はぐれ勇者の幻想殺し (429)
『とある魔術の禁書目録』と『はぐれ勇者の鬼畜美学』のクロスオーバー作品になります。
ただしクロスオーバーと言っても序章でほんの少し交差するだけです。
基本的には『とある魔術の禁書目録』の再構成になります。
物語の時系列が大きく変化します。
ハーレム色がありますが、最終的なカップリングは上琴です。
強い上条さんがコンセプトになるので注意してください。
一部のキャラクターの設定が大きく改変されています。
また上条さんが戦争というものを体験したせいか、少々いや大分シビアな性格になっています。
これらの注意事項に嫌悪感を持たれる方は読まれないことをお勧めします。
ではよろしくお願いします!!
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序章 帰還編
第0話 物語の終わりと始まり
「――うおおっ!? あぶ、危ねえっ! お前ら、俺達を殺す気かあぁぁ――――っ!!」
「っていうか、掠ったよ!? 一歩間違えれば完全にお陀仏だったよね!? 何て言うか……不幸だー!!」
激しく無駄だと分かっていながらも二人の少年は叫ばずにはいられない。
全力疾走しているためか、その叫びはドップラー効果を伴っている。
東の空が白み始めた早朝、緑の木々が生い茂った深い森の中の出来事だった。
凰沢暁月、上条当麻……これが少年達の名前だ。
そして森の中には不釣り合いな紺と白の色彩で彩られた侍女服とレースのエプロンを纏った女性達がザザザザと小刻みな足音を響かせて二人を迫っている。
二人に対する追手はメイドだ。
更にメイド達が構えているものが、より一層その場の異彩を際立たせている。
長剣、長槍、弓……メイド達の手にはまるで今から戦場に行くかのように様々な武器が握られていた。
そしてそれらを使ってメイド達は暁月と上条に躊躇ない攻撃を加えてくる。
「夏の浜辺でこれをやれたら、さぞかし最高だろうな」
「こんなバイオレンスな追いかけっこがあってたまるか!! いくら相手が可愛い女の子達でも、とてもキャッキャウフフな雰囲気じゃねえぞ!! それに今は夏でもなければ、ここは海でもねえよっ!!」
暁月の何処かずれた呟きに上条はツッコマずにはいられない。
暁月と上条が出会って約五年……いつもこのようなやり取りが続けられてきた。
それに暁月の言葉には季節や場所以外に根本的な問題がある。
そもそもここはメイド達が往来する日本の秋葉原のような電脳街でもなければ、地球ですらなかった。
異世界アレイザード――それがたった今、暁月と上条が大地を踏みしめている世界の名前だ。
――五年前、上条はどういう訳かこのアレイザードという名の世界に召喚された。
そこで上条は同じ境遇の暁月と運命的な出会いを果たすことになる。
剣と魔法、勇者と魔王、そんな物語のような世界であるアレイザードは人類と魔王ガリウスが率いる魔族の全面戦争に突入していた。
暁月と上条が跳ばされたのは、勇者がいる魔導大国シェルフィードだ。
それは何の力も持たない少年だった暁月と上条にとって不幸中の幸いだった。
勇者レオン、王女リスティを始め、戦士ゼクスや魔法使いルーティエをいった面々は二人を快く迎え入れてくれた。
既に勇者が存在するこの世界では、異世界から来た二人の少年が英雄になるという物語のような展開になることはない。
暁月と上条の境遇に同情してくれた彼らは、過去の文献を調べ元の世界に帰る方法まで探してくれた。
そしてシェルフィードの王都……エルディアの周囲に広がる広大な森、その北側の最奥部に別の世界と繋がる『異界の門』があることが判明する。
この状況で何もせずに立ち去ることを暁月も上条も良しとしなかったが、二人は完全にこの世界において無力だった。
二人ともこの世界における最大戦術となりうる魔法の才が無かったのである。
しかし暁月と上条が元の世界に帰ろうとした時、悲劇は起こった。
魔王ガリウスが率いる魔王軍がエルディアを急襲したのだ。
そして悲劇はそこで終わらない。
勇者レオンが命を落としたのだ、魔王の凶刃から暁月を庇って……。
勇者の死はアレイザードの人々に大きな絶望を齎す。
人々の糾弾の矛先が暁月に向かうのは自然な成り行きだった。
暁月を庇える立場にあった王女リスティも恋人であるレオンを失ったショックから、彼女自身も暁月への非難を止めることができなかった。
気付くと暁月の姿は消えていた、唯一の味方だった上条と共に……。
人々は姿をくらました異世界の二人の少年を激しく罵り、卑怯者呼ばわりするのだった。
やがて迎えたエルディア奪還作戦……人類反撃の狼煙となる筈だったこの戦いだが戦況は思わしくなかった。
王女リスティを中心とするゼクス、ルーティエなど後に魔王討伐の中心パーティとなるメンバーは窮地に追い込まれ、人類の存亡もそこまでと思われたその時……。
彼らを窮地から救ったのが暁月と上条だった。
暁月と上条は逃げていなかった。
命懸けで神々の住まう『神層界』に赴き、そこで血の滲むような修行に勤しんでいたのだ。
二人は『錬環勁気功』と呼ばれる体内で氣を練り上げる操体術を会得し、戦場へと戻って来た。
リスティ達を救い王都奪還を成し遂げた暁月と上条は一躍英雄となるのだった。
しかし今でも暁月のせいでレオンが死んだことを快く思っていない人間は少なくない。
いつしか暁月だけでなく同じく異世界からやって来た上条も彼らの非難の対象になっていた。
リスティ達とのわだかまりを解消し、共に魔王と戦うことになったのも原因の一つかもしれない。
レオンを慕う民衆はいつしか暁月と上条を皮肉を込めてこう呼ぶようになる。
――二人のはぐれ勇者、と。
暁月は甘んじてその悪名を受け入れた。
それどころか、寧ろ堂々と自由奔放に振る舞った。
まるで自分は勇者ではないと言わんばかりに……。
それは暁月ほどではないものの上条も同様だった。
魔王を倒す旅の途中で民を虐げる貴族がいれば、その屋敷に殴り込み問答無用でぶっ飛ばしたことも数知れない。
暁月と上条は世界を救うために旅する英雄という以上に、王制を敷くアレイザードの各国家にとって目障りな目の上のこぶのような存在だったのである。
それも相まって暁月と上条の悪名はアレイザード全土に響き渡った。
しかし悪名を背負っても暁月と上条は止まることなく突き進み、ついに魔王ガリウスを討ち倒したのだった。
北の森の最奥が聖域とされているためか、エルディア城の北側に広がる森は手付かずのままになっている。
そのため舗装された道などある筈がなく、あるのは木々が避けるようにしてできた自然の通り道だけ……。
一歩間違えれば転がった倒木や伸びた蔓や蔦に足を取られて転倒は免れない森の中を暁月と上条は既に三十分以上走り続けていた。
しかしその後を追うメイド達の気配が一向に減ることがない。
どうするものかと思案する暁月と上条の頭上から勇ましい声が響いてきた。
「アカツキ様、トウマ様、ご覚悟っ!!」
メイド二人が長槍を構えて降って来る。
左右から二人を挟撃するような形だ。
しかし捕まるわけにもいかず、二人は彼女達を傷つけることなく撃退する方法を模索する。
その時、暁月が何処か意地の悪い笑みを浮かべる。
「おいっ、まさか!?」
上条が気付いた時には既に遅く、メイド達の攻撃を避けた暁月の手には白い布が握られていた。
メイド達も自らに起こった異変に気が付いたのか顔を真っ赤にすると、そのまま地面にへたり込む。
剥ぎ取られたことに気が付いたのだ。
暁月が手に持っているのはまさに今さっきまでメイド達が身に着けていたショーツだった。
「何だ、足でも挫いたのか? 診てやるから、スカートの下を見せてみろよ」
「ひっ、いやあぁぁ――――んっ!!」
慌てふためいて逃げていく二人のメイドを見て暁月は満面の笑みを浮かべる。
「なんつーか……効果覿面だな」
「効果覿面じゃねえよ!! ったく師匠といい、お前といい、どうしてそう恥ずかしいことを威風堂々できるんだか……」
二人に錬環勁気功を教えた師匠、拳聖グランセイズ。
彼は最強の武術の使い手であると同時に、最強のエロジジイだった。
そのため暁月は彼から操体術としてだけでなく、かなりスケベな錬環勁気功の使い方を身に付けていた。
それを暁月は遺憾なく旅の中で発揮し、今では「二人のはぐれ勇者は女好き」という噂がアレイザード中に広まっている。
「別にはぐれ勇者って悪名を背負うことには何の躊躇いもなかったけど、流石に好色大魔王って呼ばれてるのを知った時は傷ついたぞ」
「何だよ、全部俺の責任みてえな言い方じゃねえか? 俺は寧ろ何もしないで、その異名が付くようになったお前の方がよっぽど恥ずかしいよ」
上条も同じ師匠から修行を受けた以上、暁月と同等のことを行える。
しかしながら上条がそれを女性に向けたことはなかった。
だが女好きと広まった噂は暁月だけでなく上条も同様だった。
それは本人曰く不幸だという上条のラッキースケベが原因だ。
何故か上条は意図せずとも女性の着替えや、川での水浴びなどに遭遇する確率が異様なほど高かった。
「だからあれは全部事故で!!」
「はいはい、男の言い訳は見苦しいぞ」
その場に立ち止まって言い争いを続ける暁月と上条だったが、それが長く続くことはなかった。
二人の腕にそれぞれ一本ずつロープが巻きつく。
そして左右の茂みから新たに二人のメイドが姿を現した。
「もう逃げられませんよ、アカツキ様」
「トウマ様、大人しく城に帰りましょう」
しかし暁月が地面を踏み締め、力を込めて僅かに腕を引いた。
すると暁月の手にロープを掛けていたメイドが大きく宙を舞う。
錬環勁気功を発動させたのだ。
彼女は吸い寄せられるように、暁月の目の前に……。
そのまま暁月は抱きかかえるようにメイドを抱きしめた。
「お、美味そうな耳たぶ」
暁月はそう言って、あろうことかメイドの耳たぶを噛んだ。
するとメイドは恍惚の表情を浮かべて、その場へと崩れ落ちる。
暁月が錬環勁気功を発動させ、彼女の体内を巡る氣の流れを変えたのだ。
錬環勁気功は様々な転化が可能であり、自らの体内で氣を練れば超人的な身体能力や感覚を得られる。
そしてそれは他の人間に対しても作用させられた。
暁月は要するにメイドの感度を極限まで高めたのだ。
「はぁー」
その様子に上条は大きく溜息を吐く。
そして何処か怯えた表情を見せるもう一人のメイドに諭すように言った。
「お前もこうなりたくはねえだろ? だったら素直に退いてくれ」
そして上条の言葉に加えるように暁月も言った。
「それとワルキュリアへの伝言も頼む。 俺達を引き留めようとしてくれる、その気持ちだけ貰っておくってな」
暁月の言葉にメイドは唇を噛んで、来たのとは逆の茂みに姿を消した。
そして残されたメイドの背中に上条が手を置く。
彼女の乱された氣の流れを元に戻すのだ。
上条が意識を集中させると、彼女の表情も大分落ち着く。
「大丈夫か?」
「ありがとうございます」
「お前達のお陰で最後に良い思い出になったよ」
そう言って上条は再び森の奥に進むべく立ち上がる。
しかしメイドが上条を繋ぎ止めるように、その手を掴んだ。
「あのっ、トウマ様!! 以前から私、トウマ様のことをお慕……」
しかしメイドの言葉が最後まで続くことはない。
上条の頬を矢が掠めたのだ。
どうやらまだ暁月と上条を諦めてくれる気はないらしい。
「悪い、それじゃあ行くな!!」
そして暁月と上条は再び走り始めるのだった。
やがてメイド長であるワルキュリアを退けると、暁月と上条はいよいよ『異界の門』がある森の聖域へと足を踏み入れる。
メイド達が暁月と上条を追い掛けていたのは勿論アレイザードの英雄である二人を引き留めるためだ。
しかしメイド達も自分達の実力で暁月と上条を捕縛できるとは思っていない。
なら何故二人を追い掛けるようなことをしたのか?
それは最後に思い出を作ると意味合いが強かった。
メイド達の中には暁月と上条を慕う者が多い。
だがそれ以上に暁月と上条がこの世界を去る決意が固いことを知っている。
だからせめて最後の思い出にと催されたのが、この大掛かりな追いかけっこだ。
そして実際にこの追いかけっこを通して、暁月と上条はアレイザードの思い出を深く胸に刻みこむのだった。
そのまま二人が聖域の中を進んで行くと、巨大な大木の下に一人の少女が佇んでいた。
シェルフィードの王女にして旅の仲間でもあるリスティだった。
今朝城を出る際に他の仲間であるゼクスとルーティエは別れを惜しみながらも、二人を快く見送ってくれた。
しかしリスティがその場に姿を現すことはなかった。
そしてワルキュリアの話によると二人にメイドを嗾けたのはリスティの命令らしい。
そんな先ほどまでの騒動の原因である張本人の下に二人は歩を進める。
するとリスティは暁月の方は見向きもせずに、上条に向かって微笑みかけた。
それに対して上条も笑顔を浮かべる。
パーティーの中で最年少だった上条は彼らにとって弟のような存在だった。
しかし上条とリスティはお互いに笑みを浮かべただけで会話をすることはない。
そして上条は暁月に向かって言った。
「それじゃあ、先に行ってるな」
「……おう」
そして上条は暁月とリスティを残して『異界の門』へ続く道を進むのだった。
暁月とリスティは男女の機微に疎い上条から見ても相思相愛のお似合いのカップルだった。
しかし二人が結ばれることはなく、そればかりが互いに気持ちを伝えることすらしなかった。
――魔王ガリウスを倒したとはいえ、暁月と上条ははぐれ勇者だ。
魔王軍との戦争が最終局面に入る頃には二人を本物の勇者として讃える者が殆どだったが、それでも反対勢力は国内外問わず数多く存在した。
そんな暁月がリスティを結ばれたら確実にシェルフィードの中に禍根を残すことになり、いつか国を割る可能性すらある。
ならいっそのこと駆け落ちでもすれば良いと上条は思っていたが、責任感が強いリスティが国を捨てることなどできる筈がなかった。
暁月と上条がアレイザードに留まれない理由は他にもあった。
二人がアレイザードに残れば、魔王を倒した勇者として絶大な影響力が残る。
先ほど挙げた反対勢力の例を見ても、それを疎ましく思う者がいるのは明白だった。
それは人間同士の争いに繋がる可能性も含んでいる。
だから暁月と上条は決めていた。
後にアレイザードに遺恨が残らぬよう、アレイザードにおいて異分子である異世界人の自分達だけで魔王を倒すことを……。
そして賞賛も名誉も遺恨も羨望も、全て二人きりで引き受けてこの世界から消えることを……。
上条が『異界の門』に着いてから十分も経たない内に、暁月はすぐに上条に追いついてきた。
もっと待たされると思っていた上条は少し肩すかしを食らう。
「もういいのか?」
「あんまり長い別れは却って辛くなるだけだからな」
「……そうか」
まだ人を好きになったことがない上条は、大切な人との別れがどれだけ辛いものか分からない。
しかしそれとは別に五年もの間過ごしたアレイザードと別れを告げることに、上条も感慨深いものを感じる。
そしてアレイザードから去ることは兄のような存在であり親友でもある暁月との別れも示していた。
「それじゃあ俺達もお別れだな」
「……ああ」
上条と暁月は地球出身だ。
しかし同じ地球でも二人が生まれた地球は別世界だった。
平行世界とでも言うのだろうか、二人のいた世界は所々異なる部分がある。
大きな差異を挙げればやはり学園都市とバベルの存在だろうか?
暁月のいた地球では異世界に跳ばされる人間が数多くいて、バベルは異世界で異能を得た少年少女達を正しく導くための組織だ。
それとは対称的に上条のいた地球では異世界に跳ばされるなんて話を、少なくても上条は聞いたことがなかった。
そして上条のいた地球では異世界で異能を得るのではなく、科学的に脳開発や薬を用いて能力を開発する。
それを行っているのが学園都市だった。
暁月と上条が同時に『異界の門』を潜っても元いた世界が異なるため、辿り着く先も別々となる。
「それじゃあさっきも言ったけど、別れが惜しくなるから俺はさっさと行くな」
暁月はそのまま『異界の門』へと足を進める。
そんな暁月の背中に上条は声を掛けた。
「悪いな、お姫様の件も全て押しつけちまって」
「俺が面倒見る方がベストなだけだ。 それにお前に預けるとガリウスの野郎から恨まれそうだしな」
「……お前に言われたくねえよ」
「ハハッ、それもそうだな。 それじゃあ今度こそ俺は行くぜ」
「……最後に一言だけ言わせてくれないか?」
上条の言葉に暁月は振り返る。
そして上条は暁月の目を見据えて言った。
「俺は暁月に会えて本当に良かった。 お前がこれからしようとしてることは並大抵のことじゃないと思うけど、無理だけはするなよ」
「野郎に心配されても気持ち悪いだけなんだが、まあ他ならぬ当麻の頼みだ。 可愛い弟分のためにも、絶対にやり遂げてみせるさ」
そう答えて暁月は上条に笑顔を向ける。
上条にとって暁月は常に目標であると同時に支えでもあった。
暁月がいなければこの世界での冒険を無事に終えられたとは思えない。
そしてそれは暁月にとっても同じだった。
周りから糾弾を受け続ける中、常に味方でいてくれた上条は何よりも心の支えになっていた。
本来出会うことがなかった異世界に住む二人の少年……。
共にこの出会いに感謝しながら二人は元いた世界へと帰っていく。
やがて『異界の門』を進む暁月の姿が見えなくなった。
最後に聞こえたのは「あばよ」の一言。
そして上条も『異界の門』へと足を踏み入れる。
不安定な次元が生んだ空間の不連続面、それが異なる世界に通じている事の証明だ。
そして『異界の門』を通った先に見えてきたのは、随分と久しぶりに感じるコンクリートに囲まれた街並みだった。
「……帰ってきたか」
学園都市第七学区にある窓のないビルで一人の『人間』が笑みを浮かべた。
男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』は、弱アルカリ性の培養液で満たされた生命維持槽であるビーカーの中に逆さまになって浮かんでいる。
広大な部屋の四方の壁は全て機械類で埋め尽くされ、そこから伸びる数十万ものコードやチューブが床を這い、中央の生命維持槽に接続されていた。
窓のないその部屋はいつも闇に包まれているが、生命維持槽を遠巻きに取り囲む機械類のランプやモニタの光が、まるで夜空の星々のように瞬いている。
そして『人間』の前には一人の少年が訝しげな表情で佇んでいた。
染め上げた金髪にアロハシャツ、金の鎖をジャラジャラと首から下げているのを見ると一見軽薄そうな人間にしか見えないが、サングラスの奥でギラリと鋭く光る瞳が彼が只者ではないことを物語っている。
「何の話だ?」
直接の上司に当たる『人間』が普段見せない表情をしていることに少年は一抹の不安を覚える。
目の前の『人間』は碌な人間でないことを少年は誰よりも分かっているつもりだった。
一見平和そうに見えるこの学園都市で数々の残虐非道なことが行われているのを裏の世界に住まう少年は良く知っている。
そしてそれらは全て元を糺せば学園都市統括理事長である目の前の『人間』に行き着くことも……。
その『人間』が笑みを浮かべているのだ、碌なことにならないのは目に見えていた。
そして『人間』は薄く笑ったまま、少年に新たな仕事を与える。
しかしその内容は普段から汚れ仕事を行ってきた少年にとって、何処か拍子抜けなものだった。
――ある人物の監視、ただし必要以上の干渉は行わない。
その命令が何を意味するか少年はまだ知らなかった。
以上になります。
アドバイスなどを頂けると嬉しいです。
レスありがとうございます。
凄く嬉しいです。
はぐれのアニメはあまり話題になりませんでしたね。
禁書と同じハーレム系なのに……。
エッチ過ぎるのは受けが良くないんでしょうか?
それはともかく続きが少しできたので投下したいと思います。
第1章 欠陥電気編
第1話 再会
「これで残るは……二基」
凄まじい電流が迸り、研究所の実験施設並びに実験に必要な機器は次々に破壊されていく。
電撃使いである少女の表情にはある実験における憤り、悲壮感、そして何処か狂気じみた笑みさえ浮かんでいた。
そして研究所が完全に沈黙したのを確認すると少女は痕跡の残らぬようその場を後にする。
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学園都市のレベル5第三位にして全ての発電能力者の頂点に立つ『超電磁砲』。
その二つ名を持つ御坂美琴が絶対能力進化のことを知ったのはつい先日のことだった。
初めに耳にしたのは耳を疑うような噂話……。
第三位のクローンを軍事利用する、馬鹿げた噂としか思っていなかった。
しかし長点上機に所属する女子高生との出会いが美琴の日常を徐々に蝕んでいく。
そして突き止めたのが『量産型能力者計画』。
噂の元は確かに存在したのだ。
だが『量産型能力者計画』は望む成果が得られないと『樹形図の設計者』が導きだしたため、全ての研究は即時停止、研究所は閉鎖され実験は凍結されていた。
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研究所を出ると美琴は暗い路地裏を覚束ない足取りで進んで行く。
連日の破壊活動で身体だけでなく精神的にも既に限界の状態に陥っていた。
しかし止まる訳にはいかない。
自らの罪を清算するためにも、必ずやり遂げなければならないことがあった。
そんな美琴の耳に耳障りな声が入って来る。
「あれー、どうしたの? こんな時間に女の子が一人で歩いてたら危ないよ?」
表面だけ見れば深夜に路地裏のような治安の悪い場所を歩いている美琴を心配しているようにも見える。
しかし声を掛けてきた男達の軽薄そうな身なりと、浮かべた下衆な笑みを見れば厚意で声を掛けてきた訳でないことは明白だった。
学園都市は本当にこういった輩が後を絶たない。
学園都市の学生は皆能力の開発を受けて何らかの能力に目覚めており、能力の強弱によってレベル0からレベル5にカテゴリーされている。
――スキルアウト……レベル0いわゆる無能力者の人間の中で学校からドロップアウトした不良達。
恐らく目の前の男達もその一員だろう。
レベル5である美琴に彼らが抱える苦悩は分からない。
だが彼らの苦悩を分かろうとも思わない。
美琴の友人もレベル0であることに思い悩んでいた。
それでも彼女は懸命に生きていて、何より真っ直ぐな少女だった。
美琴自身も彼女に色々と教えられ、時に助けてもらったこともある。
レベル0であることに悩むのは仕方ないだろう。
実際に美琴も努力して能力が伸びなかったら同じような思いをしたに違いない。
しかしだからといって人に迷惑を掛けるのは本末転倒である。
美琴が目標とする幼馴染の少年はレベル0でありながらスキルアウトとは全く逆の生き方をしていた。
尤もそれは五年前の話で、彼が幼さ故にまだ苦悩というものを知らなかった可能性もある。
今はいない少年のことを推測で語っても仕方ないことは分かっている。
しかし美琴には仮にあの少年が生きていたとしても道を踏み外すとは思えなかった。
「何だか顔色が悪いよ。 少し遊んでくれたら送っていてあげる」
その言葉が何を意味するか分からないほど美琴も子供ではない。
今までだって何回も下種なナンパを受けたことはある。
いつも通りに無視して美琴は先に進もうとした。
「おいっ、シカト決め込んでるんじゃねえぞ!!」
しかし今日は普段に比べて粘着質な、そして少々気が短い相手だったようだ。
ハッキリ言ってある深刻な問題を抱える美琴は虫の居所が悪い。
そもそもこんな輩に付き合っている暇すら惜しかった。
美琴は男達を威嚇するために軽く能力を使おうとする、しかし……。
(嘘っ、電池切れ!?)
先ほどの破壊活動で大幅な能力を使ったためか上手く能力を使うことができない。
それだけでなく身体的にも限界を迎えており、その場から走って立ち去る体力すらなかった。
そして男達が美琴のことを取り囲んだ。
「まだ子供だけど、可愛いじゃねえか?」
「放しなさいよっ!!」
男の一人が強引に美琴の腕を掴み取る。
女子中学生としては破格の身体能力を誇る美琴も、腕力では大の男に敵う筈がない。
男達は美琴の両腕を抑えると、嫌らしい手つきでその未成熟な体を弄り始めた。
「いやっ、やめて!!」
「ハハッ!! その反抗的な目つきもそそるねえっ!!」
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『量産型能力者』の計画が凍結されたと知った数日後、美琴は自分と良く似た力の放射を感じ取る。
そして力の元を辿った先にいたのは自分とソックリな少女だった。
『量産型能力者』の計画は凍結されているにも拘らず、何故か自分のクローンが存在する。
そのことに美琴は不安を隠しきれない。
禁則事項と何も話さない少女の正体を探るため、美琴は彼女と一日行動を共にする。
しかし二人が過ごしたのは何の変哲もない日常……。
やがて少女と別れた美琴は少女が残した謎のパスを調べ上げる。
そして辿りついた答えは『量産型能力者』の計画を遥かに超える絶望だった。
『絶対能力者進化』……美琴の体細胞クローン、通称『妹達』を学園都市第一位『一方通行』が二万回の方法で二万回殺害。
その実験を経ることによって『一方通行』は絶対能力者レベル6へと到達。
別れ際に少女が発した「実験に向かう」という言葉が美琴の頭に響き渡った。
美琴はハッキングしたデータから実験が行われていると思われる座標に急いで向かう。
だが美琴の目に飛び込んできたのは先ほどプレゼントしたガチャポンの景品である缶バッチを抱えたまま電車に潰される少女の姿だった。
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幼い自分が不用意に提供したDNAマップが原因で『妹達』が作られることとなった。
そして『妹達』は何の疑問も抱くことなく、その命を無慈悲に散らされている。
その罪が下衆な男達に汚されることなら甘んじてそれを受け入れよう。
ただしこのタイミングでなくても良い筈だ、まだやらなければならないことが美琴にはあった。
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少女が殺された現場に居合わせた『一方通行』に美琴は戦いを挑んだ。
しかし学園都市第三位の力は第一位に全く通用しない。
そして『一方通行』に殺されそうになった美琴を救ったのが他ならぬ『妹達』だった。
「おかしいよ、何でこんな計画に付き合ってるの? 殺されちゃうのよ? こんなの訳分からない」
美琴は悲痛な叫び声を上げる。
その脳裏には先ほどまで一緒に他愛もない話をしていた自分とソックリな少女の姿が浮かび上がっていた。
「何でよ!! 生きてるんでしょ、命があるんでしょ!? アンタ達にも……あの子にもっ!!」
しかし少女と全く同じ顔をした『妹達』は少女と同じ抑揚のない声で淡々と告げた。
「ミサカは計画の溜めに作られた模造品です。 作り物の体に借り物の心……単価にして十八万円の実験動物ですから」
『妹達』がいくら自分達のことを実験動物と蔑んでも、勿論美琴に割り切れる筈がない。
そして美琴は実験に関わる全ての研究所を殲滅するという孤独な戦いに身を投じることになるのだった。
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(神様、後でいくらでも罰は受けます。 だからあの子達を救い出すまではもう少しだけ時間をください!!)
実験に関わる研究所は残り二つとなっていた。
しかし心身共に極限状態にある状況で男達の慰み者になって、すぐに立ち直る自信が美琴にはない。
研究所を潰すのが遅れれば遅れるほど、『妹達』の犠牲が増えていく。
だからあと少し、研究所を完全に潰すまで罰を受けるのを待って欲しい。
「もう我慢できねえよ。 どうせここは誰も来ないし、さっさと犯っちまおうぜ」
男の一人がそう言って美琴の穿いている短パンに手を掛けた。
美琴は体を捩じらせ、必死に抵抗を試みる。
「誰か助けて!! お願いっ、誰か!!」
しかし美琴の叫びが路地裏に響き渡るばかりで人の気配はまるでしない。
男達はやはりニヤニヤと下劣な笑みを浮かべている。
美琴もこれまでと抵抗を諦めかけたその時……。
「……帰ってきて早々胸糞悪い現場に出くわしちまったな」
美琴と男達以外の気配がまるでしなかった路地裏に少年の声が響く。
まるで空間が不安定であるかのように、路地裏の景色の一部が揺らめいた。
そしてそこから一人の少年が姿を現す。
「ったく、何処の世界でも糞野郎はいるもんだ」
「空間移動系の能力者か!?」
男達は慌てふためいた様子で少年の方へ目を向けた。
空間移動系の能力者は学園都市でも希少な存在で、総じてそのレベルは高い傾向にある。
無能力者であるスキルアウトが慌てるのも無理はなかった。
そして美琴は助けが来てくれた安心感以上に妙な既視感に襲われる。
「アイツだったら下手すると殺してるところだが、取り敢えず俺は半殺しで勘弁してやるよ」
「ふざけやがって!! いくら俺達がレベル0だからって、無抵抗でやられると思うなよ!!」
男達は雄叫びを上げて少年に向かって襲い掛かる。
しかし少年はそれに対して微動だにしない。
本当に空間移動の能力者なら簡単に制圧することも可能であるに拘らず……。
そして男達の拳は無抵抗な少年へと突き刺さった。
大の男達の拳を直接その身に受ければ、少なからずダメージは受けうる筈だ。
ましてや少年は決して体格が良いとは言えず、中肉中背の寧ろ細身といっていい体つきだった。
美琴は思わず目を瞑る。
だが耳に入ってきた何かが地面に倒れる音は一つだけではなかった。
恐る恐る美琴が目を開けると、目に飛び込んできたのは地面に倒れる男達と、まるで何事もなかったかのように平然と佇む少年の姿だった。
「……」
少年は倒れたままピクリともしない男達から美琴へと視線を向ける。
すると少年は何故か驚いた表情を浮かべる。
そして美琴の下へと歩み寄ってくると、尋ねるように言った。
「……もしかして、美琴か?」
「えっ?」
少年から自分の名前が出たことに美琴は驚きの声を上げる。
そしてそれと同時に先ほど感じた既視感が自分の遠い記憶と重なった。
黒髪に特徴のあるツンツンした髪型。
顔つきは精悍になっているものの、やはり記憶に残る少年の面影がある。
「……当麻お兄ちゃんなの?」
美琴の問い掛けに少年は笑顔で頷く。
それは紛れもなく五年前に姿を消した幼馴染、上条当麻の笑顔に違いなかった。
以上になります。
この話では上条と美琴が幼馴染設定です。
感想お待ちしています。
アドバイスなどもあったらお願いします!!
乙です。
樹形図の設計者が壊されていない状態でどうやって実験を止めるのか楽しみにしてます。
乙なり?
みこっちゃんのレイプ未遂は何か興奮するわ!!
その気になったらエロも書いていいのよ?
乙です。
楽しみに待ってます!!
乙です
アニメ見てた時も電池切れの美琴がホテルに向かう途中でスキルアウトに襲われないか心配したわw
ところで暁月はもう出てこないの?
皆さん感想ありがとうございます。
>>21さん
この上条さんは原作よりシビアな性格になっています。
そこら辺を楽しみにしていてください。
>>22さん
はぐれ勇者とのクロスオーバーですからね。
直接的な表現は恐らくないと思いますが、上条さんが錬環勁気功を使ってムフフなことをするかもしれません。
>>23さん
ありがとうございます、明日中には続きを投下できると思います。
>>24さん
自分も電池切れの美琴を見てこの展開を思いつきました。
暁月に関してですがクロスオーバーと銘打っている以上、このまま登場させないつもりはありません。
まだ先ですが二つの物語のクロスオーバーを楽しみにしていてください。
続き楽しみに待ってるよ~
上条さんのセクハラに期待
自分からセクハラをする上条さんって何か新鮮だな
これは良いクロス!ありそうで無かったから嬉しいッスわ!
続きまだかなー
>>26さん
ありがとうございます。
そう言っていただけるだけで励みになります。
>>27>>28さん
上条さんは基本的にラッキースケベな割に初心なので自分から進んで鬼畜攻撃はしません。
ただ必要とあれば鬼畜攻撃も辞さないと思います。
>>29さん
ありがとうございます。
どちらも自分の好きな作品なので、ファンの方に不快にならないよう気をつけたいと思います。
>>30さん
どうもすみません。
今から投下したいと思います。
第2話 幼馴染
「久しぶりだな」
「久しぶりって……」
美琴は正直目の前で起きている現実に理解が追いつかない。
五年前、慕っていた上条が姿を消して今ほどではないが美琴はかなり精神的に危うい状況にあった。
それでも何とか現実を受け入れ、もし何かあった時に大切な人を守れる力を手に入れるため必死に努力を続けてきた。
その結果がレベル5の第三位、発電能力者の頂点『超電磁砲』としての力だ。
尤もその力を持ってしても抗いきれない現実に直面していたが……。
「アンタ、一体今まで何してたのよ!?」
そしてまるでタイミングを見計らったかのように現れた上条に不信感を抱くのも仕方なかった。
困った時だけ神頼みしても奇跡が起きる訳じゃない。
泣き叫んでいたら、それを聞いて駆け付けてくれるヒーローなんて……。
少なくても自分だけが救われる現実があってはならないと美琴は思う。
だからこれは自分に対する救いではなく、『妹達』を救うチャンスが失われなかった――そう美琴は受け止めた。
「……まあ、いいわ。 本当は再会を喜びたいところだけど、生憎そんな場合じゃないのよね。 私にはやらなくちゃいけないことがあるから」
美琴はそう言って一枚の紙と取り出し、そこに何か書き込んでいく。
そしてそれを上条に手渡した。
そこには何処かの住所と電話番号が書かれていた。
「それ、おじさんとおばさんが今暮らしてる場所の住所と電話番号。 早く電話して安心させてあげなさい」
「……サンキューな」
上条は短く礼を言うと、紙に書かれた中身を確認しポケットの中に仕舞い込む。
そして美琴はそのまま上条を一瞥することなく覚束ない足取りで歩き始めた。
本当は大好きだった幼馴染が無事だったことに喜びを感じていた。
しかし今の自分に上条との再会を喜んでいる時間などない。
もし上条があの時から変わってなかったら、きっとお人好しにも足を突っ込んでくるだろう。
だからできるだけ冷淡に、突き放すように上条と再会したことを拒絶した。
「でも流石にこの状況でお前を放っておけるほど、俺は冷淡じゃねえぞ」
「えっ?」
「見るからにボロボロで、挙句の果てには男達に襲われてて……。 お前こそ、一体何をしてるんだよ?」
「……うるさいわね。 アンタに私がどう映ってるか知らないけど、今と昔じゃ違うのよ。 いつもアンタに守られてた私じゃない、今の私は学園都市レベル5の第三位なんだから」
「そっか、レベル5になったのか。 昔からお前は努力家だったからな。 でもレベル5とか学園都市第三位とか、そんなの関係ねえよ。 今も昔もお前は俺の大切な幼馴染なんだから」
「……だったら、だったら何でアンタはあの時いてくれなかったのよ!!」
酷い八つ当たりだということは美琴自身も分かっていた。
上条は少女が何の抵抗もできずに電車に押し潰される時、助けてくれなかった。
勿論上条があの場にいても学園都市最強の第一位に抵抗できたとは思えない。
それでも美琴にとって上条は昔から憧れでヒーローのような存在だった。
上条がこのタイミングで現れたことが、却って美琴の幻想を殺す結果となっていた。
「そっか、何か重たいものを背負っちまったんだな」
「……」
「確かに俺はお前が一番辛い時に傍にいてやれなかった役立たずかもしれない。 そんな俺が今更幼馴染面して偉そうなことを言っても、お前の慰めにはならないだろう」
「……」
「でもだからこそ、今のお前を放っておくことはできねえよ。 これは俺の我儘だ。 お前がいくら拒絶しても、俺はお前にそんな顔をさせている奴を許さない」
「どうして、どうしてアンタはそこまで?」
「……お前は俺の過去を知ってるだろ?」
上条の過去……それはまだ幼かった美琴から見ても壮絶なものだった。
周りから疫病神と罵られ、石をぶつけられ、挙句の果てに包丁で刺される始末。
上条を襲う理不尽な不幸、それが上条の父が大事な一人息子である上条を学園都市に送った理由だ。
科学の総本山である学園都市、オカルトが否定されるこの街なら上条も普通に暮らせるかもしれない。
しかし上条の父の願いも五年前に上条が姿を消したことにより、脆く崩れ去ってしまったが……。
上条が行方不明になった時の上条の両親の様子は見ていて心を抉られるものだった。
「お前は何の気なしに俺の傍にいてくれたかもしれない。 でも俺にとって何の見返りもなしに傍にいてくれるお前の存在はとても大切なものだった。 この五年間、傍にいてやることはできなかったけど、お前のことを忘れたことはなかった」
「私はお兄ちゃんのこと……」
「いいんだ、五年も行方不明になってたんだから。 ……あれっ、アイツの話だと異世界に跳ばされても元の世界での時間は変わらない筈じゃ?」
突然自分の世界に入ってしまった上条に美琴は訝しげな視線を向ける。
その視線に気付いたのか、上条は軽く咳払いして言葉を続けた。
「とにかく俺にとってお前は大切な存在なんだ。 だからお前が俺のことをどう思おうと、俺は勝手に首を突っ込ませてもらう」
上条はそう言って美琴に笑顔を向ける。
いくら五年の時を経ても、その笑顔は変わらなかった。
確かに上条は不幸だった。
上条が抱えていた葛藤など、まだ幼かった自分が本当に理解できていたとは思えない。
それでも分かっていたことが一つだけある。
それは例え自分自身がどんなに不幸でも、上条が人の幸せを願うことができる優しい少年だということだった。
「私は……」
自分の不用意な行動によって起きた悪夢のような実験に対する罪の意識、それが美琴の心を深く蝕んでいた。
友人や大事なパートナーである後輩にさえ決して話すことができない孤独な戦い。
それは勿論上条に話すことだって許されない。
話したら上条を巻き込むことは明白だった。
止めろ、と美琴の理性が告げる。
しかしそれと同時に美琴の中の弱い心が救いを求めていた。
「話すだけ話してみろよ。 お前が俺を巻き込みたくないって思ってるのは分かってる。 でもたった一つのアクションが未来を良い方向に変える可能性だってあるんだぞ」
しかし裏を返せばそれは悪い方向にだって転がる可能性があるということだ。
最悪、上条が巻き込まれたことによって命を落とすかもしれない。
思いがけない再会だったが、大事な幼馴染を自分のせいで再び失う訳にはいかなかった。
「ごめんなさい、それでも私は……」
「……強情だな。 まあ何にしろ今のお前を放っておく気はないんだけどな」
上条はそう言うと凄まじいスピードで美琴の背後へと回る。
そしてその背中に左手を添えた。
すると次の瞬間、今まで感じたことがない妙な感覚が美琴の全身を襲う。
「えっ、何これ? あうっ!!」
それは恐らく快感と呼ばれる類の感覚なのだろう。
しかし今まで感じたことがない感覚に美琴は恐怖すら覚える。
何とかして上条の下から逃げ出そうとするが、その前に腰が砕けてしまった。
地面に腰をついた美琴の表情は恍惚としていて、頬は赤く染まっている。
「んんっ、ああっ!! ……お願い、やめて」
「……やっぱりこうなっちまうか、ごめんな。 でも体が楽になってきただろ?」
「えっ?」
甘美な感覚に隠れがちだが、確かに疲労感が少しずつ解消されていっている。
先ほどまでは歩くことすら辛い状態だったのに、今は全身から活力が湧き出るようだ。
やがて上条が手を離した時にはすっかり元の体調……いやそれ以上に体が軽くなっていた。
「な、何をしたの?」
「お前の中で澱んでいた氣の流れを正常に戻したんだ」
「氣?」
「体に流れるエネルギーみたいなもんさ。 体力が戻る訳じゃないけど、こうすることで疲労回復もずっと早くなる。 ……ただ変な感覚が伴うのが欠点だけど」
そう言った上条は少し顔を赤らめて視線を横に逸らした。
確かにスキルアウト相手に全く抵抗ができなかった状態は危険なものに違いなかったが、美琴は釈然としないものを感じる。
そしてそれ以上に憎からず思っていた相手、しかも異性の前で喘ぎ声を上げる痴態を晒してしまったことに顔から火が出る思いだった。
ハッキリ言ってかなり恥ずかしい。
「それなら最初から一言説明しておけば良かったでしょ!!」
「お前が聞く耳持たずに一人で突っ走ろうとしたからじゃねえか?」
「そ、それはそうだけど……」
気付くとすっかり上条のペースになっている。
そして体調の回復と共に、孤独に苛まされていた心にも少し余裕ができていた。
(……敵わないな)
昔からそうだった。
自分のピンチに何処からともなく颯爽と現れ、まるでヒーローのように救い出してくれる。
そして今もこうやって上条は自分に救いの手を差し伸べてくれていた。
「……お前が俺を巻き込みたくないのは分かるが、心配する方の身にもなってくれ。 俺はお前に辛そうな顔はして欲しくないんだよ」
いくらレベル5第三位の力を持つと言っても、美琴はまだ一四歳の女子中学生に過ぎない。
差し伸べられた救いの手を完全に振り払えるほど強くはなかった。
ずるいことは分かっている。
それでも『妹達』を救い出すために、美琴はかつての自分のヒーローに救いを求めるのだった。
・
・
・
「絶対能力進化……」
美琴から今起きている事件の真相を聞いた上条は呟くように言った。
再会した幼馴染の鬼気迫る表情から只事でないことは分かっていたが、ここまで酷いものだとは思っていなかった。
アレイザードで上条は少なからず命のやり取りというものを経験している。
決してそれは褒められたことではないが、それでも互いに譲れない信念を持って戦った。
しかし今行われているのは圧倒的な力で弱者を蹂躙する虐殺だ。
そして上条の脳裏には一人の英雄が思い浮かんでいた。
悲しみから壊れてしまった勇者。
そして彼を止めるために汚名を被ることを選択した親友。
彼らがこの状況を知ったら何と言うだろうか?
「私が不用意にDNAマップを提供したせいで……」
上条にも当時の記憶があった。
自分の力が病気を治す役に立つ、そう無邪気に喜んでいた幼い幼馴染の姿が鮮明に蘇った。
無垢な子供の小さな善意すら利用した悪夢のような実験。
それを見過ごす訳にはいかなかった。
しかしそこで上条はある矛盾点に思い至る。
(でも美琴がDNAマップを提供したのってレベル5になる前だよな)
『絶対能力者進化』の実験における前身とも言える『量産型能力者計画』、それはレベル5の力を量産するために発案された筈だ。
ならばレベル5になる前の美琴のDNAマップが採取されたことに矛盾が生じる。
それに単純な戦闘経験の積み重ねでレベル6へと進化するなら、『超電磁砲』より強力な『一方通行』のクローンを利用した方が効率的な気もした。
「……」
しかしそこで上条は考えるのを止めた。
現実に今、美琴のクローンである『妹達』が『絶対能力進化』に利用されている。
今はとやかく考えるより実験を止めるために動くのが先決だった。
「私……」
そして美琴はずっと溜めこんできたものを人に告白したせいか、より一層罪の意識に苛まされていた。
打ちひしがれる幼馴染を前に上条は何と声を掛ければいいか迷う。
客観的に見ても美琴に非があるとは思えない。
確かに配慮が足りなったと言えばそうかもしれないが、まだ幼かった少女の完全な善意から出た行動を責めることはできないと思う。
唯一美琴を責めることができるのは恐らく『妹達』だけだろう。
だが不用意に美琴を庇うことは却って美琴を傷つける結果になる気がした。
何故なら誰も責めなくとも、美琴が自分の犯した罪を背負っていくのは明白だったから……。
「俺の口からは何も言えない。 この件に関してお前のことを糾弾するのも許すのも、権利があるのは『妹達』だけだからだ。 だからこそ俺達は一刻も早く実験を止めて、『妹達』を救い出さなくちゃならない」
「うん……」
「でも一つだけ言わせてくれ。 例え世界中の人間がお前のことを責めようと、俺はお前の味方だから」
「……ありがとう」
そして上条と美琴は実験を止めるために動き始めるのだった。
間を置いた割に短くてすみません。
ここで皆さんにお尋ねしたいことがあります。
このまま直接一方通行戦に向かうか、それともその前に研究所でのアイテム戦を挟むか……。
どっちでも話の大まかな流れは変わりません。
ただアイテム戦を挟むと上条のフラグが増築されるかも……。
ご意見を聞かせていただけると幸いです。
アイテム戦欲しいかな……
魔術サイドが絡んで無いから余計にかもしれないけどどっちかっていうと超電磁砲の世界観みたいだし。
あ、あと今回も面白かったですよ
乙です
上条さんには基本的にみこっちゃん一筋でいて貰いたいけど、上条さんが無双するアイテム戦もみたいジレンマ。
とりあえずアイテム戦ルートでお願いします。
浜面さん。先に謝っておく、ごめん
浜面はこの上条相手なら確実に舎弟になるまで見える
ちょっとはぐれ勇者のアニメ公式と見てきたけど異世界のことはあんまり触れないのか?
帰ってきてから本編?
アイテム戦希望の方が多いようなのでそっちのルートでいきます。
>>40さん
せめて嫁だけは……。
基本的に作者はヒロインを他の人間が取るというのは好きではありません。
ただ浜面ならと思ってしまう自分がいるのも事実、浜面の明日はどっちだ?
>>41さん
実ははぐれ勇者の方の原作で主人公が独立国家を築いています。
そして今まで上条勢力というのに焦点を当てたssをあまり作者は見たことがない。
そこら辺を意識して書いていけたらと思っています。
>>42さん
はぐれ勇者は基本的に元の世界が舞台になっています。
ただし途中で一回異世界に戻りますが……。
この作品も基本的に禁書の世界が舞台だと思っていただけると幸いです。
はぐれ勇者の声優って誰辺りが被ってるの?
日野はいるのかな……。意外にも優男系をやっているイメージで浜面をやってるんだぜ……(なのにひどい扱い)
追記
すみません、レス返しを一部忘れてました。
>>37>>38さん
いつも読んでいただいてありがとうございます。
これからもご期待に添えるよう頑張っていきたいと思います。
魔術側の話もそのうち出てきますので、その時も楽しんで読んでいただけると幸いです。
>>39さん
実は作者は重度の上琴病であります。
しかしそれ以上に上条さんには皆のヒーローでいて欲しいと思っている。
どうしても作品中では美琴が優遇されることが多いと思いますが、
それぞれのキャラクターのファンが不快にならないよう気をつけていきたいと思います。
>>44さん
はぐれ勇者には3ヒーローの声優が三人とも出ています。
一方通行=凰沢暁月(原作主人公)
上条当麻=海堂元春(主人公の友人)
浜面仕上=上崎遼平(生徒会書記・脇役)
三人のイメージが割と合っててwwwwww
>>43
ssで上条勢力に焦点があんま当たんないのは
原作でアステカの人の誇大妄想の域を出ないくらい実体が無いからだと思う
あれ以降話に出てこないしな
あと人数・組織も多いからごちゃごちゃになっちゃう可能性も大きいし。
まあはぐれのほうは知らないけど、がんばってくれ期待してるぜ。
超電磁砲や映画、ゲームも合わせると
ほんとに多いな禁書声優w
地の文しっかりしてるし面白いし美琴エロいw
アイテム戦楽しみにしてます
>>47さん
浜面さんを脇役なんて言わないであげてw
>>48さん
確かにそうですね。
その唯一のアステカ勢も壊滅した有様ですし……。
ただ学園都市とイギリス清教という一大勢力を率いる二人と上条さんが同じものを秘めているというのが
何かの伏線のような気がしなくもありません。
ご期待に添えるよう頑張りたいと思います。
>>49さん
かなり二つの作品は声優が被ってますよね。
拙い文章ですが褒めていただき光栄です。
これからも精進していきますので、よろしくお願いします!!
投下は明日の夜を目指して頑張りたいと思います。
今度こそは有言実行してみせる!!
「バクマン!」みたいに主人公三人揃っていてうれしいな!
……できれば浜面にも救いの手を出してあげて…他のスレはひどいからさ……
かなり面白い!!早くも良作の予感!!
ていとくんは宮野さんか浪川さんだな個人的に!
あとフィアンマの声が常に中尾さん(フリーザ様)の声で脳内再生されるwwwwwwwwwwwwwwww
>>51さん
そうですね、浜面が幸せになれるよう自分も祈っています(他人事)
でも作者は別に浜面が嫌いじゃないので、酷い扱いはしないと思います。
>>55さん
ありがとうございます、こんな言葉を掛けていただけるなんて幸いです。
ご期待に添えるよう頑張っていきたいと思います。
そしていつの間にか軽い声優議論になってる。
正直声優にあまり詳しくない作者ですが、どうせなのでこの機に少し勉強したいと思います。
ここで謝罪を一つ。
別に作者に文才があるとは思っていませんでしたが、こと戦闘描写において限りなく酷いことが分かりました。
自分で読んでいても場面が全く脳裏に浮かばず、皆さんも読んでいて?が浮かぶことが数多くあると思います。
少しずつ精進していくつもりですが、しばらくは戦闘描写は見るに堪えないものになると思うのでご了承ください。
では投下します。
第3話 暗部との出会い
「それでこれからどうするんだ?」
上条は先に進む美琴の後を追いながら尋ねた。
実験を潰す協力を申し出たものの、上条は実験の概要を知っているだけで詳細については何も知らない。
一先ず美琴の指針に従うしかないのだ。
「今まで片っ端から実験に関わってる研究所を潰してきたわ。 そして残る研究施設は二基。 その内の一基をこれから潰しに行くつもり」
「……お前、今まで一人でそんな危ないことしてたのか?」
長らく学園都市にいなかった上条もレベル6を生み出すというのが、どれだけ学園都市にとって重要な研究目的かは理解していた。
SYSTEM――神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの。
それが学園都市の超能力開発における究極の目的だ。
それをレベル6と同一視する科学者も多い。
つまり『絶対能力進化』を潰そうとする美琴の存在は学園都市にとって邪魔なものに他ならなかった。
「こんなこと誰にも話せる訳ないじゃない。 私が原因で起こったことだもの、私自身でケリを付けなきゃ。 ……ごめんなさい、アンタを巻き込んでるのに偉そうなことは言えないわよね」
「何度も言ってるだろ、俺は自分の意思で首を突っ込んでるって……。 ただきっとお前を心配してる奴もいるだろうから、全て片が付いたらちゃんと元気な姿を見せてやるんだぞ」
「……うん」
美琴の脳裏には大切な友人とパートナーの後輩が思い浮かんだ。
彼女達が事情を知ればきっと力になってくれたに違いない。
だからこそ彼女達を危険に巻き込まないよう美琴は孤独な戦いを選択した。
しかしそれにも拘らず、同じように大切な存在である筈の上条を巻き込んでしまったことに美琴は後ろめたさを感じていた。
「……まあ実際は『一方通行』を叩き潰すのが一番手っ取り早いんだがな」
上条は最初に美琴に対してそう提案した。
必要とあれば実験の元凶である『一方通行』を亡き者にすることも厭わない。
しかし現状ではそれが不可能だった。
美琴は実験を潰すために最初に研究所へサイバーテロを仕掛けた。
それで研究所の七割を潰すことに成功したが、それと同時に残りの研究所は外部からの通信が完全にシャットアウトされている。
『一方通行』に対して絶対に勝てないと悟っていた美琴は実験のスケジュールを確認することまでしていなかった。
それが逃げだということは美琴自身も分かっていた。
しかし今も行われている実験を直視しながら戦い続けることは美琴にできなかった。
「ごめんなさい、私がしっかり実験のスケジュールを把握してれば……」
「悪い、お前を責めるつもりはなかったんだ。 取り敢えず今は研究所を潰すのと同時に実験の中身を完全に把握しとかなくちゃな」
そして上条と美琴は残り二つの研究所の一つ、病理解析研究所へと辿り着く。
何処か不気味な雰囲気すら漂わせる研究所に二人は足を踏み入れるのだった。
・
・
・
「電子機器によるセキュリティは全部解除したわ」
美琴は研究所に備えられたパネルから研究所にハッキングし、研究所の制御を殆ど掌握する。
そのまま『絶対能力進化』の情報も得られるに越したことはなかったが、実験のデータは独立して保存されているらしく見つけることは叶わなかった。
それでもレベル5の発電能力者としての力は凄まじく、上条は美琴の力に舌を巻いていた。
「凄いな、昔は少し火花を散らせることができるだけだったのに……」
「……こんな形で自分の力を活かせるのも皮肉だけどね」
「……確かにお前が提供したDNAマップはこんな形で悪用されることになったけど、それを抜きにしてもお前の力は人のために役立たせることができるんじゃないか? 今の状況で先のことを考えろっていうのは無理かもしれないけど、そんなに自虐的になるなよ」
「分かってる、何にしろ全てを終わらせてからってことよね」
(そういう意味じゃないんだけどな……)
まだ十四歳でしかないにも拘らず、とても一人では背負いきれないほど重いものを背負ってしまった幼馴染。
それこそ上辺だけしか美琴の苦悩を理解することはできないだろう。
だが例え全て理解することができなくとも支えてあげることはできる。
自分にとってかけがえのない存在の美琴の力になりたいと上条は心から願うのだった。
「……ストップ」
研究所を進む上条と美琴だったが、先行する美琴を上条が呼び止めた。
それに対して美琴は訝しげな表情を浮かべる。
「どうしたの?」
「……何か嫌な予感がする」
今まで研究所を襲撃した際、美琴は警報を誤作動させて所員と警備員を遠ざけていた。
学園都市きっての一大プロジェクトである『絶対能力進化』。
確かにその中身は公表できないほど残虐なものである。
だからこそ上条は今までその方法で上手くいっていたことに違和感を感じていた。
そんな重要な、しかも公にできない実験を司る研究所の警備を学園都市の『表』の治安維持組織である警備員だけが担当することがあるだろうか?
もちろん表向きは普通の研究所になっているから、警備員達が実験の中身を知らずに働いている可能性もある。
考えたくはないが、警備員と実験の研究者達が繋がっている可能性も……。
しかしそれでも警報の誤作動だけで持ち場を離れてしまう人間に完全に任せられるほど『絶対能力進化』の実験は軽いものではない気がする。
「でも実際に今まではその方法で……」
「確かにそうなんだけどな」
そして上条が足を止めた理由は他にもあった。
それは戦いの日々を通して培った勘のようなものだ。
アレイザードにいた頃も敵のアジトに侵入したことは一回や二回どころでない。
その時に感じた独特の空気なようなものを上条は感じ取っていた。
まるで獣が獲物を待ち構えているかのような危険な匂いを……。
「まあ何にしろ警戒は怠らないって方向で」
上条の言葉に美琴も頷く。
そして上条と美琴は研究所の奥へと進んでいった。
・
・
・
「……本当に今までみたいに甘くはいかないみたいね」
そう言った美琴と上条の周辺には鉄骨など無数の瓦礫が散乱している。
研究所の天井が崩落したのだ。
しかし上条と美琴は傷一つ負っていなかった。
「偉そうなこと言って、お前の能力頼みなのは情けないけどな」
「ううん、アンタが予め警告してくれていたお陰よ」
美琴は発電能力者の特性として常に電磁波をその身から発している。
それを使ったレーダーのようなもので常に周りの状況を把握することができた。
今も電磁波のレーダーでいち早く天井の崩落に気付き、磁力を使って落下物の軌道をずらしたのだった。
「まあドンピシャで落ちてきたってことは、近くで俺達を見張ってる可能性が高いかもな」
そして上条の予想は当たっていた。
天井の崩落から息つく間もなく敵の攻撃が襲ってくる。
研究所に張り巡らされた白いテープのようなものを伝って、閃光が奔った。
上条と美琴は足元を奔った閃光から思わず飛び退く。
閃光が奔った先にあったのは一つのぬいぐるみだった。
そして閃光がぬいぐるみに到達した瞬間……。
「くっ!?」
轟音と共に爆発が起こった。
研究所を潰すことはないが近くにいる人間程度なら簡単に吹き飛ばせる爆発。
初手は何とか躱せたものの、良く見ると研究所の通路には無数のぬいぐるみが設置されている。
そしてそこら中に施された白いテープ、導火線を一斉に閃光が奔った。
しかし閃光がぬいぐるみに到達するその前に上条が行動に出た。
「悪い」
「えっ、いきなり何を!?」
上条は一言謝り美琴を左肩に乗せるように担ぎあげると、そのまま思い切り地面を蹴る。
爆発から逃れるように後退するのではなく、敢えて導火線の先を辿るような前進。
普通なら爆発に巻き込まれて終わりだが、氣を練って極限まで身体能力を高めた上条にその常識は通用しない。
爆発に巻き込まれるよりも早く、上条は研究所の通路を駆け抜けていく。
・
・
・
「一体何がどうなってる訳?」
そしてその状況に戸惑いを隠せないのが研究所に対する襲撃者を撃退すべく派遣されたフレンダ=セイヴェルンだった。
学園都市の暗部組織『アイテム』に所属するフレンダが知らされていた襲撃者・インベーダーの情報は発電能力者ということだけだった。
確かに先ほど天井の崩落を回避したのを見れば発電能力者がいるのは間違いない。
しかしインベーダーが複数いるという話は聞いてなかった。
あの馬鹿げたスピードを見れば恐らく身体強化系の能力者だろう。
発電能力者に対しての対策は完全と言っても過言でないほど練ってきた。
しかしそれが却って裏目に出てしまっていた。
フレンダは能力よりもトラップと爆弾の取扱いを得意とする。
そしてトラップの扱いに秀でたフレンダは発電能力者に制御を奪われることを警戒して普段使用するリモコン式の爆破装置は用意していなかった。
そのために用意したのがドアや壁を焼き切るツールの白いテープを利用した導火線だ。
しかし導火線を使用する以上、爆弾そしてターゲットからあまり距離を取ることができない。
確実に導火線を辿って迫って来るインベーダーと遭遇するのは時間の問題だった。
「いた、アイツだ!!」
そしてそのタイミングは思ったよりも早く訪れた。
研究所の壁伝いに設置された階段から声のした方を見ると二人のインベーダーの姿が見える。
二人とも深く帽子を被っており表情を窺い知ることはできないが、体格からして男と女に間違いないだろう。
やはり爆発のタイミングより早く確実に自分へと迫ってくる。
「結局こうなったら直接迎撃するしかないって訳よ」
ハッキリ言って高位の発電能力者、それに加えて身体強化系の能力者が相手では分がいいとは言えない。
しかしフレンダはトラップを仕掛ける達人だ。
それは即ち相手の思考の裏を掻くことに長けていることを示している。
何処か残虐な笑みを浮かべたフレンダは自らの力を最大限に活かせる場所へ向かって走り始める。
まるで相手が追いつめていると錯覚するように慌てた様子を呈しながら……。
しかしフレンダは知らなかった。
新しく加わったインベーダーは裏の世界に身を置く自分よりも遥かに多くの修羅場を潜ってきていることを……。
・
・
・
上条と美琴が迎撃者を追い詰めた先はだだっ広い空間だった。
薄暗いため相手の姿をハッキリと目視することはできない。
ただ雰囲気から抵抗を諦めた訳ではないようだ。
「アンタを雇ったのは誰かしら?」
美琴は冷徹に迎撃者に尋ねる。
『絶対能力進化』という最悪の実験を行っている人間に義理立てする必要はない。
美琴はできるだけ穏便に事を済ませようと対話を試みるが……。
「あー、いいからそーいうのぉ。 雇い主の目的とか、消す相手が善人とか悪人とか、そいつが歩んできた人生とか……結局んなもんはどうでもいい訳よ」
迎撃者の言葉は美琴と同様に冷淡なものだった。
しかし同じ冷たさでも全く異質なものだ。
片や美琴が激情を押し殺して冷静に努めているの対し、迎撃者は自らの感情を隠そうとしない。
それ故に迎撃者の言葉は上条と美琴に薄ら寒いものを感じさせた。
「……」
美琴が何処か表情を歪ませる中、上条もまた冷静に相手のことを観察していた。
恐らく迎撃者は裏の世界に属する人間だろう。
その中でも相手を殺すことに何の躊躇いも感じない人格破綻者ともいえる存在。
真性のものか情緒がしっかり育っていないためかは分からないが、この手の相手に情けを掛けると碌なことにならないのを上条は知っていた。
基本的に上条は戦いにおいて先手必勝を心がけている。
戦争など大規模な戦いなら話は別だが、単独の戦いにおいて後手に回ればその分不利になることは明白だ。
それに口ぶりからすると迎撃者は直接実験に関わっている人間でないようだ。
実験への関わりを示唆しておけば情報源として手心を加えられる可能性があるにも拘らずそうしないのは、相手がまだ裏の人間として未熟なことを示している。
別に現状で少女を雇った人間の情報を得る必要もない。
美琴がそのことに気付いているかは分からないが、こういった依頼は基本的に何重もの仲介を経てることが殆どだからだ。
それに最初から無条件で口を割る裏の人間がいる筈がない。
上条は錬環勁気功で練った氣を左手に集中させる。
そして無造作に左手を迎撃者にかざすと左手から光球が放たれた。
「えっ?」
突然の出来事に迎撃者だけでなく美琴も驚いた声を上げる。
上条から放たれた氣弾は轟音と共に迎撃者を吹き飛ばした。
大きく吹き飛んだ迎撃者のからだは壁に激突し、そのまま床へと転がる。
「ちょっと、アンタ何して!?」
それは美琴から見れば理不尽な暴力に過ぎなかった。
いくら自分達の命を狙ってきたからといって、何の躊躇いもせずに攻撃した上条に美琴は少し恐怖心に似た何かを感じる。
そして一方の上条は自分を非難する目つきで睨んでくる美琴を見て、却って一安心していた。
これだけの闇に囚われて、美琴はまだ人としての優しさを失っていない。
それは上条から見れば甘さに過ぎなかったが、ならばその分自分が業を背負えばいい。
既にこの実験を止めるために最悪の場合、一つの命を散らさなければならないことは決定しているのだから……。
「……」
上条はそのまま美琴に一瞥することなく倒れている迎撃者の下へ向かう。
完全に気を失っているものの命に別状はなさそうだ。
もちろん上条だって情けを掛けるつもりはないが、無闇に命を奪うつもりはなかった。
「……行くぞ」
美琴はまだ納得していない様子だったが、いつまでも突っ立っていても仕方ない。
上条に続いて部屋の出口へと向かうが……。
「危ねえっ!!」
まるで何かの予兆を感じ取ったかのように、上条は振り向き様に美琴のことを突き跳ばした。
そして美琴がちょうど立っていた位置に一筋の光線が迸る。
光線が当たった壁は吹き飛んだ……いや消し飛ばされたかのように大きな穴が穿っていた。
そして光線が飛んできた方向の壁にも大きな穴が穿っており、そこから二人の少女が出てくる。
「ったく、フレンダの奴ったら情けないったらありゃしないわね。 まあインベーダーが複数いるって話は聞いてなかったし、そこら辺は大目に見てやることにするか」
フレンダというのは撃退した少女の名前だろう。
しかし恐らく仲間であるにも拘らず、茶髪で長髪の少女からは心配するような素振りは感じられない。
「フレンダ!!」
そしてもう一人のジャージを穿いた少女は倒れている少女に駆け寄ろうとするが、それを茶髪の少女が制止した。
「待ちなさい、滝壺。 失敗した人間の回収は後回しよ。 今は目の前の標的に集中しなさい」
「でも……」
しかし茶髪の少女が睨みを利かせるとジャージの少女はそれ以上反論できなかった。
会話や人間関係を観察すると茶髪の少女が少なくてもこの中で一番上の立場にあることは間違いないだろう。
そして茶髪の少女が一番裏の人間として仕事に徹しているとも言える。
どこの世界でも基本的に裏の人間は使い捨てだ。
組織にもよるが下手をすれば一回失敗しただけで処分の対象にさえなり得る。
「まあ吹き飛ばした俺が言うのもなんだが、この子の命に別状はない」
「え?」
ジャージの少女が驚いた表情で上条の顔を見つめる。
そして上条はこちらを睨みつけている茶髪の少女に向き直った。
別に上条も敵対する人間を問答無用で片っ端からぶっ飛ばすほど配慮がない訳ではない。
先ほど少女を吹き飛ばしたのは交渉の余地を感じなかったからだ。
しかし茶髪の少女は恐らく迎撃者の中でも上の立場にある。
交渉してみる価値はあると上条は考えていた。
「お前達が俺達の潰そうとしている実験に直接関わっていないことは察しがついてる。 だったらここは大人しく退いてくれないか?」
「それで私達が退くメリットは何があるのかしら?」
「これはお前達の置かれた状況にもよるんだが、お前達がこの仕事を失敗した時のリスクは何かあるのか?」
「……まあ今回は依頼内容も曖昧な部分が多いし、破棄した場合も報酬が入らない以外は特にデメリットはないかしら?」
「だったら無駄にお互い消耗する必要はないんじゃないか? そっちの仲間の一人は既に戦えない状態だし、そっちのジャージの子は戦闘要員じゃないだろ?」
上条は一目見てジャージの少女が特に戦闘技術を身に付けていないことを見抜いていた。
寧ろジャージの少女の動きは何処か弱々しい印象すら与える。
尤もそれが逆にジャージの少女が暗部で必要とされる特別な力を持っていることを示していたが……。
「確かにフレンダは戦闘不能、滝壺は直接の戦闘要員じゃない。 状況的に見れば一対二でこっちの方が不利かもしれないわね。 でも……」
そう言った茶髪の少女の表情がみるみる変わっていく。
少女が纏っている雰囲気すら背筋を凍らせるような冷たいものへと変貌していた。
少女は大きく顔を歪ませ叫ぶようにして言い放った。
「あんまり上からモノを言ってるんじゃねえぞ。 私を舐めるのも大概にしろ!! 別に雑魚が何匹いようと学園都市第四位『原子崩し』に敵う訳ねえだろうが!!」
「清楚で話が分かるお姉様タイプだと思ったんだがな……交渉は決裂か」
そして上条は思考を巡らせる。
素性の知れない自分はともかく美琴も含めて雑魚と言っているということは、まだ美琴の素性が相手に伝わっていないことを示している。
それなら下手に美琴と共闘して美琴の正体を晒すのは得策ではなかった。
「……お前は先に行け」
「でも学園都市レベル5相手に一人じゃ!!」
「俺達の目的を忘れるなよ。 俺達が一番優先しなきゃいけないのは実験を止めるために動くことだ。 ここで下手に足止めを食らって増援を呼ばれる方が後々面倒なことになる。 俺は電子機器の扱いに疎いから必要な情報を得られないかもしれないからな」
「でも!!」
「別に命懸けで戦う訳じゃない、あくまでも時間稼ぎだ。 それに第一位を倒さなくちゃいけないのに第四位で躓いてる暇はないだろ」
「……」
「お前が俺の心配をしてくれるのは嬉しいけど、お前にとって本当に大事なもんはなんだ? お前が本当に守りたいものを見失うなよ」
「……分かった」
美琴は表情を苦痛に歪ませながらも上条の言葉に頷く。
それを見て上条も笑顔で頷き返した。
「でも別にアンタとあの子達のどちらかが大事って訳じゃない。 私はアンタが絶対に無事に帰ってくるって信じてるから!!」
そして美琴は部屋の出口に向けて走り出した。
しかしその背中を狙うように茶髪の少女が光線を放つ。
「やらせる訳ねえだろ!!」
上条は美琴と茶髪の少女の間に割って入って光線に向かって右手をかざした。
そして光線が上条の右手に当たった瞬間、光線は一瞬にして消え去ってしまう。
「テメェ、何者だ?」
「……はぐれ勇者かな?」
そして異世界から帰還した勇者と学園都市第四位の戦いが火蓋を切るのだった。
以上になります。
中途半端はところですみません。
……別に作者はフレンダが嫌いな訳じゃないですよ。
ただこの段階でのフレンダはかなり性格が歪んでいるように思います。
これからフレンダが登場するか分かりませんが、もし出てきた時はフレンダの活躍に期待してください。
乙!!
アイテム自体何かしらの問題児集団みたいなものだから仕方が無いような気もする。
ただフレンダなんかは命乞いのために味方の情報投げたり、滝壺が弱ってるところにすごく心配してたりするしある程度は人間性残ってそうかなぁって
更生前のむぎのんは女王様なので……
乙です。
フレンダの再登場を期待してます!!
上条さん対麦野んタイマンきたぁ!
この時のフレンダは原作でも完全にゲスキャラだったし、違和感ないと思う
でもアニメのフレンダ超可愛かったな…ゲスかわいいw
暗部が殺しを躊躇ってたら話にならんからな
これもしかして一方さんの死亡フラグ立ってる?
>>64さん
そうですね、保身に走ったり友人を心配する部分は凄く人間味を感じますよね。
だけどその分、殺人に快楽を覚えてしまう部分に恐怖を感じます。
麦野は人から見られる姿を気にするなど割と可愛い面も……。
>>65さん
フレンダの再登場……。
大まかな話の流れは構想していますが、流石に詳しい場面展開までは考えていません。
でもきっとフレンダが活躍する場面も出てくると思います。
>>66さん
あんまり、期待しないで~!!
今回投下する前にも書きましたが、作者は戦闘場面を書くのが恐らく滅茶苦茶下手です。
でも頑張りたいと思うのでよろしくお願いします。
>>67さん
確かに命のやり取りが日常茶飯事の暗部の仕事で殺しを躊躇ってたら話になりませんね。
でも殺人に快楽を覚えているとなると話が変わる気がします。
自分の作品ではフレンダが例の発言をする前に退場してしまったからアレですが……。
その辺を上手く書けなかったのは作者の力量不足ですね。
>>68さん
その辺はネタバレになるのでノーコメントで……。
ただ原作二人の主人公が実験の最後にどんな決断を下すか楽しみにしててください。
殺人を楽しむのは罪悪感からの逃避とういう可能性も………ないか
フレ/ンダ
がなんだって?
>>70
それはたぶん一方さんだろう
原作は快楽殺人者でもあったし……
ageないで
まだかなまだかな
>>70さん
フレンダについての情報は限りなく少ないですからね。
もしかしたらこのssにおいてフレンダの過去を妄想で掘り下げるかもしれません。
>>71さん
……フレ/ンダ。
結局私も活躍の場が欲しいって訳よ!!
>>72さん
自分が殺せるのはぶち殺せるのは……へたれなので何もありません。
ただ自分はソフトMなのでゲスかわいい女の子は好きかもしれません。
>>73さん
一方通行の実験中の気持は原作でも明言されていませんからね。
ただ個人的に一方通行は力のあるなしに関係なく一般人より遥かに精神が幼かったんだと思います。
アメリカ等で偶に起こる子供の銃乱射事件を彷彿させますね。
>>75さん
丁寧にありがとうございます。
そして>>75>>76さん
お待たせしました、続きを投下したいと思います。
しかし最初に謝っておきます。
……やはり戦闘描写が酷いです。
というより戦闘描写にすらなっていないかもしれません。
相変わらずグダグダな文章ですがよろしくお願いします。
第4話 超能力者との戦い
『本当にやるの?』
『ああ、俺の力が本物かどうか確かめなきゃならないし』
上条と美琴は研究所に襲撃を掛ける前、ある検証をしていた。
『幻想殺し』……異能の力なら例え異世界の魔法でさえ打ち消す上条の右手に宿る力。
それを利用して上条は異世界での激闘を生き抜いてきた。
そして『幻想殺し』は科学の産物である超能力ですら完全に掻き消す。
しかし上条が『幻想殺し』を使って超能力を打ち消したのは五年前、それも当時はまだレベル2の美琴の力だけだった。
恐らく『幻想殺し』が能力の強弱に関係なく異能を打ち消すことは間違いない。
だが確証のない力を実戦で使うほど危険なことはなかった。
『でも流石にいきなり最大出力は怖いから、最初は弱めで頼むな』
『……分かった』
そして徐々に美琴が能力の出力を上げていった結果、『幻想殺し』は美琴の放つ十億ボルトの電撃の槍、電磁力と砂鉄を利用したチェーンソーのような切れ味を誇る砂鉄の剣、そして美琴の二つ名の由来になっている必殺技の『超電磁砲』すらも完全に打ち消すことが判明した。
レベル5第三位である美琴の超能力を完全に打ち消すことができるとなれば、他のレベル5と戦っても『幻想殺し』は通用すると見て問題ないだろう。
美琴にとって長年努力を続けて身に付けた力が通用しないのは少しプライドが傷つけられる思いだったが、それ以上に自身が絶対に敵わないと悟っていた『一方通行』への対抗手段が見つかったことへの希望が大きかった。
しかしそれでも『一方通行』は学園都市最強の力を誇る怪物だ。
もしもの時、その怪物との戦いを全て上条に頼らなければならないことに美琴は歯痒さを感じる。
だがそんな美琴に対して上条は一言だけ「任せろ」と昔から変わらぬ笑顔で微笑むのだった。
・
・
・
美琴は研究所の通路をメインルームへ向かって走っていた。
美琴がしなければならないのは『絶対能力進化』の実験のスケジュールを把握するためのハッキングと研究所の電気系統を完全に破壊することだ。
遠くからは戦闘のものと思われる轟音が響いてくる。
(私は……)
そして通路を走る美琴の胸中はある後悔の念で満たされていた。
上条が迎撃者の一人を問答無用で撃退した時、美琴はそんな上条に恐怖を覚えた。
まるで別人のような上条の冷たい表情に怯えてしまった。
しかしそれは結局美琴の覚悟の足りなさからくる甘えに過ぎなかった。
上条は本来何の関係もないに拘らず一人でレベル5の相手を引き受け、本当に大切なものを見失わないようにと笑顔で美琴のことを先に進むよう促した。
上条は決して冷徹な訳ではない、ただ本来の目的を前にして揺らぐことがないだけだった。
そんな上条の覚悟に対して非難するような目つきを向けてしまったことを美琴は悔いている。
当事者であるにも拘らず上条に比べて遥かに覚悟が足りなかった自分が恥ずかしかった。
だからもう迷わない、上条を信じて共に『妹達』を救うために全力を尽くすだけだ。
そして無事に『妹達』を救い出せたら上条と話したいことがたくさんあった、もちろん『妹達』も一緒に……。
その時を笑顔で迎えるために美琴はメインルームへと急ぐのだった。
・
・
・
(どうなってるのかしら?)
学園都市の暗部組織の一つ『アイテム』のリーダーである麦野沈利はインベーダーである少年に攻撃を放ちながらその能力の見極めに徹していた。
麦野の『原子崩し』と呼ばれる力は『粒子』又は『波形』のどちらかの性質を状況に応じて示す電子を二つの中間である『曖昧なまま』の状態に固定し、強制的に操るというものだ。
先ほどから麦野から放たれる白い光線は能力で操った電子を放出したもので、絶大なる破壊を周囲に撒き散らす。
しかしいくら強力な能力といっても相手に当たらなければ意味がない。
少年は圧倒的な身体能力で『原子崩し』を避けると共に、絶対のタイミングで放ったものでさえも理屈は分からないが掻き消してしまう。
(あの動きをみる限り身体強化系の能力者であることに間違いない。 でもそれだけじゃ私の『原子崩し』を防げる訳が……)
段々と麦野の中で焦りと苛立ちが募ってくる。
少年の表情にはまだ何処か余裕があり、その表情が自分を見下していると麦野に錯覚させた。
しかしまだ追い詰められた訳でない以上、全開で能力を使用するのはリスクが大きすぎる。
『原子崩し』は強力な能力である分、本来標準は慎重に行わなければならない。
下手にリミッターを解除して出力を上げると自爆する可能性すらあった。
(とにかく今後のためにも『アレ』を使っておくに越したことはないわね)
そして麦野の中で少年が決して雑魚ではないと評価が覆る。
完全にぶち殺すべき敵と定めた少年を確実に殺すために、麦野は『アイテム』の切り札の一つを切る。
麦野は透明なプラスチックのようなケースを取り出すと滝壺に向かって放り投げた。
「滝壺、使っておきなさい」
『アイテム』の構成員の一人、滝壺理后は麦野からケースを受け取るとその中身を自らの手の甲に乗せる。
それは白い粉末状の物質だった。
そして滝壺は徐にその粉を口に含んだ。
その瞬間、滝壺の放つ雰囲気が異質なものへと変貌する。
能力体結晶……通称『体晶』と呼ばれる物質は暴走能力者が通常とは異なるシグナル伝達回路で生成された各種神経伝達物質・ホルモンを抽出し凝縮・精製したものだ。
そして『体晶』自体が服用すると能力の暴走を起こす作用がある。
本来能力の暴走はデメリットしか生まないが、稀に暴走状態の方が良い結果を生む能力者も存在する。
滝壺もその一人で、彼女の能力は『能力追跡』。
能力者が無意識の内に発する微弱な力のフィールド『AIM拡散力場』を記録し、その『AIM拡散力場』の持ち主を例え太陽系の外に出ても追跡・捕捉できるという探索用の能力だ。
今までも滝壺の『能力解析』と麦野の『原子崩し』で数多の人間を消してきた。
『アイテム』の最強にして絶対の切り札――麦野もこの切り札を切れば葬れない敵はいないと自負していた。
しかし予想だにしなかったことが麦野と滝壺を襲う。
「……むぎの」
「どうした?」
「……あの人の『AIM拡散力場』を捕捉できない」
「はあ?」
麦野は苛立ちを隠せない様子で滝壺を睨み付けた。
しかし滝壺自身も訳が分からないといった様子で焦った表情をしている。
その表情を見れば滝壺が嘘を言っていないことは明白だった。
「捕捉できないというよりも、あの人が『AIM拡散力場』自体を発してない」
「……」
滝壺の力が絶対であることを麦野は誰よりも知っていた。
そしてその滝壺が断言するからには、少年が『AIM拡散力場』を発していないのは本当なのだろう。
しかし例え無能力者であろうと能力の開発を受けている人間は『AIM拡散力場』を発している。
中には真の意味での無能力者も存在するらしいが、少年が只の人間とは思えない。
仮にあのずば抜けた身体能力が自前のものだとしても、『原子崩し』を打ち消すのには何らかのカラクリがある筈だ。
「……まあ何にしろ潰すことに変わりないか」
しかし先ほどまでと違い麦野から苛立った表情は消えていた。
どのような力で少年が『原子崩し』を防いでいるかは分からない。
しかしこの数分の攻防で『原子崩し』を防ぐ少年の行動は見切っていた。
ならば絶対に防ぎきれない攻撃をすればいい。
絶対に相手を倒せるという自信から麦野の顔には歪んだ笑みが浮かぶのだった。
・
・
・
(……どうすっかな)
一方の上条も茶髪の少女との攻防で相手の出方を観察していた。
やはりジャージの少女は直接の戦闘員ではないらしい。
途中ジャージの少女が放つ雰囲気が異様なものへと変わったが、特にそこから戦況が変わった訳ではない。
しかし気掛かりなのは先ほどまで浮かんでいた茶髪の少女の苛立ちが消え去ったことだ。
柄にもなく慎重に動いてしまったことが裏目に出たと、上条は若干の焦りを覚える。
(とにかくこれ以上長引かせてもメリットはないし、そろそろケリを着けるか)
まるでレーザーのような光線は一度に多くても四発しか撃てないことは分かっている。
そして連射性はなく直線状にしか攻撃できないことも……。
つまり絶大な破壊力を持つ攻撃も面制圧や飽和攻撃といった応用が利かないのだ。
面制圧はともかく飽和攻撃ができないことはある意味上条と相性が良いと言えるだろう。
『幻想殺し』は右手首から先にしか作用しない。
そのため手数で圧倒的な飽和攻撃をされると上条の『幻想殺し』では為す術がなくなる。
(よしっ!!)
そして上条は走りだした。
錬環勁気功を用いて一瞬にして相手との距離を詰めることもできる。
しかしスピードを上げればその分相手の攻撃を回避しづらくなり、カウンターを合わされれば元も子もない。
相手の攻撃の威力は絶大であり、一発食らえばその時点でアウトだ。
だが上条の慎重を要した行動は危惧していた通り裏目に出ることとなった。
「テメェが右手でしか『原子崩し』を防げないことは分かってるんだよ!!」
そう叫んだ茶髪の少女は一枚のカードのようなものを宙に放り投げた。
そしてそのカードに向かって少女が光線を放った瞬間、カードを通して光線が無数に拡散する。
拡散支援半導体……面制圧や飽和攻撃を不得手とする麦野が特別に用意した装備だった。
無数に分かたれた光線が上条のことを襲う。
そして凄まじい爆発が巻き起こった。
・
・
・
「ぎゃははははは!! 散々上から目線で語ってた野郎が情けねえな!!」
爆炎が立ち込める中、麦野は高笑いを上げた。
最初の数分の攻防の間、少年が『原子崩し』を防ぐ際に右手を用いているのを見逃すほど麦野は甘くない。
正直なところ、最初から少年が攻めに転じていれば麦野との決着は違った形で着いていただろう。
しかしレベル5相手に慎重になるのは無理もない。
それ相応の相手となれば、相手の能力を見極めようとするのは道理だった。
「さて、もう一人のガキも消しに行くか……。 行くわよ、滝壺」
麦野と滝壺は爆炎に背中を向けると部屋の出口へと向かう。
しかし出口へ向かって歩き始めた瞬間、二人を凄まじい悪寒が襲った。
そして次の瞬間……。
「がっ!?」
麦野の体は大きく吹き飛ばされていた。
背面からの攻撃……不意打ちとも言える攻撃に麦野は受け身もとれないまま顔面から壁へと叩きつけられる。
「おいおい、敵の死体も確認しないなんて本当は三流なのか?」
麦野は鼻血が流れ出る顔を抑えながら声のした方へ振り返る。
そこには平然と佇む少年の姿があった。
「命のやり取りをしてるんだ、不意打ちぐらいで卑怯呼ばわりはしないでくれよ」
「テメェ、どうやって!?」
確かに『原子崩し』は絶対に避けられないタイミングで少年を襲った筈だった。
仮に少年の力が本当は右手だけでなく広範囲で能力を打ち消せるものだったとしても、それでは爆発が……。
「爆発?」
そこに来て麦野は先ほどの光景に違和感を感じる。
麦野の『原子崩し』は爆発物に当たったならともかく、本来は爆発を引き起こすようなものではない。
その力は金属ですら紙のように容易く溶解させる、それは人体であっても同様だ。
少年に直撃したなら爆発など起きる筈がない、そのまま完全に消滅する筈だ。
尤もそれ故に死体の確認を怠ったのだが……。
「お前が攻撃する前に叫んだ瞬間、何らかの広範囲攻撃を仕掛けてくることは分かった。 だから右手で打ち消すんじゃなくて、お前の攻撃を迎撃することを選択したんだよ……こんな風にな!!」
すると少年の左手から放たれた光球が麦野へ向かって直進する。
咄嗟のことで『原子崩し』を使ったガードも使えず、光球は麦野に直撃する。。
大きく吹き飛ばされた麦野の体は再び壁に直撃し、後頭部を強く叩きつけられた麦野は今度こそ意識を失うのだった。
・
・
・
「ふぅー」
上条は茶髪の少女が意識を失ったのを見て大きく息を吐く。
少女が拡散支援半導体を用いて無数の光線を放ってきた時、上条は咄嗟に光線に対して氣弾をぶつけた。
凄まじい爆発が起こったのはそのためだ。
特に目立った外傷は見当たらないが間近で爆発の余波をモロに受けたため、体の節々に鈍い痛みを感じる。
錬環勁気功で体を強化していなければ大怪我を負っていたかもしれない。
「……魔法はある程度の知識があれば対応するのは簡単だったけど、どうも超能力っていうのはやり辛いな。 美琴もそうだけど色んな方向から応用を利かせてきやがる」
実際は『超電磁砲』と『原子崩し』では能力の応用の幅が大きく異なる。
そのため茶髪の少女は補助ツールを使って自らの能力の欠点を補っていたのだが、その理屈が理解できない上条にとってはどちらの力も対処しづらいものに違いなかった。
「こりゃ『一方通行』と戦うのにもある程度対策を練った方がいいかもな」
今回のようにイレギュラーな相手ならともかく、実験を止めるためには『一方通行』に対して必勝の策を練らなければならない。
第四位でこれだけの力を持つとなれば第一位である『一方通行』の力は計り知れないかった。
そして上条が今後の行動の指針について少し考え込んでいると、ジャージの少女が恐る恐る話しかけてきた。
「『一方通行』って第一位の?」
「そういえばお前らは実験の中身については知らないんだったな。 っていうか顔色が滅茶苦茶悪いんだけど大丈夫か?」
上条は少女の方を振り返ると思わず声を上げた。
少女の呼吸は荒く、その表情はとても青褪めており汗が流れ出ている。
「……大丈夫、これはいつものことだから。 それよりも私達に止めを刺さなくていいの?」
「動けない相手に止めを刺すつもりはねえよ。 それよりもお前はどうして裏の仕事なんてしてるんだ?」
「え?」
「いや、伸びてる他の二人はともかくお前は……何ていうかそういうのが似合わないって気がして」
それが少女に抱いた上条の印象だった。
部屋に入ってきた時も、少女は裏の人間にしては珍しく最初に仲間の心配をしていた。
勿論それだけで相手を理解する根拠にはならない。
しかし上条には少女が裏の世界に住まうような人間に思えなかった。
それはあくまでも直観に過ぎないが、上条は自分の直感が良く当たることも知っていた。
「まあ深くは詮索しないけどさ。 もし脅されてるとか何か理由があるんだったら力になるぞ」
「あなたが何を見てそう思ったかは分からないけど暗部に属している以上、私だって手を汚してる。 今更表の世界に帰れるとは思っていない。 それに『アイテム』は私の居場所だから」
「……」
「でも心配してくれるのは素直に嬉しい。 ……ありがとう」
少女がそう言った瞬間、凄まじい爆発音と共に研究所の照明が落ちた。
どうやら美琴が研究所の電気系統を破壊することに成功したらしい。
電気系統を破壊しさえすればこの建物は研究所として機能することはなくなる。
『絶対能力進化』に関わる研究所は残り一カ所になった。
「……これで研究所の防衛は失敗した。 『アイテム』の任務は失敗したことになる」
「……お前達はどうなるんだ?」
「一回の失敗で消されるほど『アイテム』の利用価値は低くない」
「……正直今は『絶対能力進化』の実験を止めるのを最優先しなきゃならないが、もしお前が本当に助けが必要になったら力になるぞ」
「あなたは冷徹に見えるけど、本当は優しいんだね」
「そんなことねえよ、俺のはただの偽善に過ぎない」
「……私は滝壺理后、あなたは?」
「上条当麻だ」
「じゃあね、かみじょう」
「……ああ、またな」
上条は少女に背を向けると研究所を脱出するために走り始める。
そのまま美琴と合流した上条は残る一基の研究所へと向かう。
しかしそこはもぬけの殻で既に研究所としては機能していなかった。
そして実験を止める最低限の下準備を済ませた上条は『一方通行』との戦いに備えるのだった。
以上になります。
またお待たせした割には短い中身となっております。
戦闘描写ってどうやれば上手く書けるんですかね?
他の方の文章をパクる訳にもいかないし……。
気付いたら接待バトルになってました。
読み返したら麦のん馬鹿すぎだろ、と……。
麦野のファンの方にとっては許されざるべき中身だったと思います。
負けるにしてもこれはねえよ!!
そんな声が聞こえてくるようです。
そして明日は、っていうか今日は憂鬱な休日出勤……。
日曜日を丸々使って続きの話を一話くらいは仕上げたいと思います。
感想をお待ちしているので、アドバイスなどがあれば教えてくれると幸いです。
乙!
乙です。
続きを楽しみにしてます!!
乙です
上条さんが強化されたSSは一方通行が心配になるなwww
初期一方は完全に能力頼りだし
はまづらぁ?
乙
しかし帰還者にはもう一回パワーアップイベントあるんだけどそれをやって
使いこなしからもうオッレルク・オティヌス・トール・アレイスター・エイワス
といった禁書最上位連中をつれてこないとだめだろ。
二回目のパワーアップは二回異世界に行かなきゃいけないんじゃなかったけ?
ただ暁月がまた出るって言ってるし、アレイザード編が来るかもな。
それよりも滝壺はどうなるんだ?
このまま上条さんに取られちまうのか、それとも男を見せて原作通り滝壺のヒーローになるのか?
>>1の発言を見るとどっちにも取れるから、何かヤキモキするな!!
皆さん感想ありがとうございます。
今日も若干ブラックな会社で休日出勤に勤しんできました。
皆さんの完走だけが日頃の励みになっております。
>>84さん>>85さん
ありがとうございます。
乙という一言だけで日頃の疲れが吹っ飛びます。
>>86さん
確かに原作の状態の一方通行だと相手にならないかもしれませんね。
ただ『一方通行』の能力の本質は『自身が観測した現象から逆算して、限りなく本物に近い推論を導き出す』らしいので、
もしかしたら圧倒的な展開にはならないかもしれません。
相手が強ければ強いほど強くなる、何処かの下級戦士や死神隊長を連想させます。
>>87さん>>90さん
はまづらぁ?
どのような結果になるかは分かりませんが、
少なくても>>1は禁書のキャラを蔑ろにするようなことはなるべくしない方向で物語を進めていくつもりです。
……>>1の力量不足故に不快に感じる方は多く出てくるかもしれませんが。
どのような結果になるかは言えませんが浜面が日の目に当たるように頑張っていきたいと思います。
>>88さん>>89さん
意外と鬼畜美学の方の原作を読んでいる方もいらっしゃるのですね。
そうなると少しばかり先の展開が見えてしまうかもしれません。
>>1の中では取り敢えず旧約の物語の終わりまでは話の道筋が大まかにできています.
皆さんの想像通りに物語が進むか少しだけ楽しみにしていてください。
明日は久しぶりにゆっくり休める休日なので部屋に籠って続きを書きためたいと思います。
明日の夜に投下できるよう頑張ります!!
かなり先まで構想練ってあるのか
こりゃ楽しみだ
やっぱり上条さん行くところ女キャラにフラグ立っちゃうのねw
はまづら頑張れ超がんばれ
浜面を蔑ろにするわけじゃないけど上条との絡みはキャラ的に好きだわ(上条の周りの女子があれ敵な意味で)
ただ、さらに個人的には最愛ちゃんをしっかりと登場させるといいと思います(オプマ
何はともあれゆっくりでいいので頑張って下さい!!
今回も面白かったです^^
上条さんは女にフラグを立てまくるけどここのかみじょうさんなら暁月連中といたなら
女にたいするお気遣いなどのスキルがあがってるからやばいな。
あと経験からの影があるから女がコロッと行く要素もありそう。
>>92さん
ありがとうございます。
ただ構想を練っていると言っても大まかな道筋のようなものが見えてるだけですが……。
途中で放り出さないよう最後まで頑張りたいと思います。
>>93さん
滝壺は禁書の中でもかなり好きなキャラクターです。
この物語においてもキーパーソンになることは間違いないので楽しみにしててください。
>>94さん
この作品の上条さんは相変わらず鈍感ですが、ある程度ヒロイン達の機微に鋭くなっています。
色んな意味で紳士な上条さんを書けたらと思っています。
ここのところ休日出勤や残業などで書く時間が全くありませんでした。
残業手当ては一応出るものの人使いのあまりの荒さに精神的に参っている日々を送っています。
今日は久々に残業がないので夜に短いですが投下できると思います。
待ってくださっている方がどれだけいるか分かりませんが、長らくお待たせしてすみませんでした。
いくらでも待ってるんで体大切にしてください~
少なくとも生存報告時々あれば1年は待てます(迫真
頑張ってください。
続き楽しみに待ってます!!
第5話 日常に向けて
『アイテム』との激闘を終え上条と美琴は最後の研究所へと向かったものの、そこはもぬけの空だった。
美琴はそのことから実験を中止に追い込めたのではないかと推察したが、上条はそれを否定する。
レベル6を生みだすという、ある意味学園都市の究極の目的ともいえる『絶対能力進化』が簡単に止められるとは思えない。
しかし学園都市に点在する実験に関わる研究所を全て潰したことで、少なくとも実験自体に支障をきたしてはいるだろう。
そして美琴は今、第七学区のとある公園のベンチで寝息を立てている。
話によると連日研究所に対する破壊活動で殆ど睡眠を取っていないらしい。
研究所にハッキングして実験のスケジュールを確認した結果、次に行われる筈の第一00三一次実験まで少し時間がある。
実験を止めることができても美琴自身が壊れてしまっては元も子もない。
実験に介入するまでの間、少しでも休んでおくよう上条が命令して半ば強要する形で横にならせたのだ。
「……」
そして上条は自分の腿の上で膝枕するような形になっている美琴の寝顔を見ながら物思いに耽っている。
五年前異世界へと跳ばされる前まで特にこの学園都市に疑問を抱いたことはなかった。
しかし冷静に考えれば学園都市は巨大な実験場としての箱庭に他ならない。
そのことに違和感を覚えている人間は恐らく少人数だろう。
能力が発現せずにスキルアウトに身をやつした無能力者ですらも、レベルに対する劣等感に苛まされるだけで学園都市そのものへの疑問を抱くことはない。
それは何処か学園都市の住民全体が洗脳に掛けられているようだった。
『絶対能力進化』を止めることができたとしても住民達が学園都市そのものへの疑問を抱かない限り、状況を真の意味で変えることはできないだろう。
そして上条は学園都市への懸念と同時に自分の置かれた状況について考えを巡らせていた。
異世界アレイザードで身に付けた『錬環勁氣功』、普通に学園都市で生活を続けていたら決して得ることが無かった筈の力。
アレイザードでの戦いで上条は大切なものを守るため、そして何より激闘を生き抜くためにこの力を会得した。
共に異世界での冒険を繰り広げた親友の話によると、異世界に召喚されるのは世界の"意思"によるものらしい。
親友には異世界での冒険を経て後も元の世界で成し遂げなければならないことがあった。
もしかしたら異世界での冒険は彼にとって目的を果たすための力を得る試練だったのかもしれない。
なら何故自分は彼と同様に異世界に跳ばされたのか?
自分にも異世界で力を手に入れたことに何か意味があるのだろうか?
「……まあいくら考えたって仕方ないか」
そこに理由があろうとなかろうと構わない。
実際に『錬環勁氣功』も実験を止めるために役立っている。
今は色々なことに思い悩むよりも目の前のやるべきことを成し遂げるのが先決だった。
『一方通行』との戦いに備えて体調を万全の状態に整えておかなければならない。
しかし上条が自身の氣の流れを整えるべく意識を集中しようとしたその時……。
「お姉様?」
聞きなれぬ声が前方から聞こえてきた。
上条が顔を上げるとかなりの距離がある場所で一人の少女がワナワナと震えていた。
氣の流れに集中していた為、感覚が鋭敏になり距離が開いていても声を聞き取ることができたらしい。
上条は『お姉様』を探すべく辺りを見渡すが、それに当て嵌まるような人物は見当たらない。
強いて言うなら自分の膝の上で寝息を立てている美琴くらいだろうか?
しかし美琴にあの年頃の妹がいないことを上条は良く知っていた。
『妹達』の件も頭に過ぎるが、美琴のクローンには見えない。
そしてその瞬間は唐突に訪れた。
「お姉様っーーーー!!」
寒気を感じさせる叫びと共に少女の姿が消え去る。
少女の正体がテレポーターだと気付くより早く、上条の目の前に革靴の靴底が迫っていた。
・
・
・
「はぁー」
目の前で足を抱えながら悶絶する少女を眺めながら美琴は大きく溜息を吐いた。
少女の名前は白井黒子、美琴の後輩で最も信頼を寄せるパートナーだ。
ただし信頼はしているものの過剰に自分を敬愛して過剰にスキンシップを図ってくることから美琴も若干引いている部分がある。
そして今もそれが暴走して美琴のことを膝枕をしていた上条に白井は問答無用で飛び蹴りを放ったのだ。
しかし上条が咄嗟に全身に氣を張り巡らせることによって自身の肉体を硬質化させる『硬氣功』を展開したため逆にダメージを負うことになったが……。
ハッキリ言って自業自得である。
上条自身は顔面にハッキリと靴跡を残しているものの特に怒った様子もなく苦笑いを浮かべていた。
「それでコイツは私の昔からの幼馴染なの、分かった?」
「でもお姉様に幼馴染の殿方がいたなんて初耳ですの」
「それは……」
美琴は上条のことを白井に何と説明するか迷う。
美琴にとって上条は大切な存在に違いなかったが、上条が行方不明になってから上条は過去の人間になっていた。
尤もそれは大切な存在がいなくなってしまった悲しみを押し殺すためで、半ば心を守るための自衛本能のようなものだった。
実際に上条のことを忘れてしまった訳ではない。
恐らく初恋を聞かれれば相手は上条に違いないだろう。
そして今も自分や『妹達』のために戦ってくれている上条に対して感謝の念だけでなく別の感情も抱いている。
しかしそれを現状で口に出すのは憚られた。
今の段階で何よりも優先しなければならないのは『絶対能力進化』を止めることで、そして例え実験を止められても自分が幸せになる資格があると美琴には思えなかった。
「ちょっと訳あって、ここしばらく会ってなかったんだよ。 その間全然連絡してなかったから、美琴も俺のことを忘れてたんじゃないかな?」
上条が白井にそう説明するのを否定したかったが、今の自分に上条の言葉を否定する資格はないと美琴は口を噤む。
理由はどうあれ上条の生存を諦めて過去の人間にしていたのは事実なのだから……。
「そうでしたの。 とにかく上条さんとお姉様がそこまで深い仲ではないと分かって安心しましたわ。 久しぶりに年上の幼馴染に再会して甘えていただけというところでしょうか? ただしお姉さま、常盤台のエースとして周りに誤解を生むような素行はお止めくださいな」
「常盤台のエース?」
すると上条が訝しげに白井に尋ねる。
それに対して白井は何故か自分のことのように誇らしげに上条に説明を始めた。
常盤台のエース、美琴は常盤台に通う生徒達からそのように敬称されている。
レベル5の第三位として他の能力者を超越した力を持つ美琴は能力開発においても優秀な成績を誇る常盤台の中でも羨望の的だった。
しかしそのことは自然と美琴と周りの距離が開く原因になっていた。
友人がいない訳ではない、慕ってくれている人間はたくさんいる。
だが対等に話せる人間はいない。
仲が良い白井でさえも何処か自分を特別扱いしている。
本来はまだ十四歳の女子中学生に過ぎない美琴にとって常盤台のエースといおう称号は少々重荷になっていた。
「えっと、少しいいか?」
「なんですの?」
上条が少し顔を顰めながら白井の話を遮ると、特に気にした様子もなく白井もそれに応じる。
白井が美琴の話を切り上げて上条に向き直ると、上条は真剣な眼差しで諭すように白井に対して言った。
「できればその常盤台のエースって美琴を呼ぶのを止めてあげてくれないか?」
「え?」
「いや、実は俺は最近美琴がレベル5になったのを知ったばかりなんだけどさ……。 俺も美琴が昔から努力家なのを知ってたから、美琴がレベル5になったのは幼馴染として素直に嬉しい。 学園都市でレベル5がどれだけ凄いのかも知ってる。 ……でも俺の中ではやっぱり美琴は普通の年下の女の子なんだよ」
「しかしお姉様は現にレベル5の第三位で……」
「ああ、それも良く分かってる。 でもまだ十四歳で周りからのそういった期待や羨望を背負うのは中々しんどいと思うんだ。 ……それにそのプレッシャーが時に人を捻じ曲げちまうこともあるしな」
「……」
「ごめんな。 本当は人の関係についてとやかく言うのは野暮ってもんなんだろうが、幼馴染として美琴が辛い思いをしてるんじゃないかって心配になったんだ」
「私は……」
白井は少し俯きながら美琴の方に目をやる。
その表情は何処か憂いを帯びていた。
上条の言葉が美琴にとって真実なのかどうかは白井には分からない。
しかし実際に美琴のことを敬愛するあまり、自分の気持ちを押し付けるだけで美琴の気持ちを理解しようとしたことが白井にはなかった。
その事実が美琴の無二のパートナーを自負していた白井の胸に突き刺さる。
「……まあ何でもかんでも一人で背負い込もうとする美琴にも原因はあると思うんだけどな。 実際に今も危険なことを一人でしようとしてたし」
「お姉様、やはり何かご無理をなさって!?」
「……」
問いかけに答えようとしない美琴に白井は詰め寄る。
白井の中には美琴に頼って貰えなかった悔しさと上条に言われた言葉が渦巻いていた。
自分が遠く及ばない力の持ち主、いつしか白井は美琴のことを何処か絶対の存在であるヒーローのように思っていた。
しかし上条に言われてようやく気付く、美琴も悩んだり傷ついたりする普通の女の子だということを……。
だから今は敬愛する『お姉様』ではなく大切な『友人』として純粋に美琴の力になりたいと白井は強く願うのだった。
「美琴は今とても深い闇の中に引きずり込まれそうになっている。 大切な友人だからこそ、お前には打ち明けにくいんじゃないかな?」
「お姉様……」
「でも必ず俺が日常に……お前達がいる場所に美琴を連れ戻してみせる。 だからその時は友人として美琴のことを笑顔で迎えてやってくれないか?」
「……分かりました。 お姉様自身が打ち明けてくださらないということは、きっと私がまだお姉様の力になれるほどの力を持ち合わせていないということなのでしょう」
「黒子……」
「でも私もいつかきっと『親友』としてお姉様の力になってみせますの。 だから心苦しいですが、今は上条さんの言葉を信じてお姉様の帰りをお待ちしますわ」
「……ありがとう」
美琴の言葉に白井は微笑を浮かべる。
そして上条に向き直ると、まるで宣言するかのように高らかに言った。
「上条さん、お姉様のことをよろしく頼みますの。 必ずお姉さまを連れ帰ってくださいまし」
「ああ」
「でもお姉様を譲る気は毛頭ございませんの。 今は少しリードを許しているようですが、必ず追いついてみせますわ!!」
「はぁ?」
「お姉様、初春も佐天さんもお姉様のことを心配しております。 また皆でお茶会でも開きましょう」
「うん!!」
「それでは御機嫌よう」
そう言い残すと白井の姿が一瞬で消え去った。
僅かなタイムラグの後に白井の姿は公園の入り口に現れる。
そして上条と美琴に向かって軽く会釈すると、今度こそ白井の姿は見えなくなるのだった。
・
・
・
「良い友達だな。 ただ闇雲に首を突っ込んでくるんじゃなくて、ちゃんと人を信頼することを知ってる」
「……うん」
上条が白井に現在置かれている状況について少し事情を説明し始めた時、白井が無理に力になると言って聞かないのではと美琴は心配した。
しかし上条の言葉を信じて今は待っていることを白井は約束してくれた。
上条の言葉には不思議な力があり、人を信頼させる安心感のようなものを放っている。
今も普段からは考えられないほど白井は素直な対応を取っており、思えば自分一人で『絶対能力進化』を止めると孤独な戦いに臨んでいた美琴の心にも上条の言葉は自然と染み渡っていた。
「大丈夫、いつか『妹達』の件も含めて全部話せる日が来るさ」
「そうね」
そして美琴はそれとは別に上条が学校で自分が置かれている状況へ配慮してくれたことに驚いていた。
上条と美琴はまだ再会してからあまり時間が経っていない。
離れ離れだった五年という歳月は決して短くない筈だ。
にも拘らずまるでずっと傍にいたかのように上条は美琴が『絶対能力進化』以外で思い悩んでいたことを言い当てた。
「何で私が常盤台のエースって呼ばれることが負担になってるって分かったの?」
「さっきも言ったけど、普通に考えたら十四歳の女の子が周りから特別扱いされるのはしんどいかなって」
「もう、子供扱いしないでよ!!」
「悪い悪い。 でも子供とか関係なく周りからの期待や羨望っていうのは本人にとって少なからず負担になるもんだ。 そして過度なプレッシャーは時に本人の意思や心さえ捻じ曲げちまうことがある」
「……」
「お前の学校の人間に悪気がないのは分かってるさ。 それにレベル5ってフィルターが中々周りの人間から外れないことも……。 でも白井はお前にとって親しい友人なんだろ? 先輩後輩の関係みたいだから『お姉様』は抜けないかもしれないけどな」
そう言って笑った上条に釣られて美琴も笑顔を零す。
学校で孤高とも言える立場にある美琴にとって白井は後輩であるものの特別な友人だ。
その友人が自分を特別視することを美琴は少し寂しく感じていた。
そして上条が言ったように今まであまり人を頼ろうとしなかった自分自身にも原因があることは分かっている。
だから無事に日常に帰れたら今度は自分から対等な立場で友人達に接するよう美琴は心に決めるのだった。
「それにしても俺が一歩リードしてるって何の話だろうな? それに美琴は譲らないって……」
「そ、それは……」
白井が自分に向ける特別な感情に気付いているため、美琴は白井が何を言わんとしていたか理解していた。
しかしそれを素直に上条に伝える訳にはいかない。
伝えたところで上条を困らせるだけだし、やはり自分がそういった幸せを求めるだけでもおこがましいと美琴は思う。
「お姉様?」
そして思い悩む美琴に対して白井とは別の少女の声が掛けられる。
上条と美琴が振り返った先にいたのは正真正銘、美琴の『妹』と呼ぶべき存在だった。
第一00三一次実験まで残り数時間、『絶対能力進化』の実験を止めるための最後の戦いは間近に迫っていた。
以上になります。
……短いですね。
個人的にキリの良いところで区切っているのですが、もしかしたらもう少し書き溜めしてから投下した方がいいのかもしれません。
まだ書き始めたばかりで文章の粗さや拙さが目立つ部分があると思います。
改善した方がいい点などがあれば教えていただけると幸いです。
感想お待ちしています!!
乙です
短くてもある程度の間隔で来てくれた方が嬉しいけどね
まぁ忙しいっぽいし無理しないで
お疲れ様~
今回も楽しめました
禁書SSは荒れやすいけどめげずに頑張ってください
楽しんでる人もそれ以上にいますから^^
乙です!!
黒子にフラグは立つのかしら?
一方通行との戦い楽しみにしてます!!
何かこのみこっちゃんは色々と引きずりそうで怖いな。
まあ上琴って明記されてるし、幸せにしてやってくれよ上条さん!!
乙!!
これは綺麗な黒子な気がする。
っていうか上琴だと明記されてるssで例のコピペをするなんて上琴アンチも必死だな。
第10031次実験は10031号と美琴が会った次の日、美琴が情報送受信センター行った後の実験だよ。
まあ細かい事ではあるんだけど。
最初に>>1が時系列が大きく変化するって書いてあるじゃねえか?
揚げ足取る暇があるんなら、しっかりと見直せよ。
どこのスレにもいるんだよな、原作原作って煩い奴が。
>>1は揚げ足を取るような奴は気にせずに頑張って続けてくれよ。
>>111
そこは何か意味のある事なのかなwktk?ってのを暗に含ませた発言なんだが、まさかageてまでして罵倒されるとは。
そんなageるほど怒るとは考えないで発言しちゃったよ。
これからアンタがageる事にならない様言い回しに気をつけるよ。
煽るなよ……
>>105さん
ありがとうございます。
なるべく文量も増やして投下速度を上げられるよう頑張ります。
>>106さん
自分もあのコピペが生まれる瞬間にいたので。自分のスレに貼られるとは何処か感慨深いです。
特に荒らしだとは思っていませんが上琴の評判が下がらないか少し心配です……。
>>107さん
黒子にフラグはどうですかね?
一応上条と黒子の関係をどのようなものにするか考えてはいるので楽しみに待っていてください。
>>108さん
そうですね、この美琴は少し原作に比べて繊細な性格になっています。
それはぶっちゃけ上条さんが行方不明になったのが原因なのですが、上条さんにはしっかり責任を取ってもらわないとw
>>109さん
黒子もssによって結構立ち位置が変わったりしますよね。
ここの黒子はお姉様の本当の幸せを願える子だったりします。
>>110さん>>112さん
すみません、特に第一00三一次実験にしたことに意味はありません。
ちなみに自分も原作でそのような時系列だったことは把握しています。
ただ原作において一番不憫だったのが個人的に10031号だと思っていたので10031号にスポットを当てただけです。
伏線も何もありません……すみません。
しかし今後も気になった点などを指摘してくだされば、答えられる範囲で答えていきたいと思います。
>>111さん
応援本当にありがとうございます、とても励みになります。
ただ自分の更新が亀なため中には>>1において表記したことを覚えてない方も多いと思います。
自分は寧ろ原作と比べられると少し箔がついた気がして光栄だったりします。
しかし本当に自分のことを応援してくださっているのが伝わってきて嬉しかったです。
これからもよろしくお願いします。
>>113さん
スレが荒れるのを心配してくださってありがとうございます。
これからも目汚しな部分はあると思いますが、目を通していただけると幸いです。
そして今日は久しぶりに休日出勤がない、ゆっくり眠れる。
……いえ、寝る間も惜しんで少しでも書きためしたいと思います。
別に無理している訳ではなく自分自身ssを書くのは楽しいですし、皆さんのレスを見ると力が湧いてきます。
土日中に最低でも一回は投下しますので、よろしくお願いします!!
やっとおいついたー!おもしろいですなー!
待ってたよ~
とかイイながらの休日出勤らしい俺氏
>>115さん
そう言っていただけると、とても嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
>>116さん
ご気持ちお察しします。
自分も頑張るので、>>116さんも負けずに頑張ってください。
今から投下します。
と言ってもまた少しだけの投下です。
そしてまだ一方通行戦に入りません。
今回は自分で読み返しても何が書きたいのか良く分かりませんでした。
上条さんが空気になってますのでご注意ください。
第6話 姉妹
上条が振り返った先にいたのは美琴と瓜二つの少女だった。
背丈も着ている常盤台の制服も全て同じ……。
強いて見た目について違いを挙げるならば、あまり見かけない形のゴーグルを身に付けていることくらいだろうか?
しかし見た目以上に上条は美琴と少女の違いをハッキリと感じる。
少女から生気のようなものをまるで感じないのだ。
美琴から話を聞いていた通り、少女の表情からは感情の起伏のようなものが殆ど見られなかった。
「じ、実験はやっぱりまだ中止になってないの?」
自らの検体番号を10031号と名乗った少女に、美琴は怯えた表情で尋ねる。
上条からその可能性が低いことを告げられていたとはいえ、心の何処かで実験を中止に追い込めた可能性を美琴は捨て切れないでいた。
自分の能力が『一方通行』に通じないことを美琴は身を以って知っている。
そして『一方通行』との戦いを異能の力を無効化する『幻想殺し』を持つ上条に全て任せなければならないことも……。
自分で巻き込んでおいて身勝手な言い分だが、美琴はできるなら上条をこれ以上危険に晒したくなかった。
「はい。 研究所への破壊活動で今後のスケジュールに多少の乱れは出ているものの、『絶対能力進化』の実験は予定通り進行中です、とミサカは答えます」
「……そう」
自分の目論見が甘かったことを美琴は痛感する。
上条の方に目をやるが、特に上条自身は動揺した様子はない。
実験を止める方法は上条が言っていた通り、『一方通行』に実験を止めさせるしかなくなった。
話し合いで実験を止めるよう説得できるならそれに越したことはない。
しかし美琴が初めて出会った『妹達』を嬉々とした様子で惨殺した『一方通行』に話し合いが通じるとは思えなかった。
そうすると残された道は力づくで『一方通行』に実験を止めさせるか、最悪の場合は実験の要である『一方通行』の存在自体は消し去らなければならない。
どちらにしても上条に重荷を背負わさざるをえなかった。
「ところでお姉様、そちらの少年は一体?」
「ああ、コイツは私の幼馴染で……」
「そうなのですか、お姉様に幼馴染がいるという情報は持ち合わせていませんでした」
「情報って……」
「外で実験を行うようになってから、確率は低いですがお姉さまの知り合いと顔を合わせる可能性も捨て切れません。 最低限のお姉さまの交友関係は情報としてインプットされています」
「……」
「しかし幼馴染というお姉様と親しい間柄であるにも拘らず、その少年についての情報をミサカは何も持っていません。 ミサカは自分の情報不足に対する疑問を投げかけます」
すると美琴ではなく上条が10031号に事情の説明を始めた。
流石に異世界に行っていたという話は簡単に信じてもらえないと、五年間行方不明になっていたという話だけを簡潔にする。
ちなみに上条は美琴にもまだ異世界の話はしていない。
昔から変なところで頭が固く、美琴が科学脳とも呼ぶべき考えの持ち主だということを良く知っていたからだ。
実験を止められたら離れ離れになっていた五年間についてお互いの話をするという約束をしていたが、何処まで自分の話を美琴が信じるか上条は分からなかった。
「そうですか、五年の間行方不明に……。 恐らく既に死んでいるとして、あなたの情報の必要性は見受けられなかったのでしょう、とミサカは適当に理由付けして自分を納得させます」
「適当に理由付けって……まあ確かにそんなとこだろうけどな」
「それであなたとお姉様はここで何をされてたのですか? もしや親しい間柄の男女間で行うというデートと呼ばれるものでは? ミサカは思いがけずお姉様達の邪魔をしてしまったことに謝罪の意を表します」
「ちょっ、デートって何言ってるのよ!? っていうかアンタ達って何か持ってる知識が偏ってない?」
慌てた様子で10031号の言葉を否定すると共に、美琴の中ではある思いが渦巻いていた。
前に一日を共に過ごした『妹達』もそうだったが、毒舌な部分も含めて『妹達』は妙に人間臭さを放っている。
美琴には自分を実験動物と蔑み、命を簡単に捨てることができる『妹達』の気持ちは分からない。
しかしそれでもあの日、一緒にアイスを食べたり紅茶を飲んだ時間はまるで本当の姉妹みたいで……。
「うっ」
そこで美琴は急な吐き気に襲われた。
目の前で電車に押し潰された『妹達』の最期が鮮明に脳裏に蘇る。
仮にあの時、別れを告げずに最後まで後をつけていたら別の結末が訪れていたのだろうか?
自分の力が『一方通行』に通じないことは重々分かっている。
それでもあの子を逃がす時間くらいは稼げたのではないだろうか?
例えそれが根本的な解決にならなくとも、救えた命があったかもしれない。
「……」
罪の意識に苛まされていた美琴はふと背中に人の温もりを感じる。
横を見ると上条が黙って背中に手を添えてくれていた。
辛い時に下手な慰めをかけられると、却って人の心は傷つくことがある。
こうやって無言で傍にいてくれる上条の優しさは美琴にとってありがたいものだった。
「お姉様、顔色が悪いですが大丈夫ですか?」
「う、うん、大丈夫よ。 ごめんなさい、心配掛けて」
「いえ、少し顔色も良くなったようで安心しました。 それではお二人の邪魔にならないようミサカは退散したいと思います」
そう言って10031号は上条と美琴に背を向ける。
美琴はその背中に声を掛けようとするが、あの日のトラウマがフラッシュバックして声が出なかった。
しかし美琴の代わりに上条が少女の手を掴み取る。
「ちょっと、待った!!」
「どうかされたのですか? 同意なき異性への接触はセクハラに当たると、ミサカはあなたに向かって軽蔑の眼差しを向けます」
「……いくら何でも辛辣すぎないか? まあそれはともかく第一〇〇三一次実験まではまだ時間があるよな?」
「何故あなたがそのことについて知っているのか疑問は尽きませんが、確かに実験の開始まで残り二時間あまりあります」
「よしっ、それじゃあさっき言ってたデートってやつを俺と美琴とお前の三人でしようぜ」
「へ?」
突然の提案に呆けた顔をする美琴と10031号の腕を引っ張って、上条は街中へと繰り出すのだった。
・
・
・
「これがクレープと呼ばれるものですか?」
10031号は手に持ったクレープをマジマジと見て、何処か感慨深げに呟いた。
相変わらず無表情なままだが、声のトーンから少なからず喜んでいることが窺える。
10031号のその様子を見ると、やはり上条も美琴も『妹達』が感情のないただの人形には見えなかった。
そしてそんな上条と美琴の思いを知ってか知らずか、10031号は徐にクレープを口へと運んだ。
「むっ、これは!!」
そう言った10031号はクレープを勢いよく口の中に詰め込んでいく。
その様子を見て美琴は苦笑いを浮かべながら幼い妹に諭すような口調で言った。
「こらこら、あんまり急いで食べると喉に詰まらせるわよ」
しかし10031号は美琴の言葉に耳を傾けることなく、あっという間に自分のクレープを平らげてしまった。
そしてその視線はまだ美琴が少ししか口を付けていない違う種類のクレープへと向けられる。
「……もしかして食べ足りないの?」
「……」
10031号は返事をしないながらも、その眼差しが美琴の言葉を肯定していた。
美琴がそっとクレープを差し出すと、10031号はひったくる様にしてクレープを受け取る。
そして再びクレープを勢いよく食べ始めた。
「……」
その様子を見て美琴は初めて『妹達』の一人と出会った日のことを思い出していた。
あの時も自分のアイスを気付かぬ間に食べられてしまって……。
『コイツは妹じゃないっ!!』
……その直前に発した自分の言葉をあの子はどのように受け取ったのだろう?
もちろん『妹達』は美琴のクローンであって本当の妹という訳ではない。
しかし自分を『お姉様』と呼ぶ『妹達』にとって自分はどのような存在なのだろうか?
『妹達』を生み出した元凶であり、『妹達』を理不尽で残酷な実験に巻き込んだ憎悪の対象……そう考えるのが一番しっくり来る。
だが『妹達』は自分達のことを実験動物と割り切っており、自分達が殺されることにすら何の感情も抱いていない。
生物として根幹的な部分を為す生への執着がまるでないのだ。
見ている限り喜怒哀楽が全くない訳ではなさそうだが、それでも一般的な人間と比べて感情の起伏が著しく小さいのは間違いない。
だから『妹達』が自分に向けている感情を美琴はイマイチ読み取ることができなかった。
「それにしても全額、お姉様に支払わせるとは……。 もしかしてあなたはヒモと呼ばれる存在なのですか、とミサカは蔑んだ視線をあなたに向けます」
「くっ、現状じゃ完全に否定しきれないのが悔しい。 でも帰ってきたばかりで、こっちの金が全くないんだよ」
そのように上条と軽く言い争いをしている10031号に向かって、美琴は意を決して尋ねた。
「ちょっといい?」
「何でしょうか? 残念ながらクレープは完食してしまったため返すことはできませんが……」
「クレープの話はどうでもいいのよ。 ……あのね、あなた達は私のことを本当はどう思ってるの?」
「どう思ってるとはどういう意味でしょうか?」
「……私には理解できないけど、あなた達が自分達のことを実験動物だって割り切ってることは知ってる。 でも痛みや悲しみを感じない訳じゃないんでしょ? その全ての原因を作ったのは私……恨まれても仕方ない」
「……逆にお尋ねしますが、お姉様はミサカ達のことをどうお思いなのでしょうか?」
「えっ?」
「お姉様が『妹達』の元となったDNAマップを提供した経緯は把握しています。 それは当時のお姉様の年齢を鑑みても決して責められるようなことではなく、寧ろ人として称賛されるべき行為ではないでしょうか?」
「でもそのせいで、あなた達が『絶対能力進化』に利用されるはめに……」
「……ミサカ達はクローン人間特有の同一振幅脳波を利用した電磁的情報網ミサカネットワークと呼ばれるものを構築しています」
「ミサカネットワーク?」
「はい。 そのミサカネットワークを通じてミサカ達は意識を共有しており、テレパシーを送ったり記憶のバックアップが可能となっています」
「……」
「そしてミサカ達の中で初めて外に出た個体が研究者の一員である少女にこのように言いました。 『様々な香りが鼻腔を刺激し胸を満たします。 一様でない風が髪をなぶり身体を吹き抜けていきます。 太陽光線が肌に降り注ぎ頬が熱を持つのを感じられます。 世界とは……こんなに眩しいものだったのですね』と……」
その言葉は『妹達』を知るキッカケとなった布束砥信から聞いたものと同様だった。
しかし実際に『妹達』から聞くのとでは大きく意味が異なる。
10031号はじっと美琴の目を見据えると言葉を続けた。
「それはあくまでもその個体の言葉に過ぎませんが、外に出た他の個体達も皆似たような感想を抱きました。 そしてその感想は生まれてくることがなければ、決して抱くことがなかったものです」
「……」
「ミサカ達は実験動物です、そのことに疑問を抱いたことはありません。 しかし実験動物でもあの時に抱いた感想に偽りはないように思います」
「……うん」
「作り物の体に、借り物の心……そんなミサカ達が何を述べても説得力はないかもしれません。 しかしこの世界というもの知るキッカケをくださったお姉様を恨んでる個体はミサカ達の中に存在しませんよ」
気付くと美琴の目からは涙が溢れかえっていた。
『妹達』から恨まれていないことを知ったからではない。
このように自分のことを思ってくれていた『妹達』を今まで一人として救うことができなかったからだ。
そのことが美琴の胸をきつく締め付ける。
「ミサカ達はその存在がレベル6を生み出す役に立つことに何ら不満はありません。 しかしお姉様はミサカ達の一人の死を見て、無謀にも『一方通行』へと挑みました。 実験動物に過ぎないミサカ達の存在が学園都市において有益な存在であるレベル5のお姉様の命を脅かしてしまった。 申し訳ない気持ちでいっぱいです、とミサカはミサカ達を代表して謝罪の言葉を述べます」
「……私はね『妹達』の噂が流れ始めた時、正直本当に私のクローンが現れたら消えて欲しいって思ったの」
「……」
「自分と全く同じの見た目の人工的に作られた人間。 本当に存在したら薄気味悪いってね」
「……それは一般的な感性からいって当たり前の感情だと思います」
「そんな中、私は初めて『妹達』の一人と出会った」
「検体番号9982号のことですね?」
「……うん。 あの子ったら子猫のことも知らなくて、その上私のことを踏み台にして子猫のことを助けようとしたのよ。 普通お願いをした方が下になるのが当然でしょうに」
「……」
「そしその後はアイスを食べたり紅茶を飲んだり……普通の女子中学生達と同じように適当に街をぶらついたわ」
「……お姉様」
「……そして別れた後に『絶対能力進化』のことを知った。 でも気付いた時には後の祭り、あの子は私の目の前で殺された」
「お姉様、もう止めてください!!」
10031号の言葉に美琴は首を横に振る。
全ての元凶になった自分が何を言っても彼女達の心には響かないかもしれない。
しかし『妹達』の全員に自分が彼女達についてどう思い、どうして欲しいと願っているか……。
あの時は伝えられなかった本当の気持ちを今伝えなければならなかった。
「私はさっきあなた達に消えて欲しいと思ってたって言ったわよね」
「はい」
「実際にあの子に会った時は驚いたわよ。 自分と似た力の放射を感じて、それを探った先にいたのが本当に私にソックリなクローンなんだもん」
「……」
「そして最初はあなた達の正体を探るために行動を共にした。 勝手に人のクローンなんか作ったあなた達の製造者を懲らしめるためにね。 でもあの子と一緒に行動する内に、少しずつだけど私の気持ちも変化していったのよ」
「気持ちがですか?」
「ええ。 本当に存在したら疎ましいと思ってた筈のクローンだけど、あの子と過ごした時間は決して嫌なものではなかった」
「……」
「無遠慮で、妙なところで生意気で……でも本当に妹がいたらこんな感じなのかなって」
「お姉様、それは……」
「ええ、分かってる。 あの子を見殺しにした私が今更どの口で言ってるんだってね。 それに私達が本当の姉妹として生きていくためには障害が多くて決して平坦な道ではないことも……」
「……」
「今の私にあなた達の姉を名乗る資格なんてないかもしれない。 でも、それでも私はあなた達の姉になりたい!!」
「……お姉様」
「だからもうあなた達には誰一人として死んで欲しくない。 ……これが私があなた達に対する思い、そして願っていることよ」
しばらくの間、三人の間に沈黙が流れる。
今まで実験動物としての生き方しかしてこなかった『妹達』の一人である10031号にとって美琴の言葉は衝撃的だった。
最低限の生活は保障されていたものの、それは実験が行われるまでで一人の人間としての扱いを『妹達』は受けたことがない。
それ故に本当の姉妹になりたいという美琴の言葉に10031号は何と答えればいいか分からなかった。
「し、しかしミサカ達はあくまでも実験動物で、『絶対能力進化』に使われる以外存在する理由がなく……」
すると今まで黙って美琴と10031号の話を聞いていた上条が口を開いた。
「すぐに自分で生きる理由を見つけろなんて言わない。 でも美琴も俺もお前達に生きて欲しいって思ってる……それだけじゃ生きる理由にならないか?」
「ミサカは……」
「……まあ何にせよ、お前達を救うためには『絶対能力進化』の実験を止めなくちゃいけないんだけどな」
「実験を止める、何を言っているのですか!?」
すると美琴が心配そうな表情で上条の服の裾を掴んできた。
そんな美琴の頭に手を置き上条は微笑む。
「心配するな、俺もお前達が姉妹として生きていけるよう足掻いてみせるさ」
一人事情を知らずに訝しげな表情をしている10031号と共に上条と美琴は歩き始める。
そして『絶対能力進化』第一〇〇三一次実験の幕が開けるのだった。
以上になります。
明日中に一方通行戦を投下する予定です。
今回は色々と原作と改変している部分があります。
所々に自分の妄想が入っているのは勘弁してください。
またそれについて不快に感じる方もいるかもしれません。
ご不満も含めて感想をお待ちしているので、よろしくお願いします。
すみません、正確には今日中でした。
今日の22時ころには投下したいと思います。
乙です
姉妹の会話でちょっと泣きそうになった
原作の10031号は精神的にも肉体的にもきつい最期だったから…
乙です!!
特に不快になる部分なんてありませんでしたよ。
綺麗に美琴と10031号が姉妹をやってて感動しました。
原作でもこのみこっちゃんの言葉を10031号に聞かせてあげたかった。
このまま続けて来てくれたらもちろん嬉しいけど、無理はなさらないでください。
乙乙
不快な点は全くないがいくつか疑問が……
まず魔術側の禁書目録がどう処理されたのかわからないからなんとも言えないけど、上条さんいないからどの道ペンデックス出てないと判断したんだがそうすると樹形図の設計者破壊されていないことになるんだがこれって一方通行を倒しても再演算されたら意味ないのでは?
それとも上条さんは学園都市に喧嘩を売るつもりなの?
それと個人的には10032号(ミサカ妹)が好きなんだけどこの話ではやっぱりミサカ妹=10031号になるのかな?
前者は話の根幹に関わりそうだから答えられなくてもいいんだけど、後者は出来ればお答え頂きたい。妹達は多過ぎてほとんど出てこないから……
乙!!
10031号が毒舌で笑いました。
もしやお姉様と同じツンデレ属性が入ってしまうんでしょうか?
続きも楽しみに待ってます!!
>>128
>>118で力づくで一方通行に実験を止めさせるか最悪の場合は[ピーーー]しかないって書いてあるじゃん?
話し合いで済めばそれに越したことがないとも書かれてるし、樹形図の設計者は関係なしに一方通行自身に実験を止めさせるつもりなんじゃないの?
御坂妹については上条さんと美琴がここでは幼馴染って設定だし、少し原作とは違う形になる気がする。
皆さん感想ありがとうございます!!
>>126さん
そうですね、10031号は自分もかなりキツイ最期だったと思います。
美琴も精神的に追い込まれていたとはいえ、やはり可哀想でしたね。
少しでも救いをと思い、このssではメインの妹達に抜擢しました。
かなりの毒舌キャラになってしまいましたがw
>>127さん
ありがとうございます、そう思っていただけたなら幸いです。
原作では美琴と妹達の絡みが殆どないのが少し残念です。
超電磁砲ではバリバリ美琴のヒロインをやってますが……。
このssでは姉妹の交流を合間に挟んでいけたらと思っています。
>>128さん
返事をしようと思ったら>>129さんに殆ど答えられてしまいました。
まずこのssの前提にあるのは原作と時系列が異なっている部分があるということです。
このssでは上条さんがインデックスと出会う前に美琴が絶対能力進化に気付いたことになってます。
妹達の検体番号についてはあまり深く考えないでいただけると幸いです。
そして>>128さんの仰る通り、樹形図の設計者は現段階でまだ破壊されていません。
となると一方通行自身に実験を止めさせるしかなくなる訳です。
ただし>>118で一方通行は話が通じる相手ではないと美琴は思っています。
そこで力づくで一方通行を改心させるしかないと上条さんは判断した訳です。
そして最悪の場合は一方通行を殺すしかないと……。
まあ学園都市第一位の一方通行を殺すことは下手をすると学園都市への反逆に繋がるかもしれませんが。
なるべくそこら辺が伝わるように書いたつもりだったのですが、自分の力量不足故に上手く伝えられなかったようです。
これからも精進を続けていきますが不明な点はこれからも出てくると思います。
そういった場合は答えられることについては回答していきたいと思いますので、よろしくお願いします。
10032号については、正直あまり深く考えてませんでした。
どうも自分の中ではあまり各妹達へのキャラの区別がしっかりついていなかったらしく、
各妹達にもそれぞれファンがいることを失念していました……反省です。
ただこれも>>129さんが仰っている通り上条さんと妹達との関係も原作と少し変わってきますので、
原作との違いを感じていただけたらと思います。
>>129さん
ちょっと10031号が上条さんに対して辛辣すぎますね。
ツンデレか……ここのお姉様は原作に比べたら若干素直そうなので別個ツンデレ枠があっても良さそうですね。
10032号のことも含めて妹達についてはもう少し色々と設定を練っていきたいと思います。
うまく読み取れなかった俺が悪いのにわざわざ詳しく回答してくれてありがたい
一方通行は打ち止めや番外個体との絡みが好きなんでそこまで続いて欲しいなぁと思いながら先の展開楽しみにして待ってます
ミサカ妹に関してはできればいくつか個体を出してあげて欲しい
原作でよく出てくる(というか学園都市に残ってる)のは10032号(ミサカ妹)、10039号、13577号、19090号の四人でロシアで美琴と共闘したのが10777号
それと打ち止めと番外個体が+αって感じかな
一応MNWで検体番号と今いる場所がわかっているのは上を除いて30人前後だったはず
まぁこれでの話だと10032号を10031号に変えればスムーズに話が進みそうだけど個人的な一押しは19090号だったりミサカ妹だったりするのでその辺出してくれると更に嬉しいかなぁって
全部含めて今読んでるSSの中では5本の指に入る期待値なので楽しみでしょうがないです
なんか注文ばっかり頭悪く見えるので今日はROMってます
長文失礼しました
ミサカ妹に関しては~×
妹達に関しては~○
こんなミスばっかりorz
本当すいません
>>132>>133さん
いえいえ、これからもご期待に添えるよう頑張っていきたいと思います。
妹達の件ですが初めに書いた通り、基本的にこのssのメインヒロインは美琴になります。
そしてここではなるべく美琴と妹達の絡みも書いていきたいと思っているので妹達の出番も増やせると思います。
ただ妹達の特徴を書き分けられるかは不安ですが……。
こっそりとダイエットしちゃう19090号ちゃん……可愛いですよね。
自分も番外通行止めのトリオは大好きです。
ただ番外個体に関しては登場がかなり先になります。
もちろんそこまでエタらないよう続けていくつもりですが、気長にお待ちいただけると幸いです。
それと皆さんに一つお詫びがあります。
今日の22時くらいに投下すると言っていましたが予定が入ってしまい少し遅くなりそうです。
今日の深夜から明日の朝までの間には投下するので、よろしくお願いします。
本当にお待たせしてすみませんでした。
周囲が慌ただしく、やはり自分も精神的に参っていた部分があったので投下できずにいました。
しかしようやく落ち着き余裕ができたので続きを投下したいと思います。
皆さんのお心遣い本当に心に沁み渡りました。
一人一人へのレス返しは控えさせていただきますが、感謝の気持ちでいっぱいです。
では投下します。
第7話 壊れたもの
既に日は暮れ、辺りには夜の帳が下りている。
そして学園都市の第一七学区にある操車場……上条達が踏み入れたその先に白い少年はいた。
何処までも白い肌に白い髪、爛々と輝く赤い瞳だけが暗闇の中で光を放っている。
その体つきは華奢ながらも、少年の放つふてぶてしい雰囲気が彼が只者でないことを語っていた。
「あァ? 一体これはどォいうことだァ?」
白い少年……『一方通行』は上条の顔を見るなり疑問の声をあげる。
時刻は実験が始まる三分前、その場に『一方通行』と『妹達』以外がいるのはおかしい。
『一方通行』は一般人が迷い込んだのかとも考えたが、上条のすぐ後ろに続いてきた二人の少女の顔を見て顔を顰めた。
「人形に、この電磁波の強度は……もしかしてオリジナルかァ?」
『一方通行』は常に体に害になるものを反射しており、それは美琴や『妹達』が放つAIM拡散力場である電磁波も例外ではない。
『一方通行』の能力はそれらをただ反射するだけでなく測定することもできる。
美琴と『妹達』が放つAIM拡散力場は非常に良く似たものだが、レベルの強度からかAIM拡散力場として放たれる電磁波にも強度の違いがあった。
「まさか一般人を連れてきたってェ訳じゃねェよな? ソイツも実験の関係者かァ?」
「いえ、この少年はお姉様の幼馴染で……」
「オリジナルの知り合いって訳だァ。 でもオマエラも分かってるよなァ、この実験が一般人に知られる訳にいかねェってことは……。 関係ねェ一般人なンざ連れ込ンでンじゃねェよ。 こりゃ秘密を知った者の口は封じるとかってェお決まりの展開かァ?」
『一方通行』は何処か気だるそうに美琴と10031号の顔を眺める。
まるで上条には興味がないといった様子で、想定外の乱入者をどう処理するか程度にしか『一方通行』は上条のことを気に留めていなかった。
しかし『一方通行』にとって取るに足らない存在である上条から学園都市最強の『一方通行』に向かって不敵な言葉が投げかけられる。
「なあ、黙って『絶対能力進化』の実験から降りてくれないか? 素直に聞き入れてくれれば無駄に戦わなくて済む」
「あァ?」
「お前が自分から実験を拒否してくれれば、必要以上にお前を傷つける必要がなくなるからな」
「オマエ、誰に向かって口を利いてンのか分かってンのかァ? レベル5でも突き抜けた頂点って呼ばれる俺に向かってカミサマ気取りですかァ?」
「自分のことを過剰に持ちあげてる時点で、お前の底は知れてるけどな」
「……へェ、オマエ面白ェな。 今まで俺に向かってくる馬鹿は腐るほど居やがったが、ここまで啖呵を切った奴は初めてだわァ。 イイぜェ、そこまで言うなら人形の前にオマエを壊してやる」
「……俺が勝ったら実験を降りるって約束するか?」
「できるもンならなァ!!」
上条の挑発に痺れを切らした『一方通行』は凄まじいスピードで上条に向かって飛びかかってくる。
触れただけで人体を思うがままに破壊できる右の苦手と左の毒手。
しかし『一方通行』の選択は愚かなものだった。
触れられただけで簡単に命が奪われる圧倒的に不利な状況であるにも拘らず上条の表情に焦りはない。
ただ冷静に突撃してくる『一方通行』の動きを観察している。
そして上条が取った行動は少し体を逸らして右手を前方に突き出しただけだった。
だがたったそれだけで『一方通行』の体は大きく揺さぶられ、そのまま地面へと沈む。
相手の動きに合わせて拳を突き出しただけの単純なカウンター……。
しかし今の『一方通行』を沈めるにはそれだけで十分だった。
「がァっ!?」
そして上条のカウンターを諸に食らった『一方通行』は自分を襲った衝撃と久しく感じていなかった感覚で混乱に陥る。
今『一方通行』の感覚を支配しているのは紛れもない痛覚だった。
能力が発現してからは一度も感じたことがなく、そしてこれから先も決して味わうことがなかった筈の感覚。
痛みから思わず顔を押さえつけていた手に目をやると、赤い液体が伝っていた。
「なっ、なンだコリャああァっ」
そう叫んだ『一方通行』が赤い液体の正体が自分の鼻から流れ出た血だと気付くのにしばらく時間がかかった。
攻撃に気を取られて全身の反射を無意識に切ってしまった可能性が『一方通行』の頭を過ぎるが、自分を見下ろす上条の表情から自分が浴びせられた攻撃が確信を持って為されたものだと悟る。
理屈は分からないが上条が何らかの自分に通じる力を持っているのは確かだった。
「何だよ、そりゃあ? 面白ェ、ハハハ……ちくしょう」
そして『一方通行』は上条に対する認識を改める。
取るに足らない部外者であった筈の少年は『一方通行』の中で明白な殺すべき敵へと変化する。
「イイぜ、最っ高にイイねェ。 愉快に素敵にキマっちまたぞ、オマエはァ!!」
しかし『一方通行』が立ち上がって体勢を整える前に、上条は容赦なく『一方通行』へと拳を振るう。
顔面を思い切り殴りつけられた『一方通行』は地面へと背中から叩きつけられた。
「ぐはっ」
レベル5の第一位という桁外れな力によって『一方通行』はただそこに立っているだけであらゆる敵を粉砕する。
それ故に『一方通行』は今まで真の意味で戦闘だけでなく喧嘩すらしたことがない。
恐らく戦闘技術という点だけを見れば第四位の方が遙かに優れているだろう。
上条も『一方通行』の初動から『一方通行』が戦闘に関してただの素人であることを見抜いていた。
しかしそれでも『一方通行』が強大な敵であることには違いない。
例え赤ん坊が放った拳銃の弾丸でも人を殺すことは容易にできるのだから……。
「まだやるか?」
既に満身創痍にも見える『一方通行』に上条は戦闘を続けるか問いかける。
『一方通行』は上条の言葉にヨロヨロと立ち上がり上条を見据え返した。
だが『一方通行』の目の焦点は定まっておらず、その弱々しい姿が深いダメージを負っていることを物語っていた。
この戦いは上条にとって相手の命を奪うことが目的ではないが、それでも命を賭けた殺し合いであることには違いない。
容赦なく自分の命を摘み取ろうとする相手に情けを掛けるほど上条は甘くはない。
しかしそれでも上条が『一方通行』との会話を試みたのは『一方通行』の中に多少でも善意が残っていると期待してのことだった。
「どォして人形なンかのためにオマエは命を懸けられる!?」
「別に俺は見ず知らずの人間のために命を懸けられるほどできた人間じゃねえよ。 最初は『妹達』のためというより美琴を救い出すのが目的だった。 『妹達』に初めて会ったのだってついさっきだしな」
「結局オマエも本当ォは人形共なンてどォでもいいってことかァ? ハッ、偉そうな御託を並べたくせにヒーローはとンだ偽善者だったって訳だァ」
「……別に俺自身がどう思われたって構わねえよ。 アイツも初めて会った癖に人のことをセクハラしただのヒモだの好き放題言いやがって、頭に来るったらありゃしねえ」
「……」
「でも人のことを思いやったり、こんな世界を眩しいって思えるアイツが人形だなんて俺には思えない。 まあ人形とか関係なく、単純に俺自身がアイツに生きていて欲しいって思ってるんだろうな。 結局はアイツの意思なんて全く無視した俺のエゴって訳だ」
「……気に入らねェ。 何でもかンでも自分の意思で貫き通せるとでも思ってンのかァ!?」
「俺はそこまで傲慢じゃねえ。 でも自分を貫き通すために足掻くっていうのは普通のことだろ?」
そう言って不敵に笑った上条の顔を『一方通行』は忌々しげに見つめる。
上条の言葉はどこまでも『一方通行』にとって煩わしいものでしかなかった。
上条の言葉は『一方通行』にとって強者だからこそ吐ける戯言程度にしか響かない。
世の中にはどんなに足掻こうと覆すことができない現実がある。
そして人間の大半は自分の意思で戦うことができない弱者が占めている。
弱者にとって現実とはどんなに抗っても抗いきれない残酷なものだった。
「……殺す」
しかしそれと同時に『一方通行』は自身が決して弱者と呼ぶべき存在でないことを知っていた。
にも拘らず『一方通行』は弱者としての生き方しか知らない。
学園都市レベル5の第一位という強大な力を誇りながら、寧ろその力を言い訳にして現実から目を背け続けてきた。
第一次実験において最初に『妹達』を殺したのは少なくとも『一方通行』に非があったとは言い難いだろう。
少なくともあの時点では一方通行に『妹達』に対する殺意はなかった。
だが一方通行が反射した銃弾が少女の体を貫いた時、一方通行の中で『少女』は『人形』へと変わった。
そこで通常の精神を持つ人間なら踏み止まるという選択肢もあったかもしれない。
しかし一方通行は自身が持つ強大な力に比べると遙かに脆弱な精神しか持ち合わせていなかった。
ただでさえ脆弱だった一方通行の精神は人形が壊れたことで粉々に崩れ去り、『一方通行』という怪物が生まれたのだった。
「くっ、くか……くかきき」
今の状況は本来なら『一方通行』自身が望んだものに違いなかった。
自分を止めてくれる誰かが欲しかった、
立ち上がるための何かが欲しかった。
しかし『一方通行』は止まらない、止まることができない。
壊れてしまった『一方通行』はもはや言葉で引き返すことができなくなっていた。
「くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけこきくかくけけこかくけきかこけききくくくききかきくこくくけくかきくこけくけくきくきこきかかか―――――ッ!!」
そして凄まじい風の奔流が迸る。
『一方通行』の力は触れたモノのベクトルを操る。
運動量、熱量、電力量、それがどんな力であるかに関わらず、ベクトルが存在するものならば全ての力を自在に操る事ができる。
それならば同様に大気に流れる風のベクトルを掴み取れば世界中にくまなく流れる巨大な風の動きその全てを手中に収める事が可能となる。
風速一二〇メートル、人の体などゴミ屑のように吹き飛ばせる暴風が上条を襲った。
「くそっ!!」
そこで上条の表情に初めて焦りが浮かぶ。
別に上条一人ならいくら風で吹き飛ばされても、難なく着地することができるだろう。
だが上条に向けられた風の奔流は余波を生み、美琴と10031号にも容赦なく襲いかかっていた。
流石の上条も風速一二〇メートルの暴風の中では自由に動き回ることはできない。
氣を脚に集中させて地面を蹴ると美琴と10031号を抱きかかえるようにして、その場からの離脱を図る。
しかしその隙を『一方通行』は見逃さなかった。
「死ね」
ベクトルを操ることによって身体操作を極限まで高めた『一方通行』の触れただけで人を殺せる苦手が上条の背中に迫っていた。
『幻想殺し』を持つ右手なら簡単にそれを迎撃することができるが、右手は美琴を抱えていて塞がっている。
また暴風に煽られて無理な方向転換はできない、せいぜい風の流れに身を任せて体を捻ることが可能なくらいだ。
『一方通行』を圧倒していた上条だったが、ここに来て絶体絶命の窮地に立たされていた。
(右手以外を触れられた時点でアウトだ、どうするっ!?)
上条は何とかして『一方通行』の右手から逃れる術を模索するが方法が思いつかない。
既に『一方通行』は上条の背中の間近に迫っていた。
(くそっ、こうなったら一か八かっ)
上条は風の流れに逆らうことなく身を捩り、追ってくる『一方通行』に正面から対峙する形を取る。
正面から受ける暴風は背から受けるのとは桁違いで、上条は思わず目を細めた。
そして『一方通行』の姿は既に目前に迫っており、その右手が上条に向かって突き出される。
その表情は勝利を確信したように悦楽に歪んでいた。
しかし『一方通行』の右手が上条に届く前に、『一方通行』の体はくの字に曲がり後方へ吹き飛んだ。
「ごはっ」
凄まじかった暴風も収まり、辺りには再び静けさが訪れる。
『一方通行』も腹部に思い切り蹴りを入れられたためか、すぐには起き上がることができなかった。
しかしそれは上条も同様で、左足に激しい痛みを感じる。
恐らく骨が折れているのだろう。
上条が『一方通行』に放ったのは正確には蹴りではない。
上条は蹴りが『一方通行』に届く直前に僅かに足を後方に引いたのだ。
『一方通行』の能力は基本的に普段は外部からの干渉を反射するように設定されている。
それについては美琴から話を聞いていた。
ならば『一方通行』に反射される直前に放った蹴りを引き戻す。
そうすれば理論上は『一方通行』の反射をすり抜け攻撃が可能になる筈だ。
だが言葉にするほどそれを実践するのは容易くない。
『一方通行』の能力の僅かな隙をつく圧倒的な格闘センス。
異世界において数多の戦闘を経験した上条だからこそ成功させることが可能な技術だった。
そして上条を以ってしても完全に攻撃が成功した訳ではない。
『一方通行』の設定している反射の角度と上条が足を引いた方向のズレにより、上条の左足の骨は砕け散っていた。
この『一方通行』に対する攻撃を完全に成功させるためには、格闘センスだけでなく『一方通行』の能力を完全に把握する必要がある。
今の攻撃が通ったことですら奇跡のようなもので、二度目が成功する可能性は限りなく低い。
「今すぐここから離れろ」
左脚を負傷しながらも何とか美琴と10031号を抱えたまま着地に成功した上条は二人にそう告げる。
上条の『一方通行』に対する見通しはハッキリ言って甘いと言わざるをえなかった。
関係者とはいえ美琴と10031号を戦場に連れてきてしまっただけでなく、『一方通行』を完全に戦闘不能にした訳でもないのに会話による説得を試みてしまった。
その甘さが現状を招いているのは明白だった。
「でも、その左足じゃ!?」
「……やっぱり俺は甘かったんだ。 『妹達』の命が懸かってるっていうのに、まだ心の何処かで殺すことを躊躇ってた」
そう呟いた上条の纏う雰囲気に美琴も10031号も背筋が凍る錯覚に襲われる。
研究所で迎撃者に見せたものとは比較にならない冷たく暗い表情。
殺気とでも言うのだろうか、美琴はもちろん一万回以上『一方通行』と殺し合いをした記憶がある10031号でも感じたことがない気配を上条は纏っていた。
「アイツは何処か壊れてる。 止めるためにはこっちも殺すつもりでやるしかない」
「でもっ!!」
「心配するな。 お前だけ残して『妹達』を救えない現実は必ずぶち殺してみせる」
「……分かった」
「お姉様っ!?」
「どのみち私達がここにいてもコイツの邪魔にしかならない。 左脚は本当に大丈夫なの?」
「ああ」
上条は美琴の言葉に頷くとしっかりと両足で地面を踏みしめる。
左足は完全に折れているため錬環勁氣功を用いても体を支える程度にしか役に立たない。
しかしそれでも戦うには十分だった。
「ごめんなさい。 本当は私が全部ケリをつけなくちゃいけないのに、結局全部アンタに押し付ける形になっちゃって」
「まあ今の俺にできることはアイツと戦うことくらいだからな。 お前は全て片付いたら『妹達』のために戦ってくれ。 そっちの方がよっぽど長くて険しい戦いになるんだから」
「……うん」
「それじゃあ早く行け」
「絶対に帰ってこないと承知しないんだからね」
「分かってる」
そして美琴は10031号の手を掴んで走り始める。
その去り際に10031号も上条に向かって叫んだ。
「ミサカ達は殺されるために造り出されました。 ただそれのみが存在意義であり、生み出された理由でした。 でもあなたとお姉様はミサカ達に生きていて欲しいと言った。 だからミサカ達が自分で生きる理由を見つけられるまで、あなたはしっかりと責任を取るべきだ、とミサカはあなたに男としての責務を果たすよう告げます」
背中から聞こえてきた声に上条は右腕を横に突き出すと親指を上に上げた。
その上条の後ろ姿を確認すると10031号はその表情に薄らと笑みを浮かべる。
上条なら『一方通行』を倒して『妹達』を救ってくれる、美琴にも10031号にも何故かそんな確信があった。
「ぎィやははははははは、人形共に未来はねェっ!! オマエを殺した後に人形共も残さず処分してやるよォ!!」
「どうしてテメエはそこまで『妹達』を人形だって決めつける!? 『妹達』だって精一杯生きてるんだぞ」
「生きてる? 何言ってンだ? アイツラは人形だろ、そう言ったじゃねェか!?」
『一方通行』が叫ぶと、街中の風が『一方通行』の頭上一〇〇メートルへと集中する。
そしてその一点に暴風が集められた瞬間、何か溶接のような眩い白光が生まれた。
過度に圧縮された空気は摂氏一万度を超えた塊となり、周囲の空気中の原子を陽イオンと電子へ強引に分解することで高電離気体へと変貌させる。
摂氏一万度もの高熱の余波が上条の皮膚に火傷のような痛みを植え付けていた。
「……テメエが何に悩み苦しんでるかは知らねえ」
上条は左手に氣を集中させると高電離気体へと氣弾を放つ。
高電離気体に衝突する手前で弾けた氣弾は気流を生み、高電離気体は一瞬だが僅かに拡散する。
瞬間的に生まれた気流だけでは学園都市最高の演算力を誇る『一方通行』が風の掌握をする妨げにすらならない。
しかし氣弾によって僅かに乱された高電離気体を再び我が物とするために『一方通行』は再び簡単な演算を行い直す。
そして上条にとって一瞬でも『一方通行』の気を逸らすことができれば決着をつけるのに十分だった。
「だがテメエがこれから先も『妹達』を食い物にして実験を続けるっていうなら、まずはテメエのその身勝手で哀れな現実をぶち殺す!!」
例えどんなに受け入れがたいことでも起きてしまったことは二度と元には戻せないのが現実だ。
上条は異世界での戦いにおいてそのことを嫌というほど実際の体験を通して学んでいた。
世の中に都合のいい幻想など存在しない。
そこにどんな理由があろうと人は自分の行動と為した結果に責任を持たなければならない、上条はそのように考えている。
もちろんその考えは上条自身にも当て嵌まることで、半ば上条も自分自身に言い聞かせるようにその信念を貫いていた。
今でも上条の脳裏には異世界での戦いにおいて命を奪った魔族達の顔が鮮明に焼き付いている。
それは思い出しただけで体が砕かれるような苦い記憶だったが、それでも今の上条を成している欠けてはならないピースだった。
上条は幻想など信じない、上条にとって戦うべきは目の前にある現実だ。
幻想を殺す力を持つ少年は常に殺すべき現実と戦っていた。
錬環勁氣功を用いて極限までスピードを高めた上条はその勢いのまま『一方通行』へと拳を振るう
上条は学園都市に戻って来てから、戦いにおいて錬環勁氣功を直接の攻撃に用いたことは一度もなかった。
学園都市の学生達は超能力という異能を身に宿しているものの、その身体は基本的に一般人と変わりない。
そんな相手に究極の操体術でもある錬環勁氣功を用いた攻撃を加えればどうなるかは明白だった。
しかし上条はもう迷わない。
自分にとって大事なものを守るために上条は『一方通行』の現実を殺す覚悟を決めていた。
『一方通行』は上条を迎撃するべく左手を突き出すが、『幻想殺し』の前では何の意味も為さず変な方向へと折れ曲がる。
そして『一方通行』の左腕を壊した上条の右拳はそのまま一方通行の顔面へと突き刺さるのだった。
・
・
・
「……やったか?」
上条は遥か上空で白い光を放っていた高電離気体が完全に消失したのを見ると呟くように言った。
上条の拳により殴り飛ばされた『一方通行』は遥か前方で地面に転がっており、ピクリとも動かずにいる。
気を失ったか、あるいは……。
「痛っ」
力なく下げた上条の右拳からは血が滴っていた。
『一方通行』のものではない。
上条の右拳は砕け散り、右腕全体に無数のヒビが広がっていた。
上条は何故か自分の右腕全体に錬環勁氣功による氣を巡らせることができない。
まるで右肩から先が自分のものではないかのように、いくら氣を流そうとしても上手くいかないのだ。
そして硬氣功によって強化できない上条の右腕は上条自身の全力に耐えきれなかった。
「……」
そして上条は遠くで倒れている『一方通行』に目を向ける。
上条に位置からでは『一方通行』が生きているか死んでいるか判別できない。
しかし死んではいない筈だ。
上条の右腕が全力に耐えきれなかったというのもそうだが、上条自身が『一方通行』を殺さぬように手加減を加えた。
上条が殺すのは相手を取り巻く現実であって、命そのものではない。
確かに上条は異世界において敵の命を奪ったこともある。
それは上条にとって決して許されるべき罪ではないし、上条自身もその罪を背負って生きていく覚悟を決めている。
しかしだからこそ上条は命の尊さを知っており、極力相手の命を奪うことをしたくなかった。
だが上条のその甘さが再び彼を窮地に追い込むことになる。
「なっ!?」
上条の目の前で信じられないことが起こる。
倒れていた『一方通行』がまるで操り糸で操られたかのように無造作にその場から立ち上がったのだ。
確かに上条は『一方通行』が死なぬよう手心を加えていた。
しかし究極の操体術とも呼べる錬環勁氣功を身につけた上条にとって、相手の状態を見抜くことは決して難しいことではない。
そして今の『一方通行』が動ける状態の筈がなかった。
「そこまで、そこまでしてテメエは『妹達』の命を奪わなきゃ気が済まねえのかよ!?」
「ihbf殺wq」
『一方通行』の背中から真っ黒な翼が噴出する。
科学の破壊の面を象徴する学園都市第一位、その力が容赦なく上条へと襲いかかるのだった。
以上になります。
本当にお待たせしてすみませんでした。
いつも通り不明な点や改善した方が良い点があればお伝えください。
ご感想お待ちしています。
ここで黒翼だと…
投下乙でした
乙!!
上条さんの木原神拳も一方の黒翼も木原クン涙目。
それに上条さんが妙にリアリストなのにやはりセリフが厨二病なのが笑った。
乙です!!
この上条さんのレベルはいくつ扱いになるんだろうか?
イマイチ学園都市のレベルの計り方が分からないけど、美琴のを見る限り実際の力の強弱も測定するみたいだしレベル0ということはなさそう。
乙です!
無理せずに頑張って続けてください。
現実をぶち[ピーーー]?
……読んでて恥ずかしいな。
きっと>>1も上条に負けず劣らずの厨二病なんだろう。
こんな恥ずかしい糞ss書いてる暇があるなら、しっかりと祖母の喪に伏してろよ。
お前の婆ちゃんもこんな恥ずかしいモノ書いてるって知ったら浮かばれないぞ。
超能力では無いからやっぱレベル0だろう
それより黒羽がここで出てくるとかそんなん考慮し取らんよ(褒め言葉
黒翼は「主人公の上条さんを苦戦させる」ってメタ的意味ではありだと思います。
やったか!?→やってない って展開は王道ですし。
でも「一方通行」ってキャラクターを見るとこの時点で黒翼を出せるとは思えないです。
まあ次回その辺りの理由付けをしてくれるとは思いますが、他の投下分から見るにスレ主さんは理由付けや整合性って部分がちょっと甘く感じます。
もう一つ気になった点は全体的に叫んでる感、「!」の記号が少ないせいでやや盛り上がりに欠けます。
「なンだコリャああァっ」と「なンだコリャああァっ!?」ではそれだけで文字から受ける印象が違うと思います。
特に>>154で10031号が叫んだって言ってるのに「!」が1個もないせいで全く叫んでいるように見えず、そのギャップでのん気に喋っている印象を受けてしまいました。
これらは私の主観ですがもし参考になれば幸いです
はぐれの錬環勁氣功は殺さなきゃいけないかは忘れたけど
相手の気を自分の気の一部に出来るとかチートだからな………
原作はちょろっと読んでたりするのかな?
>>158さん
ありがとうございます。
他の方からのアドバイスのように整合性を持てるよう頑張って続けていきたいと思います。
>>159さん
上条さんに木原神拳を使わせたかった。
悔いはしてない。
>>160さん
どうなんでしょうね。
イマイチ身体測定の描写が原作においてされていないので、そこら辺については考えておきます。
>>161さん
ありがとうございます。
精神的にも大分落ち着いたのでこれからも頑張りたいと思います。
>>162さん
仰る通り>>1は厨二病です。
しかし祖母はこんな二次創作でも随筆を書いてると喜んでくれる優しい人でした(笑)
>>163さん
ありがとうございます。
この時点で黒翼を出したことについてはあるssを参考にしています。
自分もあんなかっこいい上条さんを書きたい。
>>164さん
貴重なアドバイスをありがとうございます。
どうしても勢いで書いてる部分があって、整合性や理由付けなどについて深く考えこんだことはありませんでした。
心理描写はなるべく欠かさないよう書いていたつもりでしたが、それでもやはり不足していたようですね。
申し訳ありませんが他の点で描写が不足していると感じた点を挙げていただけないでしょうか?
それらを踏まえて次の投下の参考にさせていただきたいと思います。
また初心者故の質問なのですが一つよろしいでしょうか?
>>1は一応禁書の原作は全巻読破しております。
その中の13巻においてアレイスターがベクトル制御装置にAIM拡散力場の数値設定を入力する作業はようやく終えた所と発言していたのですが、その言い方からするとアレイスターが一方通行に何らかしらの処置を加えたように聞こえます。
それはアレイスターが直接何かをしたのか、それとも木原の襲撃による精神的な面を言っているのか?
>>164さんだけでなく他の方の意見も聴かせていただけると幸いです。
感嘆符についてはこれ以降、気をつけていきたいと思います。
重ねて言いますが本当にアドバイスありがとうございました!!
>>165さん
はぐれ勇者の原作についても全て読んでいます。
ただ相手の氣を読んで相手の技を使うことについては、やはり超能力とは勝手が異なるように思います。
超能力は魔力や氣を使うのではなく脳による演算について行われているので、これから先も使うことはないと思います。
ただ能力の第二段階への移行についてそれぞれの原作における世界観に基づいた解釈をする予定なので、そこで何らかしらの変化があると思います。
これから先も疑問に思った点などをあげていただけると嬉しいです。
既に少し書きためをしていましたが、>>164さんのアドバイスを参考に修正を加えたいと思います。
今度こそ土日中に投下するよう努力するので、これからもよろしくお願いします。
うーん、俺は特に不足してるって思ったことはないな。
ちゃんと各キャラの心情を良く書いていて、特に違和感を感じたことはない。
あと>>164は整合性の意味を本当に理解してるか?
まだ物語の序盤なのに矛盾点も何もないだろう。
黒翼についても13,15における一方通行は追い込まれて暴走したって意味合いが強く感じるから、つまりそういうことなんじゃないか?
メタ的とか言ってる時点で上から蔑んでるようにしか聞こえないんだよな。
まあ整合性についてもしっかり理解してないようだから単に語彙力が足りないだけかもしれないが……。
>>1がアドバイスをほしいって言ってる以上これ以上は言わないが、上から目線は止めた方が良いと思うぞ。
それと一方さんについてはやっぱりアレイスターが直接何かをしたというよりは、木原に追い詰められたってことだと思います。
この上条さんなら垣根(未元物質体)でも有利にたてそうだ
上条「再生するなら再生する前にダメージを与え続ければいい」みたいな理論で(根性理論だけど)
やっと追いついた…上条さんは学校行くのかな?
>>166
いえ、心理描写はよく伝わってきました。
言葉が足りなかったみたいですみません。
それと上から目線になっていたようで申し訳ないです。
アレイスターがベクトル制御装置云々って言うのは単純に一方通行を超能力を出力する「物」扱いしてるからではないでしょうか。
それと黒翼が出現するのは単純に追い詰められたから、では無く守りたい物が出来た一方通行の感情に強く影響されているのでは?
この時点の一方通行がそれだけのモノを持ってるのはちょっと考えにくいな、と。
>>167
上から目線で注意して頂いてありがとうございます。おかげで自分が上から目線だと気づく事が出来ました。
>>168さん
それどこかの第七位……。
上条と垣根についてはどうなんですかね?
未元物質体の垣根ですが『幻想殺し』で触ったら消えてしまうのか?
うーん、今や垣根は完全に人外キャラなので想像がつきません。
>>169さん
それについては今章の最後で少し触れたいと思います。
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
>>167さん>>170さん
ご意見ありがとうございます。
自分が気になったのはベクトル装置『に』という部分で、その表現だとアレイスターが一方通行に何らかしらの処置を施したように思ったわけです。
その点についてはやはり猟犬部隊による襲撃と考えるのが妥当なようですね。
そして黒翼についてですが一方通行の精神が深く関わっているのは間違いないと思います。
原作において一方通行が黒翼を使った場面を読み返してきたのですが、確かに一方通行が黒翼を使ったのは大事な人間が関わってきた場面だけなんですよね。
しかし他に気付いた点もあります。
>>167さんの仰る通り、全てある種の暴走状態にあるということです。
そこで>>1の独自解釈として翼自体は一方通行の激しい感情の起伏によって生じるものと、このssではそう位置づけます。
一方通行の精神状態は翼の色によって表わされるみたいですし、やはりそう考えるのが自分の中ではしっくり来ます。
>>170さんには申し訳ありませんが今さら出した物について引っ込める訳にもいかず、このような形に落ち着かせていただきます。
なるべく皆さんに納得していただけるようなssを目指しているので、今後ともこのように違和感を感じた点があれば教えていただけると幸いです。
ただなるべく喧嘩腰になるようなことは控えていただけると嬉しいです。
禁書というたくさんのファンがいらっしゃる作品を題材にした二次創作を書いている以上、中には自分の作品によって不快に感じる方も多く出てくると思います。
それでも自分はこのssを最後まで続けたいと思いますので、これからもよろしくお願いいたします。
俺も>>171の解釈が妥当だと思うな。
一方通行の翼は感情の性質ではなく、大きさによって現れるんだと思う。
まあこれはあくまでもssなんだし、こうやってしっかりと理由付けして貰えれば十分に納得できる。
偶にssの内容にケチを付けるのが他のss でも現れるんだけど、>>1は気にせずに続けてくれ。
それがアドバイスなのか内容に対するケチなのかは独自判断ってことで。
正直既に書かれた中身にとやかく言われても困るだろうしな。
続きを楽しみにしてます。
>>1が喧嘩腰やめてって言ってるそばからケチ付ける云々言うなっての。
感想に関しては他人が介入しようとするとろくなことは無いんだから。
後>>1はちっと腰が低すぎるかもね。もっと堂々として良いかも。頑張って。
>>171
別に不快に感じているとか書いた部分を訂正しろとかはありません。
もしその様に感じたんなら配慮が足りずすみませんでした。
それと挑発に乗って喧嘩腰な書き込みをして申し訳なかったです。
ここの>>1は応援したくなるわ
続きを楽しみに待ってます
俺個人の意見だが
黒羽=打ち止めを救いたいのに力が足りず力を求めるも未だに自分の過去に後ろめたさがあり暴走したため発動した。
白羽=過去を捨てるのでは無く背負うことで一歩踏み出し決意したため自分の意志で天使の力を行使した。
みたいな解釈なんだけど正直現場だと演算をMNWに頼って無いから普通に喋れそうって言うのと果たして個人(MNWなし)で羽が出せるのか?って言うのと現段階で後ろめたさを持っていない(?)のに(守るものが無いのに)羽を出せるのか?って言う疑問かなぁ……
あくまで疑問なので文句とかは全くありません。
むしろ続き楽しみなので頑張ってください
ごめん
羽は個人で出せそうだね……
何故にもう決着がついたことを蒸し返す?
既に>>1が翼については独自解釈で書くって言ってるじゃないか?
原作でも明記されてないことに目くじらを立てるのは止そうぜ。
>>1も>>173で書かれてるけど下手に出過ぎ。
こういっちゃなんだが所詮二次創作のssなんだから好きに書き殴ればいいんだよ!!
アドバイスを求めるのは構わないけど、>>1の対応のせいでこんな流れになってるのを自覚するべき。
せっかく滅茶苦茶面白いんだから、頑張って続けてください!!
>>178よ
あなたの言う通りだがsageてくれないか?
>>178
蒸し返すなって言うならそれは>>172にも言わんとダメだろ。
そういうの怠ると否定的な意見にばっかり噛み付く信者乙になってしまう。
それとは関係なく>>1に質問なんだけど、アイテム戦とか黒子・10031号に出会う時間帯はほぼ原作通りと思っていいの?
それだとちょっと疑問に思うところがあるんだけど。
>>180
過去レスくらい読み返せよ。
このssは時系列が異なってて、10031号にしたのは単に>>1が10031号が原作で一番可哀想だと思ったからってレスしてる。
それと>>172に関しては他の奴が既に諌めてるからじゃないの?
それに>>176は明らかに決着がついたことを蒸し返してる。
>>172は>>1に対してどうこうって言うより、前の感想に対してレスしてる。
少し性質が異なるだろ?
お前らマジでうるせえよ・・・
この殺伐とした雰囲気を殺せるのは>>1の妙に謙虚な対応だけだ。
早く何とかしてくれ!!
>>181
時系列が違うなんて知ってるよ、それを踏まえて聞いてるんだよ。
時系列じゃなくて時間帯を聞いてるの。
何でもかんでもすぐ噛み付くなよ……。
だったら早く質問すれば良いじゃないか?
ここの>>1は荒らしにさえ丁寧にレス返しするくらいだから、疑問に思ったならちゃんと説明してくれると思うぞ。
意外と>>184が疑問に思ってることが他の人間が不思議に思ってたことを解消するかもしれないし……。
蒸し返すつもりはなかったんだがな……
誰もかまちーがよく使う守るもの云々に直接的な質問投げてなかったから…
俺のせいで荒れたみたいだし1ヶ月此処ではROMってるわ
守るもの云々ってどういうこと?
本当に疑問に思ったなら、ちゃんとそれも含めて質問しなよ。
>>176の質問を見る限りだと>>170との違いをあまり感じない。
そして>>170への答えは>>1の独自解釈って形で一応ケリがついてるから蒸し返したって言われたんじゃないの?
違うんだったら、もう一回ちゃんと違いが伝わるように質問すれば良いじゃないか?
>>185
その前段階で時間を聞いたのさ。
このスレも例に漏れず否定的な意見言うとと叩く奴が出てくるみたいだからね。
きちんと穴が無いように質問しないと面倒くさい事になりそうだなー。
と思ったけどもったいぶってるみたいで俺も十分面倒くさいな。
と言うわけで>>180の質問を撤回して、戦闘等のイベントがほぼ原作通りと想定して>>1に質問。
美琴達が深夜に研究所を襲撃し、その後ハッキングをして実験スケジュールをゲット。この行動は早朝から朝、遅くても午前中には完遂してるよね。
なのになんで次の実験が「夜に行われる」10031次実験なのか?
これじゃまるでこの日は一回しか実験やってないみたいでモヤモヤして仕方ない。
いやまあ、物語の進行に影響は全く無いけどさ。
まあ否定的なことっていうか疑問に対して一々食い付くのは確かに面倒臭いよな。
ただ結局聞き方にも問題がある気がする訳よ。
例えばアンタの質問だけど、この日は一回しか実験をやってないみたいでモヤモヤして仕方ない。
それって普通に聞いたら質問というよりはケチにしか聞こえないよな?
まあ原作においては二日間の間に10020から10031まで実験が完遂されてるんだから、スケジュールがおかしいのは分かる。
でもこれはssなんだし、アンタも言ってる通り物語の進行には全く影響がない。
一日一回しか実験がない日があって何が悪いのか?
ちなみに>>1は実験のスケジュールについては把握してるって言ってたよ。
結局質問というよりは原作厨が揚げ足取ってるようにしか見えない。
別に質問自体は>>1がしても構わないって言ってるんだから良いと思う。
ただ質問の仕方と内容、>>1だって腰は妙に低いが人間なんだから、もう少し気遣ってもいいんじゃないか?
少し覗いていない間に色々とあったようで、自分のssのせいで本当に申し訳ない。
それでは軽くレス返しを。
>>172さん
納得していただけたようで安心です。
本当に勢いだけで書いてしまったことを申し訳なく思っています。
>>173さん
申し訳ありません。
>>1はありがとうと言うべきところもすみませんと言ってしまうチキンであります。
今後は少しスレの雰囲気も考えて改めなければなりませんね。
>>174さん
いえいえ、>>174さんが不快に感じていたなどとは思っていません。
ただ今回のレスを見るとそう感じてしまったことも少なからず出てしまったようで……。
今後も精進していきたいと思います。
>>175さん
本当にありがとうございます。
そう言っていただけると本当に励みになります。
>>176>>177>>186さん
本当にすみません。
もっと原作を読みこんでから不用意に黒翼を出すべきではありませんでした。
申し訳ありませんがこのssでは黒翼について>>171で答えたような独自解釈をさせていただきます。
>>178さん
はい、今すぐには難しいかもしれませんが少しずつ改善していきたいと思います。
自分のスレなので何とも言えませんが、少しずつスレの雰囲気がよくなるよう努めていきたいです。
>>179さん
自分もたまにsage忘れがあります。
その時はそのスレの>>1さんや他の読者の方に申し訳ない気持ちでいっぱいになります。
>>178さんも恐らく気にしてると思うので、他の方もあまり責めないでくださると嬉しいです。
>>180>>184>>188さん
原作との違いにおいて不快にさせてしまったようで、申し訳ありません。
確かに超電磁砲の原作を見るとこのスケジュールは破綻してますよね。
>>188さんの文面を見る限り、スケジュールの辻褄が合わないことが納得されていないようです。
まあ結局は>>1が上条さんと一方通行の戦いを夜にしたかったためだけの改悪です。
これが日中に実験を止める戦いをしていれば納得してもらえたのでしょうが、白井と10031号とのやり取りを入れるためにこのような形になってしまいました。
このssの実験のスケジュールについてですが、後付け設定で>>118において10031号が言っているように少なからず実験のスケジュールに乱れが出たと解釈していただけると幸いです。
ssである以上こういった原作と比べて破綻する箇所も出てくると思いますが、今後とも精進を続けていきますので今回の件についてはこれで納得していただきたいと思います。
>>181さん
中には一々自分のレスなど読んでいない方もいらっしゃると思います。
自分も>>188さんの質問については>>114のレスにて納得していただいていたものだと勘違いしておりました。
ただこういった場合もありますので、他の方のレスについては決めつけを行わないようお願いします。
>>182さん
自分の至らなさのせいでスレの雰囲気をこのようなものにしてしまいました。
今後対策を取りたいと思うので、よろしくお願いします。
>>183さん
本当にすみません。
自分の書いたssのせいで、中にはこの状況を不快に思ってらっしゃる方もいると思います。
少しずつですがスレの状況を改善できるよう頑張りたいと思います。
>>185さん>>187さん
色々とありがとうございます。
>>185さんと>>187さんの仰る通り、自分は答えられる範囲についてはしっかりと答えていくつもりです。
中には>>188さんの質問に対する後付け設定のような形になってしまうものもあると思いますが、今後ともよろしくお願いします。
>>189さん
確かにモヤモヤすると書かれると不快にさせてしまったようで、自分も不安になります。
色々と自分の身を案じてくれたようで本当にありがとうございます。
えっと色々あったようなのでここでこのスレにおける決まりごとを一つだけ定めさせていただきたいと思います。
>>173さんの言うとおり他の方の感想レスに対するレスは荒れる原因になります。
しかも荒れる内容が全て>>1の至らなさという不甲斐ない状況になっております。
そこで誠に申し訳ありませんが、>>1への質問レスに対するレスへは>>1以外一切レスしないでください。
多くの方が>>1を思いやってしてくださっていることは理解していますが、そのせいでスレが荒れてしまっては元も子もありません。
たかがssのスレ主が何様だという気がしなくもありませんが、ご了承ください。
続きは今日の11時くらいに投下します。
今後ともよろしくお願いいたします。
そうだね揚げ足取りだな。
でも正直それで?って感じだなぁ。
原作厨なんて言葉使って攻撃する人間が何言ってんだって感じ。
原作を意図して改変してるなら何とも無い。
けどちゃんと考えてやってるのか、間違えてるかもしれないと思った部分を気にするのは何故いけないんだ??
>>一日一回しか実験がない日があって何が悪いのか?
悪くないよ、ただし理由があればね。
理由も無しにそんな事ばっかりされたら内容が薄くなっちゃうじゃん。
気遣いは出来てないかもな、でもどうやって聞けばよかったんだ?
煽りとかじゃなく、そこの所教えて欲しい。
質問自体するな、ってのは無しな。
うるせーよ、作者以外が三行以上レスすんな
作者が諌めた直後にこの有り様。
それにしても内容が薄くなるって、ssで何を言ってるんだか?
まあそれだけこのssに期待してる裏返しかもしれんが……。
>>191は自分のレスが原作厨って呼ばれても仕方ないことを自覚してないんだろうな。
直前の>>1のレスも読めないとか。
まあ夏だからと言ったらそれまでだが……。
こういうのが湧くと>>1が気の毒になってくる。
ブーメランが飛び交ってるなあ。
>>1
とあるの時系列はもう日単位で定まってる上にSSや特典小説やゲームや映画という後付でさらに埋まっていくとかだから
わからなくなるのもしょうがないです。実際時系列をみるとまだ4か月ぐらいしかたってないのに学園都市侵入されすぎ
世界規模の災厄おこりすぎだろ、笑うしかないわ。
\ ヽ | / /
\ ヽ / /
‐、、 殺 伐 と し た ス レ に ワ カ バ タ ウ ン が ! ! _,,-''
`-、、 _,,-''
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>>190
おっと失礼、言われたそばから他人にレスしちゃったよ。
って言っても早速自分向けのレスも来てるけど、>>1への感想に対するレスじゃなければ縛りは無いのかな? なんて詭弁はともかく。
早速破った自分が言うのもなんだけど、見て分る通りそういうルールを決めてもあまり意味は無いと思う。特にスレの途中だし。
厳格にしたいんだったら>>1が厳しい態度でルールを破った奴をつるし上げるぐらいしないと。
まあそうなると俺が一番につるし上げられるな。
まあこれだけだとアレなんでタイムスケジュール破錠の件で一つ。
なんて作品だかは忘れたけど、前にそうやって指摘されてた部分を逆用して番外編を作って補完してた作者がいたよ。
>>1的にアリかナシかはともかく、そういう事例もあったというだけ。
例示も出来ないで参考もクソも無いんだけどね。
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/__/ ‘,
// ヽ ', 、
// ‘ ! ヽ …わかった この話はやめよう
/イ ', l ’
iヘヘ, l | ’
| nヘヘ _ | | l ハイ!! やめやめ
| l_| | | ゝ ̄`ヽ | |〈 ̄ノ
ゝソノノ `ー‐' l ! ¨/
n/7./7 ∧ j/ / iヽiヽn
|! |///7/:::ゝ r===オ | ! | |/~7
i~| | | ,' '/:::::::::::ゝ、 l_こ./ヾ.. nl l .||/
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| '" ̄ ̄iノ .l::::::::::::::::::::::∧ | ゝ ',
, 一 r‐‐l γ /、::::::::::::::::::::::::〉ー= ___ ヘ ヽ }
/ o |!:::::} / o` ー 、::::::::::::i o ,':::::::{`ヽ ヘ ノ
/ o ノ:::::∧ /ヽ o ヽ::::::::| o i::::::::ヽ、 / /
/ ノ::::::/ /::::::::ヽ o ヽ:::| o {::::::::::::::Υ /
ヘ(^o^)ヘ いいぜ
|∧
/ /
(^o^)/ おまいらがこれ以上スレを乱し
/( ) >>1や純粋に楽しんでいる読者を不快にさせるってなら
(^o^) 三 / / >
\ (\\ 三
(/o^) < \ 三
( /
幻想をぶち[ピーーー]
えっと遅くなってすみません。
これから投下は始めたいと思います。
その前に少しレス返しを……。
>>191>>198さん
番外編ですか?
残念ながら>>1にそこまでの力量はないように思います。
今回の件では不快な思いにさせてしまって本当に申し訳ありませんでした。
今後はなるべくこういった事態にならないよう気をつけていきたいと思います。
>>192さん>>193さん>>194さん>>195さん
本当に申し訳ありません。
全て>>1の至らなさが招いた事態です。
今後もこのようなことが起こる可能性は否定しきれませんが、これからもよろしくお願いいたします。
>>196さん
そうですね、禁書は日単位でスケジュールが決まっているため中々原作通りに進めるのは難しい部分があります。
wikiなどを見れば今回のような事態にはならなかったと思うのですが、下手に時系列を弄ったり上条さんを介入させたせいで破綻する部分が出てきてしまいました。
これからはもっと注意深く精進していきたいです。
>>197さん>>199さん>>200さん
和ませていただいてありがとうございます。
>>197さんのAAについては家の配置などを見るとワカバタウンというよりマサラタウンのような気が……。
何故かあるタケシの文字が気になります。
では投下します。
第8話 下された罰
それで全てが終わる筈だった。
本当は心の奥で望んでいた自分を止めてくれる存在……。
しかし一方通行が望んだ結末は『一方通行』によって破壊される。
一方通行の脳裏に浮かんだのは一万を超える人の姿を模した壊れた人形達。
思わず振り返った先にあったのは真っ赤に染まった血みどろな道。
遠い昔に壊れた何かが更に音を立てて粉々に崩れていく。
右脳と左脳が割れた気がした。
切り開かれたその隙間から、何か鋭く尖ったものが頭蓋骨の内側へ突き出してくる錯覚が一方通行の中を駆け巡る。
脳に割り込んだ何かはあっという間に一方通行の全てを呑み込んでいき、今まで微かに存在した人間としての一方通行は既に存在しなかった。
そこにあるのは純粋な破壊者としての『一方通行』のみ。
果物を潰すような音と共に『一方通行』の目から涙のようなものが溢れる。
しかしそれは涙ではない。
もっと赤黒くて薄汚くて不快感を催す鉄臭い液体。
涙腺から零れるものすらも、『一方通行』にとっては既に不快なものでしかなくなっていた。
そして訪れるのは一つの暴走……。
・
・
・
それを上条が避けることができたのは単なる偶然でしかない。
目の前に広がる異様な光景。
『一方通行』を中心に漆黒の翼が一瞬にして数十メートルに渡って展開される。
その光景の前では取るに足らない些細な瞬間。
『一方通行』が上条に向かって壊れた筈の左腕を突き出した。
その『一方通行』の緩やかな動きに上条は凄まじい悪寒に襲われ、『一方通行』から逃れるように大きく後方に距離を取る。
そして上条が飛び退いた瞬間、上条の今まさにいた場所が文字通り潰れた。
何が起こったのかは分からない。
操車場に転がる石が粉々に押し潰され、まるでそこだけ重力が増したかのように大きく地面がめり込んでいた。
「くっ!!」
上条に対して左手を向け続ける『一方通行』から逃れるように上条も動きを止めない。
そして上条の後を追うように地面が不可視な力によって抉られていく。
左脚を負傷している上条にとっていつまでも謎の力から逃げ続けるのは状況を不利にするだけだった。
この状況を打破するために上条は謎の力から逃れつつ、一方通行への接近を試みる。
しかし上条が『一方通行』への距離を縮ると、今度は漆黒の翼が上条に向かって振り下ろされる。
どういう能力なのかは理解できないが、あの翼も恐らく異能の力であることには違いない。
上条は自らの右手で打ち消すべくヒビの入った右腕を持ち上げる。
それだけで黒翼は打ち消され前に進める筈だった、しかし……。
「ぐっ!?」
上条の身体は圧倒的な力によって押し潰されそうになる。
黒翼に向かって突き出した右腕が軋みながら悲鳴を上げていた。
『幻想殺し』が黒翼に対して作用してるのは間違いない。
しかし『幻想殺し』の処理速度を上回る圧倒的な力が上条に襲い掛かっていた。
異世界での戦いを含めても『幻想殺し』が異能の力を完全に打ち消せないのは初めてのことで自然と上条の表情は引きつらざるをえない。
そして動くことができない上条に向かって二本目の翼が迫りくる。
身動きが取れないままでは二本目、あるいはそれに追随してくる黒翼によって塵にされるのは時間の問題だ。
ヒビの入った右腕も限界に迫りつつある。
そして上条は一つの決断を下した。
圧倒的な力を受け止めるのでも打ち消すのでもなく……往なす。
上条は黒翼を受け止めていた右手を身体ごと横に逸らし、黒翼による重圧から逃れた。
上条という土台を失った黒翼は上条のすぐ隣へと振り下ろされた。
しかし黒翼の直撃は逃れたものの、その衝撃まで消えた訳ではない。
黒翼が地面へと衝突した衝撃により周囲の石が飛散し上条へと襲い掛かる。
現状において上条にそれらの石を回避する手段はない。
硬氣功により身体の強化はしているものの、飛散した石のスピードは凄まじく上条の体に大きな衝撃を与える。
また硬氣功によって強化できない右腕はズタボロの状態になっていた。
それでも止まる訳にはいかない。
「うおおぉぉっ!!!!」
戦いにおいて普段は冷静を心がけている上条が吠えた。
上条は走りながらも襲い掛かる黒翼の動きの分析を続ける。
躱せるものと避けられないものを見極め、時に黒翼を回避し、時に黒翼を往なしながら『一方通行』への距離を詰めていった。
やはり黒翼による衝撃は確実に上条の体に深い傷を負わせていく。
しかし上条が止まることはない。
上条は自分の意思を貫き通すために目の前の現実と戦い抗い続けることを知っていた。
そのためには多少の傷を負わなければならないことも……。
そして結局最後まで倒れることのなかった上条の右拳が『一方通行』の顔面を再び捉える。
しかし満身創痍な上条から放たれたのは先ほどの一撃に比べ遥かに弱々しいものだった。
それでも『一方通行』の現実を殺すには十分なものだった。
・
・
・
目の前に立つ少年の言葉の全てが気に入らなかった。
傲慢な言葉と態度、全てを思い通りにできるような不遜な振る舞い。
それは全て現実を知らない強者ゆえのものだと思っていた。
だから壊してやりたかった。
力と意思だけで現実を変えることができるというその幻想を……。
「……」
目を覚まして『一方通行』の目に入ってきたのは星空だった。
学園都市内でもここは人工の光が少ないのか、ハッキリと星の瞬きが確認できる。
そして視界の端には忌々しい存在である上条の姿が映っていた。
「……殺せェ」
世間知らずな餓鬼の幻想を打ち砕くために『一方通行』は力を求めた。
そしてそれは暴走という形で『一方通行』に齎された。
黒翼という形で現れたその力の正体は分からない。
一つ確実に言えることは例え自分を見下ろす上条がどんな力を持っていようと、人間一人を壊すには有り余る力だということだ。
しかしその力を持ってしても『一方通行』は上条の幻想を殺すことができなかった。
単純な力の大きさでは『一方通行』が確実に勝っていただろう。
実際に上条の姿はボロボロで立っているのもやっとに見える。
しかし現実に立っているのは上条で、倒れているのは『一方通行』の方だった。
『一方通行』は負けたのだ。
上条の力にではなく、文字通り上条の強い意思によって……。
「俺が死ねばこの実験そのものが破綻する。 そォなれば人形共も晴れて自由の身って訳だァ。 ……尤もクローンである人形共にこの先マシな人生が待ってるとは思えねェがな」
「俺も美琴もその現実と戦う覚悟はある。 実験を止めるためなら、その責任は背負っていくつもりだ」
「ハッ、笑えねェ」
上条の言葉には何の根拠もない。
しかしそれを実際に成し遂げるための強い意思は感じ取れた。
「それにお前を裁く権利があるのは俺じゃない」
すると上条の隣に二つの影が並び立つ。
瓜二つの姿をした二人の少女、美琴と10031号だった。
上条と『一方通行』の戦いによる凄まじい轟音が止み、戦いが終わったことを悟ってこの場に再び戻ってきたのだ。
そして10031号が倒れている『一方通行』に向かって一歩進み出た。
「人形に殺らせるとはイイ趣味してるじゃねェか? そォだな、オマエラには俺を裁く権利がある。 反射は切ってやるから、電流で焼くなりお得意の銃器で撃ち抜くなり好きにしやがれ」
「ミサカ達はアナタが仰る通り人形に過ぎません」
「はァ?」
10031号の言葉に『一方通行』は思わず声を上げる。
上条に敗れたことにより『一方通行』の中で第一次実験によって壊れた何かが形を取り戻そうとしていた。
しかしその何かが再び10031号の言葉によって再び崩れ落ちそうになる。
「ミサカ達は九九六九人全ての個体が他のミサカと脳波リンクで精神的に接続しており、その脳波リンクが作るミサカネットワークと呼ばれる精神ネットワークのようなものを構築しています」
「それがどォしたってェンだ?」
「ミサカネットワークとは巨大な一つの脳のようなもので、それが全てのミサカ達を操っている、そう言えば理解していただけるでしょうか?」
「……」
一方通行は10031号の言葉に黙りこむ。
しかし10031号は『一方通行』のその様子を特に意に介した風もなく説明を続けた。。
「ミサカ単体が死亡した所でミサカネットワークそのものが消滅する事はなく、人間の脳に例えるならミサカは脳細胞で脳波リンクは各脳細胞の情報を伝達するシナプスのようなものです。脳細胞が消滅すると経験値としての思い出か消えるのでもちろん痛みを感じますが、ミサカネットワークそのものが完全に消滅する事はありえません、ミサカが最後の一人まで消滅するまでは……」
「本当ォに救われねェな。 オマエラ人形共のことじゃねェぞ、オマエラのためにそンなズタボロになってまで戦ったそこの偽善者のことを言ってるンだ。 守ろォとしたモン自体に、それを否定される。 結局ソイツがやったことは無駄骨で馬鹿を見たって訳だァ」
『一方通行』は上条の方へ顔を動かして視線を向ける。
しかしその表情は少しも苦痛に歪んでおらず、それが却って『一方通行』を苛立たせる。
「そうですね。 ミサカ達を救うために命を懸けて戦ってくれたこの少年や、ミサカ達の本当の姉になりたいと言ってくれたお姉様を否定する言葉だということはミサカも分かっています。 ……でもだからこそミサカはその想いに応えられるようになりたい!!」
「っ!?」
10031号の言葉に『一方通行』は思わず息を呑む。
それは今まで一万を超える『妹達』と対峙してきた『一方通行』にとっても初めて耳にする『妹達』が初めて自分の意思を口にした瞬間だった。
やはりその表情からは何の感情も読み取ることはできない。
しかしその目にはハッキリと強い意思が宿っていた。
「本来アナタはミサカ達にとって仇に当たるのでしょう。 しかしミサカ達はミサカが一〇〇三〇回アナタに殺されたという事実を理解できても、それに伴う感情がまるで湧き上がらないんです。 それでは人形と言われても仕方がありません、とミサカはアナタの言葉を肯定します」
「……」
「この少年はすぐに生きる理由を見つける必要はないと言いました。 生きて欲しいと願ってくれている存在がいる、それだけで生きる理由は十分だと……。 確かにミサカ達は人形ですが、この少年とお姉様の想いのためにもこれ以上一人たりとも死ぬことはできない……それが今のミサカ達の総意です」
「……そォか、だったら尚更俺は死ななくちゃならねェな。 俺が生きている限りは実験を完全に止めることはできねェぞ」
「……ミサカ達はアナタに全てを背負わせるつもりはありません。 そもそもアナタがいなければ『実験』は立案されず、傾きかけていた『量産型能力者計画』が再び拾い上げられる事もなかったはずですから」
「だからって俺がオマエラを一万回以上殺した言い訳にはならねェだろォが!!」
『一方通行』は思わず声を荒げる。
『一方通行』の中にある何かは大きく揺らいでいた。
完全に崩れ去りそうになったり、形を取り戻しつつあったり……。
そしてその何かは10031号の言葉によって大きく悲鳴を上げた。
「最初にミサカがアナタと戦った時、アナタはミサカに少なくとも止めまで刺そうとはしませんでした。 しかし第二次実験以降のアナタはまるで楽しむようにミサカ達をいたぶるようになった」
「それがどォしたってェンだ!!」
「これは推測に過ぎませんが、ミサカの死が必要以上にアナタを追い詰めてしまった、とミサカはミサカ達全員による推察を述べます」
「……」
「だからミサカ達はアナタにある提案を持ちかけます」
「……聞くだけは聞ィてやる」
「アナタが何のためにレベル6を目指したのかミサカ達は知りません。 しかしそこにどんな理由があれどミサカ達はこれ以上死ぬ気はない。 だからアナタにはミサカ達のことを見極めるまでは実験を中断していて欲しいのです」
「どォいう意味だ?」
「ミサカ達はこれから自分自身で生きる理由を探していく予定です。 そしてそれを見つけられた時、ミサカ達がまだ人形なのかどうかアナタの目で見極めてください」
「もし俺がオマエラのことを人形だって判断した時は?」
「その時は実験を再開してくださって構いません。 ミサカ達は人形としてアナタの役に立ちましょう」
「……ハッ、えげつねェな」
「申し訳ありません」
「まァいい、それがオマエラが選んだ俺に対する罰ってェなら甘ンじて受けてやる。 そこの偽善者とオリジナルはそれでいいのかァ?」
『一方通行』の言葉に今まで黙っていた美琴が一歩前に出て10031号に並ぶ。
そして10031号の肩を抱きながら『一方通行』に向かって言い放った。
「私はアンタと立場の違いはあれ、同じ加害者だって点は変わらない。 だから私にはアンタを糾弾する資格はない。 ……でも私はこの子達との未来を絶対に諦めない。 だからもしアンタがこの子達を人形だって判断するようなことがあれば、今度は自分の力でアンタの前に立ち塞がるわ」
美琴の言葉を受けて上条も静かに『一方通行』に言った。
「さっきも言ったが俺は自分のエゴでコイツに死んで欲しくないと思った。 だから例えお前やコイツがどんな決断をしようと『妹達』のために俺は自分のエゴを貫き通すつもりだ。 ……まあ、そんな事態にはならないと思うけどな」
「……くだらねェ」
こうして『絶対能力進化』は『一方通行』に対する『妹達』の裁きという形で一時的に中断することとなった。
結果として実験そのものを中止に追い込むことはできなかったが、『一方通行』の顔を見た上条はもう実験が繰り返されることはないと悟っていた。
そして何だかんだ言って満身創痍だった上条は病院へと運ばれ、そこで一晩過ごすこととなるのだった。
以上になります。
今回の投下について10031号が言っていることは無茶苦茶な内容になっております。
しかしそこについては敢えてそのような形を取らせていただいています。
今回の投下についても疑問に思ったりした点については気兼ねなくお尋ねください。
感想お待ちしてます。
>>1乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙
バン バンバンバンバンバンバン゙ン バンバン
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン
バン バンバンバン゙ン バンバン
バン(∩`・ω・) バンバンバンバン゙ン
_/_ミつ/ ̄ ̄ ̄/
\/___/ ̄
一方通行とっとと[ピーーー]
雨にも負けず風にも負けず
夏の暑い日にも雪の日にも負けず
……そしてアホにも負けず
乙です!!
一方と10031号の会話ですが、そこまで違和感は感じませんでしたよ。
ただ打ち止めの存在意義がw
ここでは打ち止めがまた違った役割を果たしてくれそうなので楽しみにしてます!!
相変わらず上条さんカッケー
続きを楽しみにしてます!!
乙です!!
次回でこの章は完結かな?
早く魔術サイドとの絡みも見てみたいぜ。
乙です
どこが罰?何も裁かれてなくね?って思ったけど、これもわざとなのかな
原作の御坂妹とはかなり違った立ち位置になりそう
一方通行は死ぬことを望んでたのに、生かされたってこと自体が罰なんじゃないかな?
それに10031号は自分達の死が一方通行を追い詰めたって分かってるのに、もしもの時はまた自分達を殺せって言ってる。
一方通行からすれば生殺し状態のこの上ない罪でしょ?
>>214
確かに何もってのは言い過ぎだったな
被害者(遺族?)から「お前だけのせいじゃない」みたいなフォローされて、再開の決定権も自分にあるのに裁きなのか?って疑問がね
まぁ個人的に、「贖罪キャラは理解者無しで、罵倒されてもその道を貫く方がおいしい」って考えだから気になっただけかも
所詮書き手でもない人間の感想だから、あんまり気にしないで
どうもお久しぶりです。
最近は忙しくて中々更新することができませんでした。
今日の深夜から明日の朝までの間に第1章の最終話を投下する予定です。
レス返しはその時にまとめてさせていただきます。
よろしくお願いします。
OK!!
楽しみに待ってるぜ。
>>222
待ってました。
頑張って。
待ってるよ
どうもお久しぶりです。
最近ますますブラック度に磨きがかかったように思う会社で今日も残業の>>1です。
日々の疲れを今月発売の超電磁砲9巻と来月発売の新約8巻、そして皆さんのレスを支えに乗りきっています。
それでは投下の前に恒例のレス返しを……。
>>208さん
いち早い感想レスありがとうございます。
今まで自分はAAというものを知らなかったのですが何だか癒されますね。
これからもよろしくお願いします。
>>209さん
一方通行は自分もかなり書きにくいキャラだと思っています。
原作における一方通行のキャラも正直>>1は把握しきれていないような気がします。
色々な面でデリケートなキャラなので、原作を今まで以上に読み込んでいきたいと思っています。
>>210さん
宮沢賢治ですね?
自分は宮沢賢治の作品の中でも雪渡りと銀河鉄道の夜が大好きです。
あれっ、妹達編を読み返してたら急に永訣の朝が思い浮かんできた。
>>211さん
そう言っていただけると幸いです。
以前も言われてましたが、>>1は可哀想な厨二病です。
そんな>>1の妄想ssに最後まで付き合ってくれると嬉しいです。
>>212さん
はい、今回で第1章は終わりです。
今後はもちろん魔術サイドとも関わっていくことになります。
これからもよろしくお願いします。
>>223さん>>224さん>>225さん
ありがとうございます。
こんな拙いssですが、楽しみにしていると言っていただけると本当に嬉しいです。
そして最後に一方通行の罰について……。
初めてここでレス返しを控えさせていただきます。
というのもこのssにおける主人公はもちろん上条さんですが、一方通行が絡んでくる話も中には存在します。
その話において一方通行の罰について言及してしまうと、どうしても少々ネタバレを含んでしまうのです。
中には勘付いている方もいらっしゃるようですが、確かに一方通行と関わるキャラは原作と立ち位置が異なるキャラが出てきます。
それについてはもしかしたら不快に感じる方もいるかもしれません、ご了承ください。
ではいつものように長々とした前置きになってしまいましたが、第1章の最終話を投下したいと思います。
第9話 物語の始まり
「……ふむ。 左脚は脛骨骨折、右腕は粉砕骨折とまではいかないものの広い範囲でヒビが入っているね。 しかしどうやったらこのような怪我をするんだい? 特に右腕は何かを殴った跡があるようだけど、普通の人間の力では何かを殴ったとしてもこのようなヒビの入り方はしないよ」
何処か呆れた様子でレントゲンを見ながら呟くカエル顔の医者に対して上条は苦笑いを浮かべる。
『一方通行』との激闘を終え病院に運び込まれた上条は負った傷の深さから緊急入院という形になった。
そして一通りの検査を終え一先ず体を休めることになった上条は翌朝になってカエル顔の医者から診断結果を聞かされていたのだった。
上条の後ろには美琴と10031号も付き添っている。
「それと頼まれて調べた君の学園都市におけるIDだけど、確かに君は五年前に行方不明になった扱いを受けているがIDそのものはどういう訳か紛失されてない。 尤も保険など、その他の学園都市における社会保障は完全に切れてるから治療費は嵩むことになるけどね」
「……不幸だ」
上条はカエル顔の医者の言葉に思わずそう呟く。
今現在お金を一銭も持ち合わせていない上条は、その場は取り敢えず美琴に治療費を立て替えてもらう形となった。
美琴は自分が払うのが当然だと言い張ったが、上条は自分のために負った傷だからと譲らない。
そして少しギクシャクし始めた二人を諌めるようにカエル顔の医者は本題に入るべく話を始めた。
「まあ君の傷は僕が責任を持って完治させるから特に心配ない。 ……問題は『妹達』の方だね」
カエル顔の医者の言葉に美琴の顔色が変わる。
そして思わず美琴は隣に立っていた10031号の服の袖を無意識に掴んでいた。
美琴の様子に10031号は少し驚いた表情を浮かべるが、袖を掴んでいる美琴の手を優しく両手で包み込む。
「そこの10031号君の体について少し診察をさせてもらってね。 『妹達』は御坂君のDNAマップを元にして作られたクローン体だ。 本来ならクローンであること自体は体に対する影響は特にない。 ただ『妹達』は生まれてから様々な薬品を投与することで急速に成長を促していてね。 そのことによって体全体のホルモンバランスが崩れ、異常な速度で細胞が分裂を繰り返している。 ハッキリ言ってこのままでは長生きはできないね」
「そんなっ!?」
美琴の顔色がみるみる青褪めていく。
10031号も表情には現れないものの、僅かに憂いを帯びているようだった。
しかしカエル顔の医者はそんな二人に明るい口調で力強く言った。
「でもそこまで深刻になる必要はない。 要は急速な成長を促すホルモンバランスを整え、細胞分裂の速度を調整してやればいいだけだ。 しばらく治療は必要になるけど、それで寿命を回復させることは可能だよ」
「本当ですか!?」
「僕を誰だと思ってる? 患者のためなら何だってするのが僕の信条だ。 ただ流石にこの病院で九九七0人全員の治療をすることはできないから、殆どの『妹達』には外部の協力機関へ移動してもらう形になるけどね」
「それについては構いません。 どのミサカが学園都市に残るかで一悶着ありそうですが、今は何よりも体を治すのが先決です。 とにかく今は生きること、これがお姉様とこの少年との約束ですから」
「協力機関への申請は既に済ませている。 治療は早いに越したことはないから他の子達にも準備を急がせなくてはならないね」
『妹達』の大半が学園都市の外に出る。
そのことに美琴は少し表情を曇らせた。
できることなら『妹達』の全員と少しずつでも姉妹として親交を美琴は深めていきたいと思っていたのだ。
そんな美琴の心情を察したのか10031号が隣に立つ美琴に向かって言った。
「大丈夫です、お姉様。 ミサカ達はミサカネットワークを通じて記憶を共有しています。 学園都市に残ったミサカとお姉様が親しくしてくだされば、それは全ミサカの思い出となりますから」
「……ありがとうね、気を遣ってくれて。 でもそういうことじゃないの。 例え記憶を共有していたとしても、あなた達は全員が別々の命を持っている違う人間なのよ。 死んでいった子達も含めて二万人全員が私の大切な妹。 確かに一人一人と時間を作るのは大変だと思うけど、できることなら全員と姉妹としての時間を過ごしたかった」
「……ありがとうございます。 今のミサカ達にとってはそのお姉様の言葉だけで十分です。 絶対にミサカ達全員がお姉様との時間を過ごすためにも体を治して帰ってくることを約束します。 だからそんな顔をしないでください。 妹は姉の姿を見て育つものだと聞きました。 だからまず初めにミサカはお姉様から笑顔というものを教わりたいと思います」
「そうね、あなた達には色々なことを教えてあげなくっちゃね」
そう言うと美琴は10031号に微笑みかけた。
すると10031号も美琴の表情を真似たのか、ぎこちないながらも確かにその表情に笑みが生まれる。
そんな二人の様子を見ると自然と上条にも笑みが零れるのだった。
しかし上条の表情には誰にも気付かれない程度の翳りが差していた。
「それじゃあ俺は今後の身の振り方について少し先生に相談があるから、適当に時間を潰しててくれ」
「えっ、それなら私も一緒に……」
「男には男同士でしかできない話がある訳ですよ。 それとも思春期真っ盛りの女子中学生はそういった話に興味津津なのかな?」
「ちょっ、何言ってるのよ!? ったく、こんな馬鹿は放っておいてさっさと行きましょ!!」
美琴はカエル顔の医者に向かって一礼すると10031号の手を引っ張って診察室から出ていく。
10031号も美琴にならって一礼すると、その後に続くのだった。
そして美琴と10031号が診察室を出たのを確認すると上条はカエル顔の医者へと向き直る。
「残念だけど、僕には男を相手にするそっちの気はないよ」
「そんなの俺にだってありませんよ」
上条はカエル顔の医者の言葉に嘆息を吐く。
しかしすぐに佇まいを正して、何処か相手を探るような目つきでカエル顔の医者に尋ねた。
「単刀直入に聞く、アンタはこの件にどこまで関わっている?」
「どういう意味だい?」
「普通九九七0人のクローンなんて話をいきなりされても真に受ける人間なんていない。 だがアンタは『妹達』の話を聞かされても、全く驚いた様子がなかった……まるで最初からその存在を知ってたかのようにな」
「……」
「『妹達』の治療についてもそうだ。 俺は医学について詳しい訳じゃないから確信を持って言えないが、ホルモンバランスを整えて細胞の分裂を抑える治療なんて簡単にできるのか? 仮に学園都市の技術でそれが可能だったとして、外部の研究機関でそれが可能なのか、そんなにすぐ治療の準備ができるのか。 正直言って俺はアンタのことを実験の関係者なんじゃないかと疑ってる、いつでも実験を再開できるように『妹達』の治療を引き受けたんじゃないかって」
「前兆の感知」はどうなるんだろうか……
すでに持ってそうだ
「……君は今回の件で学園都市の闇の一端を知った訳だが、学園都市そのものについてはどのように考えている?」
突然の問い掛けに上条は眉を顰める。
そして何と答えるべきか悩む上条にカエル顔の医者は言葉を続けた。
「科学の力によって超能力が使えるようになる。 それだけ聞けば夢のある素晴らしいものに聞こえるかもしれない。 しかしそれは端的に言えば人体実験に付加価値を付けて正当化しているようなものだね。 そしてその人体実験を受けても六割の人間が何の力も発現せずに無能力者という形でコンプレックスに苛まされていて、能力が発現しても今回のように最悪の形で力が利用される可能もある。 一見、学園都市は夢の溢れる学生の街に見えるかもしれない。 だが本当は今回のような実験こそが学園都市の本質を表しているということだね」
上条は黙ってカエル顔の医者の話を聞いていた。
カエル顔の医者の話は奇しくも上条がこの世界に帰ってきてから抱いていた学園都市への疑念と殆ど同様なものだった。
訝しげな表情を浮かべたままの上条にカエル顔の医者は何処か自嘲気味に話を更に続ける。
「僕は医者だ。 そのことに責任も誇りも感じている。 だけど所詮医者でしかないんだよ。 どんな病気や怪我を治すことができても、人の心を救うことまではできない。 そして結局それが今の現状に全て繋がっている」
カエル顔の医者の表情は何かに対し後悔しているのか、苦渋に満ちたものだった。
上条にはカエル顔の医者が何を後悔しているのかは分からない。
しかし目の前の人間が命を蔑ろにしたり、責任を放棄するような人間には見えなかった。
上条はカエル顔の医者にその真意を確かめるように尋ねる。
「アンタの過去に何があったかは知らない。 でも本当に『妹達』のことを任せていいんだな?」
「必ず『妹達』の体は治してみせる。 でも彼女達を真の意味で救えるのは御坂君と君だけだ。 どうか彼女達の支えになってあげて欲しい」
カエル顔の医者が何かを隠しているのは間違いない。
ただし今までの言葉に偽りがないことは上条にも分かった。
上条はカエル顔の医者を正面から見据えると、彼に向かって謝罪の言葉を口にした。
「……失礼なことを言ってすみませんでした。 先生、どうか『妹達』のことをよろしくお願いします」
そう言って深く頭を下げた上条にカエル顔の医者は力強く頷く。
笑顔を浮かべたカエル顔の医者に笑顔を返すと、上条は再び一礼して診察室を出て行くのだった。
そして一人になったカエル顔の医者は彼以外は誰もいない診察室で誰かに話し掛けるように呟いた。
「……僕は弱い人間だ。 医者という命を最も尊ぶべき職業にある人間なのに、あの実験を知っていながら止めることをしなかった」
もちろん誰もいない診察室で呟いても返事は返ってこない。
だがカエル顔の医者はやはり誰かに語りかけるようにして呟き続ける。
「彼は君にとってのアキレス腱になり得るかもしれないね。 ……いや、こういった他人任せな考えをしている時点で僕はやはり医者として失格なのかもしれない。 本来君を止めなければならないのは、君を救った僕の責任なのだから。 患者を救うためなら何でもすると豪語しながら、結局はその言葉に縛られて身動きができずにいる。 君の目に今の僕はどのように映っているんだろうね?」
カエル顔の医者はそう言って大きく息を吐いた。
そして自分の頬を両手で挟むようにして叩くと、顔を上げ正面をしっかりと見据える。
「さて、無駄話はここまでだ。 今は彼との約束を守るためにもしなければならないことが沢山あるからね」
そしてカエル顔の医者は机に向かうと、『妹達』の治療のために必要な手続きの書類に筆を走らせるのだった。
・
・
・
上条と美琴は病院の中庭にあるベンチに腰掛けて特に喋ることもなく空を見上げていた。
10031号は『妹達』の治療の方針を定めるためにカエル顔の医者によって再び診察を受けている。
そしてその間暇になった上条と美琴はこうやって暇を潰しているのだ。
「刀夜さんと詩菜さんにはもう連絡した?」
すると美琴が突然思い付いたように上条に尋ねた。
本来なら上条と再会した時点ですぐに連絡させなければならなかったのだが、色々と巻き込んでしまったせいで上条を束縛してしまっていた。
「ああ、さっき病院の電話でな。 明日にはこっちに来るってさ」
「……そっか。 刀夜さんと詩菜さんには謝らなきゃいけないわね。 私のせいでそんな大怪我させちゃったんだし」
上条の右腕と左脚にはギブスが装着されており、服に隠れて見えない位置にも多くの痣が残っている。
内氣功による独自の治療は続けているものの、完治にはもう少し時間が掛かりそうだった。
そして上条のその姿を見る度に美琴は罪悪感に苛まされる。
美琴は上条と『一方通行』による後半の戦いを直接見た訳ではない。
ただ遠くから見えた謎の黒い噴射と荒れ果てた操車場を見れば、二人の戦いが尋常でなく激しいものだったことが窺える。
そんな戦いを上条に押し付けてしまった自分の無力さが美琴は恨めしかった。
すると上条は突然美琴の頭をクシャクシャと撫で始めた。
上条の突然の行動に美琴は抗議の声を上げる。
「いきなり何すんのよっ!?」
「何だ、昔は頭を撫でられるのが好きだったじゃないか?」
「アンタがいなくなってから五年も経ってるのよ。 いつまでも子供扱いしないでよね!!」
「悪い悪い、つい昔の癖でな。 それにしてもあれから五年も経ったのか……」
そう言って上条は再び空を見上げる。
上条は異世界での出会いと別れ、そして己の罪とこれから為すべきことに思いを馳せていた。
その表情は何処か憂いを帯びており、自然と美琴の胸を締め付ける。
「でもまあこうやって美琴と話してると帰ってきた実感が湧くよ。 ……本当はもっと早く帰って来れれば良かったんだろうけどな」
「ごめんなさい、あの時は色々と動揺してて……」
美琴は上条と再会した時に浴びせた罵声について謝罪する。
上条には何の責任もないにも拘らず美琴は上条を糾弾するようなことを言ってしまっていた。
しかし上条は罵倒されても、実験の原因が美琴にあることを知っても美琴の味方であり続け、最後には実験を止めるために単身『一方通行』へと立ち向かった。
そのことに美琴は言葉に表せないくらい感謝の念を抱いている。
しかし改めてお礼の言葉を口にしようとしても妙な気恥ずかしさに見舞われ、中々言葉にすることができない。
そんな美琴の心情を知ってか知らずか上条は美琴に向かって微笑みながら言った。
「気にすんな、あの状況で普通でいられる方がどうかしてるだろ? それに俺は自分のために戦ったんだ。 俺が怪我したことにお前が責任を感じる必要なんてないんだぞ?」
「でも……」
「まあ男にとって大事な女の子のために怪我するのは名誉の負傷ってことだ。 大切な幼馴染みのお前や『妹達』を救えたんだから、この程度の怪我は安いもんさ」
「……うん」
大事な女の子と言われて美琴は頬が火照るのを感じる。
幼馴染みと言っているからには上条にとってそれ以上の意味はないのだろうが、どうしても意識せずにはいられない。
そして上条の次の言葉が美琴の混乱に拍車を掛けた。
「それにしても五年か……。 まあ2つしか違わない俺が言うのもなんだけど、美琴ももう中学生なんだもんな。 路地裏で会った時はすぐに美琴だって分かったけど、何だその……綺麗になっててビックリしたよ」
美琴の思考回路は既に限界だった。
そして演算能力の限界を超え、能力の暴発が起きそうになったその時……。
「ただ……78・56・79ってとこか」
上条が言った謎の数値に美琴は少し冷静になったのか、考え込むようにして訝しげな表情を浮かべる。
しかしすぐに何か思い当ったのか、みるみる顔を赤くして上条に向かって怒鳴りつけた。
「何でアンタが私のスリーサイズを知ってるのよっ!?」
「い、いや、目測で何となく?」
「目測で服の上から正確なサイズが分かるかぁーーーーっ!!!!」
「あれー、やっぱり娼館ギルドで暁月に付き合って女の子達の下着の見立てや着付けをやってた経験が……」
「ギルドって何? それに娼館ってやっぱりあの娼館よね? そこで女の子達の下着の見立てや着付けをしてたって……アンタはこの五年間で何処で一体何をやってたんだ、ゴラァァァ!!!!」
「ちょっ、何で美琴さんは帯電してるんですか!? ああっ、もうっ!! 何て言うか不幸だあぁぁーー!!!!」
そして上条と美琴による果てしない追いかけっこが始まる。
上条が元の世界に戻ってから初めて関わった事件はこのようにして幕を閉じるのだった。
しかしこの事件はこの先巻き起こる世界を揺るがす大きな事件の序章に過ぎない。
やがて上条と美琴が暮らす学園都市とは真逆の場所に位置する世界も巻き込んで、この世界は急速に加速を始める。
科学と魔術、そして異世界の勇者が交わるとき……物語は幕を開ける。
以上になります。
今回書きたかったのは美琴と10031号の絡みになります。
何かと乗り越えなきゃいけない壁が多い姉妹ですが、最後は気持ちのいいハッピーエンドを目指したいと思います。
おっと投下の最中に質問が。
>>230さん
異世界でも上条さんは異能が入り乱れる戦いを経験してますからね。
そこら辺についてはスレ中で少しずつ説明できたらと思っています。
それでは最後に……。
またいつものように疑問に思った点や改善した方がいい点などについてご意見を募集しております。
感想をいただけると嬉しいです。
……今週末は休日出勤があるから投下は難しいかも。
今日の夜に第2章第1話を投下します。
レス返しもその時にまとめてさせていただきます。
多分11時くらいになると思います。
すみません。
忙しくて今まで見れてなかった超電磁砲s第17話の録画を今になって見ました。
すると今後の展開に活かせそうな内容だったので、少しアレンジして第1章の番外編として投下したいと思います。
第2章の第1話はそれを書き終えてから一緒に投下したいと思います。
そのため今日は投下できなさそうです。
本当に申し訳ありません。
思いついたものを投下するのもその出来上がりを待つのも一向に構わないんだが
元々不定期に更新するssが
予告通りに更新できなくなったことにいちいち謝罪をはさむくらいなら
いっそのこと予告とかしない方がいいんじゃないか?
>>251さん
申し訳ありません。
これからは投下予告は一切しません。
お騒がせしてすみませんでした。
お久しぶりです。
以前から忙しいと言っていましたが、あれは嘘です。
本当に忙しいとはどういうことか思い知らされた三週間でした。
レス返しは少し大変なことになっているので控えさせていただきます。
特に内容に対する質問とかはありませんよね?
以前第1章の番外編を投下すると言っていましたが上手くまとまらず、そのまま第2章の第1話を投下させていただきます。
申し訳ありません。
では投下します。
第2章 禁書目録編
第1話 それは恐らく平穏な日常
「おーっす」
上条がそう言ってドアを開けた先にいたのは五人の同じ顔をした少女達。
『妹達』――――上条の幼馴染である美琴のDNAマップを元にして生まれたクローン人間。
彼女達は『絶対能力者進化』という悪夢のような実験のために生み出され、学園都市レベル5の第一位『一方通行』に殺される運命を余儀なくされていた。
しかしそれを上条によって救われ、まだ体を通常の状態にするための治療は必要なものの、何とか平穏な日常を過ごしている。
尤もクローンという事実は覆せないため、まだ大手を振って外を出歩くことはできないが……。
上条と美琴の当面の目標は『妹達』が真の意味で普通の生活を送れるようにすることだった。
そしてここにいるのは現在九九七0人存在する『妹達』の内、学園都市に残ることとなった五人だ。
他の『妹達』は世界各地にある学園都市の協力機関で治療を続けている。
「ようやく来ましたか、とミサカは毎度のごとく時間通りにやって来ないあなたに嘆息を吐きます」
「この感じは美来(みらい)か?」
「ご名答です」
やや毒づきながら上条を出迎えたのは検体番号10031号。
今生きてる『妹達』の中で最も早く生まれた個体で、美琴を合わせた姉妹の中では次女といったところだろうか?
そして今の10031号は自らを御坂美来と名乗っている。
上条と美琴がまず初めに『妹達』に対して行ったのは名前をつけることだった。
検体番号で呼び続けるのは如何なものかと上条が美琴に提案し、世界各地に散らばった『妹達』と連絡を取りながら一人一人違った名前をつけたのだ。
上条が学園都市に帰ってきてから既に一ヶ月経っており、この一ヶ月は主に『妹達』に名前をつけることで過ごしていた。
異世界からこの世界に帰ってきた上条は学園都市に残ることを両親から反対された。
安全だと思って預けていた愛息子が五年もの間行方不明になっていたのだから無理もない。
実際に学園都市には危険な点がいくつもあり、上条の両親の懸念はある意味正しい。
尤も上条が異世界に跳ばされたのは学園都市と何の関係もないのだが……。
とにかく上条は両親の猛反対を押し切って学園都市に残ることを決断したのだった。
もちろん美琴や『妹達』を残して学園都市を去る訳にいかないという意味合いも大きい。
しかしそれだけでなく何か学園都市でやるべきことがある、そんな直感にも似た何かを上条は感じ取っていた。
「あ、あの、せっかく来ていただいているのにそのような言い方は、とミサカは美来に苦言を呈します」
「おー、美麻(みま)は優しいな」
「い、いえ、そんなことは」
上条の言葉に『妹達』の一人は思わず顔を赤らめる。
彼女の名前は御坂美麻、検体番号は19090号。
『妹達』は自分の名前を上条と美琴に決めてもらう際に全員が美琴の妹として美琴の名前の一部を欲しがった。
しかしその中で一人だけ上条の名前の一部も欲しがった個体がいた。
それが今他の『妹達』から抜け駆けするなと糾弾を受けている美麻(19090号)だ。
どういう訳か美麻(19090号)は初めから他の『妹達』に比べると若干感情表現が豊かな個体だった。
それは上条や美琴とは別に『絶対能力進化』を止めるために動いていた女子高生の科学者が入力した感情データのためなのだが、美麻(19090号)自身もそのことを自覚していない。
そして他の『妹達』も美麻(19090号)の影響を受けてか少しずつ個性を覗かせ始めていた。
毒舌な美来(10031号)を始めとして、変なところで妙に自信家な美月(みづき・10032号)、美琴に似たのかラヴリーミトンのキャラクターに興味津津な美玖(みく・10039号)、最近星占いにハマっているらしい琴音(ことね・13577号)。
現在メールでやり取りしている外の『妹達』も心なしか文面に個性の差が表れているようだった。
「ところで今日はまだ美琴は来てないのか?」
「ええ、最近はお姉様も時間通りに来られないことが多くて」
上条と美琴はちょくちょく病院に顔を出しているが、特に時間を合わせて来ている訳ではない。
それでも上条が病院に行く日は必ず顔を合わせており、病院に行けば自然と美琴に会うことになると上条は思っていた。
「何か面倒ごとに巻き込まれてるんじゃないだろうな?」
上条の顔は自然と険しいものになった。
『絶対能力者進化』の件は様々な事情があって仕方なかったにせよ、美琴は何処か一人で何事も背負い込む傾向がある。
それはまだ中学生ながらもレベル5としての期待を一身に受け続けたことや生来の責任感が強い性格からくるものだったが、美琴のことを大切に想う上条は心配でしかたなかった。
「ごめーん、少し遅れちゃった」
それから程なくして美琴は上条の心配を他所に普段と変わらぬ様子で部屋に入ってきた。
肩で息をしているところを見ると、かなり急いでやって来たらしい。
そして最初に出迎えた美月(10032号)に紙の箱を手渡した。
「お姉様、これは?」
「この間、学舎の園に新しいケーキ屋さんがオープンしてね。 美味しいって評判ですぐ品切れになっちゃうんだけど、予約してようやく買えたのよ」
美月(10032号)が机に置いたケーキ箱を美玖(10039号)がそそくさと開けると、中には大きめのホールケーキが入っていた。
それを見た『妹達』から歓声が上がる。
「外にいる子達には悪いけど、たまにはね?」
「いえいえ、お姉様グッジョブです。 これでこそあの熾烈な戦いを勝ち抜いた甲斐がありました、とミサカはお姉様に惜しみ無い賞賛を送ります」
上条と美琴は詳しいことを知らないが、学園都市に誰が残るかに当たって『妹達』の間で激しい小競り合いがあったらしい。
自分達はその激しい小競り合いを制した云わば勝ち組の妹というのが、今ここにいる五人の『妹達』の弁だった。
そして琴音(13577号)がどこからか持ってきた包丁でケーキを切り分け始めると、上条は美琴に小声で声を掛ける。
「おい、何かあったのか?」
「え?」
「いや、最近お前が約束の時間通りに来ないことが多いって聞いたから」
「べ、別にアンタが心配するようなことは何もないから」
しかしあきらかに挙動不審な美琴を上条は訝しげに見つめる。
その上条の視線に耐えきれなくなったのか、美琴は観念した様子で喋り始めた。
「……本当は黒子を撒くのに手間取ってたのよ」
「あー、そういうことか」
美琴の言葉に上条もようやく合点がいく。
『絶対能力者進化』を一時的な中断に追い込んだ後、美琴は『妹達』のことを友人に話すべきか迷った。
大切な友人達に隠し事はしたくない、何より大事な妹達を美琴は友人に紹介したかった。
しかし『妹達』のことを話せば必然的に学園都市の裏の面も話さなければならなくなる。
特に正義感が強い白井がこのことを知ったらどのような行動に出るか分からない。
まだ完全に『絶対能力者進化』が凍結されていない以上、『妹達』のことを話せば危険に巻き込む可能性が高かった。
「ったく、お前は」
そして上条は美琴が『妹達』に事情を話していなかった理由も悟る。
事情があるにせよ、大事な『妹達』を友人達に妹として紹介できないことに美琴は後ろめたさを感じているのだ。
友人に紹介できないことが『妹達』の存在を認めていないように思えて、美琴は『妹達』に事情を話せないでいた。
「ここにいる五人も、そして世界中に散らばってる皆も、ちゃんと自分達が置かれた状況を分かってる。 それにお前がアイツらのことを本当に大事に思ってることもな」
「でも」
「お前がアイツらのことを大事に思っているように、アイツらもお前のことを大事に思ってるんだ。 アイツらがお前の気持ちを分からない筈ないだろ?」
「……うん」
美琴は上条の言葉に頷いたものの、その寂しそうな表情は晴れることはなかった。
そんな美琴を見て上条はどうすべきか悩んだが、何の気なしに美琴の頭に手を置いて優しく撫でてやる。
「それにお前には俺もいる。 言っただろ、何があっても俺はお前の味方だって。 何か悩みがある時は一人で抱えこまないで相談しろよ」
「……ありがとう」
先日は子供扱いするなと怒鳴っていたが今は素直に頭を撫でられている美琴を見て上条は微笑む。
上条と美琴が出会ったのは学園都市に来る前、既に十年以上も昔のことだ。
上条と美琴の父親は商売敵という関係ながらも意気投合し、上条と美琴が生まれる以前から両家の間には家族ぐるみの付き合いがあった。
そしてそんな二組の夫婦の間に生まれた愛息子と愛娘が仲良くなるのも自然な流れだった。
優しい両親達に囲まれ、二人は温かな幼少期を過ごしていた。
しかしそれは周囲の人間がある違和感に気付いたことで唐突に終わりを迎える。
上条は何かと怪我の絶えない子供だった。
しかしやんちゃ盛りの子供に怪我が多いのは当然で、特にそれ自体が問題なわけではない。
問題は上条の怪我の原因だった。
不意に飛んで来たボールが頭に直撃するのは当たり前。
酷い時には落下した看板の下敷きになったことさえある。
上条の怪我は上条自身の不注意が原因ではなく、いつも何らかしらの『不幸』によるものだった。
そしてそれは近所の人間の何気ない一言から始まった。
『あの子には何か憑いているのではないか?』
それは根も葉もない言葉で上条の両親も美琴の両親も特に気に留めていなかった。
しかしその言葉は次第に尾ひれをついて回り、いつしか上条に何か憑いているのではなく上条自身が『疫病神』と呼ばれるようになっていた。
そして幸せな日常の終わりを決定づける痛ましい事件が起きる。
上条が借金を背負った男に包丁で刺されたのだ。
動機は『疫病神』がいるせいで自分が借金を背負うことになったという俄かには信じがたい身勝手なもので、上条の両親も戦慄せざるえなかった。
本来なら悲劇として扱われるべき事件もまるで上条自身に問題があるように取り沙汰され、周囲の上条への嫌がらせはエスカレートしていく一方だった。
上条の両親は恐れた。
『幸運』や『不幸』といった迷信ではない。
それを信じる人間によって当然のように我が子が暴力を振るわれる現実を……。
そして上条の両親は一つの決断を下す。
それは迷信といったオカルトとは無縁の世界、科学の最先端の街である学園都市に息子を送ることだった。
もちろんまだ年端もいかない子供を一人知らない街に送ることには大きな抵抗があった。
しかしいつかその迷信が上条を本当に殺してしまいそうで……。
結局上条の両親は家族で過ごす時間よりも我が子を守ることを選択した。
「……」
だが上条は学園都市に来てからも一人ではなかった。
上条の後を追うように美琴も学園都市にやって来たのだ。
両親達の間で何か話し合いがあったのかもしれないが、詳しいことは上条も知らない。
ただその頃の上条は笑顔を失っており、いつも傍にいる美琴に対しても辛く当たっていた。
しかしそれでも美琴は決して上条の傍から離れることはなく、常に上条の傍に寄りそう姿はまるで上条を守る小さな騎士のようだった。
今になって思えば二つも年下の女の子に守られていたとは情けなく感じるが、それでも確かに上条は美琴によって救われていたのだろう。
そして異世界に跳ばされるというアクシデントを経て、上条は美琴と五年ぶりの再会を果たす。
奇しくもちょうどその時、絶望の淵に立たされていた美琴を何とか救い出すことに上条は成功した。
しかし美琴が心に刻まれた傷は簡単に癒えるようなものではなく、それに美琴自身もその傷を完全に消し去る気はない。
『絶対能力者進化』という悲劇を美琴は一生胸に抱えて生きていく。
そんな美琴に対して上条ができることは美琴が罪の意識から潰れてしまわぬよう傍で支え、美琴が守りたいと願った『妹達』を共に守っていくことだけだ。
不幸を嘆くだけだったかつての自分とは違う。
両親や美琴との時間を犠牲にして得たものだが、それでも今の上条には大切なものを守れる力があるのだから。
ジーッ
すると四人の少女が自分を見つめていることに上条は気付く。
まだその表情から彼女達の感情の起伏をしっかりと読み取ることはできないが、それでも四人が何か自分に対して不満げにしていることだけは分かる。
「あのー、美月さん、美玖さん、琴音さん、美麻さん。 何か上条さんに言いたいことでもあるんでせうか?」
「べ、別にお姉様だけあなたに頭を撫でられて羨ましいなんてこれっぽちも思っていません、とミサカは他の四人の気持ちも含めて代弁します」
美月(10032号)はそう答えたものの、その視線は美琴の頭に置かれた上条の手に向かっている。
それは美玖(10039号)、琴音(13577号)、美麻(19090号)も同様で、美来(10031号)だけが遠巻きからそれを眺めていた。
「何だ、頭を撫でて欲しかったのか。 そんなこと遠慮せずに言えばいいのに」
上条は美琴の頭の上から手をどけると四人の下に向かう。
手を離した時に一瞬美琴が寂しそうな表情を浮かべた気もしたが、いつもの態度を見るにきっと気のせいだろう。
そして美月(10032号)から順番に上条は頭を撫でてやる。
頭を撫でられると四人とも気持ち良さそうな表情を浮かべた。
「お姉様に抱きしめられた時もそうですが、こうされていると何故かとても温かな気持ちになります。 これが人の温もりというものなのですね」
美琴のDNAマップから生まれ培養器で育った『妹達』は両親の温もりを知らない。
友人達と同様にいつか両親にも美琴は事情を説明するつもりでいたが、やはり今はまだ時期尚早だ。
そして『妹達』が学園都市を出る前に美琴が行ったのが、一人一人しっかりと抱きしめてあげることだった。
今もこまめに連絡を取り合っているが、やはり直接会えない『妹達』には寂しい思いをさせるかもしれない。
だから抱擁を通して家族としての温もりを伝えると共に、必ず再会することを約束したのだった。
「美来はいいのか?」
そして四人の頭を撫でてやると少し離れた場所に立っていた美来(10031号)に上条は尋ねる。
すると美来(10031号)は少し慌てた様子で上条の言葉を否定した。
「な、何でミサカがあなたに頭を撫でられなきゃいけないんですか、とミサカはあなたの荒唐無稽な提案を一笑に付します」
「そっか、嫌なら別に構わないんだが」
すると上条の目の前にいた美玖(10039号)が耳打ちするように上条に小さな声で話しかけてきた。
「本当は美来もあなたに頭を撫でて欲しいんですよ」
「そうなのか?」
「美来は今生きている『妹達』の中では一番上の個体ということもあり、どうも姉ぶって素直に甘えられない部分があるみたいです。 先ほどあなたが来た時の辛辣な言葉も本当はそれだけ早くあなたに会いたかったということの表れなんですよ、とミサカは不器用な次女に対して嘆息を吐きます」
「……なるほどね」
上条は美玖(10039号)の言葉に相槌を打つと、そのまま美来(10031号)の方へ向かっていく。
そして特に確認することなく美来(10031号)の頭を撫で始めた。
「なっ、別に撫でて欲しいなんて言ってないのに……」
「別に俺が美来の頭を撫でてやりたいと思ったから、勝手に撫でてるんだ。 それなら文句ないだろ?」
「そ、そういうことなら仕方ないですね、とミサカはセクハラであなたを訴えることを視野に入れつつ仕方なしに頭を撫でられます」
美来(10031号)の言葉に上条は思わず苦笑いを浮かべる。
そして美琴が持ってきたケーキを七人で囲むと、談笑しながら楽しい時を過ごすのだった。
・
・
・
『妹達』との面会を終えると、上条と美琴は並んで夕暮れの街を歩いて行く。
既に午後の六時を過ぎているが七月ということもあり、辺りはまだ十分に明るい。
明日の終業式を終えれば夏休みが始まる。
「アンタ、夏休みの予定はどうなってるの?」
「まだ特に決まってねえな。 流石に一回は親に顔を見せに帰省しようとは思ってるけど。 あれっ、そういえば外に出るのって申請が必要なんだっけ?」
しばらく学園都市にいなかった上条はすっかり失念していたが、学生が学園都市から出るには様々な手続きが必要になる。
学園都市では機密保持と各種工作員による生徒の拉致の危険性などを考慮して、極力学生を街の外へ出す事を好まない。
許可をもらうには三枚の申請書にサインをして、血液中に極小の機械を注入して、更には保証人まで用意しなくてはならなかった。
「ちょっとしっかりしなさいよね。 この前刀夜さんと詩菜さんが学園都市に来た時もそんなに長くいられた訳じゃないんだし」
「……そうだな。 五年も会えなかった分、多少は親孝行しないとな」
五年ぶりに再会し大きく成長した上条を見ても、両親は優しく上条のことを受け入れてくれた。
共に異世界に跳ばされた親友の世界では、異世界に家族が召喚されることにより家庭が崩壊することも多いらしい。
親友の家族も父と兄が異世界に跳ばされたことでバラバラになってしまったと言っていた。
昔はまだ幼かったためしっかりと分かっていなかったが、あれだけの『不幸』に見舞われても味方でいてくれた両親の有り難みを今ならハッキリと理解できる。
少し照れ臭いが、ちゃんと言葉にして感謝の気持ちを伝えるのもいいかもしれない。
「まだ間に合う筈だから、しっかり手続きしておきなさいよね」
「はいはい、分かってますって」
「……帰省する以外は他に予定は決まってないの?」
「まあな。 ……最初の一週間は補習が決まってるけど」
上条は学園都市に戻ってから第七学区にある高校に編入していた。
そこは変則的な造りの学校が多々ある学園都市においてもスタンダードを極めようとしているらしく、個性がないのが特徴という少し変わった学校だ。
学力レベルも能力の開発においてもあまり優秀とは言えず、五年間異世界にいて基本的な勉強をしてこなかった上条でも何とか編入試験に合格することができる程度だった。
とはいえやはり一ヶ月で高校の授業に追いつける筈もなく、夏休み最初の一週間で徹底的な補習が行われることになっている。
「ふーん。 じゃあさ、暇な時に一日だけでいいから私に付き合ってくれない?」
「『妹達』の件か? それなら一日だけと言わず、暇な時はいつでも付き合うけど」
「そ、そうじゃなくて、偶には二人きりで……」
「二人きり?」
「べ、別に深い意味はないわよ。 ただ折角久しぶりに会えたのに、まだ二人だけでゆっくり話せてないから」
確かにこの世界に帰って美琴と再会してすぐに『絶対能力者進化』を止めるために奔走し、その後も一緒にいる時は基本的に『妹達』が傍にいることが殆どだった。
二人きりになる機会も何度かあったが、ゆっくりと二人だけで話すという程ではない。
「そういえばこの五年間のお互いの話もまだできてないしな。 分かった、お前の都合の良い時に連絡してくれ。 それに合わせて俺も予定を空けるから」
「う、うん、それじゃあ約束だからね」
そうして上条と美琴は夏休みの一日を二人きりで過ごすことを約束すると、そのまま夕暮れの道を再び歩き始める。
やがてお互いの住まう寮に向かう分かれ道に差し掛かると、上条と美琴はそれぞれ寮へと帰って行くのだった。
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「カーミやん、成績どうやった?」
「テメエ、知っててわざと言ってやがるだろ?」
通知表を受け取って席に着いた上条に対して青髪にピアスが特徴な大男が話しかけてきた。
彼は上条の友人の一人で見た目の通り、周りから青髪ピアスと呼ばれている。
少々、いや大分広い異性に対する守備範囲を誇る変態で、クラスでもそのまま変態扱いされていた。
ただ実際に話してみると気さくであると共に友達思いな男で、編入したての上条がクラスに馴染むキッカケを作ってくれたのも青髪ピアスだった。
普段は邪険に扱っているものの、上条も内心では感謝している。
「まあまあ、そう言わずに。 どれどれ?」
青髪ピアスが通知表を無理やり見ようとしてくるのを阻止しながら、上条は恐る恐る自分の成績に目をやる。
そこには体育を除いて十段階評価による無残な成績が記されていた。
また基本的な成績の枠外には能力のレベルを示す欄があり、そこには……。
「あちゃー、やっぱりレベルの判定は0かいな。 こりゃカミやんも納得できないとちゃうん?」
「これに関しては特に気にしてねえよ」
期末考査と同時に行われた能力の測定を行う身体検査《システムスキャン》。
上条はその圧倒的な身体能力から高レベルの身体強化系の能力者ではないかと教師の間で期待されていた。
しかし実際に行われた身体検査での測定はレベル0。
能力者が必ず無意識の内に発しているというAIM拡散力場が確認できなかったのが原因だ。
しっかりとした結果を得るために大きな研究所での測定も提案されたが、『上』からの指示によりその申請は却下されていた。
上条自身、自分の力が超能力によるものないことを知っていたため、特にそのことについて気にしてはいない。
ただ測定自体が『上』からの指示によって却下されたことには何か引っかかるものを感じていた。
「まあ確かに気にすることはあらへんな。 どうせ夏休みの補習もクラスの三分の二が参加するんやし」
「それって本当に安心していいのか? それにあんまり小萌先生に迷惑を掛けるのも……」
「カミやんはこのクラスに入ってから一ヶ月も経ってるのに、まだ小萌先生のことを分かってないんやね。 あの人は賢い生徒より手のかかる生徒の方が好きなんやで」
「あの人、居酒屋とかでこっそり一人で泣いてたりしねえだろうな」
上条は教壇の上に立つ見た目小学生の担任に目を向ける。
するとニッコリと満面の笑みを返された。
成績が最悪に近い自分に対してあの笑顔とは、青髪ピアスの言っていることもあながち間違いでないらしい。
「まあ夏休み言うても、最初の一週間は一学期の延長みたいなもんやね」
そう言って笑う青髪ピアスに上条は呆れた顔を向ける。
何はともあれ学園都市に帰ってきて久しぶりに送った一ヶ月の学生生活は特に事件も起きることなく、無事に終わりを迎えたのだった。
・
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・
一学期最終日、いや正確には夏休み初日。
既に深夜を回りどちらかというと朝方に近い時間帯、上条はふと違和感を感じて目を覚ました。
上条が身に付けた『錬環勁氣功』は氣を扱うという特性上、周囲の人間が放つ氣に対しても鋭敏になる。
上条が感じた違和感も氣を察知してのものだった。
普段なら寝ている最中に氣を感じたとしても、上条が目を覚ますことはまずない。
ならば何故上条は目を覚ましたのか?
上条は今まで出会った人間の氣を基本的に覚えている。
同様に同じ寮に住む住民の氣も残さず把握していた。
しかし今感じた氣は上条の記憶にないもので、それも一つではない。
立ち入り禁止になっている筈の屋上から三人分の氣を感じる。
『絶対能力者進化』という学園都市一大プロジェクトを一時的にとはいえ中断させた以上、何らかの報復があることを上条は覚悟していた。
もちろん美琴や『妹達』にも用心するよう呼びかけている。
ただし美琴が暮らす常盤台の学生寮はセキュリティが完璧に近く、『妹達』が治療を受けている第七学区の病院もどういう訳か外部からの危機へ対する防衛に抜かりがない。
それらを踏まえて、何かあるとすれば部外者であるにも拘らず実験に介入した自分だと上条は考えていた。
そしていよいよその時が来たかと身構えていた訳だが、何か様子がおかしい。
氣の流れから察するに、彼らは上条を襲撃しにきた訳でなく、一人を残り二人が追い掛け回しているようだった。
上条は襲撃でなかったことに安堵の息を吐く。
もし自分に対する襲撃があったとしたら、美琴や『妹達』への襲撃が行われている可能性も少なからずある。
万が一の保険は掛けているものの、彼女達に危険が及ばないに越したことはない。
学園都市では喧嘩が頻繁に行われており、恐らく今回もその類のものだろう。
わざわざ立ち入り禁止の場所に入り込んでまで傍迷惑な奴らだと思いつつ、上条が再び眠りに就こうとしたその時……。
「マジか!?」
一人が屋上から落下した、それも落ちた場所は上条の部屋の真上で……。
上条の住む学生寮は同じ構造をした建物が間二mの感覚で並び立っており、ちょうどその間に落下したようだ。
しかし落下はすぐに止まる。
幸か不幸か、ちょうど上条の部屋のベランダの手すりに引っ掛かったらしい。
そのまま放っておくわけにもいかず、上条はベッドから降りるとベランダに向かう。
そしてベランダへと続く窓を開けた瞬間、上条の日常は終わりを告げ、非日常へと続く扉が開くのだった。
今回は以上になります。
仕事の方も大分落ち着いてきたようで、これからは投下の感覚も少し短くできると思います。
ここで少し補足説明を。
まず初めに物語の時系列ですが、超電磁砲は幻想御手編は終わっているものと仮定してください。
幻想御手編は虚空爆破事件において上条さんが介入しなかった以外は、基本的に原作通りの流れだったものとします。
セブンスミストで美琴のレールガンが間に合ったと思っていただければ幸いです。
次にこのssにおける独自設定についてです。
現時点で打ち止めもミサカ00000号もミサカネットワークから遮断されており、『妹達』も存在を認識できていないものとします。
というのもこの上条さんと美琴なら、その存在を知っていれば助け出すために必ず動くのが明白だからです。
それじゃあ打ち止めが上位個体としての役割を果たせないじゃないかという声が聞こえてきそうですが、取り敢えず命令はできるが一方通行の交信しかできないと脳内補完しておいてください。
相変わらず無茶苦茶な話ですが、いつものように何か気になった点や改善した方がいい場所があったら仰ってください。
感想お待ちしています。
この上条さんならアリサも救ってくれる!
……まあ、ここは上琴だからアリサちゃんが残っても少し可哀想だけど……
>>1が上条戦力を深く掘り下げると聞いたけど、原作でも結構すごいメンバーなんだよな……
上条さんが声をかければ「リボーン」のツナが代理戦争で他のメンバーを呼びかけたように元敵がほぼ全員集合しそう
(地味にあっちより癖が少ないから全員上条に素直に従ってくれるという)
皆さん、こんにちわ。
今週は休日出勤がなくて舞い上がってる>>1です。
ちょっと雰囲気がアレなのでレスさせていただきます。
少し前にも出たカップリング要素のことですが、>>1の勝手な見解を述べさせていただきます。
上条さんの嫁はもちろん誰か決まっていません。
それこそ無数のカップリングが存在するわけです。
ただ美琴の旦那は上条さんに決まっている、それが>>1にとっての不変の真理です。
矛盾があるかもしれませんが、そこら辺は納得していただけると幸いです。
このスレの内容上、美琴以外のヒロインも登場するため他ヒロインのファンの方には不快な思いをさせるかもしれません。
ただ>>1は本当に禁書が好きなため、できる限りキャラを蔑ろにするようなことはしないつもりでいます。
それが皆さんの目にどう映るか分かりませんが、少しでも自分の禁書愛が伝われば幸いです。
それと妹達にオリジナル名をつけたのが思ったよりも好評そうで安心しています。
>>311さん
エンデュミオンのBDは買ったものの、まだ見れていません。
内容はある程度把握しています。
最近上鳴のssが増えてきている中、カップリングとして成立しないのにアリサを出してもいいのでしょうか?
まあそれを言ったら特定カップリングありの再構成など書けませんが。
BDを見て書けるようなら書いてみたいと思います。
>>322さん
まあ掘り下げると言っても、期待に沿う形になるかは分かりません。
ただ妹達との関係性のように、キャラ間での関係性を深めていけたらと思っています。
>>323
そこは>>1の好きなように……
ただここの上条さんならアリサ生存ルートを見させてくれんじゃないかと思って
偽善使いの人の奴を見るとそういうのもアリかなーと思って
あとこのスレだとレディリーがボスになって、劇場版ナルトのボスみたいにムキムキマチョになりそうだ……
このスレの美琴と妹達、美琴と上条さんの関係すごく好き
お久しぶりです。
正直ssにおけるカップリング論争は所詮二次創作ですし、不毛な気もします。
まああのカップリングについてはお勧めスレでも度々議論が起こるようですし、やっぱり嫌な人も多いんでしょうね。
かくいう自分も正直なところ受け付けないので、一度もそのカップリングssは読んだことがありません。
さて少し話題を逸らして今日出た新巻についてですが、自分にとっては本当に俺得な内容でした。
詳しくはネタバレになるので書けませんが、少し自分の中で停滞気味だった禁書本編に久しぶりに引き込まれました。
まあこれも議論を呼びそうですが、やっぱり禁書本編は魔術が絡んだ方が面白いなと。
自分はもともと魔術というか神話の類を調べるのが好きでしたので、その影響もあるのかもしれません。
さてここでカップリングについて以外のレス返しを。
>>336さん
お返事ありがとうございます。
ようやく映画見ることができました。
何か見てたらシャットアウラとアリサの姉妹ssみたいなのを書きたくなりました。
そういう形なら二人とも幸せになれるかなって。
そもそもこのssを見れば分かるかもしれませんが、自分は兄弟や姉妹ものの物語が好きだったりします。
個人的に鋼の錬金術師なんかは完全にツボでした。
>>337さん
ありがとうございます。
そう言っていただけると本当に嬉しいです。
基本的に日常パートというかそういう部分は温かな雰囲気のものを書けたらいいなと思っています。
ただ禁書はキャラが多いので日常を書こうとすると手が回らなくなるかもしれませんが。
今後もそういった感想を抱いてもらえるように頑張ります。
では投下します。
第2話 非日常と守るべきもの
襲撃の可能性も捨てきれないため、上条は辺りの氣を探りながらベランダへと続く窓に向かう。
どうやら他の二人は屋上から去ったようで、次第に寮から離れていくのが感じられた。
人が転落したことに動転したのか、それとも……。
そして上条はベランダで引っ掛かっている一人の方へ注意を向ける。
氣の状態を読むに無事なことは間違いないが、どうやら気を失っているらしい。
放っておくと風に煽られて再び落下してしまう可能性もある。
上条は意を決して窓を開けた。
「……シスターって奴か?」
歳は……十四か、十五か、上条より一つ二つ年下で恐らく美琴と同い年くらいだろう。
ベランダに引っ掛かっていたのは外国人だろうか、白い肌に白髪――ではなく銀髪の少女だった。
そして外国人だということ以上に目を引くのがその格好。
白い生地に金の刺繍が入った修道服は、まるで成金趣味のティーカップを連想させる。
この世界の宗教に関して詳しい訳ではないが、恐らく十字教のもので間違いないだろう。
例え異なる世界であっても宗教関係者が着ている服はどこか似通っているもので、少女の姿は異世界の宗教大国を彷彿させる。
「しかしどうすっかな?」
上条の英語の成績は担当の教師から一生鎖国してろと言われるくらい壊滅的だ。
少女が何処の文化圏の人間かは分からないが、少なくとも英語すらまともに話せない上条がコミュニケーションを取るのは難しいだろう。
何故かこのご時世に未だ紙の辞書の使用を推奨している学校で購入させられた英和辞書が部屋のどこかで転がっている筈だ。
上条は取り敢えず部屋の中に辞書を取りに戻ろうとするが、大事なことを一つ忘れている。
「このままにはしておけないよな」
上条は気絶してベランダに引っ掛かっている少女を摘みあげると、お姫様抱っこの要領で抱き上げる。
しかし上条の右手が少女の着ている修道服に触れた瞬間……。
「は?」
白い修道服の布地を縫っている糸という糸が綺麗に解けて、ただの布地へと逆戻りした。
解けてただの布に戻った白い修道服が上条の腕を覆い尽くす。
そしてその白い布の上には完全無欠に素っ裸になった少女の姿が……。
申し訳程度に残ったフードが余計に哀愁を漂わせていた。
何が起こったか全く理解できない上条だったが、そこに不幸とも言える追い打ちが掛けられる。
気絶していた少女がうっすらとその目を開けたのだ。
突然素肌が外気に触れたことで意識を取り戻したのだろう。
その瞳は緑色でとても綺麗なものだったが、悠長にそんな感想を抱いている暇はない。
『気が付いたら裸でいて、目の前には自分を抱きかかえている知らない男』
今の上条が少女の目にどう映るかは明白だった。
「キャ……」
少女が悲鳴を上げようとした瞬間、上条は素早く少女の首筋に手刀を放って意識を刈り取る。
冤罪と言うべきかどうか分からないが、とにかくこんなことで警備員のお世話になるのだけは絶対に御免だ。
自分のしていることに若干の後ろめたさを感じながらも、上条は再び意識を失った少女を部屋に運び込むのだった。
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ベッドに少女を寝かせると、上条はその裸を隠すようにタオルケットを被せた。
そして少女が気を失っている間に今後の対応について考えを巡らせる。
一番妥当なのは素直に警備員に通報することだ。
この状況で警備員を呼んだら職務質問されるのは確実だが、この状態のままでいるよりいくらかマシだろう。
しかし単純にその選択肢を選ぶことを上条はできなかった。
上条はまだ学園都市に戻ってから日が浅いが、学園都市に住む人間特有の雰囲気のようなものは感じ取ることができる。
だが少女からはそれを全く感じなかった。
学園都市にも一応第一二学区に一通りの宗教施設が建ち並んでいる。
上条は行ったことがないが、その中には恐らく十字教の教会もある筈だ。
しかしそれらはあくまでも科学的面から各種宗教にアプローチを掛けるものであって、純粋な信仰を対象としたものではない。
だが少女からは曇りのない信仰心とでもいうのだろうか、まだ直接話していないにも拘らず少女は何か神聖な印象を上条に与える。
例えこの世界と異なる宗教であっても、異世界において宗教家と呼ばれる人間と上条は交流を持っていた。
少女の放つ雰囲気は彼らによく似ている。
そして彼女が学園都市の人間でないとすると、話は一気にややこしいものへと変わる。
学園都市の科学技術は外に比べて数十年は進んでいるとされており、外部からの産業スパイが後を絶たない。
そのため学園都市の警備は非情に厳重で、交通の遮断に加えて周囲が高さ五メートル・厚さ三メートルの壁で囲まれている上に、 街全体を三機の監視衛星が常に監視している。
正式に中に入ろうとしても大覇星祭など特別な時を除き、厳正な審査が必要とされていた。
少女が正当な手段で学園都市に足を踏み入れたかどうかは知らないが、外部の人間が何者かに追われているという時点で穏やかな話では済みそうにない。
「とにかくこの状態はまずいよな」
今後どのような対応を取るにせよ、少女を裸のままにしておく訳にはいかない。
目を覚ますたびに悲鳴を上げられては面倒だ。
服を貸すにも上条のものではサイズが合わない。
少し考えた末、上条は携帯を取り出すとある番号に電話を掛けた。
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「ったく、何なのよアイツは」
そう毒づきながら美琴は第七学区のとある高校の男子寮に向かっていた。
美琴が上条から連絡を受けたのは十数分前。
常盤台の朝が早いとはいえ、常識的に考えて電話を掛けてくるような時間ではなかった。
しかし急いで会いたいと言われれば断る訳にはいかない。
そして口では文句を言いつつも、美琴の顔は完全ににやけていた。
理由は詳しく聞いていないが、好意を寄せている人間から呼び出されて嫌な筈がない。
ただ一つだけ気になっている点があった。
何故か来る時に私服を一緒に持ってきて欲しいと言われたのだ。
常盤台では基本的に休日も制服の着用が校則で義務付けられている。
もちろん制服だけしか持っていない生徒の数は少ないが。
普段着ることができないとはいえ、いくつかの気に入った服が美琴の部屋のクローゼットにもしまってある。
最初は上条に私服デートに誘われたのではないかと浮かれていた。
だがそもそも時間がおかしいし、もし本当に私服デートならわざわざ私服を持ってきて欲しいという言い回しはしない筈だ。
それなら私服で来て欲しいと言えばいいことだけのことである。
それに上条が校則を破るようなことを自分に勧めてくるとは思えなかった。
少し嫌な予感に囚われながら進んでいくと、やがて上条の住む寮の建物が見えてくる。
寮の入り口では既に上条が待っていた。
「悪いな、わざわざ来てもらって。 用があるなら本当はこっちから行くべきなんだが、どうしてもここからあまり離れられなくてな」
上条は両手を前で合わせて謝罪する。
別に呼び出されたこと自体は大したことないが、その理由が気になる美琴は訝しげな表情を浮かべて上条に尋ねた。
「それでわざわざ私服を持ってきて欲しいってどういうこと?」
「いやー、それには深い訳がありまして。 この埋め合わせは絶対にするから、今日はこの辺で……」
上条は服の入った手提げ袋を受け取ると、美琴に帰るよう促す。
流石にそのぞんざいな対応を容認することはできない。
「呼び出しといて用が済んだら帰れって? アンタ、ふざけるのも大概に――」
美琴が業を煮やして怒鳴りそうになったその時、上条の表情が一変した。
「まずい、起きやがった!?」
上条はそう言うや否や、寮を壁伝いに七階まで駆け上がっていく。
あっと言う間に七階まで辿り着くと、上条はそのまま七階の通路へと飛び込んでいった。
あまりに一瞬の出来事に美琴は唖然とさせられる。
というより理解が追いつかない。
「ホントこの五年間、アイツって何してたの!?」
上条が学期末の身体検査でレベル0という結果になったことは聞いていた。
上条の右手が持つ超能力を無効化する力は昔から知っている。
そしてその力が学園都市の身体検査では決して評価されないことも……。
しかし今の上条が持つ力は完全に常軌を逸している。
どう考えても単純な身体能力の高さでは説明できない。
それに加えて美琴は『絶対能力者進化』の関連研究所を襲撃した際に、上条が左手から放った謎の光球も見ていた。
右手以外に今の上条の力について知っているのは、路地裏で体調を治してもらった時に聞いた『氣』という言葉だけだ。
「……本当は今日の予定じゃなかったけど、ちょうど良い機会だから色々聞かせてもらおうじゃない!!」
そして美琴は上条の後を追うように、電磁気を使って寮の壁を登って行くのだった。
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上条は自身の部屋の前に立つと中の氣を探る。
どうやら少女は逃げたりしておらず、まだ部屋の中にいるらしい。
自分の部屋に入るのだから何の遠慮もする必要はないのだが、何となくいきなり部屋に入るのは躊躇われた。
しかしいつまでも部屋の前で立ち止まっている訳にもいかず、仕方なしに部屋へと足を踏み入れる。
そして玄関から廊下を渡り、リビングの前で部屋にいる筈の少女に声を掛けた。
「えっと、入っても大丈夫か?」
「……どうぞ」
思わず日本語で尋ねてしまったが、予想に反して返ってきたのは流暢な日本語だ。
日本語でコミュニケーションが取れることに上条は一先ず安心した。
それにしても少女は恐らく何者かに追われていた筈なのだが、その割には少し警戒心が薄い気がする。
しかし少女から事情を聞かなければ何も始まらないので、上条はリビングへ足を踏み入れた。
そして上条はそこで妙な光景を目にする。
「何やってるんだ、お前?」
少女は上条のベッドの上でタオルケットに包まれたまま何やら作業をしていた。
その前にはいくつかの安全ピンと元修道服の白い布が置かれている。
どうやら安全ピンを使って修道服を修繕しているようだ。
少女が起きたことに気付いてから上条が部屋に戻るまで殆ど時間はなかった筈だが、少女はその短い間に部屋のどこからか安全ピンを見つけ出したらしい。
「どうやって『歩く教会』を壊したの?」
「『歩く教会』?」
「私が着てた修道服。 これはトリノ聖骸布――ロンギヌスの槍に貫かれた聖人を包み込んだ布地を正確にコピーしたモノだから、強度は法王級なんだよ? それがこんな無残な状態になってるなんて信じられないかも」
「お前が何を言ってるかサッパリ分からんが、ベランダに引っ掛かってるお前を抱きあげたら勝手にぶっ壊れたぞ」
「そんな筈ないんだよ。 聖ジョージのドラゴンでも再来しない限り、法王級の結界が破られることなんてないんだから」
「ドラゴン? 結界?」
ここに来て話がいよいよキナ臭くなってくる。
学園都市の人間でそんなファンタジーな単語を本気で信じている人間は殆どいない。
しかし上条は別だ。
つい一ヶ月ほど前まで異世界にいた上条は、結界を張るような魔法はもちろん本物のドラゴンすら目にしている。
ただこの世界に戻って来て、漫画やゲーム以外でそのような単語を再び耳にするとは思っていなかった。
そしてそれと同時に少女の着ていた修道服が壊れた理由に思い至る。
「……もしかしてその修道服は何か異能の力で出来てたのか?」
「異能の力? 確かに『歩く教会』には魔術的符号がいくつも施されてるけど……」
上条は自分が知っていた世界がいかに小さなものだったか思い知らされる。
異世界に多くの人間が召喚されるという親友の世界をかなりぶっ飛んだ世界だと思っていたが、この世界も負けず劣らずぶっ飛んだものだったらしい。
まさかこの世界にも超能力以外の異能の力が存在するとは思っていなかった。
まあ冷静に考えれば脳を開発することで超能力を実現しているこの街も大概だが……。
そしてドアの外には良く知った氣を感じる。
こんな厄介事になるなら美琴を呼ぶべきではなかった。
上条は自分の迂闊さに唇を噛む。
しかし今更追い返したところで素直に美琴が帰るとも思えない。
美琴の性格は良く知っている。
仕方がないので上条は美琴を部屋へ招き入れるのだった。
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「まずは自己紹介しないとね。 私の名前はインデックスって言うんだよ」
「誰がどう聞いたって偽名じゃないの!!」
少女の自己紹介に美琴は思わずツッコミを入れる。
ちなみにインデックスと名乗った少女は今現在修道服を着ていない、かといって素っ裸な訳でもない。
今は美琴が持ってきたピンクを基調とした服を着ている。
初めは安全ピンによって針の筵となった修道服を着ようとしていたが、それを美琴によって止められたのだ。
同じ女としてその格好はあんまりだと同情したらしい。
そして美琴はインデックスの話を聞きつつも、手慣れた様子で部屋にあった裁縫道具で修道服を縫い合わせている。
思わぬ形で幼馴染の家事スキルを見ることになった上条は素直に感心すると共に、五年という時の流れを改めて感じるのだった。
「それを見てもらえば分かると思うけど教会の者です、ここ重要。 あ、バチカンの方じゃなくてイギリス清教の方だね」
インデックスは美琴が縫い合わせている修道服を指差しながら言った。
バチカンが十字教の総本山であることは、宗教とは基本的に無縁な生活を送っている学園都市の住民でも知っている常識だ。
尤もバチカンを総本山としているのは十字教の中でも旧教と呼ばれている宗派だけなのだが、そこまで上条も美琴も十字教について詳しい訳ではない。
とにかく上条の推測通り、インデックスは十字教の関係者で間違いないようだ。
「イギリスってことは、やっぱり学園都市の人間じゃないんだよな? どうして外部の人間が学園都市で誰かに追われてたんだ?」
「あれっ、どうして私が追われてることを知ってるのかな?」
「詳しい説明は省くが、人の気配……まあ正確には違うけど似たようなものを俺は感じ取ることができてな。 だから今日の朝方にお前が誰かに追われてて、そのまま屋上から落ちたことも知ってるんだよ」
「魔術も使わずに人の気配が分かるって俄かには信じがたいかも」
それは美琴も同様のようでインデックスと同じようにあまり信じていない顔をしている。
どうしたものかと思うが今は自分の力が本題ではないので、上条は話を先に進めた。
「まあ俺のことは一先ず置いといて、さっき魔術とかって言ってたよな? やっぱりお前が追われてるのにはそれが関係してるのか?」
しかしインデックスが答えるより早く、美琴が話に割り込んできた。
「ちょっと、さっきから魔術って本気で言ってるの? そんなの本当にある訳ないじゃない」
そして美琴の発言に今度はインデックスが喰いつく番だった。
「本当に魔術はあるもん!!」
「……あのねえ。 確かにこの街では超能力が開発されてて、火を出せる人間もいれば相手の心を読める人間もいるわ。 でもそれは科学的に実証されてて、ちゃんとした手順に則って開発されたものなの。 血管に薬を打ったり、耳から直接脳に電極を刺したり……それでも能力が伸びない人間だってたくさんいる。 それが本当に呪文一つで何でもできるんだったら、私達のやってることが馬鹿みたいじゃないっ!!」
美琴の言いたいことは理解できた。
昔から美琴が能力を伸ばすために努力してきたことを上条は良く知っている。
そして美琴の友人の中には無能力者の少女もいるらしい。
詳しくは聞いていないが、その少女を傷つけてしまったことがあると美琴は言っていた。
きっとそれら全てを踏まえた上で美琴の中には複雑な感情が渦巻いているのだろう。
しかし現実から目を逸らしていては話を前に進めることができない。
「美琴、悪いが超能力以外に異能の力は本当に存在する」
「え?」
「この世界の魔術については知らないが、実際に俺も超能力以外の力を見たことがあるからな」
「でもっ!!」
「多分その修道服を壊したのは俺の右手だ。 一つ聞くが、何か物に対して持続的に作用させられる能力なんて聞いたことがあるか?」
「それは……ないけど」
確かに物体に作用させられる能力は数多く存在する。
代表的な例を挙げれば念動力などがそれに当たるだろう。
しかし能力を使うにはもちろん演算が必要で、持続的に能力を作用させるならその間ずっと演算を行わなければならない。
『一方通行』のように能力をデフォルトの状態で持続できる人間もいるが、それはあくまでも例外だ。
大抵の場合は能力の使用に演算を必要とする以上、休まずに能力を使用し続けることは不可能だった。
「まあ俺も特殊な体験をしてなきゃ、簡単に魔術なんて信じられなかっただろうさ。 でも今は信じる信じない以前に情報を整理するの先だ。 すぐに受け入れろとは言わないが、今は余計な口を挟まずに少し黙っててくれ」
「……」
上条の言葉に美琴は俯いて黙りこくってしまう。
酷なようだが何かあった時に物を言うのは情報だ。
万が一の事態に陥った時に美琴を守るためにも、今は情報が必要だった。
そして魔術について詳しく聞くべく、上条は美琴からインデックスへと向き直る。
「それじゃあ魔術ってやつについて詳しく教えてくれ」
「ちょ、ちょっと、待つんだよ!! ムキになって魔術が存在するって言い張ったのは確かに私だけど、無理に君が首を突っ込む必要は……」
「……まあな。 でもお前を部屋に入れちまった段階で無関係とは言えないし、何より俺にはお前の修道服を壊しちまった責任がある。 要するに『歩く教会』っていうのは防護服みたいなもんってことだろ?」
「うん」
「それがどれほどの強度だったかは分からないが、お前の身を守るのには役立っていた筈だ。 それを壊しといて、危険だからさよならって訳にはいかねえよ」
「でもこれ以上首を突っ込んだら本当に危険なんだよ。 私がすぐにここから出ていけば……」
「それで全て解決するなら構わないさ。 でもそれじゃあ、お前が救われない。 それにお前が出ていっても、お前を追っていた相手が俺達を無関係な人間だって判断するとも限らない。 俺自身が巻き込まれるのは自業自得だが、美琴をここに呼んだのは俺の責任だ。 万が一の時は美琴を守る義務が俺にはある。 そのためにもやっぱり最低限の知識は必要だ。 襲われた時に知識があるのとないのでは雲泥の差になる。 わざわざ美琴を残したのも、万が一に備えて情報を共有しておくためだ。 近くにお前を追っていた奴らの氣は感じないが、美琴が一緒にいるのが感付かれてる可能性も捨てきれないしな」
上条の言葉に美琴は俯いていた顔を少し上げる。
そんな美琴を上条は横目で見ながら、インデックスに対して言葉を続けた。
「初対面な上にあんなことがあったんじゃ俺のことを信用できないのは分かる。 でも俺のせいで誰かが傷つくのは絶対に許せない。 だから俺が自分自身を貫くために、お前の力を貸してくれないか?」
「むー、あのことは何とか記憶の隅に追いやってたのに」
「わ、悪い」
少し顔を赤らめて言うインデックスに上条は頭を下げる。
しかしインデックス自身も本気で怒ってる訳ではないのか、すぐに上条に笑顔を向けた。
「でも修行中とはいえ私もシスターの端くれだから、人を見る目には自信がある方かも。 君が本当に善意で私を守るって言ってくれてるのは分かるんだよ。 だから一つだけ聞かせて」
「何だ?」
「……私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」
それは先ほどまでと違ってあまりに辛そうな笑顔だった。
暗に今までインデックスが背負ってきた人生を表現するような悲しい笑顔。
上条一人なら断言できただろう、地獄に行く前に引きずり上げてやると……。
しかし今は上条だけでなく美琴もその場にいる。
先ほども言ったように、何があっても美琴を守り抜く決意に変わりはない。
だが思いがけぬ事態だったとはいえ、美琴を巻き込んだのは上条の失態だ。
また考え抜いた末の決断だったが、美琴をこの場に残したのが最善の策でなかったかもしれない。
上条一人の意思で勝手にインデックスの問いに応えることはできなかった。
しかし上条とインデックスが黙りこむ中、その沈黙を破る声が上がる。
それは今まで黙っていた美琴の声だ。
美琴は今まで俯き加減だった顔をしっかり上げると、上条に向かって叱責するように大きな声で言った。
「ちょっと、あれだけの啖呵切っておいて今更黙り込んでるんじゃないわよ!!」
「美琴?」
美琴は立ちあがるとインデックスの下に歩み寄り、白い修道服を手渡す。
インデックスがそれを受け取ると『歩く教会』としての機能はもちろん失われているが、修道服自体は綺麗に修繕されていた。
「さっきは取り乱してアンタの言ってることを全否定するようなこと言って悪かったわね」
「ううん、私こそ不用意に魔術のこと喋っちゃって」
「まあ正直今でも魔術なんて本当に信じてるわけじゃないわ。 でもコイツの話によるとアンタが誰かに追われてるのは本当なんでしょ?」
「……うん」
「だったら魔術の真偽は別として、アンタをこのまま放っておく訳にいかない。 この馬鹿も今はらしくなく何か悩んでるみたいだけど、言ったことを曲げるような奴じゃないしね」
そして美琴はインデックスから上条に視線を向ける。
「私のことを心配してくれてるのは分かってる。 守るって言ってくれた時も嬉しかった。 でも私はただ守られるだけのような玉じゃない。 あの時はアンタに全てを任せきりになっちゃったけど、私だって戦える、私だってアンタの力になれる!! だからアンタは最後まで自分のやりたいように自分を貫けばそれでいいのよ!!」
そう言って自分を真っ直ぐ見据える美琴の眼差しから上条は目を逸らすことができない。
決して責められている訳ではないのだろうが、何となく糾弾されている気分になる。
しかし上条の顔には思わず笑みが浮かんでいた。
「何笑ってるのよ?」
「いや、昔からお前には敵わないと思ってな」
美琴の強さを上条は誰よりも知っている。
それは単に学園都市レベル5第三位としての力という意味ではない。
『妹達』や『絶対能力者進化』という残酷な現実。
しかし美琴はそれらを知って尚、過去の行いに対する責任を果たすため、何より大事なものを守るために戦い続けていた。
確かにその前提には美琴がレベル5という強大な力を持っていたことがあるかもしれない。
だが例え大きな力を持っていたとしても、それを正しいことに使えるのはほんの一握りの人間だ。
それは『一方通行』を見ても明白だろう。
そして昔から自分を守ってくれていたように、美琴はレベルが上がる以前から正義感の強い少女だった。
五年前まで学園都市で美琴と過ごしていた時の記憶は、少なからず今の上条の性格に大きな影響を与えている。
上条は美琴と違って自分のことを正義感の強い人間だとは思っていない。
せいぜい偽善使い――フォックスワードといったところだ。
しかしそれが例え偽善による行為でも、その行動が未来を変える可能性があることを上条は知っている。
もちろんそれが全て良い結果に繋がるとは限らない。
今回の件だけ見ても、美琴を危険に巻き込む可能性を招いてしまっていた。
そのことは上条にとって悔やんでも悔やみきれないものだが、そこで立ち止まってしまっては意味がない。
起きてしまった現実を嘆くのは簡単だが、本当に大切なのはそれに対してどう対処していくかだ。
少なくても今の段階で、美琴が大きな怪我を負ったりした訳ではない。
ならば今の上条にできることは、自分が招いてしまった現実に対して責任を果たすことだけだ。
「サンキュー、お前のおかげで決心がついた」
「分かればいいのよ」
そう言って照れくさそうに顔を背けた美琴に苦笑いを浮かべながら、上条はインデックスに視線を移す。
そして今度こそインデックスの問いかけにしっかりと答えを返した。
「初対面の人間と地獄に行くほど俺はお人好しじゃねえよ。 だが今から地獄に行くって言ってる奴を黙って放っておくこともできない。 だからお前が地獄に向かうって言うなら、その前に引きずり戻してやる。 ……もちろん誰も欠けることなくな」
上条が最後に一言付け加えた言葉に美琴は大きく頷く。
そんな二人の様子を見てインデックスは少し戸惑った表情を浮かべていたが、やがて躊躇いがちに口を開いた。
「……本当に私を助けてくれるの?」
その言葉に今度は美琴だけでなく上条も大きく頷いた。
今までよほど辛い目に遭っていたのだろう、インデックスの瞳には涙が滲んでいる。
「ありがとう。 本当はそう言ってくれるあなた達を巻き込んじゃいけないことは分かってる。 でも私は……」
「心配するな、必ずお前も美琴も守ってみせる。 だから聞かせてくれ、魔術のことやお前が追われている理由をな」
「……うん」
そしてインデックスは語り始めた。
科学とは対極に位置する世界、そして彼女が背負った重い運命について……。
以上になります。
美琴を話に絡めるためとはいえ、少し展開が強引すぎた気もします。
まあそこはご都合主義ってことで。
本当にご都合主義なので色々ツッコミたいところもあるかもしれません。
あるいはキャラの違和感が拭えない可能性も。
それらも含めて質問や改善点があれば教えていただけると幸いです。
感想お待ちしています。
上条厨キメエ。
原作じゃ人間性全くなしの不人気キャラなのに異常に美化してんじゃねえよ。
不人気キャラの厨はそれ相応の振る舞いをしててくれよ。
原作沿い、特に序盤で剥離が少なくてやりやすいのに矛盾を出し。
導入部分の最初の事件が終わったあたりで急速に更新速度が落ちる。
そして主人公は上条さんと言うかKAMIJYOUさん。
なんつーかハーメルンあたりでよく見る典型的な原作再構成物だね。
どうもお久しぶりです。
待ってくださっている方がいるか分かりませんが、しばらく投下できずにすみませんでした。
思ったよりも仕事が楽にならず、毎日ヒィーヒィー言う日々を送っています。
レス返しというかこのssを読んで不快に思われた方もいらっしゃるようなので、自分なりの謝罪と言い訳を述べさせていただきます。
>>354さん
なぜ分かった?
確かに自分が禁書で一番好きなキャラは上条さんです。
ああいう熱い主人公は読んでて楽しかったりします。
自分が厨と呼ばれる人間かは分かりませんが、毎日地味に上条さんに投票する日々を送っています。
>>359さん
本当にすみません。
恐らく原作ファンであろう方を不快にさせてしまったことは申し訳ない気持ちでいっぱいです。
まず矛盾に関してですが、大まかな構想はできてるものの書く時は勢いで書いてる部分もあり、気付くと自分でもおかしな点に気付くことが多々あります。
ただ所詮二次創作で素人が書いてると思って、あまりに大きなこと以外は見逃していただけると幸いです。
続いて更新速度ですが、これに関しては申し訳ない気持ちはあるのですがマジで忙しいんです。
それを言い訳にしていいか分かりませんが、なるべく皆さんの気持ちが離れない範囲で早目に投下できるよう努力したいと思います。
そして最後に誰条さんについて。
確かにこれは原作ファンの方にとって一番不快な点だと思います。
ただこのssでは最初に書いたとおり上条さんのキャラを改変しています。
それに加え、ここまで基本的にシリアスパートだったのでよりそういった面が目立ったと思います。
上条さんは個人的に日常と非日常におけるキャラの変化が大きいキャラクターだと思っています。
第2章が終わったら日常パートも増やしたいと思っているので、そういった場所で原作に近い上条さんを書いていきたいです。
そして>>359さんに指摘された矛盾に関してですがこの章でも早速起きてしまいました。
今回投下分と前回で矛盾した箇所があります。
そこで少しだけ修正させていただきたいと思います。
>>343
×尤もバチカンを総本山としているのは十字教の中でも旧教と呼ばれている宗派だけなのだが、そこまで上条も美琴も十字教について詳しい訳ではない。
○尤もバチカンを総本山としているのは十字教の中でも旧教と呼ばれている宗派だけなのだが、そこまで上条は十字教について詳しい訳ではない。
これからは少しでも矛盾を少なくしていくよう注意していきたいと思います。
それでは投下します。
第3話 立ち位置
魔術――それは異世界の法則を無理矢理現世界に適用し、様々な超常現象を引き起こす技法。
異世界の法則を使うということは学問に結びつき、しっかりとルールを守らなければ使用することができない。
そして魔術を行使するためには、まず初めに『魔力』を精製することから始める。
人間の体に流れる生命エネルギーを『原油』だとすると、精製された魔力は『ガソリン』のようなものだ。
具体的には呼吸法などで血液の流れや内蔵のリズムなどを無理矢理いじることで、普段とは異なるエネルギーを精製することが可能になる。
しかし魔力と一口に言ってもその性質は多岐に渡り、魔術を使うにはその魔術に合った量と質の魔力を生み出さなければならない。
つまり精製の手順を整えることで、量だけでなく『ガソリン』『軽油』『重油』といったように生み出す魔力の質を調整する必要があるのだ。
そのような手順を踏み魔力が得られたら、あとは自分のやりたいことに合わせて魔力を操ればいい。
そこで重要になってくるのが異世界の法則を使うための『コマンド』となる。
その『コマンド』は0から作ることも不可能ではないが、手間が掛かる故あまり効率的な方法とは言えない。
そしてより効率よく魔術を使用するために用いられている『コマンド』が……。
「世界各地にある伝説や神話ってわけね」
「うん。 伝説や神話は長い時間の中でも淘汰されなかった、ある意味最適な手順と言えるからね」
「でも正直十字教のような宗教が、こう言っちゃなんだけど魔術みたいな胡散臭いものと密接に結びついてるっていうのは想像がつかないんだけど」
「確かに人の手で奇跡を起こそうする魔術は不遜と見なされることも多いんだよ。 だから厳密には宗教と魔術は区別されてるし。 でも実際は……」
インデックスによる魔術の講義が始まって十数分、インデックスの説明に対して美琴は熱心に耳を傾けていた。
それにただ話を聞くだけでなく、今のように疑問に思ったことはインデックスに尋ね返している。
そして最初にインデックスを助けると宣言した上条は、二人の会話に入り込めないでいた。
議論が白熱しており、どうも一人取り残された気分になる。
「っていうか、お前は魔術そのものに対しては否定的だったじゃねえか?」
「別に今だって本当に魔術を信じた訳じゃないわよ。 ただ宗教と魔術の関係性におけるインデックスの話が予想以上に面白くてね」
「みことは科学に染まった街の人間にしては色々と詳しいから話甲斐があるんだよ」
すっかり意気投合したのか長年の友人のように親しくしている二人に上条はやはり疎外感を覚える。
そしてふと疑問に思ったことを口にした。
「ところでお前は何でそんなに宗教や神話に詳しいんだ?」
「常盤台の教育理念って知ってる?」
「確か義務教育終了までに世界に通じる人材を育成するだっけか?」
「そう、それ。 やっぱり世界各地で活躍するためにはその文化圏の知識がどうしても必要になってくるのよ。 特に宗教に関しては相手が熱心な信者の可能性もあるからね。 最低限の知識は持ってないと思わぬ形で無礼を働いちゃう可能性もあるし」
「なるほどな」
上条は美琴の言葉に納得して頷く。
それに加えて美琴の父親である旅掛は世界を股にかけて活躍する『総合コンサルタント』だ。
幼い頃に出会ったきりだから詳しい仕事内容は知らないが、上条の父である刀夜と出会ったのもどこか海外の酒場らしい。
もしかしたら世界で活躍する父親の影響も受けているのかもしれない。
「しかし話だけ聞くと、魔術と俺の知ってる魔法はやっぱり違うみたいだな」
インデックスと美琴の会話を聞いていた上条は思わず呟く。
異世界において魔法の才能がないとされた上条は魔法について詳しい知識がある訳ではない。
しかしインデックスの話す魔術と上条の知っている魔法は話を聞いた限り異なる異能だった。
そして上条が発した魔法という言葉にインデックスが凄い勢いで喰いついてくる。
「もしかしてとうまは魔法使いのことを知ってるの? カバラ? エノク? ヘルメス学とかメルクリウスのヴィジョンとか近代占星術とかっ!?」
魔法という言葉を聞いて同類に会えたと思ったのだろう、やたらとハイになったインデックスは表情を輝かせながら上条に迫ってくる。
しかし当の上条はいきなり訳の分からない専門知識で捲し立てられて、表情を若干引き攣らせていた。
だが上条の知っている魔法がこの世界に存在する可能性もある。
もしかしたら何かの役に立つかもしれないと、上条は知っている限り魔法についての知識をインデックスに語り始めた。
「うーん。 とうまの言っている魔法とは少し違うけど、似たような魔術は存在するかも」
「そうなのか?」
「さっき私が話したヘルメス学なんだけど、その中には占星術、錬金術、神智学、自然哲学なんかを含んでるんだよ。 そして数多くいる錬金術師の中でも特に偉大とされるパラケルススは、とうまの言う四大元素における魔法の源――すなわち四精霊についても触れてるくらいだからね」
上条がインデックスに語ったのは、元素魔法――神々や精霊の力を借りて発動するものだ。
異世界での冒険において上条の仲間の一人である少女が得意としていた魔法でもある。
数多くある魔法の中で最もポピュラーなものではあるが、使用者の力量によってその力は大きく変動する。
特に異世界における四大精霊と契約を交わした彼女が用いる元素魔法の威力は凄まじいものだった。
「ってことは、やっぱりそういう精霊の力を借りた魔法は存在するのか?」
「そこがとうまの言ってる魔法と魔術の決定的な違いかも。 魔術は宗教や神話に則って使われることが多いっていうのは話したよね?」
「ああ」
「でもそれはあくまでも則ってるだけであって、普通の魔術師はあくまでもそれらをベースに魔術を組み立ててるに過ぎないんだよ。 伝説級の魔術師ともなれば話は別だけど、普通の魔術師は『天使の力《テレズマ》』を借りることはできても『天使そのものの力』を使うことはできない」
「言ってる意味が良く分からないんだが……」
「詳しく話すと時間が掛かるから省略するけど、要するに魔術っていうのは宗教や神話を指針としてるだけであって、本当に聖書や神話を再現してる訳ではないってことかな? そもそも人の身でありながら本当に聖書を再現しようなんてこと自体おこがましいことだからね。 そしてそれは古代の神秘主義的な一群の文献ヘルメス文書に基づく魔術も同じなんだよ」
「……つまり魔術は精霊をモチーフとして力を使うのに利用はするけど、実際に精霊の力を借りて使う訳じゃないってことか」
そもそもこの世界において元素魔法を使用するのに必要な精霊が存在するのか、魔法を使えない上条には分からない。
だが自身の氣だけでなく大気の氣を利用する上条は、この世界に帰って来てからこの世界に何か違和感のようなものを感じとっていた。
「それにしても、とうまがどこでそんな知識を手に入れたのか不思議なんだよ。 独創的で興味深いものではあるけど……」
「帰って来てから訳の分からない力も使えるようになってるし。 もしかしてあの力も魔法ってやつなの?」
二人の少女は訝しげに上条に尋ねる。
美琴にとっては上条が姿を消していた五年間に関わることであるため、一刻も早く知りたい思いも強い。
「いや、俺は魔法を使えねえよ。 俺が使ってるのは『錬環勁氣功』って言って、氣を操る操体術だ」
しかし美琴は氣という言葉の概念すら知らないため、上条の言葉だけでは上条の力について理解が追いつかない。
そして訝しげな表情を崩さない美琴の代わりに、インデックスが上条に尋ねた。
「氣っていうのはラテン語でいうスピリトゥスのようなものかな?」
「スピリトゥス?」
「ギリシア語のプシュケー、ヘブライ語のプネウマ、サンスクリットではプラーナとも言うね。 生命力や聖なるものとして捉えた気息って言えば分かりやすいかも。 中国ではそれを雲気・水蒸気と区別せずに大気の概念の一つとして捉えることによって、氣という概念を成り立たせてるんだよ。 雲は大気の凝結、風は大気の流動であり、その同じ大気が呼吸されることで体内に充満し循環して身体を賦活する生命力として働く。 昔は精神的、霊的な次元も生命的な次元と区別されずに含まれてたけど、そっちはは理という概念に統括されて今は生命的な力としてのニュアンスが強くなってるね。 他では息と大気は連続的なものだから気象といった自然の流動とも関連付けられて、次第に大気に関わる気象だけじゃなく、あらゆる自然現象も一つの氣の流動・離合集散によって説明できるとされてるんだよ。 それに関してはアルケーとしてのエーテルに近い考え方かも」
上条はインデックスの言葉に少し驚いた表情を見せる。
それはインデックスが語った氣についての説明が上条が認識しているものと殆ど同様だったからだ。
上条の知る魔法とインデックスが語った魔術の一部についても、力としては完全に別物だが概念としては類似性が見られる。
歴史や文明だけ見ればこの世界と異世界アレイザードは似ても似つかないものの、二つの世界には確かに似通った点が存在した。
そして上条は思わず自分の右手に目を向ける。
二つの世界における異なる三つの異能、その内二つに奇妙な類似性がある理由は分からない。
だがそれら三つの異能を例外なく打ち消す『幻想殺し』――その力を持った自分が異世界に跳ばされたことにも何か意味があるのだろうか?
生まれた時から自身の右手に宿っている力について上条は何も知らない。
「それでその氣っていうのが使えると具体的に何ができるの?」
上条は自分の力が持つ意味について思いを巡らせていたが、やはり訝しげな表情を崩さないまま美琴が尋ねてきた。
恐らくインデックスの説明を聞いても上条の力について実感が湧かないのだろう。
確かにあの説明は氣の概要について触れただけであって、具体的な力について述べた訳ではない。
それはインデックスも同様なようで、上条の答えを待っていた。
「『錬環勁氣功』って言うだけあって、体内で練り上げた氣を体に循環させるのが一番の基本だな。 体に氣を巡らせることによって、身体能力を上昇させることができるんだ」
「じゃあ、アンタの身体能力が馬鹿みたいに高いのはその『錬環勁氣功』を使ってるから?」
「まあそういうことになるな」
美琴は怪訝そうな表情を浮かべたままだったが、どうやら一先ず納得したようだ。
尤も上条は『錬環勁氣功』を習得する際に体を極限まで鍛え上げており、例え『錬環勁氣功』を用いなくとも常人離れした動きが可能なのだが……。
「あの光る球も氣ってやつを使ったものなんでしょ?」
「氣弾のことか? 確かにあれも氣を使ったもんだけど……」
上条は自らの力について説明を続けようとしたが、途中で言葉を止めた。
この一ヶ月間敢えて無視するよう努めてきたことが、ここに来て目を逸らし続ける訳にもいかなくなったようだ。
「急に黙り込んでどうしたのよ?」
突然黙った上条に対して美琴が不審そうな視線を向ける。
説明するのは構わないが、今の状況で話すと美琴に余計な気苦労を掛けることは明白だった。
それに今は他に優先すべきことがある。
「いや、何でもない。 取り敢えず俺の話はおいおいするとして、そろそろ本題に入らないか?」
すると上条の言葉にインデックスがビクッと肩を震わせる。
今までの説明で科学的に開発された超能力とは異なる魔術と呼ばれる異能が存在することは分かった。
そしてインデックスは恐らくいわゆる魔術サイドに所属しているのだろう。
しかし肝心の話がまだ聞けていない。
それはインデックスを追っている相手と、その理由だった。
「何か言いにくい理由があるのは分かってる。 でも例え何を聞いたとしても俺達はお前の味方だ。 どうしても話しにくい部分は無理しなくていいから、話せる範囲で話して欲しい」
まだ上条と美琴がインデックスと出会ってから僅かな時間しか経っていない。
それでも二人はインデックスがどんな人間か理解しているつもりだ。
天真爛漫――悪く言えば子供のような印象に目が行きがちだが、それ以上に人のことを心から思いやれる優しさをインデックスは持ち合わせている。
恐らく自身が辛い状況に置かれているにも拘らず、インデックスは人のために笑うことができる少女だった。
だから上条も美琴も迷わない。
既に二人の心はインデックスの力になることを決断している。
そしてインデックスも二人の気持ちを悟っているのか、躊躇う様子を見せながらもおずおずと口を開いた。
「……二人に隠し事なんてしたくないんだよ。 二人を危険に巻き込むことになるのは分かってる。 でも私のことを全部知った上で最終的な決断してくれればいいかも」
「……分かった」
「まず最初に私を追っている連中についてだね。 薔薇十字か黄金夜明か、その手の集団だとは思うんだけど。 ごめんね、名前までは分からない。 でも魔術結社の人間――魔術師に間違いないんだよ」
「……」
外部の人間である筈のインデックスがわざわざセキュリティの厳しい学園都市にまで逃げ込んだくらいだ。
インデックスがどうやって学園都市に侵入したか気になるところだが、そうせざる得ないほど緊迫した状況にあったことは間違いないだろう。
そしてそこまで追い詰めなければならないほど、インデックスが何らかしらの価値を持っているということも示している。
インデックスはより一層口を重くしながらも言葉を続けた。
「……そして連中は私の持っている十万三千冊の魔道書を狙ってる」
インデックスの言葉に上条と美琴は顔を見合わせた。
今まで魔術について話していたのだから魔道書という言葉が何を意味するかは理解できる。
しかし誰がどう見てもインデックスは何も持っていない手ぶらの状態だ。
ましてや十万三千冊の本など一人で持ち運べる筈がない。
「どこか図書館の鍵でも持ってるってこと?」
美琴の言葉にインデックスは首を横に振る。
「ううん。 ちゃんと十万三千冊、一冊残らず持ってきてるよ」
イマイチ要領を得ないインデックスとの会話に上条と美琴は眉を顰める。
そこでようやくインデックスは自らの説明が言葉足らずだったことに気付いたのか、二人に向かって説明を加えた。
「ごめんね、少し言葉が足りなかったみたい。 十万三千冊の魔道書は全部、私の頭の中にあるんだよ」
インデックスの言葉に上条はまだ理解が追いつかなかったが、美琴は何か思い当ったようで驚いた様子でインデックスに尋ね返す。
「もしかして、十万三千冊全ての本の中身を記憶してるってこと!?」
美琴の言葉に上条も驚いた表情を浮かべる。
そして信じられないといった様子でインデックスに尋ねた。
「十万三千冊の本を残らず記憶してるなんて、そんなの無理に決まって……」
「そんなことないわよ」
しかし上条の言葉をインデックスではなく美琴が否定した。
困惑した表情を浮かべる上条に対して、美琴は苦笑しながら言葉を続ける。
「インデックス、もしかしてあなた完全記憶能力を持ってるんじゃない?」
「うん」
「完全記憶能力?」
美琴の言葉にインデックスは頷く。
そして上条は聞きなれない言葉に再び疑問の声を上げた。
「完全記憶能力、まあ文字通り見たもの全てを記憶する能力のことね。 まあ能力っていうより体質に近いものかもしれないけど」
「見たもの全てを記憶するって、本当にそんなことが可能なのか?」
「まあ私もその分野の研究に詳しいわけじゃないけど、世界中でその体質の人は何人もいるって話だし、」
「それじゃあインデックスはその完全記憶能力で十万三千冊の魔道書全てを暗記してるって訳か」
上条の言葉にインデックスは再び頷く。
そして今度は十万三千冊の魔道書について語り始めた。
「でも完全記憶能力を持ってるだけじゃ魔道書は記憶できないんだよ。 宗教防壁がない一般人だったら魔道書に目を通すだけで発狂もしくは廃人になりかねないからね」
「廃人になりかねないって、そんなもの頭の中に記憶しててお前は大丈夫なのかよ!?」
「私は敬虔なシスターなんだよ。 魔道書の毒に対する耐性は持ってるし、ちゃんとそれから身を守る術も備えてるから問題ないかも」
「……そういう問題じゃねえんだけどな。 まあそれはともかく、それじゃあお前を追ってる魔術師は十万三千冊の魔道書の知識を狙ってるってことか」
「うん。 一応私の中にある知識は写本という形になるから『原典《オリジン》』には及ばないけど、それでも十万三千冊の魔道書の知識の価値は計り知れないからね。 本当はイギリス清教の教会に保護してもらえれば一番いいんだけど」
上条も美琴も第一二学区に教会があることは知っているが、流石にイギリス清教のものかどうかまでは分からない。
また教会に逃げ込んだところで本当にインデックスの安全が保障されるのだろうか?
学園都市までインデックスを追い詰め、またその後も執拗にインデックスを追っている相手が教会に逃げ込んだ程度で諦めるとは上条には思えなかった。
そして上条が今後の方針について考えを巡らせていると……。
グゥーーーーーー
明らかにお腹の虫が鳴いたと分かる音が部屋に響き渡った。
そしてインデックスは顔を少し赤く染めている。
「ハハッ、もう朝飯の時間だもんな。 取り敢えずこれからどうするかは飯を食いながら考えるか。 ……美琴、お前って料理ができたりする?」
「へっ? 一応最低限はできると思うけど」
「だったらインデックスに飯を作ってやっててくれないか? 俺は少しだけ外に出てくるから」
「もしかして魔術師がっ!?」
インデックスの表情に戸惑いと焦りが見え始める。
上条が人の気配が分かると話したのを覚えているのだろう、恐らく魔術師が近くに来たと思ったに違いない。
しかし上条はインデックスを落ち着かせるように微笑むと、美琴に向かって言った。
「ちょっと野暮用を片付けなきゃならないだけだから、心配するな。 その間、インデックスのことを頼むな」
「まさか一人で戦おうってんじゃないでしょうね!? そんなの私が許すわけ――」
「違う違う、ホントに少し出るだけだ。 そんなに遠くに行く訳じゃねえし、下手に分かれてお前やインデックスに何かあったら洒落にならねえからな。 ちゃんとお前達の氣を探れる位置にいるから安心してくれ」
「そうじゃなくって!! 私が心配してるのはアンタが一人で無茶しないかってことよ!!」
「……サンキュー。 でも何も知らずに置いてかれる気持ちは良く知ってるから、そんな真似はしねえよ」
そう言って立ちあがると上条は玄関から外へと向かう。
上条が美琴に言った言葉に偽りはない。
上条が向かった先は近くも近く、自分の部屋を出てすぐ隣の部屋だった。
玄関先に備えつけられたインターホンを押すが返事はない。
続けざまに三回連続で押したものの、やはり部屋の中に人のいる気配はしなかった。
しかし例え気配を感じなくとも、上条は部屋の家主が中にいることを確信していた。
「居留守しても無駄だぞ。 あと十秒以内に出て来なかったらドアをぶち破るからな」
そう言って上条は十秒のカウントダウンを始める。
そしてカウントが3になった時、玄関のドアが開いた。
「カミやんが言うとシャレになんないぜよ」
「よう」
中から出てきたのは髪を金髪に染め上げサングラスを掛けた少年。
普段ならここにアロハシャツという特徴も追加されるのだが、まだ早朝のためか普通のTシャツを着ている。
彼の名は土御門元春、上条のクラスメイトの一人だ。
青髪ピアスと同じく、まだ学園都市に帰って来たばかりで不慣れなことが多い上条は色々と世話を焼いてもらっている。
しかし今日は友人として土御門に会いに来た訳ではなかった。
「取り敢えず上がらせてもらっていいか?」
「どうぞ、上がってくれにゃー」
部屋に招き入れるように先に進む土御門に続いて、上条は土御門の部屋に足を踏み入れる。
部屋の中にはジムにあるようなトレーニング器具があちこちに置いてあった。
それを見れば土御門が普段から体を鍛えていることが窺えるが、それ以上に壁側に二つ並んだ本棚に敷き詰められたメイド関係の本の数が土御門の性癖と残念さを物語っている。
「……別に俺もメイドが嫌いなわけじゃねえけど」
「なっ!? 舞夏は渡さないぜよっ!!」
「いや、義妹と仲が良いのも結構なんだけどさ……少しは隣室の俺のことも気遣ってくれよ」
「ゴホン、ゴホンッ!! 何のことを言ってるかさっぱり分からないにゃー。 それよりこんな時間に一体何の用ぜよ?」
上条の言葉に土御門の顔から冷や汗が噴き出してくる。
明らかに動揺してるのが見て取れる土御門だったが、わざとらしく誤魔化すように咳払いすると話題を逸らすように上条に用件を尋ねてきた。
それに対して上条も特に態度を崩すことなく、それこそ普段と全く変わらぬ様子で平然と土御門の問いに答えた。
「いや、今回の件について学園都市が握ってる情報を教えて欲しくてな」
次の瞬間、土御門の表情が豹変した。
いや、豹変したという表現は正しくないかもしれない。
豹変した訳ではなく、土御門の顔からは一切の表情が消え去っていた。
サングラスの奥に隠された瞳からは何の感情も読み取ることはできない。
しかしそんな友人の態度に臆することなく上条は言葉を続けた。
「ずっと俺達の会話に耳を立ててたなら状況は分かってるんだろ? 学園都市が外部からの侵入者を把握してない筈ないだろうし」
「……いつから気付いていた?」
いつものふざけた口調ではない。
土御門の声音からもやはり感情の起伏を感じ取ることはできなかった。
しかし却ってそれが土御門が自らの感情を殺す術を身に付けていることを表している。
だがそんな土御門を前にしても、やはり上条が態度を崩すことはなかった。
「それは俺達の会話に聞き耳を立ててたことか? それともお前がこの一ヶ月間、ずっと俺のことを見張っていたことか?」
「……」
「まあこんな街だから何か色々と事情があるのは分かってるさ。 でも例えお前が俺のことを見張っていたとしても敵意のようなものを感じたことはなかったし、何よりお前は俺に良くしてくれたからな。 何か手を出してきたなら話は別だが、一々気にしたりしねえよ」
「……参ったにゃー。 これでも隠密行動なんかには自信があったんだが」
「いや、居留守を使おうとしてた今も気配は完全に消えてたさ。 でもまあ俺にはいくら気配を消しても意味がないからな」
「ふーん、それも氣ってやつのお陰なのかにゃー? まあ今はそれはどうでもいいぜよ。 カミやんの言う通り、確かに俺はこの一ヶ月間カミやんのことを見張ってたんだぜい」
そう言って肩を竦めた土御門の雰囲気はいつもと変わらぬものになっていた。
切り替えが早いと言うべきか、これには上条も少し肩すかしを食らってしまう。
「おいおい、開き直るの早すぎだろ」
「完全に正体がバレてる相手に下手に取り繕っても意味がないぜよ。 それにカミやんと仲良くしたいっていうのも本当だしにゃー」
「俺を見張ってたのはやっぱり『絶対能力者進化』の実験を妨害したからか?」
「流石にそれは企業秘密ってとこですたい。 でもカミやんの言う通り、今はカミやんと敵対するつもりなんてこれっぽっちもないんだぜい」
「……今はね。 まあいいや、それで俺が知りたい情報は教えてくれるのか?」
「さっきも言った通り、オレがカミやんと仲良くしたいって思ってるのは本当なんだにゃー。 ところがどっこい、オレが置かれてる複雑怪奇な立場から表だってカミやんの味方をすることはできないぜよ」
「まあそりゃお前の立場もあるだろうからな。 ただ表だって味方できないってことは、敵対するようなこともないってことだよな? なら学園都市は今回の件には特に関与しないってことか」
「そう思ってもらって構わないんだぜい。 学園都市内での行動は許可したけど、手を貸すことはしないスタンスってとこだにゃー」
「余計な横槍が入らないことが分かっただけで十分だ。 わざわざ押し掛けるような真似して悪かった。 お前も色々とあるだろうに、ありがとうな」
上条は土御門に礼を言うとそのまま背を向けて玄関へと向かう。
そして土御門はそんな上条に向かって少しだけ言葉を付け加えた。
「髪をポニーテールに纏めた女とだけは何があっても正面から戦うな。 これがオレからできる唯一の忠告だ」
土御門の忠告に上条は言葉ではなく片手を上げて応える。
色々と土御門の言葉で気になる部分はあるが、深くは追及しない。
あの実験を押し進めた学園都市の下で働いているとはいえ、土御門個人に対して上条は特に嫌悪感を持っていなかったし、友人の立場を必要以上に悪化させるようなこともしたくなかった。
恐らく土御門はプロと呼ばれる類の人間で、都合が悪くなるようなことは語っていない筈だ。
それでも得られた情報はあったし、無駄足だった訳ではない。
上条は踵を返して自分の部屋へと戻るのだった。
以上になります。
また疑問点や改善した方がいい点があればご指摘ください。
感想お待ちしています。
待ってました。
上条さんと土御門のやり取りが良かったです。
色々と外野が煩いですが、気にせず自分のペースで進めてください。
続きも楽しみに待ってます。
乙です
つっちーやる事ちゃっかりと・・・
乙!!
このssでも土御門はやっぱりシスコん軍曹なのか。
ところで上条さんは童貞なん?
クロス先の主人公はいつ卒業したか分からないけど、最新巻の時点で非童貞じゃないことが判明したが。
スレ主さん、他人の感想への横レスは禁止にするって前に言ってなかったっけ?
してる人居るけど注意しないのかな?
久しぶりに覗いたら更新されてた。
乙!!
>>380
感想ならまだしも、改善点を挙げたり批評してる訳でもない。
単にssそのものを批判してるような奴が多少叩かれるのは仕方ないんじゃないか?
この上条さんは考え方自体はテレスティーナやstudyに近いものを持ってるから、もしこいつらと対峙したらどんな反応するか気になる。
続き待ってる
待ってます
大変お待たせしてすみません。
次の話は殆ど書きあがっているのですが、中々筆が進まない状況になっています。
今日中には絶対に投下できるので少しだけお待ちください。
待ってました!!
10時になったら投下します。
本文投下する前に少しレス返しを。
>>374>>375>>376さん
ここでも土御門はぶれません。
つっちーは永遠のシスコン軍曹です。
多分これから先書くであろう上条の日常パートはデルタフォースとのやり取りが多くなると思います。
そして上条が童貞かどうか。
そこら辺はそのうち明かされる日はくるんですかね?
クロス先の原作じゃメインヒロインが全世界に向けて、とんでもない下ネタを発言しちゃいましたが。
何かエロって書いてみたいけど、文才がないのと後で見直すのが中々怖くて書けません。
ただ上条さんの鬼畜攻撃の最初の被害者は既に決まっています。
>>380>>383さん
申し訳ありません。
自分で言ったことなのに完全に失念してました。
感想への横レスですが、今後相手を罵るようなレスがあった場合はちゃんと注意したいと思います。
ただ今回の上条さん童貞非童貞説のように雑談をするのは全然構いません。
スレの雰囲気がおかしくならない程度に気をつけていきたいと思います。
>>384さん
禁書目録編の後は乱雑開放編を予定してるので、そこでテレスティーナとのやり取りはあると思います。
ただ上条さんが全面に出てしまうと、あまりにも簡単に解決してしまうので少し構想を見直さなければならないと思っています。
何となく各編のテーマや言わせたいセリフのようなものは決まっているのですが、その状況に持っていくまでの描写が中々できません。
これがある程度構想を練っていても、投下スピードが遅い理由でもあります。
>>387>>388>>390さん
ありがとうございます。
こういう一声がもらえるだけで本当に励みになります。
少しでも皆さんに楽しんでもらえるよう頑張りたいと思います。
これからもよろしくお願いします。
では投下します。
第4話 友達と力
「おい、そんな無理にがっつかなくても……」
土御門の部屋から戻って数十分、上条は美琴とインデックスとテーブルを囲んで朝食を取っていた。
基本的に体を資本とする上条は食事の量も多い。
普段の上条は倹約家であるものの、食べることに関しては我慢しても心と体に毒だと言い聞かせている。
傍から見れば食べ過ぎに思われるかもしれないが、それで体調を崩したり、それこそ太ってしまうような軟弱な鍛え方はしていない。
とはいっても普段は自炊をしているため、忙しい朝の食事は量はともかく簡単に用意できるものが殆どだ。
だが今日の朝食は美琴が用意したものであり、普段のものに比べると遥かに豪勢なものだった。
これをほんの十分程度で作り上げるのが朝飯前だというのだから、常盤台の教育恐るべし。
しかし上条は美琴の料理以上に目の前の光景に驚きを隠せなかった。
「だって美味しくて止まらないんだよ」
先ほども述べた通り、上条は基本的に大飯食らいだ。
だがそんな上条が霞んで見えるほど、目の前のインデックスが食べる食事の量は尋常ではなかった。
初めに美琴が用意した朝食は既に全て平らげられており、急ごしらえで作った料理の数々も殆ど残っていない。
まるで漫画のようにテーブルの上で積み重ねられた空の皿が哀愁を漂わせている。
この小さな体のどこにこれだけ詰め込める容量があるのか、上条は人体の不思議を感じずにはいられなかった。
三日分あった筈の冷蔵庫の中身は既に殆ど空っぽになっている。
「まあ作ったものをこれだけ喜んで食べてくれるのは素直に嬉しいんだけどね」
そう言いながらも美琴の表情には苦笑いが浮かんでいる。
一方の上条はどういう訳か近い将来、逃れられない不幸に見舞われる嫌な予感を拭いきれないのだった。
・
・
・
一先ず食事を終えると今後の方針を話しあうべく、上条は美琴とインデックスに向かい合っていた。
上条はインデックスを追っていた相手の氣を記憶してるので、ある一定の距離まで近づけば相手の位置を探ることができる。
しかし今回の目的は魔術師と戦うことではなく、あくまでインデックスの安全を確保することだ。
美琴に一二学区にある教会を調べてもらったが、残念ながら特定の宗派に属するものではなかった。
神学系の学校が並ぶと言ってもやはり学園都市、あくまでも科学的に宗教に対してアプローチするのが主な修学内容らしい。
そのことにインデックスは眉を顰めていたが、こればかりは住んでいる世界の価値観の違いもあるからどうしようもないだろう。
とにかく学園都市内で直接イギリス清教とコンタクトを取ることは難しいようだ。
するとしばらく思案顔を続けていた美琴が何か思いついたように口を開いた。
「ねえ、パパ達に連絡を取ってみるのはどう?」
「父さん達の海外でのツテを頼るってことか」
上条と美琴の父親は二人とも海外での仕事を主としている。
確かにあの二人ならイギリスで仕事をしたこともあるだろうし、その中で直接でなくともイギリス清教に通じる人間とコンタクトを取ったこともあるかもしれない。
しかしインデックスがそれを制止した。
「直接私の身の安全を確保してもらうよう頼むのは難しいかも」
「どうして?」
「確かに私はイギリス清教の人間なんだよ。 でもさっき言ったよね、宗教と魔術は厳密には区別されてるって」
「ああ」
「私がイギリス清教で所属してる部署は『必要悪の教会』、そこでは基本的に対魔術師の仕事を主体としている。 そして魔術師に対抗するには、こっちも魔術に対する知識を習得するしかない。 でも宗教において魔術は穢れたものとされてる。 この矛盾の中で汚れを一手に引き受ける異端中の異端たる機関、それが『必要悪の教会』で、それ故に『必要悪』と呼ばれているんだよ」
「要するにイギリス清教って一括りに言っても、お前が所属してる『必要悪の教会』っていうのは表沙汰にはできないような汚れ仕事をしてるってことか?」
「……うん。 だからイギリス清教と直接関係ない人間がいきなり私の名前を出したりしたら、二人のお父さんを危険な目に遭わせちゃうかもしれない」
そう言って寂しそうに笑うインデックスに上条は少し胸を痛める。
目の前の無邪気な少女は誰がどう見ても、並外れた食欲とシスターであるということを除けば普通の少女にしか見えない。
しかし実際は十万三千冊の魔道書いう問題を抱えている。
実際に魔術を見た訳ではないため、上条にはそれがどれだけ危険なものかは分からない。
だがそれを執拗に狙ってくる相手が確かに存在し、インデックスが危険に晒されているのは疑いようがない現実だ。
今更インデックスを見捨てる気もないし、自分の言ったことを曲げる気も上条にはない。
父親達に頼る以外に何とかしてイギリス清教とコンタクトを取る手段がないか上条と美琴は考え続ける。
「っていうか今更だが、インデックス自身はイギリス清教と直接連絡を取る手段を持ってないのか?」
考えてみれば自分の所属している組織の連絡先くらい知っていてもおかしくない筈だ。
一々職場の連絡先を記憶している人間は少ないかもしれないが、完全記憶能力を持つインデックスはその限りではない。
しかしインデックスは上条の言葉に少し困った表情を浮かべていた。
「……私ね、一年以上前の記憶がないんだよ」
「えっ?」
思わぬインデックスの告白に美琴は驚きの声を上げる。
上条も衝撃を受けたのは同様で、ただインデックスの顔を見つめることしかできなかった。
そんな上条と美琴の様子にインデックスは小さく笑う。
「気付いたら路地裏にいてね。 ……おかしいよね。 昨日の晩御飯も思い出せないのに、魔術師とか十万三千冊の魔道書『禁書目録』とか『必要悪の教会』とか、そんな知識ばっかりがぐるぐる回ってて本当に怖かったんだよ。 でもイギリス清教の連絡先とかそういった知識は全然なかった」
過去の記憶がない、それは自己を形成するアイデンティティーの殆どを失っていることと同義だ。
確かに生まれ持って備わった生来の性格というものも存在する。
自分が辛い状況にあるにも拘らず誰かのために笑えるインデックスの優しさなどはそれに当たるだろう。
それに例え過去の記憶があったとしても、必ずしもそれが良い影響を与えるとは限らない。
上条自身、幼少期や異世界での生活も決して楽しいことばかりではなかった。
時には全てを投げ出したいと思ったことも数多くある。
しかしそれでも優しい両親や幼馴染、そして異世界で仲間と過ごした日々は上条にとってかけがえのないものだ。
だがインデックスにはそれがない。
話を聞く限り、インデックスも決して平坦な道を歩いてきた訳ではない筈だ。
もしかしたら失われた過去に、想像を絶するような辛い経験があったかもしれない。
だが逆にインデックスにとって何事にも代えがたい幸せな時間があった可能性もある。
とにかく人にとって記憶とは簡単に消し去ってしまっていいものではない。
ある意味、他人が無遠慮に踏み込んではいけない絶対の領域と言えるだろう。。
インデックスの置かれている境遇を考えると、不慮の事故などで偶然記憶を失ったとは考えづらい。
今インデックスを追っている相手かどうかまでは分からないが、インデックスが記憶を失ったのには恐らく魔術師が関わっている。
単にインデックスを追っている魔術師だけでなく、インデックスをそのような事態にまで追い込んでいる現実を上条は苦々しく思った。
今回の件だけでない、身近な世界にも絶対能力者進化のように悪夢のような現実は存在する。
この世界に帰ってくるまで知らなかった苦々しい現実に上条は直面していた。
異世界での冒険を経て、常人を遥かに超える力を上条は得ている。
しかし異世界で出会った親友と違って、上条には元の世界における明確な目的がない。
恐らく生まれ持った不幸体質が完全に消え去ることはないだろうが、それでも何の変哲もない普通の日常さえ送れればいいと思っていた。
それに例えどんな強大な力を得たとしても、自分一人で全てを救えると思うほど上条は傲慢でない。
現に今もこの世界では上条の知らぬ場所で悲劇が溢れ返っている。
だが上条はこの世界で起きている現実の一端を知ってしまった。
思っていたよりもずっと近くに悲劇は潜んでいた。
それは否応なしに上条の周りの世界を蝕んでくる。
その現実を知ってしまった以上、上条に見て見ぬふりはできない。
例え全てを救うことができなくても、目の前で起こっている不幸を放っておけるほど上条は諦めがいい訳ではなかった。
「今までよく頑張ったな」
「……うん」
そう言って頭を撫でた上条に対してインデックスは小さく頷く。
頼れる人間も、自身の拠り所とすべき記憶もない。
簡単に言葉にできるほど、インデックスがこの一年で過ごしてきた日々は生易しいものではないだろう。
記憶を失った後も魔術師に狙われ続け、心安らぐ時間さえ殆どなかったに違いない。
「今の状況じゃどうするのがインデックスにとって一番いいのかさえ分からないけど、取り敢えず何があっても俺はお前の味方だから」
「とうま……」
「ちょっと、私のことも忘れるんじゃないわよ!!」
「みこと?」
「私だってインデックスの友達なんだから、アンタ一人に全部任せる気はないからねっ!!」
「……友達?」
「あれっ、もしかして私の勘違い!? ご、ごめんね、正直私も友達とか作るのあんまり得意な方じゃないから」
「そ、そんなことないんだよ。 私だってみことと友達になれて本当に嬉しいかも。 ただ……」
「どうかしたの?」
「友達って言葉を聞くと何だか胸がギュッと締め付けられる気がして」
「インデックス……」
インデックスの話によると、やはりこの一年間は魔術師に追われ続け気の休まる時は殆どなかったそうだ。
そして友達と呼べる人間にも心当たりはないという。
ならば何故インデックスは友達という言葉に胸を痛めたのだろうか?
例え記憶がなくとも心が覚えていることもある。
何の根拠もない話だが、そんな幻想なら信じてみるのも悪くないかもしれない。
「しかし結局良い打開策は無しか……」
インデックス自身も連絡手段を持っていないとすると本当にお手上げだ。
やろうと思えばイギリス清教の連絡先を調べること自体はできるだろうが、インデックスの言っていた通りイギリス清教の暗部たる『必要悪の教会』にコンタクトを取ることは難しいだろう。
学園都市にはイギリス清教の教会がないため、インデックスを保護してもらうためには学園都市の外に出るしかない。
しかし学園都市の住民である上条と美琴が外に出るのはもちろん、恐らくインデックスを外に連れ出すことも難しい筈だ。
学園都市のIDについて尋ねてみると、インデックスは可愛らしく小首を傾げていた。
やはりIDの発行などはされていないらしい。
下手をすると外に通じるゲートで仲良く警備員にしょっ引かれる可能性もある。
やろうと思えば上条も美琴も外壁を強行突破することくらい可能だが、絶対能力者進化や妹達の件も含めて今はまだ学園都市の上層部に表だって目を付けられるようなことはしたくない。
と、そこで上条はちょっとした違和感を感じた。
先程も少し疑問に思ったことだが、学園都市のセキュリティは厳重に敷かれている。
『学園都市内での行動は許可したけど、手を貸すことはしないスタンスってとこだにゃー』
土御門の口ぶりからすると、恐らく魔術師と学園都市の間には何らかしらのパイプが存在するのは間違いない。
ただこの部屋に襲撃を掛けるなど強硬手段に出ていないところを見ると、行動に何らかしらの制限は受けているのかもしれないが。
だが両者の間に繋がりがある以上、魔術師が学園都市にいること自体は特におかしなことではない。
しかしインデックスに関しては話が変わってくる。
IDが発行されていないのをみると、インデックスは外部から無許可で学園都市に侵入したことになる。
何らかしらの魔術を使って侵入したのか尋ねてみると……。
「私は魔力が練れないから魔術は使えないんだよ」
上条もこの世界における魔術については何も知らないので、こう言われては黙るしかない。
しかしインデックスが嘘を言っているようには見えないが、本当にそうだとすると一つの大きな問題が浮かび上がる。
(ってなると学園都市が意図的にインデックスを内部に招き入れた可能性もあるわけか)
学園都市と魔術師との間には繋がりがあるため、学園都市に追い込んでインデックスを捕縛する手筈になっているのかもしれない。
だが学園都市に魔術師と手を組むメリットがそもそも存在するのだろうか?
学園都市は内部の生産ラインだけで基本的な物流の全てを賄うことが可能となっているものの、表向きの顔はあくまで学問を目的とした学生の街であるため、外部からの入学志願者なしでは運営が成り立たなくなってしまう。
超能力に憧れて学園都市での生活を希望する人間は後を絶たないが、それでも学園都市に対する印象が損なわれないよう各国に対する外交を蔑ろにするわけにはいかない。
そして外部と基本的に隔離されている学園都市では実感が湧きづらいが、政治と宗教には密接な繋がりがあるものだ。
それは異世界での経験で得た知識だが、この世界においてもそう大きな違いはないだろう。
魔術師に追われているインデックスは十字教の人間で、それもインデックスの所属しているイギリス清教は十字教三大宗派の一つに数えられるほど大きな宗派らしい。
政治と宗教が密接に結びついている以上、学園都市がイギリス清教と対立するメリットが見当たらないのだ。
インデックスを追っている魔術結社の大きさは分からないが、イギリス清教が持つ影響力を上回るとは考えにくい。
魔術結社が学園都市にとってよほど有益な存在なのか、最悪の場合は学園都市自体がインデックスを狙っている可能性もある。
しかし土御門の口ぶりから後者の可能性は低いと見ていいだろう。
となると必然的に前者の可能性が高くなるわけだが、それ以外にもう一つの可能性が存在した。
それは……。
Prrrrrrr
そこまで上条が考えを整理していると唐突に携帯が鳴った。
携帯のディスプレイには見知らぬ番号が表示されている。
美琴とインデックスの方を見ると電話に出るよう促してきたので、上条は通話ボタンを押して電話に出る。
「もしもし、どちらさまですか?」
『上条ちゃんですかー? 先生なのですー』
「小萌先生?」
『良かった、声を聞く限り体調が悪いわけじゃないみたいですねー。 補習の時間になっても上条ちゃんが学校に来ないから電話したのですよー』
「あっ」
すっかり忘れていた。
学校の成績が悪かった上条は夏休み最初の一週間で補習を受けることになっていたのだ。
『あっ、てまさか補習のことを忘れてたわけじゃないですよねー?』
「す、すみません」
『能力開発に関しては学校側の至らなさを申し訳なく思っているのです。 でもそれを抜きにしても上条ちゃんの成績は壊滅的なんだから補習をサボっちゃ駄目なのですよー』
酷い言われようだが、残念ながら事実なので否定できない。
尤も成績が悪いのは上条に限った話ではなく、クラスメイトの三分の二以上が補習に参加する予定だった。
自分のことを棚に上げるつもりはないが、これで本当に大丈夫なのか心配に思う。
『上条ちゃん、具合が悪くないんだったら今からでもちゃんと補習に来てくださいねー』
「先生、無理を承知でお願いがあるんですけど」
『……今日はお休みですか?』
「はい、もしかしたら今日だけじゃなくて……」
『……分かりました。 その代わり、用事が済んだら休んだ分の補習はちゃんと受けてもらうのですよ』
「理由を聞かないんですか?」
『上条ちゃん、こう見えて先生がこのお仕事を始めてから随分になります。 上条ちゃんが編入してきてからまだ一ヶ月しか経っていませんが、自分の受け持つ生徒さんがどんな子か理解してあげるのが先生の一番の仕事なのです。 確かに上条ちゃんはお馬鹿さんで、節操無く女の子と仲良くなったりして……』
「ちょっ、最後の前半はともかく後半は全く身に覚えがないんですが!?」
『……それでも上条ちゃんが何の理由もなしに補習をサボったりするような子じゃないことは分かっているのですよ』
「先生……」
『先生としては、女の子のために懸けるその情熱をもっと勉強に注いで欲しいのですけどね』
「あれっ、良い話から途端に変な方向にっ!? っていうか何でアンタの中では俺が女の子のために何かしてる前提で話が進んでるんだよっ!!」
『違うのですか?』
「えっ、いや、それはその……」
『はぁー、まったく上条ちゃんは』
「……」
『……無茶はしちゃ駄目なのですよ』
「はいっ!!」
通話が切れた後も上条は心の中で小萌先生に感謝していた。
基本的に親元を離れて暮らす学園都市の学生に何かあった場合、責任を取らなければならないのか学校の教師だ。
ましてや今回の場合、小萌先生は上条が何かしようとしているのを知っていた上で止めなかった形になる。
もちろん何も知らなかったと、知らぬ存ぜぬを通すこともできるだろう。
しかし小萌先生は上条に万が一があった場合、きっと全ての責任を請け負うに違いない。
小萌先生がこの一ヶ月で上条のことを理解しようと努めていたように、上条も小萌先生の人柄をよく理解している。
上条にとって小萌先生は尊敬ができると共に信頼できる大人だった。
小萌先生に迷惑を掛けないためにも、美琴やインデックスはもちろん上条自身も無事でなければならない。
「大丈夫?」
「ああ、夏休みが補習で少し多めに潰れるだけだ。 それよりもこれからどうすっかな?」
上条はさきほど思い至った一つの可能性を考慮した上で今後の対応を模索する。
もし上条の考えが正しければ、インデックスを巡るこの戦いの意味合いは大きく変わることとなる。
だが完全にそう判断するにはインデックスの話といくつか矛盾が存在し、土御門があのような態度を取った理由も説明がつかない。
土御門を再度問い詰めることも考えたが、既に部屋を出て上条が氣を感知できない距離にいるようだ。
恐らく今回の件で何か裏で動いているのだろう。
(安易に一人で魔術師と接触するのは止めた方がいいだろうな。 インデックスを追っている魔術師は最低でも二人。 俺の推察が外れてた場合、傍にいなかったら二人を危険に晒す可能性がある。 ったく、手っ取り早く土御門と話ができればいいんだけど)
土御門が部屋にいないのは分かっているので、携帯に電話を掛けてみるもののやはり繋がらなかった。
なるべくなら危険を冒すようなことはしたくないが、いつまでもこうやって部屋に籠っていても仕方ない。
簡単にイギリス清教と接触できない以上、できることは限られていた。
ノーリスクノーリターンとまではいかないが、多少の危険を冒さなければ手に入らないものもある。
「……取り敢えず、魔術師の氣を感じたらこっちから打って出てみるか」
「インデックスを教会に保護してもらうだけだったら無理に戦う必要はないんじゃないの?」
「まあな。 でもいくら事前に魔術師の接近を感知できるって言っても、いつまでも逃げ続けてる訳にはいかないだろ? 相手が痺れを切らして手段を選ばずに襲ってきたら、周りにも被害が出る可能性がある。 イギリス清教とコンタクトを取る手段がない今、当面の安全は確保しておいた方がいいと思ってな」
「……確かにいつまでも逃げてるだけじゃジリ貧になるだけかもね」
「ちょ、ちょっと待って!! 相手は殺しのプロなんだよ!! とうまが氣を使えて強かったとしても簡単に勝てる相手じゃない!! それにみことにもそんな危険なことさせる訳には……」
「言ったでしょ、私はただ守られるだけの玉じゃないって。 ……色々と複雑な部分もあるけど、自分の力を悲劇だけで終わらせたくない。 レベル5としての力を友達を守るために使いたいっ!!」
「レベル5?」
「……美琴は学園都市に七人しかいない超能力者――レベル5の第三位なんだ」
美琴が言う悲劇が何を指しているかは言われずとも分かる。
簡単に拭いきれるような過去ではないだろうし、そもそも完全に忘れ去ってしまっていいものでもない。
恐らく今もあの実験は美琴の心を大きく蝕んでいるのだろう。
だが美琴は例えあのような悲劇を齎す結果となった力でも、今は友人を守るために使いたいと言っている。
言葉にするのは簡単だが、そう思えるようになるまではかなりの葛藤があったに違いない。
そのような美琴の強さは好ましいものだし、尊重したいと上条は思う。
しかし悲劇を背景とした強さは時に危ういものとなる。
確かに過去や思い出は人にとって無くてはならないものだが、それに呑み込まれてはならない。
だから上条は美琴が誤った方向に進まぬよう支えることを誓っている。
――――二度とあのような悲劇を繰り返さないためにも。
「とにかく、そう気張るなって。 今は俺も付いてるし、一人で気負う必要はないんだからな」
「わ、分かってるわよっ!! だからいつまでも子供扱いしないでって言ってるでしょ!!」
何故か不機嫌になった美琴に対して上条は苦笑いを浮かべる。
美琴の態度も本当はただの照れ隠しなのだが、残念ながら上条がそれに気付くことはない。
異世界での冒険を経て異性に対する気配りが達者になっても、上条は基本的に鈍感だ。
流石に正面から好意を伝えられて気付かないほど鈍くはないだろうが、いわゆるツンデレと呼ばれる人間が隠している真意が分かるほど敏くはかった。
(昔は素直で可愛かったのになー)
美琴が聞いたら卒倒しそうなことを思いながら、上条はインデックスの方に向き直る。
「それと、インデックス。 悪いが魔術師の所に行く時は、一緒についてきてくれるか? 潜伏してる魔術師の正確な数が分からないから、下手に別れたりすると却って危険かもしれない」
「うん、分かってるんだよ。 みことも何か凄いことは分かったけど、二人とも魔術に関しては素人なんだから。 魔術師と対峙した時は、私の知識が役に立つと思う」
「ああ、その時は頼りにさせてもらうな」
「うん!!」
インデックスの返事に微笑んだ瞬間、上条は自分の感知できる範囲内にとある氣を持った人物が侵入したのを感じ取った。
思っていたよりも早く行動に出たらしい。
「……来たみたいだな」
上条の言葉に美琴とインデックスの表情にも緊張が走る。
しかし周囲の氣に意識を集中させた上条は違和感を感じ取っていた。
「それにしてもおかしいな。 夏休み初っ端の午前中だっていうのに、周りに他の氣を全然感じない」
「それは多分、人払いの魔術を使ってるんだと思う」
「人払い?」
「うん。 風水の理論を応用してることものが殆どなんだけど、簡単に言えば一定の範囲内へ無関係な人間が侵入するのを防ぐ術式かな?」
「それは却って都合がいいな、面倒事になっても周りを気にしなくてすむ。 この方角と距離だったら公園で待ち伏せできる筈だ」
そう言って立ち上がった上条に美琴とインデックスも続く。
・
・
・
「……わざわざ、出迎えてくれるなんてね。 それをこちらに引き渡してくれるのかな?」
公園で魔術師を待ち構えていた上条達の前に現れたのは何もかも異質な少年だった。
背は2mを越す高さであるものの、まだ幼さを残す顔立ちから見た目より少年がまだ幼いことを示している。
少年が風上に立っているせいか、十五メートル以上離れた上条の鼻にもまで甘ったるい香水の匂いが漂ってきた。
肩まである真っ赤に染め上げられた長髪、左右一〇本の指に並んだ銀の指輪、耳には毒々しいピアス、口の端で揺れている火のついた煙草、極めつけは右目のまぶたの下に刻まれたバーコードの形をした刺青。
公園に立つ少年を中心とした辺り一帯の空気は明らかに異常だった。
その空気に当てられたのか美琴は少し強張った表情をしていたが、上条はそんな美琴とインデックスを庇うように前に出て少年と対峙する。
「えっと、インデックスを狙ってる魔術師で間違いないか?」
「その口振りだと、おおよその事情はそれから聞いてるようだね。 まあ正確にはそれじゃなくて、それが持ってる十万三千冊の魔道書だけど。 とにかく十万三千冊の魔道書は少々危険な代物なんだ。 使える連中に連れ去られる前に、こうして僕達が保護しにやって来たって訳さ」
「……『保護』ねえ」
インデックスをまるでモノ扱いする目の前の魔術師のことは気に入らなかったが、今は他に確認すべきことがある。
一つの可能性として上条が導き出していた推論。
魔術師の態度から、いくつか存在した矛盾点も無くなりつつあった。
だが一方で上条には自分の考えが外れていて欲しいという願いもある。
仮に上条の考えが正しかったとすれば、どうやってもハッピーエンドを迎えることはできない。
しかしこれからどのような選択をするにしろ、避けては通れない問題だった。
「取り敢えずインデックスをお前達のような連中に渡すつもりはない」
「そうかい。 では君達にはここで消し炭に……」
「まあ、落ちつけって。 戦り合う前に一つだけ質問してもいいか?」
「敵を前にそんな悠長なことをしてるつもりはないね。 Fortis93……」
「……お前、教会の人間だろ?」
上条から出た予想外の言葉に美琴とインデックスまで凍りつく。
そして『神父』の格好をした魔術師は煙草を銜えたまま、ただ静かにその場で佇んでいた。
以上になります。
……いわゆるご都合主義ですね。
少し無理やり感があるのは否めません。
前にも言われましたが、確かに誰条さんになってる。
小萌先生との会話で少し上条さんらしさを出せてたらいいと思うのですが。
いつものように疑問点や改善した方がいい点があれば遠慮なく言ってください。
感想お待ちしています。
これはあくまでもアドバイスに過ぎないので聞き流してもらっても構いません。
まず感想から。
上琴好きとしては今後の展開が楽しみで仕方ありません。
キャラの崩壊についてですが、他の方が指摘してるほど気にはなりません。
美琴についても現段階で無意味にデレさせたりしておらず、ここから二人がどのように仲を深めていくかも楽しみです。
その他のキャラ同士の関係も妹達、インデックスと綺麗に書かれていると思います。
冥土帰しや土御門も良い味を出してます。
そしてここからが本題です。
改善点があれば伝えて欲しいと仰ってたので、敢えて厳しい書き方になると思います。
さきほども述べたようにキャラの関係や描写は素晴らしいと思います。
心情描写に関しても文句の付けようがないほど綺麗です。
ただここでは強い上条さんがコンセプトになると最初に書いてありました。
今回の状況に対する推察などは、まさに修羅場を潜ってきたからこそのものだと思います。
それ自体には何の問題もないのですが、気になったのは実際の戦闘描写です。
申し上げにくいのですが、ハッキリ言って戦闘描写に関してだけ言えば何の面白みもありません。
とにかく描写が平坦に感じます。
ただ文で状況を説明しているだけで、全く躍動感のようなものを感じません。
せっかく強化されてる上条さんが活かしきれてないのでは?
確かに禁書の原作における戦闘描写は参考にしづらい部分もあると思いますが、クロス先の作品、他にも参考にできるものはたくさんあると思います。
本来は書き手が自由に書ける二次創作に関して外野がとやかく言うのはマナー違反なのでしょうが、期待が大きい故に余計なお世話と思いつつも言わせていただきました。
恐らく戦闘に入るとしたら次話からの可能性が高いように思うので、気に留めておいていただけたら幸いです。
重ねて言いますがキャラや心情描写に関しては何の不満もありません。
ただ今後も戦闘描写が入ることを考慮しての老婆心です。
長くなりましたが、次回の投下も楽しみにしています。
乙!!
皆さん、感想やアドバイスありがとうございます。
特に>>410さんはありがとうございました。
すぐに上手く書けるとは思いませんが、皆さんが少しでも楽しめるように頑張りたいと思います。
そしてここで質問なのですが、初めに書いていた通りこのssは基本的に上琴というカップリングになります。
しかしそれ以外にもいくつか作中でカップリングが登場することになります。
割と王道なカップリングなので特に注意は必要ないと思いますが、
上琴以外にもカップリングが登場する場合は予め表記しておいた方がいいのでしょうか?
ちょっととあるスレで荒れてるのを見たもので。
もし必要であれば、次回投下の際に書いておきたいと思います。
今さらですが、ちょっと報告です。
色々と指摘されて読み返していたところ、
確かに矛盾点や表現が乏しい場所など見ていて恥ずかしくなる部分がたくさんありました。
そこで申し訳ないのですが、序章を除いて最初から書き直したいと思います。
書き直すに当たって、矛盾点の解消と上条さんのキャラ崩壊の減少、
そして戦闘描写の改善を意識していくつもりです。
新しくスレ立てするのもなんなので、
このスレの途中からという形になりますが>>1の身勝手な自己満足に付き合っていただけると幸いです。
分かりました。
一回このスレは落としたいと思います。
すみません、依頼しちゃいました
タイトルは特に変えない予定なので、今後もよろしくお願いします。
同じタイトルでスレ立てするとHTML化の際に管理人が間違えて新スレの方を落としてしまう可能性があるから
>>420が言ってるように今のスレタイに仕切り直しとわかるような文言入れておいた方がいいよ
>>424さん
分かりました、新しいスレだと分かるようにタイトルに少し何か付け加えるようにします
新スレ立てました
はぐれ勇者の幻想殺し 改訂版
はぐれ勇者の幻想殺し 改訂版 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384036670/)
よろしくお願いします
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