蚊「僕はパイロットになる」 (39)


蚊女「今何て言ったかよく解らなかったな」

蚊女「もう一度言ってもらえる?」

蚊「だから、僕はパイロットになるんだってば」



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蚊女「なんでよ!そんな事をして何の得があるの!?」

蚊女「パイロットとして敵を倒すのは女の仕事じゃない!!」

蚊「それはそうだけど……」

蚊女「敵は…'ヒューマン'は狡猾な生物…」

蚊女「無闇に出撃しても逆に撃墜されるのがオチよ!!」

蚊「それでも僕は行かなきゃならないんだ…」

蚊「これ以上、周りの女の子達を危険な目には合わせたくないんだ!」

蚊女「!!」

--------

僕達の町からも既に多くの女達がパイロットとして飛び立って行った
彼女達の帰還率は7割程度
それはつまり、私達は一度の作戦毎に部隊の3割を失うという事に他ならない
それでも皆が出撃を繰り返すのはそれが'義務'だからである

蚊社会の文明が進み高度な技術を得てからはまるで人間達の様に好きな生活が出来る様になった

例えば日々の食事や雑貨を販売する末端小売店や嗜好品を販売する専門店
珍しい食事や酒類を出す飲食店や賭博行為紛いの事をする遊戯店

この様に集団での社会生活が確立され始めると其処には当然ルールができる
そして、ルール違反をした者を戒め模倣者の発生を抑止する為の'法律'と'執行機関'ができる
それが世に言う'皇帝蚊憲法'および'蚊警察執行隊'である

そしてその中にはこういった一文が含まれていた

--それぞれの蚊集落は集落規模に応じた血液を確保し政府に献上しなければならない--

--------


この法が作られたのには理由がある

現在の様に蚊社会の文明が進んだとはいえ、結局のところ蚊は蚊だ
生活だけならばともかく、子孫を残す為にはやはり'人間の血液'が必要だった

しかしこの'人間の血液'というのは厄介である
これを確保する為の出撃には多大な犠牲が伴うのである
特にこの法が立法された当時はまだ戦闘技術も成熟しておらず帰還率は4割も行けば良い方だったのである

この様な状況下でわざわざ危険を冒して出撃を試みる蚊はどんどん減って行った
それは社会に'娯楽'が増えてしまったからである
世の中に楽しみが沢山あるのにわざわざ死にに行こうという者は稀であった

その結果蚊社会の蚊口(人間でいう所の人口)は急激な減少を見せた

これが立法の理由である


蚊「…考えてもみて欲しいんだ」

蚊「法で血液税が定められてはいるが、その収集方については何も語られていないじゃないか」

蚊「僕が行くことの何処に問題があるんだい?」

蚊女「それはそうだけど…古来より血液の回収は女の仕事だった…」

蚊「そりゃそうさ、昔はその場で血を吸うしかなかったんだから」

蚊「今はただ回収するだけじゃないか、そうだろう?」

蚊女「…………」

蚊「それなら体力のある男が現場に出た方が生還率は上がる筈だ」

蚊(まあ、理由はそれだけじゃないけど……)

--------

蚊女「…それで、どうするつもりなの?」

蚊「うん、僕はこれから航空学校へと行くつもりだ」

蚊「今から訓練をして、来年の今頃にはパイロットとして任務に就く」

蚊女「……わかった」

蚊女「でも1つだけ、条件がある」ズイッ

蚊女「それを飲まなきゃ意地でもあなたを航空学校には出さない」

蚊「そ、そんなの…」

蚊女「なに?文句あんの?従わないの?」ズズイッ

蚊「いや、その……」タジタジ

蚊女「ぁあん?」ズズズイッ

蚊「し、従います……」


春、満開の桜をバックに記念撮影を行う航空学校新入生
そこに蚊はいた



----その近くには蚊女の姿もあった



蚊(まずい…これは本格的にまずい……)

こうなったのはひとえに蚊が生来の意気地なしであったからだ

--------

蚊「…で、その条件って何なのさ……」

蚊女「あんたと一緒に私も航空学校に着いて行くわ」

蚊「………え?」

蚊女「私の義務教育基本飛行訓練成績は知っているでしょう?」

蚊女「体力差分を差し引いてもあんた…いや他の誰にも負けないつもりよ?」

蚊「いや、そんなのはダメだ!認めr…

蚊女「やかましい!!」

蚊女「あんたはさっき従うって言ったんだからね!」

蚊「でも……」

蚊女「…それに、そうしない訳にもいかないわ」

蚊「え?」

蚊女「この近辺の蚊で私の飛行技術を知らない奴なんかいない」

蚊女「それなのに私が兵として出なかったらどうなると思う?」

蚊「………………」

蚊女「そういう事なの、わかった?」

蚊「………………」

--------

蚊(あの時無理にでも止めておけば…)ブツブツ

?「よう、なーに辛気臭い顔してんだ?」

蚊(とはいえ今更どうにかしようとしても……)ブツブツ

?「おーい、無視しないでくれよ!」

蚊(いったいどうすれば……)ブツブツ

?「おいってば!」ガシッ

蚊「うわっ!」


蚊「い、いきなり何するんだよ…」

?「え、ガチで気付いてなかった…?」

蚊「え?」

?「…まあいいや、俺は認識番号1919」

友「友ってんだ!」

蚊「あ、僕は認識番号4545の蚊っていいます」

友「おう、よろしくな!」

蚊「よ、よろしく…」タジッ

友「なんだよオドオドして…お前本当に兵士志願者か?」

蚊「うん……そう見えないかな?」

友「おう!中学生みてぇ!」ズバッ

蚊「oh…」

蚊「にしても、なんで僕に声を掛けたんだい?」

友「男の航空兵志願者なんて珍しいからな」

友「正直俺だけかとも思っていたから、嬉しくてついな///」

蚊「確かに、このクラスでは僕達だけだものね」

友「だな、今時の航空任務なんて'血を飲む'んじゃなくて'血を集める'だけなのn…」

蚊「だよな!君もそう思うよな!!」ガシッ

友「ファッ……!?」

蚊「これからは僕達男が空を担う時代だよな!!」ブンブン

友「ぉぇぇぇぇぇぇ………」ゲロゲロ

蚊「やっと共感者に出会えた!!同志よ!!」ブブブブ

友「……………………」ビチャビチャ




友「それはそうと、今のこのハーレム状態は悪く無いよな!!」

蚊「男が僕らしかいないってだけでハーr…」

友「お前は誰が好みだ!?俺はあの子だ!!」

蚊「ちゃんと人の話を…あの子はダメだ!!」

友「な、なんだよ急に…さてはお前もあの子が…」ニヤニヤ

蚊「……そんなんじゃない。ただの幼馴染だ」

友「ほうほう」ニヤニヤ

蚊「うぅぅ……」

友「お前が此処に入ったのはあの子の為だろう?」

蚊「……まあな」

友「おおかた、あの子について夢中で入ったってとこか」

蚊「…どっちかって言うと、ついて来たのはあいつなんだ」

友「え?」

蚊「実は……」



蚊「……という訳なんだ」

友「なるほどなぁ…、あの子の代わりにと思いきや全く無意味だったと」

蚊「うん。僕に関係なく彼女はその才能故に将来が決まってしまっていたんだ…」

友「…まあそう落ち込むな、こうして一緒のクラスになったんだ」

友「しっかり訓練を受けて自分を磨けばあの子のサポートならできるかもだろ?」

友「あの子を死なせないには道を変えさせる以外にも、幾らでもやりようはあるんだぜ?」

蚊「……そうだな、うん」

蚊「ありがとう」

友「おう!」

友「ところで、今夜の親睦会には行くよな?」

蚊「うん。此処で行かないとか言ったらきっと友達が出来ないしな」

友「だな。駅前の飲み屋だっけか、一緒に行こうぜ」

蚊「うん!じゃあまた夜に」

友「おう!」

--------

酒が回り皆がある程度'出来上がって'くる頃に蚊達は
駅前の居酒屋へと着いた

蚊「思ったより時間かかっちゃったね」

友「だなー」

幹事「ようこそ、それじゃ遅れて来た男二人に自己紹介してもらおうかねっ!」

オォー
アノフタリガレイノ

友「おう、俺は友ってんだ。○×地方出身だ」

友「どうやら此処はかわい子ちゃんがいっぱい居るみたいだな、よろしく!」バチンッ

キャー
キモイー
イヤイガイト…
カッコイー

蚊「あ、えっと、僕はその…○○地方出身の蚊と申します」

蚊「その…よ、よろしく…お願いします…」オドオド

オオー
カワイー
ナンジャクー
ヤサシソー

幹事「よし、それじゃ空いてる席は…」

?「ここ丁度2人分空いてるよー!」

幹事「じゃあ2人はあそこにでも行ってくれ」

友「はいよっ!」


6人掛けテーブル席

友「よろしくな!」

蚊「よ、よろしく!」オドッ

「「「「よろしくー!」」」」

蚊女「蚊、遅かったじゃない」

蚊「あ、蚊女」

久々に蚊女と会ったためどうしても頬が緩む
それを見て反応したのは黄色いリボンが印象的な蚊だ

?「おやおや、蚊君にはもう彼女さんが居たのかな?」

蚊「そ、そんなんじゃ…//////」カアァ

蚊女「うん、そんなんじゃないよ?」キョトン

蚊「う………」ズキッ

友(うーむ、天然系か…?)

?「まあいっか、ボクは認識番号9191」

黄蚊「黄蚊(おうか)って呼んで!よろしくねっ!」

黄蚊「で、この子がボクと幼馴染の…」

と言って引っ張られたのは青い縞模様が綺麗で小柄な蚊

青蚊「……私は認識番号1212の青蚊(あおか)、よろしく」

その更に隣に目を向けると闇の様に黒い毛が美しい蚊が1人

黒蚊「私は認識番号9696の黒蚊(くろか)だ、以後宜しく頼む」

そして最後に…

蚊女「私は認識番号0721の蚊女(かの)、よろしくね」

--------

1時間後

黄蚊「それじゃそろそろ、部隊分けでもしようか!」

蚊「部隊分け?」

黒蚊「ああ、ここに居る面子で部隊を組んだ方が以後やりやすいだろう?」

友「なるほどな!」(よくわかんないけど!)

青蚊「……どうやって分ける?」

蚊女「じゃあ座ってる順で行かない?兵科も合ってるし」

黄蚊「意義なーし!」

--------

そして決まった部隊は

C班
・第一小隊
 ・戦闘科
  ・蚊
  ・蚊女
 ・回収科
  ・黄蚊

・第二小隊
 ・戦闘科
  ・黒蚊
  ・友
 ・回収科
  ・青蚊


戦闘訓練初日

友「さて、いよいよ戦闘訓練だな!」

黄蚊「長かった基礎訓練も終わったね!」

教官「C班はこれより初等戦闘訓練に入る」

教官「各自、腕にこの拳銃を装備しろ」

友「こんなもん人間に効くのかよ…」

教官(ふん…その内に解るさ……)

教官「さて、まずは基本的な血液回収についてだ」

教官「教官隊の後ろに付いて来て確認、その後実践してみよう」

「「「「「「はっ!!」」」」」」

--------

空中

教官「もうじき訓練空域に入る。敵と遭遇した時の対処法をよく見ておけ」

教官「敵役は現役兵達が操作する人型のパネル、弾はペイント弾だ」

教官「…………」

教官「…ほーら敵がいたぞ、人間共は音が聞こえなければ我々に気付きにくい」

教官「だから近くに来たら回収科は羽を止めて惰性で飛び(ステルス)、敵の二の腕の裏側辺りに取り付く(ミート)」ピタッ

教官「あとは好きなだけ吸ってやれ」チュー

教官「それが終わったらすぐに離脱(オーバー)だが、血を抱えている分速度は落ちる」ブイイイン

教官「羽音も盛大に起こるから敵も気付きやすい」ブイイイン

教官「そこで戦闘科が周りを飛び回ったり(シェイク)、取り付き離れを繰り返したり(ミートオーバー)をして時間を稼ぐ」ブオンブオン

教官「では第一小隊からやってみろ」

--------

蚊女「頑張ろう!」

蚊「おう!」

黄蚊「よし、まずはボクがミートして…」ブイイイン

黄蚊「うっ、羽を止めると上手く飛べな……」フラフラ

蚊女「気付かれたぞ!!」

黄蚊「!?」ギクッ

黄蚊「に、逃げないと…」ブブブブブブ

蚊「黄蚊、後ろっっ!!」

黄蚊「…あっ………」ベチャッ

教官「黄蚊、撃墜判定」

黄蚊「…………」


黒蚊「よし、次は我ら第二小隊の番だな」

友「気を引き締めて行こう!」

青蚊「…まずは私がミート」ピタッ

青蚊「…そして吸って」チュウウ

青蚊「…オーバー」ブイイイン

黒蚊「敵が気付いたぞ!」

友「よし、撹乱は任せ……うわっ!!」ビュッ

友(速いっっ!!)

黒蚊「ふっ!はっ!」ビュッビュッ

友「くっ…くそっ……」ヒュオッヒュオッ

教官「友、それは攪乱ではなく逃げてるだけだ」

友「んなことっ……うわっ……!」ビチャッ

教官「友、撃墜判定」

友「…………」

--------

教官「今日はドッグファイトについてだ」

教官「他種族の虫との戦闘を想定する。我ら兵士の敵は人間だけではない」

教官「虫との戦闘時には腕に装備している拳銃が役立つ」

教官「確かに人間相手には使えないが、虫相手には強烈な一撃だ」

教官「また、虫相手で使えるテクニックにクルーズというのがある」

教官「このように羽を水平に伸ばし少しずつ降下し続ける事で長時間高速飛行する」ビイイイイイイン…

教官「戦闘科は重装備で鈍重な回収科の援護が重要だ」

教官「回収科は低高度でステルスをしながら速度の維持に努めろ」

教官「相手も虫だからな、壁へのタッチオーバーも有効だ」

教官「勝手に墜落してセルフキルもあり得るからな」

教官「さて、今回も敵役は現役兵がやってくれる。使用弾頭はペイント弾だ」

教官「では第一小隊より、はじめ!」


蚊「敵が来たよ!数は3騎!編隊を維持して正面からパスする!」

蚊女・黄蚊「「了解!!」」

ブイイイイン…
ヒュオッ!!

蚊「敵編成は戦闘2騎回収1騎!黄蚊は高度を下げてステルス!蚊女は反転して僕に着いて来て!」クルッ

蚊女・黄蚊「了解!!」

ブイイイン……

蚊「…よーし、見えて来たぞ」

蚊・蚊女「「!?」」

蚊(敵が1騎しか…まさかっ!!)

蚊「蚊女!その1騎は任せた!」クルッ

蚊女「り、了解!」




ビイイイイイイン…

蚊(間に合えっ…!!)

ビイイイイイイン…

蚊(見えたっ!やっぱりっ…!)

黄蚊「わああああん、助けてぇっ!!」ビビビビビビ

敵蚊「わりぃな、嬢ちゃん」ビシャッ

教官「黄蚊、撃墜判定」

蚊「くそっ!」クルッ

敵蚊「待ちな!!」

蚊(クルーズで逃げて蚊女に任せる!蚊女なら誰にも負けない!!)



ブイイイイン…

蚊女「はぁっはぁっ…あれは隊長騎か……」

蚊女「何とか落とせた…、蚊はどこに?」キョロキョロ

蚊女「あっ…あれはっ!」ハッ

ビイイイイイイン…

蚊「蚊女っ!悪いけどこいつを任せた!僕では歯が立たない!僕は敵の回収騎を探す!」

蚊女「了解!!」ビュオッ

ビイイイイン…

敵蚊「くそっ、あの訓練兵速いっ…!」

敵蚊「ん?」

蚊女「ここは通さない!!」バッ

敵蚊「ふん、俺様に勝てると思ってんのかっ!!」ビュオッ

蚊女「ふん、追い付けるものなら追い付いてみろ!」ビイイイン




ビイイイン…

敵蚊(ふん、こいつはさっきの奴と違ってたいして速くねぇ!)

敵蚊「頂きだあああっっ!!」ビュオッ

蚊女「ふんっ……」スタッヒュオッ

敵蚊「ん?…なっ!!これはミートオーバーか!!」

敵蚊「止まれな……ヘブッッ!!」グシャッ

教官「うっ……すぐに救急隊を!!」

部下「は、はっ!!」

蚊女「ふ、ふん…」クルッ

見てくれてる方は居るんだろうかと思ってみたり…


教官「結局回収騎も見つかって落とされた…か」

教官「さて、第二小隊の方はどうなったかな?」

教官「…ふむ、各々で1対1に持ち込んだが全騎後ろを取られていると」

教官「さて、現役兵相手にそれで勝てるのかな?」

教官「第一小隊長はギリギリまで編隊を維持したが、こちらは早々に散開(ブレイク)してしまったのだろうな」


ビイイインビイイイン……

敵蚊「な、なんて腕なの!?追い付けない!!」

黒蚊「ふぅっ…ふぅっ…」ギュウウウウウウン…

敵蚊「くっ…!ずっと急旋回っ…!!」ギュウウウウウン…

敵蚊「凄いG……!このままではっ…!!」

黒蚊「ふぅっ…ふぅっ…」クイッ

敵蚊「なっ!?これは捻り込み!?」ギュウウウウウン…

敵蚊「このままではオーバーシュートして…」

黒蚊「…………」パシュッ

教官「敵蚊、撃墜判定」

※捻り込み=ゼロ戦パイロットが編み出した戦法 急旋回によって敵機を前に出すor敵機の後ろに回る
※オーバーシュート=追い越す事 この場合誤って敵機を追い越して背後を見せてしまうこと


ビイイイン…

敵蚊「もう少しで、追い付ける!」ビイイイイン

青蚊「………バカなやつ」ビイイイン

青蚊「……そんなに私ばっか見てると」スタッ

敵蚊「なっ…!?」ビビビビ

青蚊「……大事な事を見過ごす」バッ

敵蚊「いやああああああああっっ!!」ビビビビビビ

敵蚊「うっっ!!」ゴツッ

青蚊「……速度は落としておいてやった、死にはしない」ビイイイン

教官「……こっちにも救急隊の手配だ」


ビイイイイン…

友「やべぇやべぇやべぇ…」

友「闇雲に飛んでたら皆から離れちまった…」

敵蚊「ほらほらどうしたぁ!?」ビビビビビ

友「うわああああ!!」フラッ

敵蚊「えっっ!?」ゴチンッ

ベシャッ

教官「あー…」

教官「両名気絶の為相撃ち…」



数ヶ月後、夜

黄蚊「…………」

友「…………」

黄蚊「…ボク達、足引っ張っちゃってるね」

友「…ああ……」

黄蚊「蚊女はミートオーバーが天才的だし、黒蚊もドッグファイトに限って言えば敵無し…」

友「青蚊は普段から静かだと思ってたけどステルスも上手いし、蚊は戦場全体の把握能力が高い…」

黄蚊「C班が好成績なのは蚊の指揮のおかげってのがあるよね…」

友「ああ…、俺らがマトモっぽく見えるのもあいつのおかげだ…」

友「あいつはクルーズだけなら黒蚊並に速いから指示を飛ばしやすいし…」

黄蚊「……もうじき実戦投入だってのになぁ」

友「模擬戦だからいいが、本物の人間相手じゃどうなるか……」

?「まあそう悲観すんなって」

黄蚊「???」

忍「急に悪いね、ウチは用務員の蚊忍者ってんだけどね」

友「ああ、知ってるぞ。やけに明るいムードメーカーおばちゃんか」

黄蚊 (エクシーズモンスt……まあいいや)

忍「ウチからしたらアンタらは頑張ってるほうさ!」

忍「周りに負けない様に必死に訓練してるって、評判だよ?」

黄蚊「……………」

友「……………」

忍「戦場で頼れるのは自分だけだってのに、その自分を疑ってどうすんのさ!」

忍「アンタらは大丈夫!ウチが保障するよ!」

忍「解ったらさっさと寝なさい!」

黄蚊「………うん、ありがと」

友「……おかげで気が少し楽になったぜ」

忍「はいよ!んじゃおやすみっ!!」

友「あぁ、おやすみ!」

黄蚊「おやすみ!」


更に数ヶ月後、春

入校記念撮影を行った桜の木の下


教官「本日を以て貴様ら訓練兵は正規軍へ入隊となる!」

教官「貴様らはこの1年間しっかり訓練に励んでいた!」

教官「特にC班、貴様らは優秀な成績を残してきた」

「「「「「「はっ!!」」」」」」

教官「もう貴様らに教えることは何もない!」

教官「これからは正規兵達と共に最前線で全蚊類(人間でいう所の人類)の為に戦う!」

教官「…此処を出て行った者達は、多くが二度と姿を見せなくなった」

ザワッ

教官「貴様らも恐らくは生き残るまい」

ザワザワ……

教官「だが、貴様らの死は無駄ではない!!」

訓練生 「「「「「「「!!!」」」」」」」

教官「貴様らの死の上で我らの世界は成り立っている!!」

教官「自分達がこの世界を作っているのだと誇れ!!!」

教官「そして立派に死んでくれ!!!」

教官「貴様らの後を引き継いで死んでくれる者どもを!」

教官「私はまた1年かけて鍛え上げる!!」

教官「そいつらに誇れる死に様を見せつけてやれ!!」

ォオオッ!!

教官「先に地獄で待っていろ!!すぐに後を追わせてやる!!!」

ゥオオオッッ!!

教官「ここまで言っても死に損なう不届き者は…」

教官「またここへ戻って来い!!!」

教官「世界を作る死者を育てにな!!!」

ゥオオオオオオオーーーー!!!


初夏、緑が眩しい新緑の木々が見える航空基地

僕達訓練生C班は、成績が優秀だった為にそのままの構成で軍に編入された

蚊皇帝国空軍西区第八混成大隊台所方面第三騎兵師団所属第〇四小隊
および
蚊皇帝国空軍西区第八混成大隊台所方面第三騎兵師団所属第〇五小隊
としてだ

僕達は航空兵力という、高等専門教育を受けた特技兵であるため入隊と同時に士官となる

--------
・第三騎兵師団 師団長 デブ蚊少佐
 ・第〇四小隊
  ・蚊 航空戦闘中尉
  ・蚊女 航空戦闘少尉
  ・黄蚊 航空戦闘少尉

 ・第〇五小隊
  ・黒蚊 航空戦闘中尉
  ・友 航空戦闘少尉
  ・青蚊 航空戦闘少尉
--------


台所方面空軍基地
当直隊員控室


友「今日も暑いなー」グデーン

蚊「そうだねー」グデーン

黒蚊「2人ともバテているな」フッ

青蚊「……2人だけじゃ、ない」グデーン

黄蚊「ボク達もさすがに……」グデーン

蚊「地球温暖化のせいなのかな…」グデーン

黄蚊「人間めえぇ……」グデーン


蚊女「ジュース買って来たよー」

友「さんきゅ……」

黒蚊「当直隊員なのにいないと思ったら…」

蚊女「だいじょぶだいじょぶ、スクランブルなんて滅多に起こらないんだから!」

黄蚊「まあねー…」

青蚊「…………今の、フラグ」ボソッ

蚊「ん?なんか言ったか?」

青蚊「………別に」


カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン


「「「「「「!!!!」」」」」」

放送機 『風呂場地域方面へ給水中の第二第三小隊と連絡途絶、第一小隊は直ちにSC発進し捜索救援に当たれ』


蚊「各員第二戦闘配置で待機!先輩方が対処し切れなくなったら次は僕達だ!」

黒蚊「噂をすれば、なんとやら」

友「初の…実戦……」カタカタカタ

青蚊「……やはり、フラグ」ボソッ

蚊女「さっさとジュース飲んじゃいましょ」

黄蚊「…実戦………」カタカタカタ


放送機 『…こち…ザザッ…一小隊……第二小隊…合流……電波………』ザザザッ

放送機 『緊急事態と判断、第三小隊は応援に向かえ』

放送機 『第四小隊は離陸し基地上空にて待機』

蚊「三小隊行くぞ!!」

黒蚊「四小隊、遅れるな!!」

「「「「はっ!!」」」」


管制 『第三第四小隊のコールサインはモスキートだ』

管制 『モスキート1-1から1-3は高度800mmまで上昇後方位290(ツーナイナーゼロ)へ向かえ』

管制 『その後連絡の途絶したランサー1-1から3-3までの捜索および応援だ』

管制 『モスキート2-1から2-3は高度1200mmにて別名あるまで待機せよ』

「「「「「「了解!!」」」」」」

蚊「タワー、離陸許可を」

管制 『了解、モスキートフライトへ離陸および発砲を許可する』

蚊「了解、モスキートフライト出撃する!」

--------

ビイイイイン…

蚊「何か見えるかい?」

蚊女「戦闘の光は見えない…騎影らしき物なら少し…」

黄蚊「い、いざとなったら逃げ帰るよね……」ビクビク

蚊「もちろんだ」



蚊女「見えた、味方の騎影が……9つ!」

蚊「こちらモスキート1!大丈夫か応答しろ!」

ラン1 「助かった!強力な電波妨害を受けているんだ!」

ラン1 「恐らくは人間のWi-Fiルーターだ。その上ハエ軍との小競り合いで現在地を見失っていたんだ」

蚊女「了解、ランサーフライトは方位110方向へ撤退されたし」

蚊「我々は周囲の警戒飛行に移ります」

ラン1 「悪いな、恩に着る!」ビイイイイイン



ビイイイイン…

蚊「じゃあ僕達はルーターに工作を仕掛けようか」

蚊女「定期的に電波が止まる様にして電波障害を抑えるのね?」

蚊「ああ。人間は調子が悪くなったくらいにしか思わないはずだ」

黄蚊「その工作って……」

蚊「うん、黄蚊にやって貰おうと思うよ」

黄蚊「ほい、任せてっ!!」


周りに対して飛行技術が劣っている事を気にしていた黄蚊はそれを補う様に訓練を重ね
航空隊としては珍しく人間の機器に対する工作が出来るまでの技術を備えた回収科のエースとなっていた


ビビビビビン……

黄蚊「落ち着いてミート……落ち着いてミート……」ビビッビビッ

黄蚊「よしここっ!」ストッ

黄蚊「ふぅ…、ここのスリットから中に入れるね」

黄蚊「早く済ませちゃおう!」ゴソゴソ




ビイイイイン…

蚊女「…………」

蚊「…………」

蚊女「……久し振りね、二人きりでいるの」

蚊「う、うん……」

蚊女「あんたが変なこと言い出してからもう二年よ」

蚊女「まさか本当にパイロットになっちゃうなんてね」クスッ

蚊女「しっかり自分のやりたい事出来てて羨ましいな…」

蚊「……………」

蚊女「……どうしたのよ?」

蚊「……いや、なんでもないよ」ニコッ

蚊(僕は……、僕も自分のやりたい事なんて出来ていないよ…)

蚊(君は今僕と一緒にパイロットをしている……、それじゃ駄目なんだ……)

蚊「……ねぇ」

蚊女「ん?なーに?」

蚊「…あ、あのさ」

蚊女「ちょっと待って、あれ見て!!」

蚊女「あのルーター、ランプが点いたまま!!」

蚊「え、それの何が問題なんだい?」

蚊女「ばかっ!!あの子、通電したままの機器に工作してるのよ!!」

蚊「!!!」



蚊にとってはWi-Fiルーターに流れる少量の電力さえ超高圧電流である

そのため人間達の使う機器への工作時には多少危険であっても絶縁状態を作ることが鉄則であった

黄蚊は初の実戦に緊張するあまり、その鉄則を失念していたのである


蚊「くそっ!!!」ビイイイイイン


ポシュッ…


蚊女「あ!!………あ……………」

蚊「………………」


ルーター側面のスリットから落ちた黒焦げの塊は埃かと思った

しかしその塊には見覚えのある物が引っ掛かっていた


----黄色いリボンの欠片が


蚊女「お、黄蚊ああああああああああっっ!!!!」ビビッ

蚊「まって!もう黄蚊は助からないっっ!!!」ガシッ

蚊女「で、でも!!でも!!!」

蚊「僕達が行ってももうどうにもならないよ…」

蚊女「どうして!!どうしてあんたはそんなに冷静でいられるのよっっ!!!」

蚊女「黄蚊がっ!!黄蚊が死んだのよっっ!!!」

蚊「だからだよっっ!!!」

蚊女「……!!」ビクッ

蚊「優秀な工作員の黄蚊が死んだ以上、僕らに現状をどうにかする手段は残されていない……」

蚊「この事を基地に報告して入念に計画を立ててあのルーターをどうにかすること…」

蚊「それが黄蚊に対するせめてもの報いじゃないのかい?」

蚊女「でも……」

蚊「黄蚊の死を無駄にしないこと、それが今僕らがする事なんだ…」

蚊女「…………わかった」

蚊「じゃあ、すぐに基地に向かおう」ビビッ


「そーれは見逃せないねぇ」


蚊・蚊女「「!!!」」

蚊「ハエ軍の戦闘騎隊かっっ!!」

ハエ1「悪いがここで死んで貰おうかっっ!!」

蚊「ブ、ブレイクッッ!!」

蚊女「り、了解!!」


ラン1 「……だからっ!今ひよっ子どもがルーター周辺の哨戒に当たってんだよ!」

ラン1 「あの辺りにはハエ軍の赤羽精鋭飛行隊が駐留しているから1個小隊じゃ間違いなく全滅なんだ!!」

管制 『そうは言っても……』

『おい管制』

管制 『誰だ』

友 『こちらモスキート2-2、俺が応援に向かう』

管制 『それは許可できない、基地の直衛がいなくなってしまう』

友 『基地の直衛なら戦闘力の高い黒蚊と軽装備の青蚊で充分だろが』

友 『俺を行かせろ』

管制 『…いいだろう、モスキート2-2は応援に向かえ。モスキート2-3は一旦着陸し軽装化後再出撃せよ』

友・青蚊 『了解!』

黒蚊 『友、頼んだからな?』

青蚊『……私達の分も、よろしく』

友 『おうよ!!』ビイイイイン

ラン1 「おい、赤羽根精鋭部隊には気を……行っちまったか」


--------

友「ああは言って来ちゃったけど…」

友「正直俺じゃ役に立てないんじゃねーかな……」

友「……ん?あ、あれは!!」

友「例のハエ軍騎かあっ!!!」

蚊「友っ!!」

友「応援に来た、敵の編成は!?」

蚊女「2つ落とした!残りは4騎!!」

友「了解、左の1騎は任せろ!!」


ビイイイイン…


左ハエ「くっ!!」フイイイン

左ハエ「こいつ、速いっ!!」

友「…?……??」ビイイイン

友(これが精鋭?俺より下手じゃねーか?)

友「おら死になっっ!!」パシュッ

左ハエ「うわっっ!!」バチンッ

左ハエ『メーデーメーデー!!誰か……』ベシャッ

友「へへっ、1騎撃墜!ってな」





『……おいっ!大丈夫か!すぐに応援に向かうからな!!』ザザッ





--------


蚊女「1騎撃墜!」ビシィッ

蚊「ふぅ…これで全部だね」

蚊「友の方は!?」


友「……おーーい!!」ビイイイン

蚊女「無事みたい」フフッ

蚊「よかった!それじゃ帰還しようか」

友「おう!ところで黄蚊はどこだ?」キョロキョロ

蚊女「……………」

蚊「……………」

友「……おい、なんだよ」

無言でルーターの方を指差す蚊女

友「ん?」キョロッ

友「………なっっ!!」ハッ

蚊「黄蚊は工作中に……」

友「………そうか」

蚊女「……私達の中で最初の戦死よ」

友「…最初で……最後だ!」

蚊・蚊女「「!!!」」

友「俺達はあいつの事は絶対に忘れないで、生き抜くんだ!」

蚊「そう……そうだね!」グッ

蚊女「…そうね、約束しましょう」

友「ああ、約束だ!破りやがったら墓を蹴り飛ばしてやるかんな!!」

蚊「その役は蚊女だね!」

蚊女「どういう意味?」ゴゴゴ

蚊「ナンデモナイデス…」

>>12
見てるよ? ここでは合いの手や支援は原則入れないのがローカルルールだからね
>>12無ければ俺も投下終了宣言まで書かなかったが
今の所面白いのでこれからにも期待


友「うし、じゃあさっさと基地に帰るか!」

蚊「うん!!」



ビイイイイン…


友「にしても、俺が来た意味ってあったのかね」

友「敵の精鋭だって話だったが、随分と弱かったぞ」

蚊「精鋭だったのかぁ…、まあ友は強いからねぇ」

友「おいおいよせよ、俺がお前らの足引っ張っちまってたのは解ってるんだ」

蚊女「あら、案外そうでもないわよ?」

友「え?」

蚊「うん、確かに黒蚊や青蚊と見比べると劣るけども」

蚊「友は充分に強いよ?他の班でだったら間違いなくエースだと言えるほどに」

友「え、そうなん?」

蚊女「ええ、それに友の明るさには救われたわ」

蚊女「気が滅入って墜落しそうだったからね…」

友「そ、そうか…」


友は気付いていなかったが、度重なる訓練の旅に黄蚊と反省会を開いていた事が
自身の飛行技術を向上する事に繋がっていたのである
異なる兵科の2人が互いに違う視点での意見を出し合っていた事が
2人のそれぞれの分野での技術向上を促していたのである

そして、もう1つ友は気付いていないことがあった
異なる兵科の意見で自身を鍛えるというのは当然メリットだけでなくデメリットもあった
それぞれの専門職でしか知りえない部分に対する見解不足である

黄蚊の場合は、機器に通電した状態での作業は自殺行為であると気付けなかった
手早く作業を済まそうとするあまりにその作業を軽視していた

友の場合は、なるべく戦果確認をしなければならないという事に気付けなかった
早く皆の元へと戻って援護したいという焦りがその作業を軽視させた



その結果、自分が落としたハエが息絶える間際に位置情報を送信した事を知らなかった

>>24
㌧ 初スレ建てなもので緊張してて
このまま最後まで行きます



ビイイイン…


友「………というわけでなー」

蚊「えー、変な話だねー」

蚊女「2人とも、私語が多いわよ」ヤレヤレ

友「んなこと言っ……」ボシュッ

蚊・蚊女「「!!!」」


ビイイイイイン…
シュッ……


上空から飛来し友に一撃を浴びせそのまま飛び去り反転しようとする騎影
それが本当の精鋭部隊……

----赤い羽根を持つハエの部隊である事を友は知ることなくその生涯を終えた


そして再び飛来する敵機に対する蚊の反応は早かった

蚊「ブレイク!!」

蚊女「了解!!」


立て続けに気心の知れた戦友を失ったショックは大きかったが
2人はその中でも戦闘を続けなければ死ぬだけであると既に理解できていた

しかしそのショックが自らの疲労をも覆い隠してしまっている事には気付けなかった


蚊(まずはクルーズで引き離し敵の編隊を崩す!)ビイイイイイン

赤ハエ(……………)クルッ

蚊(しまった!見向きもせず蚊女の方へ!!)



ビイイイン…

蚊女(くっ…スピードが出ない…!!)

蚊女(思ったより疲労が……!!)

赤ハエ「…………死ね」パシュッ

蚊「お前がなぁっ!!!」ドカッッ

赤ハエ「くっ!!」

蚊女「!!!」

蚊「僕の女に手を出すなぁ!!」パシュッパシュッ

赤ハエ「くっ…!!」バチュッ

蚊「はぁっ…はぁっ……」ダラダラ

蚊女「ちょっと…!何やってんのっ!!」ガシッ

蚊「はぁっ…すぐ…基地に応援を呼んで………」

蚊女「ええ、早く行きましょう!!」

蚊「僕の事は置いて行ってくれ……」グイッ

蚊女「なっ!!」

蚊「僕を掴んで行ったら速度が出ないで追い付かれてしまう……」

蚊「大丈夫、まだ羽は動くし弾も残ってる…」

蚊「僕は戦えるよ……」

蚊女「そんなわけないでしょ!!」

蚊女「こんな所で死にたいの!?なんの為にパイロットになったのよ!!」

蚊「蚊女、よく聞いてくれ…」

蚊「僕がパイロットになりたいと言ったのは、君の為なんだ…」

蚊女「……え?」

蚊「君がパイロットとして危険な目に遭うのは嫌だったから…」

蚊女「!!!」

蚊「だから、最後に僕の頼みを聞いて欲しい……」

蚊女「さ…最後なんて………」

蚊「蚊女、この戦いが終わったら軍から除隊してくれ…」

蚊「約束してくれ……」

蚊女「………あんたも…」グスッ

蚊女「…あんたも、生きて基地へ帰るって約束しなさい!!」

蚊「……努力するよ」フッ

蚊女「絶対よ!!!」

蚊「ほら早く行くんだ、もう敵機が反転し終えた頃だ……」

蚊女「………わかった」グスッグスッ

ブイイイイイン……



蚊「……………蚊女、好きだったよ」

蚊「…さて、敵は………9騎か」スッ

蚊「約束は守れなくても、守る努力くらいはしないとな」ビイイイイイン





軍墓所


私は今はフリーランスの傭兵をしている
あの後私は基地に着くと同時に応援を寄越せとがなり立て、すぐに戦場に戻った
管制はそのモスキートフライトの5割という損耗率を考え応援は出さないと言っていたが
その前に帰還していたランサーフライトが基地直衛を引き継ぐからと言ってくれた為
黒蚊と青蚊が応援として来てくれた


結論から言うと、あいつは約束を守ってくれなかった

私達が戦場に着いた頃には空を飛んでいる者はいなかった
地面には4騎の赤いハエと蚊が落ちていた
あいつは手負いの状態から4騎落とし、最後は飛べなくなり着地した後
捕虜として捕まらない為に自らの銃で自決をした様だった

落ちていた内の1騎はまだ息があったが私が殺してしまった
その場で尋問して情報を聞き出そうとしたのだが怒りの余り加減が出来なかった
羽を毟り取ろうとしただけなのに皮膚を引き千切ってしまった


あいつの遺体を抱えて戻った私に待っていたのは事情の説明を求める審問官達だった
死んで行った仲間達への悔やみの言葉も無い彼らに憤慨した私は思わず手を出してしまい
その事で1週間独房入りになってしまったりもした

だけどそんな事はどうでも良かった 皆が死んでしまった事が何よりもショックだったから
特にあいつともう2度と話せないという事が何より辛かった
あの時もっと上手く飛べていたらと自分を責めたりもした

その後に渡されたのはあいつの遺品だった
あいつには身寄りが無く、あいつは受取人に私を指定していたのだ
邪魔なら捨ててくれとの事だったので衣類などは捨てさせていただいた

その遺品の中には私に充てた手紙が入っていた
内容としては、あの時あいつが私に言っていた事と同じだった
私に死んで貰いたくなくて、近くで守れればと思って軍に入ったこと
軍をできればやめてくれということ

----そして、私の事が昔から好きだったということ

死んだ自分がこんな事を言うのは卑怯だろうが最後の我儘として許してくれとの事だった
まったく迷惑な話である、私はきっと一生この言葉に縛られてしまうのだろう
何故もっと早くに言ってくれなかったのかと思うが、後の祭りである


あの戦いのあと私は約束通り軍を辞めた
周りからは怖気づいたかなどと言われたが、気にはならなかった
戦いはやめなかったのだ 退職金と貯金を使って軍の払下げの旧式装備を買い取り
傭兵のパイロットとして生計を立てる事にしたのだ

理由は3つほどある

1つは、私にはこの道しかないため
私は戦いには秀でているつもりだが、他に関しては自他共に認める音痴だったのである

1つは、認めたくは無いが私はもう戦わないではいられないため
多くの軍人がそうであるように、私ももう死と隣り合わせの状況に慣れ過ぎてしまっていたのである
訓練兵時代から多くの蚊が死ぬのを目の当たりにしてきたし死に掛けもしたからだ

最後に、復讐のため
黄蚊を、友を、そしてあいつを殺した赤ハエ部隊にいつか復讐する為に傭兵になった
それに、私達が戦えばその分戦わなければならない若者が減るというのもある


なんだか微妙にあいつとの約束を破っているような気がしなくも無いが、そこはおあいこである

そうそう、私はいま'私達'と言ったがそれは………




--------



黒蚊「蚊女、どうした?ぼーっとして」

蚊女「ん、ちょっとあいつの事を思い出していた」

青蚊「……蚊のこと?」

蚊女「うん、そう」

黒蚊「他の2人も思い出してやれよ……」

青蚊「……蚊女は未だに蚊にお熱だから」

蚊女「な、いったい何を!!」


----私は今はこの2人と一緒に傭兵として戦っている
私が軍を辞めて傭兵になると言った時に2人が協力してくれたのだが、
その時調達した装備品がやけに多いと思ったのである
普通の3倍の装備品ってどういう事じゃと、赤く染めてやろうかと思っていたら
私の家に尋ねて一言、「よろしく隊長!」だと

黒蚊いわく
「軍の体制では犠牲が増えるから自由な動きが出来る傭兵に」


青蚊いわく
「……2人とも戦いしか知らないおバカさんで不安だから」



口では色々言うが、お人好しで優しい2人である
いつも助けられてばかりだ
2人ともとても優秀であるし私も水準以上の戦闘技術があるため
最近では傭兵としてもすこし名が売れて来ている
1人ではこうは行かなかっただろう。そもそも軍で訓練を受けた1個小隊編成の傭兵など私らくらいである
それだけのパイロットであれば普通は給料の良い正規軍に入れるからだ


…ちなみに話は逸れるが戦いしか知らないおバカさんは実は青蚊だったりする
私程ではないが何も出来ないのだ
逆になんでも出来るのは黒蚊だったりする



黒蚊「さて、ここが3人の墓だな」

青蚊「……友のミンチ、黄蚊の炭」

青蚊「……自決した蚊が一番綺麗な遺体だったね」

黒蚊「ああ、死ぬときはグチャグチャにはなりたくないもんだ」

蚊女 (最近こいつら口悪いな…こんな子達だったっけか……)

それは短くは無い兵隊生活で染み付いた物であり、自分もなかなか汚くなってる事に蚊女は気付かない

蚊女 (さて、もう1つの約束を守ろうかな!)

ドカドカドカッ

黒蚊・青蚊「「!?」」

黒蚊「お、おい急にどうしたんだ!」

青蚊「……好きな男の墓を見て気が狂った?」

蚊女「ちがうわっ!!…2人との約束よ、死んだりしたら墓を蹴り飛ばしてやるっていう」

蚊女 (……あ、黄蚊の墓は蹴らなくてよかったのか)

それ以前に、本当に墓を蹴ったりする辺り本当にどうしようもない

青蚊「……まあ、こいつら蹴られると喜びそうな感じだったからね」

黒蚊「うむ、そうだな」

蚊女 (そうかぁ?)


蚊女 (とにかく、私らは今も元気でやってるよ!)

蚊女 (戦いから身を引けなくてごめん、でもこれが私に出来ることなんだ!)

蚊女 (まだ奴らに復讐はできてないけど、まあ長い目で見る事にしてる)

蚊女 (それと、あの時私を助けてくれてありがとね!私も好きだったよ!)

蚊女 (本当はもっと早く言ってもらいたかったけどね!)フフッ


その時に吹いた風は照れ隠しをしている様に感じた
ちなみにその時2つほど木の葉が私の足を蹴りつけてきた

蚊女 (それじゃ、もう仕事があるから行くね!)

蚊女 (きっといつかそっちに行くからゆっくり待ってて!!)

蚊女「そろそろ行こっか!」

青蚊「……うん!」

黒蚊「うむ!」

蚊女「えーっと今日の仕事は………」







fin.

以上です
読んでくれてた方ありがとう!
途中グダグダ言い出してすまない

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