと、今回の書き方読みにくかったら、いってください変えますので
















悠木さんがアップを始めました

砲符「ティロ・フィナーレ」
砲符「ボンバルダメント」

でも妹欲しかったわー

>>190
小学校上級生の妹n(ry

夜、家族がそろい夕食を食べ始める

妹、(父の)iPhoneに夢中
母に叱られ舌打ち→食べ始める

妹がTV、iPhoneに夢中になって食べない
父に叱られ「ワカッテルヨ!!」となぜか大声で怒り出す

妹、畳で立ち膝で食べ始める
俺が注意すると「くぁwせdrftgyふじこlp(ry」何故かヒステリーを起こす

風呂上り、髪の毛濡れてない

その後兄は妹系キャラのアニメを鑑賞し、「妹ってなんだっけ…」と自室でつぶやく

就寝、枕を涙で濡らすのでした…

コレでも、妹が欲しいと申すか…(震え声)



友人に阿部 真理亜がいるんだが…
いや、何でもない。

>>196
幼馴染がいて損なことなど、なんにもないのでは?

ほむらと咲夜さんって共通点結構あるよね


咲夜さんに「早漏野郎!」と罵られたい方が出没されてますね^^;
我々の業界ではご褒美です(キリッ


>>212
含みのある言い方、、、気になる
「阿部」を見ると、どうしても「阿部寛」が思い浮かんでくるんだが・・・・・


>>213
知らぬ間に彼氏作ってます(´・д・`)


>>219
・時間停止
・執着?忠誠?(咲夜→おぜう ほむら→まどか)
・ひn(ピチューン
・変態(二次)

なるほど、共通点が多い・・・・(ほとんど二次だけど)



真面目な話、東方とまどマギクロスが少ないのは前々から不思議に思ってました。
まあ、咲夜さんはループしてるわけでも、追い詰められてるわけでも、コミュ障な訳でもないけど・・・・・





                   *






 日が沈んだ。

 なんとなくではなく、はっきりと分かる。今、丁度今、日が沈んだ。


 今朝も、日の出をぴったり言い当てられた。
昼間には、正午丁度、太陽が南天に達したのも感じ取った。
どうやら、吸血鬼になったことによって、完全に太陽の位置を知ることが出来るようになったらしい。
太陽に嫌われ、夜の世界に追いやられた存在だからこそ、太陽のことがよく分かるのだろう。


 それにしても、不思議なものだ。

 毎日毎日その恩恵を享受しておきながら、普段はほとんどその存在のありがたみを感じることがなかったのに、
いざ太陽を失ってみると、理不尽なことに、この世の何よりも太陽が憎たらしく思えてくる。
これが吸血鬼と云うモノだろうか?




 光の入らない真っ暗な寝室で、マミはベッドの上で膝を抱えて考え事をしていた。


 何もすることがない。
正確にはひとつしたいことがあるのだが、やる気が起きない。
動こうという意思も、生理的な欲求に基づくその意思も、ただの「億劫」という感情に打ち負かされてしまい、
結局マミはその場から微動だにせず、ひもじいままにひたすら思考の海に意識を埋没させるにとどまっていたのだった。


 それはともかく、動きたくないマミはずっとベッドの上で考え事をするか、睡眠をとるかの
どちらかで、この日を過ごしていた。
結局、昨晩から一日中自室に引き籠もっていたのだ。




 だが、睡眠も考え事もマミにはありがたくないものだった。




 寝れば夢を見る。それも、自分が殺される夢。
あのお菓子の魔女に首を食い千切られる夢。
あのまま鋭利な歯に首を引き裂かれ、頭をぐちゃぐちゃと咀嚼される音と感触が生々しい。
現実にはなかった、ifの可能性なのに、妙なリアリティを持ってマミの記憶に残っている。

 他にも、見上げるほど巨大な魔女に殺されたり、訳の分からないことを叫んだ上に何故かかつての
弟子を殺し、自分もまどかに殺されたり、突然学校で魔女に襲われクラスメートや教師たちが
使い魔に殺されていくのを目撃してしまう夢を見た。




 さっさと忘れたいのに、悪夢は記憶に残って時々思い出してしまう。







 これは予知夢なのだろうか? 未来の私の行動を示しているのだろうか?







 そして、考え事と言えば、今の自分の状態しかない。それしか考えられない。





 私は、完全に吸血鬼になったんだ。






 フランドールはそう言っていた。だから、あの地獄のような苦しみはなくなった。
もうあれに苦しめられることはない。呻き声を上げながら、このベッドでのた打ち回ることもない。
なぜなら、それは肉体が人間から妖怪へ変化する故のものだったから。


 背中に現れた異形の印。脱いでいた上着を身につけると、そのせいでマミの胸部は
(その豊満さも相まって)やたら窮屈だった。
まるで、サイズの合っていない服を着たみたいに。

 その気になれば魔法で服を貫通させることもできる。そうすればこの窮屈さはなくなる。
けれど、マミはしない。
なぜなら、それは自分がそういう存在に変わり果てたことを認めることになるからだ。



 マミは認めたくない。まだ人間で居たい。



 だが、現実は非情だ。
今日一日だけで自分が人ではなくなったことを嫌というほど思い知らされた。
正確に太陽の動きが分かるなんて、まさにその証拠だ。





 どうしてこんなことになってしまったんだろう? 
どうしてもっと慎重に戦わなかったのだろう? 
どうしてフランは自分を吸血鬼にしたんだろう?








 昨日は、ショックのあまりフランに当たってしまった。



 酷い言葉を投げかけた。思い出したくもない激しい非難を浴びせた。
散々怒鳴って、自分の羽を自分で引っこ抜くという暴挙にも出て、挙句の果てには最後の最後で
惨たらしい言葉を叩き付けた。
その時のフランの表情が忘れられない。
そうしてここに逃げ入って、それからずっとこんな調子だ。


 どうしようもなく居た堪れなかった。
だから、顔を合わせるのが気まずい。
どれ程傷つけてしまったのだろうか。
あんな身勝手な、聞くに堪えない罵詈雑言を投げつけ、目の前で自分を傷つけるようなこともして、
おまけに暴力も振って。……そりゃあ、あんな顔もするだろう。
あの時のフランの顔を見た時、マミは酷く後悔し、そして恐怖した。
自分の犯した罪を、まざまざと見せつけられたから。
自分がどれだけフランを傷つけたか分かったから。



 フランが隣の居間に居るのは気配で分かる。
けれど、マミの居る寝室には決して踏み込んでこない。
それは、彼女なりの気遣いだろうか。
それとも、もう自分とは関わりたくないのだろうか。



 フランは悪くない。非があるのは自分。
これは、愚かな自分が招いた応報。
あの場では、フランの行動は最善だったのだろう。
それを責めても、ただの八つ当たりと責任の擦り付けでしかない。




 理性を失いかけた状態でフランはよくやってくれた。
そう、あの子はベストを尽くしたのだから、それを責めてはいけない。してはいけないのに。
フランがマミに対して罪悪感を抱いているのは分かっていたのに、
その心を抉るようなことを言ってしまった。










 最低だ、私。










 最早、思考の整理はつかない。
丸一日費やしても頭の中はごちゃごちゃのままだ。
吸血鬼になってしまったことへの戸惑いと絶望、油断したことへの後悔、
フランへ八つ当たりしてしまった自己嫌悪。



 そんな負の感情が今のマミを支配していた。











 希望は見出せない。




 私は、死ねない。











 かつてあれほど生きたいと願った。そして、二度死にかけて、二度とも辛くも生き延びた。







 一度目はあの交通事故。二度目は病院に居た魔女。








 確かに望みは叶った。でも、代償も大きかった。


 孤独に魔女と戦う運命を背負わなければならなくなり、そして今度は人として生きることは出来なくなった。







 今なら分かる。自分自身の本当の願いが。




 ただ、家族と共に、普通の少女として生きたかったのだ。
交通事故以前に、当たり前に享受していた幸せを取り戻したかったのだ。
ただ、それだけなのだ。魔法少女にも、吸血鬼にもなりたくなんてなかった。










 なのに、現実は残酷だ。


 死にはしなかった。けれど、あの幸せはもう二度と戻らない。
これから何年生きようとも、もう昔に戻ることは出来ないのだ。





 私の目の前には、この部屋よりも暗い闇が広がっている。



 吸血鬼になったせいか、暗闇でも見通すことが出来るが、その闇は見通せない。






 そこに、一筋の明かりもない。



 それは永遠の暗闇。




 これから自分はこの中で生きていくしかないのだ。生き続けていくしかないのだ。






 フランを恨んだ。こんなことになる引き金を引いた自分自身を罵った。






 フランは、私と一緒に居ようとしてくれた。自分がしたことを謝ってくれた。
責任を取ると言ってくれた。誠実だった。


 でも、私はフランを責めた。彼女の優しさに付け込んだのだ。
酷い言葉を投げかけて、思いっ切り傷つけた。
そのことが悔しくて、そんな弱っちい自分が嫌で、ずっと自分を責めている。
ぐるぐると同じ思考が頭の中を巡り、袋小路から抜け出せなくなってしまっていた。




 どす黒い感情が私の胸を覆う。
心臓が圧迫されるような、肺が潰されるような、息苦しい感覚。
体の中で広がっていくそれは、ありとあらゆる負の感情の塊。
恨み、憎しみ、嫌悪、怒り、悔恨、破壊衝動……それらが私を覆い尽くす。










 本当は、これは罰なのかもしれない。











 最愛の両親を見捨てて自分だけ奇跡を使って生き残ったこと。
離れたく無くて、今が恋しくて、フランと堕落しきった日々を過ごし、人として、魔法少女としての
尊厳を捨て去ったこと。
自らが選んだ道だというのに、まどかやさやかにその重荷を分けて自分の負担を軽くしようとしたこと。


 それら、大罪への罰なのだ。




























「オチテシマイナサイ」













 不意に耳元で囁かれたその言葉は、猛毒。
それは、たいそう甘美な響きを持っていて、マミの鼓膜を震わせ、頭蓋内で反響し、
やがて神経に乗って全身へと浸透していく。
ほんの一瞬の間に体の末端にまで到達したそれは、すぐに快感となって脳髄まで戻って来た。
生理的な反応なのか、意図せず身震いしてしまう。






 振り向くと、ベッドの上に立つ人影。
自分と同じ姿をした全裸の異形が、血の如き緋色の瞳でこちらを見下ろしている。
その口元には、牙を見せた残虐な笑み。
ウェーブのかかった金髪が肩や背中に散らばり、その背中からは黒々としたソレが
圧迫から解放されたように広げられていた。









 己の背中でソレが膨れ上がり、胸元が急に苦しくなる。
その異形の証が自己の存在を主張し出し、私の心を人ならざるモノへ堕さんと暴れる。









 それは嵐のように。激しく、強く、禍々しく。

 抗う力のない私は、そうして飲み込まれていった。
もう、流れに身を任せるしかない。どうなっても、いいから。


 目の前の“私”が笑みを濃くする。









 ……ダメよ。私は、まだ……。















 モウイイジャナイ。モウ、クルシマナクタッテ、イイジャナイ。


 ツライノデショウ? ダカラ、ワルアガキハモウシナクテイイノヨ。















 ……ごめんなさい。














 鹿目さん、美樹さん、フラン————みんな————ごめんなさい……。




















 落ちていく…………。
















 墜ちていく……。





















 堕ちていく…………。


























「クルイナサイ。マミ」















 “私”は呟く。

 そして、私に向かってゆっくりと手を伸ばしてきた。
白く、ほっそりとした指の先に、野獣のように鋭くとがった爪が付いて、それは近づいてきただけで
皮膚が裂けそうなほど冷たく微かな光を反射していた。

 その指先が頬に触れる。体温のないその指先は、やはり、氷のようだった。











 これが、死者の指。死者の温度。















 ——————あゝ、心地よい——————





















 人ではなく、魔法少女ではなく。



 正義を失い堕落した愚か者は、深く暗い闇の底へ真っ逆さまに落ちていく。



 冷血な狂気は、苦悩と苦痛に火照ったマミにとって気持ちがいいものだった。


 だから、彼女は黄金色の瞳が収まった眼を閉じ、ゆったりとそれに身を委ねる。


















 私と“私”が一つになり、静かに混ざり合って溶けていく。
マミは、それを穏やかな心地で感じていた。
苦しみから解放された心は、狂気という名の蜘蛛の巣に絡め取られたのだ。
























 ————————そうして悪魔になる。

















           *













————————お腹が空いたわ————————























           * 














マミさんが逝っちまいました・・・




手直ししながら投下してたらいつの間にかこんな時間にorz


おやすみなしぃ








咲夜さんはもう少し待てください

更新早いな


「あの方」か
オリキャラ(読者にとってさえ「見たこともない」)じゃあないのか
東方勢ならとりあえず思い当たるのは3人
単独で現れたことが気になるが
まどマギ勢なら2人思い当たるが「あの方」とか呼ばれてるしなあ

乙でした
もう少しで4月ですが、時期的にそろそろ投下が減ってくると覚悟した方がよろしいでしょうか?

>>281
個人的な付き合いでならともかく、こういった匿名希望の場でそういった質問はどうかと思うぞ



叛逆のpvキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!

飽きが待ち遠しいですね!!

キレほむと謎のシルエットの正体が知りたい




>>277
「あの方」です。
すぐ↓で分るんですけどねww

>>282
どうなんでしょうね?
まだ解りません。


今日の部分はかなりの書き直しをしたところです。
粗があるかもしれませんので、あったらご指摘をお願いします。









                 *






 少女は、さやかの背後5m程の所に立っていた。







 何時現れたのか、気配は全くしなかった。
ただ、いつの間にかそこに現れ、いつの間にかこちらを見つめていた。





 それまで熱されていた空気が急速に冷えていく。
うるさく路地裏に響いていた戦いの音は消え、代わりに不自然な静寂が辺りを包み始めた。
まるで、熱気の籠る厨房から大型の業務用冷凍庫に入ったような急激な温度の変化。
誰もが思わず身震いした。



「誰?」



 さやかも警戒するように立ち上がり、剣を拾う。

 突然現れた少女は答えない。表情も全く変わることがない。
ただ、不気味なほど固まった顔貌をさやかたちに向けている。







 その容姿はとにかく奇抜なものだった。





 青いメイド服に白いエプロン。スカートはひざ丈。袖は半そで。
白のブラウスに、同じく白いフリル付きのカチューシャを装備。
銀色のボブはややくすんでいて光沢は鈍い。
両方のもみあげを短い三つ編みを緑色のリボンで縛るという珍しい髪形だ。
眼鏡を掛けて、顔の印象を分からなくしている。
年恰好は、まどかたちより少し上。
高校生ぐらいだろうか。随分と大人びた雰囲気を纏っているが。




 まるで、アニメに出てくるキャラクターとしての「メイド」のような格好だった。
持ち物も、晴れているのに男物の大きな蝙蝠傘に、小柄なまどかならすっぽり入ってしまいそうな程
大きいトランクという不審さ。
旅行者として見るには、どうにも胡散臭かった。


 顔立ちは、日本人ではない。肌は雪のように白く、顔の彫りは深い。
輪郭は細く、繊細なガラス細工をイメージさせる。
ここまでは、普通の美少女と言ってもいい。
だが、彼女の顔が、とても人間の物ではないような無機質な物に、まどかには思えた。
なぜなら、その目は、ガラス玉のように生気を感じさせない、不気味な目だからだ。



 深く澄んだ蒼色の瞳は何の感情も語らず、無表情というより、人形そのもののようだ。



 ほむらも無表情なことが多いが、彼女の眼はまだお喋りな方だ。
このメイド姿の少女に比べれば……。








 直感的に、まどかと赤い魔法少女は、ヤバいと悟った。こいつは相手にしては駄目だと。













「もし」










 少女が呟いた。


 意外にも、発音の綺麗な日本語だった。
とはいえ、そんなことに気を取られることなく、相対する三人の少女たちは警戒を解かず、
空気がだんだんと張り詰めてくる。固唾を飲んでメイド姿の少女の動向を窺う。





「お取り込み中申し訳ございません。一つ伺いたいことがございまして、お時間よろしいでしょか?」




 やたら畏まった固い言葉で話しかけてくる。日本語はかなり流暢なようだ。


 その異様な風貌とのアンバランスな言葉遣いに、三人はますます警戒を強める。
三人が黙りこむと、メイド服の少女の方も口を閉じたまま固まった。
相変わらず、その表情は仮面でも被っているかのように変化しない。




 赤い魔法少女はその様子に一層不審を抱く。
警戒を解かないように、じっくりと観察する。
そして何より恐ろしいことに、







 ————隙が無い。








 どこから切りかかっても対応される。それなりに場数を踏んできた赤の少女には分かる。
直感的に、少女はこのメイドの実力の高さを悟っていた。
それは、この目の前の青二才には無理だろうけど……。



 そもそも、こいつは何なんだ? 
本物の武器をぶつけ合う本物の殺し合いを「お取り込み中」の一言で、眉一つ動かさずに片付けやがった。
普通の、堅気のヤツじゃないことは確かだ。
同じ魔法少女か? だとしたら、相当の熟練者だな。





 赤の少女が自問自答している間も、ピリピリとした空気が辺りには張り詰めて、沈黙が続いた。誰も口を開かない。




「君は……何者だい?」


 結局口を開いたのは、キュゥべえだった。
赤の少女以外の視線がまどかの傍に座る彼に集中する。
彼女だけはメイド姿の少女から視線を離さない。否、離せない。




 一方で、メイドはキュゥべえをちらりと見る。
が、すぐに興味を失っていまったのか、傘とトランクを手に持ったまま、滑らかな動きで頭を下げた。



「失礼。私、紅魔館が女中長にして、当館の主でおわします偉大なる紅き夜の王——レミリア・スカーレット様に仕える従者である、
十六夜咲夜と申します。
自己紹介が遅れたことをお詫び申し上げます」



 メイド姿の少女は、やはり本当にメイドのようだった。
慇懃な言葉遣いとともに、丁寧にお辞儀をする。
どうやら、かなり訓練されたメイドのようで、仕草や言葉遣いの一つ一つが洗練されていて、
礼儀正しい。
話していることは半分も理解できないが。



 それにしても、十六夜咲夜とは、見た目とは違って随分日本人らしい名前だ。
仕えている相手は、外国人っぽいが。


「はぁ? 意味分かんないんだけど」

 赤い少女が首をかしげる。その言葉は、今の三人の心情を端的に表していた。
軽そうな口調で尋ねながらも、決して警戒は解かない。
解いた瞬間、グサリと刺されそうな危なさがメイドにはあったからだ。



「それは致し方のないことであると承知しております。
ただ、時間もあまりございませんので、手短に用件を済まします」


 メイドは静かな声で続ける。
敬語を散りばめ、丁寧な言い方に努め、時間がないからさっさと用件を済ましたいと述べるのだが、
何となく上から目線で言われている気がして、どうにもすっきりしない。
というか、若干の不快さを覚えた。
そして、それは青い方も同じだったのだろう。
ただし、彼女と赤い少女には決定的な違いがあった。
それは、この目の前のメイドの恐ろしさを理解しているか否か、ということ。




「だから何なのよ、あんた!? 邪魔しないでくれる?」

 よく住宅街にいる騒がしく吠え立てる番犬のように、さやかはメイドに噛みついた。
そう、まさに臥せる虎に吼える子犬といった感じだ。
よくもまあ、こんな奴にそんな元気よく食って掛かれるものだと、赤い少女は舌を巻いた。
恐れ知らずというか、無知というか、それ自体が恐ろしい。
それと同時に、少女を大いにヒヤヒヤさせてくれる。


 ただ、メイドの方が大人であり、さやかの激しい言葉にも動じなかったのは幸いだった。

「申し訳ありません。ただ少し、お時間を戴ければありがたいのです。
貴女方は、少々、他とは違われます故」

 相変わらず、淡々と一本調子で喋るメイド。
表情に変化は微細も見られず、ただ機械的に、赤いルージュを塗った唇が動き、一切の感情を排した事務的な声が紡ぎ出されるだけ。
背筋が凍るほどの美貌を持つだけに、その様子は強烈な違和感を生み出し、
さらに黄昏の光がその顔に作り出すコントラストが不気味さをより一層引き立たせた。



 ふと、赤の少女は思う。こいつとキュゥべえは似ている、と。




 両者とも、整った造形を持ち、喋る時も顔が全く変わらない。
キュゥべえに至っては、口すら動かさずに喋る。
それに比べれば、メイドの方がまだ人間味はあるか。
少なくとも、見かけは人間だし。


 そう思いつつ、少女は先を促す。
このメイドが何者か、自己紹介を聞いただけではよく分からなかったが、まともでないのはよくよく理解できた。
何しろ、いつからそこで見ていたのか知らないが、魔法少女を見てもその正体を尋ねるどころか、
「他とは違う」の一言で片づけたその物言いに、このメイドとは一刻も早くおさらばしたいと思ったからだ。


「で? 用件ってのは何なんだい?」

 できるだけ平静を装う。メイドの方は例の如く、棒読みの様なセリフで答えた。

「ええ。では、申し上げます。私、現在人を探しております。ご存知ありませんか? 
見た目が10にも満たない小さな少女に」





「あ?」


「あ……」


「え……」


「なるほど」




 反応はそれぞれだった。

 事情をよく知らない赤い魔法少女は完全に分からないというふうに首をかしげた。
一方で、まどかとさやかはメイドの言葉にピンと来たらしく、メイドの探し人のことが分かった。
そしてキュゥべえは、もっと深いところの事情まで察することが出来た。
その反応の違いに、メイドの少女は気が付いたのだろうか? 
尚も淡々と言葉を繋いでいく。


「名は、フランドール・スカーレットと言います。我が主、レミリアお嬢様の妹君にございます」



「フランドール……。へぇ。ひょっとして、吸血鬼かい?」



 勘のいい赤い少女は、少ない情報からおおよその事実を見当出来た。
自分が相手にする、マミを吸血鬼にした張本人。
先程青二才がポツリと漏らした「フラン」という名前。
それを、「フランドール」を略した愛称と考えるなら、その結論に至るのはすぐだったからだ。



「おや、ご存知のようですね」




 メイドの声に変化はなく、表情も微動だにしない。
全く驚いた様子は見受けられなかったが、台詞は意外な時に使う感嘆詞を含んでいた。




 少女はその「フランドール」なる吸血鬼のことは全く知らない。
狙う理由はあっても、事情は把握してない。
だから、それを知っているであろう、青いのとそのお友達に丸投げする。


「ちょっと、話を小耳に挟んだだけさ」


 吸血鬼を狙っているということは隠す。
コイツと今、敵対するのは得策ではない。
得体の知れない相手。逃げられるなら逃げ出したいが、向こうに害意もないし、逃がしてくれそうにない。
なら、ここはうまくやり過ごすのが一番だろう。



 と、そこで初めてメイドの表情が変化した。
と言っても、目がほんの1ミリ細くなったぐらいの、変化と言えないような僅かな変化だが、
それでも確かに動いた。
蒼い瞳は少女の赤い衣装を映し、そこに僅かに興味の色が着いた。




 やっぱり、興味を持たれたか。でも、青いのがさっきのことを言い出す前に、コイツらに丸投げしちまえ。



 先程、さやかに「フランドール」を狙っていると言ったのをリークされたらかなわない。
少女は自分とメイドの間に立つさやかを、軽く顎でしゃくった。


「いや、居場所は知らないんだけどね。そこの二人なら知っているみたいだけど……」

 ウィーンという機会の音が聞こえてきそうな動きで、メイドがさやかに顔を向ける。
本当に機械的な、人間とは思えないような不自然な動き。



「な、何よ」

 メイドの無感情な視線に怯みながらも、さやかは精一杯の虚勢を張ってメイドを睨む。


「あんたたちみたいな奴らに、フランちゃんとマミさんの居場所なんか教えるもんか」




 ああ、こういう奴を「馬鹿」っていうんだろうな。




 赤い少女はしみじみと思った。
もうちょっと察しが良くならないものかと呆れるが、それでも彼女のその無謀さがあるから楽になっていい。
虎の相手は、この恐れ知らずの子犬に任せて、さっさと退散しよう。






「フランちゃん、ですか……」







 さやかの言葉に、メイドは口の端を釣り上げるように笑った。

 先程までの能面のような顔に負けず劣らず不気味な笑みだ。



「何笑ってんのよ。何が可笑しいの?」

「いえ。ただ、自分より遥かに年上で、遥かに高貴な身分の相手に、ちゃん付けとは……。
……恐れ入りますわ」


 メイドはかなりの侮蔑をこめた目でさやかを見据えた。
それまでほとんど情動を見せなかったメイドが急に見せた激しい侮辱の顔。
赤い少女は、それが相手の地雷だと悟った。
吸血鬼に仕えているというのは本当のようで、しかも本心からのようだ。
そんな相手を、「ちゃん」付けされて呼ばれたら、そりゃあ怒るだろう。
ただ、さやかはそれが分かったのか分からなかったのか、いずれにせよ、あからさまに侮辱されたことで、
また頭に血が上ったらしい。
一度は下ろした剣を再び構えた。



「何よ。悪い? あの子がそれでいいって言ったのよ。なんにも知らないくせに、笑ってんな!」

「おや。妹様と随分親しくなされていたようでございますね。
これはご無礼をおかけしました。謹んで謝罪申し上げます」


 そう言って、メイドは深々と頭を下げた。

 メイドが殊勝に謝ったからだろう、さやかの勢いは殺された。
そのお辞儀の仕方も完璧だったのだが、今この場では、それはわざとやっているに違いない。
どう好意的に見ても、メイドはさやかへの当て擦りのために形だけの謝罪をしたとしか思えなかった。
はじめてみせた人間らしい仕草が、こんな悪辣なものとは、このメイドは相当いい性格をしているのだろう。




 赤い少女は心の中で溜息を吐いた。




 彼女はさやかほど単純ではなく、この程度の挑発に乗るほど気が短くもない。
まず第一、こんな不気味な相手にいきなり切りかかるという選択肢は取らない。
少なくとも、相手の武器が分かるまでは様子見すべきだ。
どの道、吸血鬼狩りはそこまで本気じゃない。
邪魔にならないなら辞めてもいい。
キュゥべえの頼みを無理に聞く必要はないからだ。
だから、このメイドとも事を構えずに済むならそうしたい。


 けれど、それはあくまで赤い少女の意志であって、その眼前に背を向けて立つ、
青いルーキーはそうではなかった。
彼女は、相手の実力も図らず、自分琴線に触れるような言動を許さない。



「くっ……あんた、フランちゃんに何の用なのよ」

「私が仰せつかった命は、迷子の吸血鬼を探し出し、連れ帰ることにございます」



 メイドの言っていることに、少なくとも今のところ矛盾はない。
姉に仕えるメイドが、主人の妹を連れ帰りに来た、という単純な話だ。
ただ、さやかにはそれは言い訳にも聞こえたらしい。
疑っていることを隠しもせず、強気で問い詰める。


「本当に? 信用ならないんだけど。あんたからも、そこの赤い奴とか転校生と同じ匂いがする」

「私の申し上げたことが信用頂けないと? ですが、これは真実です。
最も、証明する方法を今この場で用意できませんが」





 メイドとさやかが問答し始めた。
二人の意識が互いの方向を向き、メイドが自分に興味を失ったのを悟って、赤い少女は少し緊張を緩める。




 今の内なら、ここからずらかれそうだ。




 そう考え、少女は離脱ルートを計算し始める。


 この上、路地を挟む建物の壁を蹴り、その屋上に出て出来る限り早く駆け去ろう。
吸血鬼狩りもやめだ。



 素早く頭を回転させ、少女はここを去る目処を付けると、メイドとさやかの様子を見ながら、
今度は飛び出すタイミングを計る。




 一方で、そんな赤い少女の考えなど露知らず、さやかは目の前のメイドに全力で噛みついていた。


 彼女にとって、フランは恐怖の象徴であると同時に、マミの大切な友達で、
かつその恩人でもあり、いくら怖いと思っても、守る対象に入っているのだ。
例え、本人が想像を絶する強さを持っていたとしても、さやかは正義の魔法少女であり、
このメイドのような、訳の分からない相手に、探しに来たから居場所を教えてと言われて、
「はい、そうですか」なんて言う訳がなかった。



 だからこそ、さやかは堂々と自分の意思を宣言する。




「なら、私はあんたを信用しない。それに、フランちゃんは今大変なの。
アンタみたいな胡散臭い奴に引き渡せないわ!」

















 その途端、メイドの雰囲気が変わった。












 さっきまで人間味を感じさせなかった無表情に、全くの無色だったその貌に、何かどす黒いものが張り付いた。そんな気がした。




 見た目に変化はない。視覚で認識する限り、メイドの無表情は全く変わっていない。
にも拘らず、その全身から滲み出す僅かな冷たい感情が、彼女の纏う空気をがらりと変容させたのだ。
















「……私の目的は、すなわち我が主君の御意志。その邪魔をするということですか?」







 一拍子、間が置かれて続けられた言葉には、案の定、隠しきれない敵意が含まれていた。



「邪魔でも何でもするわよ!!」



 叫ぶさやか。


 流石にメイドの変化に気が付いたのだろう。
敵意を向けられて、さやかに再び火が着いたらしく、威勢よく食って掛かる。





 一方で、二人を観察しながらタイミングを計っていた赤い少女は、その状況の危険さを敏感に察知した。
これはさやかを止めないとヤバいことになる。
直感的にそう思った彼女は、さやかに声をかけようとするのだが、













「左様でございますか」











 静かに、しかしはっきりと告げられたメイドの言葉がそれをさせなかった。


 もう、取り返しのつかないところまで来てしまったのだ。メイドはもう止まらない。
さやかが邪魔をすると、はっきりと言ってしまったから。




 少女の喉が干上がる。





 遠くから聞こえて来ていた街の喧騒がピタリと消え、夕日の差す路地裏が、瞬く間に処刑場へと様変わりする。
幸か不幸か、少女にはそれが分かってしまった。








「ならば、致し方ありません。
私の、我が主君の前に立ち塞がり、妹様の御帰還の妨害をするというのならば……、
貴女を妹様に害を為す、我らがスカーレットの敵とみなし、






故にこれを殲滅します」











「ッ!?」



 ゾオッと、背筋を走り抜ける冷たい何か。全身の毛が逆立ち、膝が笑いだしそうになった。
それを、少女は必死で抑え、手に持った槍をメイドに向ける。いつの間にか、掌は汗でびっしょりになっていた。



 路地全体がびりびりとした空気に包まれる。メイドから放たれるのは、正真正銘、本物の殺気と敵意だ。
先程の戦いが餓鬼同士のチャンバラごっこに思えるような、蒸留され、生成され、濃縮された凶悪極まりない殺意。
人が人を殺すときに向ける、純粋で混じりけのない感情。
そして、これほど純度の高い殺気は、本当に人を殺した奴でなければ出せない。
赤い少女は、直感的にそう思った。




 逃げろ!!




 頭の中で、自分の姿をした誰かがそう叫ぶ。
本当に聞こえそうなほど、頭蓋の中をサイレンが鳴り響き、赤色灯が明滅して、
あらん限りの警告を発している。
このままここに居れば死ぬ。青いのを見捨てて逃げ出せ。
その誰かは、そう言うのだが、しかし少女の体は、まさに蛇に睨まれたカエルの如く、全く言うことを聞かなくなってしまっていた。


 能面のようなメイドの顔。しかし、その眼光は著しく鋭さを増していた。
猛禽類もかくやという獰猛な視線が、さやかを射抜く。本当に人を殺せそうな目だ。





 そう、メイドの殺気はさやかに向いている。
だというのに、直接それを浴びせかけられていないというのに、少女の体は動かず、必死で震え出すのを押さえておかなければならない。
ただ、余波を浴びただけでそれだ。では、さやかはどうだろうか。



 果たして、マントに隠れたその後ろ姿は少女にも分かるほど小刻みに震えていた。
それはそうだろう。少女ですらこの様なのに、このルーキーが耐えられる訳がない。
恐怖しない訳がない。
しかし、それでも美樹さやかは気丈だった。
震えを抑え付け、精一杯虚勢を張り、メイドに反駁する。





「な、何よ!? やるっての? う、受けて立つわよッ!!」






 必死で剣を構えたのが、背後からでも分かった。




 訂正しよう。さやかは青二才だが、その芯の強さは特筆すべきだ。
ベテラン魔法少女である、赤い彼女ですら震え出すほどの殺気をまともに浴びても、
まだ意志がくじけないのは正直、驚きだ。
こんな状況でなければ、少女は素直にさやかに拍手を送りたい。






















 だからだろうか? メイドの動きを見て、警報が最高潮で鳴り響き出しても、少女が飛び出したのは。
























 メイドは、ゆっくりと手に持っていた傘を持ち上げる。
黒い、大きな男物の蝙蝠傘。
杖の代わりに使えるほど丈のあるそれは、女子が片手で持ち上げるのも重そうである。





 傘は水平になる前に止められた。その先端がさやかの足に向けられているのは気のせいではない。












「——ッ!!」


















 ダァン。




 路地に、爆竹を何倍にも大きくしたような音が響き渡る。
それは路地の中で何度も反響し、エコーしながらすぐに消えていった。
あまりにもその音が大きいので、さやかが上げた小さな悲鳴は誰も耳にしなかった。



「ウワッ!!」

 転がるさやか。何が起こったのか分からない。
突然後ろからマントを引っ張られ、息が一瞬止まってしまい、気が付いたら地面に転がり、
傍らで響く絶叫を聞いていたのだ。




 さやかが咳き込みながら顔を上げると、すぐ傍で赤い少女が右足を押さえながら地面に倒れ、
悲鳴を上げながらのた打ち回っていた。




「ちょっ、何!?」





「杏子!」





 キュゥべえに杏子と呼ばれた赤い槍使いは、相変わらず足を押さえたまま地べたに蹲っていた。
右足の膝下は真っ赤な肉が破れたブーツの間から覗いており、その衣装とはまた別の色の赤い液体がおびただしく漏れ出ていた。



 いったい、彼女がどうしてこんなことになっているのか分からない。
だから、思わず硬直してしまう。
状況の理解に努めようとして、彼女は目の前の脅威を失念してしまった。







「おや? 庇われるのですか? ならば、貴女も敵として排除しますわよ」






 ただ、幸いにも、その脅威たるメイドの関心が杏子に向いたおかげで、さやかはすぐにその脅威を思い出すことができた。
慌てて剣を構え直し、メイドを睨みつける。


「あ、あんた!!」


 怒鳴ると、メイドが杏子からさやかに視線を移す。
殺意を隠しもせず、人を傷つけても据わったままの目玉が、ぎょろりと青い剣士を睨みつけた。



「何てことすんの!? 殺す気?」

「ええ。貴女から」




 再び動く傘。何故か、その先には丸い穴があいている。
それは、まるでマミのアレを思い起こさせた。


 それを見て、ようやくさやかは事態を飲み込めた。









 これは傘ではない。傘の形をした、銃だ。








 先程響いた轟音は銃声。杏子と呼ばれた魔法少女は、足を銃弾で撃たれたのだ。
正真正銘、本物の銃弾で。


 それは、街のお巡りさんが腰にぶら下げている小さな物ではない。
もっと凶悪で、殺傷力が高く、治安維持のためではなく、戦場で人を殺すためだけに生み出された殺意の塊なのだ。



 このご時世、魔法やら剣やらより、それの方が、遥かに恐怖の象徴として伝わりやすい。



 それが分かった途端、さやかの威勢はどこかに吹き飛んでしまった。
剣の届かない距離から、音速を超えて飛んでくる鉛玉の脅威とその結果をまざまざと見せつけられ、
魔法少女とはいえ、元はただのどこにでも居るような女子中学生であるさやかは、一瞬にして恐怖に体を支配されてしまったのだ。

 そして、この無慈悲で理不尽で、狂い切った殺人者の前では、それは致命的だった。












「避けろ!!」












 誰かがすぐ近くで怒鳴る。




 だが、さやかの体は、いや、体どころかその思考すらも動かない。

















 ————ガシャッと、金属のぶつかり合う音がした。










「チッ」


 軽い舌うちと共に、メイドが傘を振う。





 それとほぼ同時に、杏子が振るった多節棍の槍と傘が激しくぶつかり合った。
魔力で、撃たれた足を無理やり回復させた杏子は、硬直したさやかからメイドの狙いを外すために槍を振ったのだ。



 傷は応急処置が済んだ程度で、まだほとんど治っていない。
さやかと違い、杏子は治癒魔法が不得意なのだ。
それでも動き出せるようにはなった。





 このメイドは狂ってる。
メイドとしては優秀なのかは知らないが、相当破綻した思考回路の持ち主だ。
その場に居る誰もがそう思った。
そして、そのような狂った人間が、凶悪な武器を持つことの恐ろしさも、その身に浸みて来た。





 狂気と殺意で動く殺人マシーンの如きメイドは、一切の表情筋を動かすことなく、
機械的に傘を回し、銃口のついた先端を杏子の頭に向ける。





「杏子! 気を付けて!」


 キュゥべえの叫びと同時に、杏子は脇に転がった。
間髪入れず、傘の先端が火を吹き、破裂音が響き渡る。




「うわっ」




 さっきまで杏子の頭が乗っていた地面が爆発して、その破片をまともに食らった。
悲鳴を上げながら、杏子は頭を引っ込める。
くそっ、本気で殺しにきやがった!!





 杏子の心臓は痛みを覚えるほど激しく動悸し、全身の毛穴から冷や汗が吹き出て来た。



 だが、止まっていられない。



 杏子は素早く立ち上がる。同時に、もう一発銃声が鳴り響き、杏子の傍の路面が弾け飛んだ。




「その傘、何仕込んであんだよ!」

 怒鳴りつけると、メイドはうっすらと嗤う。



「SPAS-12ですわ」

「すぱす?」

「ショットガンです」

「おい!!」



 杏子が突っ込むと同時に、メイドは傘に偽装したショットガンの照準を合わせる。

「くそっ」


 杏子が駆け出した途端、またショットガンが火を吹く。
結構な反動があるはずなのに、片手だけでショットガンを支えている。
相当腕力が強いらしい。
加えて、暴力的な銃声も、火を噴く銃口も、強力な反動も、彼女の表情を変化させることはなかった。



 全速力で杏子は駆ける。
と言っても、狭い路地では思うように動けない。
さやかを巻き込まないように杏子はジグザグに走りながら、メイドに近付いた。


 そのさやかは固まったまま。できれば逃げてほしいが、この様子ではそれは難しいだろう。


 一瞬でそれを確認すると、杏子はどうメイドに対処するか考える。
さやかと違い、彼女の思考と身体が今この状況で動くのは、何度も死線を潜り抜けて来たことと、
あまりにも明確な生命の危機を認識したからだ。










 とにかく、槍の距離まで入り込めばこちらのもんだ。
右足はまだ本調子じゃないが、魔力で無理やり動かしかなねえ!!

















 だが、そうは上手くいかないものだ。


 メイドは表情を変えることなく空いていたもう片方の手でトランクを持ち上げた。側面には穴が開いている。
その様子に悪寒が走った杏子は、咄嗟に槍を伸ばし、自分はそれに掴まって上に跳んだ。












 刹那、トランクが火を吹き、連続して鼓膜を破らんとするほど響き渡る圧倒的な殺意の爆音。







 先程まで杏子が居たところに鉛玉が撒き散らされ、さやかの斬撃を受けてもびくともしなかった槍が銃撃でボロボロになってしまった。
どうやらトランクの中には機関銃が仕込まれているらしい。
杏子は宙を蹴り、全力で弾幕を躱す。
ただ、遮蔽物がないので、いつまで持つか分からない。












 だが、それだけではなかった。



 杏子は見逃していたが、トランクの側面には、機関銃の銃口と、その下にもう一つ、
それより大きな穴が開いていたのだ。
それは、トランクに仕込まれたグレネードランチャーの発射口。
小さな子供の拳ほどの大きさの榴弾がバシュッという音ともに射出され、それは杏子の背後の壁に命中し、大爆発を起こした。









「ぐわぁっ!?」


 悲鳴は爆音に打ち消されてしまう。



 予想していなかった杏子は不意を打たれ、真後ろから襲ってきた衝撃波も含んだ爆風になす術も無く吹き飛ばされた。
その背中がずたずたに引き裂かれ、さらに爆炎で焼かれ、真っ赤に血や小さな皮膚の切れ端が飛び散る。
路地の端っこで震えていたさやかも巻き込まれて地面を転がっていき、結界の向こう側に居たまどかとキュゥべえ以外にその炎が襲いかかる。
衝撃で吹き飛ばされた杏子は、固い路面に叩きつけられ、その意識が一瞬断絶してしまった。




「さやかちゃん!!」




 それまで頭を抱え、しゃがんで震えていたまどかだが、間近で花火が爆発したようなすさまじい轟音に顔を上げた。


「まどか! 危険すぎる。早くここから離れるんだ。この結界もいつまで持つか分からないよ」


「で、でも!」




 まどかには、死への恐怖に対抗できるだけの、友人への思いやりがあった。
それ故、判断が遅くなったり間違ったりする。
キュゥべえの指示は的確だったが、まどかは従おうとしない。
彼女にとって、身の危険以上に、友達が傷つくことの方が恐ろしいのだから。



「どうしてもさやかを助けたいなら、今すぐ僕と契約して魔法少女になるしかない。
今の君じゃ、あそこに行っても死ぬだけだよ」




 それを理解して、キュゥべえは相変わらずの提案をする。

 今の自分に出来ることはそれしかない。
このままさやか(と杏子)を見捨てるなんて、もってのほかだ。



 だが、契約するなとほむらにあれほど釘を差されている。
今契約してしまっては、ほむらに悪い気がした。







 しかし、契約すべきか否かでまどかが悩んでいる間にも、銃撃戦は続く。













 結界はまだ健在で、それは杏子の生存を意味していた。





 今、杏子は最初に張った結界を背に、もう一つ別の結界を張って、メイドの攻撃を防いでいて、
その足元には、先ほどの爆発で気絶したさやかが倒れている。
杏子が咄嗟に回収したのだ。




 その杏子の方はと言えば、爆風の直撃を受けながらも、受け身と身体強化の魔法でダメージを最小限に抑え、
なんとか結界を張ることに成功した。
それは、ベテランのなせる業であり、杏子だからこそ出来たものだ。
ただ、まどかの方から見ると、杏子の背中は酷い有様で、思わず目を背けたくなる。
それだけ、彼女が負った傷は深いのだが、それでも杏子は痛みに耐え、必死で魔法を発動させている。






 ただ、その杏子をしても信じられないことに、あのメイドは間近で爆発を受けても、傷一つ負わなかった。
一体何で出来ているのか、平然とした顔で爆炎の中から現れたのだ。










 コイツ、一体になにもんだよ!!










 銃規制が厳しいこの日本で、こんな軍隊並みの武器を持っているコイツは、間違いなくヤバい連中と繋がりがあるに違いない。
それに、コイツ自身も頭がおかしい。
普通、これだけの武器を人に向けるか?




「くそ。このままじゃもたねえ」



 杏子が攻撃を仕掛けられたのは、さっきの一瞬だけ。
これだけの弾幕を張られてしまっては、最早杏子の打てる手段はこれだけしかない。





 まるで未来から来た殺人ロボットのようなメイドは、無表情のまま無茶苦茶な火力で杏子の結界を押し切ろうとする。
実際、結界にひびが入ってきている。
長くは持たない。
このまま結界を貫かれれば、間違いなく杏子は蜂の巣にされる。
容赦のない命の危機。
誰かの助けがない限り、その運命は揺るがない。









 それは、背後から杏子の様子を見ていたまどかにも分かった。



 そして決意する。心の中でほむらに謝りながら。


「私……」















「それには及ばないわ」

















武装女中さくや☆フィジカ




そして、「それには及ばないわ」
頂きましたww





同じ能力を持つ者同士の会遇です。




以下、咲夜さんが使っていた武器
フランキ・スパス12
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%91%E3%82%B912

M203グレネードランチャー
http://ja.wikipedia.org/wiki/M203_%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC


>>290の「隙が無い」が胸が無いに見えてしまった・・・


この咲夜はレミリアの従者になる前まではどんな事をやっていたんだ?
重火器使ってるけど、ヴァンパイアハンター説を採用するんなら基本的に銀製の武器を使用するはずだが

ここの咲夜さんはクールビューティで物騒なキャラか。
原作は結構天然入ってるんだけど、まどマギのダークな世界観にあわせてるんだろうか


前までさやかはアホの子ちゃうって風評がこのスレにあったが、これどう見てもドAHOの子や
杏子が外道魔法少女だったら二対一って構図も普通にあったんだぞ

>>308
つまり咲夜さんに本気になれと……?(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

>>314
ヤムチャシヤガッテ……

あんまり関係ないが猟犬がトランクに仕込んでたグレネードランチャーは確かMP37だった筈
使用弾丸もMP37は37×110mmの特殊弾、M203は40×46mmの一般規格弾で
アーウェンは三発または大容量弾倉使用で五発装弾の自動排莢、M203は単発装弾の手動排莢といろいろ差異があるぜ

まあ普及してる弾丸バリエーションの多さから言ったら40×46mmの方が圧倒的に多いんだけどな
高性能炸薬弾以外にも空中炸裂弾や形成炸薬弾、散弾もあったはずだから
逆に37×110は元々暴徒鎮圧用みたいなもんだからガス弾、ゴム弾の非殺傷弾が多めだし
あんま詳しくないから色々間違ってるかもしれないけどな

…というか[ピーーー]気満々じゃねーかこのメイド!

咲夜さんならトランクの中に戦車すら入れられるから些細な誤差だ

さやかちゃんは契約したてなのに2日目にして魔女の使い魔→ベテラン魔法少女→紅魔郷5ボス(手加減モード)の連戦はいくらなんでも難易度高過ぎだろw



おふぅ
急に書き込みが増えたw

>>316
人間相手なら鉛玉で十分。
銀弾はコストが高いので。

という訳ですw

>>318
えっ?
天然さんじゃないですか!?

初対面のいたいけな少女にいきなり発砲するとか、
妖精を瓶詰にするのと同じ程度の発想ですよwwww

>>319
杏子ちゃんは聖女だからそんなことしない(キリッ


>>327
wwww
投下してから気が付いたwwww

まあ、M203の方がメジャーかなと・・・・・(汗)

>>328
やだなあ、戦車どころかW88も入れられますよ!よ!

この咲夜さんなら持っていてもおかしくないww

>>334
難易度ルナティックwww

さやかちゃんの人生は修羅の道です。


咲夜さんが銃火器で武装しているのは、これがガチだから。
弾幕ごっこはあくまで「遊び」ですので、
本気で殺し合うなら、銃を使わない手はないでしょう。
もちろん、場合によりけりですけど。

そして、みんなで>>314の御冥福を祈りましょう。








                 *







 そう言って颯爽と現れたのは、見滝原のもう一人の魔法少女で、キュゥべえがイレギュラーと呼ぶ謎の少女。





 彼女は濡れ羽色の長い髪をたなびかし、まどかの真横に立つ。


「ほむらちゃん!」


 まどかはヒーローに助けを求めるような目でほむらの横顔を見上げた。
だが、それも束の間、すぐに戸惑うことになる。



 ほむらの顔は険しかった。その端正な貌は歪み、目には戸惑いと不安の色が窺えた。
もっとはっきり短く言えば、彼女は動揺していた。

 その訳は、今彼女の目の前に広がる凄惨たる光景だけではない。
確かに、視界に映る景色は酷いものだ。
滅茶苦茶にに破壊された路地裏、背中に惨たらしい傷を負った赤い魔法少女、気絶して転がっている美樹さやか。
何より、能面のような面からぞっとするほど鋭い殺意を流し出しているメイド姿の武装した少女。













 だが、これら全てより、暁美ほむらにとって衝撃的な事実があり、彼女はそれに対して動揺しているのだった。









「佐倉杏子!」


「な……どこかで会ったか?」

 ほむらに名を呼ばれ、佐倉杏子は驚いて振り返る。
その様子を見るに、ほむらの登場は既に気が付いていたのだろう。
集中を切らして結界に込める魔力を弱めないあたりも、流石にベテランだった。

 とはいえ、長い間魔法少女をやっている彼女ですらここまで追い詰められている現状はかなりまずいと言えた。
もちろん、相性の問題もあるのだろう。
トリッキーに攻める杏子に対し、圧倒的な火力による面的制圧は有効な手段だ。
その点、ほむらの方が戦いやすい。
何故なら、彼女も同じだから。


「貴女たちは下がって。あいつは私が止める」

 その一言に、取り敢えずほっとする杏子だったが、状況は変わっていない。
気を抜くことは無かった。



 いつの間にかメイドは射撃を止めていた。
強固な結界を張られた上に、増援が来たので様子見と言ったところだろうと、杏子は考える。
正直、これはありがたい。
この背後にいきなり現れた魔法少女が、キュゥべえの言う「イレギュラー」なんだろうが、
こうやって味方してくれるのであればイレギュラーだろうがレギュラーだろうが何でもいい。

 メイドは、しかし急な増援の到着にも動じず、猛禽類のような鋭い目でこちらを睨みながら、
ショットガンの銃口を向けてくる。
そして、もう片方の手で持っていたトランクを置き、銃をこちらに向けて構えたまま軽くしゃがんで
器用に片手でトランクを開けた。





 中から何やら長い、筒のような物が出て来る。
これまた凶悪そうな一物に、杏子は思わず泣き出したくなった。
勘弁してくれよ、と心の中で嘆きながら、ありったけの魔力を結界に込めた。


 実物は見たことがない。ただし、どこかでその存在については伝え聞いていた。
その先には、太い、膨らんだ弾頭。
きっと、世界のどこかで戦車を鉄の棺桶にするために使われているそれは、所謂バズーカという奴らしい。



「拙いッ」



 ほむらが駆け出し、杏子の前に立って、盾を構えた。同時にメイドが引き金を引く。











 視界が真っ白になった。音が一瞬で消えた。
訳の分からない衝撃が結界を突き破り、杏子を襲った。
そのまま激しい振動に二度三度揺さぶられ、自分がどうなったか分からないまま、気が付いたら地面に倒れていた。


 衝撃が強すぎて、頭がグワングワンする。
意識が朦朧として、周りの状況がよく分からない。
痛みすら感じない。本格的に脳の機能不全に陥ったようだ。
どこかの血管が切れて血が目に入ったのか、片方の視界が真っ赤だった。
その真っ赤な視界の中で、メイドとイレギュラーが対峙する。
信じられないことに、二人ともほぼ無傷だった。
ほむらの方が、若干い服が汚れたり破れたりしているが、体に傷は見られない。

「何者なのよ、貴女。パンツァーファウストなんて持ち出して」

 爆発によって聴覚が麻痺した杏子には聞こえなかったが、ほむらはそう言った。
倒れた杏子の傍で、二重の結界に守られたおかげで奇跡的に無傷だったまどかが震えている。
さやかは少し離れた壁際に飛ばされて、こちらは完全に動かない。
そんな阿鼻叫喚な光景の中で、二人は睨みあった。



「私も、貴女に興味がありますわ。個人的に」

 メイドは、これまた無傷で粛々と口を動かしていた。
ここまで来ると、このメイドが本格的に化け物なんじゃないかと杏子は戦慄する。
さっきのハリウッド顔負けのド派手な爆発は、コイツも充分巻き込まれるくらい大きかったはずだ。
素材が何で出来ていればそれを喰らっても、無傷で立っていたれるんだろうか。
あれだけ派手に攻撃しておいて、その顔は全く変わらない。
いっそ、ロボットと言われた方がまだ納得がいく。

「私と同じ力。まさか、そんな相手に出会えるとはね。魔法少女でもないのに」

 何のことか杏子には分からないが、状況が良くないことはほむらの表情からも伺えた。
その顔には酷く動揺の色が現れていたからだ。

「ええ。私もですわ。魔法少女とやらに、私と同じ力を扱える方がいらっしゃるなど、思いもおりませんでした。
てっきり三下ばかりだと考えていましたわ」



 相変わらず慇懃無礼な言葉。
メイドは露骨にほむらを煽っていたが、ほむらのほうは動じなかった。
むしろ、そんなことより他に気を取られていることがあるから反応しなかったというべきだろう。





 イレギュラーがどういうつもりで味方するのかは分からないが、助けに来てくれたのはありがたい。
だが、切り抜けられるか?




 魔力で聴覚と体のダメージを回復させ、杏子はゆっくりと立ち上がった。
三半規管に受けた衝撃が強すぎてまだ少しフラフラするが、そこはタフな魔法少女、
摩訶不思議な力技で何とかする。
そして、杏子が体を治している間にも、ほむらとメイドの会話は続く。




「一体、何の用でここに来たのかしら?」

「あるやんごとなき身分のお方を迎えに参りました。
我が主人の妹君、フランドール・スカーレット様にございます」

「フランドール? あの吸血鬼のことね」

「左様。貴女もご存知でしたか」


 メイドは微かに首を縦に振った。




「ならさっさと家に連れて帰ってくれないかしら。はっきり言って、迷惑なのよ。貴女が、だけど」

「もとよりその心算ですわ」

 メイドはほむらの皮肉も気にせず、形式ばったお辞儀をした。
そして尚も淡々と、恐るべきことに、戦闘前と全く同じ調子で、続きを言う。


「ですがその前に、妹様の居場所を探さなければなりません。幸い、そこの方々がご存知なようなのですが……」

 メイドはうっすらと笑いながらトランクからばかでかい銃を取り出した。
それはこの国の防衛組織も採用している機関銃。
そんな物が当たり前に持ち出されたことに、ほむらは自分のことを棚に上げて舌を巻いた。
後ろでまどかが息を飲む。



「偉大なる吸血鬼の王の御意志を、
恐れ多くも、
そこの青い方と赤い方が遮らんとするので……、
まずはこれを無力化し……、
“然るべき処置”を以って、
妹様の所在を聞き出す心算だったのです。
ただ、貴女がもしその方々に味方すると言うならば」


 そう言いながらメイドは銃を持ち上げ、口元から笑みを消し去る。



















「お前も挽き肉にするわよ」























 低く呟いた。





 それが開戦の合図。





 ほむらも盾から自動小銃を取り出し、メイドに向けて撃ち出す。
メイドも、トランクの陰に隠れながら、ミニミ機関銃をぶっ放す。
途端に狭い路地裏に、けたたましい銃撃音が響き渡る。
その恐ろしい音に、杏子は頭を押さえて路面に這いつくばった。
今顔を上げれば、間違いなく頭蓋骨に穴が開く。



 いきなり始まった、西側諸国の現代火器どうしの銃撃戦。
現実の戦争ではなかなか実現しなかったそれが、驚くべきことに魔法少女と吸血鬼の従者という組み合わせで為されることになった。
しかもその舞台は、中東やアフリカの荒地ではなく、信じられないことに戦争から60余年の間無縁だった日本の街の路地裏だ。
最早、この狭い空間に立ち込める硝煙の臭いは濃厚で、それが否が応でもこの場が戦場であることを思い知らしめる。


 ほむらは咄嗟に横に跳び、機関銃の射線からずれた。
だが、咲夜もトランクの影から銃を動かして、ほむらの動きを追ってくる。
狭い路地で至近距離から撃ち合う二人。
このままでは火力の小さいほむらの方が不利だった。



 だから、ほむらは足に魔力を込めて一気に跳躍。
狙いは、路地上の非常階段の踊り場。位置によるアドバンテージを取るためだ。


 メイドは追って来ない。下から機関銃を撃つだけである。
どうやら、魔法少女のように身体強化の類の魔法は使えないようだ。



 ほむらは射撃で相手を牽制しながら非常階段の踊り場に着地し、上からメイドに向けて鉛玉を撃ち落とした。
メイドはトランクを持ち上げ、それを盾に身を隠す。
流石に腕力が持たないのか、片手で機関銃を撃つことはない。




「佐倉杏子! そこの二人を連れて逃げなさい! 今の内よッ!!」


 その間にほむらは銃声に負けないように声の限り叫んだ。



「恩に着るぜ」



 出る幕がなく、結界を張り直して二人の銃撃戦を見ていた杏子が叫び返す。
そして、傍らでまだ気を失ったままのさやかを担ぎ上げ、腰を抜かして震えているまどかに声をかける。

「おい、行くぞ。立て」

 だが、まどかは杏子を見上げて恐怖に耐えながら言った。

「ほ、ほむらちゃんが……」

「アイツが行けって言ってんだろ! うだうだ言ってると置いてくぞ」

 その優柔不断な愚直さにイラッとしながら杏子は怒鳴った。
コイツはやっぱり素人で、状況がなんにも判ってない。
青いのも、何でこんな一般人を連れて来たのか理解に苦しむ。

「で、でも、置いてけないよ。……ほむらちゃんを一人残して逃げるなんて」


「はあ」

 杏子は大袈裟に溜息を吐いた。

「アンタがここに残ったところで何が出来るんだよ。むしろアイツの足を引っ張るだけだと思うぜ。
このルーキーのこともあるし、逃げるのが正解だ」

「あ、あのメイドの人、フランちゃんを捜しに来たって……だから、話せば分かってくれるかも」


 おどおどと気弱な様子を見せながらも、しかしまどかは頑なだった。
そこにあるのは争いをしたくないという優しい思い。
今この場では、最悪の価値基準。
気弱そうに見えて、頑固なところを見せるまどかのギャップが、変に杏子を苛立たせる。
もう少し、状況を理解してほしい。



 そこに、

「そうだよ杏子。それに、彼女がここに残って僕と契約すれば、あの二人の戦いを止めさせられるかもしれない」


 と、余計な茶々をキュゥべえが入れる。


「あー、もうっ! お前は話に入ってくんな! いいか、あのメイドは頭が狂ってやがる。
まともに話が通じるかも分かんねえ。
ちょっとのことですぐ発砲する危険人物なんだよ。
何でもかんでも話し合いで解決すると思ってんじゃねえぞ」

 そう言って杏子はまどかを強引に抱え上げた。



「あっ……やだっ……離して!」

 杏子は暴れるまどかとぐったりと動かないさやかの二人を抱えたまま飛び上がり、
キュゥべえを置いてそのまま路地を挟む壁を蹴って建物の屋上に出た。
そして、更に跳躍を繰り返しながら去って行く。
残されたキュゥべえは戦う二人を観察したままだ。
ほむらはそれを排除したいが余裕がない。
杏子たちの離脱を確認すると、銃撃を止めて、下の様子を窺った。
今のうちにキュゥべえを撃ち抜けるかもしれない。


 そんなふうに意識を逸らしたのがいけなかった。


















「どこを見ているの?」


















 不意にすぐ傍から聞こえる低い、凍えるような声。

 驚いて振り向く前に、脇腹に強烈な衝撃が走る。


 背中から非常階段の踊り場の柵に叩きつけられ、肺の空気が全て吐き出された。
だが、咳き込む間もなく、次の一撃が来る。

 視界がぶれるような衝撃に襲われた。一瞬、意識が明滅する。


 顎を蹴りあげられ、頭が強制的に上を向いた。
骨が折れたと思う程の激痛が走り、口の中に鉄臭い味が広がる。




 しかし、ほむらもやられてばかりではない。

 痛みをこらえて左手を上げた。
その手を中心に、魔力を放出し、強風を生み出す。
はっきり言って、目くらましにしかならないが、それで十分だった。
その隙に、僅かに怯んだメイドからほむらは離れ、路地に飛び降りた。


 メイドは踊り場からほむらを見下ろす。
その眼は相変わらずの、いや、さっきにもまして強烈な殺意と憎悪が込められている。
お前のせいで逃がしたではないかと言わんばかりだ。
彼女にとって、佐倉杏子と美樹さやかの二人は邪魔ものであると同時に、情報源にもなり得るのだろう。
だからこそ、ほむらの妨害に憤怒の相貌を見せているのだ。



「大したことないのね。少し期待していたのに、残念だわ」




 本当に残念そうにメイドは首を振る。そこにはあからさまな侮蔑があった。
だが、暁美ほむらは挑発に乗らない。
どう考えても、それは八つ当たりのために行われているのだ。
気晴らしにほむらの体の風通し良くしたいとでも思っているのだろう。



 だからこそ、ほむらは慎重に相手の能力を見極める。
何しろ、今まで出会ったことはなかったが、自分の能力が効かない相手というのは相性が最悪だからだ。
勇み足を踏んでも、手痛い返り討ちを喰らうだけ。
恐らくだが、相手の方が戦闘経験は上だ。








「貴女……」









 ほむらは口の中にあふれた血を吐き捨てメイドを睨み上げた。


 蹴られた顎と脇腹がひどく傷む。
口の中もそうだが、脇腹の内出血もひどい。
そのせいで上手く動けない。
このままでは不利だ。
火力なら相手を上回れる自信があるが、自分の能力が通用しないのはきつい。
正確には、相手も同じ能力を持っているせいで、互いの能力同士が干渉し合って、条件が同じになってしまうようなのだ。




「さて、どういたしましょう。
あの赤いのも、妹様の居場所を知っているという二人の餓鬼も行ってしまいましたわ。
貴女が邪魔したので、取り逃がしてしまいました」




 メイドはそう言って大袈裟に溜息を吐いた。


 ほむらは次の行動を警戒しながらいつでも盾から武器を取り出せるように構える。
だが、メイドはそんなほむらの動きに取り合わず、ワザとらしい仕草で肩をすくめて、

「貴女は、妹様の居場所をご存知?」

「教えてもいいわ」






 即答。
戦いを避けられるなら、それがいい。
もちろん、さっき、杏子と言い合いしていたまどかの主張とは違う理由だ。
ほむらは平和主義者ではなく、現実主義者だったから。


 それに、既にほむらの頭脳は冷静に状況を分析し、どうすれば最善か、という答えを弾きだしていた。
それはある意味簡単な手段で、また別の意味でも難しい。
そう思ったのだが、嬉しいことにメイドの方が歩み寄りの意思を見せてくれた。
頭の中の大事なネジが全部ぶっ飛んだ戦闘狂じゃなくて良かったと思う。
彼女は、ただちょっとやり方が苛烈なメイドさんなのだ。

 ほむらの返答を聞き、メイドの瞳が僅かに光る。
殺気が薄まった。
ちょっと意外そうな顔をしているあたり、さっきの問いかけは答えを期待していたものではなかったのかもしれない。





 ほむらはその隙に、取り敢えず目障りなキュゥべえに銃を向ける。
そして、躊躇なく引き金を引き、白い体を弾き飛ばした。
ばたりと倒れる白い肉塊。メイドは少し目を細めた。


「いけないことをするのね」

「邪魔だからよ」


 メイドは特に気にしたふうもない。
ほむらも新しい個体が現れないのを確認して話を続ける。
出て来てもまた撃たれるだけだと思って奴も撤退したのだろう。好都合だった。
そして、メイドもメイドで興味がないのか、それ以上追及してこない。



 それよりも、と彼女は前置きする。



「本当に教えてくれるのかしら?」


「もちろんタダという訳にはいかないわ」


「条件は?」




「あの三人に手を出さないこと。
彼女たちには私から話をつけておくわ。
貴女の邪魔をしないようにね」









「……いい条件ね」











 疑うような視線がほむらを探る。随分と用心深い性格らしい。
まあ、それはそうだろう。
つい今さっきまで銃撃戦を繰り広げていた相手が持ち掛けてきた取引なんて、すぐに応じる訳はない。
なので、ほむらはさらに一押しした。




「言ったでしょ。貴女が迷惑だって。それに、あの吸血鬼も危険なのよ」


「ふーん。なるほど。ひょっとして、妹様の力を直接目の当たりにしたのかしら?」


「ええ」




 そう、とメイドは微かに頷いた。
ほむらの知らないことに納得したのだろう。
どうやら、あの吸血鬼の恐ろしさは彼女も知っているらしい。





「いいわ。条件を呑みましょう。そういう約束でね」

 意味深に付け加えられた一言。ほむらは微かに首を傾げるが、取り敢えず頷いておく。




 やけにあっさりと応じてくれた。
一度は疑う素振りを見せたが、それでもほむらの想像以上に上手くいったのだ。
これはちょっと意外だった。
どうしてだろうか、とほむらは一瞬頭を巡らせる。
騙しているような気配もしない。
となれば、おそらく彼女の中での優先順位が明確なのだろう。
目的が吸血鬼のお迎えである以上、それを最優先に、魔法少女との戦闘は二の次三の次といったところか。
いずれにしても、美樹さやかのように感情論を振りかざす相手より、こういうビジネスライクな考え方をする相手の方が、
ほむらとしてはやりやすかった。


 相手の強調した「約束」という言葉に、ほむらは頷いておく。
それがどういう意味かは分からないが、わざわざ強調した以上、自分もそれを守るし、
ほむらにもそれを守れと言うつもりなのかもしれない。



「ええ。約束。そう云う取り決めよ」

「じゃあ、早速で悪いけど、居場所を教えてくれない?」


 そっけない言葉と共に、メイドが殺気と敵意を引っ込める。
戦闘が終了した合図だ。
非常にあっさりしているが、もうこれ以上戦う理由はない。
疑心暗鬼になっても仕方がないし、利害が一致しているなら、さっさと用件を済ませた方がお互いにとって一番いいのだから。


 メイドの口調は慇懃としたものから随分砕けたそれに変わっている。
やはり、あの口調は相手を挑発するもの? 
あるいは、ほむらが「味方」になったからだろうか?



 それはともかく、ほむらは警戒を解き、魔力で傷を治し始めた。
そして、グリーフシードを取り出す。
メイドはその間に踊り場から飛び降りて、何事も無いかのように着地した。
三階分の高さはあったはずなのに。
そう言えば、さっきも踊り場にどうやって現れたのだろう? 
その時能力は使わなかったはずだ。
使ったらほむらも気付くから。




「案内するわ。付いて来て。……ただし、そこに今いるとは保証しかねるわ」

「結構よ。待っていれば会えるなら」

「恐らくね。ただ、もう一人吸血鬼がいるから」



 散らばっていたトランクや傘に偽装したショットガンを回収していた手が止まり、メイドの目が開いた。はっきりと驚いた表情になる。
今までで一番の表情変化だった。
そのあまりの驚き様に、ほむらの方が驚いたほどに。



「もう一人?」




「……ええ」




 メイドはその場を動かず、顔をこちらに向けて聞き返しただけだったが、そこには迫るようなものがあった。
ほむらは変身を解き、グリーフシードでソウルジェムを浄化しつつ頷いた。







「名前は巴マミ。元は私と同じ魔法少女で、あの吸血鬼としばらく行動を共にしていたけど、
ある魔女との戦いで致命傷を負って、救命措置として吸血鬼にされたのよ」



「魔女……? この世界にはまだ魔女がいるの?」





 メイドは首をかしげ、驚愕と疑念を持った眼差しでほむらを見つめる。
さっきの未来から来た殺人ロボットのような人物と同じとは思えない程感情を豊かに表現していた。



「この世界? まだ? 貴女、まさか……」



 ほむらがハッとする。そんな言葉に聞き覚えがあったからだ。




 しかし、互いに互いの発言に驚いていては話が進まない。
ほむらは自分の疑問を封じ込めて簡単に説明する。


「そう呼ばれる怪物よ。魔物といった方がいいかしら。
で、私たち魔法少女はあの白い小動物と契約してその怪物たちと戦う使命を背負うの。
たったひとつの奇跡の代わりにね」




 ほむらはこのメイドが異世界の、それも魔法少女の存在を知らない住人だと考えた。
なぜなら彼女はソウルジェムを持っていないし、キュゥべえのことも知らないみたいだからだ。
それに、吸血鬼なんて言う、この世界には本来存在しないはずの生き物を追って来ている。
それがなんで現代の重火器を持っているのかは不明だが。

 だから、簡単に説明したのだ。話せば長くなりそうな真実を伏せて。



「へえ。下らない契約ね」


「ええ。とっても」




 もしかしたらと思ったが、その可能性はあり得なさそうだ。
今の説明だけで、魔法少女契約の怪しさに気付いたらしい。
なかなか頭はキレるようだ。
というより、そもそも興味もないのだろう。
反応は、さっきまでの殺人ロボットモードの時に見せていた、冷淡なものだった。




「……あの小動物が、奇跡の規約を、ねぇ」

「そうよ。あれが全ての黒幕」

「なら私が排除しますわ。そんな簡単に奇跡を起こす白い糞は除去して街を綺麗にしないと」

「無駄よ」


 ほむらは首を振った。幾ら彼女でもキュゥべえを殺し尽くすことは出来ないはずだ。



「あいつは殺しても殺しても湧いて来る。
あの体はあくまでここで活動するための端末なの。本体は別にいるのよ」


「さっきは出て来なかったじゃない。新しいのが」

「引き下がっただけよ。また出会うことになるわよ」

「厄介ね。ま、いいわ。取敢えずは妹様を探すことが優先。案内して」

「ええ」




 “荷物”をまとめ終えた咲夜にほむらは肯き、彼女を連れて歩き出した。
ついさっきまで本気の殺し合いをしていた自分たちがこうやって当たり前に会話しながら
共に行動することに奇妙な感慨を持ちながら。










武装女中さくや☆フィジカwithほむほむ


二人の能力の関係性について、劇中にある通り。
これは、輝夜に咲夜の能力が通じるのかという問題にも通じるところがあるとは思いますが、
ここでは一応、こんな設定です。


咲夜さんが使ってた武器
パンツァーファウスト3
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%83%883
MINIMI
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%8B%E3%83%9F%E8%BB%BD%E6%A9%9F%E9%96%A2%E9%8A%83

ほむほむが使ってたの
89式小銃
http://ja.wikipedia.org/wiki/89%E5%BC%8F5.56mm%E5%B0%8F%E9%8A%83



単純に時止めが通じないだけなら空間操作とキングクリムゾンができるぶんさっきゅんのが有利な感じするね
全てに干渉されるなら互角だけど


野次馬がこないところを見ると空間操作で外に音がもれないようにしてるんだろうな

咲夜が完全でも瀟洒でもないな
さやかより頭悪いだろ

フランの友人自称する相手に銃撃とかいくらなんでもあり得ない
自分で賢いつもりなのがたち悪いタイプ



この咲夜さんはやくざさんで間違いない


大抵のクロスだと登場人物が増えるたびに希望が溢れてくるのに暗闇しか見えてこないのですが……
寧ろ暗闇が濃くなってるんですが……


最近ツイッター感覚でコメしてる人が多いけど、レスが勿体ないし多少自重した方が良いと思う(提案)

>>364
一応林檎ジュースを林檎酒に変えるような事が出来るって公式設定であったから過程をすっ飛ばして結果だけを残してると考えてる



>>356>>365
キンクリか〜
できるんですかね?
ジョジョにあんまり詳しくないからわかんないですけど。


>>358
・・・・基本、まどマギはそういう野次馬とかいないですやん。
大きな街のはずなのに、不自然に人が少ない。


>>359
“自称”友人が、「迎えに来た」っつっているのに
「信用ならないから居場所を教えない」とぬかした上に、
武器まで向けて来たんだから、発砲しない理由はないでしょう
というのはさほど不自然ではないかと。

これはまだ劇中では語られてませんが、
咲夜さんの(このssでの)性格や生い立ちを含めて考えれば、
言葉<暴力で、まず殴ってから「説得」しようということですw

剣を持って対立の意志を見せるということは、普通戦争をしようという表明に受けたられます。


>>361
やくざというか、マフィアとかテロリストに近い感じ。


>>362
え?
そ、そうですかね?
まだまだだと思うんですが・・・・

>最近ツイッター感覚でコメしてる人が多いけど、レスが勿体ないし多少自重した方が良いと思う
ご、ごめんなしぃ








                    *





「ここよ」


「このマンションの、どの部屋?」


「案内するわ」




 ほむらと咲夜はマミのマンションにやって来ていた。
そして、そのままマミの部屋まで行く。
日はすっかり沈み、街の喧騒が遠くに聞こえるだけ。
辺りは静けさに包まれ、返って不気味なほどだ。
集合住宅なのに、人の気配はあんまりしない。空き部屋が多いのだろうか? 
それがより一層不気味だった。





 初め敵対していた二人だが、共に時間を止めたり流れを変えたりできる能力を持ち、
武器は銃火器という共通点もあって、意外と親近感を抱いていた。
自己紹介をして、互いを名前で呼ぶようになったが、しかし、咲夜の方は余り身内のことは話してくれなかったし、
ほむらも自分の過去のことは言わなかった。
なので、自然と話題は銃のことになった。
年頃の少女が二人で話すこととしては些か不自然ではあるが、二人の話は弾んだ。
互いにお気に入りの銃の長所を言い合い、また別の銃の短所を言って同調し合った。
ロボットみたいなメイドかと思いきや、咲夜は意外と口が達者だった。
その分、下品なジョークも多いが。

 どうやら自分の中でスイッチを切り替えられる人物らしい。
きっと、相手によって態度を器用に使い分けるのだろう。
先程の、冷血殺人鬼モードは鳴りを潜め、あまり表情は変化しないものの、ほむらとの会話をどこか
楽しそうにしていた。
ただ、その仕草の一つ一つが落ち着いていて、ほむらは咲夜に大人びた印象を抱いた。





「この部屋ね」

 「巴マミ」という表札のある部屋の前に二人は立つ。
何の変哲もない、普通のマンションの部屋の鉄製の扉だ。
外から伺う限りでは特におかしな様子はない。






 ただ、






「人の気配がしないわ。本当にいるの?」

「だから、会えるかどうかは保障できないと言ったでしょ」

「そうね」


 そう言って咲夜はドアノブに手を掛ける。



「あら? 鍵が掛ってないわ」



 軽く驚いたような声を上げる咲夜に対し、ほむらは眉を顰めた。
あのしっかり者の先輩にしては珍しい。
彼女がカギを閉め忘れるというミスをするのはほむらにとって非常に不可解で、余計に不気味だった。
一体、何があったのだろうか?



「待って。罠の可能性も」

「大丈夫よ。下手はしないわ」

 妙に自信ありげに咲夜が呟く。
同時に時間が止まった。
彼女はほむらのように、特別なギミックのある盾を操作しなくても時間を止められるらしい。
便利なことだ。
世界からあらゆる音が無くなり、完全な静寂が訪れる。
全て物が停止した中で、動けるのは私たちだけ。
私たちしか知らない世界。


「これは……」


 なるほどとほむらは肯いた。
時間が止まった世界で動けるのはこの二人だけだ。
それはほむらが時間停止を発動させようとも同じだった。


「こうすればいいでしょ?」

 咲夜は少し微笑み、ドアを開けた。

 何もなし。玄関に爆弾が仕掛けられてはいない。
というか、何で爆弾を警戒しているんだろう? 
ほむらは自分でやっていておかしく思った。



「人の気配はしないわね」


 時間が再び動き出した。


 街の喧騒が戻って来る。
さっきまでの静寂が嘘のように騒がしくなり、マンションを包んでいた静けさも、時が止まった世界と比べれば
フル稼働している工場のように喧しい。


「出掛けているのかしら」

「そうかもしれないわ。ねえ、ほむら、傘がある?」

「傘?」

「傘を差して日光を遮ることが出来れば、吸血鬼は昼間でも動けるのよ」

「ああ、そういうこと」

 納得したほむらは玄関の傘置きを見る。
そこには、透明なビニール傘しかなかった。


 記憶が正しければ、マミは花柄の傘を持っていたはずである。
その傘は、確かこの時間軸では、フランドールが持っていた。
それに、年頃の中学生がビニール傘しか持っていないなんて考えにくい。
しかし、それがどうしたというのだろうか?



「柄入りの傘がないわ」

「やっぱりね」

 咲夜は何かに納得する。
あの傘を持っているとしたら、フランドールか? 
咲夜も同じ結論に至ったのだろうか?


 そんなふうにほむらが考えている間に咲夜は靴を脱がず勝手に上がっていた。
何の遠慮もなく、土足で踏み込む。
せめて靴を脱いだら、と思ったけれど、咲夜の彫の深い顔立ちを見て納得した。
向こうでは、家の中で靴を脱ぐ習慣がない。


「ちょっと」


 ほむらも靴を脱いで慌てて後を追う。
だが、すぐに止まることになった。
咲夜がリビングの入り口で立ち止まっているからだ。






「どうしたの?」

 不審に思い、後ろからリビングを覗き込んで、ほむらは息を呑んだ。
その眼が驚きに見開かれ、アメジストの瞳がその心を表すように揺れる。




































 そこに広がっていたのは、強盗にでも入られたかのような凄惨な光景。
部屋の中は無茶苦茶だった。
市街を展望できる大きな窓のガラスは割られていて、床も壁もズダボロ。
ところどころに焦げたような跡もあり、半分に折れたドアが転がっていた。
このドアの片割れは、窓の近くに落ちていた。これは恐らく、寝室へ続く物だったはず。






 大きく解放された窓から生暖かい風が吹いてきて、二人の髪を揺らした。
その感触の、妙な不快さにほむらは少し体を震わせ、足元に視線を這わせる。








 その床にはいろんな物が散乱していた。




 引き裂かれたクッションとその中身、ボロボロのソファ、画面にひびが入ったテレビ、
砕けたガラスのテーブルの破片、ひっくり返った本。
足の踏み場もないほど散らかっていた。
そして、それらに飛び散っている赤黒い跡。
整理された広い部屋は、今や見る影もなく、散らかり放題。
そのあまりの惨状に、ほむらは小さくないショックを受けた。
一体全体、ここで何があったのだろうか?


























「これは……」






「暴れたのね」






「暴れた?」


 部屋の惨状から、咲夜が何かを察した。ほむらは咲夜を見つめる。


 咲夜は顎に手を当て、何事かを考え込むような仕草を取りながら説明し出した。






「魔法少女が人間だとするなら、吸血鬼になるには相当な苦痛があったはずよ。
肉体や魂が人間のそれから妖怪のそれへと変化するからね」





 果たして、魂が物質になってしまった魔法少女は人間と言えるのだろうか? 
それはともかく、その苦痛に喘いだ巴マミがこれだけの惨状を?


 まあ、それも考えられるかもしれない。
もし巴マミがフランドール・スカーレットと同じくらいの力を持つ吸血鬼に変貌したのだとしたら、
あの吸血鬼の暴れっぷりを見れば、むしろこの部屋の惨状は被害が小さいほうかもしれない。
吸血鬼が暴れれば、この大きなマンションの部屋も、軽く吹き飛んでしまうだろう。






「だから、こうなったの?」



「いいえ。多分、その変化が終わって落ち着いたその少女は、妖怪としての本能に目覚めた。
結果、理性を失い、欲望のまま力を奮う、野獣同然の存在になり下がったのよ。
その場合、どうなるか」






 そんなのは、言わなくても分かる。





 だが、信じられない。あの、優しくて寂しがり屋の先輩が……。













 いや、その因子は元々彼女の中に眠っていたのだろう。
魔法少女の真実を知り、あれだけの暴挙に出た人だ。
自分が吸血鬼なったと理解した時、彼女が恐ろしい行動に移るのは想像に難くなかった。






 それを考え、ほむらは唇をかみしめる。


 目的のために、大きな障害が現れたと感じると同時に、どこかに悔しいと思っている自分がいるのも事実だった。
ほむらが己の心に刻みつけている目的のために、巴マミは毎回見捨てていた。
魔女に殺され、魔女になり、取り乱したり、自殺したり、その末路は散々で、ほむらが彼女を助けることは叶わなかったし、
その内に助けようという意思も潰えてしまった。
けれど、だからと言って堂々と見捨てられるほどほむらも冷血ではなかったのだ。
彼女に死んでほしいなんて思わない。
でも、自分は別のことに手いっぱいで、彼女まで手が回らない。
それが、いつも心苦しかった。



 そんな、微かな胸の痛みに顔を顰めるほむらを知ってか知らずか、咲夜はさらに続けた。


「当然、人間を襲い始めるわ。血を吸うために。
それを、妹様は止めようとして争ったのね。
この有様は、その結果よ」



「じゃあ巴マミは……」





「彼女よりむしろ妹様の身が心配だわ」


「どういうことよ。あの吸血鬼の力は、すさまじいのよ」







「ええ。でもそれは、ここでは発揮できない」







 咲夜の言葉にほむらは首を傾げる。そして、目で説明を促す。






「吸血鬼は、妖怪は幻想の存在。この世界では、存在そのものが否定されているの」





 ほむらは頷いた。


 確かに魔法少女である自分も、実際に目の当たりにするまで吸血鬼が実在するなんて思いもよらなかった。
フランも、少し特殊な子供としか認識していなかった。

 それを幻想と言うのなら、そうなのだろう。
そして、幻想の存在は、この世界で否定される。
何故なら、誰も信じていないから。
おとぎ話にしか出て来ないと思っているから。




「だからね、ここではその力がすごく弱まるのよ。存在が確立できるか否かというレベルで」


「……それじゃあ、彼女は、消えてしまうじゃない」

 ほむらは驚いたが、一方で納得できることもあった。
病院の魔女を倒した後、ほむらはフランドールが何故か弱っていたから、彼女を殺すチャンスだと踏んで攻撃を仕掛けた。
その時、フランドールが弱っていたのは——ほむらは日光を浴びたからだと思っていたが——実際はそうではなかったらしい。
とすると、別の疑問が沸き起こるのだが、それはすぐに咲夜が答えた。




「そうなる前にこの部屋の主と出会ったのでしょうね。
この世界にも、本来存在を否定された魔法や異形があるみたいだし。
魔法少女に出会えれば、消えることは避けられるのかも」


 そう言いつつ、それまでほむらと一緒に部屋の入口で立ちすくんでいた咲夜は、荒らされたその場に踏み込む。
できるだけ、物を踏まないように。
一方で、靴下のままのほむらは、足を怪我するかもしれないので踏み込まなかった。


 そんな咲夜の背中を見ながら、なるほど、とほむらは頷く。
つまり、この世界の異形である魔女のテリトリーの中なら、本来異物であるフランドールも
その力を取り戻せるということか。





 けれど、それでは説明できないことがある。





「じゃあ、何で貴女は時間の魔法を使えるの?」





 咲夜はしゃがんで、床にこびりついていた血痕に指を付けた。


「私が人間だからよ。貴女たちが魔法を扱えるのと同じように、私にも出来るの。
人間は妖怪と違って肉体への精神の依存度が高い。
だから、存在そのものが否定されることはないし、それが弱まることも無い。
魔法も、問題無く使えるのよ」




「ソウルジェムがなくても魔法を使えるってことが驚きなんだけど」







 それには答えず咲夜は血痕をしげしげと観察し、立ち上がった。




「血が新しいわ。そう時間が経っていないようね」

 ほむらの言葉には返事をせず、彼女はそう言った。
特に返答も求めていなかったほむらは、ふむ、と頷く。



「探せば見つかる?」

「放っておいたら、面倒なことになりそうね。
きっと妹様も、自分の眷属を追って行ったのでしょうね」




 拙い。それは拙い。




 だが、暴走し出した巴マミの行く先なんて分からない。
余り交友関係の広くなかった彼女だ、ある程度は絞れるかもしれないが、元々魔法少女としてこの町全域で
活動していた。完全にランダムだと……。




「昼に来れば戻っているかも」


「傘がないんでしょう? 
あれを持って行ったのが、眷属の方なのか妹様の方なのかは分からないけど、昼間もここに帰ってくるつもりはないみたいね。
ま、一応ここで待っているけど」



 咲夜は腰に手を当てて、大きく溜息を吐いた。
そこにあるのは一つの懸念。
言い掛けた咲夜の言葉の続きをほむらは察する。
それは、当然考えられる問題であった。
だから、ほむらは申し出る。
巴マミに暴れられるのは好ましくない、と感じているのは咲夜と同じだから。



「私も協力するわ」



「あら、それは助かるわ。
私はこの街の地理に詳しくないから、貴女は捜索をお願い。
見つけたら、無理に接触せずに、先ず私に知らせて」


「分かったわ」


 取敢えず、マミのいそうな場所をあたってみる。
咲夜を置いて、ほむらは急いで部屋を後にした。








時を止めて、ガチで爆弾に警戒しているほむ咲prpr

いかにこの二人の感性が常識から遠いところにあるか分かりますねw
きっと、途中で我に返ったほむらはまともな方。

乙ほむ
ほむほむなら髪の毛ですね!
黒髪ロングは正義、三つ編みも正義

乙だZE☆
胸 は幽々子さんと藍さまその他諸々足はあややとはたて腋は霊夢と早苗ちゃん黒髪ロングは霊夢とお空三つ編みは咲夜さんとえーりんだな

>>1
乙だがしかし。

>あんこは足。あと脇。
>異論は認めない。
バカ野郎。
あんこならへそだろへそ。
わかってないなー

しかし向こうから来れるって事は、SG式魔法少女の方だって、何かの拍子に幻想郷に行っちゃってる可能性はあるよね


まどかの頭の色の花が満開な今日この頃。

現実逃避しに来ましたw


>>408
髪の毛もいいが、ほむらは指だな。
手の指、足の指。
そしてうなじ。
入院続きだったから、すごい白いと思ふ。


>>409
>足はあややとはたて
美鈴を忘れてる
>黒髪ロングは霊夢とお空
てるよが入ってない
>三つ編みは咲夜さんとえーりん
お燐も


>>410
へそはさやか。
へそはさやか。
大事な事なので二回言いました。

あんこの臍もいいんだけどね。
やっぱ、さやかでしょ。
他には、尻と腰と鎖骨だな、さやかは。


>>413
ニコニコ大百科によると、幻想入りの方法は四つ。
1、外の世界で幻想になる
(幻と実体の境界の効果で自動的に引き込まれる)
2、ゆかりんの神隠し
3、偶然入り込む
(秘封倶楽部のメリーはこれに近い?)
4、何らかの方法で入る
(巴…じゃなかった、二ツ岩マミゾウさん他が取った方法)

魔法少女なら、3か4が可能性が高いけど、
意図してはいるなら、二重の結界を突破しないといけないので、
かなり難しそうですね。

ほかに、妖怪の山にも外に繋がるルートがあるらしい?(未確認)








                 *






 並み以上の資産家の家らしく、上条家の敷地は広い。
白い漆喰が塗られた土塀に囲まれた大きな日本家屋。
枯山水まである上品な日本庭園。
どれもこれもが上流階級。
地元の名家で、古くから見滝原の地主を務めている上条家は、当然大金持ちだった。
そうでなければ、バイオリンなんて幼い頃から弾かなかっただろう。
お金持ちの坊やは、将来を約束されているのだ。
彼には、音楽家になるレールが用意されている。


 そんな恭介とさやかが幼馴染として、昔から仲良く出来ているのは、単に親同士が知り合いだからだ。
さやかの父と恭介の父が大学の友人同士で今でも仲がいい。
そして、二人の間にはたまたま同い年の子供がおり、だからその二人の子供が仲良しという訳だ。
逆を言えば、親が知り合いでなければ、二人の間に接点はなかっただろう。
単なる近所に住むクラスメートという仲だったに違いない。





 さやかは上条家の門の前に立ち、インターフォンを押そうとして止めた。

 家から微かにバイオリンの音色が聞こえて来る。練習の邪魔をしては悪い。
演奏中は、元々神経質なところがある恭介がもっと神経質になるからだ。
その上、やっと入院生活から解放されて気分がいいはずだ。
今邪魔が入ると機嫌が悪くなる。






 自分なんかのために、貴重な演奏時間を割いてもらう訳にはいかない。
せっかく怪我から復帰して喜んでいるのに、それに水を差すのは無粋極まりない。



 少し心残りがあるが、これでいい。これが本望だ。
自分はこのために契約したのだ。
今、演奏を聞いているだけで、恭介が歓喜しているの想像ついた。
だから、自分も嬉しくなる。
確かに願いは叶ったのだ。
これ以上望むのは、欲張りというものだろう。












 ……………………退院のことを知らせてくれなかったのも、きっと浮かれ過ぎていて
自分のことを忘れていただけだろう。
バイオリン中毒の恭介らしい愛嬌だ。
だから、「せめて教えてくれてもよかったのに」なんて非難めいたことは思ってはいけない。


 見返りなんかいらない。恭介はまた演奏が出来るようになった。
自分は人々を魔女や使い魔から護る力を手に入れた。
何の不満も無い。




 さやかは胸に手を当て、満足そうに口元に笑みを浮かべると、帰ろうとして振り返った。























 遠くには街の明かり。人口のネオンが宵闇の空をほんのりと照らし出している。
駅の方の中心街には高層ビルが立ち並び、それが煌々と輝いているのだ。
天を突く摩天楼群の光は、そこに無数の人々の営みがある証拠。


























 —— 一人の少女の影が視界に映った ——























 その明かりを背負い、お菓子を齧るシルエットが立っている。
逆光になっていてその表情ははっきりと分からないが、昨日のような余裕のある顔をしている訳ではないみたいだ。
どこか苛立ったような雰囲気を纏っているのが感じ取れた。



 カリッと小気味よい音を立ててお菓子が齧られる。



「会いもしないで帰るのかい? 今日一日追いかけまわしてたくせに」



 どことなく投げやりな声。
さやかのことを構っている筈なのに、それが面倒臭くて仕方ないと言わんばかりだ。
その様子がさやかの機嫌を急降下させた。
はっきりと睨みつけてやる。

「お前は」

「知ってるよ。この家の坊やなんだろ? アンタがキュゥべえと契約した理由って」

 その声にも、多分に棘が含まれていた。
さやかの言葉を無理やり遮り、不機嫌さを隠しもしない。


 はあっと佐倉杏子は溜息を吐いた。


「まったく。たった一度の奇跡のチャンスをくっだらねぇことに使い潰しやがって」

 呆れたような表情でそう嘯く。
その言葉に、さやかは顔が怒りで高潮するのを自覚した。
全身の血液が逆流したんかと思うほど熱くなる。



 いきなり現れて、何を言い出すかといえば、さやかの願いの否定。
何を考えてそんなこと言ったのか知らないが、こんなことを言われる筋合いはない。
それはさやかの誇りなのだ。
確かに、上条恭介という、絶望に落ちた大切な人を救った証なのだ。
それを、「下らない」と蔑むのは、許しがたい暴言。
言語道断だ。
実はイイ奴なのかもと思っていただけに、怒りだけでなく失望感も大きい。




 今日、まどかと共に昨日の路地に行った。
当然、時間が経ち過ぎていて使い魔は居なかった。
杏子(名前はキュゥべえに聞いた)が逃がしたせいで、罪も無い人が殺されるかもしれないのが許せない。
その時、まどかは杏子やほむらと仲良くしようと提案した。話し合えば分かりあえるとも。




 まどからしい、現実を直視していない机上の空論だとさやかは思った。
魔法少女は、テレビアニメの中のそれと違って、実際に人命が掛っているし、杏子みたいに自分の利益のために、
他人を顧みない悪逆非道な奴も居るから、みんな仲良くとはいかないのだ。
まどかにはそれが分かっていない。



 昨日の戦いの顛末は聞いた。
杏子もほむらも、あのメイドからさやかとまどかを守ってくれたのは知っている。
その上、杏子はさやかを庇って撃たれ、しかもまどかとさやかの二人を安全なところまで運んでくれたし、
ほむらは自分から進んでメイドを食い止めてくれたらしい。


 それには感謝している。二人とも根っからの悪人ではないのだろう。
むしろ、あの時さやかを庇ってくれたのは、感謝してもしきれないと思う。
だけど、それで杏子やほむらをいい魔法少女と断定はできなかった。
二人がグリーフシード目当てなのは明らかだから。

 実際、ほむらは廃工場の魔女が倒され、自分が契約したことを知って、随分と悔しそうな顔をしていたし、
杏子に至ってはさやかの邪魔をして使い魔を逃がした。





 だから、まどかに言ったのだ。







 魔女より悪い人間がいれば戦うと。
杏子とも、ほむらとも、そしてあの化け物メイドとも。
人々を傷つける悪人は誰であろうと許さない。
無辜で無力で善良な人々を守るのが、正義の味方だから。
法律や警察で取り締まれない害悪を排除するのが自分の役目だと思うから。







 そうまどかに宣言した。


 そして、さやかは今それが正しいことを確信した。









 やっぱりこいつは悪人だ。












「お前なんかに何が分かる!」


「分かってねえのはそっちだ、バカ!」


 元から機嫌が悪いのか、杏子は刺々しい口調だ。
さやかを強く睨みつけ、更に暴言を浴びせかける。


「魔法ってのはね、徹頭徹尾自分だけの望みを叶えるためのもんなんだよ。
他人のために使ったところで、ロクなことにはならないのさ。
だから巴マミもあんなことになっちまったんだろ? 
人間でもない、魔法少女でもない、吸血鬼という妖怪になり下がっちまったんだよ。
バカバカしいことにねッ!!」

 杏子はそう吐き捨てた。あらゆる悔恨と怒りを込めて。


 だが、あっという間に頭に血が上ったさやかは感付かなかった。
杏子が八つ当たりしているようにしか見えなかった。
願い事どころか、尊敬する先輩を侮辱され、奥歯が砕けるかと思うほど強く噛みしめる。
胸の奥底からマグマのように熱い怒りが噴き上がってきて、さやかの全身を駆け巡った。





「惚れた男をものにするならもっと冴えた手があるじゃない。せっかく手に入れた魔法でさぁ」

 先程の口調とは全く異なる、甘い響きを含んだ声。杏子の顔が妖艶に歪む。


「何?」


 聞いてはいけないと理性が警鐘を鳴らす。
こいつの言葉は悪魔の甘言。
聞いてもロクなことにならない。

 なのに、思わず聞き返さずにはいられなかった。







「今すぐ乗り込んでいって、坊やの手も足も二度と使えないぐらいに潰してやりな。
アンタなしでは何もできない体にしてやるんだよ。
そうすれば今度こそ坊やはアンタのもんだ。身も心も全部ね」











 さやかは耳を疑った。
信じられない考えだった。
とても理解できるものではない。
それを口にするのはもちろん、考え付くのだって常軌を逸脱している。
こいつに倫理観とか道徳観念というものはないのかと、さやかは本気で思った。
自分の望みを叶えるために、魔法で他人を傷つけるなんて、人間の考え方じゃない。


 やはり悪魔の言葉は悪魔の言葉だ。
こいつは紛うことなき極悪非道の大罪人。
昨日のことが嘘なんじゃないかと思えてきた。



 怒り心頭。怒髪衝天。許すまじ!!




 さやかは身を震わせた。

 14年生きてきたが、ここまで激しい憤りと憎しみを抱いたのは初めてだった。
そのあまりの激しさに、とても抑えられる気がしない。
また、抑えるつもりもない。


「気が引けるってんなら、アタシが代わりに引き受けてもいいんだよ?
同じ魔法少女の好だ。お安い御用さ」


 そんなさやかの様子を見ながら、杏子はさらにその怒りを煽る。

 そこにあるのは余裕。さやか如きに遅れはとらないという自信。
それが分かるから、余計に腹立たしい。
最早、さやかの怒りは爆発寸前だった。
ひょっとしたら昨日よりも怒っているのかもしれない。



「昨日助けてくれたことは……感謝してる。
少しは見直したのに…………やっぱりお前だけは、絶対に許さない。
今度こそ……必ず!」




「場所変えようか? ここじゃ人目につきそうだ」





 杏子はそう言って口元に残忍酷薄な笑みを浮かべた。















                    *








 割れた窓から冷たい夜風が吹き込む。都会の空気を吸った汚い風だ。

 昼間は暖かくなったこの時期でも、夜はまだ肌寒い時がある。
濁った排気を含んだ夜風に、咲夜は思わず身震いした。







 懐かしい臭いが鼻をくすぐる。随分と久しぶりの感覚だ。


 荒れ果てた部屋の中、窓ガラスの無い窓辺に立って咲夜は都会の夜景を見下ろす。
この街の中心街に林立するバベルの塔。
天に挑むように、あるいは針山のように、ビル群はそびえている。
その下では、無数の自動車が走り、ビルとビルの間に列車が姿を見せている。
それは街が生きている証。
眩しい不夜城は眠ることを知らない。



 この景色に、地下室しか知らないフランドールは何を思っただろうか? 
案外、あの引き籠もりの妹系吸血鬼は、子供っぽいので素直に感動していたのかもしれない。
幻想郷に住む者たちにとっては、科学の発展の象徴である、摩天楼の輝きは新鮮に映るだろう。






 咲夜にとって、この街の景色は見慣れないものでも、都会の夜景は見慣れたものだった。

 見滝原それなりに大きな街のようだが、夜景の美しさではマンハッタンのそれには劣る。





 
咲夜が初めてニューヨークで「仕事」をした時、エンパイアステートビルの上から夜景を見下ろしたことがあった。
その時には、思わず感嘆の溜め息をついてしまったものだ。
今は無くなってしまったらしいツインタワーも、その時には堂々とそびえ立っていた。



 だが、この夜景を毎日見ながら生活できるというのは、なかなか乙なものだと思う。
この部屋の主も気に入っていたことだろう。
マンハッタンには及ばないが、これもなかなかの夜景だからだ。




 咲夜は、夜景の明かりに照らされた室内を振り返った。


 ぐちゃぐちゃの室内は、咲夜が過ごしやすいように多少片付けられた。
ハウスキーパーをやっているだけあって、掃除は得意だ。
むしろ、そうでないメイドなどいないはず。
いくら銃火器が扱えても、掃除の一つも満足に出来ないようではメイドを名乗れない。


 咲夜は割れた写真立てに目をやる。床に落ちていた物を、棚の上に置いてあるのだ。












 そこには、幸せそうに微笑む親子の姿が映っていた。




 人の良さそうな父親と、美人の母親。そして、優しそうな父の顔と整った母の顔を受け継いだ幼い娘が二人の間に挟まれて笑っている。
まだ、12歳ぐらいの娘はきっとその身に降りかかる不幸のことなど露とも知らなかったのだろう。
どこかの公園に居ると思われる三人は、絵に描いたような幸福な家族。
咲夜が生まれて此の方知らないものだった。













 この部屋の主はその娘だろう。彼女が巴マミ。フランドールの、眷属だ。














 彼女の身に何があったのかは大体察せた。
そして、そんな彼女が寂しさのあまりフランを求めたであろうことも。


 当の本人たちがいないので、二人がどんな生活を送っていたかは知らない。
ただ、関係は良かったのだろう。
それなりに親しくしていたのは間違いない。
ほむらもそう証言している。





 成長したものだと思う。







 フランの友人といえば、図書館の魔女ぐらいだったからだ。
二人で図書館に籠って、ひたすら本を読んだり、魔法実験を行うことに明け暮れていた。
姉のレミリアとさえ碌に会話しない。
最も、姉妹仲はそれほど悪い訳ではないが。



 だから、そんな今までのフランからすれば、異世界で友人を作るなど奇跡に近い。
そのために、奔走するなど天変地異に等しい僥倖ではないだろうか。


 一時はどうなるかと思った。
魔女はひどく落ち込んでいた。
フランを死に追いやったと自分を責めていた。
だが、このままうまくフランを連れ戻せば、万事円満に解決するかもしれない。












 ただし。







 そのためには障害を排しなければならない。










 咲夜は街を見下ろした。



 下から街明かりに照らされたシルエットが飛んでいる。
一見すると鳥のように思えるが、速度と大きさがそうではないことを物語っていた。




 まさか、こんなことになるとは思ってもいなかった。




 咲夜は大きく息を吸い込み、そしてゆっくりと吐いた。




 懐かしい仕事ね。上手く出来るかしら? 
いや、上手くやらねばならないわ。
私は今、お嬢様の手下。
失敗はお嬢様の誇りに傷をつける。
そんなことは断じてあってはならない。






 背後には、傘に偽装したショットガンと、機関銃とグレネードランチャーを仕込んだ武器庫を兼ねる大きなトランクが置いてある。

 咲夜はそのトランクを開けた。
中は、咲夜の能力によって空間が拡大され、さまざまな武器が詰め込まれていた。
備えあれば憂いなしと思ってたくさん持ってきたが、まさか使うことになるとは思わなかったのが、
正直なところ。
今回与えられた任務それ自体は、ただ迷子の妹様を迎えに行くだけ。
その過程で、あらゆる脅威に対処できるように持って来たに過ぎない。


 とはいえ、役に立って良かった。
眷属の方を刺激すれば、どこに居るか分からないフランと出会えるかもしれない。
闇雲に街を探し回るより、余程確実な方法だ。




 トランクの中から、グリップに銀の装飾を施したハンドガンを二丁取り出す。
それを腰に着けたホルダーに突っ込み、続いて予備のマガジンと大量のナイフを用意する。
ニンニクと銀の粉を含んだ特殊な手榴弾も出し、他に閃光弾や聖水の入ったボトルも取り出す。
ついでに、永遠亭製の秘薬も忘れない。

 これで必要な物はそろった。
次に咲夜はそれらを全身に仕込んでいく。


 今着ているメイド服は、家事用だが、戦闘服にもなるという便利な物。
手先の器用な森の人形遣いの作る服は、人間用でも高機能な物だ。
その上、この服は咲夜の能力でさらに細工が施されており、武器を仕込めばそこらの小隊一個分の火力を持てる。





 テキパキと、慣れた様子で滞りなく咲夜は仕込みを終えた。



 滑り止めのついた指だし手袋をつけていると、急に背後に人の気配を感じ取る。



 いつの間に入って来たのか、暁美ほむらが立っていた。






「どこに行くの?」

「“仕事”よ」



 咲夜は短く答え、手櫛で軽く髪を整える。

 後ろに現れたほむらにも驚かない。
自分もよくやるからだし、時間が止まったこともちゃんと知覚したからだ。



「そう。取引の交換条件、覚えているでしょうね」

「もちろんよ。でも、私の狙いは昨日とは違うわ」


 その一言に、ほむらはハッとしたように目を見開く。



「貴女……まさか……」



 ま、誰でも気がつくか。



 咲夜は振り返った。

「止めないでね。貴女の出した条件には無かった筈だから」

 そう言って咲夜は窓へ向かって歩いて行き、躊躇なく空中へ飛び出した。


 ほむらが息を呑んで窓の外を見ると、咲夜は宙を飛んでいた。
落ちているのではなく、滑空に近い飛翔を行っている。




 その様子を見たほむらは、時間を止めて、巴マミの部屋を後にした。












さやか「杏子を絶対許早苗」

さくや「魔法少女マジ狩る☆さくや」



なにげに仲良くなった、ほむほむと咲夜さん。
能力が同じだから、親近感がわいたんでしょうか?










咲夜さんの御年齢は、計算してもここに書き込まないように。

>>435
ガハラさんみたいな人なのか?

いくらマミさんが強くなったかも知れないと言っても、対吸血鬼用の武装をした咲夜さんには勝てる気がしないな

>>437
何をやっても「何やってるの?」黙らせても持ち前のお空レベルの鳥頭ですぐに繰り返すやつ


ギャーマミサーン
正直此処で登場するとは微塵も思ってなかった

とりあえず白饅頭の駆除から始めよう つRPG−7

>>449
いやいや
つICBM(MIRV搭載)

ICBMは大陸間弾道ミサイルだぞMIRVは拡散弾頭だぞ核弾頭だぞ日本が吹き飛ぶぞ

乙ほむ
マミさんがてぃろふぃなーれ()とか言っちゃう厨二系魔法少女からきっとあんこちゃんが構える槍の先端とかに乗っちゃいそうなカリスマ系吸血鬼にランクアップですね!

レーヴァは北欧の神フレイの勝利の剣と同一視されることもあるから魔剣でもあるかもね、基本解釈は魔杖だけど



皆さん予想通りの反応でwww
でも、ほむらを心配している人いなくてワロタ・・・・・ワロタ・・・・
ほむェ・・・・・

現在の状況
マミ:暴走
杏さやまど:ガクブル
ほむら:重体
フラン:消息不明
咲夜:???
歩道橋:軽微な損傷「大丈夫だ。問題ない」


>>487
ありそうだから困るww
某オサレマンガみたいなバトルになるかもしれないww

>>494
スルトの剣とも同一視されているんじゃなかったですか?
はっきりとしたことは分からんですけど。

中二乙


かりちゅま「うー☆うー☆ 戦いが始まるよ!」








                    *






 あまりの急転直下に、思わず杏子は目を開けた。



 目の前には、片腕を抑えてその場にうずくまるマミの姿。
傷口を抑えている指の隙間から、真っ赤に染まったパジャマの一部が覗いている。

 マミが顔を上げ、杏子の背後にいる誰かを睨み上げた。
つられて杏子も振り返り、マミを攻撃した犯人の姿を目に収めた。


 そこに居たのはあのメイド。
両手で黒い拳銃を構え、その銃口をマミの眉間に合わせながら、ゆっくりと近付いて来る。



「貴様が巴マミね」



「くっ……あなた、何したの?」

「分からないのね。ならそれでいいわ」


 そう言って、突然メイドが消えた。


 と思ったらすぐ傍に現れた。その手にはぐったりしたほむらが抱えられている。



 まるで当り前のように行われたその不可思議な現象に、一同は驚愕する。
一体何がどうなっているのか、誰にもさっぱり分からない。
杏子たちにとって、魔法少女でもないこのメイドがどうしてそんなことができるのか、
理解が及ばない。
有り得ないことなのだ。彼女たちの常識では。


「彼女をお願い。あれは私に任せて、貴女たちは逃げなさい」

 他方、メイドの方と言えば、言葉と共にまどかにほむらを押しつけ、マミの方を睨みつけた。


 マミは未だに傷口を抑え、戸惑ったように自分の血とメイドの顔を交互に見て呟く。



「傷の治りが遅いわ。何? 何なの?」

「その理由も分からないくせに……これで妹様の眷属とは、片腹痛いわ」


 咲夜は右手に拳銃を、左手にナイフを握ってマミと相対。
武骨な黒い拳銃のボディと、バナナほどの大きさの、瀟洒な装飾が施されたナイフの銀刃が光を鋭く反射する。
どちらも少女の細腕には似合わない物騒な物なのに、不思議と咲夜が持っていると、そこにはある種の
調和のようなものがあって、不釣合いな感じはしなかった。
逆を言えば、それだけ彼女がそういった武器を“持ち慣れている”ということであり、自然、杏子は
咲夜の踏んできた場数の多さを直感的に感じ取っていた。


 だから杏子は、この場で口を挟むことはできなかったし、まず第一、事態が急に動きすぎて、
頭がそれに追いついていなかった。
それに加え、先程咲夜が起こした奇妙な現象もその混乱に拍車をかけていた。
まどかもさやかも同じで、しかし、三人があっけにとられているうちにも話は進む。
メイドとマミは互いに睨み合いながら円を描くように移動し始めた。


「そう。あなたがフランの言っていたメイドさんなのね」

「気安くその名を呼ぶな!」


 昨日とは違いメイドの口調は乱暴で荒々しいものだった。
表情も、能面のようなものではなく、その目は獲物を狩る虎のように獰猛で、今にも食い殺さんとしている。
あの路地で杏子たちを襲った人物と同じとはとても思えないほど、今の咲夜は激しい感情を見せていて、
ロボットではなく猛獣の様であった。


 いったい、何が彼女をここまで憤らせるのか、どうしてこんな激情を撒き散らすのか、
全く杏子たちには分からない。
分からないが、それでも、今ここで彼女の邪魔をすれば、昨日と同じ目に遭うことだけはよく分かった。
だからこそ、杏子も、さやかも、まどかも、動かず、喋らず、ただ黙って事の行く末を見守るほかない。



「私は、あの子の眷属なのよ。名前を呼ぶ権利ぐらいはあるんじゃない?」

 対してマミの表情は涼しげなものだった。
嘗めているのか、あるいは本当にそうなのか、余裕たっぷりといった感じだ。
それこそ、先程から変わらない、“いつも通り”の巴マミのままの声で、言葉遣いで、仕草で、
咲夜と問答している。
マミ個人が咲夜を恐れていないのか、あるいは吸血鬼に人間の殺気程度のものは通用しないのか。


「フランドール様は栄えあるスカーレット家の妹君。
その名を軽々しく口にするのも憚られるやんごとなき身分のお方。
貴様のような低俗で野蛮な畜生がその名を呼ぶ権利を主張するなどおこがましいにも程がある。
吸血鬼としての矜持も品格も無い。今の貴様は野獣に等しい」


 メイドは足を止め、銃とナイフを構え直した。



「だから殺す」





 瞬間、起きたのは超常現象。
マミの周囲に、両手両足の指を使っても数えきれないほどのナイフが現れた。突然、空中に。


 そして、そのナイフの大群の全てがマミの体を狙っており、その全てがマミに向かって飛んで来たのだ。


 到底避けきれるものではない。
何が起こっているのか理解できないまま、しかし、マミはそれを防いだ。

 当たればヤバいことは分かる。
瞬時に自分をリボンで覆い、繭を作ったのだ。
足元から、パジャマの袖口から、瞬く間に伸びたリボンは、押し寄せるナイフの大群全てを弾き返し、
完璧にマミを守りきった。



 マミを守ったそのリボンは、魔法少女時代に使っていた黄色いそれではない。
吸血鬼になった彼女を象徴するかのような、真っ赤なリボンだった。
血のように真っ赤な色だった。


 マミの周囲の路面に落ちて、ナイフが甲高い音を響かせる。
が、それもすぐに音を立てなくなった。
それらは全て、まるで最初から存在しなかったかのように消えてしまったのだ。
しかし、それは幻ではない。



「なるほど。これがあなたの能力なのね。厄介だわ」


 全然厄介とは思っていない、余裕の落ち着いた声でマミが言う。
リボンの繭が解け、中から黄金色の吸血鬼が再び姿を現した。

 同時に咲夜がその背後から銃とナイフで襲いかかる。
そのナイフの切っ先はマミの頸動脈を狙い、その銃の銃口はマミの脳髄を撃ち抜かんと牙を剥く。


 それに対し、マミは背後を向くこともなく、黙って足元の、歩道橋を覆うアスファルトを砕いた。
ゴオンという凄まじい音ともに、歩道橋全体が崩れるんじゃないかと思うほど激しく揺れ、
咲夜が僅かに怯んだ隙に距離を置く。


「それ、銀ね。やっと分かったわ。傷の治りが遅いのもそのせいね」


 マミが自信満々に言い放つ。
その腕の傷は既に癒えており、後には赤く染まったパジャマしか見えない。
対する咲夜は口の中で軽く舌打ちしてまた消えた。



 同時に、辺り一面を埋め尽くすような、尋常じゃない数のナイフが出現した。
先程のナイフの大群よりも多い。
歩道橋を照らす街灯の灯りを、ナイフの銀刃が反射し、それは行く筋もの閃光となって、
空を切りながら次々とマミに襲いかかる。




 けれど、マミは余裕の顔で、余裕をこいて、先程のようにリボンの繭で自身を守ろうともせず、
翼をはばたかせ、強風を起こしてナイフの軌道を反らせようとするが、その体に銀の銃弾が突き刺さった。



「ぐッ」



 腹に銃弾を受け、怯んだマミに次々とナイフが命中する。


「あああああ!!」


 マミは悲鳴を上げてその場に倒れた。
そうする間にもナイフは津波の如くマミを呑みこんで、その体をずたずたに引き裂いていく。
血飛沫と悲鳴が飛び散り、一瞬にして歩道橋は凄惨な赤色に染まった。





 そして————、

 再びナイフが消え、咲夜がマミの前に現れる。
僅かに息が乱れているが、まだまだ余力がありそうだ。


 一方で、先程まで余裕綽々だったマミは無残にも倒れ伏していた。
体中を切り裂かれ、真っ赤な血の池に沈んでいる。
服もボロボロで、ほぼ裸だった。


「マミさん!!」

 まどかが叫ぶ。

 そこで初めて咲夜は見ていた三人と一匹に目を移した。


「まだ居たの?」

「あんた! いくら何でもやりすぎだろ」

 さやかがメイドに向かって吠える。だが、メイドはそれを無視した。


「問答している暇はない」

 それだけ告げて、咲夜がその場を飛びのいた。

 同時に空から何かが降って来て、轟音と爆風を撒き散らしながら歩道橋を砕く。
それはさっきやられたはずのマミ。
しかし、その体はまったくの無傷だ。
それを見た咲夜が悔しそうに呻く。

「分身か。妹様の能力をある程度受け継いでいるみたいね」

「大丈夫よ、鹿目さん、美樹さん。これぐらいじゃやられたりはしないわ」


 歩道橋にのめり込んだ両足を片方ずつ抜きながら、マミは優しくまどかたちに微笑みかける。
だが反応は芳しくない。
まどかもさやかも、怯えたような表情を見せるだけで、さっきのようにその名を呼んだりはしない。


「嫌われているわよ。『マミさん』」


 メイドは侮蔑の笑みを浮かべてマミに向かって中指を立てた。


「それはあなたのほうじゃなくて?」


 マミは表情を消す。
そして、次の瞬間にはアスファルトを蹴り、咲夜に向かって一直線に飛び出した。





 だが、その顔はすぐに、怪訝そうに歪む。





 一向に咲夜に近づかないのだ。




 理解不能な状況に、マミは戸惑う。
本来なら、とっくにメイドを八つ裂きにして、原型も留めない挽肉にできる筈なのに、
なぜかそれは未だに、目の前にあって、腹の立つ嘲りの笑みを浮かべているのだ。
果てしなく殴り飛ばしたい。
が、それを殴り飛ばす距離まで近づけない。









「馬鹿ね」

 メイドが口を開く。遅れてそんなセリフが聞こえてきた。






 ————そう。花火を見た時のように、あるいは雷が光った時のように、目に見える現象より遅れて音が到達する。
それは何故かというと、距離が遠いから……。



 まさか!?



 そう思った時には既に遅く、背後にメイドの姿。
丁度振り向いた瞬間に、ありえない速度でメイドのナイフがマミの胸に突き刺さった。



「ガハッ」


 呻き声を上げ、膝から力が抜けたマミはその場に崩れ落ちる。
ナイフは確実にマミの心臓を貫いていた。
いかに頑丈で治癒力の高い吸血鬼と言えど、急所を、それも銀製のナイフで刺し抜かれては、
立っていることすらできない。
結果、マミは自分を狩るハンターに対し、致命的に無防備な姿を晒してしまう。



「死ね」



 メイドの銃が火を吹く。
合計四発。
銀の弾丸が、マミの額、心臓、腹、首に直撃した。














仄かに少女臭の漂う中、始まったマミさんと咲夜さんのバトル。

血が湧き、肉が踊り、乳が揺れる!!


ちなみに、マミさんはノーブラなので、胸がすごいことになってます。
脂肪の詰まった柔らかいふくらみが、上下・左右・斜めに、とえらいことになっとります。
オフwwwよだれがwwwwwwwww




以下、ちょっと訂正。



>>447


>月明かりに照らされ、杏子にとって懐かしい、下した金髪が輝く。

→街明かりに照らされ、杏子にとって懐かしい、下した金髪が輝く。



>>543


>中途半端に欠けた月を背負ったマミの瞳が赤く輝く。

→星も月もない夜空を背景に、マミの瞳が赤く輝く。


ご覧のとおり、月がなくなりました。
本来なら、この日この時間帯に月は浮かんでいないので。

月の説明は、また何回か後の投下の際にします。


では、お待ちかねの胸糞☆説明タイムですw

おつ

もうさやかがいるとややこしくなるから、そのまま放っておこう(提案)


まぁ咲夜さんの方が時間停止半端じゃないし、空も飛べるからちょっと時間掛ければ回収は容易だろう

は……発狂(既にしてた気がするけど)マミさんだー!



乙マミさん

もうすぐ第二章も終わります。
結局、さやかと杏子とマミ中心に話が回りました。
予告すると、第三章もそんな感じ。


・・・・・・あれ、主人公・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一応、主人公は全部で三人いるので、、、、


>>618
www
酷いwwwでも採用しようかなwwww


>>619
時速100kmで走る車は3分で5km進みます。
べえさんの暴露とか、マミさんの発狂とかで、これくらいの時間が経過したとすると、
空を飛んでも往復10分はかかるかと(もちろん時間はずっと止めてる)

とか、理屈をこねてみる。


ちなみに、本編でのSGを乗せたトラックの速度を計算してみました。
跨道橋(歩道橋じゃなく、こうい言うのが正確らしい)の高さを目算で15mと仮定し、
本編の、トラックの荷台にSGが落下してからさやかの意識が途切れるまでの時間を計ったところ
約8秒。
ここから、トラックの速度を計算すると、

およそ、時速44km

一般道じゃねえか!!
誰だよ高速道路っつったの!


>>621
助かったマミさん。
どんどん壊れていきますwwwwwww


現在の被害
杏子・まどか:無傷、心に大きなダメージ
ほむら:意識不明の重体
咲夜:健康
マミ:バーサーカー
(歩道橋改め)跨道橋:重傷(生きているって素晴らしい)








              *







 三人はしばらく無言だった。



 誰も何も言うことができなかった。
まどかは、泣くことさえできていない。
立て続けに襲って来た残酷な事態に、その思考も感情も追いついていないのだ。


 しばし、三人は呆然としていて、やがてその心身はそれぞれの感情に支配される。







 ある者は、思わぬ形で己の約束が破られてしまったことを悔いていた。








 ある者は、自分自身に隠された恐るべき事実と完全に狂ってしまった敬愛する師匠のことで心が押しつぶされる寸前にあった。








 ある者は、死んだも同然の親友を抱きかかえ、信じがたい事実に精神をすり減らしていた。




















「……………………なんだよ、これ」















 最初に呟いたのは、杏子だった。


 辺りを見回せば、ひどい光景が広がっている。

 ショックのあまり立ちすくむ二人。
親友の抜け殻を抱えて呆然とするまどか。
めちゃくちゃに破壊された跨道橋に、路面を汚す白い肉片。
そして、今なお苦しそうな呼吸を繰り返して横たわる暁美ほむら。







「こんなの、ねぇよ……」


 自然と杏子の膝から力が抜け落ちた。
膝を路面に着いた杏子は、カツンと槍を立てて、それを支えに祈るような姿勢になる。





 そして、俯いて、呻くのだ。






「なんだよ。ふざけんなよ。何が、ソウルジェムは魂だ、だよ。そんなの知らねえよ……」







 柔らかな少女の心は、無慈悲な現実という鋭い爪でずたずたに引き裂かれ、その傷口からドクドクと、夥しい量の血を流している。
杏子の言葉はまるでその血を吐くようで、苦悩とも悲嘆とも悔恨ともつかぬ、感情の塊がその口を突いて出たのだ。


 下の高速道路を、大きな音を立てて車が走ってゆく。
そこに落ちたさやかのソウルジェムの行方は何処と知れず、重苦しい空気が辺りを包んでいた。










「……佐倉……杏子」

















 地の底から響いて来たような掠れた声が杏子の鼓膜を震わせた。
ハッとして音のした方を見ると、暁美ほむらと目が合う。
苦しそうに顔を歪めながら、それでもしっかりと目を見開いて杏子を見上げている。


「おい! 大丈夫か!?」

「ほむらちゃん!?」



 ほむらは横たわったまま、浅い呼吸を繰り返すだけ。
相当苦しいようで、起き上がる気配はない。
杏子は立ち上がってほむらの傍に寄る。







「何が……あった、の?」



「ソウルジェムが、魂だって分かったのよ」




 咲夜がさやかを一瞬ちらりと見遣りながら答えた。
それで事情を察したのだろう、ほむらは微かに頷いた。


「ま、ずい、わね」

「知ってたのね」

 咲夜の問いに、さらにほむらは頷く。




「美樹、さやかの、ソウルジェムは、どこ?」



「……下に、投げ捨てちゃったわ」


「テメェ、何だよその言い方!!」


 咲夜の、あまりにも他人事だと言わんばかりの言い方に、杏子は激昂する。
思わず掴み掛ろうとした杏子に、


「杏子……」とほむらが声をかけた。

「なんだよ」杏子は手を止め、再びほむらを見下ろす。

「ソウルジェムが砕かれたら、美樹さやかは、死ぬわ。早いところ、見つけないと、手遅れになる」




 なおも呻くような声でほむらは続けた。その右手が懐を弄っている。何か探しているようだ。

 杏子は学校に行っていないが、ほむらの言葉の意味が分からないほど馬鹿ではない。
殴り飛ばしたくなる咲夜のすまし顔から目を背けて、あからさまに舌打ちする。


「どうやって、見つけんだよ……」

 途方に暮れたような、苛立ちを抑えられていないような声を出す杏子。
ほむらは、それを聞きながら、路面に横たえていた左腕を動かし、自身の胴体の上に置いた。



「魔女探しと、同じ要領でやれば、いいわ。美樹、さやかの、魔力の波動を、探すの」



 そう言う彼女のソウルジェムは、もう真っ黒だった。
体の回復に相当魔力を使っているらしい。
そのせいで、元の宝石の色が分からないほど濁っていた。


「お前……それ、真っ黒じゃねえか」


 絶句する杏子。
彼女はこれほど濁ったソウルジェムを見たことがなかった。
まるで黒いしみのようで、とてもジェムとは思えない。

 そう言えば、ジェムが濁りきった時、何が起こるのだろうか? 
杏子は知らなかったが、良くないことが起こるのは、ほむらのジェムを見れば了然だ。



「いえ、大、丈夫」

 苦しそうにしながらも、ほむらはグリーフシードを懐から取り出していた。
先程からこれを探していたらしい。
震える手でグリーフシードをソウルジェムに宛がって浄化し始める。



「巴、マミは?」



 ジェムからシードに穢れを移す間、ほむらは咲夜を見上げてさらに質問した。
咲夜は眉を寄せて、悔しそうな顔で吐き捨てるように答える。





「逃がしたわ」


「そう……」






 対して、ほむらはそれだけしか反応を見せなかった。
今は、逃げたマミより、自分の体の方が重要なのだろう。
ただ、その顔はどこか安心したように安らいでいた。

 そう。先程から、息を吸って吐くのも苦しそうにしているにもかかわらず、彼女は安堵の表情を見せたのだ。
その妙な変化に、杏子は僅かな引っ掛かりを覚え、その訳を問いただそうと口を開きかけたのだが、
次の咲夜の言葉によってそんな小さな疑問はどこかに吹き飛んだ。




「完全に狂ってしまったわ。あれはかなり危険よ。最低限の理性も失って、力の続く限り暴れ続ける」

 その咲夜の様子に、杏子は何も言えなくなった。
なぜなら、彼女の言っていることは、事実だから。
それも、杏子がまざまざと見せつけられた光景だから。

 否定をする気も起きなくなるほど杏子はその言葉に納得してしまったのだ。



「……そう」



 浄化を終えたグリーフシードを、ほむらは懐にしまった。
キュゥべえがいない以上、どうするかは分からない。




 コツコツと、靴音を鳴らして咲夜がほむらに近づく。
そして、無理やり体を起こそうとして、痛みに顔をしかめていたほむらの体を支えたのだ。



「助かるわ」

 そのまま咲夜はしゃがんで、ほむらに背を向けた。負ぶされという合図だ。


 その意図を察したほむらは、やたらノロノロとした動作で、咲夜の背中にしがみついた。
咲夜は立ち上がり、そのままほむらを負ぶって去って行く。



「おい、待て! どこ行くんだテメェ」

 慌てて杏子が呼び止めると、咲夜は立ち止まり、前を向いたまま冷たい声で答えた。


「帰るのよ。ここにはもう用はないわ」

「さやかは! さやかはどうすんだよ!?」

「……ソウルジェムを紛失したのは、私の責任。
探すのには協力するけど、私は魔法少女でもないし、この街に詳しい訳でもない。
それに、あの吸血鬼に対処しなければならないから、あまり期待はしないでね」



 そう言って、闇に消えて行っってしまった。







 それを見届けるしかなくて、杏子は胸の内に溜まったもやもやしたものを唾と一緒に吐き捨てた。


「クソッ」

 悪態をつき、未だにさやかを抱えて震えているまどかに近づく。
変身を解いて、元のパーカー姿に戻った。


「ぁ……」

 そして、まどかからさやかを奪い取るようにして抱え上げる。
意識を失った人間の体は、思った以上に重かった。
ただ、並みの少女ではない杏子は、その程度でふらつくこともなく、しっかりとさやかの体を持つ。



 その様子を、まどかが戸惑ったように見上げていて、杏子は踵を返しながら彼女に言った。

「とりあえず、コイツをどっかに隠すぞ。このまま見つかったら事だ」

 そして、咲夜が去った方とは反対方向に、さやかを抱えたまま歩き出す。


「いいところを知ってる。ついて来な」


 そう、まどかに声をかけて。



「うん。ありがとう。えっと、名前は……」


「杏子。佐倉杏子だ」


「杏子ちゃん。私は、鹿目まどか。よろしく、ね」

 立ち上がったまどかがその背中にそう言うと、


「よろしくな」と、小さな声が返ってきた。










杏子たんハアハア


復活したほむらは咲夜が、さやか(マグロ)は杏子が、回収しました。



まど杏です。まど杏・・・・・


あんこをもっと泣かせたい。。。。



毎日更新し続けて2週間
お疲れ様です

(‥深く考えるのはやめておこう‥)



もうこんな更新ペースで大量投下してても驚かねぇぞ(速過ぎだろ)


いつの間にか杏子がメインヒロインに。
さやかジェムをのせたトラックは高速道路を走ってたから下手すれば違う県まで行っちゃうぞw

ところで残ってた最後の理性もブッ飛んだのはもう魔法少女ですらないけど、長い間信頼してたQBですら自分を騙してたことを知っちゃったから?

吸血鬼になった時に自分が化け物になったと思ってたら、実はとっくの昔に既に化け物だったこととか、
それだったら化け物にしたという理由でフランを責めた自分は何なんだろうとか、まぁ色々あると思うね



過去ログ見たら、26日から毎日投下してるのなww


>>634>>635
リアルを犠牲にして、、、と言う訳ではありません(笑)
書き溜めが大量にあって、それを投下して行っているだけです。
どれくらいあるかと言うと、今まで投下した分が書き溜めの6割ほどw
ちなみに、書き進めてないので、書き溜めを消費していっているだけです。
このペースだと、来月には追い付きそうです。


>>636
SG探しにあんこが旅する話でもw


>>637>>638
他にも、さやかちゃんが契約した=人じゃなくなった事に対する負い目とかも。
さやかはさやかの意志で自分の願いを叶えたけど、勧誘したのはマミさんだから。










                     *








 跨道橋を離れた咲夜とほむらは、今、ほむらの家に向かっていた。
咲夜は見滝原での拠点をほむらの家に移すことに決めたのである。
先に荷物を取りに行きたかったが、ほむらがこの状態なので、まず咲夜はほむらを家に送って行かなければならなかった。
その後、今まで拠点にしていた巴マミの部屋に荷物を取りに行く。




 二人は無言のまま、夜の街を往く。
時々ほむらが道を咲夜に教えるだけで、二人の間に会話はなかった。


 ポプラの木が並んだ大通りの歩道。
10時を過ぎて、歩く人影はほむらを背負った咲夜だけ。
車道を、時々家路を急ぐ車が走って行く。

 前から車が来るたび、ほむらは眩しい光を浴びることになるので、咲夜の頭を陰に顔を隠していた。
微かに、香水の香りがほむらの鼻腔をくすぐり、ほむらの心を少し落ち着かせる。
鼻に付かない程度の適度なその香気が彼女の小さな優しさを感じさせてくれた。

 咲夜は前を向いたまま、淡々と歩き続けている。
静かに、ほむらを揺らさないように、気を使ってくれているのだろう。





 第一印象は最悪だった。




 なにしろ、狭い路地の中で、尋常じゃないぐらい凶悪な銃火器をぶっ放していたのだ。
一歩間違えればまどかが蜂の巣になっていた。
ハリウッド映画に出てくるアクション俳優顔負けの火力押しだった。
それも、どちらかと言えば敵役の方の。



 だが、話してみると意外と打ち解けやすい人物だった。

 口も達者で、ブラックジョークも多い。
けれど、今のようにさり気ない優しさを見せることもある。
そして、自分の中にぶれない軸を持っている。









 それが、主君:レミリア・スカーレットへの忠誠。












 主人が、カラスは白と言えば、彼女はカラスを白くし、死ねと言えば、喜んで周りを巻き込みながら死ぬ。
そんな人物だとほむらは感じたのだ。



 さらに、彼女は何事にも基本的にポジティブだ。
出会って少ししか経っていないが、それは彼女の行動に端的に表れていた。











「ねえ、ほむら」

 不意に咲夜がほむらに呼びかけた。ほむらは咲夜の耳元で囁くように答える。

「何かしら?」



「怖い?」





 投げ掛けられた問いは、ほむらの予想だにしないもの。
一瞬、何を聞かれているのか分からなかったほむらは、思わず「え?」と聞き返してしまった。



「怖い?」と、咲夜はもう一度繰り返す。

「……何が?」

「あの、吸血鬼のことが、よ」



 なんで……。
と呟いた声は掠れていて、この至近距離でも果たして咲夜の耳に届いたのか分からないくらい小さかった。


 どうして分かるの? という疑問が心の中で広がっていく。
その感情は、ほむらが先程芽生えさせたものだ。
つい数分前に抱いたものだ。
なのに、どうして咲夜がそれを言い当てられたのだろうか? 
どうしてほむらが巴マミを恐れているのが分かったのだろうか?



 疑問と共に混乱も波紋を広げる。
だから、ほむらはしばし無言だった。
存外、想定外の事態に弱い暁美ほむらという少女は、言葉を失って感情の乱れに囚われていたのだ。
そして、その混乱を引き起こした咲夜もまた、どうしてか口を開かなかった。



 結局、どちらも何も言わず、二人は黙ったまま夜道をしばらく進むことになった。

 その間も、ほむらの頭の中では、ぼこぼこと、「どうして?」とか「何故?」といった疑問が次から次へと湧き出していて、収拾がつかなくなっていた。


 マミに襲われ、殺されかけたという事実を認識した時、ほむらは恐怖の波に呑まれ、その脳内が埋め尽くされてしまったのだ。
もちろん、その認識だけが恐怖の源泉ではない。
過去に経験した、今やトラウマと言ってもいいほど忌まわしい記憶との相乗が恐怖を生み出したのだ。

 ただ、それを他人に知られるとは思わなかった。
何より、ほむらにとって自分の心の内を知られるということは、恐ろしいことである。
詰まる所、図星を突かれた挙句、その不意打ちからの混乱と内心を知られたという恐れがほむらの頭をぐちゃぐちゃに掻き乱し、
思考は堂々巡りをし始めたのだ。



 そんなふうに目を回し始めたほむらに、黙ったままだった咲夜が、回答を示した。


「恐れるのは仕方のないことよ。
誰だってあんな目に遭えばそうなるし、何より、人が妖怪に恐怖を抱くのは当たり前のこと。
妖怪は、人の恐怖が生み出したモノなのだから」



 混乱が止まる。

 ほむらは咲夜の頭部に頭を預けながら、その言葉に耳を傾けた。


「貴女の反応は、まさにその妖怪を恐れる人間のものだった。
過去に同じ反応を数多く見て来たから、すぐに分かったわ。
驚くことないし、恥じることもない」

 安心させるように彼女は言う。その声に滲んでいる微かな思いやりがほむらの心を落ち着かせた。


 頭を巡っていた混乱はすっきりと消え去り、疑問の答えも分かって、ほむらは取り敢えずほっとする。
どうやら、内心が表に出ていたらしい。

 まあ、先程の動揺も咲夜に見抜かれていたようだが。


 自分は昔と比べてかなり変わったと思うし、ポーカーフェイスも身につけたと自覚しているのだが、
どうにも分かりやすいところもあるみたいだ。

 気を付けようと思う。
思うのだが、どうしてか、心は静かなままで、奇妙に落ち着いていた。
だというのに、違和感は全くなく、何故分かりやすいところがあることが分かってもそうなのか、
少しほむらは考えた。


 さっきは咲夜に図星を突かれたことにあんなに動揺したのに。




 と、そこで、ふと気が付く。


 別に、咲夜なら知られてもいいかもしれないと思う自分がいることに。



 どうして? ホワイ? と問う前に、こじつけの様な理由が思い浮かびあがってくる。



 彼女が、今までにいなかったイレギュラーだから。
同じ能力を持っているから。
魔法少女ではないから。
エトセトラ……。












 でも、違う。そうじゃないんだ。

 そう思う。


 では、何がその理由なのか?

 私は、咲夜との間に何か通じるものを感じているの? だからなの? 



 考えて、考えて……、







「…………貴女は、怖くないの?」

 気が付けば、そんなことを尋ねていた。

 まるで、自分と彼女の間の共通点を探るように。





「……恐怖心がないと言えば、嘘になるわ」







 紡ぎ出された答えは、少々意外なもの。


 なにしろ、路地裏ではあれだけの大立ち回りを見せ、全く恐れ知らずのように思えたからだ。
しかも、マミとどんな戦いを繰り広げたか分からないが、出掛ける前にあれだけ念入りに準備をしていて、
今も無傷であることを考えれば、健闘したのだろうということは分かる。


 そんな彼女が、恐怖心を抱いているなんて、思いも寄らなかったのだ。









「でも」と、咲夜は続ける。
「それが躊躇う理由にはならない。倒さなければならない敵がいるなら、私はその恐怖すら踏破する」






 言い切った咲夜。


 その言葉に、ほむらは「そう」問い返しただけ。

 その後につけようと思った「強いのね」という一言は、僻んでるみたいに思われそうだったからやめた。














 倒さなければならない敵(ワルプルギスの夜)がいる。
だから、恐怖に打ち勝たなければならない。







 ほむらの目的はただ一つ。



 鹿目まどかを魔法少女にせず、魔女の夜祭を越える事。



 まどかを守らなければならない。
魔法少女にならないように、あるいは他の因子によって死なないように。


 巴マミがまどかを傷つけるなら、巴マミを排除しなければならないし、現に彼女はまどかに危害を加えようとした。
だから、倒さなければならない。

 だというのに、この様ではとても彼女と戦えそうになかった。




 それは私が弱いから。かつての、無残に無力な小娘だった部分が残っているから。



 まだ足りない。まだ強さが足りない。



 暁美ほむらという少女は、たった一人の親友との約束を道標に戦い続けて来た。彼女を守るために。

 だから、強くなる必要があった。
そうしなければ自分以外の誰かを守るなんて叶わない。
弱い自分を捨て、甘さを排し、ただひたすら道標を頼りに邁進しなければならなかったのだ。





 だから、こんなところで止まっていられない。巴マミなんかを恐れていられない。

 それでも、まだ弱い自分は、その恐怖を踏破できそうもなかった。

 それが、ほむらの中で深い失望を生み、心は落ち込んでいく。

 咲夜と自分の間に通じるもの。確かに存在する。
けれど、それ以上に大きな隔たりが彼我の間には横たわっているのだ。




 強い彼女と弱い自分。





 でも、彼女ならその弱さをさらけ出せると、彼女なら受け止めてくれると、根拠もなく思ってしまう。

 弱いのは駄目だ。でも、今だけは、と思う。思ってしまう。
















 ————と、



「私、貴女に謝らないといけないことがあるわ」




 ぽつりと呟くように発せられた咲夜の言葉。

 うじうじと考え込んでいたほむらはその言葉に、ハッと意識を戻す。
脈絡もなく、いきなり変なことを言われたので、数瞬、ほむらの思考の動きが遅れた。


 そして、当然生まれた疑問を呟くように口に出す。

「謝らないといけないこと?」

 しかし、咲夜はすぐには答えなかった。






 迷っているのか、自分の頭の中で言葉をまとめているのか。
どちらにしろ、彼女はしばらく沈黙したままで、ほむらも咲夜の言葉を待って、また沈黙していた。
















「約束、破ってしまっわ」




 やがて聞こえてきた告白は、傍を走る車の音にかき消されてしまいそうなほど小さかった。
その様子に、ほむらは咲夜が何を言おうとしているのか分かった。

「彼女、美樹さやかだったかしら。あの子のことを、傷つけてしまった。ごめんなさいね」

 懺悔の声は、後悔の色を含んでいた。
咲夜の表情は伺えないし、動揺がある訳でもない。
ただ、淡々と罪を告白する。



 そんな咲夜に、ほむらは驚いていた。




 もっと厚かましくて、不遜な性格をしていると思っていたからだ。
こんなふうに、殊勝に、謙虚に、律儀に、約束を破ったことを謝罪してくるとは思いもよらなかった。
けれど、この様子や、ほむらに見せたちょっとした優しさを見るに、彼女もまた、根はいい人なのかもしれない。




 だから、ほむらは口元が緩みそうになった。
咲夜は見ていないけれど、ここで笑ってはダメだと思い、なんとか我慢した。
それは、思い切って告白してくれた彼女に対し、流石に失礼だろうから。


 それからほむらは少し考えた後、今一番咲夜に必要な言葉を与えた。

「別に、いいわよ。私も、言ってなかった、わけだし。
それに、美樹さやかの、ことだから、どうせ、貴女の邪魔をしたのでしょう? 
だから、貴女は、私との、約束を破らないように、彼女のソウルジェムだけを、狙った。
つまり、偶然の事故よ。気に揉むことはないわ」


 少し回復したとはいえ、まだ一度に長文をしゃべるのは苦しい。
ほむらは、大きく息を吐いた。









「……ありがとう」












 先程よりさらに小さな声。照れているのだろうか? 
だとしたら案外かわいいところもあるみたいだ。


 それからまたしばらく続く沈黙。
咲夜は押し黙って歩き、ほむらは呼吸を落ち着かせるために何も言わなかった。















「ねえ」

 少しして、今度はほむらから声をかける。

「何?」と、咲夜は相変わらず前を向いたまま返事をした。

「どうして、約束を、守ることに、そんなに、拘るの?」


 またまた訪れる沈黙。
夜道を走る車の音に加え、どこからか救急車のサイレンが聞こえてきた。


 ふと、ほむらはまどかと保健室に行く間にした会話も、こんなふうにテンポが悪かったわ、
なんて関係のないことを考えた。














「お嬢様が、そういうことには厳しいから、よ」


 そして帰ってきた答えには、ほむらの興味をそそる言葉が含まれていた。
それは彼女の軸。主君。


「お嬢様って、確か、彼女の姉の……」




「レミリア・スカーレット様よ。
現スカーレット家当主にして、かつてはヨーロッパでも指折りの悪魔卿であったお方。
そう。悪魔なの」




 仰々しい修飾句と共に語られる彼女の主人の名。悪魔の名前。


「悪魔、ね。なら、むしろ、約束なんて、平気で破りそうだけど?」

「逆よ。悪魔は約束事に敏感。決して破ったりはしないわ」

 きっぱりとそう言いきる咲夜。なるほどと、ほむらは頷いた。


「だから、貴女も約束は破れない」

「そうよ。従者の名誉は主人の名誉。従者の不名誉も主人の不名誉。
悪魔に使える者が、約束や契約違反をすれば、傷つくのは我が主の名よ。
故に、私はそのようなことは決してできないの」

 そう語る咲夜の声は、とても自信に満ちていた。













 そう。それが彼女の誇りなのだろう。
吸血鬼に忠誠を誓い、我が身を一生捧げる。
それこそ、まさに先程ほむらが確かめようとした、自分と通じるところだ。
彼女の倒さなければならない敵とは、すなわち主人の敵だ。









 もちろん、全く違うことだ。
ほむらはまどかを救うために荊の道を歩き続けている。
咲夜は、主人のために一生働き続ける。




 だが、どちらも、たった一人のかけがえのない大切な誰かのために、生きる。そこに違いはない。










 だから、咲夜のことをもっと知りたくなった。
先程から考えていたこと。弱さと強さ。




 何故吸血鬼に仕えるの? どうして恐怖を乗り越えられるの? 何が貴女の道標なの?





「理由を聞いても、いいかしら? 貴女が、その吸血鬼のお嬢様に、仕える理由を」


 思えば、他人に興味を持つのは、まどかを除けばこれが初めてだ。
かつて魔法少女の先輩として教えを受けた巴マミとも、まどかの幼馴染である美樹さやかとも、
共闘を持ちかけた佐倉杏子とも、こういう話はしたことがなかった。







 共通点が多いからかしら。




 暁美ほむらという少女は社交性が高くない。
入院生活が長かったためか、かつては同年代の女子と話すことさえ緊張した。
それからほむらはだいぶ変わったが、社交性の低さは相変わらずのままだ。
表面的な話題について人と話すことはあっても、互いの内面に踏み込んだ話はしない。
したことがない。


 もちろん、まどかは別だ。
鹿目まどかという少女は、暁美ほむらを語る上で欠かせない要素だから。
ただ、まどか以外でこんなふうな話をすることは初めてだった。
それも、自分の内から湧いてきた感情によって。






 だから、ほむらはそんな自分の気持ちに軽い驚きを覚えたのだった。
そして、その気持ちも悪くはないとも思ったのだ。
















「…………なら、貴女の話も聞かせてほしいわ」







 帰ってきた答えは交換条件を求めるもの。















 それは…………そうだろう。






 咲夜の言っていることは全く不自然じゃない。
ただ、ほむらには躊躇いがあるのだ。自分の過去を他人に話すことについて。




 果たして受け入れてもらえるか? まどかでもないのに、話していいのか? 期待は裏切られないか?













「分かったわ」













 口を突いて出た了承の言葉。
半ば無意識だったけれど、特に驚かないし、無意識に答えた自分自身にむしろ、感謝したくらいだった。


 きっと、躊躇いを振りきれなかっただろうから。
そして、多分咲夜は、ほむらが躊躇いを見せいていたら、譲歩してくれただろうから。
無理に語らなくてもいいと、情けをかけてくれていただろうから。


 それは嫌だった。


 だから、無意識的に返事をして良かったと思ったのだ。





 咲夜なら、聞いてくれる。理解はしてくれないかもしれないが、受け止めてはくれる。




 今だけは、弱い自分でもいい。他者に過去をさらけ出してしまうような無様な少女でもいい。












 微かに、咲夜は頷く。そして、語り出した。














「私は、昔、吸血鬼ハンターだったの。この稀有な力を持つ故に、そう育てられたのよ」









「誰に?」

 合いの手に、ほむらは問う。ちょっとした驚きと、そこから生まれた素直な疑問のために。




「今もあるかは知らないけれど、少なくとも私が吸血鬼ハンターをやっていた頃には、そういう悪魔退治の専門機関があったの。
場所は言えないわ。今も存続していたら拙いし。まあ、ヨーロッパにあったとまで言っておこうかしら」

「そんなものがあるのね」

「ええ。言わなくても分かるとは思うけど、キリスト教の機関よ。
主の教えに背く邪悪を滅するのが私たちの使命だったわ」





 彼女の充実した武装はそこに所以があるのだろうか。
銃の扱いに慣れていたのも、戦闘訓練の賜物だと思えば不思議ではない。




「私は物心ついた時からそこに居た。
親の顔は知らないわ。教官がその代わりを務めてくれていた。
だから、私は幼いころから吸血鬼を殺すために、ありとあらゆる技術を叩きこまれたわ。
基本的な体術や銃の扱いはもちろんのこと、吸血鬼によく効く武器の作り方まで教わった。
そうして、12になるころには立派な吸血鬼ハンターとして狩場に駆り出されたのよ」

 それから彼女は次々と吸血鬼を駆逐していったらしい。
さらに、吸血鬼だけではなく、悪魔や人狼などと言った、吸血鬼以外の魔物も狩るようになったのだという。
正直、魔女以外にこんなに化け物がこの世に存在していたことが何よりの驚きだった。



「意外と都会にも多いのよ。魔女じゃないけれど、人の悪い感情に取りつく悪魔もいるわけだしね。
そういう感情は、ストレスの多い都会の人間の方がたくさん抱えている。
ニューヨークには何度も足を運んだわ。
ウォール街は多くの人の夢が果てる場所だから」

「魔女もそうなのかしら?」

「かもしれないわね。とにかく、不幸な人が多い場所に奴らは現れるわ。
おいしい餌場なのでしょうね。
だから、私も必然的にそういう場所に向かった。
ニューヨークに限らず、紛争の続いていた旧ユーゴスラビア、通貨危機の起こったタイや韓国、
そして、テロが発生した東京や地震で壊滅した神戸とかね」

 だから、日本語がしゃべれるのよ。と、咲夜は付け足す。





 だがちょっと待ってほしい。
咲夜の言っていることが本当なら、今の彼女は確実に二十代後半の年齢だ。
だというのに、彼女は高校生くらいにしか見えない。



 ほむらがそれを率直に言うと、

「何を言っているのよ、ほむら」



 肩越しに、ちらりとこちらを見ている咲夜の目は溜息を吐きたそうだった。




「私も貴女も、時間を扱うことができるのよ。
自分の肉体の成長や老化を遅めることぐらい、造作もないわ」

 ということは、この人はかなり年上のお姉さんらしい。


 ほむらも外見以上に年齢を重ねてきたが、流石に咲夜ほどではない。


 やっぱり、二人はよく似ている。













「それはともかく、私が吸血鬼ハンターとして最後に狙ったのが、スカーレット。



レミリアお嬢様の首よ」


















 スカーレットという家名は、相当有名らしい。
古くから続く吸血鬼の家系で、その名を聞くだけで誰もが恐れ戦いた。
しかも、レミリア・スカーレットはそのスカーレット家の中でも、最高の素質と実力を兼ね備えた最強の吸血鬼としてその名を轟かせていた。
もう、その吸血鬼を打倒する力を人類は持っていないから、決して勝てないと言われていたほどだったそうだ。



















 ————咲夜を除いて。











 彼女は、レミリアを倒す人間の最後のカードとして期待されていた。
高い技術、豊富な経験、そして何より、時間操作という強大な能力。
人間で唯一レミリアを倒し得る存在であり、彼女が倒れたら人間たちにもうレミリアに対抗する手段はない、とまで言われた。

















「それが蓋を開けてみれば、完敗だったわ。まるで歯が立たなかった。
時間停止の効果は確かにあったけど、あちらにしてみれば、“戦いにくい”程度の認識でしかなかったでしょうね」



 その圧倒的な力に粉砕された咲夜は、それでもレミリアの前で呼吸を続けることを許された。
それは偏に、彼女が咲夜の能力に興味を持ったからにすぎない。




「『お前は面白い奴だ』と、お嬢様は仰られたわ。だから、私は生きることができた。お嬢様の、従者として」





 敗北は死、と考えていた咲夜からすれば、それは意外な結末であり、そして同時に屈辱であった。
自殺しようとした彼女を、吸血鬼は諌めたのだという。






「実際に出会うまで、私はお嬢様のことを、人間たちが築き上げた想像の中でしか知らなかった。
ただひたすらに凶暴で、邪悪な存在だと思わされていたわ。
でも、本当はそうじゃなかった。
あのお方は、非常に高貴なお方。無暗な殺生を忌避されるし、弱者を暴虐で虐げることも良しとしない。
常に自らの在り方に気品を求められている」

 単なるプライドの塊ではないのよ、と咲夜は言う。その口調は、とても誇らしげだった。


「あの方と出会って、私は、恥ずかしながら、初めて真の強さというものを知ったわ。
お嬢様は紛うことなく真実の強者であられ、誰よりも夜の王にふさわしいお方。
カリスマなんて安っぽい言葉で言いたくはないけれど、
それでもあえて使うなら、あの方は間違いなく真のカリスマを備えてらっしゃるわ」

 だから、と繋げながら、咲夜は微かに顎を上げ、天を仰いだ。

「惚れたのよ。惚れ込んだのよ。
そして、私はこの方のために生きて、生き抜いて、死ぬまでこの私の全てを捧げようと、誓ったの。
この名前も、今ここに居る私の『十六夜咲夜』という名前も、お嬢様から与えられたもの。
吸血鬼は十五夜、満月の夜に最も力を発揮するわ。
だから、私はその後ろに控えて、十六夜の月に花を添えるのよ」

















 そう語る咲夜の横顔は、とても美しかった。
暗い街灯の光の下で、それでも彼女の目は輝いていた。







 ほむらは何も言えなかった。
こんな話をされては、閉口せざるを得ない。
「すごいわね」なんて、ありきたりな言葉を吐いて、雰囲気をぶち壊しにしたくはなかった。


 だから、黙っていた。余計なことを言わないように。




 すると、咲夜はさらっと話を締めくくった。

「と、まあ、こんな感じよ。長くなっちゃって申し訳ないわね」





「……いいわ。私の話も、長いから」








 ちょっとずつ回復しているので、ほむらは何とか長話をできる程度には、元気になっていた。

 とは言え、ほむらの心臓は早鐘のように鳴っていた。
まどか以外で自分の話をするのは初めてだ。

 ほむらは気を落ち着かせるために深呼吸をすると、ポツリポツリと語り出した。








「私はね。未来から来たのよ」























                 *







 深夜。





 東南東の空にやっと姿を現した月齢26の月。
その明かりは、日付をまたいで丑三つ時も過ぎ、もうそろそろ早朝と言われる時刻になっても明るい地上の星の光にかき消されてしまっていた。
ただ、夜空にそれが浮かんでいるのが分かるだけ。
この世界において、月は夜の女王ではなく、地上の光に圧迫されて、夜空の片隅で細々と光っているだけの存在だった。




 都会に住む多くの人間たちはそんな月を見上げたりはしない。
視界に映っても注意を向けない。
人はいつの間にか、月を見ることすらしなくなった。










 そんな月を、凋落した夜の女王を、一人の吸血鬼が見上げていた。














 赤い航空灯が点滅する高層ビルの屋上。
落下防止の高いフェンスの外で、屋上の縁に腰を掛けている少女がいる。
足をぶらぶらさせて、紅い瞳に月を映していた。少し肌寒い春の夜風に煽られて、彼女の長い金髪が舞う。



 それだけ見れば幻想的な光景。平凡な画家でも名画が描けそうなくらいだ。


 けれど、そこに居るのは狂気に染まった吸血鬼で、近づく人間を全て喰らわんとする凶暴な獣だった。

















 吸血鬼はワラふ。





 なぜなら、彼女はそれしかできないから。
彼女は泣き方を忘れたから。








 彼女を支えていたものは全て崩れ落ちた。



 彼女の親友にして主人である悪魔の妹は、彼女の悪意が傷つけ、拒絶した。
彼女の大切な後輩は彼女のせいで生きる屍と化した。
彼女の長年の仲間は彼女自身が殺した。



 故に、彼女の心の中には誰もいない。想う人はいなくなった。



 そして、空っぽになった心を、代わりに埋めるのは、狂気。



 少女は狂う。笑って、狂気に身を委ねる。




















第二章完










う〜ん、前半グダグダだった気がががggg

ほむほむの心理描写はもっと削ってもいい気がすぅ。



何はともあれ、さやかちゃんのSGは行方不明のまま、マミさんは壊れたまま、第二章が終わりました。


さて、次からはみんな大好き、あのお方が登場します。

お姉さんな咲夜さんかわいいなぁ


さくほむがなんか良い感じ。こういう風に常識ではあり得ない話をお互いに語り合えるっていうのはいいもんだな。
自分の所業全てに絶望して理解者すら拒絶したあの人はもうどん底だけど。



追記


お月さんの説明です。

↑で、月齢26の月とありましたが、さやかのSGが運送された日から日付を跨いでますので、
月齢が25の月が、跨道橋での事件のあった日の月になります。

2008年の4月から5月にかけて、と言う設定ですので(ほむらがループしてきたのが、4月16日ということになります)、
この間で月齢が25なのは5月1日。
>>595で修正したのは、この月は深夜に昇って、午後の早い時間に沈むため、
日没後には見えないはずだからです。


月は話の中の時系列をはっきりさせるために重要です。
これからちょっと時系列が複雑になるので。




ほむほむのカレンダーには31日があるから三月か五月なんだろうが、三月じゃあんな木々が青々してない上に桜も咲いてないし、
五月じゃ六月になった後夏服になってなく雨も一回しか降ってないんだよな
だから四月が一番合ってるんだよな

大量投下まじで乙
ただ>>1の時折入れるマミさんの状況に(悪意を感じる)草生やすのが気になってしょうがない

しかし今の時点でここまで壊れてたら、魔法少女が魔女になるという最悪の事実を
知ったときどうなるのか楽しみではある(それまで存在していられるかの問題があるが)

ミストさん「魔法少女は魔法少女で化け物だから、
       吸血鬼という化け物になっても特に問題ないってことにはなりませんよね?」

フラン「カリスマ?」レミィ「ブレイク!!!って何言わせてんのよ?」を思い出しちまったじゃねぇかよ……咲夜さんのカリスマ発言で



乙マミさん


今朝の地震すごかったですね。
揺れで目覚まして、テレビ付けたら、6弱とかあってビビったww
しかも、震源が阪神大震災に近いし。
幸い、大きな被害はなかったようですが。

テレビで、近くに住む一人暮らしのお年寄りに声をかけるように呼びかけているのを聞いて、
この国もまだ捨てたもんじゃないなあと思ったり。
政府の対応がやたら早くて結構頼もしかったり。






(てんこさん要石お願いします)





>>663
三十路咲夜さんが受け入れられて良かったお。
クーデレ咲夜さん、マジにじゅうなry


>>664
ほむらがデレるとしたら、咲夜さん相手だよなあと思ったり。


>>668
不思議ですよねえ、あのカレンダー。
虚淵さンは何月を想定してたンですかねェ。


>>673
そ、そんなことないですよ(:.;゚;Д;゚;.:)
ほ、ほら、好きな子に意地悪したくなるっていう、アレ・・・・・・・


>>674
魔法少女が化け物かっていうのは、難しい問題。
裏を返せば、人間って何だろう? という哲学の問題なので、簡単に答えられないし、
正しいと言える答えが出るものでもないですね。

吸血鬼は化け物に違いはないですけど。


>>678
>フラン「カリスマ?」レミィ「ブレイク!!!って何言わせてんのよ?」
どこかのSSのタイトル?
ググってみたけど出なかった(´・д・`)

まあ、巷で広まっている、カリスマ(笑)とか、かりちゅまなお嬢様じゃなく、
ちゃんと「カリスマ」のあるお嬢様を書きます!!





第二章行間


















                    *
 













 その日も紅美鈴は門番だった。




 彼女が門番ではなかったのはちょっと昔。
十六夜咲夜がメイドになるまではメイド兼門番兼庭師をやっていた。
その頃はかなりの激務で休む暇もなかったが、別に苦には思わなかった。
美鈴にとっては、偉大な吸血鬼の王の下で働けることが誇りだったからだ。
そして、それは今でも変わっていない。


 現在は、門番兼庭師になった。
何分、メイド長は大変優秀なので、彼女一人で働かないメイド妖精の分まで補って余りあるので、
お手伝いに呼ばれることもなく、従って、あんまりすることがない。
いつもは時々花壇の手入れをして、たまにやって来る訪問者の相手をするだけで、後の時間の大部分を
シエスタに費やしている。
眠くなかったら太極拳の練習でもやっているくらいだ。


 ここが勢力と勢力のぶつかり合う危険な場所だったらそれなりに緊張感のある仕事になっただろうが(戦闘にも自信があるし)、
生憎、平和な幻想郷である。
訪れるのは、近くに棲む妖精たちや、この館の住人の知り合いが何人かだけ。暇なものだ。


























 だが、それは「いつも」の場合である。今は、「いつも」ではない。












 何が起こったのかは全て聞かされていた。
その上で、隠蔽のために美鈴はここに「いつも通り」立たされているのである。
そうして、この館が、紅魔館が「いつも通り」であると振る舞うのだ。
何故なら、美鈴は紅魔館の顔でもあるから。


 今のところそれは成功していた。
事件が起きて二週間弱経ったが、未だにそのことが外に漏れている様子はない。
まあ、幻想郷の各勢力は各々縄張り意識が強い。
その気になれば幾らでも閉鎖的になれるのだ。

 美鈴としては、隠蔽には少し首をかしげる。
ただ、これくらい緊張感があった方が仕事にやりがいができるとも思う。
昔みたいに、ハラハラドキドキとは言わないが、幻想郷は長閑過ぎて些か退屈していたところだったからだ。
もちろん、この事件は早く解決して欲しいと思っているが。




 発端は二週間前、紅魔館の地下図書館で行われていた大規模な魔法実験。
この館の客人と館主の妹が進めていたスキマ妖怪が依頼した魔法の実験。それが、悲劇を生んだ。



 美鈴は直接その場に居合わせた訳ではない。
その時も、例の如く、門番をやっていたからだ。
そもそも、美鈴は余り地下には行かない。行く理由も無い。

 ただ、外に居たとはいえ、美鈴は「気を操る程度の能力」を持つ妖怪。
実験の失敗が起きた時、地下からぐちゃぐちゃになった魔力の波動をしっかりと感じ取った。
そして美鈴が採った行動は、何事も無いかのように門番を続けること。
ちょうどその時、美鈴は妖精たちの相手をしていた。


 紅魔館は、幻想郷にある最大の湖「霧の湖」の真ん中に浮かぶ島に建っている。
その島からは砂州が岸辺まで続いているので、歩いて行き来できる。
そして、この霧の湖は、幻想郷に棲む妖精の半分以上がそこに居を構えている場所でもあった。
その妖精たちの中で、最も力が強い、自他共に認める「最強の妖精」チルノと、彼女とよく一緒に居る大妖精がその時紅魔館の門前に居たのだ。

 何をしていたのかといえば、チルノが新しいスペルを開発したので、美鈴はその腕試しの相手をしていたのだ。
妖精の行動原理は子供そのもので、チルノもその例に漏れず子供なのだが、「最強の妖精」と言うだけあって、
流石に力は結構あった。
弾幕の密度もそこらの妖精と比べ物にならない。
集中を切らせばすぐにやられてしまう。

 だからと言う訳ではないが、美鈴は事故が起きたのを感知しても妖精たちとそのまま戯れていた。
チルノも大妖精もそれが分からなかったらしいので、特に教える必要も感じなかった。



 無視したのは、美鈴が不真面目だからではない。
彼女はあくまでも紅魔館の顔であり、お嬢様の指示があるまでは表情を変えないつもりだったし、
そうするべきではなかったからだ。
館内のことなら、大抵は咲夜が対応するし、もし咲夜の手に余る事態になっても、お嬢様が居る。
どの道、美鈴が出る幕はなかった。




 妖精たちにはちょっとだけ早く帰ってもらった。
にこにこ笑みを浮かべて二人を見送った後、「いつも通り」の門番を続けたのだ。

 お嬢様からの指示があったのはその直後だった。
客人パチュリーの作った通信用の魔法道具(手紙の形をしていて、美鈴の懐にしまってある)が喋った。
曰く、館内に誰も入れるな、と。



 後はその通りにするだけで、その後やって来た天狗やら魔法使いやらを門前払いし、美鈴のその日の職務は終わった。
事情を知ったのはその後だった。










 実験が失敗になった結果、主人の妹、フランドールが消えた。
パチュリーの目の前で起こったらしい。
魔女の取り乱し様が、今まで見たことも無い程ひどかった。
逆にお嬢様の方が落ち着いていたくらいだ。



 次に美鈴に与えられた役目は、魔女の治療。
それほど深刻なものではなかったが、妖怪は精神の生き物、ひどい錯乱は時として命の危機に繋がる。
その予防だった。



 魔女の気を整え、ゆっくりと心を落ち着かせる。
尋常ではないご様子だった。
並みの妖怪なら、これだけ取り乱せば致命傷だっただろう。
だが、そこは大妖怪。
命に別条がない程度の重傷で済んだのは不幸中の幸いだった。
彼女を支えていたのは、まだ妹様がどこかで生きているかもしれないという最後の希望だったのだろう。
逆に、それが折れてしまえば魔女は絶望して死んだか、あるいは再起不能になってしまっていたかもしれない。


 事件後、初めて彼女を見た時、美鈴も驚かざるを得なかった。
元々不健康な生活をしていて、喉が弱く、顔色も目つきも悪いお方だったが、その時の彼女は、
何と言うか、亡者みたいだった。

 顔面はいつも以上に蒼白で血の気がなく、目元にははっきりとした隈ができていて、唇はカサカサの上に紫色、
泣き腫らした目が真っ赤。
美鈴が診た時、すでに魔女は廃人のようで、外界にほとんど反応を示さなかった。

 気を落ち着けた後も、魔女は普段の様子が嘘のように弱々しかった。
お嬢様は、妹様よりもむしろ、そんな魔女の方を心配していたように思う。
それが、自分と同じ強靭な吸血鬼である妹様への信頼か、それとも目の前で苦しんでいる親友の方の優先事項が高かったのかは分からない。
ただ、事件後もお嬢様は妹様のことは余り気にしていない様子だった。







 それが不自然かと言われれば不自然と言えたし、当然かと言われれば当然と言えた。
そういう方なのだ。お嬢様は。

 家族や友人には温かく優しい面を見せることもあるが、同時に非常に厳格で冷徹な吸血鬼の王でもある。
それなりに付き合いの長い美鈴は、そんな彼女の反応を何パターンか予想できた。
現実の反応は、その内の一つだったから、特に不審には思わなかった。







 ただし、それはあくまでもお嬢様の事件に対するリアクションだけの話である。
その後のことは、流石に首を傾げるようなことが幾つかあった。






 例えば、このことを公表しないこと。
裏でお嬢様の友人であるスキマ妖怪が動いていたのは知っていた。
妹様の捜索は彼女に任せているらしかった。

 ただ、決して小さくない事件である。
少なくとも博霊の巫女の耳には入れておくべきだったと思う。
しかし、巫女にはそんな様子はなかった。
事件後、一度巫女の方から紅魔館にやって来たことがあった。
何故来たかと言えば、「最近宴会に来ないけどどうしたの?(意訳)」だそうだ。
事件のことを知っていたらそんな反応にはならなかっただろう。




 美鈴に与えられた役目。それは、外から来る相手のシャットアウトである。
人妖問わず、誰も館内に入れるなとのお達しだった。
特に、魔法使いと天狗には気取られるな、と。





 対外向けの言い訳は、「魔女が大規模な魔法実験に失敗して負傷した上、館内もめちゃくちゃで、しばらく修復に時間が掛かるから誰も入れなくなった」である。




 どうせ、あの実験失敗の時に漏れ出た魔力は隠しようがない。
特に気にするのは白黒魔法使いと記者の天狗だろう。
魔法使いは単にお見舞いで来るだけだからまだいいとして、天狗の方は取材と称して確実に探りに来る。
そこでお嬢様が採った方法は、敢えて自らその取材に応じることだった。









 紅魔館の庭で、咲夜と共の取材に応じるお嬢様。決して館内に天狗を入れなかった。
その天狗、射命丸文はそのことが不満だったようだが、一応はオープンな姿勢を見せるこちらに対し、
それ以上突っ込む理由が無かったのだろう。
大人しく引き下がった。
もう後は、記事にするようなことは無い。
表向き、パチュリーが回復したかしないかが話題になる程度で、そんなものは紙面の一部に記事でも載せれば済むことだからだ。

















 さて、この事件もそろそろ解決の兆しを見せてきた。
というのも、スキマ妖怪が妹様の居場所をおおよそ特定したからである。
そのため、数日前に妹様の迎えに咲夜が派遣された。

















 不審な点、その二である。















 妹様の居場所が分かったなら、そのままスキマ妖怪が連れ帰ってくればいいだけのことだ。
なのに、何故わざわざ咲夜を派遣するのだろうか?



 一応、その理由と言うのは説明された。
なんでも、外の世界では妖怪は十分に力を使えないため、人間である咲夜が適任なんだとか。
それなら、スキマ妖怪なら力技で何とかなりそうな気もするのだが……。













 だが、主の言うことだ。
美鈴は敢えて追求するようなことはしない。できない。
とにかく咲夜が妹様を迎えに行った。
二人が帰って来れば一件落着である。
魔女の体調も快方に向かっているし、すっきり片付くだろう。











 だから、今日も今日とて美鈴は門番を勤める。









 すでに日は高く、春らしいポカポカとした陽気が地上を包んでいた。
天気もすっきり晴れていて、霞はあるが気持ちがいい青空が広がっている。




 背後に目を向けると、そこには紅い館を背後に、春の化粧を施した自慢の庭が視界に飛び込んで来る。





 花々はこれでもかと言うほど色鮮やかに咲き誇り、ゆらゆらと心地良さ気にそよ風に吹かれていた。
庭は庭師も兼任する美鈴が毎日細目に手入れしているので花壇は色とりどりの花で一杯だった。
この子たちが幸せそうに咲いていると、こっちまで努力が報われた気がする。





 門から正面玄関へ、庭を縦断する道の両脇には菜の花やタンポポが植えられていて、その花弁は黄金に近い黄色に輝き、
マリーゴールドはオレンジ色や黄色い花に日光を浴びせて、オオイヌノフグリは小さな花びらを深い青色に染めていた。


 一昨年植えたばかりのユーカリの木(お嬢様が変わった植物を植えたいとご注文されたので、
ちょっと珍しいユーカリをスキマ様経由で手に入れたのだ)はもう立派に成長して、白い雄しべのたくさんついた花を咲かせている。
すぐに枝が伸びるので、細目に剪定しなければならず、手間が多いが、その分、切った枝や葉の用途も豊富だ。



 その下、西側から夕日が当たらない場所には黄色や白のチューリップが風に揺られている。
チューリップはあまり日当たりが良すぎるとすぐに花が咲き終わってしまうから、この位置に植えたのだ。
今はいい感じに咲いてくれていて、近くにある背の低いマリーゴールドとの対比が素晴らしい。

 チューリップの花壇から小道を挟んで反対側には芝桜が広がっていた。
緑の上に、やや紫がかったピンクの花が乗っかっている。
グラウンド・ピンクと言う別名がぴったりで、それだけで地面が彩られていって、
思わず、このピンクの絨毯に飛び込んで甘い花の香りに包まれたくなる。




 庭の隅には桜の木が植えられている。
もう花見の時期が過ぎて、すっかり花を散らしてしまい、残花と新緑が混ざって多少見栄えが悪くなってしまっているが、
それが逆に季節の移り変わりを教えてくれていた。
これから新緑の若葉が庭の端に添えられることになるだろう。


 門の傍に置いてある鉢からはアサガオが若草色の蔓を伸ばし始め、キュウリやナスといった夏に花を咲かせる植物も芽を出していた。

 さあっと風が吹き、花々がゆらゆらと揺れる。
同時に、辺りを芳しい春の匂いが舞い上がり、美鈴は思いっきり息を吸ってその匂いで肺を満たした。
長い赤髪ともみあげの三つ編みも風に漂わせ、美鈴はゆったりと目を閉じる。



 目蓋の裏にも鮮やかな庭の色が浮かぶ。
鼻腔を花の香りが刺激するのを感じて、自然と口元が緩む。
今年も綺麗に咲いてくれた花々に感謝しつつ、もう一度大きく息を吸い込んだ。





「うわあ。すごいですね〜」

















予想の斜め上を行くまさかの行間。まさかの門番。



花の知識はテキトーにネットで調べて来たものなので、間違っているところが多々あるかも。

イギリスの貴族という設定なので、イングリッシュガーデンにしようかとも思ったんですが、
難しくてよく分かりませんでした。
なので、ユーカリがあったり桜があったり、割といい加減ですw




さて、声を掛けて来たのは誰でしょう???


東方で美鈴に敬語使いそうなキャラが非戦闘キャラ以外だと早苗さんと文と妖夢ぐらいしか浮かばない
文かな

おつおつ
オオイヌノフグリとか…いやらしい…

前の方でテレビに守矢のことやってたから早苗とみた

くれないみすずにまつわる諸説

呼び鈴の妖怪説→説得力があり人気
メイドを呼ぶためのベルの妖怪説→御嬢様の使ってきたベルが妖怪になったという説。メイレミ妄想が捗る
キョンシーの妖怪説→以前は人気があった。しかし芳香の登場で不人気に
龍や麒麟の妖怪説→強みすず支持派に人気がある
パンダの妖怪説→大穴。一部でカルト的な人気がある

あと住所不定のフラワーマスターと鈴蘭毒娘もだろう

>>678の発言した奴だけどあの
フラン「カリスマ?」レミィ「ブレイク!!!って何言わせてんのよ!?」
はいえろーぜぶらが出してた東方M-1ぐらんぷりの第六回でのスカーレット姉妹のネタの最初の方にあった発言だよ




つか東方M-1まじでツボにはまるわ



>>691
惜しかった!


>>693
そう言えばそうだったw
金○とか、ヤラシイ///


>>697
あれはそういう意味ではなく、別の複線だったりします。


>>701
>呼び鈴の妖怪説
クーリエにあった、七つの大罪をテーマにした紅魔組の話を思い出した。
そこで、確かめーりんは呼び鈴だったはず。
でも、個人的にはうそっこおぜうの時みたいな中途半端な竜っていう説のが好き。

ここでは特に設定してません。


>>703
フラワーマスターは、一応「花の妖怪」では?
鈴蘭は設定明らかになって内っぽいけど、付喪神に近い感じ?


>>706
見て来たwww
家燃やすなやwwww

ラブホに吹いたw


では、ぼちぼち書いてきます。








                  *







 背後から、少女特有の、若くて元気のいい声が聞こえた。
目を開け、息を吐いて振り返ると、そこに居たのは幻想郷のニューカマー。



 名は、確か「コチヤ サナエ」。漢字は……どう書くんだっけ?




「いらっしゃい。守矢神社の子でしたよね」

 はいっと、少女は元気よく、太陽に負けないくらい輝いた顔で返事する。



 この季節に合った新緑の長い髪。蛙と蛇の髪飾りが目に付く。
白を基調としたノースリーブに青地のスカート、そして分離した袖。
どうして幻想郷の巫女は脇を出したがるのだろう?(正確には風祝と言うらしいが)





「そう言えば、こちらに来るのは初めてですね」


 早苗(確か名前はこんな字だった気がする)は相変わらず邪気のないキラキラとした目で美鈴を見つめる。

「改めて自己紹介しましょうか。私は、紅魔館で門番と庭師を勤めている紅美鈴です」

「東風谷早苗です。東に谷に風と書いて『コチヤ』、早いと苗で『サナエ』と書きます。以後改めてよろしくお願いしますね!」

 ぺこりと早苗は頭を下げた。本当に礼儀正しい、いい子だ。



 こういう、明るい子と話しているとこちらまで元気になれる。
なんて、年寄臭いことを思ってしまった美鈴だった。




 彼女は、彼女の信仰する二柱の神と共に、神社ごと幻想郷に引っ越してきた。
なんと、湖のオプション付きで。

 それだけでも大変な騒ぎなのに、その上引っ越してきた場所が天狗の牙城、妖怪の山であり、
しかも引っ越し早々、恐るべきことにあの博霊の巫女に喧嘩を売ったのだ。
そこで勃発したのが守矢異変である。

 彼女の神社に居る神々はこの島国ではかなり有名な神様のようで、彼女たちがやって来た時には、
その鮮烈な幻想郷デビューも相まって、それはそれはすごい大騒ぎになった。
到る所で彼女たちの噂が囁かれ、美鈴もいろんな人妖からうんざりするほど聞かされたのはいい思い出だ。
しかも、その中には直接異変に赴いた白黒魔法使いも含まれていたというオチ。

 白黒は有ること無いこと、いろいろと誇張して美鈴に得意げに語っていた。
多分、幻想郷中に居る知り合いにそう語っていたのだろう。
まあ、いつものことなので話半分に聞いていた美鈴だったが。




 その後、山の勢力と和解した守矢はそこで信仰を集め、無事幻想郷に定着した。
それが半年前の、去年の秋のころの話である。








 さて、その守矢と紅魔館に繋がりができたのは丁度その頃のことだった。
異変の後、博霊神社で例の如く開かれた宴会にて、我が主、レミリア・スカーレットと守矢の祭神の一柱、八坂神奈子が、
気が合ったのか、打ち解けた。
以後、二人の親交は今日まで続いている。



 片や高位の悪魔、片や高名な神である。
本来なら敵対してもおかしくないような種族の違いがあるが、共に武勲に優れ
(お嬢様には吸血鬼の王としての権威を裏付けるほどの力があり、八坂の神も軍神として祀られている)、
一勢力を率いる主人であり、かつては統治者でもあった二人は、それなりに共感する所が多いのだろう。
特に、お嬢様は強い相手がお気に入りらしく、力ある者同士の繋がりを重視する。
ただ、そのような打算を抜きにしても、二人の気が合うのは確かなようだ。
気が付けば、親しげに話しながら酒を飲み交わしていた。





「それで、御用件を伺いましょう」



「あ、実はレミリアさんにお会いしたいのです」





 純真な笑顔でそう言う早苗。美鈴は少しだけ困ったような顔をして見せた。


「ええとですね。わざわざ御足労して頂いて申し訳ないのですが、ただいまお嬢様とはお会いできないのですよね」

 そこで早苗の表情が曇り、戸惑ったような顔になる。

「えっと、お出掛け中ですか?」

「いえいえ、そういう訳じゃないんですけどね」

 こんないい子に隠し事をするのは気が引ける。
ただ、仕事は仕事だ。
あまり乗り気はしないが、美鈴は表情を作ってマニュアル通りの返答をする。



「実は、今館の中でトラブルが起きていまして、中に誰も入れないんですよ」

「あ……! 確か、図書館の魔法使いさんがお怪我をなさったとか。新聞で見ましたよ」

「そうです。それです」

 その新聞と言うのが、射命丸文の発行する「文々。新聞」だろう。
これで「ぶんぶんまるしんぶん」と読む。


「まだ、お怪我が治らないのですか?」

 心配そうに尋ねてくる早苗。何だか、すごく心が痛む。



 有能だけど性格がアレなメイドさんと交換すればいいリフレッシュになりそうだ、
と美鈴は心の中だけでかなり失礼なことを考えつつ、

「ええ。まあ。ただ、快方に向かっているので、もうすぐ治りますよ。
お嬢様も大事を取っているだけなので、そこまで心配する必要はないです」

「そうですか。ああ、でも、それじゃあ今日のところは無理ですね……」


 残念そうな顔をする早苗。
と、用件を大体察した美鈴は提案する。






「用事って、ひょっとして、八坂神奈子さんからですか?」


「え? あ、はい。そうですけど」

「伝言か、渡す物があるなら、私がお嬢様に取り次ぎますよ。
こちらの都合で無駄足になっちゃいけませんから」

「え、えーと」

 と、逡巡する早苗。だが、すぐに意を決したような顔になる。
なんだか仕草がいちいち初々しくて微笑ましい。


「分かりました。それでは、これをレミリアさんにお渡し願いますか?」

 そう言って早苗が懐から取り出したのは、一通の封筒。
「八坂神奈子より」と表に達筆な墨字が書かれている。


「はい。じゃあ、お嬢様に渡しておきますね」

「お願いします!」

 と言って、また早苗は元気よく頭を下げる。
その頭が上がるのを待って、美鈴はもう一つ尋ねた。




「今すぐの方がいいですか?」

 美鈴としては、あまりこの場を離れたくない。
急ぎの用事でないなら、夜に渡してもいいだろうと思う。


「いえ。別にそういう訳ではありませんけど、出来るだけ早く返事が欲しいと、神奈子様は仰っていましたから、
お返事は早くに頂けると助かります」

「分かりました。それでは、明日のこの時間にまたお越しください。
その時、お返事させていただきます」

 そう言って美鈴は完璧な営業スマイルを浮かべた。



 早苗も表情を明るくして元気よく返事をして、それから……、



「あの、ところで、ちょっといいですか?」


 まだ何かあるのかと美鈴が首を傾げる。

「何でしょう?」

 キラキラと輝く早苗の目と美鈴の目が合う。





「お庭、少し拝見させて頂いても宜しいですか? お花が綺麗なので」


「どうぞ! お好きなだけ見ていって下さい」




 今度は、美鈴も心からの笑顔を浮かべることが出来た。

















短いけど、今日はここまで。




まだ、綺麗だったころの早苗さん。
純真無垢、天衣無縫、天真爛漫なお嬢さんですw


ちなみに、神奈子様からのお手紙の内容は、
「宅飲みしようぜ!!」
です。

何分、メールも電話もないので・・・・

乙ー
今月の茨を見るに早苗さんは今でも純粋な良い子やで(憤慨)
風神録から半年後ってことは時期的には儚月抄前後?

おつおつ
早苗さんは2p巫女じゃないよ!よ!

綺麗だった頃って・・・今は酷いみたいな言い方は止めようよ!
早苗さんは昔も今も根っこ部分は全然変わってない良い子だよ!

ニューカマーね…早苗さんって男の娘だったのか( ゚Д゚)

そういえば別の東方×まどマギSSでもあったけど、鍵山雛がいればソウルジェムの穢れは全部吸い取ってくれるんじゃ?




>>719>>723
これは失礼しました。
影響受けやすい純粋っ子なんですよね、早苗さん。

白は何色にも染まりやすいって、白の魔法使いも言ってましたし。


>>721
今では強烈な個性を獲得しましたもんね。
まあ、当時は「この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね」と言う前なので・・・・


>>725
まさかその言葉からそんな発想をするとは・・・・
妄想力すごいww


>>727
早苗さんが見滝原行くやつでしたっけ?

結論から言うと、無理なんじゃないでしょうか。
求問口授によれば、「厄」とは、不運の幽霊らしいです。
不慮の事故とか、病気とかを呼び寄せてしまうものです。
要は外部的な要因。
一方、「穢れ」は(これが厄介なんですが)、SGに溜まる、魔法少女が生み出した「負の感情から出て来たもの」
と考えてもいいわけです。
負の感情を抱くとSGは濁るので。
こちらは、内部的な要因。
起こす結果はよく似たものでも、出が異なる。
だから、雛さんにはお門違いではないかと。
(あくまで1の個人的な見解です)


ところで、もうしばらく行間が続きます。








                  *







 それから美鈴と早苗は紅魔館の庭で花を見回りながら楽しくお喋りをした。
早苗は少し花の知識があるようで、随分と美鈴との話が弾んだ。
そして、幾種類かの花の種を分けることを約束して、早苗は「ありがとうございました〜!!」と言って
帰って行ったのが三十分ほど前。





 再び美鈴に暇な時間が訪れた。









 と思ったら、そうでもなかった。







 遠くから黒い点が近づいて来る。気配は一番来て欲しくない相手を示していた。



 その点はあっと言う間に一人の少女として目の前に現れる。
一陣の風が吹き、美鈴の髪を乱して降り立ったのは、件の天狗、射命丸文だった。

 カラスのように黒いショートボブに、背中から生えているカラスのような羽。
早苗より幼く見える整った顔立ちに、それなりに女性らしい体つきが少しアンバランスで魅惑的だ。
種族は鴉天狗である。



「こんにちはっ! いい天気ですね」




 こちらも少女のように元気よく挨拶する。
顔に張り付いている笑顔も若々しくて明るいもの。
だけど、先程の早苗のそれと比べて、気分が良くならないのはなぜだろうか? 
やっぱり、心からの笑顔とそうじゃない笑顔と言うのは、違いが分かるようだ、と美鈴は射命丸文に返事をしながら考えた。


「文さん! 今日は暖かくていいですよね」

「いや〜。最近はポカポカして気持ちがいいですよ。ここのところ幽香さんの機嫌も良くて、こっちは大助かりです」

「また幽香さんに怒られるようなことしたんですか? そのうち本気でぶっ飛ばされちゃいますよ」

「あ、あははは。そんなことは無いんですけどね。仲良くやってますよ」




 歯切れ悪く笑いながら、後頭部を掻く文。
天狗が喧嘩を売って歩いているような、この天狗は、そこら中でトラブルを引っ掻き回すのが特技だった。
ただ、近頃は平穏な日常に少々辟易しているらしい。
言い換えれば、大人しいのだが。


 そんな文の様子に、美鈴も苦笑いを浮かべる。

「それならいいんですが。ところで、またネタ探しですか?」

「そうです。最近は面白い話題が少なくて……。平和なのはいいんですけどね〜。
新聞大会も近いのに、どうしましょう?」


 やれやれというふうに大げさに肩をすくめた文は、そこで美鈴の背後の花壇に目を向けた。


「そう言えば、幽香さんが今年の紅魔館の庭は見物だって言ってましたよ。
なるほど、これはすごいですね」

「でしょう? 今年は結構気合を入れて手入れしたんですよ」


 得意げに胸を張る美鈴。
花の大妖怪、風見幽香のアドバイスもあって今年の庭は歴代最高の華やかさを誇る(と美鈴は自画自賛している)。



 文も女性だ。花には魅かれるのか、「ちょっと見て行っていいですか?」と尋ねて庭を回る。
ただ、本気でネタに困っているようで、しげしげと花を見ながら手元の手帳に何かを書き込んでいた。







「これ……」




 しばらくそうやって花見をしていた文だが、不意に立ち上がって美鈴に声を掛けて来る。




「『ガーデニングの極意』とかって特集組んで、記事にしたらどうでしょう?」



「……需要ありますかね?」

「あると思いますよ。白玉楼の妖夢さんとか永遠亭や守矢神社とか。あと、幽香さんにも」

「私の知識には結構、その幽香さんの受け売りが入っているんですよ。でも、それはいい案ですね」

「ですよね!」


 キラキラと目が輝く文。
根っからのブン屋なのか、記事になるようなことへの関心は無茶苦茶高い。
いろいろと煙たがられることも多い文だが、美鈴はこんな文の新聞への情熱は結構好きだった。
それが加熱し過ぎてトラブルの元となることもしばしばあるのだが。



「ああ、でも、ガーデニングの知識と言っても、かなりありますよ? 
季節によっても違うし、花ごとの注意事項もあるし、何より、庭にどれだけ綺麗な花壇を作れるかは、
個人のセンスによりますしね」



「いえ。ご心配なく」



 きっぱりと文は言い切る。


「連載を組めばいいだけですし、センスについても美鈴さんの主観でいいのでアドバイスがあれば記事になりますよ」

「そうですか。そんな物でいいんですかね?」

「ええ。構いませんよ」

「分かりました。取材に応じます。けど……」


 ちらっと美鈴は紅魔館を見る。文もそれを察したみたいだ。





「都合のよろしい時で構いません」




 そう言ってにっこりと満点スマイルを浮かべた。
まるで気にしていないようだが、文が本当に取材したいのは紅魔館の中に居る主や魔女だというのは、美鈴も手に取るように分かっていた。
ただ、彼女は踏み込めない。












 理由はいくつかある。




 一つは紅魔館が文々。新聞を定期購読している、ということ。
さらに、紅魔館と揉め事を起こせば、彼女の所属する妖怪の山でもその責任を追及されてややこしいことになること。
文だって、ちゃんと引き際は弁えている。
いやむしろ、文の方が紅魔館の誰よりもそういうことはよく分かっているのだろう。



 射命丸文は、こう見えて齢千を数える大妖怪だ。
紅魔館最年長のお嬢様の倍は生きているのである。
当然、老獪さはそこらの若輩とは比べ物にならない。
駆け引きなら、それなりに得意な美鈴も敵わないだろう。
それに、弾幕ごっこでも勝てる気がしない。
唯一自信があるのは体術ぐらいだが、圧倒的な速さを持つ文には美鈴の拳は掠るのがやっとかもしれない。






 それから文は美鈴と取材の段取りを決めて、あっという間にかっ飛んで行った。
流石、自称「幻想郷最速の記者」である。










 騒がしい天狗が去り、再び静かな時間が訪れた。




 日は南天を過ぎ、西の空へと傾き始めている。
早苗と文の相手をしていた美鈴は、少し遅めの昼食を摂ることにした。


 いつもは咲夜が昼食を届けてくれるのだが、生憎彼女はいないので、美鈴は朝自分で作ったお弁当を広げた。
ちなみにメニューはチャーハンだけ。あまり動かない仕事なので、これだけでも足りるのだ。



 料理全般の腕はすでに咲夜に抜かれてしまった美鈴だが、中華料理だけはまだ勝っていた。
得意料理はチャーハンである。
尚、咲夜もおいしいチャーハンを作るのだが、味付けが薄くて美鈴には物足りない。
濃い目に味を付けるのが美鈴の好みなのだ。





「いただきまーす」






 アツアツ、ホカホカのチャーハンを食べ始める。
能力で“熱気”を操作して冷めないようにしていたのだ。
おかげで、出来たてそのままの美味しいチャーハンを食べられる。
やっぱり、冷めちゃうと美味しくないからね。



「ん〜、おいひ〜」


 ホクホクと一人でチャーハンを食す。今日も最高の出来だ。




 ここしばらくチャーハンしか食べていないが、味付けを変えることで飽きを防いでいた。
それができるくらい、美鈴のチャーハンのレパートリーは多いのである。













 と、また近付いて来る気配を感じた。この感じは……、





「よう美鈴! 美味そうだな!」








 そう言って箒に乗って現れたのは、魔法の森に住む「人間の方の」魔法使い、霧雨魔理沙。
いわゆる白黒である。



 黒くて大きなとんがり帽子に、黒い服と白い前掛け。見た目は魔女そのもの。
図書館の魔女より魔女らしい。
ただし、それは外見だけで、中身は半ば強盗と化している。


 昔は妖精と変わらない精神の持ち主だったが、最近は見た目と共に、ちゃんと人が物を食べている時に砂を巻き上げない、
という気遣いができる程度には成長したらしい。
ゆっくりと美鈴の前に降り立ち、ずかずかと近寄って来る。


「最近チャーハンばっかり食ってないか? 咲夜に『チャーハン地獄の刑!!』とかやられてるんじゃないだろうな」

 そう言えばここ数日、美鈴が昼食を食べている時に魔理沙と合うことが多い気がする。
多分、たまたま時間が合うのだろう。
もとから魔理沙は昼ぐらいに来ることが多かったからだ。



「違うわよ。最近咲夜さんが忙しいから自分で昼食作ってるの」

「……ああ。そっか。パチュリーの看病してるんだっけ? 咲夜は。でも、お前チャーハンしか作れないのか?」

「まさか。ただチャーハンが手軽で好きなだけ」

「へえ。一口いいか?」


 そう言って遠慮なく貰おうとする魔理沙。
つくづく厚かましい人間だが、どうしてか憎めない。
遠慮が無いように見えて、ちゃんと気遣いができるからだろう。



 美鈴はチャーハンをすくって、レンゲを魔理沙に差し出した。

「ん。サンキュ」

 魔理沙はパクリとレンゲごとチャーハンを食べた。
美鈴がレンゲを魔理沙の口から抜くと、白い陶器でできた匙が自分のじゃない唾液で濡れていて、
なんだかアレだった。


「あふいは。さっひふふっはのは?」

 行儀悪く食べながら喋る魔理沙。
多分、「熱いな。さっき作ったのか?」と言いたいらしい。
美鈴は呆れたように溜息を吐いた。


「食べてから喋りなさい。熱いのは、私が気を操って『熱気』を閉じ込めたからよ」


 モグモグ、ゴクン。魔理沙は口の中のチャーハンを飲み込むと、満面の笑みを浮かべた。



「すごい美味かったぜ。ありがとな」


「どういたしまして」





 美鈴はチャーハンを再び食べ始める。
それを、魔理沙は物欲しそうに眺めていたが、美鈴が黙っているとやがて別の方に目を向けた。




「そういや、パチュリーはまだ治らないのか?」


「快方に向かっているわ。でも、お嬢様は大事を取ってゆっくり休ませることにしたのよ」


「そうか。……妹の方は大丈夫なのか?」


「……妹様? ええ。ご心配なく。あの方は吸血鬼だから、多少のことは平気よ」


「そうだったな。パチュリーと一緒に仲良く引き籠もっているから、てっきり体が弱いのかと思ったぜ」













 …………あんまり、他人には言われたくない一言だ。



 美鈴はあまり妹様、フランドールのことは詳しくない。
そもそも、普段外に居る美鈴と、一日中地下に引き籠もっている妹様は接点自体が少ない。
だから、彼女のことはよく分からない。
まあ、性格が悪い訳ではないらしいが。


 とはいえ、それを身内以外に堂々と言われるのは気持ちがいいことではない。
まあ、その辺りが魔理沙の未熟なところだろう。



「ん〜。まだパチュリーが治らないなら、私も中に入れないな。今日のところは退散だぜ」

「結局、何しに来たのよ。チャーハン食べに来ただけ?」

「いや。別に用が有った訳じゃない。ただ、飛んでたらここが見えたから寄ってみただけだ」








 これだ。いかにも魔理沙らしい理由だ。


 しれっとした顔で言っているが、内心はパチュリーが心配で来たに違いない。
ここのところ、しょっちゅう紅魔館に顔を出していたからだ。




 普段は、「死ぬまで借りていくだけだぜ」なんて屁理屈こねながら紅魔館の図書館に押し入って本を強奪して行くくせに、
こういう時はいろいろ気を回すみたいなのだ。
これが、彼女なりの優しさの表し方なのだろう。
根っこは善人なのだ。捻くれてるけど。


 美鈴は小さく息を吐く。



「ま、パチュリー様が回復したらちゃんと教えてあげるわよ」


「べ、別にいいぜ」



 なぜそこで赤くなってそっぽを向く。何で照れる? 




「それと、頼んでくれたらチャーハン作ってあげるわよ」



 ガバッと魔理沙が振り向いた。今度は目が爛々と光っている。


「ほんとか!?」

「ええ。ただし、客人としてちゃんと門から入ってきたらの話」

「分かった。また来た時に頼むとするぜ」


 じゃあな! と元気良く、嬉しそうに魔理沙は箒で飛び立っていった。










 良かった。チャーハンの友ができた。


 安堵する美鈴。
なぜなら、お嬢様も咲夜も濃い味付けの美鈴チャーハンがあまり好きではないからだ。
咲夜の薄めの味付けのチャーハンは、お嬢様の好みなのだ。

 それが美鈴には残念でならなかった。
魔女や妹様はもともと脂っこい物は食べない方だったし、あのチャーハンを美味しいと言ってくれるのは
図書館の司書兼(以下略)の小悪魔ぐらいなものだったから。




 それからすぐにチャーハンを食べ終わった美鈴は、さっそく眠気に襲われた。





「ふああ」






 大きな欠伸を一発。グッと大きく伸びをして、門の前に椅子を置き、そこに腰を下ろす。
そして、外壁に背中を預け、シエスタ開始だ。




 もちろんサボっている訳ではない。
こんな心地良い日にはお昼寝をしなければならないのだ。
きっとどこかの神様がそう仰ったのだ。だから寝る! 


 ついでに言えば、シエスタを妨害する最大の脅威たるメイド長が出張中なので、ゆっくり安心して寝られる訳なのだ。

 別に寝たからといって何かが起こる訳でもない。
寝ながらでも門番の役目をこなせるほど、美鈴は気配に敏感だった。
もし何かがあればすぐに目が覚める。
場合によっては寝ながら対応できる。




 と言う訳で、おやすみなさい……………………。
















 ……………………………………。





 ………………………………。






 …………………………。






 ……………………。






 ………………。





 …………。





 ……。

















 それから一時間、二時間と経過し、温かい午後の日差しの下、美鈴は熟睡していた。


 だからと言う訳ではない。
ただ、美鈴のシエスタが妨げられるのはある意味当然の結果と言えた。
なぜなら、彼女は気配に敏感だったから。



















「ッッッ!?」





 それは突然起きた。同時に美鈴も飛び起き、全速力で館の中に飛び込んで行く。

 館の中から発せられた、強烈な魔力の波動。地下の、図書館の方向からだった。



 その魔力の波動は、美鈴がよく知るものだった。つい二週間ほど前にも感じたものである。
その時と状況が似ていたのに、美鈴がすぐに館に飛び込んだのは、中に咲夜がいなかったからだ。


 大規模な魔法実験の失敗ではない。その時のように、乱雑に撒き散らされた感じはしなかった。
今度は、ちゃんと秩序だった魔力の流れ。つまり、何らかの大規模魔法が成功した証しである。
現在、紅魔館の中でそれができるのは、たった一人。







 そう、その魔力を発したのは療養中の魔法使い——パチュリー・ノーレッジに他ならなかった。













今日はここまで。

新聞大会の時期とか、すごい適当です。

確か元々は外と行き来をする為の魔法を試してたんだよな?
って事は、引き入れる方をやったんだとすると……まさかアレが来るのか?一応魔翌力の塊でもあるみたいだし



復活したみたいなので投下していきます。


>>748
>確か元々は外と行き来をする為の魔法を試してたんだよな?
そうではなくて、博麗大結界じゃない方の結界(幻と実体の結界)を補強するための魔法の実験です。

全スレ>>641
>すなわち、幻想郷を幻想郷足らしめている二重の結界の一つ、常識の結界に作用するような魔法を〜
とありますが、これは博麗大結界のことで、
>>1のミスで取り違えていました。
本当は、幻と実体の結界の方です。
ミスが目立って申し訳ありません。


では、行間最後のパートです。










                     *








「あ!」






 ピクン、と犬みたいな白い尻尾が立った。
モフモフとしていて触り心地が良さそうな尻尾だ。
もっとも、その持ち主は絶対に触らせてくれなそうだが。





「何が見えたの?」



 射命丸文は、傍らで紅魔館を覗いている白狼天狗の犬走椛に尋ねた。



「紅魔館の門番が走って中に入って行きます。かなり焦ってました」


「そう」



 声を大きくする椛に、ただ文は淡々と返しただけだった。
それが不満なのか、椛は少し眉を寄せるが、文はそれに見向きもせずに、考え込むように顎に手を当てる。


 そこは、妖怪の山の麓に立っている大きなナラの木の太い枝の付け根。
文と椛はそこに居るのだ。紅魔館の監視のために。

 昼間に美鈴の元を訪れた文は、その後「取材」をしてこの場所にやって来た。
文は大きな木の幹に背を預けながら腕を組み、椛はその足元で太い木の幹に腰を掛けて紅魔館を見張っている。


 このナラの木から紅魔館の正門と正面玄関はよく望めるのだが、些か距離が遠過ぎて、文の目では見えない。
そこで、普段山の哨戒任務に就いている椛が呼ばれて、こうして紅魔館を見張らせているのだ。
彼女は「千里眼」という特殊な目を持つからである。

 もっと近づけば文一人でも監視はできるのだが、それだとあの門番に気が付かれてしまうのだ。
厄介なことに、紅魔館の門番は存外優秀で、その能力をフルに使い、かなり広範囲の気配を感知することができる。
文なら、例え門番が文の気配を感知しても行動を起こす前に彼女を蹴飛ばすことができるくらいのスピードはあるが、
見張りが出来るほど目がいい訳ではない。
確かに動体視力は高いが、単純に遠くを見通すのはそこまで得意な訳ではないのだ。
そこで、千里眼持ちの椛が引っ張り出されたのだった。



 いつもとは違う任務に就いて、椛は表にこそ出さないものの、不満があるのだろう。
ただし、これは文の個人的な指示ではなく、山の組織の上層部からの命令であった。
山のお偉いさん方は、紅魔館を見張れと言っているのである。



 およそ二週間前、紅魔館から大規模な魔力の放出が観測された。
彼らは対外的に、それが魔法実験の失敗だと説明し、そこに住む魔女の負傷も伝えた。
それは、文が取材した情報である。

 一見、紅魔館の態度はそこまで不審なものではなかった。
実際、彼らは文を通して幻想郷に事の顛末を語ったし、門番やメイドはいつも通りだった。
多くの人妖たちはその紅魔館の情報を信じただろう。
だが、長年記者をやって来て、きな臭いことには鼻の利く文を騙すことまではできなかったようだ。




 取材をした時、紅魔館の中から漂う不穏な空気やピリピリとした雰囲気を、文は肌で感じていた。
そして、それと対照的に落ち着いていたレミリアの不審さ。
つつけばいろんな物が出てきそうだった。
しかし、相手も狡猾な悪魔。
そうそう簡単に尻尾は見せてくれなかった。






 一方で、このことに妖怪の山が関心を持ったのは別の理由だ。
お上は、どうやらスキマ妖怪の不審な動きを察知したらしい。
彼女は、紅魔館の事件以前からこそこそと動いていたようだが、事件以後、その動きが小さくなったのだそうだ。
そこに何かあると考えた山の上層部は、文に紅魔館を探るように指示し、椛にも監視を行わせているのだ。



 ここしばらく、紅魔館に動きはなかった。精々、メイドが姿を見せなくなっただけである。
だが、今日は違った。




 昼に門番と会った時は、彼女は「いつも通り」の愛想笑いを浮かべて、こちらに事情を探らせなかった。
紅美鈴とは何度も腹の探り合いをしているが、互いに尻尾を見せないので進展はなかった。
が、ついに彼女が取り乱すような何かが起こった。


 あれは気を操る妖怪。
瞬時に何が起こったのか理解したのだろう。
そして、あの反応。





 美鈴は、二週間前の事件当時、湖の妖精たちと戯れていたことが分かっている。
あの門番があれだけの魔力放出に気が付かない訳がないから、気付いた上で敢えて妖精たちと遊んでいたのだろう。
規模から考えて、かなりの大事だが、彼女が動かなかったのは、館内のことを他の誰か、
例えばメイドに任せていたからではないだろうか?


 そう考えると、今起こった事態を説明しにくい。
メイドがいるなら、二週間前と同じくメイドに任せて自分は昼寝をしていれば良かったのだ。
わざわざ取り乱した姿を見せる必要はない。
なのに、門番は大慌てで館内に駆け込んだ。
これの意味する所は……、









「メイドに頼れない……」













 ぽつりと呟いた文を、椛が振り見た。彼女は仕事用の無表情で文に尋ねる。


「監視を続けますか? それとも一度報告に行きますか?」


 文はしばらく考えた。




 このまま自分の思考に没頭したいのが本音だ。
ここに居ればゆっくり頭の中を整理できるだろう。
けれど、監視対象に明らかに大きな動きがあったのに報告に行かないのはいろいろとまずい。
結局、文はすぐに報告に行くことにした。
それに、お上も今の魔力放出には気が付いているだろうから、どの道黙っていても意味がない。


「私はいったん帰るわ。貴女はこのままここに居て監視を続けて」



 文はそう告げて椛に背を向け、翼を広げる。





 いずれにせよ、紅魔館で起こっていることはかなり深刻なようだ。
特に、先程の魔力の奔流。
秩序だった流れのベクトルが感じ取れたあれは、大きな魔法が成功した時の物。
紅魔館から離れたこの場所に居た文にすらはっきりと分かった。








 倒れた魔女。


 何かを隠す門番。


 不自然に落ち着いた館主。


 姿を見せないメイド。










 ああ、もう一人、主人の妹がいた。彼女は、どうしたのだろう?












 そう考えた文の背中に、椛が「了解しました」と声をかける。
文はそれに頷き返して、そこから飛び立った。









 もうすぐ夕方。月齢25の、中途半端に残った月が西南西の空に沈もうとしていた。
















短いけど、これで行間終わりです。



幻想郷のどこに居ても不自然ではなく、顔が広くて、狡猾で立ち回りがうまく、
記者と言う身分を持つために何を詮索していても不自然ではない。
そんな文ちゃんです。



最後の一文にある通り、行間の日はさやかちゃんがSGを投げられた日と同じです。



杏子…野中建設…声優ネタ?

さやかちゃんのショットガン

乙です
もうタイトルを「きょうこ☆マギカ」に変えてもいいのでは?

見えにくい所にあって、コンタクトレンズよろしくな事態にはならなかったかww

それは良いとして、俺も美鈴さんの作った濃い味チャーハンが食べたいです……です

ふむ…「行きはよいよい帰りは恐い」なんて言葉もあるからね。家に帰るまでが本番だろうね。



おはようございます。
また早朝に来ましたw


>>796
そうですw
半分は声優ネタですww


>>797
さやかちゃん“に”ショットガry


>>800
あんまり洒落になってない(´・д・`)


>>803
oh,me too!
チャーハン上手く作れる人って浦山しいです。


>>804
「家に帰るまでが遠足」みたいな?







                  *









「今日の欠席は、暁美さんと……鹿目さんと……美樹さんね」







 クラス担任の早乙女和子が、珍しそうな顔をして言った。


 実際、さやかとまどかの二人が同時に休むなんて初めてのことだったはずだ。
彼女たちといつも一緒に居る志筑仁美は所在無さ気に席に座っている。
二つとも空いた友人の席の隣で、彼女も困惑しているようだった。


 一方、暁美ほむらについては元々病弱だと聞いていたし、よく知らない子なので、特になんとも思わなかった。
ミステリアスな上に、冷たく近寄りがたい雰囲気を纏っている彼女について、心配している生徒はそれほどいないだろう。
親しくもない人間をそこまで案ずる人はなかなかいない。
事実、クラス全員が彼女の欠席について聞き流しているだろう。



 そのままホームルームは何事もなく終わった。
和子の、あの激しい恋愛トークもなかった。
この間破局したと聞いたので、今は彼氏募集中なんだろう。

 多感で、異性への興味が尽きない男子中学生にとって、和子の話は、それがどんなに下らないものでも、
いろいろと思ってしまうのだ。
語られていない部分を想像してしまうのだ。
女子は笑って聞き流す話でも、男子は(興味がない振りをして)じっと耳を欹てている。
だから、今日のホームルームは、(彼らの基準で言えば)はずれであった。







「おい。宿題やってきた?」



 ホームルームが終わり、和子が授業の準備のために職員室に戻った後、にぎやかになった教室の中で、
鞄から1時限目の授業の教科書と宿題のノートを取り出していた上条恭介は、不意に頭上から降って来た声に顔を上げる。

 そこに居たのは、友達の中沢。
いっつも和子の恋愛トークに付き合わされていて、よく「どっちでもいいと思います」
という回答をする先生お気に入りのベストアンサー。



「忘れた?」

「うん。見せてくれ」

 拝むように頼む中沢を、恭介は憐れむような目で見ながら、わざとらしく溜息を吐いた。

「分かったよ。ほら」

 そう言って鞄から取り出したばかりの宿題のノートを彼に渡す。

「お、サンキュー」

 中沢は嬉々とした様子でそのノートを取り、自分の席に戻って行く。
それを見ながら、恭介はもう一度溜息を吐いた。
それから、ふと思う。
どうして自分は何回も溜息を吐いたのだろうかと。




 本来なら溜息を吐くような気分じゃないはずだ。





 最近、嬉しいことがあったから。



 交通事故に遭って、もう二度と弾けないと思っていたバイオリンがまた弾けるようになったのだ。
まだ足の方は治っていないけれど、腕が元に戻って、喜びのあまり(そして勘を取り戻すために)、
ここ何日かは、家に帰ったら演奏ばっかりしている。



 突然降ってきた僥倖。
特定の宗教に入っている訳じゃないけれど、神様仏様の与えてくれた奇跡だと言われても、不思議には思わなかった。


 実際のところ、それについてはなぜなのかまるで分らない。
いや、一つだけ心当たりがある。だけど、それはあり得ないと理性が否定する。















 ——あるよ——












 あの時、絶望し自暴自棄になった自分に、彼女は泣きそうな目でそう言った。



















 ——奇跡も、魔法も、あるんだよ——











 普通なら鼻で笑われるようなことを、中学生にもなってさやかは大真面目に言い放った。
だというのに、その言葉には、不思議と、人を信じ込ませるような力があったのだ。



 恭介は自身の左手を見下ろし、ゆっくりと手を開いて、閉じる。

 先週までは感覚すらなかったその手は、今はもう何の違和感もなく動く。
現代医学で治せないと宣告されたのに、まるで何事もなかったかのようにこの手は健在だ。









 それを……奇跡と言うのだろうか。そして、さやかはそのことを知っていたのだろうか。





 さやか………………。






 思えば、恭介はさやかにまだ何もしていなかった。


 鬱陶しいと思ってしまうほど、頻繁に見舞いに来てくれたさやか。
それでも、長くて退屈な入院生活の間は、彼女が来てくれることが恭介にとって何よりの楽しみの一つだった。

 もう一人、よくお見舞いに来てくれた人もいたけれど、彼女の前では緊張して肩に力が入ってしまう。
けれど、さやかの前だとそういう気兼ねはいらない。
リラックスできるし、遠慮もする必要はない。






 だから、本当は感謝しないといけないのに、あんなことを言ってしまった。
その上、そのことをちゃんと謝っていないし、屋上演奏会を開いてくれたことや見舞いに対するお礼もしていない。


 さやかはほぼ毎回クラシックCDを持ってきてくれた。決して安くない。
別段経済的に裕福でもないさやかの小遣いでは少々厳しいだろう。
なのに、「いじめてる」とか「もう聞きたくない」とか、傷つけるようなことを言ってしまった。
さやかはガサツに見えて、結構繊細だから、今でもあのことを気にしているんじゃないかと心配している。









 恭介は再びさやかの席を振り見た。



 その隣の席の仁美と目が合う。彼女はお淑やかに会釈してきた。





 恭介はそれに会釈し返して、前に向き直り、またまた溜息を吐いた。


 中沢辺りは恭介とさやかの関係をよくからかってくるが、恭介は、自分とさやかの関係は
からかいのネタになるようなものじゃないと考えていた。
昔から仲がいい幼馴染で、単に性別が違うだけだ。




 だからといって、何でも言っていいわけではない。

 親しき仲にも礼儀ありだ。ずっとさやかにどんなお礼をしようか考えていた。
……お詫びのことも。





 そう言えば、もう一つ、さやかに謝らないといけないことがあった。
忙しいのと、浮かれていたのとで、うっかりさやかに退院のことを教えるのを忘れていたのだ。
本当に申し訳なく思う。
バイオリンに夢中になると、ついつい周囲のことが疎かになるのが、恭介の悪いところだった。



 やっぱり、さやかにお礼をするなら、バイオリンが一番いい。
そう考えて、恭介はさやかのために演奏会を開こうと考えていた。
今必死で勘を取り戻そうとしているのも、そのためだ。





 けれど、生憎退院してから、さやかと会う時間がめっきり減っていしまった。
学校で話しかけようとしても、なぜだか避けられてしまう。
いや、そこまで露骨ではなくて、距離を置かれているだけだ。
やっぱりあんなことを言ったから、嫌われてしまったのだろうか?





 それだけじゃない。
最近、家に帰るのが遅いらしい。
そういう話を、恭介は母親から聞いていた。



 何かあったのだろうか? 
毎日帰るのが遅いなんて、ひょっとしたら良くない連中と関わってしまったのだろうか?




 そんな心配をしてしまう。
さらに、今日は休みだ。これは、何かあったのではないかと勘繰らない方が無理だろう。

 母親も、今ぐらいの年の女の子はぐれやすいと言っていた気がする。
まさかとは思うが、さやかは変な道に走って行ってるのではないか。








 いや。さやかはそんなに馬鹿じゃない。










 心の中に沸いた妙な疑問を振り切る。



 お世辞にも、さやかの成績はいいとは言い難いが、付き合う人間を選ぶくらいはちゃんとできるはずだ。
むしろ、正義感の強いさやかだからこそ、悪い連中とは絡まないだろう。
だから、きっと心配ない。
学校終わりに遊んでいるだけなのかもしれない。













 ……でも、やっぱりちょっと気になる。




 おもむろに恭介は席を立った。一コマ目の授業にはまだ時間がある。
松葉杖を突き、恭介はさやかの席の方に向かって歩き出した。




 その目線の先には、クラスの女子と話す仁美の姿。
彼女は恭介が近付いて来るのに気が付くと、「あら?」と言うように首をかしげた。
仁美と話していた女子数人もそれで恭介に気が付いた。





「あ、志筑さん、ちょっといいかな?」


「何でしょうか?」




 物腰の柔らかな態度に、鈴の音を鳴らしたような清らかな声。
万人が見てもお嬢様と気が付くであろう彼女は、どんな男でも陥落させることができそうな、
完璧で瀟洒な微笑みを浮かべた。
実際、その清楚な美しさに、恭介も彼女のことを悪くは思っていなかった。





 だから、やっぱり肩に力が入ってしまう。



 若干、緊張しながら恭介は用件を伝える。
周りの女子の、興味津々とした視線がさらに恭介を力ませる。




「さやかのこと、知らない?」




 聞き方が悪かっただろうか? 仁美は一瞬眉を顰めた。



「いえ、欠席のことは私も先程初めて知りましたので、分かりませんわ」

 まどかさんもお休みですし、と仁美は付け加えた。




 その顔にはただ困惑の色が浮かび上がっていた。
何か隠している訳でも、嘘を言っている訳でもないようだ。




「そっか。じゃあ、最近さやかの帰りが遅いのは、知ってる?」

「それは、聞きましたわ。まどかさんも同じみたいです。お二人が何をしてらっしゃるのかは、ちょっと……」


「あ、まどかとさやかのこと、一組の子が見たって言ってたよ」


 そこで口を挟んできたのは、今まで恭介と仁美のやり取りを好奇の目で見ていた女子の一人だった。
ちょっと軽い感じの、仁美とは対照的で、さやかとは別のベクトルの「明るい」雰囲気の女子。
割と整った小顔に、きょろきょろとよく動く目。
男子にそこそこ人気のある彼女の名前は、確か「幽香」といった。



「幽香さん、ご存知なの?」



「あたしが見た訳じゃないけどね。なんかね、三年の先輩と外国人っぽい小さな女の子と一緒に歩いてたんだって」



 幽香がそう言うと、また別の女子が口を挟んだ。

「何それ。どういう組み合わせ?」

「さあ?」

 と、幽香は首をかしげた。
そして、今度は目をきらりと光らせて、こう言う。



「でね、その先輩なんだけど、ここ最近ずっと学校に来てなくて、先生も連絡着かないんだって。
なんかありそうじゃない?」


 その言葉に、周りに居る他の女子たちが反応する。
けれど、恭介はもう聞いていなかった。






 さっきまでの心配は杞憂に終わった。
けれど、それと同時に、また別の嫌な想像が心の中をかき乱し始めたのだ。




 もしかしたら、さやかたちは何か大変なことに巻き込まれているんじゃないか。
そんな嫌な予感が頭を掠め、恭介は思わず松葉杖を握る手に力を入れた。




 視線を下ろすと、仁美と目が合った。


「ごめんなさい。お力添えできなくて」

「あ、いや、別に謝ることはないよ。僕の方こそごめんね」



 何となく気まずくなって、恭介はそそくさとその場を離れた。




 席に戻ると、中沢がノートを返しに来た。宿題の写本は終わったらしい。


「おい上条。美樹の次は志筑さんにまで手を出す気かよ」

 またくだらないことを言い出した友人に、恭介は今日何度目かの溜息を吐いた。










                   *






 その日の授業は結局何事もなく終わった。
最近不審な幼馴染に頭を悩ませながらも、恭介はごく平凡な一日を過ごした。

 退屈な授業。体育は見学。馬鹿を言うクラスメート。中沢はいつも通り。


 放課後、杖を突きながら恭介は家路を歩いていた。
背中に当たる夕日が恭介の足元に長い影を作り出していて、その陰に向かって足を進めながら、
恭介は今日のバイオリンの練習メニューを頭の中で組み立てていた。




 歩いているのはそこそこ広い道の歩道。
恭介の家もある住宅街へと延びている道だ。
その両側には家が建ち並ぶ。
その家と家の間から、夕日に照らされたビル群が覗いていた。



 恭介は周りの景色に目を向けることもなく歩き続ける。
毎日見ている景色だ。珍しいものでもないから彼は視線を自身の影に固定していた。





 今日は何を弾こうか? どんな練習をしようか?






 そんなことを考えているうちに、やがて恭介は我が家の前に帰って来た。













「あ」

















 そんな声がして、恭介は顔を上げる。


 下ばかり見ていたから気が付かなかった。
立派な家の門の前には、小柄な一人の少女。
色白の顔が夕日で橙色に染まって、濃淡を作り出していた。



「上条君……」



 彼女の名前は鹿目まどか。さやかとすごく仲がいい友達の一人。




「鹿目、さん?」












 まどかは不思議なことに、学校を休んだにも拘らず制服だった。
風邪を引いた様子もないし、今日休んだのはズル休みだったのだろうか? 
真面目で気の弱そうな子だけど、案外そういうところもあるのかもしれない。

 思わず、恭介はそんな勘繰りをしてしまった。



「今、いいかな?」

 けれど、まどかの真剣な様子を見て、そんな疑いは綺麗に吹っ飛んだ。



「さやかちゃんの、ことなんだけど」









かつて、まどマギssにおいて、さやかのセリフの中に登場しただけのモブが、これほど個性を持ったことはあっただろうか?

いや、ない。








※途中で出て来るモブの子は、例のあのお方とは何の関係もありません。ご了承ください。
 名前が被っていたのでネタにしただけです。





咲夜さん自機復活オメ〜
早く誰か咲夜さんがドヤ顔してるAAを



そして魔理沙www

妖器「ダークスパーク」
 ミニ八卦炉の火力を最大限に引き出した
 全てを無に帰すレーザー




>ダークスパーク
>ダークスパーク
>ダークスパーク





咲夜さん自機復活オメ〜
早く誰か咲夜さんがドヤ顔してるAAを



そして魔理沙www

妖器「ダークスパーク」
 ミニ八卦炉の火力を最大限に引き出した
 全てを無に帰すレーザー




>ダークスパーク
>ダークスパーク
>ダークスパーク




これが普通の反応かもな…もれなく非日常の世界を知るとそれに引きずり込まれるのもお約束
子供だけで非日常的な出来事に挑んだバイファムやゴーダム辺りは無茶だな

咲夜さんやったね最新作で自機だよ

スレタイのフランちゃんが空気(´・ω・`)

とりあえずこれでも見てな!!

http://www.youtube.com/watch?v=unRPhNH-YWo&feature=youtu.be


復旧してる。

今月は早かったですねえ。


なんか上条君が話題になってるけど、
恭介が当麻にそげぶされて、ノーバウンドする話とか書いた方がいいんでしょうか?


前回の恭介の反応は、さやかが復活する所を見たら、リアルならこんな反応するかな〜、と思いながら書いた次第です。
結果、悪い意味でリアリティが出てしまったのかもしれません。

死体がいきなり起き上がって、元気に怒り出したら、
そりゃあ誰だって「気持ち悪い」と思うんじゃない? と思ってたから、恭介はあんな反応になった訳です。
事実、まどポでも恭介はさやかのことを化け物呼ばわりしてた気がする・・・・。
あと、さやかとの関係の捉え方は、まあ結構ドライだなあ、くらいに思ってくれれば。
彼は結構現実的なのかなあと思ったり。


>>912
お楽しみ。恭介の今後も、今月末に配布される輝針城の体験版も・・・・


>>916
フランって誰だっけ?状態ですね、もう。


>>917
これすごい・・・・
秘弾と波紋を躱せる気がしないw
魔理沙がどうやって避けているのか見えないww

ゲーム中では二次元の弾幕も、実際は三次元な訳だから、こんな感じなんですかね。
だとすると、二次元より遥かに難易度が高いという・・・
液晶の中の嫁とリアルの女ぐらいの違いがある訳だw








                    *






 気が付くと、カーテンの隙間から光が漏れていた。もう朝らしい。



 さやかはベッドの上で寝返りを打ち、首を回して枕元の時計を見た。

 7時15分だ。
カチ、カチ、と秒針が音を刻みながら回っている。いつもの朝の光景だった。
違いはただ一つ。さやかが寝不足であること。




「ん、うぅん」



 昨夜は結局一睡もできなかった。




 ずっと恭介のこと、まどかのこと、魔法少女のことを考えていた。
でも、何の答えも得られなかった。

 昨日、まどかがやったことについては彼女を責めても仕方がない。
余計な御世話だけれど、その気持ちだけは本物だと思う。
だから、あまりまどかに恨みはなかった。
ただ、恭介に知られたのがショックなだけで。



 まどかは夜も、心配してメールをよこしてくれた。
その中で、ひたすら謝っていた。

 だから、あまり責めるのは可哀想だと思ったのだ。





 それに、これはこれで良かったのかもしれない。


 ずっと恭介に黙ったままなのは、騙しているみたいで返って悪い気もしたからだ。
ただ、恭介の恩人になるつもりはないという気持ちは変わらない。
彼がどんなに感謝しようと、それだけは変えるつもりはなかった。








 これは「献身」だ。



 いつだったか、フランが言った「献身」と「独善」の違い。
さやかは恭介に感謝されて、天狗になりたい訳じゃない。
彼が絶望の底から救われたというなら、それでもう満足なのだ。
ただ、彼が再びバイオリンを手に取り、美しい音色を奏でることができればそれだけでいい。
それ以上は望まない。


 だって、恭介のバイオリンは本当に素晴らしいから。それで十分だから。




 そう、本当に恭介の演奏はすごいのだ。




 さやかはちょっと音楽に詳しいだけの、普通の素人だから、どこがどうすごいのか、具体的には説明できないけれど、
彼の奏でる旋律は繊細で、優しく、ついつい聞き惚れてしまうような耳に心地良い音色なのだ。
聴けば聴くほどその音に魅せられていく。


 だから、もっとみんなに聴いてほしい。

 恭介のバイオリンは素晴らしいんだって。本当にすごいんだって。

 その演奏を聴いて感動したこの気持ちを、もっと伝えたい。


 そして何より、バイオリンを弾いている時の恭介の喜びを、彼にそれを手にできる幸せを、取り戻してほしかった。




 それがさやかの願いだ。


 皮肉なことだが、まどかのおかげでさやかは見失いかけていた自分の本当の願いを、
もう一度見つめ直すことができた。





 見返りはいらない。これでいいのだ。


 さやかは、自分が恭介に対して抱く気持ちが「恋慕」であることを、とうに知っていた。
だからと言って——否、だからこそ、その成就を願うのではなく、掛け替えのない、大切なその人の幸せのために
祈ったのだ。
そこに、下世話で不純な気持ちなど混じっていない。
純粋に、純情に、恭介のためにさやかは一生の祈りを捧げた。



 果たして、「奇跡」は起こり、彼は再び光に照らされた舞台へと舞い戻ることができた。



 その結果、魂が石っころになっても、体が死んでしまっても、それがどうしたというのだ? 
望みは叶った。恭介は幸せになった。


 それでいいじゃないか。それ以上望むのは欲張りだ。「身勝手」だ。





 恋は破れてしまったかもしれない。
彼の幸せの代償に、さやかの淡い初恋は終わりを告げたかもしれない。




 だけど、それなら安いものだ。
それ以上に、恭介の音色は美しいから。







 …………だから、この小さな恋は胸にしまって、大事に抱えていこう。










 未練がないと言えば嘘になる。諦めきれない部分もある。
それでも、そういうものはスパッと切り落として、これから歩んで行くのだ。


 想い人と過ごした、砂糖菓子のように甘美な一時は、頭の中だけで美しい思い出にしてしまおう。




 さよなら、初恋。これでお終い。




 さやかと恭介は、明確に別の道を往く。
彼女は魔法少女として戦いに身を捧げ、彼は奏者として栄光の舞台へ突き進む。










 ガバッとさやかは布団を捲った。それまでの思考を振り切るように。



 人生初めての徹夜が、まさかこんな形になるとは思わなかった。
けれど、不思議と眠気はなく、目蓋は痛いほどぱっちりと開いている。
意識は霞むことなく覚醒しており、つまり気持ちいい朝を迎えた気分だったのだ。


 さやかは起き上がり、小さな呻き声を上げて大きく伸びをした。

 窓辺に目を向けると、カーテンの隙間から差し込んだ日光が、床に細長い日向を描き出していた。
どうやら、今日の天気は晴れらしい。


 気持ち良く朝を迎えた気分だが、どうにも心の内は晴れ渡らない。
ハアッと、思い溜息を吐いて、さやかは自分が憂鬱であることを自覚した。





 学校に行くのが怠い。
恭介に顔を合わせるのが気まずい。
でも……、









「おい。いつまでもしょぼくれてんじゃねえぞ、ボンクラ」










 突然頭の中に響くテレパシー。
しかも、なんか結構失礼なことまで言われた気がする。


 さやかは、朝っぱらからこんな不躾なことを言う奴を一人しか知らなかった。




 ベッドから這い出て窓辺に寄り、カーテンを開けて外を見回す。

 さやかの住んでいるのはマンションの二階。
見下ろした先には花壇と、リンゴが詰まった袋を抱えた赤髪の少女。


 佐倉杏子だ。花壇の縁石に腰かけ、こちらを見上げている。



「ちょいと面貸しな。話がある」

 そうテレパシーを送りながら彼女は袋からリンゴを取り出し、丸齧りし始めた。
その様子に、顔を顰めたさやかは不機嫌そうに返信する。



「ちょっと待ってて」




 それから急いで制服に着替え、鞄を持って部屋を出る。
これなら、学校に行くという言い訳もたつし、杏子の話が終わったら実際に学校に行ける。

 家を出る時、母親が「朝ご飯は?」と聞いてきたので、「いらない」と返した。

 それから、外で待っていた杏子の前に立つ。


「学校、行くのかよ」

「普通そうでしょ? あんた、学校行ってないの?」

 コクンと杏子が頷いたので、さやかは呆れたように溜息を吐いた。

「中学生? なら、義務教育だよ?」

「うっせぇ。それより、ちょっとばかり長い話になるけど、いいか?」

「…………できるだけ、短く」


「ついてきな」


 そう言って杏子は歩き出す。
さやかもその後を追った。











ちょっと短いですけど、次が長いのでこれで区切ります。



さて、久しぶりに主人公()が登場しました。名前だけだけどw
まあ、ほむほむも空気化進行してるけど・・・・

恭介、今後が辛い事になったら、その気持ちを曲にでもしてみる事だな



気づいたら2スレ目も900オーバーか
‥フランちゃん生きてる?

乙ー
やっぱ雑談してるとレスの消費速度がハンパないな
冗談抜きで5スレ目突入するんじゃない?


勝ち目ゼロなのに咲夜と対峙したり魔法少女の正体を知っても持ちこたえたりと、ここのさやかちゃんは結構な鋼メンタルだな。



そろそろ次スレの季節ですね。

立ててから二カ月半で900オーバーとか、驚異的なスピードww

>>930
イイですね。
曲でも書かせてみますかw


>>931
生きてますよ。
多分・・・


>>932
イクカナー
イキソウダナー


>>935
多少、本編より強くは書いております。
ただ、本編が難易度Hardなら、こっちはLunaticなので・・・


尚、作中の時間ですが、
さやかが「死んでいた」状態から覚醒するのに時間が掛かったため、
一日遅れで進んでおります。







                 *









「よっと」


 杏子は掛け声とともに古びた木の扉を蹴り開ける。
扉は大きな音を立てて向こうに倒れた。
埃が軽く舞い上がって、その後ろに居たさやかは思わず、鼻の前で手を扇いだ。



 そこは廃墟。元は教会のようだ。


 どこからどう見ても、人は住んでいる気配はない。

 扉の向こうには大きな講堂が広がっていて、その奥には高い祭壇と割れて外が見えるステンドグラス。
講堂の中も荒れていて、ガラスの破片や木の屑などが散乱していた。

 森の中に寂莫と佇む、廃れた教会。
色とりどりのガラスの向こうには、境界を囲む鮮やかな新緑の木立が覗き、それとかつては荘厳であったであろう教会の内装の残骸が、
さやかを何とも言えないもの悲しい気持ちにさせた。

 杏子はその中に入って行く。さやかもその背中を追って廃教会に踏み込んだ。



 中は外と違って、ひんやりとした空気に包まれている。
それが、ここがかつて神聖な場所であった名残に思えた。

 それなりに大きな講堂。外繋がる穴が開いているせいで、音はそんなに響かない。


 入口から祭壇の正面へ、講堂の中を杏子はまっすぐ進んで行く。
彼女の歩いているところは、丁度通路になっていて、左右には長い木製の黒ずんだ椅子が並んでいる。
今では、足や背もたれが壊れ、座面には何かの破片が散らばり、倒れたり列を乱したりしている長椅子だが、
まだこの教会が「生きていた」頃には、きっとここにはたくさんの人が集まって、そこに腰掛けていたのだろう。

 一体、どれくらいの人がこの場所で祈りを捧げていたのだろうか? 
その答えを知っていであろう目の前の赤いポニーテールは、きっと、語らないに違いない。



 ピチャッと、水音がして、さやかは視線を杏子の背中から足元に落とした。

 散らばる残骸の隙間にできた小さな水溜りがさやかを見上げている。
その顔は悲しそうで、目の下にはうっすらと隈ができていた。




 ヒドイ顔……。




 そう思って、それからさやかは視界に映る、別の物に気が付いた。


 ロザリオだ。
水溜りに半分ほど浸っている、黒い煤で汚れた小さな十字架が、床に落ちていた。



 信者だった誰かが落とした物だろうか? あるいはこの教会の住人の物のだろうか?



 さやかは、しかし、特に気に留めることもなく、視線を上げて、再び杏子の背中を見つめる。





「ここは? 勝手に入っていいの?」


 杏子は無言で祭壇を登る。
質問を無視されたことにムッとしながらも、さやかは後に続いた。

 杏子は祭壇の上で、さやかが登りきるのを待ってから背を向けたまま口を開く。



「ここはね、アタシの親父の教会だった」



 投げ掛けられた言葉に、さやかは微かに頷く。


 何となく、そんな気はしていた。
何せ、この教会に入って行く杏子には、まるで家に帰って来たみたいな雰囲気があったから。

 そうやってさやかが一人納得している間にも、杏子は言葉を紡いでいく。


「親父は、正直過ぎて、優し過ぎる人だった。毎朝新聞を読む度に涙を浮かべて、真剣に悩んでるような人でさ」





 それから語られたのは、杏子の過去。





 むかし、むかし、あるところに暮らしていた優しくて正しい父親と、純粋で父親のことが大好きだった娘のお話。


 毎日欠かさず心からの祈りを捧げ、正しいことを信じていた父親は、世の中にあたり前に転がっている悲劇や悪意に
常々心を痛めていた。

 彼はそんな現実をどうにか変えたいと、切に願っていた。神にも祈りを捧げた。






 Agnus Dei, qui tollis peccata mundi. しかし、どうしてわれらはこうも罪深いのでしょうか。









 ————その答えは、聖典にも教義にもなかった。


 だから、ある日、父親は世の中に正しさを広めるため、教義にないことまで信者に説いた。
それが悲劇の始まり。










 いくら正しいことを説いて回っても人々には受け入れられず、生活は貧しくなり、やがては明日食う物にも困る
有様になってしまっていた。




 誰も話を聴かなかった。聞こうともしなかった。




 かつてはあれほど熱心に教会に通っていた信者たちも、そろって父親に背を向けた。
人間の持つ、あまりにも醜悪で残酷な部分が現れたのだった。







 だから、娘は父の話を皆に聞いてもらいたくて、悪魔に魂を売った。

 悪魔の売ってきた商品の効果は確かなもので、祈った翌日から、教会には人が押し寄せた。


 初めは、誰もが喜んだ。娘も正しいことをできたのだと実感し、魔女という敵を倒すために戦い始めた。



 父親が正義を説き、娘が正義を振う。
そうやって、二人で世の中を正しくしていくんだと、娘は本気で信じていた。


 けれど、それは長くは続かなかった。






 奇跡を人の手によって叶えること。その意味に彼女が気付いた時、既に何もかもが遅かったのだ。

 それは、世の中に不条理を生み出す。
祈りが何であろうと、それは不条理に変わりはなく、よってそれは不条理で終わる。






 ある時、父親に全てのからくりがばれた。








 そして、その結果が——この上なく皮肉なことに——彼女を残しての一家無理心中。








 父親は娘を「魔女」と罵った。彼は酒におぼれ、絶望という病に憑りつかれ、ついに乱心する。


 娘が誰よりも正しいと信じた父親は、誰よりも愛していた母親と、誰よりも守りたかった妹を手に掛け、
自らも二人の後を追うという、救いようのない罪を犯してしまった。




 娘の心は砕けた。信じていた幻想は、無慈悲にも、木っ端微塵になってしまった。



 彼女の祈りが家族を破滅させたのだ。
父は地獄に堕ち、母と妹は理不尽に命を奪われ、後にはどうしようもなく無力で小さな少女だけが残されたのだった。








 ひどい話だった。


 まるでドラマの中の悲劇みたいな話だった。


 そのせいで、正義を夢見ていた少女は全てを諦めた。
そうしなければ、彼女は自分自身を保てなかったのだ。




 だから彼女は正義を捨て、自分のために魔法を使うと決意した。
それなら、何が起こっても自業自得だから。
良かれと思ってやったことが人を破滅させ、悲劇を生むことはないから。





「奇跡ってのはタダじゃないんだ。希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。
そうやって差し引きをゼロにして、世の中のバランスは成り立ってるんだよ」



 話の最後に、杏子はそう言った。

 それが彼女が出した結論だった。


 奇跡には必ず対価がある。
もし、誰かのために奇跡を祈ったら、そのツケはその誰かに回ってくる。
あるいは、その誰かを恨んでしまう。
けれど、自分のために奇跡を願えば、ツケは自分で払うことになる。



 それが自業自得。



 全部自分の招いた結果だと思えば、他人を恨むことはないし、割り切ることができる。


「何で、そんな話を私に……?」

 杏子の過去は分かった。でも、それを話した意図が見えてこない。
だから、さやかは素直に疑問を口にした。


「アンタも、開き直って自業自得に生きればいい」


 杏子は視線を落としながら呟く。

 要するに、杏子のように、自分のためにだけ魔法を使えばいい、という訳だ。




 変なの、と思う。

 利己的なことを言うくせに、やってることはさやかの心配をしてのことだ。
その矛盾を突こうとして、さやかは口を開きかけた。
けれど、それは続く杏子の言葉に遮られる。







「って、そう思ってたんだけどさぁ」


 いつの間にかこちらを向いていた杏子はまっすぐさやかを見据える。
その口元には、仄かに笑みが湛えられていた。




「あの跨道橋で、あのメイドがマミを殺そうとした時、アタシは……何にもできなかった。
ただ、見ているしかなかったんだ」

 柔らかな日差しが廃墟の中に差し込んできて、ステンドグラスを通った光が講堂の床に様々な模様を描いていた。
赤、青、黄色、紫、緑、白。
灰色の埃の積もった床は、そんな色たちに彩られていて、綺麗に染まっていた。
杏子は、それに目を落としながらとつとつと自分の想いを言葉に乗せる。


「でも、アンタは違った。
アンタはマミを守るために飛び出した。
結果は散々だったけど、アンタは確かにあの時、正義のヒーローだったよ」



 そんなことを、杏子は真顔で言う。さやかは思わず顔を背けてしまった。


 あの時は、考えなしに飛び出しただけだ。勝算なんてなかった。
それを、面と向かって褒められるとかなり恥ずかしい。顔が火照ってる。




「それで気が付いたんだ」


 そんなさやかの内心を知ってか知らずか、杏子は尚も真剣な顔で続ける。



「アタシのやりたかったことって、こういうことなんだってね」

「じゃあ……」




「アタシたちは魔法少女だ」






 杏子の表情は変わらない。それどころか、さらに深刻な顔になっている。


「他に同類なんていない。だから、アタシたちがどんなに人のために頑張っても、それは決して理解されないんだ。
アタシの親父がそうだったようにね」


 その言葉は、意図せずして、さやかの心の一番深いところを突いた。





 胸を刺す痛みに、さやかは僅かに怯む。


 それで…………、そんな時に反発せずにいられないのが美樹さやかと言う少女だった。






「く……。だから、何? それくらいの覚悟、とっくにできてるわよ。
第一、私は見返りを求めない。
だから、誰からも感謝されなくてもいい。
恭介は知っちゃったけど、別に恭介の恩人になりたい訳じゃない」



 杏子が顔を顰める。まるで苦虫を噛み潰したように。






 彼女の気持ちは、何となくだけれど、分かる。
あんな過去があったなら、そういう気持ちになっても仕方がないと思う。
でも、だからこそ認める訳にはいかない。頷くことはできない。







 だって、それは、祈りを否定することになるから。
魂を賭けた願いを嘘にすることになるから。









 今、ここに居るのは、人間ではなく、魔法少女————魔法少女さやかだ。



 その原点は、「恭介の腕を治したい」という願いにある。それが、さやかの根幹なのだ。

 故に、そこは絶対に不可侵の聖域であり、自分を含めた誰にも否定し、犯すことを許さない。








 ————佐倉杏子にとってのこの教会と同じく。




 ここにはきっと、忘れられないたくさんの思い出が詰まっているのだろう。
悲しいことも、嬉しいことも、みんなここで起きたことなのだろう。




 だから聖域だ。






 それはもちろん、さやかが両親から与えられている「私室」という意味ではない。
それは、イェレサレムのような、バチカンのような、メッカのような、土足で踏み込むことを許さない神聖な領域という意味。






 かつて、杏子が祈りを捧げた場所。
家族と暖かい時間を過ごした場所。
救いようのない破滅が起きた場所。





 そして、彼女はさやかを招き入れ、自らの過去を打ち明けた。

 その意味は大きい。とても特別なことなのだ。










 今まで、さやかは杏子の表面しか見ていなかった。
利己的で、他人の犠牲を顧みない、悪い奴だと思っていた。







 けれど、それは真実の彼女の姿ではない。







 今なお、この崩れかけの教会で祈りを捧げる少女こそ、佐倉杏子の本質なのだ。











 ……それから、一瞬顔を顰めていた杏子はすぐに元の真顔に戻った。
そして、ふと天井を見上げる。


「もう一つ、話がある」

「何よ?」


 唐突に行われた話題転換に、さやかは思わず棘のある返事をしてしまう。
ああ、しまったと思ったが、杏子は特に気にした様子はない。



「アタシが、マミの弟子だったことは知ってるよな」

 それは、跨道橋でのマミと杏子の掛け合いの中で聞いた。
その時は信じられなかったが、杏子のことを知った今は納得できる。
何しろ、二人は同じタイプの魔法少女だったからだ。



「アタシにとって、マミは憧れの先輩だった。いや、憧れの先輩だ」



 そう言う杏子の目は、マミを見つめるまどかのそれのようだった。
つまり、さやかのマミを見る目と同じだということだ。



「マミは、街の人を守るために戦い続けてきた。
辛くても、苦しくても、頑張ってきたんだ。ホントに、マミは正義のヒーローだよ」


 杏子は顔を下ろし、真っ直ぐな目でさやかを見抜く。さやかも負けじと見つめ返す。

 青と赤の視線が交差する。




「だから、マミの奴をあのままで放っておけない。
あのままだと、いずれマミは人を殺しちまうかもしれない。


それは……、ダメだ。

今まで人を守ってきたマミが、人を傷つけたりしたら、アイツは自分で自分のやってきたことを壊しちまう。



……だから、止めなきゃいけない。




それには……、アンタの力が必要なんだ」






 思わぬ強い意志をストレートにぶつけられて、さやかは思わずたじろいだ。



 杏子の目には、一片の迷いもない。視線も言葉も、槍のようにまっすぐに突き進んでくる。







 その様子に戸惑いつつも、さやかは尋ね返す。
しっかりと、その槍を受け止めるために。




「何で、私?」


「アンタ、治癒の力を使えるんだろ?」


「そうだけど」


「ならさ、その力で、マミのことを治せるかもしれないじゃんか。
マミを、元に戻してやれるかもしれないじゃんか」



 ハッと、さやかは息を飲む。



 それは、何日か前に、まどかと公園の土手で話していたことだ。
その時は、ひょっとしたらできるかも、程度にしか思っていなかったのだが、杏子の言葉には確かな強さがあった。



 さやかには強力な治癒能力がある。
それは、全治三か月の重傷を一瞬で治してしまうほど強力な物。
マミを助けるためのものとしては、申し分ないだろう。





「ほんとに、私でも、できる?」


 あの時、マミを助けようとして、結局何にもできなかった無能な自分でも、マミのために、
今度こそ本当に力になれるのだろうか?


 不安になる。自信がなくなる。




 それでも————、




「それは、やってみないと分かんねえよ。でも、やるだけの価値はあると思う」


 杏子は、さやかが必要だと言った。




「でも、今のマミさんは……」


 杏子は、マミを助けようと言った。





「確かに今のマミはちょっと暴れん坊になってるけどさ。二人掛りなら抑えられる。
一人じゃできないことも、二人ならできる」


 だから、さやかは信じてみようと思う。





「分かった。そういうことなら、協力するよ」






 さやかがそう言うと、杏子はニヤッと笑った。
なんか、それが様になってる。
さっきのような、真剣な顔とか、シスターのような微笑みとかより、こういう悪ガキっぽい笑い方の方が杏子には似合ってる気がした。





 その調子でさやかに近寄って来る杏子に、さやかは片手の掌を向けた。



「ただし、条件があるよ」


 なんだよ、と言うように杏子が眉を寄せる。




「今度からちゃんと使い魔も退治すること。グリーフシードのために、見逃したりしないこと。
私と組むなら、それは守ってよね」

「分かってるよ」



 杏子は紙袋の中からリンゴを一個取り出した。そして、それをさやかに向かって放り投げる。








「食うかい?」






 軽い音を立ててさやかの両手に納まるリンゴ。
傷一つない皮は、鮮やかな赤色で、すごくおいしそうだった。

 朝ご飯を抜いて空腹のさやかは、思わず口の中に溢れた涎を飲み込んだ。
だが、すぐには受け取らない。



「あんた、このリンゴどうしたの? ちゃんとお店でお金払った?」


 すると、杏子は心外だと言わんばかりに顔を顰めた。


「ちゃんと買ったよ」


 その不貞腐れたような、子供っぽい仕草が、意外と可愛らしい。
その仕草に、さやかはうっすら笑みを浮かべた。





 廃れた教会に、久方ぶりに戻る笑顔。
新たな希望の芽が吹き、二人の少女は笑い合いながら大切な人を救うために、互いに手を取る。



 そのことを実感して、さやかは勢いよく林檎に齧り付いた。












   空海 登場☆


本編より早く杏子が本性(聖女)を表しましたww



お蔭で明るくなりつつありますw

マミさんを助けるためという名目なら、
杏さややってもいいかなあと思った。
後悔はしていない。

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