————————————屋上

のあ「……」

トレ「のあさん？」

のあ「トレ……どうしてここに？」

トレ「私は最後の見回りを……のあさんはどうしてここに？」

のあ「……星を見ていたの」

トレ「ああ、もうすぐ七夕ですものね」

のあ「……」

トレ「一年に一度出会える彦星と織姫……ロマンチック」

のあ「……そうかしら？」

トレ「えっ？」

のあ「……皆が彦星と呼ぶのはわし座のアルタイル……織姫はこと座のベガ」

トレ「そうですけど……」

のあ「……ふたつの星の間はおよそ14光年……直径10万光年の銀河系から見たら目と鼻の先よ」

トレ「えっと……」

のあ「……伝説では年に一度逢瀬を許されるというけど」

のあ「……地球上のどこで見てもこの2つが重なりあう事はないわ」

トレ「夢がないです……」

のあ「……本当のことよ」

トレ「……」

のあ「……私はこの伝説は残酷だと思うの」

トレ「なぜですか？」

のあ「……お互い手を伸ばせば届く距離にいる」

のあ「……しかし、手を取り合うことは許されない……天の川という星たちがそれを許さない」

トレ「……」

のあ「……トレーナー……あなたは経験がないかしら？」

トレ「え？」

のあ「……いつでも逢える人なのに……手が届かない」

トレ「……」

のあ「……手を伸ばそうとしても……まわりの星たちがそれを許さない」

トレ「私は……そんな……」

のあ「……」

トレ「……」

のあ「……意地悪な質問だったわね……ごめんなさい」

トレ「いえ……そんな……」

のあ「……そんな時は逆に考えてみるの」

トレ「逆に？」

のあ「……こんなに多くの星が煌めく中……お互いを認識できるのは幸運だわ」

トレ「そう言えばそうですね」

のあ「……触れられなくても……互いの様子はいつもわかる」

のあ「……そんな日が続くなんて素敵なことよね」

トレ「そうですね……」

のあ「……出会えた偶然……それもロマンチックだわ」

トレ「……」



トレ（出会えた偶然か……）

————————————事務所

ちひろ「Pさん、言われたもの集めて来ましたよ」

P「ありがとうござます。七夕の短冊ですね？」

ちひろ「七夕やるなんて、なかなかいい事考えるじゃないですか」

P「アイドル事務所で神頼みなんて、マスさんが聞いたら怒りそうですけどね」

ちひろ「そうですか？」

P「きっと『願いは実力で叶えるものだ、P殿は甘い』とか言われそうです。ハハハ」


マス「ほう……なかなか似ているな……P殿」


P「げええっ！！　マスさん！！！」

マス「君は特徴を捉えるのがうまいな。モノマネタレントでもなってみるかね？」

P「ゆるしてくださいゆるしてください」

マス「土下座などしなくていい、P殿。顔を上げたまえ」

P「……本当ですか？」

マス「ついでで悪いが私達の短冊もかけてもらえるかね？」

ちひろ「ええ、どうぞどうぞ」

マス「まずはこれだ」

P「えっと……『おおきくなれますように』……これってルキちゃん？」

マス「そのようだな。身長なのか、人間的な器なのかはわからんが」

P（それって、む…………やめとこう）

マス「次はこれだ」

P「『為替が安定しろ』……誰かはわかりますが、命令口調では願いは届かないかと」

マス「ユーロで失敗したらしい。懲りない奴だ」

P（ベテさんが願いにするくらいだから、とんでもない損になったんだろうな）

P「マスさんはないんですか？」

マス「……一応……持ってきた」

P「トップアイドルが出ますように、とか？」

マス「私が指導してトップアイドルが出ないはずがなかろう」

P「みんな健康でいられますようにとか」

マス「体調管理は常に記録してある」

P「それじゃあ、何です？」

マス「これだ」

P「なになに……『皆が笑顔でいられるように』……へぇ」

マス「なんだ、そのニヤケ顔は？」

P「いやいや、意外とカワイイお願いだなと思って……ぷぷぷ」

マス「……そうだ、P殿、新しいドリンクが出来たんだ。試飲したまえ」

P「えっ？……それは……」

マス「プロテインにゴーヤと八丁味噌を加えた自信作だ。安心しろ」

P「ひいいいいい。助けてええええ」

マス「そうだ、千川。そこにトレのも置いてるから飾っておいてくれ」

ちひろ「わかりました」

P「ちひろさん助けて！」

マス「遠慮するな。20リットルは用意してある。行くぞ」

P「」

ちひろ「いってらっしゃーい」


ばたん

ちひろ「相変わらずだこと……えっと、トレさんのはこれね？」

ちひろ「……」

ちひろ「あらあら、本当に可愛いのはこっちかもね」

ちひろ「叶うように一番上に飾ってあげようっと」



『いつまでも毎日みんなと会えますように』



おわり