苗木「どきどき修学旅行?」 (1000)

【教室】


……眠い。

確かボクは修学旅行でみんなと一緒にジャバウォック島へ向かう飛行機の中で騒いでて……石丸クンがガミガミ怒ってて……江ノ島さんが王様ゲーム始めて……。

霧切さんと舞園さんとセレスさんが、やたら血走った目でボクが引いた番号を確認しようとしてて…………どうなったんだっけ。

とにかく…………起きようかな。


苗木「ん……」ムクッ


石丸「お、苗木君! やっと起きたのかね!!」

朝日奈「苗木おっはー! ホントぐっすり寝てたねー」

苗木「おはよう石丸クン、朝日奈さん……それにみんなも。ってあれ、ここ教室?」


目の前に広がっていたのはいつも過ごしている希望ヶ峰学園の教室だった。何を言っているのか分からないだろうけど、ボクにも分からない。

大和田「おう、寝てる間に運ばれちまったみてえだな。ったく、何がしてえんだか」

苗木「……もしかして修学旅行中止とか?」

江ノ島「えー、ありえない!!! それマジ最悪なんですけど!!!」

十神「それなら俺達を起こしてすぐに事情を説明するはずだろう」

腐川「ふふふふふふ、さすが白夜様、寝起きでも冴え渡っているわ!!!」

葉隠「ふーむ、それじゃあれか、ドッキリ的なやつだろ!」

山田「あまり嬉しくないタイプのドッキリですな……どうせならもっとピンク色のものが……」ハァ

不二咲「ピンク色?」

大和田「オメーは聞かなくていい」

江ノ島「ていうかお姉ちゃんなら眠っちゃっても、運ばれたりしたら瞬間的に起きるんじゃないの?」

戦刃「うん……そうだと思うんだけど、でも、私も気付いたらこの状態で……」

江ノ島「はぁ……まぁ残念なお姉ちゃんに期待するだけ無駄か」

戦刃「ぅぅ……」

苗木「ていうかボクが最後まで寝てたんだね……みんな起こしてくれればいいのに……」


霧切舞園セレス「「それはダメ(よ)(です)(ですわ)」」


苗木「え、なんで?」

舞園「苗木君の寝顔がカワイイからです!!」ビシッ

苗木「か、かわいいって……」

桑田「俺は俺は!?」

舞園「見たくないです」ニコ

桑田「…………」ズーン

苗木「あー、えっと、なんかボク喉乾いちゃったな。今って外出ていいのかな?」

セレス「残念ながら、出たくても出られないのですわ」ハァ

苗木「出られない?」

霧切「試してみれば分かるわよ」

ガチャガチャ

苗木「あれ、鍵? え、何で中から開けられないの? それに窓にも鉄板とか……」

大神「分からぬ……我が壊す勢いで開けようともしたのだが、ビクともしないのだ。鉄板も同じくな」

苗木「え、大神さん本気でやったの?」

大神「無論だ。入学当初のように、扉ごと吹き飛ばす勢いでな」

苗木「……それでもダメだったんだ」

石丸「ふむ、学校も大神君の力を考慮して頑丈にしたのだろう!」

霧切「それにしたって外から鍵がかけられて中から出られないなんておかしいわよ」

腐川「ね、ねぇ、これってずっとこのままだとあたし達どうなるのよ……」

朝日奈「ちょ、ちょっと腐川ちゃん、嫌な事言わないでよ……」

十神「だがこの異常な状況を見れば考えられない話でもない」

腐川「で、ですよね!? うふふふふ、あたしと白夜様の気持ちが通じ合ったわぁ……!!」ウットリ

葉隠「なんで嬉しそうなんだべ……」ハァ

不二咲「そ、そんなぁ……でも、このまま本当に出られなかったら……」ブルブル

大和田「落ち着け不二咲。んな事あるわけねえだろ」

石丸「そうだ、ここは学校の中だぞ! こんな状態がずっと続くわけなどない!」

 

ウサミ「その通りでちゅよー!」


全員「「!!!!!」」


な、なんだろうあのウサギ……何もない所から出てこなかった……?


ウサミ「皆さんこんにちは、あちしはウサミ。皆さんの担任でちゅ。フェルト地でちゅ」

江ノ島「……ツッコミどころ多すぎでしょ」

霧切「あなたがこの状況を作り出したのかしら?」

桑田「冷静すぎんだろ霧切……人形が喋ってるんだぞ……」

霧切「そんな事、大神さんでも破れない扉よりは現実的よ」

大神「ふむ、我も初めての体験だ」

山田「つまり初体験という事ですな」

葉隠「オメーも案外余裕だべ」

桑田「つーか、いちいちエロに繋げんなよ童貞くせえな」

山田「なんですと!? それでは君は違うというのですか!!」

桑田「お、俺はいざという時のためにとっておいてるだけだし!!」チラッ

舞園「変な話している人はこっち見ないでもらえますか?」ニコ

桑田「…………」ズーン

セレス「だいたい、そういった事の早さを競うことの方が間違いなのですわ。大事なのは後悔しないこと、これにつきますわ」

江ノ島「おーセレスちゃんオトナだねぇ」ニヤニヤ

セレス「……何を仰りたいのですか? 言っておきますが、わたくしの初めてのお相手は苗木君でしたので後悔はありえませんわ」

霧切舞園「「!!!」」

大和田「なっ、俺は苗木に負けたのか……」

不二咲「苗木君、オトナなんだぁ……」チラ

戦刃「ほ、本当なの……?」ショボン

苗木「いやそんな事してないから!!! セレスさん平然と嘘つくのやめてよ!!!」

セレス「あら、いずれするのですから構わないでしょう」ニコ

苗木「何でそうなってるの!?」

舞園「……苗木君?」ゴゴゴゴゴ

苗木「なに…………って目が怖いよ舞園さん……アイドルの目じゃないって……」

江ノ島「はいはい、とりあえずあのぬいぐるみに話を戻そうよ。十神も目でそう言ってるし」

十神「ふん、いつまでくだらない話を続けているつもりかと思ったぞ」

腐川「で、ですよね!! まったく、不潔よ!! そこの巨乳も!!」

朝日奈「私話してなかったじゃん!!」


ウサミ「あ、あのぉ……もう話してもいいんでちゅかね? 完全スルーというのは先生もちょっと悲しかったでちゅ」オドオド


霧切「さっさと話しなさい」

ウサミ「そ、それでは気を取り直して! 皆さんにはこれから仲良くジャバウォック島で過ごしてもらいまちゅ!」

苗木「ジャバウォック島って……修学旅行の行き先だよね?」

舞園「そこで過ごせと言われましても、こうして学校に送り返されてるのですけど……」

ウサミ「うっふっふ、これは皆さんへのサプライズなのでちゅ!」

葉隠「お、ほら言っただろ!」

桑田「だーもう、回りくでえな。さっさとどういう事か説明しろっての」

ウサミ「分かりまちた。百聞は一見にしかずでちゅね!」


バタン!!!!!


苗木「……え?」


ドッキリハウスのように天井が開き、周りの壁が全て外向きに倒れた。

そして、ボク達の目の前に広がってきた光景。

それは青い空、青い海、照りつける太陽、白い砂浜。


どこからどう見ても南の島のビーチだった。

大神「……我は夢でも見ているのか」

山田「ところがどっこい、夢じゃありません……これが現実……」

ウサミ「うふふふふふ、皆さん驚いてまちゅね。ドッキリ大成功なのでちゅ!」

十神「おいふざけるな何だこれは」ギロ

ウサミ「ひぃぃ、な、何で怒ってるでちゅか……!」ブルブル

霧切「この状況を素直に受け入れられるわけないでしょう。ちゃんと説明しなさい」

ウサミ「わ、分かりまちゅた……これが学園長からのお知らせでちゅ……」ピッ


なぜかヤシの木に引っ掛けられているモニターの電源が点く。

そこにはボク達もよく知る学園長の姿が映し出されていた。


『突然済まない、君達は驚いた事だろうね。でも、大丈夫。修学旅行は予定通り行われるよ。
 ただ、君達に言っていないことがある。それはこの修学旅行にはある明確な目的があり、それを完遂するまでは帰ってこれないという点だ。
 とは言っても、君達であればすぐに済ます事ができるものだ。それでは、詳しい説明はそこにいるウサミから聞いてくれ』

 

霧切「…………」

山田「うはっ、いいですぞ霧切響子殿! その目は実にいい!! ぜひその目を僕に!!」

朝日奈「え、えっと霧切ちゃん? どうしたの?」

霧切「いえ、呆れて言葉もなかっただけよ。ウサミといったかしら、説明をお願い」ハァ

ウサミ「分かりまちた! まず、皆さんが今現在居る場所はジャバウォック島でちゅ。
    そしてこれから皆さんで共同生活を行っていただく場所でもありまちゅ。期限は無制限でちゅ」

大和田「む……無制限だぁ!?」

石丸「限りがないという事だぞ兄弟!」

大和田「そんくらい分かってんよ!! おいコラふざけんなよ!!」

ウサミ「お、怒ってもダメでちゅ! これは立派な希望ヶ峰学園のカリキュラムなんでちゅ!」

腐川「あ、あたし達をこんな南の島に閉じ込めるのがカリキュラムだっていうの!?」

戦刃「そ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。例え無人島でも植物食べたり、動物食べたりすれば……」

不二咲「ハ、ハードル高いよぉ」

ウサミ「その辺りは問題ないでちゅよ。皆さんが島で衣食住に困らない体制になっていまちゅから!」

セレス「そうは言ってもですね……」

葉隠「南の島ってのもいいけど、流石に何日も居ると飽きるべ」

舞園「あの、確か学園長は明確な目的があるって言ってましたよね?」

ウサミ「はい、その通りでちゅ。この修学旅行の目的はズバリ、皆さんに仲良くなってもらいたいのでちゅ」

朝日奈「仲良くって……もう結構仲良くない?」

ウサミ「皆仲良し……っていうわけではないでちゅよね? 学園長は特に霧切さんや腐川さん、それと十神君を心配していまちた」

十神「ちっ、俺が誰と馴れ合おうが勝手だろう……!」

腐川「そーよそーよ!」

霧切「大きなお世話ね。私は苗木君さえ居てくれれば何でもいいわ」キリッ

苗木「え、えー……」

舞園「ちょっと、さらっと苗木君を誘惑しないでくれますか?」ニッコリ

霧切「なぜ? 私はただ自分の意見を述べただけよ」

セレス「それが苗木君にとって迷惑だと言っているのです」

ウサミ「……とこんな感じに複雑な問題もあるのでちゅ。それをこの機会にスッキリ解消……」

霧切舞園セレス「「無理(よ)(です)(ですわね)」」

ウサミ「そ、そんなキッパリ言わないでほちいでちゅ……」グスッ

桑田「苗木ぃぃ……オメーやっぱ舞園ちゃんを……!!」ギロ

苗木「な、なんでボクの事を睨むのさ!」

江ノ島「でもさー、なんでそこまでするの? クラス全員が仲良しっていう方が珍しくない?」

ウサミ「普通の学生さんはそうかもしれません。でも、皆さんはそれぞれが超高校級の才能を持った人々の希望でちゅ。
    だからこそ心配なのでちゅ。希望と絶望は正反対のようでいて、とても近い所にありまちゅからね」

霧切「つまり、私達が正しい道に進めるように……というわけ?」

ウサミ「はいでちゅ。万が一という事もありまちゅので、不安な芽は早い内に摘んでおこうと……」


苗木「それは違うよ」

ウサミ「……え?」

苗木「心配? 何が心配なのさ? ここにいるみんなは、素晴らしい才能を持った希望の象徴だ。絶望に飲み込まれるなんてありえないよ」ハハ

ウサミ「せ、先生もそう思っていまちゅ。でも」

苗木「でも、なに? ウサミは信じてないの? 超高校級のみんなの希望をさ!」

ウサミ「そ、それは…………」オロオロ

苗木「こんな事はまったく無意味だよ。ボクには分かる。例えどんな事が起きようとも、みんなは眩しい希望を持ち続けてくれるさ!」キラキラ

不二咲「な、苗木君?」

葉隠「どうしたべ苗木っち、なんかえらくアツいけど」

苗木「……ごめんごめん。そうだよね、まずは話を聞かないとね」ニコ

ウサミ「…………」

苗木「ウサミ?」

ウサミ「……いえ、それでは説明をしまちゅね。これから皆さんには希望のカケラを集めてもらいまちゅ」

山田「なにそれおいしいんですかな?」

石丸「待ちたまえ山田君! 先生の話は最後まで聞くべきだぞ!」

ウサミ「せ、先生と呼んでもらえたのは石丸君が初めてでちゅ! 先生、感激でちゅ!」ウルウル

大和田「いいからさっさと話せよ」チッ

ウサミ「うぅ……分かりまちた……。それでは皆さん、電子生徒手帳を見てください」

苗木「……これかな。なんか希望のカケラとか書いてあるね」

ウサミ「はい、それは親密になっていくほど溜まっていくシステムなのでちゅ」

十神「ふん、なるほどな。つまりこれを全員分集めろという話か」

朝日奈「あ、私もうさくらちゃんと苗木は全部溜まってる!」

大神「ふむ、我もだな。朝日奈と苗木は溜まってるようだ」

不二咲「僕も苗木君と……あと大和田君と石丸君も溜まってるみたい」

大和田「まぁ当然だな! なっ、兄弟!」

石丸「あぁ! しかし、僕としてはクラス全員溜まっていないというのが無念だ……」ググッ

桑田「おい待て、俺と舞園ちゃんのカケラがスッカラカンなのはどういう事だよ!」

舞園「むしろ少しでも溜まっているとでも思ったんですか?」ニコ

桑田「…………」ズーン

葉隠「うげっ、俺は苗木っちしか溜まってないべ! この薄情者どもめ!!」

山田「ふっふっふっ、大丈夫ですぞ。僕もまったく同じですからな!」ドヤァ

葉隠「こんな奴と同類かよ!!」ガーン

山田「なななななんですとぉ!?」ムカッ

腐川「ちょっと待ちなさいよ!! なんであたしも苗木は溜まってるのに白夜様は空なのよ!!!」

十神「当たり前だろう、騒ぐな。だが俺も苗木だけは溜まっているな。確かにコイツには無駄話をした事もあるが……」

霧切(苗木君以外は空に等しいわね……あら、朝日奈さんは少しだけ溜まってる)

舞園「ふふ、随分と寂しいみたいですね?」ニコニコ

霧切「くっ、言ったでしょう、私は苗木君さえ居てくれればいいのよ」

セレス「その通りですわ。何の問題もありません」

ウサミ「この修学旅行の趣旨を全否定されてしまったでちゅ……」グスッ

戦刃(あっ、苗木君は全部溜まってる/// …………あ、あれ?)

江ノ島「ぎゃはははははははは、あたしお姉ちゃんのカケラ全然溜まってないし!」

苗木「ボクはみんな溜まって…………あれ、江ノ島さんだけ空だ」

江ノ島「えっ、何それイジメ!?」

葉隠「あっはっは、苗木っちに見捨てられるとか終わってるべ!」

大和田「オメーも嫌いな奴とかいたんだな」

苗木「ち、違うよ江ノ島さん! これはたぶん何か理由があって……」

江ノ島「そっかぁ……苗木はクラスであたしだけ嫌ってるんだぁ……」

ウサミ「うーん、苗木君の希望のカケラは全員満タンだと思ったのでちゅけどねー。でも、そんなに落ち込む事はありません! これからこの修学旅行の間に溜めればいいのでちゅ!」

桑田「よし分かった! それじゃ俺はさっそく舞園ちゃんから……」

舞園「嫌です、近づかないでください」ニコ

桑田「…………」ズーン

ウサミ「そ、それじゃダメなんでちゅよー!」オロオロ

石丸「うむ、しかしいい機会だ! この修学旅行でクラスの絆を強固なものにしよう!!」

十神「くだらん、付き合ってられるか。俺はもう行くぞ、ホテルはあるんだろうな?」ギロ

ウサミ「え、えっと、皆さんにはそれぞれコテージが割り振られていまちゅけど……」オロオロ

十神「そうか。じゃあな」


スタスタ……


朝日奈「はぁ……これ無理なんじゃない?」

ウサミ「そ、そんな事ないでちゅよ! 皆さんならきっとできまちゅ!」

苗木「うん、そうだよ!」

山田「むぅ、苗木誠殿は既に大方済んでおりますので大丈夫でしょうが……」

苗木「みんなも大丈夫だよ! ボクはキミ達の希望を信じてるよ! 何があっても決して折れない強い希望をね!」

江ノ島「えー、時には諦めも肝心だって。つーかあたしは苗木のカケラすら溜まってないし」

苗木「大丈夫だって! ボクのカケラなんてすぐに溜まるよ!」

江ノ島「……あれ、もしかしてあたし苗木に口説かれてる?」

舞園「苗木君!! ぜひ私とも希望のカケラを溜めましょう!!」

セレス「抜け駆けしないでくださる? 苗木君はこの後わたくしのコテージにお招きしますわ」

霧切「何を言っているのかしら。論理的に考えて苗木君は私といるべきよ。なぜなら私は苗木君がいないとぼっちになるのだから」

セレス「あら、それでしたらわたくしも同じですわ」

霧切「あなたには山田君がいるじゃない」

セレス「はぁ!? こんな腐れデブがなんだって!?」

山田「ありがとうございます!!」

苗木「ていうか三人ともボクのカケラは溜まっているじゃないか……」ハァ

お腹減ったべ

ウサミ「そ、そうでちゅよ。霧切さん達は苗木君ではなくて、お互いの希望のカケラを集めてください……」

セレス「ですからそれはできないと言っていますでしょう。霧切さんと舞園さんは同じ男性を巡る敵ですわ」

舞園「そうですね。常にどう陥れるか考えている相手と仲良くっていうのは考えられません」

霧切「ウサミと学園長の思う通りに私達が動くと思ったら大間違いよ。私は苗木君と一緒に他の方法で脱出する方法を探すわ」

舞園「ちょっと、何勝手に決めてるんですか。ぼっちはぼっちらしく一人で探していてくださいよ」

霧切「苗木君は私の大切な助手よ。一緒に捜査するのは当然でしょう」

舞園「私だって苗木君の助手です!」

霧切「あなたは役立たずだから結構よ。アイドルらしく他のみんなに愛想笑い振りまいてれば?」

セレス「お待ちなさい。苗木君はわたくしのナイトですので、まずわたくしの許可をとってください」

ウサミ「……ぅぅ」ウルウル

苗木「どうしてこうなっちゃうんだ……」ガックリ

大和田「けど俺も同感だぜ。十神みてえなヤロウと仲良くなんてのはゴメンだ」

不二咲「そ、そんな……」

石丸「しかし兄弟、彼も同じクラスの仲間だぞ!」

大和田「けっ、向こうはそう思ってねえだろうが。いつも俺達を見下してるぜ。そんな奴と仲良くなれっかよ」

葉隠「まぁ正論だべ」

石丸「くっ……いや、例えそうだとしても、彼だって変われるはずだろう!」

大和田「それならまずアイツどうにかしてからだろ」

朝日奈「うーん、でも十神がそう簡単に変わるかなぁ」

大神「あやつはあやつで固い意志を持っているからな……」

腐川「ふふ、分かってないわね。そこがいいのよ!!!」

江ノ島「やっぱ無理なんだよ。無理無理無理むーりー」バタバタ

戦刃「じゅ、盾子ちゃん、そんなにバタバタしてると下着見えちゃうよ!」アセアセ


苗木「…………」

ウサミ「想像以上に先行き不安で、先生は悲しいでちゅ……」

苗木「……とりあえずさ、みんな自分のコテージに行ってみようよ。一度に色々説明されて混乱してる所もあるだろうし」

石丸「素晴らしい提案だ苗木君! それでは各自部屋で考える時間を取ろうではないか!!」

大和田「……別にいいけどよ、俺の考えは変わんねえぞ」

舞園「私は苗木君の部屋で待っていればいいんですね!?」

セレス「それはわたくしですわ」

霧切「何を言っているのかしら。私が行くから、あなた達は自分の部屋で大人しくしていなさい」

苗木「ごめん、そういうのホントいいから、まずは自分の部屋でよく考えてくれないかな?」

霧切舞園セレス「「…………はい」」ショボン

ゾロゾロ……


ウサミ「あれ、苗木君はコテージに行かないのでちゅか?」

苗木「ウサミ、みんなの希望のカケラを集める為に聞きたい事があるんだ」

ウサミ「はい、なんでちゅか? 何でも聞いてくださいね! 先生は精一杯協力しまちゅよ!」

苗木「ありがとう。それでさ……」


苗木「この島全部吹き飛ばせる爆弾とかないかな?」ニッコリ


ウサミ「…………え?」

苗木「この島全部吹き飛ばせる爆弾が欲しいんだ」

ウサミ「ちょ、ちょっと待ってくだちゃい!! いきなり何を言ってるんでちゅか!!」

苗木「あはは、だよね。そんなものあるわけないよね」ニコ

ウサミ「そ、そういう問題ではなくてでちゅね……」

苗木「じゃあさ、そこまで強力じゃなくていいから、手榴弾レベルの爆弾とかないかな?」

ウサミ「……苗木君?」

苗木「ん、なに?」ニコ

ウサミ「ここではそんな暴力的な事は禁止でちゅ! それに、爆弾と希望のカケラ、何の関係があるんでちゅか!」

苗木「……ねぇ、ウサミ。人間を一番結束させるものは何だと思う?」

ウサミ「それはもちろん愛でちゅ! らーぶ、らーぶ……」


苗木「共通の敵だよ」


ウサミ「ふぇ!?」ビクッ

苗木「モノミ、この希望のカケラって減るのかな?」

ウサミ「え、えっと、一度溜まったカケラは減る事はないでちゅけど……」オドオド

苗木「それなら良かった。ボクが敵になれば簡単に上手くいきそうだね。まぁ例え減ったとしても何とかできるけどさ」

ウサミ「待ってくだちゃい、あちしは苗木君がどうしてそんな事を言うのかまったく分かりません!!」ウルウル

苗木「えっとね、ほらいつもはいがみ合ってる仲でも、強大な敵を前にして結束するっていう事はよくあるよね? 少なくともそのきっかけにはなると思うんだ。
   ボク、スラムダンクの桜木と流川が山王戦で手をバチンってやる場面大好きなんだ」

ウサミ「ほ、他の方法もあるはずでちゅ!」

苗木「甘いよウサミは……自分で言ってたじゃないか、希望と絶望は正反対のように見えて、実は近い所にあるって」

ウサミ「そ、それは……」

苗木「だからさ、大きな希望の為にはそれ相応の絶望も必要だと思うんだよ!! 大丈夫、みんなはきっと乗り越えてくれるさ!!」キラキラ

ウサミ「ダメでちゅ!!! 先生は絶対にそんな事認めません!!!」

苗木「……はぁ。何で分かってくれないのかなぁ」


江ノ島「うんうん!!! あたしは分かるよ苗木!!!」ニコ

苗木「え、江ノ島さん!?」

江ノ島「えへへ、こっそり何の話をしてるのかと思ったら、すっごく楽しそうじゃん!」ニコニコ

ウサミ「た、楽しそう!?」

江ノ島「そうそう、全然分かってないんだよねー。皆でらーぶ、らーぶとか、それのどこが楽しいの?」

苗木「江ノ島さん、言っておくけどボクはみんな仲良くっていうのを否定したわけじゃないよ。ただ、それにはそれ相応の」

江ノ島「絶望が必要ってわけでしょ! うんうん、やっぱり絶望をないがしろにしちゃダメだよね!」

ウサミ「ぜ、絶望なんてする必要ないでちゅよ!!」

苗木「それは違うよ!! 本当の絶望を知らない希望なんて希望とは呼べない。みんなの希望はそんなに軽いものじゃないんだ!!」

江ノ島「そうだよ!! 人々の希望名乗るなら絶望の一つや二つ乗り越えないと!!」

ウサミ「う、うぅ……」ウルウル

ウサミ「と、とにかく、そんなのは認めません!!!」


タタタタッ……


江ノ島「……行っちゃった。でも苗木、あんたがそんなに分かってる奴だなんてね」ニコ

苗木「ボクもこの気持ちを理解してくれたのは江ノ島さんが初めてだよ」ニコ

江ノ島「大丈夫、きっとみんなも理解してくれる。きっと、ね」

苗木「いいよ、理解してくれなくてもさ」

江ノ島「えっ?」

苗木「ボクはただみんなの大きな希望を見られれば満足なんだ」ニコ

江ノ島「あはは。大丈夫、見れるよ。あたしが断言してあげる!」

苗木「あはは、頼もしいね。うん、ボクも信じてる。それじゃ、一旦ボク達もコテージに行こうか」

江ノ島「うん!」ギュッ

苗木「……な、なんで手を繋ぐの?」

江ノ島「いいじゃん、いいじゃん!」ニコニコ


『江ノ島の希望のカケラが集まりました』

【苗木のコテージ】


あてがわれた自分の部屋に行ってみた。

当たり前だけど物はそんなにないな。ベッドとシャワールームっていう必要なものだけ置いてある感じだ。

まぁそれでもベッドはふかふかだし、ボクにとっては十分なんだけど。


苗木「んー……どうしよっかな……ウサミは手伝ってくれないみたいだし……」


ゴシャァァァァァ!!!!!


苗木「えっ!?」

舞園「ちょっと苗木君、どういう事ですか!!」

セレス「説明してください。できるだけ詳しく」

霧切「答えによっては覚悟することね」

苗木「なっ、どうしたの三人とも!? ていうかドア壊さないでよ!!」

舞園「いいから答えてください、江ノ島さんの希望のカケラを一気に全部集めた方法を!!」


江ノ島さん絶対わざと言ったよこれ……!!

 
江ノ島さんの意図は分かる。これは見るからに絶望の種だ。

ただ、ここからどう成長させればいいのか。

今のところ三人の共通の敵は江ノ島さんという事になるけど、それで三人が協力するような展開になるのだろうか。


たぶん……ボクの返答次第なのかな。


何て答える? >>121

告白した

苗木「ボクが告白したんだよ」

霧切舞園セレス「「……え?」」

苗木「だから、ボクが江ノ島さんに告白したんだってば。だからさ、これからはこういう事は控えてくれないかな?」

舞園「う、うそ……ですよね……?」ブルブル

苗木「本当だよ。嘘ついてどうするのさ」

セレス「そんな……わ、わたくしは……あなたを……」ウルウル

苗木「ごめんね。でも、もう終わった事だからさ」


霧切「信じないわ」


苗木「……え?」

霧切「こんな急展開、私は絶対に信じない。そうよ、江ノ島さんが無理矢理苗木君を言いくるめた、それしかないわ!」

舞園「っ!! それに賛成です!!」

セレス「なるほど、苗木君の優しさにつけ込んだわけですか……!!」ギリッ

霧切「ねぇ、私達は一時休戦にしない? まず先に対処すべき問題が出てきたわ」

舞園「仕方ないですね……」

よし、理由はどうあれ、これで三人の間には絆が生まれたはずだ!

でも、これだと江ノ島さんとこの三人のカケラが集まらないけど……まぁいいか。

その辺はきっと江ノ島さんが上手くしてくれるだろう。


セレス「それではお待ちください、苗木君。これからあの魔女を懲らしめて、苗木君を救ってみせますわ」

苗木「あ、あはは……えっと……頑張って」


タッタッタ……


苗木「……さて、と。じっとしてるのも暇だし、この島を見て回ろうかな」


【空港】


やはり島というだけあって、空港はある。でも、滑走路にある飛行機はどれも止まっているみたいだ。

他は特に目を引くようなものはないかな……。


苗木「ん、あれは……」


誰を見つけた? >>135

残姉ちゃん

苗木「戦刃さん?」

戦刃「あ、苗木君……」

苗木「どうしたの、少し落ち込んでるように見えるけど」

戦刃「う、うん、ほら、私盾子ちゃんの希望のカケラ全然集まってなくて……姉妹なのにどうしてかなぁって……」

苗木「うーん……姉妹だとしても、やっぱりお互い分かっていない部分はあると思うんだ。たぶんその辺りが関係しているんじゃないかな」

戦刃「……そっか、もっと盾子ちゃんの事分かっていかないとダメなんだね……。姉妹だとしても、そこに甘えてられないんだ……」

苗木「でも大丈夫だよ、戦刃さんならきっと江ノ島さんの事を理解できるよ!」ニコ

戦刃「そ、そう……かな? ふふ、苗木君に言われると自信出るな」ニコ

苗木「そう? ボクからすれば、超高校級の軍人の戦刃さんの方がずっと頼もしいと思うけど」

戦刃「ううん、そういうのは関係ないよ。苗木君は私よりもずっと強いよ。だから……」

苗木「だから?」

戦刃「……///」カァァ

苗木「戦刃さん?」

戦刃「な、何でもない!! ありがとね、苗木君!!」ダダッ!!


苗木「……行っちゃった。でも、少しは力になれたのかな?」

【ロケットパンチマーケット】


ここはスーパーマーケットみたいだ。

見た感じ、何でも揃ってる。中には暗視スコープまである。一つしかないみたいだけど、何に使うんだこれ。

食べ物や飲み物も充実してるみたいで、飲み物の中には見たことないゲテモノもあるみたいだ。


苗木「ウサミが衣食住には困らせないって言ってたけど、本当みたいだな…………ん、あれは」


誰を見つけた? >>145

ドーナツ

朝日奈「あ、苗木だー! これおいしいよー!!」ニコニコ

苗木「朝日奈さん……ってまたドーナツ食べてるの?」

朝日奈「うん! あって良かったー、えへへ、幸せー」

苗木「そういえば朝日奈さんはみんなの希望のカケラはどんな感じなの?」

朝日奈「ん、全部溜まってるのはさくらちゃんと苗木だけかな。でも他にも何人かそこそこ溜まってる人もいるよ! ほら!」スッ


朝日奈さんの電子生徒手帳を見せてもらうと、確かに溜まっていない人の方が少なかった。

なにせ、あの霧切さんも少しは溜まっている。

やっぱり朝日奈さんのコミュ力は凄い、霧切さんも少しは見習ってほしいな。


朝日奈「あ、で、でもさ苗木……勘違いはしないでね……」モジモジ

苗木「へっ?」

朝日奈「だ、だから! 別に苗木の希望のカケラが溜まってるからって、私が、その、苗木の事好きっていうわけでは……///」

苗木「あはは、分かってる分かってる。朝日奈さんにはボクなんかより良い人がいくらでもいるよ」ニコ

朝日奈「……むぅ」ムスッ

苗木「え……な、なに?」

朝日奈「べっつにー。そうだよね、苗木には霧切ちゃんとか舞園ちゃんとかセレスちゃんとかいるもんねー」プイッ

苗木「い、いや、だからその三人とは何もないんだってば……」

朝日奈「……ふふ、でもさー」ニヤニヤ

苗木「ん?」

朝日奈「ほら、私苗木には恋愛シミュレーションお願いしたりしてるじゃん? そこで苗木が私に好きだって言ってくれた時もあったなーって///」

苗木「でも、それはシミュレーションで……」

朝日奈「それでも好きって言ったことには変わりないよね? えへへ、これってあの三人は誰も経験してないよねー?」

苗木「ま、まぁ、そうだね」

朝日奈「うんうん、そっかそっか。それならいいんだよ!」ニコニコ


えらくご機嫌な朝日奈さん。大きな絶望に直面した時でも彼女はこの笑顔を失わないのか。

失わないに決まっている、なにせ彼女は超高校級の才能を持ったみんなの希望なんだから!


朝日奈「ん、どうしたの苗木?」

苗木「いや、朝日奈さんの笑顔って凄く良いなぁって思って。ずっとその笑顔を絶やさないでね」ニコ

朝日奈「なっ……い、いきなり何恥ずかしい事言ってんのよバカっ!!///」ダダッ

【牧場】


ここは牧場……の割に動物は少ないな。

看板を見ると、ウサミ牧場って書いてある。自分もウサギのくせに……。


苗木「……ふぁ。なんかこうのんびりした所だと眠くなるなぁ…………あれは」


誰を見つけた? >>158

セレスさん

苗木「セレスさんか、こんな所に居たんだ」

セレス「あら、あなた。偶然ですわね」

苗木「あなたって……そうだ、江ノ島さんの事はどうなったの?」

セレス「ふふふ、三人で仕留めましたわ」ニコ

苗木「仕留めた!?」

セレス「えぇ、苗木君を無理矢理告白させた事を認めさせ、深々と頭を下げさせましたの」

苗木「……あ、あぁ、そういう事か」

セレス「しかしあの方、意外とM気質を持っているのではないでしょうか。頭を下げさせられてるのに、やたらうっとりと『絶望的!!』とか仰っていましたわよ」


聞かなかった事にしておこう。


苗木「それで、セレスさんはどうしてこんな所に?」

セレス「やはり似合いませんか?」

苗木「うん、まぁ……」

セレス「特に理由はありませんわ。ただの気晴らしです。ですが、こうして苗木君と出会えた事は、ここの動物達に感謝すべきなのでしょうか」ニコ

苗木「え、う、うーん、どうかなぁ……」

 

ウサミ「らーぶ、らーぶ」ヒョコ


苗木「わっ、ウサミ!?」

セレス「いきなり現れるのですね、あなたは」

ウサミ「うふふ、そういうシステムでちゅから。それにしても苗木君、あんな事言っていても、何だかんだみんなと仲良く交流しているではないでちゅか!」ニコニコ

セレス「みんな?」ピクッ

苗木「……それでウサミは何の用なのかな?」

ウサミ「この牧場をちょっと改造しに来まちた! やっぱり牧場なのに牛さんが一匹もいないのは寂しいと思うのでちゅよ」

セレス「ちょっと苗木君、みんなと仲良く交流というのはどのような……」

苗木「セレスさん、変だよ。こう言っているのにウサミは牛を連れていない!」

セレス「……はぁ。それがどうかしましたの?」

苗木「いや、どうも牛を追加しようとしてるみたいでさ」

セレス「わたくしより牛のほうが関心あるのですか……」ブツブツ

ウサミ「うふふ、違いまちゅよー。あちしは、そこにいるニワトリを牛さんに変えにきたのでちゅ!」

苗木セレス「「は?」」

 

ウサミ「ちんぷい、ちんぷい。ちちんぷいぷい、ちんちんぷいぷいー!」


ボワン!!


牛「モォ~!!」


苗木「…………え!?」

セレス「……ニワトリが牛になりましたわね」

苗木「い、いや……えっ、何これ!?」

ウサミ「うふふ、ビックリしましたか? これがこのマジカルステッキの力なんでちゅ!!」バーン!!

セレス「そんな100円均一に売ってそうなオモチャにそれほどの力が……」

ウサミ「ひ、酷いでちゅ……」ガーン


本当の魔法?

いやいやいや、そんなわけ、そんなの超高校級どころか超人級じゃないか!


苗木「え、えーと、種は全く分からないけど、何かの手品って事?」

ウサミ「手品ではないでちゅ」

苗木「いやでもそれ以外説明のしようが……!」

ウサミ「ふふふ、苗木君が例の件を諦めてくれたらおちえてあげてもいいでちゅよー」タッタッタ

苗木「あっ、ちょっと! 行っちゃった……」

セレス「例の件とは?」

苗木「え、あー、まぁ大した事でもないよ」

セレス「……ウサミには言えるのにわたくしには言えないのですね」ムスッ

苗木「そ、そういうわけじゃなくて……その……」

セレス「苗木君!」

苗木「な、なに!?」

セレス「わたくしは、この修学旅行中にあなたを恋人から家族へとクラスアップさせてみせます! ここに宣言いたしますわ!!」ビシッ

苗木「いや、まず恋人でもないんだけど……」


まぁ、これはこれで希望だし、いいのかな?

……でも、ボクの希望のカケラは溜まってるし、あんまり意味無いような…………。

【砂浜】


最初にボク達が居た砂浜だ。

ヤシの木がなっていて、白い砂浜に青い海が。まさに南国を象徴している。


苗木「閉じ込められていなければゆっくり楽しめたんだけどなー…………ん、あれは」


誰を見つけた? >>171

江ノ島

苗木「江ノ島さんか、大丈夫?」

江ノ島「え、何の事?」

苗木「いや、だって、霧切さん達が……」

江ノ島「あー、平気平気! むしろ最高だったよ!!」ニコニコ


やっぱりこの人そういうので興奮する人なのかな……。


苗木「それで、どんな感じだったのかな、あの三人は?」

江ノ島「何だかんだ息合ってたよ、あんたら仲良いんじゃねえか! って感じでね!」

苗木「そっか、良かったよ。ごめんね、嫌な役やらせちゃって」

江ノ島「全然平気、むしろ良かったんだってば!」ニコニコ


そういえばそうだった……。


苗木「でも、絶望を与えるっていうのも中々難しいものだよね。ボクはあまりいい方法を思いつかないや」

江ノ島「あ、そこは大丈夫だよ!」

苗木「え?」

江ノ島「こんな平和は続かない、絶望的な事はきっと起きるよ」ニコ

苗木「何か仕掛けてるの?」

江ノ島「さぁ?」

苗木「さ、さぁって……じゃあ何で分かるのさ」

江ノ島「エスパーだから!」ニコ

苗木「それ舞園さんと被ってる」

江ノ島「じゃあ女の勘って事で! ほら、苗木、一緒にここに寝転がろう?」


江ノ島さんが指さした先には砂浜の上にビニールシートがしかれていた。


苗木「スーパーから持ってきたの?」

江ノ島「うん、あそこ何でもあるからね。ほら早く早く!」

苗木「わ、分かったって……」


砂浜に敷かれたビニールシートの上に寝転がると、視界には雲一つない青空だけが広がる。

聴こえるのは波の音だけ。

一瞬閉じ込められる事を忘れるくらい、ただ平和だった。

江ノ島「……絶望的だね」

苗木「そう、かな?」

江ノ島「うん。つまらなくてつまらなくて、でも、たまにはこういうのもいいよね」

苗木「……うん。ゆっくりできるのはいいよ。それがいつまでもってなるとちょっとアレだけどね」

江ノ島「あはは、そだね。大丈夫、大丈夫。今は溜めの時間だから」

苗木「溜め?」

江ノ島「物事には落差が大切だと思うのよ。だから、今はこうしてクソつまらない絶望的な時間に身を委ねるのも悪くないなって」

苗木「……江ノ島さんって何考えてるかよく分かんないや」

江ノ島「そう? 苗木なら分かってくれると思うけどなー」

苗木「うん。ボクも江ノ島さんの事分かりたいと思うよ」

江ノ島「それ誘ってんのー? あたしのコテージ行く?」ニヤニヤ

苗木「そういう意味じゃないよ」

江ノ島「分かってますー。相変わらずつれないねー、苗木」


そのまましばらく、寝転がっていた。

時間は普段よりも遥かにゆっくりと流れていた。

【中央の島 ジャバウォック公園】


このジャバウォック島は中央の島と、周りの五つの島で構成されているみたいだ。

ボク達が居たのはその中の第一の島。他の島はまだ入れないとウサミに言われた。

だからこうして中央の島にある公園に来たわけど……。


苗木「……何もないな」


そこにあったのはベンチと、いくつもの動物が合わさったような大きな銅像だけ。

立派なのは分かるけど、そこまで感動できるわけでもないなぁ。


苗木「ん、あれは…………」


誰を見つけた? >>185

十神

苗木「十神クン……何をしてるの?」

十神「ふん、泳いでいるようにでも見えるか? ただ調べ物をしているだけだ」

苗木「調べ物?」

十神「苗木、お前はバカ正直にあのウサミとやらの指示を聞いてその通りに動く気か? 俺はゴメンだな、だからこうして自力での脱出方法を探している」


さすが十神クン、絶望的な状況の中でも自分なりのやり方を貫いているみたいだ。


苗木「ここにそのヒントが?」キョロキョロ

十神「さぁな。ただ、このジャバウォック島の構造的に、中央に位置しているこの場所には何かあると見た」

苗木「もしかして、その銅像を動かすと何かが起きるとか。ほら、ゼルダの伝説みたいにさ」

十神「何の話をしているのかは知らんが、ここまで巨大なものは大神でも不可能だろう」

苗木「だ、だよね……」

十神「しかし妙だな」

苗木「なにが?」

十神「本来この位置にはもっと重要な施設があるはずだ。島の中央だしな。だが、あるのはくだらん銅像だけだ」

苗木「うーん……やっぱりこの銅像に何かあるのかなぁ……」

十神「……いずれにしろ、情報が少なすぎる。せめて他の島へ行ければいいんだが」

苗木「でもウサミが封鎖してたよね」

十神「苗木、お前泳ぎは得意か?」

苗木「……朝日奈さんに頼んでよ」

十神「ならお前が頼め。その方が効率が良い」

苗木「ねぇ、十神クン。せっかくのクラスメイトなんだしさ、もっと仲良くはできないのかな?」

十神「ありえん、俺はお前達とは住んでいる世界が違う。なぜかお前には余計な事まで話してしまうがな」


これは褒められてるのかな……。


十神「とにかくこの話を朝日奈に伝えろ。分かったな」スタスタ

苗木「あ……行っちゃった」


でも十神クンは十神クンで希望を持って動いている。

例え正規の道じゃなくても、それ自体はきっと良い事なんだよね。

【ホテル・一階ロビー】


ボク達のコテージが並んでいる奥にはプールがある。

さらにその奥にホテルがあって、一階はロビー。二階はレストランになっている。

ロビーにはテレビやアーケードゲームなんかが置いてあり、退屈はしなさそうだ。


苗木「ん、あれは…………」


誰を見つけた? >>192

ちーたん

苗木「不二咲クン、ここに居たんだ」

不二咲「あ、苗木君! えへへ、こんにちは」ニコ


その笑顔に一瞬目の前の彼が男だという事を忘れかける。

でもボクは山田君じゃないから表立って取り乱したりはしない。


苗木「え、えーと、ゲームやってるの?」

不二咲「うん! 結構得意なんだよボク。たまに作ったりもするし」ニコニコ

苗木「不二咲クンの使ったゲームか……なんだかとっても凄そうだね」

不二咲「そ、そんな事ないってばぁ……」


そうは言っているが、超高校級のプログラマーが作ったゲームだ。

もし世の中に出せば大受け間違いなしだろうな。


苗木「そういえば、不二咲クンは希望のカケラはどうなってるの?」

不二咲「えーと、こんな感じだよ!」スッ


パッと見る限り、男子中心にそこそこ溜まっているようで、逆に女子が少ない。

苗木「やっぱり女子は苦手?」

不二咲「う、うん……ちょっとね……。でも、いつまでもこんな感じじゃダメだよね!」


不二咲クンは決意の表情で小さい手を握り締める。

普段は大人しいように見えても、心は強い人だというのがボクの不二咲クンへの印象だ。


苗木「不二咲クンならきっと、大丈夫だよ。女子も皆良い人だし…………あ、でも腐川さんにはちょっと注意かな」

不二咲「あ、あはは、それは少し分かるよ…………そうだ、大和田君にアドバイスもらおうかな!」

苗木「大和田クン?」

不二咲「うん、男らしい大和田クンなら、きっと女子との接し方もよく知ってると思うんだ!」ニッコリ

苗木「…………」

不二咲「あれ、どうしたの苗木クン?」

苗木「あ、い、いや、何でもないよ!」アセアセ


確か大和田クンって女子に告白しても玉砕しまくりって聞いたような……。

いや、でも言うべきじゃないよね。言ったらボクがぶっ飛ばされそうだし。

【ホテル 二階レストラン】


二階のレストランは開放的で、丸テーブルがいくつか置いてある。

まだそんな時間でもないけど、夕食は勝手に出てくるのかな?


苗木「ん、あれは…………」


誰を見つけた? >>200

きりぎり

苗木「霧切さんか。どう、何か分かった事とかある?」

霧切「あ、苗木きゅん」

苗木「…………」

霧切「…………」

苗木「えっと、それで何か分かった事は?」

霧切「え、えぇ、見た感じ本当に私達以外に人が居ないみたいね。それに空港の飛行機はエンジンが全て抜かれてたわ」

苗木「そっか……凄い手の込みようだね……」

霧切「まぁ、希望ヶ峰学園の力があれば考えられない話でもないわね。それよりおかしいのは、あのウサミよ」

苗木「ウサミ……か。何だか魔法みたいな事をするよね。霧切さんならトリックとか分かるの?」

霧切「分からないから問題なの。どう考えても現実的なものじゃないわ」

苗木「……まさか本当の魔法だって?」

霧切「…………それを考えるのにはまだ情報が足りないわね。でも、何となくだけど、あの魔法の正体はここを脱出するのに大きく役立つと思うの」

苗木「探偵の勘ってやつ?」

霧切「えぇ…………ところで苗木君」

苗木「え、なに?」

霧切「やっぱり私は苗木君以外の人とも親しくするべきなのかしら……」

苗木「……それは」

霧切「前に言ったわよね、この手袋の下の火傷は他人に深く踏み込んだ代償だって。だから」

苗木「霧切さんなら大丈夫だよ」

霧切「……えらく無責任ね」

苗木「うーん、でもそう言うしかないからなぁ。だってさ、霧切さんなら誰とも親しくならないっていう方法以外にも、きっと違う方法を見つけられると思うんだ」

霧切「そう……かしら……」

苗木「少なくともボクはそう思ってるし、見つけてほしい。霧切さんだって心から一人を望んでいるわけではないでしょ?」

霧切「…………」

苗木「きっと、その火傷だって、人と関わりすぎたからっていう理由が全てじゃないはずなんだ。ごめん、知ったような口聞いてさ」

霧切「……ううん、ありがとう苗木君。私もあなたの言う通りだと思うわ」

苗木「あはは、いいよお礼なんて。クラスメイトなんだから当たり前でしょ?」

霧切「クラスメイト…………か」

苗木「ん、どうしたの?」

霧切「ねぇ、苗木君。あなたから見て私ってどうかしら? もちろん女の子として」

苗木「え、凄く可愛いくて……良い人で……」

霧切「//////」カァァ

苗木「ていうか、霧切さんって学園内でも人気あるんだよ? 気付いてなかった?」

霧切「……確かに何度か告白された事もあったかしら」

苗木「うん、だから自信持っていいよ!」ニコ

霧切「じゃ、じゃあ!!///」

苗木「ん?」

霧切「え、えっと……その……それなら苗木君は私と……こ、恋人同士になってくれたり……は……///」モジモジ

苗木「あはは、霧切さんならわざわざボクなんか選ばなくたっていくらでも……」

霧切「苗木君がいいの!!」

苗木「えっ」

霧切「あっ///」

苗木「…………」

霧切「…………///」


苗木「と、とりあえず、この島から出てから…………ね?」アセアセ

霧切「……意気地なし」

苗木「か、返す言葉もないよ……」

霧切「はぁ、分かったわ。でも」


霧切「へ、返事はちゃんとしなさいよ///」


タッタッタ……


苗木「……何あの可愛い生き物」


でも、ゴメンね霧切さん。

初恋に敗れたキミが絶望からどう立ち上がるのか、その後どうボクと接していくのか。


それを見てみたいボクも居るんだ。

 
さて、これでひと通り行ける所は回ったかな。

あ、そうだ、朝日奈さんに十神クンのあの件を伝えておかないと。


朝日奈「え、泳いで他の島に行けるか? うん、いいよ! やってみるよ!!」ニコ

苗木「そっか、ありがと、朝日奈さん!」

朝日奈「条件は苗木も一緒に泳ぐ事ね!」ニコ

苗木「えっ、ボクも!?」

朝日奈「えへへ、いいじゃんいいじゃん。泳ぐの気持ち良いよー?」

苗木「うーん……まぁいいけど……」

朝日奈「よし、決まり!! じゃあ行こ行こ!!」グイッ


霧切舞園セレス「「ちょっと!!!」」


苗木「……分かったよ、一緒に行こっか」ハァ

桑田「ちょっと待て!!!」

苗木「分かったってば!! 皆行けばいいじゃないか面倒くさい!!!」

【砂浜】


結局、十神クン以外のみんながこうして砂浜に集合していた。

みんなスーパーから選んできた水着で、まさに南の島を満喫中だ。

なんと不二咲クンも恥ずかしそうにしながら、男用のハーフパンツ型の水着を履いている。なぜか胸を見るのを躊躇われるのは気のせいだと思いたい。


そんな時、かなりの沖まで出て行っていた朝日奈さんが首を傾げながらこちらにやって来た。


朝日奈「うーん、おっかしいなー」

苗木「もしかしてダメだった?」

朝日奈「うん。ていうかおかしいんだよねー。真っ直ぐ泳いでるはずなのに一向に他の島に近付かないの」

苗木「……そっか」

朝日奈「ご、ごめんね、役に立てなくてさ」

苗木「いや、とんでもないよ。むしろこの情報は朝日奈さんじゃないと手にはいらなかった。ありがとう」ニコ

朝日奈「っ/// わ、私、もうちょっと沖で泳いでくる!!」バシャバシャ

苗木「えっ、う、うん…………何か怒らせちゃったのかなぁ」

 
どれだけ泳いでも近付かない。

普通に考えて現実的ではない。だけど。

ボクは既にそういった現実的ではない現象を目の当たりにしている。


苗木「あのさ、霧切さん…………えっ」

霧切「な、何……かしら……/// もしかして水着が変……?」

苗木「あ、いや、凄く似合ってるよ!」

霧切「っ!! そ、そう、ありがとう///」


意外だ、霧切さんは普通にスク水だと思ったけど、結構大胆な白のビキニを着ている。

それに肌が白すぎて眩しい…………ってそういう話じゃなかった。

ボクは一度頭を振って雑念をかき消すと、先程の朝日奈さんの言葉をそのまま伝えた。


霧切「……いよいよ手品では済まないレベルになってきたわね」

苗木「うん……まさか本当に魔法……?」

霧切「そんなオカルトありえないわ」キッパリ

苗木「で、でもそれじゃあ……」

霧切「何かあるはずよ。これら全てを説明できる何か、がね。おそらく、それがこの島の全貌を知る大きな手がかりになる」

苗木「この島の全貌……か」


とりあえず今考えられる事はここまでかな。

あまり頭を使いすぎてもパンクしちゃいそうだし、ボクも少しは遊ぼう。せっかくの南の島なんだし。



誰と遊ぶ? >>226

残姉

苗木「戦刃さん、遊ぼうよ!」ニコ

戦刃「きゃっ、な、苗木君?///」カァァ


戦刃さんの水着は上はビキニタイプのものだけど、下はショートパンツ型だ。そして案の定迷彩色。


戦刃「や、やっぱり似合わないよね水着なんて……胸もないし……///」モジモジ

苗木「そ、そんな事ないよ!! 凄く似合ってる!!」

戦刃「ホント……? あ、ありがとう///」

苗木「それに……やっぱり戦刃さんって体綺麗だよね」

戦刃「えっ……ええええええええええ!?///」ボンッ

苗木「あ、そ、そういう意味じゃなくてさ!! ほら、戦刃さんって軍人だし、傷とかないのかなって!!」

戦刃「え、あ、その、私相手の攻撃受けた事ないから……」

苗木「す、凄い……さすが超高校級の軍人だ……」ゴクリ

戦刃「そ、そんなに驚く程じゃないって……あの、それで苗木君、何をして遊ぶ? 私、海で遊ぶなんて全然なくて……」

苗木「うーんと、どうしよっかな」


何して遊ぶ? >>232

恋人同士のように水のかけあい

苗木「じゃあ、水のかけ合いとかやってみる? ほら、恋人同士がやるようなやつ」

戦刃「こここここここいっ!?///」カァァァァ

苗木「……あー、いや、なんかごめん」

戦刃「う、ううん!! 全然いいよ!! むしろ嬉しい!!!」

苗木「えっ?」

戦刃「あっ!!」

苗木「…………」

戦刃「…………///」

苗木「えーと……とりあえず海入る?」

戦刃「う、うん///」


ジャバジャバ……


苗木「それっ!!」バシャッ!!

戦刃「っ!!」ヒュン!!

苗木「避けた!? すごっ!!!」

戦刃「あっ、ご、ごめん!! つい癖で!!」

苗木「……いや、いいよそのままで。なんだか意地でも当てたくなってきた」ニヤ

戦刃「えっ、苗木君が当てたいなら、私動かないでいるよ?」

苗木「ううん、戦刃さんはそのまま同じように避けて。ボクが自力で当てて見せるからさ!! あ、もちろん反撃もしていいよ!!」

戦刃「う、うん……苗木君がそう言うなら……」

苗木「よーし…………それっ!!」バシャッ!!

戦刃「ふふ、それじゃ当たらないよ!」ヒュン!!

苗木「ぐっ……それならもっと!!」バシャバシャ!!!

戦刃「おっとっと」ヒュン!!ヒュン!!


いやいやいやいや、完全に人間の動きじゃないよ、超高校級どころか超人級だよこれ。


戦刃「えいっ!」バシャッ!!

苗木「わぶっ!! く、くそっ!!」バシャッ!!

戦刃「あはは、こっちだよ!」ヒュン!!


くっ……こうなったら!!

 

苗木「むくろ!むくろ!むくろ!むくろぉぉうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
    あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!むくろむくろむくろぉううぁわぁああああ!!!
    あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
    んはぁっ!戦刃むくろたんの艶やかな黒髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
    間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
    ifのむくろたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
    アニメ放送されて良かったねむくろたん!あぁあああああ!かわいい!むくろたん!かわいい!あっああぁああ!
    リロードも発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
    ぐあああああああああああ!!!ゲームなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
    む く ろ ち ゃ ん は 現 実 じ ゃ な い ? にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
    そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!フェンリルぅああああ!!
    この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?ゲームのむくろちゃんが僕を見てる?
    ゲームのむくろちゃんが僕を見てるぞ!むくろちゃんが僕を見てるぞ!設定画のむくろちゃんが僕を見てるぞ!!
    アニメのむくろちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
    いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはむくろちゃんがいる!!やったよ江ノ島さん!!ひとりでできるもん!!!
    あ、ifのむくろちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
    あっあんああっああんあ朝日奈さぁあん!!ジェ、ジェノサイダー!!霧切さぁああああああん!!!セレスさァぁあああん!!
    ううっうぅうう!!俺の想いよむくろへ届け!!希望ヶ峰学園のむくろへ届け!」


戦刃「」


バシャッ!!


苗木「やった、当たった!!」

戦刃「」ポタポタ


ボクの水かけが直撃したにも関わらず、戦刃さんはそのまま動こうともしない。

まさに心ここにあらずといった感じで呆然としている。


苗木「あ、あれ、戦刃さん?」

戦刃「」

苗木「おーい、戦刃さーん?」ヒラヒラ

戦刃「」

苗木「……むくろちゃん」ボソリ

戦刃「ひゃ、ひゃい!!!///」ビクッ

苗木「え、えっと、ごめん、さすがにやりすぎたよ……」

戦刃「そ、そそそそんな事ない!! 私嬉しいよ!! あ、でも、まだ法律的に結婚できないよ!!!」

苗木「…………戦刃さん?」

戦刃「あっ、ちがっ……あわわわわわわわわわ!!!/// じゃあね!!!」バシャバシャ


苗木「あ、あんなにテンパるのに、よく戦場でも無傷だったな…………」

 
まだ時間には余裕がある。もう少し遊べそうだ。


苗木「さて、と……他には誰と遊ぼうかな」


誰と遊ぶ? >>246

江ノ島

苗木「江ノ島さん、遊ぼうよ!」

江ノ島「いいよいいよー!」


江ノ島さんはそれらしい明るい色のビキニだ。ていうかスタイル凄いな、さすが超高校級のギャル。


江ノ島「あ、苗木がエロい目で見てきた。お姉ちゃんに言いつけよっかな」

苗木「そ、そんな目してないってば!」

江ノ島「冗談冗談。苗木は信頼と実績の草食系だしね!」ニコ


これは褒められてるのかな……?


江ノ島「それで、何して遊ぶ?」

苗木「うーん……」


何して遊ぶ? >>252

ビーチバレー

苗木「ビーチバレーでもしよっか?」

江ノ島「お、いいねいいね。加えてポロリも狙えるってわけね!」

苗木「そんなの狙ってないってば!」

江ノ島「あはは、分かってる分かってる! それじゃやろっか!」


トンッ


苗木「おっとっと」

トンッ

江ノ島「ねー苗木ー」

トンッ

苗木「んー、なに?」

トンッ

江ノ島「あんた、あたしの事好き?」

ボテッ

苗木「い、いきなり何言ってんの!?」

江ノ島「はい、落としたから答えて」ニコ

苗木「そのルール、今作ったよね!?」

江ノ島「あはは、いいじゃんいいじゃん。ほらほら言ってみ?」ニヤニヤ

苗木「えーと……その……友達としては好きだよ」

江ノ島「女の子としては?」

苗木「わ、分かんないよ」

江ノ島「うーん……そっかそっか。ズバリ、苗木はまだ恋も知らないお子様ってわけだ!」

苗木「そ、そういう江ノ島さんはどうなのさ!」

江ノ島「さぁ? どうだろう……ねっ!」

トンッ

苗木「わっ!」

トンッ

江ノ島「おー、よく反応したじゃん!」

トンッ

苗木「ボクだって負けてばかりじゃないよ!」

トンッ

江ノ島「じゃあさー、あたしは苗木の事どう思ってると思う?」

トンッ

苗木「そんなの分からないよ……舞園さんみたいなエスパーもないし……」

トンッ

江ノ島「勘でいいから……さっ!」

バシュ!!

苗木「へぶっ!!!」

ボテッ


江ノ島繰り出したアタックは綺麗にボクの顔面に決まった。


苗木「い、いきなり何を……」ヒリヒリ

江ノ島「アタックなしなんて言ってないじゃん。ほらほら、さっきの質問に答えてよ!」ニヤニヤ

苗木「き、嫌いではない……とか?」

江ノ島「ブブー、不正解」

苗木「えっ、じゃあ嫌いなの……」

江ノ島「うん、嫌い。あと好きだよ」ニコ

苗木「……意味分からないよ」ハァ

江ノ島「えー、そう? つまり、嫌いだから好きって事だよ!!」

苗木「???」

江ノ島「あはは、まだまだお子様な苗木には分からないかー。うんうん、でも人生勉強だよ」ニヤニヤ

苗木「なんだかオバサンくさいよ江ノ島さん」

江ノ島「はぁ!? 何言っちゃってくれてんのかなー!!!」


バシュ!!


苗木「ぶへっ!!!」


再びビーチボールを顔面に受けながら、ぼんやりと考える。

嫌いだから好き。

…………やっぱりよく分からないや。

その後は構ってくれないと言って、ハイライトの消えた目で迫ってくる舞園さんと泳いだり。

それを見た桑田クンの追撃を泳いで何とか逃げたり。

セレスさんに無理矢理オイル塗りをやらされそうになっている所を、霧切さんと舞園さんに助けてもらったり。

他にもスイカ割りみたいな定番も押さえて、みんなと思い切り遊んだ。


それは本当に楽しくて。希望に満ち溢れていて。


だからこそ予想できた事だった。


光があれば影ができるように。


希望には絶望がついて回るものだから。


『うぷぷ……うぷぷぷぷぷ…………』

空が暗くなった。

雲一つ無い晴天からの明らかな変化。

そして、それは天気だけではない。

辺りを包み込む空気、それもどんどん冷たくなっていく気がして。


そして、そんな中、江ノ島さんだけが口元に笑みを浮かべているのを、ボクは見逃さなかった。


『あー、あー、マイクチェック、マイクチェック。聞こえますかー?』


拍子抜けするほど脳天気な声。

そしてそんな声が、この状況ではとてつもない悪意を孕んでいるように聞こえる。


ウサミ「そ、そんな……なんでちゅかこれ……!!」ガクガク


どこかでこっそり見ていたのだろうか。そこにはいつの間にかウサミも居て。

そして信じられないようにガタガタと震えていた。

絶望に、怯えていた。

桑田「お、おい何だよこれ! どうなってんだ!?」

山田「むむ、これはまさか天候操作魔術…………ヤツの仕業ですか!!!」

不二咲「え、山田君何か知ってるの!?」

大和田「ほっとけ、関わるな」

石丸「し、しかし、これは非常事態ではないか!? 気を引き締めたまえ!!」

朝日奈「そうだよそうだよ! こんな天気の変わり方、どう考えてもおかしいって!」

大神「うむ……何か不吉な気配も感じるな……」

腐川「ななななな何よ、あたしが何したっていうのよ!!」

葉隠「別にオメーのせいじゃないべ。これは……天からの裁きだ!!!」ドンッ

セレス「この状況でブレないというのは、もはや呆れを通り越して感心すらしますわ」ハァ

舞園「な、苗木君……」ギュッ

苗木「…………」


ウサミの様子を見れば分かる。この展開は彼女にとっても予想外だという事だ。

それに、あんな魔法みたいな事ができるのに、一向にこの状況に対処できないという事は。

この相手も、同等かそれ以上の力を持っている。

 
ヤシの木にかかったモニターに映る黒い影。

その脳天気な声が響き渡る。


『うぷぷぷぷ、つまらない、絶望的につまらないんだよ!! もうオマエラも飽き飽きしてたでしょ!?』

『だからね、ここからは真打登場って事で、ボクの好きにやらせてもらいます! 異論反論は一切認めませんっ!』

『というわけで、オマエラ! すぐに中央の島、ジャバウォック公園までお集まりください!! まぁ行けよ、行けば分かるよ』


プツッ


戦刃「……盾子ちゃん」

江ノ島「とりあえず行ってみるしかないんじゃないー? いつまでもこんな天気っていうのもアレだしさー」

霧切「…………」

苗木「霧切さん?」

霧切「ウサミ、あなたは今の相手について何か知っているのかしら?」

ウサミ「知らないでちゅ……そもそもこんなのありえないんでちゅ!」

 
ウサミの言葉を聞いた霧切さんはいつもと同じ冷静な表情を崩さずに。

今得られる情報を全て処理した上で口を開く。


霧切「とにかく、行ってみましょう。何か良くない事が起きているのは確かよ。それも学園が予期していない、ね」


誰も反論する人は居なかった。

ジャバウォック公園で待っているモノ。それは決して良いモノではないのだろう。

それでも、逃げることはできない。目を逸らす事はできない。

絶望というものは、本人の意思に関係なく、時に理不尽に襲い掛かってくる。


苗木「大丈夫だよ!!!」


でも、ボクは何も心配していない。

だから、ボクは笑顔で言ってみせる。


苗木「みんななら、きっとどんな絶望にも立ち向かえる!! 何も怖がる必要なんてないんだ!!」キラキラ

ねみー

ワクワクさん「 このところこのコーナーで、番組放送開始20周年にちなみ私の様々の思い出を書いてきました。そこで今回は、思い出すのも悲しい辛かった思い出話です。

 以前にもこのコーナーで書いたと思いますが、番組は、木曜日と金曜日にリハーサルを行い、土曜日に本番の収録を行います。リハーサル室では、私とゴロリくんがリハーサルを行っているその横で、造形スタッフの皆さんが、
本番で使用する工作物を作っています。私は、番組の中では、いかにも自分が、一人で考えて、一人で造ったようにやってますが、実は、な~んも考えてはいませんし、テレビで映っている部分を除いてな~んも作っていません。
そうなんです。工作のアイデアは、ヒダオサム先生のアイデアですし、造形スタッフの皆さんが様々の工作群を力をあわせて作ってくれています。そうやって、作ってくれたものを私は、自分が作ったようにお見せしているというわけです。

 さて、リハーサルが終ると、作った作品群、セット用の作品等を翌日使用するスタジオに運んでおいておきます。そして、事件は起きました。

 土曜日、スタジオに行くと、どことなくざわついた、おかしな雰囲気が漂っているのがわかりました。「いったいなんかあったんですか?」「あっ、わくわくさん、実は・・・捨てられて・・・」「え?何が、何が捨てられたの?」
「昨日、作ったものが・・・」「え?どういうこと?」つまり、昨日、スタジオに置いておいた作品全てが、掃除の人に捨てられていたのです。二日間かけて造形スタッフの皆さんが作った作品全部が、
本番の当日の朝の掃除の時に全部捨てられてしまっていたのです。掃除の人たちにすれば、私たちが作ったものは、ただのゴミにしか見てもらえなかったということなのでしょうか。
確かに、番組を見ていてくださる皆さんにはお解かりですが、作品の多くは、あき箱やトイレットペーパーの芯など普通はゴミとして捨てられてしまうものを基本材料として、様々な工作をし、素敵な作品に仕上げているのです。
ですから、そういったものが置いてあれば、見る人によっては、単なるゴミなんですね。もの凄く悲しかった、辛かった。みんなで一生懸命、ゴミとして捨てられてしまうものたちに命を与える素晴らしい仕事をしたと思っていたのに、
その人達には、やっぱりゴミでしかなかったのか。そう考えては、元も子もないとわかっていてもどうしてもそう考えてしまいました。何で、どうして、わかってくれなかったのだろうか。スタジオに置いてあるのだから、
ただのゴミじゃないってわかってくれなかったのか。もうちょっとよく見てくれたなら、誰か一人ぐらい気が付いてくれたのではないか。言い出したらきりが無いのもわかっていながら、どうしても言いたくなってしまいます。

 「今から、ゴミ捨て場を探してみよう。」「今から、急いで作り直そう。」そういった声もでましたが、慌てて作ってもいいものは出来ないから、という理由でその日の収録は、中止になりました。
その決断がディレクターさんから伝わった時のヒダオサム先生の涙が忘れることが出来ません。私も本当に泣きたかった、辛かったです。これ以来、作品のスタジオでの保管には細心の注意を払っています。」

【ジャバウォック公園】


公園にやってくると、そこでは既に十神クンが待っていた。


十神「俺を待たせるとはいい度胸だ。二足歩行の方法でも忘れたか?」

苗木「十神クン……さっきのモニターの奴は?」

十神「知らん。どうせ全員揃うのを待っているのだろう」

ウサミ「やいやい、どこにいるんでちゅか!!」


不気味な程静まり返った公園にウサミの声だけが響き渡る。

返事はすぐに返ってきた。


「うぷぷぷぷ…………アーハッハッハッハッ!!!!!」


そんな高笑いと共に銅像の影から跳び上がったそれは。

体の縦半分をそれぞれ白と黒に彩られた、奇妙なデザインのぬいぐるみだった。

モノクマ「モノクマ参上!! 待たせたなオマエラ!!!」

桑田「おいおい、また意味不明なぬいぐるみが一体増えたぞ」

モノクマ「ちなみにクマだよ。みんな大好きなクマなんです」

ウサミ「あなたは何なんでちゅか! どうしてこんな……!!」

モノクマ「どうして?」キョトン

朝日奈「そうだよ!! みんなで楽しく遊んでたのに!!」

大神「貴様の目的は何だ。なぜこのような事をする」

モノクマ「…………」

大和田「おい黙ってんじゃねえ!! オメーは何が狙いなんだって聞いてんだよ!!」

モノクマ「はぁ…………うるさいなぁ」

十神「なに?」

モノクマ「どうして? 目的? そんなのどうだっていいじゃないか、何でいちいち意味を求めるんだよ意味不明だよ!!」プンスカ

葉隠「い、いきなり逆ギレしやがったべ……」

石丸「生徒の疑問に答えるのは教師の役目ではないのか!!」

不二咲「えっ、こ、この人も先生なのぉ……?」

モノクマ「はい、先生です。学園長なのです」

腐川「お、思いっきり嘘じゃない……」

モノクマ「じゃあ副学園長でもいいよ。重要なのはそこじゃないしね」

山田「なんとも適当ですな……」

ウサミ「とにかく、これ以上は好き勝手させません!! えいやー!!」ダダッ

モノクマ「そおい!!」


ボキッ

 

ウサミ「あああああああああああああああああ!!!」


ウサミの足元に転がっている残骸。それは。


セレス「真っ二つになってしまいましたわね、例のマジカルステッキ」

モノクマ「わーはっはっはっ!! 妹の分際で兄に勝とうとは片腹痛い!!」

ウサミ「勝手に兄妹設定つけないでくだちゃい!!」

モノクマ「うるさいうるさい!! お兄ちゃんの言う事が聞けないのかコイツめ!!!」

ウサミ「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!」


ボカスカとコミカルな音が辺りに連続し、土煙で様子が見えなくなる。

そして、それが晴れると。


ウサミ「うっ、うう…………」シクシク


そこでは、モノクマと同じ様に縦半分をそれぞれ別の色、ピンクと白に分けられたウサミがメソメソと泣いていた。

モノクマ「やっと懲りたか妹のモノミ!!」

モノミ「勝手に名前変え…………って表示まで変わってるでちゅ!!!」ガビーン

舞園「あ、あのー?」

霧切「私達はいつまでこんなくだらない茶番を見せられるのかしら?」

モノミ「ちゃ、茶番って……」シクシク

モノクマ「ゴメンね、この出来の悪い妹のせいで。それでは、本題に入りたいと思います!!」


モノクマ「ズバリ、オマエラにはこれからコロシアイをしてもらいます!!!」


慣れない単語に脳内処理が遅れてしまう。

コロシアイ……………殺し合い?

戦刃「どういう事?」

モノクマ「そのままの意味だよ。希望のカケラを集めて島から出る? そんなのつまんなぁい!!」

十神「つまり、ここから出たければその殺し合いとやらをしろというわけか」

モノクマ「おお、さすが十神君、理解が早くて助かるよ!」

十神「それで、コイツらを皆殺しにすれば出られるのか?」フッ

朝日奈「ちょっと十神!?」

江ノ島「冗談でもそんな事言うなし!」

モノクマ「うぷぷ、それじゃあ説明するよ、学級裁判のルールをね!!」


それからモノクマから聞かされた話は絶望そのもので。

みんなの表情、そして隣で震えながら腕を掴んでくる舞園さんの手がそれを強く物語っていた。

桑田「そ、そんな事できるわけねえだろ!!」

モノクマ「じゃあやらなきゃいいんじゃない? 一生南の島での生活も悪くないだろうし」

葉隠「い、一生……?」

江ノ島「……もう我慢できない」

モノクマ「んん?」

江ノ島「お姉ちゃん!! コイツやっつけちゃって!!」

戦刃「うん……分かった盾子ちゃん!!」ギラッ


それは初めて見る戦刃さんの顔。

どこまでも冷たく、どこまでも恐ろしく。

ボクは思わずゴクリと喉を鳴らしていた。


モノクマ「え、やっちゃうの? 学園長への暴力は重罪だよ?」

戦刃「関係ないよ。裁く人が居なくなっちゃうんだから」

モノクマ「…………」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!


巨大な地鳴りが辺りに響き渡る。

そして、ボク達はまた信じられない光景を目の当たりにした。

後ろのいくつもの動物が組み合わさった銅像。それらが全部動き出していた。


山田「ななななななな何ですかなこれは!! どこかの戦隊物ロボ!?」

石丸「い、戦刃君、危険だ!」

戦刃「大丈夫だよこのくらい」キッ

大神「ふむ、それでは我も加勢しようか」

朝日奈「さ、さくらちゃんも!?」

モノミ「みなさんやめてくだちゃい!!」

モノクマ「うぷぷ、さすが超高校級の軍人と格闘家だね。でも、ボクの狙いは君達じゃないよ」

戦刃「えっ……?」

モノクマ「哀れな犠牲者は……君だよ江ノ島さん!!」

戦刃「ッ!!」ダダッ

苗木「くそっ!!」ダダッ


ボクと戦刃さんが動き出したのは同時だった。

そして直後。


ドドドドドドドドドドドッ!!!


動き出したの銅像から連続する銃撃音。舞い上がる砂埃。

それはきっと数秒のことなのだろうが。

まるで何時間も続いた、そう錯覚してしまった。

 

霧切「…………」

舞園「そ、そんな……苗木君も、江ノ島さんも、戦刃さんも……!!」ブルブル

セレス「お待ちなさい。あれは」


苗木「けほっ、けほっ! だ、大丈夫二人共?」

戦刃「うん……でも何で一発も当たってないんだろう……」キョトン

江ノ島「あ、あはは……苗木の幸運のお陰なんじゃない……?」

モノクマ「はぁ……江ノ島さんを庇いに来た戦刃さんを蜂の巣にする作戦だったのに……」ショボン

不二咲「ひ、酷い……!!」

十神「だが高い身体能力を持つ戦刃を仕留めるにはいい作戦だ」

大和田「何だとコラ十神ぃぃ!!」

モノミ「み、みなさん、ケンカしている場合ではないでちゅ!!」

モノクマ「そうそう、ボクは初めから戦刃さんを殺っちゃうつもりだったのに、苗木君まで飛び込んで来るんだもん。ちょっと焦っちゃったよ」

苗木「ボクを殺すのはマズイの?」

モノクマ「ていうか見せしめで二人も殺っちゃうなんて勿体無いじゃん。まぁ苗木君は特にね」

朝日奈「ひ、人の命を何だと思ってるの!!」

モノクマ「そんなの知らないよ。ボク、クマだし」

大神「周りの者を狙うとは卑怯な……!」ギリッ

モノクマ「卑怯? 何それおいしいの? うぷぷ、でも今のはより絶望的演出の為にああやったけど、ボクにはこんな事もできるんだよ!」


モノクマ「必殺、痺れ魔法ー!!」


苗木「……え?」


動かせなくなった。指の一本も。

腐川「な、なによこれ……動けないあたしをどうするわけ!? ひ、卑猥よ!!」

霧切「……まさに魔法ってわけね」

モノクマ「あれ、霧切さんって意外とそういうの信じるタイプ?」

葉隠「俺も同感だべ!! これは正真正銘の魔法にちげえねえ!!」

セレス「バカバカしい、そんな非現実的な事などありえませんわ」

霧切「えぇ、そうね。この魔法にもタネはある」

モノクマ「……タネなんてないよ」

霧切「あなたはそう言うしかないわね。なぜならそのタネはこの島の秘密に繋がっているから」

モノクマ「うぷぷ、キミには期待してるよ霧切さん」

桑田「お、おい、いつまでこうしてる気だよ! 早く解放しやがれ!」

モノクマ「はいはい。でもこれで分かったでしょ? 例え大神さんでも戦刃さんでもボクをやっつけるのは無理なんだよ」


モノクマの言葉と共に、体の自由が戻ってくる。

まるで、魔法のように。


モノミ「……あちしが相手でちゅ?」

モノクマ「は?」

モノミ「みなさんの事は先生が守りまちゅ!! コロシアイなんて絶対にさせまちぇん!!」ダダッ

モノクマ「うぷぷぷぷ、そっかそっか。それなら見せしめはオマエに決まりだー!!」


ドドドドドドドドドドドッ!!!


再び響き渡る銃撃音。

そして今回は誰も傷付かないなどという都合のいい展開にはならない。

銅像から放たれた銃弾はモノミの体を次々と撃ち抜き、木っ端微塵にしていった。

流れ弾が頬をかすめた。

少量だが、確かに自分の血液が流れ出てくる感触。

そのまま口元近くまで垂れてきた血を、ボクは舌で舐め取った。


苗木「ははっ」


みんなの視線が集中する。

どうしてそんな怯えた表情をしているの?

そんな理由はどこにもないはずなのに。


苗木「あはっ、ははははははははははははははは!!!」

舞園「な、苗木……君……?」

苗木「モノクマ、キミは根本的に間違ってるよ」

モノクマ「ほう?」

苗木「コロシアイをしなければここを出られない? それがどうしたのさ?」


苗木「まさかその程度の絶望に、みんなが負けるとでも思っているのかな?」

桑田「そ、その程度って話かよ!!」

苗木「じゃあ桑田クンは誰かを殺すの?」

桑田「なっ……そ、そんな事しねえよ!!」

苗木「だよね。死んじゃったらダメだよ、そしたら希望は失われてしまう」

モノクマ「ふむふむ、つまり苗木君はコロシアイが起きるはずなんてないって思っているんだね」

苗木「当たり前じゃないか。コロシアイなんかをしないで済む、そしてみんなでこの島を出る方法を見つけてみせるよ!! ねっ!?」


「「…………」」


苗木「あ、あれ? みんな?」


どうしてみんな目を逸らすの?

どうしてみんな、そんな表情をしているの?


モノクマ「うぷぷぷぷぷぷぷ、楽しみだよ苗木君。特にキミがね」


そう言ってモノクマは姿を消した。

去り際の戯れ言が、いつまでもボクの頭に引っかかっていた。

18時か19時にまた来るべ

【苗木のコテージ】


夜になった。

あれからみんな口数少なく部屋に戻って行ってしまったので、ボクもこうしてベッドの上で横になっている。

コロシアイなんて起こるはずがない。

……こうして何度も自分に言い聞かせているのは、自信が持てないからだろうか。


苗木「そんなはずない」


思わず口に出してしまった。

何の心配もいらない。みんな超高校級の才能を持った人々の希望だ。

それでも。

別れ際の、みんなのあの表情は……。


苗木「ああ、もう!!」バンッ!!

苗木「部屋にこもってるのが悪いんだ! お腹も減ったし、レストランに行こう!」


そう自分に言い聞かせて部屋を出る。

レストランでは、みんなが希望溢れる顔で作戦会議でもしているだろう。


【ホテル二階 レストラン】


そこにはボクの想像していたような光景はなかった。

人はまばら、それにみんな表情は希望とは程遠い。

ボクはそれが想像以上にショックだった。


とにかく、話してみないと。


誰に話しかける?(複数可) >>397

舞園

まずは一番怯えてる様子の舞園さんかな……。


苗木「舞園さん? 大丈夫?」

舞園「苗木君……わ、私……」ブルブル

苗木「……おいしいスープがあるよ。一口どうかな?」

舞園「すみません、食欲が……」

苗木「でもちゃんと食べないともたないよ。ボクは心配だよ」

舞園「……分かりました、ありがとうございます」コクッ


舞園さんはぎこちない動作でスープを流し込んでいく。

それを見ていると、今にも潰れそうだということがよく分かる。

おかしいな、みんなは希望なのに。

苗木「少し落ち着いた?」

舞園「はい……苗木君は強いです……」

苗木「そ、そんな事ないって」

舞園「でも、苗木君はあまり怖そうではありません」

苗木「うーん、いや、そういうわけでもないよ。あのおっきな銅像に撃たれそうになった時はヒヤリとしたよ」ハハ

舞園「……苗木君は心の底からみんなを信じているのですね」

苗木「うん、もちろんだよ! コロシアイなんてバカげてるよ、死んじゃったらそれで終わりなんだから」

舞園「…………」

苗木「ボクはね、程いい絶望なら必要だとは思うんだ。それが希望への糧になるならね。
   でも、死っていう絶望はダメだよ。希望に繋がらない絶望なんて、ボクは認めるわけにはいかない」

舞園「苗木君は難しい事を考えているんですね……」

苗木「そうかなぁ?」

舞園「私はただ怖いです……こんな……コロシアイなんて……」

苗木「大丈夫だよ舞園さん!」

舞園「え……?」グスッ

苗木「舞園さんは殺させない! 他のみんなもそうだ!」

舞園「苗木君……」ポロポロ


涙をこぼす舞園さんは、真っ直ぐボクの胸の中に飛び込んできた。

その体は震えていて、ボクは両腕で彼女を包み込んだ。

…………何か違う。

 

それからしばらく舞園さんを抱きしめた後、彼女は自分のコテージへと戻って行った。

その表情はいくぶん良くなったようで、少し安心だ。

同時に、少しだけガッカリした。


レストランにはまだ人が残っている。

次は誰に話しかけようかな。



誰に話しかける?(複数可) >>413

安価↓

いや、もうここはいいかな。

それより、舞園さんが心配だ。

ボクの中では彼女は超高校級にふさわしい希望などはなく、普通の女の子と変わらないんじゃないかという考えが浮かんでいた。

それなら放ってはおけない。

普通の女の子にこんな状況を耐え切れる保証なんてどこにもない。


【舞園のコテージ】


ピンポーン


舞園「だ、誰?」ガチャ


ドアは少ししか開かれない。警戒されている。


苗木「ボクだよ、苗木」

舞園「な、苗木君?」


ボクの事を確認した舞園さんはほっとした表情でドアを大きく開ける。

部屋の中は綺麗に整頓されていて、可愛らしい小物もいくつか置かれている。

この島に来てから一日も経っていないけど、既にボクの部屋とは違う個性を持っているみたいだ。


舞園「……モノクマさんが来るまではちょっとワクワクしていたんですけどね」

苗木「うん……みんなで南の島だしね」

舞園「それに苗木君も一緒でしたから」ニコ


良かった、ぎこちないけど笑えるくらいにはなれたようだ。


苗木「あはは、ボクなら今も一緒じゃないか」

舞園「……はい、そうですね」


コトン、と舞園さんの頭が肩に乗せられた。

良い香りがしてきて、心臓の鼓動が早まるのを感じる。


苗木「舞園さん?」

舞園「お願いします……もう少しだけ……このままで……」

苗木「……うん」

ごめん、充電切れそう

舞園「……あの、苗木君」

苗木「な、なに?」

舞園「今日は……ずっと側にいてください」

苗木「え?」

舞園「お願いします」

苗木「ちょ、ちょっと待ってよ! さすがに同じ部屋でっていうのは……!」

舞園「ダメ、ですか?」ウルウル

苗木「っ!!」


まずい、ちょっとくらっときた。超高校級のアイドル恐るべし。

いや、けどいくらなんでもボクがここに泊まるっていうのは……。



どうする? >>464

一緒に寝る

苗木「うん、分かったよ舞園さん」

舞園「あ、ありがとうございます!」ニコ


結局、流されちゃった……いや、でもボクだって男だし……。

それに、これは舞園さんが怯えているからであって、やましい気持ちなんて何もないし!


舞園「ふふっ」ギュッ

苗木「いっ!?」


舞園さんが後ろから抱きついてきた。背中に柔らかいものが当たってるんだけど……。

いやいやいや、ダメだダメだ!!
舞園さんがこうしているのは怖いからで、そんな事考えちゃダメなんだ!!


舞園「どうしました、苗木君?」

苗木「あ、い、いや、何でもないよ……」

舞園「一応言っておきますけど、胸はわざとですよ」

苗木「そうなんだ!? ていうか意外と余裕あるね!!」

舞園「こうして苗木君と触れ合っていると凄く落ち着くんです」

苗木「ボ、ボクは落ち着かないよ」ドキドキ

舞園「それって私の事を意識しているっていう事ですよね? 嬉しいです」ニコ

苗木「この状況で意識しなかったら男じゃないよ。それかソッチ系の人とか」

舞園「真面目に心配した時もあるんですよ? 私がどれだけアプローチしてもはぐらかすものですから、もしかしてソッチの人なのかなって」

苗木「そんな事ないよ!!」

舞園「じゃあ……他に好きな人がいる……とかですか?」ショボン

苗木「いや、そういうわけでもなくて……」

舞園「じゃあ何なんですか! あ、もしかしてハーレムが作りたいとかですか!?」

苗木「違うよ!! ただ、分からないだけなんだ」

舞園「分からない?」

苗木「うん、ボクだって舞園さんは好きだよ。でも、霧切さんだってセレスさんだって、他のみんなの事だって好きなんだ」

舞園「やっぱりハーレム狙いじゃないですか」ムスッ

苗木「ち、違うってば!」

苗木「たぶん、この好きっていう気持ちは友達として、なんだよ。ボクはまだ舞園さん達みたいに大人じゃないから、まだそういう気持ちが分からないんだと思う」

舞園「…………」

苗木「だから、その、ゴメンね。キミの気持ちには応える事ができないんだ」

舞園「……ふふ、分かりました」ニコ

苗木「舞園さん……」

舞園「でも、私は諦めませんよ? 何度もアプローチを続けて、いつかきっと振り向かせてみせますから!」

苗木「……はは、舞園さんだって十分強いじゃないか」

舞園「恋に関しては女の子は強いんです! 覚悟しておいてくださいよ!」ギュッ

苗木「う、うん、分かったよ」ドキッ


それからしばらく二人で色々楽しいことを話して、シャワーを浴びて、後は寝るだけになった。

シャワーの時は舞園さんに「覗くときは声かけてくださいね? ビックリしますから」なんて言われたけど、決して覗かなかった。
男のマロンも持ってないし。

そんな時だった。

突然モニターの電源が入り、画面にはあの忌まわしきモノクマが現れる。


『えーと、希望ヶ峰学園修学旅行実行委員会がお知らせします。午後10時になりました。
 夜は人を惑わせます。オマエラ、どこぞの殺人鬼に注意して、くれぐれも戸締りはしっかりしろよ、うぷぷぷぷぷ』


不安を煽るような事だけを言って、放送は切れた。


苗木「くそ、モノクマ……!」

舞園「……では、そろそろ私達も寝ましょうか?」

苗木「え、う、うん……でも、ボクはどこで寝ようかな……」

舞園「もちろんここのベッドで二人で寝ましょう」ニコ

苗木「いや、それはまずいって!!」

舞園「苗木君がオオカミさんになってしまうという話ですか? ふふ、私は構いませんよ」

苗木「そこは構おうよ……や、やっぱりさ、ボクは自分の部屋で……」

ガシッ

舞園「…………」ウルウル

だから、その顔は卑怯だってば。


苗木「……わ、分かったよ」ハァ

舞園「ふふ、ありがとうございます」ニコ


そんな感じでまんまと流される感じで、二人は同じベッドで横になる。

それだけならまだマシだったのだが…………。


舞園「苗木君……」ギュッ


まるで抱き枕のようにされてしまった。

もちろん、こんな状況でスヤスヤ眠れる程、ボクは男として死んではいない。

だけど、手を出せるわけがない。好きでもない相手にそんな事をするのは最低だし、これではこの状況にかこつけたようだからだ。


よって、悶々としたまま、夜は更けていく事になった。

ある意味、人生で一番キツかった夜だったかもしれない。

 

『えーと、希望ヶ峰学園修学旅行実行委員会がお知らせします。オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!
 さーて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』


苗木「んっ……」


重いまぶたを上げてみると、朝の日差しが視界に入ってくる。

モノクマの声で目が覚める。最悪な気分だ。

……でも。


舞園「ふふ、おはようございます」ニコ

苗木「……ち、近いよ舞園さん」


数センチ先に舞園さんの笑顔があった。

最悪な気分が一気に吹き飛ぶようだ。

【ホテル二階 レストラン】


朝食の為にレストランにやって来ると、そこには既に何人か集まっていた。


苗木「おはよう、みんな」

舞園「おはようございます」ニコ

石丸「うむ、おはよう二人共!」

霧切「……ねぇ」

苗木「ん、どうしたの霧切さん」

霧切「あなたと舞園さん、同じシャンプーの香りがするけど、どういう事?」

苗木「いっ!? そ、そりゃ備え付けのもの使っていれば同じになるんじゃないかなぁ……」オロオロ

霧切「いいえ、これは備え付けのものではないわ。大方スーパーから持ってきたものではないかしら」

苗木「あ、そうだそうだ! ボクもそうしたんだった! いやー、まさか舞園さんと被るなんて……」

霧切「それじゃあ今からあなたのコテージに行ってシャンプーを見せてもらおうかしら」

苗木「…………」ガクッ

舞園「えぇ、昨日苗木君は私のコテージにずっと居ましたけど、それが何か?」

不二咲「わ、わぁ……」

霧切「……どういうつもりかしら、年頃の男女が同じ部屋で泊まるなんて不健全よ」

石丸「そ、そうだぞ! 不純異性交遊はダメだ!!」

舞園「別にやましい事なんてしてませんよ。一緒のベッドに寝たくらいです」ドヤァァ

霧切「なっ……!!!」

苗木「え、えーと……ボクお腹減っちゃった! 何食べようかなー」

霧切「待ちなさい苗木君」ガシッ

苗木「ち、違うんだって! 舞園さんが怯えてたから一緒に居たっていうだけど、本当にそういうのじゃないから!!」

霧切「…………それなら今日は私のコテージで寝なさい。私も凄く怯えているわ」

舞園「ダメですよ。苗木君はこれからもずっと私のコテージで寝泊まりするんです」ニコ

苗木「そんな事言ってないよ!!」

舞園「大丈夫ですよ、私は狭さとか全然気にしませんから」

苗木「そういう問題じゃないし!!」

こうして、朝からやたら疲れてしまう。

それでも、昨日よりかは舞園さんも元気になってくれたみたいで一安心だ。

……さすがにまた一緒に寝てくれというのは勘弁してほしいけど。


それから全員が集まり、あらかた食事が済むと、十神クンが口を開いた。


十神「言っておくが、俺を殺すつもりなら覚悟しておけよ。返り討ちに合う覚悟をな」

苗木「と、十神クン!」

江ノ島「あはは、確かに狙われるといえばあんたね」

朝日奈「やめなって!! 誰もそんな事しないよ!!」

十神「どうだかな。特にそこのプランクトンなんかは今にもやりそうだぞ」

大和田「オウ……じゃあ望みどおりぶっ殺してやろうか……!!」ボキボキ

不二咲「や、やめてよぉ!!」

十神「くくく、俺からすればこの状況でお前達のように慣れ合う事の方が理解できん。お互い腹の内は分からん、いつ足をすくわれてもおかしくない」

大神「十神よ、お主はそこまで人を信じられぬか」

十神「あぁ。反吐が出る」

山田「む、むぅ……この状況でも孤高キャラを突き通すとは、十神白夜殿も中々やりますな…………」

桑田「いや、これはキャラとかそういうのじゃねえだろ」

十神「とにかく、俺に迂闊に近付くなよ。死にたくなければな」

江ノ島「ふんっ、なんか偉そうだけど、あんたなんかお姉ちゃんなら簡単に殺れちゃうし!」

戦刃「や、殺らないって!!」

腐川「あ、あの白夜様、あたしは……」

十神「当然お前もだ」ギロ

腐川「ひぃぃぃ!!!」ビクッ

十神「話は終わりだ。じゃあな愚民ども」


スタスタ……


セレス「やれやれ、ですわね。適応力が足りません」ハァ

舞園「適応って……このまま南の島での一生を受け入れるという事ですか……?」

葉隠「それは嫌だべ!!」

セレス「それでは誰かを殺しますか?」ニコ

セレスさんの言葉に全員が黙り込む。

そんな重苦しい空気を破ったのは石丸クンだ。


石丸「そんな事は断じて許されないぞ!! それなら僕はこの島での一生を選ぶ!!!」

大和田「……ちっ、それしかねえのかよ!!」


霧切「いいえ、そんな事はないわ」


こういう時一番頼もしいのは霧切さんだ。

彼女はいつもの凛とした表情でみんなを眺めながら、落ち着いた声を出す。


霧切「もちろんコロシアイなんてものはしない。その上で全員でこの島を脱出する。そんな方法を探すのよ」

桑田「そ、そんな都合のいい選択肢があんのかよ……」

霧切「きっとある。この島には不可解な事が多すぎる、そこが突破口になるはずよ」


霧切さんの言葉に、周りのみんなも僅かにだけど希望を取り戻した表情になった。

やっぱり霧切さんは凄い。どんな状況でも冷静に見て解決方法を探す。

これこそがボクの理想の希望の形だ。

それから各自島を調べるという事で、それぞれ散っていった。

さて、と。まだまだ今日は始まったばかり。ボクも動かないとな。


誰と会う? >>501

江ノ島

【ホテル 一階ロビー】


江ノ島「あー、もう!! なにこれ!!」バン!!

苗木「……え、江ノ島さん。何やってるの?」

江ノ島「げっ…………って苗木か。霧切ちゃんかと思った。ゲームで遊んでるんだよ!」ニコ

苗木「いやそれは見れば分かるんだけどさ……」


ホテルの一階ロビーにはアーケードゲームが置いてある。

こんな状況じゃなかったらボクも少しは遊んでいたんだろうけど……。


苗木「でもさ、今は脱出の為の手がかりを探さないと」

江ノ島「えー、別にあたしが頑張っても何も変わらないって。ほら、あたしって頭空っぽなただのギャルだし」

苗木「そんな事ないって。そりゃ霧切さんは頭いいけど、江ノ島さんだって他の事で力になれるはずだよ」

江ノ島「うぎゃー耳が痛い!! 苗木あんた教師になれるよ」

苗木「ま、真面目に聞いてよ……」

江ノ島「…………ねぇ苗木。あんたさぁ、あたしが必要?」

苗木「え?」

江ノ島「あたしが死んじゃったら悲しい? 居なくならないでほしい?」

苗木「あ、当たり前じゃないか!」

江ノ島「そっかそっか。でもさ、いざみんながあたしの死体見つけたとして、どう思うんだろうね」

苗木「何を言ってるの……?」

江ノ島「そりゃ悲しんではくれると思うよ。朝日奈ちゃんなんかは泣いてくれるんじゃないかな。でもさ」


そこで言葉を切ると、江ノ島さんの表情が変わる。

とても冷たい、無表情なものに。


江ノ島「心の奥底では『自分じゃなくて良かった』って安心してる。そんな事はないかな?」


苗木「そんな事ないよ!」

江ノ島「苗木はそうだろうね。あたしの死を心から悲しんでくれると思う。あたしは嬉しいよ」

苗木「それはみんなだって……っ!」

江ノ島「あはは、それはどうかな。気付いてないみたいだけどさ、苗木みたいな“イイ奴”って案外少ないものなんだよ」

苗木「……ボクはそうは思わない」

江ノ島「そっか。うん、苗木はそうだよね」

江ノ島さんはなぜか満足気に頷きながら、ロビーを出て行った。

ボクはそんな彼女の背中を見送る事しかできない。

彼女の言っている事は間違っている。そう自分に言い聞かせながら。



誰と会う? >>510

きりぎり

【ジャバウォック公園】


苗木「どう、霧切さん。何か分かった?」

霧切「……ごめんなさい、新たな手がかりはないわ」

苗木「あ、謝らなくたっていいって! 仕方ないんだしさ……」

霧切「それでも、私はみんなに希望を持たせるような事を言ったんだから、きちんとした成果をあげないと」

苗木「……確かに霧切さんは凄いよ。でもさ、あまり一人で背負いこまなくてもいいんじゃないかな?」

霧切「…………」

苗木「霧切さんは一人じゃない。ボクや、他のみんなだって居る。霧切さんを責めるような人なんて居ないよ」ニコ

霧切「…………ふふ、ありがとう苗木君。でも」


霧切「舞園さんとの件は許すつもりはないわよ」


苗木「ええっ、そこ!?」


ていうかまだ根に持ってたんだ……。

霧切「当たり前よ。好きな相手が他の女と一緒に寝たのよ? 逆の立場だとどう思うかしら?」

苗木「いやボクはそういう相手がいた事ないからよく分からない…………ってなんかその言い方だと変な解釈されそうだからやめてよ!」

霧切「それじゃあハッキリ言いましょうか? 好きな相手が他の女とセッ」

苗木「だからしてないって言ってるじゃないか!!」

霧切「年頃の男女が一つ屋根の下で、しかも同じベッドで寝る。女の方は男の事が好き。そのシチュエーションで何もしていないというのは無理があるわ」

苗木「で、でもしてないものはしてないんだってば! それにあんな監視カメラがある場所でそういう事する気にはなれないって!」

霧切「それじゃあ監視カメラが無かったらしていたという事?」

苗木「無くてもしてないよ! ボクは本当に舞園さんの事を心配して……」

霧切「……ふふ、分かっているわよ」

苗木「えっ?」

霧切「苗木君は優しいから、追い込まれている舞園さんの頼みは断れないでしょうね。そこも好きなんだけど」ニコ

苗木「そ、そっか……///」


さすがにここまでストレートに言われると照れる。

霧切さんはあまり人と関わったりしない人だけど、みんなの事はよく見ている。

その人がどんな事に喜び、どんな事に怒り悲しむのか。

ボクは霧切さんのそういう所が好きだ。


霧切「でも、ここまで苗木君がヘタレというのは問題ね……並大抵の誘惑じゃ一線を越えさせる事はできない……」ブツブツ


若干目的のためには手段を選ばなすぎる所がたまにキズだけど。


【ホテル二階 レストラン】


霧切「……今日の収穫はこの程度かしら」

葉隠「あんまり役に立ちそうなものはないべ……」ハァ

霧切「そんな事はないわ。どんなに小さな事でも、そこから何かが見える事はあるはずよ」

石丸「そうだぞ! 何事も諦めずに努力を続ければそれはきっと報われる!」

不二咲「う、うん、そうだよね!」


石丸クンの言葉に、みんな頷く。

それは彼のような自信に満ちたものではなかったけど、それでも少しは前向きになろうという意思が見えた。

……でも、ボクとしては本当はみんなに霧切さんや石丸クンのような希望を持ってほしいと思っていた。

それはやっぱり望み過ぎだったのだろうか。超高校級の才能といっても、高校生である事には変わりないのだろうか。

もし、この場に霧切さんや石丸クンが居なかったら、みんなはどうなっていたのだろうか。


それでもボクは……諦めたくない……。


苗木「…………」

桑田「ん、どうした苗木、小難しい顔して」

苗木「……何でもないよ」

朝日奈「ねぇねぇ、ちょっと私から提案があるんだけど、いいかな?」

セレス「提案ですか?」

朝日奈「あ、でも島からの脱出には関係ないんだけど……」

霧切「構わないわ。どうしたの?」


朝日奈「今夜さ、みんなで花火しようよ!!」ニコ


……何とも言えない沈黙が辺りに広がる。

朝日奈「……えっと、だ、だからね」

舞園「は、花火ですか……こんな時じゃなければとても楽しそうだったんですけど……」

苗木「いや、いいと思うよ。やろうよみんな!」ニコ

山田「おや、苗木誠殿は花火と聞くと、たぎってしまう性分なのですかな?」

苗木「べ、別にそういうわけじゃないけどさ……でもこういう時だからこそ普通の旅行のように楽しむ所は楽しむべきなんじゃないかな」ニコ

大神「……ふっ、確かにそうだな。そうすれば気分も紛れる」

江ノ島「あたしもさんせー!! 楽しそうだし!!」ニカッ

戦刃「う、うん、私もいい考えだと思う!」

大和田「へっ、まぁモノクマの狙い通りになるってのも癪だしな。俺らの楽しんでる姿を見せてアイツを苛つかせるのも悪くねえ」

霧切「ふふ、それじゃ決まりね。まだ日暮れまでは時間があるわ。その間に準備をしましょう」

腐川「びゃ、白夜様は来るの!?」

苗木「一応ボクが呼んでみるけど……」

桑田「アイツは来ねえだろうな。つか苗木大丈夫かよ、近づいたら殺すとか言ってたぞアイツ」

苗木「……でも、放っておくなんて事はできないよ」

江ノ島「ホント苗木らしいね。まぁあんたは十神の希望のカケラも溜まってたし、一番適任だとは思うけど」

セレス「希望のカケラ……ですか。今となってはもう懐かしいですわね」

不二咲「うん……もうそれどころじゃなくなっちゃったし……」

モノミ「本当でちゅよ……なんでコロシアイなんていう話に……」シクシク


…………あれ??


「「モノミ!?」」


モノミ「うぅ、もうすっかりモノミで定着しちゃったのでちゅよ……」シクシク

苗木「えっ、生きてたの!? 木っ端微塵になったように見えたけど……」

モノミ「あちしは一体だけではないのでちゅ。あ、も、もしかして、みなさんあちしの心配を……」ウルウル

葉隠「いや別にしてないべ。つかオメーも怪しいって事には変わりねえしな」

桑田「そうだそうだ! 元々テメーがここに閉じ込めたんじゃねえか!」

モノミ「ひぃぃ! そ、それは申し訳なく思っているのでちゅよ……でも、あの時点では本当にカリキュラムの一環だったのでちゅ!」

大和田「けっ、どうだかな。自分とこの生徒を南の島に閉じ込めるカリキュラムなんてのを信じろってのか」

山田「で、ではあの学園長の映像は……捏造!?」

モノミ「そ、そんな事ありまちぇんって!!」

霧切「……今は何とも言えないわ。憶測だけで考えを固めるのは危険よ」

舞園「そう……ですね。ただでさえ分からない事だらけですし……」

江ノ島「それよりさ、早く準備始めようよ! 日が暮れちゃうよ!」


外を見てみると、空はオレンジ色に染まっている。

確かに準備は日が出ている間にやってしまった方がいいだろう。


モノミ「あ、花火でちゅよね! それならあの砂浜がとっても良いと思うまちゅよ!」

桑田「けどよ、準備ってそんなに手間かかるもんか? 花火と火種あれば終わりだろ」

苗木「あと火消し用のバケツも用意しないと。懐中電灯もあったほうがいいかな」

桑田「火を消すなら海に投げちまえばいいじゃねえか」

モノミ「ダメでちゅ! 自然破壊は先生認めまちぇん!!」プンプン

セレス「確かにそのような事が生徒手帳に書いてありましたね」

朝日奈「ふふふ、それにどうせ花火やるならさ、みんな浴衣着ようよ! スーパーに置いてあるの見つけたんだ」ニコニコ

葉隠「スーパー万能すぎるべ」

桑田「ゆ、浴衣……舞園ちゃんの浴衣……!!!」ゴクリ

参考画像はよ

舞園「苗木君……あそこに性犯罪者がいて怖いです……」ギュッ

桑田「ぐはぁっ!!!」

霧切「というか舞園さんもいちいち苗木君にくっつかないでくれるかしら」イライラ

舞園「どうしてあなたにそんな事言われなくてはいけないのですか?」ニコ

セレス「……枕が」チッ

舞園「な、何言ってるんですか!? 私はそんな事してないですから!!!」

苗木「え、えーと、それじゃそろそろ準備始めよっか……?」

戦刃「う、うん、そうだね!」

江ノ島「と、苗木に浴衣を見せて褒めてもらえるかドキドキしてるお姉ちゃんでした」

戦刃「盾子ちゃん!!!///」カァァ


山田「……よく考えたら僕達いりませんな」

大和田「言うなバカ……!!」ギリッ

>>529
こんなのあった

http://i.imgur.com/QttxUDW.jpg
http://i.imgur.com/mupoLUy.jpg

【ロケットパンチマーケット】


そんなわけで、女子はそれぞれ浴衣を持って行って着替え。男子は花火の準備をしてから着替える事になった。

空は次第にオレンジ色から茜色に変わってきている。


苗木「それにしても、何でもあるんだなぁ……」キョロキョロ

桑田「見ろ見ろ、暗視スコープだぜ! かっちょいー!!」

山田「むふふ、それを使えば夜這いも簡単そうですな!」

桑田「はっ!! 天才か!!!」

モノミ「ダメでちゅー!! そんなハレンチな事、先生は許しまちぇんー!!!」プンプン

石丸「そうだぞ!! 今朝の苗木君といい、君達は不純異性交遊というものの重さを知ってだな……」

桑田「は、苗木? 苗木がどうかしたのか?」

苗木「なななななななな何でもないよ!!! ほら、早く花火選んじゃおうよ!!!」アセアセ

葉隠「ふむふむ、やっぱドカンと一発派手なものが欲しいべ!」

大和田「おっ、分かってるじゃねえか。やっぱちまちま手に持つようなやつじゃなく、打ち上げるやつに限るよな!」


な、何とか誤魔化せたかな……。

桑田「花火決まったら浴衣も選んじまおうぜ! お、これとか渋いな!!」

山田「ふひひ、不二咲千尋殿はこちらなどはいかがですかな……」ハァハァ

不二咲「そ、それ女の子用だよぉ!!」

大和田「俺はこういうの動きづらくて好きじゃねえんだけどなぁ」

石丸「ふはは、僕とて一番はこの制服だ! しかしたまにはいいではないか! TPOをわきまえた格好であればな!」

葉隠「お、石丸っちも大分丸くなってきたべ」

苗木「ていうか葉隠クンって浴衣似合いそうだよね」ハハ

モノミ「うふふ、みなさんの楽しそうな姿を見ているだけであちしも嬉しいでちゅ」ニコニコ


……うん、ボクだってみんなと楽しい時間を過ごせるのは幸せだ。

それでも、どうしても頭をよぎってしまう。

こんな時間が続いてくれるのか。このままみんなで一致団結して一人も欠けずに脱出できるのか。


ダメだダメだ。ボクがこんな弱気になってどうする。


ボクは絶対に絶望なんかに屈したりしない。

モノクマの言いなりになって殺人を犯したりしない。

でも、他のみんなはどうだろうか。

ここまでのみんなの様子を見て、どんな絶望にも耐え切れるという考えが揺らいでいるのは確かだ。

とは言っても、そう簡単には認められない。なぜなら彼らは超高校級の才能を持った希望なのだから。


苗木「…………」

モノミ「ど、どうしまちた苗木君?」オロオロ

苗木「あ……いや、何でもないよ……」

モノミ「そうでちゅか? とっても虚ろな目をしていまちたが……」

苗木「あはは、実はあまりよく眠れてないんだ。ただそれだけだよ」

モノミ「……それでちたら、ここには睡眠薬もありまちゅよ。あまり薬に頼るのはオススメできまちぇんが、それでも眠れないよりはマシだと思うのでちゅ」

苗木「……………」


どうして、ボクは。


苗木「それじゃあ、貰っていこうかな」

【砂浜】


夜、満天の星空の下。

ボク達は満面の笑みで花火をして遊んでいる。

今は少しでもこの状況については忘れられるように。


石丸「コラ兄弟!! それは手に持ったまま火をつけるタイプではないぞ!!」

大和田「いいんだよ、そういう細かい事はよ!! おりゃ!!」


パーン!!!


舞園「わぁ……綺麗です……」

霧切「……ふふ、たまにはこういうのも悪くはないかもね」

セレス「きゃっ!! な、なんですのこれは!!」ビクッ

山田「ふひひひひ、ねずみ花火に怯える安広多恵子殿……萌える!!! 花火だけに!!!」

セレス「死ね腐れラードがァァああああああああああああああああああああ!!!!!」

山田「ありがとうございますっ!!!」ゴシャァァァ

桑田「やべえ……舞園ちゃんの浴衣姿やべえよ……!!」

葉隠「つーか全員良く似合ってるべ。さすがこのクラスはレベル高い高い」

腐川「はっ!! 聞こえたわよ!! あ、あたしの浴衣姿見て、ひ、卑猥な事を考えたでしょ!!!」ビシッ

葉隠「いやー、さすがに腐川っちはちょっとないべ」

腐川「ど、どうせあたしは断トツでブスよぉぉ……!!!!!」ギリギリ

不二咲「そ、そんな事ないって、腐川さんの浴衣姿も可愛いよぉ!」

腐川「…………」

不二咲「ど、どうしたの?」

腐川「負け……た…………」ガクッ

不二咲「腐川さん!?」


朝日奈「見て見てさくらちゃん、二刀流!」

大神「ふふ、火傷には注意するんだぞ。さて、我はこの機会に炎への耐性を高めたい所だが手頃な花火はないものか…………」ゴソゴソ

朝日奈「なんだかさくらちゃんの方が火傷しそうだけど!?」

大神「止めるな朝日奈よ。我にはどんな炎の海にも耐えられる屈強な肉体が必要なのだ……」

朝日奈「それ花火の楽しみ方として間違ってるよ!!」

 

江ノ島「だから大丈夫だって、全然変じゃないよ!! 苗木だってイチコロ間違いなし!!」

戦刃「そ、そうかな!?」

江ノ島「あ、でももうちょっと色気だした方がいいかなー。ほら、ここら辺ちょっとはだけさせたり……」グイッ

戦刃「きゃあああ!!! ダ、ダメだってば盾子ちゃん!!!///」

江ノ島「えー、でもさでもさ、もしかしたら苗木が欲情して襲ってくれるかもよ?」ニヤニヤ

戦刃「な、苗木君が……」ゴクリ

江ノ島「あ、今想像したねー、えっちー!」

戦刃「盾子ちゃんが想像させたんじゃない!!!///」


霧切「抜け駆けは」ヌッ

舞園「絶対に」ヌッ

セレス「許しませんわよ」ヌッ


江ノ島「どっから湧いたのよあんた達…………ていうかそこのアイドルは人の事言えないでしょ」ハァ

 

ジジ…………パチパチパチパチ!!!


苗木「…………」

モノクマ「うんうん、線香花火とはオツですね苗木クン!」

苗木「……なんだモノクマもいたんだ」

モノミ「やいやい、みんな楽しんでいるんでちゅから、あなたは出て行ってくだちゃい!!」

モノクマ「なんだと、コイツ!! 妹のくせに!!」ボカッ

モノミ「痛い!! 痛いでちゅ!!」ウルウル

苗木「うるさいなぁ……」ハァ

モノクマ「ねぇねぇ、どうしたの苗木クン? キミって大人しそうに見えて割と皆の中心に居る、クラスカースト上位の子じゃなかったっけ?」

苗木「知らないよそんなの」

モノクマ「うぷぷ、線香花火っていいよね。パァァって綺麗に輝いたと思ったらポトッって落ちちゃうんだから!!」

モノミ「どうしてそんな捻くれた事しか言えないんでちゅか! あの一瞬の輝きだからこその儚さに、他の花火には真似できない美しさがあるのでちゅ!」

モノクマ「でも結局は落ちるよね。ポトッって」

モノミ「むぐぐ……っ!!!」

モノクマ「いやぁ、まるでキミ達みたいだね! 最後にはポトッって落ちるのに一生懸命輝いちゃってさ!」

苗木「……キミはボクにクロになってほしいみたいだね」

モノクマ「そんな事は言ってないよ! むしろボク的には苗木クンは終盤まで生き残ってほしいくらいさ!」

モノミ「不吉な事を言わないでくだちゃい! 皆さんは一人も死なせまちぇん!」

モノクマ「はいはい、妹の戯言は聞き流すのが兄だよね。うぷぷ、苗木君。ボクはキミに期待しているんだよ」

苗木「それはありがとう。だけど、ボクはあくまでキミの敵だ。それだけは覚えていてよ」

モノクマ「うぷぷぷぷぷぷぷぷ。うん、分かったよ」


モノクマは満足気に笑いながらどこかへ消えてしまった。

これで落ち着いて……と思ったらモノミがまだ居た。


苗木「……で、キミはいつまでそこに居るのかな?」

モノミ「先生は……少しだけ心配なんでちゅ……」

苗木「はは、ボクが? 参ったな、そんなに人を殺しそうな顔してる?」

モノミ「そういう事ではありまちぇん! ですが……」

苗木「なに?」

モノミ「……いえ、何でもないでちゅ」

苗木「そういうのって、後になってちゃんと言っておくべきだったっていうパターンが多いと思うよ?」

モノミ「…………すみません、あちしは他の生徒達の事を見てきまちゅね」


そう言ってモノミは離れていった。

彼女はボクに何を言いたかったのか。それは何となく分かるから聞く必要もないんだけどね。


……でも、あまり担任の先生を心配させるのは良くないかな。

ここは一人じゃなくて他の人達とも遊ぼう。



誰と遊ぶ?(複数可) >>555

舞園残姉ちーたん

昼間で爆睡するわ

舞園「あ、苗木君!」ニコニコ

戦刃「っ!!///」ビクッ


舞園さんと不二咲クンと戦刃さんはオーソドックスな手持ち花火で遊んでいた。

といっても朝日奈さんのように振り回したりする事もなく、大人しくしている。


苗木「ボクも同じやつやろうかな」

不二咲「あ、うん! ここにあるよぉ!」

戦刃「…………」モジモジ

苗木「ん、どうしたの戦刃さん?」

戦刃「な、なんでもないよっ!///」

苗木「??」


挙動不審な戦刃さんに首を傾げるけど、よく分からない。

とりあえず取り出した花火に舞園さんの花火の火を貰って点火すると、その先端から様々な色の綺麗な光が溢れ出る。

苗木「綺麗だね……」

舞園「私がですか!?」ビクッ

苗木「いや花火が」

舞園「……ですよね。苗木君はそうですもんね」プイッ

苗木「もちろん舞園さんも綺麗だよ」ニコ

舞園「えっ!!/// あ、そ、その、そうですか……ありがとうございます……えへへ……///」ポワポワ


舞園さんの白に何かの花が描かれている浴衣姿はよく似合っていた。さすがはアイドル。


不二咲「ぼ、僕はどうかなぁ?」


次は不二咲クンがおずおずと尋ねてくる。

シンプルな灰色の男物で、大和田クンにでも習ったのか袖を捲り上げている。

……これはなんというか。


苗木「か、かわいいね」

不二咲「えぇ!?」ガーン

苗木「ご、ごめん……なんていうか小さい子供が無理して大人っぽくしてるみたいで……」

不二咲「うぅ……いいよぉ、これから似合うようになってみせるからぁ……」

苗木「でも似合ってる事は似合ってるよ!」

不二咲「……えへへ、ありがと」


ダメだ、危うく陥落するところだ。。

でも、不二咲クンは不二咲クンで頑張っている。

男らしさという所でもそうだけど、こうして女子とも仲良くしようとしている。

そういう前向きな所は見ていて凄く嬉しい。


戦刃「あ、あの、苗木君!」

苗木「う、うん!」


戦刃さんが話しかけてきた。

そのあまりにも必死な様子に、思わず背筋が伸びる。


戦刃「この浴衣……ど、どうかな……?///」

涼し気な水色に、金魚。若干子供っぽい印象を受けるものだ。

でも、そういうのを戦刃さんが着ていると考えると…………。


苗木「すごく……いいかも……」ゴクリ

戦刃「ほ、ほんと!?」

苗木「うん、よく似合ってるよ!」ニコ

戦刃「//////」カァァ


戦刃さんは照れているようで耳まで真っ赤になっている。


舞園「……なーんか、私の時より反応良くないですか?」ジト

苗木「えっ、そ、そう!? そんな事ないよ!!」ビクッ

不二咲「ふふ、戦刃さんは苗木君にどう思われるのか心配してたから。良かったね!」

戦刃「う、うん///」

苗木「そんな心配しなくていいのに。戦刃さんならボクじゃなくても他の男子もみんな褒めるよ!」

戦刃「…………」ムスッ

苗木「え、な、なに?」

舞園「苗木君はほーんと分かってないですね」

不二咲「あはは……で、でも、それが苗木君だから……」

苗木「えーと……?」


なんだろう、この諦められてる感は。


戦刃「……でも、こんな夜に火で遊ぶなんて初めて」ニコ

苗木「あれ、そうなの?」

戦刃「うん。戦場では夜中に明かりなんてもってのほかだし」

苗木「な、なるほど……」

不二咲「でもここは戦場じゃないから大丈夫だよぉ」ニコニコ

舞園「えぇ。モノクマさんの言うことなんて無視しちゃえばいいんです!」

戦刃「ふふ、そうだね。ここから出たら、またみんなで花火やりたいな」

舞園「あ、いいですね! 街ではもっと大きな花火大会もありますよ」ニコ

不二咲「それ、学園の屋上から見られるって聞いたことあるよぉ」

苗木「はは、帰った時の楽しみが増えたね」

まだ何日も経っていないのに、いつもの日々が遠いもののように感じる。

何気ない日常も、離れてみればかけがえの無い大切なモノだった。

どこかのJPOPの歌詞のようだけど、ボクはそれを痛感していた。


このままコロシアイなど起きずにハッピーエンド。

例えばこれがゲームで、ボクが製作者だったらそういう展開にする。

この逆境を乗り越えてクラスが一つになっていく学園青春ものだ。


……これを聞けば、きっと十神クンに鼻で笑われるのだろう。

世の中はそんなに甘くできていないって。


何となく分かったんだ。

そんなハッピーエンドの為には、みんながそれぞれ強い希望を持っていなくてはいけない。

でも……それを持っているのは霧切さんや石丸クンだけのようだ。十神クンは特殊なタイプだけど。


だから。

舞園「……苗木君? どうしましたぼーっとして」

苗木「ん、ごめん、ちょっと考え事」

不二咲「な、なにか悩みでもあるのぉ?」

戦刃「大丈夫、苗木君? 悩みなら聞くよ?」

苗木「ううん、大丈夫大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけだよ」ハハ


ボクはいつからこんな卑屈になってしまったのだろう。これではモノクマの思惑通りだ。

前向きに、前向きに。それがボクの唯一の取り柄なんだから。


さて、他にも誰かと遊ぼうかな。



誰と遊ぶ?(複数可) >>602

江ノ島

江ノ島「苗木ー!」ギュッ

苗木「わっ!! え、江ノ島さん!?」


急に背中に柔らかいものを感じたと思ったら、江ノ島さんが後ろから抱きついてきていた。

薄いオレンジ色に大きな花という柄、何より目立つのはその丈の短かさだ。


苗木「ね、ねぇ、その格好あんまり動くと危ないって」

江ノ島「ん、苗木はあたしのパンツが見たいんだぁ……見せてあげよっか」ニヤニヤ

苗木「見せなくていいから!」

江ノ島「あははははは、予想通りの反応! さすが苗木!!」

苗木「はぁ……江ノ島さんは花火で遊ばないの?」

江ノ島「うん、あたしは見る専門! それでも十分楽しいよ?」

苗木「うーん、そういうもの?」

江ノ島「そういうもの! まぁたまにちょっかいとか出して変化をつけたりするともっと面白いよ!」

苗木「ちょっかいって……」

江ノ島「えへへ、例えばね」ニヤニヤ

江ノ島さんの視線は、少し先で打ち上げ花火を楽しんでいる大和田クン達に向けられる。

そして、彼女は足元にある石をおもむろに拾い上げると。


江ノ島「えいっ!」ポイッ


江ノ島さんが投げた石は、今まさに打ち上げ中の花火に命中。

そのままその花火は倒れ、クルクルと回転しながら…………。


四方八方に花火を放ち始めた。


「「どわああああああああああああああああああ!!!!!」」


逃げ惑う大和田クンと石丸クン。

その様子を見て大笑いしているのが江ノ島さんだ。


江ノ島「ぎゃはははははははははは!!! マジウケる!!!」

苗木「あ、危ないってば!!! 何やってんの!!!」

江ノ島「大丈夫、大丈夫。直撃したって死にはしないって。ちょっと火傷するだけだよ」

苗木「……はぁ。何ていうか、江ノ島さんはブレないね」

江ノ島「当たり前じゃん! 人生楽しんだもの勝ちなんだしさ!」


江ノ島さんのこういう所は好きだ。

確かにズルズルと悪いことばかりを考えるよりかは、できるだけ良い事、楽しい事を考えたほうがいい。

ただ、江ノ島さんにとっての楽しい事っていうのがここでは問題なわけで。


苗木「でもさ、他の人達が可哀想だから程々にね?」

江ノ島「はいはい、ごめんね苗木先生」

苗木「せ、先生って」

江ノ島「だってほら、苗木は好き放題やるあたしを止める役割だし!」ニコ

苗木「そんな役割嫌だよ……」ハァ


みんながみんな欲望のままに動いたら大変な事になる。

でも、中には自分を押しとどめ過ぎている人も居る。

そんな人はもっと好きな様にやってみてもいいんじゃないかとは思う。

 
そのまま楽しい時間は過ぎていいく。

そして、それはいつまでも続かない。

始まりがあれば終わりもあるのは当たり前だ。

でも、終わりを告げたのは最後の花火が消える光景ではなかった。


モニターが点く。

ボク達を無理矢理現実へと引き戻す、あの声が聞こえてくる。


『えーと、希望ヶ峰学園修学旅行実行委員会がお知らせします。
 オマエラ、お楽しみのレクリエーションタイムがはっじまるよー! そんな花火なんかよりもずっとずっと楽しいから、今すぐジャバウォック公園にお集まりください!』

【ジャバウォック公園】


そのままボク達はモノクマに言われた通りに公園に集合した。着替える事もなく浴衣のままで。

そこには花火には参加しなかった十神クンもいた。


十神「はっ、お前ら本当に花火なんてものをやっていたのか? 呑気なものだな」

朝日奈「べ、別に私達の勝手でしょ!!」

十神「あぁ、そうだな。俺としてもその方が隙を突けて助かる」フッ

大和田「テメェ……!!!」

不二咲「だ、だからやめようよぉ!」


モノクマ「そうですよ! 周りが引いちゃうくらいのマジゲンカはやめましょうね!」


何度聞いても慣れない、脳天気でいて悪意のこもった声。

その瞬間、周りのみんなの空気がピリッと張り詰めるのを感じる。

霧切「いったい何の用かしら?」

モノクマ「だからレクリエーションって言ったじゃない! うぷぷ、とっても楽しいぞー」

モノミ「ウソでちゅ! あなたの楽しいっていうのはとってもズレてるでちゅ!!」

モノクマ「もう、人の感性を全否定なんてモノミはまだまだ子供だなぁ。世の中には踏まれて喜ぶような人もいるんだよ?」

山田「はっはっはっ、呼びましたかな!!」

葉隠「何で得意気なんだべ……」

モノクマ「ていうかみんな古い! 花火なんて古すぎるんだよ! 今はもうそんな時代じゃないんだよ!!」

舞園「そ、そんな事ないです! どれだけ時代が過ぎようとも、花火が綺麗である事には変わりありません!」

セレス「ふふ、むしろこういった場所で最先端の技術というものの方が風情がなくて嫌ですわね」

モノクマ「うぎっ、ボクを全否定!?」

腐川「あ、当たり前でしょ、あんたなんか……」

モノクマ「いいさいいさ、これを体験すればみんなだって分かってくれるさ」


その直後、モノクマの背後に巨大なモニターが表示された。

そこにはこの世のものとは思えない幻想的な大樹に向かって、翼の生えた人間が飛んでいく光景が映し出されていた。

モノクマ「みなさん、空を飛んでみたいと思った事はありませんか!」

十神「空ならプライベートジェットでいくらでも飛んでいる」

モノクマ「そういう夢のない話は禁止! あ、でも、タケコプターは結構グロいからやめた方がいいよ」

石丸「人間は常に自分にないものを求めたものだ! 昔の人達が空を飛びたいと願ったからこそ、飛行機やヘリコプターが存在するのだ!」

江ノ島「追い詰められてる人も空飛びたがるよねー」

戦刃「それ意味が違うから!」

桑田「つーか、それが何だよ。俺らを飛行機に乗せてここから出してくれんのか?」

モノクマ「まさか。ボクはただ普段のキミ達が知らない素晴らしい体験をさせてあげようと思っているのさ!」

大神「回りくどいな。本題に入れ」

モノクマ「もう、せっかちだなぁ。みんなVRシステムって知ってる?」

不二咲「バーチャルリアリティ…………仮想現実世界を作り出すシステムだよね……」

大和田「仮想現実だぁ? どういう事だオイ」

モノクマ「誰かが作った世界を現実のように体験できるって事だよ。ゲームの中に入れるようなものって言えば分かりやすいんじゃないかな。
      その中ではキモオタでも女の子にモテモテのイケメンになれたり、二刀流で俺TUEEEEEEEEとかできたりして夢広がりまくりだね!!」

山田「まさに僕の為にあるようなシステムですな!!」

朝日奈「それ自分で言ってて悲しくならないの……?」ハァ

セレス「ふん、所詮は作り物ですわ。そんなものに何の意味があるのですか」ハァ

モノクマ「ちっちっちっ、甘いよ甘いよ。VRシステムの中には、現実の体にも影響を与えるものだってあるんだよ!」

モノミ「…………」

モノクマ「あれあれ、どうしちゃったのかなモノミ。急に黙り込んじゃったけど」

モノミ「な、何でもないでちゅ……」

霧切「……それで? あなたはそのVRシステムでどんな事を体験させたいのかしら?」

モノクマ「うぷぷぷぷぷ、それはお楽しみとしてとっておきなよ。大丈夫大丈夫、みんなをガッカリさせたりはしないから」


そう言いながら、モノクマはゴソゴソと何かのボタンを取り出した。


モノクマ「VRシステム起動ボタン~!」ジャーン

葉隠「まんまだべ」

戦刃「っ!!」キッ

モノクマ「あはは、いくら警戒しても無駄だよ戦刃さん。こいつからは逃げられないからさ」ニヤニヤ


モノクマ「ではでは、夢の世界へご案内~!!」ポチッ

 
直後、世界が歪んだ。

そのままボクの意識はゆっくりと沈んでいき……。


暗闇へと落ちた。


+++


苗木「…………ん」


目が覚めたら教室……ってこれ一回あったよね。

でも、島に連れて来られた時とは違う。

まず一つ、椅子から立ち上がる事ができない。

もう一つ、他のみんなは居ない。

さらに一つ、なぜか自分の机と椅子はベルトコンベアーに乗せられており、ゆっくりと後ろへ運ばれて行く。


そして。


ズドンッ!!!!! ズドンッ!!!!! ズドンッ!!!!!

 

【補習】


ガラガラと、教卓が目の前にやってくる。

そしてモノクマが丁寧に勉強を教えてくれる。意外と板書が分かりやすいのが悔しい。

ボクの机の上には懐かしい勉強道具が置いてある。


苗木「…………」


ズドンッ!!!!!


後ろで何か重苦しい音が絶え間なく聞こえる。

加えてその音の度に部屋全体が大きく震動する。

ベルトコンベアーはゆっくりと、しかし確実にボクを後ろへ運んでいく。


ズドンッ!!!!!


苗木「…………」

音が大きくなっていく。震動が大きくなっていく。

汗が頬を伝う。喉がカラカラになる。

何とか体を動かそうとしてみるけど、ビクともしない。


ズドンッ!!!!!!!!


近い。もうすぐ後ろから聞こえる。

目の前のモノクマは授業ペースを変えない。

対照的にボクの動悸が早くなる。次第に息苦しくなってきて、短い呼吸を連続する。


ズドンッ!!!!!!!!!!


でも、ボクは諦めない。

とにかく目を動かして、何か突破口を見つけようとする。

目の前のモノクマが授業に集中しろと怒っている。それでも、ボクは探し続ける。


ズドンッ!!!!!!!!!!!!!!

風を感じた。

でもそれは外へ通じるものではない。

すぐ近く……すぐ後ろを何かが通過した感覚だ。


苗木「……っ」


ゴクリと、喉を鳴らす。

そして、視界が薄暗くなった。

何かが、頭上で待ち構えている。


あと一秒もあるのだろうか。

ボクは……これから…………。

 

【ジャバウォック公園】


苗木「……っ!!」


死が訪れる直前になって、ボクは元の公園に戻ってきていた。

だけど、体の様子は明らかな変化がある。

全身から汗が吹き出ているし、フラフラと足元も定まらない。

動悸は相変わらず凄まじく速く、呼吸も浅く上手く息を吸い込むことができない。


苗木「くっ!」


大きく頭を振る。

負けてはいけない。このまま崩れたらモノクマの思い通りだ。

まずは深呼吸だ。ボクの身には何も起こっていない。今のは現実の事ではない。

ただひたすらそれを自分に言い聞かせる。

 

苗木「み、みんな!! 大丈夫!?」


無理矢理自分を落ち着かせて周りを見る。

しかし、そこには想像以上の光景が広がっていた。

まず立てている人が少ない。ボクと霧切さん、石丸クンと江ノ島さんと戦刃さん。それだけだ。

他のみんなは起き上がる事もできず、涙を流して止まらない人もいる。


ボクの声に答えてくれる人は誰もいない。


モノクマ「うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ!!! どうどう、すっごくリアルだったでしょ!!!」

モノミ「な、何てものを見せてるんでちゅか!!!!!」

苗木「……モノクマ、お前はみんなにも同じものを見せたのか?」キッ

モノクマ「正確に同じではないよ。ただ、みんながオシオキされる時の例を見せてあげただけだよ!」

苗木「それがお前が見せたかったものか……!」

モノクマ「違う違う。ボクが本当に見せたいのは“死”だよ!」

苗木「……え?」

確かに死というものは人生で一度しか見ることができない。

しかも、体験としてそれを知っている人なんて存在しない。

まさに仮想現実ならではの体験である事には間違いないけど…………。


苗木「でも、ボクは死ななかったぞ」

モノクマ「うん、だって途中で止めたもん。そこに今回のボクの狙いがあるのです!」

苗木「なんだって……?」


モノクマ「みなさん、気になる続きは明後日の朝に見せます! でも、もし見たくないのであれば、明日中に誰かを殺してください!!」


その直後だった。

いつの間にかモノクマの背後に大神さんが拳を振り上げて立っていた。

 

モノミ「ダメでちゅ!!!」


間一髪。

大神さんの放った拳は間に入り込んだモノミに直撃した。


モノミ「むぎゅぅぅううう!!!」ボコォ!!!

モノクマ「モ、モノミー!!! そんな……お兄ちゃんを庇って……!!」ブルブル

モノミ「そんなわけないでちゅ!! 大神さん、早まってはダメでちゅよ!!」

大神「もう我慢ならん……こやつだけは我が刺し違えてでも……!!!」ギリギリ

苗木「戦刃さん!!」

戦刃「っ!!」


すぐに戦刃さんが凄いスピードで大神さんを取り押さえる。

あの巨体が動かないのは、軍人ならではの骨格を熟知した上での押さえ方をしているからだろうか。


大神「は、離せ戦刃……!!!」ググッ

モノクマ「あーはっはっはっは!!! まぁ落ち着きなって大神さん。この場でみんなに最後まで見せちゃうよ?」

大神「ぐっ!!!」

モノクマ「みんな怖かったよねー? なにせ自分が死ぬ寸前まで追い詰められたんだから。うぷぷぷ、でも大丈夫、希望はあるよ!」


モノクマ「誰かを殺せば見なくて済むんだから! あははははははははははははははぁ!!!!!」


モノクマの高笑いだけが辺りに響き渡っていく。

みんな、ただそれを聞いている事しかできなかった。


+++


……しばらくしても、みんなの大部分は動く事ができずにいた。

何とか動けるようになった人も、動けない人の心配をしている。

ただ一人、十神クンを除いて。彼はモノクマが居なくなると、立ち上がってさっさと自分のコテージへ戻って行ったようだった。



ボクは……どうしよう。


誰に話しかける? >>652

ちーたん

苗木「不二咲クン……大丈夫?」

不二咲「な、苗木……君……僕……ちゃんと……人の形……してる……?」グスッ

苗木「し、してるよ。だから安心して」

不二咲「ぼ、僕……頑張って……進んだ……のに…………モノクマが……モノクマがたく……さん……そ、それで……!!!」ポロポロ


たぶんさっきの仮想現実の話をしてるのだろう。

聞いた感じでは確かにボクの見たものとは違うものらしいけど、それでもこの様子を見る限りでは同じような苦痛を味わったようだ。


不二咲「死にたくないよ!!! 僕、死にたくない!!! 怖いよ!!!!!」ガシッ

苗木「大丈夫、本当に死にはしないんだ!! だから……」

不二咲「だから諦めて明後日死ねって言うの!?」ポロポロ

苗木「…………じゃあ誰かを殺すしかないね」

不二咲「っ!!」ビクッ

苗木「それが嫌なら……耐えるしかないんだ……」

不二咲「……ぅぅ……ぅぅぅうううううう……!!!!!」グスッ


…………ボクが間違っていたのかもしれない。

 
ボクはしばらく不二咲クンを慰めた後、離れる事にした。

ちゃんと慰められたのか自信はない。


苗木「…………」


他の人とも話してみようかな。


誰と話す? >>664

江ノ島

江ノ島「はぁ……みんなメッチャ凹んでるねぇ……」

苗木「江ノ島さんは結構大丈夫そうだよね。安心したよ」

江ノ島「あはは、苗木だってそうじゃん」

苗木「ボクも何とか落ち着いてきただけだよ。覚めた直後は足元もフラフラだった」

江ノ島「それが当たり前だって。でもみんなの様子を見ると、あたしはまだマシなやつだったのかなぁ」

苗木「……聞いてもいいかな?」

江ノ島「うん、いいよ。まずね、野球の硬式ボールでメッタ打ちにされんの。そんでバイクに乗せられてグルグル同じ所回されて、その後火あぶりにされて、ショベルカーに叩かれて……」


江ノ島さんの言葉に、ボクは一瞬言葉を失った。


苗木「ちょ、ちょっと待ってよ!! え、江ノ島さん、そんなものを見てたの!?」

江ノ島「うん。ていうかみんなはホント何を見てたわけ? アレ以上ってあたしじゃあんまり想像できないよ」

苗木「…………」

江ノ島「あ、ごめんごめん! 思い出させちゃった?」

苗木「い、いや……いいよ……」


江ノ島さんの事は……本当に分からない。このクラスの誰よりも。

 
江ノ島さんの言葉を聞く限り、モノクマが見せたものには差があるらしい。

という事は、誰かに一際強烈なものを見せて、殺人を起こさせようという狙いがあるのかもしれない。

つまり、クロを選んでいる……という事だ。


ただ、そう考えると江ノ島さんのメンタルが強くて良かったと思う。

普通はあんな体験をさせられたら耐えられないと思うから。


他の人にも話を聞いてみようかな。



誰と話す? >>670

きりぎり

苗木「霧切さん、大丈夫?」

霧切「…………」

苗木「……霧切さん?」

霧切「…………」

苗木「霧切さん!」

霧切「っ! な、苗木君。ごめんなさい、何かしら?」

苗木「いや、大丈夫かなって……でもその様子だと……」

霧切「あぁ、私は大丈夫よ。ただ、少し気になる事があって考え込んでいたの」

苗木「気になる事?」

霧切「えぇ、この島の秘密について少し見えてきた事があって」


さすがだ!! 自分が死ぬ寸前の光景を見せられたにも関わらず、もうこうして前を向けている。

やっぱりいいなぁ、霧切さんは。まさにボクが期待している通りの希望だよ!!


霧切「な、苗木君? どうして笑っているの?」

苗木「えっ、あー、ごめんごめん! ちょっと嬉しくてさ!!」ニコニコ

霧切「う、嬉しいって……島の秘密についての手がかりを掴んだことが……?」

苗木「んー、まぁそういう事にしておいてよ」ニコ

霧切「……苗木君、大丈夫?」

苗木「大丈夫、大丈夫! ボクはキミを一人にさせない、ボクだって希望を持ち続けるよ!!」

霧切「…………あ、ありがとう」


良かった良かった、これで霧切さんまで絶望していたらどうしようかと思ったよ。

ホント……みんなもこのくらいの希望を持ってくれたらいいのに…………。


桑田「うっせーんだよテメーはよおおおお!!!!!」

石丸「なっ!!」


何か向こうで小競り合いが見える。

あれは桑田クンと石丸クンだろうか。


霧切「どうしたのかしら……」

苗木「とにかく行ってみようよ!」

 
急いで駆けつけてみると、桑田クンが石丸クンに飛びかかろうとしていて、大神さんに止められているようだった。


苗木「ど、どうしたの!?」

霧切「石丸クン、やめなさい。そんな事をしても無意味よ」

桑田「うるせえアホアホアホアホアホアホアホアホ!!!!!」

大神「落ち着け桑田よ」

桑田「落ち着いてられっか!! このままだと俺は明後日に死んじまうんだぞ!!!」

石丸「しかしそれはあくまで仮想現実での死だ! 心を強く持てばきっと乗り越えられる!! 変な考えを起こせばそれこそモノクマの思惑通りだぞ!!」

桑田「あぁ!? 何だよ優等生!!! どうせテメーはそんなやべえモン見せられてねえんだろ!!!」

石丸「そ、そんな事はない……僕も自分の死の直前を……」

桑田「じゃあ言ってみろよオラァァ!!」

石丸「……僕は総理大臣に就任していた。そして、そのパレード中に狙撃されかけていた。
    なぜか見えるはずのない狙撃手の指が引き金にかかるのを見る事ができて……引かれる寸前で目が覚めたんだ」

桑田「……はぁ? はぁぁぁあああああああああああああああああああああ!?」

石丸「な、何だね!!」

桑田「なんだそれ!? なんだよそれ!!! 不公平じゃねえかよクソがァァ!!!!!」

桑田「俺は野球の硬式ボールを1000発も撃ち込まれる寸前だったんだぞ! それも一撃一撃がすげえ威力だ!」

石丸「なっ――!」

桑田「テメーはそんな楽なやつだから綺麗事言えんだよ!! 俺の気持ちなんて分かるはずがねぇ!!!」

石丸「…………」


醜い。凄く醜い。

何なんだこれ。こんなのが希望ヶ峰学園の超高校級の生徒なのか。

ガッカリだ。本当にガッカリだよ。


石丸「……分かった」

桑田「ああ!?」

石丸「モノクマ!! 出てこいモノクマ!!!」

モノクマ「もー、なにー?」ヒョコ

石丸「頼みがある。先程の死の光景なんだが、僕と桑田君のを交換してほしい」

桑田「ッ!?」

モノクマ「ほうほう」

桑田「い、石丸……」

大神「石丸よ、先程の桑田の言葉を聞く限り、かなり残酷なものだぞ」

石丸「ふはは、僕の心配はいらないさ!」

霧切「……足、震えてるわよ」

石丸「っ!! な、何を言っているのかな霧切君!! 分かったぞ、それは君自身が震えているからそう見えるだけだ!!」ビシッ

苗木「石丸君……」

石丸「……確かに怖くないと言えば嘘になる。だが、それがどうした!! 僕は超高校級の風紀委員!! みんなを守るのは当然だ!!!」


……そうだよ。これがみんなの希望、超高校級の生徒だ。

これが本来みんながあるべき姿なんだ。

それなのに。


モノクマ「おーい。なんか盛り上がってるとこ悪いけど、オシオキ交換なんて認められないよー?」

石丸「な、なんだと!?」

モノクマ「だってボクがせっかくみんなの為にそれぞれ考えてあげたのに、そんな事されたら白けちゃうじゃんかー」

石丸「なぜだ!! 死ぬ事には変わりないだろう!!!」

モノクマ「うぷぷぷ、分かってないねー。絶望には死に方っていうのが大切なんだよ」ニヤニヤ

桑田「は……ははは! なんだ結局口だけじゃねえか石丸!!」


苗木「ねぇ桑田クン、悪いんだけどちょっと黙ってくれるかな?」


少しだけ、静かになった。

みんな、ボクが何を言ったのか分からないような目でこちらを見ている。


霧切「……な、苗木君?」

桑田「んだとコラ苗木ぃぃ……テメーもそいつの肩持つ気か!!」

苗木「うん、持つよ。当たり前じゃないか」

石丸「ど、どうしたのだ苗木君……?」

苗木「どうしてキミ程度の人間が石丸クンを糾弾できるのかな。彼は本気でキミの死を受けようと思ったんだよ?」

桑田「お、思っただけじゃ何も変わんねえんだよ! 実際に交換してからデケェ面しやがれってんだ!!」

苗木「でもキミとは明らかに違ったでしょ石丸クンは。キミが受けるはずだった死を覚悟して、それでも前を向けたんだから」

桑田「うるせえって言ってんだよおおおおおおおおおおおおお!!!!!」ガッ


桑田クンの手がボクの胸ぐらを掴んだ。

その瞬間、周りで何人かが動くのが見えたけど、ボクは手を横に出してその人達を制止する。


桑田「テメー……あんま調子乗ってると……」ギリギリ

苗木「殺す……って?」

桑田「っ!!」

苗木「はは、何驚いているのさ。そう言いたかったんでしょ?」

桑田「なっ、テ、テメー……!!」

苗木「別にいいよ、やれば?」

桑田「ッ!!」

戦刃「苗木君に手を出したら私が殺すよ」ギロ

苗木「大丈夫だよ、戦刃さん。桑田クンがボクを殺せるわけがないんだ」

戦刃「えっ?」

大神「どういう事だ苗木よ」

苗木「だってさ、ここでボクを殺せば学級裁判だよね。クロは明白。桑田クンは現実でオシオキを受ける事になるんだ」

桑田「ぐっ……ぅぅ……!!」

苗木「それにここまで目立っちゃったら、誰かを殺そうにも真っ先に疑われそうだね?
   その上でみんなを欺ける自信がキミにはあるのかな? 十神クンや霧切さんを含めたみんなを、ね」ニコ

桑田「ぁ……ぅぁ……!」ガクガク

苗木「あははははは!! どうしよう、困ったね? どうやらキミ自身では、オシオキを現実で受けるか仮想現実で受けるかくらいしか選べないみたいだよ!!」

霧切「苗木君、やめなさい!!」

苗木「…………」ジッ

霧切「っ」ビクッ

苗木「…………」


苗木「ご、ごめん桑田クン!! ちょっとボク、どうかしていたみたい!!」


桑田「え……あ……」

大神「……桑田、手を離してやれ」

桑田「手……お、おう……」パッ

苗木「本当にゴメンね!! 実はボクもあの死の光景にかなり参ってて……まだ頭がぽわぽわしてるんだ……」ペコペコ

石丸「それは仕方のない事だろう……しかし、本当に大丈夫か、苗木君?」

苗木「あはは、あんなの見せて大丈夫だとは言えないよね……ゴメン、ボクはもう部屋で休ませてもらうよ……」

戦刃「ひ、一人で大丈夫?」

苗木「うん、それは大丈夫。できれば、一人で少し落ち着きたいんだ。ありがとう、戦刃さん」ニコ

戦刃「あ、う、うん///」ドキン

霧切「苗木君!」

苗木「なに、霧切さん?」ニコ

霧切「あ……いえ、その…………ごめんなさい、何でもないわ」

苗木「そう? それじゃ、おやすみ。頼りにしてるよ」


そのままジャバウォック公園を出ようとした時、ふいに片腕を掴まれた。


舞園「な、苗木君……!」グスッ

苗木「舞園さん? 大丈夫?」

舞園「ごめん……なさい……! 私、苗木君が掴まれているのを見ても……動けなくて……!」

苗木「あはは、全然気にしてないよ。でもごめん、今日はキミと一緒にはいられない。正直自分のことで精一杯なんだ」

舞園「分かりました……」ウルウル

苗木「大丈夫だよ舞園さん。ボクが何とかしてみせるから」ギュッ

舞園「は……い……」キュン

【ホテル前】


星が綺麗だ。

眺めていればそのまま吸い込まれてしまうような、そんな感覚さえしてくる。

人々にとっての希望ヶ峰学園の生徒も同じように写っているのだろう。

手を伸ばしても届かない、それでも変わらず光り続けて夜を照らす。


……でも、ボクはそろそろ夢から覚めなければいけない。


葉隠「な、苗木っち、少しいいか?」

苗木「ん、どうしたの?」

葉隠「俺さ、苗木っちってすげえと思うんだ。普通こんな状況で前向きでなんかいられねえべ」

苗木「ボクを殺しに来たのかな?」ニコ

葉隠「っ!!」ビクッ

苗木「大丈夫? ちゃんとみんなにバレないような工夫はしてある?」

葉隠「……そ、そんなんねえよ」

苗木「うーん、それは困ったね。ただ殺すだけじゃすぐバレちゃうよ? そしたらキミはオシオキだ」

葉隠「そんなの分かってんだよぉ……でもよぉ……!!」


葉隠「俺なんかがいくら考えたって、ぜってーバレるだろうが!!!」


苗木「…………」

葉隠「俺には無理だべ……霧切っちを……十神っちをごまかすなんてできるわけねえよ……!」ブルブル

苗木「……それじゃあ諦めて仮想現実でのオシオキを受けるしかないよ。大丈夫、現実ではないんだから」

葉隠「それも嫌なんだよおおおおおおおおお!!!」

苗木「…………はぁ」

苗木「それじゃあ明日中に霧切さん辺りがモノクマを懲らしめてくれる事に期待しようか」

葉隠「そんなん無理に決まってるべ!! だからさ、苗木っち!!」ガシッ


葉隠クンが必死の形相でボクの肩を掴む。少し痛い。


葉隠「死んでくれよ、頼むから!!!」


苗木「……いや、だからさ、ボクを殺したいならバレない工夫をしないと…………」

葉隠「ちげーよ、自殺してくれって事だべ!!」

苗木「えっ……?」

葉隠「モノクマは誰かが死ねば満足なんだろ!? それなら自殺でもいいじゃねえか!!」

苗木「……でもそれだとキミは外に出られないけど?」

葉隠「今はいいべ! それより明後日に仮想現実の世界で殺されるっていうのが問題なんだよ!!」

苗木「そっかそっか……なるほどね……」

葉隠「クラスの奴らの中では、一番苗木っちが自殺してくれそうだから頼んでるんだべ! なっ?」

苗木「あはは、そう? そんなに人生に疲れてそうに見えるかなぁボク」

葉隠「いや、苗木っちはムチャクチャ前向きだろ!? それならきっと死ぬ事も怖くないべ!?」

苗木「え……ええ……」

葉隠「大丈夫だ、苗木っちは死んでも天国行き間違いなしだべ!」

苗木「キミの占いの的中率って三割くらいじゃなかったっけ?」

葉隠「苗木っちは幸運だから十割だべ!!」

苗木「そ、そっか、ありがとう」

葉隠「なっ、なっ、いいだろ!? 死んでもきっと良い事あるって!!」

苗木「…………」


葉隠クンは必死だ。

冗談でもなんでもなく、本気でボクに自殺してくれと頼んでいる。

死という取り返しのつかない絶望を他人に押し付け、自分は希望にすがろうとしている。


…………それなら。

 

【苗木のコテージ】


苗木「ふぅ……」


なんだか今日もかなり疲れたな。

まぁあれだけ色々なことがあれば当然か。

でも、決して眠くはならない。

アドレナリンが際限なく次々と湧いてくる。

油断すると口元が緩み、笑い声も漏れそうになる。


とは言え、さすがに寝ないわけにはいかない。


苗木「そうだ、こんな時の為に……」


手を伸ばした先にはスーパーから持ってきた睡眠薬があった。既に開封されている。

あの時は花火の準備をしていたけど、あれは何年も前の様に感じた。

箱の中にいくつかの袋が入っていて、その中に粉状の薬が入っている。

説明書きにはかなりの即効性があり、いくら飲んでも命の危険はないように調整されているらしい。

つまり、これでは自殺はできない。

袋を開けて、口元に持っていく。水を持ってくるのも面倒くさい。

だから、そのまま粉を口の中に流し込んだ。


苗木「っ……!」クラッ


凄い、信じられない程の即効性だ。

ボクは手に持っていた袋を取り落とし、ベッドに体を投げ出した。


そしてそのまま何も考える事もなく、ただ暗闇の中へと意識を引きずり込まれていった。

お腹減ったべ

 

『えーと、希望ヶ峰学園修学旅行実行委員会がお知らせします。オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!
 さーて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』


苗木「ん……」


朝がやってきた。

頭はかなりスッキリしている。よく眠れて良かった。


今日も雲一つない晴天。

でも、たぶんみんなの心はこんな天気とは正反対なのだろう。


なにせ、今日中に誰かを殺さなければ、仮想現実で自分が殺されてしまうのだから。

【ホテル二階 レストラン】


レストランにはいつも通り人がまばらに居た。


石丸「おはよう、苗木君。体は大丈夫か?」

苗木「うん、もう大丈夫。心配かけてごめんね」

石丸「それは構わない。…………ふむ」

苗木「どうしたの?」

石丸「いや……何とかここに全員を集められないものか。少し話したい事があるのだ」

苗木「それなら手伝うよ? でも、人によってはコテージから出てきてくれない人もいるかもね……」

舞園「それなら私も協力しますよ。女子なら警戒心を解いてくれる人もいるかもしれません」

石丸「うむ、すまない。頼まれてくれるか?」

舞園「はい」ニコ

苗木「それじゃ、手分けしてみんなを集めよう」

 
それから少しして、十神クン以外の全員をレストランに集めることができた。

石丸クンは一度重苦しい咳払いをすると、ゆっくりと話し始める。


石丸「皆、昨日のモノクマの言葉は覚えているな?」

桑田「……当たり前だろ忘れられるわけがねえ」

大和田「ちっ、あのヤロー……」ググッ

セレス「さすがのわたくしも、あれはさすがに堪えましたわね」ハァ

不二咲「そ、それに……明日の朝に最後まで見てもらうって……」ブルブル

石丸「それを回避するために、この中に誰かを殺そうと思っている者が居る」

大神「なっ……」

朝日奈「うそ……本当なの石丸!?」


石丸「僕はそんな事思いたくない!!!!!」ドーン!!!


苗木「……え?」

葉隠「ど、どうしちゃったんだべ」

石丸「僕は君達を信じている! 信じているからこそ試させてもらうぞ!!」

山田「日本語でおkですぞ」

腐川「ま、まったく……もっとハッキリ言いなさいよ……」ギリギリ


石丸「今夜から明け方まで! 皆で一緒の場所に居ようではないか!!!!! 夜は人を惑わせると言うしな!!!!!」


戦刃「……な、なるほど、それならお互いでお互いを見張れるね」

江ノ島「あれ、でもそれっていいの? 男女で一晩明かすって、いつもあんたがうっさい不純異性交遊ってやつじゃない?」

石丸「この非常時では仕方あるまい!!」

霧切「……場所はどうするの? こことか一階ロビーかしら?」

石丸「むっ……いや、そこまでは考えていなかったな……」

苗木「あ、それならさ、ホテルの旧館とかどうかな? あそこなら監視カメラもないしモノクマも余計な介入とかしにくいと思うんだけど」

桑田「旧館……ってあそこ使えんのか?」

苗木「掃除すればきっと大丈夫だよ! あとはモノミあたりに聞いて……」


モノミ「あちしが……あちしが呼ばれる事があるなんて……」ウルウル

大和田「呼んでねえよ帰れ」

モノミ「ひ、酷いでちゅ!!」

苗木「あのさモノミ、今日皆で結束力を高めるために一緒に一晩一緒にいようって話になったんだけど、ホテルの旧館使えないかな?」

モノミ「…………苗木君」

苗木「うん?」


モノミ「あちし、感動してまちゅ!!!!!」ドバー


葉隠「うげっ、マジ泣きしてるべ!!!」

不二咲「と、というか、冷静に考えたらぬいぐるみが涙とかちょっとホラーだよね……」

苗木「えーと、モノミ?」

モノミ「あちし、信じてまちた! モノクマがいくらみなさんを煽ろうとも、決してコロシアイなんて起きないって! そうでちゅよね、みんなの絆は強いでちゅものね!!」

苗木「あの、旧館の件は?」

モノミ「もちろんオッケーでちゅ!! みんなで協力してモノクマに立ち向かっていきまちょう!!」

石丸「よし、それでは場所も決まったな!! それでは」

桑田「おい待て、俺はまだ行くとは言ってねえぞ!!」

江ノ島「あれあれ、みんなと一緒に居ると何か不都合でもあるのかな?」ニヤニヤ

桑田「なっ……そ、そんなのねえよ! 俺はただこんな状況なのに……んな事するってのが……」

朝日奈「桑田、あんた本気で誰かを殺そうとか考えてるわけ!?」

苗木「そんなのダメだよ桑田クン! 確かに仮想現実だとしても死ぬのは怖いよ……それはボクも同じだ。でも、だからって人を殺すなんて!!」

桑田「……分かってんだよそんな事!! あぁ、クソッ!!! これでショックで後遺症とか残ったら恨んでやるからな!!!」

セレス「まったく、誰を恨むのやら」ハァ

葉隠「まっ、これで桑田っちも参加って事で。あとは十神っちだけど……」

大神「あやつは来ないだろうな……」

苗木「十神クン一人だけいないっていう分にはいいよ。あっちは一人、こっちは残り全員だからね」

石丸「ふむ、それでは次は掃除当番の件に移ろうか!」

大和田「そういうのは女がやるもんじゃねえのか」

朝日奈「あっ、男女差別はんたーい!!!」

セレス「わたくしも、ホコリの多い場所は遠慮しますわ」

苗木「あ、あはは……それじゃとりあえずボクが掃除するよ。旧館使おうって言ったのボクだし」

セレス「それではわたくしもお手伝いいたしましょう」

舞園「ちょっと、今遠慮するって言ったばかりですよね?」

セレス「気が変わりましたわ」ツーン

霧切「そんなの認められないわ。あ、私はもちろん掃除するわよ」

舞園「あなた掃除なんてできるんですか? ここは私の出番でしょう!!」

腐川「あ、あんた達この状況なのにブレないわね……」

石丸「待ちたまえ。きちんと役割分担を考えて決めようではないか!! まずは高い棚の掃除に背の高い人がほしいな!!」

葉隠「仕方ねえな、それなら俺がやってやるべ」ハァ

朝日奈「あれ、でも背が高いっていうならさくらちゃんの方がいいんじゃない?」

葉隠「オーガじゃ力強すぎて色々ぶっ壊しちまうだろ」

大神「むっ、心外だな。我は力の加減くらいできる」

葉隠「それでも危なっかしいっつの。俺に任せとけって。占いでもそう出てるべ」

苗木「あと、霧切さんには掃除よりも島の探索をお願いしたいんだ。やっぱりそっちの方が重要だと思うし」

霧切「……仕方ないわね。それじゃ舞園さんとセレスさんも連れて行くわ」

舞園「なっ!!!」

セレス「なぜわたくし達ですの!?」

霧切「あなた達を苗木君に近づけさせない為よ。抜け駆けは許さないわ」

舞園「くっ……」

セレス「そ、そんなの認めませんわ!! わたくしは掃除を」

苗木「えっと、霧切さんが協力してほしいって言ってるからさ……ダメかな?」

セレス「……し、仕方ありませんわね///」プイッ

石丸「それでは残りの掃除当番もちゃっちゃと決めてしまおうか!」


そうやって皆をまとめていく石丸クン。

その姿はさすが超高校級の風紀委員と言えるもので、まさしく希望そのものだ。

ボクはそんな彼の姿を見て、とても心強く思えた。


石丸「ふむ、では掃除当番は僕、苗木君、葉隠君、桑田君、朝日奈さん、腐川さんだ。よろしく頼むぞ!」

朝日奈「オッケー! どうせだし、パーティーっぽくしちゃおっか!」

桑田「おいおい、そんなんじゃねえんだぞこれは」

苗木「いや、でもみんな落ち込んでるし、そういう気分転換も悪くないと思うよ」

桑田「処刑前の最後の晩餐ってか。笑えねえ」ハァ

【ホテル旧館】


そんなわけで、ボク達掃除当番はホコリだらけの旧館を掃除する事になった。

これが想像以上に汚くて、かなりの手間だった。

今はやっと一段落して、みんなで大広間で休憩していた。


石丸「はっはっは、みんなお疲れ様。ほら、飲み物だ」

桑田「おー、サンキュー。ってなんだそのゲテモノジュース!!」

石丸「ウインナーソーセージ珈琲だ。実に興味深いだろう?」

腐川「頭おかしいんじゃないの……」

朝日奈「い、石丸って結構チャレンジャーなんだ……」

石丸「いやいや、元々これを飲んでいたのは葉隠君でな、みんなの分のジュースと一緒にくれたのだよ」

苗木「あれ、それじゃ葉隠クンは?」

石丸「彼はまだスーパーに取りに行くものがあると言っていたな。何でも、パーティーらしく飾り付け用の小物や横断幕でも持って来ると言っていたぞ」

桑田「はぁ、呑気なもんだぜ」

朝日奈「えー、こういう時こそ楽しまないと! 私、何もしないでいると明日の事考えて本気で凹むからさぁ……」

腐川「うぐぐ……あたしなんてペシャンコにされるのよ……」

石丸「い、今はそういう話はやめようではないか! ほら、乾杯するぞ!」

朝日奈「オッケー! ほら桑田も!!」

桑田「ちっ、分かった分かった」

苗木「じゃあ石丸クン、お願い」

石丸「よし!! 今日はみんなお疲れ様!! まだ終わっていないがな!!」


「「カンパーイ!!」」


朝日奈「……ぷはぁぁ、生き返るぅぅ!!」

腐川「オッサンみたいね」

朝日奈「な、なによぉ!! いいじゃん、別に!!」

桑田「ん、どうした石丸?」


ボトッ!!!


苗木「えっ?」

石丸クンは持っていたゲテモノジュースを取り落とし、フラフラと足元をふらつかせていた。


石丸「す、すまない……少し……休ませてもらえないか……」

朝日奈「え……ど、どうしたの石丸!?」

桑田「まさか……葉隠のヤロウ!!!」

腐川「ひ、ひぃぃぃぃ、血は吐かないでええええ!!!」

苗木「石丸クン、大丈夫!?」

石丸「ソ、ソファーに…………」フラフラ


そう言ってフラフラと大広間のソファーへと向かう石丸クンを、ボクと桑田クンで両側から支える。

そして石丸クンは横になると…………。


石丸「……葉隠……君……に……伝えて……くれ…………」

苗木「うん、伝えるよ!! 何!?」

石丸「こ、れ……は…………マズイ…………」ガクッ

苗木「分かった!! …………え?」

桑田「…………なぁ、これってよ」

朝日奈「ジュースがマズすぎて……気分が悪くなっただけ……?」


「「…………」」


桑田「はぁぁぁぁぁ…………こんの紛らわしすぎんだよ!!!!! マジでビビったぞ!!!!!」

腐川「ち、血は出ないのね!?」

苗木「出ないよ……ていうか、どんだけマズイのさこれ……」ヒョイ


その後スーパーから戻ってきた葉隠クンは桑田クンに思い切りど突かれていた。


【厨房】


それから少しして、掃除も一段落したのでボクは朝日奈さんと一緒に夕食の準備をしていた。

何もしていなくてもレストランに食事は出てくるのだが、こういう時くらいは自分達で作るのもいいんじゃないかって言ったら笑顔で同意してくれた。

食べるだけというのも楽でいいけど、こうして自分達で作るっていうのも悪くないと思うんだ。


朝日奈「あ、ダメだよ苗木ー。思いっきりドリップ出てんじゃん!」

苗木「ドリップ?」

朝日奈「それっていわゆるお肉の旨味成分ってやつでさ、解凍に失敗すると出てきちゃうんだよー」

苗木「そ、そうなんだ……ごめん……」

朝日奈「まぁ、いいけどさー。食べられなくなるわけじゃないし」


その時だった。

急に葉隠クンが慌ただしく扉を開けて入ってきた。


葉隠「たたたたたたた大変だべ!!!」バタン!!!

苗木「葉隠クン?」

朝日奈「え、ど、どうしたのそんなに慌てて……」

葉隠「ちょ、ちょっと外まで来てくれ!! 他の奴らも呼ぶからよ!!!」

朝日奈「わ、分かったけど……」

苗木「ごめん、ボクちょっとトイレ行きたいから先行っててよ」

葉隠「おし、分かったべ!! そんじゃな!!!」ダダッ

朝日奈「まったく、騒がしいなぁ」

 
それから遅れて外へ出てみると、もう葉隠クン達はどこかへ行ってしまっていた。

仕方なく入り口近くにいたモノミに尋ねてみると、何やら旧館の裏手の方へ行ったようだと教えてくれた。

それに従って行ってみると、


葉隠「あ、遅いぞ苗木っち!! 石丸っちはダウンしてたから来なくても許すけど、苗木っちは許さないべ!!」

朝日奈「石丸はあんたのせいじゃんバカッ!!」

苗木「ごめんごめん、それで何かあったの?」

葉隠「お、おう……確かこの辺だったんだけどなー」キョロキョロ

桑田「ったく、いつまで探してんだよ。んな驚くくらいなら場所くらい覚えておけよなー」

腐川「ま、まったく……頭ちゃんと詰まってるわけ……?」

葉隠「パンパンに詰まってるっつの!! あっ、あったべ!!!!!」


そうやって葉隠クンが力強く指差した先。

そこには。


苗木「……なにこれ、何かの絵?」

地面に何かが描かれているようだった。

意味はよく分からないけど。


葉隠「ふっふっふ、苗木っちが分からないのも無理はないべ。これは間違いなく…………ミステリーサークルだべ!!!!!!」ドーン!!!


時が止まった。これがミステリーサークルの効果なのかな。

いや、違うよね。


葉隠「……え、ど、どうしたん皆? 何拳握ってこっち来るんだべ…………いてっ!! いててててててててええええええ!!!!!」


それからしばらく皆無言で葉隠クンを殴打した。

うっかり死んじゃったらどうしようかと思ったけど、終わった後もピクピクと僅かに動いていたから良かった。


【ロケットパンチマーケット】


朝日奈「ほんっと葉隠ってバカだよね!!」プンプン

苗木「あ、あはは……いやでも葉隠クンも悪気があったわけじゃないんだし、許してあげようよ」


ミステリーサークル騒動から少しして、ボクと朝日奈さんは色々な雑貨を補充する為にスーパーまで来ていた。

朝日奈「まったく、苗木は甘すぎだよ」プンプン

苗木「でもさ、朝日奈さん楽しそうだよね」ニコ

朝日奈「え、そ、そうかな。まぁ、葉隠みたいなバカ見てると、悩んでるのもバカらしくなるし……」ハァ

苗木「あはは、何だかんだお似合いだと思うよ」

朝日奈「……え? 誰と誰が?」

苗木「朝日奈さんと葉隠クン」ニコ


ベキッ!!!


綺麗なフォームのローキックが、ボクのふくらはぎに叩きこまれた。


苗木「いったぁぁ!!!」ズキン!!

朝日奈「苗木もバカ!!! バカバカバカバカ鈍感!!!!!」

苗木「ご、ごめん、いたた……」


女の子からの攻撃でここまでのダメージを受けたのは初めてかもしれない。

これからは言葉に気をつけよう。

朝日奈「ふんっ!!」プイッ

苗木「え、えーと。あっ、飲み物も持って行こうか。ほら、朝日奈さんこれ好きでしょ?」

朝日奈「うん、好き!! はっ!!!」

苗木「……ぷっ」

朝日奈「あー、苗木今バカにしたでしょ!? 私って扱いやすい女だって思ったでしょ!? このケダモノ!!」

苗木「そ、そんな事ないって!! ただ、可愛いなって……」

朝日奈「かっ、かわっ!?/// え、えへへ、そんな事言って、どうせ霧切ちゃん達にも同じ事言ってるんでしょ……///」モジモジ


大丈夫なのかなこの人、初心すぎて悪い男の人に騙されそうで心配だ。


苗木「……あ、ゲテモノジュースもまだあるみたいだよ? 面白そうだし買ってみる?」

朝日奈「げっ、まだあるの? やめよやめよ、石丸みたいな犠牲者が増えるだけだよ。ていうかこのいちごおでんとか何がしたいのか分からないし……」ハァ

苗木「あはは、石丸クンのあれ見せられるともはや毒だよね」


モノクマ「毒とは失敬な、毒とは!!!!!」


朝日奈「うっ、出てこなくていいよあんたは……」

モノクマ「さすがに聞き捨てならない事を聞いたからね! まったく、ボクが一生懸命ウケを狙って置いたのに!」

苗木「中途半端なマズさならまだしも、あそこまでいったらウケないってば……」

朝日奈「ていうか、これだけ物が置いてあるなら本物の毒とかもどっかにあるんじゃないの……」ジー

モノクマ「うぷぷ、それ使って殺っちゃうつもりですか?」ニヤニヤ

朝日奈「そんな事しないよ!!」

モノクマ「でも残念でした、今オマエラが行ける範囲の場所では人を殺せる毒なんて手に入らないよ。
      薬は色々あるけど、いくら調合しても毒薬なんかにはならないようにもしてるしさ。超高校級の薬剤師とかなら何とかできるかもだけど」

苗木「それはボク達の為に……っていうわけじゃないよね?」

モノクマ「もっちろん、序盤から毒が手に入ったらみんなそれ使おうとするに決まってるからだよ! だから、毒は第四の島までお預けだよ!」

朝日奈「そ、その島にはあるって事じゃない……」

モノクマ「あっはっはっはっ、何だかんだ言って毒殺ってのも外せないしねー。それじゃ、そこら辺を踏まえて清く楽しいコロシアイライフをお過ごしください」


そんな事を言いながら、モノクマはどこかへ消えてしまった。

後に残るのは何とも苦々しい気持ちだけだ。


朝日奈「アイツのせいで気分最悪……早くホテルに戻ろ……」

【ホテル旧館 大広間】


旧館に戻ってくると、その大広間には横断幕と折り紙の飾り付けが施されていた。

それを見て朝日奈は目を丸くする。


朝日奈「わぁー、いいじゃん! これ誰がやったの!?」

葉隠「へっ、俺だべ!!」

朝日奈「へぇ~、誰にでも特技の一つくらいはあるもんだね!」

葉隠「そ、それ褒められてんのか貶されてんのか分かりづらいべ……つか俺本職は占い師なんだけど……」


ボクも朝日奈さんと同意見で、この飾り付けは凄いと思った。

横断幕にはワープロか何かで打たれたと思われる字で『希望ヶ峰学園78期生修学旅行記念パーティー』と書かれている。


腐川「うぅ……白夜様もここにいれば最高なのに……」

桑田「諦めろよ、アイツは来ねえっての」

朝日奈「そういえば十神は何やってるんだろうね?」

苗木「さぁ……でも十神クンの事だから一人で何か調べ物でもしてるんじゃないかな……」

朝日奈「あれ、石丸は? ソファーで寝てたよね?」

苗木「たぶんトイレかな、鍵かかってたし」

桑田「おいおい、どんだけひでえんだよあのジュース」

朝日奈「葉隠あとでちゃんと謝りなよ!」

葉隠「えー、別に俺は何もなかったぞ……大袈裟すぎだべ……」

腐川「それはあんたの味覚がバグってるからでしょ……」

苗木「あ、そうだ。ちょっと皆に見てもらいたいものがあるんだけど、いいかな?」

朝日奈「えー、またミステリーサークル?」

苗木「違うって、葉隠クンじゃないんだから」

桑田「流石に苗木はそこまでアホじゃねえしな」

葉隠「酷い言われようだべ……けどあれは本当にミステリーサークルだったんだからな!!!」

腐川「本気で重症よコイツ……」

朝日奈「それで、見せたいものって?」

苗木「うん、皆ちょっと倉庫に来てくれるかな?」

葉隠「あー、あれか。俺はもう見せてもらったからいいべ」

【倉庫】


桑田「うげっ、きたね!! おい苗木、ここお前の担当だろちゃんと掃除しろよ」

苗木「あはは、ごめん諦めた」

桑田「諦めたぁ!?」

苗木「いや、別にこんな所来る人なんていないし、いいかなってさ」

朝日奈「まぁ確かにそれはそうだけど……」

苗木「それよりさ、ほらここ」

腐川「な、何これ……扉?」

苗木「うん、ここから床下に入れるみたいなんだ」

桑田「マジかよ、隠し通路みてえだな」

朝日奈「でも、これがどうしたの?」

苗木「……いや、杞憂ならいいんだけど、これって悪用とかされたら何かマズイ気がするんだよね。ほら、床下を使ったトリックってありがちだし……」

桑田「…………一応塞いどくか」

朝日奈「う、うん、そだね。みんなを信じてないわけじゃないけど……」

【大広間】


とりあえず床下へ通じる扉は、スーパーにあった南京錠をかけ、鍵は壊してしまった。

たぶんこれで大丈夫だろう。

時刻はそろそろ夕食時といった所か。


朝日奈「よーし、そろそろ皆呼んじゃおっか! 驚かせるために、入り口のモノミに頼んで私達以外立ち入り禁止にしてたしさ!」

桑田「遊び気分過ぎて呆れられるんじゃねえの」ハァ

腐川「あ、あたしはこんなのやってないからね!」

苗木「いや、でもこの飾り付けは凄いって!」

朝日奈「うん、みんなきっと喜んでくれるよ! 葉隠もやる時はやるじゃん!」ニコ

葉隠「…………」

朝日奈「葉隠?」

桑田「おいどうした? まさかあのゲテモノジュースのダメージが時間差できたんじゃねえだろうな」

苗木「葉隠クン!」

葉隠「あ、苗木っち…………皆もいたんか」

朝日奈「もう、どうしたのぼーっとしてさ」

葉隠「い、いや……何でもねえ……大丈夫大丈夫」


葉隠クンの表情はまるで何かに怯えているかのようにも見えた。

他の皆は葉隠クンのそんな様子に対しては、あまり気にしていない様子だったけど。



それから他の皆を呼んでパーティーが始まった。

モノクマに邪魔されないように、旧館の入り口と大広間への入り口に一体ずつモノミを見張らせている。

このままいくと、ボク達は仮想現実世界で死ぬ事になる。それを受け入れ、考えないように。

ただひたすら、皆精一杯楽しもうと振舞っていた。


桑田「くそっ……くそっ……!!!」バクバク!!!

苗木「食べ過ぎだよ桑田クン……石丸クンみたいトイレにこもる事になるよ?」

桑田「食わねえともうやってられねえんだよ!! 酒はねえのか酒は!!」

苗木「流石にお酒はスーパーにも置いてなかったよ。そこら辺はうるさいのかな」

桑田「ちっ!!」

霧切「石丸君、どうかしたの?」

苗木「うん、ゲテモノジュースにあたっちゃったみたいでさ。しばらくトイレから出てこれそうにないから、ボク達だけで始めちゃってくれって」

霧切「なんていうか……可哀想ね……」

朝日奈「悪いのはコイツ、葉隠!」ビシッ

葉隠「た、確かに石丸っちには悪かったべ……」

苗木「それで霧切さん達の方は何か収穫あった?」

霧切「……これまでの不可思議な現象の数々。それらを説明できる仮説の一つは浮かび始めたわ」

苗木「えっ、本当!?」

霧切「えぇ……でもごめんなさい、まだ言うことはできない。私自身も確信を持てていないから」

苗木「……そっか。でも凄いよ霧切さんは! さすが超高校級の探偵だ!」

霧切「え……あ、ありがとう///」

舞園「ちょっと!!!」ズイッ

セレス「わたくし達も調査に協力したのですが!?」ズイッ

苗木「そ、そうだね……二人も凄いよ……」

霧切「あなた達は勝手にケンカ始めてただけじゃない。何の役にもたっていないわ」

そんな感じにケンカを始める三人から慌てて離れる。

巻き込まれたらたまったものじゃない。


大和田「おい苗木、兄弟は大丈夫なのかよ?」

苗木「あ、大和田クン。うん、しばらくすれば戻ってこれるって。でも大和田クンには弱ってるとこ見せたくないから、トイレには近付かないでくれ、だってさ」ニコ

大和田「けっ、言われなくても分かってんよ。逆の立場でもそうだろうからな」

不二咲「そ、そっか……勉強になるなぁ……」

苗木「勉強?」

不二咲「うん、男らしくなるための勉強! 兄弟が弱ってる時はあまりその姿を見られたくないものなんだね!」

大和田「おうよ、兄弟ってのは常に対等であるべきもんだからな!」


なんていうか、そういう精神の前に、不二咲クンは見た目が一番問題だと思うんだけどな。

いや、そうやって人を見た目で判断しちゃダメっていうのは分かってるけど。

大神「朝日奈よ、この料理はお主が作ったものか?」

朝日奈「うん、そうだよ! どうかな、どうかな?」

大神「ふふ、素晴らしい味だ。これならば嫁にも行けるだろう。苗木のな」

苗木「な、何でボク……?」

朝日奈「ひゃああああああああああ!!!!!///」ビクゥゥ

大神「むっ、すまんな朝日奈、気付かなかった」フッ

朝日奈「ウソ!! 絶対ウソだよねさくらちゃん!!」

苗木「あー、えっと?」

朝日奈「苗木は何も聞いてないよね!?」

苗木「え、いや……」


朝日奈「 何 も 聞 い て な い よ ね ? 」


いくら何でも力押しすぎるだろう。

ていうかまさかこの反応…………いやいやいや、ボクはそこまで自意識過剰じゃない。

とりあえず朝日奈さんはテンパりまくってる様子なので、後は大神さんに任せる事にする。

次に目に入ってきたのは、山田クンと腐川さんだ。

こちらもこちらで両者バチバチと火花を散らせている様子だ。

こっちも巻き込まれたくないなぁ……と遠ざかろうとした……けど。


山田「おや、いい所に来ましたな苗木誠殿!」グイッ

腐川「はっ、どうせあんたもそこのエロデブと同じでしょ。男なんだからね!!」

苗木「……何の話をしてんのさ」

山田「事の発端は腐川冬子殿が僕の同人作品を、『ただのエロ本』と言ったところから始まります!」

苗木「……それ長くなる?」

山田「何がただのエロ本か!! そんな言葉で僕の作品を表すんじゃない!!」

腐川「エ、エロ本はエロ本じゃない汚らわしい!!」

山田「確かにエロい!! だがそんじょそこいらのエロ本と一緒にされては困るというのですよ!!
    僕はキャラ一人一人に愛を込めて陵辱しているのですから!!!!!」


もうやだ、この人達に関わってはいけない。

というわけでそそくさと退散することにした。

 

江ノ島「なーえーぎー!」ギュッ


江ノ島さんが後ろから抱きついてきた。

もうこの状況を冷静に受け止められる辺り、ボクも慣れてきたっていう事なのかな。


江ノ島「あれ、反応なし? ほらほら、胸も当てちゃうぞー」スリスリ

戦刃「盾子ちゃん、何やってるの!!」

江ノ島「あ、お姉ちゃんもやる? 姉妹丼ってやつ」

戦刃「ふぇ!?///」

苗木「いや……本人ほったらかしで話進めないでよ……」

江ノ島「だって苗木反応してくれないじゃんー!! あたしは胸まで当ててるっていうのに!!」

苗木「何回もやられると反応が適当になるんだよ……」

戦刃「な、なななな何回も!?」

江ノ島「って、お姉ちゃんが絶望してるけど?」

苗木「い、いや、でもこれは江ノ島さんが勝手にやってることだから!!」

江ノ島「でもあたしの胸の感触を楽しんだっていうのに変わりないじゃんー」ニヤニヤ

苗木「ぐっ……!!」

戦刃「……やっぱり苗木君は胸は大きい方が好きなの?」

苗木「そ、それは……その……」

江ノ島「あ、牛乳も置いてあるみたいだよ。お姉ちゃん飲む?」ニヤ

戦刃「…………飲む」ショボン

苗木「……えーと」

江ノ島「ねぇねぇ苗木!」ガッ

苗木「顔近いよ!!」ビクッ


相変わらず江ノ島さんには振り回されっぱなしだ。

そして、相変わらずボクは彼女の事を何も分かっていないように思える。


江ノ島「なーんかさ、キュンキュン感じるのよね」ニコニコ

苗木「何を?」


江ノ島「絶望」ニコ

苗木「……はは、江ノ島さんには絶望レーダーみたいなのがあるの?」

江ノ島「うん! これは近い……すっごく近いよ……!!」

苗木「何だか楽しそうだね」

江ノ島「あはは、そう? まぁパーティーなんだし楽しまなきゃ損だしね!」

苗木「……うん、その通りだよ」


江ノ島さんの素顔はまだ見えてこない。

もしくは見るのを躊躇っているだけなのか。

ボクにはまだ良く分かっていない。


さて、と。これから誰と話そうかな。



誰と話す? >>953

残ねえ

おやすみ。もう終盤だから次スレもVIPで
誰か立ててくれたら嬉しいべ

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