釣れますかなどとモバP側へより (27)


アイドルマスターシンデレラガールズより藤原肇のSSです

書き溜めあり。完結まで五千字程度

地の文をつけるのは初めてですがよろしくお願いします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1373463184


はぁと思わず溜息をついてしまう。
垂らした釣り糸は時折風に靡くだけで後は静かなものであった。
昼過ぎから釣りを始めたものの、数時間経った今も釣果はなし。
河岸が悪い訳でもない。
さらさらと流れていく水面へと目を向ければ幾つかの魚影がくっついたり離れたりとしている。
その内の数尾は、疑似餌の側まで来ているのにも関わらず、一向に食いつく様子もない。
強いて言えば運が悪いのである。


どうにもままならない。

ここの所、何となく上手くいかないことばかりであった。
学校へ行けば教科書を忘れ、ろくろを回せば酷く歪になる。
気分転換にと川へと出れば、ただただぼんやりと座っているだけである。
これでは何をしに来たのかわかったものではない。
釣り針を流れから少し浮かせてみる。
期待していた訳でもないが、思った通り針にかかったものはない。
ゆらゆらと揺れる釣り糸を伝って僅かな雫が針へと溜まり、そして落ちる。
ぴちゃんと小さく音を立てた。
驚いた一尾が身を翻す。日の光を受け白く煌めいた。


「釣れますか。」

見れば男が釣り支度をして立っていた。
年の頃は二十六、七。短く揃えられた髪は黒く、乱れもない。

「え? はい。い、いいえ。」

突然の出来事に、上ずった声で答える羽目となった。
やっぱり上手くいかない。
どっちですかと男は小さく笑った。

「隣、いいですか?」

指先をちょんちょんと下へ動かす。彼の言葉に、私はどうぞと頷いた。

「それじゃ失礼して。
女の子が一人で釣りをしてるなんて珍しくてね。思わず声かけちゃったよ。」

折りたたみの椅子を広げ、手際良く竿を垂らすと人懐っこい笑みを浮かべながら言う。

「はぁ。」

「怪しい者じゃない、って言うと余計に怪しまれるかな? どうにも職業柄ね。
ごめんね、今更だけど迷惑だったら他行くよ。」

「いえ、迷惑ではないですけど……。」

一人でただ座っているのにも飽きがきていた頃である。
彼には悪いが気晴らしにでもなれば良いと思った。


「君、釣りは好きかい?」

「はい。趣味の一つです。」

「そうか。俺もね、大好きなんだよ。昨日は中々寝付けないほどだった。」

「そんなに楽しみだったんですか?」

「勿論。なにしろ久しぶりだからね。かれこれ四ヶ月はやってないし。
 本来なら東京に戻らなくちゃあいけない所だったんだけど、同僚に無理言ってさ、仕事の後に一日だけ休みを取って貰ったんだ。
 本当にちひろさんには頭が上がらないよ。」

神様仏様ちひろ様、と彼は拝むような仕草をする。
何となくあやかってみようと思い、「自身も釣れますように。」と両手を合わせた。面白がって男も続く。

「ちひろ様ちひろ様。どうかこの針にお魚沢山かけて下さい。あと、ドリンクは値下げしてください。」

一頻り願いを込め東京へと飛ばす。
とはいえ、そう事が運ぶ訳もなく釣竿は静かなままである。

「お祈り、届きませんね。」

男に微笑みかける。
方角なんて分からないからねと彼は戯けてみせた。


「お仕事は、東京でされてるんですか?」

「うーん、一応はそうかな。イベントの度に地方に出向いたりはするけど。」

「イベント?」

「そう。俺さ、こう見えてアイドルのプロデューサーなんてやってるんだよ。」

「アイドル、ですか?」

思えばいつのことであったか。
煌めくステージの上。楽しそうに歌い舞う彼女たちに憧憬を抱いたのは。
粘土でマイクを形作り卓に乗っては、良くはしたないと良く窘められたものである。
アイドルになりたいと家族に宣言した所で、こともないように流された。子供のうちは皆そうだよ、とは父の言であったか。
それに気付いてしまったのはいつだったろう。自身には縁のない世界であると。

でも、眼前には嘘か誠かプロデューサーを名乗る人物がいる。

もし叶うのならば——

そこまで考えた所で、余りの都合の良さに気づく。
そんなことある訳もないのに。


「そう。昨日は小さいながらもライブイベントだったんだよ。知ってるかな? トライアドプリムスって。」

「知ってます。最近売り出し中だって、クラスの子たちが話していました。」

「嬉しいな、知ってる人がいるってのは。努力が認められた気がするよ。」

といっても努力してるのは俺じゃなく彼女たちだけどね。
そう、男は笑う。我が子を思いやる父のような温かさである。

「お休みを貰ったって言ってましたが三人はどうしているんですか?」

「彼女たちは仲良く観光してるよ。アイドルっていっても年頃の女の子だからね。偶には息抜きも必要さ。俺にも、ね。」

片目を閉じて悪戯っぽく言えば、どこか少年のような顔つきであった。
それが何だかおかしくて口元へと手をやる。くすくすと漏れ出る声を聞いた男は照れくさそうに後頭部を掻いた。

「すみません。なんだか子供っぽいなぁと思ってしまって。」

「まぁ、皆若いからね。付いて行くのも大変なんだよ。」

「お兄さんも、まだまだ若いです。」

「そう? もう、三十路目前だけど。」

「世間一般で言えば充分に若いです。」


そう私が言うと、彼は目に見えて安堵の表情を浮かべる。
歳を気にするのは女性だけど思っていたばかりに、少しながら意外であった。

「そうだよなぁ。俺もまだまだイケる歳だよな! いや、普段接する相手が相手だからさ。正直少し気にしてたんだよね。
 女子高生から見れば、俺はもうおじさんなのかなって。偶に話題が噛み合わなかったりするし。」

知ってる? 今、スパッツのことレギンスって言うんだぜ?

男は自信満々に言う。
余りの言葉に、私は乾いた笑みを浮かべる他に無かった。
そこにトレンカなどというものもあると言えば、彼はどんな顔をするのだろうか。
少しだけ気になったものの、余計な混乱を招くだけだと判断。自身も普段から身に付ける訳でもない。
もし違いなんかを説明することにでもなれば、ちょっと困ってしまう。東京と比べれば岡山など片田舎ではあるが花の女子高生である。
ファッションに疎いと、ちょっぴりだけど思われたくなかった。


「君、歳はいくつ?」

そんな取るに足らない事を考えていると、男性から声がかかる。

「え? 歳ですか。今は十五です。もうじき十六になりますけど。」

「近いのかい? 誕生日。」

「はい。来月の十五日です。」

「あと二週間とちょっとってところか。」

それじゃあ、皆と同じくらいだな。
小さく呟くと、目を閉じ顎に手を当て彼は何やら考え込んでいる様子である。
淡い期待が首をもたげる。しかしながら、それ以上に気になってしまったものが男性の釣竿であった。
今、魚がかかったらどうしようと少しハラハラ。
見れば高そうな一式である。果たして、もし食いついたとしても勝手に触って良いものだろうか。
そんな考えも杞憂に終わる。それが良いか悪いかはまた別の話であったが。
彼女たちに会ってみたくないかと、彼は言った。
瞳からは光を放ち、その口調は力強く。
そう、彼は言った。


「会えるなら、会ってみたいですけど大丈夫なのでしょうか。」

「君なら問題はない。」

「その、三人の邪魔をしちゃうんじゃあ……。」

「始めは皆そんなものさ。」

「折角のお休みですから、悪い気がします。」

「何事も優先順位なんてもんはあるものだ。」

何気ない会話だけれどちょっと違和感。
収まりが悪いというか、どこか噛み合わないというか。
どうやら男性も同じなようで、何となく晴れぬ顔。
むむむと唸ると、何事かに思い至ったようで、やっぱり駄目かと肩を落とす。
一人で納得されては困ると私は言葉を返した。


「何が駄目なんでしょう?」

「うん? ああ、口説き文句だよ。」

自信作だったのにと力なく項垂れまま男は言った。
出来はどうであれ、面と向かって口説き文句などと言われてしまえば、さすがに警戒心というものが出てくる。
私の顔色が変わったことに気付いたのか彼は俄に慌てだした。
ぶんぶんと両手を胸の前で振る。

「ごめんごめん。そういうつもりで言ったんじゃないんだ。」

「じゃあ、どういったおつもりで?」

「いやね、アイドルにならないかってことなんだ。」

「えっと? アイドル?」

「そう。簡単にいえばスカウトってやつ。」

となると思い返されるのは先程の言葉。
どう考えてみても、「今から彼女たちに会いに行かないか。」といった意味にしか取れない。
きっと逆立ちしてみた所で結果は変わらないだろう。


「あれで、ですか?」

「うん。あれで。」

返す男性の言葉には、先程と打って変わって力がない。
彼自身も失敗したと思っているのだろうか。

「普通に勧誘するんじゃあ、ちょっと格好つかないかなと思って色々試してるんだけどね。
 いまいち不評なんだよなぁ。加蓮の時も散々に言われたよ。」

何かの宗教だと思ったよ、と男は声色を変えて言う。
恐らくトライアドプリムスの一人、北条加蓮を真似たのだろう。

「ま、まぁ、あれじゃ無理もないと思います。」

「何が駄目なんだろうなぁ。今回はいけると思ったんだが。」

根本的に駄目だと思います。
さすがに口に出す訳にはいかなかった。


「取り敢えず置いとこう。この話は何だか胸が痛いや。それでどうだい? アイドルに興味はないかい。」

「えっと、それは……。」

降って湧いた幸運とはこうしたことをいうのだろうか。
すぐさまに飛びつきたい反面、果たして本当に自分がといった疑念もあった。
父の言うように、アイドルになりたかったのは子供の頃の憧れでしかないと思っている。
しかし高鳴る胸は抑えきれずにいる。
彼がアイドルのプロデューサーだと言った時、私は何を思ったのか。
彼が年齢を聞いた時、私に芽生えたのはなんだったのか。
本当に、子供の頃の憧れでしか無かったのか。
縁のない世界だと、諦めていただけでなかったか。
叶うはずがないと思い込もうとしていただけではないのだろうか。


「私なんかじゃ、きっと届かないと思います。」

「いや、届くさ。君なら問題はない。黒髪が綺麗だ。スポットライトに映える。
 透き通った声をしている。舞台上で美しく響く。物腰が柔らかだ。皆に癒しを与えられる。
 何よりその瞳だ。強い光がある。上にいける子たちと同じだ。」

「容姿に関しても言いたいことはありますけど……。迷っている人間に、そんな光があると思えません。」

「迷っているかどうかなんて関係はないよ。目の輝きなんてものは生まれつき皆が持っているものだ。
 それを他の人よりも強く宿す子たちがアイドルと呼ばれる。」

「歌や踊りなんて、私に出来る自信はありません。」

「その為のレッスンだよ。踊りなんて、諦めてさえしなければ一定の水準には誰でも届く。
 歌には感情を込めること、音感を持つ事が欠かせない。確かに、それらは生まれついてのものがある。
 だけどそれと同じくらいに大切なのが声だ。そしてそれを君は持っている。」


「でもレッスンだって、無償という訳ではないでしょう。」

「痛いとこつくなぁ。本当なら全額事務所で持つと言いたい所なんだけど。
 うちの所だと頑張って七割負担が精一杯だ。それなら実際に払って貰うのは月々三万といった所か。」

「岡山からも遠いです。」

「女子寮があるよ。まだ数人しかいないけどね。オートロック完備のいい物件だ。悔しいけど俺のアパートより良い。ちひろさんもそっちに越したし。
 家賃もほぼ事務所負担だからやっぱり三万程度かな。ちひろさんの場合は三割引きだけど。これ以上俺の給料が削られてたまるか。
 あと、地方出身で低ランクの子なら、実家との往復にかかる移動費は全額事務所負担。新幹線に乗ればすぐだ。」

不意に強い風が吹いた。風のざわめきに小鳥たちが囀りを始める。

木々が揺れ、新緑鮮やかな葉が数枚ひらひらと舞う。
優雅に、淀みなく、たおやかに。
するりと葉先が水面につくと、お辞儀をするかのように静かに倒れ、川の流れに乗っていった。

「あんなふうに、なれたらいいですね。」

「なれるさ。君なら美しく歌い、舞える。」

そう言って男は黒い革張りのケースを取り出す。
中には名刺の束があり、そのうちの一枚をこちらに差し出した。

「すぐに返事をくれとは言わないよ。ご家族の判断もあるしね。
 実際、アイドルになるということは君の人生にとっての大きな賭けになるだろう。
 ただ、俺自身としては君がステージの上にいる景色を見てみ——ちょっと失礼。」


電子音が辺りに響く。どうやら彼の携帯電話らしく男は席を外す。
流れ出るメロディーはNever say never。トライアドプリムスの一人、渋谷凛の曲だ。

アイドルになるのは一種の賭けだと男は言った。
自身もそう思う。やってみたいとは思うも、やはり先を考えれば不安は尽きない。
あと一押し、あと一押しが欲しい。

なら、いっそ賭けてみようと思う。
腕時計に目を落とせば、切り良く時刻は午後四時半を指していた。あと三十分。
手を合わせ、彼のように「ちひろさんちひろさん。」とお願いしてみる。
方角なんて、やっぱり分からなかった。


「途中で外しちゃって悪かったね。」

「いえ、大丈夫です。」

「凛——あの三人からでね。夕食を一緒に食べたいから戻って来いってさ。
 良かったら君も一緒にどう? 彼女たちにしても君にしても、俺なんかよりは余程話が合うと思うよ。」

「誘って頂いたところ申し訳ないのですが、まだ私やることがありますので。」

「そう? 残念だな。じゃあ、もう行かなきゃならないし、最後に名前だけ教えて貰っていいいかな?」

「藤原肇です。藤原氏の藤原に、筆に似た字を書く肇です。」

「筆に似た字? ああ、あの字ね。ハナ肇の肇。」

「……まぁ、そうですけど。」

「ごめんごめん、女の子にいう言葉じゃなかったか。でもいい名前だ。
 物事を新しく始めるといった意味の字だ。きっとこうして会ったのも何かのご縁ってね。」


それじゃあ、東京で会えることを楽しみにしているよ。
そう言い残して男は去って行く。彼の言う通りこれもきっと何かの縁なのだろう。

陶芸家を継げと、おじいちゃんは日頃から言う。
もし、この胸中を打ち明けたら祖父はどんな顔をするだろうか。
頑張ってこいと送り出してくれると嬉しい。

大きくしなりはじめた竿を見ながら、私はそんなことを考えていた。



終わりです
次はもっと良いのが書けるように肇ちゃんをペロペロしてきます

次のスレタイはもうちょい考えなきゃならんかもね

訂正
>>6

「お仕事は、東京でされてるんですか?」

「うーん、一応はそうかな。イベントの度に地方に出向いたりはするけど。」

「イベント?」

「そう。俺さ、こう見えてアイドルのプロデューサーなんてやってるんだよ。」

「アイドル、ですか?」

思えばいつのことであったか。
煌めくステージの上。楽しそうに歌い舞う彼女たちに憧憬を抱いたのは。
粘土でマイクを形作り、卓に乗っては良くはしたないと窘められたものである。
アイドルになりたいと家族に宣言した所で、こともないように流された。子供のうちは皆そうだよ、とは父の言であったか。
それに気付いてしまったのはいつだったろう。自身には縁のない世界であると。

でも、眼前には嘘か誠かプロデューサーを名乗る人物がいる。

もし叶うのならば——

そこまで考えた所で、余りの都合の良さに気づく。
そんなことある訳もないのに。

もいっこ訂正。他にも誤字とかあるけど切りないからもういいや

>>5

「君、釣りは好きかい?」

「はい。趣味の一つです。」

「そうか。俺もね、大好きなんだよ。昨日は中々寝付けないほどだった。」

「そんなに楽しみだったんですか?」

「勿論。なにしろ久しぶりだからね。かれこれ四ヶ月はやってないし。
 本来なら東京に戻らなくちゃあいけない所だったんだけど、同僚に無理言ってさ、仕事の後に一日だけ休みを取って貰ったんだ。
 本当にちひろさんには頭が上がらないよ。」

神様仏様ちひろ様、と彼は拝むような仕草をする。
何となくあやかってみようと思い、自身も「釣れますように。」と両手を合わせた。面白がって男も続く。

「ちひろ様ちひろ様。どうかこの針にお魚沢山かけて下さい。あと、ドリンクは値下げしてください。」

一頻り願いを込め東京へと飛ばす。
とはいえ、そう事が運ぶ訳もなく釣竿は静かなままである。

「お祈り、届きませんね。」

男に微笑みかける。
方角なんて分からないからねと彼は戯けてみせた。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom