春香「怪談765プロ」 (17)
えっと、じゃあまず私から話すね?
…えっ?だってこういうのって後になればなるほどハードル上がってくじゃない?
…ちょっと真美、芸人思考とか言うのやめてよぉ。そんなんじゃないってば。
もぉ…はじめるよ?
ほら、ちょっと前に私に学園モノのドラマの撮影があったじゃない?
そうそう、それそれ。先生が元ヤンキーで…ってやつ。
その時あった話なんだけどね?
その撮影で、毎回ロケに行くんだけどロケ先が県外にある廃校で、
…あ、廃校って言ってもすごく手入れしてあって、よく撮影とかに使われてるらしいからみんなが想像してるものより遥かにきれいだったよ。
しかも話は廃校のことじゃないし。
…えっ?確かに廃校は関係ないけどそれがどうしたの?
んー、なんか前置き長い方が怖くなるじゃない?
まあいいや、続けるね?
それでその廃校が山の方にあって、東京からそこに行くにはロケバスでトンネルを通る道か、
少し遠回りして山を越えていく道のどっちかの道があったの。
初めてロケに行ったときからずっと少し遠回りの道を通ってたみたいで、
スタッフさんからトンネルの方の道をポロッと聞かされた時はなんでトンネルがある道通らないんだろうって。
…うん、そのときは単純になんでかなー。位にしか思わなかったよ。
続けるね?
…それで、その時は今ほど世間に知られてなくて、もらった役も『クラスの女子D』って感じの役でロケバスには私以外にも同じような役の子達と一緒だったんだ。
ほら、新幹少女の子とかも今ほど売れてなかったじゃない?その子もいたよ。
撮影は特にトラブルもなく進んで私たちチョイ役のスケジュールも消化しきったの。
ん?撮影中は基本昼間だったし、学校には曰くとかも一切なくて、なんて言うか『休日の学校』って感じだったよ。
それでね、クランクアップを迎えて、主役級の役者さん達とスタッフさん全員とで
撮影で使った学校の体育館借りてちょっとした打ち上げみたいなことしたのね。
そのときは売れてなかったからスケジュールも空いてたし、
ロケバス降りた後もタクシー代出してくれるって言ってくれたから、じゃあちょっとだけって感じで参加したの。
え?ああ、エキストラやってたほとんどの人は残ったよ。
主役級の人たちも後のスケジュールが入ってない人たちばかりみたいで、帰った人はあまりいなかったかなぁ。
…結構みんなで食べたりお話した後、
いよいよ暗くなってきたし雨も降り出しそうになって来たからそろそろお開きにしますかって具合になって、
じゃあ正式な打ち上げはまた後日ってことでその日は解散になったの。
帰りはスタッフさんがロケバスで集合場所まで送ってくれるって言ってくれたし、
そこからのタクシー代は経費で落としてくれるみたいだったからお言葉に甘えて送ってくもらうことにしたの。
結局、スタッフさんにロケバスで送ってもらうことになったのが私含めて5人。
他の子達とか主役級の人たちはそれぞれ別々の事務所が出してくれた車とかで帰っていくことになったみたい。
ロケバスに乗り込む時にはぱらぱら雨が降ってきちゃって、
スタッフさんたちも「本降りになる前に帰りましょう」とか言いながら慌てて準備して発進していったのね。
ロケバスって言ってもバンくらいの大きさだったから運転してるスタッフさんたちと一緒におしゃべりしながら山を下っていったんだ。
で、いろんな話をしているうちに怖い話で盛り上がって来ちゃって、
みんな友達の友達の話とか、どこかで聞いたことあるような話で騒いでたの。そしたらスタッフさんが、
「そういや、この近くに心霊スポットがあるんだけどちょっと行ってみる?」
って。それまでキャーキャー言いながら怖い話をしてた私達はモチロン行きますって答えちゃって、
その心霊スポットについていろいろスタッフさんに尋ねながらそこに向かうことにしたの。
スタッフさんに聞いていくうちにそこが建物じゃないってことと、
案外すぐに着くらしいってことがわかってみんなワクワクしながらその心霊スポットについていろいろ考えたことをしゃべってたんだ。
10分くらいかな、スタッフさんが車のエンジンを止めて声をかけてくれたの。
着いたんだ!と思ってみんなで運転席のほうを見ると目の前にはトンネルがあるだけ。
正直どこを見ればいいのか、どこが心霊スポットなのかわからなかったな。
エンジンを停めたせいで車に乗り込む時より雨が大振りになってて車の屋根を雨粒がバラバラって叩く音わかるかな?
その音がすごく大きく聞こえたのがよく覚えてる。
それで、どこが心霊スポットなんですか?って私が聞くと、スタッフさんがニヤニヤしながら
「そこのトンネルだよ」って答えたの。
正直言うと全然怖くなかった。だってトンネルの中は電気がついてるし、
心霊スポットって言われても普通にしてたら気が付かないような、オーラと言うか雰囲気が何もなかったんだもん。
それで内心がっくりしながらも怖い話とかしながらなら何か起こるかも、って話になって順番に怖い話をしながらそのトンネルを通ることになったの。
トンネル自体はまだ普通に使われてて、
やっぱり別段変わったことは特になかったな。
うん、本当に見た目は普通のトンネルだったよ?
電気も通ってて明るいし。別にオドロオドロしいところは何もなかったよ。
…で、順番に怖い話をしていって、
いよいよだんだん怖くなってきたなって思ってたんだけど、
車が古かったせいもあってか雨粒の音が響いて聞き取れないことも何回かあったからいまいち盛り上がりにかけてたんだ。
まあ、トンネル自体は結構長いみたいでまだまだこれからって思いながら私の番を終わらせて次の子に話を振ったんだ。
でもその子は私の次のはずなのにトンネルに入った頃からずっと黙ってて、俯いたままじっと足元を見つめてるだけ。
怖いのかな?とか車酔いしちゃったのかな?って思ったけど、
雨音で私が「おしまい」って言ったの聞こえなかったんだろうなって思い立って、
その子に「次は○○ちゃんの番だよ?」って声をかけたの。
そしたらその子はやっぱり気がついてなかったみたいで、
「私の番なんだ、じゃあ…」って話始めたの。
周りの子も心配してたみたいで「もう、ちょっと心配させないでよー」みたいな感じ笑いながらでその子の話を聞き始めてた。
その子は、「さっきから気になってるんだけど」って話し始めて、
私は「おっ、タイムリーな話題がきたかも」って思いながら聞いてたんだ。
でも雨音がうるさくて、しかもその子の声もいつもより小さくて聞き取りづらかった。
だからその子の話を聞き取れるように身を乗り出したその時、その子が続けて言ったの。
.
「なんでトンネルの中なのに雨音がするの?」
って。
それを話した途端さっきまでうるさかった屋根の音がピタッとやんで。
それまで話に夢中だったけど確かにそうだった。
ここはトンネルの中なのになんで雨の音がしてたんだろって。
スタッフさんも含めてみんなそのことに気がついて車内が静かになって、
トンネルを抜けるまでだれも喋れなかった。
 ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄
 ̄
春香「私の話はこれでおしまい!」
伊織「……鳥肌が立ったわ」
真美「は、はるるんこわすぎっしょー…」
春香「えへへ、ありがと伊織、真美。あんまり一人で喋るの慣れてないからうまく伝わったかどうかわからないけど怖がってくれてよかった」
雪歩「は、春香ちゃん…それ、本当の話?」
春香「うん、ほんとに体験した話。あの時はみんな顔が真っ青だったなぁ」
真「で、その後って何もないの?」
春香「うん、あれから特に何も無いよ?至って普通って感じかなぁ…」
千早「そう、ならいいのだけれど何かあったら春香、すぐに連絡してね?」
響「そ、そうだぞ!自分完璧だから怖くないけど春香のことは心配だぞ…」
律子「そうねぇ、春香のことだしうっかりなにか連れてきたりとかしてそうだわ…」
春香「ちょ、ちょっと律子さんやめてくださいよぉ!大丈夫ですって!ほらこの通り元気ですよ!」
貴音「…あの」
美希「貴音さん、どうしたの?」
貴音「皆、気がついていないのですか…?」
あずさ「? 貴音ちゃん気付くってなににかしら?」
貴音「先ほどから雨が…」
亜美「雨?そりゃさっきから降ってるけど…」
真美「もしかしてお姫ちん、はるるんと同じジョーキョーだから怖いの?」
響「貴音、大丈夫だぞ!ここは事務所で、春香の行った心霊スポットじゃないから大丈夫さー!」
貴音「い、いえ、そういうわけではなく…」
律子「ほら、貴音?言ってくれなきゃわからないわよ?」
春香「貴音さん、雨がどうしたんですか?」
貴音「……皆、本当に気がついていないのですね?」
響「だから何にって聞いてるんだぞ?」
貴音「わかりました…では、あの、先程から雨の音がしておりますが…」
真「してるけど、それが?」
貴音「――外は春香の話の途中から、ずっと晴れているのですよ…」
天海春香編 了
また時間あったら違う人の書きます
おやすみ
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